(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(54)【発明の名称】ガン免疫療法を研究するための動物モデル
(51)【国際特許分類】
C12N 5/073 20100101AFI20230525BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230525BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20230525BHJP
C12N 5/09 20100101ALN20230525BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230525BHJP
【FI】
C12N5/073
C12Q1/02
C12N5/078
C12N5/09
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564564
(86)(22)【出願日】2021-04-21
(85)【翻訳文提出日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2021060385
(87)【国際公開番号】W WO2021214137
(87)【国際公開日】2021-10-28
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522413685
【氏名又は名称】オンコファクトリー
【氏名又は名称原語表記】ONCOFACTORY
(71)【出願人】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】596096180
【氏名又は名称】ユニベルシテ・クロード・ベルナール・リヨン・プルミエ
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】カステラーニ,ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】デロワ-ブルジョワ,セリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】コステシャレイレ,クレリア
(72)【発明者】
【氏名】ジャロッソン,ロレイン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AA94X
4B065AC20
4B065BB19
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、キメラキジ科鳥類胚であって、両方のタイプの外因性細胞:a.少なくとも1種のガン細胞の集団及びb.少なくとも1種の免疫細胞の集団を含み、ここで、前記外因性ガン細胞が前記胚の少なくとも1種の組織に存在し、前記外因性免疫細胞が前記胚の少なくとも1種の組織に存在しかつ/又は前記胚の血管中を循環する、キメラキジ科鳥類胚に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラキジ科鳥類胚であって、
両方のタイプの外因性細胞:
a.少なくとも1種のガン細胞の集団及び
b.少なくとも1種の免疫細胞の集団
を含み、
ここで、前記外因性ガン細胞は、前記胚の少なくとも1種の組織に存在し、前記外因性免疫細胞は、前記胚の少なくとも1種の組織に存在しかつ/又は前記胚の血管中を循環する、
キメラキジ科鳥類胚。
【請求項2】
免疫細胞の集団が、末梢血単核細胞(PBMC)からなる、請求項1記載のキメラキジ科鳥類胚。
【請求項3】
免疫細胞の集団が、リンパ球、特に、遺伝子操作されたCAR-T細胞からなる、請求項1記載のキメラキジ科鳥類胚。
【請求項4】
ガン細胞が、患者の腫瘍に由来する、請求項1~3のいずれか一項記載のキメラキジ科鳥類胚。
【請求項5】
細胞の集団が両方とも、ヒト細胞である、請求項1~4のいずれか一項記載のキメラキジ科鳥類胚。
【請求項6】
両方のタイプの外因性細胞が、同じ少なくとも1種の胚組織に局在し、特に、免疫細胞が、ガン細胞により形成された腫瘍に存在する、請求項1~5のいずれか一項記載のキメラキジ科鳥類胚。
【請求項7】
ガン細胞が存在する前記少なくとも1種の胚組織が、ガン細胞の集団の性質に関連し、特に、ガン患者において原発性及び/又は続発性腫瘍が形成される代表的な組織/臓器である、請求項1~6のいずれか一項記載のキメラキジ科鳥類胚。
【請求項8】
外因性細胞の少なくとも1種の集団がラベルされている、請求項1~7のいずれか一項記載のキメラキジ科鳥類胚。
【請求項9】
下記工程:
・免疫細胞の集団及びガン細胞の集団の両方をキジ科鳥類胚に導入する工程と、
・このキメラ胚を35℃~42℃に含まれる温度で、少なくとも6時間インキュベーションする工程とを含む、
請求項1~8のいずれか一項記載のキメラキジ科鳥類胚を得るための方法。
【請求項10】
下記工程:
・HH10期とHH30期との間の発生段階にあるキジ科鳥類胚の少なくとも1種の組織に免疫細胞の集団及びガン細胞の集団の両方を共移植する工程と、
・このキメラ胚を35℃~42℃に含まれる温度で、少なくとも6時間インキュベーションする工程とを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
下記工程:
・HH10期とHH30期との間の発生段階にあるキジ科鳥類胚の少なくとも1種の組織に少なくとも1種のガン細胞の集団を移植する工程と、
・前記少なくとも1種の免疫細胞の集団を前記胚の血管内に注入する工程と、
・移植された胚を35℃~42℃に含まれる温度で、少なくとも6時間インキュベーションする工程とを含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記ガン細胞の集団の前記移植することを前記ガン細胞の集団の性質に関連し、特に、ガン患者において原発性及び/又は続発性腫瘍が形成される代表的な組織/臓器である少なくとも1種の胚組織において行う、請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項記載のキメラキジ科鳥類胚からなる、
ヒトのガンの研究のための動物モデル。
【請求項14】
下記群:免疫療法、化学療法、ターゲット療法、ホルモン療法、抗ガン剤および治療酵素の中から選択される少なくとも1種の抗ガン療法をスクリーニングするための、請求項13記載の動物モデルの使用。
【請求項15】
遺伝子操作されたCAR-T細胞の活性を評価するための、請求項13記載の動物モデルの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ガン細胞、特に、ガン細胞と免疫細胞との関係を研究するための動物モデルに関する。本発明の動物モデルは、免疫療法戦略の研究に特に関連する。
【0002】
緒言
実験動物におけるヒトのガンのモデル化は、新しい抗ガン療法の開発に伴う前臨床試験における中心的な問題である。その効果ために開発された動物モデルについての主な評価基準は、モデルの信頼性並びに実行の速度及びコストである。
【0003】
腫瘍研究のために開発され、現在使用されている動物モデルは、主に、マウスモデルである。これらのモデルの準備には、比較的長い実行時間及び高いコストが掛かる。加えて、ある種のガン細胞は、マウス動物モデルに移植することができない。
【0004】
キジ科鳥類胚、特に、ニワトリ又はウズラの胚は、ex vivo実験を行うため、特に、胚発生の研究及び異種移植実験を行うための魅力的なモデルである。それは、実際に、安価であり、非常に入手しやすく、取り扱いが容易である。さらに、倫理委員会による研究の承認は必要とされない。胚発生の最初の3分の2の間の鳥類胚の使用は、「動物実験」とは見なされないためである(European Directive 2010/63/EU)。それは、細胞増殖、分化及び遊走の研究のために選択されるモデルである。また、この動物モデルを、腫瘍を研究するのにも使用することができる。
【0005】
キジ科鳥類胚を使用する古典的な研究モデルは、胚体外構造での、より正確には、絨毛尿膜(CAM)上への外因性細胞の移植である。腫瘍細胞は、ニワトリ胚膜上に移植される。約2日間のインキュベーション後、腫瘍が形成される。この腫瘍は、成長するために、特に発達した胚膜脈管構造を利用する。このような系により、in vivoで腫瘍において観察されるものと同様の細胞的特徴及び分子的特徴を有するin vivoヒト腫瘍、特に、神経膠芽腫を再現することが可能となった。
【0006】
また、この絨毛尿膜移植モデルは、治療用分子、特に、腫瘍血管新生を阻害するための分子をスクリーニングするのにも広く使用されている。例えば、WO第2015/074050号及びUS第2013/0171680号には、胚体外構造への悪性ヒト造血細胞の異種移植が記載されており、ガン細胞は、羊膜嚢、卵黄嚢又はCAMの血管内に注入される。
