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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(54)【発明の名称】HLAクラスI MHCの細胞切除
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/867 20060101AFI20230525BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230525BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230525BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230525BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230525BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230525BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20230525BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20230525BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230525BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230525BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230525BHJP
【FI】
C12N15/867 Z
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/113 Z
C12N5/10
C12N15/12
C12N5/0783
C12N5/0789
C12N15/85 Z
A61P29/00
A61P37/06
A61K35/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564243
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(85)【翻訳文提出日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 US2021028808
(87)【国際公開番号】W WO2021216978
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】63/014,344
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518174569
【氏名又は名称】エーゼットセラピーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】アシュトン-リッカルト, フィリップ ジー.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA05
4C087NA14
4C087ZB08
4C087ZB11
(57)【要約】
本発明は、細胞ベースの免疫療法を含む、移植用の細胞の免疫原性を低減するための組成物および方法を提供する。標的化部分ならびに他のシグナル伝達および/または自殺遺伝子とともに、β2ミクログロブリン(B2M)改変RNAをコードするベクターは、操作されたCAR T制御性細胞または任意の供給源に由来する他の治療用細胞の効率的生成を可能にする。本発明は、例えば、β2ミクログロブリン(B2M)改変RNA;およびキメラ抗原レセプター(CAR)、をコードするベクターを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β2ミクログロブリン(B2M)改変RNA;および
キメラ抗原レセプター(CAR)、
をコードするベクター。
【請求項2】
前記ベクターは、レンチウイルスベクターである、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記B2M改変RNAは、低分子干渉RNA(siRNA)を含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項4】
前記siRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされる、請求項3に記載のベクター。
【請求項5】
前記B2M改変RNAは、スモールヘアピンRNA(shRNA)を含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項6】
前記shRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされ、1またはこれより多くのヘアピンループ配列は、配列番号6および配列番号7からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされる、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
形質導入した細胞におけるB2M発現を、野生型と比較して少なくとも75%ノックダウンするように操作可能な、請求項1に記載のベクター。
【請求項8】
形質導入した細胞におけるB2M発現を、野生型と比較して少なくとも80%ノックダウンするように操作可能な、請求項1に記載のベクター。
【請求項9】
形質導入した細胞におけるB2M発現を、野生型と比較して少なくとも85%ノックダウンするように操作可能な、請求項1に記載のベクター。
【請求項10】
形質導入した細胞におけるB2M発現を、野生型と比較して少なくとも90%ノックダウンするように操作可能な、請求項1に記載のベクター。
【請求項11】
形質導入した細胞におけるB2M発現を、野生型と比較して少なくとも95%ノックダウンするように操作可能な、請求項1に記載のベクター。
【請求項12】
前記CARは、グリア細胞マーカーを特異的に結合する、請求項1に記載のベクター。
【請求項13】
前記CARは、抗原提示細胞(APC)マーカーを特異的に結合する、請求項1に記載のベクター。
【請求項14】
前記CARは、Tヘルパー1細胞(Th1)マーカーを特異的に結合する、請求項1に記載のベクター。
【請求項15】
前記CARは、Tヘルパー17細胞(Th17)マーカーを特異的に結合する、請求項1に記載のベクター。
【請求項16】
前記CARは、膵島細胞、膵臓β細胞、心筋細胞、単球、マクロファージ、骨髄系細胞、腸細胞、肝臓細胞、腎臓細胞、腎臓ポドサイト、腎臓尿細管細胞、上皮細胞、唾液腺細胞、肺細胞、線維芽細胞、結合組織細胞、ランゲルハンス細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、皮膚細胞、毛包細胞、および毛球細胞からなる群より選択される細胞に特異的なマーカーに特異的に結合する、請求項1に記載のベクター。
【請求項17】
自殺遺伝子をさらにコードする、請求項1に記載のベクター。
【請求項18】
PETレポーター遺伝子をさらにコードする、請求項1に記載のベクター。
【請求項19】
TK自殺/PETレポーター遺伝子をさらにコードする、請求項1に記載のベクター。
【請求項20】
β2ミクログロブリン(B2M)改変RNAおよびキメラ抗原レセプター(CAR)をコードするベクターで形質導入された、操作された細胞。
【請求項21】
前記B2M改変RNAは、低分子干渉RNA(siRNA)を含む、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項22】
前記siRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされる、請求項21に記載の操作された細胞。
【請求項23】
前記B2M改変RNAは、スモールヘアピンRNA(shRNA)を含む、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項24】
前記shRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされ、1またはこれより多くのヘアピンループ配列は、配列番号6および配列番号7からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされる、請求項23に記載の操作された細胞。
【請求項25】
等価な野生型細胞のB2M発現の25%またはこれ未満のB2M発現を有する、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項26】
等価な野生型細胞のB2M発現の20%またはこれ未満のB2M発現を有する、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項27】
等価な野生型細胞のB2M発現の15%またはこれ未満のB2M発現を有する、 請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項28】
等価な野生型細胞のB2M発現の10%またはこれ未満のB2M発現を有する、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項29】
等価な野生型細胞のB2M発現の5%またはこれ未満のB2M発現を有する、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項30】
前記CARは、CNSグリア細胞マーカーを特異的に結合する、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項31】
