(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-02
(54)【発明の名称】アンモニアの熱分解処理及びその処理を実行するための反応器
(51)【国際特許分類】
C01B 3/04 20060101AFI20230526BHJP
【FI】
C01B3/04 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564465
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(85)【翻訳文提出日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 US2021027983
(87)【国際公開番号】W WO2021221943
(87)【国際公開日】2021-11-04
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522155073
【氏名又は名称】ゲンセル エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】GENCELL LTD.
【住所又は居所原語表記】7 Hatnufa St. 4951025 Petah Tikva ISRAEL
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィンケルシュテイン, ゲンナディ
(72)【発明者】
【氏名】シャブンヤ, スタニスラフ
(72)【発明者】
【氏名】カリーニン, ウラジーミル
(57)【要約】
アンモニアの熱分解処理及びその処理を実施するための反応器。本発明は、アンモニアの熱分解処理に関する。本処理は、アンモニア分解触媒をその一部に収容する導管にアンモニアを通すことを含む。触媒を収容する少なくとも導管の一部の区間は、触媒がアンモニアの水素および窒素への分解を触媒することができる温度にある熱伝達媒体としての溶融鉛に浸漬されている。この処理を実施するための反応器も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアの熱分解処理方法であって、処理方法は、アンモニア分解触媒(触媒)をその一部に収容する導管にアンモニアを通すことを含み、前記触媒を収容する少なくとも前記導管の前記一部の区間が、前記触媒がアンモニアの水素および窒素への分解を触媒することができる温度にある熱伝達媒体としての溶融鉛に浸漬されている、処理方法。
【請求項2】
前記溶融鉛は、前記触媒が前記アンモニアの分解を触媒することができる前記温度よりも温度が高い高温ガスに外壁が少なくとも部分的に直接接触している容器中に存在する、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記高温ガスが、水素および/またはアンモニアであるか又は水素および/またはアンモニアを含む、ガス又はガス混合物の燃焼によって生成される燃焼ガスであるか又は燃焼ガスを含む、請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記ガス混合物は、水素および窒素を含む、請求項3に記載の処理方法。
【請求項5】
前記ガス混合物の少なくとも一部は、前記導管内の前記アンモニアの熱分解によって生成されたガス混合物が供給されていた水素燃料電池のアノード部の排気ガスである、請求項4に記載の処理方法。
【請求項6】
前記ガスは、アンモニアであるか又はアンモニアを含む、請求項4に記載の処理方法。
【請求項7】
前記高温ガスは、前記溶融鉛を収容する容器の前記外壁の少なくとも一部と、前記溶融鉛を収容する容器の少なくとも一部を完全に取り囲む熱絶縁外部ケーシングの内壁との間の間隙を通る、請求項2から6のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項8】
前記導管は、実質的にU字形の管を備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項9】
複数の導管が使用される、請求項1から8のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項10】
前記導管は、分解触媒との接触に適した温度にアンモニアを加熱するために、分解触媒を収容せず、かつ分解すべきアンモニアが通される部分を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項11】
