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特表2023-523690電極を製造するための金属基材の処理のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-07
(54)【発明の名称】電極を製造するための金属基材の処理のための方法
(51)【国際特許分類】
   C25F 3/02 20060101AFI20230531BHJP
   C25B 11/097 20210101ALI20230531BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20230531BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20230531BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20230531BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230531BHJP
   C25B 1/26 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
C25F3/02 B
C25B11/097
C25B11/054
C25B11/052
C25B11/061
C25B1/04
C25B1/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022557086
(86)(22)【出願日】2021-03-23
(85)【翻訳文提出日】2022-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2021057498
(87)【国際公開番号】W WO2021191241
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】102020000006187
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507128654
【氏名又は名称】インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カルデラーラ, アリーチェ
(72)【発明者】
【氏名】ブリケーゼ, マリアンナ
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA04
4K011AA06
4K011AA42
4K011DA01
4K011DA02
4K021AA01
4K021AA02
4K021AB03
4K021AB05
4K021BA02
4K021BA03
4K021DC01
4K021DC03
4K021DC15
(57)【要約】
本発明は、電気化学プロセスにおける電極支持体としての使用に適した金属基材の表面処理のための方法であって、以下の工程:(a)上記金属基材及び少なくとも1つの対電極を、10~40重量%の濃度で、塩酸、硝酸、ホウ酸又は硫酸から選択される電解質に浸漬する工程、(b)0,1と30A/dmとの間のアノード電流密度を0.5と120分間の時間にわたって上記金属基材に印加する工程を含む方法に関する。本発明はまた、そのように処理された基材から得られる電気化学プロセスにおけるガス発生用の電極に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学プロセスにおける電極支持体としての使用に適した金属基材の表面処理のための方法であって、以下の工程:
(a)前記金属基材及び少なくとも1つの対電極を、10~40重量%の濃度で、塩酸、硝酸、ホウ酸又は硫酸から選択される電解質に浸漬する工程、
(b)0,1と30A/dmとの間のアノード電流密度を0.5と120分の間の時間にわたって前記金属基材に印加する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記金属基材がメッシュ又は打ち抜き若しくは膨張シートである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属基材が1.2mm未満の厚さを有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属基材が0.5mm以下の厚さを有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記金属基材が、ニッケル、ニッケル合金、銅又は鋼から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
印加されたアノード電流密度が5と10A/dmの間である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
