(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-30
(54)【発明の名称】UBRボックスドメインリガンドとしての化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 235/16 20060101AFI20230523BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20230523BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230523BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230523BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230523BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
C07C235/16 Z CSP
A61K31/167
A61P21/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61P3/00
A61P27/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563901
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(85)【翻訳文提出日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 KR2021005335
(87)【国際公開番号】W WO2021221444
(87)【国際公開日】2021-11-04
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522408290
【氏名又は名称】オートタック インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ヨン テ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒュン テ
(72)【発明者】
【氏名】ナ、ジェオン ウン
(72)【発明者】
【氏名】セオ、ユ ジン
(72)【発明者】
【氏名】ジ、チャン フーン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ、ハ リム
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジ ウン
(72)【発明者】
【氏名】ヘオ、ア ジュン
【テーマコード(参考)】
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206GA04
4C206GA31
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA33
4C206ZA94
4C206ZB21
4C206ZC01
4C206ZC21
4H006AA01
4H006AB20
(57)【要約】
本明細書は、UBRボックスドメインリガンドとしての化合物に関するものである。本明細書は、UBRボックスドメインに結合する低分子化合物を提供する。さらに、本明細書は、UBRボックスドメインに結合するリガンド化合物を含むUBRボックスドメイン基質結合を阻害するための組成物、UBR関連疾患を処置するための医薬組成物、およびその用途を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1:
[式1]
【化7】
の構造を有する化合物
またはその塩であって、
式中、A
1はCH
3またはNH
2である、化合物またはその塩。
【請求項2】
UBRボックスドメイン基質結合を阻害するための組成物であって、前記組成物が請求項1に記載の化合物またはその塩を含む、組成物。
【請求項3】
UBR関連疾患を処置するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容され得る塩を含む、医薬組成物。
【請求項4】
前記UBR関連疾患が、筋ジストロフィー(ベッカー型、先天性型、デュシェンヌ型、遠位型、エメリー-ドレイフス型、顔面肩甲上腕型、肢帯型、筋緊張型、眼咽頭型)によって引き起こされる筋肉低下、サルコペニアもしくは癌悪液質を含む筋肉低下もしくは分解によって媒介される筋肉消耗疾患、脂肪肉腫、嚢胞性線維症、ヨハンソン・ブリザード症候群、閉塞性尿路疾患(尿道閉塞続発)、自己免疫性膵炎を含む過剰なタンパク質分解によって引き起こされる疾患、またはアッシャー症候群を含むUBRボックスおよびUBRタンパク質に関連する既知の疾患を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2020年4月27日に出願された米国仮出願番号63/015,945の利益および優先権を主張し、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書で開示される内容は、UBRボックスドメインリガンドとしての化合物に関するものである。UBRボックスドメインは、N末端則経路のユビキチンタンパク質リガーゼE3成分n-レコグニン(UBR)タンパク質に共通して存在するドメインである。この場合、UBRボックスドメインは、基質が結合するドメインとして知られている。UBRボックスドメインは、基質のN末端残基と結合して基質にマルチユビキチン鎖を形成するために必須であり、このプロセスを通じて基質が分解されることが知られている。
