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特表2023-522963炎症性疾患を治療するためのパルミトイル化/脱パルミトイル化サイクルの標的化
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(54)【発明の名称】炎症性疾患を治療するためのパルミトイル化/脱パルミトイル化サイクルの標的化
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230525BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20230525BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230525BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20230525BHJP
   A61K 31/20 20060101ALI20230525BHJP
   A61K 31/336 20060101ALI20230525BHJP
   A61K 31/7072 20060101ALI20230525BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230525BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230525BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230525BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230525BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230525BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230525BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20230525BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20230525BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20230525BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230525BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230525BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K31/7105
A61K48/00
A61K31/496
A61K31/20
A61K31/336
A61K31/7072
A61P1/04
A61P25/00
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P37/06
A61P3/10
A61P19/06
A61P11/06
A61P17/06
A61P29/00
C12N15/09 100
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564164
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(85)【翻訳文提出日】2022-12-21
(86)【国際出願番号】 US2021028811
(87)【国際公開番号】W WO2021216980
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】63/014,735
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508298488
【氏名又は名称】コーネル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ヘニング・リン
(72)【発明者】
【氏名】ミンミン・チャン
(72)【発明者】
【氏名】タオ・ユー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB11
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086CA04
4C086EA16
4C086EA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA62
4C086ZA68
4C086ZA89
4C086ZA96
4C086ZB08
4C086ZB11
4C086ZB15
4C086ZC31
4C086ZC35
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4C206ZB08
4C206ZB11
4C206ZB15
4C206ZC31
4C206ZC35
(57)【要約】
本開示は、炎症性障害を治療するための方法であって、該障害を患う患者に炎症誘発性転写因子のS-パルミトイル化を制御する酵素の有効量の阻害剤を投与することを含む方法を対象とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性障害を治療するための方法であって、該障害を患う患者に炎症誘発性転写因子のS-パルミトイル化を制御する酵素の有効量の阻害剤を投与することを含む、方法。
【請求項2】
酵素は、ジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼ7(ZDHHC7)またはジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼ3(ZDHHC3)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酵素はリゾホスホリパーゼ2(LYPLA2)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酵素の阻害剤は核酸阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
核酸阻害剤は、アンチセンスRNA、低分子干渉RNA、マイクロRNA、人工マイクロRNA、およびリボザイムからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
酵素の阻害剤はゲノム編集システムである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ゲノム編集システムは、CRISPR/Casシステム、Cre/Loxシステム、TALENシステム、ZFNシステム、および相同組換えからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
CRISPR媒介ゲノム編集は、Cas9ヌクレアーゼをコードする第1の核酸、ガイドRNA(gRNA)を含む第2の核酸を患者に導入することを含み、前記gRNAは、酵素をコードする遺伝子に特異的である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
酵素の阻害剤は小分子阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
酵素はLYPLA2であり、阻害剤は、以下の化学式:
【化1】
を有するML349である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
酵素はジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼであり、阻害剤は、2-ブロモパルミチン酸、セルレニン、またはツニカマイシンから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
障害は自己免疫障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
自己免疫障害は、炎症性腸疾患、多発性硬化症、関節リウマチ、ループス、移植片対宿主病、1型糖尿病、痛風、喘息、および乾癬からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
障害は内毒素性ショックである、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2020年4月24日に出願された米国仮出願第63/014,735号からの優先権の利益を主張するものであり、その内容全体を参照によって本明細書に組み入れる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、国立衛生研究所によって付与された認可番号R35GM131808およびR01GM121540の下で政府の支援を受けて為されたものである。政府は本発明にある特定の権利を有する。
【0003】
参照による配列表の組み入れ
2021年4月20日に作成され、38342WO_9346_02_PC_SequenceListing.txtと命名され、EFS-Webを介して米国特許商標庁に提出された、52KBのASCIIテキストファイルでの配列表を、参照によって本明細書に組み入れる。
【背景技術】
【0004】
システインパルミトイル化(S-パルミトイル化)は、タンパク質の膜結合およびタンパク質-タンパク質相互作用を制御する、重要なタンパク質翻訳後修飾(PTM)である。S-パルミトイル化は、保存されたAsp-His-His-Cys配列モチーフからDHHCとして知られる23種のパルミトイルトランスフェラーゼによって触媒され、アシル-タンパク質チオエステラーゼ(APT1、APT2、およびABHDファミリーメンバー)によって除去される。数千のヒトタンパク質がS-パルミトイル化を経ることが知られているが、この修飾がどのように制御されて特定の生物学的機能をモジュレートするのかはあまり理解されていない。
【0005】
潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む炎症性腸疾患(IBD)などの慢性炎症性疾患の治療の選択肢は限られている。IBDの病因論はわかっていないが、IBDと免疫制御異常の関連は広く研究されてきた。IBD患者には炎症誘発性細胞が数多く存在することがその進行に寄与しており、炎症誘発性細胞の分化を阻止することが疾患の治療に有用であり得るはずである。
【0006】
強力な免疫抑制性サイトカインとして、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)は、ナイーブCD4 T細胞からの制御性T(Treg)細胞の分化を誘導することによって抗炎症エフェクター/記憶免疫細胞の成熟および機能を抑制する。しかし、インターロイキン-6(IL-6)と合わさると、TGFβは、ナイーブCD4 T細胞からの炎症誘発性Tヘルパー17(Th17)の分化を促進する。Th17細胞は、レチノイン酸受容体関連オーファン受容体ガンマt(ROR-γt、遺伝子名RORC)およびインターロイキン-17(IL-17、遺伝子名IL17A)の発現によって特徴付けられる。多発性硬化症(MS)、炎症性腸疾患(IBD)、および関節リウマチ(RA)などの多くの免疫関連疾患は、アンバランスなTreg/Th17細胞比を有する慢性の炎症過程であり、そのことから、T細胞の分化が免疫疾患に鍵となる役割を果たすことが示唆される。TGFβシグナル伝達経路はT細胞の分化に重要な役割を果たすことから、TGFβの相反する機能がどのように制御されているのかを理解することは、免疫関連疾患を治療するのに有用であり得るはずである。
【0007】
17細胞は、インターロイキン-17(IL-17、IL17Aによってコードされる)およびレチノイン酸受容体関連オーファン受容体ガンマt(RORγt、RORCによってコードされる)の発現によって特徴付けられる、炎症誘発性T細胞のサブグループである。T17細胞の分化の加速は、IBDにおいて重要な病原性役割を有しており、T17細胞が数多く存在することは、IBDのマウスモデルおよび患者において疾患活動性と相関している。IBD患者の血清はサイトカインに富んでおり、それによってナイーブCD4 T細胞からT17への分化が可能となる。特定のサイトカインの刺激の下で、ナイーブCD4 T細胞におけるSTAT3は、ヤヌスキナーゼ2(JAK2)によってリン酸化される。p-STAT3は、鍵となる転写因子として、下流の標的遺伝子(RORCおよびIL17A)の発現およびT17細胞の分化を促進する。T17の分化にSTAT3の役割が重要であることから、STAT3がどのように制御されているのかを理解することは、T17細胞を制御する新たな方法を提供し得るはずである。
【0008】
TGFβシグナルの細胞内導入は、細胞膜上でTGFβがTGFβ受容体II(TGFβRII)に結合することによって開始される。続いて、TGFβRIIは、TGFβ受容体I(TGFβRI)をリン酸化し、活性化する。TGFβに対する一次応答体として、マザーズアゲンストデカペンタプレジックホモログ(mothers against decapentaplegic homolog)2および3(SMAD2およびSMAD3)は、TGFβ受容体制御型SMAD(R-SMAD)と高度に相同である。それらは、TGFβRによって動員され、カルボキシ末端(C末端)上の2つのセリン残基(SMAD2ではSer465/Ser467、SMAD3ではSer423/Ser425)でリン酸化される。SMAD4は、唯一知られているヒトCo-SMADとして、R-SMADと組んで転写共制御因子を複合体へ動員する。SMAD2およびSMAD3は、同じ上流シグナル伝達経路および多くの下流のパートナーを共有しているが、それらはT細胞の分化では相反する機能を有し、SMAD2はTh17を促進し、SMAD3はTregを促進する。以前の研究から、SMAD2のSer255が細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)によってリン酸化されるとSTAT3とのその相互作用が促進され、次いでSMAD2-STAT3複合体が核に移行してTh17細胞の分化を促進すること、一方、カルボキシ末端がリン酸化されていないSMAD3はSTAT3と相互作用してTh17細胞の分化を抑圧することが示唆されている。この知見は、SMAD2のSer255リン酸化がTh17-Tregのバランスを取っている可能性があることを示唆しているが、このリン酸化過程がどのように制御されているかはほとんどわかっていない。この制御機構を理解すれば、Th17-Treg比を制御し、免疫関連疾患を治療する新たな治療戦略を提供することができる。
