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特表2023-523203血漿中のアミロイドベータペプチドの質量分析による定量化のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-02
(54)【発明の名称】血漿中のアミロイドベータペプチドの質量分析による定量化のための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230526BHJP
   G01N 27/623 20210101ALI20230526BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N27/623
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563460
(86)(22)【出願日】2021-04-29
(85)【翻訳文提出日】2022-12-09
(86)【国際出願番号】 ES2021070292
(87)【国際公開番号】W WO2021219917
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】20382352.1
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】512151193
【氏名又は名称】アラクロン・ビオテック・エセ・エレ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ホセ・アントニオ・アユエ・ブラスコ
(72)【発明者】
【氏名】マリア・レティシア・サラサ・コロナス
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041EA12
2G041FA12
2G041GA09
2G041HA01
2G041HA03
2G041KA01
2G041LA09
2G045AA25
2G045BB11
2G045CA26
2G045DA36
2G045FB06
(57)【要約】
本発明は、質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む血漿試料を調製するための方法であって、a)該血漿試料と変性剤とを接触させる工程、b)工程a)において得られた溶液に対して第1の固相抽出工程を行うことで第1の溶出物を回収する工程、c)工程b)において得られた該第1の溶出物に対して第2の固相抽出工程を行うことで第2の溶出物を回収する工程、及びd)工程c)において得られた該第2の溶出物を乾燥させ、質量分析による分析のために処理する工程を含み、工程d)において得られた溶液がインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42を含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む血漿試料を調製するための方法であって、
a) 前記血漿試料と変性剤とを接触させる工程、
b) 工程a)において得られた溶液に対して第1の固相抽出工程を行って第1の溶出物を回収する工程、
c) 工程b)において得られた前記第1の溶出物に対して第2の固相抽出工程を行って第2の溶出物を回収する工程、及び
d) 工程c)において得られた前記第2の溶出物を乾燥させ、質量分析による分析のために処理する工程を含み、
工程d)から得られた試料がインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
第2の固相抽出工程がカチオン交換固相抽出である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カチオン交換固相抽出が、強カチオン交換、弱カチオン交換、又は混合モード逆相-カチオン交換である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第2の固相抽出工程がアニオン交換固相抽出である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アニオン交換固相抽出が、強アニオン交換、弱アニオン交換、又は混合モード逆相-アニオン交換である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程a)において血漿試料と酸性変性剤とを接触させてpH約4.5以下を有する溶液を得る、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
酸性変性剤が濃度40%~70%(v/v)のギ酸水溶液である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第1の固相抽出工程が逆相固相抽出である、請求項6又は7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
第1及び第2の固相抽出工程が、それぞれ少なくとも2つの洗浄工程を含み、第1及び第2の固相抽出工程の第1の洗浄工程が、酸を含む溶液で行われ、第1及び第2の固相抽出工程の第2の洗浄工程が、水混和性極性有機溶媒を含む溶液で行われることを特徴とする、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第1の洗浄工程の酸を含む溶液が第2の洗浄工程の酸を含む溶液と同じである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第1の洗浄工程の酸を含む溶液が第2の洗浄工程の酸を含む溶液とは異なる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
第1の固相抽出工程がカチオン交換固相抽出である、請求項1、4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
カチオン交換固相抽出が、強カチオン交換、弱カチオン交換、又は混合モード逆相-カチオン交換である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
第1及び第2の固相抽出工程が、それぞれ少なくとも2つの洗浄工程を含み、第1の固相抽出の第1の洗浄工程が、酸を含む溶液で行われ、第2の固相抽出の第1の洗浄工程が、塩基を含む溶液で行われ、第1及び第2の固相抽出工程の第2の洗浄工程が、水混和性極性有機溶媒を含む溶液で行われることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程a)において血漿試料と塩基性変性剤とを接触させてpH約11以上を有する溶液を得る、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
塩基性変性剤が濃度5~50%(v/v)の水酸化アンモニウム水溶液である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
第1の固相抽出工程がアニオン交換固相抽出である、請求項15又は16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
アニオン交換固相抽出が、強アニオン交換、弱アニオン交換、又は混合モード逆相-アニオン交換である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
第1及び第2の固相抽出工程が、それぞれ少なくとも2つの洗浄工程を含み、第1の固相抽出の第1の洗浄工程が、塩基を含む溶液で行われ、第2の固相抽出の第1の洗浄工程が、酸を含む溶液で行われ、第1及び第2の固相抽出工程の第2の洗浄工程が、水混和性極性有機溶媒を含む溶液で行われることを特徴とする、請求項15から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
乾燥溶出物を処理するための工程d)の溶液が、界面活性剤及び還元剤を含む水溶液である、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
乾燥溶出物を処理するための工程d)の溶液が、濃度0.01%~0.8%(v/v)のTriton X-100及び濃度0.1%~0.2%(w/v)のトリス-カルボキシエチルホスフィンを含む水溶液である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
乾燥溶出物を処理するための溶液が、界面活性剤、還元剤、水混和性極性有機溶媒、及び酸を含む水溶液である、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
乾燥溶出物を処理するための工程d)の溶液が、濃度0.01%~0.8%(v/v)のTriton X-100、濃度0.1%~0.2%(w/v)のトリス-カルボキシエチルホスフィン、濃度3%~7%(v/v)のアセトニトリル、濃度0.1%~3%(v/v)のジメチルホルムアミド、及び濃度0.1%~3%(v/v)のトリフルオロ酢酸(TFA)を含む水溶液である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
血漿試料がヒト血漿試料である、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
工程a)において使用される血漿試料の量が100μL~400μLである、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
質量分析による分析前に血漿試料の免疫沈降又は消化を含まないことを特徴とする、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
請求項1の工程d)の溶出物を処理することが、液体クロマトグラフィーと質量分析との組み合わせに前記溶出物を適応させることであることを特徴とする、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42の質量分析による定量化のための方法であって、血漿試料を調製するための請求項1から27のいずれか一項に記載の方法の工程a)~d)を含み、更に、
i) 工程d)において得られた溶液に対して液体クロマトグラフィー工程を行って目的の分析物を分離する工程、
ii) 工程i)において分離された分析物をイオン化に供して1つ又は複数の荷電種を生成する工程、
iii) 前記1つ又は複数の荷電種をイオン移動度に従って分離する工程、
iv) 工程iii)において分離された前記1つ又は複数の荷電種を検出し、その存在量を質量分析によって測定する工程、並びに
v) 血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及び/又はAβ42の量又は濃度を、工程iv)において測定された1つ又は複数の荷電種の存在量と標準曲線との比較によって決定する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項29】
液体クロマトグラフィーがマイクロ液体クロマトグラフィー(マイクロ-HPLC)であり、イオン化がエレクトロスプレーイオン化(ESI)であり、1つ又は複数の荷電種の分離が移動度差分光測定(DMS)によって行われ、分離された1つ又は複数の荷電種の存在量を検出及び測定するための質量分析技術がトリプル四重極機器中での多重反応モニタリング(MRM)である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
標準曲線がヒト血漿によって調製される、請求項28又は29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
濃度0.01%~0.8%(v/v)のTriton X-100、濃度0.1%~0.2%(w/v)のトリス-カルボキシエチルホスフィン、濃度3%~7%(v/v)のアセトニトリル、濃度0.1%~3%(v/v)のジメチルホルムアミド、及び濃度0.1%~3%(v/v)のトリフルオロ酢酸(TFA)を含む、質量分析によって分析される乾燥溶出物を処理するための水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイド疾患の診断における医学及び獣医学の分野に関し、特に、アミロイドAβ40及びAβ42ペプチドの質量分析による検出及び定量化のための血漿試料調製物のための分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は認知症の主因であり、中枢神経系の進行性変性疾患を特徴とし、75~84歳の人々のうち17%、85歳を超える人々のうち32%が罹患している(Bateman and Budelier、Biomarkers of Alzheimer Disease、Journal of Applied Laboratory Medicine、2020年1月、194~208頁)。ADは、40~42個のアミノ酸ペプチドの原線維によって主に形成されるアミロイド沈着物の中心コアを有するアミロイド斑の患者の脳内での進行性の出現を特徴とする。当該アミロイド沈着物は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解プロセス後に形成され、大部分がAβ1-40(Aβ40)及びAβ1-42(Aβ42)である不溶性Aβペプチドが生成されることになる。健康患者では、これらのペプチドは除去されて脳脊髄液(CSF)に入るか、又は血液脳関門を横切って血液中に輸送される。しかし、アミロイドペプチドの過剰産生又はクリアランス減少によって、ADに特徴的なアミロイド斑が形成される。これらの班はAβ42を主に含み、ペプチド用の「シンク」として機能することでCSF中及び血中の両方のAβ42濃度を減少させる。
【0003】
したがって、Aβ42/Aβ40濃度比は、臨床試験に含まれるアルツハイマー病の初期段階における脳アミロイドーシスバイオマーカーとして現在使用されている。Aβ42及びAβ40は質量分析(MS)又はイムノアッセイのいずれかによって測定可能であり、現在利用可能な方法の大部分は脳脊髄液(CSF)において行われており、アミロイド斑が存在する場合にAβ42濃度の低下が見られる(Bateman and Budelier、Biomarkers of Alzheimer Disease、Journal of Applied Laboratory Medicine、2020年1月、194~208頁)。しかし、CSF採取は、相当に侵襲性であって、専門的な医学技術が必要であり、大規模スクリーニング研究において最も好都合なものではない。したがって、血漿中でAβ42及びAβ40を定量化するための方法は、症状を有するか又は有さない個人の診断において大きな関心対象となる(Fandosら、Plasma amyloid β 42/40 ratios as biomarkers for amyloid β cerebral deposition in cognitively normal individuals. Alzheimer's Dement、2017年9月12日; 8:179~187頁)。