【0003】
本明細書は、UBRボックスドメインに結合するリガンドとして機能する化合物に関するものである。
【背景技術】
【0004】
細胞は、タンパク質を分解することで、生体内タンパク質の量および機能を調節している。この場合、生体内タンパク質はN末端残基配列に依存して分解されることがあり、このような分解経路はN末端則経路として知られている。すなわち、N末端則経路は、特定のタンパク質のN末端を分解シグナルとして使用するタンパク質分解系である。N末端則経路は、以下のようなタンパク質分解プロセスを含むことができる。
【0005】
真核生物の場合、N-レコグニンがタンパク質のN末端の分解シグナルを認識し、当該N-レコグニンは分解されるタンパク質にユビキチンを結合させて、タンパク質を分解することができる。この場合、N末端の分解シグナルとしては、N末端に正の電荷を有する残基(タイプ1:例えば、アルギニン、リジンおよびヒスチジン)または大きな疎水性残基(タイプ2:フェニルアラニン、ロイシン、トリプトファン、イソロイシンおよびチロシン)を有するものを挙げることができる。本発明者らは、N-レコグニンUBR1、UBR2、UBR3およびUBR5を初めて発見またはクローニングし、N-レコグニンが基質認識ドメインとしてUBRボックスドメインを有することを明らかにした(Tasakiら、2005)。この場合、N-レコグニンがN末端則リガンドと結合して生成されたユビキチン化基質は、プロテアソームに運ばれ、短いペプチドに分解される。このプロセスで、N-レコグニンがN末端則基質を標的とする際に必要となる水素結合のほとんどを、特定のN末端残基(Nt-Arg、Nt-His、Nt-Lys、Nt-Trp、Nt-Phe、Nt-Tyr、Nt-Leu、Nt-Leu)が提供するため、結合に必須の決定因子である(Sriram and Kwon ,2010)。
【0006】
UBRはユビキチンタンパク質リガーゼE3成分n-レコグニンの略称であり、UBRはタンパク質のN末端分解シグナルを認識するN-レコグニンである。哺乳類には、少なくとも7種類のUBR1~7が存在することが知られている。さらに、UBRが共通して有するUBRボックスドメインは、約70残基の大きさを有するジンクフィンガーモチーフであり、高度に保存された基質結合ドメインとして知られている[Kwonら、1998;Xie and Varshavsky,1999;Kwakら、2004;Varshavsky,1996;Varshavsky,1997;Kwonら、2011;およびZenkerら、2014]。
【0007】
すなわち、UBRはタンパク質分解経路であるN末端則経路に関連するN-レコグニンであり、UBRのUBRボックスドメインは基質結合ドメインである。特に、UBR1~7のうち、UBR1、UBR2、UBR3およびUBR5はユビキチンタンパク質リガーゼE3として作用することが知られており、RINGドメインまたはHECTドメインを有している。UBRに結合したN末端則基質は、ユビキチンプロテアソーム経路で分解される。具体的には、UBRに含まれるUBRボックスドメインが基質のN末端アミノ酸を認識し、RINGドメインまたはHECTドメインを介して基質をユビキチン化し、それによってプロテアソーム経路を介して基質を分解する。例えば、ミスフォールドしたタンパク質が細胞内に長期間留まると、タンパク質が凝集してプロテアソームを阻害したり、他の細胞機能を低下させたりすることがあるため、ユビキチンプロテアソーム経路を介して分解される(Ji and Kwon,2017)。
【0008】
すなわち、UBRボックスドメインは、N末端の分解シグナルを認識することにより、細胞内タンパク質分解経路において重要な役割を担っている。したがって、UBRボックスドメインに結合するリガンドは、細胞内タンパク質分解経路に影響を及ぼし得る。
【0009】
上記のとおり、本明細書は、細胞内タンパク質分解経路に関連するUBRボックスドメインに結合するリガンドとしての化合物に関するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本明細書は、UBRボックスドメインに結合する低分子化合物を提供する。この場合、UBRボックスドメインは、UBR1~7に含まれるUBRボックスドメインを含む。低分子化合物は、UBRボックスドメインに結合するのに適したリガンドとして機能することができる。
【0011】
1つの実施形態において、本明細書は、UBRボックスドメインに結合するリガンド化合物を含む、UBRボックスドメイン基質結合を阻害するための組成物を提供する。
【0012】
具体的な一実施形態において、本明細書は、UBR関連疾患を処置するための医薬組成物、およびその使用を提供し、当該組成物は、UBRボックスドメインに結合するリガンド化合物を含む。
【0013】
