(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(54)【発明の名称】高被覆性金属効果顔料
(51)【国際特許分類】
C09C 1/64 20060101AFI20230601BHJP
C09C 3/06 20060101ALI20230601BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20230601BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230601BHJP
B22F 1/068 20220101ALI20230601BHJP
B22F 1/054 20220101ALI20230601BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20230601BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20230601BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
C09C1/64
C09C3/06
C09D11/322
B22F1/00 N
B22F1/068
B22F1/054
B22F1/16
B22F1/107
B22F9/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022532655
(86)(22)【出願日】2021-04-13
(85)【翻訳文提出日】2022-05-31
(86)【国際出願番号】 EP2021059559
(87)【国際公開番号】W WO2021219366
(87)【国際公開日】2021-11-04
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516030812
【氏名又は名称】シュレンク メタリック ピグメンツ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フーバー アーダルベルト
(72)【発明者】
【氏名】シュトーター マティアス
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー ヨルグ
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン ルドルフ
(72)【発明者】
【氏名】ビース トルステン
【テーマコード(参考)】
4J037
4J039
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4J037AA14
4J037AA24
4J037CB15
4J037CB26
4J037EE03
4J037EE16
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4J037FF09
4J039BA06
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4J039BD04
4J039BE01
4J039GA24
4K017AA03
4K017AA08
4K017BA01
4K017CA03
4K017CA08
4K017DA07
4K017DA09
4K018BB01
4K018BB05
4K018BC28
4K018BD04
(57)【要約】
本発明は、金属酸化物被膜を備えたアルミニウムプレートレットに基づく金属効果顔料を製造する方法であって、以下の工程:(a)アルミニウムプレートレットを有機溶媒に供給して、対応する分散液を形成し、少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物を添加して、金属酸化物前駆体化合物を溶解させる工程と、(b)金属酸化物前駆体化合物を有機溶媒中で分解して、アルミニウムプレートレット上に金属酸化物被膜を形成する工程とを含む、方法に関する。さらに、本発明は、本発明による方法によって得ることができる金属効果顔料、及び本発明による金属効果顔料の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物被膜を備えたアルミニウムフレークに基づく金属効果顔料を製造する方法であって、
前記アルミニウムフレークが、5nm~90nmの厚みを有し、かつ、前記金属酸化物被膜によって被覆されており、
前記金属酸化物被膜が、5nm~150nmの厚みを有する1種以上の金属酸化物から構成され、かつ、少なくとも1.9の屈折率を有しており、
前記アルミニウムフレークの表面と前記金属酸化物被膜との間には、該アルミニウムフレークを被覆する更なる被膜は存在せず、
以下の工程:
(a)前記アルミニウムフレークを有機溶媒に導入して、対応する分散液を形成し、少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物を添加して、該金属酸化物前駆体化合物を溶解させる工程と、
(b)前記金属酸化物前駆体化合物を前記有機溶媒中で分解して、前記アルミニウムフレーク上に前記金属酸化物被膜を形成する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記アルミニウムフレークが、最大で30%の厚み変動(Δh)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルミニウムフレークが真空金属化顔料である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、1-メトキシ-2-プロパノール、2-イソプロポキシエタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール400、プロピレンカーボネート、N,N-ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキシド、又はこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が1-メトキシ-2-プロパノールである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アルミニウムフレークが、工程(a)の前においても分散形態で存在しており、この目的のために、工程(a)で使用する前記有機溶媒と同一であるか又は異なる、好ましくは異なる有機溶媒を使用する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルミニウムフレークが、工程(a)の前においてイソプロパノール分散液として存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記金属酸化物被膜が、Fe
