(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(54)【発明の名称】キニーネ及び先天性免疫応答を生じさせるためのその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230525BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230525BHJP
A61K 31/49 20060101ALI20230525BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230525BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230525BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20230525BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P31/12
A61K31/49
A61P31/14
A61P31/16
A61P31/20
G01N33/569 L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564595
(86)(22)【出願日】2021-04-21
(85)【翻訳文提出日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 US2021028463
(87)【国際公開番号】W WO2021216759
(87)【国際公開日】2021-10-28
(32)【優先日】2020-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522414109
【氏名又は名称】ノーム コーエン
(71)【出願人】
【識別番号】522414110
【氏名又は名称】ロバート ジェイ.リー
(71)【出願人】
【識別番号】522414121
【氏名又は名称】スーザン アール.ウェイス
(71)【出願人】
【識別番号】522414132
【氏名又は名称】ジョール エヌ.マズロー
(71)【出願人】
【識別番号】522414143
【氏名又は名称】クリスティーン シー.ロバーツ
(71)【出願人】
【識別番号】522414154
【氏名又は名称】サラ チェリー
(71)【出願人】
【識別番号】522414165
【氏名又は名称】マイケル コハンスキー
(71)【出願人】
【識別番号】522414176
【氏名又は名称】ニチン ディー.アダッパ
(71)【出願人】
【識別番号】522414187
【氏名又は名称】ジェイムズ エヌ.パーマー
(71)【出願人】
【識別番号】522414198
【氏名又は名称】リー ホイ タン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ノーム コーエン
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ジェイ.リー
(72)【発明者】
【氏名】スーザン アール.ウェイス
(72)【発明者】
【氏名】ジョール エヌ.マズロー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーン シー.ロバーツ
(72)【発明者】
【氏名】サラ チェリー
(72)【発明者】
【氏名】マイケル コハンスキー
(72)【発明者】
【氏名】ニチン ディー.アダッパ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ エヌ.パーマー
(72)【発明者】
【氏名】リー ホイ タン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA59
4C084NA14
4C084ZB331
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB17
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA59
4C086NA14
4C086ZB33
(57)【要約】
本発明は、ウイルスの感染力をアッセイするための方法と組成物、及び鼻上皮細胞を用いた気液界面モデルを使用した上気道における斯かるウイルスの潜在的処置;並びにNO産生及び/又は抗微生物タンパク質産生を刺激する苦味受容体作動薬を用いた処置による上気道のウイルス感染の処置、を提供する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上気道感染を患っている対象のウイルス感染を治療する方法であって、以下の:
苦味受容体作動薬の製剤を粒子として分散させ;
その対象の上気道腔の粘膜表面上に分散製剤を適用し;そして、
苦味受容体の刺激によって、NO産生を生じさせるか若しくは抗微生物ペプチド産生を刺激するか、又はその両方をおこなうこと、
を含む方法。
【請求項2】
前記苦味受容体作動薬が、NO産生若しくは抗微生物ペプチド産生の刺激、又はそれらの組み合わせをもたらす苦味受容体シグナル伝達を引き起こす作動薬である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記苦味受容体作動薬が:デナトニウム、フェニルチオカルバミド(PTC)、ホモセリンラクトン、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)、6-n-プロピルチオウラシル(PROP又はPTU)、パルテノリド、アマロゲンチン、アンティデスマ(その抽出物を含む)、コルヒチン、ダプソン、サリシン、クリシン、アピゲニン、キニーネ、及びキニーネ塩から成る群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ウイルス感染が、以下の:SARS;SARS-CoV-2;MERS-CoV;SARS-CoV;インフルエンザA型、インフルエンザB型;パラインフルエンザウイルス;ライノウイルス;アデノウイルス;ヒトメタ肺炎ウイルス;呼吸器合胞体ウイルス;及び非病原性コロナウイルスから成る群から選択されるウイルスから生じる感染症である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記分散及び適用ステップが、経鼻送達デバイスを使用して1日3回繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記経鼻送達デバイスが、定量吸入器、乾燥粉末吸入器、ドロッパー、ネブライザー、アトマイザー、又は洗浄液である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記の毎日3回の噴霧及び適用ステップの繰り返しが、4週間にわたり継続される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記キニーネ塩が、硫酸キニーネ二水和物である、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記キニーネが、0.5mg/ml~1mg/mlの濃度にて滅菌生理食塩水中に処方される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
以下の:
培養フラスコ内で密集状態まで培養した未分化ヒト鼻副鼻腔上皮細胞の細胞培養を樹立し;
頂端面の上皮細胞を、哺乳類の上気道に感染することが知られているウイルス株に感染させ;
苦味受容体作動薬を用いて鼻副鼻腔上皮細胞を治療し;
鼻副鼻腔上皮細胞をインキュベートし;そして
鼻副鼻腔上皮細胞培養によって放出されたウイルスのレベルを分析すること、
を含む気-液界面を使用した鼻上皮のウイルス感染を検出する方法。
【請求項11】
鼻副鼻腔上皮細胞を分化させること、
のステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記苦味受容体作動薬が、NO産生若しくは抗微生物ペプチド産生の刺激、又はそれらの組み合わせをもたらす苦味受容体シグナル伝達を引き起こす作動薬である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記苦味受容体作動薬が:デナトニウム、フェニルチオカルバミド(PTC)、ホモセリンラクトン、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)、6-n-プロピルチオウラシル(PROP又はPTU)、パルテノリド、アマロゲンチン、アンティデスマ(その抽出物を含む)、コルヒチン、ダプソン、サリシン、クリシン、アピゲニン、キニーネ、及びキニーネ塩から成る作動薬から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ウイルス株が、以下の:SARS;SARS-CoV-2;MERS-CoV;SARS-CoV;インフルエンザA型、インフルエンザB型;パラインフルエンザウイルス;ライノウイルス;アデノウイルス;ヒトメタ肺炎ウイルス;呼吸器合胞体ウイルス;及び非病原性コロナウイルスから成る群から選択される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、気道のウイルス感染の治療のための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
