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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(54)【発明の名称】マイクロ液滴プレート
(51)【国際特許分類】
   B01L 3/00 20060101AFI20230601BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
B01L3/00
C12M1/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022565640
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(85)【翻訳文提出日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 IB2021053496
(87)【国際公開番号】W WO2021220173
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】102020000009442
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501193001
【氏名又は名称】ポリテクニコ ディ ミラノ
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO-Italy
(71)【出願人】
【識別番号】522417672
【氏名又は名称】フォンダッツィオーネ チェントロ サン ラッファエレ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ビアンキ エレナ
(72)【発明者】
【氏名】ボトルーニョ オロンザ アントニエッタ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥビーニ ガブリエーレ アンジェロ
(72)【発明者】
【氏名】ピエルジョヴァンニ モニカ
(72)【発明者】
【氏名】トノン ジョヴァンニ
(72)【発明者】
【氏名】デ ステファノ パオラ
(72)【発明者】
【氏名】レオーニ ルーカ
(72)【発明者】
【氏名】オルダーニ ピエトロ
【テーマコード(参考)】
4B029
4G057
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB01
4B029CC05
4B029DG10
4B029HA09
4G057AB06
4G057AB34
(57)【要約】
本発明の目的は、1~400マイクロリットルまたは4~50マイクロリットルのボリュームの流体の形成、分離、播種および制御された回収のためのマイクロ液滴プレート(1)であって、上記流体がSOLであり、- 上面(14)および下面(15)を有する剛性の平坦な支持体である少なくとも1つの固定要素(2)であって、上面(14)上に、マイクロチャネル(5)によって互いに接続された複数のウェル(4)を有し、ウェル(4)は疎水性リム(21)によって画定されかつ孔(6)と交差し、ウェル(4)およびマイクロチャネル(5)が少なくとも1つのマイクロ流体回路(16)を画定する、固定要素(2)、および- 上側基部(7)および下側基部(8)を有する円筒であり、孔(6)を通ってウェル(4)内に受容される移動要素(3)を含む、マイクロ液滴プレート、を提供することである。ここで、移動要素(3)は、互いに独立してさえも、それらの垂直軸(28)に沿って移動し、かつ任意にそれらの垂直軸(28)の周りを移動し、移動要素(3)の上側基部(7)は、レリーフアイテム(12)を有する親水性表面を含む。さらなる目的は、任意に生物学的材料を含むゲル滴(17)の形成、分離、播種および/または制御された回収のための方法を提供することである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~400マイクロリットルまたは4~50マイクロリットルのボリュームの流体の形成、分離、播種および制御された回収のためのマイクロ液滴プレート(1)であって、前記流体がSOLであり、
- 上面(14)および下面(15)を有する剛性の平坦な支持体である少なくとも1つの固定要素(2)であって、上面(14)上に、マイクロチャネル(5)によって互いに接続された複数のウェル(4)を有し、ウェル(4)は疎水性リム(21)によって画定されかつ孔(6)と交差し、ウェル(4)およびマイクロチャネル(5)が少なくとも1つのマイクロ流体回路(16)を画定する、固定要素(2)、および
- 上側基部(7)および下側基部(8)を有する円筒であり、孔(6)を通ってウェル(4)内に受容される移動要素(3)を含む、マイクロ液滴プレート:
