(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-30
(54)【発明の名称】薄膜バルク音波共振器及びその製造工程
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20230523BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H3/02 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574755
(86)(22)【出願日】2020-06-28
(85)【翻訳文提出日】2022-12-05
(86)【国際出願番号】 CN2020098557
(87)【国際公開番号】W WO2021248572
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】202010526851.5
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520296211
【氏名又は名称】見聞録(浙江)半導体有限公司
【氏名又は名称原語表記】JWL (ZHEJIANG) SEMICONDUCTOR CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】BUILDING 3, NO.55, DACHUANWAN ROAD, LONGXI SUB-DISTRICT, HUZHOU, ZHEJIANG 313000, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】李 林萍
(72)【発明者】
【氏名】盛 ▲荊▼浩
(72)【発明者】
【氏名】江 舟
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB08
5J108CC13
5J108EE03
5J108EE04
5J108EE07
5J108EE13
5J108KK01
5J108MM12
(57)【要約】
本出願は、薄膜バルク音波共振器及びその製造工程を開示する。
薄膜バルク音波共振器は、音波反射構造が所在する基板の上部に設けられる底部電極層、圧電層及び上部電極層を含み、圧電層の、音波反射構造の境界に対応する部位に対して脱分極処理を行うことで、脱分極部を形成する。薄膜バルク音波共振器の製造工程は、音波反射構造が形成された、又は後で形成される基板に底部電極層を製造することで、音波反射構造を覆うステップと、底部電極層に圧電層を製造するステップと、圧電層の、音波反射構造の境界に対応する部位に対して脱分極処理を行うことで、脱分極部を形成するステップと、圧電層に上部電極層を製造するステップと、を含む。当該薄膜バルク音波共振器及びその製造工程は、横波が共振器のキャビティ上部の共振領域からエネルギーを奪うことを抑制でき、共振領域の機械振動強度を保証し、寄生発振を抑制し、共振器Q値を高める。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜バルク音波共振器であって、
音波反射構造が所在する基板の上部に設けられる底部電極層、圧電層及び上部電極層を含み、前記圧電層の、前記音波反射構造の境界に対応する部位に対して脱分極処理を行うことで、脱分極部を形成することを特徴とする薄膜バルク音波共振器。
【請求項2】
前記脱分極部は部分的に脱分極されることを特徴とする請求項1に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項3】
前記脱分極部は全部脱分極されることを特徴とする請求項1に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項4】
前記脱分極部の、前記基板での投影領域は少なくとも前記音波反射構造の外部領域から前記音波反射構造内部まで跨ることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項5】
前記脱分極部は前記圧電層に対して選択的脱分極処理を行って形成されることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項6】
前記脱分極処理は、圧電層における圧電材料に対するイオン注入及びアニーリングを含むことを特徴とする請求項5に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項7】
前記共振器は同一基板に設けられる複数の共振器を含み、前記複数の共振器の間の領域が具備する圧電層は脱分極処理が行われることを特徴とする請求項1に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項8】