【0009】
マザーズアゲンストデカペンタプレジックホモログ2および3(SMAD2およびSMAD3)は、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)に応答する同じ一次シグナル経路を共有しているが、それらはT細胞の分化に関して相反する作用を有しており、SMAD2は炎症誘発性Tヘルパー17(Th17)を促進し、一方SMAD3は、抗炎症制御性T(Treg)細胞を促進する。それらの相反するT細胞分化機能がどのように実現され、制御されているのかは未だに理解されておらず、それを理解することは炎症性疾患の治療に役立つ可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示のある態様は、炎症性障害を治療するための方法であって、該障害を患う患者に炎症誘発性転写因子のS-パルミトイル化を制御する酵素の有効量の阻害剤を投与することを含む方法を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
幾つかの実施形態では、酵素は、ジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼ7(ZDHHC7)またはジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼ3(ZDHHC3)である。
【0012】
幾つかの実施形態では、酵素はリゾホスホリパーゼ2(LYPLA2)である。
【0013】
幾つかの実施形態では、酵素の阻害剤は核酸阻害剤である。
【0014】
幾つかの実施形態では、核酸阻害剤は、アンチセンスRNA、低分子干渉RNA、マイクロRNA、人工マイクロRNA、およびリボザイムからなる群から選択される。
【0015】
幾つかの実施形態では、酵素の阻害剤は、ゲノム編集システムである。幾つかの実施形態では、ゲノム編集システムは、CRISPR/Casシステム、Cre/Loxシステム、TALENシステム、ZFNシステム、および相同組換えからなる群から選択される。
【0016】
幾つかの実施形態では、CRISPR媒介ゲノム編集は、Cas9ヌクレアーゼをコードする第1の核酸、ガイドRNA(gRNA)を含む第2の核酸を患者に導入することを含み、前記gRNAは、酵素をコードする遺伝子に特異的である。
【0017】
幾つかの実施形態では、酵素の阻害剤は小分子阻害剤である。
【0018】
幾つかの実施形態では、酵素はLYPLA2であり、阻害剤は、以下の化学式:
【化1】
を有するML349である。
【0019】
幾つかの実施形態では、酵素はジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼであり、阻害剤は、2-ブロモパルミチン酸、セルレニン、またはツニカマイシンから選択される。
【0020】
幾つかの実施形態では、障害は自己免疫障害である。幾つかの実施形態では、自己免疫障害は、炎症性腸疾患、多発性硬化症、関節リウマチ、ループス、移植片対宿主病、1型糖尿病、痛風、喘息、および乾癬からなる群から選択される。
【0021】
幾つかの実施形態では、障害は、内毒素性ショック、例えばLPSに誘導される内毒素性ショックである。
【0022】
本特許または特許出願は、少なくとも1枚のカラー図面を含む。カラー図面(1枚または複数)を有する本特許または特許出願公開の複写は、申請および必要な料金の支払いによって特許庁より提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1-1】図1A~1Dは、DHHC7(ZDHHC7と同義)に誘導されるパルミトイル化がSTAT3の膜移行を促進することを示す図である。(A)HEK293T細胞にFlag-STAT3およびHA-DHHC7をトランスフェクトした。ヒドロキシルアミン(NHOH)で処理した場合または処理していない場合のSTAT3のパルミトイル化レベルを、Alk14標識を使用して検出した。(B)左、野生型およびDHHC7ノックアウトHEK293T細胞における内在性STAT3およびJAK2の細胞内局在を、共焦点画像分析を使用して分析した。スケールバー、50μm。右、ピアソン相関係数を使用したSTAT3とJAK2の共局在の定量化。(C)左、DHHC7を異所的に発現するDHHC7ノックアウトHEK293T細胞におけるEGFP-STAT3およびEGFP-STAT3(C108S)の細胞内局在。スケールバー、100μm。右、STAT3が核から形質膜および内膜に移行したDHHC7陽性細胞のパーセンテージ。(D)野生型およびDHHC7ノックアウトHEK293T細胞にFlag-STAT3をトランスフェクトし、Alk14で標識した。細胞成分分画を実施し、ゲルに使用する野生型およびノックアウト細胞分画に確実に等量のSTAT3が存在するように、STAT3のタンパク質レベルを調整した。膜(mem.)、細胞質(cyto.)、および核(nuc.)分画における免疫沈降STAT3のパルミトイル化レベルをゲル内蛍光によって可視化した。データは、平均±s.e.m.である。**P<0.01。
図1-2】図1-1の続き。
図1-3】図1-2の続き。
図2-1】図2A~2Hは、APT2がSTAT3の脱パルミトイル化酵素であり、パルミトイル化/脱パルミトイル化がp-STAT3の核局在を促進することを示す図である。(A)C108は、STAT3の主要なパルミトイル化部位である。HEK293T細胞にHA-DHHC7およびFlag-STAT3(野生型または変異体)をトランスフェクトし、Alk14で標識した。STAT3をプルダウンし、Alk14標識およびウエスタンブロット分析に供した。(B)左、DHHC7またはDHHS7を再導入したDHHC7ノックアウトHEK293T細胞の細胞成分分画におけるSTAT3およびp-STAT3の野生型またはC108S変異体の分布。右、相対的なp-STAT3レベルの定量化。(C)DHHC7ノックアウトHEK293T細胞に様々なEGFP-STAT3構築物およびHAタグ付きDHHC7をトランスフェクトした後、共焦点画像分析を使用してSTAT3およびp-STAT3の細胞内局在を分析した。スケールバー、50μm。(D)HEK293T細胞において、野生型APT2を過剰発現させると、Alk14標識で判定したときにFlag-STAT3のパルミトイル化レベルが減少したが、C2SまたはS122A変異体を過剰発現させても減少しなかった。(E)APT2は、野生型STAT3をY705F変異体より優先的に脱パルミトイル化する。DHHC7ノックアウトHEK293T細胞に、示したプラスミドをトランスフェクトし、Alk14で標識した。STAT3のパルミトイル化をゲル内蛍光で判定し(左)、定量化した(右)。(F)APT2を阻害またはノックダウンすると、Flag-STAT3のパルミトイル化が増大する。DHHC7ノックアウトHEK293T細胞にHA-DHHC7およびFlag-STAT3を再導入し、LYPLA2 siRNAまたは20μMのML349で36時間処理した後に、Alk14標識およびゲル内蛍光検出を行った。(G)左、APT2ノックダウンHEK293T細胞の異なる細胞成分分画におけるSTAT3およびp-STAT3の分布を。右、これらの分画における相対的なSTAT3およびp-STAT3レベルの定量化。(H)左、1μMのJAK2阻害剤フェドラチニブで処理した場合または処理していない場合の、DHHC7過剰発現HEK293T細胞の細胞成分分画におけるSTAT3およびp-STAT3の分布。右、これらの分画における相対的なSTAT3レベルの定量化。データは、平均±s.e.m.である。P<0.05;**P<0.01。
図2-2】図2-1の続き。
図3図3A~3Eは、STAT3のパルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルがT17細胞の分化を促進することを示す図である。(A)DHHC7は、マウス脾細胞において野生型STAT3のリン酸化を促進したが、C108S変異体のリン酸化は促進しなかった。左、STAT3およびp-STAT3のブロット;右、相対的なp-STAT3レベルの定量化。(B)Aでの脾細胞サンプルにおけるT17細胞の分化をフローサイトメトリーによって定量化した。(C)APT2を阻害すると、T17細胞の分化は用量依存的に減少する。マウス脾細胞をサイトカインカクテル(3ng ml-1 TGF-β、40ng ml-1 IL-6、30ng ml-1 IL-23、20ng ml-1 TNF、および10ng ml-1 IL-1β)および様々な濃度のML349で4日間処理し、次いで収集し、フローサイトメトリーによって分析して、CD4およびIL-17陽性細胞を検出した。(D)脾細胞においてDHHC7をノックアウトすると、T17細胞の分化が阻害される。野生型およびDHHC7ノックアウトマウス脾細胞をサイトカインカクテルで4日間処理して分化を開始させ、次いで細胞を収集し、フローサイトメトリーによって分析してCD4およびIL-17陽性細胞を検出した。(E)左、野生型およびDHHC7ノックアウト脾細胞のSTAT3およびp-STAT3のブロット。右、相対的なp-STAT3レベルの定量化。データは、平均±s.e.m.である。**P<0.01。
図4-1】図4A~4Iは、STAT3のパルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルが大腸炎を悪化させることを示す図である。(A)、(B)健常な参加者(Ctrl)26人、クローン病患者24人(CD;寛解期(rem.)7人および活動期(act.)17人)、および潰瘍性大腸炎患者10人(UC;寛解期1人および活動期9人)からヒトPBMCを抽出した。qPCRを使用してLYPLA2およびZDHHC7 mRNAレベルを分析した。相対的なp-STAT3レベルをウエスタンブロットによって定量化した。c、d、IL17A(C)またはp-STAT3(D)とIBD患者34人における、示した遺伝子のmRNAレベルの相関関係。(E)、(F)、C57BL/6Jマウスを、自由に摂取する飲料水中2.5%DSSで処理し、DSS処理を開始した日にML349を1日1回腹腔内注射した。体重の変化(E)および脾臓におけるT17細胞のレベル(F)を評価した。(G)、(H)、野生型およびDHHC7ノックアウトマウスを、自由に摂取する飲料水中2.5%のDSSで処理した。体重の変化(G)および脾臓におけるT17細胞のレベル(H)を評価した。(I)、パルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルによるSTAT3の制御のモデル。DHHC7によってSTAT3がパルミトイル化されると、STAT3の膜動員およびリン酸化が促進される。APT2は、STAT3よりp-STAT3を選択的に脱パルミトイル化することによってp-STAT3の核移行を促進する。パルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルは、STAT3の膜局在およびリン酸化、ならびにp-STAT3の核移行を駆動する。このサイクルの方向は、APT2がSTAT3よりp-STAT3を優先することによって確保される。データは、平均±s.e.m.として表される。P<0.05;**P<0.01。
図4-2】図4-1の続き。
図5図5A~5Gは、SMAD2がDHHC7によってパルミトイル化されることを示す図である。(A)HEK293T細胞に、Flag-SMAD2および示したHA-DHHCプラスミドをトランスフェクトし、Alk14代謝標識およびゲル内蛍光を使用してパルミトイル化レベルを判定した。使用したすべてのDHHC遺伝子はマウス由来であり、DHHC10/Zdhhc11、DHHC11/Zdhhc23、DHHC13/Zdhhc24、およびDHHC22/Zdhhc13を除いてタンパク質番号は遺伝子番号と一致している。(B)Aにおける相対的なパルミトイル化レベルの定量化。パルミトイル化レベルは、SMAD2のタンパク質レベルによって正規化し、対照(Alk14を有するが、DHHC過剰発現を有しない)のレベルを1に設定した。(C)、(D)HEK293T細胞にそれぞれFlag-SMAD3およびFlag-SMAD4、ならびに示したHA-DHHCプラスミドをトランスフェクトした。Alk14標識およびゲル内蛍光を使用してパルミトイル化レベルを検出した。(E)HEK293T細胞にHA-DHHC1-23プラスミドをトランスフェクトし、NHOH処理を有するABEアッセイによってパルミトイル化レベルを検出した。(F)HEK293T細胞にそれぞれFlag-SMAD2およびFlag-SMAD3、ならびに示したHA-DHHC7プラスミドをトランスフェクトした。Alk14標識および免疫ブロットを使用してパルミトイル化レベルを検出した。(G)DHHC7 WTおよびノックアウトHEK293T細胞におけるSMAD2のパルミトイル化レベルを、ABEを使用して検出した。定量化データは、平均±SEMとして表す。アスタリスク()は有意差(**P<0.01)を示す。
図6図6A~6Fは、Cys41およびCys81がパルミトイル化されるとSMAD2の膜動員が促進されることを示す図である。(A)、(B)HEK293T細胞にHA-DHHC7および様々なFlag-SMAD2システイン変異体をトランスフェクトし、Alk14で標識した。免疫沈降SMAD2のS-パルミトイル化レベルをゲル内蛍光で可視化した。(C)SMAD2 C41/81S変異体は、DHHC7によってパルミトイル化することができなかった。DHHC7 WTおよびKO HEK293T細胞にFlag-SMAD2 C41/81S変異体プラスミドをトランスフェクトし、Alk14で処理した。免疫沈降SMAD2 C41/81SのS-パルミトイル化レベルをゲル内蛍光によって可視化した。(D)DHHC7を異所的に発現するDHHC7 KO HEK293T細胞におけるSMAD2-WTおよびC41/81S変異体の細胞内局在を示す共焦点画像分析。スケールバー、50μm。(E)SMAD2 C41/81S変異によってSMAD2の細胞質局在が減少し、核局在が増大する。DHHC7 KO HEK293T細胞にHA-DHHC7および示したFlag-SMAD2構築物をトランスフェクトし、細胞成分分画を実施した。次いで等量の核および膜分画をウエスタンブロットによって分析した(左)。相対的なSMAD2レベルを定量化した(右)。(F)WTまたは不活性変異体DHHC7を異所的に発現するDHHC7 KO HEK293T細胞の様々な細胞成分分画におけるSMAD2のS-パルミトイル化。この細胞にFlag-SMAD2をトランスフェクトし、Alk14で標識した。細胞分画を実施し、SMAD2のタンパク質レベルをCBBによって再調整して、WTおよび変異体細胞分画中のSMAD2が確実に等しくゲル分析にロードされるようにした。膜(Mem)、細胞質(Cyto)、および核(Nuc)分画における免疫沈降SMAD2のS-パルミトイル化レベルをゲル内蛍光によって可視化した。定量化データは、平均±SEMとして表す。アスタリスク()は有意差を示す(**P<0.01)。
