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特表2023-523719表皮水疱症の治療で使用するためのホーミングペプチド誘導デコリン複合体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-07
(54)【発明の名称】表皮水疱症の治療で使用するためのホーミングペプチド誘導デコリン複合体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230531BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230531BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20230531BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230531BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230531BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230531BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230531BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230531BHJP
   A61K 47/62 20170101ALI20230531BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C07K14/78
C12N15/12
A61K38/17
A61K45/00
A61P17/02
A61P43/00 105
A61K47/62
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022563981
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(85)【翻訳文提出日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 FI2021050318
(87)【国際公開番号】W WO2021219940
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】20205431
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(31)【優先権主張番号】63/016,359
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519107124
【氏名又は名称】タンペレ ユニバーシティー ファウンデーション エスアール
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ヤルヴィネン テロ
(72)【発明者】
【氏名】ペンマリ トイニ
(72)【発明者】
【氏名】マイ ウルリケ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA94
4C076BB31
4C076CC19
4C076CC41
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA44
4C084CA18
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB112
4C084ZB212
4C084ZB352
4C084ZC412
4C084ZC752
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、表皮水疱症の治療で使用するためのホーミングペプチド誘導デコリン複合体、及び対応する治療方法に関する。新規なホーミングペプチドの使用により、全身投与によりこの複合体をインビボで皮膚及び皮膚創傷へ標的特異的にホーミングすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮水疱症の治療で使用するためのホーミングペプチド誘導デコリン複合体であって、前記複合体はデコリン断片及びホーミングペプチドを含み、前記ホーミングペプチドのC末端は、アミノ酸配列RKDK(配列番号1)又はCRKDK(配列番号2)からなる、使用するための複合体。
【請求項2】
皮膚及び皮膚創傷に選択的にホーミングする、請求項1に記載の使用するための複合体。
【請求項3】
前記デコリン断片は、前記ホーミングペプチドのN末端に結合する、請求項1又は2に記載の使用するための複合体。
【請求項4】
前記デコリン断片は、デコリンの生物学的特性が保持されるという条件で、配列番号6~20のいずれか1つで表されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を持つアミノ酸配列を含むか、又は前記デコリン断片の保存配列変異体又はペプチド模倣物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用するための複合体。
【請求項5】
融合タンパク質又はそのペプチド模倣物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用するための複合体。
【請求項6】
前記融合タンパク質は、配列番号21又は22を含むか、又はそれらからなる、請求項5に記載の使用するための複合体。
【請求項7】
前記複合体に結合した1つ以上の追加部分を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用するための複合体。
【請求項8】
前記1つ以上の追加部分は治療剤を含む、請求項7に記載の使用するための複合体。
【請求項9】
前記治療剤は、抗炎症剤、血管新生阻害剤、再生剤、血管新生促進剤、細胞毒性剤、アポトーシス促進剤、抗菌剤、抗線維化剤、抗しわ剤、抗掻痒剤、伝達物質阻害剤、伝達物質促進剤、サイトカイン又はサイトカイン阻害剤である、請求項8に記載の使用するための複合体。
【請求項10】
前記治療剤は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は小分子である、請求項9に記載の使用するための複合体。
【請求項11】
前記1つ以上の追加部分は、検出可能な剤を含む、請求項7に記載の使用するための複合体。
【請求項12】
前記複合体及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物において提供される、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用するための複合体。
【請求項13】
表皮水疱症は、後天性表皮水疱症、接合型表皮水疱症、単純型表皮水疱症、栄養障害型表皮水疱症、優性栄養障害型表皮水疱症、劣性栄養障害型表皮水疱症、劣性反対型栄養障害型表皮水疱症、キンドラー症候群又はそれらの亜型である、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用するための複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、分子医学の分野に関連する。より具体的には、本発明は、表皮水疱症の治療で使用するためのホーミングペプチド誘導デコリン複合体、及び対応する治療方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
人体の最大の器官として、皮膚は、効率的な薬物送達に、特有の課題をもたらす。局所薬物送達、すなわち経皮薬物送達に関連する主な課題は、高分子の皮膚貫通不良である。細胞間脂質を介した拡散は、経皮送達の選択肢を提供するが、小さな親油性分子のみに限定される。したがって、全身投与されるが、皮膚特異的である治療薬は、皮膚疾患、特に表皮水疱症と、脆い皮膚、水疱形成性皮膚を引き起こす一群の希な遺伝性疾患などとの、皮膚全体に影響を与える皮膚疾患の治療に対して、実質的な治療法の進歩となろう。
【0003】
劣性栄養障害型表皮水疱症(RDEB)は、7型コラーゲン(C7)をコードするCOL7A1遺伝子の変異により引き起こされる。臨床症状は、皮膚の糜爛及び水疱形成、切断瘢痕、偽合指症、迅速に転移する悪性の皮膚扁平上皮癌(cSCC)を発症する高いリスクを含む。一部の遺伝子、細胞及びタンパク質に基づく治療は、皮膚への7型コラーゲンの送達に有望な結果を示すが課題は残っており、RDEBに対する治癒法はまだない。
【0004】
形質転換成長因子β(TGFβ)シグナル伝達は、線維化の発症とRDEBの悪性腫瘍への進行に必要不可欠な役割を果たすことが示された。以前、TGFβシグナル伝達がcol7a1-/-マウスの出生の1週間後に早くも活性化されることが示された(Liaoら、2018、Stem Cells 36:1839-1850)。したがって、TGFβシグナル伝達の活性化への早期介入は、RDEBの疾患負担を軽減することに有益である可能性がある。また、TGFβシグナル伝達が同じCOL7A1変異を有する一卵性双生児の表現型モジュレーターであることが示唆された(Odorisioら、2014、Hum Mol Genet 23:3907-3922)。更に、天然TGFβ阻害剤であるプロテオグリカンデコリン(DCN)の発現レベルは、影響の少ない双生児ほど有意に高くなった。DCNは、細胞外マトリックス(ECM)の構造成分であり、Dcn-/-マウスは、不規則なコラーゲン線維形成を示し、皮膚の引張強度が著しく低下した(Reed及びIozzo、2002、Glycoconj J 19:249-255)。更に、DCNは、複数の成長因子の活性、とりわけTGFβに対する阻害作用を調節することにより、抗線維化機能及び抗腫瘍機能を有する(Jarvinen及びPrince、2015、Biomed Res Int 2015:654765、Jarvinen及びRuoslahti、2019、Br J Pharmacol 176:16-25)。また、最近では、DCN発現のアップレギュレーションは、col7a1-/-マウスの臍帯血に由来する無制限の体幹細胞(USSC)の効果に対する作用機序の1つとして示された(Liaoら、2018、前出)。RDEBの潜在的な治療的疾患修飾分子としてのDCNの役割をサポートするために、Cianfaraniら(2019、Matrix Biol 81:3-16)は、最近、ヒトDCNの発現を促進するレンチウイルスの全身投与が、7型コラーゲンの残留レベルを発現するC7低形質RDEBマウスモデル(C7低形質マウス)において、TGFβ誘発性線維化を軽減したことを報告した。
【0005】
更に、DCNは、結合組織成長因子(CTGF/CCN2)に結合し、それを中和し、該結合組織成長因子は、TGFβの線維化シグナル伝達の下流メディエーターであり、かつ瘢痕の予防における治療標的であることが提案された(Vialら、2011、J Biol Chem 286:24242-24252、Danielsら、2003、Am J Pathol 163:2043-2052)。TGFβとCTGF/CCN2用の結合部位がDCNの異なる部分に存在するため、理論的に、DCNは、線維化の両方のメディエーターを同時にブロックすることができる。実際に、TGFβ促進の瘢痕形成を抑制するDCNの役割は、RDEBに加えて、腎臓、肺、肝臓の線維化などの多くの疾患モデル及び皮膚創傷の治癒において、よく知られている(Odorisioら、2014、前出、Liaoら、2018、前出、Cianfaraniら、2019、前出)。しかしながら、前臨床試験で多くの肯定的な抗がん及び抗線維化の結果が得られるにもかかわらず、DCNは、全身治療として臨床に到達していない。これまでに、穿孔性眼損傷を有する12人の患者へのDCNの臨床応用のみが報告され、200μg又は400μgのヒト組換えDCNの硝子体内注射の単回投与量は、眼の有害事象がなく、十分に許容されるようであった(Abdullatifら、2018、Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 256:2473-2481)。
【0006】
全身薬物送達の一般的な制限は、薬物のごく一部のみしか所望の部位に到達せず、全身の副作用が他の臓器で生じることである。したがって、現代の薬物開発の重要な目標は、身体の他の部分への有害作用が最小限であり、標的臓器に特異的な薬物を生成することである。この目標は、罹患臓器で発現する特異的エピトープを認識する薬物を開発することにより達成することができよう。或いは、薬物は、特定の臓器の血管内の組織又は標的特異的な分子特徴を認識する血管ホーミングペプチドなどの親和性リガンドと共役(複合化)することにより、標的特異的であるように変換することができる。
