(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-31
(54)【発明の名称】人工呼吸器における患者固有の呼吸パラメータを決定するための方法、コンピュータプログラム、システム及び人工呼吸器
(51)【国際特許分類】
A61M 16/00 20060101AFI20230524BHJP
A61B 5/087 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
A61M16/00 332A
A61B5/087
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561101
(86)(22)【出願日】2021-04-08
(85)【翻訳文提出日】2022-10-06
(86)【国際出願番号】 EP2021059145
(87)【国際公開番号】W WO2021204931
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】102020204632.8
(32)【優先日】2020-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517068553
【氏名又は名称】テクニッシェ ウニベルシタット ミュンヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】カイ ビーラント ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】ヨーナス ビーラー
(72)【発明者】
【氏名】カール-ローベルト ビヒマン
(72)【発明者】
【氏名】ボルフガング バル
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038SS04
4C038ST09
4C038SU18
(57)【要約】
本発明は、患者が呼吸するのに用いる人工呼吸器を調整するための患者固有の呼吸パラメータを決定するためのコンピュータ実装方法、コンピュータプログラム、システム、及び人工呼吸器に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工呼吸器を操作するための少なくとも1つの最適な呼吸パラメータθ
b,optを自動的に決定するための方法であって、以下のコンピュータ実装ステップ、すなわち、
・ 患者固有のデジタル肺モデルを提供して、少なくとも1つの初期入力呼吸パラメータθ
b,intを呼吸パラメータθ
b,i=θ
b,intとして入力するステップと、
・ 最適な患者固有の呼吸パラメータθ
b,i=θ
b,optの達成をチェックし、及び/又は所定の反復回数の達成をチェックする終了基準が満たされるまで、以下のステップ(i)~(iii)、すなわち、
i)肺モデルから少なくとも1つの患者固有の目的関数F=F(θ
b,i)の値を決定することによって、肺モデル上で呼吸パラメータθ
b,iの関数としてシミュレートされた機械的呼吸を評価するステップ、ここで、
目的関数Fはシミュレートされた機械的呼吸に対する、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータに応じた肺の応答を表し、
ii)関数Fの少なくとも1つの決定された値を、少なくとも1つの所定の参照値に基づいて評価し、及び
少なくとも1つの以前に使用された呼吸パラメータθb
,iに応じた選択方法を使用して少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを選択するステップ、
iii)少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを、ステップi)でF=F(θ
b,i=θ
b,next)を決定するための呼吸パラメータθ
b,iとして使用するステップ、
を反復的に実行するステップと、
・ 終了基準を満たした場合に患者固有の最適な呼吸パラメータθ
b,optを提供するステップと、を含む方法。
【請求項2】
少なくとも1つの目的関数Fは、目的関数B及び/又は目的関数Nを含み、ここで、
Nは、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータの関数として肺の血液中のガスの濃縮を表し、少なくとも1つの出力パラメータは患者の血液中のガス分圧を表し、及び/又は
Bは、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータの関数として肺の機械的負荷を表し、少なくとも1つの出力パラメータは患者の肺の機械的負荷値を表す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを選択するための選択方法は、特に1つ以上のガウス過程、ランダムフォレスト、人工ニューラルネットワーク又は他の回帰モデルを使用して実行されるアルゴリズム、特にベイズの最適化法、ファジー論理アルゴリズム、進化法に基づくアルゴリズム、勾配法を含むアルゴリズム、及び/又は確率論的手法に基づくアルゴリズムを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
選択方法は、少なくとも1つの前に決定されたデータセットT
i=(θ
b,i,F(θ
b,i))に応じた確率的回帰法、特にガウス過程に対する回帰法を使用して少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを選択するための取得関数を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを選択するための選択方法は、特に制約条件を考慮して改善の期待値を使用する取得関数を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを選択するための選択方法は、エントロピー探索を使用するか、又は知識勾配を使用する取得関数を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
呼吸パラメータθ
bは、少なくとも1回の呼吸記述の圧力-時間曲線及び/又は体積-時間曲線を表す多数のパラメータによって記述され、特にθ
bは可能な好ましいパラメータ、すなわち吸気圧p
insp、呼気終末陽圧PEEP、
【数1】
吸気時間及び呼気時間t
insP、t
exp、呼吸頻度f及び酸素割合FiO
2のグループから選択されるパラメータによって形成される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(ii)で、少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを、好ましくは複数の次の呼吸パラメータθ
b,nextを決定するようにされており、その際に選択方法は計算ユニット、特にプロセッサで実行され、モデル評価が他の計算ユニットで並行して実行され、続いて結果が再びまとめられる、請求項1から6のいずれか一項、特に請求項7に記載の方法。
【請求項9】
患者固有の関数Bは、肺組織の拡張ε(x,t)、及び/又は肺内の圧力p(x,t)、及び/又は気道及び/又は肺胞の崩壊c(x,t)及び/又は再開通r(x,t)、及び/又は肺胞の表面活性因子sf(x,t)により呼吸によって引き起こされる機械的負荷を表す、請求項2及び特に請求項3から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
特に患者固有の関数Nは、少なくとも呼吸によって引き起こされる肺の血液中の酸素μ(O2)及び/又は二酸化炭素μ(CO
2)のガス分圧を表す、請求項2及び特に請求項3から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
方法のステップ(ii)で、患者固有の関数B
iは、患者固有の関数Nが所定の参照値を下回らないか又は上回らないという少なくとも1つの制約条件を考慮して評価され、ここで、特にNは出力パラメータの酸素分圧μ(O
2)を含み、制約条件は酸素分圧μ(O
2)が患者の血液中で濃縮された酸素濃縮の参照値S
O2を下回らないことを含み、ここで、特にS
O2は患者固有の参照値として予め決定されている、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
方法のステップ(ii)は、患者固有の参照値として、肺の最大拡張B
max(ε(x,t))及び/又は最大圧力B
max(p(x,t))を上回ってはならないこと、及び/又は酸素飽和S
O2を下回ってはならないことを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(iii)で、呼吸パラメータ値θ
b,iを確率的に変化させる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
初期入力呼吸パラメータ値θ
b,init,1:Jのセットは、ランダム法又は準ランダム法、特にモンテカルロサンプリング又はラテンハイパーキューブサンプリングによって作成される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(ii)で、少なくとも1つの出力パラメータから初期入力呼吸パラメータθ
b,init,1:Jのセットのシミュレーションによって計算された関数Bの関数値が、ガウス過程のトレーニングに使用されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(ii)で、次の入力呼吸パラメータθ
b,next,1:nのシミュレーションによって少なくとも1つの出力パラメータから計算された関数Bの関数値が、ガウス過程をさらにトレーニングするために使用されることを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項、特に請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(ii)で、選択関数は、
【数2】
のように計算される関数を考慮して次の呼吸パラメータ値θ
b,nextを選択する取得関数であり、ここで、
【数3】
はこれまでの機械的負荷が最も小さい関数値を、これまでの最も適当な呼吸パラメータ
【数4】
の関数として表し、その際に指標関数は関数N(θ
b,next)が所定の参照値より小さいか大きい場合は1、それ以外の場合は0であることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
患者固有の肺モデルが、患者の肺の測定画像データに依存して作成されていることを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
本方法を開始する前に、患者固有の肺モデルが、患者の少なくとも1回の呼吸からなる、患者の圧力-時間曲線p
trachea(t)及び/又は流量-時間曲線Q
trachea(t)及び/又は体積-時間曲線v
trachea(t)及び/又は曲線又はそれから導かれた曲線のいずれかを含む呼吸曲線によって校正されることを特徴とする、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
パラメータ化された圧力-時間曲線p
trachea(t)は、患者固有の肺モデルの気管内の患者固有の圧力を再現することを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
所定の参照値は、患者固有であることを特徴とする、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
デジタル肺モデルを使用するコンピュータプログラム製品であって、コマンドを有しており、これらのコマンドがデータ処理装置のプロセッサ上で実行されると、最適な患者固有の呼吸パラメータθ
b,i=θ
b,optの達成をチェックし、及び/又は所定の反復回数の達成をチェックする終了基準が満たされるまで、以下のステップ(i)~(iii)、すなわち、
ii)肺モデルから少なくとも1つの患者固有の目的関数F=F(θ
b,i)の値を決定することによって、肺モデル上で呼吸パラメータθ
