IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エヌフォー ファーマ ユーケー リミテッドの特許一覧

特表2023-523944トランスフェクションおよび形質導入システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(54)【発明の名称】トランスフェクションおよび形質導入システム
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/87 20060101AFI20230601BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20230601BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230601BHJP
   C12N 15/867 20060101ALN20230601BHJP
   C12N 15/861 20060101ALN20230601BHJP
   C12N 15/86 20060101ALN20230601BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
C12N7/00
C12N15/63 Z
C12N15/867 Z
C12N15/861 Z
C12N15/86 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564491
(86)(22)【出願日】2021-04-21
(85)【翻訳文提出日】2022-12-21
(86)【国際出願番号】 GB2021050960
(87)【国際公開番号】W WO2021214462
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】2005957.2
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520167232
【氏名又は名称】エヌフォー ファーマ ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】テミス,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】テンプルトン,デイビッド
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BA05
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、ウイルスおよびウイルス様種(virus-like species)のための、身体への送達媒体としてのシリカ有機ナノ粒子の作成および使用に関する。本ナノ粒子は典型的には中空コアを有し、身体への送達のために表面に効果的に種を付着させることのできる表面形態を有する。特に、本発明は、トランスフェクションおよび形質導入を行うのに有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ナノ粒子;および
1種以上の送達成分;
を含む組成物であって、
前記ナノ粒子が表面に突起を有し;
前記ナノ粒子が50nm~3000nmの範囲の直径を有し;
前記無機ナノ粒子が少なくとも部分的にトランスフェクション剤によって被覆されており;
前記1種以上の送達成分が、ベクター、ウイルス、ウイロイド、プリオン、ウイルス様粒子、ウイルス由来成分、およびこれらの混合物から選択される;
組成物。
【請求項2】
前記ナノ粒子がシリカを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ナノ粒子が、
無機化合物を含んだシェル;
前記シェルの内面によって定義される容量を有する中空コア;および
前記シェルの外部に配置された前記無機化合物を含む複数の突起;を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ナノ粒子がメソポーラスである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ナノ粒子が中空である、前記いずれかの請求項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ナノ粒子がランブータン様またはモーニングスター様である、前記いずれかの請求項に記載の組成物。
【請求項7】
前記突起がフィンガーまたはスパイクを含む、前記いずれかの請求項に記載の組成物。
【請求項8】
前記トランスフェクション剤がカチオン性ポリマーである、前記いずれかの請求項に記載の組成物。
【請求項9】
前記トランスフェクション剤がポリアルキルイミン、キトサン、ポリリジン、DEAE-デキストラン、ポリブレン、またはポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーであり、好ましくは前記トランスフェクション剤がポリアルキルイミンであり、より好ましくは前記トランスフェクション剤がポリエチルイミン(PEI)である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記ナノ粒子が前記1種以上の送達成分によって少なくとも部分的に被覆されている、前記いずれかの請求項に記載の組成物。
【請求項11】
前記ナノ粒子が少なくとも2種、好ましくは少なくとも3種の送達成分を含む、前記いずれかの請求項に記載の組成物。
【請求項12】
前記1種以上の送達成分がウイルスベクター、プラスミド、またはそれらの混合物を含む、前記いずれかの請求項に記載の組成物。
【請求項13】
前記1種以上の送達成分がウイルス由来成分を含み、前記ウイルス由来成分がビリオン、キャプシド、ウイルス核酸、ウイルスDNA、ウイルスRNA、ウイルスタンパク質、
およびウイルスベクターから選択される、前記いずれかの請求項に記載の組成物。
【請求項14】
前記ウイルス由来成分がレンチウイルス由来である、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
さらに細胞を含む、前記いずれかの請求項に記載の組成物。
【請求項16】
前記細胞がCAR-T細胞またはTCR-T細胞である、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
治療における使用のための、前記いずれかの請求項に記載の組成物。
【請求項18】
前記治療が遺伝子治療である、請求項15に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
癌、感染症、または自己免疫疾患の治療または予防における使用のための、請求項15に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
遺伝性疾患、癌、感染症、または自己免疫疾患の治療のための薬剤の製造における、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項21】
請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物を患者に投与することを含む、患者における疾患を治療する方法。
【請求項22】
請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物を製造する方法であって、
i)突起を表面に有する無機ナノ粒子を1種以上の送達成分と混合する工程であって、
前記ナノ粒子が50nm~3000nmの範囲の直径を有し、
前記送達成分が、ベクター、ウイルスベクター、プラスミド、ウイルス、ウイロイド、プリオン、ウイルス様粒子、ウイルス由来成分、およびこれらの混合物から選択される、
前記工程;を含む、
方法。
【請求項23】
細胞のトランスフェクションまたは形質導入の方法であって、
i)請求項1~14のいずれかに記載の組成物を提供する工程;および
ii)前記組成物を細胞とともにインキュベートする工程;を含む、
方法。
【請求項24】
前記1種以上の送達成分がウイルスベクターを含む、請求項21に記載の細胞の形質導入の方法。
【請求項25】
