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特表2023-523337アクリルアミド合成の反応監視のためのFTNIR分光法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-02
(54)【発明の名称】アクリルアミド合成の反応監視のためのFTNIR分光法
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/04 20060101AFI20230526BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20230526BHJP
   C12P 13/02 20060101ALI20230526BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230526BHJP
   G01N 21/3577 20140101ALI20230526BHJP
【FI】
C12P1/04 Z
C12N9/88
C12P13/02
C12N15/09 Z
G01N21/3577
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022565729
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(85)【翻訳文提出日】2022-08-24
(86)【国際出願番号】 US2020066893
(87)【国際公開番号】W WO2021138205
(87)【国際公開日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】62/955,309
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】20205067
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522261053
【氏名又は名称】ケミラ・ユルキネン・オサケユフティオ
【氏名又は名称原語表記】KEMIRA OYJ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】スオミネン,ペッテリ
(72)【発明者】
【氏名】ラーッコネン,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】オコリ,サムエル
【テーマコード(参考)】
2G059
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB04
2G059CC12
2G059EE09
2G059EE12
2G059FF06
2G059FF07
2G059HH01
2G059JJ17
2G059KK01
4B050CC07
4B050DD02
4B050LL05
4B064AE02
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CB30
4B064CC22
4B064CC30
4B064CD12
4B064DA16
(57)【要約】
生体触媒を存在させた水溶液中でアクリロニトリルを水和させることによってアクリルアミド水溶液を製造する方法が提供され、この方法は、FTNIR分光法によるアクリルアミド合成反応のインライン監視を含む。当該方法によって得ることが可能なアクリルアミド水溶液、およびポリアクリルアミドの合成のためのその使用も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ニトリルヒドラターゼ活性を有する少なくとも1つの生体触媒と水とを混合してスラリーを得ること、
(b)スラリーを含む反応器へとアクリロニトリルを供給して反応混合物を得ること、および
(c)アクリロニトリルの濃度を測定するために、インラインFTNIR分光法によって反応混合物を監視すること、
を含む、アクリルアミド水溶液を製造する方法。
【請求項2】
(i)アクリロニトリル供給速度、(ii)水の量、(iii)少なくとも1つの生体触媒および/またはその量、あるいは(iv)温度、のうちの1つ以上を、アクリロニトリルの検出濃度に基づいて反応方法中に調節する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応器の内部および/または反応器の外部にFTNIR分光器プローブが配置される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
反応器が、そこに接続された冷却ループを含み、冷却ループ内にFTNIR分光器プローブが配置される、請求項1、請求項2、または請求項3に記載の方法。
【請求項5】
FTNIR分光器プローブがトランスフレクションプローブである、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
アクリロニトリルの濃度が、0~10重量%の範囲内であり、少なくとも±1重量%の精度、より具体的には少なくとも±0.5重量%の精度、さらにより具体的には少なくとも±0.3重量%の精度でFTNIR分光法によって測定する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
アクリロニトリルの濃度が、0~1重量%の範囲内であり、少なくとも±400ppmの精度、より具体的には少なくとも±200ppmの精度、より具体的には少なくとも±180ppmの精度でFTNIR分光法によって測定する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
アクリロニトリルの濃度が、0~1000ppmの範囲内であり、少なくとも±100ppmの精度、より具体的には少なくとも±80ppmの精度でFTNIR分光法によって測定する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
反応混合物を監視することが、FTNIR分光法によってアクリルアミドの濃度を測定することをさらに含み、アクリルアミドの濃度が、0~50重量%の範囲内であり、少なくとも±5重量%の精度、より具体的には少なくとも±3.8重量%の精度、より具体的には少なくとも±1.3重量%の精度で測定する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
FTNIR分光法によって測定した場合のアクリロニトリルの最終濃度が、最大でも1000ppm、最大でも500ppm、最大でも250ppm、またはより具体的には最大でも100ppmである、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
i.アクリロニトリル供給速度を方法中に調節し、それによって反応器内でのアクリロニトリル蓄積を制御し、
ii.反応器に供給されるアクリロニトリルの総量の38%~48%を、反応器へのアクリロニトリルの供給の開始から0分~60分(両端の時間を含む)にわたる時間帯の間に供給する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
反応器が、半回分式反応器、連続式反応器、一連の連続式反応器、または一連の撹拌槽型反応器である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
i.生体触媒が、乾燥細胞0.1~5kg/反応混合物mを含み、
ii.生体触媒が、Rhodococcus、Aspergillus、Acidovorax、Agrobacterium、Bacillus、Bradyrhizobium、Burkholderia、Escherichia、Geobacillus、Klebsiella、Mesorhizobium、Moraxella、Pantoea、Pseudomonas、Rhizobium、Rhodopseudomonas、Serratia、Amycolatopsis、Arthrobacter、Brevibacterium、Corynebacterium、Microbacterium、Micrococcus、Nocardia、Pseudonocardia、Trichoderma、Myrothecium、Aureobasidium、Candida、Cryptococcus、Debaryomyces、Geotrichum、Hanseniaspora、Kluyveromyces、Pichia、Rhodotorula、Comomonas、およびPyrococcusからなる群から選択される微生物であり、より具体的には、生体触媒が、Rhodococcus、Pseudomonas、Escherichia、およびGeobacillusからなる群から選択されるか、もしくは微生物のいずれかの少なくとも2つの組み合わせであり、および/または
iii.生体触媒が、Rhodococcus rhodochrousもしくはRhodococcus aetherivoransであり、および/または
iv.生体触媒が、微生物のいずれかに由来するニトリルヒドラターゼを含む組成物を含むか、もしくは組成物を追加で含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
i.反応混合物の温度を測定および調節すること、
ii.反応混合物の温度を15℃~25℃の範囲内に維持し、