ウイルスの上気道感染は子供と大人にとって最も一般的な病気である。これらには、H5N1鳥インフルエンザ、H1N1及びH3N2「ブタ」インフルエンザなどのインフルエンザA型、インフルエンザB型、パラインフルエンザウイルス、ヒトメタ肺炎ウイルス(metapneumonvirus)、ライノウイルス、アデノウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、及びコロナウイルスといった複数の系統を含む。典型的には、子供は毎年斯かる感染症7~8種類に罹るが、それに対して、大人は毎年3~4種類のウイルス感染を患う。斯かる感染症は、大人の病気に起因するか又は病気の子供と一緒に長時間自宅で過ごす必要に起因して収入の大きな損失を引き起こす。これらのウイルスのうちのいくつかは有意な罹患率と死亡率を伴う。例えば、H5N1、H7N9、H1N1、及びH3N2vによるインフルエンザAウイルスの大流行は、0.5~1.5%に及ぶ死亡率を有する。子供と大人の結膜炎の原因である、アデノウイルス感染は免疫が低下した人々において致命的な感染を引き起こす。風邪を引き起こす自己限定的な上気道感染の原因となるコロナウイルスに加えて、2002年以来、3種類の高病原性コロナウイルス株:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、及びCOVID-19とも称されるSARS-CoV-2、が出現した。
【0003】
ウイルスSARS-CoV-2は、世界中で200万件超の確認症例があり、約150,000人が死亡した現在進行中のパンデミックを引き起こしている。SARS-CoV-2の死亡率は、韓国の2%~他国の10%超と大きな幅がある。MERS-CoVは、世界中で約3,000症例にもかかわらず、36%の非常に高い死亡率で2012年以来継続中である。SARS-CoVは2002年に現れ、翌年にかけて約10,000症例が約10%の死亡率を有すると確認された。現在、少なくとも1種類の薬物、レムデシビル、ウイルス複製を妨げるヌクレオシド類似体が臨床的活性を有し得るが、SARS-CoV-2の治療法が存在しない。同様に、SARS-CoV-2に対するワクチンも存在しない。
【0004】
キニーネは、キナノキ属の木の樹皮から単離され、200年間超にわたりマラリア原虫の治療法である天然化合物である。キニーネ使用は、熱帯地域におけるマラリア原虫に対する予防手段として同様に使用された炭酸水とビターレモン飲料ミキサーの主成分としてイギリス人によって広められた。キニーネは、苦味受容体TAS2R4、TAS2R7、TAS2R10、TAS2R14、TAS2R31、TAS2R39、TAS2R40、TAS2R43に結合できる苦味化合物である。苦味受容体は、II型味覚細胞上に存在し、また、繊毛の鼻上皮細胞、並びに呼吸器系、胃腸管、及びそれらが先天性免疫機能において役割を果たすところの他の場所で発現される(Lee et al., JCI 2012, 2014)。また、キニーネは、(BAL、組織像(炎症性浸潤と気道収縮の減少)、及び正常なPFTの維持によって)気道炎症を軽減することもマウスモデルにおいて示された。特許公報US2015/0017099A1では、キニーネは、先天性免疫システムの一部として、苦味受容体シグナル伝達経路を始動することによって抗菌作用を有することが示唆された。
【0005】
パンデミック、並びにSARS-CoV-2増殖及び治療法が存在しないことに関する不安のため、効果的な治療法が未だに必要とされている。さらに、上気道のウイルス感染を治療するための安全な抗ウイルス療法が必要とされる。
【発明の概要】
【0006】
概要
本発明の態様は、上気道感染を患っている対象のウイルス感染を治療する方法であって、苦味受容体作動薬の製剤を粒子として分散させ;その対象の上気道腔の粘膜表面上に分散製剤を適用し;そして、苦味受容体の刺激によって、NO産生を生じさせるか若しくは抗微生物ペプチド産生を刺激するか、又はその両方をおこなうこと、
を含む方法である。その苦味受容体作動薬とは、NO産生若しくは抗微生物ペプチド産生の刺激、又はそれらの組み合わせをもたらす、苦味受容体シグナル伝達を引き起こす作動薬である。
【0007】
本発明の別の態様において、以下の:培養フラスコ内で密集状態まで培養したヒト鼻副鼻腔上皮細胞の細胞培養を樹立し;鼻副鼻腔上皮細胞を分化させ;哺乳類の上気道に感染することが知られているウイルス株を頂端面の上皮細胞に感染させ;苦味受容体作動薬を用いて鼻副鼻腔上皮細胞を治療し;鼻副鼻腔上皮細胞をインキュベートし;そして鼻副鼻腔上皮細胞培養によって放出されたウイルスのレベルを分析すること、を含む気-液界面を使用した鼻上皮のウイルス感染を検出する方法がある。
【0008】
いくつかの実施形態において、苦味受容体作動薬は:デナトニウム、フェニルチオカルバミド(PTC)、ホモセリンラクトン、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)、6-n-プロピルチオウラシル(PROP又はPTU)、パルテノリド、アマロゲンチン、アンティデスマ(その抽出物を含む)、コルヒチン、ダプソン、サリシン、クリシン、アピゲニン、キニーネ、及びキニーネ塩から成る群から選択される。望ましい作動薬は、デナトニウム、アブシンチン、又はキニーネ及びその塩である。ウイルス感染とは、以下の:SARS;SARS-CoV-2;MERS-CoV;SARS-CoV;インフルエンザA型、インフルエンザB型;パラインフルエンザウイルス;ライノウイルス;アデノウイルス;ヒトメタ肺炎ウイルス;呼吸器合胞体ウイルス;及び非病原性コロナウイルスから選択されるウイルスから生じる感染症であり得る。好ましくは、分散及び適用ステップは、経鼻送達デバイスを使用して1日3回反復される。その経鼻送達デバイスは、粘膜層に製剤を適用する多くの入手可能な、かつ、定量吸入器、乾燥粉末吸入器、ドロッパー、ネブライザー、アトマイザー、又は洗浄液を含めた、送達デバイスのうちの1つから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1A及び1Bは、実施例に記載のとおり、0.9%の塩化ナトリウム中のキニーネの0.1%の溶液で治療したときに、IAV_NP及びIAV_M1遺伝子の低減を示す。
【
図1B】
図1A及び1Bは、実施例に記載のとおり、0.9%の塩化ナトリウム中のキニーネの0.1%の溶液で治療したときに、IAV_NP及びIAV_M1遺伝子の低減を示す。
【
図2A】
図2Aは、実施例に記載のとおり、赤色で示したSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(N)の染色を示す。
【
図2B】
図2Bは、実施例に記載のとおり、緑色で示したムチン(MUC5AC)又はβ-チューブリンの対照染色を示す。
【
図2C-2D】
図2C及び2Dは、実施例に記載のとおり、>80歳の非喫スペイン系男性のALIモデルの感染試験における無処置(
図2C)及びキニーネ処置(
図2D)細胞を示す。
【
図2E-2F】
図2E及び2Fは、実施例に記載のとおり、50代半ばの喫煙男性のALIモデルの感染試験における無処置(
図2E)及びキニーネ処置(
図2F)細胞を示す。
【
図3A-3C】
図3A、3B及び3Cは、実施例に記載のとおり、赤色で示されたMERS-CoVヌクレオカプシドタンパク質(N)染色、及び緑色で示されたムチン(MUC5AC)又はβ-チューブリンの対照染色を伴ったMERS-CoVを感染させたヒト鼻副鼻腔ALIを示す。
【
図4A-4D】
図4A、4B、4C及び4Dは、実施例に記載のとおり、緑色で示されたSARS-CoV2ヌクレオカプシドタンパク質(N)の染色を伴ったSARS-CoV2(COVID-19)を感染させたヒト鼻副鼻腔ALIを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態の詳細な説明
定義:
別段定義しない限り、明細書で使用された全ての技術用語及び科学用語は、当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合には、定義を含めて、本文書が優先されるであろう。好ましい方法及び材料が以下に記載されるが、本明細書に記載されたものと類似又は同等の方法及び材料を、本発明の実施又は試験において使用することができる。本明細書で言及された全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。本明細書に開示された材料、方法及び実施例は、例示にすぎず、限定することを意図するものではない。
【0011】
本明細書で使用する場合、「含む(comprise(s))」、「含む(include(s))」、「有する(having)」、「有する(has)」、「できる(can)」、「含有する(contains(s))」という用語及びその変形例は、追加の行為又は構造の可能性を排除しない、オープンエンドの移行句、用語又は語句であると意図される。単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が沿わないことを明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。また、本開示では、明示的に説明されているか否かにかかわらず、本明細書で提示された実施形態又は構成要素を「含む(comprising)」、これら「から成る(consisting of)」及びこれら「から実質的に成る(consisting essentially of)」他の実施形態も企図される。
【0012】
「免疫応答」とは、本明細書中で使用される場合、抗原の導入に対応した、宿主の免疫系、例えば、哺乳類の免疫系、の活性化を意味する。その免疫応答は、細胞性応答若しくは液性応答、又はその両方の形態であり得る。
【0013】
「先天性免疫」とは、本明細書中で使用される場合、対象の免疫系の不特定部分を意味する。先天性免疫応答は、適応免疫応答のように特定の病原菌に対して特異的というわけではない。それらは、病原菌の保存された特徴を認識するタンパク質や食細胞の群に依存し、そして侵入生物の破壊を補助するために迅速に活性化されるようになる。
【0014】
「対象」とは、本明細書中で使用される場合、本明細書中に記載した免疫原性組成物が投与され得る哺乳類を意味し得る。例えば、哺乳類とは、例えばヒト、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ウサギ、ウッドチャック、リス、マウス、ラット、又は他の齧歯動物であり得る。
【0015】
「治療」又は「治療すること」とは、本明細書中で使用される場合、疾患を予防、制圧、抑制、又は完全に排除する手段によって疾患から対象を防御することを意味し得る。
【0016】
