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  • 特表-アノードレスリチウム電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-30
(54)【発明の名称】アノードレスリチウム電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20230523BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230523BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230523BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230523BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230523BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230523BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230523BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20230523BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20230523BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20230523BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20230523BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20230523BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/052
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/131
H01M10/0568
H01M10/0567
H01M50/414
H01M50/423
H01M50/417
H01M50/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563912
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(85)【翻訳文提出日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2021056900
(87)【国際公開番号】W WO2021213743
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】20170844.3
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー, ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ハフ, ローレンス アラン
(72)【発明者】
【氏名】リー, ヒョンチョル
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ヒスン
(72)【発明者】
【氏名】リー, スヨン
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021EE02
5H021EE04
5H021EE06
5H021EE07
5H021EE08
5H021HH01
5H021HH04
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ04
5H029DJ13
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ07
5H029HJ10
5H029HJ19
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050DA19
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA19
(57)【要約】
本発明は、a)カソード集電体とカソード集電体上のカソード電気活性物質とを含むカソード;b)アノード集電体;c)a)カソードとb)アノード集電体との間の液体電解質組成物;及びd)セパレータ;を含むアノードレスリチウムイオン電池であって、c)液体電解質組成物が、i)電解質組成物の総体積に対して少なくとも70体積%(vol%)の、少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物とを含む溶媒混合物、及びii)少なくとも1種のリチウム塩、を含む、アノードレスリチウムイオン電池に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)カソード集電体とカソード集電体上のカソード電気活性物質とを含むカソード;
b)アノード集電体;
c)a)カソードとb)アノード集電体との間の液体電解質組成物;及び
d)セパレータ;
を含むアノードレスリチウムイオン電池であって、前記c)液体電解質組成物が、i)前記電解質組成物の総体積に対して少なくとも70体積%(vol%)の、少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物とを含む溶媒混合物、及びii)少なくとも1種のリチウム塩、を含む、アノードレスリチウムイオン電池。
【請求項2】
前記溶媒混合物が、前記溶媒混合物の総体積に対して、
- 60~90体積%の少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、
- 10~40体積%の少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物と、
を含む、請求項1に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記溶媒混合物が、前記溶媒混合物の総体積に対して、
- 80~90体積%の少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、
- 10~20体積%の少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物と、
を含む、請求項1又は2に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記フッ素化エーテル化合物が、Cの化学式を有し、式中のa、b、c及びdは全て整数であり、dは1~3の整数であり、aは3~10、好ましくは4~7の整数であり、2*(a+1)=b+cである、請求項1~3のいずれか一項に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記フッ素化エーテル化合物が、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)及びCFHCF-OCHCHO-CFCFHを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記非フッ素化エーテル化合物が、ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジオキソラン(DOL)、ジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGDEE)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)、2-メチルテトラヒドロフラン、及びテトラヒドロフラン(THF)を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記カソード電気活性物質が、LiMQ(MはCo、Ni、Fe、Mn、Cr、及びVから選択される少なくとも1つの金属であり、QはO又はSである);LiNiCo1-x(0<x<1);スピネル構造のLiMn;式LiNiMnCo(x+y+z=1)のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト系金属酸化物、式LiNiCoAl(x+y+z=1)のリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム系金属酸化物、及びLiFePOからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【請求項8】
