(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(54)【発明の名称】ペプチド白金錯体およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
C07K 7/08 20060101AFI20230525BHJP
C07F 15/00 20060101ALI20230525BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20230525BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20230525BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230525BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230525BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20230525BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
C07F15/00 F
C07K7/06
A61K38/10
A61P35/00
A61K45/00
A61K31/513
A61K31/7068
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564601
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(85)【翻訳文提出日】2022-12-21
(86)【国際出願番号】 US2021028613
(87)【国際公開番号】W WO2021216849
(87)【国際公開日】2021-10-28
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522414280
【氏名又は名称】オンコヴォリューション エル・エル・シー
【氏名又は名称原語表記】Oncovolution, LLC
【住所又は居所原語表記】51 Elliott Street, Danvers, MA 01923, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マリオ ディパオラ
(72)【発明者】
【氏名】クジィシュトフ ヂェヴィシェク
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
4H050
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA02
4C084BA18
4C084BA33
4C084CA59
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC43
4C086EA16
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA63
4H045EA28
4H045FA10
4H050AA01
4H050AB28
(57)【要約】
本発明は、新規なペプチド白金錯体、ペプチド白金錯体を含む医薬組成物、およびペプチド白金錯体を用いて癌を治療する方法を提供する。また、本発明の化合物または組成物の単位剤形を含むキットも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、
R
1およびR
2は、独立して、-N(R
6)
2、-NH
3
+であるか、またはR
1およびR
2は各々-NH
2であり、C
2~C
6アルキレンもしくはC
3~C
7シクロアルキレン基を介して結合して二座ジアミンリガンドを形成しており、
R
3は、ペプチドリガンドであり、ただし、R
3は、アミノ酸であり得ず、
R
4は、ペプチドリガンド、無機リガンド、-CNまたは-OC(O)R
5であり、ただし、R
4は、アミノ酸であり得ず、
R
5は、C
1~C
24アルキルであり、
各R
6は、独立して、-H、-C
1~C
6アルキル、-C
3~C
7シクロアルキルまたは-アリールである]を有する精製されたペプチド白金錯体
またはその薬学的に許容され得る塩。
【請求項2】
ジアミノシクロヘキシルカルボナト-白金酸塩(II)(11)を含む精製された化学療法錯体。
【請求項3】
リポソームに封入された、またはポリ乳酸(PLGA)などの生体適合性ポリマーナノ粒子に封入されたジアミノシクロヘキシルカルボナト-白金酸塩(II)(11)を含む化学療法錯体。
【請求項4】
リポソームに封入された、またはポリマー子ナノ粒子に封入された請求項1記載の精製されたペプチド白金錯体を含む化学療法錯体。
【請求項5】
R
3およびR
4が各々独立してペプチドである、請求項1記載のペプチド白金錯体。
【請求項6】
R
3とR
4とが結合して二座ペプチドリガンドを形成している、請求項1記載のペプチド白金錯体。
【請求項7】
前記ペプチドがシステインを含む、請求項1から3までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体。
【請求項8】
前記ペプチドがメチオニンを含む、請求項1から3までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体。
【請求項9】
前記ペプチドの末端第一級アミノ基がアシル化されている、請求項1から5までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体。
【請求項10】
前記ペプチドが、L-グリシン、L-プロリン、L-セリン、L-アルギニン、L-バリンおよびL-システインのうちの1つまたは複数を含む、請求項6記載のペプチド白金錯体。
【請求項11】
前記ペプチドがリンカーを介して白金と錯体を形成している、請求項1から7までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体。
【請求項12】
R
1とR
2とが結合して二座ジアミンリガンドを形成している、請求項1記載のペプチド白金錯体。
【請求項13】
前記二座ジアミンリガンドが、trans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサン、trans-S,S-1,2-ジアミノシクロヘキサン、cis-1,2-ジアミノシクロヘキサンおよび1,2-エチレンジアミンからなる群から選択される、請求項9記載のペプチド白金錯体。
【請求項14】
前記二座ジアミンリガンドが、trans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサンである、請求項9記載のペプチド白金錯体。
【請求項15】
R
4が、無機リガンド、-CNまたは-OC(O)R
5であり、ここで、R
5は、C
1~C
24アルキルである、請求項1記載のペプチド白金錯体。
【請求項16】
R
4が、Cl-、Br-、I-、F-、NO
3-、CN-、OH-、H
2O、HCO
3-またはHSO
4-である、請求項1記載のペプチド白金錯体。
【請求項17】
ペプチド白金錯体であって、
a)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH
2][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
b)cis-[AcGPSRVGGCNH
2][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;c)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH
2HCl][trans-(rac)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;d)cis-[AcGPSRVGGCNH
2][trns-(rac)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
c)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][cis-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
d)cis-[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][(cis)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
e)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
f)cis-[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
g)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][trans-(rac)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
h)cis-[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][trans-(rac)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
i)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][cis-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
j)cis-[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][(cis)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの
からなる群から選択される、ペプチド白金錯体。
【請求項18】
請求項1記載のペプチド白金錯体または請求項1記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩以外の追加の抗癌剤をさらに含む、請求項1から17までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体。
【請求項19】
前記追加の抗癌剤が、ゲムシタビン、カペシタビンまたは5-フルオロウラシルである、請求項18記載のペプチド白金錯体。
【請求項20】
癌を治療するのに有効な量の、請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体または請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩と、薬学的に許容され得る担体または賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項21】
癌を治療するのに有効な量の、請求項1記載のペプチド白金錯体または請求項1記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩以外の追加の抗癌剤をさらに含む、請求項20記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記追加の抗癌剤が、ゲムシタビン、カペシタビンまたは5-フルオロウラシルである、請求項21記載の医薬組成物。
【請求項23】
癌を治療するのに有効な量の、請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体または請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩と、薬学的に許容され得る担体または賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項24】
癌を治療するのに有効な量の、請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体または請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩以外の抗癌剤をさらに含む、請求項23記載の医薬組成物。
【請求項25】
癌を治療する方法であって、該方法が、癌を治療するのに有効な量の、請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体または請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩を必要とする対象に、前記ペプチド白金錯体または前記ペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩を投与するステップを含む、方法。
【請求項26】
請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体または請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩ではない追加の抗癌剤を前記対象に投与するステップをさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
請求項1記載のペプチド白金錯体ではない追加の抗癌剤を前記対象に投与するステップをさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項28】
前記追加の抗癌剤が、ゲムシタビン、カペシタビンまたは5-フルオロウラシルである、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記癌が、膵臓癌、大腸癌または中皮腫である、請求項25から28までのいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
前記対象がヒトである、請求項25から28までのいずれか1項記載の方法。
【請求項31】
請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体またはその薬学的に許容され得る塩の単位剤形を含む容器を備える、キット。
【請求項32】
第2の容器をさらに備え、該第2の容器が、ペプチド白金錯体の再構成のための溶液を含む、請求項31記載のキット。
【請求項33】
前記溶液が水溶液である、請求項32記載のキット。
【請求項34】
前記水溶液が塩化ナトリウムを含む、請求項32記載のキット。
【請求項35】
前記水溶液が食塩溶液である、請求項32記載のキット。
【請求項36】
前記食塩溶液がリン酸緩衝食塩水である、請求項32記載のキット。
【請求項37】
前記水溶液がデキストロースを含む、請求項32記載のキット。
【請求項38】
前記デキストロース水溶液が等張性である、請求項32記載のキット。
【請求項39】
前記第2の容器をさらに備え、該第2の容器が、請求項1記載のペプチド白金錯体または請求項1記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩以外の追加の抗癌剤を含む、請求項32記載のキット。
【請求項40】
前記追加の抗癌剤が、ゲムシタビン、カペシタビンまたは5-フルオロウラシルである、請求項32記載のキット。
【請求項41】
第2の容器をさらに備え、該第2の容器が制吐剤または造血コロニー刺激因子を含む、請求項32記載のキット。
【請求項42】
請求項1記載のペプチド白金錯体またはその薬学的に許容され得る塩を対象に投与するための手段をさらに備える、請求項32記載のキット。
【請求項43】
式(I)
【化2】
の白金錯体を製造する方法であって、
式(II)
【化3】
の錯体を、少なくとも約2モル当量の式(III)の化合物、
AcGPSRVGGCNH
2
または
AcGPSRVGGCD
または
【化4】
または
【化5】
または
他のペプチドおよびペプチド構築物(III)
と反応させるステップを含み、
式中、
R
1およびR
2は、独立して、-N(R
6)
2、-NH
3
+であるか、またはR
1およびR
2は各々-NH
2であり、C
2~C
6アルキレンもしくはC
3~C
7シクロアルキレン基を介して結合して二座ジアミンリガンドを形成しており、
R
3はペプチドリガンドであり、ただし、R
3は、アミノ酸であり得ず、
R
4は、ペプチドリガンド、無機リガンド、-CNまたは-OC(O)R
5であり、ただし、R
4は、アミノ酸であり得ず、
R
5は、C
1~C
24アルキルであり、
各R
6は、独立して、-H、-C
1~C
6アルキル、-C
3~C
7シクロアルキルまたは-アリールであり、
ハロは、-F、-Cl、-Br、-Iまたは-Atである、
方法。
【請求項44】
R
3がペプチドである、請求項43記載の方法。
【請求項45】
R
4がペプチドである、請求項43記載の方法。
【請求項46】
R
3およびR
4が各々独立してペプチドである、請求項43記載の方法。
【請求項47】
R
1とR
2とが結合して二座ジアミンリガンドを形成している、請求項43記載の方法。
【請求項48】
前記二座ジアミンリガンドが、trans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサン、trans-S,S-1,2-ジアミノシクロヘキサン、cis-1,2-ジアミノシクロヘキサンまたは1,2-エチレンジアミンである、請求項47記載の方法。
【請求項49】
前記二座ジアミンリガンドがtrans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサンである、請求項48記載の方法。
【請求項50】
R
3およびR
4の各々がペプチドAcGPSRVGGCNH
2を含む、請求項49記載の方法。
【請求項51】
R
3とR
4とが一緒になってペプチドAcGPSRVGGCNH
2を構成し、R
3およびR
4が同じ白金部分に結合している、請求項49記載の方法。
【請求項52】
R
3がAcGPSRVGGCNH
2であり、R
4が無機または有機基である、請求項49記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、2020年4月22日に出願された米国出願第63/013,832号の優先権を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。2021年4月22日に作成された前述のASCIIコピーは、120506-10102_sequence_ST25.txtと名付けられ、38.948バイトの大きさである。
【0003】
発明の分野
本発明は、癌の治療のための白金系癌薬剤の標的送達に関する。
【0004】
発明の背景
白金配位錯体は、1965年に細胞毒性薬剤として同定された。cis-ジアミンジクロロ白金(II)(シスプラチン)は、ヒトにおける広範囲の新生物性疾患の治療に有用な臨床的に重要な抗癌剤である(Loehrer et al., Ann. Int. Med. 100:704-713 (1984))。しかしながら、シスプラチンによる長期治療は、催吐性、腎毒性、耳毒性および神経毒性を含む全身毒性によって制限されている(Zwelling et al., “Platinum Complexes” in Pharmacologic Principles of Cancer Treatment, Ed. B. A. Chabner, Saunders, Philadelphia, PA (1982))。シスプラチンの治療指数を改善するために、多数の白金アナログが調製され、試験されているが、概して結果は控え目である(M.C. Christian, “The Current Status of Platinum Analogs”, Seminars in Oncology, 1992, 19(6), 720-733)。
【0005】
