(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(54)【発明の名称】プロセス
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20230525BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230525BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230525BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563452
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-24
(86)【国際出願番号】 GB2021050941
(87)【国際公開番号】W WO2021214444
(87)【国際公開日】2021-10-28
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522306561
【氏名又は名称】イーブイ・メタルズ・ユーケイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EV Metals UK Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ケアンズ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】リバス-バラスコ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】パラシオス パドロス,アンナ
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050GA02
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
リチウムニッケル金属酸化物を調製するためのプロセスが提供される。このプロセスは、ニッケル源、リチウム源、及び少なくとも1つの追加の金属源の混合物を高エネルギーミリングして、高エネルギーミリングされた中間体を形成し、その後高エネルギーミリングされた中間体をか焼してリチウムニッケル金属酸化物を形成するステップを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムニッケル金属酸化物を調製するためのプロセスであって、
(iii)ニッケル源、リチウム源、及び少なくとも1つの追加の金属源の混合物を高エネルギーミリングして、高エネルギーミリングされた中間体を形成することと;
(iv)前記高エネルギーミリングされた中間体を750℃以下の温度でか焼して、前記リチウムニッケル金属酸化物を形成することと、を含む、前記プロセス。
【請求項2】
前記リチウムニッケル金属酸化物中の非リチウム金属の少なくとも70モル%が、ニッケルである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記リチウムニッケル金属酸化物が、式1による組成物を有する、請求項1または2に記載のプロセス
Li
aNi
xCo
yA
zO
2+b
式1
(式中、
Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、及びCaのうちの1つ以上であり;
0.8≦a≦1.2
0.7≦x≦1
0≦y≦0.3
0≦z≦0.3
-0.2≦b≦0.2
x+y+z=1であり、
式中、y=0の場合、z>0である)。
【請求項4】
Aが、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、及びCaのうちの1つ以上である、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記高エネルギーミリングステップが、ミリングされる固形物1キログラムあたり少なくとも0.1kWhのエネルギー、例えば、ミリングされる固形物1キログラムあたり0.1kWh~1.0kWhを含む範囲のエネルギーを送達することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記高エネルギーミリングが、少なくとも30分間、例えば30分~4時間実施される、請求項1~5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記高エネルギーミリングが、CO
2を含まない雰囲気下で実施される、請求項1~6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記CO
2を含まない雰囲気が、窒素と酸素との混合物である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記ニッケル源化合物が、酸化ニッケルまたは水酸化ニッケルである、請求項1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記リチウム源が、酸化リチウムまたは水酸化リチウムである、請求項1~9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
AがMgを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記マグネシウム源が、Mg(OH)
2である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記か焼ステップが、約600℃を超える温度まで、例えば、600℃及び750℃を含むこれらの範囲内の温度などまで加熱することを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記か焼ステップが、600℃及び750℃を含む範囲内の温度まで1~8時間加熱することを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