前記音波反射構造はキャビティであることを特徴とする請求項1に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項9】
前記音波反射構造はブラッグ反射構造であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項10】
薄膜バルク音波共振器の製造工程であって、
S1:音波反射構造が形成されたか、又は後で形成される基板に底部電極層を製造することで、前記音波反射構造を覆うステップと、
S2:前記底部電極層に圧電層を製造するステップと、
S3:前記圧電層の、前記音波反射構造の境界に対応する部位に対して脱分極処理を行うことで、脱分極部を形成するステップと、
S4:前記圧電層に上部電極層を製造するステップと、を含むことを特徴とする薄膜バルク音波共振器の製造工程。
【請求項11】
前記ステップS3は具体的に、
S31:前記圧電層にハードマスクを堆積するか又はフォトレジストをコーティングするステップと、
S32:前記ハードマスク又は前記フォトレジストをパターン化することで、前記圧電層の少なくとも前記音波反射構造の境界に対応する部位を露出させるステップと、
S33:前記圧電層の露出部位に対してイオン注入を行うステップと、
S34:前記ハードマスク又はフォトレジストを除去するステップと、を含むことを特徴とする請求項10に記載の製造工程。
【請求項12】
前記S33ステップは、イオン注入後、前記圧電層にアニーリング工程を付与するステップをさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の製造工程。
【請求項13】
前記S33ステップは具体的に、イオン注入が行われた圧電層材料のキュリー点が、前記イオン注入が行われた前記共振器の製造工程の最高工程温度より低くなるように、イオン注入過程における添加イオンの種類及び/又は濃度を制御するステップを含むことを特徴とする請求項11に記載の製造工程。
【請求項14】
前記音波反射構造はキャビティ又はブラッグ反射構造であることを特徴とする請求項10~13の何れか一項に記載の製造工程。
【請求項15】
薄膜バルク音波共振器であって、請求項10~14の何れか一項に記載の製造工程によって製造されることを特徴とする薄膜バルク音波共振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、通信デバイスの分野に関し、主に薄膜バルク音波共振器及びその製造工程に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁スペクトルがますます混んで、無線通信機器の周波数帯及び機能が増えていることに連れて、無線通信が使用する電磁スペクトルは500MHzから5GHz以上に高速に伸びているため、性能が高く、コスト及び電力消費が低く、体積が小さい無線周波数フロントエンドモジュールに対するニーズもますます増えている。フィルタは無線周波数フロントエンドモジュールの1つであり、信号の発射及び受信を改善でき、主にトポロジネットワーク構造によって複数の共振器を接続することで形成される。Fbar(Thin film bulk acoustic resonator)はバルク音波共振器であり、それによって構成されたフィルタは、体積が小さく、集積能力が強く、高周波で動作する時、高品質要素Qを保証し、電力受け能力が強いなどの優勢を有するため、無線周波数フロントエンドの主なデバイスになっている。
【0003】
Fbarは上・下電極及び電極の間に挟まれる圧電層からなる基本的な構造である。圧電層は主に電気エネルギーと機械的エネルギーとの変換を実現する。Fbarの上・下電極が電界を付与する場合、圧電層は電気エネルギーを機械的エネルギーに変換し、機械的エネルギーは音波の形式で存在する。音波は横波及び縦波という2つの振動モードを有し、縦波はFbarの動作状態での主なモードであり、横波は共振器縁から漏れてエネルギーを奪う恐れがある。Q値は共振器性能を評価するための重要な指標であり、共振器に貯蔵されるエネルギーと共振器が損失するエネルギーとの比に等しい。従って、横波がエネルギーを奪うと、Q値を必然的に減衰させ、デバイス性能を低減させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術は、キャビティ境界のair gapによって横波を反射することで、横波がエネルギーを奪うことを抑制し、air gapは内部犠牲層の開放工程によって製造され、工程は複雑であり、且つキャビティ上部の上部電極接続部の機械安定性を保証する必要がある。