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▶ オーソドンティック リサーチ アンド ディベロップメント エス.エル.の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-05
(54)【発明の名称】歯列矯正デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/30 20060101AFI20230529BHJP
【FI】
A61C7/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566316
(86)(22)【出願日】2021-04-30
(85)【翻訳文提出日】2022-11-09
(86)【国際出願番号】 EP2021061431
(87)【国際公開番号】W WO2021224135
(87)【国際公開日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】20382367.9
(32)【優先日】2020-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519422083
【氏名又は名称】オーソドンティック リサーチ アンド ディベロップメント エス.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キャリエール ユーク,ルイス
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052JJ08
4C052JJ09
(57)【要約】
歯列矯正デバイス(10)が、第1の固定構造を受容するための第1の開口部(11)と、第2の固定構造を受容するための第2の開口部(12)と、第3の固定構造を受容するための第3の開口部(13、14、15)と、を備え、第1の固定構造、第2の固定構造、及び第3の固定構造が、被験者の口の中に取り付けられ、更に、歯列矯正デバイス(10)が、第1の開口部、第2の開口部、及び第3の開口部を接続する中間構造(18)を備え、開口部の1つ又は複数は、伸縮可能であり、中間構造及び開口部は、耐クリープ性材料から作られる。
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の端部及び第2の端部を有し、前記第1の端部と前記第2の端部との間に中心長手方向軸を画定し、第1の固定構造を受容するための第1の開口部と、第2の固定構造を受容するための第2の開口部と、第3の固定構造を受容するための第3の開口部と、を備える、歯列矯正デバイスであって、
前記第1の固定構造、前記第2の固定構造、及び前記第3の固定構造が、被験者の口の中に取り付けられ、前記第1の開口部、前記第2の開口部、及び前記第3の開口部が、中心長手方向軸に沿って実質的に整列され、
前記歯列矯正デバイスが、前記第1の開口部、前記第2の開口部、及び前記第3の開口部を接続する中間構造を備え、
前記開口部の1つ又は複数が、伸縮可能であり、
前記中間構造及び前記開口部が、耐クリープ性材料から形成され、
前記歯列矯正デバイスが、その長さを増加させ、その幅を減少させることによって変形するように構成される、歯列矯正デバイス。
【請求項2】
前記中間構造及び前記開口部が、弾性材料から形成される、請求項1に記載の歯列矯正デバイス。
【請求項3】
前記材料が、超弾性金属材料である、請求項2に記載の歯列矯正デバイス。
【請求項4】
前記超弾性金属材料がニチノールである、請求項3に記載の歯列矯正デバイス。
【請求項5】
前記材料が、ポリマー、具体的にはポリスルホンである、請求項1又は2に記載の歯列矯正デバイス。
【請求項6】
前記デバイスが、単一の一体的に形成された本体から形成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の歯列矯正デバイス。
【請求項7】
前記中間構造及び前記開口部が、1つ又は複数の織られた又は組まれた、ワイヤ又はワイヤ束によって形成される、請求項6に記載の歯列矯正デバイス。
【請求項8】
前記ワイヤの1つ又は複数の交差接合部が溶接される、請求項7に記載の歯列矯正デバイス。
【請求項9】
メッシュを備え、該メッシュが、前記中間構造を形成する、請求項1から8のいずれか一項に記載の歯列矯正デバイス。
【請求項10】
前記メッシュがまた、前記第1の開口部、前記第2の開口部、及び前記第3の開口部を形成する、請求項9に記載の歯列矯正デバイス。
【請求項11】
