(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(54)【発明の名称】アスパルトアシラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸及び遺伝子治療のためのベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20230601BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230601BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230601BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230601BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20230601BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20230601BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230601BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230601BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230601BHJP
A61K 38/45 20060101ALI20230601BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230601BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230601BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20230601BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230601BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N5/10
C12N7/01
C12Q1/68
C12Q1/6851 Z
A61K35/76
A61P25/00
A61K48/00
A61K38/45
A61K31/7088
G01N33/50 Z
G01N33/48 M
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566010
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(85)【翻訳文提出日】2022-12-26
(86)【国際出願番号】 US2021028658
(87)【国際公開番号】W WO2021221995
(87)【国際公開日】2021-11-04
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510069249
【氏名又は名称】ファイザー・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】レオネ, パオラ
(72)【発明者】
【氏名】フランシス, ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】アサフ, バセル タリク
(72)【発明者】
【氏名】アサノ, ショー
(72)【発明者】
【氏名】ヘールズ, キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】バーグ, アリソン ピー.
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045BA14
2G045BB22
2G045CB01
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2G045JA01
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4C087ZC51
(57)【要約】
本開示は、アスパルトアシラーゼ(ASPA)、特にカナバン病の欠乏又は機能不全に関連する疾患及び障害の治療における使用のための、ASPAをコードする修飾核酸、及びその変異体を含む組換え核酸及び遺伝子治療ベクターに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2の核酸配列と少なくとも約80%、85%、90%、95%、98%、99%又は100%同一の核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする単離核酸。
【請求項2】
配列番号2の核酸配列と少なくとも約80%、85%、90%、95%、98%、99%又は100%同一の核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸。
【請求項3】
配列番号2の核酸配列と少なくとも約80%、85%、90%、95%、98%、99%又は100%同一の核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸を含むベクターゲノム。
【請求項4】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターゲノムである、請求項3に記載のベクターゲノム。
【請求項5】
自己相補的である、請求項3又は4に記載のベクターゲノム。
【請求項6】
配列番号2の核酸配列と少なくとも約80%、85%、90%、95%、98%、99%、又は100%同一の核酸配列を含む修飾核酸を含むベクターゲノムと、Olig001、Olig002、Olig003、AAV1、AAV2、AAV3、AAV3A、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh10、AAVrh74、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、RHM15-6、AAVhu.26、AAV1.1、AAV2.5、AAV6.1、AAV6.3.1、AAV9.45、AAV2i8、AAV2G9、AAV2i8G9、AAV2-TT、AAV2-TT-S312N、AAV3B-S312N、AAV-DJ、AAV-DJ/8、AAV-DJ/9及びAAV-LK03のカプシドからなる群から選択されるカプシドと、を含む、組換えアデノ関連ウイルス(rAAV)ベクター。
【請求項7】
前記カプシドが、Olig001、Olig002、又はOlig003カプシドである、請求項6に記載のrAAVベクター。
【請求項8】
前記カプシドが、ウイルスタンパク質1(VP1)を含むOlig001カプシドであり、前記VP1が、配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含む、請求項6又は7に記載のrAAVベクター。
【請求項9】
前記カプシドが、VP1を含むオリゴ001カプシドであり、前記VP1が、配列番号14のアミノ酸配列を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項10】
前記ベクターゲノムが自己相補的である、請求項6~9のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項11】
前記ベクターゲノムが、少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)配列、エンハンサー、プロモーター、エクソン、イントロン、及びポリアデニル化(polyA)シグナル配列からなる群から選択される少なくとも1つのエレメントを更に含む、請求項6~10のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項12】
前記ベクターゲノムは、少なくとも1つのAAV2 ITR、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー、CBAプロモーターのハイブリッド形態(CBhプロモーター)、ニワトリB-アクチン(CBA)エクソン、CBAイントロン、マウスの微小ウイルス(MVM)イントロン、及びウシ成長ホルモン(BGH)polyAからなる群から選択される少なくとも1つのエレメントを更に含む、請求項6~11のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項13】
前記ベクターゲノムが、配列番号5、配列番号12又は配列番号19の核酸配列を含む少なくとも1つのITR、配列番号6又は配列番号17の核酸配列を含むエンハンサー、配列番号7の核酸配列を含むプロモーター、配列番号8又は配列番号18の核酸配列を含むエクソン、配列番号9の核酸配列を含むイントロン、配列番号10の核酸配列を含むイントロン、及び配列番号11の核酸配列を含むpolyAからなる群から選択される少なくとも1つのエレメントを更に含む、請求項6~12のいずれか1項に記載のrAAVベクター。
【請求項14】
5’から3’に、
a)配列番号5、配列番号12又は配列番号19の核酸配列を含む、AAV逆方向末端反復(ITR)、
b)配列番号6又は配列番号17の核酸配列を含むエンハンサー、
c)配列番号7の核酸配列を含むプロモーター、
d)配列番号8又は配列番号18の核酸配列を含むエクソン、
e)配列番号9の核酸配列を含むイントロン、
f)配列番号10の核酸配列を含むイントロン、
g)配列番号2の核酸配列を含むアスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸、
h)配列番号11の核酸配列を含むpolyA、及び
i)配列番号5、配列番号12又は配列番号19の核酸配列を含むAAV ITRを含むベクターゲノムを含む、rAAVベクター。
【請求項15】
前記核酸が自己相補的である、請求項14に記載のrAAVベクター。
【請求項16】
前記ベクターが、ウイルスタンパク質1(VP1)を含むOlig001カプシドを含み、前記VP1が、配列番号14のアミノ酸配列を含む、請求項14又は15に記載のrAAVベクター。
【請求項17】
ウイルスタンパク質1(VP1)を含むOlig001カプシドを含むrAAVベクターであって、前記VP1は、配列番号14のアミノ酸配列と、5’から3’に、
a)配列番号5、配列番号12又は配列番号19の核酸配列を含む、AAV2逆方向末端反復(ITR)、
b)配列番号6又は配列番号17の核酸配列を含むCMVエンハンサー、
c)配列番号7の核酸配列を含むCBhプロモーター、
d)配列番号8又は配列番号18の核酸配列を含むCBAエクソン1、
e)配列番号9の核酸配列を含むCBAイントロン1、
f)配列番号10の核酸配列を含むMMVイントロン、
g)配列番号2の核酸配列を含むアスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸、
h)配列番号11の核酸配列を含むBGH polyA、及び
i)配列番号5、配列番号12又は配列番号19の核酸配列を含むAAV2 ITR、を含む自己相補性核酸と、を含む、rAAVベクター。
【請求項18】
請求項6~17のいずれか一項に記載のrAAVベクターを含む、医薬組成物。
【請求項19】
ASPAの欠乏又は機能障害に関連する疾患、障害又は状態を治療及び/又は予防する方法であって、治療有効量の請求項6~17のいずれか一項に記載のrAAVベクター、又は請求項17に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項20】
前記ASPAの欠乏又は機能障害に関連する疾患、障害又は状態が、カナバン病である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記rAAVベクターが、脳及び/又は中枢神経系に直接投与される、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記rAAVベクターが、脳実質、脊柱管、くも膜下腔、脳の脳室、大槽、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される中枢神経系の領域に投与される、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記rAAVベクターが、実質内投与、くも膜下腔内投与、脳室内投与、大槽内投与、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される方法によって投与される、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
請求項1に記載の単離核酸、請求項2に記載の修飾核酸、請求項3~5のいずれか一項に記載のベクターゲノム、又は請求項6~17のいずれか一項に記載のrAAVベクターを含む、宿主細胞。
【請求項25】
VERO、WI38、MRC5、A549、HEK293、B-50、又は任意の他のHeLa細胞、HepG2、Saos-2、HuH7、及びHT1080からなる群から選択される、請求項24に記載の宿主細胞。
【請求項26】
浮遊培養における増殖に適応したHEK293細胞である、請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項27】
アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)番号PTA13274を有するHEK293細胞である、請求項26に記載の宿主細胞。
【請求項28】
AAV repタンパク質、AAVカプシド(Cap)タンパク質、アデノウイルス(Ad)早期領域1A(E1a)タンパク質、Ad E1bタンパク質、Ad E2aタンパク質、Ad E4タンパク質、及びウイルス関連(VA)RNAからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの核酸を含む、請求項25~27のいずれか一項に記載の宿主細胞。
【請求項29】
治療有効量の請求項1に記載の単離核酸、請求項2に記載の修飾核酸、請求項3~5のいずれか一項に記載のベクターゲノム、請求項6~17のいずれか一項に記載のrAAVベクター、又は請求項18に記載の医薬組成物を含む、カナバン病(CD)の治療のためのキット。
【請求項30】
キット構成要素のうちの1つ以上を使用するための説明書を含むラベル又は添付文書を更に含む、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
ASPAの欠乏又は機能障害に関連する疾患、障害又は状態の治療又は予防における使用のための、請求項1に記載の単離核酸、請求項2に記載の修飾核酸、請求項3~5のいずれか一項に記載のベクター、請求項6~17のいずれか一項に記載のrAAVベクター、又は請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項32】
前記疾患、障害又は状態が、カナバン病である、請求項31に記載の使用のための単離核酸、修飾核酸、ベクターゲノム、rAAVベクター、又は医薬組成物。
【請求項33】
ASPAの欠乏又は機能障害に関連する疾患、状態の障害を治療及び/又は予防するための医薬の製造における、請求項1に記載の単離核酸、請求項2に記載の修飾核酸、請求項3~5のいずれか一項に記載のベクター、又は請求項6~17のいずれか一項に記載のrAAVベクターの使用。
【請求項34】
前記疾患、障害又は状態が、カナバン病である、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
対象の脳における導入遺伝子の生物学的分布を決定する方法であって、前記導入遺伝子は、Olig001カプシドを含むrAAVベクターから発現され、前記方法は、
a)脳室内(ICV)注射又は実質内(IP)注射による、rAAVベクターの前記対象への投与と、
b)脳の固定と、
c)脳の電気泳動クリアリングと、
d)脳組織切片の3D顕微鏡撮像と、
e)導入遺伝子発現の定量化と、を含む、方法。
【請求項36】
前記導入遺伝子が、マーカーをコードし、前記マーカーは、緑色蛍光タンパク質(GFP)である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記導入遺伝子が、ASPAをコードする、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記導入遺伝子発現が、rAAVベクター形質導入効率と相関する、請求項35~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
細胞形態の評価及び空間的位置決定による細胞型指向性の評価を含むステップ(f)を更に含む、請求項35~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
導入遺伝子発現の体積レンダリングを更に含む、請求項35~39のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年4月28日に出願された米国仮特許出願第63/016,507号、及び2020年9月11日に出願された米国仮特許出願第63/077,144号の優先権を主張する。これらの出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、アスパルトアシラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸、ASPAをコードする修飾核酸を使用する方法、ASPAをコードする修飾核酸を含むベクター、並びにN-アセチル-L-アスパラギン酸の細胞異化の減少に関連する疾患、障害及び状態、例えば、カナバン病を含む、機能的ASPAのレベルの減少に関連する疾患、障害及び状態の治療におけるベクターの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
