(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-02
(54)【発明の名称】眼科遺伝子治療後の、導入遺伝子産物を発現する形質転換細胞に対する免疫応答の誘導を防止するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20230526BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230526BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230526BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230526BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230526BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230526BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230526BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20230526BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230526BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230526BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20230526BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230526BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230526BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20230526BHJP
C07K 14/015 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K45/00
A61K35/76
A61P27/02
A61P43/00 107
A61P9/00
A61P29/00
A61P27/06
A61P37/06
A61P25/00
A61K38/46
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/35
C07K14/015
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563882
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(85)【翻訳文提出日】2022-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2021060647
(87)【国際公開番号】W WO2021214282
(87)【国際公開日】2021-10-28
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァン,フィソン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA19
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4C084DC22
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4H045AA11
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4H045BA15
4H045BA17
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA22
4H045FA10
(57)【要約】
眼の免疫特権状態にもかかわらず、AAVを用いて処置された幾人かの患者の二次的な視力喪失は、発明者らに、網膜下注入後のAAVベクターの免疫原性に対する課題をもたらした。そして、本発明者らは、網膜下AAV注入後の、その末梢において誘導される抗導入遺伝子応答及び抗カプシド免疫応答の特徴を明らかにした。HY雄性抗原と融合したレポータータンパク質をコードするAAV8の異なる用量を、0日目に、成体免疫適格性のC57BL/6雌マウスの網膜下腔に注入した。網膜下AAV注入は、用量依存的な導入遺伝子産物に対する炎症誘発性免疫応答を誘導し、局所的な導入遺伝子発現と相関した。網膜下関連免疫抑制(SRAII)機序を引き起こすために、0日目に、いくつかのマウスに、AAVとHYペプチドを網膜下に共注入した。興味深いことに、このAAV8と導入遺伝子産物のペプチドとの網膜下への共注入は、高用量のベクター(5.1010vg)であっても、抗導入遺伝子T細胞免疫応答を調節した。この免疫調節はまた、網膜変性の病態生理学的マウスモデルにおいても確認された。また、本発明者らは、網膜下腔中へのAAV8の注入が、導入遺伝子及びカプシドに対する炎症誘発性末梢免疫応答を誘導し、導入遺伝子ペプチドとの共注入によりこれを打ち消すことができることを実証した。したがって、本発明の目的は、眼科遺伝子治療後の、導入遺伝子産物及びAAVカプシドに対する免疫応答の誘導を防止するための方法を提供することである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入遺伝子を含有するベクターを用いて眼科遺伝子治療を受けた患者における、二次的な視力喪失を防止するための方法であって、その方法が、遺伝子治療と同時に、前記導入遺伝子産物又は前記ベクターに由来する少なくとも1つのペプチドを投与し、それにより、前記導入遺伝子産物を発現する前記形質転換細胞に対する免疫応答の誘導を防止することを含む、方法。
【請求項2】
前記免疫応答が、細胞毒性応答である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記患者の網膜において、関心対象の導入遺伝子を発現させる方法であって、その方法が、前記関心対象の導入遺伝子を含有するある量のベクターを、前記導入遺伝子産物又はベクターに由来するある量の少なくとも1つのペプチドと組み合わせて、網膜下腔に注入することからなるステップを含む、方法。
【請求項4】
処置を必要とする患者における網膜疾患を処置する方法であって、前記関心対象の導入遺伝子を含むある量のベクターを、前記導入遺伝子産物又はベクターに由来するある量の少なくとも1つのペプチドと組み合わせて、網膜下腔に注入する、一般的なステップを含む、方法。
【請求項5】
前記患者が、加齢性黄斑変性症、及び糖尿病性網膜症のような黄斑変性症からなる群より選択される後天性網膜疾患に罹患している、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記患者が、網膜色素変性症、レーバー先天性黒内障、X連鎖性網膜分離症からなる群より選択される遺伝性の網膜疾患に罹患している、請求項1から4のいずれか1項記載の方法であって、前記網膜疾患が、常染色体劣性重症早発型網膜変性症(レーバー先天性黒内障)、先天性色覚異常、シュタルガルト病、ベスト病、ドイン病、錐体ジストロフィー、網膜色素変性症、X連鎖性網膜分離症、アッシャー症候群、加齢性黄斑変性症、萎縮性の加齢性黄斑変性症、血管新生AMD、糖尿病黄斑症、増殖性糖尿病網膜症(PDR)、嚢胞状黄斑浮腫、中心性漿液性網膜症、網膜剥離、眼内炎症、緑内障、後部ぶどう膜炎、脈絡膜血症、及びレーバー遺伝性視神経症を含む、方法。
【請求項7】
前記導入遺伝子産物が、網膜細胞の機能を増強するポリペプチドである、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記導入遺伝子産物が、遺伝子機能の部位特異的ノックダウンを提供するエンドヌクレアーゼである、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記導入遺伝子を含有するベクターが、ウイルスベクター及び非ウイルスベクターからなる群より選択される、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記ベクターが、AVVベクターである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記AAVベクターが、AAV8ベクターである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記ペプチドが、前記導入遺伝子産物又はベクターに由来する、免疫優性ペプチドである、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記免疫優性ペプチドが、前記ウイルスベクターのカプシドタンパク質に由来する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記免疫優性ペプチドが、前記AAVベクターのVP1、VP2、又はVP3カプシドタンパク質に由来する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記免疫優性ペプチドが、前記導入遺伝子産物に由来する、請求項12記載の方法。
【請求項16】
前記ベクターが、2、3、4、5、6、8、9又は10種類の免疫優性ペプチドと同時に、網膜下腔に注入される、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記ベクターが、MHCクラスI拘束性エピトープを含む少なくとも一つの免疫優性ペプチド及び/又はMHCクラスII拘束性エピトープを含む少なくとも一つの免疫優性ペプチドと共に注入される、請求項12記載の方法。
【請求項18】
前記関心対象の導入遺伝子を含有するベクター、前記導入遺伝子産物又はベクターに由来する少なくとも1つのペプチド、及び薬学的に許容され得る担体、希釈剤、賦形剤、又は緩衝剤を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬及び具体的には遺伝子治療及び眼科の分野である。
【背景技術】
【0002】
1996年に、Aliらは、光受容体及び網膜色素上皮細胞が、AAV2ベクターにより効率的に形質導入され得ることを示すことにより、網膜におけるアデノ随伴ウイルス(AAV)媒介性遺伝子導入への新たな道を開いた(Ali et al., 1996)。続く10年間に、いくつかの研究が、いくつかのAAV血清型の網膜における向性の特徴を明らかにしようとした(Allocca et al., 2007; Auricchio et al., 2001; Lebherz et al., 2008; Weber et al., 2003)。AAVを用いた前臨床研究が、レーバー(Leber’s)先天性黒内障(LCA)などの単一遺伝子性網膜ジストロフィーの処置を目的として、非ヒト霊長類(Jacobson et al., 2006a; Maclachlan et al., 2011; Ramachandran et al., 2016; Vandenberghe et al., 2013)及びイヌ(Acland et al., 2001, 2005; Jacobson et al., 2006b; Le Meur et al., 2007; Petit et al., 2012)において、実施された。2007年には、Samuel Jacobson(NCT00481546), Robin Ali(NCT00643747)及びAlbert Maguire(NCT00516477)らの主導により、AAV媒介性の眼科遺伝子導入によるLCAの改善を目的とした最初の臨床試験が開始された。これら3つの試験のすぐ後に、LCA(Timothy Stout NCT00749957, Michel Weber NCT01496040)、並びに全脈絡膜萎縮症(NCT01461213)及び加齢性黄斑変性(NCT01024998、NCT01494805)などの他の疾患に対するいくつかの他の試験が続いた。その後すぐに公表された予備的結果では、何人かの患者における視力改善に加えて、AAVベクターの安全性が報告された (Bainbridge et al., 2015; Hauswirth et al., 2008; Le Meur et al., 2017; Maguire et al., 2009)。
【0003】
しかしながら、長期的には、何人かの患者が、治療を受けた眼の二次的な視力喪失を経験した(Bainbridge et al., 2015; Hauswirth et al., 2008; Le Meur et al., 2017; Maguire et al., 2009)。この現象は、何により説明できるのであろうか?いくつかの補完的な仮説が示唆され得る。1つは、進行中の変性プロセスであり、このプロセスは、機能の部分的な救済にもかかわらず、変性しつつある細胞のプログラムされた死につながる可能性がある(Cideciyan et al., 2013)。別の1つは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対して説明されているように、遺伝子発現の誘導又は転写後の調節機序の可能性がある(Dupont et al., 2015)。3番目の仮説は、ベクターのカプシドタンパク質に対する免疫応答に加えて、AAVベクターにより移入される新生抗原である導入遺伝子産物を発現する形質転換細胞に対する免疫応答の誘導の関与を含む。
【0004】
眼の免疫特権はよく知られているが、その結果、免疫応答の役割について、十分に考慮することが出来なかったと考えられる。いくつかの眼の特性は、炎症性免疫応答の誘導を制限し、かつ厳密に制御している。局所的には、血液網膜関門を構成するタイトジャンクションなどの物理的障壁が、生体と他の部分との交流を制限する(Rizzolo et al., 2011)。同時に、TGF-βなどの抗炎症分子の大きなパネルの分泌(Stein-Streilein, 2013; Taylor et al., 1997)は、免疫応答を抑制する傾向がある。さらに、免疫調節機構は、眼の中への抗原の導入の後、その末梢に抗原特異的な免疫逸脱を誘導することができる;すなわち、前房又は網膜下腔への抗原の注入は、それぞれ、前房関連免疫偏位(ACAID)(Vendomele et al., 2017)又は網膜下関連免疫抑制(SRAII)(Vendomele et al., 2018)を誘導する。それにもかかわらず、眼は炎症を起こすプロセスに対して密閉されているわけではない。いくつかの眼の区画では、ウイルス及び細菌は、眼内炎やぶどう膜炎などの炎症を誘導することがある(Chan et al., 2017; Kurniawan et al., 2017)。AAV媒介性眼科遺伝子治療の臨床試験では、眼科検査で、幾人かの患者において最初の数日間に、一過性の、時には無症候性の炎症が確認されているものの、適応免疫反応のレベルは極めて低いようである(NCT00643747, NCT01494805)。明らかな倫理的理由のために、これらの革新的なアプローチに関与する免疫学的機序の詳細な調査が不可能であったため、免疫モニタリングは、血液サンプルに対してのみ行われてきた。
