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特表2023-523326リチウム電池正極材料を作製する代替的な方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-02
(54)【発明の名称】リチウム電池正極材料を作製する代替的な方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20230526BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230526BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230526BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022565612
(86)(22)【出願日】2021-05-05
(85)【翻訳文提出日】2022-10-26
(86)【国際出願番号】 CA2021050630
(87)【国際公開番号】W WO2021226702
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】63/024,641
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/109,831
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515256187
【氏名又は名称】ナノ ワン マテリアルズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】キャンベル,スティーブン
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050GA02
5H050GA12
5H050GA29
5H050HA02
(57)【要約】
本発明は、リチウムイオン金属酸化物を形成する方法及びリチウムイオン金属酸化物を含む電池を形成する方法に関する。この方法は、元素形態の少なくとも1つの金属をカルボキシと反応させて、金属カルボキシを形成することと、金属カルボキシを加熱して、上記リチウムイオン金属酸化物を形成することとを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン金属酸化物を形成する方法であって、
元素形態の少なくとも1つの金属をカルボキシと反応させて、金属カルボキシを形成することと、
前記金属カルボキシを加熱して、前記リチウムイオン金属酸化物を形成することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの金属は、Li、Ni、Mn、Co、Al、及びFeからなる群から選択される、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの金属は、Li、Ni、Mn、及びCoからなる群から選択される、請求項2に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項4】
前記カルボキシは、複数のカルボン酸基を含む、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項5】
前記カルボキシは、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、乳酸、オキサロ酢酸、フマル酸、及びマレイン酸からなる群から選択される、請求項4に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項6】
前記カルボキシは、シュウ酸である、請求項5に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項7】
前記カルボキシは、ヒドロキシル基を含まない、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項8】
前記リチウムイオン金属酸化物は、式I:
LiNixMnyCozEeO4 式I
(式中、Eは、ドーパントであり、
x+y+z+e=2であり、かつ、
0≦e≦0.2である)によって定義される、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項9】
前記式Iは、スピネル結晶形態で存在する、請求項8に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項10】
xもyもゼロではない、請求項8に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項11】
前記リチウムイオン金属酸化物は、LiNi0.5Mn1.5O4である、請求項10に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項12】
前記リチウムイオン金属酸化物は、式LiNixMnyO4(式中、0.5≦x≦0.6であり、かつ1.4≦y≦1.5である)によって定義される、請求項8に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項13】
0.45≦x≦0.55であり、かつ1.45≦y≦1.55である、請求項12に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項14】
前記リチウムイオン金属酸化物は、3以下のMn対Niのモル比を有する、請求項8に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項15】
前記リチウムイオン金属酸化物は、少なくとも2.33から3未満のMn対Niのモル比を有する、請求項14に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項16】
前記リチウムイオン金属酸化物は、少なくとも2.64から3未満のMn対Niのモル比を有する、請求項15に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項17】
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択される、請求項8に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項18】
前記ドーパントは、Al及びGdからなる群から選択される、請求項17に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項19】
前記リチウムイオン金属酸化物は、式II:
LiNiaMnbXcGdO2 式II
(式中、Gは、ドーパントであり、
XはCo又はAlであり、
a+b+c+d=1であり、かつ、
0≦d≦0.1である)によって定義される、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項20】
