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特表2023-523017感染性疾患への感受性を予測する方法および関連する処置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(54)【発明の名称】感染性疾患への感受性を予測する方法および関連する処置方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20230525BHJP
【FI】
C12Q1/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564551
(86)(22)【出願日】2021-04-26
(85)【翻訳文提出日】2022-12-16
(86)【国際出願番号】 US2021029249
(87)【国際公開番号】W WO2021217152
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】63/015,104
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522413386
【氏名又は名称】ライフボールト バイオ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ハミルトン, ジョナソン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ヴィスコミ, サルバトーレ ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ペリー, トレバー ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA07
4B063QA13
4B063QA17
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR72
4B063QR74
4B063QR77
4B063QR79
4B063QS34
4B063QS38
4B063QX01
(57)【要約】
本明細書では、血液細胞における特異的変異の観察に基づいて感染症への感受性を予測するための方法、ならびに対象における感染症への感受性を処置または低減するための方法が開示される。特定の実施形態では、本明細書に開示される方法は、CHIPを有すると同定された、またはそうでなければ重度のCOVID-19感染症もしくはCOVID-19感染症による重度の合併症を発症するリスクがある対象を処置するステップをさらに含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルス疾患2019(COVID-19)感染症から重度の合併症を発症するリスクがある対象を同定する方法であって、前記方法が、前記対象が未確定の潜在能をもつクローン性造血(CHIP)を有するかどうかを決定するステップを含み、ここで、前記対象がCHIPを有するかどうかを決定する前記ステップが、前記対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞のゲノムの少なくとも一部を配列決定して、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える遺伝子における変異を同定するステップであって、ここで、前記変異の存在は、前記対象がCOVID-19感染症から重度の合併症を発症するリスクがあることを示す、方法。
【請求項2】
COVID-19から重度の合併症を発症するリスクがあると同定された前記対象を、COVID-19感染症から重度の合併症を発症する前記対象のリスクを低下させることによって処置するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象を処置するステップが、前記対象がCOVD-19感染症に罹患する可能性を低下させるために1つもしくはそれを超える作用物質またはワクチンを前記対象に投与するステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象が入院を必要とするリスクがある、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記対象が40歳未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記対象が重度の自己免疫疾患を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が60歳未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記対象が併発状態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記併発状態が、がん、脳血管疾患、慢性腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、心臓病、肥満、妊娠、喫煙歴、ダウン症候群、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、神経学的状態、間質性肺疾患、肺線維症、肺高血圧症、鎌状赤血球症、固形臓器または血液幹細胞移植、物質使用障害、コルチコステロイドまたは他の免疫抑制薬の使用、嚢胞性線維症、サラセミア、喘息、高血圧、免疫不全および肝疾患からなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記併発状態が、がん、脳血管疾患、慢性腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、心臓病、肥満、妊娠および喫煙歴からなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記変異が体細胞変異である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記変異がDNMT3Aおよび/またはTET2における体細胞変異である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
重度のコロナウイルス疾患2019(COVID-19)感染症を発症するリスクがある対象を処置する方法であって、前記対象が未確定の潜在能をもつクローン性造血(CHIP)を有するかどうかを決定するステップを含み、ここで、前記対象がCHIPを有するかどうかを決定する前記ステップが、前記対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞のゲノムの少なくとも一部を配列決定して、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える遺伝子における変異を同定するステップであっって、ここで、前記変異の存在は、前記対象がCHIPを有し、重度のCOVID-19感染症を発症するリスクがあることを示す、ステップと、CHIPを有する前記対象を処置して、重度のCOVID-19感染症を発症する前記対象のリスクを低下させるステップとを含む、方法。
【請求項14】
前記対象を処置するステップが、前記対象が中等度~重度のCOVD-19感染症に罹患する可能性を低下させるために1つもしくはそれを超える作用物質またはワクチンを前記対象に投与するステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記対象が入院を必要とするリスクがある、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記対象が40歳未満である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が重度の自己免疫疾患を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記対象が60歳未満である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が併発状態を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記併発状態が、がん、脳血管疾患、慢性腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、心臓病、肥満、妊娠、喫煙歴、ダウン症候群、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、神経学的状態、間質性肺疾患、肺線維症、肺高血圧症、鎌状赤血球症、固形臓器または血液幹細胞移植、物質使用障害、コルチコステロイドまたは他の免疫抑制薬の使用、嚢胞性線維症、サラセミア、喘息、高血圧、免疫不全および肝疾患からなる群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記併発状態が、がん、脳血管疾患、慢性腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、心臓病、肥満、妊娠および喫煙歴からなる群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記変異が体細胞変異である、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記変異がDNMT3Aおよび/またはTET2における体細胞変異である、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
対象における感染症を処置する方法であって、
a.処置を必要とする対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞のゲノムの少なくとも一部を配列決定するステップと、
b.前記血液サンプルにおいて、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える遺伝子における変異を同定するステップであって、ここで、前記変異の存在が感染症への感受性の増加を示す、ステップと、
c.前記対象の血液における前記変異を含む造血性クローンの発生率を低下させることによって前記対象を処置するステップ
とを含む方法。
【請求項25】
前記感染症がウイルス感染症である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ウイルスがコロナウイルスである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記コロナウイルスが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)からなる群より選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ウイルスがインフルエンザである、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記インフルエンザがインフルエンザAまたはインフルエンザBである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記インフルエンザAが、H1N1、H5N1、H1N2、H2N1、H3N1、H3N2およびH2N3からなる群より選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ウイルスが呼吸器合胞体ウイルス(RSV)である、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記感染症が非ウイルス感染症である、請求項24に記載の方法。
【請求項33】
前記非ウイルス感染症が、細菌、真菌、酵母、寄生虫またはプリオン感染症である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記感染症がコロナウイルス疾患2019(COVID-19)である、請求項24に記載の方法。
【請求項35】
前記感染が呼吸困難および/またはサイトカインストームをもたらす、請求項24に記載の方法。
【請求項36】
前記遺伝子が、TET2、DNMT3A、PPM1D、JAK2およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項37】
前記変異が、ミスセンス変異、フレームシフト変異、ナンセンス変異またはスプライス部位破壊である、請求項24に記載の方法。
【請求項38】
前記変異がエクソン7~23中のDNMT3Aにおけるものである、請求項24に記載の方法。