図7図7A~7Gは、APT2がSMAD2の脱パルミトイル化酵素であり、SMAD2のC末端リン酸化がS-パルミトイル化とは無関係であることを示す図である。(A)HAタグ付きマウスDHHC1-23を発現するHEK293T細胞におけるFlag-SMAD2(p-SMAD2(C2))のC末端リン酸化(Ser465/Ser467)レベル。SMAD2をFlagビーズでプルダウンし、ウエスタンブロット分析に供した。(B)HEK293T細胞にHAタグ付きDHHC7およびFlag-SMAD2 WTおよびC41/81S変異体プラスミドをトランスフェクトし、Alk14で処理した。免疫沈降SMAD2のS-パルミトイル化レベルをゲル内蛍光によって可視化し、p-SMAD2(C2)レベルをウエスタンブロット分析によって検出した。(C)HEK293T細胞に、HAタグ付きDHHC7および示した通りのFlag-SMAD2プラスミドをトランスフェクトし、TGFβで処理した。SMAD2をFlagビーズでプルダウンし、ウエスタンブロット分析に供した。(D)HEK293T細胞に、HAタグ付きDHHC7および示した通りのFlag-SMAD2プラスミドをトランスフェクトし、示した通りの10μMのAPT阻害剤で24時間処理した。免疫沈降SMAD2のS-パルミトイル化レベルをゲル内蛍光によって可視化した。(E)WT APT2は、DHHC7によって導入されたWT SMAD2へのS-パルミトイル化をアミノ酸425~467で切断した変異体へのS-パルミトイル化よりよく除去することができた。DHHC7ノックアウトHEK293T細胞に、示したプラスミドをトランスフェクトした。細胞をAlk14で標識し、SMAD2のS-パルミトイル化をゲル内蛍光によって判定した。(F)WT APT2は、DHHC7によって導入されたWT SMAD2へのS-パルミトイル化を除去することができ、C末端リン酸化変異体でも同様であった。DHHC7ノックアウトHEK293T細胞に、示したプラスミドをトランスフェクトした。この細胞をAlk14で標識し、SMAD2のS-パルミトイル化をゲル内蛍光によって判定し、p-SMAD2(C2)レベルをウエスタンブロット分析によって検出した。(G)DHHC7ノックアウトHEK293T細胞に、示したプラスミドをトランスフェクトした。SMAD2をFlagビーズでプルダウンし、ウエスタンブロット分析に供した。
図8図8A~8Eは、DHHC7がSMAD2のリンカーリン酸化(p-SMAD2(L3))および活性を促進することを示す図である。(A)Flag-SMAD2 WTを過剰発現させると、HEK293T細胞においてRORC mRNAレベルが増加したが、変異体を過剰発現させても増加しなかった。(B)DHHC7ノックアウトHEK293T細胞に、示したプラスミドをトランスフェクトした。SMAD2をFlagビーズでプルダウンし、ウエスタンブロット分析に供した。(C)DHHC7ノックアウトHEK293T細胞に、示したプラスミドをトランスフェクトした。細胞溶解物をウエスタンブロット分析に供した。(D)DHHC7 WTおよびノックアウトHEK293T細胞の様々な細胞成分分画におけるSMAD2およびp-SMAD2(L3)の分布(左)。相対的なSMAD2およびp-SMAD2(L3)レベルを定量化した(右)。(E)Flagタグ付きSMAD2をDHHC7 WTおよびノックアウトHEK293T細胞にトランスフェクトした後、共焦点画像分析を使用してSMAD2およびp-SMAD2(L3)の細胞内局在を分析した(左)。相対的なp-SMAD2(L3)レベルを定量化した(右)。スケールバー、50μm。これらの値は、平均±SEMとして表した。**、P<0.01。
図9-1】図9A~9Gは、DHHC7誘導S-パルミトイル化がSMAD2のSMAD4およびSTAT3との相互作用を促進することを示す図である。(A)、(B)Flag-SMAD4は、HEK293T細胞において、示したDHHC7過剰発現と共発現させると、HA-SMAD2をプルダウンした。HA-SMAD2のFlag-SMAD4との相互作用は、変異体DHHC7の過剰発現での方がWTと比較してはるかに弱かった。HA-SMAD2 C41/81S変異体のFlag-SMAD4との相互作用の方がはるかに弱かった。(C)Flag-STAT3は、HEK293T細胞において、示したDHHC7と共発現させると、HA-SMAD2をプルダウンした。HA-SMAD2のFlag-STAT3との相互作用は、変異体DHHC7での方がWT DHHC7よりもはるかに弱かった。Flag-STAT3のHA-SMAD2 C41/81S変異体との相互作用は、HA-SMAD2 WTとの相互作用よりもはるかに弱かった。(D)Flag-SMAD2は、HEK293T細胞において、示したDHHC7と共発現させると、HA-STAT3をプルダウンした。HA-STAT3のFlag-SMAD2との相互作用は、変異体DHHC7を発現する細胞での方がWT DHHC7よりもはるかに弱かった。HA-STAT3のFlag-SMAD2 C41/81S変異体との相互作用は、Flag-SMAD2 WTとの相互作用よりもはるかに弱かった。(E)Flag-SMAD2およびHA-STAT3の局在を、WTおよびDHHC7 KO HEK293T細胞における共焦点画像分析を使用して分析した(左)。スケールバーは50μmであった。SMAD2とSTAT3の共局在を、ピアソン相関係数を使用して定量化した(右)。(F)WTおよび変異体Flag-SMAD2は、DHHC7を発現するHEK293T細胞においてHA-STAT3をプルダウンした。Flag-SMAD2 S255A変異体のHA-STAT3との相互作用の方がはるかに弱かった。(G)Flag-SMAD2 WTとHA-DHHC7 WTを共過剰発現させると、HEK293T細胞におけるRORC mRNAレベルが増加したが、変異体を共発現させても増加しなかった。定量化データは、平均±SEMとして表す。アスタリスク()は、有意差を示す(**P<0.01)。
図9-2】図9-1の続き。
図10-1】図10A~10Fは、SMDA2のパルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルがTh17細胞の分化を促進することを示す図である。(A)DHHC7は、マウス脾細胞におけるSMAD2のリンカーリン酸化を促進する。SMAD2およびp-SMAD2(L3)のブロットを示し(左)、相対的なp-SMAD2(L3)レベルを定量化する(右)。DHHC7は、SMAD2 C41/81S変異体のリンカーリン酸化も促進したが、その程度ははるかに少なかった。(B)(A)に使用したサンプルについてのTh17細胞の分化のフローサイトメトリーでの定量化。(C)APT2は、マウス脾細胞においてSMAD2 WTまたはC41/81S変異体のいずれのリンカーリン酸化にも有意な影響を及ぼさない。SMAD2およびp-SMAD2(L3)のブロットを示し(左)、相対的なp-SMAD2(L3)レベルを定量化する(右)。(D)(C)に使用したサンプルについてTh17細胞の分化のフローサイトメトリーでの定量化。(E)WTおよびZdhhc7ノックアウトマウス脾細胞におけるFlag-SMAD2による内在性STAT3のプルダウン。STAT3のFlag-SMAD2との相互作用は、Zdhhc7ノックアウト脾細胞での方がはるかに弱かった。示されたブロットを示し(左)、相対的なSTAT3/SMAD2相互作用レベルを定量化する(右)。(F)WTおよびAPT2ノックアウトマウス脾細胞におけるFlag-SMAD2による内在性STAT3のプルダウン。STAT3のFlag-SMAD2との相互作用は、APT2ノックアウト脾細胞での方が弱かった。示されたブロットを示し(左)、相対的なSTAT3-SMAD2相互作用レベルを定量化する(右)。定量化データは、平均±SEMとして表す。、P<0.05;**、P<0.01。
図10-2】図10-1の続き。
図11図11A~11Cは、MSマウスモデルにおいてSMAD2をS-パルミトイル化すると臨床スコアが加速されることを示す図である。WT、Zdhhc7ノックアウト、およびLypla2ノックアウトC57BL/6Jマウスを開始時にMOG35-55および百日咳毒素で処理し、免疫化後2日目に第2の用量の百日咳毒素で処理した。体重の変化(A)、臨床スコア(B)、および脾臓におけるTh17細胞レベル(C)が、示した通りに観察された。定量化データは、平均±SEMとして表す。、P<0.05;**、P<0.01。
図12図12A~12Dは、汎DHHC阻害剤である2-BPが、インフラマソームを活性化するLPSプライミング段階でのサイトカインmRNAの発現を減少させることを示す図である。骨髄由来マクロファージ(BMDM)を100ng/mLリポ多糖(LPS)で処理した。これは、BMDMを抗原刺激してインフラマソームを活性化することができる。パルミトイルトランスフェラーゼ(DHHC)のすべてのDHHCファミリーを阻害する小分子である2-ブロモパルミチン酸(2-BP)をLPSと共に10μMまたは25μMで添加した。細胞をLPSおよび2-BPと共に6時間培養し、次いで幾つかの炎症誘発性サイトカイン:(A)IL-1ベータ、(B)IL-6、(C)IL-12ベータ、および(D)IL-18のmRNAレベルを定量的逆転写PCR(qRT-PCR)によって測定した。2-BPは、すべてのこれらのサイトカインのmRNAレベルを濃度依存的に減少させることができ、そのことからDHHCを阻害するとインフラマソームを活性化するプライミング段階を減少させることができることが示唆される。
図13】2-BPがNLRP3に媒介されるインフラマソームの活性化に影響を及ぼすことを示す図である。腹膜マクロファージを最初にDMEM培地(血清を有しない)中LPS(200ng/mL)で4時間抗原刺激し、次いで2-BP(25μM)およびATP(5mM)またはナイジェリシン(10μM)を細胞培養物に添加し、1時間インキュベートした。ATPおよびナイジェリシンは、NLRP3インフラマソームを活性化するのに汎用される2種の試薬である。次いで、培地に分泌されるIL-1ベータのレベルを測定することによってNLRP3インフラマソームの活性化をモニタリングした。
図14図14A~14Bは、DHHC7をノックアウトするとインフラマソームの活性化中に骨髄由来マクロファージ(BMDM)でのIL-1bおよびIL-18の分泌が減少することを示す図である。DHHC7 WTおよびノックアウトBMDMをDEME培地中LPS(10ng/mL)で一晩抗原刺激した。翌日、この培地をLPS(10ng/mL)およびATP(5mM)を有するDMEM、またはLPS(10ng/mL)およびナイジェリシン(10μM)を有するDMEMに変え、1時間インキュベートしてNLRP3インフラマソームを活性化した。次いで培地を収集して、ELISAキットを使用して分泌された(A)IL-1ベータおよび(B)IL-18を測定した。その結果から、DHHC7をノックアウトするとNLRP3インフラマソームの活性が有意に減少し得ることが示された。
図15】APT2をノックアウトしてもインフラマソームの活性化中にBMDMでのIL-1bの分泌にわずかな影響しか及ぼさないことを示す図である。APT2 WTおよびノックアウトBMDMをDEME培地中LPS(200ng/mL)で4時間抗原刺激した。次いで、この培地をLPS(200ng/mL)およびATP(5mM)を有するDMEM、またはLPS(10ng/mL)およびナイジェリシン(10μM)を有するDMEMに変え、1時間インキュベートしてNLRP3インフラマソームを活性化した。次いで培地を収集し、ELISAキットを使用して分泌されたIL-1ベータを測定した。その結果から、APT2をノックアウトしてもNLRP3インフラマソームの活性が減少し得るが、DHHC7のノックアウトと比較して少ないことが示された。
図16】DHHC7をノックアウトするとマウスにおいてインフラマソームの活性化:LPSに誘導される内毒素性ショックが減少することを示す図である。成体(>8週齢)のB6.129P2(FVB)DHHC7 WTまたはノックアウトマウスに滅菌PBS緩衝液中LPS(35mg/kg)約100μLを腹腔内注射した。12時間後に、マウスを安楽死させ、血清中のIL-1ベータレベルを分析するために血液を収集した。DHHC7をノックアウトすると血清に分泌されたIL-1ベータの量が有意に減少し、そのことからDHHC7をノックアウトするとマウスにおけるインフラマソームの活性化が減少することが示唆された。
図17図17A~17Bは、ループス腎炎マウスモデル:APT2阻害剤ML349がマウスの尿中のタンパク質濃度を減少させることを示す図である。(A)尿中のタンパク質濃度(全データ点)、(B)尿中のタンパク質濃度(平均したもの、エラーバーを有する)。25週齢のNZB/W F1雌マウスにビヒクル溶液(DMSO+PBS)または25mg/KgのAPT2阻害剤ML349のいずれかを週3回、IP注射によって8週間投与した。4週間処理した後に、尿を収集し、尿中のタンパク質濃度を測定することによるタンパク尿分析を通して、マウスをループス発症率について毎週評価した。このデータから、APT2阻害剤ML349は尿中のタンパク質濃度を減少させることができることが示された。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示の発明者らは、幾つかの炎症誘発性転写因子がパルミトイル化/脱パルミトイル化サイクルを経ること、そのことが、それらの炎症誘発性作用に極めて重要であることを見出した。本発明者らはまた、炎症誘発性転写因子のパルミトイル化/脱パルミトイル化サイクルを中断することが炎症性障害の治療に有益であることを見出した。
【0025】
治療方法
幾つかの実施形態では、本方法は、炎症性障害を患う患者に1つまたは複数の炎症誘発性転写因子のS-パルミトイル化を制御する酵素の有効量の阻害剤を投与することを含む。
【0026】
