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特表2023-523844高度固体電解質膜およびそれから作製された電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-07
(54)【発明の名称】高度固体電解質膜およびそれから作製された電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20230531BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230531BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20230531BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230531BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20230531BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230531BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230531BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230531BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20230531BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20230531BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20230531BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20230531BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20230531BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20230531BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230531BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230531BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230531BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M4/587
H01M4/485
H01M4/38 Z
H01M4/40
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/525
H01M50/417
H01M50/414
H01M50/426
H01M50/429
H01M50/44
H01M4/134
H01M4/66 A
H01B1/06 A
H01M50/434
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566467
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(85)【翻訳文提出日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 US2021029511
(87)【国際公開番号】W WO2021225831
(87)【国際公開日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】63/019,724
(32)【優先日】2020-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522424005
【氏名又は名称】ソエレクト インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ソンジン
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ジョンス
【テーマコード(参考)】
5G301
5H017
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA04
5G301CA08
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA22
5G301CD01
5G301CE01
5H017AA04
5H017CC01
5H017CC05
5H017EE01
5H017EE04
5H021EE04
5H021EE08
5H021EE10
5H021EE11
5H021HH03
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AJ11
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL12
5H029AM16
5H029HJ02
5H029HJ04
5H050AA07
5H050AA12
5H050AA14
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB12
5H050HA04
(57)【要約】
本開示は、一般に、ポリマーと、無機および/または有機アニオンを含むリチウム塩基と、シアノ分子と、そのような高誘電性溶媒を有する可塑剤と、任意選択でそのようなポリマーマトリックスの結晶化を防止するナノ/ミクロンサイズ粒子を有するフィラーとの組み合わせから作製される固体電解質膜に関する。得られる構造は、高いイオン伝導率、向上したサイクル性能を可能にする熱的および電気化学的安定性、ならびに改善された電池製造特性を可能にする高い機械的強度を示す固体電解質膜である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分の反応性組み合わせを含む固体電解質膜であって、前記成分が、
a)ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリエポキシド(エポキシ樹脂)、ポリメチルメタクリレート、ポリ(スチレン-コ-アクリロニトリル)、ポリ(アクリロニトリル-コ-ブタジエン-コ-スチレン)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、およびそれらの任意の組み合わせ、の群から選択される少なくとも1種のポリマーまたはコポリマーと;
b)i)無機アニオン、ii)有機アニオン、ならびにiii)i)およびii)の任意の組み合わせ、を有する少なくとも1種のリチウム塩と;
c)i)モノ-シアノ分子、ii)ジ-シアノ分子、iii)テトラシアノエチレン、iv)2,5-シクロヘキサジエン-1,4-ジイリデンおよびそれらの任意のシアノ誘導体、またはv)i)、ii)、iii)およびiv)の任意の組み合わせ、を含む少なくとも1種のシアノ系分子と;