【請求項39】
前記変異が、G543C、S714C、F732C、Y735C、R736C、R749C、F751C、W753CおよびL889Cからなる群より選択されるDNMT3Aにおけるミスセンス変異である、請求項24に記載の方法。
【請求項40】
前記変異がJAK2におけるV617F変異である、請求項24に記載の方法。
【請求項41】
前記変異がTET2における破壊変異である、請求項24に記載の方法。
【請求項42】
前記変異がPPM1Dにおける破壊変異である、請求項24に記載の方法。
【請求項43】
前記変異が、炎症を増加させるか、前記対象において炎症促進状態を誘導するか、または炎症性サイトカインの上昇を引き起こす、請求項24に記載の方法。
【請求項44】
前記サイトカインが、インターロイキン、インターフェロンおよび/または腫瘍壊死因子である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記インターロイキンが、IL-6、IL-8、IL-1α、IL-1β、IL-12、IL-18およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記インターフェロンが、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IFN-λおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記腫瘍壊死因子が、TNF-α、TNF-β、TNF-γおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
ステップ(c)の前記処置が前記対象の炎症または炎症性サイトカインを減少させる、請求項43に記載の方法。
【請求項49】
前記血液サンプルにおいて、ACE2、CRP、IL1A、IL1B、IL6、IL6R、CXCL8、IL10、IL12A、IL12B、IL18、IFITM3、TNF、LTA、LTB、IFN-α1、IFN-α2、IFN-α4、IFN-α5、IFN-α6、IFN-α7、IFN-α8、IFN-α10、IFN-α13、IFN-α14、IFN-α16、IFN-α17、IFN-α21、IFN-β、IFN-ε、IFN-γ、IFN-κ、IFN-λおよびIFN-ωからなる群より選択される少なくとも1つの遺伝的バリアントを同定するステップをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項50】
前記対象がヒト対象である、請求項24に記載の方法。
【請求項51】
前記対象が少なくとも50歳である、請求項24に記載の方法。
【請求項52】
前記対象が併発状態を有する、請求項24に記載の方法。
【請求項53】
前記併発状態が、心血管疾患、糖尿病、喘息、気腫、肥満およびがんからなる群より選択される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記血液サンプル中の前記1つまたはそれを超える細胞が有核細胞である、請求項24に記載の方法。
【請求項55】
前記血液サンプル中の前記1つまたはそれを超える細胞が体細胞である、請求項24に記載の方法。
【請求項56】
対象におけるコロナウイルス感染症を処置する方法であって、
a.処置を必要とする対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞のゲノムの少なくとも一部を配列決定するステップと、
b.前記血液サンプルにおいて、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える遺伝子における変異を同定するステップであって、ここで、前記変異の存在が感染症への感受性の増加を示す、ステップと、
c.前記対象の血液における前記変異を含む造血性クローンの発生率を低下させることによって前記対象を処置するステップ
とを含む方法。
【請求項57】
前記コロナウイルスが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)からなる群より選択される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記血液サンプルにおいて、ACE2、CRP、IL1A、IL1B、IL6、IL6R、CXCL8、IL10、IL12A、IL12B、IL18、IFITM3、TNF、LTA、LTB、IFN-α1、IFN-α2、IFN-α4、IFN-α5、IFN-α6、IFN-α7、IFN-α8、IFN-α10、IFN-α13、IFN-α14、IFN-α16、IFN-α17、IFN-α21、IFN-β、IFN-ε、IFN-γ、IFN-κ、IFN-λおよびIFN-ωからなる群より選択される少なくとも1つの遺伝的バリアントを同定するステップをさらに含む、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
対象における感染症を処置する方法であって、
a.前記対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞からDNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える核酸を配列決定するステップと、
b.前記配列決定された核酸における変異の存在を検出するステップと、
c.前記対象の血液中のミスセンス変異を含む造血性クローンの発生率を低下させることによって前記対象を処置するステップと
を含む、方法。
【請求項60】
前記変異がDNMT3A、TET2、JAK2および/またはPPM1Dにおける変異である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記変異が、G543C、S714C、F732C、Y735C、R736C、R749C、F751C、W753CおよびL889Cからなる群より選択されるDNMT3Aにおけるミスセンス変異である、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記変異がTET2における破壊変異である、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
前記変異がJAK2におけるV617F変異である、請求項59に記載の方法。
【請求項64】
前記変異がPPM1Dにおける破壊変異である、請求項59に記載の方法。
【請求項65】
前記感染症がウイルス感染症である、請求項59に記載の方法。
【請求項66】
前記ウイルスがコロナウイルスである、請求項59に記載の方法。
【請求項67】
前記コロナウイルスが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)からなる群より選択される、請求項59に記載の方法。
【請求項68】
前記ウイルスがインフルエンザである、請求項59に記載の方法。
【請求項69】
前記インフルエンザがインフルエンザAまたはインフルエンザBである、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記インフルエンザAが、H1N1、H5N1、H1N2、H2N1、H3N1、H3N2およびH2N3からなる群より選択される、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記ウイルスが呼吸器合胞体ウイルス(RSV)である、請求項59に記載の方法。
【請求項72】
前記感染症が非ウイルス感染症である、請求項59に記載の方法。
【請求項73】
前記非ウイルス感染症が、細菌、真菌、酵母、寄生虫またはプリオン感染症である、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記感染症がコロナウイルス疾患2019(COVID-19)である、請求項59に記載の方法。
【請求項75】
前記感染症が呼吸困難および/またはサイトカインストームをもたらす、請求項59に記載の方法。
【請求項76】
コロナウイルス感染症への対象の感受性を予測する方法であって、
a.前記対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞からDNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える核酸を配列決定するステップと、
b.前記配列決定された核酸における変異の存在を検出するステップであって、前記変異の存在がコロナウイルス感染症への感受性の増加を示す、ステップと
を含む、方法。
【請求項77】
前記変異がDNMT3Aにおけるミスセンス変異である、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記ミスセンス変異が、G543C、S714C、F732C、Y735C、R736C、R749C、F751C、W753CおよびL889Cである、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記変異がTET2における破壊変異である、請求項76に記載の方法。
【請求項80】
前記変異がJAK2におけるV617F変異である、請求項76に記載の方法。
【請求項81】
前記変異がPPM1Dにおける破壊変異である、請求項76に記載の方法。
【請求項82】
コロナウイルス感染症への対象の感受性を予測する方法であって、
a.対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞からDNMT3A核酸を配列決定するステップと、
b.前記配列決定されたDNMT3A核酸におけるミスセンス変異の存在を検出するステップと、
c.前記対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞からTET2核酸を配列決定するステップと、
d.前記配列決定されたTET2核酸における破壊変異の存在を検出するステップであって、前記配列決定されたDNMT3A核酸および/または前記TET2核酸におけるミスセンス変異の存在が前記対象のコロナウイルス感染症への感受性の増加を示す、ステップと
を含む、方法。
【請求項83】
処置を必要とする対象の血液サンプル中の1つもしくはそれを超える細胞のゲノムの少なくとも一部を配列決定するステップを含む、対象(subjection)における感染症を処置する方法であって、
a.前記血液サンプルにおいて、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つもしくはそれを超える遺伝子における体細胞配列変異を同定するステップ、
b.前記血液サンプルにおいて、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つもしくはそれを超える遺伝子における体細胞構造染色体変異を同定するステップ、ならびに/または
c.前記血液サンプルにおいて、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つもしくはそれを超える遺伝子における生殖細胞配列変異を同定するステップであって、ここで、1つもしくはそれを超える体細胞変異、構造変異または生殖細胞変異の存在が感染症への感受性の増加を示す、ステップ、ならびに
d.前記対象の血液における前記変異を含む造血性クローンの発生率を低下させることによって前記対象を処置するステップ
を含む、方法。
【請求項84】
前記感染症がウイルス感染症である、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記ウイルスがコロナウイルスである、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記コロナウイルスが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)からなる群より選択される、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記ウイルスがインフルエンザである、請求項84に記載の方法。
【請求項88】
前記インフルエンザがインフルエンザAまたはインフルエンザBである、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
前記インフルエンザAが、H1N1、H5N1、H1N2、H2N1、H3N1、H3N2およびH2N3からなる群より選択される、請求項88に記載の方法。
【請求項90】
前記ウイルスが呼吸器合胞体ウイルス(RSV)である、請求項84に記載の方法。
【請求項91】
前記感染症が非ウイルス感染症である、請求項83に記載の方法。
