(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-06
(54)【発明の名称】窒化ケイ素レーザークラッドの方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/30 20060101AFI20230530BHJP
A61L 27/06 20060101ALI20230530BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20230530BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20230530BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20230530BHJP
A61L 27/42 20060101ALI20230530BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20230530BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20230530BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
A61L27/30
A61L27/06
A61L27/04
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/42
A61L27/44
A61L27/50
A61C13/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564721
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(85)【翻訳文提出日】2022-12-26
(86)【国際出願番号】 US2021028641
(87)【国際公開番号】W WO2021216872
(87)【国際公開日】2021-10-28
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519324710
【氏名又は名称】シントクス テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マッキンタイア、ブライアン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】バル、バジャンジット シン
(72)【発明者】
【氏名】ボック、ライアン エム.
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB03
4C081CA021
4C081CA211
4C081CF132
4C081CG02
4C081CG03
(57)【要約】
本明細書では、生物医学的インプラントの表面をコーティングするためのレーザークラッドのための方法が、開示される。生物医学的インプラントは、骨形成を促進するためのレーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有するインプラントであり得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物医学的インプラントの表面をコーティングする方法であって、
前記生物医学的インプラントを提供することと、
前記生物医学的インプラントの少なくとも1つの表面を粗面化することと、
前記少なくとも1つの粗面化された表面上に窒化ケイ素のコーティングをレーザークラッドすることであって、前記レーザークラッドが、
前記生物医学的インプラントの少なくとも1つの粗面化された表面にレーザービームを向けることと、
前記生物医学的インプラントの前記少なくとも1つの粗面化された表面に粉末混合物を予め塗布することか、又は窒化ケイ素を含む前記粉末混合物を同時に向けることと、を含む、レーザークラッドすることと、
前記窒化ケイ素のコーティングが少なくとも10μmの厚さを有するまで、前記レーザークラッドステップを繰り返すことと、を含む、方法。
【請求項2】
前記生物医学的インプラントが、ジルコニア、アルミナ、アルミナ/ジルコニア複合材(ZTA)、チタン、チタン合金、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、及び/又はポリエーテルケトンケトンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物医学的インプラントが、イットリア安定化ジルコニアを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生物医学的インプラントが、Ti6Al4Vを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記窒化ケイ素のコーティングが、約5重量%~約15重量%の窒化ケイ素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記窒化ケイ素粉末が、α-Si
3N
4、β-Si
3N
4、β-SiYAlON、SiAlON、又はSiYONを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記窒化ケイ素粉末が、研磨された針状β-Si
3N
4粒及びSi-Y-O-N粒界相から形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記生物医学的インプラントの前記少なくとも1つの表面を粗面化することが、遊離砥粒加工を使用してランダムな引っ掻き傷を形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
引っ掻き傷が、幅約5μm~500μmである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記レーザービームが、約1064nmの波長と、約4msのパルスレートとを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記レーザーが、5,500mm/sのラスター速度で、25%の電力レベル及びそれぞれ、200~500μmのパルス幅でナノ秒パルスを放射し、1000kHz、0.03mmのハッチング距離、60.34%のハッチングオーバーラップで、0.0055mmのレーザー衝撃の距離で動作するように調整された100ワットのピコ秒レーザーである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
レーザークラッドが、少なくとも3回繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記窒化ケイ素のコーティングが、少なくとも15μmの厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記レーザークラッドが、
窒素ガスの一定の流れを供給することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法を使用してコーティングされた表面を備える生物医学的インプラント。
【請求項16】
骨形成を促進する方法であって、
レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを備える生物医学的インプラントを組織と接触させることを含む、方法。
【請求項17】
骨組織産生が、前記レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有しないインプラントと比較して、前記生物医学的インプラント上で増加する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
オステオカルシン及びオステオポンチン分布が、前記レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有しないインプラントと比較して、前記生物医学的インプラント上で増加される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記骨組織が、前記レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有しないインプラントと比較して、前記生物医学的インプラント上でより高い架橋の程度を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
ミネラル化組織が、前記レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有しないインプラントと比較して、前記生物医学的インプラント上で増加する、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有しないインプラントと比較して、前記生物医学的インプラント上でミネラルヒドロキシアパタイトの増加がある、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年4月23日に出願された米国仮特許出願第63/014,235号に対する優先権を主張し、その内容は、参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0002】
本開示は、窒化ケイ素レーザークラッドのためのシステム及び方法に関し、具体的には、窒化ケイ素レーザークラッドを使用して、ジルコニアの生物学的応答を改善することに関する。
【背景技術】
【0003】
酸化ジルコニウム又は「ジルコニア」(ZrO2)は、クラウン及び固定部分義歯の製造のために市場に出ているセラミック生体材料の中で最も強い。ジルコニアの自然な白さ及び高い機械的性質により、ジルコニアは、耐性があり、美的に魅力的なインプラントの製造のための理想的な候補材料になっている。
【0004】
近年、特に、焼結中に適用されるプロセスパラメータの小さな変動によって生じる予想外の加速された老化プロセスに起因して、約400個の大腿骨頭が短期間で破損した、2001年に製造された一連のジルコニア大腿骨頭の破滅的破損後、生物医学的用途に対するジルコニアの好適性について多くの懸念が提起されている。この予想外の前例のない事故は、他のZrO2構成要素に関する懸念をもたらした。ISO13356(1997)ガイドラインは、当時、材料の老化を考慮していなかった。
【0005】
室温では、ジルコニアは、比較的低い機械的特性を有する単斜晶形態でのみ安定している。1170℃を上回って加熱されると、単斜晶ジルコニアは、よりコンパクトな正方相に変化し、次いで、正方相が、冷却時にクラッキングによって必然的に崩壊する。焼結ジルコニア構成要素の完全性を維持するために、低温で焼結して完全な単斜晶系体を得るか、又は合金化することによって正方相を安定化させ、それにより、冷却中のt-m変態を回避することができる。室温で正方晶ジルコニアが示す高い破壊靭性は、亀裂の伝播を抑制する応力誘発性t→m変態と関連付けられる。しかしながら、ジルコニアの破壊靭性は、依然として、低温劣化(LTD)と称されるプロセスである、湿潤環境への長期曝露によって損なわれる。