d)γ-ブチロラクトン(GBL)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル(AN)、プロピレンカーボネート(PC)、1,3-ジオキソラン-2-オン、およびそれらの任意の組み合わせ、の群から選択される少なくとも1種の高誘電性溶媒中に存在する少なくとも1種の可塑剤と;
e)i)酸化物、ii)炭化物、iii)窒化物、iv)ハロゲン化物系無機材料、v)親リチウム性(lithophilic)無機化合物、および金属または非金属粘土から選択されるハイブリッド材料、の群から選択される少なくとも1種のナノサイズおよび/またはミクロンサイズ粒子フィラーと;
を含む固体電解質膜。
【請求項2】
b)i)無機アニオンを有する前記リチウム塩が、過塩素酸リチウム(LiClO)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF)、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF)、六フッ化タンタル酸リチウム(LiTaF)および六フッ化ニオブ酸リチウム(LiNbF)の群から選択され、
ii)有機アニオンが、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、パーフルオロブチルスルホン酸リチウム(LiCSO)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiCNO)、リチウムビス(パーフルオロ-エタン-スルホニル)イミド(Li(CFCFSON)、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(CLiO)、ペンタフルオロエチルトリフルオロホウ酸リチウム(LiBF(C))、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiB(C)、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸リチウム(C24BF20Li)、フルオロアルキルリン酸リチウム(LiPF(CFCF)、ジフルオロリン酸リチウム、および(ジフルオロオキサラト)ホウ酸リチウムの群から選択され、
c)i)前記モノ-シアノ基が、ブチルシアニド、2-メチルグルタロニトリル、α-メチル-バレロジニトリルおよびパーシアノエチレンの群から選択され、
ii)前記ジ-シアノ基が、1,4-ジシアノブタン、1,3-ジシアノプロパン、1,4-ジシアノブタン、1,2-ジシアノエタン、1,3-ジシアノプロパン、1,5-ジシアノペタン、1,6-ジシアノヘキサン、トランス-1,4-ジシアノ-2-ブテン、およびトランス-1,2-ジシアノエチレンの群から選択され;
e)iv)前記ハライド系無機材料が、LiAl(SiO、LiAlSi10、LiNO、NaNO、CsNO、RbNO、KNO、AgNO、NHNO、Ba(NO、Sr(NO、Mg(NO、Ca(NO、Ni(NO、Co(NO、Mn(NO、Al(NO、Ce(NO、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO、LiLaZr12、Li0.33La0.557TiO、LiO-SiO-TiO-P、Al、SiO、TiO、BaTiO、Ta、ZrO、Si、SiC、PbTiO、LiNbO,AlN(窒化アルミニウム)、Y、HfO、LiO、LiPO、LiF、LiCl、LiS-P、およびLiS-P-LiClを含むアルギロダイト化合物からなる群から選択され、
v)前記親リチウム性無機化合物が、Al、Ag、Au、Zn、Mg、Si、Sn、Ge、In、Ba、Bi、B、Ca、Cd、Ir、Pd、Pt、Rh、Sb、Se、Sr、Te、Zn、AgO、MgO、MnO、Co、SnO、SiO、SiOx(0.5<x<1.5)、ZnO、CuO、およびCuOからなる群から選択されるカチオンを含む、
請求項1に記載の固体電解質膜。
【請求項3】
前記膜は、自立フィルムまたはカソードまたはアノードの少なくとも一方に存在する基板補助フィルムである、請求項1に記載の固体電解質膜。
【請求項4】
前記膜は、自立フィルムまたはカソードまたはアノードの少なくとも一方に存在する基板補助フィルムである、請求項2に記載の固体電解質膜。
【請求項5】
前記膜は、0.1~200μmの厚さを示す、請求項3に記載の固体電解質膜。
【請求項6】
前記膜は、0.1~200μmの厚さを示す、請求項4に記載の固体電解質膜。
【請求項7】
前記膜は、基板補助フィルムである、請求項3に記載の固体電解質膜。
【請求項8】
前記フィルムは、アノード、カソード、アノード不含基板、銅箔、ステンレス鋼箔、およびセパレータからなる群から選択される基板上に存在する、請求項7に記載の基板補助フィルム。
【請求項9】
前記基板が、
a-1)グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンナノチューブ、シリコングラファイト、炭素複合材料、およびチタン酸リチウム(LiTi12)等の炭素質系材料、
a-2)リチウム金属、リチウム金属合金、リチウム金属複合材料、およびアノード不含電池構成の任意の負極基板、ならびに、
a-3)銅箔、銅メッシュ、ステンレス鋼、ニッケルめっき銅、およびアノード活物質不含基板の任意の組み合わせを含む、活物質を含まない基板、
からなる群から選択されるアノードである、請求項8に記載の基板補助フィルム。
【請求項10】
前記基板が、a)リチウム金属酸化物、b)高電圧タボライトホスフェートおよびサルフェート系化合物、c)フルオロホスフェート、d)LiMSOF、e)ポリアニオン性化合物、f)リチウム硫黄電池用の硫黄(S8)およびリチウム空気電池用の多孔質炭素カソードからなる群から選択されるカソードである、請求項8に記載の基板補助フィルム。
【請求項11】
前記a)リチウム金属酸化物が、LiNiCoMnO、LiNiCoAlO、LiCoO、LiMn、LiFePO、LiNi0.5Mn1.5、リチウムリッチ層状Li1+x1-x、リチウム欠損層または層スピネル酸化物Li1-x1-x、高電圧オリビンLiMPO、およびモノリシックLi(POからなる群から選択され、
b)高電圧タボライトホスフェートおよびサルフェート系化合物が、LiZ(式中、y=0、1、2であり、M=Co、Ni、Mn、V、Feであり、X=P、Sであり、Z=F、O、OHである)からなる群から選択され、
c)フルオロホスフェートが、LiMPOFおよびLi2-xMPOF(MはCoまたはNiである)からなる群から選択され、
e)ポリアニオン性化合物が、ピロリン酸リチウム、二リン酸リチウムおよびケイ酸リチウムからなる群から選択される、請求項10に記載の基板補助フィルム。
【請求項12】
前記基板が、ポリオレフィン、ポリエステル、セラミック埋設ポリエステル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、セラミック充填PVDF、セラミックコーティングPVDF、ポリトリフェニルアミン、多孔質セルロース、ヘミセルロース、リグニン、およびセラミック充填多孔質繊維からなる群から選択されるセパレータ構成材料である、請求項8に記載の基板補助フィルム。