【0007】
WO第2020/075168号には、両方ともヒドロゲル中に分散されたガン細胞及び免疫細胞のCAM上の移植片が記載されている。
【0008】
Park et al.(2009)には、ニワトリ胚の卵黄嚢へのヒト造血内皮前駆細胞の導入が記載されており、これらの前駆細胞は、ニワトリ胚の造血臓器に移植することが可能であった。
【0009】
ニワトリ胚の血管又は神経管の管腔へのガン細胞の導入が幾つか報告されている。
【0010】
Carter et al.(2012)には、ニワトリ胚の血管へのヒト神経芽細胞腫細胞の注入が報告されている。Boulland et al.(2010年)には、胚体外血管又は神経管に形成された病変へのヒト幹細胞の注入が開示されている。
【0011】
Busch et al.(2012)には、ニワトリ胚の脳の菱脳胞の内腔へのメラノーマ細胞の注入が記載されている。
【0012】
Jayachandran et al.(2015)には、ニワトリ胚の神経管の内腔へのメラノーマ細胞の注入が教示されている。一方、Joel et al.(2013)には、同じ位置へのヒト神経膠芽腫細胞の注入が教示されている。
【0013】
これらの技術のいずれによっても、胚の組織への腫瘍細胞の移植、したがって、腫瘍の形成が可能ではない。反対に、これらの位置に導入されたガン細胞は、より良性の表現型に再プログラミングされ、すぐに消失してしまう傾向がある。
【0014】
WO2016/05398号及び同第2017/103025号の両方には、ガン細胞が胚体外構造内にではなく、キジ科鳥類胚の組織内に移植され、前記胚の血管又は管の管腔のいずれにも注入されない、新規な動物モデルが記載されている。有利には、胚の組織へのガン細胞の導入により、胚内を循環するホルモンシグナルにより誘導される遊走の経路をガン細胞が辿ることが可能となる。この動物モデルにおいて、ガン細胞は、その性質に従って特定の組織に遊走し、ついで、前記組織内に移植され、腫瘍を形成する。
【0015】
本発明は、ガン細胞と免疫細胞との相互作用の研究のために特に設計された、ガンの研究のための別の動物モデルの開発に関する。この動物モデルは、免疫療法剤及び/又は細胞のスクリーニングに特に有用である。
【0016】
免疫療法治療戦略
免疫療法は、がん患者の免疫系がガンと戦うのを助ける/高める処置の一種と定義することができる。実際、その正常な機能の一部として、免疫系は、異常な細胞、特に、腫瘍細胞を検出し、破壊することが可能であり、初期に破壊され、したがって、検出されない多くのガンの増殖を防ぐ可能性が最も高い。診断された腫瘍の場合、免疫細胞は、前記腫瘍内及びその周囲に見出される。腫瘍浸潤リンパ球又はTILと呼ばれるこれらの免疫細胞の存在は、免疫系が腫瘍に応答している徴候である。一般的には、腫瘍内又は腫瘍周囲のリンパ球の存在は、良好な予後のマーカーである。
【0017】
残念ながら、一部の腫瘍は、免疫系を逃れる方法を見出し、これは、破壊を回避するための手段であることが確立されている。
【0018】
例えば、ガン細胞は、
・免疫系に見えにくくなるような遺伝的変化を有する場合があり、
・表面に免疫細胞を停止させるタンパク質を有する場合がありかつ/又は
・ガン細胞に対して免疫系が応答する方法を妨げるように、腫瘍周囲の正常細胞を変化させる場合がある。
【0019】
免疫療法の主な目標は、免疫系とガン細胞との間の相互作用を回復させることである。ガンを処置し、ガン患者自身の免疫系による腫瘍細胞の検出及び/又は破壊を刺激するために、幾つかのタイプの免疫療法が使用されている。これらは、
・免疫チェックポイント阻害剤(これは、免疫「チェックポイント」を遮断する薬剤である。これらのチェックポイントは、免疫応答が強くなり過ぎないように維持する免疫系の正常な部分である。それらを遮断することによって、これらの薬剤により、免疫細胞がガンに対してより強力に応答することが可能となる)、
・免疫系モデュレーター(これは、ガンに対する身体の免疫応答を増強する)、
・モノクローナル抗体(これは、ガン細胞上の特異的ターゲットに結合するように設計されている。モノクローナル抗体は、ガン細胞が免疫系によりよく見え、免疫系により、より破壊されるであろうように、ガン細胞を「マーク」することが可能である。ガン治療におけるモノクローナル抗体の使用は、B細胞リンパ腫の処置のための抗CD20抗体であるリツキシマブについて、1997年に最初に導入された)
・T細胞移入療法(これは、T細胞がガンと戦う本来の能力を回復させかつ/又は高める処置である。また、T細胞移入療法を養子細胞療法、養子免疫療法又は免疫細胞療法と呼ぶこともできる)
を含む。
【0020】
1996年に、T細胞疲弊の重要な要素であるCTLA-4を遮断することにより、マウスにおける直腸ガンの拒絶がもたらされることが示された(Leach et al., 1996)。
【0021】
T細胞疲弊
腫瘍微小環境(TME、すなわち、ガン細胞、炎症性細胞及びサプレッション性サイトカイン)に存在するTリンパ球は、一般的には、「疲弊」している。T細胞疲弊は、機能性の喪失及び阻害性分子の発現により特徴付けられる。疲弊したT細胞は、エフェクター分子、例えば、IL-2、IFN-γ、TNF-α及びグランザイムBを分泌する能力を欠き、阻害性レセプター、例えば、PD1、TIM-3、LAG3及びCTLA-4を発現する(McLane et al., 2019)。
【0022】
T細胞の疲弊した表現型を逆転させることを目的とする治療戦略は、過去10年間の焦点であった。複数のタイプのガンの管理における顕著な進歩が達成されている。特に、αPD1(ペンブロリズマブ、ニボルマブ)及び/又はαCTLA-4(イピリムマブ)の臨床データは、圧倒的な成功を示している。驚くことではないが、PD1のリガンドである腫瘍組織上でのPDL1の発現は、これらの免疫療法剤に対するより良好な応答率と関連している。
【0023】
特異的エピトープのターゲット化-CAR-T
免疫療法における別のパラダイムシフトは、CAR-T細胞と称されるキメラ抗原レセプター-T細胞の出現である。CAR-T細胞は、特異的エピトープをターゲットとするキメラレセプターを発現するように遺伝子改変された自己T細胞である。CARの特異的部分は、膜貫通ドメインを介して、CD28、41BB及びCD3εのシグナル伝達ドメインに接続され、これにより、養子移入時のT細胞の効率的な活性化及び最適な生存が可能となる(Feins et al., 2019)。
【0024】
CD19特異的CAR-T細胞の使用により、B細胞白血病において顕著な成功が達成されている。しかしながら、固形腫瘍のためのCAR-T細胞戦略は、おそらく、多因子性の理由、例えば、腫瘍微小環境(TME)の接近可能性の欠如、前記TMEの免疫サプレッション能力及び腫瘍関連抗原免疫原性/不均一性の結果として、はるかに効率的ではないと考えられる。それにもかかわらず、固形腫瘍のためのCAR-T細胞の新たな構築物が、幾つかの新たなターゲット、TMEへの異なるアドレスモード及び試験されるCAR-T細胞持続性/生存のための種々の戦略により、依然として研究されている(Martinez & Moon, 2019)。
【0025】
さらに、別の焦点は、ドナー由来の同種CAR-T細胞の開発である。実際、この技術は、自己アプローチを上回る多くの潜在的な利点、例えば、患者処置のための凍結保存されたバッチの即時利用可能性、CAR-T細胞製品の可能性のある標準化、複数の細胞改変のための時間、異なるターゲットに対するCAR-T細胞の再投与又は組み合わせ及び最後になるが、工業化されたプロセスを使用したコスト削減を有する。したがって、同種CAR-T細胞の開発は、活発な研究分野である。
【0026】
免疫療法を研究するためのモデル
新たな治療戦略の出現及びより大きな程度で、免疫モデュラトリー介入に対する応答の明らかな不均一性により、処置を開始する前に患者を分類するための実用的なモデルが必要である。
【0027】
臨床的観点から、患者のスコアリングは、バイオマーカーの発現、例えば、PD1/PDL1軸、遺伝的/トランスクリプトームスクリーニング、適切なTILの存在及び/又は腫瘍との関連でこれらのTILがエフェクター機能を達成する能力等に基づくことができる。
【0028】
さらに、患者由来の異種移植片(PDX)の幾つかのマウスモデルが開発されている。一般的な戦略は、免疫不全マウスレシピエントに、患者由来の腫瘍組織を移植し、最終的に、患者由来の免疫細胞を共移植することである。
【0029】
しかしながら、このアプローチは時間がかかり、高価であり、移植の成功率が10%と低い場合があるため信頼性がない。このような動物モデルの生成のための努力及び金銭的投資は、臨床的状況と適合しない(Jung et al., 2018)。