【0004】
それにもかかわらず、血漿中のAβ42及びAβ40の濃度を測定することには困難も伴う。第一に、血液は非常に複雑なマトリックスであり、多種のタンパク質を多量に含むことから、血漿中の総タンパク質含有量はCSF中の60倍となる。第二に、Aβ42及びAβ40の濃度は、中枢神経系から静脈血中に輸送されることから、CSFに比べて低い。更に、アミロイド陽性の個人とアミロイド陰性の個人との間の血漿中のAβ42濃度の差はCSF中よりも小さい(Bateman and Budelier、Biomarkers of Alzheimer Disease、Journal of Applied Laboratory Medicine、2020年1月、194~208頁)。上記の理由から、血漿中でのアミロイドベータペプチドの分析はCSF中よりも困難であり、したがって、一層感度及び正確性が高い方法が必要である。
【0005】
血漿中アミロイドベータペプチドの濃度を測定するための酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を使用する先行研究は、AD患者及び健康対照におけるAβ42/Aβ40濃度比測定値に関して相反する結果を示した(Fukumotoら、Age but not diagnosis is the main predictor of plasma amyloid beta-protein levels、Arch Neurol. 2003年; 60:958~964頁; Perez-Grijalbaら、Plasma Aβ42/40 ratio alone or combined with FDG-PET can accurately predict amyloid-PET positivity: a cross-sectional analysis from the AB255 Study、Alzheimer's Res Ther. 2019年; 11:96)。実際、群間(すなわち、健康対照と軽度認知障害の個人との間)の平均差は10~15%と低く、これは分析方法の正確性及び精度に関して許容される変動性と同じ規模である。このことは、群間のこの小さな差を検出するには、分析方法の変動性が15%よりもはるかに小さくなければならないということを示唆している。
【0006】
他方、利用可能な質量分析(MS)法はイムノアッセイよりも感度及び正確性が高いことが実証されている。現在、ヒト血漿中のAβ40及びAβ42の決定のための2つのMSベースの分析方法が当技術分野において公知である。第1の方法はRandall Batemanのグループが2017年に公開したものである(Ovodら、Amyloid B concentrations and stable isotope labelling kinetics of human plasma specific to central nervous system amyloidosis、Alzheimer's and Dementia、2017年10月; 13(10): 1185頁)。この方法は免疫沈降及びLys-N消化による試料の調製とナノLC-MS/MSとを組み合わせたものである。第2の方法はAkinori Nakamuraのグループが2018年に公開したものであり(Nakamuraら、High performance plasma amyloid-β biomarkers for Alzheimer's disease、Nature 2018年2月8日; 554(7691):249~254頁)、二重免疫沈降による試料の調製とMALDI-TOF/MSとを組み合わせたものである。
【0007】
しかし、両方法は、免疫沈降中に高価な抗体の使用が必要であることから、時間及びリソースを消費する。更に、Batemanの方法は試料の分析物酵素消化を更に必要とし、これにより、インタクトAβペプチドよりもむしろN-切断Aβ種の混合物が検出される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bateman and Budelier、Biomarkers of Alzheimer Disease、Journal of Applied Laboratory Medicine、2020年1月、194~208頁
【非特許文献2】Fandosら、Plasma amyloid β 42/40 ratios as biomarkers for amyloid β cerebral deposition in cognitively normal individuals. Alzheimer's Dement、2017年9月12日; 8:179~187頁
【非特許文献3】Fukumotoら、Age but not diagnosis is the main predictor of plasma amyloid beta-protein levels、Arch Neurol. 2003年; 60:958~964頁
【非特許文献4】Perez-Grijalbaら、Plasma Aβ42/40 ratio alone or combined with FDG-PET can accurately predict amyloid-PET positivity: a cross-sectional analysis from the AB255 Study、Alzheimer's Res Ther. 2019年; 11:96
【非特許文献5】Ovodら、Amyloid B concentrations and stable isotope labelling kinetics of human plasma specific to central nervous system amyloidosis、Alzheimer's and Dementia、2017年10月; 13(10): 1185頁
【非特許文献6】Nakamuraら、High performance plasma amyloid-β biomarkers for Alzheimer's disease、Nature 2018年2月8日; 554(7691):249~254頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、大規模スクリーニング研究に適用可能な、血漿試料中のアミロイドベータペプチドの検出及び定量化のための感度及び再現性がある方法が、当技術分野においてなお求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、広範で徹底的な実験の後、驚くべきことに、インタクトアミロイドペプチドAβ40及びAβ42の質量分析による正確な定量化を可能にする、アミロイドペプチドを含む血漿試料の調製のための新規方法を発見した。したがって、本新規方法は、Aβ42/Aβ40比の測定値の変動性を、健康対照と軽度認知障害の個人との間の実際の差よりも小さい値まで減少させる。
【0011】
更に、本発明の方法は、当技術分野において公知の方法の必須工程である試料の免疫沈降又は消化を使用することなく行われ、したがって、現在利用可能な方法に比べて単純及び高速な試料調製を実現し、要求されるコスト及び時間を減少させる。
【0012】
最後に、本発明の方法は、生物分析法バリデーションに関する現行のFDA勧告に従うものであり、したがって、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病を診断すること、及び/又はその異なる段階を区別することに適用可能である。
【0013】
一態様では、本発明は、質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む血漿試料を調製するための方法であって、
a) 該血漿試料と変性剤とを接触させる工程、
b) 工程a)において得られた溶液に対して第1の固相抽出工程を行って第1の溶出物を回収する工程、
c) 工程b)において得られた該第1の溶出物に対して第2の固相抽出工程を行って第2の溶出物を回収する工程、及び
d) 工程c)において得られた該第2の溶出物を乾燥させ、質量分析による分析のために処理する工程を含み、
工程d)から得られた試料がインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42を含むことを特徴とする、方法に関する。
【0014】
前記方法の一実施形態では、第2の固相抽出工程はカチオン交換固相抽出である。
【0015】
別の実施形態では、カチオン交換固相抽出は、強カチオン交換、弱カチオン交換、又は混合モード逆相カチオン交換である。
【0016】
別の実施形態では、第2の固相抽出工程はアニオン交換固相抽出である。
【0017】
別の実施形態では、第2のアニオン交換固相抽出は、強アニオン交換、弱アニオン交換、又は混合モード逆相アニオン交換である。
【0018】
別の実施形態では、工程a)において血漿試料と酸性変性剤とを接触させることでpH 4.5以下を有する溶液を得る。
【0019】
別の実施形態では、酸性変性剤は濃度40%~70%(v/v)のギ酸水溶液である。
【0020】
別の実施形態では、第1の固相抽出工程は逆相固相抽出である。
【0021】
別の実施形態では、第1及び第2の固相抽出工程は、それぞれ少なくとも2つの洗浄工程を含み、第1及び第2の固相抽出工程の第1の洗浄工程は、酸を含む溶液で行われ、第1及び第2の固相抽出工程の第2の洗浄工程は、水混和性極性有機溶媒を含む溶液で行われることを特徴とする。
【0022】
別の実施形態では、第1の洗浄工程の酸を含む溶液は第2の洗浄工程の酸を含む溶液とは異なる。
【0023】
別の実施形態では、第1の洗浄工程の酸を含む溶液は第2の洗浄工程の酸を含む溶液と同じである。
【0024】
別の実施形態では、第1の固相抽出工程はカチオン交換固相抽出である。
【0025】
別の実施形態では、第1のカチオン交換固相抽出は、強カチオン交換、弱カチオン交換、又は混合モード逆相カチオン交換である。
【0026】
別の実施形態では、第1及び第2の固相抽出工程は、それぞれ少なくとも2つの洗浄工程を含み、第1の固相抽出の第1の洗浄工程は、酸を含む溶液で行われ、第2の固相抽出の第1の洗浄工程は、塩基を含む溶液で行われ、第1及び第2の固相抽出工程の第2の洗浄工程は、水混和性極性有機溶媒を含む溶液で行われることを特徴とする。
【0027】
別の実施形態では、工程a)において血漿試料と塩基性変性剤とを接触させることでpH約11以上を有する溶液を得る。
【0028】
別の実施形態では、塩基性変性剤は濃度5%~50%(v/v)の水酸化アンモニウム水溶液である。
【0029】
別の実施形態では、第1の固相抽出工程はアニオン交換固相抽出である。
【0030】
別の実施形態では、第1のアニオン交換固相抽出は、強アニオン交換、弱アニオン交換、又は混合モード逆相アニオン交換である。
【0031】
別の実施形態では、第1及び第2の固相抽出工程は、それぞれ少なくとも2つの洗浄工程を含み、第1の固相抽出の第1の洗浄工程は、酸を含む溶液で行われ、第2の固相抽出の第1の洗浄工程は、塩基を含む溶液で行われ、第1及び第2の固相抽出工程の第2の洗浄工程は、水混和性極性有機溶媒を含む溶液で行われることを特徴とする。
【0032】
更に別の実施形態では、質量分析による分析のために第2の溶出物を処理するための溶液は、界面活性剤及び還元剤を含む水溶液である。好ましい実施形態では、乾燥溶出物を処理するための工程d)の前記溶液は、濃度0.01%~0.8%(v/v)のTriton X-100及び濃度0.1%~0.2%(w/v)のトリス-カルボキシエチルホスフィンを含む水溶液である。
【0033】
別の実施形態では、乾燥溶出物を処理するための工程d)の前記溶液は、界面活性剤、還元剤、水混和性極性有機溶媒、及び酸を含む水溶液である。好ましい実施形態では、乾燥溶出物を処理するための工程d)の前記溶液は、濃度0.01%~0.8%(v/v)のTriton X-100、濃度0.1%~0.2%(w/v)のトリス-カルボキシエチルホスフィン、濃度3%~7%(v/v)のアセトニトリル、濃度0.1%~3%(v/v)のジメチルホルムアミド、及び濃度0.1%~3%(v/v)のトリフルオロ酢酸(TFA)を含む水溶液である。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態では、血漿試料はヒト血漿試料である。他の実施形態では、本発明の方法の工程a)において使用される血漿試料の量は100μL~400μLである。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態では、質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む血漿試料を調製するための方法は、質量分析による分析前に血漿試料の免疫沈降又は消化を含まない。
【0036】
第2の態様では、本発明は、血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42の質量分析による定量化のための方法であって、血漿試料を調製するための本明細書に記載の方法の工程a)~d)を含み、更に、
i) 工程d)において得られた溶液に対して液体クロマトグラフィー工程を行って目的の分析物を分離する工程、
ii) 工程i)において分離された分析物をイオン化に供して1つ又は複数の荷電種を生成する工程、
iii) 該1つ又は複数の荷電種をイオン移動度に従って分離する工程、
iv) 工程iii)において分離された該1つ又は複数の荷電種を検出し、その存在量を質量分析によって測定する工程、並びに
v) 血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及び/又はAβ42の量又は濃度を、工程iv)において測定された1つ又は複数の荷電種の存在量と標準曲線との比較によって決定する工程を含むことを特徴とする、方法に関する。
【0037】
いくつかの実施形態では、血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42の質量分析による定量化のための前記方法は、液体クロマトグラフィーがマイクロ液体クロマトグラフィー(マイクロ-HPLC)であり、イオン化がエレクトロスプレーイオン化(ESI)であり、1つ又は複数の荷電種の分離が移動度差分光測定(DMS)によって行われ、分離された1つ又は複数の荷電種の存在量を検出及び測定するための質量分析技術がトリプル四重極機器中での多重反応モニタリング(MRM)であることを特徴とする。
【0038】
本発明の他の実施形態では、血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42の質量分析による定量化のための前記方法において使用される標準曲線は、ヒト血漿によって作製される。
【0039】