アクリルアミド濃度が少なくとも27重量%に到達したとき、より具体的にはアクリルアミド濃度が27重量%~38重量%に到達したとき、アクリルアミド濃度が37重量%~55重量%に到達したときに、反応混合物の温度が10℃~21℃の範囲内もしくは10℃~18℃の範囲内に入るように反応混合物を冷却し、
任意選択で、10℃~21℃もしくは10℃~18℃の温度範囲に反応混合物を維持し、さらに任意選択で、アクリロニトリルの最終濃度が、最大でも1000ppmとなるようにすること、
iii.アクリルアミド濃度が28重量%~30重量%に到達したときに反応混合物を冷却すること
iv.アクリルアミド濃度が40重量%~50重量%に到達するまで反応混合物を冷却すること、
v.19℃~25℃、より具体的には20℃~22℃、さらにより具体的には22℃に反応混合物の温度を維持すること、
vi.反応混合物の温度を30分~120分間維持すること、および/または
vii.反応混合物の温度が10℃~16℃の範囲内、より具体的には13℃~16℃の範囲内、より具体的には15℃となるように反応混合物を冷却すること、
をさらに含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
先行請求項のいずれか1項に記載の方法によって得ることが可能なアクリルアミド水溶液であって、
i.アクリルアミド水溶液が、
アクリルアミド溶液の濃度が35重量%~55重量%であり、
溶液中の残存アクリロニトリルの濃度が、FTNIRによって測定した場合に1000ppm以下であり、
溶液の濁度が、0.45μmでろ過したアクリルアミド試料を測定した場合に20以下であること
によって特徴付けられるか、
ii.溶液中の残存アクリロニトリルの濃度が、FTNIR分光法によって測定した場合に0~1000ppmの範囲内であり、少なくとも±100ppmの精度、より具体的には少なくとも±80ppmの精度で測定されるか、
iii.溶液の色が0.45μmでろ過したアクリルアミド試料のPtCo(455nm)を分光光度計で測定した場合に20以下であるか、
iv.アクリルアミド溶液の濃度が34重量%~55重量%、より具体的には38重量%~40重量%であるか、
v.アクリルアミドの濃度が38重量%~55重量%であるか、
vi.溶液中の残存アクリロニトリルの濃度が、FTNIR分光法によって測定した場合に100ppm以下、より具体的には90ppm以下、さらにより具体的には50ppm以下、さらにより具体的には10ppm以下、最も具体的には0ppmであるか、
vii.溶液の濁度が15以下であるか、または
viii.のことの任意の組み合わせである、アクリルアミド水溶液。
【請求項16】
ポリアクリルアミドの製造における先行請求項のいずれか1項に記載のアクリルアミド水溶液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年12月30日出願の米国仮出願第62/955,309号、および2020年1月23日出願のフィンランド出願第20205067号に対する優先権を主張する。両出願の内容は、それらの全体が参照によって組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般に、アクリルアミド合成の分野に関し、より具体的には、FTNIR分光法(フーリエ変換近赤外分光法)によるアクリルアミド合成の反応監視に関する。したがって、本開示は、生体触媒を存在させた水溶液中でアクリロニトリルを水和させることによってアクリルアミド水溶液を製造する方法に関し、この方法は、FTNIR分光法によるアクリルアミド合成反応のインライン監視を含む。本開示は、一般に、当該方法によって得ることが可能なアクリルアミド水溶液、およびポリアクリルアミドの合成のためのその使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
アクリルアミド(AMD)は1950年代半ばから市場に出ており、その時以来、アクリルアミド市場は着実に成長してきている。アクリルアミドは、ポリアクリルアミドの製造に主に使用され、ポリアクリルアミドは、水処理、原油回収、製紙工業、および採掘方法を含む、多くの応用分野で使用されている。アクリルアミドは、触媒の存在下での加水分解反応によってアクリロニトリル(AN)から製造される。
【0004】
従来は、アクリルアミドの製造は、化学的触媒方法、すなわち、硫酸触媒水和反応または銅触媒水和反応に基づくものであったが、硫酸方法は銅触媒水和反応へと徐々に置き換わっていった。1980年代には、酵素によって触媒されるアクリルアミド製造方法が開発された。従来方法と比較した場合の利点は、反応温度が低いこと、大気圧下で実施できること、変換が完全なものであること、副生成物選択性が低いこと、および下流処理が容易であることである。
【0005】
微生物には、ニトリラーゼ経路およびニトリルヒドラターゼ(NHase)経路という2種類のニトリル分解代謝経路が存在する。これらの反応には、ニトリラーゼ、(NHase)、およびアミダーゼの3つの異なる酵素が関与する。
【0006】
ニトリラーゼは、ニトリルの加水分解反応を触媒して、ニトリルを対応するカルボン酸生成物およびアンモニア生成物へと直接的に変換する。NHase経路では、NHaseおよびアミダーゼが順次反応する。NHaseは、ニトリルを加水分解して対応アミド生成物へと最初に変換する。アミダーゼの存在下では、アミドが、対応する酸生成物およびアンモニア生成物へとさらに変換され得る。生体触媒(例えば、ニトリルヒドラターゼ)の存在下でアクリロニトリルからアクリルアミドを製造する方法については、多数の特許公開公報に記載されている。そのような反応の監視、すなわち、そのような方法において反応成分(アクリロニトリルおよびアクリルアミドを含む)ならびに副生成物(例えば、アクリル酸)の濃度を測定するためのそのような反応の監視(例えば、HPLCベースの検出方法を使用するもの)も知られている。
【0007】
本開示の目的の1つは、アクリルアミド水溶液を製造する改良方法を提供することであり、この改良方法では、FTNIR分光法(フーリエ変換近赤外分光法)を使用して反応状況が監視される。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、一般に、アクリルアミド水溶液を製造する改良方法に関する。この方法は、a)ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒と水とを混合してスラリーを得ること、b)当該スラリーを含む反応器へとアクリロニトリルを供給して反応混合物を得ること、およびc)アクリロニトリルの濃度を測定するために、インラインFTNIR分光法によって当該反応混合物を監視すること、を含み得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、アクリロニトリル供給速度、および/または水の量、および/または少なくとも1つの生体触媒、および/または温度を、アクリロニトリルの検出濃度に基づいて反応方法中に調節し得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、反応器内にFTNIR分光器プローブ(フーリエ変換近赤外分光器プローブ)が配置され得る。いくつかの実施形態では、反応器の外部にFTNIR分光器が配置され得る。いくつかの特定の実施形態では、反応器は、そこに接続された冷却ループを含み得、冷却ループ内にFTNIR分光器プローブが配置され得る。いくつかの実施形態では、反応器内にFTNIR分光器プローブが配置され、反応器の外部(反応器に接続された冷却ループ内など)には別のFTNIR分光器プローブが配置され得る。いくつかの実施形態では、反応器の内部または外部に配置されるFTNIR分光器プローブは、トランスフレクションプローブであり得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、アクリロニトリルの濃度は0~10重量%の範囲内であり得、少なくとも±1重量%の精度、より具体的には少なくとも±0.5重量%の精度、さらにより具体的には少なくとも±0.3重量%の精度でFTNIR分光法によって測定され得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、アクリロニトリルの濃度は0~1重量%の範囲内であり得、少なくとも±400ppmの精度、より具体的には少なくとも±200ppmの精度、さらにより具体的には少なくとも±180ppmの精度でFTNIR分光法によって測定され得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、アクリロニトリルの濃度は0~1000ppmの範囲内であり得、少なくとも±100ppmの精度、より具体的には少なくとも±80ppmの精度でFTNIR分光法によって測定され得る。
【0014】
