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特表2023-522453フザリウムマイコトキシン産生を阻害するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-30
(54)【発明の名称】フザリウムマイコトキシン産生を阻害するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/435 20060101AFI20230523BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230523BHJP
   A01N 37/46 20060101ALI20230523BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230523BHJP
【FI】
C07K14/435
A01P3/00
A01N37/46
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564425
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(85)【翻訳文提出日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 FR2021050702
(87)【国際公開番号】W WO2021214414
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】2004090
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522052233
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・ドゥ・ルシェルシェ・プール・ラグリクルテュール・ラリマンタシオン・エ・ランヴィロンヌマン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アレハンドロ・カベサス-クルス
(72)【発明者】
【氏名】フローレンス・フォルジェ
(72)【発明者】
【氏名】ベセラ・アタナソヴァ
【テーマコード(参考)】
4H011
4H045
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011BB19
4H011DA13
4H011DD03
4H011DH11
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA19
4H045BA30
4H045BA32
4H045CA51
4H045EA06
4H045FA33
4H045GA25
(57)【要約】
本発明は、フザリウム属の真菌によるマイコトキシンの産生を阻害するためのペプチド、並びに前記ペプチドを含む組成物及びその使用方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物におけるフザリウム属の真菌によるマイコトキシンの産生を阻害するためのペプチドの使用であって、該ペプチドが、
【化1】
から選択される配列を含む、使用。
【請求項2】
植物におけるフザリウム属の真菌によるマイコトキシンの産生を阻害するための方法であって、植物を、ペプチドを含む組成物と接触させる工程を含み、該ペプチドが、
【化2】
から選択される配列を含む、方法。
【請求項3】
特に植物におけるフザリウム属の真菌によるマイコトキシンの産生を阻害するためのペプチドを含む、植物を処置することが意図された植物衛生組成物であって、該ペプチドが、
【化3】
から選択される配列を含み、
該ペプチドが、30個以下のアミノ酸を含み、
該ペプチドが、
【化4】
の配列を有する未修飾のペプチドではない、植物衛生組成物。
【請求項4】
ペプチドが、30個以下のアミノ酸を含むことを特徴とする、請求項1に記載の使用、又は請求項2に記載の方法、又は請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ペプチドが、以下の配列から選択される配列を含むか、1、2、3、4、若しくは5つの置換、付加、欠失、又はそれらの混合を場合によっては含む配列を有する以下の配列から選択される配列からなるか、又は以下の配列から選択される配列からなることを特徴とする、請求項1若しくは4に記載の使用、又は請求項2若しくは4に記載の方法。
【化5】
【請求項6】
ペプチドが、
CGNFLKRTCICVKK 配列番号2であって、PEG化、C末端アミド化、N末端アセチル化、修飾されたペプチド結合、D型アミノ酸、修飾されたシステイン、又はこれらの修飾の組合せを有するペプチド;
CSGIIKQTCTCYRK 配列番号3であって、PEG化、C末端アミド化、N末端アセチル化、修飾されたペプチド結合、D型アミノ酸、修飾されたシステイン、又はこれらの修飾の組合せを有するペプチド;
【化6】
から選択される配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなることを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
ペプチドが、20個以下のアミノ酸を含むことを特徴とする、請求項1、4若しくは5のいずれか一項に記載の使用、請求項2、4若しくは5のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3、4及び6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
ペプチドがPEG化されていることを特徴とする、請求項1、4、5、及び7のいずれか一項に記載の使用、請求項2、4、5、及び7のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3、4、6、及び7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
ペプチドが、ジスルフィド架橋を全く含まないことを特徴とする、請求項1、4、5、7、及び8のいずれか一項に記載の使用、請求項2、4、5、7、及び8のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3、4、7、及び8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
ペプチドが、配列番号22及び23の配列から選択される配列を含むか、1、2、3、4、若しくは5つの置換、付加、欠失、又はそれらの混合を場合によっては含む配列を有する配列番号22及び23の配列から選択される配列からなるか、又は配列番号22及び23の配列から選択される配列からなることを特徴とする、請求項1に記載の使用又は請求項2に記載の方法。
【請求項11】
ペプチドが、配列番号22の配列からなることを特徴とする、請求項1に記載の使用又は請求項2に記載の方法。
【請求項12】
