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特表2023-523253ウイルス感染症の治療のための肺サーファクタントタンパク質Dの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-02
(54)【発明の名称】ウイルス感染症の治療のための肺サーファクタントタンパク質Dの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20230526BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230526BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230526BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230526BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230526BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230526BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230526BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230526BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230526BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230526BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P31/14 ZNA
A61K47/26
A61K47/22
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/02
A61K9/08
C07K14/47
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564443
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(85)【翻訳文提出日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 US2021028207
(87)【国際公開番号】W WO2021216584
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】63/013,726
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/072,354
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520077827
【氏名又は名称】エアウェイ・セラピューティクス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ポール・キングマ
(72)【発明者】
【氏名】ショーン・グラント
(72)【発明者】
【氏名】ラクエル・アロヨ-ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】マルク・サルツバーグ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076CC35
4C076DD23
4C076DD26Z
4C076DD42Z
4C076DD43Z
4C076DD51Z
4C076DD60Z
4C076DD67
4C076FF61
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA18
4C084CA53
4C084MA05
4C084NA14
4C084ZB331
4C084ZB332
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA29
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書中において提供される方法及び組成物の一部の実施形態は、対象におけるウイルス感染症の治療又は寛解のための肺サーファクタントタンパク質D(SP-D)の使用に関する。一部の実施形態において、ウイルス感染症は、コロナウイルス、例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を含む。一部の実施形態は、組換えヒトSP-D(rhSP-D)を含むある特定の製剤の使用を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象においてコロナウイルスを含むウイルス感染症を治療する又は寛解させる方法であって、
有効量の組換えヒト肺サーファクタントタンパク質D(rhSP-D)又はその活性断片を対象に投与する工程
を含む、方法。
【請求項2】
ウイルス感染症が、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)、中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)、HCoV-229E、HCoV-NL63、HCoV-OC43及びHCoV-HKU1からなる群から選択されるウイルスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ウイルス感染症がSARS-CoV-2を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
SARS-CoV-2がS1タンパク質バリアントを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
S1タンパク質バリアントが、N501Y、D614G、HV69-70 del、K417N及びE484Kから選択される変異を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
S1タンパク質が、K417N及びE484Kから選択される変異を欠いている、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
投与が、rhSP-D又はその活性断片を含む医薬組成物を投与することを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
医薬組成物が緩衝剤、糖及びカルシウム塩を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
緩衝剤が酢酸塩、クエン酸塩、グルタミン酸塩、ヒスチジン、コハク酸塩及びリン酸塩からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
緩衝剤がヒスチジンである、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
ヒスチジンの濃度が約1mM~約10mMである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
糖が、スクロース、マルトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、アラビノース、キシロース、リボース、ラムノース、トレハロース、ソルボース、メレジトース、ラフィノース、チオグルコース、チオマンノース、チオフルクトース、オクタ-O-アセチル-チオトレハロース、チオスクロース及びチオマルトースからなる群から選択される、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
糖がラクトースである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ラクトースの濃度が200mM~300mMである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ラクトースの濃度が約265mMである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
カルシウム塩が、塩化カルシウム、臭化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム及びクエン酸カルシウムからなる群から選択される、請求項8から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
カルシウム塩が塩化カルシウムである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
塩化カルシウムの濃度が約1mM~約10mMである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
塩化カルシウムの濃度が約5mMである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
医薬組成物が約5.0~約7.0のpHを有する、請求項7から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
医薬組成物が約6.0のpHを有する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
rhSP-Dの濃度が約0.1mg/ml~約10mg/mlである、請求項7から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
医薬組成物が、オリゴマー形態を有するrhSP-Dポリペプチドの集団を含み、オリゴマー形態の30%超がrhSP-Dの十二量体を含む、請求項7から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
オリゴマー形態の35%超がrhSP-Dの十二量体を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
オリゴマー形態の40%超がrhSP-Dの十二量体を含む、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
医薬組成物が増量剤を含む、請求項7から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
増量剤が、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、グリセロール、エリトリトール、アラビトール、グリシン、アラニン、トレオニン、バリン及びフェニルアラニンからなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
医薬組成物がキレート化剤を欠いている、請求項7から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
キレート化剤がEDTA及びEGTAから選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
rhSP-Dが、配列番号02のアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
対象が哺乳動物である、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
対象がヒトである、請求項1から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
対象におけるコロナウイルスを含むウイルス感染症の治療又は寛解における使用のための医薬組成物であって、組換えヒト肺サーファクタントタンパク質D(rhSP-D)又はその活性断片を含む、医薬組成物。
【請求項34】
ウイルス感染症が、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)及び中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)からなる群から選択されるウイルスを含む、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項35】
ウイルス感染症がSARS-CoV-2を含む、請求項34に記載の医薬組成物。
【請求項36】
SARS-CoV-2がS1タンパク質バリアントを含む、請求項35に記載の医薬組成物。
【請求項37】
S1タンパク質バリアントが、N501Y、D614G、HV69-70 del、K417N及びE484Kから選択される変異を含む、請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項38】
S1タンパク質が、K417N及びE484Kから選択される変異を欠いている、請求項36又は37に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年8月31日に出願された、発明の名称が「USE OF SURFACTANT PROTEIN D TO TREAT VIRAL INFECTIONS」である、米国仮出願第63/072,354号及び2020年4月22日に出願された、発明の名称が「USE OF SURFACTANT PROTEIN D TO TREAT VIRAL INFECTIONS」である、米国仮出願第63/013,726号の優先権を主張する。これらはそれぞれ、参照によりその全体が組み込まれる。