いくつかの実施形態では、当該反応混合物の監視は、FTNIR分光法によってアクリルアミドの濃度を測定することをさらに含み得、アクリルアミドの濃度は0~50重量%の範囲内であり得、少なくとも±5重量%の精度、より具体的には少なくとも±3.8重量%の精度、さらにより具体的には少なくとも±1.3重量%の精度で測定され得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、FTNIR分光法によって測定されるアクリロニトリルの最終濃度は、最大でも1000ppm、最大でも500ppm、最大でも250ppm、またはより具体的には最大でも100ppmであり得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、アクリロニトリル供給速度が方法中に調節され、それによって反応器内でのアクリロニトリル蓄積が制御され得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、反応器に供給されるアクリロニトリルの総量の38%~48%が、反応器へのアクリロニトリルの供給の開始から0分~60分の間に供給され得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、反応器は、半回分式反応器、連続式反応器、一連の連続式反応器、または一連の撹拌槽型反応器であり得る。
【0019】
いくつかの実施形態では、生体触媒は、乾燥細胞0.1~5kg/反応混合物mを含み得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、生体触媒は、Rhodococcus、Aspergillus、Acidovorax、Agrobacterium、Bacillus、Bradyrhizobium、Burkholderia、Escherichia、Geobacillus、Klebsiella、Mesorhizobium、Moraxella、Pantoea、Pseudomonas、Rhizobium、Rhodopseudomonas、Serratia、Amycolatopsis、Arthrobacter、Brevibacterium、Corynebacterium、Microbacterium、Micrococcus、Nocardia、Pseudonocardia、Trichoderma、Myrothecium、Aureobasidium、Candida、Cryptococcus、Debaryomyces、Geotrichum、Hanseniaspora、Kluyveromyces、Pichia、Rhodotorula、Comomonas、およびPyrococcusからなる群から選択される微生物であり得るか、または前述の微生物のいずれかの少なくとも2つの組み合わせを含み得、より具体的には、生体触媒は、Rhodococcus、Pseudomonas、Escherichia、およびGeobacillusからなる群から選択され得るか、または前述の微生物もしくはそれらの組み合わせのいずれかに由来するニトリルヒドラターゼを代替的もしくは追加的に含み得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、生体触媒は、Rhodococcus rhodochrousもしくはRhodococcus aetherivoransまたはそれ由来のニトリルヒドラターゼであり得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、当該方法は、反応混合物の温度を測定することおよび調節することをさらに含み得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、当該方法は、反応混合物の温度を15℃~25℃の範囲内に維持すること、アクリルアミド濃度が少なくとも27重量%に到達したとき、より具体的にはアクリルアミド濃度が27重量%~38重量%に到達したとき、アクリルアミド濃度が37重量%~55重量%に到達したときに、反応混合物の温度が10℃~21℃の範囲内または10℃~18℃の範囲内に入るように反応混合物を冷却すること、および任意選択で、10℃~21℃または10℃~18℃の温度範囲に反応混合物を維持すること、をさらに含み得、その結果、任意選択で、アクリロニトリルの最終濃度は、最大でも1000ppmとなる。
【0024】
いくつかの実施形態では、当該方法はアクリルアミド濃度が28重量%~30重量%に到達したときに反応混合物を冷却することをさらに含み得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、当該方法は、アクリルアミド濃度が40重量%~50重量%に到達するまで反応混合物を冷却することをさらに含み得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、当該方法は、19℃~25℃、より具体的には20℃~22℃、さらにより具体的には22℃に反応混合物の温度を維持することをさらに含み得る。
【0027】
いくつかの実施形態では、当該方法は、反応混合物の温度を30分~120分間維持することをさらに含み得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、当該方法は、反応混合物の温度が10℃~16℃の範囲内、より具体的には13℃~16℃の範囲内、さらにより具体的には15℃となるように反応混合物を冷却することをさらに含み得る。
【0029】
本開示は、一般に、本明細書に開示の方法によって得ることが可能なアクリルアミド水溶液にも関する。
【0030】
いくつかの実施形態では、当該アクリルアミド水溶液は、アクリルアミド溶液の濃度が35重量%~55重量%であり得るという点、アクリルアミド溶液中の残存アクリロニトリルの濃度が、FTNIRによって測定した場合に1000ppm以下であり得るという点、およびアクリルアミド溶液の濁度が、0.45μmでろ過したアクリルアミド試料を測定した場合に20以下であり得るという点で特徴付けられ得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、FTNIR分光法によって測定した場合の当該アクリルアミド溶液中の残存アクリロニトリルの濃度は0~1000ppmの範囲内であり得、少なくとも±100ppmの精度、より具体的には少なくとも±80ppmの精度で測定され得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、当該アクリルアミド溶液の色は、0.45μmでろ過したアクリルアミド試料のPtCo(455nm)を分光光度計で測定した場合に20以下であり得る。
【0033】
いくつかの実施形態では、当該アクリルアミド溶液の濃度は34重量%~55重量%、より具体的には38重量%~40重量%であり得る。
【0034】
いくつかの実施形態では、当該アクリルアミド溶液の濃度は38重量%~55重量%であり得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、FTNIR分光法によって測定した場合の当該アクリルアミド溶液中の残存アクリロニトリルの濃度は100ppm以下、より具体的には90ppm以下、さらにより具体的には50ppm以下、さらにより具体的には10ppm以下、さらにより具体的には0ppmであり得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、当該アクリルアミド溶液の濁度は15以下であり得る。
【0037】
本開示は、一般に、ポリアクリルアミドの製造において本明細書に開示の方法によって得ることが可能な当該アクリルアミド水溶液の使用にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】FTNIR分光器浸漬プローブ、光ファイバーケーブル、およびFTNIR干渉計を備えた反応器の模式図を示す。
図2】アクリルアミド合成反応中に記録される典型的なFTNIR吸収スペクトルを示す。挿入図は、反応中に生じる変化が最も大きいスペクトル領域を示す。吸収スペクトルは波数に基づいてプロットされている。吸光度は、A=-log10(I/I)によって定義される。ここで、IおよびIは、それぞれ透過光の強度およびバックグラウンドスペクトルの強度である。本明細書の場合、空気のスペクトルをバックグラウンドスペクトルとして使用した。このスペクトルは、光ファイバープローブの光学スリット中に媒体は不在で空気が存在する状態で記録した。IとIとの比を使用することは、透過光路と測定系の特徴との両方の影響を低減できるという利点を有する。
図3】実施例2に示されるアクリルアミド合成実験1について、FTNIRおよびHPLCによって決定したAN濃度およびAMD濃度についての交差検証に関するデータを示す。x軸にプロットした時間は、時刻(HH:MM)として示される。
図4】実施例3に示されるアクリルアミド合成実験2について、FTNIRおよびHPLCによって決定したAN濃度およびAMD濃度についての交差検証に関するデータを示す。x軸にプロットした時間は、時刻(HH:MM)として示される。
図5】実施例4に示されるアクリルアミド合成実験3について、FTNIRおよびHPLCによって決定したAN濃度およびAMD濃度についての交差検証に関するデータを示す。x軸にプロットした時間は、時刻(HH:MM)として示される。
図6】実施例5に示されるアクリルアミド合成実験4について、FTNIR(「PLS実験」)およびHPLC(「Lab」)によって決定したAN濃度およびAMD濃度についての交差検証に関するデータを示す。X軸にプロットした時間は、時刻(HH:MM)として示される。
図7】実施例5に示されるアクリルアミド合成実験4について、FTNIR(「PLS実験」)およびHPLC(「Lab」)によって決定したAN濃度およびAMD濃度についての交差検証に関するデータを示す。X軸にプロットした時間は、時刻(HH:MM)として示される。こうしたプロット中のデータは、ANの濃度が1000ppm未満であると決定された時点に限ったものである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
