(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(54)【発明の名称】ポテンシーアッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230525BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230525BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20230525BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230525BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20230525BHJP
C07K 14/525 20060101ALN20230525BHJP
C07K 14/54 20060101ALN20230525BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20230525BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 P
C12Q1/06
G01N33/543 597
C12N5/0775
C07K14/525
C07K14/54
C07K14/705
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563984
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(85)【翻訳文提出日】2022-12-08
(86)【国際出願番号】 US2021028202
(87)【国際公開番号】W WO2021216580
(87)【国際公開日】2021-10-28
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518274272
【氏名又は名称】ロングエバーオン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】オリバ, アンソニー, エー.
(72)【発明者】
【氏名】ヒッチンソン, ベン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB01
2G045DA36
2G045FA37
4B063QA01
4B063QA05
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4H045BA09
4H045DA02
4H045DA14
4H045EA20
4H045FA72
(57)【要約】
炎症誘発性刺激に応答して抗炎症性サイトカインを産生するMSCのポテンシーを評価する方法。この方法は、TNF-α等の1つ又は複数の炎症誘発性サイトカインでMSCを一定期間刺激するステップと、次に抗炎症性サイトカインの産生を確認して定量するステップとを含む。TNF-αに応答して高レベルの抗炎症性サイトカインを産生するMSCは、加齢フレイル及びアルツハイマー病等の加齢関連状態の治療に使用されてもよく、コロナウイルス感染症の治療にも使用されてもよい。この方法は、TNF-α誘導MSCが、IL-1受容体拮抗薬(IL-1RA)、IL-10、及び顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を含むいくつかの抗炎症性サイトカインを確実に分泌することを示す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト間葉系幹細胞(MSC)のポテンシーを評価する方法であって、
MSCの集団を炎症誘発性サイトカイン又はその他の炎症誘発性分子で刺激するステップと、
前記MSCからの抗炎症性サイトカイン産生を確認するステップと、
前記MSCからの抗炎症性サイトカイン産生のレベルを定量するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記炎症誘発性サイトカインが、TNF-α、IL-17a、又はそれらの組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炎症誘発性サイトカインがTNF-αである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記刺激ステップが1時間~24時間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記炎症誘発性サイトカインを0.1pg/mL~1μg/mLの範囲の量で前記MSCに投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記MSCが、骨髄、脂肪組織、末梢血、肺、心臓、羊水、内臓、羊膜、臍帯若しくは胎盤、又は他の組織に由来するか、或いは、誘導多能性幹細胞(IPSC)又は他の供給源から分化したものである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