前記CARは、抗原提示細胞(APC)マーカーを特異的に結合する、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項32】
前記CARは、Tヘルパー1細胞(Th1)マーカーを特異的に結合する、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項33】
前記CARは、Tヘルパー17細胞(Th17)マーカーを特異的に結合する、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項34】
前記CARは、膵島細胞、膵臓β細胞、心筋細胞、単球、マクロファージ、骨髄系細胞、腸細胞、肝臓細胞、腎臓細胞、腎臓ポドサイト、腎臓尿細管細胞、上皮細胞、唾液腺細胞、肺細胞、線維芽細胞、結合組織細胞、ランゲルハンス細胞。ケラチノサイト、メラノサイト、皮膚細胞、毛包細胞、および毛球細胞、希突起膠細胞、星状細胞、ミクログリア細胞からなる群より選択される細胞に特異的なマーカーに特異的に結合する、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項35】
前記細胞は、幹細胞およびリンパ球からなる群より選択される、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項36】
前記細胞は、制御性T細胞(Treg)である、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項37】
前記細胞は、被験体における同種異系移植片のドナーに由来する、請求項20に記載の操作された細胞。
【請求項38】
被験体において自己免疫疾患または炎症性疾患を処置する方法であって、前記方法は、治療上有効な量の制御性T細胞(Treg)を前記被験体に投与することを包含し、それぞれが、被験体における免疫応答を抑制する様式で、β2ミクログロブリン(B2M)改変RNAおよび細胞の表面上のリガンドを特異的に結合するキメラ抗原レセプター(CAR)を発現し、それによって、前記被験体において前記自己免疫疾患または炎症性疾患を処置する方法。
【請求項39】
前記B2M改変RNAは、低分子干渉RNA(siRNA)を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記siRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされる、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記B2M改変RNAは、スモールヘアピンRNA(shRNA)を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記shRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされ、1またはこれより多くのヘアピンループ配列は、配列番号6および配列番号7からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされる、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記Tregは、野生型TregのB2M発現の25%またはこれ未満のB2M発現を有する、請求項38に記載の方法。
【請求項44】
前記被験体は、ヒトである、請求項38に記載の方法。
【請求項45】
前記Tregは、自家ではない、請求項38に記載の方法。
【請求項46】
前記細胞は、グリア細胞、抗原提示細胞(APC)、Tヘルパー1細胞(Th1)、およびTヘルパー17細胞(Th17)からなる群より選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項47】
β2ミクログロブリン(B2M)改変RNAをコードするベクターであって、前記ベクターの配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群より選択される配列を含む、ベクター。
【請求項48】
前記ベクターは、レンチウイルスベクターである、請求項47に記載のベクター。
【請求項49】
前記B2M改変RNAは、低分子干渉RNA(siRNA)を含む、請求項47に記載のベクター。
【請求項50】
前記B2M改変RNAは、スモールヘアピンRNA(shRNA)を含む、請求項47に記載のベクター。
【請求項51】
前記shRNAは、配列番号6および配列番号7からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされる1またはこれより多くのヘアピンループ配列を含む、請求項50に記載のベクター。
【請求項52】
形質導入した細胞におけるB2M発現を、野生型と比較して少なくとも75%ノックダウンするように操作可能な、請求項47に記載のベクター。
【請求項53】
形質導入した細胞におけるB2M発現を、野生型と比較して少なくとも80%ノックダウンするように操作可能な、請求項47に記載のベクター。
【請求項54】
形質導入した細胞におけるB2M発現を、野生型と比較して少なくとも85%ノックダウンするように操作可能な、請求項47に記載のベクター。
【請求項55】
形質導入した細胞におけるB2M発現を、野生型と比較して少なくとも90%ノックダウンするように操作可能な、請求項47に記載のベクター。
【請求項56】
形質導入した細胞におけるB2M発現を、野生型と比較して少なくとも95%ノックダウンするように操作可能な、請求項47に記載のベクター。
【請求項57】
自殺遺伝子をさらにコードするする、請求項47に記載のベクター。
【請求項58】
PETレポーター遺伝子をさらにコードする、請求項47に記載のベクター。
【請求項59】
TK自殺/PETレポーター遺伝子をさらにコードする、請求項47に記載のベクター。
【請求項60】
β2ミクログロブリン(B2M)改変RNAをコードするベクターで形質導入された、操作された細胞であって、前記ベクターの配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群より選択される配列を含む、操作された細胞。
【請求項61】
前記B2M改変RNAは、低分子干渉RNA(siRNA)を含む、請求項60に記載の操作された細胞。
【請求項62】
前記B2M改変RNAは、スモールヘアピンRNA(shRNA)を含む、請求項60に記載の操作された細胞。
【請求項63】
前記shRNAは、配列番号6および配列番号7からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされる1またはこれより多くのヘアピンループ配列を含む、請求項62に記載の操作された細胞。
【請求項64】
等価な野生型細胞のB2M発現の25%またはこれ未満のB2M発現を有する、請求項60に記載の操作された細胞。
【請求項65】
等価な野生型細胞のB2M発現の20%またはこれ未満のB2M発現を有する、請求項60に記載の操作された細胞。
【請求項66】
等価な野生型細胞のB2M発現の15%またはこれ未満のB2M発現を有する、請求項60に記載の操作された細胞。
【請求項67】
等価な野生型細胞のB2M発現の10%またはこれ未満のB2M発現を有する、請求項60に記載の操作された細胞。
【請求項68】
等価な野生型細胞のB2M発現の5%またはこれ未満のB2M発現を有する、請求項60に記載の操作された細胞。
【請求項69】
前記細胞は、幹細胞およびリンパ球からなる群より選択される、請求項60に記載の操作された細胞。
【請求項70】
前記細胞は、制御性T細胞(Treg)である、請求項60に記載の操作された細胞。
【請求項71】
前記細胞は、被験体における同種異系移植片のドナーに由来する、請求項60に記載の操作された細胞。
【請求項72】
被験体において自己免疫疾患または炎症性疾患を処置する方法であって、前記方法は、治療上有効な量の制御性T細胞(Treg)を前記被験体に投与することを包含し、それぞれが、β2ミクログロブリン(B2M)改変RNAを被験体における免疫応答を抑制する様式で発現し、それによって、前記被験体において自己免疫疾患または炎症性疾患を処置する方法。
【請求項73】
前記B2M改変RNAは、低分子干渉RNA(siRNA)を含む、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記siRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされる、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記B2M改変RNAは、スモールヘアピンRNA(shRNA)を含む、請求項72に記載の方法。
【請求項76】
前記shRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされ、1またはこれより多くのヘアピンループ配列は、配列番号6および配列番号7からなる群より選択される配列を含む配列によってコードされる、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記Tregは、野生型TregのB2M発現の25%またはこれ未満のB2M発現を有する、請求項72に記載の方法。
【請求項78】
前記被験体は、ヒトである、請求項72に記載の方法。
【請求項79】
前記Tregは、自家ではない、請求項72に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年4月23日出願の米国仮特許出願第63/014,344号(これは、その全体において参考として援用される)の利益および優先権を主張する。
【0002】
配列表
本出願は、EFS-Webを介して提出され、これにより、その全体において本明細書に参考として援用される、11の配列を有する配列表を含む。上記のASCIIコピー(作成日:2021年4月21日)は、48216WO_CRF_sequencelisting.txtという名称であり、大きさは6,287バイトである。