【0006】
美学及び力学以外に、歯科インプラントの成功は、生体適合性によっても決定される。ジルコニアは、不活性な生体材料とみなされ、生物学的環境との相互作用が限らされていることを意味する。ジルコニアのインビトロ及びインビボ試験は、変異原性効果又は発がん性効果の証拠は示さず、細菌プラークに対する低い親和性を示したが、生物組織、特に骨への限定された接着性も示した。ジルコニアの生物活性を改善し、既存の生物組織へのジルコニアの統合を促進するために、多くの異なる処理が、提案されている。これらには、ヒドロキシアパタイトなどの活性相との合金化、コーティング、表面レーザー修飾、及びテクスチャリングが含まれる。
【0007】
チタンは、別の一般的な生体材料である。チタンは、関節全置換術、外傷性骨折及び複雑骨折、頭蓋顎顔面インプラント、及び歯科インプラントなどの様々な生物医学的目的に有用である。しかしながら、ヒトの骨と骨結合するチタンの能力も、その表面を最初に機能化することなしには、制限される。様々な機能化方法が、開発されている。最も一般的な方法は、最初に、サンドブラストを使用してチタンインプラントの表面を粗面化し、次いで、酸エッチングに供することである。このプロセスは、骨芽細胞が金属表面のミネラル化を開始することを可能にする微細空洞を金属の表面に作成する。チタンを機能化する別の方法は、リン酸カルシウム又はヒドロキシアパタイトのコーティングをチタンの表面に火炎溶射することである。これは、関節全置換術における整形外科的股関節幹及び寛骨臼カップに対して行われる。追加の機能化方法は、物理的又は化学的蒸着を使用して、リン酸カルシウム又はヒドロキシアパタイトのコーティングを適用することである。しかしながら、適切な機能化がなければ、チタンは、天然骨組織と効果的に骨結合しない。チタンは、ほとんど全ての金属と同様に、患者に対してアレルギー誘発性又は毒性である可能性があり、術後の金属症及び偽腫瘍が、医学雑誌に一般的に報告されている。コバルトクロム及びステンレス鋼合金などの他の埋め込み金属は、同様の欠陥を有する。
【0008】
バイオポリマーは、骨統合特性が悪い追加のインプラント材料である。ポリエチレン(PE)、ポリウレタン(PU)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及びポリエーテルケトンケトン(PEKK)は、天然骨と統合するために表面機能化を必要とするいくつかのポリマーである。これらの材料に対して、粗面処理、酸エッチング、又は材料をチタン、リン酸カルシウム、若しくはヒドロキシアパタイトでコーティングすることを含む、同様の機能化方法が、使用される。粗面処理及び酸エッチングは、骨統合を促進するのに役立つ一方、それらのそうする能力は、一般に、バイオメタルよりも悪く、材料の非類似性に起因して、ポリマー上のコーティングが、コーティングとポリマーとの間の界面での層間剥離を介して破損することが多い。
【0009】
したがって、骨結合を促進するために、ジルコニア及びジルコニア強化アルミナを含むセラミックス、チタン及びチタン合金、ステンレス鋼、及びコバルトクロム合金を含むバイオメタル、並びにポリエチレン、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルケトンケトンを含むポリマーの代替的な表面機能化が必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
一態様では、本開示は、生物医学的インプラントの表面をレーザークラッドする方法を包含する。生物医学的インプラントの表面をコーティングする方法は、生物医学的インプラントを提供することと、生物医学的インプラントの少なくとも1つの表面を粗面化することと、少なくとも1つの粗面化された表面上に窒化ケイ素のコーティングをレーザークラッドすることと、窒化ケイ素のコーティングが少なくとも10μmの厚さを有するまで、レーザークラッドステップを繰り返すことと、を含み得る。いくつかの態様では、レーザークラッドは、レーザービームを生物医学的インプラントの少なくとも1つの粗面化された表面に向けることと、生物医学的インプラントの少なくとも1つの粗面化された表面に粉末混合物を予め塗布することとか、又は窒化ケイ素粉末を含む粉末混合物を同時に向けることと、を含み得る。レーザークラッドは、窒化ケイ素のコーティングが少なくとも15μmの厚さを有するように、少なくとも3回繰り返され得る。レーザークラッドステップは、窒素ガスの一定の流れを供給することを更に含み得る。
【0011】
生物医学的インプラントは、ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア、アルミナ、アルミナ/ジルコニア複合材(ZTA)、チタン、チタン合金、ステンレス鋼、及びコバルトクロム合金、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、及び/又はポリエーテルケトンを含み得る。窒化ケイ素のコーティングは、約5重量%~約15重量%の窒化ケイ素を含み得る。いくつかの態様では、窒化ケイ素粉末は、α-Si3N4、β-Si3N4、β-SiYAlON、SiAlON、又はSiYONを含み得る。窒化ケイ素粉末は、研磨された針状β-Si3N4粒及びSi-Y-O-N粒界相から形成され得る。生物医学的インプラントの少なくとも1つの表面を粗面化することは、遊離砥粒加工又はサンドブラストを使用して、5~500μm幅であり得るランダムな引っ掻き傷を形成することを含み得る。
【0012】
本明細書では、骨形成を促進する方法も提供される。本方法は、レーザークラッド窒化ケイ素コーティングされた生物医学的インプラントを生体ヒト組織と接触させることを含み得る。いくつかの態様では、骨組織産生は、レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有しないインプラントと比較して、生物医学的インプラント上で増加する。オステオカルシン及びオステオポンチン分布は、レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有しないインプラントと比較して、生物医学的インプラント上で増加され得る。骨組織は、レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有しないインプラントと比較して、生物医学的インプラントに対してより高い骨性統合の程度を有し得る。ミネラル化組織は、レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有しないインプラントと比較して、生物医学的インプラント上で増加し得る。レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有しないインプラントと比較して、生物医学的インプラント上でミネラルヒドロキシアパタイトの増加があり得る。
【0013】
本明細書では、レーザークラッド窒化ケイ素表面を有する生物医学的インプラントが、更に提供される。
【0014】
本発明の他の態様及び反復は、以下でより徹底的に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図は、本発明のいくつかの実施形態を例示し、この説明とともに本発明の原理を説明する役割を果たす。
【0016】
【
図2】レーザー顕微鏡法により得られた、ジルコニアの表面形態を示す。
図2Aは、レーザー顕微鏡法により得られた、レーザークラッド前の研磨されたジルコニアの表面形態を示す。
図2Bは、レーザー顕微鏡法により得られた、レーザークラッド後の研磨されたジルコニアの表面形態を示す。
図2Cは、レーザー顕微鏡法により得られた、レーザークラッド前の粗面化ジルコニアの表面形態を示す。
図2Dは、レーザー顕微鏡法により得られた、レーザークラッド後の粗面化ジルコニアの表面形態を示す。
【
図3】座屈クラックの網が明確に可視である、研磨及びレーザークラッドされたジルコニア試料の表面形態を示す。
【
図4】レーザー顕微鏡法によって測定された、非コーティングのジルコニア及びコーティングされたジルコニアの表面粗さ(Ra)を示す。
【
図5A】低倍率でSEMにより観察されたSi
3N
4粉末を示す。
【
図5B】高倍率でSEMにより観察されたSi
3N
4粉末を示す。
【
図5D】SEMによって測定された、粉末の等価直径の分布である。
【
図6A】レーザークラッド前の粗面化ジルコニア試料の低倍率の走査電子画像である。
【
図6B】レーザークラッド前の粗面化ジルコニア試料の高倍率の走査電子画像である。
【
図6C】レーザークラッド後の粗面化ジルコニア試料の低倍率の走査電子画像である。
【
図6D】レーザークラッド後の粗面化ジルコニア試料の高倍率の走査電子画像である。
【
図7】両方のジルコニア基材、レーザークラッド層、及び参照としての化学量論的Si
3N
4のラマンスペクトルを示す。
【
図8A】Si2pの領域で得られた、レーザークラッド表面の組成を示す。
【
図8B】O1sの領域で得られた、レーザークラッド表面の組成を示す。
【
図8C】N1sの領域で得られた、レーザークラッド表面の組成を示す。
【
図8D】Zr3dの領域で得られた、レーザークラッド表面の組成を示す。
【
図9】研磨されたジルコニア上、及びレーザークラッドコーティング上で得られたXRD結晶解析パターンを示す。挿入図は、Si
3N
4(黄色)及び結晶性Si-Siドメイン(赤色)が明確に可視である、コーティングの断面のEBSD画像を示す。
【
図10】異なる試料及び参照としてのSi
3N
4上で10日後に測定されたWST光学密度結果を示す。
【
図11】4つの異なる試料で得られた蛍光顕微鏡検査の結果を示し、表面上の細胞核(青色)、オステオカルシン(緑色)、及びオステオポンチン(赤色)の存在及び分布を示す。
【
図12】蛍光染色顕微鏡画像の細胞核(青色)、オステオポンチン(赤色)、及びオステオカルシン(緑色)の直接カウントに基づく、SaOS-2細胞増殖及び骨形成試験の結果を示す。
【
図13】10日間のSAOS-2試験後のレーザークラッド表面の参照ラマンスペクトルを示す。
【
図14】1658及び1691cm
-1におけるラマンバンドの強度から得られた、様々な試料のコラーゲン成熟度比を示す。
【
図15】1078及び961cm
-1におけるラマンバンドの強度によって得られた、様々な試料の炭酸塩対リン酸塩比を示す。
【
図16】961及び1658cm
-1における、並びに1078及び1658cm
-1におけるラマンバンドの強度によって得られた、様々な試料のミネラル対マトリックス比を示す。
【
図17】レーザー顕微鏡による各種基材の表面画像を示す。