確認して定量することができる抗炎症性サイトカインが、IL-1RA、IL-4、IL-7、IL-8、IL-10、IL-13、G-CSF、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記炎症誘発性サイトカインによる刺激の前に、前記MSC上のバイオマーカーの発現をチェックするステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
探索されるバイオマーカーが、CD105
+、CD90
+、CD73
+、CD45
-、CD34
-、CD19
-、CD11b
-、IL-17RA
+、HLA-DR
-、又はそれらの任意の組合せを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記炎症誘発性サイトカインによる刺激の前に、前記MSCを基材上に播種するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記基材が、膜、プラスチック表面、ガラス表面、又は96ウェルプレート等の細胞培養ウェルプレートであり、追加の基材コーティングを有する又は有さない、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記MSCの前記基材上への播種が1時間~24時間持続する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記炎症誘発性サイトカインによる刺激の前に、前記MSCをMSCのより小さな集団に分ける、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記炎症誘発性サイトカインによる刺激の後に、前記MSCの上清を単離するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記上清が前記MSCから単離されたら、前記上清を冷凍保存する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記上清を電気化学発光イムノアッセイ又は他のアッセイで分析して、前記MSCによって産生された抗炎症性サイトカインのレベルを決定する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記炎症誘発性サイトカインで刺激された後の前記MSCに対して生存率アッセイを実施するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記生存率アッセイが、ATP検出アッセイ、テトラゾリウム還元アッセイ、レサズリン還元アッセイ、プロテアーゼ生存率マーカーアッセイ、ナトリウム-カリウム比アッセイ、細胞溶解若しくは膜漏出アッセイ、ミトコンドリア活性若しくはカスパーゼアッセイ、機能アッセイ、ゲノム及びプロテオミクスアッセイ、又はそれらの任意の組合せである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記生存率アッセイがフローサイトメトリーの使用を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
炎症誘発性サイトカインによる刺激の後の前記MSCの前記生存率が、ビヒクルで処置したMSC集団と比較した場合、70%を超える、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
産生された抗炎症性分子の量に基づいて前記MSCのポテンシーに等級を割り当てることをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
[0001]本出願は、その内容の全体を本明細書に組み込んだ2020年4月20日出願の米国特許仮出願第63/012884号の優先権を主張する。
【0002】
[分野]
[0002]本明細書では、TNF-α等の炎症誘発性サイトカインへの曝露に応答して、抗炎症性サイトカインを産生するヒト間葉系幹細胞のポテンシー(potency)を評価する方法を提供する。次に、適切な抗炎症性サイトカイン産生を示すヒト間葉系幹細胞は、加齢フレイル、アルツハイマー病、及びコロナウイルス感染症等の長期炎症に関与する疾患を治療する方法において使用され得る。
【0003】
[背景]
[0003]加齢フレイルは、個人の全体的な健康及び幸福に非常に重大な問題を引き起こす。加齢フレイルは、虚弱、低い身体活動、ゆっくりとした運動行為、極度の疲労、及び意図していない体重減少を特徴とする老年症候群である。Yao,X.等、Clinics in Geriatric Medicine 27(1):79~87(2011)を参照のこと。さらに、加齢フレイルと炎症との間の直接的な相関関係を示す多くの研究が存在する。Hubbard,R.E.等、Biogerontology 11(5):635~641(2010)を参照のこと。
【0004】