前記1種以上の送達成分がプラスミドを含む、請求項21に記載の細胞のトランスフェクションの方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子と1種以上の送達成分とを含む組成物、および該送達成分の細胞への導入方法に関する。本発明はまた、治療における該組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は医薬への多大な投資の末に臨床で使われるようになった。臨床試験の申請も増加しており、2015年と2017年の間には、ヒトにおける遺伝性疾患の治療のための治療遺伝子を送達する、例えばストリムベリス(Stremvellis(GSK))、グリベラ(登録商標)(Glybera(登録商標)(Uniqure))、およびキムリア(登録商標)(Kymriah(登録商標)(Novartis))等の、ウイルスを基盤とした製品を使用した申請が1800件超認可された。遺伝子治療は治療遺伝子の機能的なコピーを送達するためにこれらのベクターに依存している。しかし、これらのベクターを臨床上妥当な予算内で大量生産する必要があることが遺伝子治療を成功させる上で大きな制約となっている。この制約の例として、リポタンパク質リパーゼ欠損症の治療を目的とした療法であるグリベラ(登録商標)の中止が挙げられる。この療法は、希少適応症(orphan indication)、研究開発コスト、および製造コスト等の多くの要因のため、全体コストが高額すぎると決定された。
【0003】
過去40年以上にわたり、ウイルスベクターの製造のためのいくつかのプロトコルが遺伝子治療向けに開発され、コストは減少してきている。ベクターは通常、安全上の理由で、複製能を持たないウイルスとして生成される。これらのベクターを作成するため、野生型ウイルスゲノムが通常有する、製造に必要な遺伝子が取り出された。ウイルス構造やエンベロープ(細胞付着に必要)のための遺伝子を含むこれらの遺伝子を、プラスミドベクター上に配置する。これらプラスミドベクターを特別な産生細胞(producer cell)へトランスフェクトし、該細胞が、感染可能だが複製できない組換型の前記ウイルスを生成できるようにする。従って、産生細胞は、選択のための特別なパッケージングシグナルを有する、前記治療組換ウイルスゲノムのためのプラスミドにコードされる産物のみをパッケージングすることができる。一例として、レトロウイルスベクターであって、自身のゲノムから取り出されて2個のプラスミドベクター上に配置された構造gag、pol、およびenv遺伝子を有するものが挙げられる。第3のプラスミドは前記治療ゲノムを有する。全3種のプラスミドをヒト細胞にトランスフェクトすることで、治療用の、感染性のある、複製欠損のレトロウイルスベクターが作成される。
【0004】
主な欠点としては、一部のエンベロープが産生細胞に対して毒性を示し、そのためウイルスの産生が一過性であることが挙げられる。この一過性トランスフェクションは現在、レトロウイルスおよびアデノウイルスのみならず、アデノ関連ウイルスの作成においても用いられる「ゴールド・スタンダード」の手法となっている。数年にわたり、複数の研究グループが、細胞をトランスフェクトするための最適なトランスフェクション剤を探索してきた。よく用いられるトランスフェクション剤のいくつかの例として、ポリエチレンイミン(PEI)、FuGENE(登録商標)、リポフェクタミン(Lipofectamine(登録商標))、およびトランスフェクタム(Transfectam)がある。
【0005】
理想的には、3種全てのプラスミドを一度に結合しうるトランスフェクション剤であれば、それら3種のプラスミドが全て同一の細胞に到達し、良好なウイルス産生をもたらす可能性が最も高いと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/097226号
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の態様において、無機ナノ粒子;および1種以上の送達成分;を含む組成物であって、前記ナノ粒子が表面に突起を有し;前記ナノ粒子が50nm~3000nmの範囲の直径を有し;前記無機ナノ粒子が少なくとも部分的にトランスフェクション剤によって被覆されており;前記1種以上の送達成分が、ベクター、ウイルスベクター、プラスミド、ウイルス、ウイロイド、プリオン、ウイルス様粒子、ウイルス由来成分、およびこれらの混合物から選択される;組成物が提供される。
【0008】
前記組成物はトランスフェクションおよび形質導入を行うのに適している。
【0009】
「ナノ粒子」という語は、当該分野における通常の意味で解釈されることを意図している。従って、これには、粒子を球体に近似した場合に、ナノスケール、すなわち1nm~1000nmの範囲の平均直径を有する粒子が包含される。
【0010】
本明細書で用いられる「直径」という語は、ナノ粒子表面上に提供された突起を含めてナノ粒子を球体に近似した場合の、前記ナノ粒子の直径を記述することを意図している。
【0011】
疑義を回避するため、「無機」という語は、炭素を含まない材料を指すことを意図している。
【0012】
典型的には、前記ナノ粒子は、シリカ、チタニア、アルミナ、またはそれらの組み合わせから選択される無機材料を含む。しかし、多くの例において、前記ナノ粒子はシリカを含むであろう。シリカは多数の異なる種で必要に応じて十分に機能性を持たせうることから、本発明におけるナノ粒子として良好に機能することが分かっている。該ナノ粒子は前記無機材料からなっていてもよく、または前記無機材料から本質的になっていてもよい。特定の成分から本質的になる組成物は該特定の成分を含み、存在している任意の他の成分は本質的に無視しうる量(例えば0.5重量%未満)で提供される。すなわち、いずれの単数または複数の添加成分も前記特定の成分の機能に実質的に影響しない。
【0013】
前記ナノ粒子は典型的には中空である。多くの送達システムでは、ベシクルまたはミセル構造を用いて送達成分を内在化し、その後、標的部位への到達の際に該成分を放出させるが、前記中空ナノ粒子は、典型的には送達成分をその中空構造内に含まない。しかし、一部の実施形態においては、前記ナノ粒子の中空構造内に、送達成分、またはトランスフェクションを引き起こすのに有用な他の材料を有していてよい。トランスフェクションを引き起こすのに有用というわけでない他の成分、例えば医薬活性薬剤などを、単独で、または他の成分もしくは送達成分とともに、前記ナノ粒子の中空構造内に有していてもよい。前記成分はトランスフェクションによって生ずる効果とは別に、または該効果とともに、作用するように放出されてよい。
【0014】
一部の実施形態において、前記ナノ粒子は、無機化合物を含んだシェル;前記シェルの内面によって定義される容量を有する中空コア;および、前記シェルの外部に配置された前記無機化合物を含む複数の突起;を含んでいてよい。典型的には、前記突起は前記シェルと一体化している。
【0015】
「メソポーラス」という語は、当該分野における通常の意味で解釈されることを意図している。特に、それはメソポア、すなわち、2nm~50nm、より典型的には5nm~40nm、一部の例においては10nm~30nmの幅(すなわち孔径)を有する細孔、
を有した材料のことを指す。前記細孔は典型的には前記粒子のシェルに位置しており、典型的には前記シェルの厚さ全体にわたって伸びる。一部の実施形態においては、前記細孔を介して材料を前記ナノ粒子の中空コアに装填することができる。しかし、多くの例において、前記コアは空のままである。すなわち、前記コアには特に何の材料も導入されない。
【0016】
典型的には、前記ナノ粒子は前記1種以上の送達成分によって少なくとも部分的に被覆されている。前記送達成分により、典型的には、前記ナノ粒子の外部表面が被覆される。しかし、前記ナノ粒子は、送達剤の結合を促進するために1種以上の官能基で官能化されてよい。
【0017】
前記無機ナノ粒子は、少なくとも部分的にトランスフェクション剤でその外部表面が被覆されている。「トランスフェクション剤」という語は、当該分野における通常の意味で解釈されることを意図している。特にそれは、トランスフェクトされる活性薬剤の能力を高める化合物または物質のことを指す。これは、送達システム自身(この場合、無機ナノ粒子)もしくは活性材料が細胞膜を透過する能力を高めること、および/または、活性成分の能力を改善して標的細胞の遺伝物質へと組み込まれるようにすることによるものでありうる。この場合、典型的には、前記トランスフェクション剤は、前記無機材料上の電荷をマスクし、送達剤のナノ粒子への結合を促すように提供される。
【0018】
トランスフェクション剤と本明細書に記載の無機ナノ粒子との組み合わせは、トランスフェクションを促進するのに特に効果的であることが明らかになっている。
【0019】
しばしば、前記トランスフェクション剤は、実質的に前記ナノ粒子表面の少なくとも半分、より典型的には前記粒子表面の少なくとも75%、最も典型的には前記ナノ粒子表面の実質的に全てを被覆する。本明細書で用いられる「実質的に全て」という語は、典型的には前記ナノ粒子表面の95%以上のことを意味する。
【0020】
前記トランスフェクション剤はポリマーであることが多い。ポリマー材料は前記粒子を良好に被覆する。さらに、トランスフェクション剤のメカニズムは、効果を最大化するためにポリマー構造を利用することが多い。前記ポリマーは共重合体であってよい。例えば、該共重合体は、ブロック共重合体、交互共重合体、統計的共重合体(statistical copolymer)、またはそれらの組み合わせであってよい。
