(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-07
(54)【発明の名称】スチレン含有供給原料から精製スチレン組成物を調製するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
C07C 7/14 20060101AFI20230531BHJP
C07C 15/46 20060101ALI20230531BHJP
C07C 4/22 20060101ALI20230531BHJP
C07C 7/04 20060101ALI20230531BHJP
C07C 7/08 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
C07C7/14
C07C15/46
C07C4/22
C07C7/04
C07C7/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558191
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(85)【翻訳文提出日】2022-11-16
(86)【国際出願番号】 EP2021062213
(87)【国際公開番号】W WO2021224487
(87)【国際公開日】2021-11-11
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518458344
【氏名又は名称】ズルツァー・マネージメント・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カンデルウォル, ラーフル
(72)【発明者】
【氏名】ジェントリー, ジョセフ シー.
(72)【発明者】
【氏名】ウィッチャーリー, ランディー
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン, キンバリー
(72)【発明者】
【氏名】ナウリタ-エリス, メタ
(72)【発明者】
【氏名】プダック, クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】リウアル, セリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】キルシュナー, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】スリンプ, ビー.ブライアント
(72)【発明者】
【氏名】シュテパンスキー, マンフレート
(72)【発明者】
【氏名】テメル, エリク
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC26
4H006AD11
4H006AD13
4H006AD15
4H006BD84
(57)【要約】
本発明は、少なくとも80%のスチレン収率を有する精製スチレン組成物を調製するための方法であって、スチレンを含有する粗組成物を提供する工程、および粗組成物を少なくとも1つの結晶化工程に供する工程を含み、少なくとも1つの結晶化工程が少なくとも1つの静的結晶化段階および少なくとも1つの動的結晶化段階を含む方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも80%のスチレン収率を有する精製スチレン組成物を調製するための方法であって、スチレンを含有する粗組成物を提供する工程、および粗組成物を少なくとも1つの結晶化工程に供する工程を含み、少なくとも1つの結晶化工程が少なくとも1つの静的結晶化段階および少なくとも1つの動的結晶化段階を含む、方法。
【請求項2】
粗組成物が、色誘導種、硫黄種、メタキシレンおよびオルトキシレン、エチルベンゼン、フェニルアセチレン、クメン、n-プロピルベンゼン、α-メチルスチレン、エチルトルエン、有機塩素化種、有機窒素化種、および前述の不純物の2つ以上の任意の混合物からなる群から選択される1つ以上の不純物を含有し、好ましくは、粗組成物は、不純物として、1つ以上の硫黄種、好ましくは、130~150℃の沸点を有する、メルカプタン、ジスルフィド、チオフェンおよびこれら2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上の硫黄種を含み、および/または粗組成物は、好ましくは、不純物として、共役ジオレフィン、酸素化種、および酸素化硫黄種のうちの少なくとも1つを含む1つ以上の色誘導種を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの動的結晶化段階が、流下薄膜結晶化段階または懸濁結晶化段階である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
i)1~10個、好ましくは1~5個の静的結晶化段階と、ii)1~10個、好ましくは1~5個の動的結晶化段階とを含む、結晶化工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
粗組成物を提供する工程が、供給組成物を1つ以上の蒸留工程および/または1つ以上の抽出蒸留工程に供することを含み、粗組成物は、1つ以上の蒸留工程および/または1つ以上の抽出蒸留工程の1つの塔頂流、塔側流、または塔底流として得られ、好ましくは、供給組成物は、極性溶媒を使用する1つ以上の抽出蒸留工程に供される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
粗組成物が、パイガスに由来し、粗組成物は、
i)パイガス供給組成物を蒸留してC
8画分を得、C
8画分を抽出蒸留に供することであって、C
8画分は、塔頂流、塔側流、もしくは塔底流として、スチレン含有画分を得るために極性溶媒で処理され、スチレン含有画分は粗組成物として使用されるか、もしくは粗組成物に加工される、C
8画分を抽出蒸留に供すること、または
ii)パイガス供給組成物を蒸留してC
8画分を得、C
8画分を水素化反応器に供給して水素化ガスを得、水素化ガスを抽出蒸留に供することであって、水素化ガスは、塔頂流、塔側流、もしくは塔底流として、スチレン含有画分を得るために極性溶媒で処理され、スチレン含有画分は粗組成物として使用されるか、もしくは粗組成物に加工される、水素化ガスを抽出蒸留に供すること
によって調製される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
粗組成物が、エチルベンゼン/スチレンモノマー(EBSM)プロセスで生成されるエチルベンゼンおよびスチレン含有流に由来する、またはポリスチレン熱分解によって生成されるスチレン含有流に由来する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
精製スチレン組成物が、少なくとも99.00重量%、好ましくは少なくとも99.50重量%、より好ましくは少なくとも99.80重量%、さらにより好ましくは少なくとも99.90重量%、さらにより好ましくは少なくとも99.95重量%、最も好ましくは少なくとも99.98重量%のスチレン含有率を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
精製スチレン組成物が、ASTM D5386によるPt-Coスケールによって定義される最大15の色を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
精製スチレン組成物が、
i)メルカプタン、ジスルフィドおよびチオフェンに含まれる5ppmw未満、好ましくは4ppmw未満、より好ましくは3ppmw未満、最も好ましくは2ppmw未満の全元素状硫黄、
ii)20ppmw未満の酸素化物、