カナバン病(CD)は、酵素アスパルトアシラーゼ(ASPA)(アミノアシラーゼ2としても知られる)をコードするASPA遺伝子からの発現の低下及び/又は変異と関連付けられる。アスパルトアシラーゼ活性の低下は、NAAのアスパルテート及びアセテートへの変換の低下によるN-アセチルアスパルテート(NAA)(N-アセチル-L-アスパラギン酸としても知られる)の蓄積をもたらす。ASPA酵素は、髄鞘形成細胞の代謝完全性の維持に関与している。脳では、ASPA遺伝子発現は主に白質産生乏突起膠細胞に制限される。脳内のNAAの蓄積は、乏突起膠細胞機能不全、及びミエリン鞘の発達への干渉、及びニューロンに関連する既存のミエリン鞘の破壊に関連する。
【0004】
CDは常染色体劣性遺伝疾患であり、主に新生児/乳児形態で現れる。この形態に影響を受ける子供は、脳及び脊髄におけるミエリンの変性に関連する症状を乳児期に示す。症状には、知的障害、過去に獲得した運動能力の喪失、摂食困難、異常な筋肉の緊張、巨頭症、麻痺及び発作が含まれる。寿命は、一般に、CDの新生児/乳児の子供の最初の10年間に限定される。CDの軽度/若年型を有する個体は、発話及び運動能力の発達の遅れを示し、平均寿命を有する可能性がある。
【0005】
これまでのところ、CDの神経変性効果を停止又は遅延させるための治療は存在しない。臨床使用又は評価中の現在の治療アプローチは、症状を緩和し、生活の質を最大化することを目的としている。いくつかの症状を治療し、生活の質を改善するために、理学療法、栄養チューブ、及び抗発作医薬が使用され得る。したがって、CDを治療するための新規の治療的アプローチの重要な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
本明細書に開示及び例示されるのは、アスパルトアシラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸及び修飾核酸を含むベクター(例えば、rAAVベクター)、並びに修飾核酸又は修飾核酸を含むベクターを、それを必要とする患者に投与することによって、ASPAタンパク質のレベルの低下によって媒介される疾患、障害又は状態を治療する方法である。
【0007】
当業者は、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態の多くの等価物を、日常的な実験のみを使用して認識するか、又は確認することができるであろう。そのような等価物は、以下の実施形態(E)によって包含されることが意図される。
E1.配列番号2の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする単離核酸。
E2.配列番号2の配列を含むか又はそれからなる核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする単離核酸。
E3.配列番号1の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする単離核酸。
E4.配列番号1の配列を含むか又はそれからなる核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする単離核酸。
E5.配列番号3の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする単離核酸。
E6.配列番号3の配列を含むか又はそれからなる核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする単離核酸。
E7.配列番号2の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸。
E8.配列番号2の配列を含むか又はそれからなる核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸。
E9.配列番号1の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸。
E10.配列番号1の配列を含むか又はそれからなる核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸。
E11.配列番号3の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸。
E12.配列番号3の配列を含むか又はそれからなる核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸。
E13.配列番号2の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸を含む、組換え核酸。
E14.配列番号2の核酸配列を含むか又はそれからなる、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸を含む、組換え核酸。
E15.配列番号1の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸を含む、組換え核酸。
E16.配列番号1の核酸配列を含むか又はそれからなる、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸を含む、組換え核酸。
E17.配列番号3の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸を含む、組換え核酸。
E18.配列番号3の核酸配列を含むか又はそれからなる、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸を含む、組換え核酸。
E19.エンハンサー、プロモーター、エクソン、イントロン、及びポリアデニル化(polyA)シグナル配列からなる群から選択される少なくとも1つのエレメントを更に含む、E13~E18のいずれか1つの組換え核酸。
E20.エンハンサーが、配列番号6、配列番号17、又はその両方と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は100%同一の核酸配列を含む、E19の組換え核酸。
E21.エンハンサーが、配列番号6、配列番号17又はその両方の核酸配列を含むか又はそれからなる、E19又はE20の組換え核酸。
E22.プロモーターが、構成的又は調節されている、E19~E21のいずれか1つの組換え核酸。
E23.プロモーターが、誘導性又は抑制性である、E19~E22のいずれか1つの組換え核酸。
E24.プロモーターが、配列番号7の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、E19~E23のいずれか1つの組換え核酸。
E25.プロモーターが、配列番号7の核酸配列を含むか又はそれからなる、E19~E24のいずれか1つの組換え核酸。
E26.エクソンが、配列番号8、配列番号18又はその両方の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、E19~E25のいずれか1つの組換え核酸。
E27.エクソンが、配列番号8、配列番号18又はその両方の核酸配列を含むか又はそれからなる、E19~E26のいずれか1つの組換え核酸。
E28.イントロンが、配列番号9、配列番号10、又はその両方の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は100%同一の核酸配列を含む、E19~E27のいずれか1つの組換え核酸。
E29.イントロンが、配列番号9、配列番号10又はその両方の核酸配列を含むか又はそれからなる、E19~E28のいずれか1つの組換え核酸。
E30.polyA配列が、配列番号11の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、E19~E29のいずれか1つの組換え核酸。
E31.polyA配列が、配列番号11の核酸配列を含むか又はそれからなる、E19~E30のいずれか1つの組換え核酸。
E32.エンハンサーが修飾核酸に作動可能に連結されている、E19~E31のいずれか1つの組換え核酸。
E33.プロモーターが修飾核酸に作動可能に連結している、E19~E32のいずれか1つの組換え核酸。
E34.サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー、CBAプロモーターのハイブリッド形態(CBhプロモーター)、ニワトリβアクチン(CBA)エクソン、CBAイントロン、マウスの微小ウイルス(MVM)イントロン、及びウシ成長ホルモン(BGH)polyAからなる群から選択される少なくとも1つのエレメントを更に含む、E13~E18のいずれか1つの組換え核酸。
E35.配列番号6又は配列番号17の核酸配列を含むCMVエンハンサー、配列番号7の核酸配列を含むCBhプロモーター、配列番号8又は配列番号18の核酸配列を含むCBAエクソン、配列番号9の核酸配列を含むCBAイントロン、配列番号10の核酸配列を含むMMVイントロン、及び配列番号11の核酸配列を含むBGH polyAからなる群から選択される少なくとも1つのエレメントを更に含む、E13~E18のいずれか1つの組換え核酸。
E36.E7~E12のいずれか1つの修飾核酸、又はE13~E35のいずれか1つの組換え核酸を含むベクターゲノムであって、配列番号5、配列番号12又はその両方の核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は100%同一の核酸配列を含む、少なくとも1つのAAV ITR反復配列を更に含む、ベクターゲノム。
E37.少なくとも1つのAAV ITR反復配列が、配列番号5、配列番号12、配列番号19又はそれらの組み合わせの核酸配列を含むか又はそれからなる、E36のベクターゲノム。
E38.ASPAをコードする核酸配列に隣接する2つのAAV2 ITR配列、及びASPAをコードする配列の上流のCBhプロモーターを含む、E36又はE37のベクターゲノム。
E39.ASPA配列が、配列番号2の核酸配列を含む、E36~E38のいずれか1つのベクターゲノム。
E40.少なくとも1つのAAV2 ITR配列が、配列番号5、配列番号12、配列番号19、又はそれらの組み合わせの核酸配列を含む、E36~E39のいずれか1つのベクターゲノム。
E41.CBhプロモーターが、配列番号7の核酸配列を含む、E36~E40のいずれか1つのベクターゲノム。
E42.核酸を含むベクターゲノムであって、核酸は、5’から3’に、
a)配列番号5、配列番号12又は配列番号19の核酸配列を含むAAV2 ITR、
b)配列番号6又は配列番号17、好ましくは配列番号6の核酸配列を含むCMVエンハンサー、
c)配列番号7の核酸配列を含むCBhプロモーター、
d)配列番号8、配列番号18、好ましくは配列番号18の核酸配列を含むCBAエクソン、
e)配列番号9の核酸配列を含むCBAイントロン、
f)配列番号10の核酸配列を含むMMVイントロン、
g)配列番号1~3のいずれか1つの核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸、
h)配列番号11の核酸配列を含むBGH polyA、及び
i)配列番号5、配列番号12、配列番号19の核酸配列を含むAAV2 ITR、を含む、ベクターゲノム。
E43.核酸を含むベクターゲノムであって、核酸は、5’から3’に、
a)配列番号5、配列番号12又は配列番号19の核酸配列を含むAAV ITR、
b)配列番号6又は配列番号17、好ましくは配列番号6の核酸配列を含むエンハンサー、
c)配列番号7の核酸配列を含むプロモーター、
d)配列番号8又は配列番号18、好ましくは配列番号18の核酸配列を含むエクソン、
e)配列番号9の核酸配列を含むイントロン、
f)配列番号10の核酸配列を含むイントロン、
g)配列番号1~3のいずれか1つの核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸、
h)配列番号11の核酸配列を含むPolyA、及び
i)配列番号5、配列番号12又は配列番号19の核酸配列を含む、AAV末端反復を含む、ベクターゲノム。
E44.自己相補的である、E36~43のいずれか1つのベクターゲノム。
E45.E36~E44のいずれか1つのベクターゲノムと、カプシドと、を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター。
E46.配列番号2の核酸配列と約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、ベクターゲノムを含む、rAAVベクター。
E47.Olig001、Olig002、Olig003、AAV1、AAV2、AAV3、AAV3A、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh10、AAVrh74、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、RHM15-6、AAVHu.26、AAV1.1、AAV2.5、AAV6.1、AAV6.3.1、AAV9.45、AAV2i8、AAV2G9、AAV2i8G9、AAV2-TT、AAV2-TT-S312N、AAV3B-S312N、及びAAV-LK03のカプシドからなる群から選択されるカプシドを含む、E46のrAAVベクター。
E48.配列番号1の核酸配列と約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、ベクターゲノムを含む、rAAVベクター。
E49.Olig001、Olig002、Olig003、AAV1、AAV2、AAV3、AAV3A、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh10、AAVrh74、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、RHM15-6、AAVHu.26、AAV1.1、AAV2.5、AAV6.1、AAV6.3.1、AAV9.45、AAV2i8、AAV2G9、AAV2i8G9、AAV2-TT、AAV2-TT-S312N、AAV3B-S312N、及びAAV-LK03のカプシドからなる群から選択されるカプシドを含む、E48のrAAVベクター。
E50.配列番号3の核酸配列と約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、ベクターゲノムを含む、rAAVベクター。
E51.Olig001、Olig002、Olig003、AAV1、AAV2、AAV3、AAV3A、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh10、AAVrh74、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、RHM15-6、AAVHu.26、AAV1.1、AAV2.5、AAV6.1、AAV6.3.1、AAV9.45、AAV2i8、AAV2G9、AAV2i8G9、AAV2-TT、AAV2-TT-S312N、AAV3B-S312N、及びAAV-LK03のカプシドからなる群から選択されるカプシドを含む、E50のrAAVベクター。
E52.カプシドが、Olig001、Olig002及びOlig003カプシドから選択される、E45~E51のいずれか1つのrAAVベクター。
E53.カプシドが、ウイルスタンパク質1(VP1)を含むOlig001カプシドであり、VP1が、配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含む、E45~E52のいずれか1つのrAAVベクター。
E54.カプシドが、ウイルスタンパク質1(VP1)を含むオリゴ001カプシドであり、VP1が、配列番号14のアミノ酸配列を含む、E45~E53のいずれか1つのrAAVベクター。
E55.カプシドが、ウイルスタンパク質1(VP1)を含むOlig002カプシドであり、VP1が、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含む、E45~E52のいずれか1つのrAAVベクター。
E56.カプシドが、ウイルスタンパク質1(VP1)を含むオリゴ002カプシドであり、VP1が、配列番号15のアミノ酸配列を含む、E45~E52及びE55のいずれか1つのrAAVベクター。
E57.カプシドが、ウイルスタンパク質1(VP1)を含むOlig003カプシドであり、VP1が、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含む、E45~E52のいずれか1つのrAAVベクター。
E58.カプシドが、ウイルスタンパク質1(VP1)を含むオリゴ003カプシドであり、VP1が、配列番号16のアミノ酸配列を含む、E46~E52及びE57のいずれか1つのrAAVベクター。
E59.ベクターゲノムが自己相補的である、E45~E58のいずれか1つのrAAVベクター。
E60.ベクターゲノムが、少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)配列、エンハンサー、プロモーター、エクソン、イントロン、及びポリアデニル化(polyA)シグナル配列からなる群から選択される少なくとも1つのエレメントを含む、E46~E59のいずれか1つのrAAVベクター。
E61.エンハンサーが、配列番号6又は配列番号17の核酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%同一の核酸配列を含む、E60のrAAVベクター。
E62.エンハンサーが、配列番号6又は配列番号17の核酸配列を含むか又はそれからなる、E60又はE61のrAAVベクター。
E63.プロモーターが、構成的又は調節されている、E60又はE62のrAAVベクター。
E64.プロモーターが、誘導性又は抑制性である、E60~E63のいずれか1つのrAAVベクター。
E65.プロモーターが、配列番号7の核酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%同一の核酸配列を含む、E60~E64のいずれか1つのrAAVベクター。
E66.プロモーターが、配列番号7の核酸配列を含むか又はそれからなる、E60~E65のいずれか1つのrAAVベクター。
E67.エクソンが、配列番号8又は配列番号18の核酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%同一の核酸配列を含む、E60~E66のいずれか1つのrAAVベクター。