【0021】
トランスフェクション剤の選択は特に限定されない。典型的には、トランスフェクション剤はカチオン性である。カチオン性化合物、および特にカチオン性ポリマーは、核酸等の負に荷電した種の結合を促進するため、有利である。前記カチオン性ポリマーは、典型的にはポリアミンを含む。前記カチオン性ポリマーはポリペプチド、例えばポリアルギニン、ポリリジン、またはポリヒスチジンであってよい。
【0022】
一部の実施形態において、前記カチオン性化合物はキトサンまたはその誘導体である。一部の例において、前記キトサンのアミノ基のうち、ある割合はアルキル化されており、多くの場合トリアルキル化されている(すなわち、3個のアルキル基、例えば3個のメチル基によってアルキル化されている)。あるいは、前記カチオン性ポリマーはポリアミドアミン(PAMAM)、PAMAMデンドリマー、ポリリジン、DEAR-デキストラン、またはポリブレンであってよい。FuGENE(登録商標)、リポフェクタミン、およびトランスフェクタム等の市販のトランスフェクション剤を使用してもよい。
【0023】
前記トランスフェクション剤はポリアルクリルイミン(polyalklylimine)を含む場合がある。当業者が理解するように、一部の状況においては、トランスフェ
クション剤は一連のアミン結合(-NH-)を含むことが有利である。このような基は細胞への送達を強化する様式で核酸と反応することが示されている。また、本発明で用いるためのトランスフェクション剤は、上記2種以上の組み合わせであってもよい。
【0024】
用いるポリアルキルイミンの種類は特に限定されず、直鎖、分岐鎖、または樹状ポリアルキルイミンであってよく、それらの組み合わせであってもよい。分岐鎖または樹状ポリアルキルイミンが用いられる場合が多い。前記ポリアルキルイミンは、2000da~40,000daの範囲、より典型的には10,000da~25,000daの範囲の重量平均分子量を有していてよい。一部の実施形態において、前記ポリアルキルイミンは、3000da~7000daの範囲、より典型的には約5000daの重量平均分子量を有する。
【0025】
典型的には、前記ナノ粒子は、少なくとも1.0重量%のトランスフェクション剤を含む。より典型的には、前記ナノ粒子は、少なくとも2.0重量%、一部の例においては少なくとも5.0重量%のトランスフェクション剤を含む。典型的には、前記ナノ粒子は、6.0~15重量%の範囲のトランスフェクション剤を含む。
【0026】
典型的には、前記ポリアルキルイミンはポリエチレンイミン(PEI)である。PEIはトランスフェクション剤として良好に作用することが示されている。PEIは直鎖状あってでも分岐鎖状であってもよい。また、前記PEIは一般的には分岐鎖PEIである。
【0027】
また典型的には、前記ナノ粒子は、さらに、前記トランスフェクション剤をそこに結合するための1つ以上の部分を有する。当業者が理解するであろうように、異なるトランスフェクション剤は、異なる無機材料から構築されたナノ粒子に異なる結合を示す。従って、各種の部分を用いて、前記ナノ粒子と前記トランスフェクション剤との間の良好な結合を確保することができる。しかし、典型的には、前記ナノ粒子の外部表面は、少なくとも部分的に1つ以上の酸性基によって被覆されている。酸性基の典型的な例としては、ホスホネート、ホスフェート、サルフェート、カルボキシレート、アルファ・ケトカルボキシレート、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。これらの基のうち、ホスフェート、ホスホネート、およびサルフェートが最も頻繁に用いられる。典型的には前記酸性基はホスホネートであり、例としてメチルホスホネート(例えば3-(トリヒドロキシシリル)プロピルメチルホスホネート)が挙げられる。前記ナノ粒子の表面上に酸性基を提供することは、これらの基が典型的には負に荷電していることから有利である。これにより、前記ナノ粒子の荷電表面上の負電荷を増加させ、ひいては前記ナノ粒子表面への前記トランスフェクション剤の結合が改善される。
【0028】
コア、すなわち前記シェル内の空間は、典型的には50nm~500nm、例えば75~300nmの範囲の直径を有する。また、前記シェルは、典型的には10nm~200nmの範囲の厚さを有する。
【0029】
前記ナノ粒子の粒径は、典型的には50nm~3000nm、より典型的には75nm~2000nm、さらに典型的には100nm~1000nm、多くは100nm~500nmの範囲である。一部の例において、前記ナノ粒子は100nm~300nmの範囲である。疑義を回避するため、本明細書における「粒径」という語は、球体に近似した場合のナノ粒子の直径を記載することを意図している。また、複数のナノ粒子の平均粒径は、典型的には50nm~3000nm、より典型的には75nm~2000nm、さらに典型的には100nm~1000nm、多くは100nm~500nmの範囲である。一部の例において、前記ナノ粒子は100nm~300nmの範囲である。「平均」という語は平均値を指すことを意図している。本明細書で言及する粒径は、典型的には、動的光散乱を利用して、またはSEM画像の参照によって、測定されたものである。
【0030】
前記ナノ粒子は典型的には、粗い、または「スパイキー(spiky)な」表面形態を有する。例えば、前記ナノ粒子はランブータン様またはモーニングスター様であってよい。特に、前記粒子の表面上の突起は、複数のスパイクまたはフィンガー様構造を該表面上に形成し、それらの間に物質をからめとることができることが多い。
【0031】
前記突起は、一般的に前記シェルから放射状に外向きに伸長しており、典型的にはシェルと同じ無機材料である。前記突起は、典型的には、前記中空ナノ粒子の表面積を増加させる。典型的には、前記突起は、前記コアの直径以下の長さを有する。多くの場合、前記突起の長さは5nm~1000nmの範囲、より典型的には10nm~200nmの範囲、さらに多くの場合に50nm~150nmの範囲である。前記突起の長さは典型的には実質的に均一であるが、突起の長さにばらつきがあってもよい。本明細書で用いられる「実質的に均一」という語は、典型的には平均突起長から±15%を意味する。
【0032】
前記突起は、典型的には2nm~50nm、より典型的には5nm~25nm、さらに典型的にはおよそ10nm~20nmの範囲の直径を有する。本明細書で言及される直径とは、前記突起の基部、すなわち前記突起がシェルと隣接する部分における直径のことを指す。
【0033】
前記ナノ粒子は高度に単分散していてよい。典型的には、前記ナノ粒子の多分散性指数(PDI;分散指数としても知られる)は0.3以下であり、より典型的には0.15以下であり、さらに典型的には0.1以下であり、一部の例では0.05以下である。分散指数は、二次平均(quadratic average)(すなわち、測定された直径の二乗の平均値d)と、測定された直径の算術平均の二乗との比として算出することができる。前記分散指数の算出は、ISO規格文書13321:1996EおよびISO22412:2008に定義される通りであってよい。
【0034】
前記ナノ粒子は、典型的には大きな表面積を有する。例えば、前記ナノ粒子は、少なくとも120cm/g、より典型的には例えば少なくとも150cm/gのBET表面積を有していてよい。一部の実施形態において、前記ナノ粒子は少なくとも140cm/gのBET表面積を有する。前記複数の中空ナノ粒子は、160~250nmの範囲の平均粒径と、少なくとも120cm/gのBET表面積とを有していてよい。前記BET表面積は、例えばISO9277規格を用いて測定してよい。前記BET表面積は、窒素の吸着および脱離に基づき測定してもよい。
【0035】
前記ナノ粒子は、典型的には、前記ナノ粒子の総重量に対して少なくとも70重量%の前記無機材料を含む。一部の例においては、前記無機材料は、少なくとも90重量%の前記ナノ粒子、より典型的には少なくとも95重量%の前記ナノ粒子を構成していてよい。
【0036】
理論に拘束されるものではないが、本願発明者らは、突起を有するナノ粒子、すなわち「スパイキーな」ナノ粒子が、トランスフェクションおよび形質導入の効率を改善することを見いだした。
【0037】
「送達成分」という語は、トランスフェクションまたは形質導入を引き起こす、または補助するために細胞に導入される種を指すことを意図するものである。
【0038】
前記1種以上の送達成分は、典型的には、前記ナノ粒子の外部表面に付着する。理論に拘束されるものではないが、「スパイキーな」構造は送達成分を効果的にからめとり、その標的細胞への輸送を促進して、トランスフェクションまたは形質導入を引き起こすことができると信じられている。
