(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-07
(54)【発明の名称】アルツハイマー病を治療するためのrhoキナーゼ阻害剤の使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230531BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230531BHJP
A61K 31/551 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/28
A61K31/551
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563366
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(85)【翻訳文提出日】2022-11-17
(86)【国際出願番号】 US2021012588
(87)【国際公開番号】W WO2021216139
(87)【国際公開日】2021-10-28
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522273872
【氏名又は名称】ウールジー・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】WOOLSEY PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】マカリスター,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ジェイコブソン,スヴェン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA15
4C084ZA16
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC54
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC20
(57)【要約】
rhoキナーゼ阻害剤を使用してADを有する患者を治療する方法が開示される。本発明に従って使用される好ましいrhoキナーゼ阻害剤は、典型的には70~140mgの1日の総用量で経口投与される、ファスジルである。好ましい投与レジメンは、1日を通して、1日用量を3等分で投与することを伴う。好ましい方法は、1ヶ月を超えて継続し、典型的には、少なくとも2ヶ月又は3ヶ月継続する。いくつかの好ましい方法は、軽度の認知障害を治療せず、患者は、≦23のMMSEスコア及び/又は≧4.5のCDR-SOBスコアを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
意味記憶を改善する方法であって、意味記憶障害を有する患者を治療有効量のrhoキナーゼ阻害剤で治療することを含む、方法。
【請求項2】
アルツハイマー病を有する患者における認知を改善する方法であって、アルツハイマー病に罹患している患者に、薬理学的に有効な量のrhoキナーゼ阻害剤を経口投与することを含む、方法。
【請求項3】
アルツハイマー病を有する患者における記憶を改善する方法であって、アルツハイマー病に罹患している患者に、薬理学的に有効な量のrhoキナーゼ阻害剤を経口投与することを含む、方法。
【請求項4】
アルツハイマー病を有する患者における日常生活動作を改善する方法であって、アルツハイマー病に罹患している患者に、薬理学的に有効な量のrhoキナーゼ阻害剤を経口投与することを含む、方法。
【請求項5】
アルツハイマー病を有する患者における認知を改善する方法であって、アルツハイマー病に罹患している患者に、薬理学的に有効な量のrhoキナーゼ阻害剤を経口投与することを含む、方法。
【請求項6】
前記rhoキナーゼ阻害剤が、ファスジルであり、ファスジルが、即時放出製剤で、1日当たり70~140mgの用量で経口投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記患者が、≦23のMMSEスコアを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記患者が、≧4.5のCDR-SOBスコアを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、少なくとも2ヶ月間継続される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年4月23日に出願された米国仮出願第63/014,272号からの優先権を主張し、その開示は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
世界中で5,000万人近くの人々に影響を与えているアルツハイマー病(AD)は、認知症の症例の70%超を占める慢性的な神経変性疾患である。症例の約95%は孤発性であり、70歳以降に症状が現れる。加齢は、ADの発症に関連する最も重要な危険因子である。約50歳以下の早期発症を特徴とするのは、遺伝的背景を有する家族性とみなされる症例のごく一部である。
【0003】
AD患者は、認知的変化、すなわち、進行性エピソード記憶障害を発症し、最終的に患者の自律性の喪失につながる。認知症状には、精神的衰退、思考及び理解の困難、夜間の混乱、妄想、見当識障害、もの忘れ、作り話をする、精神的混乱、集中力の困難、新しい記憶を作ることができない、単純な計算を行うことができない、又は一般的な物事を認識できないことが含まれ得る。行動症状には、攻撃性、動揺、セルフケアの困難、苛立ち、自分の言葉の意味のない繰り返し、人格変化、落ち着きのなさ、抑制欠如、又は徘徊及び迷子になることが含まれ得る。AD患者はまた、怒り、無気力、一般的な不満、孤独、気分の変動、うつ病、幻覚、妄想、筋肉の非協調運動、支離滅裂な話し方、又は食欲不振を経験し得る。
【0004】
ADの2つの特徴的な病理学的所見は、アミロイドプラーク及び神経原線維変化(NFT)である。アミロイドプラークは、細胞外、ニューロンの外で生じ、アミロイド前駆体タンパク質(APP)に由来する凝集したアミロイドβ(Aβ)タンパク質で構成される。Aβ及びAPPの正常な機能的役割は知られていないが、APPはシナプス機能に関与し得る。NFTは、ニューロン自体の中で見出され、リン酸化された凝集したタウタンパク質で構成される。タウは、通常、ニューロンの軸索の微小管の安定化に関与する。
【0005】
家族性疾患に関与する遺伝子の理解に基づいて、Aβは、タウ病理、神経炎症、及び最終的には認知機能低下をもたらす神経細胞の喪失を誘発することによって、神経変性のプロセスを開始すると考えられている。
【0006】
ADにおける神経炎症の役割は明らかではなく、早期疾患において有益である可能性が高いが、炎症誘発性サイトカイン産生及び酸化ストレスのループへの参与によって有害因子に発展する。
【0007】
これらのプロセスのうちのいずれかを対象とした介入の中心的な問題は、因果関係に対する関連性の問題である。介入が疾患の治療に役立つためには、因果関係の連鎖を断ち切る必要がある。Aβ、タウ、及び神経炎症は、確かにADと関連するが、それらが因果関係に関与しているかどうかは明らかではなく、したがって、これらのうちのいずれかに影響を及ぼすことが、疾患の治療において何らかの治療上の利益を有するかは不明である。
【0008】
AβがADタンパク質障害カスケードを開始し、かつ因果連鎖の最初の点であるという仮説に基づいて、これは最も研究されている臨床標的である。しかしながら、動物モデルにおいて有望性を示す圧倒的な文献にもかかわらず、ADにおいて機能することが示されている製品は存在しない(Ceyzeriat 2020)。これらの失敗としては、多くの中でも特に、抗Aβ42+フロイントアジュバント、バピネウズマブ、ソラネズマブ、アデュカヌマブ、ベルベセスタット、ラナベセスタット、アタベセスタット、CNP520、エレンベセスタット、γ-セクレターゼ阻害剤、ブリオスタチン、及びPBT2が挙げられる。
【0009】
タウは、Aβの下流であるという証拠があるので、標的になりにくく、したがって、原因ではないので、治験の頻度は低い。注目すべきことに、開始された15のタウを標的とした治験のうち、すでに4つが停止されている。
【0010】
神経炎症は、現在の臨床研究の中で最も急速に進化している領域であるが、ADにおける神経炎症、したがって、神経炎症指向療法の役割は、決して明確ではない。疫学的研究は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)での治療が、ADを発症するリスクを低減し、トランスジェニックモデルにおけるアミロイド負荷を低減することができることを示唆しているが、今日までの抗炎症薬を試験する予測的な研究は、ADにおける認知に有益な効果を示していない。神経炎症を標的とする研究は進行中であるが、初期の結果は、有望ではない。p38マイトジェン活性化プロテインキナーゼの選択的阻害剤であるネフラマピモドは、動物モデルにおいて有効性を示したが、ヒトにおけるAβの沈着には効果がなく、脳脊髄液中のタウを低減したにもかかわらず、第2相におけるエピソード記憶の改善というその主要評価項目に失敗した。