cis-ジアミン(1,1-シクロブタンジカルボキシラト)白金(II)(カルボプラチン)は、第2世代の白金アナログである。カルボプラチンは、確立された化学療法薬レジメンにおいてシスプラチンの代わりに使用される場合に有効であり、シスプラチンよりも催吐性、腎毒性、神経毒性および耳毒性が少ないが、カルボプラチンにはシスプラチンにはない望ましくない骨髄抑制特性がある(Go et al., J. Clin. Oncol. 1999, 17(1): 409-22)。
【0006】
オキサリプラチンは、1,2-ジアミノシクロヘキサン(DACH)キャリアリガンドを有する、ごく最近になって開発された第3世代のシスプラチンアナログであり、さまざまな腫瘍型において臨床活性を示し、シスプラチンおよびカルボプラチンと交差耐性を示さない。オキサリプラチンは、5-フルオロウラシル耐性および化学療法を未実施の疾患の両方において5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)と相乗的に作用し、乳癌、肺癌および前立腺癌ならびに非ホジキンリンパ腫の治療において単剤および併用レジメンとして評価もされている(Misset et al., Crit Rev. Oncol. Hematol. 2000, 35(2): 75-93)。
【0007】
他の白金アナログが臨床試験において有望であることを示している。これらの白金アナログとしては、NDDP(cis-ビス-ネオデカノアト-trans-R,R-1,2-ジシクロヘキサン白金(II)(米国特許第5,178,876号明細書);ネダプラチン(Latorre et al., Int. J. Oncol. 2002, 21(1):179-86);JM335(trans-アミン-(シクロヘキシルアミノジクロロジヒドロキソ)白金(IV))(Kelland et al. J. Inorg. Biochem. 1999, 77(1-2):115-115);イプロプラチン(Martin, Clin. Breast Cancer 2001, 2(3):190-208);二核白金錯体BBR3005(trans-PtCl(NH3)22H2N(CH2)6NH2)2+およびBBR3171(cis-PtCl(NH3)22H2N(CH2)6NH2)2+、ならびに三核白金錯体BBR3464(trans-PtCl(NH3)2-2 mu-trans-Pt(NH3)2(H2N(CH2)6NH2)2)4+(Roberts et al. J. Inorg. Biochem. 1999, 77(1-2):47-50)、ならびに立体障害白金錯体、AMD473(cis-アミンジクロロ(2-メチルピリジン)白金(II))(Holford, et al. J. Cancer 1998, 77(3):366-73)が挙げられる。
【0008】
多くの抗癌剤が利用可能であるにもかかわらず、従来の化学療法にはいくつかの欠点がある(Stockdale, 1998, “Principles of Cancer Patient Management” in Scientific American Medicine, vol. 3, Rubenstein and Federman, eds., ch. 12, sect. 10))。ほとんどすべての抗癌剤は毒性があり、化学療法は、激しい吐き気、骨髄の枯渇、免疫抑制などを含む重大で、しばしば危険な副作用を引き起こす可能性がある。さらに、多くの腫瘍細胞は、多剤耐性によって抗癌剤に対する耐性を示すか、または耐性を獲得することができる。したがって、癌および関連する増殖性疾患の治療に有用な、改善された治療指標を有する新規薬剤が当該技術分野で重要なニーズがある。
【0009】
開示の概要
本発明は、ペプチド白金錯体および癌を治療するためのその使用を提供する。本発明によるペプチド白金錯体は、対象に投与された場合、癌細胞への細胞毒性白金の送達を標的とする。白金錯体の白金部分は、癌細胞のDNAにインターカレートして細胞死を引き起こし、癌細胞に細胞毒性を付与する。ペプチド部分は、ペプチド白金錯体を、ペプチドの結合相手を含む癌細胞に誘導することによって、錯体に特異性を付与する。結合相手は、ペプチドの受容体または別のペプチド認識実体であってもよい。
【0010】
したがって、一態様では、本発明は、以下のとおり式(I):
【化1】
[式中、
R
1およびR
2は、独立して、-N(R
6)
2、-NH
3
+であるか、またはR
1およびR
2は各々-NH
2であり、C
2~C
6アルキレンもしくはC
3~C
7シクロアルキレン基を介して結合して二座ジアミンリガンドを形成しており、
R
3は、ペプチド配位リガンドであり、
R
4は、ペプチド配位リガンド、無機配位リガンド、-Cl、-CN、-NO
3、-OH、H
2Oまたは-OC(O)R
5であり、
R
5は、C
1~C
24アルキルであり、
各R
6は、独立して、-H、-C
1~C
6アルキル、-C
3~C
7シクロアルキルまたは-アリールである]の精製された錯体(「ペプチド白金錯体」)
またはその薬学的に許容され得る塩を提供する。
【0011】
いくつかの実施形態は、式(I)
【化2】
[式中、
R
1およびR
2は、独立して、-N(R
6)
2、-NH
3
+であるか、またはR
1およびR
2は各々-NH
2であり、C
2~C
6アルキレンもしくはC
3~C
7シクロアルキレン基を介して結合して二座ジアミンリガンドを形成しており、
R
3は、ペプチドリガンドであり、ただし、R
3は、アミノ酸であり得ず、
R
4は、ペプチドリガンド、無機リガンド、-CNまたは-OC(O)R
5であり、ただし、R
4は、アミノ酸であり得ず、
R
5は、C
1~C
24アルキルであり、各R
6は、独立して、-H、-C
1~C
6アルキル、-C
3~C
7シクロアルキルまたは-アリールである]を有する精製されたペプチド白金錯体
またはその薬学的に許容され得る塩
を含む。
【0012】
いくつかの実施形態は、ジアミノシクロヘキシルカルボナト-白金酸塩(II)(11)を含む精製された化学療法錯体を含む。化学療法錯体は、リポソームに封入された、またはポリ乳酸グリコール酸(PLGA)などの生体適合性ポリマーナノ粒子に封入されたジアミノシクロヘキシルカルボナト-白金酸塩(II)(11)を含む。
【0013】
R3およびR4が各々独立してペプチドである、上記のようなペプチド白金錯体のいずれか1つが提供されるものであってもよい。R3とR4とが結合して二座ペプチドリガンドを形成している、上記のようなペプチド白金錯体のいずれか1つが提供されるものであってもよい。ペプチドがシステインを含む、上記のようなペプチド白金錯体のいずれか1つが提供されるものであってもよい。ペプチドがメチオニンを含む、上記のようなペプチド白金錯体のいずれか1つが提供されるものであってもよい。ペプチドの末端第一級アミノ基がアシル化されている、上記のようなペプチド白金錯体のいずれか1つが提供されるものであってもよい。ペプチドがL-グリシン、L-プロリン、L-セリン、L-アルギニン、L-バリンおよびL-システインのうちの1つまたは複数を含む、上記のようなペプチド白金錯体のいずれか1つが提供されるものであってもよい。ペプチドがリンカーを介して白金と錯体を形成している、上記のようなペプチド白金錯体のいずれか1つが提供されるものであってもよい。R1とR2とが結合して二座ジアミンリガンドを形成している、上記のようなペプチド白金錯体のいずれか1つが提供されるものであってもよい。二座ジアミンリガンドが、trans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサン、trans-S,S-1,2-ジアミノシクロヘキサン、cis-1,2-ジアミノシクロヘキサンまたは1,2-エチレンジアミンからなる群から選択される、上記のようなペプチド白金錯体のいずれか1つが提供されるものであってもよい。R4が無機リガンド、-CNまたは-OC(O)R5であり、R5がC1~C24アルキルである、上記のようなペプチド白金錯体のいずれか1つが提供されるものであってもよい。R4がCl-、Br-、I-、F-、NO3-、CN-、OH-、H2O、HCO3-またはHSO4-である、上記のような記載のペプチド白金錯体のいずれか1つが提供されるものであってもよい。
【0014】
いくつかの実施形態は、以下からなる群から選択されるペプチド白金錯体を含む:
a)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH2][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
b)cis-[AcGPSRVGGCNH2][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;c)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH2HCl][trans-(rac)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;d)cis-[AcGPSRVGGCNH2][trns-(rac)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
c)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH2-リンカー][cis-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
d)cis-[AcGPSRVGGCNH2-リンカー][(cis)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
e)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH2-リンカー][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
f)cis-[AcGPSRVGGCNH2-リンカー][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
g)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH2-リンカー][trans-(rac)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
h)cis-[AcGPSRVGGCNH2-リンカー][trans-(rac)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
i)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH2-リンカー][cis-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
j)cis-[AcGPSRVGGCNH2-リンカー][(cis)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの。
【0015】
いくつかの実施形態は、上記のようなペプチド白金錯体または上記のようなペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩以外の追加の抗癌剤をさらに含む、上記のようなペプチド白金錯体を含む。いくつかの実施形態では、追加の抗癌剤は、ゲムシタビン、カペシタビンまたは5-フルオロウラシルである。
【0016】
いくつかの実施形態は、癌を治療するのに有効な量の、上記のようなペプチド白金錯体または上記のようなペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩と、薬学的に許容され得る担体または賦形剤とを含む医薬組成物である。癌を治療するのに有効な量の、上述のペプチド白金錯体または上述のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩以外の追加の抗癌剤をさらに含む、上記のようなペプチド白金錯体のいずれか1つが提供されるものであってもよい。追加の抗癌剤が、ゲムシタビン、カペシタビンまたは5-フルオロウラシルである、上記のような医薬組成物のいずれか1つが提供されるものであってもよい。癌を治療するのに有効な量の、上記のようなペプチド白金錯体または上記のようなペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩のいずれか1つと、薬学的に許容され得る担体または賦形剤とを含む、上記のような医薬組成物のいずれか1つが提供されるものであってもよい。癌を治療するのに有効な量の、上記のようなペプチド白金錯体または上記のようなペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩以外の追加の抗癌剤をさらに含む、上記のような医薬組成物のいずれか1つが提供されるものであってもよい。
【0017】
いくつかの実施形態は、癌を治療する方法を含み、該方法は、癌を治療するのに有効な量の、上記のようなペプチド白金錯体または上記のようなペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩のいずれか1つを必要とする対象に、そのペプチド白金錯体またはペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩のいずれか1つを投与するステップを含む。上記のようなペプチド白金錯体または上記のようなペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩ではない追加の抗癌剤を前述の対象に投与するステップをさらに含む、上記のような方法のいずれか1つが提供されるものであってもよい。上記のようなペプチド白金錯体ではない追加の抗癌剤を前述の対象に投与するステップをさらに含む、上記のような方法のいずれか1つが提供されるものであってもよい。追加の抗癌剤がゲムシタビン、カペシタビンまたは5-フルオロウラシルである、上記のような方法のいずれか1つが提供されるものであってもよい。癌が膵臓癌、大腸癌または中皮腫である、上記のような方法のいずれか1つ。対象がヒトである、上記のような方法のいずれか1つが提供されるものであってもよい。
【0018】
いくつかの実施形態は、上記のようなペプチド白金錯体またはその薬学的に許容され得る塩のいずれか1つの単位剤形を含む容器を備える、キットを含む。第2の容器をさらに含み、該第2の容器が、ペプチド白金錯体の再構成のための溶液を含む、上記のようなキットのいずれか1つが提供されるものであってもよい。溶液が水溶液である、上記のようなキットのいずれか1つが提供されるものであってもよい。水溶液が塩化ナトリウムを含む、上記のようなキットのいずれか1つが提供されるものであってもよい。水溶液が食塩溶液である、上記のようなキットのいずれか1つが提供されるものであってもよい。食塩溶液がリン酸緩衝食塩水である、上記のようなキットのいずれか1つが提供されるものであってもよい。水溶液がデキストロースを含む、上記のようなキットのいずれか1つが提供されるものであってもよい。デキストロース水溶液が等張性である、上記のようなキットのいずれか1つが提供されるものであってもよい。第2の容器をさらに備え、該第2の容器が、上記のようなペプチド白金錯体または上記のようなペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩以外の追加の抗癌剤を含む、上記のようなキットのいずれか1つが提供されるものであってもよい。追加の抗癌剤がゲムシタビン、カペシタビンまたは5-フルオロウラシルである、上記のようなキットのいずれか1つが提供されるものであってもよい。第2の容器をさらに備え、該第2の容器が制吐剤または造血コロニー刺激因子を含む、上記のようなキットのいずれか1つが提供されるものであってもよい。ペプチド白金錯体またはその薬学的に許容され得る塩を対象に投与するための手段をさらに備える、上記のようなキットのいずれか1つが提供されるものであってもよい。
【0019】
いくつかの実施形態は、式(I)
【化3】
の白金錯体を製造する方法であって、
式(II)
【化4】
の錯体を、少なくとも約2モル当量の式(III)の化合物、
AcGPSRVGGCNH
2
または
AcGPSRVGGCD
または
【化5】
または
【化6】
または
他のペプチドおよびペプチド構築物(III)
と反応させるステップを含み、
式中、
R
1およびR
2は、独立して、-N(R
6)
2、-NH
3
+であるか、またはR
1およびR
2は各々-NH
2であり、C
2~C
6アルキレンもしくはC
3~C
7シクロアルキレン基を介して結合して二座ジアミンリガンドを形成しており、
R
3は、ペプチドリガンドであり、ただし、R
3は、アミノ酸であり得ず、
R
4は、ペプチドリガンド、無機リガンド、-CNまたは-OC(O)R
5であり、ただし、R
4は、アミノ酸であり得ず、
R
5は、C
1~C
24アルキルであり、
各R
6は、独立して、-H、-C
1~C
6アルキル、-C
3~C
7シクロアルキルまたは-アリールであり、ハロは、-F、-Cl、-Br、-Iまたは-Atである、
方法を含む。
【0020】
R3がペプチドである、上記のような方法のいずれか1つが提供されるものであってもよい。R4がペプチドである、上記のような方法のいずれか1つが提供されるものであってもよい。R3およびR4が各々独立してペプチドである、上記のような方法のいずれか1つが提供されるものであってもよい。R1とR2とが結合して二座ジアミンリガンドを形成している、上記のような方法のいずれか1つが提供されるものであってもよい。二座ジアミンリガンドが、trans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサン、trans-S,S-1,2-ジアミノシクロヘキサン、cis-1,2-ジアミノシクロヘキサンまたは1,2-エチレンジアミンである、上記のような方法のいずれか1つが提供されるものであってもよい。二価のジアミンリガンドがtrans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサンである、上記のような方法のいずれか1つが提供されるものであってもよい。R3およびR4の各々がペプチドAcGPSRVGGCNH2を含む、上記のような方法のいずれか1つが提供されるものであってもよい。R3とR4とが一緒になってペプチドAcGPSRVGGCNH2を構成し、R3およびR4が同じ白金部分に結合している、上記のような方法のいずれか1つが提供されるものであってもよい。R3がAcGPSRVGGCNH2であり、R4が無機基または有機基である、上記のような方法のいずれか1つが提供されるものであってもよい。
【0021】
また、本発明により提供されるのは、そのような治療を必要とする対象に、癌を治療するのに有効な量のペプチド白金錯体を投与するステップを含む、癌を治療する方法である。
【0022】
本発明はまた、癌を治療するのに有効な量のペプチド白金錯体と、薬学的に許容され得る担体、賦形剤または医薬品添加剤とを含む医薬組成物を含む。本組成物は、癌を治療するのに有用である。本発明は、薬学的に許容され得る塩として提供される場合、ペプチド白金錯体を含む。
【0023】
本発明の詳細は、以下の添付の説明および実施例に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】Onco-001を用いたヒト皮膚悪性黒色腫細胞株、A375の細胞殺滅に関する用量反応曲線を示す。
【
図2】Onco-003を用いたヒト皮膚悪性黒色腫細胞株、A375の細胞殺滅に関する用量反応曲線を示す。
【
図3】Onco-005を用いたヒト皮膚悪性黒色腫細胞株、A375の細胞殺滅に関する用量反応曲線を示す。
【
図4】ドキソルビシンを用いたBEL-7402細胞の細胞殺滅に関する用量反応曲線を示す。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、以下に示されるような式I:
【化7】
[式中、
R
1およびR
2は、独立して、-N(R
