(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-06
(54)【発明の名称】ヒトプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)を標的とする単一可変ドメイン抗体およびその誘導体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230530BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230530BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230530BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230530BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230530BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230530BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230530BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230530BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230530BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230530BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230530BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230530BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230530BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230530BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230530BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230530BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C12N15/63 Z
A61K9/08
A61K9/14
A61P35/00
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61P17/00
A61P11/00
A61P13/12
A61P1/00
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564470
(86)(22)【出願日】2021-04-21
(85)【翻訳文提出日】2022-12-21
(86)【国際出願番号】 CN2021088674
(87)【国際公開番号】W WO2021213435
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】202010324761.8
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519187241
【氏名又は名称】マブウェル (シャンハイ) バイオサイエンス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ショアン
(72)【発明者】
【氏名】ツォン、ターティー
(72)【発明者】
【氏名】チアオ、シャーシャー
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チャン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ロンチュアン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
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4B065AA26X
4B065AA98X
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4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA42
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
ヒトプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)およびその誘導体を標的とする単一可変ドメイン抗体が提供される。ヒトPD-L1で免疫したラクダからPBMCを抽出し、ファージ表面ディスプレーVHH抗体ライブラリーを構築し、前記VHH抗体ライブラリーをスクリーニングすることによって、ヒトPD-L1に特異的な単一可変ドメイン抗体2-2F2が同定および取得され、これをもとにキメラ抗体chF2およびヒト化改変抗体hzF2変異体が作製される。hzF2変異体は、元の単一可変ドメイン抗体2-2F2の親和性と同等またはさらにはそれより優れた親和性を有し、in vitroではPD-1のPD-L1への結合をブロックし、担癌マウスでのin vivo試験では腫瘍成長を阻害することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一可変ドメイン抗体の可変領域のCDR1~CDR3がそれぞれ配列番号43~45として示されることを特徴とする、抗PD-L1単一可変ドメイン抗体。
【請求項2】
単一可変ドメイン抗体が定常領域を有さないかまたは1~3の重鎖定常領域を有する、請求項1に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体。
【請求項3】
単一可変ドメイン抗体の可変領域のアミノ酸配列が配列番号1として示される、請求項1または2に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体。
【請求項4】
単一可変ドメイン抗体が請求項1~3のいずれか一項に記載の単一可変ドメイン抗体の可変領域およびヒト重鎖定常領域を含んでなる、ヒト-ラクダキメラ単一可変ドメイン抗体である、抗PD-L1単一可変ドメイン抗体。
【請求項5】
キメラ単一可変ドメイン抗体が配列番号3として示されるアミノ酸配列を有する、請求項4に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体。
【請求項6】
単一可変ドメイン抗体がヒト化され、単一可変ドメイン抗体の可変領域が、請求項1~3のいずれか一項に記載の単一可変ドメインの可変領域をヒト化することによって得られる、抗PD-L1単一可変ドメイン抗体。
【請求項7】
単一可変ドメイン抗体の可変領域が配列番号7として示されるアミノ酸配列を有する、請求項6に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体。
【請求項8】
単一可変ドメイン抗体が配列番号9として示されるアミノ酸配列を有する、請求項6または7に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体。
【請求項9】
単一可変ドメイン抗体が、請求項6~8のいずれか一項に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体の可変領域のCDRを1、2、3または4個のアミノ酸残基で変異させることにより作出される変異型抗PD-L1ヒト化単一可変ドメイン抗体であり、前記変異型抗PD-L1ヒト化単一可変ドメイン抗体はPD-L1への特異的結合能を少なくとも部分的に保持する、抗PD-L1単一可変ドメイン抗体。
【請求項10】
単一可変ドメイン抗体の可変領域が配列番号11~26からなる群から選択される、請求項9に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体からなる群から選択される1以上の抗PD-L1を含んでなる組成物。
【請求項12】
薬学上許容可能な担体をさらに含んでなり、医薬組成物として使用され、好ましくは、前記医薬組成物は液体製剤、注射製剤、または粉末注射製剤の形態である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
異常増殖性疾患の治療のための薬剤の製造のための抗体またはそのフラグメントの使用であって、前記抗体が請求項1~10のいずれか一項に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体からなる群から選択される、使用。
【請求項14】
異常増殖性疾患が腫瘍、好ましくは、黒色腫、非小細胞肺癌、頭頸部扁平上皮癌、腎臓癌、大腸癌などを含んでなる、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
多重特異性抗体または標的化抗体-薬物の製造のための抗体またはそのフラグメントの使用であって、前記抗体が請求項1~10のいずれか一項に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体からなる群から選択される、使用。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項17】
請求項16に記載のポリヌクレオチドを含んでなるベクター。
【請求項18】
請求項16に記載のポリヌクレオチドまたは請求項17に記載のベクターを含んでなる宿主細胞。
