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特表2023-522831ブチルフタリドおよびその誘導体の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(54)【発明の名称】ブチルフタリドおよびその誘導体の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/365 20060101AFI20230525BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20230525BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20230525BHJP
【FI】
A61K31/365
A61P25/02
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022557132
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(85)【翻訳文提出日】2022-11-17
(86)【国際出願番号】 CN2021081817
(87)【国際公開番号】W WO2021185356
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】202010202588.4
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010790778.2
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202011233563.7
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522371721
【氏名又は名称】石▲薬▼集▲團▼恩必普▲薬▼▲業▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 喜宝
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲艷▼玲
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ ▲潔▼茹
(72)【発明者】
【氏名】スチュアート・シー・アプフェル
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 玉秀
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ ▲曉▼娟
(72)【発明者】
【氏名】王 玉青
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ ▲漢▼▲ユ▼
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA06
4C086NA14
4C086ZA20
4C086ZB26
4C086ZB27
(57)【要約】
本発明は、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の、末梢神経障害、特に化学療法誘発性末梢神経障害を予防、緩和または治療するための薬物の製造における使用、並びにブチルフタリドおよびその誘導体が末梢神経障害、特に化学療法誘発性末梢神経障害を予防または治療する方法を提供する。生体内外の研究により、本発明に係る薬物は化学療法薬の腫瘍抑制効果および薬物動態学特性に影響を与えることなく、化学療法薬に起因した末梢神経障害を有効に予防、緩和または治療することができることが示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の、末梢神経障害を予防、緩和または治療するための薬物の製造における、使用。
【請求項2】
前記末梢神経障害は、好ましくは薬物誘発性末梢神経障害であり、より好ましくは化学療法薬誘発性末梢神経障害であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記末梢神経障害を予防、緩和または治療することは、痛み、熱に対する感覚異常、または運動協調能力障害などの化学療法薬誘発性感覚異常および運動障害を予防、緩和または治療することを含むがこれらに限定されないことを特徴とする、請求項1~2のいずれか1項に記載の使用。
【請求項4】
前記薬物が、治療有効量のブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記薬物は、経口製剤、注射製剤、局所投与製剤、または外用製剤などであり、好ましくは経口製剤および注射製剤である臨床的に許容される製剤に製造されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記薬物は単回投与剤形または分割投与剤形であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記薬物は経口製剤であり、前記経口製剤は、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を、ブチルフタリド基準で約1mg~約1,000mg、好ましくは約1mg~約500mg、または約1mg~300mg、または約1mg~200mg、または約5mg~180mg、または約10mg~150mg、または約30mg~120mg、または約50mg~120mg、または約80mg~120mg、または約90mg~110mg、または約100mg含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記経口製剤の1日投与量は、ブチルフタリド基準で約1mg~約1,0000mg、好ましくは約10mg~約5,000mg、または約20mg~3,000mg、または約30mg~2,000mg、または約50mg~1500mg、または約70mg~1200mg、または約100mg~1,000mg、または約200mg~900mg、または約300mg~800mg、または約400mg~700mg、または約500mg~600mg、または約60mg~800mg、または約60mg~600mg、または約100mg~800mg、または約100mg~600mg、または約200mg~600mg、または約200mg~800mg、または約300mg~600mg、または約400mg~600mg、または約400mg~800mgであることを特徴とする、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記経口製剤は、1日1回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、約60mg~800mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約60mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、または800mg投与し、あるいは1日2回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、約30mg~400mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約30mg、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、または400mg投与し、あるいは1日3回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、約20mg~300mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約20mg、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、または300mg投与することを特徴とする、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記薬物は注射製剤であり、前記注射製剤は、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を、ブチルフタリド基準で約0.001mg/mL~100mg/mL、好ましくは約0.005mg/mL~50mg/mL、または約0.01mg/mL~10mg/mL、または約0.1mg/mL~5mg/mL、または約0.1mg/mL~3mg/mL、または約0.1mg/mL~1mg/mL、または約0.12mg/mL~0.80mg/mL、または約0.15mg/mL~0.50mg/mL、より好ましくは約0.20mg/mL~0.40mg/mL、または約0.20mg/mL~0.30mg/mL、または約0.25mg/mL含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記注射製剤の1日投与量は、ブチルフタリド基準で約1mg~約1,000mg、好ましくは約5mg~約500mg、または約10mg~300mg、または約15mg~200mg、または約20mg~150mg、または約25mg~120mg、または約30mg~100mg、または約35mg~90mg、または約40mg~80mg、または約45mg~70mg、または約50mg~60mg、または約1mg~100mg、または約2mg~80mg、または約5mg~75mg、または約10mg~50mg、または約15mg~50mg、または約20mg~50mg、または約25mg~75mg、または約25mg~50mgであることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記注射製剤は、1日1回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の注射製剤を、ブチルフタリド基準で約1mg~約100mg、好ましくは約1mg、2mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、95mg、または100mg投与し、あるいは1日2回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の注射製剤を、約1mg~約50mg、好ましくは約1mg、2mg、2.5mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg投与することを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記化学療法薬は、
(1)パクリタキセル、ドセタキセルなどであるタキサン系薬物、もしくはビンクリスチンまたはビンブラスチンなどであるビンカアルカロイド系薬物、またはイクサベピロンなどであるエポチロン系薬物、またはボルテゾミブなどであるプロテアーゼ阻害剤系薬物を含む微小管系に作用しまたは有糸分裂に抵抗する化学療法薬、あるいは
(2)シスプラチン、カルボプラチン、またはオキサリプラチンなどである白金系薬物を含むDNA合成を阻害する化学療法薬、あるいは
(3)サリドマイド、レナリドマイドなどである免疫調節剤系薬物
からなる群から選ばれる1種または2種以上の薬物を含むがこれらに限定されないことを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩は、前記薬物の製造において、他の末梢神経障害治療薬1種または2種以上と組み合わせて用いることができ、好ましくは、前記他の末梢神経障害治療薬は、デュロセチンまたはその塩、モノシアロテトラヘキソシルガングリオシドナトリウムであることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、中国国家知識産権局に2011年3月20日に出願された出願番号202010202588.4、発明名称「ブチルフタリドおよびその誘導体の使用」の先願、2020年8月7日に出願された出願番号202010790778.2、発明名称「ブチルフタリドおよびその誘導体の使用」の先願、及び2020年11月6日に出願された出願番号202011233563.7、発明名称「ブチルフタリドおよびその誘導体の使用」の先願の3件の中国発明特許出願の優先権及び権益を主張し、これらの先行出願の全体が援用により本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は医薬分野に属し、具体的にはブチルフタリドおよびその誘導体の、末梢神経障害、特に化学療法誘発性末梢神経障害を予防、緩和または治療する薬物の製造における使用に関し、ならびにブチルフタリドおよびその誘導体が末梢神経障害、特に化学療法誘発性末梢神経障害を予防、緩和または治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
末梢神経障害は、感覚喪失、筋力低下と萎縮、腱反射の減退および血管運動症状の単独または任意の組み合わせからなる症候群である。臨床では、代謝性神経障害(例えば、糖尿病性神経障害)、外傷性神経障害(例えば、手根管症候群)、免疫性神経障害など、多くの末梢神経障害がある。化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy: CIPN)は腫瘍患者の化学療法中に出現したよく見られる薬物投与量制限的な副作用である。CIPNは最もよく見られる毒性神経障害のタイプである可能性があり、神経毒性化学療法薬(化学療法剤)を受けている患者の58%から78%に影響を及ぼし(Seretny M、Currie GL、Sena ES、et al. (2014). Incidence、prevalence、and predictors of chemotherapy-induced peripheral neuropathy:a systemic review and meta-analysis. Pain 155:2461-2470)、かつ、深刻な臨床結果がある。多くの場合、投与量制限毒性は化学治療剤の悪性腫瘍治療における使用を制限している。毒性神経障害の存在は、通常投与量の減少を招き、時には潜在的な救命療法の中止を招く(Gadgil S,Ergun M,van den Heuval SA,et al. (2019) A systematic summary and comparison of animal models for chemotherapy induced peripheral neuropathy (CIPN). PLOS ONE https://doi.org/10.1371/journal.pone.0221787参照)。神経毒性を有する可能性のある化学治療剤を受けた患者のうち、治療を開始してから6ヶ月後までに、30~71%の患者がCIPNに関連する症状が続いていると推定される。