6)
2、-NH
3
+であるか、またはR
1およびR
2は各々-NH
2であり、C
2~C
6アルキレンもしくはC
3~C
7シクロアルキレン基を介して結合して二座ジアミンリガンドを形成しており、
R
3は、ペプチドリガンドであり、
R
4は、ペプチドリガンド、無機リガンド、-CNまたは-OC(O)R
5、-Cl、-CN、-NO
3、-OH、H
2Oであり、
R
3およびR
4はまた、同じペプチドであり得るが、Ptと配位し得るアミン、カルボキシまたはスルフヒドリルを含む2個の官能基を含み、
R
5は、C
1~C
24アルキルであり、
各R
6は、独立して、-H、-C
1~C
6アルキル、-C
3~C
7シクロアルキルまたは-C
3~C
7シクロアリールである]による、新規クラスの配位化合物、より具体的にはペプチド白金錯体
ならびにその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物および水和物を提供する。
【0026】
一実施形態では、ペプチド白金錯体は、精製された形態である。
【0027】
定義
本明細書で使用される「C1~C6アルキル」という用語は、1~6個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖の、飽和または不飽和炭化水素を指す。代表的なC1~C6アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ネオヘキシル、エチレニル、プロピレニル、1-ブテニル、2-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、アセチレニル、ペンチニル、1-ブチニル、2-ブチニル、1-ペンチニル、2-ペンチニル、1-ヘキシニル、2-ヘキシニルおよび3-ヘキシニルである。
【0028】
本明細書で使用される「アルコキシ」という用語は、-O-(C1~C6アルキル)基を指す。代表的なアルコキシ基としては、メトキシ、エチル、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシおよびネオヘキシルオキシが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書で使用される「C1~C24アルキル」という用語は、1~24個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖の、飽和または不飽和炭化水素を指す。代表的なC1~C24アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、イソヘキシル、ネオヘキシル、イソヘプチル、ネオヘプチル、イソオクチル、ネオオオクチル、イソノニル、ネオノニル、イソデシル、ネオデシル、ミリストイル、オレイル、パルミトイル、ステアロイル、ラウロイルおよびカプロイルが挙げられるが、これらに限定されない。C1~C24アルキル基は、置換されていなくてもよいし、1つもしくは複数の-C1~C6アルキル、-C3~C7シクロアルキル、-アルコキシ、-アリール、-複素環、-ハロ、-CN、-COOH、-COOR6、-OC(O)R6、-NH2、-C(O)R6、-CHO、-NHR6、N(R6)2、-NHC(O)R6または-C(O)NHR6基で必要に応じて置換されていてもよく、ここで、R6は、-H、-C1~C6アルキル、-C3~C7シクロアルキルまたは-アリールである。
【0030】
本明細書で使用される場合、「アルキルカルボキシレートまたはアルキルカルボキシラト」という用語は、構造:
【化8】
[式中、
R
5は、C
1~C
24アルキル基である]を有する基を指す。
【0031】
「C2~C6アルキレン」とは、2~6個の炭素原子を有する二価の、直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素を指す。
【0032】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、フェニル基またはナフチル基を指す。
【0033】
本明細書で使用される「二座ジアミンリガンド」という用語は、一般式:
【化9】
[式中、
Xは、2個のNH
2基を連結するC
2~C
6アルキレン基またはC
3~C
7シクロアルキレン基である]のリガンドを指す。このような二座リガンドは、2つのNH
2基を介して白金に配位し、その各々は金属上の別の配位部分を占有する。二座ジアミンリガンドは、キラルであってもアキラルであってもよい。代表的な二座ジアミンリガンドとしては、trans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサン、trans-S,S-1,2-ジアミノシクロヘキサン、cis-1,2-ジアミノシクロヘキサンおよび1,2-エチレンジアミンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書で使用される場合、「リンカー」という用語は、ペプチドと白金部分とを共有結合で接続する手段を指すのに用いられる。リンカーは、接続機能だけでなく、ペプチドがその標的と結合する際に白金ペプチド錯体と標的との間の立体障害を最小化する機能も果たす。場合によっては、リンカーは、構築物が細胞内に取り込まれた後、白金部分からペプチドの解離を促進するような方法で設計することができる。例えば、スクシニルまたはグルタリルリンカーを用いると、エステラーゼ/アミダーゼ作用による放出が起こり(Karampelas et al., Bioconjugate Chem., 2014, 25, 813-823; Sun et al., Curr. Drug Delivery 2011, 8, 2-10)、一方で、パラアミノベンジルアルコールまたはオキシム結合を有するリンカーを用いると、それぞれ酸性pHで1,6脱離または加水分解により放出が生じる(Zhang et al. , Eur. J. Med. Chem. 2017,139, 542-563; Szabo, I., et al., Bioconjuigate Chem 2009, 20, 20656-20665)。
【0035】
本明細書で使用される「C3~C7シクロアルキル」という用語は、3員、4員、5員、6員もしくは7員の飽和または不飽和の非芳香族炭素環のことである。代表的なシクロアルキルとしては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンタジエニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、シクロヘプチル、シクロヘプタニル、1,3-シクロヘキサジエニル、1,4-シクロヘキサジエニル、1,3-シクロヘプタジエニルおよび-1,3,5-シクロヘプタトレニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
「C
3~C
7シクロアルキレン」は、3員、4員、5員、6員もしくは7員の二価の飽和または不飽和の非芳香族炭素環を指す。シスプラチン(PtCl2(NH3)2)は、2つの塩化物と2つのアンモニアリガンドとを有する白金(II)の配位錯体である。それは一般的に使用されている抗癌剤で、以下の分子構造を有している:
【化10】
【0037】
「配位錯体」という用語は、通常は金属様で配位中心と呼ばれる中心原子またはイオンと、リガンドまたは錯化剤としてこちらは知られている結合分子またはイオンの周囲の配列とを含む分子を指す。Lawrance, Geoffrey A. (2010). Introduction to Coordination Chemistry. Wiley. doi:10.1002/9780470687123. ISBN 9780470687123; IUPAC, Compendium of Chemical Terminology, 2nd ed. (the “Gold Book”) (1997). Online corrected version: (2006-) “complex”. doi:10.1351/goldbook.C01203; IUPAC, Compendium of Chemical Terminology, 2nd ed. (the “Gold Book”) (1997). Online corrected version: (2006-) “coordination entity”. doi:10.1351/goldbook.C01330。
【0038】
金属原子を中心とする配位錯体は金属錯体と呼ばれる。中心原子またはイオンは、すべてのリガンドと一緒に配位圏を構成する。中心原子またはイオンとドナー原子とが第一配位圏を構成する。配位錯体は、中性分子またはアニオン(リガンドと呼ばれる)が中心金属原子(またはイオン)に配位共有結合によって結合したルイス酸塩基反応の生成物である。リガンドはルイス塩基であり、それらは金属原子/イオンに供与する電子を少なくとも一対含んでいる。リガンドは錯化剤とも呼ばれる。金属原子/イオンはルイス酸であり、それらはルイス塩基から一対の電子を受け取ることができる。リガンド内では、金属原子/イオンに直接結合している原子はドナー原子と呼ばれる。配位共有結合は、1個の原子(すなわちドナー原子)が両方の電子を供給する共有結合である。この結合型は、各原子が1個の電子を供給する通常の共有結合とは異なる。配位錯体が正味電荷を有する場合、その錯体は錯体イオンと呼ばれる。配位錯体を含む化合物は、配位化合物と呼ばれる。配位化合物および錯体は別個の化学種であり、それらの性質および挙動は、構成元素である金属原子/イオンおよびリガンドとは異なる。配位とは、リガンドと中心原子との間の「配位共有結合」(双極子結合)を指す。
【0039】
「官能基」という用語は、中心金属原子に結合するイオンまたは分子を指す。
【0040】
本明細書で使用される「ハロ」という用語は、-F、-Cl、-Brまたは-Iを指す。
【0041】
本明細書で使用される「無機リガンド」という用語は、炭素含有有機官能基を含まないリガンドを指す。無機リガンドの代表例としては、Cl-、Br-、I-、F-、NO3
-、OH-、H2O、HCO3
-およびHSO4
-が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
「ペプチド」という用語は、5~30残基、例えば、7~25残基、8~20残基、9~18残基、10~15残基、およびこれらの範囲の間のすべてのペプチド長を含む5個以上30個以下のアミノ酸残基から構成されるアミノ酸オリゴマーを指す。「ペプチド部分」とは、単一のペプチド、同一ペプチドの多量体、または複数の異なるペプチドを指す。「ペプチドリガンド」とは、白金と配位するペプチド分子を指す。
【0043】
本明細書で使用される「ペプチド白金錯体」という用語は、本明細書に記載されるような式(I)の四配位白金錯体を指す。好ましい実施形態では、ペプチド白金錯体は精製された形態である。
【0044】
本明細書で使用される場合、「精製された」という用語は、(例えば、合成有機化学反応混合物の他の成分から)単離されたとき、単離物が、単離物の重量で、本発明のペプチド白金錯体を少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%含むことを意味する。好ましい実施形態では、単離物は、単離物の重量で、少なくとも95%の本発明のペプチド白金錯体を含む。
【0045】
以下の略語は、本明細書で使用され、示された定義を有する。DACHは1,2-ジアミノシクロヘキサン;ACNはアセトニトリル;EtOHはエチルアルコール;HPLCは高圧液体クロマトグラフィー;ペプチドはアミド(ペプチド)結合によって連結された単一アミノ酸の短鎖である。
【0046】
本明細書において、商品名で言及されている製品は、少なくとも、現在その商品名に関連付けられている対応する一般的な商品/名称、ならびに同等および類似の製品を含むことを意図していることに留意されたい。
【0047】
ペプチド白金錯体
本発明のペプチド白金錯体は、(式IのR1およびR2で表される)2つの隣接する配位部分が独立してアミンもしくはアンミン(NH3
+)リガンドによって占有されているか、あるいはR1とR2とが一緒になって単一の二座ジアミンリガンドを表す四配位白金(II)錯体である。第3の配位部分(式IのR3)はペプチドリガンドによって占有されており、最後の配位部分(式IのR4)はペプチドリガンド、無機リガンドまたは有機リガンドによって占有されていてもよい。
【0048】
本発明はさらに、本発明のペプチド白金錯体の有機塩および無機塩の両方を含む本発明のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩を包含する。本発明のペプチド白金錯体は、少なくとも1個のアミノ基を含み、したがって、本発明のペプチド白金錯体のアミノ基と酸付加塩を形成することが可能である。好ましい塩としては、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酸性酒石酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチジン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、糖酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩およびパモ酸塩(すなわち、1,1’-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸))の塩が挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に許容され得る塩は、酢酸イオン、コハク酸イオンまたは他の対イオンなどの別の分子の包含を伴い得る。対イオンは、電荷を安定化させる任意の有機または無機部分であることができ、本発明のペプチド白金錯体上に存在してもよい。さらに、薬学的に許容され得る塩は、その構造中に2個以上の荷電原子を有していてもよい。複数の荷電原子が薬学的に許容され得る塩の一部である例では、前述の塩は複数の対イオンを有することができる。したがって、ペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩は、1個もしくは複数の荷電原子および/または1個もしくは複数の対イオンを有することができる。
【0049】
アミン/アンミンリガンド
R1およびR2は、独立して、アミンまたはアンミン(NH3
+)リガンドである。本発明のアミンリガンドは、式-N(R6)2によって表され、ここで、各R6は、独立して、-H、-C1~C6アルキル、-C3~C7シクロアルキルまたは-アリールである。代替の実施形態では、R1およびR2は、各々-NH2であり、C2~C6アルキレンもしくはC3~C7シクロアルキレン基を介して結合して二座ジアミンリガンドを形成している。本発明において有用な二座ジアミンリガンドとしては、trans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサン、trans-S,S-1,2-ジアミノシクロヘキサン、cis-1,2-ジアミノシクロヘキサンおよび1,2-エチレンジアミンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
一実施形態では、ペプチド白金錯体は、二座ジアミンリガンドを含む。
【0051】
具体的な実施形態では、ペプチド白金錯体は、二座1,2-エチレンジアミンリガンドを含む。
【0052】
特定の実施形態では、ペプチド白金錯体は、二座1,2-ジアミノシクロヘキサンリガンドを含む。
【0053】
好ましい実施形態では、ペプチド白金錯体は、二座trans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサンリガンドを含む。
【0054】
ペプチドリガンド
ペプチドは、本発明のペプチド白金錯体を形成するための白金への付加部分として本明細書において有用であり、この錯体は、少なくとも1つのペプチドリガンドを有する四配位白金錯体を含む。
【0055】
本発明に従って有用なペプチドは、癌細胞の表面または内部に存在する抗原に結合することができるであろう。このようなペプチドは、その標的に対して高度な特異性を有するであろう。その標的に対する所定のペプチドの親和性は、ラジオアッセイ、ELISA、または表面プラズモン共鳴(SPR)による結合アッセイを用いて評価することができ、高ミクロモルからサブナノモルの範囲内の結合親和性を有することになる。所与のペプチドの特異性は、細胞ベースアッセイ、ELISAまたはSPRを用いて評価することができる。本発明に従って有用なペプチドは、アミノ酸から構成され、ひいては各ペプチドは、アミノ基およびカルボキシ基、または場合によってはスルフヒドリルを有し、そこからペプチドを白金化合物に接続する。
【0056】
乳癌を標的とするための本発明に従って有用なペプチドは、配列CRXXRXXXC(ここで、Xは、C、R、WまたはY以外の任意のアミノ酸であり得る;SEQ ID NO:1)、RGX1PAYX2GRFL(ここで、X1は、DまたはEであり得、X2はQまたはNであり得る;SEQ ID NO:2)またはPXLNVSP(ここで、Xは、C、WおよびY以外の任意のアミノ酸である;SEQ ID NO:3)を含むかまたはそれからなっていてもよい。メラノーマを標的とするためのペプチドは、配列モチーフPRP、WRPおよび/またはS/ThXh(S/T)WXPP(ここで、S/Tは、いずれかが機能するであろうことを含意し、hは、I、L、AまたはVなどの疎水性アミノ酸を表し、Xは、CおよびW以外のいずれであってもよい;SEQ ID NO:151、152、153および154)を含むかまたはそれからなっていてもよい。膵臓癌の場合、腫瘍標的ペプチドは、以下のコンセンサス配列:PXIXIT(ここで、Xは、C、YおよびWを除く任意のアミノ酸であり得る;SEQ ID NO:4)を含むかまたはそれからなっていてもよい。膠芽腫の場合、癌標的ペプチドは、コンセンサス配列VD/GLPE/THXX(ここで、D/Gは、DまたはGのいずれかを意味し、E/Tについても同様である;Xは、C、WおよびYを除く任意のアミノ酸であり得る;SEQ ID NO:155、156、157および158)を含むかまたはそれからなるであろう。肺癌のための標的ペプチドは、配列XPWXEXXYX(ここで、Xは、W、YおよびCを除く任意のアミノ酸である;SEQ ID NO:5)を含むかまたはそれからなっていてもよい。
【0057】
例えば、以下の引用および第1表に示される標的ペプチドを参照されたい。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0058】
追加のペプチド、およびそれらの特性は、Le Joncour V1, Laakkonen, Bioorg Med Chem. 2018 Jun 1;26(10):2797-2806. doi: 10.1016/j.bmc.2017.08.052. Epub 2017 Sep 1に記載されており、第2表に示されている。
【表2-1】
【表2-2】
【0059】
文字:n、天然リガンドに基づくペプチド配列;s、合成配列(例えば、ファージディスプレイペプチドライブラリーから単離されたもの);配列中のXは、任意のアミノ酸残基を意味し、?は、正確な標的タンパク質/受容体が不明であることを意味し、SSTR、ソマトスタチン受容体;GRPR、ガストリン放出ペプチド受容体;PSAP、プレセニリン関連タンパク質;CXCR4、ストローマ由来因子受容体;pHLIP、pH低挿入ペプチド;ELP、エラスチン様ペプチド;x-MSH、x-メラノサイト刺激ホルモン;MC1R、メラノコルチン1受容体;GZP、グランザイムBペプチド;APN(CD13)、アミノペプチダーゼN;Abu、L-x-アミノ-n-酪酸;MMP、メタロプロテアーゼ;VEGFR2、血管内皮増殖因子受容体2;p32、複製タンパク質A;NRP-1、ニューロピリン受容体-1;pen、ペネトラチン;TAM、腫瘍関連マクロファージ;MDGI、乳腺由来増殖抑制因子;LRP-1、低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質-1。