マイコトキシンが、タイプBトリコテセン、好ましくは、デオキシニバレノール(DON)及び/又はアセチル化デオキシニバレノール(A-DON)であることを特徴とする、請求項1、4、5、及び7~11のいずれか一項に記載の使用、請求項2、4、5、及び7~11のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3、4、及び6~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
フザリウム属の真菌が、フザリウム・カルモラム、フザリウム・グラミネアラム、フザリウム・トリシンクタム、フザリウム・アベナセアム、フザリウム・ポアエ、フザリウム・スポロトリキオイデス、フザリウム・ベルチシリオイデス、フザリウム・プロリフェラタム、フザリウム・ラングセチアエ、フザリウム・オキシスポラム、フザリウム・ロゼウム、フザリウム・アルスロスポリオイデス、及びフザリウム・アベナセアムから、好ましくは、フザリウム・カルモラム、又はフザリウム・グラミネアラムから選択されることを特徴とする、請求項1、4、5、及び7~12のいずれか一項に記載の使用、請求項2、4、5、及び7~12のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3、4、6~9、及び12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
植物が、コムギ(軟質及びデュラム)、オオムギ、トウモロコシ、オートムギ、ライコムギ、及びイネ等の穀物、トマト、メロン、キュウリ、ズッキーニ、キクイモ、ベルペッパー、ジャガイモ、アスパラガス、サツマイモ、セロリ、ニンニク、タマネギ、キャベツ、ショウガ、バナナ、キャッサバ、及びバニラ等の果実及び野菜、並びにナツメヤシ等の果樹、好ましくは、コムギ(軟質及びデュラム)、オオムギ、トウモロコシ、オートムギ、ライコムギ、及びイネから選択された穀物から選択されることを特徴とする、請求項1、4、5、及び7~13のいずれか一項に記載の使用、請求項2、4、5、及び7~13のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3、4、6~9、12、及び13のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物衛生分野に関する。詳細には、フザリウム(Fusarium)属の真菌を防除するための手段に関し、特に、フザリウム症侵襲の間に産生されたタイプBトリコテセン系マイコトキシンによる汚染の生物的防除又は植物衛生的防除に関する。
【背景技術】
【0002】
フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)は、コムギの赤かび病及びトウモロコシの赤かび病の主な病原である。これらの2つの菌類病は、世界の多くの穀物生産地域において多大な経済的影響を及ぼしている。更に、F.グラミネアラムは、人間及び動物に対して有毒であるマイコトキシン、主にタイプBトリコテセンすなわちTCTB(その主な代表物は、デオキシニバレノール/DON並びにそのアセチル化型である15アセチルデオキシニバレノール及び3アセチルデオキシニバレノール/15-ADON及び3-ADONである)を産生しうる。実際に、これらの毒素は、重篤かつ時に致死的な食中毒の原因であることが証明されている急性毒性、及び極めて強く疑われる慢性毒性(血液毒性及び免疫毒性)を有する。収穫された穀粒中に蓄積しているTCTBは熱安定性分子であるため、穀物を主成分とする食品及び動物飼料の製造の間に完全には排除されない。作物の汚染を限定するために推奨されている農学的実施法では、欧州連合第1126/2007号によって設定されている規制閾値の遵守が保証されない。よって、穀粒中のTCTBの蓄積を限定する新規の持続可能かつ環境に優しい収穫前防除戦略を実現することが急がれる。
【0003】
デフェンシンは、その抗菌活性に重要なガンマコアとして知られる保存部分を有する、低分子量の環状ペプチドである。これらのデフェンシンうち、DefMT3及びDefMT6として知られるマダニデフェンシンは、特にフザリウム・カルモラム(Fusarium culmorum)及びフザリウム・グラミネアラムに対する抗菌及び抗真菌活性を有すると記述されている(Tonk等、2015年、Developmental and Comparative Immunology、53、358~365頁)。この論文では、著者等は、DefMT3又はDefMT6のガンマベース部分のみを有するペプチドの活性を調べ、これらの部分が、全長デフェンシンと比べて、特に胞子発芽及び増殖に対し、強い抗真菌活性を示したことを観察している。
【0004】
真菌種の増殖を標的にすることだけでは、マイコトキシンレベルを確実に低下させるには不十分である。実際に、真菌によって知覚するストレスは、毒素産生を刺激する因子となりうる。したがって、TCTBの産生に対し特異的に指向された防除手段を得ることが不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州連合第1126/2007号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tonk等、2015年、Developmental and Comparative Immunology、53、358~365頁
【非特許文献2】Needleman及びWunsch、J. Mol. Biol 48:443、1970年
【非特許文献3】Smith及びWaterman、Adv. Appl. Math. 2:482、1981年)
【非特許文献4】Altschul等 (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389~3402頁
【非特許文献5】Altschul等 (2005) FEBS J. 272:5101~5109頁
【非特許文献6】http: //blast.ncbi.nlm.nih.gov/
【非特許文献7】http://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/
【非特許文献8】Cabezas-Cruz等、2016年、(Front. Microbiol.、7、1682)
【非特許文献9】Boutigny等、2009年、Mycol. Res.、113、746
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フザリウム症感染の間に産生されるタイプBトリコテセンマイコトキシンの産生を特異的に防除するための手段が、このように、依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フザリウム属の真菌による、マイコトキシン、特にタイプBトリコテセン(TCTB)の産生を低減させるための方法を説明するものである。
【0009】