b,iの関数としてシミュレートされた機械的呼吸を評価するステップ、ここで、
目的関数Fはシミュレートされた機械的呼吸に対する、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータに応じた肺の応答を表し、
ii)関数Fの少なくとも1つの決定された値を、少なくとも1つの所定の参照値に基づいて評価し、及び
少なくとも1つの以前に使用された呼吸パラメータθb
,iに応じた選択方法を使用して少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを選択するステップ、
iii)少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを、ステップi)でF=F(θ
b,i=θ
b,next)を決定するための呼吸パラメータθ
b,iとして使用するステップ、を反復的に実行させる、コンピュータプログラム製品。
【請求項23】
コンピュータプログラム製品を格納しているコンピュータ可読媒体であって、コンピュータプログラム製品はデジタル肺モデルを使用し、コマンドを有しており、これらのコマンドがデータ処理装置のプロセッサ上で実行されると、最適な患者固有の呼吸パラメータθ
b,i=θ
b,optの達成をチェックし、及び/又は所定の反復回数の達成をチェックする終了基準が満たされるまで、以下のステップ(i)~(iii)、すなわち、
i)肺モデルから少なくとも1つの患者固有の目的関数F=F(θ
b,i)の値を決定することによって、肺モデル上で呼吸パラメータθ
b,iの関数としてシミュレートされた機械的呼吸を評価するステップ、ここで、
目的関数Fはシミュレートされた機械的呼吸に対する、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータに応じた肺の応答を表し、
ii)関数Fの少なくとも1つの決定された値を、少なくとも1つの所定の参照値に基づいて評価し、及び
少なくとも1つの以前に使用された呼吸パラメータθ
b,iに応じた選択方法を使用して少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを選択するステップ、
iii)少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを、ステップi)でF=F(θ
b,i=θ
b,next)を決定するための呼吸パラメータθ
b,iとして使用するステップ、を反復的に実行させる、コンピュータ可読媒体。
【請求項24】
少なくとも1つのデータ処理装置とコンピュータプログラム製品とを含むシステムであって、
少なくとも1つのデータ処理装置は、コンピュータプログラム製品を実行し、特に人工呼吸器を制御するためのデータを人工呼吸器と交換するように設計されており、コンピュータプログラム製品はデジタル肺モデルを使用し、コンピュータプログラム製品はコマンドを有しており、これらのコマンドがデータ処理装置のプロセッサ上で実行されると、最適な患者固有の呼吸パラメータθ
b,i=θ
b,optの達成をチェックし、及び/又は所定の反復回数の達成をチェックする終了基準が満たされるまで、以下のステップ(i)~(iii)、すなわち、
i)肺モデルから少なくとも1つの患者固有の目的関数F=F(θ
b,i)の値を決定することによって、肺モデル上で呼吸パラメータθ
b,iの関数としてシミュレートされた機械的呼吸を評価するステップ、ここで、
目的関数Fはシミュレートされた機械的呼吸に対する、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータに応じた肺の応答を表し、
ii)関数Fの少なくとも1つの決定された値を、少なくとも1つの所定の参照値に基づいて評価し、及び
少なくとも1つの以前に使用された呼吸パラメータθb
,iに応じた選択方法を使用して少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを選択するステップ、
iii)少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを、ステップi)でF=F(θ
b,i=θ
b,next)を決定するための呼吸パラメータθ
b,iとして使用するステップ、を反復的に実行させる、システム。
【請求項25】
人工呼吸器であって、少なくとも1つの制御ユニットと、少なくとも1つのコンピュータプログラム製品を読み込んで実行するのに適したデータ処理装置とを有し、少なくとも1つのデータ処理装置は人工呼吸器を制御するためのデータを制御ユニットに送り、及び/又は患者の呼吸を制御するために制御ユニットと交換するように設計されており、コンピュータプログラム製品はデジタル肺モデルを使用し、コンピュータプログラム製品はコマンドを有しており、これらのコマンドがデータ処理装置のプロセッサ上で実行されると、最適な患者固有の呼吸パラメータθ
b,i=θ
b,optの達成をチェックし、及び/又は所定の反復回数の達成をチェックする終了基準が満たされるまで、以下のステップ(i)~(iii)、すなわち、
i)肺モデルから少なくとも1つの患者固有の目的関数F=F(θ
b,i)の値を決定することによって、肺モデル上で呼吸パラメータθ
b,iの関数としてシミュレートされた機械的呼吸を評価するステップ、ここで、
目的関数Fはシミュレートされた機械的呼吸に対する、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータに応じた肺の応答を表し、
ii)関数Fの少なくとも1つの決定された値を、少なくとも1つの所定の参照値に基づいて評価し、及び
少なくとも1つの以前に使用された呼吸パラメータθ
b,iに応じた選択方法を使用して少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを選択するステップ、
iii)少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを、ステップi)でF=F(θ
b,i=θ
b,next)を決定するための呼吸パラメータθ
b,iとして使用するステップ、を反復的に実行させる、人工呼吸器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者が呼吸するのに用いる人工呼吸器を調整するための患者固有の呼吸パラメータを決定するためのコンピュータ実装方法、コンピュータプログラム、システム及び人工呼吸器に関する。
【0002】
肺の重篤な疾患、及びそれにしばしば伴う肺によって吸収された酸素の血液への供給不足、若しくは肺を通って排出される二酸化炭素の不十分な低減において、患者は多くの場合に生命機能を維持するために、周囲と生体、より正確には生体の血液との間の十分なガス交換を保証する装置の助けを借りて生命を維持しなければならない。十分なガス交換を維持するために最も頻繁に選択される補助手段は人工呼吸器であり、これは圧力制御又は体積制御方式のポンプ装置を介して、例えば周期的に繰り返される圧力曲線又は体積曲線に基づいて、酸素含有率を正確に変化させることのできる混合ガスを患者の肺に送入し、再び排出させる。
【0003】
急性肺不全や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの一部の肺疾患では、人工呼吸器で変更可能なパラメータを用いて呼吸をそれぞれの患者に正確かつ高度に個人的に適合させなければならない。この呼吸の個人化は非常に複雑で、パラメータの必要な再調整を何度もしているうちに呼吸に起因する肺の損傷が起こり、患者の死に至ることもある。この問題は、特にコロナウイルス(COVID-19)感染症が重症化した場合に発生する。呼吸パラメータの微調整は、専門クリニックであっても最大40%という非常に高いARDSの死亡率を低減するための鍵である。人工呼吸の肺への有害性という観点からの評価は、現在のところ間接的で非常に大雑把にしか可能ではない。医学的な絶対基準は、統計的に確認された呼吸値と基準値、並びにいわゆる肺保護呼吸の枠内での治療推奨によって機能している。これらは経験値に基づき患者において発見的に検証されるものであり、すなわち過去のデータに基づいている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、患者の機械的呼吸のために人工呼吸器の呼吸パラメータを体系的に決定し、それによって最も効率的で保護的な呼吸を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題は、請求項1に記載の方法、請求項22に記載のコンピュータプログラム製品、請求項24に記載のシステム、及び請求項25に記載の人工呼吸器によって解決される。
【0006】
本発明による方法は、患者の機械的呼吸のための最適な呼吸パラメータθb,optを自動的に決定するために用いられ、以下のコンピュータ実装ステップ、すなわち少なくとも1つのデータ処理装置によって実行可能なステップ、すなわち、
・ 患者固有のデジタル肺モデルを提供して、少なくとも1つの初期入力呼吸パラメータθb,intを呼吸パラメータθb,i=θb,intとして入力するステップと、
・ 最適な患者固有の呼吸パラメータθb,i=θb,optの達成をチェックし、及び/又は所定の反復回数の達成をチェックする終了基準が満たされるまで、以下のステップ(i)~(iii)、すなわち、
i)肺モデルから少なくとも1つの患者固有の目的関数F=F(θb,i)の値を決定することによって、肺モデル上で呼吸パラメータθb,iの関数としてシミュレートされた機械的呼吸を評価するステップ、ここで、
目的関数Fはシミュレートされた機械的呼吸に対する、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータに応じた肺の応答を表し、
ii)関数Fの少なくとも1つの決定された値を、少なくとも1つの所定の参照値に基づいて評価し、及び
少なくとも1つの以前に使用された呼吸パラメータθb,iに応じた選択方法を使用して少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを選択するステップ、
iii)少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを、ステップi)でF=F(θb,i=θb,next)を決定するための呼吸パラメータθb,iとして使用するステップ、
を反復的に実行するステップと、
・ 終了基準を満たした場合に患者固有の最適な呼吸パラメータθb,optを提供するステップと、を含む。
【0007】
本発明は、人工呼吸器の調整を、それらが人工呼吸器に適用される前に、個々の患者に対する適性に関して体系的に、モデルベースの個人化されたコンピュータに基づく予測を用いて決定して、最終的に患者ができるだけ理想的に、すなわちできるだけ保護的で効率的に呼吸できるようにするという考えに基づいている。特に、人工呼吸器の呼吸調整はパラメータ化され、ベクトル値(呼吸パラメータθb)として表すことができる。これらはモデル入力値として使用されて連続的に(ステップ(i)~(iii)で反復的に)改善される。そのためにステップ(i)の下流で行われるシミュレートされた若しくは物理的な肺反応又は結果値(肺モデルの出力値)の評価(ii)に基づいて連続的に、すなわち反復ごとに、選択方法を用いて変更される。この選択方法は、特に肺モデルに頼らず、特に肺モデルよりも計算量が少なく、したがってより迅速に実行できる。
【0008】
本発明による方法は、特に患者を人工呼吸器に接続し又は人工呼吸器から分離するステップを含む、人工呼吸器による患者の(人工)呼吸の治療方法と混同されてはならず、この治療方法は本発明の対象ではない。
【0009】
特に、最適な呼吸パラメータθb,optとみなされるのは、患者にとって生理的に許容できる呼吸若しくは肺反応Fをもたらす呼吸パラメータであり、これは医学的に示された所定の参照値によって確認される。この意味において適切な呼吸パラメータが既に発見されている場合でも、本方法は、反復(i)~(iii)を、例えば所定の反復回数に達するまで継続すれば、さらに改善された、すなわちより保護的若しくは効率的な呼吸につながる呼吸パラメータを発見することができる。
【0010】