【0060】
本発明で有用なペプチドリガンドとしては、直鎖および環状構造を有する天然および合成ペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。本発明のペプチドは、天然または合成アミノ酸のいずれかから構成され、これらは、Lehninger Principles of Biochemistry by David L. Nelson and Michael M. Cox 7th ed., VetBooks, W. H. Freeman and Company, New Yorkに記載されている。
【0061】
一実施形態では、ペプチド白金錯体は、単一のペプチドリガンドを有する。これは特に、ペプチドが、アスパラギン酸、グルタミン酸およびγ-カルボキシグルタミン酸の場合のように、ジカルボキシレートの配位を介して、さもなければペプチドの遊離N末端およびペプチド内のリジンのアミンまたはペプチド内のシステインのスルフヒドリルを介して二座配位のための官能基を含む場合に該当する。
【0062】
別の実施形態では、ペプチド白金錯体は、第1および第2のペプチドリガンドを有し、これらは同一であっても異なっていてもよい。白金と連結できる単一の官能基を有するペプチドの場合、2つのペプチドの間に立体障害がなければ、同一であっても異なっていても、2つのペプチドが配位する可能性が高い。
【0063】
別の実施形態では、単一のペプチドリガンドが、2つの白金部分に結合している。
【0064】
別の実施形態では、1つのペプチド白金錯体が、同じ白金部分に結合している1つのペプチドリガンドを有している。
【0065】
一実施形態では、ペプチドリガンドは、カルボキシル基またはアミノ基を介して白金部分に接続している。
【0066】
別の実施形態では、ペプチドリガンドは、ブロックされたカルボキシル基を有し、アミノ基を介して排他的に白金部分に接続している。
【0067】
別の実施形態では、ペプチドリガンドは、ブロックされたアミノ基を有し、カルボキシル基を介して排他的に白金部分に接続している。
【0068】
別の実施形態では、ペプチドリガンドは、ブロックされたアミノ基を有し、同じペプチドの2つのカルボキシル基を介して排他的に白金部分に接続している。
【0069】
具体的な実施形態では、ペプチドリガンドは、カルボキシル基、アミノ基またはチオ基を介して白金部分に接続されている。
【0070】
好ましい実施形態では、アミノ基はブロックされ、ペプチドリガンドは、チオ基を介して排他的に白金部分に接続されている。
【化11】
ペプチドの白金への配位は、アミン、スルフヒドリルまたはカルボキシ基のいずれかを介して行われ得る。カルボキシ基は離脱基としてより優れているため、選択的に配位させることが望ましい。ペプチドの白金からの解離は、分子が細胞内にあるときに必要であり、したがって、白金部分が細胞DNAにインターカレートすることを可能にする。
【0071】
本発明に有用ないくつかのペプチドは、チオ基を介して白金部分に接続され、錯体のペプチド部分は、癌細胞上の結合相手(受容体)に対して高い結合親和性(約50μM~1nM)を有する;低い結合の場合、親和性は1mMを超えるであろう。
【0072】
他のリガンド
ペプチド白金錯体はまた、非アミノおよび/または非ペプチドリガンドを含むことができる。
【0073】
本発明に有用な他のリガンドとしては、Cl-、Br-、I-、F-、NO3
-、OH-、H2O、HCO3
-、CO3
-およびHSO4
-を含む無機リガンド、ならびに-CNおよび式-OC(O)R5(ここで、R5はC1~C24アルキルである)のアルキルカルボキシラト基を含むがこれに限定されない有機リガンドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
本発明に従って有用な追加のリガンドとしては、抗体、2本のVHおよび2本のVL鎖から構成される抗体可変領域を含む抗体断片、ならびにVHおよび/またはVLなどの単一ドメイン抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
ペプチド白金錯体の調製
式(I)のペプチド白金錯体は、スキーム1において以下に概説する合成手順を介して調製することができる。適切で関連する出発材料、合成中間体および試薬の選択によって、本発明のペプチド白金錯体の範囲をどのように調製するかは、当業者には明らかであろう。
【化12】
【0076】
典型的な手順では、式2のジアミノジクロ白金錯体を硫酸銀および水で処理して、式3の中間体ジアミノスルファト白金(II)一水和物を提供する。次いで、中間体3を化学量論的過剰量の式4の反応性ペプチドと反応させて、[ジアミノシクロヘキサン]ジヨード白金(II)式6のジアミノ-ビス-ペプチド白金錯体を提供することができる。具体的な実施形態では、中間体3を化学量論的過剰量の単一のペプチドと反応させる代わりに、中間体3を、2つの異なるペプチドリガンドを有するペプチド白金錯体を提供するために、1当量ずつの2つの異なるペプチドと同時に反応させることができる。あるいは式3の錯体は、無機リガンドのアルカリ金属塩またはアルキルカルボキシレート5のアルカリ金属塩などの過剰の別の反応性リガンドの存在下で、準化学量論的量のペプチド、例えば4と反応させて、式7の白金錯体を得ることができ、この場合、該白金錯体は、ペプチドおよび非ペプチドライゲーション部の両方を含む。
【0077】
代替の実施形態では、式(I)のペプチド白金錯体は、スキーム2において以下に概説する合成手順を介して調製することができる。
【化13】
【0078】
スキーム2において、2当量の式5のペプチドを2当量のAgNO3と反応させて、2当量の式9のペプチドを提供する。次いで、2当量の式9のペプチドをクロロホルム中で1当量の白金錯体2と反応させて、式6のジアミノ-ビス-ペプチド白金錯体を得る。
【0079】
スキーム2の具体的な実施形態では、汎用二座白金錯体2は、cis-[trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]ジヨード白金(II)(10)であり、ペプチド5の汎用ナトリウム塩は、AcGPSRVGGCNH2Na(SEQ ID NO:145)であり(13)、錯体10と銀錯体9とで形成された錯体は、cis-ビス[AcGPSRVGGCNH2][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)(14)である。
【0080】
式2のジアミノジクロロ白金錯体2の調製のための一般的な手順
水中のジアミン1の約0.5M溶液を、水中のK2PtCl4(1.05当量)の濾過溶液に室温でゆっくりと添加する。得られた混合物を室温で約16時間放置し、その後、着色した沈殿物が現れることがある。この沈殿物を濾過し、濾液がAgNO3に対してもはや反応しなくなるまで水で洗浄し、次いで、濾液をエタノールおよびアセトンで順次洗浄する。沈殿物を濾過漏斗内で約1時間乾燥させ、次いで、真空中で乾燥させて、式2の錯体を提供する。
【0081】
式3のジアミノスルファト白金錯体の調製のための一般的な手順
水中のAg2SO4(約0.97当量)の約0.03M溶液を、光から保護されている反応容器に取り込み、得られた水溶液を約40℃に温める。式2の錯体を添加し、室温で約48時間撹拌する。次いで、反応混合物を約1cmのセライトパッドで濾過し、セライトを水で洗浄する。次いで、濾液を真空中で濃縮し、得られた固体残渣を真空中で乾燥させて、式3の錯体を提供する。
【0082】
式6のジアミノ-ビス-ペプチド白金錯体6の調製のための一般的な手順
水中の式3の錯体の約0.1M撹拌溶液に、H2O:EtOH(約8:1の体積比)の混合物中のペプチドナトリウム塩4(約2.0当量)の約0.5M溶液を添加する。反応混合物を約24時間撹拌し、得られた沈殿物を濾過し、水で洗浄し、真空中で乾燥させて、式6の錯体を提供し、これはカラムクロマトグラフィーまたはHPLCを用いてさらに精製することができる。
【0083】
式7のジアミノペプチド白金錯体7の調製のための一般的な手順
水中の式3の錯体の約0.5M撹拌溶液に、H2O:EtOH(約8:1の体積比)の混合物中のペプチドナトリウム塩4(約0.5当量)およびアルコキシカルボニルナトリウム塩5(約1.5当量)の溶液を添加する。反応混合物を約24時間撹拌し、得られた沈殿物を濾過し、水で洗浄し、真空中で乾燥させて、式7の錯体を提供し、これはカラムクロマトグラフィーまたはHPLCを用いてさらに精製することができる。
【0084】
スキーム1の方法を用いて調製することができる本発明の錯体としては、AcGPSRVGGCNH2(SEQ ID NO:145)が挙げられるが、これに限定されない。
【0085】
一実施形態では、ペプチド白金錯体は、cis-ビス[AcGPSRVGGCNH2][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)である。
【0086】
好ましい実施形態では、ペプチド白金錯体は、精製された形態である。
【0087】
本発明はまた、式(I)の化合物を製造するための方法に関する。一実施形態では、本発明は、式(I)の化合物を製造する方法であって、
式(II)
【化14】
[式中、ハロは、-F、-Cl、-Br、-Iまたは-Atであり、R
1、R
2、R
3、R
4、X
1およびX
2は、上で定義されたとおりである]の錯体を、
少なくとも少なくとも約2モル当量の式(III)の化合物、
ペプチドリガンド(R
3およびR
4)または-CNまたは-OC(O)R、-NO
3、-OH、H
2O、-CO
3(III)
と反応させるステップを含む、方法に関する。
【0088】
一実施形態では、本発明は、R3がペプチドである式(I)の化合物を製造する方法に関する。
【0089】
一実施形態では、本発明は、R4がペプチドである式(I)の化合物を製造する方法に関する。
【0090】
一実施形態では、本発明は、R3およびR4が各々独立してペプチドである式(I)の化合物を製造する方法に関する。
【0091】
一実施形態では、本発明は、R1とR2とが結合して二座ジアミンリガンドを形成する式(I)の化合物を製造する方法に関する。
【0092】
別の実施形態では、本発明は、R1とR2とが結合して二座ジアミンリガンドを形成し、R3とR4とが結合して二座ペプチドリガンドを形成する式(I)の化合物を製造する方法に関する。
【0093】
別の実施形態では、本発明は、R1とR2とが結合して二座ジアミンリガンドを形成し、二座ジアミンリガンドがtrans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサン、trans-S,S-1,2-ジアミノシクロヘキサン、cis-1,2-ジアミノシクロヘキサンまたは1,2-エチレンジアミンである式(I)の化合物を製造する方法に関する。
【0094】
別の実施形態では、本発明は、R
1とR
2とが結合してtrans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサンを形成し、R
3とR
4とが各々AcGPSRVGGCNH
2(Onco-001;SEQ ID NO:145)(14)である式(I)の化合物を製造する方法に関する。ヒト皮膚悪性黒色腫細胞株、A375の細胞殺滅に関する用量反応曲線を
図1として示す。
【0095】
さらに別の実施形態では、本発明は、R
1とR
2とが結合してtrans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサンを形成し、R
3とR
4とが二座ペプチド:AcGPSRVGGCD(Onco-003;SEQ ID NO:146)(15)によって結合した式(I)の化合物を製造する方法に関する。A375細胞を用いたOnco-003の用量依存的な細胞殺滅を
図2に示す。
【0096】
別の実施形態では、本発明は、R
1とR
2とが結合してtrans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサンを形成し、R
3とR
4とが結合して、以下の式10で定義される二座ペプチドによって結合した式(I)の化合物を製造する方法に関する。
【化15】
この実施形態では、1当量の式10が、R
1とR
2とが結合してtrans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサンを形成する3当量の式(I)に連結される。
【0097】
別の実施形態では、本発明は、R
1とR
2とが結合してtrans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサンを形成し、R
3とR
4とがペプチド:Ac-GPSRVGGCD(提供される構造、以下のSEQ ID NO:146)によって結合した式(I)の化合物を製造する方法に関する。
【化16】
【0098】
他の実施形態では、トリペプチド種として、以下に示すようなペプチド錯体は、AcGPSRVGGCXNH
2(SEQ ID NO:147)の配列を有するペプチドから構成され、ここで、Xは、γ-カルボキシグルタミン酸(式11、Onco-005)である。各ペプチド上のγ-カルボキシグルタミン酸の2つのカルボキシル部分は、式(I)のR
3およびR
4と配位し、3当量の式(I)と1当量の式11とをもたらし、構造を以下に示す。
【化17】
【0099】
A375細胞を用いたOnco-005(15)の用量依存的細胞殺滅を
図3に示す。
【0100】
異なるタイプの腫瘍に対して特異的な他の白金(II)-ペプチドコンジュゲートを、以下に示す。
【化18】
乳癌に対して特異的な白金(II)-ペプチドコンジュゲートの例
【化19】
肺癌に対して特異的な白金(II)-ペプチドコンジュゲートの例
【化20】
前立腺癌に対して特異的な白金(II)-ペプチドコンジュゲートの例
【化21】
肉腫に対して特異的な白金(II)-ペプチドコンジュゲートの例
【0101】
乳癌、肺癌、前立腺癌および肉腫癌に対する、上記で提供されたこれらの白金-ペプチドコンジュゲートの例のいずれも、インビトロまたはインビボのいずれかで合成および試験されていないが、それでも、これらの抗癌活性は、抗黒色腫白金(II)-ペプチドコンジュゲート(Onco-003、Onco-005)と同等であろうと予測され、したがって、EC50値は0.01μM~100μMの範囲を示している。
【0102】
医薬組成物および治療投与
本発明は、有効量の活性化合物と、薬学的に許容され得る担体または賦形剤とによって構成される医薬組成物を提供する。本医薬組成物は、ヒトまたは獣医学的投与に適している。
【0103】
本発明の医薬組成物は、ヒト、哺乳類、または非ヒト動物、例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、家禽、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモットなどを含むがこれらに限定されない対象、より好ましくは哺乳類であり、最も好ましくはヒトに組成物を投与できる任意の形態であり得る。
【0104】
本発明の組成物は、固体、液体または気体(エアロゾル)の形態であり得る。典型的な投与経路としては、限定されないが、経口、局所、非経口、舌下、直腸、膣、眼球および鼻腔内を挙げることができる。非経口投与としては、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、胸腔内注射、または注入技術が挙げられる。好ましくは、組成物は非経口的に投与され、最も好ましくは静脈内投与される。本発明の医薬組成物は、対象への組成物の投与時に、本発明の化合物が生物学的に利用可能となるように製剤化することができる。組成物は、1つまたは複数の投薬単位の形態をとることができ、例えば、錠剤は単一の投薬単位とすることができ、エアロゾル形態の本発明の化合物の容器は、複数の投薬単位を保持することができる。
【0105】
医薬組成物の調製に使用される材料は、使用される量において非毒性であり得る。医薬組成物中の有効成分の最適な投薬量がさまざまな要因に依存することは、当業者には明らかであろう。関連する要因としては、限定されないが、対象(例えば、ヒト)の種類、対象の全体的な健康状態、治療を必要とする対象の癌の種類、多剤併用療法の一部としての組成物の使用、本発明の化合物の特定の形態、投与の方法、および採用される組成物が挙げられる。
【0106】
薬学的に許容され得る担体または賦形剤は、微粒子であってもよく、そのため組成物は、例えば、錠剤または粉末の形態である。担体は、液体であることができ、組成物は、例えば、経口シロップまたは注射用液体である。さらに、担体は、例えば、吸入投与に有用なエアロゾル組成物を提供するように、気体状であることができる。
【0107】
組成物は経口投与を意図したものであってもよく、その場合、組成物は好ましくは固体または液体形態であり、ここで、半固体、半液体、懸濁液およびゲル形態は、固体または液体のいずれかとして本明細書で考慮される形態の中に含まれる。
【0108】
経口投与用の固形組成物としては、組成物は、粉末、顆粒、圧縮錠剤、丸薬、カプセル、チューインガム、ウエハースなどの形態に製剤化することができる。このような固体組成物は、典型的には、1つまたは複数の不活性な希釈剤を含む。さらに、以下の1つまたは複数が存在していてもよい:バインダー、例えばエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶性セルロースまたはゼラチン;医薬品添加剤、例えばデンプン、ラクトースまたはデキストリン、崩壊剤、例えばアルギン酸、アルギン酸ナトリウム、Primogel、コーンスターチなど;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウムまたはSterotex;滑剤、例えばコロイド状二酸化ケイ素;甘味剤、例えばスクロースまたはサッカリン;甘味剤、例えばペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジ香料、および着色剤。
【0109】
医薬組成物がカプセル、例えばゼラチンカプセルの形態である場合、上記の種類の材料に加えて、ポリエチレングリコール、シクロデキストリンまたは脂肪油などの液体担体を含有することができる。
【0110】
医薬組成物は、液体の形態、例えば、エリキシル、シロップ、溶液、乳剤または懸濁液とすることができる。液体は、経口投与または注射による送達のために有用であり得る。経口投与が意図される場合、組成物は、甘味料、保存剤、色素/着色料および香味増強剤のうちの1つまたは複数を含むことができる。注射による投与用の組成物では、界面活性剤、保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁剤、緩衝剤、安定化剤および等張剤のうちの1つまたは複数が含まれていてもよい。
【0111】
本発明の液体組成物は、溶液、懸濁液または他の同様の形態であるかどうかにかかわらず、以下のうちの1つまたは複数を含んでいてもよい:無菌の希釈剤、例えば注射用水、食塩溶液、好ましくは生理食塩水、リンゲル液、等張塩化ナトリウム、固定油、例えば溶媒または懸濁媒体として用いることができる合成モノまたはジグリセリド、ポリエチレングリコール、グリセリン、シクロデキストリン、プロピレングリコールなどの溶媒;抗菌剤、例えばベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム;キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;緩衝剤、例えば酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩ならびに塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張性調整剤。非経口組成物は、ガラス、プラスチックまたは他の材料でできたアンプル、使い捨て注射器、多回投与用バイアルに封入することができる。生理食塩水が好ましいアジュバントである。注射用組成物は、好ましくは無菌である。