【0011】
ADの動物モデルにおいて有望と思われた化合物の臨床的失敗の数を考慮すると、動物データの解釈には深刻な程度の懐疑を適用すべきである。げっ歯類とヒトとの間の脳の複雑さの違いという明らかな問題を除いたとしても、既存のモデルのうちの多くは、ヒトの状態との類似性をただ差し当たり担持するのみである。多くのことが動物に神経変性を引き起こし得、多くの推定的な薬がその神経変性を停止させ得るが、根底にある病態生理学及び因果関係の連鎖は不明であり、これが、疾患を改変する介入が作用する必要があるところである。したがって、病理学的及び臨床的提示の両方において、最良の症例における既知の欠損を有する動物モデルが、可能な限りヒト疾患に非常に類似していることが重要である。
【0012】
ADの様々な動物モデルにおけるrhoキナーゼ阻害剤の使用に注目するいくつかの出版物が存在する。確立されたモデルは、基本的な特性でさえ欠損している。いくつかのモデルは、ストレプトゾトシンのような薬剤で神経毒性を直接誘発すること、又は更にはアミロイド-ベータを脳に直接注射することに関与する。これらのモデルは、ある特定のADのような特性を呈し得るが、それらは単なる神経変性のモデルであり、AD自体の治療を予測することはできない。トランスジェニックモデルでさえ、不十分である。例えば、おそらく最も広く報告されているトランスジェニックモデルである、APP/PS-1マウスなどのNFTを伴わずアミロイドプラークのみを発症する、いくつかのトランスジェニックマウスが存在する。rTG4510タウマウスなどの、アミロイドプラークを伴わずタウオパチーを発症するマウスも存在する。ADは、両方の存在を特徴とする。
【0013】
具体的には、動物モデルは、神経解剖学における種の違いに部分的に起因し(Sasaguri 2017)、上記のモデルの基本的な病理学的基礎の欠損に部分的に起因して、ヒト疾患を忠実に再現していない。ADにおける発症の特徴は、いずれの動物モデルでも測定することができない意味記憶の失敗であることにも留意することが重要であるので、全ての動物モデルは、同様にこの欠損が共通する。例えば、Hamano et al.,2019は、rTG4510タウトランスジェニックマウスに12mg/kg/日(68mg HED)を投与し、タウリン酸化/切断及びオリゴマーのみを測定したが、転帰については記載していない。Elliott 2018は、トリプルトランスジェニックマウスモデル(APP Swedish、MAPT P301L、及びPSEN1 M146V)を使用し、10mg/kg/日(腹腔内)のファスジル(57mg HED)の用量でインビボでのβ-アミロイドプラークの低減を観察した。Sellers 2018は、AB42マウスモデルを使用し、10mg/kgのBID(226mg HED)の用量でファスジルを腹腔内投与したが、β-アミロイド樹状突起スパイン損失のみを監視した。Couch et al.2010は、脳室内注入を使用し、樹状突起の分岐に対する効果を観察したが、徘徊に関連する転帰については記載していない。Yu 2017及びHou 2012は、APP/PS1トランスジェニックマウス(70、140mg HED)及びストレプトゾトシンラット(226mg HED)に、それぞれ5及び10mg/kg/日のファスジルを腹腔内投与し、モリス水迷路においてたどり着くまでの距離及び区画時間が改善されたことを観察した。しかし、上と矛盾する報告も存在する。例えば、Turk 2018(学位論文)は、トリプルトランスジェニックマウスを使用し、水中30mg/kg及び100mg/kgでファスジルを投与した月齢10ヶ月又は12ヶ月では、空間記憶における改善を観察しなかった。
【0014】
いくつかの出版物は、非現実的な投与経路(例えば、脳室内注射)を使用し、多くは適切な用量を使用していない。これに関して、動物において使用される用量を、ヒトにおいて同じ用量に変換するための標準的な式が存在する。ヒト当量用量は、例えば、Nair&Jacob,J Basic Clin Pharm.7:27-31(2016)の表1を使用して計算することができ、これらは、米国FDAによって使用されるのと同じ変換である。Becker,Alzheimers Dis.15:303-325(2008)は、AD薬開発の成功における用量の重要性を論じ、これをAD薬開発の失敗点として指摘している。
【0015】
現在利用可能であるが不十分な動物モデリングに基づいて、ADの病理学的特徴を標的とする異なる治療戦略が試験されているが、ヒトにおいて有益な効果を示すことはできていない。現在、利用可能な医薬品は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤及びN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬に限定されており、これらは、いくつかの症状においてわずかな改善を示すに過ぎない。更に、承認された薬物の利益は、軽度の認知障害を有する患者でのみ実証されており、確立されたADを有する患者では実証されていない。動物に限らず、ヒトに利益を示す新しい疾患修飾療法を提供するという、顕著な、満たされていないニーズが存在する。
【0016】
最後に、Kamei(1996a及び1996b)は、血管性認知症に起因する徘徊を有する2人の患者においてファスジルを使用したことを報告した。1人の患者は、MRI画像によって確認され、ビンスワンガー型脳梗塞と診断された。他方の患者は、MRIによって確認された脳出血及び多発性ラクナ梗塞の後遺症と診断された。皮質下血管性認知症を有する数人の患者における徘徊に対する予備的な結果にもかかわらず、この観察が、臨床研究によって確認されたとしても、ADのような脳の皮質領域における根底にある認知症の治療に外挿することができるという証拠はない。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、rhoキナーゼ阻害剤を使用してADを有する患者を治療することを企図する。本発明に従って使用される好ましいrhoキナーゼ阻害剤は、典型的には70~140mgの1日の総用量で経口投与される、ファスジルである。好ましい投与レジメンは、1日を通して、1日用量を3等分で投与することを伴う。好ましい方法は、1ヶ月を超えて継続し、典型的には、少なくとも2ヶ月又は3ヶ月継続する。
【0018】
好ましくは本発明に従って治療可能な患者は、単に軽度の認知障害ではなく、認知症と診断された患者である。好ましい方法は、少なくとも2のCDRスコア及び/又は少なくとも4.5若しくは更には少なくとも6.5のCDR-SOBスコア及び/又は≦23のMMSEスコアを有する患者を治療することを伴い、いくつかの好ましい実施形態は、≦20のMMSEスコアを有する患者を治療する。ADAS-COGスコアは通常、≧21であり、時には≧37である。AD又は「可能性の高い」ADの臨床診断に加えて、本発明に従って治療した患者は、一般に、CSF及び/又はPETで測定したβ及び/又はタウ病理の異常を含むADのバイオマーカー証拠を有するであろう。他のバイオマーカー異常には、過剰及び/又は非対称皮質萎縮及び局所的低灌流が含まれる。本発明の好ましい態様は、純粋な血管性認知症を有する患者を除外し、NINDS-AIREN基準を満たす、及び/又は>7のハチンスキー虚血スコアを有する患者を除外する。好ましい方法は、ニモジピンで患者を治療することを企図しない。
【0019】
本発明の一実施形態では、ファスジルで治療されるAD患者は、遅延された疾患の進行を呈する。一実施形態では、ファスジルは、軽度から中等度の認知機能低下からの進行を遅延させる。別の実施形態では、ファスジルは、中等度から重度の認知機能低下からの進行を遅延させる。
【0020】
特定の実施形態では、ファスジルで治療される患者の治療は、軽度から中等度のADへの進行を少なくとも6ヶ月、好ましくは少なくとも1年、及びより好ましくは1年超遅延させる。
【0021】
別の特定の実施形態では、ファスジルで治療される患者の治療は、中等度から重度のADへの進行を少なくとも6ヶ月、好ましくは少なくとも1年、及びより好ましくは1年超遅延させる。特定の実施形態では、進行は、臨床認知症評価(CDR-SOB)尺度を使用して測定される。
【0022】
特定の実施形態では、ファスジルで治療される患者は、遅延された記憶喪失を呈する。特定の実施形態では、遅延された記憶喪失は、MMSE又はADAS-Cogの改善によって評価される。
【0023】
別の実施形態では、ファスジルでの治療は、アルツハイマー病協同研究-日常生活動作(ADCS-ADL)における統計的差異によって評価されるように、記憶以外の認知症状の悪化を遅延させる。
【0024】
特定の実施形態では、ファスジルでの治療は、運転障害の進行を遅延させる。
【0025】
更に別の実施形態では、ファスジルは、ベースラインで無症状であったADを有する患者における望ましくない行動の出現速度を低減し、例えば、攻撃性、動揺、セルフケアの困難、苛立ち、自分の言葉の意味のない繰り返し、人格変化、落ち着きのなさ、抑制欠如、又は徘徊及び迷子を含む。