iii)フェニルアセチレン、混合キシレン、エチルベンゼン、クメン、エチルトルエン、n-プロピルベンゼン、およびα-メチルスチレンからなる群から選択される40ppmw未満の不純物、
iv)10ppmw未満のポリマー含有量、または
v)2ppmw未満の全有機塩素含有量
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの結晶化工程において、精製スチレン組成物およびスチレン枯渇母液が得られ、最大50体積%、好ましくは最大20体積%、より好ましくは最大10体積%が任意の蒸留工程に再循環され、最も好ましくはスチレン枯渇残留物画分が任意の蒸留工程に再循環されない、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの結晶化ブロック(10)を含む精製スチレン組成物を調製するためのプラント(11)であって、結晶化ブロック(10)が、
1つ以上の静的結晶化段階(18、18a、18b)を含む少なくとも1つの静的結晶化区画(16)と、
1つ以上の動的結晶化段階(14、14a、14b、14c、14d)を含む少なくとも1つの動的結晶化区画(12)と、
1つ以上の静的結晶化段階(18、18b)の少なくとも1つを1つ以上の動的結晶化段階(14、14a)の少なくとも1つと流体結合する少なくとも2つの導管(24、30)と
を含む、プラント(11)。
【請求項13】
2つ以上の出口を含む少なくとも1つの蒸留塔(40、42、56)をさらに含み、これらの出口の少なくとも1つが結晶化ブロック(10)の入口と流体結合されている、または2つ以上の出口を含む少なくとも1つの抽出蒸留塔(46)をさらに含み、これらの出口の少なくとも1つは、結晶化ブロック(10)の入口と流体結合されている、請求項12に記載のプラント(11)。
【請求項14】
少なくとも1つの結晶化ブロック(10)、少なくとも1つの蒸留塔(42)、および抽出蒸留塔(46)を含み、少なくとも1つの蒸留塔(42)が、は導管を介して抽出蒸留塔(46)と流体結合され、抽出蒸留塔(46)は入口導管(20)を介して結晶化ブロック(10)の入口と流体結合されている、請求項12または13に記載のプラント(11)。
【請求項15】
少なくとも1つの結晶化ブロック(10)および3つの蒸留塔(40、42、56)を含み、3つの蒸留塔(40、42、56)が流体結合され、互いに直列に配置され、3つの蒸留塔(56)の最後のものは、入口導管(20)を介して結晶化ブロック(10)と流体結合されている、請求項12または13に記載のプラント(11)。
【請求項16】
少なくとも1つの結晶化ブロック(10)、2つの蒸留塔(40、42)、および熱分解反応器(60)を含み、熱分解反応器(60)は、2つの蒸留塔の第1のもの(40)と流体結合されており、2つの蒸留塔の第1のもの(40)は、2つの蒸留塔の第2のもの(42)と流体結合され、2つの蒸留塔の第2のもの(42)は、入口導管(20)を介して結晶化ブロック(10)と流体結合されている、請求項12または13に記載のプラント(11)。
【請求項17】
精製スチレン組成物を排出するための生成物排出ライン(22)と、結晶化で得られたスチレン枯渇残留物画分を排出するための排出ライン(28)とを含み、プラント(11)は、結晶化で得られたスチレン枯渇残留物画分を排出するための排出ライン(28)から、任意の蒸留塔(40、42、56)のいずれかに通じる再循環ラインを含まない、請求項12~16のいずれか一項に記載のプラント(11)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン含有供給原料から、例えば、パイガスから、エチルベンゼン/スチレンモノマー(EBSM)プロセスにおいて生成されるエチルベンゼンおよびスチレン含有流から、ポリスチレンの熱分解などによって生成されるスチレン含有流から、精製スチレン組成物を調製する方法に関する。さらに、本発明は、方法が実施され得るプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
スチレンは、ポリマー、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)/スチレン-アクリロニトリル(SAN)樹脂、スチレン-ブタジエン(SB)共重合体ラテックス、不飽和ポリエステル樹脂、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)エラストマーおよびラテックスの重要な構成単位である。スチレンは取引量が最も多い汎用化学製品の1つであり、スチレンの年間生産量の30%超が国際的に取引されている。主に、スチレンはベンゼンとエチレンという原料から生成される。ベンゼンはアルキル化されてエチルベンゼン(EB)を生成し、EBはそれぞれ従来の脱水素プロセスまたはエチルベンゼン/スチレンモノマー(EBSM)プロセス、またはプロピレンオキサイド/スチレンモノマー(POSM)プロセスを介してスチレンに変換される。通常、スチレンプラントは、ベンゼンに比べて輸送が比較的困難であるエチレンのガス状の性質のため、エチレン分解炉の近くに配置される。
【0003】
EBSM/POSMを介した意図的な生成ルートとは別に、スチレンは、ナフサの水蒸気分解から得られた熱分解ガソリン、ポリスチレンの熱分解から得られた炭化水素画分、ガス油などの炭化水素流にも存在する。これらの炭化水素流からのスチレン抽出は、EBSM/POSMと比較してはるかに少ない量であるが、供給原料コストが低いため、事業者に魅力的な経済的機会を提供する。しかし、この分離は、近い沸点を有する分子と出発供給原料に由来する不純物の存在のため、技術的に困難である。スチレンからの、近い沸点を有する分子、例えば、混合キシレン、エチルベンゼンなどの通常の蒸留による除去は、エネルギーを大量に消費するプロセスである。米国特許第5,849,982号で提唱されている通り、溶媒ベースの抽出蒸留技術が開発され、商業的に展開されており、特定のエネルギー消費量を減らして近い沸点を有する分子を除去している。
【0004】
高純度スチレン(>99.8重量%)を生成するにもかかわらず、一般に、抽出蒸留ルートでは、EBSM/POSMスチレンと比較して、発色団、硫黄、酸素化物などの不純物を出発供給原料に含有するスチレンが生成される。これらの不純物は下流の重合プロセスに影響を与え、それによって生成されるポリマーの特性に影響を与える。不純物を除去するための様々な方法が、化学的または吸着剤処理に基づく先行技術で引用されてきた。化学処理は、ジエノフィル、硝酸、アルカリなどの使用を含み得る。吸着剤の使用は、粘土、アルミナなどを含み得る。これらの追加の処理工程により、スチレンモノマーのASTM仕様を満たす市場性のある製品を製造することができる。しかし、不必要な重合によるスチレンの損失、スチレンの固有の熱感受性による吸着床全体でのポリマーの形成には、重合を防ぐための複雑な設計上の予防措置が必要であり、複雑な機器の使用は、これらの方法を所有者/事業者にとって厄介なものにする。
【0005】
さらに、特開昭61-218,535は、エチルベンゼンの脱水素化によりスチレンとエチルベンゼンの混合物を得、この混合物を蒸留してエチルベンゼン濃度が最大4%重量の粗製スチレンを得、次いで、粗製スチレンを連続結晶化に供する工程を含むスチレンの製造方法を記載している。連続結晶化により、精製スチレン組成物、およびスチレンと近い沸点および同じ沸点を有する不純物を含有する残液流が生成される。結晶化操作の連続的性質のために、かなりの量のスチレンが残液中に残る。これにより、残液は蒸留塔に再循環されて蒸留塔への供給物と混合され、底部留分としてスチレンが回収される一方、近い沸点を有する不純物は塔頂留分において除去される。したがって、プロセスのスチレン収率が比較的低いにもかかわらず、システム全体から不純物を除去するために、資本とエネルギーの両方の観点から、蒸留区画に大きな負担がかかる。このプロセスの別の欠点は、スチレンと同じ沸点または非常に近い沸点を有する不純物、例えばフェニルアセチレンは、蒸留区画からスチレンをパージすることによって、システムから除去するしかなく、ここでは、同じ沸点を有するまたは非常に近い沸点を有する不純物がスチレンと共にパージされる。これはシステム全体でのスチレン損失を意味する。
