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特表2023-522339RNAウイルスによって引き起こされる疾患の処置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-30
(54)【発明の名称】RNAウイルスによって引き起こされる疾患の処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230523BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230523BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230523BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 38/55 20060101ALI20230523BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 38/05 20060101ALN20230523BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P7/00
A61P31/14
A61P7/02
A61K49/00
A61K45/06
A61K38/55
G01N33/573 A
A61K38/05
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562750
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(85)【翻訳文提出日】2022-12-09
(86)【国際出願番号】 US2021027195
(87)【国際公開番号】W WO2021211659
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】63/009,786
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/014,109
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/047,888
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/055,310
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/109,320
(32)【優先日】2020-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/109,867
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/161,905
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521437976
【氏名又は名称】アメリミューン リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】アルパン オーラル
(72)【発明者】
【氏名】プラスマイヤー マシュー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA17
4C084AA24
4C084BA01
4C084BA14
4C084BA23
4C084BA25
4C084BA31
4C084BA32
4C084DC32
4C084MA02
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA511
4C084ZB331
4C084ZC202
4C084ZC412
4C084ZC751
4C085HH11
4C085KA27
4C085KB82
4C085LL20
(57)【要約】
カスパーゼの上方制御は、COVID-19患者において見出されており、また、糖尿病、高血圧、メタボリックシンドローム、及び他の状態に罹患している患者においても発生する。そのような上方制御は、免疫系細胞、特に特定のタイプのリンパ球の死及び機能不全であるパイロトーシスと呼ばれるプロセスをもたらすため、上記の疾患又は障害を有する患者における不良な臨床転帰の原因となり得る。カスパーゼ1阻害剤などのカスパーゼ阻害剤、又は「汎カスパーゼ」阻害剤(すなわち、カスパーゼ-1を含む複数のカスパーゼ型の阻害剤)を使用して、免疫系の機能不全を制限することによって、COVID-19患者又は感染のリスクがある個体を処置することができる。カスパーゼ-1又は汎カスパーゼ阻害剤は、有利には、SARS-CoV、MERS-CoV、又はSARS-Cov-2などのポジティブセンス一本鎖RNAウイルスによる感染の前又は非常に初期に投与される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、T細胞リンパ球減少症又はT細胞のパイロトーシスを予防又は低減するためにヒト対象を処置する方法:
有効量の、少なくともカスパーゼ1のカスパーゼ阻害剤を前記ヒト対象に投与する工程であって、前記ヒト対象が、
(a)ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスによって引き起こされる疾患に罹患するリスクがあり、前記対象が罹患した場合、前記疾患からの負の転帰に関連する1つ以上の共存症を有するか、又は
(b)ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに感染しており、
前記投与によりT細胞リンパ球減少症又はT細胞のパイロトーシスを低減する、工程。
【請求項2】
前記対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスが、SARS-CoV、MERS-CoV、及びSARS-CoV-2からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト対象が、SARS-CoV-2に感染している、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト対象が、その免疫細胞においてカスパーゼ1の活性が上昇している状態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒト対象が、その免疫細胞においてカスパーゼ1の発現が上昇している状態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサン、CTS-2090、ベルナカサン(VX-765)、プラルナカサン(VX-740)、及びO-デスエチル-ベルナカサン(VRT-043198)からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記阻害剤が、ペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ3、4、5、7、8、9、及び11のうちの1つ以上を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記阻害剤が、エムリカサンである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
SARS-CoV-2に関連する罹患リスク及び死亡リスクを低減するために、SARS-CoV-2感染のリスクがあるヒト対象又はSARS-Cov2に感染したヒト対象を処置する方法であって、
有効量の、少なくともカスパーゼ1のカスパーゼ阻害剤を前記ヒト対象に投与する工程
を含む、方法。
【請求項13】
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ3、4、5、7、8、9、及び11のうちの1つ以上を阻害する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒト対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記対象が、その免疫細胞においてカスパーゼ1の活性が上昇している状態を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記対象が、その免疫細胞においてカスパーゼ1の発現が上昇している状態を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサン、CTS-2090、ベルナカサン(VX-765)、プラルナカサン(VX-740)、及びO-デスエチル-ベルナカサン(VRT-043198)からなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記カスパーゼ阻害剤が、ペプチドである、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記カスパーゼ阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサンである、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
以下の工程を含む、SARS-Cov2に感染したか又は感染した疑いのあるヒト対象を処置する方法:
有効量の、COVID-19を治療するのに有用なカスパーゼ阻害剤を投与する工程であって、前記投与が、任意選択で、COVID-19症状の発症前、又は前記対象が軽度若しくは中等度の重症度のCOVID-19を有している間に行われる、工程。
【請求項22】
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ1及びカスパーゼ3を阻害する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
以下の工程を含む、SARS-Cov2に感染したヒト対象を処置する方法:
有効量の、a)カスパーゼを阻害する化合物、(b)ACE-2受容体に結合する化合物、及び(c)SARS-CoV-2の主プロテアーゼに結合する化合物を投与する工程であって、前記投与する工程が、COVID-19症状の発症前、又は軽度若しくは中等度のCOVID-19症状を超えて進行している間に行われる、工程。
【請求項24】
デキサメタゾン、SARS-CoV-2に特異的に結合する抗体又は抗体カクテル、IL-6に対する抗体、及びレムデシビルからなる群より選択される化合物を投与する工程を更に含む、請求項12、21、又は23に記載の方法。
【請求項25】
SARS-Cov-2疾患の重症度を予測するための試験方法であって、
対象の血液試料を試験してカスパーゼ1の量を確認し、検出された前記カスパーゼ1の量を健常個体の1つ以上の対照試料中のカスパーゼ1の量と比較する工程と、
前記対象の血液試料中のカスパーゼ1の量が、前記1つ以上の対照試料中で検出されたカスパーゼ1の量よりも統計的に有意に多い場合、前記対象が重症型の前記疾患を経験するリスクが高いと判定する工程と
を含む、方法。
【請求項26】
複数のヒト対象におけるSARS-Cov-2疾患の重症度を予測するための試験方法であって、
SARS-Cov-2に感染した複数の対象の複数の血液試料を試験して、各血液試料中のカスパーゼ1の量を確認し、少なくとも1つの対象血液試料由来のカスパーゼ1の量を、健常個体の1つ以上の対照試料中で検出されたカスパーゼ1の量と比較する工程と、
前記対象の試料中のカスパーゼ1の量が、前記1つ以上の対照試料中で検出されたカスパーゼ1の量よりも統計的に有意に多い場合に、前記対象が重症型の疾患を経験するリスクが高いと判定し、前記対象の試料中のカスパーゼ1の量が、前記1つ以上の対照試料中で検出されたカスパーゼ1の量よりも統計的に有意に多くはない場合に、対象が重症型の前記疾患を経験するリスクが低いと判定する、工程と
を含む、方法。
【請求項27】
前記試験が、抗体試験を用いる、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記試験が、フローサイトメトリーを用いる、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項29】
前記試験が、カスパーゼ1の1つ以上の蛍光標識された阻害剤を用いる、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項30】
前記試験が、カスパーゼ1の1つ以上の蛍光標識された基質を用いる、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項31】
重症の疾患のリスクが高いと判定された患者をカスパーゼ1の阻害剤で処置する工程を更に含む、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項32】
前記対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を更に有する、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項33】
前記阻害剤が、エムリカサン、ベルナカサン(VX-765)、プラルナカサン(VX-740)、及びO-デスエチル-ベルナカサン(VRT-043198)からなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記阻害剤が、ペプチドである、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記阻害剤が、エムリカサンである、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
以下の工程を含む、異常な赤血球凝集又は血栓症を有するか又は有するリスクがあるヒト対象を処置する方法:
有効量のカスパーゼ-3阻害剤を前記ヒト対象に投与する工程であって、前記ヒト対象が、(a)ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスによって引き起こされる疾患に罹患するリスクがあるか、又は(b)ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに感染しており、前記投与により異常な赤血球凝集又は血栓症を予防又は低減する、工程。
【請求項38】
前記ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスが、βコロナウイルスである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスが、SARS-CoV、MERS-CoV、及びSARS-CoV-2からなる群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記ヒト対象が、ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに関して無症候である、請求項37記載の方法。
【請求項41】
前記ヒト対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を有する、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
前記対象が、前記対象における1つ以上の細胞型でカスパーゼ-3の活性が上昇している状態を有する、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
前記対象が、前記対象における1つ以上の細胞型でカスパーゼ-3の発現が上昇している状態を有する、請求項37に記載の方法。
【請求項44】
前記カスパーゼ阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、請求項37に記載の方法。
【請求項45】
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサンである、請求項37に記載の方法。
【請求項46】
以下の工程を含む、SARS-CoV-2に関連する罹患リスク及び死亡リスクを低減するために、SARS-CoV-2感染のリスクがあるヒト対象又はSARS-Cov2に感染した対象を処置する方法:
有効量のカスパーゼ-3阻害剤を前記ヒト対象に投与する工程であって、前記投与により、SARS-Cov-2に関連する有害転帰のリスクを低減する、工程。
【請求項47】
前記有効量の阻害剤の投与が、赤血球のパイロトーシスを低減させる、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を有する、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記カスパーゼ-3阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記カスパーゼ-3阻害剤が、エムリカサンである、請求項46に記載の方法。
【請求項51】
Covid-19感染の後期後遺症を有する、又は後期後遺症を発症するリスクがあるヒト対象を処置する方法であって、
有効量の、少なくともカスパーゼ1のカスパーゼ阻害剤を前記ヒト対象に投与する工程
を含む、方法。
【請求項52】
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ3、4、5、7、8、9、及び11のうちの1つ以上を阻害する、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサンである、請求項51に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願及び本明細書中に記載される発明は、2020年4月14日、2020年4月22日、2020年7月2日、2020年7月22日、2020年11月3日、2020年11月4日、及び2021年3月16日にそれぞれ出願された米国仮特許出願第63/009,786号、同第63/014,109号、同第63/047,888号、同第63/055,310号、同第63/109,320号、同第63/109,867号、及び同第63/161,905号、並びにそれらに記載される発明に関連し、これらの出願の各々は、任意及び全ての目的のためにその全体を本明細書中に参考として組み込む。
【0002】
発明の分野
本発明は、ウイルス感染の分野に関する。特に、本発明は、ウイルス感染、特にポジティブセンス一本鎖RNAウイルス、例えばSARS-CoV-1、MERS、及びSARS-CoV-2によって引き起こされるウイルス感染の予防及び治療に関する。
【背景技術】
【0003】
