(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-30
(54)【発明の名称】抗CD73抗体とその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230523BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230523BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230523BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230523BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230523BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230523BHJP
C12N 5/18 20060101ALI20230523BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230523BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230523BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230523BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230523BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20230523BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230523BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20230523BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20230523BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C12N5/18
C07K16/46
C12N5/10
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
A61K49/00
G01N33/53 D
G01N33/536 D
G01N33/536 C
G01N33/536 B
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563881
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(85)【翻訳文提出日】2022-12-15
(86)【国際出願番号】 CN2021088987
(87)【国際公開番号】W WO2021213466
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】202010324782.X
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202011152518.9
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517031177
【氏名又は名称】アケソ・バイオファーマ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジョンミン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ペン
(72)【発明者】
【氏名】リ,バイヨン
(72)【発明者】
【氏名】シア,ユ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064BH10
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AB05
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085AA19
4C085BB11
4C085BB41
4C085BB43
4C085CC02
4C085CC21
4C085CC23
4C085DD62
4C085DD88
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085HH11
4C085HH13
4C085KA03
4C085KA04
4C085KA05
4C085KA27
4C085KA29
4C085KB82
4C085LL18
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA57
4H045BA70
4H045BA71
4H045DA76
4H045EA28
4H045EA54
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、抗CD73抗体およびその使用を提供する。具体的には、抗体の重鎖可変領域は、配列番号15~17にそれぞれ示されるアミノ酸配列を有するHCDR1~HCDR3を含む。さらに、抗体の軽鎖可変領域は、列番号18~20にそれぞれ示されるアミノ酸配列を有するLCDR1~LCDR3を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CD73(例えばヒトCD73)抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗CD73抗体は、
配列番号2、配列番号6又は配列番号10に規定された重鎖可変領域に含まれるHCDR1、HCDR2及びHCDR3;並びに
配列番号4、配列番号8、配列番号12又は配列番号14に規定された軽鎖可変領域に含まれるLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含む、
好ましくは、IMGTの番号システムに従って、
抗CD73抗体は、
配列番号15に規定されたアミノ酸配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して一つ以上(好ましくは1、2、3)の保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む、又は上記アミノ酸配列で構成されるHCDR1、
配列番号16に規定されたアミノ酸配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して一つ以上の(好ましくは1、2、3)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む、又は上記アミノ酸配列から構成されるHCDR2、
配列番号17に規定されたアミノ酸配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を持つ配列、またはこの配列と比較して一つ以上の(好ましくは1、2、3)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む、又は上記アミノ酸配列から構成されるHCDR3、
配列番号18に規定されたアミノ酸配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して一つ以上の(好ましくは1、2、3)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む、又は上記アミノ酸配列から構成されるLCDR1、
配列番号19に規定されたアミノ酸配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、または90%、好ましくはこの配列と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して一つ以上(好ましくは1、2、3)の保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有する配列を含む、又は上記配列から構成されるLCDR2、並びに
配列番号20に規定されたアミノ酸配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して一つ以上(好ましくは1、2、3)の保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む、又は上記アミノ酸配列から構成されるLCDR3を含む、抗CD73(例えばヒトCD73)抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
抗体の重鎖可変領域が、以下の配列を含む、或いは以下の配列から構成されることを特徴とし、以下の配列とは、
配列番号2、配列番号6若しくは配列番号10、
配列番号2、配列番号6若しくは配列番号10に規定されているアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%若しくは90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を持つ配列、または
配列番号2、配列番号6若しくは配列番号10に規定されているアミノ酸配列と比較して、1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列であり、
並びに
抗体の軽鎖可変領域が、以下の配列を含む、或いは以下の配列から構成されることを特徴とし、以下の配列とは、
配列番号4、配列番号8、配列番号12、若しくは配列番号14、
配列番号4、配列番号8、配列番号12、若しくは配列番号14に規定されているアミノ酸配列と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%または89%の配列同一性を持つ配列、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を持つ配列、または
配列番号4、配列番号8、配列番号12、若しくは配列番号14に規定されているアミノ酸配列と比較して、1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列である、
請求項1に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
抗体の重鎖可変領域が配列番号2に規定されたアミノ酸配列を含み、抗体の軽鎖可変領域が配列番号4に規定されたアミノ酸配列を含む;
抗体の重鎖可変領域が配列番号6に規定されたアミノ酸配列を含み、抗体の軽鎖可変領域が配列番号8に規定されたアミノ酸配列を含む;
抗体の重鎖可変領域が配列番号10に規定されたアミノ酸配列を含み、抗体の軽鎖可変領域が配列番号12に規定されたアミノ酸配列を含む;または
抗体の重鎖可変領域が配列番号10に規定されるアミノ酸配列を含み、抗体の軽鎖可変領域が配列番号14に規定されるアミノ酸配列を含む
請求項1または2に記載の、抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
抗体が、配列番号21に規定された配列を有する重鎖定常領域と、配列番号22に規定された配列を有する軽鎖定常領域とを含むか、或いは、重鎖定常領域がIgガンマ-1鎖C領域、ACCESSION:P01857であり、軽鎖定常領域がIgカッパ鎖C領域、ACCESSION:P01834である、