【0006】
上記を考慮して、本発明の根底にある目的は、スチレン含有供給組成物、例えば、パイガス、EBSMプロセスで生成されたエチルベンゼンおよびスチレン含有流、ポリスチレン熱分解によって生成されたスチレン含有流などから、精製スチレン組成物を高いスチレン収率で調製するための方法を提供することであり、この方法は、色誘導種、硫黄および酸素化物などの不純物、特にスチレンの沸点に近い沸点を有する不純物、例えば、フェニルアセチレン、エチルベンゼン、混合キシレン、プロピルベンゼン、エチルトルエン、α-メチルスチレンなどを、エネルギー効率の高い方法でスチレンから確実かつ効率的に除去するものであり、不純物がスチレン含有供給組成物に比較的大量に含まれていても、資本コストが低いプラントだけで済み、コスト効率の高い態様により高いスチレン収率で非常に純粋なスチレン組成物が得られる。
【発明の概要】
【0007】
本発明によれば、この目的は、少なくとも80%のスチレン収率を有する精製スチレン組成物を調製するための方法であって、スチレンを含有する粗組成物を提供する工程、および粗組成物を少なくとも1つの結晶化工程に供する工程を含み、少なくとも1つの結晶化工程が少なくとも1つの静的結晶化段階および少なくとも1つの動的結晶化段階を含む、方法を提供することによって達成される。
【0008】
この解決策は、粗スチレン含有組成物を、少なくとも1つの静的結晶化段階および少なくとも1つの動的結晶化段階、例えば流下薄膜結晶化段階または懸濁結晶化段階を含む結晶化に供することによって、好ましくは、少なくとも1つの静的溶融結晶化段階および少なくとも1つの動的溶融結晶化段階を含む溶融結晶化に粗製スチレン含有組成物を供することによって、不純物、例えば、色誘導種、硫黄および酸素化物、特にスチレンの沸点に近い沸点を有する不純物、例えば、フェニルアセチレン、エチルベンゼン、混合キシレン、プロピルベンゼン、エチルトルエン、α-メチルスチレンなどが、たとえ不純物が比較的大量にスチレンに含有されていても、確実かつ完全にまたは少なくともほぼ完全にスチレンから除去されるが、ただし、そこに加えて、それぞれの方法が、エネルギー効率が高く、少なくとも80%という高いスチレン収率を特徴とすることが条件となるという驚くべき発見に基づく。したがって、本発明による方法は、高純度の精製スチレン組成物と、高エネルギー効率での高スチレン収率とを組み合わせる。少なくとも1つの動的結晶化段階は、スチレンからの不純物の非常に高純度の分離、すなわち非常に高純度の精製スチレン組成物をもたらすが、母液中に少なくとも90重量%という比較的高い濃度のスチレンを必要とする。したがって、1つ以上の動的結晶化段階だけでは、高いスチレン収率で高純度の精製スチレン組成物を得ることはできない。しかしながら、少なくとも1つの動的結晶化段階を用いて得られたスチレン枯渇母液などの、90重量%未満、例えば50~90重量%未満のより低いスチレン含有量を有する母液を用いて少なくとも1つの静的結晶化工程を実施する場合、このスチレン枯渇母液からさらにスチレンを分離することができる。なぜなら、静的結晶化は、動的結晶化と比較して、効率的なスチレン分離のために母液中にそのように高いスチレン濃度を必要としないためである。その結果、少なくとも1つの動的結晶化工程と少なくとも1つの静的結晶化工程の組み合わせにより、50~99.9重量%のスチレンを含む母液からの効率的なスチレン結晶化が可能になる。この広い操作ウィンドウにより、少なくとも80%という高いスチレン収率が可能になる。さらに、上記の結果として、最後の結晶化段階で得られたスチレン減少母液を蒸留工程に再循環させる必要は全くない。それによって、巨大な蒸留塔は全く必要とされず、したがって、巨大な蒸留塔のための低い運転コストおよび低い資本コストにつながる。全体として、本発明による方法は、費用効率が高く、少なくとも80%という高いスチレン収率で、不純物から、さらにはスチレンの沸点に近い沸点を有する不純物から、スチレン含有組成物を精製することを可能にする。これらの理由により、本発明による方法は、純粋なスチレンの調製に使用するのにこれまで経済的に妥当ではなかったスチレン含有組成物から精製スチレン組成物を調製するのに特に適しており、特に、パイガス、EBSMプロセスにおいて生成されるエチルベンゼンおよびスチレン含有流、ポリスチレン熱分解によって生成されるスチレン含有流などから、精製スチレン組成物を調製するのに特に適している。
【0009】
本発明によれば、方法は、少なくとも80%のスチレン収率で精製スチレン組成物を調製するように実施される。これに関連して、スチレン収率は、粗組成物に含まれるスチレンの量を、精製スチレン組成物に含まれるスチレンの量で割った比を意味する。好ましくは、方法のスチレン収率は、90%超、より好ましくは95%超、最も好ましくは98%超である。
【0010】
上記のように、本発明による方法は、スチレンを含有する粗組成物を提供する工程、および粗組成物を少なくとも1回の結晶化工程に供する工程を含む。粗組成物を提供する工程は、スチレン含有供給組成物が少なくとも1つの結晶化工程に直接供されること、または処理された組成物が少なくとも1つの結晶化工程に供される前に、スチレン含有供給組成物が、例えば1つ以上の蒸留工程または他の工程を利用することによって、最初に処理されることを含み得る。それぞれのスチレン含有組成物を厳密に区別するために、本明細書では、「スチレンを含有する粗組成物」または「粗組成物」は、少なくとも1つの結晶化工程に供されるスチレン含有組成物を意味し、これに対して「スチレン含有供給組成物」は、「スチレンを含有する粗組成物」が調製される元になり得る組成物を意味し、「精製スチレン組成物」は、結晶化後に得られるスチレン組成物を意味する。
【0011】
さらに、当技術分野で知られているように、結晶化プロセスまたは工程はそれぞれ、典型的には複数の段階で、すなわちいくつかの結晶化段階で、実施され得る。これを考慮して、本出願では、結晶化工程は、1つ以上の結晶化段階を含むものとして定義される。
【0012】
上述したように、本発明による方法は、不純物、特にスチレンの沸点に近い沸点を有する不純物を、スチレン含有粗組成物から除去するのに特に適している。したがって、本方法で使用される粗組成物は、色誘導種、硫黄種、メタキシレンおよびオルトキシレン、エチルベンゼン、フェニルアセチレン、クメン、n-プロピルベンゼン、α-メチルスチレン、エチルトルエン、有機塩素化種、有機窒素化種、および前述の不純物の2つ以上の任意の混合物からなる群から選択される1つ以上の不純物を含有する。
【0013】
好ましくは、粗組成物は、不純物として、1つ以上の硫黄種、好ましくはアルキル、ナフテン系または芳香族メルカプタン、アルキル、ナフテン系または芳香族ジスルフィド、アルキル、芳香族、ナフテン系またはビニルチオフェン(例えばジメチルチオフェンまたはビニルチオフェン)、酸素化硫黄含有炭化水素化合物または分子内に少なくとも1つの硫黄原子を含む他の炭化水素化合物、およびそれらの2つ以上の任意の組み合わせ、例えば130~150℃の沸点を有するもの、ならびにこれらの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上の硫黄種を含む。
【0014】