前記アンモニアを加熱するための少なくとも前記導管の前記一部の区間は、水素および/またはアンモニアであるか又は水素および/またはアンモニアを含み、かつ前記溶融鉛を収容する容器の外壁と以前に接触していた、ガスまたはガス混合物の燃焼によって生成される高温ガスに直接接触している、請求項10に記載の処理方法。
【請求項12】
前記処理方法は、前記導管内の分解生成物を水素燃料電池のアノード部に通すことをさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項13】
前記アンモニア分解触媒は、Ru、Ni、Rh、Co、Ir、Fe、Pt、Cr、PdまたはCuのうちの1つ以上を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項14】
前記アンモニア分解触媒は、RuおよびNiの一方または両方を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項15】
前記アンモニアの熱組成物のための反応器であって、前記反応器が請求項1から14のいずれか一項に記載の処理方法を実施するのに適している、反応器。
【請求項16】
前記反応器は、水素および/またはアンモニアを含むガス又はガス混合物を燃焼させることによって高温ガスを生成するためのデバイスと、鉛を収容する容器と、その一部に前記アンモニア分解触媒を収容する少なくとも1つの導管と、前記容器内に存在する前記鉛によって囲まれている、前記触媒を収容する少なくとも前記導管の一部の区間と、前記高温ガスが通過することができる、前記容器の外壁と外部ケーシングの内壁との間の間隙が存在するように、前記鉛を収容する容器の少なくとも一部を完全に囲む熱絶縁外部ケーシングと、を備える、請求項15に記載の反応器。
【請求項17】
前記少なくとも1つの導管は、実質的にU字形の管を備える、請求項16に記載の反応器。
【請求項18】
複数の導管が存在する、請求項15および16のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項19】
少なくとも1つの導管は、それによって、前記導管に入るアンモニアガスを分解触媒と接触するのに適した温度に加熱するために、触媒を収容せず、かつ鉛を収容する容器の外壁と以前接触していた高温ガスによって加熱されることを可能とする部分を含む、請求項15から17のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項20】
前記反応器は、容器が高温ガスと接触する前に、鉛に少なくとも部分的に浸漬され、かつ前記鉛を溶融することができる少なくとも1つの加熱要素をさらに備える、請求項15から19のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項21】
前記反応器は、液体アンモニアを保持するためのタンクと、前記アンモニアを蒸発させることができる加熱要素とをさらに備える、請求項15から20のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項22】
前記反応器の出口が、水素燃料電池のアノード部の入口に接続される、請求項15から21のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項23】
前記反応器のバーナのガス入口は、水素燃料電池のアノード部の排気ガス出口に接続される、請求項15から22のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項24】
互いに接続される、水素燃料電池と、請求項15から23のいずれか一項に記載の反応器とを備える、ユニット。
【請求項25】
分解触媒の存在下でアンモニアの熱分解のための反応器のエネルギー効率を増加させる方法であって、分解反応を維持するために必要なエネルギーは高温ガスの流れによって供給され、前記高温ガスによって加熱され、続けて前記アンモニアおよび前記分解触媒を加熱する、熱伝達媒体としての溶融鉛の塊を介して、前記エネルギーは前記高温ガスから前記アンモニアおよび分解触媒に伝達され、それによって、前記アンモニアおよび前記分解触媒を加熱するために使用される前記高温ガスに含まれる前記エネルギーの量を増加させる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアの触媒熱分解処理及びその処理の実施に適した反応器に関する。アンモニア分解生成物は、例えば、水素燃料電池用の燃料として使用され得る。
【背景技術】