0.5≦a≦0.9である、請求項19に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項21】
0.58≦a≦0.62又は0.78≦a≦0.82である、請求項20に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項22】
前記式IIは、LiNi0.30Mn0.30Co0.30O2、LiNi0.60Mn0.20Co0.20O2、及びLiNi0.80Mn0.10Co0.10O2からなる群から選択される、請求項19に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項23】
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択される、請求項19に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項24】
前記ドーパントは、Al及びGdからなる群から選択される、請求項23に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項25】
前記加熱は、空気中である、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項26】
前記混合は、溶媒中である、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項27】
金属カルボキシは、前記溶媒を含むスラリー中に存在する、請求項26に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項28】
スラリーは、40重量%~60重量%の前記金属カルボキシを含む、請求項27に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項29】
前記スラリーから前記溶媒を除去することにより、前記加熱前に前記金属カルボキシの乾燥粉末を形成することを更に含む、請求項27に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項30】
前記溶媒の前記除去は、乾燥機における乾燥を含む、請求項29に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項31】
前記乾燥機は、噴霧乾燥機、棚式乾燥機、及び凍結乾燥機からなる群から選択される、請求項30に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項32】
電池を形成する方法であって、
リチウムイオン金属酸化物を形成することと、
これは、
元素形態の少なくとも1つの金属をカルボキシと反応させて、金属カルボキシを形成することと、
前記金属カルボキシを加熱して、前記リチウムイオン金属酸化物を形成することと、
を含む;
前記リチウムイオン金属酸化物を含む正極を形成することと、
前記正極を備える電池を形成することと、
を含む、方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つの金属は、Li、Ni、Mn、Co、Al、及びFeからなる群から選択される、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項34】
前記少なくとも1つの金属は、Li、Ni、Mn、及びCoからなる群から選択される、請求項33に記載の電池を形成する方法。
【請求項35】
前記カルボキシは、複数のカルボン酸基を含む、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項36】
前記カルボキシは、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、乳酸、オキサロ酢酸、フマル酸、及びマレイン酸からなる群から選択される、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項37】
前記カルボキシは、シュウ酸である、請求項36に記載の電池を形成する方法。
【請求項38】
前記カルボキシは、ヒドロキシル基を含まない、請求項1に記載の電池を形成する方法。
【請求項39】
前記リチウムイオン金属酸化物は、式I:
LiNixMnyCozEeO4
式I
(式中、Eは、ドーパントであり、
x+y+z+e=2であり、かつ、
0≦e≦0.2である)によって定義される、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項40】
前記式Iは、スピネル結晶形態で存在する、請求項39に記載の電池を形成する方法。
【請求項41】
xもyもゼロではない、請求項39に記載の電池を形成する方法。
【請求項42】
前記リチウムイオン金属酸化物は、LiNi0.5Mn1.5O4である、請求項41に記載の電池を形成する方法。
【請求項43】
前記リチウムイオン金属酸化物は、式LiNixMnyO4(式中、0.5≦x≦0.6であり、かつ1.4≦y≦1.5である)によって定義される、請求項39に記載の電池を形成する方法。
【請求項44】
0.45≦x≦0.55であり、かつ1.45≦y≦1.55である、請求項43に記載の電池を形成する方法。
【請求項45】
前記リチウムイオン金属酸化物は、3以下のMn対Niのモル比を有する、請求項39に記載の電池を形成する方法。
【請求項46】
前記リチウムイオン金属酸化物は、少なくとも2.33から3未満のMn対Niのモル比を有する、請求項45に記載の電池を形成する方法。
【請求項47】
前記リチウムイオン金属酸化物は、少なくとも2.64から3未満のMn対Niのモル比を有する、請求項46に記載の電池を形成する方法。
【請求項48】
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択される、請求項39に記載の電池を形成する方法。
【請求項49】
前記ドーパントは、Al及びGdからなる群から選択される、請求項48に記載の電池を形成する方法。
【請求項50】
前記リチウムイオン金属酸化物は、式II:
LiNiaMnbXcGdO2
式II
(式中、Gは、ドーパントであり、
XはCo又はAlであり、
a+b+c+d=1であり、かつ、
0≦d≦0.1である)によって定義される、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項51】
0.5≦a≦0.9である、請求項50に記載の電池を形成する方法。
【請求項52】
0.58≦a≦0.62又は0.78≦a≦0.82である、請求項51に記載の電池を形成する方法。
【請求項53】
前記式IIは、LiNi0.30Mn0.30Co0.30O2、LiNi0.60Mn0.20Co0.20O2、及びLiNi0.80Mn0.10Co0.10O2からなる群から選択される、請求項50に記載の電池を形成する方法。
【請求項54】
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択される、請求項50に記載の電池を形成する方法。