【0002】
配列表の参照
本出願は、電子書式で配列表と共に提出されている。配列表は、2021年4月14日に作成された、サイズが約6kbである、AIRWY017SEQLISTという名称のファイルとして提供される。配列表の電子書式の情報は、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる。
【0003】
本明細書中において提供される方法及び組成物の一部の実施形態は、対象におけるウイルス感染症の治療又は寛解のための肺サーファクタントタンパク質D(SP-D)の使用に関する。一部の実施形態において、ウイルス感染症は、コロナウイルス、例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を含む。一部の実施形態は、組換えヒトSP-D(rhSP-D)を含むある特定の製剤の使用を含む。
【背景技術】
【0004】
新型ヒト疾患である、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされるコロナウイルス感染症2019(COVID-19:coronavirus disease 2019)が出現した。SARS-CoV-2は、コロナウイルス科に属する。コロナウイルス科はまた、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)及び中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)を含み、それらはそれぞれ、重症急性呼吸器症候群(SARS)及び中東呼吸器症候群(MERS)を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第10975389号
【特許文献2】米国特許第10752914号
【特許文献3】米国特許第9492503号
【特許文献4】国特許第6838428号
【特許文献5】米国特許出願公開第2021/0010988号
【特許文献6】WO2019/191247
【特許文献7】WO2019/191254
【特許文献8】米国特許出願公開第2019/0071693号
【特許文献9】米国特許出願公開第2019/0071694号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hartshorn K.L.ら(1994) J. Clin. Invest. 94:311~319頁
【非特許文献2】VanEijk, M.ら、(2019) Front Immunol. 10:2476頁
【非特許文献3】Hsieh I.N.ら(2018) Front Immunol. 9:1368頁
【非特許文献4】Walls A.C.ら(2020) Cell 181:281~292頁
【非特許文献5】Tegally, H.ら(2021) Nature 592:438~443頁
【非特許文献6】Voloch, C. M.ら(2021) J Virol.、doi: 10.1128/jvi.00119-21
【非特許文献7】Liu, Y.ら、(2021)「The N501Y spike substitution enhances SARS-CoV-2 transmission」bioRxiv
【非特許文献8】Rees-Spear, C.ら、(2021) Cell Rep 34: 108890
【非特許文献9】Filipe Pereira (2021) Biochem Biophys Res Commun、550: 8~14頁
【非特許文献10】Crouch E.ら(1994) J Biol Chem 269:17311~9頁
【非特許文献11】Hakansson Kら、Protein Sci (2000) 9:1607~17
【非特許文献12】Crouch E. Respir Res (2000) 1:93~108頁
【非特許文献13】Crouch E.ら(2006) J Biol Chem 281:18008~14頁
【非特許文献14】White Mら、J Immunol (2008) 181:7936~43頁
【非特許文献15】Yamoze Mら、J Biol Chem (2008) 283:35878~35888頁
【非特許文献16】Zhang Lら、J Biol Chem (2001) 276:19214~19219頁
【非特許文献17】White M.ら、(2008) J. Immunol 181:7937~7942頁
【非特許文献18】Greene KEら(1999). Am J Respir Crit Care Med 160:1843~1850頁
【非特許文献19】Wright JR. (2005) Nat Rev Immunol 2005年; 5: 58~68頁
【非特許文献20】Kingma PSら(2006) Curr Opin Pharmacol 6:277~283頁
【非特許文献21】LeVine AMら(2004) Am J Respir Cell Mol Biol 31:193~199頁
【非特許文献22】Ikegami Mら(2006) Am J Respir Crit Care Med 173:1342~1347頁
【非特許文献23】Hartshorn KLら(1998). Am J Physiol 274:L958~969頁
【非特許文献24】LeVine AMら(2001) J Immunol 167:5868~5873頁
【非特許文献25】「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」、Lippincott Williams & Wilkins; 第20版(2003年6月1日)
【非特許文献26】「Remington's Pharmaceutical Sciences」、Mack Pub. Co.; 第18版及び第19版(それぞれ、1985年12月及び1990年6月)
【非特許文献27】Pandolfi, L.ら(2020) BMC Pulm Med 20: 301
【非特許文献28】Sorensen, G. L.ら(2007) Immunobiology 212:381~416頁
【非特許文献29】Hermans Cら(1999). Am J Respir Crit Care Med 159:646~678頁
【非特許文献30】Honda Yら(1995) Am J Respir Crit Care Med 152:1860~1866頁
【非特許文献31】Arroyo, R.ら(2018) J Mol Biol 430:1495~1509頁
【非特許文献32】Reed LJら(1938) American Journal of Epidemiology 27:493~497頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
COVID-19は、2019年12月に中国の湖北省の省都である武漢で最初に確認された。それ以来、世界中に伝播し、コロナウイルスのパンデミックを引き起こしている。一般的な症状としては、発熱、咳及び息切れが挙げられる。他の症状としては、疲労、筋肉痛、下痢、咽頭痛、嗅覚消失及び腹痛を挙げることができる。大多数の患者が軽症に終わる一方で、一部の症例は、ウイルス性肺炎及び多臓器不全にまで進行する。患者は、支持療法で管理される。支持療法としては、輸液療法、酸素サポート及び他の影響を受けた重要な器官のサポートを挙げることができる。COVID-19及び関連ウイルス性障害の治療が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
方法及び組成物の一部の実施形態は、対象においてウイルス感染症を治療する又は寛解させる方法であって、有効量の組換えヒト肺サーファクタントタンパク質D(rhSP-D)又はその活性断片を対象に投与する工程を含む、方法を含む。
【0009】
一部の実施形態において、ウイルス感染症は呼吸器感染症を含む。
【0010】
一部の実施形態において、ウイルス感染症はコロナウイルスを含む。一部の実施形態において、ウイルス感染症は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)並びに中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)、HCoV-229E、HCoV-NL63、HCoV-OC43及びHCoV-HKU1からなる群から選択されるウイルスを含む。一部の実施形態において、ウイルス感染症はSARS-CoV-2を含む。
【0011】
一部の実施形態において、SARS-CoV-2はS1タンパク質バリアントを含む。一部の実施形態において、S1タンパク質バリアントは、N501Y、D614G、HV69-70del、K417N及びE484Kから選択される変異を含む。一部の実施形態において、S1タンパク質は、K417N及びE484Kから選択される変異を欠いている。
【0012】
一部の実施形態において、投与は、rhSP-D又はその活性断片を含む医薬組成物を投与することを含む。
【0013】
一部の実施形態において、医薬組成物は緩衝剤、糖及びカルシウム塩を含む。
【0014】
一部の実施形態において、緩衝剤は酢酸塩、クエン酸塩、グルタミン酸塩、ヒスチジン、コハク酸塩及びリン酸塩からなる群から選択される。一部の実施形態において、緩衝剤はヒスチジンである。
【0015】
一部の実施形態において、ヒスチジンの濃度は約1mM~約10mMである。
【0016】
一部の実施形態において、糖は、スクロース、マルトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、アラビノース、キシロース、リボース、ラムノース、トレハロース、ソルボース、メレジトース、ラフィノース、チオグルコース、チオマンノース、チオフルクトース、オクタ-O-アセチル-チオトレハロース、チオスクロース及びチオマルトースからなる群から選択される。一部の実施形態において、糖はラクトースである。
【0017】
一部の実施形態において、ラクトースの濃度は200mM~300mMである。一部の実施形態において、ラクトースの濃度は約265mMである。
【0018】
一部の実施形態において、カルシウム塩は、塩化カルシウム、臭化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム及びクエン酸カルシウムからなる群から選択される。一部の実施形態において、カルシウム塩は塩化カルシウムである。
【0019】
一部の実施形態において、塩化カルシウムの濃度は約1mM~約10mMである。一部の実施形態において、塩化カルシウムの濃度は約5mMである。
【0020】
一部の実施形態において、医薬組成物は約5.0~約7.0のpHを有する。一部の実施形態において、医薬組成物は約6.0のpHを有する。
【0021】
一部の実施形態において、rhSP-Dの濃度は約0.1mg/ml~約10mg/mlである。
【0022】
一部の実施形態において、医薬組成物は、オリゴマー形態を有するrhSP-Dポリペプチドの集団を含み、オリゴマー形態の30%超がrhSP-Dの十二量体を含む。一部の実施形態において、オリゴマー形態の35%超がrhSP-Dの十二量体を含む。一部の実施形態において、オリゴマー形態の40%超がrhSP-Dの十二量体を含む。
【0023】
一部の実施形態において、医薬組成物は増量剤を含む。一部の実施形態において、増量剤は、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、グリセロール、エリトリトール、アラビトール、グリシン、アラニン、トレオニン、バリン及びフェニルアラニンからなる群から選択される。
【0024】
一部の実施形態において、医薬組成物はキレート化剤を欠いている。一部の実施形態において、キレート化剤はEDTA及びEGTAから選択される。
【0025】
一部の実施形態において、rhSP-Dは、配列番号02のアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0026】
一部の実施形態において、対象は哺乳動物である。一部の実施形態において、対象はヒトである。
【0027】
方法及び組成物の一部の実施形態は、対象におけるウイルス感染症の治療又は寛解における使用のための医薬組成物であって、組換えヒト肺サーファクタントタンパク質D(rhSP-D)又はその活性断片を含む、医薬組成物を含む。
【0028】
一部の実施形態において、ウイルス感染症は呼吸器感染症を含む。
【0029】
一部の実施形態において、ウイルス感染症はコロナウイルスを含む。一部の実施形態において、ウイルス感染症は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)並びに中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)、HCoV-229E、HCoV-NL63、HCoV-OC43及びHCoV-HKU1からなる群から選択されるウイルスを含む。一部の実施形態において、ウイルス感染症はSARS-CoV-2を含む。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1A】固定化SP-DとSARS-CoV-2のスパイクタンパク質のS1サブユニット(S1タンパク質)との結合を検出するためのELISAアッセイを示す概略図である。
