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特表2023-523000再生可能な基油を使用した高性能グリース組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(54)【発明の名称】再生可能な基油を使用した高性能グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 115/10 20060101AFI20230525BHJP
   C10M 113/10 20060101ALI20230525BHJP
   C10M 115/08 20060101ALI20230525BHJP
   C10M 171/02 20060101ALI20230525BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20230525BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20230525BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20230525BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20230525BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20230525BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230525BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20230525BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20230525BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230525BHJP
【FI】
C10M115/10 ZAB
C10M113/10
C10M115/08
C10M171/02
C10N10:04
C10N20:02
C10N10:02
C10N10:06
C10N50:10
C10N30:06
C10N30:08
C10N30:12
C10N30:00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564368
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(85)【翻訳文提出日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 IB2021053227
(87)【国際公開番号】W WO2021214641
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】63/013,578
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クマール、アノープ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA24B
4H104BB19R
4H104BE13B
4H104DB07B
4H104EA02A
4H104EA04A
4H104EB08
4H104FA01
4H104FA02
4H104FA03
4H104LA03
4H104LA04
4H104LA06
4H104LA13
4H104QA18
(57)【要約】
本発明は、再生基油に基づく高性能グリース組成物に関する。性能添加剤を含む、または含まない本発明で開示される組成物は、従来の鉱油及び合成基油で調製された同一のグリース組成物と比較して、優れた耐摩耗性、耐摩擦性、耐熱性&酸化安定性、高温長寿命、低ノイズ、低増ちょう剤含有量、再生可能な基油へのより優れた分散を示す。再生可能な基油から形成されたグリース組成物は、自動車、産業、及び船舶用途のベアリング及びギアに利用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過塩基性スルホン酸カルシウム及び再生可能な基油を含む、高性能非ニュートン性過塩基性スルホン酸カルシウム複合体グリース組成物。
【請求項2】
前記再生可能な基油が、3.0~10.0cStの範囲のKV100と、-20~-55℃の範囲の流動点と、Noackが2750(-35℃でのCCS)(-0.8)±2の間にあるような、Noackと-35℃でのCCSとの関係と、を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記再生可能な基油が、以下のNMRパラメータを含む:(a)炭化水素混合物のBP/BIが、≧-0.6037の範囲にあり、1分子あたりの内部アルキル分枝が+2.0である、及び(b)前記炭化水素混合物の5+メチルは、1分子あたり平均0.3~1.5である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の組成物を含有する耐摩耗性組成物であって、追加の性能添加剤を必要としない、前記耐摩耗性組成物。
【請求項5】
前記組成物が、亜鉛を含まない、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
グリースの形態で、過塩基性スルホン酸カルシウム及び再生可能な基油を含む非ニュートン油組成物を形成するプロセスであって、(1)過塩基性スルホン酸カルシウムと、水酸化カルシウムと、3.0~10.0cStの範囲のKV100、-20~-55℃の範囲の流動点、Noackが2750(-35℃でのCCS)(-0.8)±2であるようなNoackと-35℃でのCCSとの関係性を有する再生可能な基油に含まれる変換剤とを加熱することと、(2)ステップ1での前記生成物を、ホウ酸化合物を含む成分と反応させて、グリース様特性を発現させることと、を含む前記プロセス。
【請求項7】
前記反応が、12-ヒドロキシステアリン酸の存在下で進行する、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
再生可能な基油及び増ちょう剤を含むグリース組成物であって、前記再生可能な基油が、3.0~10.0cStの範囲のKV100、-20~-55℃の範囲の流動点、Noackが2750(-35℃でのCCS)(-0.8)±2であるようなNoackと-35℃でのCCSとの関係性を有し、前記増ちょう剤が、リチウム、アルミニウム複合体、クレイ系、及びポリ尿素からなる群から選択される、前記グリース組成物。
【請求項9】