【0026】
別の実施形態では、ファスジル治療は、歩行失行又はバランス欠損の発生を低減する。
【0027】
別の特定の実施形態では、ファスジルでの治療は、AD患者の施設収容の必要性を排除するか、又は遅延させる。特定の実施形態では、患者は、動揺を呈する。
【0028】
本発明の一実施形態では、患者は治療され、治療は、行動症状と戦うための抗精神病医薬品(例えば、アリピプラゾール、クロザピン、ハロペリドール、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、及びジプラシドン)を含む化学的拘束の使用を排除する。
【0029】
別の実施形態では、ファスジルで治療される患者はまた、トラゾドンなどの抗うつ剤、及びシタロプラム若しくはエスシタロプラム、パロキセチン、フルオキセチン、又はセルトラリンなどのSSRIで治療されている。更なる実施形態では、ファスジルでの治療は、嗅内皮質及び海馬から前頭大脳皮質への神経変性の進行を低減する。
【0030】
別の実施形態では、治療される患者は、辺縁優位性関連AD疾患を有する。更なる実施形態では、辺縁優位性患者は、女性である。
【0031】
別の実施形態では、ファスジルで治療されるAD患者は、主に脳の海馬領域に神経変性を有する。別の実施形態では、治療される患者は、海馬領域ではなく、主に脳の皮質領域に神経変性を有する。特定の実施形態では、海馬温存患者は、男性である。更なる特定の実施形態では、治療される海馬温存ADの男性患者は、若年発症ADを有する。
【0032】
更なる実施形態では、ファスジルで治療される患者は、後部皮質萎縮(PCA)を有する。
【0033】
特定の実施形態では、患者は、男性である。別の特定の実施形態では、患者は、若年発症認知症を有する。特定の実施形態では、患者は、プレセニリン-1遺伝子、アミロイド前駆体タンパク質(APP)遺伝子、及び/又はプレセニリン遺伝子に欠損を有する。更なる実施形態では、治療される患者は、ApoE ε4対立遺伝子に欠損又はその差次的発現を有する。
【0034】
別の実施形態では、ファスジルで治療される患者は、記憶、実行機能、言語、及び視空間機能のうちの少なくとも1つに欠損を呈する。
【0035】
別の実施形態では、ファスジルで治療される患者は、記憶、実行機能、言語、及び視空間機能の全てに欠損を呈する。
【0036】
更なる実施形態では、ファスジルで治療される患者は、実行機能、言語、及び視空間機能と比較して、記憶により大きな欠損を呈する。特定の実施形態では、かかる患者は、ApoE ε4対立遺伝子に欠損又はその差次的発現を有する。別の実施形態では、記憶の欠損は、エピソード記憶にある。
【0037】
更なる実施形態では、ファスジルで治療される患者は、実行機能、記憶、及び視空間機能と比較して、言語により大きな欠損を呈する。
【0038】
更なる実施形態では、ファスジルで治療される患者は、記憶、言語、及び視空間機能と比較して、実行機能により大きな欠損を呈する。
【0039】
更なる実施形態では、ファスジルで治療される患者は、実行機能、言語、及び記憶と比較して、視空間機能により大きな欠損を呈する。
【発明を実施するための形態】
【0040】
ADは、意味記憶の潜行性で進行性の障害として現れる神経変性疾患である。記憶障害が主な提示特徴である初期段階では、人格及び社会的スキルが保存されているように思われることが多い。ADが進行するにつれて、認知及び行動の他の態様は、失語症及び失読症の出現で障害を受ける。言語障害には、初期段階では、呼称及び喚語困難を含むことができ、口頭及び書面による理解及び表現の進行性の障害を伴う。視空間的能力、分析的及び合成的能力、判断力、並びに洞察力は全て漸進的に影響を受け、患者は、妄想及び幻覚を経験し得る。出現する行動の変化には、落ち着きのなさ、苛立ち、動揺、言語的又は身体的な攻撃性、徘徊、ペーシング、及び脱抑制が含まれ得る。最終段階では、認知機能は完全に劣化し、患者は、顕著な四肢剛性を呈し得、可動性の喪失をもたらし、尿及び糞便の失禁に至り、典型的には、肺炎を引き起こすことが多い感染症に起因する死に至る。
【0041】
ROCK阻害剤
発明の方法は、疾患又は状態の治療におけるrhoキナーゼ(ROCK)阻害剤の投与を企図する。2つの哺乳類ROCK相同体、ROCK1(別名ROKβ、Rhoキナーゼβ、又はp160ROCK)及びROCK2(別名ROKα)が知られている(Nakagawa 1996)。ヒトにおいて、ROCK1及びROCK2の両方の遺伝子は、第18染色体上に位置する。2つのROCKアイソフォームは、それらの一次アミノ酸配列において64%の同一性を共有するが、キナーゼドメインにおける相同性は更に高い(92%)(Jacobs 2006、Yamaguchi 2006)。両方のROCKアイソフォームは、セリン/スレオニンキナーゼであり、類似の構造を有する。
【0042】
多数の薬理学的ROCK阻害剤が、知られている(Feng,LoGrasso,Defert,&Li,2015)。イソキノリン誘導体は、好ましいクラスのROCK阻害剤である。イソキノリン誘導体ファスジルは、Asahi Chemical Industry(Tokyo,Japan)が開発した最初の小分子ROCK阻害剤である。ファスジルの特徴的な化学構造は、スルホニル基を介してホモピペラジン環に接続されたイソキノリン環からなる。ファスジルは、両方のROCKアイソフォームの強力な阻害剤である。インビボで、ファスジルは、その活性代謝産物ヒドロキシファスジル(別名M3)に肝代謝を施される。イソキノリン誘導ROCK阻害剤の他の例としては、ジメチルファスジル及びリパスジルが挙げられる。
【0043】
他の好ましいROCK阻害剤は、4-アミノピリジン構造に基づくに基づく。これらは、Yoshitomi Pharmaceutical(Uehata et al.,1997)によって初めて開発され、Y-27632によって例示される。なお他の好ましいROCK阻害剤としては、インダゾール、ピリミジン、ピロロピリジン、ピラゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンザチオフェン、ベンズアミド、アミノフラザン、キナゾリン、及びホウ素誘導体が挙げられる(Feng et al.,2015)。いくつかの例示的なROCK阻害剤を以下に示す。
【化1】
【0044】
発明によるROCK阻害剤は、ROCK1又はROCK2のいずれかに対してより選択的な活性を有し得、通常、PKA、PKG、PKC、及びMLCKに変動するレベルの活性を有するであろう。いくつかのROCK阻害剤は、ROCK1及び/又はROCK2に非常に特異的であり得、PKA、PKG、PKC、及びMLCKに対してはるかに低い活性を有する。
【0045】
特に好ましいROCK阻害剤は、ファスジルである。ファスジルは、遊離塩基又は塩として存在し得、半水和物などの水和物の形態であり得る。本明細書で使用される場合、特に注記されない限り、ファスジルなどの任意の活性部分の名称は、活性部分の遊離酸又は塩基、塩、水和物、多形体、及びプロドラッグを含む、活性部分の全ての形態を含むとみなされるべきである。
【化2】
ヘキサヒドロ-1-(5-イソキノリンスルホニル)-1H-1,4-ジアゼピン一塩酸塩半水和物
【0046】
ファスジルは、ROCK、PKC、及びMLCKなどのプロテインキナーゼの選択的阻害剤であり、治療は、血管平滑筋の強力な弛緩を生じ、血流の向上を生じる(Shibuya 2001)。血管攣縮の特に重要な媒介物であるROCKは、ミオシン軽鎖(MLC)ホスファターゼのミオシン結合サブユニットをリン酸化し、したがって、MLCホスファターゼ活性を減少させ、血管平滑筋収縮を向上することによって、血管収縮を誘発する。更に、ファスジルは、内皮一酸化窒素合成酵素のmRNAを安定化することによってeNOS発現を増加させ、それが強力な血管拡張薬一酸化窒素(NO)のレベルの増加に寄与し、それによって血管拡張を向上する証拠が存在する(Chen 2013)。
【0047】
ファスジルは、約25分の短い半減期を有するが、インビボでその1-ヒドロキシ(M3)代謝物に実質的に変換される。M3は、ファスジル親分子と同様の効果を有し、活性がわずかに向上し、半減期は約8時間である(Shibuya 2001)。したがって、M3は、分子のインビボでの薬理学的活性の大部分を担っている可能性が高い。M3は、以下に示す2つの互変異性体として存在する。
【化3】
【0048】
ファスジルなどの、本発明で使用されるROCK阻害剤は、薬学的に許容される塩及び水和物を含む。無機及び有機酸との反応を介して形成され得る塩。それらの無機酸及び有機酸としては、以下:塩酸、臭化水素酸塩酸(hydrobromide acid)、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸、シュウ酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マンデル酸、トリフルオロ酢酸、パントテン酸、メタンスルホン酸、又はパラ-トルエンスルホン酸が挙げられる。