ここで、
移動要素(3)は、互いに独立してさえも、それらの垂直軸(28)に沿って移動し、かつ任意にそれらの垂直軸(28)の周りを移動し、
移動要素(3)の上側基部(7)は、レリーフアイテム(12)を有する親水性表面を含む。
【請求項2】
固定要素(2)が、さらに、固定要素(2)の下面(15)を前記少なくとも1つのマイクロ流体回路(16)に接続する少なくとも1つのアクセスチャネル(13)を含む、請求項1に記載のマイクロ液滴プレート(1)。
【請求項3】
移動要素(3)は、互いに独立してさえも、静止位置(9)または作業位置(10)にあり、移動要素(3)は、それらの垂直軸(28)に沿った移動によって静止位置(9)および作業位置(10)に到達でき、移動要素(3)が静止位置(9)にあるとき、上側基部(7)はウェル(4)の基部と実質的に同一平面上の位置にあり、作業位置(10)にあるとき、移動要素(3)は、固定要素(2)の上面(14)の方に固定要素(2)から出現する、請求項1または2に記載のマイクロ液滴プレート(1)。
【請求項4】
移動要素(3)は、静止位置(9)にあり、マイクロ流体回路(16)と、レリーフアイテム(12)を有する親水性表面とを備える集積マイクロ流体回路(25)を形成する、請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロ液滴プレート。
【請求項5】
レリーフアイテム(12)を有する前記親水性表面が、親水性表面全体の10~70%、好ましくは40~60%または15~50%、好ましくは約20%を占めるように、親水性表面全体にわたって、例えば均一に、制御された態様で分布するレリーフアイテム(22)を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のマイクロ液滴プレート。
【請求項6】
好ましくは重合して生物学的に活性なマトリックスを生成する配合物であるSOLが装填されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のマイクロ液滴プレート。
【請求項7】
前記SOLが好ましくは、アルギン酸塩、キトサン、ヒアルロン酸、フィブリン、ラミニン、コラーゲン、マトリゲル(登録商標)(コーニング社製)またはそれらの組み合わせに基づく配合物から構成される群から選択される、請求項6に記載のマイクロ液滴プレート。
【請求項8】
任意に生物学的材料を含有するゲル滴(17)の培養における形成、分離、播種および/もしくは維持ならびに/または制御された回収のための、請求項1~7のいずれか1項に記載のマイクロ液滴プレートの使用。
【請求項9】
ゲル滴(17)がマトリゲル中にあり、前記生物学的材料がオルガノイドからなる、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
ゲル滴(17)の、培養における形成、分離、播種および/もしくは維持ならびに/または制御された回収のための、下記手順を含む方法:
- 請求項1~7のいずれか1項に記載のマイクロ液滴プレートを提供すること、
- SOLである流体を使用できるようにすること、
- 少なくとも1つの移動要素(3)を静止位置(9)に配置すること、
- 毛細管現象によって集積マイクロ流体回路(25)を占有する液相の前記流体を、マイクロ液滴プレートに装填すること、
- 前記流体を重合して、レリーフアイテム(12)を有する前記親水性表面のそれぞれにおいてゲル滴(17)を得ること、
- 任意にマイクロ液滴プレートを下向きにして、少なくとも1つの移動要素(3)をその垂直軸(28)に沿って作業位置(10)に達するまで移動させ、ゲル滴(17)を出現させることで、ゲル滴(17)を播種すること、
- ゲル滴(17)の放出を促進するように、任意に、少なくとも1つの移動要素(3)をその垂直軸(28)の周りに移動させること、
- 任意に、レリーフアイテム(12)を有する前記親水性表面を、ゲル滴(17)と接触するに再配置して、ゲル滴(17)をマイクロ液滴プレートに戻すこと。
【請求項11】
ゲル滴(17)が生物学的材料を含み、下向きのマイクロ液滴プレートが、培地(19)を含む細胞培養プレート(20)の上に配置され、ゲル滴(17)が細胞培養プレート(20)に播種される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの移動要素(3)が、処理の全期間にわたって播種位置に保持され、ゲル滴(17)が、培養/処理の全期間にわたって培地(19)内に留まり、レリーフアイテム(12)を有する前記親水性表面に付着し、および、少なくとも1つの移動要素(3)が、作業位置(10)と静止位置(9)との間の中間位置に達するように任意に培養/処理の終わりにその垂直軸(28)に沿って取り出され、ならびに、培地(19)から採取された生物学的材料を含むゲル滴(17)が、再使用のために利用可能である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記生物学的材料がオルガノイド(18)からなる、請求項11または12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