第3の態様では、本発明は、濃度0.01%~0.8%(v/v)のTriton X-100、濃度0.1%~0.2%(w/v)のトリス-カルボキシエチルホスフィン、濃度3%~7%(v/v)のアセトニトリル、濃度0.1%~3%(v/v)のジメチルホルムアミド、及び濃度0.1%~3%(v/v)のトリフルオロ酢酸(TFA)を含む、質量分析によって分析される乾燥溶出物を処理するための水溶液に関する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の方法によって定量化された36名の個人(PET陰性又はPET陽性)の試料に対応するAβ42/Aβ40比を表すグラフである。
図2図1のAβ42/Aβ40比について計算されたROC曲線のグラフである。
図3】唯一のSPE工程である混合モード逆相カチオン交換(MCX)に供された血漿試料について得られたクロマトグラムである。左側トレースはAβ40に関し、右側トレースはAβ42に関する。
図4】プロトコルAに従って第1のSPE工程である逆相(HLB prime)に、続いて第2のSPE MCXに供された血漿試料について得られたクロマトグラムである。左側トレースはAβ40に関し、右側トレースはAβ42に関する。
図5】第1のSPE工程であるMCXに、続いて第2のSPE HLBに供された血漿試料について得られたクロマトグラムである。左側トレースはAβ40に関し、右側トレースはAβ42に関する。
図6】プロトコルBに従って第1のSPE工程であるHLBに、続いて第2のSPE MCXに供された血漿試料について得られたクロマトグラムである。左側トレースはAβ40に関し、右側トレースはAβ42に関する。
図7】プロトコルDに従って第1のSPE工程である混合モード逆相アニオン交換SPE(MAX)に、続いて第2のSPE MCXに供された血漿試料について得られたクロマトグラムであり、第1のHLBとそれに続く第2のMCXとの組み合わせとの比較で示す。左側トレースはAβ40に関し、右側トレースはAβ42に関する。
図8】プロトコルCに従って第1のSPE工程であるMCXに、続いて第2のSPE MAXに供された血漿試料について得られたクロマトグラムであり、第1のHLBとそれに続く第2のMCXとの組み合わせとの比較で示す。左側トレースはAβ40に関し、右側トレースはAβ42に関する。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下の説明は、本発明の様々な実施形態を例示するようにのみ意図されている。したがって、説明される特定の改変形態は、限定的であるようには意図されていない。当業者には、本明細書に示される主題の精神又は範囲を逸脱することなく様々な均等形態、変更形態及び改変形態を作り出すことができることは明らかであろうし、これらの均等実施形態は、本明細書に含まれるべきであると理解されよう。
【0042】
文脈上別途明らかな指示がない限り、本発明において使用される単数形「a」、「an」、及び「the」は複数の言及対象を含む。
【0043】
本明細書及び特許請求の範囲全体を通じて、文脈上別途要求されない限り、用語「含む(comprise)」、又は「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」等の変形は、記載される要素又は要素群を含むが、任意の他の要素又は要素群を排除しないことを含意するものと理解されよう。
【0044】
本明細書において、用語「分析物」、「化学種」、「試料」、「成分」、「化学物質」及び「イオン」はすべて、本発明の方法によって分析、同定及び定量化すべき物質を指すように使用されうる。
【0045】
本明細書において使用される用語「固相抽出」又は「SPE」は、混合物を複数の成分に分離する方法を指す。成分は、溶液に溶解及び/又は懸濁され(「試料溶液」)、溶液がそこを通過する固体(「固定相」)に対する親和性の差によって互いに分離される。いくつかの場合では、試料溶液が固定相を通過する際に、試料溶液の望ましくない成分を固定相に保持することがある(すなわち、試料溶液中の分析物が精製される)。他の場合では、望ましい成分を固定相に保持することがあり(すなわち、目的の分析物を固定相に保持し)、第2の移動相を使用することで、固定相に保持された分析物を更なる処理又は分析のために溶離する。「固定相」は一般に「カートリッジ」、「チップ」又は「カラム」に保持されており、これを大規模スクリーニング研究に特に好都合であるマルチウェルプレートに集めることができる。固相抽出用カートリッジ、カラム、チップ及びマルチウェルプレートは、市販されているか、又は当技術分野において公知の方法に従って準備可能である。
【0046】
用語「精製」は、目的の1つ又は複数の分析物の量を、目的の該分析物の検出に干渉しうる試料中の他の成分に対して富化する手順を指す。本明細書において使用されるように、用語「精製」は、試料から目的の分析物以外のすべての物質を除去することを指さない。
【0047】
「免疫沈降」とは、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を含む抗体を利用することで試料中で目的の1つ又は複数の分析物を富化する精製手順を指す。
【0048】
本明細書において使用される用語「消化」は、一般に、細胞酵素(プロテアーゼ)の使用及び分子内消化を例えば含む、ポリペプチド又はタンパク質を分解又は切断するための任意の好適な方法を指す。
【0049】
本明細書において使用される用語「質量分析」又は「MS」は、特定の分析物の質量対電荷比を測定するための分析技術を指す。MSは、質量対電荷比を使用して分析物を検出及び同定するために使用可能なすべての成分及び系を含むように広く使用される。MS技術は一般に、分析物をイオン化する(分析物は溶液中で既にイオン化されていてもよいが)ことで荷電分析物を形成すること、これらの荷電分析物を気相に移すこと、質量対電荷比を確定すること、及び相対存在量又は絶対存在量を計算することを含む。分析物は任意の好適な手段でイオン化及び検出可能である。
【0050】
用語「クロマトグラフィー」は、液体又は気体によって運ばれる混合物を複数の成分に分離し、該成分が固定相を通過する際に化学的実体の分布の差の結果として異なる保持時間で該成分を溶離する方法を指す。したがって、「液体クロマトグラフィー」(LC)又は「高速液体クロマトグラフィー」(HPLC)とは、流体がカラムを通過する際に流体溶液の1つ又は複数の成分を選択的に分離することを指す。この分離は、混合物の成分が1つ又は複数の固定相と移動相との間で分配されることにより生じる。LC又はHPLCの例としては順相液体クロマトグラフィー(NPLC)、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)、高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、静電反発液体クロマトグラフィー(ERLIC)、及び多次元液体クロマトグラフィーが挙げられる。
【0051】
用語「マイクロHPLC」又は「マイクロLC」とは、微小流量(すなわち1~25μl/分)及びキャピラリーカラム(内径150~500μm)を使用する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を指す。
【0052】
用語「イオン化」又は「イオン化する」は、1個又は複数の電荷単位に等しい正味電荷を有する分析物イオンを生成する方法を意味する。陰イオンは正味負電荷を有し、陽イオンは正味正電荷を有する。イオン化の非限定的な例としては電子衝撃イオン化、化学イオン化、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧光イオン化(APPI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、大気圧化学イオン化(APCI)が特に挙げられる。
【0053】
「エレクトロスプレーイオン化」又は「ESI」とは、目的の分析物をイオンとして気相に移し、目的の該分析物を含む試料溶液を電界中にスプレーすることで帯電液滴を形成する、イオン化方法を指す。
【0054】
用語「イオン移動度分光測定(IMS)」は、キャリアバッファガス中での移動度に基づいて気相中でイオン化分子を分離及び同定するために使用される分析技術を指す。用語「移動度差分光測定(DMS)」とは、大気圧又は大気圧近傍の気体中での高電界におけるイオン移動度と低電界におけるイオン移動度との差に基づくイオン化分子の分離からなる特定の種類のIMSを指す。
【0055】
用語「多重反応モニタリング(MRM)」は、「選択的反応モニタリング(SRM)」とも呼ばれており、目的の分析物の1つ又は複数の選択される親-生成物対をモニタリングするために2個(又はそれ以上)の分析装置(すなわち四極子)を調整する、タンデムMSのスキャンモードを指す。
【0056】
用語「タンデム質量分析」又は「MS/MS」は、時間又は空間が隔てられている複数段階の質量分析を行う質量分析を指す。例えば、時間差タンデム質量分析は、特定のイオンを最初に捕捉し、単離し、断片化した後、断片を同じ分析計中で分析する、1個の質量分析計(例えばイオントラップ)を包含しうる。空間差タンデム質量分析は2個以上の分析計を包含する。分析計は、分析物の分離が行われる1つ又は複数の反応領域(すなわちアルゴン、キセノン、窒素、ヘリウム等の気体で満たされた衝突セル)で隔てられている。最後に、断片イオンを最終分析計中でフィルタリングした後、検出する。一般に2個の分析計を使用する。これらは同じ種類であってもなくてもよい。
【0057】
本明細書において使用される場合、用語「ROC」は「受信者動作特性」を指す。ROC分析を使用することで、試験の又は分析法の診断性能又は予測能力を評価することができる。ROCグラフは、様々な閾値又はカットオフ値での試験の感度及び特異度のプロットである。ROC曲線上の各点は感度及びその各々の特異度を表す。感度及び特性がいずれも許容される値を示す点を同定するために、閾値をROC曲線に基づいて選択することができ、この値を診断目的で試験に適用することに使用することができる。特異性のみを最適化する場合、試験は偽陽性(疾患を有さない対象における疾患の診断例の増加)を生じさせにくくなるが、その代わり、いくつかの疾患症例が同定されない(例えば偽陰性)という可能性が高まる。感度のみを最適化する場合、試験は疾患を有する大部分又はすべての対象を同定しやすくなるが、疾患を有さない対象において疾患を診断する例も増加する(例えば偽陽性)。ユーザーは、当業者が容易に理解するやり方で、パラメータを修正し、したがって所与の臨床条件に好適なROC閾値を選択することができる。
【0058】
用語「曲線下面積(AUC)値」は、異なる試料特性を区別するための、この場合ではAβアミロイドーシスを有する対象(すなわちアミロイド陽性)とAβアミロイドーシスを有さない対象(すなわちアミロイド陰性)とを区別するための、試験の全体的能力を定量化するものである。真陽性を同定することが偶然にすぎない試験は、AUC 0.5を示すROC曲線を生じさせる。完全な特異度及び感度を示す(すなわち偽陽性及び偽陰性を生じさせない)試験はAUC 1.00を示す。
【0059】
別途定義がない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。例示的な方法及び材料を以下に記載するが、本明細書に記載のものと同様又は同等の方法及び材料を使用してもよく、それらは当業者には明らかであろう。
【0060】
別途明確な記載がない限り、本明細書中の各実施形態はすべての他の実施形態に準用されるものとする。
【0061】
本発明は、質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む血漿試料を調製するための方法に関する。
【0062】
アミロイドベータペプチド(Aβ又はAベータペプチドとも呼ばれる)は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解プロセスにより得られるペプチドである。本明細書において使用される場合、用語「アミロイドベータ」は総アミロイドベータ(Aβ)タンパク質、Aβ40、Aβ42、又は別のAβアイソフォームを指す。いくつかの実施形態では、試料はAβ40を含みうる。他の実施形態では、試料はAβ42を含みうる。好ましい実施形態では、試料はAβ40及びAβ42を含みうる。
【0063】
本明細書において使用される場合、用語「インタクト」アミロイドベータは、化学的/酵素的切断又は任意の他のペプチド修飾に供されていない全長ペプチドを指す。まさにAβ40及びAβ42ペプチドの場合、インタクトアミロイドベータペプチドAβ42とは、ヒトAPPアイソフォーム770(カノニカル、UniProtKBにおける受託番号P05067)のアミノ酸672~713に対応する42アミノ酸ペプチドを意味し、インタクトアミロイドベータペプチドAβ40とは、ヒトAPPアイソフォーム770(カノニカル、UniProtKBにおけるアクセッション番号P05067)のアミノ酸672~711に対応する40アミノ酸ペプチドを指す。
【0064】
いくつかの実施形態では、試料は、対象に由来する血漿試料である。好適な対象としては、ヒト若しくは任意の他の哺乳動物、家畜動物(ブタ、雌ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ラマ、及びアルパカ等)、伴侶動物(イヌ、ネコ、ウサギ、及びトリ等)、実験動物(げっ歯類、例えばマウス、ラット、モルモット等)、又は動物園動物が挙げられる。好ましい実施形態では、対象は哺乳動物である。より好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0065】
血漿試料を「そのまま」使用してもよく、血漿試料から標準的技術を使用してタンパク質画分を単離してもよい。例えば、血漿試料を濃縮、希釈又は抽出してもよい。好適な抽出技術としては界面活性剤、酸、塩基、有機溶媒、又は当技術分野において公知の他の方法を挙げることができる。いくつかの実施形態では、マトリックスの複雑さを減少させるために生試料を予備処理することができる。いくつかの実施形態では、これらの予備処理は液液抽出又はタンパク質沈殿等の当業者に周知の技術であるが、当業者に公知の他の技術は排除されない。いくつかの実施形態では、血漿試料が好ましい。より好ましい実施形態では、血漿試料はヒト血漿試料である。
【0066】
第1の態様では、本発明は、質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む血漿試料を調製するための方法に関する。前記方法は
a) 該血漿試料と変性剤とを接触させる工程、
b) 工程a)において得られた溶液に対して第1の固相抽出工程を行うことで第1の溶出物を回収する工程、
c) 工程b)において得られた該第1の溶出物に対して第2の固相抽出工程を行うことで第2の溶出物を回収する工程、及び
d) 工程c)において得られた該第2の溶出物を乾燥させ、質量分析による分析のために処理する工程を含み、
工程d)から得られた試料はインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42を含む。