【0039】
多くの場合、前記組成物は少なくとも2種、時には少なくとも3種の送達成分を含む。本発明のナノ粒子は、複数の異なる送達成分を単一ナノ粒子上で運ぶことができることが明らかになっている。これは併用療法において同時送達を可能にすることから、特に有用である。例えば、本願発明者らは、複数の送達成分を前記スパイキーなナノ粒子に結合し、細胞に送達できることを示した。
【0040】
一部の実施形態において、前記ナノ粒子は前記1種以上の送達成分によって少なくとも部分的に被覆されていてよい。前記ナノ粒子は、前記1種以上の送達成分によって、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%被覆されていてよい。前記ナノ粒子は、前記1種以上の送達成分によって完全に被覆されて(すなわち95%以上被覆されて)いてもよい。
【0041】
前記ナノ粒子に対する送達成分の量は、送達成分の選択や所定の適用に必要な用量によって変化しうる。しかし典型的には、前記ナノ粒子に対する送達成分の重量比は1:100~100:1、より典型的には1:50~5:1、さらに典型的には1:30~1:1、最も典型的には1:20~1:2の範囲である。
【0042】
典型的には、前記1種以上の送達成分は、ベクター、ウイルス、ウイロイド、プリオン、ウイルス様粒子、ウイルス由来成分、およびこれらの混合物から独立に選択される。典型的なベクターとして、ウイルスベクターおよびプラスミドが挙げられる。
【0043】
本明細書で用いられる「ベクター」という語は、それに結合した他の核酸を輸送することができる核酸分子を指すことを意図している。ベクターは当該分野で周知であり、任意の種類のベクターを使用してよい。「プラスミド」はベクターの1種であり、内部にさらなる核酸断片を連結することができる環状二本鎖DNAのことを表す。別の種類のベクターであるウイルスベクターでは、追加する核酸断片をウイルスゲノムに連結することができる。他の種類のベクターとして、コスミドが挙げられる。他の種類のベクターとして人工染色体が挙げられ、イースト人工染色体(YACs)、細菌人工染色体(BACs)、およびヒト人工染色体(HACs)がそれに含まれる。
【0044】
ある種のベクターは、それが導入された宿主細胞中で自律的に複製することができる(細菌複製起点を有する細菌ベクター、および哺乳類エピソーマルベクター等)。別のベクター(哺乳類非エピソーマルベクター等)は、宿主細胞への導入時に該宿主細胞のゲノムへと組み込まれることができ、それによって宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある種のベクターは、それが機能的に連結した遺伝子の発現を制御することができる。一般に、組換DNA技術で利用される発現ベクターはプラスミドの形態の場合が多い。本明細書に記載される発明の実施に従って用いられる一部ベクターは当該分野で使用される周知のベクターであってよく、例としてpBR322、pUC、pCMV、pMDG、もしくはpHRに由来するプラスミドやこれらの混合物、またはレトロウイルス、アデノウイルス、もしくはアデノ関連ウイルスに由来するウイルスベクターやこれらの混合物が挙げられる。
【0045】
本発明の実施に適しうるベクターに対する修飾の種類の非限定的な例としては、1つ以上のエンハンサー、1つ以上のプロモーター、1つ以上のリボソーム結合部位、または1つ以上の複製起点等の付加などの修飾が挙げられるが、これらに限定されない。一部の非限定的な実施形態において、本発明の実施に用いられる発現ベクターは、本一過性発現システムにおいて目的のタンパク質の発現を改善するために選択される1つ以上のエンハンサーエレメントを含みうる。前記選択されるエンハンサーエレメントは、目的のタンパク質の発現に用いられる発現可能な核酸配列に対して、5’または3’に位置していてよい
【0046】
好ましくは、前記1種以上の送達成分はベクターを含む。より好ましくは、前記1種以上の送達成分は、ウイルスベクター、好ましくはレンチウイルスベクター;プラスミド、好ましくはpCMV、pMDG、もしくはpHRに由来するプラスミド;またはそれらの混合物;を含む。
【0047】
前記ベクターは空であってもよく、インサートもしくは導入遺伝子を含んでいてもよい。前記インサートまたは導入遺伝子は外来DNA、RNA、低分子干渉RNA、マイクロRNA、または小型ヘアピンRNAを含んでいてよい。好ましくは、前記インサートまたは導入遺伝子はDNAを含む。
【0048】
前記送達成分はウイルスであってよい。典型的なウイルスの例として、レンチウイルス等のレトロウイルス;アデノウイルス;アデノ関連ウイルス(AAV);単純ヘルペスウイルス;およびそれらの組み合わせ;が挙げられるが、これらに限定されない。前記ウイルスは好ましくはレンチウイルスである。
【0049】
あるいは、前記送達成分はウイロイドであってよい。典型的なウイロイドとしては、PospiviroidaeおよびAvsunviroidaeに属するものが挙げられる。
【0050】
一部実施形態において、前記送達成分はプリオンである。典型的なプリオンとしては、PrPに由来するものが挙げられる。
【0051】
一部の実施形態において、前記1種以上の送達成分はウイルス由来成分を含んでいてよく、該ウイルス由来成分はビリオン、キャプシド、ウイルス核酸、ウイルスDNA、ウイルスRNA、またはウイルスタンパク質から選択されうる。
【0052】
各種実施形態において、前記ウイルス由来成分は、DNAウイルスまたはRNAウイルスから作成されてよい。前記ウイルス由来成分は、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス等のレトロウイルス、アルファウイルス、フラビウイルス、ラブドウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ポックスウイルス、またはピコルナウイルスに由来してよい。前記ウイルス由来成分は好ましくはレンチウイルス由来である。
【0053】
一部の実施形態において、前記1種以上の送達成分は、ウイルスに極めて類似するがウイルスの遺伝物質を含まない、ウイルス様粒子(VLP)を含んでいてもよい。VLPは、パルボウイルス科(アデノ関連ウイルス等)、レトロウイルス科(HIV等)、フラビウイルス科(C型肝炎ウイルス等)、パラミクソウイルス科(ニパ等)、およびバクテリオファージ(QβおよびAP205等)などの広範な種類のウイルス科の成分から製造してよい。
【0054】
一部の実施形態において、前記組成物はさらに細胞を含む。前記細胞は真核細胞または原核細胞であってよい。好ましくは、前記細胞は真核細胞である。前記細胞は初代細胞、または、不死化細胞株もしくは形質転換細胞株等の細胞株に由来する細胞であってよい。前記細胞は植物細胞または動物細胞であってよい。好ましくは、前記細胞は哺乳類細胞である。より好ましくは、前記細胞はヒト細胞である。
【0055】
前記細胞は任意の種類の細胞でありうる。好ましくは、前記細胞は白血球である。より好ましくは、前記細胞は抗原提示細胞、またはB細胞もしくはT細胞等のリンパ球である
。さらに好ましくは、前記細胞はT細胞である。前記細胞はCD4+ T細胞またはCD8+ T細胞であってよい。前記細胞はヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、または制御性T細胞であってよい。あるいは、前記細胞は人工多能性幹細胞(iPSC)等の幹細胞であってよい。
【0056】
前記細胞は遺伝子組換細胞または遺伝子導入細胞であってよい。例えば、前記細胞はキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)またはT細胞受容体(TCR)改変T細胞(TCR-T細胞)であってよい。前記細胞は公知の任意の手法によって遺伝的に改変されたものであってよく、該手法としてはウイルスベクター、リポソーム、およびエレクトロポレーション等が挙げられるが、それらに限定されない。前記細胞は下記の手法によって遺伝的に改変されたものであってよい。
【0057】
前記組成物はさらに1種以上の薬理学的に許容される賦形剤を含んでいてよい。前記1種以上の賦形剤としては、担体、希釈剤、および/もしくは他の薬剤、医薬品、またはアジュバント等が挙げられる。
【0058】