ステップ(ii)で産生された前記リチウムニッケル金属酸化物材料をふるい分けまたはミリングして、D50粒径が、25μm以下、20μm以下、または15μm以下であるような体積粒径分布を有する材料を提供するステップをさらに含む、請求項1~14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記リチウムニッケル金属酸化物をコーティングするステップをさらに含む、請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記プロセスが、前記リチウムニッケル金属酸化物材料を含む電極を形成するステップをさらに含む、請求項1~16のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記リチウムニッケル金属酸化物材料を含む前記電極を含む電気化学セルを構築することをさらに含む、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載のプロセスによって得られるまたは得ることができるリチウムニッケル金属酸化化合物。
【請求項20】
硫黄含有量が500ppm未満である、請求項19に記載のリチウムニッケル金属酸化化合物。
【請求項21】
請求項19または請求項20に記載のリチウムニッケル金属酸化化合物を含む電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、リチウムイオン二次電池のカソード材料として有用性を有するリチウムニッケル金属酸化物材料、及びリチウムニッケル金属酸化物材料を製造するための改善されたプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
層状構造を有するリチウムニッケル金属酸化物材料は、リチウムイオン二次電池中のカソード材料として有用であることがわかっている。典型的には、リチウムニッケル金属酸化物材料は、水酸化物またはオキシ水酸化物などのニッケル金属前駆体をリチウム源と混合し、次いでこの混合物をか焼することによって産生される。か焼プロセス中、ニッケル金属前駆体は、リチウム化及び酸化され、中間相を介して結晶構造変換を受けて、所望の層状LiNiO2構造を形成する。
【0003】
ニッケル金属前駆体は、典型的には、高pHでアンモニア及び水酸化ナトリウムの存在下で、混合金属塩溶液、例えば、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンのうちの1つ以上の溶液の共沈によって形成される。ドーパント金属は、典型的には、共沈ステップ中に導入されるか、またはか焼前にドーパント金属源を沈殿したニッケル金属前駆体と混合することによって導入される。このような沈殿プロセスでは、微量金属塩及びアンモニアなど、環境に有害な化学物質を含み得る高pHの水性産業廃棄物が大量に生じる。さらに、電気化学的性能に有害であり得るか焼後に形成されるリチウムニッケル金属酸化物材料の結晶構造の乱れにつながり得る沈殿プロセスを制御することは困難であり得る。
【0004】
CN102709548(GUANGZHOU HONGSEN MATERIALS CO LTD)は、リチウムイオン電池カソード材料の調製方法について記載している。実施例1では、水酸化ニッケル、水酸化コバルト、水酸化マグネシウム、及び水酸化リチウムをボールミル中で速度30回転/分で3時間混合する。次いで混合物を800℃で16時間か焼する。
【0005】
リチウムニッケル金属酸化物材料を製造するための改善されたプロセス、及び改善された電気化学的特性を有するリチウムニッケル金属酸化物材料に対する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、リチウムニッケル金属酸化物材料を形成するためにか焼され得る中間体を調製するために、高エネルギーミリングが使用され得ることを見出した。高エネルギーミリングの使用により、沈殿プロセスの使用及びそれに伴う産業廃棄物の問題が回避される。本明細書に記載のプロセスはまた、従来技術の手順と比較して、か焼時間及び温度の短縮をもたらし、プロセス効率の向上及びエネルギー消費の減少をもたらす。
【0007】
したがって、本発明の第1の態様では、リチウムニッケル金属酸化物を調製するためのプロセスが提供され、このプロセスは、
(i)ニッケル源、リチウム源、及び少なくとも1つの追加の金属源の混合物を高エネルギーミリングして、高エネルギーミリングされた中間体を形成するステップと;
(ii)高エネルギーミリングされた中間体を750℃以下の温度でか焼して、リチウムニッケル金属酸化物を形成するステップと、を含む。
【0008】
第1の態様のプロセスによって産生されるリチウムニッケル金属酸化物材料は、低レベルの硫黄不純物、高レベルの結晶化度をもたらし、放電容量などの電気化学的性能の改善をもたらし得る。したがって、本発明の第2の態様では、第1の態様によるプロセスによって得られるまたは得ることができる粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料が提供される。
【0009】
第3の態様では、第2の態様による粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を含む電極が提供される。
【0010】
第4の態様では、第3の態様による電極を含む電気化学セルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例3で産生された材料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【