図17Aは、未処理のLDPEのレーザー顕微鏡基材表面画像を示す。
図17Bは、コーティングされたLDPEのレーザー顕微鏡基材表面画像を示す。
図17Cは、未処理のTi6Al4Vのレーザー顕微鏡基材表面画像を示す。
図17Dは、コーティングされたTi6Al4Vのレーザー顕微鏡基材表面画像を示す。
図17Eは、未処理のZTAのレーザー顕微鏡基材表面画像を示す。
図17Fは、コーティングされたZTAのレーザー顕微鏡基材表面画像を示す。
図17Gは、未処理のY-TZPのレーザー顕微鏡基材表面画像を示す。
図17Hは、コーティングされたY-TZPのレーザー顕微鏡基材表面画像を示す。
【
図18】EDS組成マップと重ね合わされたSEM二次電子画像を示す。
図18Aは、LDPE表面分析のためにEDS組成マップと重ね合わされたSEM二次電子画像を示す。
図18Bは、LDPE断面分析のためにEDS組成マップと重ね合わされたSEM二次電子画像を示す。
図18Cは、Ti6Al4V表面分析のためにEDS組成マップと重ね合わされたSEM二次電子画像を示す。
図18Dは、Ti6Al4V断面分析のためにEDS組成マップと重ね合わされたSEM二次電子画像を示す。
図18Eは、ZTA表面分析のためにEDS組成マップと重ね合わされたSEM二次電子画像を示す。
図18Fは、Y-TZP表面分析のためにEDS組成マップと重ね合わされたSEM二次電子画像を示す。
図18Gは、Y-TZP断面分析のためにEDS組成マップと重ね合わされたSEM二次電子画像を示す。
【
図19A】窒化ケイ素粒子を有するLDPE基材の表面の光学形態を示す。
【
図19B】窒化ケイ素粒子を有するLDPE基材の表面のラマンイメージングマップを示す。
【
図19C】窒化ケイ素粒子を有するLDPE基材の表面のラマンイメージングマップを示す。
【
図19D】窒化ケイ素でコーティングされたLDPE基材のラマンスペクトルを示す。
【
図20A】窒化ケイ素粒子を有するTi6Al4V基材の表面の光学形態を示す。
【
図20B】窒化ケイ素粒子を有するTi6Al4V基材の表面のラマンイメージングマップを示す。
【
図20C】窒化ケイ素粒子を有するTi6Al4V基材の表面のラマンイメージングマップを示す。
【
図20D】窒化ケイ素でコーティングされたTi6Al4V基材のラマンスペクトルを示す。
【
図21A】窒化ケイ素粒子を有するZTA基材の表面のラマンイメージングマップを示す。
【
図21B】窒化ケイ素粒子を有するZTA基材の表面のラマンイメージングマップを示す。
【
図21C】窒化ケイ素粒子を有するZTA基材の表面のラマンイメージングマップを示す。
【
図21D】窒化ケイ素粒子を有するY-TZP基材の表面のラマンイメージングマップを示す。
【
図21E】窒化ケイ素粒子を有するY-TZP基材の表面のラマンイメージングマップを示す。
【
図21F】窒化ケイ素粒子を有するY-TZP基材の表面のラマンイメージングマップを示す。
【
図22】基材の化学組成の指標としての、X線光電子分光法によって測定された印加電圧/Si-Si結合関係の定性的表現である。
【
図23A】窒化ケイ素でコーティングされたLDPE基材、及び非コーティングのLDPE基材の細菌曝露時間の指標としての、Staphylococcus epidermidisの微生物生存率アッセイ(WST)を示す。
【
図23B】窒化ケイ素でコーティングされたTi6Al4V基材、及び非コーティングのTi6Al4V基材の細菌曝露時間の指標としての、Staphylococcus epidermidisの微生物生存率アッセイ(WST)を示す。
【
図23C】窒化ケイ素でコーティングされたY-TZP基材、及び非コーティングのY-TZP基材の細菌曝露時間の指標としての、Staphylococcus epidermidisの微生物生存率アッセイ(WST)を示す。
【
図24】SaOS-2細胞への曝露後の試料の蛍光顕微鏡写真である。
図24Aは、SaOS-2細胞への曝露後のオステオカルシンを示す、LDPE試料の蛍光顕微鏡写真である。
図24Bは、SaOS-2細胞への曝露後のオステオポンチンを示す、LDPE試料の蛍光顕微鏡写真である。
図24Cは、SaOS-2細胞への曝露後の核を示す、LDPE試料の蛍光顕微鏡写真である。
図24Dは、SaOS-2細胞への曝露後のオステオカルシンを示す、窒化ケイ素コーティングされたLDPE試料の蛍光顕微鏡写真である。
図24Eは、SaOS-2細胞への曝露後のオステオポンチンを示す、窒化ケイ素コーティングされたLDPE試料の蛍光顕微鏡写真である。
図24Fは、SaOS-2細胞への曝露後の核を示す、窒化ケイ素コーティングされたLDPE試料の蛍光顕微鏡写真である。
【
図25】SaOS-2細胞への曝露後の試料の蛍光顕微鏡写真である。
図25Aは、SaOS-2細胞への曝露後のオステオカルシンを示す、Ti6Al4V試料の蛍光顕微鏡写真である。
図25Bは、SaOS-2細胞への曝露後のオステオポンチンを示す、Ti6Al4V試料の蛍光顕微鏡写真である。
図25Cは、SaOS-2細胞への曝露後の核を示す、Ti6Al4V試料の蛍光顕微鏡写真である。
図25Dは、SaOS-2細胞への曝露後のオステオカルシンを示す、窒化ケイ素コーティングされたTi6Al4V試料の蛍光顕微鏡写真である。
図25Eは、SaOS-2細胞への曝露後のオステオポンチンを示す、窒化ケイ素コーティングされたTi6Al4V試料の蛍光顕微鏡写真である。
図25Fは、SaOS-2細胞への曝露後の核を示す、窒化ケイ素コーティングされたTi6Al4V試料の蛍光顕微鏡写真である。
【
図26】SaOS-2細胞への曝露後の試料の蛍光顕微鏡写真である。
図26Aは、SaOS-2細胞への曝露後のオステオカルシンを示す、Y-TZP試料の蛍光顕微鏡写真である。
図26Bは、SaOS-2細胞への曝露後のオステオポンチンを示す、Y-TZP試料の蛍光顕微鏡写真である。
図26Cは、SaOS-2細胞への曝露後の核を示す、Y-TZP試料の蛍光顕微鏡写真である。
図26Dは、SaOS-2細胞への曝露後のオステオカルシンを示す、窒化ケイ素コーティングされたY-TZP試料の蛍光顕微鏡写真である。
図26Eは、SaOS-2細胞への曝露後のオステオポンチンを示す、窒化ケイ素コーティングされたY-TZP試料の蛍光顕微鏡写真である。
図26Fは、SaOS-2細胞への曝露後の核を示す、窒化ケイ素コーティングされたY-TZP試料の蛍光顕微鏡写真である。
【
図27A】処理の前後のLDPE基材の蛍光顕微鏡画像に基づいて、オステオカルシン、オステオポンチン、及び細胞核のために使用された蛍光プローブに割り当てられた相対的な表面基材量を示す。
【
図27B】処理の前後のTi6Al4V基材の蛍光顕微鏡画像に基づいて、オステオカルシン、オステオポンチン、及び細胞核のために使用された蛍光プローブに割り当てられた相対的な表面基材量を示す。
【
図27C】処理の前後のY-TZP基材の蛍光顕微鏡画像に基づいて、オステオカルシン、オステオポンチン、及び細胞核のために使用された蛍光プローブに割り当てられた相対的な表面基材量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の様々な実施形態が、以下で詳細に考察される。具体的な実装形態が考察されるが、これは例示目的のみのために行われることを理解されたい。当業者は、他の構成要素及び構成が、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく使用され得ることを認識するであろう。したがって、以下の説明及び図面は、例示的なものであり、限定するものとして解釈されるべきではない。本開示の完全な理解を提供するために、多数の具体的な詳細が記載されている。しかしながら、ある特定の例において、説明が不明瞭となることを避けるため、周知又は従来技術の詳細は説明されない。本開示における1つ又はある実施形態への言及は、同じ実施形態又は任意の実施形態への言及となり得、そのような言及は、実施形態の少なくとも1つを意味する。
【0018】
「一実施形態」又は「ある実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、又は特性が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書の様々な場所における「一実施形態において」という句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指すものではなく、また他の実施形態と互いに排他的な別個の又は代替的な実施形態でもない。更に、いくつかの実施形態によって示され得るが他の実施形態によっては示され得ない様々な特徴が説明される。
【0019】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」、「有する(having)」、及び「含む(including)」という用語は、それらのオープンで非限定的な意味で使用される。「a」、「an」、及び「the」という用語は、複数形及び単数形を包含することが理解される。したがって、「それらの混合物(a mixture thereof)」という用語はまた、「それらの混合物(mixtures thereof)」に関する。
【0020】
本明細書で使用される場合、「約」は、明示的に示されているか否かに関わらず、整数、分数、パーセンテージなどを含む数値を指す。「約」という用語は、概して、例えば、列挙された値の±0.5~1%、±1~5%、又は±5~10%の数値の範囲を指し、これは、例えば、同じ機能又は結果を有する、列挙された値と同等とみなされる。
【0021】
本明細書で使用される場合、「窒化ケイ素」という用語は、Si3N4、α-Si3N4又はβ-Si3N4、β-SiYAlON、SiYON、SiAlON、又はこれらの相若しくは材料の組み合わせを含む。
【0022】
本明細書で使用される用語は、概して、当該技術分野における、本開示の文脈内における、及び各用語が使用される特定の文脈におけるそれらの通常の意味を有する。代替的な文言及び同義語は、本明細書で考察される用語のうちの任意の1つ以上に対して使用され得、用語が本明細書で詳述又は考察されているかどうかが特別に重視されるべきではない。いくつかの場合では、ある特定の用語の同義語が提供される。1つ以上の同義語の列挙は、他の同義語の使用を排除しない。本明細書で考察される任意の用語の例を含む本明細書の任意の場所における例の使用は例示に過ぎず、本開示又は任意の例示的な用語の範囲及び意味を更に制限することを意図しない。同様に、本開示は、本明細書で示される様々な実施形態に限定されない。
【0023】
続く説明において、本開示の追加の特徴及び利点を述べ、一部は、説明から明らかであるか、又は本明細書に開示される原理の実践により知得することができる。本開示の特徴及び利点は、添付の特許請求の範囲で特に指摘される器具及び組み合わせによって実現及び取得することができる。本開示のこれら及び他の特徴は、以下の説明及び添付の特許請求の範囲からより完全に明らかになるか、又は本明細書に記載の原理の実践によって知得することができる。
