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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-02
(54)【発明の名称】分離マトリックス及び分離の方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20230526BHJP
   B01J 41/09 20170101ALI20230526BHJP
   B01J 47/12 20170101ALI20230526BHJP
   B01D 15/38 20060101ALI20230526BHJP
   C07K 1/16 20060101ALN20230526BHJP
【FI】
B01J20/26 H
B01J41/09
B01J47/12
B01D15/38
C07K1/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022565913
(86)(22)【出願日】2021-04-16
(85)【翻訳文提出日】2022-12-23
(86)【国際出願番号】 EP2021059887
(87)【国際公開番号】W WO2021219400
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】2006231.1
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516106689
【氏名又は名称】ピュリディファイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-リュク・マロイセル
(72)【発明者】
【氏名】ジミー・ヘディーン・ダールストレーム
(72)【発明者】
【氏名】マーク・ハマーソン
(72)【発明者】
【氏名】オラ・リンド
(72)【発明者】
【氏名】サラ・ハグブラッド・サールベリ
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ルンドクヴィスト
(72)【発明者】
【氏名】タニア・アフマド
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
4H045
【Fターム(参考)】
4D017AA11
4D017BA03
4D017CA11
4D017CB05
4D017DA03
4G066AC02C
4G066AD01C
4G066AD04B
4G066AD06B
4G066AD07B
4G066AD08B
4G066AD11B
4G066AD15B
4G066AE10B
4G066BA03
4G066BA16
4G066BA20
4G066BA23
4G066BA25
4G066CA20
4G066CA54
4G066DA07
4G066EA02
4G066EA13
4H045AA50
4H045BA10
4H045CA42
4H045DA75
4H045GA21
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、支持体に共有結合でカップリングしている複数のマルチモーダルリガンドを含む分離マトリックスであって、前記支持体が不織ポリマー繊維を含む膜であり、前記リガンドが標的生体高分子と相互作用することができる、分離マトリックスを開示する。更に、本発明は前記分離マトリックスを使用する分離方法を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に共有結合でカップリングしている複数のマルチモーダルリガンドを含む分離マトリックスであって、前記支持体が不織ポリマー繊維を含む膜であり、前記リガンドが標的生体高分子と相互作用することができる、分離マトリックス。
【請求項2】
前記ポリマー繊維がセルロース繊維である、請求項1に記載の分離マトリックス。
【請求項3】
前記ポリマー繊維が、セルロース繊維、例えば、鹸化された又は部分的に鹸化された酢酸セルロース繊維である、請求項1又は2に記載の分離マトリックス。
【請求項4】
前記ポリマー繊維が互いに部分的に融着し、複数の繊維-繊維融着点を形成する、請求項1から3のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項5】
前記膜が複数の不織繊維層を含み、前記層が互いに部分的に融着している、請求項1から4のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項6】
前記ポリマー繊維が100~800nm、例えば100~600nmの直径を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項7】
前記ポリマー繊維及び任意選択で前記繊維-繊維融着点を覆うグラフト化ポリマーコーティングを更に含み、前記マルチモーダルリガンドが前記グラフト化ポリマーコーティングに共有結合でカップリングしている、請求項1から6のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項8】
前記ポリマー繊維に共有結合でつながれている複数のグラフト化ポリマー分子を更に含み、前記マルチモーダルリガンドの少なくとも一部が前記グラフト化ポリマー分子に共有結合でカップリングしている、請求項1から6のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項9】
前記グラフト化ポリマー分子がポリグリシドールポリマー分子又はポリグリシドールコポリマー分子である、請求項8に記載の分離マトリックス。
【請求項10】
前記グラフト化ポリマー分子又はグラフト化ポリマーコーティングを有する前記ポリマー繊維が100~1000nm、例えば100~700nm又は200~700nmの直径を有する、請求項7から9のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項11】
200~800nmの平均孔径を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項12】
0.9~1.2μm、例えば1.0~1.2μmのバブルポイント孔径を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項13】
0.2~0.4μmの最小孔径を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項14】
0.3~0.5μmの平均流量孔(MFP)径を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項15】
50~90%の孔体積率を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項16】
乾燥分離マトリックスg当たりリガンド100~2000μmolのリガンド密度を有する、請求項1から15のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項17】
1.2mPas未満の粘度の水性液相がマトリックスの0.05~10mmの厚みを分当たり1~640媒体体積の流量で通る場合、分離マトリックス全体の圧力低下が床高さmm当たり1MPa未満である、請求項1から16のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項18】
1.2mPas未満の粘度の水性液相がマトリックスの0.05~10mmの厚みを分当たり1~640媒体体積の流量で通る場合、分離マトリックス全体の圧力低下が2MPa未満である、請求項1から17のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項19】
pH5~8の水性緩衝液が分離マトリックスを0.4秒の滞留時間で通る場合、緩衝液の導電率が3~90mS/cmの間隔にわたり変化すると、分離マトリックス全体の圧力低下が床高さmm当たり0.07MPa未満変化する、請求項1から18のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項20】
グラフト化ポリマー分子又はグラフト化ポリマーコーティングが、前記ポリマーナノ繊維に単一点で共有結合でつながれているポリマー分子を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項21】
グラフト化ポリマー分子又はグラフト化ポリマーコーティングが分岐状ポリマー分子を含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項22】
グラフト化ポリマー分子又はグラフト化ポリマーコーティングがグリシドールモノマー残基を含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項23】
グラフト化ポリマー分子又はグラフト化ポリマーコーティングがジビニルスルホンモノマー残基を含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項24】
前記マルチモーダルリガンドがマルチモーダルアニオン交換リガンドを含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項25】
前記マルチモーダルアニオン交換リガンドが、窒素を介して支持体にカップリングしている構造
R1-L1-N(R3)-L2-R2
(式中、
R1は5若しくは6員環の置換若しくは非置換芳香族若しくは脂肪族環構造、ヒドロキシエチル基又はC1~C4アルキル基であり、
L1はメチレン基又は共有結合であり、
R2は5又は6員環の置換又は非置換芳香族又は脂肪族環構造であり、
L2はメチレン基又は共有結合であり、
R3はメチル基である)
のリガンドを含む、請求項24に記載の分離マトリックス。
【請求項26】
前記マルチモーダルアニオン交換リガンドが、窒素を介して支持体にカップリングしているN-ベンジル-N-メチルエタノールアミンリガンドを含む、請求項24又は25に記載の分離マトリックス。
【請求項27】
前記マルチモーダルリガンドがマルチモーダルカチオン交換リガンドを含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項28】
前記マルチモーダルカチオン交換リガンドが、硫黄を介して支持体にカップリングしている構造
S-R4(COOH)-N(H)-C(O)-R5