I.概要
本開示の第1の態様によれば、アクリルアミド水溶液を製造する方法が提供される。
【0040】
より具体的には、アクリルアミド水溶液を製造する方法が提供され、この方法は、ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒と水とを混合してスラリーを得ること、当該スラリーを含む反応器へとアクリロニトリルを供給して反応混合物を得ること、およびアクリロニトリルの濃度を測定するために、インラインFTNIR分光法によって当該反応混合物を監視すること、を含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、反応器内にFTNIR分光器プローブが配置され得る。
【0042】
いくつかの実施形態では、反応器は、そこに接続された冷却ループ、および冷却ループ内に配置されたFTNIR分光器プローブを含み得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、アクリロニトリルの濃度は、少なくとも±100ppmの精度、より具体的には少なくとも±80ppmの精度で測定され得る。
【0044】
本開示の第2の態様によれば、当該方法によって得ることが可能なアクリルアミド水溶液が提供される。
【0045】
より具体的には、アクリルアミド水溶液が提供され、このアクリルアミド水溶液は、アクリルアミド水溶液中の全残存アクリロニトリルの濃度がFTNIR分光法によって測定した場合に1000ppm以下であるという点で特徴付けられる。
【0046】
全残存アクリロニトリルの濃度は、少なくとも±100ppmの精度、より具体的には少なくとも±80ppmの精度で測定され得る。
【0047】
本開示の第3の態様では、ポリアクリルアミドの製造において本開示の方法によって製造されるアクリルアミド水溶液の使用が提供される。
【0048】
本明細書で論じられる実施形態はいずれも、本開示の任意の方法、キット、試薬、または組成物と関連付けて実施できることが企図され、逆もまた同様に企図される。さらに、本開示の方法を達成するために本開示の組成物を使用することができる。
【0049】
本明細書に記載の特定の実施形態は、例として示されるものであり、限定として示されるものではないことが理解されよう。本開示の主要な特徴は、本開示の範囲を逸脱することなくさまざまな実施形態において利用することができる。当業者なら、所定の実験を行うだけで、本明細書に記載の特定の手順に対する多くの均等物を認識または確認可能であろう。そのような均等物は、本開示の範囲に含まれるものと見なされ、添付の特許請求の範囲によって包含される。
【0050】
本明細書で言及される刊行物および特許出願はすべて、本開示が属する技術分野の当業者のレベルを示すものである。刊行物および特許出願はすべて、個々の刊行物または特許出願のそれぞれが参照によって組み込まれることが具体的かつ個別に示された場合と同程度に参照によって本明細書に組み込まれる。
【0051】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される専門用語および科学用語はすべて、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書の用語に対する定義が複数存在する場合は、このセクションに記載の定義が優先される。URLまたは他のそのような識別子もしくはアドレスへの言及がなされる場合、そのような識別子は変わり得るものであり、インターネット上の特定の情報は出現したり消失したりし得るものであるが、インターネットを検索することによって同等の情報を見つけることが可能であることが理解されよう。そこへの参照は、そのような情報が利用可能であり、広く普及していることを裏付けるものである。
【0052】
本明細書で使用される「a」、「an」、および「the」という単数形は、「1つ」を意味し得るが、別に文脈上明確に示されない限り、複数の指示対象(「1つ以上」および「少なくとも1つ」など)も含み得る。本明細書で使用される専門用語および科学用語はすべて、別に明確に示されない限り、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0053】
本明細書で使用される特許請求の範囲中の「または」という用語は、二者択一の選択肢のみを指すことが明確に示されない限り、または二者択一の選択肢が互いに排他的でない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は二者択一の選択肢のみ、ならびに「および/または」を指す定義を支持する。
【0054】
本出願を通じて、「約」という用語は、装置に固有の誤差変動を値が含むこと、値の決定に用いられる方法に固有の誤差変動を値が含むこと、または試験対象間に変動が存在すること、を示すために使用される。
【0055】
本明細書で使用される近似の言葉(限定されないが、「約」、「実質的な」、または「実質的に」など)は、条件が、そのような修飾がなされる場合に必ずしも絶対的または完全ではないと理解されるが、存在するものとしてそうした条件を指定することを保証する上で、当業者にとって十分に近いものであると見なされるであろうことを指す。説明が変わり得る程度は、生じ得る変化がどのくらい大きいかに依存し得、修飾される特徴が、修飾されない特徴の必要な特性および能力を依然として有すると当業者に依然として認識させることになるものである。一般に、前述の議論の範疇であるが、近似の言葉(「約」など)によって修飾される本明細書に記載の数値は、記載の値から少なくとも±1%、少なくとも±2%、少なくとも±3%、少なくとも±4%、少なくとも±5%、少なくとも±6%、少なくとも±7%、少なくとも±8%、少なくとも±9%、少なくとも±10%、少なくとも±11%、少なくとも±12%、少なくとも±13%、少なくとも±14%、または少なくとも±15%変動し得る。
【0056】
本明細書で使用される「含む(comprising)」という言葉(ならびに任意の形態の含む(comprising)(「含む(comprise)」および「含む(comprises)」など))、「有する(having)」という言葉(ならびに任意の形態の有する(having)(「有する(have)」および「有する(has)」など))、「含む(including)」という言葉(ならびに任意の形態の含む(including)(「含む(includes)」および「含む(include)」など))、または「含む(containing)」という言葉(ならびに任意の形態の含む(containing)(「含む(contains)」および「含む(contain)」など))は包含的または非限定的であり、記載されない追加の要素または方法ステップを除外しないものである。
【0057】
本明細書で使用される「またはそれらの組み合わせ」という用語は、当該用語に先行する列挙項目のすべての順列および組み合わせを指す。例えば、「A、B、C、またはそれらの組み合わせ」は、A、B、C、AB、AC、BC、またはABCのうちの少なくとも1つを含むことが意図され、特定の文脈において順序が重要である場合は、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC、またはCABも含むことが意図される。この例を用いて続けると、1つ以上の項目または用語の繰り返しを含む組み合わせ(BB、AAA、AB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBなど)が明確に含まれる。別に文脈から明らかでない限り、典型的には、任意の組み合わせの中の項目または用語の数には制限がないことを当業者なら理解するであろう。
【0058】
本明細書で使用される「FTNIR」および「FT-NIR」は、フーリエ変換近赤外分光法を指す。
【0059】
本明細書で使用される「生体触媒」は、ニトリルヒドラターゼ(NHase)活性を有する任意の生体触媒を指す。アクリロニトリルをアクリルアミドに変換する能力を有する生体触媒は、ニトリルヒドラターゼ活性(例えば、NHase)を有する酵素をコードする微生物であるか、またはニトリルヒドラターゼ活性を有する当該微生物の任意の部分であり得る。このことについて、微生物がニトリルヒドラターゼを天然にコードしているかどうか、あるいは当該酵素をコードするように微生物が遺伝的に改変されているかどうか、あるいはニトリルヒドラターゼを天然にコードする微生物が改変されているかどうか(この改変の結果、ニトリルヒドラターゼをより産生し、および/または強化型ニトリルヒドラターゼを産生できるようになるなどしている)は無関係である。さらに、ニトリルヒドラターゼ活性を有する酵素が天然起源の酵素または改変酵素であるかどうかは無関係である。生体触媒は、当該微生物、当該微生物の溶解細胞、当該微生物の細胞溶解物、またはこれらの任意の組み合わせ、から選択され得る。非常に特定の実施形態では、生体触媒は、ニトリルヒドラターゼ(NHase)である。
【0060】