本方法は、好ましくは、少なくとも1回の反復が実行されるように、すなわちステップ(iii)の後で少なくとも1回はステップ(i)に戻るように設計され、すなわち特にプログラムされている。本方法は、好ましくはステップ(iii)の後で少なくとも1回はステップ(ii)に戻るように設計され、すなわち特にプログラムされている。本方法は、好ましくは少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを選択し、それを肺モデルの入力値として使用するように設計され、すなわち特にプログラムされている。本方法は、好ましくは、最適化ループ(反復)の最適化過程(i)~(iii)を少なくとも1回、2回、好ましくはK回、例えばK=10、15、20、25、30、50、100回実行するように設計され、すなわち特にプログラムされている。
【0011】
好ましくは、本発明による方法、特に肺モデル及び/又は選択方法は、1つ以上の最適な呼吸パラメータθb,optを可能な限り短い時間で決定するように設計され、すなわち特にプログラムされている。このようにして計算作業が節約され、若しくは本発明による方法を実装するための装置コストが減少する。
【0012】
本発明による最適な呼吸パラメータの予測は、肺の個人化された計算モデルを使用するが、これは患者にとって可能な限り最良の呼吸調整の適性と選択に関するデータを生成する働きをする。本発明を実施するのに適したデジタル肺モデルは、C.J.ロスら「腺房内依存関係を組み込んだ包括的な計算によるヒト肺モデル:自発呼吸と機械的換気への応用」(国際医用生体工学数値法誌2016;e02787DOI:10.1002/cnm.2787)に記載されている。この肺モデルについては、以下に詳しく説明する。しかし本発明は、この肺モデルの変形によっても、したがって呼吸に対する肺の反応を人工呼吸器の呼吸パラメータに応じて目的関数Fとして定量化するのに適した他の任意のデジタル肺モデルを用いて実施することも可能である。
【0013】
肺モデルは患者固有であるため、肺モデルから算出される肺反応若しくは目的関数Fは患者固有である。肺モデルが特に患者固有であるのは、それが患者の肺の測定データに基づいて、特に患者の肺の画像データに基づいて得られたためであり、及び/又は少なくとも1つの肺モデルパラメータθmを患者個人の特性、特に患者の肺の物理的特性に調整することにより(校正を参照)、患者若しくは疾患の履歴又は遺伝的特徴によって適合されたためである。特に、本方法を開始する前に、特に患者の肺の画像データに基づいて決定されている可能性がある肺モデルは、少なくとも1回の患者の呼吸を有する患者の呼吸曲線、及び/又は低流量操作などの特別な呼吸操作、及び/又は食道内圧測定によって校正される。本発明でいう呼吸曲線は、圧力-時間曲線ptrachea(t)及び/又は流量-時間曲線θtrachea(t)及び/又は体積-時間曲線vtrachea(t)及び/又は呼吸ガス混合組成-時間曲線又はこれらから派生する曲線、又は特にこれらの測定曲線の組み合わせからなる。これらの曲線は、人工呼吸器の調整と、例えば患者の代謝的、生物学的、生物化学的、特に身体的な応答行動から生じる。校正の際には、少なくとも1つ、複数又はすべてのパラメータθmが適合される。特に肺胞群(AC)の物質パラメータ及び/又は他の物質パラメータ、特にまた患者固有の容量依存胸膜圧限界条件、並びに他のパラメータθmも校正できる。
【0014】
当業者にとって、校正に用いられるモデルパラメータθmは、例えばC.J.ロスら「患者固有の人工呼吸器応答予測のためのEITと計算による肺モデリングとの結合」(応用生理学誌122:855-867,2017;DOI:10.1152/japplphysiol.00236.2016)856ページ以下「方法の部」の記述から得ることが可能である。
【0015】
好ましくは、少なくとも1つの肺モデルは、例えば性別、年齢、体重、疾患及び/又は身体状態に応じてカテゴリに細分化され得る所定の肺モデルのデータベースから、特にこの患者のために医療従事者によって選択されているので患者固有である。この場合、医療従事者は、肺モデルが個々の患者に(も)使用できるように、これらの肺モデルのカテゴリの1つに患者を割り当てる。
【0016】
肺モデルが特にデジタルと呼ばれるのは、肺の少なくとも1つの物理的特性がデータ及び/又は少なくとも1つのアルゴリズムによって記述されるためである。
【0017】
少なくとも1つの目的関数Fは、好ましくは目的関数B及び/又は目的関数Nであり、Nは、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータの関数として肺の血液中のガスの濃縮を表し、少なくとも1つの出力パラメータは患者の血液中のガス分圧を表し、Bは、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータの関数として肺の機械的負荷を表し、少なくとも1つの出力パラメータは患者の肺の機械的負荷値を表す。好ましくは、本方法は正確に両目的関数BおよびNを使用する。しかしまた、本方法は肺反応を記述するために、他の目的関数、又はB若しくはNの代わりに少なくとも1つの他の又は追加の目的関数を使用することも可能であり、且つ好ましい。
【0018】
好ましくは、関数Bは呼吸によって引き起こされる機械的負荷を、肺組織の拡張ε(x,t)及び/又は肺内の圧力p(x,t)を用いて記述する。好ましくは、関数Bは、肺内の拡張B(ε(x,t))及び/又は圧力B(p(x、t))との依存関係を表す。好ましくは、さらに関数B又は別の関数B2は、呼吸によって引き起こされる機械的負荷を、気道及び/又は肺胞の崩壊c(x,t)及び/又は再開通r(x,t)(「リオープニング」ともいう)及び/又は肺胞嚢の表面活性因子sf(x,t)を用いて記述する。好ましくは、関数Bはさらに、又は関数B2はさらに、又は別の関数B3は、呼吸によって引き起こされる機械的負荷を、肺胞嚢の表面活性因子sf(x,t)、特に肺サーファクタントを用いて記述する。肺サーファクタントは特に、肺のII型肺細胞で産生され、分泌物として肺胞上皮の表面に分泌される表面活性物質として知られている。
【0019】
好ましくは、関数Nは少なくとも呼吸によって引き起こされる肺の静脈血又は動脈血中の酸素μ(O2)及び/又は二酸化炭素μ(CO2)のガス分圧を表す。
【0020】
好ましくは、次の呼吸パラメータ値θb,nextを選択するための選択方法は、アルゴリズム、特にベイズの最適化法を含み、これは特に1つ以上のガウス過程、ランダムフォレスト、人工ニューラルネットワーク又は他の回帰モデル、ファジー論理アルゴリズム、進化法に基づくアルゴリズム、勾配法を含むアルゴリズム、及び/又は確率論的手法に基づくアルゴリズムを含んでいる。
【0021】
ベイズの最適化法は、スネーク、J.ら「機械学習アルゴリズムの実用的ベイズ最適化、神経情報処理システムにおける進歩」(2012年」に記載されている。その他の説明、特に回帰モデルの説明は、B.シャリアリ、K.スウェスキー、Z.ワン,R.P.アダムズ、N.デ・フレイタス「人間をループから外す:ベイズ最適化の検討」(IEEE議事録2016;104,no.1,pp.148-175)に記載されている。本発明に適用されたベイズ法については、以下に説明する。
【0022】
別のアルゴリズム、特に勾配法を含むアルゴリズムは、フレッチャー、R.「最適化の実用的方法」(印刷ISBN:9780471915478、オンラインISBN:9781118723203,D0l:102/9781118723203,1987、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ社)に記載されている。確率論的手法によるアルゴリズムについては、スパール、J.C.「確率的探索と最適化の概要」(2003;ワイリー社、ISBN978-0-471-33052-3)に記載されている。
【0023】
好ましくは、少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを選択するための選択方法は、少なくとも1つの前に決定されたデータセットTi=(θb,i,F(θb,i))に依存する確率的回帰法と、次の呼吸パラメータ値θb,nextを選択するための取得関数、特にガウス過程に基づく回帰法を基礎としている。
【0024】
好ましくは、少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを選択するための選択方法は、改善の期待値を使用する取得関数(「期待改善関数」)を、特に制約条件を考慮して(「期待制約改善関数」)含んでいる。
【0025】
好ましくは、少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを選択するための選択方法は、エントロピー探索を使用するか、又は知識勾配を使用する取得関数を含んでいる。
【0026】
好ましくは、呼吸パラメータθ
b,iは、1回の呼吸の圧力-時間曲線及び/又は体積-時間曲線を表す多数のパラメータによって記述され、特にθ
b,iは、可能な好ましいパラメータ
【数1】
のグループから選択される。好ましくはステップ(ii)で、少なくとも1つの次の呼吸パラメータθ
b,nextを、好ましくは複数の次の呼吸パラメータθ
b,nextを特に並列計算により決定するようにされている。呼吸パラメータのパラメータは、種々異なる値を持つことができ、詳細には「パラメータ値」とも呼ばれ、また「呼吸パラメータ値」とも総称される。本発明の枠内で「次の呼吸パラメータの決定」とは、複数のパラメータからなるベクトル値の、特に一意的なサイズの呼吸パラメータが、その呼吸パラメータ値が少なくとも1つのパラメータ値に関して既に前に試験された呼吸パラメータと異なるように変更されることを意味する。
【0027】
好ましくは、本方法のステップ(ii)で、患者固有の関数Bは、患者固有の関数Nが所定の参照値を下回らないか又は上回らないという少なくとも1つの制約条件を考慮して評価され、特にNは、出力パラメータ「酸素分圧μ(O2)」を考慮し、酸素分圧μ(O2)が患者の血液中の濃縮酸素の濃縮の参照値SO2を下回らないという制約条件を含んでおり、特にSO2は、特に患者固有の参照値として予め決定されている。本発明にいう評価とは、特に他の呼吸パラメータθbiについてこれまでに得られた値との比較、又は/及び文献若しくは医療現場からのBに関する値又は限界値との比較を意味する。
【0028】
好ましくは、本方法のステップ(ii)は、患者固有の参照値として、特に肺内部の最大拡張Bmax(ε(x,t))及び/又は最大圧力Bmax(p(x,t))を上回ってはならないこと、及び/又は酸素飽和SO2を下回ってはならないことを含んでいる。
【0029】
好ましくは、ステップ(iii)で、少なくとも1つの新しい呼吸パラメータθb,iが、ベイズの最適化ステップによって決定される。代替として、体系的(確率論的又は決定論的)手法により呼吸パラメータを変化させることも可能である。体系的な変化は、適切な呼吸パラメータを発見するための方法の効率利得若しくは実行時間の短縮及び計算量の削減をもたらすため、グリッドサーチよりも選好される。
【0030】
好ましくは、初期入力呼吸パラメータθb,1:j,initのセットは、ランダム法又は準ランダム法、特にモンテカルロサンプリング又はラテンハイパーキューブサンプリングによって作成される。
【0031】
好ましくは、ステップ(ii)で、少なくとも1つの出力パラメータから初期入力呼吸パラメータθb,1:j,initのセットのシミュレーションによって計算された関数Bの関数値が、ガウスモデルのトレーニングに使用される。
【0032】
好ましくは、ステップ(ii)で、少なくとも1つの出力パラメータから次の入力呼吸パラメータθb,nextのセットのシミュレーションによって計算された関数Bの関数値が、以前の評価から得られた関数Bの関数値に加えて、ガウスモデルの追加のトレーニングに使用され、その結果としてより大量のデータでガウスモデルが連続的にトレーニングされる。換言すれば、決定されたすべての関数値が関数Bの形状決定に寄与するため、トレーニングを重ねたガウスモデルは、関数Bのすべての領域で実際に計算された関数値を有することなく、どのパラメータが有望であるかをますます的確に推定できるようになる。
【0033】
好ましくは、ステップ(ii)で、選択関数は、改善関数