E68.エクソンが、配列番号8又は配列番号18の核酸配列を含むか又はそれからなる、E60~E67のいずれか1つのrAAVベクター。
E69.イントロンが、配列番号9、配列番号10又はその両方の核酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一の核酸配列を含む、E60~E68のいずれか1つのrAAVベクター。
E70.イントロンが、配列番号9、配列番号10又はその両方の核酸配列を含むか又はそれからなる、E60~E69のいずれか1つのrAAVベクター。
E71.polyA配列が、配列番号11の核酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一の核酸配列を含む、E60~E70のいずれか1つのrAAVベクター。
E72.polyA配列が、配列番号11の核酸配列を含むか又はそれからなる、E60~E71のいずれか1つのrAAVベクター。
E73.少なくとも1つのAAV ITR反復配列が、配列番号5、配列番号12、配列番号19又はそれらの組み合わせの核酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一の核酸配列を含む、E60~E72のいずれか1つのrAAVベクター。
E74.少なくとも1つのAAV ITR反復配列が、配列番号5、配列番号12、配列番号19又はそれらの組み合わせの核酸配列を含むか又はそれからなる、E60~E73のいずれか1つのrAAVベクター。
E75.ベクターゲノムが、少なくとも1つのAAV2 ITR配列、CMVエンハンサー、CBhプロモーター、CBAエクソン1、CBAイントロン1、MVMイントロン、及びBGH polyAからなる群から選択される少なくとも1つのエレメントを更に含む、E46~E59のいずれか1つのrAAVベクター。
E76.ベクターゲノムが、配列番号5、配列番号12、配列番号19又はそれらの組み合わせの核酸配列を含む少なくとも1つのAAV2 ITR配列、配列番号6又は配列番号17の核酸配列を含むCMVエンハンサー、配列番号7の核酸配列を含むCBhプロモーター、配列番号8又は配列番号18の核酸配列を含むCBAエクソン1、配列番号9の核酸配列を含むCBAイントロン1、配列番号10の核酸配列を含むMMVイントロン、及び配列番号11の核酸配列を含むBGH polyAからなる群から選択される少なくとも1つのエレメントを更に含む、E46~E59のいずれか1つのrAAVベクター。
E77.ベクターゲノムが、ASPAをコードする配列に隣接する2つのAAV2 ITR配列、及びASPAをコードする配列の上流のCBhプロモーターを含む、E46~E59のいずれか1つのrAAVベクター。
E78.ASPA配列が、配列番号2の核酸配列を含む、E77のrAAVベクター。
E79.AAV ITR配列が、配列番号5、配列番号12、配列番号19又はそれらの組み合わせの核酸配列を含む、E77又はE78のrAAVベクター。
E80.CBhプロモーターが、配列番号7の核酸配列を含む、E77~E79のいずれか1つのrAAVベクター。
E81.5’から3’に、
a)配列番号5、配列番号12、配列番号19、又はそれらの組み合わせの核酸配列を含むAAV2 ITR、
b)配列番号6又は配列番号16の核酸配列を含むCMVエンハンサー、
c)配列番号7の核酸配列を含むCBhプロモーター、
d)配列番号8又は配列番号18の核酸配列を含むCBAエクソン1、
e)配列番号9の核酸配列を含むCBAイントロン1、
f)配列番号10の核酸配列を含むMMVイントロン、
g)配列番号1~3のいずれか1つの核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸、
h)配列番号11の核酸配列を含むBGH polyA、及び
i)配列番号5、配列番号12、配列番号19又はそれらの組み合わせの核酸配列を含むAAV2 ITR、を含むベクターゲノムを含む、rAAVベクター。
E82.5’から3’に、
a)配列番号5、配列番号12、配列番号19又はそれらの組み合わせの核酸配列を含むAAV ITR、
b)配列番号6又は配列番号17の核酸配列を含むエンハンサー、
c)配列番号7の核酸配列を含むプロモーター、
d)配列番号8又は配列番号18の核酸配列を含むエクソン、
e)配列番号9の核酸配列を含むイントロン、
f)配列番号10の核酸配列を含むイントロン、
g)配列番号1~3のいずれか1つの核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸、
h)配列番号11の核酸配列を含むPolyA、及び
i)配列番号5、配列番号12、配列番号19又はそれらの組み合わせの核酸配列を含むAAV末端反復、を含む、rAAVベクター。
E83.ベクターゲノムが自己相補的である、E81又はE82のrAAVベクター。
E84.ベクターが、VP1タンパク質を含むOlig001カプシドを含み、VP1は、配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含む、E81~E83のいずれか1つのrAAVベクター。
E85.ベクターが、VP1タンパク質を含むOlig002カプシドを含み、VP1は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含む、E81~E83のいずれか1つのrAAVベクター。
E86.ベクターが、VP1タンパク質を含むOlig003カプシドを含み、VP1は、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含む、E81~E83のいずれか1つのrAAVベクター。
E87.i)VP1タンパク質を含むOlig001カプシドであって、VP1は配列番号14のアミノ酸配列を含むOlig001カプシドと、ii)5’から3’に、
a)配列番号5、配列番号12、配列番号19、又はそれらの組み合わせの核酸配列を含むAAV2 ITR、
b)配列番号6又は配列番号17の核酸配列を含むCMVエンハンサー、
c)配列番号7の核酸配列を含むCBhプロモーター、
d)配列番号8又は配列番号18の核酸配列を含むCBAエクソン1、
e)配列番号9の核酸配列を含むCBAイントロン1、
f)配列番号10の核酸配列を含むMMVイントロン、
g)配列番号1~3のいずれか1つの核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸、
h)配列番号11の核酸配列を含むBGH polyA、及び
i)配列番号5又は配列番号12の核酸配列を含むAAV2 ITR、を含む自己相補的ベクターゲノムと、を含む、rAAVベクター。
E88.i)VP1タンパク質を含むOlig001カプシドであって、VP1は配列番号14のアミノ酸配列を含むOlig001カプシドと、ii)5’から3’に、
a)配列番号5、配列番号12、配列番号19又はそれらの組み合わせの核酸配列を含むAAV ITR、
b)配列番号6又は配列番号17の核酸配列を含むエンハンサー、
c)配列番号7の核酸配列を含むプロモーター、
d)配列番号8又は配列番号18の核酸配列を含むエクソン、
e)配列番号9の核酸配列を含むイントロン、
f)配列番号10の核酸配列を含むイントロン、
g)配列番号1~3のいずれか1つの核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸、
h)配列番号11の核酸配列を含むPolyA、及び
i)配列番号5、配列番号12、配列番号19の核酸配列、又はこれらの組み合わせを含むAAV ITR、を含む自己相補的ベクターゲノムと、を含む、rAAVベクター。
E89.細胞に導入されると、細胞におけるNAAのレベルを低下させる、E45~E88のいずれか1つのrAAVベクター。
E90.細胞が脳細胞である、E89のrAAVベクター。
E91.細胞が乏突起膠細胞である、E89又はE90のrAAVベクター。
E92.ASPA遺伝子変異を有する対象へのベクターの投与が、ベクターの投与前の対象におけるバランス、グリップ強度及び/又は運動協調と比較して、対象におけるバランス、グリップ強度及び/又は運動協調を増加させる、E45~E91のいずれか1つのrAAVベクター。
E93.ASPA遺伝子変異を有する対象へのベクターの投与が、ベクターの投与前の対象における全身的運動機能と比較して、対象における全身的運動機能を増加させる、E45~E92のいずれか1つのrAAVベクター。
E94.ASPA遺伝子変異を有する対象へのベクターの投与が、ベクターの投与前の対象におけるNAAレベルと比較して、対象におけるNAAレベルを低下させる、E45~E93のいずれか1つのrAAVベクター。
E95.ASPA遺伝子変異を有する対象へのベクターの投与が、ベクターの投与前の対象の視床における空胞体積割合と比較して、対象の視床における空胞体積割合を減少させる、E45~E94のいずれか1つのrAAVベクター。
E96.ASPA遺伝子変異を有する対象へのベクターの投与が、ベクターの投与前の対象の小脳白質/橋の空胞体積割合と比較して、対象の小脳白質/橋の空胞体積割合を減少させる、E45~E95のいずれか1つのrAAVベクター。
E97.ASPA遺伝子変異を有する対象へのベクターの投与が、ベクターの投与前の対象の視床における乏突起膠細胞の数と比較して、対象の視床における乏突起膠細胞の数を増加させる、E45~E96のいずれか1つのrAAVベクター。
E98.ASPA遺伝子変異を有する対象へのベクターの投与が、ベクターの投与前の対象の脳皮質中の乏突起膠細胞の数と比較して、対象の脳皮質中の乏突起膠細胞の数を増加させる、E45~E97のいずれか1つのrAAVベクター。
E99.ASPA遺伝子変異を有する対象へのベクターの投与が、ベクターの投与前の対象の視床におけるニューロンの数と比較して、対象の視床におけるニューロンの数を増加させる、E45~E98のいずれか1つのrAAVベクター。
E100.ASPA遺伝子変異を有する対象へのベクターの投与が、ベクターの投与前の対象の脳皮質におけるニューロンの数と比較して、対象の脳皮質におけるニューロンの数を増加させる、E45~E99のいずれか1つのrAAVベクター。
E101.ASPA遺伝子変異を有する対象へのベクターの投与が、ベクターの投与前の対象における皮質髄鞘形成と比較して、対象における皮質髄鞘形成を増加させる、E45~E100のいずれか1つのrAAVベクター。
E102.対象がヒト患者である、E92~E101のいずれか1つのrAAVベクター。
E103.対象が、カナバン病を有する、又はカナバン病を発症するリスクのあるヒト患者である、E92~E102のいずれか1つのrAAVベクター。
E104.対象が、少なくとも1つのASPA遺伝子変異を有する、E92~E103のいずれか1つのrAAVベクター。
E105.E7~E12のいずれか1つの修飾核酸、E13~E35のいずれか1つの組換え核酸、E36~E44のいずれか1つに記載のベクターゲノム、又はE45~E104のいずれか1つのrAAVベクターを含む、医薬組成物。
E106.E7~E12のいずれか1つの修飾核酸、E13~E35のいずれか1つの組換え核酸、E36~E44のいずれか1つのベクターゲノム、又はE45~E104のいずれか1つのrAAVベクター、及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
E107.ASPAの欠乏又は機能不全に関連する疾患、障害又は状態を治療及び/又は予防する方法であって、治療有効量のE7~E12のいずれか1つの修飾核酸、E13~E35のいずれか1つの組換え核酸、E36~E44のいずれか1つのベクターゲノム、E45~E104のいずれか1つのrAAVベクター、又はE105若しくはE106の医薬組成物を、治療を必要とする対象に投与することを含む、方法。
E108.ASPAの欠乏又は機能不全に関連する疾患、障害又は状態が、カナバン病である、E107の方法。
E109.修飾核酸、組換え核酸、ベクターゲノム、rAAVベクター又は医薬組成物が、治療を必要とする対象の脳に直接投与される、E107又はE108の方法。
E110.修飾核酸、組換え核酸、ベクターゲノム、rAAVベクター又は医薬組成物が、治療を必要とする対象の中枢神経系に直接投与される、E107~E109のいずれか1つの方法。
E111.修飾核酸、組換え核酸、ベクターゲノム、rAAVベクター又は医薬組成物が、脳実質、脊柱管、くも膜下腔、脳の脳室、大槽、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される中枢神経系の少なくとも1つの領域に投与される、E107~E110のいずれか1つの方法。
E112.修飾核酸、組換え核酸ベクターゲノム、rAAVベクター又は医薬組成物が、実質内投与、くも膜下腔内投与、脳室内投与、大槽内投与、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの方法方法によって投与される、E107~E111のいずれか1つの方法。
E113.対象がヒト患者である、E107~E112のいずれか1つの方法。
E114.対象が、カナバン病を有する、又はカナバン病を発症するリスクのあるヒト患者である、E107~E113のいずれか1つの方法。
E115.対象が、ASPA遺伝子に少なくとも1つの変異を有する、E107~E114のいずれか1つの方法。
E116.カナバン病を治療又は予防する方法であって、i)対象が少なくとも1つのASPA遺伝子変異を含むかどうかを評価するステップと、ii)治療有効量のE7~E12のいずれか1つの修飾核酸、E13~E35のいずれか1つの組換え核酸、E36~E44のいずれか1つのベクターゲノム、E45~E104のいずれか1つのrAAVベクター、又はE105若しくはE106の医薬組成物を対象に投与し、それによって対象のカナバン病を治療又は予防するステップと、を含む、方法。
E117.対象が、カナバン病と診断されるか、又はカナバン病を発症するリスクがあると診断される、EE116に記載の方法。
E118.ASPA欠乏に関連する疾患の治療又は予防を必要とする対象においてASPA欠乏に関連する疾患を治療又は予防する方法であって、治療有効量のASPAをコードする修飾核酸を対象に投与することを含み、ASPAをコードする修飾核酸はコドン最適化されている、方法。
E119.ASPAをコードする修飾核酸が、配列番号2の核酸配列を含む、E118の方法。
E120.ASPAをコードする修飾核酸が、配列番号4のアミノ酸配列を有するASPAタンパク質をコードする、E118又はE119の方法。
E121.ASPAをコードする修飾修飾核酸が、標的細胞において発現され、標的細胞が、乏突起膠細胞である、E118~E120のいずれか1つの方法。
E122.ASPAをコードする修飾核酸が、ベクターで標的細胞に送達される、E118~E121のいずれか1つの方法。
E123.ベクターが、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターである、E122に記載の方法。
E124.ベクターが、全身注射によって、直接頭蓋内注射によって、又は直接脊柱管注射によって対象に投与される、E118~E123のいずれか1つの方法。
E125.E7~E12のいずれか1つの修飾核酸、E13~E35のいずれか1つの組換え核酸、E36~E44のいずれか1つのベクターゲノム、又はE45~E104のいずれか1つのrAAVベクターのうちのいずれか1つの修飾核酸を含む、宿主細胞。
E126.VERO、WI38、MRC5、A549、HEK293、B-50、又は任意の他のHeLa細胞、HepG2、Saos-2、HuH7、及びHT1080からなる群から選択される、E125の宿主細胞。
E127.浮遊培養における増殖に適応したHEK293細胞である、E125~E126の宿主細胞。
E128.アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)番号PTA13274を有するHEK293細胞である、E125~E127のいずれか1つの宿主細胞。
E129.AAV Repタンパク質、AAVカプシド(Cap)タンパク質、アデノウイルス早期領域1A(E1a)タンパク質、E1bタンパク質、E2aタンパク質、E4タンパク質、及びウイルス関連(VA)RNAからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの核酸を含む、E125~E128のいずれか1つの宿主細胞。
E130.治療有効量のi)E45~E104のいずれか1つのrAAVベクター又はii)E105若しくはE106の医薬組成物を含む、カナバン病(CD)の治療のためのキット。
E131.キット構成要素のうちの1つ以上を使用するための説明書を含むラベル又は添付文書を更に含む、E130のキット。
E132.ASPAの欠損又は機能不全に関連する疾患、障害又は状態の治療又は予防における使用のための、E7~E12のいずれか1つの修飾核酸、E13~E35のいずれか1つの組換え核酸、E36-E44のいずれか1つのベクターゲノム、E45-E104のいずれか1つのrAAVベクター、又はE105若しくはE106の医薬組成物。
E133.疾患、障害又は状態が、カナバン病である、E132の使用のための修飾核酸、組換え核酸、ベクターゲノム、rAAVベクター、又は医薬組成物。
E134.ASPAの欠乏又は機能不全に関連する疾患、状態の障害を治療及び/又は予防するための医薬の製造における、E7~E12のいずれか1つの修飾核酸、E13~E35のいずれか1つの組換え核酸、E36~E44のいずれか1つのベクターゲノム、E45~E104のいずれか1つのrAAVベクター、又はE105若しくはE106の医薬組成物の使用。
E135.疾患、障害又は状態が、カナバン病である、E134の使用。
E136.Olig001カプシドを含むrAAVベクターによって対象の脳に送達される導入遺伝子の生体分布を決定する方法であって、導入遺伝子によってコードされるタンパク質が発現され、方法は、
a)rAAVベクターの対象への投与と、
b)脳組織の固定と、
c)脳の電気泳動クリアリングと、
d)脳組織切片の3D顕微鏡撮像と、
e)タンパク質の検出と、
f)任意選択で、脳組織中に存在するタンパク質の量の定量化と、を含む、方法。