アノード電流密度の印加時間が2分と10分の間である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記電解質の重量濃度が15~30%の間である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
金属基材が、ニッケル又はニッケル合金であり、工程(b)後にニッケル電着を行うさらなる工程(c)であって、150と300g/lとの間の重量濃度のニッケル塩を前記電解質に添加し、その後、15と70℃との間の温度で0,5と120分との間の時間にわたって0,1と3A/dmとの間のカソード電流密度を前記金属基材に印加することを含むさらなる工程(c)を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
電気化学プロセスにおけるガス発生用の電極を製造するための方法であって、以下の工程:
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を用いて金属基材を処理する工程、及び
1つ又は複数の貴金属若しくは合金金属若しくはそれらの酸化物及び/又は希土類族に属する1つ又は複数の金属若しくはそれらの酸化物を含む触媒コーティングを前記処理された金属基材に適用する工程。
を含む、方法
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法に従って製造された金属基材と、1つ又は複数の貴金属若しくは合金金属若しくはそれらの酸化物及び/又は希土類族に属する1つ又は複数の金属若しくはそれらの酸化物を含む触媒コーティングとを含む、電気化学プロセスにおけるガス発生用の電極。
【請求項12】
前記金属基材が、25%未満の平均二乗偏差Ra値として表される粗さプロファイルの均一性度を有する、請求項11に記載の電極。
【請求項13】
請求項9に記載の方法に従って製造された金属基材であって、金属基材上に直接電着されたニッケルの層を含むニッケル又はニッケル合金である金属基材と、1つ又は複数の金属若しくは合金若しくはそれらの酸化物及び/又は希土類族に属する1つ又は複数の金属若しくはそれらの酸化物を含む触媒コーティングとを含む、電気化学プロセスにおけるガス発生用の電極。
【請求項14】
イオン交換膜又は隔膜によって分離されたアノードコンパートメント及びカソードコンパートメント含み、カソードコンパートメントが、請求項11から13のいずれか一項に記載の電極を備えた、水の電解又は塩化アルカリ溶液の電解用のセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用電気化学用途における電極支持体としての使用に適した金属基材を製造するための方法、及びこのようにして得られた金属基材を用いて製造された電極に関する。上記方法は、制御された粗さを有する表面を特徴とする金属基材を得ることを可能にする。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気化学プロセスは、一般に金属基材上に堆積される触媒コーティングを連続的な化学的-物理的ストレスに供する異なるガスの発生を伴う。したがって、金属基材へのこのコーティングの接着は、産業的に許容される耐用年数を有する電極を得る上で基本的な役割を果たす。
【0003】
触媒層の金属基材への接着は、金属基材自体の表面粗さプロファイル、すなわち触媒コーティングに適した固定ベースを保証する粗さに密接に関連することが当業者に知られている。
【0004】
文献には、金属基材に粗さを付与するのに適したいくつかの種類の表面処理が記載されている。1つの手順は、例えば、金属基材の表面が砂又はグリットを伴う高圧空気衝突ジェットによって摩耗される乾式サンドブラスト法、あるいは、金属基材の表面が砂又はグリットを伴う高圧水ジェットによって摩耗される湿式サンドブラスト法にある。
【0005】
しかしながら、これらの処理は、金属構造にかなりの量の残留圧縮応力を生じさせる。例えば1mm未満の厚さを有する薄いメッシュ又はシートが使用される場合、前述の残留応力が金属基材に変形をもたらし、その結果、平坦性が失われる可能性がある。このため、乾式又は湿式ブラストは、比較的厚い金属基材にのみ適用することができる。
【0006】
さらに、これらの機械的衝突処理は、厚い金属基材に適用された場合でも欠点を示す。サンドブラストの作用は、実際に、金属基材の硬度の実質的な増加を引き起こす可能性があり、これは触媒コーティングの塗布及びその後の熱処理中に亀裂をもたらす。
【0007】
先行技術のこれらの方法のさらなる欠点は、砂又はグリット粒度分布、空圧又は水圧、ノズルのサイズ及び表面に対するジェットの角度などのいくつかの処理パラメータの組み合わせに依存するため、制御の複雑さのために、得られる粗さプロファイルの均一性が低いことによって表される。さらに、この種の表面処理が完了すると、金属基材は、触媒コーティングの接着に悪影響を及ぼすグリット又は砂の残留物によって汚染される可能性がある。
【0008】