図2】実施例4で産生された材料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、本発明の好ましい及び/またはオプションの特徴を記載する。本発明のいずれの態様も、文脈により別段の要求が無い限り、本発明の任意の他の態様と組み合わせられてよい。任意の態様の好ましい及び/またはオプションの特徴のいずれも、文脈により別段の要求が無い限り、個々に、または、一緒に、本発明の任意の態様と組み合わせられてよい。
【0013】
本発明は、リチウムニッケル金属酸化物材料を調製するためのプロセスを提供する。リチウムニッケル金属酸化物材料は、結晶性または実質的に結晶性の材料である。これは、α-NaFeO2型構造を有してよい。
【0014】
典型的には、リチウムニッケル金属酸化物中の非リチウム金属の少なくとも70原子%が、ニッケルである。リチウムニッケル金属酸化物中の非リチウム金属の少なくとも75原子%、少なくとも80原子%、または少なくとも85原子%がニッケルであることが好ましい場合がある。リチウムニッケル金属酸化物中の非リチウム金属の99原子%未満がニッケルであることが好ましい場合があり、例えば、リチウムニッケル金属酸化物中の非リチウム金属の割合としてのニッケルの量が、70~99原子%、75~99原子%、80~99原子%、または85~99原子%を含む範囲内にあることが特に好ましい。リチウムニッケル金属酸化物は、少なくとも1つの追加の金属を含む。典型的には、金属は、Co、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn及びCaのうちの1つ以上から選択される。リチウムニッケル金属酸化物は、マンガンを含まないことが好ましい場合がある。
【0015】
リチウムニッケル金属酸化物は、式1による組成物を有することが好ましい場合がある:
LiaNixCoyAzO2+b
式1
(式中、
Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、及びCaのうちの1つ以上であり;
0.8≦a≦1.2
0.7≦x<1
0≦y≦0.3
0≦z≦0.3
-0.2≦b≦0.2
x+y+z=1である)。
【0016】
式1において、0.8≦a≦1.2である。aが0.9以上、または0.95以上であることが好ましい場合がある。aが1.1以下、または1.05以下であることが好ましい場合がある。0.90≦a≦1.10、例えば0.95≦a≦1.05であることが好ましい場合がある。a=1であることが好ましい場合がある。
【0017】
式1では、0.7≦x<1である。0.75≦x<1,0.8≦x<1、0.85≦x<1または0.9≦x<1が好ましい場合がある。xは、0.99、0.98、0.97、0.96または0.95以下であることが好ましい場合がある。0.75≦x≦1、例えば、0.75≦x≦0.99、0.75≦x≦0.98、0.75≦x≦0.97、0.75≦x≦0.96または0.75≦x≦0.95であることが好ましい場合がある。0.8≦x≦1、例えば、0.8≦x≦0.99、0.8≦x≦0.98、0.8≦x≦0.97、0.8≦x≦0.96または0.8≦x≦0.95であることがさらに好ましい場合がある。0.85≦x<1、例えば、0.85≦x≦0.99、0.85≦x≦0.98、0.85≦x≦0.97、0.85≦x≦0.96、または0.85≦x≦0.95であることも好ましい場合がある。
【0018】
式1では、0≦y≦0.3である。yは、0.01、0.02または0.03以上であることが好ましい場合がある。yは、0.2、0.15、0.1または0.05以下であることが好ましい場合がある。0.01≦y≦0.3、0.02≦y≦0.3、0.03≦y≦0.3、0.01≦y≦0.25、0.01≦y≦0.2、または0.01≦y≦0.15であることも好ましい場合がある。
【0019】
Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、及びCaのうちの1つ以上である。AがMnではないことが好ましく、このため、Aが、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、及びCaのうちの1つ以上であることが好ましい場合がある。好ましくは、Aは、少なくともMg及び/またはAlであるか、またはAは、Al及び/またはMgである。より好ましくは、Aは、Mgである。Aが、複数の元素を含む場合、zは、Aを構成する元素のそれぞれの合計量である。
【0020】
式1では、0≦z≦0.2である。0≦z≦0.15、0≦z≦0.10、0≦z≦0.05、0≦z≦0.04、0≦z≦0.03、または0≦z≦0.02、またはzが0であることが好ましい場合がある。
【0021】
式1では、-0.2≦b≦0.2である。bが-0.1以上であることが好ましい場合がある。bが0.1以下であることも好ましい場合がある。-0.1≦b≦0.1、またはbが0もしくは約0であることがさらに好ましい場合がある。
【0022】
0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、及びx+y+z=1であることが好ましい場合がある。0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1、M=Co、及びA=Mg単独で、またはAl、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、Mn及びCaのうちの1つ以上との組み合わせであることが好ましい場合がある。0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1、M=Co、及びA=Mg単独で、またはAl、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、及びCaのうちの1つ以上との組み合わせであることが好ましい場合がある。