【0049】
薬学的組成物
本発明で使用可能なROCK阻害剤の薬学的組成物は、一般に経口であり、錠剤又はカプセル剤の形態であり得、即時放出性製剤(すなわち、投与時にROCK阻害剤の放出を実質的に制御又は遅延するように設計される製剤の要素がないもの)であり得るか、又は制御放出性製剤若しくは徐放性製剤であり得、トウモロコシデンプン、マンニトール、ポビドン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及び同様の物質などの薬学的に許容される賦形剤を含み得る。ROCK阻害剤及び/又はその塩を含む薬学的組成物は、当該技術分野において既知である1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含み得る。製剤としては、経口フィルム、経口崩壊錠剤、発泡性錠剤、及び食品に散布することができるか、又はスラリーとして液体と混合することができるか、又は直接口に注いで流し込むことができる顆粒又はビーズが挙げられる。
【0050】
ROCK阻害剤、その塩及び水和物を含む薬学的組成物は、薬学の分野において既知の任意の方法によって調製され得る。一般に、そのような調製方法は、ROCK阻害剤又はその薬学的に許容される塩を、担体若しくは賦形剤、及び/又は1つ以上の他の付属成分と会合させるステップと、次いで、必要な場合及び/又は望ましい場合、製品を所望の単回用量単位又は複数回用量単位に成形及び/又は包装するステップと、を含む。
【0051】
薬学的組成物は、単回単位用量として、及び/又は複数の単回単位用量として、バルクで調製、包装、及び/又は販売され得る。本明細書で使用される場合、「単位用量」は、所定量の活性成分を含む薬学的組成物の別個の量である。活性成分の量は、一般に、対象に投与されるであろう活性成分の投与量、及び/又は例えば、そのような投与量の2分の1又は3分の1などのそのような投与量の都合のよい分数に等しい。
【0052】
本発明の薬学的組成物中の活性成分、薬学的に許容される賦形剤、及び/又は任意の追加の成分の相対量は、治療される対象の独自性、大きさ、及び/又は状態に応じて、更には組成物が投与される経路に応じて変動するであろう。本発明の方法に従って使用される組成物は、0.001%~100%(w/w)の活性成分を含み得る。
【0053】
提供される薬学的組成物の製造に使用される薬学的に許容される賦形剤としては、不活性希釈剤、分散剤及び/若しくは造粒剤、表面活性剤及び/若しくは乳化剤、崩壊剤、結合剤、防腐剤、緩衝剤、潤滑剤、並びに/又は油が挙げられる。カカオバター及び坐剤ワックス、着色剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、及び香料剤などの賦形剤もまた、組成物中に存在し得る。
【0054】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、希釈剤を含み得る。例示的な希釈剤としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸ナトリウムラクトース、スクロース、セルロース、微結晶セルロース、カオリン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、コーンスターチ、粉末糖、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0055】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、造粒剤及び/又は分散剤を含み得る。例示的な造粒剤及び/又は分散剤としては、ジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン、タピオカデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、粘土、アルギン酸、グアーガム、柑橘類パルプ、寒天、ベントナイト、セルロース、及び木製品、天然スポンジ、カチオン交換樹脂、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、炭酸ナトリウム、架橋ポリ(ビニル-ピロリドン)(クロスポビドン)、カルボキシメチルデンプンナトリウム(デンプングリコール酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロース)、メチルセルロース、部分アルファ化デンプン(デンプン1500)、微結晶デンプン、水不溶性デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(VEEGUM)、ラウリル硫酸ナトリウム、四級アンモニウム化合物、並びにそれらの混合物が挙げられる。
【0056】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、結合剤を含み得る。例示的な結合剤としては、デンプン(例えば、コーンスターチ及びデンプンペースト)、ゼラチン、糖類(例えば、スクロース、グルコース、デキストロース、デキストリン、糖蜜、ラクトース、ラクチトール、マンニトールなど)、天然及び合成ガム(例えば、アカシア、アルギン酸ナトリウム、アイリッシュモスの抽出物、パンワールガム(panwar gum)、ガッティガム(ghatti gum)、イサポールの殻(isapol husk)の粘液、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶セルロース、酢酸セルロース、ポリ(ビニル-ピロリドン)、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(VEEGUM.RTM.)、及びカラマツ属アラボガラクタン(larch arabogalactan))、アルギン酸塩、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、無機カルシウム塩、ケイ酸、ポリメタクリレート、ワックス、水、アルコール、並びに/又はそれらの混合物が挙げられる。
【0057】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、防腐剤を含み得る。例示的な防腐剤としては、抗酸化剤、キレート剤、抗細菌防腐剤、抗真菌防腐剤、抗原虫(antiprotozoan)防腐剤、アルコール防腐剤、酸性防腐剤、及び他の防腐剤が挙げられる。ある特定の実施形態では、防腐剤は、抗酸化剤である。他の実施形態では、防腐剤は、キレート剤である。
【0058】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、抗酸化剤を含み得る。例示的な抗酸化剤としては、アルファトコフェロール、アスコルビン酸、パルミチン酸アコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、ギ酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、及び亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0059】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、キレート剤を含み得る。例示的なキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)並びにその塩及び水和物(例えば、エデト酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸二カリウムなど)、クエン酸並びにその塩及び水和物(例えば、クエン酸一水和物)、フマル酸並びにその塩及び水和物、リンゴ酸並びにその塩及び水和物、リン酸並びにその塩及び水和物、並びに、酒石酸並びにその塩及び水和物が挙げられる。例示的な抗細菌防腐剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、ブロノポール、セトリミド、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、クレゾール、エチルアルコール、グリセリン、ヘキセチジン、イミド尿素、フェノール、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、プロピレングリコール、及びチメロサールが挙げられる。
【0060】