【0112】
特定の障害または症状の治療に有効な本発明の化合物の量は、その障害または症状の性質に依存することになり、標準的な臨床技術によって決定することができる。さらに、最適な投薬量の範囲を特定するために、インビトロまたはインビボアッセイを必要に応じて採用することができる。組成物に採用される正確な用量は、投与経路、疾患または障害の重大性にも依存し、医師の判断および各患者の状況に従って決定されるべきである。
【0113】
医薬組成物は、適切な投薬量が得られるような有効量の本発明の化合物を含む。典型的には、この量は、組成物の重量で、本発明の化合物の少なくとも0.01%である。経口投与が意図される場合、この量は、組成物の0.1重量%~80重量%になるように変化させることができる。好ましい経口組成物は、組成物の重量で、4%~50%の本発明の化合物を含むことができる。本発明の好ましい組成物は、非経口投薬単位が0.01重量%~2重量%の本発明の化合物を含有するように調製される。
【0114】
本発明の化合物は、単回投与または多回投与で投与することができる。
【0115】
一実施形態では、本発明の化合物は、多回投与で投与される。多回投与で投与される場合、化合物は、症状を治療するのに十分な頻度および量で投与される。一実施形態では、投与の頻度は、1日1回~約8週間に1回の範囲である。別の実施形態では、投与の頻度は、約1週間に1回~約6週間に1回の範囲である。別の実施形態では、投与の頻度は、約3週間に1回~約4週間に1回の範囲である。
【0116】
一般に、対象に投与される本発明の化合物の投薬量は、対象の体重の0.1~50mg/kgの範囲内であり、より典型的には0.1mg/kg~100mg/kgの範囲内である。一実施形態では、対象に投与される量は、対象の体重の0.1mg/kg~50mg/kg、または1mg/kg~50mg/kgの範囲内であり、より好ましくは、対象の体重の0.1mg/kg~25mg/kg、または1mg/kg~25mg/kgの範囲内である。
【0117】
本発明の化合物は、任意の好都合な経路、例えば、注入またはボーラス注射により、上皮または粘膜皮膚ライニング(例えば、口腔粘膜、直腸粘膜および腸粘膜など)を介した吸収により投与することができる。投与は全身的または局所的であることができる。さまざまな送達システム、例えば、微粒子、マイクロカプセル、カプセルなどが知られており、本発明の化合物を投与するために有用であり得る。特定の実施形態では、2つ以上の本発明の化合物が対象に投与される。投与方法としては、経口投与および非経口投与を挙げることができるが、これらに限定されず、非経口投与としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下;鼻内、硬膜外、舌下、鼻内、脳内、脳室内、髄腔内、膣内、経皮、直腸、吸入、または耳、鼻、目もしくは皮膚への局所的投与が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい投与様式は、医師の裁量に委ねられ、病状の部分(癌、癌性腫瘍または前癌状態などの部分)に部分的に依存するであろう。
【0118】
一実施形態では、本発明の化合物は、非経口的に投与される。
【0119】
好ましい実施形態では、本発明の化合物は静脈内投与される。
【0120】
具体的な実施形態では、本発明の1つまたは複数の化合物を、治療が必要な領域に局所的に投与することが望ましくあり得る。これは、例えば、限定するものではないが、手術中の局所注入;局所適用、例えば、手術後の創傷被覆材と組み合わせて;注射によって;カテーテルによって;座薬によって;またはインプラントによって達成することができ、インプラントは、膜、例えばサイラスティック(sialastic)膜または繊維を含む、多孔性、非孔性またはゼラチン性材料であり得る。一実施形態では、投与は、癌、腫瘍または前癌組織の部分(または以前の部分)での直接注入によるものであり得る。特定の実施形態では、脳室内注射および髄腔内注射を含む任意の適切な経路によって、本発明の1つまたは複数の化合物を中枢神経系に導入することが望ましくあり得る。脳室内注射は、例えば、Ommayaリザーバーのようなリザーバーに取り付けられた脳室内カテーテルによって容易にされ得る。
【0121】
肺投与はまた、例えば、吸入器またはネブライザーの使用、およびエアロゾル化剤との製剤化、またはフルオロカーボンまたは合成肺サーファクタントでの灌流によって採用することができる。特定の実施形態では、本発明の化合物は、トリグリセリドなどの従来の結合剤および担体を用いて、坐剤として製剤化することができる。
【0122】
さらに別の実施形態では、本発明の化合物は、制御放出システムで送達することができる。一実施形態では、ポンプを使用することができる(Langer, supra; Sefton, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14:201 (1987); Buchwald et al., Surgery 88:507 (1980); Saudek et al., N. Engl. J. Med. 321:574 (1989)を参照されたい)。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる(Medical Applications of Controlled Release, Langer and Wise (eds.), CRC Pres., Boca Raton, Florida (1974); Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance, Smolen and Ball (eds.), Wiley, New York (1984); Ranger and Peppas, J. Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23:61 (1983)を参照されたい;また、Levy et al., Science 228:190 (1985); During et al., Ann. Neurol. 25:351 (1989); Howard et al., J. Neurosurg. 71:105 (1989)も参照されたい)。さらに別の実施形態では、制御放出システムは、本発明の化合物の標的、例えば、脳の近傍に配置することができ、したがって、全身用量のほんの一部しか必要としない(例えば、Goodson, in Medical Applications of Controlled Release, supra, vol. 2, pp. 115-138 (1984)を参照されたい)。Langerによる総説(Science 249:1527-1533 (1990))で議論されている他の制御放出システムを使用することもできる。
【0123】
「担体」という用語は、本発明の化合物と一緒に投与される希釈剤、アジュバントまたは医薬品添加剤を指す。このような医薬担体は、液体、例えば水および油(石油系、動物系、植物系または合成由来のもの、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などを含む油)であり得る。担体は、食塩水、アカシアガム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイダルシリカ、尿素などであり得る。さらに、補助剤、安定化剤、増粘剤、潤滑剤および着色剤を使用することができる。一実施形態では、対象に投与される場合、本発明の化合物および薬学的に許容され得る担体は無菌である。本発明の化合物が静脈内投与される場合、水が好ましい担体である。食塩溶液およびデキストロースとグリセロールとの水溶液も、特に注射液のための液体担体として採用することができる。適切な医薬担体としては、医薬品添加剤、例えばデンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。本組成物はまた、所望により、少量の湿潤剤、乳化剤またはpH緩衝剤を含有することができる。
【0124】
本組成物は、溶液、懸濁液、乳剤、錠剤、丸薬、ペレット、カプセル、液体を含むカプセル、粉末、徐放性製剤、坐剤、乳剤、エアロゾル、スプレー、懸濁液の形態、または使用に適した他の任意の形態を取ることができる。一実施形態では、薬学的に許容され得る担体は、カプセルである(例えば、米国特許第5,698,155号明細書を参照されたい)。適切な薬学的担体の他の例は、E.W. Martin著“Remington’s Pharmaceutical Sciences”に記載されている。
【0125】
製剤化できる持続放出または指向性放出組成物としては、リポソーム(脂質ナノ粒子)、PLGAおよび他の生体適合性ポリマーで調製したポリマー性ナノ粒子、および本発明のミセル白金錯体、ウイルス様粒子ならびに本発明のペプチド白金錯体が異なる分解性のコーティング、例えばマイクロ封入、多重コーティングなどで保護されている他の製剤が挙げられるが、これらに限定されない。また、組成物を凍結乾燥し、得られた凍結乾燥物を、例えば、注射用製剤の調製に使用することも可能である。
【0126】
好ましい実施形態では、本発明のペプチド白金錯体は、溶液中で送達される。特に好ましい実施形態では、溶液は、デキストロースの等張溶液を含んでいる。
【0127】
好ましい実施形態では、本発明の化合物は、動物、特にヒトへの静脈内投与に適合した医薬組成物として、日常的な手順に従って製剤化される。典型的には、静脈内投与のための担体または賦形剤は、無菌等張性水性緩衝液である。必要に応じて、組成物は、可溶化剤も含むことができる。静脈内投与用の組成物は、任意に、注射部分の痛みを緩和するためにリグノカインなどの局所麻酔薬を含むことができる。一般に、成分は別々に、または一緒に混合して単位剤形、例えば乾燥凍結乾燥粉末または水不含の濃縮物として、活性薬剤の量を示すアンプルまたはサシェなどの密閉容器で供給される。本発明の化合物が注入によって投与される場合、例えば、滅菌された医薬品グレードの水または生理食塩水を含む注入用ボトルを用いて調剤することができる。本発明の化合物が注射によって投与される場合、投与前に成分を混合できるように、注射用滅菌水または食塩水のアンプルを提供することができる。
【0128】
経口投与用の組成物は、例えば、錠剤、トローチ、水性または油性懸濁液、顆粒、粉末、乳剤、カプセル、シロップ、またはエリキシルの形態とすることができる。経口投与組成物は、薬学的に口当たりの良い製剤を提供するために、1つまたは複数の必要に応じた薬剤、例えば、フルクトース、アスパルテームまたはサッカリンなどの甘味剤;ペパーミント、ウィンターグリーン油またはチェリーなどの香味剤;着色剤;および保存剤を含むことができる。さらに、錠剤または丸薬の形態である場合、組成物は、消化管内での崩壊および吸収を遅らせるためにコーティングされ、それによって長期間にわたって持続的な作用を提供することができる。浸透圧的に活性な駆動錯体を取り囲む選択的に透過性の膜もまた、本発明の経口投与組成物に適している。これらの後期プラットフォームでは、カプセルの周囲の環境からの流体が駆動錯体によって吸収され、駆動錯体は膨潤して開口部を通して薬剤または薬剤組成物に取って代わる。これらの送達プラットフォームは、即時放出製剤のスパイクされたプロファイルとは対照的に、本質的にゼロ次の送達プロファイルを提供することができる。モノステアリン酸グリセロールまたはステアリン酸グリセロールなどの時間遅延材料も使用することができる。経口組成物としては、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体が挙げられる。このような担体は、好ましくは医薬グレードのものである。
【0129】
本発明の医薬組成物は、局所投与を意図することができ、この場合、担体は、溶液、乳剤、軟膏またはゲル基剤の形態とすることができる。基剤は、例えば、ペトロラタム、ラノリン、ポリエチレングリコール、ミツロウ、鉱油、水およびアルコールなどの希釈剤、ならびに乳化剤および安定化剤のうちの1つまたは複数を含むことができる。増粘剤は、局所投与用の組成物中に存在することができる。経皮投与が意図される場合、組成物は、経皮パッチまたはイオントフォレシスデバイスの形態とすることができる。局所用製剤は、0.01%~10%w/v(組成物の単位体積当たりの重量)の本発明の化合物の濃度を含むことができる。
【0130】
組成物は、固体または液体の投薬単位の物理的形態を変更するさまざまな材料を含むことができる。例えば、組成物は、有効成分の周りにコーティングシェルを形成する材料を含むことができる。コーティングシェルを形成する材料は、典型的には不活性であり、例えば、砂糖、シェラック、および他の腸溶性コーティング剤から選択することができる。あるいは有効成分は、ゼラチンカプセルに封入することができる。
【0131】
組成物は気体投薬単位からなることができ、例えば、それはエアロゾルの形態であることができる。エアロゾルという用語は、コロイド性のものから加圧パッケージからなるシステムまで、多岐にわたるシステムを示すために使用される。送達は、液化ガスもしくは圧縮ガスによって、または有効成分を吐出する適切なポンプシステムによって行うことができる。組成物のエアロゾルは、組成物を送達するために、単相系、二相系または三相系で送達することができる。エアロゾルの送達は、必要な容器、活性化剤、バルブ、サブ容器、スペーサーなどを含み、これらは一緒になってキットを形成することができる。好ましいエアロゾルは、当業者であれば、過度の実験なしに決定することができる。
【0132】
固体、液体または気体の形態であろうと、本発明の組成物は、追加の抗癌剤、制吐剤、造血コロニー刺激因子、抗鬱剤および鎮痛剤を含むがこれらに限定されないものの中から選択される追加の治療上有効な薬剤を含むことができる。
【0133】
医薬組成物は、医薬の技術分野でよく知られた方法論を用いて調製することができる。例えば、注射によって投与されることを意図した組成物は、本発明の化合物を水と組み合わせて溶液を形成することによって調製することができる。均質な溶液または懸濁液の形成を促進するために、界面活性剤を添加することができる。界面活性剤は、本発明の化合物と非共有結合的に相互作用して、水性送達システムにおける本発明の化合物の溶解または均質な懸濁を促進することができる複合体である。
【0134】
一実施形態では、本発明の医薬組成物は、1つまたは複数の既知の治療上有効な薬剤を含んでいてもよい。
【0135】
別の実施形態では、本発明の医薬組成物は、追加の抗癌剤の前、それと同時、またはその後、または同日、または互いに1時間、2時間、12時間、24時間、48時間、72時間、1週間、2週間、3週間もしくは4週間以内に投与することができる。
【0136】
別の実施形態では、本発明の医薬組成物は、制吐剤の前、それと同時、またはその後、または同日、または互いの1時間、2時間、12時間、24時間、48時間もしくは72時間以内に投与することができる。
【0137】
別の実施形態では、本発明の医薬組成物は、造血コロニー刺激因子の前、それと同時、またはその後、または同日、または互いに1時間、2時間、12時間、24時間、48時間、72時間、1週間、2週間、3週間もしくは4週間以内に投与することができる。
【0138】
別の実施形態では、本発明の医薬組成物は、オピオイドまたは非オピオイド鎮痛剤の前、それと同時、またはその後、または同日、または互いに1時間、2時間、12時間、24時間、48時間もしくは72時間以内に投与することができる。
【0139】
別の実施形態では、本発明の医薬組成物は、抗鬱剤の前、それと同時、またはその後、または同日、または互いに1時間、2時間、12時間、24時間、48時間もしくは72時間以内に投与することができる。
【0140】
キット
本発明は、本発明の化合物または組成物の対象への投与を簡略化することができるキットを包含する。
【0141】
本発明の典型的なキットは、本発明の化合物の単位投薬量を含む。一実施形態では、単位剤形は、有効量の本発明の化合物と薬学的に許容され得る担体または賦形剤とを含む、無菌であり得る容器内にある。別の実施形態では、単位剤形は、有効量の本発明の化合物を凍結乾燥物として含有する容器内にある。この例では、キットはさらに、食塩水またはリン酸緩衝食塩水などの凍結乾燥物の再構成に有用な溶液を含む第2の容器をさらに備えることができる。キットはまた、本発明の化合物の使用に関するラベルまたは印刷された説明書を含むことができる。キットはさらに、別の治療上有効な薬剤の単位剤形を含むことができる。一実施形態では、キットは、癌を治療するのに有効な量の追加の抗癌剤を含む容器を備える。別の実施形態では、キットは、制吐剤、造血コロニー刺激因子、鎮痛剤または抗不安剤などの治療上活性な薬剤を含む容器を備える。
【0142】
一実施形態では、キットは、本発明の医薬組成物の単位剤形を含む。
【0143】
本発明のキットはさらに、本発明の化合物または医薬組成物の単位剤形を投与するのに有用なデバイスをさらに含むことができる。このようなデバイスの例としては、必要に応じて単位剤形を含む注射器、点滴バッグ、パッチまたは浣腸器が挙げられる、これらに限定されない。
【0144】
治療用途:癌の治療
癌または新生物疾患(新生物、腫瘍、転移、または制御不能な細胞増殖を特徴とする任意の疾患または障害を含むが、これらに限定されない)は、癌を治療するのに有効な量の本発明の化合物の投与によって、または癌を治療するのに有効な量の組成物の投与によって治療または予防でき、前述の組成物は、薬学的に許容され得る担体と本発明の化合物とを含む。本発明の化合物がペプチド白金錯体である場合、組成物は、その薬学的に許容され得る塩を含むことができる。癌に適用される「治療する」という用語は、本明細書に記載されるような癌または新生物疾患の治療および/または予防の両方を包含する。
【0145】
癌の動物モデル
癌の動物モデルは、癌に対するインビボ効果について本発明によるPT錯体を試験するために使用される。マウスモデルは、このようなインビボ試験に有用であり、限定されないが、以下のマウスモデルが含まれる。
【0146】
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【0147】
治療方法
好ましい実施形態では、本発明は、癌細胞もしくは新生物細胞を殺滅するステップ;癌細胞もしくは新生物細胞の増殖を阻害するステップ;癌細胞もしくは新生物細胞の複製を阻害するステップ;またはその症候を改善するステップを含む、癌を治療する方法を提供し、前述の方法は、癌を治療するのに有効な量の本発明の化合物の投与を必要とする対象に本発明の化合物を投与するステップを含む。
【0148】
したがって、本発明の化合物は、さまざまな癌の治療のために、多岐にわたる状況において使用することができる。理論に束縛されることなく、一実施形態では、本発明のペプチド白金錯体は、拡散によって細胞に入り、DNAと反応して鎖間および鎖内架橋ならびにDNA-タンパク質架橋を形成し、これは細胞が複製する能力を妨げることができる。
【0149】
特定の実施形態では、治療を必要とする対象は、以前に癌の治療を受けたことがある。このような以前の治療としては、事前の化学療法、放射線療法、手術、または癌ワクチンなどの免疫療法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0150】
別の実施形態では、治療される癌は、白金療法に対する感受性を示したか、または白金療法に応答することが知られている癌である。このような癌としては、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、卵巣癌、乳癌、膀胱癌、精巣癌、頭頸部癌、大腸癌、ホジキン病、白血病、骨原性肉腫および黒色腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0151】