【0067】
工程d)における用語「処理する」は、質量分析による分析に試料を適応させることを意味し、例えば液体クロマトグラフィーと質量分析との組み合わせに試料を適応させることを含む。
【0068】
いくつかの実施形態では、アミロイドベータペプチドを含む血漿試料と酸性変性剤とを接触させる。より好ましい実施形態では、酸性変性剤は有機酸である。更に好ましい実施形態では、有機酸はカルボン酸である。更に好ましい実施形態では、カルボン酸は、モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸である。モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸は、pKa約6以下、例えば約5以下、例えば約4以下を有しうる。モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸はpKa約4以下を有しうる。好ましい実施形態では、モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸は、C1~C10ハロアルキル、C1~C10アルキル、及びそれらの組み合わせである。例えば、カルボン酸は、C1~C5ハロアルキルモノカルボン酸、C1~C5アルキルモノカルボン酸、及びそれらの組み合わせから選択されうる。更に好ましい実施形態では、カルボン酸はギ酸である。
【0069】
本明細書に開示のすべてのpKa値は、水中にて25℃及び1atmの圧力で測定された値である。
【0070】
したがって、いくつかの実施形態では、酸性変性剤はギ酸である。更に好ましい実施形態では、酸性変性剤は40%~70%(v/v)のギ酸を含むギ酸水溶液である。好ましい実施形態では、ギ酸溶液は45%~60%(v/v)のギ酸を水中に含む。より好ましい実施形態では、ギ酸溶液は約50%(v/v)のギ酸を水中に含む。
【0071】
いくつかの好ましい実施形態では、アミロイドベータペプチドを含む血漿試料と酸性変性剤とを接触させることでpH約4.5以下を有する溶液を得る。より好ましい実施形態では、溶液のpHは約0.1~約4.5でありうる。例えば、溶液のpHは約0.4~約3でありうる。溶液のpHは約0.5~2、例えば約0.8~1.5でありうる。より好ましい実施形態では、血漿試料と酸性変性剤とを接触させた後に得られる溶液はpH 1~1.4、より好ましくは1.1~1.3、より好ましくは約1.2を有する。
【0072】
本発明の方法において使用される酸性変性剤の量は、使用される血漿試料の量及び該酸性変性剤のpHに依存する。当業者は、特定のpHを有する溶液を得るために単純な計算で酸性変性剤の量を確定することができる。本発明のいくつかの好ましい実施形態では、酸性変性剤は濃度40%~70%(v/v)のギ酸の水溶液である。本発明のより好ましい実施形態では、100μl~400μl量の血漿試料と200μl~800μl量の濃度40%~70%(v/v)のギ酸の水溶液とを接触させる。
【0073】
本発明の血漿試料を変性させるための変性剤としてのギ酸の使用によって、いくつかの利点が得られ、例えば、Aβペプチドを溶液中に保持しながら(沈殿が生じない)多くのAβ-血漿タンパク質相互作用(すなわちIgG)が破壊される。
【0074】
いくつかの実施形態では、アミロイドベータペプチドを含む血漿試料と塩基性変性剤とを接触させる。より好ましい実施形態では、塩基性変性剤は、水溶性水酸化物、炭酸塩、酸化物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。例えば、塩基は水溶性水酸化物でありうる。好適な水酸化物としては、無機水酸化物、有機水酸化物、及びそれらの組み合わせが挙げられる。好ましい実施形態では、塩基は水酸化アンモニウムである。更に好ましい実施形態では、塩基性変性剤は15%~40%(v/v)の水酸化アンモニウムを含む水酸化アンモニウム水溶液である。好ましい実施形態では、塩基性剤溶液は20%~50%(v/v)の水酸化アンモニウムを水中に含む。より好ましい実施形態では、塩基性剤溶液は約25%(v/v)の水酸化アンモニウムを水中に含む。
【0075】
いくつかの好ましい実施形態では、アミロイドベータペプチドを含む血漿試料と塩基性変性剤とを接触させることでpH約11以上を有する溶液を得る。より好ましい実施形態では、溶液のpHは約11~約13でありうる。例えば、溶液のpHは約11~約12でありうる。溶液のpHは約11~11.5、最も好ましくは約11.3でありうる。
【0076】
本発明の方法において使用される塩基性変性剤の量は、使用される血漿試料の量及び該塩基性変性剤のpHに依存する。当業者は、特定のpHを有する溶液を得るために単純な計算で塩基性変性剤の量を確定することができる。本発明のいくつかの好ましい実施形態では、塩基性変性剤は濃度15%~40%(v/v)の水酸化アンモニウムの水溶液である。本発明のより好ましい実施形態では、100μl~400μl量の血漿試料と200μl~800μl量の濃度15%~40%(v/v)の水酸化アンモニウムの水溶液とを接触させる。
【0077】
本発明の血漿試料を変性させるための変性剤としての水酸化アンモニウムの使用によって、いくつかの利点が得られ、例えば、Aβペプチドを溶液中に保持しながら多くのAβ-血漿タンパク質相互作用(すなわちIgG)が破壊される(沈殿が生じない)。
【0078】
試料を変性させた後、アミロイドベータペプチドを試料の他の成分から固相抽出(SPE)によって分離する。
【0079】
いくつかの種類のSPEが当技術分野において公知である。それらは、使用される固定相の化学特性に応じて分類可能である。したがって、順相SPEでは、固定相は移動相よりも極性が高く、例えば、固定相としてのシリカゲル又はアルミナと、極性がより低い溶離液(すなわちヘキサン)の移動相とを組み合わせる。対照的に、逆相SPEでは、シリカ又はポリマービーズに結合したオクタデシルシラン又はオクチルシラン等の低極性パッキングが使用されており、移動相は通常、水及び混和性有機溶媒及び調整剤の混合物である。他方、イオン交換SPEの間、成分は、成分と固定相の正又は負に帯電した基との間の静電相互作用に基づいて分離される。したがって、イオン交換SPEは、固定相が、酸等の負に帯電したアニオンと相互作用してそれを保持する正に帯電した基を含む、アニオン交換SPE、及び、固定相が、塩基等の正に帯電したカチオンと相互作用してそれを保持する負に帯電した基を含む、カチオン交換SPEを含む。強カチオン交換吸着剤は、水溶液中で常に負に帯電している脂肪族スルホン酸基を含み、弱カチオン交換吸着剤は、pHが5を超える際に帯電する脂肪族カルボン酸を含む。同じカートリッジ内で複数の保持機構を組み合わせることも可能であり、これは混合モードSPEとして知られており、多くの場合は逆相とイオン交換カートリッジとを組み合わせたものである。したがって、混合モード逆相-アニオン交換及び混合モード逆相-カチオン交換が、当技術分野において公知のSPEである。
【0080】
本発明の方法における固相抽出の目的は、目的のアミロイドベータペプチド中の血漿試料を精製及び濃縮するために血漿試料の望ましくない成分を分離及び廃棄することにある。
【0081】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、試料と変性剤とを接触させる工程の後に得られた溶液に対して第1の固相抽出工程を行う工程を含む。好ましい実施形態では、本発明の方法は、前記第1の固相抽出工程の後に第2の固相抽出工程を行う工程を含む。したがって、いくつかの実施形態では、質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む試料を調製するための本発明の方法は、2つの連続した固相抽出工程を含む。
【0082】
いくつかの実施形態では、アミロイドベータペプチドを含む試料を調製するための本発明の方法の第1及び第2の固相抽出工程は、当業者に公知の任意の種類でありうる。
【0083】
いくつかの実施形態では、第1の固相抽出工程は逆相SPEである。いくつかの実施形態では、第1の固相抽出工程はカチオン交換SPEである。いくつかの実施形態では、第1の固相抽出工程はアニオン交換SPEである。いくつかの実施形態では、カチオン交換SPEは、強カチオン交換、弱カチオン交換、又は混合モード逆相-カチオン交換である。いくつかの実施形態では、アニオン交換SPEは、強アニオン交換、弱アニオン交換、又は混合モード逆相-アニオン交換である。
【0084】
いくつかの実施形態では、第2の固相抽出工程は逆相SPEである。いくつかの実施形態では、第2の固相抽出工程はカチオン交換SPEである。いくつかの実施形態では、第2の固相抽出工程はアニオン交換SPEである。いくつかの実施形態では、カチオン交換SPEは、強カチオン交換、弱カチオン交換、又は混合モード逆相-カチオン交換である。いくつかの実施形態では、アニオン交換SPEは、強アニオン交換、弱アニオン交換、又は混合モード逆相-アニオン交換である。
【0085】
いくつかの実施形態では、第1の固相抽出工程は逆相SPEであり、第2の固相抽出工程はカチオン交換SPEであり、より好ましくは、該カチオン交換SPEは、強カチオン交換、弱カチオン交換、又は混合モード逆相-カチオン交換である。
【0086】
いくつかの実施形態では、第1の固相抽出工程は逆相SPEであり、第2の固相抽出工程はアニオン交換SPEであり、より好ましくは、該アニオン交換SPEは、強アニオン交換、弱アニオン交換、又は混合モード逆相-アニオン交換である。
【0087】
いくつかの実施形態では、第1の固相抽出工程はカチオン交換SPEであり、より好ましくは、該カチオン交換SPEは、強カチオン交換、弱カチオン交換、又は混合モード逆相-カチオン交換であり、第2の固相抽出工程はアニオン交換SPEであり、より好ましくは、該アニオン交換SPEは、強アニオン交換、弱アニオン交換、又は混合モード逆相-アニオン交換である。
【0088】
いくつかの実施形態では、第1の固相抽出工程はアニオン交換SPEであり、より好ましくは、該アニオン交換SPEは、強アニオン交換、弱アニオン交換、又は混合モード逆相-アニオン交換であり、第2の固相抽出工程はカチオン交換SPEであり、より好ましくは、該カチオン交換SPEは、強カチオン交換、弱カチオン交換、又は混合モード逆相-カチオン交換である。
【0089】
質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む血漿試料を調製するための本発明の方法のいくつかの好ましい実施形態では、第1及び第2のSPEを行う前に血漿試料と本明細書に開示の酸性変性剤とを接触させ、ここで第1のSPEは逆相SPEであり、第2の固相抽出工程はカチオン交換SPEである。
【0090】
質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む血漿試料を調製するための本発明の方法のいくつかの好ましい実施形態では、第1及び第2のSPEを行う前に血漿試料と本明細書に開示の酸性変性剤とを接触させ、ここで第1のSPEは逆相SPEであり、第2の固相抽出工程はアニオン交換SPEである。
【0091】
質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む血漿試料を調製するための本発明の方法のいくつかの好ましい実施形態では、第1及び第2のSPEを行う前に血漿試料と本明細書に開示の酸性変性剤とを接触させ、ここで第1のSPEはカチオン交換SPEであり、第2の固相抽出工程はアニオン交換SPEである。
【0092】
質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む血漿試料を調製するための本発明の方法のいくつかの好ましい実施形態では、第1及び第2のSPEを行う前に血漿試料と本明細書に開示の塩基性変性剤とを接触させ、ここで第1のSPEはアニオン交換SPEであり、第2の固相抽出工程はカチオン交換SPEである。
【0093】
アミロイドペプチドを含む血漿試料中のタンパク質を本発明の方法に従って変性させた後に本明細書に記載の2つの連続したSPE工程の特定の組み合わせを行うことで、インタクトAβ40及びAβ42ペプチドの精製が可能になり、これを更なる精製工程を必要とすることなく質量分析によって更に分析することができる。
【0094】
本発明の第1及び第2のSPE工程を行うためのプロトコルは、固定相の調節及び平衡化、試料をカラム又はカートリッジ中に添加すること、少なくとも1回の洗浄工程、並びに少なくとも1回の溶出工程を含む。前記工程は当業者に周知であり、各工程の具体的な条件も当技術分野において公知である。
【0095】
本発明の一実施形態では、本発明の第1及び第2のSPE工程を行うためのプロトコルは当技術分野において公知のものである。本発明の別の実施形態では、第1及び第2のSPE工程は、試料から望ましくない成分を除去するための少なくとも1回の洗浄工程を含む。本発明の好ましい実施形態では、第1及び第2のSPE工程はそれぞれ少なくとも2回の洗浄工程を含む。
【0096】
好適な洗浄溶液は当技術分野において公知である。いくつかの実施形態では、本発明の方法のSPE工程用の洗浄溶液は、酸、例えば有機酸、好ましくは酢酸、ギ酸又はトリフルオロ酢酸(TFA)の溶液である。他の実施形態では、本発明の方法のSPE工程用の洗浄溶液は、水と水混和性有機溶媒との溶液である。例えば、水混和性有機溶媒は極性非プロトン性有機溶媒又はプロトン性有機溶媒でありうる。水混和性有機溶媒のクラスの非限定的な例としては、エステル、ニトリル、カルボン酸、アミド、アルデヒド、ケトン、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。当業者には、上記に示されたクラスのすべてのメンバーが水混和性であるわけではないことが理解されるが、当業者は、水混和性である特定のクラスのメンバーを容易に確定することができる。更に好ましい実施形態では、水混和性有機溶媒は、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、又はそれらの組み合わせである。特に好ましい実施形態では、本発明の方法のSPE工程用の洗浄溶液の水混和性有機溶媒はアセトニトリルである。他の実施形態では、本発明の方法のSPE工程用の洗浄溶液は、塩基、例えば、水溶性水酸化物、炭酸塩、酸化物、及びそれらの組み合わせの溶液である。好ましい実施形態では、本発明の方法のSPE工程用の洗浄溶液は、水酸化アンモニウム溶液である。
【0097】
いくつかの好ましい実施形態では、第1の洗浄用の洗浄溶液はトリフルオロ酢酸(TFA)である。本発明のSPE工程中の第1の洗浄に使用可能なTFAの濃度は水中0.01%~10%(v/v)のTFAである。別の好ましい実施形態では、洗浄溶液は0.05%~1%(v/v)のTFAの水溶液である。更に好ましい実施形態では、洗浄溶液は約0.1%(v/v)のTFAの水溶液である。好ましい実施形態では、本発明の第1のSPE工程中の第1の洗浄用の洗浄溶液は、0.05%~1%(v/v)のTFAの水溶液、より好ましくは約0.1%のTFAの水溶液である。