E137.投与が、脳室内(ICV)注射、実質内(IP)注射、くも膜下腔内(IT)投与、大槽内(ICM)注射、又はそれらの組み合わせによる、E136の方法。
E138.脳組織が、例えば、パラホルムアルデヒド又はホルマリンを使用して固定される、E136又は137の方法。
E139.定量化が、体積レンダリングを含む、E136~E138のいずれか1つの方法。
E140.導入遺伝子が、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする、E136~E139のいずれか1つの方法。
E141.組織において検出される導入遺伝子発現のレベルが、rAAVベクター形質導入効率と相関する、E136~E140のいずれか1つの方法。
E142.(g)細胞形態の評価及びGFP発現の空間的位置決定による細胞型ベクター指向性の評価ステップを更に含む、E136~E141のいずれか1つの方法。
E143.配列番号1~3及びプロモーターのいずれか1つの核酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸。
E144.配列番号2及びプロモーターの配列を含むか又はそれからなる核酸を含む、アスパルトアシルトランスフェラーゼ(ASPA)をコードする修飾核酸。
E145.プロモーターをコードする核酸配列を含み、ASPAをコードする修飾核酸配列を更に含む核酸であって、修飾核酸配列は、配列番号2の配列を含むか又はそれからなる核酸。
E146.プロモーターを特定する核酸配列を含み、配列番号2の核酸配列を含むか又はそれからなる核酸配列を更に含む、単離核酸。
E147.PBS中350mMのNaCl及び5%のD-ソルビトールを更に含む、E105の医薬組成物。
E148.薬学的に許容される担体が、PBS中350mMのNaCl及び5%のD-ソルビトールを含む、E106の医薬組成物。
【0008】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明、図面、例示的な実施形態及び特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】1.0μgのNAAシンターゼ(Nat8L)を発現するプラスミドでトランスフェクトし、野生型ヒトASPA配列(配列番号3)又は修飾された、例えばコドン最適化ASPA配列の元(バージョン1)(配列番号1)若しくはコドン最適化ASPA配列の新規(バージョン2)(配列番号2)を含む1.0μg、0.5μg、0.2μg又は0.1μgのプラスミドで同時トランスフェクトした細胞における、HPLCを使用して決定されるNAAの例示的な用量応答低減を示す。
【
図2】実質内(IP)投与経路(ROA)を介して投与されるrAAVベクターによって形質導入されたGFP陽性細胞の例示的なサンプリングを示す。GFP陽性体細胞(矢印)を各関心領域でスコアリングし、形質導入細胞の数(N)の推定値を生成した。
【
図3】AAV/Olig001-GFPの実質内(IP)投与後の6週齢nur7マウスの皮質、脳梁及び外嚢の皮質下白質、線条体並びに小脳のGFP陽性細胞の例示的な数(N)を示し、また注射部位に隣接する濃縮GFP発現を示すIP ROAを介して1×10
11のAAV/Olig001-GFPベクターゲノムを投与したマウスからの脳の矢状切片における天然GFP蛍光の代表的な画像を示す。Nの推定値は、光学分割器(k=4)を使用して144の切片で生成された。各群の平均+/-標準誤差が提示されている(n=5匹の動物)。各関心領域内の用量コホート間のGFP陽性細胞の数の有意な差は、アスタリスクによって示される。
【
図4】AAV/Olig001-GFPの髄腔内(IT)投与後の6週齢nur7マウスの皮質、皮質下白質、線条体及び小脳内のGFP陽性細胞(N)の例示的な数、並びに1×10
11のAAV/Olig001-GFPベクターゲノムが髄腔内(IT)ROAを介して投与されたマウスからの脳の矢状切片における天然GFP蛍光の代表的な画像を示し、ベクターによる形質導入を示すびまん性皮質マーカー発現、及びその領域内の細胞の形質導入も示す適度な白質路細胞発現を示す。各群の平均+/-標準誤差が提示されている(n=5匹の動物)。各関心領域内の用量コホート間のGFP陽性細胞の数の有意な差は、アスタリスクによって示される。
【
図5】AAV/Olig001-GFPの脳室内(ICV)投与後の6週齢nur7マウスの皮質、皮質下白質、線条体及び小脳内のGFP陽性細胞(N)の例示的な数、並びに1×10
11のAAV/Olig001-GFPベクターゲノムがICV ROAを介して投与されたマウスの脳の矢状切片における天然GFP蛍光の代表的な画像を示し、その領域内の細胞のベクターによる形質導入を示す激しい白質路GFP発現を示す。各群の平均+/-標準誤差が提示されている(n=5匹の動物)。各関心領域内の用量コホート間のGFP陽性細胞の数の有意な差は、アスタリスクによって示される。
【
図6】AAV/Olig001-GFPの大槽内(ICM)投与後の6週齢nur7マウスの皮質、皮質下白質、線条体及び小脳内のGFP陽性細胞(N)の例示的な数、並びに1×10
11のAAV/Olig001-GFPベクターゲノがICM ROAを介して投与されたマウスからの脳の矢状切片における天然GFP蛍光の代表的な画像を示し、その領域内の細胞の形質導入を示す適度な白質路GFPマーカー発現を示す。各群の平均+/-標準誤差が提示されている(n=5匹の動物)。各関心領域内の用量コホート間のGFP陽性細胞の数の有意な差は、アスタリスクによって示される。
【
図7】4つの異なる投与経路(IP、IT、ICV及びICM)によって各動物に投与される1×10
11vg用量の皮質、皮質下白質、線条体及び小脳の4つの関心領域における例示的なAAV/Olig001-GFP形質導入効率の直接比較、並びに実質内及び脳室内の注射部位の外側の切片における天然GFP蛍光の代表的な画像を示す。皮質及び皮質下白質路導入遺伝子陽性細胞の両方が、ICV脳の外側切片においてより多数であった。各群について、n=5匹の動物であり、平均+/-標準誤差が示されている。個々の関心領域間のGFP陽性細胞の数の有意な差は、アスタリスクによって示される(*p≦0.05、**p≦0.01、及び***p≦0.001)。
【
図8】実質内(IP)、髄腔内(IT)、脳室内(ICV)及び大槽内(ICM)ベクター投与後の6週齢nur7マウスの皮質におけるAAV/Olig001-GFPの例示的なオリゴ指向性を示す。皮質切片を、Olig2及びNeuN抗体を使用してIHCにより分析した。各群について、n=5匹の動物であり、各示された抗原による同時標識の平均パーセンテージ+/-標準誤差が示されている。アスタリスクは群間の有意差を示す。
【
図9】実質内(IP)、髄腔内(IT)、脳室内(ICV)及び大槽内(ICM)ベクター投与後の6週齢nur7マウスの皮質下白質におけるAAV/Olig001-GFPの例示的なオリゴ指向性を示す。皮質下白質の切片を、Olig2及びNeuN抗体を使用してIHCにより分析した。各群について、n=5匹の動物であり、各示された抗原による同時標識の平均パーセンテージ+/-標準誤差が示されている。
【
図10】実質内(IP)、髄腔内(IT)、脳室内(ICV)及び大槽内(ICM)ベクター投与後の6週齢nur7マウスの線条体質におけるAAV/Olig001-GFPの例示的なオリゴ指向性を示し、マーカー検出がベクターによる細胞の形質導入を示す。線条体質の切片を、Olig2及びNeuN抗体を使用してIHCにより分析した。各群について、n=5匹の動物であり、各示された抗原による同時標識の平均パーセンテージ+/-標準誤差が示されている。
【
図11】実質内(IP)、髄腔内(IT)、脳室内(ICV)及び大槽内(ICM)ベクター投与後の6週齢nur7マウスの小脳におけるAAV/Olig001-GFPの例示的なオリゴ指向性を示し、マーカー検出がベクターによる形質導入を示す。小脳切片を、Olig2及びNeuN抗体を使用してIHCにより分析した。各群について、n=5匹の動物であり、各示された抗原による同時標識の平均パーセンテージ+/-標準誤差が示されている。
【
図12】1×10
11ベクターゲノムのICV投与から2週間後の週齢適合野生型(WT)及びnur7マウス脳の皮質及び皮質下白質におけるAAV/Olig001-GFP形質導入の例示的な効率、並びにAAV/Olig001-GFPの投与後の野生型脳における天然GFP蛍光の代表的な画像を示し、比較的制限された発現を示し、それによって、ベクターによる形質導入、特に皮質下白質における形質導入を示す。各群について、n=5匹の動物であり、群当たりの平均GFP陽性細胞数+/-標準誤差が示され、*p≦0.05、**p≦0.01である。
【
図13】コドン最適化されたASPAコード配列及び調節エレメントをコードする発現プラスミドを示す。
【
図14】AAV/Olig001-ASPA処置(3回用量レベルで)、野生型及びnur7偽処置マウスの生体内研究期間にわたるロータロッド落下潜時を示す。データは、群当たりn=12匹の動物で、平均+/-標準誤差として提示されている。
【
図15】野生型(WT)マウス、(3つの用量レベルで)処置されたAAV/Olig001-ASPA、及び偽処置nur7マウスの生体内研究期間にわたる例示的なオープンフィールド活動性を示す。データは、群当たりn=12匹の動物で、平均+/-標準誤差として提示されている。
【
図16】野生型(WT)、nur7偽処置及びAAV/Olig001-ASPA処置(3つの用量レベル)マウス脳の例示的なNAA含有量を示す。データは、平均+/-標準誤差として表される。NAAは、湿潤組織重量のグラム当たりのミリモル(群当たりn=6匹の動物)として表される。AAV/Olig001-ASPAの用量は、x軸に示されている。
【
図17】22週齢で評価されたAAV/Olig001-ASPAで3つの異なる用量レベルで処置されたnur7マウスの脳組織1mg当たりの例示的な平均ベクターゲノムコピー数(vg/mg)を示す。平均vg/mg値は、+/-標準誤差(用量コホート当たりn=6匹の動物)として提示されている。
【
図18】空胞化領域を示す、nur7偽処置、AAV/Olig001-ASPA処置nur7及び野生型マウスからの代表的なH&E染色脳切片を示す。
【
図19】22週齢の偽処置及びAAV/Olig001-ASPA処置nur7マウスからの視床及び脳白質/橋の関心領域(ROI)の割合としての例示的な空胞体積割合を示す。アスタリスクは群間の有意差を示す。
【
図20】乏突起膠細胞を示すOlig2について染色された偽処置及びAAV/Olig001-ASPA処置(2.5×10
11vg用量)nur7マウスの視床及び皮質の代表的な画像を示す。
【
図21】22週齢野生型、偽処置及びAAV/Olig001-ASPA処置nur7マウスの視床及び皮質におけるOlig2陽性細胞の例示的な数を示す。データは、平均Olig2陽性細胞+/-標準誤差(群当たりn=6匹の動物)として表される。アスタリスクは群間の有意差を示す。
【
図22】NeuNについて染色された偽処置及びAAV/Olig001-ASPA処置(2.5×10
11vg用量)nur7マウスの視床及び皮質の代表的な画像を示す。
【
図23】22週齢野生型、偽処置及びAAV/Olig001-ASPA処置nur7マウスの視床及び皮質におけるNeuN陽性細胞の例示的な数を示す。データは、平均NeuN陽性細胞+/-標準誤差(群当たりn=6匹の動物)として表される。アスタリスクは群間の有意差を示す。
【
図24】ミエリン塩基性タンパク質(MBP)について染色された偽処置及びAAV/Olig001-ASPA処置(2.5×10
11vg用量)nur7マウスの皮質の代表的な画像を示す。
【
図25】野生型、偽処置及びAAV/001-ASPA処置nur7マウスの皮質における例示的なミエリン塩基性タンパク質陽性線維長密度(MBP-LD)(μm/mm
3)を示す。データは、平均MBP-LD+/-標準誤差(群当たりn=6匹の動物)として表される。アスタリスクは群間の有意差を示す。
【
図26】初期固定された事前にクリアされた試料、組織クリア後の試料、3D GFP蛍光画像、半脳体積セグメンテーション分析、及び強度ヒートマップ(左から右)からのICV注射マウスからの例示的な脳画像を示す。
【
図27】4つ全てのICV注射半脳からの強度ヒートマップを示す。全半脳体積が計算され、灰色領域として表される。計算された「低い」GFP強度は灰色領域で示され、「高い」GFP強度は白色領域で示される。
【
図28】ICV投与経路対IP投与経路を介して投与されたAAV/Oligo001-GFP投与された動物のクリアした脳からの3DライトシートGFP蛍光顕微鏡画像を示す。
【
図29A】Olig2又はNeuNと同時標識されたGFP陽性細胞のスコアリングを示す代表的な高倍率画像を示す。総GFP細胞を各視野内でスコアリングし、Olig2及びNeuN同時標識のパーセンテージを同じ視野内でスコアリングした。
【
図29B】ICV ROAを介して与えられたAAV/Olig001-GFPを有する動物の脳内のSCWM路細胞におけるGFPとOlig2とのGFPの同時標識の代表的な画像を示し、ほぼ100%のオリゴ指向性及びほぼ完全な神経向上症の不在を示す。
【
図29C】白質(矢印)中のまばらなOlig2同時標識を有する、大プルキンエニューロンにおける小脳GFP導入遺伝子発現の代表的な画像を示す。
【
図29D】ICV ROA脳の線条体におけるOlig2とのGFP同時標識の代表的な画像を示し、小脳指向性との対比を示す。
【
図29E】BrdU標識及びOlig2の処理後の8週nur7及び週齢適合野生型ナイーブ脳における白質路の代表的な画像を示す。
【
図29F】2週間及び8週間の野生型並びにnur7白質路におけるBrdU細胞の例示的な数を示す。群当たりの平均BrdU陽性細胞+/-標準誤差が提示されている。各群(各週齢における遺伝子型)について、n=6である。
【
図29G】ICV ROAを介してAAV/Olig001-GFPで処置されたnur7脳の皮質下白質中のBrdU/GFP同時標識細胞の代表的な画像を示す。
【
図30A-30C】生体分布体積分析を示す。(A)ICV及びIPの両方にわたって画像化された組織の体積。(B)2つのROAにわたる平均及び中央GFP蛍光強度。(C)ROAにわたる低及び高強度を表す体積GFP陽性の割合。
【
図31A-31C】薬力学的効果評価のための明瞭度及びスイッチワークフローを示す。(A)組織のクリアリング及び標識アプローチ。左から右:無傷のマウス脳、クリアリング前の右半脳の中央2mmの切片、パッシブクリアリングの1日後及びパッシブクリアリングの3日後の同じ組織、並びに以前に標識したタンパク質からの蛍光シグナル(緑:核、赤:ミエリン塩基性タンパク質(MBP))を示す3D画像。(B)Nur7、WT及びOlig1-ASPA処置組織の代表的な2mm切片。各画像の赤い矢印は視床領域を示している。(C)パッシブクリアリングの1日後の組織の透明度。
【
図32A-32C】組織の2D領域ベースの細胞計数を示す。(A)類似の解剖学的方向を有する3つの群全てからの3D画像の、抽出された2D単一スライス。赤いボックスは、細胞計数が行われた視床及び皮質領域のエリアをマークしている。(B)(A)の赤いボックスから拡大された画像データ、及びそれぞれの細胞セグメンテーション。(C)平均核密度(セグメンテーション領域によって正常化されたカウント)。
【
図33A-33I】薬力学的処置効果の3D体積分析を示す。(A)2mmの組織スライスの完全3D体積が測定される。(B)3D体積内で計算された平均蛍光強度。(C)2000超の蛍光値で設定されたより制限的な閾値(左パネル)又は1000でのより包括的な閾値(左パネル)を介したMBP特性評価。(D)どちらの場合もNur7のMBP欠乏が観察され得る。Olig1-ASPA群の効果はより低い閾値で見ることができ、全体的な値がWTレベルに近づく。(E)視床領域における領域ベース3D分析であり、領域の一部の手動セグメンテーションが黄色で示されている。(F)核(SYTO)及びミエリン(MBP)マーカーの両方についてのこの領域内の平均蛍光。(G)皮質の一部の領域ベース分析であり、手動セグメンテーションが黄色で示されている。(H)核(SYTO)及びミエリン(MBP)マーカーの両方についてのこの皮質領域内の平均蛍光。(I)3D細胞濃度(100μm
2当たりの核)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈により明らかにそうではないと指示されない限り、複数の形態も同様に含むことが意図される。以下の用語は以下のような意味を有する。
【0011】
本明細書で使用される場合、「約」又は「およそ」という用語は、生物学的活性の量、ポリヌクレオチド又はポリペプチド配列の長さ、G及びCヌクレオチドの含有量、コドン適応指数、CpGジヌクレオチドの数、用量、時間、温度等の測定可能な値を指し、別段に指定されない限り、文脈から明らかでない限り、又はそのような数が可能な値の100%を超える場合を除いて、指定された量のいずれかの方向(超又はそれ未満)で、25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%又は更に0.1%の変動を包含することを意図する。
【0012】
本明細書で使用される場合、「及び/又は」という用語は、関連する列挙された項目のうちの1つ以上のありとあらゆる可能な組み合わせ、及び代替(「又は」)で解釈される場合の組み合わせの欠如を指し、包含する。
【0013】
本明細書で使用される場合、「アデノ関連ウイルス」及び/又は「AAV」という用語は、直鎖一本鎖DNAゲノムを有するパルボウイルス及びその変異体を指す。この用語は、別様に必要とされる場合を除いて、全ての亜型、並びに天然に存在する形態及び組換え形態の両方を包含する。野生型ゲノムは、4681塩基を含み(Berns and Bohenzky(1987)Advances in Virus Research 32:243-307)、各末端に末端反復配列(例えば、逆方向末端反復(ITR))を含み、これは、cisにおいてDNA複製の起点として、及びウイルスのパッケージングシグナルとして機能する。ゲノムは、それぞれAAV複製(「AAV rep」又は「rep」)及びカプシド(「AAV cap」又は「cap」)遺伝子として知られる2つの大きなオープンリーディングフレームを含む。AAV rep及びcapは、本明細書においてAAV「パッケージング遺伝子」とも称され得る。これらの遺伝子は、ウイルスゲノムの複製及びパッケージングに関与するウイルスタンパク質をコードする。