【0007】
ファージ・ペプチド・ライブラリーのインビボスクリーニンでは、これらの血管内の組織又は疾患に特異的な分子特徴(血管ジップコード(郵便番号))が、血管ホーミングペプチドなどの全身投与された親和性リガンドにより標的とすることができることが確認された。これらの試験によると、異なる組織の血管系内の臓器又は疾患に特異的な分子シグネチャ(特性)が存在することにより、全身投与された治療薬の標的特異的な送達のための郵便番号システム(血管ジップコード)が可能となることが本質的に確立されている(Ruoslahtiら、2010、J Cell Biol 188:759-768、Ruoslahti、2017、Adv Drug Deliv Rev 110-111:3-12、Ruoslahti、2004、Biochem Soc Trans 32:397-402、Pasqualini及びRuoslahti、1996、Nature 380(6572):364-366)。腫瘍特異的ホーミング及び細胞/組織貫通用の最も効率的な血管ホーミングペプチドは、C末端にアルギニン(又はまれにリジン)残基を有するため、C-end Rule(CendR、C末端ルール)配列と呼ばれるコンセンサスモチーフR/KXXR/K(配列番号3)を含む(Ruoslahti、2017、J Clin Invest 127:1622-1624、Teesaluら、2009、Proc Natl Acad Sci USA 106:16157-16162、Sugaharaら、2009、Cancer Cell 16:510-520、Sugaharaら、2010、Science 328:1031-1035)。CendR配列は、ニューロピリン-1(NRP-1)に結合し、血管外漏出と、そのペイロードとともにペプチドを腫瘍組織の実質に送達する組織貫通経路とを活性化する(Ruoslahti、2017、Adv Drug Deliv Rev 110-111:3-12、Ruoslahti、2017、J Clin Invest 127:1622-1624、Teesaluら、2009、PNAS 106(38):16157-16162)。潜在的なCendRを含むペプチドは、腫瘍特異的発現パターンを有する一次受容体への結合の組み合わせ、及び腫瘍内のタンパク質分解活性化による標的臓器内のCendR配列の露出のため、標的選択性を持っている。NRP-1は、全ての組織の内皮細胞により発現される(Ruoslahti、2017、Adv Drug Deliv Rev 110-111:3-12)ため、NRP-1を介した血管外漏出及び組織貫通は、癌組織に限定される可能性は低く、他の病変組織又は健康組織にも発生する。
【0008】
インビボファージディスプレイスクリーニングにより、皮膚創傷の血管新生血管にホーミングするペプチドのパネルも同定されている(Jarvinen及びRuoslahti、2007、Am J Pathol 171:702-711)。最も有望な2つのペプチド、すなわち、CAR(CARSKNKDC、配列番号5)及びCRK(CRKDKC、配列番号3)と呼ばれる環状ペプチドは、異なる治療分子を標的選択的方法で送達するために利用されている(Jarvinenら、2017、ACS Biomaterials Science & Engineering 3:1273-1282)。興味深いことに、CRKペプチドは、潜在的なCendR配列であるRKDK(配列番号1)を含むが、それは、血管ホーミングCendRペプチドのうちの唯一の、細胞及び組織を貫通できないペプチドである(Jarvinen及びRuoslahti、2007、Am J Pathol 171:702-711、Agemyら、2010、Blood 116:2847-2856)。
【0009】
国際公開第2008/136869号パンフレットには、皮膚創傷へのデコリンの標的送達用の特異的ホーミング要素としてのCRKペプチドが開示されている。開示されているCRK-デコリン融合体は、創傷のない皮膚にホーミングしない。
【0010】
したがって、全身投与されるが、皮膚に特異的である治療薬は、表皮水疱症などの皮膚疾患の治療に対して、実質的な治療薬の進歩となろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2008/136869号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Liaoら、2018、Stem Cells 36:1839-1850
【非特許文献2】Odorisioら、2014、Hum Mol Genet 23:3907-3922
【非特許文献3】Reed及びIozzo、2002、Glycoconj J 19:249-255
【非特許文献4】Jarvinen及びPrince、2015、Biomed Res Int 2015:654765
【非特許文献5】Jarvinen及びRuoslahti、2019、Br J Pharmacol 176:16-25
【非特許文献6】Cianfaraniら、2019、Matrix Biol 81:3-16
【非特許文献7】Vialら、2011、J Biol Chem 286:24242-24252
【非特許文献8】Danielsら、2003、Am J Pathol 163:2043-2052
【非特許文献9】Abdullatifら、2018、Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 256:2473-2481
【非特許文献10】Ruoslahtiら、2010、J Cell Biol 188:759-768
【非特許文献11】Ruoslahti、2017、Adv Drug Deliv Rev 110-111:3-12
【非特許文献12】Ruoslahti、2004、Biochem Soc Trans 32:397-402
【非特許文献13】Pasqualini及びRuoslahti、1996、Nature 380(6572):364-366
【非特許文献14】Ruoslahti、2017、J Clin Invest 127:1622-1624
【非特許文献15】Teesaluら、2009、Proc Natl Acad Sci USA 106:16157-16162
【非特許文献16】Sugaharaら、2009、Cancer Cell 16:510-520
【非特許文献17】Sugaharaら、2010、Science 328:1031-1035
【非特許文献18】Jarvinen及びRuoslahti、2007、Am J Pathol 171:702-711
【非特許文献19】Jarvinenら、2017、ACS Biomaterials Science & Engineering 3:1273-1282
【非特許文献20】Agemyら、2010、Blood 116:2847-2856
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本明細書は、表皮水疱症の治療で使用するためのホーミングペプチド誘導デコリン複合体を提供する。該複合体は、デコリン断片及びホーミングペプチドを含み、このホーミングペプチドのC末端は、アミノ酸配列RKDK(配列番号1)又はCRKDK(配列番号2)からなる。
【0014】
また、デコリン断片及びホーミングペプチドを含むホーミングペプチド誘導デコリン複合体を有効量投与することにより、必要とする対象の表皮水疱症を治療する方法であって、このホーミングペプチドのC末端は、アミノ酸配列RKDK(配列番号1)又はCRKDK(配列番号2)からなる方法が提供される。
【0015】
上記ホーミングペプチドにより、当該複合体は、インビボで皮膚及び皮膚創傷に対して、選択的にホーミングし、貫通する。
【0016】
上記態様の実施形態及び詳細は、以下の図、詳細な説明、実施例及び従属請求項に示される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
添付の図面は、開示される主題のいくつかの実施形態を示し、説明とともに、開示される組成物及び方法の原理を説明するのに役立つ。
【0018】
図1A図1A図1Cは、例示的な組換えDCN-tCRKタンパク質の構造及びそのニューロピリン-1への結合を示す。図1Aは、DCN-tCRKの構造の概略図である。天然DCNのシグナルペプチド及びプロペプチドは、精製のために、6×Hisタグ(I)に置き換えられた。Hisタグの後には、成熟DCNプロテオグリカンのアミノ末端(II)、コアタンパク質(III)及びカルボキシル末端(IV)が続く。tCRKペプチド(V)は、タンパク質のカルボキシル末端にクローニングされた。
図1B図1A図1Cは、例示的な組換えDCN-tCRKタンパク質の構造及びそのニューロピリン-1への結合を示す。図1Bは、インビトロでのDCN-tCRKのニューロピリン-1(NRP-1)へのインビトロ結合を示す。DCN-tCRK(左パネル)及びペプチド対照(右パネル、陽性ペプチド:RPARPAR(配列番号25)及び陰性ペプチド:RPARPARA(配列番号26))は、ELISAプレートに固定化された。ウシ血清アルブミン(BSA)は、DCN-tCRK及びペプチドの非特異的タンパク質対照として含まれた。WT及び変異体NRP1は、FAMで標識され、固定化プレートに加えられた。NRP1の結合は、蛍光強度に基づいて測定された。エラーバーは、SEMを表す。実験は、3連作成されたサンプルで繰り返された。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001、スチューデントの対応のないt-検定。
図1C図1A図1Cは、例示的な組換えDCN-tCRKタンパク質の構造及びそのニューロピリン-1への結合を示す。図1Cは、NRP-1陽性細胞におけるDCN-tCRKの内在化を示す。FAMで標識されたDCN-tCRKは、それぞれNRP-1発現陽性及び陰性のPC3及びM21細胞とともにインキュベートされた。DCN-tCRKは、抗FAM免疫染色により検出された。核は、DAPIを用いて対比染色された。代表的な画像は、独立して試験された3つの実験からのものである。スケールバーは20μmである。
図2A図2A図2Dは、例示的なDCN-tCRKの組換えタンパク質の産生及び特徴付けを示す。図2Aは、Aekta StartでのHisTrap HPカラムステップの後の精製クロマトグラムの例を示し、1つの大きなピークがあり、その全てのピーク画分が更なる処理に使用された。
図2B図2A図2Dは、例示的なDCN-tCRKの組換えタンパク質の産生及び特徴付けを示す。図2Bは、精製されたDCN-tCRKのクーマシー染色還元SDS-Pageゲル(上パネル)及びウェスタンブロット(下パネル)を、従来技術のDCNと並べて示す。SDSゲルに2μg及び1μgのタンパク質がロードされ、ウェスタンブロット分析のために、1μg及び0.5μgのタンパク質が使用された。タンパク質の単量体形態と、GAG側鎖を含む形態とが見られる。
図2C図2A図2Dは、例示的なDCN-tCRKの組換えタンパク質の産生及び特徴付けを示す。図2Cは、DCN-tCRKの流体力学直径の動的光散乱(DLS)測定(n=3)を示す。
図2D図2A図2Dは、例示的なDCN-tCRKの組換えタンパク質の産生及び特徴付けを示す。図2Dは、DCN-tCRKの融解温度についての示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す。
図3図3は、DCNと比較したDCN-tCRKの薬物動態を示す。5mg/kgのDCN-tCRK又はDCNを健康なBalb/cマウスに静脈注射した。8つの時間点で血液サンプルを収集し、ヒトDCNについて標準ELISAで分析した。群ごとにn=4。
図4A図4A図4Dは、DCN-tCRKがcol7a1-/-マウスの生存率を向上させ、皮膚にホーミングすることを示す。図4Aは、DCN-tCRKが投与されたcol7a1-/-マウス(メジアン生存期間:11日間、n=21)、DCNが投与されたcol7a1-/-マウス(メジアン生存期間:7日間、n=17)及びPBSが投与されたcol7a1-/-マウス(メジアン生存期間:2日間、n=24)のカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析を示す。
図4B図4A図4Dは、DCN-tCRKがcol7a1-/-マウスの生存率を向上させ、皮膚にホーミングすることを示す。図4Bは、Human Decorin ELISAキットを使用して決定された、肝内投与の1週間、2週間及び3週間後の被投与col7a1-/-マウスの皮膚におけるDCN及びDCN-tCRKのレベルの定量化を示す(時間点ごとにn=3)。DCN投与の3週間後の時点で生存しているマウスがなかったため、該時点でDCNのレベルの定量化がなかった。p<0.05、**p<0.01。
