(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-06
(54)【発明の名称】変性グラフェンシェール阻害剤
(51)【国際特許分類】
C09K 8/04 20060101AFI20230530BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20230530BHJP
【FI】
C09K8/04
C01B32/194
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552729
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(85)【翻訳文提出日】2022-10-24
(86)【国際出願番号】 US2020026351
(87)【国際公開番号】W WO2021177985
(87)【国際公開日】2021-09-10
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】599130449
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(71)【出願人】
【識別番号】522347944
【氏名又は名称】キング ファハド ユニバーシティ オブ ペトロリアム アンド ミネラルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】サーレフ, タウフィーク, アブド
(72)【発明者】
【氏名】アル-アルファジ, モハンメド, ハーリド
(72)【発明者】
【氏名】ラナ, アズィーム, エイ.
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC16B
4G146AD40
4G146CB11
4G146CB13
(57)【要約】
水系坑井流体は、水性ベース流体、及び連結基を介してグラフェンと共有結合した1つ以上の置換基を有する変性グラフェンシェール阻害剤を含んでいてもよい。上記1つ以上の置換基のうち1つは、炭素原子数が8~14の範囲の炭化水素基であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ベース流体、及び
連結基を介してグラフェンと共有結合した1つ以上の置換基を有する変性グラフェンシェール阻害剤を含み、
上記1つ以上の置換基のうち1つは、炭素原子数が8~14の範囲の炭化水素基である、
水系坑井流体。
【請求項2】
上記連結基はエステル、酸無水物、及びアミドからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の水系坑井流体。
【請求項3】
上記炭化水素基は炭素原子数が10~12の範囲である、請求項1又は2に記載の水系坑井流体。
【請求項4】
上記変性グラフェンシェール阻害剤はウンデカンカルボキシレート変性グラフェンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の水系坑井流体。
【請求項5】
増量剤、増粘剤、湿潤剤、防錆剤、酸素捕捉剤、酸化防止剤、殺生物剤、界面活性剤、分散剤、界面張力低減剤、pH緩衝剤、相互溶剤、及び希釈剤からなる群より選択される1種以上の添加剤を更に含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の水系坑井流体。
【請求項6】
見掛け粘度が約10~35cPの範囲である、請求項1~5のいずれか1項に記載の水系坑井流体。
【請求項7】
塑性粘度が約1~25cPの範囲である、請求項1~6のいずれか1項に記載の水系坑井流体。
【請求項8】
降伏点が約2~15Paの範囲である、請求項1~7のいずれか1項に記載の水系坑井流体。
【請求項9】
増量剤、増粘剤、湿潤剤、防錆剤、酸素捕捉剤、酸化防止剤、殺生物剤、界面活性剤、分散剤、界面張力低減剤、pH緩衝剤、相互溶剤、及び希釈剤からなる群より選択される1種以上の添加剤を更に含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の水系坑井流体。
【請求項10】
水系掘削泥水である、請求項1~9のいずれか1項に記載の水系坑井流体。
【請求項11】
掘削しつつ坑井に水系掘削泥水を循環させる工程を有する、坑井を掘削する方法であって、
上記水系掘削泥水は、連結基を介してグラフェンと共有結合した1つ以上の置換基を有する変性グラフェンシェール阻害剤を含み、
上記1つ以上の置換基のうち1つは、炭素原子数が8~14の範囲の炭化水素基である、方法。
【請求項12】
上記連結基はエステル、酸無水物、及びアミドからなる群より選択される1種以上であり、
上記炭化水素基は炭素原子数が10~12の範囲である、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記変性グラフェンシェール阻害剤はウンデカンカルボキシレート変性グラフェンである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
上記水系掘削泥水は、
見掛け粘度が約10~35cPの範囲であること、
塑性粘度が約1~25cPの範囲であること、及び
降伏点が約2~15Paの範囲であること
からなる群の1つ以上を有する、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
上記水系掘削泥水は、
シェールカッティングスのローリング回収率が80%超であること、及び
6時間後の阻害持続性回収率が85%超であること
からなる群の1つ以上を有する、請求項11~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
黒鉛を酸化させてカルボン酸含有酸化グラフェンを調製する工程;
上記カルボン酸含有酸化グラフェンをハロゲン化剤と反応させて、ハロゲン化アシル含有グラフェンを得る工程;及び
上記ハロゲン化アシル含有グラフェンを置換基保有化合物と反応させて、変性グラフェンシェール阻害剤を得る工程を有し、
上記置換基保有化合物は、炭化水素鎖と、カルボン酸、アルコール、アルデヒド、アミン、アミド、グリコール、及びシランからなる群より選択される1種以上の官能基とを有する、
変性グラフェンシェール阻害剤を調製する方法。
【請求項17】
上記置換基保有化合物はカルボン酸官能基を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