【0024】
本明細書では、骨結合を刺激するために基材の表面上に適用される、Si3N4粉末を用いたレーザークラッド処理の方法が、提供される。レーザークラッドは、通常、ワイヤ又は粉末の形態で、原料材料を溶融させる高密度レーザー源を使用する。次いで、溶融した材料を使用して、コーティングを生成することができる。産業用レーザー源は、原料材料が、基材の特性を損なうことなく、ミリ秒単位で溶融され得るように、高い電力密度に達し得る。代替的に、レーザー電力は、基材の表面を局所的に溶融させ、それにより、セラミック粒子が、レーザーの影響によって、基材に埋め込まれることを可能にし得る。これにより、ポリマーなどの「軟質」基材上でのレーザークラッドの使用が可能になる。例えば、レーザークラッドを使用して、窒化ケイ素などの生物活性材料を軟質低融点ポリマー上に堆積させることができる。レーザー源の高い粉末密度のおかげで、同じ技術を使用して、生物活性コーティングを生成することもできる。クラッドコーティングは、骨結合を改善し、基材上の感染を防止するために使用され得る。
【0025】
窒化ケイ素は、従来のバイオセラミックスよりも高い機械的性質(硬度、靭性、繰り返し荷重に対する耐性など)と、酸化物系材料では達成できない一連の追加の生物活性効果とを有する。窒化ケイ素は、骨芽細胞分化及び骨組織の産生を刺激する能力と組み合わされた、細菌のコロニー形成に対する耐性を提供し得る。いずれか1つの理論に限定されることなしに、窒化ケイ素の有益な効果は、窒素種(NH3、NH4
+)及びケイ素種(Si(OH)4)の両方の形成及び放出の結果であり得る。窒素部分は、細胞増殖を刺激し、一般的な細菌株を溶解し、ケイ素は、ケイ酸に変換され、ケイ酸が、ミネラル化骨組織の形成に積極的に寄与する。
【0026】
本明細書では、レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有する生物医学的インプラント又は基材、レーザークラッドを使用して、生物医学的インプラント又は基材の表面を窒化ケイ素でコーティングする方法、及びレーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有する生物医学的インプラントを使用して、骨形成を促進する方法が、提供される。
【0027】
生物医学的インプラント又は基材の表面をコーティングする方法は、生物医学的インプラントの表面を窒化ケイ素粉末でレーザークラッドすることを含み得る。いくつかの実施形態では、方法は、生物医学的インプラント又は基材を提供することと、生物医学的インプラント又は基材の少なくとも1つの表面を粗面化することと、粗面化された表面上に窒化ケイ素のコーティングをレーザークラッドすることと、コーティングが少なくとも10μmの厚さを有するまで、レーザークラッドステップを繰り返すことと、を含み得る。レーザークラッド法は、レーザービームを生物医学的インプラント又は基材の粗面化された表面に向けることと、窒化ケイ素粉末を予め塗布することか、又は窒化ケイ素粉末を生物医学的インプラント又は基材の粗面化された表面に同時に向けることと、を含み得る。一例では、基材上の窒化ケイ素のレーザークラッドは、チタンのマトリックス内の窒化ケイ素粒子、及びナノ結晶性ケイ素、並びに非晶質ケイ素に基づく複合コーティングの形成をもたらし得る。
【0028】
生物医学的インプラント又は基材に含まれ得る材料の非限定的な例としては、ポリマー、チタン、チタン合金、アルミナ、ジルコニア、アルミナとジルコニアとの混合物、ステンレス鋼、及びコバルトクロム合金、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及び/又はポリエーテルケトンケトン(PEKK)が挙げられる。様々な例では、生物医学的インプラント又は基材は、ジルコニア強化アルミナ(ZTA)、イットリア安定化ジルコニア(Y-TZP)、チタン(Ti6Al4V)、又は低密度若しくは高密度ポリエチレン(LDPE、HDPE)を含み得る。いくつかの実施形態では、生物医学的インプラントは、歯科用インプラント、人工関節、頭蓋顎顔面インプラント、骨ねじ、骨プレート、骨アンカー、椎間脊椎スペーサ又は足病フットウェッジ(podiatry foot wedge)などの関節固定インプラントであり得る。少なくとも1つの例では、生物医学的インプラントは、歯科用ジルコニア基材であり得る。別の例では、生物医学的インプラントは、チタン人工関節であり得る。別の例では、生物医学的インプラントは、ポリエーテルエーテルケトン脊椎スペーサであり得る。ジルコニア、チタン、又はポリエーテルエーテルケトン基材上への窒化ケイ素粉末のレーザークラッドは、セラミック、金属、又はポリマー基材中に埋め込まれた窒化ケイ素粒子の粗層の形成をもたらし得る。
【0029】
一実施形態では、本方法は、生物医学的インプラント又は基材の少なくとも1つの表面を粗面化することを含み得る。いずれか1つの理論に制限することなしに、表面を粗面化することは、窒化ケイ素粒子が表面に結合する能力を増加させ得る。粗面化することは、基材の表面を研磨することを含み得る。いくつかの例では、基材は、直線パターン、グリッドパターン、又はランダムに引っ掻かれ得る。引っ掻き傷は、ダイヤモンド研磨剤又はガラスカッターダイヤモンドブレードによって形成され得る。一例では、ブレードは、約5μm~約500μmの直径を有し得る。いくつかの実施形態では、生物医学的インプラントの少なくとも1つの表面を粗面化することは、少なくとも1つの表面上に一方向の引っ掻き傷の第1のセットを形成することと、生物医学的インプラントを約90°回転させることと、一方向の引っ掻き傷の第1のセットに垂直な一方向の引っ掻き傷の第2のセットを形成することとを含み得る。引っ掻き傷は、幅約5μm~約500μmであり得る。様々な例では、引っ掻き傷は、約5μm~約50μm、約5μm~約10μm、約10μm~約20μm、約20μm~約30μm、約30μm~約40μm、約40μm~約50μm幅、約50μm~約100μm幅、約100μm~約200μm幅、約200μm~約300μm幅、約300μm~約400μm幅、又は約400μm~約500μm幅であり得る。少なくとも1つの例では、引っ掻き傷は、約25μm幅であり得る。他の実施形態では、生物医学的インプラントの少なくとも1つの表面を粗面化することは、遊離ダイヤモンド研磨剤を使用することか、又は表面を研磨するために使用され得る当該技術分野で既知の任意の機械によってサンドブラストすることを含み得る。遊離砥粒加工又はサンドブラストを使用して、5~30μm幅であり得るランダムな引っ掻き傷を形成することができる。
【0030】
一実施形態では、窒化ケイ素粉末は、α-Si3N4、β-Si3N4、β-SiYAlON、SiAlON、又はSiYONを含み得る。レーザークラッドプロセスで使用される窒化ケイ素粉末は、連続したSiYON粒界相によって分離された針状β-Si3N4粒を含む二相微細構造から形成され得る。窒化ケイ素粉末は、約1μm~15μmの平均粒径に機械的に研磨され得る。
【0031】
一実施形態では、次いで、レーザークラッドを使用して、粉末が、粗面化された基材表面に塗布され得る。
図1は、レーザークラッドを介して窒化ケイ素コーティングを基材に適用するために使用され得る例示的なレーザークラッドシステム100である。いくつかの実施形態では、システム100は、1つ以上のステッピングモータ102と、窒化ケイ素粉末を保持するように動作可能な粉末タンク104と、粉末フィーダ106と、レーザー源108と、窒化ケイ素でコーティングされる1つ以上の基材112を保持するように動作可能なプラットフォーム110と、を含み得る。システム100は、プラットフォーム110及び/又は粉末タンク104並びに粉末フィーダ106をx、y、及び/又はz方向に移動させるように動作可能であり得る。
【0032】
レーザークラッドは、窒化ケイ素を基材に結合するためのレーザーの適用の前に、又はそれと同時に、窒化ケイ素粉末を表面に塗布することを含み得る。レーザービームは、窒化ケイ素粉末が添加される基材表面に溶融プールを生成する。基材上のレーザーの曝露時間は、冷却が迅速であるように、短くてもよい。レーザーの特性は、窒化ケイ素粉末の基材への結合があるように選択され得る。例えば、窒化ケイ素粉末の基材表面への結合を達成する、当該技術分野で既知のレーザータイプ、エネルギー及び電力設定、電圧、パルス、並びにスポットサイズの任意の組み合わせが、使用され得る。少なくとも一例では、レーザー波長は、約1064nmであり、約70ジュールの最大パルスエネルギー、約17kWのピーク電力、約160~500Vの電圧範囲、約1~20msのパルス時間、及び/又は約250~2000μmのスポットサイズを有し得る。いくつかの実施形態では、レーザークラッドは、窒化ケイ素の分解及び酸化を制限するために、インプラントの表面に窒素ガスの一定の流れを供給することを更に含み得る。
【0033】
クラッド層の形態及び化学量論は、印加電力の関数であり得、その量は、基材材料の性質及び組成に依存し得る。いずれか1つの理論に制限することなしに、印加される電力が高いほど、そこのケイ素の量が高く、レーザークラッド窒化ケイ素コーティングにあり得る(例えば、ケイ素豊富な窒素欠乏性コーティング)。特に、窒素含有量は、約42at.%~約70at.%の範囲で、レーザークラッドコーティング内に存在し得る。ケイ素豊富な窒化ケイ素レーザークラッドコーティングでは、コーティングは、約42at.%~約56at.%の窒素を有し得る。例えば、より高い電力は、レーザークラッド窒化ケイ素コーティング内のナノ結晶性ケイ素のより豊富な存在をもたらし得る。ケイ素は、骨形成において重要な役割を果たし、実際、ケイ素イオンは、新しい骨の石灰化に寄与する。例えば、チタン上のクラッド内のケイ素イオンの増加及び表面粗さの増加は、細胞及び骨マトリックスのより均一な分布をもたらし得る。
【0034】
非限定的な例として、特定のレーザー電力設定及びラスター速度が、チタンへの窒化ケイ素の適切な埋め込みをもたらすことが偶然見出された。5,500mm/sのラスター速度でナノ秒パルスを放射するように特に調整された100ワットのピコ秒レーザー光源を使用して、1つの好ましい電力レベル及びパルス幅が、それぞれ、10%~25%及び20~500μmであることが見出された。より好ましい電力レベル及びパルス幅は、それぞれ、15%~25%及び20~500μmであり、最も好ましい電力レベル及びパルス幅は、それぞれ、25%及び200~500μmであった。電力及びパルス幅の設定に加えて、レーザーパルス周波数、ハッチング距離、ハッチングオーバーラップ、及び衝撃の距離が、全て、好ましい窒化ケイ素コーティングを得る上で重要な役割を果たしたことも偶然見出された。ハッチング距離は、ラインが(レーザービーム経路に直交に)書かれるときの分離であり、衝撃の距離は、ビーム経路に平行な個々のパルス位置の中心間の隔離距離である。パルス周波数の好ましい範囲は、110~1000kHzであり、最も好ましい周波数は、1000kHzである。好ましいハッチング距離は、0.03~0.05mmであり、最も好ましいハッチング距離は、0.03mmである。最も好ましいハッチングオーバーラップは、60.34%である。好ましいレーザー衝撃の距離は、0.05~0.0055mmであり、最も好ましい距離は、0.0055mmである。