さらに別の実施形態では、治療される癌は、白金療法に対して耐性を示したか、または白金療法に対して難治性であることが知られている癌である。このような難治性の癌としては、子宮頸部、前立腺および食道の癌が挙げられるが、これらに限定されない。癌は、癌細胞の少なくとも一部の有意な部分が療法に応答して殺滅されないか、またはその細胞分裂が停止されない場合に、治療に対して難治性であると決定され得る。このような決定は、インビボまたはインビトロのいずれかで、癌細胞に対する治療の有効性を評価するために当該技術分野で知られている任意の方法によって行うことができ、このような文脈における「難治性」の当該技術分野で受け入れられている意味を用いることができる。具体的な実施形態では、癌は、癌細胞の数が有意に減少していないか、または増加している難治性である。このような癌としては、子宮頸部、前立腺および食道の癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0152】
本発明の化合物で治療できる他の癌としては、以下の第3表に開示される癌およびその転移が挙げられるが、これらに限定されない。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0153】
一実施形態では、癌は、膵臓癌、大腸癌、中皮腫、悪性胸水、腹膜癌腫症、腹膜肉腫症、腎細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、精巣癌、膀胱癌、乳癌、頭頚癌および卵巣癌からなる群から選択される。
【0154】
好ましい実施形態では、癌は、腎細胞癌、膵臓癌、大腸癌または中皮腫である。
【0155】
予防的方法
本発明の化合物はまた、表1に列挙した癌を含むがこれらに限定されない新生物状態または悪性状態への進行を防止するために投与することもできる。このような予防的使用は、新生物または癌への進行に先行することが知られているかまたは疑われる状態、特に、過形成、化生、または最も特に、異形成からなる非新生物細胞増殖が生じた場合に示される(このような異常増殖状態の総説については、Robbins and Angell, 1976, Basic Pathology, 2d Ed., W.B. Saunders Co., Philadelphia, pp. 68-79を参照されたい)。過形成は、構造または機能に著しい変化を伴わない組織または器官の細胞数の増加を伴う、制御された細胞増殖の一形態である。例えば、子宮内膜過形成はしばしば子宮内膜癌に先行し、前癌状態の結腸ポリープはしばしば癌性病変に変化する。異形成は、ある種の成体細胞または完全に分化した細胞が、別の種の成体細胞で置換される、制御された細胞増殖の一形態である。化生は、上皮細胞または結合組織細胞で起こり得る。典型的な化生は、多少無秩序な化生上皮を伴う。異形成は癌の前兆であることが多く、主に上皮に見られる。異形成は、非腫瘍性細胞増殖の最も無秩序な形態であり、個々の細胞の均一性の喪失および細胞の構造的配向の喪失を伴う。異形成細胞はしばしば異常に大きく、深く染色された核を有し、多形性を示す。異形成は、慢性的な刺激または炎症が存在する場所に特徴的に生じ、子宮頸部、呼吸経路、口腔および胆嚢にしばしば見られる。
【0156】
代替的にまたは付加的に、過形成、化生もしくは異形成として特徴付けられる異常な細胞増殖の存在、または患者からの細胞試料によってインビボで表示もしくはインビトロで表示される、形質転換された表現型、または悪性表現型の1つまたは複数の特徴の存在が、本発明の組成物の予防的/治療的投与の望ましさを示すことができる。形質転換された表現型のこのような特性としては、形態変化、より緩い基質接着、接触阻害の喪失、固定依存性の喪失、プロテアーゼ放出、糖輸送の増加、血清要求性の低下、胎児抗原の発現、250,000ダルトンの細胞表面タンパク質の消失などが挙げられる(形質転換されたまたは悪性の表現型に関連する特性については、同pp. 84-90も参照されたい)。
【0157】
具体的な実施形態では、上皮の良性に見える過形成もしくは異形成病変である白板症、またはin situ癌腫であるボーエン病は、予防的介入の望ましさを示す前新生物病変である。
【0158】
別の実施形態では、繊維嚢胞性疾患(嚢胞性過形成、乳腺異形成、特に腺腫症(良性上皮過形成))は、予防的介入の望ましさを示すものである。
【0159】
本発明の化合物の予防的使用はまた、癌につながる可能性のあるいくつかのウイルス感染症においても示される。例えば、ヒト乳頭腫ウイルスは子宮頸癌につながる可能性があり(例えば、Hernandez-Avila et al., Archives of Medical Research (1997) 28:265-271を参照されたい)、エプスタイン-バーウイルス(EBV)はリンパ腫につながる可能性があり(例えば、Herrmann et al., J Pathol (2003) 199(2):140-5を参照されたい)、B型またはC型肝炎ウイルスは肝癌につながる可能性があり(例えば、El-Serag, J Clin Gastroenterol (2002) 35(5 Suppl 2):S72-8を参照されたい)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)-IはT細胞白血病につながる可能性があり(例えば、Mortreux et al., Leukemia (2003) 17(1):26-38を参照されたい)、ヒトヘルペスウイルス-8感染症はカポジ肉腫につながる可能性があり(例えば、Kadow et al., Curr Opin Investig Drugs (2002) 3(11):1574-9を参照されたい)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は、免疫不全の結果として癌発生に寄与する(例えば、Dal Maso et al., Lancet Oncol (2003) 4(2):110-9を参照されたい)。
【0160】
他の実施形態では、悪性腫瘍の以下の素因の1つまたは複数を示す患者は、有効量の本発明の化合物の投与によって治療することができる:悪性腫瘍に関連する染色体転座(例えば、悪性腫瘍に関連する染色体転座(例えば、慢性骨髄性白血病のフィラデルフィア染色体、濾胞性リンパ腫のt(14;18)など)、家族性ポリポーシスまたはガードナー症候群(結腸癌の前身の可能性)、良性モノクローナル腫瘍(多発性骨髄腫の前身の可能性)、メンデル(遺伝)継承パターンを示す癌または前癌性疾患を有する人との第一度近親(例えば、家族性大腸ポリポーシス、ガードナー症候群、遺伝性外骨腫症、多内分泌腺腫症、アミロイド産生および褐色細胞腫を伴う甲状腺髄質癌、ポイツ・イェガース症候群、フォン・レックリングハウゼン神経線維腫症、網膜芽細胞腫、頚動脈小体腫瘍、皮膚黒色癌、眼内黒色癌、色素性乾皮症、失調性毛細血管拡張症、チェディアック・東症候群、白皮症、ファンコニ再生不良性貧血、ブルーム症候群;Robbins and Angell, 1976, Basic Pathology, 2d Ed., W.B. Saunders Co., Philadelphia, pp. 112-113などを参照されたい)、ならびに発癌物質への暴露(例えば、喫煙、および特定の化学物質の吸入または接触)。
【0161】
別の具体的な実施形態では、本発明の組成物は、乳癌、結腸癌、卵巣癌または子宮頸癌への進行を防止するために、ヒト患者に投与される。
【0162】
癌のためのマルチモダリティ治療
本発明の化合物は、手術、放射線療法、または癌ワクチンなどの免疫療法を含むがこれらに限定されない1つもしくは複数の追加の抗癌治療モダリティを受けているかまたは現在受けている対象に投与することができる。
【0163】
一実施形態では、本発明は、(a)癌を治療するのに有効な量の本発明の化合物を必要とする対象に本発明の化合物を投与するステップと、(b)手術、放射線療法、または癌ワクチンなどの免疫療法を含むがこれらに限定されない1つもしくは複数の追加の抗癌治療モダリティを対象に投与するステップとを含む、癌を治療する方法を提供する。
【0164】
一実施形態では、追加の抗癌治療モダリティは、放射線療法である。
【0165】
別の実施形態では、追加の抗癌治療モダリティは、手術である。
【0166】
さらに別の実施形態では、追加の抗癌治療モダリティは、免疫療法である。
【0167】
具体的な実施形態では、本発明の化合物は、放射線療法と同時に投与される。別の具体的な実施形態では、追加の抗癌治療モダリティは、好ましくは少なくとも1時間、5時間、12時間、1日、1週間、1ヶ月、より好ましくは数ヶ月(例えば、最大3ヶ月)本発明の化合物の投与の前または後に投与される。
【0168】
追加の抗癌治療モダリティが放射線療法である場合、治療すべき癌の種類に応じて、任意の放射線療法プロトコルを使用することができる。例えば、限定するものではないが、X線放射線を投与することができ、特に、深部腫瘍には高エネルギーメガボルテージ(1MeVを超えるエネルギーの放射線)を用いることができ、皮膚癌には電子ビームおよびオルソボルテージX線放射線を用いることができる。また、ラジウム、コバルトおよび他の元素の放射性同位元素など、ガンマ線を放出する放射性同位元素も投与することができる。
【0169】
さらに、本発明は、化学療法または放射線療法が、治療される対象にとって毒性が高すぎること、例えば、許容し得ないかまたは耐え得ない副作用をもたらすことが証明されているかまたは証明できる場合に、化学療法または放射線療法の代替物として本発明の化合物を用いて癌を治療する方法を提供する。治療される対象は、必要に応じて、外科手術、放射線療法または免疫療法などの別の抗癌治療モダリティで治療することができ、どの治療が許容し得るかまたは耐え得るかが判明することによって決まる。
【0170】
本発明の化合物はまた、白血病およびリンパ腫を含むがこれらに限定されない特定の癌の治療などのためにインビトロまたはエクスビボ様式で使用することができ、このような治療は自己幹細胞移植を伴う。これは、動物の自己造血幹細胞を採取して、すべての癌細胞を除去し、次いで、患者の残りの骨髄細胞集団を、追加の抗癌剤および/または高線量放射線療法を伴うか伴わない本発明の化合物の高用量投与を介して根絶し、幹細胞移植片を動物に再注入する多段階のプロセスを含むことができる。次いで、骨髄機能が回復し、対象が回復するまでの間、支持療法が行われる。
【0171】
癌のための多剤併用療法
本発明はまた、癌を治療するのに有効な量の本発明の化合物と1つもしくは複数の追加の抗癌剤またはその薬学的に許容され得る塩(前述の追加の抗癌剤は、本発明の化合物ではない)とを必要とする対象に、本発明の化合物と1つもしくは複数の追加の抗癌剤またはその薬学的に許容され得る塩とを投与するステップを含む、癌を治療する方法を提供する。薬剤の組み合わせは、相加的または相乗的に作用することができる。適切な追加の抗癌剤としては、ゲムシタビン、カペシタビン、メトトレキサート、タキソール、タキソテール、メルカプトプリン、チオグアニン、ヒドロキシウレア、シタラビン、シクロホスファミド、イホスファミド、ニトロソウレア、シスプラチン、カルボプラチン、マイトマイシン、ダカルバジン、プロカルビジン、エトポシド、テニポシド、カンプトテシン、ブレオマイシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、プリカマイシン、ミトキサントロン、L-アスパラギナーゼ、ドキソルビシン、エピルビシン、5フルオロウラシル(5-フルオロウラシル)、タキサン系、例えばドセタキセルやパクリタキセル、ロイコボリン、レバミソール、イリノテカン、エストラムスチン、エトポシド、ナイトロジェンマスタード、BCNU、ニトロソウレア、例えばカルムスチンやロムスチン、ビンカアルカロイド、ビンブラスチン、ビンクリスチンおよびビノレルビン、白金錯体、例えばシスプラチン、カルボプラチンおよびオキサリプラチン、イマチニブメシル酸塩、ヘキサメチルメラミン、トポテカン、チロシンキナーゼ阻害剤、チルホスチン系ハービマイシンA、ゲニスチン、エルブスタチンおよびラベンダスチンAが挙げられるが、これらに限定されない。
【0172】
一実施形態では、追加の抗癌剤は、表4に列挙された薬剤であり得るが、これらに限定されない。
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【表4-6】
【表4-7】
【0173】
本発明の組成物および方法において使用することができる追加の抗癌剤は、以下を含むが、これらに限定されない:アシビシン;アクラルビシン;アコダゾール塩酸塩;アクロニン;アドゼレシン;アルデスロイキン;アルトレタミン;アンボマイシン(ambomycin);酢酸アメタントロン;アミノグルテチミド;アムサクリン;アナストロゾール;アントラマイシン;アスパラギナーゼ;アスペリン;アザシチジン;アゼテパ;アゾトマイシン;バチマスタット;ベンゾデパ;ビカルタミド;ビサントレン塩酸塩;ビスナフィドジメシレート;ビゼルシン;硫酸ブレオマイシン;ブレキナルナトリウム;ブロピルイミン;ブスルファン;カクチノマイシン;カルステロン;カラセミド;カルベチマー;カルボプラチン;カルムスチン;カルビシン塩酸塩;カルゼレシン;セデフィンゴール;クロラムブシル;シロレマイシン;シスプラチン;クラドリビン;メシル酸クリスナトール;シクロホスファミド;シタラビン;ダカルバジン;ダクチノマイシン;ダウノルビシン塩酸塩;デシタビン;デキソルマプラチン;デザグアニン;メシル酸デザグアニン;ジアジコン;ドセタキセル;ドキソルビシン;ドキソルビシン塩酸塩;ドロキシフェン;クエン酸ドロキシフェン;プロピオン酸ドロモスタノロン;デュアゾマイシン;エダトレキサート;エフロルニチン塩酸塩;エルサミトルシン;エンロプラチン;エンプロメート;エピプロピジン;エピルビシン塩酸塩;エルブロゾール;エソルビシン塩酸塩;エストラムスチン;エストラムスチンリン酸ナトリウム;エタニダゾール;エトポシド;リン酸エトポシド;エトプリン;ファドロゾール塩酸塩;ファザラビン;フェンレチニド;フロクスウリジン;リン酸フルダラビン;フルオロウラシル;フルロシタビン;フォスキドン;フォストリエシンナトリウム;ゲムシタビン塩酸塩;ヒドロキシウレア;イダルビシン塩酸塩;イホスファミド;イルモフォシン;インターロイキンII(組換えインターロイキンIIまたはrIL2を含む)、インターフェロンアルファ-2α;インターフェロンアルファ-2β;インターフェロンアルファ-n1;インターフェロンアルファ-n3;インターフェロンベータ-Iα;インターフェロンガンマ-Iβ;イプロプラチン;イリノテカン塩酸塩;酢酸ランレオチド;レトロゾール;酢酸リュープロリド;リアオゾール塩酸塩;ロメトレキソールナトリウム;ロムスチン;ロソキサントロン塩酸塩;マソプロコール;メイタンシン;メクロレタミン塩酸塩;酢酸メゲストロール;メルファラン;メノガリル;メルカプトプリン;メトトレキサート;メトトレキサートナトリウム;メソプリン;メトレデパ;ミチンドミド;ミトカルシン;ミトクロミン;ミトギリン;ミトマルシン;マイトマイシン;ミトスペル;ミトタン;ミトキサントロン塩酸塩;ミコフェノール酸;ノコダゾール;ノガラマイシン;オルマプラチン;オキシスラン;パクリタキセル;ペグアスパラガーゼ;ペリオマイシン;ペンタムスチン;硫酸ペプロマイシン;ペルホスファミド;ピボブロマン;ピポスルファン;ピロキサントロン塩酸塩;プリカマイシン;プロメスタン;ポルフィマーナトリウム;ポルフィロマイシン;プレドニムスチン;プロカルバジン塩酸塩;プロマイシン;プロマイシン塩酸塩;ピラゾフリン;リボプリン;ログレチミド;サフィンゴール;サフィンゴール塩酸塩;セムスチン;シムトラゼン;スパルホサートナトリウム;スパルソマイシン;スピロゲルマニウム塩酸塩;スピロムスチン;スピロプラチン;ストレプトニグリン;ストレプトゾシン;スロフェヌル;タリソマイシン;テコガランナトリウム;テガフール;テロキサントロン塩酸塩;テモポルフィン;テニポシド;テロキシロン;テストラクトン;チアミプリン;チオグアニン;チオテパ;チアゾフリン;チラパザミン;クエン酸トレミフェン;酢酸トレストロン;リン酸トリシリビン;トリメトレキサート;グルクロン酸トリメトレキサート;トリプトレリン;ツブロゾール塩酸塩;ウラシルマスタード;ウレデパ;バプレオチド;ベルテポルフィン;硫酸ビンブラスチン;硫酸ビンクリスチン;ビンデシン;硫酸ビンデシン;硫酸ビネピジン;硫酸ビングリシネート;硫酸ビンロイロシン;酒石酸ビノレルビン;硫酸ビノシジン;硫酸ビンゾリジン;ボロゾール;ゼニプラチン;ジノスタチン;ゾルビシン塩酸塩。
【0174】
使用できる他の抗癌剤としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:20-エピ-1,25ジヒドロキシビタミンD3;5-エチニルウラシル;アビラテロン;アクラルビシン;アシルフルベン;アデシペノール;アドゼレシン;アルデスロイキン;ALL TKアンタゴニスト;アルトレタミン;アンバムスチン;アミドックス;アミフォスチン;アミノレブリン酸;アンルビシン;アムサクリン;アナグレリド;アナストロゾール;アンドログラフォリド;血管新生阻害剤;アンタゴニストD;アンタゴニストG;アンタレリックス;抗背側化形態形成タンパク質-1;抗アンドロゲン、前立腺癌;抗エストロゲン;抗ネオプラストン;アンチセンスオリゴヌクレオチド;アフィジコリングリシネート;アポトーシス遺伝子調節剤;アポトーシス調節剤;アプリン酸;ara-CDP-DL-PTBA;アルギニンデアミナーゼ;アスラクリン;アタメスタン;アトリムスチン;アキシナスタチン1;アキシナスタチン2;アキシナスタチン3;アザセトロン;アザトキシン;アザチロシン;バッカチン3誘導体;バラノール;バティマススタット;BCR/ABLアンタゴニスト;ベンゾクロリン;ベンゾイルスタウロスポリン;βラクタム誘導体;βアレチン;ベタクラマイシンB;ベツリン酸;bFGF阻害剤;ビカルタミド;ビサントレン;ビサジリジニルスペルミン;ビスナフィド;ビストラテンA;ビゼレシン;ブレフレート;ブロピリミン;ブドチタン;ブチオニンスルホキシミン;カルシポトリオール;カルフォスチンC;カンプトテシン誘導体;カナリアポックスIL-2;カルボキサミド-アミノトリアゾール;カルボキシアミドトリアゾール;CaRest M3;CARN700;軟骨由来阻害剤;カルゼレシン;カゼインキナーゼ阻害剤(ICOS);カスタノスペルミン;セクロピンB;セトロレリックス;クロルンス(chlorlns);クロロキノキサリンスルホンアミド;シカプロスト;cis-ポルフィリン;クラドリビン;クロミフェンアナログ;クロトリマゾール;コリスマイシンA;コリスマイシンB;コンブレタスタチンA4;コンブレタスタチンアナログ;コナゲニン;クラムベシジン816;クリスナトール;クリプトフィシン8;クリプトフィシンA誘導体;キュラシンA;シクロペンタントラキノン;シクロプラタム;シペマイシン;シタラビンオクホスフェート;細胞溶解因子;サイトスタチン;ダクリキシマブ;デシタビン;デヒドロデムニンB;Bデスロレリン;デキサメタゾン;デキシホスファミド;デクスラゾキサン;デクスベラパミル;ジアジコン;ジデムニンB;ジドックス;ジエチルノルスペルミン;ジヒドロ-5-アシチジン;ジヒドロタキソール;ジオキサマイシン;ジフェニルスピロムスチン;ドセタキセル;ドコサノール;ドラセトロン;ドキシフルリジン;ドロロキシフェン;ドロナビノール;デュオカルマイシンSA;エブセレン;エコムスチン;エデルフォシン;エドレコロマブ;エフロルニチン;エレメン;エミテフル;エピルビシン;エプリステリド;エストラムスチンアナログ;エストロゲンアゴニスト;エストロゲンアンタゴニスト;エタニダゾール;リン酸エトポシド;エキセメスタン;ファドロゾール;ファザラビン;フェンレチニド;フィルグラスチム;フィナステリド;フラボピリドール;フレゼラスチン;フルアステロン;フルダラビン;フルオロダウノルニシン塩酸塩;ホルフェニメクス(forfenimex);ホルメスタン;フォストリエシン;フォテムスチン;ガドリニウムテキサフィリン;硝酸ガリウム;ガロシタビン;ガニレリックス;ゼラチナーゼ阻害剤;ゲムシタビン;グルタチオン阻害剤;ヘプスルファム;ヘレグリン;ヘキサメチレンビスアセトアミド;ヒペリシン;イバンドロン酸;イダルビシン;イドキシフェン;イドラマントン;イルモフォシン;イロマスタット;イミダゾアクリドン;イミキモド;免疫賦活剤ペプチド;インスリン様成長因子-1受容体阻害剤;インターフェロンアゴニスト;インターフェロン;インターロイキン;ヨーベングアン;ヨードドキソルビシン;イポメアノール,4-;イロプラクト;イルソグラジン;イソベンガゾール;イソホモハリコンドリンB.