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特表2023-522664トロンビン処理幹細胞に由来するエキソソームを含む糖尿病性皮膚疾患の予防または治療用組成物
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  • 特表-トロンビン処理幹細胞に由来するエキソソームを含む糖尿病性皮膚疾患の予防または治療用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-31
(54)【発明の名称】トロンビン処理幹細胞に由来するエキソソームを含む糖尿病性皮膚疾患の予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20230524BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P17/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562568
(86)(22)【出願日】2021-04-12
(85)【翻訳文提出日】2022-10-13
(86)【国際出願番号】 KR2021004597
(87)【国際公開番号】W WO2021210872
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】10-2020-0045483
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512250119
【氏名又は名称】サムスン ライフ パブリック ウェルフェア ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】ユン・シル・チャン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・スン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ドン・キュン・スン
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087CA04
4C087MA13
4C087MA16
4C087MA24
4C087MA28
4C087MA32
4C087MA63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA89
(57)【要約】
本発明は、トロンビンが処理された幹細胞に由来するエキソソーム(exosome)を有効成分として含む糖尿病性皮膚疾患の予防または治療用薬学的組成物、前記組成物を含有する薬学製剤およびその製造方法に関する。本発明では、トロンビン処理された幹細胞から分離したエキソソームが糖尿病動物モデルで糖尿病性皮膚障害を回復させる効果に優れていることを確認した。また、エキソソームベースの治療剤は、cell-free製剤であるから、DNAが含まれていないので、発がんの危険性が少なく、細胞表面抗原がないので、移植拒否反応の問題がなく、安全であり、細胞というよりむしろ分離物質であり、off the shelf製品としての薬剤開発が可能なので、製造コストを減らすことができる。これによって、本発明によるトロンビン処理された幹細胞由来エキソソームは、糖尿病によって誘発される多様な難治性の慢性皮膚疾患に対する治療剤として開発されることができ、また、皮膚再生に関連した分野に適用されて有用に用いられ得ることが期待される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロンビン処理された幹細胞に由来するエキソソーム(exosome)を有効成分として含む、糖尿病性皮膚疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項2】
前記幹細胞は、間葉系幹細胞、ヒト組織由来間葉系間質細胞(mesenchymal stromal cell)、ヒト組織由来間葉系幹細胞、多分化能幹細胞および羊膜上皮細胞からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記間葉系幹細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、皮膚、羊膜または胎盤に由来することを特徴とする請求項2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記糖尿病性皮膚疾患は、糖尿病性潰瘍(diabetic ulcer)、発疹状黄色腫(eruptive xanthomatosis)、皮膚感染(cutaneous infection)、糖尿病性皮膚障害(diabetic