(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-30
(54)【発明の名称】脂肪性肝疾患及び脂肪性肝炎の処置における長時間作用型GLP-1受容体/グルカゴン受容体のアゴニストとしてのグルカゴン類似体
(51)【国際特許分類】
A61K 38/26 20060101AFI20230523BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20230523BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230523BHJP
C07K 14/605 20060101ALI20230523BHJP
C12N 15/16 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
A61K38/26
A61K47/54
A61P1/16
C07K14/605 ZNA
C12N15/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563880
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(85)【翻訳文提出日】2022-11-17
(86)【国際出願番号】 EP2021060532
(87)【国際公開番号】W WO2021214220
(87)【国際公開日】2021-10-28
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,レオ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076CC42
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA31
4C084DB35
4C084NA14
4C084ZA75
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA18
4H045CA40
4H045DA30
4H045EA27
4H045EA30
(57)【要約】
本発明は、代謝性肝疾患、特に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝(NAFL)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、NAFLDに関連した肝線維症及び/又は肝硬変の予防及び/又は処置における、GLP-1受容体/グルカゴン受容体のデュアルアゴニスト活性を有する、特定の長時間作用型グルカゴン類似体の医学的使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
代謝性肝疾患を予防又は処置する方法に使用するための、一般式I
R-H-X2-QGTFTSDYSKYL-X15-X16-X17-X18-AKDFI-X24-WLE-X28-A-NH
2(I)
ここで、式中、
Rは、H、C
1~4アルキル、及びアセチルから選択され、
X2は、2-アミノイソ酪酸(Aib)及びN4アセチルシチジン(Ac4c)から選択され;
X15は、アスパラギン酸及びグルタミン酸から選択され;
X16は、グルタミン酸及びΨから選択され;
X17は、アルギニン及びΨから選択され;
X18は、アラニン及びアルギニンから選択され;
X24は、グルタミン酸及びΨから選択され;
X28は、セリン及びΨから選択される、
を有する化合物であって、
ここでの該化合物は、唯一のΨを含有し、ここでの該Ψは、リジンの残基であり、この中の側鎖のアミノ基は、
HOOC-(CH
2)
16-(CO)-isoGlu-Peg3-Peg3-、及び
HOOC-(CH
2)
16-(CO)-isoGlu-GSGSGG-
からなる群より選択された置換基にコンジュゲートしている、化合物。
【請求項2】
X24がΨである、請求項1に記載の使用のための請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Ψが、リジン(-GGSGSG-isoGlu-(CO)-(CH
2)
16-COOH)である、請求項1に記載の使用のための請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
化合物が、
H -H-Aib-QGTFTSDYSKYLD-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-Peg3-Peg3)-RAAKDFIEWLESA- NH
2(化合物1)、
H -H-Aib-QGTFTSDYSKYLDERAAKDFI-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-GSGSGG)-WLESA- NH
2(化合物2)、
H -H-Ac4c-QGTFTSDYSKYLDE-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-Peg3-Peg3)-RAKDFIEWLESA- NH
2(化合物3)、
H -H-Aib-QGTFTSDYSKYLE-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-GSGSGG)-RAAKDFIEWLESA- NH
2(化合物4)、
H -H-Ac4c-QGTFTSDYSKYLDERAAKDFI-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-GSGSGG)-WLESA- NH
2(化合物5)、
H -H-Ac4c-QGTFTSDYSKYLDERAAKDFIEWLE-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-GSGSGG)-A- NH
2(化合物6)
からなる群より選択される、請求項1に記載の使用のための請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
疾患が、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)である、請求項1に記載の使用のための請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
疾患が、NAFL(非アルコール性脂肪肝)、NASH(非アルコール性脂肪性肝
炎)、NAFLDに関連した肝線維症、又はNAFLDに関連した肝硬変である、請求項1に記載の使用のための請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
NASH、特に肝線維症を伴うNASHの処置法に使用するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
患者が、少なくとも4のNAS(NAFLD活動性スコア)を有すると、及び場合により肝線維症を有すると診断されている、請求項7に記載の使用のための請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
少なくとも1ポイントのNASが各々、風船様腫大及び炎症のサブスコアから生じる、
請求項8に記載の使用のための請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
代謝性肝疾患を予防又は処置する方法に使用するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項11】
疾患がNAFLDである、請求項10に記載の使用のための請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
NASH、特に肝線維症を伴うNASHの処置法に使用するための請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
患者が、少なくとも4のNASを有すると、及び場合により肝線維症を有すると診断されている、請求項12に記載の使用のための、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項14】
一般式Iを有する化合物の治療有効量をそれを必要とする患者に投与する工程を含む、該患者における代謝性肝疾患を予防又は処置する方法。
【請求項15】
一般式Iを有する化合物の治療有効量をそれを必要とする患者に投与する工程を含む、該患者におけるNASH、特に肝線維症を伴うNASHを処置する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、代謝性肝疾患、特に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝(NAFL)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、NAFLDに関連した肝線維症及び/又は肝硬変の予防及び/又は処置における、GLP-1受容体/グルカゴン受容体のデュアルアゴニスト活性を有する、特定の長時間作用型グルカゴン類似体の医学的使用に関する。
【0002】
発明の背景
脂肪性肝疾患は、過剰な肝臓へのトリグリセリドの沈着によって特徴付けられる慢性的な容態である。それは、複数の原因に起因し得、主要な2つの形態は、過度のアルコール消費、又は過剰なアルコールの摂取のない場合には代謝調節不全に関連している。後者は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれる。それは一般的に、代謝症候群及びその個々の構成要素(肥満、2型糖尿病、脂質異常症、及び高血圧)に関連している。NAFLDの範囲は、非アルコール性脂肪肝(NAFL)とも称される孤立性肝脂肪症から、肝臓へのトリグリセリドの沈着、肝細胞の損傷、及び肝小葉の炎症によって特徴づけられる非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、そして肝線維症にわたる。特に、線維症は、NASHを有する患者においては様々な程度で存在し得る。線維症を伴うNASHの存在は、肝硬変及び潜在的には肝細胞癌の発症の強力なリスク因子である(Hagstrom et al., Journal of Hepatology 2017, vol. 67, pp. 1265-1273)。
【0003】
NAFLDはよく見られる容態である;世界における罹患率は25%もの高さであると推定されている(Younossi et al, Hepatology 2016, vol. 64, pp. 73-84)。比較的良性な容態としてのNAFLからNASHへの移行、特に線維症の進行は、全死亡リスクの増加に関連している(例えば、Dulai et al, Hepatology 2017, vol. 65, pp. 1557-1565参照)。
【0004】
NAFLDは、インシュリン抵抗性、脂肪毒性、及び炎症応答などの様々な病因によって引き起こされることが知られている。その中で、最もよく見られる病因はインシュリン抵抗性である。
【0005】
インシュリン抵抗性を改善して、非アルコール性脂肪性肝疾患を予防/処置するために、多くの努力が行われてきた。例えば、一種のインシュリン増感剤である、チアゾリジンジオン(TZD)又はメトホルミンの臨床試験が実施されている(Hepatology (2003) 38: 1008-17, J Clin Invest (2001) 108: 1167-74参照)。