【請求項13】
前記膜は、自立フィルムである、請求項3に記載の固体電解質膜。
【請求項14】
請求項1に記載の固体電解質膜を含む充電式リチウムイオン電池。
【請求項15】
請求項3に記載の固体電解質膜を含む充電式リチウムイオン電池。
【請求項16】
請求項4に記載の固体電解質膜を含む充電式リチウムイオン電池。
【請求項17】
請求項13に記載の固体電解質膜を含む充電式リチウムイオン電池。
【請求項18】
カソード系固体電解質膜が、a)少なくとも1種のモノおよび/またはジ-シアノ分子とb)少なくとも1つの有機アニオン官能基を有する少なくとも1種のリチウム塩との反応物を含み、前記カソード系固体電解質膜の厚さが約0.1μm~200μmである、請求項10に記載の固体電解質膜を含む充電式リチウムイオン電池。
【請求項19】
前記アノード系固体電解質膜が、a)少なくとも1種のモノおよび/またはジ-シアノ分子とb)少なくとも1つの有機アニオン官能基を有する少なくとも1種のリチウム塩との反応物を含み、前記カソード系固体電解質膜の厚さが約0.1μm~200μmである、請求項9に記載の固体電解質膜を含む充電式リチウムイオン電池。
【請求項20】
前記アノードが銅箔であり、前記アノード系固体電解質膜が、a)少なくとも1種のモノおよび/またはジ-シアノ分子とb)少なくとも1つの有機アニオン官能基を有する少なくとも1種のリチウム塩との反応物を含み、前記カソード系固体電解質膜の厚さが約0.1μm~200μmである、請求項9に記載の固体電解質膜を含む充電式リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年5月4日に出願された米国仮特許出願第63/019724号の優先権を主張する。この親仮出願の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
固体電池は、長い貯蔵寿命、長期安定出力能力、広い動作温度範囲、および高い体積エネルギー密度を含む特定の魅力的な性能特性のために大きな注目を集めている。そのような電池は、低ドレインまたは開回路条件下で長い寿命を必要とする用途に特に適している。
【0003】
現在、リチウムイオン電池、特に液体電解質を含むものが広く使用されており、この商業分野で最良の性能をもたらしている。そのような液体電解質システムは、液体電解質への浸漬を可能にし、充放電中のカソードとアノードとの間のリチウムイオンの輸送のための非常に高い導電率を可能にする特定の構成要素を必要とする。これらのタイプの電池は、電池室を満たすときに液体電解質の吸収を可能にするために、多孔質構造、特にセパレータ、複合カソード、およびアノードを含む。これにより、次に、リチウム活物質との表面接触および最小限のインピーダンスでのセル全体のリチウムイオンの輸送が可能になる。
【0004】
液体電解質自体は、典型的にはエチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートなどの他の直鎖カーボネートを含む溶媒ブレンド中のLi塩(例えばLiPF)からなる。エネルギー密度およびサイクル寿命の改善にもかかわらず、液体電解質を含有する電池にはいくつかの根本的な問題が残っている。例えば、液体電解質は一般に揮発性であり、高充電率、高放電率、および/または内部短絡条件下で圧力上昇、爆発、および発火にさらされる。さらに、高速での充電は、アノードの表面上に樹枝状リチウム成長を引き起こす可能性がある。結果として生じるデンドライトは、セパレータを通って延び、セル内で内部短絡し得る。さらに、セルの自己放電および効率は、液体電解質によるカソードの副反応および腐食によって制限される。さらに、液体電解質はまた、セルが過電圧または短絡状態に起因して過熱する場合に危険をもたらし、別の潜在的な発火または爆発の危険をもたらす。
【0005】
液体電解質を使用するリチウム系電池の安全性および信頼性の問題に対処し、高エネルギー密度を達成するために、高容量リチウムインターカレーション化合物を使用する固体電池が開発されている。しかしながら、そのような結果を達成するために、付随する安全レベルとともに十分かつ効果的な充電能力を示す固体電解質膜を含む固体電池が必要とされている。
【0006】
このように、充電池を電気自動車だけでなく、航空、宇宙、防衛、および医療などの特殊産業にも適用するためには、はるかにより高度な信頼性および安定性を確保する必要がある。固体電解質が利用される場合、そのような構造部品は、液体電解質の漏れおよび爆発などの安全上の問題を解決することができる。さらに、エネルギー密度もまた、既存の電池安全構成要素の単純化によって増加し得る。しかしながら、そのような固体電解質は、一般に、(液体電解質と比較して)イオン伝導率が低いためにより低い電池出力特性を示し、さらに、そのような固体電解質と正極および負極との界面において顕著により高い抵抗を示す。全固体電池および既存のリチウム二次電池の動作原理は基本的に同じであるが、液体電解質を完全に固体のものに置き換えることによって、温度変化および外的衝撃による発火および爆発の危険性が低減される。特にイオン伝導率の増加および正極と負極との間の界面抵抗の低下およびそのような先行の固体電解質に関して改善を必要とする性能レベルを有する硫化物系および酸化物系の導電性ポリマーを含む様々な固体電解質が、過去に開発され、利用されてきた。
【0007】
硫化物系電解質は、高いイオン伝導率(最大10-2S/cm)および熱安定性などの利点を示すが、湿度に弱く、硫化水素などの望ましくないガスを生成する可能性がある。さらに、そのような硫化物系材料は、界面抵抗ならびに狭い電気化学的窓特性に関する技術的問題を呈する。酸化物系電解質は、優れた強度および高い電気化学的安定性を示すが、そのような固体材料は、低いイオン伝導率および電極との高い界面抵抗も示す。また、そのような酸化物系固体電解質は、効果的な焼成および焼結をもたらすために必然的に高温の熱処理プロセスに起因して低い生産性を示す。
【0008】
固体ポリマー電解質(SPE)は、たとえそのような固体材料が低いイオン伝導率、低い熱安定性、および低い機械的強度などの上述の特定の欠点を示すとしても、有利な加工性、効果的な電極接触特性、費用効果、およびポリマーセパレータの排除による設計柔軟性に部分的に起因して、そのような固体電池技術において確かに魅力的である。ポリエチレンオキシド(PEO)が最も一般的な固体ポリマー電解質として使用されてきたが、その適用は、やはりその低いイオン伝導率および狭い電気化学的窓(<3.9V)のために制限されている。別の有望なポリマーであるポリアクリロニトリル(PAN)は、その広い電気化学的安定窓およびリチウムアノードとの良好な化学的適合性などの利点について調査されている。しかしながら、PANは、その有効性を制限する低い熱安定性および機械的強度特性を示す(およびこれらの領域の向上が依然として求められている)。一方、モノおよびジシアノ分子などのシアノ分子は、短距離から長距離の分子秩序を保持する塑性挙動を示す回転分子として知られている。これらの特性によって、「回転ドア機構」による移送プロセスに起因して、シアノ分子は極めてイオン伝導性となる。さらに、この分子は、電池の組み込みおよび利用に有効な熱的および電気化学的安定性を示すと報告されている。しかしながら、そのようなシアノ分子は、特に乾燥ポリマー電解質膜材料に関して、固体電解質膜産業にまだ導入されていない。