(式中、
R4はC2~C6アルキレン基であり、
R5は5又は6員環の置換又は非置換芳香族又は脂肪族環構造である)
のリガンドを含む、請求項27に記載の分離マトリックス。
【請求項29】
前記マルチモーダルカチオン交換リガンドが、硫黄を介して支持体にカップリングしている構造
【化1】
のリガンドを含む、請求項27又は28に記載の分離マトリックス。
【請求項30】
前記マルチモーダルカチオン交換リガンドが、
a)構造CH2=CH-L4-X1(式中、L4は共有結合又は2~6つの炭素原子を含むアルキルエーテル若しくはヒドロキシル置換アルキルエーテル鎖であり、X1はスルホナート又はホスホナート基である)の第1のモノマー及び
b)第2の非荷電ビニルアミドモノマー
に由来する単位を含むコポリマー鎖を含む、請求項27に記載の分離マトリックス。
【請求項31】
前記マルチモーダルカチオン交換リガンドがビニルスルホナート-co-N-ビニルピロリドンコポリマー鎖を含む、請求項27又は30に記載の分離マトリックス。
【請求項32】
前記マルチモーダルリガンドが金属キレートリガンドを含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項33】
前記金属キレートリガンドが、少なくとも3つのカルボキシル基及び少なくとも1つの第三級アミン、例えば少なくとも2つの第三級アミンを有するリガンドを含む、請求項32に記載の分離マトリックス。
【請求項34】
前記金属キレートリガンドが、アミド窒素を介して支持体にカップリングしている構造
【化2】
のリガンドを含む、請求項32又は33に記載の分離マトリックス。
【請求項35】
前記金属キレートリガンドが、硫黄を介して支持体にカップリングしている構造
【化3】
のリガンドを含む、請求項32又は33に記載の分離マトリックス。
【請求項36】
リガンドに結合している遷移金属イオン、例えばNi2+イオンを更に含む、請求項32から35のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項37】
1種又は複数の不純物を含むロード液から精製された生体高分子を回収する方法であって、
a)ロード液を請求項1から36のいずれか一項に記載の前記分離マトリックスに通す工程と、
b)マトリックス流出液中の精製された生体高分子をロードサイクル中及び任意選択で任意の本質的にアイソクラチックな洗浄中に回収する工程と
を含む、方法。
【請求項38】
生体高分子がタンパク質、例えば、免疫グロブリンである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
分離マトリックスが請求項23から25のいずれか一項に記載の通りである、請求項37又は38に記載の方法。
【請求項40】
1種又は複数の不純物を含むロード液から精製された生体高分子を回収する方法であって、
a)ロード液を請求項1から36のいずれか一項に記載の分離マトリックスに通す工程と、
b)任意選択で洗浄液を分離マトリックスに通す工程と、
c)溶離液を分離マトリックスに通す工程と、
d)分離マトリックスを通過後の溶離液中の精製された生体高分子を回収する工程と、
e)再生液を分離マトリックスに通す工程と
を含む方法。
【請求項41】
生体高分子がタンパク質、例えば、免疫グロブリンである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
分離マトリックスが請求項26から35のいずれか一項に記載の通りである、請求項40又は41に記載の方法。
【請求項43】
工程a)~e)が少なくとも10回繰り返される、請求項40から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
一連の工程a)~e)の合計サイクル時間が5分未満である、請求項40から43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記ロード液が先行するアフィニティークロマトグラフィー工程からの溶出液である、請求項37から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
生体高分子が免疫グロブリンであり、前記アフィニティークロマトグラフィー工程がプロテインA工程である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記アフィニティークロマトグラフィー工程が、不織ポリマー繊維を含む支持体膜に共有結合でカップリングしている複数の親和性リガンド、例えばプロテインAリガンドを含む分離マトリックス上で行われる、請求項45又は46に記載の方法。
【請求項48】
生体高分子がポリヒスチジンタグを含むタンパク質であり、分離マトリックスが請求項36に記載の通りである、請求項40から44のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離マトリックス、より詳細にはマルチモーダルリガンドを有する吸着性膜マトリックスに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジー市場は、世界の医薬品市場内で最も速く成長している部門であり、2012年の全市場売上高の20%(1530億ドル)を占める。2002年の10%の市場占有率からのこの成長は、2012年~2018年に1530億ドルから2150億ドルに41%成長することになる。現在、約200種のモノクローナル抗体(mAb)製品が市場にあり、1000種以上が臨床試験中であり、この分野における技術的進歩に対する需要は明らかである。過去数十年にわたり、産業設定における生体分子の典型的な発酵力価は0.5g/Lから約3g/Lに成長し、分子生物学における活発化した進歩に基づいて、10g/Lまでのレベルが近い将来に達成可能であると考えられる。しかし、下流の精製プロセスもいくらかの研究開発を受けてきたが、この分野における改善は上流のものと釣り合っていない。
【0003】
治療用タンパク質の製造は、投与されるタンパク質が有害な夾雑物を実質的に欠くように、高純度が加工中に達成されることを必要とする。現在、産業規模において、クロマトグラフィーは高純度タンパク質を達成するために使用される主要な方法である。クロマトグラフィーに大きく依存するユニット操作は、経済的観点から、生体分子、例えばmAbの下流加工における進歩の鍵である。クロマトグラフィーは生物学的製剤加工の60%までを占める(Re-use of Protein A Resin: Fouling and Economics、2015年3月01日 BioPharm International、28巻、3号、Anurag S. Rathore、Mili Pathak、Guijun Ma、Daniel G. Bracewell)。
【0004】
そのようなクロマトグラフィー分離は、標的分子及び不純物を含有する液相が固相と接触するときに、i)標的分子及び/又はii)1種若しくは複数の不純物が固相に結合することを含む。標的分子/不純物と固相の相互作用は、電荷、疎水性、親和性又はこれらの組合せに基づき得る。
【0005】
歴史的に、多孔質ビーズを使用する従来の充填床クロマトグラフィーは、極めて強力な分離ツールである。これらのビーズの多孔性は、標的又は不純物を結合するための高い表面積をもたらす。これは高容量材料をもたらし、より少ない量の吸着材料が使用され得ることを意味する。ロード懸濁液の相対濃度と比較して、吸着材の単位体積当たり多くの標的が結合し得るので、高容量は分離中に達成される濃縮効果も高める。これらの態様は、20,000Lまで達し得る液体体積からバッチ当たり数キログラムの物質を精製する必要があり得る産業規模の加工に重要である。多孔質ビーズの典型的な結合容量は、固相の官能性及び結合した種に依存して35~120mg/mLの領域である。
【0006】
多孔質ビーズベースシステムにおいて、標的分子/不純物と固相の結合事象は、多孔質ビーズへの拡散に依存する。したがって、多孔質ビーズベースシステムにおける滞留時間と流量の間には強い相関関係がある。したがって、結合容量は、滞留時間の減少に伴って減る。これは次に、2分未満の時間が多孔質ビーズベースシステムにおいて使用される場合、容量の急速な減少を伴う。短い滞留時間に必要とされる高い流量も、特に何リットルものビーズ懸濁液がカラムに充填される製造規模では、多孔質ビーズと不適合であり得る。ここでは多孔質ビーズの機械的不安定性は圧縮又は崩壊事象につながることがあり、これがひいては不均質なカラム床をもたらす。
【0007】
流量は滞留時間に影響を及ぼすので、単位時間当たりに固相に結合し得る標的の量を最大にすることが重要である。これは、より少ない吸着材体積が使用されること及び/又は分離がより少ない時間で行われることを可能にする。この計量は、単位時間当たり、単位体積当たりに結合したグラムと定義され得る(mg/mL/分)。上述の多孔質ビーズの典型的な結合容量及び滞留時間は、単一カラム多孔質ビーズシステムについての全体の生産性約10~120mg/mL/分をもたらす。
【0008】
多孔質ビーズベースシステムの代替物として、モノリス又は膜が使用され得る。そのような材料を通る流れは、拡散的というよりは対流的であり、したがって、それらの結合容量は多孔質ビーズベースシステムより流れに対する感受性がかなり低い。これらの材料には多孔質ビーズベース材料よりはるかに高い流量で流すことができ、典型的な滞留時間は0.2~0.5分程度である。しかし、動的流れ下でのモノリス(10~20mg/mL)及び膜(7.5~29mg/mL)についての標的の10%ブレイクスルー時の典型的な結合容量は多孔質ビーズより低い(Gottschalk,U. (2008). Biotechnol Prog、24(3)、496~503頁)。モノリス及び膜材料の劣った結合容量(多孔質ビーズベース材料と比較して)は、より高い流量を利用することによってある程度埋め合わされ得る。
【0009】
上述のモノリス及び膜についての典型的な結合容量及び滞留時間は、モノリス及び膜システムについての結合事象の全体の生産性約10~145mg/mL/分をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】US20150299248
【特許文献2】WO2019173731
【特許文献3】US9669402
【特許文献4】US2015258539
【特許文献5】US8530698
【特許文献6】US20160288089
【特許文献7】WO2015/052465