または、共振器の有効共振領域に交差する電極構造の配置によって、寄生発振をある程度で抑制できるが、横波がエネルギーを携帯して共振器から導出することを抑制できない。又は、圧電層に凹溝を製造することで、横波がエネルギーを奪うことを抑制して、デバイスQ値を高めてもよいが、凹溝はエッチング工程によって製造され、当該工程は凹溝底部及び側壁の圧電層の格子欠陥及びマイクロボイドを招致し、共振器性能に影響する。また、キャビティ上部の共振領域の面積を小さくすることで、フィルタのサイズをある程度で増やす。又は、上部電極の上部の質量負荷層によって、音響インピーダンス突然変異を形成することで、横波がエネルギーを奪うことを抑制してもよいが、キャビティの縁の上部の圧電層は、その底部電極の、エッチング工程による格子欠陥及びマイクロボイドをコピーする。
【0005】
従来技術において、共振器キャビティ上部の共振領域で横波が共振器縁から漏れやすくてエネルギーを奪って、寄生発振を抑制しにくく、デバイス性能に影響するという技術問題を解決するために、本発明は薄膜バルク音波共振器及びその製造工程を提出することで、上記問題を解决する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様によれば、薄膜バルク音波共振器を提出し、音波反射構造が所在する基板の上部に設けられる底部電極層、圧電層及び上部電極層を含み、圧電層の、音波反射構造の境界に対応する部位に対して脱分極処理を行うことで、脱分極部を形成する。脱分極部の配置によって、横波が共振器の共振領域からエネルギーを奪うことを抑制し、共振領域の機械振動強度を保証し、寄生発振を抑制し、共振器のQ値を高める。
【0007】
いくつかの実施例において、脱分極部は部分的に脱分極される。デバイスの性能ニーズに基づいて局所的に脱分極されるように配置することで、最小コストで予期の性能ニーズを満たすデバイスを製造する。
【0008】
いくつかの実施例において、脱分極部は全部脱分極される。脱分極部の全部的な脱分極によって、完璧な隔離効果及び最小の寄生効果を実現できる。
【0009】
いくつかの実施例において、脱分極部の、基板での投影領域は少なくとも音波反射構造の外部領域から音波反射構造内部まで跨る。当該配置によって、横波が共振器のエネルギーを奪うことをよりよく抑制する。
【0010】
いくつかの実施例において、脱分極部は圧電層に対して選択的な脱分極処理を行って形成される。選択的脱分極処理によって、脱分極に対する制御を容易に実現する。
【0011】
いくつかの実施例において、脱分極処理は、圧電層における圧電材料に対するイオン注入及びアニーリングを含む。イオン注入によって異なるアニーリング工程を利用して圧電層の脱分極を実現できる。
【0012】
いくつかの実施例において、共振器は同一基板に設けられる複数の共振器を含み、複数の共振器の間の領域が具備する圧電層は脱分極処理が行われる。当該配置によって、寄生発振を全体的に抑制するという技術効果を実現できる。
【0013】
いくつかの実施例において、音波反射構造はキャビティである。キャビティ構造は音波の反射効果を強化させ、デバイスのQ値を高める。
【0014】
いくつかの実施例において、音波反射構造はブラッグ反射構造である。
【0015】
本発明の第2態様によれば、薄膜バルク音波共振器の製造工程を提出し、
S1:音波反射構造が形成された、又は後で形成される基板に底部電極層を製造することで、音波反射構造を覆うステップと、
S2:底部電極層に圧電層を製造するステップと、
S3:圧電層の、音波反射構造の境界に対応する部位に対して脱分極処理を行うことで、脱分極部を形成するステップと、
S4:圧電層に上部電極層を製造するステップと、を含む。
【0016】
圧電層の、音波反射構造の境界に対応する部位に対して脱分極処理を行うことで、脱分極部を形成し、横波が共振器の共振領域からエネルギーを奪うことを抑制し、これによって、共振領域の機械振動強度を保証し、寄生発振を抑制し、共振器Q値を高める。
【0017】
いくつかの実施例において、ステップS3は具体的に、
S31:圧電層にハードマスクを堆積し又はフォトレジストをコーティングするステップと、
S32:前記ハードマスク又は前記フォトレジストをパターン化することで、圧電層の少なくとも音波反射構造の境界に対応する部位を露出させるステップと、
S33:圧電層の露出部位に対してイオン注入を行うステップと、
S34:ハードマスク又はフォトレジストを除去するステップと、を含む。
【0018】
いくつかの実施例において、S33ステップは、イオン注入後、圧電層にアニーリング工程を付与するステップをさらに含む。アニーリング工程によって圧電層の圧電性をなくすことができる。
【0019】