図4C図4A図4Dは、DCN-tCRKがcol7a1-/-マウスの生存率を向上させ、皮膚にホーミングすることを示す。図4Cは、col7a1-/-マウスの足と背部の皮膚の両方に対する、抗ヒスチジン抗体(抗his)を用いた免疫組織化学染色を示す。核は、DAPIを用いて対比染色された。スケールバーは20μmである。
図4D図4A図4Dは、DCN-tCRKがcol7a1-/-マウスの生存率を向上させ、皮膚にホーミングすることを示す。図4Dは、抗ヒスチジンタグと抗NRP-1の代表的な二重染色、並びにDCN-tCRKで治療されたRDEB皮膚、DCNで治療されたRDEB皮膚及び未治療のRDEB皮膚の(DAPI対比染色による)合併画像を示す。スケールバーは25μmである。
図5図5は、col7a1-/-マウスのカプラン・マイヤー生存率分析を示し、デキストラン/ヒト血清アルブミン投与後の過去の生存率(D/HSA、メジアン生存期間:3日間、n=29、過去のデータ、Liaoら、2018、Stem Cell Transl Med、7:530-542)と、DCN-tCRK投与後の生存率(メジアン生存期間:11日間、n=21)、DCN投与後の生存率(メジアン生存期間:7日間、n=17)及びPBS投与後の生存率(メジアン生存期間:2日間、n=24)とが比較される。
図6A図6は、DCN-tCRKがRDEBの線維化遺伝子シグネチャを正常化することを示す。図6Aは、遺伝子のクラスターグラムにおける、WTと比較して、未治療のRDEB皮膚で発現が1.5倍超増加した相対的な遺伝子発現を示す。
図6B図6は、DCN-tCRKがRDEBの線維化遺伝子シグネチャを正常化することを示す。図6Bは、WTに対する、それぞれビヒクル、DCN及びDCN-tCRKで治療されたcol7a1-/-マウスの皮膚における遺伝子発現のlog2倍数変化及び-log10p値のボルケーノプロットを示す。
図7A図7は、DCN-tCRKの投与がcol7a1-/-マウスの線維化の発症を抑制したことを示す。図7Aは、DCN-tCRKで治療された場合及びDCN-tCRKで治療されない場合の、1週齢及び2週齢のWT及びcol7a1-/-マウスにおけるCTGF/CCN2の代表的な免疫組織化学染色を示す。スケールバーは、上部パネルでは50μmであり、下部パネルでは25μmである。
図7B図7は、DCN-tCRKの投与がcol7a1-/-マウスの線維化の発症を抑制したことを示す。図7Bは、DCN-tCRKで治療された場合及びDCN-tCRKで治療されない場合の、1週齢及び2週齢のWT及びcol7a1-/-マウスからの足の皮膚のピクロシリウスレッド染色を示す。ピクロシリウスレッドの画像は、偏光を使用して取得された。スケールバーは25μmである。
図7C図7は、DCN-tCRKの投与がcol7a1-/-マウスの線維化の発症を抑制したことを示す。図7Cは、20×対物レンズで取得したフィールド当たりのピクロシリウスレッド平均強度の定量化を示す。各切片に対して8つ以上のフィールドの定量化が取得され、生検ごとに少なくとも4つの切片が分析された。スケールバーは25μmである。p<0.05、**p<0.01。
図7D図7は、DCN-tCRKの投与がcol7a1-/-マウスの線維化の発症を抑制したことを示す。図7Dは、DCN-tCRKで治療された場合及びDCN-tCRKで治療されない場合の、2週齢のWT及びcol7a1-/-マウスの2週間のRDEB皮膚及びWT皮膚における1型コラーゲン(COL1)発現(第1列のCOL1)と、α-平滑筋アクチンの二重免疫蛍光染色(第2列のαSMA)と、血管(第3列のCD31)との代表的な写真を示す。核は、DAPIを用いて対比染色された。合併画像は、第4列に示される。スケールバーは25μmである。
図7E図7は、DCN-tCRKの投与がcol7a1-/-マウスの線維化の発症を抑制したことを示す。図7Eは、皮膚切片でのCOL1及びαSMA発現の平均免疫染色強度の定量化を示す(各治療群でN=3)。**及び***は、それぞれp≦0.05、0.01及び0.001を表す。
図8図8は、インビトロでのコラーゲン格子収縮アッセイの結果を示す。上側の図は、それぞれ75nMの最終濃度でDCN及びDCN-tCRKが添加された場合と添加されない場合のコラーゲンゲルに播種して48時間を経た後のヒト正常線維芽細胞及びRDEB患者由来の線維芽細胞の代表的な画像である。下側の図は、初期面積と比較して収縮パーセンテージとして計算されたコラーゲンゲルの収縮率を示す。データ(n=3)は、平均±SEMとして表示される。p<0.05、**p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、記載された特定の方法論、プロトコル、試薬及び製剤などに限定されないため、変動し得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明する目的のために過ぎず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図しないことも理解されるべきである。
【0020】
本明細書で使用される場合、単数表現「a」、「an」及び「the」は、1つ以上を意味する。したがって、単数形の名詞は、特に明記しない限り、対応する複数形の名詞の意味も持つ。
【0021】
本発明は、ホーミングペプチド誘導デコリン複合体の治療的使用に関する。より具体的には、本発明は、表皮水疱症の治療で使用するためのホーミングペプチド誘導デコリン複合体と、必要とする対象の表皮水疱症を治療する方法であって、有効量のホーミングペプチド誘導デコリン複合体を該対象に投与することによる方法とを提供する。
【0022】
表皮水疱症は、脆い皮膚、水疱形成性皮膚を引き起こす一群の希な疾患である。水疱は、熱、摩擦、引っかき又は粘着テープなどによる軽傷に反応して現れる可能性がある。重症の場合では、水疱は、口又は胃の粘膜などの体内で生じる可能性がある。表皮水疱症は、後天性及び先天性の形態を含む様々な形態で存在し、先天性が劣性又は優性である可能性がある。表皮水疱症の非限定的な例は、後天性表皮水疱症、接合型表皮水疱症、単純型表皮水疱症、キンドラー症候群、及び栄養障害型表皮水疱症を含み、栄養障害型表皮水疱症は、優性栄養障害型表皮水疱症と、劣性反対型栄養障害型表皮水疱症などの劣性栄養障害型表皮水疱症とを含む。また、上記例の任意の亜型も含まれる。
【0023】
本明細書で使用される場合、用語「対象」は、動物対象、好ましくは哺乳類対象、より好ましくはヒト対象を指す。本明細書において、用語「患者」は、ヒト対象を指す。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「治療」又は「治療する(こと)」は、表皮水疱症を改善し、軽減し、阻害するか又は癒すことを含んでもよい目的で、当該複合体又はそれを含む医薬組成物の対象への投与を指す。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」は、表皮水疱症の悪影響が最低でも改善される量を指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「デコリン」(DCN)は、小さなロイシンリッチコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの任意のアイソフォームを指す。デコリンは、例えば、コラーゲン線維形成を調節し、組織線維化を防止し、組織再生を促進し、TGF-βの拮抗薬として作用する多機能プロテオグリカンである。いくつかの実施形態では、デコリンは、N末端シグナル配列及び/若しくはプロペプチドを有するか又は有さない、デコリンアイソフォームA、B、C、D又はEのアミノ酸配列を含むか又はそれからなるヒトデコリンである。いくつかの実施形態では、デコリンは、配列番号6~20のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含むか又はそれからなる。上記デコリン種の保存配列変異体及びペプチド模倣物も含まれる。本明細書で使用される場合、用語「デコリン断片」は、デコリンを含むか又はそれからなる本複合体の一部を指す。
【0027】
いくつかの実施形態では、デコリン断片は、デコリンの生物学的特性が有意に変化しないという条件で、配列番号6~20のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、80%、70%若しくは60%、又はそれらの間の任意のパーセンテージの配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか又はそれらからなる。このようなデコリン変異体は、1つ以上のアミノ酸の追加、欠失及び/又は置換から生じてもよい。デコリンの生物学的特性が保持されているか否かを決定する手段及び方法は、該技術分野に容易に利用可能である。
【0028】
本明細書で使用される場合、2つの配列間の配列同一性のパーセンテージは、2つの配列の最適なアライメントのために導入されるべきギャップの数及び各ギャップの長さを考慮して、配列によって共有される同一の位置の数の関数(すなわち、%同一性=同一の位置の数/位置の総数×100)である。2つの配列の配列比較及び同一性のパーセンテージの決定は、該技術分野に利用可能な数学的アルゴリズムを使用して達成することができる。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「ホーミングペプチド」は、他の細胞又は組織に優先して標的、特定の細胞又は組織にインビボで選択的にホーミングする任意のペプチドを広く指す。したがって、ホーミングペプチドは、標的送達ビヒクルとして利用することができる。
【0030】
本発明に使用されるホーミングペプチド誘導デコリン複合体は、国際公開第2008/136869号パンフレットに開示されている公知のデコリン融合タンパク質とは、少なくとも使用されるホーミングペプチドという点で相違する。従来技術のデコリン融合タンパク質は、公知のCRKペプチド(CRKDKC、配列番号3)を含むのに対して、本発明に利用される新規なホーミングペプチドのC末端は、アミノ酸配列RKDK(配列番号1)からなる。いくつかの実施形態では、本発明に利用される新規なホーミングペプチドのC末端は、CRKDK(配列番号2)からなる。
【0031】
驚くべきことに、公知のCRKペプチド(CRKDKC、配列番号3)のC末端システインの切断がこのペプチドのホーミング特異性を変化させることが今回発見された。CRKペプチドは皮膚創傷に選択的にホーミングするが、以下、tCRKと表記される、切断されたCKR(RKDK、配列番号1、又はCRKDK、配列番号2)は、皮膚創傷にホーミングする能力を保持しながら、創傷のない皮膚に対して、ホーミングし貫通する能力をペプチドに付与する。言い換えれば、CRKペプチドは、皮膚創傷のみに選択的にホーミングするのに対して、tCRKペプチドは、皮膚創傷と創傷のない皮膚の両方に対して、選択的にホーミングし、貫通する。
【0032】
CRKペプチドのC末端システインの切断により、本tCRKペプチドの潜在的なCendR(C-end Rule)配列R/KXXR/K(配列番号4)、すなわちRKDK(配列番号1)が露出する。理論に限定されることなく、tCRKペプチドは、細胞表面にNRP-1を発現する真皮微小血管内皮細胞による内在化により皮膚組織を貫通することができる。興味深いことに、潜在的なCendRモチーフを含むCRKペプチドは、細胞及び組織を貫通することができない(Jarvinen及びRuoslahti、2007、Am J Pathol 171:702-711、Agemyら、2010、Blood 116:2847-2856)。
【0033】
したがって、本複合体に使用されるホーミングペプチドは、ホーミングペプチドのC末端にtCRK要素を含む。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「C末端(C-terminal end)」(カルボキシル末端、カルボキシ末端、C末端(C-terminus)又はCOOH末端としても知られる)は、遊離カルボキシル基(-COOH)で終わるアミノ酸鎖の末端を指す。本明細書において、用語「C末端(C-terminal end)」と「C末端(C-terminal)」は、交換可能である。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「N末端(N-terminal end)」(アミノ末端、アミン末端、N末端(N-terminus)又はNH末端としても知られる)は、アミノ酸鎖の開始点を指す。アミノ酸鎖の1番目のアミノ酸は、遊離アミン基(-NH)を含む。本明細書において、用語「N末端(N-terminal end)」及び「N末端(N-terminal)」は交換可能である。ペプチド配列は、N末端からC末端へと記述される。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「tCRK要素」は、インビボで皮膚及び皮膚創傷に選択的にホーミングし、かつ皮膚組織を貫通できるRKDK(配列番号1)又はCRKDK(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドを指す。用語「tCRK要素」と「tCRKペプチド」は、交換可能である。