【0006】
しかしながら、TZD系の薬物を用いた処置の場合、大きな体重増加及び体液の貯留という欠点があり、よって、このような処置の使用は、心疾患を有する患者には不可能であることが知られている。TZD系薬物に加えて、NAFLD用のビクトーザ(リラグルチド)又はバイエッタなどのGLP-1受容体アゴニストを使用した臨床試験が実施された。
【0007】
リラグルチドは、市販されているグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の化学修飾された類似体である。リラグルチドのアミノ酸配列は、配列番号1として示されている。
【0008】
HAEGTFTSDVSSYLEGQAAK((S)-4-カルボキシ-4-ヘキサデカノイル-アミノ-ブチリル-)EFlAWLVRGRG(配列番号1)。
【0009】
リラグルチドは、GLP-1受容体(GLP1R)アゴニストとして作用する。このようなGLP1Rアゴニストは、血糖を降下させ、体重を減少させることが実証されている。さらに、生検でNASHと判明した過体重又は肥満を有する患者の、GLP1Rアゴニストのリラグルチドを用いての処置は、患者の39%においてNASHの回復をもたらし、これに対してプラセボ下では9%であった(Armstrong et al., BMJ Open 2013, vol. 3, e003995; Armstrong et al, Lancet 2016, vol. 387, pp.679-690)。
【0010】
GLP-1受容体及びグルカゴン受容体のデュアルアゴニストである、PEG化オキシントモジュリン合成類似体は、GLP-1及びグルカゴンの単一のアゴニストと比較して低下した親和性を有するが、これがNASHのげっ歯類モデルにおいて試験された(Valdecantos et al., Hepatology 2017, vol. 65, pp. 950-968)。G49と命名され、29アミノ酸長を有する類似体を、マイクロアレイにおいて及び部分的肝切除後の肝臓再生において分析した。
【0011】
国際公開公報第2014/091316号は、グルカゴン及びGLP-1の共アゴニストに関する。国際公開公報第2017/153575号は、G933の臨床試験のデータを含む、これらの共アゴニストのさらなるデータを開示している。G933の半減期の幾何平均は約10~12時間のようである。
【0012】
国際公開公報第2014/056872A1及び国際公開公報第2018/100174A1は、GLP-1及びグルカゴンの受容体を活性化する、エクセンディン-4誘導体を開示している。これらのエクセンディン-4誘導体では、他の置換基の中でもとりわけ、14位のメチオニンが、側鎖にNH2基を有するアミノ酸によって置き換えられ、これはさらに非極性残基(例えば、場合によりリンカーと結合した脂肪酸)で置換されている。国際公開公報第2014/056872号は、マウスにおけるいくつかのエクセンディン-4誘導体の半減期を報告している(実施例10、表6)。報告された数値は全て4時間未満である。例えば食餌誘発性NASHマウスモデルからの、いくつかの化合物のさらなる情報が、国際公開公報第2019/030268号に提供されている。
【0013】
国際公開公報第2015/055801号及び国際公開公報第2015/055802号は、ヒトグルカゴンと比較して、GLP-1受容体に対して高まった選択性を有するグルカゴン類似体ペプチドを開示している。これらのペプチドに基づいた、肥満、過体重、及び糖尿病の処置のための方法も開示されている。
【0014】
GLP-1及びグルカゴンの受容体の同時活性化は、食物摂取量を減少させ、エネルギー消費を増加させることが予想され、肥満又は過体重を有する患者の体重減少をもたらすと予想される。血糖コントロールは、GLP-1受容体アゴニスト特性によってもたらされるが、食物摂取量は両方の受容体によって減少し、エネルギー消費量は、グルカゴン受容体へのアゴニスト作用によって増加する。食物摂取量及びエネルギー消費量に対する効果の組合せにより、純粋なGLP-1受容体アゴニストよりも長く続く負のエネルギーバランスがもたらされ、強固な体重減少及びNASHにおける改善がもたらされると予想される。GLP-1受容体とグルカゴン受容体の活性化のバランスは、NASHを改善するだけでなく、好ましいベネフィットリスクプロファイルの存在下で、体重の減少及び維持を達成するための重要な因子であるという仮説が立てられる。
【0015】
しかしながら、上記の化合物について、インビボでの半減期は短く、よって投与は、例えば1日1回など、頻繁に繰り返されなければならない。これらの投与は通常、皮下に行なわれるので、患者にとって不便であることに起因する欠点がある。このような頻回投与は、患者に疼痛及び不快を引き起こす。
【0016】
NAFLDの範囲に属する容態のどのような薬理学的処置も、医学的権威によってこれまで承認されていない。したがって、NAFLD(NASHを含む)の進行、又は進行した線維症及び/若しくは肝硬変の方向への進行の時系列を緩徐化、停止、若しくは逆転させることのできる、新規で安全で有効な化合物を同定する高い必要性がある。
【0017】
さらに、より少ない頻度で(例えば週1回)投与される必要のある(長時間作用型)医薬品の投与を含む、NAFLD(NASHを含む)の処置の必要性がある。同時に、処置は、例えばNAFLD活動性スコア又は他の関連するバイオマーカー(例えば、肝脂肪含量の減少、又は肝酵素の変化)によって決定されるように、依然として効果的であるべきである。
【0018】
本明細書に開示されているような処置に使用するための化合物は、より低い頻度で投与される可能性を有し、かつ依然として効果的である。
【0019】
発明の要約
本明細書において、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、特に非アルコール性脂肪肝(NAFL)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、NAFLDに関連した肝線維症及び/又は肝硬変のような代謝性肝疾患の予防及び/又は処置における、特定の長時間作用型GLP-1受容体/グルカゴン受容体のデュアルアゴニストの医学的使用が提供される。
【0020】
国際公開公報第2015/055801号は、GLP-1及びグルカゴンの受容体の両方を活性化する可能性のあるグルカゴンに由来する、ペプチド性化合物(天然のグルカゴンとは異なる)を開示する。
【0021】
今回、デュアルアゴニスト活性を有する式Iのグルカゴン類似体が、NAFLD、特にNASHのような特定の肝疾患の処置に効果的に使用され得ることが判明した。式Iの全ての化合物は、29アミノ酸長、アミド化C末端を有し、全体で22アミノ酸の同一性を共有し、構造的に密接に関連している。
【0022】
したがって、本発明は、代謝性肝疾患、特にNAFLD、NASH、及び/又は肝硬変を予防及び/又は処置する方法に使用するための、一般式I
R-H-X2-QGTFTSDYSKYL-X15-X16-X17-X18-AKDFI-X24-WLE-X28-A-NH2(I)
(式中、
Rは、H、C1~4アルキル、及びアセチルから選択され、
X2は、Aib及びAc4cから選択され;
X15は、アスパラギン酸及びグルタミン酸から選択され;
X16は、グルタミン酸及びΨから選択され;
X17は、アルギニン及びΨから選択され;
X18は、アラニン及びアルギニンから選択され;
X24は、グルタミン酸及びΨから選択され;
X28は、セリン及びΨから選択される)
を有する化合物(塩を含む)に関し、
ここでの該化合物は、唯一のΨを含有し、ここでの該Ψは、リジンの残基であり、この中の側鎖のアミノ基は、HOOC-(CH2)16-(CO)-isoGlu-Peg3-Peg3-、及びHOOC-(CH2)16-(CO)-isoGlu-GSGSGG-からなる群より選択された置換基にコンジュゲートしている。
【0023】
より具体的な実施態様では、本発明は、NAFLD、NASH、及び/又は肝硬変の予防及び/又は処置の方法に使用するための、
H -H-Aib-QGTFTSDYSKYLD-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-Peg3-Peg3)-RAAKDFIEWLESA- NH2(化合物1、配列番号3)、
H -H-Aib-QGTFTSDYSKYLDERAAKDFI-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-GSGSGG)-WLESA- NH2(化合物2、配列番号4)、
H -H-Ac4c-QGTFTSDYSKYLDE-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-Peg3-Peg3)-RAKDFIEWLESA- NH2(化合物3、配列番号5)、
H -H-Aib-QGTFTSDYSKYLE-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-GSGSGG)-RAAKDFIEWLESA- NH2(化合物4、配列番号6)、
H -H-Ac4c-QGTFTSDYSKYLDERAAKDFI-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-GSGSGG)-WLESA- NH2(化合物5、配列番号7)、
H -H-Ac4c-QGTFTSDYSKYLDERAAKDFIEWLE-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-GSGSGG)-A- NH2(化合物6、配列番号8)
から選択された化合物に関する。
【0024】
本発明のさらなる態様及び実施態様は、以下の開示から明らかとなろう。
【0025】
発明の詳細な説明
上記のように、本発明は、代謝性肝疾患、特にNAFLD、NASH、及び/又は肝硬変を予防又は処置する方法に使用するための、一般式I:
R-H-X2-QGTFTSDYSKYL-X15-X16-X17-X18-AKDFI-X24-WLE-X28-A-NH2(I)
(式中、
Rは、H、C1~4アルキル、及びアセチルから選択され、
X2は、Aib及びAc4cから選択され;
X15は、アスパラギン酸及びグルタミン酸から選択され;
X16は、グルタミン酸及びΨから選択され;
X17は、アルギニン及びΨから選択され;
X18は、アラニン及びアルギニンから選択され;
X24は、グルタミン酸及びΨから選択され;
X28は、セリン及びΨから選択される)
を有する化合物に関し、
ここでの該化合物は、唯一のΨを含有し、ここでの該Ψは、リジンの残基であり、この中の側鎖のアミノ基は、HOOC-(CH2)16-(CO)-isoGlu-Peg3-Peg3-、及びHOOC-(CH2)16-(CO)-isoGlu-GSGSGG-からなる群より選択された置換基にコンジュゲートしている。
【0026】
本明細書において特に定義しない限り、本明細書において使用される科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するだろう。
【0027】
本明細書全体を通して、「含む(comprise)」という単語又は「含む(comprises)」又は「含んでいる(comprising)」などの変化形は、記載の1つの整数若しくは成分、又は記載の一群の整数若しくは成分の包含を意図するが、任意の他の整数若しくは成分、又は一群の整数若しくは成分の除外を意図しないことが理解されるだろう。