新型コロナウイルス、SARS-CoV-2の大発生は、2019年12月に中国の武漢で最初に確認された。SARS-CoV-2は、ヒトにおいて伝染性であり、COVID-19(コロナウイルス感染症、2019)と呼ばれる呼吸器疾患を引き起こす。世界保健機関は、中国のSARS-CoV-2の流行が世界の多くの国に広がったときにそれをパンデミックと指定し、COVID-19は現在、世界的な公衆衛生、研究、医学、経済、及び社会全体にとって重大な課題を提起している。ヒトからヒトへの拡散は、典型的には呼吸の飛沫を介する。これは、重篤な上気道感染及び下気道感染を引き起こし得、特に高齢者及び基礎疾患を有する者において、死に至る可能性がある。症状は時に遅延するか又は気づかれず、その間にヒトからヒトへの拡散が起こり得る。
【0004】
米国食品医薬品局は、入院患者のCOVID-19回復時間を短縮するのに有効になり得る抗ウイルス化合物である薬物候補レムデシビル(Gilead Sciences,Inc.)の緊急使用許可を付与しているが、SARS-CoV-2感染を予防又は治療するための特定の治療薬は、政府規制当局によってまだ承認されていない。感染の重大性を低減させ得るように、創薬可能な標的を同定することが当技術分野において引き続き必要とされている。
【0005】
現在、COVID-19の可能性のある療法は、レムデシビル及びデキサメタゾンを含めていくつかしかない。COVID-19に関連する過度の炎症及び組織損傷は、急性の健康問題(例えば、呼吸不全、敗血症、及び究極的には死亡)又は慢性の健康問題(例えば、倦怠感、呼吸困難、咳、関節の痛み、嗅覚消失)を引き起こす可能性があり、これらの合併症のリスクは、高齢者集団、特定の民族群、並びに他の共存症を有する人々の間でより高くなる。細胞カスパーゼは、COVID-19の病理生理学においてある役割を果たす。
【0006】
コロナウイルス感染症2019(COVID-19)は、最新の世界的な健康脅威であり、コロナウイルス呼吸疾患の出現に先立つ2つの例である重症急性呼吸器症候群(SARS)及び中東呼吸症候群(MERS)と同様に、公衆衛生、研究、及び医学界にとって重大な課題を提起する。COVID-19の病原であるSARS-CoV-2に対するワクチンを開発するために、活発な研究努力が現在進行中であるが、様々な治験治療アプローチも研究されている。COVID-19の病理は現在十分に説明されているが、病気の進行のメカニズムはまだ明らかではない。臨床試験において、デキサメタゾンは、炎症機構を示唆する、危篤状態の患者における重篤な結果を減少させた。しかしながら、特異的抗インターロイキン-6抗体(抗IL-6 Ab)処置の使用は、COVID-19に関連するいわゆる「サイトカインストーム」を弱めることが報告されており、エクリズマブは、中等度から重度のCOVID-19において炎症マーカー及びC反応性タンパク(CRP)を減少させたが、そのようなより標的化された療法からの臨床上の恩恵はわずかであった。これらの知見は、病気の進行に関与するエフェクター分子の理解不足、又は病気の過程におけるより早期の介入が必要であることを示唆する。
【0007】
呼吸器系及び胃腸系はSARS-CoV-2の最初の標的であるが、この疾患は明らかに一部の人々にとっては全身性であり、微小塞栓及び炎症によって引き起こされるようであるが、病因及び臨床症状の完全な影響は依然として不明である。I型インターフェロン応答における顕著な障害及び急速なリンパ球減少は、明らかに疾患重症度において役割を果たす。自然な進展の研究における良好な追跡調査は、更なる感染後の後遺症を明らかにする可能性が高い。COVID-19の重篤度の範囲は、インフルエンザ様症状を全く示さないか、又は軽微なインフルエンザ様症状を示し、急速に回復する患者から、持続的な発熱を経験し、ウイルス後症候群を伴う持続的な倦怠感を有する患者、入院するか又は挿管の必要及び集中治療をもたらす重篤な肺合併症を有する人々、死に至る人々まで非常に幅広い。これは、感染、ウイルス複製、及びCOVID-19関連病理をもたらすエフェクター経路の機構(複数可)を考慮に入れた新規治療薬の必要性を明確に強調するものである。
【0008】
パイロトーシスは、カスパーゼ-1依存性細胞死としても知られており、本質的に炎症性であり、様々な病理学的刺激(例えば、脳卒中、心臓発作、癌)によって引き起こされ、微生物感染を制御するのに重要である。パイロトーシスは、アポトーシスの制御された死プロセスとは著しく対照的に、急速な原形質膜破壊及び炎症誘発性細胞内内容物の放出によって特徴付けられる細胞死である。
【0009】
COVID-19は主に呼吸器症状を呈するが、まだ完全には知られていない広範囲の影響及び感染後後遺症を有する、実際には全身性の疾患である。ある範囲の症状がCOVID-19について明らかであり、一部の人々は血餅及び神経学的症状を有する。少数の小児が自己免疫症候群に罹患しており、これは既に一部の人々にとって全身性疾患であることを示唆している。病因の含意及び臨床症状の影響はまだ完全には認識されていない。感染後の後遺症のいくつかは、自然な進展の研究における良好な追跡調査が行われる場合にのみ理解される。COVID-19の重篤度の範囲は非常に幅広く、多くの点で前例がない。
【0010】
カスパーゼの役割:アポトーシス
誘導型カスパーゼは、内因性及び外因性アポトーシス経路によって活性化される。誘導型カスパーゼは、細胞成分を切断することによってアポトーシスを実行する実行型カスパーゼを含む他のカスパーゼの活性化をもたらす。
【0011】
アポトーシスは、プログラムされた細胞死の一形態であり、細胞が形態学的変化を受けて、周囲の細胞に対するその影響を最小限に抑え、免疫応答の誘導を回避する。細胞は収縮及び凝縮し、細胞骨格は崩壊し、核膜は分解し、ゲノムDNAは断片に切断される。この結果、細胞は「ブレブ」と呼ばれる自己封入体を形成して、細胞外培地への細胞成分の放出を回避する。更に、細胞膜リン脂質含量が変化し、これにより、死にかけている細胞が食細胞攻撃及び除去を受けやすくなる。
【0012】
アポトーシスカスパーゼは、誘導型カスパーゼ(カスパーゼ2、8、9、及び10)及び実行型カスパーゼ(カスパーゼ3、6、及び7)として下位分類される。いったん誘導型カスパーゼが活性化されると、それらは連鎖反応を生じ、いくつかの実行型カスパーゼを活性化する。実行型カスパーゼは、アポトーシスの形態学的変化を誘導するために、600を超える細胞成分を分解する。
【0013】
アポトーシス中のカスパーゼカスケードの例
内因性アポトーシス経路:細胞ストレス時に、ミトコンドリアシトクロムcがサイトゾルに放出される。この分子は、(CARD-CARD相互作用を介して)誘導型カスパーゼ-9を動員するアダプタータンパク質(APAF-1)に結合する。これにより、「アポトソーム」と呼ばれるカスパーゼ活性化多タンパク質複合体が形成される。いったん活性化されると、カスパーゼ9などの誘導型カスパーゼは、他の実行型カスパーゼを切断し、活性化する。これは、アポトーシスに特徴的な細胞成分の分解をもたらす。
【0014】
外因性アポトーシス経路:カスパーゼカスケードはまた、細胞表面死受容体を介して、細胞外リガンドによって活性化される。これは、プロカスパーゼを動員して活性化する多タンパク質死誘導シグナル伝達複合体(DISC)の形成によって行われる。例えば、Fasリガンドは、受容体の細胞外表面でFasR受容体に結合する。これは、受容体の細胞質尾部でデスドメインを活性化する。アダプタータンパク質FADDは、DEDドメインを介して(デスドメインーデスドメイン相互作用によって)プロカスパーゼ8を動員する。このFasR、FADD、及びプロカスパーゼ8は、死誘導シグナル伝達複合体(DISC)を形成し、ここでカスパーゼ8が活性化される。これは、ミトコンドリアストレスを誘導することによる内因性経路の下流活性化、又は細胞成分を分解するための実行型カスパーゼ(カスパーゼ3、カスパーゼ6、及び/又はカスパーゼ7)の直接活性化のいずれかをもたらし得る。
【0015】
パイロトーシス
パイロトーシスは、免疫応答を本質的に誘導するプログラム細胞死の形態である。これは、他の種類の細胞死とは形態学的に異なり、細胞が膨張し、破裂し、炎症誘発性細胞内容物を放出する。これは、微生物感染並びに心臓発作(心筋梗塞)を含む様々な刺激に応答して行われる。ヒトにおけるカスパーゼ-1、カスパーゼ-4及びカスパーゼ-5は、パイロトーシスによる細胞死の誘導において重要な役割を果たす。これにより、細胞内及び細胞外病原体の寿命及び増殖時間が制限される。
【0016】
カスパーゼ-1によるパイロトーシス
カスパーゼ-1活性化は、タンパク質のレパートリーによって媒介され、様々な病原性リガンドの検出を可能にする。カスパーゼ-1活性化のいくつかの伝達物質は、NOD様ロイシンリッチリピート(NLR)、AIM2様受容体(ALR)、パイリン、及びIFI16である。
【0017】
これらのタンパク質は、インフラマソームと呼ばれる多タンパク質活性化複合体を形成することによって、カスパーゼ-1活性化を可能にする。例えば、NOD様ロイシンリッチリピートNLRP3は、細胞からのカリウムイオンの流出を感知する。この細胞イオン不均衡は、NLRP3分子のオリゴマー化をもたらして、NLRP3インフラマソームと呼ばれる多タンパク質複合体を形成する。プロカスパーゼ-1は、二量体化し、自己タンパク質分解切断を受けるために、他のプロカスパーゼ分子に近接させられる。
【0018】
カスパーゼ-1によるパイロトーシスをもたらすいくつかの病原性シグナルは、以下の通りである:パイロトーシスを誘導するAIM2様受容体に結合する宿主サイトゾル中のDNA;及び細菌由来のIII型分泌系装置は、NAIPと呼ばれるNOD様ロイシンリッチリピート受容体に結合する(ヒトで1つ、マウスで4つ)。
【0019】
ヒトにおけるカスパーゼ-4及びカスパーゼ-5によるパイロトーシス
カスパーゼ4及び5は、(グラム陰性細菌の細胞壁に見出される)リポ多糖(LPS)分子が宿主細胞の細胞質に見出される場合に、直接的なパイロトーシスを誘導する能力を有する。例えば、カスパーゼ4は受容体として作用し、インフラマソーム複合体又はカスパーゼ-1活性化を必要とせずにタンパク質分解的に活性化される。
【0020】
パイロトーシスを起こすカスパーゼの重要な下流基質は、ガスダーミンD(GSDMD)である。
【0021】
炎症における役割
炎症は、組織損傷又は細菌感染などの有害な刺激からの破壊後に、恒常性状態を回復させるための生物による防御的試みである。カスパーゼ-1、カスパーゼ-4、カスパーゼ-5、及びカスパーゼ-11は、「炎症性カスパーゼ」と考えられる。
【0022】
カスパーゼ-1は、IL-1β及びIL-18を含む炎症促進性サイトカインの活性化において重要である。これらは、免疫細胞へのシグナルとして作用し、損傷部位への免疫細胞動員にとって好ましい環境を作る。したがって、カスパーゼ-1は、自然免疫系において基本的な役割を果たす。この酵素は、プロIL-1β及びプロIL 18などのサイトカインのプロセシング並びにそれらの分泌に関与する。
【0023】
ヒトにおけるカスパーゼ-4及び-5は、それらがグラム陰性細菌に豊富な分子であるLPSに結合する受容体として独特の役割を有する。この結果、カスパーゼ-1を活性化することによって、IL-1β及びIL-18サイトカインのプロセシング及び分泌が生じ得る。この下流効果は、上記と同様である。それはまた、プロセシングされない別の炎症性サイトカインの分泌をもたらす。これはプロIL1αと呼ばれる。サイトカイン分泌を補助する炎症性カスパーゼであるカスパーゼ-11の証拠もある。これは、IL-1β分泌を遮断する膜チャネルを不活性化することによって行われる。
【0024】
カスパーゼはまた、転写レベルで炎症反応を誘導することができる。IFN、TNF、IL-6、及びIL-8などの炎症性サイトカインの転写を補助する転写因子である核因子-κB(NF-κB)の転写を促進するという証拠がある。例えば、カスパーゼ-1はカスパーゼ-7を活性化し、これは次にポリ(ADP)リボースを切断し、NF-κB制御遺伝子の転写を活性化する。
【発明の概要】
【0025】
本発明の1つの態様に従って、ポジティブセンス一本鎖RNAウイルス(例えば、SARS-CoV-1、MERS、及びSARS-Cov2(これは、COVID-19を引き起こす))による感染に関連する罹患率及び死亡率を低下させるために、ヒト対象又は患者を予防的に処置する方法が提供される。予防的又は治療的処置は、有効量のカスパーゼ阻害剤、有利には少なくともカスパーゼ1の阻害剤、すなわち、カスパーゼ1のみ、又はカスパーゼ1及び1つ以上の他のカスパーゼ(例えば、カスパーゼ3、4、5、7、8、9、及び11)の阻害剤を、特定のポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに感染していることが分かっている若しくはその疑いがあるか又はその感染のリスクがある患者又は対象に投与することによって達成される。有利なことに、そのような処置は、患者のT細胞のパイロトーシスを低減させる。
【0026】
本発明の別の態様によると、特定のポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに関連する罹患率及び死亡率を低下させるために、ポジティブセンス一本鎖RNAウイルス、例えば、SARS-CoV-1、MERS、及びSARS-Cov2に感染した患者を処置する方法が提供される。この態様の特定の好ましい実施形態において、有効量のカスパーゼ1の(又は複数のカスパーゼの)阻害剤が、特定のポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに感染していることが分かっている又は感染している疑いのある患者に投与される。有利なことに、そのような処置は、患者のT細胞のパイロトーシスを低減させる。
【0027】
本発明の別の態様によると、ポジティブセンス一本鎖RNAウイルス、例えば、SARS-CoV-1、MERS、及びSARS-Cov2によって引き起こされる疾患の重症度を予測する試験のための方法が提供される。そのような方法では、特定のポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに感染していることが分かっている又は感染している疑いのある患者の血液試料を試験して、試料中に存在するカスパーゼ活性、有利にはカスパーゼ1活性のレベルを確認する。得られたカスパーゼ活性レベルは、健常個体の1つ以上の対照試料におけるカスパーゼ活性レベルと比較される。特定のカスパーゼ(複数可)、例えば、カスパーゼ1及び/又はカスパーゼ3の活性レベルが、1つ以上の対照試料中のカスパーゼ1及び/又はカスパーゼ3活性レベルよりも統計的に有意に高い場合、患者は、特定のポジティブセンス一本鎖RNAウイルス(例えば、SARS-C0V-2の場合、COVID-19)に関連する疾患の重症型を経験するリスクが高いと判定される。
【0028】
本発明の更に別の態様によると、複数の患者において、ポジティブセンス一本鎖RNAウイルス(例えば、SARS-CoV-1、MERS、及びSARS-Cov2)によって引き起こされる疾患の重症度を予測する試験のための方法が提供される。特定のポジティブセンス一本鎖RNAウイルス(例えば、SARS-Cov-2)に感染していることが分かっている、又はその疑いがある複数の患者の複数の血液試料を試験して、各血液試料中のカスパーゼ1活性のレベルを確認する。各血液試料において確認された量を、健常個体の1つ以上の対照試料におけるカスパーゼ1活性のレベルと比較する。患者は、カスパーゼ1活性のレベルが、1つ以上の対照試料におけるカスパーゼ1のレベルよりも統計学的に有意に高い場合に、重篤な形態の疾患を経験リスクが高いと判定される。逆に、患者は、カスパーゼ1のレベルが1つ以上の対照試料中のカスパーゼ1のレベルよりも統計的に有意に高くはない場合、重症型の疾患を経験するリスクが低いと判定される。よりリスクの高い個体は、カスパーゼ阻害剤で処置することができる。
【0029】
本明細書を読んだ当業者に明らかであるこれらの実施形態及び他の実施形態は、感染のリスクがある者及び感染した者、特に重大な罹患率及び死亡率を経験するリスクが最も高い者を処置する方法を当技術分野に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】先天性免疫応答。CD16+単球はCD11bの有意な上方制御を示し、炎症促進性CD14+CD16+単球はCD38の上方制御を示す。約15%のB細胞が、表面のテセリン染色を示す。
図2】体液性免疫応答。B細胞は、CD27+メモリー、並びに表面IgG及びIgAの著しい喪失を示す。
図3】T細胞反応。CD38発現の上昇にも関わらず、ほとんどのCD8T細胞はナイーブであり、IL-12刺激に対してSTAT-4のリン酸化が遅く不十分であった。T細胞CD38上方制御は、末梢血におけるHIV残存とT細胞活性化との間の関係と同様に、ウイルス残存の指標であり得る。比較的正常なCD25+T細胞カウントにもかかわらず、T濾胞性ヘルパー細胞が減少し、T-reg細胞が完全に存在しない。
図4】細胞傷害性応答。CD8 T細胞は、パーフォリン陽性細胞の%の減少を示す。NK細胞パーフォリン/グランザイム染色では変化は観察されない。単球細胞質IL6、MIP1α、β、及びTNFαのレベルは、対照と比較して全体的に正常であった(表2も参照)。
図5】パイロトーシス。CD3T細胞並びにCD45CD3-細胞のカスパーゼ-1染色の増加が観察される。カスパーゼ-3染色は対照と異ならなかった(データは示さず)。
図6A】B細胞の測定値及びカスパーゼ-1の量を示す。
図6B】B細胞の測定値及びカスパーゼ-1の量を示す。
図6C】B細胞の測定値及びカスパーゼ-1の量を示す。
図6D】B細胞の測定値及びカスパーゼ-1の量を示す。
図7】健常対Covid-19(+)試料中のCD20CD317細胞のパーセント。B細胞上のCD317(テザリン)発現の上昇は、IFN-α応答の指標である。
図8】CD3陰性(B細胞及びNK細胞)、CD3、及びCD3CD4細胞における陽性パーセント(%)及び平均蛍光強度(MFI)としてのカスパーゼ-1の発現。
図9】(集中治療室(ICU)において)重篤である患者は、CD3陰性細胞、CD3細胞、及びCD3CD4細胞において上昇した活性カスパーゼ-1の発現を有し、この発現は、重症でない患者(非ICU)よりも低い。
図10】CD3CD4T細胞内のカスパーゼ-1活性(以下の実施例4を参照)。
図11】Aは、CD3T細胞カスパーゼ-1活性(以下の実施例5を参照)。Bは、CD4T細胞カスパーゼ-1活性(以下の実施例5を参照)。
図12】「レッドリング」実験結果(以下の実施例6を参照)。
図13】「レッドリング」実験結果(以下の実施例6を参照)。
図14】「レッドリング」実験結果(以下の実施例6を参照)。
図15】「レッドリング」実験結果(以下の実施例6を参照)。
図16】「レッドリング」実験結果(以下の実施例6を参照)。
図17】エムリカサンに応答したCOVID-19(+)患者試料におけるカスパーゼ-1活性(以下の実施例7を参照)。
図18】COVID-19陽性患者試料における分泌ヒトIL-18(hIL-18)とCD3(A)及びCD4(B)活性カスパーゼ1MFIとの相関。(以下の実施例8を参照)。
図19】パネルA~D:異なるカスパーゼ(図19A~19C)及びアポトーシス誘導型(図19D)についてのCOVID-19患者(以下の実施例9を参照)のRNAシーケンスの結果。