【0003】
発明の分野
本発明は、クラスI主要組織適合遺伝子複合体タンパク質をコードするヒト白血球抗原の細胞切除のための組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
背景
幹細胞移植および種々の免疫療法を含む細胞ベースの処置の出現は、がんを含む疾患の処置において顕著な見込みを示した。特に、キメラ抗原レセプターを発現する操作されたT細胞(CAR-T細胞)は、標的化免疫療法における新たな武器として脚光を浴びている。さらに、特許出願公開WO 2019/190879(本明細書に参考として援用される)において考察されるように、T制御性リンパ球(Tregs)を含む他の免疫細胞は、キメラ抗原レセプターを発現するように操作され得、自己免疫疾患および炎症性疾患において免疫応答および炎症を調節するために使用され得る。
【0005】
これらの治療は、それら自体のハードルおよび移植された細胞の免疫原性に関連するリスクがある。意図した治療に対する免疫反応のリスクは、概して問題であるが、処置目的が免疫抑制の場合には、前述の操作されたTregと同様に、さらなる免疫応答を引き出すことは、特に懸念される。免疫原性を緩和する既存の方法としては、処置されるべき患者から採取される自家細胞の使用が挙げられる。しかしこのような方法は、処置の遅れに伴う問題を引き起こし、大規模生産を妨げる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】国際公開第2019/190879号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
要旨
本発明の組成物および方法は、β2ミクログロブリン(B2M)改変RNAを使用して、種々の細胞においてHLAクラスI MHC発現を低減させる。クラスI MHC発現の低減により、細胞は、外来物質として認識される可能性や、不要な免疫応答を誘導する可能性がより低くなる。
【0008】
B2M改変RNAをコードするベクターは、Treg細胞のような細胞を形質導入して、B2M改変RNAを発現させるために使用され得る。B2M改変RNAは、低分子干渉RNA(siRNA)またはスモールヘアピンRNA(shRNA)を含み得、B2MコードmRNAを標的にして、その翻訳を妨害し、クラスI MHC発現を低減して、その結果、免疫原性が低減したB2Mノックダウン細胞を生じさせるように操作することができる。
【0009】
任意の細胞において免疫原性を低減する能力は、細胞移植に依拠する任意の処置または技術(例えば、CAR Treg療法)のための新たな細胞供給源を開拓し、自家の出発材料の必要性を回避することによって、大規模生成および備蓄を可能にし得る。操作されたCAR Tregのようなある特定の技術において、形質導入は、Treg細胞においてCARまたは他の標的化部分を発現するために既に要求される。よって、好ましい実施形態において、B2M改変RNAおよび標的化部分(例えば、CAR)の両方をコードする単一のベクターは、B2Mノックダウンに起因して、免疫原性が低減したCAR Tregを生成するために使用され得る。このような単純化された、単一のベクターのアプローチは、より大規模の生成をさらに支援する。
【0010】
ある特定の実施形態において、さらなるエレメントは、ベクターの中にコードされ得る(例えば、安全スイッチ、ならびに細胞生成の間の発現をモニタリングする、ならびに治療用細胞および投与後のそれらの発現プロフィールのモニタリング/追跡のための手段を提供するにあたって有用である自殺遺伝子およびレポーター遺伝子を含む)。レポーター発現は、操作された免疫抑制性細胞の所望のCNS濃度を確実にするために、グリア細胞標的化CAR Tregのような標的化治療において使用される場合に特に有用であり得る。
【0011】
注記されるように、いくつかの実施形態は、免疫細胞を選択するおよび/または組織を選択するために特異的標的化を通じて免疫応答および炎症をモジュレートするために使用され得るB2M改変された、標的化T制御性リンパ球(Treg)を含む。このようなTregは、種々の標的細胞または組織を特異的に認識しかつ結合するキメラ抗原レセプター(CAR)、抗体、またはその機能的成分(例えば、1本鎖可変性フラグメント(scFv))に連結され得、免疫抑制性Tregまたはタンパク質は、炎症を低減するために、よって、炎症関連疼痛および変性を低減するために、炎症した組織に引き寄せられる。このような細胞におけるB2M発現のノックダウン(これは、標的化部分およびB2M改変RNAの両方をコードする単一のベクターでの形質導入を介して達成され得る)は、上記操作されたTreg細胞の供給源とは無関係に、不要な免疫原性を回避する助けになり得る。本発明のB2M改変ベクターおよび方法は、特許公開WO 2019/190879に記載されるとおりの神経変性障害を処置するために、ならびに他の免疫疾患および炎症性疾患を処置するために、標的化Treg療法と適合性である。よって、それらの出願において記載されるグリア細胞および他の細胞/組織標的化部分をコードするベクターは、本明細書で企図される。
【0012】
本発明の局面は、β2ミクログロブリン(B2M)改変RNAおよびキメラ抗原レセプター(CAR)、抗体、またはその機能的成分をコードするベクターを含む。ある特定の実施形態において、上記ベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0013】
上記B2M改変RNAは、低分子干渉RNA(siRNA)を含み得る。上記siRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5を含み得る。ある特定の実施形態において、上記B2M改変RNAは、スモールヘアピンRNA(shRNA)を含み得る。上記shRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群より選択される配列、ならびに配列番号6および配列番号7からなる群より選択される1またはこれより多くのヘアピンループ配列を含み得る。
【0014】
種々の実施形態において、上記ベクターは、形質導入した細胞におけるB2M発現を、野生型と比較して少なくとも75%、野生型と比較して少なくとも80%、野生型と比較して少なくとも85%、野生型と比較して少なくとも90%、または野生型と比較して少なくとも95%ノックダウンするように操作可能であり得る。
【0015】
ある特定の実施形態において、上記CARは、グリア細胞マーカー、抗原提示細胞(APC)マーカー、Tヘルパー1細胞(Th1)マーカー、またはTヘルパー17細胞(Th17)マーカーを特異的に結合し得る。いくつかの実施形態において、上記CARは、膵島細胞、膵臓β細胞、心筋細胞、単球、マクロファージ、骨髄系細胞、腸細胞、肝臓細胞、腎臓細胞、腎臓ポドサイト、腎臓尿細管細胞、上皮細胞、唾液腺細胞、肺細胞、線維芽細胞、結合組織細胞、ランゲルハンス細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、皮膚細胞、毛包細胞、希突起膠細胞、星状細胞、ミクログリア細胞、および毛球細胞からなる群より選択される細胞に特異的なマーカーに特異的に結合し得る。
【0016】
本発明のベクターは、自殺遺伝子および/またはPETレポーター遺伝子をさらにコードし得る。ある特定の実施形態において、上記ベクターは、TK自殺/PETレポーター遺伝子をコードし得る。
【0017】
ある特定の局面において、本発明は、β2ミクログロブリン(B2M)改変RNAおよびキメラ抗原レセプター(CAR)をコードするベクターで形質導入された、操作された細胞を含み得る。上記操作された細胞は、別の点で等価な野生型細胞のB2M発現の25%もしくはこれ未満、20%もしくはこれ未満、15%もしくはこれ未満、10%もしくはこれ未満、または5%もしくはこれ未満のB2M発現を有し得る。
【0018】
上記操作された細胞は、幹細胞およびリンパ球であり得る。ある特定の実施形態において、上記細胞は、制御性T細胞(Treg)であり得る。上記細胞は、被験体において同種異系移植片のドナーに由来し得る。上記操作されたTreg細胞は、CAR分子の付加なしの同種異系ドナーに由来し得る。
【0019】
本発明の局面は、被験体において自己免疫疾患または炎症性疾患を処置する方法であって、上記被験体に、治療上有効な量の制御性T細胞(Treg)を投与し、各々が、被験体における免疫応答を抑制する様式で、β2ミクログロブリン(B2M)改変RNAおよび細胞の表面上のリガンドを特異的に結合するキメラ抗原レセプター(CAR)を発現し、それによって、上記被験体において自己免疫疾患または炎症性疾患を処置することによる方法を包含する。上記被験体は、ヒトであり得る。上記Tregは、自家のものでなくてもよい。