バイオ試薬および細胞材料を含有する多数の独立した液滴の正確な輸送および貯蔵は、信頼できる大規模生物学的アッセイを実施するための重要な工程の1つである。
【0002】
その精度および再現性を維持しながら、プロセスをより経済的にするために、より迅速かつより容易に実施する生物学的試験が必要とされている。これは、診断用および研究用分子プローブの数が急速に増加していることと、幅広い装置でアッセイを多重化することが情報量的に有利であることによる。薬物耐性の新しい側面を研究するために、細胞試料を用いた試験であって、これらの細胞が由来する組織のマイクロ環境(構造、生体力学、および生化学)を再現する試験が、ますます必要とされている。
【0003】
これらの生物学的試験は、以下のための方法論の利用可能性を必要とするか、またはそれによって強化される:
(i)液相およびゲル相中の細胞/粒子、分析物および試薬の取り扱い、
(ii)蛍光/生物発光分子/細胞/粒子の制御された播種、
(iii)分析目的のための上記細胞/粒子の制御された固定化、
(iv)分析目的に十分な期間にわたって細胞生存率および細胞機能を維持すること、
(v)細胞試料に対する有効成分の効果を評価するために、1つ以上の有効成分を制御して曝露すること。
【0004】
マイクロリットルのオーダーで効率的かつ再現性よく液体のボリュームを分注することにおいて重要な進歩がなされ、試料の数を増やし、必要な生物学的試料を最小限にすることが可能になったが、これは、特に患者から採取した材料の場合には重要な要素である。
【0005】
オルガノイドは、その由来となる組織を小規模かつ3Dで再現して、生体外での生理、病理、および治療に対する応答を模倣する。このため、オルガノイドを使用する方法論により、再現可能な方法で、複雑な器官の多くの利点を集約しながら複雑なシステムを実験室で再現することが可能になったため、国際科学界においてかなりの関心が高まっている。これらのシステムの特性は、これまで実験室で容易におよび/または経済的に調べることができなかった生体システムの生理学を研究するためだけでなく、様々な病理学的状態のためにも有用であることがわかってきた。オルガノイドのさらなる重要な利点は、生体システムに対する活性成分の効力を高スループットかつ迅速に試験できる可能性によって表現され、費用が大幅に低減し、および分析することができる活性成分の数が増加する。オルガノイドを使用して個別化された治療を開発できる可能性は、現在の薬物開発プロセス(これは、開発が困難であり、高価であり、しばしば倫理的問題を提起する動物モデルをしばしば利用する)において、興味深く独特の代替法を提供する。
【0006】
しかしながら、今日利用可能な3D組織形成アプローチは、3D組織機能を失うことなく大規模システムに統合することが困難である。
【0007】
提案された解決策の中で、2014年、フレイら(Nature Communications 5、記事番号:4250)は、スフェロイドの形成のための「懸滴(hanging drop)」技術に基づくシステムを記載している。しかしながら、液相中の生体システムに機能するフレイらのシステムは、例えばオルガノイドを使用する研究のために必要とされるような、固形および半固形培地中の培養物ならびに独立した液滴中の培養物には適用できない。加えて、その「懸滴」システムでは、生成された液滴の物理的な分離が達成されていないため、大規模研究において必須要件である個々の処理の技術的な複製を作成する可能性が排除される。
【0008】
米国特許出願公開第2017/0298314号には、平面から伸びる一連の細長い支柱からなるゲル相にも液滴をまくためのプレートが記載されている。上記細長い支柱の幾何学的形状は、その上端部に液滴を形成するのに有利であり、したがって、液滴自体の経済的なディスペンサとして作用する。
【0009】
1~400マイクロリットルまたは4~50マイクロリットルのボリュームのゼラチン状液滴を大規模かつ均一に形成および分注するための経済的で機械的に堅牢なシステムが強く求められている。
【発明の概要】
【0010】
本発明の主題は、マイクロ液滴プレートであり、ここで、マイクロ液滴プレートとは、1~400マイクロリットルまたは3~50マイクロリットルを含むボリュームの流体の形成、分離、播種、可能性としてあり得る培養における維持管理、および制御された回収に適したデバイスを意味し、好ましくは4~30マイクロリットル、さらにより好ましくは5~30マイクロリットルであり、上記流体はSOLである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態によるマイクロ液滴プレートに含まれる固定要素の斜視図(A)およびマイクロ液滴プレートの斜視図(B)。