【0035】
レーザー及び粉末の適用は、均質なコーティングを得るために、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、又は最大5回繰り返され得る。いくつかの例では、窒化ケイ素のレーザークラッドコーティングは、少なくとも5μm、少なくとも10μm、少なくとも15μm、少なくとも20μm、少なくとも25μm、又は少なくとも30μmの厚さを有し得る。コーティングは、約5重量%~約15重量%の窒化ケイ素を含み得る。
【0036】
クラッドコーティングは、骨結合に有効であり得る。クラッド層は、骨形成に寄与し得、特にTi6Al4V基材に対して、グラム陽性細菌に対する様々な程度の保護を提供し得る。一実施形態では、骨形成を促進する方法は、レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有する生物医学的インプラント又は基材をヒト組織と接触させることを含み得る。いずれか1つの理論に制限することなしに、変更された組成(準化学量論的窒素含量)及びクラッドの結晶構造が、モノリス材料と比較したときに、細胞増殖及び表面コロニー形成の低減をもたらし得る。驚くべきことに、窒化ケイ素クラッドは、クラッドを有しない基材よりも、それらが同様の細胞増殖の値を有し、かつ蛍光顕微鏡で観察されたときにより高い表面コロニー形成も有した場合であっても、有意に高い量の骨組織の形成を誘発した。
【0037】
いくつかの実施形態では、骨組織産生は、レーザークラッド窒化ケイ素コーティングを有しないインプラントと比較して、窒化ケイ素レーザークラッド生物医学的インプラント上で増加する。例えば、窒化ケイ素レーザークラッド生物医学的インプラントは、増加したオステオカルシン及びオステオポンチン分布を有し得、骨組織は、より高い程度の架橋を有し得、及び/又はインプラントの表面上のミネラルヒドロキシアパタイトの増加などの増加したミネラル化組織を有し得る。レーザークラッドコーティングは、骨組織の刺激に寄与する。例えば、非コーティングのジルコニアと比較した場合、窒化ケイ素クラッドは、ラマン分光法によって測定されるより高い成熟度及び全体的により良好な品質パラメータを伴う、向上した細胞接着及び骨組織形成を提供し得る。Si3N4粉末フィーダ及びレーザービーム源のみに基づいたレーザークラッド技術の柔軟性が、この技術を複雑なコンポーネント設計にも適したものにしている。
【実施例】
【0038】
実施例1:イットリア安定化ジルコニア試料の窒化ケイ素レーザークラッド
試料製造
3%のイットリアを含有するイットリア安定化ジルコニア試料を、商業的生産者から入手した。研磨及び粉末化された窒化ケイ素ディスク(直径12mm、厚さ1mm)が、SINTX Corp.によって提供された。材料は、Si-Y-O-N粒界相の連続したサブマイクロメートルサイズのフィルムによって分離された針状β-Si3N4粒を含む二相微細構造からなった。セラミック粉末を得るために、粗粉末を平均粒径15μmに機械的に研磨した。
【0039】
さもなければ滑らかなジルコニア基材上に「粗面化効果」をもたらすために、ガラスカッターダイヤモンドブレード(先端直径:25μm)を使用して、20±5Nの印加荷重下で、表面を研磨した。表面が一方向の引っ掻き傷によって覆われると、引っ掻き方向を約90°回転させて、操作を繰り返した。
【0040】
全体的なレーザー焼結手順及びシステムの概略図が、
図1に提示されている。Si
3N
4クラッドを達成するために適用された条件は、以下、レーザー波長1064nm、最大パルスエネルギー70ジュール、ピーク電力17kW、電圧範囲400V、パルス時間4ms、スポットサイズ2mmであった。装置は、Si
3N
4の分解及び酸化を制限するために、窒素ガスの一定の流れ下で動作した。基材の表面全体にわたって15±5μmの厚さを有する均質なコーティングを得るために、この操作が、3回繰り返された。10μmの横方向精度を有する電動式x-yステージを使用して、試料をレーザー源に整列させた。
【0041】
顕微鏡検査及び分光検査
顕微鏡写真は、10倍~150倍の範囲の倍率、及び0.30~0.95の開口数を有する3Dレーザー走査顕微鏡を使用して撮影した。顕微鏡は、自動化されたx-yステージ及びz範囲のオートフォーカス機能を使用し、合成画像の取得を可能にした。表面粗さ値は、20倍の倍率で得られ、500×500μmの領域で10回の測定の平均を行った。
【0042】
図2A~2Dは、粗面化された基材(
図2C)及びSi
3N
4レーザークラッドコーティングの適用後の対応する表面(
図2B及び2D)と比較した、研磨されたままのジルコニア表面(
図2A)の表面の形態を示す。レーザークラッドプロセスは、部分的に埋め込まれたSi
3N
4粉末粒子が依然として明確に可視であり、2つの異なるオーダーの粗さ、すなわち、コーティング厚さの「巨視的な」局所的可変性と、粉末粒子の突出に起因する微視的な荒れとをもたらす粗い表面を生成した。粗面化プロセスは、コーティングの適用後に明確に可視である、最大約50μmの深さを有する、配向された傷跡の形成をもたらした(
図2D)。
【0043】
低倍率では、亀裂の網が、コーティングされた研磨されたジルコニア試料上に観察された(
図3)。亀裂の形状及びトポグラフィは、コーティング上での圧縮応力による座屈現象の存在と関連付けられる可能性が高い。3つ以上の隆起亀裂の交点(黒色矢印)では材料のごく一部しか欠損していないので、亀裂が大規模なコーティング層間剥離をもたらさなかったことが、観察された。固化中に発生する圧縮残留応力は、様々な相の熱膨張係数の差に起因する可能性が高い。粗面化プロセスをクラッドの前に適用することが、応力集中を低減し、コーティングの接着性を向上させ、それにより、亀裂の形成を防止するのに役立った。
【0044】
図4は、50倍の倍率を使用して、異なる試料上で測定された表面粗さ値を示す。粗面化プロセスが、レーザークラッド後に達成されたものと同等の値をもたらすことが観察された。研磨されたジルコニア基材又は粗面化されたジルコニア基材のいずれかに適用されたレーザークラッドコーティングの表面粗さには、統計的に関連する差異はなかった。
【0045】
電界放出銃走査型電子顕微鏡を使用して、細胞培養の前後に、試料の表面を観察及び特性評価した。全ての画像は、10kVの加速電圧及び100倍~50,000倍の範囲の倍率で、収集された。全ての試料を、白金の薄い(20~30Å)層でスパッタコーティングして、それらの電気伝導性を向上させた。結晶学的分析を、電子線後方散乱X線回折(EBSD)検出器を有する走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、実行した。
【0046】
図5A及び5Bは、クラッドプロセスに使用されたSi
3N
4粉末のSEM画像を示す。粒は、約300nm~最大数μmの鋭い多角形であることが観察された。
図5Cは、SEMソフトウェアを使用して得られたいくつかの代表的な厚さ値を有するコーティング断面の等角図を示す。250個の単一測定値の平均からの厚さ分布が、
図5Dに提示されている。
【0047】
図6A~6Dは、レーザークラッドの前後の粗面化されたジルコニア基材の表面を、異なる倍率で示す。
図6Aでは、引っ掻き傷は、ほぼ90°の差を有する2つの主な配向を有する。これは、コーティングの均一な接着性を達成し、優先配向を回避するための最良の条件として選択された。より高い倍率(
図6B)では、粗面化プロセスが小さなデブリの形成をもたらしたことが観察され、その量は、相対的な摩耗の深さとほぼ相関した。コーティングについては、低倍率分析(
図6C)は、概して良好な基材被覆率を示し、小さな亀裂又は粒間空隙のように見える局所的な欠陥のみがあった。より高い倍率(
図6D)では、コーティングは、表面から突出し、古典的な「カリフラワー形態」を形成するミクロン及びサブミクロンの球状粒子の分散を有する複合構造を示した。
【0048】
電荷結合素子(CCD)検出器を有するトリプルモノクロメータを使用して、ラマンスペクトルを室温で収集した。スペクトルを、市販のソフトウェアによって分析した。本実験における励起源は、200mWの公称電力で動作する532nmのNd:YVO4ダイオード励起固体レーザーを使用した。100μmの開口径を有する共焦点ピンホールを光学回路内に配置して、照射された体積内の焦点外れの領域から散乱された光子を除外することによって、プローブを数μm程度の深さに浅くした。ラマンマイクロプローブの横方向の分解能は、1μm程度であった。自動化された2軸試料ステージを採用して、試料表面の上(又は下)に焦点を合わせることにより所与の深さでスペクトルマップを記録すること、及び高い横方向の分解能でスペクトルをマッピングすることを可能にした。各試料について、25個のランダムな位置を調査し、得られたスペクトルを平均化した。全てのスペクトルを後処理して、ベースラインを除去し、移動平均フィルタでノイズを低減した。ガウス曲線にフィットさせた後、特定のバンド(コラーゲンについては1658及び1691cm-1、炭酸アパタイトについては1070cm-1、及びリン酸アパタイトについては961cm-1)の強度を使用して、コラーゲンの成熟度、リン酸塩/炭酸塩比、及びミネラル対マトリックス比を評価した。
【0049】
異なる試料のラマンスペクトルが、
図7に提示されている。研磨された基材は、100%正方晶ジルコニアであることが見出された。粗面化後、約180及び192cm
-1に、単斜晶ジルコニアに関連する2つの小さなピークが現れた(「*」でマークされている)。単斜晶ジルコニアの総量を、片桐方程式を使用して、ラマン分光法により推定した。予想通り、この値は、引っ掻き傷間の研磨領域では0%であったが、ダイヤモンドブレードの引っ掻き傷の結果として、最大3%に達した。表面全体の平均値は、0.55±0.22%であった。
【0050】
コーティングされた試料のスペクトルは、Si-Si振動に関連付けられる約520cm-1の強いバンドが、支配的であった。(より低いラマンシフトに対する)バンドの非対称性は、非晶質ケイ素マトリックス内に閉じ込められた、様々な平均直径を有するケイ素のナノ結晶ドメインに起因するサブバンドの領域(「#」としてマークされている)の存在によって引き起こされた。それらのより小さいラマン断面に起因して、残留Si-N結合は、化学量論的β-Si3N4の参照スペクトルとの比較によって確認されるように、150~250cm-1の領域内の3つのバンド内でのみ観察された。
【0051】