【発明の概要】
【0005】
クレームにより定義されているように、本発明は、眼科遺伝子治療後の前記導入遺伝子産物及び前記AAVカプシドに対する免疫応答の誘導を防止するための方法に関する。
発明の詳細な説明
【0006】
10年間にわたり、AAV媒介性遺伝子導入は、眼疾患を処置するための臨床試験において試験されてきた。前記眼の免疫特権状態にもかかわらず、AAVを用いて処置された幾人かの患者の二次的な視力の喪失は、本発明者らに、網膜下に注入後のAAVベクターの免疫原性に対する課題をもたらした。したがって、本発明者らは、網膜下AAV注入後に、その末梢に誘導される、抗導入遺伝子及び抗カプシド免疫応答の特徴を明らかにすることを目指した。HY雄性抗原と融合したレポータータンパク質(GFP又はLuc2)をコードするAAV8の異なる用量を、0日目に、成体免疫適格性C57BL/6雌マウスの網膜下腔に注入した。HY雄性抗原をコードする導入遺伝子は、MHCクラスI及びMHCクラスII拘束性T細胞エピトープ(H-2b雌マウスにおける免疫優性のUTY及びDBYペプチド)を含み、PGKプロモーター下でAAV8にパッケージされていた。前記マウスを、14日目に、HYペプチドを用いて、又は用いずに、皮下に免疫し、21日目にそれらの脾臓におけるT細胞免疫応答を、HYペプチドを用いてインビトロで再刺激した後、IFN-γELISpotアッセイにより分析した。導入遺伝子の発現を、生物発光イメージングを用いて経時的にモニターし、そして、全身性の抗導入遺伝子(HY)T細胞免疫応答と相関させた(
図1)。データは、AAV8の網膜下注入に続いて、導入遺伝子の発現レベルはAAV注入用量と相関し、20日目まで維持されることを示した(
図1A及び1B)。網膜下AAV注入は、導入遺伝子産物に対する用量依存的な炎症性免疫応答を誘導し、それは局所的な導入遺伝子発現と相関した(
図1C)。網膜下関連免疫抑制(SRAII)の機序(Vendomele et al., 2018)を引き起こすために、いくつかのマウスにAAV及びHYペプチドを、0日目に網膜下に共注入した。興味深いことに、このAAV8と前記導入遺伝子産物のペプチドとの網膜下共注入は、ベクターが高用量(5.10
10vg)であっても、抗導入遺伝子T細胞炎症性免疫応答(
図2)及びインビボでの導入遺伝子特異的細胞毒性(
図3)を調節した(少なくとも40%の抑制)。
【0007】
抗カプシドT細胞応答を調査する目的で、以前の実験において21日目に採取した脾細胞を、AAV8を用いたインビトロでの再刺激の後に、21日目にIFN-γELISpotアッセイにより分析した。データは、AAV8(5.10
10vg)の網膜下注入が、抗AAV8炎症性T細胞免疫応答を誘導することを示した(
図4)。興味深いことに、AAV8の、導入遺伝子産物のペプチドとの網膜下共注入は、抗カプシドT細胞免疫応答のバイスタンダー(bystander)調節(68.9%抑制)を可能にした。まとめると、このデータは、網膜下腔におけるAAV8の注入が、導入遺伝子及びカプシドに対する炎症性末梢免疫応答を誘導し、それは、導入遺伝子ペプチドとの共注入により抑制することができることを実証する。
【0008】
したがって、本発明の目的は、眼科遺伝子治療後の、導入遺伝子産物及びAAVカプシドに対する免疫応答の誘導を防止するための方法を提供することである。
【0009】
主要な定義
本明細書で使用されるとき、用語「患者」又は「それを必要とする患者」は、ヒト又は非ヒト哺乳類を対象としている。典型的には、前記患者は、網膜疾患を発症しているか、又は発症している可能性が高い。
【0010】
本明細書で使用されるとき、用語「網膜」は、視覚系の高度に組織化されかつ複合的な多層構造のための一般的な略語である。前記網膜は、光受容体、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、及び神経節を含む少なくとも5つの異なる種類のニューロンを含む。用語「網膜」は、眼の硝子体に近接する網膜内層、ならびに脈絡膜(すなわち、眼の網膜と強膜との間の導管/結合層)に近接する網膜外層、及びその間の層を含む。これらの層のそれぞれは、視覚情報の処理に直接又は間接的に関与する1つ以上の細胞部分又はタイプを含む。最も外側の層から始まり、そして硝子体を内側に向かって進み、網膜は、少なくとも次の層を含む:
網膜の最も外側の層は、他の網膜層に極めて重要な代謝サポートを提供するが、視覚刺激を神経性シグナルにコードすることに直接関与せず、かつ光に応答しない網膜色素上皮(「RPE」)である。RPE細胞は、暗色の色素を持ち、眼内の光散乱の原因となる迷光を吸収する。網膜の次の数層は、光受容体細胞、すなわち、夜間視力のための桿体細胞及び昼間視力のための錐体細胞の層を含む、様々な細胞体又は部分に関する。光受容体は、光を受け取り、処理するために視覚情報シグナルを伝達する細胞である。光受容体は、体内のいかなる細胞よりも高い代謝率を有する。これらの細胞の代謝要求は、脈絡膜の血液供給の近くに位置するこれらの細胞を有することにより調節される。光受容体の外面は外節と呼ばれる識別可能な層である。この層は、光を吸収し、それを電気シグナルに変換する光色素を含有する。網膜の次の層は、光受容体の内側の部分であり、多くの光受容体の非核細胞小器官を含有する。外境界膜(「OLM」)は、網膜グリア細胞(別名ミュラー(Muller)細胞)を相互連結するプロセスにより形成され、光受容細胞の内側部分をその核から分離する。光受容体の核は、外核層(「ONL」)と呼ばれる次の識別可能な網膜層を形成する。続いて、内側に向けて、その次の網膜層は、双極層及び水平層の樹状突起、光受容体のシナプス末端、及びその他のシナプスを含む、相対しているシナプス構造の最初の層を含む外側の網状層(「OPL」)である。その内側の核層(「INL」)は、次の網膜層であり、双極細胞及び水平細胞の細胞体、ならびに様々なタイプのアマクリン細胞の細胞体を含む。その次の層は、双極細胞、水平細胞、及びアマクリン細胞のシナプスを含む内網状層(「IPL」)である。最も内側の細胞体層は、約80%のパルボ(又はミゼット)細胞、約10%のパラソル又はマクロ細胞、及びその他の神経節細胞から構成される神経節細胞層(「GCL」)である。網膜の次の層である神経線維層(「NFL」)は、神経節細胞の軸索を含む。これらの神経は、眼内では有髄ではないが、眼から離れ視神経を形成するにつれて有髄となる。網膜の最内層は、内境界膜(ILM)であり、網膜を硝子体から分離している。
【0011】
本明細書で使用されるとき、用語「網膜細胞」は、本明細書で、網膜の神経節細胞、アマクリン細胞、水平細胞、双極細胞、及び桿と錐を含む光受容体細胞、ミュラーグリア細胞、及び網膜色素上皮などの、網膜を含むいずれの細胞型も指すことができる。
【0012】
本明細書で使用されるとき、用語「網膜下腔」は、網膜における光受容細胞と網膜色素上皮細胞の間の位置を指す。前記網膜下腔は、網膜下に液体を注入する前などに、注入可能な腔であり得る。網膜下腔はまた、注入可能な腔に注入される液体を含有し得る。この場合、前記液体は「網膜下腔と接触している」。「網膜下腔に接している」細胞は、RPE及び光受容細胞などの、網膜下腔に接する細胞を含む。
【0013】
本明細書で使用されるとき、用語「ブレブ(bleb)」は、眼の網膜下腔内の液体腔を指す。本発明のブレブは、単一の腔への単一の液体の注入により、同一の腔への1種以上の液体の複数の注入により、又は複数の腔への複数の注入により作成されてもよく、再配置されると、網膜下腔の所望の部分に渡って治療効果を達成するために有用な、全体的な液体腔が作成される。
【0014】
本明細書で使用されるとき、用語「網膜疾患」は、例えば、光受容体;神経節又は視神経;若しくは血管新生の損傷又は変性により、網膜の機能が影響を受ける幅広いクラスの疾患を指す。当業者は、遺伝性網膜疾患と後天性網膜疾患を識別することができる。後天性網膜疾患の代表的な例は、加齢性黄斑変性症、及び糖尿病性網膜症などの黄斑変性症を含むが、これらに限定されない。遺伝性網膜疾患の例は、網膜色素変性症、レーバー(Leber’s)先天性黒内障、X連鎖性網膜分離症を含むが、これらに限定されない。例えば、網膜疾患の非限定的な例は、常染色体劣性重症早発型網膜変性症(レーバー先天性黒内障)、先天性色覚異常、シュタルガルト(Stargardt's)病、ベスト(Best's)病、ドイン(Doyne's)病、ベスト(Best's)病、ドイン(Doyne's)病、錐体ジストロフィー、網膜色素変性症、X連鎖性網膜分離症、アッシャー(Usher's)症候群、加齢性黄斑変性、萎縮性の加齢性黄斑変性症、血管新生AMD、糖尿病黄斑症、増殖性糖尿病網膜症(PDR)、嚢胞様黄斑浮腫、中心性漿液性網膜症、網膜剥離、眼内炎症、緑内障、後部ぶどう膜炎、脈絡膜血症、及びレーバー遺伝性視神経症を含む。
【0015】
本明細書で使用されるとき、用語「視力喪失(vision loss)」は、視力の低下を指し、視力の部分的及び完全な喪失又は低下を含む。用語「二次的な視力喪失」は、処置の初期段階でいくつかの臨床的改善が観察されたにもかかわらず、しばらくの後に眼科遺伝子治療に続いて起こる視力喪失を表す。視力喪失を評価する方法は、当該技術分野で公知であり、客観的測定、ならびに主観的(例えば、被験体が報告した)測定を含む。例えば、被験体の視機能に対する処置の有効性を測定するために、以下のうちの1つ以上が評価され得る:被験体の主観的な視力の質又は改善された中心視力機能(例えば、被験体の流暢に読む能力及び顔を認識できる能力の改善)、被験体の視覚運動性(例えば、迷路を進むのに必要な時間の減少)、視力(visual acuity)(例えば、被験体のLogMARスコアの改善)、微小視野測定(microperimetry)(例えば、被験体のdBスコアの改善)、暗順応視野測定(例えば、被験体のdBスコアの改善)、ファインマトリックスマッピング(例えば、被験体のdBスコアの改善)、ゴールドマン視野測定(例えば、:縮小された暗点領域の大きさ(すなわち、視覚消失の範囲)及びより小さな対象を解明する能力の改善)、明滅(flicker)感度(例えば、ヘルツの改善)、自己蛍光、及び電気生理学的測定(例えばERGの改善)。
【0016】
本明細書で使用されるとき、用語「処置」又は「処置する」は、予防的又は防止的な処置、ならびに治癒的又は疾患修飾的処置の両方を指し、疾患にかかるリスクのある又は疾患にかかったと疑われる患者、ならびに、病気であるか、あるいは疾患に罹患しているか又は病状に苦しんでいると診断された患者の処置を含み、そして臨床的な再発の抑制を含む。1つ以上の障害又は再発した障害の病状を、予防、治癒、遅延、その重症度を軽減、又は改善するために、或いは、そのような処置が無いときに期待される範囲を超えて患者の生存期間を延ばすために、医学的な障害を有する患者又は最終的にその障害を獲得し得る患者に対して、前記処置は施され得る。「治療レジメン」とは、病気の処置のパターン、例えば、治療中に使用される投与量のパターンを意味する。治療レジメンは、導入レジメン及び維持レジメンを含み得る。「導入レジメン」又は「導入期間」は、疾患の最初の処置に使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。導入レジメンの一般的な目標は、処置レジメンの最初の期間中に、患者に高レベルの薬物を提供することである。導入レジメンは、「負荷レジメン」を(部分的又は全体的に)用いてもよく、これは、維持レジメン中に医師が用いるよりも多い投与量の薬物を投与すること、維持レジメン中に医師が薬物を投与するよりも頻繁に薬物を投与すること、又はその両方を含み得る。「維持レジメン」又は「維持期間」は、病気の処置中に患者の維持のために、例えば患者を長期間(数ヶ月又は数年)寛解状態に維持するために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、持続的な治療(例えば、週1回、月1回、年1回など、一定の間隔で薬物を投与すること)又は間欠的な治療(例えば、中断した処置、間欠的な処置、再発時の処置、又は具体的な所定の基準[例えば、疼痛、疾患の兆候など]に到達した上での処置)を用い得る。
【0017】
本明細書で使用されるとき、用語「遺伝子治療」は、遺伝子及び/又は遺伝子の発現を復元、修正、又は修飾する細胞のゲノムへのポリヌクレオチドの導入を指す。したがって、用語「眼科遺伝子治療」は、具体的に網膜細胞中に導入遺伝子産物を発現させるために、眼球に適用される遺伝子治療を指す。
【0018】
本明細書で使用されるとき、用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書で、いずれかの長さのアミノ酸のポリマーを指すために、互換的に使用される。前記用語はまた、修飾されたアミノ酸ポリマー、例えば、ジスルフィド結合を形成、グリコシル化、脂質化、リン酸化、標識成分と結合したアミノ酸ポリマーも包含する。遺伝子治療の文脈中で議論される場合のポリペプチドは、それぞれの無傷のポリペプチド、又はそのいずれかの断片もしくは遺伝子的に改変された誘導体を指し、無傷なタンパク質の所望の生化学的機能を保持する。
【0019】
本明細書で使用されるとき、用語「に由来する」は、第1の成分(例えば、最初のポリペプチド)、又はその第1の成分からの情報を使用して、別の第2の成分(例えば、最初のものとは異なる2番目のポリペプチド)を分離、誘導、又は作成するプロセスを指す。
【0020】
本明細書で使用されるとき、用語「ポリヌクレオチド」は、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド、又はその類似体を含む、いずれかの長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体などの、修飾されたヌクレオチドを含み、そして非ヌクレオチド成分により中断され得る。存在する場合は、ポリマーの組み立ての前又は後に、ヌクレオチド構造に対する修飾が付与され得る。用語ポリヌクレオチドは、本明細書で使用されるとき、二本鎖及び一本鎖の分子を互換的に指す。特に明記又は要求されない限り、本明細書に記載される本発明のいずれかの実施態様は、ポリヌクレオチドである本発明の実施態様は、二本鎖形態及び、二本鎖形態を形成することが公知であるか若しくは予測されている2つのそれぞれの相補的一本鎖形態を包含する。
【0021】
本明細書で使用されるとき、用語「導入遺伝子」は、組織又は臓器の細胞に導入され、かつ適切な条件下で発現することができる、又はそうでなければ細胞に有益な特性を付与することができるポリヌクレオチドを指す。導入遺伝子は、所望の治療結果に基づいて選択される。
【0022】