【発明の概要】
【0009】
したがって、固体電池の利用のための改善された固体ポリマー電解質が依然としてかなり必要とされている。
【0010】
したがって、本開示は、優れたイオン伝導率、高い機械的引張強度および電気化学的安定性を有する固体電解質膜に関する。この目的のために、シアノ分子と、特定の少なくとも1種のリチウム塩、ポリマー、および可塑剤との組み合わせによって、固体電解質のイオン伝導率およびサイクル性能が改善され得ることが究明された。
【0011】
本明細書では、高いイオン伝導率、ならびに向上したサイクル性能を可能にする熱的および電気化学的安定性、ならびに改善された電池製造特性を可能にする高い機械的強度を有する固体電解質膜が開示される。
【0012】
いくつかの実施形態において、そのような特有の固体電解質膜は、以下のような成分の反応性組み合わせを含む:
a)ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリエポキシド(エポキシ樹脂)、ポリメチルメタクリレート、ポリ(スチレン-コ-アクリロニトリル)、ポリ(アクリロニトリル-コ-ブタジエン-コ-スチレン)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、およびそれらの任意の組み合わせ、の群から選択される少なくとも1種のポリマーまたはコポリマー;
b)i)過塩素酸リチウム(LiClO)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF)、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF)、六フッ化タンタル酸リチウム(LiTaF)、六フッ化ニオブ酸リチウム(LiNbF)の群から選択される無機アニオン、ii)トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、パーフルオロブチルスルホン酸リチウム(LiCSO)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiCNO、LiTFSI)、リチウムビス(パーフルオロ-エタン-スルホニル)イミド(Li(CFCFSON、LiBETI)、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(CLiO)、リチウムペンタフルオロエチルトリフルオロボレート(LiBF(C))、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiB(C)、リチウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート(C24BF20Li)、リチウムフルオロアルキルホスフェート(LiPF(CFCF)、リチウムジフルオロホスフェート、リチウム(ジフルオロオキサラト)ボレートの群から選択される有機アニオン、ならびにiii)i)およびii)の任意の組み合わせ;
c)i)シアン化ブチル、2-メチルグルタロニトリル、α-メチル-バレロジニトリルおよびパーシアノエチレンの群から選択されるモノシアノ分子、ii)1,4-ジシアノブタン、1,3-ジシアノプロパン、1,4-ジシアノブタン、1,2-ジシアノエタン、1,3-ジシアノプロパン、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、トランス-1,4-ジシアノ-2-ブテンおよびトランス-1,2-ジシアノエチレンの群から選択されるジシアノ分子、iii)テトラシアノエチレン、iv)2,5-シクロヘキサジエン-1,4-ジイリデンおよびそれらの任意のシアノ誘導体、またはv)i)、ii)、iii)およびiv)の任意の組み合わせ、を含む少なくとも1種のシアノ系分子;
d)γ-ブチロラクトン(GBL)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル(AN)、プロピレンカーボネート(PC)、1,3-ジオキソラン-2-オン、およびそれらの任意の組み合わせの群から選択される少なくとも1種の高誘電性溶媒中に存在する少なくとも1種の可塑剤;ならびに
e)酸化物、炭化物、窒化物、ハロゲン化物系無機材料[例えば、LiAl(SiO、LiAlSi10、LiNO、NaNO、CsNO、RbNO、KNO、AgNO、NHNO、Ba(NO、Sr(NO、Mg(NO、Ca(NO、Ni(NO、Co(NO、Mn(NO、Al(NO、Ce(NO、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO、LiLaZr12、Li0.33La0.557TiO、LiO-SiO-TiO-P、Al、SiO、TiO、BaTiO、Ta、ZrO、Si、SiC、PbTiO、LiNbO、AlN(窒化アルミニウム)、Y、HfO、LiO、LiPO、LiF、LiCl、LiS-P、およびLiS-P-LiClを含むアルギロダイト化合物]、Al、Ag、Au、Zn、Mg、Si、Sn、Ge、In、Ba、Bi、B、Ca、Cd、Ir、Pd、Pt、Rh、Sb、Se、Sr、Te、Zn、AgO、MgO、MnO、Co、SnO、SiO、SiO(0.5<x<1.5)、ZnO、CuO、CuOなどのカチオンを含む親リチウム性(lithophilic)無機化合物、および金属または非金属粘土のいずれか1つを含むハイブリッド材料、の群から選択される少なくとも1種のナノサイズおよび/またはミクロンサイズの粒子フィラー。
【0013】
したがって、本開示は、低いイオン強度、高い界面抵抗、および低い強度に関連する以前の欠点を克服する固体電解質膜を提供する。そのような固体電解質膜は、固体電池内に導入され、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンナノチューブ、シリコングラファイト(または/および炭素複合材料)およびチタン酸リチウム(LiTi12)などの炭素質材料を含むアノード;アノード不含セル構成のリチウム金属もしくは任意の負極基板と接合されてもよく;またはカソードは、LiNiCoMnO(NMC)、LiNiCoAlO(NCA)、LiCoO(LCO)、LiMn(LMO)、LiFePO(LFP)などの任意のリチウム金属酸化物を含み、セパレータは、ポリエチレン、ポリプロピレン、それらのブレンドおよび/または組み合わせなどのポリオレフィン、セルロース系材料、リグニン系材料、ならびに直接溶液キャスティングを使用するセラミック充填セパレータなどを含む基板である。
【0014】
本開示はさらに、本明細書に記載の固体電解質膜を含み利用する電気化学デバイス、例えば、これらに限定されないが、リチウムイオン電池および同様のエネルギー貯蔵物品に関し、それらを包含する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