より具体的な実施形態において、本明細書は、筋ジストロフィー(ベッカー型、先天性型、デュシェンヌ型、遠位型、エメリー-ドレイフス型、顔面肩甲上腕型、肢帯型、筋緊張型、眼咽頭型)によって引き起こされる筋肉低下、サルコペニアもしくは癌悪液質を含む筋肉低下もしくは分解によって媒介される筋肉消耗疾患、脂肪肉腫、嚢胞性線維症、ヨハンソン・ブリザード症候群、閉塞性尿路疾患(尿道閉塞続発)、自己免疫性膵炎を含む過剰なタンパク質分解によって引き起こされる疾患、またはアッシャー症候群を含むUBRボックスおよびUBRタンパク質に関連する既知の疾患を含む疾患を処置するための医薬組成物、ならびにその使用を提供し、当該組成物はUBRボックスドメインに結合するリガンド化合物を含む。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本明細書は、式1の構造を有する化合物またはその塩を提供する:
[式1]
【化1】
式中、A
1は、CH
3またはNH
2である。
【0015】
この場合、一例として、本明細書は、A1がCH3またはNH2である本化合物またはその塩を含むUBRボックスドメイン基質結合を阻害するための組成物を提供する。
【0016】
この場合、一例として、本明細書は、A1がCH3またはNH2である本化合物またはその薬学的に許容され得る塩を含むUBR関連疾患を処置するための医薬組成物、および本化合物を用いることによってUBR関連疾患を処置する方法を提供する。
【0017】
この場合、一例として、UBR関連疾患は、筋ジストロフィー(ベッカー型、先天性型、デュシェンヌ型、遠位型、エメリー-ドレイフス型、顔面肩甲上腕型、肢帯型、筋緊張型、眼咽頭型)によって引き起こされる筋肉低下、サルコペニアもしくは癌悪液質を含む筋肉低下もしくは分解によって媒介される筋肉消耗疾患、脂肪肉腫、嚢胞性線維症、ヨハンソン・ブリザード症候群、閉塞性尿路疾患(尿道閉塞続発)、自己免疫性膵炎を含む過剰なタンパク質分解によって引き起こされる疾患、またはアッシャー症候群から選択されてもよい。
【0018】
有利な効果本明細書に開示される発明は、UBRボックスドメインに関して高い結合強度を有するリガンド化合物を提供する。
【0019】
UBRボックスドメインリガンド化合物を介して、UBRボックスドメインの基質結合を抑制することができ、この特性を生かした様々な用途を提供することができる。例えば、UBRボックスドメインリガンド化合物により、UBR関連疾患(例えば、サルコペニア等)を処置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】イムノブロット法を用いて、筋アクチンがArg/N-デグロン経路の基質であるかどうかを確認した実験結果を示す図である。
【0021】
【
図2】試験管内転写/翻訳法を用いて、化合物(化合物1、2)をUBR1に結合させることによって分解されるはずであるR-nsp4の発現が抑制されるかどうかを確認した実験結果を示す図である。
【0022】
【
図3】イムノブロット法を用いて、化合物(化合物1、2)が筋肉細胞においてUBRタンパク質の基質であるアクチンの分解を抑制するかどうかを確認した実験結果を示す図である。
【0023】
【
図4】マイクロスケール熱泳動(MST)による化合物1と化合物2との結合の結果を示す図である。
【
図5】マイクロスケール熱泳動(MST)による化合物1と化合物2との結合の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら具体的な例示的実施形態および実施例を通じて本発明の内容をより詳細に説明する。添付図面には、本発明のいくつかの例示的な実施形態が含まれているが、すべての例示的な実施形態ではないことに留意されたい。本明細書によって開示された発明の内容は、様々に実施することができ、本明細書に記載された特定の例示的な実施形態に限定されるものではない。本明細書に開示される発明が属する技術分野における通常の技術を有する者であれば、本明細書に開示される発明の内容の多くの変更および他の例示的な実施形態を想到することができるであろう。したがって、本明細書に開示される発明の内容は、本明細書に記載された特定の例示的な実施形態に限定されるものではなく、その変更および他の例示的な実施形態も特許請求の範囲に含まれることを理解されたい。
【0025】
[用語の定義]
本明細書で使用される主な用語の定義を以下に示す。
【0026】
ユビキチンタンパク質リガーゼE3成分n-レコグニン(UBR)本明細書において使用されるUBRという用語は、ユビキチンタンパク質リガーゼE3成分n-レコグニンの略称を指す。UBRは、タンパク質のN末端残基を認識するN-レコグニンであり、哺乳類には少なくとも7種類のUBR1~7が存在することが知られている。UBRはN-レコグニンであり、生体内タンパク質分解経路であるN末端則経路に関連している。具体的には、UBRは、タンパク質のN末端分解シグナル(N-デグロン)を認識し、基質タンパク質がユビキチンプロテアソーム経路を介して分解されるプロセスに関与する。
【0027】
UBRボックスドメイン本明細書で使用されるUBRボックスドメインという用語は、UBRタンパク質に存在するドメインであり、ジンクフィンガーモチーフである。UBRタンパク質は、UBR1~7タンパク質を含む。UBRボックスドメインは、基質タンパク質が結合するドメインとして知られている。本明細書に開示されるUBRボックスドメインリガンドとしての化合物は、UBRボックスドメインに結合することにより、UBRボックスドメインの基質結合を抑制することができる。さらに、本明細書に開示されるUBRボックスドメインリガンドとしての化合物は、細胞内タンパク質分解経路に影響を及ぼし得る。
