(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(54)【発明の名称】ポリグリセロールエーテルをベースとする泡制御剤及びバイオエタノール処理における使用
(51)【国際特許分類】
B01D 19/04 20060101AFI20230525BHJP
C12P 7/06 20060101ALI20230525BHJP
C07C 43/11 20060101ALI20230525BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230525BHJP
【FI】
B01D19/04 B
C12P7/06
C07C43/11
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559856
(86)(22)【出願日】2021-04-13
(85)【翻訳文提出日】2022-11-01
(86)【国際出願番号】 US2021026943
(87)【国際公開番号】W WO2021211482
(87)【国際公開日】2021-10-21
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ヂ サンチ ウンガラト、ラファエル エフ.
(72)【発明者】
【氏名】チェン、シュエ
(72)【発明者】
【氏名】コスタ、エレン ディー.
【テーマコード(参考)】
4B064
4D011
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4B064AC03
4B064CA06
4B064CC30
4B064CD04
4B064DA16
4D011CB02
4H006AA01
4H006AB68
4H006AC43
4H006BA25
4H006BE20
4H006GN24
4H006GP01
4H039CA61
4H039CB90
4H039CL25
(57)【要約】
泡制御剤、及び泡制御剤を使用して、バイオエタノール処理のための泡を制御する方法に関し、泡制御剤は、少なくとも(ポリ)グリセロールエーテルを含む。好ましくは、(ポリ)グリセロールエーテルは、2-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,3-プロパンジオールである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオエタノール発酵処理に好適な泡制御剤であって、
【化1】
[式中、mは、1~10の整数であり、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して0~30の炭素原子の数を含有し、少なくともR1、R2、又はR3は、少なくとも1個の炭素原子を含有する]の構造を有するポリグリセロールエーテルを含む、泡制御剤。
【請求項2】
R1、R2、又はR3のうちの少なくとも1つは、アルキル基又はアリールアルキル基を含む、請求項1に記載の泡制御剤。
【請求項3】
前記R1、前記R2、及び前記R3は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリールアルキル基を含む、請求項1に記載の泡制御剤。
【請求項4】
前記アルキル基は、直鎖状、分岐状、又は環状である、請求項2に記載の泡制御剤。
【請求項5】
前記ポリグリセロールエーテルの濃度は、前記泡制御剤の0.1~100重量%の範囲である、請求項1に記載の泡制御剤。
【請求項6】
前記ポリグリセロールエーテルの濃度は、発酵槽において1~500000ppmである、請求項1に記載の泡制御剤。
【請求項7】
前記泡制御剤は、2-EHグリセロールエーテルである、請求項1に記載の泡制御剤。
【請求項8】
泡制御剤の使用によるバイオエタノール処理のための泡を制御する方法であって、前記泡制御剤は、
【化2】
[式中、mは、1~10の整数であり、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して0~30の炭素原子の数を含有し、少なくともR1、R2、又はR3は、少なくとも1個の炭素原子を含有する]の構造を有するポリグリセロールエーテルを少なくとも含む、方法。
【請求項9】
少なくとも1つの他の泡制御剤又は疎水性材料が、発酵プロセスによってバイオエタノールを製造するときに添加される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
バイオエタノールを処理するときに、シリコン脱泡剤又は界面活性剤もまた添加される、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、泡制御剤、及びバイオエタノール処理のための泡を制御する方法に関し、泡制御剤は、少なくとも(ポリ)グリセロールエーテルを含む。