前記カソード電気活性物質が、1.0mAh/cm~10.0mAh/cm、好ましくは3.0mAh/cm~8.0mAh/cm、より好ましくは4.0mAh/cm~7.0mAh/cmの面積容量を有するようにカソード集電体上に担持される、請求項1~7のいずれか一項に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【請求項9】
前記リチウム塩が、
a)LiN(SOF)((リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LiFSI)、LiN(CFSO(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:LiTFSI)、LiPF、LiBF、LiClO、Liビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、LiCFSO、LiF、LiCl、LiBr、LiI、LiN(CSO、LiN(CFSO)(RSO)(式中、Rは、C、C、又はCFOCFCFである)、LiAsF、LiC(CFSO3、LiS;
【化1】
(式中、R’は、F、CF、CHF、CHF、CHF、C、C、C、C、C、C、C、C、C、C11、COCF、COCF、COCF及びCFOCFからなる群から選択される)、及び
c)それらの組み合わせ
からなる群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【請求項10】
前記リチウム塩の濃度が1M~8M、好ましくは1M~3M、より好ましくは1M~2Mである、請求項1~9のいずれか一項に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【請求項11】
前記d)セパレータが、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートなど)、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン(ポリエチレン及びポリプロピレンなど)又はそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む多孔質高分子材料である、請求項1~10のいずれか一項に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【請求項12】
前記液体電解質組成物の総重量に対して0.05~10.0重量%の少なくとも1種の膜形成添加剤、好ましくは0.05~5.0重量%の少なくとも1種の膜形成添加剤、より好ましくは0.05~2.0重量%の少なくとも1種の膜形成添加剤をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【請求項13】
前記膜形成添加剤が、1,3-プロパンスルトン(PS)、エチレンサルファイト(ES)、及びプロプ-1-エン-1,3-スルトン(PES)を含む環状サルファイト及び環状サルフェート;ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン(別名スルホラン)、エチルメチルスルホン、及びイソプロピルメチルスルホンを含むスルホン誘導体;スクシノニトリル、アジポニトリル、及びグルタロニトリルを含むニトリル誘導体;硝酸リチウム(LiNO);リチウムジフルオロオキサラトボレート(LiDFOB)、リチウムフルオロマロナト(ジフルオロ)ボレート(LiFMDFB)などのホウ素誘導体塩;酢酸ビニル、ビフェニルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、トリフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィナイト、トリエチルホスファイト、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファイト、無水マレイン酸、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、モノフッ素化エチレンカーボネート(4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン)、ジフッ素化エチレンカーボネート、セシウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(CsTFSI)、フッ化セシウム(CsF)、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項12に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【請求項14】
前記膜形成添加剤がイオン液体である、請求項12に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【請求項15】
前記イオン液体が、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PYR13FSI)、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PYR14FSI)、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PYR13TFSI)、及びN-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PYR14TFSI)からなる群から選択される、請求項14に記載のアノードレスリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年4月22日に出願された欧州特許出願第20170844.3号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、a)カソード集電体とカソード集電体上のカソード電気活性物質とを含むカソード;b)アノード集電体;c)a)カソードとb)アノード集電体との間の液体電解質組成物;及びd)セパレータ;を含むアノードレスリチウムイオン電池であって、c)液体電解質組成物が、i)電解質組成物の総体積に対して少なくとも70体積%(vol%)の、少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物とを含む溶媒混合物、及びii)少なくとも1種のリチウム塩、を含む、アノードレスリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、軽量であり、適度なエネルギー密度を有し、且つ良好なサイクル寿命を有することなどの多くの利点のため、20年超にわたり、充電式エネルギー貯蔵デバイスの市場で支配的な地位を維持してきた。それにもかかわらず、現行のリチウムイオン電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、グリッドエネルギー貯蔵などの高出力用途で増加している必要なエネルギー密度に関して、エネルギー密度が比較的低いという問題を依然として抱えている。
【0004】
一般的に、リチウムイオン電池は、アノード集電体、アノード材料、電解質、セパレータ、カソード材料、カソード集電体、及びハウジングなどの様々な構成要素を有する。リチウムイオン電池には様々な部品が使用されるため、リチウムイオン電池は多くの工程を経て製造される。リチウムイオン電池のアノードは、一般的に、電気活性物質をアノード集電体上に塗布して、活物質と導電性材料とバインダーとを含み得る活物質層を製造することによって形成される。
【0005】
アノード材料としてリチウム金属を採用することは、1970年代から公知であった。実際、リチウム金属は、酸化還元電位が低く、比容量が大きい、すなわち約3861mAhg-1であるため、好ましい特性を有している。しかしながら、これらのセルは、次の2つの主な欠点のため商業的な成功を収めていない:
【0006】
第1に、セルの作動中にリチウム金属デンドライトが形成される可能性がある。それらはセル内に蓄積する傾向があり、セパレータに穴を開け、内部短絡を引き起こし、発熱させて火災や爆発をもたらす可能性がある。
【0007】
第2に、最初のサイクル中に固体電解質界面(SEI)層がアノード表面に形成され、クーロン効率が大幅に低下し、セル抵抗が増加する。このような低いクーロン効率は、過剰量のLi金属を有することによって部分的に補われる可能性があるものの、デンドライトの成長に関連する安全上のリスクが高い電池の不具合は、業界で大きな障害となっている。
【0008】
したがって、リチウムデンドライト形成を低減又は抑制し、セルのサイクル性能を改善するという観点から、様々な研究努力が行われてきた。
【0009】
液体電解質の代わりに固体電解質を使用することが検討されてきた。例えば、S.Liuらは、Journal of Power Sources,195,6847(2010)の中で、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミドLiN(CFSO(LiTFSI)を含むポリエチレンオキシドPEO18のリチウムイオン伝導性ポリマー電解質を含むリチウム電気化学セルについて記載している。しかしながら、液体電解質よりも少ない程度ではあるものの、そのような固体ポリマーでも短絡が観察された。さらに、室温で高い導電率を示すポリマー電解質はまだ報告されていない。