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Re-use of Protein A Resin: Fouling and Economics、2015年3月01日 BioPharm International、28巻、3号、Anurag S. Rathor、Mili Pathak、Guijun Ma、Daniel G. Bracewell
【非特許文献2】Gottschalk, U. (2008). Biotechnol Prog、24(3)、496~503頁
【非特許文献3】O. Hardickら、J.Mater. Sci. 46 (2011) 3890頁
【非特許文献4】「Acidity and basicity of solids: Theory, assessment and utility」 J. Fraisard及びL. Petrakis編、NATO ASI Series C、444巻、Kluwer Academic Publishers、Dordrecht、Boston及びLondon、1994、とりわけ513頁
【非特許文献5】http://www.ib-ft.com/measurement_principle.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
多孔質ビーズベース材料と関連する高い結合容量及びモノリス/膜材料で達成可能なより高い流量を共有するクロマトグラフィー材料に対する需要が存在する。そのような材料は、高い流量で高い容量を提供し、最大の生産性(mg/mL/分)を達成する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、高い選択性を有する迅速な生体高分子分離を提供する分離マトリックスを提供することである。これは、支持体に共有結合でカップリングしている複数のマルチモーダルリガンドを有するマトリックスにより達成され、支持体は不織ポリマー繊維を含む膜であり、リガンドは標的生体高分子と相互作用することができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、高い選択性を有する迅速なフロースルー分離の方法を提供することである。これは1種又は複数の不純物を含むロード液から精製された生体高分子を回収する方法であって、
a)ロード液を上述のような分離マトリックスに通す工程と、
b)マトリックス流出液中の精製された生体高分子をロードサイクル中及び任意選択で任意の本質的にアイソクラチックな洗浄中に回収する工程と
を含む方法により達成される。
【0015】
本発明の第3の態様は、高い選択性を有する迅速な結合-溶出分離の方法を提供することである。これは1種又は複数の不純物を含むロード液から精製された生体高分子を回収する方法であって、
a)ロード液を上述のような分離マトリックスに通す工程と、
b)任意選択で洗浄液を分離マトリックスに通す工程と、
c)溶離液を分離マトリックスに通す工程と、
d)分離マトリックスを通過後の溶離液中の精製された生体高分子を回収する工程と、
e)再生液を分離マトリックスに通す工程と
を含む、方法により達成される。
【0016】
本発明の更に適切な実施形態は、従属請求項に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のクロマトグラフィー媒体を示す概略図である。
図2】本発明のクロマトグラフィー媒体を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
定義
用語「抗体」及び「免疫グロブリン」は、本明細書で互換的に使用され、抗体の断片、抗体又は抗体断片を含む融合タンパク質、及び抗体又は抗体断片を含むコンジュゲートも含むことが理解される。
【0019】
用語「Fc結合性ポリペプチド」及び「Fc結合性タンパク質」は、それぞれ抗体の結晶性部分(Fc)に結合することができるポリペプチド又はタンパク質を意味し、例えば、プロテインA及びプロテインG、又は前記結合特性を維持しているそれらの任意の断片若しくは融合タンパク質を含む。
【0020】
本明細書の用語「スペーサー」は、リガンドを支持体に接続する要素を意味する。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含有する」、「有する」等は、米国特許法においてそれらに与えられた意味を有することができ、「含む(includes)」、「含む(including)」等を意味することができ、「から本質的になる」又は「本質的になる」は同様に米国特許法において与えられた意味を有し、この用語はオープンエンドであり、列挙されたものの基本的又は新規特徴が、列挙されたものより多くの存在によって変えられない限り、列挙されたものより多くの存在を可能にするが、先行技術の実施形態を除外する。
【0022】
実施形態の詳細な記載
一態様では、本発明は、支持体に共有結合でカップリングしている複数のマルチモーダルリガンドを含む分離マトリックスを開示する。支持体は、適切にはポリマーナノ繊維、例えばセルロースナノ繊維であり得る不織ポリマー繊維を含む膜であり、マルチモーダルリガンドは標的生体高分子、例えば、タンパク質、タンパク質コンジュゲート、核酸、ウイルス粒子又はウイルス様粒子と相互作用することができる。支持体及び(ナノ)繊維についての更なる詳細につて、以下を参照されたい。リガンドは、後述のように、繊維表面に又は繊維表面にグラフトされたポリマーに直接結合して、支持体に共有結合している化学的部分である。リガンドは更に、繊維表面又はグラフト化ポリマーにスペーサーを介して共有結合することができる。スペーサーは分離マトリックスの技術分野で周知されており、典型的には、リガンドを繊維表面又はポリマーに連結する1つ又は複数の炭素原子、例えば1~10個の炭素原子を有する有機基であり得る。リガンドはマルチモーダルであり、これはそれらが少なくとも2種類の相互作用により標的生体高分子と相互作用することができることを意味し、単一の種類の相互作用で達成され得る選択性より高い程度の選択性をもたらす。したがって、リガンドは以下の異なる官能性の少なくとも2種を有し得る:正電荷、負電荷、疎水基、π-π相互作用又はカチオン-π相互作用が可能な芳香族基、水素結合供与体、水素結合受容体、電子供与体及び電子受容体。好ましい組合せは、正電荷+疎水基、正電荷+芳香族基、負電荷+疎水基、負電荷+芳香族基及び負電荷+電子供与体を含む。リガンドの量は適切には、分離マトリックスが乾燥分離マトリックスg当たりリガンド100~2000μmolのリガンド密度を有するようなものであり得る。これは、高い選択性と組み合わせて、標的生体分子の高い結合容量を提供する。
【0023】
リガンド
一部の実施形態では、マルチモーダルリガンドは、マルチモーダルアニオン交換リガンド、すなわち正電荷並びに疎水及び/又は芳香族基を有するリガンドを含む。マルチモーダルアニオン交換リガンドは、例えば、カップリング後の第三級アミン窒素が第四級アンモニウム基であるような窒素を介して支持体にカップリングしている構造
R1-L1-N(R3)-L2-R2
(式中、
R1は5若しくは6員環の置換若しくは非置換芳香族若しくは脂肪族環構造、ヒドロキシエチル基又はC1~C4アルキル基であり、
L1はメチレン基又は共有結合であり、
R2は5又は6員環の置換又は非置換芳香族又は脂肪族環構造であり、
L2はメチレン基又は共有結合であり、
R3はメチル基である)
のリガンドを含み得る。
【0024】
リガンドは特に、窒素を介して支持体にカップリングしているN-ベンジル-N-メチルエタノールアミンリガンドを含むことができ、この場合、R1はヒドロキシエチル基であり、L1は共有結合であり、R3はメチル基であり、L2はメチレン基であり、R2は非置換ベンゼン環である。代替的に、リガンドはa)N,N-ジメチルベンジルアミン(R1メチル基、L1共有結合、R3メチル基、L2メチレン基及びR2非置換ベンゼン環)、b)2-(N-(シクロヘキシルメチル)-N-メチルアミノ)エタノール(R1ヒドロキシエチル基、L1共有結合、R3メチル基、L2メチレン基及びR2非置換シクロヘキシル環)、c)2-(N-(4-(トリフルオロメチル)ベンジル)-N-メチルアミノ)エタノール(R1ヒドロキシエチル基、L1共有結合、R3メチル基、L2メチレン基及びR2p-トリフルオロメチルフェニル基)、d)2-(N-(3,4,5-(トリメトキシ)ベンジル)-N-メチルアミノ)エタノール(R1ヒドロキシエチル基、L1共有結合、R3メチル基、L2メチレン基及びR2トリメトキシフェニル基)又はe)N-ベンジル-N-メチル(チオフェン-2-イル)メタンアミン(R1チオフェン環、L1メチレン基、R3メチル基、L2メチレン基及びR2非置換ベンゼン環)を含み得る。その全体が参照により本明細書に組み込まれるUS20150299248も参照されたい。
【0025】
代替的に、マルチモーダルアニオン交換リガンドは、窒素Nを介して支持体にカップリングしている構造
N(R6,R7)-R8-L3-Ar
(式中、
R6及びR7は独立して、水素、1~6つの炭素のアルキル又はヒドロキシエチルであり、
R8は1~6つの炭素のアルキル若しくはシクロアルキル又はエトキシであり、
L3は共有結合、NR9、O又はSであり、R9は1~6つの炭素のアルキルであり、
Arは置換又は非置換芳香族環又は芳香族複素環である)
のリガンドを含み得る。
【0026】