前記中間構造が、ばね、任意選択で螺旋コイルばねを備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の歯列矯正デバイス。
【請求項12】
前記中間構造が、前記第1の開口部と前記第2の開口部との間の第1のコネクタと、前記第2の開口部と前記第3の開口部との間の第2のコネクタと、を備え、非伸長状態では、前記第1のコネクタの長さが、前記第2のコネクタの長さとは異なる、請求項1から11のいずれか一項に記載の歯列矯正デバイス。
【請求項13】
更なる固定構造を受容するための更なる開口部を備える、請求項1から12のいずれか一項に記載の歯列矯正デバイス。
【請求項14】
第1の歯への取付けのための第1のブラケットと、第2の歯への取付けのための第2のブラケットと、第3の歯への取付けのための第3のブラケットと、を備え、前記第1のブラケット、前記第2のブラケット、及び前記第3のブラケットの周りに装着されるように構成される請求項1から13のいずれか一項に記載の歯列矯正デバイスを、更に備える、キット。
【請求項15】
前記歯列矯正デバイスが、前記第1のブラケット、前記第2のブラケット、及び前記第3のブラケットに設けられたフックの周りに装着されるように構成される、請求項14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2021年5月4日に出願された欧州特許出願第20 382 367.9号の利益を主張する。
【0002】
本開示は、歯列矯正デバイスに関し、特にブラケットなどの固定構造に装着される歯列矯正デバイスに関する。本開示は更に、歯列矯正治療のためのキット及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
制御された力を歯に加えることによる、歯並び及び咬合異常の矯正が一般的になっている。例えば、歯列矯正ブラケットの使用は周知である。歯列矯正ブラケットは通常、各歯の前部に直接接合され、自己結紮、舌及びチタンを含む様々なスタイル及びサイズで提供される。ブラケットは、歯を動かすアーチワイヤを保持するハンドルのように機能する。単一の伸縮素材又は結紮糸が、アーチワイヤを固定するブラケットの周囲に配置される。歯を動かし続けると、毎月のように予約して、バンドを変更又は調整する必要がある。
【0004】
ブレースを含む歯列矯正治療は、歯列矯正「パワーチェーン」の使用と組み合わせてもよい。歯列矯正パワーチェーンは、歯列矯正治療中に、歯間の空間を閉じるために使用されることが多い、接続された伸縮素材結紮糸を備える。この方法は通常、ブラケットに取り付けられた一連の接続された弾性Oリングを使用し、いくつかの歯にわたって均一な張力を生じさせる。張力は、歯間、又は歯群の間の空間を容易に閉じ、通常、治療の終わりまで使用される。例えば、特許文献1は、エラストマー材料で作られた歯列矯正力モジュールを開示した。
【0005】
歯列矯正医は通常、月に1回又は数週間に1回患者を診察する。各来院時に、歯列矯正医は、治療のために必要に応じてブラケットを調整する。同様に、適切な歯列矯正パワーチェーンを、来院中に、ブラケットの周りに装着することがある。
【0006】
歯列矯正パワーチェーンは通常、シリコーンゴムから作られる。シリコーンゴムは、多くの医療用途で使用されており、したがって生体適合可能である。また、シリコーンゴムは、良好な弾性特性を有する。歯列矯正パワーチェーンを装着するとき、パワーチェーンの一部が伸長される。パワーチェーンの開口部は、ブラケットの周りに配置される。その後のパワーチェーンの開口部間の張力は、歯を互いに近づけるように強制する。
【0007】
しかしながら、シリコーンゴムには、多くの欠点もある。第1に、パワーチェーンは、一定のストレス、唾液及び湿度の影響下で、その機能又は有効性を相当急速に、例えば数日以内に失う。そのため、歯列矯正医への訪問間に、歯列矯正パワーチェーンは、余り効果的ではない。また、パワーチェーンの着色は、唾液の影響下で悪影響を及ぼす可能性がある。更に、シリコーンゴムと金属ブラケットとの間の摩擦は比較的高く、患者の咬合異常を解決するための歯列矯正治療の有効性に悪影響を及ぼす。
【0008】
コイルばねの使用も知られている。開コイルばねは、2つの歯が近すぎる場合に使用される。コイルばねは、アーチワイヤを越え、歯が互いに離れるように動かすために使用される。閉コイルばねは、コイルばねのいずれかの端部にアイレットを有してもよく、伸長されると、歯を互いに近づけようと引っ張り得る。
【0009】