いくつかの実施例において、S33ステップは具体的に、イオン注入が行われた圧電層材料のキュリー点が、イオン注入が行われた共振器の製造工程の最高工程温度より低くなるように、イオン注入過程における添加イオンの種類及び/又は濃度を制御するステップを含む。当該■置は最高工程温度に基づいて適切な添加イオン種類及び/又は濃度を選択することで、異なる工程温度での脱分極操作を満たす。
【0020】
いくつかの実施例において、音波反射構造はキャビティ又はブラッグ反射構造である。音波反射構造は異なる応用効果に基づいてキャビティ又はブラッグ反射構造を選択してもよい。
【0021】
本発明の第3態様によれば、上記製造工程から製造される薄膜バルク音波共振器を提出する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の薄膜バルク音波共振器の特定領域の圧電層は脱分極されることで、圧電性を具備せず、寄生発振を抑制し、横波がエネルギーを奪うことを抑制し、これによって、Q値及びデバイスの性能を高める。従来技術において、air gapなどの工程によって横波を反射して、横波がエネルギーを奪うことを抑制するという方式より、工程がより簡単であり、上部電極接続部の機械安定性を配慮する必要がない。また、本発明の別の態様による薄膜バルク音波共振器の製造工程において、圧電層の露出部位に対してイオン注入を行って、アニーリング工程を付与することで、圧電層の、音波反射構造の境界に対応する部位は脱分極部を形成し、異なる周波数帯のデバイス性能ニーズ及びコスト要求に基づいて部分的又は全部的脱分極を実現し、異なるコスト又は性能要求の薄膜バルク音波共振器を製造する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
実施例に対するさらなる理解を提供するように、図面を含み、図面は本明細書に結合され、本明細書の一部を形成する。図面は実施例を示し、明細書とともに、本発明の原理を解釈する。他の実施例及び実施例の多くの予期の利点を容易に想到し得て、なぜならば、以下の詳しい記載を援用することで、より分かりやすくなるためである。図面の素子は必ずしも互いに比例に従うわけではない。同じ符号は、対応する類似部材を指す。
【0024】
【
図1】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の断面図である。
【
図2】本発明の1つの実施例によるフィルタの平面図である。
【
図3】本発明の1つの具体的な実施例による薄膜バルク音波共振器の直列接続状態での断面図である。
【
図4】本発明の1つの具体的な実施例による薄膜バルク音波共振器の直列接続状態での部分的分極の断面図である。
【
図5】本発明の別の実施例によるSMR構造薄膜バルク音波共振器の断面図である。
【
図6a】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6b】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6c】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6d】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6e】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6f】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6g】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6h】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6i】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6j】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6k】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6l】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6m】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6n】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【
図6o】本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面及び実施例を結合して本出願をさらに詳しく説明する。ここで、記載の具体実施例は関連発明を解釈するためのもので、当該発明を限定しない。また、ここで、記載を便利にするために、図面は関連発明に関する部分のみを示す。