図20】パネルA~G:患者の人口統計(以下の実施例9及び表1~3を参照)。図20A~20D健常対象並びに非ICU及びICU COVID-19患者由来の異なる細胞種におけるカスパーゼ1活性。図20E~20G他の細胞型と相関したCD4T細胞におけるカスパーゼ1。
図21】成人及び小児患者におけるカスパーゼ1のレベルの比較(以下の実施例9を参照)。
図22】パネルA及びB:ニゲリシン刺激(図22B)及び非刺激(図22A)CD4 T細胞内のカスパーゼ1のレベル(以下の実施例9を参照)。
図23】パネルA及びB:異なるカスパーゼ阻害剤の存在下での、健常対象及びCOVID-19患者由来の未刺激(図23A)CD4 T細胞、並びに健常対象及びCOVID-19患者由来のニゲリシン刺激CD4 T細胞におけるカスパーゼ1のレベル(図23B)(以下の実施例9を参照)。
図24図24A健康な対照及びCOVID-19患者の試料における汚染RBC層の非存在及び存在(以下の実施例9を参照)。図24B健康な対照及びCOVID-19患者のRBC内のカスパーゼ3のレベル(以下の実施例9を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
本発明は、ウイルス感染、特にポジティブセンス一本鎖RNAウイルス、例えばSARS-CoV-1、MERS、及びSARS-CoV-2によって引き起こされるウイルス感染の予防及び治療に関する。
【0032】
本発明の方法は、ヒト集団の間を循環する任意の形態若しくは株のSARS-CoV-2を含む、ヒトに感染する、又は季節性バージョン、変異バージョン、遺伝的浮動に起因するバージョンなどの出現する、ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスによって引き起こされる感染の治療に関する。このようなポジティブセンス一本鎖RNAウイルスは全て、特にSARS-CoV-2は、ウイルスがカスパーゼ1活性を上方制御し、その場合、本発明に従って治療することができる限り、本発明の範囲内に包含される。
【0033】
本発明の方法はまた、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)及び高炎症性障害(例えば、二次血球貪食症候群、マクロファージ活性化症候群、敗血症のマクロファージ活性化様症候群、及びサイトカイン放出症候群)を処理することに関する。これらの障害は、サイトカインストーム症候群として知られることもある。
【0034】
タンパク質分解酵素カスパーゼ-1は、COVID-19患者のリンパ球において過剰発現されることが発見されている。特定の理論に束縛されるものではないが、この発見は、COVID-19患者における、並びにポジティブセンス一本鎖RNAウイルスによって引き起こされる他の疾患における、T細胞枯渇及び他のリンパ細胞型の機能異常の可能な機構の中のパイロトーシスを意味する。
【0035】
本発明者らは、SARS-CoV-2などのポジティブセンス一本鎖RNAウイルスによる感染前又は感染中に患者を処置する方法を開発した。具体的には、カスパーゼ1は、そのようなウイルスによる感染に関連する罹患率及び死亡率を低下させるための創薬可能な標的として同定されている。以下の実施例1及び2に記載されるように、免疫力の低下したSARS-CoV-2犠牲者におけるCD45+細胞は、カスパーゼ1の発現の上昇を有することが発見された。CD45抗原(白血球共通抗原)は、成熟赤血球を除くほぼ全ての造血細胞上で発現される。カスパーゼ1(以前はインターロイキン-1変換酵素(ICE)として知られていた)は、炎症性サイトカインインターロイキン1β(IL-1β)及びインターロイキン18(IL-18)の前駆体並びにパイロトーシス誘導因子ガスダーミンDを活性成熟ペプチドへとタンパク質分解的に切断する。
【0036】
本発明は、ポジティブセンス一本鎖RNAウイルス、例えばSARS-CoV-1(SARSを引き起こす)、MERS-CoV(MERSを引き起こす)、及びSARS-Cov2(COVID-19を引き起こす)に感染したヒト対象又は患者を処置する方法に関する。予防的又は治療的処置は、有効量の、少なくとも1つのカスパーゼの阻害剤を、特定のポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに感染している、又は感染のリスクがあると分かっている、又はその疑いがある患者又は対象に投与することによって達成される。本明細書中で使用される場合、「有効量」は、感染に関連する罹患率及び死亡率を低下させるために必要とされる量である。カスパーゼ阻害剤の「有効量」はまた、カスパーゼ活性のインビトロアッセイにおいて、特定のカスパーゼの1つ以上の生化学的活性を減少させる量である。カスパーゼ阻害剤の「有効量」はまた、ポジティブセンス一本鎖RNAウイルス(例えば、SARS-CoV-1、MERS-CoV、又はSARS-Cov2)に感染していることが分かっている又は感染している疑いのある患者又は対象の集団に投与される場合、阻害剤が投与されていない同様の患者又は対象の集団と比較して、このような集団における入院及び/又は症状の減少を引き起こす量である。有利なことに、そのような処置は、患者のT細胞のパイロトーシスを低減させる。
【0037】
ここに提示されたデータは、カスパーゼ-1とCOVID-19とを関連付け、有意な治療上の意味を伴う。炎症反応の阻害よりもむしろ、炎症を刺激する壊死性リンパ球死の防止がより重要になる。COVID-19の後期段階は、非常に高い死亡率を有するウイルス性敗血症様臨床像によって特徴付けられる。本発明の方法は、ウイルス、パイロトーシス、又はその両方を標的化することによって、この末期疾患への進行を予防する。
【0038】
実際に、本明細書に記載されるカスパーゼの関与の証拠は、疾患の全身性の性質だけでなく、「ロングホーラー」と呼ばれる患者において観察される慢性度にも更なる光を当てる。
【0039】
COVID-19に見られる病気の進行におけるアポトーシス及びパイロトーシスの両方の細胞死の役割についての証拠も蓄積されている。パイロトーシスは、インフラマソーム活性化カスパーゼ-1によるそれらの前駆体の切断の結果として、成熟IL-18及びIL-1βの産生をもたらす。パイロトーシス細胞から放出されると、IL-18がIFN-γ応答を誘導する一方、IL-1βは好中球の流入及び活性化、T及びB細胞の活性化、サイトカイン及び抗体の産生を誘導し、Th17の分化を促進する。高レベルのIL-18、IL-1β、及び他の炎症性サイトカインが、COVID-19患者の肺及び血清から観察された。
【0040】
インフラマソームの活性化の最終的な結果は、病原体に対する免疫性を増強するためのIL-1β及びIL-18の放出であるが、このプロセスは、免疫細胞のパイロトーシスではなく免疫系に危険シグナルを送出する、死滅する感染細胞によって駆動されると予想される。特定の理論に拘束されることを望まないが、SARS-CoV-2の特徴的な特徴であるT細胞死は、SARS-CoV-2が、免疫細胞及び非免疫細胞の両方の細胞内容物の放出による制御されない炎症反応を促進すると共に適応免疫欠損を作り出すことによってヒト免疫を回避する機構であると考えられる。更に、メモリーTヘルパー細胞において主に観察されるカスパーゼ-1の上方制御は、なぜ高齢者が、若年者と比較して、より重症で複雑な疾患プロセスを経やすいかを説明することができるであろう。
【0041】
インフラマソームの活性化は、免疫応答を構築する際の病原体に対する正常な応答の一部であるが、調節不全である又は誤った細胞型において起こるプロセスは、有害な影響を及ぼす可能性がある。再び特定の理論に拘束されることを望まないが、SARS-CoV-2の特徴的な特徴であるT細胞死は、このウイルスが、危険シグナルとして機能し得る細胞内容物の放出による制御されない炎症反応を促進すると共に、適応免疫欠損を作り出すことによってヒト宿主を回避する方法であると考えられる。最終的な結果は、ウイルス感染によって引き起こされる炎症を更に刺激する免疫系の自己損傷性遮断であり、急性ウイルス誘導性免疫不全(AVID)をもたらす。カスパーゼ-1とCOVID-19との間のこの関係は、炎症反応の阻害よりもむしろパイロトーシス性リンパ球死を予防することがより望ましい目標であるため、有意な治療上の意味を有する。サイトカイン標的療法の失敗は、炎症反応に対する適応免疫機能不全の疾患進行における相対的重要性に起因し得る。
【0042】
これらの知見は、COVID-19における難解な観察のいくつかの解明を助けた。例えば、小児が全体として成人よりも良好に機能することは、はるかに低いカスパーゼ-1発現プロファイルによって説明することができる。カスパーゼ-1発現は、メモリーT細胞により標的化され、このことは、高齢の集団(メモリーT細胞の割合がより高い)がSARS-CoV-2によってはるかに深刻な影響を受ける理由の説明となる。
【0043】
デキサメタゾン、レムデシビル、及び抗体カクテル療法の使用は、少なくともいくつかの患者群において初期の期待を示したが、いずれも、COVID-19に関連する急性合併症又は後遺症をもたらす根本的な疾患機構に対処していない。先天性及び適応免疫細胞の増強された活性化状態が重症のCOVID-19の危険因子であるという証拠が蓄積されており、その経過は、疾病管理センターによって広範に詳述されている多数の共存症状によって影響され得る。
【0044】
ウイルス性疾患は、典型的には、リンパ球増加症(例えば、CMV、インフルエンザ、水痘)又はより稀にはリンパ球減少症(例えば、H5N1、H1N1、HIV)のいずれかを呈するリンパ球の機能又はライフサイクルに影響を及ぼすが、COVID-19の状況における好中球増加の所見は、一般的であるが興味深い所見であった。本明細書中に記載されるように、SARS-CoV-2に対する好中球応答における活性化のタイミングと相まって、炎症及びアポトーシスカスパーゼ上方制御の独特な組み合わせは、COVID-19におけるこの独特な検査所見をもたらし得る。
【0045】
まとめると、本明細書中に記載される知見は、リンパ球の壊死細胞死から生じる誘導された急性免疫不全が、COVID-19進行において重要な因子を果たすことを示す。特定の理論に束縛されるものではないが、炎症反応は、免疫系細胞の壊死性細胞死からの「危険シグナル」に対して二次的であり、死滅しつつある組織細胞によって誘導される炎症よりも激しい炎症をもたらすと考えられる。最終的な結果は、自己損傷性細胞死及びその後のサイトカインストームであり、これはウイルス感染によって引き起こされる炎症を更に刺激し、AVIDをもたらす。サイトカイン標的療法の失敗は、適応免疫機能不全が疾患進行における炎症反応よりも大きな影響を及ぼすためであり得る。カスパーゼ-1とCOVID-19との間のこの関係は、炎症反応の阻害よりもむしろパイロトーシス性リンパ球死を予防することがより望ましい治療オプションであるため、有意な治療上の意味を有する。理想的なアプローチは、ウイルス、パイロトーシス、又はその両方を標的とする治療薬の使用によって、この末期疾患への進行を予防することである。
【0046】
本発明者らは、RBC(赤血球(red blood cell)、又は赤血球(erythrocyte))における変化がカスパーゼ-3経路に更に関与することを示すので、COVID-19におけるカスパーゼ媒介疾患プロセスは、カスパーゼ-1及びT細胞に限定されない。
【0047】
炎症性微小血管血栓は、肺、腎臓、及び心臓に存在し、RBC形態の変化と共に血小板及びフィブリンに関連する好中球細胞外トラップを含む。したがって、現在、RBCはCOVID-19患者で観察される凝固障害に関与していると考えられている。COVID-19血液試料中のPBMCを汚染するRBC層は、インフルエンザなどの他の感染においても時折観察されるが、COVID-19に関連するカスパーゼ-3の上方制御は、RBCをこの疾病の合併症に機構的に関連付けるRBCの変化をもたらし得る。本発明の1つの実施形態において、カスパーゼ阻害剤(例えば、カスパーゼ1及び/又は3の阻害剤のような1つ以上のカスパーゼ阻害剤)は、血栓塞栓性事象を有するか、又はそのリスクが高い患者を処置するために使用される。
【0048】
本明細書に記載される知見は、病気の進行、特にCOVID-19の進行を緩和又は予防するために、ウイルス感染の過程の初期にカスパーゼ阻害を使用する処置アプローチを示す。
【0049】
SARS-CoV-2は、免疫系細胞に感染しないようであるが(マクロファージ及び/又は樹枝細胞の可能な例外を伴う)、重症型のCOVID-19におけるT細胞枯渇の結果は、HI:カスパーゼ-1活性化にも見られるものと類似の機構によるようである。また、SARS-CoV-2への曝露前のベースラインにおけるT細胞カスパーゼ発現に及ぼす異なる共存状態の影響をよりよく理解することは、重症疾患の発症において重要であり得る。重症のCOVID-19の高リスク状態と重複する多種多様な障害における活性化インフラマソームを指摘する多くの証拠がある。
【0050】
したがって、エフェクターサイトカインの産生の上流にあるインフラマソーム/パイロトーシス経路を標的とする戦略は、COVID-19誘導性免疫摂動を逆転させる有効なアプローチである。
【0051】
本発明は、様々なウイルス疾患、特にSARS-CoV-2、SARS、及びMERSを含むβコロナウイルスなどのプラス鎖RNAウイルスによって引き起こされる疾患の疾患進行を軽減又は予防するために、有利には感染の過程の初期にカスパーゼ阻害剤を使用する処置アプローチに関する。
【0052】
RNAウイルス
ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスは、そのゲノムがポジティブセンス一本鎖RNA分子によってコードされるものであり、これは、ウイルスゲノム自体が、感染した宿主細胞においてコードされたタンパク質を産生するように翻訳され得るメッセンジャーRNA(mRNA)として機能し得ることを意味する。複製時に(二本鎖RNA中間体を介して)、そのようなRNA分子は、mRNAとして、及び新しいウイルス粒子のゲノムとして働くことができる。ポジティブセンスRNAウイルスは、C型肝炎ウイルス(HCV)、西ナイルウイルス(WNV)、デングウイルス、及び種々のコロナウイルス(例えば、SARS-CoV、MERS-CoV、及びSARS-CoV-2)、ピコルナウイルス(例えば、ポリオウイルス)、レトロウイルス(例えば、HIV)、並びにヒトに感染し得るライノウイルス(感冒を引き起こす)のような多くのヒト病原体を含む、多数の既知のウイルスの原因である。
【0053】
SARS-CoV-2
現在まで、SARS-CoV-2は、(2009年にMERS(中東呼吸器症候群)流行を引き起こした)229E、NL63、OC43、HKU1、MERS-CoV、及び(2003年に初期SARS(重症後天性呼吸器症候群)流行を引き起こした)元のSARS-CoVに次いで、ヒトに感染することが知られている7番目のコロナウイルスである。SARS-CoV及びMERS-CoVと同様に、SARS-CoV-2はβコロナウイルスである。
【0054】
カスパーゼ阻害剤
カスパーゼ1のいくつかの阻害剤が開発されており、これには、ベンルナサン(VX-765)及びプラルナサン(VX-740)、並びに0-デスエチル-ベンルナサン(VRT-043198)が含まれる。米国特許第7,807,6,59号を参照されたく、その開示は、カスパーゼ阻害剤を説明するために本明細書に明示的に組み込まれる。更に、ペプチド阻害剤がカスパーゼ1のために開発されている。そのようなペプチド阻害剤の1つは、Ac-YVAD-cmk(アセチルチロシル-バリル-アラニル-アスパルチルクロロメチルケトン)である。別のペプチド阻害剤は、カルボベンゾキシ-バリル-アラニル-アスパルチル-[0-メチル]-フルオロメチルケトン(Z-VAD-FMK)である。Z-VAD-FMKは、カスパーゼプロテアーゼの触媒部位に不可逆的に結合する細胞透過性汎カスパーゼ阻害剤である。これらは、カスパーゼ1を効果的に阻害する用量で使用することができる。カスパーゼ阻害剤は、カスパーゼ-1に特異的であり得るか、又はより無差別であり得、更なるカスパーゼを阻害し、例えば、阻害剤は、汎カスパーゼ阻害剤(すなわち、2つ以上の異なるタイプのカスパーゼの1つ以上の活性を阻害する阻害剤、例えば、カスパーゼ1及び3を阻害する阻害剤であり得る。別段の指定がない限り、「カスパーゼ阻害剤」は、単一のカスパーゼ種を阻害するカスパーゼ阻害剤、並びに2つ以上のカスパーゼ種を阻害するカスパーゼ阻害剤を含む任意のカスパーゼ阻害剤を指すが、1つの種の阻害の程度は、1つ以上の他のカスパーゼ種の阻害の程度とは異なっている場合がある。更に別のカスパーゼ-1阻害剤は、CTS-2090である。これらの阻害剤の投与は、経口、静脈内、皮内、気管内、又は薬物若しくはプロドラッグの適切なプロセシング及び取り込みに適合する他の手段であり得る。
【0055】
小分子カスパーゼ阻害剤の大半は、開発の初期段階にある。マイクロモル濃度範囲でカスパーゼ-3、-8及び-9を選択的に阻害する小分子阻害剤であるNCX-1000は、慢性肝疾患の治療のための第II相臨床試験中であった。NCX-1000は、おそらくS-ニトロシル化を介してカスパーゼの触媒システインを含むチオール含有部分に共有結合し、それによって酵素の阻害を引き起こすステロイドベースのNO供与体である。肝硬変及び門脈圧亢進症の患者における第II相無作為化二重盲検用量漸増試験の結果は、NCX-1000投与が安全であることを明らかにした。(MacKenzie SH1,Schipper JL,Clark AC.The potential for caspases in drug discovery.Curr Opin Drug Discov Devel.2010 Sep;13(5):568-76.)。
【0056】
エムリカサン