さらに、この方法は、処理中に粒径が変動して減少し、その結果、摩耗効率が低下するため、使用する砂又はグリットを頻繁に交換する必要があるため、欠点を有する。最後に、処理された金属基材によって摩耗された粒子によって汚染された砂又はグリットの廃棄は複雑で高価である。
【0009】
当該技術分野で公知の他の表面処理としては、砂若しくはグリットを用いるサンドブラストと、酸溶液中での化学エッチング、又は熱処理に続く酸溶液中での化学エッチング、及び金属若しくはセラミック酸化物を溶融することによる噴霧を組み合わせて、粗層の成長を促進することが挙げられる。しかしながら、これらの技術の各々は、処理された表面全体に均一な粗さプロファイルを付与することが困難であることに主に関連する欠点を有する。
【0010】
他の分野からは、電気化学プロセスを使用した表面処理方法が知られている。例えば、中国特許出願CN110760862Aは、高密度PCB回路基板に使用される非常に薄い銅箔の表面処理を記載しており、ここでは、複雑な多段階手順内で、高電流密度で低濃度硫酸を用いた電気化学処理が使用されている。中国特許出願CN106521587Aは、濃硫酸を使用する電気化学処理を使用する燃料棒を保持するための原子力プラントの構造部品として使用されるステンレス鋼ストリップの表面製造に関する。これらの中国特許出願で使用される基材は、産業用電気化学用途における電極用の基板として適していない。
【0011】
したがって、触媒コーティングの接着に悪影響を及ぼし得る、処理された表面の洗浄が不十分であること、単一の金属基材の表面全体及び工業生産のバッチの異なる試料における均一で再現性のある粗さプロファイルを得ることが困難であること、並びに使用済みの砂又はグリットの廃棄コストに起因する欠点を克服する、産業用電気化学用途における電極に適した金属基材を処理する方法を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0012】
電気化学プロセス産業では、競争力は様々な要因に関連しており、主な要因は、グローバルプロセスの電流電圧に直接関連するエネルギー消費の削減である。
【0013】
上記電流電圧の低減は、例えば水素、塩素又は酸素の発生などの必要な電気化学プロセスを促進するのに適した触媒コーティングを有するアノード及びカソードを使用することによって達成することができる。したがって、本発明は、とりわけ、電気エネルギー消費の最小化が最も重要である電気化学セルのアノード又はカソードとして設置される電極の金属基材として使用される金属メッシュ又は金属シートの処理のための方法に関する。
【0014】
本発明による方法では、金属基材は、電気化学プロセスのための電極支持体として使用するのに適した任意の金属であり得る。特に、クロル-アルカリ電解及び水電解プロセスに使用されるカソード用の金属基材として。この場合、最も一般的に使用される金属基材は、ニッケル、ニッケル合金、銅及び鋼から選択することができる。
【0015】
電極として使用される場合、触媒コーティングが典型的には金属基材上に塗布される。金属基材の触媒コーティングは、対象の反応に対して電気化学的に活性であるという目的を有し、例として、貴金属、それらの合金又はそれらの酸化物を含むことができる。最も一般的に使用される貴金属は、ルテニウム、白金、パラジウム、ロジウム又はそれらの合金から選択することができる。
【0016】
特許請求される貴金属に加えて、触媒コーティングは、本発明の範囲から逸脱することなく、希土類族に属する金属又はそれらの酸化物を含んでもよい。希土類族に属する最も頻繁に使用される金属は、プラセオジム、セリウム及びランタンから選択することができる。
【0017】
上記触媒コーティングは、当該技術分野で公知の方法、とりわけ、いくつかの工程を含む、300℃~600℃の範囲の温度で行われる上記金属の適切な前駆体を含有する溶液のガルバニック法又は熱分解法を含む方法によって金属基材に塗布することができる。触媒層堆積の各工程について、熱処理は、数分間~数十分間の範囲の典型的な期間を有し、任意選択の最終熱処理を伴う。
【0018】
これらの種類の電極の性能は、特徴の中でもとりわけ、上記金属基材の一連の表面特性、特に清浄度及び表面粗さの程度の関数である、金属基材への触媒コーティングの接着性に依存する。
【0019】
上記金属基材の洗浄は、とりわけ、特定の溶媒の使用又は機械的洗浄処理を含む、清浄な金属基材を得るための当該技術分野で公知の任意の処理で得ることができる。
【0020】
表面の粗さプロファイルに依存する粗さの程度は、触媒コーティングの金属基材への接着性に影響を及ぼすパラメータの1つである。これは、その平均ラインに対する粗さプロファイルの絶対偏差の平均値(μm)として定義される数値パラメータRaによって表される。
【0021】
一実施形態では、本発明は、制御された電流密度での電気分極の存在下での酸エッチングを含む、電気化学用途のための電極の金属基材の少なくとも1つの面の表面処理のための方法に関する。電流密度は、表面に印加される電流の量であり、A/dmで表される。