上記炭化水素鎖は、炭素原子数が8~15の範囲である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
上記ハロゲン化剤は塩素化剤である、請求項16~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
上記塩素化剤は塩化チオニルである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
上記変性グラフェンシェール阻害剤はウンデカンカルボキシレート変性グラフェンである、請求項16~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
上記カルボン酸含有酸化グラフェンを調製する工程は、
氷浴中で撹拌しながら上記黒鉛に硝酸ナトリウムを添加する工程;
冷却した硝酸ナトリウム及び黒鉛の混合物に酸化剤を複数回に分けて添加する工程;
水を滴下し、得られた混合物を加熱する工程;
上記混合物を室温まで冷却し、過酸化水素を滴下する工程;及び
得られた懸濁液を遠心分離する工程
を有する、請求項16~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
上記カルボン酸含有酸化グラフェンを調製する工程は、遠心分離後に硝酸を添加する工程を更に有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
上記カルボン酸含有酸化グラフェンをハロゲン化剤と反応させる工程を還流下で12時間以上実施する、請求項16~23のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
石油やガスの掘削作業では坑井の安定性を維持することが重要な課題である。坑井は機械的な手段や化学的な手段で不安定になることがある。掘削作業自体が機械的な不安定さをもたらすことがある一方、掘削流体系とシェールとの相互作用によって化学的な不安定さが生じることもある。シェールは、ケイ酸塩及び/又はアルミノケイ酸塩と、重要なことには粘土鉱物とで構成されている。シェールが水系流体と接触すると、活性粘土が水を吸着して膨潤する。このような膨張によって坑井が不安定化し、最終的には配管の詰まり、掘削設備の損失、又は坑井の放棄へとつながり得る。そのため、シェールの膨潤を制御及び阻害すること(「シェール阻害」)が、掘削作業を成功させるために必要不可欠である。
【0002】
油系泥水(Oil-Based Mud;OBM)を使用した場合、細孔を塞いでシェールの周りに保護膜を形成して水和及び膨潤を回避できるため、水系泥水(Water-Based Mud;WBM)と比較してシェール阻害が向上する。だが、環境規制や高コストにより、OBMの用途は限られている。WBMの水に濡れる性質から、WBMがシェールと長期にわたって相互作用した場合、水が拡散してシェールが膨潤する可能性が高い。
【0003】
WBMに配合することでシェール阻害能を向上できる様々な種類のシェール阻害剤があり、無機塩(KCl等)、重合体、糖及び糖誘導体、グリセリン、並びにケイ酸塩等が挙げられる。ほとんどのシェール阻害剤は、坑井流体中の水を粘性化すること、シェールの細孔を塞ぐこと、またはシェール中の水を浸透圧で除去することで作用する。これらの添加剤は、一般的にはシェールの水和を効率的には阻害できない一方、環境面でも悪い結果に寄与するという点で限定的なものである。環境への影響を制御し、掘削泥水のレオロジー的特徴を向上させ、且つシェール膨潤を制御するために、好気性及び非好気性のいずれの条件下でも生分解されやすいエステル系掘削泥水が広く使用されるようになってきている。
【0004】
グラフェンは、原子程度の厚みの二次元共役構造、大きな表面積、及び高い伝導度を有する材料として広く研究されている。グラフェンは、シェール表面を塞ぐことができるその柔軟なシート状構造から、シェール阻害に有用であり得るとされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本概要では、以下の詳細な説明で更に記載される概念の一部を紹介する。本概要は、特許請求された主題の重要な特徴又は必須の特徴を特定することを意図したものではなく、特許請求された主題の範囲を限定しやすくするものとして用いられることを意図したものでもない。
【0006】
一態様において、本明細書中に開示された実施形態は、水性ベース流体、及び連結基を介してグラフェンと共有結合した1つ以上の置換基を有する変性グラフェンシェール阻害剤を含む水系坑井流体に関する。上記1つ以上の置換基のうち1つは、炭素原子数が8~14の範囲の炭化水素基であってもよい。
【0007】
別の態様において、本明細書中に開示された実施形態は、黒鉛を酸化させてカルボン酸含有酸化グラフェンを調製する工程;上記カルボン酸含有酸化グラフェンをハロゲン化剤と反応させて、ハロゲン化アシル含有グラフェンを得る工程;及び上記ハロゲン化アシル含有グラフェンを置換基保有化合物と反応させて、変性グラフェンシェール阻害剤を得る工程を有する、変性グラフェンシェール阻害剤を調製する方法に関する。上記置換基保有化合物は、炭化水素鎖と、カルボン酸、アルコール、アルデヒド、アミン、アミド、グリコール、及びシランからなる群より選択される1種以上の官能基とを有していてもよい。
【0008】
以下の説明及び添付の特許請求の範囲から、特許請求された主題の他の態様及び利点が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の1つ以上の実施形態の変性グラフェンシェール阻害剤の合成を表す模式図である。
【
図2】本開示に係る作泥試験及び流体損失試験を表す模式図である。
【
図4】本開示に係る阻害安定性試験を表す模式図である。
【
図5】(5A)シェールのSEM画像;(5B)1つ以上の実施形態におけるウンデカンカルボン酸グラフェンシェール阻害剤(1-DEC-GR)で変性したシェールのSEM画像;(5C)シェールのEDXスペクトル;及び(5D)1-DEC-GRで変性したシェールのEDXスペクトルを表す。
【
図6】シェール、1-DEC-GR、シェール+1-DEC-GR、及びグラフェンのFT-IRスペクトルを表す。
【
図7】1-DEC-GR、シェール+1-DEC-GR、及びシェールの熱重量分析を表す。
【
図8】従来の掘削泥水及び1-DEC-GRを含む掘削泥水の、ホットローリング前後におけるレオロジー特性及び流体損失の分析を表す。
【
図9】H
2O、KCl、従来の掘削泥水、及び1-DEC-GR含有掘削泥水の存在下におけるシェールの分散試験の結果を表す。
【
図10】処理済みシェールの阻害持続性試験の各経過時間における結果を表す。