特許文献2は、2つの固定端を有する可変伸長ばねを開示している。特許文献3は、第1の端部及び第2の端部を有するテンショナー取付部本体を備える歯列矯正テンションアセンブリを開示しており、テンショナー取付部本体の第1の端部は、歯の固定構造を取り外し可能に受容するように構成された開口部を有し、テンショナー取付部本体の第2の端部は、テンション要素を取り外し可能に連結するように構成されている。
【0010】
コイルばねのアイレットは、歯に接合されたブラケットなどの固定点の周りに装着され得る。装着時にコイルばねが伸長されると、ばねの自然な傾向として、短くなろうとし、したがって歯を互いに近づけるように動かす。複数の歯を互いに近づけようと引っ張るために、複数のコイルばねを同時に使用する必要がある。
【0011】
様々な実施例における本開示は、上述の問題のいくつかを少なくとも部分的に解決する歯列矯正治療に使用するための方法及びデバイスを提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様では、歯列矯正デバイスが提供される。歯列矯正デバイスは、第1の固定構造を受容するための第1の開口部と、第2の固定構造を受容するための第2の開口部と、第3の固定構造を受容するための第3の開口部と、を備え、第1の固定構造、第2の固定構造、及び第3の固定構造は、被験者の口の中に取り付けられる。デバイスは、第1の開口部、第2の開口部、及び第3の開口部を接続する中間構造を更に備え、開口部の1つ又は複数は、伸縮可能であり、中間構造及び開口部は、耐クリープ性材料から作られる。歯列矯正デバイスは、その長さを増加させ、その幅を減少させることによって変形するように構成されてもよい。
【0013】
この態様によれば、歯列矯正デバイスは、例えばブラケットなどの固定構造の周りに装着するための少なくとも3つの開口部を備える。したがって、複数の歯を相対的に動かし得る。歯列矯正デバイスを耐クリープ性材料から作ることによって、治療は、シリコーンゴムを使用する場合よりも極めて効果的であり得る。デバイスの機能は、2~6週間の間隔が空いた歯列矯正医への訪問の間でも、維持され得る。また、機能は、例えば、来院の間隔が2ヶ月以上経過した場合でも、それよりも有意に長く維持され得る。場合によっては、治療期間全体を通して同じデバイスを使用し得る。開口部の1つ又は複数、又はそのすべては、伸縮可能であり、したがって変形可能であり、すなわち、張力が加えられると形状が変化する。したがって、それらを、口の様々な部分において、様々な固定構造の周りに装着し得る。
【0014】
歯列矯正デバイスは、特に構造の幅を縮小することによって、構造を長くすることによって変形可能である。デバイスは、材料を著しく歪ませることなく、引き伸ばされ得る。
【0015】
歯列矯正デバイスは、固定構造の周りに装着するように伸長されたとき、デバイスの幅が、例えば25%以上、具体的には50%以上減少され得るという意味で、変形可能であり得る。いくつかの実施例では、デバイスの幅は、固定構造の周りに装着するように伸長されたとき、70%以上減少され得る。
【0016】
クリープとは、本開示全体を通して使用されたとき、固体材料が、持続的な機械的応力の影響下でゆっくりと動く、又は永久的に変形する傾向である。これは、材料の降伏強度を下回っていても、長期間、高いレベルの応力にさらされた結果として起こり得る。クリープは、長期間にわたって熱にさらされる材料では顕著であり、一般に融点付近で増加する。クリープは、ポリマー及び金属において生じ得る。
【0017】
本開示全体を通して使用されたとき、耐クリープ性材料は、ユーザの口の温度範囲及び湿潤環境において、いかなる著しいクリープ挙動も示さない材料として理解され得る。
【0018】
開口部及び中間構造は、弾性材料から作られてもよい。
【0019】
本開示全体を通して使用されたとき、弾性材料は、塑性変形する前に、高度の変形を可能にする材料として理解され得る。特に、その弾性限界、すなわち、塑性変形が生じる前に、材料が耐え得る歪みの量は、5%以上、具体的には10%以上であり得る。
【0020】
いくつかの実施例では、材料は、超弾性金属材料であってもよい。
【0021】
いくつかの実施例では、超弾性金属材料は、ニチノールであってもよい。ニチノールとしても知られるニッケルチタンは、ニッケルとチタンとの金属合金であり、2つの元素は、概ね等しい原子百分率で存在する。ニッケルの重量百分率に従って、例えばニチノール55及びニチノール60など、様々な合金が命名される。ニチノール50は、重量百分率で50%のニッケル、及び50%のチタンを有する。これは、様々な温度で形状記憶効果及び超弾性を示す。体温、37°C付近で、ニチノールは通常、超弾性挙動を示す。
【0022】