【0010】
Hydro-Quebecと3Mは、最近、ポリマー電解質と、薄いリチウム箔から作られたアノードと、電気活性物質としての酸化バナジウムを含むカソードとを含むリチウム電気化学セルを開発した。しかしながら、これらのセルで事故が報告されており、これはおそらく充電プロセス中のデンドライトの形成が原因であった。
【0011】
液体電解質の代わりに固体電解質を使用することも検討されてきた。例えば、R.Sudoらは、Solid State Ionics,262,151(2014)において、リチウムアノードを含む電気化学セルの固体電解質として、AlがドープされたLiLaZr12を使用することについて説明している。しかしながら、この場合もやはりリチウムデンドライトが観察された。
【0012】
リチウムデンドライトの形成を防止するための多くのアプローチは、アノード上の不動態化層の安定性と均一性を改善することに焦点を当ててきた。例えば、D.AurbachらはSolid State Ionics,148,405(2002)の中で、及びH.OtaらはElectrochimica Acta,49,565(2004)の中で、CO、SO、炭酸ビニレンなどの添加剤が不動態化層の安定性の向上に役立つことを報告している。しかしながら、これらの添加剤はセルの動作中に消費される。そのため、デンドライト形成の問題に対する長期的な解決手段とはならない。
【0013】
液体電解質の組成を変更することからなるいくつかのアプローチも存在する。
【0014】
例えば、リチウムデンドライト形成を抑制するために、ジメトキシエタン(DME)-1,3ジオキソラン(DOL)(1:1 v:v)中のLiTFSIの高リチウム塩濃度の液体電解質を使用することが、L.SuoらによってNature Communications,DOI:10.1038/ncomms2513(2013)の中で説明されている。
【0015】
デンドライト成長を伴わずにリチウム金属電極の高レートサイクルを可能にするために、ジメトキシエタン(DME)-1,3ジオキソラン(DOL)(1:1 v:v)中のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLiN(FSO(LiFSI)の高リチウム塩濃度の液体電解質を使用することは、J. Qianらによって、Nature Communications, DOI:10.1038/ncomms7362(2015)の中で説明されている。
【0016】
H.Wangらは、ChemElectroChem,2,1144(2015)において、アノードとしてのリチウム金属と、電解質としてのテトラグライム(G4)及びLiFSIの溶媒和イオン液体と、を含むセルが優れたサイクル性能を示すことを報告している。
【0017】
アノードの表面でのリチウムデンドライトの成長に対する改善策を見出すための別のアプローチは、アノードレスチウムイオン電池である。アノードレス電池では、エネルギー密度は、充電により作られるリチウムめっきに起因するアノードの厚さの増加を考慮しても、従来のリチウムイオン電池のエネルギー密度よりも大幅に大きくなる可能性がある。
【0018】
この点に関し、構造の違いに加えて、リチウム金属電池とアノードレス電池の主な違いとしては以下のことが挙げられる:
i)アノードレス電池の充電/放電メカニズムは、アノードがないことにより従来の充電式電池とは完全に異なる。アノードレス電池では、リチウム箔も他のアノードも使用されないものの、アノード集電体上のリチウム金属は、例えばLiCoO、NCMs(LiNixCoyMnzO)などのリチウム遷移金属酸化物から得られるため、カソードにはリチウムが絶対に必要である。より具体的には、カソード電解質に浸したセパレータから抽出されたリチウムイオンは、アノード集電体の表面に電気めっきされ、充電プロセス中に電気化学的に安定な固体電解質界面(SEI)と一緒に堆積リチウムを形成する。堆積したリチウムは、放電のために利用可能な唯一のリチウム源である。この理由から、リチウム金属電池でしばしば引き起こされる安全上の問題は、アノード側に活性なリチウム源がないため大幅に低減される;
ii)アノードレス電池の電気化学プロセスの動力学はリチウム電池とは異なる。すなわち、アノードレス電池では最初の充電でリチウムがカソードからアノード集電体の裸の表面に直接めっきされる一方で、リチウム金属電池ではリチウムはリチウム箔上に堆積し、これによってデンドライトの成長が容易に引き起こされる。さらに、従来の液体電解質との副反応は、より一層深刻になってきている。これは最終的にSEI層の破壊と修復を繰り返すことによってアノードの膨張をもたらし、工業化を妨げる。
【0019】
今のところ、そのようなアノードを含まないセルでは、粘度が低くイオン伝導率が高いカーボネート系電解質やエーテル系電解質などの従来の液体電解質が使用されている。これらの液体電解質は、サイクルの開始時に分解して不動態化層を形成し、これによってデンドライトの成長が生じ、電解質と堆積した反応性リチウムイオンとの間のさらなる副反応も引き起こされる。これは、アノードを含まないセルの商業化を妨げる重大な問題の1つであった。したがって、アノードレス電池の様々な利点にもかかわらず、リチウムめっき/除去プロセスの根本的な問題から生じるこれらの課題のため、当業者は、低い過電圧で均一な電場を持つアノード集電体の新しい設計や、適切な溶媒、添加剤、塩などを最適な濃度で選択することによって安定且つ強固なSEI層の形成を誘導するために電解質を最適化することによるSEI層のエンジニアリングなど、より多様な戦略を検討することを強いられてきた。言い換えると、最初の充電プロセスの後、アノードレス電池はリチウム金属電池として動作するものの、これは、リチウム金属電池のセル全体の構造、動作メカニズム、及び最適な電解質がアノードレス電池のものと同一であることを意味しない。したがって、デンドライトの成長及び液体電解質とリチウムめっきされたアノードとの間の副反応を最小限に抑えながらも改善されたセル性能を有するアノードレスリチウムイオン電池、並びにアノードレス電池の優れたセル性能を維持しながらもそのような欠点を軽減することができる液体電解質が依然として求められている。
【発明の概要】
【0020】
本発明は、
a)カソード集電体とカソード集電体上のカソード電気活性物質とを含むカソード;
b)アノード集電体;
c)a)カソードとb)アノード集電体との間の液体電解質組成物;及び
d)セパレータ;
を含むアノードレスリチウムイオン電池であって、c)液体電解質組成物が、i)電解質組成物の総体積に対して少なくとも70体積%(vol%)の、少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物とを含む溶媒混合物、及びii)少なくとも1種のリチウム塩、を含む、アノードレスリチウムイオン電池に関する。
【0021】
驚くべきことに、本発明者らは、アノードレスリチウムイオン電池内で本発明による液体電解質組成物を使用することによって、上述した技術的問題を解決できることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】3.6~4.2V(0.2C/0.5C)における、E1~E2及びCE1~CE4の電解質組成物を含むNCM523/Cuセルのサイクル保持率(%)を示す。
図2】3.6~4.2V(0.2C/0.5C)における、E1~E2及びCE1~CE4の電解質組成物を含むNCM523/Cuセルのクーロン効率対サイクル数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
本明細書の全体にわたり、文脈上他の意味に解すべき場合を除いて、語「含む(comprise)」若しくは「包含する(include)」又は「含む(comprises)」、「含んでいる」、「包含する(includes)」、「包含している」などの変形は、述べられた要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の包含を意味するが、任意の他の要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の排除を意味しないと理解される。好ましい実施形態によれば、語「含む」及び「包含する」並びにそれらの変形は、「のみからなる」を意味する。
【0024】
本明細書において用いる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、文脈がそうでないと明確に示さない限り、複数態様を包含する。用語「及び/又は」は、意味「及び」、「又は」及びまたこの用語と関係した要素の他の可能な組合せを全て包含する。
【0025】
用語「~」は、限界点を含むと理解されるべきである。
【0026】