【
図11】H
2O、KCl、及び1-DEC-GRの存在下でのシェールの線形膨潤試験の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示に係る実施形態は、概して、変性グラフェンシェール阻害剤、その調製、及び坑井流体におけるその使用に関する。一般に、本明細書中に開示された実施形態の変性グラフェンシェール阻害剤は、連結基を介して1つ以上の置換基と共有結合したグラフェンを含む。
【0011】
所定の用途に使用するための坑井流体は、その見掛け粘度、塑性粘度、ゲル強度、及び降伏点等のレオロジー特性によって適性が著しく左右される。例えばエステルの場合、エステル官能基の両側に位置する置換基を変えることでこれらの特性が変化する。本開示は、グラフェンのシート状構造と、エステルにより得られる生分解性及びレオロジー的利点とを組み合わせたものである。
【0012】
本開示の一実施形態において、変性グラフェンシェール阻害剤は、水の移動を可能にしつつシェールへの大きなイオン移動を妨げる効果的なバリアを提供することで、シェールの安定化を可能とする浸透圧バリアを形成できる。
【0013】
<変性グラフェンシェール阻害剤>
【0014】
(組成)
【0015】
グラフェンは、最大で炭素層約100層(多くの場合、炭素層約10層未満)の厚さを有する単一の黒鉛シートである。「グラフェン」及び「グラフェンシート」は本開示中で等価的に使用できる用語である。1つ以上の実施形態において、変性グラフェンシェール阻害剤は官能化グラフェン、すなわち、1つ以上の官能基で官能化されたグラフェンを含む。
【0016】
1つ以上の実施形態におけるグラフェンは、機械的剥離、化学蒸着、及び化学反応等、当業者に知られている任意の合成方法で得られる。1つ以上の実施形態において、グラフェンは廃黒鉛から調製してもよい。
【0017】
1つ以上の実施形態におけるグラフェンシートは、長さが約100nm~約1mmの範囲となる寸法を有していてもよい。例えば、グラフェンシートは、0.1、0.25、0.5、1.0、5.0、10、50、100、250、及び500μmのいずれかを下限とし、1.0、5.0、10、25、50、100、200、300、500、750、及び1000μmのいずれかを上限とする範囲の長さとなる寸法を有していてもよく、任意の下限を、数学的に適合する任意の上限と組み合わせて使用できる。1つ以上の実施形態において、グラフェンは、地下層のシェール細孔を塞ぐのに適した大きさを有するように選択してもよい。
【0018】
1つ以上の実施形態において、本開示に係る変性グラフェンシェール阻害剤は、1つ以上の官能基(又は「置換基」)と共有結合したグラフェンシートを含んでいてもよい。1つ以上の実施形態における置換基は、連結基を介してグラフェンシートに結合していてもよい。
【0019】
1つ以上の実施形態において、置換基をグラフェンシートに接続する連結基は、エステル、酸無水物、アミド、アミン、エーテル、チオエーテル、及びチオエステルからなる群より選択してもよい。特定の実施形態における連結基はエステルであってもよい。当業者であれば、本開示の恩恵を受けて、連結基の選択が変性グラフェンシェール阻害剤の特性に影響を及ぼし得ることを理解できるであろう。例えば、連結基が水素結合に関与することができれば、一般的にシェール阻害剤の水溶性が増大する。
【0020】
1つ以上の実施形態における置換基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、エーテル、ケトン、チオエーテル、アミン、アルコール、及びチオールのうちの1つ以上であってもよい。特定の実施形態において、置換基は、直鎖又は分枝鎖状のアルキル又はアルケニル基等の炭化水素基であってもよい。
【0021】
1つ以上の実施形態において、置換基は炭素数が8~15の範囲であってもよい。例えば、置換基は炭素数が、8、9、10、11、及び12のいずれかを下限とし、10、11、12、13、14、及び15のいずれかを上限とする範囲であってもよく、任意の下限を、数学的に適合する任意の上限と組み合わせて使用できる。特定の実施形態において、置換基は、ウンデカンカルボキシレート等のC11アルキル基を含んでいてもよい。
【0022】
1つ以上の実施形態において、変性グラフェンシェール阻害剤は一つ以上の置換基を含んでいてもよい。別の実施形態において、変性グラフェンシェール阻害剤は複数の置換基を含んでいてもよい。1つ以上の実施形態における変性グラフェンシェール阻害剤は、約1~80重量%(wt%)の範囲の量の置換基を含んでいてもよい。例えば、グラフェンシートは、1、5、10、20、30、40、50、60、及び70wt%のいずれかを下限とし、5、10、20、30、40、50、60、70、及び80wt%のいずれかを上限とする範囲の置換基含有量を有していてもよく、任意の下限を、数学的に適合する任意の上限と組み合わせて使用できる。
【0023】
1つ以上の実施形態における変性グラフェンシェール阻害剤は1種以上の置換基を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、変性グラフェンシェール阻害剤は2つ又は3つの異なる置換基を含んでいてもよい。各置換基は異なる量で含まれていてもよく、等モル量で含まれていてもよい。
【0024】
(合成)
【0025】
本開示の変性グラフェンシェール阻害剤の調製では、黒鉛を酸化して酸化グラフェンを得てもよい。酸化グラフェンは、1つ以上の酸素含有基を含むグラフェンシートである。1つ以上の実施形態において、酸化グラフェンは、1つ以上のカルボン酸基、ヒドロキシ基、及びエポキシ架橋を含んでいてもよい。酸化グラフェンの正確な化学構造は、その合成方法によって異なる。
【0026】
グラフェンの酸化は、硫酸、硝酸ナトリウム、及び過マンガン酸カリウムの混合物を用いるHummers法等、多くの試薬で実施できる。本開示の特定の実施形態において、酸化グラフェンは、硝酸ナトリウムと過硫酸ナトリウム等の酸化剤とを黒鉛に添加して調製してもよい。いくつかの実施形態において、硝酸ナトリウムは氷浴中で攪拌しながら黒鉛に添加してもよい。酸化剤は、冷却した硝酸ナトリウム及び黒鉛の混合物へ複数回に分けて添加してもよい。混合物に水を滴下した後、90℃の温度まで加熱してもよい。続いて、混合物を室温まで冷却してもよい。その後、過酸化水素を添加し遠心分離することで、酸化グラフェンが得られる。1つ以上の実施形態において、遠心分離は10000rpmで実施してもよい。得られた酸化グラフェンを(例えば硝酸で)更に酸性化して、カルボン酸含有酸化グラフェンを得てもよい。