dermopathy)、軟性線維腫(skin fibroma)、黒色表皮症(acanthosis nigricans)、掻痒症(pruritus)、糖尿病性浮腫性硬化(scleredema diabeticorum)および環状肉芽腫(granuloma annulare)からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記薬学的組成物は、培養培地、サイトカイン、成長因子および遺伝子からなる群から選ばれる補助成分をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物を含む、糖尿病性皮膚疾患の治療用薬学製剤。
【請求項7】
前記薬学製剤は、注射剤形、注入剤形、噴霧剤形、液状剤形またはパッチ剤形であることを特徴とする請求項6に記載の薬学製剤。
【請求項8】
トロンビン処理された幹細胞に由来するエキソソーム(exosome)を有効成分として含む、糖尿病性皮膚疾患の改善用医薬部外品製剤。
【請求項9】
前記医薬部外品製剤は、液剤、軟膏剤、クリーム剤、スプレー剤、パッチ剤、ゲル剤およびエアロゾル剤からなる群から選ばれる皮膚外用剤形態であることを特徴とする請求項8に記載の医薬部外品製剤。
【請求項10】
下記の段階を含む、請求項1に記載の薬学的組成物の製造方法:
(a)幹細胞培養後、トロンビンを処理する段階;
(b)前記段階(a)の培養液からエキソソームを分離する段階;および
(c)前記段階(b)で分離したエキソソームを有効成分として含有する組成物を製造する段階。
【請求項11】
前記段階(a)のトロンビンは、培地内に1~1000unit/mlの濃度で含まれることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記段階(b)のエキソソームは、遠心分離を3,000-100,000gで10分~5時間行うことによって分離することを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
トロンビン処理された幹細胞に由来するエキソソーム(exosome)を有効成分として含む薬学的組成物を個体に投与する段階を含む、糖尿病性皮膚疾患の予防または治療方法。
【請求項14】
トロンビン処理された幹細胞に由来するエキソソーム(exosome)を有効成分として含む薬学的組成物の、糖尿病性皮膚疾患の予防または治療用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロンビンが処理された幹細胞から分離したエキソソーム(exosome)を有効成分として含む糖尿病性皮膚疾患の予防または治療用薬学的組成物、前記組成物を含有する薬学製剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、インスリンの分泌量が不足したり、正常に機能していないなどの代謝疾患の一種であり、血中ブドウ糖の濃度が高まる高血糖を特徴とし、高血糖に起因して色々な症状および兆候を起こし、尿でブドウ糖を排出することとなる。「小児糖尿病」とも呼ばれる第1型糖尿病は、自己免疫機序によって膵臓のベータ細胞が破壊されて、インスリンの絶対的または相対的生産欠乏が原因として発生するのに対し、第2型糖尿病は、インスリン抵抗性によって誘導され、肥満、インスリン受容体の減少、インスリン分泌の低下、遺伝的要因など多様な要因によって発生すると知られている。
【0003】
大韓糖尿病学会の2016年発表によれば、2014年基準韓国内30歳以上の成人人口の糖尿病有病率が13.7%と歴代最高値を記録し、また、糖尿病の同伴疾患の危険が深刻なレベルであり、糖尿病患者の肥満と腹部肥満有病率が48.6%と58.9%に達し、高血圧および高コレステロール血症がそれぞれ54.7%および31.6%伴われていることが示された。このように糖尿病は、それ自体の危険性だけでなく、心血管系疾患、網膜症、腎不全、末梢神経合併症、皮膚疾患など深刻な合併症を引き起こす。
【0004】
糖尿病によって誘発される疾患の一つである糖尿病性皮膚疾患(Diabetic skin disease)は、糖尿患者の場合、長い間、血液中のブドウ糖数値が高く維持されて誘発されるものであり、具体的に、糖尿病性潰瘍、黒色表皮症、糖尿病性リポイド類壊死症、糖尿病性皮膚障害、発疹状黄色腫、軟性線維腫、掻痒症、環状肉芽腫、細菌およびかび感染などがある。特に、皮膚障害の場合、血中高い糖濃度に起因して十分に回復しないため、慢性的な病症になりうる。したがって、糖尿病によって誘発される多様な皮膚疾患を予防および治療できる効果的な製剤の開発が必要である。
【0005】