【請求項55】
前記ドーパントは、Al及びGdからなる群から選択される、請求項54に記載の電池を形成する方法。
【請求項56】
前記加熱は、空気中である、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項57】
前記混合は、溶媒中である、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項58】
金属カルボキシは、前記溶媒を含むスラリー中に存在する、請求項57に記載の電池を形成する方法。
【請求項59】
スラリーは、40重量%~60重量%の前記金属カルボキシを含む、請求項58に記載の電池を形成する方法。
【請求項60】
前記スラリーから前記溶媒を除去することにより、前記加熱前に前記金属カルボキシの乾燥粉末を形成することを更に含む、請求項58に記載の電池を形成する方法。
【請求項61】
前記溶媒の前記除去は、乾燥機における乾燥を含む、請求項60に記載の電池を形成する方法。
【請求項62】
前記乾燥機は、噴霧乾燥機、棚式乾燥機、及び凍結乾燥機からなる群から選択される、請求項61に記載の電池を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2020年12月2日に出願された係属中の米国特許出願第17/109,831号に対する優先権を主張するものであり、この出願はまた、2020年5月14日に出願された期間が満了している米国仮特許出願第63/024,641号に対する優先権を主張するものである。これら双方の出願は引用することにより本明細書の一部をなす。
【0002】
本発明は、リチウムイオン金属酸化物電池正極材料を作製する改善された方法に関する。より詳細には、本発明は、焼成されて、電池正極として使用するのに適したリチウムイオン金属酸化物を形成する前駆体を作製する改善された方法であって、前駆体を形成する方法が、中間反応物の必要性を排除し、プロセスにおいて必要とされる溶媒の量を減らす、方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム電池正極材料を製造する技術水準の方法は、原料として遷移金属炭酸塩に依存している。遷移金属炭酸塩は、典型的には、金属硫酸塩から調製されることから、費用が増し、様々な地球規模の問題によるサプライチェーンの不整合という重大なリスクがある。Ni及びMnの硫酸塩を形成するプロセスは、精製の一部として金属粉末の段階を含み、その際、金属粉末は硫酸中に再溶解されて、純粋な金属硫酸塩溶液が作られる。次に、金属硫酸塩を水和物として結晶化させる。硫酸塩からの炭酸塩の形成は、副生成物の硫酸ナトリウムを大量に取り扱わねばならないことを含む付随するリスクを伴う。
【0004】
電池用のより有望な正極材料の1つは、当該技術分野においてNMCと呼ばれるもの等の様々な比率のニッケル、マンガン、及びコバルトを含む酸化物である。NMCは一般に、化学式:
Li2-x-y-zNixMnyCozO2
(式中、x+y+z≦1である)によって表され、この式は、当該技術分野において知られるように、リチウムが移動可能であり、正極に出入りする電荷担体として機能するという理解に基づいた化学量論的バランスにおいて表される。
【0005】
リチウム金属酸化物を形成するプロセスは、金属の塩を含む粉末を形成し、続いて粉末を焼成して、結晶学的規則格子において酸化物を得ることを含む。結晶学的規則格子の単位胞は層を含み、リチウムは層の内外に移動することができる。粉末を形成する主な方法は2種類ある。従来のアプローチは、金属の塩を均質混合して、均質な混合物を形成することである。均質な混合物は、それぞれが金属塩の混合物の形成を特徴とする固体の物理的混合、共沈、ゾルゲル等を含む多くの技術によって形成され得るが、技術の選択は、所望の粒子サイズ及び均質性の程度によって部分的に決定され、これらは両者とも、利益の定量化を確認することは困難であるにしても、最終的な酸化物の特性に影響すると考えられている。金属塩を混合して、粉末、好ましくは均質な粉末を形成することに基づく技術は、別個の塩の非晶質混合物を形成することを特徴とする。
【0006】
最近では、塩の単なる混合に対する大幅な改善として最新の技術が注目されてきている。当該技術分野において錯滴定(complexometric)又は錯体胞形成(complexecelleformation)と呼ばれる最新の技術は、粉末の均質混合物の代わりに、金属塩の秩序型結晶性前駆体を形成する。錯滴定法では、入念に制御された沈殿条件に基づいて、最終的にリチウム金属酸化物に組み込まれる金属の塩を含む秩序型前駆体が沈殿する。非限定的な例としては、等割合のニッケル、マンガン、及びコバルトを含むリチウム金属酸化物を形成する前駆体は、等モル濃度のニッケル塩、マンガン塩、及びコバルト塩を含む規則格子の形で存在することとなる。理論に限定されるものではないが、粉末化された金属塩の混合物とは対照的に、金属塩の規則格子を有することにより、焼成中の金属移動がより効率的になることから、定量化が困難であることは分かっているものの、それによって酸化物の規則格子の転位をより少なくするか、結晶性不純物をより少なくするか、又は不活性相をより少なくすることができると仮定される。錯滴定法によって調製された前駆体から形成された酸化物は、電池における正極としてのそれらの特性に関して有利であることが分かっている。
【0007】
金属塩の溶解度のバランスを取って、規則格子において金属塩を沈殿させることに基づく錯滴定法は、固体状態の方法よりも有利であるものの、膨大な量の水、ひいてはプロセスの費用を必要とし、焼成前に水を除去せねばならないため、妥当な空間内で、かつ妥当な資源により達成可能な製造規模を困難にする。大量の水を除去することは、費用対効果が良いものでもなく、大規模なプロセスに資するものでもない。さらに、このプロセスは、pH制御にアンモニア又は水酸化アンモニウム等の物質を利用することから、アンモニアを除去して廃棄するか又はリサイクルしなければならないため、製造環境の複雑さが増すが、そのどちらも環境スチュワードシップ又は効果的な製造慣行に資するものではない。
【0008】
本発明は、硫酸塩及び炭酸塩の順次の形成を必要とせず、最小限の量の水を利用して達成することができる、元素金属から金属シュウ酸塩等の金属前駆体塩を調製する直接的な経路を提供する。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、リチウムイオン金属酸化物、特に、リチウムイオン電池正極材料として使用するのに適したリチウムイオン金属酸化物を形成する改善された方法に関する。
【0010】
より詳細には、本発明は、元素金属からリチウムイオン金属酸化物を形成し、それによって硫酸塩及び炭酸塩等の中間生成物を排除する改善された方法に特化している。
【0011】
本発明の特定の特徴は、リチウムイオン金属酸化物を形成するのに必要な溶媒の量を減少させることである。
【0012】