【請求項92】
前記非ウイルス感染症が、細菌、真菌、酵母、寄生虫またはプリオン感染症である、請求項91に記載の方法。
【請求項93】
前記感染症がコロナウイルス疾患2019(COVID-19)である、請求項83に記載の方法。
【請求項94】
前記感染症が呼吸困難および/またはサイトカインストームをもたらす、請求項83に記載の方法。
【請求項95】
前記対象を処置するステップをさらに含む、請求項76から82に記載の方法。
【請求項96】
前記対象のコミュニティのメンバーを処置するステップをさらに含む、請求項76から82および95に記載の方法。
【請求項97】
前記処置が、前記感染症への前記対象の曝露を減少させることを意図した措置の実施を含む、請求項95および96に記載の方法。
【請求項98】
前記措置が、自己隔離、隔離および/またはソーシャルディスタンシングからなる措置の群から選択される、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
前記処置が、前記対象が前記感染症に罹患する可能性を低下させるために、前記対象および前記対象のコミュニティのうちの1人もしくは複数に1つもしくはそれを超える作用物質またはワクチンを投与するステップを含む、請求項95および96に記載の方法。
【請求項100】
前記処置が、前記感染症から合併症を発症する可能性を低下させるために、前記対象に1つもしくはそれを超える作用物質またはワクチンを投与するステップを含む、請求項95に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2020年4月24日に出願された米国仮出願第63/015,104号の利益を主張するものである。上記出願の全教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
コロナウイルス疾患2019(COVID-19)は2020年初頭にパンデミックとなった。その急速かつ広範な拡散の理由の1つは、感染していると気がつかない無症候性または低症候性の患者が多数存在し、したがってウイルスの拡散に寄与していることである。ウイルスの拡散に関するデータから、科学者たちは実際の感染者数が検査で陽性となった数よりもはるかに多いと考えるようになった。例えば、イタリアでは、感染者10人ごとに対して検査された陽性患者1人の割合が妥当であると考えられており、合計で100万人を超える感染者(イタリア人口の1.7%超に相当)がいることにつながる。
【0003】
感染のリスクがある個体だけでなく、罹患および死亡(morbidity and mortality)のリスクが高い個体を同定することは、疾患の社会的影響を軽減する上で最も重要な課題の1つである。さらに、細胞分析、遺伝子分析および/またはバイオマーカー分析によって提供される結果は、新しい抗ウイルス剤の開発および細胞療法の機会として切実に必要とされている戦略の開発および実施をガイドし得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、一般に、重度のCOVID-19感染症および/またはCOVID-19感染症による重度の合併症を発症するリスクがある対象を同定する方法に関する。例えば、特定の実施形態では、コロナウイルス疾患2019(COVID-19)感染症から重度の合併症を発症するリスクがある対象を同定する方法が本明細書に開示され、このような方法は、一般に、対象が未確定の潜在能をもつクローン性造血(CHIP)を有するかどうかを決定するステップを含む。特定の態様では、対象がCHIPを有するかどうかを決定するステップは、対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞のゲノムの少なくとも一部を配列決定して、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える遺伝子における変異を同定するステップであって、ここで、前記変異の存在は、対象がCHIPを有しかつ重度のCOVID-19感染症および/またはCOVID-19感染症から重度の合併症を発症するリスクがあることを示す、ステップを含む。
【0005】
特定の実施形態では、本明細書に開示される方法は、CHIPを有すると同定された、またはそうでなければ重度のCOVID-19感染症もしくはCOVID-19感染症による重度の合併症を発症するリスクがある対象を処置するステップをさらに含む。例えば、本明細書に開示される方法の特定の態様では、対象を処置するステップは、対象がCOVD-19感染症に罹患する可能性を低下させるために1つもしくはそれを超える作用物質またはワクチンを対象に投与するステップを含む。
【0006】
重度のコロナウイルス疾患2019(COVID-19)感染症および/またはCOVID-19感染症による重度の合併症を発症するリスクがある対象を処置する方法も本明細書に記載される。例えば、特定の実施形態では、重度のCOVID-19感染症を発症するリスクがある対象を処置する方法が本明細書に開示され、このような方法は、一般に、対象が未確定の潜在能をもつクローン性造血(CHIP)を有するかどうかを決定するステップを含む。特定の態様では、対象がCHIPを有するかどうかを決定するステップは、対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞のゲノムの少なくとも一部を配列決定して、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える遺伝子における変異を同定するステップであって、ここで、前記変異の存在は、対象がCHIPを有しかつ重度のCOVID-19感染症を発症するリスクがあることを示す、ステップと、CHIPを有する対象を処置して、重度のCOVID-19感染症に罹患する対象のリスクを低下させるステップとを含む。例えば、本明細書に開示される方法の特定の態様では、対象を処置するステップは、対象がCOVD-19感染症に罹患する可能性を低下させるために1つもしくはそれを超える作用物質またはワクチンを対象に投与するステップを含む。
【0007】
本明細書に開示される発明の特定の実施形態では、対象は入院を必要とするリスクがある。特定の実施形態では、対象は、約30、40、50、60、70、80、90、100歳またはそれよりも高い年齢未満である。特定の実施形態では、対象は、重度の自己免疫疾患を有する。さらに他の実施形態では、対象は、併発状態(例えば、がん、脳血管疾患、慢性腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、心臓病、肥満、妊娠、喫煙歴、ダウン症候群、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、神経学的状態、間質性肺疾患、肺線維症、肺高血圧症、鎌状赤血球症、固形臓器または血液幹細胞移植、物質使用障害、コルチコステロイドまたは他の免疫抑制薬の使用、嚢胞性線維症、サラセミア、喘息、高血圧、免疫不全および肝疾患からなる群より選択される併発状態)を有する。特定の実施形態では、併発状態は、がん、脳血管疾患、慢性腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、心臓病、肥満、妊娠および喫煙歴からなる群より選択される。
【0008】
特定の態様では、変異は体細胞変異である。例えば、本明細書に開示される方法の特定の実施形態では、変異はDNMT3Aおよび/またはTET2における体細胞変異である。
【0009】
対象の感染症を処置する方法も本明細書に記載される。本方法は、処置を必要とする対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞のゲノムの少なくとも一部を配列決定するステップと、血液サンプルにおいて、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える遺伝子における変異を同定するステップであって、ここで、前記変異の存在が感染症への感受性の増加を示す、ステップと、例えば、当該対象にワクチン接種することによって、および/または対象の血液における変異を含む造血性クローンの発生率を低下させることによって対象を処置するステップとを含み得る。
【0010】
対象の感染症を処置する方法も本明細書に記載される。本方法は、対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞からDNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える核酸を配列決定するステップと、配列決定された核酸における変異の存在を検出するステップと、対象の血液における変異(例えば、ミスセンス変異)を含む造血性クローンの発生率を低下させることによって対象を処置するステップとを含み得る。
【0011】
感染症は、ウイルス感染症または非ウイルス感染症であり得る。いくつかの実施形態では、感染症は、ウイルス感染症であり、ウイルスは、コロナウイルス(例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2))、インフルエンザ(例えば、インフルエンザA(例えば、H1N1、H5N1、H1N2、H2N1、H3N1、H3N2、H2N3)もしくはインフルエンザB)、または呼吸器合胞体ウイルス(RSV)である。いくつかの実施形態では、感染症は非ウイルス感染症(例えば、細菌、真菌、酵母、寄生虫またはプリオン感染症)である。特定の実施形態では、感染症はコロナウイルス疾患2019(COVID-19)である。いくつかの実施形態では、感染症は呼吸困難および/またはサイトカインストームをもたらす。
【0012】
対象におけるコロナウイルス(例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2))感染症を処置する方法が本明細書に記載される。本方法は、処置を必要とする対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞のゲノムの少なくとも一部を配列決定するステップと、血液サンプルにおいて、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える遺伝子における変異を同定するステップであって、ここで、前記変異の存在が感染症への感受性の増加を示す、ステップとを含み得る。特定の態様では、本方法は、例えば、対象にワクチン接種することによって、または対象の血液中に変異を含む造血性クローンの発生率を低下させることによって対象を処置するステップをさらに含む。あるいは特定の実施形態では、本方法は、対象の感染症への曝露および/またはこのような感染症に罹患する可能性を低下させることを意図した措置(例えば、自己隔離、隔離、および/またはソーシャルディスタンシング)を実施することによって対象を処置するステップをさらに含む。特定の態様では、処置は、感染症に罹患する可能性および/または感染症から合併症を発症する可能性を低下させるために、1つもしくはそれを超える作用物質またはワクチンを対象に投与するステップを含む。
【0013】
対象のコロナウイルス感染症への感受性を予測する方法も本明細書に記載される。本方法は、対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞からDNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える核酸を配列決定するステップと、配列決定された核酸における変異の存在を検出するステップであって、ここで、変異の存在がコロナウイルス感染症への感受性の増加を示す、ステップとを含み得る。
【0014】
いくつかの実施形態では、遺伝子または核酸は、TET2、DNMT3A、PPM1D、JAK2、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、変異は、ミスセンス変異、フレームシフト変異、ナンセンス変異またはスプライス部位破壊である。いくつかの実施形態では、変異は、エクソン7~エクソン23のDNMT3Aにおけるものである。いくつかの実施形態では、変異は、G543C、S714C、F732C、Y735C、R736C、R749C、F751C、W753CおよびL889Cからなる群より選択されるDNMT3Aにおけるミスセンス変異である。いくつかの実施形態では、変異は、JAK2におけるV617F変異である。いくつかの実施形態では、変異は、TET2における破壊変異である。いくつかの実施形態では、変異は、PPM1Dにおける破壊変異である。
【0015】