2O
3、CuO、ZnO、又はこれらの混合物から構成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物が、鉄、銅、又は亜鉛の硝酸塩、酢酸塩、アセチルアセトナート、マロン酸塩、アルコキシド、シュウ酸塩、及びオキシマートからなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物の金属原子が、錯体化形態で存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記錯体化形態が、尿素錯体又は尿素誘導体錯体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物が、[Fe(H
2N(CO)NH
2)
6](NO
3)
3、[Cu(H
2N(CO)NH
2)
4](NO
3)
2、及び[Zn(H
2N(CO)NH
2)
4](NO
3)
2からなる群より選択される、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法によって得られ得る、金属酸化物被膜を備えたアルミニウムフレークに基づく金属効果顔料であって、
前記アルミニウムフレークが、5nm~90nmの厚みを有し、かつ、前記金属酸化物被膜によって被覆されており、
前記金属酸化物被膜が、5nm~150nmの厚みを有する1種以上の金属酸化物から構成され、かつ、少なくとも1.9の屈折率を有しており、かつ、
前記アルミニウムフレークの表面と前記金属酸化物被膜との間には、該アルミニウムフレークを被覆する更なる被膜は存在しない、金属効果顔料。
【請求項14】
3%の着色度で、色差dE110°が1.5未満である、請求項13に記載の金属効果顔料。
【請求項15】
印刷インク、インクジェット用途、塗装系、プラスチックの原料着色、又は化粧品のための、請求項13又は14に記載の金属効果顔料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物被膜を備えたアルミニウムフレークに基づく金属効果顔料を製造する方法、本発明の方法によって得られ得る金属効果顔料、及び本発明の金属効果顔料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
着色した、光安定性を有する金属効果顔料は、従来技術によると、アルミニウム等の金属の薄プレートレット状基板を、金属酸化物、例えば、Fe2O3及びTiO2等で被覆することによって製造される。高い隠蔽力を達成するためには、金属効果顔料の全厚が非常に薄い必要がある。金属効果顔料が薄いほど、配置する所与の質量の顔料に対してより広い領域をカバーすることができるため、その隠蔽力は高くなる。そのため、通常使用する基板は、非常に薄い金属プレートレット、すなわちフレークである。この薄金属フレークは、それ自体が顔料として指定されている。
【0003】
この種のアルミニウム製基板、すなわちアルミニウム顔料は、工業的には2つの異なる方法で製造されている。比較的薄いアルミニウムフレークは、例えば、費用効果が高く、低衝撃の湿式粉砕プロセスによって得ることができる。粉砕の過程で、金属ビーズは丸みを帯びたアルミニウム粒子を放出する。これらの粒子の大きさ、粉砕時間、及び採用する金属ビーズに応じて、薄アルミニウムフレークが得られる。特に低衝撃の粉砕プロセスを用いると、比較的大きなフレーク直径に対して、60nm~100nmの範囲の基板厚み中央値を工業的規模で達成することが可能である。しかしながら、粉砕中の冷間変形の結果、アルミニウムフレークは常に一定の厚み変動及び表面粗さを有する。すなわち、アルミニウムフレークは完全に平面ではない。この厚み変動及び表面粗さは、逆に、得られるアルミニウムフレークが乾燥中に広範囲に接触せず、そのため凝集することなく比較的容易に乾燥することができるという利点を有する。しかしながら、基板の厚みが減少し、比表面積が大きくなるにつれて、非凝集性乾燥は次第に困難になっていく。そして、粉砕因子が増加するにつれて、すなわち、薄アルミニウムフレークが更に放出されるにつれて、製造関連厚み変動が不利になる。概して、アルミニウムフレークには、亀裂及び散乱摩耗端があり、これにより散乱中心が形成され、顔料の光学特性がますます損われる。この摩耗端は、特に20μm以上の範囲に実施的な直径を有する顔料でより一層発生する。したがって、湿式粉砕によって、大直径の任意に薄いアルミニウムフレークを得ることは不可能である。例えば、特許文献1には、湿式粉砕によって得られ、平均厚みが32nmであるが、d50が10μm未満のアルミニウムフレークが記載されている。しかしながら、より大きなd50を有するアルミニウムフレークについては、上述の亀裂及び散乱摩耗端なしに、この種の平均厚みを実験的に実証することはできなかった。ここで、d50は、アルミニウムフレークの50%が、その特定の値よりも小さくなるアルミニウムフレークの平均粒径を示す。
【0004】
