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特表2023-523730肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤
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  • 特表-肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤 図1
  • 特表-肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤 図2
  • 特表-肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤 図3
  • 特表-肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤 図4
  • 特表-肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤 図5
  • 特表-肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤 図6
  • 特表-肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤 図7A
  • 特表-肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤 図7B
  • 特表-肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤 図7C
  • 特表-肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤 図8
  • 特表-肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤 図9
  • 特表-肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤 図10
  • 特表-肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-07
(54)【発明の名称】肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230531BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230531BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20230531BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230531BHJP
   A61K 31/551 20060101ALI20230531BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20230531BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20230531BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230531BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P11/00
A61P31/16
A61P43/00 111
A61K31/551
G01N33/569 L
G01N33/573 A
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564138
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(85)【翻訳文提出日】2022-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2021060490
(87)【国際公開番号】W WO2021214200
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】LU101746
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】516343022
【氏名又は名称】アトリバ セラピューティクス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】クズネツォワ イリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ペテランダール クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】ヘロルト ズザネ
(72)【発明者】
【氏名】ツィーバー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】プレシュカ シュテファン
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB01
4C084AA17
4C084NA14
4C084NA20
4C084ZA59
4C084ZB33
4C084ZC20
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA10
4C086BC54
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086NA20
4C086ZA59
4C086ZB33
4C086ZC20
(57)【要約】
本発明は、ウイルス感染症に関連する肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤に関する。本発明は、さらに、肺上皮細胞における頂端ナトリウム-カリウム-ATPアーゼ(NKA)局在化の予防または低減における阻害剤有効性の決定のためのインビトロ検査システムの使用に関する。さらに、肺水腫の発症予防および/または処置において有効な分子を検出するための方法を提供する。最後に、本発明は検査システムに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)肺上皮細胞における頂端ナトリウム-カリウム-ATPアーゼ(NKA)局在化を予防すること、または
(ii)ROCK阻害剤の投与前の頂端NKA局在化と比較して肺上皮細胞における頂端NKA局在化を低減すること
による、肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤であって、
肺水腫がウイルス感染症に関連し、かつ
ウイルスがインフルエンザウイルスである、
ROCK阻害剤。
【請求項2】
ROCK阻害剤がROCK1またはROCK1/2阻害剤である、請求項1記載の使用のためのROCK阻害剤。
【請求項3】
ROCK阻害剤が、ファスジル、Rho XIII、Y27632、ヒドロキシファスジル、H-1152-P、Y27632、Y30141、Y32885、Y39983、DW1865、SLx-2119、SR8046、SR6246、リパスジル、AS1892892、AR12141、AR12432、INS-117548、INS-115644、AT13148、RKI1447、SAR407899、ネタルスジル、AR12286、PG286*、PG324**、ATS907、AMA0076、チアゾビビン、アザベンゾイミダゾール-アミノフラザン類、H-0104二塩酸塩、DE-104、オレフィン類、イソキノリン類、インダゾール類、ピリジンアルケン誘導体、H-1152ジクロリド、XD-4000、HMN-1152、4-(1-アミノアルキル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサン-カルボキサミド類、ロスタチン(Rhostatin)、BA-210、BA-207、BA-215、BA-285、BA-1037、Ki-23095、VAS-012、キナゾリン、AR13154、および/もしくはAMA0428、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1記載の使用のためのRPCK阻害剤。
【請求項4】
肺水腫が胸部X線またはコンピューター断層撮影によって診断される、前記請求項のいずれか一項記載の使用のためのROCK阻害剤。
【請求項5】
ROCK阻害剤が、インフルエンザAもしくはインフルエンザBウイルスに感染しているかまたは感染のリスクがある対象へ投与される、前記請求項のいずれか一項記載の使用のためのROCK阻害剤。
【請求項6】
肺上皮細胞が肺胞上皮細胞および/または気管支上皮細胞である、前記請求項のいずれか一項記載の使用のためのROCK阻害剤。
【請求項7】
肺胞上皮細胞がI型またはII型肺胞上皮細胞である、前記請求項のいずれか一項記載の使用のためのROCK阻害剤。
【請求項8】
気管支上皮細胞が繊毛および/または非繊毛気管支上皮細胞である、前記請求項のいずれか一項記載の使用のためのROCK阻害剤。
【請求項9】
ROCK阻害剤とインビトロ検査システムとを接触させると、接触前のインビトロ検査システム中の肺上皮細胞における頂端NKA局在化と比較した場合、ROCK阻害剤が、肺上皮細胞における頂端NKA局在化を低減し、
検査システムがインフルエンザウイルスに感染した培養肺上皮細胞を含む、
前記請求項のいずれか一項記載の使用のためのROCK阻害剤。
【請求項10】
ROCK阻害剤が、ROCK阻害剤の投与前のウイルス負荷と比較して、ウイルス負荷を低減する、前記請求項のいずれか一項記載の使用のためのROCK阻害剤。
【請求項11】
ROCK阻害剤が、ROCK阻害剤の投与前に存在する肺の流体重量と比較して、肺の流体重量を低減する、前記請求項のいずれか一項記載の使用のためのROCK阻害剤。
【請求項12】
ROCK阻害剤が、ROCK阻害剤の投与前の肺内へのマクロファージの浸潤と比較して、肺内へのマクロファージの浸潤を低減する、前記請求項のいずれか一項記載の使用のためのROCK阻害剤。
【請求項13】
肺上皮細胞における頂端NKA局在化の予防または低減において有効な阻害剤の決定のための、インフルエンザウイルスに感染した培養肺上皮細胞を含む、インビトロ検査システムの使用。
【請求項14】
肺水腫の発症予防および/または処置において有効な分子を検出するための方法であって、
インフルエンザウイルスに感染した培養肺上皮細胞を含むインビトロ検査システムと、関心対象の化合物とを接触させる工程を含み、
関心対象の化合物が、接触前のインビトロ検査システムと比較して、肺上皮細胞における頂端NKA局在化を低減する、
方法。
【請求項15】
(i)ROCK阻害剤;
(ii)肺上皮細胞;
(iii)インフルエンザウイルス;および
(iv)NKAの検出および細胞局在化のための手段
を含む、検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、ウイルス感染症に関連する肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤に関する。本発明は、さらに、肺上皮細胞における頂端ナトリウム-カリウム-ATPアーゼ(NKA)局在化の予防または低減における阻害剤の有効性の決定のためのインビトロ検査システムの使用に関する。さらに、肺水腫の発症予防および/または処置において有効な分子を検出するための方法を提供する。最後に、本発明は検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
説明
肺水腫は多くの異なる要因によって引き起こされ得る。それは、心原性肺水腫と呼ばれる、心不全に関連する可能性があり、または非心原性肺水腫と呼ばれる、ウイルス感染症などの他の原因に関連する可能性がある。例えば、ヒトのインフルエンザAウイルス(IAV)感染症は、肺損傷、および肺胞腔内の体液の過剰な貯留(肺水腫)によって引き起こされる「急性呼吸促迫症候群」(ARDS)をもたらし得、処置なしでは低酸素血症および死に至る可能性がある。
【0003】
効果的な治療には迅速な診断および早期介入が必要である。その結果、過去2世紀にわたり、肺水腫を迅速に診断し、治療に対する反応を追跡するための臨床的ツールを開発するための集中的な努力が行われてきた。このようなツールの理想的な特性には、高い感度および特異性、入手の容易さ、ならびに完全な臨床症状の発症前に肺水分の貯留を早期に診断する性能が含まれる。さらに、臨床医は、血管外肺水分貯留を正確に定量化し、静水圧と肺水腫の高透過性病因とを区別する性能を高く評価する。
【0004】
したがって、肺水腫の療法について当技術分野において必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0005】
本発明の解決策を、以下において説明し、実施例において例示し、図において図示し、特許請求の範囲において反映する。
【0006】
本発明は、
(i)肺上皮細胞における頂端NKA局在化を予防すること、または
(ii)ROCK阻害剤の投与前の頂端NKA局在化と比較して、肺上皮細胞における頂端NKA局在化を低減すること
による、肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤に関し、
肺水腫はウイルス感染症に関連し、かつウイルスは、アーティキュラウイルス目(Articulavirales)(例えば、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae))、モノネガウイルス目(Mononegavirales)(例えば、ニューモウイルス科(Pneumoviridae))、および/またはブニヤウイルス目(Bunyavirales)(例えば、ハンタウイルス科(Hantaviridae))のウイルスである。
【0007】
本発明はまた、
(i)肺上皮細胞における頂端NKA局在化を予防すること、または
(ii)ROCK阻害剤の投与前に存在する頂端NKA局在化と比較して、肺上皮細胞における頂端NKA局在化を低減すること
による、肺水腫の発症予防および/または処置のための方法における使用のためのROCK阻害剤を含む組成物に関し、
肺水腫はウイルス感染症に関連し、かつウイルスは、アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス目、および/またはブニヤウイルス目のウイルスである。
【0008】
本発明はまた、肺上皮細胞におけるウイルス誘導頂端NKA局在化の予防または低減において有効な阻害剤の決定のための、アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス目、および/またはブニヤウイルス目のウイルスに感染した培養肺上皮細胞を含むインビトロ検査システムの使用に関する。
【0009】
さらに、本発明は、アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス目、および/またはブニヤウイルス目のウイルスに感染した培養肺上皮細胞を含むインビトロ検査システムと関心対象の化合物とを接触させる工程を含む、肺水腫の発症予防および/または処置において有効な分子を検出するための方法に関し、関心対象の化合物は、接触前のインビトロ検査システムと比較して、肺上皮細胞における頂端NKA局在化を低減する。
【0010】
本発明はまた、肺上皮細胞におけるRNAウイルス関連頂端NKA局在化を予防することによって、肺水腫を有するかまたは肺水腫のリスクがある対象を処置する方法に関する。
【0011】
本発明はまた、(i)ROCK阻害剤;(ii)肺上皮細胞;(iii)アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス目、および/またはブニヤウイルス目のウイルス;ならびに(iv)NKAの検出のための手段を含む検査システムに関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図は以下を示す:
図1】ROCK阻害は、頂端ナトリウム-カリウム-ATPアーゼ(NKA)局在化を防ぐ。対照:非感染Calu3細胞におけるNKA(薄い灰色)の基底外側分布。PR8:感染後20時間での、インフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34(H1N1)に感染したCalu3細胞における頂端NKA分布。PR8+Rho XIII:インフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34に感染し、ROCK阻害剤で処理されたCalu3細胞におけるNKA分布(感染後20時間(p.i.))。(NKAα-(濃い灰色)、ウイルス核タンパク質(NP)(薄い灰色)、核(濃い灰色)。切片の厚さ:0.25μm、スケールバー:10μm。