【0027】
酸化グラフェンは既にヒドロキシ基、カルボン酸基、及びエポキシ基を含んでいてもよいが、1つ以上の実施形態では、置換基保有化合物と適宜反応できる官能基を含むように、酸化グラフェンを更に反応させてもよい。このような官能基は、塩化アシル、カルボン酸、ヒドロキシ基、アルデヒド、アミン、アミド、グリコール、シラン、及びこれらの誘導体からなる群より選択してもよい。
【0028】
1つ以上の実施形態において、酸化グラフェンをハロゲン化剤と反応させて、酸化グラフェンのカルボン酸基をハロゲン化アシルに変換してもよい。
図1に示す通り、1つ以上の実施形態において、塩化チオニル(SOCl
2)等の塩素化剤を用いて、塩化アシル官能基を含む変性グラフェンを得てもよい。1つ以上の実施形態におけるハロゲン化は還流条件下で実施してもよい。ハロゲン化は、8時間以上、12時間以上、又は24時間以上実施してもよい。いくつかの実施形態において、ハロゲン化後の混合物を室温まで冷却し、残留したハロゲン化剤を減圧蒸留で除去して、塩化アシル官能化グラフェンを得てもよい。
【0029】
塩化アシル官能化グラフェンをクロロホルム等の有機溶媒に添加し、混合物を超音波処理して均一な分散液を得てもよい。超音波処理は、5分以上、10分以上、又は20分以上実施してもよい。
【0030】
1つ以上の実施形態において、関与する反応種の正確な性質に大きく依存する反応型によって、置換基を酸化グラフェン(又はその官能化誘導体)に導入してもよい。例えば、特にエステル化、エーテル化、求核付加、求電子付加、ラジカル付加、双極子付加、ディールス-アルダー付加によって、変性グラフェンシェール阻害剤を調製してもよい。
【0031】
1つ以上の実施形態における置換基は、置換基保有化合物によって導入してもよい。置換基保有化合物は、置換基と、リンカーの形成及びグラフェンへの共有結合を可能とする1つ以上の官能基とを含んでいてもよい。1つ以上の実施形態における官能基は、塩化アシル、カルボン酸、ヒドロキシ基、アルデヒド、アミン、アミド、グリコール、シラン、及びこれらの誘導体からなる群より選択してもよい。
【0032】
図1に示す通り、特定の実施形態において、塩化アシル含有グラフェンをアルキルカルボン酸と反応させて、変性グラフェンシェール阻害剤を調製してもよい。1つ以上の実施形態におけるアルキルカルボン酸は、8~15個の炭素原子を含んでいてもよい。
【0033】
<坑井流体>
【0034】
本開示の1つ以上の実施形態における坑井流体は、例えば、水系坑井流体、逆エマルジョン坑井流体、及び油系坑井流体を含んでいてもよい。坑井流体は、特に水系掘削泥水(WBM)等の掘削流体又は仕上げ流体であってもよい。
【0035】
(組成)
【0036】
1つ以上の実施形態における水系坑井流体は水性ベース流体を有していてもよい。水性流体は、淡水、海水、塩水、水溶性有機化合物、及びこれらの混合物のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。水性流体は、各種の塩を含むように配合された淡水であってもよい。塩としては、アルカリ金属のハロゲン化物及び水酸化物が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中に開示された坑井流体の1つ以上の実施形態において、塩水は、海水、塩濃度が海水より低い水溶液、又は塩濃度が海水より高い水溶液のいずれかであってもよい。海水中に見られる塩としては、特にハロゲン、炭酸、塩素酸、臭素酸、硝酸、酸素、リン酸のナトリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ストロンチウム塩、及びリチウム塩が挙げられる。上記した塩はいずれも、塩水に含まれていてもよい。1つ以上の実施形態において、塩水中の塩濃度を増加させて坑井流体の密度を制御してもよいが、最大濃度は塩の溶解度で決定される。特定の実施形態において、塩水は、アルカリ金属のハロゲン化物若しくはカルボン酸塩、及び/又はアルカリ土類金属のカルボン酸塩を含んでいてもよい。
【0037】
1つ以上の実施形態における油系坑井流体は、油質ベース流体を有していてもよい。油質流体は、天然油又は合成油であってもよい。1つ以上の実施形態において、油質流体は、軽油、鉱質油、ポリアルファオレフィン、シロキサン、オルガノシロキサン、脂肪酸エステル、及びこれらの混合物のうちの1つ以上であってもよい。
【0038】
1つ以上の実施形態における坑井流体は、外部油質相及び内部非油質相を有する逆エマルジョンであってもよい。1つ以上の実施形態における逆エマルジョンは、非油質相に対する油質相の体積比が約1:99~60:40の範囲であってもよい。例えば、逆エマルジョンは、非油質相に対する油質相の体積比が、1:99、10:90、20:80、30:70、及び40:60のいずれかを下限とし、20:80、30:70、40:60、50:50、及び60:40のいずれかを上限とする範囲であってもよく、任意の下限を、数学的に適合する任意の上限と組み合わせて使用できる。外部油質相は、油系坑井流体に関して上で詳述したもののいずれかであってもよい。水性液は、水系坑井流体に関して上で詳述したもののいずれかであってもよい。
【0039】
1つ以上の実施形態における坑井流体は、約0.2~5重量%(wt%)の範囲の量で変性グラフェンシェール阻害剤を含んでいてもよい。例えば、坑井流体は、0.2、0.3、0.5、0.7、0.8、1.0、1.5、2.0、及び2.5wt%のいずれかを下限とし、0.5、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、及び5.0wt%のいずれかを上限とする範囲の量で変性グラフェンシェール阻害剤を含んでいてもよく、任意の下限を、数学的に適合する任意の上限と組み合わせて使用できる。特定の実施形態において、坑井流体は約0.5~1.5wt%の量で上記阻害剤を含んでいてもよい。
【0040】
さらに、本開示の坑井流体には他の添加剤が含まれていてもよい。このような添加剤は、例えば、増量剤、増粘剤、湿潤剤、防錆剤、酸素捕捉剤、酸化防止剤、殺生物剤、界面活性剤、分散剤、界面張力低減剤、pH緩衝剤、相互溶剤、及び希釈剤からなる群の1種以上であってもよい。1つ以上の実施形態における坑井流体で使用するのに適した増量剤としては、例えば、ベントナイト、バライト、ドロマイト、及びカルサイト等が挙げられる。上述した添加物の特性及び使用は特に限定されない。当業者であれば、本開示の恩恵を受けて、特定の添加剤を含有させるかどうかは、所定の坑井流体の所望の用途及び特性に依存することを理解するであろう。例えば、1つ以上の実施形態における坑井流体が仕上げ流体である場合、濾過ケークを破壊するための破壊剤を含んでいてもよい。