【0026】
ここで、衝突しない場合、本出願の実施例及び実施例の特徴を互いに組み合わせてもよい。以下、図面を参照し実施例を結合して、本出願を詳しく説明する。
【0027】
図1は、本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の断面図を示し、
図1に示すように、当該薄膜バルク音波共振器は基板101、支持層102、底部電極103、圧電層104及び上部電極105を含み、支持層102は基板101及び底部電極103を接続し、両者の間にキャビティ106を形成し、キャビティ106外部の圧電層104及び電極の縦方向領域で脱分極を行って、脱分極圧電層107を形成し、脱分極圧電層107の配置によって、横波が共振器のエネルギーを奪うことを抑制し、さらに、デバイスのQ値を高める。好ましくは、脱分極圧電層107は全部的に脱分極され、又は局所的に脱分極されてもよく、デバイスの性能ニーズに基づいて局所的に脱分極されるように配置することで、最小コストで予期の性能ニーズを満たすデバイスを製造でき、また、全部的に脱分極されることで、完璧な隔離効果及び最小の寄生効果を実現できる。
【0028】
具体的な実施例において、脱分極圧電層107の、基板101での投影領域はキャビティ106外部の領域からキャビティ106の縁又はキャビティ106内部まで跨って、脱分極圧電層107は、圧電層104に対して選択的脱分極処理を行うことにより形成され、脱分極処理は圧電層104における圧電材料に対するイオン注入及びアニーリングを含む。脱分極圧電層107の配置によって、横波が共振器のエネルギーを奪うことをよりよく抑制し、イオン注入によって、異なるアニーリング工程で圧電層104の脱分極、及び脱分極に対する制御を実現できる。
【0029】
具体的な実施例において、一般的な薄膜バルク音波共振器の上部電極105の右側は外部に延在し、キャビティ106外部の圧電層104及び電極縦方向領域は寄生発振を形成し、デバイス性能に影響するため、当該領域内の圧電層は圧電性を失って、寄生発振を抑制でき、エッチング工程で底部電極103には格子欠陥及びマイクロボイドが生じて、成膜過程で垂直方向での圧電層104は底部電極103の欠陥をコピーし、圧電層104の欠陥によって、横波はここで散乱し、エネルギーを奪って、脱分極圧電層107を配置することで、圧電層104の欠陥によるエネルギー損失を回避でき、上部電極105が外部に延在するかどうかに関わらず、脱分極圧電層107の配置は、横波が共振器のエネルギーを奪うことを抑制し、デバイスQ値を高めることができる。
【0030】
具体的な実施例において、同一基板で複数組の共振器が並列接続され(
図1において、共振器の右側は局所的な模式図である)、前の組の共振器の上部電極105は次の共振器の上部電極に接続され、ここで、寄生発振を抑制しデバイス性能を高めることができるために、領域1071及び領域1072は脱分極圧電層107として配置されなければならない。
【0031】
従来技術において、キャビティ境界に内部犠牲層を開放することで形成されたair gapによって、横波を反射し、工程が複雑であり、且つキャビティ上部の上部電極接続部の機械安定性を保証する必要がある。これに対して、本発明はただキャビティ境界の圧電層の圧電性を除去すれば、横波がエネルギーを奪うことを抑制するという効果を実現でき、工程がより簡単であり、且つ上部電極接続部の機械安定性を配慮する必要がない。
【0032】
図2は、本発明の1つの具体的な実施例によるフィルタの平面図を示し、
図2に示すように、4組の共振器201、202、203、204及び接続板205を含み、共振器201、202、203、204の支持層2011、2021、2031、2041及び電極2012、2022、2032、2042は任意の形状であってもよく、具体的に、フィルタの形状に応じて設定され、接続板205は共振器204の電極2042の接続部である。4組の共振器のキャビティは共振器の外部に互いに連通することで、縁は相互に連通して接続する通路によって開放を実現し、共振器の縁の圧電層を破壊しなくて、キャビティを開放するという効果を達成し、ある程度でデバイス性能を高める。
【0033】
図3を引き続いて参照し、
図3は本発明の1つの具体的な実施例による薄膜バルク音波共振器の直列接続状態での断面図を示し、
図3に示すように、前の共振器の上部電極105は次の共振器の底部電極103に接続され、共振器の直列接続を実現し、2つの共振器の直列接続箇所の圧電層104に脱分極圧電層307をそれぞれ配置し、領域3071及び領域3072は脱分極圧電層307として配置されなければならなくて、脱分極圧電層307を配置しないと、寄生発振が生じて、デバイス性能に影響する。