【背景技術】
【0002】
序論
エタノールは、サトウキビ原料から生物学的発酵プロセスによって生成され得る。このようなエタノールはバイオエタノール(バイオ-エタノールと呼ばれることもある)と呼ばれ、このエタノールを生成するプロセスは、生成培地中の酵母によって生成される泡の存在によって難航する場合が多い。酵母は、サトウキビ原料の連続供給を伴う発酵槽に添加されて、バイオエタノールを生成する。これらのタンクにおける無制御状態の発泡は、生産能力の著しい損失をもたらす場合がある。発泡は、非効率的な混合若しくはポンピング、プロセスラインの詰まり、並びに/又は流出及び製品の廃棄につながるオーバーフローを引き起こす場合がある。エタノール生成中の発泡は、主要な課題であり、したがって、泡の管理の機械的方法が、限定的な有効性を伴いながら考案されている。
【0003】
泡制御剤(foam control agent、FCA)は、機械的方法よりもより実用的であると広く考えられ、現在、発泡による生産損失を最小限に抑えるために業界にわたってより一般的に用いられている。これらの泡制御剤は、脱泡化学物質及び消泡化学物質の両方を含み得る。消泡剤(技術用語)は、泡を防ぐように設計されているが、脱泡剤(別の技術用語)は、既存の泡を排除する。
【0004】
発酵用途の場合、泡制御剤は、典型的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ポリプロピレングリコール、及び/又はブチレンオキシドからなるブロックコポリマーを含む。これらのタイプの製品は、高温では溶液に不溶性であると考えられ、それによって系の表面張力の増加を引き起こし、これにより、泡崩壊が生じるため効果的である。概ね、これらの材料は、泡制御の特性を向上させるために他の疎水性材料と組み合わせられる。これらの泡制御剤の使用は、業界にとって重要であり、したがって、任意の新規の又は改善された泡制御剤が非常に有用である。
【0005】
これらのすべての理由などにより、泡制御剤及びバイオエタノール処理用の泡を制御する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
実施形態は、泡制御剤、及びバイオエタノール処理のための泡を制御する方法に関し、泡制御剤は、少なくとも(ポリ)グリセロールエーテルを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】4つの異なる酵母株に対する現在開示されている薬剤の適用後の泡を破壊する(消泡効果)ための時間の結果を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、バイオエタノール生成のための泡制御剤に関する。前述のように、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、及び/又はブチレンオキシドは、一般的に使用される泡制御剤である。本開示は、グリセリンエーテル又は(ポリ)グリセロールエーテル(例えば、2-EHグリセロール又は2-エチルヘキシルグリセロールエーテル又は3-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,2-プロパンジオール)が、脱泡用薬剤及び消泡用薬剤の両方として優れた制泡性能を有することをどのように見出されたかを詳述する。一実施形態では、これらの化学物質は、グリセリンと脂肪アルコールとの間の還元エーテル化によって得ることができる。他の生成方法もまた利用されてもよく、上記の還元エーテル化方法は非限定的な例である。
【0009】
泡制御剤としてのグリセリンエーテルの使用もまた、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、及び/若しくはブチレンオキシドで構成されるコポリマー、又はワックス若しくはシリカなどの他の疎水性材料と併せて利用され得る。泡制御剤としてのグリセリンエーテルの使用もまた、シリコーン泡制御剤と併せて利用され得る。泡制御剤中に存在するこれらの追加の化学物質はまた、分岐アルコール及び/又は界面活性剤(特に、アルコールのアルコキシレート)と共に添加され得る。泡制御剤としてのグリセリンエーテルの使用は、水系又は油系であり得る。
【0010】