[0004]免疫老化は、炎症老化として知られている、低度の慢性全身炎症状態を特徴とする。Franceshi,C.等、Annals of the New York Academy of Sciences 908:244~254(2000)を参照のこと。加齢及び加齢フレイルに見られるこの高い炎症状態又は慢性炎症は、免疫調節異常並びに自然免疫及び獲得免疫の両方の複雑な再構築を引き起こす。免疫老化において、T細胞及びB細胞レパートリーは偏りが生じ、CD45ra(TEMRA)を再発現しているCD8+エフェクターメモリーT細胞及びCD19+後期/疲弊メモリーB細胞の増加、並びにCD8+ナイーブT細胞及びスイッチしたメモリーB細胞(CD27+)の減少を引き起こす。Blomberg,B.B.等、Immunologic Research 57(1-3):354~360(2013);Colonna-Romano,G.等、Mechanisms of Ageing and Development 130(10):681~690(2009);及びKoch S.等、Immunity&Ageing:5:6(2008)を参照のこと。T細胞及びB細胞レパートリーのこの変化は、難治性又は効率が低い免疫状態を引き起こす。この免疫系の悪化は、感染性疾患の罹患率を高くし、ワクチン接種に対する応答を低くする原因となる。最適なB細胞機能は、ワクチンに対する効果的な抗体応答及び感染病原体からの保護をもたらすために重要である。全身性炎症(TNF-α、IL-6、IL-8、INFγ、及びCRP)の年齢に関係する増加がB細胞の機能の低下を引き起こし、不十分な抗体応答及びワクチン有効性の低下につながることはよく知られている。
【0005】
[0005]炎症老化は、免疫変化と高齢者によく見られるいくつかの疾患及び状態(加齢フレイル等)との間の関連を提示しているため、かなり注目されている。サイトカイン及び急性期タンパク質等の循環する炎症性メディエーターは、加齢に伴い増加することが確認されている低度炎症のマーカーである。これらの炎症誘発性サイトカイン(例えば、TNF-α、IL-6)は、外来性抗原及びワクチンに対する防御抗体を形成するB細胞の能力を低下させる。この低下したB細胞の応答は、IgMから二次的なアイソタイプ(IgG、IgA、又はIgE)にアイソタイプをスイッチする免疫グロブリンの能力であるクラススイッチ組換え(CSR)の低下によって測定される。免疫グロブリンのアイソタイプスイッチは、エフェクター機能がそれぞれのアイソタイプで異なるため、適切な免疫応答には非常に重要である。CSR及び体細胞超変異(SHM)における重要な担い手は、Aicda遺伝子によってコードされている酵素、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)である。CSR及びSHMにおけるAIDの基本的な機能は、免疫グロブリンのスイッチ及び可変領域のシトシンをウラシルに変換することによってDNAの切断を開始することである。
【0006】
[0006]形成されたTNF-αの量は、(1)系の炎症の量に依存し、(2)マイトジェン又は抗原によって刺激される同じB細胞の能力を低下させることもヒトで示された。Frasca,D.等、Journal of Immunology 188(1):279~286(2012)を参照のこと。このように、加齢フレイルに悩まされている対象における免疫応答は、いくつかの理由のために低下している。
【0007】
[0007]TNF-αの発現は、神経学的炎症を引き起こす免疫プロセスの開始、維持、及び増幅にも関与しており、アルツハイマー病及び関連する認知症の病因、並びに神経学的損傷をもたらすその他の形態の炎症に深く結びついている。
【0008】
[0008]アルツハイマー病(AD)は、慢性進行性の神経変性脳疾患、すなわち老化症候群である。約500万人のアメリカ人高齢者の罹患率及び様式の主要な原因である。ADは、認知症の全症例の70%を占める。認知症は公衆衛生上の大きな懸念事項であり、世界中のどこかで7秒毎に新しい症例が診断されている。疾患の治療法は存在せず、疾患が進行するにつれて悪化し、最終的には7年以内に死に至る。診断後14年以上生存する個体は3%未満である。ADと診断された人々は通常65歳以上であり、意思決定や問題解決の課題に加えて、標準的な言語及び視覚記憶試験を完了するのに困難を抱えている。2006年には、世界中の患者は2,660万人であり、米国ではそのうちの500万人であった。アルツハイマー病は、2050年までに世界の85人に1人が罹患すると予測されている。初期の症状は、「年齢に関連した」問題又はストレスの徴候であると誤解されることがよくある。
【0009】
[0009]アルツハイマー病(AD)には、複雑な病理学が関与し、β-アミロイドの沈着及び神経原線維変化に加えて、多様な機構が含まれている。炎症誘発状態がその後の認知症の一因であるという認識が高まっている。この点に関して、炎症誘発性サイトカインはアミロイド沈着物及び神経原線維変化の近傍に豊富にあり、全身性炎症とβ-アミロイド蓄積との間に関連性が存在している。さらに、個体は、剖検で顕著なアミロイド沈着及び神経原線維変化を有することがあり、そのためにADと診断される資格があるのだが、認知症の病歴を示しておらず、これらの症例では、炎症マーカーの発現はAD患者よりも劇的に少なかった。