本発明の方法において使用することができる1つの汎カスパーゼ阻害剤は、エムリカサン(IDN-6556、PF-03491390;IUPAC名(3S)-3-{[(2S)-2-{[2-(2-tert-butylanilino)-2-oxoacetyl]amino}propanoyl]amino}-4-oxo-5-(2,3,5,6-tetrafluorophenoxy)pentanoic acid)である。これは、慢性HCV感染及び肝臓移植拒絶の治療のために研究されている不可逆的な経口活性汎カスパーゼ阻害剤である。(MacKenzie SH1,Schipper JL,Clark AC.The potential for caspases in drug discovery.Curr Opin Drug Discov Devel.2010 Sep;13(5):568-76.)。米国特許第6,197,750号、同第6,544,951号、同第7,053,056号、同第7,183,260号、同第7,692,038号、及び公開された国際公開第2017117478(A1)号(これらの各々は、カスパーゼ阻害剤を例示するために本明細書中に明示的に組み込む)も参照されたい。エムリカサンは、例えば、1日当たり5mg~100mg、10mg~75mg、又は25mg~50mgの範囲の用量で投与することができる。1日用量は、単回投与として、又は1日を通じて分割した用量で投与することができる。他のカスパーゼ阻害剤と同様に、エムリカサンは、重篤な疾患症状のリスクを予防又は低下させるために予防的に投与することができる。エムリカサンは、60歳を超える人々、免疫力の低下した個体、糖尿病患者などの高リスク群の人々に特に有用である。他のカスパーゼ阻害剤と同様に、エムリカサンは、COVID-19(又は季節性形態のCOVID-19)の症状の発症時に、又は感染の経過中の後期に投与することができる。エムリカサンは、カスパーゼ-1(及び他のカスパーゼ)を阻害するだけでなく、その後の報告は、エムリカサンがまた、SARS-CoV-2の主要プロテアーゼの活性を阻害するだけでなく、SARS-CoV-2に対するACE-2受容体の結合活性を阻害し得ることを示した。このような多因子活性は、SARS-CoV-2などのプラス鎖RNAウイルスによって引き起こされる感染症の治療において有用であることが証明される。エムリカサン又は他のカスパーゼ阻害剤を、ACE-2受容体結合及び/又は必須ウイルスコードタンパク質活性(例えば、ウイルスコードプロテアーゼ、核酸ポリメラーゼなど)の阻害剤である他の化合物と組み合わせることが望ましい場合がある。このような組み合わせは、COVID-19、SARS、MERSなどの疾病を治療するための有効な「カクテル」を形成することができる。ここで、「カクテル」とは、複数(すなわち、2つ以上)の化学的に異なる分子、例えば、2つの異なる薬物を含む組成物又は治療であって、単一の組成物(又は剤形、例えば、患者への投与前に再構成されることが意図された丸薬若しくはカプセル又は凍結乾燥粉末)中に一緒に混合されるか、又は異なる組成物として別々に投与されるが、同じ治療レジメンの一部として投与される組成物又は治療を指す。異なる組成物を含むカクテルについては、異なる組成物を同時に又は逐次的に投与することができる。同様に、異なる組成物を異なる経路で投与することができる。薬物「カクテル」の例は、当分野において既知である。例えば、COVID-19に関連して、既知の薬物カクテルは、SARS-CoV-2のスパイクタンパクの受容体結合ドメインに結合することによってSARS-CoV-2の感染性を遮断するように特異的に設計された2つの異なるウイルス中和非競合モノクローナル抗体種(REGN10933及びREGN10987)を含む治験用「抗体カクテル」REGN-COV2(Regeneron,Tarrytown,NY)である。本発明の文脈において、「薬物カクテル」は、カスパーゼ阻害剤(有利にはカスパーゼ1阻害剤)及び少なくとも1つの他の薬物(例えば、プロテアーゼ阻害剤及び/又はSARS-CoV-2によるACE-2受容体結合を阻害する薬物)を含む。理解されるように、いくつかの文脈において、薬物「カクテル」は、併用療法とも呼ばれる。
【0057】
医薬組成物の製剤化
本発明の薬学的組成物は、カスパーゼに関連するか若しくはそれらによって調節される1つ以上の状態、又はカスパーゼ、例えば、本明細書中の他の場所に記載されるようなカスパーゼ及び薬学的に許容される担体に関連するか若しくはそれらによって調節される1つ以上の症状の予防、治療、又は改善において有用である、治療有効量の1つ以上のカスパーゼ阻害剤を含む。有利な実施形態では、カスパーゼ阻害剤は、単回投与用に製剤化される。組成物を製剤化するために、化合物の重量分率は、治療される状態が軽減又は改善されるような有効濃度で、選択されたビヒクル中に溶解、懸濁、分散、又は他の方法で混合される。本明細書で提供される化合物の投与に適した薬学的担体又はビヒクルとしては、特定の投与様式に適していることが当業者にとって既知である任意のそのような担体が挙げられる。
【0058】
更に、カスパーゼ阻害剤は、組成物中の唯一の薬学的活性成分として処方することができる、又は他の活性成分と組み合わせることができる。カスパーゼ阻害剤は、薬学的に許容される担体中に、治療される患者に対する所望されない副作用が存在することなく治療的に有用な効果を発揮するのに十分な量で含まれる。治療有効濃度は、当該分野で既知のインビトロ及びインビボ系において化合物を試験することによって経験的に決定することができ、次いで、ヒトのための用量についてそこから推定することができる。
【0059】
医薬組成物中のカスパーゼ阻害剤の濃度は、化合物の吸収、不活性化、及び排出速度、その物理化学的特性、投与スケジュール、及び投与量、並びに当業者に既知の他の因子に依存する。
【0060】
いくつかの実施形態において、治療有効量又は用量は、約0.1ng/ml~約50μg/ml~100μg/ml、約0.5ng/ml~約80μg/ml、約1ng/ml~約60μg/ml、約5ng/ml~約50μg/ml、約5ng/ml~約40μg/ml、約10ng/ml~約35μg/ml、約10ng/ml~約25μg/ml、約10ng/ml~約10μg/ml、約25ng/ml~約10μg/ml、約50ng/ml~約10μg/ml、約50ng/ml~約5μg/ml、約100ng/ml~約5μg/ml、約200ng/ml~約5μg/ml、約250ng/ml~約5μg/ml、約500ng/ml~約5μg/ml、約1μg/ml~約50μg/ml、約0.1ng/ml~約5ng/ml、約1ng/ml~約10ng/ml、又は約1μg/ml~約10μg/mlのカスパーゼ阻害剤の血清濃度を有するべきである。医薬組成物は、特定の実施形態では、1日に体重1kg当たり約0.001mg~約2000mgの化合物、1日に体重1kg当たり約0.002mg~約1000mgの化合物、1日に体重1kg当たり約0.005mg~約500mgの化合物、1日に体重1kg当たり約0.005mg~約250mgの化合物、1日に体重1kg当たり約0.005mg~約200mgの化合物、1日に体重1kg当たり約0.005mg~約100mgの化合物、1日に体重1kg当たり約0.001mg~約0.005mgの化合物、1日に体重1kg当たり約0.01mg~約100mgの化合物、1日に体重1kg当たり約0.02mg~約100mgの化合物、1日に体重1kg当たり約0.05mg~約100mgの化合物、1日に体重1kg当たり約0.1mg~約100mgの化合物、1日に体重1kg当たり約0.5mg~約100mgの化合物、1日に体重1kg当たり約0.75mg~約100mgの化合物、1日に体重1kg当たり約1mg~約100mgの化合物、1日に体重1kg当たり約1mg~約10mgの化合物、1日に体重1kg当たり約0.001mg~約5mgの化合物、1日に体重1kg当たり約200mg~約2000mgの化合物、又は1日に体重1kg当たり約10mg~約100mgの化合物の用量を提供すべきである。医薬単位剤形は、投与単位形態当たり約1mg~約1000mg、約1mg~約800mg、約5mg~約800mg、約1mg~約100mg、約1mg~約50mg、約5mg~約100mg、約10mg~約50mg、約10mg~約100mg、約25mg~約50mg、及び約10mg~約500mgの必須活性成分又は必須成分の組合せを提供するように調製される。
【0061】
カスパーゼ阻害剤を含む薬学的組成物は、一度に投与され得るか、又は時間間隔をおいて投与されるいくつかのより少ない用量に分割され得る。正確な用量及び治療期間は、治療される疾患の関数であり、既知の試験プロトコルを使用して経験的に、又はインビボ若しくはインビトロ試験データからの推定によって決定することができると理解される。濃度及び用量の値はまた、緩和されるべき状態の重症度によって変化し得ることに留意されたい。任意の特定の対象について、特定の投薬レジメンは、個体の必要性及び組成物の投与を管理又は監督する人物の専門的判断に従って経時的に調整されるべきであること、並びに本明細書に記載される濃度範囲は例示的なものにすぎず、特許請求される組成物の範囲又は実施を限定することを意図しないことが更に理解されるべきである。
【0062】
カスパーゼ阻害剤を含む組成物は、適切な経路によって、例えば、経口、非経口、直腸、局所(topically)、局所的(locally)、吸入スプレー、経鼻、口腔、経膣、移植リザーバー又は経鼻胃管若しくは経口胃管を介して投与されることが意図される。いくつかの実施形態では、投与は経口経路によることが有利である。経口投与には、カプセル及び錠剤が好ましい。
【0063】
医薬組成物は、適切な量の化合物又はその薬学的に許容される誘導体を含有する錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤、滅菌非経口液剤又は懸濁剤、及び経口液剤又は懸濁剤、及び油/水乳剤などの単位剤形でヒト及び動物に投与するために提供される。薬学的治療活性化合物及びその誘導体は、単位剤形又は複数剤形で製剤化され、投与される。本明細書で使用される単位剤形は、ヒト及び動物対象に適し、当技術分野で知られているように個別に包装された物理的に別個の単位を指す。各単位剤形は、必要とされる薬学的担体、ビヒクル、又は希釈剤と共に、所望の治療効果を生じるのに十分な所定量の治療活性化合物を含有する。単位剤形の例としては、アンプル及びシリンジ並びに個々に包装された錠剤又はカプセルが挙げられる。単位剤形は、その一部又は複数で投与することができる。複数の剤形は、分離された単位剤形で投与される単一容器に包装された複数の同一の単位剤形である。複数の剤形の例としては、包装において分離されていない錠剤又はカプセルのバイアル及びボトルが挙げられる。
【0064】
活性成分を、0.001%~100%活性成分、0.002%~100%活性成分、0.005%~90%活性成分、0.01%~100%活性成分、0.05%~100%活性成分、0.05%~90%活性成分、0.1%~100%活性成分、0.1%~1%活性成分、0.1%~0.5%活性成分、0.1%~100%活性成分、1%~99%活性成分、1%~98%活性成分、1%~97%活性成分、1%~96%活性成分、1%~95%活性成分、5%~95%活性成分、10%~100%活性成分、10%~95%活性成分、15%~95%活性成分、20%~95%活性成分、25%~100%活性成分、50%~100%活性成分、50%~95%活性成分、60%~95%活性成分又は75%~100%活性成分の範囲で含み、残りが非毒性担体から構成される剤形又は組成物を調製することができる。経口投与のために、薬学的に許容される非毒性組成物は、任意の通常使用される賦形剤、例えば、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、セルロース誘導体、クロスカルメロースナトリウム、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム又はサッカリンナトリウムのいずれか組み込みによって形成される。このような組成物としては、溶液、懸濁液、錠剤、カプセル、粉末、及び徐放性処方物、例えば、移植物及びマイクロカプセル化送達系、並びに生分解性生体適合性ポリマー(例えば、コラーゲン、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、ポリオルトエステル、ポリ乳酸など)が挙げられるが、これらに限定されない。これらの組成物の調製方法は、当業者にとって既知である。企図される組成物は、0.001%~100%の活性成分、一実施形態では75~95%の活性成分を含有することができる。
【0065】
カスパーゼ阻害剤又はそれらを含む組成物は、身体からの迅速な排除に対して化合物を保護する担体、例えば、徐放性処方物又はコーティングを用いて調製することができる。このような組成物はまた、特性の所望の組み合わせを得るために、他の活性化合物を含むことができる。本明細書に提供される化合物、又は本明細書に記載されるようなその薬学的に許容される誘導体はまた、治療又は予防目的のために、1つ以上のカスパーゼによって調節される状態を有する対象に、同じ状態を治療する際に有益であることが一般的な技術分野において既知の別の薬理学的薬剤と一緒に有利に投与することができる。そのような併用療法は、本明細書で提供される組成物及び処置方法の更なる態様を構成することが理解されるべきである。
【0066】
経口投与用組成物
経口医薬剤形は、固体、ゲル、又は液体のいずれかである。固体剤形は、錠剤、カプセル、顆粒、及びバルク粉末である。経口錠剤のタイプとしては、腸溶コーティング、糖コーティング、又はフィルムコーティングされ得る、圧縮されたチュアブルロゼンジ及び錠剤が挙げられる。カプセル剤は、硬質又は軟質ゼラチンカプセル剤であり得るが、顆粒及び粉末は、当業者にとって既知の他の成分と組み合わせて、非発泡性又は発泡性形態で提供され得る。
【0067】
特定の実施形態では、製剤は、カプセル剤又は錠剤などの固体剤形である。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などは、以下の成分又は同様の性質の化合物のいずれかを含有することができる。希釈剤、崩壊剤、潤滑剤、滑剤、甘味剤、及び香味剤。
【0068】
経口投与のために、カスパーゼ阻害剤は、胃の酸性環境からそれを保護する組成物中で提供することができる。例えば、組成物は、胃においてその完全性を維持し、腸において活性化合物を放出する腸溶コーティングで製剤化することができる。この組成物はまた、制酸剤又は他のこのような成分と組み合わせて処方することができる。
【0069】
単位剤形がカプセルである場合、上記タイプの材料に加えて、脂肪油などの液体担体を含有することができる。更に、単位剤形は、投薬単位の物理的形態を改変する種々の他の物質(例えば、糖のコーティング及び他の腸溶剤)を含むことができる。化合物はまた、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、ウエハ、スプリンクル、チューインガムなどの成分として投与することもできる。シロップ剤は、活性化合物に加えて、甘味剤としてのスクロース及びある種の保存剤、染料及び着色剤及び香味剤を含有することができる。
【0070】
活性物質はまた、所望の作用を損なわない他の活性物質、又は例えば、制酸薬、H2遮断薬、及び利尿薬などの所望の作用を補う物質と混合することができる。有効成分は、本明細書に記載の化合物又はその薬学的に許容される誘導体である。最大約98重量%までの高濃度の活性成分を含むことができる。
【0071】
錠剤に含まれる薬学的に許容される担体は、結合剤、滑沢剤、希釈剤、崩壊剤、着色剤、香味剤、及び湿潤剤である。
【0072】
腸溶性錠剤は、腸溶性コーティングのために、胃酸の作用に抵抗し、中性又はアルカリ性の腸内で溶解又は崩壊する。糖衣錠は、薬学的に許容される物質の異なる層が適用される圧縮錠剤である。フィルムコーティング錠は、ポリマー又は他の適切なコーティングでコーティングされた圧縮錠剤である。多重圧縮錠剤は、前述の薬学的に許容される物質を利用して2回以上の圧縮サイクルによって作製された圧縮錠剤である。着色剤も上記剤形に使用することができる。香味剤及び甘味剤は、圧縮錠剤、糖衣錠剤、多重圧縮錠剤、及びチュアブル錠において使用される。
【0073】
用量及び単位剤形
ヒトの治療のために、医師は、予防的又は治療的処置に従って、並びに年齢、体重、疾患の段階及び処置される対象に特異的な他の因子に従って、適切な用量を決定する。一般に、用量は、成人に対して約1~約1000mg/日、又は約5~約250mg/日、又は約10~50mg/日である。特定の実施形態では、用量は、成人に対して約5~約400mg/日又は25~200mg/日である。約50~約500mg/日の用量も企図される。
【0074】
ある特定の実施形態では、治療に有効であるカスパーゼ阻害剤又は組成物の量は、疾患又は症状の性質及び重症度、並びに活性成分が投与される経路によって変化する。頻度及び用量はまた、投与される特定の処置(例えば、治療剤又は予防剤)、障害、疾病、又は状態の重症度、投与経路、並びに対象の年齢、体重、応答、及び過去の病歴に応じて、各対象に特異的な因子に従って変化する。有効量は、インビトロ又は動物モデル試験システムから得られた用量反応曲線から推定することができる。
【0075】
組成物の例示的な用量は、対象又は試料重量のキログラム当たりのカスパーゼ阻害剤のミリグラム又はマイクログラム量(例えば、約0.001~1000mg/Kg、約0.01~100mg/Kg、約0.01~50mg/Kg、約0.1~25mg/Kg、又は約0.1~10mg/Kg)を含む。特定の実施形態において、対象に投与される投与量は、対象の体重の0.20mg/kg~2.00mg/kg、又は0.30mg/kg~1.50mg/kgである。
【0076】
ある特定の実施形態では、カスパーゼ阻害剤の推奨される1日用量範囲は、単回1日1回用量として、又は1日を通して分割用量として与えられる、1日当たり約0.1mg~約1000mgである。いくつかの実施形態において、1日用量は、等しく分割された用量で1日2回投与される。具体的には、1日用量範囲は、約10mg~約200mg/日、より具体的には約10mg~約150mg/日、又は更により具体的には約25~約100mg/日であるべきである。当業者に明らかであるように、場合によっては、本明細書に開示された範囲外の活性成分の投与量を使用することが必要な場合がある。更に、臨床医又は処置する医師は、対象の反応に関連して処置をどのように及びいつ中断、調整、又は終了するかを知っていることに留意されたい。
【0077】
当業者によって容易に理解されるように、異なる治療有効量が異なる疾患及び状態に適用可能であり得る。同様に、そのような障害を予防、管理、治療、又は改善するのに十分であるが、本明細書に記載の化合物に関連する副作用を引き起こすには不十分であるか、又は副作用を低減するのに十分な量も、上記の投与量及び投与頻度スケジュールに包含される。更に、対象に複数回用量の本明細書に記載の化合物を投与する場合、全ての用量が同じである必要はない。例えば、対象に投与される用量は、化合物の予防効果若しくは治療効果を改善するために増加させることができる、又は特定の対象が経験している1つ以上の副作用を低減するために減少させることができる。
【0078】
一部の実施形態では、対象における疾患、又はその1つ以上の症状を予防、治療、管理、又は改善するために投与されるカスパーゼ阻害剤の用量は、対象の体重の0.1mg/kg、1mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、10mg/kg、若しくは15mg/kg又はそれ超である。他の実施形態では、対象における疾患若しくは障害、又はその1つ以上の症状を予防、治療、管理、又は改善するために投与される投与量は、0.1mg~200mg、0.1mg~100mg、0.1mg~50mg、0.1mg~25mg、0.1mg~20mg、0.1mg~15mg、0.1mg~10mg、0.1mg~7.5mg、0.1mg~5mg、0.1~2.5mg、0.25mg~20mg、0.25~15mg、0.25~12mg、0.25~10mg、0.25mg~7.5mg、0.25mg~5mg、0.5mg~2.5mg、1mg~20mg、1mg~15mg、1mg~12mg、1mg~10mg、1mg~7.5mg、1mg~5mg、又は1mg~2.5mgの単位用量である。