【0028】
「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」の単数形は、内容によりそうではないと明記されない限り、複数形も含む。
【0029】
「含む(含んでいる)」という用語は、「を含むがこれらに限定されない」を意味するために使用される。「含む(含んでいる)」及び「を含む(含んでいる)が以下に限定されない」は、同義語として使用される。
【0030】
「患者」、「被験者」及び「個体」という用語は、同義語として使用され得、ヒト動物を指す。
【0031】
式Iの上記の定義は、中性の状態又は荷電した状態で存在する対応する化合物も含む。荷電した状態の化合物は、例えば、塩の形態で、例えば薬学的に許容される塩で、又は溶液で、具体的には水溶液で存在する。
【0032】
本明細書において使用する「薬学的に許容される塩」という用語は、問題の塩が投与される患者又は被験者に対して有害ではない塩を示すことを意図する。それは、適切には、例えば、酸付加塩及び塩基性塩の中から選択された塩であり得る。酸付加塩の例としては、塩化物塩、クエン酸塩、及び酢酸塩が挙げられる。塩基性塩の例としては、陽イオンが、アルカリ金属陽イオン、例えばナトリウムイオン又はカリウムイオン、アルカリ土類金属陽イオン、例えばカルシウムイオン又はマグネシウムイオン、並びに置換されたアンモニウムイオン、例えばN(R1)(R2)(R3)(R4)+のタイプのイオン(ここでのR1、R2、R3及びR4は独立して典型的には、水素、場合により置換されたC1~6アルキル、又は場合により置換されたC2~6アルケニルを示すだろう)の中から選択される、塩が挙げられる。妥当なC1~6アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、1-プロピル基、及び2-プロピル基が挙げられる。妥当である可能性のあるC2~6アルケニル基の例としては、エテニル基、1-プロペニル基、及び2-プロペニル基が挙げられる。薬学的に許容される塩の他の例は、「レミントンの薬学の科学」、第17版、Alfonso R. Gennaro(編)、Mark Publishing Company、イーストン、ペンシルバニア州、米国、1985(及びそのより最近の版)に、「薬理学テクノロジー百科事典」、第3版、James Swarbrick(編)、Informa Healthcare USA(社)、ニューヨーク、米国、2007に、及びJ. Pharm. Sci. 66: 2(1977)に記載されている。
【0033】
本発明の文脈において使用される「アゴニスト」という用語は、典型的には問題の種類の受容体に結合することによって(すなわちリガンドとして)、該受容体を活性化する物質を指す。
【0034】
本明細書全体を通して、天然アミノ酸についての通例の一文字及び三文字のコドン、並びに、他のアミノ酸についての一般的に許容されている略称、例えばAib(α-アミノイソ酪酸)、及びAc4c(1-アミノ-シクロブタンカルボン酸)が使用される。「isoGlu」という用語は、γ-グルタミン酸単位を指す。
【0035】
特記されない限り、問題のアミノ酸のL-異性体形も言及する。
【0036】
追加の略称は、以下を含む:
NAFL:非アルコール性脂肪肝
NAFLD:非アルコール性脂肪性肝疾患
NAS:NAFLD活動性スコア
NASH:非アルコール性脂肪性肝炎
MRI-PDEF:核磁気共鳴画像法プロトン密度脂肪分画。
【0037】
本発明による処置又は他の治療介入の本明細書に記載された方法の脈絡において、本明細書において使用する「治療有効量」という用語は、例えば、確立された臨床評価項目又は他のバイオマーカー(確立された又は実験的な)、例えば肝生検によって測定されるような、問題の処置又は他の治療介入の目的である、特定の疾患、障害、又は容態の臨床徴候を治癒、寛解、軽減、又は部分的に停止するのに十分である量を指す。治療に妥当な量は、処置又は予防される適応症、及び、治療に妥当な量が投与される被験者に基づいて、当業者によって経験的に決定され得る。例えば、当業者は、本明細書に記載の生理活性についての臨床的に妥当な指標の1つ以上、例えば、MRI-PDEFを介した肝脂肪含量、体重、又はNAS(NAFLD活動性スコア)を測定し得る。当業者は、インビトロ又はインビボでの測定を通して、臨床的に妥当な量を決定し得る。他の例示的な尺度としては、線維症マーカー(血清又は血漿)、体重減少、NASH又は線維症の組織学的スコアの変化、肝脂肪含量の減少、及び肝酵素の変化が挙げられる。
【0038】
これらの効果のいずれか又は全てを達成するのに適切な量が、治療有効量として定義される。投与量及び投与法は、最適な有効性を達成するためにテーラーメイドされてもよい。所与の目的のために有効な量は、とりわけ、特定の処置又は他の治療介入の目的である疾患、障害、又は容態の重症度、問題の被験者の体重及び全身状態、食事、あり得る併用薬、並びに医学分野の技術者に周知である他の因子に依存するだろう。ヒトへの本発明に記載のペプチド又はその薬学的に許容される塩の投与に最も適した適切な用量サイズ、及び投薬処方計画の決定は、本発明によって得られた結果によって先導され得、そして適切に設計された臨床試験において確認され得る。有効な用量及び処置プロトコールは、実験用動物において低用量で開始し、次いで効果をモニタリングしながら用量を増加させ、そして同様に用量処方計画を体系的に変化させて、慣用的な手段によって決定され得る。所与の被験者についての最適な用量を決定する場合、数多くの因子が臨床医によって考慮され得る。このような考察は、当業者には周知である。
【0039】
本脈絡において使用される「処置」という用語及びその文法学的変化形(例えば「処置された」、「処置している」、「処置する」)は、有益な又は所望の臨床結果を得るためのアプローチを指す。本発明の目的のための、有益な又は所望の臨床結果としては、検出可能であれ検出不可能であれ、症状の軽減、疾患の範囲の減少、疾患の状態の安定化(すなわち悪化していない)、疾患の進行の遅延又は緩徐化、疾患状態の寛解又は緩和、及び緩解(部分的であれ又は全体的であれ)が挙げられるがこれらに限定されない。「処置」はまた、処置を受けなかった場合に予想される生存期間と比較した、生存期間の延長も意味する。したがって、処置の必要な被験者(例えばヒト)は、問題の疾患又は障害にすでに罹患している被験者であってもよい。「処置」という用語は、処置をしない場合と比較した、病的状態又は症状の重症度の増加(例えば、肝硬変への進行、線維症の進行、又はNASHの悪化、例えばNASの増加)の抑制又は低減を含み、関連する疾患、障害、又は容態の完全な停止を必ずしも意味しない。
【0040】
本脈絡において使用される「予防」という用語及びその文法学的変化形(例えば「予防された」、「予防している」、「予防する」)は、容態、疾患、若しくは障害の発症を邪魔するか若しくは予防するための、又はその病態を変化させるためのアプローチを指す。したがって、「予防」は、予防的措置又は防止的措置を指し得る。本発明の目的のための、有益な又は所望の臨床結果としては、検出可能であれ検出不可能であれ、疾患の症状、進行、又は発症の予防若しくは緩徐化が挙げられるがこれらに限定されない。したがって、「予防」の必要な被験者(例えばヒト)は、問題の疾患又は障害にまだ罹患していない被験者であってもよい。したがって、「予防」という用語は、処置をしない場合と比べて、疾患の発症を阻害又は緩徐化することを含み、関連する疾患、障害、又は容態の永久的な予防を必ずしも意味しない。より具体的な態様では、予防は、肝疾患の進行(例えば、肝硬変への進行、線維症の進行、又はNASHの悪化、例えばNASの増加)の予防を指す。
【0041】
本発明の化合物の脈絡においてR基として存在し得るC1~4アルキル基としては、C1~3アルキル基、例えばメチル、エチル、1-プロピル、又は2-プロピルが挙げられるがこれらに限定されない。
【0042】
Peg3は、エチレングリコール単位を含む、以下の構造単位を指す:
-NH(CH2)2O(CH2)2OCH2C(O)NH(CH2)2O(CH2)2OCH2C(O)-。
【0043】
本出願に言及されている全ての刊行物、特許、及び公開特許出願は、本明細書に参照により組み入れられ、具体的には国際公開公報第2015/055801号の内容が、参照により組み入れられる。矛盾する場合には、その具体的な定義を含む、本明細書が左右するだろう。
【0044】
本明細書に記載の本発明の各々の実施態様は、単独で、又は本発明の1つ以上の他の実施態様と組み合わせて採用され得る。
【0045】
式Iに記載の全ての化合物は、29個の位置の中の少なくとも22個の配列同一率を共有する。該化合物は唯一のΨを含有しているという制約のために、可能な変化はさらに制限されるので、有効には、変化可能な位置はたった4個しか存在せず、これにより、少なくとも86%の配列同一率がもたらされる。さらに、それらは同じアミド化C末端を共有し、リジン残基における置換基(16位、17位、24位又は28位におけるΨ)は、2個の明確に異なる代替物、すなわち、HOOC-(CH2)16-(CO)-isoGlu-Peg3-Peg3-及びHOOC-(CH2)16-(CO)-isoGlu-GSGSGG-から選択される。それらの構造は、ここに示される(各々の場合において、…は、Ψのアミノ酸成分(リジン)の側鎖への付着点を示す):
【0046】
HOOC-(CH
2)
16-(CO)-isoGlu-Peg3-Peg3-、又は
[17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-Peg3-Peg3-:
【化1】
【0047】
HOOC-(CH
2)
16-(CO)-isoGlu-GSGSGG-、又は
[17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-GSGSGG:
【化2】
【0048】
化合物1~6は、適切なアッセイで(例えば、国際公開公報第2015/055801号、実施例2、36頁、表1、並びに実施例3及び4、37~40頁、表2及び3に開示されているように)、細胞内cAMP形成を刺激するそれらの能力によって決定されるような、GLP-1及びグルカゴンの受容体アゴニストである。
【0049】
処置における使用
第一の態様では、本発明の化合物は、とりわけ、以下に考察されているような、線維症/肝硬変を伴う及び伴わない非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、並びに肥満及び2型糖尿病を含む代謝性疾患のための処置及び/又は予防の選択肢を提供し得る。
【0050】
代謝症候群は、1人のヒトにおける代謝リスク因子群によって特徴付けられる。それらは、腹部肥満(腹部内臓周囲の過剰な脂肪組織)、アテローム促進性脂質異常症(動脈壁における粥腫の発達を育成する、高トリグリセリド、低HDLコレステロール、及び/又は高LDLコレステロールを含む、血中脂肪異常)、上昇した血圧(高血圧)、インシュリン抵抗性、及び耐糖能障害、血栓形成促進状態(例えば血中における高いフィブリノーゲン又はプラスミノーゲンアクチベーター阻害剤-1)、及び炎症誘発状態(例えば、血中における上昇したC反応性タンパク質)、及び非アルコール性脂肪性肝疾患(線維症/肝硬変を伴う又は伴わないNASHを含む、NAFLD)を含む。