本明細書で使用されるとき、用語「導入遺伝子産物」は、導入遺伝子によりコードされ、かつ細胞に有益な特性、又は所望の治療結果を付与するいずれかの分子を指す。典型的には、前記導入遺伝子産物はポリペプチドである。
【0023】
本明細書で使用されるとき、用語「治療レベル」は、導入遺伝子を受け取る宿主において、その治療的又は有益な効果を付与するのに十分な、導入遺伝子産物の量又は導入遺伝子産物の活性のレベルを指す。導入遺伝子の発現レベル又は導入遺伝子産物の活性のレベルは、当該技術分野で公知の方法を使用して、タンパク質又はmRNAレベルで測定することができる。
【0024】
本明細書で使用されるとき、用語「ベクター」は、導入遺伝子を宿主細胞に送達しかつ発現させることができる物質を指す。前記ベクターは、染色体外(例えば、エピゾーム)か又は統合型(宿主の染色体に組み込まれるため)か、自律的に複製するか否か、マルチコピーか又は低コピーか、二本鎖か又は一本鎖か、単体(naked)か又は他の分子と複合体化したベクター(例えば、脂質又はポリマーと複合体して、リポソーム、リポプレックス又はナノ粒子などの微粒子構造を形成するベクター、ウイルスのカプシド中にパッケージされたベクター、及び固相粒子上に固定化されたベクターなど)であり得る。用語「ベクター」の定義はまた、特定の宿主細胞への優先的な標的化を可能にするように修飾されたベクターも包含する。標的化ベクターの特徴は、組織特異的マーカー又は細胞特異的マーカーなどの細胞及び表面に露出した成分を認識しかつ結合することができるリガンドがその表面に存在することである。
【0025】
本明細書で使用されるとき、用語「ウイルスベクター」は、ベクターDNAならびにそれから生成されるウイルス粒子を包含する。ウイルスベクターは、複製可能(replication-competent)であることができるか、又は複製欠損又は複製障害となるように遺伝子的に無効化されることができる。用語「複製可能な」は、本明細書で使用されるとき、特定の宿主細胞(例えば、腫瘍性細胞)においてより良く又は選択的に複製するように改変された、複製選択性及び条件付き複製性ウイルスベクターを包含する。
【0026】
本明細書で使用されるとき、用語「AAV」は、当該技術分野において一般的な意味を有し、かつアデノ随伴ウイルスを指し、そしてウイルス自体又はその誘導体を指すために使用され得る。前記用語は、自然に発生した形態及び人工的に改変された形態の両方のすべての血清型と変異体型を範囲に含む。用語「AAV」は、AAV1型(AAV-1)、AAV2型(AAV-2)、AAV3型(AAV-3)、AAV4型(AAV-4)、AAV5型(AAV-5)、AAV6型(AAV-6)、AAV7型(AAV-7)、及びAAV8(AAV-8)及びAAV9型(AAV9)を含むが、これらに限定されない。AAVの様々な血清型のゲノム配列、ならびにネイティブ末端反復配列(TRs)、Repタンパク質、及びカプシドサブユニットの配列は、当該技術分野で公知である。そのような配列は文献又はGenBankなどの公的データベースで見出だし得る。例えば、GenBankアクセッション番号NC_002077(AAV-1)、AF063497(AAV-1)、NC_001401(AAV-2)、AF043303(AAV-2)、NC_001729(AAV-3)、NC_001829(AAV-4)、U89790(AAV-4)、NC_006152(AAV-5)、AF513851(AAV-7)、AF513852(AAV-8)、及びNC_006261(AAV-8)を参照のこと。
【0027】
本明細書で使用されるとき、用語「rAAV」は、組換えアデノ随伴ウイルスを指し、組換えAAVベクター(又は「rAAVベクター」)とも呼ばれる。したがって、前記用語は、細胞の遺伝子変換のための、関心対象の導入遺伝子を含むAAVベクターを指す。一般に、前記rAAVベクターは、5’及び3’アデノ随伴ウイルス末端逆位反復配列(ITR)、及び標的細胞におけるその発現を調節する配列に機能的に連結された、関心対象の導入遺伝子を含有する。
【0028】
本明細書で使用されるとき、用語「疑似型AAVベクター」は、rAAVベクターゲノム及びAAVRepタンパク質を含むネイティブAAVカプシドから構成されるベクター粒子を指し、ここで、ベクターゲノムのCap、Rep及びITRは、少なくとも2つの異なるAAV血清型に由来する。
【0029】
本明細書で使用されるとき、用語「カプシド」は、ウイルス又はウイルスベクターのタンパク質コートを指す。AAV(例えば、AAV2、AAVrh8Rなど)のカプシドは、VP1,VP2、及びVP3の、3つのカプシドタンパク質を含むことが知られている。これらのタンパク質は、かなりの量の重複アミノ酸配列及び固有のN末端配列を含有する。AAV2カプシドは、正二十面体対称に配列した60個のサブユニットを含む(Xie, Q., et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. 99(16):10405-10)。VP1、VP2、VP3は、1:1:10の比率で存在することが見出されている。
【0030】
本明細書で使用されるとき、用語「非ウイルスベクター」は、特にプラスミド起源のベクターを指し、任意選択的に、前記ベクターのトランスフェクション効率及び/又は安定性、及び/又は前記ベクターの保護を改善する1つ以上の物質と組み合わせたようなベクターを指す。
【0031】
本明細書で使用されるとき、用語「形質転換細胞」は、遺伝子的に修飾された細胞、すなわち導入遺伝子が意図的に導入された細胞に関する。本明細書で提供される形質転換細胞は、本発明の導入遺伝子を含む。
【0032】
本明細書で使用されるとき、用語「免疫応答」は、抗原特異的抗体の生成及び/又は細胞毒性応答を含む、宿主の体内における抗原に対する免疫系の反応を指す。最初の抗原曝露に対する免疫応答(一次免疫応答)は、典型的には、数日から2週間の遅滞期間の後に検出可能であり;同じ抗原によるその後の刺激に対する免疫応答(二次免疫応答)は、一次免疫応答の場合よりもより速い。導入遺伝子産物に対する免疫応答は、導入遺伝子によりコードされる免疫原性産物に誘発され得る体液性(例えば抗体応答)免疫応答及び細胞性(例えば細胞溶解性T細胞応答)免疫応答の両方を含み得る。免疫応答のレベルは、当該技術分野で公知の方法により(例えば、抗体価を測定することにより)測定することができる。
【0033】
本明細書で使用されるとき、用語「エンドヌクレアーゼ」は、ポリヌクレオチド鎖内のリン酸ジエステル結合を切断する酵素を指す。デオキシリボヌクレアーゼIのように、DNAを比較的非特異的に(配列に関係なく)切断するものもあれば、典型的に制限エンドヌクレアーゼ又は制限酵素と呼ばれ、非常に特異的なヌクレオチド配列でのみ切断するものもある。エンドヌクレアーゼベースのゲノム不活性化の背後にある機序は、一般的に、最初のステップであるDNAの一本鎖又は二本鎖切断の後、DNA修復のための2つの異なる細胞機序を引き起こし、これをDNA不活性化に利用することができる機序:エラー傾向のある非相同末端結合(NHEJ)及び高精度の相同性指向性修復(HDR)である。DNAを標的とするエンドヌクレアーゼは、自然に発生するエンドヌクレアーゼ(例えば、細菌のメガヌクレアーゼ)であるか、又は人工的に生成する(例えば、改変されたメガヌクレアーゼ、TALEN、又はZFN等)ことができる。
【0034】
本明細書で使用されるとき、用語「TALEN」は、当該技術分野における一般的な意味を有し、そして標的遺伝子を編集するために使用できる人工ヌクレアーゼである、転写アクチベーター様のエフェクターヌクレアーゼを指す。
【0035】
本明細書で使用されるとき、用語「ZFN」又は「Znフィンガーヌクレアーゼ」は、当該技術分野における一般的な意味を有し、そして標的遺伝子を編集するために使用できる人工ヌクレアーゼであるZnフィンガーヌクレアーゼを指す。
【0036】
本明細書で使用されるとき、用語「CRISPR関連エンドヌクレアーゼ」は、当該技術分野における一般的な意味を有し、そして塩基の短い反復配列を含有する原核生物のDNAのセグメントである、関連するクラスター化された規則的間隔の短い回文反復(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)を指す。
【0037】
用語「免疫優性ペプチド」は、本明細書で使用されるとき、ベクター又は導入遺伝子産物に由来するT細胞エピトープを含有し、したがって免疫応答(体液性及び/又は細胞媒介性応答)を誘導することができるペプチドを指す。
【0038】
本明細書で使用されるとき、用語「抗原提示細胞」又は「APC」は、主要な組織適合性複合体分子と結合しているときに抗原を認識する、Tリンパ球に対して抗原を提示することができる細胞のクラスを指す。
方法:
【0039】
本発明の第1の目的は、導入遺伝子を含有するベクターを用いた眼科遺伝子治療を受けた患者における、二次的な視力喪失を防止するための方法であって、前記導入遺伝子産物又はベクターに由来する少なくとも1つのペプチドを、遺伝子治療と同時に投与し、それにより、導入遺伝子産物を発現する形質転換細胞に対する免疫応答の誘導を防止することを含む方法に関する。
【0040】
より具体的な実施態様では、本発明は、導入遺伝子を含有するベクターを用いた眼科遺伝子治療を受けた患者における、二次的な視力喪失を防止するための方法であって、前記導入遺伝子産物又はベクターに由来する少なくとも1つのペプチドを、遺伝子治療と同時に投与し、それにより、導入遺伝子産物を発現する形質転換細胞に対する細胞毒性応答の誘導を防止することを含む方法に関する。
【0041】
本発明の更なる目的は、関心対象の導入遺伝子を含有するある量のベクターを、前記導入遺伝子産物又はベクターに由来するある量の少なくとも1つのペプチドと組み合わせて、網膜下腔に注入することからなるステップを含む、患者の網膜における関心対象の導入遺伝子を発現させるための方法に関する。
【0042】
本発明の方法は、具体的には、外網膜(光受容体及び網膜色素上皮)中に、関心対象の導入遺伝子を発現させることに関連する。
【0043】
したがって、本発明は、関心対象の導入遺伝子を含有するある量のベクターを、導入遺伝子産物又はベクターに由来する、ある量の少なくとも1つのペプチドと組み合わせて、網膜下腔に注入する一般的なステップを含む、処置を必要とする患者における網膜疾患を処置するための方法を提供する。
【0044】
したがって、本明細書で提供される教示を与えた場合、前記眼の多種多様な疾患が処置され得る。
【0045】
例えば、本発明の方法は、黄斑変性症を治療又は予防するために実施される。簡単に説明すると、高齢者における視力低下(visual loss)の主要な原因は、米国において、社会的及び経済的影響がますます重要になっている黄斑変性症(MD)である。この国においては、高齢者人口の規模が増加しており、加齢性黄斑変性症(AMD)は、糖尿病性網膜症及び緑内障の両方よりも失明のより一般的な原因となるであろう。レーザー処置は、疾患の「滲出型」又は血管新生型による広範な黄斑瘢痕化のリスクを低下させることが示されているが、現在、大多数のMDに罹患した患者のための有効な処置はない。
【0046】
本発明の方法は、遺伝性網膜変性症を治療又は予防するために実施することもできる。最も一般的な遺伝性網膜変性症の1つは、網膜色素変性症(RP)であり、これは、光受容体細胞、及びRPEの変性をもたらす。その他の遺伝性病態は、バルデ・ビードル(Bardet-Biedl)症候群(常染色体劣性遺伝);バッセン・コーンツヴァイク(Bassen-Kornzweig)症候群、ベスト病、脈絡膜症、脳回転状萎縮症、レーバー先天性黒内障、レフサム症候群(Refsun syndrome)、シュタルガルト症;錐体又は錐体-桿体ジストロフィー(常染色体優性型及びX連鎖型);先天性静止夜盲症(常染色体優性型、常染色体劣性型及びX連鎖型);黄斑変性症(常染色体優性型及び常染色体劣性型);視神経萎縮症(常染色体優性型及びX連鎖型);網膜色素変性症(常染色体優性型、常染色体劣性型及びX連鎖型);症候群性又は全身性網膜症(常染色体優性型、常染色体劣性型及びX連鎖型);及びアッシャー症候群(常染色体劣性遺伝)を含む。
【0047】
当業者は、その分野における科学文献の知識により、特定の網膜疾患を処置するのにより適切であり得る導入遺伝子を知っている。
【0048】
いくつかの実施態様では、前記導入遺伝子産物は、網膜細胞の機能、例えば、桿体又は錐体光受容体細胞、網膜神経節細胞、ミュラー細胞、双極細胞、アマクリン細胞、水平細胞、又は網膜色素上皮細胞の機能を増強するポリペプチドである。関心対象のポリヌクレオチドの例は、神経保護ポリペプチド(例えば、GDNF、CNTF、NT4、NGF、及びNTN)、抗血管新生ポリペプチド(例えば、可溶性血管内皮増殖因子(VEGF)受容体;VEGF結合抗体;VEGF結合性抗体断片(例えば、単鎖抗VEGF抗体);エンドスタチン;ツムスタチン;アンギオスタチン;可溶性Fitポリペプチド(Lai et al. (2005) Mol. Ther. 12:659);可溶性Fitポリペプチド(例えば、Pechan et al. (2009) Gene Ther. 16: 10を参照のこと)を含むFc融合タンパク質;色素上皮由来の因子(PEDF);可溶性Tie-2受容体;など);メタロプロテイナーゼ-3(TIMP-3)の組織抑制剤;光応答性オプシン、例えばロドプシン;抗アポトーシス性ポリペプチド(例えば、Bcl-2、Bcl-Xl)などからなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むが、これらに限定されない。他の適切なポリペプチドは、例えば、グリア由来神経栄養因子(GDNF);線維芽細胞増殖因子2;ニュールツリン(NTN);毛様体神経栄養因子(CNTF);神経成長因子(NGF);ニューロトロフィン-4(NT4);脳由来神経栄養因子(BDNF);上皮成長因子;ロドプシン;アポトーシスのX連鎖抑制薬;及びソニックヘッジホッグを含むが、これらに限定されない。好適な光応答性オプシンは、例えば、米国公開公報第2007/0261127号(例えば、:ChR2;Chop2、CaTCh);米国公開公報第2001/0086421号;米国公開公報第2010/0015095号;及びDiester et al. (2011) Nat. Neurosci. 14:387.14:387に記載されている光応答性オプシン、又はハロロドプシン(例えば:eNpHR)、又はその他の光ゲートイオンチャネル又はプロトンポンプを含む。好適なポリペプチドは、レチノシシンも含む。好適なポリペプチドは、例えば、網膜色素変性のGTPaseレギュレーター(RGPR)-相互作用タンパク質-1(例えば、GenBankアクセッション番号Q96KN7、Q9EPQ2、及びQ9GLM3を参照のこと);ペリフェリン-2(Prph2)(例えば、GenBankアクセッション番号NP_000313;ペリフェリン;網膜タンパク質イソメラーゼ(RPE65)(例えば、GenBankAAC39660;及びMorimura et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:3088;などを含む。