【請求項19】
抗PD-L1単一可変ドメイン抗体を作製するための方法であって、
(1)請求項18に記載の宿主細胞を、組換え抗PD-L1単一可変ドメイン抗体を発現するために適した条件下で培養する工程;および
(2)細胞培養物から抗PD-L1単一可変ドメイン抗体を単離および精製する工程
を含んでなる、方法。
【請求項20】
異常増殖性疾患を予防または治療するための方法であって、それを必要とする対象に有効量の請求項1~10のいずれか一項に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体、請求項11または12に記載の組成物、請求項15に記載の多重特異性抗体または標的化抗体-薬物を投与することを特徴とする、方法。
【請求項21】
対象において異常増殖性疾患の発症および進行を診断または評価するための方法であって、被検出対象由来のサンプルを請求項1~10のいずれか一項に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体、請求項11または12に記載の組成物、請求項15に記載の多重特異性抗体または標的化抗体-薬物と接触させることを特徴とする、方法。
【請求項22】
異常増殖性疾患に罹患している対象に対するPD-1/PD-L1アンタゴニストの治療効果を予測または評価するための方法であって、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体、請求項11または12に記載の組成物、請求項15に記載の多重特異性抗体または標的化抗体-薬物からなる群から選択される薬剤を使用することにより、前記対象のPD-L1の発現状態を検出することを特徴とする、方法。
【請求項23】
異常増殖性疾患が腫瘍、特に、PD-1/PD-L1シグナル伝達経路に関連する腫瘍を含んでなる、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記腫瘍が黒色腫、非小細胞肺癌、頭頸部扁平上皮癌、腎臓癌、大腸癌などを含んでなる、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年4月22日に出願された中国発明特許出願第CN202010324761.8号の優先権を主張するものであり、その全内容が参照により本願の一部とされる。
【0002】
技術分野
本発明は、抗体薬の分野に関する。特に、本発明は、ヒトプログラム細胞死リガンド1(human programmed death ligand 1)(PD-L1)を標的とする単一可変ドメイン抗体、それに由来するタンパク質および薬剤を調製するためのその使用、特に腫瘍などのPD-L1関連疾患の治療および/または予防、または診断のための使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
PD-1およびそのリガンドPD-L1は、腫瘍免疫の重要な標的である。PD-1とPD-L1は、1対の免疫抑制分子であり、自己免疫応答の過剰反応を防ぐための免疫系の重要な成分である。PD-1およびPD-L1経路の活性化は、腫瘍特異的T細胞アポトーシスを誘導する腫瘍免疫応答を阻害する機能を有し、これは腫瘍の発生に密接に関連する。PD-1(CD279)は、主として活性化されたCD4+T細胞、CD8+T細胞およびB細胞およびその他の免疫細胞で発現される免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであるI型膜貫通タンパク質である。そのリガンドPD-L1(B7-H1、CD274としても知られる)はB7ファミリーのメンバーに属し、腫瘍浸潤免疫細胞(TIC)ならびに悪性黒色腫、非小細胞肺癌、頭頸部扁平上皮癌などの多様な悪性腫瘍細胞で発現が高い。腫瘍の治療におけるPD-1およびPD-L1経路のブロックのためのモノクローナル抗体の使用は、良好な臨床的有効性および安全性が示されている。多くの抗体薬が承認を受けて上市され、適応症には、黒色腫、非小細胞肺癌、進行性腎細胞癌などの多くの悪性腫瘍が含まれる。また、多くの進行中の臨床試験で、さらに新しい適応の開発が試みられている。
【0004】
PD-1/PD-L1モノクローナル抗体は、様々な悪性腫瘍の臨床治療において良好な治療効果を示しているが、投与量が多い、および全奏功率が低いなどの問題がある。その主な原因として、PD-L1の発現が低い、および腫瘍微小環境におけるT細胞の枯渇等が挙げられる。従って、PD-1/PD-L1標的をさらに深く開発し、より良い臨床効果を有する治療薬を開発することがなお必要である。標的に対する薬剤開発に関しては、以下のような方法で、臨床患者の利益を高めることができる。(1)より親和性が高く、より活性の高い抗体分子をさらに開発すること、(2)標的に基づいて二重特異性抗体または類似体を提供すること、(3)予備的研究により、PD-L1陽性腫瘍患者のPD-L1阻害剤への応答率はPD-L1陰性腫瘍患者の応答率よりもはるかに高いことが示されており、治療費および重篤な副作用の可能性を低減するために、PD-L1陽性腫瘍患者の予測または患者の事前スクリーニングに有効なバイオマーカーが必要である、(4)応答率を向上させるために、他の腫瘍免疫薬との併用、標的薬との併用、化学療法または放射線療法など、薬物の併用が腫瘍免疫療法のトレンドとなっている。
【0005】
単一可変ドメイン抗体は、現在最も小さい抗体分子であり、その分子量は従来の抗体の1/10である。この抗体は、ベルギーの科学者Hamers,Rがラクダの血中で初めて発見した。この抗体は、操作された抗体製品の中でも最も注目される種である。単一可変ドメイン抗体は、モノクローナル抗体の抗原反応性を備えていることに加え、低分子量、強い安定性、良好な溶解度、発現の容易さ、強い標的化活性、およびヒト化の容易さなどのユニークな機能特性も有している。特に、単一可変ドメイン抗体は、二重特異性/多重特異性治療抗体の開発またはCar-T/M/NKなどの療法の開発に適している。現在、単一可変ドメイン抗体および/または単一可変ドメイン抗体に基づく二重特異性/多重特異性抗体の開発が研究開発のホットスポットとなっている。国際的には、Ablynxが単一可変ドメイン抗体の分野で大規模なレイアウトを行っている。同社が開発したカプラシズマブは、後天性血栓性血小板減少性紫斑病(aTTP)という希少疾患の治療薬として、2019年2月にFDAが承認したものである。後天性血栓性血小板減少性紫斑病は、細い血管で血液が過剰に凝固することが特徴で、カプラシズマブは同疾患で初めて承認された薬剤である。また、カプラシズマブはフォンウィルブランド因子(vWF)を標的とする最初の薬剤であり、vWFは、血液凝固カスケードにおける重要なタンパク質である。同時に、カプラシズマブは、FDAが承認した最初の単一可変ドメイン抗体でもある。カプラシズマブの承認は、単一可変ドメイン抗体薬の分野が、正式にヒト疾患治療のステージに入るための画期的な出来事である。また、中国には、Shenzhen Guochuang Single Variable Domain Antibody Technology Co., Ltd.、Shenzhen Prekin Biopharmaceutical Co., Ltd.、Suzhou Boshengji (Anke) Company、およびSuzhou Corning Jerry Companyなどをはじめ、単一可変ドメイン抗体の開発を活発に行う企業が存在する。中でも、Corning Jerry Companyは、国内で初めて単一可変ドメイン抗体の分野に参入している。Corning Jerry Companyが開発したPD-L1単一可変ドメイン抗体(KN035、皮下投与)は、2016年にCFDAおよびFDAから臨床試験開始の承認を受け、2017年6月末に日本医薬品医療機器総合機構(PMDA)から臨床承認を得た。KN035は、世界初のPD-L1単一可変ドメイン抗体である。
【0006】
現在、PD-1/PD-L1モノクローナル抗体は、様々な悪性腫瘍の臨床治療において良好な治療効果を示しているが、投与量が多い、および全奏功率が低いなどの問題点がある。その主な原因として、PD-L1の発現の低さおよび腫瘍微小環境におけるT細胞の枯渇などが挙げられる。そのため、新たな抗PD-L1抗体薬の開発が必要とされている。候補分子の開発に関しては、以下のような方法で、より良好な治療効果を備えた抗体分子を得ることができる:(1)より親和性が高く、より活性の高い抗体分子をさらに開発すること、(2)標的に基づいて二重特異性抗体または類似体を提供すること、(3)治療費および重篤副作用の可能性を低減するための、より有効な診断用抗体の開発によるPD-L1陽性腫瘍患者の予測またはPD-L1発現の検出による患者の事前スクリーニング。ラクダ由来単一可変ドメイン抗体は、そのユニークな特性から、上記の課題を効率的に解決するために使用されることが期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の概要
上記の問題を解決するために、本開示は、ヒトプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)を標的とする単一可変ドメイン抗体、およびその誘導体を提供する。ファージ表面ディスプレーVHH抗体ライブラリーは、ヒトPD-L1で免疫されたラクダからPBMCを抽出することにより構築され、抗ヒトPD-L1特異的単一可変ドメイン抗体2-2F2は、スクリーニングおよび同定により得られる。これをもとに、キメラ抗体chF2およびヒト化改変抗体hzF2変異体が作製される。hzF2変異体は、元の単一可変ドメイン抗体2-2F2の親和性と同等またはさらにはより優れた親和性を有し、in vitroではPD-1のPD-L1への結合をブロックし、担癌マウスでのin vivo試験では腫瘍成長を阻害することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特に、第1の側面において、本発明は、単一可変ドメイン抗体の可変領域のCDR1-CDR3がそれぞれ配列番号43~45として示されることを特徴とする抗PD-L1単一可変ドメイン抗体を提供する。