本明細書中における数の範囲の列挙について、それらの間にあるそれぞれの数は、同じ精度で明確に企図される。例えば、6~9の範囲について、6及び9に加えて、7及び8の数が企図され、範囲6.0~7.0について、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、及び7.0の数が明確に企図される。
【0017】
説明
第一の態様において、本発明は、NO産生及び/又は抗微生物ペプチドを上方制御することができる苦味受容体作動薬(その作動薬は、好ましくはキニーネ又はその塩、そしてより好ましくはキニーネ硫酸塩である)の組成物を使用した、気道、特に上気道のウイルス感染を治療する方法に関する。記載した方法は、耳鼻咽喉管(又は上気道)において組成物の分散形態を生じるように分散装置(液体又は固体形態)を介して鼻腔内的に投与し、その結果、SARS;SARS-CoV-2;MERS-CoV;SARS-CoV;(H5N1鳥インフルエンザ、H1N1及びH3N2「ブタ」インフルエンザなどのインフルエンザA型の複数の系統、並びにインフルエンザB型を含めた)インフルエンザウイルス;パラインフルエンザウイルス;ライノウイルス;アデノウイルス;ヒトメタ肺炎ウイルス;呼吸器合胞体ウイルス、及び非病原性コロナウイルスを含めた上気道ウイルスに対して予防及び/又は治療を提供する、苦味受容体作動薬キニーネの局所送達を含む。
【0018】
苦味シグナル伝達は、口又は鼻に入った物質の味を検出する機能に加えて、上気道における細菌の存在及び細菌感染の期間中の先天性免疫応答の活性化を示す機能を果たす。苦味に対する第一の応答は、上気道の上皮細胞における[Ca2+]の上昇を引き起こすシグナルである。苦味受容体が苦味受容体作動薬によって活性化されるとき、細胞内カルシウム濃度[Ca2+]を高め、そしてそれはまた、増強された繊毛運動周波数(CBF)にもつながり得る。
【0019】
[Ca2+]上昇に加えて、上皮細胞における苦味シグナル伝達活性化によって引き起こされた第二の応答は、抗ウイルス産生物の分泌であり、そしてそれは、先天性免疫応答の一部である。抗ウイルス産生物としては、ウイルスの抑制又は殺滅において活性を示す、リゾチーム、ラクトフェリン及びデフェンシンを含めた多くのペプチドが挙げられる。
【0020】
苦味シグナル伝達活性化のさらに別の効果は、一酸化窒素(NO)産生である。NO産生を活性化することができる苦味受容体作動薬は、上気道のウイルス感染に対して先天性免疫応答を活性化するために好まれる。斯かる苦味受容体作動薬の一例は、その塩を含めたキニーネである。
【0021】
そのため、味覚シグナル伝達経路の特定の成分による干渉、すなわち苦味シグナル伝達及び/又は抗微生物ペプチド産生の活性化は、ウイルス感染に対する上気道の迅速かつ強力な先天性抗ウイルス応答を活性化するのに使用され得る。NO産生及び/又は抗微生物ペプチド産生を増強し、その結果、先天性抗ウイルス応答を高めるように苦味シグナル伝達を活性化するあらゆる成分が、本発明で用いられ得る。
【0022】
苦味シグナル伝達を通じたNO産生の活性化及び/又は苦味シグナル伝達を介した抗微生物ペプチド産生は、好ましくは複数の苦味受容体の活性化によって果たされる。T2Rファミリーに属する25種類の既知の苦味受容体がある。異なった苦味受容体は、同じ作動薬に対して異なった親和性を有し得る。そのため、苦味シグナル伝達を活性化するための苦味受容体作動薬の使用は、その作動薬がどの苦味受容体に結合し得るかにより異なった程度の活性を有する。
【0023】
好ましい実施形態において、苦味受容体作動薬は、NOの産生を活性化することができ、及び/又はデナトニウム、フェニルチオカルバミド(PTC)、ホモセリンラクトン、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)、6-n-プロピルチオウラシル(PROP又はPTU)、パルテノリド、アマロゲンチン、アンティデスマ(その抽出物を含む)、コルヒチン、ダプソン、サリシン、クリシン、アピゲニン、キニーネ、及びキニーネ塩を含めた抗微生物タンパク質の産生を刺激することができる。
【0024】
いくつかの実施形態において、鼻副鼻腔上皮細胞において一酸化窒素(NO)産生を刺激するキニーネは、苦味シグナル経路を活性化する剤に使用され得る。さらに、いくつかの実施形態において、鼻副鼻腔上皮細胞における抗微生物ペプチド産生を刺激する苦味受容体作動薬は、苦味シグナル経路を活性化するための剤として使用できる。他の実施形態において、アンティデスマ属(Antidesma sp.)(例えば、アンティデスマ・ブニウス(Antidesma bunius))の果実又は他の部位からの抽出又は化合物が、苦味シグナル経路を活性化する剤に使用され得る。アンティデスマ属からの抽出物又は化合物は、鼻副鼻腔上皮細胞におけるNO産生を刺激することもでき、かつ、キニーネ又はその塩を含む。キニーネは、塩基性アミンであり、通常、塩として提供される、塩酸塩、二塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、グルコン酸塩、そして好ましくは硫酸塩として提供される。
【0025】
好ましい実施形態において、苦味受容体作動薬は、苦味シグナル伝達経路を通して抗微生物性ペプチド産生を刺激でき、そしてその苦味受容体作動薬としては、デナトニウムとアブシンチンが挙げられる。デナトニウムによって刺激された抗ウイルス産生物は、少なくともタンパク質性物質である。別の刺激された抗微生物性ペプチドはβ-デフェンシン2であり、そしてそれは、デナトニウム及び/又はアブシンチンで誘発される。味覚シグナル伝達経路の特定の成分との干渉、すなわち、苦味シグナル伝達の活性化は、上気道における迅速かつ強力な先天性抗ウイルス応答を活性化するのに使用できる。苦味シグナル伝達を活性化し、その結果、先天性抗ウイルス応答を高めるあらゆる成分が、本発明で利用され得る。
【0026】
医薬組成物
本発明の組成物は、好ましくは医薬的に許容される担体と共に処方される。好ましい組成物は、苦味受容体作動薬がENT管、好ましくは上気道、の粘膜層、及び好ましくは苦味受容体に隣接した粘膜層に送達され得るように分散可能な組成物である。
【0027】
本明細書中に提供される組成物は、直接的又は間接的な手段によって適用できる。直接的な手段としては、経鼻スプレー、点鼻液、経鼻軟膏剤、鼻腔ウォッシュ、鼻腔用洗浄剤、鼻腔内パッキング、気管支スプレー及び吸入器、又はこれら及び類似の適用方法の任意の組み合わせが挙げられる。間接的な手段としては、喉飴、口内洗浄剤若しくはうがい薬の使用、又は鼻孔、鼻梁に塗布される軟膏剤の使用、或いはこれら及び類似の適用方法の任意の組み合わせが挙げられる。
【0028】
所望の適用方法によっては、組成物は異なった粘性要件を有してもよい。一実施形態において、組成物は、その組成物がウイルスに対してNO媒介先天性免疫を引き起こすのに、及び/又は抗微生物ペプチド産生を刺激するのに十分な時間にわたり粘液に粘着し得るのに十分に高い粘性を有する。言い換えれば、その組成物が一旦ENT管の粘液に適用されると、比較的高い粘性のため、その組成物は、管内で容易に流れることはなく、及び/又は所望の粘液上でのその組成物の滞留時間を延長する。
【0029】
他の実施形態において、組成物が比較的低い粘性を有することが望まれ得る。例えば、所望の適用方法が鼻腔用洗浄剤であるとき、その組成物は典型的には、比較的大量に鼻腔内に適用される。その洗浄剤には2つの機能がある:1つは上気道から粘液とグルコースを洗い落とすことであり、そしてもう一つは抗ウイルス活性を引き起こすために有効成分を提供することである。よって、鼻腔用洗浄剤の両方の機能を達成するために、比較的低い粘性の製剤を有することが望まれ得る。一つの好ましい実施形態は、抗微生物性ペプチド産生を刺激するために半硬性の製剤として、苦味作動薬(デナトニウム又はアブシンチン)-溶出静脈洞ステントを使用する。
【0030】
例示的な実施形態において、組成物は、ENT管、そして好ましくは上気道、の粘液上に噴霧されても、又はスプレーされてもよい。噴霧は、細かい液滴がENT管の静脈洞や他の部位の中の深くに達することを可能にする。
【0031】
先天性抗ウイルス活性は、おそらく、リゾチーム、ラクトフェリン、カテリシジン、及びβ-デフェンシンなどの抗ウイルスペプチドが気道に持続的に分泌されるようになるので、塩に対する感受性が高い。その結果、これらのペプチドの抗ウイルス活性は、イオン強度(荷電に相当する)に高い感受性を有し得る。本発明の組成物は、低イオン力価で好ましくは処方される。そのイオン強度は、間質液で見られるのと同じイオン強度である、最大約306mEq/L~であり得る。好ましいイオン強度は、約50%のPBS(約150mEq/Lのイオン)である。好ましいイオン強度は、約150~200mEq/Lである。
【0032】
製剤のイオン強度は、送達システムにより変動し得る。粘液との混合効果が最小限であろうから、大容量の送達システム(Netti Pot)ほど、溶液が最適イオン強度範囲(150~200mEq/L)に近づけることが可能になる。低用量の送達システムほど、治療用溶液のさらに低いイオン強度が求められ得る。一実施形態において、組成物は、上気道への適用後の最終的なイオン強度が好ましくは150~200mEq/Lの範囲内になるように、処方される。
【0033】
通常、本発明の組成物は、これだけに限定されるものではないが、溶液、懸濁液、部分的液体、液体懸濁液、スプレー、霧状、ミスト、噴霧蒸気、及びチンキ剤を含めた液体及び/又はエアゾールの形態であり得る。他の実施形態において、組成物は、ENT管の粘液上に粒子で分散させることができる乾燥粉末の形態であり得る。
【0034】