【0041】
(特性)
【0042】
坑井流体のレオロジー的特徴は、所定の用途に対する流体の適性を決定する上で重要である。
【0043】
1つ以上の実施形態における坑井流体は、密度が60 lb/ft3より大きくてもよい。例えば、坑井流体は、60、62、64、66、68、70、75、及び80 lb/ft3のいずれかを下限とし、66、68、70、75、80、90、及び100 lb/ft3のいずれかを上限とする範囲の密度を有していてもよく、任意の下限を、数学的に適合する任意の上限と組み合わせて使用できる。
【0044】
流体の見掛け粘度は、阻害媒体の存在下における流体の膨潤速度と直接関係する。従って、見掛け粘度が低いとは、流体と粘土との相互作用が小さくなり得ることを示している。1つ以上の実施形態における坑井流体は、見掛け粘度が約10~35cPの範囲であってもよい。例えば、坑井流体は、10、12、14、16、18、20、及び22cPのいずれかを下限とし、18、20、22、25、30、及び35cPのいずれかを上限とする範囲の見掛け粘度を有していてもよく、任意の下限を、数学的に適合する任意の上限と組み合わせて使用できる。
【0045】
流体の塑性粘度は、流動に対する流体の抵抗の尺度である。例えば、塑性粘度が低い掘削流体であれば、より速く掘削できる能力を有する。塑性粘性は、流体の固形分及び温度の両方に依存する。1つ以上の実施形態における坑井流体は、塑性粘度が約1~25cPの範囲であってもよい。例えば、坑井流体は、1、3、5、7、9、及び10cPのいずれかを下限とし、11、13、15、20、及び25cPのいずれかを上限とする範囲の塑性粘度を有していてもよく、任意の下限を、数学的に適合する任意の上限と組み合わせて使用できる。
【0046】
1つ以上の実施形態における坑井流体は、10秒後の初期ゲル強度が約5~20 lb/100ft2の範囲であってもよい。例えば、坑井流体は、5、6、7、8、及び10 lb/100ft2のいずれかを下限とし、9、10、12、15、及び20 lb/100ft2のいずれかを上限とする範囲の初期ゲル強度を有していてもよく、任意の下限を、数学的に適合する任意の上限と組み合わせて使用できる。
【0047】
1つ以上の実施形態における坑井流体は、10分後の最終ゲル強度が約10~35 lb/100ft2の範囲であってもよい。例えば、坑井流体は、10、12、14、16、18、20、及び25 lb/100ft2のいずれかを下限とし、15、18、20、25、30、及び35 lb/100ft2のいずれかを上限とする範囲の最終ゲル強度を有していてもよく、任意の下限を、数学的に適合する任意の上限と組み合わせて使用できる。
【0048】
降伏点は、移動の開始に対する流体の抵抗であり、流体のコロイド粒子間の引力の強さを評価するものである。降伏点は、例えば、掘削流体が動的条件下でボーリング孔からシェールカッティングスを引き上げる能力を示す。降伏点が高い流体は、密度が同程度で降伏点が低い流体と比較して、運搬能に優れている。1つ以上の実施形態における坑井流体は、降伏点が約2~15Paの範囲であってもよい。例えば、坑井流体は、2、5、6、及び7Paのいずれかを下限とし、7、8、10、12、及び15Paのいずれかを上限とする範囲の塑性粘度を有していてもよく、任意の下限を、数学的に適合する任意の上限と組み合わせて使用できる。
【0049】
見掛け粘度、塑性粘度、初期ゲル強度、最終ゲル強度、及び降伏点(YP)等のレオロジー的特徴は、例えば500psiの圧力下、65.5℃で16時間ホットローリングを行った後の坑井流体について測定できる。これらの値は、35Aモデル粘度計(FANN instrument社、ヒューストン、米国)のダイヤル目盛りを600rpm及び300rpmとし、
図2に示すような標準的な評価手順で得られたものである。坑井流体の初期ゲル強度及び最終ゲル強度を測定する場合、粘度計を600rpmで10秒間運転した後、それぞれ10秒間及び10分間スイッチを切る。その後、粘度計を3rpmの回転速度にする。
【0050】
分散試験では、流体に暴露したシェール材料の破砕及び摩耗を評価する。シェールの組成、シェールの脆さ、水和の度合い、及びボーリング孔周辺の応力は、シェールの分散に著しく影響する重要な要因である。1つ以上の実施形態における坑井流体は、シェールカッティングスのローリング回収率が80%超、85%超、又は90%超であってもよい。シェールの回収率は、坑井流体にシェールカッティングスを加え、ローリングオーブン中、25rpm及び66℃で16時間ホットローリングを行うことで測定してもよい。冷却後、ふるい分けによりシェールカッティングスを流体から分離してから、水洗する。乾燥後、カッティングスの重量を測定し、回収率(%)を算出する。
【0051】
しかしながら、分散試験では、阻害されたシェールの長期安定性を予測することはできない。シェール阻害持続性試験によって、ボーリング孔の経時的な安定性という課題に対処するために掘削泥水の反応成分がもたらした結果を分析しやすくなる。1つ以上の実施形態における坑井流体は、6時間後の阻害持続性回収率が85%超、90%超、又は95%超であってもよい。1つ以上の実施形態における坑井流体は、24時間後の阻害持続性回収率が40%超、45%超、又は50%超であってもよい。阻害持続性は、分散試験で回収した既に阻害されたシェールカッティングスを用いて測定される。阻害されたシェールカッティングスを水に加え、所定の時間熟成する。冷却後、ふるい分けによりシェールカッティングスを流体から分離してから、水洗する。乾燥後、カッティングスの重量を測定し、回収率(%)を算出する。
【0052】
1つ以上の実施形態における坑井流体は、流体損失が8mL未満であってもよい。例えば、坑井流体は、1、2、3、4、5、及び6mLのいずれかを下限とし、6、7、8、9、及び10mLのいずれかを上限とする範囲の流体損失を有していてもよく、任意の下限を、数学的に適合する任意の上限と組み合わせて使用できる。流体損失は、
図2に示すような標準的な手順に従い、100psiの圧力で測定してもよい。
【0053】
(方法)
【0054】
1つ以上の実施形態における坑井流体は、当業者に知られた方法を用いて坑井又は地下層に循環させてもよい。1つ以上の実施形態における坑井流体は、坑井掘削中の掘削流体又はドリルイン流体、掘削完了後に坑井を仕上げるための仕上げ流体、及び坑井改修に用いる改修流体のうちの1つ以上として使用してもよい。
【実施例】
【0055】