請求項1または2に記載の、抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
モノクローナル抗体(好ましくは、重鎖アミノ酸配列が配列番号35に規定されている配列であり、軽鎖アミノ酸配列が配列番号36に規定されている配列である)、ヒト化抗体、キメラ抗体及び多重特異抗体(例えば、二重特異性抗体)であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
抗原結合フラグメントが、Fab、Fab'、F(ab')
2、Fd、Fv、dAb、Fab/c、相補性決定領域フラグメント、単鎖抗体(例:scFv)、ヒト化抗体、キメラ抗体及び二重特異性抗体から選択される、請求項1又は2に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
以下からなる群より選択される、単離されたポリペプチド;
(1)配列番号15、配列番号16、及び配列番号17に規定される配列を含む単離されたポリペプチドであり、このポリペプチドは抗CD73抗体の一部としてCD73に特異的に結合し、この抗体はさらに配列番号18、配列番号19及び配列番号20に規定される配列を含む;
(2)配列番号18、配列番号19、及び配列番号20に示される配列を含む単離されたポリペプチドであり、このポリペプチドは抗CD73抗体の一部としてCD73に特異的に結合し、この抗体はさらに配列番号15、配列番号16及び配列番号17に示される配列を含む;
(3)配列番号2、配列番号6、または配列番号10に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドであって、ポリペプチドが抗CD73抗体の一部としてCD73に特異的に結合し、この抗体がそれに対応して配列番号4、配列番号8、または配列番号12に規定された配列、少なくとも80%、81%、82%、83%、84% 85%、88%、89%、または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む;
(4)配列番号4、配列番号8、または配列番号12に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97% 98%または99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドであって、ポリペプチドが抗CD73抗体の一部としてCD73に特異的に結合し、この抗体がそれに対応して配列番号2、配列番号6、または配列番号10に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%%の配列同一性、またはこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む;
(5)配列番号10に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む単離ポリペプチドであって、ポリペプチドが抗CD73抗体の一部としてCD73に特異的に結合し、この抗体がそれに対応して配列番号14に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列、または、この配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む;並びに
(6)配列番号14に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む単離ポリペプチドであって、ポリペプチドが抗CD73抗体の一部としてCD73に特異的に結合し、この抗体がそれに対応して配列番号10に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列、または、この配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント、または請求項7に記載の単離ポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項10】
請求項8に記載の核酸分子または請求項9に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項11】
請求項1から6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントと、共役部分(a conjugated moiety)とを含む複合体であって、前記共役部分が、精製用タグ(例えば、Hisタグ)、検出可能な標識;好ましくは放射性同位元素、蛍光物質、化学発光物質、着色物質、ポリエチレングリコールまたは酵素である、複合体。
【請求項12】
請求項1から6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、融合タンパク質または多特異性抗体(好ましくは二重特異性抗体)。
【請求項13】
請求項1から6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント、請求項11に記載の複合体、または請求項12に記載の融合タンパク質または多重特異性抗体を含むキットであって、好ましくは、抗体を特異的に認識する二次抗体をさらに含み、任意に、二次抗体は、放射性同位元素、蛍光物質、化学発光物質、着色物質または酵素などの検出可能な標識をさらに含み、試料中のCD73の存在またはレベルを検出するために使用される、キット。
【請求項14】
請求項1から6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント、請求項11に記載の複合体、または請求項12に記載の融合タンパク質または多重特異性抗体を含む医薬組成物であって、任意に、医薬として許容される担体および/または賦形剤をさらに含み、皮下注射、皮内注射、静脈内注射、筋肉内注射または病変内注射による投与に適した形態である、医薬組成物。
【請求項15】
腫瘍(固形腫瘍、好ましくは非小細胞肺がん、前立腺がん(転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)を含む)、トリプルネガティブ乳がん、卵巣がん、大腸がん(マイクロサテライト安定性(MSS)大腸がんを含む)、胃がん、黒色腫、頭頸部がん、腎細胞がんまたは膵管腺がんなど)を治療および/または予防するための薬物の調製、または腫瘍を診断するための医薬の調製における、請求項1から6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント、請求項11に記載の複合体、または請求項12に記載の融合タンパク質または多重特異性抗体の使用。
【請求項16】
以下から選択されるハイブリドーマ細胞株:
LT014、中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)に寄託番号CCTCC NO:C2018137で寄託されている細胞株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学の分野、特に抗CD73抗体およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
Ecto-5'-ヌクレオチダーゼ、すなわちCD73蛋白質はNT5E遺伝子によってコードされる多機能性糖蛋白質であり、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)によって細胞膜上に固定されている蛋白質の分子量は70 KDである(Zimmermann H. Biochem J. 1992; 285:345-365)。
【0003】
CD73はヒトの組織細胞の表面に広く分布しており、研究では様々な固形腫瘍、特に腫瘍微小環境において、がん細胞、樹状細胞、制御性T細胞(Treg)、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、骨髄由来抑制細胞(MDSC) 、腫瘍関連マクロファージ(TAM)などに高発現していることが見出されている。腫瘍微小環境の重要な特徴は低酸素である。低酸素は低酸素誘導因子-1(HIF-1)などの分子のアップレギュレーションを誘導し、それによって腫瘍微小環境におけるCD73の広範な発現につながる(Synnestvedt K, et al. J Clin Invest. 2002; 110:993-1002)。臨床腫瘍サンプルの分析は、CD73の高発現が潜在的なバイオマーカーであり、乳がん、肺がん、卵巣がん、腎臓がん、胃がん、頭頸部がんなどを含む様々な種類の腫瘍の予後不良と密接に関連していることを示している。
【0004】
CD73は加水分解酵素活性と非加水分解酵素活性を併せ持つ。CD73の酵素機能と非酵素機能は、腫瘍の関連するプロセスに同時に存在し、相互に腫瘍の進化を促進し維持する。CD73はin vitroでの腫瘍細胞の増殖、転移および浸潤、in vivoでの腫瘍血管新生および腫瘍免疫逃避機構の鍵となる調節分子であり、重要な免疫抑制機構はCD73-アデノシン代謝シグナル経路によって媒介されることが多くの研究で明らかになっている。CD73の上流にあるCD39はATPを触媒してアデノシン一リン酸(AMP)を生成し、生成されたAMPはCD73によってアデノシンに変換され、アデノシンは下流のアデノシン受容体(A 2 AR)に結合する。A 2 ARはLCK、MAPK、PKCなど免疫活性化に関わる一連のシグナル経路を阻害し、プロテインキナーゼA(PKA) やCskキナーゼを活性化することでT細胞の免疫死滅効果を阻害し、腫瘍が免疫を獲得するための免疫抑制の役割を果たす(Antonioli L, et al. Nat Rev Cancer. 2013; 13:842-857)。前臨床動物モデル研究では、免疫細胞および非免疫細胞によって発現されるCD73が腫瘍の免疫逃避、発生および転移を促進することが示されており、Treg細胞関連CD73-アデノシンシグナルによる細胞傷害性T細胞(CTL)およびNK細胞機能の阻害が最も明らかである。
【0005】
固形腫瘍の治療では、薬剤耐性を克服し、治療効果を向上させるための重要な側面の1つは、免疫エフェクター細胞に対する腫瘍微小環境(TME)の阻害効果を緩和することである。TMEは様々な細胞、細胞間マトリックス、酵素、サイトカイン、代謝産物などから構成される非常に複雑な系であり、著しい低水素、低pH、高圧という特徴を持ち、正常組織とは大きく異なる。腫瘍細胞を死滅させるための化学放射線療法によって引き起こされる低酸素またはATP濃縮は、CD39-CD73アデノシンシグナルのカスケード反応を促進するが、これは様々ながん促進細胞の増殖と機能に有益であり、がん抑制細胞には有益ではない(Regateiro, F. S., Cobbold, S. P. & Waldmann, H. Clin. Exp. Immunol. 2013; 171:1-7)。
【0006】
動物モデルでCD73を標的とする抗体やCD73の遺伝子ノックアウトを用いることで、腫瘍の増殖や転移を効果的に阻止することができる。最近では、CD73モノクローナル抗体、低分子干渉RNA技術、特異的阻害剤APCPなどの使用により、動物実験の抗腫瘍治療において顕著な治癒効果が得られ、抗腫瘍治療の新たな道が開かれている。in vivo実験の証拠は、CD73の標的遮断が腫瘍患者の有効な治療手段になることを示している。
【0007】