本明細書で使用される場合、「炎症性障害」という語句は、異常なまたは望ましくない炎症に関する障害、例えば、それらに関連するまたはそれらによって引き起こされる障害を指す。幾つかの実施形態では、炎症性障害は、炎症性腸疾患(IBD)(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎)、関節リウマチ、血管炎、肺疾患(例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および肺間質疾患(例えば、特発性肺線維症(IPF))、乾癬、痛風、アレルギー性気道疾患(例えば、喘息、鼻炎)、または内毒素性ショック(例えば、グラム陰性菌の血流感染からのもの、LPSに誘導される内毒素性ショック)から選択される。幾つかの実施形態では、炎症性障害は自己免疫障害である。幾つかの実施形態では、自己免疫障害は、炎症性腸疾患、多発性硬化症、関節リウマチ、ループス、移植片対宿主病、1型糖尿病、または乾癬から選択される。
【0027】
障害を「治療すること」とは、障害の発症を抑制するもしくは遅延させる、症状の発生もしくは頻度を抑制するもしくは低減させる、障害の進行を遅らせる、および/または障害の症状を改善することを意味する。
【0028】
本明細書で使用される場合、「炎症誘発性」という用語は、炎症を促進する作用を指す。炎症誘発性転写因子は、炎症誘発性分子、例えば、炎症誘発性サイトカイン(例えば、インターロイキン(IL)サイトカイン、例えば、IL-1ベータ、IL-6、IL-12ベータ、IL-17、またはIL-18)、または炎症誘発性転写因子、例えばROR-γtなどの転写を指示する転写因子であり得る。幾つかの実施形態では、炎症誘発性転写因子はシグナル伝達因子兼転写活性化因子3(STAT3)である。幾つかの実施形態では、炎症誘発性転写因子はマザーズアゲンストデカペンタプレジックホモログ2(SMAD2)である。幾つかの実施形態では、STAT3および/またはSMAD2はIL-1ベータ、IL-6、IL-12ベータ、IL-17、またはIL-18などの炎症誘発性サイトカインの転写を正に制御し、T17細胞の分化を加速させる。
【0029】
幾つかの実施形態では、炎症誘発性転写因子のS-パルミトイル化を制御する酵素は、ジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼである。幾つかの実施形態では、酵素は、ジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼ7(ZDHHC7)(Genbank Gene ID:55625(ヒト(Homo sapiens))、102193(マウス(Mus musculus)))またはジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼ3(ZDHHC3)(Genbank Gene ID:51304(ヒト)、69035(マウス))である。ヒトZDHHC7のアミノ酸配列は配列番号1に示し、ヒトZDHHC7のヌクレオチド配列は配列番号7に示す。マウスZDHHC7のアミノ酸配列は配列番号2に示し、マウスZDHHC7のヌクレオチド配列は配列番号8に示す。ヒトZDHHC3のアミノ酸配列は配列番号3に示し、ヒトZDHHC3のヌクレオチド配列は配列番号9に示す。マウスZDHHC3のアミノ酸配列は配列番号4に示し、マウスZDHHC3のヌクレオチド配列は配列番号10に示す。ヒトLYPLA2のアミノ酸配列は配列番号5に示し、ヒトLYPLA2のヌクレオチド配列は配列番号11に示す。マウスLYPLA2のアミノ酸配列は配列番号6に示し、マウスLYPLA2のヌクレオチド配列は配列番号12に示す。
【0030】
幾つかの実施形態では、炎症誘発性転写因子のS-パルミトイル化を制御する酵素は、アシルタンパク質チオエステラーゼ2(APT2)とも呼ばれる、リゾホスホリパーゼ2(LYPLA2)(Genbank Gene ID:11313(ヒト)、26394(マウス))である。
【0031】
幾つかの実施形態では、本開示の阻害剤は、単独で、または他の薬物と組み合わせて投与される。
【0032】
幾つかの実施形態では、本開示の阻害剤は小分子阻害剤である。本明細書での「小分子」という用語は、一般に2000ダルトン未満、1500ダルトン未満、1000ダルトン未満、800ダルトン未満、または600ダルトン未満の分子量を有する、小さい有機化学化合物を指す。
【0033】
幾つかの実施形態では、有効量の小分子阻害剤は、約0.2mg/kg~100mg/kgの小分子阻害剤である。他の実施形態では、有効量の小分子阻害剤は、約0.2mg/kg、0.5mg/kg、1mg/kg、8mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、30mg/kg、40mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、70mg/kg、80mg/kg、90mg/kg、100mg/kg、150mg/kg、175mg/kg、または200mg/kgの小分子阻害剤である。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、所与の値の±10%を指す。
【0034】
ある実施形態では、小分子阻害剤は、投与の前に医薬として許容される担体と組み合わせることができる。本開示の目的上、「医薬として許容される担体」は、標準的な医薬担体のいずれかを意味する。適切な担体の例は当技術分野でよく知られており、それらとして、リン酸緩衝食塩溶液および様々な湿潤剤などの標準的な医薬担体のいずれかが挙げることができるが、これらに限定されない。他の担体として、錠剤、顆粒剤、およびカプセル剤などに使用される添加剤を挙げることができる。典型的には、そのような担体は、賦形剤、例えば、デンプン、乳、糖、ある種のクレイ、ゼラチン、ステアリン酸もしくはその塩、ステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウム、タルク、植物性脂肪もしくは植物脂、ガム、グリコール、または他の公知の賦形剤を含む。そのような担体は、香味料もしくは着色添加剤または他の成分も含んでもよい。そのような担体を含む組成物は、よく知られている従来の方法によって製剤化される。
【0035】
小分子阻害剤は、医薬として許容される担体と混合して任意の従来の形態の医薬製剤を作製することができ、そのような形態として、とりわけ、固体形態、例えば、錠剤、カプセル剤(例えば、硬または軟カプセル剤)、丸剤、カシェ剤、散剤、顆粒剤など;液体形態、例えば、液剤、懸濁剤;または微粉化粉末、スプレー、エアロゾルなどが挙げられる。
【0036】
幾つかの実施形態では、本開示の小分子阻害剤は、様々な投与経路、例えば、経口、口鼻、または非経口経路によって投与することができる。
【0037】
「経口(oral)」または「経口的な(peroral)」投与は、口を通してまたは経由して物質を対象の体内に導入することを指し、嚥下もしくは口腔粘膜を通した輸送(例えば、舌下または口腔吸収)またはその両方を含む。
【0038】
「口鼻」投与は、鼻および口を通してまたは経由して物質を対象の体内に導入することを指し、例えば、1滴または複数の液滴を鼻に入れることによって行われるようなものである。口鼻投与は、経口および経鼻投与に関連する輸送過程を含む。
【0039】
「非経口投与」は、消化管を含まない経路を通してまたは経由して物質を対象の体内に導入することを指す。非経口投与として、皮下投与、筋肉内投与、経皮投与、皮内投与、腹腔内投与、眼球内投与、および静脈内投与が挙げられる。
【0040】
幾つかの実施形態では、酵素はLYPLA2であり、小分子阻害剤は、以下の化学式:
【化2】
を有するML349である。
【0041】
幾つかの実施形態では、酵素はジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼであり、小分子阻害剤は、次式:
【化3】
を有する2-ブロモパルミチン酸(2-BP)である。
【0042】
幾つかの実施形態では、酵素はジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼであり、小分子阻害剤は、次式:
【化4】
を有するセルレニンである。
【0043】
幾つかの実施形態では、酵素はジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼであり、小分子阻害剤は、次式:
【化5】
を有するツニカマイシンである。
【0044】
幾つかの実施形態では、酵素の阻害剤は核酸阻害剤である。「核酸阻害剤」は、標的遺伝子の発現または活性を低減させるまたは防止することができる核酸である。例えば、ジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼ遺伝子の発現の阻害剤は、ジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼ遺伝子産物の転写および/または翻訳を低減させまたは排除し、それによってジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼ遺伝子のタンパク質発現を低減させることができる。例えば、ジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼ遺伝子の発現の阻害剤は、ジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼ遺伝子産物の転写および/または翻訳を低減させまたは排除し、それによって,ジンクフィンガーDHHC型パルミトイルトランスフェラーゼ遺伝子のタンパク質発現を低減させることができる。
【0045】
幾つかの実施形態では、核酸阻害剤は、アンチセンスRNA、低分子干渉RNA、マイクロRNA、人工マイクロRNA、およびリボザイムからなる群から選択される。
【0046】
幾つかの実施形態では、酵素の阻害剤はゲノム編集システムである。
【0047】
幾つかの実施形態では、ゲノム編集システムは、CRISPR/Casシステム、Cre/Loxシステム、TALENシステム、ZFNシステム、および相同組換えからなる群から選択される。
【0048】
幾つかの実施形態では、CRISPR媒介ゲノム編集は、Cas9ヌクレアーゼをコードする第1の核酸、ガイドRNA(gRNA)を含む第2の核酸を患者に導入することを含み、前記gRNAは、酵素をコードする遺伝子に特異的である。
【実施例1】
【0049】
材料および方法
Zdhhc7ノックアウトマウス
本研究プロジェクトに使用したマウス系統、B6.129P2(FVB)-Zdhhc7tm1.2Lusc/Mmmh、RRID:MMRRC_043511-MUは、NIHによって資金提供された系統保存機関である、ミズーリ大学のMutant Mouse Resource and Research Center(MMRRC)から得た。それは、B.Luscher(ペンシルベニア州立大学)によってMMRRCに寄贈されたものである。遺伝子型の同定は、MMRRCのプロトコルに従って実施した。野生型対立遺伝子のプライマーは次の通りである:フォワード:TGAGCCAGGATGGATTTCAGACA(配列番号13)およびリバース:TGCCCTCGGACGCAGGAGATGAA(配列番号14)。変異型対立遺伝子のプライマーは次の通りである:フォワード:TCCCCTGATGTATGCGAATGTCC(配列番号15)およびリバース:AACAGGTGCCTTTTGAATGTCAG(配列番号16)。
【0050】
DSSに誘導されるマウス大腸炎モデル
マウスプロトコル2019-0009は、コーネル大学の実験動物委員会(Animal Care and Use Committee)(IACUC)に承認された。すべての動物は、IACUCの規則に従って特定病原菌不在条件下で飼育した。マウス(6~8週齢)は、示した通りに異なる群に無作為に分けた(群当たりマウス8匹、雌雄混合)。大腸炎は、マウスが自由に摂取する飲料水中3.0%のDSS(MP Biomedicals)で処理することによって誘導した。ML349溶液は、示した用量で一日おきにマウスに腹腔内注射した。すべてのマウスを安楽死させ、脾臓を単離してT細胞を検出した。盲腸から肛門までの距離を測定した。病理学検査のために結腸を4%パラホルムアルデヒドで固定した。この試験は非盲検であった。
【0051】
一般的な試薬および抗体
次の試薬および抗体を商業的供給元から購入した:阻害剤カクテル(トリコスタチンA(TSA、T8552、Sigma)、プロテアーゼ阻害剤カクテル(P8340、Sigma)、ホスファターゼ阻害剤カクテル(P0044、Sigma))、フェドラチニブ(S2736、Selleckchem)、ユニバーサルヌクレアーゼ(universal nuclease)(88700、Thermo Fisher)、ブラッドフォードアッセイ(23200、Thermo Fisher)、ジチオスレイトール(DTT;DTT100、Goldbio)、酵素結合化学発光(ECL)プラス(32132、Thermo Fisher)、SYBR Green PCR Master Mix(4472908、Applied Biosystems)、ストレプトアビジンアガロース(20359、Thermo Fisher)、Protein A/G PLUS-Agarose(sc-2003、Santa Cruz Biotechnology)、抗Flagアガロースゲル(A2220、Sigma)、および抗HA親和性ゲル(E6779、Sigma)。抗体は、次の通りである:STAT3(9139、CST)、ホスホ-STAT3(Tyr705)(ab76315、Abcam)、β-アクチン(C4)HRP(SC-47778、Santa Cruz)、Na/K-ATPアーゼ(SC-21712、Santa Cruz)、ヒストンH3(4499S、CST)、Flag HRP(A8592、Millipore)、HA-プローブ(Y-11)(SC805、Santa Cruz)、HA-プローブ(F-7)(SC7392、Santa Cruz)、DHHC7(ab138210、Abcam)、DHHC7(R12-3691、Assay Biotechnology)、Alexa Fluor 350ヤギ抗ウサギIgG(A-11046、Invitrogen)、Alexa Fluor 594ヤギ抗マウスIgG(8890S、CST)、マウスCD4 PerCP-Cy5.5(560767、BD Pharmingen)、マウスIL-17A PE(560767、BD Pharmingen)、抗マウスIgG HRP(7076S、CST)、および抗ウサギIgG HRP(7074S、CST)。
【0052】
クローニングおよび変異誘発
APT2およびDHHC1-23マウスプラスミドは、M.Fukataによって提供された。DHHC3/7/19ヒトプラスミドは、GenScriptから得た。様々なタグを有するSTAT3発現ベクターは、Addgeneから得た。プラスミドの点変異は、QuikChange部位特異的変異誘発によって生成した。
【0053】
細胞培養およびトランスフェクション