【0004】
CIPNは主に白金系(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、パクリタキセル系(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル)、ビンカアルカロイド系(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン)、プロテアーゼ阻害剤(例えば、ボルテゾミブ(bortezomib))、免疫調節剤(サリドマイド、レナリドマイド)、エポチロン系(例えば、イクサベピロン(Ixabepilone))などの化学療法薬によって誘導される。CIPNに関連する最もよく見られる症状は、手足の感覚異常、例えば痛み(灼熱痛、急激な激しい痛み、感覚鈍麻、痛覚障害、アロディニア、痛覚過敏)、刺痛(感覚異常)、痺れ感である(Ewertz M、Qvortrup C、Eckhoff L.(2015)Chemotherapy-induced peripheral neuropathy in patients treated with taxanes and platinum derivatives. ActaOncologica 54:587-591)。その他のよく見られる臨床所見は深部腱反射の減弱または欠損、体温または振動感の喪失、起立性低血圧症と感覚運動失調症(特に白金系薬物)などがある。運動症状(例えば、遠位や近位のの筋力低下、筋肉の痙攣、歩行機能障害)、自律神経症状(例えば、便秘や下痢、異常発汗、眩暈、または体位変化に伴う眩暈など)の発生頻度が低い。
【0005】
CIPNの臨床経過は個々の化学療法薬(化学療法剤)によって異なる。多くの化学療法薬では、累積閾値に達した後に神経障害の症状が現れ始め、追加投与量の使用に伴い進行を続けている。具体的な薬物の投与方案の調整、投与頻度ひいては輸液速度は、特定の対象で発生する神経障害の発生頻度に影響を与える可能性があるが、化学療法の中止以外の方案にいかなる調整でも、治療対象におけるCIPNを完全に予防することはできない。一部の化学療法薬に対して原因薬を停止しても、CIPN症状は一定の時間進行し続けている。そのような事象は「滑走現象」と呼ばれている。症状が相対的安定していても、この事象は数ヶ月か数年または無期限に続く可能性がある。
【0006】
タキサン化学ファミリーの2つのメンバーとするパクリタキセルおよびドセタキセル(すなわち、ドセタキセル)は、一般的に複数種類の癌の治療に用いられている。タキサンは有糸分裂活動に必要な微小管を分解することにより癌増殖を阻害し、同じ機序で微小管による軸索輸送を破壊し、感覚神経細胞の栄養支持を阻害する。タキサン系は、乳癌、卵巣癌、非小細胞肺癌、胃癌、頭頸部癌および前立腺癌の治療に一般に使用されている。パクリタキセル累積投与量715~1500mg/mまたはドセタキセル累積投与量371~600mg/mを受けた患者では、20~35%の患者に小径と大型繊維の感覚神経細胞の中等度または重度(2~4級)の感覚神経障害が発生した。感覚症状(痺れ、刺痛、および痛み)は、通常四肢遠位で始まり、最初に脚、その後手であり、軸索輸送に対する作用機序と一致している。これらの患者の40%には、症状が3年以上続く可能性があるが(Park SB、Goldstein D、Krishnan AV、et al.(2013)Chemotherapy-induced peripheral neurotoxicity:A critical analysis. CA Cancer J Clin 63:419-437)、50%の患者症状が9ヶ月以内に回復した。タキサン系誘発性神経障害患者では、感覚神経障害がもっと普遍的で深刻であるが、一部の患者では精巧な運動制御能力もある程度低下した。
【0007】
シスプラチン、カルボプラチンおよびオキサリプラチンは、精巣、卵巣、子宮頚、頭頚部、結腸、および直腸の癌の治療に用いられる白金系薬物である。それらの作用機序は、DNAを交差架橋して癌細胞がDNA合成に関与する能力を制限することである。累積投与量600mg/m以上の場合、大径の自己受容性感覚神経細胞損傷後の深刻な感覚性運動失調を引き起こすことは多い。累積投与量1170mg/mを受けた患者の50%には、感覚性後根神経節に関連する3級感覚神経障害を発症した。最も顕著な表現は、刺痛、痺れ、自己受容性感覚喪失と深部腱反射の減弱または欠失であり、これらのいずれも多くの場合感覚繊維の大量欠損を示し(Park SB、Goldstein D、Krishnan AV、et al.(2013)Chemotherapy-induced peripheral neurotoxicity:A critical analysis. CA Cancer J Clin 63:419-437)、感覚神経伝導速度と幅も低下した。このような慢性型の神経障害の他、オキサリプラチンは輸液直後に発生し四肢に加えて顔面にも影響を及ぼす急性型の神経障害と関連している。白金系薬物の「滑走現象」は普遍的に存在する。
【0008】
ビンクリスチンおよびビンブラスチンは、最も臨床的に重要なビンカアルカロイド系薬物ビンカアルカロイドであり、白血病、ホジキン病、悪性リンパ腫、神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、カポジ肉腫、悪性黒色腫、肺癌および子宮癌を治療するために使用されている。それらの作用機序は、微小管の集積を標的とし、細胞分裂能力を喪失させ、細胞死を引き起こすことである。ビンクリスチン治療を受けた患者の35~45%には、感覚障害に加えて、異常な微細運動機能および異常な歩行を出現した。患者の30%には、化学療法を中止した後に「滑走現象」を出現した(Park SB、Goldstein D、Krishnan AV、et al.(2013)Chemotherapy-induced peripheral neurotoxicity:A critical analysis. CA Cancer J Clin 63:419-437.)。
【0009】
ボルテゾミブは、多発性骨髄腫および他のいくつかの血液系悪性腫瘍患者の治療に非常に有効である比較的新しい化学療法薬である。ボルテゾミブの投与によれば、患者の50%には重度の疼痛性感覚神経障害をもたらし、また患者の約30%には中等度から重度の神経毒性が示された。症状としては遠位肢体麻痺、特に下肢の麻痺(知覚異常)、激しい灼熱痛などがある。ボルテゾミブと関連したCIPNは主に小線維性感覚神経障害であるが、一部の患者では自律神経障害も生じ、起立性低血圧、心拍変動抑制、胃排出遅延を呈することがある。運動損傷はまれであるが、発生することもある。神経障害は16~26mg/mの累積投与量で発症し、投与量の増加に伴い発病率が増加し、投与量が40~45mg/mになるまでに発病率は穏やかになる。神経障害の回復は遅く、治療後2~3ヶ月後患者の60~85%には依然として臨床的意義のある神経障害が存在している。
【0010】
サリドマイドおよびレナリドマイドは、人工的に合成されたグルタミン酸の誘導体であり、再発した難治な多発性骨髄腫の治療に用いられている。CIPNはこのタイプの薬物療法の主要な副作用であり、緩和が遅くてひいては不可逆的である。サリドマイド誘発性神経障害は主に感覚の変化であり、最初は足部に発生し、その後手に延び、常に靴下のように分布し、遠端は重く、膝、肘以上に延びない。感覚鈍麻(hypoesthesia)、感覚過敏(hyperesthesia)、筋肉痛および触痛、麻痺、針刺し感、灼熱、緊張、手足の冷え、蒼白、足の痒みおよび赤い掌などを含む(Bkl D、de Souza S M、Costa-Lima C、et al. Thalidomidefor the treatment of gastrointestinal bleeding due toangiodysplasia in a patient with Glanzmann'sthrombasthenia[J]. Hematol Rep、2017、9(2):6961)。サリチルアミンの累積計量がが20gを超えると、神経障害の発生と重症度と累積計量との間に正の相関性があることが示されている文献がある(桂瑞ら、『医学総説』Vol 18 No 11、2012年6月、P1739-1742)。
【0011】
イクサベピロンは半合成のエポチロンラクタム類似体であり、世界初のエポチロン抗腫瘍薬である。パクリタキセル薬物に比べて、両者の構造は異なるが、作用機序は類似しており、癌細胞分裂に関与することで腫瘍細胞アポトーシスをを引き起こす。イクサベピロンは末梢神経障害を誘発し、感覚神経異常を引き起こすことができ、そのような副作用は一般的に薬物停止の1ヶ月~2ヶ月後に消失する。感覚神経障害の程度は投与量と投与速度と関連している(Burotto M、Edgerly M、Velarde M、et al. A phase IImulti-center study of bevacizumab in combination withixabepilone in subjects with advanced renal cellcarcinoma [J]. Oncologist、2017、22(8):888-e84.)。
【0012】
CIPNは化学療法に関する最もよく見られる重篤な副作用であると考えられているが、米国臨床腫瘍学会臨床実践ガイドラインでは、現在CIPNを予防または逆転させる有効な治療法がないと結論しており、デュロセチン1剤の薬物のみを推奨しており(表1(予防)および表2(治療)参照、Hershman DL、Lacchetti C、Dworkin RH、et a.(2014). Prevention and management of chemotherapy-induced peripheral neuropathy in survivors of adult cancers:American society of clinical oncology clinical practice guideline. J Clin Oncol 32:1941-67)、治療は神経障害性疼痛薬物治療、支持的看護及び化学療法用量の調整に限られている(kolb n、and burns t(2018)clinical research in chemotherapy-induced peripheral neuropathy. neurology 91:379-380)。従って、CIPNを効果的に予防・治療することは緊急に解決すべき臨床的課題である。
【0013】
【表1】
【0014】
【表2】
【0015】
ブチルフタリド(3-n-butylphathlide:NBP)、化学名:3-n-ブチルフタリド、ブチルフタリドとも呼ばれ、商品名:恩必普、式(I)に示すような構造を有し、軽度~中等度の虚血性脳卒中の治療薬である。
【化1】
【0016】
現在、末梢神経障害、特に化学療法誘発性末梢神経障害の予防または治療におけるブチルフタリドの使用に関する報告はまだない。
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的の1つとしては、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の、末梢神経障害を予防、緩和または治療する薬物の製造における使用を提供することにある。前記末梢神経障害は、好ましくは薬物誘発性末梢神経障害であり、より好ましくは化学療法薬誘発性末梢神経障害である。前記末梢神経障害を予防、緩和または治療することは、痛み、熱に対する感覚異常、運動協調能力障害などの化学療法薬誘発性感覚異常および運動障害を予防、緩和または治療することを含むが、これらに限定されない。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記薬物は単回投与剤形または分割投与剤形である。
いくつかの実施形態において、前記薬物は、経口製剤、注射製剤、局所投与製剤、または外用製剤などであり、好ましくは経口製剤および注射製剤である臨床的に許容される製剤に製造される。