【0002】
エネルギーを生成する環境に最も優しい方法の1つは、例えば燃料電池における燃料としての水素の使用である。燃料電池の唯一の燃焼生成物、すなわち、水は明らかに、環境に対していかなるリスクも引き起こさない。しかしながら、この技術の主な課題は、効率的な方法で水素燃料を提供することである。少量の有用な量の水素を収容するニーズがある。そのような格納容器は、それが液体状態に達するまで水素を冷蔵するか、又はそれを5,000psiに圧縮するかのいずれかを必要とする。両方の処理は、かなりの費用を伴う。さらに、小さな水素分子は穴を通って漏れ、他の分子にとっては小さすぎる亀裂を生じさせ、それらは金属の結晶構造中に拡散し、それによってそれらを脆化させる可能性がある。したがって、水素燃料電池を使用するための主な障害は、電池を実用的にするために効率的な方法で十分な水素を貯蔵する要求にある。
【0003】
燃料として水素を使用することの欠点を克服するための1つのアプローチは、燃料電池に接続することができる別個の反応器中の水素よりも貯蔵及び輸送が容易な化合物からそれを生成することである。アンモニアはそのような化合物である。燃料として、アンモニアは、水素および炭化水素燃料を超えるいくつかの利点を有する。例えば、アンモニアは一般的な工業用化学物質であり、例えば、多くの肥料の基礎として使用される。生産者はまた、プロパンの貯蔵及び輸送と同様の方法で、それを輸送し、それを適度な圧力下でタンクに収容する。したがって、アンモニアを製造、輸送、貯蔵するための成熟した技術が既に存在する。さらに、アンモニアは吸入時にいくらかの毒性を有するが、それは容易に検出される臭気を有するので、アンモニア吸入は容易に回避され得る。また、アンモニアは発火温度650℃を有するため、容易に発火しない。アンモニアベースの電力システムの一部がその温度に達しない場合、事故でこぼれたあらゆるアンモニアは単純に消散する。
【0004】
水素は、燃料電池とは別個のデバイス内で実施される吸熱反応においてアンモニアから生成され得る。アンモニア分解反応器(アンモニアクラッカー)は、触媒反応でアンモニアを、水素と窒素に分解する。
【0005】
開示全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,055,282及び5,976,723は、分解反応器中でアンモニアを水素及び窒素に分解する方法を開示している。この方法は、窒素および水素を生成するのに有効な条件下で、アンモニアを適切な分解触媒に曝露することからなる。この場合、分解触媒は、クロム、マンガン、鉄、コバルト、およびニッケルからなるグループからの2つの元素でドープされた、ジルコニウム、チタン、およびアルミニウムの合金からなる。
【0006】
開示全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,936,363は、500~750℃でのクラッカーにおけるガス状アンモニアの接触解離に基づくアンモニアからの水素の製造方法を開示している。触媒固定床が使用され、触媒はAl2O3上のNi、RuおよびPtである。アンモニアクラッカーは、水素と窒素との混合物を燃料電池(例えば、アルカリ燃料電池(AFC))に供給する。供給された水素の一部はアンモニア分解処理に必要なエネルギーを供給するために、アンモニアクラッカー内で燃焼される。
【0007】
技術の進歩にもかかわらず、エネルギー効率が良く、アンモニアが効率的な方法で分解される処理が依然として必要とされている。
【0008】
アンモニアの触媒熱分解のための処理および反応器を設計する場合、特に、分解生成物がアルカリ燃料電池などの水素燃料電池の燃料として使用される場合に、いくつかの重要な考慮事項がある。例えば、温度が高く、圧力が低いほど、NH3の平衡分解はより効率的になる。燃料電池の保守要件によれば、圧力は大気圧に近くなければならず、したがって、このパラメータは固定されていると考えることができる。処理温度は、装置全体の保守条件に従って選択されなければならない。燃料電池が入ってくる混合物からの水素の全てを使用しない場合、(平衡状態で)最大転化率を達成しようとする必要はない。
【0009】
理想的には、2モルのアンモニアの分解が1モルの窒素および3モルの水素を提供し、すなわち、混合物の体積は2倍に増加し、体積%で測定される体積は25%のN2および75%のH2である。実際には、平衡状態での分解生成混合物の組成が理想的なものとは異なる。例えば、450℃の温度では、生成混合物の組成は、24.94325%のN2、74.82975%のH2、および0.227%のNH3であると計算され得る。以上のように、450℃でさえ、残留非分解アンモニアは0.227%であり、継続的な昇温(残留アンモニアの低下)は、放出される水素量にわずかな影響しか与えない。低濃度のアンモニアが燃料電池の動作を妨げない場合、温度レジメンの選択は、分解触媒の動力学的特性および反応器の逆充填の拡散特性と一致する。