【0023】
0.8≦a≦1.2、0.8≦x<1、0<y≦0.2、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、及びx+y+z=1であることが好ましい場合がある。0.8≦a≦1.2、0.8≦x<1、0<y≦0.2、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1、M=Co、及びA=Mg単独で、またはAl、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、Mn及びCaのうちの1つ以上との組み合わせであることが好ましい場合がある。0.8≦a≦1.2、0.8≦x<1、0<y≦0.2、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1、M=Co、及びA=Mg単独で、またはAl、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、及びCaのうちの1つ以上との組み合わせであることが好ましい場合がある。
【0024】
0.8≦a≦1.2、0.85≦x<1、0<y≦0.15、0≦z≦0.15、-0.2≦b≦0.2、及びx+y+z=1であることが好ましい場合がある。0.8≦a≦1.2、0.85≦x<1、0<y≦0.15、0≦z≦0.15、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1、M=Co、及びA=Mg単独で、またはAl、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、Mn及びCaのうちの1つ以上との組み合わせであることが好ましい場合がある。0.8≦a≦1.2、0.85≦x<1、0<y≦0.15、0≦z≦0.15、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1、M=Co、及びA=Mg単独で、またはAl、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、及びCaのうちの1つ以上との組み合わせであることが好ましい場合がある。
【0025】
典型的には、リチウムニッケル金属酸化物材料は、複数の一次粒子(1つ以上の微結晶から構成される)を含む二次粒子の形態である。こうした二次粒子は、典型的には、少なくとも1μm、例えば少なくとも2μm、少なくとも4μm、または少なくとも5μmのD50粒径を有する。リチウムニッケル金属酸化物の粒子は、典型的には、30μm以下、例えば20μm以下、または15μm以下のD50粒径を有する。表面修飾されたリチウムニッケル金属酸化物の粒子は、1μm~30μmのD50、例えば、2μm~20μm、または5μm~15μmなどを有することが好ましい場合がある。本明細書で使用されるD50という用語は、体積加重分布のメジアン粒径を指す。D50は、レーザー回折法を使用することによって(例えば、粒子を水に懸濁させ、Malvern Mastersizer 2000を使用して分析することによって)決定することができる。
【0026】
有利なことに、リチウムニッケル金属酸化物材料は、電気化学的性能に有害であり得る非常に低いレベルの硫黄不純物で形成される。典型的には、リチウムニッケル金属酸化物材料は、500ppm以下、例えば400ppm以下、300ppm、200ppmまたは100ppm、例えば30~500ppm、30~400ppm、30~300ppm、30~200ppmまたは30~100ppmなどの範囲の硫黄含有量を有する。硫黄含有量は、標準的な技術を使用して、例えば材料の熱分解及び赤外線(IR)検出を使用した硫黄種の分析によって測定することができる。このような分析は、例えば、Eltra(RTM)Helios C/S分析装置を使用して実施され得る。この技術を使用して、サンプルを酸素中で熱分解して硫黄種を酸素化し、サンプル中の硫黄濃度を測定するために使用されるIRセルを通過させる。この機器は、同様のレベルの標準に対して、またはマルチ標準校正を使用して校正する。
【0027】
本プロセスは、(i)ニッケル源、リチウム源、及び少なくとも1つの追加の金属源の混合物を高エネルギーミリングして、高エネルギーミリングされた中間体を形成させるステップを含む。
【0028】
「高エネルギーミリング」という用語は、少量のエネルギーが送達されるミリングまたは研削処理と区別するために、当業者によってよく理解されている用語である。例えば、高エネルギーミリングは、ミリング処理中に、ミリングされる固形物1キログラムあたり、少なくとも0.1kWhのエネルギーが送達されるミリング処理に関連すると理解され得る。例えば、ミリングされる固体1キログラムあたり、少なくとも0.15kWh、または少なくとも0.20kWhが送達され得る。エネルギーに特に上限はないが、ミリングされる固形物1キログラムあたり1.0kWh未満、0.90kWh未満、または0.80kWh未満であり得る。0.20kWh/kg~0.50kWh/kgの範囲のエネルギーが典型的であり得る。ミリングエネルギーは、典型的には、ミリングされる固体のメカノケミカル反応を引き起こすのに十分である。
【0029】
高エネルギーミリングは、当業者にとって周知である一連のミリング技術を使用して実施することができる。好適には、高エネルギーミリングは、遊星型ミル、振動ミル、アトライタミル、ピンミル、またはローリングミルで実施され得る。高エネルギーミリングステップは、アトライタミルで実施することが好ましい場合がある。アトライタミルの使用は、形成されたリチウムニッケル金属酸化物材料内の元素の分布を高めることができる。好適には、高エネルギーミリングステップは、乾式ミリングステップである、すなわち、高エネルギーミリングを受ける混合物に溶媒は添加されない。
【0030】