図2】さらなる実施形態によるマイクロ液滴プレートの底面(A)および上面(B)の斜視図。
図3】レリーフアイテムを有する親水性表面の異なる実施形態(A)~(H)。各実施形態について、斜視図(上)および上面図(下)である。
図4】3つの連続する作業段階におけるマイクロ液滴プレートの移動要素の詳細。(A)段階1:マイクロ液滴形成を伴う上向き(上)および選択的な下向き(下)での装填、(B)段階2:マイクロ液滴分離、(C)段階3:播種、培養/処理。
図5】マルチウェルプレートの上に配置された、播種、培養/処理段階におけるマイクロ液滴プレートの斜視図。
図6】(A)下向きのマルチ液滴プレートから分離されたマイクロ液滴、および(B)マルチ液滴プレートを用いてオルガノイドが播種されたマルチウェルプレートからの一連のマイクロウェルイメージ、を示す例示的な写真。
図7】0時間目および実験開始から96時間目(上)、ならびに表示化合物への曝露後96時間目(下)に測定した、384マルチウェルプレート中で増殖させたオルガノイドの細胞生存率。(A)伝統的な方法に従って播種したオルガノイド、(B)本発明によるマルチ液滴プレートを用いて播種したオルガノイド。
図8】(A)、(B)レリーフアイテムの実施形態の幾何学形状。
図9】(A)、(B)、(C)、(D)、(E)上記移動要素の基部支持体に形成されたSOLのキャップであって、レリーフを有する親水性表面上に異なる幾何学的形状のレリーフアイテムを有するキャップ。
図10】ディスペンサによって実行されるマイクロ液滴装填の代替的な実施形態:(A)流体は、プレートに接触しないディスペンサから放出され、画定されたウェルに達する。同じディスペンサを並進させることで、流体の追加ウェルへの供給を進めることができる。(B)流体は、プレートにほぼ接触しているディスペンサから放出され、画定されたウェルに直接分注される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に概略的に示される実施形態において、本発明によるマイクロ液滴プレート1は、固定要素2と、ピストンとも呼ばれる移動要素3とを備える。図1Aを参照すると、上記固定要素は、上面14および下面15を有する剛性の平坦な支持体である。上面14には、マイクロチャネル5によって互いに接続された一連のウェル4がある。ウェル4の各々は、疎水性リム21によって画定されている。ウェル4は、孔6と交差している。一実施形態では、孔6はウェル4の基部領域全体を占める。代替の実施形態では、孔6はウェル4の上記基部領域の一部を占める。ウェル4の上記基部は、親水性または疎水性であり、好ましい形態では、疎水性である。ウェル4およびマイクロチャネル5は、マイクロ流体回路16を構成する。一実施形態では、ウェル4は平坦な底部を有し、代替実施形態ではウェル4は円錐形の底部を有し、孔6は上記円錐の頂点を占める。
【0013】
任意に、固定要素2は、少なくとも1つのアクセスチャネル13も備える。上記少なくとも1つのアクセスチャネルは、固定要素2の下面15をマイクロ流体回路16に接続する。一実施形態では、アクセスチャネル13は、マイクロチャネル5のうちの1つに挿入され、代替形態では例えば、マイクロチャネル5のうちの1つまたはウェル4のうちの1つの側壁を通してアクセスすることによって、ウェル4のうちの1つに挿入される。好ましい実施形態では図2A、2Bを参照すると、アクセスチャネル13は、上記支持要素のほぼ中央位置に位置するアクセスウェル23に挿入される。
【0014】
一実施形態では、孔6は、剛性で平坦な支持体を通過し、それらの各々に対応して、固定要素2の下面15からガイドチャネル24が現れる。孔6のそれぞれにおいて、移動要素3のうちの1つが受け入れられる(図1B)。
【0015】
移動要素3は、上側基部7および下側基部8を有するプラスチック材料製のシリンダである。固定要素2の孔6に挿入された移動要素3は、それらの垂直軸28に沿って移動し、任意にそれらの垂直軸28の周りを回転する。固定要素2に挿入されると、移動要素3はそれ自体の垂直軸28に沿って移動し、互いに独立して、静止位置9と作業位置10との間の可変位置をとる。
【0016】
ガイドチャネル24を備える実施形態では、孔6を通って固定要素2に挿入された移動要素3は、ガイドチャネル24内に都合よく収容された自身の垂直軸28に沿って移動する。移動要素3は、静止位置9において、ウェル4の基部と実質的に同一平面上の位置にある上側基部7を有する。すなわち、静止位置9において、移動要素3の上側基部7は、孔6を閉じることにより、ウェル4を、底部の閉じたウェルと同様にする。