【数2】
を考慮して少なくとも1つの次の呼吸パラメータ値θ
b,nextを選択する取得関数であり、改善関数は
【数3】
のように計算される。ここで
【数4】
は位置θ
b,nextにおける置換モデルの事後分布であり、
【数5】
はこれまでの機械的負荷が最も小さい関数値をこれまでの最も適当な呼吸パラメータ
【数6】
として表し、取得関数は
【数7】
に従う改善関数
【数8】
の期待値と、追加関数
【数9】
との積として
【数10】
に合成される。ここで、
【数11】
は、関数N(θ
b,next)が所定の参照値より小さいか大きい場合は1となり、そうでない場合は0となる指標関数Δから、特にガウス過程に基づく確率的代替モデル
【数12】
を使用することによって得られる。
【0034】
好ましくは、患者固有の肺モデルは、患者の肺の測定画像データに依存して作成されていることによって患者固有のものである。好ましくは、画像データは、患者における撮像方法、特にコンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像(MRI)、超音波、X線又は電気インピーダンス断層撮影(EIT)によって得られた。
【0035】
好ましくは、患者固有の肺モデルは、患者からの測定データを用いて作成されていることによって患者固有のものであり、そのために本方法を開始する前に、患者固有の肺モデルが、患者の少なくとも1回の呼吸からなる患者の呼吸曲線、及び/又は低流量操作などの特別な呼吸操作、及び/又は食道内圧測定によって校正される。この場合、少なくとも1つ、複数又はすべてのパラメータθmが校正され、すなわちモデルパラメータの値は、呼吸パラメータによって少なくとも部分的に確定される。
【0036】
好ましくは、少なくとも1つの所定の参照値は、特にこの患者のために医療従事者によって確定されたこと、患者が属する患者カテゴリー(性別、年齢、体重、病気、身体状態)の医療経験値から導かれること、又は患者の身体での別個の測定によって決定されたことによって患者固有のものである。
【0037】
本発明はまたデジタル肺モデルを使用するコンピュータプログラム製品に関し、同コンピュータプログラム製品はコマンドを有しており、これらのコマンドがデータ処理装置のプロセッサ上で実行されると、最適な患者固有の呼吸パラメータθb,i=θb,optの達成をチェックし、及び/又は所定の反復回数の達成をチェックする終了基準が満たされるまで、以下のステップ(i)~(iii)、すなわち、
肺モデルから少なくとも1つの患者固有の目的関数F=F(θb,i)の値を決定することによって、肺モデル上で呼吸パラメータθb,iの関数としてシミュレートされた機械的呼吸を評価するステップ、ここで、
i)目的関数Fはシミュレートされた機械的呼吸に対する、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータに応じた肺の応答を表し、
ii)関数Fの少なくとも1つの決定された値を、少なくとも1つの所定の参照値に基づいて評価し、及び
少なくとも1つの以前に使用された呼吸パラメータθb,iに応じた選択方法を使用して少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを選択するステップ、
iii)少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを、ステップi)でF=F(θb,i=θb,next)を決定するための呼吸パラメータθb,iとして使用するステップ、を反復的に実行させる。
【0038】
本発明はまたコンピュータプログラム製品を格納しているコンピュータ可読媒体に関し、同コンピュータプログラム製品はデジタル肺モデルを使用し、コマンドを有しており、これらのコマンドがデータ処理装置のプロセッサ上で実行されると、最適な患者固有の呼吸パラメータθb,i=θb,optの達成をチェックし、及び/又は所定の反復回数の達成をチェックする終了基準が満たされるまで、以下のステップ(i)~(iii)、すなわち、
i)肺モデルから少なくとも1つの患者固有の目的関数F=F(θb,i)の値を決定することによって、肺モデル上で呼吸パラメータθb,iの関数としてシミュレートされた機械的呼吸を評価するステップ、ここで、
目的関数Fはシミュレートされた機械的呼吸に対する、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータに応じた肺の応答を表し、
ii)関数Fの少なくとも1つの決定された値を、少なくとも1つの所定の参照値に基づいて評価し、及び
少なくとも1つの以前に使用された呼吸パラメータθb,iに応じた選択方法を使用して少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを選択するステップ、
iii)少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを、ステップi)でF=F(θb,i=θb,next)を決定するための呼吸パラメータθb,iとして使用するステップ、を反復的に実行させる。
【0039】
本発明はまた少なくとも1つのデータ処理装置とコンピュータプログラム製品とを含むシステムに関し、少なくとも1つのデータ処理装置は、コンピュータプログラム製品を実行し、特に人工呼吸器を制御するためのデータを人工呼吸器と交換するように設計されており、コンピュータプログラム製品はデジタル肺モデルを使用し、コンピュータプログラム製品はコマンドを有しており、これらのコマンドがデータ処理装置のプロセッサ上で実行されると、最適な患者固有の呼吸パラメータθb,i=θb,optの達成をチェックし、及び/又は所定の反復回数の達成をチェックする終了基準が満たされるまで、以下のステップ(i)~(iii)、すなわち、
i)肺モデルから少なくとも1つの患者固有の目的関数F=F(θb,i)の値を決定することによって、肺モデル上で呼吸パラメータθb,iの関数としてシミュレートされた機械的呼吸を評価するステップ、ここで、
目的関数Fはシミュレートされた機械的呼吸に対する、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータに応じた肺の応答を表し、
ii)関数Fの少なくとも1つの決定された値を、少なくとも1つの所定の参照値に基づいて評価し、及び
少なくとも1つの以前に使用された呼吸パラメータθb,iに応じた選択方法を使用して少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを選択するステップ、
iii)少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを、ステップi)でF=F(θb,i=θb,next)を決定するための呼吸パラメータθb,iとして使用するステップ、を反復的に実行させる。
【0040】
好ましくは、システムは、特にシステムのデータ処理装置とデータ交換を行うために設計された、少なくとも1つの人工呼吸器を含む。システムのデータ処理装置は、人工呼吸器の構成要素であってよい。好ましくは、システムは、測定データ、特に画像データ、特にCT、MRI、X線、EIT又は超音波データを得るための少なくとも1つの測定装置を含み、それらから肺モデルを決定することができ、測定装置は、特にシステムのデータ処理装置とデータ交換を行うように設計されている。システムのデータ処理装置は、測定装置の構成要素であってよい。
【0041】
本発明はまた人工呼吸器に関し、同人工呼吸器は、少なくとも1つの制御ユニットと、少なくとも1つのコンピュータプログラム製品を読み込んで実行するのに適したデータ処理装置とを有し、少なくとも1つのデータ処理装置は人工呼吸器を制御するためのデータを制御ユニットに送り、及び/又は患者の呼吸を制御するために制御ユニットと交換するように設計されており、コンピュータプログラム製品はデジタル肺モデルを使用し、コンピュータプログラム製品はコマンドを有しており、これらのコマンドがデータ処理装置のプロセッサ上で実行されると、最適な患者固有の呼吸パラメータθb,i=θb,optの達成をチェックし、及び/又は所定の反復回数の達成をチェックする終了基準が満たされるまで、以下のステップ(i)~(iii)、すなわち、
i)肺モデルから少なくとも1つの患者固有の目的関数F=F(θb,i)の値を決定することによって、肺モデル上で呼吸パラメータθb,iの関数としてシミュレートされた機械的呼吸を評価するステップ、ここで、
目的関数Fはシミュレートされた機械的呼吸に対する、肺モデルの少なくとも1つの出力パラメータに応じた肺の応答を表し、
ii)関数Fの少なくとも1つの決定された値を、少なくとも1つの所定の参照値に基づいて評価し、及び
少なくとも1つの以前に使用された呼吸パラメータθb,iに応じた選択方法を使用して少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを選択するステップ、
iii)少なくとも1つの次の呼吸パラメータθb,nextを、ステップi)でF=F(θb,i=θb,next)を決定するための呼吸パラメータθb,iとして使用するステップ、を反復的に実行させる。
【0042】
本発明による方法、本発明によるコンピュータプログラム製品、本発明によるシステム、及び本発明による人工呼吸器のその他の好適な実施形態は、図とそれらの説明に関連した以下の実施例の説明から明らかになる。これらの本発明の対象の特徴は、それぞれ本発明のそれぞれの他の対象とそれらの実施形態の説明から導き出すことができる。実施例の同じ部材は、特に別様の説明がなされないか、又は文脈から別様であることが明らかでない限り、実質的に同じ参照符号で表示されている。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、呼気終末陽圧PEEP、吸気圧p
insp、圧力傾斜
【数13】
並びに吸気時間t
insp及び呼気時間t
expなどのパラメータを含む例示的に選択された呼吸パラメータによる概略的な圧力-時間曲線である。
【
図2】
図2は、呼吸パラメータを改善するための反復手順の原理の概略図である。
【
図3】
図3は、モンテカルロ法又はラテンハイパーキューブ法を用いて初期呼吸パラメータのセットを提供することから出発して、最適な呼吸パラメータを決定するためのステップi)~iii)である。
【
図4a】
図4aは、呼吸調整の決定が、実施形態に応じて異なる場所、特にクラウドコンピューティングプロバイダのコンピュータサーバ上、クリニックのサーバ上、又は人工呼吸器自体においてデータロジスティクスのプロセスチェーンとして行われる、本発明の3つの異なる実施形態の概略図である。
【
図4b】
図4bは、呼吸調整の決定が、実施形態に応じて異なる場所、特にクラウドコンピューティングプロバイダのコンピュータサーバ上、クリニックのサーバ上、又は人工呼吸器自体においてデータロジスティクスのプロセスチェーンとして行われる、本発明の3つの異なる実施形態の概略図である。
【
図4c】
図4cは、呼吸調整の決定が、実施形態に応じて異なる場所、特にクラウドコンピューティングプロバイダのコンピュータサーバ上、クリニックのサーバ上、又は人工呼吸器自体においてデータロジスティクスのプロセスチェーンとして行われる、本発明の3つの異なる実施形態の概略図である。
【
図5】
図5は、最適な呼吸パラメータを決定するシステムの一実施形態の概略図である。
【
図6】
図6は、人工呼吸器の一実施形態の概略図であり、人工呼吸器は、シミュレーションと最適化を行うためのデータ処理装置を有している。
【
図7】