図2】ROCK阻害は、分極(感染)Calu3細胞における方向性水輸送(vectorial water transport)を改善する。モック:方向性水輸送(VWT)を未処理かつ非感染の分極Calu3細胞に対して測定し、100%に設定した。PR8:未処理でありかつインフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34(H1N1、MOI = 2)に感染したCalu3細胞によるVWT。Rho XIII + PR8:処理され(ROCK阻害剤:XIII、5μM)かつインフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34(H1N1)に感染したCalu3細胞によるVWT。アミロライド:アミロライド(ENaCを遮断する)処理されかつ非感染のCalu3細胞によるVWT(陰性対照、ENaC依存性部分を示す)。A)感染後8時間、B)感染後16時間。
図3】ROCK阻害は、非感染および感染Calu3細胞の細胞生存率を増加させる。モック:Calu3細胞を0、6、16、24時間インキュベートし、生存率を決定し(MTT試験)、100%に設定した。Rho XIII:Calu3細胞をROCK阻害剤Rho XIII(5μM)で0、6、16、24時間処理し、続いて生存率を決定した。H1N1:Calu3細胞をインフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34(H1N1)(MOI = 2)に感染させ、生存率を決定した。Rho XIII+H1N1:Calu3細胞をインフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34(H1N1)に感染させ、ROCK阻害剤Rho XIII(5μM)で0、6、16、24時間処理し、続いて生存率を決定した。
図4】ROCK阻害は、インビトロでウイルス誘導上皮細胞損傷を減少させる。モック:コンフルに増殖し、分極し、モック感染したCalu3細胞をクマシー(青色)で染色した。H1N1:細胞をインフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34(MOI = 5)に感染させ、感染後24時間でクマシーによって染色した。Rho XIII:コンフルエントに増殖したCalu3細胞をROCK阻害剤(Rho XIII、5μM)で処理し、24時間後にクマシーで染色した。H1N1+Rho XIII:コンフルエント増殖したCalu3細胞をインフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34に感染させ、ROCK阻害剤(Rho XIII、5μM)で処理し、感染後24時間でクマシーによって染色した。
図5】ROCK阻害は、感染したC57BL/6マウスの体重減少の傾向的な低減をもたらす。ファスジルHCL:ファスジルHCl(生理食塩水中10 mg/kg)で毎日1回処置された非感染マウスの体重。PR8:IAV A/プエルトリコ/8/32(H1N1、500 PFU/マウス)に感染したマウスの体重。PR8 + ファスジルHCL:IAV A/プエルトリコ/8/32(H1N1、500 PFU/マウス)に感染し、ファスジルHCl(生理食塩水中10 mg/kg)で毎日1回処置されたマウスの体重。実験は7日間のみ計画された。その後、マウスは倫理的理由で安楽死させた。したがって、黒色曲線と赤色曲線は、互いにさらにより強く(有意に)分離する可能性がある。
図6】ROCK阻害は、感染したマウス肺の流体重量(湿潤乾燥重量比)を減少させる。モック:未処置のモック感染マウスの湿潤-乾燥肺比。ファスジルHCL:ファスジルHCl(生理食塩水中10 mg/kg)で6日間毎日1回処置されたマウスの肺の湿潤-乾燥比。PR8:IAV A/プエルトリコ/8/32(H1N1、500 PFU/マウス)に感染したマウスの湿潤-乾燥肺比(感染後7日目)。PR8 + ファスジルHCL:IAV A/プエルトリコ/8/32(H1N1、500 PFU/マウス)に感染し、ファスジルHCl(生理食塩水中10 mg/kg)で6日間毎日1回処置されたマウスの湿潤-乾燥肺比(感染後7日目)。
図7A】ROCK阻害は肺の組織構造を改善し、感染マウスの細胞肺胞浸潤を減少させる。対照:ファスジルHCl(生理食塩水中10 mg/kg)で6日間毎日1回処置された動物を代表する肺組織切片(様々な拡大)(感染後7日目)。PR8:IAV A/プエルトリコ/8/32(H1N1、500 PFU/マウス)に感染した動物を代表する肺組織切片(様々な拡大)(感染後7日目)。PR8 + ファスジルHCL:IAV A/プエルトリコ/8/32(H1N1、500 PFU/マウス)に感染し、ファスジルHCl(生理食塩水中10 mg/kg)で6日間毎日1回処置された動物を代表する肺組織切片(様々な倍率)(感染後7日目);1つの概要画像(4x)および選択された切片の2つの倍率(10x、20x)を示す。
図7B図7Aの説明を参照のこと。
図7C図7Aの説明を参照のこと。
図8】ROCK阻害は浸潤物の数を減少させる(定量化)。対照:ファスジルHCl(生理食塩水中10 mg/kg)で6日間毎日1回処置された5匹のマウスからの肺組織薄片(感染後7日目)。PR8:IAV A/プエルトリコ/8/32(H1N1、500 PFU/マウス)に感染した5匹のマウスからの肺組織切片(感染後7日目)。PR8 + ファスジルHCL:IAV A/プエルトリコ/8/32(H1N1、500 PFU/マウス)に感染し、ファスジルHCl(生理食塩水中10 mg/kg)で6日間毎日1回処置された5匹のマウスからの肺組織切片(感染後7日目)。肺組織切片をAperio CS2スキャナー(Leica Biosystems Imaging Inc., CA, USA)でデジタル化し、「Aperio v9 nuclear count algorithm」ソフトウェア(Leica Biosystems Imaging Inc., CA, USA)を用いて解析し、各群の肺切片の平均面積を決定し(平均表面/mm2)、平均総細胞数/表面および1 mm2あたりの平均細胞数を計算した(総細胞数/mm2)。
図9】ROCK阻害は、感染マウスの肺におけるウイルス力価を低減する。PR8:IAV A/プエルトリコ/8/32(H1N1、500PFU/マウス)に感染したマウスからの肺ホモジネートのウイルス力価;感染した(感染後7日目)。PR8 + ファスジルHCL:IAV A/プエルトリコ/8/32(H1N1、500 PFU/マウス)に感染し、ファスジルHCl(生理食塩水中10 mg/kg)で6日間毎日1回処置されたマウスからの肺ホモジネートのウイルス力価(感染後7日目)。n = 3。
図10】PR8感染細胞におけるNKA、M2およびHAの細胞表面発現。PR8感染(+/-)ROCK阻害剤処理のCalu3細胞の細胞表面上のNKA、M2およびHAの量を、NKA(βサブユニット)、HAおよびM2に特異的な抗体を用いての非透過処理細胞のオン-セル-ウェスタンブロット分析によって評価した(n=16)。
図11】異なるIAVサブタイプに感染したCalu3細胞の原形質膜内のNKAβ1の再分布。(A)Calu3細胞における異なるIAVサブタイプの増殖。細胞をMOI 0.01で示されたウイルスに感染させ、ウイルス力価を、示される時点でフォーカスアッセイによって決定した。棒グラフは平均値+SD、n=3を示す。(B)IAVの異なる株に感染したCalu3細胞の頂端膜上のNKAβ1の定量化。96ウェルプレート上のCalu3細胞の単層を、示されるウイルス(MOI:2)に感染させ、感染後20時間で、OCWB分析を実施した。データは平均値+SD、n=16を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
健康な/対照の肺上皮細胞において、NKAは本質的に基底外側に局在する。この状況では、ナトリウムは、例えば、頂端に局在したナトリウムチャネル(ENaC)を介して肺上皮細胞に取り込まれる。その後、NKAはナトリウムを肺上皮細胞から上皮下間質腔に輸送する。水はこのナトリウム勾配をたどって、アクアポリンおよび他の細胞内経路を介して上皮下間質腔に入る。このようにして、肺水腫の発症が予防される。したがって、NKAは、機能的に障害を受けた場合、水腫クリアランスの主要な制限因子を表すということになる(Peteranderl et al., (2019) 「Influenza A virus infection induces apical redistribution of Na+, K+-ATPase in lung epithelial cells in vitro and in vivo」 American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology Volume 61 Number 3, pp. 395-397)。
【0014】
具体的には、本発明者らが見出したことは、肺上皮細胞、好ましくは肺胞上皮細胞(例えばCalu3細胞)がアーティキュラウイルス目のインフルエンザAウイルス(IAV)に、ならびにしたがってまたもっともらしくはモノネガウイルス目および/またはブニヤウイルス目にウイルス感染すると、NKAは、肺上皮細胞の基底外側から頂端側へ少なくとも部分的に再分布する。この再分布のために、ナトリウム勾配ならびに頂端から基底外側肺細胞側への指向性水輸送が妨げられる。これは肺水腫の発症に至る。注目すべきことに、タイトジャンクション複合体はこのウイルス感染によって影響されず、これは細胞極性が維持されることを示す(Peteranderl et al., (2019) 「Influenza A virus infection induces apical redistribution of Na+, K+-ATPase in lung epithelial cells in vitro and in vivo」 American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology Volume 61 Number 3, pp. 395-397)。
【0015】
ROCK阻害剤が、(i)ウイルス感染ヒト極性肺上皮細胞(Calu3細胞など)の基底外側から頂端側へのNKAのIAV誘導病理学的再分布を予防し、(ii)細胞培養において指向性流体輸送(頂端から基底外側へ)を回復させることが驚くべきことに見出された。したがって、ROCK阻害剤は、IAV感染肺上皮細胞における細胞内水輸送に直接影響を与えることによって、肺水腫を処置および/または予防する。特に、IAV誘導頂端NKA局在化の予防を通じてナトリウム勾配を回復させることにより、頂端から基底外側を通って間質腔中への細胞内指向性水輸送を再確立することによって、処置または予防が達成される。理論に縛られることなく、本発明者らは、ROCK阻害剤は頂端側へのNKAの再分布を予防するだけでなく、基底外側でNKAを安定化させると考えている。
【0016】
さらに、ROCK阻害剤は、(iii)細胞培養においてIAV増殖の細胞変性効果(CPE)を大きく低下させることが見出された。さらに、動物実験は、ROCK阻害が、(iv)感染マウスの体重減少の低下をもたらし、(v)感染マウス肺の流体重量を減少させ、(vi)肺の組織構造を安定化させ、(vii)細胞肺胞浸潤を減少させ、および(viii)感染マウスの肺におけるウイルス力価を減少させることを示した。
【0017】
したがって、本発明は、
(i)肺上皮細胞における頂端NKA局在化を予防すること、または
(ii)ROCK阻害剤の投与前の頂端NKA局在化と比較して、肺上皮細胞における頂端NKA局在化を低減すること
による、肺水腫の処置または予防における使用のためのROCK阻害剤に関し、
肺水腫はウイルス感染症に関連し、かつウイルスは、アーティキュラウイルス目(例えば、オルトミクソウイルス科)、モノネガウイルス目(例えば、ニューモウイルス科)、および/またはブニヤウイルス目(例えば、ハンタウイルス科)のウイルスである。
【0018】
本明細書で使用されるような「ROCK阻害剤」は、任意の好適なROCK阻害剤であり得る。一般に、ROCK阻害剤は、Rho関連プロテインキナーゼ(ROCK)経路の阻害剤である。ROCK経路は当業者に公知であり、とりわけ、Liao et al. (2007) 「Rho Kinase (ROCK) Inhibitors」 J. Cardiovasc Pharmacol. 50(1):17-24およびAmano et al. (2010) 「Rho-Kinase/ROCK: A Key Regulator of the Cytoskeleton and Cell Polarity」 Cytoskeleton (Hoboken). 2010 Sep; 67(9): 545-554によって記載されている。したがって、用語「ROCKシグナル伝達経路」は、(活性な)Rho関連キナーゼ(Rhoキナーゼ/ROCK/ROK)によって開始される細胞事象のカスケードを指す。
【0019】
細胞事象のカスケードは、例えば、Rhoから開始することができる。Rhoサブファミリーは、Rasファミリーの小分子Gタンパク質のメンバーであり、GTPアーゼ活性を有する。したがって、Rhoは活性化状態(Rho-GTP)と不活性状態(Rho-GDP)との間で変換される。例えばリゾホスファチジン酸(LPA)またはスフィンゴシン-1リン酸(S1P)によってRhoが刺激されると、GTP結合Rho(活性Rho)が生成される。Rhoの下流にある1つのエフェクター分子は、Rho関連キナーゼ(Rhoキナーゼ/ROCK/ROK)である。したがって、Rho-GTPはROCKを活性化することができる。しかしながら、ROCKはまた、Rhoとは独立して、すなわち例えばアミノ末端トランスリン酸化を介して活性化され得る。活性化されると、ROCKタンパク質はF-アクチンなどの多くの下流標的をリン酸化する。
【0020】
他方では、ROCKは、GemおよびRadなどの他の小さなGTP結合タンパク質によって阻害され得る。
【0021】
具体的には、ROCKは、Liao et al. (2007) 「Rho Kinase (ROCK) Inhibitors」 J. cardiovasc Pharmacol. 50(1):17-24によっても記載されているように、アミノ末端タンパク質セリン/スレオニンキナーゼドメイン、続いてRho結合ドメイン(RBD)を含む中央コイルドコイル形成領域、およびプレクストリン相同性(PH)モチーフ内に位置するカルボキシ末端システインリッチドメイン(CRD)からなる。これまでのところ、2つのROCKアイソフォーム、すなわちROCK1およびROCK2が同定されている。
【0022】
本明細書で使用されるようなROCKの「阻害剤」は、ROCKまたはROCK経路の活性を減少させるかまたは阻害することができる任意の好適な阻害剤として定義される。阻害剤は、ROCKまたはROCK経路の活性を減少または消失させる化合物/分子であり得る。阻害剤は、ROCKをコードする遺伝子の転写を減少させるかまたは遮断し、および/またはROCKをコードするmRNAの翻訳を減少させることによって、この効果を達成し得る。また、阻害剤は、阻害剤の非存在下よりも阻害剤の存在下において低下した効率でROCKがその生化学的機能を果たすことをもたらす可能性もある。さらに、阻害剤は、阻害剤の非存在下よりも活性化剤の存在下において低下した効率でROCKがその細胞機能を果たすことをもたらすことが可能である。
【0023】
したがって、用語「阻害剤」はまた、ROCK経路に対して直接減少効果を有する分子/化合物、例えばGemおよびRadを包含するが、例えば、例えばROCK経路を正に調節する(例えばRho-GTP、LPA、またはS1Pなどの活性化する)分子と相互作用することによって、間接的に減少させる分子も包含する。
【0024】
阻害剤はまた、阻害される経路のアンタゴニストであり得る。
【0025】
化合物/分子がROCKまたはROCK経路の活性を減少させるかまたは阻害することができるかどうかを試験するための方法は、当業者に公知である。例えば、ROCK経路またはROCKの阻害剤は、当業者に公知の標準的な試験を行うことによって試験することができる。当業者は、プローブをミオシンホスファターゼ標的サブユニット1(MYPT1)と接触させてもよい。MYPT1はROCK1およびROCK2の基質であり、ROCK1およびROCK2はこの基質をスレオニン696(T696)でリン酸化する。このリン酸化は、抗ホスホ-MYPT1-Thr696抗体によって検出され得る。組換え活性ROCK2を陽性対照として用いてもよい。このような試験は市販されており、例えば、abcam (ROCK Activity Assay; abcam Cat# ab211175)またはMillipore (Millipore Cat# CSA001)から得ることができる。
【0026】
阻害剤は、阻害剤の無いまたは添加前のROCK経路の活性またはROCK活性と比較した場合、ROCK経路またはROCK活性を、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、またはそれ以上阻害するかまたは減少させ得る。