一方、幹細胞は、その多分化能と共に、組織の再生、治療および免疫反応に関与する細胞であることが知られていて、このような特性を利用して臍帯血、骨髄などから間葉系幹細胞を分離培養して、多様な疾患、症状に対する治療剤として開発しようとする努力があった。
【0006】
しかしながら、このような幹細胞自体を用いた治療法は、次のような限界と副作用の問題があった。第一に、基本的に細胞治療剤は、DNA transferによる発がん(tumorigenicity)可能性を排除できず、第二に、幹細胞自体の大きいサイズに起因して血管閉塞(vascular obstruction)や心筋梗塞を誘発でき、第三に、臍帯血のように同種細胞を使用して移植時(同種移植)に細胞表面抗原(surface antigen)に因る拒否反応の問題があり、第四に、一般的に細胞治療剤は、製造工程が難しく、保管および運送に制約が多いため、生産費用が高いという限界がある。このように、幹細胞が持っている基本的限界に起因して副作用を減らしながらも、治療効果を増進させるための方案として、遺伝子操作を用いた効能改善方法が開発されたことがあるが、現在まで明確な代案はないのが現状である。
【0007】
エキソソームは、多様な細胞から分泌される膜構造の小さい小胞(略30~100nmの直径)であり、電子顕微鏡を通した研究において原形質膜から直接脱離するものではなく、多小胞体(multivesicular bodies,MVBs)と呼ばれる細胞内特定区画から起源し、細胞外に放出、分泌されることが観察された。すなわち、多小胞体と原形質膜の融合が起こると、小胞は、細胞外環境に放出されるが、これをエキソソームという。このようなエキソソームがどんな分子的機序によって作られるか明確に明らかにされていないが、赤血球細胞だけでなく、Bリンパ球、Tリンパ球、樹状細胞、血小板、マクロファージなどを含む多様な種類の免疫細胞らと腫瘍細胞、幹細胞などが、生きている状態でエキソソームを生産して分泌することが知られていた。
【0008】
特に、幹細胞に由来するエキソソームは、受容体およびタンパク質だけでなく、核成分を含有していて、細胞間コミュニケーション役割をすると知られている。また、前記幹細胞に由来するエキソソームは、幹細胞に比べて動物血清を相対的に少なく含有していて、動物血清感染による症状(zoonosis)の危険性を排除することができる。このようなエキソソームの特性を考慮するとき、エキソソームを用いた細胞治療法は、従来の幹細胞治療法の限界を克服できる新しいパラダイムになることが期待される。
【0009】
これと関連して、多能性幹細胞を用いた糖尿病性皮膚潰瘍の治療効果が開示されているが(KR10-2018-0104196)、トロンビン処理された幹細胞由来エキソソームの糖尿病性皮膚疾患の治療用途については知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、幹細胞に由来するエキソソームを糖尿病性皮膚疾患に適用して研究努力した結果、糖尿病性皮膚疾患の一例として糖尿病動物モデルに皮膚病変を誘発させた場合、前記エキソソームによる優れた治療効果を確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0011】
これによって、本発明は、トロンビン処理された幹細胞由来エキソソーム(exosome)を有効成分として含む、糖尿病性皮膚疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、前記薬学的組成物を含む、糖尿病性皮膚疾患の治療用薬学製剤を提供することを他の目的とする。
【0013】
また、本発明は、トロンビン処理された幹細胞由来エキソソーム(exosome)を含む、糖尿病性皮膚疾患の改善用医薬部外品製剤を提供することをさらに他の目的とする。
【0014】
また、本発明は、前記薬学的組成物の製造方法を提供することをさらに他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述のような本発明の目的を達成するために、本発明は、トロンビン処理された幹細胞由来エキソソーム(exosome)を有効成分として含む、糖尿病性皮膚疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0016】
本発明の一具現例において、前記幹細胞は、間葉系幹細胞、ヒト組織由来間葉系間質細胞(mesenchymal stromal cell)、ヒト組織由来間葉系幹細胞、多分化能幹細胞および羊膜上皮細胞からなる群から選ばれるものであってもよい。
【0017】
本発明の他の具現例において、前記間葉系幹細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜または胎盤に由来するものであってもよい。
【0018】