【0098】
いくつかの好ましい実施形態では、第1の洗浄用の洗浄溶液はギ酸である。本発明のSPE工程中の第1の洗浄に使用可能なギ酸の濃度は水中15%~35%(v/v)のギ酸である。好ましい実施形態では、洗浄溶液は20%~30%(v/v)のギ酸の水溶液である。より好ましい実施形態では、洗浄溶液は約25%(v/v)のギ酸の水溶液である。別の好ましい実施形態では、本発明の第2のSPE工程中の第1の洗浄用の洗浄溶液は、20%~30%(v/v)のギ酸の水溶液、より好ましくは約25%(v/v)のギ酸の水溶液である。
【0099】
いくつかの好ましい実施形態では、第1の洗浄用の洗浄溶液は水酸化アンモニウム溶液である。本発明のSPE工程中の第1の洗浄に使用可能な水酸化アンモニウムの濃度は水中2%~50%(v/v)の水酸化アンモニウムである。好ましい実施形態では、洗浄溶液は2%~30%(v/v)の水酸化アンモニウムの水溶液である。より好ましい実施形態では、洗浄溶液は約10%(v/v)の水酸化アンモニウムの水溶液である。別の好ましい実施形態では、本発明の第2のSPE工程中の第1の洗浄用の洗浄溶液は、5%~30%(v/v)の水酸化アンモニウムの水溶液、より好ましくは約10%(v/v)の水酸化アンモニウムの水溶液である。
【0100】
いくつかの好ましい実施形態では、第2の洗浄用の洗浄溶液はアセトニトリルである。本発明のSPE工程中の第2の洗浄に使用可能なアセトニトリルの濃度は水中5%~80%(v/v)のアセトニトリルである。好ましい実施形態では、洗浄溶液は10%~60%(v/v)のアセトニトリルの水溶液である。
【0101】
好ましい実施形態では、本発明の第1のSPE工程中の第2の洗浄用の洗浄溶液は、5~15%(v/v)のアセトニトリルの水溶液である。より好ましい実施形態では、洗浄溶液は約10%(v/v)のアセトニトリルの水溶液である。
【0102】
好ましい実施形態では、本発明の第2のSPE工程中の第2の洗浄用の洗浄溶液は、40%~70%(v/v)のアセトニトリルの水溶液である。より好ましい実施形態では、洗浄溶液は約60%(v/v)のアセトニトリルの水溶液である。
【0103】
他の好ましい実施形態では、本発明の第1のSPE工程中に第3の洗浄が行われる。好ましい実施形態では、第3の洗浄用の洗浄溶液はアセトニトリルを濃度90%~100%(v/v)で含む。より好ましい実施形態では、第1のSPE工程中の第3の洗浄用の洗浄溶液は、濃度約100%(v/v)のアセトニトリルである。
【0104】
好ましい実施形態では、第1のSPE工程は少なくとも2回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は0.05%~1%(v/v)のTFAを水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は5~15%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われ、第2のSPE工程は少なくとも3回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は20%~30%(v/v)のギ酸を水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は40%~70%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われ、第3の洗浄工程は90%~100%(v/v)のアセトニトリルを含む溶液で行われる。
【0105】
より好ましい実施形態では、第1のSPE工程は少なくとも2回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は約0.1%(v/v)のTFAを水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は約10%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われ、第2のSPE工程は少なくとも3回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は約25%(v/v)のギ酸を水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は約60%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われ、第3の洗浄工程は約100%(v/v)のアセトニトリルを含む溶液で行われる。
【0106】
好ましい実施形態では、第1のSPE工程は少なくとも2回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は0.05%~10%(v/v)のメタノールを水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は5~15%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われ、第2のSPE工程は少なくとも3回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は0.5%~50%(v/v)のギ酸を水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は30%~70%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われ、第3の洗浄工程は90%~100%(v/v)のアセトニトリルを含む溶液で行われる。
【0107】
好ましい実施形態では、第1のSPE工程は少なくとも3回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は5%~50%(v/v)のギ酸を水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は40~70%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われ、第3の洗浄工程は90%~100%(v/v)のアセトニトリルを含む溶液で行われ、第2のSPE工程は少なくとも2回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は0.5%~15%(v/v)の水酸化アンモニウムを水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は30%~70%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われる。
【0108】
より好ましい実施形態では、第1のSPE工程は少なくとも3回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は約25%(v/v)のFAを水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は約60%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われ、第3の洗浄工程は約100%(v)のアセトニトリルを含む溶液で行われ、第2のSPE工程は少なくとも2回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は約10%(v/v)の水酸化アンモニウムを水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は約60%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われる。
【0109】
より好ましい実施形態では、第1のSPE工程は少なくとも2回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は1%~20%(v/v)の水酸化アンモニウムを水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は30~70%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われ、第2のSPE工程は少なくとも3回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は0.5%~50%(v/v)のギ酸を水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は30%~70%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われ、第3の洗浄工程は90%~100%(v/v)のアセトニトリルを含む溶液で行われる。
【0110】
より好ましい実施形態では、第1のSPE工程は少なくとも2回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は約10%(v/v)の水酸化アンモニウムを水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は約60%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われ、第2のSPE工程は少なくとも3回の洗浄工程を含み、第1の洗浄工程は約25%(v/v)のギ酸を水中に含む溶液で行われ、第2の洗浄工程は約60%(v/v)のアセトニトリルを水中に含む溶液で行われ、第3の洗浄工程は約100%(v/v)のアセトニトリルを含む溶液で行われる。
【0111】
いずれかのSPE工程の後に少なくとも1回の洗浄工程を行った後に、固定相に保持された分析物の溶出が必要になる。好適な溶出溶液は当業者に周知である。
【0112】
いくつかの実施形態では、第1のSPE工程中に固定相に保持された分析物を、界面活性剤及び水混和性極性有機溶媒を含む溶出溶液で溶出する。他の実施形態では、第1のSPE工程中に固定相に保持された分析物を、塩基及び水混和性極性有機溶媒を含む溶出溶液で溶出する。他の実施形態では、第1のSPE工程中に固定相に保持された分析物を、酸及び水混和性極性有機溶媒を含む溶出溶液で溶出する。
【0113】
例えば、水混和性有機溶媒は極性非プロトン性有機溶媒又はプロトン性有機溶媒でありうる。水混和性有機溶媒のクラスの非限定的な例としては、エステル、ニトリル、カルボン酸、アミド、アルデヒド、ケトン、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。当業者には、上記に示されたクラスのすべてのメンバーが水混和性であるわけではないことが理解されるが、当業者は、水混和性である特定のクラスのメンバーを容易に確定することができる。更に好ましい実施形態では、水混和性有機溶媒は、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、又はそれらの組み合わせである。特に好ましい実施形態では、本発明の方法の第1のSPE工程後の溶出溶液の水混和性有機溶媒はアセトニトリルである。溶出溶液の界面活性剤は当業者に公知の任意の種類、好ましくは非イオン性でありうる。いくつかの実施形態では、界面活性剤は非イオン性である。いくつかの好ましい実施形態では、非イオン性界面活性剤はエトキシレート型である。更に好ましい実施形態では、エトキシレート型の非イオン性界面活性剤はTriton X-100である。塩基は、水溶性水酸化物、炭酸塩、酸化物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されうる。例えば、塩基は水溶性水酸化物でありうる。好適な水酸化物としては、無機水酸化物、有機水酸化物、及びそれらの組み合わせが挙げられる。好ましい実施形態では、塩基は水酸化アンモニウムである。溶出溶液の酸は有機酸、好ましくは酢酸、ギ酸又はトリフルオロ酢酸(TFA)でありうる。
【0114】
好ましい実施形態では、本発明の方法の第1のSPE工程後に使用される溶出溶液は、濃度1%~5%(v/v)のTriton X-100及び濃度20%~40%(w/v)のアセトニトリルを含む。より好ましい実施形態では、溶出溶液は約2%(v/v)のTriton X-100及び約30%(w/v)のアセトニトリルの水溶液からなる。
【0115】
別の好ましい実施形態では、本発明の方法の第1のSPE工程後に使用される溶出溶液は、濃度5%~15%(v/v)の水酸化アンモニウム及び濃度50%~90%(w/v)のアセトニトリルを含む。より好ましい実施形態では、溶出溶液は約10%(v/v)の水酸化アンモニウム及び約75%(w/v)のアセトニトリルの水溶液からなる。
【0116】
別の好ましい実施形態では、本発明の方法の第1のSPE工程後に使用される溶出溶液は、濃度1%~15%(v/v)のトリフルオロ酢酸及び濃度50%~90%(w/v)のアセトニトリルを含む。より好ましい実施形態では、溶出溶液は約5%(v/v)のトリフルオロ酢酸及び約70%(w/v)のアセトニトリルの水溶液からなる。
【0117】
いくつかの実施形態では、第2のSPE工程中に固定相に保持された分析物を、塩基及び水混和性極性有機溶媒を含む溶出溶液で溶出する。他の実施形態では、第2のSPE工程中に固定相に保持された分析物を、酸及び水混和性極性有機溶媒を含む溶出溶液で溶出する。
【0118】
塩基は、水溶性水酸化物、炭酸塩、酸化物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されうる。例えば、塩基は水溶性水酸化物でありうる。好適な水酸化物としては、無機水酸化物、有機水酸化物、及びそれらの組み合わせが挙げられる。好ましい実施形態では、塩基は水酸化アンモニウムである。水混和性有機溶媒は極性非プロトン性有機溶媒又はプロトン性有機溶媒でありうる。水混和性有機溶媒のクラスの非限定的な例としては、エステル、ニトリル、カルボン酸、アミド、アルデヒド、ケトン、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。当業者には、上記に示されたクラスのすべてのメンバーが水混和性であるわけではないことが理解されるが、当業者は、水混和性である特定のクラスのメンバーを容易に確定することができる。更に好ましい実施形態では、水混和性有機溶媒は、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、又はそれらの組み合わせである。特に好ましい実施形態では、本発明の方法の第2のSPE工程後の溶出溶液の水混和性有機溶媒はアセトニトリルである。溶出溶液の酸は有機酸、好ましくは酢酸、ギ酸又はトリフルオロ酢酸(TFA)でありうる。
【0119】
好ましい実施形態では、本発明の方法の第2のSPE工程後に使用される溶出溶液は濃度5%~15%(v/v)の水酸化アンモニウム及び濃度50%~90%(w/v)のアセトニトリルを含む。より好ましい実施形態では、溶出溶液は約10%(v/v)の水酸化アンモニウム及び約75%(w/v)のアセトニトリルの水溶液からなる。
【0120】