さらに、粗組成物は、不純物として、フルベン、共役ジオレフィン、酸素化種、酸素化硫黄種、スチレンオリゴマー、アルキン、ならびに共役オレフィンおよびアルキン結合を含む炭化水素化合物、ならびにPt-Coスケールで定義された10を超える色をスチレンに付与する任意の他の化合物、例えば130~150℃の沸点を有する化合物の少なくとも1つを含む種を含む1つ以上の色誘導種を含むことが好ましい。例えば、酸素化種は、水、アルコール、ケトンおよび/またはアルデヒドであり得るが、フルベンおよびそれらの誘導体は、ジオレフィンの好適な例である。
【0015】
粗組成物のスチレン含有量に関して、本発明は特に限定されない。例えば、粗組成物のスチレン含有量は、50重量%以下、または50~80重量%超、または80~95重量%超、または95~99重量%超、または99重量%超、例えば99.8重量%超であってもよい。
【0016】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、結晶化は、溶融結晶化として実施される。したがって、少なくとも1つの静的結晶化段階が少なくとも1つの静的溶融結晶化段階であり、少なくとも1つの動的結晶化段階が少なくとも1つの動的溶融結晶化段階であることが好ましい。
【0017】
少なくとも1つの動的結晶化段階が流下薄膜結晶化段階であり、より好ましくは流下薄膜溶融結晶化段階である場合、特に良好な結果が得られる。あるいは、あまり好ましくないが、少なくとも1つの動的結晶化段階は、懸濁結晶化段階であり、より好ましくは懸濁溶融結晶化段階である。好ましくは、少なくとも1つの動的結晶化工程は、少なくとも1つの静的結晶化工程の前、すなわち上流で、実施される。
【0018】
本発明の思想のさらなる発展において、方法は、1~10個の静的結晶化段階および1~10個の動的結晶化段階を含む、結晶化工程を含むことが示唆される。さらにより好ましくは、方法は、1~5個の静的結晶化段階および1~5個の動的結晶化段階を含む、結晶化工程を含む。方法が2つ以上の動的結晶化段階および/または2つ以上の静的結晶化段階を含む場合、動的結晶化段階のそれぞれは1つまたは2つの他の動的結晶化段階と流体結合され、静的結晶化段階のそれぞれは1つまたは2つの動的結晶化段階と流体結合され、動的結晶化段階の1つは静的結晶化段階の1つと流体結合されている。換言すれば、動的結晶化段階は互いに直列に配置され、静的結晶化段階は互いに直列に配置される。番号付けは、流動的に結合された静的結晶化段階と動的結晶化段階から始まる。したがって、結晶化が4つの動的結晶化段階および4つの静的結晶化段階を含む場合、第1の動的結晶化段階および第1の静的結晶化段階は、互いに結合されたものである。第1の動的結晶化段階は第2の動的結晶化段階と流体結合され、第2の動的結晶化段階は第3の動的結晶化段階とも結合され、第3の動的結晶化段階は第4の動的結晶化段階とも結合されている。それと同様に、第1の静的結晶化段階は第2の静的結晶化段階と流体結合され、第2の静的結晶化段階は第3の静的結晶化段階とも結合され、第3の静的結晶化段階は第4の静的結晶化段階とも結合されている。両方の直列において、第1の結晶化段階は最も上流の結晶化段階であり、第2、第3および第4の結晶化段階は第1の結晶化段階の下流に位置する。
【0019】
本発明の第1の特に好ましい実施形態によれば、方法は、1つの静的結晶化段階および1つの動的結晶化段階を含む、結晶化工程を含む。この変形型では、好ましくは、粗組成物が動的結晶化段階に供給されて、スチレン富化結晶化画分およびスチレン枯渇残留物画分が生成される。動的結晶化段階で得られたスチレン枯渇残留物画分は、主にスチレン枯渇母液を含み、供給物として静的結晶化段階に供給される。静的結晶化段階ではまた、スチレン富化結晶化画分およびスチレン枯渇残留物画分が生成され、静的結晶化段階で得られたスチレン富化結晶化画分が動的結晶化段階に供給され、そこで、動的結晶化段階に供給された粗組成物と混合される。静的結晶化段階で得られたスチレン枯渇残留物画分は取り出されるが、動的結晶化段階で得られたスチレン富化結晶化画分は精製スチレン組成物として取り出される。原則として、粗組成物は、上記の代わりに、静的結晶化段階に供給される、すなわち、静的結晶化および動的結晶化段階は、前述の説明とは逆の順序で配置され得る。ただし、粗組成物が動的結晶化段階に供給される場合に、より良い結果が得られる。完全を期すために、前述の用語「スチレン富化結晶化画分」および「スチレン枯渇残留物画分」は、それぞれの結晶化段階への投入物のスチレン含有量に対しての意味を有し、粗組成物のスチレン含有量に対しての意味を有していないことに留意されたい。言い換えると、静的結晶化段階で得られたスチレン富化結晶化画分は、この静的結晶化段階への投入物(動的結晶化段階から静的結晶化段階に供給されたスチレン枯渇残渣画分)よりも高いスチレン含有量を有し、スチレン枯渇残留物画分は、この静的結晶化段階への投入物よりも低いスチレン含有量を有する。
【0020】
本発明の第2の特に好ましい実施形態によれば、方法は、2~5個の静的結晶化段階および2~5個の動的結晶化段階を含む、結晶化工程を含む。好ましくは、粗製組成物は2~5個の動的結晶化段階の第1の段階に供給されて、第1のスチレン富化結晶化画分および第1のスチレン枯渇残留物画分が生成され、第1のスチレン富化結晶化画分は2~5個の動的結晶化段階の第2の段階に供給され、第2の段階および任意の第3から第5の動的結晶化段階のいずれかにおいて、スチレン富化結晶化画分およびスチレン枯渇残留物画分が生成され、第2および任意の第3~第4の動的結晶化段階で生成されたスチレン富化結晶化画分のそれぞれが下流の動的結晶化段階に供給され、第2および任意の第3~第5の動的結晶化段階で生成されたスチレン枯渇残留物画分のそれぞれは上流の動的結晶化段階に供給される。第1のスチレン枯渇残留物画分は、2~5個の静的結晶化段階の第1の段階に供給されて、第2のスチレン富化結晶化画分および第2のスチレン枯渇残留物画分が生成され、第2のスチレン富化結晶化画分は、第1の動的結晶化段階に供給され、第2のスチレン枯渇残留物画分は、2~5個の静的結晶化段階の第2の段階に供給される。第2および任意の第3~第5の静的結晶化段階のいずれかにおいて、スチレン富化結晶化画分およびスチレン枯渇残留物画分が生成され、第2および任意の第3~第4の静的結晶化段階で生成されたスチレン枯渇残留物画分のそれぞれは、下流の静的結晶化段階に供給され、第2および任意の第3~第5の動的静的段階で生成されたスチレン富化結晶化画分は、上流の静的結晶化段階に供給される。原則として、粗組成物は、静的結晶化段階の1つに供給されてもよく、すなわち、静的結晶化および動的結晶化段階は、前述の説明とは逆の順序で配置されてもよい。ただし、粗組成物が動的結晶化段階の1つに供給される場合に、より良い結果が得られる。
【0021】
前述の変形型に対する別の変形型では、粗組成物は、2~5個の動的結晶化段階の第2段階に供給され、第1の動的結晶化段階には供給されず、ここでも第1から第5の段階は上流から下流の方向に配置される。この場合も、最上流の動的結晶化段階(すなわち、第1の動的結晶化段階)は、第1の静的結晶化段階からスチレン富化結晶化画分を受け取り、そこからスチレン枯渇残留物画分が第1の静的結晶化段階に供給される段階であり、一方、最下流の動的結晶化段階は、そこから精製スチレン組成物が取り出される段階である。同様に、最上流の静的結晶化段階(すなわち、第1の静的結晶化段階)は、第1の動的結晶化段階からスチレン枯渇残留物画分を受け取り、そこからスチレン富化結晶化画分が第1の動的結晶化段階に供給される段階であり、一方、最下流の静的結晶化段階(すなわち、第2の静的結晶化段階)は、そこからスチレン枯渇残留物画分が取り出される段階である。
【0022】