【0014】
野生型AAVウイルスにおいて、3つのカプシド遺伝子VP1、VP2及びVP3は、単一のオープンリーディングフレーム内で互いに重複し、代替スプライシングは、VPI、VP2、及びVP3の産生をもたらす。Grieger and Samulski(2005)J.Virol.79(15):9933-9944。)単一のP40プロモーターは、3つ全てのカプシドタンパク質を、それぞれ、AAVカプシド産生を補完するVP1、VP2、VP3について約1:1:10の割合で発現させることを可能にする。より具体的には、VP1は全長タンパク質であり、VP2及びVP3は、N末端の切断の増加によりますます短縮される。周知の例は、米国特許第7,906,111号に記載のAAV9のカプシドであり、ここで、VP1は、配列番号123のアミノ酸残基1~736を含み、VP2は、配列番号123のアミノ酸残基138~736を含み、VP3は、配列番号123のアミノ酸残基203~736を含む。本明細書で使用される場合、「AAVキャップ」又は「キャップ」という用語は、AAVカプシドタンパク質VP1、VP2、及び/又はVP3、並びにその変異体及び類似体を指す。
【0015】
少なくとも4つのウイルスタンパク質が、AAV rep遺伝子Rep 78、Rep 68、Rep 52及びRep 40から合成され、それらの見かけの分子量に従って命名される。本明細書で使用される場合、「AAV rep」又は「rep」は、AAV複製タンパク質Rep 78、Rep 68、Rep 52、及び/又はRep 40、並びにそれらの変異体及び類似体を意味する。本明細書で使用される場合、rep及びcapは、野生型及び組換え(例えば、修飾キメラ等)rep及びcap遺伝子並びにそれらがコードするポリペプチドの両方を指す。いくつかの実施形態では、repをコードする核酸は、2つ以上のAAV血清型からのヌクレオチドを含む。例えば、repをコードする核酸は、AAV2血清型からのヌクレオチドと、AA3血清型からのヌクレオチドと、を含んでもよい(Rabinowitz et al.(2002) J.Virology 76(2):791-801)。
【0016】
本明細書で使用される場合、「組換えアデノ関連ウイルスベクター」、「rAAV」及び/又は「rAAVベクター」は、ベクターゲノムを含むAAVを指し、ここで、ポリヌクレオチド配列はAAV起源ではないか、又は完全にはAAV起源ではなく(例えば、AAVとは異種のポリヌクレオチド)、野生型AAVウイルスゲノムのrep及び/又はcap遺伝子は、ウイルスゲノムから除去されている。典型的なAAVのrep及び/又はcap遺伝子が除去されているか、又は存在しない場合(及び隣接するITRが、典型的には、異なる血清型、例えば、限定されないが、カプシドがAAV2ではないAAV2 ITRに由来する場合)、AAV内の核酸(任意のITRとそれらとの間の任意の核酸を含む)は、「ベクターゲノム」と称される。したがって、rAAVベクターという用語は、カプシド及び異種核酸、すなわち、天然においてカプシドに元々存在しない核酸を含むrAAVウイルス粒子を包含し、以下「ベクターゲノム」と称する。したがって、「rAAVベクターゲノム」(又は「ベクターゲノム」)は、AAVカプシド内に含有され得るが、必ずしもそうではない異種ポリヌクレオチド配列(典型的には、元のAAV内に存在する元の核酸と関連しない少なくとも1つのITRを含むが、必ずしもそうではない)を指す。rAAVベクターゲノムは、二本鎖(dsAAV)、一本鎖(ssAAV)及び/又は自己相補的(scAAV)であってもよい。
【0017】
本明細書で使用される場合、「rAAVベクター」、「rAAVウイルス粒子」及び/又は「rAAVベクター粒子」という用語は、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質(ただし、典型的には、AAVのカプシドタンパク質、例えば、VPI、VPS及びVP3、又はそれらの変異体の全てが存在する)を含み、元のAAVカプシドに元々存在しない異種核酸配列を含むベクターゲノムを含有するAAVカプシドを指す。これらの用語は、組換えではない「AAVウイルス粒子」又は「AAVウイルス」から区別されるべきであり、カプシドはrep及びcap遺伝子をコードするウイルスゲノムを含有し、AAVウイルスは、アデノウイルス及び/若しくは単純ヘルペスウイルスなどのヘルパーウイルス、並びに/又はそれらからの必要なヘルパー遺伝子も含む細胞に存在する場合、複製することができる。したがって、rAAVベクター粒子の産生は、組換えDNA技術を使用した組換えベクターゲノムの産生を必然的に含み、したがってこのベクターゲノムはカプシド内に含有され、rAAVベクター、rAAVウイルス粒子、又はrAAVベクター粒子を形成する。
【0018】
様々な血清型のAAVのゲノム配列、並びに逆方向末端反復(ITR)、repタンパク質、及びカプシドサブユニットの配列が、自然界に存在する及び/又はそれらの変異及び変異体の両方であることが、当該技術分野で既知である。そのような配列は、文献中に、又はGenBank等の公的データベース中に見出され得る。例えば、GenBank受託番号NC-002077(AAV-1)、AF063497(AAV-1)、NC-001401(AAV-2)、AF043303(AAV-2)、NC-001729(AAV-3)、NC_001863(AAV-3B)、NC-001829(AAV-4)、U89790(AAV-4)、NC-006152(AAV-5)、AF513851(AAV-7)、AF513852(AAV-8)、及びNC-006261(AAV-8)を参照されたい。これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。また、例えば、Srivistava et al.(1983)J.Virology 45:555;Chiorini et al.(1998)J.Virology 71:6823;Chiorini et al.(1999)J.Virology 73:1309;Bantel-Schaal et al.(1999)J.Virology 73:939;Xiao et al.(1999)J.Virology 73:3994;Muramatsu et al.(1996)Virology 221:208;Shade et al.(1986)J.Virol.58:921;Gao et al.(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854;Moris et al.(2004)Virology 33:375-383;国際特許公開第00/28061号、WO99/61601、WO98/11244;WO2013/063379、WO2014/194132、WO2015/121501;及び米国特許第6,156,303号及び米国特許第7,906,111号を参照されたい。
【0019】
本明細書で使用される場合、「寛解」という用語は、対象の疾患、障害若しくは状態、又はその症状、又は基礎となる細胞応答の検出可能又は測定可能な改善を意味する。検出可能又は測定可能な改善には、疾患、障害又は状態の発生、頻度、重症度、進行若しくは持続時間、それらによる若しくはそれらに関連する合併症の原因の主観的若しくは客観的な減少、低減、阻害、抑制、制限若しくは制御、それらの症状の改善、又はそれらの逆転が含まれる。
【0020】
本明細書で使用される場合、「に関連する」という用語は、一方の存在、レベル及び/又は形態が他方の存在、レベル及び/又は形態と相関している場合、互いに関連付けられていることを指す。例えば、特定の実体(例えば、ポリペプチド、遺伝子サイン、代謝産物、微生物など)は、その存在、レベル及び/又は形態が(例えば、関連する集団全体にわたって)疾患、障害、又は状態の発生率及び/又は感受性と相関する場合、特定の疾患、障害、又は状態と関連すると考えられる。いくつかの実施形態では、2つ以上のエンティティは、それらが直接的又は間接的に相互作用する場合、互いに物理的に「関連する」ため、それらは互いに物理的に近接している及び/又は互いに物理的に近接したままである。いくつかの実施形態では、互いに物理的に関連した2つ以上のエンティティは互いに共有結合しており、いくつかの実施形態では、互いに物理的に関連付した2つ以上のエンティティは互いに共有結合していないが、例えば、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用、磁気、及びそれらの組み合わせによって非共有結合的に関連している。
【0021】
本明細書で使用される場合、「cis-モチーフ」又は「cis-エレメント」という用語は、ゲノム配列の末端に見出されるか、又はそれに近接しており、複製の開始のために認識される配列、転写開始、スプライシング又は終結に使用される可能性が高い内部位置での暗号プロモーター又は配列等の保存配列を含む。cis-モチーフ又はcis-エレメントは、それが相互作用するそれらの配列と同じ核酸分子上に存在する。これは、同じ核酸分子上に位置しない他の配列と「transで」作用する「trans-モチーフ」配列と区別されるべきである。
【0022】
本明細書で使用される場合、「コード配列」又は「コード核酸」という用語は、タンパク質又はポリペプチドをコードする核酸配列を指し、適切な調節配列の制御下に置かれた(作動可能に連結される)場合に、(DNAの場合)転写され、(mRNAの場合)インビトロ又はインビボでポリペプチドに翻訳される配列を示す。コード配列の境界は、一般に、5’(アミノ)末端にある開始コドン及び3’(カルボキシ)末端にある翻訳終止コドンによって決定される。コード配列には、原核生物又は真核生物のmRNA由来のcDNA、原核生物又は真核生物のDNA由来のゲノムDNA配列、更には合成DNA配列が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0023】
本明細書で使用される場合、「キメラ」という用語は、その開示が参照によりその全体が本明細書に組み込まれるRabinowitz et al.、米国特許第6,491,907号に記載されているように、異なるパルボウイルス、好ましくは異なるAAV血清型からのカプシド配列を有するウイルスカプシドを指す。また、Rabinowitz et al.(2004)J.Virol.78(9):4421-4432を参照されたい。いくつかの実施形態では、キメラウイルスカプシドは、以下の変異を有するAAV2カプシドの配列を有するAAV2.5カプシドである:263Q~A、265挿入T、705N~A、708V~A、及び716T~N。そのようなカプシドをコードするヌクレオチド配列は、WO2006/066066に記載されるような配列番号15として定義される。他の好ましいキメラAAVカプシドとしては、限定されないが、WO2010/093784に記載のAAV2i8、WO2014/144229に記載のAAV2G9及びAAV8G9、並びにAAV9.45(Pulicherla et al.(2011)Molecular Therapy 19(6):1070-1078)、WO2103/029030に記載のAAV-NP4、NP22、NP66、AAV-LK01~AAV-LK019、WO205/013313に記載のRHM4-1及びRHM15-1~RHM5-6、WO2007/120542に記載のAAV-DJ、AAV-DJ/8、AAV-DJ/9が挙げられる。
【0024】
本明細書で使用される場合、「保存的置換」という用語は、生物学的、化学的又は構造的に類似した残基による1つのアミノ酸の置換を指す。生物学的に類似しているとは、置換が生物活性を破壊しないことを意味する。構造的に類似しているとは、アミノ酸が、アラニン、グリシン及びセリン等の長さが類似している側鎖を有するか、又は類似のサイズを有することを意味する。化学的類似性は、残基が同じ電荷を有するか、又は親水性若しくは疎水性の両方であることを意味する。具体的な例としては、イソロイシン、バリン、ロイシン若しくはメチオニン等の疎水性残基の別の残基との置換、又は1つの極性残基の別の残基との置換、例えば、アルギニンのリジンとの置換、グルタミン酸のアスパラギン酸との置換、グルタミンのアスパラギンとの置換、セリンのトレオニンとの置換等が挙げられる。保存的置換の具体的な例としては、イソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニン等の疎水性残基の互いの置換、アルギニンのリジンとの置換、グルタミン酸のアスパラギン酸との置換、又はグルタミンのアスパラギンとの置換等の極性残基の別の残基との置換が挙げられる。保存的アミノ酸置換は、典型的には、例えば、以下の群内:グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リジン、アルギニン;及びフェニルアラニン、チロシン内での置換を含む。「保存的置換」はまた、非置換親アミノ酸に代わる置換アミノ酸の使用を含む。
【0025】
本明細書で使用される場合、「隣接する」という用語は、他のエレメントに隣接する配列を指し、配列に対して上流及び/又は下流、すなわち5’及び/又は3’の1つ以上の隣接エレメントの存在を示す。「隣接する」という用語は、配列が必ずしも連続していることを示すことを意図するものではない。例えば、導入遺伝子をコードする核酸と隣接エレメントとの間に介在配列が存在してもよい。他の2つの要素(例えば、ITR)に「隣接する」配列(例えば、導入遺伝子)は、1つのエレメントが配列に対して5’に位置し、他のエレメントが配列に対して3’に位置することを示すが、その間に介在する配列が存在してもよい。
【0026】
本明細書で使用される場合、「断片」という用語は、全体の別個の部分を含むが、全体に見出される1つ以上の部分を欠く構造を有する材料又は実体を指す。いくつかの実施形態では、断片は、別個の部分からなる。いくつかの実施形態では、断片は、全体に見出される特徴的な構造エレメント又は部分からなるか、又はそれを含む。いくつかの実施形態では、ポリマー断片は、ポリマー全体に見出される、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500個又はそれ以上のモノマー単位(例えば、アミノ酸残基、ヌクレオチド)を含むか、又はそれからなる。
【0027】
本明細書で使用される場合、「機能性」という用語は、それが特徴付けられる性質及び/又は活性を示す形態の生体分子を指す。生体分子は、2つの機能(すなわち、二機能性)又は多くの機能(すなわち、多機能性)を有し得る。
【0028】
本明細書で使用する場合、「遺伝子」という用語は、転写及び翻訳された後に、特定のポリペプチド又はタンパク質をコードすることができる少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含有するポリヌクレオチドを指す。「遺伝子移入」又は「遺伝子送達」は、宿主細胞に外来DNAを確実に挿入するための方法又はシステムを指す。そのような方法は、非組み込みの移入DNAの一過性発現、移入レプリコン(例えば、エピソーム)の染色体外複製及び発現、並びに/又は移入遺伝物質の宿主細胞のゲノムDNAへの組み込みをもたらし得る。
【0029】
本明細書で使用される場合、「異種」又は「外因性」核酸という用語は、核酸の細胞内へのベクター媒介性移入/送達を目的として、ベクター(例えば、rAAVベクター)内に挿入された核酸を指す。異種核酸は、典型的には、ベクター(例えば、AAV)核酸とは異なる、すなわち、異種核酸は、天然のAAVに見られるウイルス(例えば、AAV)核酸に対して非天然である。細胞内に移入(例えば、形質導入)又は送達されると、ベクター内に含まれる異種核酸が発現され得る(例えば、適切であれば転写及び翻訳され得る)。代替的に、ベクター内に含まれる細胞内の移入(形質導入)又は送達された異種核酸は、発現される必要はない。「異種」という用語は、必ずしも核酸に関して本明細書で使用されるわけではないが、修飾語「異種」が存在しない場合でも、核酸に関して言及することは、異種核酸を含むことを意図する。例えば、異種核酸は、ASPAポリペプチドをコードする核酸、例えば、カナバン病の治療に使用されるASPAをコードするコドン最適化核酸であろう。
【0030】
本明細書で使用される場合、「相同」又は「相同性」という用語は、所与の領域又は部分にわたって少なくとも部分的同一性を共有する2つ以上の参照エンティティ(例えば、核酸又はポリペプチド配列)を指す。例えば、2つのペプチドにおけるアミノ酸位置が同一のアミノ酸によって占められている場合、ペプチドはその位置で相同である。特に、相同ペプチドは、非修飾ペプチド又は参照ペプチドに関連する活性又は機能を保持し、修飾ペプチドは、一般に、非修飾配列のアミノ酸配列と「実質的に相同」であるアミノ酸配列を有する。ポリペプチド、核酸又はその断片を指す場合、「実質的な相同性」又は「実質的な類似性」とは、別のポリペプチド、核酸(又はその相補鎖)又はその断片と適切な挿入又は欠失に関して最適に整列した場合、配列の少なくとも約95%~99%に配列同一性が存在することを意味する。2つの配列間の相同性(同一性)の程度は、コンピュータプログラム又は数学アルゴリズムを使用して確認することができる。パーセント配列相同性(又は同一性)を計算するそのようなアルゴリズムは、概して、比較領域又はエリアにわたる配列ギャップ及びミスマッチを説明する。例示的なプログラム及びアルゴリズムを以下に提供する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」、「宿主細胞株」、及び「宿主細胞培養物」という用語は互換的に使用され、外因性核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫を含む。宿主細胞は、「トランスフェクタント」、「トランスフォーマント」、「形質転換細胞」、及び「形質導入細胞」を含み、これには、一次トランスフェクト、形質転換又は形質導入された細胞、及びそれに由来する子孫が、継代の数に関係なく含まれる。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、rAAVベクターの産生のためのパッケージング細胞である。
【0032】