種々の実施形態において、上記自己免疫疾患または炎症性疾患は、以下であり得る:アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、バッテン病、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、慢性外傷性脳症(CTE)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、ドラベ症候群、クラッベ病、ギラン-バレー症候群、ハンチントン病、低酸素性虚血性脳症、ウェスト症候群、レビー小体型認知症、異染性白質ジストロフィー(MLD)、片頭痛、多系統萎縮症(MSA)、視神経脊髄炎(NMO)、パーキンソン病、ペリツェウス-メルツバッハー病(PMD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、プリオン病、進行性核上性麻痺、レット症候群、脊髄性筋萎縮症(SMA)、トゥレット症候群、外傷性脳傷害、熱帯性痙性不全対麻痺(TSP)、腹痛、欠神発作、急性脊髄傷害、嗜癖、記憶喪失、不安障害、摂食障害、関節痛、毛細血管拡張性運動失調症(A-T)、注意欠陥多動障害(ADHD)、自閉症、自己免疫脳炎、背部痛、双極性障害、膀胱痛、ブローカ失語症、がん疼痛、脳浮腫、化学療法誘発性疼痛、群発性頭痛症候群、認知障害、認知機能障害、複合性局所疼痛症候群、認知症、歯痛、うつ病、糖尿病性神経障害性疼痛、薬物誘発性ジスキネジア、ジストニア、脳脊髄炎、てんかん、てんかん性脳症、本態性振戦、疲労、線維筋痛症、片麻痺、痛覚過敏、炎症性疼痛、不眠症、間質性膀胱炎、脳内出血、頭蓋内圧亢進、ケネディ病、レノックス-ガストー症候群、局所麻酔効果、大うつ病性障害、MELAS症候群、髄膜脳炎、侵害受容性疼痛、モートン中足部痛(Morton’s metatarsalgia)、運動ニューロン病、運動障害、多巣性運動ニューロパチー、多発性硬化症(MS)、筋痙縮、筋骨格疼痛、筋肉痛、筋膜性疼痛症候群、ナルコレプシー、神経傷害、神経障害性疼痛、神経毒性症候群、強迫性障害、眼痛、アヘン離脱症候群、変形性関節症疼痛、パニック障害、麻痺、部分発作、末梢神経傷害、広汎性発達障害(PDD)、リウマチ性多発筋痛(PMR)、帯状疱疹後神経痛、術後痛、一次性進行型多発性硬化症(PPMS)、精神病、神経根障害、再発性多発性硬化症(RMS)、再発寛解型多発性硬化症(RRMR)、レストレスレッグス症候群、関節リウマチ疼痛、分裂情動障害、統合失調症、坐骨神経痛、二次性進行型多発性硬化症(SPMS)、睡眠障害、禁煙、社交不安障害、痙性斜頚(頚部ジストニア)、脊髄障害、スティッフパーソン症候群(SPS)、タウオパチー、腱および靱帯の疼痛、強直間代(大発作)発作、三叉神経痛、上肢筋痙縮、血管性認知症、血管運動症状(非閉経期)、および内臓痛、1型糖尿病、移植、心筋炎(cardiomyositis)、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、GVHD、セリアック病、自己免疫性肝炎(AIH)、原発性硬化性胆管炎(PSC);原発性胆汁性肝硬変(PBC)、巣状分節状糸球体硬化症(FSGS)、全身性エリテマトーデス、皮膚エリテマトーデス、ループス腎炎、全身性強皮症、膜性糸球体腎症(membranous glomerular nephropathy)(MGN)、膜性腎症(MN)、微小変化型疾患(minimal change disease)(MCD);IgA腎症、ANCA関連血管炎(AAV)、シェーグレン症候群、強皮症、全身性硬化症(SSc)、白斑、非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、円形脱毛症、COVID-19またはウイルス感染から生じる他の炎症性疾患。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、B2M改変標的化CAR-Tregを図示する。
図2図2は、種々のshRNAコードベクターで形質導入したHEK-293細胞に対する抗B2M染色でのメジアン蛍光FACS結果を図示する。
図3図3は、種々のshRNAコードベクターで形質導入したHEK-293細胞に対する抗HLA ABC染色でのメジアン蛍光FACS結果を図示する。
図4A図4A~4Bは、種々のshRNAコードGFP+ベクターで形質導入し、抗B2Mまたは抗HLA ABCで染色したHEK-293細胞に関する平均蛍光強度を示す。
図4B図4A~4Bは、種々のshRNAコードGFP+ベクターで形質導入し、抗B2Mまたは抗HLA ABCで染色したHEK-293細胞に関する平均蛍光強度を示す。
図5A図5A~5Dは、種々のshRNAコードベクターで形質導入したHEK-293細胞に関するGFPで測定した形質導入効率、ならびにGFP+細胞およびGFP-細胞に対する抗B2Mおよび抗HLA ABCの染色強度を示す。
図5B図5A~5Dは、種々のshRNAコードベクターで形質導入したHEK-293細胞に関するGFPで測定した形質導入効率、ならびにGFP+細胞およびGFP-細胞に対する抗B2Mおよび抗HLA ABCの染色強度を示す。
図5C図5A~5Dは、種々のshRNAコードベクターで形質導入したHEK-293細胞に関するGFPで測定した形質導入効率、ならびにGFP+細胞およびGFP-細胞に対する抗B2Mおよび抗HLA ABCの染色強度を示す。
図5D図5A~5Dは、種々のshRNAコードベクターで形質導入したHEK-293細胞に関するGFPで測定した形質導入効率、ならびにGFP+細胞およびGFP-細胞に対する抗B2Mおよび抗HLA ABCの染色強度を示す。
図6A図6A~6Dは、種々のshRNAコードベクターで形質導入したHEK-293細胞に関するGFPで測定した形質導入効率、ならびにIgG1 PE/IgG1 APCアイソタイプコントロール抗体での染色強度を示す。
図6B図6A~6Dは、種々のshRNAコードベクターで形質導入したHEK-293細胞に関するGFPで測定した形質導入効率、ならびにIgG1 PE/IgG1 APCアイソタイプコントロール抗体での染色強度を示す。
図6C図6A~6Dは、種々のshRNAコードベクターで形質導入したHEK-293細胞に関するGFPで測定した形質導入効率、ならびにIgG1 PE/IgG1 APCアイソタイプコントロール抗体での染色強度を示す。
図6D図6A~6Dは、種々のshRNAコードベクターで形質導入したHEK-293細胞に関するGFPで測定した形質導入効率、ならびにIgG1 PE/IgG1 APCアイソタイプコントロール抗体での染色強度を示す。
図7図7は、B2M遺伝子にわたるshRNA標的位置の配列マップを示す。
図8図8は、CARまたは他の標的化成分ありまたはなしのユニバーサルドナー(UD)Tregの生成を図示する。出発細胞タイプは、正常ドナー血液の末梢血単核白血球(PBMC)から精製した天然の(n)Treg(CD4CD25CD127)である。nTregは、B2M改変RNAおよび必要に応じて、CAR B2M単独をコードするレンチウイルスベクターで形質導入され得る。操作されたnTregの両方のタイプは、内因性T細胞レセプター(TCR)の発現を保持し、ダウンレギュレートされたB2M発現およびHLAクラスI MHCの切除を有する。CAR/shRNA B2M配列で形質導入されたnTregのみが、規定された細胞タイプ上のタンパク質標的に対して特異的なCARを発現する。HLAクラスI MHCの切除は、MHCミスマッチ患者への養子移入後に、アロ反応性免疫細胞からの免疫攻撃からTregsを防御する。UD CAR-Tregによる免疫抑制は、内因性TCRを介するアロHLAクラスII MHCの認識およびCARによる規定された細胞表面標的タンパク質の認識のいずれかによって、誘発される。UD Tregによる免疫抑制は、内因性TCRによるアロクラスII MHCの認識によって誘発されるのみである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
本発明の組成物および方法は、B2M改変RNAをコードするベクターでの形質導入を介した種々の細胞における免疫原性の低減に関する。好ましい実施形態において、上記B2M改変RNAは、RNA干渉を通じてB2Mの発現を妨げて、それによって、細胞表面上でのMCH クラスIタンパク質のディスプレイを低減または防止するsiRNAまたはshRNAである。よって、本発明の操作された細胞は、レシピエント患者における免疫応答を誘導するリスクの増大なしに、より容易に入手可能な非自家の供給源から由来し得る。細胞ベースの免疫療法(例えば、CAR Treg免疫抑制)と組み合わせた場合、単一のベクターは、B2M改変RNAおよび標的化部分(例えば、CAR)および他の遺伝子(例えば、報告遺伝子もしくは自殺遺伝子)の発現を誘導するために使用され得る。図1は、MHCクラスI細胞表面ディスプレイを低減するために、細胞特異的CARおよびB2M改変shRNAを発現する本発明の操作されたTreg細胞を図示する。
【0022】
「主要組織適合遺伝子複合体抗原」(「ヒト白血球抗原」、HLAともいわれる「MHC」)は、細胞の表面上で見出されるタンパク質分子であり、免疫攻撃を誘導するために、細胞傷害性T細胞への外来タンパク質のディスプレイを介する細胞ベースの免疫応答において重要である。HLA抗原は、2つの大きなクラス: MHCクラスIおよびMHCクラスIIに分けられる。MHCクラスIに相当するHLA(HLA-A、HLA-B、およびHLA-C)は、細胞が自己として認識されることを可能にする一方で、MHCクラスIIに相当するHLA(DP、DM、DO、DQおよびDR)は、リンパ球と抗原提示細胞との間の反応に関与する。両方ともが、移植した器官の拒絶に関わりがある。米国特許第9,997,807号(本明細書に参考として援用される)を参照のこと。
【0023】
B2Mは、α1タンパク質、α2タンパク質、およびα3タンパク質とともに、MHCクラスIタンパク質の成分であり、MHCクラスIペプチド提示に必須である。B2Mは、細胞表面上のα3鎖の側にあり、膜貫通領域を有しない。B2Mが、MHCクラスIの細胞表面発現およびペプチド結合の溝の安定性に必要であり、その結果、B2Mがないと、細胞表面上で検出可能なMHCクラスIの量が非常に制限されることが、研究から示された。よって、細胞におけるB2M発現の低減または排除は、外来物質としての細胞の認識を回避し、免疫原性を低減する助けになり得る。従って、B2M発現の干渉を介するクラスI MHC切除は、移植用の細胞を操作することにおける使用のための非自家の細胞供給源の新たな供給源を開拓し得る。
【0024】
ヒトB2M遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号8)およびB2Mタンパク質のペプチド配列(配列番号9; UniProtKB - P61769(B2MG_HUMAN))を、図7に示す。隣接する配列を含むヒトB2Mを、以下の配列番号10に示す(NCBI Reference Sequence: NM_004048):
【化1-1】
【化1-2】
【0025】