【0009】
さらに、本発明の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体は、単一可変ドメイン抗体が定常領域を有さないか、または1~3の重鎖定常領域を有することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体は、単一可変ドメイン抗体の可変領域のアミノ酸配列が配列番号1として示されることを特徴とする。
【0011】
第2の側面において、本発明は、単一可変ドメイン抗体が本発明の第1の側面に記載の単一可変ドメイン抗体の可変領域とヒト重鎖定常領域を含んでなるヒト-ラクダキメラ単一可変ドメイン抗体であることを特徴とする抗PD-L1単一可変ドメイン抗体を提供する。
【0012】
さらに、本発明の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体は、キメラ単一可変ドメイン抗体が配列番号3として示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする。
【0013】
第3の側面において、本発明は、単一可変ドメイン抗体がヒト化され、単一可変ドメイン抗体の可変領域が、本発明の第1の側面に記載の単一可変ドメインの可変領域をヒト化することにより得られることを特徴とする抗PD-L1単一可変ドメイン抗体を提供する。
【0014】
さらに、本発明の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体は、単一可変ドメイン抗体の可変領域が配列番号7として示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体は、単一可変ドメイン抗体が配列番号9として示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする。
【0016】
第4の側面において、本発明は、単一可変ドメイン抗体が変異型抗PD-L1ヒト化単一可変ドメイン抗体であり、これは本発明の第3の側面に記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体の可変領域のCDRを1、2、3または4つのアミノ酸残基で変異させることによって作製され、変異型抗PD-L1ヒト化単一可変ドメイン抗体は、PD-L1に対する特異的結合能を少なくとも部分的に保持することを特徴とする抗PD-L1単一可変ドメイン抗体を提供する。
【0017】
さらに、本発明の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体は、その可変領域が配列番号11~26からなる群から選択されることを特徴とする。
【0018】
第5の側面において、本発明は、本発明の第1~第4の側面のいずれかに記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体からなる群から選択される1以上の抗PD-L1を含んでなる組成物を提供する。
【0019】
さらに、本発明の組成物は、薬学上許容可能な担体をさらに含んでなり、医薬組成物として使用されることを特徴とし、好ましくは、医薬組成物は液体製剤、注射製剤、または粉末注射製剤の形態である。
【0020】
第6の側面において、本発明は、異常増殖性疾患の治療のための薬剤の製造のための抗体またはそのフラグメントの使用であって、抗体が本発明の第1~第4の側面のいずれかに記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体からなる群から選択されることを特徴とする使用を提供する。
【0021】
さらに、本発明の使用は、異常増殖性疾患が腫瘍、好ましくは、黒色腫、非小細胞肺癌、頭頸部扁平上皮癌、腎臓癌、大腸癌などを含んでなることを特徴とする。
【0022】
第7の側面において、本発明は、多重特異性抗体または標的化抗体-薬物の製造のための抗体またはそのフラグメントの使用であって、の抗体が本発明の第1~第4の側面のいずれかに記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体からなる群から選択されることを特徴とする使用を提供する。
【0023】
第8の側面において、本発明は、本発明の第1~第4の側面のいずれかに記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0024】
第9の側面において、本発明は、本発明の第8の側面に記載のポリヌクレオチドを含んでなるベクターを提供する。
【0025】
第10の側面において、本発明は、本発明の第7の側面に記載のポリヌクレオチドまたは本発明の第8の側面に記載のベクターを含んでなる宿主細胞を提供する。
【0026】
第11の側面において、本発明は、抗PD-L1単一可変ドメイン抗体を作製するための方法であって、
(1)本発明の第10の側面に記載の主細胞を、組換え抗PD-L1単一可変ドメイン抗体を発現するために適した条件下で培養する工程;および
(2)細胞培養物から抗PD-L1単一可変ドメイン抗体を単離および精製する工程
を含んでなる方法を提供する。
【0027】
第12の側面において、本発明は、異常増殖性疾患を予防または治療するための方法であって、それを必要とする対象に有効量の、以上のいずれか1つに記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体、以上のいずれか1つに記載の組成物、前述の第6の側面に記載の使用における多重特異性抗体または標的化抗体-薬物を投与することを特徴とする方法を提供する。
【0028】
さらに、本発明の方法は、異常増殖性疾患が腫瘍、特に、PD-1/PD-L1シグナル伝達経路に関連する腫瘍を含んでなることを特徴とする。
【0029】
さらに、本発明の方法は、腫瘍が黒色腫、非小細胞肺癌、頭頸部扁平上皮癌、腎臓癌、大腸癌などを含んでなることを特徴とする。
【0030】
第13の側面において、本発明は、対象において異常増殖性疾患の発症および進行を診断または評価するための方法であって、被検出対象由来のサンプルを上記のいずれか1つに記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体、上記のいずれか1つに記載の組成物、前述の第6の側面に記載の使用における多重特異性抗体または標的化抗体-薬物と接触させることを特徴とする方法を提供する。
【0031】
さらに、本発明の方法は、異常増殖性疾患が腫瘍、特に、PD-1/PD-L1シグナル伝達経路に関連する腫瘍を含んでなることを特徴とする。
【0032】
さらに、本発明の方法は、腫瘍が黒色腫、非小細胞肺癌、頭頸部扁平上皮癌、腎臓癌、大腸癌などを含んでなることを特徴とする。
【0033】
第14の側面において、本発明は、異常増殖性疾患に罹患している対象に対するPD-1/PD-L1アンタゴニストの治療効果を予測または評価するための方法であって、上記のいずれか1つに記載の抗PD-L1単一可変ドメイン抗体、上記のいずれか1つに記載の組成物、前述の第6の側面に記載の使用における多重特異性抗体または標的化抗体-薬物からなる群から選択される薬剤を使用することにより、対象におけるPD-L1の発現状態を検出することを特徴とする方法を提供する。
【0034】
さらに、本発明の方法は、異常増殖性疾患が腫瘍、特に、PD-1/PD-L1シグナル伝達経路に関連する腫瘍を含んでなることを特徴とする。
【0035】
さらに、本発明の方法は、腫瘍が黒色腫、非小細胞肺癌、頭頸部扁平上皮癌、腎臓癌、大腸癌などを含んでなることを特徴とする。
【0036】
特に断りのない限り、本明細書において重鎖抗体を指すために使用されるか従来の4鎖抗体を指すために使用されるかにかかわらず、「免疫グロブリン配列」という用語は、フルサイズの抗体、その個々の鎖、およびその総ての部分、ドメインまたはフラグメント(限定するものではないが、それぞれVHHドメインまたはVH/VLドメインなどの抗原結合ドメインまたはフラグメントが含まれる)を含む一般用語として使用される。さらに、「配列」という用語は、本明細書で使用される場合(例えば、「免疫グロブリン配列」、「抗体配列」、「可変ドメイン配列」、「VHH配列」または「タンパク質配列」などの用語で使用)は、文脈がより制限的な解釈を必要としない限り、関連するアミノ酸配列およびそれをコードする核酸またはヌクレオチド配列の両方を含んでなると一般的に理解されるべきである。
【0037】
免疫グロブリン単一可変ドメインは、ポリペプチドの「結合単位」、「結合ドメイン」または「構築単位」(これらの用語は互換的に使用することができる)として働くことができ、結合単位(すなわち、同じ標的上の同じもしくは異なるエピトープに対するおよび/または1以上の異なる標的に対する)として1以上の付加的な免疫グロブリン単一可変ドメインを含んでなるポリペプチドを作製するために使用することができる。
【0038】
「免疫グロブリン単一可変ドメイン」(「ISVD」)という用語は、「単一可変ドメイン」(「SVD」)と互換的に使用することができ、抗原結合部位が単一の免疫グロブリンドメイン上に存在し、単一の免疫グロブリンドメインからなる分子を定義する。このために免疫グロブリン単一可変ドメインは、2つのドメイン、特に「従来の」免疫グロブリンの2つの可変ドメインが相互作用して抗原結合部位を形成する、「従来の」免疫グロブリンまたはそのフラグメントとは異なっている。一般に、従来の免疫グロブリンでは、重鎖可変ドメイン(VH)および軽鎖可変ドメイン(VL)が相互作用して、抗原結合部位を形成する。この場合、VHとVLの両方から相補性決定領域(CDR)が抗原結合部位に好都合である、すなわち、合計6つのCDRが抗原結合部位の形成に関与することになる。