図1B】カルシウム(calcium)、EDTA又はマルトース(Maltose)の存在下での固定化SP-Dの第1の試料についての、固定化SP-DとS1タンパク質との結合のアッセイにおける、S1タンパク質の濃度(S-protein conc)の増加に伴う吸光度(Absorbance)の線グラフである。プレートは、5μg/mL SP-Dを使用してコーティングされた。
図1C】カルシウム、EDTA又はマルトースの存在下での固定化SP-Dの第2の試料についての、固定化SP-DとS1タンパク質との結合のアッセイにおける、S1タンパク質の濃度の増加に伴う吸光度の線グラフである。プレートは、5μg/mL SP-Dを使用してコーティングされた。
図1D】カルシウム、EDTA又はマルトースの存在下での固定化SP-Dの第1の試料についての、固定化SP-DとS1タンパク質との結合のアッセイにおける、S1タンパク質の濃度の増加に伴う吸光度の線グラフである。プレートは、2μg/mL SP-Dを使用してコーティングされた。
図1E】カルシウム、EDTA又はマルトースの存在下での固定化SP-Dの第2の試料についての、固定化SP-DとS1タンパク質との結合のアッセイにおける、S1タンパク質の濃度の増加に伴う吸光度の線グラフである。プレートは、2μg/mL SP-Dを使用してコーティングされた。
図2A】SP-Dと固定化S1タンパク質との結合を検出するためのELISAアッセイを示す概略図である。
図2B】カルシウム又はEDTAの存在下での固定化SP-Dの第1の試料についての、SP-Dと固定化S1タンパク質との結合のアッセイにおける、SP-Dの濃度の増加に伴う吸光度のグラフである。
図2C】カルシウム又はEDTAの存在下での固定化SP-Dの第2の試料についての、SP-Dと固定化S1タンパク質との結合のアッセイにおける、SP-Dの濃度の増加に伴う吸光度のグラフである。
図3】COVID-19患者から得られた気管支肺胞洗浄液、及び以前に文献で報告された対照対象におけるSP-D濃度を示すグラフである。エラーバーは、4分位間の比率(Q3対Q1)の1.5倍を表す。
図4A】SARS-CoV-2(武漢バリアント)の固定化S1タンパク質へのrhSP-Dの結合を測定するためのELISAにおける種々の濃度のrhSP-Dの吸光度単位を示すグラフである。
図4B】固定化rhSP-DへのSARS-CoV-2 S1タンパク質の結合を測定するためのELISAにおける種々の濃度のS1タンパク質(武漢バリアント)の吸光度単位を示すグラフである。
図4C】SARS-CoV-2の固定化S1タンパク質バリアント(武漢バリアント、英国バリアント及び南アフリカバリアント)へのrhSP-Dの結合を測定するためのELISAにおける種々の濃度のrhSP-Dの吸光度単位を示すグラフである。
図4D】単一変異(N501Y)を含むSARS-CoV-2の固定化S1タンパク質バリアントへのrhSP-Dの結合を測定するためのELISAにおける種々の濃度のrhSP-Dの吸光度単位を示すグラフである。
図4E】単一変異(D614G)を含むSARS-CoV-2の固定化S1タンパク質バリアントへのrhSP-Dの結合を測定するためのELISAにおける種々の濃度のrhSP-Dの吸光度単位を示すグラフである。
図5A】マルトースコーティングビーズの添加前にrhSP-DがS1タンパク質と予備混合される、rhSP-Dを介するS1タンパク質とマルトースコーティングビーズとの間の架橋アッセイのスキームを示す図である。
図5B】S1タンパク質の添加前にrhSP-Dがマルトースコーティングビーズと共にプレインキューベートされる、rhSP-Dを介するS1タンパク質とマルトースビーズとの間の架橋アッセイのスキームを示す図である。
図5C図5Aに示されるスキームについてのSDS-PAGEゲルを示す図である。ゲルを銀染色によって発色させて、S1タンパク質(100~140kDaとして移動)及びrhSP-D(43kDa)を検出した。
図5D図5Bに示されるスキームについてのSDS-PAGEゲルを示す図である。ゲルを銀染色によって発色させて、S1タンパク質(100~140kDaとして移動)及びrhSP-D(43kDa)を検出した。
図5E】S1タンパク質又は緩衝剤の存在下における4μgのrhSP-Dでの、予備混合アプローチ及び第1のrhSP-Dからの溶出(P)バンドの相対的デンシトメトリーを示す棒グラフである。エラーバーは、デンシトメトリー(n=2)の標準偏差を表す。
図6A】種々の濃度のrhSP-Dの存在下における固定化S1タンパク質へのACE2の結合を判定するためのELISAの結果を示す線グラフである。
図6B】種々の濃度のrhSP-Dの存在下における固定化S1タンパク質へのACE2の結合を判定するためのELISAの結果を示す棒グラフである。
図6C】種々の濃度のACE2の存在下における固定化rhSP-DへのS1タンパク質の結合を判定するためのELISAの結果を示す線グラフである。
図6D】種々の濃度のACE2の存在下における固定化rhSP-DへのS1タンパク質の結合を判定するためのELISAの結果を示す棒グラフである。
図7】種々の濃度のrhSP-DでのSARS-CoV-2のCCID50(50%細胞培養感染量)を示すグラフである。個々のデータ点は、3つの反復試験の平均を表す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書中において提供される方法及び組成物の一部の実施形態は、対象におけるウイルス感染症の治療又は寛解のための肺サーファクタントタンパク質D(SP-D)の使用に関する。一部の実施形態において、ウイルス感染症は、コロナウイルス、例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を含む。一部の実施形態は、組換えヒトSP-D(rhSP-D)を含むある特定の製剤の使用を含む。
【0032】
SP-Dは、肺において一部のウイルス、例えば、A型インフルエンザAウイルス(IAV))に対する先天的防御に関与する(Hartshorn K.L.ら(1994) J. Clin. Invest. 94:311~319頁(これは、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる))。SP-DとIAVとの多価レクチン介在性相互作用は、ウイルスの凝集、上皮感染の減少、及び貪食細胞によるIAV排除の増強をもたらす(VanEijk, M.ら、(2019) Front Immunol. 10:2476頁(これは、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる))。SP-Dは、ウイルス血球凝集素(HA)、特にHA上のマンノシル化グリカンにカルシウム依存的に結合する(Hsieh I.N.ら(2018) Front Immunol. 9:1368頁(これは、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる))。
【0033】
SARS-CoV-2を含むコロナウイルスは、S(スパイク)、E(エンベロープ)、M(膜)及びN(ヌクレオカプシド)タンパク質として公知の4つの構造タンパク質を有し、Nタンパク質はRNAゲノムを保持し、S、E及びMタンパク質は一緒になってウイルスエンベロープを作る。スパイク糖タンパク質(Sタンパク質)は、ウイルスを宿主細胞の膜に付着させて宿主細胞の膜と融合させることに関与する。宿主細胞へのコロナウイルスの侵入は、ウイルス表面から突出するホモ三量体を形成するSタンパク質によって媒介される(Walls A.C.ら(2020) Cell 181:281~292頁(これは、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる))。Sタンパク質は、宿主細胞受容体への結合に関与する機能的サブユニット(S1サブユニット)並びにウイルス及び細胞膜の融合に関与する機能的サブユニット(S2サブユニット)の2つ機能的サブユニットを含む。多くのコロナウイルスでは、Sタンパク質は、融合前コンフォメーションでは非共有結合的に結合されたままであるS1サブユニットとS2サブユニットとの境界で切断される。遠位S1サブユニットは、受容体結合ドメインを含み、融合機構を含む膜アンカーS2サブユニットの融合前状態の安定化に寄与する。
【0034】
Sタンパク質のS1サブユニットは、II型肺胞細胞(type II pneumocyte)のヒトアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体と相互作用する受容体結合ドメインを含む。ACE2受容体によるSタンパク質のウイルス認識は、宿主細胞によるウイルスの内部移行につながり、ウイルス複製をもたらす。SARS-CoV-2の新しいコピーは外部移行されて、より多くの細胞に感染し、肺におけるウイルス負荷を増加させ、炎症誘発性反応を悪化させ、細胞性及び上皮性肺損傷を拡大する。肺におけるこれらの病理的事象は、COVID-19の臨床症状:発熱、咳、息切れ、疲労、発現症状が軽度~中等度の呼吸困難のトリガーになる。重症例では、肺炎は複合ALI/ARDS、呼吸不全、敗血症性ショック、更には死まで進行する。今日に至るまで、この疾患のためのワクチンは、依然として臨床試験中である。レムデシビルは、患者の回復時間を4日短縮することによって効果を示し、デキサメタゾンは、重体患者の死亡率を33%低下させた。しかし、ウイルス及び悪化した炎症反応を特異的に標的にする、より高い有効性を有する治療が依然として必要とされている。
【0035】
ウイルス配列のある特定のアミノ酸の変異により、SARS-CoV-2の新しいバリアントが出現しており、それらの一部は、スパイクタンパク質に位置している。B.1.1.7.(いわゆる英国バリアント)、B.1.351(南アフリカバリアント)及びP.1(ブラジル)は、それらの世界中への伝播及び/又は結果として生じる臨床的疾患の重症度のため、最も懸念されるものの一部である(Tegally, H.ら(2021) Nature 592:438~443頁;及びVoloch, C. M.ら(2021) J Virol.、doi: 10.1128/jvi.00119-21)。これらのバリアントは異なる変異を内包するが、それらのうちの3つはS1タンパク質における2つの一般的な変異:N501Y及びD614Gを共有する(Liu, Y.ら、(2021)「The N501Y spike substitution enhances SARS-CoV-2 transmission」bioRxiv;及びRees-Spear, C.ら、(2021) Cell Rep 34: 108890)。バリアントのそれ以外の例は、Filipe Pereira (2021) Biochem Biophys Res Commun、550: 8~14頁に開示されており、これは参照によりその全体が組み込まれる。
【0036】
肺サーファクタントは、4つの異なる肺サーファクタントタンパク質を含む。2つの疎水性タンパク質、肺サーファクタントタンパク質B及び肺サーファクタントタンパク質Cは、空気-水界面における表面張力の低下に関与し;2つの親水性タンパク質、肺サーファクタントタンパク質A及びSP-Dは、コレクチンファミリーのメンバーであり、宿主免疫応答の調節及びサーファクタントプールの再循環に関与している。SP-Dは、C型(Ca2+依存性)レクチンであり、4つのドメイン:分子間ジスルフィド結合の形成に必要なシステイン結合N末端領域;三重らせんコラーゲン領域;α-ヘリックスコイルドコイル三量体形成ネックペプチド;及びC末端カルシウム依存性炭水化物認識ドメイン(CRD)を含む(Crouch E.ら(1994) J Biol Chem 269:17311~9頁)。モノマーは、コラーゲン領域の三重らせんへのフォールディング及びネック領域におけるαヘリックスのコロイドコイル束の集合により、三量体を形成する。これらの三量体は、システインに富むN末端ドメインの2つのジスルフィド結合によって安定化されている。SP-D三量体は、129kDaの総分子量を有し、3つの同一の43kDaポリペプチド鎖を含む。SP-D三量体は、サイズ及びコンフォメーションによって異なるより高次のオリゴマー化状態を形成できる。より高次のオリゴマー化状態は、SP-D機能に重要であり得る(Hakansson Kら、Protein Sci (2000) 9:1607~17頁; Crouch E. Respir Res (2000) 1:93~108頁; Crouch E.ら(2006) J Biol Chem 281:18008~14頁)。したがって、SP-Dの医薬組成物は、病原体の表面の炭水化物リガンドへの結合を含む最適な活性に適切なオリゴマー化状態を有するべきである(White Mら、J Immunol (2008) 181:7936~43頁)。適切なオリゴマー化状態はまた、宿主免疫応答の調節(Yamoze Mら、J Biol Chem (2008) 283:35878~35888頁)及びサーファクタント恒常性の維持(Zhang Lら、J Biol Chem (2001) 276:19214~19219頁)のための最適な受容体認識及び受容体介在性シグナル伝達に関与する。ラットSP-Dタンパク質を用いた欠失研究により、ラットのシステイン結合N末端領域が効率的なウイルス中和及びオプソニン化に関与することが実証された。White M.ら、(2008) J. Immunol 181:7937~7942頁(これは、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる)を参照のこと。