前記再生可能な基油が、以下のNMRパラメータを含む:(a)炭化水素混合物のBP/BIが、≧-0.6037の範囲にあり、1分子あたりの内部アルキル分枝が+2.0である、及び(b)前記炭化水素混合物の5+メチルは、1分子あたり平均0.3~1.5である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が追加の性能添加剤を含まない、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が追加の性能添加剤を含む、請求項9に記載の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初めて再生可能な基油中の異なる増ちょう剤に基づく、新規なグリース組成物及びそのプロセスの開発に関する。性能添加剤を含む、または含まないこれらの新規なグリース組成物の優れた性能特性を、従来の鉱油及び合成基油で同様に調製したグリースと比較した。
【背景技術】
【0002】
過塩基性スルホン酸カルシウムは、1940年代に、主にモーターオイルの腐食及び酸化防止用の添加剤として報告された。グリースの増ちょう剤としての過塩基性スルホン酸カルシウム(OBCS)は1960年代に報告され、従来の鉱油及びまたはPAOのような合成基油中で基本的に調製されていた。これらのOBCSグリースは、所望のちょう度を得るために、50%超の増ちょう剤含有量を必要とし、したがって潤滑に必要な基油が不足する。係る報告されたグリースは、滴点が低いため、高温での塗布能力が制限され、寒冷気候での流動性が低く、安定性の問題がある。したがって、これらの完全に配合されたグリースの特性は、当時普及していたリチウム複合体グリースよりも劣っており、さらに非常に高価であったため、あまり注目されなかった。
【0003】
1985年に、Muirら(米国特許第4,560,489号)は、結晶性方解石、ホウ酸カルシウム、及び12-ヒドロキシステアリン酸として例示される少なくとも12個の炭素原子を含む石鹸形成脂肪族モノカルボン酸のカルシウム石鹸の形でコロイド状に分散した炭酸カルシウムを含む、過塩基性スルホン酸カルシウム複合体(OBCSC)系のグリースを製造するための新規なプロセス及び組成物を開示した。この発明で開示されるグリース組成物は、鉱油または鉱油由来の合成基油、例えばPAOのいずれかで調製されている。この発明に開示された独自の組成物及びプロセスは、複合体化、高滴点、極圧、耐水及び防錆特性により、増ちょう剤の含有量を低下させた。このことが、これらの(OBCSC)グリースが業界で特に高温、重負荷、及び水系用途に広く使用されるきっかけとなった。このクラスのOBCSCグリースの性能特性は、最も一般的なリチウム複合体グリースよりも優れていると報告されている。
【0004】
最近では、過塩基性スルホン酸カルシウム系のグリースが、幅広い用途分野で指数関数的に成長している(NLGI生産調査)。これらのグリースの成長の潜在的な理由は、電子機器や電気自動車のリチウム電池での使用が増え続けているため、リチウムグリースの製造に不可欠な成分であるリチウムの供給の不確実性に起因すると考えられている。リチウムのコストの上昇により、リチウム複合体及びスルホン酸カルシウムグリース間の価格パリティーが低下し、スルホン酸カルシウムグリースへの関心を高めている。最近のいくつかの出版物や記事では、スルホン酸カルシウムグリースがリチウムグリースの代替品になる可能性があることが示されている。
【0005】
鉱業、農業、鉄道、製造業、船舶など、環境に配慮した用途で環境に優しい潤滑剤やグリースを使用する需要がますます高まっている。国によって生分解性または再生可能な石油系の潤滑剤を促進するためのラベル付けプロトコルや法規制が異なる。海洋用途では、Vessel General Permit(VGP)準拠のグリースの使用が近い将来義務付けられる可能性がある。植物性及びそれらの合成エステルに基づく潤滑グリースがかなり報告されている。このクラスの環境に優しい/生分解性グリースを配合するために使用される増ちょう剤は、主にリチウム、カルシウム、アルミニウム複合体、及びクレイ系の増ちょう剤に基づいている。これらの生分解性グリースの成長における主な課題は、対応する鉱油またはPAO系のグリースのような合成油と比較して、固有の性能が劣っていることである。
【0006】
一方で、鉱油または合成PAO系のグリースに匹敵する、高性能生分解性/再生可能油系の過塩基性スルホン酸カルシウムグリースを配合することへの取り組みは、これまであまり成功していない。配合者にとっての課題の1つは、ニュートン過塩基性スルホン酸カルシウムは、鉱油/合成PAOのものとは異なり、その極性と組成のために、ゲル化/変換ステップ中、及び高温で、それ自体で植物油または係る油に由来するエステルと反応してしまう傾向があることである。このことは、ゲル化プロセスの重要なステップである非晶質炭酸カルシウムの結晶方解石形態への変換を阻害する。一方で、特定の期待される固有の特性、すなわち高温、極圧&耐摩耗性、耐水性、防錆性などにより、鉱油または合成油に匹敵する環境に優しい過塩基性スルホン酸カルシウムグリースを開発することが非常に望まれている。
【0007】
一般に、グリースの高性能特性は、高温で(>250°F)、高負荷条件下、湿気の多い環境下で、機器を錆や腐食から保護する性能によって特徴付けられる。以下の実施形態で説明される特許及び報告で示されるものは、真の高性能多目的のグリースとするには範囲が非常に限定されている。以下の特許請求の範囲でこれまでに報告されているスルホン酸カルシウムグリースは、半流動タイプのソフトグリースであり、ベアリング用途向けではないか、または固体潤滑剤、ワックス、または他の既知の従来の増ちょう剤などの他の増ちょう剤の助けを借りて、所望のちょう度まで増粘するように支援されているものかのいずれかである。
【0008】
スルホン酸カルシウム系の増ちょう剤と、ポリオールエステルまたはポリアルキレングリコールなどの生分解性基油とをベースとする潤滑グリース組成物が、米国特許第2004/0235679A1号に開示されている。この特許は、海洋用途向けの、比重>1.0を有する、NLGI 00/000の組成物中の半流体を開示し、潤滑剤が水上に投入されたときに表面で光沢することを防いで水中に沈み、水中に沈んだ場合も生分解性で環境に優しい潤滑剤であるとしている。好ましい実施形態では、スルホン酸カルシウムが他の添加剤と一緒に10~20%使用され、ASTM D 217に従った、400~430の範囲の貫入度を有し、ちょう度の範囲がNLGI 00の半流体タイプの潤滑剤をもたらし、結果として得られるグリースの所望の性能特性のみが開示される。一般に、いずれのベアリング用途においても、少なくともNLGI 1ちょう度のグリースが必要であり、したがって、この発明の開示は、高性能ベアリンググリースの目的には役立たない。
【0009】