選択された合金に応じて、転移温度は高くても低くてもよい。いくつかの実施例では、転移温度が、例えば50°C又は60°Cのレベルになるように、転移温度が、断続的に到達され得るように、合金は、選択されてもよい。例えば、患者が、1杯のコーヒー又は茶を飲むと、転移温度に達し、その温度に達すると、デバイスの材料は、元の形状に戻る傾向がある。したがって、一時的に、力の大きな変動が発生する可能性がある。
【0023】
場合によっては、銅をニチノールに添加してもよい。銅は、形状記憶転移が起こる温度を変化させ得る。
【0024】
他の実施例では、デバイスは、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、及び例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)のようなポリケトンなど、高性能熱可塑性樹脂から作られてもよい。
【0025】
いくつかの実施例では、デバイスは、単一の一体的に形成された本体から作られてもよい。いくつかの実施例では、中間構造及び開口部は、1つ又は複数の織られた又は組まれた、ワイヤ又はワイヤ束によって形成されてもよい。他の実施例では、歯列矯正デバイスは、メッシュを備えてもよい。開口部及び中間構造が単一の一体型本体、フック、又は他の取付部から形成される実施例では、例えば患者の頬と部品との接触を回避し得る。
【0026】
第2の態様では、第1の固定構造を受容するための第1の開口部と、第2の固定構造を受容するための第2の開口部と、第3の固定構造を受容するための第3の開口部と、を備える歯列矯正デバイスが、提供され、第1の固定構造、第2の固定構造、及び第3の固定構造は、被験者の口の中に取り付けられる。デバイスは、第1の開口部、第2の開口部、及び第3の開口部を接続する中間構造を更に備え、開口部及び中間構造は、超弾性材料、例えばニチノールから作られる。歯列矯正デバイスは、その長さを増加させ、その幅を減少させることによって変形するように構成されてもよい。
【0027】
第3の態様では、第1の固定構造を受容するための第1の開口部と、第2の固定構造を受容するための第2の開口部と、第3の固定構造を受容するための第3の開口部と、を備える歯列矯正デバイスが、提供され、第1の固定構造、第2の固定構造、及び第3の固定構造は、被験者の口の中に取り付けられる。デバイスは、第1の開口部、第2の開口部、及び第3の開口部を接続する中間構造を更に備え、デバイスは、固定構造の周りに装着されたとき、その幅が50%以上減少する。
【0028】
更なる態様では、歯列矯正デバイスと、複数のブラケットと、を備えるキットが、提供される。歯列矯正デバイスは、第1のブラケットの一部を受容するための第1の開口部と、第2のブラケットの一部を受容するための第2の開口部と、第3のブラケットの一部を受容するための第3の開口部と、を備える。デバイスは、超弾性材料、例えばニチノールで作られる。使用時に、第1、第2、第3(及び更なるブラケット)は、患者の歯に接合され得る。使用時に、歯列矯正デバイスの開口部は、ブラケットの一部の周りに装着され得る。歯列矯正デバイスは、その長さを増加させ、その幅を減少させることによって変形するように構成されてもよい。
【0029】
第2の態様、第3の態様、及び更なる態様のいずれかは、第1の態様に関して実施例として本明細書に開示した特徴のいずれかと組み合わせられてもよい。
【0030】
これらの態様のいずれかでは、第1の開口部、第2の開口部、及び第3の開口部(及び任意選択で更なる開口部)は、歯列矯正デバイスの長手方向軸に沿って整列されてもよく、歯列矯正デバイスの長手方向軸は、長手方向軸の一端と反対端との間に延在する。特に、第1の開口部、第2の開口部、及び第3の開口部は、中心長手方向軸に沿って整列されてもよい。中心長手方向軸は、対称の長手方向軸を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本開示の非限定的な例を、添付の図面を参照して以下に説明する。
図1A】本開示による、歯列矯正デバイスの2つの実施例を概略的に示す図である。
図1B】本開示による、歯列矯正デバイスの2つの実施例を概略的に示す図である。
図1C】歯列矯正デバイスの更なる実施例を概略的に示す図である。
図2A】歯列矯正デバイスの更なる実施例を概略的に示す図である。
図2B】歯列矯正デバイスの更なる実施例を概略的に示す図である。
図2C】歯列矯正デバイスの更なる実施例を概略的に示す図である。
図3A】更なる実施例を更に概略的に示す図である。
図3B】更なる実施例を更に概略的に示す図である。