【0051】
いずれかの特定の理論に拘りたくはないが、本発明の化合物は、本明細書においてGLP-1/グルカゴンのデュアルアゴニストと略称される、ヒトグルカゴン受容体及びヒトGLP1受容体の両方に対するデュアルアゴニストとして作用すると考えられる。デュアルアゴニストは、例えば脂肪代謝に対するグルカゴンの作用と、例えば血糖値及び食物摂取量に対するGLP-1の効果とを兼備し得る。それ故、それらは、肝臓における脂肪酸の酸化を含む、過剰な脂肪組織の排除を加速するように作用し得、持続可能な体重減少を誘導し得、そして肝臓における脂肪症及び炎症を改善し得る。それ故、本発明の化合物は、肝脂肪を減少させることによって、例えば脂質酸化を増加させることによって、NAFLDを処置するために使用され得る。GLP-1/グルカゴンのデュアルアゴニストはまた、高コレステロール、高LDLコレステロール、又は低HDL/LDLコレステロール比などの、心血管リスク因子を減少するように作用し得る。
【0052】
それ故、本発明の化合物は、それを必要とする被験者において、NASH及びそれに続く線維症/肝硬変を処置する、体重減少を促進する、肥満、及びに代謝症候群関連炎症及びNASH関連肝細胞癌を含むがこれらに限定されない関連した疾患及び健康上の容態を処置するための、医薬として使用され得る。本発明の化合物はまた、それを必要とする被験者における、インシュリン抵抗性、耐糖能障害、前糖尿病、空腹時高血糖、2型糖尿病、高血圧、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、冠動脈心疾患、末梢性動脈疾患、及び脳卒中を含む、血糖制御障害によって引き起こされたか又はそれに関連した、容態の処置のためにも使用され得る。これらの容態の中のいくつかは、代謝症候群及びNASH/NAFLDを伴い得る。しかしながら、これらの容態に対する本発明の化合物の効果は、全体的に若しくは部分的に、体重に対する効果を介して媒介されていても、又はそれとは独立していてもよい。
【0053】
したがって、本発明は、それを必要とする個体における、上記のような容態の処置における、本発明の化合物の使用を提供する。例えば、記載の化合物は、NASH及び/又は線維症を改善するのに、肝硬変への進行を予防するのに、肝硬変を逆行させるのに、及び体重減少を促進するのに使用され得る。
【0054】
具体的な実施態様では、本発明は、それを必要とする個体における、非アルコール性脂肪性肝疾患、代謝性及びアルコール性脂肪性肝疾患、及び/又は代謝症候群という疾患クラスターの容態の処置法における、例えば、非アルコール性脂肪肝(NAFL)、線維症を伴わないNASH、線維症を伴うNASH、NASH関連肝硬変、NASH関連炎症、過体重及び肥満、前糖尿病、糖尿病、特に2型糖尿病、高血圧、アテローム促進性脂質異常症、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、冠動脈心疾患、末梢動脈疾患、脳卒中、又は微小血管疾患の処置及び/又は予防の方法における、化合物の使用を含む。
【0055】
別の態様では、本発明は、代謝性肝疾患を予防又は処置する方法に使用するための、一般式I(上記に定義されているような)を有する化合物に関する。
【0056】
関連した態様では、本発明は、代謝性肝疾患を予防又は処置する方法に使用するための、一般式I(上記に定義されているような)を有する化合物を含む医薬組成物に関する。
【0057】
別の態様では、本発明は、一般式I(上記に定義されているような)を有する化合物の治療有効量を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、該患者における代謝性肝疾患を予防又は処置する方法に関する。
【0058】
関連した態様では、本発明は、一般式I(上記に定義されているような)を有する化合物又はその塩の治療有効量を含む医薬組成物を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、該患者における代謝性肝疾患を予防又は処置する方法に関する。
【0059】
本明細書において使用する「代謝性肝疾患」という用語は、アルコール誘発性肝疾患(アルコール性肝疾患、ALDとも称される)、非アルコール性肝疾患、並びに、その組み合わせを指す。代謝性肝疾患は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、より特定すると非アルコール性脂肪肝(NAFL)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、NAFLD関連肝線維症、及びNAFLD関連肝硬変を含む、肝臓への脂肪の沈着、例えば肝臓への過剰な脂肪の沈着によって特徴づけられる、一連の容態を含む。
【0060】
ALDの範囲は、アルコール性脂肪肝(脂肪症)から、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)を介して、肝線維症及び肝硬変までに至る。脂肪症は、アルコール性肝疾患及び最もよく見られるアルコール誘発性肝障害の最初期段階である。脂肪症は、過剰なアルコール摂取が間に合うように止められれば、可逆性である。ASHは、脂肪肝、主に多核白血球からなる炎症性浸潤物、及び肝細胞傷害の存在によって定義される。
【0061】
非アルコール性肝疾患は、過剰なアルコール摂取がない場合の、代謝調節異常に関する。本発明の脈絡において特に関心の高い非アルコール性肝疾患は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)である。NAFLDは、続発性の肝脂肪蓄積についての他の原因(例えば大量のアルコール消費)がない場合の、肝脂肪症の存在である。NAFLD患者は、炎症、肝細胞傷害、又は線維症/肝硬変を伴う又は伴わない、肝脂肪症を有する。
【0062】
NAFLDは、本発明の脈絡において、非アルコール性脂肪肝(NAFL)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、NAFLD関連肝線維症、及びNAFLD関連肝硬変に細分類される。したがって、本発明によるNAFLDを有する患者は、NAFL又はNASH及び/又はNAFLD関連肝線維症/肝硬変と診断されている。特に、線維症は典型的には、NASHを有する個体において、軽度(組織学的線維症ステージF1、Kleiner et al.)から肝硬変(組織学的線維症ステージF4)までの様々な程度で存在し得る。NAFLでは、肝脂肪症は、肝細胞の風船様腫大及び進行した炎症のエビデンスを伴わなずに存在し、一方、NASHでは、肝脂肪症は、アルコール性脂肪性肝炎とは組織学的に識別不可能であり得る、肝炎症を伴う。Ratziu et al(Gastroenterology 2016, vol. 150, pp. 1 147-1 159)及びKleiner and Bedossa(Gastroenterology 2015, vol. 149, pp. 1305-1308)によると、NASHは、脂肪症に加えて、ある程度の炎症を伴う肝細胞の風船様腫大の存在によって、NAFLとは区別される。NASHを説明するために使用される他の用語としては、偽アルコール性肝炎、アルコール様肝炎、脂肪肝肝炎、脂肪壊死、及び糖尿病性肝炎が挙げられる。
【0063】
肝線維症は、殆どの種類の慢性肝疾患に特徴的である、細胞外マトリックスタンパク質の蓄積と併せて、肝臓への慢性的な傷害から生じる。工業国における肝線維症の主な原因としては、慢性HCV(C型肝炎ウイルス)感染、アルコール乱用、及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が挙げられる。細胞外マトリックスタンパク質の蓄積は、線維性瘢痕を形成することによって肝構造を歪め、それに続く再生中の肝細胞の結節の発達が肝硬変を定義する(Bataller and Brenner, J Clin Invest. 2005, vol. 1 15, pp. 209-218)。
【0064】
非アルコール性脂肪性肝炎は、アルコール性肝炎に見られるものと同一である肝生検所見によって特徴づけられる臨床主体であり;しかしながら、NASH患者は、肝損傷を引き起こすことが知られる量のアルコールを消費していない。NASH患者は典型的には、無症候性肝腫大を伴う、中年又は高齢者であり、糖尿病又は高脂質血症であり、過体重又は肥満を呈し、関連性のない医学上の問題を呈する。肝生検標本の分析は、診断の基礎であり;肝臓の形態学的所見は、軽度の脂肪変性及び炎症から、細胞変性、線維症、及びマロリー硝子体を伴う又は伴わない肝硬変まである。
【0065】
NASH患者は、長期間、特別な症状を全く有さないが、肝硬変又は肝細胞癌(HCC)に進行し得る。したがって、NAFLD関連肝硬変及びNAFLD関連肝細胞癌はまた、本明細書において、NASHの後遺症とも称される。NASHから肝硬変への進行のリスクは、進行した線維症を有する患者においては特に高い。NAFLD関連肝硬変は、NAFLD関連HCCへの疾患のさらなる発達における、重要なリスク因子である。しかしながら、NAFLD関連HCCはまた、肝硬変を伴わないNASH患者においても発症し得る。
【0066】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は世界中で見られ、西洋の工業国においては最もよく見られる代謝性肝障害であり、西洋の工業国ではNAFLD、中心性肥満、2型糖尿病、脂質異常症、及び代謝症候群の主要なリスク因子は、よく見られる。米国では、研究は、10~46%のNAFLDの罹患率を報告し、大半の生検に基づいた研究が、3~5%のNASHの罹患率を報告している。世界中で、NAFLDは、6~35%(中央値20%)の罹患率を報告している(Williams CD et al., Gastroenterology. 201 1 :140(1):124-31; Vernon G et al., Alimwent Pharmacol Ther. 201 1 :34(3):274-85; Lazo M et al., Am J Epidemiol. 2013;178(1):38-45)。
【0067】
NAFLDを有する大半の患者は無症候性であるが、NASHを有する患者の中には、疲労、倦怠感、及び漠然とした右上腹部不快などの、肝臓に特異的ではない症状を愁訴する場合がある。臨床試験で、上昇した肝アミノトランスフェラーゼが判明したか、又は肝線維症が腹部画像法で偶発的に検出されたために、患者は、注意を向けられる可能性がより高くなる。一旦、脂肪性肝炎が発症したら、肝硬変のリスクは、単純脂肪肝と比較して増加する。Bertot and Adams(Int J Mol Sci. 2016;17(5):774-85)の刊行物によると、NAFLDからNASHへの、NAFLDから線維症を伴うNASHへの、NASHからNAFLD関連肝硬変への、線維症を伴うNASHから肝細胞癌への患者の進行率が分析される。NASH患者では肝硬変へと進行するリスクが明らかに増加し、NAFLD患者の約25%が、3年間の期間内にNASHへと進行し得る。一旦、NASHが確立されたら、追加のリスク因子に応じて、患者の最大38%が、NAFLD関連肝硬変を時の経過と共に発症する。
【0068】