米国特許第2011/0111995A1号は、ワックス、好ましくはカルナウバワックスとのスルホン酸カルシウム複合体を含有するグリース組成物を開示し、生分解性油と水との比率(1:2)で、防錆、腐食防止特性に加え、溶接スパッタが鋼材などの被溶接物へ付着することを防止するために使用され、エマルション状であり、必ずしも潤滑剤としては使用されない。実施形態1において、スルホン酸カルシウムグリースは、鉱油または合成油のいずれかを使用し、生分解性油と組み合わせて調製されるが、生分解性油は、問題のあるポリアルファオレフィン油またはXHVI油である。この特許の開示では、生分解性油の使用が言及されているが、使用される基油は鉱油または合成油のいずれかと組み合わされており、得られるグリースの特性は潤滑目的ではないことが明確である。
【0010】
米国特許第5,338,467号は、過塩基性スルホン酸カルシウムと、方解石の形態のコロイド状に分散した炭酸カルシウムの固体粒子とを含む、グリースの形態の非ニュートン油組成物を形成するプロセスを開示しており、該プロセスは、過塩基性スルホン酸カルシウム、非晶質炭酸カルシウム、及び油性媒体中に12~24個の炭素原子の脂肪酸を含む変換剤を加熱することを含む。使用された油は鉱油である。
【0011】
米国特許第7,294,608B2号は、スルホン酸カルシウム複合体増ちょう剤、スレッドコンパウンドとして合成、鉱油及び/または食物油を他の性能向上添加剤と一緒に使用した、固体潤滑剤を使用した、スルホン酸カルシウムグリース組成物を開示している。組成物に使用される植物油は、種子系または動物由来のいずれかであり得る。しかしながら、植物油または再生可能油におけるスルホン酸カルシウム複合体グリースの調製は、詳細な実施形態には記載されていない。
【0012】
米国特許第8,618,028B2号は、難燃性流体として鉱油、合成油、植物油、及びそれらの組み合わせに混合されたスルホン酸カルシウムとリチウム系の石鹸に基づくグリース増ちょう剤組成物を開示しており、1つの成分として市販のスルホン酸カルシウムが使用された。この特許は、スルホン酸カルシウムグリースを植物油/生分解油/再生可能油で製造するための組成の詳細を開示していない。Sagarら(International Journal of Recent Technologies in Mechanical and Electrical Engineering,Vol 4,Issue 4,p1-5,2017)は、大豆油によるスルホン酸カルシウムグリースの合成を報告した。開示されたプロセスでは、ビーカー内で大豆油を300TBNスルホン酸塩、炭酸カルシウム及びオレイン酸と混合し、混合物をクリーム色の溶液が得られるまで絶えず攪拌した。溶液を、100℃に予熱したオーブンに15分入れた。酢酸を添加し、これは触媒として作用すると報告された。次いで、混合物を180℃で20分間加熱した後、水酸化カルシウム及びホウ酸を添加した。この混合物をさらに200℃で60分間加熱した。最終生成物は脂性の混合物であると報告された。マイクロ波などの代替加熱技術を使用した代替製造プロセスも提案された。最終生成物の貫入度は284、つまりNLGI 2のちょう度であると報告されているが、滴点が105℃と低く、最終生成物の滴点が従来知られているスルホン酸カルシウムグリースよりもはるかに低いため、今日の厳しい産業環境ではあまり用途がない。
【0013】
先行技術で報告されているスルホン酸カルシウムグリース組成物及びそれらを調製するプロセスは、基油のブレンドを用いて調製され、油の1つは鉱油またはPAOのような合成基油のいずれかであり得る。または、固体潤滑剤、炭酸カルシウム、ワックスまたは石鹸増ちょう剤などのよく知られた増ちょう剤を使用して、スルホン酸カルシウムグリースを調製する。これらの再生可能油でスルホン酸カルシウムグリースを製造する際の主な課題は、ニュートン過塩基性スルホン酸カルシウムから非ニュートン過塩基性スルホン酸カルシウムへのゲル化または変換中に、反応物が単独で基油と反応する傾向があり、増ちょうのための重要なステップである、必要とされる非晶質炭酸カルシウムの結晶方解石への変換が適切に行われない。したがって、先行技術に開示された組成物では、基油の組み合わせが使用されるか、または他の既知の増ちょう剤の組み合わせが使用されて、所望のちょう度が満たされている。
【発明の概要】
【0014】
本発明の一実施形態は、本明細書に記載の再生可能な基油で調製された非ニュートン高性能過塩基性スルホン酸カルシウム複合体(OBCSC)グリース組成物である。
【0015】
別の実施形態は、再生可能な基油(RBO)と組み合わせた、過塩基性スルホン酸カルシウム複合体、リチウム、アルミニウム複合体、クレイ系またはポリウレアに基づいた、性能添加剤を含まないグリース組成物である。これらのRBOグリース組成物は、鉱油(600 N&600 R)及びPAO 8で調製された同一のグリースと比較して、寿命、耐摩耗、耐摩擦、耐酸化、低ノイズ特性、高温、及び圧力特性に優れた性能を呈する。
【0016】
さらなる実施形態は、再生可能な基油の無亜鉛耐摩耗グリース組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ASTM D2266法における、PAO 8のリチウムグリースによる摩擦係数を用いた四球摩耗試験のプロットである。
図2】ASTM D2266法における、本明細書に記載のSynNova再生可能基油による摩擦係数を用いた四球摩耗試験のプロットである。
図3】1-デセン及び1-ドデセン、GTL基油、グループIII基油、ならびに水素異性化ヘキサデセンオリゴマーから製造された低揮発性PAOを含む、様々な炭化水素のNoack揮発度と-35℃でのCCSとの関係を例証する。実線及び点線は、存在する一意的炭化水素混合物によって示される、Noack対-35℃でのCCSの上限及び下限を表しており、それぞれ、Noack=2,750(-35℃でのCCS)(-0.8)+2及びNoack=2,750(-35℃でのCCS)(-0.8)-2である。
図4図3における、-35℃でのCCSの800~2,800cPの範囲の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
過塩基性スルホン酸カルシウムグリースは、最新技術において確立されたグリースである。米国特許第9,273,265号は、係るグリースを製造するための既知のプロセスが、「促進」及び「変換」のステップを含む2ステッププロセスであることを教示している。通常、第1のステップ(「促進」)は、塩基源としての化学量論的に過剰な量の酸化カルシウム(CO)または水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を、アルキルベンゼンスルホン酸、二酸化炭素(CO2)、及び他の成分と反応させ、非晶質炭酸カルシウムが分散した油溶性の過塩基性スルホン酸カルシウムを生成することである。これらの過塩基性油溶性スルホン酸カルシウムは、通常、透明で光沢があり、ニュートンレオロジーを有する。いくつかの場合において、それらは若干濁っている可能性もあるが、そのようなバリエーションは、過塩基性スルホン酸カルシウムグリースの調製への使用に支障はない。