CD73過剰発現と患者の腫瘍サブタイプ、予後および薬物反応との関係は、CD73が将来の腫瘍治療および個人の検出のための重要なマーカーとなり得ることを示している。そのためCD73標的の研究は不可欠である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
集中的な研究と創造的な努力の後、発明者は、マウスを免疫するための抗原として組換えヒトCD73を発現させるために哺乳類細胞発現システムを使用し、マウスの脾臓細胞と骨髄腫細胞の融合によってハイブリドーマ細胞を得た。発明者は多数のサンプルをスクリーニングしてハイブリドーマ細胞株LT014(寄託番号:CCTCC NO:C2018137)を得た。
【0009】
発明者は驚くべきことに、ハイブリドーマ細胞株LT014がヒトCD73に特異的に結合する特定のモノクローナル抗体(19F3と命名)を分泌し、そのモノクローナル抗体が非基質競合モードでCD73の酵素活性反応を効果的に阻害し、アデノシンの産生を減少させ、T細胞の活性を促進し、腫瘍の増殖を阻害する効果を発揮することを発見した。さらに、本発明者は、ヒトCD73に対するヒト化抗体(19F3H1L1、19F3H2L2、19F3H2L3と命名)を独創的に作製した。上記のヒト化抗体を基に、重鎖定常領域にアミノ酸変異を導入することで、ADCC活性を排除した新規ヒト化抗体(19F3H1L1(hG1DM)、19F3H2L2(hG1DM)、19F3H2L3(hG1DM)と名付けられた)を得た。
【0010】
また、本発明者は、19F3H1L1、19F3H2L2、19F3H2L3などの本発明の抗体が、細胞膜によって発現されるCD73のエンドサイトーシスを誘導する活性を有し、CD73の活性を低下させることができ、さらに変異を導入した19F3H2L3(hG1DM)などの抗体は、抗体媒介細胞毒性を引き起こすFcγRIIIaに結合せず、それによって安全性が著しく向上することを意外にも発見した。本発明の抗体は、腫瘍の治療における使用の可能性を有する。
【0011】
本発明の一側面は、抗CD73(例えばヒトCD73)抗体またはその抗原結合フラグメントに関するものであり、抗CD73抗体は、配列番号:2、配列番号:6または配列番号:10に示される重鎖可変領域に含まれるHCDR1、HCDR2およびHCDR2を含む。また、配列番号:4、配列番号:8、配列番号:12または配列番号:14に規定された軽鎖変数領域に含まれるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0012】
好ましくは、IMGT番号システムに従って、抗CD73抗体は、以下を含む;
配列番号:15に規定されたアミノ酸配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して1つ以上(好ましくは1、2、又は3)の保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む、又はそれから構成される、HCDR1、
配列番号:16に規定されたアミノ酸配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、又は3)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む、又はそれから構成される、HCDR2、
配列番号:17に規定されているアミノ酸配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を持つ配列、またはこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2又は3)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む、又はそれから構成される、HCDR3、
配列番号:18に規定されたアミノ酸配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、又は3)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む、又はそれから構成される、LCDR1、
配列番号:19に規定されたアミノ酸配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、又は3)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む、又はそれから構成される、LCDR2は、並びに
配列番号20に規定されたアミノ酸配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して1つ以上(好ましくは1、2、又は3)の保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む、又はそれから構成される、LCDR3。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態では、抗体の重鎖可変領域は、以下の配列を含むか、またはそれから構成される;
配列番号:2、配列番号:6または配列番号:10に規定された配列、配列番号:2、 配列番号:6または配列番号:10に規定された配列と少なくとも80%、81%、 82%、 83%、84%、 85%、 86%、87%、 88%、89%、 90%、91%、 92%、93% 、 94%、95%、 96%、 97%、98%、 99%の配列同一性を有する配列、または配列番号:2, 配列番号:6または配列番号:10に規定された配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列。
【0014】
そして、抗体の軽鎖可変領域は、以下の配列を含むか、またはそれから構成される;
配列番号:4、配列番号:8、配列番号:12または配列番号:14に規定された配列、配列番号:4、配列番号:8、配列番号:12または配列番号:14に規定された配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、 86%、87%、88%、89%、90%、91%、 92%、93%、94%、 95%、 96%、97%、 98%、 99%の配列同一性を有する配列、または配列番号:4、配列番号:8、配列番号:12または配列番号:14に規定された配列と比較して、1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態において、抗体の重鎖可変領域は配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を含み、抗体の軽鎖可変領域は配列番号:4に記載されたアミノ酸配列を含む。抗体の重鎖可変領域は配列番号:6に記載されたアミノ酸配列を含み、抗体の軽鎖可変領域は配列番号:8に記載されたアミノ酸配列を含む。抗体の重鎖可変領域は配列番号:10に記載されたアミノ酸配列を含み、抗体の軽鎖可変領域は配列番号:12に記載されたアミノ酸配列を含む。または、抗体の重鎖可変領域は配列番号:10に示されるアミノ酸配列を含み、抗体の軽鎖可変領域は配列番号:14に示されるアミノ酸配列を含む。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態において、抗体は、配列番号:21に記載された配列を有する重鎖定常領域、すなわち、Igγ-1鎖C領域およびACCESSION:P01857に基づいて、ロイシンからアラニンへの点突然変異が234の位置に導入(L234A)され、ロイシンからアラニンへの点突然変異が235の位置に導入(L235A)された領域、および配列番号:22に記載された配列を有する軽鎖定常領域、すなわち、Igカッパ鎖C領域、ACCESSION:P01834を含む。または、重鎖定常領域はIgγ-1鎖C領域、ACCESSION:P01857、軽鎖定常領域はIgカッパ鎖C領域、ACCESSION:P01834である。
【0017】
軽鎖と重鎖の可変領域は抗原の結合を決定する;各鎖の可変領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの超可変領域を含む(重鎖(H)のCDRはHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、軽鎖(L)のCDRはLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、これらはKabatらによって命名された(Bethesda M.d., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 1991;1-3:91-3242)。
【0018】
好ましくは、CDRはIMGT番号システムによっても定義される場合があり、Ehrenmann、Francois、Quentin Kaas、およびMarie-Paul Lefrancを参照のこと。(MGT/3Dstructure-DB and IMGT/DomainGapAlign: a database and a tool for immunoglobulins or antibodies, T cell receptors, MHC, IgSF and MhcSF. Nucleic acids research 2009; 38(suppl_1): D301-D307)
【0019】
モノクローナル抗体配列のCDR領域のアミノ酸配列は、IMGTの定義に従って、VBASE 2データベースを使用するなど、当業者によく知られた技術的手段によって分析される。
【0020】
本発明に関わる抗体19F3、19F3H1L1、19F3H2L2および19F3H2L3は同一のCDRを有する。
【0021】
重鎖可変領域の3つのCDR領域のアミノ酸配列は以下のとおりである。
HCDR1:GYSFTGYT(配列番号:15)、
HCDR2:INPYNAGT(配列番号:16)、および
HCDR3:ARSEYRYGDYFDY(配列番号:17);
【0022】
軽鎖可変領域の3つのCDR領域のアミノ酸配列は以下のとおりである。
LCDR1:QSLLNSSNQKNY(配列番号:18)、
LCDR2:FAS(配列番号:19)、および
LCDR3:QQHYDTPYT(配列ID番号:20)。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、抗体はモノクローナル抗体である。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態において、抗体は、ヒト化抗体、キメラ抗体または多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)である。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態では、抗原結合フラグメントは、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fv、dAb、Fab/c、相補性決定領域フラグメント、単鎖抗体(例:scFv)、ヒト化抗体、キメラ抗体および二重特異性抗体から選択される。
【0026】
本発明の別の側面は、以下からなる群から選択される単離されたポリペプチドに関する。
(1)配列番号:15、配列番号:16および配列番号:17に規定される配列を含む単離されたポリペプチドであり、このポリペプチドは抗CD73抗体の一部としてCD73に特異的に結合し、この抗体はさらに配列番号:18、配列番号:19および配列番号:20に規定される配列を含む;