【0079】
ある特定の実施形態では、治療又は予防は、カスパーゼ阻害剤の1回以上の負荷用量、続いて1回以上の維持用量で開始することができる。そのような実施形態では、負荷用量は、例えば、1日~5週間にわたって、約60~約400mg/日、又は約100~約200mg/日とすることができる。負荷用量の後に、1回又は複数回の維持用量を投与することができる。各維持用量は、独立して、約10mg~約200mg/日、より具体的には、約25mg~約150mg/日、又は更により具体的には、約25mg~約80mg/日又は約25mg~約50mg/日とすることができる。維持用量は、毎日投与することができ、単回用量として、又は分割用量として投与することができる。
【0080】
ある特定の実施形態において、カスパーゼ阻害剤の用量は、対象の血液又は血清中の活性成分の定常状態濃度を達成するように投与することができる。定常状態濃度は、当業者に利用可能な技術に従う測定によって決定することができる、又は対象の身体的特徴(例えば、身長、体重、及び年齢)に基づくことができる。特定の実施態様において、本明細書に提供される化合物の十分な量は、約300~約4000ng/mL、約400~約1600ng/mL、又は約600~約1200ng/mLの対象の血液又は血清中の定常状態濃度を達成するように投与される。負荷用量は、1~5日間、約1200~約8000ng/mL又は約2000~約4000ng/mLの血液若しくは血清中の定常状態濃度を達成するように投与することができる。
【0081】
維持用量は、約300~約4000ng/mL、約400~約1600ng/mL、又は約600~約1200ng/mLの対象の血液又は血清中の定常状態濃度を達成するように投与することができる。
【0082】
ある特定の実施形態では、同じ化合物の投与を繰り返すことができ、投与は、少なくとも1日、2日、3日、5日、10日、15日、30日、45日、2カ月、75日、3カ月、又は6カ月間隔を空けることができる。他の実施形態では、同じ予防剤又は治療剤の投与を繰り返すことができ、投与は、少なくとも1日、2日、3日、5日、10日、15日、30日、45日、2カ月、75日、3カ月、又は6カ月間隔を空けることができる。
【0083】
ある特定の好ましい実施形態において、化合物又はその薬学的に許容される誘導体を含む単位用量は、投与に適切な形態で提供される。このような形態は、上に詳細に記載されている。特定の実施形態において、単位用量は、1~1000mg、5~250mg、又は10~50mgの活性成分を含む。特定の実施形態において、単位用量は、約1、5、10、25、50、100、125、250、500、又は1000mgの活性成分を含む。このような単位用量は、当業者によく知られている技術に従って調製することができる。
【0084】
製造物品
本発明の実施において有用なカスパーゼ阻害剤又は薬学的に受容可能な組成物は、包装材料、カスパーゼによって調節される疾病若しくは状態又はこの疾病若しくは状態に関連する1つ以上の症状の治療、予防又は改善における使用のためのカスパーゼ阻害剤又はカスパーゼ阻害剤を含む薬学的に許容される組成物、及びこのカスパーゼ阻害剤又は組成物が特定の疾患若しくは状態又は1つ以上のその症状の治療、予防又は改善のために使用されることを示すラベルを含む製品として包装することができる。医薬包装材料の例としては、ブリスターパック、ボトル、チューブ、吸入器、ポンプ、バッグ、バイアル、容器、シリンジ、ボトル、並びに選択された製剤及び意図された投与様式及び処置に適した任意の包装材料が挙げられる。
【0085】
キット
所望の処置を達成するために、1つ以上のカスパーゼ阻害剤を単独で又は他の治療剤と組み合わせて使用するためのキットが提供される。キットは、カスパーゼ阻害剤又はカスパーゼ阻害剤(複数可)を含有する組成物、及び1つ以上のカスパーゼによって調節される疾患又は状態を治療又は予防するための使用に関する情報を医療提供者に提供する説明書を含むことができる。説明書は、印刷された形態で、又はCD若しくはDVDなどの電子媒体の形態で、又はそのような説明書を取得することができるウェブサイトアドレスの形態で提供することができる。単位用量は、対象に投与された場合、化合物又は組成物の治療的又は予防的に有効な血漿レベルが対象において少なくとも1日間維持され得るような用量を含むことができる。典型的には、キットの構成要素は別々に包装される。例えば、固体製剤及び希釈剤は、別個の容器又は区画に提供することができる。同様に、カクテルの異なる成分は、投与の直前に混合のために別々に提供することができる。あるいは、薬物及び送達デバイスは、予め充填されるか、又は別々に包装されて提供することができる。
【0086】
併用療法
カスパーゼ阻害剤を含む併用療法は、2つの薬剤が互いに関連して同じ患者に投与されるレジメンとすることができる。例えば、この2つは、互いに時間的な関係で(例えば、同時に、又は特定の期間内に連続して)投与することができる。あるいは、2つの薬剤は、互いに生化学的又は臨床的関係で投与することができる。例えば、一方の薬剤は、他方の薬剤の血清レベルがあるレベルに低下したときに投与することができる。あるいは、酸素飽和度などの特定の臨床測定が達成されたときに、1つの薬剤を投与することができる。共通のレジメンが使用される場合、2つの薬剤は、異なる経路によって投与することができる。
【0087】
あるいは、カスパーゼ阻害剤を含む併用療法は、2つの異なるカスパーゼ阻害剤を含む化合組成物を使用することができる。これらは、投与のための実際の濃度で、又は使用のために希釈することができる濃縮形態で組み合わせることができる。化合組成物は、単回用量形態で包装することができる、又は複数回用量ように包装することができる。
【0088】
他のカスパーゼ阻害剤と同様に、エムリカサンは、経口投与されるか、静脈内投与されるか、又は他の形態で投与されるかにかかわらず、単独で、又は1つ以上の抗ウイルス剤、例えば、レムデシビルとの併用処置において投与することができる。
【0089】
他のカスパーゼ阻害剤と同様に、エムリカサンはまた、COVID-19について使用される標準的な投薬レジメンで、回復期患者血漿との併用療法において投与することができる。
【0090】
加えて、他のカスパーゼ阻害剤と同様に、エムリカサンは、IL-6炎症経路を標的とする、又は別の炎症経路を標的とする別の生物学的薬剤との併用療法で投与することができる。
【0091】
IL-6炎症経路の任意の阻害剤を、カスパーゼ1阻害剤と組み合わせて使用することができる。使用することができるIL-6炎症経路阻害剤としては、IL-6 R中和mAbトシリズマブ(アクテムラ)、抗IL-6抗体、可溶性形態のgp130(sgp130)及びsgp130Fcタンパク質が挙げられる。
【0092】
更に、他のカスパーゼ1阻害剤と同様に、エムリカサンは、デキサメタゾンなどのステロイドとの併用療法、及び/又はCovid-19抗体カクテル療法で投与することができる。
【0093】
処置のタイミング
少なくともカスパーゼ-1(又は汎カスパーゼ)の阻害剤を(特に、βコロナウイルス(例えば、COVID-19、SARS、MERS)によって引き起こされる)疾患の経過の初期に投与することは、その処置が炎症反応及び/又は「サイトカインストーム」を阻害することよりもむしろ急性免疫不全を予防することによって機能するので、有益であろう。リンパ球におけるカスパーゼ-1の活性化は、おそらくリンパ球の死をもたらし、これは、免疫表現型検査と呼ばれる血液検査によって測定することができる。リンパ球の死は、リンパ球減少(リンパ球数が正常範囲未満)を引き起こす。リンパ球減少症は、COVID-19患者における重症度及び入院の有効かつ信頼できる指標である。リンパ球についての20%未満の限界点が、重度の疾患について提案されている。症状の発症後10~12日目に、リンパ球%が20%超の患者は中等度タイプとして分類され、迅速に回復することができる。リンパ球%が20%未満の患者は、最初に重症型として分類される。発症後17~19日の第2の時点で、リンパ球%が20%超の患者は回復しつつある。リンパ球%が5%超かつ20%未満の患者は依然として危険であり、監視を必要とする。リンパ球%が5%未満の患者は、高い死亡率で重篤になり、集中治療を必要とする。理想的には、患者は、リンパ球値が20%未満に達する前に、カスパーゼ-1阻害剤を開始すべきである。(Tan L et al.,“Lymphopenia predicts disease severity of COVID-19:a descriptive and predictive study,”Signal Transduction and Targeted Therapy(2020)5:33を参照)。
【0094】
カスパーゼ1阻害剤による処置は、CD4 T細胞が300細胞/mcl未満になる、CD8細胞が100細胞/mcl未満になる、B細胞が20細胞/mcl未満になる、NK細胞が15細胞/mcl未満になる前、及びこれらの個々の細胞の任意の機能的欠損が明らかになる前に開始されることが有利である。賢明な事項として、診断時に、又は感染した個体への曝露時などのCOVID-19の診断の疑いがある場合に、カスパーゼ-1遮断薬(又は汎カスパーゼ阻害剤)による処置を開始することができる。抵抗力のない集団において、処置は、確定診断の前に、特に感染した人との接触が疑われる場合に開始することができる。カスパーゼ1阻害剤は抗ウイルス剤として作用しない、すなわち、それらはウイルス量を減少させないので、それらは、処置の開始後数日内に行われるウイルス試験に影響を及ぼさないはずである。
【0095】
いったんリンパ球減少症が発生すると、身体は、ウイルスに対する防御免疫応答(抗体及び/又は細胞ベースのいずれか)を得ることができず、これは患者の死につながる。したがって、カスパーゼ-1阻害剤の投与は、有利には、ウイルスに対する免疫応答を得ることができないほど免疫系が損なわれる前に行われるべきである。最大の利益を得るには、カスパーゼ-1阻害剤は、パンデミック若しくはエピデミック間に予防的に、又は疾患の診断から数時間以内、又は免疫表現型検査で測定されるリンパ球減少症が始まる前に投与される。この機構を考慮すると、COVID-19感染による患者の死は、IL-1、IL-18、IL-6、並びに他のサイトカイン及びケモカインなどのサイトカインの放出によるのではなく、ウイルスによって引き起こされる免疫不全に続発する。
【0096】
ウイルスからの合併症のリスクが高い人は、高齢者、基礎的な心臓血管若しくは呼吸疾患、糖尿病、慢性腎疾患、又は他の共存症を有する人、及び免疫力が低下した人(例えば、HIV感染患者、移植を受けた人、又は癌化学療法を受けている患者)である。重度の疾患のリスクが高いと判定された任意のヒト又は群は、予防的に又は重度の疾患症状の発症前に好都合に処置することができる。
【0097】
COVID-19は軽度から重度の範囲の病気であり得、後者は肺炎、重度急性呼吸器症候群、多臓器不全、及び死亡を含む。SARS-CoV-2の潜伏期間は、14日もの長さであると考えられ、曝露から症状発症までの時間の中央値は4~5日である。現在、COVID-19を治療するためにFDAによって承認された承認薬はない。臨床管理には、必要に応じて、酸素補給、機械呼吸、及び体外膜型人工肺(ECMO)などの対症療法及び支持療法が含まれる。FDAは、COVID-19重症度に関する5段階の分類系を公表した(例えば、Developing Drugs and Biological Products for Treatment or Prevention Guidance for Industry,FDA,May 2020を参照)。COVID-19分類が本明細書において使用される場合、それらは以下の表に提供されるように定義される。
【0098】
(表A)COVID-19重症度分類
【0099】
本発明によるCOVID-19の治療は、カスパーゼ阻害剤(カスパーゼ1、3、4、5、7、8、9、及び11のうちの少なくとも1つ以上の阻害剤)を、COVID-19重篤度の上記段階/レベルのいずれかにある対象に投与することを含む。
【0100】
カスパーゼレベルのアッセイ
COVID-19感染又は重度のCOVID-19のリスクが高い患者について、カスパーゼ、例えばカスパーゼ-1についての試験を行うことができる。(例えば、図6B~Dを参照)。上昇したカスパーゼ-1が検出される場合、カスパーゼ-1の阻害剤は、特にCOVID-19の疑いがある場合、熱性疾患の発症時に予防又は治療のいずれかとして投与することができる。他のカスパーゼについての測定も、同様に、COVID-19の重度な形態を示すことができる。高リスク群は、CDCによって、喘息及び慢性肺疾患、高血圧、肥満、糖尿病、免疫力の低下した患者、65歳を超える成人、養護ホーム及び介護施設における高齢者、重篤な心臓状態、透析を受けている慢性腎疾患、並びに肝疾患を有する人々として定義される。
【0101】
後期後遺症
特定のCOVID-19患者は、感染の急性期の後に長く持続する、COVID-19からの後遺症及び/又は合併症を発症する。本明細書中で使用される場合、「ロングホーラー」は、症状の発症の2週間を超えて疾患の合併症を有する患者である。このことは、これらのロングホーラー患者が本疾患のこの慢性期ではウイルスについて陽性と判定されないために、免疫学的事象であると考えられる。血球(リンパ球及び赤血球)におけるカスパーゼ過剰活性は、感染が終わってから数ヶ月後に存在し得ることが判定されており、これは、カスパーゼがCOVID19の後期後遺症に関与することを示している。後期後遺症の病因及び病態生理学は、急性感染期からの臓器損傷若しくは臓器炎症、持続的な過剰炎症状態の発現、宿主ウイルス母体に関連する進行中のウイルス活性、又は不十分な抗体若しくは細胞性免疫応答を反映すると考えられている。急性の病気に加えて、状況を更に複雑にし得る要因としては、ベースライン又は長期の病気経過後の身体的な体調不良、前COVID-19共存症、及び長期又は困難な病気経過後の心理的な後遺症、並びに世界的流行による生活様式の変化に関連するものが挙げられる。おそらく、COVID-19の持続的な後遺症は、病気の範囲に沿った異なる病理生理学的プロセスから生じる複数の症候群を表す。
【0102】
COVID-19の後期後遺症に関する情報は限られているが、急性COVID-19疾患から回復した人における持続的な症状の報告が出現している。最も一般的に報告されている症状には、倦怠感、呼吸困難、咳、関節痛、及び胸痛が含まれる。他の報告された症状としては、認知障害、うつ病、筋肉痛、頭痛、発熱、及び動悸が挙げられる。より重篤な合併症は、あまり一般的ではないものの、報告されている。これらの合併症には、心筋炎症、心室機能不全などの心血管異常、肺機能異常などの呼吸異常、急性腎損傷などの腎異常、発疹及び脱毛症などの皮膚異常、嗅覚及び味覚機能不全、睡眠調節不全、認知変化、及び記憶障害などの神経異常、並びにうつ病、不安、及び気分の変化などの精神的異常が挙げられる。
【0103】
(「ロングホーラー」に発生する)後期後遺症の治療又は予防は、感染の開始時、感染の急性期中、又は感染の急性期後のカスパーゼ阻害剤の投与を含むことができる。カスパーゼ阻害剤(カスパーゼ1、3、4、5、7、8、9、及び11のうちの少なくとも1つ以上の阻害剤)は、長期後遺症を予防又は治療するために、1日1回又は2回に分割された用量のいずれかで与えられる1日用量10~80mgのステロイドと組み合わせることができる。後期後遺症の予防のために、薬剤は、covid-19の重症度(例えば、軽度(14日)、中等度(21日)、重度(1ヶ月)に応じて、短期間(14日)又は長期間(1ヶ月)投与することができる。
【0104】
上記の開示は、本発明を広義に記述するものである。本明細書中に開示される全ての参考文献は、参照により明示的に組み込まれる。以下の具体的な実施例を参照することにより、より完全な理解を得ることができるが、これらの実施例は、例示のみを目的として本明細書に提供されるのであって、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0105】
実施例1:免疫学的表現型検査
本実施例では、COVID-19ですぐに死亡した免疫反応の抑制された患者の免疫表現型を示し、免疫抑制集団の独自性を例示する。
【0106】
SARS-CoV-2の感染が確認された一人の患者が、COVID-19で死亡した。
【0107】
血液試料の自然免疫表現型検査は、単球上のCD11b及びCD38並びにB細胞上のTetherinの上方制御によって示されるように、抗原提示細胞(APC)の活性化及び1型インターフェロン応答の関与についてのいくつかの証拠を示したが、更なる免疫表現型検査は、急性適応免疫調節不全を示した(図1~5)。注目すべきことに、メモリーB細胞は見出されず、SARS-CoV-2特異的IgG及びIgMが存在しなかった。また、この患者は、深刻なT細胞リンパ球減少を示し、更に、T調節性細胞の不在、低T濾胞性ヘルパー細胞、CD8 T細胞中のCD38の過剰発現、及びIL-12刺激時のCD4 T細胞の不十分なSTAT-4リン酸化をはっきりと示した。最後に、リンパ球におけるカスパーゼ-1染色の全体的な増加は、パイロトーシスを示唆しており、これは患者の不十分な免疫応答の説明となり得る(6,7)。まとめると、この免疫抑制患者のCOVID-19での経験は、急性ウイルス誘導性免疫不全(AVID)の形態として特徴付けることができる(8、9)。
【0108】
実施例2.方法
SARS-CoV-2検体採取及び試験
SARS-CoV-2試験のための鼻咽頭の臨床検体を、以前に報告されたように(1)、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応アッセイを介して取得し、取り扱い、処理した。
【0109】
細胞調製及び免疫蛍光染色
静脈穿刺からの末梢血を、免疫表現型検査のためにEDTA及びヘパリンコーティングされたバキュテーナーチューブ(BD Bioscience)に引き込んだ。EDTAチューブに採取した全血を、臨床標準免疫表現型検査プロトコル(Amerimmune LLC,Fairfax,VA)に従って免疫染色した。試料を4℃で30分間、表1に示されるような抗体の組み合わせで染色した。赤血球を、BD FACS溶解液(BD Bioscience,Jan Jose,CA)を製造指示書に従って使用して溶解させた。
【0110】
末梢血単核細胞(PBMC)を2mLの全血から分離し、製造業者の指示に従って、Lymphoprep(Stem cell Technologies,Cambridge,MA)及びAccuspinチューブ(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO)を使用して、pH7.2のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Thermo Fisher Scientific,Carlsbad,CA)で1:1に希釈した。PBMCをPBSで洗浄し、0.4mLのPBSに再懸濁した。100μLのPBMCを、表1に示す抗体の混合物を用いて4℃で1時間免疫染色した。細胞を洗浄し、取得前にPBS中に再懸濁した。