ある特定の実施形態では、薬学的組成物は、ROCK阻害剤又はその塩と一緒に緩衝剤を含み得る。例示的な緩衝剤としては、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルセプト酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、D-グルコン酸、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、プロパン酸、レブリン酸カルシウム、ペンタン酸、リン酸二カルシウム、リン酸、リン酸三カルシウム、リン酸水酸化カルシウム(calcium hydroxide phosphate)、酢酸カリウム、塩化カリウム、グルコン酸カリウム、カリウム混合物、リン酸二カリウム、リン酸一カリウム、リン酸カリウム混合物、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸ナトリウム混合物、トロメタミン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルギン酸、パイロジェンフリーの水、等張食塩水、リンゲル液、エチルアルコール、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0061】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、潤滑剤を含み得る。例示的な潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、シリカ、タルク、麦芽、ベハン酸グリセリル(glyceryl behanate)、水添植物油、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ロイシン、ラウリル硫酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0062】
他の実施形態では、ROCK阻害剤又はその塩を含む薬学的組成物は、液体剤形として投与されるであろう。経口及び非経口投与のための液体剤形としては、薬学的に許容されるエマルション、マイクロエマルション、溶液、懸濁液、シロップ、及びエリキシル剤が挙げられる。活性成分に加えて、液体剤形は、例えば、水又は他の溶媒などの当技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(例えば、綿の実、ラッカセイ、トウモロコシ、胚芽、オリーブ、ヒマシ、及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、及びソルビタンの脂肪酸エステルなどの可溶化剤及び乳化剤、並びにそれらの混合物を含み得る。不活性希釈剤の他に、経口組成物としては、湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、甘味剤、香味剤、並びに香料剤などのアジュバントが挙げられ得る。非経口投与のためのある特定の実施形態では、本発明のコンジュゲートは、Cremophor(商標)、アルコール、油、改質油、グリコール、ポリソルベート、シクロデキストリン、ポリマー、及びそれらの混合物などの可溶化剤と混合される。
【0063】
経口投与のための固体剤形としては、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉末、及び顆粒が挙げられる。そのような固体剤形では、活性成分は、クエン酸ナトリウム若しくはリン酸二カルシウムなどの少なくとも1つの不活性で薬学的に許容される賦形剤若しくは担体、及び/又は(a)デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及びケイ酸などの充填剤若しくは増量剤、(b)例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、スクロース、及びアカシアなどの結合剤、(c)グリセロールなどの保湿剤、(d)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ若しくはタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定のケイ酸塩、及び炭酸ナトリウムなどの崩壊剤、(e)パラフィンなどの溶解遅延剤(solution retarding agent)、(f)四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤、(g)例えば、セチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロールなどの湿潤剤、(h)カオリン及びベントナイト粘土などの吸収剤、並びに(i)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びそれらの混合物などの潤滑剤と混合される。カプセル剤、錠剤、及び丸剤の場合、剤形は、緩衝剤を含み得る。
【0064】
本発明のいくつかの組成物は、徐放性製剤又は制御放出性製剤に関する。これらは、例えば、拡散制御製品、溶解制御製品、侵食製品、浸透圧ポンプシステム、又はイオン性樹脂系であり得る。拡散制御製品は、水の流れ及びその後の剤形から溶解した薬物の流出を制御する水不溶性ポリマーを含む。溶解制御製品は、ゆっくり可溶化するポリマーを使用することによって、又は薬物のマイクロカプセル化-変動する厚さを使用して放出を制御することによって、薬物の溶解速度を制御する。侵食製品は、担体マトリックスの侵食速度によって薬物の放出を制御する。浸透圧ポンプシステムは、半透過性の膜を通り、浸透剤を含有するリザーバーへの一定の水の流入に基づいて薬物を放出する。イオン交換樹脂は、薬物に結合するために使用され得るので、摂取されると、薬物の放出が消化管内のイオン環境によって決定される。
【0065】
治療可能な患者
本発明は、ADを有する患者の治療における、rhoキナーゼ阻害剤の使用を企図する。企図される療法は、疾患修飾であると考えられており、したがって、本発明の方法は、ADのマーカーの改善とともに、疾患の様々な臨床症状及び症状を治療又は緩和することを具体的に企図する。
【0066】
本発明に従って治療可能なAD患者は、以下の欠損のうちの1つ以上を示し得、本発明は、これらの欠損の各々を改善する方法を企図する。欠損には、意味記憶の障害(人格及び/又は社会的スキルが保存されている又はされていない)、失語症、失読症、呼称困難、喚語困難、口頭による理解の障害、書面による理解の障害、書面による表現の障害、視空間能力の障害、分析能力の障害、合成能力の障害、判断力の障害、洞察力の障害、妄想、幻覚、落ち着きのなさ、苛立ち、動揺、言語的な攻撃性、身体的な攻撃性、徘徊、ペーシング、及び脱抑制が含まれ得る。
【0067】
米国精神医学会は、軽度と重度の神経認知障害を区別する:
軽度の神経認知障害は、独立性を妨げず、かつせん妄又は他の医学的若しくは精神的障害に起因しない、形式的な認知試験の正常値から1~2の標準偏差の認知的低下として定義される。
重度の神経認知障害は、独立性を妨げ、かつせん妄又は他の医学的若しくは精神的障害に起因しない、形式的な認知試験の正常値から2つの標準偏差又はそれ以上の認知的低下として定義される。
【0068】
本発明に従って治療可能な患者は、典型的には、障害がその独立性を妨げるように、これらの基準に従う重度の神経認知障害を有するであろう。独立性の障害は、Barthel Indexのようなスケールを含む日常生活動作(ADL)を測定する尺度を使用して評価することができる。しばしば、本発明に従って治療可能な患者は、彼らが補助生活又は記憶療法施設の居住者であり、かつ彼らの状態に起因して地域社会又は自宅で暮らしていないという点で、独立性が制限されるであろう。
【0069】
Mental Disorders of Diagnostic and Statistical Manual Fifth Edition(DSM-V)は、本発明に従って治療可能な患者を特定するための有用な枠組みを提供する。DSM-Vは、認知症候群及び可能性の高いアルツハイマー病認知症の定義を提供する。
【0070】
認知症症候群は、以下:記憶、複雑なタスクの推論及び処理、視空間能力、言語機能、及び人格、行動、又は構成要素のうちの少なくとも2つにおいて客観的な認知又は行動障害を必要とする。それはまた、以前のレベルの機能からの低下及び機能障害を必要とする。
【0071】
可能性の高いアルツハイマー型認知症には、認知症症候群の基準が満たされていること、潜行性発症、段階的進行、健忘型又は非健忘型(言語又は実行)の初期症状、及び認知を妨げ得る重症度の他の神経、精神、又は一般的な医学的障害がないことが必要である。DSM-Vは、陽性バイオマーカー(例えば、CSF Aβ/タウ、アミロイド陽電子放出断層撮影、及びMRI上の海馬萎縮)で診断の確実性が増加され得ることを示す。DSM-Vによれば、本発明は、患者がまた、1つ以上のADバイオマーカーで陽性であることが示されている、アルツハイマー型認知症の可能性が高い患者を治療することを特に企図する。
【0072】