【0037】
本発明において、tCRK要素は、本明細書で使用されるホーミングペプチドのC末端に位置する。より具体的には、tCRK要素は、ホーミングペプチドのC末端先端部に位置し、末端カルボキシル基を含む。言い換えれば、ホーミングペプチドのC末端は、RKDK(配列番号1)又はCRKDK(配列番号2)のアミノ酸配列からなる。したがって、tCRK要素を含むホーミングペプチドは、RKDK(配列番号1)又はCRKDK(配列番号2)のアミノ酸配列で終わる。
【0038】
いくつかの実施形態では、本発明において使用されるホーミングペプチドは、配列番号1又は配列番号2からなる。いくつかの他の実施形態では、このホーミングペプチドは、配列番号1又は配列番号2を含む。後者の場合、ホーミングペプチドは、tCRK要素のN末端に結合した追加のアミノ酸を含む。しかしながら、このようなより長いホーミングペプチドのC末端は、依然としてtCRK要素からなる。いくつかの実施形態では、ホーミングペプチドは、最大100個のアミノ酸を含み得る。いくつかの実施形態では、ホーミングペプチドは、最大50個のアミノ酸を含み得る。いくつかの実施形態では、ホーミングペプチドは、最大20個のアミノ酸を含み得る。いくつかの実施形態では、ペプチドホーミングは、最大10個のアミノ酸を含み得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、ホーミングペプチドは、環状構造の一部であってもよく、ジスルフィド結合などを介して環化されてから、tCRK配列をホーミングペプチドのC末端のCendRペプチドとして露出するようにプロテアーゼによって切断されてもよい。
【0040】
本明細書で使用される場合、表現「tCRK誘導デコリン」は、標的送達又はホーミングが、本明細書に開示されている実施形態のいずれか1つに係るtCRKホーミングペプチドによって達成される任意のデコリン複合体を指す。そのような複合体の非限定的な例は、デコリン断片が、配列番号6~20のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含むか又はそれからなり、かつ配列番号23又は24の介在リンカーなどの介在リンカーを有するか若しくは有さずに、該デコリン断片のC末端から配列番号1又は2のtCRK要素のN末端に結合される複合体を含む。更なる例は、配列番号21又は22のアミノ酸配列を含むか又はそれからなる複合体を含む。また更なる例は、tCRK要素のホーミング特異性、貫通能力とデコリンの生物学的活性が本質的に変化しないという条件で、上記配列に対して少なくとも約99%、98%、97%、96%、95%、90%、80%、70%又は60%の配列同一性を有する配列変異体と、それらの保存配列変異体及びペプチド模倣物とを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、tCRK誘導デコリン複合体は、融合タンパク質の形態で使用に提供されてもよいが、それに限定されない。したがって、いくつかの実施形態では、当該複合体は、天然若しくは非天然のアミノ酸若しくはペプチド模倣物からなってもよく若しくはそれらを含んでもよいペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド若しくはタンパク質断片などの1つ以上の追加のアミノ断片を有して、又はそれらを有さずに、好ましくはデコリン断片のC末端から、本明細書に開示されているホーミングペプチドのN末端に融合又は連結されたデコリン断片を含む「融合タンパク質」である。そのような1つ以上の追加のアミノ酸断片は、デコリン断片のN末端に融合又は連結されてもよく、及び/又は、デコリン断片のC末端とホーミングペプチドのN末端との間に融合又は連結されてもよい。上記追加のアミノ酸断片は、治療活性を有してもよく、又は、診断、イメージング又は可視化などの目的で使用されてもよい。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「ペプチド」は、典型的に隣接するアミノ酸のアルファアミノ基とカルボニル基との間のペプチド(アミド)結合により互いに接続されて、アミノ酸配列を形成する一連のアミノ酸残基を指す。従来、ペプチドは、2個~100個、例えば2個~50個のアミノ酸からなる分子として定義される。しかしながら、ペプチドは、少ないアミノ酸(例えば、2個~20個)を有するオリゴペプチドと、多くのアミノ酸(例えば、20個~100個又は20個~50個)を有するポリペプチドとに細分され得る。タンパク質は、本質的に大きなペプチドであり、典型的に50個超又は100個超のアミノ酸からなる。したがって、表現を簡単にするために、本明細書で使用される用語「ペプチド」は、天然(L-)及び/又は非天然(D-)のアミノ酸残基の任意のペプチド結合系を包含し、特に断りのない限り、「オリゴペプチド」、「ポリペプチド」、「タンパク質」及びそれらのフラグメントと交換可能である。ペプチドのペプチド模倣物の形態も包含される。
【0043】
本発明において使用される融合タンパク質は、任意の適切な長さ、例えば、最大300個、350個、400個、500個、1000個又は2000個の残基を有することができ、或いは、上記整数を含むか又はそれらの間の任意の数の残基を有してもよい。本明細書で使用される場合、用語「残基」は、アミノ酸又はアミノ酸類似体を指す。
【0044】
いくつかの実施形態では、本発明において使用される融合タンパク質は、精製、単離及び/又は検出などを容易にする小さなペプチドタグを含んでもよい。精製の目的のための適切な親和性タグの非限定的な例は、ポリヒスチジンタグ(Hisタグ)、ヘマグルチニンタグ(HAタグ)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグ(GSTタグ)、ビオチンタグ、アビジンタグ及びストレプトアビジンタグを含む。適切な検出タグは、GFPなどの蛍光タンパク質を含むが、これに限定されない。
【0045】
本発明において使用される融合タンパク質は、それらの長さに応じて、該技術分野に利用可能な任意の適切な手段、方法若しくは技術、例えば、自動ペプチド合成機により作成されてもよく、遺伝子工学技術により産生されてもよい。例えば、デコリンとtCRKホーミングペプチドとをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、遺伝子工学により作成されてから、宿主細胞にトランスフェクトされて融合タンパク質が発現されてもよい。適切な宿主細胞の非限定的な例は、細菌(例えば、大腸菌、桿菌)、酵母(例えば、ピキア・ポストリス、サッカロミセス・セレビシエ)及び真菌(例えば、糸状菌)などの原核生物宿主と、昆虫細胞(例えば、Sf9)及び哺乳類細胞(例えば、CHO細胞、HER細胞)などの真核生物宿主とを含む。発現ベクターは、原核生物宿主細胞又は真核生物宿主細胞への外来性DNAの導入に一般的に使用される様々な技術により宿主細胞にトランスフェクトされてもよく、該技術は、電気穿孔法、ヌクレオフェクション、ソノポレーション、マグネトフェクション、熱ショック、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラントランスフェクションなどを含むが、これらに限定されない。様々な発現ベクターが、該技術分野で容易に利用可能であり、当業者は、使用される宿主細胞などの異なる変動因子に応じて、適切な発現ベクターを容易に選択することができる。本発明において使用される融合タンパク質は、また、インビトロ翻訳、無細胞タンパク質発現、無細胞翻訳又は無細胞タンパク質合成としても知られるインビトロタンパク質発現により生成することができる。細菌、ウサギ網状赤血球、CHO又はヒト溶解物などに基づくいくつかの無細胞発現系が、該技術分野に商業的に利用可能である。インビトロタンパク質発現は、バッチ反応又は透析モードのいずれかで実行されてもよい。
【0046】
本発明において使用される融合タンパク質の融合パートナーは、互いに直接的に連結されてもよく、リンカーを介して連結されてもよい。リンカーは、ペプチドリンカーであってもよく、非ペプチドリンカーであってもよい。リンカーは、ペプチドリンカーである場合、1つ以上のアミノ酸で構成されてもよい。ペプチドリンカーの非限定的な例は、配列番号23又は24で表されるアミノ酸配列を含むか又はそれからなる。
【0047】
更に、ホーミングペプチドは、SpyTag/SpyCatcherのような系を介して、本複合体又は組成物に含まれるデコリン又は任意の他の治療タンパク質に結合されてもよい。
【0048】
以上より、本発明において使用される融合タンパク質は、いくつかの実施形態では、その融合タンパク質をコードする核酸分子を使用して産生されてもよい。このような核酸分子は、それらがコードする融合タンパク質の組換え産生だけでなく、該技術分野に利用可能な手段及び方法による遺伝子治療にも使用されてもよい。
【0049】
上記融合タンパク質の、天然(L-)及び/若しくは非天然(D-)のアミノ酸並びに/又はペプチド模倣物を含む保存配列変異体は、表皮水疱症の治療に使用されることも想定される。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「保存配列変異体」は、論じられているタンパク質又はペプチドの生物学的特性を有意に変化させないアミノ酸配列修飾体を指す。保存配列変異体は、該技術分野に周知の類似のアミノ酸(例えば、類似のサイズのアミノ酸又は類似の電荷特性を有するアミノ酸)との1つ以上のアミノ酸置換から生じる変異体を含む。
【0051】
本明細書で使用される場合、用語「ペプチド模倣物」は、所与のタンパク質又はペプチドを、その活性、例えば、ホーミング特異性を変化させずに模倣するように設計されたペプチド様分子を指す。ペプチド模倣物の非限定的な例は、化学修飾ペプチド、D-ペプチドのペプチド模倣物、非天然アミノ酸を含むペプチド様分子、ペプトイド及びβ-ペプチドを含む。また、ペプチドに似ているが、天然のペプチド連結を介して接続されない分子も、この用語に含まれる。ペプチド模倣物を産生する手段及び方法は、該技術分野に容易に利用可能である。
【0052】
表皮水疱症の治療用のtCRK誘導デコリン複合体は、複合体の治療活性が保持されるという条件で、必要に応じて共有結合(直接的若しくはリンカーを介して間接的に)又は非共有結合で連結された1つ以上の追加の部分を更に含んでもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、追加の部分は、それ自体の治療活性、例えば、抗炎症活性、血管新生阻害活性、再生活性、血管新生促進活性、細胞毒性活性、アポトーシス促進活性、抗菌活性(例えば、抗細菌活性、抗ウイルス活性、抗真菌活性又は抗原虫活性)、抗線維化活性、抗しわ活性、抗掻痒活性、伝達物質(例えば、ヒスタミン)阻害活性、伝達物質促進活性又はサイトカイン活性を有してもよく、或いは、追加の部分は、治療部分の潜在的な生物学的活性又は治療効果のいくつかの非限定的な例を挙げると、サイトカイン阻害剤(例えば、拮抗薬、可溶性受容体、サイトカイン結合分子、又は他のサイトカインをブロックするサイトカイン)であってもよい。
【0054】
したがって、いくつかの実施形態では、追加の部分は、小分子、例えば、抗ヒスタミン剤、抗生物質、レチノイド、過酸化ベンゾイル、ポドフィロトキシン、細胞毒性薬物、並びにコルチコステロイド誘導体、カルシニューリン阻害剤及びイミキモドなどの免疫モジュレーターから選択される小分子であってもよい。更に、追加の部分は、タンパク質部分、例えば、抗線維化TGF-β3、任意の再生若しくは抗炎症成長因子若しくはインターロイキン-10(IL-10)などのサイトカイン、血管内皮成長因子(VEGF)などの任意の血管新生成長因子、bit1などの任意の抗アポトーシスタンパク質、CD73などの任意の炎症抑制酵素、又は7型コラーゲンなどの任意のコラーゲンであってもよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、追加の部分は、tCRK誘導デコリン複合体の検出を容易にするために使用されてもよい。したがって、当該複合体は、検出可能な剤を含んでもよい。本明細書で使用される場合、用語「検出可能な剤」は、直接的又は間接的に、好ましくは非侵襲的技術及び/又はインビボ可視化技術により、検出できる任意の分子を指す。開示されている複合体における使用に適した検出可能な剤の非限定的な例は、様々な有機及び/又は無機の小分子、様々な蛍光タンパク質及びその誘導体を含む蛍光剤、リン光発光剤、発光剤(例えば、化学発光剤、発色剤)などの光学剤と、ガンマ線、陽電子、ベータ若しくはアルファ粒子又はX線を放出する放射性核種などの放射性標識と、カドリニウム(Gd)などの非放射性同位体と、ヨウ素系造影剤などのイオン性及び非イオン性造影剤と、磁性剤、強磁性剤、常磁性剤及び/又は超常磁性剤などの電磁剤と、アップコンバージョンナノ粒子(UCNP)と、共鳴粒子と、量子ドットと、金粒子とを含む。更なる適切な検出可能な剤が、該技術分野に利用可能である。当業者は、当該複合体に使用される検出可能な剤の種類及び種に応じて、適切なイメージング技術を容易に選択することができる。そのような技術は、放射線技術と、陽電子放出断層撮影法などの同位体法と、超音波イメージングと、磁気共鳴イメージング(MRI)とを含むが、これらに限定されない。