【0019】
通常、第2のステップ(「変換」)は、プロピレングリコール、イソプロピルアルコール、水、ギ酸または酢酸などの変換剤(複数可)を、鉱油などの適切な基油とともに促進ステップの生成物に添加して、非晶質炭酸カルシウムを結晶性炭酸カルシウムが非常に細かく分割された分散液に変換することである。過塩基化を達成するために過剰の水酸化カルシウムまたは酸化カルシウムが使用されるため、少量の残留酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムが存在する可能性もあり、分散されるであろう。炭酸カルシウムの結晶形は方解石であることが好ましい。この非常に細かく分割された炭酸カルシウムは、コロイド分散液としても知られ、スルホン酸カルシウムと相互作用してグリース様のちょう度を形成する。2ステッププロセスによって製造されたこのような過塩基性スルホン酸カルシウムグリースは、「単純スルホン酸カルシウムグリース」として知られるようになり、例えば、米国特許第3,242,079号、同第3,372,115号、同第3,376,222号、同第3,377,283号、及び同第3,492,231号に開示されている。
【0020】
さらに、米国特許第4,560,489号は、1つまたは複数の無機酸及び/または有機酸のインサイチュ反応によって単純な過塩基性スルホン酸カルシウムを複合体化することによる、過塩基性カルシウムスルホン酸複合体(OBCSC)系のグリースを製造するためのプロセス及び組成物を教示している。
【0021】
特に環境に敏感な用途では、再生可能な基油に基づく高性能潤滑グリースの需要がますます高まっている。一般に、これらの高性能要件とは、極圧性&耐摩耗性、耐熱性、防錆性&腐食防止性、耐水性、熱及び酸化安定性などである。環境に優しい/生分解性潤滑グリースは、従来、植物油またはそれらの合成的に誘導されるエステルで調製される。これらの基油は炭化水素系の再生不可能な鉱油及び合成基油と比較して、本質的に長鎖脂肪酸誘導体のエステル/グリセリドである。これらの再生不可能な鉱油及びポリアルファオレフィン(PAO)のようなそれらの合成的に誘導される基流体の基本的な違いは、これらの油が本質的に無極性であるのに対し、植物/動物源由来の植物性及び合成エステルは本質的に極性であり、これらの流体に過塩基性スルホン酸カルシウムを配合する際に多くの違いをもたらす。
【0022】
本明細書では、上記の促進及び変換に基づいてグリース組成物を形成する2ステッププロセスが教示されており、過塩基性スルホン酸カルシウム複合体グリース組成物を調製する変換ステップで、再生可能な基油が使用される。
【0023】
別の実施形態は、本明細書に記載の再生可能な基油を増ちょう剤の成分として含有するグリース組成物であり、グリース組成物中に過塩基性スルホン酸カルシウム複合体、リチウム、アルミニウム複合体、クレイ系、またはポリ尿素を利用し、鉱油(600 N&600 R)及びPAO 8で調製された同一のグリースと比較して、寿命、耐摩耗、耐摩擦、耐酸化、低ノイズ特性、高温、及び圧力特徴に優れた性能を呈する、性能添加剤を使用しない。
【0024】
さらなる実施形態は、再生可能な基油の無亜鉛耐摩耗グリース組成物である。OBSCグリース組成物は、特にOBCSC及びリチウムグリースが鉱油/合成PAO油で調製される場合、少なくとも1%亜鉛系の耐摩耗添加剤(ZDDP)を必要とする。
【0025】
過塩基性スルホン酸カルシウム複合体、リチウム、アルミニウム複合体、または再生可能油のクレイ系のグリースに基づいて、単独で、またはエステル系油、鉱油、PAOと組み合わせて、様々なグリース組成物が調製されている。比較のために、同じ増ちょう剤系のグリース組成物を鉱油及び合成油でも調製した。
【0026】
本開示の目的のために、「過塩基性油溶性スルホン酸カルシウム」及び「油溶性過塩基性スルホン酸カルシウム」及び「過塩基性スルホン酸カルシウム」という用語は、スルホン酸カルシウムグリースを製造するのに適した任意の過塩基性スルホン酸カルシウムを指す。本明細書に記載のプロセスによって製造され、以下に記載される例示的な特定の実施例によって示される、当該グリースの過塩基性スルホン酸カルシウム含有量は、グリースの好ましい硬度に応じて、最大65%まで存在し得る。一般的なグリース用途は、ギアに使用される流体タイプのグリースであるNLGI 000から、より硬質なNLGI 3までである。NLGI 000~NLGI 0グレードはギアに使用され、NLGI 1~3はベアリング用途に使用される。NLGI 000グリースは10%の低さから、NLGI 3グリースの場合、最大で約65%になり得る。特に、最大約40%でNLGI 2号グリース-中硬度のものである。
【0027】
さらに、本明細書で開示する「添加剤」という用語は、グリース反応プロセスに関与せず、グリースマトリックスに懸濁したままであり、特定の性能特性を満たすために添加されるものを指す。
【0028】
グリース組成物の再生可能基油成分
本発明で使用される再生可能な基油は、潤滑グリースの製造に使用される生物資源に由来すると理解され、以下に記載する炭化水素混合物を含む。そのような基油は、限定されないが、特定の油を製造するように設計された生物有機体から作製され得、非限定的な例として鉱油など、石油蒸留加工油を含まない。再生可能な含有量を評価する適切な方法は、ASTM D 6866-12、「放射性炭素分析を使用して固体、液体、及び気体試料のバイオ系含有量を決定するための標準試験方法」によるものである。
【0029】
本明細書に記載され、以下に示される例示的な特定の実施例によって示される再生可能な基油は、最大約85%で存在し得、一般的に、約85%の重量範囲内に収まる。特に、上記のNLGIグリースを参照すると、10%増ちょう剤を有するNLGI 000グリースでは、基油は約85%であり得、増ちょう剤が65%とされるNLGI 3グリースでは、基油は低くて30%である可能性がある。
【0030】
別の実施形態は、以下の炭化水素構造及び特性を有する再生可能な基油の使用であり、本明細書ではさらに「SynNova 9」と称される。
【0031】
本明細書に開示される炭化水素混合物の独特の分岐構造は、BP、BI、内部アルキル分岐、及び5+メチルなど、NMRパラメータによって特徴付けられる。炭化水素混合物のBP/BIは、≧-0.6037(分子あたりの内部アルキル分岐)+2.0の範囲にある。炭化水素混合物の5+メチルは、1分子あたり平均0.3~1.5である。
【0032】