【0037】
SP-Dは、病原体上のグリコシル化リガンド、例えば、細菌におけるLPS、インフルエンザウイルスにおけるヘマグルチニン(HA)及び呼吸器合胞体ウイルスにおけるFタンパク質に結合する。結合は、オプソニン化、凝集及び微生物の直接的な死滅のトリガーになり、貪食細胞、例えば、マクロファージによる肺からの微生物の排除を促進する。SP-D十二量体及びより高次のオリゴマーは、この抗菌機能における活性及び効力の増加を示した。病原体の排除における役割に加えて、SP-Dはまた、細菌性及びウイルス性呼吸器感染症の動物モデルにおいて並びに機械的換気によって誘発された肺傷害においても、抗炎症効果を示しており;いずれの場合も、SP-Dは、炎症性サイトカイン(例えば、IL-6)のレベル、好中球の応答及びネトーシス並びに肺組織の損傷を減少させた。動物モデルでは、より高レベルの肺SP-Dと、ウイルス性、細菌性又は機械的肺傷害後の転帰の改善との関連が一貫して実証されている。同様に、ヒトでの研究でも、高レベルの肺SP-Dを有するARDS患者における死亡率がより低いことが実証されている。全長組換えhSP-Dは、哺乳動物細胞で成功裏に産生されており、ヒトネイティブSP-Dに匹敵する構造及び活性を示している。したがって、rhSP-Dは、COVID-19の新規な種類の抗ウイルス治療薬となり得るであろう。
【0038】
本明細書中に開示するのは、COVID-19におけるSP-Dの重要性及び抗ウイルス分子、例えば、COVID-19抗ウイルス治療薬としてのrhSP-Dの可能性を証拠だてる研究である。以下でより詳細に論じるように、SP-Dのレベルは、COVID-19患者では実質的に低下していることが判明した。rhSP-Dの投与は、COVID-19患者の肺において見られた低下した肺SP-Dレベルを補うであろう。加えて、SARS-CoV-2スパイク-タンパク質へのrhSP-Dの結合は、宿主細胞においてウイルス複製を阻害することが判明した。このような結合もまた、ウイルス凝集につながり、貪食細胞によるウイルスのより有効な排除をもたらすことができるであろう。
【0039】
SP-D活性の臨床的意義と一致して、ARDSに対する生存率とこの症候群の初期におけるより高レベルの肺SP-Dとの間には、正の相関が示されている(Greene KEら(1999). Am J Respir Crit Care Med 160:1843~1850頁)。本明細書中では、COVID-19患者が、非COVID-19対照患者と比較して、肺SP-Dの濃度が3~4倍低下したことが示されている(図3)。COVID-19患者における低い肺SP-Dレベルが重症のSARS-CoV-2感染症の結果であるかどうか、又はSP-Dレベルが重症のCOVID-19を発生するリスクを増加させるかどうかは、定かでなかった。ARDSを発生するリスクのある患者における以前の研究では、ARDSの発症前のBALFのより低いSP-D濃度がより悪い転帰と関連することが判明した。これは、後者の説明がより可能性があること、及び低い肺SP-Dレベルがより重症の疾患につながることを示唆している。他の併存疾患がCOVID-19患者の肺SP-Dレベルに影響を及ぼすかどうかも定かでない。したがって、COVID-19患者に外因性SP-Dを補給して、肺のSP-Dの正常及び機能レベルを再確立すると、転帰が改善される可能性があるであろう。
【0040】
病原体の認識及びグリコシル化決定基への結合は、SP-D減少又は外因性SP-D補給のインビボの動物モデルで示されるように、感染因子(例えば、ウイルス及び細菌)をオプソニン化して、肺における貪食細胞によるそれらの速い排除を促進する、最初の工程及びSP-Dの特徴的な作用である(Wright JR. (2005) Nat Rev Immunol 2005年; 5: 58~68頁;及びKingma PSら(2006) Curr Opin Pharmacol 6:277~283頁;LeVine AMら(2004) Am J Respir Cell Mol Biol 31:193~199頁;Ikegami Mら(2006) Am J Respir Crit Care Med 173:1342~1347頁;Hartshorn KLら(1998). Am J Physiol 274:L958~969頁;及びLeVine AMら(2001) J Immunol 167:5868~5873頁)。SP-Dは、以前のSARS-CoV株のSタンパク質へのカルシウム依存的結合を示しており、現在のSARS-CoV-2 Sタンパク質の高いグリコシル化が確認及びマッピングされている。これは、SARS-CoV-2 Sタンパク質がSP-Dの標的となり得ることを示唆している。本明細書中では、rhSP-Dが、オプソニン化によく似たプロセス及びインビボにおけるSP-DによるSARS-CoV-2の排除の重要な最初の工程を経て、現在のSARS-CoV-2の抗原に結合すること(図4A図4B)が実証されている。したがって、rhSP-Dは、COVID-19患者においてウイルス排除を増加させ、ウイルス負荷を低減できるであろう。
【0041】
武漢由来の最初のバリアントのスパイクタンパク質に対するSP-Dの結合親和性は、世界中に急速に広く伝播した、英国で出現したバリアント(B.1.1.7.)と非常に類似していた。しかし、南アフリカバリアント(B.1.351)由来のSタンパク質に対する結合親和性は著しく低下した。多くの要因が、ウイルスによって引き起こされる疾患の感染力及び重症度を決定する。その限界を認識しても、スパイクタンパク質へのSP-Dの結合親和性の低下が、より容易に自然免疫防御をバイパスしてウイルスにおいて翻訳される可能性がある、この新型の南アフリカバリアントで観察されるより高い病原性に影響を及ぼす要因の1つであり得ると推測したくなる。これに合致して、N501Yスパイク変異はウイルス伝染を増強する。本明細書中で開示するように、SP-Dは、N501Yスパイク変異を有するスパイクタンパク質に対する結合親和性を低下させた。
【0042】
rhSP-Dによる病原体の結合は、それらの凝集を引き起こしてクラスターを形成し、クラスター中の複数のウイルス分子は貪食細胞によって一度に除去されるため、ウイルス排除がより有効になる。凝集の重要な最初の工程は、1つより多くのウイルスを結合して、複数の病原体を連結するタンパク質架橋を形成する、SP-D(六量体、十二量体又はそれより高次の多量体)の能力によって駆動される。本明細書中で開示するように、SP-Dは、Sタンパク質間にタンパク質架橋を形成することができた(図5A図5B図5C図5D図5E)。本明細書中に開示した研究により、ウイルス凝集の最初の工程(すなわち、結合)及びその後の、rhSP-Dタンパク質架橋の形成が実証された。更に、インタクトなウイルスの表面の複数のスパイクタンパク質の存在はウイルスの凝集及び排除を更に促進する可能性がある。
【0043】
本明細書中で開示するように、rhSP-Dは、3.7μg/mLのEC90で細胞内におけるウイルス複製を阻害することによってSARS-CoV-2の生活環を阻害した(図7)。いずれか1つの理論にも拘束されることを望むものではないが、ウイルス複製のrhSP-D阻害の第1のメカニズムは、グリコシル化Sタンパク質に結合したrhSP-Dによる、Sタンパク質内の受容体結合ドメインとACE2との相互作用に対する立体的遮断を含むことができ、これは、結合SP-D分子の存在下で重要なドメインの接近しやすさを制限し得る。しかし、この効果は、単離S1タンパク質、ACE2及びrhSP-Dを用いて実験を行った場合には明らかでなかった(図6A図6B図6C図6D)。立体的遮断は、Sタンパク質及びACE2受容体のコンフォメーション及び位置がそれぞれ、ウイルスエンベロープ又は細胞膜上に拘束される場合でも観察され得る可能性がある。ウイルス複製のrhSP-D阻害の第2のメカニズムは、rhSP-Dによって、宿主細胞と相互作用するのに利用可能なウイルス分子の数を減少させることによって誘導されるSARS-CoV-2の潜在的な凝集を含み得る。第1及び第2のメカニズムは、相互排他的ではなく、互いに協力的であり得る。
【0044】
本明細書中で開示するように、COVID-19患者では、SP-Dの肺レベルが低下していた。組換えhSP-Dは、種々のウイルスバリアントに由来するSARS-CoV-2 Sタンパク質を結合し、ウイルスの複製を阻害することによってウイルスの生活環を阻害した。SP-Dは、Sタンパク質とタンパク質架橋を形成した。これは、貪食細胞による肺からのウイルス排除を増強するウイルス凝集の工程に相当するであろう。加えて、SP-Dは、いくつかのウイルス性及び細菌性感染において抗炎症及び肺保護の役割をこれまでに示している。SP-Dは、SARS-CoV-2感染症の複数の段階を標的にする新規な種類の抗ウイルス治療薬となる可能性が高い。
【0045】
本明細書中において提供される方法及び組成物の一部の実施形態は、米国特許第10975389号、米国特許第10752914号、米国特許第9492503号、米国特許第6838428号、米国特許出願公開第2021/0010988号及びWO2019/191247に開示された態様を含み、これらの特許文献はそれぞれ、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる。
【0046】
ある特定の治療方法
本明細書中において提供される組成物及び方法の一部の実施形態は、対象においてウイルス感染症を治療する又は寛解させる方法を含む。一部の実施形態において、ウイルス感染症は呼吸器ウイルス感染症を含む。一部の実施形態において、ウイルス感染症の症状が、予防、緩和及び/又は寛解される。一部の実施形態において、ウイルス感染症の症状としては、発熱、咳及び息切れが挙げられる。それ以外の症状としては、疲労、疼痛、鼻汁、咽喉痛、頭痛、下痢、嘔吐及び嗅覚又は味覚の消失が挙げられる。一部の実施形態において、医薬組成物及び/又はSP-Dの治療有効量は、ウイルス感染症の症状を予防し、緩和し及び/又は寛解させるのに十分な量である。一部の実施形態において、ウイルス感染症はコロナウイルスを含む。コロナウイルスの例としては、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)、中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)、HCoV-229E、HCoV-NL63、HCoV-OC43及びHCoV-HKU1が挙げられる。
【0047】
一部の実施形態は、対象においてウイルス感染症を治療する又は寛解させる方法であって、有効量の組換えヒト肺サーファクタントタンパク質D(rhSP-D)又はその活性断片を対象に投与する工程を含む、方法を含む。一部の実施形態において、ウイルス感染症は呼吸器感染症を含む。一部の実施形態において、ウイルス感染症はコロナウイルスを含む。一部の実施形態において、ウイルス感染症は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)及び中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)からなる群から選択されるウイルスを含む。一部の実施形態において、ウイルス感染症はSARS-CoV-2を含む。一部の実施形態において、SARS-CoV-2は野生型S1タンパク質を含む。一部の実施形態において、SARS-CoV-2は、武漢野生型若しくはバリアント;英国バリアント又は南アフリカバリアントのS1タンパク質を含む。一部の実施形態において、SARS-CoV-2はS1タンパク質バリアントを含む。一部の実施形態において、S1タンパク質バリアントは、N501Y、D614G、HV69-70del、K417N及びE484Kから選択される変異を含む。一部の実施形態において、S1タンパク質は、K417N及びE484Kから選択される変異を欠いている。
【0048】
一部の実施形態において、投与する工程は、組換えヒト肺サーファクタントタンパク質D(rhSP-D)又はその活性断片を含む医薬組成物を投与することを含む。一部の実施形態において、医薬組成物は緩衝剤、糖及びカルシウム塩を含む。
【0049】
一部の実施形態において、緩衝剤は酢酸塩、クエン酸塩、グルタミン酸塩、ヒスチジン、コハク酸塩及びリン酸塩からなる群から選択される。一部の実施形態において、緩衝剤はヒスチジンである。一部の実施形態において、ヒスチジンの濃度は約1mM~約10mMである。
【0050】
一部の実施形態において、糖は、スクロース、マルトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、アラビノース、キシロース、リボース、ラムノース、トレハロース、ソルボース、メレジトース、ラフィノース、チオグルコース、チオマンノース、チオフルクトース、オクタ-O-アセチル-チオトレハロース、チオスクロース及びチオマルトースからなる群から選択される。一部の実施形態において、糖はラクトースである。一部の実施形態において、ラクトースの濃度は200mM~300mMである。一部の実施形態において、ラクトースの濃度は約265mMである。