好適なポリペプチドはまた、CHM(コロイデレミア(Rabエスコートタンパク質1))、欠損又は喪失すると脈絡膜血症の原因となるポリペプチド(例えば、Donnelly et al. (1994) Hum. Mol. Genet. 3: 1017;及びvan Bokhoven et al. (1994) Hum. Mol. Genet. 3: 1041を参照のこと);及びCrumbs相同体1(CRB1)、欠損又は喪失すると、レーバー先天性黒内障及び網膜色素変性症の原因となるポリペプチド(例えば、den Hollander et al. (1999) Nat. Genet. 23:217;及びGenBankアクセッション番号CAM23328を参照のこと)を含む。好適なポリペプチドはまた、欠損又は喪失すると色覚異常につながるポリペプチドも含み、ここで、そのようなポリペプチドは、例えば、錐体光受容体cGMPゲートチャネルサブユニットα(CNGA3)(例えば、GenBankアクセッション番号NP_001289;及びBooij et al. (2011) Ophthalmology 118: 160-167を参照のこと);錐体光受容体cGMPゲート陽イオンチャネルβサブユニット(CNGB3)(例えば、Kohl et al.(2005) Eur J Hum Genet. 13(3):302を参照のこと);グアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)、α形質転換活性ポリペプチド2(GNAT2)(ACHM4);及びACHM5;及び欠損又は喪失すると、様々な形態の色覚異常をもたらすポリペプチド(例えば、L-オプシン、M-オプシン、S-オプシン)を含む。Mancuso et al. (2009) Nature 461(7265):784-787を参照のこと。ある特定の実施態様では、関心対象の導入遺伝子は、神経栄養因子をコードし得る。本明細書で使用されるとき、「神経栄養因子」は、神経細胞の生存及び維持、神経細胞分化の促進などの生理学的作用を有するタンパク質の総称である。神経栄養因子の例は、bFGF、aFGF、BDNF、CNTF、IL-1β、NT-3、IGF-II、GDNF、NGF及びRdCVFを含むが、これらに限定されない。
【0049】
いくつかの実施態様では、関心対象の導入遺伝子産物は、例えば、そこでエンドヌクレアーゼが網膜疾患に関連する対立遺伝子をノックアウトする、遺伝子機能の部位特異的ノックダウンをもたらすエンドヌクレアーゼである。例えば、優性対立遺伝子が遺伝子の欠損したコピーをコードし、それが、野生型の場合、網膜の構造タンパク質であり、及び/又は正常な網膜機能を提供する場合、部位特異的エンドヌクレアーゼは欠損した対立遺伝子を標的化し、欠損した対立遺伝子をノックアウトすることができる。部位特異的ヌクレアーゼは、欠損した対立遺伝子をノックアウトすることに加えて、欠損した対立遺伝子がコードするタンパク質の機能的コピーをコードするドナーDNAとの相同組換えを刺激するためにも使用できる。したがって、例えば、本発明の方法は、欠損した対立遺伝子をノックアウトする部位特異的エンドヌクレアーゼを送達すること、及び欠損した対立遺伝子の機能的コピーを送達することの両方に使用することができ、欠損した対立遺伝子の修復をもたらし、それにより、機能的な網膜タンパク質(例えば、機能性レチノシシン、機能性RPE65、機能性ペリフェリンなど)の産生をもたらすことができる。例えば、Li et al. (2011) Nature 475:217を参照のこと。
【0050】
いくつかの実施態様では、DNAを標的とする本発明のエンドヌクレアーゼは、TALENである。TALENは、TALエフェクター(「TALE」)DNA結合ドメイン、例えば1つ以上のTALE、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のTALEを、DNA修飾ドメイン、例えばFokIヌクレアーゼドメインと融合させることにより、人工的に産生される。転写アクチベーター様エフェクター類(TALEs)は、いずれかのDNA配列に結合するように改変することができる(Zhang (2011), Nature Biotech. 29: 149-153)。改変されたTALEをDNA切断ドメインと組み合わせることにより、いずれかの所望のDNA配列に特異的な制限酵素を産生することができる。したがって、ゲノム編集に利用可能なこれらを、細胞内に導入することができる(Boch (2011) Nature Biotech. 29: 135-6; and Boch et al. (2009) Science 326: 1509-12; Moscou et al. (2009) Science 326: 3501)。TALEは、キサントモナス属(Xanthomonas)細菌により分泌されるタンパク質である。このDNA結合ドメインは、12番目及び13番目のアミノ酸を除いて、高度に保存された33~34個のアミノ酸配列を繰り返し含有する。これらの2つの位置は非常に可変的であり、特定のヌクレオチド認識との強い相関を示す。したがって、これらは、所望のDNA配列に結合するように改変することができる(Zhang (2011), Nature Biotech. 29: 149-153)。TALENを産生するために、TALEタンパク質は、ヌクレアーゼ(N)、例えば野生型又は変異型FokIエンドヌクレアーゼに融合される。FokIに対するいくつかの変異は、TALEN類における使用のために、作成されている;これらは、例えば、切断特異性又は活性を改善する(Cermak et al. (2011) Nucl. Acids Res. 39: e82; Miller et al. (2011) Nature Biotech. 29: 143-8; Hockemeyer et al. (2011) Nature Biotech. 29: 731-734; Wood et al. (2011) Science 333: 307; Doyon et al. (2010) Nature Methods 8: 74-79; Szczepek et al. (2007) Nature Biotech. 25: 786-793; and Guo et al. (2010) J. Mol. Biol. 200: 96)。FokIドメインは、適切な方向及び間隔を有する標的ゲノム中の部位に対して、固有のDNA結合ドメインを有する2つの構築物を必要とする、二量体として機能する。TALEDNA結合ドメインとFokI切断ドメインの間のアミノ酸残基の数、及び2つの個々のTALEN結合部位の間の塩基の数の両方が、高レベルの活性を達成するための重要なパラメーターであると考えられる(Miller et al. (2011) Nature Biotech. 29: 143-8)。TALENは、細胞内で、標的核酸(例えば遺伝子内の部位)における二本鎖切断を生成するために使用することができる。修復の機序が非相同末端結合を介して切断を不適切に修復する場合、切断部位で変異を導入することができる(Huertas, P., Nat. Struct. Mol. Biol. (2010) 17: 11-16)。たとえば、不適切な修復は、フレームシフト変異を導入し得る。あるいは、TALENと共に、外来DNAを細胞内に導入することもでき;外来DNA及び染色体配列の配列に拠れば、このプロセスは、相同直接修復経路を介して標的遺伝子を修飾するために、例えば、標的遺伝子の欠損を修正して、それにより修復された標的遺伝子の発現を引き起こすか、又は、例えば、そのような欠損をwt遺伝子に導入して、それにより標的遺伝子の発現を減少させるために使用することができる。
【0051】
いくつかの実施態様では、本発明の、DNAを標的とするエンドヌクレアーゼは、ZFNである。TALENと同様に、ZFNは、DNA修飾ドメイン、例えば、ヌクレアーゼドメイン、例えば、DNA結合ドメインに融合したFokIヌクレアーゼドメイン(又はその誘導体)を含む。ZFNの場合、DNA結合ドメインは、1つ以上のZnフィンガー、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のZnフィンガーを含む(Carroll et al. (2011) Genetics Society of America 188: 773-782; and Kim et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 1156-1160)。Znフィンガーは、1つ以上の亜鉛イオンにより安定化された、小さなタンパク質構造モチーフである。Znフィンガーは、例えば、Cys2His2を含むことができ、約3bpの配列を認識することができる。特異性が知られている様々なZnフィンガーを組み合わせて、約6、9、12、15、又は18bpの配列を認識するマルチフィンガーポリペプチドを産生することができる。ファージディスプレイ、酵母のワンハイブリッド系、細菌のワンハイブリッド系及びツーハイブリッド系、及び哺乳類細胞を含む、特定の配列を認識するZnフィンガー(及びその組み合わせ)を生成するために、様々な選択及びモジュラーアセンブリ技術が利用可能である。Znフィンガーは、所定の核酸配列に結合するように改変することができる。Znフィンガーを改変して、所定の核酸配列に結合させるための基準は、当該技術分野において公知である(Sera (2002), Biochemistry, 41:7074-7081; Liu (2008) Bioinformatics, 24:1850-1857)。FokIヌクレアーゼドメイン又は他の二量体ヌクレアーゼドメインを使用するZFNは、二量体として機能する。したがって、非回文構造のDNA部位を標的とするためには、一対のZFNが必要である。2つの個々のZFNは、それぞれのヌクレアーゼが適切な間隔を置いて、DNAの反対側の鎖と結合しなければならない(Bitinaite et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 10570-5)。また、TALENと同様に、ZFNは、DNA中にDSBを作ることができ、これは不適切に修復された場合に(例えば非相同末端結合を介して)、フレームシフト変異を作成することができ、これは、細胞中の標的遺伝子の発現の減少をもたらす。
【0052】
いくつかの実施態様では、本発明の、DNAを標的とするエンドヌクレアーゼは、CRISPR関連のエンドヌクレアーゼである。細菌において、CRISPR/Cas遺伝子座は、可動遺伝要素(ウイルス、転移性因子、及び接合性プラスミド)に対するRNA誘導適応免疫系をコードする。3つの型(I~VI)のCRISPR系が特定されている。CRISPRクラスターは、先行する可動要素を補完する配列であるスペーサーを含有する。CRISPRクラスターは、転写され、そして成熟CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)RNA(crRNA)に加工される。前記CRISPR関連のエンドヌクレアーゼCas9及びCpf1は、II型及びV型のCRISPR/Cas系に属し、標的DNAを切断する強力なエンドヌクレアーゼ活性を有する。Cas9は、固有の標的配列(スペーサーと呼ばれる)の約20個のヌクレオチド、及びpre-crRNAのリボヌクレアーゼの不適切な支援による処理(ribonuclease Ill-aided processing)のガイドとして機能するトランス活性化小RNAを含有する、成熟crRNAによりガイドされる。crRNA:tracrRNA二本鎖は、crRNA上のスペーサーと標的DNA上の相補配列(プロトスペーサーと呼ばれる)との間の相補的な塩基対形成を介して、Cas9を標的DNAに向かわせる。Cas9は、トリヌクレオチド(NGG)のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識して、切断部位(PAMから3番目又は4番目のヌクレオチド)を特定する。crRNA及びtracrRNAは、別々に発現させるか、或いは、天然のcrRNA/tracrRNA二本鎖を模倣するために、合成ステムループを介して人工的な融合小ガイドRNA(sgRNA)に改変することができる。そのようなsgRNAは、shRNAと同様に、直接RNAトランスフェクションのために合成又はインビトロで転写するか、あるいはU6又はH1促進RNA発現ベクターから発現することができる。
【0053】
いくつかの実施態様では、前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼである。Cas9ヌクレアーゼは、野生型のA群溶血レンサ球菌(Streptococcus pyrogenes)配列と同一のヌクレオチド配列を有することができる。いくつかの実施態様では、前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、例えばサーモフィルス菌(thermophilus);緑膿菌(Pseudomona aeruginosa);大腸菌(Escherichia coli)などの別のレンサ球菌(Streptococcus)種、又は他の配列決定された細菌ゲノム及び古細菌、又は他の原核微生物などの他の種由来の配列であることができる。あるいは、前記野生型のA群溶血レンサ球菌Cas9配列は、修飾することができる。前記核酸配列は、哺乳類細胞における効率的な発現のためのコドン最適化、すなわち「ヒト化」することができる。ヒト化されたCas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、Genbankアクセッション番号KM099231.1 GL669193757;KM099232.1 GL669193761;又はKM099233.1 GL669193765に列挙されている発現ベクターのいずれかによりコードされるCas9ヌクレアーゼ配列であることができる。あるいは、前記Cas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、Addgene(Cambridge, MA)からのpX330、pX260又はpMJ920などの市販されているベクター中に含有される配列であることができる。いくつかの実施態様では、前記Cas9エンドヌクレアーゼは、Genbankアクセッション番号KM099231.1 GL669193757;KM099232.1;GL669193761;又は、KM099233.1 GL669193765又はpX330、pX260又はpMJ920のCas9アミノ酸配列(Addgene, Cambridge, MA)のCas9エンドヌクレアーゼ配列のいずれかの変異型又は断片である、アミノ酸配列を有することができる。
【0054】