イタセトロン;ジャスプラキノラリド;カハラリドF;ラメラリン-Nトリアセテート;ランレオチド;レイナマイシン;レノグラスチム;硫酸レンチナン;レプトルスタチン;レトロゾール;白血病抑制因子;白血球アルファインターフェロン;リュープロライド+エストロゲン+プロゲステロン;リュープロレリン;レバミソール;リアロゾール;線形ポリアミンアナログ;親油性二糖ペプチド;親油性白金錯体;リソクリンアミド7;ロバプラチン;ロムブリシン;ロメトレキソール;ロニダミン;ロソキサントロン;ロバスタチン;ロキソリビン;ルルトテカン;ルテチウムテキサフィリン;リゾフィリン;細胞溶解性ペプチド;マイタンシン;マンノスタチンA;マリマスタット;マソプロコール;マスピン;マトリライシン阻害剤;マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤;メノガリル;メルバロン;メテレリン;メチオニナーゼ;メトクロプラミド;MIF阻害剤;ミフェプリストン;ミルテフォシン;ミリモスティム;ミスマッチ二本鎖RNA;ミトグアゾン;ミトラクトール;マイトマイシンアナログ;ミトナフィド;マイトキシン繊維芽細胞成長因子-サポリン;ミトキサントン;モファロテン;モルグラモスチム;モノクローナル抗体、ヒト絨毛性ゴナドトロフィン;モノホスホリル脂質A+マイコバクテリウム(myobacterium)細胞壁sk;モピダモール;多剤耐性遺伝子阻害剤;多剤腫瘍抑制剤1ベース療法;マスタード抗癌剤;マイカペルオキシドB;マイコバクテリウム細胞壁エキス;ミリアポロン;N-アセチルジナリン;N-置換ベンズアミド;ナファレリン;ナグレスティップ(nagrestip);ナロキソン+ペンタゾシン;ナパビン;ナフテルピン;ナルトグラスチム;ネダプラチン;ネモルビシン;ネリドロン酸;中性エンドペプチダーゼ;ニルタミド;ニサマイシン;一酸化窒素調節剤;一酸化窒素抗酸化剤;ニトルリン;O6-ベンジルグアニン;オクトレオチド;オキシセノン;オリゴヌクレオチド;オナプリストン;オンダンセトロン;オンダンセトロン;オラシン;経口サイトカイン誘導物質;オルマプラチン;オサテロン;オキサリプラチン;オキサウノマイシン;パクリタキセル;パクリタキセルアナログ;パクリタキセル誘導体;パラウアミン;パルミトイルリゾキシン;パミドロン酸;パナキストリオール;パノミフェン;パラバクチン;パゼリプチン;ペグアスパラガーゼ;ペルデシン;ペントサンポリ硫酸ナトリウム;ペントスタチン;ペントロゾール;ペルフルブロン;ペルホスファミド;ペリリルアルコール;フェナジノマイシン;フェニル酢酸;ホスファターゼ阻害剤;ピシバニル;ピロカルピン塩酸塩;ピラルビシン;ピリトレキシム;プラセチンA;プラセチンB;プラスミノーゲンアクチベーター阻害剤;白金錯体;複数の白金錯体;白金トリアミン錯体;ポルフィマーナトリウム;ポルフィロマイシン;プレドニゾン;プロピルビス-アクリドン;プロスタグランジンJ2;プロテアソーム阻害剤;プロテインA系免疫調節剤;プロテインキナーゼC阻害剤;プロテインキナーゼC阻害剤;小型藻類;プロテインチロシンホスファターゼ阻害剤;プリンヌクレオシドホスホリラーゼ阻害剤;プルプリン;ピラゾロアクリジン;ピリドキシル化ヘモグロビンポリオキシエチレンコンジュゲート;rafアンタゴニスト;ラルチトレキセド;ラモセトロン;rasファルネシルタンパク質転移酵素阻害剤;ras阻害剤;ras-GAP阻害剤;レテリプチン脱メチル化;レニウムRe186エチドロネート;リゾキシン;リボザイム;RIIレチナミド;ログレチミド;ロヒツキン(rohitukine);ロムルチド;ロキニメックス;ルビギノンB1;ルボキシル;サフィンゴール;サントピン;SarCNU;サルコフィトールA;サルグラモスチム;Sdi1ミメティック;セムスチン;老化由来阻害剤1;センスオリゴヌクレオチド;シグナル伝達阻害剤;シグナル伝達調節剤;単鎖抗原結合タンパク質;シゾフィラン;ソブゾキサン;ボロカプチン酸ナトリウム;フェニル酢酸ナトリウム;ソルベロール;ソマトメジン結合タンパク質;ソネルミン;スパルフォス酸;スピカマイシンD;スピロムスチン;スプレンオペンチン;スポンジスタチン1;スクアラミン;幹細胞阻害剤;幹細胞分裂阻害剤;スティピアミド;ストロメライシン阻害剤;スルフィノシン;超活性血管活性腸ペプチドアンタゴニスト;スラジスタ;スラミン;スワインソニン;合成グリコサミノグリカン;タリムスチン;タモキシフェンメチオダイド;タウラムスチン;タザロテン;テコガランナトリウム;テガフール;テルラピリリウム;テロメラーゼ阻害剤;テモポルフィン;テモゾロミド;テニポシド;テトラクロロデカオキシド;テトラゾミン;タリブラスチン;チオコラリン;トロンボポエチン;トロンボポエチンミメティック;チマルファシン;チモポエチン受容体アゴニスト;チモトリナン;甲状腺刺激ホルモン;スズエチルエチオプルプリン;チラパザミン;チタノセンビクロライド;トプセンチン;トレミフェン;全能細胞幹細胞因子;翻訳阻害剤;トレチノイン;トリアセチルウリジン;トリシリビン;トリメトレキサート;トリプトレリン;トロピセトロン;ツロステリド;チロシンキナーゼ阻害剤;チルホスチン;UBC阻害剤;ウベニメックス;尿生殖洞由来増殖抑制因子;ウロキナーゼ受容体アンタゴニスト;バプレオチド;バリオリンB;ベクターシステム、赤血球遺伝子療法;ベラレゾール;ベラミン;ベルジン;ベルテポルフィン;ビノレルビン;ビンクサルチン;ビタキシン;ボロゾール;ザノテロン;ゼニプラチン;ジラスコルブ;およびジノスタチンスチラマー。
【0175】
好ましい実施形態では、追加の抗癌剤は、ゲムシタビン、カペシタビンまたは5-フルオロウラシルである。
【0176】
他の治療剤
本発明の方法はさらに、本発明の化合物と、別の治療上有効な薬剤またはその薬学的に許容され得る塩とを投与するステップをさらに含むことができる。本発明の化合物と治療上有効な薬剤とは、相加的に作用することができ、より好ましくは、相乗的に作用することができる。好ましい実施形態では、本発明の化合物は、1つまたは複数の他の治療上有効な薬剤の投与と同時に投与され、これは本発明の化合物を含むものと同じ組成物の一部であってもよいし、異なる組成物中にあってもよい。別の実施形態では、本発明の化合物は、1つまたは複数の他の治療上有効な薬剤の投与の前または後に投与される。本発明の化合物、好ましくは精製されたものと、1つまたは複数の治療上有効な薬剤とを1つまたは複数の容器に含むキットも提供される。
【0177】
癌を治療する本方法において、他の治療上有効な薬剤は、制吐剤であり得る。適切な制吐剤としては、メトクロプロミド、ドンペリドン、プロクロルペラジン、プロメタジン、クロルプロマジン、トリメトベンズアミド、オンダンセトロン、グラニセトロン、ヒドロキシジン、アセチルロイシンモノエタノールアミン、アリザプリド、アザセトロン、ベンズキナミド、ビエタナウチン(bietanautine)、ブロモプリド、ブクリジン、クレボプリド、サイクリジン、ジメンヒドリネート、ジフェニドール、ドラセトロン、メクリジン、メタラタール、メトピマジン、ナビロン、オキシペルンジル(oxyperndyl)、ピバマジン、スコポラミン、スルピリド、テトラヒドロカンナビノール、チエチルペラジン、チオプロペラジンおよびトロピセトロンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0178】
好ましい実施形態では、制吐剤は、グラニセトロンまたはオンダンセトロンである。
【0179】
別の実施形態では、他の治療上有効な薬剤は、造血コロニー刺激因子であり得る。適切な造血コロニー刺激因子としては、フィルグラスチム、サルグラモスチム、モルグラモスチムおよびエポエチンアルファが挙げられるが、これらに限定されない。
【0180】
さらに別の実施形態では、他の治療上有効な薬剤は、オピオイドまたは非オピオイド鎮痛剤であり得る。適切なオピオイド鎮痛剤としては、モルヒネ、ヘロイン、ヒドロモルフォン、ヒドロコドン、オキシモルフォン、オキシコドン、メトポン、アポモルフィン、ノルモルフィン、エトルフィン、ブプレノルフィン、メペリジン、ロペラミド、アニレリジン、エトヘプタジン、ピミニジン、ベタプロジン、ジフェノキシレート、フェンタニル、スフェンタニル、アルフェンタニル、レミフェンタニル、レボルファノール、デキストロメトルファン、フェナゾシン、ペンタゾシン、シクラゾシン、メタドン、イソメタドンおよびプロポキシフェンが挙げられるが、これらに限定されない。適切な非オピオイド鎮痛剤としては、アスピリン、セレコキシブ、ロフェコキシブ、ジクロフィナク、ジフルシナール、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、インドメタシン、ケトロラク、メクロフェナメート、メファナム酸、ナブメトン、ナプロキセン、ピロキシカムおよびスリンダクが挙げられるが、これらに限定されない。
【0181】
さらに別の実施形態では、他の治療上有効な薬剤は、抗不安剤であり得る。適切な抗不安剤としては、ブスピロン、およびジアゼパム、ロラゼパム、オキサザパム、クロラゼプ酸、クロナゼパム、クロルジアゼポキシドおよびアルプラゾラムなどのベンゾジアゼピンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0182】
実施例
実施例1:合成cis-[trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]ジオド白金(II)(10)の合成
水(100mL)中のK2PtCl4(12.51g、30.14mmol)(Alfa Aesar, Ward Hill, MA;または等価物)の濾過溶液を、水(500mL)中のKI(29.19g、176mmol)の溶液に25℃で添加し、10分間撹拌した。得られた溶液に、脱イオン水(130mL)中のtrans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン(3.64g、31.88mmol)(12)(Alfa Aesarまたは等価物)の溶液をゆっくりと添加した。反応混合物を25℃で3時間撹拌し、濾過し、得られた黄色い沈殿物を脱イオン水3×200mLで洗浄した。この沈殿物を脱イオン水800mLに懸濁し、濾過し、固形物を6×150mLの脱イオン水で洗浄したが、この時点で濾液はAgNO3に対して陽性反応を示さなかった。固形物をジメチルホルムアミド(DMF)(150mL)に再懸濁し、濾過した。次いで、フィルターケーキをDMF(3mL)、水(3×100mL)およびアセトン(3×7mL)で洗浄した。固形物を集め、減圧下で乾燥させて、cis-[trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]ジヨード白金(II)(10)を淡黄色粉末(15.28g、90%)として提供した。
【0183】
実施例2:ジアミノシクロヘキサンカルボナト白金酸塩(II)(15)[新規な白金化合物]の調製
水(0.5mL)中のDACHPtCl2(23.602mg;62.08μmol)またはDACHPtI2(35.0mg;62.08μmol)([ジアミノシクロヘキサン]ジヨード白金(II))に、Ag2SO4(19.374mg;62.14μmol)を水0.5mL中の溶液として添加し、超音波処理し、次いで24時間撹拌した。溶液を濾過して沈殿物を除去した。この溶液に12.83mg(65.01μg)のBaCO3を添加し、室温で24時間撹拌した。
【0184】
得られた混合物を濾過して沈殿したBaSO
4を除去し、ジアミノシクロヘキサンカルボナト白金酸塩(II)(15)(化学構造を以下に示す)を含む濾液を24~48時間真空中で乾燥し、乾燥保存した。
【化22】
【0185】
実施例3:ペプチド合成:ACGPSRVGGCNH2、銀塩(12)
AcGPSRVGGCNH2HCl(SEQ ID NO:145)(23.602mg;12.176μmol)に水(0.5mL)を添加し、材料を溶解させた。続いて1N HCl溶液(1mL)を添加し、溶液を十分に混合した。20分後、溶液を窒素流中で蒸発させ、得られた残渣を真空中で24時間乾燥させた。
【0186】
水(0.5mL)中のDACHPtCl2(23.602mg;62.08μmol)に、Ag2SO419.374mg(62.14μmol)を水0.5mL中の溶液として添加した。超音波処理し、次いで24時間撹拌した。同時に、Ba(OH)2(2.306mg;12.18μmol)の懸濁液を、前のステップで得たAc-GPSRVGG-HCl(SEQ ID NO:149)に水0.5mLに溶解した状態で添加した。超音波処理し、次いで24時間撹拌した。沈殿物を濾別した後の前のステップからの溶液を合わせ、超音波処理し、24時間撹拌した。沈殿物を濾別し、次いでアセトン(2×0.5mL)で2回洗浄した。水溶液からの粗生成物(黄色固形物)を粉砕し、真空中で48時間乾燥させた。5.085mgの生成物を得た。
【0187】
実施例4:ジアミノシクロヘキサンカルボナト白金酸塩(II)(15)または白金(II)ペプチドコンジュゲートのリポソーム中への封入
約6gの卵もしくは大豆ホスホチジルコリンまたは他のリン脂質をエタノール60mLに添加し、これに水5mLまでを添加し、約20mg/mLの濃度(他の濃度も適しているであろう)のジアミノシクロヘキサンカルボナト白金酸塩(II)(11)または他のペプチド白金錯体を含有させ、次いで乾燥させる。乾燥後、100mLの水に脂質層で再懸濁し、再懸濁を助けるために混合および15秒間の超音波処理を3~5サイクル行う。この調製により200nmから最大1~2μmの範囲の比較的大きなサイズのマルチラメラのベシクルを得ることができるであろう。より小さな単一ラメラの脂質ベシクルを生成するために、Pt錯体を含む脂質ベシクルを圧力下で細い針もしくは膜を通過させて押し出すか、または適切なマイクロフルイダイザーを使用して流動化させ、大規模な調製を行うことができる。調製物を等張にするために、5%(W:W)濃度の単糖類(ソルビトールもしくはマンニトール)または10%(W:W)濃度の二糖類(トレハロース、スクロース、・・・)のいずれかを、リポソームに封入した白金錯体に添加することができる。
【0188】
あるいは約6gの卵もしくは大豆ホスホチジルコリンまたは他のリン脂質を水100mLに添加し、15~20分間撹拌またはボルテックスしてよく混合する。これに、5mLのジアミノシクロヘキサンカルボナト白金酸(II)(11)または他のペプチド白金錯体溶液を濃度約20mg/mL(他の濃度も適しているであろう)で添加し、少なくとも10分間撹拌またはボルテックスする。小さな脂質ベシクルを形成するために、15~20Kpsiのマイクロフルイダイザーで、少なくとも5回通過させる。等張調製のために、5%(W:W)濃度の単糖類(ソルビトールもしくはマンニトール)または10%(W:W)濃度の二糖類(トレハロース、スクロース、・・・)のいずれかを、リポソームに封入した白金錯体に添加することができる。
【0189】
実施例5.PLGAナノ粒子へのジアミノシクロヘキサンカルボナト白金酸塩(II)(15)、白金錯体および白金-ペプチドコンジュゲートの封入
ポリ(乳酸-グリコール酸)(PLGA)を100mg(+/-5mg)秤量し、ガラス製試験管に入れる。溶媒(酢酸エチル(EtAc)またはジクロロメタン(DCM))1mlをPLGAに添加する。試験管の蓋をしてポリマーを一晩放置して溶解させ、翌日、溶媒が蒸発したら追加の溶媒を添加する。あるいは必要に応じて、ナノ粒子調製当日に高速ボルテックスでポリマーが完全に溶解するまで溶解させる。
【0190】
マグネチックスターラーバー付きの200mlガラスビーカーに0.3%(w/v)ビタミンE-TPGS45mlを添加し、撹拌する。2mlの0.3%(w/v)ビタミンE-TPGSをガラス製試験管に移し替える。
【0191】
PLGA溶液に、水中の白金薬剤(1~10mg/mL)または緩衝液を50μLまで添加する。氷上で混合物を保持しながら、薬剤をポリマーと乳化させるために短時間超音波処理を行う(通常10秒)。2mLのビタミンE-TPGSが入った試験管を用意し、ボルテックスで混合しながらポリマー/白金製剤のエマルジョンを滴加し、さらに溶液(今はエマルジョン)を15~20秒間ボルテックスし続ける。乳化したポリマーを超音波細胞破砕装置に移し、試験管を氷に浸した状態で10秒ずつ3回超音波処理を行う。各10秒間の超音波処理の間に休止し、溶液を冷ましてから次の超音波処理パルスに進む。
【0192】
撹拌溶液から1~2mlの0.3%ビタミンE-TPGSをエマルジョンに添加し、次いで、エマルジョンの全容量を撹拌中の0.3%ビタミンE-TPGS溶液に移し替える。最大3時間、撹拌しながらナノ粒子を固化させ、溶媒を蒸発させる。
【0193】
遠心分離により、白金分子を内包した形成されたナノ粒子を回収する。ナノ粒子ペレットを乱さないように注意しながら、上清を廃棄する。ナノ粒子ペレットを4~5mlの水溶液に再懸濁する。白金担持ナノ粒子を凍結乾燥させる場合、トレハロースまたは他の凍結保護剤を重量比1:2(トレハロース:ポリマー)で添加することができる。溶液を-60~-80℃で凍結させ、72時間以内に凍結乾燥させる。凍結乾燥した粒子は使用するまで凍結保存する。
【0194】
実施例6.ウイルス粒子へのジアミノシクロヘキサンカルボナト白金酸塩(II)(15)、他の白金化合物および白金-ペプチドコンジュゲートの封入
白金化合物の封入のために、PD-10脱塩カラムに約1mLのAAV(または他のタイプの)ウイルス粒子を約1×1014vp/mL調製で添加し、5mM還元剤(2-メルカプトエタノールまたはジチオスレイトール)、1mM EDTAおよび25mM重炭酸ナトリウムを含む緩衝液でpH9.0に平衡化させる。部分的に解離したウイルス粒子を含む排除体積を回収し、室温で数時間保持し、粒子を構成するウイルスタンパク質に完全に解離させる。タンパク質を粒子に再会合させるために、1mM CaCl2/100mM NaClおよび10mMTris pH7.0で平衡化させた別のPD10に溶液を適用し、排除体積を回収する。回収した体積に50~100mgの白金化合物を添加し、室温で粒子を再構成させる。20K×gの遠心分離で白金化合物を封入したウイルス粒子を回収し、次いでウイルスペレットを所望の緩衝液に再懸濁させる。
【0195】
実施例7.ヒトおよびマウス細胞における抗癌活性についてのインビトロ試験
以下の試験は、ヒトおよびマウス細胞株における白金錯体の溶液のインビトロ抗癌活性について評価するために使用することができる。
【0196】
96ウェルプレートで培養したヒト腫瘍細胞株(HT29、B16およびPACA2)またはマウス腫瘍細胞株(L1210、CT26)に白金錯体の溶液を添加する。18時間の培養後、細胞に3H-チミジンをパルス投与し、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄する。放射性同位元素の取り込み量を測定し、細胞増殖が50%減少する濃度である有効濃度50(EC50)を算出するために使用する。L1210モデルの試験プロトコルは、Han et al., Cancer Chemother. Pharmacol. 39: 17-24 (1996)に記載されている。例えば、(0165)細胞に3H-Thyをパルス投与する。同位体の取り込み量を測定し、細胞増殖が50%減少する濃度であるEC50を算出するために使用する。EC50が100μM未満の白金錯体は、本発明に従って有用とみなされる十分な活性を有する。どのような濃度でも細胞増殖の50%減少を達成しない白金錯体は、本発明による抗癌化合物ではない。
【0197】