【0010】
[0010]ADは、有害事象に関わる神経血管系の障害も特徴である。これらの中で注目すべきは、低灌流及び血液脳関門(BBB)の支障である。BBBの支障が生じると、内皮を越える交換が損なわれる可能性がある。内皮細胞の増殖及び遊走に対するAβPの直接的な阻害によって、内皮を越える交換障害が部分的に現れる。最終的に、BBBを通過するAβPのクリアランスが非効率的になり、その結果、脳実質にAβPが蓄積される。したがって、支障をきたした神経血管系は、ADにおけるもう1つの重要な治療標的である。
【0011】
[0011]コロナウイルス感染症は、人類にとって重大な脅威であることが示されている。詳細には、COVID-19に感染した患者は、高度な呼吸補助が必要な場合、特に悪い予後に苦しんでいる。これらの患者の死亡率は約54%に達する。臨床症状の悪化は、ウイルス力価の低下に関連していて、症状の発症後7~10日で起こることが多く、病理は直接的なウイルス損傷ではなく炎症によって引き起こされることを示唆している。重度のCOVID-19患者では炎症マーカーが大幅に上昇することが多く、それによって感染症の罹患率及び死亡率に寄与する可能性がある過炎症性症候群が引き起こされる。過炎症性症候群には、典型的には、制御不能で、自己永続的で、組織に損傷を与える炎症活動が包含される。
【0012】
[0012]上記と類似の、又は上記に列挙した疾患は通常、低分子、タンパク質、ワクチン、又は抗体等の治療薬を使用して治療される。上記の疾患を治療するための細胞療法の使用は、十分に文書化されておらず、当技術分野では検討されていない。細胞療法は、幅広い治療適応症に対する新規の刺激的な治療法である。
【0013】
[0013]間葉系幹細胞は、損傷の部位に移行することができる多能性細胞であると同時に、検出できない程度に主要組織適合性複合体クラスII(MHC-II)分子を発現すること、及び低レベルでMHC-I分子を発現することによって免疫特権も有している。Le Blanc,K.等、Lancet 371(9624):1579~1586(2008)及びKlyushnenkova E.等、J.Biomed.Sci.12(1):47~57(2005)を参照のこと。したがって、同種間葉系幹細胞は、治療薬及び再生医療に対して大きな将来性を保持し、複数の疾患の過程に対する臨床試験において高い安全性及び有効性プロファイルを有することが繰り返し示されてきた。Hare,J.M.等、Journal of the American College of Cardiology 54(24):2277~2286(2009);Hare,J.M.等、Tex.Heart Inst.J.36(2):145~147(2009);及びLalu,M.M.等、PloS One 7(10):e47559(2012)を参照のこと。同種間葉系幹細胞は、患者に移植した後に悪性形質転換を起こさないことも示された。Togel F.等、American Journal of Physiology Renal Physiology 289(1):F31~F42(2005)を参照のこと。間葉系幹細胞による処置は、重度の移植片対宿主病を回復させ、急性虚血性腎不全を防ぎ、糖尿病における膵島及び腎糸球体修復に寄与し、劇症肝不全を逆行させ、損傷した肺組織を再生し、敗血症を緩和し、再構築を逆行させ、心筋梗塞後の心機能を改善することが示された。Le Blanc K.等、Lancet 371(9624):1579~1586(2008);Hare,J.M.等、Journal of the American College of Cardiology 54(24):2277~2286(2009);Togel F.等、American Journal of Physiology Renal Physiology 289(1):F31~F42(2005);Lee R.H.等、PNAS 103(46):17438~17442(2006);Parekkadan,B.等、PloS One 2(9):e941(2007);Ishizawa K.等、FEBS Letters 556(1~3):249~252(2004);Nemeth K.等、Nature Medicine 15(1):42~49(2009);Iso Y.等、Biochem.Biophys.Res.Comm.354(3):700~706(2007);Schuleri K.H.等、Eur.Hearth J.30(22):2722~2732(2009);及びHeldman A.W.等、JAMA 311(1):62~73(2014)を参照のこと。さらに、間葉系幹細胞は、組織工学に使用するための複数の細胞種の潜在的供給源でもある。Gong Z.等、Methods in Mol.Bio.698:279~294(2011);Price,A.P.等、Tissue Engineering Part A 16(8):2581~2591(2010);及びTogel F.等、Organogenesis 7(2):96~100(2011)を参照のこと。
【0014】
[0014]間葉系幹細胞は、免疫調節能力を有する。間葉系幹細胞は、免疫抑制毒性の所見を呈することなく、炎症並びにリンパ球及び骨髄由来免疫細胞のサイトカイン産生を制御し、低免疫原性である。Bernardo M.E.等、Cell Stem Cell 13(4):392~402(2013)を参照のこと。
【0015】
[0015]インビボ研究では、ヒト間葉系幹細胞は、ヒツジ胎児に移植されたときに、筋細胞及び心筋細胞等のさまざまな細胞種への部位特異的な分化を起こすことが示されている。Airey J.A.等、Circulation 109(11):1401~1407(2004)を参照のこと。これらの間葉系幹細胞は、非免疫抑制免疫適格宿主に移植された後、複数の組織で13カ月もの長い間残存することができる。齧歯類、イヌ、ヤギ、及びヒヒを使用したその他のインビボ研究では、ヒト間葉系幹細胞異種移植片がレシピエントにおいてリンパ球増殖又は全身的な同種抗体産生を誘起しないことが同様に示されている。Klyushnenkova E.等、J.Biomed.Sci.12(1):47~57(2005);Aggarwal S.等、Blood 105(4):1815~22(2005);Augello A.等、Arthritis and Rheumatism 56(4):1175~86(2007);Bartholomew A.等、Exp Hematol.30(1):42~48.(2002);Dokic J.等、European Journal of Immunology 43(7):1862~72(2013);Gerdoni E.等、Annals of Neurology 61(3):219~227(2007);Lee S.H.等、Respiratory Research 11:16(2010);Urban V.S.等、Stem Cells 26(1):244~253(2008);Yang H.等、PloS One 8(7):e69129(2013);Zappia E.等、Blood 106(5):1755~1761(2005);Bonfield T.L.等、American Journal of Physiology Lung Cellular and Molecular Physiology 299(6):L760~70(2010);Glenn J.D.等、World Journal of Stem Cells.6(5):526~39(2014);Guo K.等、Frontiers in Cell and Developmental Biology 2:8(2014);Puissant B.等、British Journal of Haematology 129(1):118~129(2005);及びSun L.等、Stem Cells 27(6):1421~32(2009)を参照のこと。全体として、同種であることの安全性及び有効性がこのように繰り返し発見されることによって、組織再生の成功のための同種移植片として間葉系幹細胞を使用するという考えが強固になっている。
【0016】
[0016]AD動物モデル研究でも、MSCの臨床上の可能性を支持することが示されている。Neves AF等、Exp.Neurol.2021:113706を参照のこと。有益な効果には、炎症の減少、Aβ分解因子及びAβクリアランスの増加、過剰リン酸化タウの減少、並びに代替的に活性化された(M2)ミクログリアマーカーの上昇が含まれる。これらの利点は、少なくとも部分的には、代替ミクログリアを脳に動員してAβ沈着を軽減する化学誘引物質がAβ誘導性MSCによって放出されるためと考えられる。Lee JK等、Stem Cells2012;30(7):1544~55を参照のこと。MSCは、Aβが蓄積する前の若いADモデルマウスにおいて効果的であり、脳のAβ沈着の大幅な減少、及びシナプス前タンパク質の発現の大幅な増加を引き起こす。Bae JS等、Curr Alzheimer Res.2013;10(5):524~31を参照のこと。印象的なことに、これらの効果は少なくとも2か月間持続し、MSCが前駆期ADの介入治療として有用であり得ることを示唆している。要約すると、ADの前臨床研究では、MSCがBBBを通過し、神経炎症を阻害し、神経新生を促進し、β-アミロイド沈着を阻害してクリアランスを促進し、アポトーシスを低減させ、海馬の神経新生を促進し、樹状突起の形態を改善し、行動及び空間記憶能力を改善することができることが示されている。
【0017】
[概要]
[0017]炎症誘発性刺激に応答して免疫調節サイトカインを産生する間葉系幹細胞(MSC)の特性は、MSCによって用いられる重要な治療作用機序である。
【0018】
[0018]細胞療法に使用される細胞のポテンシーを評価するための正確で再現性のある適切なアッセイは、例えば、細胞ベースの治療用製品の安定性及び一貫性を確保するという品質管理の目的のために重要である。
【0019】