国立老化研究所(NIA)及びアルツハイマー協会によって招集されたワーキンググループは、AD認知症の広く受け入れられている診断基準を示している(McKhann 2011)。NIA基準はまず、原因に関係なく、認知症(患者の機能的能力に悪影響を与える認知又は行動症状の出現)を診断するための診断フレームワークを設けた。可能性の高いAD認知症は、症状の進化並びにある特定の認知欠損、最も一般的には健忘型(学習障害及び最近の情報の想起)であるがまた喚語、空間認知、及び実行機能障害などの様々な非健忘型欠損の掲示によって診断される。可能性の高いADはまた、VaD、レビー小体型認知症(DLB)、行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)、意味型原発性進行性失語症若しくは非流暢型/失文法型原発性進行性失語症、並びに別の活動性神経疾患のような他の原因、又は認知に悪影響を与え得る非神経医学的併存症若しくは薬剤の使用の除外を必要とする。AD病理の1つ以上のバイオマーカーが存在することが示される場合、可能性の高いAD認知症がより確実に診断される。
【0073】
NIA又はDSM-Vの診断の一部として、又はそれらに関係なく、本発明に従って治療可能なAD患者の診断は、脳脊髄液(CSF)におけるバイオマーカーの画像及び測定を使用して容易にすることができる。最も広く使用されているアルツハイマー病のCSFバイオマーカーは、ある特定のタンパク質:ベータ-アミロイド42(脳内のアミロイドプラークの主要成分)、タウ、及びホスホ-タウ(脳内のタウ変化の主要成分)を測定する。アルツハイマー病では、アルツハイマー病又は認知症の他の原因を有しない人のレベルと比較して、CSFにおけるベータ-アミロイド42レベルは低く、タウ及びホスホ-タウレベルは高い。
【0074】
撮像、特にコンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像法(MRI)、及び陽電子放出分光法(PET)は、認知症の診断に有用なツールである。神経変性は脳萎縮をもたらし、これは検出及び定量化され得る。本発明に従って治療可能な患者は、全脳萎縮を示し得、全皮質萎縮(GCA)尺度で測定可能である。尺度上で1のスコアは、高齢の患者では正常とみなされてもよいが、2又は3のスコアは、一般に異常とみなされるべきである。2又は3のGCAスコアを有する対象は、好ましくは、本発明に従って治療可能である。重度の萎縮症例は、顕著な心室拡大を示し得、かかる患者は、本発明の方法を使用して好適に治療される。MRIによって検出された非対称及び/又は局所萎縮、特に側頭及び/又は頭頂部の領域は、ADを強く示唆する。ADを示す異常な脳萎縮を検出するために、これらの機能を実行することができる自動化されたツールが、ますます利用可能である。
【0075】
フルオロデオキシグルコース(FDG)PETスキャンは、脳におけるグルコースの使用を測定する。糖の一種であるグルコースは、細胞の主要なエネルギー源である。研究は、認知症を有する人は、脳の特定の領域での異常なパターンのグルコース使用の減少を有することが多いことを示している。FDG PETスキャンは、認知症の特定の原因の診断を支持し得るパターンを示すことができる。本発明は、FDG PETを含むが、これらに限定されない、PETによって検出されるAD病理の証拠を有する患者を治療することを企図する。FDG PETは、グルコース代謝低下領域を検出し、代謝障害を示す。本発明に従って治療可能なAD患者は、しばしば、側頭及び頭頂部の代謝低下を示す。
【0076】
アミロイドPETスキャンは、ベータ-アミロイドと呼ばれるタンパク質の異常な沈着を測定する。より高いレベルのベータ-アミロイドは、アルツハイマー病の特徴であるアミロイドプラークの存在と一致する。フロルベタピル、フルテメタモール、フロルベタベン、及びピッツバーグ化合物Bを含むいくつかのトレーサーが、アミロイドPETスキャンに使用され得る。本発明は、前述のトレーサーのうちの1つ以上を使用するPETスキャンによるアミロイド沈着の証拠を有する患者を治療することを企図する。
【0077】
タウPETスキャンは、アルツハイマー病及び他の多くの認知症における神経細胞に変化を形成するタンパク質タウの異常な蓄積を検出する。AV-1451、PI-2620、及びMK-6240などのいくつかのタウトレーサーが、臨床試験及び他の研究環境で研究されている。本発明は、前述のトレーサーのうちの1つ以上を使用するPETスキャンによるNFTの証拠を有する患者を治療することを企図する。
【0078】
局所的低灌流は、ADで見られる機能的欠損とも関連する。低灌流は、スピン標識MRI及び単一光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT)を含む、いくつかの方法論によって検出され得る。本発明は、スピン標識MRI、SPECT、及び当業者に既知の他の方法によって検出される、局所的低灌流の証拠を有する患者を治療することを企図する。
【0079】
一態様では、本発明は、血管性認知症(VaD)を有する患者を除外する。一部の患者は混合病理を有し得るが、真のVaDは、虚血性若しくは出血性脳卒中などの心血管事象、又はビンスワンガー病若しくはまだら認知症などの慢性心血管状態によって引き起こされる認知症である。除外された患者は、国立神経障害及び脳卒中研究所(NINDS)及びAssociation Internationale pour la Recherche et 1’Enseignement en Neurosciences(AIREN)(NINDS-AIREN基準)の基準を使用して容易に特定することができる(Wetterling 1996;Roman 1993)。したがって、NINDS-AIREN基準に従って特定された患者は除外される。VaD患者を除外することにおける別の有用なツールは、ハチンスキー虚血スコアであり、そこでの診断された脳卒中、急性発症、変動性の経過、並びに全て脳卒中を示す巣症状及び症状は、より重み付けされている。ハチンスキーによると、認知症を有する患者の以下の特徴:突然発症、変動性の経過、脳卒中の既往、局所神経症状、局所神経症兆候は、2ポイントでスコア化される。心血管事象(したがって、VaD)に関連する可能性が低い以下の要素:感情失禁、段階的悪化、高血圧の既往、夜間錯乱、関連するアテローム性動脈硬化の証拠、人格の相対的保存、うつ病、及び身体の不調は、各1ポイントでスコア化される。典型的には、スコア>7は、患者がVaDを有することを示す。したがって、本発明に従って治療される患者は、典型的には、ハチンスキースコアが≦7であり、≦7のハチンスキースコアを有し、>7のハチンスキースコアを有する患者は除外される。
【0080】
発明に従って治療可能な患者は、典型的には、Mini Mental State Exam(MMSE)などの認知尺度でのスコアが低いであろう。MMSEでの≦23の閾値は、認知症に対して設定され、≦15のスコアは、重度の認知症を表す。24~27のMMSEスコアを有する患者は、「前」AD又は「前駆期」ADを有し得るが、彼らは、まだADを有さず、一般に、本発明に従って治療されない。本発明に従って治療される患者は、好ましくは、23未満のMMSEスコアを有し、一部の患者は、15の最小MMSEを有する。本発明のある特定の態様では、治療された患者は、≦20又は≦18又は≦16のMMSEスコアを有するであろう。MMSEが15を下回ると、Severe Impairment Battery(SIB)も有用な評価基準である。
【0081】
認知症/認知の低下を評価し、認知改善を測定するための他の短いツールとしては、加齢及び認知症を鑑別するための8項目の情報提供者面談(AD8)、年次ウェルネス訪問(AWV)、一般開業医による認知の評価(GPCOG)、健康リスク評価(HRA)、記憶障害スクリーニング(MIS)、モントリオール認知評価(MoCA)、セントルイス大学の精神状態試験(SLUMS)、及び高齢者における認知低下に関する短い情報提供者アンケート(Short IQCODE)が挙げられる。
【0082】
アルツハイマー病のために設計された他の認知的又は機能的尺度としては、臨床認知症評価(CDR)、アルツハイマー病評価尺度の認知下位尺度(ADAS-Cog)、及びアルツハイマー病協同研究-変化に対する臨床全般印象(ADCS-CGIC)(それらのバリアントを含む)が挙げられる。
【0083】
ADにおける認知症の症状のうちのいくつかを測定するための別の有用な尺度は、コーエン・マンスフィールド焦燥評価票(CMAI)である。
【0084】
CDR Dementia Staging Instrumentは、ADにおける認知的及び機能的パフォーマンスの6つのドメインを特徴付けるために使用される5ポイントの尺度である:記憶、見当識、判断力及び問題解決、地域問題、家庭及び趣味、並びにパーソナルケア。これは、以下の尺度に従ってスコア化される:0=正常、0.5=非常に軽度の認知症、1=軽度の認知症、2=中等度の認知症、3=重度の認知症。本発明に従って治療可能な患者は、好ましくは、2又は3のCDRスコアを有するであろう。CDRは、一般に、様々なドメインからのサブスコア(0、0.5、1、2、又は3)を差別的に重み付けするアルゴリズムに従ってスコア化される。CDRはまた、各ドメインのサブスコアを単純に合計する代替的な様式でスコア化され得る。いわゆるボックス合計(SOB)方法も同様に有効であるが、より高い分解能を有し、0(正常)から18(全てのドメインで3のスコア)までのスコアが得られる。本発明に従って治療可能な患者は、一般に、CDR-SOBスコアリングを使用して、最低でも4.5のスコアを得るであろう。
【0085】
投与レジメン