【0010】
分解反応は触媒反応器中で実施され、その典型的な寸法は可能な限り小さくあるべきである。600℃付近の反応器温度は一般に、許容可能であると考えられる。
【0011】
アンモニアは通常、鉄ベース触媒を用いて水素と窒素から合成され、これにより、350~450℃の温度での処理を実行可能にする。逆に、アンモニア分解のために、より高い温度および他の触媒を使用することがより好ましい。文献によれば、アンモニアの分解を触媒する金属の活性は以下のように減少する:Ru>Ni>Rh>Co>Ir>Fe>Pt>Cr>Pd>Cu>Te、Se、Pb。触媒選択条件はそれらの重要性によって、以下の順序で定式化することができる。
・500~600℃までの温度で有効な活性を確保すること。
・400~450℃付近の温度で処理開始を確保すること。
・触媒担体サイズ。
・触媒活性の長期間(数年)を保証する触媒担体安定性。
・触媒の良好なアクセシビリティと価格。
【0012】
エネルギー設計パラメータを選択するための重要なパラメータは、燃料電池効率係数であり、これは、分解ガス混合物が燃料電池を通過するときに電気化学反応を受ける水素の割合によって決定される。計算が実証するように、60%未満の有効性レベルでは、分解反応器の温度を維持するのに十分よりも多い残存水素があり、熱構成の要件は比較的単純である。燃料電池の有効性が増加することにつれて、燃料電池を出るガス中のエネルギー貯蔵が減少し、これは、分解反応器の設計のためのより完全なアプローチを必要とする。アルカリ型燃料電池では、200℃に近い温度で約70%の最大効率に達する。少なくとも、燃料電池の有効性が60%よりも著しく高くない場合、設備を作ることが可能であり、その温度は、燃料電池のアノード部を出る排気ガス混合物の燃焼のみによって維持される。
【0013】
アンモニアの熱分解を実行するのに必要な熱は、液体アンモニアの蒸発、気化したアンモニアを分解反応開始温度まで加熱すること、およびアンモニアを分解することの3つの部分に分けられ得る。500℃の分解反応開始設定点を想定すると、これらの3つの部分の所要エネルギーは、約20%、20%及び60%である。アンモニア蒸発のために、低温ヒートキャリアを使用することができ、したがって、実用的な実現を比較的簡単にする。アンモニアを約500℃の分解開始温度まで加熱するためには、通常、600℃の初期温度を有するヒートキャリアが必要とされる。燃焼ガスの熱(エネルギー)の大部分は、反応器に供給されなければならず、その温度は(吸熱)分解反応によるエネルギーの消費のために、比較的狭い範囲内でしか変化しない。熱交換処理のこの設定は、高温燃焼ガスと反応器との間の熱交換ができるだけ効果的でなければならないことを意味する。過熱されている間に燃焼ガスが反応器から出る場合(すなわち、燃焼ガスから反応器への熱伝達が不完全である)、熱交換器による燃焼ガス中の残留エネルギーの回収および処理におけるその使用は不可能である。その場合、反応器の温度を維持するために、アンモニアのさらなる燃焼が必要となる。
【0014】
上記を考慮して、燃焼ガスから分解反応器へのエネルギー伝達が可能な限り効率的(完全)であるアンモニア分解反応器を利用できるようにすることが有利であろう。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、アンモニアの熱分解処理を提供する。前記処理は、アンモニア分解触媒をその一部(のみ)に収容する導管(例えば、パイプ)にアンモニアを通すことを含む。前記触媒を収容する少なくとも前記導管の前記一部の区間(および好ましくは触媒を収容する実質的に全体の部分)が、前記触媒がアンモニアの水素および窒素への前記分解を触媒することができる温度(例えば、触媒に応じて、少なくとも約600℃、少なくとも約610℃、少なくとも約620℃、または少なくとも約630℃の温度)にある熱伝達媒体としての溶融鉛に浸漬されている。
【0016】