実現されるこれらの利点及び他の利点は、リチウムイオン金属酸化物を形成する方法においてもたらされる。この方法は、元素形態の少なくとも1つの金属をカルボキシ(carbox)と反応させて、金属カルボキシ(metal carbox)を形成することと、金属カルボキシを加熱して、上記リチウムイオン金属酸化物を形成することとを含む。
【0013】
別の実施の形態は、電池を形成する方法であって、
リチウムイオン金属酸化物を形成することと、
これは、
元素形態の少なくとも1つの金属をカルボキシと反応させて、金属カルボキシを形成することと、
上記金属カルボキシを加熱して、上記リチウムイオン金属酸化物を形成することと、
を含む;
リチウムイオン金属酸化物を含む正極を形成することと、
正極を備える電池を形成することと、
を含む、方法において提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、リチウムイオン金属正極材料を製造する改善されたプロセス、特に、リチウムイオン金属正極材料への前駆体を形成する改善されたプロセスに関する。より詳細には、本発明は、ニッケル塩、マンガン塩、コバルト塩、アルミニウム塩、及び鉄塩から選択される少なくとも1つの金属塩を含むリチウムイオン金属酸化物の前駆体を形成する改善されたプロセスであって、金属塩を焼成して、リチウムイオン金属正極材料を形成する、プロセスに関する。更により詳細には、本発明は、リチウム金属酸化物の前駆体を作製するプロセスであって、前駆体の形成に必要な溶媒消費量が少なく、主要な反応物をリサイクルすることができる、プロセスに関する。
【0015】
本発明は、複数のカルボン酸基を含む有機物との金属の塩を、適切な酸と元素金属との反応によって直接形成し、それによって中間体の金属炭酸塩又は金属硫酸塩の形成を排除する、当該技術分野における改善である。
【0016】
本開示の目的のために、カルボキシ酸(carbox acid)という用語を使用して、複数のカルボン酸基を含む酸を表す。金属カルボキシという用語を使用して、複数のカルボン酸基を含む酸との金属の塩を表す。
【0017】
本発明の方法においては、元素形態の金属、特にニッケル、マンガン、及び/又はコバルトの粉末を、好ましくは溶媒中でカルボキシ酸と混合し、その際、カルボキシ酸は、金属粉末に対してモル過剰で存在する。この反応を、好ましくは撹拌しながら、元素金属の全てが金属カルボキシに転化されるのに十分な時間にわたって進行させ、それにより溶媒中に金属カルボキシを含むスラリーを形成する。撹拌は、反応速度を高めるのに好ましい。好ましくは、Li2CO3を添加して、残留カルボキシ酸と反応させる。溶媒を除去して、酸化物前駆体として主に金属カルボキシを含む乾燥スラリーを得る。酸化物前駆体を最適な温度及び雰囲気で焼成して、完成した単相リチウム化混合酸化物を生成する。
【0018】
本発明の特定の特徴は、高い固体含有量を有するスラリーを利用可能であることである。スラリー中の溶媒の量は、非常に低く、10重量%未満である場合があるが、追加の溶媒により粉末流動性が向上し、したがって反応速度が高まる。より高い溶媒含有量が優位である混合効率と、より低い又は全くない溶媒含有量が優位である最終的に溶媒を除去せねばならないという要件とのバランスを取ることが好ましい。特に好ましい実施形態においては、40重量%~60重量%の固体を含み、固体が主に金属カルボキシを含むスラリーが、粉末流動性と、妥当な量のエネルギーを使用して妥当な量の時間において金属カルボキシ粉末を乾燥させる能力との間の妥当なバランスである。
【0019】
正極は、金属カルボキシ塩を含む酸化物前駆体から形成され、ここで、金属カルボキシは、本明細書においてより十分に記載されるように、Li、Ni、Mn、Co、Al、又はFeの少なくとも1つを含み、ここで、Li、Ni、Mn、及びCoが好ましい。酸化物前駆体を焼成して、リチウムイオン金属酸化物として正極材料を形成する。
【0020】
多価カルボン酸、すなわちカルボキシ酸は、少なくとも2つのカルボキシル基を含む。特に好ましい多価カルボン酸は、焼成中に除去せねばならない炭素が最小限に抑えられることを部分的な理由として、シュウ酸である。マロン酸、コハク酸、グルタル酸、及びアジピン酸等の他の低分子量ジカルボン酸を使用することができる。特に、より高い溶解度を有する偶数の炭素を有するより高分子量のジカルボン酸を使用することができるが、追加の炭素を除去する必要があり、かつ溶解度が低下することにより、それらはあまり望ましくないものとなる。クエン酸、乳酸、オキサロ酢酸、フマル酸、マレイン酸、及び他のポリカルボン酸等の他の多価カルボン酸は、これらが少なくとも小さな化学量論的過剰を達成するのに十分な溶解度を有し、かつ十分なキレート化特性を有するという条件で利用され得る。ヒドロキシル基を有する酸は、それらの吸湿性が高まるため使用されないことが好ましい。
【0021】
金属カルボキシを形成する反応が完了したら、得られたスラリーを乾燥させて、溶媒を除去し、金属カルボキシを含む乾燥前駆体粉末を得る。噴霧乾燥機、棚式乾燥機、凍結乾燥機等を含むあらゆる種類の乾燥方法及び乾燥装置を使用することができ、ここで、乾燥方法及び乾燥装置は、主に製造上の利便性に基づいて選択される。乾燥温度は、350℃未満、より好ましくは200℃~325℃での乾燥を優先して、利用される装置によって規定され限定されることとなる。本発明を実証する例示的な方法においては、スラリー混合物をトレイに入れ、温度の上昇につれて溶媒が放出されるように、蒸発器を使用して乾燥を行うことができる。工業用のあらゆる蒸発器を使用することができる。製造規模での乾燥の特に好ましい方法は、流動化ノズル又は回転噴霧器を備えた噴霧乾燥機である。これらのノズルは、好ましくは、スラリー混合物中の酸化物前駆体のサイズに適した最小サイズの直径である。乾燥媒体は、費用を考慮して空気であることが好ましい。
【0022】
主として金属カルボキシを含む乾燥前駆体粉末は、コンベヤベルト等によってバッチ式又は連続的に焼成システムへと移送される。焼成システムは、限定されるものではないが、容器としてセラミックトレイ又はサガーを利用する箱型炉、回転焼成機、並流又は向流であり得る流動床、回転式チューブ炉、及び他の同様の装置であり得る。
【0023】
一実施形態においては、金属カルボキシ、特にニッケルカルボキシ、マンガンカルボキシ、コバルトカルボキシ、及びリチウムカルボキシのモル比は、焼成後に、
Li2-x-y-zNixMnyXzO2
(式中、x+y+z≦1であり、かつ、
Xは、Al又はCoである)によって表される岩塩型結晶性物質と一致する化学式を達成するのに十分なモル比で存在することが好ましい。
【0024】
より好ましくは、x、y、又はzのいずれもゼロではない。一実施形態においては、x、y、又はzの少なくとも1つは、0.2~0.5であり、特に好ましい実施形態においては、x、y、及びzはそれぞれ、0.23から0.43の間であり、より好ましくは、0.3から0.36の間であり、最も好ましくは、x、y、及びzは、ほぼ等しい。別の実施形態においては、xは、y又はxの少なくとも1つよりも大きい。特に好ましい実施形態においては、x≧y+zである。特に好ましい岩塩型結晶性物質は、当該技術分野においてNMC111と呼ばれるLiNi0.30Mn0.30Co0.30O2、当該技術分野においてNMC622と呼ばれるLiNi0.60Mn0.20Co0.20O2、及び当該技術分野においてNMC811と呼ばれるLiNi0.80Mn0.10Co0.10O2から選択され、ここで、好ましいそれぞれの配合において、各金属のモル比は、+0.01 molとして記載される。例として、Ni0.30は、Ni0.29~Ni0.31の範囲を指す。