本発明の治療方法は、様々な投与経路を企図しながら、特に経口投与に好適である。本発明の治療方法によれば、1日1回以上の投与のための有効量のROCK阻害剤又はその薬学的に許容される塩は、約10mg~約1000mgを含み得る。本発明の方法は、好ましくは、70mg~140mgの1日の総用量で経口投与されるファスジルを使用して達成される。ファスジル塩酸塩半水和物は、例えば、約10mg~約500mg、約10mg~約400mg、約10mg~約200mg、約10mg~約100mg、約20mg~約10mgの1日の量で好適に投与される。1つの好ましい用量レジメンは、即時放出性製剤を使用して、70~120mgの1日の総用量として、1日当たり3回の25、30、又は40mgのファスジル塩酸塩半水和物による治療を伴う。最も好ましい用量は、60mgの1日用量を超え、最も好ましい1日用量の範囲は70mg~120mgであり、1日の間に3等分の量で投与される。他の好ましい1日用量は、1日当たり90mg~120mg又は1日当たり80mg~140mgの範囲となる。更なる用量レジメンは、即時放出性製剤を使用して、75~120mgの1日の総用量として、1日当たり2回のみの35~60mgのファスジル塩酸塩半水和物による治療を伴う。ROCK阻害活性に基づいて、当業者は、ファスジルに関して提供される投与範囲を他のROCK阻害剤に対して容易に推定することができる。好ましい実施形態は、即時放出性製剤を使用して、1日当たり2回、45mgのファスジル塩酸塩半水和物である。
【0086】
腎障害患者及び/又は高齢の患者(例えば、65歳以上)などのある特定の患者サブ集団は、即時放出性製剤の代わりに、より低い用量又は徐放性製剤を必要とし得る。ファスジル塩酸塩半水和物は、腎疾患を有する患者に通常の用量で与えた場合、より高い定常濃度を有し得、Cmaxを低下させるか又はCmaxに至るまでの時間を遅延させる(Tmaxを増加させる)ためにより低い用量を必要とし得る。
【0087】
腎機能障害は、肝硬変、慢性腎臓疾患、急性腎臓傷害(例えば、造影剤の投与に起因する)、糖尿病(1型又は2型)、自己免疫疾患(狼瘡及びIgA腎症など)、遺伝性疾患(多嚢胞性腎臓疾患など)、腎症候群、(前立腺肥大、腎臓結石、及び一部のがんなどの状態からの)尿路の問題、心臓発作、違法薬物使用及び薬物乱用、虚血性腎臓状態、尿路問題、高血圧、糸球体腎炎、間質性腎炎、膀胱尿管、腎盂腎炎、敗血症を含む多数の障害の結果として、年齢とともに発生する。腎臓機能障害は、腎臓機能障害とともに発生し得る非腎臓関連疾患、例えば、とりわけ、肺動脈性肺高血圧症、心不全、及び心筋症を含む、他の疾患及び症候群で発生し得る。
【0088】
腎臓機能は、ほとんどの場合、血清(及び/又は尿)クレアチニンを使用して評価される。クレアチニンは、筋細胞内のクレアチンリン酸の分解産生物であり、一定の速度で産生される。これは、変化せず主に糸球体濾過を通じて、腎臓によって排泄される。したがって、血清クレアチニンの上昇は、腎臓機能障害のマーカーであり、糸球体濾過速度を推定するために使用される。
【0089】
血液中のクレアチニンの正常レベルは、成人男性ではおよそ0.6~1.2mg/dL、成人女性では0.5~1.1mg/dLである。クレアチニンレベルがこれらの数字を超える場合、対象は、腎機能障害を有しており、したがって、発明に従って治療可能である。軽度の腎障害/機能障害は、1.2mg/dL~1.5mg/dLの範囲で発生する。中等度の腎障害/機能障害は、1.5mg/dLを超えるクレアチニンレベルで発生すると考えられる。腎不全とみなされるものを含む重度の腎障害は、≧2.0mg/dLの血清クレアチニンレベル、又は腎代替療法(透析など)の使用として定義される。軽度、中等度、及び重度の腎障害を有する対象を治療することが具体的に企図される。
【0090】
示されるように、クレアチニンレベルは、糸球体濾過速度の代用物と考えられ、血清クレアチニンレベルのみを使用して、Cockroft-Gault等式を使用して糸球体濾過速度を推定してもよい。
【0091】
一般に、60mL/分未満のクレアチニンクリアランス(>1.2mg/dLのクレアチニンに概ね相当する)は、中等度の腎機能障害とみなされる。40mL/分(1.5mg/dLを超えるクレアチニンレベルにおよそ相当する)、又は特に30mL/分未満の糸球体濾過速度は、重度の腎機能障害とみなされる。
【0092】
一般に、クレアチニンクリアランス(推定糸球体濾過速度)は、Cockroft-Gault等式を使用して血清クレアチニンから直接導出することができる:
クレアチニンクリアランス=(((140-年齢)×(kgでの体重))×1.23)/(μmol/Lでの血清クレアチニン)
【0093】
女性の場合、計算結果に、0.85を乗算する。
【0094】
また、血清クレアチニン及び尿クレアチニンレベルに注目することによって、経験に従って測定したクレアチニンクリアランスは、糸球体濾過速度の推定値として直接使用され得る。具体的には、尿を24時間にわたって収集し、以下の等式を適用してクレアチニンクリアランスを確認する:
クレアチニンクリアランス(mL/分)=尿クレアチニン濃度(mg/mL)*24時間尿量(mL)/血漿クレアチニン濃度(mg/mL)*24時間*60分
【0095】
一実施形態では、軽度~中等度の腎障害に対するファスジルの用量は、1日当たり50~80mgに低減される。別の実施形態では、ファスジルの用量は、低減されないが、徐放性剤形で1日1回投与される。
【0096】
別の実施形態では、用量は、軽度~中等度の腎障害では、低減されない。
【0097】
一実施形態では、ファスジルの用量は、重度の腎障害では、30~45に低減される。別の実施形態では、ファスジルの用量は、低減されないが、代わりに、徐放性剤形で1日1回投与される。
【0098】
更なる実施形態では、用量は、血清クレアチニン(SCr)が>2、及び/又はSCrのベースラインからの増加が>1.5倍、及び/又はeGFRのベースラインからの減少が>25%である場合、低減される。
【0099】
患者の大きさは、腎機能のクレアチニンに基づく推定値を使用する場合に考慮すべき重要な要素である。薬物クリアランスの単位は、体積/時間(mL/分)であり、一方で慢性腎疾患の推定GFRの単位は、体積/時間/標準的な大きさ(mL/分/1.73m2)である。一般に、用量は、小柄な患者では下方(例えば、1日当たり40~50mg)、肥満患者では大柄な患者では上方(例えば、1日当たり120mg)に調整され得る。小柄な男性は、約160ポンド以下であろう。小柄な女性患者の体重は、約130ポンド以下であろう。30以上のボディマス指数を有する患者は、肥満とみなされる。
【0100】
加えて、高齢の患者は、開始時により低い用量を必要とし、数日又は数週間後に推奨用量まで徐々に増加させてもよい。別の実施形態では、高齢の患者は、治療の継続期間の間、より低い用量を必要とし得る。高齢集団には、65~74歳の「前期高齢者」、75~84歳の「後期高齢者」、及び85歳以上の「寝たきり高齢者」が含まれる。例えば、2週間の間1日当たり30mgの開始用量、続いて4週間の間1日当たり60mg、次いで1日当たり90mgである。滴定によって、更には1日当たり最大約120mgまで保証され得る。
【0101】
別の実施形態は、徐放性剤形で1日1回、60~120mgのファスジル塩酸塩半水和物での治療を伴う。1日1回90mgの1日の総用量の徐放性ファスジル塩酸塩半水和物での治療が好ましい。本明細書に記載の用量範囲は、提供される薬学的組成物を成人に投与するためのガイダンスを提供していることが理解されるであろう。例えば、子供又は青少年に投与される量は、医師又は当業者によって決定され得、成人に投与される量よりも低いか、又は同じであり得る。
【0102】
本明細書に記載される用量範囲は、提供される薬学的組成物を成人に投与するためのガイダンスを提供していることが理解されるであろう。例えば、子供又は青少年に投与される量は、医師又は当業者によって決定され得、成人に投与される量よりも低いか、又は同じであり得る。
【0103】
本発明による組成物を投与する方法は、一般に、少なくとも1日継続されるであろう。いくつかの好ましい方法は、最大30日間、又は最大60日間、又は更には最大90日間、又は更にそれ以上治療する。60日間を超える治療が好ましく、少なくとも6ヶ月間の治療が特に好ましい。治療の正確な継続期間は、患者の状態及び治療に対する応答に依存するであろう。最も好ましい方法は、症状の発症又は出現後に治療が開始されることを企図する。
【0104】
本発明の方法はまた、認知症又は認知症の他の症状を治療するために使用される他の化合物とともにROCK阻害剤を投与することを企図する。それらは、組み合わせて、単一剤形で、一般的な用量レジメンで投与されても、異なる用量レジメンを使用して、1日のうちの異なる時間に同じ患者に投与されてもよい。
【0105】