【0051】
一部の実施形態において、カルシウム塩は、塩化カルシウム、臭化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム及びクエン酸カルシウムからなる群から選択される。一部の実施形態において、カルシウム塩は塩化カルシウムである。一部の実施形態において、塩化カルシウムの濃度は約1mM~約10mMである。一部の実施形態において、塩化カルシウムの濃度は約5mMである。
【0052】
一部の実施形態において、医薬組成物は約5.0~約7.0のpHを有する。一部の実施形態において、医薬組成物は約6.0のpHを有する。
【0053】
一部の実施形態において、rhSP-Dの濃度は約0.1mg/ml~約10mg/mlである。
【0054】
一部の実施形態において、医薬組成物は、オリゴマー形態を有するrhSP-Dポリペプチドの集団を含み、オリゴマー形態の30%超がrhSP-Dの十二量体を含む。一部の実施形態において、オリゴマー形態の35%超がrhSP-Dの十二量体を含む。一部の実施形態において、オリゴマー形態の40%超がrhSP-Dの十二量体を含む。
【0055】
一部の実施形態において、医薬組成物は増量剤を含む。一部の実施形態において、増量剤は、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、グリセロール、エリトリトール、アラビトール、グリシン、アラニン、トレオニン、バリン及びフェニルアラニンからなる群から選択される。
【0056】
一部の実施形態において、医薬組成物はキレート化剤を欠いている。一部の実施形態において、キレート化剤はEDTA及びEGTAから選択される。
【0057】
一部の実施形態において、rhSP-Dは、配列番号02のアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0058】
一部の実施形態において、対象は哺乳動物である。一部の実施形態において、対象はヒトである。
【0059】
医薬組成物
本明細書中において提供される組成物及び方法の一部の実施形態は、組換えヒト肺サーファクタントタンパク質D(rhSP-D)又はその活性断片の医薬組成物を含む。一部の実施形態において、rhSP-D又はその活性断片は、細菌凝集アッセイ又はTLR4阻害アッセイにおいて活性を有する。一部の実施形態において、医薬組成物は水溶液、懸濁液又は固体形態であり得る。一部の実施形態において、rhSP-D又はその活性断片の医薬組成物は、凍結乾燥して固体形態にするに好適である。一部の実施形態において、固体形態、例えば、凍結乾燥物質又は粉末は、肺に投与され得、且つ/又は再構成して、肺への投与に好適なある特定の溶液を形成することができる。一部の実施形態において、rhSP-D又はその活性断片の水溶液又は懸濁液を含む医薬組成物は、肺への投与に好適である。
【0060】
rhSP-D又はその断片のある特定の活性は、細菌凝集アッセイ、Toll様受容体4(TLR4)阻害アッセイ、及び/又は非対称フローフィールドフロー分画-多角度レーザー光散乱(AF4-MALLS)分析を使用して、容易に決定できる。一部の実施形態において、rhSP-D又はその活性断片の活性は、生物活性、例えば、細菌凝集アッセイ又はTLR4阻害アッセイで測定される活性を含み得る。一部の実施形態において、rhSP-D又はその活性断片の活性は、rhSP-Dのある特定のオリゴマー形態を形成する及び/又はrhSP-Dのオリゴマー形態のある特定の分布を形成する、rhSP-D又はその活性断片の集団の活性を含み得る。試料中のrhSP-Dのオリゴマー形態の分布を特定する例示的な方法は、WO2019/191254に提供されており、これは参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる。
【0061】
一部の実施形態において、医薬組成物は緩衝剤を含み得る。緩衝剤の例としては、酢酸塩、クエン酸塩、グルタミン酸塩、ヒスチジン、コハク酸塩及びリン酸塩が挙げられる。一部の実施形態において、緩衝剤はヒスチジンである。一部の実施形態において、緩衝剤、例えば、ヒスチジンの濃度は、0.1mM、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、20mM、30mM、40mM、50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度である。一部の実施形態において、緩衝剤、例えば、ヒスチジンの濃度は、約0.1mM、約1mM、約2mM、約3mM、4mM、約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、約10mM、約20mM、約30mM、約40mM、約50mM、約60mM、約70mM、約80mM、約90mM、約100mM、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度である。
【0062】
一部の実施形態において、医薬組成物は糖を含み得る。糖の例としては、トレハロース、スクロース、マルトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、アラビノース、キシロース、リボース、ラムノース、トレハロース、ソルボース、メレジトース、ラフィノース、チオグルコース、チオマンノース、チオフルクトース、オクタ-O-アセチル-チオトレハロース、チオスクロース及びチオマルトースが挙げられる。一部の実施形態において、糖はラクトースである。一部の実施形態において、糖、例えば、ラクトースの濃度は、0.1mM、1mM、10mM、20mM、30mM、40mM、50mM、100mM、150mM、200mM、250mM、265mM、300mM、350mM、400mM、450mM、500mM、600mM、700mM、800mM、900mM、1000mM、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度である。一部の実施形態において、糖、例えば、ラクトースの濃度は、約0.1mM、約1mM、約10mM、約20mM、約30mM、約40mM、約50mM、約100mM、約150mM、約200mM、約250mM、約265mM、約300mM、約350mM、約400mM、約450mM、約500mM、約600mM、約700mM、約800mM、約900mM、約1000mM、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度である。
【0063】
一部の実施形態において、医薬組成物はカルシウム塩を含み得る。カルシウム塩の例としては、塩化カルシウム、臭化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム及びクエン酸カルシウムが挙げられる。一部の実施形態において、カルシウム塩は塩化カルシウムである。一部の実施形態において、カルシウム塩、例えば、塩化カルシウムの濃度は、0.1mM、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、20mM、30mM、40mM、50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度である。一部の実施形態において、カルシウム塩、例えば、塩化カルシウムの濃度は、約0.1mM、約1mM、約2mM、約3mM、4mM、約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、約10mM、約20mM、約30mM、約40mM、約50mM、約60mM、約70mM、約80mM、約90mM、約100mM、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度である。
【0064】
一部の実施形態において、医薬組成物は無機塩又は有機塩を含み得る。無機塩の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及び炭酸水素ナトリウムが挙げられる。有機塩の例としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム及び酢酸ナトリウムが挙げられる。一部の実施形態において、無機塩は塩化ナトリウムである。一部の実施形態において、無機塩又は有機塩、例えば、塩化ナトリウムの濃度は、0.1mM、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、20mM、30mM、40mM、50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度である。一部の実施形態において、無機塩又は有機塩、例えば、塩化ナトリウムの濃度は、約0.1mM、約1mM、約2mM、約3mM、4mM、約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、約10mM、約20mM、約30mM、約40mM、約50mM、約60mM、約70mM、約80mM、約90mM、約100mM、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度である。一部の実施形態において、医薬組成物は無機塩又は有機塩、例えば、塩化ナトリウムを欠いていてもよい。
【0065】
一部の実施形態において、医薬組成物は界面活性剤を含み得る。界面活性剤の例としては、ヘキサデカノール、チロキサポール、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、PG、パルミトイル-オレオイルホスファチジルグリセロール、パルミチン酸、トリパルミチン、ポリソルベート、例えば、ポリソルベート-20、ポリソルベート-80、ポリソルベート-21、ポリソルベート-40、ポリソルベート-60、ポリソルベート-65、ポリソルベート-81及びポリソルベート-85が挙げられる。界面活性剤のその他の例としては、ポロキサマー、例えば、ポロキサマー188、Triton、例えば、Triton X-100、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸ナトリウム、ナトリウムオクチルグリコシド、ラウリル-スルホベタイン、ミリスチル-スルホベタイン、リノレイル-スルホベタイン、ステアリル-スルホベタイン、ラウリル-サルコシン、ミリスチル-サルコシン、リノレイル-サルコシン、ステアリル-サルコシン、リノレイル-ベタイン、ミリスチル-ベタイン、セチル-ベタイン、ラウロアミドプロピル-ベタイン、コカミドプロピル-ベタイン(cocamidopropyl-)、リノールアミドプロピル-ベタイン、ミリスタミドプロピル-ベタイン、パルミドプロピル-ベタイン、イソステアラミドプロピル-ベタイン、ミリスタミドプロピル-ジメチルアミン、パルミドプロピル-ジメチルアミン、イソステアラミドプロピル-ジメチルアミン、ココイルメチルタウリンナトリウム、オレオイルメチルタウリン二ナトリウム、ポリエチレングリコール(polyethyl glycol)、ポリプロピレングリコール(polyprophyl glycol)、及びエチレンとプロピレングリコールのコポリマーが挙げられる。一部の実施形態において、界面活性剤はチロキサポールである。一部の実施形態において、界面活性剤、例えば、チロキサポールの濃度は、0.0001%(v/v)、0.0005%(v/v)、0.001%(v/v)、0.005%(v/v)、0.01%(v/v)、0.05%(v/v)、0.1%(v/v)、0.5%(v/v)、1%(v/v)、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度である。一部の実施形態において、界面活性剤、例えば、チロキサポールの濃度は、約0.0001%(v/v)、約0.0005%(v/v)、約0.001%(v/v)、約0.005%(v/v)、約0.01%(v/v)、約0.05%(v/v)、約0.1%(v/v)、約0.5%(v/v)、約1%(v/v)、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度である。一部の実施形態において、医薬組成物は界面活性剤、例えば、チロキサポールを欠いていてもよい。
【0066】
一部の実施形態において、医薬組成物は、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0のpH、又は前記値の任意の2つの間の範囲のpHを有し得る。一部の実施形態において、医薬組成物は、約4.0、約4.5、約5.0、約5.5、約6.0、約6.5、約7.0、約7.5、約8.0、約8.5、約9.0、約9.5、約10.0のpH、又は前記値の任意の2つの間の範囲のpHを有し得る。
【0067】