以下の実施例は単なる例示であり、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0056】
(材料及び合成)
【0057】
変性グラフェンシェール阻害剤の膨潤阻害性能を比較するために、KClを比較例として使用したが、これはBeantown chemicals社(ハドソン、米国)から購入した。各種の一般的な添加剤を利用して合成水系泥水を配合した。ベントナイトを用いて変性WBMの阻害作用を評価したが、これはDelmon group of companies社(アルコバール、サウジアラビア)から入手した。Resinex、キサンタンガム(XC)バイオポリマー、及びポリ塩化アルミニウム(PAC-L)はHaliburton社(ヒューストン、米国)から入手した。亜硫酸ナトリウムはSigma Aldrich社(米国)から購入した。すべての実験で新しい水道水を使用した。シェールカッティングスはAramcoの掘削現場から採取した。
【0058】
酸化グラフェンは廃黒鉛から合成した。氷浴中で攪拌しながら、黒鉛約20g及び硝酸ナトリウム(NaNO3)6gを1L丸底フラスコに投入した。連続攪拌下、過硫酸ナトリウム約10gを複数回に分けて投入した。攪拌下で8時間後、蒸留水0.2Lを滴下し、混合物を90℃で24時間静置した。冷却後、溶液が黄褐色になるまでH2O2(30%)を滴下した。フラスコの内容物を加熱せず更に3時間攪拌した。この懸濁液を10000rpmで遠心分離して酸化グラフェンを得た。得られたグラフェンを更に硝酸で処理して、グラフェンナノシート上にカルボキシル基を生成させた。
【0059】
カルボキシル基官能化グラフェンに塩化チオニル(SOCl2)を加え、60℃で還流下、24時間反応させた。冷却後、残留SOCl2を減圧蒸留で除去して、塩化アシル官能化グラフェンを得た。得られた材料をクロロホルムに加え、混合物を20分超音波処理して均一分散液とし、そこに窒素流下で1-ウンデカンカルボン酸(C12H24O2)を添加した。この混合物を80℃で還流下、24時間攪拌下に保った。得られたウンデカンカルボキシレート変性グラフェン(以下、「1-DEC-Gr」)を分離し、乾燥させた。
【0060】
(材料の特性評価)
【0061】
電解放出型走査電子顕微鏡観察(FE-SEM、TESCAN Lyra3で実施)によって、シェール、1-DEC-Gr、及び1-DEC-Grで変性したシェールの表面特性を評価した。また、調製した材料の表面に炭素、ケイ素、及び窒素が存在することを確認するために、エネルギー分散型X線分光(EDX)スキャンを実施した。X線光電子分光法(非単色Al源(Kα、1486.6eV)を用いたV.G.Scientific社製ESCALAB Mk(II)分光装置)によって、吸着剤の表面の元素の存在を確認した。
【0062】
(方法)
【0063】
シェール阻害剤の各種特徴を試験するために、表1に示す成分を用いて水系泥水(WBM)を調製した。
【0064】
【0065】
35Aモデル粘度計(FANN instrument社、ヒューストン、米国)を用いて、未変性泥水及び変性泥水のレオロジー試験を実施した。この目的のため、ベントナイト5g、各濃度の界面活性剤、シェール阻害剤3gを含む350mLのWBMを調製し、30分混合した。この分散液を500psiの圧力下、65.5℃で16時間ホットローリングを行った。ホットローリング後、掘削泥水を室温まで冷却し、ダイヤル目盛りを600rpm及び300rpmとした粘度計及び表2の計算式から得た値を用いて、見掛け粘度(AV)、塑性粘度(PV)、及び降伏点(YP)等のレオロジー的特徴を推定した。これらの値は、
図2に示すような標準的な評価手順で得た。
【0066】
【0067】
θaは特定のRPMにおけるダイヤル目盛りである。WBMの初期ゲル強度及び最終ゲル強度を測定するために、粘度計を600rpmで10秒間運転した後、それぞれ10秒間及び10分間スイッチを切った。その後、粘度計を3rpmの回転速度とし、極限ダイヤル目盛りを10分ゲル強度(ポンド/100ft2)として記録した。
【0068】
マッドバランス(OFI Testing Equipment社、ヒューストン、米国)を用いて、ベントナイト系阻害泥水の密度を測定した。この目的のため、ベントナイト5g、各濃度の界面活性剤、シェール阻害剤3gを含む350mLのWBMを調製し、30分混合した。この分散液を500psiの圧力下、65.5℃で16時間ホットローリングを行った。ホットローリング後、掘削泥水を室温まで冷却し、密度を測定した。ホットローリング前後でWBMのレオロジー特性を推定して、温度及び圧力の影響を比較した。
【0069】
水損失プレスユニット(OFI Testing Equipment社、ヒューストン、米国)を用いて流体損失試験を実施した。水に各種添加剤とともにベントナイトを加えて、ベントナイト系掘削泥水を調製した。WBMを30分混合した後、
図2に示すような標準的な手順に従い、100psiの圧力で流体損失量を測定した。ホットローリング前後でWBMの流体損失を推定して、温度及び圧力の影響を比較した。
【0070】
まず、シェールをくしゃくしゃに潰し、メッシュNo.10及びNo.5の間のふるい振とう機(W.S.Tyler Mentor社、オハイオ、米国)で選別した。シェールの分散性を測定するために、シェール阻害剤を含む又は含まないWBM350mlにシェールカッティングス20gを加えた。エージングセルに対してローリングオーブン(OFI Testing Equipment社、ヒューストン、米国)中、25rpm及び66℃で16時間ホットローリングを行って、ボーリング孔の環境を模倣した。その後、セルを室温まで冷却した。シェールカッティングスをメッシュNo.35でふるい分けした後、流水で十分に洗浄して、小さなシェール粒子を除去した。
図3に示す通り、ふるい上のシェールカッティングスを105℃で24時間乾燥させた。最後にカッティングスを計量し、以下の式を用いて回収率(%)を算出した。
シェール分散回収率=W
c/20×100
式中、W
cは分散試験後に残留したシェールカッティングスの重量である。
【0071】
阻害持続性を評価することで、シェールの健全性を保持する上でより効率的なシェール阻害剤を選択でき、ボーリング孔の不安定さという問題を低減できる。分散試験で回収した既に阻害されたシェールカッティングスを用いて試験を実施する。淡水を高反応性媒体として利用して、シェールカッティングスの阻害安定性を評価する。350mLの淡水を含むエージングセルに阻害されたシェールカッティングス5gを加えた。様々な時間でエージングセルのホットローリングを行った。その後、エージングセルを常温まで冷却し、セルの内容物をメッシュNo.35のふるいに注ぎ入れた。ふるいのシェールカッティングスを水で洗浄した後、105℃のオーブンに24時間入れた。阻害安定性試験の概略図を