【0111】
(表1)患者の免疫学的データ
免疫学的分析の詳細な説明については方法を参照されたい。赤色で強調表示された項目は基準範囲外である。
【0112】
Thermo Fisher Scientificからの利用した抗体は、CD56 SB436、CD45 eF506、CD3 FITC、CD16 PE、CD8 PerCP-eF710、CD14 PE-CY7、CD4 APC、CD20 APC-eF780、Cd25 EF450、CD57 FITC、TCRγ-δPE、CD4 PerCP-eF710、CD3 PE-CY7、TCR αβAPC、HLA-DR AF700、CD8 APC-eF780、IgD SB436、IgA FITC、IgG PE、IgM PerCP-eF710、CD19 PE-CY7、CD27 APC、CD5 FITC、CD21 PE、CD27 PerCP-eF710、CD45RA FITC、CD45RO PerCP-eF710、CD294 APC、CD4 AF700、CD3 FITC、CD14 FITC、CD16 FITC、CD19 FITC、CD20 FITC、CD56 FITC、CD34、FITC、CD11c PE、HLA-DR PerCP-EF710、CD303a APC、CD4 SB600、CD45RA FITC、CD3 PE-CY7、CD8 AF700、CCR5 APC、CD25 APC、CD317 PE、IL-6 PE-CY7、MIP1-β APCであった。
【0113】
BD Bioscienceからの利用した抗体は、HLADR BV480、CD38 PerCP-CY5.5、CD28 APC、CD45 APC H7、CD278 BV421、CXCR5 PerCP-CY5.5、CD127 BV480、CD45RO PerCP-CY5.5 CD20 APC-H7、CD11b BV421、CD16 FITC、MIP1-αPE、HLA-DR PerPC-Cy5.5、Perforin Alexa488、及びグランザイムB PEであった。TNF-α BV421は、Biolegend(San Diego,CA)から入手した。
【0114】
試料をAmerimmuneの臨床安全SOPに従って処理した。試料を処理する際には適切なPPEを使用した。
【0115】
フローサイトメトリーによるアポトーシス及びパイロトーシス測定
アポトーシス及びパイロトーシスを、プロトコル(Immunochemistry Technologies,Minneapolis,MN)に従って、カスパーゼプローブアッセイの蛍光標識された阻害剤FLICAを使用してフローサイトメトリーによって測定した。カスパーゼ1及びカスパーゼ3/7に特異的なFAM-FLICAプローブを100μlのPBMCに直接添加し、37℃で1時間インキュベートした。細胞を洗浄緩衝液で3回洗浄して、未結合のFLICAプローブを除去した。細胞を、CD45 PE-CY7、CD3 AF700、CD4 PE、及びCD45RO PerCP-EF710で染色した。
【0116】
計測及びフローサイトメトリー取得
試料を3レーザーBD FACS Canto 10で取得した。CS&Tビーズ(BD Bioscience,San Jose,CA)を毎日取得して、Canto 10の一貫した性能を確実にした。試料の取得後、BD FACS Canto 10を10%漂白剤及び水で10分間洗浄した。この研究のために利用されたCANTO 10は、T、B、NK、及び樹状細胞免疫表現型検査の臨床診断試験に有効であると検証された。
【0117】
実施例3
免疫抑制されていないCOVID-19患者中のカスパーゼ-1は、対照よりもCD3陰性細胞、CD3+細胞、及びCD3+CD4+細胞中でより高い
過剰な免疫応答及び「サイトカインストーム」は、COVID-19から見られる合併症の可能性のある理由として仮定されているが、困惑させられる所見もある。例えば、低レベルのIFN-α産生及びエフェクター応答(以下の図7を参照)、より高い抗体産生を有する重症患者、エフェクターサイトカイン及びケモカイン分子を遮断する試みを研究する臨床試験の失敗、並びにT細胞リンパ球減少の特徴的な知見は全て、免疫細胞の細胞死及びその後の関連する合併症に関係する別の機序を指し示している。
【0118】
HIVにおける最近の研究は、Tヘルパー細胞死の機序としてカスパーゼ-1の上方制御を実証した(3)。これに続いて、COVID-19の入院患者においてカスパーゼ-1のレベルを測定した。これらの患者は、健常対照と比較して、有意に高いベースライン並びにニゲリシン誘導性カスパーゼ-1の発現を有することが見出された。CD3陰性(B細胞及びNK細胞)、CD3+、及びCD3+CD4+細胞におけるカスパーゼ-1の発現を陽性パーセント(%)及び平均蛍光強度(MFI)として示す図8を参照されたい。
【0119】
図8から、COVID-19患者は、ベースライン並びにニゲリシン刺激後の両方で、カスパーゼ-1の発現が上昇していることが明らかである。
【0120】
個々の患者からの連続試料に差はなかったが、重症であった患者は、非重症患者と比較してより低いベースラインカスパーゼ-1レベルを有していた。ニゲリシン誘導性カスパーゼ-1の発現において、2つの群(重篤及び非重篤)の間に統計的差異はなく、細胞の機能的劣化を示した。これらのカスパーゼ-1の知見は、非T細胞(B細胞及びNK細胞)においても見られた。
【0121】
患者を疾患重症度(ICU対非ICU)によって分類した場合、ICU患者と非ICU患者との間に明確な統計的差異が観察され、カスパーゼ-1の発現の上昇は、重症ICU患者において一貫してより低い(図9)。
【0122】
全ての場合において、健常対照患者からの試料と、ICU及び非ICU患者の両方からの試料との間の統計的差異は、依然として維持されている。
【0123】
実施例4
高齢の患者は、CD3+CD4+細胞においてより高い上昇したカスパーゼ-1の発現を有する
年齢は、COVID-19重症度及び合併症の重大な危険要因である。図10に示すように、CD3+CD4+T細胞において年齢とカスパーゼ-1活性との間に相関関係があることが発見された。
【0124】
実施例5
CD4+メモリーT細胞は、カスパーゼ-1活性の上昇と相関する(B)
年齢は、COVID-19重症度及び合併症の重大な危険要因である。図11A及び11Bに示されるように、CD3+及びCD4+T細胞において年齢とカスパーゼ-1活性との間に相関があることが発見された。
【0125】
CD4+T細胞カスパーゼ-1活性の上昇は、メモリーCD4+T細胞亜集団と相関した(図11B参照)。これはまた、高齢患者における加齢に関連したカスパーゼ-1活性の上昇を説明し、高齢患者はより高いメモリーCD4T細胞集団を有する傾向がある。
【0126】
実施例6
レッドリング
本明細書に記載されるいくつかの実験のための末梢血単核細胞(PBMC)の調製の間になされた観察の1つは、PBMC層中の汚染赤血球(RBC)層の存在であり、これは「レッドリング」と呼ばれた。この「レッドリング」は、全てのCOVID-19患者試料に存在し、重篤患者とICU環境外で支持療法のみを受けていた患者との間に差はなかった(図12A参照)。
【0127】
顕微鏡下で検査した場合、「レッドリング」中のRBCは、血液がヘパリン処理又はEDTA処理されたチューブに収集されているにもかかわらず、集塊及び凝集を示した。また、全ての患者をヘパリンで処置した(図13を参照)。
【0128】
COVID-19患者試料で観察された「レッドリング」は、非COVID-19患者試料には存在しなかった。図14及び15を参照。
【0129】
COVID-19患者試料から単離されたPBMCを、室温で17時間、エムリカサン(1マイクロモル)と共にインキュベートした場合、「レッドリング」の減少が観察された。図16を参照。
【0130】
エムリカサンがRBCの凝集を低減し、おそらくは防止するため、この結果は、COVID-19を治療するためのエムリカサンの使用を裏付ける。
【0131】
実施例7
カスパーゼ活性のエムリカサン媒介阻害
COVID-19(+)患者からの全血を、(A)エムリカサンを添加せずに(未処理)、又は(B)エムリカサン(Sigma Aldrich,MO,SML2227-5MG)と共に(処理)、1μM最終濃度で、室温で3.5時間インキュベートした。エムリカサンの存在下又は非存在下でインキュベートした後、製造業者の指示に従って、Accuspin System-Histopaque 1077(Sigma Aldrich,MO,A6929)を使用してPBMCを精製した。精製した処理PBMC及び未処理PBMCを、製造業者の指示に従って、ニゲリシン(Immunochemistry Technologies,MN)と共に2時間インキュベートした。カスパーゼ1に特異的なFam-FLICAプローブを50μlのPBMCに直接添加し、次いで、37℃で1時間インキュベートした。PMBCを細胞洗浄緩衝液(Immunochemistry Technologies,MN)で洗浄して、未結合のFLICAプローブを除去した。洗浄したPBMCを、CD45 PE-CY7[HI30]、CD3 AF700[UCHT1]、CD4 PE[RPA-T4]、CD45RO PerCP-EF710[UCHL1]、及びViability Dye 780(Thermo Fisher Scientific,Carlsbad,CA)を使用してFACS選別して、生存CD3-細胞並びにCD3+細胞及びCD3+CD4+T細胞を同定した。FSC/SSCプロット上のリンパ球及びFSC-A/FSC-Hプロット上のシングレットのゲーティングを組み込んだ標準ゲーティング図を使用して、リンパ球を同定した。リンパ球をCD45/SSCプロット上でCD45+として更に同定し、次いで、CD3-、CD3+、及びCD3+CD4+細胞をCD45+CD3/CD4プロット上で同定した。図17は、示された3つの細胞集団についての活性カスパーゼ-1 MFI及び陽性%データを示す。エムリカサン処理COVID-19陽性(COVID-19(+))全血は、活性カスパーゼ-1 MFI及び活性カスパーゼ-1%陽性細胞の両方において、未処理COVID-19陽性全血と比較して有意な減少があった(p≦0.005)(プリズム、対応t検定)。
【0132】
別の実験では、全血を1μMのエムリカサンと共に室温で17時間(午後5時から午前10時の一晩)、ロッカー上でインキュベートした。PBMC中の活性カスパーゼ1を調べるために、上記と同じ実験を行った。COVID-19患者由来の3つの試料において、ニゲリシン誘導性カスパーゼ-1活性の阻害は、1/3の試料のみで見られた。
【0133】
実施例8
IL-18とカスパーゼ-1活性との相関
全血を960rcfで遠心分離して、血漿をRBC及びWBCから分離した。血漿を取り出し、試験するまで気相液体窒素中で凍結した。残りの試料を、製造業者の指示に従って、Accuspin System-Histopaque 1077(Sigma Aldrich,MO,A6929)を使用して、PBMCについて処理した。活性カスパーゼ-1に特異的なFam-FLICAプローブ(上記の実施例7を参照)を50μlのPBMCに直接添加し、続いて37℃で1時間インキュベートした。PMBCを細胞洗浄緩衝液(Immunochemistry Technologies,MN)で洗浄して、未結合のFLICAプローブを除去した。洗浄したPBMCを、CD45 PE-CY7[HI30]、CD3 AF700[UCHT1]、CD4 PE[RPA-T4]、CD45RO PerCP-EF710[UCHL1]、及びViability Dye 780(Thermo Fisher Scientific,Carlsbad,CA)を使用してFACS選別して、生存CD3-細胞並びにCD3+細胞及びCD3+CD4+T細胞を同定した。FSC/SSCプロット上のリンパ球及びFSC-A/FSC-Hプロット上のシングレットのゲーティングを組み込んだ標準ゲーティング図を使用して、リンパ球を同定した。リンパ球をCD45/SSCプロット上でCD45+として更に同定し、次いで、CD3-、CD3+、及びCD3+CD4+細胞をCD45+CD3/CD4プロット上で同定した。
【0134】
製造業者の指示に従って、ヒトIL-18 ELISAキット(Abcam、ab215539)を利用して、分泌されたIL-18をアッセイした。十分な試料が利用可能である場合には、試料を二重及び三重に試験した。結果を、GraphPad Prism v8を用いて分析した。4パラメータ曲線適合を行い、Prism補間関数を使用してIL-18濃度を補間した。図18A及び18Bを参照されたい。
【0135】
図18A及び18Bは、分泌されたhIL-18と相関するCD3+及びCD4+細胞集団の両方についての活性カスパーゼ-1 MFIを示す。スピアマン相関アルゴリズムを使用してGraphPad Prism v8で分析を行った。P値をグラフ上に示す。
【0136】
COVID-19患者は、標的化及び非標的化免疫抑制剤の使用を促した急性免疫過剰活性化を示すが、T細胞の喪失及び他のリンパ細胞区画のパイロトーシスを伴う深刻な適応免疫機能不全の証拠がある。本明細書に提示されるデータが示すように、リンパ球及びRBCのパイロトーシスが、それぞれ免疫機能不全及び凝固障害をもたらす。SARS-CoV-2に感染した患者における他の細胞型(例えば、内皮細胞)もまた、パイロトーシスを受ける可能性があり、これは、文献に記載される「サイトカインストーム」に更に寄与し得る。
【0137】
これらの知見は、全体として、リンパ球の壊死性細胞死に起因するSARS-CoV-2誘導性急性免疫不全に注目を集める。特定の理論に束縛されるものではないが、COVID-19患者において観察される炎症反応は、免疫系細胞の壊死細胞死からの危険シグナルに対して二次的であり、組織細胞の死滅によって誘導されるプロセスよりも激しい炎症をもたらす。最終的な結果は、ウイルス感染によって引き起こされる炎症を更に刺激する免疫系の自己損傷性遮断であり、急性ウイルス誘導性免疫不全をもたらす。
【0138】
実施例1~8の参考文献
引用された各参考文献の開示は、明示的に本明細書に組み込まれる。
【0139】
実施例9
COVID-19疾患及び後遺症におけるカスパーゼ並びにカスパーゼ阻害剤の治療可能性
この研究では、COVID-19患者由来の免疫細胞においてカスパーゼの転写状態を評価し、細胞カスパーゼのフローサイトメトリープロファイリングを使用して、急性疾患で入院した又は回復期の一連のCOVID-19患者に由来する免疫細胞及び赤血球を調べた。いくつかのカスパーゼの遺伝子発現レベルは、インビトロSARS-CoV-2感染モデルにおいて上昇し、COVID-19患者由来の抹消血の単細胞RNA-Seqデータは、T細胞、好中球、及び樹枝細胞におけるカスパーゼ発現の異なるパターンを示した。CD4 T細胞のフローサイトメトリー評価は、喘息及び慢性副鼻腔炎(CRS)を有する患者のサブセットを除いて、非曝露対照と比較して、入院COVID-19患者においてカスパーゼ-1のアップレギュレーションを示した。長引く症状を有する回復期のCOVID-19患者(「ロングホーラー」)は、選択された汎カスパーゼ阻害剤との共培養後にエクスビボで減弱されたCD4 T細胞におけるカスパーゼ-1の持続的なアップレギュレーションを示した。更に、カスパーゼ阻害に応答する対照と比較して、COVID-19患者からの赤血球中で、カスパーゼ3レベルの上昇が観察された。総合すると、これらの結果は、重篤な転帰をもたらす免疫関連の病理学的プロセスを促進するCOVID-19における有意なカスパーゼ応答を明らかにする。汎カスパーゼ阻害は、重度のCOVID-19転帰を改善、低減、又は予防するための処置戦略である。
【0140】
本明細書に記載される研究は、複数の免疫細胞種におけるCOVID-19病の範囲にわたって、炎症カスパーゼだけでなく、誘導型及び実行型カスパーゼの発現を調査するための分析に関する。赤血球中のカスパーゼ-3(RBC)など、カスパーゼ-1を超えるカスパーゼ分子の増加の発見は、免疫系細胞の完全なカスパーゼ発現プロファイルの更なる定義をもたらした。所与の癌細胞集団における独特のカスパーゼ発現プロファイルの影響は、COVID-19感染症における凝固障害へのRBCの関与などの特定の転帰に影響を与え、病気進行のパラメータとの関係を決定し得る。
【0141】
材料及び方法
患者集団
免疫表現型検査のための患者試料は、患者の来院又は入院中に取得した。患者は、1)入院しておらず、COVID-19症状を示さない、又は2)COVID-19症状を示して入院していると定義した。静脈穿刺からの末梢血を、免疫表現型検査のためにEDTA及びヘパリンコーティングされたバキュテーナー(vacutainer)チューブに採取し、採血から48時間以内に処理した。
【0142】
フローサイトメトリー
臨床標準免疫表現型検査プロトコル(Amerimmune LLC,Fairfax,VA)に従って全血を染色した。試料を、4℃で30分間、複数の抗体の組み合わせで染色した。RBCを、BD FACS溶解液(BD Bioscience,San Jose,CA)を製造指示書に従って使用して溶解させた。簡潔に述べると、新たに取得された末梢血単核細胞(PBMC)を、採取から24時間以内に2mLの全血から分離し、製造業者の指示に従ってLymphoprep(Stem cell Technologies,Cambridge,MA)及びAccuspinチューブ(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO)を使用して、pH7.2のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Thermo Fisher Scientific,Carlsbad,CA)で1:1に希釈した。PBMCをPBSで洗浄し、0.5mLのPBSに再懸濁した。100μLのPBMCを、4℃で1時間、抗体の混合物で免疫染色した。細胞を洗浄し、取得前にPBS中に再懸濁した。
【0143】
アポトーシス及びパイロトーシスを、カスパーゼプローブアッセイの蛍光標識された阻害剤(FLICA;Immunochemistry Technologies,Minneapolis,MN)を用いてフローサイトメトリーによって測定した。対照として、PBMCをニゲリシンで2時間刺激した。カスパーゼ-1に特異的なFAM-FLICAプローブを50μlのPBMCに添加し、37℃で1時間インキュベートした。続いて、細胞を洗浄し、CD45 PE-CY7[HI30]、CD3 AF700[UCHT1]、CD4 PE[RPA-T4]、CD45RO PerCP-EF710[UCHL1]、及びViability Dye 780(Thermo Fisher Scientific,Carlsbad,CA)で染色した。試料を3レーザーBD FACS Canto 10で取得した。CS&Tビーズ(BD Bioscience,San Jose,CA)を毎日取得して、Canto 10の一貫した性能を確実にした。この研究のために利用されたCANTO 10は、T、B、NK、及び樹状細胞免疫表現型検査の臨床診断試験に有効であると検証された。Denovo FCS Express v6臨床版(De Novo Software,Pasadena,CA)をフローサイトメトリー分析に使用した。