実際に、発明者らは、これらのマイコトキシンの産生を阻害する、ある特定のペプチドの能力を同定した。発明者らは、ペプチドDefMT3が、それのみならずDefMT3の保存されたガンマ部分を有するペプチド又はその変異体もまた、フザリウム・グラミネアラムによるDON(デオキシニバレノール)及び15-ADON(15-アセチルデオキシニバレノール)毒素の産生を著しく阻害することを観察した。発明者等は、リニアペプチド型が、環状型と比べて、マイコトキシン産生に対してより強力な阻害活性を示すことを明らかにした。更に、リニア型は、環状型にはほとんどない、真菌の増殖阻害活性を示す。また、ペプチドのカチオン性電荷がペプチドの抗真菌活性及びTCTB生合成に対する阻害活性に重要な因子であったことも明らかにした。最後に、発明者らは、PEG化された形態によって抗真菌活性の向上が示されたことを明らかにした。
【0010】
よって、本発明は、植物におけるフザリウム属の真菌によるマイコトキシンの産生を阻害するためのペプチドの使用であって、該ペプチドが、
【0011】
【化1】
【0012】
から選択される配列を含む、使用に関する。
【0013】
本発明はまた、植物におけるフザリウム属の真菌によるマイコトキシンの産生を阻害するための方法であって、植物を、ペプチドを含む組成物と接触させる工程を含み、該ペプチドが、
【0014】
【化2】
【0015】
から選択される配列を含む、方法に関する。
【0016】
特定の態様では、ペプチドは、30個以下のアミノ酸を含む。
【0017】
特定の態様では、ペプチドは、配列番号22及び23の配列から選択される配列を含むか、1、2、3、4、若しくは5つの置換、付加、欠失、又はそれらの混合を場合によっては含む配列を有する配列番号22及び23の配列から選択される配列からなるか、又は配列番号22及び23の配列から選択される配列からなる。よりいっそう詳細な態様では、該ペプチドは、配列番号22の配列からなる。
【0018】
本使用又は本方法において実現されるペプチドは、
【0019】
【化3】
【0020】
から選択される配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなっていてもよい。
【0021】
本発明はまた、ペプチド、特に植物におけるフザリウム属の真菌によるマイコトキシンの産生を阻害するためのペプチドを含む、植物を処置することが意図された植物衛生組成物であって、該ペプチドが、
【0022】
【化4】
【0023】
から選択される配列を含み、
【0024】
該ペプチドが、30個以下のアミノ酸を含み、
該ペプチドが、
【0025】
【化5】
【0026】
の配列を有する未修飾のペプチドではない、組成物に関する。
【0027】
植物衛生組成物のペプチドは、
CGNFLKRTCICVKK 配列番号2であって、PEG化、C末端アミド化、N末端アセチル化、修飾されたペプチド結合、D型アミノ酸、修飾されたシステイン、又はこれらの修飾の組合せを有するペプチド;
CSGIIKQTCTCYRK 配列番号3であって、PEG化、C末端アミド化、N末端アセチル化、修飾されたペプチド結合、D型アミノ酸、修飾されたシステイン、又はこれらの修飾の組合せを有するペプチド;
【0028】
【化6】
【0029】
から選択される配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなっていてもよい。
【0030】
該使用、方法、又は組成物の詳細な実施形態では、ペプチドは、20個以下のアミノ酸を含む。
【0031】
該使用、方法、又は組成物の特定の実施形態では、ペプチドはPEG化されている。
【0032】
該使用、方法、又は組成物の特定の実施形態では、ペプチドは、ジスルフィド架橋を全く含まない。
【0033】
該使用、方法、又は組成物の特定の実施形態では、マイコトキシンは、タイプBトリコテセン、好ましくは、デオキシニバレノール(DON)及び/又はアセチル化デオキシニバレノール(A-DON)である。
【0034】
該使用、方法、又は組成物の特定の実施形態では、フザリウム属の真菌は、フザリウム・カルモラム、フザリウム・グラミネアラム、フザリウム・トリシンクタム(Fusarium tricinctum)、フザリウム・アベナセアム(Fusarium avenaceum)、フザリウム・ポアエ(Fusarium poae)、フザリウム・スポロトリキオイデス(Fusarium sporotrichioides)、フザリウム・ベルチシリオイデス(Fusarium verticillioides)、フザリウム・プロリフェラタム(Fusarium proliferatum)、フザリウム・ラングセチアエ(Fusarium langsethiae)、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、フザリウム・ロゼウム(Fusarium roseum)、フザリウム・アルスロスポリオイデス(Fusarium arthrosporioides)、及びフザリウム・アベナセアム(Fusarium avenaceum)から、好ましくは、フザリウム・カルモラム又はフザリウム・グラミネアラムから選択される。
【0035】
該使用、方法、又は組成物の特定の実施形態では、植物は、コムギ(軟質及びデュラム)、オオムギ、トウモロコシ、オートムギ、ライコムギ、及びイネ等の穀物、又はトマト、メロン、キュウリ、ズッキーニ、キクイモ、ベルペッパー(bell pepper)、ジャガイモ、アスパラガス、サツマイモ、セロリ、ニンニク、タマネギ、キャベツ、ショウガ、バナナ、キャッサバ、バニラ等の果実及び野菜、並びにナツメヤシ等の果樹、好ましくは、コムギ(軟質及びデュラム)、オオムギ、トウモロコシ、オートムギ、ライコムギ、及びイネから選択された穀物から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0036】
定義
本文書では、「ペプチド」、「オリゴペプチド」、及び「ポリペプチド」という用語は、互換的に使用され、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸の鎖を指すものであり、前記鎖を構成しているアミノ酸残基の数は関係ない。
【0037】
本明細書において定義されたペプチド配列は、表1(Table 1)に示したように、一文字記号によって表される。
【0038】
【表1】
【0039】
本明細書において使用される場合、「アミノ酸」という用語は、20個の天然標準アミノ酸残基(G、P、A、V、L、I、M、C、F、Y、W、H、K、R、Q、N、E、D、S、及びT)、天然希少アミノ酸残基(例えば、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、アロヒドロキシリジン、6-N-メチルリジン、N-エチルグリシン、N-メチルグリシン、N-エチルアスパラギン、アロ-イソロイシン、N-メチルイソロイシン、N-メチルバリン、アミノ酪酸)、及び非天然アミノ酸(例えば、ノルロイシン、ノルバリン、及びシクロヘキシルアラニン)を指す。好ましくは、この用語は、20個の天然標準アミノ酸残基(G、P、A、V、L、I、M、C、F、Y、W、H、K、R、Q、N、E、D、S、及びT)を指す。
【0040】