【0039】
これに対して、免疫グロブリン単一可変ドメインの結合部位は、単一のVHドメインまたはVLドメインにより形成される。よって、免疫グロブリン単一可変ドメインの抗原結合部位は、3つ以下のCDRにより形成される。
【0040】
よって、相互作用して抗原結合部位を形成するために少なくとも2つの可変ドメインを必要とする従来の免疫グロブリンまたはそのフラグメントには、「免疫グロブリン単一可変ドメイン」および「単一可変ドメイン」は含まれない。しかしながら、これらの用語は、抗原結合部位が単一可変ドメインにより形成される従来の免疫グロブリンのフラグメントには含まれる。
【0041】
一般に、単一可変ドメインは、4つのフレームワーク領域(それぞれFR1~FR4)および3つの相補性決定領域(それぞれCDR1~CDR3)から実質的になるアミノ酸配列である。このような単一可変ドメインおよびフラグメントは、免疫グロブリンフォールドを含んでなるか、または適した条件下で免疫グロブリンフォールドを形成し得るものが最も好ましい。よって、単一可変ドメインは、例えば、軽鎖可変ドメイン配列(例えば、VL配列)もしくはその好適なフラグメント;または重鎖可変ドメイン配列(例えば、VH配列もしくはVHH配列、例えば、VH/VL相互作用を必要とする、従って、別の可変ドメインと相互作用して機能的抗原結合ドメインを形成する例えば従来の抗体およびscFvフラグメントに見られる可変ドメインがそうである)またはその好適なフラグメントを含んでなり得るが、ただし、それらが単一の抗原結合単位(すなわち、単一の抗原結合単位が、機能的抗原結合単位を形成するために別の可変ドメインと相互作用する必要のないように、単一の可変ドメインから本質的になる機能的抗原結合単位)を形成できることが条件である。
【0042】
本発明の1つの実施形態では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、軽鎖可変ドメイン配列(例えば、VL配列)または重鎖可変ドメイン配列(例えば、VH配列)であり;より具体的には、免疫グロブリン単一可変ドメインは、従来の4鎖抗体に由来する重鎖可変ドメイン配列または重鎖抗体に由来する重鎖可変ドメイン配列であり得る。
【0043】
例えば、単一可変ドメインまたは免疫グロブリン単一可変ドメイン(または免疫グロブリン単一可変ドメインとして使用するのに適したアミノ酸)は、(単一)ドメイン抗体(または(単一)ドメイン抗体として使用するのに適したアミノ酸)、「dAb」またはdAb(またはdAbとして使用するのに適したアミノ酸)またはナノボディー(本明細書で定義される通り、限定するものではないがVHHを含む);その他の単一可変ドメイン、またはそれらのいずれかの任意の好適なフラグメントであり得る。
【0044】
(単一)ドメイン抗体の一般的な説明としては、本明細書に引用される従来技術およびEP0368684も参照のこと。「dAb」という用語については、例えば、Ward et al., 1989 (Nature 341: 544-546)、Holt et al., 2003 (Trends Biotechnol., 21: 484-490);および例えば、WO04/068820、WO06/030220、WO06/003388、WO06/059108、WO07/049017、WO07/085815、およびDomantis Ltdのその他の公開特許出願を参照のこと。単一可変ドメインはある種のサメに由来し得るが(例えば、いわゆる「IgNARドメイン」、例えば、WO05/18629参照)、哺乳類起源ではないので本発明の文脈ではあまり好ましくないことにも留意されたい。
【0045】
特に、免疫グロブリン単一可変ドメインは、NANOBODY(登録商標)(本明細書に定義される通り)またはその好適なフラグメント[注:NANOBODY(登録商標)、NANOBODIES(登録商標)、NANOCKONE(登録商標)は、Ablynx N.V.の登録商標である]。ナノボディーの一般的な説明については、以下のさらなる説明ならびに本明細書に引用されている従来技術、例えば、WO08/020079(第16頁)などの記載を参照されたい。
【0046】
VHHおよびナノボディーのさらなる説明については、Muyldermans 2001 (Reviews in Molecular Biotechnology 74: 277-302)による総説ならびに一般的背景技術として述べられている以下の特許出願:VrijeUniversiteit BrusselのWO94/04678、WO95/04079、およびWO96/34103;UnileverのWO94/25591、WO99/37681、WO00/40968、WO00/43507、WO0/65057、WO01/40310、WO01/44301、EP1134231、およびWO02/48193;Vlaams Instituutvoor Biotechnologie(VIB)のWO97/49805、WO01/21817、WO03/035694、WO03/054016、およびWO03/055527;Algonomics N.V.およびEbolinx,Inc.のWO03/050531;National Research Council of CanadaのWO01/90190;Institute of AntibodiesのWO03/025020;ならびにEbolinx,Inc.のWO04/041867、WO04/041862、WO04/041865、WO04/041863、WO04/062551、WO05/044858、WO06/40153、WO06/079372、WO06/122786、WO06/122787、およびWO06/122825;ならびにEbolinx,Inc.のその他の公開特許出願を参照されたい。また、これらの出願に述べられているその他の従来技術、特に、その一覧および参照文献が参照により本明細書の一部とされる国際出願WO06/040153の第41~43頁も参照のこと。これらの参照文献に記載されるように、ナノボディー(特に、VHH配列およびヒト化ナノボディーの一部)は、とりわけ、1以上のフレームワーク配列における1以上の「マーカー残基」の存在により特徴付けることができる。ヒト化および/またはラクダ化ナノボディー、ならびに他のその改変、一部もしくはフラグメント、誘導体、または「ナノボディー融合物」、多価構築物(いくつかの限定されない例はリンカー配列を含んでなる)およびナノボディーの半減期を延長するための異なる改変を含むナノボディーならびにそれらの製造の説明は、例えば、WO08/101985およびWO08/142164に見出すことができる。
【0047】
よって、本発明の意味において、「免疫グロブリン単一可変ドメイン」または「単一可変ドメイン」は、非ヒト供給源に由来するポリペプチド、好ましくは、ラクダ科、好ましくは、ラクダ科重鎖抗体を含んでなる。上記のように、それらはヒト化することができる。さらに、この用語は、例えばDavies and Riechmann 1994 (FEBS 339: 285-290), 1995 (Biotechnol. 13: 475- 479), 1996 (Prot. Eng. 9:531-537)、およびRiechmann and Muyldermans 1999 (J. Immunol. Methods 231: 25-38)に記載の「ラクダ化」されたものなど、マウスまたはヒトなどの非ラクダ科供給源に由来するポリペプチドを含んでなる。
【0048】
「免疫グロブリン単一可変ドメイン」という用語は、マウス、ラット、ウサギ、ロバ、ヒトおよびラクダ科免疫グロブリン配列を含む異なる起源の免疫グロブリン配列を含んでなる。この用語はまた、完全ヒト、ヒト化またはキメラ免疫グロブリン配列を含んでなる。例えば、この用語は、ラクダ科免疫グロブリン配列およびヒト化ラクダ科免疫グロブリン配列、またはラクダ化免疫グロブリン単一可変ドメイン、例えば、Ward et al., 1989(例えば、WO94/04678およびDavies and Riechmann 1994, 1995および1996参照)に記載されているラクダ化dAbおよびラクダ化VHを含んでなる。
【0049】
同様に、このような免疫グロブリン単一可変ドメインは、任意の好適な供給源から任意の好適な様式で誘導されてよく、例えば、天然に存在するVHH配列(すなわち、好適なラクダ科の種に由来)または合成もしくは半合成アミノ酸配列であり得、限定されるものではないが、部分的または完全「ヒト化」VHH、「ラクダ化」免疫グロブリン配列(特に、ラクダ化VH)、ならびに以下の技術:例えば、親和性成熟(例えば、合成、ランダムまたは天然免疫グロブリン配列、例えば、VHH配列から出発する)、CDRグラフティング、ベニヤリング、異なる免疫グロブリン配列に由来するフラグメントの組合せ、オーバーラッピングプライマーを用いたPCRアセンブリ、および免疫グロブリン配列を操作するために当業者に公知の類似の技術によって得られるナノボディーおよび/もしくは VHH;または以上のいずれかの任意の好適な組合せが含まれる。
【0050】
免疫グロブリン単一可変ドメインのアミノ酸配列および構造は、限定されるものではないが、当技術分野でおよび本明細書でそれぞれ「フレームワーク領域1」または「FR1」;「フレームワーク領域2」または「FR2」;「フレームワーク領域3」または「FR3」;および「フレームワーク領域4」または「FR4」と呼ばれる4つのフレームワーク領域または「FR」からなり、それぞれ当技術分野で「相補性決定領域1」または「CDR1」;「相補性決定領域2」または「CDR2」;および「相補性決定領域3」または「CDR3」と呼ばれる3つの相補性決定領域または「CDR」が挿入されていると考えることができる。
【0051】
免疫グロブリン単一可変ドメインのアミノ酸残基総数は、110~120、好ましくは112~115の範囲、最も好ましくは113であり得る。
【0052】