本明細書で用いられる「トランスフェクション」という語は、外来核酸、タンパク質、または他の高分子が細胞中で発現するかまたは生物学的な機能を有するように、該外来核酸、タンパク質、または他の高分子を標的細胞に非ウイルス的な手段によって送達することを意味する。外来核酸の非限定的な例としては、DNA、RNA、siRNA、miRNA、shRNA、mRNA、およびこれらの混合物が挙げられる。典型的には前記外来核酸はDNAであり、より典型的にはスーパーコイルプラスミドDNAである。前記細胞のトランスフェクションは一過性であってよい。すなわち、前記外来核酸は前記細胞中に限られた時間存在するものであって、標的細胞ゲノム中に組み込まれないものであってよい。あるいは、前記細胞のトランスフェクションは安定的なものであってよい。すなわち、前記外来核酸が標的細胞ゲノム中に組み込まれるか、またはエピソーマルプラスミドとして維持され、標的細胞とその子孫の中に前記外来核酸が長期的に維持される結果をもたらすものであってよい。
【0059】
本明細書で用いられる「形質導入」という語は、外来核酸が細胞中で発現するかまたは生物学的な機能を有するように、該外来核酸を標的細胞にウイルスまたはウイルスベクターによって送達することを意味する。外来核酸の非限定的な例としては、DNA、RNA、siRNA、miRNA、shRNA、mRNA、およびこれらの混合物が挙げられる。典型的には前記外来核酸はDNAであり、より典型的にはスーパーコイルプラスミドDNAである。前記細胞のトランスフェクションは一過性であってよい。すなわち、前記外来核酸は前記細胞中に限られた時間存在するものであって、標的細胞ゲノム中に組み込まれないものであってよい。あるいは、前記細胞のトランスフェクションは安定的なものであってよい。すなわち、前記外来核酸が標的細胞ゲノム中に組み込まれるか、またはエピソーマルプラスミドとして維持され、標的細胞とその子孫の中に前記外来核酸が長期的に維持される結果をもたらすものであってよい。
【0060】
前記トランスフェクションまたは形質導入は、試験管内(in vitro)または生体外(ex vivo)で行われてもよい。例えば、培養下の細胞株細胞または単離された初代細胞に対してトランスフェクションまたは形質導入を行ってもよい。好ましくは、トランスフェクションまたは形質導入は、患者から単離された細胞に対して行われる。
【0061】
本発明の第2の態様として、治療における使用のための本発明の第1の態様による組成物も提供される。本願発明者らは、本発明の第1の態様の組成物が、細胞のトランスフェクションまたは形質導入において極めて効果的であることを見いだした。従って、トランスフェクションまたは形質導入を行う細胞については特に限定されない。細胞の遺伝子構
造の変化を引き起こすために、様々な異なる送達成分で様々な異なる細胞を処理しうるであろうことが想定される。従って、前記治療は典型的には遺伝子治療である。本発明に従って処理した細胞の投与、または本発明の第1の態様の組成物を用いた生体内(in vivo)トランスフェクションもしくは形質導入は、両者とも、広範な疾患を治療または予防するために使用することができる。とは言え、治療または予防しうる典型的な疾患の限定されない例として、遺伝性疾患、癌、感染症、および自己免疫疾患が挙げられる。典型的な遺伝性疾患の例としては、嚢胞性線維症、心疾患、糖尿病、血友病、および網膜色素変性症が挙げられる。
【0062】
前記癌はいずれの癌であってもよく、例として、血液癌、白血病、リンパ腫、および多発性骨髄腫、ならびに固形腫瘍および他の非血液および非血液学的癌が挙げられる。前記感染症は病原体によって引き起こされるいずれの感染症であってもよく、例として、ウイルス、細菌、真菌、寄生体、およびプリオンによって引き起こされる感染症が挙げられる。前記自己免疫疾患はいずれの自己免疫疾患であってもよく、例として、I型糖尿病、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、アジソン病、バセドウ病、シェーグレン症候群、橋本病、重症筋無力症、自己免疫性血管炎、悪性貧血、尋常性天疱瘡、およびセリアック病が挙げられる。
【0063】
典型的には、前記疾患は癌、感染症、または自己免疫疾患である。
【0064】
前記疾患が前記使用または方法において「治療される」場合、それは前記疾患の1つ以上の症状が緩和されることを意味する。症状が完全に治療され、前記患者にもはやその症状が存在しないようになることを意味するわけではないが、一部の方法ではそれもありうる。前記疾患の治療の結果、その疾患の1つ以上の症状の重症度が治療前よりも減少する。治療の結果、その疾患の複数の症状の重症度が治療前より減少してもよい。また、予防用途によって疾患の発症を予防するために本発明を用いることができる。
【0065】
本発明の第3の態様として、本発明の第1の態様による組成物の、治療のための薬剤の製造における使用も提供される。前記治療は典型的には本発明の第2の態様に対して記述された通りである。繰り返し述べると、本発明の第2の態様の通り、前記方法は、本発明の第1の態様による組成物を用いた、生体内トランスフェクションまたは形質導入、およびトランスフェクションまたは形質導入を行った細胞の送達を含む。
【0066】
本発明の第4の態様として、本発明の第1の態様による組成物を患者に投与することを含む、患者における疾患を治療する方法も提供される。好ましくは、前記患者はヒトである。好ましくは、治療に有効な量の前記組成物が前記患者に投与される。「治療に有効な量」とは、所望の治療結果を達成するために必要な用量と期間において効果的な量のことを指す。また、前記治療は、本発明の第1の態様による組成物を用いてトランスフェクションまたは形質導入された細胞を、患者へと送達することを包含することも意図される。
【0067】
本発明の第5の態様として、本発明の第1の態様による組成物の製造方法も提供される。本方法は、本発明の第1の態様に記載のナノ粒子を、本発明の第1の態様に記載の1種以上の送達成分と混合する工程を含む。
【0068】
本発明のナノ粒子は、特許文献1の24~28ページに記載の方法等を使用し、ストーバー法の類似法(Stober-like process)を用いて作成することができる。トランスフェクション剤を適用する場合、ナノ粒子を被覆するために、無機ナノ粒子の準備に続いてさらなる工程が行われる。この場合、前記無機ナノ粒子は、典型的には、トランスフェクション剤によるナノ粒子の被覆を促進するために、まずリンカー部分によって官能化される。上記説明の通り、前記リンカーは特に限定されないが、ホスホネー
トであることが多い。典型的には、前記無機ナノ粒子は前記リンカーと混合され、少なくとも5分間(通常30分間~10時間、最も多くは1時間~4時間)、多くの場合は室温よりも高い温度、典型的には20℃~70℃の範囲で、撹拌される。
【0069】
一部の実施形態において、前記混合工程は60分間未満継続してよい。典型的には、前記混合工程は10分間~45分間の範囲、より典型的には10分間~30分間の範囲で継続される。この過程は、典型的には室温、すなわち15℃~35℃の範囲で、最も典型的には極性溶媒中、通常は水中で行われる。多くの場合、緩衝溶液を用いてもよく、その例としてリン酸緩衝食塩水が挙げられる。
【0070】
本発明の第6の態様として、本発明の第1の態様による組成物を用いた形質導入またはトランスフェクションの方法も提供される。該方法は、(i)請求項1~14のいずれかに記載の組成物を提供する工程;および(ii)前記組成物を細胞とともにインキュベートする工程;を含む。
【0071】
一実施形態において、細胞の形質導入の方法が提供され、該方法においては1種以上の送達成分がウイルスベクターを含む。特に、細胞の形質導入の方法であって、(i)突起を表面に有するナノ粒子を提供し、前記ナノ粒子の直径が100nm~3000nmの範囲であること;(ii)1種以上の送達成分を提供し、前記送達成分がウイルスベクターであること;および(iii)前記ナノ粒子と前記1種以上の送達成分とを細胞とともにインキュベートすること;を含む方法が提供される。
【0072】
さらなる一実施形態において、細胞のトランスフェクションの方法が提供され、該方法においては1種以上の送達成分がプラスミドを含む。特に、細胞のトランスフェクションの方法であって、(i)突起を表面に有するナノ粒子を提供し、前記ナノ粒子の直径が100nm~3000nmの範囲であること;(ii)1種以上の送達成分を提供し、前記送達成分がプラスミドであること;および(iii)前記ナノ粒子と前記1種以上の送達成分とを細胞とともにインキュベートすること;を含む方法が提供される。
【0073】
上記トランスフェクションおよび形質導入の実施形態では、前記インキュベーション工程を典型的には48時間未満、より典型的には24時間未満、さらに典型的には5時間未満継続する。多くの場合、前記インキュベーション工程を3時間未満、さらに典型的には2時間未満継続する。多くの場合、前記インキュベーション工程を5分間~1時間、通常10分間~30分間継続する。
【0074】
上記説明の通り、前記ナノ粒子は、形質導入過程のトランスフェクションを補助するトランスフェクション剤を含んでいてよい。
【0075】