一部の実施形態において、医薬組成物中のタンパク質、例えば、rhSP-D又はその活性断片の濃度は、0.01mg/ml、0.05mg/ml、0.1mg/ml、0.5mg/ml、1mg/ml、2mg/ml、3mg/ml、4mg/ml、5mg/ml、6mg/ml、7mg/ml、8mg/ml、9mg/ml、10mg/ml、20mg/ml、30mg/ml、40mg/ml、50mg/ml、60mg/ml、70mg/ml、80mg/ml、90mg/ml、100mg/ml、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度であり得る。一部の実施形態において、医薬組成物中のタンパク質、例えば、rhSP-D又はその活性断片の濃度は、約0.01mg/ml、約0.05mg/ml、約0.1mg/ml、約0.5mg/ml、約1mg/ml、約2mg/ml、約3mg/ml、約4mg/ml、約5mg/ml、約6mg/ml、約7mg/ml、約8mg/ml、約9mg/ml、約10mg/ml、約20mg/ml、約30mg/ml、約40mg/ml、約50mg/ml、約60mg/ml、約70mg/ml、約80mg/ml、約90mg/ml、約100mg/ml、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度であり得る。
【0068】
一部の実施形態において、医薬組成物は増量剤を含み得る。増量剤の例としては、本明細書中に開示される糖が挙げられる。増量剤のその他の例としては、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、グリセロール、エリトリトール、アラビトール、グリセリン、グリシン、アラニン、トレオニン、バリン及びフェニルアラニンが挙げられる。一部の実施形態において、増量剤の濃度は、0.1mM、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、20mM、30mM、40mM、50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度である。一部の実施形態において、増量剤の濃度は、約0.1mM、約1mM、約2mM、約3mM、4mM、約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、約10mM、約20mM、約30mM、約40mM、約50mM、約60mM、約70mM、約80mM、約90mM、約100mM、又は前記濃度の任意の2つの間の範囲の濃度である。
【0069】
一部の実施形態において、医薬組成物はキレート化剤を含んでもよい。一部の実施形態において、医薬組成物はキレート化剤を欠いていてもよい。キレート化剤の例としては、EDTA及びEGTAが挙げられる。
【0070】
一部の実施形態において、rhSP-Dは、野生型ヒトSP-Dポリペプチドを含む。一部の実施形態において、rhSP-Dは、ヒトSP-Dポリペプチドの遺伝子多型を含む。例示的なSP-Dポリペプチド配列を、TABLE 1(表1)に示す。ヒトSP-Dのポリペプチドにおける遺伝子多型としては、残基11、ATG(Met)→ACG(Thr);残基25、AGT(Ser)→AGC(Ser);残基160、ACA(Thr)→GCA(Ala);残基270、TCT(Ser)→ACT(Thr);及び残基286、GCT(Ala)→GCC(Ala)を挙げることができ、ここで、位置は成熟SP-Dポリペプチド、例えば、配列番号02の例示的なポリペプチドにおける位置に関する。一部の実施形態において、rhSP-Dは遺伝子多型位置にある特定の残基を含み、残基は、Met11/31、Thr160/180、Ser270/290及びAla286/306から選択され、残基の位置は、成熟SP-Dポリペプチド、例えば、例示的な配列番号02における位置、及びそのリーダーポリペプチドを有するSP-Dポリペプチド、例えば、例示的な配列番号01における位置に関する。一部の実施形態において、rhSP-Dは、Met11/31を含む。一部の実施形態において、rhSP-Dは、Met11/31、Thr160/180、Ser270/290及びAla286/306を含む。一部の実施形態において、rhSP-Dポリペプチドは、配列番号02のポリペプチドと、ポリヌクレオチドの全長にわたって、少なくとも80%、90%、95%、99%及び100%、又は前記百分率のいずれかの間の範囲の任意の百分率の同一性を有する。
【0071】
【表1】
【0072】
一部の実施形態において、rhSP-Dは、組み込まれた導入遺伝子からrhSP-Dを発現するヒト骨髄性白血病細胞株に由来する。例示的な発現ベクター、rhSP-Dポリペプチド、細胞株、及びそのような細胞からrhSP-Dを精製する方法は、米国特許出願公開第2019/0071693号及び米国特許出願公開第2019/0071694号に示されており、これらの特許文献のそれぞれは、参照によりその全体が本明細書中に明示的に組み込まれる。
【0073】
一部の実施形態において、rhSP-Dポリペプチドの集団を含む医薬組成物、例えば、液剤又は懸濁剤は、rhSP-Dのオリゴマー形態のある特定の分布を有し得る。rhSP-Dの組成物は、以下:3つのモノマーを含み且つ原子間力顕微鏡法(AFM)によって可視化された場合に棒状の外観を有し得る、SDS-PAGEで約130~150kDaの質量を有する三量体;6つのモノマーを含む、SDS-PAGEで約250kDaの質量を有する六量体;AF4-MALLSによって測定された場合に約520kDaの予測質量を有し且つAFMによって可視化された場合にX状の外観を有し得る、十二量体;倍数の4個超の三量体を含み且つAFMによって可視化及び同定された場合に約70nmの半径を有する星状又は星形の外観を有し得る、より大きい不均一なオリゴマー種(このようなオリゴマーは星状オリゴマーとして公知である);並びにAFMによって可視化され且つAF4-MALLSによって測定された場合に70nm超の半径を有する、凝集物として公知の更に大きいオリゴマー種、を含む種々のrhSP-Dオリゴマー形態を含み得る。
【0074】
一部の実施形態において、rhSP-Dのオリゴマー形態の約10%超、約20%超、約30%超、約50%超、約60%超、約70%超、約80%超、約90%超、又は前記百分率の任意の2つの間の範囲の百分率は、AF4-MALLS分析において相対ピーク面積(RPA)として測定された場合に、rhSP-Dの十二量体オリゴマー形態であり得る。一部の実施形態において、rhSP-Dのオリゴマー形態の、例えば、液剤又は懸濁剤中のオリゴマー形態の質量の約10%超、約20%超、約30%超、約50%超、約60%超、約70%超、約80%超、約90%超、又は前記百分率の任意の2つの間の範囲の百分率は、rhSP-Dの十二量体オリゴマー形態であり得る。一部の実施形態において、rhSP-Dのオリゴマー形態の、例えば液剤又は懸濁剤中の分子の数の約10%超、約20%超、約30%超、約50%超、約60%超、約70%超、約80%超、約90%超、又は前記百分率の任意の2つの間の範囲の百分率は、rhSP-Dの十二量体オリゴマー形態であり得る。
【0075】
一部の実施形態において、rhSP-Dのオリゴマー形態の約0.5%未満、約1%未満、約2%未満、約3%未満、約4%未満、約5%未満、約10%未満、約20%未満、約30%未満、約50%未満、又は前記百分率の任意の2つの間の範囲の百分率は、AF4-MALLS分析においてRPA又は調整RPAとして測定された場合に、rhSP-Dの凝集オリゴマー形態であり得る。一部の実施形態において、rhSP-Dのオリゴマー形態の質量、例えば、液剤又は懸濁剤中のオリゴマー形態の質量の約0.5%未満、約1%未満、約2%未満、約3%未満、約4%未満、約5%未満、約10%未満、約20%未満、約30%未満、約50%未満、又は前記百分率の任意の2つの間の範囲の百分率はrhSP-Dの凝集オリゴマー形態であり得る。一部の実施形態において、rhSP-Dのオリゴマー形態の分子の数、例えば、液剤又は懸濁剤中のオリゴマー形態の分子の数の約0.5%未満、約1%未満、約2%未満、約3%未満、約4%未満、約5%未満、約10%未満、約20%未満、約30%未満、約50%未満、又は前記百分率の任意の2つの間の範囲の百分率は、rhSP-Dの凝集オリゴマー形態であり得る。
【0076】
一部の実施形態において、医薬組成物は、1mg/mlのrhSP-D、5mMのヒスチジン、265mMのラクトース、5mMの塩化カルシウムからなり、それらから本質的になり、又はそれらを含み、6.0のpHを有する。一部の実施形態において、医薬組成物は、1mg/mlのrhSP-D、5mMのヒスチジン、265mMのラクトース、1mMの塩化カルシウムからなり、それらから本質的になり、又はそれらを含み、6.0のpHを有する。一部の実施形態において、医薬組成物は、2mg/mlのrhSP-D、5mMのヒスチジン、265mMのラクトース、1mMのCaCl2からなり、それらから本質的になり、又はそれらを含み、6.0のpHを有する。一部の実施形態において、医薬組成物は、2mg/mlのrhSP-D、5mMのヒスチジン、265mMのラクトース、5mMの塩化カルシウムからなり、それらから本質的になり、又はそれらを含み、6.0のpHを有する。一部の実施形態において、医薬組成物は、4mg/mlのrhSP-D、5mMのヒスチジン、265mMのラクトース、5mMの塩化カルシウムからなり、それらから本質的になり、又はそれらを含み、6.0のpHを有する。
【0077】
一部の実施形態において、本明細書中において提供される医薬組成物は、好適な担体、希釈剤又は賦形剤、滅菌水、生理食塩水、グルコース等を含むことができ、所望の投与経路及び製剤に応じて、補助物質、例えば、湿潤又は乳化剤、pH緩衝剤、ゲル化又は増粘添加剤、保存剤、矯味矯臭剤、着色剤等を含有することができる。例えば、「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」、Lippincott Williams & Wilkins; 第20版(2003年6月1日)、並びに"Remington's Pharmaceutical Sciences," Mack Pub. Co.;第18版及び第19版(それぞれ、1985年12月及び1990年6月)を参照のこと。一部の実施形態において、このような製剤は、錯化剤、金属イオン、ポリマー化合物、例えば、ポリ酢酸、ポリグリコール酸、ヒドロゲル、デキストラン等、リポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、単層若しくは多重膜ベシクル、赤血球ゴースト又はスフェロプラスト(spheroblast)を含み得る。リポソーム製剤に好適な脂質としては、モノグリセリド、ジグリセリド、スルファチド、リゾレシチン、リン脂質、サポニン、胆汁酸等が挙げられる。このような追加成分の存在は、物理的状態、溶解性、安定性、インビボ放出速度及びインビボ排除速度に影響を及ぼす可能性があり、したがって、意図される用途に応じて、担体の特性が、選択された投与経路、例えば、肺送達、例えば、肺への送達、例えば、新生児の肺への送達に合わせて調整されるように、選択することができる。
【0078】
一部の実施形態において、医薬組成物は、肺へ気管内投与、気管支内投与又は気管支肺胞投与に好適である。一部の実施形態において、気管内投与、気管支内投与又は気管支肺胞投与は、医薬組成物が溶解されている生理学的に許容される組成物を流体として使用する、噴霧、洗浄、吸入、フラッシング又は設備を含むことができる。投与方法は、持続的気道陽圧(CPAP)の使用を含み得る。投与方法は、直接挿管を含み得る。一部の実施形態において、本明細書中において提供される医薬組成物は、吸入しながら肺に送達することができる。送達できる例示的な形態としては、ドライパウダー剤及びエアゾール剤が挙げられる。治療薬製品の肺送達のために設計された広範囲の医療機器を使用することができる。これらの医療機器としては、これらに限定されるものではないが、ネブライザー、定量噴霧式吸入器及び粉末吸入器が挙げられ、これらは全て、当業者によく知られている。これらの機器は、医薬組成物の計量分配に好適な製剤を使用する。典型的には、各製剤は、使用される機器の種類に特異的であり、治療薬において有用な希釈剤、補助剤及び/又は担体に加えて、適切な噴射材料の使用を含むことができる。
【0079】
キット
本明細書中において提供される一部の実施形態は、キットを含む。一部の実施形態において、キットは、本明細書中において提供される医薬組成物を含むことができる。一部の実施形態は、本明細書中において提供される医薬組成物を含む滅菌容器を含む。一部の実施形態は、凍結乾燥形態の及び滅菌再構成溶液中の、本明細書中において提供される医薬組成物を含む。一部の実施形態において、キットは、本明細書中において提供される医薬組成物を投与するための装置、例えば、吸入器及びネブライザーを含むことができる。
【実施例
【0080】
(実施例1)
インビトロでの、固定化rhSP-DへのSタンパク質の結合
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のS1サブユニット(S1タンパク質)への固定化組換えヒトSP-D(rhSP-D)の結合を判定するための、ELISAに基づく結合アッセイを開発した。SP-D結合活性はカルシウムの存在によって増強され、SP-Dはマルトースを結合する。アッセイは、カルシウムの存在下、カルシウムキレート化剤、EDTAの存在下、又はマルトースの存在下で行った。図1Aは、アッセイの概略図を示す。
【0081】