(2)配列番号:18、配列番号:19および配列番号:20に規定される配列を含む単離されたポリペプチドであり、このポリペプチドは抗CD73抗体の一部としてCD73に特異的に結合し、この抗体はさらに配列番号:15、配列番号:16および配列番号:17に規定される配列を含む;
(3) 単離されたポリペプチドであって、配列番号:2、配列番号:6または配列番号:10に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含み、このポリペプチドが抗CD73抗体の一部としてCD73に特異的に結合し、抗体がそれに対応して配列番号:4、配列番号:8または配列番号:12に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84% 85%、86%、87%、88%、89%、または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性、またはこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む;
(4) 単離されたポリペプチドであって、配列番号4、配列番号8又は配列番号12に記載された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84% 85%、86%、87%、88%、89%、または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有する配列、又はこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含み、このポリペプチドは、抗CD73抗体の一部としてCD73に特異的に結合し、抗体は、配列番号2、配列番号6又は配列番号10に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84% 85%、86%、87%、88%、89%、または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有する配列、または配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む;
(5) 単離されたポリペプチドであって、配列番号10に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84% 85%、86%、87%、88%、89%、または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して一つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含み、このポリペプチドが抗CD73抗体の一部としてCD73に特異的に結合し、抗体が配列番号14に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84% 85%、86%、87%、88%、89%、または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む;および
(6) 単離されたポリペプチドであって、配列番号14に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84% 85%、86%、87%、88%、89%、または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有する配列、またはこの配列と比較して一つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含み、このポリペプチドが抗CD73抗体の一部としてCD73に特異的に結合し、抗体が配列番号10に規定された配列、この配列と少なくとも80%、81%、82%、93%、83%、94%、84%、95%、85%、86%、87%、88% 89%または90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列、この配列と比較して1つ以上の(好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の)保存的アミノ酸変異(好ましくは置換、挿入、削除)を有するアミノ酸配列を含む。
【0027】
本発明の別の側面は、本発明のいずれかの側面による、抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする単離された核酸分子または単離されたポリペプチドに関する。
【0028】
本発明のさらに別の側面は、ここに開示される単離された核酸分子を含むベクターに関する。
【0029】
本発明のさらに別の側面は、ここに開示された単離された核酸分子またはベクターを含む宿主細胞に関する。
【0030】
本発明のさらに別の側面は、抗体と共役部分を含む複合体に関するものであり、ここで、抗体は、本発明のいずれかの側面による抗体またはその抗原結合フラグメントであり、共役部分は、検出可能な標識である精製タグ(例:Hisタグ)である。共役部分は放射性同位元素、蛍光物質、化学発光物質、着色物質、ポリエチレングリコールまたは酵素であることが望ましい。
【0031】
本発明のさらに別の側面は、本発明のいずれかの側面に従った、抗体またはその抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質または多重特異性抗体(好ましくは二重特異性抗体)に関する。
【0032】
本発明のさらに別の側面は、本発明のいずれかの側面に従った抗体またはその抗原結合フラグメントを含むキット、本発明の複合体、融合タンパク質または多重特異抗体に関する。好ましくは、キットは抗体を特異的に認識する二次抗体をさらに含み;任意に、二次抗体は、放射性同位元素、蛍光物質、化学発光物質、着色物質または酵素などの検出可能な標識をさらに含む。
【0033】
本発明のさらに別の側面は、サンプル中のCD73の存在またはレベルを検出するために使用されるキットを調製する際の、本発明のいずれかの側面に従った抗体またはその抗原結合フラグメント、本発明の複合体、融合タンパク質または多重特異抗体の使用に関する。
任意に、本発明のさらに別の側面は、本発明のいずれかの側面に従った抗体またはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物、本発明の複合体、融合タンパク質または多重特異抗体に関する。必要に応じて、医薬組成物は医薬として許容される担体および/または賦形剤をさらに含む。製剤組成は、皮下注射、皮内注射、静脈内注射、筋肉内注射又は病変内注射による投与に適した形態であることが望ましい。
【0034】
本発明のさらに別の側面は、腫瘍(固形腫瘍、好ましくは非小細胞肺がん、前立腺がん(転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)を含む)、トリプルネガティブ乳がん、卵巣がん、大腸がん(大腸がんマイクロサテライト安定性(MSS)を含む)、胃がん、黒色腫、頭頸部がん、腎細胞がんまたは膵管腺がんなど)を治療および/または予防するための薬剤を調製する際、または腫瘍を診断するための薬剤を調製する際の、本発明のいずれかの側面に従った抗体またはその抗原結合フラグメントの使用に関する。
【0035】
本発明のさらに別の側面は、中国型文化収集センター(CCTCC)にCCTCC NO:C2018137の寄託番号で寄託されたハイブリドーマ細胞株LT014に関する。
【0036】
本発明において、特に断りのない限り、ここで使用される科学的および技術的用語は、当業者に一般的に理解される意味を有し、また、ここで使用される細胞培養、分子遺伝学、核酸化学および免疫学の実験室操作は、対応する分野で広く使用される日常的な手順である。なお、本発明をよりよく理解するために、関連する用語の定義と説明を以下に示す。
【0037】
ここで使用されるEC50という用語は、最大効果の50%の濃度、すなわち最大効果の50%を引き起こし得る濃度を指す。
【0038】
ここで使用される「抗体」という用語は、一般的に2対のポリペプチド鎖(各対は1つの「軽」(L)鎖と1つの「重」(H)鎖を持つ)から成る免疫グロブリン分子を指す。抗体軽鎖はκ軽鎖とλ軽鎖に分類される。重鎖はμ、δ、γ、α、εに分類される。抗体のアイソタイプは、IgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEとして定義される。軽鎖と重鎖では、可変領域と定常領域は約12個以上のアミノ酸からなる「J」領域で連結されており、重鎖は約3個以上のアミノ酸からなる「D」領域も含んでいる。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域(CH)から構成される。重鎖定常領域は3つのドメイン(CH1、CH2、およびCH3)からなる。各軽鎖は軽鎖可変領域(VL)と軽鎖定常領域(CL)からなる。軽鎖定数領域は1つのドメインCLから構成される。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例:エフェクター細胞)や古典的補体系の第一成分(C1q)を含む宿主組織や因子への免疫グロブリンの結合を仲介することができる。VH領域とVL領域はさらに可変性の高い領域(相補性決定領域(CDR)と呼ばれる)に細分することができ、これらの領域の間にはフレームワーク領域(FR)と呼ばれる保守的な領域が分布している。VHとVLはそれぞれ3つのCDRと4つのFRから構成され、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順にアミノ末端からカルボキシル末端に配置されている。各重鎖/軽鎖対の可変領域(VHおよびVL)は、それぞれ抗原結合部位を形成する。アミノ酸の領域またはドメインへの割り当ては、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health, Bethesda, M.d.(1987 and 1991))、またはChothia & Lesk J. Mol. Biol. 1987; 196:901-917; Chothia et al. Nature 1989; 342:878-883、またはIMGT番号システムに基づく。IMGT番号システムの定義については、Ehrenmann、Francois、Quentin Kaas、およびMarie-Paul Lefrancの定義を参照のこと。IMGT/3D structure-DBとIMGT/DomainGapAlignは、免疫グロブリンまたは抗体、T細胞受容体、MHC、IgSF、MhcSFのデータベースとツールである(Nucleic acids research 2009; 38(suppl_1): D301-D307)。「抗体」という用語は、抗体を製造する特定の方法によって制限されるものではない。例えば、抗体には、特に、組換え抗体、モノクローナル抗体、およびポリクローン抗体が含まれる。抗体は、IgG(例えば、サブタイプIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMなどの異なるアイソタイプの抗体である場合がある。
【0039】