そのようなリガンドの例は、例えば、N-フェニル-エチレンジアミン、2-フェノキシエチルアミン、N,N-ジメチル-2-フェノキシ-エタン-1-アミン、N,N-ジメチル-3-フェノキシ-プロパン-1-アミン、N,N-ジメチル-2-(2-フェノキシエトキシ)エタン-1-アミン、2-(メチル(2-フェノキシエチル)アミノ)エタン-1-オール、2-(3,5-ジメチルフェノキシ)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、2-([1,1'-ビフェニル]-4-イルオキシ)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、N,N-ジメチル-2-(p-トリルオキシ)エタン-1-アミン、2-(4-エチルフェノキシ)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、2-(4-イソプロピルフェノキシ)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、2-(4-フルオロフェノキシ)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、2-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、2-(3-フルオロフェノキシ)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、2-(3,5-ジフルオロフェノキシ)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、2-(3,5-ジフルオロフェノキシ)-N,N-ジメチルプロパン-1-アミン、2-(3,4-ジフルオロフェノキシ)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、2-(3,4,5-トリフルオロフェノキシ)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、2-(4-(tert-ブチル)フェノキシ)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、N,N-ジメチル-2-(ナフタレン-1-イルオキシ)エタン-1-アミン、N,N-ジメチル-2-(パーフルオロフェノキシ)エタン-1-アミン、N,N-ジメチル-2-(ピリジン-4-イルオキシ)エタン-1-アミン、N,N-ジメチル-2-(ピリジン-3-イルオキシ)エタン-1-アミン、2-((2,6-ジメチルピリジン-4-イル)オキシ)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、N,N-ジメチル-3-(ピリジン-4-イルオキシ)プロパン-1-アミン、N,N-ジメチル-3-フェノキシシクロブタン-1-アミン、N,N-ジメチル-3-フェノキシシクロペンタン-1-アミン、及びN,N-ジメチル-3-フェノキシシクロヘキサン-1-アミンである。それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2019173731及びUS9669402も参照されたい。
【0027】
ある特定の実施形態では、マルチモーダルリガンドは、マルチモーダルカチオン交換リガンド、すなわち負電荷並びに疎水及び/又は芳香族基を有するリガンドを含む。マルチモーダルカチオン交換リガンドは、例えば、硫黄を介して支持体にカップリングしている構造
S-R4(COOH)-N(H)-C(O)-R5
(式中、
R4はC2~C6アルキレン基であり、
R5は5又は6員環の置換又は非置換芳香族又は脂肪族環構造である)
のリガンドを含み得る。
【0028】
リガンドは特に、硫黄を介して支持体にカップリングしている構造
【0029】
【化1】
【0030】
のリガンドを含み得る。
【0031】
代替的に、マルチモーダルカチオン交換リガンドは、
a)構造CH2=CH-L4-X1(式中、L4は共有結合又は2~6つの炭素原子を含むアルキルエーテル若しくはヒドロキシル置換アルキルエーテル鎖であり、X1はスルホナート又はホスホナート基である)の第1のモノマー及び
b)第2の非荷電ビニルアミドモノマー
に由来する単位を含むコポリマー鎖を含み得る。
【0032】
コポリマー鎖は、例えば、ビニルスルホナート-co-N-ビニルピロリドンコポリマー鎖であってもよく、L4は共有結合であり、X1はスルホナートであり、ビニルアミドはN-ビニルピロリドンである。代替的に、コポリマー鎖はビニルホスホナート-co-N-ビニルピロリドンコポリマー鎖(X1はホスホナートである)又はビニルスルホナート-co-N-ビニルカプロラクタム鎖(ビニルアミドはN-ビニルカプロラクタムである)であり得る。
【0033】
代替的に、マルチモーダルカチオン交換リガンドは、窒素Nを介して支持体にカップリングしている構造
NH-Ph-(CH2)n-X2-(CH2)n-COO-
(式中、
Phはo、m又はp位にNH基を有するベンゼン環であり、
nは0、1又は2であり、
mは1、2、3、4又は5であり、
X2は共有結合、S、C(O)NH、NHC(O)、C(O)NHCH2C(O)NH及びSO2から選択される)
のリガンドを含み得る。
【0034】
そのようなリガンドの例は、例えば、p-NH-Ph-CH2C(O)NHCH2COO-、p-NH-Ph-C(O)NHCH2C(O)NHCH2COO-、o-NH-Ph-C(O)NHCH2COO-、p-NH-Ph-CH2SCH2COO-、o-NH-Ph-CH2SCH2COO-、p-NH-Ph-CH2SO2CH2COO-、p-NH-Ph-CH2COO-及びp-NH-Ph-(CH2)3COO-である。その全体が参照により本明細書に組み込まれるUS2015258539も参照されたい。
【0035】
更に、マルチモーダルカチオン交換リガンドは、窒素Nを介して支持体にカップリングしている構造
R9CH(NH2)COOH
(式中、
R9は芳香族基又はC5~C7非イオン性脂肪族基である)
のリガンドを含み得る。
【0036】
そのようなリガンドの例は、例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン及びノルロイシンである。その全体が参照により本明細書に組み込まれるUS8530698も参照されたい。
【0037】
一部の実施形態では、マルチモーダルリガンドは金属キレートリガンド、すなわち、金属イオンと配位結合を形成する少なくとも2種類の基、例えば電子供与体基(例えば第三級アミン)及び負荷電基(例えばカルボキシラート基)を有するリガンドを含む。金属キレートリガンドは特に、少なくとも3つのカルボキシル基及び少なくとも1つの第三級アミン、例えば少なくとも2つの第三級アミンを有するリガンドを含み得る。そのようなリガンドの一例は、アミド窒素を介して支持体にカップリングしている構造
【0038】
【化2】
【0039】
のリガンドである。別の例は、硫黄を介して支持体にカップリングしている構造
【0040】
【化3】
【0041】
のリガンドである。
【0042】
更に別の例は、末端の窒素を介して支持体にカップリングしている構造:NH2(CH2)4CH(COOH)N(CH2COOH)2のリガンド、及び第二級アミン窒素を介して支持体にカップリングしている構造:HOOCCH2NHCH2CH2CN(CH2COOH)2のリガンドを含む。
【0043】
金属キレートリガンドを有する分離マトリックスは遷移金属イオン、例えばリガンドに結合しているNi2+イオン、Co2+又はCu2+イオン等を更に含み得る。これらのイオンはタンパク質、特に、複合混合物からのこれらのタンパク質の選択的分離のためにポリヒスチジンタグを有するタンパク質と結合し得る。
【0044】
ポリマーナノ繊維
本発明の分離マトリックスは、ポリマー繊維/ナノ繊維支持体から形成される。各支持体は、1本又は複数のポリマー繊維/ナノ繊維から形成される。
【0045】
ポリマー繊維/ナノ繊維は、典型的には電界紡糸ポリマーナノ繊維である。そのような電界紡糸ポリマーナノ繊維は当業者に周知されており、それらの生産のための最適化された条件は、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれるO.Hardickら、J.Mater.Sci.46(2011)3890頁に見出され得る。本発明のプロセスは典型的には、ポリマーを電界紡糸して1本又は複数のポリマーナノ繊維を生産する初期工程を含む。これは、ポリマーを電界紡糸して、各々1本又は複数のポリマーナノ繊維を含む1つ又は複数の不織シート又は層を生産することを含み得る。適切には、シート又は層(10)は各々、図1に示されるような複数のナノ繊維-ナノ繊維融着点(20)を含む。個々のナノ繊維(30)同士の接合部における層内融着点は、機械的安定性をシート/層に提供し、ナノ繊維が使用中に液体に流出するリスクを減らす。融着点は適切には、堆積したナノ繊維が固化前に互いに接触するように電界紡糸プロセス中の温度を制御することによって達成され得る。ポリマー溶液を電界紡糸することが特に有利である可能性があり、この場合、形成される繊維は溶媒の蒸発によって固化し、固化前の層内融着点の形成に十分な時間を提供する。
【0046】
本発明で使用するためのポリマー繊維/ナノ繊維は、典型的には10nm~1000nmの平均直径を有する。一部の適用に関して、平均直径200nm~800nmを有するポリマーナノ繊維が適当である。平均直径200nm~400nmを有するポリマー繊維/ナノ繊維は、ある特定の適用に関して適当であり得る。本発明で使用するためのポリマー繊維/ナノ繊維の長さは特に限定されない。したがって、従来の電界紡糸プロセスは、何百メートル又は更には数キロメートルの長さのポリマーナノ繊維を生産し得る。しかし典型的には、1本又は複数のポリマー繊維/ナノ繊維は10kmまで、好ましくは10m~10kmの長さを有する。ポリマー繊維/ナノ繊維は、適切にはモノフィラメントナノ繊維であってもよく、例えば、円形、楕円形又は本質的に円形/楕円形の断面を有し得る。
【0047】
1本又は複数のポリマー繊維/ナノ繊維は、各々1本又は複数のポリマー繊維/ナノ繊維を含む1つ又は複数の不織シートの形態で提供される。したがって、支持体は典型的には、各々1本又は複数のポリマー繊維/ナノ繊維を含む1つ又は複数の不織シートから形成される。1本又は複数のポリマー繊維/ナノ繊維を含む不織シートは、各ナノ繊維が本質的に無作為に配向した1本又は複数のポリマーナノ繊維のマットであり、すなわち1本又は複数のナノ繊維が特定のパターンをとるように作られていない。ポリマー繊維/ナノ繊維を含む不織シートは典型的には公知の方法、例えばO. Hardickら、J.Mater. Sci. 46(2011)3890頁に開示されている方法によって提供される。不織シートは、ある特定の状況では単一のポリマーナノ繊維からなり得る。代替的に、不織シートは2本以上のポリマーナノ繊維、例えば2、3、4、5、6、7、8、9又は10本のポリマーナノ繊維を含み得る。
【0048】
不織シートは典型的には、1~40g/m2、好ましくは5~25g/m2、一部の状況では1~20又は5~15g/m2の面密度を有する。
【0049】
不織シートは典型的には、5~120μm、好ましくは10~100μm、一部の状況では50~90μm、他の状況では5~40、10~30又は15~25μmの厚みを有する。
【0050】