B2Mタンパク質(配列番号9)は、シグナル伝達部分
MSRSVALAVLALLSLSGLEA (配列番号11)
を含む。
【0026】
好ましい実施形態において、siRNAまたはshRNAは、形質導入された細胞においてB2M発現のRNA干渉のために使用される。B2M遺伝子内の選択したsiRNAおよびshRNA標的は、図7においてマッピングされたように選択した。免疫原性を低減させるためのB2Mの遺伝的切除の例は、以前の研究において示されている。以下を参照のこと: Changら, 2014, Broad T-Cell Receptor Repertoire in T-Lymphocytes Derived from Human Induced Pluripotent Stem Cells, PLoS ONE 9(5); Aldrichら, 1994, Positive selection of self- and alloreactive CD8+ T cells in TAP1 mutant mice, PNAS, 91:6525-6528; Wangら, 2015, Targeted Disruption of the B2-Microglobulin Gene Minimizes the Immunogenicity of Human Embryonic Stem Cells, Stem Cells Translational Medicine, 4:1234-1245; Zijlstraら, 1990, β2-Microglobulin Deficient Mice Lack CD4 Cytolytic T Cells, Nature, 344:742-746; 米国特許公開2019/0233797;これらの各々の内容は、本明細書に参考として援用される。
【0027】
本発明は、細胞ベースの免疫療法およびその他の処置のための標的化された細胞を、任意の供給源から免疫原性を抑えて効率的に生成するための、新たなB2M改変RNA配列およびB2M改変RNAをコードするベクターを、さらなるCAR、報告遺伝子および自殺遺伝子とともに提供する。本発明のB2M改変ベクターは、形質導入した細胞におけるB2M発現を、野生型と比較して少なくとも75%、野生型と比較して少なくとも80%、野生型と比較して少なくとも85%、野生型と比較して少なくとも90%、または野生型と比較して少なくとも95%ノックダウンし得る。
【0028】
種々の実施形態において、上記B2M改変RNAは、siRNA、shRNA、microRNA、または1本鎖干渉RNAであり得る。好ましい実施形態において、上記B2M改変RNAは、siRNAまたはshRNAである。SiRNAは、2本鎖非コードRNAであり、長さが概して20~25塩基対である。それは、転写後にmRNAを分解し、それによって翻訳を妨げることによって、相補的ヌクレオチド配列を有する特定の遺伝子の発現に干渉する。ある特定の実施形態において、B2M改変siRNAをコードするベクター配列は、以下の配列のうちの1またはこれより多くのものを含む:
【化2】
【0029】
それらの配列を含む上記のsiRNA配列またはshRNA配列をコードするB2M改変ベクターは、相当するID番号(例えば、703、704、705、706、および707)によって、本明細書で言及され得る。ベクター728(実施例中で考察される)は、コントロールとして含まれ、B2M mRNA中の任意の標的配列に相補的ではないスクランブルsiRNA配列を含む。ヒトB2M遺伝子配列は、上記で参照されるsiRNA配列の各々についての標的領域とともに、図7に示される。
【0030】
ShRNAは、RNA干渉を介して標的遺伝子発現をサイレントにするために使用され得るタイトなヘアピンターンを有する人工RNA分子である。ShRNAは、プラスミドベクターに組み込まれ得、安定な発現のためにゲノムDNAへと組み込まれ、標的mRNAのより長いノックダウン効果を生成する。適用において、上記shRNA分子は細胞内でプロセシングされてsiRNAを形成し、続いて、遺伝子発現をノックダウンする。ある特定の実施形態において、以下のうちの1つのようなヘアピンループは、本発明のB2M改変shRNAを生成するために、siRNA配列に付加され得る:
【化3】
【0031】
以下で考察される実施例に関しては、ベクター703、704a、705、706、および707は、配列番号6におけるヘアピン配列とともに、それらそれぞれのsiRNA配列を含む。ベクター704b(実施例中で考察される)は、配列番号7におけるヘアピンループとともに、配列番号2におけるsiRNAを含む。本発明は、本明細書で提供される配列のある特定のバリエーションが、所望のレベルのB2M発現干渉をなお示し得ることを認識する。よって、種々の実施形態において、siRNAまたはshRNAは、配列番号1~7と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95% 同一性を有する配列を含み得る。
【0032】
種々の実施形態において、ベクターは、レポーター遺伝子を含み得る。レポーター遺伝子は、細胞中でのそれらの検出がその遺伝子の発現を確認するように、同定可能なマーカーをコードする。レポーター遺伝子は、その遺伝子の発現を定量し、それらが含まれるベクターの形質導入効率を推測するためにさらに使用され得る、発現される場合に測定可能なシグナルを提供し得る。一般に使用されるレポーター遺伝子としては、容易に観察および測定され得る緑色蛍光タンパク質(GFP)のような視覚的シグナルを提供するものが挙げられる。ある特定の実施形態において、本発明のベクターは、陽電子放出断層撮影(PET)レポーター遺伝子を含み得る。以下を参照のこと: Yaghoubiら, 2012, Positron Emission Tomography Reporter Genes and Reporter Probes: Gene and Cell Therapy Applications, Teranostics, 2(4):374-391(本明細書に参考として援用される)。PETレポーター遺伝子の使用は、発現、および従って、形質導入効率を決定するために、PETスキャンを使用して非侵襲性の画像化を可能にする。さらに、標的化細胞ベースの治療(例えば、CAR-Treg処置)において使用される場合、PETレポーター発現は、その投与した細胞の局在化を非侵襲的にモニターして、その細胞が標的組織中で適切に濃縮されていることを検証するために使用され得る。例えば、CNS-グリア細胞標的化CAR-Tregにおいて発現される場合、PETレポーターは、CAR-Tregが血液脳関門を横断し、標的グリア細胞に達していることを検証するために、脳のPETスキャンと併せて使用され得る。
【0033】
ある特定の実施形態において、ベクターは、自殺遺伝子をさらに含み得る。自殺遺伝子は、細胞を、活性化の際にアポトーシスを通じてそれ自体を殺滅させ得る。自殺遺伝子は、有害反応の場合に、遺伝子改変した細胞を選択的に殺滅するように安全スイッチとして組み込まれ得る。よって、それらは、CAR-Treg免疫抑制のような細胞ベースの免疫療法において有用であり得る。好ましい実施形態において、TK自殺/PETレポーター遺伝子は、PET報告および自殺安全スイッチの二重機能を提供するために、ベクターの中に含められ得る。Gschwengら, 2014, HSV-sr39TK positron emission tomography and suicide gene elimination of human hematopoietic stem cells and their progeny in humanized mice, Cancer Res., 74(18):5173-5183(本明細書に参考として援用される)を参照のこと。
【0034】
B2M改変Tregおよび他の細胞は、CAR-T細胞または他の操作された細胞を調製するために公知の方法によって操作され得る。Treg細胞は、その後のクラスI MHC切除に起因して任意の供給源から単離され得る。次いで、Treg細胞の遺伝子は、公知の技術(例えば、エレクトロポレーション、ウイルスベクター、またはB2M改変RNA、最適な操作されたキメラ抗原レセプター、レポーター遺伝子、および自殺遺伝子のうちの1またはこれより多くのものをコードする核酸でのトランスフェクションの他の形態)を通じて改変され得る。次いで、操作された細胞は、処置のために患者の系へと導入する前に実験的に検証され得る。好ましい実施形態において、レンチウイルスベクターは、B2M改変RNAならびに種々の標的化、シグナル伝達、および自殺遺伝子で細胞を形質導入するために使用され得る。Elegheertら, 2018, Lentiviral transduction of mammalian cells for fast, scalable and high-level production of soluble and membrane proteins, Nature Protocols, 13, 2991-3017(本明細書に参考として援用される)を参照のこと。
【0035】
好ましい実施形態において、上記形質導入された細胞は、幹細胞またはリンパ球(例えば、Treg)であり得る。本発明の操作されたTregを使用して、種々の神経変性疾患を含む種々の自己免疫疾患および/または炎症性疾患を処置することができる。操作された細胞は、細胞特異的マーカーを標的にして、免疫細胞を標的とするかまたは組織を標的とするようにTregを向かわせ、多種多様な疾患の症状に寄与する自己免疫による攻撃および炎症を中断させ得る。
【0036】
上記で注記されるように、B2M改変RNA、レポーター、および/または自殺遺伝子に加えて、ベクターは、標的細胞マーカーを特異的に結合する、キメラ抗原レセプター(CAR)、抗体、または1本鎖可変フラグメント(scFv)をコードし得る。標的細胞は、APCまたはTヘルパー細胞(Th1またはTh17)のような免疫細胞であってもよいし、免疫応答の抑制が所望される特異的組織であってもよい。神経変性疾患、自己免疫疾患、および/または炎症性疾患を処置するための例示的な標的細胞、リガンド、および標的化部分は、特許公開WO 2019/190879に記載され、本発明は、このような標的化部分の組み込みおよび本明細書で記載されるB2M改変ベクターにおける処置方法を企図する。