いくつかの実施形態において、前記薬物は経口製剤である。前記経口製剤は、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を、ブチルフタリド基準で約1mg~約1,000mg、好ましくは約1mg~約500mg、または約1mg~300mg、または約1mg~200mg、または約5mg~180mg、または約10mg~150mg、または約30mg~120mg、または約50mg~120mg、または約80mg~120mg、または約90mg~110mg、または約100mg含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記経口製剤の1日投与量は、ブチルフタリド基準で約1mg~約10,000mg、好ましくは約10mg~約5000mg、または約20mg~3000mg、または約30mg~2,000mg、または約50mg~1500mg、または約70mg~1200mg、または約100mg~1,000mg、または約200mg~900mg、または約300mg~800mg、または約400mg~700mg、または約500mg~600mg、または約60mg~800mg、または約60mg~600mg、または約100mg~800mg、または約100mg~600mg、または約200mg~600mg、または約200mg~800mg、または約300mg~600mg、または約400mg~600mg、または約400mg~800mgである。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記経口製剤は、1日1回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、ブチルフタリド基準で約60mg~800mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約60mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、または800mg投与し、あるいは1日2回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、ブチルフタリド基準で約30mg~400mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約30mg、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、または400mg投与し、あるいは1日3回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、ブチルフタリド基準で約20mg~300mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約20mg、50mg、100mg、150mg、200mg、250mgまたは300mg投与する。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記薬物は注射製剤である。前記注射製剤は、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を、ブチルフタリド基準で約0.001mg/mL~100mg/mL、好ましくは約0.005mg/mL~50mg/mL、または約0.01mg/mL~10mg/mL、または約0.1mg/mL~5mg/mL、または約0.1mg/mL~3mg/mL、または約0.1mg/mL~1mg/mL、または約0.12mg/mL~0.80mg/mL、または約0.15mg/mL~0.50mg/mL、より好ましくは約0.20mg/mL~0.40mg/mL、または約0.20mg/mL~0.30mg/mL、または約0.25mg/mL含む。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記注射製剤の1日投与量は、ブチルフタリド基準で約1mg~約1,000mg、好ましくは約5mg~約500mg、または約10mg~300mg、または約15mg~200mg、または約20mg~150mg、または約25mg~120mg、または約30mg~100mg、または約35mg~90mg、または約40mg~80mg、または約45mg~70mg、または約50mg~60mg、または約1mg~100mg、または約2mg~80mg、または約5mg~75mg、または約10mg~50mg、または約15mg~50mg、または約20mg~50mg、または約25mg~75mg、または約25mg~50mgである。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記注射製剤は、1日1回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の注射製剤を、ブチルフタリド基準で約1mg~約100mg、好ましくは約1mg、2mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、95mg、または100mg投与し、あるいは1日2回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の注射製剤を、ブチルフタリド基準で約1mg~約50mg、好ましくは約1mg、2mg、2.5mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg投与する。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記化学療法薬は、
(1)例えば、パクリタキセル、ドセタキセルなどであるタキサン系薬物を含む微小管系に作用しまたは有糸分裂に抵抗する化学療法薬、またはビンクリスチンまたはビンブラスチンなどであるビンカアルカロイド(vinca alkaloid)系薬物、またはイクサベピロン(Ixabepilone)などであるエポチロン系薬物、またはボルテゾミブなどであるプロテアーゼ阻害剤系薬物、あるいは
(2)例えば、シスプラチン、カルボプラチン、またはオキサリプラチンなどである白金系薬物を含む、DNA合成を阻害する化学療法薬、あるいは
(3)サリドマイド、レナリドマイド(lenalidomide)などの免疫調節剤系薬物
からなる群から選ばれる1種または2種以上の薬物の組み合せを含むが、これらに限定されない。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩は、その他の末梢神経障害治療薬物における1種以上と組み合せて前記薬物を製造するために使用することができ、前記その他の末梢神経障害治療薬物は、好ましくはデュロセチンまたはその塩、モノシアロテトラヘキソシルガングリオシドナトリウム(monosialotetrahexosyl ganglioside sodium)である。
【0026】
本発明に係る他の目的の1つは、末梢神経障害を予防、緩和または治療する方法を提供することをさらに含む。前記方法は、治療有効量のブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を、受験者または患者に投与することを含み、前記末梢神経障害は、好ましくは薬物誘発性末梢神経障害であり、より好ましくは化学療法薬誘発性末梢神経障害である。
いくつかの実施形態において、前記投与は、経口投与、注射投与、局所投与または体外投与であってもよく、好ましくは、経口投与または注射投与である。前記治療有効量では、前記受験者または患者の末梢神経障害を予防、治療または緩和することができる。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記投与は、経口投与であってもよい。前記治療有効量とは、1日投与量が、ブチルフタリド基準で約1mg~約10,000mg、好ましくは約10mg~約5,000mg、または約20mg~3,000mg、または約30mg~2,000mg、または約50mg~1500mg、または約70mg~1200mg、または約100mg~1,000mg、または約200mg~900mg、または約300mg~800mg、または約400mg~700mg、または約500mg~600mg、または約60mg~800mg、または約60mg~600mg、または約100mg~800mg、または約100mg~600mg、または約200mg~600mg、または約200mg~800mg、または約300mg~600mg、または約400mg~600mg、または約400mg~800mgであることを指す。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記投与は、注射投与であってもよい。前記治療有効量とは、1日投与量が、ブチルフタリド基準で約1mg~約1,000mg、好ましくは約5mg~約500mg、または約10mg~300mg、または約15mg~200mg、または約20mg~150mg、または約25mg~120mg、または約30mg~100mg、または約35mg~90mg、または約40mg~80mg、または約45mg~70mg、または約50mg~60mg、または約1mg~100mg、または約2mg~80mg、または約5mg~75mg、または約10mg~50mg、または約15mg~50mg、または約20mg~50mg、または約25mg~75mg、または約25mg~50mgであることを指す。
【0029】
いくつかの実施形態において、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩は、単回投与量または分割投与量で投与されている。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記予防、緩和または治療する方法は、1日1回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、約60mg~800mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約60mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、または800mg投与し、あるいは1日2回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、約30mg~400mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約30mg、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、または400mg投与し、あるいは1日3回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物またはその塩の経口製剤を、約20mg~300mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約20mg、50mg、100mg、150mg、200mg、250mgまたは300mg投与し、あるいは1日1回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の注射製剤を、ブチルフタリド基準で約1mg~約100mg、好ましくは約1mg、2mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、95mg、または100mg投与し、あるいは1日2回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の注射製剤を、ブチルフタリド基準で約1mg~約50mg、好ましくは約1mg、2mg、2.5mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg投与する。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記化学療法薬は、
(1)例えば、パクリタキセル、ドセタキセルなどであるタキサン系薬物を含む微小管系に作用しまたは有糸分裂に抵抗する化学療法薬、またはビンクリスチンまたはビンブラスチンなどであるビンカアルカロイド系薬物、またはイクサベピロンなどであるエポチロン系薬物、またはボルテゾミブなどであるプロテアーゼ阻害剤系薬物、あるいは
(2)例えばシスプラチン、カルボプラチン、またはオキサリプラチンなどである白金系薬物を含む、DNA合成を阻害する化学療法薬、あるいは
(3)サリドマイド、レナリドマイドなどの免疫調節剤系薬物
からなる群から選ばれる1種または2種以上の薬物の組み合せを含むが、これらに限定されない。
【0032】
いくつかの実施形態において、前記ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩は、その他の末梢神経障害治療薬物における1種以上と組み合わせて使用することができ、前記その他の末梢神経障害治療薬物は、好ましくはデュロセチンまたはその塩、モノシアロテトラヘキソシルガングリオシドナトリウム(monosialotetrahexosyl ganglioside sodium)である。
【0033】
本発明の他の目的の1つは、末梢神経障害を予防、緩和または治療するために使用する、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を提供することがさらに含む。前記末梢神経障害は、好ましくは薬物誘発性末梢神経障害であり、より好ましくは化学療法薬誘発性末梢神経障害である。
【0034】
いくつかの実施形態において、前記予防、緩和または治療は、受験者または患者に治療有効量のブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を投与することを含む。
いくつかの実施形態において、前記投与は、経口投与、注射投与、局所投与および体外投与からなる群から選ばれ、好ましくは経口投与または注射投与である。前記治療有効量は、前記受験者または患者の末梢神経障害を予防、緩和または治療することができる。
【0035】
いくつかの実施形態において、前記投与は経口投与である。前記治療有効量とは、1日投与量が、ブチルフタリド基準で約1mg~約10,000mg、好ましくは約10mg~約5,000mg、または約20mg~3,000mg、または約30mg~2,000mg、または約50mg~1500mg、または約70mg~1200mg、または約100mg~1,000mg、または約200mg~900mg、または約300mg~800mg、または約400mg~700mg、または約500mg~600mg、または約60mg~800mg、または約60mg~600mg、または約100mg~800mg、または約100mg~600mg、または約200mg~600mg、または約200mg~800mg、または約300mg~600mg、または約400mg~600mg、または約400mg~800mgであることを指す。
【0036】