ここで使用される用語「mAb」および「モノクローナル抗体」は、自然発生的に発生する可能性のある自然突然変異を除き、高度に相同な抗体のグループ、すなわち同一の抗体分子のグループに由来する抗体または抗体の断片を指す。モノクローナル抗体は、抗原上の単一のエピトープに対して非常に特異的である。ポリクローン抗体は、モノクローナル抗体と比較して、一般に抗原上の異なるエピトープを認識する少なくとも2つ以上の異なる抗体を含む。モノクローナル抗体は、一般にKohlerら(Kohler G, Milstein C. Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity [J]. Nature, 1975; 256(5517): 495)によって最初に報告されたハイブリドーマ技術を用いて得ることができるが、組換えDNA技術(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)を用いて得ることもできる。
【0040】
ここでいうヒト化抗体という用語は、ヒト免疫グロブリン(受容体抗体) のCDR領域の全部又は一部を非ヒト抗体(ドナー抗体)のCDR領域で置換した抗体又は抗体断片をいい、ドナー抗体は、期待される特異性、親和性又は反応性を有する非ヒト(マウス、ラット、ウサギ等) 抗体であってもよい。さらに、受容体抗体のフレームワーク領域(FR)の一部のアミノ酸残基を、対応する非ヒト抗体のアミノ酸残基または他の抗体のアミノ酸残基に置き換えることで、抗体の性能をさらに向上または最適化することもできる。ヒト化抗体の詳細については、例えばJones et al., Nature 1986; 321:522-525; Reichmann et al., Nature 1988; 332:323-329; Presta, Curr. Op. Struct. Biol., 1992; 2:593-596; and Clark M. Antibody humanization: a case of the ‘Emperor's new clothes’? [J]. Immunol. Today, 2000; 21(8): 397-402を参照のこと。
【0041】
ここでいう「単離」とは、自然状態から人工的な手段によって得ることを意味する。ある「単離された」物質や成分が自然界に現れた場合、その自然環境に変化が生じたり、自然環境から隔離されたり、あるいはその両方が起こることがある。例えば、ある非単離されたポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、ある生きた動物の体内に自然に存在し、そのような自然な状態で単離された高純度の同一のポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、単離されたポリヌクレオチドまたはポリペプチドと呼ばれる。「単離された」という用語は、人工物質や合成物質、または物質の活性に影響を与えないその他の不純物の存在を排除するものではない。
【0042】
ここで使用される「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドを挿入することができる核酸ビヒクルを指す。ベクターが、挿入されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の発現を許容する場合、そのベクターは発現ベクターと呼ばれる。ベクターは、ベクターが持つ遺伝物質要素を宿主細胞で発現させるために、形質転換、形質導入、またはトランスフェクションによって宿主細胞に導入することができる。ベクターは当業者にはよく知られており、以下を含むがこれに限定されない:プラスミド;ファージミド;コスミド;酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、P1由来人工染色体(PAC)などの人工染色体;ラムダファージやM13ファージなどのファージ;と動物ウイルス。ベクターとして使用できる動物ウイルスには、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルスなど)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パポバウイルス(SV40など)があるが、これらに限定されない。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択要素、およびレポーター遺伝子を含むがこれらに限定されない、発現を制御する様々な要素を含むことができる。さらに、ベクターは複製開始部位をさらに含むことができる。
【0043】
ここで使用される「宿主細胞」という用語は、ベクターを導入することができる細胞を指し、これには、大腸菌や枯草菌などの原核細胞、酵母細胞やアスペルギルスなどの真菌細胞、S2ショウジョウバエ細胞やSf9などの昆虫細胞、または線維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、GS細胞、BHK細胞、HEK293細胞、またはヒト細胞などの動物細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0044】
ここで使用される「特異的結合」という用語は、抗体とそれが標的とする抗原との反応など、2つの分子間の非ランダム結合反応を指す。いくつかの実施形態では、抗原に特異的に結合する抗体(または抗原に特異的な抗体)は、抗体が約10-5 M未満、例えば約10-6 M、10-7 M、10-8 M、10-9 Mまたは10-10 M以下の親和性(KD)で抗原に結合することを意味する。
【0045】
ここで使用される「KD」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指し、抗体と抗原の間の結合親和性を記述するために使用される。解離平衡定数が小さいほど、抗体と抗原の結合が強く、抗体と抗原の親和性が高いことを示す。一般に、抗体は約10-5 M未満、例えば約10-6 M、10-7 M、10-8 M、10-9 Mまたは10-10 M以下の解離平衡定数(KD)で抗原(PD-1蛋白など)に結合する。KDは、当業者に知られている方法、例えば、Fortebioシステムを用いて決定することができる。
【0046】
ここで使用される「モノクローナル抗体」と「mAb」という用語は同じ意味を持ち、同じ意味で使用することができる;「ポリクローン抗体」と「pAb」という用語は同じ意味を持ち、同じ意味で使用することができる;「ポリペプチド」と「タンパク質」という用語は同じ意味を持ち、同じ意味で使用することができる。さらに、ここでは、アミノ酸は、一般に、当該技術分野で知られている1文字および3文字の略語で表され、例えば、アラニンは、AまたはAlaで表すことができる。
【0047】
ここで使用される「薬学的に許容される担体および/または賦形剤」という用語は、被験物質および有効成分と薬理学的および/または生理学的に適合する担体および/または賦形剤を指す。このような担体および/または賦形剤は、pH調整剤、界面活性剤、アジュバント、およびイオン強度増強剤を含むが、これらに限定されない、当技術分野においてよく知られている(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, edited by Gennaro AR, 19th Ed., Pennsylvania: Mack Publishing Company, 1995を参照)。例えば、pH調整剤には、リン酸緩衝液が含まれるが、これに限定されない。界面活性剤には、Tween-80のような陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤が含まれるが、これらに限定されない。イオン強度増強剤には塩化ナトリウムが含まれるが、これに限定されない。
【0048】
ここでいう「有効量」とは、望ましい効果を得るために十分な量、または少なくとも部分的に得るための量をいう。例えば、疾患に対する予防的有効量(例えば、腫瘍)とは、疾患の発症を予防、阻止または遅延させるのに十分な量(例えば、腫瘍)を指す。有効量とは、疾病にかかった患者の疾病及びその合併症を治癒又は少なくとも部分的に停止させるのに十分な量をいう。
【発明の効果】
【0049】
本発明のモノクローナル抗体は、CD73に特異的によく結合することができ、非基質競合モードでCD73の酵素活性反応を効果的に阻害し、アデノシンの産生を減少させ、T細胞の活性と腫瘍抑制効果を促進することができる。
【0050】
生物由来物質の寄託に関する留意事項
ハイブリドーマ細胞株LT014(CD73-19F3とも呼ばれる)は、2018年6月21日に中国型文化収集センター(CCTCC) に登録された。登録番号はCCTCC NO:C2018137、登録住所は中国武漢市武漢大学、郵便番号は430072であった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】HNT5E(1-552)-hisに対する19F3H2L3の親和性定数の検出結果。曲線ペアの抗体濃度は、上から順に200 nM、100 nM、50 nM、25 nM、12.5 nM、6.25 nM、3.125 nMである。
【
図2】HNT5E(1-552)-hisに対する19F3H2L2の親和性定数の検出結果。曲線ペアの抗体濃度は、上から順に200 nM、100 nM、50 nM、25 nM、12.5 nM、6.25 nM、3.125 nMである。
【
図3】HNT5E(1-552)-hisに対するMEDI9447の親和性定数の検出結果。曲線ペアの抗体濃度は、上から順に200 nM、100 nM、50 nM、25 nM、12.5 nM、6.25 nM、3.125 nMである。
【
図4】FACSで測定したMDA-MB-231細胞表面のCD73に対する19F3H2L3の結合活性。
【
図5】MDA-MB-231細胞に添加された抗CD73抗体の酵素活性の検出結果。
【
図6】U 87-MG細胞に添加された抗CD73抗体の酵素活性の検出結果。
【発明を実施するための形態】
【0052】
詳細説明
【0053】
以下、本発明の各実施形態について、例を参照しながら詳細に説明する。当業者は、以下の例が本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲の制限として解釈されるべきではないことを理解するであろう。技術や条件が明記されていない場合は、当該技術文献に記載されている技術や条件(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, authored by J. Sambrook et al., and translated by Peitang Huang et al., 3rd Edition, Science Press を参照)、または製品マニュアルに従って実施された。使用する試薬や器具は、メーカーが明記されていなければ市販の従来品である。たとえば、MDA-MB-231細胞とU87-MG細胞はATCCから購入できる。
【0054】
本発明の以下の例では、使用されるBALB/cマウスは、広東医学実験動物センターから購入された。
【0055】
以下の本発明の例では、使用された陽性対照抗体MEDI9447(オレクルマブ) は、Akeso Biopharma Co.Ltd.によって製造されたものであり、その配列は、Medlmmune Limitedの公開特許に記載されている公開番号US 20160129108 Alの抗体の配列番号:21-24と同じである。
【0056】
本発明の以下の例では、使用するAD2をバイオレジェンド社(Cat.No.344002)から購入した。
【実施例】
【0057】
実施例1.抗CD73抗体19F3の調製
【0058】
1.ハイブリドーマ細胞株LT014の調製