認知症を治療するために、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤及びN-メチル-D-アスパラギン酸塩(NMDA)受容体拮抗薬の2つのクラスの薬物が使用され、認知を改善することが示されている。一般に疾患の初期段階で使用され、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、神経伝達物質アセチルコリンの分解を防止する。これらの薬物としては、ドネペジル(アリセプト)のようなピペリジン、ガランタミン(ラザダイン)のようなフェナントレン誘導体、及びリバスチグミン(エクセロン)のようなカルバメートが挙げられる。NMDA受容体拮抗薬としては、非競合的阻害剤メマンチン(ナメンダ)が挙げられる。メマンチン及びドネペジル(ナムザリック)の組み合わせも利用可能である。
【0106】
いくつかの実施形態では、患者は、これらに限定されないが、コリンエステラーゼ阻害剤及びNMDA受容体拮抗薬を含む、認知症を治療するために承認された他の活性剤と組み合わせて、ファスジルを投与される。一実施形態では、コリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジル、リバスチグミン、及びガランタミンからなる群から選択される。コリンエステラーゼ阻害剤の例示的な用量としては、1日当たり3~25mg、より好ましくは1日当たり6~12mgが挙げられる別の実施形態では、NMDA受容体拮抗剤は、メマンチンである。特定の実施形態では、メマンチンは、1日当たり5~28mg、好ましくは1日当たり15~20mgの用量で投与される。更なる実施形態では、同時投与される活性は、28mgのメマンチン及び10mgのドネペジルの用量でのドネペジル及びメマンチンの組み合わせである。
【0107】
特定の実施形態では、ファスジルとコリンエステラーゼ阻害剤との組み合わせは、AD患者に投与される。更なる実施形態では、ファスジルとコリンエステラーゼ阻害剤との組み合わせは、主にAD型の混合認知症を有する患者に投与される。また更なる実施形態では、ファスジルとコリンエステラーゼ阻害剤との組み合わせは、血管性認知症のみを有する患者には投与されない。
【0108】
デキストロメトルファン臭化水素酸塩は、別の競合しないNMDA受容体拮抗薬であり、シグマ-1受容体作動薬としての活性も有する。キニジン硫酸塩(CYP450 2D6阻害剤)と組み合わせて市販されている製品ニューデキスタ(Nudexta)は、認知症の多くの形態で発生する情動調節障害の治療について示されている。一実施形態では、患者は、ニューデキスタのような情動調節障害の治療に有用な製品、及びファスジルで治療される。
【0109】
更なる実施形態では、ファスジルで治療される患者はまた、気分安定剤、ベンゾジアゼピン、抗精神病薬、抗興奮薬、又は睡眠補助剤を含む活性剤で治療されている。特定の実施形態では、ファスジルで治療される患者は、リスペリドン、アリピプラゾール、クエチアピン、カルバマゼピン、ガバペンチン、プラゾシン、トラゾドン、又はロラゼパムで治療されていない。
【0110】
更なる実施形態では、ファスジルで治療される患者は、うつ病について治療されている。特定の実施形態では、患者は、シタロプラム又はエスシタロプラムなどの抗うつ剤で治療されている。
【0111】
別の実施形態では、ファスジルは、α-トコフェロールなどの抗酸化剤と組み合わせて投与される。特定の実施形態では、α-トコフェロールは、1日当たり1000~2000IUの用量で投与される。
【0112】
更なる実施形態では、ファスジルは、NSAIDの幅で投与される。特定の実施形態では、NSAIDは、イブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナク、又はインドメタシンであり、ファスジルとともに投与される。
【0113】
ある特定の実施形態における発明の方法、特に非経口投与を企図する方法は、rhoキナーゼ阻害剤も受けている患者へのスタチン(特にロスバスタチン)の投与を含まない。ある特定の実施形態における発明の方法、特に非経口投与を企図する方法は、rhoキナーゼ阻害剤も受けている患者へのニモジピンの投与を含まない。
【0114】
方法の結果
本発明の方法は、それらが全ての関連する兆候及び症状の改善をもたらすように、疾患修飾であるとみなされる。かかる改善は、治療された患者が実際に、以前の測定値に対して経時的な改善を示すという点で、絶対的であり得る。改善は、より典型的には、対照患者に対して測定される。対照患者は、過去及び/又は同様の状況にある患者の既知の自然歴に基づいていてもよく、又はそれらは、プラセボ又は単に同じ臨床試験で標準的な治療を受けるという意味で対照であってもよい。対照との比較は、疾患の経過が完全に逆転する可能性が低いために、対照/期待に対して劣化の減少の観点から結果が測定されるため、特に有益である。
【0115】
改善は、以下の尺度:MMSE、SIB、AD8、AWV、GPCOG、HRA、MIS、MoCA、SLUMS、短いIQCODE、CDR、ADAS-Cog、ADCS-CGIC、及びCMAI(それら変形を含む)のうちの1つ以上を使用して評価することができる。
【0116】
本発明の方法から得られる改善は、一般に、絶対で又は対照として比較して、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、又は50%となるであろう。別の実施形態では、本発明の方法から得られる改善は、絶対で又は対照と比較して、少なくとも50%又はそれ以上となるであろう。好ましい実施形態では、本発明の方法から得られる改善は、絶対で又は対照に対して、少なくとも75%となるであろう。特定の実施形態では、改善は、ファスジルによる治療の前に、同じ患者に対する。
【0117】
本発明の方法を使用する治療は、一般に、認知機能の改善をもたらす。患者は、一般に、治療の初期段階の間に、MMSE及び/又はSIBに少なくとも3ポイントの改善を示し、認知の低下は、対照患者に対して遅くなり、一般に治療及び対照患者において少なくとも1又は2ポイントの差を維持する。
【0118】
本発明に従って治療される典型的な患者は、CDR-SOBに少なくとも0.5ポイントの改善を示し得るが、任意の事象で、少なくとも6ヶ月間の治療後のCDR-SOBと未治療の対照との少なくとも1ポイントの差として現れる、低減した減少率を示すであろう。
【0119】
本発明に従って治療される患者はまた、以下:意味記憶(人格及び/又は社会的スキルが保存されている又はされていない)、失語症、失読症、呼称、喚語、口頭による理解、書面による理解、書面による表現、視空間能力、分析能力、合成能力、判断力、洞察力、妄想、幻覚、落ち着きのなさ、苛立ち、動揺、言語的な攻撃性、身体的な攻撃性、徘徊、ペーシング、及び脱抑制のうちの1つ以上の改善を示すことが予期される。
【実施例】
【0120】
少なくとも1つの陽性ADバイオマーカー(aβ及び/又はタウ異常)を有する可能性の高いADと診断された80人の患者を募集する。VaD、DLB、bvFTD、又は意味型原発性進行性失語症若しくは非流暢型/失文法型原発性進行性失語症を有する患者は、別の同時活動性神経疾患を有する患者とともに除外される。非神経併存症を有する患者、又は認知に悪影響を与え得る薬剤を使用する患者も除外される。患者は、最大MMSEスコアが23、及び最小MMSEスコアが15である。
【0121】
20人の患者のコホートは、用量漸増様式で、ファスジル又はプラセボで経口的に治療される。各群は、プラセボ又は薬物に10人の患者ずつに無作為化され、60日間治療される。30日間の終わりに、有害事象の評価に基づいて、より高い用量での次のコホートを開始する。60日間の終わりに、患者を有効性及び安全性について評価し、用量制限副作用がない場合に次のより高い用量に再無作為化する。10mgの即時放出性錠剤を使用する経口投与は、1日当たり60mgの第1のコホート(1日を通して3等分用量で投与)、1日当たり90mgの第2のコホート(1日を通して3等分用量で投与)、1日当たり120mgの第3のコホート(1日を通して3等分用量で投与)、及び最大計画用量が150mgの第3のコホート(1日を通して3等分用量で投与)で開始する。
【0122】
60日での60mg用量では、認知における影響は観察されないが、他の用量の各々は、対照に対して60日で改善を示す。第1のコホートが1日当たり90mgに漸増されると、そのコホートにおける治療と対照との間の認知の差が観察される。認知は、全ての用量にわたって用量依存的様式で改善する。クレアチニンの用量依存的な増加が見られ、腎機能障害の可能性があることを示している。1日当たり120mgの用量に漸増される対象の50%のみがまた、150mgの用量に漸増され、1日当たり150mgで治療される患者の25%が、クレアチニンレベルの上昇に起因して用量低減される。
【0123】
AD認知症における認知改善のための最適な用量は、1日当たり90mg~120mgであると決定される。90mg未満では、有効性はなく、120mgを超える上昇したクレアチニンは、多くの患者において用量制限となる。
【0124】
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本明細書に示される各参考文献の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】