いくつかの実施形態において、前記投与は注射投与である。前記治療有効量とは、1日投与量が、ブチルフタリド基準で約1mg~約1,000mg、好ましくは、ブチルフタリド基準で約5mg~約500mg、または約10mg~300mg、または約15mg~200mg、または約20mg~150mg、または約25mg~120mg、または約30mg~100mg、または約35mg~90mg、または約40mg~80mg、または約45mg~70mg、または約50mg~60mg、または約1mg~100mg、または約2mg~80mg、または約5mg~75mg、または約10mg~50mg、または約15mg~50mg、または約20mg~50mg、または約25mg~75mg、または約25mg~50mgであることを指す。
いくつかの実施形態において、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩は、単回投与量または分割投与量で投与されている。
【0037】
いくつかの実施形態において、前記予防、緩和または治療する方法は、1日1回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、ブチルフタリド基準で約60mg~800mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約60mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、または800mg投与し、あるいは1日2回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、ブチルフタリド基準で約30mg~400mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約30mg、100mg、200mg、300mgまたは400mg投与し、あるいは1日3回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、ブチルフタリド基準で約20mg~300mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約20mg、100mg、200mgまたは300mg投与し、あるいは1日1回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の注射製剤を、ブチルフタリド基準で約1mg~約100mg、好ましくは約1mg、2mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、95mg、または100mg投与し、あるいは1日2回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の注射製剤を、ブチルフタリド基準で約1mg~約50mg、好ましくは約1mg、2mg、2.5mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg投与する。
【0038】
いくつかの実施形態において、前記化学療法薬は、
(1)例えば、パクリタキセル、ドセタキセルなどであるタキサン系薬物を含む微小管系に作用しまたは有糸分裂に抵抗する化学療法薬、またはビンクリスチンまたはビンブラスチンなどであるビンカアルカロイド系薬物、またはイクサベピロンなどであるエポチロン系薬物、またはボルテゾミブなどであるプロテアーゼ阻害剤系薬物、あるいは
(2)例えば、シスプラチン、カルボプラチン、またはオキサリプラチンなどである白金系薬物を含む、DNA合成を阻害する化学療法薬、あるいは
(3)サリドマイド、レナリドマイドなどの免疫調節剤系薬物
からなる群から選ばれる1種または2種以上の薬物を含むが、これらに限定されない。
【0039】
いくつかの実施形態において、前記ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩は、その他の末梢神経障害治療薬物における1種以上と組み合せて使用することができ、前記その他の末梢神経障害治療薬物は、好ましくはデュロセチンまたはその塩、モノシアロテトラヘキソシルガングリオシドナトリウム(monosialotetrahexosyl ganglioside sodium)である。
【0040】
本発明に係る他の目的の1つは、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を含む医薬組成物を提供することをさらに含む。前記医薬組成物は、末梢神経障害を予防、緩和または治療するために使用する。前記末梢神経障害は、好ましくは薬物誘発性末梢神経障害であり、より好ましくは化学療法薬誘発性末梢神経障害である。
【0041】
いくつかの実施形態において、前記予防、緩和または治療は、受験者または患者に治療有効量のブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を投与することを含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、前記投与は、経口投与、注射投与、局所投与および体外投与からなる群から選ばれ、好ましくは経口投与または注射投与である。前記治療有効量は、前記受験者または患者の末梢神経障害を予防、緩和または治療することができる。
【0043】
いくつかの実施形態において、前記投与は経口投与である。前記治療有効量とは、1日投与量が、ブチルフタリド基準で約1mg~約10,000mg、好ましくは約10mg~約5000mg、または約20mg~3,000mg、または約30mg~2,000mg、または約50mg~1500mg、または約70mg~1200mg、または約100mg~1,000mg、または約200mg~900mg、または約300mg~800mg、または約400mg~700mg、または約500mg~600mg、または約60mg~800mg、または約60mg~600mg、または約100mg~800mg、または約100mg~600mg、または約200mg~600mg、または約200mg~800mg、または約300mg~600mg、または約400mg~600mg、または約400mg~800mgであることを指す。
【0044】
いくつかの実施形態において、前記投与は注射投与である。前記治療有効量とは、1日投与量が、ブチルフタリド基準で約1mg~約1,000mg、好ましくは約5mg~約500mg、または約10mg~300mg、または約15mg~200mg、または約20mg~150mg、または約25mg~120mg、または約30mg~100mg、または約35mg~90mg、または約40mg~80mg、または約45mg~70mg、または約50mg~60mg、または約1mg~100mg、または約2mg~80mg、または約5mg~75mg、または約10mg~50mg、または約15mg~50mg、または約20mg~50mg、または約25mg~75mg、または約25mg~50mgであることを指す。
【0045】
いくつかの実施形態において、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩は、単回投与量または分割投与量で投与されている。
【0046】
いくつかの実施形態において、前記予防、緩和または治療する方法は、1日1回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、ブチルフタリド基準で約60mg~800mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約60mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、または800mg投与し、あるいは1日2回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、約30mg~400mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約30mg、100mg、200mg、300mgまたは400mg投与し、あるいは1日3回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、ブチルフタリド基準で約20mg~300mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約20mg、100mg、200mgまたは300mg投与し、あるいは1日1回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の注射製剤を、ブチルフタリド基準で約1mg~約100mg、好ましくは約1mg、2mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、95mg、または100mg投与し、あるいは1日2回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の注射製剤を、ブチルフタリド基準で約1mg~約50mg、好ましくは約1mg、2mg、2.5mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg投与する。
【0047】
いくつかの実施形態において、前記化学療法薬は、
(1)例えば、パクリタキセル、ドセタキセルなどであるタキサン系薬物を含む微小管系に作用しまたは有糸分裂に抵抗する化学療法薬、またはビンクリスチンまたはビンブラスチンなどであるビンカアルカロイド系薬物、またはイクサベピロンなどであるエポチロン系薬物、またはボルテゾミブなどであるプロテアーゼ阻害剤系薬物、あるいは
(2)例えば、シスプラチン、カルボプラチン、またはオキサリプラチンなどである白金系薬物を含む、DNA合成を阻害する化学療法薬、あるいは
(3)サリドマイド、レナリドマイドなどの免疫調節剤系薬物
からなる群から選ばれる1種または2種以上の薬物を含むが、これらに限定されない。
【0048】
いくつかの実施形態において、前記ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩は、その他の末梢神経障害治療薬物における1種以上と組み合せて使用することができ、前記その他の末梢神経障害治療薬物は、好ましくはデュロセチンまたはその塩、モノシアロテトラヘキソシルガングリオシドナトリウム(monosialotetrahexosyl ganglioside sodium)である。
【0049】
本発明に記載のブチルフタリドの光学異性体は、L-ブチルフタリド、D-ブチルフタリド、または両方の任意の割合の混合物である。
本発明に記載のブチルフタリドのプロドラッグとは、プロドラッグの原理に基づいて設計された化合物を指し、そのような化合物は体内でブチルフタリドに代謝され、ブチルフタリドと同一または類似の薬理作用を発揮する。
【0050】
本発明に記載のブチルフタリドの重水素化物とは、ブチルフタリド化合物の構造における1つまたはいくつかの水素原子をその同位体原子重水素で置換されているものを指し、そのような重水素化物は、ブチルフタリドと同一または類似の薬理作用を備える。例えば、WO2019242765A1に記載のブチルフタリドおよびその誘導体の重水素化誘導体、特に次の構造を備えたブチルフタリド重水素化誘導体が挙げられる。
【化2】
【0051】
本発明に記載のブチルフタリドの代謝産物とは、ブチルフタリドの生体内代謝産物やその誘導体を指し、そのような代謝産物は、ブチルフタリドと同一または類似の薬理作用を発揮することができる。例えば、CN1689563Aに記載のブチルフタリド代謝産物MIおよびMII、ならびにCN102503919AまたはCN101289438Aに記載のMIのエステルまたは塩などが挙げられる。
【化3】
【0052】
本発明に記載のブチルフタリドの開環生成物もしくは開環生成物の塩とは、ブチルフタリド構造におけるラクトンを開環して得られる生成物またはその塩を指し、そのような開環生成物は、閉環によりブチルフタリドを生体内で合成することができ、ブチルフタリドと同一または類似の薬理作用を発揮する。例えば、CN1382682A、CN1523003AおよびCN104974050Aに記載の以下のブチルフタリド開環生成物もしくは開環生成物の塩:
【化4】
[式中、Mは1価の金属イオンであるカリウムイオン、ナトリウムイオンもしくはリチウムイオンであり、または二価の金属イオンであるカルシウムイオン、マグネシウムイオンもしくは亜鉛イオンであって、n=1またはn=2であり、Mは、好ましくはカリウムイオンである。]
【化5】
およびその光学異性体、
ならびに、CN108084233Aに記載のグリコシル変性ブチルフタリド開環誘導体、CN109503548Aに記載のブチルフタリド開環誘導体、CN108715579Aに記載の2-(αヒドロキシルペンチル)安息香酸の有機アミンエステル誘導体などが挙げられる。
【0053】
本発明に記載のブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の投与量は、いずれもブチルフタリド基準である。
【0054】
その他のブチルフタリド類似物またはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩、例えばCN106214674Aに記載の7-ヒドロキシルブチルフタリド、CN101029037Aに記載のハロゲン化ブチルフタリド(特に、5-ブロモブチルフタリド)、CN101402565Aに記載のハロ2-(αヒドロキシルペンチル)安息香酸塩、CN104086399Aに記載の5-ブロモ-2-(αヒドロキシルペンチル)安息香酸ナトリウム塩などが、ブチルフタリドと類似の薬理作用を発揮可能であると、当業者であれば理解することができる。
【0055】
本発明の明細書において、数値前の「約」とは、当該数値の±10%、好ましくは、±5%、例えば、当該数値の±10%、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%または±1%を指す。
【0056】
〔技術的効果〕