典型的には、高エネルギーミリングステップは、少なくとも15分間、少なくとも30分間、少なくとも45分間、または少なくとも60分間実施される。この期間は、出発化合物の高エネルギーミリングの合計時間であり、高エネルギーミリングの2つ以上の期間の合計であり得ることは、当業者には理解されるであろう。15分未満の高エネルギーミリングでは、元素の不均一な分布及び/または相変態の均一な分布を提供するような不十分なエネルギー入力が生じ得るため、か焼時間をより長くする必要があり得る。
【0031】
典型的には、高エネルギーミリングは、8時間未満、好ましくは6時間未満、または4時間未満の期間、実施される。8時間を超える高エネルギーミリングは、所望の層状構造を形成するためのか焼中に反応することが困難な酸化物粉末の形成につながり得る。
【0032】
典型的には、高エネルギーミリングは、15分から8時間の間実施される。好ましくは、高エネルギーミリングは、30分から4時間の間実施される。このミリング時間は、出発化合物の十分なメカノケミカル反応とプロセス効率との間の好適なバランスをもたらす。高エネルギーミリングを受ける混合物は、高エネルギーミリングステップ中に外部加熱(すなわち、ミリングプロセスによって生成されない加熱)を受けないことが好ましい。
【0033】
好ましくは、高エネルギーミリングステップは、アルゴン、窒素、または窒素と酸素との混合物など、CO2を含まない雰囲気中で実施される。本明細書で使用される「CO2を含まない」という用語は、100ppm未満のCO2、例えば50ppm未満のCO2、20ppm未満のCO2または10ppm未満のCO2を含む雰囲気を含むことを意図する。これらのCO2レベルは、CO2スクラバーを使用して、CO2を除去することによって達成され得る。ミリングステップ中のCO2を含まない空気の使用は、形成されたリチウムニッケル金属酸化物材料中の炭酸リチウムのレベルを低下させ、電気化学的性能、例えば放電容量の向上がもたらされ得る。CO2を含まない雰囲気は、窒素と酸素との混合物であることが好ましい場合がある。
【0034】
典型的には、高エネルギーミリングは、ミリングボールなどの研削媒体を使用して実施される。好ましくは、このような媒体は、形成されたリチウムニッケル金属酸化物材料の金属汚染を回避するために選択される。好ましくは、ミリング媒体は、アルミナまたはイットリア安定化ジルコニアから形成されるか、またはコーティングされる。
【0035】
高エネルギーミリングを受ける混合物は、少なくとも1つのニッケル源を含む。好適なニッケル源としては、ニッケル金属及びニッケル塩、例えば無機ニッケル塩、例えば酸化ニッケルまたは水酸化ニッケルが挙げられる。ニッケル源は、ニッケルが+2酸化状態にあるニッケル含有化合物であることが好ましい場合がある。好ましくは、ニッケル源は、酸化ニッケル(II)(NiO)または水酸化ニッケル(II)(Ni(OH)2)である。
【0036】
また、高エネルギーミリングを受ける混合物は、少なくとも1つのリチウム源を含む。リチウム源は、リチウムイオン及び好適な無機または有機対イオンを含む。好適なリチウム源としては、無機リチウム塩などのリチウム塩が挙げられる。好ましくは、リチウム源は、酸化リチウム(Li2O)または水酸化リチウム(LiOH)である。より好ましくは、リチウム源は、水酸化リチウムである。水酸化リチウムを使用することにより、形成されたリチウムニッケル金属酸化物材料の高い相純度が得られることが判明している。
【0037】
典型的には、リチウム源は、高エネルギーミリングステップの前に、ニッケル源及び追加の金属源(複数可)と混合される。代替的にまたは追加的に、リチウム源は、高エネルギーミリングプロセスステップの途中で添加されてもよい。
【0038】
また、高エネルギーミリングを受ける混合物は、少なくとも1つの金属源を含む。好適な金属源としては、無機金属塩などの金属塩が挙げられる。好ましくは、金属塩(複数可)は、酸化物または水酸化物である。より好ましくは、金属塩は、金属水酸化物である。
【0039】
好ましくは、リチウムニッケル金属酸化物材料は、コバルトを含む。そのような場合、高エネルギーミリングを受ける混合物は、少なくとも1つのコバルト源を含む、すなわち、混合物は、ニッケル源、リチウム源、コバルト源、及び任意により少なくとも1つの追加の金属源を含む。好適なコバルト源としては、コバルト金属粉末、または無機コバルト塩、例えばコバルト酸化物または水酸化物などのコバルト塩が挙げられる。好ましくは、コバルト源は、コバルトが+2酸化状態にあるコバルト含有化合物である。好ましくは、コバルト含有化合物は、酸化コバルト(II)(CoO)または水酸化コバルト(II)(Co(OH)2)である。
【0040】
好ましくは、リチウムニッケル金属酸化物材料は、マグネシウムを含む。そのような場合、高エネルギーミリングを受ける混合物は、少なくとも1つのマグネシウム源を含む、すなわち、混合物は、ニッケル源化合物、リチウム源、マグネシウム源、任意によりコバルト源、及び任意により少なくとも1つの追加の金属源を含む。好適なマグネシウム源には、マグネシウム金属粉末またはマグネシウム塩、例えば無機マグネシウム塩、例えば酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムが挙げられる。好ましくは、マグネシウム源は、酸化マグネシウム(MgO)または水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)である。マグネシウム源がMgOである場合、酸素を含む雰囲気、特に窒素と酸素との混合物などの酸素を含むCO2を含まない雰囲気中で高エネルギーミリングを実施することが特に好ましい場合がある。
【0041】
好ましくは、高エネルギーミリングを受ける混合物は、ニッケル源、リチウム源を含む、コバルト源及びマグネシウム源を含む。好適には、混合物は、コバルトの酸化物または水酸化物、ニッケルの酸化物または水酸化物、リチウムの酸化物または水酸化物、及びマグネシウムの酸化物または水酸化物を含む。