上記のように、本発明の1つの態様は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の処置法における、式Iの化合物又はこのような化合物を含む医薬組成物の使用に関する。より正確には、処置される予定の疾患状態は、非アルコール性脂肪肝(NAFL)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、NAFLD関連肝線維症、又はNAFLD関連肝硬変である。
【0069】
より具体的な態様では、式Iの化合物又はこのような化合物を含む医薬組成物は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の予防又は処置の方法に使用するためのものである。NASHは、肝硬変を含む、様々なステージの肝線維症を伴っていても又は伴っていなくてもよい。
【0070】
2005年には、NASH臨床研究ネットワーク(CRN)の病理委員会は、臨床試験に使用するためのいわゆる「NAFLD活動性スコア(NAS)」を開発した(Kleiner et al., Hepatology 2005, vol. 41, pp. 1313-1321)。他のスコアリング体系も、NAFLD及びその構成要素の重症度を診断するために使用されてもよい。
【0071】
NASは具体的には、短期間で可逆的である可能性がある、活発な損傷の特色を含む。NASは、(i)脂肪症、(ii)肝小葉炎症、及び(iii)肝細胞の風船様腫大についてのサブスコアの単純合計として定義される。各サブスコアは、以下の表1に記載のように半定量的に等級付けされる。
【0072】
【0073】
通常、NAFLDは、5%を超える肝細胞における脂肪症の存在によって定義され、NASHは、加えて、任意の度合いの肝細胞の風船様腫大及び任意の量の肝小葉炎症性浸潤物の存在によって定義される(Bedossa et al., Hepatology 2015, vol. 56, pp. 1751-1759)。
【0074】
本発明によるNAFLD及びNASHの診断は、以下の表2に記載されている:
【0075】
【0076】
したがって、本発明の脈絡において、患者は、脂肪症のサブスコア(時には、本明細書において「脂肪症サブスコア」又は単に「脂肪症スコア」とも称される)が少なくとも1を超える場合に、NAFLDに罹患していると診断される。NASHは、ある程度の炎症(時には、本明細書において「炎症サブスコア」又は単に「炎症スコア」とも称される)を伴う又は伴わない、肝細胞の風船様腫大(時には本明細書において「風船様腫大サブスコア」又は単に「風船様腫大スコア」とも称される)の存在によって、NAFL又は単なる脂肪症とは区別され得る。本脈絡において、NASHの回復は、肝小葉炎症の消失又はほんの軽度の肝小葉の炎症の持続(サブスコア=0又は1)のいずれかを伴う、風船様腫大の消失(サブスコア=0)として定義されている(Kleiner and Bedossa, Gastroenterology 2015, vol 149, pp. 1305-1308)。この定義は、表2に記載の診断アルゴリズムのために使用された。
【0077】
本発明の化合物の有効性を評価するために、NASだけでなく、線維症スコアも決定される。線維症スコアは、例えば、以下の表3に要約される、Kleiner et al.(Hepatology 2005, vol. 41, pp. 1313- 1321;本明細書では「クライナー線維症スコア」とも称される)に従って決定され得る。
【0078】
【0079】
NASは、NAFL及びNASHの程度を決めるが(より高いスコアは、より高い疾患活動度を意味する)、一方、クライナー線維症スコアは、線維症の進行の程度を決定する。線維症がさらに進行しない場合、NASの減少のみが関連する。それ故、NASの悪化(すなわち増加)が全くないか又は改善(より低いスコア)、特に肝細胞の風船様腫大の消失(風船様腫大スコア=0)が、クライナー線維症スコアの悪化(すなわち増加)を伴わずに存在する場合、処置に対するプラスの応答が存在する。
【0080】
医薬組成物
本発明はまた、代謝性肝疾患の予防又は処置の方法に使用するための、特にNAFLD及び/又はNASHの処置のための、式Iの化合物を含む医薬組成物などの組成物にも拡大される。本発明の全ての態様と同様に、式Iの化合物への言及が、薬学的に許容される塩の形態の化合物への言及も包含することを理解するべきである。
【0081】
式Iの化合物は、投与に適し、かつ典型的には薬学的に許容される担体、賦形剤又はビヒクルと一緒に本発明の少なくとも1つの化合物の治療有効量を含む、医薬組成物として製剤化され得る。
【0082】
「薬学的に許容される担体」という用語は、任意の標準的な薬学的な担体を含む。処置に使用するための薬学的に許容される担体は、製薬分野において周知であり、例えば、「レミントンの薬学の科学」、第17版、Alfonso R. Gennaro(編)、Mark Publishing Company、イーストン、ペンシルバニア州、米国、1985に記載されている。例えば、僅かに酸性又は生理学的pHの無菌食塩水及びリン酸緩衝化食塩水が使用され得る。適切なpH緩衝化物質は、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、重炭酸アンモニウム、ジエタノールアミン、ヒスチジン、アルギニン、リジン、又は酢酸塩(例えば酢酸ナトリウム)、又はその混合物であり得る。該用語はさらに、ヒトへの使用のための米国薬局方に列挙された任意の担体物質も包含する。
【0083】
本発明の医薬組成物は、単位投与剤形であり得る。このような剤形では、該組成物は、適切な量の有効成分又は成分群を含有している単位用量に分割される。単位投与剤形は、包装された製剤として提示されてもよく、該包装は、明確に異なる量の製剤、例えば、包装された錠剤、カプセル剤、散剤を、バイアル又はアンプル内に含有している。単位投与剤形はまた、例えば、それ自体がカプセル剤、カシェ剤、又は錠剤であり得るか、あるいは、それは、これらの中のいずれかの適切な数の包装された剤形であり得る。単位投与剤形はまた、適用のための器具中に注射可能な剤形で、例えば、液相(典型的には水相)組成物を含有しているペン型器具又は自動注射器の形態で提供され得る。
【0084】
皮下投与は、一般的に治療用ペプチドの最もよく見られる適用経路であり、式Iの化合物にも適しているように思われる。この場合では、1回使用(単一用量単位のための化合物の量を提供する)又は複数回使用(1つを超える用量単位のための化合物の量を提供する)の器具を使用することができる。適切な器具は、化合物の液体(例えば水性)製剤と共にカートリッジを含有している、自動注射器型(例えば1回使用のための)又はペン型(例えば複数回使用のための)を含む。
【0085】
用量
式Iに記載の化合物の典型的な用量は、約0.0005~約5mg/kg(体重)/週の範囲内、例えば、約0.001~約0.5mg/kg(体重)/週であり得る。使用される正確な用量は、とりわけ、処置される予定の疾患又は障害の性質及び重症度、処置される予定の被験者の性別、年齢、体重及び全身状態、処置を受けているか又は受ける予定である存在し得る他の併存する疾患又は障害、並びに、当技術分野における熟練した医療従事者には公知であろう他の因子に依存し得る。
【0086】
併用療法
式Iに記載の化合物は、肝疾患、例えばNAFLD、特にNAFL、NASH、又はNAFLD関連肝線維症の処置用の別の有効物質と一緒に、併用療法の一部として投与され得る。このような場合、2つの有効物質が、一緒に若しくは別々に、例えば、同じ医薬組成物若しくは医薬製剤中の構成成分として、又は別々の製剤として投与され得る。
【0087】
したがって、本発明のペプチドは、アミンオキシダーゼ銅含有3(AOC3)阻害剤、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)活性化剤、線維芽細胞成長因子(FGF)21アゴニスト、増殖分化因子(GDF)15アゴニスト、HSD17B13(17βヒドロキシステロイド脱水素酵素13)阻害剤、ケトヘキソキナーゼ(KHK)阻害剤、レチノイン酸受容体関連オーファン受容体c(RORc)阻害剤、サイクリックGMP-AMPシンターゼ(cGAS)阻害剤、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)阻害剤、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)阻害剤、ファルネソイドX受容体(FXR)アゴニスト、甲状腺ホルモン受容体(THR)βアゴニスト、FGF19アゴニスト、Nod様受容体タンパク質(NLRP)3阻害剤、クロトーβ(KLB)/FGFR1c阻害剤、パタチン様ホスホリパーゼをコードしているタンパク質(PNPLA)3阻害剤、αVβインテグリン阻害剤、ロイコトリエン阻害剤、及びナトリウム/グルコース共輸送体(SGLT)2阻害剤からなる群より選択された化合物を含むがこれらに限定されない、別の薬学的に活性な化合物と組み合わせて使用されてもよい。
【0088】
いくつかの実施態様では、本発明は、被験者に該化合物を送達するための、式Iに記載の化合物又は上記に定義されているような合剤、又は本発明の医薬組成物を含む、器具に関する。
【0089】
特定の実施態様
本発明のさらなる実施態様が、以下に記載されている:
【0090】
1.代謝性肝疾患を予防又は処置する方法に使用するための、一般式I
R-H-X2-QGTFTSDYSKYL-X15-X16-X17-X18-AKDFI-X24-WLE-X28-A-NH2(I)
(式中、
Rは、H、C1~4アルキル、及びアセチルから選択され、
X2は、Aib及びAc4cから選択され;
X15は、アスパラギン酸及びグルタミン酸から選択され;
X16は、グルタミン酸及びΨから選択され;
X17は、アルギニン及びΨから選択され;
X18は、アラニン及びアルギニンから選択され;
X24は、グルタミン酸及びΨから選択され;
X28は、セリン及びΨから選択される)
を有する化合物であって、
ここでの該化合物は、唯一のΨを含有し、ここでの該Ψは、リジンの残基であり、この中の側鎖のアミノ基は、
HOOC-(CH2)16-(CO)-isoGlu-Peg3-Peg3-、及び
HOOC-(CH2)16-(CO)-isoGlu-GSGSGG-
からなる群より選択された置換基にコンジュゲートしている、化合物。
【0091】
2.X2がAibである、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1に記載の化合物。
【0092】
3.X2がAc4cである、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1に記載の化合物。
【0093】
4.X15がアスパラギン酸である、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1~3のいずれか1つに記載の化合物。
【0094】
5.X16がグルタミン酸である、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1~4のいずれか1つに記載の化合物。
【0095】
6.X16がΨである、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1~4のいずれか1つに記載の化合物。
【0096】
7.X17がアルギニンである、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1~6のいずれか1つに記載の化合物。