1.本発明に係る代表的な薬物であるブチルフタリドは、パクリタキセルまたはボルテゾミブ誘発性末梢神経障害を有意に改善することができ、この2種類の化学療法薬に起因した熱痛閾値および機械的痛閾値異常の症状を有意に逆転させることができる。
2.本発明に係る代表的な薬物であるブチルフタリドは、ボルテゾミブ、パクリタキセルが生体外培養の腫瘍細胞増殖を抑制する活性を弱めることはなく、ボルテゾミブ、パクリタキセルの生体内腫瘍抑制作用および薬物動態学特性にも有意な影響を与えない。
3.生体内外試験によると、本発明に係る薬物は、化学療法薬の抗腫瘍治療効果および薬物動態学特性に影響を与えない上で、化学療法薬に起因した末梢神経障害を治療または緩和できることが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】実施例1に係るモデル化方法モードを模式的に示す図である。
図2】実施例1に係る0日目~16日目(D0~16)各群ラットの体重変化を示す図である。モデル群に比べて、*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001である。
図3】実施例1に係る0日目~13日目(D0~13)の各群ラットの熱痛閾値の変化を示す図である。モデル群に比べて、*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001である。
図4】実施例1に係る7日目/10日目/13日目(D7/D10/D13)の各群ラットの熱痛閾値の比較を示す図である。モデル群に比べて、*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001である。
図5】実施例2に係るモデル化および投与時間軸を示す図である。
図6】実施例2に係るラットの体重変化値(平均値±SD、n=12)を示すグラフである。モデル群に比べて、*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001である。
図7】実施例2に係るラットの-1日目/7日目/14日目の熱痛閾値の変化状況(平均値±SD、n=12)を示す図である。モデル群に比べて、*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001である。
図8】実施例2に係るラットの0日目/6日目/13日目の機械的痛閾値変化状況(平均値±SD、n=12)を示す図である。モデル群に比べて、*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001である。
図9】実施例3に係る各群ラットの体重変化状況を示す図である。溶媒群に比べて、*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001であり、ab-PTX群に比べて、##P≦0.01である。
図10】実施例4に係る各群ラットの体重変化状況を示す図である。統計学的分析により、溶媒群に比べると*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001である。
図11】実施例6に係るモデル化および投与時間軸を示す図である。
図12】実施例6に係るD0~20の各群ラットの体重変化状況を示す図である。モデル群に比べて、*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001である。
図13】実施例6に係るラットの熱痛閾値変化状況を示す図である。モデル群に比べて、*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001である。
図14】実施例6に係るラットの機械的痛閾値変化状況を示す図である。モデル群に比べて、*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001である。
図15】実施例8における各群のマウスの体重変化値(平均値±SD、n=6)を示すグラフである。
図16】実施例8における腫瘍担持ラットの移植腫瘍体積変化を示すグラフである(平均値±SD、n=6、溶媒群に比べて、*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001である)。 〔注〕図面におけるmpkは、mg/kgに相当している。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下に列挙する実施例は、本発明に係る内容をより良く説明するためのものであり、本発明に係る内容が列挙した実施例に限定されるものではない。当業者は、上述の発明の概要にしたがって、実施形態の非本質的な改良及び調整を行っても、本発明に係る保護範囲に属する。
【0059】
実施例1:パクリタキセル(アルブミン結合型)化学療法誘発性ラット末梢神経障害に対するブチルフタリド(腹腔注射投与)の生体内薬効研究
1.試験動物
SD(Sprague Dawley)ラット、雄、180~200g、59匹。
2.薬物
パクリタキセル(アルブミン結合型)(Paclitaxel(Albumin Bound)、ab-PTX)凍結乾燥粉末、100mg/瓶、石薬グループの欧意薬業有限公司製造、ロット番号:B041909121、使用直前に生理食塩水で溶解した。
ブチルフタリド(NBP)注射液、25mg/5mL、石薬グループの恩必普薬業有限公司製造、ロット番号:Q27190401、使用直前に生理食塩水で目標濃度に希釈した。
【0060】
3.試験方法
(1)モデル作成および投与方法
雄SDラットを用い、ab-PTX 5mg/kgで投与体積が5mL/kgであり、0日目、2日目、4日目、6日目、8日目、11日目に、腹腔注射投与(i.p.)によりモデル化を行った。NBPは、3つの投与量(1.5、5および15mg/kg bid)であり、ab-PTXモデル化の1日前に投与開始し、ab-PTX投与のモデル化期間に、NBPの1回目の投与はab-PTX投与の1時間前に腹腔注射投与し、NBPの2回目の投与と1回目の投与との間隔は4hであり、投与体積は5mL/kgであり、毎日に投与を行い、17日間連続投与した。正常群(Normal)には、同じ頻度で0.9%生理食塩水(0.9%INJ NS)を投与した。モデル化方法を図1に示す。動物の群分け、投与方法および投与量の詳細を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
(2)群分け
ラットの熱痛閾値ベースライン値と体重に基づいて、ベースライン値が3~6s範囲内におけるラットを選び、上記表3に従って均等に群分けした。
(3)観測指標
(i)体重:試験前に全ての動物を1回秤量し、投与開始後、毎日一定時間に秤量したが、-1日目、0日目、2日目、4日目、6日目、8日目、10日目、12日目、14日目、および16日目の体重データのみを統計した。
(ii)熱痛閾値(thermal pain threshold):電子足底痛測定器(IITC Life Science Electronic Von Frey Anesthesio meter)を用い、光源の強度に調整して熱痛閾値ベースライン約3~6sを得、この時に光照強度は58%であり、カットオフ値は10sとした。ラットをガラス板上のプラスティック個室に置き、光源を開けてラット足底中心部を照射した。ラットの反射的退縮時間、すなわち熱痛閾値を記録し、各ラットの左足と右足をそれぞれ1回測定し、15min以上の間隔で3回繰り返し測定し、各ラットの6回の熱痛閾値の平均値を計算した。
【0063】
4.実験結果
(1)体重
モデル化(モデリング)の4日目~16日目(D4~16)には、正常群に比べて、モデル群のラット体重が有意に低下し(P<0.01)、モデル群に比べて、NBP(1.5、5および15mg/kg bid)3つの投与量群のラット体重が有意に変化しなかった。その詳細を図2に示す。
【0064】
(2)熱痛閾値
7日目、10日目、13日目、17日目には、測定した。7日目~13日目(D7~13)には、正常群に比べて、モデル群の熱痛閾値が有意に上昇(P<0.01)したが、モデル群に比べて、NBP(1.5、5および10mg/kg bid)群のいずれもモデルラットの熱痛閾値の上昇を有意に低下することができる(P<0.05またはP<0.01)。その詳細を図3および図4に示す。
17日目(D17)には、正常群に比べて、モデル群ラット熱痛閾値には、統計学的な差異は見られなかった(D17データは示さず)ため、NBP投与の群熱痛閾値を検出せずに実験を停止させた。
【0065】
5.結論
ブチルフタリドでは、パクリタキセル(アルブミン結合型)誘発性ラット末梢神経障害の熱痛異常症状を有効に緩和することができる。
【0066】
実施例2:パクリタキセル(アルブミン結合型)化学療法誘発性ラット末梢神経障害に対するブチルフタリド(胃内投与)の生体内薬効研究
1.試験動物
SD(Sprague Dawley)ラット、雄、160~180g、72匹。
2.薬物
パクリタキセル(アルブミン結合型、ab-PTX)凍結乾燥粉末、100mg/瓶、ロット番号:B041909121、石薬グループの欧意薬業有限公司製造、使用直前に生理食塩水で溶解した。
ブチルフタリド、経口投与級(10kg/瓶)、ロット番号:518180803、石薬グループの恩必普薬業有限公司製造、使用直前に植物油で目標濃度に希釈した。
塩酸デュロキセチン、ロット番号:QRQYD-JN、梯希愛(上海)化成工業発展有限公司、使用直前に2%のDMSO含有生理食塩水で製作した。
【0067】
3.試験方法
3.1 モデル作成および投与方法
本試験では、雄SDラットを用い、ab-PTX 5mg/kg、投与体積5mL/kgで、0日目、2日目、4日目、6日目、9日目、13日目(ab-PTXの1回目の投与は試験0日目である)に、腹腔注射投与(i.p.)によりモデル化を行った。
【0068】
NBPは3つの投与量(3、10、30mg/kg bid)を用い、陽性対照薬の塩酸デュロキセチン15mg/kg qdであった。NBPおよび塩酸デュロキセチンのぞれぞれはab-PTXモデル化前の1日に投与開始し、ab-PTX投与モデル化期間、NBP(1回目の投与)および塩酸デュロキセチンのぞれぞれはab-PTX腹腔注射投与前の1時間に投与し、NBPの2回目の投与と1回目の投与との間隔は4h以上であり、投与体積5mL/kgで連続に14日間胃内投与した。
【0069】
モデル群には、NBPと同じ頻度および投与方法で植物油を投与した。
正常群には、ab-PTXと同じ頻度および投与方法で生理食塩水を投与し、NBPと同じ頻度および投与方法で植物油を投与した。
モデル化方法および投与時間を図5に示し、動物の群分け、投与方法および投与量の詳細を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
3.2 群分け
ラットの熱痛閾値ベースライン値と体重に基づいて、ベースライン値が3~6s範囲内におけるラットを選び、上記3.1項における表4に従って均等に群分けした。。
【0072】
3.3 観測指標
(1)体重:試験前に全ての動物を1回秤量し、投与開始後、毎日一定時間に秤量したが、-1日目、0日目、2日目、4日目、6日目、8日目、10日目、12日目および14日目の体重データのみを統計した。
(2)熱痛閾値:-1日目、7日目、14日目に測定を行った。方法:電子足底痛測定器(IITC Life Science)を用い、光源の強度を調整して熱痛閾値ベースライン約3~6sを得、この時に光照強度は58%であり、カットオフ値は10sとした。ラットをガラス板上のプラスティック個室に置き、光源を開けてラット足底中心部を照射した。ラットの反射的退縮時間、すなわち熱痛閾値を記録し、各ラットの左足と右足をそれぞれ1回測定し、15min以上の間隔で3回繰り返し測定し、各ラットの6回の熱痛閾値の平均値を計算した。
【0073】
(3)機械的刺激痛閾値:0日目、6日目、13日目に測定を行った。方法:電子機械的刺激痛測定器(IITC Life Science)を用い、ラットを鉄線網上のプラスティック個室に置き、15min静置し、直径0.4mmの刺激プローブを選び、ラット足底中心部の位置に合わせ、ラットが反射的退縮になったまで力を徐々に小から大まで加え、この時の機器が示した最大値を記録し、すなわち機械的痛閾値であり、毎回の試験に各ラットの左足と右足を、それぞれ5分間以上の間隔で3回繰り返し測定し、各ラットの6回の機械的痛閾値の平均値を計算した。
【0074】
4.結果
4.1 体重に対する影響
試験の4日目~14日目には、正常群に比べて、モデル群のラット体重が有意に低下した(P<0.05)。投与期間全体において、モデル群に比べて、NBPの3つの投与量群(3、10および30mg/kg bid)のラットの体重は明らかな変化がなく、塩酸デュロキセチン陽性薬物群はモデル群よりラット体重を有意に増加させることができ(P<0.05)、その詳細を図6に示す。
【0075】
4.2 熱痛閾値に対する影響
試験の7日目には、正常群に比べて、モデル群のラット熱痛閾値が有意に上昇し(P<0.01)、モデル群に比べて、NBP(30mg/kg bid)群のラット熱痛閾値が有意に低下した(P<0.05)。
【0076】
試験の14日目には、正常群に比べて、モデル群のラット熱痛閾値が有意に上昇し(P<0.001)、モデル群に比べて、NBPの3つの投与量群(3、10および30mg/kg bid)は、塩酸デュロキセチン(15mg/kg qd)陽性薬物群は、ラット熱痛閾値のいずれも有意に低下し(P<0.05)、その詳細を図7に示す。
【0077】
4.3 機械的痛閾値に対する影響
試験の6日目には、正常群に比べて、モデル群のラット機械的痛閾値は有意に上昇し(P<0.05)、モデル群に比べて、NBP(30mg/kg bid)群のラット機械的痛閾値は有意に低下した(P<0.05)。
試験の13日目には、正常群に比べて、モデル群のラット機械的痛閾値は有意に上昇し P<0.001)、モデル群に比べて、NBP(10および30mg/kg bid)投与量群は、塩酸デュロキセチン(15mg/kg qd)陽性薬物群のラット機械的痛閾値のいずれも有意に低下し(P<0.05)、NBP(3mg/kg bid)投与量群のラット機械的痛閾値は低下傾向を示したが、統計的な差異はなかった。その詳細を図8に示す。