別の好ましい実施形態では、本発明の方法の第1のSPE工程後に使用される溶出溶液は、濃度1%~15%(v/v)のトリフルオロ酢酸及び濃度50%~90%(w/v)のアセトニトリルを含む。より好ましい実施形態では、溶出溶液は約5%(v/v)のトリフルオロ酢酸及び約70%(w/v)のアセトニトリルの水溶液からなる。
【0121】
本発明の第1のSPE工程中に目的の分析物を溶出した後に、得られた溶出物のpHを調節することで、後続の工程のために該溶出物を準備することができる。好ましい実施形態では、第1のSPE中に溶出後に得られた溶出物と、ギ酸、好ましくは濃度30%~70%(v/v)のギ酸の水溶液、より好ましくは濃度約50%(v/v)のギ酸の水溶液とを接触させることで、目的の分析物を含む溶液のpHを減少させる。
【0122】
次に、第2のSPE工程後に得られた精製インタクトアミロイドベータペプチドを含む溶出物を乾燥させ、質量分析等の下流分析に好適な溶液に再懸濁させることができる。好適な乾燥方法は当技術分野において公知であり、遠心減圧濃縮機(例えばThermo SpeedVac、Genevac社)中での蒸発、及び凍結乾燥を挙げることができるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、アミロイドベータペプチドを含む試料を調製するための本発明の方法の第2のSPE工程後に得られた溶出物を減圧濃縮機中で少なくとも30分間、温度30℃~50℃で乾燥させる。より好ましい実施形態では、溶出物を減圧濃縮機中で約35分間、温度40℃~47℃で乾燥させる。
【0123】
溶出物を乾燥させた後、特定の下流分析に好適な溶液に分析物を再懸濁させることが必要である。いくつかの実施形態では、下流分析はELISA等の抗体ベースの検出方法でありうるが、より好ましい実施形態では、下流分析は液体クロマトグラフィーと質量分析との組み合わせを含む質量分析である。異なる下流分析に好適な溶液は当技術分野において公知である。
【0124】
本発明のいくつかの実施形態では、分析物を液体クロマトグラフィーと質量分析との組み合わせを含む質量分析に更に供するものであり、乾燥分析物が再懸濁される溶液は、界面活性剤、還元剤、水混和性極性有機溶媒及び酸のうちの少なくとも2つを含む。他の実施形態では、乾燥分析物が再懸濁される前記溶液は界面活性剤及び還元剤を含む。他の実施形態では、乾燥分析物が再懸濁される前記溶液は、界面活性剤、還元剤、極性有機溶媒及び酸を含む。
【0125】
本発明によれば、乾燥分析物が再懸濁される溶液の界面活性剤は当業者に公知の任意の種類、好ましくは非イオン性でありうる。いくつかの実施形態では、界面活性剤は非イオン性である。いくつかの好ましい実施形態では、非イオン性界面活性剤はエトキシレート型である。更に好ましい実施形態では、エトキシレート型の非イオン性界面活性剤はTriton X-100である。
【0126】
本発明によれば、乾燥分析物が再懸濁される溶液の還元剤は当業者に公知の任意の種類、好ましくはジスルフィド結合を還元するために好適な還元剤でありうる。ジスルフィド結合を還元するために好適な還元剤の非限定的な例としては、有機ホスフィン還元剤、又は他の還元剤、例えばジチオスレイトール若しくはβ-メルカプトエタノールが挙げられる。好ましい実施形態では、ジスルフィド結合を還元するために好適な還元剤は有機ホスフィン還元剤である。より好ましい実施形態では、有機ホスフィン還元剤はトリス-カルボキシエチルホスフィンである。
【0127】
本発明によれば、乾燥分析物が再懸濁される溶液の水混和性極性有機溶媒は当業者に公知の任意の種類、好ましくはアセトニトリル又はジメチルホルムアミドでありうる。他の実施形態では、極性有機溶媒はアセトニトリルとジメチルホルムアミドとの混合物でありうる。水混和性有機溶媒は極性非プロトン性有機溶媒又はプロトン性有機溶媒でありうる。水混和性有機溶媒のクラスの非限定的な例としては、エーテル、エステル、ニトリル、カルボン酸、アミド、アルデヒド、ケトン、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。当業者には、上記に示されたクラスのすべてのメンバーが水混和性であるわけではないことが理解されるが、当業者は、水混和性である特定のクラスのメンバーを容易に確定することができる。更に好ましい実施形態では、水混和性有機溶媒は、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、又はそれらの組み合わせである。
【0128】
本発明によれば、乾燥分析物が再懸濁される溶液の酸は当業者に公知の任意の種類、好ましくは有機酸でありうる。更に好ましい実施形態では、有機酸はカルボン酸である。更に好ましい実施形態では、カルボン酸は、モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸である。モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸は、pKa約4以下、例えば約3以下、例えば約2以下、好適には1以下を有しうる。モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸はpKa約0.5以下を有しうる。好ましい実施形態では、カルボン酸は、C1~C10ハロアルキルモノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸である。例えば、カルボン酸はC1~C105ハロアルキルモノカルボン酸でありうる。更に好ましい実施形態では、カルボン酸はトリフルオロ酢酸(TFA)である。したがって、いくつかの好ましい実施形態では、乾燥分析物が再懸濁される溶液の酸はTFAである。
【0129】
本明細書に開示のすべてのpKa値は、水中にて25℃及び1atmの圧力で測定された値である。
【0130】
より好ましい実施形態では、界面活性剤はTriton X-100であり、還元剤はトリス-カルボキシエチルホスフィンであり、極性有機溶媒はアセトニトリル及びジメチルホルムアミドであり、酸はTFAである。
【0131】
いくつかの好ましい実施形態では、乾燥分析物が溶解される溶液中のアセトニトリルの濃度は2%~8%(v/v)、より好ましくは3%~7%(v/v)、より好ましくは4%~6%(v/v)、更に好ましくは約5%(v/v)である。
【0132】
いくつかの好ましい実施形態では、乾燥分析物が溶解される溶液中のジメチルホルムアミドの濃度は0.1%~3%(v/v)、より好ましくは0.5%~2%(v/v)、より好ましくは0.5%~1.5%(v/v)、更に好ましくは約1%(v/v)である。
【0133】
いくつかの好ましい実施形態では、乾燥分析物が溶解される溶液中のトリフルオロ酢酸(TFA)の濃度は0.1%~5%(v/v)、より好ましくは0.2%~4%(v/v)、より好ましくは0.2%~3%(v/v)、より好ましくは0.2%~2.5%(v/v)、更に好ましくは約0.5%(v/v)である。
【0134】
いくつかの好ましい実施形態では、乾燥分析物が溶解される溶液中のTriton X-100の濃度は0.01%~2%(v/v)、より好ましくは0.05%~1%(v/v)、より好ましくは0.05%~0.8%(v/v)、より好ましくは0.05%~0.1%(v/v)、更に好ましくは約0.05%(v/v)である。
【0135】
いくつかの好ましい実施形態では、乾燥分析物が溶解される溶液中のトリス-カルボキシエチルホスフィンの濃度は0.05%~0.3%(w/v)、より好ましくは0.1%~0.2%(w/v)、より好ましくは0.12%~0.16%(w/v)、更に好ましくは約0.14%(w/v)である。
【0136】
いくつかの好ましい実施形態では、分析物が溶解される溶液は、界面活性剤及び還元剤を含む水溶液である。更に好ましい実施形態では、乾燥分析物が溶解される溶液は、濃度0.05%~0.8%(v/v)のTriton X-100及び濃度0.1%~0.2%(w/v)のトリス-カルボキシエチルホスフィンを含む。
【0137】
別の好ましい実施形態では、乾燥分析物が溶解される溶液は、濃度0.01%~0.1%(v/v)のTriton X-100、濃度0.1%~0.2%(w/v)のトリス-カルボキシエチルホスフィン、及び濃度3%~7%(v/v)のアセトニトリルを含む。
【0138】
いくつかの好ましい実施形態では、分析物が溶解される溶液は、界面活性剤、還元剤、極性有機溶媒及び酸を含む水溶液である。更に好ましい実施形態では、乾燥分析物が溶解される溶液は、濃度0.01%~0.1%(v/v)のTriton X-100、濃度0.1%~0.2%(w/v)のトリス-カルボキシエチルホスフィン、濃度3%~7%(v/v)のアセトニトリル、及び濃度0.1%~3%(v/v)のトリフルオロ酢酸(TFA)を含む。更に好ましい実施形態では、乾燥分析物が溶解される溶液は、濃度0.01%~0.1%(v/v)のTriton X-100、濃度0.1%~0.2%(w/v)のトリス-カルボキシエチルホスフィン、濃度3%~7%(v/v)のアセトニトリル、濃度0.1%~3%(v/v)のジメチルホルムアミド、及び濃度0.1%~3%(v/v)のトリフルオロ酢酸(TFA)を含む。
【0139】
いくつかの実施形態では、本発明の方法によって調製された試料をクロマトグラフィー及び/又は質量分析によって更に分析する。
【0140】
本発明はまた、質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む血漿試料を調製するための方法であって、質量分析による分析前に血漿試料の免疫沈降又は消化を含まないことを特徴とする、方法に関する。
【0141】
本発明はまた、質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む血漿試料を調製するための方法であって、
a) 該血漿試料と変性剤とを接触させる工程、
b) 工程a)において得られた溶液に対して第1の固相抽出工程を行うことで第1の溶出物を回収する工程、
c) 工程b)において得られた該第1の溶出物に対して第2の固相抽出工程を行うことで第2の溶出物を回収する工程、及び
d) 工程c)において得られた該第2の溶出物を乾燥させ、質量分析による分析のために処理する工程から本質的になり、
工程d)から得られた試料がインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42を含むことを特徴とする、方法に関する。
【0142】
第2の態様では、本発明は、血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42の質量分析による定量化のための方法に関する。いくつかの実施形態では、血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42の質量分析による定量化のための本発明の方法は、試料を調製するための本明細書に記載の方法の工程a)~d)を含み、更に、
i) 工程d)において得られた溶液に対して液体クロマトグラフィー工程を行うことで目的の分析物を分離する工程、
ii) 工程i)において分離された分析物をイオン化に供することで1つ又は複数の荷電種を生成する工程、
iii) 該1つ又は複数の荷電種をイオン移動度に従って分離する工程、
iv) 工程iii)において分離された該1つ又は複数の荷電種を検出し、その存在量を質量分析によって測定する工程、並びに
v) 血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及び/又はAβ42の量又は濃度を、工程iv)において測定された1つ又は複数の荷電種の存在量と標準曲線との比較によって確定する工程を含む。
【0143】
本発明のいくつかの実施形態では、血漿試料中のインタクトアミロイドペプチドAβ40及びAβ42の質量分析による定量化のための方法は、アミロイドベータペプチドを含む試料を調製するための本明細書に記載の方法から得られる溶液に対してクロマトグラフィー工程i)を行う工程を含む。好ましい実施形態では、前記クロマトグラフィー工程は液体クロマトグラフィー(LC)である。より好ましい実施形態では、前記液体クロマトグラフィーはHPLCである。更に好ましい実施形態では、前記クロマトグラフィー工程はマイクロ液体クロマトグラフィー(マイクロHPLC)である。
【0144】
本発明のいくつかの実施形態では、血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42の質量分析による定量化のための方法は、工程i)において分離された分析物をイオン化に供することで1つ又は複数の荷電種を生成する第2の工程ii)を含む。
【0145】
本発明のいくつかの実施形態では、分析物が供されるイオン化は陽イオンモードのエレクトロスプレーイオン化(ESI)である。本発明のエレクトロスプレーイオン化を行うための条件は当業者に周知である。
【0146】
本発明のいくつかの実施形態では、血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42の質量分析による定量化のための方法は、工程ii)において得られた1つ又は複数の荷電種をイオン移動度に従って分離する第3の工程iii)を含む。好ましい実施形態では、前記1つ又は複数の荷電種をイオン移動度分光測定(IMS)によって分離する。より好ましい実施形態では、本発明の方法において使用されるイオン移動度分光測定技術は移動度差分光測定(DMS)である。
【0147】
本発明のいくつかの実施形態では、荷電種をイオン移動度に従って分離した後、荷電種を検出し、その存在量を質量分析によって測定する(工程iv)。既に説明したように、用語「質量分析」は、分析物又は分析物群の質量対電荷比を確定するためのいくつかの分析技術を包含する。質量分析技術の非限定的な例としてはイオントラップ(3D又は線形)、シングル又はトリプル四重極、飛行時間、Orbitrap、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析、及びそれらの組み合わせ(ハイブリッド機器)が挙げられる。
【0148】
好ましい実施形態では、荷電種の強度及び存在量を質量分析によって測定するための技術はトリプル四重極機器中での多重反応モニタリング(MRM)である。
【0149】
本発明のいくつかの実施形態では、血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42の質量分析による定量化のための方法は、該ペプチドの量又は濃度を、iv)において測定された分析物の存在量と標準曲線との比較によって確定する、第5の工程v)を含む。
【0150】
したがって、質量分析によって分析された試料中の分析物の量又は濃度を定量化するために、漸増濃度の少なくとも1つの標準物質を使用して、較正曲線を作成することが好ましい。本発明においては、Aβ40及びAβ42が好ましく定量化されるペプチドであることから、標識15N-Aβ40及び15N-Aβ42が較正曲線の標準物質として好ましく使用される。
【0151】