【0025】
一実施形態においては、金属カルボキシ、特にニッケルカルボキシ、マンガンカルボキシ、コバルトカルボキシ、及びリチウムカルボキシのモル比は、焼成後に、
LiNixMnyCozO4
(式中、x+y+z≦2である)によって表される化学式を達成するのに十分なモル比で存在し、これは、好ましくは、当該技術分野においてスピネルと呼ばれる結晶形態で存在することが好ましい。リチウム金属酸化物は、名目上2:1の金属対リチウム比を有し、それにより液体成分中の過剰なリチウムの相対量を増加させる。一実施形態においては、zは0である。一実施形態においては、0.5≦x≦0.6であり、かつ1.4≦y≦1.5である。一実施形態においては、0.45≦x≦0.55であり、かつ1.45≦y≦1.55である。
【0026】
ドーパントを添加して、電子伝導性及び安定性等の酸化物の特性を増強することができる。ドーパントは、好ましくは、一次ニッケル、マンガン、及び任意のコバルトと同時に添加される置換型ドーパントである。置換型ドーパントは、Ni、Mn、又はCoによって通常占有される格子サイトを占有するため、格子内の金属原子の相対的な配置はそれほど変化しない。ドーパントは、好ましくは、酸化物中の金属の総量の5モル%以下に相当する。好ましいドーパントとしては、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Cu、Fe、Zn、V、及びBが挙げられ、ここで、Al及びGdが特に好ましい。乾燥前にドーパントの塩をスラリーに添加することが好ましい。この塩は本明細書において限定されないが、製造の利便性にとってシュウ酸塩又は炭酸塩が好ましい。
【0027】
ドーパントが使用される場合に、金属カルボキシ、特にニッケルカルボキシ、マンガンカルボキシ、コバルトカルボキシ、及びリチウムカルボキシと、ドーパント塩との比率は、焼成後に、
Li2-x-y-zNixMnyXzGaO2
式II
(式中、x+y+z+a≦1であり、ここで、
Xは、Al又はCoであり、
Gは、ドーパントであり、
a≦0.05である)によって表される化学式を達成するのに十分な比率で存在する。
【0028】
より好ましくは、x、y、又はzのいずれもゼロではない。特に好ましい実施形態においては、x、y、又はzの少なくとも1つは、0.2~0.5であり、特に好ましい実施形態においては、x、y、及びzはそれぞれ、0.23から0.43の間であり、より好ましくは、0.3から0.36の間であり、最も好ましくは、x、y、及びzは、ほぼ等しい。別の実施形態においては、xは、y又はxの少なくとも1つよりも大きい。特に好ましい実施形態においては、x≧y+zである。特に好ましい実施形態は、NMC111、NMC622、又はNMC811からなる群から選択され、ここで、Ni、Mn、又はCoは、適切なレベルでドーパントにより置き換えられる。
【0029】
別の実施形態において、ドーパントが使用される場合に、金属カルボキシ、特にニッケルカルボキシ、マンガンカルボキシ、コバルトカルボキシ、及びリチウムカルボキシと、ドーパント塩とのモル比は、焼成後に、
LiNixMnyCOzEaO4
式I
(式中、x+y+z+a≦2であり、
Eは、ドーパントであり、かつ、
a≦0.05である)によって表される化学式を達成するのに十分なモル比で存在する。リチウム金属酸化物は、名目上2:1の金属対リチウム比を有し、それにより液体成分中の過剰なリチウムの相対量を増加させる。一実施形態においては、zは0である。一実施形態においては、0.5≦x≦0.6であり、かつ1.4≦y≦1.5である。一実施形態においては、0.45≦x≦0.55であり、かつ1.45≦y≦1.55である。
【0030】
金属カルボキシは、元素金属と酸との直接的な相互作用によって、好ましくはビーズミル等において撹拌しながら、好ましくは溶媒の存在下で形成させることができる。元素金属及びカルボキシ酸を、ガラスビーズとの所望の化学量論比においてビーズミルに入れることができる。水、有機溶媒、又は混合物を、溶媒として使用することができる。反応プロセスは、室温で開始するのが好ましく、好ましくは冷却しつつ18℃~39℃の温度範囲において、試料採取によって流れの経過を監視しながら、生成物の形成のために投入された試薬がほぼ完全に消費されるまで行われ、その後、撹拌及び冷却を停止する。反応生成物としての金属カルボキシを含むスラリーを、好ましくはガラスビーズから分離し、濾過することとなる。好ましくは、金属カルボキシを精製して、微量の未反応の金属を除去し、ここで、未反応の金属を、カルボキシとの反応が繰り返される第2のプロセスに供する。濾液を第2のプロセスに戻すことができ、それによって過剰なカルボキシを以前に反応していなかった金属と反応させることができる。
【0031】
水、エチルセロソルブ、酢酸ブチル、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、トルエン、キシレン、及びホワイトスピリットが、本発明の実証に適した溶媒である。費用の考慮及び製造の簡易性のため、水が好ましい。蒸留水、濾過水、又はイオン交換を経由して不純物を除去した水等の精製水が好ましい。
【0032】
例示的な方法においては、還流冷却器に直接接続され、強制冷却される縦型ビーズミルに、計算された量のガラスビーズ、溶媒、カルボキシ、及び元素金属を投入することとなる。冷却浴及び機械的撹拌を使用することが好ましい。そのプロセスの間に、試料を反応混合物から採取することができ、その中の金属塩の含有量及び酸の残留量を決定する。このプロセスは発熱性であるため、冷却することが好ましい。
【0033】
焼成工程後に得られるリチウムイオン金属酸化物粉末は、微細、超微細、又はナノサイズの粉末であり、従来の処理において現在行われているような追加の破砕、粉砕、又はミル粉砕を必要としない場合がある。粒子は比較的軟質であり、従来の処理でのように焼結されていない。
【0034】
最終的な焼成リチウム金属酸化物粉末を、好ましくは、表面積、電子顕微鏡による粒子サイズ、多孔性、元素の化学分析、そしてまた好ましい特殊な用途に必要とされる性能試験によって特徴付ける。
【0035】
噴霧乾燥されたリチウム金属酸化物前駆体、すなわち金属カルボキシは、好ましくは非常に微細でナノサイズである。
【0036】
本発明の特定の利点は、酢酸塩とは対照的に、元素金属が直接反応して金属カルボキシを形成することである。酢酸塩は、その後の酸化物前駆体の焼成中に燃焼燃料として機能し、適切な燃焼には追加の酸素が必要とされる。より低分子量の多価カルボン酸、特により低分子量のジカルボン酸、より具体的にはシュウ酸は、追加の酸素を導入することなくより低い温度で分解する。例えば、シュウ酸塩は、追加の酸素を用いずに約300℃で分解することから、焼成温度のより正確な制御が可能である。これにより、燃焼温度の低下が可能となり得ることから、高温で見られるような不純物相の発生を最小限に抑えた無秩序型Fd3-mスピネル結晶性構造の形成が促進される。