図7は、肺の計算モデルが、患者固有の撮像なしに純粋に撮像とは異なる追加の患者固有の追加データに基づいてパラメータ化され、続いて少なくとも1回評価されて、当該患者への適性に関して使用者の呼吸提案を評価及び改善する実施形態を示す図である。この場合、3次元構造データは、利用可能なデータに基づいて既に存在する「テンプレート」を用いて患者に適合されなければならず、例えば身長及び/又はBMIなどの要素を考慮する。3次元構造データは一種のデータベースとして存在し、患者に最も適したデータセットが選択されることも可能であろう。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下では、肺モデルは、人間の肺の生理をシミュレートするのに適した人間の肺のデジタルモデル、すなわちコンピュータに実装されたモデルであると理解されたい。これは、患者のCTデータに基づく、すなわちその患者に固有の肺モデルであることができる。代替的に、肺モデルは患者グループのCTデータの評価に基づくことも、又は一般的にデータベースからの肺データの評価に基づくこともできる。以下では、患者固有の肺モデルは、例えば患者の実際の呼吸曲線を用いて肺モデルを校正することにより、患者に合わせて校正された肺モデルとしても理解されたい。呼吸曲線は、特に人工呼吸中の患者の1回以上の呼吸又は呼吸操作の圧力-時間曲線及び/又は流量-時間曲線として表される。呼吸曲線は、呼吸を特徴づける特定のパラメータの関数として理解される。すなわち、患者で測定された呼吸曲線は、多数のパラメータを介してパラメータ化されて表現される。特に、呼吸曲線の最も重要なパラメータは以下の通りである。
【0045】
PEEPは呼気終末の圧力レベル(呼気終末陽圧)を表し、pinspは吸気圧と定義され、吸気時の目標圧力を指定する圧力レベルを表す。
【0046】
両圧力傾斜
【数14】
は、吸気時と呼気時の圧力の増加と減少、すなわち圧力がどの程度の速さで増加し、若しくは減少するかを表す。
【0047】
パラメータtinsptexpは吸気時間と呼気時間、すなわちどれだけ長く吸ったり吐いたりするかを表す。
【0048】
呼吸頻度f若しくは1回の呼吸の周期時間1/fは、単位時間、通常1分以内に何回呼吸するかを示す。パラメータFiO2は、呼吸ガス中の酸素含有率を表す。この値は、呼吸ガス混合物中の何ガスパーセンタイルが酸素であるかを示す。ここに挙げるパラメータは、すべてを網羅するものではない。むしろ、ここでは圧力制御呼吸中に人工呼吸器で調整される最も重要なパラメータを挙げる。しかしながら、例えば体積制御された呼吸も可能である。それぞれの呼吸モードによってパラメータが異なる。本発明の1つの目的は、患者が人工呼吸器によって最も保護的な方法で呼吸するように、人工呼吸器で調整可能なこれらのパラメータを改善、すなわち最適化することである。さらに、人工呼吸器では調整できないが呼吸に影響を与えるパラメータ、例えば患者の体位(仰臥位や伏臥位など)も考慮することができる。
【0049】
肺モデルへの入力は、呼吸曲線
【数15】
のパラメータをベクトル形式で包含する、少なくとも1つの呼吸パラメータθbを含んでいる。それによると呼吸パラメータθbは、人工呼吸器のそれぞれ可能な多数の調整を表している。換言すれば、パラメータ
【数16】
は数学的モデルの入力空間を画定し、これはシミュレーションによってモデルの出力空間に写像される。本発明の目的は、入力空間において所定の及び/又は患者固有の前提条件、すなわち参照値を考慮して、患者に関連するシミュレーションモデルの出力値が最小化及び/又は最大化されるベクトルθ
b,opt若しくはパラメータを見出すことである。これらは例えば、患者の静脈血及び/又は動脈血中の酸素含量や二酸化炭素含量である。
【0050】
肺のシミュレーションモデルの出力値は、例えば肺組織の
【数17】
【数18】
【数19】
及び/又は肺胞嚢の
【数20】
及び/又は
【数21】
及び/又は
【数22】
であることができる。患者に関連するシミュレートされた出力値の経過の関数として、シミュレートされるべき次の入力値、すなわち次の呼吸パラメータθ
b,nextが決定される。次の呼吸パラメータθ
b,nextの選択は、理想的な呼吸パラメータθ
b,optができるだけ早く、すなわち少ない回数の反復、すなわち次の呼吸パラメータのシミュレーション実行後に見出されるように選択される。代替として、別の実施形態において、所定の回数の反復ステップの後でモデルを中断させ、それまでに見出された最も適当な呼吸パラメータをアウトプットすることもできる。
【0051】
肺モデルにおいて考慮されるのは、(i)気管、気管支及び細気管支からなる気道、(ii)肺胞(肺胞嚢)と肺胞袋に連なる肺胞、及びそこに含まれている細気管支の一部を包含する肺胞群(AC)、(iii)互いに隣接するACの粘弾性結合を考慮したAC相互作用である。吸気時には肺体積が増加し、それによって何よりも肺胞が拡張する。この場合、互いに隣接する肺胞は、それらを互いに結合している肺組織によって拡張に組み込まれている。
【0052】
このモデルは、患者の肺の3次元的な幾何学的構造を考慮している。そのために、患者の肺の3次元構造形状を形成するデータセットを、入力値として肺モデルに読み込む。一実施形態において、データセットは代替的に複数の患者の構造的形状について平均化することができる。例えば特定の肺の既往症がある患者について平均化した構造データセットを生成し、肺モデルに読み込ませて、その既往症がある患者に固有の呼吸パラメータを提供することができる。同様に、データベースからの入力呼吸パラメータは、平均化されたパラメータ値を表すことができる。モデルは構造データセットに基づいて、患者の肺のデジタル写像を構成する。一実施形態において、構造的幾何学データセットは、機能的残気量(FRC)がFRC=2.65l、全肺気量(TLC)がTLC=4.76lである42歳の男性患者の患者固有の3次元CTデータ(コンピュータ断層画像、スライス厚、画素サイズ0.7344mm)に基づく。モデルが患者の肺を3次元的にシミュレートすることにより、組織の拡張や圧力分布などの力学的特性も、モデルから局所的に解像された出力値としてアウトプットすることができる。
【0053】
モデルは、例えば人工呼吸によって引き起こされる肺組織の局所的な過拡張の影響を、この影響がクリニックにある測定装置によって検出される前に、又は患者が最適でない呼吸調整によって不可逆的な損傷を受ける前にシミュレートするのに適している。
【0054】
モデルによる気道の表現
気道は気管と気管支系からなり、気管支系は左右の主気管支幹(主気管支)に分かれており、それぞれが両肺翼の1つに酸素を供給している。各主気管支幹は、さらに小さな気管支(2次気管支)に分かれている。右主気管支は通常3本の主枝に分岐し、それらは通常右肺翼の3つの肺葉に供給している。左主気管支はたいてい左肺翼の通常2肺葉のための2本の主枝に分かれる。これらの5本の主枝は、いわゆる葉気管支を形成し、これらはさらに区気管支に分岐して、ますます細かい枝(世代)に分かれていく。約20~25回の分岐、すなわち世代を経て、気管支樹の広範な分岐系が生じる。この気管支系は、CT画像データセットを介して利用でき、例えば人工知能に基づく画像認識アルゴリズムを用いて3次元構造データセットに変換又はセグメント化することができる。この3次元構造データセットは肺モデル形状を構築するために肺モデルに利用できる。
【0055】
気管支が小さくなればなるほど、その内部構造は単純で細くなる。気管支の最も小さい枝である細気管支は、内径が1mm以下である。それゆえCTの解像度はこれらの構造を局所的に分解して表示するには十分ではない。低世代の気道はCTデータから直接セグメント化されるのに対し、高世代の気道は、例えばイスマイルM、カマーフォードA、ウォールWA「自発呼吸中の呼吸力学の結合・削減された次元モデル化」(国際医用生体工学数値法誌2013;29:1285-1305)に記載されているように、空間充填アルゴリズムを用いて生成される。気道(気管と気管支樹)は、CTデータからのセグメンテーションが不可能になった世代又はそれ以前から、末端気道が長さ終了基準(lt=1.2mm)、半径終了基準(rt=0.2mm)、または世代中止基準(Ngen=17)に達するまで再帰的に形成される。気管支樹の左右の枝の娘から親への枝の半径のスケーリングは、人体の形態学的研究から一般に知られているように、それぞれ0.876と0.686である。半径のスケーリング、気道の向き、及び気道の長さを空間的に関連付けられたCTデータに応じて調整して肺の不均一性を表現することができる。CTデータに基づく低世代のセグメント化された気道は、空間充填アルゴリズムにより生成される高世代の気道と接続される。例えばある肺のデジタルモデルには60,143本の気道があり、そのうち30,072本は末端気道、すなわち高世代の気道である。細気管支(最高世代)はさらに顕微鏡的に微細な枝(呼吸細気管支)に分岐し、その末端は腺房に至る。これらの腺房は、最後に合計約3億個の肺胞嚢(肺胞)からなりガス交換を担う本来の肺組織へとつながっている。肺モデルでは、1つ以上の腺房とその中に含まれている細気管支が集まってACを形成している。
【0056】
ここで説明する実施形態では、気道の数学的モデリングは、ペドレイTJ、シュローターRC、サドロウMF「ヒト気管支気道内の圧力低下と抵抗の変化の予測」(呼吸生理学1970年;9:387-405)に記載されている次元的に減少したゼロ次元(0-D)のフローモデルを実装することによって行われる。これにより、気道の平均的な流動挙動を効率的に、例えばより少ない計算作業でモデル化することができる。このモデルは、気道に沿った差圧ΔPを、流動抵抗Rと、気道路を通る流量Qの線形依存量ΔP=Q*Rとして表現する方式に従っている。この表現は、ΔPn+1=Rn+1*Qn+1、(n=t/Δt)で離散化される。ペドレイTJ、シュローターRC、サドロウMF「ヒト気管支気道内の圧力低下と抵抗の変化の予測」(呼吸生理学1970年;9:387-405)に定式化されている流動抵抗Rは、肺気道系における幾何学的損失と乱流損失の両方を考慮し、実験肺データに適応させたものである。C.J.ロスら「腺房内依存関係を組み込んだ包括的な計算によるヒト肺モデル:自発呼吸と機械的換気への応用」(国際医用生体工学数値法誌2016;e02787DOI:10.1002/cnm.2787)では、吸気若しくは呼気の際の気道の断面変化の影響を考慮した拡張が挙げられている。
【0057】
ACのモデル化表現
ACはイスマイルM、カマーフォードA、ウォールWA「自発呼吸中の呼吸力学の結合・削減された次元モデル化」(国際医用生体工学数値法誌2013;29:1285-1305)で開発された逆アプローチによって生成される。CTデータは呼気終末状態にあるため、3次元肺形状に対して一定の胸膜圧5.3cmH20を仮定する。一般に知られている文献で経肺圧25cmH
20で測定されたヒトの肺胞の大きさの形態学的データと、「イスマイルM.ら」によって開発した逆アプローチによれば、この実施形態で例として算出した肺で7億9700万個の肺胞の数N
alvが確認された。肺葉あたりの肺胞の数は、
【数23】
であり、V
i
lbは片葉の体積、V
lungは肺の全体積である。各末端気道における肺胞の数は
【数24】
であり、A
i
tbは末端気道の出口面積、A
lbは片葉内の末端気道のすべての出口面積の総和である。肺胞の数N
i
alvは、肺胞に空間的に割り当てられたCTデータに基づく係数を乗じることにより、さらに精度を高めることができる。最後に、各末端気道(いわゆる肺胞管)にある肺胞すなわち肺胞嚢は、腺房にグループ化される。すなわち、腺房は多数の肺胞と肺胞管によって形成されており、肺胞は、ガス交換のために空気を供給する各肺胞管の端の周りに集まっている。そのため生理学的には、肺胞管は常に一定数の肺胞に空気を供給している。複数の肺胞管が腺房を形成している。1つ以上の腺房と、それらをつなぐ細気管支が集まって肺胞群を形成している。この生理学的なグループ分けにより、モデルの解像度を変化させることができ、ここで説明する実施形態において数学的シミュレーションを簡略化して実施することが可能になる。
【0058】
ここで説明する実施形態において、イスマイルM、カマーフォードA、ウォールWA「自発呼吸中の呼吸力学の結合・削減された次元モデル化」(国際医用生体工学数値法誌2013;29:1285-1305)に記載されたACモデルを用いて肺胞群の数学的実装が行われる。このモデルは,マクスウェル素子を並列に接続したレオロジーモデルに基づいている。このレオロジーモデルは、デニーE、シュローターRC「肺胞管モデルの粘弾性挙動」(生体力学的エンジニアリング誌2000;122:143-151)で開発された肺胞管モデルの機械的挙動を実装するために校正された。ここでは簡略化して、各ACにはそれぞれ1つの気道から空気が供給され、そこに含まれるすべての肺胞管は同じように挙動すると仮定する。この手法により、さらに粘弾性特性を保持したままAC全体を0次元(0-D)要素としてモデル化することが可能である。その結果得られた線形ACモデルは、自発呼吸時の健康な肺組織の力学的挙動を正確にモデル化するのに十分である。肺モデルで大きな肺体積と圧力変化の両方をシミュレートできるようにするため、線形モデルを非線形モデルに拡張した。このために、隣接する肺胞の肺組織の弾性を表すばね定数(線形ばねモデル)を、2つの指数項を含む非線形式に置き換えた。この二重指数的に補強する物質則は、以下のように定義される。