【0022】
そのような製造プロセスは、サンドブラスト処理の場合に起こるような、様々な形状及び寸法に従った表面処理プロセスの実質的な変化を引き起こすことなく、場合によっては非常に薄い厚さの、中実、穿孔、延伸又は織布シート及び/又はメッシュなどのいくつかの形状の基材に容易に適用可能であるという利点を有することができる。
【0023】
一実施形態によれば、表面処理は、1.2mm未満の厚さを有する金属基材の表面粗面化のための方法を含む。上記方法は、表面粗面化が提供されなければならない上記金属基材を、対電極としての少なくとも1つのさらなる導電性要素の近傍の酸溶液に浸漬する工程(a)を含む。上記酸溶液は、このように形成された電気化学系の電解質として作用する。本方法の次の工程(b)では、金属基材と少なくとも1つの対電極との間に電位差が印加され、それにより、アノード電流密度が金属基材に印加されて、上記金属基材の表面に所望の粗さが得られる。上記金属基材は、ニッケル、銅、ニッケル金属合金を含むことができる。様々な実施形態の下で、金属基材は、その目的を達成することができる任意の形態とすることができ、1.2mm未満の厚さを有するメッシュ、例えば膨張メッシュ若しくは織布メッシュ、又はシート、例えば打ち抜き若しくは膨張シートの形態とすることができる。
【0024】
一実施形態では、金属基材は、0.5mm以下の厚さを有する。
【0025】
特定の実施形態では、金属基材は、0.01と1.2mmとの間の範囲、好ましくは0.02と1mmとの間の範囲の厚さを有する。特定の実施形態では、金属基材は、0.05と0.5mmとの間の範囲の厚さを有する。
【0026】
一実施形態では、金属基材が浸漬される電解質として作用する上記酸溶液は、10~40重量%、好ましくは15~30重量%の濃度の塩酸、硝酸、硫酸及びホウ酸を含む鉱酸の群から選択される。特定の実施形態では、電解質は、10~40重量%、好ましくは15~30重量%の濃度の塩酸を含む。
【0027】
したがって、電気化学プロセスにおける電極支持体としての使用に適した金属基材の表面処理のための本発明による方法は、以下の工程を含む:
(a)上記金属基材及び少なくとも1つの対電極を、10~40重量%の濃度で、塩酸、硝酸、ホウ酸又は硫酸から選択される電解質に浸漬する工程、
(b)0,1~30A/dmのアノード電流密度を0.5と120分との間の時間にわたって上記金属基材に印加する工程。
【0028】
好ましくは、工程(a)及び(b)は、硬化工程などの介在工程を伴わずに1回のみ適用される。
【0029】
特定の実施形態では、電解質は、水中の典型的な残留量を除いて、銅イオン又は塩化銅などの追加の金属又は金属塩を含まず、いかなる場合も1重量%未満の濃度でのみ含む。
【0030】
一実施形態では、上記少なくとも1つの対電極は、その目的を達成するのに適した任意の形態とすることができ、上記少なくとも1つの対電極の選択、数、距離及び寸法は、例えば上記金属基材に提供される粗面化の程度又は上記金属基材の寸法及び厚さなどの様々な要因に依存する。
【0031】
当業者は、上記金属基材に付与される粗面化の程度に従って、上記少なくとも1つの対電極の特徴及び上記金属基材に対する上記少なくとも1つの対電極の最適距離を決定することができる。
【0032】
上記少なくとも1つの対電極は、有利には、上記金属基材の同じ表面上で異なる程度の粗面化を得ることができるようにサイズ決め及び配置することができる。
【0033】
上記少なくとも1つの対電極は、有利には、上記金属基材の2つの面上に異なる程度の粗面化を提供することができるようにサイズ決め及び配置することができる。
【0034】
上記少なくとも1つの対電極は、有利には、上記金属基材の単一の面上にある程度の粗面化を提供することができるようにサイズ決め及び配置することができる。
【0035】
驚くべきことに、上記電流密度の適切な調整は、上記金属基材が0.1mm以下の厚さを有し、触媒コーティングの最適な固定を確実にするのに十分な均一な粗さプロファイルを生成する状況などにおいて、本発明の利点を最大限に利用して動作することを可能にすることが観察された。
【0036】
説明された実施形態では、金属基材及び少なくとも1つの対電極は電源に結合されている。上記電源は、上記金属基材の表面を粗面化するために、0.1と30A/dmとの間のアノード電流密度を上記金属基材に印加するように構成される。一実施形態では、アノード電流密度は、5と10A/dmとの間の範囲内である。
【0037】
電流密度、その印加時間及び電解質の温度は、所望の粗面化度を得るために変えることができるパラメータである。
【0038】
本発明者らは、驚くべきことに、上記アノード電流密度を120分間以下の時間印加して、1.2mm以下の厚さを有する金属メッシュの表面の粗面化に対応する10%未満の典型的な重量損失を得ることができることを観察した。一実施形態では、上記アノード電流密度の印加時間は、60分間以下、好ましくは30分間以下である。一実施形態では、上記アノード電流密度の印加時間は2と10分との間であり、例えば、5と10A/dmとの間範囲のアノード電流密度を2と10分との間の時間印加することができる。