いくつかの実施形態では、変異は炎症を増加させるか、対象において炎症促進状態を誘導するか、または炎症性サイトカインの上昇を引き起こす。いくつかの実施形態では、サイトカインは、インターロイキン(例えば、IL-6、IL-8、IL-1α、IL-1β、IL-12、IL-18)、インターフェロン(例えば、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IFN-λ)、および/または腫瘍壊死因子(IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IFN-λ)であるか、それらを含む。いくつかの実施形態では、対象の血液における変異を含む造血性クローンの発生率を低下させると、対象の炎症または炎症性サイトカインが低下する。
【0016】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法は、血液サンプルにおいて、ACE2、CRP、IL1A、IL1B、IL6、IL6R、CXCL8、IL10、IL12A、IL12B、IL18、IFITM3、TNF、LTA、LTB、IFN-α1、IFN-α2、IFN-α4、IFN-α5、IFN-α6、IFN-α7、IFN-α8、IFN-α10、IFN-α13、IFN-α14、IFN-α16、IFN-α17、IFN-α21、IFN-β、IFN-ε、IFN-γ、IFN-κ、IFN-λおよびIFN-ωからなる群より選択される少なくとも1つの遺伝的バリアントを同定するステップをさらに含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、対象はヒト対象であり、いくつかの実施形態では、少なくとも20、30、40、50、60、70歳またはそれよりも高い年齢である。いくつかの実施形態では、対象は、併発状態(例えば、心血管疾患、糖尿病、喘息、気腫、肥満、がん)を有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞は有核細胞である。いくつかの実施形態では、血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞は体細胞である。
【0019】
対象のコロナウイルス感染症への感受性を予測する方法も本明細書に記載される。本方法は、対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞からDNMT3A核酸を配列決定するステップと、配列決定されたDNMT3A核酸におけるミスセンス変異の存在を検出するステップと、対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞からTET2核酸を配列決定するステップと、配列決定されたTET2核酸における破壊変異の存在を検出するステップであって、ここで、配列決定されたDNMT3A核酸および/またはTET2核酸におけるミスセンス変異の存在が対象のコロナウイルス感染症への感受性の増加を示すステップとを含み得る。
【0020】
対象の感染症を処置する方法も本明細書に記載される。本方法は、処置を必要とする対象の血液サンプル中の1つもしくはそれを超える細胞のゲノムの少なくとも一部を配列決定するステップ、血液サンプルにおいて、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つもしくはそれを超える遺伝子における体細胞配列変異を同定するステップ、血液サンプルにおいて、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つもしくはそれを超える遺伝子における体細胞構造染色体変異を同定するステップ、ならびに/または血液サンプルにおいて、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つもしくはそれを超える遺伝子における生殖細胞配列変異を同定するステップであって、ここで、1つもしくはそれを超える体細胞配列変異、体細胞構造変異または生殖細胞配列変異の存在が感染症への感受性の増加を示す、ステップ、ならびに対象の血液における変異を含む造血性クローンの発生率を低下させることによって対象を処置するステップを含む。
【0021】
本発明の上で考察した、ならびに他の多くの特徴および付随する利点は、本発明の以下の詳細な説明を参照することによって、よりよく理解される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
理由は完全には解明されていないが、一部の個体は、免疫系の機能不全によりコロナウイルス疾患2019(COVID-19)に対する応答を抑えることができず、免疫応答が制御不能になる。ウイルスは、免疫細胞およびそれらのシグナル伝達分子の過剰産生を誘発し、しばしば免疫細胞の肺への大量流入に関連するサイトカインストームをもたらし、最終的に急性呼吸窮迫症候群(ARDS)をもたらすことが一般に知られている。
【0023】
ウイルス感染に対する宿主免疫応答は、一般に、複数の複雑なプロセスを含み、それらが協調して宿主の保護において重要な役割を果たすことが知られている。COVID19宿主相互作用を理解するためには、血液サンプル中の様々な細胞因子、遺伝子因子およびバイオマーカー因子を包括的に調べ、宿主免疫系応答の動態を明らかにする必要があるが、その多くは現時点では不明である。これらのギャップを埋めることで、感染のリスクがある個体だけでなく、罹患および死亡のリスクが高い個体を同定するための道が開かれる。さらに、細胞/遺伝子/バイオマーカー分析によって提供される強力なデータは、新規な抗ウイルス剤の開発戦略および細胞療法の機会をもたらし得る。
【0024】
対象において死亡リスク(mortality risk)の増加をもたらす免疫応答の機能不全に関連する遺伝的変異(genetic variation)を検出および/または処置するための方法が本明細書に記載される。遺伝的変異に関連する免疫応答の機能不全のリスクがある、例えば感受性がある対象を同定および/または処置するための方法も本明細書に記載される。いくつかの実施形態では、対象からの血液サンプルが配列決定され、1つもしくはそれを超える遺伝的変異または変異が同定される。いくつかの実施形態では、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える遺伝子において遺伝的変異が同定される。機能不全の免疫応答には、炎症応答および/またはインターフェロン応答が含まれ得る。いくつかの実施形態では、1つまたはそれを超える遺伝的変異は、感染症(例えば、COVID-19感染症)を有する対象における死亡リスクの増加をもたらす。
【0025】
対象における感染症を処置するための方法であって、処置を必要とする対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞のゲノムの少なくとも一部を配列決定するステップと、血液サンプルにおいて、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える遺伝子における変異を同定するステップであって、ここで、前記変異の存在が感染症への感受性の増加を示す、ステップと、対象の血液における変異を含む造血性クローンの発生率を低下させることによって対象を処置するステップとを含む方法が記載される。いくつかの態様では、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える遺伝子における同定された変異が、未確定の潜在能をもつクローン性造血(CHIP)の指標である。
【0026】
いくつかの実施形態では、変異は、体細胞配列変異、体細胞構造染色体変異、および/または生殖細胞配列変異である。いくつかの実施形態では、1つまたはそれを超える遺伝子における体細胞配列変異が血液サンプルにおいて同定される。いくつかの実施形態では、体細胞構造染色体変異が血液サンプルにおいて同定される。いくつかの実施形態では、生殖細胞配列変異が血液サンプルにおいて同定される。
【0027】
DNAの配列決定は、組織または細胞に対して行うことができる。特定の細胞型(例えば、フローソーティングによって得られた造血細胞)の配列決定は、特定の予測値を提供する特定の細胞型における変異を同定することができる。一部の細胞型は、他の細胞型よりも高い予測値を提供することができる。いくつかの実施形態では、血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞は核細胞(nuclear cell)であり、例えば体細胞である。
【0028】
配列決定は、適切な単一細胞配列決定戦略を使用して、単一細胞で行うこともできる。単一細胞解析を使用して、同じ細胞で共起する変異の高リスクの組み合わせを同定することができる。共起は、変異が同じ細胞クローンで発生しており、異なる個々の細胞で同じ変異が発生するよりも大きなリスクを伴い、したがってより大きな予測値を有することを意味する。
【0029】
いくつかの実施形態では、例えば、処置を必要とする対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞のゲノムの少なくとも一部が配列決定される。いくつかの実施形態では、配列決定されるゲノムの部分は、特定の遺伝子、全エクソームまたはエクソームの部分に限定される。例えば、配列決定は全エクソーム配列決定(WES)であり得る。配列決定は、その多くが当該技術分野で一般的に知られている任意の適切な技術に従って行うことができる。多くの独自の配列決定システムが商業的に入手可能であり、例えばIllumina社(米国)などから本発明の文脈で使用することができる。例えば、Eberwineら、Nature Methods 11,25-27(2014)doi:10.1038/nmeth.2769 Published online 30 Dec.2013によって記載されているような単一細胞配列決定法、特に、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれるマイクロ流体液滴における単一細胞配列決定(Nature 510,363-369(2014)doi:10.1038/nature13437)が当該技術分野で公知である。
【0030】
配列決定は、特定の遺伝子のみ、ゲノムの特定の部分、またはゲノム全体で行われ得る。いくつかの実施形態では、遺伝子の特定の部分を配列決定することができる。例えば、DNMT3Aでは、エクソン7~エクソン23を配列決定することができる。ゲノムの一部が配列決定される場合、その部分はエクソームであり得る。エクソームは、エクソンによって形成されるゲノムの一部であり、したがって、エクソン配列決定法は、ゲノム中の発現配列を配列決定する。ヒトゲノムには18万個のエクソンが存在し、これらはゲノムの約1%、またはおよそ3000万個の塩基対を構成する。エクソーム配列決定は、エクソーム配列に対する配列決定標的の富化を必要とする;PCR、分子反転プローブ、標的のハイブリッドキャプチャー、および標的の溶液キャプチャーを含むいくつかの技術を使用することができる。標的の配列決定は、任意の適切な技術によって行うことができる。
【0031】
血液サンプル中の体細胞構造染色体変異および生殖細胞配列変異を同定する方法は、当業者に公知である。このような方法の例は、国際公開第2019/079493号および米国特許出願公開第2017/0321284号に記載されており、これらは両方とも参照により本明細書に組み込まれる。
【0032】
いくつかの実施形態では、変異(例えば、DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える遺伝子における変異)は、血液サンプル(例えば、対象からの血液サンプル)において同定される。特定の態様では、変異の存在は、感染症への感受性の増加(例えば、ヒト対象のCOVID-19感染症および/または対応する続発症(sequalae)への感受性の増加)を示す。いくつかの態様では、変異の存在は、機能不全の免疫応答(例えば、呼吸困難、ARDSおよび/またはサイトカインストームを発症するヒト対象の感受性の増加)に起因する有害な臨床転帰への感受性の増加を示す。いくつかの実施形態では、1つまたはそれを超える遺伝子における変異が、DNMT3A、TET2、PPM1DおよびJAK2からなる群より選択される。特定の実施形態では、DNMT3Aにおける変異が、例えば、血液サンプルにおいて同定される。特定の実施形態では、TET2における変異が、例えば、血液サンプルにおいて同定される。特定の実施形態では、PPM1Dにおける変異が、例えば、血液サンプルにおいて同定される。特定の実施形態では、JAK2における変異が、例えば、血液サンプルにおいて同定される。