【0097】
8.X17がΨである、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1~6のいずれか1つに記載の化合物。
【0098】
9.X18がアラニンである、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1~8のいずれか1つに記載の化合物。
【0099】
10.X18がアルギニンである、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1~8のいずれか1つに記載の化合物。
【0100】
11.X24がグルタミン酸である、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1~10のいずれか1つに記載の化合物。
【0101】
12.X24がΨである、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1~10のいずれか1つに記載の化合物。
【0102】
13.X28がセリンである、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1~12のいずれか1つに記載の化合物。
【0103】
14.X28がΨである、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1~12のいずれか1つに記載の化合物。
【0104】
15.Ψが、Lys(-Peg3-Peg3-isoGlu-(CO)-(CH2)16-COOH)である、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1~14のいずれか1つに記載の化合物。
【0105】
16.Ψが、リジン(-GSGSGG-isoGlu-(CO)-(CH2)16-COOH)である、実施態様1に記載の使用のための、実施態様1~14のいずれか1つに記載の化合物。
【0106】
17.前記化合物が、H -H-Aib-QGTFTSDYSKYLD―K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-Peg3-Peg3)-RAAKDFIEWLESA- NH2(化合物1)である、実施態様1。
【0107】
18.前記化合物が、H -H-Aib-QGTFTSDYSKYLDERAAKDFI-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-GSGSGG)-WLESA- NH2(化合物2)である、実施態様1。
【0108】
19.前記化合物が、H -H-Ac4c-QGTFTSDYSKYLDE―K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-Peg3-Peg3)-RAKDFIEWLESA- NH2(化合物3)である、実施態様1。
【0109】
20.前記化合物が、H -H-Aib-QGTFTSDYSKYLE-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-GSGSGG)-RAAKDFIEWLESA- NH2(化合物4)である、実施態様1。
【0110】
21.前記化合物がH -H-Ac4c-QGTFTSDYSKYLDERAAKDFI-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-GSGSGG)-WLESA- NH2(化合物5)である、実施態様1。
【0111】
22.前記化合物がH -H-Ac4c-QGTFTSDYSKYLDERAAKDFIEWLE-K([17-カルボキシ-ヘプタデカノイル]-isoGlu-GSGSGG)-A- NH2(化合物6)である、実施態様1。
【0112】
23.前記化合物が、塩の形態、より具体的には薬学的に許容される塩の形態である、実施態様1~22のいずれか1つに記載の化合物。
【0113】
24.非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)(非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、非アルコール性脂肪肝(NAFL)又はNAFLD関連肝線維症及び/又は肝硬変を含む)の予防又は処置の方法に使用するための、実施態様1~23のいずれか1つに記載の化合物。
【0114】
25.代謝性肝疾患がNAFLである、実施態様24。
【0115】
26.代謝性肝疾患が、NASH、場合により肝線維症(例えば進行した肝線維症)を伴うNASHである、実施態様24。
【0116】
27.代謝性肝疾患が、NAFLD関連肝線維症、例えば進行した肝線維症(中等度(F2)から重度(F3)の線維症ステージ)である、実施態様24。
【0117】
28.少なくとも2のNASスコアを有する患者における使用のための、実施態様24。
【0118】
29.少なくとも2のNASスコアを有する患者における使用のための、実施態様25。
【0119】
30.少なくとも2のNASスコアを有する患者における使用のための、実施態様26。
【0120】
31.少なくとも3のNASスコアを有する患者における使用のための、実施態様24。
【0121】
32.少なくとも3のNASスコアを有する患者における使用のための、実施態様25
。
【0122】
33.少なくとも3のNASスコアを有する患者における使用のための、実施態様26。
【0123】
34.少なくとも4のNASスコアを有する患者における使用のための、実施態様24。
【0124】
35.少なくとも4のNASスコアを有する患者における使用のための、実施態様25。
【0125】
36.少なくとも4のNASスコアを有する患者における使用のための、実施態様26。
【0126】
37.少なくとも1ポイントのNASスコアが、風船様腫大のサブスコアから生じる、28~36のいずれか1つに記載の実施態様。
【0127】
38.少なくとも1ポイントのNASスコアが、各々、風船様腫大及び炎症のサブスコアから生じる、28、30、31、33、34及び36のいずれか1つに記載の実施態様。
【0128】
39.NASスコアが、生検により確定診断されている、28~38のいずれか1つに記載の実施態様。
【0129】
40.NAFL、NASH、又はNAFLD関連肝線維症の進行を予防する方法に使用するための、実施態様1~23のいずれか1つに記載の化合物。
【0130】
41.前記方法が、NASサブスコアの1つ(脂肪症、炎症、又は風船様腫大)の悪化を予防する工程を含む、実施態様24~40のいずれか1つ。
【0131】
42.前記方法が、NASスコアの悪化を予防する工程を含む、実施態様24~41のいずれか1つ。
【0132】
43.前記方法が、脂肪症のサブスコアを改善する工程を含む、実施態様24~42のいずれか1つ。
【0133】
44.前記方法が、風船様腫大のサブスコアを改善する工程を含む、実施態様24~43のいずれか1つ。
【0134】
45.過体重又は肥満である患者に使用するための、実施態様24~44のいずれか1つ。
【0135】
46.肥満である患者に使用するための、実施態様24~44のいずれか1つ。
【0136】
47.27kg/m2以上のBMIを有する患者に使用するための、実施態様24~44のいずれか1つ。
【0137】
48.患者が、追加の肥満に関連した併存疾患を有する、実施態様47。
【0138】
49.併存疾患が、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸、及び心血管疾患からなる群より選択される、実施態様48。
【0139】
50.30kg/m2以上のBMIを有する患者に使用するための、実施態様24~44のいずれか1つ。
【0140】
51.代謝性肝疾患を予防又は処置する方法に使用するための、実施態様1~23のいずれか1つに記載の化合物と薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【0141】
52.NAFLD(NASH、NAFL、及びNAFLD関連肝線維症及び/又は肝硬変を含む)を処置する方法に使用するための、実施態様1~23のいずれか1つに記載の化合物と薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【0142】
53.NAFL、NASH、又はNAFLD関連肝線維症を処置する方法に使用するための、実施態様1~23のいずれか1つに記載の化合物と薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【0143】
54.NASHを処置するための方法に使用するための、実施態様1~23のいずれか1つに記載の化合物と薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【0144】
55.実施態様28~39のいずれか1つに記載の使用のための、実施態様1~23のいずれか1つに記載の化合物と薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【0145】
56.少なくとも4のNASスコアを有する患者における、NASH、場合により肝線維症(例えば進行した肝線維症)を伴うNASHを予防又は処置する方法に使用するための、実施態様1~23のいずれか1つに記載の化合物と薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【0146】
57.実施態様1~23のいずれか1つに記載の化合物の治療有効量を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、該患者における代謝性肝疾患を予防又は処置する方法。
【0147】
58.実施態様1~23のいずれか1つに記載の化合物の治療有効量を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、該患者におけるNASH、場合により肝線維症を伴うNASHを処置する方法。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【
図1a】食餌誘発性肥満(DIO)マウスにおける肝脂肪症/肝トリグリセリドの減少(実施例1)。b)食餌誘発性マウスの血漿中ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)/ALTの低下。統計分析は、一元配置分散分析によって、それに続いてダネット多重比較検定によって実施された。有意差は、アステリスク(
**、p<0.01;
***、p<0.001)によって示される。
【
図1b】食餌誘発性肥満(DIO)マウスにおける肝脂肪症/肝トリグリセリドの減少(実施例1)。b)食餌誘発性マウスの血漿中ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)/ALTの低下。統計分析は、一元配置分散分析によって、それに続いてダネット多重比較検定によって実施された。有意差は、アステリスク(
**、p<0.01;
***、p<0.001)によって示される。
【