【0037】
リチウムイオン金属酸化物正極材料を、任意に、リン酸塩XPO4(式中、Xは、電荷のバランスを取るのに必要な原子であり、Xは、所望であれば組合せを使用することができるという理解に基づいて一価原子、二価原子、又は三価原子であり得る)で処理する。Xは、適用後の洗浄又は蒸発のいずれかにより容易に除去されることが特に好ましい。リン酸塩を、金属酸化物の表面に適用して、リン酸部分が金属酸化物の表面上にMnPO4を形成するか、又は金属酸化物の表面に結合させる。マンガンは、好ましくは主に+3の酸化状態にあり、好ましくは表面のマンガンの10モル%未満が+2の酸化状態にあり、それによってマンガンは表面でMn2+への還元に対して安定化される。この反応によりXが遊離され、これは洗浄又は蒸発によって除去される。好ましいリン酸塩においては、Xは、NH4 +、H+、Li+、Na+、及びそれらの組合せから選択される。特に好ましいリン酸塩としては、表面のリン酸マンガンの形成後にXを除去することが容易であるという理由から、(NH4)3PO4、(NH4)2HPO4、(NH4)H2PO4、及びH3PO4が挙げられる。焼成された酸化物前駆体の固有の酸化マンガンを、添加されたマンガン又は他の金属とは対照的にリン酸塩と反応させることが好ましい。したがって、添加されたリン酸塩はMnを比較的含まないことが好ましく、マンガンが1重量%未満であることがより好ましい。リン酸塩とともに又は酸化物の形成後に、Mn+2を添加しないことが好ましい。表面に別個の相としてリン酸マンガン等の別のリン酸マンガン相が存在しないことが好ましい。リン酸塩は、金属酸化物の表面を連結することが好ましい。
【0038】
LiM2O4は、好ましくは、1 μm~5 μmの好ましい結晶子サイズを有するスピネル結晶形態で存在する。LiMO2は、好ましくは、約50 nm~250 nmの好ましい結晶子サイズ、より好ましくは約150 nm~200 nmの結晶子サイズを有する岩塩型結晶形態で存在する。
【0039】
縦型ビーズミル等におけるボールミル粉砕は、本発明の金属カルボキシを形成するのに適している。代替的には、乳鉢及び乳棒を用いた手動による粉砕も、金属へのカルボキシの導入に適した他の方法と同様に、本発明を実証するのに十分である。金属は自己不動態化すると見られるため、粉砕が好ましい。金属カルボキシの形成の間にZrO2ビーズミルを通じて循環させることは、本発明を実証する撹拌の例示的な形態である。
【0040】
噴霧乾燥された金属カルボキシ粉末が焼成機に移送されるときに出口弁が開閉するような噴霧乾燥器の収集器の変更形態を実装することができる。バッチ式で、収集器内の噴霧乾燥された粉末をトレイ又はサガーに移送し、焼成機に移動することができる。回転焼成機又は流動床焼成機を使用して、本発明を実証することができる。焼成温度は、粉末の組成及び所望の最終相純度によって決定される。殆どの酸化物型の粉末の場合に、焼成温度は、400℃ほどの低さの温度から1000℃より僅かに高い温度までの範囲である。焼成後に、粉末は軟質であり焼結されていないため、篩別される。焼成された酸化物は、狭い粒度分布を得るのに長いミル粉砕時間も分級も必要としない。
【0041】
本発明を実証する目的で、電池はコインセルとして形成され得る。電池を形成する方法は、当業者によく知られており、正極材料の形成について本明細書において記載される本発明の方法を使用することによって変更されない。コインセルは、好ましくは、アルゴンで満たされたグローブボックス内で組み立てられ得る。本発明の幾つかの態様を試験するのに十分なハーフセルにおける対極及び参照電極として、リチウム箔等の導電性箔が使用され得る。フルセルにおける対極及び参照電極として、Li4Ti5O12(LTO)複合電極等の市販の電極が使用され得る。負極と正極との間に電解質が挿入されることとなり、例示的な電解質は、7:3(容量%)の炭酸エチレン(EC):炭酸ジエチレン(DEC)中の1MのLiPF6等の電解質である。例えば、ハーフセルにおいては1枚又は2枚の25 μm厚のCelgard(商標)膜によって、フルセルにおいては1枚のCelgard膜によって、電極が隔離され得る。
【0042】
電極の作製:
リチウム金属酸化物を、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)溶媒中に溶解された導電性添加剤としての10重量%の導電性カーボンブラック、結合剤としての5重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)と混合してスラリーを形成することによって、複合電極を作製した。黒鉛被覆されたアルミニウム箔上にスラリーをキャストし、真空下で60℃にて一晩乾燥させた。4 mg/cm2の典型的な負荷量を有する電極シートから、1.54 cm2の平均面積を有する電極ディスクを切り出した。
【0043】
コインセルの組み立て:
コインセルを、アルゴンで満たされたグローブボックス内で組み立てた。ハーフセルにおいて、リチウム箔(340 μm)を対極及び参照電極として使用し、フルセルにおいて、銅箔上の黒鉛を対極及び参照電極として使用した。7:3(容量%)の炭酸エチレン(EC):炭酸ジエチレン(DEC)中の1MのLiPF6を電解質として使用した。ハーフセルにおいては1枚又は2枚の25 μm厚のCelgard(商標)膜によって、フルセルにおいては1枚のCelgard膜によって、電極を隔離した。
【0044】
サイクリングのプロトコル:
スピネルを含む正極セルを、3.5 V~4.9 Vの電圧範囲において様々なCレート(1 Cレートは、146 mAg-1と等価である)で25℃にて、Arbin Instrumentの電池テスター(モデル番号BT 2000)を使用して定電流サイクリングした。1 Cレート以上の定電流充電工程の最後に、4.9 Vで10分間の定電圧充電工程をセルに適用した。岩塩型NMCを含む正極セルを、2.7 V~4.35Vの電圧範囲において様々なCレート(1 Cレートは、200 mAg-1と等価である)で25℃にて定電流サイクリングした。1 Cレート以上の定電流充電工程の最後に、4.35 Vで10分間の定電圧充電工程をセルに適用した。
【0045】
実施例1:LiNi0.5Mn1.5O4スピネル正極粉末の調製
150mlの脱イオン水中に6.2926 gのLi2CO3(Alfa Aesar)及び56.2587 gのシュウ酸二水和物(Univar)を含む分散液を形成した。初期反応後に、この分散液を90℃に加熱して、過剰の酸を溶解させた。冷却した後に、5.0042 gのNi粉末(AlfaAesar)及び14.0408 gのMn粉末(Alfa Aesar)を溶液に加えた。混合物を覆い、再び90℃に加熱し、22時間撹拌した。次に、最終混合物を60℃で撹拌しながら蒸発乾固させ、乳鉢及び乳棒により粉砕して粉末にした。次に、温度を周囲温度から900℃まで5℃/分で上昇させ、15時間保持した後に、周囲温度まで空気急冷することで、得られた前駆体粉末を空気中で焼成した。生成された粉末はX線回折(XRD)を使用して調べたところ、国際公開第2018/132903号で表される従来技術を用いて作製された同じ材料のパターンと一致する予想されたスピネル構造の純粋な相であることが判明した。