【0042】
混合物は、水酸化ニッケル、水酸化コバルト、水酸化リチウム及び水酸化マグネシウムを含むことが好ましい。この出発物質の組み合わせの使用は、形成されたリチウムニッケル金属酸化物材料の電気化学的性能の改善、例えば放電容量の向上をもたらす。
【0043】
次いで、ステップ(ii)では、高エネルギーミリングを受けた中間体をか焼して、リチウムニッケル金属酸化物材料を形成する。か焼ステップは、750℃以下の温度で実施される。か焼ステップは、740℃以下、730℃以下、720℃以下、710℃以下、または700℃以下の温度で実施されることがさらに好ましい場合がある。
【0044】
好ましくは、か焼ステップは、混合物を少なくとも約600℃、または少なくとも約650℃の温度まで加熱すること、例えば、混合物を約600℃~750℃、または約650℃、及び750℃の温度まで加熱することを含む。か焼ステップが、混合物を少なくとも約600℃、または少なくとも約650℃の温度まで、少なくとも30分間、少なくとも1時間、または少なくとも2時間加熱するステップを含むことがさらに好ましい場合がある。期間は、8時間未満であってよい。
【0045】
好ましくは、か焼は、混合物を600~750℃の温度で30分~8時間加熱するステップ、またはより好ましくは650~750℃の温度で30分~8時間加熱するステップを含む。
【0046】
か焼ステップは、CO2を含まない雰囲気下で行われてよい。例えば、CO2を含まない空気は、加熱中及び任意により冷却中に材料上に流されてもよい。CO2を含まない空気は、例えば、酸素と窒素とのミックスであってもよい。好ましくは、雰囲気は、酸化雰囲気である。本明細書で使用される場合、「CO2を含まない」という用語は、100ppm未満のCO2、例えば、50ppm未満のCO2、20ppm未満のCO2、または10ppm未満のCO2を含む雰囲気を含むことを意図している。これらのCO2レベルは、CO2スクラバーを使用して、CO2を除去することによって達成され得る。
【0047】
CO2を含まない雰囲気は、酸素と窒素との混合物を含むことが好ましい場合がある。混合物が窒素及び酸素を1:99~90:10、例えば1:99~50:50、1:99~10:90、例えば約7:93の比率で含むことがさらに好ましい場合がある。
【0048】
か焼は、当業者に知られている任意の好適な炉、例えば静的キルン(管状炉またはマッフル炉など)、トンネル炉(材料の静的床が炉、例えば、ローラーハースキルン、プッシュスルー炉などの炉内を通って移動する)、または回転炉(スクリューフィードまたはオーガーフィード回転炉など)で実施することができる。か焼に使用される炉は、典型的には、制御されたガス雰囲気下で操作することができる。静的炉またはトンネル炉(例えば、ローラーハースキルンまたはプッシュスルー炉)などの材料の静的ベッドを有する炉内でか焼ステップを実施することが好ましい場合がある。か焼は、単一の炉で実施することが好ましい。これにより、プロセスの経済性における利点がもたらされ得る。
【0049】
か焼が材料の静的床を有する炉内で行われる場合、高エネルギーミリングを受けた中間体は、典型的には、か焼前にか焼容器(例えばさやまたは他の好適なるつぼ)に装填される。
【0050】
リチウムニッケル金属酸化物材料は、か焼後にふるい分けしてもよい。例えば、リチウムニッケル金属酸化物材料の粒子は、50~60ミクロンのふるいを使用してふるい分けして、大きい粒子が除去され得る。か焼後のふるい分けは、ふるい分けされていない材料と比較して、電気化学的性能を大幅に改善(例えば、サイクル後の放電容量及び容量保持の改善)することがわかっている。例えば、リチウムニッケル金属酸化物材料の粒子は、D50粒径が、25μm以下、20μm以下、または15μm以下、例えばD50が、5~25μm、5~20μm、または5~15μmであるような体積粒径分布を有するまでふるい分けされ得る。
【0051】
代替的にまたは追加的に、プロセスは、か焼後に実施され得る1つ以上のミリングステップを含んでもよい。ミリングは、粒子が所望のサイズに到達するまで、実施され得る。例えば、リチウムニッケル金属酸化物材料の粒子は、D50粒径が少なくとも5μm、例えば少なくとも5.5μm、少なくとも6μm、または少なくとも6.5μmであるような体積粒径分布を有するまでミリングされ得る。リチウムニッケル金属酸化物材料の粒子は、D50粒径が25μm以下、20μm以下、15μm以下、例えば14μm以下、または13μmまたは以下であるような体積粒径分布を有するまでミリングされ得る。好ましくは、ミリングステップ(複数可)は、高エネルギーミリングではない、すなわち、本プロセスは、材料がか焼された後に高エネルギーミリングを含まない。
【0052】
任意により、高温か焼から得られたリチウムニッケル金属酸化物材料上でコーティングステップが実施される。
【0053】
コーティングステップは、リチウムニッケル金属酸化物を、1つ以上のコーティング金属元素を含むコーティング組成物と接触させることを含み得る。1つ以上のコーティング金属元素は、水溶液として提供され得る。好適には、1種以上のコーティング元素は、1種以上のコーティング金属元素の塩の水溶液として、例えば、1種以上のコーティング金属の硝酸塩または硫酸塩として提供され得る。1種以上のコーティング金属元素は、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、及び亜鉛から選択される1種以上であってもよい。
【0054】
コーティングステップは、典型的には、固体をコーティング組成物から分離するステップ、及び任意により材料を乾燥させるステップを含む。分離は、好適には、濾過により実施されるか、またはリチウムニッケル金属酸化物及びコーティング溶液を噴霧乾燥することにより、分離及び乾燥を同時に行うこともできる。コーティングされた材料は、その後の加熱ステップを受けてもよい。