【0033】
DNMT3AはDNA(シトシン-5-1-メチルトランスフェラーゼ3α)であり、2番染色体上にコードされている(HGMC 2978)。ASXL1はadditional sex combs like transcriptional regulator 1であり、20番染色体にコードされている(HGNC 18318)。TET2はtetメチルシトシンジオキシゲナーゼ2であり、4番染色体にコードされている(HGNC 25941)。PPM1DはMg2+/Mn2+依存性のタンパク質ホスファターゼ1Dであり、17番染色体にコードされている(HGNC 9277)。JAK2はヤヌスキナーゼ2であり、9番染色体にコードされている(HGNC 6192)。TP53は腫瘍タンパク質p53であり、17番染色体にコードされている(HGNC 11998)。SRSF2はセリンおよびアルギニンリッチスプライシング因子2であり、17番染色体にコードされている(HGNC 10783)。KRASはKRAS癌原遺伝子であり、12番染色体にコードされている(HGNC 6407)。SF3B1はスプライシング因子3bサブユニット1であり、2番染色体にコードされている(HGNC 10768)。
【0034】
遺伝子における変異は、破壊的(例えば、それらはタンパク質機能に対して観察もしくは予測された効果を有する)または非破壊的であり得る。非破壊変異は、典型的には、異なるアミノ酸をコードするようにコドンが変更されるが、コードされたタンパク質は依然として発現されるミスセンス変異である。いくつかの実施形態では、体細胞変異は、ミスセンス変異または破壊変異(例えば、フレームシフト、ナンセンス、またはスプライス部位の破壊)であり得る。
【0035】
推定体細胞変異には、非サイレント/破壊的ヌクレオチド変化、インデル、ミスセンス変異、フレームシフト、停止変異(付加または欠失)、リードスルー変異、スプライス変異、および配列決定エラーまたは検査システムのアーチファクトに起因しない確認された変化のうちの少なくとも1つを含む対立遺伝子が含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
いくつかの実施形態では、DNMT3Aにおける変異は、主にミスセンス変異である。いくつかの態様では、DNMT3Aにおける変異(例えば、ミスセンス変異)は、エクソン7~23に局在する。いくつかの態様では、DNMT3Aにおける変異は、システイン形成変異が富化されている。体細胞バリアントにおける共通の塩基対変化は、シトシンからチミンへの移行である。いくつかの実施形態では、DNMT3Aにおける変異は、G543C、S714C、F732C、Y735C、R736C、R749C、F751C、W753CおよびL889Cからなる群より選択されるミスセンス変異である。いくつかの実施形態では、TET2および/またはPPM1Dにおける変異は破壊変異である。いくつかの実施形態では、JAK2における変異はV617F変異である。DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1に見出される変異の更なる非限定的な例は、Genoveseら、「Clonal Hematopoiesis and Blood-Cancer Risk Inferred from Blood DNA Sequence」N Engl J Med(2014)371:2477-2487;Jaisawalら、「Age-Related Clonal Hematopoiesis Associated with Adverse Outcomes」N Engl J Med(2014)371:2488-2498;Bickら、「Genetic Interleukin 6 Signaling Deficiency Attenuates Cardiovascular Risk in Clonal Hematopoiesis」Circulation(2020)141:124-131;Cookら、「Clonal hematopoiesis and inflammation:Partners in leukemogenesis and comorbidity」Exp Hematol(2020)83:85-94;Pernerら、「Roles of JAK2 in Aging,Inflammation,Hematopoiesis and Malignant Transformation」Cells(2019)8(8)854;Cookら、「Comorbid and inflammatory characteristics of genetic subtypes of clonal hematopoiesis」Blood Adv.(2019)3(16):2482-2486;Uyanikら、「DNA damage-induced phosphatase Wip1 in regulation of hematopoiesis,immune system and inflammation」Cell Death Discov(2017)3,17018;米国特許出願公開第2017/0321284号;および国際公開第2019/079493号に記載されており、すべて参照により本明細書に組み込まれる。
【0037】
いくつかの実施形態では、対象から得られた血液サンプルは、少なくとも1つの更なる遺伝的バリアントを同定するためにさらに配列決定され得る。例えば、血液サンプルは、腫瘍壊死因子(例えば、TNF、LTAおよびLTB)、インターフェロン(例えば、IFN-α1、IFN-α2、IFN-α4、IFN-α5、IFN-α6、IFN-α7、IFN-α8、IFN-α10、IFN-α13、IFN-α14、IFN-α16、IFN-α17、IFN-α21、IFN-β、IFN-ε、IFN-γ、IFN-κ、IFN-λおよびIFN-ω)またはインターロイキン(例えば、IL1A、IL1B、IL6、IL6R、CXCL8、IL10、IL12A、IL12BおよびIL18)についての少なくとも1つの遺伝的バリアントを同定するために配列決定され得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの遺伝的バリアントは、ACE2、CRP、IL1A、IL1B、IL6、IL6R、CXCL8、IL10、IL12A、IL12B、IL18、IFITM3、TNF、LTA、LTB、IFN-α1、IFN-α2、IFN-α4、IFN-α5、IFN-α6、IFN-α7、IFN-α8、IFN-α10、IFN-α13、IFN-α14、IFN-α16、IFN-α17、IFN-α21、IFN-β、IFN-ε、IFN-γ、IFN-κ、IFN-λおよびIFN-ωからなる群より選択される。
【0038】
1つまたはそれを超える遺伝子における変異は、炎症の増加を引き起こし得るか、対象において炎症促進状態を誘導し得るか、または炎症性サイトカイン(例えば、インターロイキン、インターフェロンおよび/または腫瘍壊死因子)の上昇を引き起こし得る。炎症性サイトカインの例としては、IL-6、IL-8、IL-1α、IL-1β、IL-12、IL-18、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IFN-λ、TNF-α、TNF-βおよびTNF-γが挙げられる。
【0039】
いくつかの実施形態では、対象は、感染症を有するか、または感染症にかかりやすい。感染症は、ウイルス感染症または非ウイルス感染症であり得る。例えば、ウイルス感染症は、とりわけ、コロナウイルス、インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)によって引き起こされ得る。いくつかの実施形態では、コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)からなる群より選択される。特定の実施形態では、感染症がコロナウイルス疾患2019(COVID-19)である。いくつかの実施形態では、インフルエンザは、インフルエンザAまたはインフルエンザBである。インフルエンザAの株には、H1N1、H5N1、H1N2、H2N1、H3N1、H3N2およびH2N3が含まれる。いくつかの実施形態では、非ウイルス感染症は、細菌、酵母(例えば、真菌)、寄生虫、またはプリオン感染症である。いくつかの態様では、ウイルス感染症または非ウイルス感染症は、呼吸困難または合併症(例えば、急性呼吸窮迫症候群、間質性肺炎、他の呼吸器疾患)および/またはサイトカインストームをもたらす。感染症の更なる症状または合併症には、肺傷害、血液合併症(例えば、血栓、止血障害)、中枢神経系合併症(例えば、脳炎)、腎傷害、臓器不全、急性心外傷(例えば、心停止、冠動脈閉塞、心不全、心筋炎、心筋症)、および嗅覚または味覚の喪失が含まれる。
【0040】
いくつかの実施形態では、対象は、対象の血液中の1つまたはそれを超える遺伝子に変異を含む造血性クローンの発生率を低下させることによって処置することができる。「処置する」、「処置」、「処置された」、「処置すること」などは、個体に医学的または外科的な手当て、ケア、または管理を提供することを指す。個体は、通常、病気もしくは怪我をしているか、または集団の平均的なメンバーと比較して病気になるリスクが高く、このような手当て、ケア、または管理を必要としている。処置することは、処置を受けない場合に予想される生存期間と比較して生存期間を延長することを指すことができる。したがって、当業者は、処置が疾患状態を改善し得るが、疾患の完全な治癒ではない可能性があることを認識する。本明細書で使用される場合、「処置」という用語は予防を含み、感染性疾患(例えば、COVID-19)に罹患する対象の可能性を低下させることを意図した措置の実施をさらに含み得る。例えば、特定の態様では、処置は、感染性疾患に罹患する対象の可能性を低下させることを意図した医学的および/または薬理学的介入を含み得る(例えば、対象への1つもしくはそれを超えるワクチン、回復期血漿注入および/または抗体の予防的投与)。他の実施形態では、処置は、感染性疾患および/または関連する合併症を発症しやすいと同定された対象の自己隔離および/または隔離などの非薬理学的介入を含み得る。あるいは疾患が予防される場合および/または疾患の進行が減少もしくは停止される場合、処置は「有効」である。「処置」はまた、処置を受けていない場合に予想される生存期間と比較して生存期間を延長することを意味し得る。
【0041】
処置は必ずしも治癒的ではなく、特定の態様では、未処置の感染症に対して一定の割合で感染症の影響を減少させることができる。例えば、処置は、感染症に罹患している対象において炎症を減少させるか、または炎症性サイトカインの存在を減少させることができる。いくつかの実施形態では、処置方法は、個体のDNAが分析されて、その特定の個体に対する適切な治療に関する指針を提供する個別化医療手法であり得る。本発明の方法は、処置が必要であるかまたは最も有効であるかに関する指針を提供し、ならびに処置の進行を明らかにし、個体の更なる処置の要件を導くことができる。
【0042】
特定の態様では、処置は、対象が感染症に罹患する可能性を低下させることを意図した措置の推奨および/または実施を含んでいてもよく、その措置は対象に限定されていないことに留意されたい。例えば、特定の実施形態では、処置は、感染の伝播を減少させるために、対象のコミュニティのメンバー(例えば、家族、同僚および/またはヘルスケア提供者)にワクチン接種することを含み得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、処置は、対象の血液中のクローン造血の存在の発生率を低下させることを含む。他の実施形態では、処置またはモニタリングは、対象の血液サンプルの配列決定を毎月、隔月または四半期に繰り返すこと、および対象の血液中のクローン造血の存在の発生率を低下させること(または低下をモニタリングすること)を含む。いくつかの実施形態では、処置またはモニタリングは、対象を骨髄移植を受ける候補として含めることを含む。いくつかの実施形態では、処置は、対象に骨髄移植片を投与することを含む。いくつかの実施形態では、処置は、クローン造血が存在しない血液を対象にトランスフェクトすることを含む。
【0044】
いくつかの態様では、対象は、遺伝子配列決定(例えば、CHIP評価の実施)に基づいて高リスクであると同定される。高リスクであると同定された対象は、感染症に罹患するリスクおよび/または感染に対して重度の反応を有するリスクが高い。いくつかの態様では、高リスク対象は、炎症の早期標的化によって処置される。例えば、高リスク対象は、炎症促進性ドライバー阻害剤および/または低用量DNAメチル化阻害薬を投与することによって処置され得る。いくつかの実施形態では、高リスク対象は、感染の伝播を減少させ、それによって対象が感染する可能性を減少させるために、対象および/または対象のコミュニティのメンバーにワクチン接種することによって処置され得る。