更に薄いアルミニウムフレークを得るために、より複雑で、費用がかかり、エネルギー大量消費型の製造方法が採用されている。従来技術によると、更に薄いアルミニウムフレークは、物理蒸着(略してPVD)によって工業的に製造されている。この方法では、通常、ポリマーフィルムを、まず脱離可能な剥離被膜で被覆し、ナノメートル厚のアルミニウム層を真空蒸着によって適用する。湿式粉砕と比較した場合のこの方法の利点は、非常に平滑で、鏡面様の金属表面が形成されることである。ほぼ完全な金属層をフィルムから脱離させ、次いで粉末状にして、所望のフレークを得ることができる。そのため、PVDによって製造されるアルミニウムフレークは、プロセス特有の結果として、湿式粉砕プロセスから得られるアルミニウムフレークよりも、かなり薄く平滑である。PVDによって製造されるアルミニウムフレークは厚みが小さいため、最終的には、湿式粉砕からのアルミニウムフレークを使用する場合よりも隠蔽力がはるかに高い金属効果顔料を得ることが可能となる。通常、PVDによって製造されるアルミニウムフレークは、5nm~50nmの範囲の厚みを有する。しかしながら、平滑な表面は、凝集傾向が強いという不利点を有する。接触領域は非常に広範囲であるため、乾燥時の凝集傾向は、湿式粉砕からのアルミニウムフレークよりもはるかに顕著である。PVDによって製造されるアルミニウムフレークは、真空金属化顔料(略してVMP)と称されることもある。
【0005】
先に述べたように、着色した、光安定性を有する金属効果顔料は、典型的には、金属酸化物で被覆することによって得られる。基板への着色金属酸化物被膜の供給は、気相中、例えば化学蒸着(略してCVD)によって達成するか、又は水性操作での沈殿、例えば対応する金属ハロゲン化物の加水分解によって達成することができる。顔料の色は、吸収、透過、及び干渉と、金属酸化物被膜の厚み及び屈折率との相互作用によって生じ、特に、金属効果顔料の色を決定する。
【0006】
直接CVDコーティングは、2つあるアルミニウム表面の片側にしか酸化物被膜をもたらさず、その結果、2つのアルミニウム表面のうち一方だけが色を有することになる。金属酸化物で全ての面を均一に被覆するために、流動床法が開発されており、例えば、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4に記載されている。
【0007】
これらの方法では、通例、流動床又は渦巻き層(swirl layer)において、前駆体としてペンタカルボニル鉄、酸化剤として酸素を使用して、基板を酸化鉄で被覆し、任意で、更なる透明酸化物で被覆する。CVD法を使用すると、酸化鉄層の厚みが20nm~35nmの範囲と薄くても、彩度の高い金属効果顔料を製造することができる。これらの金属効果顔料は、例えば、Paliocrom(登録商標)2850(橙色)及びPaliocrom(登録商標)2050(金色)として市販されている。流動床法によるCVDコーティングの不利点は、目的とする基板が気相中で完全に流動化する(移動性を有する)必要があることである。完全には流動化しない場合には、コーティングプロセス中に凝集体が生成する。生成した凝集体は、隠蔽力を損ない、有用な粒径の割合を低減するため、最終的には収率が低下する。
【0008】
PVDを用いて上述の方法によって製造された薄アルミニウムフレークは、凝集傾向が顕著であり、剪断に対する感度が極めて高いため、工業的に使用することは不可能である。非常に薄く、ほぼ完全に平滑なアルミニウムフレークは、流動床において、完全に流動化することはできず、又は、完全に流動化できても大変な困難を伴う。そのため、CVDプロセスによる金属酸化物の被覆に工業的に使用される基板は、湿式粉砕によって製造されたアルミニウムフレークのみである。既に述べたように、湿式粉砕からのアルミニウムフレークは、プロセス特有の結果として、PVDによって製造された薄アルミニウムフレークと比較して著しく厚い。したがって、特許文献3では、湿式粉砕による製造が比較的簡易で安価な、約100nm~200nmの範囲の厚みを有する顔料が特定されている。現在まで、PVDによって製造された薄アルミニウムフレークに基づく流動床CVDコーティングについての記載はない。
【0009】
PVDによって製造された薄アルミニウムフレークを高(屈折)率金属酸化物で被覆するための1つの可能性が、特許文献5に記載されている。ここで、薄アルミニウムフレークは、好ましくは5nm~30nmの範囲の厚みで使用される。顔料は流動床ではなく、代わりに塩溶液の加水分解によって被覆される。全体的な構造としては、高屈折率金属酸化物の層と、例えばSiO2の低屈折率中間層と、低屈折率材料から構成される外層とを含む3層構造が得られる。印刷インクの製造について記載した特許文献6においても、ボールミルを用いた粉砕によって得られた顔料だけではなく、PVDによって製造された薄アルミニウムフレークの使用の可能性についても言及されている。この場合、高屈折率金属酸化物層は、水中での加水分解によって適用され、リン含有添加剤も必要となる。
【0010】
特許文献2にも記載されているように、水性溶媒中での金属酸化物層の適用には多くの不利点がある。沈殿に必要なpHは、アルミニウムと水との反応が起こり得る範囲に位置している。特に薄アルミニウムフレークの場合には、比表面積が大きいため、その反応は致命的である。顔料が攻撃されるため、反応再現性に乏しい。したがって、希釈溶液を使用する必要があり、多数の操作工程も必要である。
【0011】
特許文献7に記載されているように、有機溶媒中での湿式化学酸化による高屈折率金属酸化物層の適用も可能であるが、溶媒中の水分量は依然として3重量%~60重量%である。そして、基板と高屈折率金属酸化物層との間に混合層が形成される。特許文献8及び特許文献2には、被覆を流動床反応器で行うことにより、無水プロセスとする代替方法が記載されている。しかしながら、上述のように、この場合、PVDによって製造された薄アルミニウムフレークは、高比表面積と低表面粗さとの組合せの結果として、乾燥中の凝集傾向が著しく顕著であるために、この種のCVDコーティングに使用することができないという不利点が生じる。そのため、これらのフレークは、流動化できても非常に再現性が乏しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許第2102294号
【特許文献2】欧州特許出願公開第0033457号
【特許文献3】独国特許出願公開第4223384号
【特許文献4】欧州特許出願公開第0562329号
【特許文献5】国際公開第2015/014484号
【特許文献6】国際公開第2009/083176号
【特許文献7】国際公開第2005/049739号
【特許文献8】国際公開第2013/175339号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