配合された泡制御剤中のグリセリンエーテルの濃度は、0.1重量%~100重量%の範囲であってもよく、消泡用途のための好ましい実施形態では、1重量%~100重量%の範囲である。泡を取り除く泡制御剤として使用される場合、好ましい実施形態は、1%~100%の範囲のグリセリンエーテルの濃度を特徴とし得る。言い換えれば、新規泡制御剤の使用量は、所与の発酵タンク内に存在する材料の総量に対して5~10000ppmの範囲である。薬剤が消泡特性のために使用される場合、1つの好ましい実施形態は、5~100000ppmの投与量範囲を有する。脱泡用薬剤として使用される場合、実施形態は、10~500000ppm、より好ましくは50~10000ppmの投与量範囲を利用する。なお、上記の好ましい範囲は限定的ではなく、かつグリセリンエーテル含有泡制御剤の使用は、他の泡制御剤などの存在下で新規薬剤がどのように利用されるかに応じて、1ppm以下でも有用であり得る。本剤の消泡用途のための一般的な範囲は、脱泡用途のための200~500ppm及び400~1000ppm(消泡濃度の2倍)である。
【0011】
現在開示されている新しい泡制御剤は、固体又は液体の形態であり得る。固体である場合、材料は、泡制御剤として使用する前に溶媒中に溶解又は分散され得る。現在開示されている薬剤は、Saccharomyces Cerevisiae、Candida Albicans、Schizosaccharomyces、Brettanomycesなどのさまざまな株を含むがこれらに限定されない泡を生成することができる一般的に使用されるすべてのバイオエタノール発酵酵母の存在下で機能すると考えられる。
【0012】
本開示の(ポリ)グリセロールエーテル泡制御剤の一般化された一般的な構造は、以下の通りである。
【0013】
【0014】
式中、R1、R2、及びR3は、独立してアルキル基であり得る。R1、R2、又はR3はまた、水素原子であってもよいが、本実施形態では、それらはすべて水素原子であるべきではない。1つの好ましい実施形態では、R1は、C8~C32(直鎖又は分枝鎖)の範囲の炭素原子の数を有するアルキル基又はアリールアルキル基であってもよく、R2及びR3は、独立して水素又はポリエーテル基である。
【0015】
上記の構造は、以下のように更に変更及び/又は拡張され得る。
【0016】
【0017】
本実施形態では、mは、1~10の整数であってよい。R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、0~30の炭素原子の数を有し得る。R1、R2、及びR3はまた、独立して、アルキル基又はアリールアルキル基から構成されていてもよい。アルキル基(複数可)は、直鎖状、分岐状、又は環状であってもよい。R1、R2、及びR3はまた、水素原子であってもよいが、本実施形態では、それらはすべて水素原子であるべきではない。
【0018】
化学剤は、消泡剤配合物又は脱泡剤配合物の両方で使用することができる。消泡剤配合物は、泡の形成を回避する気泡のガス-液体界面におけるポリグリコール、エステル、シリコーン、溶媒、水、及び他の化学物質の混合物によって得られる。ブロックコポリマー系の他の両親媒性化学物質も同様に使用することができる。脱泡配合物では、上記の生成物に加えて、植物油、鉱油、ワックス、及び他の油性剤を使用することができる。
【0019】
現在開示されている化学物質は、そのような配合物のブースター又は主成分として使用することができ、泡を防止又は破壊するために使用することができる。サトウキビ粉砕機では、上記は、生成物が酵母処理タンク又は発酵槽自体で使用され得ることを意味する。それは、連続的に又はバッチ式で使用することができ、任意のタイプの粉砕機の動作に非常に好適である。
【0020】
この化学物質は、酵母を酸及び他の化学物質で処理するタンクにおいて添加することができ、又は糖溶液の添加前、添加中、又は添加後に発酵槽において添加することもできる。発酵は、通常、34℃未満の温度で行われる。この温度は、熱交換器の使用によって得られる。酵母の分散液が発酵槽に転送された後、糖溶液は、かなりの時間(最大6又は8時間)供給されてもよく、この期間中、最大の発泡が生じる。糖溶液の供給後、エタノール中の糖の効果的な変換を確実にするために、いくらかの追加の時間が必要であり得る。この追加の期間は、糖溶液の供給の開始から合計12時間の間で1~4時間変化し得る。現在の生成物は、発酵プロセスの全期間中に使用されることが示されている。
【実施例】
【0021】
本開示の泡制御剤などの有効性を試験するための実験は、以下のように発酵装置を使用して行うことができる。泡制御剤として使用される化学物質は、The Dow Chemical Companyから、FLUENT-CANE(商標)及びPOWERCANE(商標)の商標で市販されている。2-EHグリセロールエーテルを以下の手順に従って合成した。2-エチルヘキサナール(128.2g、1mol)、グリセロール(920.9g、10mol)、及び5%Pd/C触媒(アルデヒドに対して5重量%、6.41g)(各々Sigma-Aldrichから購入)を窒素下で2LのParr反応器に装填した。反応器を密閉し、撹拌しながら約100psiで、水素で3回パージした。次に、水素(100psi)を充填し、反応器を攪拌しながら200℃にすばやく加熱し、水素圧力を500psiに設定した。反応は、200℃、500psiの水素で14時間行った。