本明細書において使用される「置換」という用語は、あるアミノ酸残基と、20個の天然標準アミノ酸残基、天然希少アミノ酸残基、及び非天然アミノ酸から選択された別のアミノ酸残基との置換えを意味する。好ましくは、「置換」という用語は、あるアミノ酸残基と、20個の天然標準アミノ酸残基(G、P、A、V、L、I、M、C、F、Y、W、H、K、R、Q、N、E、D、S、及びT)から選択される別のアミノ酸残基との置換えを指す。置換は、保存的であっても非保存的置換であってもよい。本明細書において使用される場合、「保存的置換」という用語は、あるアミノ酸残基と、類似の化学的又は物理的性質(サイズ、電荷、又は極性)を有する別のアミノ酸残基との置換えを指す。保存的置換の例を以下の表に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
文脈による特段の指定又は明確な否定がないかぎり、特定の配列「からなる」という用語は、前記配列からなるペプチドを説明しているものとして理解されるべきである。「から本質的になる」という用語は、ペプチドが前記配列からなるが、該ペプチドは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個の置換、付加、欠失、又はそれらの混合、好ましくは、1、2、3、4、若しくは5個の置換、付加、欠失、又はそれらの混合、及び特に1、2、若しくは3個の置換、付加、欠失、又はそれらの混合も含みうることを意味する。詳細には、「から本質的になる」という用語によって、ペプチドが、N末端及び/又はC末端に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個の追加のアミノ酸を、好ましくは、1、2、3、4、若しくは5個の追加のアミノ酸、及び/又は1、2、若しくは3個の追加のアミノ酸を含みうることが想定されうる。好ましくは、置換、付加、欠失、又はそれらの混合の数は、配列の長さに依存する。例えば、置換、欠失、付加、又はそれらの混合のパーセンテージは、30%以下、好ましくは25%以下であってもよい。本明細書において使用される場合、「置換」という用語は、ペプチド配列におけるある1つのアミノ酸と別のアミノ酸との置換えを指し;「欠失」という用語は、ペプチド配列からのある1つのアミノ酸の除去を指し;「挿入」と「付加」という用語は同義であり、ペプチド配列におけるある1つのアミノ酸の付加を指す。
【0045】
本明細書において使用される場合、「配列同一性」又は「同一性」という用語は、2つのポリペプチド配列のアラインメントからの位置におけるペア(同一のアミノ酸残基)の数(%)を指す。配列同一性は、配列の中断を最少化すると同時に、オーバーラップ及び同一性を最大化するように配列をアラインさせて、配列を比較することによって決定される。詳細には、配列同一性は、2つの配列の長さに応じ、多数のグローバル又はローカルアラインメントアルゴリズムのうちのいずれかを使用して決定することができる。類似の長さの配列は、好ましくは、配列を全長にわたって最適にアラインさせるグローバルアラインメントアルゴリズム(例えば、Needleman及びWunsch、J. Mol. Biol 48:443、1970年)を使用してアラインさせるのに対し、長さが大きく異なる配列は、好ましくは、ローカルアラインメントアルゴリズム、例えばSmith-Watermanアルゴリズム(Smith及びWaterman、Adv. Appl. Math. 2:482、1981年)又はAltschulアルゴリズム(Altschul等 (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389~3402頁;Altschul等 (2005) FEBS J. 272:5101~5109頁)を使用してアラインさせる。アミノ酸配列同一性のパーセンテージの決定を目的としたアラインメントは、当業者に既知の任意の方法によって、例えば、http: //blast.ncbi.nlm.nih.gov/又はhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/等のウェブサイトの利用可能なソフトウエアを使用して実施することができる。当業者であれば、アラインメントを測定するための適切なパラメーターは、容易に決定することができる。本発明の目的では、アミノ酸配列同一性のパーセンテージ値は、EMBOSS Needleペアワイズ配列アラインメントプログラムを使用して得た値を指す。該プログラムは、Needleman-Wunschアルゴリズムを使用して2つの配列の最適なグローバルアラインメントを作出するものであり、該アルゴリズムでは、パラメーターは、以下のデフォルトパラメーターとする:スコアリングマトリックス=BLOSUM62、ギャップ開始=10、ギャップ延長=0.5、末端ギャップペナルティー=否、末端ギャップ開始=10、及び末端ギャップ延長=0.5。
【0046】
ペプチド
発明者等は、フザリウム属の真菌によるマイコトキシン、特にタイプBトリコテセンの産生に対する阻害活性を有するペプチドを同定した。
【0047】
マイコトキシンの、特にタイプBトリコテセンの産生に対する阻害活性は、当業者に既知の任意の技術によって測定することができる。例えば、該阻害活性は、「マイコトキシン産生阻害試験」の項の実施例において詳述されているように、フザリウム・グラミネアラムCBS 185.32株を用いてDON及び15-ADONの量を測定することによって測定することができる。
【0048】
マイコトキシン産生が、ペプチド非存在下での産生と比較して、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100%低減される場合、該ペプチドは、マイコトキシン産生に対し阻害活性を示している。
【0049】
フザリウム属の真菌によるマイコトキシン産生に対する阻害活性を有するペプチドは、
【0050】
【化7】
【0051】
を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなり、
配列中、
C/Sは、システイン(C)又はセリン(S)を示しており、システインは、場合によって、ジスルフィド架橋形成を妨げるように修飾されていてもよく;
X1は、例えば、G、S、A、V、T、D、N、及びPから、特にG、S、又はAから、より詳細にはG又はSから選択された低分子アミノ酸であり;
X2は、例えば、G、S、A、V、T、D、N、及びPから、特にG、S、A、又はNから、より詳細にはG又はNから選択された低分子アミノ酸であり;
X3は、I、L、F、Y、W、M、R、又はKから、特にI、L、F、又はYから、より詳細にはI又はFから選択され;
X4は、I、L、F、Y、W、又はM、特にI、L、W、又はF、より詳細にはI又はLから選択され;
X5は、K、R、H、T、S、又はQ、特にK、R、S、又はT、より詳細にはK若しくはT、K、R、若しくはT、又はK若しくはRから選択され;
X6は、R、K、L、I、Q、又はT、特にR、K、Q、又はT、より詳細にはQ、R、若しくはT、K、R、若しくはT、又はK若しくはRから選択され;