開示された主題の特徴および利点のより良い理解を得るために、開示された主題の原理が利用される例示的な実施形態に関する以下の説明、および添付の図面を参照する。
【0016】
図1】0.5Cでの容量維持率による1つの開示された実施形態の固体電解質のサイクル性能のグラフ表示を示す図である。
図2】0.5Cでの容量維持率による別の開示された固体電解質の実施形態のサイクル性能のグラフ表示を示す図である。
図3】0.5Cでの容量維持率による別の開示された固体電解質の実施形態のサイクル性能のグラフ表示を示す図である。
図4】0.5Cでの容量維持率による別の開示された固体電解質の実施形態のサイクル性能のグラフ表示を示す図である。
図5】0.3Cでの容量維持率による別の開示された固体電解質の実施形態のサイクル性能のグラフ表示を示す図である。
図6】0.3Cでの容量維持率による別の開示された固体電解質の実施形態のサイクル性能のグラフ表示を示す図である。
図7】0.3Cでの容量維持率による別の開示された固体電解質の実施形態のサイクル性能のグラフ表示を示す図である。
図8】0.1Cでの第1のサイクルについての、本明細書に開示される固体電解質の実施形態に関連する電圧プロファイルを示す図である。
図9】0.3Cでの容量維持率による別の開示された固体電解質の実施形態のサイクル性能のグラフ表示を示す図である。
図10】0.3Cでの容量維持率による別の開示された固体電解質の実施形態のサイクル性能のグラフ表示を示す図である。
図11】0.1Cでの第1のサイクルについての、本明細書に開示される異なる固体電解質の実施形態に関連する電圧プロファイルを示す図である。
図12】0.1Cでの第1のサイクルについての、本明細書に開示される異なる固体電解質の実施形態に関連する電圧プロファイルを示す図である。
図13】0.1Cでの第1のサイクルについての、本明細書に開示される異なる固体電解質の実施形態に関連する電圧プロファイルを示す図である。
図14】0.1Cでの第1のサイクルについての、本明細書に開示される異なる固体電解質の実施形態に関連する電圧プロファイルを示す図である。
図15】0.1Cでの第1のサイクルについての、本明細書に開示される異なる固体電解質の実施形態に関連する電圧プロファイルを示す図である。
図16】0.3Cでの容量維持率による別の開示された固体電解質の実施形態のサイクル性能のグラフ表示を示す図である。
図17】0.3Cでの容量維持率による別の開示された固体電解質の実施形態のサイクル性能のグラフ表示を示す図である。
図18】0.3Cでの容量維持率による別の開示された固体電解質の実施形態のサイクル性能のグラフ表示を示す図である。
図19】0.3Cでの容量維持率による別の開示された固体電解質の実施形態のサイクル性能のグラフ表示を示す図である。
図20】0.3Cでの容量維持率による別の開示された固体電解質の実施形態のサイクル性能に関連する放電容量のグラフ表示を示す図である。
図21】開示された固体電解質膜の1,100時間にわたる電圧測定値のグラフ表示を示す図である。
図22】PAN/PEO/LiAsF/ANを含む固体電解質膜を用いた、電流密度(mA/cm)対電位(V)による線形走査ボルタンメトリーを使用した電気化学的安定性のグラフ表示を示す図である。
図23】開示された固体電解質膜の様々な化学組成の実施形態のイオン伝導率値のデータ表を示す図である。
図24】基板(多孔質セルロース膜)上にコーティングされた自立(FS)および固体電解質膜(SEM)の引張応力値のデータ表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示およびその好ましい実施形態のすべての特徴は、以下の例示的であるが非限定的な図面および例に関連して詳細に説明される。したがって、本明細書で提供される図面は、開示された材料およびデバイスの範囲および幅を限定することを意図するものではなく、そのいくつかの異なる実施形態を提供するのに役立つ。
【0018】
実施例1.固体電解質膜、[自立]PAN/LiPFまたはLiAsFまたはLiTFSI/1,3-ジシアノプロパンまたは2-メチルグルタロニトリルまたはシアン化ブチルの合成
【0019】
固体電解質溶液の合成には、以下の材料を使用した。ポリアクリロニトリル(PAN,MW150,000,Sigma Aldrich)、1,3-ジオキソラン-2-オン、スポジュメン(LiAl(SiO)粉末、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF,97%+,TCI America)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF,99%,Alfa Aesar)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI,98%,TCI America)、1,3-ジシアノプロパン、および2-メチルグルタロニトリル(2-メチルグルタロニトリル,99%,Sigma Aldrich)
【0020】
グローブボックス内で、まず1,3-ジオキソラン2-オンを70℃で溶融し、次いでPANを1,3-ジオキソラン-2-オンの9~12質量%で添加することにより、溶液を調製した。完全に溶解させるために、マグネチックスターラを用いて混合物を70℃で2時間撹拌した。PANが完全に溶解したら、この溶液にそれぞれ0.8Mのリチウム塩(LiPFまたはLiAsFまたはLiTFSI)を加え、同条件下で1時間撹拌しながら溶解させた。1,3-ジシアノプロパンまたは2-メチルグルタロニトリルを全溶液の20質量%の量で添加し、溶液をさらに1時間撹拌した。最後に、フィラーであるスポジュメン(LiAl(SiO)粉末を全溶液の3質量%の量で添加し、さらに1時間撹拌した。ドクターブレードで材料をドローダウンすることによって、完成した溶液を、ガラス板に接着したアルミニウム箔の清浄なシート上にキャストした。膜キャスティングを真空条件下、室温で2時間乾燥させた。
【0021】
カソード電極(NCA,NMC811)およびアノード電極(リチウム金属)を用い、上記のように調製された固体電解質膜を使用して、コインセル2032を組み立てた。各コインセルを、3.0V~4.3Vの電圧窓を使用して、第1サイクルでは0.1C、第2サイクルでは0.2C、および第3サイクルでは0.3Cで、サイクル試験の最後までサイクルした。
【0022】
図1は、0.5Cサイクルでの容量維持率(%)による実施例1の固体電解質膜のサイクル性能を示す。両方のセルは、カソードとしてNCA、自立/PAN/LiPF/1,3-ジシアノプロパン/シアン化ブチルを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。セルを0.5Cでサイクルし、50サイクル後でも96%の維持を示した。
【0023】
図2は、0.5Cサイクルでの容量維持率(%)によるサイクル性能を示す。2つのセルは、カソードとしてNCA、自立/PAN/LiAsF/1,3-ジシアノプロパン/シアン化ブチルを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。これらのセルは、50サイクル後でもそれぞれ95%、93%の維持を示した。