【0034】
別の具体的な実施例において、脱分極圧電層の配置領域が大きいほど、性能の向上がよりよいが、コストがより高くなるため、コスト及びデバイスの性能に基づいて脱分極圧電層の範囲を調整し、例えば、
図4は具体的な実施例の薄膜バルク音波共振器の直列接続状態での部分的な分極の断面図を示し、領域4071及び領域4072は脱分極圧電層407として配置されなければならなくて、同じように、横波が共振器のエネルギーを奪うことを抑制し、寄生発振を抑制するという技術効果を実現する。
【0035】
図1~3は何れも、キャビティ構造の共振器構造の脱分極圧電層の配置方案を示すが、ここで、当該脱分極の圧電層構造は同じようにSMR構造に適用され、同じように本発明の技術効果を実現できる。
図5は、本発明の別の実施例によるSMR構造薄膜バルク音波共振器の断面図を示し、
図5に示すように、当該SMR構造薄膜バルク音波共振器は基板501、底部電極502、圧電層503及び上部電極504を示し、基板501にはブラッグ反射構造506が設けられ、圧電層503はブラッグ反射構造506の反射領域の上部の両端に脱分極圧電層505が設けられ、同じように、横波が共振器のエネルギーを奪うことを抑制するという技術効果を実現できる。
【0036】
図6は、本発明の1つの実施例による薄膜バルク音波共振器の製造工程を示し、
図6に示すように、当該工程は以下のフローを含み、
まず、
図6aに示すように、基板601にシリコン層602を成長させ、基板601はSi、SiC、サファイア、スピネルなどであってもよく、好ましくは、PVDによって成長されたシリコン層の厚さは1.5~3μmである。
図6bに示すように、フォトリソグラフィによって必要な共振器キャビティパターンをシリコン層602に生成する。
図6cに示すように、キャビティに犠牲層603を成長させ、犠牲層材料はPSG(Pを添加したSiO
2)であってもよく、犠牲層603に対して化学機械研磨を行う。シリコン層602及び犠牲層603に底部電極604を製造し、底部電極604の材料はモリブデンであってもよく、底部電極604を基礎として圧電層605を製造し、圧電層605は窒化アルミニウムであり、具体的な構造について、
図6d及び6eを参照すればよい。
【0037】
図6f及び6gを引き続いて参照し、CVDによって圧電層605表面にハードマスク606を堆積し、ハードマスク606は無機薄膜材料であり、主な成分はTiN、SiN、SiO
2などを含み、フォトリソグラフィ及びエッチングでハードマスクを開口させ、ここで、ハードマスク領域の形状は後続の上部電極の形状と同様であり、遮断領域は共振器の有効領域である。又は、フォトレジストが現像するように開口パターンを製造するという技術を直接的に使用してもよく(即ち、ハードマスクをフォトレジストに置き換える)、同じように、本発明の技術効果を実現できる。
【0038】
図6h及び6iに示すように、圧電層605の、ハードマスク606に露出する領域に対してイオン注入を行って、注入される原子はNi/Fe/Cr/Mn/Co/V/Y/Siなどであってもよく、イオン注入が行われた圧電層605にアニーリング工程を付与し、圧電層605の、イオン注入が行われた領域が脱分極部607を形成するように、アニーリング工程におけるアニーリング温度は、イオン注入が行われた圧電層605の材料のキュリー点より高くすべきである。好ましくは、イオン注入が行われる圧電層材料のキュリー点が、イオン注入が行われる共振器の製造工程の最高工程温度より低くなるように、イオン注入過程における添加イオンの種類及び/又は濃度を制御してもよい。
【0039】
具体的な実施例において、圧電層605に対してイオン注入を行ってから、選択的処理を行うように脱分極することで、圧電層605の圧電性をなくす。窒化アルミニウム圧電層605の673.15K(400℃)であるキュリー点を臨界点とする。圧電層605のキュリー点が673.15Kより低い場合、イオン注入工程が行われた複数のプロセスの作業温度が673.15Kを超えて、当該作業温度>圧電層605のキュリー点によって、圧電層605の膜層内部分子及び原子が激しく運動して、不規則的に配列され、これらの相対的な高温工程によって、圧電層605の圧電性をなくす。圧電層605のキュリー点が673.15Kより高い場合、673.15Kを超える工程がないため、圧電層605に対してイオン注入を行った後、別のアニーリング工程を追加し、アニーリング温度は圧電層605のキュリー点より高い必要があり、最適な温度は圧電層605のキュリー点より約10~20℃高く設定し、保温時間は約0.5hにしてもよい。
【0040】