本発明のさらに他の具現例において、前記糖尿病性皮膚疾患は、糖尿病性潰瘍(diabetic ulcer)、発疹状黄色腫(eruptive xanthomatosis)、皮膚感染(cutaneous infection)、糖尿病性皮膚障害(diabetic dermopathy)、軟性線維腫(skin fibroma)、黒色表皮症(acanthosis nigricans)、掻痒症(pruritus)、糖尿病性浮腫性硬化(scleredema diabeticorum)および環状肉芽腫(granuloma annulare)からなる群から選ばれるものであってもよい。
【0019】
本発明のさらに他の具現例において、前記薬学的組成物は、培養培地、サイトカイン、成長因子および遺伝子からなる群から選ばれる補助成分をさらに含んでもよい。
【0020】
また、本発明は、前記組成物を含む、糖尿病性皮膚疾患の治療用薬学製剤を提供する。
【0021】
本発明の一具現例において、前記薬学製剤は、注射剤形、注入剤形、噴霧剤形、液状剤形またはパッチ剤形であってもよい。
【0022】
また、本発明は、トロンビン処理された幹細胞に由来するエキソソーム(exosome)を有効成分として含む、糖尿病性皮膚疾患の改善用医薬部外品製剤を提供する。
【0023】
本発明の一具現例において、前記医薬部外品製剤は、液剤、軟膏剤、クリーム剤、スプレー剤、パッチ剤、ゲル剤およびエアロゾル剤からなる群から選ばれる皮膚外用剤形態であってもよい。
【0024】
また、本発明は、下記の段階を含む、前記薬学的組成物の製造方法を提供する。
(a)幹細胞培養後、トロンビンを処理する段階;
(b)前記段階(a)の培養液からエキソソームを分離する段階;および
(c)前記段階(b)で分離したエキソソームを有効成分として含有する組成物を製造する段階。
【0025】
本発明の一具現例において、前記段階(a)のトロンビンは、培地内に1~1000unit/mlの濃度で含まれ得る。
【0026】
本発明の他の具現例において、前記段階(b)のエキソソームは、遠心分離を3,000~100,000gで10分~5時間行うことによって分離することができる。
【0027】
また、本発明は、トロンビン処理された幹細胞由来エキソソーム(exosome)を有効成分として含む薬学的組成物を個体に投与する段階を含む、糖尿病性皮膚疾患の予防または治療方法を提供する。
【0028】
また、本発明は、前記薬学的組成物の、糖尿病性皮膚疾患の予防または治療用途を提供する。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、具体的な実施例に基づいて、トロンビン処理された幹細胞から分離したエキソソームが、糖尿病動物モデルで糖尿病性皮膚障害を回復させる効果に優れていることを確認した。また、エキソソームベースの治療剤は、cell-free製剤であるから、DNAが含まれていないので、発がんの危険性が少なく、細胞表面抗原がないので、移植拒否反応の問題がなく、安全であり、細胞というよりむしろ分離物質であり、off the shelf製品としての薬剤開発が可能なので、製造コストを減らすことができる。これによって、本発明によるトロンビン処理された幹細胞由来エキソソームは、糖尿病によって誘発される多様な難治性の慢性皮膚疾患に対する治療剤として開発されることができ、また、皮膚再生に関連した分野に適用されて有用に用いられ得ることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】トロンビンが処理された幹細胞から分離したエキソソームを走査電子顕微鏡(SEM)および透過電子顕微鏡(TEM)でそれぞれ観察したイメージである。
図2】トロンビンが処理された幹細胞から分離した産物がエキソソームであることを確認するために、ウェスタンブロットを通じてエキソソームマーカーであるCD9、CD63およびCD81レベルを測定した結果を示す図である。
図3a】トロンビン処理された幹細胞由来エキソソームの糖尿病性皮膚障害に対する治療効果を検証するために、糖尿病が誘発された動物モデルを製作した結果を示す図であり、ラットに食塩水を腹腔投与した正常群(Saline)とストレプトゾトシンを腹腔投与して糖尿病を誘発させた群(STZ)の平均血糖数値を示した結果を示す図である。
図3b】糖尿病性皮膚障害を誘発させ、食塩水(Saline)、何の処理もしない幹細胞由来エキソソーム(naive exo)、およびトロンビンが処理された間葉系幹細胞から分離したエキソソーム(thrombin exo)を投与した実験群間に血糖の差異がないことを示す結果を示す図である。