【0028】
RINGドメイン
本明細書で使用されるRINGドメインという用語は、UBR1、2および3タンパク質に存在することが知られている。RINGドメインはまた、RINGユビキチン化ドメインと置き換えられ得る。RINGドメインは、タンパク質に存在するドメインであり、ジンクフィンガーモチーフである。RINGドメインは、E2に存在するユビキチンが基質タンパク質に転移されるプロセスで重要な役割を果たすドメインであり、RINGドメインは、ユビキチンが基質タンパク質に転移されるプロセスを一段階で行わせる役割を果たす。
【0029】
HECTドメイン
本明細書で使用されるHECTドメインという用語は、UBR5タンパク質に存在することが知られている。HECTドメインはまた、HECTユビキチン化ドメインと置き換えられることもできる。HECTドメインは、E2に存在するユビキチンが基質タンパク質に転移されるプロセスにおいて重要な役割を果たすドメインである。E2に存在するユビキチンはHECTドメインに運ばれ、次に基質タンパク質に転移される。すなわち、HECTドメインは、ユビキチンが基質タンパク質に転移されるプロセスを二段階で行わせる役割を果たす。
【0030】
ジンクフィンガーモチーフ
本明細書において使用される場合、ジンクフィンガーモチーフという用語は、タンパク質の構造を安定化させるために1つまたは複数の亜鉛イオンが存在するタンパク質構造モチーフを指す。本明細書のUBRボックスドメインおよびRINGドメインは、ジンクフィンガーモチーフである。
【0031】
リガンド本明細書において使用される場合、リガンドという用語は、タンパク質に特異的に結合する物質を指す。タンパク質には、酵素または受容体が含まれ、タンパク質が酵素である場合、リガンドは酵素に結合する基質等を指すことがあり、タンパク質が受容体である場合、リガンドは受容体に結合するホルモン等を指すことがある。
【0032】
本明細書で提供されるUBRボックスドメインリガンドとしての化合物は、UBRボックスドメインに結合する化合物を意味する。一例として、本化合物は、UBRタンパク質中のUBRボックスドメインに結合する化合物を指す。具体例として、本化合物は、UBR1~7の1つまたは複数のタンパク質に存在するUBRボックスドメインに結合する化合物を指す。しかしながら、本化合物はこれに限定されるものではない。
【0033】
本明細書で提供されるUBRボックスドメインリガンドとしての化合物は、UBRボックスドメインの基質と競合的に作用することができる。すなわち、本化合物は、UBRボックスドメインの基質結合を抑制することができる。さらに、本化合物は、基質の結合を抑制することにより、基質の分解を抑制することができる。
【0034】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。本明細書で言及したすべての刊行物、特許および他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0035】
以下、本発明の具体的な内容を開示する。
【0036】
I.UBRボックスドメイン
1.概要
本明細書で提供されるUBRボックスドメインリガンドとしての化合物は、UBRボックスドメインに結合する。UBRボックスドメインは、N末端残基配列またはN末端分解シグナルが結合するドメインとして知られている。このドメインは、タンパク質がN末端則経路によって分解されるプロセスに関連している。したがって、本化合物は、N末端則経路を介したタンパク質分解プロセスに影響を及ぼし得る。
【0037】
2.N末端則経路
細胞は、タンパク質分解を通じてタンパク質の量を調節している。この場合、タンパク質の分解シグナルであるデグロンを認識するプロセスによって、タンパク質の分解のプロセスが行われることが知られている。具体的には、タンパク質のN末端残基配列に依存してタンパク質分解が調節されており、N末端に存在するタンパク質分解シグナルを総称してN-デグロンと呼ぶ。N-デグロンとしては、N末端に正の電荷を有する残基(例えば、アルギニン、リジンおよびヒスチジン)または大きな疎水性残基(フェニルアラニン、ロイシン、トリプトファン、イソロイシンおよびチロシン)を有するものが挙げられる。上記のとおり、N末端則という用語は、タンパク質の半減期がタンパク質のN末端に存在するアミノ酸残基によって決定されるという関連性に基づいて使用されてきた。
【0038】
3.UBRボックスドメイン
N末端則経路では、N-デグロンはN-レコグニンによって認識され、N-レコグニンとしてユビキチンタンパク質リガーゼE3成分n-レコグニン(UBR)が発見された。UBRは、UBRボックスドメインによって、N末端残基配列またはN末端分解シグナルを認識することが知られている。すなわち、UBRは、UBRボックスドメインを介してタンパク質分解シグナルを認識し、タンパク質分解シグナルの認識を通じて、タンパク質の分解プロセスを行う。
【0039】
UBRによるタンパク質の分解プロセスは、以下の内容を含み得る。
UBRボックスドメインは、N末端分解シグナルを有する基質を認識し、ユビキチンが基質に結合し、ユビキチンが結合した基質がプロテアソームによって分解され得る。すなわち、N末端分解シグナルを有する基質が、ユビキチンプロテアソーム系(UPS)によって分解され得る。
【0040】