【0037】
種々の実施形態において、ベクターは、特異的細胞または組織を標的化するために、CAR、scFv、または抗体をコードし得る。CARは、免疫エフェクター細胞(T細胞)に対する特異性を提供し得る操作されたレセプターである。CARは、腫瘍細胞特異性を、がん免疫療法における使用のための細胞傷害性Tリンパ球に付与するために使用されている。以下を参照のこと:Couzin-Frankel, 2013, Cancer immunotherapy, Science, 342(6165):1432-33; Smithら, 2016, Chimeric antigen receptor (CAR) T cell therapy for malignant cancers: Summary and perspective, Journal of Cellular Immunotherapy, 2(2):59-68;これらの各々の内容は、本明細書に参考として援用される。類似の原理を使用して、本発明の化合物および方法は、上記の免疫細胞または他の特異的細胞タイプ上で見出されるマーカーに特異的であるCARを操作することを包含するが、細胞特異的CARを、細胞傷害性T細胞にグラフトする代わりに、それらは、操作された免疫抑制性Treg上にグラフトされる。本発明のCAR-Tregは、同じまたは2もしくはこれより多くの異なる細胞マーカーを標的化する多数のキメラ抗原レセプターを発現し得る。
【0038】
ScFvは、免疫グロブリンの重鎖(V)および軽鎖(V)の可変領域を含む融合タンパク質である。ScFvは、所望の標的分子で免疫したマウスまたは他の動物のVおよびV遺伝子をクローニングすることによって作製され得る。次いで、上記VおよびV遺伝子は、種々のscFvを形成するために、複数の配向において、および種々のリンカーとともに発現され得、これは、次いで、所望の安定性、発現レベル、および特異的マーカーまたは細胞に対する結合親和性を提供するために、実験的に検証され得る。
【0039】
細胞マーカーを標的化する抗体は、例えば、Pacific Immunology(San Diego, CA)またはABclonal(Woburn, MAからの特注の抗体を生成するための商業的に利用可能なサービスを含む、当該分野で公知の方法によって生成され得る。
【0040】
操作されたTregを生成するために、出発細胞タイプは、天然の(n)Treg(CD4CD25CD127)であり、これは使用され得る。上記nTregは、正常ドナー血液に由来する末梢血単核白血球(PBMC)から精製され得る。CAR遺伝子は、B2Mに対するshRNAとcisにおいてレンチウイルスベクターでの形質導入によってnTregへと導入され得る。ある特定の実施形態において、標的化CAR遺伝子は除外され得、その結果、nTregは、レンチウイルスベクター上のB2Mに対するshRNAで単に操作される。CAR発現があってもなくても、上記操作されたnTregは、内因性T 細胞レセプター(TCR)の発現を保持し、B2MのダウンレギュレーションおよびHLAクラスI MHCの切除を示すはずである。CAR/shRNA B2M配列で形質導入されたnTregsのみが、規定の細胞タイプ上のタンパク質標的に対して特異的なCARを発現する。HLA-クラスI MHCの切除は、MHCミスマッチ患者への養子移入の後に、アロ反応性免疫細胞からの免疫による攻撃からTregを防御し得る。UD CAR-Tregによる免疫抑制は、内因性TCRを介するアロHLAクラスII MHCの認識またはCARによる規定の細胞表面標的タンパク質の認識のいずれかによって誘発され得る。あるいは、UD Tregによる免疫抑制は、CAR認識によって誘発され得ない。なぜならCARは発現されず、代わりに内因性TCRによるアロクラスII MHCの認識によって誘発されるからである。
【0041】
制御性T細胞またはTregは、免疫系をモジュレートし、エフェクターT細胞の誘導および増殖を概してダウンレギュレートする。Tregは、自己免疫応答を防止し、免疫系による自己および非自己の区別を助ける。制御性T細胞は、トランスフォーミング成長因子β、インターロイキン35、およびインターロイキン10を含む阻害性サイトカインを生成し、インターロイキン-10を発現するように他の細胞タイプを誘導し得る。Tregはまた、Granzyme Bを生成し得、これは、続いて、エフェクター細胞のアポトーシスを誘導し得る。Tregはまた、樹状細胞との直接的相互作用および免疫抑制性のインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼの誘導を通じて逆シグナル伝達を介して機能する。Tregはまた、免疫抑制性アデノシンの生成とともに、外酵素CD39およびCD73を介する免疫応答をダウンレギュレートし得る。Tregはまた、LAG3によって、およびTIGITによって、樹状細胞との直接的相互作用を介する免疫応答を抑制する。別の制御機序は、IL-2フィードバックループを経るものである。Tregによる免疫抑制の別の機序は、分子CTLA-4の活性化によるエフェクターT細胞上のCD28を介する共刺激の防止を介するものである。
【0042】
本発明のB2M改変CAR-Tregは、本明細書で記載される治療用化合物のうちの1またはこれより多くを含むキャリアシステムへと組み込まれ得る。ある特定の実施形態において、上記キャリアシステムは、ジスルフィド架橋したポリエチレンイミン(CLPEI)および脂質を含むナノ粒子であり得る。上記脂質は、胆汁酸(例えば、コール酸、デオキシコール酸、およびリトコール酸)であり得る。このようなキャリアシステムは、以下の実施例においてさらに記載される。他の例示的キャリアシステムは、例えば、Wittrupら(Nature Reviews / Genetics, 16:543-552, 2015)(その内容は、その全体において本明細書に参考として援用される)に記載される。
【0043】
図8は、ユニバーサルドナー(UD) CAR-TregまたはTregの生成を図示する。その出発細胞タイプは、正常ドナー血液の末梢血単核白血球(PBMC)から精製した天然の(n)Treg(CD4CD25CD127)であり得る。nTregは、CARおよびB2Mに対するshRNA、または上記shRNA単独のいずれかをコードするレンチウイルスベクターで形質導入され得る。操作されたnTregの両方のタイプが、内因性T細胞レセプター(TCR)の発現、従って内因性Treg機能性を保持するはずである。操作されたnTregの両方のタイプはまた、B2MダウンレギュレーションおよびHLA-クラスI MHCの切除を示すはずである。さらに、CAR/shRNA B2M配列で形質導入された上記nTregは、規定の細胞タイプ上でタンパク質標的に対して特異的なCARを発現し得る。HLA-クラスI MHCの切除は、MHCミスマッチ患者への養子移入後に、アロ反応性免疫細胞からの免疫攻撃から上記操作されたTregsを防御する。UD CAR-Tregによる免疫抑制は、内因性TCRを介するアロHLAクラスII MHCの認識およびCARによる規定された細胞表面標的タンパク質の認識のいずれかによって、誘発され得る。UD Tregによる免疫抑制は、内因性TCRによるアロクラスII MHCの認識によって誘発され得るのみである。
【0044】
語句「非経口投与」および「非経口投与される」とは、本明細書で使用される場合、通常は、注射による経腸的および局所投与以外の投与の様式を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内および胸骨内注射および注入が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
語句「全身投与」、「全身投与される、「末梢投与および「末梢投与される」とは、本明細書で使用される場合、患者の系へと入り、従って、代謝および他の類似のプロセスを受けるように、中枢神経系へと直接投与される以外の化合物、薬物または他の物質の投与(例えば、皮下投与)を意味する。
【0046】
本発明の化合物が、ヒトおよび哺乳動物へと、医薬品として投与される場合、それらは、それ自体、または例えば、0.1~99.5%(より好ましくは、0.5~90%)の有効成分、すなわち、少なくとも1種の本発明の治療用化合物およびまたは/その誘導体を、薬学的に受容可能なキャリアとの組み合わせにおいて含む医薬組成物として与えられ得る。
【0047】
各薬剤の有効投与量は、各々、患者の年齢、体重、性別および臨床歴としての代表的な要因を考慮して、当業者によって容易に決定され得る。一般に、本発明の化合物の適切な1日量は、治療効果を生じるために有効な最低用量である化合物の量である。このような有効用量は一般に、上記の要因に依存する。
【0048】
望ましい場合には、上記活性化合物の有効1日量が、1日を通して適切な間隔で別個に投与される2回、3回、4回、5回、6回またはこれより多くの部分用量として、必要に応じて、単位投与形態において投与され得る。
【0049】
本発明の医薬組成物は、本発明の化合物、またはその機能的誘導体のうちの1またはこれより多くのものの「治療上有効な量」または「予防上有効な量」を含む。「有効量」は、定義の節の中で、本明細書で定義されるとおりの量であり、所望の治療結果、例えば、神経障害性のおよび/または炎症性の疼痛と関連する作用の減少または防止を達成するために必要な投与量および期間での、そのために有効な量を指す。本発明の化合物またはその機能的誘導体の治療上有効な量は、被験体の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびに上記治療用化合物が被験体において所望の応答を引き出す能力のような要因に応じて変動し得る。治療上有効な量はまた、上記治療剤の任意の毒性または有害な作用より、治療上有益な効果が勝る量である。