【0017】
移動要素3の上側基部7は、レリーフアイテム12を有する親水性表面を含む。一実施形態では、移動要素3が円形基部を有する円筒である場合、上側基部7の直径は、同様に適切に円形である孔6の直径にほぼ等しい。この実施形態で、上側基部7は、レリーフアイテム12を有する同じ親水性表面である。好ましい実施形態では、移動要素3は、面積Aの上側基部7が面積A’の基部支持体11を載置したシリンダであり、基部支持体11の面積A’は上側基部7の面積Aよりも大きい。この実施形態では、移動要素3は、固定要素2の孔6を通って挿入され、静止位置9において、基部支持体11で孔6を都合よく閉じる。この実施形態では、基部支持体11は、隆起要素12を有する親水性表面である。
【0018】
好都合には、移動要素3の各々によって操作される孔6の各々の閉鎖は、密封閉鎖である。任意に、適切なガスケットが、孔6上に配置されて、上記密封を有利にする。
【0019】
したがって、静止位置9に移動要素3があるマイクロ液滴プレート1においては、疎水性リム21によって画定される一連のウェル4が、それらの間のマイクロ流体接続における底部の閉じたウェルと同様となり、その基部が、レリーフアイテム12を有する親水性表面からなることで、マイクロ流体接続がマイクロチャネル5によって確保される。
【0020】
移動要素3が静止位置にあるマイクロ液滴プレートは、上記マイクロ液滴プレートの親水性領域を含む集積マイクロ流体回路25を備える。一実施形態では、集積マイクロ流体回路25は、マイクロ流体回路16と、レリーフアイテム12を有する上記親水性表面とからなる。
【0021】
レリーフアイテム12を有する上記親水性表面上の上記レリーフアイテム22は、互いに隣接し、全表面の10%~70%、一実施形態では40%~60%、または15%~50%、好ましくは約20%を占める。
【0022】
レリーフアイテム22は、制御された態様で、すなわち、規則的な幾何学的配置に従って上記親水性表面上に分布し、互いに同じであるかまたは異なる上記レリーフアイテムが表面上に同じパターンで配置された均一なものであってもよく、または、表面上に異なる形状/サイズ/分布のレリーフアイテムを有する不均一なものであってもよい。
【0023】
図3は、例として、レリーフアイテム22のいくつかの幾何学的形状を示す。当該図には、上記レリーフアイテムの幾何学的形状および分布の実施形態が概略的に示されている。図において黒色で示されたレリーフアイテム22は、図において灰色で示されかつ相互接続されたキャビティ26によって囲まれている。有利には、レリーフアイテム22は、垂直なリムを有しておらず、丸みを帯びたリムを有している。一実施形態では、レリーフアイテム22は、細長い要素(図3A、D、E)、円形要素(図3G)、棒状要素(図3B)、アーチ状要素(図3F)、または示された要素のうちの可変形状を有する要素の組合せ(図3C)である。さらなる実施形態では、それらは、半径方向に延在する細長い湾曲要素である(図3H)。
【0024】
レリーフアイテム22の高さは、ウェル4の深さにほぼ等しい。一実施形態では、レリーフアイテム12を有する親水性表面上のすべての要素22は、等しい高さを有する。一実施形態では、レリーフアイテム12を有する親水性表面上の要素22は、互いに独立して異なる高さを有する(図9A、9B、9C)。好ましくは、より高い高さを有するレリーフアイテム22は、上記親水性表面の周囲に配置される(図9E)。この実施形態では、上記の周囲レリーフアイテム22は、有利にその表面を画定し、SOLキャップ27のより良好な制御を可能にする。
【0025】
レリーフアイテム22が出現する上記表面は任意に、ウェルを充填するために機能する程度で、それを親水性にするのに適した表面処理に供される。
【0026】
レリーフアイテム12を有する親水性表面上のレリーフアイテム22の数は、目的のために機能する表面の占有率%、すなわち、10~70%、40~60%または15~50%、好ましくは約20%に達する程度である。
【0027】
好ましい形態では、レリーフアイテム22は、図3Cに示されるように同心円に沿って上記表面上に配置されたアーチ状要素および細長い要素である。
【0028】
一実施形態では図8Aを参照すると、細長いまたはほぼ円形の形状の幾何学的レリーフアイテム22は、表1に示された最小寸法および最大寸法を有する。ここで、
D=直径または等価直径、
SDa=ある要素と別の要素との間のその方向の特性距離、
SDb=ある要素と別の要素との間のその方向における他の特性距離(不均一分布の場合)、
LD=要素の第2特性寸法(円形状に由来しない場合)、
H=要素の高さ、である。
【0029】
【表1】
【0030】