炭化水素混合物は、炭素数分布に基づいて、C28~C40炭素、及びC42以上の2つの炭素範囲に分類することができる。一般に、各炭化水素混合物中に存在する分子の約95%以上が、特定の範囲内の炭素数を有する。C28~C40の範囲の代表的な分子構造は、NMR及びFIMS分析に基づいて提案することができる。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、オレフィンのオリゴマー化及び水素化異性化によって作られた構造は、構造全体に分布するメチル、エチル、ブチル分枝を有し、分枝指数及び分枝近接が驚くほど良好な生成物の低温特性に寄与すると考えられる。本炭化水素混合物における例示的な構造は以下の通りである:
【化1】

炭化水素混合物は以下を示す:
・3.0~10.0cStの範囲のKV100、
・-20~-55℃の範囲の流動点、
・Noackが2750(-35℃でのCCS)(-0.8)±2であるようなNoackと-35℃でのCCSとの関係;
【0033】
炭化水素混合物のNoackとCCSとの関係を図3及び4に示す。各図で、上の線はNoack=2750(-35℃でのCCS)(-0.8)+2を表し、下のグラフ線はNoack=2750(-35℃でのCCS)(-0.8)-2を表す。より好ましくは、炭化水素混合物は、Noack=2750(-35℃でのCCS)(-0.8)+0.5及びNoack=2750(-35℃でのCCS)(-0.8)-2であるような、Noackと-35℃でのCCSとの関係を有する。図3及び4の原点に近い炭化水素混合物は、-35℃で揮発性が低く、粘度が低下するため、低粘度のエンジンオイルにより有利であることが見出されている。
【0034】
C28~C40の範囲の炭素数を有する本発明による炭化水素混合物、及び別の実施形態でのC28~C36の範囲の炭素数、または別の実施形態でのC32の炭素数を有する分子は、一般に、BP/BI、1分子あたりの内部アルキル分岐、1分子あたりの5+メチル分岐、及び上記のNoack/CCS関係の特徴に加えて、次の特徴を有する:
・3.0~6.0cStの範囲のKV100、
・11ln(BP/BI)+135~11ln(BP/BI)+145の範囲のVI、
・33ln(BP/BI)-45~33ln(BP/BI)-35の範囲の流動点。
【0035】
一実施形態では、C28~C40炭化水素混合物のKV100は、3.2~5.5cStの範囲であり、別の実施形態では、KV100は4.0~5.2cSt、別の実施形態では4.1~4.5cStの範囲である。
【0036】
C28~C40炭化水素混合物のVIは、一実施形態では125~155、別の実施形態では135~145の範囲である。
【0037】
炭化水素混合物の流動点は、一実施形態では25℃~-55℃、別の実施形態では35℃~-45℃の範囲である。
【0038】
一実施形態におけるC28~C40炭化水素混合物の沸点範囲は、ASTM D2887で測定される、125℃(95%でのTBP~5%でのTBP)以下であり、別の実施形態では100℃以下、一実施形態では75℃以下、別の実施形態では50℃以下、一実施形態では30℃以下である。好ましい実施形態では、50℃以下、さらに好ましくは30℃以下の沸点範囲を有するものは、所与のKV100に対して驚くほど低いNoack揮発度(ASTM D5800)をもたらす。
【0039】
一実施形態におけるC28~C40炭化水素混合物は、14~30の範囲の分岐近接度(BP)を、15~25の範囲の分岐指数(BI)で有し、別の実施形態では、BPは15~28の範囲であり、BIは16~24の範囲である。
【0040】
C28~C40炭化水素混合物のNoack揮発度(ASTM D5800)は、一実施形態では16重量%未満であり、一実施形態では12重量%未満であり、一実施形態では10重量%未満であり、一実施形態では8重量%未満であり、一実施形態では7重量%未満である。一実施形態におけるC28~C40炭化水素混合物はまた、-35℃で2700cP未満のCCS粘度を有し、別の実施形態では2000cP未満、一実施形態では1700cP未満、一実施形態では1500cP未満である。
【0041】
C42以上の炭素数範囲を有する炭化水素混合物は、BP/BI、分子あたりの内部アルキル分岐、1分子あたり5+メチル分岐、及び上記のNoackと-35℃でのCCSとの関係に加えて、一般に以下の特徴を呈する:
・6.0~10.0cStの範囲のKV100、
・11ln(BP/BI)+145~11ln(BP/BI)+160の範囲のVI、
・33ln(BP/BI)-40~33ln(BP/BI)-25の範囲の流動点。
【0042】
C42以上の炭素を含む炭化水素混合物は、一実施形態では8.0~10.0cStの範囲のKV100を有し、別の実施形態では8.5~9.5cStの範囲のKV100を有する。
【0043】
42個以上の炭素を有する炭化水素混合物のVIは、一実施形態では140~170であり、別の実施形態では150~160である。
【0044】
一実施形態における流動点は、-15~-50℃の範囲であり、別の実施形態では、-20~-40℃である。
【0045】
一実施形態では、≧42個の炭素を含む炭化水素混合物は、18~28の範囲のBP及び17~23の範囲のBIを有する。別の実施形態では、炭化水素混合物は、18~28の範囲のBP及び17~23の範囲のBIを有する。
【0046】
一般に、上に開示された両方の炭化水素混合物は、以下の特徴を示す:
・分子の少なくとも80%は、FIMSによる偶数の炭素数を有する、
・3.0~10.0cStの範囲のKV100、
・-20~-55℃の範囲の流動点、
・Noackが2750(-35℃でのCCS)(-0.8)±2であるようなNoackと-35℃でのCCSとの関係、
・1分子あたり≧-0.6037(内部アルキル分岐)+2.0の範囲のBP/BI、
・1分子あたり平均で0.3~1.5の5+メチル分岐。
【0047】
高性能グリース:高温及び低温、重負荷下、機械的及びせん断安定性、錆及び腐食防止、水及び湿気のある雰囲気の影響下での安定性、高速及び低速に適したグリース。理解を深めるために、グリースの高性能特性は次の表のように説明することができる

【表1】
【0048】