図4】糖尿が誘発されたラットモデルの背中を傷つけて皮膚障害を誘発させた直後、食塩水(Saline)、何の処理もしない幹細胞由来エキソソーム(naive exo)、およびトロンビンが処理された間葉系幹細胞から分離したエキソソーム(thrombin exo)をそれぞれ傷に直接塗布した後、5日間隔で傷治療効果を比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明者らは、幹細胞に由来するエキソソームを糖尿病性皮膚疾患の治療に適用して研究努力した結果、糖尿病性皮膚疾患の一例として糖尿病動物モデルに皮膚病変を誘発させた場合、前記エキソソームによる優れた治療効果を確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0032】
これによって、本発明は、トロンビン処理された幹細胞由来エキソソーム(exosome)を有効成分として含む、糖尿病性皮膚疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0033】
本発明において使用される用語「トロンビン(thrombin)」は、血液凝固に関与するタンパク質分解酵素であり、血液中の可溶性フィブリノゲン(fibrinogen)を加水分解して、不溶性のフィブリンに変化させる反応を触媒する役割をする。本発明では、幹細胞に処理して、前記幹細胞から分離したエキソソームの糖尿病性皮膚疾患の治療効果を効果的に向上させる機能を示す。
【0034】
本発明において使用される用語「幹細胞(stem cell)」とは、分化能力を有しているが、まだ分裂が起こらない「未分化細胞」であり、自己複製能力を有し、二つ以上の異なる種類の細胞に分化できる能力を有する細胞をいう。本発明の幹細胞は、自己または同種由来の幹細胞であってもよく、ヒトおよび非ヒト哺乳類を含む任意類型の動物由来であってもよい。
【0035】
本発明において、前記幹細胞は、本発明の幹細胞は、胚性幹細胞または成体幹細胞を含み、好ましくは、成体幹細胞である。前記成体幹細胞は、間葉系幹細胞、ヒト組織由来間葉系間質細胞(mesenchymal stromal cell)、ヒト組織由来間葉系幹細胞または多分化能幹細胞であってもよく、好ましくは、間葉系幹細胞であるが、これに限定されない。
【0036】
前記間葉系幹細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜および胎盤などに由来する間葉系幹細胞であってもよく、好ましくは、臍帯血由来間葉系幹細胞であってもよいが、これに限定されない。
【0037】
本発明において「臍帯血」は、胎盤と胎児を連結する臍帯静脈から採取された血液を意味する。臍帯血は、出産時に自然的に発生する副産物であり、数回の手術を必要とする骨髄などの一般間葉組織より一層採取が容易であり、骨髓移植に比べて臍帯血の保管産業が活性化されて、既にインフラが構築されているので、供与者を見つけることも容易である。これと共に、臍帯血由来細胞は、組織や臓器移植で拒否反応を起こす最も重要な原因である組織適合抗原HLA-DR(classII)が発現しない細胞であるから、従来の移植手術時に問題となった拒否反応などの免疫反応を誘発しないか、最小化することができて、自己由来臍帯血はもちろん、他家由来臍帯血を使用することができる。
【0038】
本発明において使用される用語「エキソソーム(exosome)」は、多様な細胞から分泌される膜構造の小さい(略30~100nmの直径)小胞を意味し、多胞体と原形質膜の融合が起こって、細胞外環境に放出される小胞を意味する。前記エキソソームは、自然的に分泌されたものであるか、あるいは、人工的に分泌されたものを含む。
【0039】
本発明において使用される用語「予防」とは、本発明による薬学的組成物の投与によって糖尿病性皮膚疾患を抑制させたり発病を遅延させるすべての行為を意味する。
【0040】
本発明において使用される用語「治療」とは、本発明による薬学的組成物の投与によって糖尿病性皮膚疾患に対する症状が好転したり、有益に変更されるすべての行為を意味する。
【0041】
本発明において、「糖尿病性皮膚疾患」は、インスリン抵抗性およびインスリン分泌の異常による血糖の増加によって皮膚に伴う多様な疾患であり、具体的には、糖尿病性潰瘍(diabetic ulcer)、発疹状黄色腫(eruptive xanthomatosis)、皮膚感染(cutaneous infection)、糖尿病性皮膚障害(diabetic dermopathy)、軟性線維腫(skin fibroma)、黒色表皮症(acanthosis nigricans)、掻痒症(pruritus)、糖尿病性浮腫性硬化(scleredema diabeticorum)および環状肉芽腫(granuloma annulare)からなる群から選ばれるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0042】