【数25】
【数26】
【数27】
【0059】
ここで、E
1は剛性(バネ定数)、v
iは肺胞管の体積、及び
【数28】
は応力のない状態での肺胞管の体積である。デニーE、シュローターRC「肺胞管モデルの粘弾性挙動」(生体力学的エンジニアリング誌2000;122:143-151)に記載されているように塩水洗浄した肺胞管をシミュレートした準静的p-V曲線と、1Hzにおける動的負荷に対してTを校正すると、以下のパラメータが得られる。
【数29】
【数30】
【数31】
【数32】
【数33】
【数34】
【0060】
これにより、ここで説明する実施形態において、イスマイルM、カマーフォードA、ウォールWA「自発呼吸中の呼吸力学の結合・削減された次元モデル化」(国際医用生体工学数値法誌2013;29:1285-1305)からの別の項、例えばACの剛性を肺胞体積の関数として計算でき、それによりACの気道入口と周囲との差圧をAC体積の関数として決定することができる。
【0061】
非線形呼吸と非線形ACの完全連立方程式の解法には、古典的なニュートンラプソンスキームを用いるか、固定点反復法又は他の適切な解決手順を用いることができる。
【0062】
AC相互作用のモデル化表現
肺胞群リンカー要素(ACL)を用いて、隣接するACの相互作用やACと気道の間の相互作用がモデル化される。このACLは、互いに影響し合うAC(及び気道)をペア又はグループでつなぐものである。この相互作用は、一方では肺内部のACの体積競合により、他方では隣接するACが共有する組織によって成立する。その結果として生じる相互の影響は、ACLに隣接するAC(及び気道)に対する追加的な力によって実現される。それによって胸骨下ACのみに圧力がかかる場合でもACは拡張できる。換言すれば、胸膜圧の境界条件は、実際に胸膜腔に隣接するACにのみ適用される。
【0063】
この肺モデルの特徴は、不均質な肺において重要な役割を果たす。したがって肺モデルにおいてAC間に存在する依存関係を数学的に記述することが、患者固有の肺の現実的なシミュレーションのために必要である。これらの依存関係の実装に関する数学的な説明は、「C.J.ロスら「腺房内依存関係を組み込んだ包括的な計算によるヒト肺モデル:自発呼吸と機械的換気への応用」(国際医用生体工学数値法誌2016;e02787DOI:10.1002/cnm.2787)に記載されている。
【0064】
ここで説明する実施形態において、ACLの数学的実装は以下の通り行われる。ACLは、すべてのACとACに隣接する気道を決定することにより生成される。この目的のために、それぞれ1つのACから出発して、それに隣接するすべてのACを幾何学的に検出するアルゴリズムが使用される。このことは、特に空間充填細胞の間隔基準又は近傍性によって達成できる。さらに、肺側の胸膜若しくは胸膜腔(胸膜ギャップ)に直接つながっているAC、すなわち少なくとも部分的に隣接するACがないACが検出される。ACの近傍比が算出されたら、AC(と気道)の間に「ACリンカー要素」として結合素子が挿入される。このACL結合素子は、不均一な圧力が隣接ACを超えて伝搬するように働く仮想「AC間圧力」Pintrとして導入されることにより、隣接するAC間の正しい相互作用をモデル化する。これにより、胸膜下ACにのみ胸膜圧をかけることが可能になる。このようにすることにより、肺内の生理学的に正しい肺の圧力分布が達成される。胸膜圧がすべてのACに均等にかかる以前のモデルに比べて、例えば健康な肺におけるように胸膜圧と物質特性が均一に分布している場合には、誤差が生じないことがわかった。胸膜圧が、例えば重力の影響を受けて不均一な場合や、肺の物質特性が不均一に分布している場合は、ある肺胞壁にかかる力は隣接ACの数に応じてこれらに分散される。したがって、仮想「AC間圧力」を導入することにより、患者固有の不均一な圧力分布及び物質特性分布を生理学的にシミュレートすることができる。例えば一実施形態では5981個のACが胸膜腔に隣接していると判定され、それに応じて140,135個のACLが導入された。
【0065】
校正
以下に、モデルの校正の中心的な部分を説明する。ここで説明する実施形態では、患者固有の肺モデルの幾何学的構造は、第1ステップである患者のコンピュータ断層撮影スライス画像の画像評価アルゴリズムを用いて作成される。モデルは、以下のように抽象的に関数として考えることができ、ここで説明されている実施形態ではモデルの出力値として
【数35】
【数36】
【数37】
及び
【数38】
及び
【数39】
が考慮される。
【数40】
【0066】
これによりモデルは、与えられた呼吸パラメータθbとモデルパラメータθmで、拡張、圧力及び様々なガス分圧に関する情報を場所xと時間tの関数として提供する。以下では、位置ベクトルのベクトル表記を省略する。これらの(通常は直接実験的に測定できない)モデル出力値から、他の実験的に測定可能な値、例えば呼吸の一回換気量Vt(すなわち実際に呼吸した体積)を計算できる。
【0067】
次のステップでは、実験的に測定可能な一回換気量圧力曲線V
t;exp(t)がシミュレートされた一回換気量圧力曲線V
t;sim(t)と一致するように、モデルパラメータθmを調整する。すなわち、モデルパラメータをV
t;sim(t)=V
t;exp(t)となるように調整する。この目的のために、患者は呼吸パラメータθ
bのセットに変換できる1つ以上の特別な操作で呼吸する。ここで説明する実施形態では、ベクトル値の呼吸パラメータは
【数41】
である。呼吸器に直接結びつかない他の測定値、例えば食道圧もパラメータとして含めることができる。このようにモデルのパラメータを調整した後で、モデルを特定の肺について校正する。肺モデルは、患者固有のものであってもよいが、標準化された肺のモデルや、例えば患者データベースの肺データを平均化した混合型であってもよい。呼吸パラメータの可能な値は、ここに記載した値に限られない。むしろどのような種類の呼吸曲線の任意の大きさのパラメータセットでもパラメータ化できる。例えば圧力-時間曲線p
trachea(t)=f
p(θ
b)をパラメータ化することが可能である。次にこの圧力-時間曲線を、圧力境界条件の形で気管に適用する。さらに、呼吸は他のパラメータ、例えば患者の位置に関しても変化させることができる。
【0068】
図1は、パラメータ化した圧力-時間曲線を示す。この曲線は、ここでは肺モデルで境界条件として、この実施形態では解決すべき微分方程式系のノイマン境界で考慮される。その前にモデルパラメータ、例えば組織の硬さを、物質パラメータの形で体系的に調整しなければならない。この校正されたモデルを使って、医師は人工呼吸器の特定の呼吸調整を患者で調整する前にシミュレートすることができる。これにより医師は、肺疾患を患っている可能性のある患者に呼吸を施す前にモデルを使って、例えばこの個別シナリオすなわち選択した呼吸パラメータθbについて、組織拡張ε(x;t)が患者の肺で実際にどのくらい高くなるかを、決定できる。誤って選択した呼吸パラメータによる過拡張、気圧外傷及び/又は気道や肺胞の頻繁な開閉、又はその他の損傷機序が起こりうる前に決定できるのである。現在の技術水準では、医師は多数「i」の可能な調整θ
b,iからより適切な呼吸パラメータのセットを決定する、すなわち最適な呼吸パラメータθ
b,optを決定するための直感的な手段を有していない。
【0069】
最適化
多数の可能な呼吸パラメータθb,iからそのような最適な呼吸パラメータθb,optを決定するために品質基準が定義され、この実施形態ではこれらの品質基準を用いて、アルゴリズムは選択された呼吸パラメータが他の呼吸パラメータよりも呼吸に適しているかどうかを決定できるようになる。
【0070】
以下に、呼吸調整を体系的に改善するための一実施形態を示す。
【0071】
図2は、呼吸パラメータを数学的最適化問題の枠内で反復的に改善する方法の一実施形態を示す。
【数42】
によって定義される初期呼吸曲線から出発して、呼吸パラメータθ
bはステップS2~S5で反復iにおいて連続的に調整される。この場合、最初にステップS1で選択された調整がステップS2でテストされる。すなわち、これらの調整を用いて肺モデルでシミュレーションが実行される。それに続くステップS3では、モデルの結果が評価される。一実施形態では、これは肺の機械的負荷の尺度として用いられる拡張値の算出であることができる。さらに、モデルの別の出力値を用いて、患者の血液の酸素と二酸化炭素の飽和度が計算される。これは、例えば患者の静脈血又は動脈血中のシミュレートされた酸素分圧μ(O
2)と二酸化炭素分圧μ(CO
2)を評価することにより行われる。酸素分圧若しくは二酸化炭素分圧から導かれる血液中の所定のガス飽和度の達成は、生理学的に有意味なシミュレーション結果を保証するための強制条件である。続くステップS4では、計算された出力値の評価と、少なくとも1つの次の呼吸パラメータの選択が行われる。すなわち、特に複数の次の呼吸パラメータを並行して決定することもできる。
【0072】
評価及び選択ステップS4では、特に強制条件若しくは制約条件が満たされているかチェックされる。例えば血液中の酸素の含有率を参照値と比較する。代替的及び/又は追加的に、肺組織について計算された拡張値が所定の拡張最大値(参照値)と比較することができる。改善関数に基づいて、制約条件を満たす次の呼吸パラメータが提案される。
【0073】
ステップS4で最適化値の評価及び選択が、肺モデル内のすべての位置xにおいて最小値又は所定の品質尺度若しくは所定の参照値に達し、同時に患者の血液中のシミュレートされた酸素飽和度が必要最小レベルに相応するときに、できるだけ最適な、すなわち患者にとってできるだけ保護的な呼吸という目標が達成される。この場合、パラメータの調整若しくは改善は、本発明の枠内で定義され、以下により詳細に説明する数学的規則に従って行なわれる。最適な呼吸パラメータθb,optが見出されたら、これはステップS6で出力される。
【0074】
以下に、最適化問題をアルゴリズムの例を用いて説明する。一般に、最初に目的関数Fがモデルの特定の出力値の関数として定義される。最適化プロセス中に目的関数の関数値は最小値又は所定の参照値に接近し、又はこれらを例えば下回るように、反復的に改善される。この場合、次の呼吸パラメータを決定するための選択方法は、目的関数Bの関数値をガウス過程を介して近似するという考え方に基づいており、ガウス過程の期待値と取得関数を用いて、次の適当な呼吸パラメータを選択するための推定を行うことができる。
【0075】
ここで説明する実施形態では、最大組織拡張
【数43】
が最適化され、最適な呼吸パラメータでは肺組織の最大拡張に対する所定の最大値を下回らないか、若しくは代替的にθbに関する
【数44】
の最小値が見出される。したがって出力値の解析的な表現が存在しないため、最適化されるべき関数Bは明示的に知られていない。例えば組織拡張ε(x,t)の値はシミュレーションでしか得られない。
【0076】
この最適化は、制約条件、例えば患者の血液中の酸素飽和度を考慮して行われるが、これについても同様に単純な解析式やモデルの入力値との関連性が存在せず、制約条件の充足はモデルの助けによってのみ評価できる。
【0077】
したがって、最適な呼吸調整を決定するための患者固有の肺モデルの一実施形態では、肺モデルの結果値を評価するために用いられる2つの関数が存在する。1つは関数Bであり、これは呼吸による肺の機械的負荷を記述する
【数45】
機械的負荷は、ここでは圧力と組織拡張の関数として把握されるが、別の実施形態では、肺の一部の崩壊若しくは再開通も含むことができる。もう1つは関数Nであり、これは制約条件Nの充足度を評価するために用いられる
【数46】
いずれの関数もモデルの入力値
【数47】
に依存している。
【0078】