図4に示す。その後、シェールカッティングスの質量を測定して、下記式を用いて回収率(%)を算出した。
シェール阻害持続性回収率=W
i/5×100
式中、W
iは水中でホットローリング後に残留したシェールカッティングスの重量である。
【0072】
動的線形膨潤計(OFI Testing Equipment社、ヒューストン、米国)を用いて線形膨潤を測定して、シェール阻害剤を含む又は含まない水性媒体の相互作用を示した。この目的のため、粘土粉15gを油圧シリンダ式圧縮装置に入れ、8000psiの圧力を2時間かけた。その後、粘土試料を水、KCl水溶液、及びシェール阻害剤のいずれかに浸漬した。試料を24時間観察して、膨潤率(%)を測定した。
【0073】
1-DEC-Grは、シェール表面の開口部を塞ぐのに有利であるとされている。掘削流体とシェール層との間に正の差圧がかかると、1-DEC-Grが坑井境界近くに押し付けられ、シェール表面の細孔をブロックする。
図5Aは元のシェール表面のSEM画像であり、細孔が視認できる。シェールの表面を1-DEC-Grで処理すると、継ぎ目のない表面がSEM顕微鏡写真に現れる(
図5B)。1-DEC-Grがシェール表面のナノ細孔を覆うことで、水とシェールとの相互作用が低減し、流体損失が減少する。シェール材料のEDXから、酸素、ケイ素、アルミニウム、炭素、及び鉄をそれぞれ41.06重量%、16.89重量%、10.05重量%、25.52重量%、及び3.92重量%というかなりの量で含むことが示される(
図5C)。シェール試料を1-DEC-Grで処理した場合、組成に著しい変化が見られた。1-DEC-Gr変性シェールは、酸素、ケイ素、アルミニウム、炭素、及び鉄をそれぞれ31.18重量%、8.41重量%、5.10重量%、48.71重量%、及び3.48重量%含む(
図5D)。これらの結果から、シェール構造に炭素分が導入されてケイ素率(%)が減少することが確認される。
【0074】
図6は、グラフェン(Gr)、1-DEC-Gr、シェール、及び1-DEC-Gr変性シェールのFTIRスペクトルを表す。グラフェンのFTIRスペクトルでは、-CH
2-基の対称伸縮及び非対称伸縮に起因する2つの顕著なバンドが2846cm
-1及び2916cm
-1に現れる。1408cm
-1及び1465cm
-1のバンドは、-CH
2-基の変角振動によるものであり得る。ヒドロキシ基の特徴的な伸縮振動ピークが3430cm
-1に現れる。1608cm
-1の鋭いピークはC=C伸縮振動によるものであり得る。1-DEC-GrのFTIRスペクトルから、グラフェン表面の1-DEC変性が観察されることが分かる。
図6では、-OH伸縮振動によるブロードなピークが、1-DECによる官能化でほとんど消失することが分かる。1220cm
-1の吸光度ピークは、エポキシ伸縮振動によるものである。また、FTIRスペクトルには、2355cm
-1の部分に吸収バンドが示されているが、周辺環境から吸収されたCO
2によるものであり得る。
【0075】
シェール材料のFTIRスペクトルには、3416cm-1及び3606cm-1にOH基の強い特徴的ピークが示されている。シェールにおける吸着水のOH基の角振動によって、1640cm-1に吸収バンドが生じる。1110cm-1及び1030cm-1のバンドは粘土のSi-O伸縮に起因し、915cm-1及び791cm-1の吸収バンドはアルミノケイ酸塩の八面体層によるものである。693cm-1のバンドはアルミノケイ酸塩鉱物のSi-O-Al屈曲によるものであった。シェール材料のFTIRスペクトルはカオリナイトのものと一致するので、シェールはカオリナイトから形成されていると示唆される。1-DEC-Grをシェール試料に添加すると、シェール阻害剤がシェール表面と相互作用し、ナノ細孔を塞いだ。1-DEC-Gr変性シェールのFTIRスペクトルには、粘土の特徴が全て示されている。しかしながら、3416cm-1のOH伸縮によるブロードなピークは著しく減少していた。吸着水により生じる1640cm-1のピークも減少していたため、1-DEC-Grがシェールへ付着することで疎水性が誘導されることが確認された。
【0076】
図7は熱重量分析を表す。1-DEC-Grは顕著な重量減少を示しているが、これはグラフェンと1-DECとのインターカレーションによりグラフェン表面から吸着水が排除されたためであり得る。しかしながら、ひとたび200℃に達すると、1-DEC-Grでは急激な質量減少が見られるが、これは酸素含有官能基の分解によるものであり得る。その後、200℃~800℃の間で比較的緩やかな質量減少がみられる。最終的に、1-DEC-Grから得られた総残渣量は45%であった。シェール材料の分解には、水の脱着及び脱水、それに続く有機分の崩壊、最終的には粘土鉱物のジヒドロキシ化等、いくつかの質量減少段階が含まれる。200℃の前の質量減少は、粘土の反応性を決定する上で重要なシェールの脱水によるものであり得る。
図7から、常温~200℃では、シェール試料の質量減少は4.9%であったことが分かる。他方、1-DEC-Gr変性シェールが示した質量減少は2.0%に過ぎず、未変性シェール材料と比較してはるかに低い値であった。水損失率(%)の差から、1-DEC-Grがシェールにインターカレーションすることで表面が疎水性となり、水分量が減少することが確認される。200℃~800℃の温度では、シェールと1-DEC-Gr変性シェールとは同じ質量減少、すなわち15.5%を示す。
【0077】
密度、比重、見掛け粘度(AV)、塑性粘度(PV)、降伏点(YP)、及び流体損失の測定結果を
図8に示す。これらのレオロジー的特徴から、シェール阻害剤に関する追加情報が得られる。
図8から、従来の泥水の見掛け粘度が最も高く、1-DCE-Gr(0.85wt%)シェール阻害剤が含まれると見掛け粘度が低下することが分かる。また、
図8から、1-DCE-Gr(0.85wt%)を添加し、高温高圧でホットローリングを行った後で、掘削泥水の塑性粘度が著しく低下することが分かる。掘削泥水のレオロジーを検討することで、1-DCE-Grを添加すると従来の泥水の降伏点が著しく増大することが明らかになり、このことから、泥水のカッティングス運搬能が向上していることが分かる。
【0078】