【0050】
「予防上有効な量」とは、所望の予防的効果を達成するために必要な投与量および期間での、そのために有効な量を指す。代表的には、予防的用量は、疾患より前に、または疾患のより早期のステージで被験体に使用されることから、予防上有効な量は、治療上有効な量より少ない可能性がある。予防上または治療上有効な量はまた、上記化合物の任意の毒性または有害な作用より、治療上有益な効果が勝る量である。
【0051】
投与レジメンは、最適な所望の応答(例えば、治療的または予防的応答)を提供するために調整され得る。例えば、単一ボーラスが投与されてもよいし、いくつかの分割用量が、経時的に投与されてもよいし、上記用量が、治療状況の急迫によって示されるように比例して低減または増大されてもよい。投与の容易さおよび投与量の均一性のために投与単位形態において非経口的組成物を製剤化することは、特に有利である。本発明の医薬組成物における有効成分の実際の投与レベルは、患者にとって毒性であることなく、特定の被験体、組成物、および投与様式に関する所望の治療応答を達成するために有効な有効成分の量を得るために変化させることができる。
【0052】
用語「投与単位(dosage unit)」とは、本明細書で使用される場合、処置される哺乳動物被験体のための単位投与量として適した、物理的に別個の単位を指す;各単位は、必要とされる薬学的キャリアと関連付けられた状態において、その所望の治療効果を生じるように計算された活性化合物の所定の量を含む。本発明の投与単位形態に関する仕様は、(a)化合物の特有の特徴、および(b)このような活性化合物を、個体における過敏症の処置のために調合する技術に固有の限界によって規定されかつ直接的に依存する。
【0053】
いくつかの実施形態において、治療上有効な量は、細胞培養アッセイまたは動物モデル(通常は、マウス、ウサギ、イヌ、またはブタ)のいずれかにおいて、最初に概算され得る。動物モデルはまた、所望の濃度範囲および投与経路を達成するために使用され得る。次いで、このような情報は、他の被験体における投与のための有用な用量および経路を決定するために使用され得る。一般には、上記治療上有効な量は、被験体において神経障害性のおよび/または炎症性の疼痛を低減または阻害するために十分である。いくつかの実施形態において、上記治療上有効な量は、被験体において神経障害性のおよび/または炎症性の疼痛を排除するために十分である。
【0054】
特定の患者に関する投与量は、従来の考慮事項を使用して(例えば、適切な従来の薬理学的プロトコールによって)当業者によって決定され得る。医師は、例えば、適切な応答が得られるまで、最初に比較的低用量を、後にその用量を増大させて処方し得る。患者に投与される用量は、患者において経時的に有益な治療応答をもたらす、または例えば、症状、もしくは他の適切な活動を、上記適用に応じて低減するために十分である。上記用量は、特定の製剤の有効性、および本発明の化合物またはその機能的誘導体の活性、安定性または血清半減期、ならびに患者の状態、ならびに処置されるべき患者の体重または表面積によって決定される。上記用量の大きさはまた、特定の被験体における特定のベクター、製剤などの投与に付随する任意の有害な副作用の存在、性質、および程度によって決定される。本発明の1またはこれより多くの化合物またはその機能的誘導体を含む治療用組成物は、当該分野で周知の方法に従って、有効性、組織代謝を確認し、投与量を概算するために、疾患の1またはこれより多くの適切なインビトロおよび/またはインビボ動物モデル(例えば、神経障害性のおよび/または炎症性の疼痛のモデル)において必要に応じて試験される。特に、投与量は、関連アッセイにおいて、処置 対 非処置の活性、安定性または他の適切な手段(例えば、処置された 対 処置されていない細胞または動物モデルの比較)によって最初に決定され得る。製剤は、例えば、患者の体重および全般的な健康状態に適用されるように、関連する製剤のLD50、および/または本発明の化合物もしくはその機能的誘導体の種々の濃度での任意の副作用の観察によって決定される割合で投与される。投与は、単一用量または分割用量を介して達成され得る。
【0055】
投与することは、代表的には、薬学的に受容可能な投与形態を投与することを包含し、上記投与形態は、本明細書で記載される化合物の投与形態を意味し、例えば、錠剤、糖衣錠、散剤、エリキシル剤、シロップ剤、液体調製物(懸濁剤を含む)、スプレー剤、吸入用錠剤、ロゼンジ剤、乳剤、液剤、粒剤、カプセル剤、および坐剤、ならびに液体の注射用調製物(リポソーム調製物を含む)を含む。技術および製剤は、一般に、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, Pa.,最新版(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)中に見出され得る。投与することは、経口、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、または鼻内に行われ得る。化合物は、単独で、または適切な薬学的キャリアとともに投与されてもよく、固体または液体の形態にあり得る(例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、液剤、懸濁剤、または乳剤)。
【0056】
上記有効成分を含む医薬組成物は、経口用途に適した形態において(例えば、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、水性もしくは油性の懸濁剤、分散性の散剤もしくは粒剤、乳剤、硬質もしくは軟質カプセル剤、またはシロップ剤もしくはエリキシル剤として)存在し得る。経口用途が意図された組成物は、医薬組成物の製造に関して当該分野で公知の任意の方法に従って調製され得、このような組成物は、薬学的に洗練されたかつ口に合う調製物を提供するために、甘味剤、矯味矯臭剤、着色剤および保存剤から選択される1またはこれより多くの剤を含み得る。錠剤は、錠剤の製造に適した非毒性の薬学的に受容可能な賦形剤と混合した状態で上記有効成分を含む。これらの賦形剤は、例えば、不活性希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウム);造粒剤および崩壊剤(例えば、コーンスターチ、またはアルギン酸);結合剤(例えば、デンプン、ゼラチンまたはアカシア)および滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルク)であり得る。上記錠剤は、コーティングされていなくてもよいし、消化管での崩壊および吸収を遅らせ、それによって、長期間にわたって持続した作用を提供する公知の技術によってコーティングされていてもよい。例えば、時間遅延物質(例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリル)が使用され得る。それらはまた、放出制御のための浸透圧治療錠剤(osmotic therapeutic tablet)を形成するために、米国特許第4,256,108号、同第4,166,452号および同第4,265,874号(これらの各々の内容は、それらの全体において本明細書に参考として援用される)に記載される技術によってコーティングされ得る。
【0057】
経口用途のための製剤はまた、有効成分が不活性固体希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたはカオリン)と混合される硬質ゼラチンカプセル剤として、または有効成分が水または油媒体(例えば、ラッカセイ油、流動パラフィンまたはオリーブ油)と混合される軟質ゼラチンカプセル剤として提示され得る。
【0058】
製剤はまた、親(非イオン化)化合物とβ-シクロデキストリンの誘導体、特に、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとの複合体を含み得る。
【0059】
代替の経口製剤は、放出制御製剤を使用して達成され得、ここで上記化合物は、腸溶性コーティング中に被包される。
【0060】
水性懸濁剤は、水性懸濁剤の製造に適した賦形剤と混合した状態で活性物質を含む。このような賦形剤は、懸濁化剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガムおよびアカシアガム);分散剤または湿潤剤、例えば、天然に存在するホスファチド(例えば、レシチン)、またはアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンステアレート)、またはエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、または、ポリオキシエチレンと脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来する部分エステルとの縮合生成物などの、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)である。上記水性懸濁剤はまた、1またはこれより多くの保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エチル、またはp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピル)、1またはこれより多くの着色剤、1またはこれより多くの矯味矯臭剤、および1またはこれより多くの甘味剤(例えば、スクロースまたはサッカリン)を含み得る。
【0061】
油性懸濁剤は、植物性油(例えば、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油またはココナツ油)、またはミネラルオイル(例えば、流動パラフィン)中に有効成分を懸濁することによって製剤化され得る。上記油性懸濁剤は、濃化剤(例えば、蜜蝋、固形パラフィン、またはセチルアルコール)を含み得る。甘味剤(例えば、上で示されるもの)および矯味矯臭剤は、口にあう経口調製物を提供するために添加され得る。これらの組成物は、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸)の添加によって保存され得る。