一実施形態では、図8Bに参照できる棒状またはアーチ状の幾何学的レリーフアイテム22、または図9Dによるスパイラルは、表2に示された最小寸法および最大寸法を有する。ここで、
Aは、上記レリーフアイテムの長辺の測定値であり、
Bは、上記レリーフアイテムの短辺の測定値であり、
wは、これらの要素のうちの1つの隣接する要素からの距離であり、
Hは、要素の高さ、である。
【0031】
【表2】
【0032】
マイクロ流体回路16内に装填される流体は、毛細管現象によってマイクロ流体回路内の親水性領域を満たし、移動要素3の上側基部上または基部支持体上に液滴を形成し、ここで、液滴のサイズは、上記ウェルを画定する疎水性リム21によって、および液体/空気界面における表面張力から画定される。
【0033】
レリーフアイテム22の高さは、移動要素12を有する上記親水性表面上に形成される液滴のサイズの約10~20%である。例として、図9A図9B図9Cおよび図9Eに、SOLキャップ27である液滴が概略的に示され、上記液滴は、上記可動要素3の上側基部7上にある基部支持体11に対応して形成されており、ここで、レリーフアイテム12を有する上記親水性表面上の幾何学的レリーフアイテム22は互いに異なる高さを有する。
【0034】
一実施形態では、固定要素2および移動要素3は、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリカーボネートおよびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンからなる群から選択される熱可塑性ポリマーから作製されるか、またはポリシロキサン、好ましくはPDMS(ポリジメチルシロキサン)から作製される。
【0035】
本発明によるマイクロ液滴プレートに装填される流体は、SOL、すなわち、相転移によって液相から固形のゲルに変化する流体である。
【0036】
上記相転移は、物理的刺激(温度、UV)または化学的刺激(例えば特定のイオンまたは溶媒への曝露、pHの変化)によって起こる。
【0037】
好ましい形態において、上記SOLは、重合して生物学的に活性なマトリックスを生成する配合物である。例として、それは、アルギン酸塩、キトサン、ヒアルロン酸、フィブリン、ラミニン、コラーゲンまたはこれらの組み合わせに基づく配合物である。好ましくは、マトリゲル(コーニング(登録商標)Matrigel(登録商標))である。
【0038】
移動要素3の各々の上側基部7上にある隆起要素12を有する親水性表面上で、移動要素3が静止位置9にあるとき、流体SOLの液滴(SOL27のキャップという)が得られ、これは、適切な相転移の後、ゲル滴17になる。一実施形態では、上記SOLはオルガノイド18を含み、それらはゲル滴17中に均一に分布している。
【0039】
ゲル滴17は、移動要素3の各々のレリーフアイテム12を有する親水性表面上に形成されると、移動要素3を静止位置9から作業位置10に移動することで、成長培地を含む培養プレートに都合よく播種される。いったん培地中に置かれると、ゲル滴は残存し、それらの中にオルガノイドの構造が保存され、同時にオルガノイドと培地との間の代謝物質の必要な交換が確保される。
【0040】
例として、上記培地には、オルガノイドに対する効果が試験される分子が添加され、オルガノイドに対する大規模な薬物スクリーニング試験が可能になる。
【0041】
次に、本発明によるマイクロ液滴プレートを、使用条件下で説明する。さまざまな作業段階の概要を図4に示す。
【0042】
段階1:マイクロ液滴形成を伴う装填(図4A
本発明によるマイクロ液滴プレートは、移動要素3が静止位置9にある状態で、上向きに配置され(図4A、上部パネル)、SOLである流体が集積マイクロ流体回路25に装填される。
【0043】
上記流体は、上記アクセスチャネル13を通って下から、または上から装填される。固定要素2に対してほぼ中央の位置に配置されたアクセスチャネル13を通して装填する場合、上記流体は、好ましくはマイクロチャネル5のうちの1つにまたはウェル4もしくは23のうちの1つに導入される。
【0044】
上部装填の場合には、例として、ピペット、シリンジポンプまたは注入器が使用され、それらはウェル4またはマイクロチャネル5のうちの1つに挿入される。
【0045】
図10に関し、別の実施形態では、装填は、容器30と流体的に接続されたディスペンサ29によって得られる。上記ディスペンサは、当業者に公知の方法に従って自動化された手法で都合よく管理され、放出された流体が選択されたウェルに到達するように配置される(図10A)。あるいは、上記ディスペンサは、選択されたウェルに流体を直接放出するように、プレートの近くに配置される(図10B)。ディスペンサの自動化された移動は、複数のウェルにおけるその後の分配を都合よく可能にする。
【0046】