【0056】
検出可能な剤は、デコリン複合体に、共有結合などで直接的に結合してもよく、結合剤、リンカー、又はジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N’,N”,N’”-四酢酸(DOTA)及び/又はメタロチオネインなどのキレート剤などを介して間接的に会合してもよい。検出可能な剤をペプチド又はタンパク質複合体に複合体化するか又は他の方法で結合させる技術は、該技術分野に周知である。例えば、蛍光タンパク質(例えば、GFP)などの検出可能なタンパク質を含む複合体は、組換え技術により融合タンパク質として産生することができる。
【0057】
開示されているホーミングペプチド誘導デコリン複合体、より具体的にはtCRK誘導デコリン複合体は、いずれも天然に存在しない。
【0058】
いくつかの実施形態では、表皮水疱症の治療で使用するためのtCRK誘導デコリン複合体は、この複合体と、インビボでの投与を可能にする薬学的又は生理学的に許容される担体とを含む医薬組成物の形態で提供される。
【0059】
本明細書で使用される場合、用語「医薬組成物」は、1つ以上の活性成分と、担体、補助剤及び/又は賦形剤などの生理学的に適した成分との製剤を広く指す。医薬組成物の目的は、対象又は生物への化合物の投与を容易にすることである。本明細書で使用される場合、用語「活性成分」は、生物学的効果を果たす物質を広く指し、該生物学的効果は、抗炎症効果、血管新生阻害効果、再生効果、血管新生促進効果、細胞毒性効果、アポトーシス促進効果、抗菌効果(例えば、抗細菌効果、抗ウイルス効果、抗真菌効果又は抗原虫効果)、抗線維化効果、抗掻痒効果、伝達物質阻害効果、伝達物質(例えばヒスタミン)促進効果、サイトカイン誘発効果又はサイトカイン阻害を含むが、これらに限定されない。本開示の文脈において、用語「活性成分」は、特にtCRK誘導デコリンを指すが、上記組成物及び/又は複合体が上記更なる活性剤を含んでもよい。
【0060】
医薬組成物は、該技術分野に容易に利用可能な手段及び方法、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖剤製造、微粒子化、乳化、カプセル化、封入、凍結乾燥又は同様のプロセスを使用して、必要に応じて、例えば、半固体若しくは固体の製剤、溶液、分散液又は懸濁液として製剤化されてもよい。
【0061】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される」及び「生理学的に許容される」は、交換可能であり、毒性、著しい刺激及び/又はアレルギー反応などの過度の有害な副作用なしに対象又は生物に投与するのに適した物質を指す。言い換えれば、利益/リスク比は妥当でなければならない。
【0062】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される担体」は、活性成分が組み合わせされて投与を容易にし、かつ投与を受ける対象に生理学的に許容される担体物質又は希釈剤を指す。薬学的に許容される担体は、該技術分野に容易に利用可能であり、意図される投与経路に応じて、経皮担体、経粘膜担体、経腸担体、非経口担体、徐放性製剤用担体からなるがこれらに限定されない群から選択されてもよい。選択された担体は、活性成分の生物学的な活性及び特性を無効にすべきではなく、活性成分の分解を最小限に抑え、投与を受ける対象に対する有害な副作用を最小限に抑えるべきである。
【0063】
本明細書で使用される場合、用語「賦形剤」は、好ましくは、活性成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性物質を指す。様々な種類の賦形剤の典型的な例は、安定剤、防腐剤、pH調整剤、充填剤、増粘剤、粘度調整剤、滑剤、可溶化剤、界面活性剤、甘味料、矯味剤などを含むが、これらに限定されない。
【0064】
有用な安定化賦形剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート80及びポロキサマー407などの界面活性剤と、ポリエチレングリコール及びポビドンなどのポリマーと、スクロース、マンニトール、グルコース、ラクトースなどの炭水化物と、ソルビトール、グリセロール、プロピレングリコール及びエチレングリコールなどの糖アルコールと、アルブミンなどのタンパク質と、グリシン及びグルタミン酸などのアミノ酸と、エタノールアミンなどの脂肪酸と、アスコルビン酸などの抗酸化物質と、EDTA塩などのキレート剤と、Ca、Ni、Mg及びMnなどの金属イオンとを含むが、これらに限定されない。有用な防腐剤の中には、限定されないが、ベンジルアルコール、クロルブタノール、塩化ベンザルコニウム、及び場合によってはパラベンが含まれる。有用な緩衝賦形剤の中には、限定されないが、目標pH範囲に応じて、ナトリウム及びカリウムのリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、及び炭酸塩又はグリシンの緩衝液が含まれる。また、等張性調整剤としての塩化ナトリウムの使用も有用である。更なる賦形剤材料の非限定的な例は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖類及び各種類のデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油及びポリエチレングリコールを含む。当業者によって容易に理解されるように、所与の賦形剤は、複数の機能を果たしてもよい。
【0065】
当該医薬組成物は、局所又は全身治療の何れが望まれるかに応じて、そして治療される箇所に応じて、多くの方法で投与することができる。投与は、例えば、非経口的、経腸的又は局所的であり得る。
【0066】
当該組成物の非経口投与は、使用される場合、一般に、注射により、例えば、静脈内、腹腔内、皮下又は筋肉内の注射により行われる。非経口投与のための製剤は、典型的に、滅菌した水溶液又は非水性溶液、懸濁液又は乳濁液であるが、製剤は、また、必要に応じて濃縮形態又は再構成される粉末の形態で提供されてもよい。持続放出製剤又は徐放性製剤も考えられる。非経口投与のための製剤を製剤化する手段及び方法は、該技術分野に容易に利用可能であり、当業者は、製剤の所望の特質に応じて、適切な、生理学的に適した担体、補助剤及び/又は賦形剤を容易に選択することができる。
【0067】
非経口及び他の薬学的製剤用の水性担体の非限定的な例は、滅菌水、水-アルコール溶液、生理食塩水及び生理学的pHの緩衝溶液を含む。非経口ビヒクルは、塩化ナトリウム溶液、リンゲルのデキストロース溶液、デキストロース及び塩化ナトリウム溶液、ラクトース含有リンゲル溶液、又は不揮発性油を含む。静脈内ビヒクルは、流体及び栄養補給剤、電解質補給剤、例えば、リンゲルのデキストロース溶液に基づくものなどを含む。
【0068】
非経口及び他の薬学的製剤用の非水性担体の非限定的な例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどの溶媒と、オリーブ油などの植物油と、魚油と、オレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルとを含む。
【0069】
非経口製剤が濃縮溶液又は分散物として提供されるか又は粉末として提供される場合、上記水性担体又は非水性担体は、再構成のために使用されてもよい。再構成のための溶液は、濃縮物又は粉末と同じパッケージで提供されてもよい。粉末を調製するために凍結乾燥を用いる場合、ポリマー(例えば、ポビドン、ポリエチレングリコール、デキストラン)、糖類(例えば、スクロース、グルコース、ラクトース)、アミノ酸(例えば、グリシン、アルギニン、グルタミン酸)及びアルブミンを含むがこれらに限定されない抗凍結剤を使用することが有益である場合がある。
【0070】
当該組成物の経腸投与は、使用される場合、経口投与又は経皮的内視鏡下胃瘻造設術(PEG)による投与などにより行われてもよい。経口投与のための組成物は、粉末、顆粒、カプセル、サッシェ、錠剤、水溶液若しくは非水性溶液及び懸濁液を含むが、これらに限定されない。経腸投与のための製剤を製剤化する手段及び方法は、該技術分野に容易に利用可能であり、当業者は、製剤の所望の特質に応じて、適切な、生理学的に適した担体、補助剤及び/又は賦形剤を容易に選択することができる。
【0071】
当該組成物の局所投与は、使用される場合、経皮投与、経粘膜投与、皮膚上投与、鼻腔内投与、直腸投与、経膣投与、及び吸入剤による投与などにより行われてもよい。投与経路に応じて、局所投与のための製剤は、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、点滴剤、座薬、噴霧剤、液剤、粉末剤、持続放出製剤若しくは徐放性製剤、又は固形物を含むことができる。局所投与のための製剤を製剤化する手段及び方法は、該技術分野に容易に利用可能であり、当業者は、製剤の所望の特質に応じて、適切な、生理学的に適した担体、補助剤及び/又は賦形剤を容易に選択することができる。
【0072】
いくつかの当該組成物は、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸及びリン酸などの無機酸との、及びギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸及びフマル酸などの有機酸との反応によって、又は、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムなどの無機塩基との、及びモノ、ジ、トリアルキル、アリールアミン及び置換エタノールアミンなどの有機塩基との反応によって形成される、薬学的に許容される酸付加塩又は塩基付加塩として投与することができる。
【0073】
本明細書に開示されている複合体又は医薬組成物の投与量及び投与計画は、皮膚疾患及び皮膚の病気、特に表皮水疱症を治療する臨床分野の当業者によって容易に決定することができる。一般的に、投与量は、治療対象の年齢、性別及び全般的な健康状態と、もしあれば併用療法の種類と、治療の頻度及び所望の効果の性質と、問題になっている表皮水疱症の重症度及び種類と、個々の医師によって調整される他の変動因子との考慮事項によって決まる。所望の結果を得るために、所望の投与量を1回以上の適用で投与することができる。例えば、当該医薬組成物は、1日1回の投与量で投与されてもよく、1日の総投与量を、例えば、1日に2回、3回若しくは4回の分割投与量で投与されてもよい。当該医薬組成物は、例えば、単位剤形又は徐放性製剤で提供されてもよい。
【実施例
【0074】
実験部
材料及び方法
デコリン融合タンパク質のクローニング
天然シグナル及びプロペプチド配列を含まないヒトデコリン(DCN)cDNA(Krusius及びRuoslahti、1986、PNAS 83:7683-787)を、哺乳類発現ベクターpEFIRES-P(Hobbsら、1998、Biochem Biophys Res Commun 252:368-372)にクローニングした。tCRK創傷ホーミングペプチドcDNAを終止コドンに隣接するデコリンのC末端にクローニングした。6×Hisタグをデコリンの前のN末端にクローニングした。この構築物をPIPE方法(Klock及びLesley、2009、Methods Mol Biol 498:91-103)で組み立てた。形質転換のために、NEB 5-アルファコンピテント大腸菌(高効率)細胞を製造元の指示に従って使用した(C2987H、New England Biolabs(ニュー・イングランド・バイオラボ)、イプスウィッチ(Ipswich)、マサチューセッツ州)。プラスミド精製(Mini-Prep)、PCR精製及びアガロースゲル精製のために、Qiagen(キアゲン)(ヒルデン(Hilden)、ドイツ)からのキットを使用した。DCNは、二量体を天然に形成する(Scottら、2004、PNAS 101:15633-15638)。単量体6×Hisタグ-DCN-tCRK融合タンパク質のタンパク質配列は、GHHHHHHDEASGIGPEVPDDRDFEPSLGPVCPFRCQCHLRVVQCSDLGLDKVPKDLPPDTTLLDLQNNKITEIKDGDFKNLKNLHALILVNNKISKVSPGAFTPLVKLERLYLSKNQLKELPEKMetPKTLQELRAHENEITKVRKVTFNGLNQMetIVIELGTNPLKSSGIENGAFQGMetKKLSYIRIADTNITSIPQGLPPSLTELHLDGNKISRVDAASLKGLNNLAKLGLSFNSISAVDNGSLANTPHLRELHLDNNKLTRVPGGLAEHKYIQVVYLHNNNISVVGSSDFCPPGHNTKKASYSGVSLFSNPVQYWEIQPSTFRCVYVRSAIQLGNYKGSEFCRKDK終止(配列番号21)である。