ラマン分光法によるジルコニア上のレーザークラッド窒化ケイ素層の組成の分析は、520cm-1におけるSi-Si結合に関連するピークに近い一連のサブバンドの存在を示した。これらのサブバンドがサブミクロン粒の存在を示す場合でも、ラマン散乱だけで、結晶子の大きさ、割合、及び分布に関する明確な情報を提供することができる。電子線後方散乱X線回折を使用して実行された追加の調査も、レーザークラッド層のマトリックスの結晶構造を解明して、非晶質/ナノ結晶仮説を裏付けることができなかった。
【0052】
図8A~8Dは、コーティングされた試料上で測定されたケイ素、酸素、窒素、及びジルコニウムのXPSスペクトルを示す。
図8Eは、
図8A~8Dの定量化である。ケイ素の信号が、金属ケイ素(100eV)、窒化ケイ素(102.5eV)、及び酸化ケイ素(104eV)の3つの主バンドに逆畳み込みされた。窒化ケイ素は、ケイ素含有量の約28%しか占めず、酸化ケイ素が、約533.5eVでのスペクトルによっても確認され、酸素(1s)結合に関係付けられるように、最も強い信号であることが観察された。堆積は、一定の窒素の流れ下で実行されたので、考えられる初期酸素源は、粉末内に閉じ込められたガス、又は酸化ケイ素若しくは酸窒化ケイ素の形態で窒化ケイ素に化学的に結合したガスに限定された。堆積後、最外層の金属ケイ素(Si-Si)が、湿潤雰囲気と自発的に反応して、酸化ケイ素の薄く均一な層の形成をもたらした。ケイ素-窒素-酸素結合の存在も、約400eVにおける窒素(1s)のスペクトルによって確認された。化学量論的窒化ケイ素(400eV)及び部分酸化(398eV)から生じる6-N-Ox相の2つの主なピークが、観察された。最後に、XPS(185~187eV)によって検出された全てのジルコニウムイオンは、酸素と結合しているように見え、そのような信号の唯一可能な源が、残留した露出した基材であったことを意味する。
【0053】
XPS分析は、層の組成及び化学構造についての更なる洞察を与えた。観察されたように、ケイ素の一部のみが、窒素原子に結合した。ケイ素のほとんどは、おそらく堆積中の環境への曝露に起因して、酸化された。酸窒化ケイ素の中間相は、約398eV(N1s)で観察された。これらの知見は、Si豊富な窒化ケイ素の酸化によって調製された酸窒化ケイ素の結合構造、及び酸化環境に曝露されたときの混合窒化物/酸化物相の自発的な形成を裏付ける。
【0054】
X線回折(XRD)分析が、Cu源を備えたベンチトップ型MiniFlex 300/600回折計を使用して、2θ/θ構成で実行された。2θの範囲は、0.01°のステップで、10~90°の間に含まれた。
【0055】
ジルコニア基材及びコーティングされた試料のXRDパターンが、
図9に提示されている。ジルコニアは、純粋な正方相であることが観察された。コーティングが適用されると、回折パターンの全体的な形態は、約35°、60°、更にまた84°における2つのピークの相対強度の変化を伴って、基本的に不変であり、これは、粒の優先配向を示した。回折パターンを10倍又は20倍高めると、β-Si
3N
4に関連する二次バンドが現れた。
図9では、コーティングからの他の寄与は観察されず、層が、実際にはほとんど非晶質又はナノ結晶性ケイ素であることを示唆している。EBSDによって実行された断面分析の結果(挿入図)により、マトリックス中に分散したSi
3N
4のミクロン及びサブミクロン結晶の存在(黄色)が確認され、コーティングがほとんど非晶質又はナノ結晶性相によって形成されるという仮説を更に裏付けた。
【0056】
生物学的試験及びアッセイ
10%ウシ胎児血清を補充した4.5g/LのグルコースDMEM中で、SaOS-2ヒト骨肉腫細胞を培養及びインキュベートした。次いで、細胞を、ペトリ皿中で24時間、37℃で増殖させた。最終細胞濃度を5×105細胞/mlに調整した後、培養細胞を、UV光への曝露によって予め滅菌されたSi3N4コーティングされたZTA基材、及び非コーティングのZTA基材(各n=3)の表面に堆積させた。細胞を骨形成培地(50μg/mLのアスコルビン酸、10mMのβ-グリセロールリン酸、100mMのヒドロコルチゾン、及び約10%のウシ胎児血清を補充したDMEM)に播種し、次いで、試料を37℃で7日間インキュベートすることにより、骨導電性試験を実施した。培地を、インキュベーションの週中に2回交換した。
【0057】
基材の細胞毒性を観察及び比較するために、試料を、水溶性テトラゾリウムに基づく比色アッセイを使用して、分析した。この技術は、水溶性ホルマザン色素を生成した比色指示薬(WST-8)の採用に基づく。生成されたホルマザン色素の量は、生きている微生物の数に正比例した。生細胞のOD値を収集した後、マイクロプレートリーダーを使用して、溶液を分析した。
【0058】
図10は、WST-8アッセイの使用を伴って実行された生存率試験の結果を示す。10日間の曝露後のジルコニア試料及びレーザークラッド表面上の細胞の量が類似していることが、観察された。しかしながら、窒化ケイ素参照試料上で測定された光学密度は、有意により高く、より多くの細胞が、その表面にコロニーを形成したことを意味した。化学量論的Si
3N
4と比較したときの、レーザークラッドコーティングに対する異なる細胞応答は、表面上の利用可能な窒素の異なる量に起因する。
【0059】
レーザークラッド層の構造は、ベース原料材料とは全く異なるため、SaOS-2骨肉腫の細胞応答は、化学量論的窒化ケイ素又は窒素でアニールされた窒化ケイ素について以前に観察されたものから逸脱する。水溶性テトラゾリウムを使用して実行された生物学的アッセイ試験は、化学量論的窒化ケイ素が、細胞増殖を効率的に刺激する一方で、レーザークラッドは、ジルコニアなどの生体不活性材料と同等であることを示した。
【0060】
骨芽細胞への曝露後、蛍光顕微鏡検査を使用して、各バッチの試料を観察した。検査の前に、試料表面を、Hoechst 33342、anti-Human Osteocalcin Clone 2H9F11F8、Isotype IgG、ウサギポリクローナル抗体を含む異なる免疫染色試薬で処理した。細胞核染色剤であるHoechst 33342は、細胞増殖を可視化する役割を果たした一方、他の2つの抗体は、濃度がミネラル化及び骨マトリックス形成のプロセスを定量化する、マトリックスタンパク質オステオカルシン及びオステオポンチンをそれぞれ染色するために使用された。続いて、二次抗体、Goat anti-Mouse IgG1 Antibody FITC Conjugatedを添加して、信号検出及び可視化を強化した。画像を、4倍の倍率を使用して収集し、その後、異なる染色剤の存在に関連するピクセル数をカウントするために、イメージングソフトウェアによって分析した。
【0061】
図11は、SaOS-2骨肉腫細胞で10日間処理した試料に対する蛍光顕微鏡検査の結果を示す。化学量論的窒化ケイ素を、陽性対照として使用した。窒化ケイ素上の細胞の増殖が、ジルコニア上よりも高かったことが観察された。粗面化された試料も、概して、滑らかな表面と比較して、より高い細胞接着性を示したが、コーティングされたジルコニアが、表面全体にわたって細胞核の均一な分布を示すことができる唯一の試料であった。更に、オステオカルシンレベル及びオステオポンチンレベルの両方が、コーティングされた試料上で、滑らかなジルコニア及び粗いジルコニアの両方とも、より高かった。化学量論的窒化ケイ素と比較した場合、コーティングされた試料は、より低い細胞増殖を示し、結果として、オステオカルシン及びオステオポンチンからのより低い信号を示した。染色に関連する面積被覆率が測定され、
図12に報告されている。その結果、窒化ケイ素陽性対照が、マトリックスタンパク質の最も高い合成を伴って、最も高い細胞量を提示することが確認された。滑らかなジルコニア試料は、ミネラル化したマトリックスの形成に関連する最も低い比率を示した。
【0062】
蛍光顕微鏡画像は、オステオカルシン及びオステオポンチンの両方の分布によって証明されるように、純粋なジルコニア試料と比較して、レーザークラッド表面に対して骨組織の産生の増加を示した。両方のタンパク質は、骨組織の存在と関連付けられ、それらの効果は相乗的であると考えられるが、オステオカルシンが、主にミネラル化した組織で観察される一方、オステオポンチンは、多くの場合、骨再形成と関連付けられることに留意されたい。両方について、蛍光の量は、粗いジルコニア試料と参照窒化ケイ素試料との間の中間である。これらの結果は、巨視的結晶と比較したときに、非晶質及びナノ結晶源からのケイ素の高いバイオアベイラビリティによって説明され得る。
【0063】
図13は、600~1800cm
-1の領域における、SaOS-2骨肉腫試験後に、レーザークラッドされた粗いジルコニア試料の表面上で取得された代表的なラマンスペクトルを示す。この領域は、大まかに4つのエリアに分けられる。600~1000cm
-1の第1の領域は、約960cm
-1におけるリン酸塩振動に関連する強いピークによって支配される。1200~1400cm
-1の第2の領域は、アミドIII振動と関連付けられる。1400~1650cm
-1の領域における低強度バンドは、脂肪酸に割り当てられる一方、1590cm
-1におけるより強いバンドは、アミドIIと関連付けられる。最後に、1660及び1690cm
-1における2つの比較的弱いピークは、アミドI振動の結果である。
【0064】
定性的であっても、レーザークラッド層上に形成された骨組織上でラマン分光法によって得られた品質パラメータは、骨コラーゲンマトリックス内で達成された架橋の値によって示されるように、健常な骨に匹敵し、良好な成熟度を示す。
【0065】
図14は、約1660及び1690cm
-1におけるバンドの強度の比較に基づいて、4つの試料のコラーゲン成熟度比を示す。滑らかなジルコニア及び粗いジルコニアの両方の上に骨肉腫細胞によって育成された骨組織のコラーゲン成熟度比は、比較的小さく、低レベルの架橋及び高量の還元性コラーゲンを表すことが観察された。窒化ケイ素試料及びレーザークラッド試料上で成長した組織は、より速い骨形成発達と関連付けられる、より高い架橋の程度を有した。
【0066】
図15は、それぞれ約1078及び960cm
-1における、炭酸塩に関連する主ピークとリン酸塩振動に関連するピークとの間の比率として表される骨ミネラル相の質の推定を示す。ジルコニア基材上に形成された炭酸ヒドロキシアパタイトの量は、化学量論的窒化ケイ素及びレーザークラッドコーティング上よりも低いことが観察された。特に、研磨されたジルコニア基材の結果が、炭酸塩対リン酸塩パーセンテージ値の理想的な範囲(7~9重量%)外であった一方、粗面化されたジルコニアは、かろうじて最小値に到達した。
【0067】
図16は、約1660cm
-1における非還元性コラーゲンに関する、リン酸イオン振動と炭酸イオン振動との間の比によって推定されたミネラル対マトリックス比を示す。両方の比率の最小値は、黒い点線でマークされている。試験した4つの検体のうちの3つが、両方の要件を満たし、唯一の例外が、炭酸塩対非還元性コラーゲン比が最小値未満であった、研磨されたジルコニア表面である。最良のスコアは、閾値をはるかに上回る比率を示した、窒化ケイ素参照で得られた。粗面化されたジルコニア及びレーザークラッドジルコニアは、中間値を示して、両方の必要条件をかろうじて満たし、粗面化されたジルコニアは、より強いリン酸塩バンドを、レーザークラッドは、より強い炭酸塩バンドを有した。