II.UBRボックスドメインリガンド
1.概要
II.UBRボックスドメインリガンド
1.概要
1)本明細書の化合物は、UBRボックスドメインの構造およびN末端経路基質への結合の特性を反映したものである。本明細書に開示されるUBRボックスドメインリガンドとしての化合物は、UBRボックスドメインの構造およびUBRボックスドメインとN末端経路基質との結合形態を考慮して設計されたものである。
【0041】
UBRボックスドメインに存在する様々なアミノ酸は、イオン相互作用、水素結合、疎水性相互作用等によってN末端経路基質中のアミノ酸と相互作用し、結合する。これらの結合様式を解析することにより、UBRボックスドメインと適切な結合様式を形成することができる低分子化合物が合成され、本明細書に提供される。さらに、式1による化合物を以下に提供する。
【0042】
2)本明細書の化合物は、UBRボックスドメインとの結合を向上させるコア構造を有する。
【0043】
【0044】
上記式1中、A1は、CH3またはNH2である。
【0045】
この場合、本明細書に開示される式1の化合物は、その立体異性体または塩の形態で存在してもよく、そのような化合物の異性体または塩の形態も本明細書の範囲に含まれる。
【0046】
2)化合物の具体例
i)化合物
一例として、本明細書に開示されるUBRボックスドメインリガンドとしての化合物は、以下に記載されるものから選択することができる:
[化合物1]
【化3】
[化合物2]
【化4】
この場合、化合物として、その考え得る異性体の形態、またはその混合物の形態を考慮してもよい。例えば、エナンチオマーおよびジアステレオマーを含むすべての立体異性体、またはそれらの混合物(例えば、ラセミ混合物)を考慮してもよい。
【0047】
ii)化合物の塩
本明細書に開示される化合物として、その塩の形態を考慮してもよい。この場合、塩には、薬学的に許容され得る塩が含まれる。本明細書に開示される塩としては、酸付加塩または塩基付加塩が挙げられる。塩を形成する例示的な酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、クエン酸、コハク酸およびグルタル酸等が挙げられ、また、塩を形成する例示的な塩基としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、メチルアミンおよびトリメチルアミン等が挙げられる。しかしながら、酸および塩基はこれに限定されるものではなく、当業者であれば容易に選択することができる。
【0048】
III.化合物の使用
1.UBRボックスドメイン基質結合の阻害
UBRボックスドメイン基質結合を阻害するための組成物本明細書に開示される化合物は、UBRボックスドメイン基質結合を阻害するための組成物の調製に使用することができる。一例として、本明細書に開示される化合物を含む組成物は、UBRボックスドメインに結合することによって、UBRボックスドメイン基質結合を阻害するために使用することができる。別の例として、本化合物を含む組成物は、UBRボックスドメインに結合して分解される基質が分解されるのを防止する用途のために使用することができる。具体例として、本化合物を含む組成物は、UBRボックスドメインに結合している基質がユビキチン-プロテアソーム経路によって分解されるのを防止する用途のために使用することができる。
【0049】
具体例として、本明細書に開示される化合物を含む組成物は、UBRボックスドメインに結合するN末端残基を有する基質の結合を阻害する用途のために使用することができる。具体例として、本明細書に開示される化合物を含む組成物は、アルギニン(Arg)、リジン(Lys)、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)、フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、ロイシン(Leu)およびイソロイシン(Ile)などのN末端残基を有する基質の結合を阻害する用途のために使用することができる。しかしながら、用途はこれに限定されるものではなく、当該該組成物は、当該技術分野においてUBRボックスドメインの基質として知られている物質の結合を阻害する用途のために使用することができる。
【0050】
実施例を参照すると、本明細書に開示される化合物は、UBRに結合することによって基質の分解を阻害することが確認できる(
図1、2および3を参照)。
【0051】
2.UBR関連疾患の処置
本明細書の化合物またはその塩は、UBRボックスドメインに結合する性質を有する。すなわち、本明細書の化合物は、UBRボックスドメインに結合するリガンドとして機能する化合物である。したがって、これらの化合物は、体内でUBRボックスドメインに結合することによって分解されるタンパク質の分解を阻害するために用いることができ、このようなメカニズムを使用してUBR関連疾患を処置することができる。
【0052】
1)医薬組成物
本明細書に開示される化合物は、処置を必要とする対象を処置するための医薬組成物の調製に使用することができる。
【0053】