【0022】
触媒を濾別し、メタノールで洗浄し、溶媒を真空で蒸発させた。上(生成物)相を分離し、下(グリセロール)相をトルエン(300mL×6)で抽出した。トルエンを蒸発させ、残渣を生成物相と合わせて、粗生成物(178.4g)を得、その一部(128.4g)を真空中で分留して、103.7g(71%)の3-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,2-プロパンジオール(多い)及び2-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,3-プロパンジオール(少ない、2-EHグリセロールエーテル)、b.p.82~84℃/0.06mmHgを得た。
【0023】
使用した異なる菌株酵母は、ブラジルの現地の会社であるLNFから入手した。すべての実験について、20重量%の糖溶液は、10重量%の酵母(同じく水道水で希釈されたSaccharomyces Cerevisiaeの株)とともに20糖度(Degrees Brix、°Bx)を得るために水道水で生成される。次いで、ある量(例えば、0.135g)のグリコール(又は別の泡制御剤)を、300gの酵母調製物と600gの糖溶液との混合物に添加する。この例では、0.135gの泡制御剤の添加は、発酵機器に添加された900gの溶液の総重量に対して約150ppmの泡制御剤に達する。次に、全質量を円筒形容器に移し、空気を多孔質プレートを介して注入した。
【0024】
この後、7.0L/分の気流速度を多孔質プレート(16~40μmの孔径)に通し、泡が25cmの高さに達するのに必要な時間を測定した。これは、各酵母株と比較して、泡の挙動及び各試験された薬剤が泡の高さを保持する能力の違いを示した。泡の高さに達する時間が長いほど、生成物の性能が良好である。このパラメータは、表1の「25cmに達するまでの時間」(T25)として表される。いずれの泡制御化学物質も添加しないブランクもまた、3回で得られた結果の分析に対してより良好な比較となるように対照として実行され、以下に示される。
【0025】
【0026】
表1では、時間の値が高いほど、生成物の性能が良好である。したがって、2-EHグリセロールエーテル、POWERCANE(商標)278(PC278)は、実験の300秒まで100ppmの濃度で泡の形成を回避できる(消泡効果)化学物質であった。より高い濃度のFLUENT-CANE(商標)178でさえ、泡の形成を完全に回避できないことがこれらの結果から理解できる。
【0027】
これらの泡制御剤の性能を更に評価するために、上記のものと同様であるが、最初に消泡用薬剤として150ppm(0.135g)のFLUENT-CANE(商標)178を添加して変更されている、別の一連の実験が行われ、円筒容器内で泡が20cmの高さに達したとき、300ppm(0.27g)の種々の試験剤を添加して泡を破壊した。各生成物を添加した後の最小の高さ及び最小の高さにおいて泡を破壊するための必要な時間を以下の表及びチャートに記録した。
【0028】
【0029】
図1は、4つの異なる酵母株(Fermel、CAT-1、PE-2、及びFleishmann)に対する現在開示されている薬剤の適用後の泡を破壊する(消泡効果)ための時間の結果を示す。2EHは、2-EHグリセロールエーテルの省略形である。2-EHグリセロールエーテルを添加し、泡の形成を破壊した後に得られた高さの結果もまた
図1に示す。
【0030】
表2は、FLUENT-CANE(商標)113と比較して、形成された泡を破壊するための時間の結果及び2-EHグリセロールエーテルの添加後に得られた高さの結果を列挙している。新規薬剤は、評価された酵母株の4つすべてへの添加後に、ほぼ直ちに(2秒以内に)泡を壊すことができた。他の場合においてはこの性能は観察されなかった。対照的に、FLUENT-CANE(商標)113を使用してFleishmann酵母の存在下で泡を壊すと、得られた最終的な高さは10cmであり、生じるまで約25秒かかった。
【0031】
この実施例に見られるように、(ポリ)グリセロールエーテル(例えば、2-EHグリセロールエーテル)を含有するバイオエタノール処理用の泡制御剤は、既存の泡制御剤よりも劇的に改善された泡制御を提供する。
【国際調査報告】