本明細書で使用される「白金-コバルト」、「PtCo」、またはPt/Coは、廃水中の汚染レベルを評価する方法として、化学者であるAllen Hazen(1869~1930)によって1892年に最初に導入された色スケールを指す。それ以来、この方法は、黄色がかった試料の強度を比較する一般的な方法に拡大されている。この方法は黄色に特異的であり、500ppmの白金コバルト溶液の希釈液に基づいている。1ミリグラムの白金コバルトを1リットルの水に溶解することによって生じる色が、白金-コバルトスケールでの1単位の色として固定される。ASTMは、ASTM指定D1209「Standard Test Method for Color of Clear Liquids(Platinum-Cobalt Scale)」に詳細な説明および手順を有する。色の測定は、試料と白金-コバルト標準とを視覚的に比較することによって行われる。1mg/Lの白金によって生じる1単位の色は塩化白金酸イオンの形態のものである。非常に微量の濁度が決定を妨害し得るため、視認可能な濁度を示す試料は、一般に、遠心分離によって清澄化される。また、この方法はpHに依存する。
【0061】
II.FTNIRによる反応監視
本発明者らは、インラインフーリエ変換近赤外分光法(FTNIR)によってアクリルアミド合成反応を監視することで、反応混合物中のアクリロニトリル濃度の測定を少なくとも±100ppm(すなわち、少なくとも±80ppm)の精度で達成できることを見出しており、これは驚くべきことであった。この精度は、従来の赤外手法によって可能になっているものと比較して桁違いに優れたものである。したがって、アクリロニトリルの濃度が比較的低い場合に(例えば、1000ppm未満)、アクリルアミド合成反応の成熟期を監視するためにFTNIRを使用することができる。
【0062】
反応器は任意の適切な反応器(半回分式反応器、連続式反応器、一連の連続式反応器、または一連の撹拌槽型反応器など)であり得、いくつかの実施形態例では、半回分式反応器である。いくつかの実施形態では、反応器内にFTNIR分光器プローブが配置され得る。いくつかの実施形態では、反応器は、そこに取り付けられた冷却ループ、および冷却ループ内に配置されたFTNIR分光器プローブを含む。本明細書では、FTNIR分光器プローブを冷却ループ内に配置することで、反応器内にプローブを配置して使用する場合と比較して反応混合物中の気泡が低減されるであろうことが企図される。このことによって反応成分濃度測定(例えば、アクリロニトリルの濃度の決定で行われるもの)での精度がさらに改善されるであろうこともさらに企図される。
【0063】
FTNIRは、試料調製または消耗品(溶媒、カラム、もしくは試薬など)が不要な非破壊手法である。FTNIRはリアルタイム分析を与えるものでもあり、これに要する時間は、一般に、一つの測定当たり10秒以下であり、例えば、一つの測定当たり1秒以下である。一つの測定当たり10秒の速度で収集を行った場合、3.2cm-1のスペクトル分解能を達成可能である。したがって、FTNIR監視を行うことで、従来のウェットな実験室手法(HPLCなど)と比較して回分サイクル時間が短くなり、製造能力が向上する。
【0064】
FTNIR分光法では、NIR範囲内(約780nm~2600nm)で生じる分子振動の倍音および結合バンドが測定される。したがって、水のシグナルによって分析対象のシグナルが埋没し得るFTIRと比較してFTNIRは水溶液中の分析対象の測定に適している。さらに、FTNIR分光法は不均一試料の測定に適する一方で、FTIRでは、材料の表面下を探索することが不可能であるため、材料が不均一なものである場合、得られる情報が不十分なものとなる。
【0065】
FTNIR手法で使用される波長は、長い光ファイバーケーブルの使用を可能にするものであることから、反応器から数十メートル以内に電気部品またはATEX機器を配置する必要がなくなる。
【0066】
FTNIR分光器は、当該機器中でFTNIR干渉計内の可動鏡が唯一の連続可動部であるため、伝統的なフィルターベースの分散型NIR機器と比較して機械的に単純である。したがって、機械的な故障が生じる可能性は極めて低い。ほとんどの分散型機器では、スペクトルを得るために回折格子およびフィルターが可動性でなくてはならない。機械的に単純であることの利点は、走査機構の信頼性および堅牢性が向上することによって分析計の信頼性が向上することである。さらに、従来のNIR手法は、迷光によるサンプリング課題が生じやすく、分解能が比較的小さく(16cm-1またはこれより悪い)、スペクトル情報の損失が生じ、波長が不正確であり(このことは、移植法における障害となる)、シグナルノイズ比が低いものである。対照的に、FTNIRでは10,000超のシグナル/ノイズ比で測定を行うことができる。
【0067】
分散型NIR機器は、近赤外周波数の分離(分解)をプリズムまたは回折格子に依存していている。最良の回折格子で得られる周波数分解能は良くても50cm-1であり得る。一方で、ほとんどの化学試料が、8cm-1で分解されるスペクトル情報を有する。こうした種類の試料についての重要なスペクトル情報を分散型機器で測定収集することは不可能であるため、分散型機器では分解能を向上させるためにスリット機構が用いられている。スリットは測定ビーム量を制限するものであるため、実質的なエネルギー損失を被ることで、分解能を高めて試料測定を行うことが困難または非実用的になる。FTNIRシステムでの分解能は可動鏡のストローク長で決まるため、分散型機器でスリットによって生じるような光学的スループットの低下は起こらない。FTNIRシステムによる測定では、パフォーマンスが低下することなく高分解能スペクトルを迅速かつ容易に得ることが可能である。スペクトル情報が増えることで、精巧な計量化学アルゴリズムに頼る必要性も少なくなり、これによって、方法の開発に必要な基準も少なくなる。
【0068】
FTNIR機器によって内部参照レーザーが使用されることはコーンズの優位性と称される。内部較正の利点は、0.1cm-1を凌ぐ精度および正確性である。分散型NIR機器では機械的に複雑なプリズムまたは回折格子が利用され、こうした複雑なプリズムまたは回折格子では、ピーク位置の誤差および走査間での不正確性が生じる。分散型機器には固有の不正確問題がつきまとうことから、較正には参照材料を用いなくてはならない。外部較正を反復して実施する必要があることから、測定には困難およびオペレーター誤差がつきまとう。波長が不正確であることに起因するFTNIR機器アーティファクトは無視できることから、必要な基準が少なくなり、分散型機器で得られる結果と比較して良好な結果が得られる。
【0069】
FTNIRでは光ファイバープローブの利点が得られる。FTNIRプローブには、固体材料用の古典的な拡散反射プローブ、透明液体用のトランスミッション浸漬プローブ、および懸濁液またはエマルション用のトランスフレクション浸漬プローブが含まれる。トランスフレクション浸漬プローブの例としては、特に、水系アクリルアミド合成反応の監視用のものが挙げられる。経路長は、さまざまなものが適し得る。プローブ材料としては、さまざまなもの(ステンレス鋼、ハステロイ、またはセラミックなど)が利用可能である。さらに、プローブは、カスタマイズして長さおよびフランジ形状を変えることもできる。したがって、FTNIR分光器プローブは、反応器内または反応器に接続された冷却ループ内に配置されるように構成され得る。
【0070】
III.生体触媒
生体触媒は、スラリーの調製前の時点で、新鮮物(すなわち、発酵から得られたままのもの)、保存物(凍結物(湿潤物の凍結物)として保存されたものなど)、または乾燥物であり得る。
【0071】
発酵後、生体触媒スラリーは、多くの場合、典型的には、当該スラリーの投入前または保存前(例えば、凍結保存前)に洗浄されるか、またはその他の方法で適切に処理されるか、もしくはさらに適切に処理され得る。
【0072】
生体触媒は、当該技術分野で知られるニトリルヒドラターゼ(NHase)活性を有する任意の生体触媒であり得る。
【0073】
本開示の実施形態のいずれか1つによれば、アクリロニトリルをアクリルアミドに変換する能力を有する生体触媒は、ニトリルヒドラターゼ活性(例えば、NHase)を有する酵素をコードする微生物であるか、またはニトリルヒドラターゼ活性を有する当該微生物の任意の部分であり得る。このことについて、微生物がニトリルヒドラターゼを天然にコードしているかどうか、あるいは当該酵素をコードするように微生物が遺伝的に改変されているかどうか、あるいはニトリルヒドラターゼを天然にコードする微生物が改変されているかどうか(この改変の結果、ニトリルヒドラターゼをより産生し、および/または強化型ニトリルヒドラターゼを産生できるようになるなどしている)は無関係である。さらに、ニトリルヒドラターゼ活性を有する酵素が天然起源の酵素または改変酵素であるかどうかは無関係である。生体触媒は、当該微生物、当該微生物の溶解細胞、当該微生物の細胞溶解物、またはこれらの任意の組み合わせ、から選択され得る。非常に特定の実施形態では、生体触媒は、ニトリルヒドラターゼ(NHase)である。
【0074】