先行技術に既に記載されているように、較正曲線は、BSAを含むPBS等の緩衝溶液によって作成可能である。しかし、本発明のより好ましい実施形態では、較正曲線を血漿によって作成することで、いくつかの利点が得られ、例えば、標準物質及び分析物の両方が同等に回収され、また、定量化に悪影響を与えるおそれがあるマトリックス効果が均等化される。より好ましい実施形態では、較正曲線はヒト血漿によって作成される。
【0152】
更に、内部標準物質が、本発明の方法の様々な工程の品質に関して、及び信号の正規化に関して、対照として使用される。したがって、内部標準物質を、較正曲線を作成するために溶液に加えることができ、また、様々な工程の品質を保証するために、質量分析によって分析すべき試料に加えることができる。
【0153】
いくつかの実施形態では、較正曲線用の溶液、及び試料に標識2H-Aβ40及び2H-Aβ42を内部標準物質として加える。他の実施形態では、較正曲線用の溶液、及び試料に標識13C-Aβ40及び13C-Aβ42を内部標準物質として加える。他の実施形態では、較正曲線用の溶液、及び試料に2H-Aβ40及び13C-Aβ42、又は2H-Aβ42及び13C-Aβ40を内部標準物質として加える。
【0154】
他の実施形態では、本発明は、血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42の質量分析による定量化のための方法であって、該ペプチドの量又は濃度を、iv)において測定された分析物の存在量と標準曲線との比較によって確定する工程を含まないことを特徴とする、方法に関する。当該の実施形態では、定量化のための方法は、内部標準物質の使用が標準曲線との比較なしに前記分析物の存在量を定量化することにある半定量的方法である。
【0155】
本発明の方法において使用されるアミロイドベータペプチドを含む試料は血漿試料であることが好ましい。質量分析による分析のための試料の調製のための方法の工程a)において使用される血漿試料の量は、当業者が、従うべき質量分析の特定のプロトコルを考慮して確定することができる。
【0156】
しかし、本発明の方法の利点の1つは、対象においてアルツハイマー病等の神経変性疾患の初期段階を同定するためにアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42の濃度の正確な値を得るために必要な試料の量を減少させることが可能であるということである。本発明の方法において必要な血漿試料の量の減少は、大規模スクリーニング研究には特に好都合である。
【0157】
したがって、質量分析による分析のためにアミロイドベータペプチドを含む血漿試料を調製するための方法の工程a)において使用される試料の量は100μL~400μLである。好ましい実施形態では、試料の容量は150μL~300μLである。より好ましい実施形態では、試料の容量は200μL~250μLである。更に好ましい実施形態では、試料の容量は約200μLである。
【0158】
第3の態様では、本発明は、界面活性剤、還元剤、水混和性極性有機溶媒及び酸のうちの少なくとも2つを含む、質量分析によって分析すべき乾燥溶出物を処理するための水溶液に関する。他の実施形態では、前記水溶液は界面活性剤及び還元剤を含む。他の実施形態では、前記溶液は界面活性剤、還元剤、極性有機溶媒及び酸を含む。
【0159】
本発明によれば、乾燥分析物が処理される溶液の界面活性剤は当業者に公知の任意の種類、好ましくは非イオン性でありうる。いくつかの実施形態では、界面活性剤は非イオン性である。いくつかの好ましい実施形態では、非イオン性界面活性剤はエトキシレート型である。更に好ましい実施形態では、エトキシレート型の非イオン性界面活性剤はTriton X-100である。
【0160】
本発明によれば、乾燥分析物が処理される溶液の還元剤は当業者に公知の任意の種類、好ましくはジスルフィド結合を還元するために好適な還元剤でありうる。ジスルフィド結合を還元するために好適な還元剤の非限定的な例としては、有機ホスフィン還元剤、又は他の還元剤、例えばジチオスレイトール若しくはβ-メルカプトエタノールが挙げられる。好ましい実施形態では、ジスルフィド結合を還元するために好適な還元剤は有機ホスフィン還元剤である。より好ましい実施形態では、有機ホスフィン還元剤はトリス-カルボキシエチルホスフィンである。
【0161】
本発明によれば、乾燥分析物が処理される溶液の水混和性極性有機溶媒は当業者に公知の任意の種類でありうる。水混和性有機溶媒は極性非プロトン性有機溶媒又はプロトン性有機溶媒でありうる。水混和性有機溶媒のクラスの非限定的な例としては、エステル、ニトリル、カルボン酸、アミド、アルデヒド、ケトン、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。当業者には、上記に示されたクラスのすべてのメンバーが水混和性であるわけではないことが理解されるが、当業者は、水混和性である特定のクラスのメンバーを容易に決定することができる。更に好ましい実施形態では、水混和性有機溶媒は、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、又はそれらの組み合わせである。
【0162】
本発明によれば、乾燥分析物が処理される溶液の酸は当業者に公知の任意の種類、好ましくは有機酸でありうる。更に好ましい実施形態では、有機酸はカルボン酸である。更に好ましい実施形態では、カルボン酸は、モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸である。モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸はp、Ka約4以下、例えば約3以下、例えば約2以下、好適には1以下を有しうる。モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸はpKa約0.5以下を有しうる。好ましい実施形態では、カルボン酸は、C1~C10ハロアルキルモノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸である。例えば、カルボン酸はC1~C5ハロアルキルモノカルボン酸でありうる。更に好ましい実施形態では、カルボン酸はトリフルオロ酢酸(TFA)である。したがって、いくつかの好ましい実施形態では、乾燥分析物が処理される溶液の酸はTFAである。
【0163】
より好ましい実施形態では、界面活性剤はTriton X-100であり、還元剤はトリス-カルボキシエチルホスフィンであり、極性有機溶媒はアセトニトリル及びジメチルホルムアミドであり、酸はTFAである。
【0164】
より好ましい実施形態では、質量分析によって分析すべき乾燥溶出物を再懸濁させるための本発明の水溶液は、濃度0.01%~0.1%(v/v)のTriton X-100及び濃度0.1%~0.2%(w/v)のトリス-カルボキシエチルホスフィンを含む。
【0165】
他の好ましい実施形態では、質量分析によって分析すべき乾燥溶出物を処理するための本発明の水溶液は、濃度0.010%~1%(v/v)のTriton X-100、濃度0.1%~0.2%(w/v)のトリス-カルボキシエチルホスフィン、濃度3%~7%(v/v)のアセトニトリル、濃度0.1%~3%(v/v)のジメチルホルムアミド、及び濃度0.1%~3%(v/v)のトリフルオロ酢酸(TFA)を含む。
【0166】
本発明は、以下の実施例を参照することで更に完全に理解されよう。しかし、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0167】
(実施例1)
質量分析による分析のための血漿試料の調製
較正曲線及び品質管理
ヒト血漿並びに15N-Aβ40及び15N-Aβ42標識標準物質(rPeptide社、米国、ジョージア州、Watkinsville)を使用して較正曲線及び品質管理試料を調製した。一連の標準物質15N-Aβ40及び15N-Aβ42を調製するためにそれぞれ較正範囲50~3000pg/ml及び10~100pg/mlを使用した。
【0168】
較正曲線用の一連の標準物質、品質管理試料、及び更に分析すべきヒト対象からの血漿試料にいずれも、品質管理及び信号正規化用の内部標準物質としてカスタムメイド標識された2H-Aβ40及び2H-Aβ42(Bachem社、スイス、Bubendorf)を加えた。
【0169】
質量分析による分析のための血漿試料の調製
ヒト対象から得られる血漿試料を、続いて使用するSPEカートリッジの組み合わせに応じて、異なるプロトコル(A、B、C又はD)に従って調製した。
【0170】
プロトコルA:
最初に、選択される内部標準物質を試料に加えた。次に、50%ギ酸(FA)水溶液400μlとヒト血漿200μlとを接触させることで試料を変性させた。変性後、2回の連続したSPE工程を使用してアミロイドペプチドを精製した。
【0171】
第1のSPEは、HLB Prime抽出プレート(OASIS HLB Prime 96ウェルプレート、30mg、Waters社、米国、マサチューセッツ州、Milford、部品番号186008054)を使用する逆相SPEで構成された。第1のSPEに好適な条件の概要を以下に示す。
・溶媒和: アセトニトリル1ml
・調節: 0.1% FA(ギ酸)水溶液1ml
・試料添加
・洗浄1: 5%メタノール0.5ml
・洗浄2: 10%アセトニトリル水溶液0.5ml
・溶出: 0.1% TFA-アセトニトリル/水70/30溶液0.4ml
・50% FA水溶液10μlを加えることで溶出物を酸性化
【0172】
第1のSPEの後、溶出物を第2のSPEに、この場合はMCX抽出プレート(OASIS MCX 96ウェルマイクロ溶出プレート、30μm、2mg、Waters社、米国、マサチューセッツ州、Milford、部品番号186001830BA)を使用する混合モード逆相-カチオン交換SPEに供した。第2のSPEに好適な条件の概要を以下に示す。
・溶媒和: メタノール0.2ml
・調節: 5% FA水溶液0.2ml
・試料添加: SPE 1からの酸性化溶出物
・洗浄1: 5% FA水溶液0.4ml
・洗浄2: 40%アセトニトリル水溶液0.4ml
・洗浄3: アセトニトリル100% 0.4ml
・溶出: アセトニトリル/水/水酸化アンモニウム75/15/10 100μl
【0173】
第2のSPE後、溶出物を減圧濃縮機中、45℃で35分間蒸発乾固させた。次に、乾燥試料を25μlのAB溶媒、すなわち以下で構成されるインハウス最適化溶液で再懸濁させた。
・アセトニトリル100%: 2.5ml
・ジメチルホルムアミド(DMF) 100%: 0.5ml
・TFA 25%水溶液: 1ml
・Triton X-100 10%水溶液: 0.25ml
・トリス-カルボキシエチルホスフィン: 70mg
・水: メスフラスコ中で50ml量にする
【0174】
プロトコルB:
最初に、選択される内部標準物質を試料に加えた。次に、50%ギ酸(FA)水溶液400μlとヒト血漿200μlとを接触させることで試料を変性させた。変性後、2回の連続したSPE工程を使用してアミロイドペプチドを精製した。
【0175】
第1のSPEは、HLB抽出プレート(OASIS HLB、96ウェルプレート、30μm、30mg、Waters社、米国、マサチューセッツ州、Milford、部品番号WAT058951)を使用する逆相SPEで構成された。第1のSPEに好適な条件の概要を以下に示す。
・溶媒和: アセトニトリル1ml
・調節: 0.1% TFA(トリフルオロ酢酸)水溶液1ml
・試料添加
・洗浄1: 0.1% TFA 1ml
・洗浄2: 10%アセトニトリル水溶液0.5ml
・溶出: 2% Triton X-100-アセトニトリル/水30/70溶液0.7ml
・50% FA水溶液10μlを加えることで溶出物を酸性化
【0176】
第1のSPEの後、溶出物を第2のSPEに、この場合はMCX抽出プレート(OASIS MCX 96ウェルマイクロ溶出プレート、30μm、2mg、Waters社、米国、マサチューセッツ州、Milford、部品番号186001830BA)を使用する混合モード逆相-カチオン交換SPEに供した。第2のSPEに好適な条件の概要を以下に示す。
・溶媒和: メタノール0.2ml
・調節: 25% FA水溶液0.2ml
・試料添加: SPE 1からの酸性化溶出物
・洗浄1: 25% FA水溶液0.4ml
・洗浄2: 60%アセトニトリル水溶液0.4ml
・洗浄3: アセトニトリル100% 0.4ml
・溶出: アセトニトリル/水/水酸化アンモニウム75/15/10 100μl
【0177】
第2のSPE後、溶出物を減圧濃縮機中、45℃で35分間蒸発乾固させた。次に、乾燥試料を25μlのAB溶媒、すなわち5% v/v AcN、1% v/v ジメチルホルムアミド、0.5% v/v TFA、0.05% v/v Triton X-100、0.14% w/v トリス-カルボキシエチルホスフィンの水溶液で構成されるインハウス最適化溶液で再懸濁させた。
【0178】
プロトコルC:
最初に、選択される内部標準物質を試料に加えた。次に、50%ギ酸(FA)水溶液400μlとヒト血漿200μlとを接触させることで試料を変性させた。変性後、2回の連続したSPE工程を使用してアミロイドペプチドを精製した。
【0179】
第1のSPEは、MCX抽出プレート(OASIS MCX 96ウェルプレート、30μm、30mg、Waters社、米国、マサチューセッツ州、Milford、部品番号186000248)を使用する混合モード逆相-カチオン交換SPEで構成された。第1のSPEに好適な条件の概要を以下に示す。
・溶媒和: メタノール1ml
・調節: 25% FA水溶液1ml
・試料添加
・洗浄1: 25% FA水溶液1ml
・洗浄2: 60%アセトニトリル水溶液(60/40)1ml
・洗浄3: アセトニトリル100% 1ml
・溶出: アセトニトリル/水/水酸化アンモニウム(75/15/10) 2x400μl
【0180】
第1のSPEの後、溶出物を第2のSPEに、この場合はMAXマイクロ溶出プレート(OASIS MAXマイクロ溶出プレート、Waters社、米国、マサチューセッツ州、Milford、部品番号186001829)を使用する混合モード逆相-アニオン交換SPEに供した。第2のSPEに好適な条件の概要を以下に示す。
・溶媒和: メタノール0.3ml
・調節: NH4OH 10% 0.4ml
・試料添加
・洗浄1: NH4OH 10% 0.4ml
・洗浄2: アセトニトリル/水(60/40)0.4ml
・溶出: 2x アセトニトリル/水 70/30 50μl、5% TFA
【0181】
第2のSPE後、溶出物を減圧濃縮機中、45℃で35分間蒸発乾固させた。次に、乾燥試料を25μlのAB溶媒、すなわち5% v/v AcN、1% v/v ジメチルホルムアミド、0.5% v/v TFA、0.05% v/v Triton X-100、0.14% w/v トリス-カルボキシエチルホスフィンの水溶液で構成されるインハウス最適化溶液で再懸濁させた。
【0182】
プロトコルD:
最初に、選択される内部標準物質を試料に加えた。次に、25% NH4OH水溶液400μlとヒト血漿200μlとを接触させることで試料を変性させた。変性後、2回の連続したSPE工程を使用してアミロイドペプチドを精製した。
【0183】
第1のSPEは、OASIS MAX 96ウェルプレート(30μm、30mg、Waters社、米国、マサチューセッツ州、Milford、部品番号186000373)を使用する混合モード逆相-アニオン交換SPEで構成された。第1のSPEに好適な条件の概要を以下に示す。
・溶媒和: メタノール1ml
・調節: NH4OH 10% 1ml
・試料添加
・洗浄1: NH4OH 10% 1ml
・洗浄2: アセトニトリル/水60/40 1ml
・溶出: 2x アセトニトリル/水 70/30 400μl、5%トリフルオロ酢酸
【0184】
第1のSPEの後、溶出物を第2のSPEに、この場合はMCX抽出プレート(OASIS MCX 96ウェルマイクロ溶出プレート、30μm、2mg、Waters社、米国、マサチューセッツ州、Milford、部品番号186001830BA)を使用する混合モード逆相-カチオン交換SPEに供した。第2のSPEに好適な条件の概要を以下に示す。
・溶媒和: メタノール0.2ml
・調節: 25% FA水溶液0.2ml
・試料添加
・洗浄1: 25% FA水溶液0.4ml
・洗浄2: 60%アセトニトリル水溶液0.4ml
・洗浄3: アセトニトリル100% 0.4ml
・溶出: アセトニトリル/水/水酸化アンモニウム75/15/10 100μl
【0185】
第2のSPE後、溶出物を減圧濃縮機中、45℃で35分間蒸発乾固させた。次に、乾燥試料を25μlのAB溶媒、すなわち以下で構成されるインハウス最適化溶液で再懸濁させた。
・アセトニトリル100%: 2.5ml
・ジメチルホルムアミド(DMF) 100%: 0.5ml
・TFA 25%水溶液: 1ml
・Triton X-100 10%水溶液: 0.25ml
・トリス-カルボキシエチルホスフィン: 70mg
・水: メスフラスコ中で体積50mlにする
【0186】
いずれの場合でも、較正曲線及び品質管理試料も同じ調製プロトコルに供した。
【0187】
(実施例2)
質量分析による血漿試料の分析
次に、実施例1において調製された血漿試料を、アミロイドペプチドの定量化のための本発明の方法に従って、質量分析によって分析した。
【0188】
アミロイドペプチドの定量化に使用される分析システムは以下のモジュールで構成された。
○M3マイクロHPLC二重ポンプ(トラップ溶出)クロマトグラフ、CTCオートサンプラー及びカラムオーブンを装着(Sciex社、Framingham、MA、USA)
○6500+ QTRAPハイブリッドトリプル四重極-線形イオントラップ質量分析計とSelexION移動度差分光測定-DMS-インターフェースとの組み合わせ(Sciex社、Framingham、MA、USA)
【0189】
注入後、試料をトラップカラム(YMC Triart C18、12nm、3μm、5x0.3mm。YMC社、Dinslaken、Germany)上に加えた。0.5% TFA及び5%ジメチルスルホキシド(DMSO)の水溶液によるトラッピング流量50μl/分を2分間使用した。その後、トラッピング弁を切り替え、分析物をトラップカラムから分析用カラム及びMSシステムに溶出させた。以下のクロマトグラフィー条件を使用した。
○A相: 0.1% 水中FA
○B相: 0.1% アセトニトリル中FA
○流量: 15μl/分
○カラム: HALO Protein C18、400Å、3.4μm、0.3x50mm(Advanced Materials Technology社、Wilmington、DE、USA)
○カラム温度: 55℃
○勾配: 15%Bで0.3分間、線形勾配により3.5分時点で40%Bに上昇、0.1分で90%Bに上昇、0.3分間保持、初期条件(15%B)に0.1分で回帰、3分間保持してカラム再平衡化。
○5.5分時点で、分析用バルブを切り替え、システムを0.1% Triton X-100のTFE/水80/20溶液で洗浄した。その後、トラップカラムを添加溶媒(5% DMSO 0.5% TFAの水溶液)で平衡化した。
【0190】
トラッピングバルブを切り替えたときに試料取得を開始し、分析物を分析用カラムに溶出させた。クロマトグラフィー分離を行った後、分析物は質量分析計のイオン源に入った。分析物を陽イオンモードのエレクトロスプレーイオン化(ESI)に供した。気相にあるときに、干渉マトリックスイオンからできるだけ分離されるように、分析物を移動度差分光測定(DMS)に供した。
【0191】
DMSとマイクロLCとの特定の組み合わせによってバックグラウンドノイズが減少し、感度が増加した。
【0192】
DMS分離後、イオン(目的の分析物の荷電種)をトリプル四重極機器中で多重反応モニタリング(MRM)によって分析した。簡潔に言えば、前駆体(偽分子)イオンを第1の四重極(Q1)中でフィルタリングし、標的ガスとの衝突(衝突誘起解離(CID)又は衝突活性化解離(CAD)として知られるプロセス)によって第2の四重極(Q2又は衝突セル)中で断片化し、目的の断片を第3の四重極(Q3)中でフィルタリングし、検出器に到達させた。
【0193】
電荷状態5(z=5)を有する前駆体イオンをQ1において選択し、Q2において窒素ガスとの衝突によって断片化し、断片をQ3において分析した(やはりz=5を有する)。MRM取得パラメータの概要を以下に示す。
【0194】
【表1】
【0195】
Aβ40、15N-Aβ40及び2H-Aβ40では、b39 5+生成物イオンをQ3において分析した。Aβ42、15N-Aβ42及び2H-Aβ42では、b41 5+生成物イオンをQ3において分析した。上記表中のすべての分子質量は平均質量である。
【0196】
以下の取得パラメータはすべての化学種について同じであった。ソース温度250℃、カーテンガス30ポンド毎平方インチ(psi)、イオンスプレー電圧4800ボルト(v)、イオン源ガス1(噴霧)30psi、イオン源ガス2(脱溶媒)50psi、デクラスタリングポテンシャル85v、及び入口ポテンシャル10v。両フィルタリング四重極Q1及びQ3は単位導出で操作する。
【0197】
較正曲線試料に対する線形回帰によって線形式をピーク面積比(15N-Aβ40/2H-Aβ40及び15N-Aβ42/2H-Aβ42)対濃度データにフィッティングした。品質管理試料の場合、応答比(15N-Aβ40/2H-Aβ40及び15N-Aβ42/2H-Aβ42)を対応する較正曲線中で挿入し、逆算濃度を得て評価した。目的の試料では、試料の応答比(Aβ40/2H-Aβ40及びAβ42/2H-Aβ42)を対応する較正曲線中で挿入し、計算濃度を得た。回帰分析をMultiQuant 3.0.3ソフトウェア(Sciex社、米国、マサチューセッツ州、Framingham)によって行った。
【0198】
(実施例3)
本発明に従って調製及び分析された血漿試料中のインタクトアミロイドベータペプチドAβ40及びAβ42の定量化
2つの異なる血漿試料(試料A及び試料B)からの20個の複製物を、実施例1(プロトコルB)及び実施例2に記載の方法に従って調製し、更に、実施例2で説明した方法に従って質量分析によって分析した。
【0199】
各血漿試料の20個の複製物に対して行ったアミロイドベータペプチドの定量化の較正曲線中での挿入により得られた値を以下のTable 1(表2)に示す。
【0200】
Table 1(表2)においてわかるように、Aβ40の定量化の変動係数(%CV)は4%未満であり、一方、Aβ42の定量化の変動係数は約6%である。これらの変動係数は変動性が小さいことを表しており、これにより、本発明の方法は、群間のAβペプチドの小さな差を検出するために好適である。
【0201】
【表2】
【0202】
ヒト血漿中のAβ40の定量化の絶対値は、当技術分野において公知のMS法及び免疫学的リガンド結合アッセイ(LBA)法(大部分がELISA)によって得られた絶対値と同様であった。しかし、Aβ42の定量化では、本発明の方法で観察されたレベルのほうが著しく高かった。
【0203】
更に、本発明の方法がインタクトペプチドAβ40及びAβ42の定量化を可能にした一方で、当技術分野において公知の他の方法、例えばBatemanのグループの方法は切断ペプチドを検出する(Ovodら、Amyloid B concentrations and stable isotope labelling kinetics of human plasma specific to central nervous system amyloidosis、Alzheimer's and Dementia、2017年10月; 13(10): 1185頁)。
【0204】
(実施例4)
試料中のAβ種の小さな変化の検出
更なる研究では、ヒト血漿中のアミロイド濃度の小さな差を検出する能力を調査した。したがって、血漿試料200μl及び220μlを実施例1、プロトコルBの方法に従って調製し、更に、実施例2で説明した方法に従って質量分析によって分析した。この場合、分析物比(14N-Aβ40/15N-Aβ40及び14N-Aβ42/15N-Aβ42の面積)を比較した。
【0205】
本実施例では、血漿試料中のアミロイド濃度はまったく同じであった。しかし、使用量に10%の差があることから、これは絶対量に関しては当てはまらない。この状況は、現実の試料における10%の濃度差を模倣したものである。
【0206】
Table 2(表3)は、実施例1及び実施例2に記載の本発明の方法に従って、試料の出発量を200μl及び220μlとする同じ血漿試料のいくつかの複製物中で行われた、Aβ42及びAβ40の定量化の結果を示す。
【0207】
結果は、本発明の方法によって定量化されるように、血漿試料の量が10%増加することでAβ42及びAβ40の量がそれぞれ10%及び9%増加することを示している。
【0208】
【表3】
【0209】
(実施例5)
本発明の方法の診断性能
陽電子放射断層撮影(PET)によって既に特徴づけられた36名の個人(26名のPET陰性の個人及び14名のPET陽性の個人)からの試料を、実施例1で説明した方法に従って調製し、更に、実施例2で説明した方法に従って質量分析によって分析した。Aβ42/Aβ40比を計算した。図1に示す。PET陰性の個人では、Aβ42/Aβ40比の値の平均は0.184であり、標準偏差は0.02であり、一方、PET陽性の個人では、Aβ42/Aβ40比の値の平均は0.152であり、標準偏差は0.03である(p値<0.001)。ROC曲線はAUC = 0.8365を示した(図2)。
【0210】
背景技術の節において説明したように、Aβ42/Aβ40濃度比は、アルツハイマー病の初期段階における脳アミロイドーシスバイオマーカーとして使用されており、ここでアミロイド斑が存在する場合にAβ42濃度の低下が見られる。したがって、これらの結果は、本発明の方法を、治療に対する応答としてのAβ変化をモニタリングするために使用することができるだけでなく、PET陽性の個人とPET陰性の個人との区別が可能になることから、診断目的で使用することもできるということを示した。
【0211】
(実施例6)
SPEカートリッジの様々な組み合わせの比較
実施例1で説明した質量分析用の試料の調製、及び引き続く実施例2に記載の分析に基づいて、SPEカートリッジの組み合わせについて様々な試験を行った。Aβ40及びAβ42について抽出された各クロマトグラフィートレースを図4図8に示す。比較のために、1回のSPE工程(混合モード逆相-カチオン交換)の使用も評価した(図3)。得られる溶出物がクロマトグラフィーカラムの持続時間が理由でマイクロLCによってうまく分析されにくいことから、1回の逆相モードSPEの使用は評価しなかった。
【0212】
したがって、以下のSPE組み合わせを評価した。
- 図4は、プロトコルAに従って、血漿試料を酸性変性剤と接触させ、最初に逆相モードSPE(HLB Prime)で、続いて第2の混合モード逆相-カチオン交換SPE(MCX)で分離した場合の、Aβ40(左側)及びAβ42(右側)について抽出されたクロマトグラフィートレースを示す。
- 図6は、プロトコルBに従って、血漿試料を酸性変性剤と接触させ、最初に逆相モードSPE(HLB)で、続いて第2の混合モード逆相-カチオン交換SPE(MCX)で分離した場合の、Aβ40(左側)及びAβ42(右側)について抽出されたクロマトグラフィートレースを示す。
- 図5は、血漿試料を酸性変性剤と接触させ、最初に混合モード逆相-カチオン交換SPE(MCX)で、続いて第2の逆相モードSPE(HLB)で分離した場合の、Aβ40(左側)及びAβ42(右側)について抽出されたクロマトグラフィートレースを示す。
【0213】
図には、第1のSPEがMCXであり、続いてHLBが行われる場合にAβ40(左側)及びAβ42(右側)について抽出されたトレースが、第1のHLB又はHLB Prime、続いてMCXを使用することで得られたトレースよりも劣っていることが明らかに示されている。更に、1回のSPE工程と比較した場合、当技術分野において既知のように(図3)、トレースは遙かに強度が高く、このことは、2つの連続したSPE工程の組み合わせによって信号対ノイズ比、したがって感度が向上することを示している。
- 図8は、血漿試料を酸性変性剤と接触させ、最初に混合モード逆相-カチオン交換SPE(MCX)で、続いて第2の混合モード逆相-アニオン交換SPE(MAX)で分離した場合の(プロトコルC)、Aβ40(左側)及びAβ42(右側)について抽出されたクロマトグラフィートレースを示す。前記トレースを、酸性剤で変性した血漿試料を最初に逆相モードSPE(HLB)で、続いて第2の混合モード逆相-カチオン交換SPE(MCX)で分離した場合に得られたトレースと比較する。
【0214】
図8に示すクロマトグラフィートレースは、第1のMCX SPE、続いて第2のMAX SPEの使用によってAβ40及びAβ42の区別となるピークが同様にして得られるが、このときは第1のHLB SPE、続いてMCX SPEを使用した場合ほど強度が高くなかったことを示している。しかし、第1のSPEをHLBで置き換える場合、両分析物の回収率は非常に低い。
- 図7は、プロトコルDに従って、血漿試料を塩基性変性剤と接触させ、最初に混合モード逆相-アニオン交換SPE(MAX)で、続いて第2の混合モード逆相-カチオン交換SPE(MCX)で分離した場合の、Aβ40(左側)及びAβ42(右側)について抽出されたクロマトグラフィートレースを示す。比較のために、塩基性剤で変性した血漿試料を最初に逆相モードSPE(HLB)で、続いて第2の混合モード逆相-カチオン交換SPE(MCX)で分離した場合に得られたトレースも、図7に示す。
【0215】
これらの結果は、血漿試料を塩基性剤で変性させた後、第1のMAX、続いてMCXに供する場合に、Aβ40及びAβ42について得られたピークが、試料を酸性剤で変性させる場合のHLBとそれに続くMCXとの組み合わせとほぼ同程度に良好であることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】