よって、本発明は、金属酸化物被膜を備えた薄アルミニウムフレークに基づく高隠蔽性金属効果顔料を製造する方法であって、例えば、CVDに基づく流動床法又は湿式化学沈殿プロセスで発生するような、薄アルミニウムフレークの被覆に関して従来技術で既知の上述の不利点を克服する、方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、特許請求の範囲において特徴付けられる本発明の実施の形態によって達成される。
【0015】
特に、本発明は、金属酸化物被膜を備えたアルミニウムフレークに基づく金属効果顔料を製造する方法であって、
アルミニウムフレークが、5nm~90nmの厚みを有し、かつ、金属酸化物被膜によって被覆されており、
金属酸化物被膜が、5nm~150nmの厚みを有する1種以上の金属酸化物から構成され、かつ、少なくとも1.9の屈折率を有しており、
アルミニウムフレークの表面と金属酸化物被膜との間には、該アルミニウムフレークを被覆する更なる被膜は存在せず、
以下の工程:
(a)アルミニウムフレークを有機溶媒に導入して、対応する分散液を形成し、少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物を添加して、該金属酸化物前駆体化合物を溶解させる工程と、
(b)金属酸化物前駆体化合物を有機溶媒中で分解して、アルミニウムフレーク上に金属酸化物被膜を形成する工程と、
を含む、方法を提供する。
【0016】
本発明の方法では、金属酸化物被膜を備えた薄アルミニウムフレークに基づく高隠蔽性金属効果顔料を提供することができ、本発明によるアルミニウムフレークの被覆は、有機溶媒中で行われる。比較的簡易で安価なコーティング法により、時間及びコストを削減することができると同時に、流動床法及び湿式化学沈殿プロセスにおいて既知の不利点が克服される。特に、薄アルミニウムフレークは凝集を起こさず、また、溶媒による攻撃も受けない。使用するアルミニウムフレークの厚みが小さいことを踏まえると、配置する所与の質量の顔料に対してより広い領域をカバーすることができるため、従来技術における同等の競合製品と比較して、はるかに高い隠蔽力を達成することができる。したがって、本発明の方法によって得られ得る金属効果顔料は、ワニス系においてわずか3%~4%の着色度で隠蔽性を有する。本発明の金属効果顔料は、多様な用途、例えば、特にデジタル印刷プロセス(インクジェット)の一部としての印刷インク、塗装系、又は化粧品等に好適であり、これらの用途では、ペースト形態でそのまま使用することができる。
【0017】
以下、本発明による被覆されたアルミニウムフレークに基づく金属効果顔料を製造する方法をより詳細に説明する。
【0018】
本発明の方法の工程(a)においては、アルミニウムフレークを有機溶媒に導入して、対応する分散液を形成する。また、工程(a)においては、少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物を添加して、金属酸化物前駆体化合物を溶解させる。ここで、アルミニウムフレークの導入と、少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物の添加との順序は重要ではない。すなわち、少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物を添加した後に、アルミニウムフレークを導入してもよい。
【0019】
工程(a)において導入するアルミニウムフレークは不動態化されていてもよい、すなわち、自然酸化層の被膜を有していてもよい。この酸化層の厚みは、典型的には3nm~5nmであり、この厚みは、本発明の目的のために、以下で規定されるアルミニウムフレークの厚みに含まれる。
【0020】
本発明によると、アルミニウムフレークは、5nm~90nmの範囲、好ましくは5nm~50nmの範囲、より好ましくは5nm~30nmの範囲の厚みを有する。薄アルミニウムフレークを使用することで、特に高い隠蔽力を達成することができる。アルミニウムフレークの厚みは平均厚み(average thickness)であり、測定した全ての厚みの数値平均(average)として理解される。平均厚み(mean thickness)とも称される平均厚み(average thickness)は、透過型電子顕微鏡(TEM)画像に基づく測定によって決定される。ここで、平均厚みは、異なるアルミニウムフレークに対する少なくとも200回の測定結果の平均値である。
【0021】
工程(a)において製造されるアルミニウムフレークは、典型的には、最大で30%の厚み変動(Δh)を有する。この厚み変動は、好ましくは最大で25%、例えば最大で20%、より好ましくは最大で15%、更に好ましくは最大で10%である。厚み変動は、厚みSPAN(tSPAN)とも称される、厚み分布の幅から得られる。厚みSPANは、以下の式に従って計算される。
tSPAN=(t90-t10)/t50
【0022】
上述の式におけるインデックスは、累積分布曲線における各値を示している。したがって、t10は、アルミニウムフレークの10%がそのt10厚み値よりも薄くなり、その一方で、アルミニウムフレークの90%が、そのt10厚み値以上の厚みを有することを意味する。
【0023】
厚み変動は、厚みSPANから最終的に百分率の数値として得られる。
Δh=tSPAN×100%
【0024】
本発明の1つの好ましい実施の形態においては、アルミニウムフレークは真空金属化顔料(VMP)である。この場合、アルミニウムフレークは物理蒸着による薄アルミニウムフレークであり、極めて小さい厚み変動を示すため、湿式粉砕によるアルミニウムフレークよりもはるかに平滑である。VMPに基づく金属効果顔料は、高い隠蔽力を有するだけでなく、他の色彩データの点でも優れている。VMPは、様々な供給元から市販されている(Schlenk Metallic Pigments GmbH社製のDecomet(登録商標)、Eckart GmbH社製のMETALURE(登録商標)、BASF SE社製のMetasheen(商標))。
【0025】
アルミニウムフレークの大きさに関する限り、本発明は更なる制限を受けない。アルミニウムフレークの大きさは、典型的には、d50として示される。既に述べたように、d50は、アルミニウムフレークの50%が、その特定の値よりも小さくなるアルミニウムフレークの平均粒径を示す。d50は、好ましくは1μm~100μm、例えば、1μm~50μm、1μm~25μm、1μm~10μm、又は1μm~3μmであるが、これらに限定されるものではない。d50は、レーザー散乱に基づく測定によって決定される。