この場合、処置には、特定の病状の症候を緩和する効果、または疾患の進行を遅延させる効果を有することが含まれる。この場合、対象には、ヒトおよび非ヒト動物が含まれる。この場合、医薬組成物は、前述の化合物とともに、薬学的に許容され得る担体、賦形剤および/または添加剤を含んでいてもよい。薬学的に許容され得る担体、賦形剤および添加剤としては、水、生理食塩水、グリコール、グリセロール、動植物油脂類、油、澱粉等が挙げられるが、これに限定されず、薬学的に許容され得る、当該技術分野で公知のすべての許容され得る担体、賦形剤および/または添加剤が含まれる。
【0054】
2)処置方法
本明細書は、本明細書に開示される化合物またはその薬学的に許容され得る塩を、投与を必要とする対象に投与する段階を含む、処置方法を提供する。この場合、化合物またはその薬学的に許容され得る塩の投与は、化合物またはその塩を投与しない対象者と比較して、特定の病状の症候を緩和する効果、または疾患の進行を遅延させる効果を有し得る。この場合、対象には、ヒトおよび非ヒト動物が含まれる。
【0055】
-UBR関連疾患
一例として、本明細書は、本化合物またはその薬学的に許容され得る塩を、UBR関連疾患を有する対象に投与する段階を含む処置方法を提供する。すなわち、本明細書に開示される化合物またはその薬学的に許容され得る塩は、UBR関連疾患を処置するために使用することができる。具体例として、本化合物またはその薬学的に許容され得る塩は、UBRボックスドメインに結合することによって分解されるタンパク質の分解を阻害することにより、処置対象となる特定の疾患を処置するために使用することができる。
【0056】
特定の疾患としては、筋ジストロフィー(ベッカー型、先天性型、デュシェンヌ型、遠位型、エメリー-ドレイフス型、顔面肩甲上腕型、肢帯型、筋緊張型、眼咽頭型)によって引き起こされる筋肉低下、サルコペニアもしくは癌悪液質を含む筋肉低下もしくは分解によって媒介される筋肉消耗疾患、脂肪肉腫、嚢胞性線維症、ヨハンソン・ブリザード症候群、閉塞性尿路疾患(尿道閉塞続発)、自己免疫性膵炎を含む過剰なタンパク質分解によって引き起こされる疾患、またはアッシャー症候群を含むUBRボックスおよびUBRタンパク質に関連する既知の疾患が挙げられる。一例として、本化合物またはその薬学的に許容され得る塩は、UBRによって媒介される筋肉低下を処置するために使用することができる。例えば、癌、敗血症および甲状腺機能亢進症などの病状に伴う筋肉量の早期減少は、筋肉内タンパク質の分解の増加と関連しており、これはユビキチンプロテアソーム系の活性化と関連することが知られている。この場合、特にN末端則経路の活性化によりユビキチン結合が増加し、その結果、筋肉低下が生じることが知られている[ALFRED L.GOLDBERGら、1998,1999]。それに応じて、本明細書に開示される化合物またはその薬学的に許容され得る塩は、UBRボックスドメインに結合することにより筋肉低下経路の活性化を防止することにより、疾患を処置するために使用することができる。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、特定の疾患には、当該技術分野においてUBRに関連する疾患として知られているすべての疾患が含まれる。
【0057】
V.実施例
実施例1.化合物の合成
[表1]
【0058】
化合物のリスト
【表1】
1H NMRスペクトルは、Bruker Avance III 400MHzおよびBruker Fourier 300MHzで記録し、内部標準としてTMSを用いた。LCMSは、Agilent 1260HPLCおよび6120MSDの四重極質量分析計で測定した(カラム:C18(50×4.6mm、5μm)ES(+)または(-)イオン化モードで操作;T=30℃;流速=1.5mL/min;検出波長:220nm、254nm。
実験例1-1
化合物1(N-(5-アセチル-2-クロロフェニル)-5-メトキシペンタンアミド)の調製
【化5】
段階1)B2の合成MeOH(100mL)中のB1(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン、5.00g、50mmol、1.0当量)とオルトギ酸トリメチル(10.6g、100mmol、2.0当量)との混合物に、濃H2SO4(3mL)を25℃で滴加した。この混合物を65℃で16時間撹拌した。溶媒を減圧下で濃縮した。8M 水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加え、この混合物を80℃で2時間撹拌した。10℃に冷却後、反応混合物を4N HClで酸性化し、EA(50mL×3)で抽出した。合わせた有機層をブラインで洗浄し、Na2SO4上で乾燥し、濃縮してB2(5-メトキシペンタン酸、4.0g、収率60%)を無色の油状物として得た。
【0059】
1HNMR(CDCl3,400MHz):δ3.41(t,J=6.0Hz,2H),3.34 (s,3H),2.39(t,J=7.6Hz,2H),1.62-1.74(m,4H)。
【0060】
段階2)化合物1の合成DMF(5mL)中のB2(5-メトキシペンタン酸、0.2g、1.52mmol、1.0当量)とHATU(0.69g、1.82mmol、1.2当量)との混合物を25℃で30分間撹拌した。次に、1-(3-アミノ-4-クロロフェニル)エタン-1-オン(0.26g、1.52mmol、1.0当量)およびトリエチルアミン(0.31g、0.30mmol、2.0当量)を加えた。この混合物を50℃で48時間撹拌した。この混合物を水(50mL) に注ぎ、EA(50 mL×3)で抽出した。合わせた有機層をブラインで洗浄し、Na2SO4上で乾燥し、濃縮して粗生成物を得て、これをprep-HPLCで精製した。回収した画分を濃縮し、大部分のCH3CNを除去した。残留画分を凍結乾燥して、化合物1(N-(5-アセチル-2-クロロフェニル)-5-メトキシペンタンアミド、38mg、収率8.8%)を白色の固形物として得た。