【0030】
この状況を考慮して、ガン細胞と免疫細胞とのin vivo相互作用を、優先的には、患者ごとに研究するための新規な動物モデルが、積極的に探索されている。また、CAR-T操作細胞を試験するための前臨床モデルも必要である(Siegler and Wang, 2018)。
【0031】
この文脈において、本発明は、免疫療法剤及び/又は細胞のスクリーニング並びに患者の分類に特に有用な、キメラキジ科鳥類胚からなる、新規な動物モデルを提案する。
【0032】
発明の概要
本発明は、キメラキジ科鳥類胚であって、両方のタイプの外因性細胞:
a.少なくとも1種のガン細胞の集団及び
b.少なくとも1種の免疫細胞の集団
を含み、ここで、前記外因性ガン細胞が前記胚の少なくとも1種の組織に存在し、前記外因性免疫細胞が前記胚の少なくとも1種の組織に存在しかつ/又は前記胚の血管中を循環する、キメラキジ科鳥類胚に関する。
【0033】
また、本発明は、下記工程:
・免疫細胞の集団及びガン細胞の集団の両方をキジ科鳥類胚に導入する工程と、
・このキメラ胚を35℃~42℃に含まれる温度で、少なくとも6時間インキュベーションする工程とを含む、上記されたキメラキジ科鳥類胚を得るための方法に関する。
【0034】
この方法の少なくとも2つの実現形態は、本明細書において、
1)下記工程:
・HH10期とHH30期の間の発生段階にあるキジ科鳥類胚の少なくとも1種の組織に免疫細胞の集団及びガン細胞の集団の両方を共移植する工程と、
・このキメラ胚を35℃~42℃に含まれる温度で、少なくとも6時間インキュベーションする工程とを含む、方法及び
2)下記工程:
・HH10期とHH30期の間の発生段階にあるキジ科鳥類胚の少なくとも1種の組織に少なくとも1種のガン細胞の集団を移植する工程と、
・前記少なくとも1種の免疫細胞の集団を前記胚の血管内に注入する工程と、
・移植された胚を35℃~42℃に含まれる温度で、少なくとも6時間インキュベーションする工程とを含む、方法であると考えられる。
【0035】
また、本発明は、上記されたキメラキジ科鳥類胚又は先で提案された方法により得られたキメラキジ科鳥類胚からなる、ヒトのガンの研究のための動物モデルに関する。
【0036】
また、本発明は、下記群:免疫療法、化学療法、ターゲット療法、ホルモン療法、抗ガン剤および治療酵素の中から選択される少なくとも1種の抗ガン療法をスクリーニングするための、このような動物モデルの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1:鳥類胚における注射後(1A)又は移植後(1B)2日でのラベルされたヒトPBMCの写真。(白色の)蛍光細胞は、胚組織に定着した免疫細胞である。
【
図2】
図2:鳥類胚に注入されたヒトPBMCの、注入後2日でのFACSによる分析。CFSE:カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル;FSC:前方散乱;SSC:側方散乱。
【
図3】
図3:ニワトリ胚への注入後のPBMCの生存。PBMCを種々の用量で注入した(横軸に表される);% 細胞生存を縦軸に表わす。各印(三角形、正方形、菱形、円)は、注入されたPBMCの測定数について独立した実験を表わす。
【
図4】
図4:フローサイトメトリーによる移植後のPBMC部分集団の分析。PBMCの移植後の免疫細胞の部分集団の相対的割合の決定。PBMC:移植前の細胞。AVI-PBMC:コラゲナーゼ処理胚からのPercoll単離後(胚の48時間のインキュベーション後)に移植され、分析されたPBMC細胞。(4A)CD19+及びCD3+細胞を定量化する。値を総特定リンパ球の比で表わす。CD3+/CD4+及びCD3+/CD8+の比も示す。(4B)鳥類胚への移植前(PBMC)及び移植後2日(AVI-PBMC)でのサンプルにおける免疫細胞の部分集団(生きているCD45+集団にわたる)のFACS分析による比較。(4C)鳥類胚への移植前(PBMC)及び移植後2日(AVI-PBMC)での免疫細胞の活性化マーカー及び疲弊マーカー(生きているCD45+CD3+集団にわたる)のFACS分析による比較。活性化のマーカー:ヒトCD69及びCD25;疲弊のマーカー:ヒトTIM-3及びPD-1。
【
図5】
図5:鳥類胚への移植後に形成された腫瘍の顕微鏡写真。PBMC及び腫瘍細胞をニワトリ胚のターゲット部位に共移植した。移植前に、両方の細胞プールを蛍光バイタルトレーサー(PBMCについては赤色、腫瘍細胞については緑色)でラベルした。移植後2日で、胚を回収し、共焦点顕微鏡で画像化して、移植細胞を可視化した。PBMC細胞成分が形成された腫瘍内に存在した。マージ)両方のタイプの細胞が可視化されている;PBMC)PBMCのみが可視化されている;腫瘍細胞)腫瘍細胞のみが可視化されている。
【
図6】
図6:鳥類胚に形成されたヒト細胞腫瘍(より明るいハロー)における免疫細胞(白色)の拡大図。PBMCを脈管構造に注入し、腫瘍細胞を胚のターゲット部位に移植した。
【
図7】
図7:ニワトリ胚の脈管構造に注入された腫瘍(腫瘍)中の個々の腫瘍細胞及び免疫細胞(PBMC)の拡大図。
【
図8】
図8:個々の胚のサイズ及び重量の指標である体/サイズ面積(BSA)を、Pmela細胞単独を移植された胚(Glo)並びにPmela細胞及びPBMCを共移植された胚(GLO-PBMC)について測定した。BSAの統計的差異は観察されなかった。
【
図9】
図9:Pmela細胞を単独で又はヒトPBMCと組み合わせて移植した場合の条件を比較する腫瘍体積の測定(方法1)。グラフは、両方の条件間で統計的差異を示さない。データを胚の体サイズ面積(BSA)に対して正規化した。
【
図10】
図10:(10A)2種類のガン細胞(Pmela細胞:GLO;MDAM細胞:MDAM)とのPBMCの共移植後の免疫細胞部分集団の割合の表示。値を総特定リンパ球(CD3+)の比で表現する。(10B)表面細胞マーカー(PD1、TIM-3、CD69及びCD25)の発現をFACSにより、Tリンパ球のCD4+及びCD8+部分集団について測定する:左側にCD8+、右側にCD4+(生きているCD45+CD3+集団にわたる)。選別された細胞は、以下のものである:移植前のPBMC単独(黒色)、胚への単独移植後のAVI-PBMC(濃い灰色)並びにAVI-PBMC+MDAMB231:腫瘍細胞及びPBMCの共移植後(薄い灰色)。測定を移植後48時間で行う。
【
図11】
図11:Keytrudaの効果 (11A)細胞の部分集団をコラゲナーゼ処理胚からのPBMCのPercoll単離後にFACSにより特定した。FACSによるPD1表面発現の検出。抗PD1(Keytruda)は、移植されたPBMC由来のヒトT細胞により発現されるPD1に結合することが可能であり、このため、FACS分析におけるPD1の検出に使用される抗PD1抗体と競合し、これにより、PD1検出の低下がもたらされる。このため、Keytrudaが、そのターゲットに達すると、検出されたPD-1レベルの低下がもたらされる。PBMCSを移植された鳥類胚における、Keytruda(5mg/mlに希釈)又は陰性対照についてはNaClの静脈内注射後のPD1発現の分析。陰性対照は、CD4+細胞及びCD8+細胞を100%(生きているCD45+CD3+集団内)とすると任意に考える。Keytruda処理胚におけるCD8+細胞及びCD4+細胞での定量化を対照に対して正規化されたものとして表わす。(11B)MDAMB436乳ガン細胞(上図)及びMDAMB231細胞(下図)におけるPDL1発現を胚への移植後にFACSにより測定する。(11C)PBMCを腫瘍細胞:Pmela(PDL1陰性細胞系統)又はMDAMB436(PDL1弱陽性細胞系統)と共移植した。その後、移植され、単離されたPBMC細胞を免疫刺激性抗ヒトPD1であるKeytruda(K)で処理し又は処理しなかった:+Kは、Keytrudaの存在下を意味する。活性化のマーカー(左側のCD69、HLADR)及び疲弊のマーカー(右側のCTLA4、PD1)を鳥類胚にヒト腫瘍細胞(Pmela又はMDAM)との共移植後のPBMCにおいて決定した。値を総特定リンパ球(CD3+CD4+及びCD3+CD8+)の比において、CD4+集団及びCD8+集団を超える頻度で表現する。標準偏差は、異なる健常ドナー由来のPBMCのプールからのデータを示す。左グラフ:CD4+、右グラフ:CD8+。(11D)PBMC及びMDAMB231腫瘍細胞を共移植された胚のKeytruda(濃い灰色)又はNaCl(薄い灰色)による24時間処理後のT CD8+細胞(左側)及びCD4+細胞(右側)の再分割(生きているCD45+CD3+集団にわたる)。結果を% 対照量で表わす;白い矢印は、Keytruda(5mg/ml)処置条件における疲弊マーカー(PD1及びTIM-3)の発現の減少を示す。