図4】患者の口内のブラケットの周りに配置された歯列矯正デバイスの一実施例を概略的に示す図である。
図5】歯列矯正分野のいくつかの専門用語を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図5は、下顎(下顎)の歯の配置を概略的に示す図である。口110の前方部分は、近心領域と呼ばれる場合がある。口120の後方部分は、遠位領域と呼ばれる場合がある。歯列矯正において、近心及び遠位は、歯列弓の中央正中線にそれぞれ近いもの、及びそれから遠いものを指すために使用される用語である。
【0033】
口の遠位領域には、大臼歯部が見られ得る。大臼歯部は、第1の大臼歯、第2の大臼歯、及び場合によっては第3の大臼歯(「親知らず」)を含み得る。歯130の後ろの口の内側部分は、舌領域(舌が位置する領域)と呼ばれる場合がある。口140の外側部分は、唇領域(唇が位置する領域)と呼ばれる場合がある。特定の歯(第1の大臼歯)に対する近心-遠位方向115を、図1に概略的に示している。図5には、同じ歯に対する舌-唇方向135も示している。この用語は、本開示において遵守される。
【0034】
この特定の図に下顎を示しているが、同じ用語が上顎にも適用されることは明らかである。
【0035】
図1Aは、歯列矯正デバイス10の第1の実施例を概略的に示している。歯列矯正デバイス10は、長手方向軸200を画定する。歯列矯正デバイス10は、第1の固定構造を受容するための第1の開口部11と、第2の固定構造を受容するための第2の開口部12と、第3の固定構造を受容するための第3の開口部13と、を備える。本実施例では、更なる固定構造を受容するための追加の開口部14、15、16がある。すべての開口部は、中心長手方向軸200に沿って実質的に整列されてもよい。歯列矯正デバイスは、中心長手方向軸200に沿って実質的に対称であってもよい。
【0036】
第1の固定構造、第2の固定構造、及び第3の固定構造(及び更なる構造)は、被験者の口の中に取り付けられる。固定構造は、例えば、患者の歯に配置されたフック、TAD(仮固定デバイス)、及び/又はブラケット(の一部)であってもよい。また更なる実施例では、固定構造は、アライナ(歯列弓の周りに装着するシェル)の取付部であってもよい。ブラケットは、例えば、固定構造として使用され得るフックを有してもよいが、他の可能な固定構造は、例えば、アーチワイヤ(チャネル)の周りに配置されたウイング、又はカリエール・モーション・アプライアンス(Carriere Motion appliance)(登録商標)などの他の歯列矯正器具を含む。
【0037】
歯列矯正デバイス10は、第1の開口部、第2の開口部、及び第3の開口部を接続する中間構造を更に備え、第1の開口部、第2の開口部、及び第3の開口部は、伸縮可能であり、デバイス10は、変形可能である。ユーザが、デバイスのいずれかの端部を引っ張ったとき、デバイス10は、弾性的に変形し、すなわち力が取り除かれると、元の形状に戻る。張力が加えられると、開口部11、12、13は変形し、平坦になる、すなわち幅が狭くなり、長くなる。デバイスの全長の有意な変化は、必ずしも材料の有意な伸長なく、起こり得る。
【0038】
中間構造及び開口部は、弾性材料、具体的には超弾性金属材料から作られてもよい。
【0039】
本実施例の歯列矯正デバイス10は、織られたワイヤから作られる。歯列矯正デバイスは、患者の口の内側を損傷又は傷つける可能性があるフック、付属物、及び取付部を回避する、単一の一体的に形成された本体から作られる。ワイヤは、固定構造を受容し得る開口部と、開口部間の中間構造との両方を形成する。代替の実施例では、単一の織られたワイヤの代わりに、ワイヤ束を使用してもよい。
【0040】
本明細書で使用する、織るとは、材料の長さ又はストランドを互いに上下に通過させること、及びパターンを形成するためにスレッド又はワイヤを交絡させる任意の形態として解釈されてもよい。本開示全体を通して使用されたとき、織るとは、例えば、組む、及び編む、を包含することを意味する。
【0041】
本実施例では、開口部11~15間のワイヤの交差接合部18が、溶接される。ワイヤ又はワイヤ束のこれらの交差接合部を溶接又ははんだ付けすることは、固定点を設け、開口部の伸長を制限し、それによって開口部が元の形状を維持することに役立つ。代替の実施例では、ワイヤが交差するこれらの接合部の1つ又は複数は、シリコーン又は金属リングによって固定されてもよい。接合部の周りのリングは、リング内のワイヤのある程度の変位を許容し得る。更なる代替案は、ワイヤの一部分が、接合部でワイヤの別の部分の周りにねじられることである。接合部が所定の位置に留まることを確実にするために、接合部は、単一又は二重のねじれを含んでもよい。