【0075】
実験部に使用したDCN-tCRK融合タンパク質の概略図を図1Aに示す。発明を実施するための形態のところで明確に示すように、図1AのDCN-tCRK融合タンパク質は、本発明における使用に適したtCRK誘導デコリン複合体の非限定的な例である。
【0076】
組換えタンパク質の産生
pEFIRES-P発現ベクターの構築物を、リポフェクション(FuGene 6、Promega(プロメガ)、マディソン(Madison)、ワイオミング州)によりHEK293F細胞にトランスフェクトした。5~160μg/mlのピューロマイシン(HyClone(ハイクローン)、Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック))の存在下で、DMEM高グルコース(4.5g/l)+2mMのL-アラニル-L-グルタミン、100IU/mlのペニシリン(全てがSigma Aldrich(シグマアルドリッチ)、セントルイス、ミズーリ州からのものである)、及び10%FBS(Gibco(ギブコ)、グランドアイランド(Grand Island)、ニューヨーク州)で構成される培地で陽性クローンを選択した。樹立した細胞株を、10μg/mlピューロマイシンを含む培地において維持した。
【0077】
そして、確認済みの細胞を、2mMのL-アラニル-L-グルタミン(Sigma(シグマ))を補充した無血清OptiCHO培地(Gibco)に再懸濁し、回転振盪機に搭載された正方形のガラス瓶で、37℃、5%CO雰囲気で培養した。細胞が1~2×10個の細胞/mlの密度に達した後、組換えタンパク質の発現と培地への分泌のために、細胞を33℃で更に4日間培養した。Aekta Startクロマトグラフィーシステム(GE Healthcare(ジーイー・ヘルスケア)、ミュンヘン、ドイツ)で、二段階HisTrap精製プロトコルにより、上記タンパク質を培地から精製した。
【0078】
組換えタンパク質の精製
細胞培養上清を濾過し、0.45μmのフィルターユニット(Corning(コーニング) #430514、コーニング、ニューヨーク州)を通して氷上で脱気した。4℃のコールドキャビネットで、製造元の指示に従って、Aekta Startクロマトグラフィーシステム(GE Healthcare、ミュンヘン、ドイツ)で最初にHisTrap Excelカラムを使用し、続いてHisTrap HPカラムを使用して、6×Hisタグ付きタンパク質をNi-NTA-IMACで二段階精製プロトコルにより精製した。緩衝液をHis Buffer Kit(GE Healthcare/VWR(11-0034-00))により調製した。全ての緩衝液を濾過し、脱気した。
【0079】
最終イミダゾール濃度が30mMとなるように、0.5M NaClを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)でHisTrap Excelカラム溶出液を希釈し、次に、35mMイミダゾール洗浄及び300mMまでのイミダゾール勾配溶出により、HisTrap HPカラムで更に精製した(図2Aは、そのような精製クロマトグラムの例を含む)。ピーク画分をSDS NuPAGE4~12%勾配ゲル(Life Technologies(ライフ・テクノロジーズ)/Thermo Fisher Scientific、ウォルサム(Waltham)、マサチューセッツ州)で分析し、PageBlue Protein Staining Solution(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州)により可視化した。
【0080】
選択したピーク画分を、プールし、50kDa MWCO Float-A-Lyzer(Fisher Scientific(フィッシャーサイエンティフィック)/Spectrum Labs(スペクトラム・ラボ))を使用して冷TBS緩衝液(pH7.6)に対して透析した後、10kDa MWCO VivaSpin 6チューブ(GE Healthcare)で濃縮した。サンプルをフィルター滅菌し(Ultrafree-MC GV Centrifugal Filter 0.22μm、Millipore(ミリポア)、Burlington(バーリントン)、マサチューセッツ州)、タンパク質濃度をNanodrop(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州)によりA280nmで測定した。全てのステップを4℃又は氷上で実行した。凝集を防止するために、最終濃度0.05%になるように滅菌Tween-20を添加した後、-80℃でアリコートを急速に凍結した。
【0081】
組換えタンパク質をSDS Page及びウェスタンブロッティングにより確認した。BioRad(バイオ・ラッド)の湿式タンクMini-PROTEAN Trans-Blot Cellシステムを(製造元の指示に従って)使用した。製造元のプロトコルに従って、PVDF膜をヒトデコリンに対する一次マウス抗体(MAB143、R&D Systems(アールアンドディー・システムズ)、ミネアポリス、ミネソタ州)でプローブした。Cell Signaling Technology(セルシグナリング・テクノロジー)の二次西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗マウス抗体を使用した。化学発光ブロット画像をImageQuant LAS 4000 mini(GE Healthcare)でキャプチャした。
【0082】
タンパク質の生物物理学的分析
Zetasizer Nano ZS機器(Malvern Instruments Ltd(マルバーン・インスツルメンツ)、ウスターシャー(Worchestershire)、英国)を使用して動的光散乱(DLS)により流体力学直径を測定した。DCN-tCRKタンパク質サンプルをTBS緩衝液で1:5に希釈した。3回の10×10s測定を25℃で実行した。Zetasizerソフトウェアv7.11(Malvern Instruments Ltd.)を使用して、タンパク質分析モデル(非負最小二乗分析とそれに続くL-cuve)及び体積サイズ分布によりデータを分析した。
【0083】
VP-Capillary DSC(示差走査熱量測定)機器(GE Healthcare、Microcal Inc.(ミクロカル)/Malvern Instruments Ltd.)を使用して、タンパク質濃度が0.2mg/mlのTBS緩衝液(50mM Tris-Cl、150mM NaCl、pH7.5)で、DCN-tCRKのアンフォールディング温度を決定した。全ての溶液を脱気した。サンプルを2℃/分の走査速度で20℃から130℃まで加熱した。フィードバックモードを「低」に設定し、フィルター期間を5秒とした。Origin 7.0 DSCソフトウェアスイート(Microcal Inc.)を使用して、Non-2-stateフィッティングモデルにより融解温度Tm(遷移中間点)を計算した。
【0084】
Sciex高速TripleTOF(商標)5600+質量分析計と併用してEksigent 425 NanoLCを使用して、発現された組換えDCN-tCRKタンパク質を単量体ゲルバンドから同定した。ゲルバンドの単離及びクーマシー染色除去の後、Vaehaetupaら、2018に詳細に説明されているように、タンパク質を還元(TCEP、25mM)、アルキル化(ヨードアセトアミド、0.5M)及びトリプシン消化にかけた。トリプシン消化の後、ペプチドを14μlのサンプル緩衝液(2%アセトニトリル、0.1%ギ酸)に希釈し、1μlのサンプルをtriple TOF質量分析計に注入した。
【0085】
インビトロ結合分析
ELISA分析を使用して、DCN-tCRK及びペプチドのNRP-1へのインビトロ結合を分析した。96ウェルの、黒色のFLUOTRAC(商標)600高結合プレート(Greiner Bio-One(グライナー・バイオワン)、クレムスミュンスター(Kremsmuenster)、オーストリア)にPBS中で100μg/ml DCN-tCRKを100μL/ウェルでコーティングして、4℃で一晩置いた。10μg/ウェルのRPARPAR(配列番号25)及びRPAPRARA(配列番号26)ペプチドを、それぞれ陽性対照及び陰性対照として並行してコーティングした。BSAを固定化対照として使用した。プレートをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、300μlのブロッキング溶液(1×PBS、1%BSA、0.1%Tween-20)で37℃で1時間ブロックした。Hisタグ付きニューロピリン-1のb1b2ドメイン(NRP-1 WT)及び三重変異体NS346A-E348A-T349Aニューロピリン-1のb1b2ドメイン(NRP-1変異体)を、以前に記載されたように(Teesaluら、2009、PNAS 106:16157-16162)Sanford Burnham Prebys Medical Discovery Institute(サンフォード・バーナム・プレビス・メディカル・ディスカバリー・インスティテュート)(ラホヤ、カリフォルニア州)のProtein Production and Analysis Facility(タンパク質産生及び分析施設)で発現し、精製した。アミン反応性FAM色素(DMSOで最終濃度0.2%に希釈したもの)とタンパク質を1:10の比率で混合することにより、組換えタンパク質NRP1 WT、NRP1変異体及びDCN-tCRKを、FAM(5-(及び-6)-カルボキシフルオレセイン、#90024、Biotium(バイオチウム)、カリフォルニア州、米国)標識した。混合反応物を室温で暗所で2時間インキュベートし、続いてPBSで限外濾過/透析して、タンパク質から遊離色素を分離した。ブロッキング溶液中の100μlのFAMで標識したNRP1 WT又はNRP1変異タンパク質を各ウェルに添加し(20μg/ウェル)、室温で4~6時間又は4℃で一晩インキュベートし、ブロッキング溶液で3回洗浄した。各ウェルに100μlのPBSを添加した後、プレートを蛍光リーダー(Flex Station II、Molecular Devices(モレキュラーデバイス)、ピーク励起=485nm、ピーク発光=530nm、カットオフ=515)を使用してトップリードモードで直ちに読み取った。
【0086】
FAM-DCN-tCRKをNRP-1陽性前立腺癌3(PC-3)細胞(Sanford-Burnham-Prebys Medical Discovery Institute、ラホヤ、カリフォルニア州)のRuoslahti研究室から贈与された)及び陰性黒色腫(M21)細胞(University of California San Diego(カリフォルニア大学サンディエゴ校)、ラホヤ、カリフォルニア州)のDavid Cheresh研究室から贈与された)にインビトロで結合するために、まず、ペニシリン及びストレプトマイシン(Gibco)を補充したDMEM高グルコース培地中の10%ウシ胎児血清(FBS)からなる増殖培地で上記細胞を培養した。実験のために、培地を吸引し、細胞を温かい培地で2回洗浄し、10μgのFAMで標識されたDCN-tCRK組換えタンパク質とともに新鮮な培地を添加した。製造元のプロトコルに従って、Lightning-Linkフルオレセインキット(Expedon Ltd(エクスペドン)、英国)を使用して、DCN-tCRK組換えタンパク質をフルオレセインに直接的に結合することにより、標識を行った。細胞を37℃で1時間インキュベートし、培地を吸引し、細胞を洗浄し、-20℃のメタノールで固定した。細胞をPBSで洗浄し、室温で30分間ブロック(PBS、1%BSA、1%FBS、1%ヤギ血清、0.05%Tween-20)し、続いて一次抗FITC(Invitrogen(インビトロジェン)、カリフォルニア州、米国、カタログ番号A-889)で室温で1時間ブロックした。細胞を洗浄し、二次抗体Alexa Fluor488ヤギ抗ウサギIgG(Invitrogen、米国)を添加して室温で暗所で1時間置いた。細胞の核をDAPIで染色した。カバースリップをFluoromount-G(Electron Microscopy Sciences(エレクトロン・マイクロスコピー・サイエンス)、ペンシルベニア州、米国)でスライドガラスに載せて、共焦点顕微鏡(オリンパスFV1200MPE、東京、日本)で画像化し、FV10-ASW4.2ビューアーで分析した。