本発明の前記薬学的組成物は、培養培地、サイトカイン、成長因子および遺伝子からなる群から選ばれる補助成分をさらに含んでもよい。
【0043】
本発明の薬学的組成物は、糖尿病性皮膚疾患の治療のために、単独で、または手術、放射線治療、ホルモン治療、化学治療および生物学的反応調節剤を用いた方法と併用して使用することができる。
【0044】
本発明の前記薬学的組成物は、トロンビン処理された幹細胞に由来するエキソソームを有効成分として含み、薬学的に許容可能な担体をさらに含んでもよい。前記薬学的に許容可能な担体は、製剤時に通常用いられるものであり、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、シクロデキストリン、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、リポソームなどを含むが、これに限定されず、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液など他の通常の添加剤をさらに含んでもよい。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤などを付加的に添加して、水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。好適な薬学的に許容される担体および製剤化に関しては、レミントンの文献に開示されている方法を利用して各成分によって好適に製剤化することができる。
【0045】
本発明の薬学的組成物は、目的とする方法によって経口投与したり非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)することができ、投与量は、患者の状態および体重、疾患の程度、薬物形態、投与経路および時間によって異なるが、当業者が適切に選択できる。
【0046】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において「薬学的に有効な量」は、医学的治療または診断に適用可能な合理的なベネフィット/リスクの割合で疾患を治療または診断するのに十分な量を意味し、有効用量レベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感度、投与時間、投与経路および排出比率、治療期間、同時使用される薬物を含む要素およびその他医学分野によく知られた要素によって決定されることができる。本発明による薬学的組成物は、個別治療剤として投与したり他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは順次にまたは同時に投与することができ、単一または多重投与することができる。上記した要素を全部考慮して副作用なしで最小限の量で最大効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは、当業者が容易に決定できる。
【0047】
具体的に、本発明の薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、状態、体重、体内での活性成分の吸収度、不活性率および排泄速度、疾患の種類、併用される薬物によって変わることができ、一般的には、体重1kg当たり0.001~150mg、好ましくは、0.01~100mgを毎日または隔日投与したり、1日に1~3回に分けて投与することができる。しかしながら、投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢などによって増減することができるので、前記投与量がいかなる方法でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0048】
また、本発明は、前記薬学的組成物を含む、糖尿病性皮膚疾患の治療用薬学製剤を提供する。
【0049】
前記薬学製剤は、注射剤形、注入剤形、噴霧剤形、液状剤形またはパッチ剤形であってもよく、これに限定されず、当業者が当該糖尿病性皮膚疾患の治療に適切な剤形を選択して利用することができる。
【0050】
本発明では、具体的な実施例に基づいて、トロンビンが処理された幹細胞由来エキソソームが糖尿病性皮膚疾患、具体的に、糖尿病性皮膚障害に優れた治療効果があることを確認した。
【0051】
本発明の一実施例では、臍帯血由来間葉系幹細胞にトロンビンを処理し、培養した後、遠心分離を通じてエキソソームを分離した。次に、前記分離したエキソソームを走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡で観察し、エキソソーム特異的マーカーであるCD9、CD63およびCD81の発現レベルを測定することによって、エキソソームが良好に分離したことを確認した(実施例1参照)。