例えば、方法は、2つの静的結晶化段階および4つの動的結晶化段階を含む、結晶化工程を含む。この実施形態では、粗組成物は動的結晶化段階の第2段階に供給されて、第2のスチレン富化結晶化画分および第2のスチレン枯渇残留物画分が生成される。第2のスチレン富化結晶化画分は、4つの動的結晶化段階の第3の段階に供給されて、第3のスチレン富化結晶化画分および第3のスチレン枯渇残留物画分が生成され、第3のスチレン富化結晶化画分は動的結晶化段階の第4の段階に供給されて、第4のスチレン富化結晶化画分および第4のスチレン枯渇残留物画分が生成される。第4のスチレン富化結晶化画分が精製スチレン組成物として取り出される一方で、第4のスチレン枯渇残留物画分は第3の動的結晶化段階に供給され、第3のスチレン枯渇残留物画分は第2の動的結晶化段階に供給され、第2のスチレン枯渇残留物画分は第1の動的結晶化段階に供給される。第1の動的結晶化段階では、第1のスチレン富化結晶化画分および第1のスチレン枯渇残留物画分が生成される。第1のスチレン富化結晶化画分が第2の動的結晶化段階に供給される一方で、第1のスチレン枯渇残留物画分が2つの静的結晶化段階の第1の段階に供給され、そこで第5のスチレン富化結晶化画分および第5のスチレン枯渇残留物画分が生成される。第5のスチレン富化結晶化画分が第1の動的結晶化段階に供給される一方で、第5のスチレン枯渇残留物画分は2つの静的結晶化段階の第2の段階に供給され、そこで第6のスチレン富化結晶化画分および第6のスチレン枯渇残留物画分が生成される。第6のスチレン富化結晶化画分が第1の静的結晶化段階に供給されると同時に、第6のスチレン枯渇残留物画分が除去される。
【0023】
上記の方法のすべてにおいて、好ましくは、結晶化段階におけるスチレン富化結晶化画分およびスチレン枯渇残留物画分の生成は、結晶化段階での結晶化、結晶化段階で得られた結晶層の融解、および得られた結晶融解物を結晶化段階からスチレン富化結晶化画分として取り出すことの終了後に、スチレン枯渇残留物画分として結晶化段階から残留液を除去する工程を含む。
【0024】
精製スチレン生成物の純度を高めるために、任意の静的流下薄膜結晶化段階で、存在する場合は、単一の結晶化段階で使用される晶析装置の冷却された表面上に形成された結晶層を溶融する前に、少なくとも1回の発汗工程を実施することが好ましい。発汗とは、結晶を部分的に溶かすために、冷却された表面に堆積した結晶層をスチレンの融解温度に近い温度まで穏やかに加熱することを意味する。捕集された付着した不純物を含有する溶融物は、結晶の部分的な溶融中に排出され、次に晶析装置から取り出される。このような発汗を行うために、結晶が堆積した表面を熱伝達媒体で所望の温度に加熱する。発汗は、冷却された表面上に堆積した結晶層を溶融する前に、1回または数回実施することができる。このように、発汗は、1つ以上の発汗画分および精製結晶層をもたらす。好ましくは、発汗によって得られた第1の発汗画分の少なくとも一部は、スチレン枯渇残留物画分として除去された残留液体に供給される。
【0025】
結晶化温度は粗組成物の組成に依存する。しかしながら、少なくとも1つの静的溶融結晶化段階および少なくとも1つの動的溶融結晶化段階の少なくとも1つ、好ましくはすべてが、-200℃および30℃、より好ましくは-140℃および0℃の温度で実施される場合に、良好な結果が得られる。1つ以上の発汗工程を含む静的結晶化の場合、および1つ以上の発汗工程を含む流下薄膜結晶化の場合、結晶化段階の少なくとも1つ、好ましくはすべてが、-100℃および-30℃の温度で実施されてもよい。
【0026】
供給組成物の組成に応じて、供給組成物は粗組成物として少なくとも1つの結晶化工程に直接供給されてもよく、または加工された供給組成物が粗組成物として少なくとも1つの結晶化工程に供給される前に、最初に別の技術により処理されてもよい。例えば、粗組成物を提供する工程は、供給組成物を1つ以上の蒸留工程および/または1つ以上の抽出蒸留工程に供することを含み、粗組成物は、1つ以上の蒸留工程および/または1つ以上の抽出蒸留工程の1つの塔頂流、塔側流、または塔底流として得られる。
【0027】
好ましくは、供給組成物は、極性溶媒を抽出溶媒として使用する1つ以上の抽出蒸留工程に供される。好適な極性溶媒は、プロピレンカーボネート、スルホラン、テトラメチルスルホラン、メチルカルビトール、1-メチル-2-ピロリジノン、2-ピロリジノン、および前述の溶媒の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される溶媒であるが、水を含まない。抽出溶媒は、一方の部分が前述の群からの溶媒であり、他方の部分が水である二部分抽出溶媒(two part extractive solvent)であってもよく、抽出溶媒の両方の部分は、蒸留塔の途中の異なる位置において別々にかつ互いに独立して蒸留塔に供給される。
【0028】
上述した通り、本発明による方法は、純粋なスチレンの調製に使用するのにこれまで経済的に妥当ではなかったスチレン含有組成物から精製スチレン組成物を調製するのに特に適している。したがって、粗組成物は、パイガス、EBSMプロセスで生成されるエチルベンゼンおよびスチレン含有流、またはポリスチレン熱分解によって生成されるスチレン含有流に由来することが好ましい。パイガスは、好ましくは、ナフサの水蒸気分解から得られる熱分解ガソリンである。本発明の方法は、先行技術の方法では不可能である供給組成物からスチレンを高い費用効率で精製することを可能にする。例えば、EBSMプロセスで生成されたエチルベンゼンおよびスチレン含有流から抽出蒸留によってスチレンを精製することは、エネルギーを大量に消費するエチルベンゼンスチレン分離塔を必要とするため、非常に大きなコストがかかる。
【0029】
本発明の特定の好ましい実施形態によれば、粗組成物はパイガスに由来する。特に、粗組成物は、ナフサ分解炉熱分解ガソリンに使用される抽出蒸留プロセスに由来し得る。これらのパイガスは、色誘導種、C6-チオフェン系硫黄種、パイガス供給に由来する酸素化物、およびプロセスで使用される真空装置の空気漏れなどの不純物を含むことが知られている。さらに、パイガスは、抽出蒸留によって完全に除去することが困難である、オルトキシレンなどのスチレンの沸点に近い沸点を有する不純物を含有する。この実施形態では、パイガス供給組成物を蒸留してC8画分を得、C8画分を抽出蒸留に供することによって、粗組成物が調製されていることが好ましく、C8画分は、塔頂流、塔側流、または塔底流として、スチレン含有画分を得るために極性溶媒で処理される。こうして得られたスチレン含有画分は、例えば蒸留工程によって粗組成物に加工することができ、または好ましくは、こうして得られたスチレン含有画分は、結晶化工程に供給される粗組成物として使用される。
【0030】
本発明の別の実施形態では、粗組成物は、C8画分を得るためにパイガス供給組成物を蒸留し、C8画分を水素化反応器に供給して、例えばフェニルアセチレンを水素化し、水素ガスを得、水素ガスを抽出蒸留に供給することによって調製され、水素ガスは、塔頂流、塔側流、または塔底流として、スチレン含有画分を得るために極性溶媒で処理される。こうして得られたスチレン含有画分は、例えば蒸留工程によって粗組成物に加工することができ、または好ましくは、こうして得られたスチレン含有画分は、結晶化工程に供給される粗組成物として使用される。
【0031】
好ましくは、水素化は、フェニルアセチレンが水素化されている間、スチレン損失が0.1重量%未満になるように実施される。
【0032】
抽出蒸留で使用した溶媒を回収するために、スチレン含有画分が蒸留工程に供されて、極性溶媒の少なくとも一部をスチレン含有画分から除去し、それによって粗組成物を得ることが好ましい。
【0033】
本発明による方法は、非常に純粋なスチレン含有組成物をもたらす。好ましくは、精製スチレン組成物は、少なくとも99.00重量%、より好ましくは少なくとも99.50重量%、さらにより好ましくは少なくとも99.80重量%、さらにより好ましくは少なくとも99.90重量%、さらにより好ましくは少なくとも99.95重量%、最も好ましくは少なくとも99.98重量%のスチレン含有率を有する。