X7は、I、L、M、T、又はS、特にI、L、又はT、より詳細にはI又はTから選択され;
X8は、V、I、L、Y、F、W、又はM、特にV、I、L、又はY、より詳細にはV又はYから選択され;
X9は、R、K、H、T、S、N、M、又はQ、特にR、K、T、又はM、より詳細にはR、K、又はT、好ましくはK又はRから選択され;
X10は、S、T、Q、K、R、N、又はH、特にK、R、N、又はT、より詳細にはK若しくはT、K、R、若しくはT、又はK若しくはRから選択される。
【0052】
詳細な一実施形態では、ペプチドは、30個以下のアミノ酸を含む。
【0053】
好ましい一実施形態では、ペプチドが少なくとも2つのシステインを含む場合、これらのシステインは還元型(SH)であり、すなわち、これらのシステインは共にジスルフィド架橋を形成しない。
【0054】
別の態様では、配列がC/Sを指定する場合、ペプチドにはセリンが含まれる。
【0055】
別の態様では、ペプチドは、ジスルフィド架橋形成を妨げるように修飾された1つ又は複数のシステインを含む。詳細には、システインは、チオール官能基上でアルキル化、特にメチル化(S-CH3)されていてもよく、又はカルボキサミドメチル化(CH2-CONH2基の付加)によってアルキル化されていてもよい。詳細な一実施形態では、ペプチドのシステイン全て、又は1つを除く全てのシステインが、修飾されているか又はシステインと置き換えられている。
【0056】
ペプチドは、配列番号2又は3のペプチドとの配列同一性を少なくとも50、60、70、80、90、又は95%含んでいてもよい。よって、ペプチドは、配列番号2又は3のペプチドに対して1、2、3、4、又は5個の置換を、特にX1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、及びX10から選択される残基の位置に含んでいてもよい。
【0057】
詳細な一実施形態では、ペプチドは、
【0058】
【化8】
【0059】
の配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる。
【0060】
極めて詳細な実施形態では、ペプチドは、
【0061】
【化9】
【0062】
からなる群から選択される配列;
好ましくは:
【0063】
【化10】
【0064】
からなる群から選択される配列;
【0065】
若しくは、
【0066】
【化11】
【0067】
からなる群から選択される配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる。
【0068】
場合によって、ペプチドはまた、
【0069】
【化12】
【0070】
からなる群から選択される配列;
好ましくは:
【0071】
【化13】
【0072】
からなる群から選択される配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなっていてもよい。
【0073】
極めて詳細な態様では、ペプチドは、
【0074】
【化14】
【0075】
から選択されたペプチドの配列ではないか、又はそれを含まない。
【0076】
場合によって、ペプチド分子はまた、N末端又はC末端側にその他のペプチド配列を含んでいてもよい。例えば、ペプチドは、N末端又はC末端に、ペプチドの精製又は固定化に有用であるタグを含んでいてもよい。そのようなタグは、当業者に公知であり、例えば、ヒスチジン(His6)、FLAG、HA(インフルエンザウイルスヘマグルチニン由来エピトープ)、MYC(ヒト癌原遺伝子タンパク質MYC由来エピトープ)、又はGST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)タグが挙げられる。場合によって、ペプチドは、このタグを削除するためのプロテアーゼ切断部位又は化学薬品を含んでいてもよい。
【0077】
好ましい一実施形態では、ペプチドは、長さが30アミノ酸未満であり、好ましくは、25、20、19、18、17、16、又は15アミノ酸未満である。
【0078】
好ましい一実施形態では、ペプチドは、環状ではない。よって、ペプチドは、2つのアミノ酸側鎖の間に、又はN末端とC末端との間に、いかなる共有結合的相互作用も含んでいない。
【0079】
ペプチドのペプチド結合は、該ペプチド結合がタンパク質分解に対して耐性となるように修飾されうる。例えば、少なくとも1つのペプチド結合(-CO-NH-)が、(-CH2-NH-)、(-NH-CO-)、(-CH2-O-)、(-CH2-S-)、(-CH2-CH2-)、(-CO-CH2-)、(-CHOH-CH2-)、(-N=N-)、及び(-CH=CH-)から選択される二価結合と置き換えられていてもよい。場合によって、ペプチド結合は全て置き換えられていてもよい。
【0080】
ペプチド分子は、カルボキシ(-COO-)又はアミド化(-CONH2)C末端のどちらを含んでいてもよい。C末端はまた、エステル化されていてもよい。ペプチドはまた、場合によって、そのN末端で、例えばアセチル基によって、修飾されていてもよい。詳細な一実施形態では、ペプチドは、そのN末端で、部分的に、PEG(ポリエチレングリコール)化されていてもよい。例えば、ペプチドは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個以上のPEG基を含んでいてもよい。
【0081】
アミノ酸のL及びD異性体が想定される。実際に、D異性体は、プロテアーゼに対して感受性ではなく、本発明はまた、D-アミノ酸を含む分子、特にD-アミノ酸のみ又は主にD-アミノ酸を含む分子も含む。詳細な一実施形態では、L-アミノ酸が好ましい。別の詳細な実施形態では、ペプチドは、D-アミノ酸だけを含んでいてもよく、逆転構成(同じ配列であるが逆向き)であってもよい。
【0082】
詳細な態様では、本発明は、フザリウム属の真菌によるマイコトキシン産生に対する阻害活性を有する新規ペプチドに関する。
【0083】
特に、本発明による新規ペプチドは、上記で定義したようなペプチドであるが、
【0084】
【化15】
【0085】
の配列を有する未修飾のペプチドではない。
【0086】
よって、新規ペプチドは、PEG化、C末端アミド化、N末端アセチル化、修飾されたペプチド結合、D-型アミノ酸、修飾されたシステイン、又はこれらの修飾の組合せを有する、配列番号2又は3の配列を有するペプチドであってもよい。
【0087】
詳細な一実施形態では、ペプチドは、配列番号22及び23の配列から選択される配列を含むか、1、2、3、4、若しくは5つの置換、付加、欠失、又はそれらの混合を場合によっては含む配列を有する配列番号22及び23の配列から選択される配列からなるか、又は配列番号22及び23の配列から選択される配列からなる。特に、ペプチドは、配列番号22の配列からなっていてもよい。
【0088】
組成物及び使用
本発明は、本特許出願に記載したような新規ペプチド又はその混合物を含む組成物に関し、該組成物は、好ましくは、特にフザリウム属の真菌を防除するための、またより詳細にはマイコトキシンの産生を防除するための、植物衛生組成物である。