抗CD73抗体の調製に用いられた抗原はヒトNT5E-His(NT5Eの場合、GenbankID:NP_2517.1、ポジション:1-552)であった。免疫したマウスの脾臓細胞を採取し、マウスの骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマ細胞を作製した。ハイブリドーマ細胞をヒトNT5E-ビオチン(NT5Eの場合、GenbankID:NP_2517.1、ポジション:1-552)を抗原とした間接ELISA法でスクリーニングし、CD73に特異的に結合する抗体を分泌できるハイブリドーマ細胞を得た。スクリーニングによって得られたハイブリドーマ細胞は、安定したハイブリドーマ細胞株を得るために限界希釈を受けた。ハイブリドーマ細胞系をハイブリドーマ細胞系LT014と命名し、そこから分泌されるモノクローナル抗体を19F3と命名した。
【0059】
ハイブリドーマ細胞株LT014(CD73-19F3とも呼ばれる)は、2018年6月21日に、寄託番号:CCTCC NO:C 2018137、保蔵住所:中国武漢市の武漢大学、郵便番号430072で、中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)に寄託された。
【0060】
2.抗CD73抗体19F3の調製
上記で作製したLT014細胞株を5% CO2セルインキュベーター内で37°Cで化学的に定義された培地(ペニシリン-ストレプトマイシン1%を含むCD培地)で培養し、7日後に細胞培養上清を採取し、高速遠心分離と精密ろ過膜による真空ろ過を行った後、HiTrap protein A HPカラムを用いて精製し、抗体19F3を得た。
【0061】
実施例2.抗CD73抗体19F3の配列解析
RNAprep pure Cell/Bacteria Kit(Tiangen, Cat.No.DP 430)のマニュアルに記載されている方法に従って、例1で培養した細胞株LT014からmRNAを抽出した。RT-PCR用のInvitrogen SuperScript(登録商標)III First-Strand Synthesis Systemのマニュアルに従ってcDNAを合成し、PCRによって増幅した。PCR増幅産物は、pEASY-T 1 Cloning Kit(Transgen CT 101) のマニュアルに従って直接TAクローニングにかけられた。LT014細胞株のCD73に対する抗体19F3のTAクローニングを行って得られた産物を直接配列決定した。シーケンス結果は次のとおりである。
【0062】
重鎖可変領域のヌクレオチド配列は、363 bpの長さで配列番号:1に示されている。コードされたアミノ酸配列は、121 aaの長さで配列番号:2に示されている;ここで、重鎖CDR1の配列は配列番号:15に、重鎖CDR2の配列は配列番号:16に、重鎖CDR 3の配列は配列番号:17にそれぞれ設定されている。軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は、339 bpの長さで配列番号:3に示されている。コードされたアミノ酸配列は、113 aaの長さで配列番号:4に示されている;ここで、軽鎖CDR1の配列は配列番号:18に、軽鎖CDR2の配列は配列番号:19に、軽鎖CDR 3の配列は配列番号:20にそれぞれ定められている。
【0063】
実施例3.ヒト化抗ヒトCD73抗体の軽鎖および重鎖の設計と調製
【0064】
1.ヒト化抗ヒトCD73抗体19F3H1L1、19F3H2L2および19F3H2L3の軽鎖および重鎖の設計
実施例2で得られたヒトCD73蛋白質(Hage T, Reinemer P, Sebald W., Crystals of a 1:1 Complex Between Human Interleukin-4 and the Extracellular Domain of Its Receptor Alpha Chain, Eur. J. Biochem., 1998; 258(2):831-6.)の3次元結晶構造と抗体19F3の配列を基に、コンピュータモデリングと突然変異デザイン(NCBIデータベースの抗体定数領域配列:重鎖定数領域はIgγ-1鎖C領域、ACCESSION:P 01857;軽鎖定常領域はIgカッパ鎖C領域、ACCESSION:P 01834)によって抗体19F3H1L1、19F3H2L2、19F3H2L3の可変領域配列を得た。
【0065】
設計された可変領域の配列は次のとおりである。
(1)ヒト化モノクローナル抗体19F3H1L1の重鎖および軽鎖可変領域の配列
重鎖可変領域のヌクレオチド配列は、363 bpの長さで配列番号:5に示されている。コードされたアミノ酸配列は、長さ121 aaの配列番号:6に示され、重鎖CDR1の配列は配列番号:15に、重鎖CDR2の配列は配列番号:16に、重鎖CDR 3の配列は配列番号:17に示される。軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は、339 bpの長さで配列番号:7に示されている。コードされたアミノ酸配列は、長さ113 aaの配列番号:8に示され、軽鎖CDR1の配列は配列番号:18に示され、軽鎖CDR2の配列は配列番号:19に示され、軽鎖CDR3の配列は配列番号:20に示される。
【0066】
(2) ヒト化モノクローナル抗体19F3H2L2の重鎖および軽鎖可変領域の配列
重鎖可変領域のヌクレオチド配列は、363 bpの長さで配列番号:9に示されている。コードされたアミノ酸配列は、長さ121 aaの配列番号:10に示され、重鎖CDR1の配列は配列番号:15に、重鎖CDR2の配列は配列番号:16に、重鎖CDR3の配列は配列番号:17に示される。軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は、339 bpの長さで配列番号:11に示されている。コードされたアミノ酸配列は、長さ113 aaの配列番号:12に示され、軽鎖CDR1の配列は配列番号:18に示され、軽鎖CDR2の配列は配列番号:19に示され、軽鎖CDR3の配列は配列番号:20に示される。
【0067】
(3) ヒト化モノクローナル抗体19F3H2L3の重鎖および軽鎖可変領域の配列
重鎖可変領域のヌクレオチド配列は、363 bpの長さで配列番号:9に示されている。コードされたアミノ酸配列は、長さ121 aaの配列番号:10に示され、重鎖CDR1の配列は配列番号:15に、重鎖CDR2の配列は配列番号:16に、重鎖CDR3の配列は配列番号:17に示される。軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は、339 bpの長さで配列番号:13に示されている。コードされたアミノ酸配列は、長さ113 aaの配列番号:14に示され、軽鎖CDR1の配列は配列番号:18に示され、軽鎖CDR2の配列は配列番号:19に示され、軽鎖CDR3の配列は配列番号:20に示される。
【0068】
2.ヒト化抗体19F3H1L1、19F3H2L2および19F3H2L3の調製
重鎖定常領域は全てIgγ-1鎖C領域であり、ACCESSION:P 01857;軽鎖定常領域は全てIgカッパ鎖C領域ACCESSION:P 01834であった。19F3H1L1の重鎖cDNAと軽鎖cDNA、19F3H2L2の重鎖cDNAと軽鎖cDNA、19F3H2L3の重鎖cDNAと軽鎖cDNAをそれぞれpUC 57 simple(GenScript社提供) ベクターにクローニングし、それぞれpUC57simple-19F3H1、pUC57simple-19F3L1、pUC57simple-19F3H2、pUC57simple-19F3L2、pUC57simple-19F3L3を得た。Molecular Cloning Laboratory Manual(Second Edition)で紹介されている標準的な手法を参考に、EcoRI&HindIII消化により合成された重鎖および軽鎖全長遺伝子を、制限酵素(EcoRI&HindIII)によって発現ベクターpcDNA3.1にサブクローン化し、発現プラスミドpcDNA3.1-19F3H1、pcDNA3.1-19F3L1、pcDNA3.1-19F3H2、pcDNA3.1-19F3L2、pcDNA3.1-19F3L3を得て、さらに組換え発現プラスミドの重鎖および軽鎖遺伝子の配列解析を行った。次に、対応する軽鎖および重鎖組換えプラスミド(pcDNA3.1-19F3H1/pcDNA3.1-19F3L1、pcDNA3.1-19F3H2/pcDNA3.1-19F3L2およびpcDNA3.1-19F3H2/pcDNA3.1-19F3L3)を含む設計された遺伝子の組み合わせをそれぞれ293F細胞に共導入し、培養液を収集して精製した。配列が確認された後、エンドトキシンを含まない発現プラスミドを調製し、抗体発現のためにHEK293細胞に一時的に導入した。7日後に培養液を採取し、プロテインAカラムで親和性精製を行い、ヒト化抗体を得た。
【0069】
3.ヒト化抗体19F3H1L1(hG1DM)、19F3H2L2(hG1DM)及び19F3H2L3(hG1DM)の調製
抗体19F3H1L1(hG1DM)、抗体19F3H2L2(hG1DM)および抗体19F3H2L3(hG1DM)の軽鎖定常領域は、Igカッパ鎖C領域ACCESSION:P01834であり、配列番号:22を参照のこと。Igγ-1鎖C領域ACCESSION:P 01857に基づいて、重鎖定常領域の234番目のロイシンからアラニンへの点突然変異(L234A)と235番目のロイシンからアラニンへの点突然変異(L235A)を導入することによってヒト化抗体が得られ、配列番号:21を参照し、それぞれ19F3H1L1(hG1DM)、19F3H2L2(hG1DM)、19F3H2L3(hG1DM)と命名された。19F3H1L1(hG1DM)の重鎖cDNAと軽鎖cDNA、19F3H2L2(hG1DM)の重鎖cDNAと軽鎖cDNA、19F3H2L3(hG1DM)の重鎖cDNAと軽鎖cDNAをそれぞれpUC57simple(Genscript社提供) ベクターにクローニングし、pUC57simple-19F3H1(hG1DM)、pUC57simple-19F3L1、pUC57simple-19F3H2(hG1DM)、pUC57simple-19F3L2、pUC57simple-19F3L3を得た。Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Second Edition)に記載されている標準的な手法を参考に、EcoRI&HindIII消化によって合成された重鎖および軽鎖の完全長遺伝子を、制限酵素(EcoRI&HindIII)によって発現ベクターpcDNA3.1に消化によってサブクローン化し、発現プラスミドpcDNA3.1-19F3H1(hG1DM)、pcDNA3.1-19F3L1、pcDNA3.1-19F3H2(hG1DM)、pcDNA3.1-19F3L2、pcDNA3.1-19F3L3を得て、さらに組換え発現プラスミドの重鎖および軽鎖遺伝子の配列解析を行った。次に、対応する軽鎖および重鎖組換えプラスミド(pcDNA3.1-19F3H1(hG1DM)/pcDNA3.1-19F3L1、pcDNA3.1-19F3H2(hG1DM)/pcDNA3.1-19F3L2およびpcDNA3.1-19F3H2(hG1DM)/pcDNA3.1-19F3L3)を含む設計された遺伝子の組み合わせをそれぞれ293F細胞に共導入し、培養液を収集して精製した。配列が確認された後、エンドトキシンを含まない発現プラスミドを調製し、抗体発現のためにHEK293細胞に一時的に導入した。7日後に培養液を採取し、プロテインAカラムで親和性精製を行い、ヒト化抗体を得た。