【0034】
特に、本発明による方法は、粗製スチレン含有組成物から色誘導種を完全にまたは少なくともほぼ完全に除去することを可能にする。したがって、本発明の思想のさらなる発展において、精製スチレン組成物は、ASTM D5386によるPt-Coスケールによって定義される最大15の色を有することが提案される。
【0035】
さらに、本発明による方法は、粗製スチレン含有組成物から硫黄種を完全にまたは少なくともほぼ完全に除去することを可能にする。したがって、精製スチレン組成物が、メルカプタン、ジスルフィドおよびチオフェンに含まれる5ppmw未満、より好ましくは4ppmw未満、さらにより好ましくは3ppmw未満、最も好ましくは2ppmw未満の全元素状硫黄、および/または20ppmw未満の酸素化物を含む場合が特に好ましい。
【0036】
さらに、本発明による方法は、フェニルアセチレン、混合キシレン、エチルベンゼン、クメン、エチルトルエン、n-プロピルベンゼン、およびα-メチルスチレンからなる群から選択される40ppmw未満の不純物を含み、および/または10ppmw未満のポリマー含有量を有する、精製スチレン組成物を得ることを可能にする。
【0037】
好ましくは、精製スチレン組成物は、2ppmw未満の全有機塩素含有量を有する。
【0038】
例えば、精製スチレン組成物は、以下の仕様を満たすことができる。
【0039】
残留母液、すなわち結晶化で得られたスチレン枯渇残留物画分は排出される。好ましくは、結晶化で得られるスチレン枯渇残留物画分は、この方法の任意の蒸留工程に再循環されず、再循環される場合、最大でも50体積%、より好ましくは最大でも20体積%、さらに最大でも10体積%の、結晶化で得られたスチレン枯渇残留物画分が、再循環される。
【0040】
さらなる態様によれば、本発明は、少なくとも1つの結晶化ブロックを含む精製スチレン組成物を調製するためのプラントであって、結晶化ブロックが、
1つ以上の静的結晶化段階を含む少なくとも1つの静的結晶化区画と、
1つ以上の動的結晶化段階を含む少なくとも1つの動的結晶化区画と、
1つ以上の静的結晶化段階の少なくとも1つを1つ以上の動的結晶化段階の少なくとも1つと流体結合する少なくとも2つの導管と
を含む、プラントを含む。
【0041】
「結晶化ブロック」という用語は、1つ以上の晶析装置を備えた精製プロセスのための装置を指す。さらに、結晶化段階という用語は、それぞれ方法工程または段階を示すために使用されるだけでなく、結晶化段階が実行される装置、すなわち晶析装置の当該部分を示すためにも使用される。装置の特徴としての結晶化段階は、晶析装置、晶析装置ユニットなどと呼ばれることもある。
【0042】
好ましくは、1つ以上の静的結晶化段階は静的溶融結晶化段階であり、1つ以上の動的結晶化段階は動的溶融結晶化段階である。
【0043】
結晶化ブロックが2つ以上の動的結晶化段階および/または2つ以上の静的結晶化段階を含む場合、好ましくは、動的結晶化段階のそれぞれは、1つまたは2つの他の動的結晶化段階と流体結合され、静的結晶化段階のそれぞれは1つまたは2つの他の静的結晶化段階と流体結合されている。
【0044】
さらに、少なくとも1つの結晶化ブロックが、1つの静的結晶化段階および1つの動的結晶化段階を含み、少なくとも2つの導管の1つが静的結晶化段階を動的結晶化段階と流体結合して、動的結晶化段階で得られたスチレン枯渇残留物画分は、静的結晶化段階に供給されてもよく、少なくとも2つの導管の別の1つが静的結晶化段階を動的結晶化段階と流体結合し、静的結晶化段階で得られたスチレン富化結晶化画分が動的結晶化段階に供給され得るようになることが好ましい。
【0045】
さらに、少なくとも1つの結晶化ブロックは、2~5個の静的結晶化段階および2~5個の動的結晶化段階を含み、少なくとも2つの導管の1つが静的結晶化段階の1つを動的結晶化段階の1つと流体結合し、動的結晶化段階で得られたスチレン枯渇残留物画分を、動的結晶化段階と流体結合されている静的結晶化段階に供給できるようにし、少なくとも2つの導管の1つが静的結晶化段階の1つを動的結晶化段階の1つと流体結合し、静的結晶化段階で得られたスチレン富化結晶化画分を動的結晶化段階に供給することができるようにし、残りの静的結晶化段階の各2つが少なくとも2つの導管によって互いに流体結合され、残りの動的結晶化段階の各2つが少なくとも2つの導管によって互いに流体結合されていることが好ましい。
【0046】
本発明のさらなる好ましい実施形態によれば、プラントは、2つ以上の出口を含む少なくとも1つの蒸留塔さらに含み、これらの出口の少なくとも1つは、結晶化ブロックの入口と流体結合されている。
【0047】
本発明の思想のさらなる発展において、プラントは、2つ以上の出口を含む少なくとも1つの抽出蒸留塔をさらに含み、これらの出口の少なくとも1つは、結晶化ブロックの入口と流体結合されていることが提案される。
【0048】
プラントは、抽出蒸留塔の出口と流体結合された溶媒回収蒸留塔をさらに含んでもよい。
【0049】
本発明のさらなる好ましい実施形態によれば、プラントは、少なくとも1つの結晶化ブロック、蒸留塔、および抽出蒸留塔を含み、蒸留塔は、導管を介して抽出蒸留塔と流体結合され、抽出蒸留塔は、入口導管を介して結晶化ブロックの入口と流体結合されている。好ましくは、この実施形態のプラントは、水素化反応器および溶媒回収のためのさらなる蒸留塔をさらに含み、蒸留塔は導管を介して水素化反応器と流体結合され、水素化反応器は導管を介して抽出蒸留塔と流体結合され、抽出蒸留塔は導管を介して溶媒回収のためにさらなる蒸留塔と流体結合され、さらなる蒸留塔は、入口導管を介して結晶化ブロックと流体結合されている。
【0050】
本発明の代替の好ましい実施形態によれば、プラントは、少なくとも1つの結晶化ブロックと3つの蒸留塔とを含み、3つの蒸留塔は互いに流体結合され、直列に配置され、3つの蒸留塔の最後の蒸留塔は、入口導管を介して結晶化ブロックと流体結合されている。好ましくは、この実施形態のプラントは、アルキル化ユニットおよび脱水素ユニットをさらに含み、アルキル化ユニットは、導管を介して脱水素ユニットと流体結合され、脱水素ユニットは、入口導管を介して結晶化ブロックと流体結合されている。
【0051】
本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、プラントは、少なくとも1つの結晶化ブロック、2つの蒸留塔、および熱分解反応器を含み、熱分解反応器は、2つの蒸留塔の第1のものと流体結合され、2つの蒸留塔の第1のものは、2つの蒸留塔の第2のものと流体結合され、2つの蒸留塔の第2のものは、入口導管を介して結晶化ブロックと流体結合されている。
【0052】
結晶化ブロックは、精製スチレン組成物を排出するための生成物出口ラインと、残留母液、すなわち結晶化で得られたスチレン枯渇残留物画分を排出するための排出ラインとを含む。好ましくは、プラントは、結晶化で得られたスチレン枯渇残留物画分を排出するための排出ラインから、任意の蒸留塔のいずれかに通じる再循環ラインを含まない。
【0053】
本発明の上記方法および他の利点および目的を得るために、添付の図面に示されている特定の実施形態を参照しながら、上記で簡単に説明した本発明のより具体的な説明を行う。これらの図面は本発明の典型的な実施形態のみを示しており、したがってその範囲を限定するものと考えられるべきではないことを理解した上で、添付の図面を使用して、本発明をさらに具体的かつ詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1a】本発明の一実施形態による方法およびプラントで使用される結晶化ブロックの概略図である。
【
図1b】本発明の別の実施形態による方法およびプラントで使用される結晶化ブロックの概略図である。
【