【0027】
ROCK阻害剤は、小分子、化合物、抗体などの結合分子、siRNAなどの核酸分子、またはプロドラッグであってよい。
【0028】
本明細書で使用される場合、「小分子」は、ROCK経路(Rho/ROCK経路)またはROCK活性を減少させる/阻害することができる任意の小分子であり得る。小分子は、低分子量の有機化合物であってもよい。低分子量は、化合物が900ダルトン未満(da)、800da未満、700da未満、600da未満、または500da未満の重量を有することを意味し得る。例えば、小分子は、約300daの分子量を有し得る。小分子のサイズは、当技術分野で周知の方法、例えば質量分析法によって決定することができる。例示的な小分子ROCK阻害剤としては、Y-27632およびCCG-1423ならびにファスジルHCl(327.830898Da)、RKI-1447(326.374812Da)およびヒドロキシファスジル(307.369824Da)が挙げられる。
【0029】
本明細書で使用される場合、「化合物」は、ROCK経路(Rho/ROCK経路)またはROCKを減少させる/阻害することができる任意の化合物であり得る。阻害剤として使用できる化合物/分子は、それぞれの経路/ROCKを阻害するもしくは減少させることができるか、または経路/ROCKのサプレッサーを活性化するか、または阻害される経路/ROCKのアクチベーターを阻害する、任意の化合物/分子であり得る。
【0030】
本明細書で使用される場合、「結合分子」は、ROCK経路(Rho/ROCK経路)またはROCKを減少させる/阻害することができる任意の結合分子であり得る。例えば、結合分子は、抗体、抗体断片、または異なる特異性を有する2つの結合部位を含む二価の抗体断片であり得る。
【0031】
抗体は、任意の抗ROCK1および/または抗ROCK2抗体であり得る。このような抗体は市販されている。例えば、抗体は、abcamの抗ROCK1抗体[EP786Y]もしくは[EPR638Y](ab45171もしくはab230799)、abcamの抗ROCK2抗体(ab71598)、Santa CruzのRock1抗体(B-1)(sc-374388)、Cell Signaling製の抗-抗ROCK1抗体(C8F7) mAb # 4035、Cell Signaling製の抗ROCK2抗体(D1B1) mAb #9029、またはCell Signaling製の抗ROCK2抗体#8236であり得る。
【0032】
そのような二価の抗体断片の非限定的な例としては、(Fab)2’断片、二価の単鎖Fv断片、bsFc-1/2二量体またはbsFc-CH3-1/2二量体が挙げられる。結合分子はまた、単一の結合部位のみを有していてもよく、すなわち、一価であってもよい。一価の結合分子の例としては、一価の抗体断片、抗体様結合特性を有するタンパク質性結合分子が挙げられるが、これらに限定されない。一価の抗体断片の例としては、Fab断片、Fv断片、単鎖Fv断片(scFv)、またはscFv-Fc断片が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
あるいは、結合分子はまた、「デュオカリン(duocalin)」としても公知であるリポカリンムテインなどの二価のタンパク質性人工結合分子であり得る。
【0034】
結合分子はまた、抗体様結合特性を有するタンパク質性結合分子であり得る。例示的だが非限定的なタンパク質性結合分子としては、アプタマー、リポカリンファミリーのポリペプチドに基づくムテイン、グルボディ(glubody)、アンキリン足場に基づくタンパク質、結晶性足場に基づくタンパク質、アドネクチン、アビマー、または(組換え)受容体タンパク質が挙げられる。
【0035】
阻害剤はまた、核酸分子であり得る。例としては、ROCK経路(Rho/ROCK経路)またはROCKを阻害することができる、RNA、siRNA、miRNA、または非タンパク質性アプタマーが挙げられる。このようなアプタマーは、特定の標的分子に結合するオリゴ核酸である。これらのアプタマーはDNAまたはRNAアプタマーとして分類することができる。それらはオリゴヌクレオチドの(通常は短い)鎖からなる。また、核酸分子は、阻害される経路のアクチベーター、プロモーター、またはエンハンサーを抑制するために用いてもよい。
【0036】
ROCK1およびROCK2についてのsiRNAは、当業者に市販されている。例えば、siRNAは、Santa CruzのRock-1 siRNA (h) (sc-76025)、Santa CruzのROCK2 siRNA (h) (sc-29474)、Thermos Fischer ScientificのROCK-1 siRNA (h) #4390824、またはThermo Fischer ScientificのROCK-2 siRNA (h) AM51331であり得る。
【0037】
阻害剤はまた、ROCK経路(Rho/ROCK経路)/ROCKを阻害することができるプロドラッグであり得る。「プロドラッグ」は、薬理学的に本質的に不活性であり、プロドラッグが投与された対象の体内においてその活性型へ代謝される。好適なプロドラッグは、例えばWO2012/015760に記載されている。
【0038】
また、ROCK阻害剤がROCK1および/またはROCK2阻害剤であることも想定される。例示的なROCK1阻害剤は、本明細書に記載されるファスジルである。例示的なROCK1およびROCK2阻害剤はRhoXIIIである。例示的なROCK2阻害剤はSLx-2119(KD025としても知られる)である。ROCK阻害剤は、表1に列挙されるような任意の阻害剤またはそれらの組み合わせであり得る。
【0039】
したがって、ROCKの例示的な阻害剤としては、ファスジル、Y27632 (CAS: 146986-50-7)、ヒドロキシファスジル、H-1152-P (ジメチルファスジル)、Y27632、Y30141、Y32885 (Wf536)、Y39983 (CAS: 203911-26-6)、DW1865、SLx-2119 (CAS: 911417-87-3)、SR8046、SR6246、リパスジル、AS1892892、AR12141、AR12432、INS-117548、INS-115644、AT13148、RKI1447、SAR407899、ネタルスジル(別名AR-13324)、AR12286、PG286*、PG324**、ATS907、AMA0076、チアゾビビン、アザベンゾイミダゾール-アミノフラザン類、H-0104二塩酸塩(CAS: 913636-88-1)、DE-104、オレフィン類、イソキノリン類(CAS: 119-65-3)、インダゾール類(CAS: 271-44-3)、ピリジンアルケン誘導体、H-1152ジクロリド(CAS: 871543-07-6)、XD-4000、HMN-1152、4-(1-アミノアルキル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサン-カルボキサミド類(経口製剤)、ロスタチン(Rhostatin)、BA-210、BA-207、BA-215、BA-285、BA-1037、Ki-23095、VAS-012、キナゾリン、AR13154、AMA0428、および/もしくはRho XIII、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
ROCK阻害剤はまた、ファスジル、ヒドロキシファスジル、ジメチルファスジル、Y27632、Y30141、Y32885、Y39983、DW1865、SLx-2119、SR8046、SR6246、リパスジル、AS1892892、AR12141、AR12432、INS-117548、INS-115644、AT13148、RKI1447、SAR407899、ネタルスジル、AR12286、ATS907、AMA0076、チアゾビビン、H-0104二塩酸塩、オレフィン類、イソキノリン類、インダゾール類、H-1152ジクロリド、4-(1-アミノアルキル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサン-カルボキサミド類、キナゾリン、Rho XIII、AR13154、AMA0428、および/もしくは またはそれらの組み合わせより選択され得る。
【0041】
ROCK阻害剤はまた、ファスジル、Y27632、Y39983、SLx-2119、リパスジル、INS-117548、INS-115644、AT13148、SAR407899、ネタルスジル、AR12286、ATS907、Rho XIIIおよび/もしくは またはそれらの組み合わせより選択され得る。
【0042】
本明細書に記載されるROCK阻害剤を下記表においてさらに特徴付ける。
【0043】
(表1)ROCK阻害剤のリスト、ならびに構造式、臨床試験番号、およびCAS番号などの詳細情報
【0044】
ROCK阻害剤はまた、ファスジル、Y27632、ヒドロキシファスジル、Y39983、SLx-2119、リパスジル、ATS907、INS-117548、AT13148、SAR407899、ネタルスジル、AR12286、またはそれらの組み合わせより選択され得る。
【0045】
ROCK阻害剤はまた、ファスジル、Y27632、ヒドロキシファスジル、Y39983、SLx-2119、リパスジル、INS-117548、INS-115644、ATS907、AT13148、SAR407899、ネタルスジル、AR12286、PG286*、PG324**、ATS907、AMA0076およびDE-104またはそれらの組み合わせより選択され得る。
【0046】
ROCK阻害剤はまた、WO 2009/158587および/またはFeng et al. (2015) 「Rho Kinase (ROCK) Inhibitors and Their Therapeutic Potential including the information about clinical trials」 J. Med. Chem. 2016, 59, 6, 2269-2300に開示されるようなROCK阻害剤であってもよい。
【0047】
さらに、ROCK阻害剤は、本明細書に記載される任意の好適なROCK阻害剤の塩であってもよい。
【0048】
従って、ROCK阻害剤は、ファスジルまたはその塩、例えばファスジルHCl(イソキノリン 5-[(ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピン-1-イル)スルホニル]-N-(5-イソキノリンスルホニル)-1,4-ペル-ヒドロジアゼピン;CAS番号103745-39-7)であり得る。ファスジルHClは化学式Iを有する。
【0049】
ファスジルは、Rhoキナーゼ、特にROCK2の強力かつ選択的な阻害剤である(Ono-Saito N, et al. (1999) 「H-series protein kinase inhibitors and potential clinical applications」 Pharmacol Ther, 82(2-3), 123-131)。
【0050】
ROCK阻害剤はまた、Rho XIII(1-(3-ヒドロキシベンジル)-3-(4-(ピリジン-4-イル)チアゾール-2-イル)尿素;CAS: 1342278-01-6)のように、Rhoキナーゼ1およびRhoキナーゼ2(ROCK1およびROCK2)の両方の阻害剤であり得る。
【0051】
Rho XIIIは、化学式IIを有する。
【0052】
したがって、ROCK阻害剤はまた、ファスジルおよび/またはRhoXIIIであってもよい。
【0053】
本発明に従うROCK阻害剤は、肺水腫を処置または予防するための方法において用いることができる。したがって、用語「処置する」または「処置」は、症状を改善するかまたは好転させる目的で、ウイルス感染症に関連する肺水腫に苦しんでいる、本明細書の他の箇所で定義される対象へ、ROCK阻害剤を、好ましくは医薬の形態で、投与することを含む。
【0054】
さらに、ROCK阻害剤は、ROCK阻害剤の投与前の頂端NKA局在化と比較して、肺上皮細胞におけるウイルス(アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス、および/またはブニヤウイルス目)誘導頂端NKA局在化を低減することによって作用することができる。
【0055】
本明細書で使用される場合、用語「低減する」は、ROCK阻害剤の投与前に存在するNKA局在化と比較して、本明細書に記載されるようなROCK阻害剤の存在下で、ウイルス誘導頂端NKA局在化の量が10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または100%低減することを意味する。
【0056】
換言すれば、ROCK阻害剤は、ROCK阻害剤の非存在下または投与前と比較した場合、ROCK阻害剤の存在下で、ウイルス感染(アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス、および/またはブニヤウイルス目)の結果として頂端に移動した総頂端NKAの量を少なくとも約10%低減する。
【0057】
本明細書で使用される場合、用語「予防する」、「予防」または「発症予防」、および「予防すること」は、ウイルス感染症に関連する肺水腫を獲得または発症するリスクの低減を指す。また、「発症予防」によって、ウイルス感染症に関連する肺水腫の再発の低減または阻止が意味される。特に、ROCK阻害剤は、NKAの基底外側局在化を安定化させることにより肺水腫を予防することができる。好ましくは、「予防する」は、総NKAの60%、70%、80%、90%、95%、または100%が基底外側に局在していることを意味する。NKAの局在化は、とりわけ、例えば実施例に記載されるようにNKAに対する免疫染色によって決定することができる。
【0058】
本明細書で定義されるようなROCK阻害剤は、肺水腫を処置または予防するために使用される。用語「肺水腫」は、当業者に公知であり、とりわけ、Matthay et al. (2019) 「Acute Respiratiory distress Syndrome」 Nat Rev Dis Primers, 5(1): 18, p. 1-52ならびにMutlu et al. (2005) 「mechanisms of pulmonary edema clearance」 Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 289: L685-695およびAssaad et al. (2018) 「Assessment of Pulmonary Edema: Principles and Practice」. Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia, 32(2), 901-914によって記載されている。したがって、「肺水腫」は、肺の組織および気腔、特に肺胞、肺の微細な気嚢における液体貯留を指す。
【0059】
したがって、本明細書で使用されるような肺水腫は、血管外肺水分(EVLW)の貯留によって特徴付けられる。肺水腫を引き起こす可能性のある1つの要因は、肺毛細血管透過性の増加である。肺内の液体貯留、すなわち肺水腫は、ウイルス感染症に関連する肺の損傷に起因し得る。結果として生じる肺内の液体貯留は、ガス交換を損ない、呼吸困難またはさらに機械的換気の必要性を引き起こす可能性がある(Assaad et al. (2018) 「Assessment of Pulmonary Edema: Principles and Practice.」 Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia, 32(2), 901-914)。
【0060】
例えば、インフルエンザウイルス感染症は、肺炎およびいわゆる「急性呼吸促迫症候群」(ARDS)と関連することが多い。これはとりわけ、Namendys-Silva et al. (2011) 「Acute respiratory distress syndrome caused by influenza B virus infection in a patient with diffuse large B-cell lymphoma」 Case Rep Med. 2011; 2011: 647528によって記載されている。ARDSは肺における液体貯留の一形態であり、これは典型的には、Matthay et al. (2019) 「Acute Respiratory Distress Syndrome」 Nat rev Dis primers, 5(1):18によっても記載されているように、呼吸上皮へのびまん性損傷によって誘発される。
【0061】