【0045】
いくつかの態様では、感染の伝播を減少させるために対象にワクチン接種することおよび/または対象のコミュニティのメンバーにワクチン接種することは、単回ワクチン用量の投与または2回のワクチン用量の投与を含む。1つまたはそれを超えるワクチンブースターが、必要に応じて、初回ワクチン用量(複数可)の投与後に投与され得る。例えば、ワクチンブースターは、初回ワクチン用量(複数可)を受けた約6ヶ月後、9ヶ月後、12ヶ月後、15ヶ月後、18ヶ月後、21ヶ月後、または24ヶ月後に投与され得る。いくつかの実施形態では、ワクチンブースターは毎年投与され得る。いくつかの態様では、ワクチンは、mRNAワクチンまたはウイルスベクターワクチンである。一実施形態では、ワクチンはBNT162b2ワクチン(SARS-CoV-2全長スパイクをコードし、2つのプロリン変異によって修飾されてそれを融合前コンフォメーションに固定する脂質ナノ粒子-製剤化5ヌクレオシド修飾RNA(modRNA))である。一実施形態では、ワクチンはmRNA-1273ワクチン(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の融合前安定化完全長スパイクタンパク質をコードする脂質ナノ粒子-カプセル化mRNAベースのワクチン)である。一実施形態では、ワクチンはAd26.COV2.Sワクチン(安定化されたコンフォメーションでSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質をコードする複製能力のない組換え型ヒトアデノウイルス26型(Ad26)ベクターで構成される一価ワクチン)である。一実施形態では、ワクチンはChAdOx1 nCoV-19ワクチン(SARS-CoV-2構造表面糖タンパク質抗原(スパイクタンパク質;nCoV-19)遺伝子を含む複製欠損チンパンジーアデノウイルスベクターChAdOx1)である。
【0046】
いくつかの態様では、感染症に対して対象を処置することは、アジュバント処置を含む。例えば、急性肺疾患の続発症を予防するためのアジュバント処置には、1つまたはそれを超える抗ウイルス薬(例えば、レムデシビル)、抗炎症薬、抗生物質、血漿瀉血、回復期血漿注入、モノクローナル抗体(例えば、バムラニビマブ、エテセビマブ、カシリビマブ、インデビマブ、組換えヒト化抗インターロイキン-6受容体モノクローナル抗体(例えば、トシリズマブ))、コルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン)、酸素補給、および間葉系幹細胞/iPS細胞治療の投与が含まれ得る。いくつかの態様では、心臓および/または感染性疾患の続発症を予防するためのアジュバント処置には、1つまたはそれを超える抗ウイルス薬、抗炎症薬、抗生物質、血漿瀉血、回復期血漿、間葉系幹細胞/iPS細胞治療、血液希釈剤、抗不整脈薬、および心臓保護薬の投与が含まれる。特定の態様では、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤および/またはアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)を含む血圧薬が対象に投与され得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、感染症への対象の感受性は、本明細書に記載される配列決定および検出方法を使用して予測される。例えば、感染症(例えば、コロナウイルス感染症)への対象の感受性は、対象の血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞からDNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1からなる群より選択される1つまたはそれを超える核酸を配列決定し、配列決定された核酸における変異の存在を検出することによって予測され得る。いくつかの実施形態では、変異の存在は、コロナウイルス(例えば、COVID-19)感染症への感受性の増加を示す。いくつかの実施形態では、例えば免疫応答の機能不全に起因する、対象の死亡リスクの増加は、本明細書に記載される配列決定および検出方法を使用して予測される。いくつかの態様では、機能不全の免疫応答は、炎症応答またはインターフェロン応答である。
【0048】
特定の実施形態では、感染症(例えば、コロナウイルス感染症)への対象の感受性は、対象からの血液サンプル中の1つまたはそれを超える細胞からDNMT3AおよびTET2核酸を配列決定し、配列決定された核酸における変異(例えば、ミスセンス変異または破壊変異)の存在を検出することによって予測される。配列決定されたDNMT3Aおよび/またはTET2核酸における変異の存在は、感染への対象の感受性の増加を示し得る。
【0049】
特定の実施形態では、対象は、哺乳動物、例えば霊長類、例えばヒトである。「患者」および「対象」という用語は、本明細書では互換的に使用される。好ましくは、対象は哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシであり得るが、これらの例に限定されない。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。
【0050】
対象は、出生から死亡までの任意の年齢であり得、例えば、対象は、乳児、幼児、小児、十代の若者、若年成人または成人であり得る。対象は、少なくとも約1日齢、1歳、5歳、10歳、20歳、30歳、40歳、50歳、60歳、70歳、80歳、90歳、または100歳であり得る。いくつかの実施形態では、対象は、40歳未満、40~60歳の間、または60歳を超える。
【0051】
他の実施形態では、対象は、喘息、慢性肺疾患、間質性肺疾患、嚢胞性線維症、肺高血圧症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、肥満、65歳もしくはそれよりも高い年齢であること、心臓病(例えば、心不全、冠動脈疾患、心筋症、高血圧症など)、高血圧、慢性腎疾患、免疫無防備状態(例えば、がんの治療を受けている)、肝疾患、認知症または他の神経学的状態、ダウン症候群、HIV感染、妊娠、鎌状赤血球症もしくはサラセミア、脳卒中もしくは脳血管疾患、固形臓器または血液幹細胞移植、物質使用障害、または喫煙歴があることを含む1つもしくはそれを超える危険因子を示し得る。いくつかの実施形態では、対象は、心血管疾患、肺疾患、腎疾患、肝疾患、神経学的状態、脳血管疾患、糖尿病、肥満、喘息、気腫およびがんからなる群より選択される併発状態を有する。
【0052】
本発明は、その適用において、明細書に記載されたまたは例示された詳細に限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態を包含し、様々な方法で実施または実行することができる。また、本明細書で用いられる語句および用語は、説明のためのものであり、限定するものと見なされるべきではないことを理解されたい。
【0053】
本発明の特定の化合物、組成物および方法を特定の実施形態に従って具体的に説明してきたが、以下の実施例は、本発明の方法および組成物を例示するためにのみ役立ち、本発明の方法および組成物を限定することを意図するものではない。
【0054】
本明細書および特許請求の範囲で使用される冠詞「a」および「an」は、明確に反対の指示がない限り、複数の指示対象を含むと理解されるべきである。群の1つもしくはそれを超えるメンバーの間に「or(または/もしくは)」を含む特許請求の範囲または記載は、反対の指示がない限り、または文脈から明らかでない限り、群のメンバーの1つ、1つより多く、もしくはすべてが所与のプロダクトもしくはプロセスに存在するか、所与のプロダクトもしくはプロセスに用いられるか、またはそれ以外に所与のプロダクトもしくはプロセスに関連する場合に満足するものと見なされる。本発明は、群の正確に1つのメンバーが所与のプロダクトもしくはプロセスに存在するか、所与のプロダクトもしくはプロセスに用いられるか、またはそれ以外に所与のプロダクトまたはプロセスに関連する実施形態を含む。本発明はまた、1つより多くの群メンバーまたは群メンバー全体が所与のプロダクトもしくはプロセスに存在するか、所与のプロダクトもしくはプロセスに用いられるか、またはそれ以外に所与のプロダクトもしくはプロセスに関連する実施形態を含む。さらに、本発明は、別段の指示がない限り、または当業者にとって矛盾もしくは不整合が生じることが明らかである場合を除き、列挙された請求項の1つもしくはそれを超えるものからの1つもしくはそれを超える限定、要素、節、記述用語などが同じ基本請求項(または、関連するものとして、任意の他の請求項)に従属する別の請求項に導入されるすべての変形、組み合わせ、および置換(permutation)を包含することを理解されたい。要素がリストとして提示される場合(例えば、マーカッシュ群または同様の形式で)、要素の各サブグループも開示され、任意の要素(複数可)を群から削除できることを理解されたい。一般に、本発明または本発明の態様が特定の要素、特徴などを含むと言及される場合、本発明または本発明の態様の特定の実施形態は、このような要素、特徴などからなるか、または本質的になることを理解されたい。簡単にするために、これらの実施形態は、すべての場合において、本明細書においてそのように多くの言葉で具体的に記載されているわけではない。本発明の任意の実施形態または態様は、特定の除外が本明細書に記載されているかどうかにかかわらず、請求項から明示的に除外できることも理解されたい。本発明の背景を説明し、その実施に関する更なる詳細を提供するために本明細書で参照される刊行物および他の参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0055】
実施例1
DNAマイクロアレイを使用して、様々な心血管障害および代謝障害ならびに特定のがんに関連する遺伝性の遺伝的バリアント(inherited genetic variant)(例えば、TET2、DNMT3A、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよび/またはSF3B1)を同定および報告する。これらのがんおよび障害は、既存のものである場合、COVID19の合併症に関連する死亡のリスクを高める可能性がある。このマイクロアレイには、炎症促進効果および抗炎症効果に関連する遺伝的バリアントも含まれる。これらの一部には、ACE2、CRP、IL-6R、IL-1A GCおよびIL-10が含まれる。さらに、マイクロアレイは、以前は健康であった若年患者において、どの先天性免疫異常症が生命を脅かすCOVID19を引き起こし得るかを解明することができる。
【0056】
さらに、マイクロアレイは、COVID19感染応答に影響を及ぼし得る免疫および炎症に関与する血液中に存在する様々なバイオマーカーを試験することができる。これらのバイオマーカーには、hsCRP、IL-6、IL-8およびTNF-αが含まれ得る。
【0057】
未確定の潜在能をもつクローン性造血(CHIP)は、血液中に含まれる有核細胞に固有の遺伝的問題である。CHIPは、有核血液細胞中で同じ一連の有害な変異および個々のDNAへの損傷により不健康が拡大することを指す。CHIPは、炎症状態の加齢に関連する有病率を潜在的に説明し得る。CHIP変異と心疾患との関連は、炎症によって媒介されると考えられている。より最近では、CHIPがより広範な生物学的影響と関連している可能性が仮定されており、これはCHIPを有する人々がCHIPを有しない人々と比較して異常な炎症系を有するという事実によって説明され得る。具体的には、最近の研究は、TET2およびDNMT3Aなどの遺伝子における構造的DNA損傷が炎症および感染に対する機能不全応答に関連することを実証している。さらに、血清IL-6およびIL-8などの重要なサイトカインは、CHIPを有する人々において上昇することが示されており、ヒトの全身性炎症状況に対するその関連性およびより不良な健康状態に対するその影響、ならびに潜在的に新規な併存症の増加を確立している。
【0058】
体細胞エクソン変異は、造血幹細胞あたり10年あたりおよそ1.3の割合で獲得され、40歳未満の人々ではめったに検出されないことが知られている。クローン造血は年齢とともに増加し、65歳を超える既知の血液悪性腫瘍のない人のおよそ10%、80歳~89歳の人のほぼ12%、および90歳を超える人の18%超に見られる。
【0059】