シェールが坑井からの流体損失を制御する能力は、使用する坑井流体の性質に依存する。シェールのナノ細孔を塞ぐ能力を評価するために、フィルターロス法を採用する。濾過容量を閉塞能の指標として使用し、例えば、濾過損失が少ないほど、掘削泥水系の性能が優れていることを明確に示している。1-DCE-Gr変性泥水は、従来の泥水と比較して、ホットローリング試験の前後における濾過損失がいずれも低い。流体損失が低いのは、濾紙の表面に1-DCE-Grの膜が形成され、それが細孔を塞ぎ、濾紙からの水の流れを阻害することによるものであり得る。1-DCE-Grの濾過容量は7.1mLであり、従来の泥水による10mLより少なかった。濾過ケークが形成されたことから透過性の低い膜が形成されたことが確認され、その幅は0.397mmから1.588mmに増大している。
【0079】
ゲル強度は、掘削泥水が静的条件下で固体材料を懸濁させる能力である。流れがない状態における掘削泥水系内の引力を定量化したものである。その結果から、1-DCE-Grを添加すると、従来の掘削泥水と比較して、10秒後及び10分後のいずれにおいてもゲル強度が著しく向上することが明らかになった。
【0080】
ホットローリング後に回収されたシェールカッティングスの量は、分散に対する阻害の質を示している。KClの場合、水性媒体と反応した結果、シェールカッティングスの半分程度が失われた。しかし、従来の掘削泥水の場合、KClと比較して、回収率が25%上昇した。しかしながら、1-DCE-Gr(0.85wt%)シェール阻害剤を添加すると、
図9に示す通り、シェール回収率が90%まで著しく上昇した。回収率(%)が高くなるのは、1-DCE-Grがシェールの表面に吸着して、水とシェール表面との相互作用が阻害され、水性媒体の影響に対するシェール材料の耐性が増大するためであり得る。この試験によって、1-DCE-Grが、従来から使用されている阻害添加剤と比較して優れた阻害性能を提供することが確認される。
【0081】
シェールカッティングスに対して様々な時間で水中でホットローリングを行ったところ、KClの阻害が4時間も持続せず、その間に半分を超えるシェールカッティングスが失われることが明らかになった。24時間後、シェールカッティングスはほとんど崩壊して消失したので、KClはシェール阻害性能が低いことが確認された。一方、従来の掘削泥水は、6時間までは反応性水性媒体に対する耐性が優れていた。しかしながら、24時間後にはわずか14.6%しかシェールカッティングスが回収されなかった。最後に、1-DCE-Grで処理したシェールカッティングスは、水に対する保護バリアが得られることから、非阻害流体の摩耗及び引き裂きに対して早期では顕著な耐性を示す。しかしながら、時間が経つと、シェールカッティングスマトリックスの構造が軟化して弱体化する。シェールカッティングスの半分近くは水の反応作用に対して耐性を保持するが、いったんシェールが弱体化すると、水の損傷作用からシェールマトリックスを保護するのは困難になり、シェールマトリックスはすぐに失われてしまう。時間が経つにつれて、シェールカッティングスの損失率が高くなった。結果的に、シェールカッティングス量の90%という更なる減少が見られた。しかしながら、
図10に示す通り、1-DCE-Grで処理したシェールカッティングスの水反応に対する耐性は、KClや従来の泥水で処理したシェールと比較して著しく高かった。
【0082】
線形膨潤速度の測定には、1-DCE-Grシェール阻害剤の阻害能が反映されている。この目的のため、
図11に示す通り、水と、KCl及び1-DCE-Grの一方を含む水溶液とにおける粘土材料の線形膨潤率を観察した。0.85wt%の阻害剤を用いて水溶液を形成した。その結果、水の線形膨潤率が27%と最も高いことが示される。しかしながら、0.85wt%のKCl水溶液は膨潤率を22%まで著しく低下させる一方、1-DCE-Grの水溶液は20%未満という顕著なシェール膨潤能を示した。また、H
2O及びKClの場合、始めはシェール膨潤速度が非常に速く、4時間後に最大膨潤率となったことが確認された。しかし、1-DCE-Grは粘土の膨潤速度も低下させ、より良好な膨潤耐性を示し、11~12時間でやっと最大膨潤率となった。また、膨潤試験によって、1-DCE-Grのシェール阻害持続性に関する結果も確認される。
【0083】
表3では、1-DCE-Grシェール阻害剤の顕著な特徴を、WBMで利用される他の阻害剤と比較した。
【0084】
【表3】
略称:
BBDF:バイオディーゼル系逆エマルジョン掘削流体;Li W,Zhao X,Ji Y,et al.,J.Pet.Explor.Prod.Technol.,2016,6:505-517
GO:酸化グラフェン;Kosynkin D V.,Ceriotti G,Wilson KC,et al.,ACS Appl.Mater.Interfaces,2012,4:222-227
EDGA:エチレンジアミン変性グラフェン;Yuxiu A,Guancheng J,Yourong Q,et al.,J.Nat.Gas Sci.Eng.,2016,32:347-355
【0085】
比較から、1-DCE-Grはローリング回収率がより良好であり、レオロジー特性が同等であり、流体損失が制御されたことが明らかになった。また、少量の1-DCE-Grを使用すると、文献に報告されている他の材料と比較して、掘削泥水が改善されたことも重要な点である。バイオディーゼル系逆エマルジョン掘削流体(BBDF)は、膨潤能がより良好であった。しかしながら、この掘削泥水の配合には、バイオディーゼルとして大量のエステルが使用されたことに留意することが重要である。レオロジー的特徴が向上し、阻害持続性が高まることによって、1-DCE-Grは、表3に記載した化合物と比較して、当該分野で適用されるひときわ魅力的な添加剤となっている。
【0086】
本明細書では、特定の手段、材料、及び実施形態を参照して上述の通り説明したが、本明細書に開示した特定事項に限定することを意図したものではない。むしろ、添付した特許請求の範囲内にあるもの等、機能的に等価である全ての構造、方法、及び使用に拡張されるものである。特許請求の範囲において、ミーンズ・プラス・ファンクション節は、記載された機能を実行するものとしての本明細書中に記載された構造、及び構造的均等物だけでなく均等な構造をも対象とすることを意図したものである。従って、釘は木製部材同士を固定するのに円柱状の表面を用いる一方、ネジは螺旋状の表面を用いるという点で、釘とネジとは構造的均等物ではないと言えるが、木製部材を固定するという条件において、釘とネジとは均等な構造物であると言える。本出願人は、請求項において関連する機能と共に「~ための手段」という語を明示的に使用しているものを除き、本明細書における各請求項のいかなる限定に対しても米国特許法第112条(f)が適用されないことを明確に意図している。
【国際調査報告】