グリース組成物のちょう度を、ASTM D 217、「潤滑グリースのコーン貫入の標準試験方法」に従って試験した。コーン貫入は、指定された試験条件下でのグリースのちょう度/硬さの尺度を提供する。グリース組成物の安定性は、ASTM D 1831-19「潤滑グリースのロール安定性に関する標準試験方法」によって試験される、グリースのロール安定性を試験することで評価している。この試験方法は、ロール安定性試験装置で作業したときの、コーン貫入で測定される、転がりせん断下での潤滑グリースのちょう度の変化を提供する。試験前後の貫入度差の変化が小さいほど、転がりせん断下でのグリースの安定性が優れている。グリース組成物の高温寿命は、ASTM D 3527-18「自動車ホイールベアリンググリースの寿命性能の標準試験方法」によって試験している。試験用グリースは、自動車の前輪ハブ-スピンドル-ベアリングアセンブリのベアリングに分散される。ベアリングに約111Nのスラスト荷重を印加し、ハブを1000r/分で回転させ、スピンドル温度を160℃で20時間維持し、動作サイクルを4時間オフする。グリースの劣化により、駆動モーターのトルクが計算されたモーターカットオフ値を超えると、試験は終了となる。グリースの寿命を、累積オンサイクル時間として表す。試験時間が長いほど、グリースの高温寿命は優れている。ASTM D 4950「自動車用サービスグリースの標準分類と仕様」で指定されているNLGI GC-LB仕様に従って、最低80時間内でこの仕様を満たすのが高温寿命要件である。ボールベアリングの高温寿命を、ASTM D 3336-18「高温でのボールベアリングの潤滑グリースの寿命に関する標準試験方法」に従ってさらに評価した。つる巻きばねによって、177℃の温度でベアリングの外輪に負荷した22N62N(5lbf6 0.55lbf)のスラスト荷重下で、グリースで潤滑されたSAE No.204サイズのボールベアリングを10000r/分で回転させた。試験は、破損するか、または指定された実行時間数が完了するまで続行される。ベアリングが破損するまでの時間が長いほど、試験条件下でのグリースの寿命が長くなる。
【0049】
本発明に記載のグリース組成物の熱安定性及び酸化安定性を、ASTM D 942-15「酸素圧力容器法による潤滑グリースの酸化安定性の標準試験方法」に従って試験した。グリースの試料を、99℃(210°F)に加熱し、110psi(758kPa)の酸素で満たされた圧力容器内で酸化させる。規定の間隔で圧力を観察し、記録する。100時間後の酸化度を、対応する酸素圧の減少によって決定し、psi低下として記録する。グリース試料の酸化安定性も、ASTM D 5483「圧力差走査熱量測定による潤滑グリースの酸化誘導時間」に従って、圧力差走査熱量測定(PDSC)によって測定した。少量のグリースを秤量して試料パンに入れ、試験セルに入れる。セルを特定の温度(155℃、180℃、及び210℃)に加熱した後、酸素で加圧する。セルを、発熱反応が起こるまで、調整された温度と圧力に保つ。外挿された開始時間を測定し、指定された試験温度下でのグリースの酸化誘導時間として報告する。この試験方法による条件下で測定される酸化誘導時間は、酸化安定性の指標として使用することができる。酸化誘導時間が高いほど、試験条件下でのグリースの酸化安定性が優れている。
【0050】
グリース組成物の減摩、耐荷重能、及び耐摩耗特性を、ASTM D 2596-15、「潤滑グリースの極圧特性を測定するための標準試験方法(四球法)」及びASTM D 2266-01(2015年再承認)、「潤滑グリースの摩耗防止特性に関する標準試験方法(四球法)」に従って評価した。直径1/2インチ(12.7mm)の鋼球3個を一緒にクランプし、潤滑剤で覆って評価する。トップボールと呼ばれる4番目の直径1/2インチの鋼球を、3つのクランプされたボールによって形成されたキャビティに40kgf(392N)の力で押し込み、3点接触させる。潤滑グリース試験片の温度を75℃(167°F)に調整し、トップボールを1200rpmで60分間回転させる。潤滑剤を、3つの下側クランプボールに摩耗した傷の直径の平均サイズを使用して比較した。この方法を、これらの特定の条件下での摩擦係数を評価するためにさらに拡張させた。
【0051】
過塩基性スルホン酸カルシウムは、ミネラル、白色または合成炭化水素希釈剤中、300~450mgKOH/gの総塩基価(TBN)を有する。
【0052】
変換プロセスを促進するために、非晶質炭酸カルシウムから方解石への変換させる促進剤として、プロピレングリコール、C1~3アルコール、C1~5モノカルボン酸、水、メチルセロソルブなど、またはそれらの組み合わせなどが使用され得る。
【0053】
ホウ酸(boric acid)及びリン酸として例示されるホウ素(boron)または亜リン酸のいずれかを含む無機酸の1つまたは複数を複合体化するプロセスを促進するため、サリチル酸として例示される芳香族酸、酢酸として例示されるモノカルボン酸、アゼライン酸として例示されるジカルボン酸、12-ヒドロキシステアリン酸として例示される少なくともC12炭素原子を含む長鎖脂肪酸を含む有機酸を使用することができる。
【0054】
本発明の性質を十分に説明するために、特定の実施例を以下に説明する。しかし、これは単なる例として行われ、添付の特許請求の範囲を限定するものではなく描写することを意図していることを理解されたい。
【実施例
【0055】
実施例1.
この実施例では、表2に示すように、再生可能な基油を初めて使用する過塩基性スルホン酸カルシウム複合体(OBCSC)グリースの新規組成物が開示されている。
【0056】
【表2】
【0057】
120gの基油をキッチンエイドミキサーに投入し、430gのニュートン過塩基性スルホン酸カルシウム(LZ GR9251)を連続攪拌しながらこれに添加した。この混合物に60gの水を加え、45~60分間連続的に混合した。ミキサーを継続的にゆっくりと加熱し、温度を180~190°Fに上昇させた。この混合物に120gの油を添加した。別のポットで、ホウ酸20.40g、水酸化カルシウム22.10g、及び水50gのスラリーを作り、この混合物に加えた。この混合物に120gの油を加えた。この塊を200~220°Fに加熱し、次いで26.50gの12-ヒドロキシステアリン酸を添加した。温度を徐々に300~320°Fまで上昇させた。続いて、加熱を止め、塊を徐々に冷却し、残りの基油を添加し、3本のロールミルで粉砕した。この開示された組成物は、性能添加剤を含まない。得られたグリースは、表-3に示される以下の特性を示した。
【0058】

【表3】
【0059】
表-3の通り、試験データが、本実施形態で開示された性能添加剤を含まないグリースが、わずか1.29変化%のロール安定性によって示される優れた安定性、+600°Fの非常に高い支持点、295kgの溶接荷重、したがって高い耐荷重能力、わずか0.324mmの低い摩耗痕径、及びわずか0.6mgのフレッティング摩耗によって示される優れた耐摩耗性、0.084の低い摩擦係数によって示される優れた減摩特性、160℃で85.7時間(ASTM D 3527)及び177℃で64.4時間(ASTM D 3336)の優れた高温寿命、100時間後にわずか1.1psiの低下で示される優れた酸化安定性(ASTM D 942)、及び180℃で19.9分の酸化誘導時間(ASTM D 5483)を呈することを示し、したがって、幅広い用途で高性能グリースになる可能性が高い。
【0060】
このグリースは、同様のまたは他の代替プロセスにて、Lubrizol(LZ 75 NS、LZ 75 GR、LZ 75 WR、LZ 75 P)、Lockard、Oronite、Chemtura、Daubert Chemicalsから供給される、当業者に知られている他のニュートン過塩基性スルホネートスルホネートを使用して代替的に調製することも可能である。
【0061】