本明細書で使用される「アルキル」基には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどの直鎖アルキル基;シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチルなどの環状アルキル基(又は「シクロアルキル」、若しくは「脂環式」、若しくは「炭素環式」基);イソプロピル、tert-ブチル、sec-ブチル及びイソブチルなどの分岐鎖アルキル基;並びにアルキル置換シクロアルキル基及びシクロアルキル置換アルキル基などのアルキル置換アルキル基を含む、1つ以上の炭素原子を有する飽和炭化水素が含まれる。
【0027】
「脂肪族基」という用語は、1~18個の炭素原子を典型的に有する、直鎖又は分岐鎖を特徴とする有機部分が含まれる。複雑な構造においては、鎖は分岐、橋かけしていてもよく、又は架橋していてもよい。脂肪族基には、アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基が含まれる。
【0028】
本明細書で使用される有機基に関する用語「(C~C)」(式中、n及びmは、それぞれ整数である)は、この基が、1つの基当たりn個の炭素原子~m個の炭素原子を含有し得ることを示す。
【0029】
比、濃度、量及び他の数値データは、本明細書では、範囲形式で示され得る。そのような範囲形式は、単に便宜上及び簡潔さのために用いられることと、範囲の限界点として明示的に列挙された数値を包含するのみならず、それぞれの数値及び部分範囲が明示的に列挙されるかのように、その範囲内に包含される個々の数値又は部分範囲を全て包含すると柔軟に解釈されるべきであることとが理解されるべきである。例えば、約120℃~約150℃の温度範囲は、約120℃~約150℃の明示的に列挙された限界点のみならず、125℃~145℃、130℃~150℃等などの部分範囲並びに例えば122.2℃、140.6℃及び141.3℃など、明記された範囲内の小数量などの個々の量も包含すると解釈されるべきである。
【0030】
別段の明記がない限り、本発明との関係おいて、組成物中の成分の量は、成分の体積と組成物の総体積との比率に100を掛けたもの、すなわち体積%(vol%)、又は成分の重量と組成物の総重量との比率に100を掛けたもの、すなわち重量%(wt%)として示される。
【0031】
本発明による、a)カソード集電体とカソード集電体上のカソード電気活性物質とを含むカソード;b)アノード集電体;c)液体電解質組成物;及びd)セパレータ;を含むアノードレスリチウムイオン電池の構成要素は、以降で詳細に説明される。前述の概要及び以下の詳細な説明の両方は、例示であり、特許請求される本発明のさらなる説明を提供することを意図していることが理解されるべきである。したがって、本明細書に記載される様々な変更形態及び修正形態は、当業者に明らかであろう。さらに、明確且つ簡潔にするために、周知の機能及び構造の説明は、省略されている場合がある。
【0032】
本発明は、
a)カソード集電体とカソード集電体上のカソード電気活性物質とを含むカソード;
b)アノード集電体;
c)a)カソードとb)アノード集電体との間の液体電解質組成物;及び
d)セパレータ;
を含むアノードレスリチウムイオン電池であって、c)液体電解質組成物が、i)電解質組成物の総体積に対して少なくとも70体積%(vol%)の、少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物とを含む溶媒混合物、及びii)少なくとも1種のリチウム塩、を含む、アノードレスリチウムイオン電池に関する。
【0033】
一実施形態では、本発明による溶媒混合物は、溶媒混合物の総体積に対して、
- 60~90体積%の少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、
- 10~40体積%の少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物と、
を含む。
【0034】
別の実施形態では、本発明による溶媒混合物は、溶媒混合物の総体積に対して、
- 80~90体積%の少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、
- 10~20体積%の少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物と、
を含む。
【0035】
一実施形態では、本発明による溶媒混合物は、有機カーボネートを含まない。
【0036】
有機カーボネートの非限定的な例としては、特に、エチレンカーボネート(1,3-ジオキソラン-2-オン)、プロピレンカーボネート、4-メチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジメチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、プロピルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート、ブチレンカーボネート、一及び二フッ化プロピレンカーボネート、及び一及び二フッ化ブチレンカーボネート、3,3,3-トリフルオロプロピレンカーボネート、フッ素化ジメチルカーボネート、フッ素化ジエチルカーボネート、フッ素化エチルメチルカーボネート、フッ素化ジプロピルカーボネート、フッ素化ジブチルカーボネート、フッ素化メチルプロピルカーボネート、及びフッ素化エチルプロピルカーボネートが挙げられる。
【0037】
本発明において、「フッ素化エーテル化合物」という用語は、少なくとも1つの水素原子がフッ素によって置き換えられたエーテル化合物を意味することが意図されている。1つ、2つ、3つ、又はそれ以上の数の水素原子がフッ素で置き換えられていてもよい。
【0038】
本発明において、フッ素化エーテル化合物には、フッ素化モノエーテル化合物、フッ素化ジエーテル化合物、及びフッ素化トリエーテル化合物が含まれる。
【0039】
一実施形態では、本発明によるフッ素化エーテル化合物は脂肪族化合物である。
【0040】
一実施形態では、フッ素化エーテル化合物はCの化学式を有し、式中のa、b、c及びdは全て整数であり、dは1~3の整数であり、aは3~10、好ましくは4~7の整数であり、2*(a+1)=b+cである。
【0041】
好ましい実施形態では、フッ素化エーテル化合物は、以下からなる群から選択される:
i)1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)、1,1,3,3-テトラフルオロ-1-(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)プロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロ-3-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)プロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロ-3-(1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ)プロパン、1,1’-オキシビス(1,1,2,2-テトラフルオロエタン)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)プロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロ-3-(フルオロメトキシ)-2-(トリフルオロメチル)プロパン、2,2-ジフルオロ-2-メトキシ-1,1-ビス(トリフルオロメチル)エタン、2-(エトキシジフルオロメチル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(ジフルオロプロポキシメチル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1-ビス(ジフルオロメトキシ)-1,2,2,2-テトラフルオロエタン、1,1,2,2-テトラフルオロ-3-(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)プロパン、1-(2,2-ジフルオロエトキシ)-1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1,2,2,3-ペンタフルオロ-3-(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)プロパン、1-(3,3-ジフルオロプロポキシ)-1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1-[ジフルオロ(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)メトキシ]-1,1,2,2,2-ペンタフルオロエタン、1,1’-[(ジフルオロメチレン)ビス(オキシ)]ビス(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエタン)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-フルオロメトキシメトキシプロパン、ペンタフルオロ[1,2,2,2-テトラフルオロ-1-(トリフルオロメトキシ)エトキシ]エタン、1,1,2,3,3-ペンタフルオロ-1,3-ジメトキシプロパン、1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロ-1-メトキシ-3-トリフルオロメトキシプロパン、1,1’-[(ジフルオロメチレン)ビス(オキシ)]-ビス(2,2,2-トリフルオロエタン)、1,2-ビス(ジフルオロメトキシ)-1,1,2,2-テトラフルオロエタン、[2-(ジフルオロメトキシ)-1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ]ジフルオロメタン、1-[ジフルオロ(トリフルオロメトキシ)メトキシ]-1,1,2,2-テトラフルオロ-2-メトキシエタン、1-(ジフルオロメトキシメトキシ)-1,1,2,2-テトラフルオロ-2-(トリフルオロメトキシ)エタン、1-[(ジフルオロメトキシ)ジフルオロメトキシ]-1,1,2,2-テトラフルオロ-2-メトキシエタン、及び1-(ジフルオロメトキシ)-2-[(ジフルオロメトキシ)ジフルオロメトキシ]-1,1,2,2-テトラフルオロエタン;
ii)一般式(A)で表される化合物
【化1】
(式中、XはH又はFである);並びに
iii)これらの混合物。
【0042】
より好ましい実施形態では、フッ素化エーテル化合物には、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)及びCFHCF-OCHCHO-CFCFHが含まれる。
【0043】
本発明において、用語「非フッ素化エーテル化合物」は、フッ素原子が存在しないエーテル化合物を意味することが意図されている。
【0044】
本発明による適切な非フッ素化エーテル化合物の非限定的な例としては、特に以下のものが挙げられる:
- 脂肪族、脂環式、又は芳香族のエーテル、より具体的には、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジオキソラン(DOL)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、及びジフェニルエーテル;
- エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGME)、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGDEE)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGME)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)などのグリコールエーテル;
- エチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルエステル。
【0045】
好ましい実施形態では、本発明による非フッ素化エーテル化合物は、ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジオキソラン(DOL)、ジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGDEE)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)、2-メチルテトラヒドロフラン、及びテトラヒドロフラン(THF)を含む。
【0046】
より好ましい実施形態では、非フッ素化エーテル化合物は、DMEとDOLとの混合物である。
【0047】
より好ましい実施形態では、非フッ素化エーテル化合物はDMEである。
【0048】
本発明において、「アノードレスリチウムイオン電池」という用語は、特に、電池が組み立てられ最初に充電される前にアノード集電体上にアノード電気活性物質を含まないリチウムイオン電池を意味することが意図されている。最初の充電後、アノードレスリチウムイオン電池は、アノード集電体上にリチウム金属薄層又はリチウム合金薄層のいずれかを含む。すなわち、アノードレスリチウムイオン電池は負極を有するが、製造時には明らかなアノードレス電気活性物質がリチウムイオン電池内に存在しないため、「アノードレス」という用語が使用される。
【0049】
本発明では、「アノード」という用語は、特に、放電中に酸化が起こる電気化学セルの電極を表すことが意図されている。
【0050】
本発明では、「カソード」という用語は、特に、放電中に還元が起こる電気化学セルの電極を表すことが意図されている。
【0051】
本発明において、「集電体」の性質は、それによって提供される電極がカソードであるかアノードであるかに依存する。本発明の電極がカソードである場合、集電体は、典型的には、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、及びそれらの合金からなる群から選択される少なくとも1つの金属、好ましくはAlを含み、好ましくはこれらから構成される。本発明の電極がアノードである場合、集電体は、典型的には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、及びそれらの合金からなる群から選択される少なくとも1つの金属、好ましくはCuを含み、好ましくはこれらから構成される。
【0052】
本発明において、「電気活性物質」という用語は、電池の充電段階及び放電段階の間に、その構造に組み込み又は挿入することができ、そこからリチウムイオンを実質的に放出することができる電気活性物質を意味することが意図されている。
【0053】
アノードレスリチウムイオン電池用のカソードを形成する場合、カソード電気活性物質は特に限定されない。これは、式LiMQ(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びVなどの遷移金属から選択される少なくとも1つの金属であり、Qは、OやSなどのカルコゲンである)の複合金属カルコゲニドを含み得る。これらの中でも、式LiMO(式中、Mは、上で定義したものと同じものである)のリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。それらの好ましい例としては、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1-x(0<x<1)及びスピネル構造化LiMnが挙げられ得る。その別の好ましい例としては、式LiNiMnCoのリチウム-ニッケル-マンガン-コバルトに基づく酸化物(x+y+z=1、NMCと呼ばれる)、例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.6Mn0.2Co0.2及び式LiNiCoAlのリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウムに基づく金属酸化物(x+y+z=1、NCAと呼ばれる)、例えばLiNi0.8Co0.15Al0.05が挙げられ得る。
【0054】
代替形態として、アノードレスリチウムイオン電池のためのカソードを形成する場合にはさらに、カソード電気活性化合物は、式M(JO1-f(式中、Mは、リチウムであり、M金属の20%未満に対応する別のアルカリ金属によって部分的に置換され得、Mは、Fe、Mn、Ni又はこれらの混合物から選択される+2の酸化レベルの遷移金属であり、0を含めてM金属の35%未満に対応する、+1~+5の酸化レベルの1つ以上のさらなる金属によって部分的に置換され得、JOは、任意のオキシアニオンであり、Jは、P、S、V、Si、Nb、Mo又はこれらの組み合わせのいずれかであり、Eは、フルオリド、ヒドロキシド又はクロリドアニオンであり、fは、通常0.75~1に含まれるJOオキシアニオンのモル分率である)のリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電気活性物質を含み得る。
【0055】
上で定義されたようなM(JO1-f電気活性物質は、好ましくは、ホスフェート系であり、規則正しい又は改質されたかんらん石構造を有し得る。
【0056】
より好ましくは、カソード電気活性物質は、式Li3-xM’M’’2-y(JO(式中、0≦x≦3であり、0≦y≦2であり、M’及びM’’は、同一であるか又は異なる金属であり、それらの少なくとも1つは遷移金属であり、JOは、好ましくは、別のオキシアニオンで部分的に置換され得るPOであり、Jは、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組み合わせのいずれかである)を有する。さらに好ましくは、電気活性物質は、式Li(FeMn1-x)PO(式中、0≦x≦1であり、xは好ましくは1である(すなわち式LiFePOのリチウム鉄ホスフェートである))のホスフェート系の電気活性物質である。