[0019]細胞のポテンシーを評価するために当技術分野で使用されている現在のアッセイは、特定のバイオマーカー又は細胞表面受容体の発現を確認することに焦点を当てている。これらのアッセイは、細胞のポテンシーに関する間接的な測定を可能にすると予想される(例えば、TNFR1を発現するMSCは、PBMC増殖を阻害すると予想される)。したがって、当技術分野で使用される「ポテンシーアッセイ」は、細胞受容体又はバイオマーカーの発現を測定する同一性アッセイであり、抗炎症性サイトカイン等の重要な高分子を発現又は産生する細胞の能力又はポテンシーを正確に測定することができない。
【0020】
[0020]MSCをLPSで刺激するMSCポテンシーアッセイが開発されているが、これらのポテンシーアッセイは「無関係な」刺激を生成する(例えば、LPS刺激は細菌感染の模倣であり、MSCは抗菌剤として使用されないため無関係である)。MSCは一般的に、いずれもLPS刺激及びシグナル伝達に必要なTLR4及びCD14を発現しないため、これらのアッセイはさらに無関係である。したがって、本出願の目的は、TNF-α等の炎症誘発性サイトカインに応答して免疫調節サイトカインを産生する間葉系幹細胞(MSC)の能力を正確に決定するポテンシーアッセイを実現することである。理想的には、測定は生理学的に意味のある成分に対して行われる。
【0021】
[0021]本明細書では、MSCのポテンシーを評価する方法、例えば、細胞の調製物(例えば、治療上の使用を意図した多くの細胞に属するMSCの調製物)におけるMSCのポテンシーを評価する方法を提供する。細胞表面の受容体又はバイオマーカーの存在を検出することのみを含み、細胞が前記受容体又はバイオマーカーの刺激に関連した分子を発現できるかどうかを評価できない、当業界で使用されている標準的な細胞ポテンシーアッセイと比較して、本明細書で提供される方法は、細胞又は細胞ロットのポテンシーを評価する前に、TNF-α刺激ステップを利用して、MSCが抗炎症性サイトカインを産生するかどうか、及びどのレベルまで産生するかを評価する。TNF-α刺激ステップを組み込むことによって、同じ細胞ロットから採取されたMSC調製物及び同じ細胞種を含むが異なる細胞ロットから採取されたMSC調製物全体で、信頼性が向上し、変動性が減少したポテンシーアッセイが得られることが確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】組換えヒトTNFαでMSCを刺激した後の抗炎症性サイトカインの産生レベルを示した図である。
【
図2】組換えヒトTNFαで刺激した後のMSCの生存率を示した図である。
【
図3】組換えヒトTNFαでMSCを24時間にわたって刺激した後の抗炎症性サイトカインの産生レベルを示した図である。
【
図4】MSCがIL-17A刺激に感作され、組換えヒトTNFαに1時間曝露した後のIL-8及びIL-13の産生レベルを示した図である。
【0023】
[詳細な説明]
[0026]本出願の一態様は、抗炎症性サイトカインを産生するMSCのポテンシーを評価する方法に関する。
【0024】
[0027]一実施形態では、この方法は、抗炎症性サイトカイン産生のレベルを確認して定量する前の一定期間、MSCを炎症誘発性サイトカイン又は分子で刺激することを含む。
【0025】
[0028]MSCは、骨髄、脂肪組織、末梢血、肺、心臓、羊水、内臓(inner organ)、羊膜、臍帯若しくは胎盤、又は他の組織に由来してもよく、或いは誘導多能性幹細胞(IPSC)又は他の供給源から分化したものであってもよい。
【0026】
[0029]MSCは、炎症誘発性サイトカイン又は分子で刺激することができる。炎症誘発性サイトカインは、TNF-α、IL-1、IL-2、IL-6、IL-12、IL-17A、IL-18、IFN-γ、又はそれらの任意の組合せから選択することができる。一部の実施形態では、MSCは、TNF-α及びIL-17Aの両方で、又はその他の組合せで刺激する。その他の炎症誘発性分子には、C反応性タンパク質(CRP)又は病原性因子が含まれる。病原性因子は、宿主における生体的適所への定着、免疫回避若しくは宿主の免疫応答の回避、免疫抑制若しくは宿主の免疫応答の阻害、細胞の出入り、又は宿主からの栄養素の獲得を支援する任意のウイルス分子であってもよい。病原性因子の一例は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質である。
【0027】
[0030]驚くべきことに、IL-17A単独で処置したときに、MSCは抗炎症サイトカインを産生しないか、又は非常に低レベルで産生することが示された。MSCをIL-17A及びTNF-αで一緒に処置したとき、MSCは非常に高レベルの抗炎症サイトカインを産生する。この予期せぬ発見が重要な理由は、細胞のポテンシーを評価するために必要な現在の基準が、特定の分子の産生を促進する受容体の能力を評価することなく、細胞がある特定の受容体又はバイオマーカーを発現していることを確認することである。この発見は、細胞が特定の分子を産生することが知られている受容体を保有していても、細胞はその後の処置に有用な効率的なポテンシーで前記分子を産生しない可能性があることを確認するものである。さらに、MSCが、特定の患者に対する特定の処置に最適になるために、適応症又は患者に特異的な炎症誘発性分子の様々な組合せに様々に応答できることを示すものである。