WO08/020079(参照により本明細書の一部とされる)の段落q)第58および59頁にさらに記載されているように、免疫グロブリン単一可変ドメイン中のアミノ酸残基のナンバリングは、Kabatら(「Kabatナンバリング」("Sequence of proteins of immunological interest", US Public Health Services, NIH Bethesda, MD, Publication No. 91)により示されるVHドメインの一般ナンバリングに従う。Riechmann and Muyldermans 2000 (J. Immunol. Methods 240: 185-195;例えばこの刊行物の
図2参照)の文献に開示されているようなアミノ酸残基のナンバリングは、ラクダ科動物のVHHドメインに適用され、それに対応して、免疫グロブリン単一可変ドメインのFR1は、1~30番のアミノ酸残基を含んでなり、免疫グロブリン単一可変ドメインのCDR1は、31~35番のアミノ酸残基を含んでなり、免疫グロブリン単一可変ドメインのFR2は、36~49番のアミノ酸残基を含んでなり、免疫グロブリン単一可変ドメインのCDR2は、50~65番のアミノ酸残基を含んでなり、免疫グロブリン単一可変ドメインのFR3は、66~94番のアミノ酸残基を含んでなり、免疫グロブリン単一可変ドメインのCDR3は、95~102番のアミノ酸残基を含んでなり、免疫グロブリン単一可変ドメインのFR4は、103~113番のアミノ酸残基を含んでなる。
【0053】
本明細書およびWO08/020079、WO06/040153および免疫グロブリン単一可変ドメインに関してそこに引用されている他の参照文献に示されている免疫グロブリン単一可変ドメイン配列の例に基づいて、アミノ酸残基の正確な数はまた、免疫グロブリン単一可変ドメイン中に存在する特定のCDRの長さによって異なることは明らかである。CDRに関して、当技術分野でよく知られているように、VHまたはVHHフラグメントにおけるCDRを記述するための様々な定義および慣例、例えばKabat定義(これは配列変動に基づいており、最もよく用いられる)およびChothia定義(これは構造リング領域の位置に基づいている)が存在する。例えば、ウェブサイト(http://www.bioinf.org.uk/abs/)を参照することができる。本明細書および特許請求の範囲の目的のために、Kabatに従ったCDRへの言及があっても、Abm定義がKabat定義とChothia定義の最良の妥協点であると考えられるので、Abm定義(OxfordMolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアに基づく)に従ってCDRを定義することが最も好ましい。ここでもウェブサイトhttp://www.bioinf.org.uk/abs/を参照することができる。
【0054】
1つの実施形態では、FR4は、C末端アミノ酸配列VTVSS(すなわち、109、110、111、112および113番の残基に相当する)を含んでなる。本発明はまた、109、110、111または112番で終わるISVDを含んでなる。本発明の1つの側面において、FR4はC末端アミノ酸配列VTVS(109~112番)で終わるか、FR4はC末端アミノ酸配列VTV(109~111番)で終わるか、FR4はC末端アミノ酸配列VT(109~110番)で終わるか、またはFR4はC末端アミノ酸V(109番)で終わる。ISVDのFR4の最後のアミノ酸残基のC末端(最もC末端)、例えば、FR4のV109、T110、V111、S112またはS113などの最後のアミノ酸残基のC末端にはC末端延長が存在してもよく、本発明のシステイン部分は、好ましくは、C末端延長のC末端に存在する、または位置する。1つの実施形態では、FR4はC末端アミノ酸配列VTVSSを含んでなり、C末端延長はシステインである(例えば、本発明のポリペプチドはVTVSSCで終わる)。1つの実施形態では、FR4はC末端アミノ酸配列VTVSを含んでなり、C末端延長はシステイン(例えば、本発明のポリペプチドはVTVSCで終わる)。1つの実施形態では、FR4はC末端アミノ酸配列VTVを含んでなり、C末端延長はシステインである(例えば、本発明のポリペプチドはVTVCで終わる)。1つの実施形態では、FR4はC末端アミノ酸配列VTを含んでなり、C末端延長はシステインである(例えば、本発明のポリペプチドはVTCで終わる)。1つの実施形態では、FR4はC末端アミノ酸Vを含んでなり、C末端延長はシステインである(例えば、本発明のポリペプチドはVCで終わる)。
【0055】
1つの実施形態では、本発明は、ISVDが軽鎖可変ドメイン配列(VL)、重鎖可変ドメイン配列(VH)、従来の4鎖抗体に由来するまたは重鎖抗体に由来する配列である本明細書に記載されるような二量体に関する。
【0056】
1つの実施形態では、本発明は、ISVDがシングルドメイン抗体、ドメイン抗体、シングルドメイン抗体として使用するために好適なアミノ酸配列、ドメイン抗体として使用するために好適なアミノ酸配列、dAb、dAbとして使用するために好適なアミノ酸配列、ナノボディー、VHH、ヒト化VHH、およびラクダ化VHからなる群から選択される本明細書に記載されるような二量体に関する。好ましくは、ISVDは、100~140のアミノ酸残基、例えば、110~130のアミノ酸残基を含んでなる。
【0057】
従来技術に比べて、本発明の技術的解決策は以下の利点を有する。
第1に、本発明の抗体は、高い親和性を有するヒト化抗PD-L1単一可変ドメイン抗体である。ヒト化抗PD-L1単一可変ドメイン抗体hzF2は、ヒトPD-L1タンパク質と高い親和性で特異的に結合し、親和性(KD)は、対照抗体KN035に匹敵する1.1nMである。高い親和性および良好な特異性の基本特性は、PD-1/PD-L1シグナル伝達経路に対するhzF2の阻害効果の理論的基礎を与え;単一可変ドメイン抗体は、従来のモノクローナル抗体に比べて、より柔軟な適用パターンを有し、二重特異性/多重特異性治療抗体の開発により好適である。
【0058】
第2に、本発明の抗体は、良好な生物活性を有する。hzF2は、細胞表面に組換え的に発現されるヒトPD-L1に効果的に結合し、CHO細胞上に組換え的に発現されるヒトPD-L1(CHO-PD-L1)との結合に関するEC50は1.01nMであり;hzF2は、組換えヒトPD-L1のその受容体PD-1への結合をIC50 4.3nMで効果的にブロックすることができ;hzF2は、PD-1/PD-L1シグナル伝達経路をブロックすることができ、EC50の活性は、Jurkat-PD1-NFAT細胞およびCHO-PD-L1-CD3L細胞リポーター遺伝子アッセイを用いて検出した場合に5.45nMであり;hzF2は良好なin vivo安定性を有し、免疫系ヒト化および黒色腫A375皮下異種移植モデルにおける腫瘍成長を効果的に阻害することができる。
【0059】
第3に、本発明は、hzF2に基づく複数の変異体を提供する。いくつかの変異体は、特異性、親和性などの性能パラメーターにおいて元の抗体hzF2よりも良好な性能を示す。これらの異なる単一可変ドメイン抗体変異体は、PD-L1に基づく腫瘍検出、標的化療法、薬物送達などに関してより多くの選択肢を提供し、さらにhzF2の適用能を豊富にし、拡大する。
【0060】
図面の説明
様々な他の利点および利益は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明を読めば当業者には明らかとなる。これらの図面は単に好ましい実施形態を説明するためのものであり、本発明の限定と見なされるべきではない。また、これらの図面では、同じ成分は同じ参照記号で示される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】
図1:ELISAアッセイによるヒトPD-L1のその受容体PD-1への結合に対する単一可変ドメイン抗体の阻害効果
【
図2】
図2:chF2の細胞表面抗原への結合活性のFACS分析
【
図3】
図3:組換えPD-L1対するchF2の結合特異性のELISA分析
【
図4】
図4:細胞表面のPD-L1に対するchF2の結合特異性の分析
【
図5】
図5:ヒトPD-L1のその受容体PD-1への結合に対するhzF2の阻害効果の分析結果
【
図6】
図6:リポーター遺伝子系を使用することによる抗PD-L1 VHH抗体-Fc融合タンパク質のin vitroブロック活性の評価
【
図7】
図7:単一用量でのBalb/CマウスにおけるhzF2の薬物-時間曲線
【
図8】
図8:MC38-hPDL1を皮下に同種移植したヒトPD-L1トランスジェニックマウスを用いたマウス大腸癌モデルにおけるhzF2の抗腫瘍有効性の試験結果(腫瘍体積)
【
図9】
図9:MC38-hPDL1を皮下に同種移植したヒトPD-L1トランスジェニックマウスを用いたマウス大腸癌モデルにおけるhzF2の抗腫瘍有効性の試験結果(腫瘍重量)
【発明を実施するための形態】
【0062】
実施形態の詳細な説明
以下、本開示の例示的な実施形態を、添付の図面を参照しながら、より詳細に説明する。本開示の例示的な実施形態が図面に示されているが、本開示は様々な形態で達成することができ、本明細書に示される実施形態によって限定されるべきでないことを理解されたい。むしろ、これらの実施形態は、本開示をより深く理解し、本開示の範囲を当業者に十分に伝えるために提供される。
【実施例】
【0063】
実施例1 ファージディスプレーによる免疫ラクダ単一可変ドメイン抗体ライブラリーの構築