【0089】
本発明はまた、植物におけるフザリウム属の真菌によるマイコトキシンの産生を阻害するための、本特許出願に記載したようなペプチド又はその混合物の使用に関する。
【0090】
最後に、本発明は、植物におけるフザリウム属の真菌によるマイコトキシンの産生を阻害するための方法であって、植物を、本特許出願に記載したようなペプチド又はその混合物を含む組成物と接触させて配置する工程を含む方法に関する。
【0091】
フザリウム属の真菌は、特に、フザリウム・カルモラム、フザリウム・グラミネアラム、フザリウム・トリシンクタム、フザリウム・アベナセアム、フザリウム・ポアエ、フザリウム・スポロトリキオイデス、フザリウム・ベルチシリオイデス、フザリウム・プロリフェラタム、フザリウム・ラングセチアエ、フザリウム・オキシスポラム、フザリウム・ロゼウム、フザリウム・アルスロスポリオイデス、及びフザリウム・アベナセアムから選択されてもよく、好ましくは、フザリウム・カルモラム、フザリウム・グラミネアラム、フザリウム・トリシンクタム、フザリウム・アベナセアム、フザリウム・ポアエ、フザリウム・スポロトリキオイデス、フザリウム・ベルチシリオイデス、フザリウム・プロリフェラタム、フザリウム・ラングセチアエ、及びフザリウム・オキシスポラムから選択されうる。詳細な態様では、該真菌は、フザリウム・カルモラム又はフザリウム・グラミネアラムである。
【0092】
本処置が関わる植物は、コムギ(軟質及びデュラム)、オオムギ、トウモロコシ、オートムギ、ライコムギ、及びイネ等の穀物であってもよいが、更にトマト、メロン、キュウリ、ズッキーニ、キクイモ、ベルペッパー、ジャガイモ、アスパラガス、サツマイモ、セロリ、ニンニク、タマネギ、キャベツ、ショウガ、バナナ、キャッサバ、及びバニラ等の果実及び野菜、並びにナツメヤシ等の果樹でありうる。
【0093】
マイコトキシンは、特に、タイプBトリコテセンである。特に、タイプBトリコテセンの中でも、デオキシニバレノール(DON)、3-アセチル-DON(3-ADON)及び15-アセチル-DON(15-ADON)タイプを含むアセチル化デオキシニバレノール(A-DON)、ニバレノール、並びにフサレノンXである。
【0094】
詳細な一実施形態では、植物衛生組成物又はペプチドは、植物の地上部に施用される。好ましくは、植物衛生組成物又はペプチドは、植物の開花時又は開花以前に施用される。別法として、植物衛生組成物又はペプチドは、穀粒形成時に施用される。
【0095】
詳細な態様では、植物衛生組成物又はペプチドは、フザリウム属の真菌によるマイコトキシンの産生に対する阻害効果を有し、フザリウム属の真菌の増殖に対してほとんど影響のないか又は影響のない濃度で使用してもよい。実際には、該濃度は、マイコトキシン産生に対し最適な効果が得られるように選択されることとなる。よって、ペプチド濃度は、例えば、100μM未満、75μM未満、50μM未満、25μM未満、又は15μM未満であってもよい。
【0096】
別の詳細な態様では、植物衛生組成物又はペプチドは、フザリウム属の真菌によるマイコトキシン産生に対する効果を有し、フザリウム属の真菌の増殖に対する阻害効果もまた有する濃度で使用してもよい。本文脈では、ペプチドは、好ましくは、本特許出願で定義したような新規ペプチドである。
【図面の簡単な説明】
【0097】
図1】天然型及び酸化型TickCore3の抗真菌活性及び抗マイコトキシン活性を示すグラフである。TickCore3(天然型)又はTickCore3Ox(酸化型)を補充した又は補充していない培地中で、10日間インキュベートした後、F.グラミネアラムの菌糸体を分離し、計量した。菌糸体質量の値は、グラム(g)で示す(図1a)。TCTBマイコトキシン、DON(図1b)及び15-ADON(図1c)は、定量化し、培地1ml当たりのマイコトキシンのμgで表し、次いで、菌糸体の質量で割り、乾燥菌糸体生物量1g当たりのTCTBマイコトキシンのμg(μg/g)で表した。
図2】リニア及び環状TickCore3ペプチドの抗真菌活性及び抗マイコトキシン活性を示すグラフである。TickCore3 CH3-1 Ox、TickCore3 CH3-2 Ox、TickCore3 CH3-3 Ox、又はTickCore3 CH3-123を補充した又は補充していない培地中で、10日間インキュベートした後、F.グラミネアラム菌糸体を分離し、計量した。菌糸体質量の値は、グラム(g)で示す(図2a)。TCTBマイコトキシン、DON(図2b)及び15-ADON(図2c)を、培地1ml当たりのマイコトキシンのμgで定量化し、次いで、菌糸体の質量で割り、乾燥菌糸体生物量1g当たりのTCTBマイコトキシンのμg(μg/g)で表した。
図3】天然型、又は塩基性アミノ酸(6位、13位、及び14位のK、並びに7位のR)を非荷電アミノ酸のTで置き換えた置換型の、Tickcore3の抗真菌活性及び「抗マイコトキシン」活性を示すグラフである。TickCore3、TickCore3-K6T、TickCore3-R7T、TickCore3-K13T、及びTickCore3-K14Tを補充した又は補充していない培地中で、10日間インキュベートした後、F.グラミネアラム菌糸体を分離し、計量した。菌糸体質量の値は、グラム(g)で示す(図3a)。TCTBマイコトキシン、DON(図3b)及び15-ADON(図3c)を、培地1ml当たりのマイコトキシンのμgで定量化し、次いで、菌糸体の質量で割り、乾燥菌糸体生物量1g当たりのTCTBマイコトキシンのμg(μg/g)で表した。3つの異なるペプチド濃度(12.5μM、25μM、及び50μM)を試験した。
図4】TickCore3ペプチド及びPEG化バージョンTickCore3-PEGの抗真菌活性及び抗マイコトキシン活性を示すグラフである。TickCore3又はTickCore3-PEGを補充した又は補充していない培地中で、10日間インキュベートした後、F.グラミネアラム菌糸体を、遠心分離によって分離し、計量した。菌糸体質量の値は、グラム(g)で示す(図4a)。TCTBマイコトキシン、DON(図4b)及び15-ADON(図4c)を、培地1ml当たりのマイコトキシンのμgで定量化し、次いで、菌糸体の質量で割り、乾燥菌糸体生物量1g当たりのTCTBマイコトキシンのμg(μg/g)で表した。
図5】マダニデフェンシンDefMT3の抗マイコトキシン活性を示すグラフである。DefMT3を補充した又は補充していない培地中で、10日間インキュベートした後、TCTBマイコトキシン、DON(図5A)及び15-ADON(図5B)を、培地1ml当たりのマイコトキシンのμgで定量化し、菌糸体質量で割り、乾燥菌糸体生物量1g当たりのTCTBマイコトキシンのμg(μg/g)で表した。2つのDefMT3濃度:25及び50μMを試験した。
【実施例
【0098】