経鼻送達された実施形態において、水性溶液及び懸濁液は、加圧式定量吸入器(pMDI)の溶液又は懸濁液に関して、10μl~2500μl、20μl~2500μl、30μl~2500μl、40μl~2500μl、50μl~2500μl、60μl~2500μl、70μl~2500μl、80μl~2500μl、90μl~2500μl、100μl~2500μl、110μl~2500μl、120μl~2500μl、130μl~2500μl、140μl~2500μl、150μl~2500μl、10μl~2000μl、20μl~2000μl、30μl~2000μl、40μl~2000μl、50μl~2000μl、60μl~2000μl、70μl~2000μl、80μl~2000μl、90μl~2000μl、100μl~2000μl、110μl~2000μl、120μl~2000μl、130μl~2000μl、140μl~2000μl、150μl~2000μl、10μl~1500μl、20μl~1500μl、30μl~1500μl、40μl~1500μl、50μl~1500μl、60μl~1500μl、70μl~1500μl、80μl~1500μl、90μl~1500μl、100μl~1500μl、110μl~1500μl、120μl~1500μl、130μl~1500μl、140μl~1500μl、150μl~1500μl、10μl~1000μl、20μl~1000μl、30μl~1000μl、40μl~1000μl、50μl~1000μl、60μl~1000μl、70μl~1000μl、80μl~1000μl、90μl~1000μl、100μl~1000μl、110μl~1000μl、120μl~1000μl、130μl~1000μl、140μl~1000μl、150μl~1000μl、10μl~500μl、20μl~500μl、30μl~500μl、40μl~500μl、50μl~500μl、60μl~500μl、70μl~500μl、80μl~500μl、90μl~500μl、100μl~500μl、110μl~500μl、120μl~500μl、130μl~500μl、140μl~500μl、150μl~50 0μl、10μl~250μl、20μl~250μl、30μl~250μl、40μl~250μl、50μl~250μl、60μl~250μl、70μl~250μl、80μl~250μl、90μl~250μl、100μl~250μl、110μl~250μl、120μl~250μl、130μl~250μl、140μl~250μl、150μl~250μl、10μl~200μl、20μl~200μl、30μl~200μl、40μl~200μl、50μl~200μl、60μl~200μl、70μl~200μl、80μl~200μl、90μl~200μl、100μl~200μl、110μl~200μl、120μl~200μl、130μl~200μl、140μl~200μl、150μl~200μl、10μl~180μl、20μl~180μl、30μl~180μl、40μl~180μl、50μl~180μl、60μl~180μl、70μl~180μl、80μl~180μl、90μl~180μl、100μl~180μl、110μl~180μl、120μl~180μl、130μl~180μl、140μl~180μl、150μl~180μl、10μl~160μl、20μl~160μl、30μl~160μl、40μl~160μl、50μl~160μl、60μl~160μl、70μl~160μl、80μl~160μl、90μl~160μl、100μl~160μl、110μl~160μl、120μl~160μl、130μl~160μl、140μl~200μl、10μl~140μl、20μl~140μl、30μl~140μl、40μl~140μl、50μl~140μl、60μl~140μl、70μl~140μl、80μl~140μl、90μl~140μl、100μl~180μl、そして好ましくは50μl~140μlの範囲に及ぶ投薬体積を有する。送達容積は、10μl~10,000μl、25μl~9,000μl、50μl~8,000μl、100μl~7,000μl、100μl~6,000μl、100μl~5,000μl、100μl~4,000μl、100μl~3,000μl、100μl~2,000μl、100μl~1,000μl、25μl~10,000μl、25μl~9,000μl、25μl~8,000μl、25μl~7,000μl、25μl~6,000μl、25μl~5,000μl、25μl~4,000μl、25μl~3,000μl、25μl~2,000μl、25μl~1,000μl、25μl~900μl、25μl~800μl、25μl~700μl、25μl~600μl、25μl~500μl、25μl~400μl、25μl~300μl、25μl~200μl、25μl~100μl、25μl~75μl、そして好ましくは25μlの範囲内であり得る。懸濁製剤中のAPIの一次粒子サイズもまた、投薬中に送達される液滴サイズ、及び鼻腔内に投入された時点の粒子の溶解に対してそれが有し得るいずれかの影響、に関して考慮される必要がある。
【0035】
上気道の鼻腔への送達のための本発明の組成物に好適なpH/バッファーとしては:鼻腔内のpH、が挙げられ、イオン化性薬物の吸収の速度と程度に影響を及ぼし得る。平均ベースラインヒト鼻腔pHが約6.3であると報告されており、そして、数種類の市販の経鼻スプレー製品のpHが3.5~7.0の範囲内にある。本発明のいくつかの実施形態において、鼻腔製剤のpH範囲は4.5~6.5であり得る。いくつかの実施形態において、その組成物は:100m~1000m、100m~900m、100m~800m、100m~700m、200m~1000m、200m~900m、200m~800m、200m~700m、300m~3000m、300m~900m、300m~800m、又は好ましくは300m~700m Osmol/Kの範囲内の浸透圧を有する。
【0036】
本発明の組成物は、増粘剤、保存料、乳化剤、着色剤、可塑剤及び溶媒から選択される1若しくは複数の追加の従来成分を含んでもよい。
【0037】
組成物の粘性を調整するのに使用され得る増粘剤としては、化粧品や製薬産業で頻繁に使用される、親水性及び水アルコールゲル化剤などの、当業者に知られているものが挙げられる。いくつかの実施形態において、増粘剤としては、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、セルロースポリマー、カルボマーポリマー(カルボポール)、カルボマー誘導体、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースなど)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニールアルコール、ポロキサマ(Pluronics(登録商標))、多糖類(キトサンなど)、天然ゴム(アカシア(アラビア)、トラガント、キサンタン及びグアーガムなど)、ゼラチン、ベントナイト、蜜蝋、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(Veegum(登録商標))など、並びにその混合物が挙げられる。好ましくは、親水性又は水アルコールゲル化剤は、「CARBOPOL(登録商標)」(B. F. Goodrich, Cleveland, Ohio)、「HYPAN(登録商標)」(Kingston Technologies, Dayton, N.J.)、「NATROSOL(登録商標)」(Aqualon, Wilmington, Del.)、「KLUCEL(登録商標)」(Aqualon, Wilmington, Del.)、又は「STABILEZE(登録商標)」(ISP Technologies, Wayne, N.J.)を含む。他の好ましいゲル化剤ポリマーとしては、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースガム、MVE/mAデカジエンクロスポリマー、ポリビニルメチルエーテル/MAコポリマー、又はそれらの組み合わせが挙げられる。一つの好ましい態様において、組成物及び製剤の粘性は、増粘剤の組み込みによって、そして好ましくは、キニーネ製剤がENT内の粘液膜上での滞留時間を延ばすように、調整される。
【0038】
保存料もまた、本発明の組成物で使用され、そして好ましくは組成物の約0.05重量%~0.5重量%含み得る。保存料の使用は、製品が微生物性に汚染された場合に、製剤が好ましくない微生物の増殖を予防するか又は減少させることを保証する。本願発明で有用ないくつかの保存料としては、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、塩化ベンザルコニウム、臭化セトリモニウム(別名、臭化セチルトリメチルアンモニウム)、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、メチルパラベン、エチルパラベン、エタノール、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ステリルアルコール、安息香酸、ソルビン酸、クロロアセトアミド、トリクロロカルバン、チメロサール、イミド尿素、ブロノポール、クロルヘキシジン、4-クロロクレゾール、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、クロロキシレノール、4-クロロキシレノール、安息香酸ナトリウム、DMDMヒダントイン、3-ヨード-2-プロピルブチルカルバマート、ソルビン酸カリウム、クロルヘキシジンジグルコナート、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
好適な溶媒としては、これだけに限定されるものではないが、水、或いはエタノール、イソプロパノールなどのアルコール、及びプロピレングリコール、ポリエチレン、グリコール、ポリプロピレングリコールを含むグリコール、グリコールエーテル、グリセロール及びポリオキシエチレンアルコールが挙げられる。極性溶媒としては、これだけに限定されるものではないが、水、1若しくは複数の医薬的に許容される塩を有する食塩水溶液、アルコール、グリコール又はその混合物を含むプロトン性溶媒も挙げられる。一つの他の実施形態において、本発明の製剤での使用のための水は、薬物での使用に適用される規制要件に適合するか、又はそれを上回らなければならない。
【0040】