組換えS1タンパク質は、HEK293細胞において作製されたものであり、C末端にマウスFc IgGタグを有する(SinoBiologicals社、#40591-V05H1)。rhSP-Dの第1の試料をヒト骨髄性白血病細胞から作製し、rhSP-Dの第2の試料をCHO細胞から得た。マイクロタイタープレートのウェルに、炭酸塩-炭酸水素塩コーティング緩衝剤(50mM NaHCO3-Na2CO3(pH9.6))中5μg/mL又は2μg/mLのrhSP-Dの懸濁液200μLをコーティングした。プレートを4℃で一晩インキュベートした。プレートは、インキュベーション間で5回洗浄し、この時点からの全ての洗浄及び希釈は、希釈緩衝剤: 0.05% TBS-tween、5mM CaCl2(TBSは、50mM Tris(pH7.4)、150mM NaClである)で行った。洗浄は、200μL/ウェルの洗浄用緩衝剤を添加することによって行い、続いてウェルを吸引し、このプロセスを5回繰り返した。プレートを洗浄後、ウェルを室温で1時間にわたって希釈用緩衝剤中2%ウシ血清アルブミン(BSA)(200μL/ウェル)で遮断して、ウェルのコーティングされていない領域へのrhSP-Dの非特異的結合を回避した。プレートを洗浄し、連続希釈(1:2)されたSARS-CoV-2のSタンパク質(10μg/mL~9.8ng/mL)の試料をウェルに添加して、標準曲線を得た。
【0082】
結合がrhSP-Dの炭水化物認識ドメインによって媒介されたかどうかを判定するために、最終濃度200mMのマルトースを得るためにS1タンパク質試料にマルトースを添加した、S1タンパク質試料の第2のセットを調製し、それを10分間インキュベートしてから、プレートウェルに添加した。同じ目的で、この場合、カルシウム依存的結合を阻害するために希釈用緩衝剤中に5mMカルシウムの代わりに100mM EDTAを使用して、S1タンパク質試料の第3のセットを調製した。いずれの場合にも、ウェルに添加したら、S1タンパク質を室温で1時間インキュベートした。
【0083】
プレートを洗浄後、100μLの抗マウスIgG西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗体(希釈1:5000)(#7076、Cell Signaling社;Danvers、MA、USA)を混和し、室温で1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、100μLのTMB/E(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)(#TMBS010001、Surmodics社)を添加し、室温で10分間インキュベートし、反応を100μLの2N H2SO4で停止させた。プレートを450nmでの吸収について、読み取った。
【0084】
図1B及び図1Cはそれぞれ、SP-Dの第1の試料及びSP-Dの第2の試料について、5μg/mLのrhSP-Dの溶液をコーティングしたウェルの結果を要約している。図1D及び図1Eはそれぞれ、SP-Dの第1の試料及びSP-Dの第2の試料について、2μg/mLのrhSP-Dの溶液をコーティングしたウェルの結果を要約している。S1タンパク質は、カルシウムの存在下でSP-Dに結合した。結合は、EDTA又はマルトースの存在によって阻害された。したがって、S1タンパク質はカルシウム依存的にSP-Dに結合し、この結合は競合物質であるマルトースによって阻害された。
【0085】
(実施例2)
インビトロでの、固定化Sタンパク質へのrhSP-Dの結合
固定化された、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のS1サブユニット(S1タンパク質)へのrhSP-Dの結合を判定するための、ELISAに基づく結合アッセイを開発した。アッセイは、カルシウムの存在下、又はカルシウムキレート化剤、EDTAの存在下で行った。図2Aは、アッセイの概略図を示す。
【0086】
組換えS1タンパク質は、HEK293細胞において作製されたものであり、C末端にマウスFc IgGタグを有する(SinoBiologicals社、#40591-V05H1)。rhSP-Dの第1の試料をヒト骨髄性白血病細胞から作製し、rhSP-Dの第2の試料をCHO細胞から得た。マイクロタイタープレートのウェルに、炭酸塩-炭酸水素塩コーティング緩衝剤(50mM NaHCO3-Na2CO3(pH9.6))中2.5μg/mLのS1タンパク質の懸濁液200μLをコーティングした。プレートを4℃で一晩インキュベートした。プレートは、インキュベーション間で5回洗浄し、この時点からの全ての洗浄及び希釈は、希釈緩衝剤:0.05% TBS-tween、5mM CaCl2で行った。洗浄は、200μL/ウェルの洗浄用緩衝剤を添加することによって行い、続いてウェルを吸引し、このプロセスを5回繰り返した。プレートを洗浄後、ウェルを室温で1時間にわたって希釈用緩衝剤中2% BSA(200μL/ウェル)で遮断して、ウェルのコーティングされていない領域へのrhSP-Dの非特異的結合を回避した。プレートを、記載したようにして洗浄し、連続希釈(1:2)rhSP-D(5μg/mL~4.9ng/mL)の試料をウェルに添加して、標準曲線を得た。
【0087】
結合がrhSP-Dの炭水化物認識ドメインによって媒介されたかどうか判定するためにrhSP-Dのカルシウム依存性結合を阻害するために希釈用緩衝剤中に5mMカルシウムの代わりに100mM EDTAを使用して、rhSP-D試料の第2セットを調製した。いずれの場合にも、ウェルに添加したら、rhSP-Dを室温で1時間インキュベートした。プレートを洗浄後、50μLのウサギ抗SP-D抗体(希釈1:5000)を混和し、室温で1時間インキュベートした。
【0088】
プレートを洗浄し、100μLの抗ウサギIgG西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗体(希釈1:7500)(#7074、Cell Signaling社;Danvers、MA、USA)を混和し、室温で1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、100μLのTMB/E(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)(#TMBS010001、Surmodics社)を添加し、室温で5分間インキュベートし、反応を100μLの2N H2SO4で停止させた。プレートを450nmでの吸収について、読み取った。
【0089】
図2B及び図2Cはそれぞれ、SP-Dの第1の試料及びSP-Dの第2の試料について、S1タンパク質をコーティングしたウェルの結果を要約している。S1タンパク質は、カルシウムの存在下でSP-Dに結合した。結合は、EDTAの存在によって阻害された。したがって、S1タンパク質は、カルシウム依存的にSP-Dに結合した。
【0090】
(実施例3)
COVID-19患者における肺SP-D濃度
本実施例は、COVID-19患者の気管支肺胞洗浄液中のSP-Dレベルの決定を示す。気管支鏡検査及び気管支肺胞洗浄液(BALF)は、Pandolfi, L.ら(2020) BMC Pulm Med 20: 301に記載されたようにして得た。簡潔には、気管支鏡検査は、鎮静させ、麻痺させ且つ機械的換気している、PCR検査によってCOVID-19が確認された患者(n=12)において行った。20mLの滅菌生理食塩水を5~6回大量瞬時投与(bolus)後にBALFアリコートを収集した。最初の20mLは廃棄した。懸濁液を400gで10分間遠心分離し、上清を0.2% SDSで、0.1% Tween 20で、続いて65℃、15分間で不活性化した。得られたBALFは、分析まで-20°Cで保存した。BALF中のSP-Dレベルは、ELISA手順によってヒト抗SP-D抗体(Biovendor社)を使用して数量化した。BALFは、Ethic Committee of Ospedale Luigi Saccoによる承認(実験番号2020/ST/145)後に収集した。気管支肺胞洗浄液試料は、年齢、特徴、併存疾患が異なるCOVID-19患者から収集した。これをTABLE 2(表2)に示す。30超の肥満度指数(BMI)を、肥満と考えた。以下:喫煙、心血管疾患(CV)、呼吸器疾患、免疫抑制、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)、I型及びII型糖尿病I並びにがん、を含む併存疾患がスクリーニングされた。
【0091】
【表2】
【0092】
急性肺傷害を示すいくつかの呼吸器疾患の気管支肺胞洗浄液において、SP-Dレベルの低下が認められた(Sorensen, G. L.ら(2007) Immunobiology 212:381~416頁)。COVID-19患者におけるSP-Dの肺レベルは、濃度の中央値が68.9ng/mL(平均値=244.8ng/mL、n=12)であることがわかった(図3)。これを、以前に900~1300ng/mLと報告された非COVID-19健常対照対象におけるBALF SP-Dレベル、生存早期ARDS患者におけるBALF SP-Dレベル(940ng/ml)及非生存早期ARDS患者におけるBALF SP-Dレベル(406ng/ml)と比較した(Hermans Cら(1999). Am J Respir Crit Care Med 159:646~678頁;及びHonda Yら(1995) Am J Respir Crit Care Med 152:1860~1866頁)。したがって、COVID-19患者は、健常対象及びARDS患者に関して文献において報告されたレベルと比較した場合、肺SP-Dレベルが低下していることがわかった。
【0093】
(実施例4)
組換えhSP-DはSARS-CoV-2のSタンパク質に結合する
上に挙げた実施例1~2に記載されたのと実質的に同様な結合実験を行った。全長組換えヒトrhSP-Dを、Glycotope-GmbH社において開発されたヒト細胞株GlycoExpress(登録商標)(GEX)において作製した。rhSP-Dバリアントは、Met11、Thr160、Ser260であった。rhSP-Dの精製方法は他で記載されている(Ikegami, M.ら(2006) Am J Respir Crit Care Med 173:1342~1347頁;及びArroyo, R.ら(2018) J Mol Biol 430:1495~1509頁)。組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク質バリアント(S1サブユニット)及び組換えヒトACE2タンパク質は、HEK293細胞で発現され、SinoBiologicals社(#40591-V08H、#40591-V05H1、#10108-H05H、#40591-V08H3、#40591-V08H10)、Acro Biosystems社(#S1N-C52H3、#S1N-C52Hk、#S1NN-C52Hg)、The NativeAntigen Company社(#REC31806-100-HRP)及びBiomart Creative社(#ACE2-736H)から購入した。
【0094】
簡潔には、マイクロタイタープレートにS1スパイクタンパク質バリアント(0.4μg、200μL/ウェル中)がコーティングされる、第1のELISAアッセイを開発した。洗浄及び希釈は、0.05% TBS-tween、5mM CaCl2を用いて行った。ウェルを2% BSAで遮断し、連続希釈rhSP-D(10μg/mL~9.8ng/mL)をウェルに添加した。結合rhSP-Dを、マウス抗SP-D抗体(#2D12A-88、Seven Hills Bioreagents)、続いて抗マウスIgG西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗体(#7076、Cell Signaling社)で検出した。プレートを、TMB(#TMBS010001、Surmodics社)を用いて10分間発色させ、反応を2N H2SO4で停止させた。プレートを450nmでの吸収について、読み取った。50mM EDTAを使用してカルシウム依存的結合を妨げる又は200mMマルトースをまた5mMカルシウムと共に使用してマルトースとS1タンパク質との間の結合競合を作る、非結合陰性対照を含めた。プレートへの非特異的結合に対処するために、S1タンパク質の代わりに1% BSAをウェルにコーティングした。
【0095】
S1タンパク質の代わりにrhSP-Dがウェルにコーティングされる、第2のELISAアッセイも開発した。マウスFcタグ(10μg/mL~9.8ng/mL)を有する連続希釈S1タンパク質試料をウェルに添加した。結合S1タンパク質を、同じ抗マウスIgG HRPコンジュゲート抗体で検出した。全結合量及び1つの部位を考慮して、GraphPad Prism 8を用いて結合等温線の分析を行って、見かけの解離定数(kd)及び見かけの最大結合部位数(Bmax)を決定した。
【0096】