【0078】
6.結論
このような試験条件下で、NBPはab-PTX誘発性ラットのPIPN(Paclitaxel-Induced Peripheral Neuropathy、PIPN)モデルの末梢神経障害の症状を用量依存的に緩和することができる。
【0079】
実施例3:ab-PTXの抗B16/F10移植腫瘍の抗腫瘍効果およびPKに及ぼすNBPの影響
1.試験システム
1.1 試験動物
C57BL/6Nマウス、雌、15~17g、40匹。
1.2 細胞株
B16/F10細胞(マウス悪性黒色腫細胞):上海吉凱遺伝子化学技術有限公司から購入した。
【0080】
2.薬物
パクリタキセル(アルブミン結合型)凍結乾燥粉末、100mg/本、ロット番号:B041909121、石薬グループの欧意薬業有限公司製造、使用直前に生理食塩水で溶解した。
ブチルフタリド、25mg/5mL/瓶、ロット番号:Q27190401、石薬グループの恩必普薬業有限公司製造、使用直前に生理食塩水で目標濃度に希釈した。
【0081】
3.試験方法
3.1 モデル作成
生体外でB16/F10細胞を蘇生させて十分な量まで継代した後、顕微鏡で計数し、その後無血清培地で細胞を希釈し、細胞数を約1×10個/mLに調整し、細胞懸濁液を氷水浴に置いた。
無菌注射器でB16/F10細胞懸濁液を抽出し、C57BL/6Nマウス前肢腋窩部皮下組織に接種し、接種体積は0.1mL/匹、腫瘍細胞を約1.0×10個含み、C57BL/6NマウスB16/F10移植腫瘍モデルを作製した。
【0082】
3.2 投与方法
投与群:
ab-PTX単独投与群:ab-PTX(25mg/kg、biw)を、投与体積10mL/kgで週2回(1日目、4日目、8日目、11日目、15日目、1日1回)腹腔注射投与を行った。
NBP/ab-PTX群:ab-PTX(25mg/kg、biw)を、週2回(1日目、4日目、8日目、11日目、15日目、1日1回)腹腔注射投与を行った。NBP(3mg/kg、10mg/kgまたは30mg/kg bid)を、(0日目に投与開始し)1日2回腹腔注射投与を行った。ab-PTXモデル化期間に、NBPの1回目の投与は、ab-PTX投与の1h前に腹腔注射投与を行い、2回目の投与と1回目の投与との間隔は4hより大きく、15日間連続投与した。投与体積はいずれも10mL/kgであった。
【0083】
溶媒群:ab-PTXおよびNBPと同じ頻度および投与体積で溶媒(生理食塩水)を腹腔注射投与した。
〔注〕NBPの3つの投与量は、それぞれ60mg/d、200mg/d、600mg/dの成人1日投与量(60kgで、経口投与)に換算した。
【0084】
3.3 観測指標と評価指数
3.3.1 一般観測指標
(1)一般状態観測:試験期間に全ての動物を1日1回観測し、体の各部位の異常と行動変化状況を記録した。
(2)体重:試験前に全ての動物を1回秤量し、適切な体重の動物を選択して試験に使用した。投与開始後1日1回一定時間に動物の体重を測定した。
(3)死亡および瀕死:死亡動物の死亡時間を記録し、瀕死動物の死亡時間を決定するために観測頻度を増加させるように注意した。
【0085】
3.3.2 腫瘍重量
試験終了時、動物をCOで窒息安楽死させた後、腫瘍を剥ぎ取って秤量した。
腫瘍重量抑制率%=(1-投与群の腫瘍重量/溶媒群の腫瘍重量)×100%
3.3.3 PK採血と検出
ab-PTXの最終回の投与前(0h)、投与後5min、0.5h、1h、4h、8h、12h、24hに採血し(詳細を表5に示す)、ヘパリンで抗凝固し、血漿を遠心分離し、-80℃で保存して用意し、蛋白質沈殿-LC/MS/MS法により血漿中のパクリタキセル全量を測定した。
【0086】
【表5】
【0087】
4.結果
4.1 体重に対する影響
溶媒群に比べて、各投与群のマウス体重の増加率は、いずれも有意に低下した(P<0.01)。ab-PTX群に比べて、NBP/ab-PTXの10/25mg/kg投与量群は、体重増加率が有意に低下した(P<0.01)。腫瘍重量データの分析から、各投与群の体重増加率の低下が腫瘍重量に対する薬物阻害による結果であると考えられる。その詳細を図9に示す。
【0088】
4.2 腫瘍重量に対する影響
溶媒群に比べて、各投与群は、腫瘍増殖を有意に抑制することができた(P<0.001)。ab-PTX群に比べて、異なる投与量のNBPとab-PTXとの併用投与による腫瘍抑制には有意差が認められなかった(P>0.05)。各群の腫瘍重量詳細を表6に示す。
【0089】
【表6】
【0090】
4.3 PKに対する影響
蛋白質沈殿-LC/MS/MS法により血漿中のパクリタキセル全量を測定した。その結果、各投与群でCmax、AUC0~tなどの指標に有意差はなく、NBPがab-PTXのマウス体内のPK挙動に影響を与えなかった。詳細を表7に示す。
【0091】
【表7】
【0092】
5.結論
本試験において、NBPは、ab-PTXの抗腫瘍効果およびab-PTXのPK挙動に有意な影響を与えなかった。
【0093】
実施例4:ab-PTXの抗JIMT-1移植腫瘍の抗腫瘍瘍効果およびPKに及ぼすNBPの影響
1.試験システム
1.1 試験動物
Nu/Nuマウス、雌、15~17g、48匹。
1.2 細胞株
JIMT-1細胞(ヒト乳癌細胞):南京科佰生物科学技術有限公司から購入した。
【0094】
2.試験目的
本試験においてNu/NuマウスJIMT-1細胞移植腫瘍モデルを用い、NBPのab-PTXの抗腫瘍効果およびそのPK挙動に対する影響を検証した。
【0095】
3.薬物
パクリタキセル(アルブミン結合型)凍結乾燥粉末、100mg/本、ロット番号:B042007410、石薬グループの欧意薬業有限公司製造、使用直前に生理食塩水で溶解した。
ブチルフタリド、経口投与級(10kg/瓶)、ロット番号:518180803、石薬グループの恩必普薬業有限公司製造、使用直前に植物油で目標濃度に希釈した。
【0096】
4.試験方法
4.1 モデル作成
生体外でJIMT-1細胞を蘇生させて十分な量まで継代した後、顕微鏡で計数し、その後無血清培地で細胞を希釈し、細胞数を約1×10個/mLに調整し、細胞懸濁液を氷水浴に置いた。
無菌注射器でJIMT-1細胞懸濁液を抽出し、Nu/Nuマウス前肢腋窩部皮下組織に接種し、接種体積は0.1mL/匹、腫瘍細胞を約1.0×10個含み、Nu/NuマウスJIMT-1移植腫瘍モデルを作製した。
【0097】
4.2 投与方法
各投与群:
ab-PTX単独投与群:ab-PTX(15mg/kg、qw)を、週1回(0日目、7日目、14日目、21日目、28日目)静脈注射投与を行った。投与期間:28日間。投与体積:10mL/kg。
NBPの単独投与群:NBP(60mg/kg bid)を、(0日目に投与開始し)1日2回経口胃内投与を行い、投与間隔は、4hより大きい必要があり、投与期間:28日間。投与体積:いずれも10mL/kg。
NBP/ab-PTX群:ab-PTX(15mg/kg、qw)を、週1回(0日目、7日目、14日目、21日目、28日目)静脈注射投与を行った。NBP(6mg/kg、20mg/kgまたは60mg/kg bid)を、(0日目に投与開始し)1日2回経口胃内投与を行い、投与間隔は4hより大きい必要があり、NBPの1回目の投与はab-PTX投与の1h前に行った。投与期間:28日間。投与体積:いずれも10mL/kg。
【0098】
溶媒群:ab-PTXと同じ頻度および方法で生理食塩水を投与し、NBPと同じ頻度および方法で植物油を投与した。
〔注〕NBP投与量は、60mg/d、200mg/d、600mg/dの成人1日投与量(60kgで、経口投与)に換算した。
【0099】
4.3 観測指標と評価指数
4.3.1 一般観測指標
(1)一般状態観測:試験期間に全ての動物を1日1回観測し、体の各部位の異常と行動変化状況を記録した。
(2)体重:試験前に全ての動物を1回秤量し、適切な体重の動物を選択して試験に使用した。投与開始後1日1回一定時間に動物の体重を測定した。
(3)死亡および瀕死:死亡動物の死亡時間を記録し、瀕死動物の死亡時間を決定するために観測頻度を増加させるように注意した。
【0100】
4.3.2 腫瘍重量
試験終了時、動物をCOで窒息安楽死させた後、腫瘍を剥ぎ取って秤量した。
腫瘍重量抑制率%=(1-投与群の腫瘍重量/溶媒群の腫瘍重量)×100% 。
4.3.3 PK採血と検出
ab-PTXの最終回の投与前(0h)、投与後5min、15min、0.5h、1h、4h、8h、24hに採血し(詳細を表8に示す)、ヘパリンで抗凝固し、血漿を遠心分離し、-80℃で保存して用意し、蛋白質沈殿-LC/MS/MS法により血漿中のパクリタキセル全量を測定した。
【0101】
【表8】
【0102】
5.結果
5.1 体重に対する影響
体重データによれば、各群のマウス体重には有意差はなく、ab-PTXおよびNBPがそれぞれマウス体重に有意な影響を与えなかったことが示され、その詳細を図10に示す。
【0103】
5.2 腫瘍重量に対する影響
腫瘍重量の結果、溶媒群に比べて、ab-PTX投与群は腫瘍増殖を有意に抑制することができ(P<0.001)、NBP(60mg/kg)投与量群はマウスの腫瘍増殖には明らかな影響を与えなかったことが示され、ab-PTX(15mg/kg)群に比べて、は異なる投与量のNBPとab-PTXとの併用投与では腫瘍抑制作用に有意差が認められなかった(P>0.05)ことが示され、その詳細を表9に示す。
【0104】
【表9】
【0105】
5.4 PKに対する影響
その結果、ab-PTX単独投与群、およびNBPとab-PTXとの併用投与群の血漿中のパクリタキセルの主な薬物動態パラメータに有意差がなくほぼ一致し、ブチルフタリドとab-PTXとの併用投与後血漿中のパクリタキセルの薬物動態挙動に影響しないことが示され、その詳細を表10に示す。
【0106】
【表10】
【0107】
6.結論
本試験において、NBPはab-PTXの抗腫瘍効果およびab-PTXのPK挙動に有意な影響を与えなかった。
【0108】
実施例5:Ab-PTXのインビトロ薬効に対するNBPの影響
1.細胞および培養環境
【0109】
【表11】
以上の細胞培養環境条件は、いずれも37℃、5%COである。
【0110】
2.試験目的
NBPが生体外でab-PTXの腫瘍細胞増殖に対する阻害作用に影響するか否かを検討する。
3.薬物
パクリタキセル(アルブミン結合型)凍結乾燥粉末、100mg/本、ロット番号:B041909121、石薬グループの欧意薬業有限公司製造。
【0111】
ブチルフタリド、経口投与級(10kg/瓶)、ロット番号:518180803、石薬グループの恩必普薬業有限公司製造。
【0112】
4.試験設計
本試験には、ab-PTX単独投与群、併用投与群(ab-PTX/NBP)、NBP群を分けた。各群には異なる薬物濃度勾配を設けた。
ab-PTX単独投与群:(1)MDA-MB-231、JIMT-1、SK-OV-3、A549細胞株:ab-PTXは初期濃度200nMとして3×連続希釈されてそれぞれ200、66.67、22.22、7.41、2.47、0.82、0.27、0.09nM合計で8つの濃度値とし、(2)A375、HT29細胞株:初回試験においてab-PTXは初期濃度100nMとして3×連続希釈されてそれぞれ100、33.33、11.11、3.70、1.24、0.41、0.14、0.05nM合計で8つの濃度値とし、重複試験においてab-PTXは初期濃度100nMとして2×連続希釈されてそれぞれ100、50、25、12.5、6.25、3.13、1.56、0.78nM合計で8つの濃度値とした。
【0113】
ab-PTX/NBP群:NBPの最終濃度は30μMで、ab-PTXの濃度勾配は単独投与群と同様であった。
NBPの単独投与群:NBPは初期濃度480μMとして2×連続希釈されてそれぞれ480、240、120、60、30、15、7.5、3.75μM合計で8つの濃度値とした。
薬物作用時間はいずれも72hである。
【0114】
5.試験方法
通常培養中の対数増殖期にある細胞を一定数で96ウェルプレートに100μL/ウェルで接種した。24時間付着した後、ab-PTX単独投与群に、異なる濃度勾配のab-PTX含有培養液を100μL/ウェルで加えた。ab-PTX/NBP併用投与群に、異なる濃度勾配のab-PTXと30μMのNBP含有培養液を100μL/ウェルで加えた。NBPの単独投与群に、異なる濃度勾配のNBP含有培養液を100μL/ウェルで加えた。各薬物の各濃度のいずれも3つの重複ウェルを設け、相応するブランクウェル(培地のみ)および正常ウェル(薬物濃度:0)を設けた。薬物作用72時間後、20μL/ウェルでMTT作動液(5mg/mL)を加えた。37℃で4時間作用した後に、上清液を除去し、DMSO(分析純)150μLを加えた。マイクロプレート発振器で十分に混合し、プレートをきれいに拭き取り、マイクロプレートリーダーにより550nmにおける光学濃度(OD)を検出した。
【0115】
以下の式で細胞増殖の抑制率を計算した。
抑制率(%)=(OD値正常ウェル-OD値投与ウェル)/(OD値正常ウェル-OD値ブランクウェル)×100%
各濃度の抑制率に基づき、薬物の半抑制濃度IC50をSPSS19.0で計算した。
試験を3回繰り返し、3回試験結果の平均値±SD(標準偏差)でIC50値を表した。
【0116】
6.結果
6.1 ab-PTXのIC50値に対するNBPの影響
ab-PTX単独投与群の結果、ab-PTXがヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、JIMT-1)、ヒト卵巣癌細胞(SK-OV-3)、ヒト結腸癌細胞(HT29)、ヒト肺癌細胞(A549)、ヒト悪性黒色腫(A375)のインビトロ増殖のいずれもに対して明らかな抑制作用を有し、そのIC50平均値が5~50nMの範囲にあることが示された。特定濃度(30μM)のNBPを加えた併用投与では、ab-PTX単独投与に比べて、併用投与群の各細胞ab-PTXのIC50平均値が5~50nMの範囲に維持して明らかな変化が認められなかった。当該結果、NBPがab-PTXの腫瘍細胞増殖へのインビトロ阻害作用を有意に影響しなかったことが示された。