1若しくは複数の乳化剤、湿潤剤又は懸濁化剤が組成物で利用されてもよい。本明細書で使用するための斯かる薬剤としては、これだけに限定されるものではないが、ポリエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80)、ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、ポリソルベート65(ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレートを含むポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステルもしくはポリソルベート;レシチン;アルギン酸;アルギン酸ナトリウム;アルギン酸カリウム;アルギン酸アンモニウム;アルギン酸カルシウム;プロパン-1,2-ジオールアルギネート;アガール;カラギーナン;イナゴマメガム;グアールガム;トラガカント;アカシア;キサンタンガム;カラヤガム;ペクチン;アミド化ペクチン;アンモニウムホスファチド;微晶質セルロース;メチルセルロース;ヒドロキシプロピルセルロース;ヒドロキシプロピルメチルセルロース;エチルメチルセルロース;脂肪酸のカルボキシメチルセルロースナトリウム、カリウム及びカルシウム塩;脂肪酸のモノ及びジグリセリド;脂肪酸のモノ及びジグリセリドの酢酸エステル;脂肪酸のモノ及びジグリセリドの乳酸エステル;脂肪酸のモノ及びジグリセリドのクエン酸エステル;脂肪酸のモノ及びジグリセリドの酒石酸エステル;脂肪酸のモノ及びジグリセリドのモノ及びジアセチル酒石酸エステル;脂肪酸のモノ及びジグリセリドの混合した酢酸エステルと酒石酸エステル;脂肪酸のスクロースエステル;スクログリセリド;脂肪酸のポリグリセロールエステル;ひまし油の重縮合脂肪酸のポリグリセロールエステル;脂肪酸のプロパン-1,2-ジオールエステル;ナトリウムステロイル-2-ラクチレート;カルシウムステロイル-2-ラクチレート;酒石酸ステロイル;モノステアリン酸ソルビタン;トリステアリン酸ソルビタン;モノラウリン酸ソルビタン;モノオレイン酸ソルビタン;モノソルビタンモノパルミテート;キラヤ抽出物;大豆油の二量体化脂肪酸のポリグリセロールエステル;酸化的に重合させた大豆油;及びペクチン抽出物が挙げられる。
【0041】
本明細書中に記載した組成物の経鼻送達にとってより好ましくは、経鼻製品向けのUS FDA不活性成分ガイド(IIG)で列挙されている賦形剤を限られた数含み、そしてそれには、以下のものが挙げられる:
【0042】
【0043】
送達と投与
任意のデバイスが、ENT管の粘液上に粒子として本発明の組成物を投与するのに使用でき、そしてそれには、これだけに限定されるものではないが、バルブ、吸入器、キャニスター、スプレーヤー、ネブライザー/アトマイザー、ピペット、ドロッパー、及びマスクが挙げられる。一実施形態において、組成物は、従来のスプレー投与コンテナにパッケージされるが、但し、そのコンテナの材料は製剤に対応する。好ましい実施形態において、本発明の組成物は、各鼻孔内に直接ミストとして組成物を散布するのに好適なコンテナ内にパッケージされる。例えば、コンテナは、鼻腔内にノズルを通してミストを押し出すコンテナを絞るように、軟質プラスチックで作製され得る。或いは、小さいポンプ、又はピストンのような別の物理的な作動装置が、コンテナ内に空気を送り込み、放出されるように液体スプレーを引き起こしてもよい。
【0044】
代替の実施形態において、本発明の組成物は、使用者と組成物の成分に対して不活性なガスにより加圧されたコンテナ内にパッケージされる。そのガスは、コンテナ内の圧力下で溶解されてもよいし、又は溶解の産物として若しくは反応生成物としてガスを形成する固体材料の溶解若しくは反応によって作り出されてもよい。使用できる好適な不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、及び二酸化炭素が挙げられる。
【0045】
また、他の実施形態において、組成物は、ジクロロジフルオロメタン、クロロトリフルオロエチレンなどの液体推進剤、又はある他の従来の推進剤を用いた加圧コンテナ内にパッケージされてもよい。
【0046】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、ポンプの各作動が粒状物質として一定の体積の製剤(すなわち、スプレー単位毎)を送達するような、定量スプレーポンプ又は定量噴霧ポンプにパッケージされる。
【0047】
滴状様式で投与するために、本発明の組成物は、好ましくは、実質的に固定された体積の製剤もまた送達する、ピペットなどを含めた従来のドロッパー/閉鎖デバイスと共に提供されたコンテナに好適にパッケージされてもよい。
【0048】
送達デバイス
苦味受容体作動薬の送達に好適な送達デバイスの一つのクラスは、定量吸入器である。定量吸入器は、携帯性などの多数の利点を提供し、外部電源を必要とせず、及び固定用量の製剤が送達される。薬剤の効果的なエアゾール化送達は、加圧式定量吸入器(pMDI)により可能である。pMDIは、推進剤、香味料、界面活性剤、保存料、及び活性薬物組成物の混合物から成る加圧系である。pMDIによる薬物送達は、混合物が作動装置ブートのデザインに合わせたバルブとステムを通して送達デバイスから放出されるとき、おこなわれる。作動装置デザインにおけるわずかな変化が、加圧式定量吸入器のエアゾール特性と排出量に影響し得る。より新しいpMDIは、協調デバイス又は呼吸作動式に分類される。Easibreathe(登録商標)などの呼吸作動式pMDIは、患者の呼吸と吸入器作動の間の協調不全の問題を克服するように設計されているデバイスである。Easibreathe(登録商標)デバイスは、患者の呼吸速度に従って動作し、デバイスの活性化のトリガー感度を自動的に調整する。pMDIは、呼吸-協調的であり、吸入器からの用量の放出に沿って吸気速度を同期させるように工夫されている。pMDIの信頼度は、薬物作動と患者の変動性の間の協調した呼吸流量を通して確かめられる。pMDIから放出された後に液滴サイズを軽減するために、Hydrofluoroalkane-134とエタノールの混合物への溶存態CO2の添加が液滴サイズを低下させる、より洗練されたアプローチがKelkar and Dalbyによって提案された。チューブ又は延長デバイスとしてのスペーサーの利点は、それが患者とpMDIデバイスとの間の界面に置かれる点である。AeroChamber Plus(登録商標) Flow-Vu(登録商標)などのVHC(バルブ付保持チャンバー)の使用は、吸入と、マウスピース末端の一方向バルブから成るチャンバー内への呼気の予防を可能にする。VHCの利点は、患者が流れていないエアゾール雲から呼吸することを可能にするので、呼吸協調を必要としない点である。電気集塵の現象はpMDIからの用量の送達を低減する。より新しいスペーサー器具とVHCなどの吸入式薬物送達デバイスは、それらが抗静電気ポリマーを作り出す場合、スペーサーの内壁への放出粒子の接着を最小限にするのに関与する。新世代スペーサーは、患者が効率的に吸入しているか又は治療法に応じ得るかを示すことができる。非常に狭い範囲の粒度を有する単分散エアゾールは、それが最も効果的である肺の特定の領域に薬物送達を標的化してもよい。しかしながら、より小さい粒子を、肺胞を介して肺循環により容易に吸収させるとき、これらの製剤は全身性副作用のより高い発生率に関連し得る。
【0049】
苦味受容体作動薬を送達するのに好適な別の送達デバイスは、乾燥粉末吸入器である。乾燥粉末吸入器(DPI)は、乾燥粉末の形態でENT管の粘膜層に薬剤を送達する。乾燥粉末吸入器の製剤は、エアゾール化した薬剤粉末を送達し、ここで、その製剤は、より大きい分散力に晒されて、個別粒子に脱凝集した。デバイスの範囲は、凝集粒子を分割し、これにより吸入可能な粒子を達成する、高速気流内に粉末を投入する能力を有する、Clickhaler、Multihaler、及びDiskusなどが設計された。デバイスSpinhaler及びTurbuhalerは、粒子とデバイス表面の間の衝突に起因する脱凝集機構に依存する。乾燥粉末吸入器の設計は、制限、すなわち、流量とデバイスの吸入器抵抗の間のバランス、に悩まされている。乾燥粉末吸入器では、より速い気流が粒子の脱凝集の増大に必要であり、そして、より高度な微粒子画分を達成することは、より強い衝突によって可能になる。乾燥粉末(power)吸入器は肺への送達に関して問題を有するのに対して;ENT管の粘液への記載した組成物の投与は、 (肺への)の同レベルの侵入を必要としないので、これにより斯かる問題を回避する。
【0050】
DPIシステムの性能は粉末製剤と吸入器デバイスの性能に依存する。近代的なデバイスが、呼吸活性化又は動力駆動機構に基づく様々な粉末製剤(単回又は複数回用量粉末吸入器)のために探索されている。現在販売されている受動デバイスは、粉末の個別の粒子への散布のために患者の吸息気流に依存する。DPIデバイスは、患者自身によって必要な吸息成果を制御する気流の抵抗性の差によって区別され得る。吸入器デバイスからの最大投与量に達するように、デバイスの抵抗性が増加中には難しくなる吸息流量の適切な発生がなければならない。
【0051】
従って、乾燥粉末吸入器は、粉末分散機構、デバイス内に取込まれている用量の数、並びに粉末エアゾール化デバイスに関する患者の支持及び調整などのいくつかの要因に関して分類できる。単回投与DPIでは、用量は個々のカプセル内に処方される。単回投与送達のための機構は、患者が各投与前に一つのカプセルをデバイスに装填しなければならない。単回投与DPIはさらに再使用可能器具又は使い捨て器具に分類されるが、それに対して、マルチユニット用量DPIは、そのデバイスが同時に複数の用量を保持できるようパックされた工場で定量及び密封された用量を利用するので、それぞれの用量の投与前に、再装填をしなくてもよいという利点を有する。単回投与デバイスであるRotahaler(商標)及びSpinhaler(商標)もまた、最初の目立たず販売されていた乾燥粉末吸入器であった。Rotahaler(商標)では、粉末用量はデバイス内のカプセルの中に取込まれている。
【0052】