実施例2:
この実施例では、グリース組成物は、実施例1に記載されたものと実質的に同一の組成物及びプロセスを使用して調製したが、グリースを調製するための基油として、SynNova 9の代わりに、100℃で8cSt粘度(PAO-8)油の合成ポリアルファオレフィンを使用した。得られたグリース特性を、実施例1に従ってSynNova 9で調製したグリースと比較し、試験結果を表-4に示す。
【0062】

【表4】
【0063】
表-4は、再生可能なSynNova 9で調製したOBCSCグリースが、PAO-8の同じ組成物とプロセスで調製された同じグリースと比較して、より少ない増ちょう剤含有量を呈したことを明確に示している。増ちょう剤の含有量が少ないほど、基油中の過塩基性スルホン酸カルシウム増ちょう剤の分散性/溶解性が優れていることを示す。ASTM D 1831に従って試験された、PAO 8で調製されたグリースの場合の1.64%と比較して、SynNova 9油系を用いたグリースの場合は1.29%である優れたロール安定性、及び、ANDEROMETER(登録商標)で試験された、SynNova 9系のグリースで4.9、PAO 8系のグリースで5.6という比較的低いベアリングノイズからわかるように、基油中の増ちょう剤の溶解性/分散性は、ちょう度、機械的/せん断安定性、ベアリングノイズなどの性能特性を導く上で、潤滑グリースにおいて非常に重要な役割を果たす。
【0064】
表-4に示されるように、SynNova 9で調製されたOBCSCグリースがより高い耐荷重能力を表しており、これはPAO-8基油で調製されたOBCSCグリースの275kgに対して、SynNova 9で調製されたOBCSCグリースの溶接荷重が、より高い295kgであることにより示される。
【0065】
ASTM D 2266に従って試験された、対応するPAO-8のOBCSCグリースの0.422mmに対して、SynNova 9で調製されたOBCSCグリースの耐摩耗性は、0.324mmとはるかに優れた摩耗痕を示した。ASTM D 4170に従って試験された、対応するPAO-8で調製したOBCSCグリースの4.4mgと比較して、SynNova 9を使用して実施例1で調製したOBCSCグリースの同様の耐摩耗性能特性は、わずか0.6mgのフレッティング摩耗を示した。
【0066】
実施例1でSynNova 9を使用して調製したOBCSCグリースの高温寿命は85.7時間を示したが、160℃でのASTM D 3527に従って試験されたPAO-8を使用した同一のOBCSCグリースでは、わずか40.4時間であった。この観察結果は、177℃(ASTM D 3336)で、ボールベアリングで試験されたSynNova 9基油のOBCSCグリースの寿命が64.4時間であり、対して、この実施例でPAO-8で調製された同一OBCSCグリースは、53時間とより短い寿命であったという事実によってさらに裏付けられる。
【0067】
実施例1及び実施例2で調製した2つのグリースの耐酸化特性を、ASTM D 942及びASTM D 5483に従って比較した。SynNova 9系の実施例1で調製したOBCSCグリースは、100℃で100時間後、たった1.1psiの圧力損失を示したのに対し、PAO-8のOBCSCグリースの圧力低下は1.6psiであり、よって、SynNova 9油を使用したグリースの圧力損失が低いことは、優れた耐酸化性を示している。これは、グリースを180℃(ASTM D 5483)で、PDSCで試験することによってさらに裏付けられ、PAO-8のOBCSCグリースの16.6分に対し、SynNova 9のOBCSCグリースは19.9分のより長い誘導時間を示した。
【0068】
実施例3
この実施例では、グリース組成物は、実施例1に記載したのと同じように調製されたが、SynNova 9の代わりに、基油として鉱油600 Nを調製に使用した。得られたグリースの特性を、実施例1で説明したSynNova 9を使用して調製したグリースと表-5で比較する。
【0069】
【表5】
【0070】
表-5は、同じ組成物とプロセスにより600 N系で調製された同じグリースの46.8%と比較して、再生可能なSynNova 9で調製されたOBCSCグリースが、44.95%と、より少ない増ちょう剤含有量を示したことを明確に表している。Anderometerで試験したベアリングノイズは4.9であり、600 N油で調製したグリースを使用した場合の7.7と比較して、SynNova 9油で作成したグリースを使用した場合の方が優れている。ASTM D 1264に従って試験される、SynNova 9基油を使用して調製されたグリースの水洗耐水特性が1.75%の水洗耐水度を示したのに対し、600 N基油で調製した同一グリースの場合は、2.0%であった。水洗耐水度が低いほど、グリースの耐水性が優れている。
【0071】
ASTM D 2266に従って試験された、対応する600 NのOBCSCグリースの0.413mmに対し、SynNova 9で調製されたOBCSCグリースの耐摩耗特性は、直径0.324mmとはるかに優れた摩耗痕径を示した。ASTM D 4170に従って試験された、対応する600 Nで調製したOBCSCグリースの4.4mgと比較して、SynNova 9を使用して実施例1で調製したOBCSCグリースの同様の耐摩耗性能特性は、わずか0.6mgのフレッティング摩耗であった。
【0072】
160℃でASTM D 3527に従って試験された、実施例1でSynNova 9を使用して調製したOBCSCグリースの高温寿命は85.7時間を示したが、600 Nを使用した同一のOBCSCグリースではわずか40.0時間であった。
【0073】
実施例1及び実施例3で調製した2つのグリースの耐酸化特性を、ASTM D 942に従って比較した。SynNova 9系の実施例1で調製したOBCSCグリースは、100℃で100時間後、たった1.1psiの圧力損失を示したのに対し、実施例3に従って600 Nで同じように調製されたOBCSCグリースの圧力低下は3.2であり、よって、SynNova 9油を使用したグリースの圧力損失が低いことは、優れた耐酸化性を示している。
【0074】
実施例4
この実施形態において、リチウム12ヒドロキシステアレートグリースを、158.6gのSynNova 9を単一回転の中速キッチンミキサーに入れることによって、従来のオープンケトルプロセスによって調製する。このミキサーに126.8gの12ヒドロキシステアリン酸を加え、溶融するまで加熱した。この混合物に、水中の19.0gの水酸化リチウム一水和物スラリーを添加し、次いで200gのSynNova 9油を添加した。攪拌を続けながら温度を徐々に400°Fまで上昇させた。この温度で加熱を止め、495.6gのSynNova 9をさらに添加した。この塊を<180°Fまで冷却し、3本のロールミルを通過させ、表-6に示す試験について試験した。比較の目的で、同じ原材料及び同じプロセスを使用して、グループII鉱油:Chevron 600 R及び合成ポリアルファオレフィン8cSt基油を使用した、他のリチウムグリースも調製した。比較試験データを次の表6にまとめる。