図2a】同じ食餌を与えられビヒクルで処置された対照動物と比較した、AMLN食餌で誘発されたNASHを有するマウスにおける、80μg/kg、120μg/kg及び160μg/kg(1日4回)の用量の化合物5、並びに1日4回400μg/kgの用量のリラグルチドでの8週間にわたる処置の効果(実施例2)。a)ベースライン時及び55日間の処置後の体重。b)処置終了後の56日目における全体のNAFLD活動性スコア。c)NAFLD活動性スコアの変化(処置開始前の生検前、対、処置後の生検)。d)NAFLD活動性スコアの変化(ビヒクルで補正されている)。e)試験終了時のNAFLD活動性スコアの構成要素(肝脂肪症、肝小葉炎症、肝細胞風船様腫大)。f)線維症スコアの変化。
【
図2b】同じ食餌を与えられビヒクルで処置された対照動物と比較した、AMLN食餌で誘発されたNASHを有するマウスにおける、80μg/kg、120μg/kg及び160μg/kg(1日4回)の用量の化合物5、並びに1日4回400μg/kgの用量のリラグルチドでの8週間にわたる処置の効果(実施例2)。a)ベースライン時及び55日間の処置後の体重。b)処置終了後の56日目における全体のNAFLD活動性スコア。c)NAFLD活動性スコアの変化(処置開始前の生検前、対、処置後の生検)。d)NAFLD活動性スコアの変化(ビヒクルで補正されている)。e)試験終了時のNAFLD活動性スコアの構成要素(肝脂肪症、肝小葉炎症、肝細胞風船様腫大)。f)線維症スコアの変化。
【
図2c】同じ食餌を与えられビヒクルで処置された対照動物と比較した、AMLN食餌で誘発されたNASHを有するマウスにおける、80μg/kg、120μg/kg及び160μg/kg(1日4回)の用量の化合物5、並びに1日4回400μg/kgの用量のリラグルチドでの8週間にわたる処置の効果(実施例2)。a)ベースライン時及び55日間の処置後の体重。b)処置終了後の56日目における全体のNAFLD活動性スコア。c)NAFLD活動性スコアの変化(処置開始前の生検前、対、処置後の生検)。d)NAFLD活動性スコアの変化(ビヒクルで補正されている)。e)試験終了時のNAFLD活動性スコアの構成要素(肝脂肪症、肝小葉炎症、肝細胞風船様腫大)。f)線維症スコアの変化。
【
図2d】同じ食餌を与えられビヒクルで処置された対照動物と比較した、AMLN食餌で誘発されたNASHを有するマウスにおける、80μg/kg、120μg/kg及び160μg/kg(1日4回)の用量の化合物5、並びに1日4回400μg/kgの用量のリラグルチドでの8週間にわたる処置の効果(実施例2)。a)ベースライン時及び55日間の処置後の体重。b)処置終了後の56日目における全体のNAFLD活動性スコア。c)NAFLD活動性スコアの変化(処置開始前の生検前、対、処置後の生検)。d)NAFLD活動性スコアの変化(ビヒクルで補正されている)。e)試験終了時のNAFLD活動性スコアの構成要素(肝脂肪症、肝小葉炎症、肝細胞風船様腫大)。f)線維症スコアの変化。
【
図2e】同じ食餌を与えられビヒクルで処置された対照動物と比較した、AMLN食餌で誘発されたNASHを有するマウスにおける、80μg/kg、120μg/kg及び160μg/kg(1日4回)の用量の化合物5、並びに1日4回400μg/kgの用量のリラグルチドでの8週間にわたる処置の効果(実施例2)。a)ベースライン時及び55日間の処置後の体重。b)処置終了後の56日目における全体のNAFLD活動性スコア。c)NAFLD活動性スコアの変化(処置開始前の生検前、対、処置後の生検)。d)NAFLD活動性スコアの変化(ビヒクルで補正されている)。e)試験終了時のNAFLD活動性スコアの構成要素(肝脂肪症、肝小葉炎症、肝細胞風船様腫大)。f)線維症スコアの変化。
【
図2f】同じ食餌を与えられビヒクルで処置された対照動物と比較した、AMLN食餌で誘発されたNASHを有するマウスにおける、80μg/kg、120μg/kg及び160μg/kg(1日4回)の用量の化合物5、並びに1日4回400μg/kgの用量のリラグルチドでの8週間にわたる処置の効果(実施例2)。a)ベースライン時及び55日間の処置後の体重。b)処置終了後の56日目における全体のNAFLD活動性スコア。c)NAFLD活動性スコアの変化(処置開始前の生検前、対、処置後の生検)。d)NAFLD活動性スコアの変化(ビヒクルで補正されている)。e)試験終了時のNAFLD活動性スコアの構成要素(肝脂肪症、肝小葉炎症、肝細胞風船様腫大)。f)線維症スコアの変化。
【0149】
実施例
実施例1:食餌誘発性肥満マウスにおける脂肪肝に対する効果
方法
6~7週令の雄C57BL/6Jマウスを、チャールズリバー(ズルツフェルト、ドイツ)から入手した。動物施設に到着したら、それらに、Provimi Kliba社(カイザーアウークシュト、スイス)のペレット化食餌番号3808を自由摂食させ、水道水を自由に利用できるようにした。1週間後、動物を、代謝可能なエネルギーの45%が脂肪から来る、高脂肪食餌を摂食させた(ssniff EF R/M acc. D12451 (I) mod.; ssniff Spezialdiaten社、ゾースト、ドイツ)。高脂肪食餌で25週間後、動物を、類似した平均体重を有する群に無作為化した(0日目)。追加の対照群(痩せた対照)を、標準的な低脂肪食餌(Provimi Kliba社の食餌番号3808)で維持されていた動物からなる試験に使用した。化合物の処置の開始時のマウスの年齢は、32~33週令であった。
【0150】
全ての動物が、1日2回、皮下注射を受け、1回目が朝の午前7時、2回目が8時間後の夕方の午後3時であった。化合物5は、1日1回、午前7時に皮下注射によって投与され、続いて、8時間後に追加のビヒクルの注射が行われた。リラグルチドは、1日2回、午前7時と午後3時に皮下注射によって投与された。対照動物(高脂肪食餌又は痩せた対照のいずれか)は1日2回、ビヒクルの注射(25mMのPBS)を受けた。体重を、朝の投与前に1日1回測定した。初回投与は1日目に行なわれ、最後の投与は28日目に行なわれた。動物を、頚部脱臼によって29日目の最終血液採取直後に屠殺した。外側左葉から約100mgのアリコートを、肝トリグリセリドの測定のために使用した。
【0151】
血漿中ALT(アラニン-アミノトランスフェラーゼ)を、自動臨床分析装置(Cobas Integra 400 plus;ロシュ・ダイアグノスティクス社、マンハイム、ドイツ)を使用して測定した。肝トリグリセリドの決定のために、外側左葉からの100mgの組織を、Fastprepチューブ(Mp Biomedicals社)を使用して1mlのイソプロパノールを用いて抽出した。上清中のトリグリセリドを、自動臨床分析装置(Cobas Integra 400 plus;ロシュ・ダイアグノスティクス社、マンハイム、ドイツ)を使用して測定した。
【0152】
結果
肝脂肪を、研究終了時の29日目に、12時間の断食後に測定した(
図1a)。ビヒクルで処置された高脂肪食餌の動物の平均肝トリグリセリド含量は、痩せた対照(肝臓1gあたり53mg)と比較して、肝脂肪症(肝臓1gあたり203mg)を示す。肝トリグリセリドは、10及び30nmol/kgの1日4回の化合物5(それぞれ40μg/kg及び120μg/kg)を用いての処置後、63mg/g及び-146mg/gだけ有意に減少した。リラグルチド(10nmol/kgを1日2回、40μg/kgを1日2回)は、肝トリグリセリドを-27mg/gだけ減少させ、これは、10nmol/kgの1日4回の用量の化合物5よりも有意に低かった。全体的には、化合物5は、リラグルチドと比較して、肝トリグリセリドの降下に対してより大きな効果を示す。
【0153】
主に肝臓において発現されているトランスアミナーゼALTは、痩せた対照と比較して(38U/I)、ビヒクルで処置された高脂肪食餌の動物の血漿中において、強く上昇した平均レベルを示し(404U/I;
図1b)、このことは、この食餌誘発性肥満マウスモデルにおける脂肪症により誘発された肝細胞傷害を示す。ALTは、10及び30nmol/kgの1日4回の化合物5を用いての処置後、250U/I及び-347U/Iだけ有意に減少した。リラグルチドは、ALTを-188U/Lだけ減少させ、これは、10nmol/kgの1日4回の用量の化合物5よりも有意に低かった。リラグルチドよりも、化合物5による血漿中ALTのより顕著な減少は、肝トリグリセリドのそのより大きな減少と同時に起こる。
【0154】
実施例2:マウス食餌により誘発されるNASHモデルにおける有効性
方法
化合物5及びリラグルチドは、Kristiansen et al(World Journal of Hepatology 2016, vol. 8, pp. 673-684)に記載のような、NASHマウスモデル(食餌誘発性NASHマウスモデル)において研究された。C57BL/6Jマウスに、AMLN食餌として以前に記載されていた(Clapper et al., Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2013, vol. 305, pp. G483-G495)、脂肪(40%、これらの中の18%がトランス脂肪)、糖質(40%、これらの中の20%がフルクトース)、及びコレステロール(2%)の高い食餌(D09100301、Research Diet社、米国)を自由に摂食させた。対照群は、通常のげっ歯類用の餌が続けられた(アルトロミン1324、Brogaarden社、デンマーク)。食餌を26週間与えた後、肝生検が、ベースラインにおけるNASH及び線維症の組織学的評価のために行なわれた。この目的のために、マウスを、イソフルラン(2~3%)を使用した吸入麻酔によって麻酔した。小さな腹部切開を正中線に行ない、肝臓の外側左葉を曝した。肝組織の円錐形ウェッジ(約50mg)を、肝葉の遠位部分から切り出し、組織学的検査のために10%中性緩衝化ホルマリン(4%ホルムアルデヒド)で固定した。肝臓の切断表面を、双極凝固(ERBE VIO 100電気手術器)を使用して直ちに電気凝固した。肝臓を腹腔に戻し、腹壁を縫合し、皮膚をステープラーで閉じた。術後の回復のために、マウスは、手術日及び手術後1日目と2日目にカプロフェン(5mg/kg)の皮下投与を受けた。
【0155】
組織学的評価のために、パラフィン包埋切片を有するスライドを、キシレン中で脱パラフィン化し、一連の等級付けられたエタノール中で再水和した。ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)による染色のために、スライドを、マイヤーヘマトキシリン(ダコ社)中でインキュベートし、水道水で洗浄し、エオシンY溶液(シグマアルドリッチ社)で染色し、水和させ、Pertexでマウントし、その後、乾燥させて、その後、走査した。シリウスレッド染色のために、スライドを、ワイゲルト鉄ヘマトキシリン(シグマアルドリッチ社)中でインキュベートし、水道水で洗浄し、ピクロシリウスレッド(シグマアルドリッチ社)で染色し、酸性化水で2回洗浄した。スライドを振盪することによって過剰な水を除去し、その後、スライドを100%エタノールを3回交換して水和させ、キシレン中で清澄化し、Pertexでマウントし、乾燥させて、その後、走査した。組織学的スコアリングが、試験に対して盲検化が行なわれた病理学者によって実施された。NAFLD活動性スコア及び線維症スコアは、Kleiner et al(Hepatology 2005, vol. 14, pp. 1313- 1321)によって概略が示された臨床基準に従って決定された。
【0156】