【
図12】
図12:移植ニワトリ胚における腫瘍のサイズ (12A)A375メラノーマ細胞をヒトPBMCと共移植することにより形成された腫瘍の体積に対する抗PD1処理(Keytruda)の効果の分析。前記腫瘍は、鳥類胚モデルに形成される。(12B)ヒトPBMC及びMDAMB231腫瘍細胞を共移植された鳥類胚への抗PD1(Keytruda)投与の腫瘍体積に対する効果 左パネル:体サイズ面積(BSA)に対するKeytrudaの効果;中央パネル:元の腫瘍体積のヒストグラム;右パネル:正規化腫瘍体積/BSA 全ての結果から、NaCl処理胚と比較して、抗PD1処理状態において腫瘍体積の有意な減少が示される。(12C)転移性メラノーマに罹患した患者からのヒトPBMC及び腫瘍サンプルを共移植された鳥類胚への抗PD1(Keytruda)投与の効果。転移数(左側)及び転移性腫瘍の体積(中央)を評価した。右側の写真は、NaCl処理後(上側)及びKeytruda処理後(下側)の腫瘍の拡大を示す。
【
図13】
図13.移植後48時間及び72時間でのPBMCの分析 鳥類胚への移植後のPBMC部分集団再分割のモニター。胚を移植後48時間(薄い灰色)又は72時間(濃い灰色)胚を収集した。部分集団を生きているCD45+集団上で観察し、移植前のPBMC(PBMC D0)と比較する。
【0038】
本発明の実施態様の詳細な説明
本発明は、キメラキジ科鳥類胚であって、両方のタイプの外因性細胞:
a.少なくとも1種のガン細胞の集団及び
b.少なくとも1種の免疫細胞の集団
を含み、ここで、前記外因性ガン細胞が前記胚の少なくとも1種の組織に存在し、前記外因性免疫細胞が前記胚の少なくとも1種の組織に存在しかつ/又は前記胚の血管中を循環する、キメラキジ科鳥類胚に関する。
【0039】
特に断りない限り、本明細書で使用される下記用語及び表現は、本発明の意味において、下記意味を有することが意図される。
【0040】
「キジ科鳥類」という用語は、ニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、クジャク、ホロホロチョウ及び他の家禽動物を含むキジ目(又はキジ目)の鳥類を指す。好ましくは、胚は、ニワトリ(Gallus gallus)又はウズラ(Coturnix japonica)由来であろう。これらの2種は、一般的に、実験室で使用される。
【0041】
「キジ科鳥類胚」という用語は、胚が35℃~42℃の温度に加熱されたインキュベーター内に置かれることにより、適切な条件下で正常に発生する、受精したキジ科鳥類卵を指す。
【0042】
本発明の具体的な実施態様では、キジ科鳥類胚は、ニワトリ胚である。
【0043】
「キメラ胚」という用語は、内因性細胞と称される前記胚由来の細胞を有し、少なくとも1種の他の生物由来の外因性細胞をさらに有する胚を指し、前記外因性細胞は、移植片としての受入れ後に胚の不可欠な部分となり、レシピエント胚の組織内でそれらの発生を継続する。このキメラ胚は、成体キメラ生物を作り出すのに十分に発生することを意図するものではなく、短期間の間、外因性細胞を支持するためにのみ使用される。このキジ科鳥類胚は、キメラ生物を生じさるものではなく、外因性細胞の集団に関する研究が完了するとすぐに、有効な倫理的規則に従って殺処分されるであろう。
【0044】
「外因性細胞」という用語は、レシピエント生物、本例では、キジ科鳥類胚に導入された別の生物由来の細胞を指す。
【0045】
「細胞の集団」という用語は、全て同じ性質及び機能を有する、類似する細胞群を指す。例えば、「免疫細胞の集団」は、Tリンパ球であろうし、別の集団は、Bリンパ球であろうし、別の集団は、マクロファージであろう。
【0046】
「ガン」という用語は、この病理に罹患した生物の最初は正常な細胞の、形質転換により、突然変異又は遺伝的不安定性により形成される悪性細胞の生物中の存在により特徴付けられる病理を指す。
【0047】
「ガン細胞」という用語は、液体腫瘍又は固形腫瘍に由来する悪性細胞を指す。「ガン細胞の集団」は、例えば、メラノーマ細胞であろうし、別の集団は、神経膠芽腫細胞であろうし、別の集団は、乳ガン細胞であろう。
【0048】
「免疫細胞」という用語は、全て「白血球」と称される免疫系の細胞を指す。これらの細胞を2つの主要なファミリー:好中球及び末梢血単核細胞(PBMC)、すなわち、丸い核を有する血球に分類することができる。それらは両方とも、同じ造血前駆細胞から生じるが、「免疫細胞」という用語は、「赤血球(red blood cells」とも称される赤血球(erythrocytes)を含まない。
【0049】
前記PBMCは、
-T細胞、B細胞及びNK(ナチュラルキラー)細胞を含むリンパ球
-単球、マクロファージ及び樹状細胞
を含む。
【0050】
「組織」という用語は、生物において特定の機能を行う、同じ起源からの類似する細胞及びそれらの細胞外マトリックスの集合体を指す。組織は、臓器、筋肉、結合組織、上皮、腺、神経組織(中枢又は末梢)又はその特定の機能が依然として未知である胚組織であることができる。したがって、「胚組織」は、未だ完全に分化していない、典型的又は成体組織に相同な任意の胚組織を指す。
【0051】
さらに、本発明の意味において、「胚組織」は、特に、
-前記胚の胚体外付属物、例えば、絨毛尿膜(CAM)並びに
-管(例えば、神経管)の管腔及び血管(例えば、血管)
を除いた、胚の任意の組織を指す。
【0052】
「前記胚の少なくとも1種の組織に存在する」という表現は、本発明の意味における鳥類胚の組織中の外因性細胞の存在を指す。これらの細胞は、好ましくは、腫瘍の形態に凝集される。
【0053】
「前記胚の血管中を循環する」という表現は、鳥類胚の血液循環中、すなわち、前記胚の血管中を循環している外因性免疫細胞が存在することを指す。
【0054】
鳥類の胚に存在する免疫細胞の集団
キメラキジ科鳥類胚は、少なくとも1種の免疫細胞の集団を含む。
【0055】
優先的には、この少なくとも1種の免疫細胞の集団は、下記:末梢血単核細胞(PBMC)、T細胞、B細胞及びNK(ナチュラルキラー)細胞を含むリンパ球の中から選択される。
【0056】
具体的な実施態様では、全ての免疫細胞の集団は、1つの生物、特に、同じヒトに由来する。ヒト由来の免疫細胞を、血液サンプルを採取し、続けて、異なるタイプの血液細胞を分離することにより、容易に収集することができる。
【0057】
本発明の具体的な実施態様では、キメラキジ科鳥類胚は、1種の免疫細胞の集団のみを含む。
【0058】
本発明のより具体的な実施態様では、免疫細胞の集団は、末梢血単核細胞(PBMC)からなる。
【0059】
本発明の別の具体的な実施態様では、免疫細胞の集団は、リンパ球からなる。
【0060】
本発明の別の具体的な実施態様では、免疫細胞の集団は、Bリンパ球(B細胞)からなる。
【0061】
本発明の別の具体的な実施態様では、免疫細胞の集団は、Tリンパ球(T細胞)からなる。
【0062】
本発明の別の具体的な実施態様では、免疫細胞の集団は、遺伝子操作されたCAR-T細胞からなる。
【0063】
遺伝子操作されたCAR-T細胞は、特異的な腫瘍エピトープをターゲットとする特異的レセプターを発現させるために、当業者に周知の任意の方法に従って遺伝子改変されたCAR-T細胞を指す。これらの細胞は、腫瘍細胞をターゲットとし、それを認識して、それらを破壊することが可能である。本発明の意味において、遺伝子操作されたCAR-T細胞は、自己(患者から生じ、その後、前記患者に再注入される)又は同種(ドナーから生じ、任意の人間に注射可能となるように改変される)であることができる。
【0064】
有利には、これらの遺伝子操作されたCAR-T細胞は、腫瘍特異的抗原を認識し、T細胞活性化を誘引し、同時刺激シグナルを持続することが可能なキメラレセプターを発現する。
【0065】
鳥類の胚に存在するガン細胞の集団
キメラキジ科鳥類胚は、少なくとも1種のガン細胞の集団を含む。
【0066】
具体的な実施態様では、全てのガン細胞の集団は、1つの生物、特に、同じヒトに由来する。ヒト由来のガン細胞を当業者に公知の任意の技術により得ることができる。
【0067】
本発明の具体的な実施態様では、キメラキジ科鳥類胚は、1種のガン細胞の集団のみを含む。
【0068】
前記胚の少なくとも1種の組織に存在する外因性ガン細胞は、任意の起源のものであることができる。特に、これらのガン細胞は、不死化ガン細胞系統又は腫瘍サンプル由来であることができる。
【0069】
本発明の具体的な実施態様では、外因性ガン細胞は、患者の腫瘍から生じる。
【0070】