【0052】
本発明の他の実施例では、前記エキソソームの糖尿病性皮膚疾患に対する治療効果を評価するのに先立って、糖尿病を誘発させたラットモデルの血糖を測定して、正常群に比べて糖尿病が効果的に誘発されたことを確認した。これによって、血糖の差異がない同じレベルの血糖を有する糖尿病ラットモデルを対象として背中側の皮膚を傷つけて皮膚障害を誘発し、次いで、食塩水、何の処理もしない幹細胞由来エキソソーム、およびトロンビンが処理された幹細胞由来エキソソームをそれぞれ処理し、5日間隔で皮膚障害の回復程度を評価した。その結果、本発明によるトロンビン処理された幹細胞由来エキソソームを処理した場合、顕著な治療効果があることを確認した(実施例2参照)。
【0053】
これによって、本発明の他の様態として、本発明は、トロンビン処理された幹細胞に由来するエキソソームを有効成分として含む糖尿病性皮膚疾患の改善用医薬部外品製剤を提供する。
【0054】
前記医薬部外品製剤は、本発明において医薬部外品製剤は、液剤、軟膏剤、クリーム剤、スプレー剤、パッチ剤、ゲル剤およびエアロゾル剤からなる群から選ばれる皮膚外用剤形態であってもよく、具体的に、消毒清潔剤、シャワーフォーム、カグリン、ウェットティッシュ、洗剤せっけん、ハンドウォッシュ、加湿器充填剤、マスク、軟膏剤またはフィルター充填剤組成物として用いられ得るが、これに限定されるものではなく、当業者が糖尿病性皮膚疾患の改善のために適切に選択して利用することができる。
【0055】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、(a)幹細胞培養後、トロンビンを処理する段階と、(b)前記段階(a)の培養液からエキソソームを分離する段階と、(c)前記段階(b)で分離したエキソソームを有効成分として含有する組成物を製造する段階と、を含む前記薬学的組成物の製造方法を提供する。
【0056】
本発明においてトロンビン処理濃度は、幹細胞/エキソソームの効能を強化させるのに適合した濃度であれば、特別な制限はないが、培地に1~1000unit/mlの濃度で含まれることが好ましい。
【0057】
本発明においてエキソソームを分離する方法に限定がなく、例えば、培養液で、遠心分離、超高速遠心分離、フィルターによるろ過、ゲルろ過クロマトグラフィー、フリーフロー電気泳動、キャピラリー電気泳動、ポリマーを用いた分離などの方法およびこれらの組み合わせを用いて分離することができ、好ましくは、遠心分離/超遠心分離を用いることができる。この際、遠心分離/超遠心分離は、4℃、3,000~100,000gで10分~5時間の間行うことが好ましい。
【0058】
本発明において細胞培養に用いられる培地は、糖、アミノ酸、各種栄養物質、血清、成長因子、無機質などの細胞の成長および増殖などに必須の要素を含む生体外(in vitro)で幹細胞などの細胞の成長および増殖のための混合物を意味する。本発明において用いられ得る培地は、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、MEM(Minimal Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI1640、DMEM/F-10(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F-10)、DMEM/F-12(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F-12)、α-MEM(α-Minimal essential Medium)、G-MEM(Glasgow’s Minimal Essential Medium)、IMDM(Isocove’s Modified Dulbecco’s Medium)およびKnockOut DMEMなどの商業的に製造された培地または人為的に合成した培地を含むが、これに限定されない。
【0059】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、トロンビン処理された幹細胞に由来するエキソソームを有効成分として含む薬学的組成物を個体に投与する段階を含む糖尿病性皮膚疾患の予防または治療方法を提供する。
【0060】
本発明において「個体」とは、疾患の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒトまたは非ヒトである霊長類、マウス(mouse)、ラット(rat)、イヌ、ネコ、ウマおよびウシなどの哺乳類を意味する。
【0061】
また、本発明は、前記薬学的組成物の糖尿病性皮膚疾患の予防または治療用途を提供する。