【0042】
図1Aの実施例では、6つの開口部が設けられている。したがって、歯列矯正デバイス10を、同数の6つの異なる固定点の周りに装着してもよい。いくつかの実施例では、すべての開口部を、固定構造の周りに装着する必要はない。例えば、デバイスの端部の開口部のみを使用してもよい。又は、デバイスの端部の開口部、及びその間の1つ又は複数の開口部であってもよい。
【0043】
図1Bは、第1の収縮状態又は「折り畳まれた」状態の歯列矯正デバイス、及び第2の「拡張された」状態の同じデバイスの一実施例を示している。歯列矯正デバイス20は、製造され、滅菌され、包装され、収縮状態で歯列矯正医又は歯科医に配送され得る。収縮状態は、デバイスの自然状態、すなわちデバイスに外力がない場合に、デバイスが元に戻った状態であり得る。拡張された状態(この状態は、「延在」状態又は「伸長」状態とも呼ばれ得る)は、患者の口の中の固定点の周りに配置されたデバイスを表す。
【0044】
図1Bの実施例では、4つの開口部21、22、23、24が設けられ、デバイス20は、単一のワイヤ、又はワイヤの単一の束から作られる。開口部間の中間構造は、図1Aの実施例と同様に、ワイヤ又はワイヤ束の交差接合部によって形成される。また、開口部及び中間構造は、ここでも単一の一体型構造から作られる。また、本実施例では、開口部は、中心長手方向軸200に沿って配置される。歯列矯正デバイスは、対称性の中心長手方向軸を有する。
【0045】
図1Aの実施例とは対照的に、ワイヤの交差接合部は、本実施例では、はんだ付けも、結合もされていない。図1Bに示す拡張状態では、固定点をデバイスの両端に概略的に示している。デバイス20を、固定構造の周りに装着するように拡張しているので、その自然状態まで短縮又は収縮する傾向がある。これにより、固定点を互いに近づけるように力が加えられる。固定点が、例えば、同じアーチ(すなわち、上顎又は下顎)内の歯に設けられている場合、これは、歯を互いに近づけるように動かす力が加えられる。
【0046】
図1A及び図1Bの実施例では、すべての開口部11~16、21~24は、ワイヤの交差によって形成される。ワイヤ又はワイヤの束は、エンドレスループを形成する。
【0047】
本実施例では、すべての開口部は実質的に同じサイズである。これらのデバイスが細長いとき、対向する端部の開口部11、16、21、24は、中央の開口部よりも小さく変形し得る。すなわち、対向する端部の開口部11、16、21及び24は、中央の開口部よりも広く、短く維持される。更なる実施例では、開口部は、すべて同じサイズでなくてもよい。特に、対向する端部の開口部は、同じデバイスの他の開口部よりも幅が狭くてもよい。
【0048】
図1Cは、歯列矯正デバイスの別の実施例を概略的に示している。図1Cの歯列矯正デバイスは、ワイヤの交差によって形成された4つの開口部21~24を含む、図1Bの実施例と概ね同様である。図1Cの実施例では、歯列矯正デバイスは、2本のワイヤの両端の端部26、28で溶接することによって形成される。端部間では、2つのワイヤは、前述の意味で織られている。デバイスの両端の開口部は、中央の丸みを帯びた開口部と比較して、長手方向に延在するとがった直線状の端部を有する。長手方向の伸長部は、歯列矯正デバイス、特に長手方向における両端の開口部の延長又伸長に役立ち得る。
【0049】
図2A図2Cは、歯列矯正デバイスの更なる実施例を示している。図2Aの実施例では、一方の端部に、2つの開口部31、32が設けられ、反対側の端部に、第3の開口部33が設けられている。開口部32と開口部33との間には、第2の開口部と第3の開口部との間の中間構造を形成する螺旋コイルばねが、設けられる。コイルばね及び開口部は、前述のようにニチノールから作られてもよい。コイルばね35は、開口部のいずれかの端部で、溶接、はんだ付け、又はろう付けされてもよい。螺旋コイルばねは、図1の純粋に組まれた構造よりも塑性変形前に拡張する能力が大きくなり得る。
【0050】
図2Bは、図2Aと同様であるが、単一の螺旋コイルばねの代わりに、第1の開口部31と第2の開口部32との間に、及び第2の開口部32と第3の開口部33との間に、2つの螺旋コイルばね34、36が設けられる代替の実施例を示している。第1の開口部と第2の開口部との間の非伸長状態のコネクタ(この場合、螺旋コイルばね)は、第2の開口部32と第3の開口部33との間のコネクタ(この特定の実施例では、螺旋コイルばね)とは異なる長さを有してもよい。
【0051】