本発明の実施態様によれば、外因性ガン細胞は、原発性又は続発性脳腫瘍に由来する細胞、例えば、神経膠芽腫細胞又は神経膠腫細胞、肺ガン細胞、特に、「EGFR突然変異」肺ガン細胞、乳ガン細胞、特に、HER2+/ER+乳ガン細胞、前立腺ガン細胞、肉腫細胞、メラノーマ細胞、生殖細胞腫瘍細胞、リンパ腫細胞、特に、濾胞性リンパ腫細胞、肝臓ガン細胞、消化器ガン細胞及び卵巣ガン細胞からなる群より選択される。
【0071】
両方の細胞の集団の特徴
本発明のキメラキジ科鳥類胚は、両方のタイプの外因性細胞を含む。本発明の具体的な実施態様では、両方の外因性細胞の集団は、ヒト細胞である。
【0072】
本発明の別の具体的な実施態様では、両方の外因性細胞の集団は、同じ生物、特に同じガン患者から生じる。
【0073】
本発明の別の実施態様では、両方の外因性細胞の集団は、少なくとも2種類の生物から生じる。例えば、
-少なくとも1種のガン細胞の集団は、患者の腫瘍から生じ、
-少なくとも1種の免疫細胞の集団は、ドナーから生じ、遺伝子操作された同種CAR-T細胞の集団である。
【0074】
この構成では、キメラ胚は、同種CAR-T細胞が特定の患者由来のガン細胞を認識しかつ/又は破壊する能力を試験するのに使用される。
【0075】
この実施態様の別の例は、下記のとおりである。
-少なくとも1種のガン細胞の集団は、不死化細胞系統から生じ、
-少なくとも1種の免疫細胞の集団は、患者又は健常ドナーから生じる。
【0076】
この構成では、キメラ胚は、患者由来の免疫細胞が特定のガン細胞を認識しかつ/又は破壊する能力を試験するのに使用される。
【0077】
実施態様の別の例は、下記のとおりである。
-少なくとも1種のガン細胞の集団は、患者由来異種移植片(PDX)マウスから生じ、
-少なくとも1種の免疫細胞の集団は、患者又は健常ドナーから生じる。
【0078】
この構成では、キメラ胚は、患者/健常ドナー由来の免疫細胞が特定のガン細胞を認識しかつ/又は破壊する能力を試験するのに使用される。
【0079】
別の構成では、
-少なくとも1種のガン細胞の集団は、患者もしくはヒト細胞系統又はマウスPDXマウスから生じ、
-少なくとも1種の免疫細胞の集団は、ヒト免疫系が再構成されたヒト化マウスモデルから生じる。
【0080】
この構成では、キメラ胚は、免疫細胞が特定のガン細胞を認識しかつ/又は破壊する能力を試験するのに使用される。
【0081】
本発明の別の好ましい実施態様では、少なくとも1種の外因性細胞の集団はラベルされる。好ましくは、免疫細胞の集団及びガン細胞の集団は両方とも、それらを区別するために、特に、2つの異なる色又はマーカーでラベルされる。
【0082】
鳥類胚における外因性細胞の局在
本発明のキメラキジ科鳥類胚において、
-外因性ガン細胞は、前記胚の少なくとも1種の組織に存在し、
-外因性免疫細胞は、前記胚の少なくとも1種の組織に存在しかつ/又は前記胚の血管中を循環する。
【0083】
したがって、本発明は、3つの別個の構成に関する。
(1) キメラキジ科鳥類胚、ここでガン細胞及び免疫細胞が前記胚の少なくとも1種の組織に存在する;
(2) キメラキジ科鳥類胚、ここでガン細胞が前記胚の少なくとも1種の組織に存在し、全ての免疫細胞が前記胚の血管中を循環する;及び
(3) キメラキジ科鳥類胚、ここでガン細胞及び免疫細胞が前記胚の少なくとも1種の組織中に存在し、一部の免疫細胞が前記胚の血管中を循環する。
【0084】
3つの構成では、ガン細胞は、前記胚の少なくとも1種の組織に存在する。ガン細胞は全て、前記胚の1種の組織のみに再編成されることができ又は2種、3種、4種、5種もしくはそれ以上の異なる組織に存在することができる。
【0085】
具体的な実施態様では、ガン細胞は、少なくとも1つの腫瘍、すなわち、組織に挿入されたガン細胞の塊を形成する。
【0086】
構成(1)及び(3)の好ましい実施態様では、両方のタイプの外因性細胞は、同じ少なくとも1種の胚組織に局在し、特に、免疫細胞は、ガン細胞により形成される腫瘍に存在する。とりわけ、免疫細胞は、腫瘍に浸潤している。ガン細胞は、1つ以上の腫瘍を形成することができる。
【0087】
この構成は、腫瘍が身体の免疫細胞により浸潤されるin vivo状況を反映するため、特に有利である。レシピエント胚における外因性ガン細胞及び免疫細胞のこの物理的会合は、体内の腫瘍の構造を反映する。したがって、本発明のキメラキジ科鳥類胚は、腫瘍細胞と免疫細胞との間の相互作用を研究するための関連動物モデルである。
【0088】
本発明の好ましい実施態様では、両方のタイプの外因性細胞は、物理的に会合している。特に、免疫細胞及びガン細胞は、胚の少なくとも1種の組織において、免疫細胞により浸潤された固体腫瘍を形成する。
【0089】
有利には、腫瘍は、免疫細胞の種々の部分集団、特に、CD4+T細胞及びCD8+T細胞により浸潤され、例は、移植された胚において形成された腫瘍に存在する免疫細胞集団の多様性を示す。
図4Bに示されたように、移植されたPBMCの全ての部分集団は、移植後の胚において維持される。
【0090】
有利には、腫瘍は、活性化及び/又は疲弊のマーカーを発現する免疫細胞により浸潤される。特に、前記免疫細胞は、PD1及び/又はTIM-3消耗マーカーを発現する。興味深いことに、PD1を発現する免疫細胞は、抗PD1化合物による処理に応答する。
【0091】
本発明の具体的な実施態様では、胚において形成された腫瘍は、活性化(CD69、CD25)及び/又は疲弊(PD1、TIM-3)のマーカーを発現する外因性免疫細胞を含む。
【0092】
有利には、移植後のキジ科鳥類胚において形成された腫瘍において、患者体内の腫瘍の代表的な生理学である免疫細胞と腫瘍細胞との間の「対話」が存在する。
【0093】
3つの構成の好ましい実施態様では、外因性ガン細胞は、ガン細胞の集団の性質に関連し、特に、ガン患者において原発性又は続発性腫瘍が形成される代表的な組織/臓器、すなわち、同等の組織又は臓器である少なくとも1種の胚組織に存在する。
【0094】
「代表的な組織」又は「同等の組織」という両方の用語は、互換的に使用され、非胚性ほ乳類組織と同等であるが、その胚性状態及びキジ科鳥類生物の形態にあるキジ科鳥類胚組織を指す。これらの用語は、特定の非胚性ほ乳類組織の組織性、細胞性及び/又は分子的態様を模倣する組織を指す。
【0095】
例えば、内胚葉から生じる胚性結腸は、ほ乳類の代表的な結腸臓器であり、外因性ガン細胞が、ガン結腸細胞である場合、それらは、前記内胚葉(endodermic germ layer)に存在する。
【0096】
別の例は、外因性ガン細胞が骨組織に転移する傾向がある乳ガン細胞である場合であり、この場合、外因性ガン細胞は、中胚葉(mesoderm germ layer)から生じた胚性骨に存在する場合がある。
【0097】
本発明のキメラキジ科鳥類胚の得る方法
また、本発明は、下記連続する工程:
・外因性免疫細胞の集団及びガン細胞の集団の両方をキジ科鳥類胚に導入する工程と、
・このキメラ胚を好ましくは、35℃~42℃に含まれる温度で、少なくとも6時間インキュベーションする工程とを含む、前述のようなキメラキジ科鳥類胚を得るための方法に関する。
【0098】
「導入」という用語は、それ自体の細胞に加えて、外因性細胞を含むキメラ胚を作製するのに有用な任意の技術を指す。特に、細胞の導入は、胚の特定の組織への外因性細胞の移植である。
【0099】
インキュベーション工程を標準的な技術に従って、特に、湿度飽和インキュベーター中において行うものとする。
【0100】
インキュベーションの温度は、当業者の知識に従って、キジ科鳥類胚の性質に適合されるであろう。具体的な実施態様では、インキュベーター温度は、35℃~42℃に含まれ、ここで、範囲境界値が含まれる。優先的には、インキュベーション温度は、37℃~40℃に含まれ、好ましくは、ニワトリ胚について、約38.5℃である。
【0101】
インキュベーション時間は、少なくとも6時間であり、これは、胚の少なくとも1種の組織へのガン細胞の最初の凝集を得るのに必要な時間である。優先的には、インキュベーション期間は、少なくとも8時間、少なくとも10時間、少なくとも12時間、少なくとも16時間、少なくとも24時間、少なくとも36時間又は少なくとも48時間である。インキュベーション期間は、一般的には、約24時間又は約48時間である。
【0102】
優先的には、胚のインキュベーション及び分析は、胚の完全な胚発生の前(すなわち、ニワトリ胚について、受精後21日)に停止され、より優先的には、インキュベーション及び分析のプロセスは、胚発生の期間の最初の2/3、すなわち、受精後14日の前に終了される。
【0103】
両方のタイプの方法は、本発明の目的であり、以下に詳述される。
【0104】
第1の実現態様では、本発明の方法は、下記連続する工程:
・HH10期とHH30期の間の発生段階にあるキジ科鳥類胚の少なくとも1種の組織に免疫細胞の集団及びガン細胞の集団の両方を共移植する工程と、
・このキメラ胚を35℃~42℃に含まれる温度で、少なくとも6時間インキュベーションする工程と