【0087】
マウス及び研究承認
BALB/cJRjマウス(Janvier Labs(ジャンヴィエ・ラボ)、ル・ジュネスト・サン・ティスル(Le-Genest-Saint-Isle)、フランス)を薬物動態研究に使用した。マウスに標準的な実験用ペレット及び水を自由に摂食させた。Balb/cJRjマウスを使用した全ての動物実験を、National Animal Ethics Committee of Finland(フィンランド国立動物実験委員会)によって承認(ESAVI/6422/04.10.07/2017)されたプロトコルに従って実行した。
【0088】
DCN-tCRKの皮膚ホーミング及び治療機能を研究するために、劣性栄養障害型表皮水疱症(RDEB)の動物モデル、すなわちcol7a1-/-RDEBマウスを使用した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって決定された遺伝子型を有するC57BL6/J col7a1+/-マウスを繁殖させることにより、col7a1-/-RDEBマウスを生成した。Thomas Jefferson University(トーマス・ジェファーソン大学)のJouni Uitto博士から親切にも提供されたC57BL6/J col7a1+/-マウスを、フレーム外欠失によるcol7a1遺伝子の標的アブレーションにより開発した。col7a1-/- RDEBを使用した全ての動物試験を、New York Medical College(ニューヨーク医科大学)のInstitutional Animal Care & Use Committee(IACUC、動物実験委員会)によって承認されたプロトコルを使用して実施した。
【0089】
組換えタンパク質の薬物動態
組換えタンパク質のDCN-tCRK又はDCNを、0.05%Tween-20を含むTris緩衝生理食塩水(TBS)で希釈した。8週齢のBalb/c雄マウスを用いてDCN-tCRK及びDCNの薬物動態を研究した。5mg/kgのDCN-tCRK又はDCNのいずれかをイソフルラン麻酔下で尾静脈に注射した。注射の15分、30分、60分、2時間、4時間及び16時間後に別個の尾静脈からの血液サンプルを収集した。注射の8時間又は24時間後に、マウスをメデトミジン-ケタミン麻酔下で殺処分し、鎖骨下静脈から血液サンプルを収集した。このサンプルを1Mエチレンジアミン四酢酸(EDTA)と混合し、2000gで室温で10分間遠心分離し、血漿を分析のために保存した。製造元によって提供された指示に従って、Human Decorin DuoSet ELISAキット(#DY143、R&D Systems)を使用して、血漿サンプル中のヒト由来のデコリンの濃度を測定した。注射しなかったマウスからの静脈血サンプルを各プレートに使用して、一次抗体の特異性を確保した。
【0090】
col7a1-/-マウスにおけるDCN-tCRK及びDCNの投与
妊娠中のcol7a1+/-マウスを個別に飼育し、出産まで毎日監視した。新生マウスの静脈内注射が技術的に困難であり、一貫性のない結果を得ることが多いため、本発明者らは、出生後の24時間以内に初回投与量のDCN-tCRK及びDCN(15μlのPBS中に5μgであり、約5mg/kgに対応する)をcol7a1-/-マウスの肝臓に注射することを選択した。その理由は、肝臓が胎仔マウス及び新生マウスの造血の主要な部位であり、かつヒト細胞が肝内注射後に急速に循環に入ることが示されているからである(Liaoら、2015、Stem Cells 33:1807-1817、Liaoら、2018、Steml Cells Transl Med 7:530-542)。この初回投与量に続いて、マウスが14日齢に達するまで1日おきに上記タンパク質の腹腔内(i.p.)投与を繰り返し(最大7回投与する)、マウスが1週齢になったときに投与量を10μgに増加した。マウスを毎日監視した。全ての実験的なcol7a1-/-マウスの遺伝子型をサンプル収集時に決定した。
【0091】
col7a1-/-マウスにおける組織学的及び免疫組織化学染色並びにhDCN定量化
選択したマウスの背部皮膚及び足(前足及び後足)を切除し、Tissue-Tec OCT Compound(Sakura Finetek(サクラ・ファインテック)、トーランス(Torrance)、カリフォルニア州)に埋め込み、-80℃の冷凍庫で保存した。各試験片について、6μmの連続切片を切り出した。ピクロシリウスレッド染色及びCTGF(#ab6992、Abcam(アブカム)、ケンブリッジ、英国)免疫組織化学染色を、New York Medical CollegeのCore Histology Lab(コア組織学研究室)で実行した。Hisタグの免疫化学染色のために、切片を4%パラホルムアルデヒドで固定し、M.O.M.ブロッキング試薬(Vector Laboratories(ベクター・ラボラトリーズ)、バーリンゲーム(Burlingame)、カリフォルニア州)(マウスで産生された抗体用)、又は0.1%Triton(Sigma、セントルイス、ミズーリ州)を含む10%ウマ血清(GIBCO、グランドアイランド、ニューヨーク州)でブロックした。次に、スライドを、それぞれ、抗Col1A(#R1038、Acris(アクリス)、ロックビル(Rockville)、メリーランド州)、抗αSMA(#14968、Cell Signaling Technology、ダンバース(Danvers)、マサチューセッツ州)、抗6x-Hisタグ(#R930-25、Thermofisher Scientific、カールスバッド(Carlsbad)、カリフォルニア州)及び抗NRP-1(#AF566-SP、R&D Systems、ミネアポリス、ミネソタ州)を含む一次抗体、続いて対応するAlexa Fluor 488二次抗体(Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州)でインキュベートした。そして、スライドを、DAPI(Vector Laboratories、バーリンゲーム、カリフォルニア州)を含有するVectashield封入剤で封入した。Nikon 90i Eclipse顕微鏡(Nikon Instrument Inc.(ニコン・インスツルメント)、ニューヨーク州)を使用して、各組の実験の異なる群間で同じ設定で画像を取得した。ユーザーガイドに従って、NIS-Elements ARソフトウェアを使用して、フィールドごとの免疫染色の強度を測定した。RGB画像をピクロシリウスレッド染色の定量化に使用し、画像内の基準点を選択することにより閾値を定義した。
【0092】
製造元の推奨に従って、ヒトデコリンDuoSet ELISAキット(#DY143、R&D Systems、ミネアポリス、ミネソタ州)を使用して、col7a1-/-マウスの皮膚へのDCN-tCRK及びDCNのホーミングを測定した。組織生検材料を液体窒素で瞬間凍結し、予冷した乳棒で粉砕し、溶解緩衝液(PBS中の1%Tween20、プロテアーゼ阻害剤カクテル、DNase及びRNase)で均質化した。12000gで4℃で10分間遠心分離した後、上清を収集し、Bio Rad DCタンパク質アッセイ(BioRad、ハーキュリーズ(Hercule)、カリフォルニア州)を用いて総タンパク質濃度を定量化した。DCN-tCRK又はDCNが投与された場合及び投与されない場合のcol7a1-/-マウスからの血清を、アッセイに適用する前にサンプル希釈剤で1:20に希釈した。
【0093】
RT Profiler PCRによる創傷治癒経路の分析
RT Profiler PCR Array(QIAGEN、ヒルデン、ドイツ)を使用してマウスの創傷治癒経路に関与する遺伝子の発現を研究した。RT Profiler Arrayは、96ウェルプレートに84個の創傷治癒遺伝子、5つのハウスキーピング遺伝子、ゲノムDNA、逆転写対照及びPCR陽性対照のプライマーを含む。7日目に、WTマウス、RDEBマウス、及びDCN又はDCN-tCRKを注射したcol7a1-/-マウス(各群に3匹)の前足全体から全RNAを単離した。RNAの品質及び濃度をNanoDrop 200C(ThermoScientific、ウォルサム、マサチューセッツ州)で測定した。RNAをゲノムDNA除去ミックス(QIAGEN)で処理した。RT First Strandキット(QIAGEN)を使用して、各サンプルの500ngの全RNAを逆転写に適用した。cDNA合成反応物を2x RT SYBR Green Masterミックスと混合し、25μlの該カクテルを96ウェルプレートの各ウェルに分注した。Q-PCRをQuantStudio5 Real-Time PCR機器(Applied Biosystems(アプライドバイオシステムズ)、フォスターシティ(Foster City)、カリフォルニア州)で実行した。CT値をExcelファイルにエクスポートした。GeneGlobe Data Analysis Center(https://www.qiagen.com/us/geneglobe)にあるPCR Array Data Analysis Template(PCR配列データ分析テンプレート)を使用して、得られた生データを分析した。ΔΔC法で遺伝子発現を計算した。倍数変化遺伝子発現値の閾値1.5及びp値の閾値0.05を使用して、WT仔マウスと未治療の仔マウス/治療した仔マウスとの間のデータを分析した。
【0094】
コラーゲン格子収縮アッセイ
ヒト正常線維芽細胞及びRDEB患者由来の線維芽細胞を、以前に記載されたように(Liaoら、2018、Stem Cells 36:1839-1850)、10%FBSを補充したDMEMで培養した。細胞懸濁液を中和されたラット尾部I型コラーゲン(Advance BioMatrix(アドバンス・バイオマトリックス)、カールスバッド、カリフォルニア州)と混合することにより、コラーゲン格子を作った。コラーゲンの最終濃度を2.4mg/mlとし、細胞密度を2.1×10個細胞/mlとした。500μlの細胞/コラーゲン懸濁液を24ウェルプレートの単一ウェルに分注し、室温で30分間固化させた。コラーゲン重合後、5%FBSを補充した0.5mlのDMEMを各ウェルに添加し、プレートを37℃で、5%COで培養した。12時間のインキュベーション後、各ウェルからのゲルを細いピペットチップにより穏やかに放出し、最終濃度が75μMになるようにDCN又はDCN-CRKをそれぞれ添加した(条件当たりn=3)。それぞれ12時間(初期領域)及び48時間(収縮領域)で画像を取得し、Image Jを使用してゲルの領域を定量化した。
【0095】
統計
カプラン・マイヤー分析を用いてメジアン生存期間を測定し、ログランク(マンテル-コックス(Mantel-Cox))検定を使用して異なる実験群間の生存率を比較した(GraphPad Prism 6)。スチューデントの対応のないt検定を使用して、DCN-tCRKのNRP-1への結合を研究した。0.05未満のp値を有意であると考えた。
【0096】
結果
多機能組換えDCN-tCRK融合タンパク質の生成
本発明者らは、DCNのC末端にtCRKペプチドを配置することにより、DCN-tCRK融合タンパク質を操作した(図1A)。DCN-tCRKと天然のDCNの両方を哺乳類細胞に発現し、クロマトグラフィーを使用して精製した(図2A)。両方の組換えタンパク質は、SDSゲル電気泳動で約55kDaの鋭いバンドとして泳動し、該バンドの上にスミアがあり、ウェスタンブロット分析によりDCNとして検出された(図2B)。この鋭いバンドは、コアタンパク質に対応し、スミアは、DCNコアに結合したグリコサミノグリカン硫酸鎖(主にコンドロイチン)の不均一性により引き起こされる。質量分析計により、DCNとC末端のtCRK配列の同一性を確認した(表1)。流体力学サイズは、DCN-tCRKが、報告されたDCNの二量体(Scottら、2003年、J Biol Chem 278:18353)と一致する直径を有する、均一で凝集しない高分子として存在することを示す(図2C)。示差走査熱量測定では、融解温度(Tm)49℃で鋭いピークが生成され、これは、tCRK-DCNが生理学的条件で安定した三次構造を維持することを示唆する(図2D)。
【0097】
【表1】
【0098】
DCN-tCRKはNRP-1とインビトロで相互作用する