肺水腫は、胸部X線またはコンピューター断層撮影によって診断され得る。胸部X線は当業者に知られている。それは、胸部に影響を与える状態を診断するために使用される胸部の投影X線写真である。胸部単純X線写真で肺水腫を大まかに評価するために有用な特徴としては以下が挙げられる:中心肺静脈鬱血、上葉肺静脈分流/肺静脈充血/雄ジカの枝角徴候、心胸郭比/心臓シルエットサイズの増加:根底にある心原性の原因または関連を評価するために有用。間質性肺水腫の特徴としては、気管支周囲の肥厚および肺門周囲不鮮明、小葉中隔線/カーリー線、葉間裂の肥厚が挙げられ得る。肺胞性肺水腫の特徴:古典的にバットウィング分布における気腔不透明化は、空気気管支像、胸水、および葉間裂中の体液を有し得る(「消失」肺偽腫瘍を含む)。単純X線写真には、肺毛細血管楔入圧(PCWP)が増加するにつれて起こる徴候の一般的な進行がある。これらの特徴のすべてまたは一部のみが胸部単純X線写真で評価され得るかどうかは、特定の病因に依存する。さらに、肺水腫は、通常、両側性プロセスであるが、特定の状況および病理においてまれに片側性であるように見える場合がある。
【0062】
肺毛細血管楔入圧(PCWP)は、膨張したバルーンを有する肺カテーテルを小肺動脈枝に押し込むことによって測定される圧力である。それは左心房圧を推定する。PCWPを測定する方法は、とりわけ、McIntyre et al. (1992) 「A noninvasive method of predicting pulmonary-capillary wedge pressure」 N Engl J Med. 327(24): 1715-20によって記載されている。
【0063】
肺水腫がグレード1であり得ることがさらに想定される。グレード1において、肺血管鬱血を胸部X線写真で検出することができ、具体的には、ペディカル幅(pedical width)は53 cm以上であると検出され得、かつ/または、PCWPは12~17mm Hgであり得る(Assaad et al. (2018) 「Assessment of Pulmonary Edema: Principles and Practice.」 Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia, 32(2), 901-914)。
【0064】
肺水腫がグレード2であり得ることがさらに企図される。グレード2において、間質水腫を胸部X線写真で検出することができ、具体的には、カーリーB線および/または気管支周囲の肥厚(気管支壁の肥厚した末端)が検出され得、かつ/または、PCWPは17~25 mmHgであり得る(Assaad et al. (2018) 「Assessment of Pulmonary Edema: Principles and Practice.」 Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia, 32(2), 901-914)。
【0065】
肺水腫がグレード3であり得ることがさらに想定される。グレード3において、肺胞水腫の証拠を胸部X線写真で検出することができ、具体的には、肺硬化が存在することが検出され得、かつ/または、PCWPは>25 mmHgであり得る。
【0066】
したがって、肺水腫はグレード1、2、または3であってよい。肺水腫はグレード1であってもよい。また、肺水腫はグレード2であり得ることが想定される。また、肺水腫はグレード3であり得ることが企図される(Assaad et al. (2018) 「Assessment of Pulmonary Edema: Principles and Practice.」 Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia, 32(2), 901-914)。
【0067】
肺水腫はまた、とりわけ、Assaad et al. (2018) 「Assessment of Pulmonary Edema: Principles and Practice.」 Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia, 32(2), 901-914によって記載されているように、肺超音波および/または経肺熱希釈法によって検出され得る。
【0068】
本発明は、ROCK阻害剤が、本明細書に開示されるウイルス感染時に肺上皮細胞における頂端NKA局在化を予防/低減することを要求することができる。
【0069】
本明細書で使用されるNKAは任意の好適なNKAを指す。NKAは当業者に公知であり、とりわけ、Mutlu et al. (2005) 「mechanisms of pulmonary edema clearance」 Am J Physiol Cell Mol phsiol 289: L685-L695によって記載されている。それは、α-サブユニットとβ-サブユニットから構成されるヘテロ二量体タンパク質である。αサブユニットは、高エネルギーリン酸結合を切断し、細胞内Na+を細胞外K+に交換するための触媒部位を有する。β-サブユニットは、ヘテロ二量体の集合および原形質膜への挿入を制御するように見える、より小さなグリコシル化膜貫通タンパク質である。両方のサブユニットが機能的なNKAに必要である。したがって、NKAはαおよびβサブユニットを含む。
【0070】
例えば、NKAは、SEQ ID NO:4~7のいずれか1つの配列のαサブユニット、またはSEQ ID NO:4~7の配列に対して70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列を含み得る。
【0071】
さらにまたは代替的に、NKAは、SEQ ID NO:1~3のいずれか1つの配列のβサブユニット、またはSEQ ID NO:1~3の配列に対して70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列を含み得る。
【0072】
したがって、NKAは、SEQ ID NO:4~7のいずれか1つの配列のαサブユニット、またはSEQ ID NO:4~7の配列に対して70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列、およびSEQ ID NO:1~3のいずれか1つの配列のβサブユニット、またはSEQ ID NO:1~3の配列に対して70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列を含み得る。
【0073】
本発明によれば、SEQ ID NO:1~15のような2つ以上のポリペプチド配列の文脈において、用語「同一」または「パーセント同一性」は、同じであるか、あるいは当技術分野において公知の配列比較アルゴリズムを用いて、または手動アラインメントおよび目視検査によって測定されるような、比較のウィンドウにわたって、または指定領域にわたって最大の対応のために比較およびアラインされる場合、同じであるアミノ酸の指定されたパーセンテージ(例えば、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の同一性)を有する、2つ以上の配列もしくは部分配列を指す。例えば、80%~95%またはそれ以上の配列同一性を有する配列は、実質的に同一であると考えられる。このような定義は、試験配列の相補体にも適用される。当業者は、例えば、当技術分野において公知であるような、CLUSTALWコンピュータープログラム(Thompson Nucl. Acids Res. 2 (1994), 4673-4680)またはFASTDB (Brutlag Comp. App. Biosci. 6 (1990), 237-245)に基づくものなどのアルゴリズムを用いて、2つの配列/複数の配列の間のパーセント同一性を決定する方法を知っている。
【0074】
また、BLASTおよびBLAST 2.6アルゴリズム(Altschul Nucl. Acids Res. 25 (1977), 3389-3402)が当業者に利用可能である。アミノ酸配列についてのBLASTPプログラムは、デフォルトとしてワードサイズ(W)6、期待しきい値10、および両方の鎖の比較を使用する。さらに、BLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 89, (1989), 10915; Henikoff and Henikoff (1992) 「Amino acid substitution matrices from protein blocks.」 Proc Natl Acad Sci U S A. 1992 Nov 15;89(22):10915-9)を使用することができる。
【0075】
例えば、Basic Local Alignment Search Tool (Altschul, Nucl. Acids Res. 25 (1997), 3389-3402; Altschul, J. Mol. Evol. 36 (1993), 290-300; Altschul, J. Mol. Biol. 215 (1990), 403-410)を表す、BLAST2.6は、局所配列アラインメントの検索に用いることができる。
【0076】
NKAは、例えば健常者においては肺上皮細胞の基底外側表面に位置する。NKAはATPを消費することによってイオンを輸送する。具体的には、それは、カリウム流入と引き換えにNa+イオンを細胞外に汲み上げる。このようにして、それは、原形質膜を横切るNa+およびカリウムの勾配を維持する。
【0077】
本明細書で使用される場合、表現「肺上皮細胞」は、任意の肺上皮細胞を意味する。当業者は肺の種々の上皮細胞を知っており、これらは、とりわけ、Rackley et al. (2012) 「Building and maintaining the epithelium of the lung」 The Journal of Clinical investigation, vol. 122, no. 8, pp. 2724-2730およびCrystal et al. (2008) 「Airway epithelial cells」 Proc Am Thorac Soc, vol. 5, pp. 772-777によって記載されている。一般に、肺上皮細胞は分極している。これは、肺上皮細胞が頂端側および基底側を有することを意味する。
【0078】
肺上皮細胞は、気管上皮細胞、気管支上皮細胞または肺胞上皮細胞であってよい。
【0079】
当業者は、細胞がこれらの上皮細胞のうちの1つに属するかどうかを決定することができる。例えば、当業者は、発現コネキシン43を検出するために免疫組織化学を行うことができる。コネキシン43は、肺胞上皮細胞(AT1およびAT2細胞の両方)だけでなく、気管上皮細胞および気管支上皮細胞でも発現する(Johnson and Koval (2009) 「Cross-Talk Between Pulmonary Injury, Oxidant Stress, and Gap Junctional Communication.」 Antioxidans and Redox Signaling, vol. 11, number 2, pp. 356-367)。コネキシン43は、SEQ ID NO:8に示されるような配列を有することができ、または、SEQ ID NO:8の配列に対して70%、80%、90%、95%、99%の配列同一性を有する配列であってもよい。
【0080】
したがって、本明細書に記載されるような肺上皮細胞は、コネキシン43を発現する細胞であり得る。肺上皮細胞は、SEQ ID NO:8またはSEQ ID NO:8の配列に対して70%、80%、90%、95%、99%の配列同一性を有する配列に示されるようなコネキシン43を発現する細胞であってもよい。
【0081】
より具体的には、「気管上皮細胞」は、約20から25枝まで延びることができる(大気道;気管上皮細胞)。気管上皮細胞は、気管およびより大きな気管支を裏打ちする。
【0082】
「気管支上皮細胞」は、26から223枝まで延びることができる(小気道、気管支上皮細胞)。気管支上皮細胞は、細気管支およびより小さな気管支を裏打ちする。
【0083】
気管上皮細胞および気管支上皮細胞はいずれも、いわゆる繊毛偽重層円柱上皮に局在している。
【0084】
したがって、繊毛偽重層円柱上皮は、気管ならびに上気道の裏打ちに見出される。偽重層上皮は、ヒトにおいて気管から遠位細気管支まで延びることができる。例えば、それは20から25枝まで(大気道;気管上皮細胞)および26から223枝まで(小気道、気管支上皮細胞)延びることができる。偽重層上皮は複数の層を持つように見えるが、実際は単一の細胞シートのみで構成されている。個々の円柱細胞内の核の位置決めはこの錯覚を引き起こす。これらの核は様々なレベルで見出され、層状の外観を作り出している。
【0085】
気管および気管支上皮の主要な細胞型は、繊毛細胞、分泌細胞および基底細胞である(Crystal et al. (2008) 「Airway epithelial cells」 Proc Am Thorac Soc, vol. 5, pp. 772-777; Rackley et al. (2012) 「Building and maintaining the epithelium of the lung」 The Journal of Clinical investigation, vol. 122, no. 8, pp. 2724-2730)。
【0086】
その結果、肺上皮細胞は気管支上皮細胞であり得ることが想定される。肺上皮細胞は肺胞上皮細胞であり得ることがさらに想定される。気管支または気管上皮細胞は、繊毛細胞、分泌細胞または基底細胞であり得る。
【0087】
本明細書で使用されるような「繊毛細胞」は、基礎となる基底層に結合されている薄く先細りの基底を有する。細胞はまた、タイトジャンクションによって頂端表面で互いに結合され、ほとんどの物質に対して物理的に不透過性のバリアを形成し、また、デスモソームによって横方向に互いにおよび基底細胞に結合され得る。多数の微絨毛を含む細胞間隙が細胞間に存在し得る(Crystal et al. (2008) 「Airway epithelial cells」 Proc Am Thorac Soc, vol. 5, pp. 772-777; Rackley et al. (2012) 「Building and maintaining the epithelium of the lung」 The Journal of Clinical investigation, vol. 122, no. 8, pp. 2724-2730)。
【0088】
分泌細胞は、杯細胞、クララ細胞、管腔分泌細胞または神経内分泌細胞であってよい。
【0089】
本明細書で使用されるような「杯細胞」は、上気道および下気道の表面上皮に位置し、気道を被覆し、除去される微粒子を捕らえるために粘液を産生し得る。
【0090】
本明細書で使用されるような「クラブ細胞」とも呼ばれる「クララ細胞」(非繊毛細気管支分泌細胞)は、より遠位の気道を裏打ちし、したがってこの細胞型は、主に膜性細気管支に見出され得る。それらはしばしば柱状または(より遠位の気道において)立方状の形状である。それらは、成熟サーファクタントタンパク質A、B、D、およびいくつかの解毒酵素を分泌し得る。
【0091】
本明細書において使用されるような「管腔分泌細胞」は、非繊毛細胞である。管腔前駆細胞は、安静条件下で増殖する細胞の大部分を占める(Rackley et al. (2012) 「Building and maintaining the epithelium of the lung」 The Journal of Clinical investigation, vol. 122, no. 8, pp. 2724-2730)。
【0092】
神経内分泌細胞は、基底膜にそれらの基底で結合されてもよく、気道表面に向かって延び、気道表面に到達しても到達しなくてもよい先細りの先端を有し得る。細胞の主な機能はペプチドの分泌である(Crystal et al. (2008) 「Airway epithelial cells」 Proc Am Thorac Soc, vol. 5, pp. 772-777; Rackley et al. (2012) 「Building and maintaining the epithelium of the lung」 The Journal of Clinical investigation, vol. 122, no. 8, pp. 2724-2730)。
【0093】
本明細書で使用されるような「基底細胞」は、基底膜に接触するが、気道内腔に接触しなくてもよい、比較的豊富な細胞型である。基底細胞は、表面上皮の下に位置し、繊毛細胞および分泌細胞の両方の前駆細胞として役立つことができる。それらは、損傷後の気道上皮の再生において重要な役割を有する。中間径フィラメントタンパク質(ケラチン5[K5]、K6、K14、およびK16)の特徴的なサブセットの発現は、基底細胞と管腔上皮細胞とを区別することができる(Rackley et al. (2012) 「Building and maintaining the epithelium of the lung」 The Journal of Clinical investigation, vol. 122, no. 8, pp. 2724-2730)。