本発明のプロセスで使用される繊維/ナノ繊維を生産するために使用されるポリマーは、ポリマーがクロマトグラフィー適用での使用に適しているという条件で、特に限定されない。したがって、典型的には、ポリマーはクロマトグラフィー法におけるクロマトグラフィー媒体、すなわち吸着材としての使用に適したポリマーである。適切なポリマーは、ナイロン等のポリアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリスルホン、例えばポリエーテルスルホン(PES)、ポリカプロラクトン、コラーゲン、キトサン、ポリエチレンオキシド、アガロース、酢酸アガロース、セルロース、酢酸セルロース、及びこれらの組合せを含む。ポリエーテルスルホン(PES)、セルロース、酢酸セルロース、及びこれらの組合せが好ましい。一部の場合では、セルロース、酢酸セルロース、及びこれらの組合せが好ましい。
【0051】
一部の実施形態では、基材は異なるポリマーから形成される1本又は複数の繊維/ナノ繊維を含む。したがって、この実施形態では、基材は1種又は複数の異なるポリマーを含む。典型的なポリマーは、上で定義された通りである。
【0052】
典型的には、本発明は1本又は複数の酢酸セルロース繊維/ナノ繊維から形成される支持体から調製される官能化セルロース分離マトリックスを含む。好ましくは、調製は、各々1本又は複数の酢酸セルロースナノ繊維を含む1つ又は複数の不織シート又は層から形成される基材を用意することを含む。酢酸セルロースは、典型的には1種又は複数の有機溶媒中の酢酸セルロースの溶液から容易に電界紡糸され、電界紡糸後に容易にセルロースに変換され得る。したがって、好ましくは、支持体は、各々1本又は複数の電界紡糸酢酸セルロースナノ繊維を含む1つ又は複数の不織シート/層から形成される。
【0053】
繊維/ナノ繊維の物理的修飾
本発明のある特定の好ましい実施形態では、基材の用意は、グラフト化工程前に、任意選択で不織シート/層中のポリマーナノ繊維の物理的修飾を含む。具体的には、物理的修飾は、ポリマーナノ繊維/不織シート/層を加熱及び/又は加圧すること、好ましくはポリマーナノ繊維/不織シート/層を加熱及び加圧することを含み得る。これらの工程は材料の構造的安定性を改善する。加圧及び加熱条件を変えて、得られる材料の厚み及び/又は多孔性を変更することもできる。
【0054】
ポリマーナノ繊維の多数の不織シートの使用は、より大きな吸着容量を有する(グラフトされ、官能化されると)より厚い材料が調製されることを可能にする。したがって、支持体の用意は典型的には、一方が他方の上に積層された2つ以上の不織シート/層を用意することであって、各前記シートが1本又は複数のポリマーナノ繊維を含むこと、並びにシート/層の積層体を同時に加熱及び加圧して、隣接するシート/層のナノ繊維同士の接触点を融着し、層間融着点を作ることを含む。セルロース分離マトリックスの場合、支持体の用意は典型的には、一方が他方の上に積層された又は折り重ねられた2つ以上の不織シート/層を用意することであって、各前記シート/層が1本又は複数の酢酸セルロースナノ繊維を含むこと、並びにシート/層の積層体を同時に加熱及び加圧して、隣接するシートのナノ繊維同士の接触点を融着することを含む。したがって、官能化分離マトリックスは、層の少なくとも2つを互いに結合する複数の層間ナノ繊維-ナノ繊維融着点を有する複数の不織ポリマーナノ繊維層の積層体であり得る。
【0055】
ポリマーナノ繊維/不織シートの加圧及び加熱のための好ましい加工条件は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるUS20160288089及びWO2015/052465に見出され得る。
【0056】
ナノ繊維基材のグラフト化
本発明のマトリックスの調製は、典型的には上のように用意される支持体から1つ又は複数の中性ポリマー鎖をグラフトすることを含むグラフト化工程を含み得る。
【0057】
基材から1つ又は複数の中性ポリマー鎖をグラフトすることは典型的には、任意選択で1種又は複数の触媒の存在下で、基材に存在する1つ又は複数の官能基から1つ又は複数のポリマー鎖を成長させることを含む。したがって、典型的には、基材は1つ又は複数の官能基、好ましくは、ポリマー鎖が成長し得る1つ又は複数の官能基を含む。1つ又は複数の官能基からポリマー鎖を成長させることは、個々のモノマー構成要素から1つ又は複数の官能基においてポリマーを構築することを意味する。したがって、グラフト化工程は典型的には、予め形成されたポリマー鎖を基材に結合するのではなく、基材から直接ポリマー鎖を成長させることを含む。しかし、例えばポリグリシドールのような予め形成されたポリマーを結合させることも代替法である。したがって、重合が進行するにつれて、個々のモノマーは、基材の遠位に係留されている成長するポリマー鎖の末端に付加される。また、ポリマーコーティングは基材に単一点で共有結合でつながれているポリマー分子を含む。ポリマー分子は、直鎖状また分岐状及び更には超分岐状であってもよく、この場合>50%のモノマー残基が分岐点又は末端モノマーである。基材から直接のポリマー鎖の成長は、特に重合戦略を使用して、ポリマーコーティングの構造全体の制御を可能にし、これによりポリマーが全て均一の速度で同時に成長する。これは、高密度で明確に画定されたポリマーコーティング層の形成を可能にする。したがって、基材が、接合部で互いに融着しているポリマーナノ繊維の1つ又は複数の層である場合、コアナノ繊維及び個々のナノ繊維同士の融着点を覆う、明確に画定された薄いコーティングが形成される。コーティングはコンフォーマルコーティングであってもよく、すなわちナノ繊維及び融着点の輪郭に従い得る。コーティングの厚みは、例えば、コーティングされたナノ繊維が100~1000nm、例えば、100~700nm又は200~700nmの平均直径を有するようなものであり得る。また、コーティングされていないナノ繊維の平均直径は、例えば100~800nm、例えば100~600nmであり得る。層の平均孔径は例えば200~800nmであってもよく、孔体積率は例えば50~90%、例えば60~80%であってもよい。平均孔径及び平均繊維直径は、層のSEM画像から算出することができ、孔体積率は層又は基材の総体積(厚み掛ける断面積)及びナノ繊維の比重から算出することができる。代表的な多層酢酸セルロースナノ繊維ディスクの孔体積算出の具体例:ディスク直径32mm及びディスク厚0.44mmにより0.354cm3の総体積が得られる。ディスクの乾燥質量は0.165gであり、これと1.31g/cm3の酢酸セルロース比重により0.126cm3の酢酸セルロース体積が得られる。したがって、孔体積率は(0.354-0.126)/0.354=64%である。
【0058】
層の孔構造は、高い動的結合容量(大きい接触可能表面及び短い拡散経路)と低い背圧(大きい孔及び高い孔体積率)の微妙なバランスが満たされる必要があるという点で、性能に重要である。グラフト化ナノ繊維層は、それらの小さい繊維直径及び高い孔体積率により、このバランスを満たすのに比類なく適している。特に良好な組合せは、層がパーフルオロポリエーテル湿潤液を用いたキャピラリーフローポロメトリーから得られるような以下の孔径を有する場合に達成される:バブルポイント孔径- 0.9~1.2μm、例えば1.0~1.2μm;最小孔径- 0.2~0.4μm及び/又は平均流量孔(MFP)孔径0.3~0.5μm。測定は、分析方法において下で詳述されるように行われるべきである。
【0059】
良好な流れ特性について、それは支持体の開放孔構造がグラフト化プロセス後に保持される場合有利である。このように、分離マトリックス(10)は、グラフト化ポリマーナノ繊維間の間隙(間隙容量)によって形成される、開放三次元接続孔構造(60)を通して互いに流体接続されている、図2に示すような第1の側面(40)及び第2の側面(50)を有する。この孔構造は、好ましくは、グラフト化プロセス中に偶発的に形成されたグラフトポリマー又は任意のホモポリマーを含まない、又は実質的に含まない。これはグラフト化中に添加されるモノマー量を限定することによって達成することができ、孔構造を塞ぐ任意のポリマーが存在しないことは、流量を測定することによって、及び/又は孔構造を電子顕微鏡検査により観察することによって容易に確認することができる。グラフト重合プロセスは、孔構造を塞ぐことなく結合容量を増やす官能化ポリマーを導入する独自の可能性を提供する。
【0060】
特にヒドロゲルコーティング膜と比較した、本発明のグラフト化層の利点は、背圧が緩衝液の導電率及びpHと本質的に独立していることである。これは、劇的な膨張/収縮現象がないことに起因し、pH5~8の水性緩衝液が官能化分離マトリックスを0.4秒の滞留時間で通る場合、緩衝液の導電率が3~90mS/cm(22℃で測定した)の間隔にわたり変化すると、官能化マトリックス全体の圧力低下は床高さ(媒体の厚み)mm当たり0.07MPa未満変化するというように表現され得る。3mS/cmは、20mM酢酸又はTris緩衝液に対応し、90mS/cmは、およそ1M NaClを添加した同じ緩衝液に対応する。
【0061】
本発明では、グラフト化は式
【0062】
【化4】
【0063】
の複数の化合物、及び/又はそのエナンチオマー若しくは誘導体を反応させる工程を含み得る。
【0064】
最も好ましくは、グラフト化は、ポリマーが成長し得る1つ又は複数の官能基を有する支持体を式
【0065】
【化5】
【0066】
の複数の化合物、及び/又はそのエナンチオマー並びに/或いは式(I)のその誘導体及び/又はそのエナンチオマー及び/若しくはジアステレオマーと反応させる工程を含む。
【0067】
【化6】
【0068】
異なるポリマーから形成されるナノ繊維から支持体が形成される実施形態では、各異なる種類のポリマーナノ繊維は、グラフト化工程において異なるポリマーでグラフトされ得る。これは例えば、異なるポリマーナノ繊維に存在する異なる官能基から生じ得る。代替的に、同じポリマーは、支持体中の異なる種類のポリマーナノ繊維の各々にグラフトされ得る。
【0069】
典型的な官能基は、ヒドロキシル、アミノ及びカルボキシル基を含む。支持体が1本又は複数のセルロース又は酢酸セルロースナノ繊維から形成される場合、官能基は典型的にはヒドロキシル基である。
【0070】
特に好ましい実施形態では、官能基はヒドロキシル基である。この特に好ましい実施形態では、グラフト化は典型的には、同じ工程において追加で基材上のヒドロキシル基を脱保護する条件下で行われる。
【0071】