単回使用の乾燥粉末吸入器は、それらが使用に関して経済であるので、経口薬物送達のために考案され得る。MDIはコンパクトかつ携帯可能なパッケージで低価格かつ簡便な薬剤送達を提供する。カプセルベースのDPI技術は、抗生物質の送達のためにAerohaler(登録商標)の導入を用いた前世紀中頃に導入された治療適用に使用される。1960年代の末に導入された次のデバイスは、それが患者によってその投与前にデバイス内に取込まれる得るゼラチンカプセル内にブロンコ活性薬物の粉末製剤を含む最初のDPIであったので、Spinhaler(登録商標)であった。斯かるデバイスは、そのデバイスが分散粉末の大部分又はすべてをENT管の粘液に送達できるようにするために修飾され得る。いくつかの実施形態において、利用可能な送達選択肢(大部分がDPI)は、より大きな担体粒子、ほとんどの場合、ラクトースと混和された細粉薬物(粒度<5μm)から成る。ラクトースの存在は、薬物製剤のエアゾール化送達前の粉体流を改善する助けとなる。吸入又は機能している強制分散中の粉末製剤は、鼻腔又は口腔の標的領域に沈着し得る。引き伸ばされた更なる粒子は、粒子の不安定な相互作用によって放出されたより高度な微粒子画分を実現することがわかった。薬物と担体粒子との相互作用は、製剤の性能に重要である。表面構造の不規則性は、粒子のより強い相互作用を回避するので、空力ストレスによる互いの分離における困難を伴わない。カプセルの表面特性の変化は、製剤及びデバイス内の最適性能標的を達成するための粉末滞留の修飾に使用される。Breezhaler(登録商標):現代のカプセルベースDPIの例。それは、デバイス管理と外観を改善する手段を変更する設計から成る、改良されたAerolizer技術を有する単回投与DPIシステムである。Breezhalerは、カプセルからの薬物送達に使用される別のデバイスである。デバイスの設計には、カプセルベースのDPIシステムであるHandiHalerデバイス(0.22cm H2O/L/分)と比較して、より低い内部空気流抵抗(0.15cm H2O/L/分)を有する。
【0053】
Turbuhalerは、リザーバー内に貯蔵された最大200の用量の薬物を含有し、そして、pMDIとして効率的に薬物を二度送達するデバイスである。Turbuhalerの微粉化薬物を含めた本来の製剤は純粋な薬物のみを含んでいるが、最近の製剤では、活性薬物は薬物粒子のサイズと類似したサイズのラクトース粒子と混和される。ナノスケールで製剤を送達する様々なタイプのネブライザーが、最も有利なものである。より洗練された新規薬物担体の開発は、ナノ技術の進歩に起因し、液体による噴霧化の進化形態は、これらの洗練されたエアゾール化粒子の送達を可能にする。噴霧化デバイスは、細かい液滴による薬物又は製剤の送達を意味する。エアゾール送達のための呼吸粒子の最適化は、1~5μmのサイズ範囲内でおこなわれなければならない。ジェット、超音波及びナノ液滴噴霧化エアゾールなどのネブライザーは、サイズが1~5μmの粒子を作り出す。ナノ担体送達は、噴霧化ナノ粒子又は懸濁液によって達成される。ナノ担体送達は、より迅速な開始、延長された効果、より優れた通常投薬、及びより低レベルの用量と同等な効率などの様々な利点を提供する。ナノ液滴を調査する新しい方法は、マイクロ液滴を作り出し、さらにナノ液滴を作り出すように設計され得るジェット又は超音波ネブライザーを介する。以下のものがDPIデバイスの例である:
【0054】
Spinhlaer(Aventis)-スピンキャップと呼ばれる透明なオレンジ色と白色のカプセル内に含有された乾燥粉末;Rotahaler(GlaxoSmithKline)-呼吸作動吸入器デバイスはRotacapから薬剤を放出する;Diskhaler(GlaxoSmithKline)-ディスク上に薬剤の用量をそれぞれ含有する小袋(又はブリスター)を保持する乾燥粉末吸入器;Diskus(GlaxoSmithKline)-喘息又はCOPDからの突然の呼吸障害を治療するために使用される;Turbuhaler(Astra Zeneca)- 緊急時に利用可能なパファーとスペーサーを使用することが推薦される;Handihaler(Boehringer-Ingelheim)- 気管支拡張剤チオトロピウムを含むスピリーバ吸入カプセルの内容物を送達するために使用される;Tiotropium Inhalator(Boehringer-Ingelheim)-精密仕上げ、高い強度、及びサイズ精度を有する使い易いデバイス;Cyclohaler(Pharmachemie)-薬物製剤向けのゼラチンカプセルを使用した単回投与システム;Aerolizer(Novartis)-あなたの肺の気道周囲の筋肉を弛緩したままにして、喘息状態を治療するのを助ける;Pulvinal-胸の病気を治療するのに、及び運動又は他の「トリガー」によって引き起こさる喘息症状を回避するのに使用される;Easyhaler(Orion Pharma)-環境にやさしく、効果的で、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患の治療に使い易い;Clickhaler(Innovata Biomed/ML Labs Celltech)-それが必要とされている肺に向かって薬剤を送達するときに有効;Beclomethasone dipropionate Novolizer(ASTA Medica)- 複数用量を、詰め替え可能で、一つのカートリッジから最大200の定量の用量の薬物を送達する;Twisthaler(Schering-Plough)-流量から比較的独立している吸入デバイス;Aerohaler(Boehringer-Ingelheim)-特にカプセルからの薬剤中での呼吸を可能にする使い易い吸入器。斯かるデバイスは、その粒子が鼻と口のENT腔に実質的に又はほとんどが送達されるように、粒子を増強する及び/又は気流を低減するように当業者の範疇の中でさらに修飾され得る。
【0055】
苦味受容体作動薬、そして好ましくはキニーネ及びその塩の送達のための送達デバイスに関する別の例は、噴霧化及びアトマイザーシステムである。吸気中、大気はエアゾール化送達のためにネブライザーを横切るが、それに対して、呼気中には、エアゾール内部の空気は雰囲気の外側にエアゾールを追放する。したがって、大気条件下、ネブライザーからの残留薬物の漏れが存在し有る。ジェットネブライザーは、エアゾール生成のために開発された最初の技術的運用であった。それはコンプレッサーからのガス流を利用する機構により動作する。製剤の噴霧は、ガスが通過するネブライザー内の小さい開口部を通じて起こる。噴霧された粒子は、バッフルへと駆動された空気であり、そしてそれは小さい液滴と大きい液滴の両方から成る。バッフルによって引き起こされた衝突は、より大きな液滴をもたらし、次に、反対側へと押し付け、ネブライザー内部で液体形態に再生された。漏れによる呼気中のエアゾール粒子の有意な損失があってもよい。更なる3タイプのジェットネブライザーが存在し、そしてそれは、吸入中のそれらの排出に従って定義される。標準的な無排気ネブライザーは、患者の吸気及び呼気相の間に一定の排出がある場合に使用される。
【0056】
ジェットネブライザーは、以下の特徴、例えば、A. 追加の吸入された空気;B. マウスピース-それは患者の吸気のための手段である;C. それを通した加圧ガスの通過による開口部を通るエアゾール生成物の放出;D. バッフル-バッフルの通過によって起こるエアゾール送達;E. リザーバー-それは好適な薬物製剤を含有する;F. 製剤による加圧給気、から成る、エアゾール化送達のために好ましいデバイスである。
【0057】
超音波ネブライザーは、それらがジェットネブライザーより大きな排出能力を有するので、エアゾール療法のために大抵は好まれる。エアゾール化粒子の生成は高周波超音波によるが、必要とされる振動は圧電性結晶の(1.2~2.4MHz)の範囲内である。振動機構は、小さな及び大きな液滴から成る液体-製剤の噴水を更に生じる液体製剤への移行に至る。大きな液滴が液体製剤リザーバー内に回収される。小さい液滴は、ネブライザーのチャンバーの内部に保存され、それが患者によって吸入される。ジェットネブライザーと比べて、残渣塊がネブライザーデバイス内に確認されるが、エアゾールの送達にかかわるガス供給源がないので、振動機構の利点が漏れを克服する。吸入可能治療法に大抵使用される超音波ネブライザーの2つのカテゴリが存在する。標準的なネブライザーは、薬物が圧電性変換器に直接接触しているものである。このことは、変換器の加熱により薬物の温度を高める結果となる。しかしながら、圧電変換器は滅菌するのが難しい。
【0058】
水境界を有する超音波ネブライザーは、圧電性変換器と薬物製剤のための別のリザーバーとの間の水を利用する。水は、過熱と変換器からの薬物を軽減する助けとなる。超音波ネブライザーは、高い粘着性がある液体、或いはより高い表面張力を有する懸濁液又はものを霧化しない。エアゾールは、残留質量が薬物質量の~50%であるときにだけ加熱される。圧縮空気ネブライザーと異なり、超音波ネブライザーは高価であり、かつ、かさばる。
【0059】
メッシュネブライザーは、液体薬物製剤並びに懸濁液を送達するために使用できる;しかしながら、懸濁液の場合に、性能は吸入エアゾールの質量と排出速度に関して低減されるように思える。インビトロ研究の結果は、販売されているメッシュネブライザーが薬物の効率に影響せずに噴霧時間を短縮することを示唆した。販売されているメッシュネブライザーの性能に影響を及ぼすパラメーターは、洗浄及び殺菌である。固定メッシュネブライザーは、ネブライザー内部の液体薬物製剤の送達を可能にし、そしてそれは、力を加えることによって送達される。1980年代にOmron Healthcare(Bannockburn, IL, USA)は、最初の固定メッシュネブライザーを導入した。メッシュネブライザーは、湿度と熱に弱い、すなわち、10~15分間の0.1%のベンズアルコニウム溶液の浸漬によるオートクレーブ処理では不可能である、医療用デバイスを殺菌するための代替手段を提供する。
【0060】