両方法は生体内または生体外で行うことができる。典型的には、前記方法は生体外で行われる。
【0076】
当業者は、本発明のあらゆる態様が、例えばそれが前記組成物、その使用、または治療方法などと関連するかどうかにかかわらず、本発明の全ての他の態様に等しく適用可能であることを理解するであろう。特に、例えば前記組成物の態様は、本発明の他の態様、例えば前記使用、におけるよりも詳細に記載されている場合がある。しかし、より詳細な情報が本発明の特定の態様に対して与えられていても、この情報は一般的に等しく本発明の他の態様に適用可能であるということを当業者は理解するであろう。
【0077】
本明細書に引用された全ての特許および参考文献は、その全体が参照により本明細書に取り込まれたものとする。
【0078】
以下、本発明を、実施例に基づき、以下の図面のみ参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0079】
図1】Nuvecによって4時間処理した後の細胞生存率。各種濃度のNuvec(陰性対照(NC)、1μg、10μg、40μg、60μg、80μg)で4時間処理された細胞の生存率。4時間後、培地を交換した。細胞生存率および回収率を、培地交換後72時間にわたり、図中に示す各時点で記録した。
図2】Nuvecによって4時間処理した後の細胞生存率。(A、B)特定範囲の各種濃度のNuvecによって4時間処理したHEK293T細胞の細胞生存率の推移(24時間ごと)(n=1)。後述の表3を参照のこと。
図3】Nuvecによって24時間処理した後の細胞生存率。各種濃度のNuvec(陰性対照(NC)、1μg、10μg、40μg、60μg、80μg)で24時間処理された細胞の生存率。24時間後、培地を交換した。細胞生存率および回収率を、培地交換後72時間にわたり、図中に示す各時点で記録した。
図4】Nuvecによって24時間処理した後の細胞生存率。(A、B)特定範囲の各種濃度のNuvecによって24時間処理したHEK293T細胞の細胞生存率の推移。表4を参照のこと。
図5】Nuvecによって48時間処理した後の細胞生存率。各種濃度のNuvec(陰性対照(NC)、1μg、10μg、40μg、60μg、80μg)で48時間処理された細胞の生存率。48時間後、培地を交換した。細胞生存率および回収率を、培地交換後72時間にわたり、図中に示す各時点で記録した。
図6】Nuvecによって48時間処理した後の細胞生存率。(A、B)特定範囲の各種濃度のNuvecによって48時間処理したHEK293T細胞の細胞生存率の推移。
図7】1μgのNuvecおよび5μgのGFPベクターのみで4時間、24時間、および48時間トランスフェクションした後の細胞生存率およびGFP発現。トランスフェクションの72時間後の分析。
図8】10μgのNuvecおよび5μgのGFPベクターのみで4時間、24時間、および48時間トランスフェクションした後の細胞生存率およびGFP発現。トランスフェクションの72時間後の分析。
図9】40μgのNuvecおよび5μgのGFPベクターのみで4時間、24時間、および48時間トランスフェクションした後の細胞生存率およびGFP発現。トランスフェクションの72時間後の分析。
図10】60μgのNuvecおよび5μgのGFPベクターのみで4時間、24時間、および48時間トランスフェクションした後の細胞生存率およびGFP発現。トランスフェクションの72時間後の分析。
図11】80μgのNuvecおよび5μgのGFPベクターのみで4時間、24時間、および48時間トランスフェクションした後の細胞生存率およびGFP発現。トランスフェクションの72時間後の分析。
図12】Nuvecとの結合を試験する目的で後で使用するために製造され、指標細胞に対して力価測定されたウイルス。伝統的な製造方法で高力価LVを製造し、LVの各種希釈物を用いて力価測定した。フローサイトメトリーによる分析によって各種希釈物のGFP発現率を測定し、これを用いて1.18×10TU/mlの力価を算出した。製造したLVは、後でNuvecとともに形質導入アッセイに使用した。
図13】HEK293T指標細胞のトランスフェクションを、NV00100028、NV00100026-28、NV0010032、およびNV0010033を用いて、5μgのプラスミドDNA、ならびに4:3:1の割合のGFP、GAG-POL、およびVSV-Gとともに、4時間または24時間行った。ウイルス上清を24時間ごとに72時間にわたり採取した。写真はトランスフェクションの72時間後のトランスフェクション済細胞を示す。
図14】各種濃度およびトランスフェクション時間でNuvecを用いてトランスフェクションを行った細胞から採取されたウイルス上清で形質導入を行ったHEK293T細胞。形質導入の72時間後、フローサイトメトリーを用いてGFP陽性細胞の割合を分析した結果を、各画像の下に示す。当初、どれだけのレンチウイルスNuvecが実際に生成するか不明であり、500μlおよび200μlのウイルス上清を用いてHEK293T細胞の形質導入を行った。より正確なウイルス力価の代表値を得るため、レンチウイルス力価の算出では1~30%の間のGFP陽性割合を用いる。上記で示したように、使用した最低希釈(lowest dilution)(200μg)においても細胞が30%超でGFP+であったため、より少ない量を用いて反復を行った。
図15】反復力価測定を、各種濃度のNuvecでトランスフェクションを行った細胞から採取された、より少ない量のウイルス上清を用いて行った。その後、HEK293T細胞を100μlおよび10μlのウイルス上清で形質導入し、形質導入の72時間後にフローサイトメトリーを用いて陽性の緑色の細胞の割合を測定した。
図16】指標細胞に対するレンチウイルス形質導入効率の分析。レンチウイルス(MOI20)の、各種濃度のNV00100028との結合。各種インキュベーション時間で結合を行った後、レンチウイルスをHEK293T指標細胞に加えた。N=4
図17】指標細胞に対するレンチウイルス形質導入効率の分析。レンチウイルス(MOI20)の、各種濃度のNV00100026-28への結合。各種インキュベーション時間で結合を行った後、レンチウイルスをHEK293T指標細胞に加えた。N=4
図18】指標細胞に対するレンチウイルス形質導入効率の分析。レンチウイルス(MOI20)の、各種濃度のNV0010032への結合。各種インキュベーション時間で結合を行った後、レンチウイルスをHEK293T指標細胞に加えた。N=4
図19】指標細胞に対するレンチウイルス形質導入効率の分析。レンチウイルス(MOI20)の、各種濃度のNV0010033への結合。各種インキュベーション時間で結合を行った後、レンチウイルスをHEK293T指標細胞に加えた。N=4
図20】レンチウイルス(MOI20)の、指標細胞に対する形質導入効率。レンチウイルスを各種バッチのNuvecと各種濃度で10分間結合させた後、HEK293T指標細胞に加えた。GFP発現をフローサイトメトリーによって測定した。N=4
図21】レンチウイルス(MOI20)の、指標細胞に対する形質導入効率。レンチウイルスを各種バッチのNuvecと各種濃度で20分間結合させた後、HEK293T指標細胞に加えた。GFP発現をフローサイトメトリーによって測定した。N=4
図22】レンチウイルス(MOI20)の、指標細胞に対する形質導入効率。レンチウイルスを、各種バッチのNuvecと各種濃度で30分間結合させた後、HEK293T指標細胞に加えた。GFP発現をフローサイトメトリーによって測定した。N=4
図23】各種濃度のNuvecおよび各種インキュベーション時間を用いたレンチウイルス(MOI20)の形質導入後の平均細胞生存率。N=2。
図24】指標細胞のウイルス形質導入;+/-ポリブレン。各種限界希釈における、レンチウイルスを用いた形質導入細胞。5μg/mlのポリブレンを用いた場合または用いない場合。表7を参照のこと。
図25図25はナノ粒子のSEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0080】
実施例1 - Ram-SNPsの合成。
【0081】
レゾルシノール(0.4g)およびホルムアルデヒド(37重量%、0.56ml)を、アンモニア水溶液(28重量%、12ml)、脱イオン水(40ml)、およびエタノール(280ml)からなる溶液に加えた。前記混合物を室温(約25℃)で8時間撹拌し、次いで2.4mlのオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を前記溶液に加え、8分
間撹拌した後、再度レゾルシノール(1.6g)およびホルムアルデヒド(37重量%、2.24ml)を加えた。前記混合物を2時間室温で撹拌し、次いで4700rpm(3877rcf)で5分間遠心分離を行うことによって回収し、エタノールで洗浄後に50℃で一晩乾燥した。最後に、空気中で550℃で5時間焼成することによってRam-SNPsを回収した。