図2】本発明の別の実施形態に従ってナフサ分解熱分解ガソリンを精製するのに特に適したプラントの概略図である。
【
図3】本発明の別の実施形態に従ってEBSMプロセス流を精製するのに特に適したプラントの概略図である。
【
図4】本発明の別の実施形態に従って、熱分解によってポリスチレン流から生成されたスチレン含有流を精製するのに特に適したプラントの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1aは、本発明の実施形態に従って精製スチレン組成物を調製するためのプロセスを行うための結晶化ブロック10の実施形態を示す。結晶化ブロック10は、動的溶融結晶化段階または晶析装置としてそれぞれ1つの流下薄膜結晶化段階または1つの流下薄膜晶析装置14を含む第1の動的溶融結晶化区画12を含む。さらに、結晶化ブロック10は、それぞれ1つの静的溶融結晶化ステージ18または1つの静的溶融晶析装置を有する第2の静的溶融結晶化区画16を含む。流下薄膜晶析装置14は、粗製スチレン組成物を流下薄膜晶析装置14に供給するのに適した粗製スチレン含有組成物用の入口導管20に接続されている。さらに、流下薄膜晶析装置14は、流下薄膜晶析装置14および結晶化ブロック10から精製スチレン組成物を排出するための排出導管22を有する。静的溶融晶析装置18は、流下薄膜晶析装置14での結晶化によって得られた第1のスチレン枯渇残留物画分を静的溶融晶析装置18に移送するのに適した移送導管24を介して流下薄膜晶析装置14と接続されている。この点に関して、移送導管24は、流下薄膜晶析装置14および静的溶融晶析装置18の両方と流体連通している。静的溶融晶析装置18は、静的溶融晶析装置18での結晶化によって得られる第2のスチレン枯渇残油画分を静的溶融晶析装置18および結晶化ブロック10から排出するのに役立つ排出導管28を含む。再循環導管30は、静的溶融晶析装置18と流下薄膜晶析装置14との間の流体連通を提供し、したがって、静的溶融晶析装置18における結晶化から生じる第2のスチレン富化結晶化組成物の少なくとも一部を再循環させ、流下薄膜晶析装置14に戻すことを可能にする。
【0056】
図1bは、本発明に従って精製スチレン組成物を調製するための方法を実施するための結晶化ブロック10の実施形態を示す。第1の動的溶融結晶化区画12は、4つの流下薄膜結晶化段階14a、14b、14c、14dを含み、第2の静的溶融結晶化区画16は、2つの静的溶融結晶化段階18a、18bを含む。流下薄膜結晶化段階14a、14b、14c、14dの間に移送導管32a、32b、32cが設けられており、単一の流下薄膜結晶化段階14a、14b、14c、14dでの流下薄膜結晶化によって得られたスチレン枯渇残油留分が、流下薄膜結晶化段階14b、14c、14dの1つから、それぞれの上流の流下薄膜結晶化段階14a、14b、14cに移送され得る。さらに、流下薄膜結晶化段階14a、14b、14c、14dは、単一の流下薄膜結晶化段階14a、14b、14c、14dにおける流下薄膜結晶化によって得られるスチレン富化結晶化画分の少なくとも一部を、流下薄膜結晶化段階14a、14b、14cの1つから、それぞれの下流の流下薄膜結晶化段階14b、14c、14dへ再循環するのに適した再循環導管34a、34b、34cを介して接続される。入口導管20は、粗製スチレン含有組成物が第2の流下薄膜結晶化段階14bに導入され得るように、第2の流下薄膜結晶化段階14bに接続される。結晶化ブロック10から精製スチレン組成物を取り出すために、最下流の流下薄膜結晶化段階14dに排出導管22が設けられている。移送導管24は、第1の動的溶融結晶化区画12の最上流の流下薄膜結晶化段階14aと第2の静的溶融結晶化区画16の最上流の静的溶融結晶化段階18bとの間の流体連通を提供し、流下薄膜結晶化段階14aで結晶化して得られたスチレン枯渇残留物画分は、第2の静的溶融結晶化部16の静的晶析装置18bに移すことができる。静的溶融結晶化段階18aおよび18bは、静的溶融結晶化段階18bから静的溶融結晶化段階18aへの結晶化によって得られたスチレン枯渇残留物画分を移送するための移送導管36を介して接続される。加えて、静的溶融結晶化段階18aおよび静的溶融結晶化段階18bは、再循環導管38を介して接続され、静的溶融結晶化段階18aでの結晶化から生じるスチレン富化結晶化画分を結晶化段階18bの静的溶融晶析装置に移送することを可能にする。さらに、静的溶融結晶化段階18aは、静的溶融結晶化段階18aでの結晶化によって得られたスチレン枯渇残留物画分を結晶化ブロック10から排出するための排出導管28を備える。再循環導管30は、静的溶融結晶化段階18bと流下薄膜結晶化段階14aとの間の流体連通を提供し、したがって、第2の静的溶融結晶化段階18bで得られたスチレン富化結晶化画分の少なくとも一部を再循環させ、溶融結晶化区画16を第1の動的溶融結晶化区画12の流下薄膜結晶化段階14aに戻すことができる。
【0057】
図1bに示す装置10の運転中、粗製スチレン含有組成物は、入口導管20を介して流下薄膜結晶化段階14bに供給される。流下薄膜結晶化段階14a、14b、14c、14dのそれぞれにおいて、スチレン富化結晶化組成物およびスチレン枯渇残留物画分が調製される。流下薄膜結晶化段階14b、14c、14dの1つにおいて得られたスチレン枯渇残留物画分の各々は、移送導管32a、32b、32cを介してそれぞれの上流の流下薄膜結晶化段階14a、14b、14cに移送される。さらに、流下薄膜結晶化段階14a、14b、14cの1つにおいて得られたスチレン富化画分の各々は、再循環導管34a、34b、34cを介してそれぞれの下流の流下薄膜結晶化段階14b、14c、14dに少なくとも部分的に再循環される。第1の動的溶融結晶化区画12の流下薄膜結晶化段階14aでの結晶化後に得られるスチレン枯渇残留物画分は、移送導管24を介して第2の静的溶融結晶化区画16の静的溶融結晶化段階18bに移送される。静的溶融結晶化段階18bで得られたスチレン枯渇残留物画分は、移送導管36を介して下流の静的溶融結晶化段階18aに移送される。さらに、静的溶融結晶化段階18aで得られるスチレン富化結晶化画分は、再循環導管38を介して少なくとも部分的に上流の静的溶融結晶化段階18bに再循環される。静的溶融結晶化段階18bでの結晶化後に得られるスチレン富化結晶化画分は、再循環導管30を介して、第1の動的溶融結晶化区画12の流下薄膜結晶化段階14aに再循環される。結晶化段階14dで得られた最終的に精製スチレン組成物は、排出導管22を介して装置10から除去され、一方、最終的なスチレン枯渇残留物画分は、静的溶融結晶化段階18aから、および排出導管28を介して装置10から除去される。
【0058】
本発明によれば、表2は、典型的には粗製スチレン流中に存在し得る様々な不純物をそれらの融点と共に挙げている。結晶化ブロックによって粗スチレン流から不純物を除去する理由は以下の2つである。a)いくつかの種はスチレンよりも低い融点を有し、b)結晶化プロセス中に、融点が高い不純物は母液により溶けやすくなる。したがって、より高い融点を有するにもかかわらず、これらの不純物は結晶化によってスチレンから除去することができる。このように、結晶化は、粗製スチレン含有組成物から操作者が望むように、高度に精製スチレン組成物を製造する独自の方法である。製品の純度の向上は、結晶化段階の数の増加と直接相関している。一方、回収率は、残留物段階の数の関数である。
【0059】
図2は、ナフサ分解炉熱分解ガソリンから精製スチレン組成物を調製するのに特に適したプラントを概略的に示す。プラント11は、第1の蒸留塔40、第2の蒸留塔42、水素化反応器44、抽出蒸留塔46、溶媒回収蒸留塔48および結晶化ブロック10を含む。結晶化ブロック10は、
図1bに示すように構成されている。
【0060】