【0039】
この結果は、粗面化される金属基材が薄い金属表面、例えば0.5mm以下の厚さである場合に特に重要である。当業者に知られているように、加圧された砂ジェットのエネルギーが、触媒コーティングの適用に関連する熱処理の場合にも増加する上記金属基材の激しい変形を引き起こす可能性があるので、この種の金属基材は、触媒層の最良の接着を確実にするために必要な表面処理をサンドブラストによって施すことはできない。
【0040】
電圧が金属基材と少なくとも1つの対電極との間に印加されたとき、電流は、電解質を介して金属基材と少なくとも1つの対電極との間を流れる。電解質の正及び負イオンは分離され、金属基材及びイオンと反対の極性を有する少なくとも1つの対電極に引き付けられる。正イオンは、カソードとして作用する少なくとも1つの対電極に引き付けられ、負イオンは、本明細書に記載の電気化学系においてアノードとして作用する金属基材に引き付けられ、酸化してその表面の腐食をもたらす。その結果、金属基材の表面に均一な粗層が形成される。このプロセスは、表面の粗面化に対応する重量損失を有するために数分間かかる。初期重量値に対する百分率として表される重量損失は、通常、金属基材からの材料の表面除去による表面粗面化の指標として使用される。
【0041】
一実施形態では、印加されるアノード電流密度は、5と10A/dmとの間であり、これらの値の間のアノード電流密度は、数分間の限られた時間で、いかなる場合でも10分未満で、1mm未満の厚さを有する金属メッシュの表面の粗面化に対応する3と6%との間の典型的な重量損失を得ることを可能にするという利点を有する。同様の高速の表面処理のおかげで、製造プロセスのより高い効率をもたらすことができる高速かつ連続的なプロセスを開発することができる。
【0042】
別の実施形態では、本発明は、金属基材及び触媒コーティングを含む産業用電気化学用途のための電極に関し、上記金属基材は、上述の方法による分極の存在下での酸エッチング処理によって提供される制御された粗さプロファイルを有し、1又は複数の貴金属、それらの合金若しくはそれらの酸化物及び/又は希土類族に属する1又は複数の金属若しくはそれらの酸化物を含む触媒コーティングを有するメッシュ又はシートである。
【0043】
いくつかの実施形態では、電解質の温度は、15と40℃との間で変えることができる。
【0044】
さらなる実施形態では、本発明は、電気化学プロセスにおけるガス発生用の電極を製造するための方法であって、金属基材を上述の方法で処理する工程と、1又は複数の貴金属若しくは合金金属若しくはそれらの酸化物及び/又は希土類族に属する1又は複数の金属若しくはそれらの酸化物を含む触媒コーティングを上記処理された金属基材に塗布する工程とを含む方法に関する。
【0045】
さらなる実施形態では、本発明は、金属基材及び触媒コーティングを含む産業用電気化学用途のための電極に関し、上記金属基材は、上述の方法による分極の存在下での酸エッチング処理によって提供される制御された粗さプロファイルを有し、ルテニウム、白金、パラジウム、ロジウム若しくはそれらの合金若しくはそれらの酸化物から選択される1又は複数の貴金属及び/又はプラセオジム、セリウム、ランタン若しくはそれらの酸化物の間の選択された希土類族に属する1又は複数の金属を含む触媒コーティングを有するメッシュ又はシートである。本発明による金属基材を処理するための方法は、粗さプロファイルにおける均一性が高い粗面化表面を有する金属基材をもたらす。典型的には、25%未満(σ<25%)、好ましくは20%未満のRa値の平均二乗偏差として表される粗さプロファイルの均一性度が達成される。表面処理は、典型的には、基材に3と6%との間の重量損失(処理前後の基材の重量差を処理前の基材の重量で割ったものに100%を掛けたものとして計算される)を経験させる。
【0046】
さらなる態様の下で、本発明は、金属基材及び触媒コーティングを含む産業用電気化学用途のための電極に関し、上記金属基材は、上述の方法による分極の存在下での酸エッチング処理によって提供される、上記基材の2つの面において異なる制御された粗さプロファイルを備えるメッシュ又はシートである。
【0047】
さらなる態様の下で、本発明は、金属基材及び触媒コーティングを含む産業用電気化学用途のための電極に関し、上記金属基材は、1.2mm以下の厚さを有し、上述の方法による分極の存在下での酸エッチング処理によって提供される、上記基材の同じ表面上で異なる粗面化度を備えるメッシュ又はシートである。
【0048】
さらなる態様の下で、本発明は、金属基材及び触媒コーティングを含む産業用電気化学用途のための電極に関し、上記金属基材は、0.1mm以下の厚さを有し、上述の方法による分極の存在下での酸エッチング処理によって提供される制御された粗さのプロファイルを備え、1又は複数の貴金属若しくはそれらの合金若しくはそれらの酸化物及び/又は希土類族に属する1又は複数の金属若しくはそれらの酸化物を含む触媒コーティングを有する、メッシュ又はシートである。