CHIPに関連する体細胞変化を検出およびモニタリングすることに加えて、心血管疾患、がんおよび炎症に関連する生殖系列/遺伝性バリアントについてもスクリーニングを行う。CHIP、炎症および白血球機能不全の間の関連性を調べることで、COVID19のCHIP関連併存症をより効果的に臨床管理することができる。例えば、疾患修飾因子としてのCHIPの存在は、一部の患者が処置に対してより応答性もしくは難治性である理由、または一部の患者がより緩慢もしくは急速な疾患進行を受ける理由を説明し得る。さらに、この動的な測定により、CHIPの遺伝子異常に焦点を当てた新たな薬物治療を開発する新規な機会を明らかにすることができる。
【0060】
末梢血から単離され保存されるPBMCの中で、臨床グレードの人工多能性幹(iPS)細胞の誘導を可能にする少数のCD34+造血幹細胞(HSC)、T細胞および循環内皮前駆細胞(EPC)を含む様々な潜在的に治療可能な細胞型を利用できる。注目すべきことに、iPS細胞は、サーファクタント(AE2)を産生する肺の免疫細胞および肺胞細胞などの実質的に任意の細胞型をヒト体内で産生するようにプログラムすることができる。AE2細胞は、肺胞液バランス、凝固/線溶および宿主防御において様々な役割を果たす。AE2細胞は増殖し、AE1細胞に分化し、上皮修復および免疫調節に寄与する。さらに、iPS細胞は、間葉系幹細胞(MSC)に分化することができ、間葉系幹細胞(MSC)は、炎症促進性免疫サイトカイン応答をモジュレートすることが知られており、これは、重度の肺疾患を引き起こすイベントのカスケードの主な原因である。これらの細胞がCOVID19感染後に健康な肺組織を回復できるかどうかを調べる。血液由来iPS細胞は、個体が治療選択肢としてAE2細胞および免疫機能の細胞を生成するための個別化された細胞源を表す。
【0061】
本発明者らは、遺伝的病歴および疾患の潜在的リスクの理解を深めるための遺伝子評価、疾患の進行を評価するためのバイオマーカーの追跡、乱れた炎症応答に寄与し得る体細胞損傷および変異の測定、ならびにCOVID19または他のウイルス性疾患に対する治療を潜在的に含む潜在的な治療において幹細胞を利用する機会を提供する。
実施例2
【0062】
CHIPは、血液中に含まれる有核細胞に特有の遺伝的問題である。CHIPは、有核血液細胞中で同じ一連の有害な変異および個々のDNAへの損傷により不健康が拡大することを指す。CHIPは、炎症状態の加齢に関連する有病率を潜在的に説明し得る。CHIP変異と心疾患との関連は、炎症によって媒介されると考えられている。より最近では、CHIPがより広範な生物学的影響と関連している可能性が仮定されており、これはCHIPを有する人々がCHIPを有しない人々と比較して異常な炎症系を有するという事実によって説明され得る。具体的には、血清IL-6およびIL-8などの重要なサイトカインは、CHIPを有する人々において上昇することが示されており、ヒトの全身性炎症状況に対するその関連性およびより不良な健康状態に対するその影響、ならびに潜在的に新規な併存症の増加を確立している。
【0063】
体細胞エクソン変異は、造血幹細胞あたり10年あたりおよそ1.3の割合で獲得され、40歳未満の人々ではめったに検出されないことが知られている。クローン造血は年齢とともに増加し、65歳を超える既知の血液悪性腫瘍のない人のおよそ10%、80歳~89歳の人のほぼ12%、および90歳を超える人の18%超に見られる。
【0064】
CHIPの加齢に関連する増加がCOVID19の加齢に関連するリスクに寄与するかどうかを評価する。これらの現象が関連していることが示されている場合、CHIP関連分析は定量可能なリスク評価を提供する。CHIP、炎症および白血球機能不全の間の複雑な関連性が解明され得る場合、COVID19のCHIP関連併存症は臨床的により効果的に管理され得る。例えば、疾患修飾因子としてのCHIPの存在は、一部の患者が処置に対してより応答性もしくは難治性である理由、または一部の患者がより緩慢もしくは急速な疾患進行を受ける理由を説明し得る。
【0065】
血液内のDNAの配列および構造の両方に対する獲得された変化を監視することにより、最終的には、感染症またはCOVID19合併症による死亡のリスクが高い者を同定するための更なる洞察を提供することができる。CHIPに関連する体細胞変化を検出および監視することができ、ならびに心血管疾患、がんおよび炎症に関連する生殖系列/遺伝性バリアントについてもスクリーニングすることができる。血液サンプルを、いずれも炎症および感染に対する機能不全応答に関連しているTET2およびDNMT3Aを含むがこれらに限定されない、CHIPに関連する体細胞(蓄積型)および生殖系列(遺伝性)バリアントを有する遺伝子に特異的な標的配列パネルで評価する。さらに、マイクロアレイに基づく方法を使用して、CHIPにさらに関連するゲノム全体の体細胞構造DNAの変異(variation)および損傷を測定する。遺伝子試験結果は、対象の診療録からの血清学的および臨床的データと関連付けられる。
実施例3
【0066】
様々な対象から血液サンプルを採取する。血液サンプルを評価して、血清陽性COVID19、インフルエンザA、インフルエンザB、RSV、SARS-CoV、およびMERS-CoVであるサンプルを同定する。さらに、正常な対照血液サンプルも得られる。血液サンプルを、TET2、DNMT3A、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SRSF2、KRASおよびSF3B1の体細胞変異(somatic variation)をスクリーニングするアッセイを使用してクローン造血(CHIP)をアッセイする。
【0067】
他の遺伝子の更なるバリアントについてサンプルを評価すること、ならびに更なる血液分析を行うことを含む、更なる評価を血液サンプルに対して行う。さらに、血液サンプルを採取した対象について臨床データを収集する。
【0068】
さらに、サンプルを、ACE2、IFITM3、IL-1A、IL-1B、IL-6、IL-6R、CXCL8、IL-12A、IL-12B、IL-18、TNF-α、TNF-βおよびTNF-γにおける1つまたはそれを超えるバリアントについて評価する。サンプルは、動脈血ガス、鑑別による白血球数(リンパ球、好中球、サイトカインレベル、C反応性タンパク質(CRP)、赤血球沈降速度(ESR)、ラクターゼ、MB-CK酵素など)などの追加の特徴について評価する。血液サンプルが得られる対象の臨床データは、診断に関連する任意の合併症(MI、心筋炎、肺塞栓症)の発症、バイタルサイン、Osat、O要件、挿管状態、死亡率、および死因(複数可)を含むがこれらに限定されないことがさらに考慮される。さらに、胸部X線(CXR)およびCTスキャンを含む、対象から得られた任意の撮像が考慮される。最後に、併存症および家族歴も考慮される。
【0069】
CHIPは、一部のCOVID19患者がより速くより重度の疾患進行を受ける理由、および一部の患者が処置に対してより反応性/抵抗性である理由を説明するための疾患修飾因子として利用され得る。さらに、CHIPは、心臓転帰が悪くなりやすい患者を決定する際の疾患修飾因子として利用され得る。CHIPはまた、集団管理のための緩和戦略、例えば、隔離プロトコルの確立や、場合によっては他の個体よりも制限的に隔離される個体の群の同定に関するガイダンスを提供するために利用され得る。
実施例4
序論
【0070】
2019年に新たに発見されたコロナウイルスの登場により、全世界で1億3600万人を超える症例および300万を超える死亡が報告されており、世界中に深刻な影響を与えている。今日まで、効果的な介入戦略は定まっていないが、変異株の出現は急速に分散している。さらに、分子的rRT-PCR試験は、偽陰性または偽陽性の結果をもたらすことがあり、それによって、コロナウイルス疾患2019(COVID-19)の検査室診断の「ゴールデンスタンダード」としてのその地位が問題とされている(1)。早期診断が感染伝播を制御するために重要であるため、新規の効果的な診断解決策がCOVID-19の拡散を抑制する鍵となり得る。
【0071】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-COV-2)は、コロナウイルス科に属するエンベロープ型一本鎖ポジティブセンスリボ核酸(ssRNA+)コロナウイルスである(2)。感染症は、咳、筋肉疲労および発熱などの軽度~中等度の症状として現れ、ICU医療および人工呼吸を必要とする重度の呼吸不全に至る(3)。
【0072】
重度の臨床転帰の重要な予測因子は、高齢、性別、および肥満、糖尿病、心血管疾患(CVD)および慢性閉塞性肺疾患(COPD)を含む併発状態である(4~7)。さらに、新たなデータは、制御されない炎症が疾患重症度と関連していることを示している。実際、IL-6、IL-2、IL-7およびTNF-αなどの炎症促進性サイトカインの無制限の放出は、いわゆるサイトカインストーム、すなわち、重度の感染症を有するCOVID-19患者においてしばしば見られる生命を脅かす可能性のある現象である(8)。これらの患者では、過活動免疫活性化が急性呼吸ストレス症候群(acute respiratory stress syndrome)(ARDS)および多臓器機能不全に進行することがある(9)。サイトカインストームの存在は、不安定なプラーク形成、冠動脈閉塞、心筋梗塞、および最終的には心不全への移行を含む心血管合併症の一因となり得る(10、11)。
【0073】
炎症および既存の併存症がCOVID-19の病因において重要な役割を果たすことは明らかであるが、現在、体細胞獲得変異の存在は、疾患転帰に対するおそらく別の独立した決定因子として認識されている(12、26)。これらの変異は、DNMT3A、TET2、ASXL1およびJAK2を含むエピジェネティック調節に関与する遺伝子に見られ、有核末梢血幹細胞および前駆細胞の遺伝的に同一のクローンの拡大増殖(expansion)をもたらす。この現象は、未確定の潜在能をもつクローン性造血(CHIP)と呼ばれ、70歳を超える高齢集団の大部分(>10%)に影響を及ぼす(13)。CHIPを有する個体は、大動脈弁狭窄症、静脈血栓症および心不全を含むCVDを発症するリスクが高い(14-16)。証拠が増えつつあることで、高まったリスクがこれらの個体における潜在性過剰炎症(hyper-inflammatory potential)に起因し得ることを示している(17-19)。実際、TET2欠失は、炎症促進性サイトカインIL-6およびIL-1のインフラマソーム活性化ならびにその後の過剰レベルに関連しているが、DNMT3A変異は、非CHIPキャリアと比較してケモカインの数の増加および1型インターフェロン分泌の減少を示している(20-23)。しかしながら、注目すべきことに、大きなDNMT3AまたはTET2 CHIPドライバー変異(>10%の対立遺伝子割合)を有する個体は、IL-6受容体(IL-6R)における生殖細胞配列変異(germline sequence variation)も同時に有している場合、心血管イベントから保護された(24)。これらの結果のほとんどが単球およびマクロファージで研究されたが、CHIP変異は他の白血球集団の機能を変化させることも示されている(25)。したがって、CHIPの存在は炎症系全体を調節不全にする可能性があり、したがってCOVID-19患者の疾患転帰を損ない得る。
【0074】
この概念を裏付けるように、最近の臨床データは、対照集団と比較して重度のCOVID-19患者ではより高いCHIP頻度が示された(26~27)。しかしながら、本明細書でDuployez研究(26)と呼ばれる一研究の対照群は、大部分が説明できない血球減少を有する個体からなり、それによってCHIPの全体的なリスクを過小評価するバイアスを潜在的にもたらすことに留意すべきである。さらに、Shivarovらは、CHIPの頻度に関する4つの大規模な研究のデータを統合し、COVID-19感染患者におけるCHIPクローンの存在と死亡率との間の線形相関を観察した(12)。これは、CHIPの検出がCOVID-19患者の致死的転帰を予測し得ることを示唆している。しかしながら、現在までのところ、CHIPの有病率と軽度および重度のCOVID-19症状との比較を行った臨床研究は確認されていない。
【0075】
本研究では、CHIPがCOVID-19患者の疾患重症度と関連するという仮説を試験した。40歳未満、40~60歳および65歳を超える3つの年齢群を評価した。CHIPは、40歳未満では1000人に約1人、50歳未満では約0.7%の頻度で若年者にはまれであると報告されているが、CHIPは、早期発症心筋梗塞および一部の進行した自己免疫疾患を有する若年者においてより高い頻度で近年見出されており、そのため重度のCOVID-19疾患を有する若年集団における危険因子であり得ると仮定された(27、29)。