本明細書で使用される場合、「同一性」又は「同一の」という用語は、ポリマー分子間、例えば、核酸分子(例えば、DNA分子及び/若しくはRNA分子)間、並びに/又はポリペプチド分子間の全体的な関連性を指す。いくつかの実施形態では、ポリマー分子は、それらの配列が少なくとも25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又はそれ以上に同一である場合、互いに「実質的に同一」であるとみなされる。
【0033】
2つの核酸又はポリペプチド配列のパーセント同一性の計算は、例えば、最適な比較目的のために2つの配列を整列させることによって行うことができる(例えば、ギャップは、最適な整列のために第1及び第2の配列の一方又は両方に導入することができ、非同一の配列は、比較目的のために無視することができる)。ある特定の実施形態では、比較のために整列される配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%である。次いで、対応する位置のヌクレオチドが比較される。第1の配列における位置が、第2の配列における対応する位置と同じ残基(例えば、ヌクレオチド又はアミノ酸)によって占有される場合、分子は、その位置において同一である。2つの配列間のパーセント同一性は、2つの配列の最適な整列のために導入される必要があるギャップの数及び各ギャップの長さを考慮した、配列によって共有される同一位置数の関数である。配列の比較及び2つの配列間のパーセント同一性の決定は、数学アルゴリズムを使用して達成することができる。
【0034】
パーセント同一性又は相同性を決定するために、ワールドワイドウェブのncbi.nlm.nih.gov/BLAST/で利用可能なBLASTを含む方法及びコンピュータプログラムを用いて配列を整列させることができる。別の整列アルゴリズムは、Madison、Wis.、USAからのGenetics Computing Group(GCG)パッケージにおいて入手可能なFASTAである。整列のための他の技法は、Methods in Enzymology,vol.266:Computer Methods for Macromolecular Sequence Analysis(1996),ed.Doolittle,Academic Press,Inc.に記載されている。特に興味深いのは、配列内のギャップを許容する整列プログラムである。Smith-Watermanは、配列整列におけるギャップを許容するアルゴリズムの一種である。Meth.Mol.Biol.70:173-187(1997)を参照されたい。また、Needleman及びWunsch整列法を用いたGAPプログラムを利用して配列を整列させることもできる。J.Mol.Biol.48:443-453(1970)を参照されたい。
【0035】
配列同一性を決定するためのSmith及びWatermanの局所相同性アルゴリズム(1981,Advances in Applied Mathematics 2:482-489)を使用したBestFitプログラムも興味深い。ギャップ生成ペナルティは、概して、1~5、通常2~4の範囲であり、いくつかの実施形態では3である。ギャップ伸長ペナルティは、概して、約0.01~0.20の範囲であり、いくつかの場合では0.10である。このプログラムは、比較されるべく入力された配列によって決定されるデフォルトパラメータを有する。好ましくは、配列同一性は、このプログラムによって決定されるデフォルトパラメータを使用して決定される。このプログラムもまた、Madison、WI、USAからのGenetics Computing Group(GCG)パッケージから入手可能である。
【0036】
興味深い別のプログラムは、FastDBアルゴリズムである。FastDBは、Current Methods in Sequence Comparison and Analysis,Macromolecule Sequencing and Synthesis,Selected Methods and Applications,pp.127-149,1988に記載されている。パーセント配列同一性は、以下のパラメータに基づいてFastDBによって計算される。ミスマッチペナルティ:1.00、ギャップペナルティ:1.00、ギャップサイズペナルティ:0.33、及び結合ペナルティ:30.0。
【0037】
本明細書で使用される場合、「増加させる」、「改善する」、又は「低減する」という用語は、本明細書に記載される治療の開始前の同じ個体における測定値、又は本明細書に記載される治療の非存在下での対照個体(若しくは複数の対照個体)における測定値等のベースライン測定値に対して相対的である値を示す。いくつかの実施形態では、「対照個体」は、治療される個体と同じ形態の疾患又は傷害に罹患している個体である。
【0038】
本明細書で使用される場合、「逆方向末端反復」、「ITR」、「末端反復」、及び「TR」という用語は、ほぼ相補的で対称的に配置された配列を含む、AAVゲノムの末端又はその付近の回文末端反復配列を指す。これらのITRは折り畳まれて、DNA複製の開始中にプライマーとして機能するT字型ヘアピン構造を形成し得る。これらはまた、宿主ゲノムへのウイルスゲノム組み込み、宿主ゲノムからの奪回、及び成熟ビリオンへのウイルス核酸のカプシド化にも必要である。ITRは、ベクターゲノム複製及びウイルス粒子へのそのパッケージングのために、cisで必要とされる。「5’ITR」は、AAVゲノムの5’末端及び/又は組換え導入遺伝子に対する5’のITRを指す。「3’ITR」は、AAVゲノムの3’末端及び/又は組換え導入遺伝子に対する3’のITRを指す。野生型ITRの長さは、約145bpである。修飾又は組換えITRは、野生型AAV ITR配列の断片又は一部を含んでもよい。当業者は、連続したラウンドのDNA複製ITR配列が、5’ITRが3’ITRとなるように入れ替わってもよく、逆も同様であることを理解するであろう。いくつかの実施形態では、ベクターゲノムがカプシドにパッケージングされて、ベクターゲノムを含むrAAVベクター(本明細書において「rAAVベクター粒子」又は「rAAVウイルス粒子」とも称される)を産生することができるように、少なくとも1つのITRが組換えベクターゲノムの5’及び/又は3’末端に存在する。
【0039】
本明細書で使用される場合、「単離」という用語は、1)人間の手によって設計、製造、調製、及び/若しくは製造された、並びに/又は2)それが最初に生成されたときにそれが関連付けられた成分のうちの少なくとも1つから分離された(自然及び/若しくは実験的な設定において)物質又は組成物を指す。一般に、単離された組成物は、自然界で通常関連する1つ以上の材料、例えば、1つ以上のタンパク質、核酸、脂質、炭水化物、及び/又は細胞膜を実質的に含まない。「単離」という用語は、ベクターゲノム及び医薬製剤をパッケージングする、例えばカプシド化する人工の組み合わせ、例えば組換え核酸、組換えベクターゲノム(例えば、rAAVベクターゲノム)、rAAVベクター粒子(例えば、限定されないが、AAV/Olig001カプシドを含むrAAVベクター粒子など)を除外しない。また、「単離」という用語は、ハイブリッド/キメラ、多量体/オリゴマー、修飾(例えば、リン酸化、グリコシル化、脂質付加)、変異体若しくは誘導体化形態、又は人工の宿主細胞で発現される形態などの、組成物の代替の物理的形態も除外しない。
【0040】
単離された物質又は組成物は、それらが最初に関連付けられた他の構成要素の約10%、約20%、約30%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約99%超から分離され得る。いくつかの実施形態では、単離された薬剤は、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約99%超純粋である。本明細書で使用される場合、物質は、他の成分を実質的に含まない場合、「純粋」である。いくつかの実施形態では、当業者に理解されるように、物質は、例えば、1つ以上の担体又は賦形剤(例えば、緩衝液、溶媒、水など)などのある特定の他の成分と組み合わせた後も依然として「単離」又は「純粋」とみなすことができ、そのような実施形態では、物質の単離又は純度のパーセントは、そのような担体又は賦形剤を含まずに計算される。
【0041】
本明細書で使用される場合、「核酸配列」、「ヌクレオチド配列」、及び「ポリヌクレオチド」という用語は、ホスホジエステル結合によって連結された単量体ヌクレオチドで構成されるか、又はそれを含む任意の分子を同義的に指す。核酸は、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドであり得る。核酸配列は、本明細書において、5’から3’への方向に提示される。本開示の核酸配列(すなわち、ポリヌクレオチド)は、デオキシリボ核酸(DNA)分子又はリボ核酸(RNA)分子であり得、核酸の全ての形態、例えば、二本鎖分子、一本鎖分子、低分子又は単鎖ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA、低分子又は単鎖干渉RNA(siRNA)、トランススプライシングRNA、アンチセンスRNA、メッセンジャーRNA、トランスファーRNA、リボソームRNAを指す。ポリヌクレオチドがDNA分子である場合、その分子は、遺伝子、cDNA、アンチセンス分子又は前述の分子のいずれかの断片であり得る。ヌクレオチドは、本明細書において、単一文字コード:アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)、イノシン(I)、及びウラシル(U)によって示される。ヌクレオチド配列は、化学修飾又は人工的であり得る。ヌクレオチド配列は、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ及びロック核酸(LNA)、並びにグリコール核酸(GNA)及びトレオース核酸(TNA)を含む。これらの配列の各々は、分子の骨格への変化によって、天然に存在するDNA又はRNAと区別される。また、ホスホロチオエートヌクレオチドが使用されてもよい。他のデオキシヌクレオチド類似体としては、メチルホスホネート、ホスホラミデート、ホスホロジチオエート、N3’-P5’-ホスホラミデート、及びオリゴリボヌクレオチドホスホロチオエート、並びにそれらの2’-0-アリル類似体、及び本開示のヌクレオチド配列に使用され得る2’-0-メチルリボヌクレオチドメチルホスホネートが挙げられる。
【0042】
本明細書で使用される場合、「核酸コンストラクト」という用語は、組換えDNA技術(例えば、組換え核酸)の使用から生じる非天然の核酸分子を指す。核酸コンストラクトは、一本鎖又は二本鎖のいずれかの核酸分子であり、自然界には見られない様式で結合及び配置される核酸配列のセグメントを含有するように修飾されている。核酸コンストラクトは、「ベクター」(例えば、プラスミド、rAAVベクターゲノム、発現ベクターなど)、すなわち、外因的に形成されたDNAを宿主細胞に送達するように設計された核酸分子であり得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、「作動可能に連結された」という用語は、機能的関係にある核酸配列(又はポリペプチド)エレメントの連結を指す。核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に置かれたときに作動可能に連結される。例えば、プロモーター又は他の転写調節配列(例えば、エンハンサー)は、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結される。いくつかの実施形態では、作動可能に連結されているとは、連結されている核酸配列が連続していることを意味する。いくつかの実施形態では、作動可能に連結されているとは、核酸配列が連続的に連結されていることを意味せず、むしろ連結されているそれらの核酸配列の間に介在配列が存在する。
【0044】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」及び「生理学的に許容される」という用語は、インビボ送達又は接触の1つ以上の投与経路に好適な、生物学的に許容される製剤、気体、液体若しくは固体、又はそれらの混合物を指す。
【0045】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」、「タンパク質」、「ペプチド」又は「核酸配列によってコードされる」(すなわち、ヌクレオチド配列によってコードされるポリヌクレオチド配列によってコードされる)という用語は、天然に存在するタンパク質と同様に、完全長の天然配列、並びに機能的部分配列、修飾形態又は配列変異体を指すが、その部分配列、修飾形態又は変異体が天然の完全長タンパク質のある程度の機能性を保持している限りである。本開示の方法及び使用において、そのようなポリペプチド、タンパク質、及び核酸配列によってコードされるペプチドは、遺伝子療法で治療された対象において、欠陥のある、又はその発現が不十分である若しくは欠損している内因性タンパク質と同一であってもよいが、必須ではない。
【0046】
本明細書で使用される場合、「予防する」又は「予防」という用語は、特定の疾患、障害又は状態(例えば、カナバン病)の1つ以上の兆候又は症状の発症遅延、並びに/又は頻度及び/若しくは重症度の低減を指す。いくつかの実施形態では、疾患、障害又は状態に感受性のある集団において、疾患、障害又は状態の1つ以上の兆候又は症状の発症、頻度及び/又は強度の統計的に有意な減少が観察される場合、薬剤が特定の疾患、障害又は状態を「予防する」とみなされるように、予防が集団ベースで評価される。予防は、疾患、障害、又は状態の発症が所定の期間遅延している場合、完全であるとみなされ得る。
【0047】
本明細書で使用される場合、「組換え」という用語は、クローニング、制限、若しくはライゲーションステップの様々な組み合わせの産物であるベクター、ポリヌクレオチド(例えば、組換え核酸)、ポリペプチド、若しくは細胞、及び/又は天然に見られる産物とは異なるコンストラクトをもたらす他の手順を指す。組換えウイルス又はベクター(例えば、rAAVベクター)は、組換え核酸(例えば、導入遺伝子及び1つ以上の調節エレメント、例えば、ASPA及びCBhプロモーターをコードするコドン最適化核酸を含む核酸)を含むベクターゲノムを含む。この用語は、元のポリヌクレオチドコンストラクトの複製、及び元のウイルスコンストラクトの子孫をそれぞれ含む。
【0048】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、生物、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、非ヒト哺乳動物、非ヒト霊長類、霊長類、実験動物、マウス、ラット、ハムスター、スナネズミ、ネコ、イヌ)を指す。いくつかの実施形態では、対象はnur7マウスである。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、成人、青年、又は小児対象である。いくつかの実施形態では、対象は、疾患、障害又は状態、例えば、本明細書に提供されるように治療され得る疾患、障害又は状態に罹患している。いくつかの実施形態では、対象は、アスパルトアシラーゼ活性の欠損又は機能不全、例えば、カナバン病に関連する疾患、障害又は状態に罹患している。いくつかの実施形態では、対象は、疾患、障害、又は状態に感受性である。いくつかの実施形態では、感受性の対象は、疾患、障害又は状態を発症する(参照対象又は集団において観察される平均リスクと比較して)増加したリスクを有しやすい、及び/又はそれを示す。いくつかの実施形態では、対象は、疾患、障害又は状態の1つ以上の症状を呈する。いくつかの実施形態では、対象は、疾患、障害、又は状態の特定の症状(例えば、疾患の臨床的症状)又は特徴を示さない。いくつかの実施形態では、対象は、疾患、障害、又は状態の任意の症状又は特徴を示さない。いくつかの実施形態では、対象は、ヒト患者である。いくつかの実施形態では、対象は、診断及び/又は療法が施される個体及び/又は施された個体である(例えば、カナバン病の遺伝子療法)。いくつかの実施形態では、対象は、カナバン病を有するヒト患者である。
【0049】
本明細書で使用される場合、「実質的に」という用語は、関心のある特徴又は特性の全て又はほぼ全ての度合い又は程度の発現の定性的条件を指す。当業者であれば、生物学的及び化学的現象は、あるとしても、完全に達すること、及び/又は完全に進行すること若しくは絶対的な結果を達成することは稀であることを理解するであろう。したがって、「実質的に」という用語は、多くの生物学的及び化学的現象に内在する潜在的な完全性の欠如を捉えるために本明細書で使用される。
【0050】
本明細書で使用される場合、「症状が低減される」又は「症状を低減する」という用語は、特定の疾患、障害又は状態の1つ以上の症状の大きさ(例えば、強度、重症度等)及び/又は頻度が低減される場合を指す。明確にするために、特定の症状の発症の遅延は、その症状の頻度を低減する一形態とみなされる。
【0051】
本明細書で使用される場合、「治療用ポリペプチド」という用語は、標的細胞(例えば、単離された細胞)又は生物(例えば、対象)におけるタンパク質の非存在又は欠陥に起因する症状を軽減又は低減し得るペプチド、ポリペプチド又はタンパク質(例えば、酵素、構造タンパク質、膜貫通タンパク質、輸送タンパク質)である。導入遺伝子によってコードされる治療用ポリペプチド又はタンパク質は、例えば、遺伝的欠陥を補正するために、発現又は機能に関連する遺伝子の欠損を補正するために、対象に利益を与えるものである。同様に、「治療用導入遺伝子」は、治療用ポリペプチドをコードする導入遺伝子である。いくつかの実施形態では、宿主細胞において発現される治療用ポリペプチドは、導入遺伝子(すなわち、宿主細胞に導入された外因性核酸)から発現される酵素である。いくつかの実施形態では、治療用ポリペプチドは、大脳皮質細胞(例えば、乏突起膠細胞)に移入された治療用導入遺伝子から発現されるASPAタンパク質である。