【0094】
したがって、本明細書で使用されるような肺上皮細胞は、繊毛または非繊毛気管上皮細胞であり得る。本明細書で使用されるような肺上皮細胞は、繊毛または非繊毛気管支上皮細胞であり得ることも企図される。
【0095】
繊毛気管または気管支細胞は、本明細書に記載されるような繊毛細胞であってもよい。非繊毛気管/気管支細胞は、神経内分泌細胞、管腔分泌細胞、クララ細胞、または基底細胞であり得る。
【0096】
上皮細胞は、繊毛偽重層円柱上皮または単層扁平上皮に局在していてもよい。本明細書に記載されるように、気管および気管支上皮細胞は、「繊毛偽重層円柱上皮」という用語によって包含される。
【0097】
他方で、本明細書で肺胞上皮とも呼ばれる単層扁平上皮は、223枝の後に存在し(肺胞)、I型およびII型細胞を含む。したがって、肺胞上皮は、I型およびII型肺胞上皮の混合物、またはI型(AT1)およびII型(AT2)肺胞上皮細胞を含む。肺胞は気道内の最小の機能単位であり、肺内での毛細血管との酸素および二酸化炭素などのガスの交換を担っている。肺胞上皮単層は薄く、扁平I型細胞(ガス交換を可能にするAT1)および立方2型細胞(肺拡張を可能にするサーファクタントを産生するAT2)からなる。両方の細胞は、乾燥した気腔を維持するために肺胞からイオンと流体を輸送する。
【0098】
AT1細胞は肺の内部表面積の約95%を占める。それらはしばしば、隣接する肺胞に延びることができる複数の頂端表面を有する分枝細胞である。AT1細胞の頂端表面積は、ほとんどの細胞と比較して大きいが(すなわち、ヒトAT1細胞では約5,000μm2)、それらは非常に薄い細胞(すなわち、深さ0.2μm)である。ガス交換バリアは、融合基底膜によって結合されたAT1および内皮細胞から構成される。細胞がI型細胞であるかどうかを決定するマーカーは、当業者に公知であり、とりわけ、McElroy and Kasper (2004) 「The use of alveolar epithelial type I cell-selective markers to investigate lung injury and repair」 European Respiratory Journal 24: 664-673によって記載されている。例えば、細胞がI型細胞であるかどうかを決定するために、当業者は免疫組織化学を実行して、RTI40/TIαタンパク質、HTI56および/またはNa+/K+-ATPアーゼα2-アイソフォーム(α2-アイソフォームはSEQ ID NO:5に示される)のうちの1つまたは複数の発現を検出することができる。Na+/K+-ATPアーゼα2-アイソフォームは、SEQ ID NO:5に示されるような配列を有することができ、またはSEQ ID NO:5の配列に対して70%、80%、90%、95%、99%の配列同一性を有する配列であり得る。
【0099】
さらにまたは代替的に、当業者は、とりわけ、Marconett et al. (2016) 「Cross-Species Transcriptome Profiling Identifies New Alveolar Epithelial Type I Cell-Specific Genes」 AJRCMB, vol 56, no. 3によって記載されているように、免疫組織化学を行って、終末糖化産物特異的受容体(AGER、以前はRAGE)、ポドプラニン(PDPN、以前はT1a)、カベオリン1(CAV1)、HOPX、GRAMドメイン2(GRAMD2)のうちの1つまたは複数の発現を検出することができる。ヒトGRAMD2アイソフォームAおよびBをSEQ ID NO:9および10に示す。GRAMD2は、SEQ ID NO:9または10に示されるような配列を有することができ、またはSEQ ID NO:9または10の配列に対して70%、80%、90%、95%、99%の配列同一性を有する配列であり得る。
【0100】
したがって、本明細書に記載されるような肺上皮細胞は、Na+/K+-ATPアーゼα2アイソフォームおよび/またはGRAMD2を発現する細胞であり得る。肺上皮細胞は、SEQ ID NO:5またはSEQ ID NO:5の配列に対して70%、80%、90%、95%、99%の配列同一性を有する配列に示されるようなNa+/K+-ATPアーゼα2-アイソフォーム、および/または、SEQ ID NO:9もしくは10またはSEQ ID NO:9もしくは10の配列に対して70%、80%、90%、95%、99%の配列同一性を有する配列に示されるようなGRAMD2を発現する細胞であり得る。
【0101】
AT2は、AT1細胞の間に位置する立方細胞であり、特徴的なラメラ体および頂端微絨毛を含む。AT2細胞は、肺サーファクタントの産生、分泌および再取り込み、ならびに宿主防御に重要な免疫調節タンパク質の合成および分泌を含む、多くの公知の機能を有する。細胞がII型細胞であるかどうかを決定するマーカーは、当業者に公知であり、とりわけ、McElroy and Kasper (2004) 「The use of alveolar epithelial type I cell-selective markers to investigate lung injury and repair」 European Respiratory Journal 24: 664-673によって記載されている。例えば、細胞がII型細胞であるかどうかを決定するために、当業者は免疫組織化学を実行して、肺サーファクタント関連タンパク質C(SP-C)の発現を検出することができる。SP-Cは、SEQ ID NO:11に示されるような配列を有することができ、または、SEQ ID NO:11の配列に対して70%、80%、90%、95%、99%の配列同一性を有する配列であってもよい。
【0102】
したがって、本明細書に記載されるような肺上皮細胞は、SP-Cを発現する細胞であり得る。肺上皮細胞は、SEQ ID NO:11またはSEQ ID NO:11の配列に対して70%、80%、90%、95%、99%の配列同一性を有する配列に示されるようなSP-Cを発現する細胞であってもよい。
【0103】
したがって、本明細書に記載されるような肺上皮細胞はまた、SP-Cを発現する細胞ならびにNa+/K+-ATPアーゼα2-アイソフォームおよび/またはGRAMD2を発現する細胞を含み得る。
【0104】
I型およびII型細胞は両方とも当業者に公知であり、とりわけ、Rackley et al. (2012) 「Building and maintaining the epithelium of the lung」 The Journal of Clinical investigation, vol. 122, no. 8, pp. 2724-2730、Crystal et al. (2008) 「Airway epithelial cells」 Proc Am Thorac Soc, vol. 5, pp. 772-777、およびMcElroy and Kasper (2004) 「The use of alveolar epithelial type I cell-selective markers to investigate lung injury and repair」 European Respiratory Journal 24: 664-673によって記載されている。注目すべきことに、本明細書に記載されるようなNKAは、AT1およびAT2細胞の両方において発現される。
【0105】
従って、肺上皮細胞は肺胞上皮細胞であり得る。肺上皮細胞はまた、I型(AT1)および/またはII型(AT2)細胞であり得る。
【0106】
本明細書に開示される肺上皮細胞はまた、アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス目、および/またはブニヤウイルス目のウイルスに感染した、肺上皮細胞、好ましくは肺胞上皮細胞であり得る。さらに、オルトミクソウイルス科(アーティキュラウイルス目)、アレナウイルス科(Arenaviridae)、ハンタウイルス科、ミポウイルス科(Mypoviridae)、ナイロウイルス科(Nairovirdae)、ペリブニヤウイルス科(Peribunyaviridae)、フェヌウイルス科(Phenuviridae)(ブニヤウイルス目)、ボルナウイルス科(Bornaviridae)、フィロウイルス科(Filoviridae)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、および/またはサンウイルス科(Sunviridae)(モノネガウイルス目)のウイルスに感染した、肺上皮細胞、好ましくは肺胞上皮細胞が想定される。
【0107】
肺上皮細胞、好ましくは肺胞上皮細胞が、アルファインフルエンザウイルス属(Alphainfluenzavirus)、ベータインフルエンザウイルス属(Betainfluenzavirus)、デルタインフルエンザウイルス属(Deltainfluenzavirus)、ガンマインフルエンザウイルス属(Gammainfluenzavirus)、好ましくは、アルファインフルエンザウイルス属(アーティキュラウイルス目;オルトミクソウイルス科)、ママンタウイルス亜科(Mammantavirinae)、好ましくはローンウイルス属(Loan virus)、モバットウイルス属(Mobat virus)、オルトハンタウイルス属(Orthohantavirus)もしくはトッチムウイルス属(Thottimvirus)(ブニヤウイルス目;ハンタビリダ科)、および/またはニューモウイルス属(genus Pneumoviridae)(モノネガウイルス目、パラミオクソウイルス科(family Paramyoxoviridae))のウイルスに感染することもまた企図される。
【0108】
H1N1-、H1N2-、H2N2-、H3N2-、H5N1-、H6N1-、H7N2-、H7N3-、H7N7-、H7N9、H9N2-、H10N7-、H10N8-もしくはH5N1-サブタイプ(アーティキュラウイルス目;オルトミクソウイルス科、アルファインフルエンザウイルス属)、プーマラウイルス(Puumala virus)、シンノンブルウイルス(Sin Nombre virus)、ソウルウイルス(Seoul virus)、ハンターンウイルス(Hantaan virus)、ドブラバ-ベルグレドウイルス(Dobrava-Belgrad virus)、サーレマーウイルス(Saaremaa virus)、フォーコーナーズウイルス(Four corners virus)もしくはアンデスウイルス(Andes virus)(ブニヤウイルス目;ハンタビリディダエ科(family Hantavirididae)、ママンタウイルス亜科、オルトハンタウイルス属)、またはメタニューモウイルス(Metapneumovirus)、オルトニューモウイルス(Orthopneumovirus)、例えば、ヒト呼吸器合胞体ウイルスA、ヒト呼吸器合胞体ウイルスBもしくは未分類ヒト呼吸器合胞体ウイルスなどのヒトオルトニューモウイルス、イヌニューモウイルス、ネコニューモウイルス、ヒツジ呼吸器合胞体ウイルス、ヒツジ呼吸器合胞体ウイルス(WSU 83-1578株)、ニューモウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ブタニューモウイルスもしくはニューモウイルス種(モノネガウイルス目、パラミオクソウイルス科、ニューモウイルス属)に感染した、肺上皮細胞、好ましくは肺胞上皮細胞がさらに想定される。
【0109】
肺上皮細胞、好ましくは肺胞上皮細胞が、本明細書に開示されるような2つ以上の異なるウイルスに感染することもまた企図される。
【0110】
当業者は、肺上皮細胞が本明細書に開示されるようなウイルスに感染しているかどうかを検出する方法を知っている。例えば、当業者は、肺上皮細胞組織の組織試料を採取してもよい。次いで、当業者は、関心対象のウイルスのウイルスゲノム配列または配列断片がこれらの細胞内に存在するかどうかを分析するために、この試料に対してPCRを実行してもよい。
【0111】
肺上皮細胞のモデルは、一般に、実施例において使用され、とりわけ、Peteranderl et al. (2019) 「Influenza A virus infection induces apical redistribution of Na+, K+-ATPase in lung epithelial cells in vitro and in vivo」 American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology Volume 61 Number 3, pp. 395-397に記載されるような、Calu3細胞株(American Type Culture Collection, Manassas, VA, USAから入手可能なヒト腺癌気管支上皮細胞)である。
【0112】
本明細書で使用されるROCK阻害剤は、肺上皮細胞における頂端NKA局在化を予防することができる。本明細書に開示されるように、NKAは、健常者においては分極肺上皮細胞の原形質膜内またはこれに結合して基底外側に局在する。基底外側局在化は損傷中も維持され得る。
【0113】
特に、上皮細胞は、タイトジャンクション、デスモソーム、および接着結合を介して互いに接着し、動物/ヒトの身体および内部空洞(例えば、気道、消化管および循環器系)の表面を裏打ちする細胞のシートを形成する。これらの細胞は、身体の外表面または内部空洞の内腔に面した頂端膜、および内腔から離れて置かれた基底外側膜によって定義される、頂端-基底極性を有する。基底外側膜は、細胞間結合が隣接細胞を連結している外側膜と、上皮シートを下層の細胞および結合組織から分離する細胞外マトリックスタンパク質の薄いシートである、基底膜(basement membrane)に細胞が接着している基底膜(basal membrane)との両方を指す(Wu and Mlodzik (2009). 「A quest for the mechanism regulating global planar cell polarity of tissues.」 Trends in Cell Biology. 19 (7): 295-305)。
【0114】
したがって、用語「基底外側」は、細胞膜に言及する場合、隣接細胞および下層の結合組織に面する原形質膜の部分である。同様に、細胞膜に言及する用語「頂端」は、空洞の内腔に面する細胞膜の部分を意味するものである。
【0115】
図1は、NKA局在化に対するROCK阻害剤の効果を示す。健康な細胞ではNKAは基底外側に局在している。ウイルス感染時にNKAは基底外側だけでなく頂端にも局在する。インフルエンザAウイルスに感染したCalu 3細胞の膜上のNKA分布は、例えば、光学的可視化法により検出することができる。例えば、NKAは、実施例7に記載されるように、抗体染色および共焦点レーザー走査顕微鏡法によって可視化することができる。
【0116】
本発明はまた、ROCK阻害剤が、ROCK阻害剤の投与前の頂端局在化と比較して、肺上皮細胞における頂端NKA局在化を低減することができることを想定する。
【0117】
本発明者らは、驚くべきことに、ウイルス感染が、肺上皮細胞における通常存在する基底外側NKA局在化に加えて、肺上皮細胞における頂端NKA局在化をもたらすことを見出した。ROCK阻害剤の投与により、肺上皮細胞におけるNKA局在化の基底外側局在化は大部分が回復され得、一方、肺上皮細胞におけるNKA局在化の頂端局在化は、ROCK阻害剤を投与する前の状況と比較して低減する。
【0118】
したがって、ROCK阻害剤は、ROCK阻害剤の投与前に存在する肺上皮細胞における頂端局在化NKAと比較して、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60 %、70%、80%、90%、95%、99%、または100%の、肺上皮細胞におけるウイルス誘導頂端局在化NKAの低減をもたらす。
【0119】
本明細書に開示されるような肺水腫は、ウイルス感染症に関連し、ウイルスは、アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス目、および/またはブニヤウイルス目のウイルスである。
【0120】
アーティキュラウイルス目のウイルスは、好ましくは、オルトミクソウイルス科のウイルスである。
【0121】
オルトミクソウイルス科のウイルスは、アルファインフルエンザウイルス属、ベータインフルエンザウイルス属、デルタインフルエンザウイルス属、ガンマインフルエンザウイルス属、イサウイルス属(Isavirus)、クアランジャウイルス属(Quaranjavirus)、ソゴトウイルス属(Thogotovirus)、未分類オルトミクソウイルス科のウイルスであり得る。
【0122】