本処理の一態様では、前記溶融鉛は、前記触媒が前記アンモニアの分解を触媒することができる前記温度よりも温度が高い高温ガスと外壁が少なくとも部分的に直接接触している容器中に存在することができる。例えば、前記高温ガスが、水素および/またはアンモニアであるか又は水素および/またはアンモニアを含む、前記ガス又はガス混合物の燃焼によって生成されるガスからなるか又はガスを含むことができ、例えば、ガス混合物は水素および窒素(および任意でアンモニア)を含む。例えば、水素および窒素を含む前記ガス混合物の少なくとも一部は、前記アンモニアの熱分解によって生成された(例えば、アンモニアの分解が行われる反応器からの)ガス混合物が供給されていた前記水素燃料電池(例えば、アルカリ型燃料電池)のアノード部の前記排気ガスであっても良い。さらに、それの燃焼による高温ガスの生成のための水素と窒素を含むガス混合物の少なくとも一部は、アンモニアの分解が行われる反応器で生成された分解ガス混合物の一部であっても良い(残りは例えば、燃料電池に供給される)。もちろん、水素含有ガス混合物の代わりに、又は水素含有ガス混合物に加えて、反応器内部で熱分解される代わりに高温燃焼ガスを提供するために、分解(水素の生成)のために割り当てられたアンモニアの一部は燃焼しても良い。
【0017】
本処理の別の態様では、前記高温ガスは、前記溶融鉛を収容する容器の前記外壁の少なくとも一部と、前記溶融鉛を収容する容器の少なくとも一部(及び好ましくは実質的に容器全体)を完全に取り囲む熱絶縁外部ケーシングの内壁との間の間隙を通ることができる。外部ケーシングに適した材料の例は、酸化カルシウムおよび二酸化ケイ素をベースとするものなどの耐火性材料、耐火性セラミック繊維またはいわゆるアルミノケイ酸のウールで構成された材料、ならびに多結晶繊維で構成された材料である。対応する材料は例えば、Allied Mineral Products(US)、Morgan Advanced Materials(EU)またはLuyang Unifrax Trading Company Limited(CN)などの広範囲の供給業者から入手可能である。
【0018】
本処理のさらに別の態様では、前記導管は、実質的にU字形の管(例えば、分解反応の条件に耐性のある鋼または任意の他の合金または金属で構成される)を含むことができる。通常、1つ以上の導管(例えば、実質的にU字形の管)、例えば、分解されるべきアンモニアが通る少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、または少なくとも6つの導管(管)が容器内に存在することが好ましい。この場合、導管は、同じであるか又は異なっていても良く、好ましくは同じであって良い。
【0019】
本処理の別の態様では、前記少なくとも1つの導管は、前記分解触媒と接触するのに適した温度(好ましくは分解反応開始温度、例えば、少なくとも約450℃、少なくとも約460℃、少なくとも約470℃、少なくとも約480℃、または少なくとも約490℃、または少なくとも約500℃の温度)にそれを加熱するために、分解触媒を収容せず、かつ分解すべきアンモニアが通される部分を含むことができる。例えば、前記アンモニアを加熱するための少なくとも前記導管の前記一部の区間は、水素および/またはアンモニアであるか又は水素および/またはアンモニアを含み、かつ前記溶融鉛を収容する前記容器の外壁と以前に接触していた、前記ガスまたはガス混合物の燃焼によって生成される高温ガスと直接接触することができる。
【0020】
本処理の別の態様では、分解反応器を出る分解生成物が燃料電池のための燃料として機能するために水素燃料電池に送られてもよい。
【0021】
本処理の別の態様では、少なくとも1つの導管内のアンモニア分解触媒がRu、Ni、Rh、Co、Ir、Fe、Pt、Cr、PdまたはCuの1つ以上、好ましくはRuおよび/またはNiを含むことができる。
【0022】
本発明はさらに、上記の本発明の処理を実施するのに適した(実施可能である)反応器を提供する。
【0023】
反応器の一態様では、前記反応器は、水素および/またはアンモニアを含むガス又はガス混合物を燃焼させることによって高温ガスを生成するためのバーナと、鉛を収容する容器と、その一部に前記アンモニア分解触媒を収容する少なくとも1つの導管と、を備えることができる。導管の触媒収容部分の少なくとも一区間(および好ましくは全体)は、容器内に存在する鉛によって囲まれても良く、熱絶縁外部ケーシング(エンクロージャ)は、高温燃焼ガスが通過することができる(しなければならない)、容器の外壁と外部ケーシングの内壁との間の間隙が存在するように、鉛を収容する容器の少なくとも一部を完全に囲んでも良い。
【0024】
その別の態様では、前記反応器は、前記容器が前記高温ガスと接触する前に、前記鉛に少なくとも部分的に浸漬され、かつ前記鉛を溶融することができる少なくとも1つの加熱要素をさらに含むことができる。