図2Cの実施例もわずかに異なる。本実施例では、4つの開口部41、42、43及び44が設けられ、その各々を、固定構造又は固定点の周りで、受容し、装着する。第3の開口部43と第4の開口部44との間の中間構造46も、ばねによって形成される。コイルばねではなく、蛇行ばねが使用される。蛇行ばねは、患者の口の内部を傷つけるリスクを低減し得る。
【0052】
更に別の代替の実施例を、図3A及び図3Bに示している。図3Aは、その「自然」状態又は収縮状態にあるニチノールメッシュ構造で作られたデバイス50を示している。メッシュは、開口部と、それらを接続する中間構造との両方を形成する。メッシュは、織られても、編まれても、組まれてもよい。メッシュ52、54の端部は溶接されてもよい。
【0053】
メッシュの端部を溶接する代わりに、端部を接着してもよい。
【0054】
図3Bは、拡張状態の同じデバイス50を示している。単一のデバイスが、異なる拡張状態を有し得ることは明らかである。すなわち、特定の用途に応じて、デバイスを、固定点の周りに装着するように、様々な程度に伸長してもよい。図3Bの実施例では、一方の端部の固定部62と、反対側の端部の固定部64と、中間固定部66との3つの固定点を示している。
【0055】
図3に示すようなメッシュ構造の一態様は、異なる固定構造に潜在的に装着し得る多くの開口部が含まれることである。これにより、メッシュ構造は極めて汎用性があり、広く様々な治療に適している。
【0056】
図4は、図1の実施例に類似した歯列矯正デバイス、すなわち、ワイヤ又はワイヤの束を組む又は織ることによって開口部及び中間構造が形成されるデバイスの実装形態の実施例を示している。図示の実装形態は、歯列矯正パワーチェーンとしての従来の使用に似ている。
【0057】
図4は、デバイス20の開口部21~24を、異なる固定構造の周りにどのように装着し得るかを示している。図4は、上顎の歯81、83、85、87、89の部分を示している。ブラケット91、93、95、97、99は、連続する歯に接合され得る。ブラケット95、97及び99は、固定構造として使用され、特に、アーチワイヤスロットを囲むウイングは、固定構造として機能する。したがって、歯85、87及び99は、互いに引き寄せられる。
【0058】
ブラケット93及び歯83は、固定構造として使用されない。特定の治療の必要性に応じて、すべての連続するブラケットを使用する必要がないことは明らかである。開口部間の空間を広げる(したがって、2つの開口部間の中間構造を大きく伸長する)ことによって、引っ張り力が増加され得る。
【0059】
本明細書に開示した実施例のいずれにおいても、固定点又は固定構造は、例えばフックなどのブラケット又は大臼歯チューブの一部であってもよく、アーチワイヤスロットの周りに配置されたウイングであってもよい。本明細書に示したすべての実施例では、固定構造を受容するためのデバイスの開口部は、少なくとも部分的に丸みを帯びている。すなわち開口部の一部は、実質的に円形、球形、まゆ形曲線又は楕円形である。
【0060】
本明細書に開示した実施例のいずれにおいても、開口部又は/メッシュを形成するワイヤ又はワイヤの束は、様々な断面を有し得る。また、断面は、デバイス全体に沿って一定でなくてもよい。寸法と、形状との両方において、断面は変化し得る。断面を変化することによって、歯列矯正デバイスが調整された方法で変形するように、局所的な剛性の局所的な脆弱性を設けてもよい。
【0061】
開示した実施例のいずれかでは、固定構造を受容するように構成される開口部は、歯列矯正デバイスの長手方向軸に実質的に沿って整列されてもよい。すなわち、開口部の各々の中心点は、実質的に長手方向軸上に、特に中心長手方向軸上にあり得る。
【0062】
いくつかの実施例しか本明細書に開示していないが、他の代替、修正、使用及び/又は均等物が可能である。更に、記載した実施例のすべての可能な組合せも網羅される。したがって、本開示の範囲は、特定の実施例によって限定されるべきではなく、添付の特許請求の範囲を公正に読むことによってのみ決定されるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0063】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0096798号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2012/0058444号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0196781号明細書
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5
【国際調査報告】