【0024】
図3は、0.5Cサイクルでの容量維持率によるサイクル性能を示す。セルは、カソードとしてNCA、自立/PAN/LiTFSI/1,3-ジシアノプロパン/シアン化ブチルを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。セルは、50サイクル後に100%の維持を示した。
【0025】
図4は、0.5Cサイクルで50サイクルでの容量維持率によるサイクル性能を示す。セルは、カソードとしてNCA、自立/PAN/LiPF/2-メチルグルタロニトリルを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。セルは、50サイクル後に85%の維持を示した。
【0026】
実施例2.固体電解質膜、[自立]PAN-PEO/LiPFまたはLiAsF/1,3-ジシアノプロパンまたはシアン化ブチルの合成
【0027】
固体電解質溶液の合成には、以下の材料を使用した。1,3-ジシアノプロパン、ポリアクリロニトリル(PAN,MW150,000,Sigma Aldrich)、ポリエチレンオキシド(PEO,Alfa Aesar)1,3-ジオキソラン-2-オン、スポジュメン(LiAl(SiO)粉末、六フッ化リン酸リチウム(LiPF,97%+,TCI America)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF,99%,Alfa Aesar)。
【0028】
グローブボックス内で、まず1,3-ジオキソラン2-オンを70℃で溶融し、次いでPANを1,3-ジオキソラン-2-オンの9~12質量%で添加することにより、溶液を調製した。完全に溶解させるために、マグネチックスターラを用いて混合物を70℃で2時間撹拌した。PANが完全に溶解したら、PEOをPANの30質量%で添加し、撹拌を1時間続けた。この溶液に、一致する量の0.8M濃度のリチウム塩(LiPFまたはLiAsF)を加え、同条件下で1時間撹拌しながら溶解させた。1,3-ジシアノプロパンを全溶液の20質量%の量で添加し、溶液をさらに1時間撹拌した。最後に、フィラーであるスポジュメン(LiAl(SiO)粉末を全溶液の3質量%の量で添加し、さらに1時間撹拌した。ドクターブレードで材料をドローダウンすることによって、完成した溶液を、ガラス板に接着したアルミニウム箔の清浄なシート上にキャストした。膜キャスティングを真空条件下、室温で2時間乾燥させ、乾燥固体電解質を形成した。
【0029】
NCA、NMC811などのカソード電極、およびリチウム金属などのアノード電極を用い、上記により調製された固体電解質膜を使用して、コインセル2032を組み立てた。
【0030】
各コインセルを、3.0V~4.3Vの電圧窓を使用して、第1サイクルでは0.1C、第2サイクルでは0.2C、および第3サイクルでは0.3Cで、サイクル試験の最後までサイクルした。
【0031】
図5は、0.3Cサイクルで50サイクルでの容量維持率によるサイクル性能を示す。2つのコインセルは、カソードとしてLiNi0.8Co0.1Mn0.1(NMC811)、自立/PAN-PEO/LiPF/1,3-ジシアノプロパンを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。セルは、50サイクル後でもそれぞれ103%、98%の維持を示した。
【0032】
図6は、0.3Cサイクルで10サイクルでの容量維持率によるサイクル性能を示す。セルは、カソードとしてNMC811、自立/PAN-PEO/LiAsF/1,3-ジシアノプロパンを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。セルは、10サイクル後に117%の維持を示した。
【0033】
実施例3.高多孔質セルロース膜(PCM)、PAN/LiPFまたはLiAsFまたはLiTFSIまたはLiPF-LiTFSI/シアン化ブチルまたは1,4-ジシアノブタンまたは2-メチルグルタロニトリルまたはシアン化ブチルへのSEMコーティング
【0034】
固体電解質溶液の合成には、以下の材料を使用した。ポリアクリロニトリル(PAN,MW150,000,Sigma Aldrich)、1,3-ジオキソラン-2-オン、スポジュメン(LiAl(SiO)粉末、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF,97%+,TCI America)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF,99%,Alfa Aesar)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI,98%,TCI America)、1,3-ジシアノプロパン、シアン化ブチル(シアン化ブチル,99.5%,Sigma Aldrich)、1,4-ジシアノブタン(99%,Sigma Aldrich)、および2-メチルグルタロニトリル(2-メチルグルタロニトリル,99%,Sigma Aldrich)
【0035】
グローブボックス内で、まず1,3-ジオキソラン2-オンを70℃で溶融し、次いでPANを1,3-ジオキソラン-2-オンの9~12質量%で添加することにより、溶液を調製した。完全に溶解させるために、マグネチックスターラを用いて混合物を70℃で2時間撹拌した。PANが完全に溶解したら、この溶液に、一致する量のそれぞれ0.8M濃度のリチウム塩(LiPFまたはLiAsFまたはLiTFSIまたは60%LiTFSI-40%LiPF)を加え、同条件下で1時間撹拌しながら溶解させた。次いで、シアン化ブチル(1%)または1,4-ジシアノブタン(20%)または2-メチルグルタロニトリル(20)%をそれぞれ総溶液の0.1~20質量%の量で添加し、溶液をさらに1時間撹拌した。ガラス板上のシートを平らにし、ドクターブレードで材料をドローダウンすることによって、完成した溶液を多孔質セルロース膜上にキャストした。膜キャスティングを、真空条件下、室温で2時間乾燥させた。
【0036】
NCA、NMC811などのカソード電極、およびリチウム金属などのアノード電極を用い、上記により調製された固体電解質膜を使用して、コインセル2032を組み立てた。
【0037】
各コインセルを、3.0V~4.3Vの電圧窓を使用して、第1サイクルでは0.1C、第2サイクルでは0.2C、および第3サイクルでは0.3Cで、サイクル試験の最後までサイクルした。
【0038】
図7は、0.3Cサイクルで50サイクルでの容量維持率(%)によるサイクル性能を示す。セルは、カソードとしてNMC811、多孔質セルロース膜(PCM)/PAN-PEO/LiPF/1,3-ジシアノプロパンを含む固体電解質膜(多孔質セルロース膜上のコーティング)、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。セルは、50サイクル後に97%の維持を示した。
【0039】