抗原を用いてラクダを免疫した。末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、逆転写のために全RNAを抽出した。逆転写からの産物を鋳型として用いて、重鎖抗体(VHH)の重鎖可変ドメインを増幅した。重鎖可変ドメインをファージディスプレーベクターに連結し、得られたベクターを大腸菌TG1コンピテント細胞にエレクトロトランスフェクトしてラクダ免疫化ライブラリーを構築した。特に、ラクダを2週間に1回、計4回免疫した。免疫はフロイントの不完全アジュバント(Sigma、Cat.:F5506-10ml)をアジュバントとする0.8mg PD-L1細胞外領域組換えタンパク質(所内発現および精製、遺伝子配列ID番号:NP_054862.1、19aa-238aa)の注射によって行った。各注射は、複数点方式で皮下に行った。各免疫の2週間後、血清を分離するために1mLの血液を採取した。血清中の完全抗体(IgG)および重鎖抗体(HcAb)の力価をELISAにより測定するために免疫原を検出抗原として使用した。血清力価がライブラリー構築の要件を満たす場合、100mLのラクダ末梢血を採取し、単離キット(Tianjin Haoyang、Cat.:TBD2011CM)を用いてPBMCを単離し、PBMCの全RNAを抽出し、逆転写してcDNAを得た。得られたcDNAを続いてのVHHフラグメントの増幅のための鋳型として使用した。VHH抗体ライブラリー構築のためのプライマーは、関連の文献およびデータベースから取得したラクダ由来VHH抗体の遺伝子に基づいて設計し、合成した。抗体可変領域の遺伝子配列は、PCRによって増幅した。次に、ファージディスプレーベクターおよび増幅した抗体フラグメントをそれぞれエンドヌクレアーゼで消化し、T4リガーゼを用いて連結し、連結産物を構築した。これらの連結産物をエレクトロトランスフェクション技術によってTG1株に導入した。最後に、濃度1.8×108/ミリリットルの免疫ラクダ抗ヒトPD-L1 VHH抗体ライブラリーを特異的抗ヒトPD-L1単一可変ドメイン抗体のスクリーニングのために構築した。ライブラリーの正当性を検出するために、コロニーPCRのために50のクローンを無作為に選択し、それらの結果は、挿入パーセンテージが100%に達したことを示した。
【0064】
実施例2 特異的抗ヒトPD-L1単一可変ドメイン抗体のスクリーニング
構築したラクダ免疫ライブラリーを固相スクリーニング法によりスクリーニングして、ファージによりディスプレーされる特異的単一可変ドメイン抗体を得た。
【0065】
(1)オリジナルライブラリーのディスプレー。ラクダ免疫ライブラリーを、アンピシリンおよびテトラサイクリンを含有する2YT培地に植え込み、対数増殖期まで増殖させ、次いで、そこにM13ヘルパーファージを加えた後にカナマイシンを加え、より低温条件に一晩置き、オリジナルライブラリーをディスプレーさせた。翌日、培養上清を回収し、PEG沈降によりファージを濃縮して、続いてのスクリーニングのための高力価抗体ライブラリーを含むディスプレー産物を得た。
【0066】
(2)スクリーニング。特異的抗体を固相法によりスクリーニングした。特異的抗原を免疫チューブの表面にコーティングした。この免疫チューブと抗体ライブラリーをそれぞれブロッキング剤でブロックし、次いで、抗体ライブラリーを免疫チューブに加え、インキュベートした後、繰り返し洗浄し、最後にpH2.2の酸を用いて溶出した。溶出液を中性まで中和し、次いで、感染のために対数増殖期においてXL-Blueとともにインキュベートし、さらなるファージディスプレーを行った。特異的ファージ粒子を回収した。スクリーニング2~3回目の後、モノクローンを同定することとなった。
【0067】
(3)同定。回収した特異的ファージ粒子に感染させたXL-Blueをプレートに植え込み、個々のクローンをコロニーに増殖させた後に同定した。個々のクローンを採取し、対数増殖期まで培養し、次いで、M13ヘルパーファージを加えて感染させた後、カナマイシンを添加し、その後、30℃で一晩置いた。翌日、培養上清を回収し、PD-L1でコーティングした酵素結合プレートに加えてELISA反応を行った。ファージミド(抗体遺伝子を含んでなるファージディスプレーベクター)を反応陽性クローンから抽出し、配列決定を行ってVHH抗体遺伝子配列を決定した。ヒトPD-L1組換えタンパク質に結合することができる、ファージによりディスプレーされた5つの単一可変ドメイン抗体(VHHs)、すなわち、1-4G1、1-6C4、2-3D6、2-5B7、2-2F2をスクリーニングにより取得した。
【0068】
実施例3 特異的抗ヒトPD-L1単一可変ドメイン抗体の予備的同定
得られた5つのシングルドメインVHH抗体を大腸菌TG1誘導により発現させた。なお、この誘導条件は1mM IPTG、30℃、150rpmで一晩の培養であった。誘導発現の際に細菌サンプルを音波処理により破砕し、濾過し、次いで、ニッケルカラムを用いて親和性により精製し、限外濾過を行ってシングルドメインVHH抗体を得た。次に、ヒトPD-L1のその受容体PD-1への結合に対するシングルドメインVHH抗体の阻害効果をELISAにより試験した。特に、ヒトPD-1細胞外領域とヒトFc(PD-1-hFcの融合タンパク質、PD-1配列ID番号:NP_005009.2、21aa-167aa)をELISAプレートに0.5μg/mLの濃度でコーティングした。次に、このプレートを4℃で一晩置き、恒温インキュベーターにて37℃で60分間、5%BSAでブロックした。シングルドメインVHH抗体(濃度50、10、2nM)および1μg/mL PD-L1-mFcを共インキュベートし、恒温インキュベーターにて37℃で60分間反応させた。このプレートをPBSTで4回洗浄し、その後、1:5000希釈したHRP-抗マウスFc(Jackson Immuno Research、Cat.:115-035-071)を加え、45分間反応させ、TMB(Beijing Taitianhe Biology、Cat.:ME142)基質を加えて15分間発色させた。2M HClを加えて反応を停止させた後、このプレートについて、630nmを参照波長とし、450nmを検出波長としてリーダーでウェルプレートのA450nm-630nmの吸光度値を読み取って記録した。これらの結果は、2-2F2が組換えヒトPD-L1のその受容体PD-1への結合を効果的にブロックし得ることを示し、2-2F2は良好なブロック活性を有することが示唆された(
図1)。VHH-F2と略されるこの分子を、以降の開発のための原型分子として選択した。単一可変ドメイン抗体の可変領域のアミノ酸配列を配列番号1として示し、可変領域のヌクレオチド配列を配列番号2として示した。
【0069】
特異的プライマーを設計し、陽性クローンファージミドを鋳型として用い、ラクダ由来抗体VHH-F2の可変領域遺伝子をPCRによって取得した。次に、可変領域遺伝子を酵素消化および連結により、ヒトFc(IgG1、hFc)コード遺伝子を含んでなる真核生物発現ベクターにクローニングした。適正な配列を有する発現プラスミドを得た後、それを一過性発現のために293F細胞にトランスフェクトし、その後、発現産物をプロテインAにより精製し、最後にヒト-ラクダキメラ単一可変ドメイン抗体の融合タンパク質(VHH-F2-ヒト-Fcキメラ抗体、「chF2」と略される)を得た。chF2抗体分子の全長アミノ酸配列を配列番号3として示し、ヌクレオチド配列を配列番号4として示した。
【0070】
WHOが公開しているEnvafolimab抗体配列(WHO Drug Information, Vol. 33, No. 3, 2019, Page634-635, Envafolimab)を参照して、KN035可変領域遺伝子を完全に合成し、KN035可変領域のアミノ酸配列を配列番号5として示し、ヌクレオチド配列を配列番号6として示した。chF2の構築に関して上記と同じ戦略を用いてKN035可変領域およびFcを有する融合タンパク質を得、KN035と略した。
【0071】
実施例4 抗ヒトPD-L1キメラ単一可変ドメイン抗体の結合活性分析
方法1 結合活性に関するBLIアッセイ
Fortebio社のOctet QKeシステム装置を用い、ヒト抗体のFcフラグメントに対する捕捉抗体(AHC)生体プローブを用いて、chF2の対応する組換え抗原への結合能を測定した。測定時には,chF2をPBSバッファーで4μg/mLに希釈し,AHCプローブ(Cat.:18-0015,PALL)表面に120秒間流した。移動相としてヒトPD-L1組換えタンパク質を用いてチップ表面に捕捉した抗体と相互作用させた。組換えPD-L1タンパク質濃度は60nMとした。各抗原に対する結合時間は300秒であり、最終解離時間は300秒であった。その結果(表1)、本実験条件下では、chF2が組換えトPD-L1タンパク質と高い親和性で結合したことを示し、これは対照抗体KN035と同等であった。
【0072】
【0073】
方法2 FACSによる結合活性分析
細胞(CHO-PD-L1-CD3L細胞)を遠心分離後に採取し、5×10
5細胞/サンプル/100μLに分割した。勾配希釈した単一可変ドメイン抗体を最高濃度として終濃度66nMで細胞に加え、3倍連続希釈を行って10勾配を作製し、次いで、氷上で2時間インキュベートした。細胞を氷冷PBS(0.05%Tween含有)で2回洗浄した。FITC標識抗ヒトFc二次抗体(Cat.:F9512、Sigma)を加え、氷上で1時間インキュベートした。細胞を氷冷PBS(0.05%Tween含有)で2回洗浄し、200μLのフローサイトメトリーバッファーに再懸濁させ、細胞の平均蛍光強度(MFI)をフローサイトメーター(モデルB49007AD、SNAW31211、BECKMAN COULTER)により検出した。検出結果は、chF2およびKN035は細胞表面に発現するPD-L1に対して同等の結合活性を有することを示し、50%有効結合濃度(EC50)値はそれぞれ1.04nMおよび1.27nMであった(
図2)。
【0074】
実施例5 抗ヒトPD-L1キメラ単一可変ドメイン抗体の特異性の分析
方法1 ELISAによる組換え抗原に対するキメラ抗体の特異性の同定