発明者らは、以下「TickCore3」と呼ぶ、マダニデフェンシンDefMT3の、還元システイン(Cys)残基を有する保存されたリニアガンマコア部分が、F.グラミネアラムによるタイプBトリコテセン(TCTB)の産生を阻害することを示した。メチル基でのTickCore3のCys残基全てのアルキル化(TickCore3-CH3)によっては、TCTB産生に作用する阻害効果に対しほとんど影響はなかった。逆に、TickCore3のCys残基全ての酸化によっては、TCTB産生に対する阻害効果は強力に低下した。特定のCys4-Cys6及びCys4-Cys5ジスルフィド架橋が形成された場合に、阻害機能の大幅な低下が観察された。発明者らはまた、ペプチドのカチオン性電荷が、その生物学的活性において重要因子であったことも示した。正荷電アミノ酸と中性残基との置換は、時として抗真菌活性及びTCTB産生の阻害を極めて有意に低減した。
【0099】
結果
TickCore3は、F.グラミネアラムによるTCTB産生の極めて有効な阻害物質である
図1は、3つの異なる濃度(12.5、25、及び50μM)で、TickCore3及びその酸化変異体(TickCore3 Ox)を補充したMS培地中で、F.グラミネアラムCBS 185.32株を10日間培養した後に得た結果を示している。無処理の培養培地(対照)には、TickCore3ペプチドのいずれも補充しなかった。TickCore3 Oxは、乾燥真菌生物量に対する影響はなかったものの、TickCore3は、対照条件と比べて、全ての被験濃度で、真菌の増殖を有意に阻害した(図1a)。ペプチドの濃度を上げると、乾燥生物量の量に対し比例効果があったことから、TickCore3の真菌の増殖に対する阻害効果は、用量依存的であった。マイコトキシン産生物に関しては、検討した菌株によって液体培地中に産生された主なTCTBは、15-ADONであった。対照条件下では、15-ADON産生量(平均値21867 SD±3259μg/g乾燥生物量)は、DON産生量(835±68μg/g)より26倍高かった。TickCore3の補充によって、全ての被験濃度で、DON(図1b)及び15-ADON(図1c)が検出不可能なレベルとなった。ただし、12.5μM濃度では、15-ADONの残存レベルが観察された(図1c)。対照的に、12.5μM濃度のTickCore3 Oxによっては、DON(図1b)又は15-ADON(図1c)産生の有意な低減はなかった。
【0100】
TickCore3の環化が抗真菌活性を低下させる
発明者らは、TickCore3の環形成によって、TCTB産生を阻害する効果が得られるという仮説を立てた。この仮説を検証するために、各Cys残基を個別にメチル基(CH3)でアルキル化することによってTickCore3派生ペプチドを合成し、続いて、酸化手順により、Cys5-Cys6(TickCore3 CH3-1 Ox)、Cys4-Cys6(TickCore3 CH3-2 Ox)、及びCys4-Cys5(TickCore3 CH3-3 Ox)の間に築いたジスルフィド架橋を有するペプチドを生成した。
【0101】
TickCore3-CH3-1 Ox、TickCore3-CH3-2 Ox、及びTickCore3-CH3-3 Oxは、対照と比べて、いずれの被験濃度でも、真菌の増殖に影響を及ぼさなかった(図2a)。次いで、F.グラミネアラムによるマイコトキシン産生を、3つの異なる濃度:12.5、25、及び50μMで、TickCore3-CH3-1 Ox、TickCore3-CH3-2 Ox、及びTickCore3-CH3-3 Oxを補充した培地中で測定した(図2b)。TickCore3-CH3-2 Ox及びTickCore3-CH3-3 Oxの濃度を上げた結果、TickCore3-CH3-2 Oxに曝した真菌で15-ADON産生が有意に変化しなかったことを除いては、DON(図2b)及び15-ADON(図2c)産生が有意に増加した。更に、50μMのTickCore3-CH3-1 Oxによる処理では、DON及び15-ADONレベルは有意に低減した(図2bc)。加えて、全てのCys残基がメチル基でアルキル化されたペプチド、TickCore3-CH3-CH3-123を合成した。TickCore3-CH3-123に曝したF.グラミネアラムでは、DON及び15-ADON産生は、対照条件と比較して有意にいっそう低減した。
【0102】
カチオン性電荷は、TickCore3の抗真菌活性及び「抗マイコトキシン」活性の重要な要素である。
発明者らは、TickCore 3のカチオン性電荷が、その生物学的活性の重要な要素であるという仮説を立てた。この仮説を検証するために、「塩基性」アミノ酸(アルギニン及びリジン、R及びK)を、非荷電残基スレオニン(T)で置き換えることによって、置換TickCore3ペプチドを合成した。このように、以下のペプチドを生成した:TickCore3-K6T(6位のリジンのスレオニン残基による置換)、TickCore3-R7T(7位のアルギニンのスレオニン残基による置換)、Tickcore3-K13T(13位のリジンのスレオニン残基による置換)、及びTickCore3-K14T(14位のリジンのスレオニン残基による置換)。全ての置換ペプチドで、抗真菌活性は、天然ペプチドの抗真菌活性と比較して低減した(図3a)。置換型(TickCore3-K13T、TickCore3-K14T、及びTickCore3-R7T)が、50μMでのみ強力な抗真菌活性を示したのに対し、TickCore3-K6Tは、50μM以下の濃度では抗真菌活性を有さなかった。次いで、F.グラミネアラムによるマイコトキシン産生を、3つの異なる濃度:12.5、25、及び50μMでTickCore3、TickCore3-K13T、TickCore3-K6T、TickCore3-K14T、及びTickCore3-R7Tを補充した培地中で測定した(図3b及び図3c)。全ての置換ペプチドで、DON(図3b)産生又は15-ADON(図3c)産生のいずれにせよ、マイコトキシン産生を阻害する能力は、天然型TickCore3の能力よりも低い。このTCTB産生を阻害する能力の低減は、TickCore3-K6Tで特に顕著であり、TickCore3-K13Tではそれより少ない程度であり、このことは、13位及び6位のリジンアミノ酸が「抗マイコトキシン」活性で重要な役割を果たしていることを示唆している。
【0103】
TickCore3のPEG化が抗真菌活性を高める
2つのPEG単位をペプチドのN末端に連続して結合させたことを除いては、TickCore3と同様の方法で、ペプチドTickCore3-PEGを合成した。TickCore3と比較して、50μMのTickCore3-PEGは、真菌増殖の低減が3.3倍となる高い抗真菌効果を示した(図4a)。更に、TickCore3-PEGはまた、マイコトキシン産生に対する阻害活性も向上したと考えられる(図4bc)。
【0104】
デフェンシンDefMT3は、マイコトキシン産生を阻害することができる。
ペプチドDefMT3は、TickCore3と同じ方法で合成した。このペプチドは、マイコトキシンDON及び15-ADONの産生に対する阻害活性を示している(図5a及び図5b)。
【0105】
材料及び方法
TickCore3のガンマコアの合成