【0057】
好ましい実施形態では、カソード電気活性物質は、LiMQ(MはCo、Ni、Fe、Mn、Cr、及びVから選択される少なくとも1つの金属であり、QはO又はSである);LiNiCo1-x(0<x<1);スピネル構造のLiMn;式LiNiMnCo(x+y+z=1)のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト系金属酸化物、式LiNiCoAl(x+y+z=1)のリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム系金属酸化物、及びLiFePOからなる群から選択される。
【0058】
一実施形態では、本発明による少なくとも1種の電気活性化合物は、1.0mAh/cm~10.0mAh/cm、好ましくは3.0mAh/cm~8.0mAh/cm、より好ましくは4.0mAh/cm~7.0mAh/cmの面積容量を有するようにカソード集電体上に担持される。
【0059】
本発明において、「カソードの厚さ」という表現は、カソード集電体とカソード電気活性物質層とを合わせた全体の厚さを表すことが意図されている。
【0060】
一実施形態では、本発明によるカソードの厚さは、40μm~150μm、好ましくは50μm~120μm、より好ましくは60μm~100μmである。
【0061】
本発明では、リチウム塩は以下からなる群から選択される:
a)LiN(SOF)(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LiFSI)、LiN(CFSO(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:LiTFSI)、LiPF、LiBF、LiClO、Liビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、LiCFSO、LiF、LiCl、LiBr、LiI、LiN(CSO、LiN(CFSO)(RSO)(式中、Rは、C、C、又はCFOCFCFである)、LiAsF、LiC(CFSO3、LiS;
【化2】
(式中、R’は、F、CF、CHF、CHF、CHF、C、C、C、C、C、C、C、C、C、C11、COCF、COCF、COCF及びCFOCFからなる群から選択される);及び
c)それらの組み合わせ。
【0062】
好ましい実施形態では、リチウム塩はLiFSIである。
【0063】
一実施形態では、本発明による液体電解質組成物中のリチウム塩のモル濃度(M)は、1M~8M、好ましくは1M~3M、より好ましくは1M~2Mである。
【0064】
用語「セパレータ」とは、本明細書では、電気化学デバイス中の反対の極性の電極を電気的及び物理的に隔て、且つそれらの間を流れるイオンに対して透過性である、単層又は多層の高分子、不織セルロース、又はセラミック材料/膜を意味することが意図されている。
【0065】
本発明では、セパレータは、電気化学デバイスのセパレータに一般的に使用される任意の多孔質基材であり得る。
【0066】
一実施形態では、セパレータは、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートなど)、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン(ポリエチレン及びポリプロピレンなど)又はそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む多孔質高分子材料である。
【0067】
特定の実施形態では、セパレータは、例えばSiO、TiO、Al、ZrOなどの無機ナノ粒子でコーティングされた多孔質高分子材料である。
【0068】
別の特定の実施形態では、セパレータは、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)でコーティングされた多孔性高分子材料である。
【0069】
一実施形態によれば、c)液体電解質組成物は、少なくとも1種の添加剤、特に膜形成添加剤をさらに含み、これは、電極表面の溶媒の前に反応することによって、アノード表面及び/又はカソード表面における固体電解質界面(SEI)層の形成を促進する。したがってSEIの主成分は、電解質溶媒と、LiCO、アルキルリチウムカーボネート、アルキルリチウムオキシドなどの塩と、LiPF系電解液についてはLiFなどのその他の塩部分との分解生成物を含む。通常、膜形成添加剤の還元電位は、反応がアノード表面で起こる時の溶媒の還元電位よりも高く、膜形成添加剤の酸化電位は、反応がカソード側で起こる時の溶媒の酸化電位よりも低い。
【0070】
一実施形態では、本発明による膜形成添加剤はイオン液体である。
【0071】
本明細書で使用される「イオン液体」という用語は、正に帯電したカチオン及び負に帯電したアニオンを含み、大気圧において100℃以下の温度で液体状態である化合物を指す。水などの通常の液体は、主に電気的に中性の分子からできている一方、イオン液体は、主に、イオンと、短寿命のイオン対とからできている。本明細書で使用される「イオン液体」という用語は、溶媒を含まない化合物を示す。
【0072】
本明細書で使用される「オニウムカチオン」という用語は、その電荷の少なくとも一部がO、N、S又はPなどの少なくとも1つの非金属原子上に局在する、正に帯電したイオンを指す。
【0073】
本発明では、イオン液体は、An-l+ (n/l)
(式中、
- An-は、アニオンを表し、
- Ql+ (n/l)は、カチオンを表し、
- n及びlは、1~5で独立して選択され、それぞれアニオンAn-及びカチオンQl+ (n/l)の電荷を表す)
の一般式を有する。
【0074】
カチオンは、互いに独立して、金属カチオン及び有機カチオンから選択され得る。カチオンは、一価カチオン又は多価カチオンであり得る。
【0075】
金属カチオンとして、好ましくは、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン及びd-ブロック元素のカチオンを挙げることができる。
【0076】
本発明では、Ql+ (n/l)は、オニウムカチオンを表し得る。オニウムカチオンは、3つ又は4つの炭化水素鎖を有するVB族及びVIB族の元素(元素周期表に従って古い欧州のIUPACシステムで定義された通り)によって形成されたカチオンである。VB族には、N、P、As、Sb及びBi原子が含まれる。VIB族には、O、S、Se、Te及びPo原子が含まれる。オニウムカチオンは、特に、N、P、O及びS、より好ましくはN及びPからなる群から選択される原子と、3つ又は4つの炭化水素鎖とによって形成されるカチオンであり得る。
【0077】
オニウムカチオンQl+ (n/l)は、
- ヘテロ環式オニウムカチオン、特に:
【化3】
からなる群から選択されるもの;
- 不飽和環状オニウムカチオン、特に:
【化4】
からなる群から選択されるもの;
- 飽和環状オニウムカチオン、特に:
【化5】
からなる群から選択されるもの;
- 非環状オニウムカチオン、特に一般式L-R’(式中、Lは、N、P、O及びS、より好ましくはN及びPからなる群から選択される原子を表し、sは、元素Lの価数に応じて2、3又は4から選択されるR’基の数を表し、各R’は、独立して、水素原子又はC~Cのアルキル基を表し、LとR’との間の結合は、単結合又は二重結合であり得る)のもの
から選択することができる。
【0078】
上の式において、各「R」の記号は、互いに独立して、水素原子又は有機基を表す。好ましくは、各記号「R」は、上の式において、互いに独立して、水素原子を表すか、又は任意選択的にハロゲン原子、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基若しくは亜硫酸基によって1回以上置換される、飽和若しくは不飽和の、直鎖、分岐若しくは環状のC~C18炭化水素基を表すことができる。
【0079】
カチオンQl+ (n/l)は、より具体的には、アンモニウム、ホスホニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピラゾリニウム、イミダゾリウム、ヒ素、四級ホスホニウム及び四級アンモニウムカチオンから選択することができる。
【0080】
四級ホスホニウム又は四級アンモニウムカチオンは、より好ましくは、テトラアルキルアンモニウム若しくはテトラアルキルホスホニウムカチオン、トリアルキルベンジルアンモニウム若しくはトリアルキルベンジルホスホニウムカチオン又はテトラアリールアンモニウム若しくはテトラアリールホスホニウムカチオンから選択することができ、これらのアルキル基は、同一であるか又は異なり、4~12個の炭素原子、好ましくは4~6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐のアルキル鎖を表し、これらのアリール基は、同一であるか又は異なり、フェニル基又はナフチル基を表す。