【0025】
さらに別の態様では、反応器が液体アンモニアを保持するためのタンクと、熱分解されるアンモニアを蒸発させることができる加熱要素とをさらに備えることができる。
【0026】
なおさらなる態様では、反応器の出口(例えば、導管の一端)は、水素燃料電池(例えば、アルカリ燃料電池)のアノード部の入口に接続されても良い。
【0027】
反応器の別の態様では、反応器のバーナのガス入口は、水素燃料電池(好ましくは反応器の分解生成物が供給される燃料電池)のアノード部の排気ガス出口に接続されても良い。
【0028】
また、本発明は、水素燃料電池と、上記の本発明のアンモニア分解反応器とを互いに接続してなるユニットを提供する。
【0029】
本発明はまた、アンモニアの触媒熱分解のための反応器のエネルギー効率を増加させる方法を提供する。この方法は、高温の燃焼ガスの流れによって分解反応を維持するのに必要なエネルギーを供給することを含む。それによって、前記アンモニアおよび前記分解触媒を加熱するために使用される前記高温ガスに含まれる前記エネルギーの量を増加させるために(例えば、熱を吸収および貯蔵する高い容量のため)、直接ではなく、前記高温ガスによって加熱され、かつ前記アンモニアおよび前記分解触媒を順次加熱する、熱伝達媒体としての溶融鉛の塊を介して、前記エネルギーは前記高温ガスから前記アンモニアおよび分解触媒に伝達されている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明は、本発明の例示的な実施形態の非限定的な例として、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明においてさらに説明される。図面において、
【
図1】本発明に係るアンモニア分解反応器を模式的に示す。
【
図2】本発明による反応器の実施形態の底部の概略図である。
【
図3】本発明による反応器の実施形態の上部の概略図である。
【
図4】鉛を収容する容器内の(6つの)U字管の配置を示す。
【
図5】鉛を収容する容器内の鉛を溶融するための加熱要素を示す。
【
図6】本発明による分解反応器の一実施形態の概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書に示された特定事項は、例示であり、本発明の実施形態の説明のためのみであり、本発明の原理および概念的側面の最も有用かつ容易に理解できる説明であると考えられるものを提供するという理由で提示されている。この点に関して、本発明の基本的な理解のために必要である以上に詳細に本発明の構造的詳細を示す試みはなされておらず、説明は、本発明のいくつかの形態が実際にどのように具現化され得るかを当業者に明らかにする図面と共になされる。
【0032】
図1は、本発明によるアンモニア分解反応器を概略的に示す。反応器1は、熱絶縁ケーシング2と、そのケーシング内部にアンモニア分解触媒6をその一部に収容する実質的にU字形の管5が浸漬される鉛4を収容する容器3と、を備える。アンモニアは、管5の一端に導入され、分解生成物はその他端の管から出る。反応器1は、水素および/またはアンモニア含有ガス(空気などの酸素含有ガスと組み合わされた)の燃焼のために、その底部にバーナ7(例えば、トーチの形態の)をさらに含む。高温燃焼ガスは、外部ケーシング2と容器3との間の間隙を通過し、それによって、容器3内の溶融鉛4を、管5内のアンモニアの触媒分解反応を維持するのに十分な温度に維持する。容器3と直接接触した後、高温ガスは、その一端で管5に導入された新鮮なアンモニアを、好ましくは触媒6との接触に適した温度(すなわち、少なくとも部分的に触媒に依存する分解開始温度)まで、またはそれに近い温度まで予熱するために、触媒を収容しない管5のその部分と直接接触する。その後、燃焼ガスは、ガス出口9を通って反応器1を出る。このガス中の残留熱は任意で、他の目的のために、例えば、分解されるべき液体アンモニアを蒸発させるために使用されても良い。
【0033】
図2は、本発明による反応器の実施形態の底部の概略図である。それは、
図1に関して説明した要素に加えて、バーナ7に通されるべきガス混合物のための入口8を示す。
図2はさらに、全部で6つの実質的にU字形の管5を収容する容器3を示しており、容器3の内部の配置は
図4により詳細に示されている。
図2はまた、
図5により詳細に示される、容器3内の加熱要素10(好ましくは電力)を示す。加熱要素10は、鉛を溶融する(鉛の融点は327℃である)ために、工程の最初に使用され得る(鉛は通常、ほぼ室温であり、したがって、固体である)。適切な加熱要素の温度は例えば、約500℃である。