【0046】
本発明を、好ましい実施形態を参照して記載してきたが、これらに限定されるものではない。当業者は、具体的に示されていないが、本明細書に添付された特許請求の範囲においてより詳細に示される本発明の境界線(meets and bounds)内にある追加の改善及び変更を理解するであろう。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン金属酸化物を形成する方法であって、
元素ニッケル及び元素形態の少なくとも1つの追加の金属を、複数のカルボン酸基を含む酸として定義されるカルボキシと反応させて、複数のカルボン酸基を含む酸との金属錯体として定義される、金属カルボキシを形成することと、
前記金属カルボキシを炭酸リチウムで加熱して、前記リチウムイオン金属酸化物を形成することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの追加の金属はMn、Co、Al、及びFeからなる群から選択される、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの追加の金属は、Mn、及びCoからなる群から選択される、請求項2に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項4】
前記カルボキシは、複数のカルボン酸基を含む、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項5】
前記カルボキシは、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、乳酸、オキサロ酢酸、フマル酸、及びマレイン酸からなる群から選択される、請求項4に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項6】
前記カルボキシは、シュウ酸である、請求項5に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項7】
前記カルボキシは、ヒドロキシル基を含まない、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項8】
前記リチウムイオン金属酸化物は、式I:
LiNixMnyCozEeO4 式I
(式中、Eは、ドーパントであり、
x + y + z + e = 2であり、かつ、
0≦e≦0.2である)によって定義される、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項9】
前記式Iは、スピネル結晶形態で存在する、請求項8に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項10】
xもyもゼロではない、請求項8に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項11】
前記リチウムイオン金属酸化物は、LiNi0.5Mn1.5O4である、請求項10に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項12】
前記リチウムイオン金属酸化物は、式LiNixMnyO4(式中、0.5≦x≦0.6であり、かつ1.4≦y≦1.5である)によって定義される、請求項8に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項13】
0.45≦x≦0.55であり、かつ1.45≦y≦1.55である、請求項12に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項14】
前記リチウムイオン金属酸化物は、3以下のMn対Niのモル比を有する、請求項8に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項15】
前記リチウムイオン金属酸化物は、少なくとも2.33から3未満のMn対Niのモル比を有する、請求項14に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項16】
前記リチウムイオン金属酸化物は、少なくとも2.64から3未満のMn対Niのモル比を有する、請求項15に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項17】
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択される、請求項8に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項18】
前記ドーパントは、Al及びGdからなる群から選択される、請求項17に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項19】
前記リチウムイオン金属酸化物は、式II:
LiNiaMnbXcGdO2 式II
(式中、Gは、ドーパントであり、
XはCo又はAlであり、
a + b + c + d = 1であり、かつ、
0≦d≦0.1である)によって定義される、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項20】
0.5≦a≦0.9である、請求項19に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項21】
0.58≦a≦0.62又は0.78≦a≦0.82である、請求項20に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項22】
前記式IIは、Li 2-x-y-z Ni x Mn y X z O 2 (ここで、x、y、又はzの各々は、0.3から0.36である)、LiNi0.60Mn0.20Co0.20O2、及びLiNi0.80Mn0.10Co0.10O2からなる群から選択される、請求項19に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項23】
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択される、請求項19に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項24】
前記ドーパントは、Al及びGdからなる群から選択される、請求項23に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項25】
前記加熱は、空気中である、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項26】