アルファインフルエンザウイルス属は、ヘマグルチニン(HA)抗原性サブタイプ(HX)およびノイラミニダーゼ(NA)抗原性サブタイプ(NY)の任意の組み合わせを有するインフルエンザAウイルスであり得る。例えば、HAは、配列12もしくは13、またはSEQ ID NO:11もしくは12の配列に対して70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列を有する配列のものであり得る。さらにまたは代替的に、NAは、配列14もしくは15、またはSEQ ID NO:14もしくは15の配列に対して70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列を有する配列のものであり得る。
【0123】
アルファインフルエンザウイルスの非限定的な例としては、H1N1-、H1N2-、H2N2-、H3N2-、H5N1-、H6N1-、H7N2-、H7N3-、H7N7-、H7N9、H9N2-、H10N7-、H10N8-またはH5N1-サブタイプが挙げられる。一態様において、インフルエンザAウイルスは、H1N1-サブタイプのものである。他の態様において、インフルエンザAウイルスはH3N2-、H5N1-およびH7N9-サブタイプのものである。インフルエンザAウイルスはまた、H3N2-、H5N1-、H1N1-およびH7N9-サブタイプのものであることもできる。インフルエンザAウイルスはまた、インフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34(H1N1)株であることもできる。
【0124】
ウイルスはブニヤウイルス目のものであってもよい。当業者はどのウイルスがブニヤウイルス目に該当するかを知っている。すべてのブニヤウイルス目は、3つの部分に分節されるマイナス鎖RNAゲノムを有する。
【0125】
ブニヤウイルス目のウイルスは、アレナウイルス科、ハンタウイルス科、ミポウイルス科、ナイロウイルス科、ペリブニヤウイルス科、またはフェヌウイルス科のものであり得る。
【0126】
アレナウイルス科のウイルスは、マンマレナウイルス(Mammarenavirus)属のものであり得る。マンマレナウイルス属の非限定的な例としては、とりわけ、イッピーウイルス(Ippy-Virus)(IPPYV)、ラッサウイルス(Lassa-Virus)(LASV)、ルジョウイルス(Lujo-Virus)(LUJV)、ランクウイルス(Lunk-Virus)(NKS-1)、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(Lymphocytic choriomeningitis virus)(LCMV)、モバラウイルス(Mobala-Virus)(MOBV)、およびモペイアウイルス(Mopeia-Virus)(モペイアウイルス、MOPV)の種が挙げられる。
【0127】
ブニヤウイルス目のウイルスは、好ましくは、ハンタウイルス科のものである。ハンタウイルス科のウイルスはママンタウイルス亜科のものであり得る。ママンタウイルス亜科のウイルスは、ローンウイルス属、モバットウイルス属、オルトハンタウイルス属、またはトッチムウイルス属のものであり得る。
【0128】
オルトハンタウイルス属は、とりわけ、プーマラウイルス、シンノンブルウイルス、ソウルウイルス、ハンターンウイルス、ドブラバ-ベルグレドウイルス、サーレマーウイルス、フォーコーナーズウイルス、およびアンデスウイルスを含む。
【0129】
ナイロウイルス科のウイルスは、オルソナイロウイルス属(Orthonairovirus)またはストリワウイルス属(Striwavirus)のものであり得る。オルソナイロウイルスは、クリミア・コンゴ出血熱オルソナイロウイルス(Crimean-Congo hemorrhagic fever orthonairovirus)(CCHFV)種のものであり得る。
【0130】
ペリブニヤウイルス科のウイルスは、オルソブニヤウイルス(Orthobunyavirus)属またはパクウイルス(Pacuvirus)属のものであり得る。
【0131】
オルソブニヤウイルス属は、アイノ・オルソブニヤウイルス(Aino orthobunyavirus)、アカバネ・オルソブニヤウイルス(Akabane orthobunyavirus)、アンヘンビ・オルソブニヤウイルス(Anhembi orthobunyavirus)、アノフェレスB・オルソブニヤウイルス(Anopheles B orthobunyavirus)、バタイ・オルソブニヤウイルス(Batai orthobunyavirus)、バタマ・オルソブニヤウイルス(Batama orthobunyavirus)、ベルティオガ・オルソブニヤウイルス(Bertioga orthobunyavirus)、ブニヤムウェラ・オルソブニヤウイルス(Bunyamwera orthobunyavirus)、ボタンウィロー・オルソブニヤウイルス(Buttonwillow orthobunyavirus)、ブワンバ・オルソブニヤウイルス(Bwamba orthobunyavirus)、キャッシュ・バレー・オルソブニヤウイルス(Cache Valley orthobunyavirus)、カショエイラ・ポルテイラ・オルソブニヤウイルス(Cachoeira Porteira orthobunyavirus)、カピム・オルソブニヤウイルス(Capim orthobunyavirus)、カラパール・オルソブニヤウイルス(Caraparu orthobunyavirus)、カトゥ・オルソブニヤウイルス(Catu orthobunyavirus)、フォート・シャーマン・オルソブニヤウイルス(Fort Sherman orthobunyavirus)、ガンボア・オルソブニヤウイルス(Gamboa orthobunyavirus)、グアマ・オルソブニヤウイルス(Guama orthobunyavirus)、グアロア・オルソブニヤウイルス(Guaroa orthobunyavirus)、イアコ・オルソブニヤウイルス(Iaco orthobunyavirus)、イレシャ・オルソブニヤウイルス(Ilesha orthobunyavirus)、イングワブマ・オルソブニヤウイルス(Ingwavuma orthobunyavirus)、ジャトバル・オルソブニヤウイルス(Jatobal orthobunyavirus)、ケン・コイ・オルソブニヤウイルス(Kaeng Khoi orthobunyavirus)、キーストーン・オルソブニヤウイルス(Keystone orthobunyavirus)、ラ・クロス・オルソブニヤウイルス(La Crosse orthobunyavirus)、マカオア・オルソブニヤウイルス(Macaua orthobunyavirus)、マドリード・オルソブニヤウイルス(Madrid orthobunyavirus)、マグアリ・オルソブニヤウイルス(Maguari orthobunyavirus)、マンサニラ・オルソブニヤウイルス(Manzanilla orthobunyavirus)、マリトゥバ・オルソブニヤウイルス(Marituba orthobunyavirus)、メルメット・オルソブニヤウイルス(Mermet orthobunyavirus)、オリボカ・オルソブニヤウイルス(Oriboca orthobunyavirus)、オロプーチェ・オルソブニヤウイルス(Oropouche orthobunyavirus)、パトワ・オルソブニヤウイルス(Patois orthobunyavirus)、ピートン・オルソブニヤウイルス(Peaton orthobunyavirus)、サボ・オルソブニヤウイルス(Sabo orthobunyavirus)、サンゴ・オルソブニヤウイルス(Sango orthobunyavirus)、サトゥペリ・オルソブニヤウイルス(Sathuperi orthobunyavirus)、シュマレンベルク・オルソブニヤウイルス(Schmallenberg orthobunyavirus)、シュニ・オルソブニヤウイルス(Shuni orthobunyavirus)、シンブ・オルソブニヤウイルス(Simbu orthobunyavirus)、スノーシューヘア・オルソブニヤウイルス(Snowshoe hare orthobunyavirus)、ソロロカ・オルソブニヤウイルス(Sororoca orthobunyavirus)、タヒナウイルス(Tahyna virus)(TAHV)などのタヒナ・オルソブニヤウイルス(Tahyna orthobunyavirus)、タタグイネ・オルソブニヤウイルス(Tataguine orthobunyavirus)、テテ・オルソブニヤウイルス(Tete orthobunyavirus)、ウティンガ・オルソブニヤウイルス(Utinga orthobunyavirus)、ウォイクベルク・オルソブニヤウイルス(Wolkberg orthobunyavirus)、ウェオミヤ・オルソブニヤウイルス(Wyeomyia orthobunyavirus)、またはゼグラ・オルソブニヤウイルス(Zegla orthobunyavirus)の種を含むことができる。オルソブニヤウイルス属はまた、バーカルウイルス(Baakal virus)(BKAV)を含むことができる。
【0132】
パクウイルス属は、パクイウイルス(Pacui virus)(PACV)、リオ・プレット・ダ・エーヴァウイルス(Rio Preto da Eva virus)(RPEV)およびタピラペウイルス(Tapirape virus)(TPPV)の種を含むことができる。
【0133】
フェヌイウイルス(Phenuiviridae)科のウイルスは、バンヤンウイルス属(Banyangvirus)、ゴウコウイルス属(Goukovirus)、またはフレボウイルス属(Phlebovirus)のものである。
【0134】
フレボウイルス属は、ダニ媒介性フレボウイルス種のものあってもよい。
【0135】
モノネガウイルス目のウイルスは、ボルナウイルス科、フィロウイルス科、パラミクソウイルス科、またはサンウイルス科のものであり得る。例えば、モノネガウイルス目のウイルスは、ニューモウイルス属のものであり得る。
【0136】
ボルナウイルス科のウイルスは、カルボウイルス属(Carbovirus)、オルソボルナウイルス属(Orthobornavirus)、または未分類ボルナウイルス科のものであり得る。
【0137】
フィロウイルス科のウイルスは、クエバウイルス属(Cuevavirus)、エボラウイルス属(Ebolavirus)、またはマールブルグウイルス属(Marburgvirus)のものであり得る。
【0138】
パラミクソウイルス科のウイルスは、アヴアルビリナエ(Avualvirinae)、アブラウイルス(Avulavirus)、オルトパラミクソビリナエ(Orthoparamyxovirinae)、ルブラビリナエ(Rubulavirinae)、ルブラウイルス(Rubulavirus)、未分類パラミイクソビリダエ(unclassified Paramyyxoviridae)、メタニューモウイルス、オルトニューモウイルス、またはニューモウイルスの属のものであり得る。
【0139】
ニューモウイルス属のウイルスは、メタニューモウイルス、オルトニューモウイルス、例えば、ヒト呼吸器合胞体ウイルスA、ヒト呼吸器合胞体ウイルスBもしくは未分類ヒト呼吸器合胞体ウイルスなどのヒトオルトニューモウイルス、イヌニューモウイルス、ネコニューモウイルス、ヒツジ呼吸器合胞体ウイルス、ヒツジ呼吸器合胞体ウイルス(WSU 83-1578株)、ニューモウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ブタニューモウイルス、またはニューモウイルス種であり得る。
【0140】
したがって、本明細書に開示されるようなウイルスは、オルトミクソウイルス科(アーティキュラウイルス目)、アレナウイルス科、ハンタウイルス科、ミポウイルス科、ナイロウイルス科、ペリブニヤウイルス科、フェヌウイルス科(ブニヤウイルス目)、ボルナウイルス科、フィロウイルス科、パラミクソウイルス科、またはサンウイルス科(モノネガウイルス目)のウイルスであってもよい。
【0141】
したがって、本明細書に開示されるようなウイルスは、アルファインフルエンザウイルス属、ベータインフルエンザウイルス属、デルタインフルエンザウイルス属、ガンマインフルエンザウイルス属、好ましくはアルファインフルエンザウイルス属(アーティキュラウイルス目;オルトミクソウイルス科)、ママンタウイルス亜科、好ましくはローンウイルス属、モバットウイルス属、オルトハンタウイルス属もしくはトッチムウイルス属(ブニヤウイルス目;ハンタビリディダエ科)、またはニューモウイルス属(モノネガウイルス目、パラミオクソウイルス科)のウイルスであってもよい。
【0142】
したがって、本明細書に開示されるようなウイルスは、H1N1-、H1N2-、H2N2-、H3N2-、H5N1-、H6N1-、H7N2-、H7N3-、H7N7-、H7N9、H9N2-、H10N7-、H10N8-もしくはH5N1-サブタイプ(アーティキュラウイルス目;オルトミクソウイルス科、アルファインフルエンザウイルス属)、プーマラウイルス、シンノンブルウイルス、ソウルウイルス、ハンターンウイルス、ドブラバ-ベルグレドウイルス、サーレマーウイルス、フォーコーナーズウイルスもしくはアンデスウイルス(ブニヤウイルス目;ハンタビリディダエ科、ママンタウイルス亜科、オルトハンタウイルス属)、またはメタニューモウイルス、オルトニューモウイルス、例えば、ヒト呼吸器合胞体ウイルスA、ヒト呼吸器合胞体ウイルスBもしくは未分類ヒト呼吸器合胞体ウイルスなどのヒトオルトニューモウイルス、イヌニューモウイルス、ネコニューモウイルス、ヒツジ呼吸器合胞体ウイルス、ヒツジ呼吸器合胞体ウイルス(WSU 83-1578株)、ニューモウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ブタニューモウイルスもしくはニューモウイルス種(モノネガウイルス目、パラミオクソウイルス科、ニューモウイルス属)であってもよい。
【0143】
ROCK阻害剤が、ROCK阻害剤の投与前のウイルス負荷と比較してウイルス負荷を低減することが想定される。例えば、ウイルス負荷は、プラーク形成単位(pfu)/mlとして測定することによって決定され得る。
【0144】
この文脈において、「ウイルス負荷を低減する」とは、1ml当たりのウイルス粒子、または感染性粒子が、ROCK阻害剤の投与前に存在する感染性粒子と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、または100%減少することを意味し得る。
【0145】
さらに、ROCK阻害剤が、ROCK阻害剤の投与前に存在する肺の流体重量と比較して肺の流体重量を低減することができることが企図される。流体重量を測定することができる方法は、実施例に記載されている。
【0146】
また、ROCK阻害剤が、ROCK阻害剤の投与前の肺内へのマクロファージの浸潤と比較して肺内へのマクロファージの浸潤を低減することも企図される。マクロファージの浸潤を測定することができる方法は、実施例に記載されている。
【0147】
本発明はまた、肺上皮細胞における頂端NKA局在化の予防または低減において有効な阻害剤の決定のための、アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス目および/またはブニヤウイルス目のウイルス、好ましくはインフルエンザウイルスに感染した培養肺上皮細胞を含むインビトロ検査システムの使用に関する。好ましくは、阻害剤は、本明細書に記載されるようなROCK阻害剤である。
【0148】
検査システムにおいて試験された阻害剤は、接触前にインビトロ検査システムに存在する頂端NKA局在化と比較して、阻害剤をインビトロ検査システムと接触させる場合、肺上皮細胞における頂端NKA局在化を低減する。
【0149】
インビトロ検査システムは、アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス目、および/またはブニヤウイルス目のウイルス、好ましくはインフルエンザウイルスに感染した培養肺上皮細胞を含む、任意の好適なインビトロ検査システムであり得る。インフルエンザウイルスは、インフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34(H1N1)株であり得る。培養細胞は、例えば実施例1に記載されるように培養された、Calu-3細胞であってもよい。
【0150】
培養肺上皮細胞は、ヒト肺上皮細胞であってもよい。肺上皮細胞は、培地中に約1×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105、9×105、10×105、11×105の密度で播種することができる。
【0151】
本明細書で使用されるような用語「接触させる」は、ウイルス感染培養肺上皮細胞を関心対象の阻害剤へ空間的に極めて近接させることを指す。これは、例えば、関心対象の阻害剤を、培養細胞が位置する培地へ注射器を介して適用することを意味することができる。本明細書で記載されるように、培養肺上皮細胞をウイルスと接触させる工程は、培養肺上皮細胞へ阻害剤が添加される前に行われる。