【0068】
実施例2:LDPE、Ti6Al4V、ZTA、及びY-TZPの窒化ケイ素レーザークラッド
試料製造
本実施例では、Si3N4バルク試料が、生物学的試験の陽性対照として使用され、前述の手順に従って調製された。窒化ケイ素粉末(0.8±1.0μmの平均サイズを伴う三峰性分布を有した)を、SINTX Technologies Corporationから得た。
【0069】
低密度ポリエチレン(Mw約35,000)粉末を、10Paの圧力及び150℃の温度で真空オーブン内で溶融させ、30×50×5mmのプレートに成形した。次いで、プレートを10×10×5mmの試料に切断し、約500nmRaの粗さに研磨した。
【0070】
25mmの直径を有する、アニーリングされた医療グレードのTi6Al4V(Al6%、V4%、C0.10%未満、O0.20%未満、N0.05%未満、Fe0.3%未満)ロッドを5mm厚のディスクに切断し、約500nmRaの粗さに研磨した。
【0071】
ジルコニア強化アルミナ(ZTA)試料を、40mm径のCeramTec Biolox(登録商標)delta大腿骨頭をスライスして10×10×5mmブロックを得ることによって、得た。手順中の単斜晶ジルコニアの変態を最小限に抑えるために、切断は、2mmのダイヤモンドコーティングされたブレードを0.5mm/分で回転させて実行した。2016年に生産された大腿骨頭は、切断前に、約6%の単斜晶ジルコニア体積分率を有した。
【0072】
イットリア安定化ジルコニア(Y-TZP)試料を、3mol%のイットリア(Y2O3)と0.25重量%のアルミナ(Al2O3)とを含有する完全に緻密化した3Y-TZPバー(9×4×3mm)から得た。これらの試料は、(1350℃での)無加圧焼結に続く熱間静水圧プレスサイクル(1350℃で1時間)を使用して生の粉末から作製され、約0.2μmの平均粒径を有した。
【0073】
自動x-yステージ(横方向分解能:10m)を有するVision LWI VERGO-Workstation Nd:YAGレーザー(波長1064nm、最大パルスエネルギー70ジュール、ピーク電力17kW、電圧範囲160~500V、パルス時間1~20ms、スポットサイズ250~2000μm)を使用して、窒化ケイ素コーティングを生成した。様々な基材材料上で均質なコーティングを達成するために、レーザー源パラメータ及び層の数を、各処理の前に、試行錯誤を通じて調整した。パルス時間が、表面の過熱(及びチタンの微細構造の変化)又は燃焼を低減するように最適化された一方、電圧は、第1のクラッド層上の表面の少なくとも約33%の被覆率を与えることができる最低値として選択された。最適化されたパラメータが、表1に列挙されている。
【表1】
【0074】
約50μmの厚さの窒化ケイ素粉末の層を試料の表面上に予めコーティングし、次いで、一定のN2ガス流(1.5atm)下で、2mmのレーザースポットサイズで加熱した。全ての表面基材を被覆するために、ステージは、単一のレーザースポットを重ね合わせ、より均質な層を作製するために、1mmのステップでx-yステージ上を移動した。
【0075】
ZTA、Y-TZP、及びTi6Al4Vについては、完全な被覆率を達成するために、3つのクラッド層が必要であった。次の層を堆積させる前に、基材を90°回転させて、交差グリッドを形成した。しかしながら、レーザーが、ポリエチレンを容易に溶融及び酸化させるので、LDPE基材には、1層しか塗布しなかった。第2の層の試みは、ポリマーの炭化をもたらした。
【0076】
試料の特性評価
ラマンスペクトル及びラマンマップは、532nmグリーンラインの励起周波数を有し、400 1340ピクセルの電荷結合デバイス(CCD)カメラを備えたRAMANtouch計器を使用して、室温で収集された。市販のソフトウェア(Raman Viewer、Laser RAMAN Microscope)を使用して、全てのデータを分析した。
【0077】
深度選択性を有する、高解像度光学撮像が可能な共焦点走査型レーザー顕微鏡を使用して、表面形態を特性評価した。全ての画像は、50倍の倍率で収集した。各試料の粗さは、25個のランダムな位置で測定した。
【0078】
走査型電子顕微鏡法(SEM)及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)を使用して、高倍率画像及び試料の化学組成マップを取得した。
【0079】
表面粗さは、抗菌特性の基本的な役割を果たすので、堆積の前後の表面形態を検討及び比較した。
【0080】
図17A~17Hは、全ての試料の表面粗さを増加させた処理であるレーザークラッドの前後の試料表面を示す。LDPEプレートの調製表面仕上げの粗さは、当初、Ra=0.30±0.02μmの範囲であった(
図17A)。この粗さは、処理後、Ra=0.81±0.28μmまで増加した(
図17B)。
【0081】
Ti6Al4Vの場合、Ra=0.63±0.09μm(
図17C)の初期表面粗さは、いずれかのセラミック基材上で測定されたものよりもはるかに高い値であるRa=11.23±1.11μm(
図17D)に増加した。この効果は、Ti6Al4V基材の局所的な溶融によって引き起こされ、これにより、コーティング-基材界面の形態の変化、及びα相の形成をもたらした。
【0082】
ZTAの場合、部分的に溶融した粒子の存在に起因して、粗さが、Ra=1.02±0.02μm(
図17E)からRa=4.59±1.29μmに変化した。これは、
図17Fに明確に可視である。
【0083】
Y-TZP試験バーは、レーザークラッド前に研磨されたため、それらの初期表面粗さはより低く、Ra=0.02±0.01μmであった(
図17G)。これが、レーザー処理後、Ra=1.27±0.42μmに増加した(
図17H)。
【0084】
LDPE基材上では、Si
3N
4クラッド下(
図18A)及び断面画像上(
図18B)のLDPEマトリックス、並びにLDPEマトリックス内のSi
3N
4粒子貫入が、可視である。窒化ケイ素粒子は、LDPEと比較して、1064nmでより高い吸光度を有するため、セラミック粒子が熱くなって、ポオリマー基材を局所的に溶融させ、LDPE内への窒化ケイ素の組み込みをもたらす。結果として、225Vでは、加熱された粒子が、350~450℃で生じる可視である分解を引き起こすことなく、LDPEを溶融させる(約120℃で)。
【0085】
Ti6Al4V基材上では、窒化ケイ素コーティングは、
図18Cで観察されるように、より均質である。青色の信号(チタン)が依然として存するが、他の元素と混合されると、ラベンダー色に変わる。Ti6Al4V試料の断面(
図18D)では、基材とクラッド層とを区別することが可能である。Si-Ti金属間化合物の時折の形成(矢印を参照)のみが明らかである。更に、コーティングは、金属的な外観を有するケイ素豊富な(赤色)層と、窒素信号が依然として強いSi
3N
4結晶(緑色)の微細な分散を有する層との2つの異なる相から構成される。
【0086】
セラミック基材上のレーザークラッドは、部分的に溶融したケイ素粒からなる、類似の形態を有するコーティングをもたらした(
図18E及び18F)。ZTA及びY-TZP基材の高い融点及び低い表面粗さに起因して、クラッド層は、基材と強く結合せず、部分的な層間剥離をもたらした。以前、基材が、ダイヤモンドチップペンを使用して予め引っ掻かれると、結合強度の増加が観察された。Y-TZPの予め引っ掻かれた基材の断面画像(
図18G)は、LDPE基材及びTi6Al4V基材の両方と比較した場合に、均質な層を示す。
【0087】
レーザー処理が、窒化ケイ素粉末をケイ素相に変換し、更に非晶質相にも変換した。レーザークラッドは、レーザークラッドが適用される基材の形態を変化させるが、最終的な粗さ値は、初期表面粗さよりも材料の物理的特性及び印加される電力に依存しているように見える。例えば、同様の初期表面粗さを有する2つの試料、Ti6Al4V及びジルコニア強化アルミナ(ZTA)は、処理後に全く異なる形態を示した。しかしながら、ZTA(粗)画像と純粋なジルコニア(研磨)画像とを比較することによって観察されたように、初期表面粗さは、クラッド層の接着に役割を果たした。当初、滑らかな表面は、コーティングの部分的な層間剥離をもたらした。印加された電力も、クラッド層の組成と相関され得、より高い値は、より低い窒素の保持をもたらした。
【0088】
図19A~19Dは、窒化ケイ素粉末でコーティングされたLDPE基材上で取得されたラマンマップを示す。
図19Aは、明確に可視である窒化ケイ素粒子を有する表面の光学形態を提示する。カラー画像は、ラマン信号の逆畳み込みによって得られ、
図19B(黄色のマップ)は、LDPE相(1300cm-1のバンドに基づく)分布を、
図19C(赤色のマップ)は、窒化ケイ素(200cm-1のバンドに基づく)の分布を表す。ラマンスペクトル(
図19D)により、520cm
-1領域内の窒化ケイ素粒子の存在が、確認された。これは、Si-Si結合に関連していた。ラマンスぺクトルにより、窒化ケイ素粒子の組成が本質的に化学量論的であることも、確認された。
【0089】
図20A~20Dは、Ti6Al4V基材上で取得されたラマンイメージングの結果を示す。この場合、窒化ケイ素粉末は、レーザークラッドプロセス中に分解を受けた。
図20A(青色及び緑色の画像)は、非晶質ケイ素相(約495cm
-1の肩部)及び結晶性ケイ素相(約520cm
-1)の分布を示す(
図20D)。
図20C(赤色の画像)は、約200cm
-1におけるトリプレットピークの存在によって推定されるように、窒化ケイ素相が依然として存在する領域を示す(
図20D)。赤い領域は、小さな窒化ケイ素結晶が明確に可視である光学像領域に対応する。
【0090】
図21A~21Fは、2つのセラミック基材上で得られたラマンイメージングの結果を示す。両方の材料について、青色/緑色の組成マップ(
図21B及び21E)は、表面全体を覆う非晶質及び結晶性ケイ素信号を示す。ZTAの場合、2つの相は、約60%の非晶質信号を伴って等しく分散する一方、Y-TZPの場合、結晶相は、80%の非晶質相を伴って、いくつかのスポットに局在する。両方の材料は、化学量論的に類似の残留Si
3N
4粒子分散を示した(
図21C及び21F)。
【0091】
異なる基材について得られたラマン分光画像は、表面からの窒素の放出に起因して形成されたSi-Si結合の存在に関連する約520cm-1での強い信号の出現を示した。スペクトル上の位置に応じて、Si-Si結合は、非晶質ケイ素又はナノ結晶性ケイ素の存在と関連付けられ得、後者は、より高い電力設定でより多く存在する。
【0092】