【0055】
本発明のプロセスは、リチウムニッケル酸化物材料を含む電極(典型的には、カソード)を形成するステップをさらに含んでよい。典型的には、これは、粒子状リチウムニッケル金属酸化物のスラリーを形成すること、集電体(例えば、アルミニウム集電体)の表面にスラリーを塗布すること、及び任意により、電極の密度を高めるために加工すること(例えば、カレンダ加工)によって行われる。スラリーは、溶媒、バインダ、炭素材料、及び追加の添加剤の1つまたは複数を含み得る。
【0056】
一般的に、本発明の電極は、少なくとも2.5g/cm3、少なくとも 2.8g/cm3、または少なくとも3g/cm3の電極密度を有する。本発明の電極は、4.5g/cm3 以下、または4g/cm3 以下の電極密度を有してよい。電極密度は、電極の電極密度(質量/体積)で、電極が形成された集電体を含まない。したがって、電極密度は、活物質、あらゆる添加剤、あらゆる追加の炭素材料、及びあらゆる残りのバインダからの寄与を含む。
【0057】
本発明のプロセスは、リチウムニッケル金属酸化物材料を含む電極を備える電池または電気化学セルを構築することをさらに含んでもよい。電池またはセルは、典型的には、アノード及び電解質をさらに含む。電池またはセルは一般的に、二次(再充電可能な)リチウム(例えば、リチウムイオン)電池であってよい。
【0058】
ここで、以下の実施例を参照して本発明を説明する。実施例は、本発明の理解を助けるために提供されており、本発明の範囲を制限することを意図していない。
【実施例】
【0059】
実施例1:遊星型ミルでの高エネルギーミリング及びその後のか焼による酸化物前駆体を使用したLi1.03Ni0.92Co0.08Mg0.02O2の形成
NiO(13.57g、Sigma Aldrich、粒径<50nm)、Co3O4(1.18g、Sigma Aldrich、粒径<50nm)、Li2O(6.20g、Sigma Aldrich、60メッシュ)、及びMgO(0.157g,Sigma Aldrich)(Ni0.92/Co0.08/Li1.03/Mg0.02の化学量論組成を達成するために選択された量)を混合し、250mlZrO2ミリングポットに移した。これらのポットをアルゴンでフラッシュし、テープで密封した。3mmのイットリア安定化ジルコニア(YSZ)ビーズ(200g)を研削材料として使用した。フリッチュ高エネルギー遊星型ミルを使用して、400rpmで3×20分間(ミリングセッションの間に10分間休止)固体をミリングした。高エネルギーミリングステップ中のエネルギー入力は、0.5kWh/kgであった。
【0060】
次に、高エネルギーミリングを受けた中間体を、CO2を含まない雰囲気(窒素:酸素80:20)で、速度5℃/分で、450℃の温度まで加熱し、450℃で2時間加熱し、速度2°C/分で700℃まで加熱し、700℃で6時間加熱してから冷却することによってか焼させた。
【0061】
実施例2:遊星型ミルでの高エネルギーミリング及びその後のか焼による、混合水酸化物/酸化物前駆体を使用したLi1.03Ni0.92Co0.08Mg0.02O2の形成
以下の前駆体を使用して、実施例1の手順を繰り返した:Ni(OH)2(Sigma Aldrich,16.86g)、Co(OH)2(Sigma Aldrich,1.47g)、LiOH(Sigma Aldrich,4.97g)、及びMgO(0.157g,Sigma Aldrich)。
【0062】
実施例3:アトライタミルでの高エネルギーミリング及びその後のか焼による、混合水酸化物/酸化物前駆体を使用したLi1.03Ni0.92Co0.08Mg0.02O2の形成
Ni(OH)2(Sigma Aldrich、50.58g)、Co(OH)2(Sigma Aldrich、4.41g)、LiOH(Sigma Aldrich、14.91g)、及びMgO(0.47g、Sigma Aldrich)(Li1.03Ni0.92Co0.08Mg0.02の化学量論組成を達成するために選択された量)混合し、5mmのYSZビーズ(400g)と共に750mlのZrO2容器に移した。実験を行う前に、ミリングポットをアルゴンで流し、密封した。固形物は、Union Process Laboratory HD-1アトライタミルを使用して、600rpmで60分間、ミリング条件下で保持した。高エネルギーミリングステップ中のエネルギー入力は、0.8kWh/kgであった。ミリングは、1バールのアルゴン雰囲気中で行った。ミリング後、材料を56ミクロンのふるいを用いてふるい分けし、アルゴンを流したポット中に保持した。
【0063】
次に、高エネルギーミリングを受けた中間体を、速度5℃/分で、450℃の温度まで加熱し、450℃で2時間加熱し、速度2℃/分で700℃まで加熱し、700℃で6時間加熱してから冷却することによってか焼させた。
【0064】
実施例4:アトライタミルでの高エネルギーミリング及びその後のか焼による、混合水酸化物/酸化物前駆体を使用したLi1.03Ni0.92Co0.08Mg0.02O2の形成
CO2を含まない雰囲気(窒素:酸素80:20)(1バール)下でミリングを実施したことを除いて、実施例3の方法を繰り返した。
【0065】
実施例5:アトライタミルでの高エネルギーミリング及びその後のか焼による水酸化物前駆体を使用したLi1.03Ni0.92Co0.08Mg0.02O2の形成
MgOの代わりに、Mg(OH)2(0.69g、Sigma Aldrich)を使用したことを除いて、実施例3の方法を繰り返した。
【0066】
実施例6:アトライタミルでの高エネルギーミリング及びその後のか焼による水酸化物前駆体を使用したLi1.03Ni0.92Co0.08Mg0.02O2の形成
MgOの代わりに、Mg(OH)2(0.69g、Sigma Aldrich)を使用し、CO2を含まない雰囲気(窒素:酸素 80:20)(1バール)下でミリングを実施したことを除いて、実施例3の方法を繰り返した。