【0028】
[0031]MSCを刺激するために使用した炎症誘発性サイトカイン又は分子の量は、500個~50,000個のMSCを50~200マイクロリットルの培地中で培養する条件下で、10fg/mL~10μg/mL、1pg/mL~10μg/mL、1μg/mL~10μg/mL、1fg/mL~1pg/mL、1fg/mL~10μg/mL、又は1pg/mL~5μg/mLの範囲であってもよい。濃度は、細胞数及び/又は体積の変化に応じて調整される。
【0029】
[0032]抗炎症性サイトカイン産生のレベルを定量する前に、MSCは、1時間~24時間、1時間~12時間、2時間~6時間、又は1時間~4時間、24時間~120時間、24時間~72時間、又は120時間以上、炎症誘発性サイトカイン又は分子で刺激することができる。
【0030】
[0033]MSCを炎症誘発性サイトカイン又は分子で刺激した後に調査及び定量することができる抗炎症性サイトカインは、IL-1RA、IL-4、IL-7、IL-8、IL-10、IL-13、G-CSF、又はそれらの任意の組合せである。
【0031】
[0034]その他の実施形態では、炎症誘発性サイトカイン又は分子によるMSCの刺激は、50~200マイクロリットルの培地中で培養した500個~50,000個の細胞毎に、1fg/mL~100ng/mL、1fg/mL~10μg/mL、1fg/mL~10pg/mL、1fg/mL~10fg/mL、10fg/mL~10pg/mL、10pg/mL~10μg/mL、10μg/mL~1mg/mL、1pg/mL~10pg/mL、1μg/mL~10μg/mL、又は10pg/mL~1μg/mLの範囲の濃度の抗炎症性分子の産生を引き起こすことができる。濃度は、細胞数及び/又は培地の体積の変化に応じて調整してもよい。
【0032】
[0035]一部の実施形態では、方法は、炎症誘発性サイトカインで刺激する前に、MSC上のバイオマーカーの発現をチェックすることをさらに含む。探索され得るバイオマーカーは、CD105+、CD90+、CD73+、CD45-、CD34-、CD19-、CD11b-、HLA-DR-、IL-17RA+、又はそれらの任意の組合せを含む。
【0033】
[0036]その他の実施形態では、方法は、炎症誘発性サイトカインで刺激する前に、MSCを基材(substrate)上に播種するステップをさらに含む。基材は、膜、プラスチック表面、ガラス表面、又は96ウェルプレート等の細胞培養ウェルプレートであってもよく、基材コーティングが追加されていてもいなくてもよい。基材上にMSCを播種する期間は、1時間~24時間、1時間~12時間、2時間~6時間、又は1時間~4時間であってもよい。MSCは、播種期間が経過した後、基材に適切に付着していなければならない。
【0034】
[0037]MSCは、炎症誘発性サイトカインで刺激する前に、MSCのより小さな集団に分けることができる。MSCをより小さな集団に分離すると、刺激後に抗炎症性サイトカインを産生するMSCの能力のより正確な評価がもたらされる。
【0035】
[0038]一部の実施形態では、方法は、炎症誘発性サイトカインで刺激した後に、MSCの上清を単離するステップをさらに含んでもよい。上清は、収集したら、-80℃で保存することができる。上清は、MSCから産生された抗炎症性サイトカインのレベルを決定するために、電気化学発光イムノアッセイを使用してさらに分析することができる。ポテンシーアッセイで典型的に使用される検出方法は、電気化学発光イムノアッセイほど感度が高くないため、電気化学発光イムノアッセイを使用すると、MSCによって産生されたフェムトグラム濃度のサイトカインの検出が可能である。
【0036】
[0039]その他の実施形態では、方法は、MSCが炎症誘発性サイトカインで一定期間刺激された後に、MSCに対して生存率(viability)アッセイを実施することをさらに含む。生存率アッセイは、CellTiter-Gloアッセイ(Promega)等のATP検出アッセイ、テトラゾリウム還元アッセイ、レサズリン還元アッセイ、プロテアーゼ生存率マーカーアッセイ、ナトリウム-カリウム比アッセイ、細胞溶解若しくは膜漏出アッセイ、ミトコンドリア活性若しくはカスパーゼアッセイ、機能アッセイ、ゲノム及びプロテオミクスアッセイ、又はそれらの任意の組合せであってもよい。MSCの生存率は、フローサイトメトリーを使用して評価することもできる。
【0037】
[0040]炎症誘発性サイトカインで刺激した後のMSCの生存率は、ビヒクルで処置したMSC集団と比較した場合、70%を超えることがある。
【0038】
[0041]その他の実施形態では、方法は、産生された抗炎症性分子の量に基づいてMSCのポテンシーに等級を割り当てることをさらに含む。MSCのポテンシーに割り当てられる等級には、閾値等級が含まれ、MSCは、50~200マイクロリットルの培地中で培養した500個~50,000個の細胞毎に、少なくとも1fg/mL~100ng/mL、1fg/mL~10μg/mL、1fg/mL~10pg/mL、1fg/mL~10fg/mL、10fg/mL~10pg/mL、10pg/mL~10μg/mL、10μg/mL~1mg/mL、1pg/mL~10pg/mL、1μg/mL~10μg/mL、又は10pg/mL~1μg/mLの抗炎症性サイトカインを産生するポテンシー等級を保有することができる。