【0062】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものであり、下記の実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【0063】
[実施例]
実施例1.幹細胞でトロンビン処理によるエキソソーム分泌誘導
ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞(3×10個)を100mmの培養皿(orange scientific cat# 4450200)に分注した後、1週間培養した。培養皿に細胞が飽和増殖したことを確認した後、50unit/mlのトロンビン(REYON Pharmaceutical.Co.,LTD)が希釈されている無血清-培養培地(MEM alpha media)に交替し、さらに6時間の間培養した。以後、前記培養液を遠心分離チューブに分注し、4℃、6,000rpmで30分間遠心分離し、上澄み液を新しいチューブに移して細胞残余物(debris)を除去した。さらに、前記上澄み液を4℃、100,000rpmで2~4時間の間超遠心分離した後、上澄み液をさらに除去して、エキソソームを収得した。
【0064】
前記過程によって分離したエキソソームを走査電子顕微鏡(SEM)と透過電子顕微鏡(TEM)を通じて観察し、イメージ化した結果、図1に示されたように、前記方法を通じてトロンビン刺激により分泌されたエキソソームを確認した。
【0065】
また、前記収得した産物がエキソソームであるかを明確に確認するために、ウェスタンブロットを実施して、公知のエキソソームマーカーであるCD9、CD63およびCD81の発現の有無を検証した。その結果、図2に示されたように、トロンビン処理された幹細胞から収得した産物がCD9、CD63およびCD81を正常に発現することが示されて、前記産物がエキソソームであることを確認した。
【0066】
実施例2.トロンビン処理された幹細胞由来エキソソームの糖尿病性皮膚障害の治療効果の検証
本発明者らは、前記実施例1の方法を通じて収得したエキソソームが糖尿性慢性皮膚疾患に治療効果があるか否かを検証するために、下記のin vivo実験を実施した。
【0067】
まず、糖尿病が誘発された動物モデルを製作するために、12~16週齢のSDラット(rat)にストレプトゾトシン(Streptozotocin)薬物を100mg/kg/bodyで4日間毎日1回腹腔投与した後、2週間尾で採血して血糖を測定した。血糖の測定結果、血糖が300mg/dL以上のラットだけを選別して実験に使用した。図3aに示されたように、実験に使用した正常群は、食塩水(Saline)を同じ条件で腹腔投与し、血糖が100mg/dLであることが測定され、糖尿を誘発させた群は、平均血糖が350mg/dL以上であることを確認した。
【0068】
以後、前記糖尿を誘発させたラットの背中を一定サイズ傷つけて糖尿病性皮膚障害を誘発させた。傷つけた直後、何の処理もしない間葉系幹細胞(naive MSC)から分離したエキソソーム(naive exo)およびトロンビンが処理された間葉系幹細胞から分離したエキソソーム(thrombin exo)をそれぞれ病症部位に直接塗布(10ug/匹)した。この際、各実験群に該当するラットのグループ別血糖を測定した結果、図3bに示されたように、グループ間の血糖の差異はないことを確認した。
【0069】
以後、5日間隔で当該部位を撮影し、病症面積の変化を測定して治療効果を比較した結果、図4に示されたように、それぞれ食塩水(saline)とnaive MSC由来エキソソームを処理した場合に比べて、トロンビン処理されたMSC由来エキソソームが処理された場合、皮膚障害の治療程度が顕著に高く現れた。前記結果を通じて、トロンビン処理されたMSCから分離したエキソソームが、糖尿病性皮膚疾患に対する優れた治療効果があることが分かった。
【0070】
上述した本発明の説明は、例示のためのものであって、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面において例示的なものであり、限定的でないものと理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によるエキソソームベースの治療剤は、cell-free製剤であるから、DNAが含まれていないので、発がんの危険性が少なく、細胞表面抗原がないので、移植拒否反応の問題がなく、安全であり、細胞というよりむしろ分離物質であり、off the shelf製品としての薬剤開発が可能なので、製造コストを減らすことができる。これによって、本発明によるトロンビン処理された幹細胞由来エキソソームは、糖尿病によって誘発される多様な難治性の慢性皮膚疾患に対する治療剤として活用できることが期待される。
図1
図2
図3a
図3b
図4
【国際調査報告】