具体的な実施例において、クロム圧電層605を導入してもよい。クロム添加濃度が1~3%である場合、キュリー点は350Kより僅かに高くて、添加濃度が15%である場合、キュリー点は400Kより僅かなに高く、この場合、キュリー点は上記配置された臨界点(673.15K)より低いため、アニーリングを必要とせず、添加濃度が7%である場合、キュリー点は900Kより僅かに高く、この場合、キュリー点は臨界点より高いため、脱分極部607が圧電性を失うように、900Kを超えるアニーリング温度を設定する必要がある。
【0041】
別の具体的な実施例において、バナジウム圧電層605を導入してもよい。バナジウムの添加濃度が1.58%である場合、圧電層605は、室温に近接するキュリー点300Kを取得でき、アニーリングを必要とせず、後続の工程で、脱分極部607の圧電性をなくすことができる。
【0042】
図6jを引き続いて参照して、フッ化水素酸エッチング液によってハードマスク606を除去し、ここで、どんな態様のイオン注入領域にも関わらず、各側イオン注入領域は何れもキャビティの範囲を超えず、即ち、イオン注入領域の垂直方向での投影はキャビティ境界と局所的に重畳してもよいし、キャビティの内部に少し延在してもよい。
【0043】
具体的な実施例において、イオン注入の水平方向の領域限定は、キャビティ外部に投影される全部(
図6jに示すように)であってもよいし、キャビティ周辺に投影される局所(
図6kに示すように)であってもよく、イオン注入の垂直方向の領域範囲は限定され、圧電層を貫通(
図6jに示すように)してもよいし、局所的に注入(
図6lに示すように)してもよい。水平方向の領域範囲は、ハードマスク606の開口パターンの形状を調整することで実現されてもよく、垂直方向はイオン注入の工程パラメータを調節することで実現される。ここで、イオン注入領域が大きいほど、デバイスの性能向上がよいが、コストが大きくなるため、コスト及びデバイス性能のニーズを考慮して適切なイオン注入の領域を選択できる。
【0044】
別の具体的な実施例において、
図6mに示すように、非共振領域は全部的にイオン注入を使用することで、圧電層605が圧電性を失って、共振器領域の圧電層605の圧電性のみを保留してデバイス機能を実現し、完璧な隔離効果及び最小の寄生効果を実現し得る。上部電極608に対応する圧電層605領域を除いた全ての領域は全部添加される。
【0045】
好適な実施例において、添加領域の設定根拠は、最小コストで所定要求を満たす寄生発振抑制効果を達成する脱分極部領域を作ることである。ここで、添加される圧電層605の領域が所在する共振器の間の位置、面積の大きさ、深さ及び共振器外部の添加領域について、何れも任意に選択して設定できる。
【0046】
最後、
図6n及び
図6oを参照して、圧電層605表面に上部電極608を製造し、上部電極608の材料はモリブデンである。フッ化水素酸エッチング剤を使用して犠牲層603を開放させ、キャビティ609を取得し、薄膜バルク音波共振器の製造工程を完成させる。当該工程はハードマスク606の堆積によって、脱分極を必要とする圧電層を露出させ、圧電層605に対してイオン注入を行うことで、選択的に処理するように、脱分極を行って、一部の圧電層の圧電性をなくし、コスト及びデバイスの性能に基づいて、相応的なイオン注入領域を総合的に選択し、異なるタイプの薄膜バルク音波共振器の製造工程を満たす。
【0047】
図6a~6oの製造工程で製造して取得された薄膜バルク音波共振器において、特定領域又は特定深さの圧電層の脱分極によって、上部電極及び底部電極が電界を付与する場合、圧電層は電気エネルギーを横波及び縦波という2つの振動モードが含まれた機械的エネルギーに変換し、脱分極された領域は、横波が共振器キャビティ上部の共振領域からエネルギーを奪うことを抑制でき、共振領域の機械振動強度を保証し、共振器のQ値を高める。
【0048】
以上、本出願の具体な実施形態を記載したが、本出願の保護範囲はこれに限定されず、当業者であれば、本出願が開示した技術範囲内で、容易に想到し得る変更又は置換は、何れも本出願の保護範囲内に該当すべきである。従って、本出願の保護範囲は請求項の保護範囲を準とする。
【0049】