【0061】
1HNMR(CDCl3,400MHz):δ9.03(s,1H),7.84(s,1H),7.67(dd,J=8.4Hz,2Hz,1H),7.46(d,J=8.4Hz,1H),3.45(t,J=6.4Hz,2H),3.35(s,3H),2.61(s,3H),2.52(t,J=7.2Hz,2H),1.85-1.88(m,2H),1.69-1.73(m,2H)。
【0062】
LCMS;Mass Calcd.:283.7;MS Found:283.9。
【0063】
実験例1-2
化合物2(4-クロロ-3-(5-メトキシペンタンアミド)ベンズアミド)の調製
【化6】
DMF(5mL)中のB2(5-メトキシペンタン酸、0.2g、1.52mmol、1.0当量)とHATU(0.69g、1.82mmol、1.2当量)との混合物を25℃で30分間撹拌した。次に、3-アミノ-4-クロロベンズアミド(0.26g、1.52mmol、1.0当量)およびトリエチルアミン(0.31g、0.30mmol、2.0当量)を加えた。この混合物を50℃で48時間撹拌した。この混合物を水(50mL)に注ぎ、EA(50mL×3)で抽出した。合わせた有機層をブラインで洗浄し、Na2SO4上で乾燥させ、濃縮して粗生成物を得、これをprep-HPLCで精製した。回収した画分を濃縮し、大部分のCH3CNを除去した。残留画分を凍結乾燥して、化合物2(4-クロロ-3-(5-メトキシペンタンアミド)ベンズアミド、48mg、収率11.1%)を黄色の固形物として得た。
【0064】
1HNMR(CDCl3,400MHz):δ8.82(s,1H),7.89(s,1H),7.64(dd,J=8.4Hz,2Hz,1H),7.46(d,J=8.4Hz,1H),5.93-6.38(m,2H),3.45(t,J=6.0Hz,2H),3.36(s,3H),3.52(t,J=7.2Hz,2H),1.81-1.88(m,2H),1.66-1.73(m,2H)。
【0065】
LCMS; Mass Calcd.:284.7;MS Found:284.9。
【0066】
実施例2.結合アッセイ実験
実施例2-1 イムノブロット法を用いた、筋アクチンがArg/N-デグロン経路基質であるかどうかの確認
【0067】
ラット筋肉由来細胞であるL6細胞株を、10%FBSおよび1%ストレプトマイシン/ペニシリンを含むDMEM培地を用いて、5%二酸化炭素を維持したインキュベーター内で培養し、培養後の細胞を12ウェルプレートに分注した。さらに、細胞をプレート表面に完全に付着させるように24時間培養した。MG132がUBR1結合を増加させるかどうかを確認するために、MG132(10uM)単独で24時間処理した後、細胞を回収した。回収した細胞からタンパク質を抽出するため、各サンプルにライセート調製用緩衝液(20mM Tris、pH7.4、150mM NaCl、1%Triton-X-100、2mM NaF、2mM EDTA、2mM b-グリセロリン酸、5mM オルトバナジン酸ナトリウム、1mM PMSF、ロイペプチン、アプロチニン)50uLを注入し、細胞を溶解させた。測定した総タンパク質濃度に基づきサンプル用緩衝液を各サンプルに加え、混合物を100℃で5分間反応させた。完全に反応したサンプルから5uLを採取し、アクリルアミドゲルの各ウェルに分注した後、イムノブロット法を行い、その実験結果を[
図1]に示す。
【0068】
イムノブロット法では、3つまたはそれを超える独立した実験から代表的な実験を模式化した。
【0069】
図1を参照すると、MG132により、ACTA1、ACTC1およびACTG2のレベルが対照と比較して増加することが確認された。さらに、UBRタンパク質をノックダウンすると、ACTA1およびACTG2のレベルが増加することが確認された。すなわち、筋アクチンはArg/N-デグロン経路の基質であることを確認できた。
【0070】
実施例2-2 試験管内転写/翻訳法によるR-nsP4分解阻害の確認TnT(登録商標)Quick Coupled Transcription/Translation Systemキットを用いて、化合物のR-nsP4発現を確認した。Transcend Biotin-Lysyl-tRNA、メチオニン、ベスタチン、TnTquick Master mixおよびDHFR-Ub-R-nsP4プラスミドを用いてプレミックスを作製した後、プレミックスに化合物(1uM)を混合した。各サンプルを30℃で40分間反応させた後、そこに5X SDSローディング色素を加えた。得られた混合物を95℃で2分間反応させた後、5uLを採取してアクリルアミドゲルの各ウェルに分注し、次にイムノブロット法を行い、その実験結果を[
図2]に示す。試験管内転写/翻訳法では、3回またはそれを超える独立した実験から代表的な実験を模式化した。
【0071】
図2を参照すると、化合物1、2によって、対照と比較してR-nsP4のレベルが増加することが確認できる。すなわち、本発明による化合物で処理した場合、UBR1に結合することにより、R-nsP4レベルが増加することが確認できた。