振動メッシュネブライザーは、振動機構を利用して、メッシュを介して液体製剤を送達する。輪状の圧電素子は、メッシュに直接接触するその位置に起因して可能であるメッシュの変形につながる。製剤とデバイスの両方が、肺の標的化のためのネブライゼーションシステムの良好な使用のために等しく重要である。振動メッシュネブライザーは、それが肺深部に到達する可能性が最も高いとき、エアゾール化粒子を作り出すことによって連続ネブライゼーション技術を提供する。最近の振動メッシュネブライザーは、損失の少ない正確な用量を送達でき、利便性が高く、及び高い薬物局在性効率を伴ったエネルギー効率の携帯型装置である。大きい断面積を有する円錐構造のメッシュは、薬物製剤の吸上げと取込みを簡易にする。メッシュの変形は、穴を通る液滴に影響し、それに続いて、吸入剤の気道取込みを改善する。エアゾールデバイス(MDI、DPI、及びネブライザー)の三大タイプが存在し、それらが、特定の臨床状況において安全であり、かつ、有効であることがわかっている。増加した用量を用いた治療は、ネブライザーからのより大きい名目上の用量に同等な結果を得るために、MDIパフの数を増加する必要があるであろう。MDI、DPI、及びネブライザーのデザインと肺沈着の改善は、ベクロメタゾンの新しいヒドロフルオロアルカン推進MDI製剤、定量液状スプレーRespimat、及びSpirosのDPIシステムによって例示される。別の例はAeroneb(登録商標)Goであり、そしてそれは、電解によって得られる100kHzで振動する1000穴から成る水平メッシュ領域を有する振動メッシュネブライザーである。液滴の放出は、メッシュネブライザーの基部における衝突現象によって中程度の速度でメッシュの穴から生じる。エアゾール粒子の送達は低速で起こる。ENT管への本発明の組成物の送達を可能にするネブライザーモデルのいくつかの例としては、以下のものが挙げられる:
【0061】
【0062】
好ましいアトマイザーの一つがLMA(登録商標)MAD NASAL(商標)Intranasal Mucosal Atomization Device(Teleflex、Morrisville、NC)である。
記載した液体組成物を送達できる別のデバイスは、斯かる液体組成物をエアゾール化することができるSilgan Holdings(Stamford, CT)製の送達デバイスである。本発明の組成物を送達できるデバイスの追加アレイは、MDI、DPI、鼻腔ポンプ及び他のスプレーデバイス、並びにAptar Pharma製のデバイスなどの作動装置ベースの送達デバイスである。例えば、その送達デバイスは、VP7スプレーポンプ(Aptar Pharma)、予圧鼻腔スプレーポンプ、又はVP3マルチ用量ポンプスプレーデバイス(Aptar Pharma)であり得る。Nemeraから入手可能なポンプ送達デバイスはまた、現在記載した液体組成物も送達できる。
【0063】
さらに、Optinose(Yardley、PA)の呼気送達デバイスは、その中の粘膜層への苦味受容体作動薬の適用のために、記載した組成物をENT腔に送達するために使用できる。好ましくは、使用される送達デバイスにかかわらず、本明細書中に記載した製剤を、繊毛のある鼻副鼻腔細胞が常駐する鼻腔に鼻腔内的に送達する;一例として、送達デバイスは、鼻甲介を被覆するために、後部鼻腔に製剤を適用し得る。いくつかの実施形態において、本明細書中の製剤は、鼻腔モデリングに基づく鼻甲介に噴霧化スプレーされる。
【実施例】
【0064】
本発明は、更に以下の実験実施例を参照して詳細に記載される。これらの実施例は、説明する目的だけのために提供されており、特に指示がない限り、限定することを意図しない。このため、本発明は、以下の実施例に限定されると解釈しては一切ならず、むしろ、本明細書に提供した教示の結果として明白になる任意の変化及び全ての変化を包含すると解釈しなければならない。
【0065】
更なる説明なしに、当業者であれば、前記の説明及び以下の実例を使用して、本発明を生成し、利用し、クレームされている方法を実施することができると考えられる。それゆえに、以下の作業実施例では、具体的に本発明の好ましい実施形態を明らかにし、いかなる方法でも本開示の残りを限定するものと解釈してはならない。
【0066】
ALIウイルス感染モデル:
キニーネ溶液製剤の効果のインビトロ評価では、培養鼻副鼻腔上皮細胞の気液界面(ALI)モデルで完成される。ALIモデルを利用した以前の記載した試験は、細胞上部に常駐するだけで、細胞に浸潤しない細菌を使用した。この実施形態において、ALIモデルはウイルスにかかわり、そしてそれは、細胞内に浸潤し、細胞の宿主機構を使用して増殖する。また、例として中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)を用いたこのモデルを使用することは、ALIモデルにおける感染細胞もまた合胞体形成を見せることを示した。
【0067】
鼻副鼻腔粘膜標本を、承認されたプロトコール下、そしてインフォームドコンセントを得た後に、鼻副鼻腔手術中に得られた残留臨床材料から取得した。ALI培養物を、人体組織を酵素的に分離し、そして、100U/mLのペニシリン、100lug/mLのストレプトマイシンを補ったDMEM/Ham’s F-12及び気管支上皮基本培地(BEBM;Clonetics, Cambrex, East, N.J.)から成る増殖培地の入った組織培養フラスコ(75cm)内で密集状態まで7日間培養した、ヒト鼻副鼻腔上皮細胞(HSEC)から樹立した。次に、細胞を、トリプシン処理し、100μLのコーティング溶液IBSA(0.1mg/mL;Sigma-Aldrich)、I型ウシコラーゲン(30g/mL;BD)、LHC基本培地(Invitrogen)中のフィブロネクチン(10μg/mL;BD) でコートした細胞培養インサート(Transwell-clear、直径12mm、0.4μm孔;Corning, Acton, Mass.)中、多孔質ポリエステル膜上に播種し(6~7×1011細胞/膜)、そして組織培養フローフード内に一晩静置した。5日後に、培地を上部区画から取除き、そして、上皮を、基本区画中の100UI/mLのペニシリン、100g/mLのストレプトマイシン、0.1nMレチノイン酸(Sigma-Aldrich)、及び10%のFBS(Sigma-Ald rich)を補った、hEGF向けのClonetics補体(0.5ng/mL)、エピネフリン(5g/mL) 、BPE(0.13mg/mL)、ヒドロコルチゾン(0.5g/mL)、インスリン(5g/mL)、トリヨードチロニン(6.5g/mL)、及びトランスフェリン(0.5g/mL)を伴った、1:1のDMEM(Invitrogen, Grand Island, N.Y.)とBEBM(Clonetics, Cambrex, East Rutherford, N.J.)から成る分化培地を使用することによって分化させた。ヒト気管支上皮細胞(Lonza, Walkersville, Md.)を、先に記載したのと同様に培養した。微生物学的スワブを、血液寒天、並びにグラム陰性菌の分離のためのMacConkey寒天の両方を使用して臨床微生物学研究室によって処理した。斯かる細胞と解析法は米国特許公報第2015/0017099A1号に提供されており、それを全体として参照により本明細書に援用する。
【0068】
苦味受容体刺激は、鼻上皮細胞(鼻副鼻腔ALI培養物)による抗微生物分泌を引き起こすことができる。鼻腔ALI培養物の頂端面をPBS(3×200μLの体積)で洗浄し、続いて、吸出し、そして、30μLの50%のPBS又はデナトニウムを含む50%のPBS、或いは本発明の他の受容体作動薬のうちの1つを添加した。37℃にて30分間のインキュベーション後に、頂端面液体(ASL、任意の分泌された抗微生物物質を含有)を取除き、そして、インフルエンザ又はコロナウイルスなどのウイルスと混合した。気道抗微生物質の抗微生物活性が強い塩依存性を有することがしめされたので、低塩条件(50%のPBS;25%の細菌培地)が使用され得る。37℃にて2時間のインキュベーション後に、ウイルスASL混合物を段階希釈して平板培養し、そして、一晩インキュベートした。デナトニウムで刺激した培養物から取除かれたASLを、抗ウイルス活性について確認した。
【0069】
デナトニウム、アブシンチン又はキニーネ(及びその塩)を含めた本発明の苦味受容体作動薬は、例えばインフルエンザやコロナウイルスを含めたウイルスを殺滅するために鼻副鼻腔細胞培養において抗ウイルス活性を刺激するために使用した。殺滅アッセイを、50%のPBSのみ(非刺激)、及び本明細書中に記載の苦味受容体作動薬で処置した培養物からのASLを適用する。いくつかの例では、作動薬は、デナトニウム、アブシンチン、キニーネ(その塩を含む)であり、そして特に10mMのデナトニウム、及び300μMのアブシンチンであり得る。
【0070】
インフルエンザAによるヒトALI感染
ヒト鼻副鼻腔ALIをH1N1インフルエンザAに感染させ、そして、上皮細胞の死滅及びウイルス量のエンドポイントに対するqPCRによって測定した場合のキニーネ前処理の効果を、ヒト繊毛鼻副鼻腔気液界面(ALI)モデルで評価した。
【0071】
2人の別々の患者(A及びB)由来のALIを樹立した。対象BのALIは、より成熟しており、頂端面により高密度の繊毛を有し、これにより、事前にキニーネに対してより大きい応答性を有しているとみなした。細胞に1又は10のいずれかの感染多重度(MOI)にてヒトH1N1インフルエンザA菌株PR8を感染させた。感染1時間後に、細胞を0.1%の硫酸キニーネ、二水和物で刺激した。細胞を72時間維持しながら、栄養を与え、かつ、毎日キニーネで処置した。細胞は、生存状態を維持し、かつ、見た目に健康であった。細胞を感染後72時間にて回収した。ウイルスRNAを細胞溶解物から回収した。ウイルスNP、IAV-M1、及びM1遺伝子のPCRを実施した。
図1 a) IAV_NP及び1b) IAV_M1に示したとおり、より成熟した対象BのALI培養において、NP及びIAV-M遺伝子の両方に関して転写産物の顕著な相対減少があり、そして、0.9%の塩化ナトリウム中の0.1%のキニーネ溶液で処置したとき、1のMOIにて、対象A細胞のより少ない相対的減少があった。
【0072】
実験では、複数のヒトドナーからのALIモデルにおいてヒト繊毛鼻副鼻腔上皮細胞に対してインフルエンザA型、パラインフルエンザを試験する。培養物を、前処理キニーネとそれに続く1/2時間後のウイルス感染、並びに1時間にわたり感染させ、次に、3日間にわたり毎日繰り返されるキニーネを用いて1時間後に処置した細胞を用いた感染後処置、の両方で評価した。ALIを、3日目(そのときに、細胞を収集し、そしてウイルスタンパク質の存在について染色した)まで頂端流体からのサンプル抽出によって毎日算定した生存率とウイルスRNA量について評価した。細胞を1及び5のMOIにて感染させる。