いくつかの実施態様では、前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、Cpf1ヌクレアーゼである。本明細書で使用されるとき、用語「Cpf1タンパク質」は、V型のCRISPR-Cpf1系、Cpf1タンパク質の修飾物、Cpf1タンパク質の変異型、Cpf1相同分子種、及びそれらの組み合わせに由来するCpf1野生型タンパク質を指す。前記cpf1遺伝子は、Cas9のそれぞれのドメインに相同であるRuvC様ヌクレアーゼドメインを有するが、Cas9タンパク質中に存在するHNHヌクレアーゼドメインを持たないタンパク質Cpf1をコードする。V型の系は、パルクバクテリア菌(Parcubacteria bacterium)GWC2011_GWC2_44_17 (PbCpf1)、ラクノスピラ科菌(Lachnospiraceae bacterium)MC2017(Lb3Cpf1)、ブチリビブリオ プロテオグラスティカス(Butyrivibrio proteoclasticus)(BpCpf1)、ペレグリニバクテリア菌(Peregrinibacteria bacterium) GW2011_GWA33_10(PeCpf1)、アシダミノコッカス spp(Acidaminococcus spp.)BV3L6(AsCpf1)、ポルフィロモナス・マカカエ(Porphyromonas macacae)(PmCpf1)、ラクノスピラ科菌(Lachnospiraceae bacterium)ND2006(LbCpf1)、ポルフィロモナス クレビオリカニス(Porphyromonas crevioricanis)(PcCpf1)、プレボテーラ・ディシエンス(Prevotella disiens)(PdCpf1)、モラクセラ ボーボクリ(Moraxella bovoculi)237(MbCpf1)、スミセラ spp.(Smithella spp.)SC_K08D17(SsCpf1)、レプトスピラ イナダイ(Leptospira inadai)(LiCpf1),ラクノスピラ科菌(Lachnospiraceae bacterium) MA2020(Lb2Cpf1)、フランシセラ ノビシダ(Franciscella novicida)U112(FnCpf1)、キャンディデイタス メタノプラズマ テルミツム(Candidatus methanoplasma termitum)(CMtCpf1)、及びユウバクテリウム エリゲンス(Eubacterium eligens)(EeCpf1)を含む、いくつかの細菌において特定されている。最近、Cpf1も、RNase活性を有し、pre-crRNA処理を担っていることが証明されている(Fonfara, I., et al., “The CRISPR-associated DNA-cleaving enzyme Cpf1 also processes precursor CRISPR RNA,” Nature 28; 532(7600):517-21 (2016))。
【0055】
いくつかの実施態様では、導入遺伝子産物は、干渉RNA(RNAi)である。典型的には、好適なRNAiは、細胞中のアポトーシス又は血管新生因子のレベルを低下させるRNAiを含む。例えば、RNAiは、shRNA、又は細胞中でアポトーシスを誘導又は促進する導入遺伝子産物のレベルを低下させるsiRNAである。導入遺伝子産物がアポトーシスを誘導又は促進する遺伝子は、本明細書で、「プロアポトティック遺伝子」と呼び、そしてそれらの遺伝子の産物(mRNA;タンパク質)を「プロアポトティック導入遺伝子産物」と呼ぶ。プロアポトティック導入遺伝子産物は、例えば、Bax、Bid、Bak、及びBad導入遺伝子産物を含む。例えば、米国特許第7,846,730号を参照のこと。干渉RNAはまた、例えば、VEGF(例えば、Cand5;例えば、米国公開公報第2011/0143400号;米国公開公報第2008/0188437号;及びReich et al. (2003) Mol. Vis. 9:210を参照のこと)、VEGFR1(例えば、Sirna-027;例えば、Kaiser et al. (2010) Am. J. Ophthalmol. 150:33;及び Shen et al. (2006) Gene Ther. 13:225を参照のこと)、又はVEGFR2(Kou et al. (2005) Biochem. 44: 15064)などの血管新生産物に対するものである可能性がある。米国特許第6,649,596号、第6,399,586号、第5,661,135号、第5,639,872号、及び第5,639,736号;及び米国特許第7,947,659号及び第7,919,473号も参照のこと。
【0056】
いくつかの実施態様では、関心対象の導入遺伝子を含有する前記ベクターは、ウイルスベクター及び非ウイルスベクターからなる群より選択される。
【0057】
典型的には、ウイルスベクターは、次のウイルス:レトロウイル(例えば、モロニーマウス白血病ウイルス及びレンチウイルス由来のベクターとしての)、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳腺腫瘍ウイルス、及びラウス肉腫ウイルススなどのRNAウイルス;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス;SV40型ウイルス;ポリオーマウイルス;エプスタイン バー ウイルス;乳頭腫ウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス及びAAVベクター由来であるが、これらに限定されない核酸配列を含む。好ましいウイルス遺伝子送達ベクターは、rAAVベクターである。
【0058】
いくつかの実施態様では、AAVベクターは、AAV8ベクターである。
【0059】
いくつかの実施態様では、前記ウイルスベクターは、疑似型AAVベクターである。AAVのキメラベクターの例は、AAV2/5、AAV2/6、及びAAV2/8を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施態様では、AAVのキメラベクターは、米国特許第7,282,199号に記載されているAAV2/8であり、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0060】
いくつかの実施態様では、前記ウイルスベクターは、改変されたAAVベクターである。具体的には、改変されたAAVベクターは、Klimczak RR, Koerber JT, Dalkara D, Flannery JG, Schaffer DV. 2009. A novel adeno-associated viral variant for efficient and selective intravitreal transduction of rat Muller cells. PLoS One 4(10):e7467に記載されているSH10ベクターである。AAV変異型ShH10は、AAV血清型6(AAV6)と密接に関係している。いくつかの実施態様では、前記AAV改変ベクターは、変異型カプシド、具体的にはチロシン変異型カプシドを有する。いくつかの実施態様では、前記AAV改変ベクターは、国際公開公報第2012145601号に記載されている1つであり、参照により本明細書得に組み込まれる。いくつかの実施態様では、前記ベクターは、変異型AAVカプシドタンパク質を含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンであり、ここで、前記変異型AAVカプシドタンパク質は、対応する親AAVカプシドタンパク質に関連するカプシドタンパク質GHループ中の約5アミノ酸から約11アミノ酸の挿入を含み、かつここで、前記変異型カプシドタンパク質は、対応する親AAVカプシドタンパク質を含むAAVビリオンによる網膜細胞の感染性と比較して、増加した網膜細胞の感染性を付与する。いくつかの実施態様では、前記ベクターは、国際公開公報第2012145601号、及びDalkara D, Byrne LC, Klimczak RR, Visel M, Yin L, Merigan WH, Flannery JG, Schaffer DV. In vivo-directed evolution of a new adeno-associated virus for therapeutic outer retinal gene delivery from the vitreous. Sci Transl Med. 2013 Jun 12;5(189):189ra76に記載されているAAV2-7m8である。その他の例は、下記に記載されているものを含む:
Kay CN, Ryals RC, Aslanidi GV, Min SH, Ruan Q, Sun J, Dyka FM, Kasuga D, Ayala AE, Van Vliet K, Agbandje-McKenna M, Hauswirth WW, Boye SL, Boye SE. Targeting photoreceptors via intravitreal delivery using novel, capsid-mutated AAV vectors. PLoS One. 2013 Apr 26;8(4):e62097. doi: 10.1371/journal.pone.0062097.
Dalkara D, Byrne LC, Lee T, Hoffmann NV, Schaffer DV, Flannery JG. Enhanced gene delivery to the neonatal retina through systemic administration of tyrosine-mutated AAV9. Gene Ther. 2012 Feb;19(2):176-81. doi: 10.1038/gt.2011.163. Epub 2011 Oct 20.
Petrs-Silva H, Dinculescu A, Li Q, Min SH, Chiodo V, Pang JJ, Zhong L, Zolotukhin S, Srivastava A, Lewin AS, Hauswirth WW. High-efficiency transduction of the mouse retina by tyrosine-mutant AAV serotype vectors. Mol Ther. 2009 Mar;17(3):463-71.
Petrs-Silva H, Dinculescu A, Li Q, Deng WT, Pang JJ, Min SH, Chiodo V, Neeley AW, Govindasamy L, Bennett A, Agbandje-McKenna M, Zhong L, Li B, Jayandharan GR, Srivastava A, Lewin AS,Hauswirth WW. Novel properties of tyrosine-mutant AAV2 vectors in the mouse retina. Mol Ther. 2011 Feb;19(2):293-301. doi: 10.1038/mt.2010.234. Epub 2010 Nov 2.。
【0061】
非ウイルスベクターは、当業者が入手可能な文献に広く記載されている(例えば、Feigner et al., 1987, Proc. West. Pharmacol. Soc. 32, 115-121; Hodgson and Solaiman, 1996, Nature Biotechnology 14, 339-342; Remy et al., 1994, Bioconjugate Chemistry 5, 647-654を参照のこと)。限定的でなく、例示として説明するが、非ウイルスベクターは、ポリマー、脂質、具体的には、カチオン性脂質、リポソーム、核タンパク質又は中性脂質であり得る。これらの物質は、単独で又は組み合わせて使用され得る。想定され得る組み合わせは、カチオン性脂質(DOGS、DC-CHOL、スペルミン コレステロール、スペルミジン コレステロールなど)及び中性脂質(DOPE)と組み合わせたプラスミド組換えベクターである。本発明の文脈で使用することができるプラスミドの選択は、広範囲に渡る。それらはクローニング及び/又は発現ベクターである。一般に、それらは当業者に公知であり、そしてその多くが市販されているが、遺伝子工学技術によりそれらを構築又は修飾することも可能である。例として、pBR322(GibcoBRL)、pUC(GibcoBRL)、pBluescript(Stratagene)、pREP4、pCEP4(Invitrogene)又はpPoly(Lathe et al., 1987, Gene 57, 193-201)に由来するプラスミドが挙げられる。好ましくは、本発明の文脈で使用されるプラスミドは、産生細胞及び/又は宿主細胞(例えば、大腸菌中で産生されることを意図したプラスミドのためには、ColE1由来が選択され、哺乳類の宿主細胞中で自己複製することが所望される場合は、oriP/EBNA1系が選択され得る:Lupton and Levine, 1985, Mol. Cell. Biol. 5, 2533-2542; Yates et al., Nature 313, 812-815)における複製の開始を確実にする複製開始点を含有する。前記プラスミドは、所定の細胞におけるその維持及び/又はその安定性を改善する追加の要素を含み得る((cer sequence which promotes the monomeric maintenance of a plasmid (Summers and Sherrat, 1984, Cell 36, 1097-1103, sequences for integration into the cell genome))。
【0062】