組換えヒトタンパク質(PD-L1、PD-1、B7H3、B7H4、CTLA4、CD28、ICOSなど)をPBSで1μg/mLに希釈した後、100μL/ウェルを用いて酵素結合プレートを℃で一晩コーティングした。このプレートを恒温インキュベーターにて37℃で60分、5%BSAブロッキング溶液でブロックした後、PBSTで3回洗浄し、1μg/mLに希釈したchF2を加え、37℃で60分間反応させ、PBSTで4回洗浄し、1:5000希釈したHRP-抗ヒトIgGを加えて45分間反応させ、PBSTで4回洗浄し、最後に、TMB基質を加えて発色させた。恒温インキュベーターにて37℃で15分間、反応を行い、2M HClで停止させた。このプレートについて、630nmを参照波長とし、450nmを検出波長としてリーダーでウェルプレートのA450nm-630nmの吸光度値を読み取って記録した。これらの結果(
図3)は、chF2はPD-L1に特異的に結合するが、他の組換えタンパク質には結合しないことを示した。
【0075】
方法2 種特異性を同定するためのBLIアッセイ
Fortebio社のOctet QKeシステム装置を用い、抗ヒト抗体Fcセグメントの捕捉抗体(AHC)生体プローブを用いて抗体のFcセグメントを捕捉することにより、chF2が組換えサルPD-L1および組換えマウスPD-L1に結合できるかどうかを決定した。測定時には,chF2をPBSバッファーで4μg/mLに希釈し,AHCプローブ(PALL、Cat.:18-0015)表面に120秒間流した。移動相としてサルPD-L1組換えタンパク質およびマウスPD-L1組換えタンパク質を用いてチップ表面に捕捉した抗体と相互作用させた。PD-L1組換えタンパク質濃度は60nMとした。各抗原の結合時間は300秒であり、最終解離時間は300秒であった。これらの結果は、chF2およびKN035の両方が組換えサルPD-L1タンパク質に同等の親和性で結合したが、組換えマウスPD-L1タンパク質には結合しなかったことを示した(表2)。
【0076】
【0077】
方法3 FACSによるキメラ抗体特異性の同定
細胞を遠心分離の後に回収し、3×10
5細胞/サンプル/100μLに分割し、20μg/mlの単一可変ドメイン抗体を細胞に加えた。細胞を氷上で2時間インキュベートし、氷冷PBS(0.05%Tween含有)で2回洗浄した。FITC標識抗ヒトFc二次抗体(Sigma、Cat.:F9512)を加え、氷上で1時間インキュベートした。細胞を氷冷PBS(0.05%Tween含有)で2回洗浄し、200μLのフローサイトメトリーバッファーに再懸濁させ、フローサイトメーターにより検出した。検出結果(
図4)は、腫瘍細胞種のそれぞれに対するchF2の反応性は、対照抗体KN035の反応性と全く同じであり、両方ともヒトPD-L1を発現する細胞株には特異的に結合したが、非PD-L1発現細胞株には結合しなかったことを示した。
【0078】
実施例6 chF2のヒト化
ラクダ由来抗体VHH-F2の可変領域と最高の相同性を有するヒト重鎖可変領域を、ヒト重鎖可変領域のフレームワークのために選択した。VHH-F2の可変領域は、CDRグラフィティングおよび部分的アミノ酸保持による支持構造の提供によってヒト化した。配列番号7として示される可変領域アミノ酸配列および配列番号9として示される全長アミノ酸配列を有するヒト化単一可変ドメイン抗体の融合タンパク質(VHH-F2-ヒト-Fcヒト化抗体、hzF2と略される)を設計した。配列番号8として示されるhzF2可変領域のヌクレオチド配列を合成し、hzF2の組換え発現ベクターを構築した。構築した全長hzF2可変領域ヌクレオチド配列を配列番号10として示した。真核生物発現の後、hzF2の親和性をBLI法により決定し、相関分析を行った。
【0079】
抗体クローンhzF2をさらに変異させて多数の変異体抗体を得た。これらの変異体のCDR領域のアミノ酸配列を表3に示し、変異体の可変領域のアミノ酸配列を表4(配列番号11~配列番号26)に示し、変異体の可変領域のヌクレオチド配列を配列番号27~配列番号42として示し、いくつかの変異体の結合定数および解離定数の変化を表5に示した。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
実施例7 ELISAアッセイによるヒトPD-L1のその受容体PD-1への結合に対するhzF2の阻害効果
ヒトPD-1-hFc(PD-1配列番号NP_005009.2、21aa-167aa)をPBSで0.5μg/mLに希釈し、ELISAプレートにて4℃で一晩コーティングした。次に、プレートを恒温インキュベーターにて37℃で60分間、5%BSAでブロックした。hzF2および対照抗体KN035、およびアイソタイプ対照NC-hIgG1の勾配希釈(初期実施濃度50nM、1.5倍希釈で10濃度勾配)を加え、次いで、PD-L1-mFc(PD-L1配列番号NP_054862.1、19aa-238aa)を実施濃度0.5μg/mLで加え、恒温インキュベーターにて37℃で60分間、共インキュベートし、反応させた。プレートをPBSTで4回洗浄し、次いで、そこに1:5000希釈したHRP-抗マウスFc(Cat.:115-035-071、Jackson Immuno Research)を加え、45分間反応させ、TMB(Beijing Taitianhe Biology、Cat.:ME142)基質を加えて15分間発色させた。2M HClを加えて反応を停止させた後、このプレートについて、630nmを参照波長とし、450nmを検出波長としてリーダーでウェルプレートのA450nm-630nmの吸光度値を読み取って記録した。これらの結果(
図5)は、hzF2が組換えヒトPD-L1のその受容体PD-1への結合を効果的にブロックできることを示し、50%有効結合濃度(EC50)値は4.3nMであった。
【0084】
実施例8 PD-1およびPD-L1リポーター遺伝子法による細胞ブロック活性の評価
PD-1およびPD-L1経路に対するhzF2のブロック効果を、Jurkat-PD1-NFAT細胞およびCHO-PD-L1-CD3L細胞を用いるリポーター遺伝子アッセイ(RGA)によってアッセイした。詳細を以下に示した:対数増殖期のCHO-PD-L1-CD3L細胞を5×10
5細胞/mlの細胞密度に調整し、100μl/ウェルで播種し、一晩置いた。抗体サンプルを培養培地で20μg/mlまで段階的に予備希釈し、次いで、2倍勾配で合計10点として希釈した。希釈サンプルを一晩培養した細胞に50μl/ウェルで添加した。同時に、2×10
6細胞/ml濃度のJurkat-PD1-NFAT細胞を50μl/ウェルで加えた。このプレートを細胞インキュベーターにて6時間インキュベートした。1~2時間前に適切な量のBio-Glo(商標)ルシフェラーゼ基質を取り出して解凍した後、暗所、室温に置いた。インキュベーターから細胞プレートを取り出し、室温に平衡化し(約10~15分)、Bio-Glo(商標)ルシフェラーゼ基質を100μl/ウェルで加えた。細胞プレートをマイクロプレート恒温シェーカーに入れ、暗所、800rpmで20分間インキュベートした。多機能マイクロプレートリーダーを発光モードに設定し、組込みおよびRLUの読み取りのために500(この装置の規定値)を選択した。SoftMaxソフトウエアを用い、サンプル濃度をX軸とし、RLU平均検出値をY軸とし、標準曲線を作成するために4パラメーター方程式を選択してデータを解析した。参照サンプルおよび試験サンプルの曲線フィッティング結果のEC
50値によれば、試験サンプルの相対生物活性を計算した。結果を
図6に示した。PD-L1およびPD-1に対するhzF2のブロック活性は、KN035のブロック活性と実質的に同等であり、それぞれhzF2のEC50は5.45nMであり、KN035のEC50は4.90nMであった。
【0085】
実施例9:マウスにおけるhzF2の半減期の決定
1群3匹に分けた健常な雌5週齢ヌードマウスに尾静脈から単回用量15mg/kgの抗体を注射した。投与2時間、4時間、8時間、24時間、48時間、96時間、144時間、196時間後に、それぞれ尾静脈血液サンプルを採取し、遠心分離して血清を分離し、抗体の薬物動態特性を試験するために-20℃で保存した。総ての血液サンプルの採取が完了した後、以下の手順を行った。96ウェル酵素結合プレートを0.5μg/ml、100μl/ウェルとしてPD-L1-His(配列番号NP_054862.1、19aa-238aa)でコーティングし、一晩4℃で置いた後、PBSで3回洗浄した。このプレートに5%BSA PBSを加え、37℃で60分間ブロックし、PBSTで3回洗浄し、次いで、供試血清サンプル(10,000倍希釈、20,000倍希釈)と標準品を加えてhzF2標準曲線ウェル(初期濃度0.05μg/mL、2倍連続希釈、12希釈勾配)とし、37℃で60分間インキュベートし、PBSTで4回洗浄し、1:5000希釈したHRP-ヤギ抗ヒトIgG(Fcr)(Cat.:109-035-098、Jackson Immuno Research)を加え、37℃で40分間インキュベートし、PBSTで4回洗浄し、TMB基質(Cat.:ME142、Beijing Taitianhe Biotechnology Co.,Ltd.)を加えて発色させた。37℃で10分間インキュベートした後、プレートに2M HClを加えて反応を停止させ、次いで、630nmを参照波長として、450nmを検出波長としてリーダーでウェルプレートのA450nm-630nmの吸光度値を読み取って記録した。標準抗体の濃度をY軸とし、OD値をX軸として時間-抗体濃度曲線をプロットし、直線フィッティングを行った。薬物半減期T1/2はT1/2=0.693/k|であり、式に従って計算した。
【0086】
最終結果(
図7)は、本条件下でマウスにおけるhzF2のin vivo半減期は83.1時間であることを示し、hzF2は良好なin-vivo半減期および安定性を有していたことが示唆された。
【0087】
実施例10:MC38-hPDL1を皮下に同種移植したヒトPD-L1トランスジェニックマウスを用いてマウス大腸癌モデルでのhzF2の抗腫瘍有効性の検出