次に、本発明者らは、DCNに融合したtCRKペプチドがNRP-1と相互作用する能力を保持するか否かを研究した。DCN-tCRKをELISAプレートに固定化し、野生型(WT)、又はCendR結合ポケットが三重変異により無効になった変異体NRP-1(Teesaluら、2009、PNAS 106:16157-16162)への結合をテストした。DCN-tCRKは、対照のウシ血清アルブミン(BSA)よりも有意に高いレベルでWT NRP-1に効果的に結合する(p<0.01)のに対して、変異体NRP-1への有意な結合は見られなかった(p>0.05)(図1B)。更に、合成RPARPAR(配列番号25)ペプチドと、原型CendRペプチドと、RPARPARA(配列番号26)と、C末端キャップしたCendR配列を有し、NRP-1と相互作用できない対照ペプチドとを用いた並行研究を使用して、結合がCendR配列に依存することを補強した(図1B)。更に、本発明者らは、DCN-tCRKがNRPー1を発現する細胞、すなわちヒトPC3前立腺癌細胞に結合するか否かを判定した。NRP-1を発現しないM21黒色腫細胞もこのアッセイに含まれた。DCN-tCRKの内在化がNRP-1陽性PC3細胞でのみ見られ、NRP-1陰性M21細胞で見られず(図1C)、これは、NRP-1依存性細胞結合及び貫通特性を裏付ける。
【0099】
DCN-tCRK及びDCNは同様のインビボ薬物動態を呈した
tCRKペプチドの添加がDCNの循環半減期に影響を与えたかどうかを判定するために、DCN-tCRK及びDCNを健康なBalb/cマウスに並行して静脈内注射し、投与後の24時間(h)内の異なる時間点での末梢血中のDCN-tCRK及びDCNの量をELISAで定量化した。DCN-tCRKの血中半減期は、30分であり、DCNの血中半減期と有意には異なるものではなかった(図3)。この薬物動態研究は、小さな血管ホーミングペプチドによるDCNの修飾がDCNの薬物動態に影響を与えないことを示唆する。
【0100】
DCN-tCRK投与はcol7a1-/-マウスの生存率を向上させる
DCN及びDCN-tCRKの治療機能と皮膚ホーミング特性をRDEBの動物モデルであるcol7a1-/-マウスで評価した。これらのマウスは、ヘテロ接合同腹の子の繁殖により生成され、col7a1-/-マウスは、皮膚の出血性水疱の症状に基づいて出生時に識別することができる。新生col7a1-/-マウスをランダムに分けて、DCN、DCN-tCRK又はPBS(陰性対照)の肝内投与を与えた。初回投与後、14日目まで各群の生存マウスに1日おきに腹腔内投与を繰り返し実行した。col7a1-/-マウスのメジアン生存期間は、PBS注射後に2日間であり、DCN投与後に7日間まで有意に延長された(p<0.0001)(図4A)。しかしながら、DCN投与後のcol7a1-/-マウスの生存率は、デキストラン/ヒト血清アルブミン(D/HSA)の過去の投与と比較して、統計的に有意ではなかった。このデキストラン/ヒト血清アルブミン(D/HSA)は、幹細胞投与のビヒクルとして使用され、おそらく体液平衡を調整することにより、一部のcol7a1-/-被投与マウスの生存率を散発的に向上させた(図5)。更に、DCN注射は、生後2週間を超えた被投与マウスの生存を延長させなかった。重要なことに、DCN-tCRK治療を受けた後のマウスのメジアン生存期間は、更に11日間に延長し、PBS投与(p<0.0001)又は過去のD/HSA投与(p<0.001)後のメジアン生存期間よりも有意に優れた(図4A及び図5)。更に、DCN-tCRKで治療したマウスの85%は、7日間生存し、これらのマウスの20%は、生後3週間を超えて生存し、その後に皮膚分析のために殺処分された。
【0101】
DCN-tCRKはcol7a1-/-マウスの皮膚へホーミングする
ELISAアッセイを利用して、被投与RDEBマウスの皮膚におけるヒトDCN及びDCN-tCRKを1週間(wk)、2週間及び3週間で定量化した(n=3、全ての時間点)(図4B)。1週間の時点で、DCN-tCRKで治療した皮膚とDCNで治療した皮膚との間に統計的に有意な差がなかった。しかしながら、2週間の時点で、DCN-tCRKのレベルは、DCNのレベルよりも有意に高かった(3.6倍、p<0.05)(図4B)。更に、14日目に最後回のDCN-tCRKのi.p.投与を行った場合、3週間の時点での皮膚におけるDCN-tCRKの同定(19.47±12.80pg/ml)は、インビボで少なくとも7日間安定していることを強く示唆する。
【0102】
また、RDEB皮膚におけるDCN-tCRK又はDCNの解剖学的分布を分析するために、ヒスチジンタグの発現に基づく免疫組織化学染色を実行した。DCN-tCRKは、1週間、2週間、3週間でRDEBマウスの足と背部の皮膚の両方の真皮に検出された(図4C)。更に、被投与RDEBマウスの消化管(GI)の染色は、抗his抗体との反応性を示さず(データが示さず)、DCN-tCRKが皮膚を特異的に標的とすることを示唆する。対照的に、ELISAは、皮膚溶解物におけるDCNの存在を示しているが、1週間の時点で表される、DCNで治療したRDEB皮膚の抗his免疫染色は、非特異的(広範性)であるようにしか見えなかった(図4C)。抗his及び抗NRP-1二重染色は、DCN-tCRKからのシグナルがRDEB皮膚におけるNRP-1陽性の細胞内又はその近くにあることを示し(図4D)、これは、DCN-tCRKのホーミングがNRP-1依存性細胞及び組織貫通によるものであるという本発明者らの非限定的仮説を更に裏付ける。
【0103】
DCN-tCRK治療はRDEBマウスにおける線維化反応を抑制する
本発明者による最近の研究によれば、col7a1-/-マウスにおいて早くも生後1週間に足の趾間ひだで始まるTGFβシグナル伝達の有意な上昇が示されている。したがって、この試験では、WT皮膚とビヒクル(D/HSA)、DCN又はDCN-tCRKで治療したRDEB皮膚との間の創傷治癒反応及び線維症形成の中心となる84個の遺伝子の発現を比較するために、この時点の皮膚生検材料を選択した(群当たりn=3)。(表2)。図6Aのクラスターグラムに示すように、WTに対して、ビヒクルが注入されたRDEB皮膚における半分以上の遺伝子が>1.5倍の発現増加を示した。また、遺伝子発現の相対的倍数変化(log2)とp値(-log10)は、ボルケーノプロットとして示され、有意に(p<0.05)調節不全の遺伝子は、各プロットで白色でマークされる(図6B)。ビヒクルRDEB皮膚で有意にアップレギュレートされた遺伝子は、TGFβシグナル伝達(すなわち、Tgfb1、Tgfbr3、Ctgf)、WNTシグナル伝達(Ctnnb1)、MAPK1/MAPK3シグナル伝達(Mapk3)、上皮成長因子受容体シグナル伝達(Egfr)、ECMリモデリング(Ctsg、Plaur)、細胞接着(Itgb3、Itgb5)及び炎症(Il4、Cxcl3、Tnfα)に関与する。WTと比較して、ビヒクルRDEB皮膚で有意にダウンレギュレートされた遺伝子はなかった。DCNで治療したRDEBマウスの皮膚において、全体的な遺伝子発現プロファイルは、ビヒクルRDEB皮膚の場合に類似した(図6B)。DCNで治療したRDEB皮膚において、Tgfb1の発現がもはや有意に異常ではなかったが、Tgfbr3及びCtgfの発現は、依然として有意にアップレギュレートされた。Il4、Cxcl3、Tnfαなどのいくつかの遺伝子は、DCNで治療したRDEB皮膚において、ビヒクル対照よりも有意にアップレギュレートされた(図6B及び表2)。
【0104】
重要なことに、DCN-tCRKで治療したRDEB皮膚における発現プロファイルは、ビヒクル及びDCNで治療したRDEB皮膚における発現プロファイルとは著しく異なり、WT皮膚における発現プロファイルに似ていた(図6A)。いくつかの遺伝子の発現は、個体差を示したが、アレイ中の全ての遺伝子は、WTと比較して、DCN-tCRKで治療したRDEB皮膚において有意にアップレギュレートされなかった(図6及び表2)。
【0105】
【表2(1)】
【表2(2)】
【表2(3)】
【0106】
ビヒクルを注射したRDEB皮膚においてCTGF/CCN2の強い発現が見られ、DCN-tCRKによる治療後にその発現レベルが著しく減少し(図7A)、これは、未治療のRDEB皮膚におけるTGFβ1媒介性線維化の発症とDCN-tCRK治療によるその抑制を裏付ける。更に、ピクロシリウスレッド染色により示されるように、ビヒクルを注射したRDEB皮膚において全体的なコラーゲン沈着が時間とともに増加したが、DCN-tCRKで治療したマウスの皮膚において有意に減少した(図7B及び図7C)。免疫染色は、2週間(w)の時点で、ビヒクルで治療した皮膚においてI型コラーゲン(COL1)の発現が大幅に増加し、DCN-tCRKで治療した皮膚において発現が減少することを示した(図7D及び図7E)。筋線維芽細胞、すなわちα-平滑筋アクチン(αSMA、図7D及び図7E)の免疫染色でも同様の結果が得られた。更に、WT及びDCN-tCRKで治療したRDEB皮膚におけるαSMA+細胞のほとんどは、血管と共局在し(CD31染色)、これは、それらの血管平滑筋細胞及び周皮細胞との同一性を示すのに対して、ビヒクルで治療したRDEB皮膚におけるαSMA+細胞は、血管の外側にあり、すなわち、筋線維芽細胞であることを示した(図7D)。
【0107】
DCN-tCRKの抗線維化機能を直接的に示すために、インビトロでのコラーゲンゲル収縮に対するDCNの抑制能力とDCN-tCRKの抑制能力とを、正常線維芽細胞とRDEB由来の線維芽細胞の両方を使用して比較した。DCNがコラーゲン収縮に有意な影響を与えない低濃度(75μM)で、DCN-tCRKは、正常線維芽細胞(p<0.05)及びRDEB由来の線維芽細胞(p<0.01)の両方においてコラーゲンゲル収縮を抑制した(図8)。
【0108】
考察
本明細書では、創傷ホーミングペプチドにおけるCendR配列のC末端露出により、正常皮膚及び創傷皮膚におけるそのペプチドの新規な組織貫通機能を表現することが示される。DCNへのtCRKペプチドの結合(複合化)は、RDEBのマウスモデルの抗線維化効果を発揮し、かつ生存率を向上させる治療的融合タンパク質が皮膚に選択的に標的されることを容易にする。
【0109】
上記実験は、DCN-tCRK組換えタンパク質の全身投与が、col7a1-/-マウスの生存率の向上において、未修飾DCNよりも効果的であることを示した。正確な分子機序はわかっていないが、理論に限定されず、複数の異なる機序がその生存率の向上に寄与する可能性があると考えられる。DCNは、抗炎症及び抗線維化分子である。TGFβシグナル伝達の活性化が早くとも生後1週間であることに関する本発明者らの以前の発見と一致して、線維形成に関連する遺伝子のうち半分を超える遺伝子の発現は、未治療RDEBマウスの皮膚において1週間の時点でアップレギュレートされた。理論に限定されず、DCN-tCRK投与によるRDEBマウスの生存率の向上は、当該治療タンパク質の抗線維化効果及び抗炎症効果に関連する可能性が高い。
【0110】
TGFβシグナル伝達に直接的に関与する遺伝子が(DCNではなく)DCN-tCRKで治療したRDEB皮膚において正常化されただけでなく、β-カテニン及びEGFRなどの他のシグナル伝達経路に関連する遺伝子もDCN-tCRK投与によって正常化された。Wnt/β-カテニンシグナル伝達とEGFRシグナル伝達の両方が、独立した線維化促進機序を通して、又はTGFβシグナル伝達とのクロストークにより、複数の線維化疾患における線維形成に寄与することが示されている。例えば、EGFR活性化は、TGFβの線維化促進機能並びにCCN2媒介性線維芽細胞増殖及び筋線維芽細胞分化転換に必要である。DCNは、(β-カテニンの発現を抑制するために)EGFR及びHGF受容体Metに結合し、それらをダウンレギュレートすることができる。DCN-tCRKの投与後のcol7a1-/-マウス皮膚におけるこれらの正常化された遺伝子の発現は、RDEBにおけるDCN-tCRKの複数の治療機能を示唆する。これによると、DCNで治療したRDEB皮膚における炎症誘発性遺伝子のアップレギュレーションは、天然のDCNの投与によって持続されなかった治療効果を示す可能性がある。
【0111】
まとめると、本明細書において、潜在的なCendR配列の露出により、創傷皮膚に加えて正常皮膚にホーミングする創傷標的ペプチドの新規な特徴を表現し、また、真皮組織貫通性を提供することが示される。このペプチド(tCRK)が、全身性真皮疾患、特に表皮水疱症の治療において、デコリン及び他の治療分子を送達するためのビヒクルとして機能できることも示される。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8
【配列表】
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【国際調査報告】