【0144】
T細胞、B細胞、及びNK細胞のためのゲーティング戦略
単球を、CD14、CD16、及びHLA-DRを利用する標準的なゲーティング戦略によって同定して、古典的単球、中間単球、及び非古典的単球を同定した。CD38及びCD11b MFI及び陽性パーセントを、CD14+CD16+中間単球から調べた。リンパ球は、以下のゲーティング図を用いて同定した:シングレット(FSC-A/FSC-H);CD45+(CD45/SSCプロット);CD45+CD3+(CD3/SSCプロット);及びCD4+及びCD8+T細胞(CD4/CD8 CD3+ゲーティング)。示されるようなその後のT細胞亜集団は、CD45+CD3+CD4+又はCD8+細胞から同定された。リンパ球ゲーティングプロットから、B細胞は、CD45+;CD20+(CD20/SSCプロット)として同定された。CD45+CD20+集団から全てのB細胞亜集団を同定した。
【0145】
IL-18 ELISA
製造業者の指示に従って、ヒトIL-18 ELISAキット(Abcam、ab215539)を利用して、血漿IL-18をアッセイした。十分な試料が利用可能である場合には、試料を最小限に二重及び三重に試験した。4パラメータ曲線適合を行い、GraphPad Prismバージョン8.0(Graphpad Software Inc.,CA,USA)補間関数を使用してIL-18濃度を補間した。
【0146】
血漿実験
960 RCFで遠心分離した後、血漿を全血から分離した。細胞(RBC及びWBC)を、37℃で単独で、又はトリプシンの存在下で1時間インキュベートし、次いで10パック細胞容量のRPMI 1640不完全培地で洗浄した。血漿を室温(18~25℃)で保持するか、又は56℃で1時間熱不活化した。血漿をRBC/WBCに1:1の比で添加し戻し、室温で振盪しながら一晩インキュベートした。
【0147】
公的なSARS-CoV-2及びCOVID-19のトランスクリプトーム解析:
換気され、症状発症後2~16日目に急性呼吸窮迫症候群と診断された3人のCOVID-19参加者及び6人の健常対照からの単細胞RNAシーケンスデータは、GEO(27)からアクセスされた。インビトロでSARS-CoV-2に感染した細胞株からのRNAシーケンスデータは、GEO:GSE147507から入手した。カスパーゼ遺伝子の発現値を、DESeq2によって正規化した。
【0148】
エクスビボ刺激試験
COVID-19+患者試料中の活性カスパーゼ-1。COVID-19陽性患者からの全血を、(A)未処理とした、又は(B)エムリカサン(1μM、Sigma Aldrich、MO、SML2227-5MG)若しくは選択的カスパーゼ-1阻害剤VX765を用いて、水浴中37℃で一晩処理した。その後、PBMCを精製し(Accuspin System-Histopaque 1077;Sigma Aldrich,MO,A6929)、ニゲリシン(Immunochemistry Technologies,MN)と共に2時間インキュベートした。活性カスパーゼ-1に特異的なFam-FLICAプローブを50μlのPBMCに添加し、次いで37℃で1時間インキュベートした。PMBCを細胞洗浄緩衝液(Immunochemistry Technologies,MN)で洗浄し、CD45 PE-CY7[HI30]、CD3 AF700[UCHT1]、CD4 PE[RPA-T4]、CD45RO PerCP-EF710[UCHL1]、及びViability Dye 780(Thermo Fisher Scientific,Carlsbad,CA)で染色した。FSC/SSCプロット上のリンパ球及びFSC-A/FSC-Hプロット上のシングレットのゲーティングを組み込んだ標準ゲーティング図を使用して、リンパ球を同定した。リンパ球をCD45/SSCプロット上でCD45+として更に同定し、次いで、CD3-、CD3+、及びCD3+CD4+細胞をCD45+CD3/CD4プロット上で同定した。示された3つの細胞集団についての活性カスパーゼ-1 MFI及び陽性%を示す。
【0149】
統計分析
連続変数については中央値、第1四分位数(Q1)、及び第3四分位数(Q3)を使用し、カテゴリー変数については頻度を使用して、人口統計及びCOVID関連の特徴を説明した。連続変数間の差は、マン-ホイットニー検定又はダンの多重比較によるクラスタル-ウォリス検定のいずれかによって評価した。パラメータ間の関係を、連続変数についてピアソン相関によって調べた。全ての統計的検定は、GraphPad Prismバージョン8.0(Graphpad Software Inc.,CA,USA)を用いて行った。統計的有意性は、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001として示される。P値≦0.100は、有意ではないが、統計的傾向として記録する。
【0150】
結果
1.COVID-19感染症中の免疫細胞における複数のカスパーゼの転写プロファイル
COVID-19を有する患者由来のT細胞におけるカスパーゼ-1発現の上昇の所見を追跡調査するために、中等度~重度のCOVID-19を有する患者の血液試料からの異なる免疫細胞種において、複数のカスパーゼをアッセイした。カスパーゼ遺伝子発現レベルを、インビトロSARS-CoV-2感染の公開トランスクリプトームプロファイリングデータセット及びCOVID-19を有する個体由来の免疫細胞の単細胞RNAシーケンスにおいて検査した(図1)。予想通り、カスパーゼ-1は、CD4 Tヘルパー細胞内で上方制御されることが見出された。ナチュラルキラー細胞におけるカスパーゼ遺伝子のトランスクリプトームレベルの変化、及び好中球の非常に劇的な増加についての証拠も見出された。興味深いことに、形質細胞様DCは、カスパーゼ-9の上方制御を示した唯一の免疫細胞型であった。好中球は、上方制御されたカスパーゼ-5である炎症性カスパーゼを有する独特のプロファイルを示したが、同時にカスパーゼ-7であるアポトーシス促進性分子)の同様の増加も示した。IFN刺激されたCD4 Tヘルパー細胞は、カスパーゼ-7及び-9の有意な上方制御を示し、これは、複数の細胞死機構が、カスパーゼ-1経路に加えてある役割を果たすことを示す。
【0151】
比較のために、COVID-19参加者(非ICU及びICU)及び健常者のT細胞における活性カスパーゼ-1の細胞内レベルを分析した(図2A;参加者の人口統計を補足表1に詳述する)。細胞内カスパーゼ-1陽性のCD4 T細胞の頻度は、ベースライン時及びニゲリシン刺激を受けた健常参加者と比較して、非ICU及びICU COVID-19患者においてベースライン時に有意に上昇した(全てp値<0.0001)。
【0152】
RNA分析においてIL-18及びIL-1βの増加は見られなかったが、IL-18の血清レベルは中等度~重度のCOVID-19個体において増加し、ヘルパーT細胞カスパーゼ-1の発現との正の相関を示した(図2B)。カスパーゼ-1の発現は、主にメモリーCD45RO集団に存在し、高齢との弱い相関を示し、これは、COVID-19における転帰不良の最大リスクファクターの1つとして高齢を潜在的に説明し得る知見である(図2C及びD)。更に、COVID-19患者におけるヘルパーT細胞カスパーゼ-1レベルは、CRTH2+T細胞、γ/δ T細胞及び形質細胞様樹状細胞と相関していた(補足表2)。このような相関は、COVID-19に関与する複雑な細胞相互作用を指し示す。Tヘルパー細胞上のFas受容体の発現に統計的な差がなかったことに留意することも重要であり(図2F)、Fas依存性細胞死はCOVID-19におけるT細胞枯渇の要因ではないことを示唆する。
【0153】
2.Tヘルパー細胞におけるカスパーゼ-1の増加は、臨床アレルギー免疫診療を受けている患者のサブセットにおいて見られる
アレルギー/免疫クリニックに来院した患者におけるカスパーゼ-1レベルをアッセイするために、Tヘルパー細胞における細胞内活性カスパーゼ-1を染色し、CLIA認定及びCAP認定フローサイトメトリー実験室において分析的に検証するようにラボ開発検査(LDT)を設計した。アッセイの正常範囲を灰色の網掛け領域で示す(図3)。慢性副鼻腔炎、中等度から重度の喘息、慢性特発性蕁麻疹、及び免疫不全を呈する患者について、102人の成人及び小児対象からのデータを示す。試験はCLIA/CAP承認試験であるので、免疫学的検査における患者ケアの一部としてアッセイを実施した。参加者の人口統計を補足表3に示す。疾病対策センターによって定義された共存状態と高いカスパーゼ-1発現との相関は有意ではなかった。しかしながら、この患者コホートにおけるそれらの頻度が低いことを考えると、決定的な結論を引き出すことは困難である。しかしながら、喘息患者は、カスパーゼ-1のベースライン上昇を示した。
【0154】
3.カスパーゼ-1の上方制御は、COVID-19の急性期に限定されない
COVID-19から回復した入院患者の87%及び外来患者の35%までが、少なくとも1つの症状、特に倦怠感及び呼吸困難の持続を報告している[26、27]。予備報告は、この新しい特徴を「COVID後症候群」として記載しているが、その機序及び自然経過は未知のままである。カスパーゼ-1の発現を、SARS-CoV-2感染後少なくとも90日間持続的な症状を有する医療従事者(HCW)のTヘルパー細胞において分析した(補足表4)。ロングホーラーとしても知られる症候性「COVID-19後」HCWにおいてのみ、ベースライン並びにニゲリシン刺激ヘルパーT細胞カスパーゼ-1のレベルの有意な上方調節があった(図4)。興味深いことに、2020年初期にインフルエンザ様疾患の病歴を有するPCR陰性のHCW、並びにSARS-CoV-2に対して陽性IgGを有するHCWもまた、カスパーゼ-1発現の上昇を呈した。ニゲリシン刺激カスパーゼ-1の発現レベルは、活性感染を有する患者と同等であったが、ベースラインカスパーゼ-1のレベルは、これらのロングホーラーではより低かった(図2)。非曝露対照対象は、T細胞カスパーゼ-1の過剰発現を示さなかった。
【0155】
4.汎カスパーゼ阻害剤は、中等度~重度のCOVID-19患者のCD4 T細胞におけるカスパーゼ-1の活性の上昇を抑制する。
T細胞カスパーゼ-1の活性がカスパーゼ阻害剤によって抑制され得るか否かを評価するために、全血試料を、汎カスパーゼ阻害剤であるエムリカサン(EMR)又は選択的カスパーゼ-1阻害剤であるVX765のいずれかと共にインキュベートし、続いて24時間後に、ニゲリシン刺激あり又はなしでインキュベートした。EMRが、COVID-19試料においてヘルパーT細胞カスパーゼ-1の発現を抑制した、又は健常対象においてその上方制御を防止した一方(図5)、VX765は、強い同様の抑制効果を示さなかった。
【0156】
5.赤血球は、COVID-19感染症におけるカスパーゼ-3の増加を示し、汎カスパーゼ阻害剤によって抑制される。
細胞カスパーゼは、免疫細胞に限定されない。最近の報告は、COVID-19患者におけるRBCの異常を示唆している[28~30]。フィコール分離のプロセスにおいて、PBMC層を汚染するRBCの層が観察され、この層はCOVID-19個体由来の全ての試料中に普遍的に存在していた(図6A)。この所見はまた、COVID-19回復期の対象の最大80%に存在した。急性感染した対象からの血漿は、健常患者の血漿除去全血と共に一晩インキュベートしたときに同様の所見を誘導した。トリプシン、DNAse、又は熱不活性化による血漿試料の処理は、この効果を無効にしなかった。RBCはカスパーゼ-1を発現しないが、様々な障害で増加する検出可能なカスパーゼ-3を有することが示されている。急性COVID-19対象由来のRBCは、健常対照と比較して、有意に上方制御されたカスパーゼ-3を有することが見出された(図6B)。これらの患者由来の血漿もまた、健常対象のRBCにおいてカスパーゼ-3を上方制御した。この効果は、健常対象のRBCをインフルエンザ感染患者からの血漿と共にインキュベートした場合には観察されなかったが、フィコール分離後のこれらの試料において同様のRBC汚染が観察された。更に、EMRは、COVID-19血漿中でインキュベートした試料におけるカスパーゼ-3の上方制御を抑制したが、インフルエンザ血漿中でインキュベートした試料におけるベースライン発現レベルを変化させなかった。
【0157】
実施例9の参考文献
引用された各参考文献の開示は、明示的に本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
【手続補正書】
【提出日】2023-01-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の、少なくともカスパーゼ1のカスパーゼ阻害剤を含む、T細胞リンパ球減少症又はT細胞のパイロトーシスを予防又は低減するためにヒト対象を処置し、T細胞リンパ球減少症又はT細胞のパイロトーシスを低減するための薬学的組成物であって、前記ヒト対象が、
(a)ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスによって引き起こされる疾患に罹患するリスクがあり、前記対象が罹患した場合、前記疾患からの負の転帰に関連する1つ以上の共存症を有するか、又は
(b)ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに感染している
薬学的組成物
【請求項2】
前記対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を有する、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項3】
前記ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスが、SARS-CoV、MERS-CoV、及びSARS-CoV-2からなる群から選択される、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項4】
前記ヒト対象が、SARS-CoV-2に感染している、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項5】
前記ヒト対象が、その免疫細胞においてカスパーゼ1の活性が上昇している状態を有する、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項6】
前記ヒト対象が、その免疫細胞においてカスパーゼ1の発現が上昇している状態を有する、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項7】
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサン、CTS-2090、ベルナカサン(VX-765)、プラルナカサン(VX-740)、及びO-デスエチル-ベルナカサン(VRT-043198)からなる群より選択される、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項8】
前記阻害剤が、ペプチドである、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項9】
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ3、4、5、7、8、9、及び11のうちの1つ以上を阻害する、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項10】
前記阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項11】
前記阻害剤が、エムリカサンである、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項12】
有効量の、少なくともカスパーゼ1のカスパーゼ阻害剤を含む、SARS-CoV-2に関連する罹患リスク及び死亡リスクを低減するために、SARS-CoV-2感染のリスクがあるヒト対象又はSARS-Cov2に感染したヒト対象を処置するための薬学的組成物
【請求項13】
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ3、4、5、7、8、9、及び11のうちの1つ以上を阻害する、請求項12に記載の薬学的組成物
【請求項14】
前記ヒト対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を有する、請求項12に記載の薬学的組成物
【請求項15】
前記対象が、その免疫細胞においてカスパーゼ1の活性が上昇している状態を有する、請求項12に記載の薬学的組成物
【請求項16】
前記対象が、その免疫細胞においてカスパーゼ1の発現が上昇している状態を有する、請求項12に記載の薬学的組成物
【請求項17】
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサン、CTS-2090、ベルナカサン(VX-765)、プラルナカサン(VX-740)、及びO-デスエチル-ベルナカサン(VRT-043198)からなる群より選択される、請求項12に記載の薬学的組成物
【請求項18】
前記カスパーゼ阻害剤が、ペプチドである、請求項12に記載の薬学的組成物
【請求項19】
前記カスパーゼ阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、請求項12に記載の薬学的組成物
【請求項20】
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサンである、請求項12に記載の薬学的組成物
【請求項21】
有効量の、COVID-19を治療するのに有用なカスパーゼ阻害剤を含む、SARS-Cov2に感染したか又は感染した疑いのあるヒト対象を処置するための薬学的組成物であって、任意選択で、COVID-19症状の発症前、又は前記対象が軽度若しくは中等度の重症度のCOVID-19を有している間に投与される薬学的組成物
【請求項22】
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ1及びカスパーゼ3を阻害する、請求項21に記載の薬学的組成物
【請求項23】
有効量の、(a)カスパーゼを阻害する化合物、(b)ACE-2受容体に結合する化合物、及び(c)SARS-CoV-2の主プロテアーゼに結合する化合物を含む、SARS-Cov2に感染したヒト対象を処置するための薬学的組成物であって、COVID-19症状の発症前、又は軽度若しくは中等度のCOVID-19症状を超えて進行している間に投与される薬学的組成物
【請求項24】
デキサメタゾン、SARS-CoV-2に特異的に結合する抗体又は抗体カクテル、IL-6に対する抗体、及びレムデシビルからなる群より選択される化合物とともに投与される、請求項12、21、又は23に記載の薬学的組成物
【請求項25】