図8は、0.1Cでの第1サイクルの電圧プロファイルを示す。このセルを、0.1Cで1サイクル充放電した。セルは、カソードとしてNMC811、PCM/PAN/LiAsF/1,3-ジシアノプロパンを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。得られた充電容量、放電容量および効率は、それぞれ208mAh/g、183mAh/g、88.0%であった。
【0040】
図9は、0.3Cサイクルで18サイクルでの容量維持率によるサイクル性能を示す。セルは、カソードとしてNMC811、PCM/PAN/LiTFSI/1,3-ジシアノプロパン/シアン化ブチルを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。セルは、18サイクル後に98.4%の維持を示した。
【0041】
図10は、0.3Cサイクルで19サイクルでの容量維持率によるサイクル性能を示す。セルは、カソードとしてNMC811、PCM/PAN/LiTFSI-LiPF/1,3-ジシアノプロパンを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。セルは、19サイクル後に93.3%の維持を示した。
【0042】
図11は、0.1Cでの第1サイクルの電圧プロファイルを示す。このセルを、0.1Cで1サイクル充放電した。セルは、カソードとしてNMC811、PCM/PAN/LiTFSI-LiPF/シアン化ブチルを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。得られた充電容量、放電容量および効率は、それぞれ199mAh/g、180mAh/g、90.1%であった。
【0043】
図12は、0.1Cでの第1サイクルの電圧プロファイルを示す。このセルを、0.1Cで1サイクル充放電した。セルは、カソードとしてNMC811、PCM/PAN/LiTFSI-LiPFを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。得られた充電容量、放電容量および効率は、それぞれ229mAh/g、210mAh/g、92.1%であった。
【0044】
図13は、0.1Cでの第1サイクルの電圧プロファイルを示す。このセルを、0.1Cで1サイクル充放電した。セルは、カソードとしてNMC811、PCM/PAN/LiTFSI-LiPF/1,4-ジシアノブタンを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。得られた充電容量、放電容量および効率は、それぞれ228mAh/g、211mAh/g、92.7%であった。
【0045】
図14は、0.1Cでの第1サイクルの電圧プロファイルを示す。このセルを、0.1Cで1サイクル充放電した。セルは、カソードとしてNMC811、PCM/PAN/LiTFSI-LiAsF/2-メチルグルタロニトリルを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。得られた充電容量、放電容量および効率は、それぞれ225mAh/g、207mAh/g、91.7%であった。
【0046】
図15は、0.1Cでの第1サイクルの電圧プロファイルを示す。このセルを、0.1Cで1サイクル充放電した。セルは、カソードとしてNMC811、PCM/PAN/LiTFSI-LiAsF/1,4-ジシアノブタン/シアン化ブチルを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。得られた充電容量、放電容量および効率は、それぞれ226mAh/g、208mAh/g、91.8%であった。
【0047】
実施例4.[PCMへのSEMコーティング]PAN-PEO/LiPFまたはLiAsF/1,3-ジシアノプロパンまたはシアン化ブチル
【0048】
固体電解質溶液の合成には、以下の材料を使用した。1,3-ジシアノプロパン、ポリアクリロニトリル(PAN,MW150,000,Sigma Aldrich)、ポリエチレンオキシド(PEO,Alfa Aesar)1,3-ジオキソラン-2-オン、スポジュメン(LiAl(SiO)粉末、六フッ化リン酸リチウム(LiPF,97%+,TCI America)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF,99%,Alfa Aesar)。
【0049】
グローブボックス内で、まず1,3-ジオキソラン2-オンを70℃で溶融し、1,3-ジオキソラン-2-オンの10質量%のPANを添加することにより、溶液を調製した。完全に溶解させるために、マグネチックスターラを用いて混合物を70℃で2時間撹拌した。PANが完全に溶解したら、PEOをPANの30質量%で添加し、撹拌を1時間続けた。この溶液に、1,3-ジオキソラン-2-オンの10質量%のPANに一致する量のリチウム塩(LiPFまたはLiAsF)を加え、同条件で1時間撹拌しながら溶解させた。1,3-ジシアノプロパンを全溶液の20質量%の量で添加し、溶液をさらに1時間撹拌した。ガラス板上のシートを平らにし、ドクターブレードで材料をドローダウンすることによって、完成した溶液を多孔質セルロース膜上にキャストした。膜キャスティングを、真空条件下、室温で1~2時間乾燥させた。
【0050】
NCA、NMC811などのカソード電極、およびリチウム金属などのアノード電極を用い、上記により調製された固体電解質膜を使用して、コインセル2032を組み立てた。
【0051】
各コインセルを、3.0V~4.3Vの電圧窓を使用して、第1サイクルでは0.1C、第2サイクルでは0.2C、および第3サイクルでは0.3Cで、サイクル試験の最後までサイクルした。
【0052】
図16は、0.3Cサイクルでの容量維持率(%)によるサイクル性能を示す。3つのセルは、カソードとしてNMC811、PCM/PAN-PEO/LiPF/1,3-ジシアノプロパン/シアン化ブチルを含む固体電解質膜、および0.3Cでのアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。
【0053】
図17は、容量維持率(%)によるサイクル性能を示す。セルは、カソードとしてNMC811、PCM/PAN-PEO/LiAsF/1,3-ジシアノプロパン/シアン化ブチルを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。セルを0.3Cでサイクルし、19サイクル後に98%の維持を示した。
【0054】
実施例5.[自立]PAN-ポリエポキシド、LiPF、1,3ジシアノプロパンまたはシアン化ブチル
【0055】
固体電解質溶液の合成には、以下の材料を使用した。1,3-ジシアノプロパン、ポリアクリロニトリル(PAN,MW150,000,Sigma Aldrich)、1,3-ジオキソラン-2-オン、ポリエポキシド(エポキシ樹脂)、スポジュメン(LiAl(SiO)粉末、六フッ化リン酸リチウム(LiPF,97%+,TCI America)。
【0056】