【0034】
図3は、本発明による反応器の実施形態の上部の概略図である。それは、U字管5と、鉛への熱伝達後の高温燃焼ガスのための外部ケーシング2と出口9と、触媒と、分解されるべきアンモニアとを示す。
【0035】
図6は、本発明による分解反応器の実施形態の概略上面図である。それは、外部ケーシング2、鉛収容容器3、6つの管5の入口および出口、加熱要素10の頂部、燃焼に使用されるガスのための入口8、および熱伝達後の高温燃焼ガスのための出口9を示す。
【0036】
以下では、本発明による反応器-熱交換器を含むシステムの例示的な実施形態をより詳細に説明する。この実施形態は、以下の要素を備える。
1.反応器-熱交換器。
2.反応器-熱交換器のバーナ(トーチ)に空気を供給するためのファン。
3.蛇口付き外部トーチおよび水素及び/又はアンモニア含有ガスの燃焼用消費量測定装置。
4.水浴中のアンモニアタンク。
5.アンモニアタンクの浴槽用の電気的な水加熱要素。
6.ガス状アンモニアの消費制御コントローラ。
7.分解生成物中の水素含量を測定するための装置(例えば、カタロメーター)。
8.制御およびデータ取得用のソフトウェアを有するコンピュータ。
【0037】
反応器-熱交換器を起動する第1のステップは、鉛を融解するための電気的加熱要素を、その要素の温度を例えば約500℃に設定することによって導通状態にすることである。加熱制御は、鉛収容容器の底部および頂部の温度を感知する一対の熱電対の読取り値に従って実行される。上部熱電対の温度は加熱中の下部熱電対のそれよりも高く、これは鉛を上部から底部に溶融させ、それによって、温度の緊張を防止する。
【0038】
水素ガス及び/又はアンモニアを含むガスを燃焼させる手段による反応器の加熱に手順が向かう場合、次の手順に従う。最小消費量(例えば、14ボルト)の空気源ファンをオンにし、アンモニアタンクを開き、分解反応器への供給を0.5nm3/hの消費量でオンにし、内部バーナの点火を燃焼室内の特別の開口部を介してガストーチによって行う。点火後、開口部を閉鎖し、熱電対および分解生成物中の水素濃度のセンサの読み取りに従って、反応器のさらなる加熱を行う。
【0039】
加熱を加速するために、1.5~2nm3/hの消費率まで、徐々にアンモニアの供給を増やすことができる。反応器から出る気体中の水素濃度が30%より高い場合、0.5nm3/hの消費量増加が可能である。
反応器の試験
【0040】
反応器は、5キロワットの容量を持つ自律電源として設計された。それらの特性及び利点は以下の通りであった。
1.断熱燃焼温度(~1400℃)から約650℃までの燃焼生成物の温度の急激な低下は、触媒の動力学的特性によって決定される。その結果、全ての構造要素は650°C以下の温度で動作する。
2.より低温の触媒を使用する場合、運転温度は依然として低下させることができる。
3.液体鉛は、触媒で満たされた管の表面との集中的な熱交換を提供し、管状反応器のほぼ等温の動作モードおよび平衡に近いアンモニアの分解度を可能にする。
4.構造体の比較的低い動作温度はその寿命の拡張に寄与し、環境への熱損失を低減する。
【0041】
反応器の熱効率を評価するために、異なるアンモニア消費率で試験を行った。アンモニアの分解は、吸熱反応であるので、作動(分解)温度を維持するためにエネルギーが必要である。また、断熱による熱損失は避けられない。一定のアンモニア流量で、分解生成物の一部を反応器の燃焼室内の燃料として使用した。実験では、定常温度を維持するためにバーナに向けなければならない分解生成物の最小消費量を決定した。最小流量を決定するために、以下の方法を使用した。反応器を出る分解生成物を50℃の温度に冷却し、2つの流れに分けた。一方の流れは反応器燃焼室のバーナに送られ、他方の流れは廃棄された。燃焼室へのガス流れは、流量計を用いて測定された。この流量は、依然としてアンモニアの高分解度を提供する最小値まで低減された。試験成績は下表のとおりであり、燃焼に用いた分解生成物の割合に加えて、TPb_bott及びTPb_up=反応器の下部及び上部の鉛の温度、Tcomb=燃焼生成物の温度、TH2_N2_out=分解生成物の温度の4つの温度、及びCH2=分解生成物中の水素の体積濃度が記載されている。
【0042】
表の最初の行は、反応器を加熱するために全ての分解生成物が燃焼される「アイドル」モードを指す。アンモニアの消費量が増加するにつれて、燃料として使用される分解生成物の割合は減少した。アンモニアの最大生産性5nm
3/hで、分解費用と熱損失は流量の33%に達した。
表
【表1】
【国際調査報告】