あるいは、上記流体は、例えばポンプシステムを用いて、アクセスチャネル13を通って下方から装填される。
【0047】
装填後、上記流体は、自由に流れ、集積マイクロ流体回路25に存在する親水性領域、すなわち、マイクロチャネル5およびレリーフアイテム12を有する親水性表面を占める。上記流体は、レリーフアイテム12を有する上記親水性表面のおかげで、上記ウェルの上方で膨張し、マイクロ液滴プレートから突出するSOL27のキャップを形成する。集積マイクロ流体回路25が上記流体で都合よく充填されると、流体はゲル化され、したがって、集積マイクロ流体回路25の親水性領域がゲルによって均一に占有されたマイクロ液滴プレートが得られる。特に、SOL27のキャップを形成するレリーフアイテム12を有する親水性表面のそれぞれに対応して見られる流体は、ゲル化し、ゲル滴17を形成する。
【0048】
好ましい実施形態では、上記マイクロ液滴プレートはゲル化プロセスのために、下向きにされ(図4A、下のパネル)、下向きのゲル化では、マイクロ液滴プレートを上向きに保つゲル化により得られるゲル滴よりも大きい体積のゲル滴が有利に得られることが観察されている。
【0049】
一実施形態では、ウェル4の基部は疎水性であり、水性流体である上記流体を引き付けないため、疎水性ウェル4の基部、加えて任意のガスケットは、密封をさらに保証し、流体は、疎水性リム21によって画定される、レリーフアイテム12を有する上記親水性表面上に留まる。
【0050】
上記相互接続されたキャビティ26は、上記親水性表面をレリーフアイテム12で完全に被覆するのに有利である。実際、本発明の著者らは驚くべきことに、移動要素3の上側基部7に含まれる上記親水性表面上の上記レリーフアイテム22の幾何学的形状、分布および数によって、フローフロントが、その親水性領域を完全に占有するまで上記マイクロ流体回路16の各方向に沿って均一に前進することを可能にすることを実証した。レリーフアイテム22を有さない親水性表面、または上記レリーフアイテムのパーセンテージが低すぎる(10%未満)親水性表面、またはパーセンテージが高すぎる(70%)親水性表面は、上記の均一な充填を可能にしない。上記条件において、上記親水性表面のいくつかには流体が到達しないことが実際に観察されている。
【0051】
段階2:マイクロ液滴絶縁(図4B
ゲル相状態の流体によって均一に占有された集積マイクロ流体回路25の親水性領域を有するマイクロ液滴プレートは下向きであり、培地19を含む細胞培養プレート20上に都合よく配置される。ゲル滴17が装填された移動要素3は、互いに独立していても、作業位置10に到達するか、または固定要素2からその上面14に向かって現れる。
【0052】
有利には、親水性領域を画定する疎水性リム21によって上記液滴の形成が可能になるため、本発明によるマイクロ液滴プレートによれば、マイクロ液滴プレート全体の装填が単一の操作で可能となる。ゲルへの転移後、移動要素3が自身の軸に沿って移動する可能性のおかげで、ゲル滴17は、プレートから現れ、後続の播種工程でアクセス可能となる。
【0053】
有利には、細胞培養プレート20はマルチウェルプレートであり、上記細胞培養プレートの少なくとも1つのウェルは、ゲル滴17が装填された移動要素3の下に都合よく見出される。
【0054】
段階3:播種(図4C
移動要素3上のゲル滴17は、培地19中に浸漬される。
【0055】
一実施形態では、移動要素3は、作業位置10から静止位置9に後退して、ゲル滴17を培地19内に放出する。任意に、移動要素3は、それ自体の垂直軸28の周りを回転するように作られ、これにより、培地19へのゲル滴17の放出が促進される。
【0056】
細胞材料(例えばオルガノイド)を含有する液滴17は、その後、処理の全期間にわたって上記培地中に保持される。一実施形態では、マイクロ液滴プレートおよび移動要素3は、処理の全期間にわたって播種位置に保持される。この実施形態では、ゲル滴17は、培地中に浸漬され、かつレリーフアイテム12を有する上記親水性表面に接着されたままとなる。
【0057】
有利には、本発明によるマイクロ液滴プレートの移動要素3により、プレート中の均一なゲル滴の迅速な播種が可能となる。
【0058】
段階4:回収(任意)
移動要素3は、播種位置から取り除かれていた場合、処理の終わりに培地19の表面と接触するように戻される。上記培地に浸漬されているゲル滴17は、レリーフアイテム12を有する親水性表面に再び接着する。
【0059】
移動要素3が処理の全期間にわたって播種位置に保持されていた場合、ゲル滴17は、レリーフアイテム12を有する上記表面にすでに都合よく接着されている。
【0060】
任意に、移動要素3は取り出され、これによりゲル滴17は培地19から採取される。採取されたゲル滴17は、例えば、異なる培地中でのその後の播種のために、異なる処理プロトコルに曝露されるなど、再使用されるように準備されている。