【0026】
アスペクト比とも称される、アルミニウムフレークの粒径と厚みとの比率も、同様に、ここでは更なる制限を受けない。この比率は、50~5000、100~2000、又は200~1000の範囲に位置することができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
アルミニウムフレークは、工程(a)の前においても分散形態で存在することができる。後述のように、この目的のため、工程(a)で使用する有機溶媒と同一であるか又は異なる、好ましくは異なる有機溶媒を使用する。アルミニウムフレークは、工程(a)の前においてイソプロパノール分散液として存在することができるが、これに限定されるものではない。この溶媒は、工程(b)における被覆操作に実質的に影響を与えない。
【0028】
既に分散形態で存在し得るアルミニウムフレークを、本発明の方法の工程(a)において有機溶媒に導入する。工程(a)において有機溶媒を選択する際には、共に添加する必要のある少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物が、その有機溶媒に十分な溶解性を有するようにする必要がある。さらに、使用する有機溶媒の沸点は、その有機溶媒において工程(b)での少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物の分解に必要な温度よりも高い必要がある。
【0029】
工程(a)における有機溶媒として、例えば、1-メトキシ-2-プロパノール、2-イソプロポキシエタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール400、プロピレンカーボネート、N,N-ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキシド、又はこれらの混合物からなる群より選択されるものを使用することが可能である。特にこの文脈で有利であることが証明されているのは、単にメトキシプロパノールとも称される1-メトキシ-2-プロパノールである。1-メトキシ-2-プロパノールは十分な溶解性を有し、比較的高い沸点も有している。
【0030】
有機溶媒は少量の水を含むことができ、本発明によると、水分は、有機溶媒100質量部に対して1質量部以下であることが好ましい。
【0031】
有機溶媒に導入されたアルミニウムフレークの分散は、例えば撹拌等の機械的作用によって達成することができる。対応する手段は当業者に既知である。
【0032】
さらに、本発明の方法の工程(a)において、少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物を添加して、金属酸化物前駆体化合物を溶解させる。上述のように、少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物の添加は、最初に、すなわち、アルミニウムフレークの導入前に行うこともできる。
【0033】
工程(a)において添加した少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物は、この金属酸化物前駆体化合物の分解により工程(b)において形成される金属酸化物被膜の前駆体として機能する。この被膜は、1種以上の金属酸化物から構成される高屈折率被膜である。そのため、この金属酸化物前駆体化合物は、形成される金属酸化物被膜の各金属を含有する。既に述べたように、使用する有機溶媒におけるその溶解性は十分である必要がある。
【0034】
本発明の文脈における高屈折率被膜は、少なくとも1.9の屈折率を有する金属酸化物被膜を指す。
【0035】
本発明の1つの好ましい実施の形態においては、少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物の金属原子は、鉄、銅、又は亜鉛である。金属酸化物被膜は、例えば、Fe2O3、CuO、ZnO、又はこれらの混合物から構成され得る。これらの金属酸化物は、高屈折率であるという特徴が共通している。この文脈で検討され得る金属酸化物前駆体化合物としては、鉄、銅、又は亜鉛のそれぞれの硝酸塩、酢酸塩、アセチルアセトナート、マロン酸塩、アルコキシド、シュウ酸塩、及びオキシマート(oximates)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。対応するハロゲン化物、オキソハロゲン化物、及び擬ハロゲン化物とは対照的に、これらの化合物は、工程(b)において比較的低温で分解して金属酸化物被膜を形成することができるという利点を有する。さらに、鉄、銅、又は亜鉛のそれぞれの硝酸塩、酢酸塩、アセチルアセトナート、マロン酸塩、アルコキシド、シュウ酸塩、及びオキシマートは、対応するハロゲン化物、オキソハロゲン化物、及び擬ハロゲン化物と比較して、関連する有機溶媒において高い溶解性を有し得る。
【0036】
通常、少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物の金属原子は、錯体化形態で、例えば、尿素錯体又は尿素誘導体錯体の形態で存在することができるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
工程(b)においてFe2O3被膜を形成する場合、使用する金属酸化物前駆体化合物は、例えば、[Fe(H2N(CO)NH2)6](NO3)3とすることができる。工程(b)においてCuO被膜を形成する場合、使用する金属酸化物前駆体化合物は、例えば、[Cu(H2N(CO)NH2)4](NO3)2とすることができる。工程(b)においてZnO被膜を形成する場合、使用する金属酸化物前駆体化合物は、例えば、[Zn(H2N(CO)NH2)4](NO3)2又は[Zn(H2N(CO)NH2)4(H2O)2](NO3)2とすることができる。これら全ての場合において、金属原子は、複数の尿素分子(尿素配位子)と、更には、任意で水分子(アクア配位子)と錯体化される。