官能基の脱保護は典型的には、官能基がそれらから成長する1つ又は複数のポリマー鎖を有し得るように実行される。例えば、分離マトリックスがセルロース分離マトリックスである場合、典型的には酢酸セルロース支持体が用意され、グラフト化工程前に酢酸セルロースはセルロースに変換するために処理される。これは、ヒドロキシル基を得るためにアセチル化ヒドロキシル基の脱保護を含む。酢酸セルロースのセルロースへの変換は典型的には、アルカリ水溶液、好ましくは水:エタノール、より好ましくは水:エタノール2:1中のNaOHを使用して12時間超、例えば12~36時間の期間実行される。条件に依存して、変換(鹸化)は完全であってもよく、又は部分的で、残留アセタート基のある特定の含有量をもたらしてもよい。完全変換が好ましいが、乾燥支持体g当たり約5又は10μmolまでの残留アセタート含有量は許容され得る。
【0072】
代替的に、クロマトグラフィー媒体がセルロース分離マトリックスである場合、酢酸セルロース支持体が用意され、酢酸セルロースがセルロースに変換される条件下と、セルロースが続いて式
【0073】
【化7】
【0074】
の複数の化合物、及び/又はそのエナンチオマー、並びに/或いは式(I)のその誘導体及び/又はそのエナンチオマー及び/若しくはジアステレオマーと反応して、グラフト化ポリマー鎖を生成する条件下とでグラフト化工程(ii)において処理される。そのような実施形態では、グラフト化工程(ii)は典型的には、アルカリ水溶液、水又は水:エタノール中の、好ましくは水中の好ましくはNaOH又はKOH、より好ましくはKOHの存在下で、4~6時間の期間実行される。
【0075】
分離マトリックスがセルロース分離マトリックスである場合、マトリックスは典型的には、
(i)1本又は複数の酢酸セルロースナノ繊維から形成される支持体を用意し、酢酸セルロースを処理してセルロースに変換する工程と、
(ii)得られたセルロース支持体から1つ又は複数の中性ポリマー鎖をグラフトする工程と、及び
(iii)グラフト化生成物を、工程(ii)の生成物を分離マトリックスとして官能化する試薬と接触させる工程と
によって調製される。
【0076】
代替的にマトリックスは、
(i)1本又は複数の酢酸セルロースナノ繊維から形成される支持体を用意する工程と、
(ii)酢酸セルロースがセルロースに変換される条件と、続いて1つ又は複数の中性ポリマー鎖が、得られたセルロース支持体にグラフトされる条件とに支持体を供する工程と、及び
(iii)グラフト化生成物を、工程(ii)の生成物を分離マトリックスとして官能化する試薬と接触させる工程と
によって調製され得る。
【0077】
基材上の官能基の数及び/又は密度を増やすための方法は当業者に公知であろう。
【0078】
1つ又は複数の官能基が支持体に導入される場合、支持体は工程(i)と(ii)の間に、支持体上に存在する官能基を修飾して、1つ又は複数のポリマー鎖が成長し得る官能基を導入する更なる工程(i-a)において処理され、こうして修飾された支持体からポリマー鎖を成長させる工程(ii)が続く。
【0079】
グリシドール重合を含む実施形態では、支持体は典型的には、支持体上の任意の官能基を脱保護するために工程(i)と(ii)の間に処理される。
【0080】
支持体にグラフトされた1つ又は複数のポリマー鎖は、適切には中性である。ポリマー鎖は、当業者によって荷電基とみなされる基、例えば後述の種類の荷電基を一切含有しない。典型的には、工程(ii)において基材にグラフトされたポリマー鎖は、本明細書で定義されるような荷電基を一切含有しない。
【0081】
ポリマーの中性は、ポリマーが本質的に中性のpH、例えばpH6~8、典型的にはpH6.5~7.5、通常pH6.75~7.25、又は約pH7においてイオン化可能な、すなわちプロトン化又は脱プロトン化される任意の基を含有するかどうかによって判定され得る。典型的には、中性ポリマーは酸性又は塩基性中心を実質的に含有せず、すなわちpH6~8、典型的にはpH6.5~7.5、通常pH6.75~7.25、又は約pH7においてプロトン化又は脱プロトン化される官能基を実質的に含有しない。これは、当技術分野において典型的なアッセイにより当業者によって決定され得る。その理論的側面に沿った酸性及び塩基性の判定のための典型的な手順は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる「Acidity and basicity of solids: Theory, assessment and utility」J. Fraisard及びL. Petrakis編、NATO ASI Series C、444巻、Kluwer Academic Publishers、Dordrecht、Boston及びLondon、1994、とりわけ513頁に述べられている。本明細書で使用される場合、実質的は1mol%より少ない、好ましくは0.1mol%より少ない、更により好ましくは0.01mol%より少ない、又は更に0.001mol%より少ないことを意味する。
【0082】
上で言及されたように、グラフト化工程(ii)は、ポリマーが成長し得る1つ又は複数の官能基を有する基材を式
【0083】
【化8】
【0084】
の複数の化合物、及び/又はそのエナンチオマーと反応させる工程を含み得る。
【0085】
グリシドール重合は当業者に公知の技術である。グリシドール重合は典型的には触媒の存在を必要としない。しかし、重合は任意選択で1種又は複数の適当な触媒の存在下で行われ得る。そのような実施形態では、典型的には化学又は生物学的触媒が使用される。グリシドール重合は典型的には、水性環境において弱アルカリ条件下で行われる。典型的には、グリシドール重合は室温で、約5時間超、例えば約16時間行われる。グリシドール重合後、典型的にはグラフト化生成物は水中で、その後弱酸で洗浄される。
【0086】
グリシドール重合は、基材上に存在する本明細書で定義されるような1つ又は複数の官能基からグリシドール及び/又はグリシドール誘導体を重合する工程を含む。典型的には、これらの官能基はヒドロキシル基である。したがって、典型的には、工程(ii)は式
【0087】
【化9】
【0088】
の複数の化合物、及びそのエナンチオマー、並びに/或いはその誘導体及び/又はそのエナンチオマー及び/若しくはジアステレオマーを、ナノ繊維基材上に存在する1つ又は複数のヒドロキシル基と反応させる工程を含む。
【0089】
好ましくは、工程(ii)は式
【0090】
【化10】
【0091】
の複数の化合物、及びそのエナンチオマーをナノ繊維基材上に存在する1つ又は複数のヒドロキシル基と反応させる工程を含む。
【0092】
グリシドール重合は、ポリマー鎖の分岐を必然的にもたらし、「ブッシュ」構造を生じる。したがって、典型的には、ポリマー鎖の1つ又は複数は分岐し、上述のように超分岐するであろう。グリシドールポリマー中の異なる種類のモノマー残基は、グリセロールトリエーテル(分岐点)、1,2-グリセロールジエーテル(直鎖状)及び1-又は2-グリセロールモノエーテル(末端)である。多くの場合、トリエーテル及びモノエーテル残基が優勢であり、超分岐状ポリマーを生成する。
【0093】
第2の態様では、本発明は、1種又は複数の不純物を含むロード液から精製された生体高分子を回収する方法であって、
a)ロード液を上述のような分離マトリックスに通す工程と、
b)マトリックス流出液中の精製された生体高分子をロードサイクル中及び任意選択で任意の本質的にアイソクラチックな洗浄中に回収する工程と
を含む方法を開示する。
【0094】
このフロースルー法は、結合していない又は非常に弱く結合している生体高分子からの吸着している夾雑物の迅速な除去を可能にする。夾雑物の量が少ない場合(例えば事前のアフィニティークロマトグラフィー工程後)、大量の生体高分子が、一切の容量問題なしに精製され得る。典型的な例は、上述のようなマルチモーダルアニオン交換リガンドを有する分離マトリックスを使用するプロテインA又はプロテインLアフィニティークロマトグラフィー工程後の免疫グロブリン(例えばモノクローナル抗体)からの凝集物及び/又は残留宿主細胞タンパク質の除去である。有利には、このアフィニティークロマトグラフィー工程は、不織ポリマー(例えばセルロース)繊維を含む支持体膜に共有結合でカップリングしている複数の親和性リガンド、例えばプロテインA又はプロテインLリガンドを含む分離マトリックス、例えばFibro(商標) PrismA(Cytiva社)上で行われ得る。
【0095】
第3の態様では、本発明は、1種又は複数の不純物を含むロード液から精製された生体高分子を回収する方法であって、
a)ロード液を上述のような分離マトリックスに通す工程と、
b)任意選択で洗浄液を分離マトリックスに通す工程と、
c)溶離液を分離マトリックスに通す工程と、
d)分離マトリックスを通過後の溶離液中の精製された生体高分子を回収する工程と、
e)再生液を分離マトリックスに通す工程と
を含む方法を開示する。
【0096】
この結合-溶出法は、結合している生体高分子、例えば標的タンパク質からの、吸着している及び/又は吸着していない夾雑物の高効率除去を可能にする。典型的な例は、上述のようなマルチモーダルカチオン交換リガンドを有する分離マトリックスを使用するプロテインA又はプロテインLアフィニティークロマトグラフィー工程後の免疫グロブリン(例えばモノクローナル抗体)からの凝集物及び/又は残留宿主細胞タンパク質の除去である。有利には、このアフィニティークロマトグラフィー工程は、不織ポリマー(例えばセルロース)繊維を含む支持体膜に共有結合でカップリングしている複数の親和性リガンド、例えばプロテインA又はプロテインLリガンドを含む分離マトリックス、例えばFibro(商標) PrismA(Cytiva社)上で行われ得る。
【0097】
別の例は、上述のような金属キレートリガンド及び遷移金属イオン(例えばNi2+)を有する分離マトリックス上での細胞培養上清又は溶解物からのhisタグ付きタンパク質の精製である。
【0098】
上の分離マトリックスは非常に迅速な分離サイクルを可能にし、これは工程a)~e)が数回、例えば少なくとも10回又は少なくとも20若しくは50回繰り返される場合に有利である。その場合、各工程a)~e)の一連のサイクル時間は、5分未満、例えば、3分未満又は2分未満、又は0.5~5分又は1~3分であり得る。
【実施例
【0099】
(実施例1)
29,000g/molの相対分子量を有する酢酸セルロースの溶液を共通溶媒に溶解した後に電界紡糸して、300~600nmの範囲の直径を有する繊維を生産した。ナノ繊維生産のための最適化された条件は、例えばその全体が参照により本明細書に組み込まれるO. Hardickら、J. Mater. Sci. 46(2011)3890頁に見出され得る。およそ20g/m2材料のシートを層状にし、複合加熱及び加圧処理に供した。