いくつかの実施態様では、前記ベクターはまた、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、内部リボソームエントリー部位(IRES)、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)などをコードする配列のような、コードされたタンパク質の発現及び分泌を可能にする調節配列を含むこともできる。この点に関しては、前記ベクターは、感染した細胞中でタンパク質の発現を引き起こすか又は改善するために、関心対象の導入遺伝子に操作可能に連結されたプロモーター領域を含む。そのようなプロモーターは、ユビキタス、組織特異的、強力、微弱、制御された、キメラ、誘導可能な、などであり、感染した組織におけるタンパク質の効率的かつ適切な産生を可能にし得る。前記プロモーターは、コードされたタンパク質に対して、相同であるか、又は細胞性、ウイルス性、真菌性、植物性、合成プロモーターを含む異種であり得る。本発明における使用のための最も好ましいプロモーターは、細胞又は網膜において機能的であるべきであり、より好ましくは、網膜の光受容体若しくは神経節細胞、又はRPEの細胞において機能的であるべきである。このような制御されたプロモーターの例は、Tetのオン/オフ要素を含むプロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター及びメタロチオネインのプロモーターを含むが、これらに限定されない。ユビキタスプロモーターの例は、ウイルスプロモーター、具体的には、CMVプロモーター、RSVプロモーター、SV40プロモーターなど、及びPGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)プロモーターなどの細胞プロモーターを含む。前記プロモーターはまた、シナプシン又はNSE(神経細胞特異的エノラーゼ(Neuron Specific Enolase))プロモーター(又はユビキタスなPGKプロモーターの上流に配置されたNRSE(神経細胞選択的サイレンサー要素(Neuron restrictive silencer element)配列)などの神経細胞特異的プロモーター、あるいはRPE65、VMD2、ロドプシン又は錐体アレスチンプロモーターなどの様々な網膜細胞型に特異的なプロモーターであり得る。前記ベクターはまた、非所望の細胞における導入遺伝子発現の抑制を達成する、miRNAの標的配列を含み得る。例えば、造血系における発現抑制(「脱標的化(de-targeting)」)は、導入遺伝子特異的免疫応答(Brown BD, Nature Medicine 2008)の発生率と程度を低下させることにより、形質転換細胞における安定した遺伝子導入を可能にする。ある特定の実施態様では、前記ベクターは、コードされたタンパク質の分泌を可能にするリーダー配列を含む。関心対象の導入遺伝子と分泌シグナルペプチド(通常、分泌されるポリペプチドのN末端に位置する)をコードする配列との融合により、形質転換細胞から分泌可能なで治療用タンパク質を産生することが可能になる。このようなシグナルペプチドの例は、アルブミン、β-グルクロニダーゼ、アルカリプロテアーゼ又はフィブロネクチン分泌シグナルペプチドを含む。最も好ましい実施態様では、前記プロモーターは、網膜の細胞において、具体的には、網膜の光受容体又は神経節細胞、あるいはRPEにおいて、特異的又は機能的であり、すなわち、前記細胞における導入遺伝子の(優先的な)発現を可能にする。例えば、好適な光受容体特異的調節エレメントは、例えば、ロドプシンプロモーター;ロドプシンキナーゼプロモーター(Young et al. (2003) Ophthalmol. Vis. Sci. 44:4076);βホスホジエステラーゼ遺伝子プロモーター(Nicoud et al. (2007) J. Gene Med. 9: 1015);網膜色素変性遺伝子プロモーター(上記Nicoud et al. (2007));光受容体間レチノイド結合タンパク質(IRBP)遺伝子エンハンサー(上記Nicoud et al. (2007));IRBP遺伝子プロモーター(Yokoyama et al. (1992) Exp Eye Res. 55:225)を含む。
【0063】
いくつかの実施態様では、前記ペプチドは、導入遺伝子産物又はベクターに由来する免疫優性ペプチドである。
【0064】
いくつかの実施態様では、免疫優性ペプチドは、抗原提示細胞(APC類)により提示されるその能力に対して選択される。APC類は、APCの表面上の主要な組織適合性複合体分子(MHC)と会合できる形態に抗原を処理することにより、特定の抗原に対するT細胞応答を誘発する。主要な組織適合性複合体分子(MHC)クラスI及びクラスII分子は、実際に免疫系の適応枝において極めて重要な役割を果たす。免疫原性ペプチド-MHCクラスI(pMHCI)複合体は、有核細胞上に存在し、そして細胞傷害性CD8+T細胞により認識される。一方、抗原提示細胞(例えば、樹状細胞(DC)、マクロファージ、又はB細胞)によるpMHCIIの提示は、CD4+T細胞を活性化し、エフェクター細胞の調整及び調節をもたらすことができる。いずれの場合も、所与のpMHC複合体と相互作用するクローン型T細胞受容体であり、持続的な細胞:細胞接触形成及びT細胞活性化をもたらす可能性がある。したがって、いくつかの実施態様では、前記免疫優性ペプチドは、MHCクラスI拘束性エピトープ及び/又はMHCクラスII拘束性エピトープを含む。いくつかの実施態様では、前記免疫優性ペプチドは、MHCクラスI拘束性エピトープ及びMHCクラスII拘束性エピトープの両方を含む。
【0065】
いくつかの実施態様では、前記免疫優性ペプチドは、ウイルスベクターのカプシドタンパク質に由来する。いくつかの実施態様では、前記免疫優性ペプチドは、AAVベクター(例えば、AAV8ベクター)であるVP1、VP2又はVP3カプシドタンパク質に由来する。
【0066】
いくつかの実施態様では、前記免疫優性ペプチドは、導入遺伝子産物に由来する。
【0067】
いくつかの実施態様では、前記ベクターは、2、3、4、5、6、8、9又は10種類の免疫優性ペプチドと同時に網膜下腔に注入される。
【0068】
いくつかの実施態様では、前記ベクターは、MHCクラスI拘束性エピトープを含む少なくとも1つの免疫優性ペプチド、及びMHCクラスII拘束性エピトープを含む少なくとも1つの免疫優性ペプチドと共に注入される。
【0069】
免疫優性ペプチドを特定し、特徴づけるための方法は、当該技術分野で周知である。典型的には、前記方法は、エピトープ予測アルゴリズム(Vita, Randi, et al. "The immune epitope database (IEDB) 3.0." Nucleic acids research 43.D1 (2015): D405-D412; Jorgensen, Kasper W., et al. "Net MHC stab-predicting stability of peptide-MHC-I complexes; impacts for cytotoxic T lymphocyte epitope discovery." Immunology 141.1 (2014): 18-26; Trolle, Thomas, et al. "Automated benchmarking of peptide-MHC class I binding predictions." Bioinformatics 31.13 (2015): 2174-2181; Rammensee, H-G., et al. "SYFPEITHI: database for MHC ligands and peptide motifs." Immunogenetics 50.3-4 (1999): 213-219; Duan, Fei, et al. "Genomic and bioinformatic profiling of mutational neoepitopes reveals new rules to predict anticancer immunogenicity." Journal of Experimental Medicine 211.11 (2014): 2231-2248; Zhang, Guang Lan, et al. "MULTIPRED: a computational system for prediction of promiscuous HLA binding peptides." Nucleic acids research 33.suppl_2 (2005): W172-W179.; Schubert, Benjamin, et al. "EpiToolKit-a web-based workbench for vaccine design." Bioinformatics 31.13 (2015): 2211-2213.)、質量分析(MS)により特定されるMHC関連ペプチドーム(Abelin, Jennifer G., et al. "Mass spectrometry profiling of HLA-associated peptidomes in mono-allelic cells enables more accurate epitope prediction." Immunity 46.2 (2017): 315-326.; Bassani-Sternberg, Michal, and George Coukos. "Mass spectrometry-based antigen discovery for cancer immunotherapy." Current opinion in immunology 41 (2016): 9-17.; Hunt, Donald F., et al. "Characterization of peptides bound to the class I MHC molecule HLA-A2. 1 by mass spectrometry." Science 255.5049 (1992): 1261-1263.)を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施態様では、免疫優性ペプチドは、潜在的に抗原領域を示していることが示されている、βターンの発生、親水性、表面確率、及び柔軟性などのいくつかのパラメータを参照することにより予測され得る。
【0070】
網膜下への送達方法は当該技術分野で公知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開公報第2009/105690を参照のこと。一般に、前記ベクター及び少なくとも1つの免疫優性ペプチドは、手術用顕微鏡を使用して、直接観察しながら、眼内(網膜下)に注入される組成物の形態で送達することができる。いくつかの実施態様では、前記ベクター及び少なくとも1つの免疫優性ペプチドを含有する組成物は、適切な孔径(bore size)のカニューレを利用することにより、網膜中心部の外側の網膜下腔に直接注入され、したがって、網膜下腔にブレブが作成される。いくつかの実施態様では、前記組成物の網膜下注入の前に、少容量(例えば、約0.1mL~約0.5mL)の適切な液体(生理食塩水又はリンゲル液など)を網膜中心外の網膜下腔に網膜下注入する。この網膜下腔への最初の注入は、網膜下腔内に最初の液体のブレブを確立し、最初のブレブの位置に局在性の網膜剥離を引き起こす。この最初のブレブは、組成物の網膜下腔への標的送達を容易にし、かつ脈絡膜への組成物の投与の可能性及び硝子体腔への注入又は逆流の可能性を最小限にすることができる。いくつかの実施態様では、この最初の液体ブレブには、同じ又は追加の微細な孔のカニューレのどちらかを用いる、最初の液体ブレブへの直接的な投与により、1つ以上の組成物及び/又は1つ以上の追加の治療薬を含む液体を、さらに注入することができる。本発明のいくつかの実施態様では、網膜の網膜下腔に注入される組成物の容積は、約1μL、2μL、3μL、4μL、5μL、6μL、7μL、8μL、9μL、10μL、15μL、20μL、25μL、50μL、75μL、100μL、200μL、300μL、400μL、500μL、600μL、700μL、800μL、900μL、又は1mLのいずれかひとつ、又はこれらの間のいずれかの量よりも大きい。1つ又は複数(例えば、2、3、又はそれ以上)のブレブを作成できる。一般的に、作成されたブレブ又は複数のブレブの総容量は、眼の液体容量、たとえば、典型的なヒトの被験体では約4mLを超えることはできない。網膜中心部の細胞型を露出させるに十分なサイズの網膜剥離を容易にし、そして最適な取り扱いに十分な依存性を持つブレブを作成するために、それぞれの個々のブレブの総容量は、少なくとも約0.3mL、又は少なくとも約0.5mLであることができる。当業者は、本発明の方法に従ってブレブを作成する場合、眼構造への損傷を避けるために適切な眼圧を維持しなければならないことを理解するであろう。
【0071】
ベクターの用量は、例えば、処置される網膜疾患、被験体(例えばその体重、代謝などに応じて)、処置スケジュールなどに応じて、当業者により容易に適応され得る。本発明の文脈における好ましい有効用量は、網膜細胞の最適な形質導入を可能にする用量である。典型的には、マウスにおいて、一用量あたり108から1012、好ましくは、約109から1011のウイルスゲノム(形質転換ユニット)が投与される。典型的には、ヒトに投与されるAAVベクターの用量は、108から1012、最も好ましくは、109から1011の間の範囲で有り得る。
医薬組成物:
【0072】
本発明はまた、関心対象の導入遺伝子を含むベクター、前記導入遺伝子産物又はベクターに由来する少なくとも1つのペプチド、及び薬学的に許容され得る担体、希釈剤、賦形剤、又は緩衝剤を含有する、医薬組成物を提供する。
【0073】
本発明によれば、前記医薬組成物は網膜下注入に適合する。いくつかの実施態様では、薬学的に許容され得る担体、希釈剤、賦形剤、又は緩衝剤は、ヒトにおける使用に好適である。そのような賦形剤、担体、希釈剤、及び緩衝剤は、不適当な毒性なしで投与することができるいずれかの医薬品を含む。担体は、siRNAの送達を強化するための合成ベクターとして、カチオン性脂質、非イオン性脂質及びポリエチレングリコール(PEG)を含む可能性がある。siRNAは、粒子の親水性の内部に含有される可能性があり、又は、ポリエチレンイミン及びその誘導体は、直鎖及び分岐状のポリマー送達剤の両方を製造するために使用できる。直鎖又は分岐状の構造を有するカチオンポリマーは、その、核酸と結合しかつ縮合して、安定化したナノ粒子にする能力のために、効率的なトランスフェクション剤として役立つことができる。このような物質はまた、核酸取り込みを増強するために必要な、非特異的エンドサイトーシスならびにエンドソーム脱出を刺激することが示されている。薬学的に許容され得る賦形剤は、水、生理食塩水、グリセロール及びエタノールなどの液体を含むが、これらに限定されない。薬学的に許容され得る塩は、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などの無機酸塩;及び酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などの有機酸の塩を含むことができる。また、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝物質などの補助物質は、そのようなビヒクル中に存在し得る。多種多様な薬学的に許容され得る賦形剤は、当該技術分野で公知であり、本明細書において、詳細に議論する必要はない。医薬品として許容され得る賦形剤は、例えば、A. Gennaro (2000) "Remington: The Science and Practice of Pharmacy," 20th edition, Lippincott, Williams, & Wilkins; Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems (1999) H.C. Ansel et al., eds., 7th ed., Lippincott, Williams, & Wilkins; and Handbook of Pharmaceutical Excipients (2000) A.H. Kibbe et al., eds., 3 rd ed. Amer. Pharmaceutical Assocを含む様々な出版物に、詳細に記載されている。