【0038】
関連する金属酸化物前駆体化合物の調製は、当業者に既知である。よって、錯体[Fe(H2N(CO)NH2)6](NO3)3及び[Cu(H2N(CO)NH2)4](NO3)2は、例えば、対応する硝酸塩Fe(NO3)3・(H2O)9及びCu(NO3)2・(H2O)3と尿素との反応によって調製することができる。同様に、錯体[Zn(H2N(CO)NH2)4](NO3)2又は[Zn(H2N(CO)NH2)4(H2O)2](NO3)2についても同様である。
【0039】
単一の金属酸化物前駆体化合物の代わりに、工程(a)において2種以上の異なる金属酸化物前駆体化合物を添加することも可能である。これにより、工程(b)において混合金属酸化物層の形成を達成することが可能となる。原理的には、交互層の形成も考えられるが、本発明によると、工程(a)において1種の金属酸化物前駆体化合物のみを添加することが好ましい。というのも、これにより、屈折率、及びひいては金属効果顔料の色もより効果的に制御することができるからである。
【0040】
金属効果顔料の色は、金属酸化物被膜の屈折率だけではなく、金属酸化物被膜の厚みによっても強く決定される。金属酸化物被膜の厚みは、工程(a)における関連する金属酸化物前駆体化合物の添加量によって調節することができる。当然ながら、アルミニウムフレークの所与の導入量に対して、関連する金属酸化物前駆体化合物の添加量が増加するにつれて、金属酸化物被膜の厚みは大きくなる。ここで、金属酸化物前駆体化合物の添加量は、工程(b)において5nm~150nm、例えば、10nm~100nm又は20nm~75nmの厚みを有する金属酸化物被膜が形成されるように調節される。
【0041】
本発明の方法の工程(b)において、金属酸化物前駆体化合物は有機溶媒中で分解されて、アルミニウムフレーク上に金属酸化物被膜を形成する。
【0042】
関連する金属酸化物前駆体化合物の分解を達成するために、アルミニウムフレークと、添加した金属酸化物前駆体化合物との有機溶媒分散液を、分解が起こるのに必要な温度まで加熱する。したがって、分解は熱分解である。上述のように、有機溶媒の沸点は、関連する有機溶媒において少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物の分解のために必要とされる温度よりも高い必要がある。熱分解の結果として、各金属酸化物がアルミニウムフレーク上に堆積し、任意で不動態化される。その結果、アルミニウムフレークを被覆する金属酸化物被膜が形成される。この被膜は、初期には、関連する金属酸化物前駆体化合物に由来する残留有機物をまだ含有している可能性がある。
【0043】
工程(b)の後、得られる金属効果顔料はペースト形態であり、対応する目的のためにそのまま使用してもよく、又は乾燥せずに溶媒を交換若しくは変更することにより、様々な目的に適合させてもよい。ただし、代替的な選択肢として、金属効果顔料をそのまま使用せず、代わりに固形形態で保管する、噴霧乾燥の実施がある。例えば、更なる選択肢として、ジフェニルエーテルにおけるか焼がある。これにより、関連する金属酸化物前駆体化合物に由来する残留有機物が分解される。
【0044】
本発明によると、アルミニウムフレークの表面と、これを被覆し、5nm~150nmの厚みを有する1種以上の金属酸化物から構成され、少なくとも1.9の屈折率を有する金属酸化物被膜との間に、アルミニウムフレークを被覆する更なる被膜は存在しない。
【0045】
しかしながら、必要に応じて、任意の層を金属酸化物被膜上に形成することができる。この層が存在する場合、外部保護層として機能し、必然的に1.8未満の屈折率を有する。任意の層は、例えば、SiO2で構成することができる。金属酸化物被膜又はその上に任意で形成された外部保護層のシランによる修飾も可能である。
【0046】
更なる態様において、本発明は、上記の本発明の方法によって得られ得る、金属酸化物被膜を備えたアルミニウムフレークに基づく金属効果顔料であって、
アルミニウムフレークが、5nm~90nmの厚みを有し、かつ、金属酸化物被膜によって被覆されており、
金属酸化物被膜が、5nm~150nmの厚みを有する1種以上の金属酸化物から構成され、かつ、少なくとも1.9の屈折率を有しており、かつ、
アルミニウムフレークの表面と金属酸化物被膜との間には、該アルミニウムフレークを被覆する更なる被膜は存在しない、金属効果顔料に関する。
【0047】
本発明の金属効果顔料は、本発明の金属効果顔料を製造する方法に関する上述の記載に類似的に従うものとする。
【0048】
本発明の金属効果顔料は、3%の着色度で、色差dE110°が1.5未満である。本発明の金属効果顔料は、4%の着色度で、色差dE110°が1.0未満となることもあり得る。金属効果顔料の隠蔽力の尺度である色差dE110°は、DIN55987基準に準拠して測定する。
【0049】
最後に、本発明は、印刷インク、インクジェット用途、塗装系、プラスチックの原料着色、又は化粧品のための、本発明の金属効果顔料の使用に関する。上述のように、高い隠蔽力を特徴とする本発明の金属効果顔料は、多くの場合、事前に乾燥させることなく、ペースト形態でそのまま使用することができる。本発明の金属効果顔料は、特にデジタル印刷プロセス(インクジェット)に対して特に有利であることが証明されている。
【0050】
本発明は、簡易で安価な方法で製造することができる金属酸化物被膜を備えた薄アルミニウムフレークに基づく高隠蔽性金属効果顔料を提供することができる。特に、本発明は、例えば、CVDに基づく流動床プロセス又は湿式化学沈殿プロセスで発生するような、薄アルミニウムフレークの被覆に関して従来技術で既知の不利点を克服する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】本発明の金属効果顔料、及び、更には従来技術の金属効果顔料の色差dE110°を、着色度(%)の関数としてプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0052】
以下の例により本発明を更に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0053】
実施例1
Fe2O3被膜を備えたアルミニウムフレークの粉末