【0100】
ナノ繊維材料を下で概説されるスキームに従って誘導体化した:
【0101】
【化11】
【0102】
工程(i):酢酸セルロース(CA)の再生セルロース(RC)への鹸化
【0103】
【化12】
【0104】
実施例1の方法に従って得られた酢酸セルロースシート(0.44*32mm*150mm)を、2:1-水:エタノール中の5Lの0.075M水酸化ナトリウム溶液を含有する大きなビーカーに入れた。反応混合物を室温で48時間撹拌した。次いで、材料を洗浄プロトコールAに従って洗浄した。
【0105】
洗浄プロトコールA
反応媒体を等量の脱イオン水に置き換え、1時間循環させた。すすぎ手順をもう1回繰り返した。最後に、材料を等量のエタノール水溶液(2:1-H2O:EtOH)で処理した後、反応容器から取り出した。
【0106】
工程(ii):グリシドール重合
【0107】
【化13】
【0108】
(i)からの材料を1Lの0.5M NaOHに懸濁した。反応媒体を15分間循環させた後、種々の量のグリシドール(15mL、30mL、60mL、120mL、180mL)を一度に慎重に添加した。反応媒体を室温で16時間循環させ、続いて材料を洗浄プロトコールBに従って洗浄した。
【0109】
洗浄プロトコールB
反応媒体を等量の脱イオン水に置き換え、1時間循環させた。この時間の後、洗浄媒体を0.01M HClに置き換え、これを1時間循環させたら、0.001M HClに置き換え、1時間循環させた。最後に、媒体をH2O:EtOHの2:1混合物に置き換え、これを1時間循環させた。次いで、誘導体化されたナノ繊維を反応容器から取り出した。
【0110】
(実施例2)
グリシドールグラフト化、DVS官能化材料
ナノ繊維材料を下で概説されるスキームに従って誘導体化した:
【0111】
【化14】
【0112】
工程(i):酢酸セルロース(CA)の再生セルロース(RC)への鹸化
【0113】
【化15】
【0114】
実施例1の方法に従って得られた酢酸セルロースシート(0.44*32mm*150mm)を、2:1-水:エタノール中の5Lの0.075M水酸化ナトリウム溶液を含有する大きいビーカーに入れた。反応混合物を室温で48時間撹拌した。次いで材料を洗浄プロトコールAに従って洗浄した。
【0115】
工程(ii):グリシドール重合
【0116】
【化16】
【0117】
(i)からの材料を1Lの1M NaOHに懸濁した。反応媒体を15分間循環させた後、180mLのグリシドールを一度に添加した。反応媒体を室温で16時間循環させ、続いて材料を洗浄プロトコールBに従って洗浄した。
【0118】
工程(iii):ジビニルスルホン誘導体化
【0119】
【化17】
【0120】
(ii)からの材料を、K2CO3(48.8g、0.35モル)を溶解させた550mLのH2O及び150mLのアセトニトリルからなる溶液に懸濁した。反応媒体を15分間循環させた後、ジビニルスルホン(100ml、0.86モル)を滴下添加し、その後反応媒体を更に1.5時間循環させた。次いで材料を洗浄プロトコールCに従って洗浄した。
【0121】
洗浄プロトコールC
反応媒体を温かい(60℃)脱イオン水:アセトンの等量の1:1混合物に置き換え、これを30分間循環させた。洗浄手順を更に2回繰り返した。最後に、媒体をH2O:EtOHの2:1混合物に置き換え、これを1時間循環させた。次いで、誘導体化されたナノ繊維を反応容器から取り出した。
【0122】
(実施例3)
グリシドールグラフト化、DVS官能化材料の代替プロトコール
ナノ繊維材料を下で概説されるスキームに従って誘導体化した:
【0123】
【化18】
【0124】
工程(i):グリシドール重合及び鹸化
CAナノ繊維材料のグリシドール重合及び鹸化を、CAナノ繊維材料(0.11×80×50mm)を取り、それを1Lの脱イオン水に懸濁することによって実行した。溶媒を3時間循環させた後、更なる1Lの脱イオン水でリフレッシュした。このプロセスを4回繰り返した後、ナノ繊維材料を350mlの1M KOHに懸濁した。反応媒体を60分間循環させた後、種々の量のグリシドール(100ml)を慎重に添加し、ここでは25%のグリシドールを一度に添加し、残りを90分かけて滴下添加した。反応媒体を室温で4時間循環させ、続いて材料を洗浄プロトコールBに従って洗浄した。
【0125】
工程(ii):ジビニルスルホン誘導体化
【0126】
【化19】
【0127】
(i)からの材料を、K2CO3(48.8g、0.35モル)を溶解させた550mLのH2O及び150mLのアセトニトリルからなる溶液に懸濁した。反応媒体を15分間循環させた後、ジビニルスルホン(100ml、0.86モル)を滴下添加し、その後反応媒体を更に1.5時間循環させた。次いで、材料を洗浄プロトコールCに従って洗浄した。
【0128】
(実施例4)
N-ベンジル-N-メチルエタノールアミンリガンドを有するマルチモーダルアニオン交換マトリックス
工程1:
50個の酢酸セルロースディスク(32mm直径、0.9mm厚)を蒸留水(4×600ml)で洗浄した。洗浄溶液を除去し、350mlの0.5M KOH溶液に置き換えた。ディスクをKOH溶液で10分間撹拌しながら処理した後、100mlのグリシドールを添加した。反応媒体をディスクの上で2時間激しく撹拌した。この時間の後、上清液を除去し、ディスクを蒸留水(4×600ml)で洗浄して、更なる修飾なしに次の工程に使用されるきれいなグリシドールグラフト化セルロース中間体を得た。
【0129】
工程2:
25個のディスクを工程1から取り、300mlの1M KOHで処理した。ディスクを10分間撹拌した後、30mlのアリルグリシジルエーテルを一度に添加した。得られた混合物を16時間激しく撹拌した。この時間の後、上清をデカントし、ディスクを蒸留H2O(4×600ml)で洗浄した。きれいなアリル化中間体を更なる修飾なしに次の工程に使用した。
【0130】
工程3:
25個のディスクを工程2から取り、37.5gのNa2CO3を含有する500mlのH2O及び150mlのアセトニトリルに懸濁した。100mlのジビニルスルホンを60分かけて滴下添加しながら、混合物を激しく撹拌した。次いで反応混合物を16時間激しく撹拌した。この時間の後、上清液をデカントし、ディスクを600mlのアセトン:H2O(1:1)で3回、及び蒸留H2O(1×600ml)で洗浄した。きれいな中間体を更なる修飾なしに次の工程に使用した。
【0131】
工程4:
工程3からの25個のディスクを、12.5gのN-ブロモスクシンイミドを溶解させた500mlのH2O:アセトニトリル(1:3)溶液に懸濁した。混合物を4時間激しく撹拌した。この時間の後、上清液をデカントし、ディスクを多量の蒸留水(6×600ml)で洗浄した。きれいな中間体を更なる修飾なしに次の工程に使用した。
【0132】
工程5:
18gのN-ベンジル-N-メチルエタノールアミンを30mlのH2Oに懸濁し、この混合物に6mlのアセトンを添加した。溶液のpHを5N NaOHでpH15に変更した。一方、工程4からの25個のディスクを別々に6ウェルプレートのウェルに入れた。各ディスクに2.5mlのN-ベンジル-N-メチルエタノールアミン溶液を添加した。プレートをオービタルシェーカー上で16時間穏やかに揺り動かした。この時間の後、反応混合物を除去し、各ディスクを蒸留水(5×10ml)で洗浄して最終生成物を白色の繊維質ディスクとして得た。
【0133】
ディスクをシリンジフィルターデバイスに入れ、160ppm宿主細胞タンパク質(HCP)を含有する、MabSelect(商標) PrismAカラム(Cytiva社、Sweden)からのモノクローナルIgG抗体溶出液を1.2秒の滞留時間でディスクに通し、フロースルーを収集した。溶出液のアリコートを事前に異なるpH及び導電率レベルに調整しておいた。ディスクの通過後、フロースルー中の抗体収率及び残留HCP含有量はTable 1(表1)に示される通りであった。
【0134】
【表1】
【0135】
(実施例5)
N-ベンゾイルアミド-ホモシステインリガンドを有するマルチモーダルカチオン交換マトリックス
工程1:
50個の酢酸セルロースディスク(32mm直径、0.9mm厚)を蒸留水(4×600ml)で洗浄した。洗浄溶液を除去し、350mlの0.5M KOH溶液に置き換えた。ディスクをKOH溶液で10分間撹拌しながら処理した後、100mlのグリシドールを添加した。反応媒体をディスクの上で2時間激しく撹拌した。この時間の後、上清液を除去し、ディスクを蒸留水(4×600ml)で洗浄して、更なる修飾なしに次の工程に使用されるきれいなグリシドールグラフト化セルロース中間体を得た。
【0136】
工程2:
25個のディスクを工程2から取り、37.5gのNa2CO3を含有する500mlのH2O及び150mlのアセトニトリルに懸濁した。100mlのジビニルスルホンを60分かけて滴下添加しながら、混合物を激しく撹拌した。次いで反応混合物を16時間激しく撹拌した。この時間の後、上清液をデカントし、ディスクを600mlのアセトン:H2O(1:1)で3回、及び蒸留H2O(1×600ml)で洗浄した。きれいな中間体を更なる修飾なしに次の工程に使用した。
【0137】
工程3:
工程2からのディスクを別々に6ウェルプレートのウェルに入れた。一方、N-ベンゾイル-DL-ホモシステインチオラクトンの溶液を、27mlのH2Oを含有する丸底フラスコに入れた。次いでNaOHの4mlの50%w/v溶液を添加し、混合物を撹拌しながら40℃に2時間加熱した。この時間の後、溶液を室温に冷却した。溶液のpHを11.6に変更し、2.5mlの調製された溶液を6ウェルプレート中の各ディスクに直接添加した。プレートを60℃で16時間インキュベートした。この時間の後、上清をデカントし、ディスクを蒸留水(5×10ml)で洗浄して最終生成物を白色の繊維質ディスクとして得た。
【0138】
プロトタイプを動的IgG結合容量(10%ブレイクスルー)について、2.4秒の滞留時間で、ポリクローナルIgG(Gammanorm、Octapharma社)及びモノクローナルIgG抗体を用いて分析した。容量試験は膜ホルダーに入れた単一の25mmの打ち抜いたディスク上で、異なるNaCl濃度を用いた50mM NaAc緩衝液pH5.0中の0.47mg/ml IgGをディスクにロードして行った。
【0139】
【表2】
【0140】
(実施例6)
ポリ(ビニルスルホナート-co-N-ビニルピロリドン)リガンドを有するマルチモーダルカチオン交換マトリックス