【0061】
好都合には、本発明によるマイクロ液滴プレートはM×N個のウェルを含み、ここで、Mは2以上であり、Nは2以上である。好ましくは、Mは12以下であり、Nは32以下である。一実施形態では、上記マルチ液滴プレートは3×3個、5×5個、7×7個、4×8または8×8個のウェルを含む。好都合には、上記ウェルは、96ウェル、384ウェルまたは1536ウェルマルチウェルプレートに見られるものと同じ分布形状を維持して、上記マイクロ液滴プレート中に分布する。
【0062】
任意で、本発明による1つまたは複数のマイクロ液滴プレートは、96ウェル、384ウェルまたは1536マルチウェルプレート全体を播種するのに必要な数のマイクロ液滴プレートを収容する支持体に挿入される。
【0063】
例として、図5は、マルチウェルプレート20、具体的には384ウェルプレートの斜視図を示し、その上に、本発明による一連のマイクロ液滴プレート1が、ウェルの全体を覆うのに十分な数で配置されている。
【0064】
一実施形態では、移動要素3は自動化された手法で移動され、移動要素3の各々は独立して移動するように制御される。
【0065】
一実施形態では、上記マイクロ液滴プレートは、互いに独立して移動要素3を所望の位置、例えば静止位置9または作業位置10或いは中間位置に位置決めするのに適したブロック構造を含む。好都合には、上記マルチウェルプレートは、各ウェルの内容積を顕微鏡下で観察することができるように光学的に透明な底部を有する。
【0066】
以下の実施例は本明細書で提案される解決策をより良く説明することを意図しており、決して限定することを意図していない。本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。
【実施例
【0067】
実施例1:384ウェルプレートにおけるオルガノイド播種
オルガノイドは、大腸癌に罹患した患者の手術中に採取された肝転移から分離された腫瘍細胞に由来するものであった。元の組織から解離した癌細胞を、細胞外マトリックス蛋白質に富むマウス肉腫から抽出した溶液中の基底膜調製物であるコーニング社のマトリゲルに再懸濁した。次いで、懸濁液を液滴の形態で播種し、重合後、培地中で増殖させた。培地の組成は、添加剤および増殖因子の規定の組合せからなり、ヒト消化管癌細胞に由来する3次元オルガノイドの効率的な生成のためかつ長期増殖のために研究され、最適化されたものである。薬物処理の前に、オルガノイドを回収し、単細胞に解離し、次いで200細胞/μLの濃度でマトリゲルに再懸濁した。次いで、マトリゲルおよび細胞の調製物を、従来の384マルチウェルまたはマイクロ液滴プレート上に播種し、マトリゲルの重合を促進するために、37℃および5%CO2の細胞培養インキュベータ中で20分間インキュベートし、次いで、適切な量の薬物を含むウェルごとに24μLの増殖培地中に浸漬した。
【0068】
図6Aは、マイクロ液滴プレート中に形成されたオルガノイドを含有するマトリゲル滴の例示的な写真を示す。図6Bは、マイクロ液滴プレートを用いてオルガノイドを播種したマイクロウェルの例示的な倒立顕微鏡写真を示す。
【0069】
播種後、オルガノイドを以下の3連の処理に曝露した。
DMSO:溶媒のみ
BTZ:1μMボルテゾミブ
OLA:1μMオラパリブ
【0070】
96時間の処理後、CellTiter-Glo(登録商標)3D試薬(プロメガ社)でオルガノイドの活力を測定し、溶媒単独で処理した対照に対するパーセンテージとして報告した。
【0071】
図7のグラフに示されるように、播種時および96時間後のオルガノイド(上パネル)の細胞生存率は、従来の方法(A)で播種されたウェルおよびマルチ液滴プレート(B)で播種されたウェルにおいて同等である。同じ考察が、試験された添加剤の効果の測定にも当てはまる。実施例は、本発明による溶液が、大規模ではなく、従来の方法で得られたものと同等のオルガノイド培養物を生じさせることができることを示す。
【符号の説明】
【0072】
1 マイクロ液滴プレート
2 固定要素
3 移動要素
4 親水性ウェル
5 マイクロチャネル
6 孔
7 上側基部
8 下側基部
9 静止位置
10 作業位置
11 基部支持体
12 レリーフアイテム付き親水性表面
13 アクセスチャネル
14 上面
15 下面
16 マイクロ流体回路
17 ゲル滴
18 オルガノイド
19 培地
20 細胞培養プレート
21 疎水性リム
22 レリーフアイテム
23 アクセスウェル
24 ガイドチャネル
25 集積マイクロ流体回路
26 相互接続されたキャビティ
27 SOLのキャップ
28 垂直軸
29 ディスペンサ
30 容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】