TickCore3(CGNFLKRTCRTCICVKKK、配列番号2)は、DefMT3の保存されたガンマコア部分である(GenBank登録番号:JAA71488;Tonk等、2015年)。このペプチド合成は、Pepmic社(Suzhou、中国)から委託され、Cabezas-Cruz等、2016年、(Front. Microbiol.、7、1682)に既述の通り、高純度のペプチドを得るために固相ペプチド合成(SPPS)を使用した。簡潔に述べると、ペプチド合成は、固体支持体として2-クロロトリチルクロリド樹脂、及び保護基として9-フルオレニル-メチルオキシ-カルボニル(Fmoc)不安定塩基を使用して行った。アミノ酸は、以下の通り保護した:Fmoc-Cys(Trt)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Arg(Pbf)-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Ile-OH、及びFmoc-Val-OH。ペプチド配列は全て、SPPSの原理に従って合成した。ペプチドは、標準的なペプチド化学結合手順に従って、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって精製した。
【0106】
逆相HPLCによって精製したペプチドは、次いで、場合によって、1M尿素、100mMトリス(pH8.0)、1.5mM酸化グルタチオン、0.75mM還元グルタチオン、及び10mMメチオニンを含有するリフォールディングバッファーを使用して酸化させた。Cys残基の酸化は、エルマン反応によって確認し、ジスルフィド結合形成は、LCMS-2020質量分析計(Shimadzu社、京都、京都府、日本)を使用してエレクトロスプレー質量分析法(ESI-MS)によって特性決定を行った。配列組成も、LCMS-2020質量分析計(Shimadzu社、京都、京都府、日本)を使用してESI-MSによって確認した。ペプチドTickCore3-CH3-123(C(CH3)GNFLKRTC(CH3)IC(CH3)VKK)、TickCore3-CH3-1(C(CH3)GNFLKRTCRICVKK)、TickCore3-CH3-2(CGNFLKRTC(CH3)ICVKK)、及びTickCore3-CH3-3(CGNFLKRTCIC(CH3)VKK)は、Fmoc-Cys(Trt)-OHと置換してFmoc-Cys(Me)-OHを加えたことを除いては、既述の通りに合成した。全てのCys残基のチオール基の硫黄(S)のアルキル化によって、これらの残基の環化が妨げられる(すなわち、形成されうるジスルフィド架橋はない)。逆に、1つのCys残基のチオール基のSをアルキル化し、続いて、これを酸化することによって、還元Cys残基(すなわち、アルキル化されていなかった残基)の環化が誘導される。
【0107】
ペプチドTickCore3-PEGは、TickCore3と同様に合成したが、2つのPEG単位を、保護されたFmoc-NH-PEG2-CH2CH2COOH基を使用して、ペプチドのN末端に連続的に結合させた。
【0108】
配列GGYYCPFRQDKCHRHCRSFGRKAGYCGNFLKRTCICVKK(配列番号22)を有するペプチドDefMT3は、Pepmic社(Suzhou、中国)によるTickCore3の手順と同一の手順によって合成した。
【0109】
マイコトキシン産生阻害試験
フザリウム菌株及び培養条件
DON及び15-ADONを産生するF.グラミネアラムCBS 185.32株(Centraal bureau voor Schimmelkulturen、オランダ)を、本研究を通して使用した。真菌培養物は、鉱油下で傾斜させた試験管内で、ポテトデキストロース寒天(PDA)(Difco社、Le Ponts de Claix、フランス)上で、4℃で維持した。接種菌液を得るために、この菌株を、PDA斜面培地上で、暗所にて25℃で7日間培養し、PDA斜面培地に、穏やかに撹拌しながら6mlの滅菌蒸留水を加えて、胞子懸濁液を調製した。
【0110】
液体培養実験は、24ウェル静置プレートを使用して行った。TCTB産生の迅速な誘導を促進する合成培地(SM培地)を、ペプチドを補充して又は補充せずに、以前に発表されているように調製し(Boutigny等、2009年、Mycol. Res.、113、746)、この培地を2mlを含む各ウェルに2×104胞子/mLを接種した。この真菌培養液を、暗所にて25℃で、10日間インキュベートした。インキュベーション後、菌糸体を遠心分離によって回収し、真菌生物量を、菌糸体を48時間凍結乾燥した後(Flexi-Dry(登録商標)、OErlikon Leybold社、ドイツ)、計量することによって測定した。この培養培地は、TCTB分析の時間まで、-20℃で保管した。ペプチドは全て、3つの濃度:12.5、25、及び50μMで試験した。各条件につき、5回、繰り返した。DefMT3は、25及び50μMで試験した。ペプチドを含まない対照培地及び非接種対照培地を使用した好適な対照を組み入れた。
【0111】
TCTB抽出及び分析
培養培地の1.5mL試料を、3mlの酢酸エチルで抽出した。2.5mlの液量の有機相を、窒素流下、45℃で、乾燥状態まで蒸発させた。乾燥させた試料を、200μLのメタノール/水(1/1、v/v)に溶解し、0.2μmフィルターを通してろ過した後、分析した。TCTBを、自動サンプリングシステム、Agilentダイオードアレイ検出器(DAD)、及びChemStationクロマトグラフィー管理ソフトウエアを備えたAgilent Technologies 1100シリーズ液体クロマトグラフ(Agilent社、フランス)を使用して、HPLC-DADによって定量化した。分離は、45℃に維持したKinetex XB-C18 100Åカラム(4.6×150mM、2.6μm)(Phenomenex社、フランス)で行った。移動相は、pH2.6のオルトリン酸で酸性化された水(溶媒A)及びアセトニトリル(溶媒B)からなった。流速は、1ml.分-1で維持した。注入量は、5μLとした。TCTBは、以下の溶出勾配を使用して分離した:7~30%Bを10分かけて、30~90%Bを5分かけて、90%Bを5分間、90~7%Bを2分かけて、7%Bを5分間。UV-Visスペクトルは、190~400nmまでを記録し、ピーク域は、230nmで測定した。定量化は、基準溶液(Romer Labs社、オーストリア)を用いた外部軟正によって行った。毒素収量は、乾燥生物量のμg.g-1で表した。
【0112】
統計分析
示した値は全て、4回の生物学的反復試験を含む平均値±標準偏差である。データは正規分布(Shapiro-Wilkの正規性検定)をたどっていなかったため、Kruskal-Wallisの一元配置分散分析を使用して、Conover-Iman検定を使用して平均値の比較を行った。統計分析は、XLSTAT 2017ソフトウエア(Addinsoft社、Rennes、フランス)で行った。本研究を通して、統計的有意性レベルp=0.05を使用した。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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【国際調査報告】