【0052】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」という用語は、投与の目的となる所望の治療効果を生み出す量を指す。いくつかの実施形態では、この用語は、疾患、障害又は状態に罹患しているか、又はそれに感受性のある集団に治療的投与計画に従って投与される場合に、疾患、障害又は状態を治療するのに十分な量を指す。いくつかの実施形態では、治療有効量は、疾患、障害、及び/又は状態の1つ以上の症状の発生率及び/若しくは重症度を低減する、並びに/又は発症を遅延させる量である。当業者は、「治療有効量」という用語が、実際には、特定の個体において治療の成功が達成されることを必要としないことを理解するであろう。むしろ、治療有効量は、そのような治療を必要とする患者に投与された場合、有意な数の対象において特定の所望の薬理学的応答を提供する量であり得る。
【0053】
本明細書で使用される場合、「導入遺伝子」という用語は、宿主細胞、標的細胞又は生物(例えば、対象)への送達及び/又は発現のための任意の異種ポリヌクレオチドを意味するために使用される。そのような「導入遺伝子」は、ベクター(例えば、rAAVベクター)を使用して宿主細胞、標的細胞又は生物に送達され得る。導入遺伝子は、プロモーター等の対照配列に作動可能に連結され得る。宿主細胞、標的細胞、又は生物において導入遺伝子の発現を促進する能力に基づいて、発現制御配列を選択することができることは、当業者には理解されるであろう。一般に、導入遺伝子は、自然界において導入遺伝子に関連した内因性プロモーターに作動可能に連結され得るが、より典型的には、導入遺伝子は、自然界において導入遺伝子が関連していないプロモーターに作動可能に連結されている。導入遺伝子の例は、治療用ポリペプチド、例えば、ASPAポリペプチドをコードする核酸であり、例示的なプロモーターは、自然界においてASPAをコードするヌクレオチドに作動可能に連結していないものである。そのような非内因性プロモーターは、当該技術分野で既知である多くのものの中でも、CBhプロモーターを含み得る。
【0054】
関心のある核酸は、トランスフェクション及び形質導入を含む、当該技術分野で周知である多種多様な技術によって宿主細胞に導入することができる。
【0055】
「トランスフェクション」は、一般に、ウイルスベクターを使用せずに外因性核酸を細胞内に導入するための技術として知られている。本明細書で使用される場合、「トランスフェクション」という用語は、ウイルスベクターを使用せずに、組換え核酸(例えば、発現プラスミド)を細胞(例えば、宿主細胞)に移入することを指す。組換え核酸が導入された細胞は、「トランスフェクト細胞」と称される。トランスフェクト細胞は、組換えAAVベクターを産生するための発現プラスミド/ベクターを含む宿主細胞(例えば、CHO細胞、Pro10細胞、HEK293細胞)であってもよい。いくつかの実施形態では、トランスフェクト細胞(例えば、パッキング細胞)は、導入遺伝子(例えば、ASPA導入遺伝子)を含むプラスミド、AAV rep遺伝子及びAAV cap遺伝子を含むプラスミド、並びにヘルパー遺伝子を含むプラスミドを含み得る。多くのトランスフェクション技術が当該技術分野で知られており、これには、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、カチオン性又はアニオン性リポソーム、及び核局在化シグナルと組み合わせたリポソームが含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
本明細書で使用される場合、「形質導入」という用語は、ウイルスベクター(例えば、rAAVベクター)による核酸(例えば、ベクターゲノム)の細胞(例えば、乏突起膠細胞を含むがこれらに限定されない標的細胞)への移入を指す。いくつかの実施形態では、カナバン病の遺伝子治療は、ASPAをコードする修飾核酸を含むベクターゲノムを乏突起膠細胞に形質導入することを含む。導入遺伝子がウイルス又はウイルスベクターによって導入された細胞は、「形質導入細胞」と称される。いくつかの実施形態では、形質導入細胞は、単離細胞であり、形質導入はエクスビボで行われる。いくつかの実施形態では、形質導入細胞は、生物(例えば、対象)内の細胞であり、形質導入はインビボで行われる。形質導入細胞は、生物の標的細胞がポリヌクレオチド(例えば、導入遺伝子、例えば、ASPAをコードする修飾核酸)を発現するように、組換えAAVベクターによって形質導入された生物の標的細胞であってもよい。
【0057】
形質導入され得る細胞としては、任意の組織若しくは器官型の細胞、又は任意の起源(例えば、中胚葉、外胚葉若しくは内胚葉)が挙げられる。細胞の非限定的な例としては、肝臓(例えば、肝細胞、類洞内皮細胞)、膵臓(例えば、β島細胞、外分泌)、肺、中枢又は末梢神経系、例えば、脳(例えば、神経又は上衣細胞、乏突起膠細胞)又は脊椎、腎臓、眼(例えば、網膜)、脾臓、皮膚、胸腺、精巣、肺、横隔膜、心臓(心臓性)、筋肉若しくは腰部、又は腸(例えば、内分泌)、脂肪組織(白色、褐色又はベージュ)、筋肉(例えば、線維芽細胞、筋細胞)、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、上皮細胞、内皮細胞、唾液腺細胞、内耳神経細胞、又は造血細胞(例えば、血液又はリンパ球)が挙げられる。追加の例としては、肝臓(例えば、肝細胞、類洞内皮細胞)、膵臓(例えば、β島細胞、外分泌細胞)、肺、中枢又は末梢神経系、例えば、脳(例えば、神経又は上衣細胞、乏突起膠細胞)又は脊椎、腎臓、眼(例えば、網膜)、脾臓、皮膚、胸腺、精巣、肺、横隔膜、心臓(心臓性)、筋肉若しくは腰部、又は腸(例えば、内分泌)、脂肪組織(白色、褐色又はベージュ)、筋肉(例えば、線維芽細胞、筋細胞)、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、上皮細胞、内皮細胞、唾液腺細胞、内耳神経細胞又は造血細胞(例えば、血液又はリンパ球)に発達又は分化する多能性又は多分化能前駆細胞などの幹細胞が挙げられる。
【0058】
いくつかの実施形態では、組織又は器官(例えば、脳)の特定のエリア内に存在する細胞は、組織又は器官に投与されるrAAVベクター(例えば、ASPA導入遺伝子を含むrAAV)によって形質導入され得る。いくつかの実施形態では、脳細胞が、ASPA導入遺伝子を含むrAAVで形質導入される。いくつかの実施形態では、脳の皮質の細胞が、ASPA導入遺伝子を含むrAAVで形質導入される。いくつかの実施形態では、脳の線条体の細胞が、ASPA導入遺伝子を含むrAAVで形質導入される。いくつかの実施形態では、脳の皮質下白質細胞が、ASPA導入遺伝子を含むrAAVで形質導入される。いくつかの実施形態では、脳の小脳の細胞が、ASPA導入遺伝子を含むrAAVで形質導入される。
【0059】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療すること」又は治療という用語は、特定の疾患、障害、及び/又は状態の1つ以上の症状、特徴、及び/又は原因を部分的又は完全に軽減する、寛解する、緩和する、阻害する、その発症を遅延させる、その重症度を低減する、及び/又はその発生率を低減する療法の投与を指す。
【0060】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、核酸(例えば、組換え核酸)の挿入又は組み込みによって操作され得るプラスミド、ウイルス(例えば、rAAV)、コスミド、又は他のビヒクルを指す。ベクターは、例えば、遺伝子操作(例えば、クローニングベクター)を含む様々な目的のために使用して、細胞に核酸を導入/移入し、細胞内の挿入された核酸を転写又は翻訳することができる。いくつかの実施形態では、ベクター核酸配列は、細胞における増殖のための少なくとも複製起点を含有する。いくつかの実施形態では、ベクター核酸は、異種核酸配列、発現制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー)、選択可能マーカー(例えば、抗生物質耐性)、ポリアデノシン(polyA)配列、及び/又はITRを含む。いくつかの実施形態では、宿主細胞に送達されると、核酸配列が伝播される。いくつかの実施形態では、インビトロ又はインビボのいずれかで宿主細胞に送達される場合、細胞は、異種核酸配列によってコードされるポリペプチドを発現する。いくつかの実施形態では、宿主細胞に送達される場合、核酸配列又は核酸配列の一部がカプシドにパッケージングされる。宿主細胞は、単離された細胞又は宿主生物内の細胞であり得る。ポリペプチド又はタンパク質をコードする核酸配列(例えば、導入遺伝子)に加えて、追加の配列(例えば、調節配列)が、同じベクター内(すなわち、遺伝子に対してcis)に、及び遺伝子に隣接して存在し得る。いくつかの実施形態では、調節配列は、遺伝子の発現を調節するためにtransで作用する別個の(例えば、第2の)ベクター上に存在し得る。プラスミドベクターは、本明細書において「発現ベクター」と称され得る。
【0061】
本明細書で使用される場合、「ベクターゲノム」という用語は、rAAVベクターを形成するようにパッケージング又はカプシド化される組換え核酸配列を指す。典型的には、ベクターゲノムは、異種ポリヌクレオチド配列、例えば、導入遺伝子、調節エレメント、カプシドに元々存在しないITRを含む。組換えプラスミドを使用して組換えベクター(例えば、rAAVベクター)を構築又は製造する場合、ベクターゲノムは、プラスミド全体を含まず、むしろウイルスベクターによる送達を意図する配列のみを含む。組換えプラスミドのこの非ベクターゲノム部分は、典型的には「プラスミド骨格」と称され、これは組換えウイルスベクター産生の伝播に必要とされるプロセスであるプラスミドのクローニング、選択及び増幅に重要であるが、それ自体はrAAVベクターにパッケージング又はカプシド化されない。
【0062】
本明細書で使用される場合、「ウイルスベクター」という用語は、概して、核酸送達ビヒクルとして機能し、ウイルス粒子(すなわち、カプシド)内にパッケージングされたベクターゲノム(例えば、AAV rep及びcapをコードする核酸の代わりに導入遺伝子を含む)を含み、例えば、AAV血清型及び変異体(例えば、rAAVベクター)を含むレンチウイルス及びパルボウイルスを含むウイルス粒子を指す。組換えウイルスベクターは、rep及び/又はcap遺伝子を含むベクターゲノムを含まない。
【0063】
本開示は、遺伝子治療医薬組成物における修飾ASPAコード配列を含む修飾核酸、及びその使用を提供する。本明細書で使用される「修飾」とは、1つの実施形態では、修飾された核酸配列が、それ以外の場合は同一の細胞における非修飾、すなわち、天然に存在する(遺伝子の変異形態を含む)核酸配列におけるタンパク質の発現レベルと比較して、細胞におけるタンパク質の発現レベルをより高いレベルに駆動するように、天然に存在するポリペプチドをコードする核酸配列が改変されたことを意味する。本開示はまた、それらの配列の一部として、修飾ASPAコード配列を含むベクターゲノムを含む組換え核酸も提供する。更に、本開示は、修飾ASPAコード配列を含むrAAVベクターなどのパッケージングされた遺伝子送達ビヒクルを提供する。本開示はまた、細胞内での送達方法、好ましくは、修飾ASPAコード配列の発現を含む。本開示はまた、修飾ASPAコード配列が対象に、例えばベクターの構成要素として投与される、及び/又はウイルス遺伝子送達ビヒクル(例えば、rAAVベクター)の構成要素としてパッケージングされる遺伝子治療方法も提供する。治療は、例えば、対象におけるASPAのレベルを増加させ、対象におけるASPA欠乏症を治療するために行われ得る。本開示のこれらの態様のそれぞれは、以下のセクションで更に説明される。
【0064】
AAV及びrAAVベクター
AAV
前述のように、「アデノ関連ウイルス」及び/又は「AAV」という用語は、直鎖一本鎖DNAゲノムを有するパルボウイルス及びその変異体を指す。この用語は、別様に必要とされる場合を除いて、全ての亜型、並びに天然に存在する形態及び組換え形態の両方を包含する。AAVを含むパルボウイルスは、細胞に侵入し、核酸(例えば、導入遺伝子)を核に導入することができるため、遺伝子治療ベクターとして有用である。いくつかの実施形態では、導入された核酸(例えば、rAAVベクターゲノム)は、形質導入細胞の核内にエピソームとして持続する環状コンカテマーを形成する。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、宿主細胞ゲノム内の特定の部位、例えば、ヒト染色体19上の部位に挿入される。部位特異的統合は、ランダム統合とは対照的に、予測可能な長期発現プロファイルをもたらす可能性が高いと考えられる。ヒトゲノムへのAAVの挿入部位は、AAVS1と称される。細胞に導入されると、核酸によってコードされるポリペプチドは、細胞によって発現され得る。AAVは、ヒトにおけるいかなる病原性疾患とも関連しないため、AAVによって送達される核酸を使用して、ヒト対象における疾患、障害、及び/又は状態の治療のための治療用ポリペプチドを発現することができる。
【0065】
AAVの複数の血清型が自然界に存在し、少なくとも15の野生型血清型が、これまでにヒトから同定されている(すなわち、AAV1~AAV15)。天然に存在する及び変異体血清型は、他のAAV血清型と血清学的に異なるタンパク質カプシドを有することによって区別される。AAVタイプ1(AAV1)、AAVタイプ2(AAV2)、AAVタイプ3A(AAV3A)及びAAVタイプ3B(AAV3B)を含むAAVタイプ3(AAV3)、AAVタイプ4(AAV4)、AAVタイプ5(AAV5)、AAVタイプ6(AAV6)、AAVタイプ7(AAV7)、AAVタイプ8(AAV8)、AAVタイプ9(AAV9)、AAVタイプ10(AAV10)、AAVタイプ12(AAV12)、AAVrh10、AAVrh74(WO2016/210170を参照)、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、霊長類AAV、非霊長類AAV、及びヒツジAAV、並びに組換え産生変異体(例えば、挿入、欠失及び置換を伴うカプシド変異体)、例えば、他の多くの変異体の中でもAAVタイプ2i8(AAV2i8)、NP4、NP22、NP66、DJ、DJ/8、DJ/9、LK3、RHM4-1がある。例えば、「霊長類AAV」は、霊長類に感染するAAVを指し、「非霊長類AAV」は、非霊長類哺乳動物に感染するAAVを指し、「ウシAAV」は、ウシ哺乳動物に感染するAAVを指す。血清型独自性は、別のAAVと比較して、あるAAVに対する抗体間の交差反応性の欠如に基づいて決定される。そのような交差反応性の差は、通常、カプシドタンパク質配列及び抗原決定因子の差に起因する(例えば、AAV血清型のVP1、VP2、及び/又はVP3配列の差に起因する)。しかしながら、一部の天然に存在するAAV又は人工のAAV変異(例えば、組換えAAV)は、現在知られている血清型のいずれとも血清学的差異を示さない場合がある。次いで、これらのウイルスは、対応するタイプのサブグループ、又はより単純に変異体AAVとみなされ得る。したがって、本明細書で使用される場合、「血清型」という用語は、血清学的に異なるウイルス、例えばAAV、並びに血清学的には異ならないが、所与の血清型のサブグループ又は変異体内にあり得るウイルス、例えばAAVの両方を指す。
【0066】
既知のAAV血清型のカプシドのアミノ酸配列の包括的なリスト及び整列は、特に補足
図1において、Marsic et al.(2014)Molecular Therapy 22(11):1900-1909によって提供される。
【0067】
様々な血清型のAAVのゲノム配列、並びにネイティブ末端反復(ITR)、repタンパク質、及びカプシドサブユニットの配列が、当該技術分野で既知である。そのような配列は、文献中に、又はGenBank等の公的データベース中に見出され得る。例えば、GenBank受託番号NC_002077(AAV1)、AF063497(AAV1)、NC_001401(AAV2)、AF043303(AAV2)、NC_001729(AAV3)、NC_001863(AAV3B)、NC_001829(AAV4)、U89790(AAV4)、NC_006152(AAV5)、NC_001862(AAV6)、AF513851(AAV7)、AF513852(AAV8)、及びNC_006261(AAV8)を参照されたく、これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。また、例えば、Srivistava et al.(1983)J.Virology 45:555; Chiorini et al.(1998)J.Virology 71:6823;Chiorini et al.(1999)J.Virology 73:1309;Bantel-Schaal et al.(1999)J.Virology 73:939;Xiao et al.(1999)J.Virology 73:3994;Muramatsu et al.(1996)Virology 221:208;Shade et al.(1986)J.Virol.58:921;Gao et al.(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854;Moris et al.(2004)Virology 33:375-383;国際特許公開WO00/28061、WO99/61601、WO98/11244;WO2013/063379;WO2014/194132;WO2015/121501、及び米国特許第6,156,303号及び米国特許第7,906,111号を参照されたい。例示のみを目的として、野生型AAV2は、3つのタンパク質(VP1、VP2、及びVP3;合計60個のカプシドタンパク質がAAVカプシドを構成する)で構成されるAAVの小さな(20~25nm)二十面体ウイルスカプシドを、重複する配列とともに含む。タンパク質VP1(735aa;Genbank受託番号AAC03780)、VP2(598aa;Genbank受託番号AAC03778)及びVP3(533aa;Genbank受託番号AAC03779)は、カプシド内に1:1:10の比率で存在する。すなわち、AAVについて、VP1は完全長タンパク質であり、VP2及びVP3は、VP1に比べてN末端の切断が増加したVP1の漸進的に短いバージョンである。
【0068】
組換えAAV