実施例2のように調製されたグリシドールグラフト化、DVS官能化材料の32mm直径の円形ディスク(厚み0.9mm)をフラスコに入れた。次いで、所定量(Table 3(表3)を参照されたい)のN-ビニルピロリドン(VP)、ビニルスルホン酸ナトリウム塩(30%水溶液)(VSA)及び2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(ADBA)開始剤を各フラスコに添加した。希酢酸を添加することによって反応混合物のpHを6~7に設定した。次いで水を添加して2.45gの総溶液質量を得た。直径32mmである膜を収容するのに十分大きい細胞培養プレート中で反応を行った。プレートを加熱した振盪台に置き、台を65℃に設定した。グラフト化反応を16時間続けた後、ディスクをウェルプレート中で洗浄した。材料を0.2M酢酸ナトリウム溶液中に保存した。プロトタイプを動的IgG結合容量(10%ブレイクスルー)について、2.4秒の滞留時間で分析した。容量試験は膜ホルダーに入れた単一の25mmの打ち抜いたディスク上で、50mM NaAc緩衝液pH5.0中の0.5mg/mlポリクローナルIgG(Gammanorm、Octapharma社)をディスクにロードして行った。
【0141】
【表3】
【0142】
(実施例7)
EDTAリガンドを有する金属キレートマトリックス
【0143】
【化20】
【0144】
1- アミノ化工程
3つの膜シート(実施例2のように調製されたグリシドールグラフト化、DVS官能化材料)を網に巻きつけ、次いでビーカー内で3×700mlの水で洗浄して(各洗浄につき20分)20%エタノール保存溶液を除去した。網を取り巻く十分に洗浄したシートを反応器(500ml)に移し、700mlの25%アンモニアを添加し、反応混合物を終夜45℃でそのままにした。網を取り巻くシートをビーカーに移し、3×700mlの水で洗浄した(各洗浄につき20分)。
【0145】
2- リガンドカップリング工程
工程1からの網上の3つのアミノ化シートをビーカー内で6×1GVアセトンで洗浄し、次いで反応器に移し、700mlのアセトンを添加した。反応混合物に2.9gのジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を添加し、撹拌しながら5分間反応をそのままにした。53gのEDTA二無水物を反応混合物に添加し、混合物を終夜24~28℃でそのままにした。網上のシートをビーカー内で3×1GVアセトン、次いで3×1GV水で洗浄し、次いでGV 1M NaOHと共に1時間そのままにして、余分な未反応のEDTAを加水分解した。網上のシートをビーカー内で6×1GV水で洗浄した(各洗浄につき20分)。
【0146】
リガンドカップリング工程からのシートをプラスチックの箱に入れ、箱に100mmのNiSO4溶液を15分間、振盪台上で、室温で添加した。シートの色は白色から青緑色/青色に変化した。
【0147】
シートを結合容量の評価のために残した。
【0148】
(実施例8)
N,N-ジカルボキシメチル-ホモシステインリガンドを有する金属キレートマトリックス
【0149】
【化21】
【0150】
N,N-ジカルボキシメチルエチルエステルホモシステインチオラクトンの加水分解
N,N-ジカルボキシメチルエチルエステルホモシステインチオラクトン0.293gを、磁気撹拌子を有する20mLのバイアル中の6.5mLの1.05M NaOHに添加し、加水分解を2.5時間室温で、全てのリガンドが溶解するまで進めた。
【0151】
NaHCO3 1M溶液
25mLの蒸留水に0.786gの重炭酸ナトリウムを添加し、全ての重炭酸塩が溶解するまで撹拌した。
【0152】
DVS活性化ディスクの調製
実施例2のように調製された12個のDVS活性化ディスクをホルダーに入れ、500mLの水で20分、4回洗浄して20%エタノール保存溶液を除去した。
【0153】
固定
加水分解されたリガンドの溶液をビーカーに移し、バイアルを重炭酸塩溶液で繰り返しすすいで可能な限り多くをバイアルから取り出した。pHは測定して9.94であった。半分の量をビーカーに注ぎ、50%NaOHを使用してpHを11.8に調整した。残りの半分は、濃HClを使用してpH8.13に調整した。洗浄したDVS活性化ナノ繊維ディスクを、ピンセットを使用して6ウェルプレートに入れた。
【0154】
A:3連の3mLのリガンド溶液、pH11.8
B:3連の1.5mLのリガンド溶液+1.5mLの蒸留水、pH11.8
C:3連の3mLのリガンド溶液、pH8.1
D:3連の1.5mLのリガンド溶液+1.5mLの蒸留水、pH8.1
【0155】
プレートをパラフィルムで包み、振盪器上に終夜、R.T及び90rpmで置いた(17.2時間)。A及びBのディスクは直ちに黄色になったが、pH8.1は影響しないようであった。
【0156】
全てのディスクは黄色のいくらかの色合いを有しており、pH8.1はpH11.8ほどでなかった。ディスクをウェルから取り出し、1Lのビーカー内のプラスチックの網を使用する洗浄装置に入れ、6×800mL水で洗浄した。溶液のpHを約7に制御した。ディスクを6ウェルプレートに入れ、冷蔵庫において水中で保存した。
【0157】
ディスクにニッケルイオンをロードし、a)純粋なhisタグ付き緑色蛍光タンパク質(GFP-His)(0.3mg/ml)、b)GFP-Hisを加えた大腸菌(E Coli)上清及びc)GFP-Hisを加えたモノクローナル抗体CHO細胞培養上清を用いて評価した。
【0158】
a)純粋なGFP-His
GFP-His溶液の10mlの試料を、シリンジフィルターデバイスに入れたディスクにロードした。実験を4つの異なる流量1、5、10及び20ml/分で行った。Table 4(表4)は、イミダゾールで溶出したGFP-Hisの収量データを示す。
【0159】
【表4】
【0160】
b)GFP-Hisを加えた大腸菌上清
GFP-Hisを大腸菌培養物に添加して100μg/mlのGFP-His濃度を得、培養物を20分間20000rpmで超遠心分離した。50mlをシリンジフィルターデバイス内のディスクに10ml/分の流量でロードし、GFP-Hisをイミダゾール緩衝液で溶出した。収量データをTable 5(表5)に示す。
【0161】
【表5】
【0162】
c)GFP-Hisを加えたCHO細胞培養上清
500mlのCHO細胞上清を30分、20000rpmで超遠心分離し、6.4μg/ml GFP-Hisを加えた。次いで500mlをシリンジフィルターデバイス内のディスクに10ml/分の流量でロードし、GFP-Hisをイミダゾール緩衝液で溶出した。収量データをTable 6(表6)に示す。
【0163】
【表6】
【0164】
CHO細胞培養実験について、時間及び緩衝液消費量は、
ローディング 10ml/分で500ml- 50分
洗浄 10ml/分で50カラム体積- 5分
溶出 5ml/分で15カラム体積- 5分
合計:1時間、65ml
であった。
【0165】
比較のために、充填床カラム(HisTrap excel 5ml、Cytiva社)を用いた結果は、
ローディング 5ml/分で500ml- 1時間40分
洗浄 5ml/分で30カラム体積- 30分
溶出 5ml/分で10カラム体積- 10分
合計:2時間20分、200ml
であった。
【0166】
分析方法
動的結合容量の決定
ローディング物質をAKTA Pureシステム(GE Healthcare社)上のホルダー内に含有される選択された官能化ナノ繊維ディスクに通した。物質を分当たりの決められた膜体積の流量(mV/分)下で、ホルダー出口後の濃度がUVフローセルによって決定して、ロードされた濃度の10%を超えるまでロードした。システム及びホルダーデバイス内の死容積を考慮して、10%ブレイクスルー時のディスクにロードしたタンパク質の総量をUnicornソフトウェア(GE Healthcare社)のクロマトグラムの分析により決定した。アニオン交換材料について、ローディング物質はpH8の10mM Tris中1mg/mL BSAであった。カチオン交換材料について、ローディング物質は酢酸ナトリウムpH4.7mM中1mg/mLリゾチームであった。
【0167】
流れに対する抵抗性の決定
選択された官能化ナノ繊維材料にわたる圧力低下(ΔP)は、AKTA Pureシステム(GE Healthcare社)を使用して決定された。10mM Tris(pH8)の緩衝液をホルダー内に含有された官能化ナノ繊維ディスクに通した。デルタカラム圧(ΔP)が0.5MPaに等しい流量を記録した。
【0168】
キャピラリーフロー分析によって測定された孔径
使用した機器はPOROLUX(商標)100ポロメーター(IB-FT GmbH社、Berlin、Germany)であり、方法はTable 7(表7)に示される通りであった。測定原理についての更なる詳細は製造業者のウェブサイトhttp://www.ib-ft.com/measurement_principle.htmlで見出され得る。
【0169】
測定から得られた3つの孔径は、最小孔径、平均流量孔(MFP)径及びバブルポイント孔径(最大孔径)である。
【0170】
【表7】
【0171】
キャピラリーフローポロメトリーからの結果及びSEM画像からの平均ナノ繊維直径の推定値をTable 8(表8)に示す。グリシドールQ及びグリシドールDVSプロテインA試料におけるグラフト化ポリマーの存在は繊維質網目状物の全体構造に影響を及ぼさず、すなわちグラフトコーティングはコンフォーマル性を有し、非常に薄いことがわかる。過度に大量のグラフトポリマーが導入される場合、ポリマー材料がナノ繊維の間に形成される可能性があり、材料の流量性能に負の影響を及ぼす。
【0172】
【表8】
【0173】
この明細書は例を使用して、最良の形態を含む本発明を開示し、任意の当業者が任意のデバイス又はシステムを作製及び使用すること、並びに任意の組み込まれる方法を実施することを含む本発明を実践することも可能にする。本発明の特許請求可能な範囲は特許請求の範囲によって定義され、当業者が思いつく他の例を含み得る。そのような他の例は、特許請求の範囲の文字通りの言葉と異ならない構造要素を有する場合、又は特許請求の範囲の文字通りの言葉との非実質的な差異を有する同等の構造要素を含む場合、特許請求の範囲内にあることが意図される。本文で言及された全ての特許及び特許出願は、個々に組み込まれるかのようにそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【符号の説明】
【0174】
10 分離マトリックス
20 ナノ繊維-ナノ繊維融着点
30 ナノ繊維
40 第1の側面
50 第2の側面
60 開放三次元接続孔構造
図1
図2
【国際調査報告】