前記混合は、溶媒中である、請求項1に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項27】
金属カルボキシは、前記溶媒を含むスラリー中に存在する、請求項26に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項28】
スラリーは、40重量%~60重量%の前記金属カルボキシを含む、請求項27に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項29】
前記スラリーから前記溶媒を除去することにより、前記加熱前に前記金属カルボキシの乾燥粉末を形成することを更に含む、請求項27に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項30】
前記溶媒の前記除去は、乾燥機における乾燥を含む、請求項29に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項31】
前記乾燥機は、噴霧乾燥機、棚式乾燥機、及び凍結乾燥機からなる群から選択される、請求項30に記載のリチウムイオン金属酸化物を形成する方法。
【請求項32】
電池を形成する方法であって、
リチウムイオン金属酸化物を形成することと、
これは、
元素ニッケル及び元素形態の少なくとも1つの追加の金属を、複数のカルボン酸基を含む酸として定義されるカルボキシと反応させて、複数のカルボン酸基を含む酸との金属錯体として定義される、金属カルボキシを形成することと、
前記金属カルボキシを炭酸リチウムで加熱して、前記リチウムイオン金属酸化物を形成することと、
を含む;
前記リチウムイオン金属酸化物を含む正極を形成することと、
前記正極を備える電池を形成することと、
を含む、方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つの追加の金属は、Mn、Co、Al、及びFeからなる群から選択される、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項34】
前記少なくとも1つの追加の金属は、Mn、及びCoからなる群から選択される、請求項33に記載の電池を形成する方法。
【請求項35】
前記カルボキシは、複数のカルボン酸基を含む、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項36】
前記カルボキシは、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、乳酸、オキサロ酢酸、フマル酸、及びマレイン酸からなる群から選択される、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項37】
前記カルボキシは、シュウ酸である、請求項36に記載の電池を形成する方法。
【請求項38】
前記カルボキシは、ヒドロキシル基を含まない、請求項1に記載の電池を形成する方法。
【請求項39】
前記リチウムイオン金属酸化物は、式I:
LiNixMnyCozEeO4
式I
(式中、Eは、ドーパントであり、
x + y + z + e = 2であり、かつ、
0≦e≦0.2である)によって定義される、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項40】
前記式Iは、スピネル結晶形態で存在する、請求項39に記載の電池を形成する方法。
【請求項41】
xもyもゼロではない、請求項39に記載の電池を形成する方法。
【請求項42】
前記リチウムイオン金属酸化物は、LiNi0.5Mn1.5O4である、請求項41に記載の電池を形成する方法。
【請求項43】
前記リチウムイオン金属酸化物は、式LiNixMnyO4(式中、0.5≦x≦0.6であり、かつ1.4≦y≦1.5である)によって定義される、請求項39に記載の電池を形成する方法。
【請求項44】
0.45≦x≦0.55であり、かつ1.45≦y≦1.55である、請求項43に記載の電池を形成する方法。
【請求項45】
前記リチウムイオン金属酸化物は、3以下のMn対Niのモル比を有する、請求項39に記載の電池を形成する方法。
【請求項46】
前記リチウムイオン金属酸化物は、少なくとも2.33から3未満のMn対Niのモル比を有する、請求項45に記載の電池を形成する方法。
【請求項47】
前記リチウムイオン金属酸化物は、少なくとも2.64から3未満のMn対Niのモル比を有する、請求項46に記載の電池を形成する方法。
【請求項48】
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択される、請求項39に記載の電池を形成する方法。
【請求項49】
前記ドーパントは、Al及びGdからなる群から選択される、請求項48に記載の電池を形成する方法。
【請求項50】
前記リチウムイオン金属酸化物は、式II:
LiNiaMnbXcGdO2
式II
(式中、Gは、ドーパントであり、
XはCo又はAlであり、
a + b + c + d = 1であり、かつ、
0≦d≦0.1である)によって定義される、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項51】
0.5≦a≦0.9である、請求項50に記載の電池を形成する方法。
【請求項52】
0.58≦a≦0.62又は0.78≦a≦0.82である、請求項51に記載の電池を形成する方法。
【請求項53】
前記式IIは、Li 2-x-y-z Ni x Mn y X z O 2 (ここで、x、y、又はzの各々は、0.3から0.36である)、LiNi0.60Mn0.20Co0.20O2、及びLiNi0.80Mn0.10Co0.10O2からなる群から選択される、請求項50に記載の電池を形成する方法。
【請求項54】
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択される、請求項50に記載の電池を形成する方法。
【請求項55】
前記ドーパントは、Al及びGdからなる群から選択される、請求項54に記載の電池を形成する方法。
【請求項56】
前記加熱は、空気中である、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項57】
前記混合は、溶媒中である、請求項32に記載の電池を形成する方法。
【請求項58】
金属カルボキシは、前記溶媒を含むスラリー中に存在する、請求項57に記載の電池を形成する方法。
【請求項59】
スラリーは、40重量%~60重量%の前記金属カルボキシを含む、請求項58に記載の電池を形成する方法。
【請求項60】
前記スラリーから前記溶媒を除去することにより、前記加熱前に前記金属カルボキシの乾燥粉末を形成することを更に含む、請求項58に記載の電池を形成する方法。
【請求項61】
前記溶媒の前記除去は、乾燥機における乾燥を含む、請求項60に記載の電池を形成する方法。
【請求項62】
前記乾燥機は、噴霧乾燥機、棚式乾燥機、及び凍結乾燥機からなる群から選択される、請求項61に記載の電池を形成する方法。
【国際調査報告】