この問題は基本的に制約条件のない非線形最適化問題「O」、すなわちmin(0(B,N))として、又は制約条件のある非線形問題、すなわちmin(B),N>bとして定式化することができる。ここで、bは、例えば酸素飽和度の下限値である。以下に説明する特に好適な実施形態では、最適化問題はベイズ最適化手法に従って解く制約条件のある非線形問題として定式化されており、これはガードナーら「不等式制約があるベイズ最適化」(機械学習に関する第31回国際会議の議事録、中国北京。JMLR:W&CP第32巻」に記載されている。
【0079】
人工肺の呼吸パラメータの最適化という文脈におけるベイズ最適化の利点は、そのグローバルな最適化方法としての特性である。この応用にとっての別の利点は、最適化すべき関数の勾配を必要としない、若しくはこの方法は有限差分法によって近似する必要がないという点に見られる。ここでの最適化問題に対するベイズによる最適化の最大の利点は、この方法は非常に効率的であること、すなわち最適化されたパラメータを提供するために必要なモデル評価が比較的少ない点に見られ、この方法はさらに効率を高めるために並列化することも可能である。その結果として、例えばクリニックがこの最適化モデルを提供するサービスプロバイダに照会した後、最適化された呼吸パラメータを短時間で患者に提供できる。
【0080】
ここで説明する実施形態では、「最適」なパラメータθ
b,optは以下のように定義される。肺から患者の体内に輸送される酸素の量は、血液中の酸素飽和度が所定の参照値を超える量でなければならない。この参照値は、例えばS
O2=90%の閾値として定義されるが、他のシナリオではこれより低いか、高いことも可能である。この最適化問題を解くための制約条件は、
【数48】
に要約されている。
図2では、ステップS3「肺モデルの評価」でこの条件がチェックされる。さらに、「最適」なパラメータθ
b,optでは、例えば患者の肺におけるACの最大拡張ε
maxはできるだけ小さくする必要がある。ここでは、例えば肺内に発生する拡張の絶対最大値を、位置xに関しても時間tに関しても評価する。評価には少なくとも1回の完全な呼吸が対象となる。肺モデルで使用するACの弾性モデルは次元0(「D-0」)の次元削減モデルであるため、拡張はテンソルではなくスカラーである。これにより、評価に必要な計算時間や計算作業が減少する。ACのいわゆる体積拡張を観察して、初期体積と拡張体積の比率を計算する。したがってここで説明する変形例では、最適化される関数Bは以下のように定義されよう。
【数49】
【0081】
これにより、導入された数学関数B及びNは、最適化問題を呼吸パラメータθbに関して定義し、モデルパラメータθmに関して定義するものではない。ここで、関数Bの値は、制約条件N≧SO2、すなわち関数N(θb)の値を考慮して所定の条件に最適化される。
【0082】
最適な呼吸パラメータ
θb,optを発見するためのアルゴリズムは、実質的に2つの部分、すなわち確率的回帰モデルを調整するための方法と、いわゆる取得関数に基づいている。その際に、以下の最適化問題を解くためにベイズ最適化のコンセプトが適用される。
【数50】
【0083】
図3には、最適化ループのシーケンスが概略的に示されている。第1のステップでは、モンテカルロサンプリング又はラテンハイパーキューブサンプリングによって、初期データポイント{θ
b,init,1:J}のセットが決定される。このセットは、例えばJ=30通りの呼吸パラメータθ
b,initを包含している。これらの統計的に決定された呼吸パラメータを用いて、シミュレーションモデルが実行される。次にモデルの出力値は、ステップi)で定義された関数B及びNの計算に使用される。すなわち、NとBのそれぞれ30個の関数値の統計的分布が得られる。初期データポイントセット{θ
b,init,1:J,B(θ
b,init,1:J,N(θ
b,init,1:J)}に基づき、2つのガウス過程がトレーニングされる。続いて取得関数によってパラメータ空間内の別の有望なポイントが順次選択され、シミュレーションモデルが評価され、次いで新しいデータポイントを用いてガウス過程モデルが改善される。この処理が特定の回数[1,K]={k∈N|1≦k≦K}繰り返される。そのためベイズ最適化においては、回帰モデルのトレーニングと、この回帰モデルを用いて最適化のための有望な候補を予測することとが常に反復される。ここで説明する実施形態では、J=30の呼吸パラメータの初期セットから出発して、それぞれ別の呼吸パラメータθ
b,nextが1つのみ決定されて、次のシミュレーションに使用される。続いて、ここに示す実施形態では、回帰モデルはこの別の呼吸パラメータを包含する。すなわち、評価はますます多くのデータポイントに基づいて行われるので、モデルは反復ごとにますます正確になり、それによって予測力が改善される。
【0084】
以下では、最初に使用する回帰手法について説明し、次に使用する取得関数について説明する。
【0085】
まず、最適化される関数Bと制約条件Nはそれぞれガウス過程、すなわちN,B~GP(μ(・),k(・))としてモデル化できると仮定する。ここで、μ(θ
b)=IE[B(・)]は平均値関数若しくは期待値IEを表し、k(・,・)はガウス過程の共分散関数を表し、これは以下のように定義される。
【数51】
【0086】
ガウス過程としてモデル化する結果として、与えられた入力値Φ={θ
b,1,θ
b,2,…,θ
b,H}と、これに付属する関数値B(Φ)={B(θ
b,1),B(θ
b,2),…,B(θ
b,H)}5(F)=のセットにおいて、新しいテストポイントθ
b,nextに対して以下の事後確率分布が生じる:
【数52】
これはガウス分布なので、平均と分散によって特徴づけることができる。
μ
B(θ
b,next)=μ(θ
b,next)+k(θ
b,next,Φ)k(Φ,Φ)
-1(B(Φ)-μ(Φ))
【数53】
【0087】
上記の式を用いることにより、新しいデータを用いて任意のポイントの事後分布を更新することが可能になった。ここで説明する回帰法を用いて、N(・)とB(・)の2つの回帰モデルをトレーニングする。
【0088】
取得関数
ベイズ最適化において最も重要なステップは、1つ以上の次の候補θ
b,nextを決定することである。これは取得関数を用いて行われる。ここでは、いわゆる「期待-制約-改善関数」が使われる。これらの修正された取得関数は、「期待-改善-関数」から以下のように導き出すことができる。この処理については、ガードナーら「不等式制約があるベイズ最適化」(機械学習に関する第31回国際会議の議事録、中国北京。JMLR:W&CP第32巻」に詳述されている。このためにまず、今日まで評価されたデータセットT
Bの中でこれまでの最も良いポイントをθ
b
+と定義する。新しい候補によって達成される改善は、以下のように表すことができる。
【数54】
【0089】
改善の期待値は、まず以下のようになる。
【数55】
変換後、以下の解析式が得られる。EI(θ
b,next)=ΣN(θ
b,next))(ZΦ(Z)+φ(Z))。ここで、Φは累積分布関数、φは標準正規分布の密度関数である。さらに
【数56】
【0090】
ここで説明する実施形態に従い、酸素飽和度S
O2は下方閾値を下回ってはならないという制約条件を満たすために、ガードナーらによる上記取得関数の拡張が提案される。それによると候補θ
b,nextに対するいわゆる「制約改善」は、
I
C(θ
b,next))=Δ(θ
b,next)max{0,B(θ
b
+)-B(θ
b,next)}=Δ(θ
b,next)I(θ
b,next)
ここで、Δ(θ
b,next)∈{0,1}(θ
b,next)は、N(θ
b,next)≧λの場合は1であり、それ以外の場合は0である指標関数を表す。すなわち、酸素飽和度の制約条件λが満たされない場合は0を乗じることにより可能なすべての呼吸パラメータを選び捨てる。N(θ
b,next)の計算はB(θ
b,next)の計算と同様に計算量が多いため、N(θ
b,next)に対してもガウス過程という形で代替モデルを導入して、シミュレーションモデルの代わりに使用する。すなわち、ガウスモデルは代替モデルであり、新しい候補の探索は代替モデルに委ねられる。このことは、取得関数の最小値/最大値を探索することによって行なわれる。
【数57】
のガウス周辺分布により、「期待された制約付き改善」取得関数に対して、最適化で使用される以下の表現が生じる。
EI
C(θ
b,next)=PF(θ
b,next)EI(θ
b,next)
ここで、PF(θ
b,next)は以下のように定義される。
【数58】
【0091】
図3には、最適化ループのシーケンスが概略的に示されている。実際の最適化ループは、方法ステップi)~iii)からなる。まず、最適化されるべき呼吸パラメータが定義される。ここでは、ベクトル値の呼吸パラメータθ
bを確定するために、例えば以下の5つのパラメータが選択される:θ
b={PEEP,p
insp,t
insp,t
exp,F
iO
2}。
【0092】
次にこの呼吸パラメータに対して、30個の候補{θ
binit,1:30}からなる初期ラテンハイパーキューブデザインが作成される。これらの30ポイントについてシミュレーションモデルが評価される。すなわち30回のシミュレーションが実行されて、最適化関数Bと制約条件Nの値が計算される。それによっていまや初期データセットT={θ
b,1:30,N(θ
b,1:30),B(θ
b,1:30)}が存在する。次いでこのデータセットTに基づいて、それぞれ1個のガウス過程モデルがトレーニングされる。それから
図3に概略的に示された以下の3つのステップi)~iii)が、表順に、ここではステップii)から始めて、例えばK=20回繰り返される。
【0093】
ステップii):ステップii)「評価と選択」において、取得関数を用いて新しい候補θb,nextを計算若しくは選択されるる。計算された関数値B(θb,next)の評価も同様に行われて、肺の機械的負荷B(ε(θb,next);p(θb,next))の所定の参照値が現在の呼吸パラメータによって満たされるか、又は所定の最大反復回数に到達しているかチェックする。
【0094】
ステップiii):ステップii)で提案された次の候補θb,nextが、新たな計算若しくはシミュレーションのためにモデルに引き渡される。
【0095】
ステップi)。N(θb,next),B(θb,next)の計算が続く。
【0096】
アルゴリズム、すなわち最適化方法の最後に、制約条件が満たされて最適化関数が最小の値、すなわち最小の機械的負荷を有するパラメータθb,optが返される。
【0097】
この実施形態では、アルゴリズムK=20回実行した後に最適化を終了させる。このためにKは使用者によって決定される。この場合、使用者はさらに中止基準も適用することができ、条件を満たす最初の呼吸パラメータを見出すことによって方法が自動的に終了されて呼吸パラメータが人工呼吸器に出力される。
【0098】
図4aには、最適な呼吸パラメータを患者固有に決定するためのシステムの好適な実施形態が概略的に示されている。
図4aの個々のステップを説明すると、4a_1:撮像、追加データの取得、4a_2:許可、仮名化、4a_3:クリニックのサーバから外部、例えばクラウドコンピューティング環境へのデータ転送、4a_4:計算モデル作成、4a_5:呼吸調整の最適化若しくはθ
b,optの発見、4a_6:PEEP、p
insp、f、t
insp、t
exp、FiO2などのデータ転送、4a_7:承認、4a_8:適用。ここに示す
図4aの実施形態では、モデルはコンピュータ断層撮影のデータを用いて患者固有に構成される。さらに、患者固有の校正のために、患者固有の呼吸曲線がモデルに供給される。患者固有のデータはクリニックから、例えばクラウドコンピューティングプロバイダにおけるコンピューティングサーバの形で、又はローカルコンピューティングサーバとして提供される外部コンピューティング環境にデジタルで転送される。代替的に、モデル計算、すなわちモデルの計算集約的な部分はクラウドコンピューティングプロバイダで行われ、呼吸パラメータの実際の最適化は別のプロバイダにより又はクリニックで行われることも可能であろう。これは特に、人工呼吸器の操作のためにクリニックや医師に患者の最適化された呼吸パラメータを提供する、いわゆる「サービスとしてのソフトウェア」のコンセプトとして理解される。これらの呼吸パラメータは、患者固有の、例えばCTデータや呼吸測定によって得られたデータに基づくことができ、又は患者固有のデータベース、若しくは既往症を類型化する一般的な患者データベースに由来することができる。