【0067】
X線回折(XRD)分析
実施例1~5によって形成された材料のXRD分析は、それぞれの場合において、主相として所望のLiNiO2相(α-NaFeO2)を示した。
【0068】
実施例1及び実施例2で産生された材料のX線回折パターンの比較は、か焼後、微量のLi2O不純物相が存在したLi2Oで調製されたサンプル(実施例1)と比較して、LiOHを使用して調製されたサンプル(実施例2)においてより高い相純度を示した。
【0069】
高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)
実施例1~5で形成された材料のHRTEM分析は、実施例3~5でのアトライタミルの使用が、遊星型ミルによって産生されたサンプルと比較して、より高いレベルのマグネシウム分布を有する材料が生産されたことを示した。
【0070】
走査型電子顕微鏡(SEM)
実施例3(アルゴン中でミリング)及び実施例4(CO
2を含まない空気中でミリング)で産生された材料をSEMによって分析した(
図1(実施例3)及び
図2(実施例4))。これは、形成された粒子が球形の形態を有する二次粒子であり、複数の一次粒子から形成されたことを示した。
【0071】
BET表面積
リチウムニッケル金属酸化物材料のBET表面積は、N
2中で測定した。これらの結果を表1に示すが、これは、表面積がミリング装置または使用した前駆体によって影響を有意に受けなかったことを示している。
【表1】
【0072】
可変温度XRD(VT-XRD)
(i)先行技術の共沈プロセスによって形成されたNi0.92Co0.08Mg0.02(OH)2前駆体のサンプル、及び(ii)実施例3のプロセスに従って調製された高エネルギーミリングされた中間体のサンプルに、変温度XRD分析を行い、か焼中の相変化及びか焼後の産生物の微結晶格子特性のあらゆる相違に関する情報を集めた。使用した温度プロフィールは、実施例3のか焼条件と一致した。
【0073】
この分析は、LiNiO2相が、沈殿した中間体(560℃)と比較して、ミリングされた中間体から、より低い温度(540℃)で形成し始めたことを示した。これは、高エネルギーミリングを使用した中間体の形成が、従来技術の方法と比較して、か焼に必要な温度の低下及び時間の潜在的な短縮をもたらすことを示している。
【0074】
(VT-XRD)実験の最後に2つのサンプルをリートベルト解析したところ、沈殿した中間体から形成されたリチウムニッケル金属酸化物(2.15%)と比較して、高エネルギーでミリングされた中間体から形成されたリチウムニッケル金属酸化物は、3aリチウム部位の非リチウム金属占有率が有意に減少した(0.17%)ことが示された。
【0075】
電気化学的試験
実施例3~6のサンプルは、50ミクロンのふるいを使用してふるい分けし、次に以下に示すプロトコルを使用して電気化学的に試験した。ふるい分け後の材料のD50値は、実施例3:14μm;実施例4:19μm;実施例5:21μmであった。サンプルを、(i)ふるい分けする前の実施例4からの材料のサンプルと、(ii)実施例の組成物に一致するが、前駆体をLiOHと混合し、実施例3に記載の条件に従ってか焼することにより、市販のNi0.92Co0.08Mg0.02(OH)2前駆体(沈殿により産生)から調製されたリチウムニッケル金属酸化物材料の参照サンプルとを比較した。
【0076】
電気化学プロトコル
電極は、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリジン(NMP)中に、94重量%のリチウムニッケル金属酸化物活物質、導電性添加剤としての3重量%のSuper-C、バインダとしての3重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)をブレンドすることによって調製した。スラリーをリザーバに加え、125μmのドクターブレードコーティング(Erichsen)をアルミニウム箔に塗布した。電極を120℃で1時間乾燥させた後、圧縮して密度3.0g/cm3を達成した。典型的には、有効成分の添加は、9mg/cm2である。圧縮された電極を14mmのディスクに切断し、120℃で12時間、さらに真空乾燥させた。
【0077】
電気化学試験は、アルゴンで満たされたグローブボックス(MBraun)内で組み立てられたCR2025コインセルタイプにより実施した。リチウム箔をアノードとして使用した。多孔性ポリプロピレン膜(Celgrad 2400)をセパレータとして使用した。エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)と1%のビニルカーボネート(VC)との1:1:1混合物中の1M LiPF6を電解質として使用した。
【0078】
セルは、Cレートを使用してMACCOR 4000シリーズで試験し、3.0~4.3Vの電圧範囲を使用して、保持試験を行った。Cレート試験では、セルを0.1C及び5C(0.1C=200mAh/g)で充電及び放電した。容量保持試験は、サンプルを1Cで50サイクルにわたって充電及び放電して実施した。
【0079】
電気化学的結果
電気化学的結果を表2に示す。このデータは、本明細書に記載のプロセスで産生されたサンプルの性能が、先行技術の沈殿経路を介して産生された参照サンプルの性能と少なくとも一致し、放電容量が増加した材料を提供し得ることを示している。か焼後のふるい分けステップの導入により、サイクル後の放電容量保持などの電気化学的性能が有意に向上する。実施例3と実施例4の比較では、酸化マグネシウムが出発物質として使用される場合、ミリング中に混合窒素-酸素雰囲気を使用することにより、アルゴン雰囲気と比較して、電気化学的性能が向上することが示されている。マグネシウム源として水酸化マグネシウムを使用することにより、酸化マグネシウムから産生される材料と比較して、放電容量が高い材料が得られる。
【表2】
【国際調査報告】