ヒトHEK293T細胞(ATCCから得た)は、10%仔ウシ血清(CS、12133C、Sigma)および細胞増殖を向上させるための追加の5%ウシ胎仔血清(FBS、26140079、Gibco)を有するDMEM培地(11965-92、Gibco)中で増殖させた。ZDHHC7ノックアウトHEK293T細胞は、以前に記載される通りに生成した。簡単に述べると、ガイドRNA(gRNA)の設計はCRISPR Design Tool(MIT)を使用して実施して、潜在的なオフターゲット作用を最小限に抑えた。3対のgRNA配列(#1、5’-caccgGAGGATGATGCTCGACGTCC-3’(配列番号17)、5’-aaacGGACGTCGAGCATCATCCTCc-3’(配列番号18);#2、5’-caccgCGTCGAGCATCATCCTCTCC-3’(配列番号19)、5’-aaacGGAGAGGATGATGCTCGACGc-3’(配列番号20);#3、5’-caccgCGGGTCTGGTTCATCCGTGA-3’(配列番号21)、5’-aaacTCACGGATGAACCAGACCCGc-3’(配列番号22))をlentiCRISPR v2 ベクター(49535、Addgene)にクローニングして、ZDHHC7標的化ベクターを生成した。次いで、FuGene 6(E2691、Promega)を用いて標的化ベクターをHEK293T細胞にトランスフェクトした。空のlentiCRISPR v2ベクターを対照とした。トランスフェクション後にピューロマイシン(2μg ml-1;P-600-100、GoldBio)を培養培地に24時間添加し、限界希釈法を使用して細胞を96ウェルプレートの各ウェルに単一細胞として播種した。ZDHHC7のノックアウトをウエスタンブロットによって確認し、モノクローナルZDHHC7ノックアウト細胞株の3つの独立した菌株をさらなる実験用に選択した。
【0054】
脾細胞は、古典的な方法によってマウスから単離した。簡単に述べると、切除した脾臓をスライスして小片にし、50mlの円錐管に取付けたストレーナー(352350、Thermo Fisher)上に置いた。スライスした脾臓を、シリンジのプランジャー端部を使用して押してストレーナーを通し、これらの細胞を、過剰な4℃のPBSでストレーナーを通して洗浄した。細胞懸濁液を500gで5分間4℃で遠心分離した。細胞ペレットを赤血球溶解緩衝液(R7757、Sigma)2mlに5分間RTで懸濁させ、PBS30mlで希釈した。細胞を500gで5分間RTで遠心分離した。細胞ペレットを37℃のDMEM培地20mlに懸濁させ、パーコール密度勾配培地(17089102、VWR)10mlとよく混合し、2,500gで5分間RTで遠心分離した。収集した細胞を、10%FBSを加えた37℃のRPMI 1640培地(12633012、Gibco)中に1ml当たり細胞5×10個で播種した。脾細胞をT17分化条件下(3ng ml-1 TGF-β(100-21、PeproTech)、40ng ml-1 IL-6(200-06、PeproTech)、30ng ml-1 IL-23(200-23、PeproTech)、20ng ml-1腫瘍壊死因子(TNF)(300-01A、PeproTech)、および10ng ml-1 IL-1β(200-01B、PeproTech))で培養した。
【0055】
HEK293T細胞の場合は、FuGene 6(E2691、Promega)またはポリエチレンイミン(PEI)(24765、Polysciences)を使用して一過性トランスフェクションを実施した。脾細胞の場合は、製造業者のプロトコルに従って、推奨される緩衝液(1652677、Bio-Rad)を用いてGene Pulser Xcellシステムを使用して一過性トランスフェクションを行った。LYPLA2ノックダウンは、siRNA(136366、Thermo Fisher)を用いて実施した。
【0056】
クリックケミストリーおよびゲル内蛍光検出
細胞を50μMのパルミチン酸類似体Alkine 14(Alk14)で5時間処理し、収集し、プロテアーゼ阻害剤カクテルを有する1% NP-40溶解緩衝液(25mM Tris-HCl pH8.0、150mM NaCl、10%グリセロール、1% Nonidet P-40)に溶解させた。16,000gで20分間4℃で遠心分離した後、上清を収集した。タンパク質濃度は、ブラッドフォードアッセイ(23200、Thermo Fisher)によって判定した。標的タンパク質を抗Flagアガロースビーズで精製し、ビーズをIP洗浄緩衝液50μlに懸濁させた。クリックケミストリー試薬を次の順序でビーズに添加した:4mM TAMRAアジド(47130、Lumiprobe)1μL、10mMトリス[(1-ベンジル-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル]アミン(TBTA)(T2993、Tcichemicals)1.2μl、40mM CuSO1μl、40mMトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンHCl(TCEP塩酸塩)(580560、Millipore)1μl。反応混合物を完全に混合し、暗所で30分間、室温でインキュベートした。次いで、6X-SDSローディング緩衝液20μlを添加し、得られた混合物を95℃で10分間加熱した。混合物の半分をヒドロキシルアミン(438227、Sigma)(pH7.4、最終濃度500μM)でも処理し、さらに5分間95℃で加熱してS-パルミトイル化を除去した。サンプルを、次いでSDS-PAGEによって分離した。高いSTAT3レベルを有する過剰発現したサンプルについては、ゲルを脱染緩衝液(50%CHOH、40%水、および10%酢酸)と共に2~8時間4℃で振盪することによってインキュベートし、次いで水中でインキュベートし、それによってバックグラウンドを下げることができるようにした。そうでない場合は、ゲルを簡単に水中で洗浄した。Typhoon 7000 Variable Mode Imager(GE Healthcare Life Sciences)を使用してゲルを走査して、ローダミン蛍光シグナルを記録した。走査後に、ゲルをCoomassie Brilliant Blue(B7920、Sigma)で染色してタンパク質のロードを確認した。
【0057】
アシル-ビオチン交換
アシル-ビオチン交換(ABE)アッセイは、次のように実施した:サンプルを、50mM N-エチルマレイミド(NEM)(E3876、Sigma)および50U ml-1ヌクレアーゼ(88700、Thermo Fisher)を有する溶解緩衝液(100mM Tris-HCl pH7.2、5mM EDTA、150mM NaCl、2.5%SDS、阻害剤カクテル)1mlに懸濁させた。サンプルを室温(RT)で2時間穏やかに混合しながら可溶化し、16,000gで20分間遠心分離した。上清のタンパク質濃度は、ブラッドフォードアッセイを使用して判定した。各サンプルのタンパク質(2μg)をクロロホルム/メタノール/水(v/v 1:4:3)で沈殿させ、簡単に風乾し、RTで穏やかに混合することによって5mMビオチン-HPDP(16459、Cayman Chemical)を有する溶解緩衝液1mlに溶解させた。次いでサンプルを二等分し、それぞれ1Mヒドロキシルアミンまたは陰性対照(1M NaCl)0.5mlとRTで3時間インキュベートした。サンプルを再び沈殿させ、再懸濁緩衝液(100mM Tris-HCl pH7.2、2%SDS、8M尿素、5mM EDTA)200μlに溶解させた。各サンプルについて、20μlをローディング対照として使用し、180μlをPBSで1:10に希釈し、ストレプトアビジンビーズ20μlと共に一晩4℃で振盪しながらインキュベートした。1%SDSを含むPBSでビーズを3回洗浄した。ビーズおよびローディング対照をSDSローディング緩衝液に混合し、95℃で10分間加熱した。次いでサンプルをSDS-PAGEによって分離し、ウエスタンブロット分析に供した。
【0058】
ウエスタンブロット
細胞を1%NP40溶解緩衝液で溶解させ、以下の標準プロトコルを使用してタンパク質をブロットした。シグナルは、Typhoon走査装置でECL plus(32132、Thermo Fisher)の化学発光を使用して検出した。
【0059】
細胞成分分画
細胞を収集し、プロテアーゼ阻害剤カクテルを含む細胞成分分画緩衝液(250mMスクロース、20mM HEPES、pH7.4、10mM KCl、1.5mM MgCl、1mM EDTA、1mM EGTA、および1mM DTT)に懸濁させた。細胞を氷上で25ゲージの注射針でホモジナイズした。溶解物を1,000gで5分間遠心分離し;ペレットを核分画とした。除核後の上清を6,000gで5分間遠心分離して、ミトコンドリア分画を除去した。6,000gでの上清を20,000gで2時間の遠心分離に供し;ペレットを膜分画とした。20,000gでの上清を細胞質分画とした。すべての分画を4%SDS溶解緩衝液(4%SDS、50mMトリエタノールアミンpH7.4、および150mM NaCl)に溶解させた。次いで小分けした等量の様々な分画をウエスタンブロット分析に供した。
【0060】
免疫蛍光検査
細胞を35mmのガラス底皿(MatTek)中に播種し、4%パラホルムアルデヒド(v/v、PBS中)で30分間固定した。固定した細胞をPBSで2回洗浄し、0.1%サポニン/5%BSA/PBSで30分間透過処理およびブロッキングした。透過処理した細胞を一次抗体と共に暗所で一晩4℃でインキュベートし、その後二次抗体と共に暗所で1時間RTでインキュベートした。サンプルをFluoromount-G(0100-01、SouthernBiotech)またはDAPI Fluoromount-G(0100-20、SouthernBiotech)で封入し、倒立共焦点顕微鏡(LSM880、Zeiss)を使用して観察した。
【0061】
qPCR
遺伝子発現分析のために、製造業者の標準プロトコルに従ってSYBR Green PCR Master Mixを使用して、qPCRを実施した。
【0062】
フローサイトメトリー分析
FACS分析のために、サンプル当たり細胞1×10個を使用してフローサイトメトリーを実施した。T17細胞をサイトカインカクテル:3ng ml-1 TGF-β(100-21、Pepro Tech)、40ng ml-1 IL-6(200-06、PeproTech)、30ng ml-1 IL-23(200-23、PeproTech)、20ng ml-1 TNF(300-01A、PeproTech)、および10ng ml-1 IL-1β(200-01B、PeproTech)で刺激し、次いでCy5.5-CD4(560767、BD Pharmingen)で標識した。透過処理および固定化後、細胞をPE-IL-17(560767、BD Pharmingen)で標識した。細胞をAttune Flow Cytometer(Thermo Fisher)によって検出し、FCS Express 6ソフトウェア(De Novo Software)で分析した。
【0063】
統計分析
定量分析はSPSS 17.0で実施し、データは平均±s.e.m.として表した。群間の比較はスチューデントt検定を使用して実施し、他のデータは一元配置分散分析(ANOVA)を使用して分析した。
【実施例2】
【0064】
STAT3はDHHC7によってパルミトイル化される
STAT3の形質膜への動員は、そのリン酸化に不可欠である。本発明者らはまず、S-パルミトイル化がSTAT3の膜結合に寄与するのかどうかを調査した。
【0065】
HEK293T細胞におけるマウスDHHCの存在下でのSTAT3のパルミトイル化を可視化するために、本発明者らは、アルキンタグ付きパルミチン酸類似体Alk14を代謝標識として使用した。これは、クリックケミストリーによって蛍光色素TAMRAアジドにコンジュゲートすることができる。DHHC7(Zdhhc7によってコードされる)およびDHHC3(Zdhhc3によってコードされる)は、STAT3のパルミトイル化レベルを増加させた。定量化によって、DHHC7が発現するとSTAT3のパルミトイル化が5.4倍増大すること;DHHC3の作用の方が弱いことが明らかになった。パルミトイル化は、システインまたはリシン残基で(それぞれ硫黄または窒素で)生じ得るが、S-パルミトイル化だけがヒドロキシルアミンに感受性である。ヒドロキシルアミンで処理するとSTAT3でのパルミトイル化シグナルの90%超が除去されたことから、DHHC7によるSTAT3のパルミトイル化が主にシステインで生じることが示唆される(図1A)。
【0066】
DHHC7が内在性STAT3パルミトイルトランスフェラーゼであることを確認するために、本発明者らは、DHHC7ノックアウトHEK293T細胞およびマウス脾細胞を生成した。DHHC7ノックアウト細胞におけるSTAT3のS-パルミトイル化は、対照細胞と比較して有意に減少した。野生型DHHC7を再発現させると、STAT3のパルミトイル化が有意に増大したが、保存されたモチーフにシステインからセリンへの置換を含む触媒的に不活性なDHHS7変異体を再発現させても増大しなかった。本発明者らはさらに、S-パルミトイル化を検出するために汎用される別の方法であるアシル-ビオチン交換アッセイを使用して、DHHC7に促進されるSTAT3のパルミトイル化を確認した。
【0067】
ヒトDHHC19がSTAT3のパルミトイルトランスフェラーゼとして作用することが報告されていることを考慮して、本発明者らは、ヒトとマウスのDHHCの配列の相違が知見の相違を説明することができるのかどうかを検討した。本発明者らは、ヒトDHHC3、DHHC7、およびDHHC19を試験し、ヒトDHHC7が最も効率的なSTAT3パルミトイルトランスフェラーゼであることを見出した。
【0068】
STATファミリーには7つのメンバーが存在し、そのうちSTAT1がSTAT3にもっともよく類似している。アシル-ビオチン交換アッセイを使用して、本発明者らは、STAT1もパルミトイル化されることを示した;しかし、そのパルミトイル化レベルは、DHHC7の存在下では増加しなかった。
【0069】
パルミトイル化はSTAT3を膜に向かわせる
STAT3のパルミトイル化部位を位置付けるために、本発明者らはSTAT3の14個のシステイン残基を各々独立にセリンに変異させ、変異体のパルミトイル化状態を調べた。STAT3のパルミトイル化シグナルは、Cys108を変異させたときだけ顕著な減少を示した。注目すべきことに、STAT3(C108S)とDHHC7の間の相互作用も、野生型STAT3が関与する相互作用と比較して減少した。DHHC7およびDHHC3の過剰発現のいずれも、STAT3(C108S)のパルミトイル化を増大させることができなかった。
【0070】