グローブボックス内で、まず1,3-ジオキソラン2-オンを70℃で溶融し、1,3-ジオキソラン-2-オンの10質量%のPANを添加することにより、溶液を調製した。完全に溶解させるために、マグネチックスターラを用いて混合物を70℃で2時間撹拌した。この溶液に、1,3-ジオキソラン-2-オンの10質量%のPANに一致する量のLiPFを加え、同条件で1時間撹拌しながら溶解させた。1,3-ジシアノプロパンを全溶液の約20質量%の量で添加し、溶液をさらに1時間撹拌した。フィラースポジュメン(LiAl(SiO)を全溶液の3質量%の量で添加し、さらに1時間撹拌した。溶液が完成した後、ポリエポキシド(エポキシ樹脂および硬化剤)を混合し、次いでSEM溶液に総重量の5%の量で添加し、次いで手で素早く混合し、キャスティング用に調製した。
【0057】
完成した溶液を清浄なガラス板の表面上にキャストし、もう1つをガラス板に接着されたアルミニウム箔のシート上にキャストした。ドクターブレードで材料をドローダウンすることによってキャスティングを完了した。膜キャスティングを、真空条件下、室温で2時間乾燥させ、乾燥固体電解質を形成した。
【0058】
NCA、NMC811などのカソード電極、およびリチウム金属などのアノード電極を用い、上記により調製された固体電解質膜を使用して、コインセル2032を組み立てた。
【0059】
各コインセルを、3.0V~4.3Vの電圧窓を使用して、第1サイクルでは0.1C、第2サイクルでは0.2C、および第3サイクルでは0.3Cで、サイクル試験の最後までサイクルした。
【0060】
図18は、0.3Cサイクルでの容量維持率(%)によるサイクル性能を示す。セルは、カソードとしてNMC811、自立/PAN/ポリエポキシド/LiPF/1,3-ジシアノプロパン/シアン化ブチルを含む固体電解質膜、およびアノードとして200μm厚のリチウム金属を使用して調製した。サイクル性能は、50サイクル後に80%の維持を示す。
【0061】
実施例6.[カソード電極またはアノード電極(ケイ素+グラファイト)またはリチウム金属アノード上への直接キャスティング]PAN/LiPF/1,3-ジシアノプロパンおよび/またはシアン化ブチル
【0062】
1つのそのような溶液または上記の溶液のいずれかを含む例であって、キャスティング方法が自立膜を形成する代わりに電池電極に直接適用される例。この直接キャスティング法をカソード電極(LiNi0.8Co0.1Mn0.1,NMC811)、アノード電極(25wt%SiOx-75%グラファイトブレンド)、およびリチウム金属アノードに適用した。ドクターブレードを用いて固体電解質溶液をドローダウンし、電極のシート上に直接キャストした。膜キャスティングを、真空条件下、室温で2時間乾燥させ、乾燥固体電解質を形成した。カソード電極上のそのような乾燥した電解質膜は、電池セルを効率的に構築するために一体として使用することができる。
【0063】
NCA、NMC811などのカソード電極、およびリチウム金属などのアノード電極を用い、上記で調製および説明された固体電解質膜を使用して、コインセル2032を組み立てた。
【0064】
各コインセルを、3.0V~4.3Vの電圧窓を使用して、第1サイクルでは0.1C、第2サイクルでは0.2C、および第3サイクルでは0.3Cで、サイクル試験の最後までサイクルした。
【0065】
図19は、0.3Cサイクルでの容量維持率(%)によるサイクル性能を示す。セルは、PAN/LiPF/1,3ジシアノプロパン/シアン化ブチルを含む固体電解質膜をカソード(NMC811)上に直接キャストすることによって調製した。サイクル性能は、50サイクル後に91%の維持を示す。
【0066】
図20は、0.3Cサイクルでの容量維持率(%)によるサイクル性能を示す。セルは、PAN/LiPF/1,3ジシアノプロパン/シアン化ブチルを含む固体電解質膜をアノード電極(SiOx+グラファイトブレンド)上に直接キャストすることによって調製した。サイクル性能は、50サイクル後に91%の維持を示す。
【0067】
図21は、1mA/cmでのリチウム対称セルのサイクル性能を示す。セルは、PAN/LiPF/1,3ジシアノプロパン/シアン化ブチルを含む固体電解質膜をリチウム金属アノード上に直接キャストすることによって調製した。サイクル性能は、本明細書では、0.2Vに達するまでセルの電位を上昇させることによって測定した。セルは、0.2Vまでで1107時間の優れた寿命測定値を示す。
【0068】
材料特性評価
【0069】
Biologic SP300ポテンショスタットを使用して、室温(摂氏25度)で2つのステンレス鋼電極を使用して1Hz~1MHzの範囲の周波数および10mVの電圧振幅での、固体電解質膜試料のイオン伝導率。
【0070】
Biologic SP300ポテンショスタットを使用して、10mV/sの走査速度で0V~5Vの電圧範囲で線形掃引ボルタンメトリー法を用い、固体電解質膜の電気化学的安定性を測定した。
【0071】
固体電解質膜の引張応力を、10mm/分の引張速度で測定した。試験片サイズは、1cm(幅)×5cm(長さ)である。
【0072】
PAN/PEO/LiAsF/1,4-ジシアノブタン
【0073】
図22は、PAN/PEO/LiAsF/1,4-ジシアノブタンを含む固体電解質膜を用いた、電流密度(mA/cm)対電位(V)による線形走査ボルタンメトリーを使用した電気化学的安定性測定を示す。これは、0Vから5Vまで測定され、5Vで0.018mA/cmの電流密度として優れた電気化学的安定性を示す。
【0074】
図23は、固体電解質膜の様々な組成に対するイオン伝導率値の表である。全ての試料は、1×10-4S/cm以上の良好なIC値を示した。特に、2種類のリチウム塩を含む、試料#5(PAN/LiTFSI(60)-LiPF(40)/1,3-ジシアノプロパン/シアン化ブチル)、試料#9(PAN/LiTFSI(60)-LiAsF(40)/2-メチルグルタロニトリル(20%))、試料#10(PAN/LiTFSI(60)-LiAsF(40)/1,4-ジシアノブタン(20%)は、1×10-3S/cmを超える非常に優れたIC値を示した。
【0075】
図24は、本明細書に開示される固体電解質膜の異なる引張応力値を示す表である。第1の自立固体電解質膜は、0.5MPaの引張応力値を示す。対照的に、自立膜構造の15倍超である、開示された固体電解質膜でコーティングされた基板の測定された引張応力値も示されている。そのような改善された機械的特性(引張応力)に起因して、本明細書に開示されるような基板コーティング固体電解質膜をリチウムイオン電池製造プロセスに含めることは、著しく改善された製造加工性をもたらす。そのような改善はさらに、上述の固体電解質膜の特定のタイプに関連して得られた優れた特性を示す。
【0076】
これらの例、実験試験結果、および説明により、電池デバイスと共に、および電池デバイス内で利用するための著しく改善された固体ポリマー電解質膜が提供される。シアノ分子、リチウム塩、可塑剤、ベースポリマー、およびナノまたはマイクロフィラーの組み合わせは、必要な基準ごとに優れた性能を発揮することが分かっている。
【0077】
本発明の趣旨から逸脱することなく、本発明の範囲内の様々な修正が当業者によりなされ得ることを理解されたい。したがって、本発明は、先行技術が許容するように広く、かつ必要であれば明細書を考慮して、添付の特許請求の範囲によって定義されることが望ましい。
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【国際調査報告】