【0049】
一実施形態によれば、上記金属基材の製造方法は、工程(b)の後に、カソード分極による金属基材上へのニッケルの直接電着によって表されるさらなる工程(c)を含むことができる。上記実施形態は、100と300g/lとの間の重量濃度のニッケル塩を上記電解質に添加し、その後、15と70℃との間の温度で0.5と120分との間の時間にわたって0.1と3A/dmとの間のカソード電流密度を上記金属基材に印加することを含む。
【0050】
上記さらなる工程(c)は、ニッケル電着によって上記金属基材の表面積を増加させることに寄与することができ、これは、例えば、コーティングの導電性及び/又は触媒活性をさらに改善するため、望ましくない副反応を抑制するため、又はコーティングの物理若しくは化学安定性を改善するために特定の特性を提供するのに役立つことができる。
【0051】
さらなる態様の下で、本発明は、水電解用又はアルカリ塩化物溶液の電解用のセルであって、イオン交換膜又は隔膜によって分離されたアノードコンパートメント及びカソードコンパートメントを含み、カソードコンパートメントが本発明の方法で得られた金属基材を有する水素発生用のカソードを備えた、セルに関する。
【0052】
さらなる態様の下で、本発明は、アルカリブラインから出発して塩素及びアルカリを製造するための電解装置であって、イオン交換膜又は隔膜によって分離されたアノードコンパートメント及びカソードコンパートメントを有する電解セルのモジュール配置を含み、カソードコンパートメントが本発明の方法で得られた金属基材を有するカソードを含む、電解装置に関する。
【0053】
さらなる態様の下で、本発明は、水の電解による水素の製造のための電解装置であって、隔膜によって分離されたアノードコンパートメント及びカソードコンパートメントを含み、カソードコンパートメントが本発明の方法で得られた金属基材を有する水素を発生させるためのカソードを備えた、電解装置に関する。
【0054】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を実証するために含まれ、その実用性は、特許請求される値の範囲で広く検証されている。以下の実施例に記載される組成物及び技術は、本発明者らが本発明の実施において良好な機能を見出した組成物及び技術を表すことが当業者には明らかなままである。しかしながら、当業者はまた、本明細書に照らして、記載された様々な実施形態に様々な変更を加えることができ、本発明の範囲から逸脱することなく同一又は同様の結果を依然としてもたらすことを理解するであろう。
【実施例
【0055】
実施例1
寸法100mm×100mm×0.89mmのニッケルメッシュを洗浄し、標準的な手順に従ってアセトンで脱脂し、次いで、ニッケル対電極に近い室温で20% HCl溶液に浸漬することによって表面処理に供した。ニッケルメッシュに10A/m相当のアノード電流密度を1.7分間印加した。
処理の終了時に、重量損失を検証し、メッシュの異なる点で粗さの程度を測定した。
このようにして得られたメッシュを試料E1とした。
【0056】
実施例2
寸法100mm×100mm×0.89mmのニッケルメッシュを洗浄し、標準的な手順に従ってアセトンで脱脂し、次いで、ニッケル対電極に近い室温で20% HCl溶液に浸漬することによって表面処理に供した。ニッケルメッシュに5A/m相当のアノード電流密度を3.3分間印加した。
処理の終了時に、重量損失を検証し、メッシュの異なる点で粗さの程度を測定した。
このようにして得られたメッシュを試料E2とした。
【0057】
実施例3
寸法100mm×100mm×0.89mmのニッケルメッシュを洗浄し、標準的な手順に従ってアセトンで脱脂し、次いで、ニッケル対電極に近い室温で10% HCl溶液に浸漬することによって表面処理に供した。ニッケルメッシュに12A/m相当のアノード電流密度を1.6分間印加した。
処理の終了時に、重量損失を検証し、メッシュの異なる点で粗さの程度を測定した。
このようにして得られたメッシュを試料E3とした。
【0058】
実施例4
寸法100mm×100mm×0.89mmのニッケルメッシュを洗浄し、標準的な手順に従ってアセトンで脱脂し、次いで、ニッケル対電極に近い室温で20% HCl溶液に浸漬することによって表面処理に供した。ニッケルメッシュに1.5A/m相当のアノード電流密度を6分間印加した。
次いで、これを、Pt、Pr及びPdを含有する水溶液の5回のコーティングでコーティングし、各コーティング後に450℃で15分間の熱処理を行って、1.90g/mのPt、1.24g/mのPd及び3.17g/mのPrのコーティングを得た。
このようにして得られた触媒層上に、Pt、Pr及びPdを含有する第2の溶液の4回のコーティングを第1の溶液とは異なる比率で塗布し、各コーティング後に450℃で15分間の熱処理を行って、1.77g/mのPt、1.18g/mのPd及び1.59g/mのPrのコーティングを得た。