【0082】
実施例2 - PEI修飾RNPsの合成
【0083】
上記で作成した0.03グラムのRam-SNPsを、10mlの水に超音波処理のもとで分散させた(溶液中に明らかな粒子のかたまりが沈殿しないように確認した)。0.213mlの3-(トリヒドロキシシリル)プロピルメチルホスホネート(HTPMP、50重量%、水中)を別の10mlの水に加え、前記10mlのナノ粒子溶液をHTPMP溶液と混合し、40℃で2時間撹拌した。ホスホネート修飾シリカナノ粒子を、12,000rpm(17,420rcf)の遠心分離を5分間行うことで回収し、水で一度洗浄した。その後、これらのナノ粒子を、5mlの炭酸塩-重炭酸塩緩衝液(pH=9.6)中に超音波処理により直接再分散した。
【0084】
ポリエチレンイミン(PEI;分岐;平均MW 10k;Alfar Aesar)を10mlの炭酸塩-重炭酸塩緩衝液中に超音波処理により溶解した。その後、前記粒子溶液をPEI溶液と混合し、室温で4時間撹拌した。PEIをロードしたナノ粒子を、12,000rpmの遠心分離を5分間行うことで回収し、水で一度洗浄した。その後、前記ナノ粒子を3mlの水中に再懸濁し、液体窒素下で30分間凍結させ、次いで凍結乾燥機で2日間乾燥させた。前記の十分に乾燥させた粒子を冷蔵庫内でデシケーターに保管した。以下、これら粒子を「Nuvec」と呼ぶ。
【0085】
実施例3 - 細胞生存率
【0086】
6×10個のHEK293T細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)と1%ペニシリンストレプトマイシンとを加えたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(以下、「完全培地」と呼ぶ)に播種し、37℃、5%COのもとで一晩インキュベートした。
【0087】
細胞を、1μg~80μg/0.5mlの範囲の各種濃度のNuvecで処理した。処理した細胞を37℃、5%COのもとで4時間、24時間、または48時間インキュベートし、その後、新鮮な完全培地への交換を行った。培地交換後、トリパンブルー排除法によって、細胞生存率を24時間ごとに72時間にわたって測定した。Countess自動細胞計数機を使用説明書に従って用いた。
【0088】
Nuvecとともに4時間インキュベートした後の細胞生存率分析を図1および図2に提供する。Nuvecとともに24時間インキュベートした後の細胞生存率分析を図3および図4に提供する。Nuvecとともに48時間処理した後の細胞生存率分析を図5および図6に提供する。
【0089】
実施例4 - Nuvecを用いた単一プラスミドトランスフェクション
【0090】
緑色蛍光タンパク質をコードするプラスミドDNA(pDNA-EGFP)の送達効率を評価することにより、HEK293T細胞においてNuvecのトランスフェクション効率を評価した。
【0091】
新鮮なHEK293T細胞を、12穴プレート内の完全培地中に、ウェルあたり1.2×10細胞の密度で播種し、37℃、5%COのもとで一晩インキュベートして70
~90%コンフルエントにした。
【0092】
ウェルあたり1~80μgの範囲の各種の量のNuvecに対して、粒子を少なくとも5倍量の70%エタノール中に再懸濁し、混合し、短時間遠心分離を行って粒子を回収し、清澄な上清を除去することによってバイオバーデンを最小限にする処理を行った。50μlの滅菌PBSを各ウェルに加え、少なくとも120Wの出力で超音波洗浄器を用い、均一な懸濁液が得られるまで(30分間まで)超音波処理することにより、NuvecのPBS懸濁液を調製した。超音波処理の過程で速く沈降した塊は、全てピペッティングにより分散させた。
【0093】
前記PBS中の1μg~80μg/0.5mlの範囲の各種濃度のNuvecを、総量1μgのプラスミドDNAと室温で30分間結合させた。結合後、pDNAをロードしたNuvecを1mlの完全培地に懸濁し、それを用いて細胞培養培地の置き換えを行った。細胞を37℃、5%COのもとで4時間、24時間、または48時間インキュベートし、その後、新鮮な完全培地への交換を行った。培地交換の72時間後、細胞をフローサイトメトリーおよび共焦点顕微鏡観察によって分析し、細胞内の緑色蛍光タンパク質の発現を測定した。実験は各群で3回行った。結果を図7~11に提供する。
【0094】
実施例5 - レンチウイルスの製造
【0095】
1.5×10個の新鮮なHEK293T細胞を、T175フラスコ内の完全培地中に播種し、37℃、5%COのもとで一晩インキュベートしてコンフルエントにした。
【0096】
総量5μgのプラスミドDNA(eGFP、pCMVR8.74、およびpMD2.G)(比率4:3:1)を、無血清培地(Opti-MEM)中でポリブレンと20分間結合させた。結合後、pDNAをロードしたトランスフェクション試薬を1mlの完全培地に懸濁し、それを用いて細胞培養培地の置き換えを行った。細胞を37℃、5%COのもとで24時間インキュベートし、その後、新鮮な完全培地への交換を行った。交換後、上清を24時間毎に72時間にわたって採取した。馴化培地を0.45μMのフィルターを通して濾過することで細胞残渣を取り除き、後で使用するために4℃で保管した。
【0097】
馴化培地を23,000rpm、4℃にて超遠心分離することで濃縮した。上清を捨て、ペレットを10分間風乾した。ペレットを200μlの無血清培地中に再懸濁し、氷上で1時間インキュベートした。再懸濁したウイルスペレットを分注し、後で使用するために-80℃で保管した。
【0098】
実施例6 - レンチウイルスの力価測定
【0099】
新鮮なHEK293T細胞を、12穴プレート内の完全培地中に2×10細胞/ウェルの密度で播種し、37℃、5%COのもとで一晩インキュベートした。
【0100】
ウイルスの段階希釈液を調製し、完全培地中で5μg/mlのポリブレンとともに20分間室温でインキュベートした。このウイルスポリブレン混合液を1mlの完全培地に懸濁し、それを用いて細胞培養培地の置き換えを行った。1ウェルの細胞を未処理のまま残し、1ウェルの細胞を計数して、感染のために存在する細胞数を決定した。
【0101】
細胞を37℃、5%COのもとで24時間インキュベートし、その後、新鮮な完全培地への交換を行った。培地交換の48時間後、GFP発現のフローサイトメトリー分析によって細胞を分析した。1~30%のGFP発現を示す試料のみを、ウイルス力価を正確に代表するものとして分析した。ウイルス力価は以下に示すように各希釈点(dilut
ion point)で算出し、平均して全体の平均力価を求めた。
【0102】
力価(TU/ml)=((細胞数×(GFP発現のパーセンテージ/100))/容量)×DF
【0103】
TU/mlはmlあたりの形質導入単位である。DFは希釈倍率である。図12に、限界希釈におけるGFP発現の画像を示す。力価は1.18×10TU/mlと算出された。
【0104】
実施例7 - 細胞の三重プラスミドトランスフェクション
【0105】
新鮮なHEK293T細胞を、6穴プレート内の完全培地中に、ウェルあたり6×10細胞の密度で播種し、37℃、5%COのもとで一晩インキュベートしてコンフルエントにした。
【0106】
1μg~80μg/0.5mlの範囲の各種濃度のNuvecを、総量5μgのプラスミドDNA(eGFP、pCMVR8.74、およびpMD2.G)と比率4:3:1で、無血清培地中で30分間結合させた。異なるバッチのNuvecも試験した。結合後、pDNAをロードしたNuvecを1mlの完全培地に懸濁し、それを用いて細胞培養培地の置き換えを行った。細胞を37℃、5%COのもとで4時間または24時間インキュベートし、その後、新鮮な完全培地への交換を行った。培地交換後、上清を24時間毎に72時間にわたって採取した。トランスフェクションの72時間後、蛍光顕微鏡観察により、細胞のGFP発現を分析した。馴化培地を1500rpmで5分間遠心分離し、回収した上清を後で使用するために4℃で保管した。図13に、トランスフェクションの72時間後のトランスフェクション済細胞を示す。
【0107】
トランスフェクション実験は、NV00100028、NV00100026-28、NV0010032、およびNV0010033に対して全部で3回反復し、4時間および24時間のトランスフェクションも行った。得られた力価(TU/ml)を算出したものを次の表に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
実施例8 - 馴化培地を用いた細胞の形質導入
【0110】
新鮮なHEK293T細胞を、12穴プレート内に2×10細胞/ウェルの密度で播種し、37℃、5%COのもとで一晩インキュベートしてコンフルエントにした。