【0070】
実施例4.抗原ヒトNT5E-ビオチンに対する抗CD73抗体の結合活性のELISA法による測定
実験段階:マイクロプレートを2μg/mLのストレプトアビジンでコーティングし、その後マイクロプレートを4°Cで12時間インキュベートした。抗原コーティングされたマイクロプレートは、インキュベーション後にPBSTで1回すすぎ、次にマイクロプレート阻止溶液として1% BSAを含むPBST溶液で2時間ブロックした。ブロック後、マイクロプレートをPBSTで3回洗浄した。次に抗原ヒトNT5E-ビオチン0.5μg/mLを加え、37°Cで30分間培養後、PBSTで3回洗浄した。PBST溶液で連続希釈した抗体をマイクロプレートのウェルに加えた。抗体希釈勾配を表1に示す。試験抗体を含むマイクロプレートを37°Cで30分間インキュベートした後、PBSTで3回洗浄した。洗浄後、1:5000に希釈したHRP標識ヤギ抗ヒトIgG(H+L)(ジャクソン、Cat.No.109-035-088)又は1:5000に希釈したHRP標識ヤギ抗マウスIgG(H+L)(ジャクソン、Cat.No.115-035-062)の二次抗体作用液を加え、37°Cで30分間培養した。培養後、プレートをPBSTで4回洗浄し、暗部にTMB(ネオゲン、308177年)を加えて5分間発色させた後、停止液を加えて発色反応を停止させた。マイクロプレートを直ちにマイクロプレートリーダーに入れ、マイクロプレート内の各ウェルのOD値を光波長450 nmで読み取った。データはSoftMax Pro 6.2.1によって分析された。ヒトNT5E-ビオチン抗原に対する抗CD73抗体の結合を検出する用量のOD値を表1に示す。抗体濃度を横軸、吸光度値を縦軸とした曲線あてはめにより抗体の結合EC50を算出し、その結果を下記表1に示す。
【0071】
実験結果から、抗体19F3H1L1、19F3H2L2、19F3H2L3とマウス抗体19F3はヒトNT5E-ビオチンに効果的に結合でき、結合効率は用量依存的な関係にあることが示されている。基本的に同じ実験条件下で、ヒトNT5E-ビオチンに結合する19F3H1L1のEC50は0.049 nM、ヒトNT5E-ビオチンに結合する19F3H2L2のEC50は0.064 nM、ヒトNT5E-ビオチンに結合する19F3H2L3のEC50は0.061 nM、ヒトNT5E-ビオチンに結合する同じ標的に対する陽性対照薬MEDI9447のEC50は0.048 nM、ヒトNT5E-ビオチンに結合するマウス抗体19F3のEC50は0.018 nMであった。
【0072】
上記の実験結果から、ヒトNT5E-ビオチンに対する19F3H1L1、19F3H2L2、19F3H2L3、マウス抗体19F3の結合活性は、同じ実験条件下で同じ標的に対する陽性対照薬MEDI9447と同等であり、19F3H1L1、19F3H2L2、19F3H2L3が効果的にCD73に結合する機能を持つことが示された。
【0073】
【0074】
実施例5.ヒト化抗体19F3H2L3、19F3H2L2およびMEDI9447の抗原ヒトHNT5E(1-552)への結合の速度論パラメータFortebio分子相互作用装置を用いて決定
サンプルの希釈緩衝液はPBST、pH 7.4であった。5μg/mLの抗体をプロテインAセンサーに15秒間固定した。120秒間バッファ内でセンサーを平衡させた。3.125-200 nM(二倍希釈) の濃度で、センサー上に固定化された抗体と抗原ヒトNT5E(1-552)-hisとの結合を120秒間測定した。抗原抗体は緩衝液中で600秒間解離させた。センサーを10 mMグリシン溶液(pH 1.5)でリフレッシュした。検出温度は37°C、検出周波数は0.6 Hz、試料板の振動速度は1000 rpmであった。データを1:1モデルフィッティングで解析して親和性定数を求めた。ヒト化抗体19F3H2L3、19F3H2L2、MEDI9447(対照抗体)とヒトCD73の親和性定数の測定結果を表2に、検出結果を
図1~3に示す。
【0075】
表2と図に示すように、ヒト化抗体19F3H2L3、19F3H2L2、MEDI9447とヒトCD73の親和性定数は順に1.04 E-10 M、2.36 E-10 M、2.59 E-10 M、1.04 E-10 Mであった。上記の実験結果は、19F3H2L3と19F3H2L2のHNT5E(1-552)-hisへの結合能が同等であることを示しており、ヒト化抗体19F3H2L3と19F3H2L2がヒトCD73に強い結合能を持つことを示している。
【0076】
【0077】
実施例6.FACSで測定した19F3H2L3抗体の結合能
対数相のMDA-MB-231細胞を通常のトリプシンで消化し、遠心分離し、PBSAに再懸濁した。細胞を1.5 mLの遠心管(各管に30万個ずつ)に充填し、5600 rpmで5分間遠心して上清を除去した。PBSAで最終濃度100 nM、33.33 nM、11.11 nM、3.7 nM、1.23 nM、0.41 nM、0.14 nM、0.05 nMに希釈したCD73抗体100μLをそれぞれ添加した。この系を穏やかに均一に混合し、氷の上で1時間インキュベートした。次にPBSA 500μLを加え、5600 rpmで5分間遠心して上清を除去した。500倍に希釈したFITC標識ヤギ抗ヒトIgG二次抗体(ジャクソン、Cat.No.109-095-098)を添加して細胞沈殿物を再懸濁させ、その混合物を暗所の氷の上で0.5時間インキュベートした。PBSA 500μLを加え、5600 rpmで5分間遠心分離して上清を除去した。最後にPBSA 200μLを加えて細胞沈殿物を再懸濁し、その混合物をフローチューブに移してフローサイトメーター(BD FACSCaliburTM)で検出した。
【0078】
結果は表3および
図4に示され、MDA-MB-231に内因的に発現した19F3H2L3のCD73への結合能は、同じ標的に対する陽性対照薬MEDI9447と同等であり、結合は用量依存的な関係にある。同じ実験条件下で、MDA-MB-231に内因的に発現したCD73に結合する19F3H2L3のEC
50は3.423 nM、MDA-MB-231に内因的に発現したCD73に結合するMEDI 9447のEC
50は1.433 nMである。
【0079】
以上の実験結果から、MDA-MB-231に内因的に発現している19F3H2L3のCD73への結合活性は、同じ実験条件下で同じ標的に対する陽性対照薬MEDI9447と同等であり、19F3H2L3が効果的にCD73に結合する機能を持つことが示された。
【0080】
【0081】
実施例7.細胞内に内因的に発現するCD73の酵素活性に対する抗CD73抗体の阻害活性の測定
【0082】
1.MDA-MB-231細胞に内因的に発現しているCD73の酵素活性に対する抗CD73抗体の阻害活性の検出
実験手順は以下の通りである。対数期のMDA-MB-231細胞を良好な状態で採取し、無血清RPMI-1640培養液に再懸濁してから計数した。MDA-MB-231細胞を3×104細胞/100μL/ウェルの96ウェルプレートに播種した。抗体を無血清RPMI-1640培養液で初期濃度200μg/mLで希釈した(連続2.5倍希釈)。96ウェルプレートに抗体を50μL/ウェルで添加し、37°Cで1時間インキュベートした。1時間後、RPMI-1640で希釈した600μMのAMP 50μLを各ウェルに加えた。3時間後、細胞培養上清25μLを採取して新しい96ウェルプレートに移し、各ウェルに100μM ATP 25μLを添加した。各ウェルに50μLのCTG(CellTiter-Glo(登録商標)ワンソリューションアッセイ、promega、Cat.No G8461)発色液を加えて発色させ、マルチラベルマイクロプレートテスター(PerkinElmer 2140-0020)でデータを読み取った。
【0083】
実験結果:
図5に示すように、同一標的に対する19F3H2L3と陽性対照薬MEDI9447はいずれも、酵素触媒作用を介してAMPをアデノシンAに変換するMDA-MB-231に内因的に発現しているCD73の活性を用量依存的に阻害し、用量依存的に産生される平均蛍光強度RLUを減少させた。
以上の実験結果から、添加したAMPはMDA-MB-231によって細胞表面に内因的に発現しているCD73の酵素触媒作用を受け、CD73抗体処理を行わない条件下でアデノシンAに変換されるため、ルシフェラーゼ活性の阻害が緩和されることが示された。しかし、抗体を添加すると、CD73が抗体に結合するため酵素活性が低下し、AMPがアデノシンに変換されなくなった。抗CD73抗体は、非基質競合モードでCD73の酵素活性反応を効果的に阻害し、アデノシンの産生を減少させることが示唆されている。
【0084】
2.U87-MG細胞への抗CD73抗体添加による酵素活性の測定
実験手順は以下の通りである。良好な状態の対数相のU87-MG細胞を採取し、無血清RPMI-1640培養液に再懸濁した後、計数した。U104-MG細胞を3×細胞/100μL/ウェルの96ウェルプレートに播種した。抗体を無血清RPMI-1640培養液で初期濃度200μg/mLで希釈した(連続2.5倍希釈)。96ウェルプレートに抗体を50μL/ウェルで添加し、37°Cで1時間インキュベートした。1時間後、RPMI-1640で希釈した600μMのAMP 50μLを各ウェルに加えた。3時間後、細胞培養上清25μLを採取して新しい96ウェルプレートに移し、各ウェルに100μM ATP 25μLを添加した。各ウェルに50μLのCTG(CellTiter-Glo(登録商標)ワンソリューションアッセイ、promega、Cat.番号G 8461)発色液を加えて発色させ、マルチラベルマイクロプレートテスター(PerkinElmer 2140-0020)でデータを読み取った。
【0085】
実験結果:
図6に示すように、同じ標的に対する19F3H2L3と陽性対照薬MEDI9447の両方が、酵素触媒作用を介してAMPをアデノシンに変換するMDA-MB-231に内因的に発現しているCD73の活性を用量依存的に阻害し、それによって生産された平均蛍光強度RLUを用量依存的に減少させた。
【0086】
以上の実験結果から、添加されたAMPは、U87-MGによって細胞表面に内因的に発現しているCD73の酵素触媒作用を受け、CD73抗体処理を行わない条件下でアデノシンに変換されるため、ルシフェラーゼ活性の阻害が緩和されることが示された。しかし、抗体を添加すると、CD73が抗体に結合するため酵素活性が低下し、AMPがアデノシンに変換されなくなった。抗CD73抗体は、非基質競合モードでCD73の酵素活性反応を効果的に阻害し、アデノシンの産生を減少させることが示唆されている。
【0087】
実施例8.抗CD73抗体と抗体依存性細胞傷害作用を仲介するFcγRIIIaの動的親和性決定
サンプル希釈緩衝液はPBS(0.02% Tween-20、0.1% BSA、pH 7.4)であった。0.5μg/mLのFcγRIIIa(CD16aとしても知られるSino Biological社製)をSAセンサーに120秒間固定した。60秒間緩衝液中でセンサーを平衡化し、31.3-500 nMの濃度(連続二倍希釈) でセンサー上に固定化されたCD16aの抗体への結合を60秒間測定した。抗体抗原は緩衝液中で60秒間解離させた。センサーは10 mM NaOHでリフレッシュされた。検出温度は30°C、周波数は0.6 Hzであった。データを1:1モデルフィッティングで解析して親和性定数を求めた。
【0088】