S-パルミトイル化はタンパク質を膜に向かわせることができること、およびSTAT3はJAK2と相互作用するために形質膜に動員される必要があるという理由から、本発明者らは次にS-パルミトイル化がSTAT3の膜動員に影響を及ぼすのかどうかを調べた。野生型STAT3は、形質膜、内膜上、および核内に局在していた。HEK293T細胞においてDHHC7をノックアウトすると、STAT3の膜局在は減少するが、その核局在は増大した(図1B)。これと一致して、STAT3(C108S)が核内に顕著に見出されたことから、パルミトイル化はSTAT3の膜局在を促進することが示唆される。さらに、DHHC7ノックアウトHEK293T細胞においてDHHC7を再発現させると、野生型STAT3の膜動員を引き起こしたが、STAT3(C108S)の膜動員は引き起こさなかった(図1C)。HEK293T細胞とマウス脾細胞の両方において、DHHC7はSTAT3のパルミトイル化を誘導し、膜における修飾タンパク質の量を増加させたが、核分画では増加させなかった(図1D)。内在性STAT3のJAK2との共局在の程度は、野生型の方がDHHC7ノックアウト細胞よりも大きかった(図1B)。総括すると、これらの結果から、DHHC7に触媒されるパルミトイル化は、STAT3の膜局在およびJAK2とのその相互作用を促進することが示唆される。
【0071】
DHHC7はSTAT3の活性化を促進する
STAT3の転写活性は、Y705でのそのリン酸化に依存する。本発明者らは次に、パルミトイル化がSTAT3のリン酸化を促すことができるのかどうかを調べた。パルミトイル化スクリーニングと一致して、STAT3のリン酸化は、DHHC7またはDHHC3の発現によって顕著に(かつ選択的に)増大し、DHHC7の方が有効であった。内在性STAT3のリン酸化は、HEK293T細胞とマウス脾細胞の両方においてDHHC7の発現によって同様に制御されていた。HEK293T細胞においてDHHC7をノックアウトすると、内在性野生型STAT3のリン酸化は減少したが、異所的に発現された変異体STAT3(C108S)のリン酸化は減少しなかった。したがって、本発明者らは、DHHC7はSTAT3のリン酸化を制御すると結論付けた。
【0072】
本発明者らは次に、DHHC7を野生型STAT3、STAT3(C108S)、およびSTAT3(Y705F)と共に共発現させた。STAT3(C108S)のリン酸化は野生型STAT3のリン酸化に対して低減したが、STAT3のパルミトイル化状態は、Y705リン酸化部位の変異によって影響を受けなかった(図2A)。よって、STAT3のリン酸化はパルミトイル化によって促されるが、リン酸化はDHHC7によるパルミトイル化に影響を及ぼさない。
【0073】
細胞成分分画から、DHHC7はSTAT3の膜動員を増大させるだけでなく、膜上および核内に位置するp-STAT3シグナルも増加させることが示された。注目すべきことに、p-STAT3のSTAT3に対する比率は、核分画でのみDHHC7によって増加した。STAT3(C108S)の膜動員およびリン酸化は、野生型STAT3のものに対して低減した(図2B)。同様に、免疫蛍光画像分析から、DHHC7発現細胞において野生型STAT3は、主に核内に局在するSTAT3(C108S)と比較して広く形質膜および内膜に位置しており、高いリン酸化レベルを有することが示された(図2C)。これらのデータから、STAT3のパルミトイル化は、JAK2キナーゼが位置する膜へのそれらの動員を促進することによって、そのリン酸化を促すことがさらに裏付けられる。
【0074】
APT2はp-STAT3を脱パルミトイル化する
APTは、脱パルミトイル化によって標的タンパク質の膜局在の制御に関与する。APT1およびAPT2は両方ともCys2でパルミトイル化することが可能であり、それによってそれらの膜局在および膜内の基質への接近が促進される。最近、APT1が主にミトコンドリアに局在することが示された。したがって、本発明者らは、STAT3がAPT2の基質であるのかどうかを試験することに焦点を合わせた。赤血球凝集素(HA)タグ付きSTAT3とFlagタグ付きAPT2は、HEK293T細胞において互いに結合することが見出された。野生型APT2は、変異体APT2(C2S)より強くSTAT3と相互作用した。APT2が発現すると、STAT3のパルミトイル化シグナルが減少した(図2D)。APT2のC2S変異体または触媒的に不活性なS122A変異体は、STAT3のパルミトイル化シグナルを減少させることができなかった(図2D)。APT2ノックダウンおよびML349でのAPT2の薬理学的阻害も、STAT3のパルミトイル化を増大させた(図2F)。これらの結果から、APT2はSTAT3を脱パルミトイル化できることが示される。
【0075】
本発明者らは次に、APT2による脱パルミトイル化がSTAT3のリン酸化および転写活性を制御するのかどうかを評価した。DHHC7に触媒されるパルミトイル化がSTAT3活性を促進することを考慮して、本発明者らはAPT2をノックダウンするとSTAT3活性が増大すると予想した。しかし、APT2をノックダウンすると、STAT3の転写活性とその核移行の両方が阻害された(図2G)。さらに、野生型DHHC7およびAPT2を共発現させると、それらの変異体対応物より大きく下流遺伝子の発現が促進された。STAT3の二量体化は、その転写活性に重要であり、様々な翻訳後修飾によって制御されていることが報告されている;しかし、それはパルミトイル化によって影響を受けなかった。
【0076】
パルミトイル化と脱パルミトイル化の両方がSTAT3のシグナル伝達を促進するという知見を説明するために、本発明者らは、STAT3の脱パルミトイル化が主にp-STAT3で生じ、p-STAT3を膜から放出させてその核移行を促進する役割を果たすと提案する。この仮説を試験するために、本発明者らは、HAタグ付きリン酸化部位変異体STAT3(Y705F)を生成し、STAT3-APT2相互作用実験を繰り返した。野生型STAT3と比較して、STAT3(Y705F)とAPT2の間の結合は低減した。物理的相互作用研究の結果と一致して、APT2によるSTAT3(Y705F)の脱パルミトイル化は、はるかに効率が低かった(図2E)。JAK2をフェドラチニブで阻害すると、STAT3のリン酸化は予想通りに減少した;しかし、膜に局在するSTAT3のレベルは増加し、それに対して核STAT3のレベルは減少した(図2H)。総括すると、これらのデータから、APT2がSTAT3よりp-STAT3の脱パルミトイル化および核移行を優先的に促進するという仮説が裏付けられる。
【実施例3】
【0077】
STAT3パルミトイル化サイクルはT17を促進する
STAT3がT17細胞の分化に重要であるという理由から、本発明者らは、STAT3のパルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルがマウス脾臓細胞からのT17細胞の生成を促進するかどうかを評価した。T17分化条件下で、STAT3が野生型DHHC7と共発現されると、不活性なDHHS7と共発現されたときよりSTAT3のリン酸化および転写活性は大きく促進された(図3A)。これらの結果は、フローサイトメトリーを使用するT17細胞の定量化によってさらに確認された(図3B)。ML349によってAPT2を阻害すると、STAT3標的遺伝子(RORCおよびCCND1)の発現およびT17細胞の分化が有意に減少した(図3C)。Zdhhc7のノックアウトによっても、T17細胞の分化(図3D)およびSTAT3のリン酸化(図3E)が減少した。したがって、パルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルは、STAT3のシグナル伝達およびT17の分化に重要である。
【0078】
DHHC7およびAPT2はIBD患者において上方制御される
活性化されたSTAT3は、様々な自己免疫疾患の予後不良を示唆するものであり、T17細胞のレベルは、腸の炎症の過程および重篤度に影響を及ぼす鍵となる要因である。ZDHHC7およびLYPLA2-
パルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルを促進する遺伝子-の発現レベルがヒトにおける腸の炎症に相関するかどうかを判定するために、健常な参加者26人、クローン病患者24人、および潰瘍性大腸炎患者10人からヒト末梢血単核球(PBMC)を抽出し、分析した。ZDHHC7およびLYPLA2 mRNAは、IBD患者、とりわけ潰瘍性大腸炎患者において上方制御されていた(図4A)。STAT3の下流標的遺伝子-RORCおよびIL17A-も高度に発現していた。加えて、より活動的なIBDを有する個体からの細胞は、ZDHHC7、LYPLA2、RORC、およびIL17Aのより高い発現レベルを示す(図4B)。STAT3標的遺伝子(RORCおよびIL17A)の発現とZDHHC7およびLYPLA2の発現の間には有意な相関関係が存在した(図4C)。さらに、p-STAT3レベルは、PBMCにおけるZDHHC7およびLYPLA2 mRNAのレベルと相関していた(図4D)。注目すべきことに、ZDHHC7のmRNAレベルは、STAT3標的遺伝子のレベル-ならびにp-STAT3のレベル-とIBD患者においてのみ相関しており、それに対してLYPLA2のmRNAレベルとSTAT3標的遺伝子のmRNAレベルは、健常な参加者およびIBD患者の両方において優れた相関関係を示した(図4Cおよび4D)。これらの結果から、LYPLA2の発現の変化が、よりIBDに関連している可能性があることが示唆される。ZDHHC7の発現は、STAT3標的遺伝子の発現にあまりよく相関しなかった。これはおそらく、上のデータが示すように、DHHC3もSTAT3を制御することが可能であったことが理由であると思われる。この仮説と一致して、IBD患者ではZDHHC3発現レベルも健常な参加者と比較して増加していた。
【0079】
APT2またはDHHC7を標的化するとマウスにおける大腸炎が低減する
本発明者らは、ML349でのAPT2の薬理学的阻害が、IBDの実験モデルである、マウスにおけるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導大腸炎を低減させることができるのかどうかを試験した。マウスによるML349(50mg kg-1)の忍容性は良好であった。大腸炎のDSS誘導マウスモデルにおいて、ML349で前処理した後にDSSで処理すると、体重減少が有意に減弱し、生存率が増大した。このことから、ML349処理がDSS誘導大腸炎を有効に防止することができることが示された。DSSで処理した後にML349で処理しても、マウスにおける体重減少および結腸の短縮が有意に減弱したことから(図4E)、ML349がDSS誘導大腸炎を緩和できることが示された。さらに、インビトロでの結果と一致して(図3)、ML349は、マウス脾細胞におけるT17細胞のレベルを有意に減少させた(図4F)。
【0080】
これらの知見のさらなる裏付けを提供するために、本発明者らはZdhhc7ノックアウトマウスも大腸炎モデルに使用した。機構モデル(図4I)に基づいて、本発明者らは、Zdhhc7のノックアウトもDSS誘導大腸炎を低減させるはずであると予測した。実際に、本発明者らは、Zdhhc7をノックアウトするとT17細胞の分化が減少し、マウスがDSS誘導大腸炎から保護されることを見出した(図4Gおよび4H)。したがって、本発明者らは、STAT3のパルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルがT17関連免疫異常の有望な治療標的となり得るはずであると提案する。
【0081】
転写因子STAT3は、特定の刺激の下で形質膜に動員され、JAK2によってリン酸化されることが知られている。p-STAT3は、次いで核に移行し、標的遺伝子の発現を促進する。しかし、STAT3が膜に動員される機構についてはほとんど知られていない。ここに、本発明者らは、STAT3のCys108がDHHC7によって(そしてより少ない程度でDHHC3によって)パルミトイル化され、それによって膜動員およびJAK2によるリン酸化が促進されることを示した。パルミトイル化が膜分布およびシグナル伝達の出力に重要であることはよく知られているが、シグナル伝達を促進するためにどのようにパルミトイル化と脱パルミトイル化のバランスが取られているのかは根本的に未対応の問題であった。パルミトイル化はSTAT3を細胞膜に係留するが、核移行するためには、それは脱パルミトイル化されなければならない。本発明者らは、APT2が、非リン酸化STAT3よりp-STAT3を選択的に脱パルミトイル化することによってp-STAT3の核移行に寄与することを示した。これらの結果から、パルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルが、無駄なサイクルではなく、STAT3の活性化を駆動するというモデル(図4I)が示唆される。このサイクルがない場合、STAT3はまだホモ二量体を形成して核に移行することができるのに、ほとんどのSTAT3がその不活性な非リン酸化状態で存在することになる(図4I)。
【0082】
STAT3の恒常的活性化は、免疫異常を有する患者におけるT17の分化に寄与し、それによって不十分な臨床転帰に至る。STAT3は、IBTのマウスモデルにおいて、T17細胞の分化を阻害し、大腸炎を減弱させるための有効な標的であることが判明した。本研究から、STAT3のパルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルがT17細胞の分化に影響を及ぼすことが実証され、DHHC7とAPT2の両方が、大腸炎を治療するための新たな治療標的になり得ることが示唆される。T17細胞は、様々な免疫異常、例えば、IBD、高IgE症候群、および関節炎の経過および重篤度に影響を及ぼす鍵となる要因であることから、STAT3のパルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルは、多くの他の自己免疫障害の治療のための潜在的な治療標的になり得ると思われる。
【0083】
翻訳後修飾は、リン酸化およびユビキチン化の周知のシグナル伝達機能によって証明されるように、細胞のシグナル伝達を媒介するのに特に適している。タンパク質のS-パルミトイル化は、翻訳後修飾として数十年前に発見されたが、ヒトにおける3,000近いタンパク質がこの修飾を受けることが知られているという事実にもかかわらず、それがどのように細胞のシグナル伝達に寄与するのかほとんど理解されていない。本研究は、パルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルが特定の方向で進行して細胞のシグナル伝達を促進することができ、この場合のサイクルの方向が、リン酸化基質に対するAPT2の特異性によって確保されることを実証した。本実施例は、数多くの他の細胞シグナル伝達過程におけるS-パルミトイル化のシグナル伝達機能を理解するための重要な洞察を提供することができると思われる。