【0074】
本発明は、以下の図及び例によりさらに説明される。ただし、これらの例及び図は、本発明の範囲を制限するものとして、何ら解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1】野生型C57BL/6マウスにおける眼の導入遺伝子発現レベル及び末梢の抗導入遺伝子T細胞免疫応答との間の相関分析。 PBS、HYペプチド、又は異なる用量(4.10
8から10
11vg)のAAV8-Luc2-HYを、0日目に、C57BL/6雌マウスの網膜下(SR)腔に注入した。2週間後、PBS:CFA又はHY:CFAのいずれかの皮下免疫(SC)により、免疫応答が誘導された。HYペプチドによりインビトロで再刺激された全脾細胞の免疫応答を、IFN-γELISpotにより、免疫の1週間後に評価した。並行して、3~4日ごとの生物発光イメージングで導入遺伝子発現レベルを監視した(5匹のマウス/1群)。(A)20日目の末梢における生物発光による、導入遺伝子発現のAAV用量依存性の定量化。(B)生物発光による局所領域導入遺伝子発現の速度論的研究。(C)インビトロでの抗HYT細胞刺激後、20日目の眼の導入遺伝子発現レベルと21日目のIFN-γ分泌との相関。
【
図2】野生型C57BL/6マウスにおける、HYペプチドと、異なる用量のAAV8との、網膜下共注入による末梢の抗導入遺伝子T細胞炎症誘発性免疫応答の抑制。 PBS、HYペプチド、及びAAV8-GFP-HY又はAAV8-GFP-HY+HYペプチドの2つの用量(2.10
9又は5.10
10vg)を、0日目に、C57BL/6雌マウスの網膜下腔に注入した。2週間後、免疫応答が、PBS:CFA又はHY:CFAのいずれかの皮下免疫により誘導された。HYペプチドによりインビトロで再刺激された全脾細胞の免疫応答を、IFN-γELISpotにより、免疫の1週間後に評価した。PBSを眼に受け、HYペプチドで免疫したマウス(抗HY免疫応答のポジティブコントロール)のスポット形成ユニット(SFU)の数を100にインデックス化(index)し、そして他のマウスのSFUを比例的に計算した。バーは、平均+/-SEMに対応する。データは、9つの独立した実験から得た。
【
図3】野生型C57BL/6マウスにおける、HYペプチド及び高用量のAAV8の網膜下共注入による、インビボでの抗導入遺伝子細胞毒性の抑制。 PBS、高用量(5.10
10vg)のAAV8-GFP-HY単独、又はAAV8-GFP-HY+HYペプチドを、0日目に、C57BL/6雌マウスの網膜下腔に注入した。2週間後、HY:CFAによる皮下免疫により、免疫応答が誘導された。17日目に、C57BL/6野生型マウス由来の、3.10
6CD45.1
+CD45.2
-CTV
low雄及び3.10
6 CD45.1
-CD45.2
+CTV
high雌の脾臓細胞の混合物を静脈内に注入した。20日目に、血液を採取し、白血球を、フローサイトメトリーのために、抗CD45.1-PEmAbで染色して、インビボでの雄の生存細胞を分析した。データは、1つの実験から得た。CTV:Cell Trace Violet。
【
図4】野生型C57BL/6マウスにおける、HYペプチドと高用量のAAV8との網膜下共注入による、末梢の抗AAV8T細胞免疫応答の抑制。 PBS(ネガティブコントロール)、HYペプチド、及び5.10
10vgのAAV8-GFP-HY又はAAV8-GFP-HY+HYペプチドを、0日目に、C57BL/6雌マウスの網膜下腔に注入した。2週間後、PBS:CFA(ネガティブコントロール)又はHY:CFAのいずれかの皮下免疫により、免疫応答が誘導された。AAV8カプシドによるインビトロで再刺激された全脾細胞の免疫応答を、免疫の1週間後に、IFN-γELISpotにより評価し、1ウェルあたりのスポット形成ユニット(SFU)の数として表示した。データは1つの実験から得た。
【
図5】rd10マウスにおける、HYペプチドと、異なる用量のAAV8との網膜下共注入による、末梢の抗導入遺伝子T細胞免疫応答の抑制。 PBS、HYペプチド、及びAAV8-GFP-HY又はAAV8-GFP-HY+HYペプチドの2つの用量(2.10
9又は5.10
10vg)を、0日目に、rd10雌マウスの網膜下腔に注入した。2週間後、PBS:CFA又はHY:CFAのいずれかの皮下免疫により、免疫応答が誘導された。HYペプチドによるインビトロで再刺激された全脾細胞の免疫応答を、免疫の1週間後に、IFN-γELISpotにより評価した。PBSを眼に受け、HYペプチドで免疫したマウス(抗HY免疫応答のポジティブコントロール)のスポット形成ユニット(SFU)の数を100にインデックス化し、そして他のマウスのSFUを比例的に計算した。バーは、平均+/-SEMに対応する。データは、9つの独立した実験から得た。他のマウスのSFUを比例的に計算した。バーは、平均+/-SEMに対応する。データは、5つの独立した実験から得た。
【実施例】
【0076】
材料及び方法
動物
【0077】
野生型の6~8週齢のC57BL/6雌マウス(H-2b)は、Charles River Laboratories (L’Arbresle, France)から購入した。動物は、ケタミン(Virbac, Carros, France) 120mg/kg及びキシラジン(Bayer, Lyon, France) 6mg/kg(バイエル、リヨン、フランス)の腹腔内注入により、又はイソフルラン(Baxter, Guyancourt, France)の吸入により麻酔した。それらは、子宮頸管伸長により安楽死させた。すべてのマウスは、欧州連合のガイドライン及び地域の研究倫理委員会(CEEA-51動物実験倫理委員会、Evry, France;認可番号2015102117539948)の承認に従って、収容、世話、及び処理された。
AAVベクター
【0078】
AAV8-PGK-GFP-HYは、INSERM unit U1089 in Nantes, Franceにより製造された。彼らは、CF10中で培養した293T細胞において、トリトランスフェクション技術を使用した。AAV8-PGK-Luc2-HYは、Vector Core in Genethon, Evry, Franceにより製造された。彼らは、ローラーボトル中で培養した(Liu et al., 2003)293T細胞においてトリトランスフェクション技術を使用した。エンドトキシンのレベルは、6E.U/mL以下であった。
ペプチド
【0079】
DEADBoxポリペプチド3Y連結(DBY)及びユビキタス転写したテトラトリコペプチド反復遺伝子Y連結(UTY)ペプチド、NAGFNSNRANSSRSS及びWMHHNMDLIは、それぞれGenepep (Montpellier, France)により合成され、そして95%以上の純度であることが示された。
網膜下注入
【0080】
顕微鏡下で、眼を突出させ、27Gの面取り針を用いて穿孔した。10μLのハミルトン注入器にセットした32Gのブラント針を穴に挿入し、2μLのPBS又はUTY+DBY及び/又はAAVベクターを網膜下腔に注入した。網膜の剥離を確認することにより注入の質を検証した。
皮下注入
【0081】
PBS又はUTY+DBYを、Complete Freund’s Adjuvant (Sigma, Lyon, France)中に、1:1の比率で乳化し、その製剤 100μL(200μgのUTY+DBY/マウス)を尾の付け根に注入した。
脾臓からの細胞抽出
【0082】
安楽死後、脾臓を摘出し、2mLのRPMI培地中、70μmフィルター上でシリンジプランジャーを用いて粉砕した。赤血球は、ACK緩衝液(NH4Cl 8.29g/L、EDTA 0.037g/L、KHCO3 1g/L)を1分間で加えることにより溶解した。完全RPMI培地(FBS 10%、ペニシリン/ストレプトマイシン 1%、グルタミン 1%、β-メルカプトエタノール 50μM)の添加により溶解を停止した。遠心分離後、細胞をカウントし、完全RPMI培地中で濃度を調整した。
【0083】
2mLのRPMI培地中で、シリンジプランジャーを用いて、鼠径リンパ節を破砕した。新しいチューブに上澄み液を移すことによりデブリを除去した。遠心分離後、細胞を計数し、完全RPMI培地中で濃度を調整した。
ELISpotアッセイ
【0084】
IFN-γ酵素結合免疫スポットプレート(MAHAS45, Millipore, Molsheim, France)を、+4℃で一晩、抗IFN-γ抗体(eBiosciences, San Diego, CA)でコーティングした。刺激媒体(完全RPMI、UTY(2μg/mL)、DBY(2μg/mL)、UTY+DBY(2μg/mL)又はコンカナバリンA(Sigma, Lyon, France) (5μg/mL))をプレートに添加し、5.105 脾細胞/ウェルを加えた。+37℃で、24時間の培養の後、プレートを洗浄して、ビオチニル化した抗IFN-γ抗体(eBiosciences)、ストレプト-アビジンアルカリホスファターゼ(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)、及びBCIP/NBT(Mabtech, Les Ulis, France)を用いて、IFN-γの分泌を明らかにした。スポットは、AID ELISpot iSpot Reader system ILF05及びAID ELISpot Reader v6.0 softwareを用いてカウントされた。
生物発光イメージング
【0085】
マウスは、ルシフェリン(250mg/マウスのkg)を腹腔内注入し、イメージングのために、イソフルランを用いて麻酔した。ルシフェリン注入の10分後、マウスを測定のためのイメージャーに入れた。画像処理には、IVISLumina装置及びAID ELISpot Reader v6.0 softwareを使用した。
インビボ細胞毒性アッセイ
【0086】
CD45.1+CD45.2-雄及びCD45.1-CD45.2+雌のC57BL/6野生型マウスから、脾臓細胞を上記のように採取し、PBS中の異なる濃度で(雄の細胞は2μM、雌の細胞は20μM)、Cell TraceViolet 細胞増殖キット(Molecular Probes)を用いて、37℃の暗所で、20分間、染色した。反応を、10%のFBSを含む冷却した完全RPMI培地の添加によりクエンチした。細胞を完全RPMI培地中で、37℃で5分間インキュベートし、次いでPBS1倍で洗浄した。実験した(CD45.1-CD45.2+)雌C57BL/6マウスに、雄の細胞 3.106と同数の雌の細胞(200μL中)の混合物を、プロトコール17日目に静脈内注入した。注入の3日後に、血液を採取し、ACK緩衝液を加えることにより赤血球を溶解し、PBS1倍で洗浄し、白血球をフローサイトメトリーのために染色した。最初に、細胞を50μLのFcブロック溶液(Pharmingen, BD Biosciences)に再懸濁し、BSA 1%を含有するPBSを用いて、細胞が1.7μg/mLになるように希釈して、4℃で10分間インキュベートした。次に、BSA 1%を含有するPBS中で、5μg/mLになる抗CD45.1-PE(Pharmingen, BD Biosciences)の50μLを加えた。次に、この細胞を4℃で20分間インキュベートした。対照として、いくつかの細胞を、対応するアイソタイプ抗体:マウスIgG2a、κ-PE(Pharmingen, BD Biosciences)を用いて、同じ条件で染色した。データは、CytoFLEX LX flow cytometer (Beckman Coulter)により取得し、CytExpert software (Beckman Coulter)を用いて分析した。
統計分析
【0087】
統計分析は、GraphPad Prism V6.0を用いて実施した。分散分析(ANOVA)を行った後、チューキー検定(Tukey’s test)を行った。P値は、<0.05:*、<0.01:**、<0.001:***、<0.0001:****である。
【0088】
結果
高用量の網膜下AAV8ベクターは、導入遺伝子に対する炎症誘発性T細胞免疫応答を誘導する
【0089】
AAV8の網膜下注入が抗導入遺伝子細胞免疫応答を誘導する可能性を評価するために、野生型マウスに、PBS、UTY+DBY(HY)ペプチド、又はHYペプチドと融合したGFPをコードするAAV8の異なった用量を注入した。2週間後、これらのマウスを、PBS又はHYペプチドを用いて、皮下免疫した。21日目に、脾臓細胞を採取し、そしてHYペプチドを用いて、インビトロで刺激して、HY特異的T細胞によるIFN-γ分泌のELISpot定量を行った(
図1)。14日目の誘導により、無症候性免疫応答又は免疫抑制の誘導を観察することが可能になる(Vendomele et al., 2018)。
【0090】
抗HY免疫応答のポジティブコントロールとして、マウスは、0日目に、PBSを網膜下腔に、そして14日目に、HYペプチドを皮下に受けた。この場合、HYペプチドに対応して、150から250のスポット形成ユニット(SFU)が計数され、これはIFN-γ分泌脾臓細胞に対応する。様々な実験から得たデータを正規化するために、このポジティブコントロールのIFN-γ分泌のインデックス(index)を100(
図1黒線)とした。ネガティブコントロール(示されていない)として、いくつかのマウスは網膜下腔にPBSを受け、そしてPBS:CFAによる皮下免疫により免疫応答が誘導された。このグループでは、有意なIFN-γ分泌は検出されなかった(25SFU/10
6細胞)。本発明者らは、HYペプチドの網膜下注入が、T細胞免疫応答(増殖、分裂、及びサイトカイン分泌)の抑制を誘導することを以前に報告した(Vendomele et al., 2018)。したがって、次に、本発明者らが、0日目にHYペプチドを網膜下腔に注入し、14日目に同じペプチドを用いて免疫したものを、免疫調節の対照として使用したところ、これらのマウスのIFN-γ分泌のインデックスは、ポジティブコントロールと比較して65%(+/-13%)に抑制された。次に、本発明者らは、抗導入遺伝子免疫応答を誘導するため、広範囲の用量でのAAV8-PGK-GFP-HYの能力を評価した。低用量及び中用量のAAV(10
3から2.10
9vg)は、ポジティブコントロールと同様のレベルのIFN-γ分泌を誘導した。しかしながら、高用量のAAV(10
10から5.10
10vg)は、ポジティブコントロールと比較して、2倍に増加したIFN-γの分泌を誘導した。まとめると、これらのデータは、網膜下腔に注入された低用量及び中用量のAAV8が、導入遺伝子産物に対応した免疫調節を誘導せず、またTh1免疫応答も増加させなかったことを示す。逆に、網膜下に注入された高用量のAAV8(10
10から5.10
10vg)は、末梢で導入遺伝子に対する炎症誘発性T細胞免疫応答を誘導したことを示す。