【0072】
実施例2-3 イムノブロット法による筋肉細胞のアクチン分解阻害の評価
筋肉細胞における化合物のアクチン分解を評価するため、ラット筋肉由来細胞であるL6細胞株を、10%FBSおよび1%ストレプトマイシン/ペニシリンを含むDMEM培地を用いて、5%二酸化炭素を維持したインキュベーター内で培養した。本化合物から選択される代表的な化合物による処理に応じたUBR1結合強度を測定するために、細胞を12ウェルプレートに分注した。細胞をプレート表面に完全に付着させるようにさらに24時間培養した。化合物(5uM)単独で24時間処理した後に細胞を回収し、化合物がUBR1結合を増加させるかどうかを確認した。回収した細胞からタンパク質を抽出するため、各サンプルにライセート調製用緩衝液(20mM Tris、pH7.4、150mM NaCl、1%Triton-X-100、2mM NaF、2mM EDTA、2mM b-グリセロリン酸、5mM オルトバナジン酸ナトリウム、1mM PMSF、ロイペプチン、アプロチニン)50uLを注入し、細胞を溶解させた。測定した総タンパク質濃度に基づきサンプル用緩衝液を各サンプルに加え、混合物を100℃で5分間反応させた。完全に反応したサンプルから5uLを採取し、アクリルアミドゲルの各ウェルに分注した後、イムノブロット法を行い、その実験結果を[
図3]に示す。イムノブロット法では、3つまたはそれを超える独立した実験から代表的な実験を模式化した。
【0073】
図3を参照すると、化合物1、化合物2により、ACTA1のレベルが対照と比較して増加することを確認できた。すなわち、本発明による化合物で処理した場合、UBR1に結合することにより、筋肉内タンパク質ACTA1の分解が阻害されることが確認できた。
【0074】
実施例2-4 MSTを用いたUBR1と化合物との結合の有無の測定
1)UBR1タンパク質の調製
ヒトUBR1(UniProt ID:Q8IWV7)のUBRボックスに相当するGln97-Pro168部分を、改変した発現ベクターにクローニングし、次に大腸菌で発現させた。アフィニティークロマトグラフィーを用いた後、プロテアーゼでタグを除去し、次にN末端にGly-His-Metを付加した。イオンクロマトグラフィーを行った後、最終的にUBR1のUBRボックスタンパク質をゲル濾過クロマトグラフィーを用いて、10mM NaCl、20mM Tris-HCl、2mM β-メルカプトエタノールの緩衝液組成、およびpH7.5で精製した。
【0075】
2)UBR1 UBRボックスタンパク質のラベル化Monolith protein labeling kit RED-NHS 2nd generation(カタログ番号MO-L011)の色素は、第一級アミン(リジン残基)と共有結合を形成するNHSエステル基を有する。この色素は、RED検出器を搭載したMonolithシリーズデバイス用に最適化されている。精製したUBR1 UBRボックスタンパク質を、このキットを用いて提示されたプロトコルに従ってラベル化した。
【0076】
3)MSTを用いたUBR1とリガンドとの結合の有無の測定
熱泳動とは、温度勾配によって粒子が移動する現象を指す。高温領域に存在する粒子は低温領域に存在する粒子よりも運動エネルギーが大きく、より大きなエネルギーを持つ周囲の粒子と衝突する頻度が高くなる。その結果、粒子は高温領域から低温領域へ移動する。
【0077】
タンパク質の熱泳動は、通常、タンパク質-リガンド複合体の熱泳動とは異なる。これは、リガンドが結合することで、そのサイズ、電荷および溶媒和エネルギーが変化するためである。さらに、MSTは、リガンド結合によりタンパク質のサイズおよび電荷が大きく変化しなくても、リガンド結合によって引き起こされるタンパク質分子の溶媒エントロピーの変化を検出することができる。したがって、MSTを用いてUBR1 UBRボックスタンパク質とリガンド化合物との結合を測定したところ、提示されたリガンドがUBR1 UBRボックスに結合することが確認された。
【手続補正書】
【提出日】2023-05-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1:
[式1]
【化7】
の構造を有する化合物
またはその塩であって、
式中、A
1はCH
3またはNH
2である、化合物またはその塩。
【請求項2】
UBRボックスドメイン基質結合を阻害するための組成物であって、前記組成物が請求項1に記載の化合物またはその塩を含む、組成物。
【請求項3】
UBR関連疾患を処置するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容され得る塩を含む、医薬組成物。
【請求項4】
前記UBR関連疾患が、筋ジストロフィー(ベッカー型、先天性型、デュシェンヌ型、遠位型、エメリー-ドレイフス型、顔面肩甲上腕型、肢帯型、筋緊張型、眼咽頭型)によって引き起こされる筋肉低下、サルコペニアもしくは癌悪液質を含む筋肉低下もしくは分解によって媒介される筋肉消耗疾患、脂肪肉腫、嚢胞性線維症、ヨハンソン・ブリザード症候群、閉塞性尿路疾患(尿道閉塞続発)、自己免疫性膵炎を含む過剰なタンパク質分解によって引き起こされる疾患、またはアッシャー症候群を含むUBRボックスおよびUBRタンパク質に関連する既知の疾患を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【国際調査報告】