金属酸化物前駆体化合物[Fe(H2N(CO)NH2)6](NO3)3の合成:
30.062g(0.5005mol)の尿素を、穏やかに加熱(40℃)しながら、700mlのエタノールに溶解させた。続いて、175mlのエタノールに31.11g(0.077mol)のFe(NO3)3・(H2O)9を溶解させた溶液を添加した。この溶液を2時間撹拌し、その時点で形成された固体[Fe(H2N(CO)NH2)6](NO3)3を濾過によって分離し、エタノールで洗浄し、50℃の乾燥キャビネット内で12時間乾燥させた。収量は33.8g(73%)であった。
【0054】
溶液中の[Fe(H2N(CO)NH2)6](NO3)3の熱分解による薄アルミニウムフレークの被覆:
厚みが25nm、d50が21μmのアルミニウムフレーク(VMP、Schlenk Metallic Pigments GmbH社製のDecomet(登録商標))1.1gを含有する、アルミニウムフレークのイソプロパノール分散液11gを、1リットルの1-メトキシ-2-プロパノールに分散させた。そこに、10gの[Fe(H2N(CO)NH2)6](NO3)3を溶解させ、分散液を2時間還流下に沸騰加熱(120℃)した。
【0055】
更なる2つの工程において、各場合で冷却に続いて10gの[Fe(H2N(CO)NH2)6](NO3)3を添加し、各場合で分散液を2時間還流下に沸騰加熱した。したがって、合計30gの金属酸化物前駆体化合物を使用した。
【0056】
冷却後に、このようにして得られた試料を濾過し、固形生成物をイソプロパノールで洗浄し、乾燥せずにイソプロパノールに分散させた。続いて、懸濁液を噴霧乾燥して、最終的に金色の粉末を得た。
【0057】
実施例2
Fe2O3被膜を備えたアルミニウムフレークの懸濁液
金属酸化物前駆体化合物[Fe(H2N(CO)NH2)6](NO3)3の合成:
実施例1と同様に合成を行った。
【0058】
溶液中の[Fe(H2N(CO)NH2)6](NO3)3の熱分解による薄アルミニウムフレークの被覆:
厚みが25nm、d50が21μmのアルミニウムフレーク(VMP、Schlenk Metallic Pigments GmbH社製のDecomet(登録商標))0.24gを含有する、アルミニウムフレークのイソプロパノール分散液1gを、100mlの1-メトキシ-2-プロパノール及び0.5mlの水に分散させた。そこに、0.5gの[Fe(H2N(CO)NH2)6](NO3)3を溶解させ、分散液を2時間還流下に沸騰加熱(120℃)した。これを冷却した後、0.5gの[Fe(H2N(CO)NH2)6](NO3)3を更に添加し、分散液を再度2時間還流下に沸騰加熱した。
【0059】
分散液を冷却した後、溶媒を濾過によってゆっくりと除去し、その間に得られた試料の完全な乾燥を回避した。次いで、この試料を100mlの新たな1-メトキシ-2-プロパノール及び0.5mlの水に分散させた。0.5gの[Fe(H2N(CO)NH2)6](NO3)3を再度添加し、分散液を2時間還流下に沸騰加熱した。分散液を冷却した後、最後に、0.5gの[Fe(H2N(CO)NH2)6](NO3)3を更に添加し、分散液を再度2時間還流下に沸騰加熱した。
【0060】
上述の工程を全体として1回繰り返したため、合計3.0gの金属酸化物前駆体化合物を使用した。
【0061】
冷却後、このようにして得られた試料を濾過し、固形生成物をイソプロパノール及び酢酸エチルで洗浄し、乾燥せずに酢酸エチルに再分散させて、最終的に金色の懸濁液を得た。
【0062】
実施例3
CuO被膜を備えたアルミニウムフレークの粉末
金属酸化物前駆体化合物[Cu(H2N(CO)NH2)4](NO3)2の合成:
2.7g(0.045mol)の尿素を、穏やかに加熱(40℃)しながら、100mlのブタノールに溶解させた。溶液を室温に冷却した後、2.42g(0.01mol)のCu(NO3)2・(H2O)3を添加した。この溶液を2時間撹拌し、その時点で形成された固体[Cu(H2N(CO)NH2)4](NO3)2を濾過によって分離し、ブタノール及びアセトンで洗浄し、50℃の乾燥キャビネット内で16時間乾燥させた。収量は3.176g(74.3%)であった。
【0063】
溶液中の[Cu(H2N(CO)NH2)4](NO3)2の熱分解による薄アルミニウムフレークの被覆:
厚みが25nm、d50が21μmのアルミニウムフレーク(VMP、Schlenk Metallic Pigments GmbH社製のDecomet(登録商標))0.24gを含有する、アルミニウムフレークのイソプロパノール分散液1gを、100mlの1-メトキシ-2-プロパノールに分散させた。そこに、様々な量の[Cu(H2N(CO)NH2)4](NO3)2を複数の工程において溶解させ、各工程において、分散液を2時間還流下に沸騰加熱(120℃)した。
【0064】
最初の2つの工程においては、0.2gの[Cu(H2N(CO)NH2)4](NO3)2を添加する一方で、次の2つの工程においては、0.3gの[Cu(H2N(CO)NH2)4](NO3)2を添加した。その時点で、その間に得られた試料を、プロセスで乾燥することなく、濾過によってゆっくりと分離し、100mlの1-メトキシ-2-プロパノールに再分散させた。次いで、更なる2つの工程において、0.5gの[Cu(H2N(CO)NH2)4](NO3)2を添加した。
【0065】
その間に得られた試料を、プロセスで乾燥することなく、再度濾過によって分離し、再度100mlの1-メトキシ-2-プロパノールに再分散させた。更なる2つの工程において、0.5gの[Cu(H2N(CO)NH2)4](NO3)2を添加した。したがって、合計3.0gの金属酸化物前駆体化合物を使用した。
【0066】
続いて、このようにして得られた試料を、プロセスで乾燥することなく、濾過によって分離し、50mlのジフェニルエーテルに分散させて、5分間沸騰加熱(258℃)した。冷却後、試料を濾過により分離し、エタノール、アセトン、及びジエチルエーテルで洗浄し、50℃で16時間乾燥させて、最終的に淡い金色の粉末を得た。
【0067】
色彩データの検討
実施例1~実施例3の金属効果顔料を色彩データについてより詳細に検討し、従来技術の金属効果顔料と比較した。
【0068】