ニトリルヒドラターゼをコードする微生物(例えば、ニトリルヒドラターゼを天然にコードする微生物、もしくはニトリルヒドラターゼをコードするように遺伝的に改変された微生物)または当該微生物の任意の部分を、本明細書に記載の実施形態のいずれの1つにおいても生体触媒として使用することができ、こうした微生物またはその任意の部分には、Rhodococcus、Aspergillus、Acidovorax、Agrobacterium、Bacillus、Bradyrhizobium、Burkholderia、Escherichia、Geobacillus、Klebsiella、Mesorhizobium、Moraxella、Pantoea、Pseudomonas、Rhizobium、Rhodopseudomonas、Serratia、Amycolatopsis、Arthrobacter、Brevibacterium、Corynebacterium、Microbacterium、Micrococcus、Nocardia、Pseudonocardia、Trichoderma、Myrothecium、Aureobasidium、Candida、Cryptococcus、Debaryomyces、Geotrichum、Hanseniaspora、Kluyveromyces、Pichia、Rhodotorula、Comomonas、およびPyrococcusからなる群から選択される属に属する種が含まれる。例示の実施形態では、生体触媒は、Rhodococcus属、Pseudomonas属、Escherichia属、およびGeobacillus属の細菌から選択される。典型的には、生体触媒は、Rhodococcus、Aspergillus、Acidovorax、Agrobacterium、Bacillus、Bradyrhizobium、Burkholderia、Escherichia、Geobacillus、Klebsiella、Mesorhizobium、Moraxella、Pantoea、Pseudomonas、Rhizobium、Rhodopseudomonas、Serratia、Amycolatopsis、Arthrobacter、Brevibacterium、Corynebacterium、Microbacterium、Micrococcus、Nocardia、Pseudonocardia、Trichoderma、Myrothecium、Aureobasidium、Candida、Cryptococcus、Debaryomyces、Geotrichum、Hanseniaspora、Kluyveromyces、Pichia、Rhodotorula、Comomonas、およびPyrococcusからなる群から選択されるか、またはニトリルヒドラターゼ活性を有する当該微生物の任意の部分である。
【0075】
いくつかの実施形態では、生体触媒は、Rhodococcus(例えば、Rhodococcus pyridinovoransもしくはRhodococcus rhodochrousもしくはRhodococcus aetherivorans)、Pseudomonas、Escherichia、およびGeobacillusからなる群から選択されるか、またはニトリルヒドラターゼ活性を有する当該微生物の任意の部分である。
【0076】
例示の実施形態では、生体触媒は、Rhodococcus aetherivorans もしくはRhodococcus rhodochrousであるか、またはニトリルヒドラターゼ活性を有する当該微生物の任意の部分である。
【0077】
一実施形態では、生体触媒の量は、乾燥細胞0.1kg/反応混合物m~乾燥細胞5kg/反応混合物mである。
【0078】
別の実施形態では、生体触媒の量は、最終的なAMD量に基づくと、乾燥細胞0.1g/100%AMD kg~乾燥細胞3g/100%AMD kg、より具体的には乾燥細胞0.2g/100%AMD kg~乾燥細胞3g/100%AMD kg、より具体的には乾燥細胞0.2g/100%AMD kg~乾燥細胞2.5g/100%AMD kgである。別の実施形態では、生体触媒の量は、乾燥細胞0.5g/100%AMD kg~乾燥細胞2g/100%AMD kg、またはより具体的には乾燥細胞1.1g/100%AMD kg~乾燥細胞1.5g/100%AMD kgである。
【0079】
さらに別の実施形態では、生体触媒の量は、最終的なAMD量に基づくと、乾燥細胞0.5g/50%AMD kg~乾燥細胞1g/50%AMD kg、より具体的には乾燥細胞1.6g/50%AMD kg~乾燥細胞1.8g/50%AMD kgである。
【0080】
別の実施形態では、生体触媒の量は、反応混合物の成熟の終了時点の反応混合物のm当たり乾燥細胞0.1kg~1.5kgである。別の実施形態では、生体触媒の量は、乾燥細胞0.1kg/反応混合物m~乾燥細胞1.0kg/反応混合物mである。
【0081】
方法中、例えば反応器内にアクリロニトリルが蓄積し始めた場合には、生体触媒の添加量が増やされる。生体触媒は、例えば、水中均一スラリーとして添加され得る。
【0082】
IV.反応の進行
反応は周囲圧力で実施され、より具体的には1バールで実施される。
【0083】
スラリーは、当該技術分野で知られる任意の方法(水と生体触媒とを容器内または反応器内で混合するものなど)によって調製され得る。より具体的には、スラリーは均一なものである。強く凝集したスラリーの活性は均一スラリーと比較して低い。生体触媒は均一スラリーにおいて、より活性である。
【0084】
NHase活性を有する生体触媒を存在させた水溶液中でのアクリロニトリルからアクリルアミドへの反応は、当該スラリーを含む反応器へとアクリロニトリルを供給した時点で始まる。したがって、当該スラリーを含む反応器にアクリロニトリルを供給することで、水、アクリルアミド、アクリロニトリル、および生体触媒を含む反応混合物が得られる。
【0085】
アクリロニトリル供給プロファイルおよび方法温度プロファイルを制御することで、高濃度(例えば、少なくとも35重量%、または少なくとも40重量%、または少なくとも45重量%、または少なくとも50重量%以上)のアクリルアミド水溶液を得ることができる。反応混合物を所望の反応温度に保つには、反応器を冷却することが典型的には必要である。反応速度を速め、合成時間を短くするために、温度およびアクリロニトリル供給速度は、反応開始時点では、それぞれ比較的高くされる。アクリルアミドの蓄積に起因する生体触媒の失活は、反応混合物が高温の場合と比較して低温で顕著に低減されることから、反応開始後(例えば、反応開始から60分後)に反応器の冷却が開始される。反応器内にアクリロニトリルが蓄積することを避けるために、最後の数時間の間はアクリロニトリル供給速度が比較的遅くされる。
【0086】
方法を通じてアクリロニトリルの供給を継続することができ、より具体的には、成熟期に到達するまで方法を通じてアクリロニトリルの供給を継続することができる。アクリロニトリル供給速度は方法中に変更され得る。アクリロニトリルの供給は連続的または断続的であり得る。アクリロニトリル供給速度は、アクリロニトリルからアクリルアミドへの反応速度、および生体触媒の失活速度に依存する。一実施形態では、アクリロニトリルの供給は、成熟期に到達するまで方法を通じて継続される。
【0087】
一実施形態では、アクリロニトリル供給速度は、反応混合物へのアクリロニトリル蓄積を避けるために方法中に調節される。アクリロニトリルは、アクリロニトリルがアクリルアミドに変換される速度で方法中に供給される。より具体的には、反応混合物中のアクリロニトリル量は、反応混合物の総量に対して3重量%未満または2重量%未満、より具体的には1重量%未満、さらにより具体的には0.5重量%未満に維持される。
【0088】
方法の別の実施形態では、反応器に供給されるアクリロニトリルの総量の38%~48%が、方法の開始から0分~60分の間に反応器に供給され、方法の60分~120分の間にアクリロニトリルの総量の22%~30%が供給され、方法の120分~180分の間にアクリロニトリルの総量の12%~18%が供給され、方法の180分~240分の間にアクリロニトリルの総量の8%~12%が供給される。供給アクリロニトリルの100%のバランスが取れるように、成熟期前に、残りのアクリロニトリルが方法中に供給される。
【0089】
成熟期中は、反応器に供給されるアクリロニトリルは実質的に皆無であり、より具体的には皆無である。成熟中、反応混合物中に依然として存在するアクリロニトリルモノマーは反応してアクリルアミドとなる。反応混合物は、所望の特徴が達成されるまで成熟される。
【0090】
約25重量%~38重量%のアクリルアミド溶液中では生体触媒が失活し始めることが知られている。例えば、WO2019/097123を参照のこと。アクリルアミド蓄積によって引き起こされる生体触媒失活は温度に強く依存することから、反応混合物を冷却すると生体触媒失活が顕著に低減される。したがって、反応混合物の温度が監視される。この監視および測定は、当該技術分野で知られる任意の適切な手段および方法を用いて実施され得る。
【0091】
最初は、反応混合物の温度は15~25℃に維持される。一実施形態では、温度は19~25℃、より具体的には20~22℃、さらにより具体的には22℃に維持される。一実施形態では、反応混合物の温度を測定し、温度が所望の範囲内に収まるように混合物の冷却または混合物の加熱を行うことによって所望の範囲内に温度が維持される。反応混合物の冷却および/または加熱は当該技術分野で知られる方法を用いて実施され得る。
【0092】
いくつかの実施形態では、方法は、アクリルアミド濃度が少なくとも27重量%、より具体的には27重量%~38重量%に到達したときに反応混合物をさらに冷却することを含む。一実施形態では、当該反応混合物の冷却は、アクリルアミド濃度が28重量%~30重量%に到達したときに開始される。反応混合物の冷却は、当該技術分野で知られる任意の適切な方法および手段(反応器を冷却することによるものなど)によって実施され得る。
【0093】
反応混合物の冷却が開始されるとき、反応混合物の温度は、方法の開始時点の反応混合物の温度と同じか、それよりも高いか、またはそれよりも低くあり得る。
【0094】