【0081】
特定の実施形態では、Ql+ (n/l)は、四級ホスホニウム又は四級アンモニウムカチオンを表す。
【0082】
好ましい一実施形態では、Ql+ (n/l)は、四級ホスホニウムカチオンを表す。四級ホスホニウムカチオンの非限定的な例には、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム及びテトラアルキルホスホニウムカチオン、特にテトラブチルホスホニウム(PBu)カチオンが含まれる。
【0083】
別の実施形態では、Ql+ (n/l)は、イミダゾリウムカチオンを表す。イミダゾリウムカチオンの非限定的な例には、1,3-ジメチルイミダゾリウム、1-(4-スルホブチル)-3-メチルイミダゾリウム、1-アリル-3H-イミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムが含まれる。
【0084】
別の実施形態では、Ql+ (n/l)は、特に、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、メチルトリブチルアンモニウム、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム、N,N-ジメチル-N-エチル-N-(3-メトキシプロピル)アンモニウム、N,N-ジメチル-N-エチル-N-ベンジルアンモニウム、N,N-ジメチル-N-エチル-N-フェニルエチルアンモニウム、N-トリブチル-N-メチルアンモニウム、N-トリメチル-N-ブチルアンモニウム、N-トリメチル-N-ヘキシルアンモニウム、N-トリメチル-N-プロピルアンモニウム及びAliquat 336(メチルトリ(C~C10アルキル)アンモニウム化合物の混合物)からなる群から選択される四級アンモニウムカチオンを表す。
【0085】
一実施形態では、Ql+ (n/l)は、ピペリジニウムカチオン、特にN-ブチル-N-メチルピペリジニウム、N-プロピル-N-メチルピペリジニウムを表す。
【0086】
別の実施形態では、Ql+ (n/l)は、ピリジニウムカチオン、特にN-メチルピリジニウムを表す。
【0087】
より好ましい実施形態では、Ql+ (n/l)は、ピロリジニウムカチオンを表す。特定のピロリジニウムカチオンの中でも、以下のものを挙げることができる:C1~12アルキル-C1~12アルキル-ピロリジニウム、より好ましくはC1~4アルキル-C1~4アルキル-ピロリジニウム。ピロリジニウムカチオンの例としては、限定するものではないが、N,N-ジメチルピロリジニウム、N-エチル-N-メチルピロリジニウム、N-イソプロピル-N-メチルピロリジニウム、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム、N-ブチル-N-メチルピロリジニウム、N-オクチル-N-メチルピロリジニウム、N-ベンジル-N-メチルピロリニウム、N-シクロヘキシルメチル-N-メチルピロリジニウム、N-[(2-ヒドロキシ)エチル]-N-メチルピロリジニウムが挙げられる。より好ましいものは、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム(PYR13)及びN-ブチル-N-メチルピロリジニウム(PYR14)である。
【0088】
イオン液体のアニオンの非限定的な例は、ヨージド、ブロミド、クロリド、硫酸水素イオン、ジシアンアミド、アセテート、ジエチルホスフェート、メチルホスフェート、フッ素化アニオン、例えばヘキサフルオロホスフェート(PF )及びテトラフルオロボレート(BF )、並びに以下の式:
【化6】
のオキサラトボレートを含む。
【0089】
一実施形態では、An-は、フッ素化アニオンである。本発明に使用することができるフッ素化アニオンの中でも、フッ素化スルホンイミドアニオンが特に有利であり得る。この有機アニオンは、特に、以下の一般式:
(E-SO)N
(式中、
- Eは、フッ素原子又はフルオロアルキル、パーフルオロアルキル及びフルオロアルケニルから選択される、好ましくは1~10個の炭素原子を有する基を表し、及び
- Rは、置換基を表す)
を有するアニオンから選択され得る。
【0090】
好ましくは、Eは、F又はCFを表し得る。
【0091】
第1の実施形態によれば、Rは、水素原子を表す。
【0092】
第2の実施形態によれば、Rは、好ましくは1~10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐の環状又は非環状の炭化水素に基づく基を表し、これは、1つ以上の不飽和を任意選択的に有していてもよく、またハロゲン原子によって、ニトリル官能基によって、又はハロゲン原子で1回以上任意選択的に置換されていてもよいアルキル基によって1回以上任意選択的に置換されていてもよい。さらに、Rは、ニトリル基-CNを表し得る。
【0093】
第3の実施形態によれば、Rは、スルフィネート基を表す。特に、Rは、Eが上に定義された通りである基-SO-Eを表し得る。この場合、フッ素化アニオンは、対称、すなわちアニオンの2つのE基が同一であるようなものであり得るか、又は非対称、すなわちアニオンの2つのE基が異なるようなものであり得る。
【0094】
さらに、Rは、基-SO-R’を表すことができ、R’は、好ましくは1~10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐の環状又は非環状の炭化水素に基づく基を表し、これは、1つ以上の不飽和を任意選択的に有していてもよく、またハロゲン原子によって、ニトリル官能基によって、又はハロゲン原子で1回以上任意選択的に置換されていてもよいアルキル基によって1回以上任意選択的に置換されていてもよい。特に、R’は、ビニル又はアリル基を含み得る。さらに、Rは、基-SO-N-R’(R’は、上に定義された通りであるか、又は他にR’は、スルホネート官能基-SOを表す)を表し得る。
【0095】
環状の炭化水素に基づく基は、好ましくは、シクロアルキル基又はアリール基を指すことができる。「シクロアルキル」は、3~8個の炭素原子を有する単環式炭化水素鎖を指す。シクロアルキル基の好ましい例は、シクロペンチル及びシクロヘキシルである。「アリール」は、6~20個の炭素原子を有する単環式又は多環式の芳香族炭化水素基を指す。アリール基の好ましい例は、フェニル及びナフチルである。基が多環式基である場合、環は、σ(シグマ)結合によって縮合又は結合され得る。
【0096】
第4の実施形態によれば、Rは、カルボニル基を表す。Rは、特に、式-CO-R’(R’は上に定義された通りである)で表され得る。
【0097】
本発明で使用できる有機アニオンは、有利には、CFSOSOCF(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、一般にTFSIとして示される)、FSOSOF(ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、一般にFSIとして示される)、CFSOSOF及びCFSOSOSOCFからなる群から選択することができる。
【0098】
好ましい実施形態では、イオン液体は、
- 1つ以上のC~C30アルキル基を任意選択的に含むイミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム及びピペリジニウムイオンからなる群から選択される、正に帯電したカチオンと、
- ハライド、フッ素化アニオン、及びボレートからなる群から選択される、負に帯電したアニオンと
を含有する。
【0099】
~C30アルキル基の非限定的な例としては、とりわけ、メチル、エチル、プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチル、2,2-ジメチル-プロピル、ヘキシル、2,3-ジメチル-2-ブチル、ヘプチル、2,2-ジメチル-3-ペンチル、2-メチル-2-ヘキシル、オクチル、4-メチル-3-ヘプチル、ノニル、デシル、ウンデシル及びドデシル基が挙げられる。
【0100】
好ましい一実施形態では、本発明による膜形成添加剤は、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PYR13FSI)、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PYR14FSI)、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PYR13TFSI)、及びN-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PYR14TFSI)からなる群から選択される。
【0101】