プラントの運転中、C7+パイガス流は第1の蒸留塔40で蒸留され、第1の蒸留塔40で得られた塔底流は第2の蒸留塔42に供給され、塔底生成物としてのC9+流および塔頂生成物としてのC8豊富流が得られる。そのようにして得られたC8豊富流は、水素入口導管50を介して水素化反応器44に供給される水素によって流れに含まれるフェニルアセチレンを水素化するために、水素化反応器44に供給される。水素化反応器44は、フェニルアセチレンを飽和させてスチレンを生成するために温和な条件下で運転される。しかしながら、これはエチルベンゼンを生成する飽和の形でスチレンの損失を伴う。水素化後、主にエチルベンゼン、混合キシレンなどからなる、水素化反応器44で得られる水素化C8流は、抽出蒸留塔46および溶媒回収蒸留塔48を含む抽出蒸留装置に供給される。抽出蒸留中に極性溶媒を使用して、スチレンと溶媒を含有する流れを塔底流として抽出し、次にこれを溶媒回収蒸留塔48に供給して溶媒を除去し、塔頂流として、スチレン含有量が99.8重量%を超える流れを有するスチレン富化流を得る。高純度であるにもかかわらず、この流れは、色の原因となる種、硫黄分子、酸素化物が存在するため、品質が劣る。しかし、上で詳細に説明したように結晶化ブロック10で行われる結晶化中に、不純物、特にスチレンの沸点に近い沸点を有する異なる不純物、例えばフェニルアセチレン、メタキシレンおよびオルトキシレン、エチルベンゼン、クメン、n-プロピルベンゼン、α-メチルスチレン、およびエチルトルエンが除去される。この現象は、フェニルアセチレン水素化反応器44を通過するスチレンの損失と、上流の蒸留塔40、42、46、48での使用効果消費の両方を最小限に抑えるために利用することができる。結晶化によるフェニルアセチレンの除去は、フェニルアセチレン水素化反応器44を低過酷度条件下で操作すること、または完全に排除することさえ可能にする。これにより、水素化中の関連するスチレンの損失が最小限に抑えられるか、または存在しなくなる。クメン、n-プロピルベンゼンなどの沸点に近いC9+化合物の除去は、プラント11内の蒸留塔42または脱オクタン装置をそれぞれ緩和して、C8カット内のC9+化合物のスリップを可能にすることができることを意味する。これらのC9+化合物は、その極性および沸点のために、主に粗製スチレン流に到達し、最終的に結晶化ブロック10を介して除去される。エチルベンゼン、オルトキシレンおよびメタキシレンなどのスチレンの沸点に近い沸点を有する化合物の除去は、抽出蒸留塔46および溶媒回収蒸留塔48を、より低い溶媒対供給比およびより低い抽出物蒸留塔の塔底温度で設計することができ、それによって設備投資と使用効果消費を減少させることができることを意味する。精製スチレン組成物は、排出導管22を介して回収されるが、結晶化ブロック10で得られたスチレン枯渇残留物画分は、抽出蒸留塔46の塔頂生成物として得られたC8抽残液と共に排出導管28を介して回収される。
【0061】
結晶化ブロック10は、上記で詳細に説明したように、共役ジオレフィン、主にC6チオフェンである硫黄種、および水、ケトン、アルデヒドおよびアルコールなどの酸素化物などの発色種を含む不純物を除去する。さらに、結晶化ブロックは、プロセスの極低温の性質により、スチレン製品での望ましくないポリマーの形成を防ぐ。吸着剤ベースのスチレン処理で発生する一般的な問題は、床全体のわずかな温度上昇にもかかわらず、活性部位での局所的な発熱による不要なポリマーが形成されることである。
【0062】
図3は、EBSMプロセス流を精製するのに特に適したプラント11を示す。プラント11は、アルキル化ユニット52、脱水素ユニット54、第1の蒸留塔40、第2の蒸留塔42、第3の蒸留塔56および結晶化ブロック10を含む。結晶化ブロック10は、
図1bに示すように構成されている。
【0063】
運転中、ベンゼンとエチレンはアルキル化反応器52でアルキル化されてエチルベンゼンを生成し、エチルベンゼンは脱水素反応器54に供給される。脱水素反応器54の流出物は、3つの蒸留塔40、42、56を含む分離ブロックに供給される。第1の蒸留塔40は脱水素反応器54の流出物からベンゼンとトルエンを移動させ、第2の蒸留塔42は未反応のエチルベンゼンをスチレンから分離し、第3の蒸留塔56はスチレン流を蒸留する。第3の蒸留塔56の塔底生成物は、第2の蒸留塔42における感熱性スチレンの望ましくない重合により生成されたスチレンタール残留物である。第2の蒸留塔42は、このシステムにおいて最大のエネルギー消費部分である。この理由は、スチレンからのエチルベンゼンの分離が、i)沸点が近いこと、およびii)スチレンの熱感受性のために困難であることであり、このことは塔が真空下で、多数の蒸留段階によって運転されることを必要とする。結晶化ブロック10における結晶化は、エネルギーの節約をもたらすだけでなく、蒸留塔42の底部におけるスチレンの望ましくない重合も減少させる。蒸留塔42は、少量のエチルベンゼン(最大3~5重量%)が塔の底に落ちることができる緩和モードで運転することができる。これにより、使用効果消費や理論上の段階が減少するだけでなく、塔底温度が低下し、望ましくないスチレンの重合が減少し、EBSMプロセス全体のスチレン収率が増加する。蒸留塔42の塔底液中のエチルベンゼンは、その沸点により、第3の塔56の塔頂生成物に到達する。この粗スチレン含有組成物は、結晶化ブロック10に供給されると、2つの流れ、すなわち、i)排出導管22を介して結晶化ブロック10から取り出された精製スチレン組成物、およびii)排出される、エチルベンゼンに富む残留液体28の生成をもたらす。
【0064】
図4は、熱分解によってポリスチレン流から生成されたスチレン含有流を精製するのに特に適したプラント11を示す。プラント11は、熱分解反応器60、第1の蒸留塔40、第2の蒸留塔42および結晶化ブロック10を含む。結晶化ブロック10は、
図1bに示すように構成されている。
【0065】
運転中、ポリスチレンの熱分解は、熱的にまたは触媒モードで操作できる熱分解反応器で行われる。反応器流出物は、結晶化ブロック10に供給される粗製スチレン含有組成物を生成するために、第1の蒸留塔40および第2の蒸留塔42において一連の分留工程を受ける。結晶化ブロック10は、蒸留工程の最終段階に適用されて、操作者が望むように、特定のエネルギー消費および設備投資を削減して、高純度グレードのスチレン生成物またはVHPSを生成する。
【0066】
以下の実施例は、本発明を説明するために提供されるものであり、特許請求の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0067】
特に明記しない限り、すべての部およびパーセンテージは重量基準のものである。
【0068】
様々な不純物を含む粗スチレン流を、熱分解ガソリンの抽出蒸留ユニットによって生成し、その後、流下薄膜と静的溶融結晶化の組み合わせによって精製し、最終VHPS製品および最終残留物を調製した。使用した結晶化ブロックは、静的溶融結晶化段階18aが省略されたことを除いて、
図1bを参照して上述した通りであった。
【0069】
結晶化ブロック全体のスチレン回収率は>95%であった。
図1bに示す単一流のスチレン濃度は次の通りである。
【0070】
「少なくとも1つ」という用語は、列挙された要素、構成要素、特徴などの組み合わせ、および列挙された要素、構成要素、特徴などを個別に網羅することを意味する。例えば、「AおよびBの少なくとも1つ」という語句は、別段の記載がない限り、Aのみを含む、Bのみを含む、およびAおよびBを含む実施形態を包含するために使用される。
【0071】
特許請求の範囲内の「含む」という用語は、「少なくとも含む」ことを意味することを意図しており、したがって、特許請求の範囲に列挙された要素のリストは開放群である。用語「a」、「an」および他の単数用語は、特に除外されない限り、それらの複数形を含むことを意図している。
【国際調査報告】