あるいはA375細胞(ヒト皮膚メラノーマ由来細胞株)を遠心分離により採取し、培養液に再懸濁させる。細胞密度を調整し、細胞懸濁液をアッセイ用マルチウェルプレートに移し替える。限界ウェルはPBSで満たされている。アッセイプレートは、セルインキュベーターで約16~18時間培養する。試験化合物および陽性対象のワーキング溶液を、プレートの対応するウェルに添加する。次いで、37℃/5%のCO
2インキュベーターで72時間培養する。インキュベーション後、CellTiter-Glo(登録商標)試薬のワーキング溶液を対応するウェルに添加し、オービタルシェーカーで振とうさせる。発光シグナルを安定化させるために、アッセイプレートを室温でしばらくの間インキュベートする。発光シグナルは、PheraStar(BMG)などの発光プレートリーダーで測定する。データはローカルコンピュータまたはコンピュータサーバーに保存され、解析される。A375細胞株と組み合わせてペプチド白金錯体のいくつかを用いて得られた細胞殺滅結果を、上に示したように、Onco-001、003および005についてそれぞれ
図1、2および3に提供し、BEL-7402細胞を用いた対照として、ドキソルビシンについて
図4に提供する。
【0198】
3つのOnco化合物すべてが細胞を殺滅するのに有効であることが判明したが、Onco-001は、EC50が約130μMで最も効力が弱かった。一方、Onco-003およびOnco-005は共に10μM未満のEC50値を示し、Onco-003およびOnco-005がOnco-001よりも約15倍効力が強いことが示された。不活性化合物とは、いかなる濃度においても、10~50mMの高い濃度でさえも最小限の殺滅活性しか示さないかまたは殺滅活性を示さない化合物である。
【0199】
実施例8.癌のマウスモデルを用いた治療
本発明はまた、癌を治療するのに有効な量の本発明の化合物および1つまたは複数の追加の抗癌剤またはその薬学的に許容され得る塩を必要とする対象にそれを投与するステップを含む、癌を治療する方法を提供する。
【0200】
黒色腫
実際には、本発明によるペプチド白金錯体を哺乳動物に投与し、十分な時間の後、当業者によって選択される任意のパラメーターに従って、生体内の癌に対する錯体の効果を決定する。例えば、ジアミノシクロヘキサン-カルボナトプラチネート(II)-AcGPSRVGGCNH2などのペプチド白金錯体(SEQ ID NO:145)を、単独であろうと脂質またはPGLA粒子に封入されていようと、ヌードマウスへの異種移植がA-2058またはA357などのヒト黒色腫細胞株となる異種移植マウス(異種移植モデル)の2コホート(各コホートn≧10)に静脈内または皮下に投与する。2つのコホートのうち、一方を対照群、もう一方を治療群とする。移植後、腫瘍を50~100mm3まで成長させ、続けて、対照群には食塩水を、治療群には適切な用量の薬剤を投与する。その後3~4週間、マウスをモニターし、腫瘍の大きさを観察および測定する。他のマウスモデルも使用することができ、これらのモデルには、B16黒色腫モデルのような同系統移植モデル、または黒色腫の遺伝子操作マウスモデルが含まれるであろう。
【0201】
実施例9.癌のモデルマウスを用いた治療
乳癌
黒色腫と同様のアプローチを、乳癌に対するペプチド白金錯体のインビボ試験に使用することができる。この場合、白金錯体は、白金コア構造であるジシクロヘキシルアミノ白金と、WX1APAYQRFLX2(SEQ ID NO:150)などの乳癌ホーミングペプチドの1つとを複合化したもので構成され、ここで、X1は、WおよびCを除く任意のアミノ酸、X2はγ-カルボキシグルタミン酸であり、またN末端のアミンはアシル化されている。
【0202】
異種移植、同種移植および遺伝子改変マウスモデルなど、異なるマウスモデルを適用することができる。乳癌の実験的アプローチは、治療に最も適していると考えられるような異なる用量が投与経路と同様に探索されることを除いて、インビボ黒色腫研究に関して記載されたものと同じであろう。
【0203】
本明細書で引用したすべての文献は、個々の出版物または特許または特許出願が、すべての目的のためにその全体が参照により組み込まれるように具体的かつ個別に示された場合と同じ程度に、その全体およびすべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0204】
他の実施形態
本発明の多くの修正および変形は、当業者に明らかであるように、その精神および範囲から逸脱することなく行うことができる。本明細書に記載された特定の実施形態は、例としてのみ提供され、本発明は、添付の請求項の条件と、かかる請求項が権利を有する等価物の全範囲によってのみ限定されるものとされる。
【0205】
本明細書に記載されたものと類似または同等の多くの方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、例示的な方法および材料が本明細書に記載される。本発明の他の特徴、目的および利点は、本明細書および特許請求の範囲から明らかになるであろう。本明細書および添付の特許請求の範囲において、単数形は、文脈上明らかにそうでないと指示されない限り、複数形も含む。
【0206】
明細書に記載されたすべての刊行物および特許出願は、この発明が属する技術分野における当業者の技術レベルを示すものである。すべての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0207】
本明細書における変数の定義における要素のリストの説明は、その変数の、任意の単一の要素またはリストされた要素の組み合わせ(またはサブコンビネーション)としての定義を含む。本明細書における実施形態の記載は、任意の単一の実施形態として、または任意の他の実施形態またはその一部との組み合わせとして、その実施形態を含む。
【0208】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-12-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、
R
1およびR
2は、独立して、-N(R
6)
2、-NH
3
+であるか、またはR
1およびR
2は各々-NH
2であり、C
2~C
6アルキレンもしくはC
3~C
7シクロアルキレン基を介して結合して二座ジアミンリガンドを形成しており、
R
3は、ペプチドリガンドであり、ただし、R
3は、アミノ酸であり得ず、
R
4は、ペプチドリガンド、無機リガンド、-CNまたは-OC(O)R
5であり、ただし、R
4は、アミノ酸であり得ず、
R
5は、C
1~C
24アルキルであり、
各R
6は、独立して、-H、-C
1~C
6アルキル、-C
3~C
7シクロアルキルまたは-アリールである]を有する精製されたペプチド白金錯体
またはその薬学的に許容され得る塩。
【請求項2】
ジアミノシクロヘキシルカルボナト-白金酸塩(II)(11)を含む精製された化学療法錯体。
【請求項3】
リポソームに封入された、またはポリ乳酸(PLGA)などの生体適合性ポリマーナノ粒子に封入されたジアミノシクロヘキシルカルボナト-白金酸塩(II)(11)を含む化学療法錯体。
【請求項4】
リポソームに封入された、またはポリマー子ナノ粒子に封入された請求項1記載の精製されたペプチド白金錯体を含む化学療法錯体。
【請求項5】
R
3およびR
4が各々独立してペプチドである、請求項1記載のペプチド白金錯体。
【請求項6】
R
3とR
4とが結合して二座ペプチドリガンドを形成している、請求項1記載のペプチド白金錯体。
【請求項7】
前記ペプチドがシステインを含む、請求項1から3までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体。
【請求項8】
前記ペプチドがメチオニンを含む、請求項1から3までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体。
【請求項9】
前記ペプチドの末端第一級アミノ基がアシル化されている、請求項1から5までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体。
【請求項10】
前記ペプチドが、L-グリシン、L-プロリン、L-セリン、L-アルギニン、L-バリンおよびL-システインのうちの1つまたは複数を含む、請求項6記載のペプチド白金錯体。
【請求項11】
前記ペプチドがリンカーを介して白金と錯体を形成している、請求項1から7までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体。
【請求項12】
R
1とR
2とが結合して二座ジアミンリガンドを形成している、請求項1記載のペプチド白金錯体。
【請求項13】
前記二座ジアミンリガンドが、trans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサン、trans-S,S-1,2-ジアミノシクロヘキサン、cis-1,2-ジアミノシクロヘキサンおよび1,2-エチレンジアミンからなる群から選択される、請求項9記載のペプチド白金錯体。
【請求項14】
前記二座ジアミンリガンドが、trans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサンである、請求項9記載のペプチド白金錯体。
【請求項15】
R
4が、無機リガンド、-CNまたは-OC(O)R
5であり、ここで、R
5は、C
1~C
24アルキルである、請求項1記載のペプチド白金錯体。
【請求項16】
R
4が、Cl-、Br-、I-、F-、NO
3-、CN-、OH-、H
2O、HCO
3-またはHSO
4-である、請求項1記載のペプチド白金錯体。
【請求項17】
ペプチド白金錯体であって、
a)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH
2][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
b)cis-[AcGPSRVGGCNH
2][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;c)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH
2HCl][trans-(rac)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;d)cis-[AcGPSRVGGCNH
2][trns-(rac)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
c)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][cis-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
d)cis-[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][(cis)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
e)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
f)cis-[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][trans-(1R,2R)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
g)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][trans-(rac)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
h)cis-[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][trans-(rac)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
i)cis-ビス[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][cis-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの;
j)cis-[AcGPSRVGGCNH
2-リンカー][(cis)-1,2-ジアミノシクロヘキサン]白金(II)、またはその薬学的に許容され得る塩であって、前述の錯体または塩が精製された形態であるもの
からなる群から選択される、ペプチド白金錯体。
【請求項18】
請求項1記載のペプチド白金錯体または請求項1記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩以外の追加の抗癌剤をさらに含む、請求項1から17までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体。
【請求項19】
前記追加の抗癌剤が、ゲムシタビン、カペシタビンまたは5-フルオロウラシルである、請求項18記載のペプチド白金錯体。
【請求項20】
癌を治療するのに有効な量の、請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体または請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩と、薬学的に許容され得る担体または賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項21】
癌を治療するのに有効な量の、請求項1記載のペプチド白金錯体または請求項1記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩以外の追加の抗癌剤をさらに含む、請求項20記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記追加の抗癌剤が、ゲムシタビン、カペシタビンまたは5-フルオロウラシルである、請求項21記載の医薬組成物。
【請求項23】
癌を治療するのに有効な量の、請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体または請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩と、薬学的に許容され得る担体または賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項24】
癌を治療するのに有効な量の、請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体または請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩以外の抗癌剤をさらに含む、請求項23記載の医薬組成物。
【請求項25】
癌を治療するための医薬組成物を製造するための、請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体または請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩の使用。
【請求項26】
前記医薬組成物が、請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体または請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩ではない追加の抗癌剤をさらに含む、請求項25記載の
使用。
【請求項27】
前記医薬組成物が、請求項1記載のペプチド白金錯体ではない追加の抗癌剤を含む、請求項25記載の
使用。
【請求項28】
前記追加の抗癌剤が、ゲムシタビン、カペシタビンまたは5-フルオロウラシルである、請求項27記載の
使用。
【請求項29】
前記癌が、膵臓癌、大腸癌または中皮腫である、請求項25から28までのいずれか1項記載の
使用。
【請求項30】
前記
治療の対象がヒトである、請求項25から28までのいずれか1項記載の
使用。
【請求項31】
請求項1から19までのいずれか1項記載のペプチド白金錯体またはその薬学的に許容され得る塩の単位剤形を含む容器を備える、キット。
【請求項32】
第2の容器をさらに備え、該第2の容器が、ペプチド白金錯体の再構成のための溶液を含む、請求項31記載のキット。
【請求項33】
前記溶液が水溶液である、請求項32記載のキット。
【請求項34】
前記水溶液が塩化ナトリウムを含む、請求項32記載のキット。
【請求項35】
前記水溶液が食塩溶液である、請求項32記載のキット。
【請求項36】
前記食塩溶液がリン酸緩衝食塩水である、請求項32記載のキット。
【請求項37】
前記水溶液がデキストロースを含む、請求項32記載のキット。
【請求項38】
前記デキストロース水溶液が等張性である、請求項32記載のキット。
【請求項39】
前記第2の容器をさらに備え、該第2の容器が、請求項1記載のペプチド白金錯体または請求項1記載のペプチド白金錯体の薬学的に許容され得る塩以外の追加の抗癌剤を含む、請求項32記載のキット。
【請求項40】
前記追加の抗癌剤が、ゲムシタビン、カペシタビンまたは5-フルオロウラシルである、請求項32記載のキット。
【請求項41】
第2の容器をさらに備え、該第2の容器が制吐剤または造血コロニー刺激因子を含む、請求項32記載のキット。
【請求項42】
請求項1記載のペプチド白金錯体またはその薬学的に許容され得る塩を対象に投与するための手段をさらに備える、請求項32記載のキット。
【請求項43】
式(I)
【化2】
の白金錯体を製造する方法であって、
式(II)
【化3】
の錯体を、少なくとも約2モル当量の式(III)の化合物、
AcGPSRVGGCNH
2
または
AcGPSRVGGCD
または
【化4】
または
【化5】
または
他のペプチドおよびペプチド構築物(III)
と反応させるステップを含み、
式中、
R
1およびR
2は、独立して、-N(R
6)
2、-NH
3
+であるか、またはR
1およびR
2は各々-NH
2であり、C
2~C
6アルキレンもしくはC
3~C
7シクロアルキレン基を介して結合して二座ジアミンリガンドを形成しており、
R
3はペプチドリガンドであり、ただし、R
3は、アミノ酸であり得ず、
R
4は、ペプチドリガンド、無機リガンド、-CNまたは-OC(O)R
5であり、ただし、R
4は、アミノ酸であり得ず、
R
5は、C
1~C
24アルキルであり、
各R
6は、独立して、-H、-C
1~C
6アルキル、-C
3~C
7シクロアルキルまたは-アリールであり、
ハロは、-F、-Cl、-Br、-Iまたは-Atである、
方法。
【請求項44】
R
3がペプチドである、請求項43記載の方法。
【請求項45】
R
4がペプチドである、請求項43記載の方法。
【請求項46】
R
3およびR
4が各々独立してペプチドである、請求項43記載の方法。
【請求項47】
R
1とR
2とが結合して二座ジアミンリガンドを形成している、請求項43記載の方法。
【請求項48】
前記二座ジアミンリガンドが、trans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサン、trans-S,S-1,2-ジアミノシクロヘキサン、cis-1,2-ジアミノシクロヘキサンまたは1,2-エチレンジアミンである、請求項47記載の方法。
【請求項49】
前記二座ジアミンリガンドがtrans-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサンである、請求項48記載の方法。
【請求項50】
R
3およびR
4の各々がペプチドAcGPSRVGGCNH
2を含む、請求項49記載の方法。
【請求項51】
R
3とR
4とが一緒になってペプチドAcGPSRVGGCNH
2を構成し、R
3およびR
4が同じ白金部分に結合している、請求項49記載の方法。
【請求項52】
R
3がAcGPSRVGGCNH
2であり、R
4が無機または有機基である、請求項49記載の方法。
【国際調査報告】