を含む。
【0105】
「共移植」という用語は、本発明の意味において、1回のみの処理の間に、レシピエント胚の少なくとも1種の組織に両方のタイプの外因性細胞を導入することを指す。
【0106】
外因性細胞を下記:
-ターゲット組織に注入される懸濁細胞;
-免疫細胞とガン細胞との両方を含む腫瘍組織の固体片(ブロック);
-単離された細胞の凝集体/ホモジネート
の形態で移植することができる。
【0107】
レシピエントキジ科鳥類胚への外因性細胞の移植を当業者に周知の方法に従って行う。実際に、キジ科鳥類胚には、卵殻に小さな開口を作った後、容易に接近可能である。特に、ガン細胞の移植を、空気式マイクロインジェクター(Picopump PV830, World Precision Instruments)を使用して行う。この技術は、特に、WO第2016/05398号及び同第2017/103025号に提示されている。
【0108】
キジ科鳥類胚の幾つかの発生段階は、受精後のインキュベーション時間の関数として以前に定義されており、Hamburger及びHamilton(1951, J Morphol.)により定義された基準に従って決定される。
【0109】
本発明によれば、外因性細胞の移植時に、キジ科鳥類胚は、HH10期とHH30期との間の発生段階にある。
【0110】
好ましくは、外因性細胞の導入時に、キジ科鳥類胚は、HH12期とHH25期との間の発生段階にある。受精後40時間~4.5日に起こる胚のこの発達段階は、胚発生の多くの重要な事象により特徴付けられ、その中で、体節の出現、大脳領域の細分化、胚の種々の領域の湾曲及び多数の臓器の形成により特徴付けられる。
【0111】
別の好ましい態様によれば、外因性細胞の導入時に、キジ科鳥類胚は、HH10期とHH18期との間、HH10期とHH15期との間又はHH12期とHH16期との間の発生段階にある。
【0112】
好ましくは、ガン細胞の移植をH13期とHH15期の間、すなわち、受精後48時間~55時間、好ましくは、受精後50時間~53時間(HH14期)の発生段階にあるレシピエントキジ科鳥類胚に行う。
【0113】
第2の実現態様では、本発明の方法は、下記工程:
・HH10期とHH30期との間の発生段階にあるキジ科鳥類胚の少なくとも1種の組織に少なくとも1種のガン細胞の集団を移植する工程と、
・前記少なくとも1種の免疫細胞の集団を前記胚の血管内に注入する工程と、
・移植された胚を35℃~42℃に含まれる温度で、少なくとも6時間インキュベーションする工程と
を含む。
【0114】
移植工程及びインキュベーション工程は、先に記載されており、先に示されたように行われる。
【0115】
この方法の実現形態において、「細胞を注入する」工程は、当業者に公知の任意の技術により、免疫細胞が胚の血液循環に導入される工程に対応する。
【0116】
この注入工程を、ガン細胞を移植する工程と同時に又は同工程の前もしくは同工程の後に行うことができる。特に、免疫細胞の注入工程を、胚の発生の後期、すなわち、HH30期後に行うことができる。ただし、好ましい実施態様では、両方のタイプの外因性細胞を同時に胚に導入する。
【0117】
一部の場合には、実施例のセクションに示されるように、免疫細胞は、少なくとも1種の組織に移植されたガン細胞に結合し、腫瘍に浸潤するであろう。一部の他の場合には、免疫細胞は、胚の血管内を循環し、血液循環によるガン細胞の発達に作用するそれらの能力が試験されるであろう。一部の他の場合には、免疫細胞は、ガン細胞への結合及び胚の血管内での循環の両方をするであろう。
【0118】
具体的な実施態様では、ガン細胞の集団の移植を前記ガン細胞の集団の性質に関連し、特に、ガン患者において原発性及び/又は続発性腫瘍が形成される代表的な組織/臓器である少なくとも1種の胚組織において行う。
【0119】
本発明の意味において、前記「関連する」組織は、ガン細胞の起源に従う組織であるか又は通常前記ガン細胞によりコロニー形成される、すなわち、二次腫瘍(転移)が埋め込まれる組織であるかのいずれかである。
【0120】
外因性ガン細胞を、異なる組織、例えば、神経管を構成する組織(管腔ではない)、脳組織、消化構造、例えば、肝臓、腸又は膵臓を前もって形成する胚組織、皮膚、骨及び骨髄を前もって形成する胚組織又は体節領域において、レシピエント胚に移植することができる。
【0121】
動物モデル及びその使用
また、本発明は、上記提示されたキメラキジ科鳥類胚からなるか又は上記された方法のいずれか1つにより得ることが容易なヒトのガンの研究のための動物モデルに関する。
【0122】
また、本発明は、上記された方法のいずれか1つにより得られた、ヒトのガンの研究のための動物モデルに関する。
【0123】
本発明のこの動物モデルは、多くの用途を有する。
【0124】
特に、この動物モデルを、ガンに罹患した患者をモニターするのに使用することができる。実際、このような動物モデルにより、患者の腫瘍の発達をex vivoで、特に、時間T0(例えば、前記処置の開始前)及び時間T1、T2、T3(例えば、ガン患者の処置の開始後)に処置を開始した後にモニターすることが可能となる。
【0125】
また、動物モデルを、ガンの処置を意図した治療用分子をスクリーニングするのにも使用することができる。
【0126】
特に、本発明は、下記群:
-免疫療法:患者の免疫細胞の抗腫瘍活性を促進することからなる治療戦略、
-化学療法:ガン細胞の生存、代謝、運動性及び/又は増殖に影響を及ぼす薬剤、
-ターゲット療法:ガン細胞により発現される特定の分子をターゲットとする抗体等の化合物の使用、
-ホルモン療法:ホルモン分子シグナル伝達をターゲットとする化合物の使用、
-抗ガン剤並びに
-治療酵素
の中から選択される少なくとも1種の抗ガン療法をスクリーニングするための、本発明の動物モデルの使用に関する。
【0127】
とりわけ、本発明の動物モデルを遺伝子操作されたCAR-T細胞の活性を評価するのに使用することができる。具体的な実施態様では、これらのCAR-T細胞は、任意の患者において使用されることが意図される同種CAR-T細胞である。これらの同種細胞の有効性及び安全性を本発明の動物モデルにおいて試験することができる。
【0128】
実施例
本明細書において、本発明を特定の実施態様を参照して説明してきたが、これらの実施態様は、本発明の原理及び用途の単なる例示であることを理解されたい。したがって、多くの修正を例示された実施態様に対して行うことができること並びに添付の特許請求の範囲により定義された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、他の構成を考案することができることを理解されたい。
【0129】
材料及び方法
gallus gallusの受精卵を専用農場、例えば、EARL MORIZEAU, DANGERS, FRANCEから取得し、使用するまで14℃に維持した。ランニング実験のために、ハミルトン命名法に従って、発生段階HH13~HH16にある胚を得るために、卵を38.5℃で52時間インキュベーションした。
【0130】
操作のために、窓を殻に開けた。
【0131】
ヒトPBMC及び腫瘍細胞を、それらを挿入するマイクロインジェクター(Pipopump PV830, World Precision Instruments)を使用して移植した。
【0132】
(1)一部の実験では、ヒトPBMCを、絨毛尿膜上に存在する血管を通して、胚の血管に注入した。ガン細胞を、WO第2016/05398号及び同第2017/103025号に記載された方法に従って移植する。
【0133】
(2)他の実験では、両方のタイプの細胞をヒト腫瘍細胞が腫瘍を形成する組織内の胚の選択された部位に共移植して、ヒト免疫細胞の間質を有する腫瘍を確立した。
【0134】
胚をガン細胞の移植後24時間~48時間にわたって、インキュベーションを維持した。それらを卵から収集し、種々の実験のために処理した。一部の実験では、胚をコラゲナーゼで消化し、ヒト細胞を更なる分析のために単離した。他の実験では、胚を4% パラホルムアルデヒドにより、4℃で一晩固定した。胚を光学シート顕微鏡(LaVision Biotec)による撮像のために清澄化した。
【0135】
I.鳥類胚モデルにPBMCを移植する実現可能性の実証
実施例1
条件(1):胚形成ニワトリ卵の殻を開けた。健常ドナーからのヒトPBMCを胚の脈管構造(血液循環)に注入した。
【0136】
条件(2):PBMCを調製し、バイタル蛍光トレーサーでラベルし、鳥類胚のターゲット組織にマイクロキャピラリーを使用した注入により移植した。
【0137】
PBMC注入(1)又は移植(2)後2日で、胚を回収し、パラホルムアルデヒド中に固定し、立体顕微鏡により撮像し、ついで、清澄化し、光学シート顕微鏡を使用して撮像した。