ab-PTX単独投与およびab-PTXとNBPとの併用投与が6株の腫瘍細胞のインビトロ増殖に対する抑制のIC50値を表12に示す。
【0117】
【表12】
【0118】
6.2 腫瘍細胞のインビトロ増殖に対するNBPの影響
NBP単独投与では、ヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、JIMT-1)、ヒト卵巣癌細胞(SK-OV-3)、ヒト結腸癌細胞(HT29)、ヒト肺癌細胞(A549)、ヒト悪性黒色腫(A375)のインビトロ増殖に対する明らかな抑制作用が認められなかった。なかでも6株の細胞増殖に対する30μMのNBPの抑制率を表13に示す。
【0119】
【表13】
【0120】
7.結論
NBPは、ab-PTXがヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、JIMT-1)、ヒト卵巣癌細胞(SK-OV-3)、ヒト結腸癌細胞(HT29)、ヒト肺癌細胞(A549)、ヒト悪性黒色腫細胞(A375)のインビトロ増殖に対する抑制作用に影響しなかった。かつ、NBP単独投与では、ヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、JIMT-1)、ヒト卵巣癌細胞(SK-OV-3)、ヒト結腸癌細胞(HT29)、ヒト肺癌細胞(A549)、ヒト悪性黒色腫(A375)のインビトロ増殖に対する明らかな抑制作用が認められなかった。
【0121】
実施例6:ボルテゾミブ(Bortezomib)化学療法誘発性末梢神経障害に対するブチルフタリドの生体内薬効研究
【0122】
1.試験動物
SD(Sprague Dawley)ラット、雄、180~200g、72匹。
【0123】
2.薬物
ボルテゾミブ(Bortezomib):ロット番号:20191102、石薬グループの中奇製薬技術(石家荘)有限公司、使用直前に2%のDMSOを含む生理食塩水で溶解した。
ブチルフタリド:経口投与級(10kg/瓶)、ロット番号:518180803、石薬グループの恩必普薬業有限公司製造。使用直前に植物油で目標濃度に希釈した。
塩酸デュロキセチン、ロット番号:QRQYD-JN、梯希愛(上海)化成工業発展有限公司、使用直前に2%のDMSO含有生理食塩水で調製した。
【0124】
3.試験方法
3.1 モデル作成および投与方法
本試験では、雄SDラットを用い、Bortezomib投与量0.3mg/kg、投与体積5mL/kgとし、0日目、2日目、4日目、6日目、8日目、10日目、13日目に腹腔注射投与してモデル化を行った。
NBPは、3つの投与量(3、10および30mg/kg bid)を用い、Bortezomibモデル化の1日前にNBPの初回経口胃内投与を開始し、Bortezomib投与モデル化期間に、NBPの毎日の1回目の投与はBortezomib投与の1h前に投与し、NBPの2回目の投与と1回目の投与との間隔:4h以上、投与体積:10mL/kg、連続投与期間:21日間とした。
【0125】
正常対照群(Normal)には、Bortezomibと同じ頻度および投与方法で2%のDMSO含有生理食塩水を投与し、NBPと同じ頻度および投与方法で植物油を投与した。(モデル化および投与時間は図11を参照し、動物の群分け、投与方法および投与量の詳細は表14に示す)。
【0126】
【表14】
【0127】
3.2 群分け
ラットの熱痛閾値ベースライン値と体重に基づき、ベースライン値が3~6s範囲内におけるラットを選び、3.1項における表14に従って均等に群分けした。
3.3 観測指標
(1)体重:試験前に全ての動物を1回秤量し、投与開始後、毎日一定時間に秤量した。
(2)熱痛閾値:0日目、7日目、14日目、21日目に測定した。方法:電子足底痛測定器(IITC Life Science Electronic Von Frey Anesthesio meter)を用い、光源の強度を調整して熱痛閾値ベースライン約3~6sを得、この時に光照強度は58%であり、カットオフ値は10sとした。ラットをガラス板上のプラスティック個室に置き、光源を開けてラット足底中心部を照射した。ラットの反射的退縮時間、すなわち熱痛閾値を記録し、各ラットの左足と右足をそれぞれ1回測定し、15min以上の間隔で3回繰り返し測定し、各ラットの6回の熱痛閾値の平均値を計算した。
【0128】
(3)機械的刺激痛閾値:-1日目、6日目、13日目、20日目に測定した。方法:電子機械的刺激痛測定器(IITC Life Science)を用い、ラットを鉄線網上のプラスティック個室に置き、15min静置し、直径0.4mmの刺激プローブを選び、ラット足底中心部の位置に合わせ、ラットが反射的退縮になったまで力を徐々に小から大まで加え、この時の機器が示した最大値を記録し、すなわち機械的痛閾値であり、毎回の試験には各ラットの左足と右足をそれぞれ5min以上の間隔で3回繰り返し測定し、各ラットの6回の機械的痛閾値の平均値を計算した。
【0129】
4.結果
4.1 体重に対する影響
試験の21日目には、正常対照群に比べて、モデル群のラット体重が有意に低下し(P<0.05)、モデル群に比べて、NBPの3つの投与量群(3、10および30mg/kg bid)はラット体重が明らかに変化しなく、その詳細を図12に示す。
【0130】
4.2 熱痛閾値に対する影響
試験の21日目には、正常対照群に比べて、モデル群の熱痛閾値が有意に低下し、モデル群に比べて、NBP(3、10および30mg/kg bid)群のいずれもモデルラットの熱痛閾値の低下を有意に逆転させた。その詳細を図13に示す。
4.3 機械的刺激痛閾値に対する影響
試験の20日目には、正常対照群に比べて、モデル群の機械的刺激痛閾値が有意に低下し、モデル群に比べて、NBP(10および30mg/kg bid)群はいずれもモデルラットの機械的刺激痛閾値の低下を有意に逆転させ、その詳細を図14に示す。
【0131】
5.結論
このような試験条件下で、NBPはBortezomib誘発性ラットのCIPNモデルの末梢神経障害の症状を用量依存的に効果的に緩和することができた。
【0132】
実施例7:生体外でNBPのBortezomib抗腫瘍活性に対する影響試験
1.細胞および培養環境
【0133】
【表15】
以上の細胞培養環境条件は、いずれも37℃、5%COであった。
【0134】
2.試験目的
NBPがBortezomibの生体外で腫瘍細胞増殖の抑制作用に影響するか否かを考察する。
3.薬物
Bortezomib原料薬、製造元:石薬グループの中奇製薬技術(石家荘)有限公司、ロット番号:20190802。
ブチルフタリド、経口投与級(10kg/瓶)、製造元:石薬グループの恩必普薬業有限公司、ロット番号:518180803。
【0135】
4.試験設計
本試験には、Bortezomib単独投与群、併用投与群(Bortezomib/NBP)、NBP単独投与群に分けた。薬物濃度勾配は群ごとに異なっていた。
Bortezomib単独投与群:
(1)MM.1S、Jeko-1、HT29細胞:Bortezomibは20nMを初期濃度とし、1.5×連続希釈されてそれぞれ20、13.33、8.89、5.93、3.95、2.63、1.76、1.17nMまで合計で8つの濃度値とした。
(2)A549細胞:Bortezomibは200nMを初期濃度とし、2×連続希釈されてそれぞれ200、100、50、25、12.5、6.25、3.13、1.56nMまで合計で8つの濃度値とした。
(3)DU145細胞:Bortezomibは100nMを初期濃度とし、2×連続希釈されてそれぞれ100、50、25、12.5、6.25、3.13、1.56、0.78nMまで合計で8つの濃度値とした。
【0136】
Bortezomib/NBP群:
NBP最終濃度は30μMであり、Bortezomibの濃度勾配はBortezomib単独投与群の濃度と同様である。
NBPの単独投与群:
NBPは480μMを初期濃度とし、2×連続希釈されてそれぞれ480、240、120、60、30、15、7.5、3.75μMまで合計で8つの濃度値とした。
薬物の作用時間は、いずれも72hであった。
【0137】
5.試験方法
通常培養中の対数増殖期にある細胞を一定数で96ウェルプレートに100μL/ウェルで接種した。懸濁細胞MM.1SおよびJeko-1については、接種当日のBortezomib群に、異なる濃度勾配のBortezomib含有培養液を100μL/ウェルで加え、Bortezomib/NBP併用投与群に異なる濃度勾配のBortezomibと30μMのNBP含有培養液を100μL/ウェルで加え、NBPの単独投与群に異なる濃度勾配のNBP含有培養液を100μL/ウェルで加えた。付着細胞HT29、A549およびDU145については、24時間付着した後上記薬物を加えた。各薬物の各濃度にそれぞれ3つの重複ウェルを設定し、相応するブランクウェル(腫瘍細胞を接種せずに培地のみを有する)および正常ウェル(腫瘍細胞を接種した培地、薬物濃度は0である)を設定した。薬物作用72時間後、MTT作動液(5mg/mL)を20μL/ウェルで加え、37℃で4時間作用した後、上清液を除去し、DMSO(分析純)150μLを加え、マイクロプレート発振器で十分に混合し、プレートをきれいに拭き取り、マイクロプレートリーダーにより550nmにおける光学濃度(OD)を検出した。
【0138】
以下の式で細胞増殖の抑制率を計算した。
抑制率(%)=(OD値正常ウェル-OD値投与ウェル)/(OD値正常ウェル-OD値ブランクウェル)×100%
各濃度の抑制率に基づき、薬物の半抑制濃度IC50をSPSS19.0で計算した。
試験を3回繰り返し、3回試験結果の平均値±SD(標準偏差)でIC50値を表した。
【0139】
6.結果
その結果、Bortezomib単独投与群およびBortezomib/NBP併用投与群のいずれもMM.1S、Jeko-1、HT29、A549、DU145のインビトロ増殖に対して有意な抑制作用があり、そのIC50平均値は、いずれも1~20nMの範囲にあり、NBPがBortezomibの生体外で腫瘍細胞増殖の抑制作用に影響しないことが示された。その詳細を表16に示す。
【0140】
【表16】
【0141】
NBP単独投与では、ヒト多発性骨髄腫細胞(MM.1S)、ヒトマントル細胞リンパ腫細胞(Jeko-1)、ヒト結腸癌細胞(HT29)、ヒト肺癌細胞(A549)、ヒト前立腺癌細胞(DU145)のインビトロ増殖に有意な抑制作用がなかった。なかでも、30μM NBP単独投与の5株細胞増殖に対する抑制率の詳細を表17に示す。
【0142】
【表17】
【0143】
結論:NBPは、ヒト多発性骨髄腫細胞(MM.1S)、ヒトマントル細胞リンパ腫細胞(Jeko-1)、ヒト結腸癌細胞(HT29)、ヒト肺癌細胞(A549)、ヒト前立腺癌細胞(DU145)のインビトロ増殖に対するBortezomibの抑制作用に影響しない。
【0144】
実施例8:Bortezomibのインビトロ抗腫瘍効果に対するNBPの影響の試験
1.試験システム
1.1 試験動物
NU/NUマウス、雌、18~20g、42匹。
1.2 細胞株
MM.1S細胞(ヒト多発性骨髄腫細胞):南京科佰生物科学技術有限公司から購入した。
2.試験目的
本試験は、NU/NUマウスMM.1S細胞移植腫瘍モデルを採用し、NBPがBortezomibの抗腫瘍効果およびそのPK挙動に対する影響を検証した。
【0145】
3.薬物
Bortezomib原料薬、製造元:石薬グループの中奇製薬技術(石家荘)有限公司、ロット番号:20191102、使用直前に2%のDMSOを含む生理食塩水で溶解した。
ブチルフタリド、経口投与級(10kg/瓶)、製造元:石薬グループの恩必普薬業有限公司、ロット番号:518180803、使用直前に植物油で目標濃度に希釈した。
Palbociclib原料薬、製造元:上海方楠生物科技有限公司、ロット番号:AL-0127-API-1811001、使用直前にプロピレングリコールおよび20%ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン溶液を按5:95の割合で混合して目標濃度溶液を調製した。
【0146】
4.試験方法
4.1 モデル作成
生体外でMM.1S細胞を蘇生させて十分な量まで継代した後、顕微鏡で計数し、その後無血清培地で細胞を希釈し、細胞数を約1×10個/mLに調整し、細胞懸濁液を氷水浴に置いた。
無菌注射器でMM.1S細胞懸濁液を抽出し、NU/NUマウス前肢腋窩部皮下組織に接種し、接種体積は0.1mL/匹、腫瘍細胞を約1.0×10個含み、NU/NUマウスMM.1S移植腫瘍モデルを作製した。
【0147】
4.2 投与方法
Bortezomib単独投与群:週2回腹腔注射投与(0日目、3日目、7日目、10日目、15日目、1日1回)、0.5mg/kgであった。
NBPの単独投与群:1日2回経口胃内投与(0日目に投与開始し)、60mg/kg、NBPの2回目の投与と1回目の投与との間隔は4h以上であった。
Palbociclib単独投与群:1日1回胃内投与(0日目に投与開始し)、70mg/kgであった。
NBP/Bortezomib併用投与群:投与頻度および投与量は、NBPおよびBortezomib単独投与群のそれぞれの頻度と投与量と同様であった。
【0148】
Bortezomib/Palbociclib併用投与群:投与頻度および投与量は、BortezomibおよびPalbociclib単独投与群のそれぞれの頻度と投与量と同様であった。
NBP/Bortezomib/Palbociclib併用投与群:投与頻度および投与量同NBP、BortezomibおよびPalbociclib単独投与群のそれぞれの頻度と投与量と同様であった。
【0149】
溶媒群:BortezomibおよびNBPと同じ頻度および投与方法で溶媒を投与した。
投与期間:16日間、投与体積:いずれも10mL/kgであった。
【0150】
4.3 観測指標と評価指数
4.3.1 観測指標