【0075】

【表6】
【0076】
表-6は、再生可能なSynNova 9で調製されたリチウムグリースが、PAO 8基油で同じ組成物とプロセスで調製された同じグリースの16.08%、及び600 R油の16.13%の増ちょう剤含有量と比較して、14.58%というより少ない増ちょう剤含有量を示したことを表す。再生可能なSynNova 9油で調製されたグリースのシェルロール安定性は1.72%であり、PAO 8及び600 Rで調製されたグリースの、それぞれ2.69%及び2.76%よりも優れている。SynNova 9で調製されたグリースの平均ベアリングノイズは7.7であり、PAO 8及び600 Rで調製されたグリースの、それぞれ8.2及び8.5の平均ノイズよりも優れている。SynNova 9基油で調製されたリチウムグリースの水洗耐水特性は、PAO 8で調製されたグリースの2.5%、及び600 Rで調製されたグリースの4.5%に対し、2.00%の優れた水洗耐水度を示した。
【0077】
SynNova 9で調製されたリチウムグリースの耐摩耗性は0.552mmであり、対応するPAO 8でのリチウムグリースの0.631mm、600 Rで調製されたグリースの0.585mmと比較して、はるかに優れた摩耗痕径を示した。この試験結果は、摩擦曲線を用いた同様の試験を異なる機器で行うことによって検証された。SynNova 9でのグリースは、0.75mmの摩耗痕径を示し、対してPAO 8でのグリースは1.01mmであった。図1及び図2に示されるように、SynNova 9基油でのリチウムグリースの平均摩擦係数はY-O切片0.088で0.088となり、PAO 8でのリチウムグリースの場合では、平均摩擦係数はY-O切片0.093で0.115と、はるかに高い値であることがわかった。SynNova 9でのリチウムグリースに対応する図1は、試験期間中の均一で滑らかな摩擦パターンが明確に際立っているのに対し、図2のフィルムに乱れがある不規則な摩擦パターンであり、金属と金属の接触の可能性を示している。
【0078】
SynNova 9で調製されたリチウムグリースの高温寿命を、ASTM D 3336に従って177℃で、ボールベアリングで試験し、試験結果が73.2時間であったのに対し、この実施例にてPAO-8で調製された同一のリチウムグリースはわずか60時間の短い寿命であった。
【0079】
ASTM D 942及びASTM D 5483に従って、この実施例で調製した、添加剤を含まない2つのグリースの耐酸化特性を比較した。SynNova 9系で調製したリチウムグリースは、100℃で100時間後に72.5psiの圧力損失を示したのに対し、同じように調製及び試験されたPAO-8を含むリチウムグリースは95.4、600 R油でのグリースは99.3の圧力損失であった。この観察は155℃(ASTM D 5483)でPDSCによって同じグリースを試験することによってさらに確認され、PAO-8を含むリチウムグリースの場合は、<10分であったのに対し、SynNova 9を含むリチウムグリースは、より長い21.4分の誘導時間を示した。
【0080】
実施例5
この実施例では、実施例1、2及び3で調製されたすべてのグリースの比較摩耗痕径に対する、周知の耐摩耗添加剤であるジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)の効果が示されている。3つのグリースをすべて1%LZ 1395で処理し、Lubrizol Corporationが、通常のリン含有量が9.50%、硫酸灰15.90%、及び亜鉛含有量10.60%の市販のジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)を供給した。ZDDPを使用した場合と使用しない場合の試験結果を表-7に示す。
【0081】
【表7】
【0082】
実施例1に従ってSynNova基油で調製したOBCSCグリースは0.324mmの摩耗痕径を示し、一方で、実施例2に従ってPAO 8で調製した同一のOBCSCグリースは0.422の摩耗痕径を示した。同じグリースに上記のZDDPを1%添加した場合、ZDDPを含む添加剤を含まないSynNova 9で調製したOBCSCの摩耗痕径とほぼ同じの0.32mmまで摩耗痕径が減少した。同様に、グループIの鉱油600 N油中で実施例3に従って調製されたOBCSCグリースは、耐摩耗添加剤なしで0.413mmの摩耗痕径を示した。同じグリースにZDDPを1%添加した場合、摩耗痕径は0.413mmから0.388mmに減少した。0.324mmの摩耗痕径を示す、ZDDP/耐摩耗添加剤を一切含まないSynNova 9で作製したOBCSCの摩耗痕径を比較すると、600 N油で調製され、1%のZDDPをも含む同一のOBCSCの摩耗痕径は0.388であり、これは、SynNova 9油のZDDPを含まないOBCSCグリースよりも高い。
【0083】
実施例6

【表8】
【0084】
この実施例では、SynNova 9、PAO 8、及び600 Rで調製されたOBCSC及びリチウムグリースに対する抗酸化添加剤の効果を比較した。代表的な窒素含有量が3.5%の置換ジアリールアミン型酸化防止剤であるLZ 9510を0.5%または1.0%のいずれかでグリースに添加し、ASTM D 5483に従ってPDSCにより、異なる温度での酸化誘導時間を試験した。LZ 9510を1%有するSynNova 9のOBCSCグリースの酸化誘導時間は、210℃で等温線なしで>120分、LZ 9510を1%有する600 RのOBCSCグリースの場合は58.3分、及びPAO 8のグリースの場合は123.2分であった。明確な区別を得るために、試験はLZ 9510を0.5%有する3つのグリースすべてで実行した。LZ 9510を0.5%有するSynNova 9のOBCSCの誘導時間が210℃で84.5分であるのに対して、PAO 8及び600 RのOBCSCグリースの場合、それぞれ60.45分及び23.4分であった。この試験は、SynNova 9及びPAO 8を含むリチウムグリースで180℃で実行され、試験結果は、LZ 9510を1.0%有するSynNova 9のリチウムグリースで>120分、LZ 9510を1%有するPAO 8のグリースで98.4分であった。この実施例は、既知の酸化防止剤をこれらのグリースに添加すると、SynNova 9で作製されたグリースが、PAO 8または鉱油系の600 Rで作製された他のグリースよりも、その優れた性能特徴を維持することを明確に示している。
図1
図2
図3
図4
【図
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【国際調査報告】