ヒトPDL1を高発現するマウス大腸癌細胞株MC38-hPDL1を雌B6-hPDL1マウス(C57の遺伝子背景を有するPD-L1ヒト化マウス)の右前肋骨皮下部位に接種した。腫瘍が約100mm
3に成長した際に、マウスをhzF2群、KN035群またはアイソタイプ対照IgG群に群分けし、前記薬剤を10mg/kgの用量で週2回、計6回投与した。投与の度に腫瘍体積および体重を測定し、担癌マウスの体重および腫瘍体積の変化と投与時間の間の関係を記録した。試験終了時に、担癌マウスを安楽死させ、腫瘍を摘出し、重量を測定し、写真撮影を行った。対照群に対する処置群の腫瘍体積比(T/C)および腫瘍増殖阻害率(1-T/C)を算出し、統計学的に解析した。これらの結果は、被験薬であるhzF2が腫瘍の増殖を効果的に阻害したことを示した(
図8、
図9)。
【0088】
[配列表]
本願に関連するアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は以下の通りである。
配列番号1:ラクダ由来単一可変ドメイン抗体VHH-F2の可変領域アミノ酸配列
【化1】
配列中;
重鎖CDR1アミノ酸(配列番号43):
【化2】
重鎖CDR2アミノ酸(配列番号44):
【化3】
重鎖CDR3アミノ酸(配列番号45):
【化4】
配列番号2:ラクダ由来単一可変ドメイン抗体VHH-F2の可変領域ヌクレオチド配列
【化5】
配列中:
重鎖CDR1ヌクレオチド:
【化6】
重鎖CDR2ヌクレオチド:
【化7】
重鎖CDR3ヌクレオチド:
【化8】
配列番号3:キメラ単一可変ドメイン抗体chF2の全長アミノ酸配列
【化9】
配列中:
重鎖CDR1アミノ酸:
【化10】
重鎖CDR2アミノ酸:
【化11】
重鎖CDR3アミノ酸:
【化12】
配列番号4:キメラ単一可変ドメイン抗体chF2の全長ヌクレオチド配列
【化13】
配列中:
重鎖CDR1ヌクレオチド:
【化14】
重鎖CDR2ヌクレオチド:
【化15】
重鎖CDR3ヌクレオチド:
【化16】
配列番号5:KN035可変領域のアミノ酸配列
【化17】
配列中:
重鎖CDR1アミノ酸:
【化18】
重鎖CDR2アミノ酸:
【化19】
重鎖CDR3アミノ酸:
【化20】
配列番号6:KN035可変領域のヌクレオチド配列
【化21】
配列中:
重鎖CDR1ヌクレオチド:
【化22】
重鎖CDR2ヌクレオチド:
【化23】
重鎖CDR3ヌクレオチド:
【化24】
配列番号7:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2の可変領域アミノ酸配列
【化25】
配列中:
重鎖CDR1アミノ酸:
【化26】
重鎖CDR2アミノ酸:
【化27】
重鎖CDR3アミノ酸:
【化28】
配列番号8:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2の可変領域ヌクレオチド配列
【化29】
配列中:
重鎖CDR1ヌクレオチド:
【化30】
重鎖CDR2ヌクレオチド:
【化31】
重鎖CDR3ヌクレオチド:
【化32】
配列番号9:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2の全長アミノ酸配列
【化33】
配列中:
重鎖CDR1アミノ酸:
【化34】
重鎖CDR2アミノ酸:
【化35】
重鎖CDR3アミノ酸:
【化36】
配列番号10:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2の全長ヌクレオチド配列
【化37】
配列中:
重鎖CDR1ヌクレオチド:
【化38】
重鎖CDR2ヌクレオチド:
【化39】
重鎖CDR3ヌクレオチド:
【化40】
配列番号11:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m1の可変領域アミノ酸配列
【化41】
配列番号12:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m2の可変領域アミノ酸配列
【化42】
配列番号13:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m3の可変領域アミノ酸配列
【化43】
配列番号14:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m4の可変領域アミノ酸配列
【化44】
配列番号15:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m5の可変領域アミノ酸配列
【化45】
配列番号16:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m6の可変領域アミノ酸配列
【化46】
配列番号17:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m7の可変領域アミノ酸配列
【化47】
配列番号18:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m8の可変領域アミノ酸配列
【化48】
配列番号19:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m9の可変領域アミノ酸配列
【化49】
配列番号20:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m10の可変領域アミノ酸配列
【化50】
配列番号21:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m11の可変領域アミノ酸配列
【化51】
配列番号22:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m12の可変領域アミノ酸配列
【化52】
配列番号23:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m13の可変領域アミノ酸配列
【化53】
配列番号24:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m14の可変領域アミノ酸配列
【化54】
配列番号25:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m15の可変領域アミノ酸配列
【化55】
配列番号26:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m16の可変領域アミノ酸配列
【化56】
配列番号27:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m1の可変領域ヌクレオチド配列
【化57】
配列番号28:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m2の可変領域ヌクレオチド配列
【化58】
配列番号29:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m3の可変領域ヌクレオチド配列
【化59】
配列番号30:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m4の可変領域ヌクレオチド配列
【化60】
配列番号31:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m5の可変領域ヌクレオチド配列
【化61】
配列番号32:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m6の可変領域ヌクレオチド配列
【化62】
配列番号33:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m7の可変領域ヌクレオチド配列
【化63】
配列番号34:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m8の可変領域ヌクレオチド配列
【化64】
配列番号35:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m9の可変領域ヌクレオチド配列
【化65】
配列番号36:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m10の可変領域ヌクレオチド配列
【化66】
配列番号37:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m11の可変領域ヌクレオチド配列
【化67】
配列番号38:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m12の可変領域ヌクレオチド配列
【化68】
配列番号39:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m13の可変領域ヌクレオチド配列
【化69】
配列番号40:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m14の可変領域ヌクレオチド配列
【化70】
配列番号41:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m15の可変領域ヌクレオチド配列
【化71】
配列番号42:ヒト化単一可変ドメイン抗体hzF2-m16の可変領域ヌクレオチド配列
【化72】
以上の説明は、本発明の好ましい実施形態に過ぎないが、本発明の保護範囲はこれらに限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る、本発明が開示する技術的範囲内の変更または変形は、本発明の保護範囲に含まれるものとする。従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲で主張されるものであるものとする。
【配列表】
【国際調査報告】