SARS-Cov-2疾患の重症度を予測するための試験方法であって、
対象の血液試料を試験してカスパーゼ1の量を確認し、検出された前記カスパーゼ1の量を健常個体の1つ以上の対照試料中のカスパーゼ1の量と比較する工程を含み
前記対象の血液試料中のカスパーゼ1の量が、前記1つ以上の対照試料中で検出されたカスパーゼ1の量よりも統計的に有意に多い場合、前記対象が重症型の前記疾患を経験するリスクが高いと示される、方法。
【請求項26】
複数のヒト対象におけるSARS-Cov-2疾患の重症度を予測するための試験方法であって、
SARS-Cov-2に感染した複数の対象の複数の血液試料を試験して、各血液試料中のカスパーゼ1の量を確認し、少なくとも1つの対象血液試料由来のカスパーゼ1の量を、健常個体の1つ以上の対照試料中で検出されたカスパーゼ1の量と比較する工程を含み
前記対象の試料中のカスパーゼ1の量が、前記1つ以上の対照試料中で検出されたカスパーゼ1の量よりも統計的に有意に多い場合に、前記対象が重症型の前記疾患を経験するリスクが高いと示され、前記対象の試料中のカスパーゼ1の量が、前記1つ以上の対照試料中で検出されたカスパーゼ1の量よりも統計的に有意に多くはない場合に、対象が重症型の前記疾患を経験するリスクが低いと示される、方法。
【請求項27】
前記試験が、抗体試験を用いる、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記試験が、フローサイトメトリーを用いる、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項29】
前記試験が、カスパーゼ1の1つ以上の蛍光標識された阻害剤を用いる、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項30】
前記試験が、カスパーゼ1の1つ以上の蛍光標識された基質を用いる、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項31】
前記対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を更に有する、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項32】
有効量のカスパーゼ-3阻害剤を含む、異常な赤血球凝集又は血栓症を有するか又は有するリスクがあるヒト対象を処置し、異常な赤血球凝集又は血栓症を予防又は低減するための薬学的組成物であって、前記ヒト対象が、(a)ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスによって引き起こされる疾患に罹患するリスクがあるか、又は(b)ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに感染している薬学的組成物
【請求項33】
前記ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスが、βコロナウイルスである、請求項32に記載の薬学的組成物
【請求項34】
前記ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスが、SARS-CoV、MERS-CoV、及びSARS-CoV-2からなる群から選択される、請求項32に記載の薬学的組成物
【請求項35】
前記ヒト対象が、ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに関して無症候である、請求項32記載の薬学的組成物
【請求項36】
前記ヒト対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を有する、請求項32に記載の薬学的組成物
【請求項37】
前記対象が、前記対象における1つ以上の細胞型でカスパーゼ-3の活性が上昇している状態を有する、請求項32に記載の薬学的組成物
【請求項38】
前記対象が、前記対象における1つ以上の細胞型でカスパーゼ-3の発現が上昇している状態を有する、請求項32に記載の薬学的組成物
【請求項39】
前記カスパーゼ阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、請求項32に記載の薬学的組成物
【請求項40】
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサンである、請求項32に記載の薬学的組成物
【請求項41】
有効量のカスパーゼ-3阻害剤を含む、SARS-CoV-2に関連する罹患リスク及び死亡リスクを低減するために、SARS-CoV-2感染のリスクがあるヒト対象又はSARS-Cov2に感染した対象を処置し、SARS-Cov-2に関連する有害転帰のリスクを低減するための薬学的組成物
【請求項42】
血球のパイロトーシスを低減させるための、請求項41に記載の薬学的組成物
【請求項43】
前記対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を有する、請求項41に記載の薬学的組成物
【請求項44】
前記カスパーゼ-3阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、請求項41に記載の薬学的組成物
【請求項45】
前記カスパーゼ-3阻害剤が、エムリカサンである、請求項41に記載の薬学的組成物
【請求項46】
有効量の、少なくともカスパーゼ1のカスパーゼ阻害剤を含む、Covid-19感染の後期後遺症を有する、又は後期後遺症を発症するリスクがあるヒト対象を処置するための薬学的組成物
【請求項47】
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ3、4、5、7、8、9、及び11のうちの1つ以上を阻害する、請求項46に記載の薬学的組成物
【請求項48】
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサンである、請求項46に記載の薬学的組成物
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
本明細書を読んだ当業者に明らかであるこれらの実施形態及び他の実施形態は、感染のリスクがある者及び感染した者、特に重大な罹患率及び死亡率を経験するリスクが最も高い者を処置する方法を当技術分野に提供する。
[本発明1001]
以下の工程を含む、T細胞リンパ球減少症又はT細胞のパイロトーシスを予防又は低減するためにヒト対象を処置する方法:
有効量の、少なくともカスパーゼ1のカスパーゼ阻害剤を前記ヒト対象に投与する工程であって、前記ヒト対象が、
(a)ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスによって引き起こされる疾患に罹患するリスクがあり、前記対象が罹患した場合、前記疾患からの負の転帰に関連する1つ以上の共存症を有するか、又は
(b)ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに感染しており、
前記投与によりT細胞リンパ球減少症又はT細胞のパイロトーシスを低減する、工程。
[本発明1002]
前記対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を有する、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスが、SARS-CoV、MERS-CoV、及びSARS-CoV-2からなる群から選択される、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記ヒト対象が、SARS-CoV-2に感染している、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記ヒト対象が、その免疫細胞においてカスパーゼ1の活性が上昇している状態を有する、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記ヒト対象が、その免疫細胞においてカスパーゼ1の発現が上昇している状態を有する、本発明1001の方法。
[本発明1007]
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサン、CTS-2090、ベルナカサン(VX-765)、プラルナカサン(VX-740)、及びO-デスエチル-ベルナカサン(VRT-043198)からなる群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記阻害剤が、ペプチドである、本発明1001の方法。
[本発明1009]
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ3、4、5、7、8、9、及び11のうちの1つ以上を阻害する、本発明1001の方法。
[本発明1010]
前記阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、本発明1001の方法。
[本発明1011]
前記阻害剤が、エムリカサンである、本発明1001の方法。
[本発明1012]
SARS-CoV-2に関連する罹患リスク及び死亡リスクを低減するために、SARS-CoV-2感染のリスクがあるヒト対象又はSARS-Cov2に感染したヒト対象を処置する方法であって、
有効量の、少なくともカスパーゼ1のカスパーゼ阻害剤を前記ヒト対象に投与する工程
を含む、方法。
[本発明1013]
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ3、4、5、7、8、9、及び11のうちの1つ以上を阻害する、本発明1012の方法。
[本発明1014]
前記ヒト対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を有する、本発明1012の方法。
[本発明1015]
前記対象が、その免疫細胞においてカスパーゼ1の活性が上昇している状態を有する、本発明1012の方法。
[本発明1016]
前記対象が、その免疫細胞においてカスパーゼ1の発現が上昇している状態を有する、本発明1012の方法。
[本発明1017]
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサン、CTS-2090、ベルナカサン(VX-765)、プラルナカサン(VX-740)、及びO-デスエチル-ベルナカサン(VRT-043198)からなる群より選択される、本発明1012の方法。
[本発明1018]
前記カスパーゼ阻害剤が、ペプチドである、本発明1012の方法。
[本発明1019]
前記カスパーゼ阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、本発明1012の方法。
[本発明1020]
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサンである、本発明1012の方法。
[本発明1021]
以下の工程を含む、SARS-Cov2に感染したか又は感染した疑いのあるヒト対象を処置する方法:
有効量の、COVID-19を治療するのに有用なカスパーゼ阻害剤を投与する工程であって、前記投与が、任意選択で、COVID-19症状の発症前、又は前記対象が軽度若しくは中等度の重症度のCOVID-19を有している間に行われる、工程。
[本発明1022]
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ1及びカスパーゼ3を阻害する、本発明1021の方法。
[本発明1023]
以下の工程を含む、SARS-Cov2に感染したヒト対象を処置する方法:
有効量の、a)カスパーゼを阻害する化合物、(b)ACE-2受容体に結合する化合物、及び(c)SARS-CoV-2の主プロテアーゼに結合する化合物を投与する工程であって、前記投与する工程が、COVID-19症状の発症前、又は軽度若しくは中等度のCOVID-19症状を超えて進行している間に行われる、工程。
[本発明1024]
デキサメタゾン、SARS-CoV-2に特異的に結合する抗体又は抗体カクテル、IL-6に対する抗体、及びレムデシビルからなる群より選択される化合物を投与する工程を更に含む、本発明1012、1021、又は1023の方法。
[本発明1025]
SARS-Cov-2疾患の重症度を予測するための試験方法であって、
対象の血液試料を試験してカスパーゼ1の量を確認し、検出された前記カスパーゼ1の量を健常個体の1つ以上の対照試料中のカスパーゼ1の量と比較する工程と、
前記対象の血液試料中のカスパーゼ1の量が、前記1つ以上の対照試料中で検出されたカスパーゼ1の量よりも統計的に有意に多い場合、前記対象が重症型の前記疾患を経験するリスクが高いと判定する工程と
を含む、方法。
[本発明1026]
複数のヒト対象におけるSARS-Cov-2疾患の重症度を予測するための試験方法であって、
SARS-Cov-2に感染した複数の対象の複数の血液試料を試験して、各血液試料中のカスパーゼ1の量を確認し、少なくとも1つの対象血液試料由来のカスパーゼ1の量を、健常個体の1つ以上の対照試料中で検出されたカスパーゼ1の量と比較する工程と、
前記対象の試料中のカスパーゼ1の量が、前記1つ以上の対照試料中で検出されたカスパーゼ1の量よりも統計的に有意に多い場合に、前記対象が重症型の疾患を経験するリスクが高いと判定し、前記対象の試料中のカスパーゼ1の量が、前記1つ以上の対照試料中で検出されたカスパーゼ1の量よりも統計的に有意に多くはない場合に、対象が重症型の前記疾患を経験するリスクが低いと判定する、工程と
を含む、方法。
[本発明1027]
前記試験が、抗体試験を用いる、本発明1025又は1026の方法。
[本発明1028]
前記試験が、フローサイトメトリーを用いる、本発明1025又は1026の方法。
[本発明1029]
前記試験が、カスパーゼ1の1つ以上の蛍光標識された阻害剤を用いる、本発明1025又は1026の方法。
[本発明1030]
前記試験が、カスパーゼ1の1つ以上の蛍光標識された基質を用いる、本発明1025又は1026の方法。
[本発明1031]
重症の疾患のリスクが高いと判定された患者をカスパーゼ1の阻害剤で処置する工程を更に含む、本発明1025又は1026の方法。
[本発明1032]
前記対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を更に有する、本発明1025又は1026の方法。
[本発明1033]
前記阻害剤が、エムリカサン、ベルナカサン(VX-765)、プラルナカサン(VX-740)、及びO-デスエチル-ベルナカサン(VRT-043198)からなる群から選択される、本発明1031の方法。
[本発明1034]
前記阻害剤が、ペプチドである、本発明1031の方法。
[本発明1035]
前記阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、本発明1031の方法。
[本発明1036]
前記阻害剤が、エムリカサンである、本発明1031の方法。
[本発明1037]
以下の工程を含む、異常な赤血球凝集又は血栓症を有するか又は有するリスクがあるヒト対象を処置する方法:
有効量のカスパーゼ-3阻害剤を前記ヒト対象に投与する工程であって、前記ヒト対象が、(a)ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスによって引き起こされる疾患に罹患するリスクがあるか、又は(b)ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに感染しており、前記投与により異常な赤血球凝集又は血栓症を予防又は低減する、工程。
[本発明1038]
前記ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスが、βコロナウイルスである、本発明1037の方法。
[本発明1039]
前記ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスが、SARS-CoV、MERS-CoV、及びSARS-CoV-2からなる群から選択される、本発明1037の方法。
[本発明1040]
前記ヒト対象が、ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスに関して無症候である、本発明1037の方法。
[本発明1041]
前記ヒト対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を有する、本発明1037の方法。
[本発明1042]
前記対象が、前記対象における1つ以上の細胞型でカスパーゼ-3の活性が上昇している状態を有する、本発明1037の方法。
[本発明1043]
前記対象が、前記対象における1つ以上の細胞型でカスパーゼ-3の発現が上昇している状態を有する、本発明1037の方法。
[本発明1044]
前記カスパーゼ阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、本発明1037の方法。
[本発明1045]
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサンである、本発明1037の方法。
[本発明1046]
以下の工程を含む、SARS-CoV-2に関連する罹患リスク及び死亡リスクを低減するために、SARS-CoV-2感染のリスクがあるヒト対象又はSARS-Cov2に感染した対象を処置する方法:
有効量のカスパーゼ-3阻害剤を前記ヒト対象に投与する工程であって、前記投与により、SARS-Cov-2に関連する有害転帰のリスクを低減する、工程。
[本発明1047]
前記有効量の阻害剤の投与が、赤血球のパイロトーシスを低減させる、本発明1046の方法。
[本発明1048]
前記対象が、高血圧、乾癬、心疾患、痛風、関節炎、炎症性腸疾患、痛風性関節炎、I型及びII型糖尿病、白斑、自己免疫性アジソン病、クライオピリノパチー、並びにメタボリックシンドロームからなる群から選択される状態を有する、本発明1046の方法。
[本発明1049]
前記カスパーゼ-3阻害剤が、汎カスパーゼ阻害剤である、本発明1046の方法。
[本発明1050]
前記カスパーゼ-3阻害剤が、エムリカサンである、本発明1046の方法。
[本発明1051]
Covid-19感染の後期後遺症を有する、又は後期後遺症を発症するリスクがあるヒト対象を処置する方法であって、
有効量の、少なくともカスパーゼ1のカスパーゼ阻害剤を前記ヒト対象に投与する工程
を含む、方法。
[本発明1052]
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ3、4、5、7、8、9、及び11のうちの1つ以上を阻害する、本発明1051の方法。
[本発明1053]
前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサンである、本発明1051の方法。
【国際調査報告】