表4に示すように、19F3H2L3(hG1DM)はFcγRIIIaに結合しなかったが、MEDI9447はFcγRIIIaに結合活性を示したことから、19F3H2L3(hG1DM)はCD73発現細胞において抗体依存性細胞傷害作用を引き起こすリスクが低いのに対し、MEDI9447は抗体依存性細胞傷害作用を引き起こすリスクがあることが示された。
【0089】
CD73は血管内皮や正常組織に豊富に発現しており、FcγRIIIaに結合して抗体依存性の細胞傷害作用を媒介して血管内皮細胞や正常組織を傷害し、抗体医薬の安全性に大きな影響を与える。
【0090】
【0091】
配列表
配列番号1:19F3の重鎖可変領域のヌクレオチド配列(下線部はCDR配列)
GAGGTGCAGCTGCAGCAGTCCGGACCAGAGCTGGTGAAGCCTGGCGCCTCCATGCGGATGTCTTGTAAGGCCTCTGGCTACAGCTTCACCGGCTATACAATGAACTGGGTGAAGCAGTCTCACGGCAAGAATCTGGAGTGGATCGGCCTGATCAACCCTTACAATGCCGGCACCAGCTATAACCAGAAGTTTAAGGGCAAGGCCACCCTGACAGTGGACAAGAGCTCCTCTACCGCCTACATGGAGCTGCTGTCCCTGACATCTGAGGATAGCGCCGTGTACTATTGCGCCCGGTCCGAGTACAGATATGGCGGCGACTACTTTGATTATTGGGGCCAGGGCACCACACTGACAGTGAGCTCC
【0092】
配列番号2:19F3の重鎖可変領域のアミノ酸配列(下線部はCDR配列)
EVQLQQSGPELVKPGASMRMSCKASGYSFTGYTMNWVKQSHGKNLEWIGLINPYNAGTSYNQKFKGKATLTVDKSSSTAYMELLSLTSEDSAVYYCARSEYRYGGDYFDYWGQGTTLTVSS
【0093】
配列番号3:19F3の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列(下線部はCDR配列)
GACATCGTGATGACCCAGTCTCCAAGCTCCCTGGCAATGAGCGTGGGACAGAAGGTGACAATGTCTTGTAAGTCTAGCCAGAGCCTGCTGAACTCCTCTAATCAGAAGAACTACCTGGCCTGGTATCAGCAGAAGCCAGGCCAGTCTCCCAAGCTGCTGGTGTACTTTGCCAGCACCAGGGAGTCCGGAGTGCCTGACAGATTCATCGGCTCCGGCTCTGGCACAGACTTCACCCTGACAATCAGCTCCGTGCAGGCAGAGGACCTGGCAGATTATTTCTGCCAGCAGCACTACGACACCCCTTATACATTTGGCGGCGGCACCAAGCTGGAGATCAAG
【0094】
配列番号4:19F3の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(下線部はCDR配列)
DIVMTQSPSSLAMSVGQKVTMSCKSSQSLLNSSNQKNYLAWYQQKPGQSPKLLVYFASTRESGVPDRFIGSGSGTDFTLTISSVQAEDLADYFCQQHYDTPYTFGGGTKLEIK
【0095】
配列番号5:19F3H1L1の重鎖可変領域のヌクレオチド配列(下線部はCDR配列)
CAGGTGCAGCTGCAGCAGTCTGGAGCAGAGGTGGTGAAGCCAGGAGCCTCTATGAAGATGAGCTGTAAGGCCAGCGGCTACTCCTTCACCGGCTATACAATGAACTGGGTGAAGCAGGCCCACGGCCAGAATCTGGAGTGGATCGGCCTGATCAACCCTTACAATGCCGGCACCTCTTATAACCAGAAGTTTCAGGGCAAGGCCACCCTGACAGTGGACAAGTCCACCTCTACAGCCTACATGGAGCTGAGCTCCCTGCGGAGCGAGGATACAGCCGTGTACTATTGCGCCCGGTCCGAGTACAGATATGGCGGCGACTACTTTGATTATTGGGGCCAGGGCACCACACTGACCGTGTCTAGC
【0096】
配列番号6:19F3H1L1の重鎖可変領域のアミノ酸配列(下線部はCDR配列)
QVQLQQSGAEVVKPGASMKMSCKASGYSFTGYTMNWVKQAHGQNLEWIGLINPYNAGTSYNQKFQGKATLTVDKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARSEYRYGGDYFDYWGQGTTLTVSS
【0097】
配列番号7:19F3H1L1の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列(下線部はCDR配列)
GACATCGTGATGACCCAGTCCCCAAGCTCCCTGGCAATGTCTGTGGGAGAGAGGGTGACAATGTCCTGTAAGTCTAGCCAGTCTCTGCTGAACTCCTCTAATCAGAAGAACTACCTGGCCTGGTATCAGCAGAAGCCCGGCCAGGCCCCTAAGCTGCTGGTGTACTTTGCCTCTACCAGGGAGAGCGGAGTGCCAGACAGATTCTCTGGCAGCGGCTCCGGCACAGACTTCACCCTGACAATCAGCTCCGTGCAGGCAGAGGACCTGGCAGATTATTTCTGCCAGCAGCACTACGATACCCCCTATACATTTGGCGGCGGCACCAAGCTGGAGATCAAG
【0098】
配列番号8:19F3H1L1の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(下線部はCDR配列)
DIVMTQSPSSLAMSVGERVTMSCKSSQSLLNSSNQKNYLAWYQQKPGQAPKLLVYFASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSVQAEDLADYFCQQHYDTPYTFGGGTKLEIK
【0099】
配列番号9:19F3H2L2と19F3H2L3の重鎖可変領域のヌクレオチド配列(下線部はCDR配列)
CAGGTGCAGCTGGTGCAGTCTGGAGCAGAGGTGGTGAAGCCAGGAGCCTCTGTGAAGGTGAGCTGTAAGGCCAGCGGCTACTCCTTCACCGGCTATACAATGAACTGGGTGAGGCAGGCACCAGGACAGAATCTGGAGTGGATCGGCCTGATCAACCCTTACAATGCCGGCACCTCTTATAACCAGAAGTTTCAGGGCAAGGTGACCCTGACAGTGGACAAGTCCACCTCTACAGCCTACATGGAGCTGAGCTCCCTGCGGAGCGAGGATACAGCCGTGTACTATTGCGCCCGGTCCGAGTACAGATATGGCGGCGACTACTTTGATTATTGGGGCCAGGGCACCACACTGACCGTGTCTAGC
【0100】
配列番号10:19F3H2L2と19F3H2L3の重鎖可変領域のアミノ酸配列(下線部はCDR配列)
QVQLVQSGAEVVKPGASVKVSCKASGYSFTGYTMNWVRQAPGQNLEWIGLINPYNAGTSYNQKFQGKVTLTVDKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARSEYRYGGDYFDYWGQGTTLTVSS
【0101】
配列番号11:19F3H2L2の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列(下線部はCDR配列)
GACATCGTGATGACCCAGTCCCCAAGCTCCCTGGCCGTGTCTGTGGGAGAGCGGGTGACAATCTCCTGTAAGTCTAGCCAGTCTCTGCTGAACTCCTCTAATCAGAAGAACTACCTGGCCTGGTATCAGCAGAAGCCCGGCCAGGCCCCTAAGCTGCTGATCTACTTCGCCTCTACCAGGGAGAGCGGAGTGCCAGACAGATTCTCTGGCAGCGGCTCCGGCACAGACTTCACCCTGACAATCAGCTCCGTGCAGGCAGAGGACGTGGCAGATTACTATTGCCAGCAGCACTACGATACCCCCTATACATTTGGCGGCGGCACCAAGCTGGAGATCAAG
【0102】
配列番号12:19F3H2L2の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(下線部はCDR配列)
DIVMTQSPSSLAVSVGERVTISCKSSQSLLNSSNQKNYLAWYQQKPGQAPKLLIYFASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSVQAEDVADYYCQQHYDTPYTFGGGTKLEIK
【0103】
配列番号13:19F3H2L3の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列
GACATCGTGATGACCCAGTCCCCAAGCTCCCTGGCCGTGTCTGTGGGAGAGCGGGTGACAATCTCCTGTAAGTCTAGCCAGTCTCTGCTGAACTCCTCTAATCAGAAGAACTACCTGGCCTGGTATCAGCAGAAGCCCGGCCAGGCCCCTAAGCTGCTGATCTACTTCGCCTCTACCAGGGAGAGCGGAGTGCCAGACAGATTCTCTGGCAGCGGCTCCGGCACAGACTTCACCCTGACAATCAGCTCCCTGCAGGCAGAGGACGTGGCCGTGTACTATTGCCAGCAGCACTACGATACCCCCTATACATTTGGCGGCGGCACCAAGCTGGAGATCAAG
【0104】
配列番号14:19F3H2L3の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(下線部はCDR配列)
DIVMTQSPSSLAVSVGERVTISCKSSQSLLNSSNQKNYLAWYQQKPGQAPKLLIYFASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCQQHYDTPYTFGGGTKLEIK
【0105】
19F3、19F3H1L1、19F3H2L2および19F3H2L3のCDR領域
配列番号15:HCDR1:GYSFTGYT
配列番号16:HCDR2:INPYNAGT
配列番号17:HCDR3:ARSEYRYGGDYFDY
配列番号18:LCDR1:QSLLNSSNQKNY
配列番号19:LCDR2:FAS
配列番号20:LCDR3:QQHYDTPYT
【0106】
配列番号21:19F3H1L1(hG1DM)、19F3H2L2(hG1DM)、19F3H2L3(hG1DM)の重鎖定数領域(330 aa、突然変異部位は太字で下線が引かれている)の配列
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0107】
配列番号22:19F3H1L1(hG1DM)、19F3H2L2(hG1DM)、19F3H2L3(hG1DM)の軽鎖定数領域(107 aa) の配列:
RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【配列表】
【国際調査報告】