【0039】
[実施例]
[0042]実施例1
[0043]骨髄吸引液から得られ、その後凍結保存されたヒトMSCの集団を解凍した。解凍時、MSCの一定量を免疫表現型決定のために採取して、細胞の同一性を確認した。これには、MSCがCD105、CD90、及びCD73を発現しているが、CD45、CD34、CD19、CD11b、及びHLA-DRを発現していないことの確認が含まれた。
【0040】
[0044]残りの細胞から、10,000個のMSCを96ウェルプレートのウェルに播種し、培養培地中で一晩接着させた。翌日、96ウェルプレート中の培地を新鮮な培養培地及びビヒクル(PBS、Gibco)又は炎症誘発性サイトカイン濃縮液(R&D Systems)のいずれかと交換した。24時間後、上清を収集し、Cell-titer gloアッセイを使用して細胞生存率を評価した。MSD電気化学発光イムノアッセイによって免疫調節性サイトカイン産生について上清を分析した。翌日の検出の前に、上清を適切なMSDプレート上で4℃で一晩インキュベートした。
【0041】
[0045]
図1は、24時間TNF-αで刺激した後、上清中においてMSCから産生された免疫調節性サイトカインの濃度レベルを示している。示したデータは、MSCの3つの個々のロットからの代表的な実験の平均±標準偏差である。MSCは、用量依存的に、TNF-αによる刺激から24時間以内に、IL-1RA、IL-4、IL-7、IL-8、IL-10、及びIL-13を含む複数の免疫調節性サイトカインの強力な産生を示した。
【0042】
[0046]
図2は、TNF-αで24時間インキュベーションした後のMSCの細胞生存率を示している。上清を収集し、細胞力価glo試薬をMSCに添加した。試薬を室温で10分間インキュベートさせた。10分後、SpectraMaxプレートリーダーで発光を読み取った。細胞生存率は、ビヒクルのみで処置した細胞に対して値を正規化することによって決定した。最高濃度の100ng/mlで刺激したMSCを含め、TNF-αで処置したMSCは全て、80%を超える平均細胞生存率を示した。
【0043】
[0047]実施例2
[0048]経時的なMSCによる免疫調節サイトカインの産生を測定するために、実施例1の10,000個のMSCを96ウェルプレートの各ウェルの培養培地中に播種し、一晩接着させた。翌日、培地を新鮮な培養培地と交換し、ビヒクル(PBS、Gibco)又は10pg/mlの組換えヒトTNF-α(R&D Systems)のいずれかで細胞を指示した時間刺激した。上清を収集し、MSD電気化学発光イムノアッセイによって抗炎症性サイトカイン産生について分析した。
【0044】
[0049]
図3は、10pg/mLのTNF-αに曝露した後の様々な時点でのMSCの抗炎症性サイトカイン産生を示している。MSCの3つの個々のロットからの代表的な実験の平均倍率変化±標準偏差として示されたデータ。細胞は、24時間の時間経過にわたってIL-1RA、IL-4、IL-7、IL-8、IL-10、及びIL-13の持続的な産生を示した。
【0045】
[0050]実施例3
[0051]IL-17Aに応答したMSCによる免疫調節サイトカインの産生を測定するために、10,000個のLMSCを96ウェルプレートの各ウェルの培養培地中に播種し、一晩接着させた。翌日、培地を新鮮な培養培地と交換し、指示した濃度のIL-17Aを24時間添加する前に、ビヒクル(PBS、Gibco)又は1pg/mlの組換えヒトTNF-α(R&D Systems)のいずれかで細胞を1時間刺激した。上清を収集し、抗炎症性サイトカイン産生について分析した。
【0046】
[0052]
図4は、IL-17A単独又はIL-17A及びTNF-αに曝露した後の抗炎症性サイトカインIL-8及びIL-13の産生を示す。IL-17A単独で刺激した場合、細胞はIL-8及びIL-13の産生を示さないか、又はほとんど産生を示さなかったが(
図4a)、IL-17A及びTNF-αに曝露すると、IL-17Aに対して用量依存的な応答で、IL-8及びIL-13の産生が有意に増加し、TNF-αがMSCをIL-17Aに対して感作させることを示唆している。これらの結果は、IL-13産生の調査中にも発見された(
図4b)。
【0047】
[0053]本開示は、本明細書に記載された特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。実際に、記載された特定の実施形態に加えて、本明細書で提供した主題の様々な改変が、前述の説明から当業者に明らかになるであろう。このような改変は、添付した特許請求の範囲内に入るものとする。
【0048】
[0054]様々な刊行物、特許、及び特許出願が本明細書で引用されているが、それらの開示はその全体が参照によって組み込まれる。
【国際調査報告】