(1)一般状態観測:試験期間に全ての動物を1日1回観測し、体の各部位の異常と行動変化状況を記録した。
(2)体重:試験前に全ての動物を1回秤量し、適切な体重の動物を選択して試験に使用した。投与開始後1日1回一定時間に動物の体重を測定した。
(3)死亡と瀕死:死亡動物の死亡時間を記録し、瀕死動物の死亡時間を決定するために観測頻度を増加させるように注意した。
【0151】
4.3.2 腫瘍体積評価
動物を群分けした後、腫瘍の長径と短径を週2回測定した。
(1)腫瘍体積:
V=1/2×A×B
(2)相対腫瘍体積:
【数1】
(3)相対腫瘍体積増殖率:
【数2】
(4)腫瘍増殖抑制率:
【数3】
〔注〕V:腫瘍体積、A:腫瘍の長さ、B:腫瘍の幅、RTV:相対腫瘍体積、TVnd:n日目の腫瘍体積、TV0d:0日目の腫瘍体積、RTVxnd:n日目の平均相対腫瘍体積、TVXn:投与群n日目の平均腫瘍体積、TVX0:投与群0日目の平均腫瘍体積、TVMn:溶媒群n日目の平均腫瘍体積、TVM0:溶媒群0日目の平均腫瘍体積。
【0152】
4.3.3 腫瘍重量
試験終了時、動物をCOで窒息安楽死させた後、腫瘍を剥ぎ取って秤量した。
腫瘍重量抑制率%=(1-投与群の腫瘍重量/溶媒群の腫瘍重量)×100%
4.3.4 PK採血と検出
Bortezomibの最終回の投与前(0h)、投与後5min、15min、30min、1h、2h、4h、8h、24h後に採血し(詳細を表18に示す)、溶媒群のマウスには、0hのみに採血し、ヘパリンで抗凝固し、血漿を遠心分離し、-80℃で保存して用意し、蛋白質沈殿-LC/MS/MS法により血漿中のBortezomibおよびブチルフタリドを測定した。
【0153】
【表18】
【0154】
試験結果
5.1 体重に対する影響
体重データから見ると、各群でマウスの体重に有意差はなく(P>0.05)、Bortezomib、PalbociclibおよびNBPのいずれもマウスの体重に影響を与えなかった。その詳細について、表15を示す。
【0155】
5.2 腫瘍体積に対する影響
試験終了時、Bortezomib単独投与群に比べて、NBP/Bortezomib併用投与において、NBPはBortezomibの腫瘍抑制効果に有意な負の影響を与えなかった。また、Bortezomib/Palbociclib併用投与群に比べて、NBP/Bortezomib/Palbociclib併用投与群において、NBPはBortezomib/Palbociclib併用投与の抗腫瘍効果にも有意な負の影響を与えなかった。各群の腫瘍体積の詳細について図16に示し、試験終了時(14日目)の体重、TV、RTV、TGI%、T/C%、腫瘍重量などの詳細について、表19を示す。
【0156】
【表19】
【0157】
結論:本試験において、NBPはBortezomibおよびBortezomib/Palbociclib併用投与の抗腫瘍効果に有意な影響を与えなかった。
【0158】
5.3 PKに対する影響
結果は、Bortezomib群、NBP/Bortezomib群、Bortezomib/Palbociclib群およびNBP/Bortezomib/Palbociclib群のマウス体内におけるBortezomib曝露量はほぼ一致しており、NBPはBortezomib単独投与とBortezomib/Palbociclib併用投与との体内薬物動態学的挙動にいずれも明らかな影響を与えていないことが示された。主薬動力学パラメータの詳細については、表20、表21および表22を参照する。
【0159】
【表20】
【0160】
【表21】
【0161】
【表22】
【0162】
BortezomibのBortezomib/Palbociclib、NBP/Bortezomib/Palbociclib併用投与群およびNBP/Bortezomib群におけるCmax、AUC0~tと、Bortezomib単独投与群との間の比値は、それぞれ1.01~1.13および0.81~1.11である。Cmax、AUC0~tの対数変換された後、Bortezomib/Palbociclib、NBP/Bortezomib/PalbociclibおよびNBP/Bortezomib併用投与群とBortezomib単独投与群との間の比値は、それぞれ1.00~1.05(LNCmax)および0.96~1.02(LNAUC0~t)であるため、Bortezomibの単独投与群と併用投与群との体内曝露はほぼ一致した。
【0163】
NBPがNBP/Bortezomib/PalbociclibおよびNBP/Bortezomib併用投与群におけるCmaxおよびAUC0~tと、NBPの単独投与群との比値は、それぞれ1.08~1.24および1.03~1.83である。Cmax、AUC0~tの対数変換された後、NBP/Bortezomib/PalbociclibおよびNBP/Bortezomib併用投与群と、NBPの単独投与群との比値は、それぞれ1.02~1.05(LNCmax)および1.00~1.11(LNAUC0~t)である。したがって、NBPの胃内投与後、マウスの体内で明らかな個体差があり、各試験群におけるマウス例数が比較的少なく、対数変換後併用投与群と単独投与群との曝露レベルの比値によれば、NBPの単独投与群と併用投与群との体内曝露の間に有意差がなかったことが示された。
【0164】
結論:本試験において、NBPおよびBortezomibは、互いに相手のマウス体内の薬物動態学的挙動にほとんど影響しなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【手続補正書】
【提出日】2022-11-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢神経障害を予防、緩和または治療するために使用される、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を含む医薬組成物
【請求項2】
前記末梢神経障害は薬物誘発性末梢神経障害であり、好ましくは化学療法薬誘発性末梢神経障害であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記末梢神経障害を予防、緩和または治療することは、痛み、熱に対する感覚異常、または運動協調能力障害などの化学療法薬誘発性感覚異常または運動障害を予防、緩和または治療することを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬組成物
【請求項4】
前記医薬組成物が、治療有効量のブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬組成物
【請求項5】
前記医薬組成物は、経口製剤、注射製剤、局所投与製剤、または外用製剤などであり、好ましくは経口製剤および注射製剤である臨床的に許容される製剤に製造されることを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記医薬組成物は単回投与剤形または分割投与剤形であることを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記医薬組成物は経口製剤であり、前記経口製剤は、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を、ブチルフタリド基準で約1mg~約1,000mg、好ましくは約1mg~約500mg、または約1mg~300mg、または約1mg~200mg、または約5mg~180mg、または約10mg~150mg、または約30mg~120mg、または約50mg~120mg、または約80mg~120mg、または約90mg~110mg、または約100mg含むことを特徴とする、請求項に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記経口製剤の1日投与量は、ブチルフタリド基準で約1mg~約1,0000mg、好ましくは約10mg~約5,000mg、または約20mg~3,000mg、または約30mg~2,000mg、または約50mg~1500mg、または約70mg~1200mg、または約100mg~1,000mg、または約200mg~900mg、または約300mg~800mg、または約400mg~700mg、または約500mg~600mg、または約60mg~800mg、または約60mg~600mg、または約100mg~800mg、または約100mg~600mg、または約200mg~600mg、または約200mg~800mg、または約300mg~600mg、または約400mg~600mg、または約400mg~800mgであることを特徴とする、請求項7に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記経口製剤は、1日1回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、約60mg~800mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約60mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、または800mg投与し、あるいは1日2回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、約30mg~400mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約30mg、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、または400mg投与し、あるいは1日3回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の経口製剤を、約20mg~300mg投与し、例えば毎回に経口製剤をブチルフタリド基準で約20mg、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、または300mg投与することを特徴とする、請求項8に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記医薬組成物は注射製剤であり、前記注射製剤は、ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩を、ブチルフタリド基準で約0.001mg/mL~100mg/mL、好ましくは約0.005mg/mL~50mg/mL、または約0.01mg/mL~10mg/mL、または約0.1mg/mL~5mg/mL、または約0.1mg/mL~3mg/mL、または約0.1mg/mL~1mg/mL、または約0.12mg/mL~0.80mg/mL、または約0.15mg/mL~0.50mg/mL、より好ましくは約0.20mg/mL~0.40mg/mL、または約0.20mg/mL~0.30mg/mL、または約0.25mg/mL含むことを特徴とする、請求項に記載の医薬組成物
【請求項11】
前記注射製剤の1日投与量は、ブチルフタリド基準で約1mg~約1,000mg、好ましくは約5mg~約500mg、または約10mg~300mg、または約15mg~200mg、または約20mg~150mg、または約25mg~120mg、または約30mg~100mg、または約35mg~90mg、または約40mg~80mg、または約45mg~70mg、または約50mg~60mg、または約1mg~100mg、または約2mg~80mg、または約5mg~75mg、または約10mg~50mg、または約15mg~50mg、または約20mg~50mg、または約25mg~75mg、または約25mg~50mgであることを特徴とする、請求項10に記載の医薬組成物
【請求項12】
前記注射製剤は、1日1回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の注射製剤を、ブチルフタリド基準で約1mg~約100mg、好ましくは約1mg、2mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、95mg、または100mg投与し、あるいは1日2回投与し、毎回にブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩の注射製剤を、約1mg~約50mg、好ましくは約1mg、2mg、2.5mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg投与することを特徴とする、請求項11に記載の医薬組成物
【請求項13】
前記化学療法薬は、
(1)パクリタキセル、ドセタキセルなどであるタキサン系薬物、もしくはビンクリスチンまたはビンブラスチンなどであるビンカアルカロイド系薬物、またはイクサベピロンなどであるエポチロン系薬物、またはボルテゾミブなどであるプロテアーゼ阻害剤系薬物を含む微小管系に作用しまたは有糸分裂に抵抗する化学療法薬、あるいは
(2)シスプラチン、カルボプラチン、またはオキサリプラチンなどである白金系薬物を含むDNA合成を阻害する化学療法薬、あるいは
(3)サリドマイド、レナリドマイドなどである免疫調節剤系薬物
からなる群から選ばれる1種または2種以上の薬物を含むことを特徴とする、請求項に記載の医薬組成物
【請求項14】
前記ブチルフタリドまたはその光学異性体、プロドラッグ、重水素化物、代謝産物、開環生成物もしくは開環生成物の塩と、他の末梢神経障害治療薬1種または2種以上と含み、好ましくは、前記他の末梢神経障害治療薬は、デュロセチンまたはその塩、モノシアロテトラヘキソシルガングリオシドナトリウムであることを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬組成物
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
【表1】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
【表2】
【国際調査報告】