動物は、体重及び線維症の程度に従って、様々な処置群に無作為化された。処置期間は8週間であり、その間に、動物はAMLN食餌で維持された。化合物は、1日1回の皮下注射によって投与された。ビヒクルで処置されたAMLN食餌の動物、及び通常のげっ歯類用餌の未処置動物が対照として含まれた。群のサイズは、10~14匹の動物であった。
【0157】
処置後、終末相の肝臓の試料を収集し、前生検について分析した。
【0158】
結果
化合物5(1日1回80μg/kg、120μg/kg及び160μg/kgの用量)及びリラグルチド(1日1回400μg/kgの用量)を、食餌誘導性NASHモデルにおいて研究した。ベースラインでは、AMLN食餌で26週間後、動物の体重は38~40gであり、痩せた対照よりも有意に高かったが、処置群間では有意に異ならなかった。8週間の処置後、ビヒクルに対して、同じ程度の有意な体重の減少が、化合物5及びリラグルチドの全ての用量を用いて達成された。体重は、120μg/kg(1日4回)(32.0g)又は160μg/kg(1日4回)(31.2g)の化合物5とリラグルチド(33.8g)との間で有意に異なっていた(
図2a)。
【0159】
8週間の処置後、NAFLD活動性スコア(NAS)は、ビヒクル群(6.2)よりも、化合物5の全ての用量及びリラグルチドで有意により低かった。120μg/kg(1日4回)(3.3)又は160μg/kg(1日4回)(3.2)の化合物5の平均ランクは、リラグルチド群の平均ランク(4.1)より有意に低かった(
図2b)。全ての用量の化合物5又はリラグルチドを用いての処置もまた、ビヒクルで処置された動物と比較して、ベースラインに対してNASの有意な改善がもたらされた(
図2c)。NASはビヒクル群では0.9ポイント増加したが、80μg/kg、120μg/kg、及び160μg/kg(1日4回)の化合物5ではそれぞれ2.0ポイント、2.5ポイント、及び2.4ポイント減少した。リラグルチドを用いての1.8ポイントの減少は、化合物5を用いて達成されたNASのベースラインに対する減少とは有意に異ならなかった。ビヒクルで補正されたNASのベースラインに対する変化を
図2dに示す。
【0160】
NASの個々の構成要素(脂肪症、炎症、及び肝細胞の風船様腫大)のスコアが
図2eに示されている。8週間の処置後、脂肪症スコアは、ビヒクルで処置された動物では3であり、一方、それは、80μg/kg、120μg/kg、及び160μg/kg(1日4回)の用量の化合物5では1.5、1.3及び1.2に有意に減少した。リラグルチドは、脂肪症のスコアを2.1まで有意に減少させた。特に、化合物5を用いて達成された全ての減少は、リラグルチドの処置効果に対して統計学的に有意であった。炎症スコアは、ビヒクルで処置された動物では2.3であり、炎症スコアは、化合物5の全ての用量によって2まで中程度にかつ統計学的には有意ではなく減少した。リラグルチドは、炎症スコアを1.9まで有意に減少させた。しかしながら、炎症スコアに対する化合物5及びリラグルチドの効果は、互いに統計学的に異ならなった。風船様腫大スコアの平均ランクは、ビヒクルで処置された動物では0.9であった。風船様腫大細胞は、あらゆる用量の化合物5で処置された動物において全く検出されず(風船様腫大スコア0)、リラグルチドで処置されたいくつかの動物においてのみ検出され(風船様腫大スコア0.1)、化合物5とリラグルチドとの間に統計学的な差はなかった。
【0161】
線維症スコアは、ビヒクルで処置された動物では0.2だけ中等度に増加したが、80μg/kg(1日4回)の化合物5では不変のままであり、120μg/kg及び160μg/kg(1日4回)の化合物5を用いると0.1及び0.2だけ有意に減少した。リラグルチドを用いての線維症スコアのベースラインに対する変化は0.1であり、化合物5で見られる減少とは有意に異ならなかった(
図2f)。
【0162】
結果は、本発明のGLP-1受容体/グルカゴン受容体のデュアルアゴニストの代表例が、DIO-NASHマウスにおける体重及びNASを顕著に減少することを示す。NAFLD活動性スコアの改善は主に、肝脂肪症の改善によって駆動される。体重及び肝脂肪症の減少は、リラグルチドよりも顕著である。
【0163】
実施例3:薬物動態パラメーターの推定
試験化合物の薬物動態パラメーターは、Han/ウィスターラットへの静脈内投与後に決定された。アシル化GLP-1類似体のセマグルチドもまた、比較目的のために試験された。
【0164】
雄ウィスターラットは、チャールズリバー(ドイツ)から入手し、試験施設への到着時には約180~210gの体重であった。ラットを、12時間の暗期及び12時間の明期の光周期の、欧州の標準的なラットケージIV型のかごに入れた。試験中、ラットを、標準的なラットケージIII型で飼育した。食餌アルトロミン1324(アルトロミン、ドイツ)及び水の両方を、全実験期間中、自由に投与させた。動物を、少なくとも4日間、試験施設内で飼育し、適切な順応を確実とした。
【0165】
前記化合物をまず、0.1%アンモニア水に溶かし、名目上2mg/mlの濃度とし、その後、25mMのリン酸緩衝液(pH7.4)を含有する無菌PBSで所望の用量強度(10μM)まで希釈した。20nmol/kgに相当する静脈内注射を、側面尾静脈を介して投与した。
【0166】
血液試料(200μl)を、投与から0.08、0.25、0.5、1、2、4、8、24、32、及び48時間後の時点で眼窩周囲網状組織からK3EDTAチューブに回収し、試料採取から20分間以内に4℃で5分間遠心分離にかけた。血漿試料(100μlを超える)を、96穴のPCRプレートに移し、直ちに凍結し、LC-MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)を使用してそれぞれのGLP-1-グルカゴン化合物の血漿中濃度について分析するまで-20℃で保持した。個々の血漿濃度-時間プロファイルを、ToxKinTMバージョン3.2(Unilog社のIT Services)を使用してノンコンパートメントアプローチによって分析し、結果として得られた薬物動態パラメーターを決定した。表4を参照されたい。
【0167】
【0168】
実施例4:NASH及び線維症患者における、化合物5の複数の皮下(s.c.)用量の有効性、安全性、及び耐容性を評価するための、臨床試験プロトコールの概要
試験の評価項目
主要評価項目は、NASH患者(NAS≧4、線維症F1~F3)における48週間の処置後、肝生検に基づいた肝臓の組織学的な所見のベースラインからの改善(あり/なし)である。
【0169】
組織学的所見の改善は、
NASHの改善:
NASの少なくとも2ポイントの減少で、肝小葉の炎症又は風船様腫大についてのNASサブスコアの少なくとも1ポイントの減少を伴う、及び
線維症ステージの増加が全くないと定義される、線維症の悪化が全くないこと
の複合として定義される。
【0170】
第二の有効性の評価項目としては、
-核磁気共鳴画像法プロトン密度脂肪分画測定(MRI-PDFF)によって評価されるベースラインと比較した、48週間の処置後の肝脂肪含量の少なくとも30%の相対的減少として定義される、肝脂肪含量の改善(あり/なし)、
-MRI-PDFFによって評価される48週間の処置後のベースラインからの肝脂肪含量の絶対的変化及び相対的変化、
-肝生検によって評価される48週間の処置後の線維症ステージの少なくとも1ステージの減少として定義される、線維症の改善(あり/なし)、
-肝生検によって評価される48週間の処置後のNASのベースラインからの絶対的変化
が挙げられる。
【0171】
試験設計
多施設、無作為化、用量範囲探索、二重盲検、プラセボ対照、平行群間試験
【0172】
無作為化された患者の総数
240人の患者
【0173】
各処置における患者数
化合物5:2.4mgで60人の患者(第1群)
化合物5:4.8mgで60人の患者(第2群)
化合物5:6.0mgで60人の患者(第3群)
プラセボで60人の患者(第4群)
【0174】
診断
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)及び線維症
【0175】
主な選択基準及び除外基準
選択基準:
-同意時に18歳以上(又は法定年齢が18歳を超える国々では、法定年齢以上)かつ80歳以下の年齢の男性又は女性の患者。
-スクリーニング期間中に実施された生検によって、又は、無作為化前の直近6か月以内に実施された過去の生検、及び過去の生検が使用される場合には過去の生検と無作為化との間の自己報告される体重変化が5%未満と定義される安定した体重によって判明した、NASH(NAS≧4、炎症及び風船様腫大の各々において少なくとも1ポイント)及び線維症ステージF1~F3の診断。
-スクリーニングのための来診時にMRI-PDFFによって測定される肝脂肪画分≧8%、及びFibroScan(登録商標)によって測定される肝硬度>6.0kPa(生検が、スクリーニング期間中に計画される場合、MRI-PDFF及びFibroScan(登録商標)評価は、生検前に実施されなければならない)。
-患者は、治験担当者によって判断されるような、プロトコールに関する肝生検を進んで受け、かつ受けることができる。
-1回目の来診時にBMI≧25kg/m2及び体重≧70kg。
【0176】
除外基準:
-現在若しくは過去のかなりのアルコール消費(3か月間を超える期間連続して、平均で男性では1週間あたり210gを超え、女性では1週間あたり140gを超える摂取量として定義される)又は過去5年間以内に治験担当者の判断に基づいたアルコール消費量を確実に定量できないこと。
-1回目の来診以前の12週間以内の、肝損傷、肝脂肪症、又は脂肪性肝炎を過去に伴った薬物の摂取。制限された薬物又は試験の安全な実施に干渉する可能性があると考えられるあらゆる薬物の摂取。
-他の形態の慢性肝疾患の履歴(例えば、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝疾患、原発性胆汁性硬化症、原発性硬化性胆管炎、ウィルソン病、ヘモクロマトーシス、α1-アンチトリプシン欠乏症、肝移植の履歴)。
-肝細胞癌(UCC)の疑い、診断、若しくは履歴、又は任意の記録された活動性若しくは疑われる悪性疾患、又は、適切に処置された皮膚基底細胞癌若しくは子宮頚部上皮内癌を除く、スクリーニング以前の5年間以内の悪性疾患の履歴。
-治験担当者の臨床的判断で、この治験の安全性及び有効性の分析に干渉する可能性がある、肝臓(NASH以外)、腎臓、消化器、呼吸器、心血管(虚血性心疾患を含む)、内分泌、神経学的、精神的、免疫学的、又は血液学的疾患及び他の容態を含む、深刻な又は不安定な疾患の診断。角膜移植及を除く臓器移植の履歴を有する患者、及び2年間未満と予想される平均余命を有する患者も除外される。
【0177】
試験の製品(群)
化合物5の注射溶液:0.6mg/mL、1.8mg/mL、3.6mg/mL、4.8mg/mL及び6.0mg/mL。
プレフィルドシリンジ、0.5mLの充填容量
【0178】
用量
第1群:0.3mgの開始用量、続いて、2.4mgの維持用量まで用量漸増、週1回2つのプレフィルドシリンジ。
第2群:0.3mgの開始用量、続いて、4.8mgの維持用量まで用量漸増、週1回2つのプレフィルドシリンジ。
第3群:0.3mgの開始用量、続いて、6.0mgの維持用量まで用量漸増、週1回2つのプレフィルドシリンジ。
【0179】
投与形式:皮下、s.c.
【0180】
比較製品:第4群:プラセボ
用量:一致
投与形式:皮下、s.c.。
【0181】
処置期間
最大24週間の用量漸増期間と少なくとも24週間の維持期間からなる、48週間の処置。
【配列表】
【国際調査報告】