【0073】
SARS-CoV-2によるヒトALI感染:
ヒト 鼻副鼻腔 ALIを重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)に感染させた。成熟繊毛ALIを、SARS-CoV-2を用いて1時間感染させ、そして細胞を72時間維持した。それぞれ
図2A及び2Bの2つのパネルにおいて、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(N)の染色は赤色で示され、緑色で示されるムチン(MUC5AC)又はβ-チューブリンの対照染色を伴った。
【0074】
ヒト鼻副鼻腔上皮細胞を、気液体界面(ALI)モデルの組織培養において培養した。細胞をペンシルバニア大学にて、その大学での進行中のプロトコール及び承認された試験の一部として患者から収集した。材料を、非特定化したが、人口統計及び臨床データを伴って維持した。培養細胞を、臨床的に本来の場所の鼻副鼻腔上皮と同じ気界面上に繊毛を発現させる。斯かる細胞はまた粘液も生じ、通常の繊毛運動と繊毛運動周波数を証明する。
【0075】
別の試験では、2人の患者のALIを、個々のウェルに分離し、10^4のSARS-CoV-2(UPenn/フィラデルフィア菌株)に晒した。1時間後に、その細胞を、0.9%の生理食塩水中の1mg/mLの硫酸キニーネ溶液で処置したか、又は未処理のまま静置した。次に、その培養細胞を、ウイルス及びキニーネ溶液(示したとおり)と共に48時間にわたりインキュベートし、その後、収集し、固定し、そして染色して、細胞内のSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質を検出した。細胞をまた、4'6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)でも染色して、細胞の核を検出した。DAPIブルー染色細胞及び感染細胞(赤色で染色される)の数を計測した。
【0076】
ALIモデルにおける感染試験では、>80歳のスペイン系非喫煙男性について
図2C及び2Dに示す。この患者からの未処置細胞(
図2Cに示す)が高頻度のSARS-CoV-2感染細胞(赤色染色細胞)を示した一方で、キニーネ処置細胞(
図2Dに示す)は有意に少ない感染細胞(赤色染色)を示した。
【0077】
第二の患者である、50代半ばの喫煙男性は、SARS-CoV-2感染細胞のより一層劇的な減少を示した。未処置細胞が約25%の感染細胞を示した(
図2E)一方で、処置細胞は感染がほとんど無かった(
図2F)。
【0078】
感染細胞を定量的蛍光画像化によって数えた。両患者からの2つの独立した測定値を通じた感染細胞の平均パーセントを以下で表にした。
【0079】
【0080】
よって、これらのインビトロにおける結果は、患者の年齢にかかわらず、さらに、喫煙歴にかかわらず、キニーネが鼻副鼻腔ALIにおけるSARS-CoV-2感染を減少させるのに有効であることを実証する。そのうえ、この効果は、ウイルス増殖に好都合であろう実験条件で、細胞インキュベーションの全期間にわたり培地中に残っているウイルスにもかかわらず存在した。
【0081】
MERS-CoV-2によるヒトALI感染:
ヒト鼻副鼻腔ALIを、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)に感染させた。成熟繊毛ALIを、1時間にわたりSARS-CoV-2に感染させ、そしてその細胞を72時間維持した。MERS-CoVヌクレオカプシドタンパク質(N)の染色を、ムチン(MUC5AC) 又はβ-チューブリンの対照染色と共に、それぞれ
図3A及び3Cに示す。
【0082】
上皮細胞死滅を予防するためのMERS-CoV感染の予防に対するキニーネ前処置又は後処置後の効果を、3日間の感染期間にわたりALIで評価する。一つの実験では、細胞を、1mg/mlのキニーネで1時間にわたり前処置し、PBSで洗浄し、次に、1のMOIで1時間感染させた。細胞はウイルスと共に3日間インキュベートし、毎日頂端流体でqPCRによってサンプル抽出し、そして細胞を3日目に収集して、上述のとおり細胞内のウイルスを検出した。別の実験では、細胞をMERS-CoVに1時間感染させ、PBSで洗浄し、次に、1mg/mlにてキニーネで1/2時間処置し、さらに毎日繰り返した。細胞を3日間インキュベートする。ウイルス複製を頂端流体からのqPCRによって測定し、そして、3日目に、細胞を収集し、そして、ウイルスを上述のとおり免疫組織化学によって細胞内で検出した。
【0083】
SARS-CoV-2によるヒトALI感染:
ヒト鼻副鼻腔ALIを、SARS-CoV2(COVID-19)に感染させた。成熟繊毛ALIを、1時間にわたりSARS-CoV-2に感染させ、そしてその細胞を72時間維持した。SARS-CoV2ヌクレオカプシドタンパク質(N)の染色を、
図4A~4Dに示す。
緑色の染色によって示されるように、アッセイは、ヒト鼻副鼻腔細胞におけるSARS-CoV2感染の最初の成功を示す。
【0084】
SARS-CoV-2のフェレット抗原接種モデルにおけるキニーネ保護:
フェレットは、SARS-CoV-2に感受性を有しており、かつ、病気を発症するごく一部の動物のうちの1つである。0.9%の生理食塩水(普通の生理食塩水、NS)中の硫酸キニーネ二水和物の0.1%(1mg/mL)溶液の経鼻点滴は、一酸化窒素(NO)の放出を引き起こし、さらにまた、SARS-CoV-2感染に対してフェレットも保護した。雌フェレット(6~8週齢)は、鼻上皮細胞の刺激と、それに続く0.9%の塩化ナトリウム中の硫酸キニーネ二水和物の1mg/mL溶液の経鼻点滴後に、NO産生の評価を受けた。12匹のフェレットを4つの群に分けた。
【0085】
イソフルランを用いた全身麻酔の導入に続いて、鼻孔を1mLの生理食塩水で洗い流した。生理食塩水洗浄後に、200μLのキニーネ又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)のいずれかを、キニーネと3つのPBSを受けている9匹の動物に注入した。処置に続いて、鼻腔洗浄を、PBSで処置した動物について5分に実施し、そして、NO測定のために流出液を回収した。9匹のキニーネ処置動物を3匹の動物の3つの群に分けた。NO測定のための流出液の回収を伴った鼻腔洗浄を、処置後、一群については5分に、第二の群については10分に、そして第三の群については15分に実施した。NO評価を処置に対して盲検化した。溶出液を、すぐに冷凍し、次に、NOレベルについてペンシルバニア大学にてアッセイした。PBS処置動物におけるNOの定量評価が5.58ng/mLであったのに対して、キニーネ処置動物のNOは、5分において6.64ng/mL、10分において6.42ng/mL、及び15分において6.52ng/mLであり、NO産生がすべての動物においてベースラインを超えて増強され、そして、処置後少なくとも15分間にわたり持続的上昇が維持されたことを実証した。
【0086】
次に、3日間のウオッシュアウト期間後に、同じ12匹のフェレットを、SARS-CoV-2(SARS-CoV-2/カナダ/ON/VIDO-01/2020/Vero76年/p.2と示される菌株)を用いて抗原接種した。3匹のフェレットの4つの群のうちの2つには、200μLのキニーネを一方の鼻孔内に処置し、そして、他の2つの群はPBSで処置した。処置後の5分で、動物には鼻孔あたり25μLのSARS-CoV-2で抗原接種した。2つの群(PBS及びキニーネ処置)について、抗原接種用量は10*4 TCID50であり、それに対して、2つの群には、10*5 TCID50の用量で抗原接種した。各動物には、抗原接種後24時間でもう一度、本来の処置割り当てによって、PBS又はキニーネのいずれかで処置した。鼻腔洗浄液を1日目(前処置)に回収し、そして抗原接種後に3回繰り返した。動物を3日目に屠殺し、そして、鼻甲介組織を、rtPCRによるウイルス量の定量測定のために回収した。
【0087】
鼻腔洗浄液は、感染後の両日において処置動物に関してウイルス量の減少を示し、そして、最も劇的な差を、抗原接種後3日目に観察した。ウイルス量測定値を、以下の表に示す。そのうえ、キニーネで処置し、及び少量又は大量の抗原接種ウイルスによるSARS-CoV-2を用いた抗原接種により抗原接種した6匹の動物では、6匹の動物の1匹(16.7%)だけが抗原接種後1日目に検出可能なウイルスを有し、それに対し、対照の6匹のうち2匹(33%)であり、そして、それぞれ3日目に50%対67%であった。
【0088】
【0089】
検死にて採取した鼻甲介組織内のウイルスの計測は、抗原接種用量にかかわらず、処置動物が顕著に低いウイルスの平均ウイルス量を有することを同様に実証した(以下の表を参照)。
【0090】
【0091】
これらのデータは、0.9%の生理食塩水中の1mg/mLの溶液としての鼻腔内キニーネ点滴がフェレットの鼻甲介におけるSARS-CoV-2感染を効果的に軽減することを実証する。注目すべきは、動物をウイルス抗原接種の5分前に前処置したこと、及び24時間後に単回の抗原接種後処置のみを与えたことである。あらゆる残存ウイルスが抗ウイルス効果の不存在下で処置後に急速に増殖することが予想されるので、それは、単回処置でさえウイルスの有意な減少を示し、そして、鼻腔コロニー形成と感染を軽減するための予防薬として及び処置薬としての両方のこの処置の潜在的価値を示す。
【0092】
ヒト臨床試験
硫酸キニーネ二水和物の使用はまた、付随的SARS-CoV-2感染に対する予防薬として第II相臨床試験でも試験される。この臨床試験(NCT04408183)は、経鼻アトマイザーによって投与される硫酸キニーネの製剤溶液(1mg/mL、pH6)の無作為化された、プラセボ対照、二重盲検試験である。試験参加者は、それぞれキニーネ又はプラセボ処置のいずれかに2:1で無作為化され、そして、合計28日間にわたり治験薬を自己投与する。治験薬は十分に許容され、これまで重篤な有害事象はない。PCRによってSARS-CoV-2の存在を測定するための鼻咽頭スワブを、ベースラインにおいて回収し、そして、2週間、4週間、6週間にて繰り返した。
【国際調査報告】