【0138】
他の実験では、胚をコラゲナーゼで消化し、PBMCをPercoll勾配で精製した。
【0139】
両実験条件において、
図1A及び
図1Bに示されたように、生きているPBMCが鳥類胚組織において見出された。
【0140】
実施例2
別の実験では、健常ドナーからのPBMCを、バイタル蛍光トレーサー(CFSE:カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル)でラベル、ついで、受精56時間後にニワトリ胚(HH13~HH15)の脈管構造に注入した。
【0141】
2日後、胚を回収し、頭部除去後にコラゲナーゼで消化した。PBMCを、FICOLL及びPERCOLL勾配技術を使用して単離し、蛍光PBMC細胞をFACSにより分析した。
【0142】
結果を
図2に示す。結果から、注入されたPBMCが胚への導入の48時間後に生存していることが実証される。
【0143】
実施例3
PBMCを胚の脈管構造に異なる用量で注入した。注入の2日(48時間)後に、単離されたPBMCを計数して、% 生存を決定した。
【0144】
結果を
図3に示す。細胞生存は、高用量、例えば、6×10
5個/μl(黒色三角)で、良好な生存が観察されたより少数のPBMC(2倍希釈)の注入と比較して損なわれた。細胞の絶対数ではなく、注入された細胞の濃度は、細胞生存に重要なパラメータであると考えられる。
【0145】
実施例4
ヒト血液サンプルからのPBMCを調製し、産卵後56時間(HH14)に鳥類胚の組織に移植した。
【0146】
移植後2日で、胚を回収し、コラゲナーゼを使用して消化した。免疫細胞を精製し、免疫細胞の部分集団を、全免疫細胞集団に対するBリンパ球(CD19+)及びT(CD3+CD4+及びCD3+CD8+)集団の割合を決定するために、FACSにおいて分子マーカーにより分析した。ついで、全PBMC集団(CD45+細胞)にわたる全ての主要なPBMC部分集団:リンパ球(B及びT)、ナチュラルキラー、骨髄細胞(本明細書において、単球と称する)をモニターした。
【0147】
結果を
図4A、4B及び4Cに示す。「PBMC」は、移植前の免疫細胞を指し、「AVI-PBMC」は、コラゲナーゼ処理胚からのPercoll単離後に移植され、分析されたPBMC細胞を指す。
【0148】
図4Aにおいて、値は、総特定リンパ球(CD19+及びCD3+)の比で表現される。
【0149】
これらの条件下で、総免疫細胞集団に対するBリンパ球の集団の割合は、新鮮なPBMCの集団と比較して、ニワトリ胚においてより低かった。この割合の差は、異種移植片(PDX)のマウスモデルにおいても観察される。
【0150】
図4Bに、ニワトリ胚への免疫細胞の移植前(PBMC)及び移植後48時間(AVI-PBMC)の免疫細胞の部分集団再分配を示す。興味深いことに、全てのPBMC部分集団は、ニワトリ胚への移植後に維持されていた。
【0151】
図4Cに、ニワトリ胚への免疫細胞の移植前(PBMC)及び移植後48時間(AVI-PBMC)での、免疫細胞による活性化マーカー(CD69、CD25)及び疲弊マーカー(PD1、TIM-3)の発現を示す。Tリンパ球の2つの集団:CD8+及びCD4+を分析する。
【0152】
CD4+及びCD8+リンパ球T細胞の両方を移植した後に、CD69が有意に増加したことを除いて、他のマーカーの発現は、移植後に維持されるか又はわずかに増加する。PBMCの活性化はかなり弱い。これは、同種反応が弱いことを示す。PBMC移植は、胚の発生を妨げない。これは、ホスト及び移植されたPBMCが共存することができることを示す。
【0153】
II.鳥類胚モデルへのPBMCと腫瘍細胞系統とを共移植する実現可能性の実証
実施例5.免疫細胞の外因性集団及びガン細胞の外因性集団の両方の導入
ヒトPBMCをバイタル蛍光トレーサーでラベルした。
【0154】
2つの蛍光ヒト腫瘍細胞系統を使用した。
-患者サンプルに由来する原発性メラノーマ細胞系統(Pmela、転移性BRAF V600メラノーマ))(GLOとも称される)及び
-MDAMB436細胞(市販のトリプルネガティブ乳ガン細胞系統)(MDAMとも称される)
【0155】
両方のタイプの細胞を材料及び方法セクションに提示されたように胚に導入する。
【0156】
条件(1):PBMCを胚の選択された組織に腫瘍細胞と共移植した。
【0157】
条件(2):PBMCを脈管構造に注入した。腫瘍細胞を胚の選択された組織に移植した。
【0158】
移植後2日で、胚を立体顕微鏡により撮像した。回収された胚を測定し、それらの重量を確定した。胚を清澄化し、共焦点光学シート顕微鏡により撮像した。画像を腫瘍体積の定量化のために、ソフトウェア(IMARIS)により処理した。
【0159】
両条件について、腫瘍内の免疫細胞の存在が観察された。免疫「随伴性」は、共移植法による細胞数に関してより堅牢であった。条件(1)についての結果を
図5に示す。「マージ」写真は、両方のタイプの集団を表わす。
【0160】
【0161】
図6において、より明るいハロー(破線でマークで示す)は、鳥類胚に形成された腫瘍の周囲に再編成された免疫細胞を示す。
【0162】
図7において、ニワトリ胚に移植された腫瘍中の個々の腫瘍細胞がラベルされ(左側の写真)、PBMC由来の免疫細胞がラベルされている(右側の写真)。免疫細胞が腫瘍の周囲に再編成されている。
【0163】
実施例6.免疫細胞の有無による移植されたニワトリ胚のBSA及び腫瘍体積の測定
指標となる体サイズ面積(BSA)を、ニワトリ胚へのPBMCの導入の毒性を決定するために測定する。
【0164】
図8に示された結果から、Pmela細胞単独が移植された胚(Glo)又はPBMCと共移植された胚(GLO-PBMC)について、BSAの統計的差異が観察されなかったことが示される。
【0165】
図9に示された結果から、条件(1)に従って、Pmela細胞を単独で(Glo)又はヒトPBMCと組み合わせて(GLO-PBMC)移植した場合の腫瘍体積の測定値が表わされる。
【0166】
グラフからは、移植されたガン細胞を有する胚とガン細胞及び免疫細胞の共移植片を有する胚との間で統計的差異が示されない。データを胚の体サイズ面積(BSA)に対して正規化した。
【0167】
実施例7.腫瘍細胞とPBMCとの共移植
ニワトリ胚に、PBMCを下記2つの腫瘍細胞系統:
-Pmela-転移性BRAF V600メラノーマ由来の初代細胞(PBMC-GLO)
-MDAMB436及びMDAMB231-トリプルネガティブ乳ガン由来の不死化細胞系統(PBMC-MDAM)
のうちの少なくとも一方と共移植した。
【0168】
移植後2日で、PBMCを胚から精製し、異なる細胞集団の分子マーカー:CD3+、CD4+及びCD8+をフローサイトメトリーにより分析した。結果を
図10Aに示す。
【0169】
示されたように、PBMCは、鳥類胚組織に移植された時に、移植前のそれらの休止状態と比較して反応する。腫瘍細胞の存在により、T細胞の活性が阻害され、CD69及びHLADRマーカーのダウンレギュレーションがもたらされ、それらのレベルを新鮮なPBMCのレベルに戻す。CD4及びCD8 T細胞上でのより高いレベルのCTLA4が、PBMCの移植後に観察される。Keytruda投与により、CD8 T細胞上でのPD1発現/接近可能性の最小化がもたらされ。PD1遮断により、CD8区画上での非常に高いレベルのCTLA4がもたらされる。これは、代償性発現を示唆している。
【0170】
図10Bに、ニワトリ胚において、高いレベルでPDL1を発現するPBMC及びMDAMB231細胞の共移植後の免疫細胞の表面上でのマーカー発現パターン(左側はCD8+、右側はCD4+)を示す。
【0171】
ガン細胞の存在下において、免疫細胞は、
〇特に、CD8+プールにおける活性化マーカーCD69及びCD25発現の増加
〇疲弊マーカーPD1及びTIM-3(免疫チェックポイント制御モデュレーターとも称される)発現の増加
を示す腫瘍に含まれる。
【0172】
これらの結果から、共移植された腫瘍細胞の存在に対する免疫細胞の2段階反応が示される。
(i)MDAMB231腫瘍細胞は、単独で移植されたPBMCと比較して、CD69及びCD25発現の増加により示されたように、T細胞を活性化する。
(ii)免疫チェックポイント制御モデュレーターであるPD1及びTIM-3の発現の増加により示されるように、免疫応答の阻害はすでに目に見える。この発現パターンは、ガン細胞によるリンパ球に対する負の免疫レギュレーションを反映する(腫瘍細胞「逃れ」と相関する)。
【0173】
このため、鳥類胚へのヒト免疫細胞の異種移植により、それらの活性化及びそれらの「中和」が誘引される。このことから、鳥類胚に導入された場合、T細胞は依然として機能的であり、同種細胞を認識することが可能であることが示される。
【0174】