本出願の記載において、用語である「上」、「下」、「内」、「外」などによって指示される方位又は位置関係は、図面による方位又は位置関係であり、指示される装置又は素子が特定の方位を有し特定の方位で構造されて操作されなければならないと指示又は暗示するわけではなく、ただ本出願を便利に記載し及び記載を簡潔化するためのものであるため、本出願に対する限定ではない。語句である「含む」は、請求項に挙げられていない素子又はステップの存在を排除しない。デバイスの前の語句である「一」又は「一つ」は、複数のこのようなデバイスの存在を排除しない。互いに異なっている従属請求項にはいくつかの方法が記載されるという簡単な事実は、これらの方法の組み合わせが改良に適用されることができないことを意味していない。請求項の何れかの参照符号は、範囲に対する限定ではない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の実施例において、特定領域の圧電層は脱分極されることで、圧電性を具備せず、寄生発振を抑制し、横波がエネルギーを奪うことを抑制し、これによって、Q値及びデバイスの性能を高める。製造工程が簡単であり、製造コストが低く、大規模な工業生産に適する。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜バルク音波共振器であって、
音波反射構造が所在する基板の上部に設けられる底部電極層、圧電層及び上部電極層を含み、前記圧電層の、前記音波反射構造の境界に対応する部位に対して脱分極処理を行うことで、脱分極部を形成
して、前記部位の圧電性をなくし、前記脱分極部の、前記基板での投影領域は少なくとも前記音波反射構造の外部領域から前記音波反射構造内部まで跨ることを特徴とする薄膜バルク音波共振器。
【請求項2】
前記脱分極部は部分的に脱分極されることを特徴とする請求項1に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項3】
前記脱分極部は全部脱分極されることを特徴とする請求項1に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項4】
前記脱分極部は前記圧電層に対して選択的脱分極処理を行って形成されることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項5】
前記脱分極処理は、圧電層における圧電材料に対するイオン注入及びアニーリングを含むことを特徴とする請求項
4に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項6】
前記共振器は同一基板に設けられる複数の共振器を含み、前記複数の共振器の間の領域が具備する圧電層は脱分極処理が行われることを特徴とする請求項1に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項7】
前記音波反射構造はキャビティであることを特徴とする請求項1に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項8】
前記音波反射構造はブラッグ反射構造であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜バルク音波共振器。
【請求項9】
薄膜バルク音波共振器の製造工程であって、
S1:音波反射構造が形成されたか、又は後で形成される基板に底部電極層を製造することで、前記音波反射構造を覆うステップと、
S2:前記底部電極層に圧電層を製造するステップと、
S3:前記圧電層の、前記音波反射構造の境界に対応する部位に対して脱分極処理を行うことで、脱分極部を形成
して、前記部位の圧電性をなくすステップであって、前記脱分極部の、前記基板での投影領域は少なくとも前記音波反射構造の外部領域から前記音波反射構造内部まで跨るステップと、
S4:前記圧電層に上部電極層を製造するステップと、を含むことを特徴とする薄膜バルク音波共振器の製造工程。
【請求項10】
前記ステップS3は具体的に、
S31:前記圧電層にハードマスクを堆積するか又はフォトレジストをコーティングするステップと、
S32:前記ハードマスク又は前記フォトレジストをパターン化することで、前記圧電層の少なくとも前記音波反射構造の境界に対応する部位を露出させるステップと、
S33:前記圧電層の露出部位に対してイオン注入を行うステップと、
S34:前記ハードマスク又はフォトレジストを除去するステップと、を含むことを特徴とする請求項
9に記載の製造工程。
【請求項11】
前記S33ステップは、イオン注入後、前記圧電層にアニーリング工程を付与するステップをさらに含むことを特徴とする請求項
10に記載の製造工程。
【請求項12】
前記S33ステップは具体的に、イオン注入が行われた圧電層材料のキュリー点が、前記イオン注入が行われた前記共振器の製造工程の最高工程温度より低くなるように、イオン注入過程における添加イオンの種類及び/又は濃度を制御するステップを含むことを特徴とする請求項
10に記載の製造工程。
【請求項13】
前記音波反射構造はキャビティ又はブラッグ反射構造であることを特徴とする請求項
9~12の何れか一項に記載の製造工程。
【請求項14】
薄膜バルク音波共振器であって、請求項
9~
13の何れか一項に記載の製造工程によって製造されることを特徴とする薄膜バルク音波共振器。
【国際調査報告】