いくつかの実施形態では、反応混合物の冷却は、アクリルアミド濃度が37重量%~55重量%に到達したときに反応混合物の温度が10℃~18℃または10℃~21℃の範囲内に入るように継続される。換言すれば、10℃~18℃または10℃~21℃の温度へと反応混合物が冷却される時間帯は、アクリルアミド濃度が少なくとも27重量%(より具体的には27重量%~38重量%)から37重量%~55重量%(より具体的には40重量%~50重量%)に上昇する時間帯である。
【0095】
一実施形態では、反応混合物の冷却は、アクリルアミド濃度が37重量%~55重量%に到達したときに温度が10℃~16℃の範囲内、より具体的には13℃~16℃の範囲内、さらにより具体的には15℃となるように、継続される。一実施形態では、冷却は、例えば、反応混合物が15℃~25℃に維持された後に開始される。一実施形態では、反応混合物は、少なくとも10℃、より具体的には少なくとも5℃、さらにより具体的には少なくとも4℃で冷却される。冷却は、直線的または段階的に実施され得るものであり、典型的には直線的に実施される。
【0096】
一実施形態では、反応混合物は、アクリルアミド濃度が37重量%~55重量%に到達したときに10℃~18℃または10℃~21℃の範囲内の温度で成熟される。
【0097】
成熟中、反応器に供給されるアクリロニトリルは実質的に皆無であり、より具体的には皆無である。成熟中、反応器内の未反応のアクリロニトリルは反応してアクリルアミドとなる。成熟は、反応混合物が冷却され、反応混合物の温度が10℃~18℃もしくは10℃~21℃の範囲内に入った後、および/または反応器へのアクリロニトリルの供給が終了した後に開始される。より具体的には、成熟は、反応混合物中のアクリロニトリルの最終濃度が最大でも1000ppm、最大でも500ppm、最大でも250ppm、最大でも100ppm、最大でも50ppm、最大でも10ppm、または最大でも0ppmとなるまで継続される。
【0098】
方法の一実施形態では、反応混合物の温度は、30分~90分間(45分~60分間など)15℃~25℃に維持され、10℃~18℃または10℃~21℃の温度への反応混合物の冷却が45分~120分間(60分~120分間など)実施される。
【0099】
方法の終了時点で温度は低く保たれるため、方法中に形成されるアクリル酸は少なくなる。アクリル酸が形成される反応の活性化エネルギーは主反応(アクリルアミドの形成)の活性化エネルギーよりも高い。アクリルアミド水溶液中のアクリル酸の量は、最大でも300ppm、より具体的には最大でも200ppm、さらにより具体的には最大でも100ppmである。アクリルアミド水溶液中のアクリル酸の量が少ないことは、アクリルアミド溶液から陽イオン性ポリマーを調製する場合に有利である。
【0100】
生成アクリルアミド水溶液を遠心分離することで、アクリルアミドを生体触媒から分離することができる。
【0101】
IV.アクリルアミド水溶液
本開示の第2の態様では、本明細書に開示の方法によって得られるまたは得ることが可能なアクリルアミド水溶液が提供される。より具体的には、本明細書に開示の方法によって得られるアクリルアミド水溶液が提供され、このアクリルアミド水溶液は、アクリルアミド水溶液中の全残存アクリロニトリルの濃度がFTNIR分光法によって測定した場合に1000ppm以下であるという点で特徴付けられる。一実施形態では、FTNIR分光法によって測定した場合の溶液中の全残存アクリロニトリルの濃度は、最大でも1000ppm、最大でも500ppm、最大でも250ppm、最大でも100ppm、最大でも90ppm、より具体的には最大でも75ppm、さらにより具体的には最大でも50ppm、最も具体的には最大でも10ppmである。一実施形態では、残存アクリロニトリルの濃度は0ppmである。
【0102】
いくつかの実施形態では、アクリロニトリルの濃度は、少なくとも±5000ppmの精度、少なくとも±3000ppmの精度、少なくとも±1000ppmの精度、少なくとも±500ppmの精度、少なくとも±400ppmの精度、少なくとも±300ppmの精度、少なくとも±200ppmの精度、少なくとも±100ppmの精度、または少なくとも±80ppmの精度でFTNIR分光法によって測定される。
【0103】
いくつかの実施形態では、全残存アクリロニトリルの濃度は、少なくとも±100ppmの精度、より具体的には少なくとも±80ppmの精度でFTNIR分光法によって測定される。
【0104】
いくつかの実施形態では、アクリルアミド水溶液中のアクリルアミドの濃度およびアクリル酸の濃度もまた、FTNIR分光法によって測定され得る。いくつかの実施形態では、アクリルアミド水溶液中のアクリルアミドの濃度は、34重量%~55重量%または38重量%~55重量%または50重量%~55重量%である。いくつかの実施形態では、アクリルアミド水溶液中のアクリル酸の量は、最大でも300ppm、より具体的には最大でも200ppm、さらにより具体的には最大でも100ppmである。アクリルアミド水溶液中のアクリル酸の量が少ないことは、アクリルアミド溶液から陽イオン性ポリマーを調製する場合に有利である。
【0105】
いくつかの実施形態では、アクリルアミド水溶液の濁度は、0.7mlのHCl(0.1N)、7mlのアセトン、および2.3mlのろ過(0.45μm)したアクリルアミド水溶液試料を含む混合物の450nmでの吸光度を測定した場合、20以下であり得る。一実施形態では、溶液の濁度は15以下である。
【0106】
いくつかの実施形態では、生成アクリルアミド水溶液は、生体触媒を実質的に含み得ない。
【0107】
V.アクリルアミド水溶液の使用
本開示の第3の態様では、ポリアクリルアミドの製造において本開示の方法によって製造されるアクリルアミド水溶液の使用が提供される。
【実施例
【0108】
VI.実施例
以下の実施例は、例示を目的として提供されるものにすぎず、限定ではない。
【0109】
[実施例で使用したアクリルアミド合成反応の監視のための材料および方法]
実施例1~4に記載のように4つのアクリルアミド合成反応を実施した。方法の比較検証のためにアクリルアミド(AMD)、アクリロニトリル(AN)、およびアクリル酸(AA)の濃度をインラインFTNIR分光法およびHPLCによって決定した。
【0110】
半回分式反応器に配置した光ファイバー接続Falcata 12トランスフレクションプローブ(Hellma,Germany)を用いてi-RED FTNIR分光器(Infrarot Systeme GmbH,Austria)でFTNIR分光法を実施した。図1には、FTNIRを備えた反応器の模式図が示される。表1には、FTNIR分光器パラメーターが示される。図2には、典型的なFTNIR吸収スペクトルが示される。
【表1】
【0111】
HPLC測定については、ピペットによって反応器から反応混合物試料(1.5mL)を定期的に採取し、0.45μmのPVDFシリンジフィルターに通してろ過し、0.7MのCuSO・5HOを10μL添加することによってその反応を停止した。
【0112】
Kintex(登録商標)5μm C18 100Å LCカラム(250×4.6mm)を備えた1100 Series HPLC(Agilent Technologies,USA)を使用してAN、AMD、およびAAの濃度をHPLCによって決定した。これらの成分の検出は、1260ダイオードアレイ検出器(Agilent Technologies,USA)を用いて、各成分およびそのUV吸光度直線性に応じて200nm、225nm、および260nmでのUV吸光度によって行った。流速は1mL/分とし、3.8×10-2MのH3PO4を溶出液とした。HPLC用の試料は、反応を停止した反応混合物約0.2gを正確に測り、UV照射処理を事前に1時間行って不純物を分解したタイプ1のMilliQ水に含めて希釈して100mlとすることによって調製した。1961ppmのアクリルアミド内部標準を測定前に3回分析して装置が正しく確実に較正されるようにした。Agilentソフトウェアにおいてアクリルアミド0.1μLプログラムを使用した。
【0113】
多変量データ解析
FTNIRデータ、ならびにAN濃度およびAMD濃度についてHPLCによって決定した参照値を多変量データ解析に供した。AAについては、この副生成物の濃度のすべてが0.0%または<0.01%であると決定されたため、解析は実施不可能であった。
【0114】
反応混合物成分の濃度の定量的な決定については、記録されたFTNIRスペクトルを、HPLC由来の参照値と共に、PLS法による多変量データ解析に供した。したがって、ANおよびAMDについての参照値とFTNIRスペクトルとの間の相関を調べた。さらに、測定FTNIRスペクトルから濃度を計算するために、評価モデルまたは予測モデルを創出した。
【0115】
そのようなモデルの品質(予測力、安定性)をより容易に評価し、得られる平均測定誤差をより良好に推定するために、データを交差検証に供した。具体的には、モデリングの方法において、データ試料を分割除外し、残りのデータ/試料でモデルを創出した後、このモデルを当該分割除外データ/試料に適用した。これによって、モデルに既に含めた試料または測定値でモデルの試験が行われることがないようにした。
【0116】
交差検証では、相関の品質の尺度として2つのパラメーター(RおよびRMSECV)を与えた。これら2つの量は、以下のように説明される。
- R:相関係数。Rは、参照値とFTNIRスペクトルデータとの間の相関の無次元尺度である。値は0~1であり、値が大きいほど相関が良好であることを意味する。