III.免疫療法により移植されたPBMCを処置する実現可能性の実証
実施例8.Keytruda (抗PD1)処置
この実験を、鳥類胚に導入されたPBMCのヒトT細胞状態を研究するために行った。T細胞区画は、幾つかの現在承認されているチェックポイント阻害剤、例えば、αCTLA4及びPD1軸遮断のターゲットである。
【0175】
まず、移植されたPBMC上でのPD1レセプターの発現(
図11A)及びガン細胞によるPDL1の発現(
図11B)を確認した。MDAMB436細胞をin vitroで培養し、抗PDL1抗体で免疫ラベルして、PD1リガンドであるPDL1の発現を決定した。同様の実験をPmela細胞及びMDAMB231細胞について行った。
【0176】
ついで、MDAMB436細胞又はPmela細胞をヒトPBMC細胞と共移植した。
【0177】
抗PD1抗体であるKeytruda(Pemzolibrumab, Merk)を移植後24時間で注入した。移植後2日(48時間)で、PBMCを移植胚から単離し、FACSにより分析した。
【0178】
最後に、移植されたPBMCをPercoll密度分離により単離し、活性化マーカー(CD69/HLADR)及び疲弊マーカー(CTLA4/PD1)について細胞を染色した。
【0179】
結果を以下にコメントする。
【0180】
a)移植された免疫細胞によるPD1発現
図11Aに、2種類のドナー由来のCD8+及びCD4+T細胞における細胞表面上のPD1発現のレベルを示す。PD1レセプターに拮抗するKeytruda(5倍に希釈)での処理後、PD1の検出は顕著に減少する。これらの結果から、Keytrudaは、移植された免疫細胞のPD1レセプターに結合することが示される。
【0181】
b)移植されたガン細胞によるPDL1発現
結果を
図11Bに示す。インビトロで培養されたMDAMB436の約10%は、PDL1リガンドの発現を示す。Pmela細胞では、PDL1発現は検出されなかった。PDL1発現は、MDAMB231において高い。
【0182】
c)T細胞状態
腫瘍細胞の中でも、Pmelaは、PDL1陰性細胞系統であり、MDAMB436は、弱PDL1陽性細胞系統である。移植された鳥類胚を免疫療法である抗ヒトPD1 Keytruda(K)で処理し又は処理しなかった。
【0183】
細胞の部分集団をPBMCのPercoll単離後、FACSにより特定した。
【0184】
結果を
図11Cに示す。活性化マーカー(CD69及びHLADR、左側)及び疲弊マーカー(CTLA-4及びPD1、右側)を、細胞の各集団:
-新鮮なPBMC(どの胚にも導入していない)
-移植されたPBMC
-移植されたPBMC+K:胚を抗PD1抗体であるKeytrudaで24時間処理
-移植されたPmela/PBMC:免疫細胞及びPDL1を発現しないガン細胞であるPmelaの共移植
-移植されたMDAM/PBMC:免疫細胞及びPDL1を発現するガン細胞であるMDAMの共移植
-移植されたMDAM/PBMC+K:胚を抗PD1抗体であるKeytrudaで24時間処理
について決定した。
【0185】
標準偏差は、種々の健常ドナーからのPBMCのプールからのデータを示す。値は、CD3+CD4+集団及びCD3+CD8+集団に対する特異的マーカーの比で表わされる。
【0186】
概ね、移植後に単離されたCD4 T細胞及びCD8 T細胞は、活性化の徴候を示し、CD4及びCD8 T細胞は、CD69に対して大部分が陽性であったが、CD4 T細胞は、HLADR発現を獲得した。
【0187】
阻害性レセプターに関して、本発明者らにより、PBMCの移植後にCD4 T細胞及びCD8 T細胞上により高いレベルのCTLA4が観察されたが、より高いレベルのPD1は、CD4 T細胞についてのみ当てはまった。
【0188】
このため、鳥類胚へのヒト免疫細胞の異種移植により、その活性化が誘引される。ヒト免疫細胞の活性化も、マウスモデルにおいて報告されている。このことは、鳥類胚に導入された場合、T細胞は依然として機能的であり、同種細胞を認識することが可能であることを示している。
【0189】
PD1遮断により、CD8区画上で非常に高いレベルのCTLA4をもたらされる。これは、代償性発現を示唆した。
【0190】
d)別の実験をPBMCと共移植されたMDAMB231細胞により行い、その後、移植された胚をKeytruda(5mg/ml)で処理した。
【0191】
共移植された免疫細胞上での活性化マーカー及び疲弊マーカーの発現を定量化した。結果を
図11Dに示す。
【0192】
疲弊マーカーであるPD1及びTIM-3の発現は、Keytruda処置により減少する。これにより、Keytrudaが疲弊したTリンパ球の応答性を回復させることが可能であることが確認される。
【0193】
活性化マーカーは、おそらく、Keytruda処置の後期に再構築されるであろう(24時間の投与では、これらの活性化マーカーの発現を再構築するのには十分ではないと考えられる)。また、より高濃度のKeytrudaにより、細胞活性化の向上がもたらされるはずである。
【0194】
まとめると、24時間のKeytruda投与により、PD1及びTIM-3の発現の減少により示されたように、免疫細胞の再活性化プロセスを開始することが可能である。
【0195】
IV.免疫療法処置に対する応答をモニターするためのモデルとしての、本発明の移植された鳥類胚の可能性の実証
実施例9.A375細胞系統と共移植されたPBMC
【0196】
混合ヒト腫瘍細胞及び免疫細胞から構成される腫瘍が、抗PD1抗体処理に対して感受性であるかどうかを決定するために、ヒトメラノーマA375細胞系統を実験のために選択した。実際に、この細胞系統は、近年、顕著なレベルのPDL1を発現し、抗PD1免疫療法に応答することが報告された(Kuryk L, Moller AW, Jaderberg M, 2019)。
【0197】
A375メラノーマ細胞を培養し、先に記載されたようにヒトPBMC細胞と共移植した。
【0198】
抗PD1抗体であるKeytruda又は陰性対照(賦形剤)を移植後24時間で、胚に注入した。
【0199】
移植後2~3日で、胚を回収し、共焦点光学シート顕微鏡による撮像のために処理した。腫瘍の体積を、IMARISソフトウェアを使用して定量化した。
【0200】
結果を
図12Aに示す。Keytrudaの存在下において、腫瘍の体積が有意に減少する。これにより、ガン細胞の周囲に存在する免疫細胞がこの免疫療法処理に対して陽性に応答することが実証される。
【0201】
実施例10.MDAMB231細胞又は患者細胞と共移植されたPBMC
実施例9の同じ実験を他のガン細胞:
-免疫療法に応答性であることが周知のMDAMB231及び
-転移性メラノーマに罹患した患者から生じた腫瘍サンプル
について行った。
【0202】
図12Bに、腫瘍体積に対する、ヒトPBMC及びMDAMB231腫瘍細胞を共移植された鳥類胚へのKeytruda投与の効果を示す(中央及び右パネルを参照のこと)。
【0203】
腫瘍体積の有意な減少が、Nacl投与と比較して、抗PD1処理条件において観察される。
【0204】
図12Cに、ヒトPBMC及び転移性メラノーマに罹患した患者からの腫瘍サンプルを共移植された鳥類胚へのKeytruda投与の効果を示す。
【0205】
転移体積の有意な減少が、Keytruda投与条件において観察される。
【0206】
また、鳥類胚組織における患者の腫瘍細胞により形成された転移の数を、蛍光ラベルされた腫瘍細胞の追跡及びその後の胚における蛍光シグナルの定量化により評価した。
【0207】
Keytrudaの投与後、腫瘍細胞の転移能は、「転移数」と題するヒストグラムに示されたように、有意に低下する。
【0208】
両方のヒストグラムから、抗PD1投与により、鳥類胚組織における患者の腫瘍細胞により形成される転移の体積及び数の有意な減少がもたらされることが示される。
【0209】
実施例11.移植後48時間及び72時間でのPBMCの分析
胚を移植後48時間(薄い灰色)又は72時間(濃い灰色)で収集した。部分集団を生きているCD45+集団にわたって観察し、移植前のPBMC(PBMC D0)と比較する。結果を
図13に示す。
【0210】
全ての主なPBMC部分集団は、生きていることが見出される。また、一部の集団は、移植後48時間(ナチュラルキラー集団)と比較して、72時間でより高い割合である。鳥類ホストに対するPBMCの同種反応は、72時間後の胚発生に影響を及ぼさない。したがって、48時間の免疫療法処理をこのモデルにより達成することができる。
【0211】
参考文献
特許
WO第2015/074050号
US第2013/0171680号
WO第2016/05398号
WO第2017/103025号
WO第2020/075168号
【0212】
【国際調査報告】