図22は、各材料についての印加電力に対する定性的なSi-Si結合依存性(XPSによって測定される)を示す。印加電力が特定の閾値未満である場合、コーティングは、基材に接着せず、粉末は、レーザービームによって散乱される。閾値は、融点及び吸光度係数などの材料の物理的特性に依存する。ポリマーのクラッドは、マトリックスの溶融に起因して、比較的低い電力レベルで達成された。これは、実質的に化学量論的コーティングをもたらす。セラミックスの場合、コーティングは、堆積するために、より高い印加電力を必要としたが、コーティングの化学量論は、ケイ素豊富相に変化した。金属も、セラミックコーティングを表面に付着させるために、高い電力を必要とするが、この電力は、高含有量のケイ素豊富なコーティングの形成を伴って、金属基材を溶融させる。
【0093】
生物学的試験
抗菌性研究pfグラム陽性S.epidermidisを使用した試料。Staphylococcus epidermidis(14990(登録商標)ATCCTM)細胞を、37℃のハートインフュージョン(HI)ブロス内で18時間培養し、ブレインハートインフュージョン(BHI)寒天培地を使用したコロニー形成アッセイによって滴定した。1×107個の細菌のアリコートを、10μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で、生理的pH及びイオン強度で希釈した。試料は、予備的な紫外線滅菌を受け、ウェルに分配された。各ウェルに1mLの細菌培養液を添加し、試料を37℃で、好気条件下で12、24、及び48時間インキュベートした。
【0094】
微生物生存率アッセイキット(WST-8)からのテトラゾリウムベースアッセイを使用して、細胞生存率を評価した。Staphylococcus epidermidisを有する基材を、培養後24及び48時間で収集し、12ウェルプレート中のPBS1000μL中に浸漬した。各ウェルにWST-8溶液を添加し、30~60分間のインキュベーション後に、プレートリーダーEMaxを使用して光学密度(OD)値を測定した(490nmでの吸光度)。
【0095】
骨導電性を試験するために、SaOS-2ヒト骨肉腫細胞を使用した。最初に、10%ウシ胎児血清を補充した4.5g/LのグルコースDMEM(D-グルコース、L-グルタミン、フェノールレッド、及びピルビン酸ナトリウム)中で、SaOS-2ヒト骨肉腫細胞を培養及びインキュベートした。これらの細胞をペトリ皿内で、37℃で約24時間増殖させた。最終的なSaOS-2濃度は、5×105細胞/mLであった。次いで、培養細胞を、UV-C光に30分間曝露して予め滅菌した試料の上面に堆積させた。骨導電性試験において、細胞播種は、約50pig/mLのアスコルビン酸、10mMの13-グリセロールリン酸、100mMのヒドロコルチゾン、及び約10%のウシ胎児血清を補充したDMEMからなる骨形成培地で行われた。試料を37℃で最大14日間インキュベートした。培地を、培養期間中、週に2回交換した。続いて、細胞を、蛍光顕微鏡検査のために、オステオカルシンを識別するための緑色の染料(Monoclonal、Clone 5-12H、希釈1:500)、オステオポンチンを示すための赤色の染料(Osteopontin、O-17、Rabbit IgG、1:500)で染色した。
【0096】
骨芽細胞に曝露した後、蛍光顕微鏡検査(BZ-X700)を使用して、各バッチの試料を観察した。検査の前に、試料表面を、Hoechst 33,342、anti-Human Osteocalcin Clone2H9F11F8、及びIsotype IgG、ウサギポリクローナル抗体を含む異なる免疫染色試薬で処理した。細胞核染色剤(DAPI 4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、二塩酸塩、溶液)であるHoechst 33342が、細胞増殖を可視化する役割を果たした一方、他の2つの抗体は、それぞれ、ミネラル化、及びマトリックスタンパク質オステオカルシン並びにオステオポンチンを定量化する骨マトリックス形成濃度を染色するために使用された。続いて、二次抗体、Goat anti-Mouse IgG1 Antibody FITC Conjugatedを添加して、信号検出及び可視化を強化した。
【0097】
図23A~23Cは、バルク窒化ケイ素及び未処理の参照のものと比較した、4つの基材のうちの3つについての微生物生存率アッセイ(WST)を示す。
【0098】
Si3N4参照試料は、その性能がコーティングされた試料と同等であったTi6Al4V基材を例外として、通常、48時間で最も低い光学密度を示すことが観察された。窒化ケイ素の生物学的効果は、時間依存性であった、及び約12時間の処理後に最大値に達する。
【0099】
LDPE基材の場合、Si3N4について観察された傾向は、同じであるが、ポリマー及び複合基材上では、完全に変化した。Si3N4バルクは、細菌生存率が経時的に低下したことを示した唯一の試料である。LDPE基材は、24時間と48時間との間のODにおいて60%を超える増殖を示し、両方の時間において最も高い細菌量を有した。24時間において提示される最小のOD値にもかかわらず、Si3N4コーティングされた試料は、陰性対照よりも低くはあるが、わずかな変動を示した。
【0100】
Ti6Al4Vの場合、24時間での微生物生存率アッセイは、Ti6Al4Vの非コーティング試料上で、同一の非コーティングの又はコーティングされたSi3N4試料上よりも高い細菌数を示した。48時間において、全ての基材上で、ODの減少傾向が検出された。しかしながら、Si3N4コーティングされた基材は、他の2つのバルク試料と比較して、最も低いOD値を有した。
【0101】
ジルコニア試料(ZTA及びY-TZPは、同様の結果を示す)については、S.epidermidisで処理された窒化ケイ素コーティング試料は、最も高い24時間生菌数を有した。しかしながら、溶解効果は、時間とともに徐々に向上した。48時間において、細菌の光学密度は、窒化ケイ素上よりも60%高かったが、Y-TZP上よりも低かった。
【0102】
様々な試料について得られた蛍光顕微鏡画像は、オステオカルシン及びオステオポンチンの両方の分布によって証明されるように、非コーティングの基材と比較したときに、レーザークラッド表面の骨組織産生の増加を示した。
【0103】
図24A~24Fは、LDPE基材(
図24A~24C)及び窒化ケイ素でコーティングされたLDPE試料(
図24D~24F)に対する、核(青色)、オステオカルシン(緑色)、及びオステオポンチン(赤色)用のマーカーを用いた蛍光顕微鏡試験の結果を示す。ジルコニア及びTi6Al4Vとは異なり、非コーティングのLDPE基材は、細胞によってコロニー形成されているようであり、コーティングの適用は、細胞核又は骨組織のいずれかの量又は分布に有意に影響を及ぼさない。
【0104】
図25A~25Fは、Ti6Al4V合金基材(
図25A~25C)及び窒化ケイ素でコーティングされたTi6Al4V試料(
図25D~25F)に対する、核(青色)、オステオカルシン(緑色)、及びオステオポンチン(赤色)用のマーカーを用いた蛍光顕微鏡検査の結果を示す。細胞核が試料表面に均一に分布されず、中心部に凝集体を形成し、中心部では、骨組織(オステオポンチン及びオステオカルシン)も形成したことが、観察された。一方、コーティングされた試料は、均質に被覆された。
【0105】
図26A~26Fは、Y-TZP基材(
図26A~26C)及び窒化ケイ素でコーティングされたY-TZP試料(
図26D~26F)に対する、核(青色)、オステオカルシン(緑色)、及びオステオポンチン(赤色)用のマーカーを用いた蛍光顕微鏡検査の結果を示す。ZTA及びY-TZPは、同様の結果を示す。非コーティングの基材では、骨芽細胞内の非コラーゲン性骨マトリックスタンパク質、オステオカルシン、オステオポンチンに対する、及び細胞核に対する、3つの信号が、観察された。全てが、かろうじて可視であり、わずかなスポットにのみ局在した。更に、青色のDAPI信号の分布の増加は、形成された骨組織よりもあの多くの核を示す。コーティングが適用されると、オステオポンチン及びオステオカルシンが、強化され、領域全体にわたってより均一に分布した。
【0106】
図27A~27Cは、処理の前後の基材表面骨及び細胞核の蛍光分析を示す。LDPE基材については、骨組織は2%程度増加したが、表面上に依然として存在する細胞核のパーセンテージは、未処理の基材のものとほぼ同じであった。Ti6Al4Vについては、核の数は、未処理の試料よりも高かったが、骨形成は、両方の試料について事実上同じであった。Y-TZP基材については、ヒストグラムにより、より高い量の表面骨組織形成が確認された。コーティングされた表面上で骨生成物の5~6%及び核の3%の増加が、明らかであった。
【0107】
図27A~27Cに要約されたインビトロでの細菌数により、全ての窒化ケイ素ベースのクラッド層が、時間依存性の抗菌効果を有することが、確認された。Y-TZPコーティングされた基材、及びTi6Al4Vコーティングされた基材で観察された傾向は、明らかな経時的な減少を示した。LDPEのSi
3N
4コーティング基材では、反対の傾向が観察されたが、増加は、非コーティングのLDPEと比較して、それほど有意ではなかった。48時間におけるODのわずかな増加は、粒子が、Ti6Al4V及びY-TZPのバルク基材を物理的に修飾することなく固定されたものの、表面が、レーザーによって溶融されたため、採用されたレーザー処理と関連付けられ得る。LDPEでは、これが、Si
3N
4粒子の組み込みをもたらした。これにより、不均質にSi
3N
4で被覆された表面がもたらされたが、
図18A及び18Bに観察されるように、LDPEを有する領域が、依然として存在した。
【0108】
より多くの骨組織が、表面ケイ素相のより高い割合を有する基材上に形成された。ケイ素が豊富な試料では、細胞が、骨組織を産生したが、他の材料のものよりも低い速度であった。
【0109】
基材の粗さは、骨形成にも積極的に寄与した。ZTA及びTi6Al4V試料は、他の基材と比較した場合、レーザークラッド後により高い表面粗さを達成した。これが、生物学的応答に影響を与えた。
【0110】
いくつかの実施形態を説明してきたが、様々な修正、代替的な構成、及び均等物が、本発明の趣旨から逸脱することなく使用され得ることが、当業者によって認識されるであろう。加えて、本発明が不必要に不明瞭となることを避けるために、いくつかの周知のプロセス及び要素は説明されていない。したがって、上記の説明は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0111】
当業者は、本開示の実施形態が、限定ではなく例として教示されることを理解するであろう。したがって、上記の説明に含まれる、又は添付の図面に示される主題は、例示として解釈されるべきであり、限定的な意味で解釈されるべきではない。以下の特許請求の範囲は、本明細書に記載の全ての一般的かつ特定の特徴、並びに本方法及びシステムの範囲の全ての記述を網羅するよう意図されており、言語的には、それらの間に含まれると考えられ得る。
【国際調査報告】