【0152】
したがって、インフルエンザウイルスに感染した培養肺上皮細胞を含むインビトロ検査システムの使用は、検査システムを試験対象の阻害剤(関心対象の阻害剤)と接触させることを含むことができる。
【0153】
検査システムと阻害剤との接触が、阻害剤と接触させる前に存在するNKAの頂端局在化と比較して、肺上皮細胞におけるNKAの頂端局在化の減少をもたらす場合、阻害剤は、肺上皮細胞におけるNKAの頂端局在化を減少させるのに効果的である。
【0154】
ROCK阻害剤とインビトロ検査システムと接触させると、接触前のインビトロ検査システムと比較した場合に、ROCK阻害剤が、肺上皮細胞における頂端NKA局在化を低減することが想定され、検査システムは、本明細書に記載されるようなウイルスに感染した培養肺上皮細胞を含む。
【0155】
本発明はまた、
(i)肺上皮細胞における頂端NKA局在化を予防すること、または
(ii)ROCK阻害剤の投与前に存在する頂端NKA局在化と比較して、肺上皮細胞における頂端NKA局在化を低減すること
による、肺水腫の発症予防および/または処置のための方法における使用のためのROCK阻害剤を含む組成物に関し、
肺水腫はウイルス感染症に関連し、かつウイルスは、アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス目および/またはブニヤウイルス目のウイルスである。
【0156】
ROCK阻害剤を含む組成物は、薬学的組成物であってもよい。好ましくは、このような組成物は、担体、好ましくは薬学的に許容される担体をさらに含む。組成物は、経口投与可能な懸濁剤もしくは錠剤;鼻スプレー、滅菌注射用調製物(静脈内、胸膜内、筋肉内)、例えば、滅菌注射用水性もしくは油性懸濁液として、または坐剤の形態であり得る。懸濁剤として経口投与する場合、これらの組成物は、薬学的製剤の技術分野において利用可能な技術に従って調製され、嵩を付与するための微結晶性セルロース、懸濁化剤としてのアルギン酸またはアルギン酸ナトリウム、粘度増強剤としてのメチルセルロース、および当技術分野において公知の甘味剤/香味剤を含有してもよい。即時放出錠剤として、これらの組成物は、微結晶性セルロース、リン酸二カルシウム、デンプン、ステアリン酸マグネシウムおよびラクトース、ならびに/または、当技術分野において公知の他の賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、希釈剤、および滑沢剤を含有してもよい。注射用液剤または懸濁剤は、好適な非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒、例えばマンニトール、1,3-ブタンジオール、水、リンゲル溶液もしくは等張性塩化ナトリウム溶液、または好適な分散剤もしくは湿潤剤および懸濁化剤、例えば、合成モノもしくはジグリセリドを含む無菌の無刺激の固定油、ならびにオレイン酸を含む脂肪酸を用いて、公知の技術に従って製剤化することができる。阻害剤は、好ましくは、治療上有効な量で投与される。
【0157】
本発明はまた、肺上皮細胞におけるRNAウイルス関連頂端NKA局在化を予防することによって、肺水腫を有するかまたは肺水腫のリスクがある対象を処置する方法に関する。
【0158】
本明細書で使用される場合、「対象」は、任意の好適な対象であり得る。好ましくは、本明細書で使用されるような用語「対象」は、哺乳動物を指す。対象は、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシまたはヒト対象、好ましくはヒト対象であり得る。対象は、本明細書に記載されるような肺水腫を有する対象であり得る。対象は、アーティキュラウイルス(Articulavirus)目、モノネガウイルス目および/またはブニヤウイルス目のウイルスに感染している対象であり得る。好ましくは、対象は、オルトミクソウイルス科(Orthomyoxoviridae)、ニューモウイルス科および/またはハンタウイルス科の1つまたは複数のウイルスに感染している対象である。例えば、それは、インフルエンザAウイルスなどのインフルエンザウイルスに感染している対象であってもよい。
【0159】
本明細書で使用される場合、「感染のリスクがある対象」は、本明細書に記載されるような肺水腫を発症するリスクがある対象であり得る。対象は、アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス目および/またはブニヤウイルス目のウイルスによる感染のリスクがあり得る。好ましくは、対象は、オルトミクソウイルス科、ニューモウイルス科および/またはハンタウイルス科の1つまたは複数のウイルスによる感染のリスクがある対象である。例えば、それは、インフルエンザAウイルスなどのインフルエンザウイルスによる感染のリスクがある対象であってもよい。
【0160】
さらに、対象は、オルトミクソウイルス科(アーティキュラウイルス目)、アレナウイルス科、ハンタウイルス科、ミポウイルス科、ナイロウイルス科、ペリブニヤウイルス科、フェヌウイルス科(ブニヤウイルス目)、ボルナウイルス科、フィロウイルス科、パラミクソウイルス科、またはサンウイルス科(モノネガウイルス目)のウイルスに感染している対象または感染のリスクがある対象であることが想定される。
【0161】
また、対象は、アルファインフルエンザウイルス属、ベータインフルエンザウイルス属、デルタインフルエンザウイルス属、ガンマインフルエンザウイルス属、好ましくはアルファインフルエンザウイルス属(アーティキュラウイルス目;オルトミクソウイルス科)、ママンタウイルス亜科、好ましくはローンウイルス属、モバットウイルス属、オルトハンタウイルス属もしくはトッチムウイルス属(ブニヤウイルス目;ハンタビリディダエ科)、またはニューモウイルス属(モノネガウイルス目、パラミオクソウイルス科)のウイルスに感染している対象または感染のリスクがある対象であることも企図される。
【0162】
さらに、対象は、H1N1-、H1N2-、H2N2-、H3N2-、H5N1-、H6N1-、H7N2-、H7N3-、H7N7-、H7N9、H9N2-、H10N7-、H10N8-もしくはH5N1-サブタイプ(アーティキュラウイルス目;オルトミクソウイルス科、アルファインフルエンザウイルス属)、プーマラウイルス、シンノンブルウイルス、ソウルウイルス、ハンターンウイルス、ドブラバ-ベルグレドウイルス、サーレマーウイルス、フォーコーナーズウイルスもしくはアンデスウイルス(ブニヤウイルス目;ハンタビリディダエ科、ママンタウイルス亜科、オルトハンタウイルス属)、またはメタニューモウイルス、オルトニューモウイルス、例えば、ヒト呼吸器合胞体ウイルスA、ヒト呼吸器合胞体ウイルスBもしくは未分類ヒト呼吸器合胞体ウイルスなどのヒトオルトニューモウイルス、イヌニューモウイルス、ネコニューモウイルス、ヒツジ呼吸器合胞体ウイルス、ヒツジ呼吸器合胞体ウイルス(WSU 83-1578株)、ニューモウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ブタニューモウイルスもしくはニューモウイルス種(モノネガウイルス目、パラミオクソウイルス科、ニューモウイルス属)に感染している対象または感染のリスクがある対象であることが想定される。
【0163】
対象が、本明細書に開示されるようなウイルスの2つ以上に感染している対象であることもまた企図される。
【0164】
本発明はまた、アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス目、および/またはブニヤウイルス目のウイルス、好ましくはインフルエンザウイルスに感染した培養肺上皮細胞を含むインビトロ検査システムと関心対象の化合物とを接触させる工程を含む、肺水腫の発症予防および/または処置において有効な分子を検出するための方法に関し、関心対象の化合物は、接触前のインビトロ検査システムと比較して、肺上皮細胞における頂端NKA局在化を低減する。
【0165】
関心対象の化合物は、本明細書に記載されるようなROCK阻害剤であり得る。したがって、方法は、以下の工程を含むことができる:(i)本明細書に記載されるようなインビトロ検査システム中の、アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス目、および/またはブニヤウイルス目のウイルス、好ましくはインフルエンザウイルスに感染した肺上皮細胞におけるNKA細胞局在化を検出する工程、(ii)インビトロ検査システムと関心対象の化合物とを接触させる工程、(iii)工程(iii)のインビトロ検査システムと関心対象の化合物とを接触させる工程の後、肺上皮細胞におけるNKA細胞局在化を検出する工程、ならびに(iv)接触させる工程後のインビトロ検査システム中のNKAの局在化(即ち、移動)を分析する工程であって、接触させる工程前の頂端NKA局在化と比較しての頂端NKA局在化の減少が、阻害剤が肺水腫の発症予防および/または処置において有効であることを示す、工程。
【0166】
本発明はまた、
(i)ROCK阻害剤;
(ii)肺上皮細胞:
(iii)アーティキュラウイルス目、モノネガウイルス目、および/またはブニヤウイルス目のウイルス;ならびに
(iv)NKAの検出および細胞局在化のための手段を含む、検査システムに関する。本明細書で使用される場合、「NKAの検出および細胞局在化のための手段」は、任意の好適な手段であり得る。このような手段は当業者に公知である。例えば、当業者は、実施例に記載されるような手段を用いてもよい。
【0167】
以下の配列は本開示において参照されている。
【0168】
【実施例
【0169】
以下の実施例は本発明を説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。実施例は例示の目的で含まれ、本発明は特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0170】
【0171】
実施例1 - 細胞培養物培養
全ての細胞株を、5% CO2の95%加湿雰囲気中、37℃にて75 cm2または165 cm2組織培養フラスコ中で培養した。細胞単層が90%コンフルエンスに達したとき、細胞(100%コンフルエンスに達しないCalu3細胞を除く、最大50%)をPBS -/-で1回洗浄し、トリプシン-EDTAで剥離した。細胞を好適な培地(上記の表を参照)に再懸濁し、各実験の24時間前に、6ウェル、12ウェル、24ウェル組織プレート中、15 cm組織皿中、または培養ウェル内に置かれた滅菌ガラスカバースリップ上に播種した。
【0172】
実施例2 - Calu3細胞の分極
高度に分極したCalu3細胞を得るために、50%コンフルエンスまで増殖させた175 cm2組織培養フラスコ中の細胞単層を、PBS -/-で1回洗浄し、トリプシン-EDTAで処理した。細胞を10 ml培養培地に再懸濁し、300×g、24℃で15分間遠心分離した。上清を捨て、細胞を5 mlの培養培地に再懸濁した。30μlの細胞懸濁液を30μlの0.4%トリパンブルー色素と混合し、製造業者の指示に従ってNeubauerチャンバ内で細胞濃度を計算した。細胞をCalu3培養培地中で2×106生細胞/mlの濃度に希釈し、0.5×106 / 0.25×106生存細胞を含有する250μl/125μlの細胞懸濁液を、12/24ウェルプレート中の各Transwells(登録商標)インサートの頂端区画へ置いた。気泡の導入を回避しながら、1/0.3 mlのCalu-3培養培地を基底外側区画中へ添加し、細胞を37℃、5% CO2で培養した。液体-液体界面(LLI)条件下で増殖させた細胞について、培地を各2日目に両方の区画において交換した。空気-液体界面(ALI)について、培養培地を2日目に頂端区画から吸引し、一方、培地を基底外側区画において2日毎に交換した。
【0173】
実施例3 - 細胞生存率アッセイ
適用された阻害剤の細胞毒性を確認するために、市販の入手可能な試薬PrestoBlue(商標)が用いられてきた。試薬 - レサズリン(7-ヒドロキシ-10-オキシドフェノキサジン-10-イウム-3-オン)系化合物は、色の変化を伴って生細胞のミトコンドリア酵素によって還元型へ変換され、分光光度法的または蛍光光度法的アプローチのいずれかを用いて定量化することができる。生存率アッセイを製造業者のプロトコルに従って実施した。Calu3細胞を、90μlの培養培地中で濃度1×104/ウェルにて96ウェルプレート上に播種し、24時間後に異なる濃度で阻害剤を含有する培地で処理し、24時間後に10μlの10倍の使用準備済のPrestoBlue(商標)試薬を各ウェルへ添加した。次いで、プレートを暗闇の中で37℃にて30分間インキュベートし、続いてTecan Spark(登録商標)10Mマルチモードマイクロプレートリーダーによって570 nm波長で吸光度を測定して、レサズリン変換量を決定した。
【0174】
実施例4 - 方向性水輸送
Calu3細胞単層の生理学的状態の特徴としての方向性水輸送(VWT)を、液体-液体界面条件下で14日間、Transwells(登録商標)インサート上で増殖させた分極Calu3細胞の頂端および基底細胞培養培地中のFITC-デキストラン濃度の変化によって測定した。このために、細胞をモック感染させるか、または、37℃で1時間、感染の多重度(MOI):2でPR8に感染させた。接種材料を除去し、細胞に、DMSO中に1 mg/mlの70 kDa FITC-デキストランおよび5μM Rho-キナーゼ阻害剤XIIIを含有する感染培地#2、またはちょうど等量のDMSO(溶媒)を供給した。細胞を37℃で8時間および24時間インキュベートした。頂端側および基底側からの30μlの細胞培養培地を回収し、PBS -/-で1:1に希釈し、96ウェル平底黒色プレート上に置いた。試料の蛍光強度を、Tecan Spark(登録商標)10Mマルチモードマイクロプレートリーダーによって励起波長480nmおよび発光波長535nmで測定した。VWTは、以下の式を使用して計算した:
C0 = [1 - (C0/Ca)] - [1-(C/Cb)]、式中、
C0 - 出発点における培養培地の蛍光値;
Ca - Transwells(登録商標)インサートの頂端側における培養培地の蛍光値;
Cb - Transwells(登録商標)インサートの基底側における培養培地の蛍光値。
【0175】
IAV感染中のNKA誤分布がIAV病原性の一般的な特徴であるかどうかを決定するために、異なるIAVサブタイプを、頂端NKA提示を誘導する能力についてスクリーニングした。まず、Calu3細胞におけるインフルエンザウイルスA/ビクトリア/3/75(H3N2)、A/タイ/1(KAN-1)/2004(H5N1)またはA/アンホイ/1/2013(H7N9)の増殖動態を比較した。分析されたIAVサブタイプおよび以前に試験されたPR8ウイルスの複製効率に有意差は検出されなかった。H5N1およびH7N9サブタイプの高病原性ウイルスは、感染後48時間で、それぞれ、6.1 log10 FFU/mlおよび7.5 log10 FFU/mlに等しい最大ウイルス力価を示したが、病原性の低いH3N2株は感染後24時間で6.9 log10 FFU/mlの最大力価に達した(図11A)。試験されたすべてのウイルスは、OCWB分析によって実証されたように、ウイルス感染の後期段階で頂端NKA誤局在化を誘導することができた(図11B)。異なるIAV株間で頂端NKA出現を引き起こす能力に有意差はなく、これが分極上皮細胞のIAV感染によって引き起こされる一般的な効果であることを示している。
【0176】
実施例5 - ウイルス増殖
インフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34(H1N1)を、165 cm2培養フラスコ中にてMDCK II細胞中で増殖させた。このために、24時間齢の85%コンフルエントの細胞単層をPBS -/-で1回洗浄し、0.01に等しいMOIに対応する5mlのPBS +/+/BA/PS含有ウイルス希釈液を添加し、続いて室温で45分間インキュベートした。続いて、接種材料を除去し、細胞をPBS -/-で洗浄し、1 mg TPCK処理トリプシンml-1を含有する感染培地#1中にて37℃で2日間インキュベートした。上清を回収し、ウイルス力価をフォーカス形成アッセイによって測定した。
【0177】
フォーカス形成アッセイ