別の実施形態では、本発明による膜形成添加剤は、1,3-プロパンスルトン(PS)、エチレンサルファイト(ES)、及びプロプ-1-エン-1,3-スルトン(PES)を含む環状サルファイト及び環状サルフェート;ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン(別名スルホラン)、エチルメチルスルホン、及びイソプロピルメチルスルホンを含むスルホン誘導体;スクシノニトリル、アジポニトリル、及びグルタロニトリルを含むニトリル誘導体;硝酸リチウム(LiNO);リチウムジフルオロオキサラトボレート(LiDFOB)、リチウムフルオロマロナト(ジフルオロ)ボレート(LiFMDFB)などのホウ素誘導体塩;酢酸ビニル、ビフェニルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、トリフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィナイト、トリエチルホスファイト、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファイト、無水マレイン酸、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、モノフッ素化エチレンカーボネート(4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン)、ジフッ素化エチレンカーボネート、セシウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(CsTFSI)、及びフッ化セシウム(CsF)、並びにこれらの混合物からなる群から選択される。
【0102】
好ましい一実施形態では、本発明による膜形成添加剤はビニレンカーボネートである。
【0103】
本発明において、膜形成添加剤の合計量は、b)液体電解質溶液の総重量に対して0~30重量%、好ましくは0~20重量%、より好ましくは0~15重量%、さらに好ましくは0~5重量%であってよい。
【0104】
膜形成添加剤の合計量は、本発明の液体電解質溶液に含まれる場合、b)液体電解質溶液の総重量に対して0.05~10.0重量%、好ましくは0.05~5.0重量%、より好ましくは0.05~2.0重量%であってよい。
【0105】
好ましい実施形態では、膜形成添加剤の合計量は、b)液体電解質溶液の少なくとも1.0重量%を占める。
【0106】
参照により本明細書に援用されるいずれかの特許、特許出願及び刊行物の開示が、それが用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0107】
以下の実施例を参照しつつ本発明を以降でより詳しく説明するが、その目的は例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0108】
原材料
ドライセル:NCM523/Cu(集電体;15μm)/CCS(セラミック被覆セパレータ)、Lifun Technologyから市販(型番:402035)
【0109】
フッ素化エーテル化合物:
・1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)、SynQuestから市販
・CFHCF-OCHCHO-CFCFH(C)、Solvay内で合成
・Solvayから入手可能なジフルオロエチルアセテート(DFEA)
・Solvayから入手可能なメチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート(F3EMC)
【0110】
非フッ素化エーテル化合物:
・1,2-ジメトキシエタン(DME)、Enchemから市販
【0111】
その他の溶媒
・フルオロエチレンカーボネート(FEC)、Enchemから市販
・エチレンカーボネート(EC)、Enchemから市販
・エチルメチルカーボネート(EMC)、Enchemから市販
Li塩:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、Nippon Shokubaiから市販
【0112】
A/電解質組成物の処方:
電解質組成物を、E1~E2の本発明の実施例及びCE1~CE4の比較例のために調製した。それらの成分は下の表1にまとめられている:
【0113】
【表1】
【0114】
E1の電解質組成物を調製する際には、最初に1MのLiFSIを溶媒混合物の総体積に対して20体積%のDMEに溶解し、グローブボックス内で磁気撹拌子を使用して混合した。溶液が透明になった後、溶媒混合物の総体積に対して80体積%のTTEを溶液に添加した。
【0115】
E2の電解質組成物は、TTEの代わりにフッ素化エーテル化合物としてCを使用したことを除いて、E1と同じ方法で調製した。E1~E2の溶媒混合物は、それぞれ溶媒混合物の総体積に対して20体積%DMEと80体積%のフッ素化エーテル化合物とを含んでいた。
【0116】
CE1の電解質組成物を調製する際には、グローブボックス内で磁気撹拌子を使用して1MのLiFSIをDMEに溶解した。
【0117】
CE2の電解質組成物を調製する際には、最初に1MのLiFSIを溶媒混合物の総体積に対して20体積%のDMEに溶解し、グローブボックス内で磁気撹拌子を使用して混合した。溶液が透明になった後、溶媒混合物の総体積に対して80体積%のDFEAを溶液に添加した。
【0118】
CE3の電解質組成物を調製する際には、必要な全ての化合物を1つの瓶に添加し、透明な溶液が得られるまでそれを混合した。CE3については、1MのLiFSIを、20体積%のFECと80体積%のF3EMCとの溶媒混合物に溶解した。
【0119】
CE4の電解質組成物は、最初に溶媒混合物の総体積に対して80体積%のEMC内に20体積%のFECを溶解することによって調製し、次いで1MのLiFSIを前記溶媒混合物に溶解した。
【0120】
B/アノードレスセルの作製:
1.乾燥及び電解質注入
Lifun Technologyの電解質を含まないNCM523/Cuドライセルを、55℃で2日間真空乾燥した。調製した電解質組成物をピペットによりドライセルに注入した(4.0g/Ah)。注入後、乾燥セルを真空下に置き、真空の直後にセル圧力を解放した。カソード材料を湿らせるために真空解放プロセスを3回行った。真空を解放した後、十分に湿らせるためにセルをさらに1時間放置した。
【0121】
2.シーリング及び1回目のエージング
湿らせた後、セルを真空シール機を用いて加圧下(最大約350kPa)でセルをシールし、ネジ止め具を有する2枚のプレートでセルを挟んだ。続いて、セルを室温で1日放置した(1回目のエージング)。
【0122】
C/セルの活性化及び初期のセル性能の測定
1~2回目のエージング(=活性化/アノードを含まないセルの形成)
セルを30%のレベルの充電状態(SOC)まで3時間充電し、その後45℃でさらに1日放置した(2回目のエージング)。
【0123】
2.脱気
セルを開けて再度シールすることによって、アノードを含まないセルの活性化中に発生したガスを除去した。
【0124】
D/アノードレスセルの性能測定
以下に詳述する通りにアノードを含まないセルを様々な条件で試験した:
1.3サイクルの容量チェック
・充電:定電流及び定電圧で0.1C/4.2V/0.05C(CC-CV)
・放電:0.1C/3.6V(CC)
2.連続サイクル試験(200サイクルまで)
・充電:0.2C/4.2V/0.05C(CC-CV)
・放電:0.5C/3.6V(CC)
【0125】
E/サイクル試験-容量維持:
各セルのサイクル性能を評価した。その後、各セルで充電と放電のサイクルを繰り返した。1サイクルは、Cの充電電流での充電段階と、それに続くCの放電電流での放電段階とから構成された。下の表2に示されている以下の結果が得られた:
【0126】
【表2】
【0127】
図1~2は、サイクル数の関数としてのE1~E2及びCE1~CE4の容量維持率とクーロン効率の変化を示している。
【0128】
特に、全て本発明によるものであるE1~E2の放電容量は、サイクル数の増加に伴いゆっくり減少することが観察された(図1)。特に、図2は、それぞれ本発明による電解質組成物を含む本発明の実施例、すなわちE1~E2の80%の容量維持率におけるサイクル数が、比較例、すなわちCE1~CE4のサイクル数よりもはるかに多かったことを明確に示している。
【0129】
E1~E2の本発明の実施例の中でも、80%の容量維持率におけるE1のサイクル数が最も少なかった。すなわち150サイクルであった。しかしながら、E1のそのような最も少ない数は、CE1~CE4の比較例のサイクル数よりもはるかに多かった。CE1~CE4の80%の容量維持率における最大サイクル数はCE3の23サイクルであったものの、CE1とCE2ではほぼすぐに短絡が発生した。したがって、本発明によりサイクル性能が向上することが明確に示された。
【0130】
さらに、図2に示される本発明の実施例E1~E2のクーロン効率は、少なくとも150サイクルまで本質的に一定のままであり、サイクルがさらに増加するのに伴い減少するものの、非常にゆっくりであるのに対し、比較例CE1~CE4のクーロン効率は10~20サイクル付近で急激に減少することに注目することができる。
図1
図2
【国際調査報告】