ELISAアッセイにより、rhSP-Dがリガンド(Kd=1.65)である場合(図4A)又はS1タンパク質がリガンド(Kd=2.02)である場合(図4B)には、rhSP-Dが、同様な見かけの解離定数を有する、SARS-CoV-2の最初に同定されたバリアント(武漢バリアント)に由来するスパイクタンパク質のサブユニットS1を認識し、それに結合することが示された。見かけの最大結合部位数は、rhSP-Dがリガンドである場合、S1タンパク質(Bmax=0.81、図4B)と比較して高かった(Bmax=1.35、図4A)。これは、rhSP-Dのより高次のオリゴマー形態(十二量体及び多量体)がrhSP-Dの結合部位である三量体炭水化物認識ドメイン(CRD)をいくつか有するのに対して、S1タンパク質はrhSP-Dの結合部位を1つしか有さないためであると予想された。S1タンパク質へのrhSP-Dの結合は、EDTAによって阻害された。このことはそれがカルシウム依存的であることを裏付けている。マルトースもrhSP-DのCRDにカルシウム依存的に結合するが、マルトースによる結合競合がSタンパク質へのrhSP-Dの結合を抑止した。カルシウムの存在下におけるS1タンパク質へのrhSP-Dの結合は、EDTA又はマルトースとの結合とは有意に異なっていた(p<0.0001)。これは、rhSP-DのCRDがSARS-CoV-2のS1タンパク質について記載されている炭水化物への結合を媒介することを強く示唆している。
【0097】
英国B.1.1.7.バリアント(HV69-70、N501Y、D614G)又は南アフリカB.1.351バリアント(K417N、E484K、N504Y、D614G)において同定された変異を有するS1タンパク質へのrhSP-Dの結合を試験した。rhSP-Dは、試験されたバリアント全てに結合した(図4C)。英国バリアントに由来するS1タンパク質に結合するrhSP-Dは、武漢バリアントと同様であったが、結合は、南アフリカS1タンパク質バリアントでは有意に減少していた。具体的には、南アフリカバリアントへの結合は、武漢バリアント(p=0.0002)及び英国バリアント(p=0.007)と比較して有意に減少しており、武漢バリアント及び英国バリアントを比較した場合には有意差は観察されなかった(p>0.99)(Friedman検定とDunnの事後検定)。
【0098】
新しいバリアントで見られるS1タンパク質の2つの一般的な変異であるN501Y及びD614GのrhSP-D結合についての有意性を、個別に扱った。変異N501Yは、武漢の最初のバリアントと比較した場合にrhSP-D結合を減少させ(図4D)、他方、D614Gは、武漢バリアントと比較した場合にスパイクタンパク質へのrhSP-Dの結合においてほとんど影響を及ぼさなかった(図4E)。武漢由来のS1タンパク質バリアントへのrhSP-Dの結合を、単一変異N501Yを有するS1タンパク質(p=0.04)又は単一変異D614G(D)を有するS1タンパク質(p=0.05)と比較した(t検定)。
【0099】
以下の実験は、武漢バリアント由来のS1タンパク質を使用して行った。
【0100】
(実施例5)
rhSP-DはSARS-CoV-2のSタンパク質とタンパク質架橋を形成する
rhSP-DがSARS-CoV-2を凝集させることができるかどうかを判定するために、Sタンパク質を第2の分子(マルトースコーティングビーズ)に連結させる、rhSP-Dの能力について調べた。タンパク質架橋(凝集)アッセイを行った。これには、予備混合アプローチ(図5A)及び第1のrhSP-Dアプローチ(図5B)が含まれた。
【0101】
予備混合アプローチ(図5A)では、rhSP-D(2μg又は4μg)とS1タンパク質(2μg;武漢バリアント)を予備混合し、rhSP-DによるS1-タンパク質の結合及び凝集に有利に働くように2時間インキュベートした。次いで、混合物をビーズに添加した。室温で30分間のインキュベーション後、ビーズを遠心分離して、上清(S1)を保存した。次いで、ビーズを、前述のようにして洗浄及び溶離し、溶出画分(P)を分析用に保存した。
【0102】
第1のrhSP-Dアプローチ(図5B)では、rhSP-D(2μg又は4μg)を、50μLのTBS(150mM NaCl、20mM Tris(pH7.4))-10mM CaCl2緩衝剤中でマルトースコーティングアガロースビーズと共に室温で30分間インキュベートした。過剰の未結合rhSP-Dを含む上清(S1)を遠心分離によって分離し、保存した。ビーズをTBS-CaCl2で洗浄した。次いで、2μgのS1タンパク質又は緩衝剤(陰性対照)をビーズに添加し、最終容量を、TBS-CaCl2で又は非結合対照では20mM TBS-EDTAで50μLに調整した。室温で2時間のインキュベーション後、ビーズを遠心分離して、上清(S2)を保存した。ビーズ(ペレット)を適切な緩衝剤で洗浄し、続いて、結合rhSP-DをTBS-EDTA 20mMで溶離した。ペレットからの溶出画分(P)を分析用に保存した。
【0103】
両方法において、画分(S1、S2及びP)中のrhSP-D及びS1タンパク質の存在を、SDS-PAGEによって還元条件下で判定し、銀染色によって発色させた。4μgのrhSP-Dを含む試料からのrhSP-Dバンドの強度を、ImageJソフトフェアを用いてデンシトメトリーによって二重反復で数量化した。緩衝剤対照中、5mMカルシウムにおける「S1」バンドの強度を100%と考えて、ペレット画分(P)におけるrhSP-Dバンドの相対強度を計算した。ゲルのデンシトメトリーは、2回行った。
【0104】
結果から、rhSP-Dが武漢バリアントのS1タンパク質(図5C中の「P」:レーン4及び8;図5D中の「P」:レーン9)及びマルトースコーティングビーズとタンパク質架橋を形成することが実証された。rhSP-Dによるタンパク質架橋の形成は、EDTAの存在下で阻害され、したがって、カルシウム依存的であった(図5C:レーン10;図5D:レーン12)。画分「S2」のみがS1タンパク質の存在下でrhSP-Dを含んでいたので、この第2のアッセイにおいてSタンパク質とrhSP-Dとの結合も確認された(図5D、レーン2対レーン8)。あらかじめマルトースコーティングビーズに結合されているrhSP-DへのS1タンパク質の添加は、そのrhSP-Dの一部がシフトし、Sタンパク質に優先的に結合することを示した(「S2」画分で観察された)。rhSP-Dが複数のSタンパク質及びrhSP-D分子の凝集体を形成できるかどうかを判定するために、予備混合アプローチ及び第1のrhSP-Dアプローチを比較した。予備混合アプローチ(図5A)は、複数のSタンパク質及びrhSP-D分子からの、より高次のSタンパク質とrhSP-Dとの凝集体の形成を可能にするはずである。それに対して、最初にrhSP-Dをマルトースビーズに結合させ、続いて未結合rhSP-Dを除去し、次いでSタンパク質に結合すると、Sタンパク質及びマルトースに結合したrhSP-Dの単一単位に限定されるはずである(図5B)。予備混合アプローチにおける溶出(「P」)画分のrhSP-Dバンドの強度は、第1のSP-Dアプローチにおけるそれらの各バンドよりも強く(図5E)、これは、より高次の凝集体の形成と一致していた。総括すると、これらのデータは、rhSP-Dによって促進されるタンパク質架橋の存在を実証し、rhSP-Dによって駆動されるSARS-CoV-2の凝集を示唆した。
【0105】
(実施例6)
ACE2受容体の存在下におけるSタンパク質とrhSP-Dとの結合
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質は、上皮細胞のACE2受容体と相互作用する。rhSP-Dの存在下におけるS1タンパク質(武漢バリアント)へのACE2の結合について調べた。プレートに、精製S1タンパク質(武漢バリアント)をコーティングした。TBS-Ca 5mM中rhSP-D(0.1~1μg/mL)又は緩衝剤(陰性対照)をウェルに添加し、2時間インキュベートした。洗浄を行わずに、ヒトACE2タンパク質(0.186~1.5μg/mL)を、それぞれのrhSP-D濃度のウェルに添加し、ACE2の代わりにTBS緩衝剤を含む対照も含めた。30分間のインキュベーション後、結合ACE2-mFcを、抗マウスIgG HRPコンジュゲート抗体を用いて検出した(図6A図B)。ACE2の存在下におけるrhSP-DへのS1タンパク質の結合について調べた。プレートに、rhSP-D(5μL/mL、200μL/ウェル)をコーティングした。種々の濃度のHRPタグ付けS1タンパク質又は緩衝剤(陰性対照)をウェルに添加し、2時間インキュベートした。洗浄を行わずに、Hisタグ付けヒトACE2タンパク質をウェルに添加して、S1タンパク質濃度のそれぞれにおいて3、0.375又は0.045μg/mLに到達させた。30分間のインキュベーション後、結合S1タンパク質-HRPを、TMBで直接検出し、反応を、2N H2SO4で停止させた(図6C図D)。
【0106】
rhSP-Dを含まない対照と比較した、0.5μg/mL rhSP-Dの存在下におけるS1タンパク質へのACE2の結合の減少(図6A図6B)が観察された。結果からまた、ACE2の最大濃度(3μg/mL)で結合のわずかな減少が観察されるまで、ACE2の添加はS1タンパク質へのrhSP-Dの結合を阻害しないこと(図6C図6D)が実証された。したがって、rhSP-DとACE2はS1タンパク質の異なる領域に結合し、3つの分子の同時相互作用を可能にした。
【0107】
(実施例7)
rhSP-Dは宿主細胞におけるSARS-CoV-2の複製を阻害する
宿主細胞におけるSARS-CoV-2の複製に対するrhSP-Dの効果を、ヒトCaco-2細胞におけるウイルス複製アッセイを用いてインビトロで試験した。
【0108】
ヒト上皮Caco-2細胞の単層を調製してから24時間後に、96ウェルマイクロタイタープレート中で37℃において5% CO2を用いてウイルス感染させた。増殖培地を細胞から除去し、100μg/mLから始まる8つの連続半log10希釈濃度で、rhSP-Dを三重反復で適用及び試験した。200 CCID50(50%細胞培養感染量)のSARS-CoV-2(USA/WA1/2020株)を、ウイルス感染に指定されるウェルに添加した。MOI=0.02。対照は、感染非処理(ウイルス対照)細胞及び非処理非感染(細胞対照)細胞を用いて行った。プレートを37°Cで72時間インキュベートした。試験及びウイルス力価決定のために、各感染ウェルから上清の試料を採取した(n=3反復)。あらかじめ収集したウイルス試料の滴定を、Reed LJら(1938) American Journal of Epidemiology 27:493~497頁に記載されているエンドポイント希釈によって行った。ウイルスの連続10倍希釈液を作り、Vero 76細胞の新鮮な細胞単層を含有するウェルに蒔いた。プレートをインキュベートし、明瞭な細胞変性効果を観察後のウイルスの存在又は非存在について、細胞をスコア化し、Reedらの方法を使用してCCID50を計算した。90%(1 log10)有効濃度(EC90)を計算した。rhSP-Dの細胞毒性を、更なるプレートウェルにおいて、生細胞に浸透して生存細胞の数量化を可能にするニュートラルレッド色素を使用することによって評価した。細胞毒性アッセイでは、赤色が強いほど、ウェル中に存在する生存細胞の数が多い。各ウェル中の色素含量を、分光光度計を使用して540nmの波長で数量化した。
【0109】
rhSP-Dは用量依存的にウイルス複製を阻害し、高濃度のrhSP-Dほどがウイルス複製のより大きな阻害につながった。これは、試験された種々のrhSP-D濃度で細胞上清中のウイルス力価を測定することによって観察し、CCID50(50%細胞培養感染量)として報告した(図7)。ウイルス複製を90%阻害するのに必要なrhSP-Dの濃度(EC90)は3.7μg/mLであった。更に、rhSP-Dは、試験された最高rhSP-D(100μg/mL)でも、対照(非処理非感染)細胞と比較して細胞毒性を示さなかった。
【0110】
(実施例8)
rhSP-DによるSARS-CoV-2感染症の治療
SARS-CoV-2感染症がある患者に、rhSP-D、5mMヒスチジン、265mMラクトース及び5mM CaCl2を含む医薬溶液を投与する。患者は、発熱、咳、息切れ、疲労、筋肉痛、下痢、咽頭痛、嗅覚消失及び腹痛を含む症状を有する。医薬溶液を投与すると、患者におけるSARS-CoV-2感染症の1つ又は複数の症状が低減される。
【0111】
本明細書中で使用する「~を含む(comprising)」という用語は、「~を含む("including)」、「~を含有する(containing)」又は「~を特徴とする(characterized by)」と同義であり、包括的であり、又はオープンエンドであって、追加の、列挙されていない要素又は方法ステップを排除しない。
【0112】
上記の記載は、本発明のいくつかの方法及び材料を開示している。本発明は、方法及び材料の修正形態、並びに製造方法及び装置の変更形態が可能である。このような修正形態は、この開示の考察又は本明細書中に開示した本発明の実施から、当業者に明らかとなるであろう。その結果、本発明は、本明細書中に開示した具体的な実施形態を限定することは意図せず、本発明の真の範囲及び趣旨に入る全ての修正形態及び代替形態を網羅することを意図するものである。
【0113】
公表されている及び公表されていない出願、特許及び参考文献を含むがこれらに限定されない、本明細書中に引用された全ての参考資料は、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれ、それによって本明細書の一部となる。参照により組み込まれる刊行物及び特許又は特許出願が本明細書中に含まれる開示と矛盾する限りにおいて、本明細書は、このような矛盾する材料に取って代わり且つ/又は優先することを意図する。
図1A
図1B
図5A
図5B
【図
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【配列表】
2023523253000001.app
【国際調査報告】