方法
【0076】
患者およびサンプル-患者サンプルは、ニューヨーク血液センター(NYBC)の共同研究およびIRBの下で、ならびにiSpecimenによる計画的調達契約(prospective procurement contract)の両方によって採取した。研究に含まれる患者は、SARS-CoV-2感染に対してPCR陽性であることが確認され、重度の入院または非入院のいずれかに分類した。重度の入院患者は感染したと定義し、最低7日間入院し、ICUに入院し酸素吸入を必要とする患者を優先した。非入院患者は、感染および症候性(発熱、嗅覚喪失、身体の痛み、咳)または無症候性であるが入院を必要としないと定義した。患者が以前に血液幹細胞移植を受けたことがあるか、または化学療法を受けたことがある場合、採取および/または分析からサンプルを除外した。NYBCを通して調達したサンプルを凍結保存PBMCとして送達し、iSpecimenから受け取ったサンプルは凍結全血(WB)として供給した。
【0077】
分子分析-PerkinElmer Chemagic 360 B5K自動抽出プラットフォームを使用して、凍結保存PBMCおよび凍結WBサンプルからゲノムDNA(gDNA)を抽出した。標的化配列決定のために、抽出されたgDNAを正規化し、25ulの総体積で25ng/ulに等分した。Agilent SureSelect化学を使用して、カスタムDNA標的配列決定ライブラリーを構築した。得られたライブラリーをAgilent 4200 TapeStationシステムで分析し、KAPA qPCRによって定量した。サンプルをIllumina MiSeqプラットフォームを使用して配列決定し、アンプリコン全体の平均配列決定カバレッジが>1000xであった。DNA配列品質を検証した後、BAM(Binary Alignment/Map)およびVCF(Variant Call Format)ファイルを生成した。推定体細胞バリアントをGenBank遺伝子モデルおよびClinVarデータベースに対してアノテーションした。遺伝子DNMT3A、TET2、ASXL1、PPM1D、JAK2、TP53、SF3B1、SRSF2およびKRAS子由来の体細胞ならびに生殖系列コードバリアントの両方を、アノテーションされたVCFから抽出した。分析すると、CHIP蓄積/体細胞バリアントは、>1.5%のバリアント対立遺伝子頻度(VAF)および20またはそれを超えるバリアント細胞を有すると定義された。
【0078】
マイクロアレイ分析のために、抽出されたgDNAを正規化し、50ulの総体積で25ng/ulに等分した。正規化およびアリコートしたgDNAサンプルを、Diagnomics(米国カリフォルニア州サンディエゴ)のラボのIllumina Infinium(商標)Global Screening Array(GSA)-24 v 2.0 BeadChipで実行した。得られたiDATファイルを、Illumina Array Analysis Platformを使用してGTCファイルに変換し、遺伝子型情報を有するVCFファイルを生成した。SNPおよびインデルマーカーをGenBank遺伝子モデルに対してアノテーションし、遺伝子IL6R、CXCL8、IL6およびACE2からのすべての遺伝子型判定マーカーを含む表を、BCFtools+split-vepプラグインを使用してVCFから抽出した。
結果
【0079】
本明細書に記載される研究では、40歳未満、40~60歳および65歳を超える患者の3つの年齢群を調べることによって、CHIPがCOVID-19患者の疾患重症度と関連するかどうかを評価した。同定された最も一般的な体細胞変異は、すべての群においてDNMT3AおよびTET2であり、60歳未満の者では54%、65歳を超える者では71%であった。個々の群の概要を以下に提供する。
40歳未満の年齢群
【0080】
40未満の群の重度の疾患のコホートには9人の患者が含まれた。2人の患者(22.2%)は、VAF>1.5%のCHIPを有していた。これらの患者のうちの1人は、両方ともVAF>1.5%を有する2つのCHIP変異(DNMT3AおよびSF3B1)を有していた。第3の患者は、TP53に体細胞変異を有し、全体で0.8%のVAFを有し、検出可能な体細胞CHIP変異を有する3人の患者(33.3%)をもたらした。40歳未満の個体において予想されるCHIPは約0.1%である。さらに、この群の第4の患者は、TP53に生殖細胞変異を有していた。この年齢群のCOVID-19に感染しているが入院していない個体からのサンプルの採取は進行中である。
年齢群40~60
【0081】
40~60歳の年齢群のコホートは、36人の重症患者および4人の非入院感染患者を含んでいた。重症疾患を有する36人の患者のうち3人(8.3%)は、以下の変異TET2、DNMT3AおよびKRASを有するVAF>1.5%のCHIPを有していた。さらに、重症疾患を有する7人の更なる患者は、VAF<1.5%のCHIP変異を有し(DNMT3Aが3人、TET2が1人、KRASが1人およびTP53が1人)、全体で10人の患者(27.8%)が検出可能な体細胞CHIP変異を有するという結果になった。一致した健康な40~60歳の群におけるCHIPの予想頻度は、およそ2~3%である。さらに、5人の患者がCHIP遺伝子に生殖細胞変異を有していた(TET2は3人、PP1MDは1人、TP53は1人)。この年齢群の非入院COVID19感染患者で採取された4つのサンプルのいずれも、VAF>1.5%のCHIPを示さなかった。
65歳を超える年齢群
【0082】
このコホートは、重症疾患を有する43人の入院患者、46人の非入院感染患者、および106人の個体の歴史的対照を含む。各群の年齢の中央値は、それぞれ69.5、68.7および82である。VAF>1.5%のCHIPの頻度は、それぞれ14%、16%、35%であった。

表1:NYBC研究
【表1】
生殖細胞変異(IL-6R p.Asp358Alaコード変異)
【0083】
さらに、複数の研究により、CHIPの存在下での心血管疾患のリスク増加が実証されている(17,27)。しかしながら、IL-6シグナル伝達の遺伝的欠損(IL-6R p Asp 358 Ala)を同時に有する者では、心筋梗塞、脳卒中および死亡などの偶発的な心血管イベントのリスクが抑止される(24)。CVDのリスク増加はIL-6シグナル伝達によって媒介されると仮定される。同様に、COVID-19の重症度は、サイトカイン、特にIL-6によって媒介される機能不全の炎症反応に関連している。1つの例において、2つの大きなクローンCHIP変異(VAF76%を伴うJAK2変異およびVAF23%を伴うTET2変異)を有するCOVID-19感染患者はまた、この患者を重度の疾患の発症から保護し得るIL-6Rコード変異を有していた。この研究では、CHIPと同時にIL-6シグナル伝達の遺伝的欠損(IL6R p.Asp358A1aを有することによる)を有する患者の5.1%がCOVID-19に感染しても非入院であった。一方、CHIPおよびこのコード変異を有する患者の1.6%のみが重度のCOVID-19疾患を発症した。したがって、遺伝的に減少したIL-6シグナル伝達は、CHIPのキャリアの間で重度の疾患を発症するリスクを抑止し得る。
第三者研究
【0084】
CHIPとCOVID-19との関連を調べる更なる研究が、他の研究グループによって行われている。最初の研究は、本明細書ではFrench studyとして特定され、Duployezら、(26)に記載され、2番目の研究は、本明細書ではMSKの研究として特定され、Boltonら、(28)に記載されている。両方の研究は、クローン造血とCOVID-19感染症の重症度との間の関係を評価した。2つの研究を以下に要約する。
French study(Duployez,26):
【0085】
122人の患者がCOVID-19のために入院した。男性76%。ICU73%。
【0086】
クローン造血の高い有病率(患者年齢60歳未満、60~70歳、70~80歳および80歳超では、25%、38%、56%および82%)が、同じパイプライン内で調査した患者の遡及的コホート(10%、21%、37%および44%)と比較して報告された。CHIP患者の80%がDNMT3Aおよび/またはTET2変異を有していた。年齢で調整した後、CHの有病率ORはCOVID-19患者で3.182(95% CI:1.944~5.209、p<0.001)であった。

表2:French Studyの概要
【表2】
【0087】
MSK研究(Bolton,28):
【0088】
Memorial Sloan Kettering(MSK)およびKorean Clonal Hematopoiesis(KoCH)コンソーシアムからのCovid-19を有する515人の個体のうちで、CHが重度のCovid-19転帰と関連していることが分かった(OR=1.9、95%=1.2~2.9、p=0.01)。
【0089】
第1のコホートは、Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSK)で処置された固形腫瘍を有する患者で構成され、すべての一般的に変異したCH関連遺伝子を捕捉する既に検証された標的化遺伝子パネルであるMSK-IMPACTを使用して既に配列決定された血液を有していた。MSKコホートでは、重症対非重症Covid-19患者のそれぞれ51%および30%でCHが観察された(調整OR:1.85、95%CI 1.10-3.12)。
【0090】
第2のコホートには、韓国の4つの三次病院に2020年1月から4月の間にCovid-19のために入院した112人の、以前にはがんを有さず健康な個体が含まれた(KoCHコホート)。一般的に存在するCH遺伝子を含むように設計されたAgilentのカスタム標的化NGSパネル(89遺伝子)を使用して、KoCHコホートを配列決定した。
【0091】
KoCHコホートでは、CHが、重症Covid-19患者対非重症Covid-19患者の25%および15.9%に、それぞれ観察された(調整OR1.85、95%CI 0.53~6.43)。年齢群の比較分析は実施しなかった。
表3:MSK研究の概要
【表3】
【0092】
考察
【0093】
クローン造血の頻度は、40歳未満の健常個体では稀であり、60歳未満の健常個体では一般的でない。本明細書に記載される研究からの結果は、重症疾患で入院したことがあるCOVID-19に感染した若年患者ではCHIPの頻度が比較的高いことを実証している。そして、より低いVAFが分析に含まれる場合、この頻度はさらに増加した。CHIPは、COVID-19に感染した一部の若年患者が入院を必要とする臨床経過をとることの理由を説明し得る。これは、重度の疾患を有する患者の典型的なプロファイルであるサイトカインの上昇およびインターフェロンの減少を伴う機能不全の炎症応答においてCHIPを暗示する以前の研究と一致している(REF)。したがって、これは、本発明者らの研究で重度の疾患を有する若年コホートにおける推定される機序である。さらに、急性および慢性の心血管イベントは、入院COVID-19患者の罹患率および死亡率の原因であることが多く、CHIPは心筋梗塞および脳卒中などの心血管疾患との関連性が高い。CHIPはすべての年齢の心筋梗塞の重大な危険因子であるだけでなく、そのリスクは早期発症の心筋梗塞を示す若年患者で最も高い(27)。DNMT3AおよびTET2の変異は、それぞれ冠動脈心疾患と個々に関連しており、実際、これらは、本明細書に記載される研究で評価された重症疾患を有するCHIP患者において最も頻繁に変異していた。
【0094】
これまでのデータでは、2つの最近の研究(26,28)で実証されたように、対照群と比較して、重症疾患を有する65歳を超える個体においてCHIPの頻度がより高いということではない。研究における高齢患者では、他の併存症の存在がCHIPと同程度に寄与しており、これらの併存症は若年集団では頻度が低いと仮定された。
【0095】
若齢コホートに関して、CHIPを有する若年個体を研究した文献は少ないが、最近のいくつかの研究では、重度の自己免疫疾患を有する若年患者がCHIPを有することが確認されている。例えば、CHIPは、RAを有する患者において、特に臨床的に進行した難治性疾患を有する患者において比較的高い頻度で見出され、30歳代の一部の患者を含む(BMJ)。
【0096】
この研究から提供されたデータはまた、心血管傷害の予防効果が以前に示されてきたIL-6シグナル伝達が遺伝的に減少することで、CHIPのキャリアの間で重度の疾患を発症するリスクを抑止し得ることを実証している。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【国際調査報告】