【0091】
末梢の抗導入遺伝子T細胞免疫応答は、局所領域の導入遺伝子発現レベルと密接に相関する。
高用量のAAV8の網膜下注入が、導入遺伝子産物に対する末梢のT細胞免疫応答を誘導することを実証した後、本発明者らは、導入遺伝子発現レベルが抗導入遺伝子免疫応答に及ぼす影響を評価した。マウスに、PBS、HYペプチド、又はHYペプチドと融合したルシフェラーゼ(Luc2)をコードする異なった用量のAAV8を注入した;2週間後、それらをPBS又はHYペプチドで皮下免疫した。21日目に脾臓細胞を採取し、そしてインビトロでHYペプチドを用いて刺激して、HY特異的T細胞によるIFN-γ分泌を、ELISpotを用いて定量した。並行して、3日ごとのマウスの生物発光イメージングにより、Luc2発現の検出が可能になった。本発明者らは、別報に記載されているluminoscore法(Cosette et al., 2016)により、導入遺伝子(Luc2)の発現を定量した。それぞれのマウスについて、背側図と腹側図を取得し、それぞれの図について、2つの関心領域(ROI)を描画した。局所領域(それぞれのマウスの頭部)の導入遺伝子発現は、Headdorsalview+Headventralview(blueROI)として算出されたが、末梢の導入遺伝子発現は、(Bodydorsalview+Bodyventralview)-(Headdorsalview+Headventralview)(redROI-blueROI)として算出された。
【0092】
対照マウス(ネガティブ、ポジティブ、及びHY注入)を画像化したが、明らかに局所的にLuc2発現は検出されなかった。中用量(4.10
8から2.10
9vg)及び高用量(5.10
10から10
11vg)のAAV8は、注入後3日目から用量依存的な導入遺伝子発現を誘導した;この発現は3週間にわたって安定したままであった(
図1A)。高用量のAAV8は、3日目から導入遺伝子発現を誘導し、13日目まで増加し、その後20日目まで減少した(13日目から20日目のp値<0.01)(
図1B)。導入遺伝子の局所領域発現は眼に限定されており、そしてAAVの用量に関係なく、21日間、同側の頸部リンパ節における発現の証拠はなかったことに留意のこと。21日目に、インビトロでHYペプチドを用いて刺激した脾臓細胞に対して、IFN-γELISpotアッセイを実施した。
図1Cは、20日目のそれぞれのマウスの導入遺伝子発現レベル及びそのSFU(ELISpot)の数による、そのマウスのプロットを示す。結果は、IFN-γの分泌は局所領域(頭部)導入遺伝子の発現と相関したことを示す(p値=0.0056)。それにもかかわらず、決定係数(r
2=0.5123)によれば、眼におけるこの導入遺伝子の発現は、免疫応答の51%しか説明しない(
図1C)。まとめると、これらのデータは、眼における導入遺伝子発現レベルが、網膜下に注入されたAAV8の用量、及び全身の抗導入遺伝子免疫応答に対して密接に相関していたことを示す。
【0093】
高用量のAAVを用いても、導入遺伝子産物由来のペプチド及びAAV8の網膜中への同時注入により、網膜下関連免疫抑制を誘導することができる。
本発明者らは、高用量のAAVの網膜下注入が、低用量又は中用量では観察されない炎症誘発性の抗導入遺伝子免疫応答を誘導することを示した。本発明者らは、HYペプチドの網膜下注入が、末梢の免疫抑制をもたらすことを、以前に指摘した(Vendomele et al., 2018)。したがって、本発明者らは、導入遺伝子由来のペプチド並びにAAVを共注入することにより、網膜下のAAV遺伝子導入における免疫調節ツールとしてのこの機序を利用できる可能性を検証した。マウスに、PBS、HYペプチド、2.10
9又は5.10
10vgのAAV8-PGK-GFP-HY、又は同じ容量のAAV8+HYを注入した。2週間後、マウスを、PBS又はHYペプチドを用いて皮下免疫した。21日目に、脾臓細胞を採取し、インビトロでHYペプチドを用いて刺激し、IFN-γELISpot法により、HY特異的T細胞によるIFN-γ分泌を定量した(
図2)。本発明者らの結果は、HYペプチドを網膜下に受けたマウスにおいて、ポジティブコントロールと比較して、IFN-γの分泌が40.5%抑制されることを示した。興味深いことに、HYペプチドを2.10
9vgのAAV8と共注入すると、2.10
9vgのAAV8単独の注入と比較して、IFN-γの分泌が有意に(p=0.0007)半減した。同様にして、HYペプチドならびに高用量のAAV8の共注入は、HY特異的T細胞によるIFN-γ分泌を52.9%減少させた。まとめると、これらのデータは、導入遺伝子由来の免疫優性ペプチドの、異なる用量のAAV8との共注入は、導入遺伝子に応答して起こるT細胞の炎症誘発性サイトカイン分泌を抑制したことを示す。
【0094】
導入遺伝子産物由来のペプチド及びAAV8の網膜中への同時注入により、遺伝子導入細胞に対する細胞毒性を抑制することができる。
本発明者らは、高用量での、AAVと導入遺伝子産物由来のペプチドとの、網膜下への共注入が、IFNγなどの炎症誘発性サイトカインのT細胞による分泌の末梢抑制をもたらすことができることを実証しているため、導入遺伝子に対するインビボでの細胞毒性を抑制する可能性を検討した。PBS、高用量(5.10
10vg)のAAV8-GFP-HY単独、又はAAV8-GFP-HY+HYペプチドを、0日目に、C57BL/6雌マウスの網膜下腔に注入し、そして二週間後に、HY:CFAを用いた皮下免疫により、免疫応答を誘導した。17日目に、C57BL/6野生型マウス由来の3.10
6のCD45.1
+CD45.2
-CTV
low雄の脾臓細胞、及び3.10
6 のCD45.1
-CD45.2
+CTV
high雌の脾臓細胞の混合物を静脈内に注入した。20日目に、白血球分析は、PBSを注入した対照群では、同じ比率の雄のHY
+(CTV
low)細胞と雌のHY
-(CTV
high)細胞が生き残ったことを示した(
図3A、3B)。予想どおり、AAV-GF-HYを注入した群では、雄の細胞は殆ど生き残らなかったが(雄の細胞5.2%に対し、雌の細胞94.8%)、AAV+HYペプチド免疫調節群の(雄の細胞26.4%に対し、雌の細胞73.6%)とは対照的であった。したがって、導入遺伝子由来の免疫優性ペプチドならびに高用量のAAV8の共注入は、インビボでの遺伝子導入細胞に対する細胞毒性を抑制することができる。
【0095】
末梢のAAV8カプシドT細胞免疫応答のバイスタンダー抑制は、導入遺伝子産物由来ペプチドとAAV8との網膜中への同時注入により得られる。
高用量のAAVと導入遺伝子産物由来のペプチドとの同時網膜下注入は、T細胞による炎症誘発性サイトカイン分泌及び遺伝子導入細胞に対するインビボでの細胞毒性の末梢抑制につながる可能性があるため、本発明者らは、SRAIIもまた、通常AAV注入により引き起こされる抗カプシド特異的T細胞免疫応答に影響を与えるのではないかと考えた。この目的のために、PBS(ネガティブコントロール群)、HYペプチド(SRAII対照群)、及び5.10
10vgのAAV8-GFP-HY、又はAAV8-GFP-HY+HYペプチドを、0日目に、C57BL/6雌マウスの網膜下腔に注入した。2週間後、免疫応答はPBS:CFA(ネガティブコントロール群)又はHY:CFAのいずれかの皮下免疫により誘導された。T細胞の免疫応答は、IFN-γELISpotアッセイによる免疫の1週間後に、AAV8カプシドを用いたインビトロでの再刺激により評価された(
図4)。本発明者らの結果は、IFNγの分泌が、AAV8+HYペプチドを網膜下に受けたマウスにおいて、AAV8のみを注入したマウスと比較して、68.9%抑制されたことを示す。興味深いことに、AAV8カプシドは、HYペプチドを含有しなかったために、抗導入遺伝子(HY)特異的T細胞活性化と同時に発生した抗カプシド(AAV8)T細胞応答に対するバイスタンダー免疫抑制を示す。したがって、これらのデータは、導入遺伝子由来の免疫優性ペプチドならびに高用量のAAV8の共注入もまた、抗カプシド特異的T細胞炎症誘発性サイトカインの分泌を抑制できることを示す。
ディスカッション:
【0096】
網膜におけるAAV媒介性遺伝子導入は、1996年の概念実証(Ali et al., 1996)から2000年の臨床試験まで、この20年間で非常に進歩した。当初は有望な結果が得られたにもかかわらず、いくつかの臨床試験での長期追跡調査では、最初のAAV誘導性の改善(Bainbridge et al., 2015; Jacobson et al., 2015)の後に、二次的な視力喪失が明らかになった。これにより、本発明者らは、無症候性の抗導入遺伝子免疫応答の可能性を調査することとなった。実際、臨床試験に登録された患者は、AAV注入後の最初の数日間に、局所的及び/又は全身的に免疫抑制処置を受けたが、これはおそらく免疫応答の誘導を制限、遅延、又は覆い隠した。しかしながら、導入遺伝子発現は、処置後も発現し続けるため、導入遺伝子産物に対する免疫応答を長期にわたって誘導することができる。
【0097】
いくつかの研究は、眼の免疫特権状態を強調してきた。遅延型過敏症の測定は、卵白アルブミンの網膜下注入が末梢でTh1プロファイルの抑制を誘導することを示しており(Wenkel and Streilein, 1998)、McPhersonらは、網膜抗原に対して特異的な制御性T細胞がそこで生成されることを示した(McPherson et al., 2011)。本発明者らはさらに、網膜下腔に関連する全身性免疫応答を特徴付け、そして雄性抗原であるHYの網膜下注入が、T細胞の増殖と分裂を抑制するSRAIIを誘導することを示した(Vendomele et al., 2018)。
【0098】
ワクチン又はAAVベクターの研究が示してきたように、抗原の負荷は、免疫応答と密接に相関しており(Gu et al., 2018; Khabou et al., 2018)、そして免疫応答は、AAVの用量に依存している可能性が高いため(Ramachandran et al., 2016)、本発明者らは、免疫応答が、導入遺伝子の発現レベルとも相関しているのではないかと考えた。生物発光イメージングは、眼における用量依存的な導入遺伝子発現を明らかにした。それでもなお、導入遺伝子ペプチドもまた、網膜の抗原提示細胞(ミクログリアなど)によって処理され、次にそれが末梢(例えば、脾臓、頸部リンパ節)に移動して、全身の抗導入遺伝子免疫応答を引き起こす可能性があることに留意することが重要である。眼及びその末梢における導入遺伝子の発現レベルと免疫応答との間の関連性の存在を決定するために、局所的な免疫応答及び網膜構造の研究には、現在、大きな関心が寄せられている。さらに、眼のAAV媒介性臨床試験中の患者は、注入の前と注入後の数日間、局所及び/又は全身の免疫抑制処置(例えば、プレドニゾロン)を受けた。この種のアプローチは、免疫応答の非特異的抑制を可能にし、患者にとって有害となる可能性がある。さらに、その効果は一時的なものにすぎず、一方で導入遺伝子は、長期にわたって発現する。したがって、本発明者らは、SRAII機序を利用することにより、我々の文脈中で誘導される、抗導入遺伝子と抗カプシド免疫応答を部分的に抑制しようとした。導入遺伝子由来の免疫優性ペプチドと中用量のAAV8との共注入は、導入遺伝子産物とAAVカプシドに対する免疫応答の両方の抑制を誘導した。本発明者らが、導入遺伝子由来の免疫優性ペプチドの共注入により研究を始めた、導入遺伝子及びバイスタンダーのカプシド特異的調節の役割は、さらなる研究において、より深く検討されるべきである。
【0099】
本発明者らの研究におけるすべての実験は、野生型C57BL/6雌マウスにおいて実施され、それにより、本発明者らは、AAV媒介性眼科遺伝子導入に関わる無症候性免疫機序を強調し、解読することができた。遺伝子治療への応用のためにさらに検討されるべき有用な課題は、これらの機序が、様々な眼の病状の存在によりどのように影響されるかである。いくつかの眼の病状は、血液網膜関門に影響を及ぼし(Milam et al., 1998; Vinores et al., 1995; Wang et al., 2011)、その局所環境は炎症性である(Chen and Xu, 2015; Yoshida et al., 2013)。特に、rd10マウスなどの網膜変性モデルの使用は、新たな洞察を可能にするであろう。本発明者らが、炎症誘発性免疫応答もまた、その文脈の中で誘導されるとの仮説を立てることは可能であるが、共注入によるその調節の可能性は不明である。SRAII機序を誘導する可能性は、網膜変性の文脈の中で調査されるべきである(下記の実施例2と比較のこと)。
【0100】
これらの結果は、長期的には、患者に対するAAV媒介性遺伝子導入の安全性と有効性の改善につながる可能性がある。本発明者らの研究は、AAV媒介性網膜下遺伝子導入における免疫応答の分野における新たな研究の道を開き、そしてより大きな文脈における導入遺伝子及びカプシドの特異的免疫調節のための洞察を提供し得る。
【実施例】
【0101】
本クレームの病態生理学的文脈における関連性を確認するために、眼科遺伝子導入後の導入遺伝子産物に対するT細胞免疫応答の誘導を防ぐことを目的として、網膜変性のrd10マウスモデルにおいて実験を行った。rd10マウスモデルは、Pde6b(cGMPホスホジエステラーゼ6B、桿体受容体、βポリペプチド)遺伝子における偶発性ミスセンス点変異であることにより特徴付けられる。rd10表現型は、遅発性及び軽度の網膜変性を有し、網膜色素変性症に対する優れた実験的薬物治療モデルを提供する。
【0102】
HY雄性抗原と融合したGFPレポータータンパク質をコードする、異なる用量(2.109又は5.1010vg)のAAV8を、PGKプロモーター下で、成体免疫適格性rd10雌マウスの網膜下腔に、0日目に注入した。14日目に、マウスを、HYペプチドを用いて、又は用いずに、皮下免疫し、21日目に、脾臓におけるT細胞免疫応答を、HYペプチドを用いてインビトロで再刺激した後、IFN-γELISpotアッセイにより分析した。データは、AAV8の網膜下注入が、導入遺伝子に対する炎症誘発性T細胞免疫応答を誘導することを示した(
図5)。AAV8とHYペプチドを用いた、0日目の網膜下共注入は、高用量のベクター(5.10
10vg)でさえ、導入遺伝子に対するT細胞免疫応答の調節(少なくとも50%の抑制)につながった(
図5)。
【0103】
まとめると、これ等データにより、ベクターと導入遺伝子産物のペプチドとの網膜下共注入は、病態生理学的条件においても、眼におけるAAV導入により誘導される導入遺伝子に対する炎症誘発性末梢免疫応答を打ち消すことができることが確証される。
参考資料:
【0104】
本出願全体を通して、様々な参考文献は、本発明が関係する最新技術を記述している。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み込まれる。
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【国際調査報告】