フォーカス形成アッセイのために、MDCK II細胞を3 × 106細胞/プレートの濃度で96ウェルプレートに播種した。翌日、PBS +/+/BA/PS中のデュプリケートでの10倍希釈液(10-1から10-8まで)を、U字型96ウェル中の各ウイルス試料から調製した。重要なことに、希釈液の調製中に、ピペットチップを各希釈工程後に変更した。96ウェルプレート中のMDCK II細胞をPBS+/+で1回洗浄した。次いで、U字型プレート中の各試料についての50μlのかかる希釈液を、96ウェルプレートのかかるウェル中のMDCK II細胞上に移し、次いで、これを45分間インキュベートした。インキュベーション後、ピペットチップを変更せずに10-8希釈の行から開始して接種材料を除去し、1 mgのTPCK処理トリプシンml-1を含有する100μlのAvicel培地を各ウェルへ添加した。細胞を37℃、5% CO2で30時間インキュベートし、続いて免疫細胞化学的分析を行い、ウイルス感染細胞を検出した。このために、細胞を200μlのPBS +/+で2回洗浄し、1%(v/v)Triton-X-100を含有する4%(w/v)パラホルムアルデヒド(PFA)中で室温にて30分間固定および透過処理した。次に、細胞を400μlの洗浄バッファー(0.05%(v/v)Tween(登録商標)20を含むPBS +/+)で2回洗浄し、50μlの一次抗NP抗体溶液(PBS +/+中の3%(w/v)BSA)で室温にて2時間オーバーレイした。次いで、細胞を洗浄バッファーで3回洗浄し、続いて50μlの二次ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウス抗体と共にインキュベートした。1時間後、細胞を再び400μlの洗浄バッファーで洗浄し、40μlの3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)染色バッファー(酢酸緩衝液(50 mM酢酸アンモニウム、8.8 mM H2O2)中の1x AEC希釈N-N-ジメチルホルムアミドを各ウェルへ添加した。フォーカスが検出され得るまで37℃で30分間インキュベートした後、染色バッファーを除去し、細胞をdH2Oで2回洗浄した。風乾されたプレートを、Epson Perfection V500 Photoスキャン(Epson)を用いて1200 dpiでスキャンし、1ウェル当たりのフォーカスの総数を決定した。Avicel培地は、周囲の培地中のウイルス粒子の拡散を防止する高い粘度を有するため、ウイルスはある細胞から他の形成フォーカスにのみ広がることができる。
【0178】
1 ml当たりのウイルス力価を、式:
によって決定し、式中、ffuはフォーカス形成単位である。
【0179】
ウイルス滴定のための肺ホモジネートの調製
フォーカスアッセイによる感染肺上皮細胞におけるウイルス力価の分析のために、マウスを失血によって犠牲にした。肺循環を右心室を介して滅菌PBS -/-で洗い流した。洗い流された白化した肺を取り出し、冷PBS -/-で洗浄した。肺葉をハサミで剪断し、残りの組織を1 ml PBS -/-中にピペッティングすることによって解離させて単個細胞浮遊液とした。細胞を400×gで4℃にて10分間遠心分離してペレット化し、上清を前述のようにフォーカスアッセイに供した。
【0180】
実施例6 - 免疫蛍光アッセイのための細胞の固定
免疫蛍光アッセイのために、細胞をPBS +/+で1回洗浄し、示される時点で余分な透過処理の有無にかかわらず固定した。使用した一次抗体に応じて、細胞を有機溶媒で固定および透過処理したか、または架橋試薬パラホルムアルデヒドで固定した。有機溶媒として、予冷(-20℃)1:1(v/v)アセトン:メタノール溶液(NKAα1染色用)または予冷(-20℃)100%メタノール(チューブリン染色用)のいずれかを-20℃で3分間使用し、続いて洗浄バッファー(0.05%(v/v)Tween(登録商標)20を含むPBS +/+)で3回洗浄し、ブロッキングバッファー(1×PBS +/+中のウシ血清アルブミン(BSA)3%(w/v))でRTにて1時間または4℃にて一晩ブロッキングした。架橋試薬として、4%(w/v)PFA溶液を用いてRTにて10分間細胞を固定し、続いて30mMグリシンを含有するPBS +/+(G-PBS)で3回洗浄し、続いて0.25%(v/w)Triton X-100で7分間透過処理した。次いで、細胞をG-PBSで3回洗浄し、ブロッキング溶液(G-PBS中3%(w/v)BSA、G-PBS/BSA)でRTにて30分間オーバーレイした。固定された細胞を、次いで、G-PBS中の0.25%(v/w)Triton X-100で15分間処理し、G-PBSで3回洗浄し、続いてG-PBS/BSA中で30分間ブロッキングした。
【0181】
実施例7 - 感染および非感染Calu3細胞における頂端NKAα1局在化の抗体染色および共焦点レーザー走査顕微鏡法(図1)
空気/液体インターフェーズにおいてTranswell(登録商標)インサート上で増殖したCalu3細胞の高度に分極した単層を、非感染のままにしたか、またはMOI = 5でインフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34(H1N1)に感染させた。感染後20時間で、感染細胞を未処理のままにしたか、またはROCK阻害剤(XIII)で処理した。免疫蛍光アッセイのために、細胞をPBS +/+で1回洗浄した。細胞を固定し、予冷(-20℃)1:1(v/v)アセトン:メタノール溶液(NKAα1染色用)で-20℃にて3分間透過処理し、続いて洗浄バッファー(1×PBS +/+中のウシ血清アルブミン0.3%(w/v))で3回洗浄し、ブロッキングバッファー(1×PBS +/+中のウシ血清アルブミン3%(w/v))でRTにて1時間または4℃にて一晩ブロッキングした。抗体染色のために、次いで、細胞を、抗体希釈溶液(1×PBS +/+中のウシ血清アルブミン2%(w/v))中の特異的一次抗体(ウサギ抗-NP, Thermo-Fisher (PA5-32242): 1:2000;マウス抗-α1 NKA, Millipore/ Sigma Aldrich (# 05-369): 1:1000)と共にインキュベートした。抗体希釈液を、固定および透過処理された細胞へRTで2時間添加し、続いてPBS +/+で2回洗浄した。次いで、細胞を、抗体希釈溶液(1:1000)中に希釈された二次抗体(ニワトリ抗-ウサギAlexa Fluor 488およびニワトリ抗-マウスAlexa Fluor 647)と共に1時間インキュベートした。次いで細胞をPBS -/-で3回、ddH2Oで1回洗浄し、Transwells(登録商標)からのカバースリップまたはポリエステル膜を、DAPIを含むProLong(商標)Gold退色防止封入剤(濃度は製造によって与えられていない)と共にガラススライド上に一晩載せた。NKAα1局在化を、間接免疫蛍光分析およびその後のImaris(登録商標)ソフトウェアを用いた3Dモデリングによって評価した。シグナルを、HCX PL Apo 63x/1.30 GLYC対物レンズおよびピンホール - 1エアリーユニット(AU)を備えたLeica TCS-SP5共焦点レーザー走査顕微鏡を使用して視覚化した。Z-スタックを、0.25μmステップサイズを用いて取得し、その結果をImarisソフトウェア(Bitplane)で解析した(図1図2)。
【0182】
実施例8 - タンパク質細胞表面発現の分析
オン-セル-ウェスタンブロットアッセイ
オン-セル-ウェスタンブロットアッセイのために、3セットのCalu3細胞を、6×104細胞/ウェルの濃度で光学的に透明な平底プレートを有する96ウェルに播種した。24時間後、細胞単層が95%コンフルエントになったとき、細胞を2のMOIでインフルエンザウイルスA/プエルトリコ78/34(H1N1)に感染させた。37℃で45分間のインキュベーション後、接種材料を、感染培地(1%ピルビン酸ナトリウム(100×)、1%非必須アミノ酸(100×)、0,5%BSA(30%)を含有するMEM) (+/-) 阻害剤(ファスジルHCl、Selleckchem:10μM;Rhoキナーゼ阻害剤RKI-1447(XIII)、Millipore:5μM)または対照としての阻害剤の溶媒によって置き換えた。24時間後、阻害剤または溶媒のいずれかを含有する培地を除去し、PBS +/+中に希釈されたHA、M2、またはNa+,K+-ATPアーゼβ1サブユニットの細胞外エピトープを認識する一次抗体(ヤギポリクローナル抗-インフルエンザAウイルス、Abcam (# ab20841): 1:2000;マウスモノクローナル抗-インフルエンザAウイルスM2、ThermoScintific/ Invitrogen/Gibco (# MA1-082): 1:1000;マウスモノクローナル抗-β1 NKA、ThermoScintific/ Invitrogen/Gibco (# MA3-930): 1:1000)を、Calu3細胞のいずれか1セットへ添加し、プレートを5% CO2にて37℃で1.5時間さらにインキュベートした。次いで、細胞をPBS+/+で3回洗浄し、RTにて20分間4%PFAで固定し、続いてPBS+/+で3回、それぞれ5分間洗浄した。次いで、細胞をRTにて45分間ブロッキングバッファーで処理し、次いで、RTにて1時間、5μM DRAQ5(商標)(遠赤色DNA染色)を含有するブロッキングバッファー中に希釈された二次IRDye 800結合抗-マウスまたはヤギ抗体(LI-COR、一次抗体のホストに応じて)と共に暗所でインキュベートした。次いで、細胞をTBS-Tで3回洗浄し、LI-Cor Odyssay Infrared Imager (100μm分解能、0.5 mmフォーカスオフセット)でスキャンした。データは、Image Studio(LI-COR)、Excel(Microsoft)およびGraphPad Prism 5(Graphpad Software, Inc.)ソフトウェアを用いて解析した(図11)。
【0183】
実施例9 - 動物インビボ実験
すべての動物実験は、「Federation of European Laboratory Animal Science Associations (FELASA)」の最新のガイドラインに従って実施され、Max-Planck Laboratory for Heart & Lung Research Instituto de Investigacion en Biomedicina de Buenos Aires (IBioBA)の地方委員会によって承認された。6週齢のBALB/cマウス(1群当たりn=5)を、30μlの体積でのPR8の500プラーク形成単位(pfu)/マウスの気管内接種によって感染させた。ファスジルHClを滅菌PBS-/-中に希釈し、感染後24時間で、次の7日間、10 mg/kgの濃度で腹腔内(IP)に毎日適用した。対照として、滅菌PBS -/-のIP注射を適用した。体重を感染後8日目まで毎日モニターした。処置開始後7日目(=感染後8日目)に、マウスをイソフルランの過剰摂取により犠牲にした。
【0184】
湿潤対乾燥肺重量比
肺湿潤対乾燥(W/D)重量比を、IAV感染後の肺水貯留を分析するために使用した。動物を犠牲にし、解剖し、その切除直後に肺の「湿潤」重量を測定した。次いで、肺を60℃にて5日間オーブン中で乾燥させ、乾燥重量として再計量した。W/D重量比は、湿潤重量を乾燥重量で割ることによって計算した。
【0185】
組織学的処理のための肺の調製
動物を犠牲にし、肺をPBS -/-で右心室を介して灌流し、胸腔から取り出し、4%PFA中で24時間固定し、次いでパラフィン(Leica ASP200S)に包埋した。パラフィン包埋肺を、Microtome RM2125 (Leica)を用いて薄切片(3.5μm)に切断した。薄片を帯電したスライド上に載せ、37℃で一晩乾燥させた。翌日、肺切片を以下の手順でヘマトキシリン/エオシンで染色した。
【0186】
【0187】
本明細書に記載される全ての顕微鏡分析は、EVOS FL Auto Cell Imaging Systemによって実施した。組織学的切片中の細胞の総量は、大学教授Achim Gruber博士(Freie Universitat Berlin)の共同研究グループにおいて「Aperio v9 nuclear count algorithm」ソフトウェア(Leica Biosystems Imaging Inc., CA, USA)を用いてAperio CS2 Scanner (Leica Biosystems Imaging Inc., CA, USA)によって定量化された。
【0188】
統計
統計解析はGraphPad Prism 5ソフトウェアにより行った。データは、平均値+平均値の標準誤差(SEM)または平均値の標準偏差(SD)として与える(図の凡例に示す)。2つの群の統計的有意性は、両側独立スチューデントt検定によって検定した。3つ以上の群の統計的有意性は、一元配置ANOVA、続くTukeyの事後検定によって解析した。p値は、0.05未満であった場合、有意とみなした;*p<0.05;**p<0.01;***p<0.005。
【0189】
特に断りのない限り、明細書および特許請求の範囲を含む、本文書で使用される以下の用語は、以下に与えられる定義を有する。
【0190】
当業者は、日常的以下の実験を用いて、本明細書に記載される本発明の具体的な態様の多くの均等物を認識し、または確認することができるであろう。このような均等物は本発明によって包含されるように意図される。
【0191】
本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈が別段のことを明確に示さない限り、複数の参照物を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「試薬(a reagent)」への言及は、そのような異なる試薬の1つまたは複数を含み、「方法(the method)」への言及は、本明細書に記載される方法について改変または置換され得る当業者に公知の同等の工程および方法への言及を含む。
【0192】
特に断りのない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、その系列内のすべての要素を指すと理解されるべきである。当業者は、日常的以下の実験を用いて、本明細書に記載される本発明の具体的な態様の多くの均等物を認識し、または確認することができるであろう。このような均等物は本発明によって包含されるように意図される。
【0193】
用語「および/または」は、本明細書で使用される場合、「および」、「または」、および「該用語によって連結される要素の全部または任意の他の組み合わせ」の意味を含む。
【0194】
用語「約」または「およそ」は、本明細書で使用される場合、所与の値または範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。しかし、それは、具体的な数も含み、例えば、約20は20を含む。
【0195】
本明細書およびそれに続く特許請求の範囲全体を通して、文脈上別段の必要がない限り、単語「含む(comprise)」、ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変形は、示される整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を包含することを暗示するが、任意の他の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を排除するものではないものと理解される。本明細書で使用される場合、用語「含む」は、用語「含有する」または「包含する」で置換することができ、または本明細書で使用される場合、用語「有する」と時には置換することができる。
【0196】
本明細書で使用される場合、「からなる」は、請求項要素に特定されない要素、ステップ、または成分を排除する。本明細書で使用される場合、「から本質的になる」は、請求項の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を与えない材料またはステップを排除しない。
【0197】
本明細書の各場合において、用語「含む」、「から本質的になる」および「からなる」のいずれかを、他の2つの用語のいずれかで置き換えてもよい。
【0198】
本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、材料、試薬、および物質などに限定されるものではなく、したがって変化し得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明することのみを目的としており、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0199】
本明細書の本文全体を通して引用される全ての刊行物(全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の明細書、指示書などを含む)は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。本明細書のいかなる規定も、本発明が先行発明によってそのような開示に先行する権利を有しないことを認めるものと解釈されるべきではない。参照により組み入れられる材料が本明細書と矛盾するかまたは不整合である限りにおいて、本明細書はそのような材料に優先する。
【0200】
参考文献のリスト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
【配列表】
2023523730000001.app
【国際調査報告】