【実施例4】
【0084】
SMADはDHHC7によってパルミトイル化される
R-Smadファミリーには、SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5、およびSMAD8/9を含めた6つのメンバーが存在し、それらはTGFβRの直接的なシグナル伝達およびT細胞の分化に重要な役割を果たしており、SMAD2は最もSMAD3に類似している。以前の研究から、不活性なR-Smadをリン酸化する鍵は、TGFβRおよびERKが位置する形質膜および細胞質にSMADを動員することであることが見出されている。本発明者らは、STAT3がS-パルミトイル化によって制御されるのと同様に、S-パルミトイル化がR-SMADの膜結合にある役割を果たしているのではないかと考えた。今までのところ、タンパク質のS-パルミトイル化に関するデータベースであるSwissPalmに基づくと、SMAD2およびSMAD3のS-パルミトイル化は報告されていない。
【0085】
本発明者らは、アルキンタグ付きパルミチン酸類似体である代謝性Alk14での代謝標識、その後のクリックケミストリーによるTAMRAアジドコンジュゲーション、およびゲル内蛍光を使用して、SMAD2/3のパルミトイル化を検出した。本発明者らは、SMAD2をAlk14によって標識することができ、その標識がDHHC7(遺伝子名Zdhhc7)発現によって有意に増大し得ることを見出した(図5A~5B)。パルミトイル化シグナルの定量化から、SMAD2のパルミトイル化がDHHC7によって6倍増大することが示された(図5B)。DHHC3もSMAD2のパルミトイル化を増大させたが、その変化は有意ではなかった(図5B)。対照的に、SMAD3およびSMAD4のAlk14標識は実質的に検出不可能であり、過剰発現したDHHC7が存在しても、標識は極めて弱いままであった(図5C、5D、および5F)。アシル-ビオチン交換(ABE)アッセイも使用して、様々なマウスDHHCを発現するHEK 293T細胞におけるSMAD2のパルミトイル化シグナルを可視化した。Alk14標識データと一致して、DHHC7のみがSMAD2のパルミトイル化を有意に促進した(図5E)。DHHC7が内在性SMAD2パルミトイルトランスフェラーゼであるかをさらに判定するために、HEK 293T細胞においてDHHC7をノックアウトした。ABEアッセイに基づくと、SMAD2のS-パルミトイル化は、DHHC7のノックアウトによって有意に低減された(図5G)。
【0086】
Cys41およびCys81のパルミトイル化はSMAD2の膜動員を促進する
SMAD2のS-パルミトイル化部位を特定するために、SMAD2の15個のシステイン残基の各々をセリンに変異させ、各々の変異体のS-パルミトイル化状態をAlk14標識によって判定した。本発明者らは、Cys41およびCys81変異体がSMAD2のS-パルミトイル化シグナルを有意に低減させ、Cys41/81二重変異体がパルミトイル化シグナルをほとんど有していないことを見出した(図6A~6B)。DHHC7をノックアウトしてもSMAD2 Cys41/81Ser変異体のS-パルミトイル化が低減しなかったことから(図6C)、DHHC7に触媒されるSMAD2のパルミトイル化は、主にこれらの2つのCys残基で生じることが示唆される。
【0087】
S-パルミトイル化は、タンパク質を細胞膜に向かわせることができ、一方、SMAD2は、TGFβRおよびERKと相互作用するために形質膜および細胞質にそれぞれ動員される必要がある。本発明者らは、S-パルミトイル化がSMAD2の局在に及ぼす影響について研究した。本発明者らは、WT SMAD2が形質膜、細胞質(おそらく細胞質内の膜オルガネラ)、および核に位置する一方で、SMAD2のC41/81S変異体が主に核に位置することを見出した(図6D~6E)。さらにまた、DHHC7は、膜および細胞質におけるSMAD2のS-パルミトイル化を増大させたが、核分画におけるSMAD2のパルミトイル化は増大させなかった(図6F)。これによって、パルミトイル化がSMAD2の膜および細胞質局在を促進することがさらに裏付けられる。HEK293T細胞においてDHHC7をノックアウトしたときも、SMAD2の膜局在が低減し、核局在が増大した。これらの知見から、DHHC7に触媒されるS-パルミトイル化がSMAD2の膜局在を促進することが示される。
【0088】
S-パルミトイル化はSMAD2のC末端リン酸化に影響を及ぼさない
SMAD2およびSMAD3の転写活性は、C末端(SMAD2ではSer465/Ser467、SMAD3ではSer423/Ser425)でのリン酸化によって活性化される。上の、実施例2において、本発明者らは、DHHC7に誘導されるS-パルミトイル化が、別の転写因子STAT3のリン酸化を促進し、その転写活性を促進できることを実証した。よって、本発明者らは、SMAD2のパルミトイル化が同様の効果を有し、パルミトイル化がSMAD2のC末端Ser465/Ser467のリン酸化を促進し、その転写活性を活性化し得るという仮説を立てた。本発明者らは、HEK-293T細胞においてHAタグ付きDHHCタンパク質とFLAGタグ付きSMAD2とを共発現させると、SMAD2のC末端Ser465/Ser467のリン酸化(p-SMAD2(C2))が増大するのかどうかを調べた。驚いたことに、DHHC7はp-SMAD2(C2)レベルを促進しなかった(図7A)。さらに、SMAD2 WTとS-パルミトイル化欠損C41/81S変異体は両方とも、DHHC7発現およびTGFβ処理下で同様のp-SMAD2(C2)レベルを有していた(図7B~7C)。したがって、DHHC7に誘導されるSMAD2のS-パルミトイル化は、p-SMAD2(C2)レベルに影響を及ぼさない。
【0089】
SMAD2のS-パルミトイル化はAPT2によって除去される
S-パルミトイル化は、アシルタンパク質チオエステラーゼ(APT1、APT2、およびABHDファミリーメンバー)によって除去することができる。APT2(LYPLA2、リゾホスホリパーゼ2)は、STAT3の膜局在の制御に関与しており、脱パルミトイル化基質として非リン酸化STAT3よりp-STAT3を選好する。本発明者らは、どのアシルタンパク質チオエステラーゼがSMAD2のS-パルミトイル化を制御するのかを調べた。Flagタグ付きSMAD2を発現するHEK-293T細胞を、パルモスタチンB(汎脱パルミトイル化酵素阻害剤)、ML348(APT1特異的阻害剤)、またはML349(APT2特異的阻害剤)で処理した。本発明者らは、ML349とパルモスタチンBの両方がS-パルミトイル化シグナルを有意に強化するが、ML348はそうではないことを見出した。このことから、APT2がSMAD2を脱パルミトイルし得ることが示される(図7D)。この結果をさらに確認するために、本発明者らは、APT2の触媒活性を伴わない変異体であるSer122Ala(S122A)を使用し、S122A変異体APT2が、SMAD2のS-パルミトイル化シグナルを低減できないことを見出した(図7E~7F)。これらのデータから、APT2がSMAD2を脱パルミトイル化することができることが示唆される。
【0090】
続いて、本発明者らは、APT2が、STAT3の場合と同様に非リン酸化SMAD2よりp-SMAD2を選好するのかどうかを評価した。本発明者らはまず、カルボキシ末端が切断されたSMAD2(ΔC SMAD2、Glu425からSer467までが切断されたもの)を使用し、WT SMAD2と比較して、ΔC SMAD2がAPT2の脱パルミトイル化作用を非常に受けにくいことを見出した(図7E)。これにより、APT2による脱パルミトイル化がSMAD2のC末端に依存することが示唆された。しかし、p-STAT3の選好性とは異なり、Ser465、Ser467のいずれか、またはその両方を変異させてもAPTによる脱パルミトイル化に影響を及ぼさなかったことから、APT2は、p-SMAD2(C2)に対して非リン酸化SMAD2より選好性を示さなかった(図7F)。さらにまた、APT2は、Ser465/Ser467でのSMAD2のリン酸化に有意な影響を及ぼさなかった(図7G)。よって、DHHC7およびAPT2はSMAD2のS-パルミトイル化を制御するが、それらはC末端セリンでのSMAD2のリン酸化に影響を及ぼさない。
【0091】
DHHC7に誘導されるS-パルミトイル化はSMAD2のリン酸化をリンカー領域で促進する。
DHHC7に誘導されるS-パルミトイル化がSMAD2の転写機能を促進するのかどうかを見出すために、本発明者らは、リアルタイムPCRによって下流遺伝子の発現を評価した。本発明者らは、WT DHHC7とSMAD2とを共発現させると、不活性な変異体DHHC7とSMAD2との共発現、またはWT DHHC7とS-パルミトイル化欠損SMAD2 C41/81S変異体との共発現より高いRORC発現が誘導されることを見出した(図8A)。これらの結果から、DHHC7に触媒されるSMAD2のS-パルミトイル化は、SMAD2のC末端リン酸化レベルが同様であっても、その転写活性に影響を及ぼすことが強く裏付けられる。
【0092】
SMAD2およびSMAD3は、アミノ末端(N末端)のマッドホモロジー1(Mad homology-1)(MH1)ドメイン、リンカー領域、およびC末端のMH2ドメインから構成される。リンカー領域(SMAD2ではSer245/250/255、SMAD3ではSer204/208/213)でのリン酸化もR-SMADの転写活性に重要である。本発明者らは、パルミトイル化がリンカー領域でのSMAD2のリン酸化(p-SMAD2(L3))を制御することができるのかどうかを調べた。興味深いことに、C末端リン酸化とは異なり、SMAD2 C41/81S変異体またはAPT2に誘導される脱パルミトイル化がp-SMAD2(L3)を減少させたことから、SMAD2のリンカー領域のリン酸化はDHHC7によって有意に増大した(図8B)。SMAD3は、SMAD2と極めて類似しており、同じリンカー領域ドメインを有するが、パルミトイル化されず(図5C)、そのリンカー領域のリン酸化はDHHC7によって影響を受けない(図8C)。
【0093】
細胞成分分画から、DHHC7をノックアウトすると、SMAD2の細胞質局在が減少するだけでなく、細胞質および核に位置するp-SMAD2(L3)も減少することが示された(図8D)。興味深いことに、p-SMAD2(L3)のSMAD2に対する比率は、細胞質分画よりもさらに核分画で減少した(図8D)。同様に、免疫蛍光検査から、DHHC7発現細胞において、SMAD2がDHHC7ノックアウト細胞より高い細胞質局在および高いリン酸化レベルを有することが示された(図8E)。すべてのデータから、DHHC7に触媒されるSMAD2パルミトイル化が、リンカー領域でのSMAD2リン酸化を促進することが示唆された。
【0094】
S-パルミトイル化はSMAD2のSTAT3およびSMAD4への結合を促進する
本発明者らは次に、DHHC7がどのようにSMAD2の機能を促進するのかを調査した。SMAD2の転写活性にはSMAD4の結合が重要であることから、本発明者らはタンパク質プルダウンアッセイを行い、SMAD2とSMAD4の間の相互作用がDHHC7に誘導されるS-パルミトイル化によって増大し(図9A)、SMAD2とSMAD4の結合が触媒的に不活性なDHHC7またはSMAD2 Cys41/81Ser変異体のいずれかによって減少することを見出した(図9B)。
【0095】
リンカー領域のSer255がERKによってリン酸化されたSMAD2は、RORγtおよびIL-17Aを発現する際にSTAT3の共活性化因子としての役割を果たす。本発明者らは、パルミトイル化がSMAD2-STAT3結合を促すことができるのかどうかを調べた。DHHC7は、SMAD2/STAT3複合体の形成を誘導したが、触媒的に不活性なDHHC7またはSMAD2 Cys41/81Ser変異体は、複合体の形成を減少させた(図9C~9D)。同様に、免疫蛍光検査から、DHHC7発現細胞においてSMAD2はDHHC7ノックアウト細胞より多くのSTAT3との細胞質および核の共局在を有することが示され、それによってDHHC7がSMAD2とSTAT3の間の相互作用を促進することが示唆された(図9E)。SMAD2ではリンカー領域に3つのリン酸化部位(Ser245/250/255)が存在することから、本発明者らは、どの部位がSMAD2/STAT3複合体の形成の鍵となる部位なのかを変異誘発によって確認した。本発明者らは、SMAD2のSer255Ala変異体がSTAT3との親和性を有意に減少させることを見出した(図9F)。本発明者らは最後に、リアルタイムPCRによるRORC発現を評価し、WT SMAD2が、STAT3に結合したCys41/81Ser変異体SMAD2と比較してRORCの発現を促進することを見出した(図9G)。これらのデータから、SMAD2のS-パルミトイル化は、SMAD2リンカー領域のリン酸化を促進することによって、SMAD4およびSTAT3との結合を促すことのさらなる裏付けが提供される。
【0096】
SMAD2のS-パルミトイル化サイクルはT17細胞の分化を促進する
SMAD2およびそのSTAT3との結合がナイーブT細胞からT17細胞への分化に鍵となる役割を果たしていることを考慮して、本発明者らは、SMAD2のS-パルミトイル化がT17細胞の産生を制御できるかをマウス脾細胞で調べた。上の実施例3のデータから、STAT3パルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルが、STAT3の活性およびT17細胞の分化に重要であることが示されている。よって、本発明者らは、同様のパルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルもSMAD2の活性を制御し、T17の分化に寄与しているのではないかと考えた。WT SMAD2と比較して、脾細胞におけるC41/81S SMAD2は、減少したp-SMAD2(L3)を示した(図10A)。Zdhhc7をノックアウトすると、WT SMAD2とC41/81S SMAD2の両方でp-SMAD2(L3)が減少した(図10A)。Zdhhc7のノックアウトがp-SMAD2(L3)C41/81Sも減少させたという事実から、DHHC7は、リンカー領域におけるSMAD2のリン酸化に寄与し得る他の基質を有する可能性があることが示唆される。p-SMAD2(L3)レベルと一致して、T17細胞の分化レベルは、C41/81S変異体またはZdhhc7ノックアウトのいずれによっても阻害された(図10B)。Zdhhc7のノックアウトは、SMAD2 C41/81S変異体に弱い作用を及ぼした。これはおそらく、前に示したようにDHHC7がT17の分化に重要な別の因子であるSTAT3も制御するからであると思われる。APT2をノックアウトすると、WT APTと比較して、脾細胞におけるp-SMAD2(L3)がわずかに増加したが、その相違は統計的に有意ではなかった(図10C)。興味深いことに、p-SMAD2(L3)レベルとは異なり、APT2をノックアウトすると、WTまたはC41/81S変異体SMAD2を過剰発現する脾細胞(図10D)におけるT17細胞の分化が阻害された。本発明者らは次に、SMAD2/STAT3複合体の形成を評価した。Zdhhc7をノックアウトすると、SMAD2とSTAT3の間の結合が減少した(図10E)。パルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルが重要であるという考えと一致して、APT2をノックアウトするとSMAD2-STAT3結合も減少し、これはT17細胞の分化の結果とも一致する(図10F)。上のデータから、DHHC7およびAPT2によって触媒されるパルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルが、SMAD2-STAT3結合およびT17の分化の促進に有意な役割を果たしていることが示唆される。