【0111】
実施例7でトランスフェクションを行った細胞から採取した500μlまたは200μlの馴化培地を用いて細胞の形質導入を行った。細胞を37℃、5%COのもとで24時間インキュベートし、その後、新鮮な完全培地への交換を行った。形質導入の72時間後、蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメトリーにより、細胞のGFP発現を分析した。結果を図14に提供する。
【0112】
実施例7でトランスフェクションを行った細胞から採取した100μlまたは10μlの馴化培地を用いて、新鮮なHEK293T細胞の形質導入を行った。細胞を37℃、5%COのもとで24時間インキュベートし、その後、新鮮な完全培地への交換を行った。形質導入の72時間後、蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメトリーにより、細胞のGFP発現を分析した。結果を図15に提供する。
【0113】
実施例9 - レンチウイルスを用いた形質導入
【0114】
新鮮なHEK293T細胞を、12穴プレート内の完全培地に2×10細胞/ウェルの密度で播種し、37℃、5%COのもとで一晩インキュベートしてコンフルエントにした。
【0115】
1μg~80μg/0.5mlの範囲の各種濃度のNuvecを、室温にて10分間、20分間、または30分間、GFP導入遺伝子(MOI20)を有するレンチウイルスに結合させた。前記レンチウイルスは実施例5に従って作成した。異なるバッチのNuvecを試験した。
【0116】
結合後、前記レンチウイルスとNuvecとの混合物を1mlの完全培地に懸濁し、それを用いて細胞培養培地の置き換えを行った。細胞を37℃、5%COのもとで24時間インキュベートし、その後、新鮮な完全培地への交換を行った。形質導入の72時間後、蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメトリーにより、細胞のGFP発現を分析した。図16~22に、各種バッチのNuvecを用いた形質導入細胞のGFP発現を示す。
【0117】
形質導入細胞の生存率を、トリパンブルー排除法を用いて分析した。結果を図23に提供する。
【0118】
実施例10 - 標準的形質導入プロトコルとの比較
【0119】
新鮮なHEK293T細胞を、12穴プレート内の完全培地に2×10細胞/ウェルの密度で播種し、37℃、5%COのもとで一晩インキュベートしてコンフルエントにした。
【0120】
GFP導入遺伝子(MOI20)を有するレンチウイルスの各種限界希釈物を、5μg/mlのポリブレンと室温にて20分間結合した。ポリブレン無しでインキュベートしたレンチウイルスを対照として使用した。
【0121】
結合後、前記レンチウイルスとポリブレンとの混合物を1mlの完全培地に懸濁し、それを用いて細胞培養培地の置き換えを行った。細胞を37℃、5%COのもとで24時間インキュベートし、その後、新鮮な完全培地への交換を行った。形質導入の72時間後、蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメトリーにより、細胞のGFP発現を分析した。図24に形質導入細胞のGFP発現を示す。
【0122】
形質導入効率の要約を以下の表に提供する。
【0123】
【表2】
【0124】
【表3】
【0125】
【表4】
【0126】
【表5】
【0127】
【表6】
【0128】
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【手続補正書】
【提出日】2022-12-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを含む無機メソポーラスナノ粒子;および
1種以上の送達成分;
を含む組成物であって、
前記ナノ粒子が表面に突起を有し;
前記ナノ粒子が50nm~3000nmの範囲の直径を有し;
前記無機ナノ粒子が少なくとも部分的にトランスフェクション剤によって被覆されており;
前記1種以上の送達成分がウイルスベクターを含む
組成物。
【請求項2】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、またはレンチウイルスベクター等のレトロウイルスベクターである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ナノ粒子が、
シリカを含んだシェル;
前記シェルの内面によって定義される容量を有する中空コア;および
前記シェルの外部に配置されたシリカを含む複数の突起;を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記突起が前記シェルと一体化している、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記突起が前記シェルから放射状に外向きに伸長している、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
前記突起が5nm~1000nm、任意選択で10nm~200nm、任意選択で50
nm~150nmの長さを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ナノ粒子が中空である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記ナノ粒子がランブータン様またはモーニングスター様である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記突起がフィンガーまたはスパイクを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記トランスフェクション剤がカチオン性ポリマーである、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記トランスフェクション剤がポリアルキルイミン、キトサン、ポリリジン、DEAE-デキストラン、ポリブレン、またはポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記トランスフェクション剤がポリアルキルイミンである、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記トランスフェクション剤がポリエチレンイミン(PEI)である、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
前記ナノ粒子が前記1種以上の送達成分によって少なくとも部分的に被覆されている、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記ナノ粒子が少なくとも2種の送達成分を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記ナノ粒子が少なくとも3種の送達成分を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
さらに細胞を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記細胞がCAR-T細胞またはTCR-T細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
治療における使用のための、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記治療が遺伝子治療である、請求項20に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
癌、感染症、または自己免疫疾患の治療または予防における使用のための、請求項20に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
遺伝性疾患、癌、感染症、または自己免疫疾患の治療のための薬剤の製造における、請求項1~1のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項24】
請求項1~1のいずれか一項に記載の組成物を製造する方法であって、
i)シリカを含む、及び突起を表面に有する無機メソポーラスナノ粒子を1種以上の送達成分と混合する工程であって、
前記ナノ粒子が50nm~3000nmの範囲の直径を有し、
前記1種以上の送達成分がウイルスベクターを含む
前記工程;を含む、
方法。
【請求項25】
細胞のトランスフェクションまたは形質導入の方法であって、
i)請求項1~1のいずれか一項に記載の組成物を提供する工程;および
ii)前記組成物を細胞とともにインキュベートする工程;を含む、
方法。
【国際調査報告】