- RMSECV:交差検証の二乗平均平方根誤差。このパラメーターは、それぞれの測定単位での交差検証における参照値からのFTNIR値の平均偏差を説明するものである。このパラメーターは、この評価モデルに基づく測定方法の予測平均誤差の大きさを示す。
【0117】
データ解析は各実験について個別に実施し、すべての実験のデータを含む1つの全体モデルを調べた。
【0118】
実施例1:アクリルアミド合成実験1
解凍した生体触媒9.96gを190gのTRIS緩衝液(脱イオン水で調製したTRIS-HCl(pH8.0±0.1))に含めて1000rpmで15分間ボルテックスすることによって均一スラリーを調製した。スラリー中の生体触媒の乾燥細胞含量を2.189重量%と決定した。FTNIR分光器プローブを備えた半回分式反応器に570.0gのTRIS緩衝液(pH8.0)および3.09gの生体触媒スラリーを添加し、400rpmで混合することで、生体触媒が沈降しないようにした。
【0119】
アクリロニトリル供給を初期条件で始める前に、反応器を冷却して初期温度を21℃にした。
【0120】
上記スラリーを含む反応器にアクリロニトリルを供給して反応混合物とすることによってアクリルアミド合成反応を開始した。約3時間にわたって全部で226.91gのアクリロニトリルを反応器に供給した。5時間後に反応混合物を20℃に冷却した。
【0121】
表2には、この実験についてHPLCによって決定した反応混合物成分濃度が示される。
【表2】
【0122】
図3には、AN濃度およびAMD濃度についての交差検証が示される。AN濃度の計算モデルは、参照値とFTNIR測定データとの間に良好な相関(R=0.978)を示す。AN含量についての分光測定法の予測平均測定誤差(RMSECV)は、0~10%の濃度範囲では0.5%未満である。
【0123】
AMD濃度の計算モデルは、参照値とFTNIR測定データとの間にいくらかの相関(R=0.715)を示す。AMD含量についての分光測定法の予測平均測定誤差(RMSECV)は、0~24%の濃度範囲では3.5%未満である。
【0124】
実施例2:アクリルアミド合成実験2
0%~50%の濃度範囲でのアクリルアミドに対するFTNIRの精度および正確性を決定するために、下記の反応プロトコールを設計して、少なくとも50%の最終アクリルアミド濃度が達成されるようにした。アクリルアミド合成実験1と比較して、反応混合物に供給するアクリロニトリルの量を57.3%増加させた。
【0125】
解凍した生体触媒10gを190gの脱イオン水に含めて1000rpmで15分間ボルテックスすることによって均一スラリーを調製した。スラリー中の生体触媒の乾燥細胞濃度を0.669重量%と決定した。FTNIR分光器プローブを備えた半回分式反応器に脱イオン水(545.6g)およびスラリー(17.33g)を添加し、300rpmで混合して生体触媒が沈降しないようにした。
【0126】
アクリロニトリル供給を初期条件で始める前に、反応器を冷却して初期温度を22℃にした。
【0127】
上記スラリーを含む反応器にアクリロニトリルを供給して反応混合物とすることによってアクリルアミド合成反応を開始した。3時間にわたって全部で357gのアクリロニトリルを反応器に供給した。具体的には、最初の60分(すなわち、0分~60分)の間に167.8g(47.0重量%)のアクリロニトリルを反応器に供給した。次の60分(すなわち、60分~120分)の間に117.8g(33.0重量%)のアクリロニトリルを反応器に供給した。さらに、次の60分(すなわち、120分~180分)の間に71.4g(20.0重量%)を反応器に供給した。3時間後にアクリロニトリル供給を停止した。
【0128】
5時間後に反応混合物を20℃に冷却した。その後、FTNIRプローブを取り出し、液体表面下に沈めた多孔性ガラス焼結物を介して空気を反応混合物に5分間パージ(空気供給速度0.5NL/分)した。その後、反応混合物を一晩静置してAMD成熟期を継続した。
【0129】
表3には、HPLCによって決定した反応混合物成分濃度が示される。
【表3】
【0130】
図4には、AN濃度およびAMD濃度についての交差検証が示される。AN濃度の計算モデルは、参照値とFTNIR測定データとの間に良好な相関(R=0.847)を示す。AN含量についてこの実験から得られた分光測定法の予測平均測定誤差(RMSECV)は0.3%未満である。
【0131】
AMD濃度の計算モデルは、参照値とFTNIR測定データとの間に非常に良好な相関(R=0.966)を示す。AMD含量についてこの実験から得られた分光測定法の予測平均測定誤差(RMSECV)は3.8%未満である。
【0132】
実施例3:アクリルアミド合成実験3
0%~1%の濃度範囲でのアクリロニトリルに対するFTNIRの精度および正確性を決定するために、下記の反応プロトコールを使用した。
【0133】
解凍した生体触媒10.05gを190gの脱イオン水に含めてボルテックスすることによって均一スラリーを調製した。スラリー中の生体触媒の乾燥細胞濃度を0.819重量%と決定した。FTNIR分光器プローブを備えた半回分式反応器に脱イオン水(542.5g)およびスラリー(20.47g)を添加し、300rpmで混合して生体触媒が沈降しないようにした。
【0134】
アクリロニトリル供給を初期条件で始める前に、反応器を冷却して初期温度を22℃にした。
【0135】
上記スラリーを含む反応器にアクリロニトリルを供給して反応混合物とすることによってアクリルアミド合成反応を開始した。最初の60分(すなわち、0分~60分)の間に168g(47.0重量%)のアクリロニトリルを反応器に供給した。次の60分(すなわち、60分~120分)の間に118g(33.0重量%)のアクリロニトリルを反応器に供給した。次の60分(すなわち、120分~180分)の間に71g(20.0重量%)を反応器に供給した。3時間後にアクリロニトリル供給を停止した。5時間後に反応混合物を20℃に冷却した。
【0136】
表4にはHPLCによって決定した反応混合物成分濃度が示される。
【表4】
【0137】
図5には、AN濃度およびAMD濃度についての交差検証が示される。AN濃度の計算モデルは、参照値とFTNIR測定データとの間に良好な相関(R=0.893)を示す。AMD濃度の計算モデルもまた、参照値とFTNIR測定データとの間に良好な相関(R=0.898)を示す。
【0138】
この実験から得られた分光測定の予測平均測定誤差(RMSECV)は、AN含量については0.04%未満(400ppm未満)であり、AMD含量については1.3%未満である。こうした誤差値はアクリルアミド合成実験1および2で達成された誤差レベルと比較して改善されているが、反応器内には気泡の存在が認められた。反応器内に気泡が存在することは、FTNIR測定での誤差を、気泡不在下で行われるFTNIR測定と比較して大きくするものと予想される。したがって、反応器の外部(すなわち、反応器に取り付けられた冷却ループ内)にFTNIRプローブを配置することで、反応器と比較して冷却ループ内には気泡が少ないことに起因してAN濃度およびAMD濃度のFTNIR測定の誤差がさらに低減されることが企図される。
【0139】
実施例4:アクリルアミド合成実験4
0~1%(10,000ppm)という非常に低濃度の範囲でアクリロニトリル濃度をさらに制御し、この濃度範囲での取得データ点を増やすために、下記の実験を設計した。注目すべきことに、この反応で使用した生体触媒は変性した。したがって、この生体触媒はアクリルアミド合成を触媒しないものと予想された。したがって、この実験は「モック」アクリルアミド合成反応となった。この実験例では、反応器の最初のアクリルアミド含量は36.95重量%であった。全部でわずか9.3gのANを反応器に供給し、これによってAN濃度を0.0%から0.99重量%へと徐々に上昇させた。予想通り、AMD濃度は比較的一定のままであった。とはいえ、ANを添加することによって希釈が生じたことでAMD濃度には若干の減少が観察され、AMD濃度は36.58重量%に下がった。
【0140】
表5にはHPLCによって決定した反応混合物成分濃度が示される。
【表5-1】
【表5-2】
【0141】
図6には、AN濃度およびAMD濃度についての交差検証が示される。AN濃度の計算モデルは、参照値とFTNIR測定データとの間に優れた相関(R>0.99)を示す。AN含量についての分光測定法の予測平均測定誤差(RMSECV)は、0~1%(0~10,000ppm)の濃度範囲では0.02%未満(すなわち、0.018%(180ppm)未満)である。
【0142】
AMD濃度の計算モデルもまた、参照値とFTNIR測定データとの間に優れた相関(R>0.99)を示す。AMD含量についての分光測定法の予測平均測定誤差(RMSECV)は、36.6~37%の濃度範囲では0.01%未満である。
【0143】
0~0.1%(0~1000ppm(生成アクリルアミド水溶液中の予想アクリロニトリル濃度範囲))という非常に低濃度の範囲のアクリロニトリル濃度についての予測平均測定誤差を決定するために、この実験から得られたデータを、[AN]<1000ppmである値に限定した。モデルを開発し、試験した。
【0144】
図7には、[AN]<1000ppmであるデータを対象としたAN濃度およびAMD濃度についての交差検証が示される。AN濃度の計算モデルは、参照値とFTNIR測定データとの間に非常に良好な相関(R>0.94)を示す。AN含量についての分光測定法の予測平均測定誤差(RMSECV)は、0~1000ppmの濃度範囲では80ppm未満である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】