【0099】
モデルによって決定された患者固有の特定の最適な呼吸パラメータは、再びデジタルでクリニックに送り戻される。そこからデータは人工呼吸器に送られ、算出された最適な呼吸パラメータを用いて人工呼吸器が設定される。
【0100】
代替的に、モデルは
図4bに概略的に示すように、人工呼吸器のコンピュータユニットに直接実装することも可能である。
図4bの個々のステップを説明すると、4b_1:撮像、追加データの取得、4b_2:許可、仮名化、4b_3:人工呼吸器から若しくはクリニック内でのクリニックサーバへのデータアクセス、4b_4:計算モデル作成、4b_5:呼吸調整の最適化若しくはθ
b,optの検出、4b_6:PEEP、p
insp、f、t
insp、t
exp、FiO2などのデータの提供、4b_7:承認、4b_8:適用。ここでは、少なくとも患者の肺の評価済みコンピュータ断層画像を含む患者固有のデータが、クリニックのサーバから直接人工呼吸器に送信される。続いて人工呼吸器のコンピュータユニットで最適なパラメータを計算することにより、患者固有の最適な呼吸を全自動で生み出すことができる。すなわち、肺モデルを人工呼吸器のコンピューティングユニットに実装して、人工呼吸器上でシミュレーションが実行されるようにすることができる。代替的に、人工呼吸器は、外部コンピューティングユニットがシミュレーションに使用されて、1つ以上の次の呼吸パラメータの選択が、すなわち特に次の呼吸パラメータを評価及び選択するためのシミュレーションステップii)が人工呼吸器上で行われるようにすることができる。
【0101】
図4cに示された別の代替例において、モデルはコンピュータ断層撮影装置や人工呼吸器と同様にクリニック内にあるシミュレーションサーバに実装されている。
図4cの個々のステップを説明すると、4c_1:撮像、追加データ取得、4c_2:許可、仮名化、4c_3クリニックサーバへのデータアクセス、4c_4:計算モデル作成、4c_5:呼吸調整の最適化又はθ
b,optの発見;4c_6;データ転送、PEEP、p
insp、f、t
insp、t
exp、FiO2などのデータアクセス、4c_7:承認、4c_8:適用。このシミュレーションサーバには、患者固有のデータ、例えば画像データが供給される。シミュレーションサーバは画像データを3次元構造データに処理することができ、それらの上に例えば人工知能又は機械学習に基づくアルゴリズムを用いて肺モデルが形成される。最適なパラメータを決定する最適化とシミュレーションのステップは、クリニックのシミュレーションサーバで行われ、続いて人工呼吸器に供給される。
【0102】
図5は、データ処理ユニット120、人工呼吸器130、コンピュータ断層撮影装置(CT)140、及びサーバ150という構成要素を有するシステム100の実施形態を示す。これらのユニットは互いにネットワーク接続されていて、システム100のユニット間でデータ物流プロセスチェーンの意味でデジタルデータを交換できるようになっている。システム100の構成要素は、点線160で示すように、異なる場所で互いに局所的に分離して動作することができる。すなわち、システムの構成要素が、デジタルデータの相互交換を可能にするネットワークを形成する。システム100の構成要素間でデータを交換する際は、特に患者固有のデータの暗号化された、例えば個人化されたアクセスを考慮する。例えばCT140はクリニックAにあり、サーバ150は別のクリニックB又はサービスプロバイダ、例えばコンピューティングクラウドのプロバイダにある。人工呼吸器130はCT140と同じクリニックA内、又はサーバ150と同じクリニックB内、又は別の異なるクリニックC内にある。好適な実施形態では、CT140は人工呼吸器130と共にクリニックAにある。サーバ150も同様にクリニックA内にある。サーバ150は少なくとも1つの記憶ユニット152と、少なくとも1つの計算ユニット(CPU)151を含んでいる。サーバ150は、例えばデータ処理装置120からの要求により、患者固有の「CT」画像データをデータ処理装置120に転送する。データ処理装置120は、操作ユニット121と計算ユニット124を有する。操作ユニット121は、プロセッサ(CPU)と記憶ユニットを含んでいる。操作ユニット121は、例えばパーソナルコンピュータによって実現され、使用者が患者固有のデータの転送要求を開始できるようにする。さらに、操作ユニット121は、使用者が最適な呼吸調整を見出すための最適化を開始できるようにする。データ処理装置120の計算ユニット122は、操作ユニットと場所的に分離することができる。計算ユニット122は、理想的にはサーバによって構成されていて、特に高い計算能力を有する。それゆえ計算ユニットは、少なくとも1つのCPU123と少なくとも1つの記憶ユニット124からなる。この好適な実施形態では、肺モデルは計算ユニット122に実装されているか、又はデータ処理装置120の外部から計算ユニット122にインストールすることができる。
【0103】
この場合、操作ユニットは、サーバ122の一部であってもよい。使用者は、操作ユニット121を介してサーバ150のCT画像データのセットを受信する。画像データのセットは操作ユニット121からコンピュータユニット122に転送され、使用者は、モデル化に必要な肺の3次元幾何構造データセットをモデルに提供するために、操作ユニット121を介してCT画像データのセットの評価を開始する。さらに、使用者は、操作ユニット121を介して患者固有の呼吸曲線を、サーバ150から受信又はダウンロードする。この過程は、特にソフトウェアによって自動化して実行することも可能である。代替として、呼吸曲線は患者データベースからダウンロードすることもできる。呼吸曲線でモデルを校正した後、使用者はシミュレーションを開始する。シミュレーションは理想的には最適な呼吸パラメータを自動的に作成し、サーバ150を介して人工呼吸器130に供給する。
【0104】
代替的な実施形態において、コンピューティングユニット122は、例えば特に肺モデルのシミュレーションのために高い計算能力を備えたサービスプロバイダに委託できる。この場合、特に例えば1つ以上の取得関数を用いて次の候補を複数並列選択することによって、複数の最適な呼吸パラメータの並列計算を行うことができる。別の好適な実施形態では、例えばシミュレーションサーバとして設計された計算ユニット150は、転送された患者固有のCTデータから構造データを、特に患者のCTスライス画像から関連する肺固有の特徴を認識するための人工知能に基づいて作成するためのアルゴリズムを含んでいる。サーバ150は、これらのデータを計算ユニット122に転送する。代替的に、シミュレーションサーバ150が、相応の計算能力を備えているか又は援用できるならば、肺モデルのシミュレーションも実行でき、呼吸パラメータの最適化はデータ処理装置120を備えた外部サービスプロバイダによって行われる。
【0105】
図6には、人工呼吸器230の好適な実施形態が概略的に示されている。人工呼吸器230は、呼吸パラメータによって呼吸を制御するための操作ユニット235を含んでいる。さらに、人工呼吸器230はデータ処理装置231を含んでいる。点線260で略示されているように、人工呼吸器230は、サーバ250とCT240から空間的に分離して配置されている。例えばCT240とサーバ250は共にクリニックAにあり、人工呼吸器230は別のクリニックBにある場合もある。人工呼吸器230はCT240及びサーバ250と共に、データ、特に患者固有のデータを交換するためのネットワークを形成し、データ交換に関連する患者固有の情報を送信するためのアクセス権を含む。
【0106】
人工呼吸器230はデータ処理装置231を有し、データ処理装置231はまた、使用者、例えば医師が人工呼吸器230を操作し、特に最適な呼吸パラメータの決定を開始でき、特に肺モデルを校正するための少なくとも1つの呼吸曲線を作成して評価できる操作ユニット234を含んでいる。この特に好適な実施形態では、肺モデルと最適化方法は人工呼吸器に実装されていて、最適な患者固有のデータを見出すための最適化ステップは少なくとも部分的又は完全に人工呼吸器230上で実行又は調整できるようになっている。例えば人工呼吸器230は、データセット又は計算を肺のシミュレーションを行うのに適した外部データサーバに外注することも可能である。このために人工呼吸器は、記憶ユニット235と、高い計算能力を持つ少なくとも1つのプロセッサ(CPU)とを有する計算ユニット232を備えていて、モンテカルロサンプリング又はラテンハイパーキューブサンプリングを用いて初期パラメータの作成を含む最適化ステップi)~iii)を実行できるようになっている。
【0107】
さらに、データ処理装置は、理想的には3次元CT画像データを肺モデルの必要な構造的形状に処理することができる。具体的な用途において、人工呼吸器230は、CT240もサーバ250もある病院内に配置されている。人工呼吸器230の操作ユニット234を介して医師が要求すると、患者固有のCT画像データは、断層撮影装置240からサーバ250を介して機械230に送信され、又は既にサーバ250上にあり、続いて直接人工呼吸器230のデータ処理装置231によってモデルのために構造的に処理される。理想的にはこれと並行して、患者におけるモデルの校正のために患者の呼吸曲線を人工呼吸器230に記録して評価することができる。これに続いて人工呼吸器230に実装されたソフトウェアは、その間に作成された3次元CT画像データを処理し、それによって肺画像の3次元形状をデジタルで構成する。理想的には、呼吸曲線を用いた校正は、計算処理装置232によって自動的に実行される。次に医師は人工呼吸器230上で最適化を実行し、続いて最適な呼吸パラメータが直接人工呼吸器230の制御ユニット235に供給される。
【0108】
図7は、撮像が行われない本発明の別の実施形態を示している。その代わり操作者は少なくとも2つの呼吸パラメータを含む呼吸提案を行い、この提案は同時に患者固有のデータの交換の許可と仮名形成のための信号とみなすことができる。
図7の個々のステップを説明すると、7_1:PEEP、p
insp、f、t
insp、t
exp、FiO
2などの呼吸提案、7_2:PEEP、p
insp、f、t
insp、t
exp、FiO
2などのデータ転送、7_3:呼吸モデル作成、7_4:モデル評価、7_5:データ転送、患者の肺への調整の影響に関するフィードバック(例えば最大拡張、酸素灌流など)、7_6:可否決定、7_7:必要に応じて適用。例えば医師(この場合医師は人工呼吸器があるのとは別の場所にいることも可能)の呼吸パラメータ提案のデータは、次にシミュレーションと最適化のために、保存場所又は計算場所に、通常はクラウドサーバに送信される。人工呼吸器は呼吸パラメータの提案によって、理想的には外部の操作者によりネットワークを介して設定でき、達成された結果に関して、例えば組織拡張のような患者にとって重要な肺データの形で監視できる。この実施形態では、外部の操作者は、特に多数の反復の後で最適化を中止することができる。理想的には、呼吸パラメータ提案を行う際に他の実施形態の追加的な患者データを一緒に送信して、肺の計算モデル、例えば患者の肺の構造幾何学的データを作成若しくは個人化することができる。続くステップで、少なくとも1つのモデル評価が行われて、結果データを流体力学的価及び構造力学的値、ガス交換に関するデータ、化学反応、及び肺の計算モデルで決定できるその他の情報の形で生成する。この場合、最初の評価の結果、呼吸提案に関する肺挙動が逐一問い合わされ、それに基づく最適化がより理想的な呼吸パラメータを生み出して、外部の操作者にそれらの患者固有の効果に関して、例えば患者に関連する1つ以上のデータの反復ごとに拡大する連続グラフとして示す。このようにしてモデルは使用者に対して使用者の提案を基礎とした逆提案を行うことができる。
【符号の説明】
【0109】
100,200 システム
120,231 データ処理装置
121,234 操作ユニット
122,232 計算ユニット
123,233 プロセッサ(CPU)
124,235 記憶ユニット
130,230 人工呼吸器
140,240 コンピュータ断層撮影装置(CT)
160,260 空間的分離線
150,250 サーバ
151,251 計算ユニット
152,252 記憶ユニット
【表1】
【国際調査報告】