色彩データは、対応するドローダウンカード(drawdown cards)上での測定によって求めた。この目的のために、固形分が10%の溶媒系ニトロセルロース/ポリシクロヘキサノン/ポリアクリルワニス中、様々な着色度での各金属効果顔料のナイフ塗工ドローダウンを、Zehntner社製の自動フィルム塗工装置で38μmワイヤードクターを用いて、TQC社製の白/黒DIN A5カード上に作製した。ここで、着色度とは、各場合において、ワニス混合物全体に対する顔料の割合を指す。ここで、全ての百分率は、重量%として理解されるものとする。
【0069】
60°光沢測定以外では、色彩データはByk社製のByk-mac i機器を使用して測定した。色差dE110°で表される隠蔽力を求めるために、DIN A5カードの白面及び黒面で色彩データを測定した。60°光沢測定は、Byk社製のByk micro-TRI-gloss機器を使用して行った。結果を以下の表1にまとめる。
【0070】
【0071】
本発明の実施例1~実施例3の金属効果顔料の色差dE110°について表1に含まれる値を、着色度(%)の関数として
図1にプロットする。また、
図1には、同じ測定方法によって求めた、従来技術の金属効果顔料の色差dE110°の値も示す。これらの値の比較から明らかなように、本発明の金属効果顔料は、色差dE110°の値がより低いことから分かるように、著しく高い隠蔽力を有する。よって、わずか3%の着色度で、1.5未満の色差dE110°が得られる。4%の着色度では、実に、色差dE110°は1.0よりも大幅に低くなる。従来技術の金属効果顔料の場合には、逆に、これを達成するために必要な着色度は約2倍大きくなる。
【手続補正書】
【提出日】2021-07-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物被膜を備えたアルミニウムフレークに基づく金属効果顔料を製造する方法であって、
前記アルミニウムフレークが、5nm~90nmの厚みを有し、かつ、前記金属酸化物被膜によって被覆されており、
前記金属酸化物被膜が、5nm~150nmの厚みを有する
Fe
2
O
3
、CuO、ZnO、又はこれらの混合物から構成され、かつ、少なくとも1.9の屈折率を有しており、
前記アルミニウムフレークの表面と前記金属酸化物被膜との間には、該アルミニウムフレークを被覆する更なる被膜は存在せず、
以下の工程:
(a)前記アルミニウムフレークを有機溶媒に導入して、対応する分散液を形成し、少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物を添加して、該金属酸化物前駆体化合物を溶解させる工程と、
(b)前記金属酸化物前駆体化合物を前記有機溶媒中で分解して、前記アルミニウムフレーク上に前記金属酸化物被膜を形成する工程と、
を含
み、
前記少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物が、鉄、銅、又は亜鉛の硝酸塩、酢酸塩、アセチルアセトナート、マロン酸塩、アルコキシド、シュウ酸塩、及びオキシマートからなる群より選択される、
方法。
【請求項2】
前記アルミニウムフレークが、最大で30%の厚み変動(Δh)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルミニウムフレークが真空金属化顔料である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、1-メトキシ-2-プロパノール、2-イソプロポキシエタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール400、プロピレンカーボネート、N,N-ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキシド、又はこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が1-メトキシ-2-プロパノールである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アルミニウムフレークが、工程(a)の前においても分散形態で存在しており、この目的のために、工程(a)で使用する前記有機溶媒と同一であるか又は異なる、好ましくは異なる有機溶媒を使用する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルミニウムフレークが、工程(a)の前においてイソプロパノール分散液として存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物の金属原子が、錯体化形態で存在する、請求項
1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記錯体化形態が、尿素錯体又は尿素誘導体錯体である、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種の金属酸化物前駆体化合物が、[Fe(H
2N(CO)NH
2)
6](NO
3)
3、[Cu(H
2N(CO)NH
2)
4](NO
3)
2、及び[Zn(H
2N(CO)NH
2)
4](NO
3)
2からなる群より選択される、請求項
1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法によって得られ得る、金属酸化物被膜を備えたアルミニウムフレークに基づく金属効果顔料であって、
前記アルミニウムフレークが、5nm~90nmの厚みを有し、かつ、前記金属酸化物被膜によって被覆されており、
前記金属酸化物被膜が、5nm~150nmの厚みを有する
Fe
2
O
3
、CuO、ZnO、又はこれらの混合物から構成され、かつ、少なくとも1.9の屈折率を有しており、かつ、
前記アルミニウムフレークの表面と前記金属酸化物被膜との間には、該アルミニウムフレークを被覆する更なる被膜は存在しない、金属効果顔料。
【請求項12】
3%の着色度で、色差dE110°が1.5未満である、請求項
11に記載の金属効果顔料。
【請求項13】
印刷インク、インクジェット用途、塗装系、プラスチックの原料着色、又は化粧品のための、請求項
11又は
12に記載の金属効果顔料の使用。
【国際調査報告】