【0062】
水の添加による水性懸濁剤の調製に適した分散性散剤および粒剤は、分散剤または湿潤剤、懸濁化剤および1またはこれより多くの保存剤と混合した状態で上記有効成分を提供する。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤が例示され、例えば、甘味剤、矯味矯臭剤、および着色剤もまた、存在し得る。
【0063】
本発明の医薬組成物はまた、水中油型乳剤の形態にあり得る。その油相は、植物性油(例えば、オリーブ油またはラッカセイ油)またはミネラルオイル(例えば、流動パラフィン)またはこれらの混合物であり得る。適切な乳化剤は、天然に存在するガム(例えば、アカシアガムまたはトラガカントガム)、天然に存在するホスファチド(例えば、ダイズレシチン(soya bean, lecithin)、および脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来するエステルまたは部分エステル(例えば、ソルビタンモノオレエート)および上記部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)であり得る。上記乳剤はまた、甘味剤および矯味矯臭剤を含み得る。
【0064】
シロップ剤およびエリキシル剤は、甘味剤(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトールまたはスクロース)とともに製剤化され得る。このような製剤はまた、粘滑剤、保存剤、ならびに矯味矯臭剤および着色剤を含み得る。上記医薬組成物は、無菌の注射用水性懸濁剤または油性懸濁剤の形態にあり得る。この懸濁剤は、上で言及されているそれらの適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して、公知の技術に従って製剤化され得る。上記無菌の注射用調製物はまた、非毒性の非経口的に受容可能な希釈剤または溶媒中の無菌の注射用液剤または懸濁剤の形態にあり得る(例えば、1,3-ブタンジオール中の液剤として)。使用され得る受容可能なビヒクルおよび溶媒の中には、水、リンゲル液および等張性塩化ナトリウム溶液がある、さらに、無菌の不揮発性油は、溶媒または懸濁媒体として従来から使用されている。この目的のために、任意の無刺激の不揮発性油が使用され得る(合成のモノグリセリドまたはジグリセリドが挙げられる)。さらに、脂肪酸(例えば、オレイン酸)は、注射剤の調製における用途が見出される。
【0065】
各活性薬剤はまた、薬物の直腸投与のために坐剤の形態で投与され得る。これらの組成物は、上記薬物と、通常の温度で固体であるが、直腸温度では液体であり、従って、薬物を放出するために直腸の中で融解する適切な非刺激性の賦形剤とを混合することによって調製され得る。このような材料は、カカオ脂およびポリエチレングリコールである。
【0066】
局所使用のためには、クリーム剤、軟膏剤、ゼリー剤、液剤または懸濁剤が適切である。局所適用は、洗口液およびうがい薬の使用を含む。
【0067】
用語「医薬組成物」とは、本明細書で記載されるとおりの化合物、ならびに投与様式および投与形態の性質に応じて、薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクル(例えば、保存剤、充填剤、崩壊剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁化剤、甘味剤、矯味矯臭剤、香料、抗細菌剤、抗真菌剤、滑沢剤および分散剤)を含む少なくとも1種の成分を含む組成物を意味する。
【0068】
用語「薬学的に受容可能なキャリア」とは、本明細書で記載されるように、任意のキャリア、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを意味するために使用される。懸濁化剤の例としては、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天、およびトラガカント、またはこれらの物質の混合物が挙げられる。微生物活動の防止は、種々の抗細菌剤および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸など)によって確実にされ得る。等張剤、例えば、糖、塩化ナトリウムなどを含めることは、望ましい場合がある。注射用の医薬形態の長期吸収は、吸収を遅延させる剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によってもたらされ得る。適切なキャリア、希釈剤、溶媒、またはビヒクルの例としては、水、エタノール、ポリオール、これらの適切な混合物、植物性油(例えば、オリーブ油)、および注射用有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)が挙げられる。賦形剤の例としては、ラクトース、乳糖、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、およびリン酸二カルシウムが挙げられる。崩壊剤の例としては、デンプン、アルギン酸、およびある特定の複合ケイ酸塩(complex silicate)が挙げられる。滑沢剤の例としては、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク、および高分子量ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0069】
用語「薬学的に受容可能な」とは、妥当な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答などがなく、合理的な利益/リスク比で釣り合っているヒトおよび下等動物の細胞と接触した状態での使用に適していることを意味する。
【実施例
【0070】
実施例
実施例1-HEK293細胞におけるB2Mノックダウン
HEK293細胞を、上記で記載されるとおりのshRNA配列703~707および728(siRNA配列番号1~5と配列番号6または7のヘアピンループとを含む)および形質導入効率をモニターするためにGFPレポーター遺伝子をコードするレンチウイルスベクターで形質導入した。上記構築物は、GFPによって測定される場合、90%またはこれより良好な形質導入を有した。
【0071】
細胞を染色し、蛍光活性化セルソーティングを使用して、形質導入なしのコントロール(NV)およびスクランブルshRNAコードベクター(728)と比較して、種々のshRNAベクターのノックダウン効果を測定した。図2は、抗B2M染色でのメジアン蛍光FACS結果を示し、図3は、抗HLA ABC染色でのメジアン蛍光FACS結果を示す。示されるように、配列番号1~5(703~707)は各々、上記2つのコントロールと比較して、表面B2MおよびHLA-A/B/CクラスI MHC発現の両方に対して有意なノックダウン効果を有した。ベクター703(配列番号1をコードする)および707(配列番号5をコードする)は、最も有意なノックダウン効果を示した。さらに、B2Mノックダウンレベルは、種々のベクターにわたってHLAノックダウンレベルと一致した。
【0072】
図4A~Bは、種々のshRNAをコードするGFP+ ベクターで形質導入し、抗B2Mまたは抗HLA ABC染色で染色したHEK-293細胞の平均蛍光強度を示す。図5A~5Dは、種々のshRNAコードベクターで形質導入し、抗B2Mおよび抗HLA染色で染色したHEK-293細胞のGFPで測定した形質導入効率を示す。図6A~6Dは、種々のshRNAコードベクターで形質導入し、IgG1 PE IgG1 APCアイソタイプコントロールで染色したHEK-293細胞のGFPで測定した形質導入効率を示す。配列番号1~5を含むsiRNA(703~707)を有するベクターの形質導入効率およびB2Mノックダウン効果は、図4A~B、図5A~D、および図6A~Dにおいて示される結果によってさらに裏付けられる。
【0073】
均等物および参照による援用
本明細書で引用される全ての参考文献は、各個々の刊行物、データベースエントリー(例えば、Genbank配列またはGeneIDエントリー)、特許出願、または特許が、それらの全体において全ての目的のために参考として援用されることが具体的にかつ個々に示される場合と同程度に、参考として援用される。この参照による援用の陳述は、37 C.F.R. §1.57(b)(1)に従って、各々のおよびあらゆる個々の刊行物、データベースエントリー(例えば、Genbank配列またはGeneIDエントリー)、特許出願、または特許(これらの各々は、このような引用が参照による援用の専用の陳述の直ぐ隣にないとしても、37 C.F.R. §1.57(b)(2)に従って明らかに特定される)に関連することが出願人によって意図される。本明細書内に参照による援用の専用の陳述の包含は、あるとしても、参照による援用のこの一般的な陳述を弱めることにはならない。本明細書中の参考文献の引用は、その参考文献が関連する先行技術であるという承認として意図されることはなく、これらの刊行物または文書の内容または日付に関して何らかの承認を構成するものでもない。
【0074】
本発明は、好ましい実施形態および種々の代替の実施形態を参照しながら詳細に示されかつ記載されてきたが、形態および詳細における種々の変更が、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく本発明の中で行われ得ることは、関連分野の当業者によって理解される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
【配列表】
2023522985000001.app
【国際調査報告】