【0097】
SMAD2のS-パルミトイル化を阻害すると多発性硬化症マウスモデルにおけるTh17細胞の分化および炎症が減弱する。
17の炎症誘発性の役割が多発性硬化症の病理発生に寄与することは良く知られている。SMAD2のパルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルを標的化することがT17を促進し、炎症を悪化させることになることをさらに試験するために、本発明者らは、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG35-55)に誘導される実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウス(MSの古典的実験モデル)におけるDHHC7およびAPT2ノックアウトの作用を研究した。MOG35-55および百日咳毒素を投与してEAEを誘導した後、WT、DHHC7ノックアウト、またはAPT2ノックアウトマウスにおいて体重に有意な低減がなかった(図11A)。続いて、本発明者らは、マウスの臨床症状をスコア化し、DHHC7およびAPT2ノックアウトマウスが両方とも、WTマウスと比較して低い臨床スコアを有していたことを見出した(図11B)。さらにまた、インビトロでのデータと一致して(図9C~9D)、DHHC7およびAPT2ノックアウトは両方ともマウス脾臓におけるT17の分化をそれぞれ減少させた(図11C)。これらの知見から、SMAD2のS-パルミトイル化がMSマウスの炎症を防止するのに有効な標的であることが示される。
【0098】
TGFβ受容体の直接基質としての制御型SMAD(R-SMAD)は、核-細胞質シャトリングを受け、TGFβシグナル伝達に重大な役割を果たす。多くの翻訳後修飾がこの過程に関与する。例えば、R-SMADの活性化にはCOOH末端尾部のリン酸化が重大であり、リンカー領域のリン酸化は機能的なDNA結合転写因子との複合体形成に不可欠である。SMAD2およびSMAD3は多くの共通の機能を共有しているが、それらはT細胞の分化においては相反する役割を有しており、SMAD2はT17を促進するが、SMAD3はTregを促進する。細胞がこれらの2つの類似したR-SMADをどのように制御して一方または他方のT細胞分化過程を有利に行うのかは未だに不明瞭である。本開示において、本発明者らは、SMAD2はパルミトイル化されるがSMAD3はパルミトイル化されず、パルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルが、核-細胞質シャトリングおよびCo-SMAD(SMAD4)およびSTAT3とのその結合を促すことを見出した。本研究から、SMAD2のパルミトイル化はリンカー領域でのそのリン酸化を促進するが、T17の分化に活性であるためには、それがSTAT3と結合し、APTによって脱パルミトイル化されて核に移行しなければならないことが実証された。本研究の結果から、S-パルミトイル化サイクルが、多発性硬化症マウスモデルにおいてナイーブT細胞をTreg細胞ではなくTh17細胞に分化するように駆動し、炎症を促進することが示された。
【0099】
パルミトイル化の細胞内動態は、保存されたAsp-His-His-Cys配列モチーフの存在によって定義される、DHHCとして知られる23種のパルミトイルトランスフェラーゼのファミリーによって制御される。ほとんどのDHHC酵素は、小胞体(ER)、ゴルジ体の膜、および形質膜を含めた細胞膜に局在する。S-パルミトイル化は、アシルタンパク質チオエステラーゼ(APT1、APT2、およびABHDファミリーメンバー)によって除去される。すべてのDHHCおよびAPTをスクリーニングして、本発明者らは、DHHC7およびAPT2がSMAD2のパルミトイル化および脱パルミトイル化をそれぞれ触媒し、T17細胞の分化を促進することを見出した。しかし、DHHC7およびAPT2に触媒されるSMAD2のパルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルがSMAD2のリン酸化および生物学的機能をどのように制御するのかについての機構的な詳細は、STAT3のそれとは異なっている。DHHC7は、STAT3をN末端(Cys108)でパルミトイル化し、膜動員およびC末端(Tyr705)でのリン酸化を促進する。APT2は、リン酸化されたSTAT3(p-STAT3)の方に高い親和性を有し、それを脱パルミトイル化して、それを核へ移行させる。ここで、本発明者らは、DHHC7がSMAD2をパルミトイル化するが、TGFbRに媒介されるSMAD2のC末端でのリン酸化を促進しないことを見出した。その代わりに、パルミトイル化は、ERKによって触媒されるリンカー領域でのSMAD2のリン酸化を促進する。SMAD2の脱パルミトイル化の場合、APT2は、それがリン酸化されたSTAT3を選好するのとは異なり、C末端でリン酸化されたSMAD2(Ser465/Ser467)を選好しない。本発明者らは、STAT3が、SMAD2のパートナーとして、リンカーリン酸化SMAD2と優先的に結合し、核へ移行してRORCおよびIL17A遺伝子を促進することを見出した。SMAD2-STAT3複合体の核移行は、APT2に触媒される脱パルミトイル化によって促進される。本発明者らは、Ser255でのリン酸化が、SMAD2とSTAT3の間の結合を促進する主要なリン酸化部位であることを確認した。これは、DHHC7およびAPT2によって制御されるパルミトイル化-脱パルミトイル化サイクルが、SMAD2-STAT3複合体を活性化してT17の分化を促進することを表している。
【0100】
SMAD2およびSMAD3は高度に相同であり、同じ上流のシグナル伝達経路および多くの下流のシグナル伝達の結果さえ共有しているが、それらは、T細胞の分化の過程では相反してT17およびTreg細胞をそれぞれ促進する。前の報告から、T17の分化の促進におけるSMAD2のリンカーリン酸化の重要な役割が解明されたが、ナイーブT細胞が非リン酸化SMAD3ではなくp-SMAD2(L3)とのSTAT3の相互作用をどのように制御しているのかは未対応の問題である。本研究から、DHHC7に触媒されるS-パルミトイル化が、Tregを抑制しながらT17を促進する機構であり得ることが示唆される。なぜなら、データから、SMAD2はDHHC7によってパルミトイル化されるが、SMAD3はパルミトイル化されないことが示唆されたからである。本発明者らは、より活性なDHHC7を有するナイーブT細胞では、SMAD2がパルミトイル化され、リンカー領域でリン酸化され、STAT3と結合し、T17経路を促進するのであろうと推測する。対照的に、DHHC7が存在しないときは、SMAD3がSTAT3と複合体を形成し、それによってTregの分化が有利になるのであろう。
【0101】
TGFβに誘導されるSMAD2は、IL-17の発現によって特徴付けられる炎症誘発性T17細胞において、重要な転写因子として作用する。T17細胞は、MS患者に数多く存在し、再発中にはさらに増加する。よって、T17軸からの細胞は、MS治療薬の主要な標的となる。興味深いことに、MS患者からの循環CD4T細胞では、健常な対照と比較して、SMAD2、SMAD3、およびSMAD4の遺伝子発現に差がないことが観察された。これらから、SMAD2の翻訳後の制御がMSの病理発生に極めて重要であり得ることが示唆された。S-パルミトイル化がT17の分化におけるSMAD2の役割を促進することを発見した後、本発明者らは、MSのEAEモデルにおいて、DHHC7またはAPT2を標的化することによってSMAD2-STAT3結合を撹乱すると、T17細胞の分化が阻害され、マウスが保護されることをさらに実証した。これらの結果から、SMAD2/STAT3のS-パルミトイル化を標的化することが有望なMS治療方針であることが示唆される。T17細胞が、種々の自己免疫疾患(IBD、関節炎、1型糖尿病など)だけでなく、がん、移植片対宿主病、および感染性疾患にも重要な役割を果たしていることを考慮すると、DHHC7-APT2に制御されるパルミトイル化サイクルは、種々の疾患に対する新たな洞察および治療戦略を提供することが予想される。
【実施例5】
【0102】
汎DHHC阻害剤である2-BPは、インフラマソームを活性化するプライミング段階でのサイトカインmRNAの発現を減少させる
骨髄由来マクロファージ(BMDM)を100ng/mLのリポ多糖(LPS)で処理した。これは、BMDMを抗原刺激してインフラマソームを活性化することができる。パルミトイルトランスフェラーゼ(DHHC)のすべてのDHHCファミリーを阻害する小分子である2-ブロモパルミチン酸(2-BP)をLPSと共に10μMまたは25μMで添加した。細胞をLPSおよび2-BPと共に6時間培養し、次いで幾つかの炎症誘発性サイトカイン:IL-1ベータ(図12A)、IL-6(図12B)、IL-12ベータ(図12C)、およびIL-18(図12D)のmRNAレベルを定量的逆転写PCR(qRT-PCR)によって測定した。2-BPは、すべてのこれらのサイトカインのmRNAレベルを濃度依存的に減少させることができ、そのことからDHHCを阻害するとインフラマソームを活性化するプライミング段階を減少させることができることが示唆される。
【0103】
2-BPがNLRP3に媒介されるインフラマソームの活性化に影響を及ぼす
腹膜マクロファージを最初にDMEM培地(血清を有しない)中LPS(200ng/mL)で4時間抗原刺激し、次いで2-BP(25μM)およびATP(5mM)またはナイジェリシン(10μM)を細胞培養物に添加し、1時間インキュベートした。ATPおよびナイジェリシンは、NLRP3インフラマソームを活性化するのに汎用される2種の試薬である。次いで、培地に分泌されるIL-1ベータのレベルを測定することによってNLRP3インフラマソームの活性化をモニタリングした(図13)。このデータから、DHHCを2-BPで阻害するとNLRP3インフラマソームの活性化が減少し得ることが裏付けられる。
【0104】
DHHC7をノックアウトするとインフラマソームの活性化中に骨髄由来マクロファージ(BMDM)でのIL-1bおよびIL-18の分泌が減少する。
DHHC7 WTおよびノックアウトBMDMをDEME培地中LPS(10ng/mL)で一晩抗原刺激した。翌日、この培地をLPS(10ng/mL)およびATP(5mM)を有するDMEM、またはLPS(10ng/mL)およびナイジェリシン(10μM)を有するDMEMに変え、1時間インキュベートしてNLRP3インフラマソームを活性化した。次いで培地を収集して、ELISAキットを使用して分泌されたIL-1ベータ(図14A)およびIL-18(図14B)を測定した。その結果から、DHHC7をノックアウトするとNLRP3インフラマソームの活性が有意に減少し得ることが示された。
【0105】
APT2をノックアウトしてもインフラマソームの活性化中にBMDMでのIL-1bの分泌にわずかな影響しか及ぼさない。
APT2 WTおよびノックアウトBMDMをDEME培地中LPS(200ng/mL)で4時間抗原刺激した。次いで、この培地をLPS(200ng/mL)およびATP(5mM)を有するDMEM、またはLPS(10ng/mL)およびナイジェリシン(10μM)を有するDMEMに変え、1時間インキュベートしてNLRP3インフラマソームを活性化した。次いで培地を収集し、ELISAキットを使用して分泌されたIL-1ベータを測定した。その結果から、APT2をノックアウトしてもNLRP3インフラマソームの活性が減少し得るが、DHHC7のノックアウトと比較して少ないことが示された(図15)。
【0106】
DHHC7をノックアウトするとマウスにおいてインフラマソームの活性化:LPSに誘導される内毒素性ショックが減少する。
成体(>8週齢)のB6.129P2(FVB)DHHC7 WTまたはノックアウトマウスに滅菌PBS緩衝液中LPS(35mg/kg)約100μLを腹腔内注入した。12時間後に、マウスを安楽死させ、血清中のIL-1ベータレベルを分析するために血液を収集した。DHHC7をノックアウトすると血清に分泌されたIL-1ベータの量が有意に減少し、そのことからDHHC7をノックアウトするとマウスにおけるインフラマソームの活性化が減少することが示唆された(図16)。
【0107】
ループス腎炎マウスモデル:APT2阻害剤ML349がマウスの尿中のタンパク質濃度を減少させる。
25週齢のNZB/W F1雌マウスにビヒクル溶液(DMSO+PBS)または25mg/KgのAPT2阻害剤ML349のいずれかを週3回、IP注射によって8週間投与した。4週間処理した後に、尿を収集し、尿中のタンパク質濃度を測定することによるタンパク尿分析を通して、マウスをループス発症率について毎週評価した。このデータから、APT2阻害剤ML349は尿中のタンパク質濃度を減少させることができることが示された(図17A~17B)。本発明者らがこの実験を行ったのはこれが初めてであり、実験の開始後、本発明者らは、この疾患の表現型が25週目ですでに極めて重度であることに気が付いた。ML349の治療をより早く始めていれば、その効果はより明白で顕著であり得たと予想される。
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【配列表】
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【国際調査報告】