このようにして得られた電極を試料E4とした。
【0059】
実施例5
寸法100mm×100mm×0.89mmのニッケルメッシュを洗浄し、標準的な手順に従ってアセトンで脱脂し、次いで、ニッケル対電極に近い室温で20% HCl溶液に浸漬することによって表面処理に供した。ニッケルメッシュに1.5A/m相当のアノード電流密度を3分間印加した。
その後、NiClを190g/lの濃度でHCl溶液20%に添加した後、ニッケルメッシュをニッケル電着処理に供した。ニッケルメッシュに1.5A/m相当のカソード電流密度を13分間印加した。
このようにして得られたニッケルメッシュを、Pt、Pr及びPdを含有する水溶液の5回のコーティングでコーティングし、各コーティング後に450℃で15分間の熱処理を行って、1.90g/mのPt、1.24g/mのPd及び3.17g/mのPrのコーティングを得た。
このようにして得られた触媒層上に、Pt、Pr及びPdを含有する第2の溶液の4回のコーティングを第1の溶液とは異なる比率で塗布し、各コーティング後に450℃で15分間の熱処理を行って、1.77g/mのPt、1.18g/mのPd及び1.59g/mのPrのコーティングを得た。
このようにして得られた電極を試料E5とした。
【0060】
反例1
寸法100mm×100mm×0.89mmのニッケルメッシュを洗浄し、標準的な手順に従ってアセトンで脱脂し、次いで、コランダムを用いたサンドブラスト及び室温で1100分間の20% HCl中でのエッチングのプロセスに供した。
処理の終了時に、重量損失を検証し、メッシュの異なる点で粗さの程度を測定した。
このようにして得られたメッシュを試料CE1試料とした。
【0061】
反例2
寸法100mm×100mm×0.89mmのニッケルメッシュを洗浄し、標準的な手順に従ってアセトンで脱脂し、次いで、コランダムを用いたサンドブラスト及び60℃の温度で40分間の20% HCl中でのエッチングのプロセスに供した。
処理の終了時に、重量損失を検証し、メッシュの異なる点で粗さの程度を測定した。
このようにして得られたメッシュを試料CE2とした。
【0062】
反例3
寸法100mm×100mm×0.89mmのニッケルメッシュを洗浄し、標準的な手順に従ってアセトンで脱脂し、次いで、コランダムを用いたサンドブラスト及び室温で15分間のHNO 21%中でのエッチングのプロセスに供した。
処理の終了時に、重量損失を検証し、メッシュの異なる点で粗さの程度を測定した。
このようにして得られたメッシュを試料CE3とした。
【0063】
反例4
寸法100mm×100mm×0.89mmのニッケルメッシュを、60℃の温度で5分間の20% HCl中でのエッチングプロセスに供した。
次いで、メッシュを、Pt、Pr及びPdを含有する水溶液の5回のコーティングでコーティングし、各コーティング後に450℃で15分間の熱処理を行って、1.90g/mのPt、1.24g/mのPd及び3.17g/mのPrのコーティングを得た。
このようにして得られた触媒層上に、Pt、Pr及びPdを含有する第2の溶液の4回のコーティングを第1の溶液とは異なる比率で塗布し、各コーティング後に450℃で15分間の熱処理を行って、1.77g/mのPt、1.18g/mのPd及び1.59g/mのPrのコーティングを得た。
このようにして得られた電極を試料CE4とした。
【0064】
反例5
100mm×100mm×0.89mmの寸法を有するニッケルメッシュを、コランダムを用いたサンドブラスト、室温での20% HCl中でのエッチング、及び当該技術分野で公知の手順による熱処理による応力除去焼なましのプロセスに供した。次いで、メッシュを、Pt、Pr及びPdを含有する水溶液の5回のコーティングでコーティングし、各コーティング後に450℃で15分間の熱処理を行って、1.90g/mのPt、1.24g/mのPd及び3.17g/mのPrのコーティングを得た。
このようにして得られた触媒層上に、Pt、Pr及びPdを含有する第2の溶液の4回のコーティングを第1の溶液とは異なる比率で塗布し、各コーティング後に450℃で15分間の熱処理を行って、1.77g/mのPt、1.18g/mのPd及び1.59g/mのPrのコーティングを得た。
このようにして得られた電極を試料CE5とした。
【0065】
表1は、金属基材の3と6%との間の重量損失を達成するのに必要な時間を評価するために行われた試験の結果を報告する。粗さプロファイルの均一性の程度も測定し、ニッケルメッシュの異なる点で測定されたRa値の平均二乗偏差として%(%σ)で表した。
【0066】
上記の実施例E5及び反例CE5の試料を、90℃の温度で32% NaOHを供給した実験室セルにおいて水素発生下で性能試験に供し、さらにその後、それらを10mV/秒の走査速度で-1~+0.5V/NHEの電圧範囲でサイクリックボルタンメトリー試験に供した。
【0067】
表2は、初期カソード電圧及び25サイクルのサイクリックボルタンメトリー(25CV)後のカソード電圧、3kA/mの電流密度で測定された、反転に対する耐性、したがって堅牢性の指標を報告する。
【0068】
前述の説明は、本発明を限定することを意図せず、本発明は、異なる実施形態に従ってそれによって目的から逸脱することなく使用することができ、その範囲は添付の特許請求の範囲によって一意的に定義される。
【0069】
本出願の説明及び特許請求の範囲において、用語「含む(comprises)」及び「含有する(contains)」、並びに「含んでいる(cmprising)」及び「含有している(containing)」などのそれらの変形は、他の要素、構成要素又は追加のプロセス工程の存在を排除することを意図しない。
【0070】
本発明に文脈を提供することのみを目的として、文書、記録、材料、装置、物品などの考察が本文に含まれる。しかしながら、この事項又はその一部が、本出願に添付された各請求項の優先日より前に本発明に関連する分野における一般的な知識を構成していたと理解されるべきではない。
【手続補正書】
【提出日】2022-05-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学プロセスにおける電極支持体としての使用に適した、ニッケル、ニッケル合金、銅又は鋼から選択される金属基材の表面処理のための方法であって、以下の工程:
(a)前記金属基材及び少なくとも1つの対電極を、10~40重量%の濃度で、塩酸、硝酸、ホウ酸又は硫酸から選択される電解質に浸漬する工程、
(b)0,1と30A/dmとの間のアノード電流密度を0.5と120分の間の時間にわたって前記金属基材に印加する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記金属基材がメッシュ又は打ち抜き若しくは膨張シートである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属基材が1.2mm未満の厚さを有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属基材が0.5mm以下の厚さを有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
印加されたアノード電流密度が5と10A/dmの間である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
アノード電流密度の印加時間が2分と10分の間である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電解質の重量濃度が15~30%の間である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
金属基材が、ニッケル又はニッケル合金であり、工程(b)後にニッケル電着を行うさらなる工程(c)であって、150と300g/lとの間の重量濃度のニッケル塩を前記電解質に添加し、その後、15と70℃との間の温度で0,5と120分との間の時間にわたって0,1と3A/dmとの間のカソード電流密度を前記金属基材に印加することを含むさらなる工程(c)を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
電気化学プロセスにおけるガス発生用の電極を製造するための方法であって、以下の工程:
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法を用いて金属基材を処理する工程、及び
1つ又は複数の貴金属若しくは合金金属若しくはそれらの酸化物及び/又は希土類族に属する1つ又は複数の金属若しくはそれらの酸化物を含む触媒コーティングを前記処理された金属基材に適用する工程。
を含む、方法
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法に従って製造された、ニッケル、ニッケル合金から選択され、25%未満の平均二乗偏差Ra値として表される粗さプロファイルの均一性度を有する金属基材と、1つ又は複数の貴金属若しくは合金金属若しくはそれらの酸化物及び/又は希土類族に属する1つ又は複数の金属若しくはそれらの酸化物を含む触媒コーティングとを含む、電気化学プロセスにおけるガス発生用の電極。
【請求項11】
請求項8に記載の方法に従って製造された、ニッケル、ニッケル合金から選択される金属基材であって、前記金属基材上に直接電着されたニッケルの層を含む金属基材と、1つ又は複数の金属若しくは合金若しくはそれらの酸化物及び/又は希土類族に属する1つ又は複数の金属若しくはそれらの酸化物を含む触媒コーティングとを含む、電気化学プロセスにおけるガス発生用の電極。
【請求項12】
イオン交換膜又は隔膜によって分離されたアノードコンパートメント及びカソードコンパートメント含み、カソードコンパートメントが、請求項10又は12に記載の電極を備えた、水の電解又は塩化アルカリ溶液の電解用のセル。
【国際調査報告】