上述のように、「組換えアデノ関連ウイルス」又は「rAAV」は、内因性ウイルスゲノムの全て又は一部を非天然配列で置き換えることによって、野生型AAVから区別される。ウイルス内に非天然配列を組み込むことは、ウイルスベクターを「組換え」ベクター、したがって「rAAVベクター」として定義する。rAAVベクターは、所望のタンパク質又はポリペプチド(例えば、ASPAポリペプチド)をコードする異種ポリヌクレオチドを含み得る。組換えベクター配列は、AAVカプシドにカプシド化又はパッケージングされてもよく、「rAAVベクター」、「rAAVベクター粒子」、「rAAVウイルス粒子」、又は単に「rAAV」と称される。
【0069】
rAAVベクターの産生のために、VP1:VP2:VP3の望ましい比率は、約1:1:1~約1:1:100の範囲内、好ましくは約1:1:2~約1:1:50の範囲内、より好ましくは約1:1:5~約1:1:20の範囲内である。VP1:VP2の望ましい比率は1:1であるが、VP1:VP2の比率の範囲は1:50~50:1で変動し得る。
【0070】
本開示は、AAV起源ではないポリヌクレオチド配列(例えば、AAVとは異種のポリヌクレオチド)を含むrAAVベクターを提供する。異種ポリヌクレオチドは、少なくとも1つ、場合によっては2つのAAV末端反復配列(例えば、逆方向末端反復(ITR))に隣接し得る。本明細書において「ベクターゲノム」とも称されるITRに隣接する異種ポリヌクレオチドは、典型的には、治療的処置のための標的(例えば、カナバン病の治療のためのASPAをコードする核酸)などの関心のあるポリペプチド又は関心のある遺伝子(「GOI」)をコードする。rAAVベクターの対象(例えば、患者)への送達又は投与は、コードされたタンパク質及びペプチドを対象に提供する。したがって、rAAVベクターを使用して、例えば、様々な疾患、障害及び状態を治療するための発現のための異種ポリヌクレオチドを転写/送達することができる。
【0071】
rAAVベクターゲノムは概して、ウイルスrep及びcap遺伝子を置き換えた異種核酸配列に対してcisに145塩基のITRを保持する。そのようなITRは、組換えAAVベクターを産生するために必要であるが、修飾AAV ITR及び部分的又は完全に合成された配列を含む非AAV末端反復もまた、この目的に役立つことができる。ITRは、ヘアピン構造を形成し、例えば、感染後の相補的DNA鎖の宿主細胞媒介性合成のためのプライマーとして機能する。ITRはまた、ウイルスパッケージング、統合等においても役割を果たす。ITRは、AAVゲノム複製及びrAAVベクターへのパッケージングのためにcisで必要とされる唯一のAAVウイルスエレメントである。rAAVベクターゲノムは、任意選択で、異種配列(例えば、関心のある遺伝子をコードする導入遺伝子、又はアンチセンス及びsiRNAを含むがこれらに限定されない関心のある核酸配列、並びに多くの他のものの中でもCRISPR分子)を含むベクターゲノムの5’及び3’末端に一般的に存在する2つのITRを含む。5’及び3’ITRは、両方とも同じ配列を含んでもよく、又はそれぞれが異なる配列を含んでもよい。AAV ITRは、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、若しくは11、又は任意の他のAAVを含むがこれらに限定されない、任意のAAVに由来し得る。
【0072】
本開示のrAAVベクターは、カプシドの血清型(例えば、AAV8、Olig001)とは異なるAAV血清型(例えば、野生型AAV2、その断片又は変異体)からのITRを含み得る。1つの血清型からの少なくとも1つのITRを含むが、異なる血清型からのカプシドを含むそのようなrAAVベクターは、ハイブリッドウイルスベクターと称され得る(米国特許第7,172,893号を参照されたい)。AAV ITRは、野生型ITR配列全体を含んでもよく、又はその変異体、断片、若しくは修飾であってもよいが、機能性を保持する。
【0073】
いくつかの実施形態では、異種ポリペプチドは、ベクターゲノムの左端及び右端(すなわち、それぞれ5’及び3’末端)に位置するITR(例えば、AAV2由来のITR、ただし任意の野生型AAV血清型由来のITR、又はその変異体を含み得る)を含む。いくつかの実施形態では、左(例えば、5’)のITRは、配列番号5、配列番号12又は配列番号19の核酸配列を含むか又はそれからなる。いくつかの実施形態では、左(例えば、5’)のITRは、配列番号5、配列番号12又は配列番号19と約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%又は100%同一である核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、右(例えば、3’)のITRは、配列番号5、配列番号12又は配列番号19の核酸配列を含むか又はそれからなる。いくつかの実施形態では、右(例えば、3’)のITRは、配列番号5、配列番号12又は配列番号19と約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%又は100%同一である核酸配列を含む。各ITRは、ASPA及び調節エレメントをコードする修飾核酸を含む組換え核酸などの可変長の核酸配列によって、互いに、又はベクターゲノム中の他のエレメントとcisにあるが、分離していてもよい。いくつかの実施形態では、ITRは、AAV2 ITR、又はその変異体であり、ASPA導入遺伝子に隣接する。いくつかの実施形態では、rAAVは、AAV2 ITR(例えば、配列番号5、配列番号12、又は配列番号19に示される配列を有するITR)に隣接するASPA導入遺伝子(例えば、配列番号2の核酸配列を含む)を含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、rAAVベクターゲノムは、直鎖の一本鎖であり、AAV ITRに隣接している。異種遺伝子の転写及び翻訳の前に、自己プライミングITRのうちの1つの遊離3’-OHを使用して、DNAポリメラーゼ(例えば、形質導入細胞内のDNAポリメラーゼ)によって、約4700ヌクレオチドの一本鎖DNAゲノムを二本鎖形態に変換して、第2の鎖合成を開始しなければならない。いくつかの実施形態では、完全長一本鎖ベクターゲノム(すなわち、センス及びアンチセンス)はアニールして、完全長二本鎖ベクターゲノムを生成する。これは、反対の極性(すなわち、センス又はアンチセンス)のゲノムを担持する複数のrAAVベクターが同時に同じ細胞を形質導入する場合に生じ得る。それらがどのように産生されるかにかかわらず、二本鎖ベクターゲノムが形成されると、細胞は、二本鎖DNAを転写及び翻訳し、異種遺伝子を発現することができる。
【0075】
rAAVベクターからの導入遺伝子発現の効率は、発現前に一本鎖rAAVゲノム(ssAAV)を二本鎖DNAに変換する必要性によって妨げられ得る。このステップは、DNA合成又は複数のベクターゲノム間の塩基対合を必要とせずに、二本鎖DNAに折り畳むことができる反転反復ゲノムをパッケージングすることができる自己相補的AAVゲノム(scAAV)を使用することによって回避される(McCarty,(2008)Molec.Therapy 16(10):1648-1656;McCarty et al.,(2001)Gene Therapy 8:1248-1254;McCarty et al.,(2003)Gene Therapy 10:2112-2118)。scAAVベクターの制限は、カプシド中にパッケージングされる固有の導入遺伝子、調節エレメント及びIRTのサイズが、ssAAVベクターゲノム(すなわち、2つのITRを含めて約4,900ヌクレオチド)のサイズの約半分(すなわち、約2,500ヌクレオチド、そのうち2,200ヌクレオチドは導入遺伝子及び調節エレメントであってもよく、プラス約145ヌクレオチドITRの2つのコピーであってもよい)であることである。
【0076】
scAAVベクターゲノムは、末端分解部位(TRS)を含まない核酸を使用するか、又はベクターゲノムを含むベクター、例えばプラスミドの1つのrAAV ITRからTRSを改変し、それによってその末端からの複製の開始を防止することによって作製される(米国特許第8,784,799号を参照されたい)。宿主細胞内のAAV複製は、scAAVベクターゲノムの野生型ITRで開始され、末端分解部位を欠くか、又は改変された末端分解部位を含むITRを通して継続し、次いでゲノムを通して戻り、相補鎖を形成する。したがって、得られる相補的単一核酸分子は、中央に変異(分解されていない)ITR、及び両端に野生型ITRを有するベクターゲノムをもたらす自己相補的核酸分子である。いくつかの実施形態では、TRSを欠くか、又は改変されたTRSを含む変異ITRは、ベクターゲノムの5’末端にある。いくつかの実施形態では、TRSを欠くか、又は分解されていない(切断されていない)改変されたTRSを含む変異ITRは、ベクターゲノムの3’末端にある。いくつかの実施形態では、変異ITRは、配列番号5、配列番号12又は配列番号19の核酸を含む。
【0077】
理論に束縛されることを望まないが、scAAVゲノムの2つの半分は相補的であるものの、多くの塩基が内側カプシドシェルのアミノ酸残基と接触し、リン酸骨格が中心に向かって隔離されるため、カプシド内に実質的な塩基対が存在する可能性は低い(McCarty,Molec.Therapy(2008)16(10):1648-1656)。コーティングを解除すると、scAAVゲノムの2つの半分がアニールして、一方の端に共有結合で閉じたITRを有し、他方に2つの開放型ITRを有するdsDNAヘアピン分子を形成する可能性が高い。ITRは、とりわけ、導入遺伝子及びそれに対してシスに調節エレメントをコードする二本鎖領域に隣接する。
【0078】
rAAVベクターのウイルスカプシドは、野生型AAV又は変異体AAV、例えばAAV1、AAV2、AAV3、AAV3A、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAVrh10、AAVrh74(WO2016/210170を参照されたい)、AAV12、AAV2i8、AAV1.1、AAV2.5、AAV6.1、AAV6.3.1、AAV9.45、RHM4-1(WO2015/013313の配列番号5)、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、RHM15-6、AAVhu.26、AAV1.1、AAV2.5、AAV6.1、AAV6.3.1、AAV9,45、AAV2i8、AAV29G、AAV2,8G9、AVV-LK03、AAV2-TT、AAV2-TT-S312N、AAV3B-S312N、AAVトリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、霊長類AAV、非霊長類AAV、ヘビAAV、ヤギAAV、エビAAV、ヒツジAAV及びそれらの変異体に由来してもよい(例えば、Fields et al.,VIROLOGY,volume 2,chapter 69(4th ed.,Lippincott-Raven Publishers)を参照されたい)。カプシドは、米国特許第7,906,111号;Gao et al(2004)J.Virol.78:6381;Morris et al.(2004)Virol.33:375;WO2013/063379;WO2014/194132に開示されているAAV血清型のいくつかから得られてもよく、またWO2015/121501に開示されている真のタイプAAV(AAV-TT)変異体、並びにWO2015/013313号に開示されているRHM4-1、RHM15-1~RHM15-6、及びその変異体を含む。当業者であれば、同じ又は類似の機能を実行する、まだ特定されていない他のAAV変異体が存在する可能性が高いことを知っているであろう。AAV capタンパク質の完全な補体には、VP1、VP2、及びVP3が含まれる。AAV VPカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むORFは、完全な補体AAVCapタンパク質未満を含んでもよく、又はAAVcapタンパク質の完全な補体が提供されてもよい。
【0079】
別の実施形態では、本開示は、治療的インビボ遺伝子治療で使用するための祖先AAVベクターの使用を提供する。具体的には、コンピュータを用いて得られた配列がデノボ合成され、生物学的活性について特徴付けられ得る。祖先配列の予測及び合成は、rAAVベクターへの組み立てに加えて、その内容が参照により本明細書に組み込まれるWO2015/054653に記載の方法を使用して達成され得る。特に、祖先ウイルス配列から組み立てられたrAAVベクターは、同時代のウイルス又はその一部と比較して、ヒト集団において既存の免疫に対する感受性が低減され得る。
【0080】
いくつかの実施形態では、2つ以上のAAV血清型(例えば、野生型AAV血清型、変異体AAV血清型)に由来するヌクレオチド配列によってコードされるカプシドタンパク質を含むrAAVベクターは、「キメラベクター」又は「キメラカプシド」と称される(その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,491,907号を参照されたい)。いくつかの実施形態では、キメラカプシドタンパク質は、2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれよりも多くのAAV血清型に由来する核酸配列によってコードされる。いくつかの実施形態では、組換えAAVベクターは、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV3A、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAVrh74、AAVrh10、AAV2i8、又はそれらの変異体に由来するカプシド配列を含み、前述のAAV血清型のいずれかからのアミノ酸の組み合わせを含むキメラカプシドタンパク質をもたらす(Rabinowitz et al.(2002)J.Virology 76(2):791-801を参照されたい)。代替的に、キメラカプシドは、1つの血清型由来のVP1、異なる血清型由来のVP2、更に異なる血清型由来のVP3、及びそれらの組み合わせの混合物を含み得る。例えば、キメラウイルスカプシドは、AAV1capタンパク質又はサブユニット、並びに少なくとも1つのAAV2capタンパク質又はサブユニットを含み得る。キメラカプシドは、例えば、1つ以上のB19capサブユニットを有するAAVカプシドを含むことができ、例えば、AAV capタンパク質又はサブミントは、B19キャップタンパク質又はサブユニットによって置き換えられ得る。例えば、一実施形態では、AAVカプシドのVP3サブユニットは、B19のVP2サブユニットによって置き換えられ得る。いくつかの実施形態では、キメラカプシドは、WO2014052789に記載されるようなOlig001カプシドであり、参照により本明細書に組み込まれる。
【0081】
いくつかの実施形態では、キメラベクターは、改変された指向性又は特定の組織若しくは細胞型に対する指向性を示すように操作されている。「指向性」という用語は、ある特定の細胞若しくは組織型へのウイルスの優先的な進入、及び/又はある特定の細胞若しくは組織型への進入を促進する細胞表面との優先的な相互作用を指す。AAV指向性は、一般に、異なるウイルスカプシドタンパク質とそれらの同族細胞受容体との間の特異的相互作用によって決定される(Lykken et al.(2018)J.Neurodev.Disord.10:16)。好ましくは、ウイルス又はウイルスベクターが細胞に入ると、ベクターゲノム(例えば、rAAVベクターゲノム)によって担持される配列(例えば、導入遺伝子などの異種配列)が発現する。
【0082】
「指向性プロファイル」は、様々な組織及び/又は器官における1つ以上の標的細胞の形質導入のパターンを指す。例えば、キメラAAVカプシドは、ニューロン、アストロサイト及び他のCNS細胞の低い形質導入のみを伴う乏突起膠細胞の効率的な形質導入によって特徴付けられる指向性プロファイルを有し得る。参照により本明細書に組み込まれる、WO2014/052789を参照されたい。そのようなキメラカプシドは、乏突起膠細胞に対する指向性を示す「乏突起膠細胞に特異的」とみなされ得、CNSに直接投与されたときにニューロン、アストロサイト、及び他のCNS細胞型よりも乏突起膠細胞を優先的に形質導入する場合、本明細書において「オリゴ指向性」と称される。いくつかの実施形態では、乏突起膠細胞に特異的なカプシドによって形質導入される細胞の少なくとも約80%が乏突起膠細胞であり、例えば、形質導入細胞の少なくとも約85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上が乏突起膠細胞である。
【0083】
いくつかの実施形態では、rAAVベクターは、「乏突起膠細胞機能障害に関連する障害」を治療又は予防するために有用である。本明細書で使用される場合、「乏突起膠細胞機能障害に関連する」という用語は、それ以外の場合は同一の正常な乏突起膠細胞と比較して、乏突起膠細胞が損傷した、喪失した、又は不適切に機能する疾患、障害又は状態を指す。この用語には、乏突起膠細胞が直接影響を受ける疾患、障害及び状態、並びに乏突起膠細胞が他の細胞への損傷に対して二次的に機能不全になる疾患、障害又は状態が含まれる。いくつかの実施形態では、乏突起膠細胞機能不全に関連する障害は、カナバン病(CD)である。
【0084】
いくつかの実施形態では、乏突起膠細胞への指向性を有するキメラAAVカプシドは、Olig001(BNP61としても知られている)であり、AAV1、AAV2、AAV6、AAV8、及びAAV9からの配列を含む(WO2014/052789を参照されたい)。いくつかの実施形態では、Oligo001カプシドVP1は、配列番号13の核酸配列を含むか又はそれからなる核酸配列によってコードされる。いくつかの実施形態では、Olig001カプシドVP1は、配列番号13の核酸配列と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一の核酸配列によってコードされる。
【0085】
核酸配列は、重複するAAVカプシドタンパク質、VP1、VP2、及びVP3をコードする。Olig001カプシドタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号14に示され、VP1は、配列番号14のアミノ酸残基1(メチオニン)から始まり、VP2は、アミノ酸残基148(トレオニン)から始まり、VP3は、アミノ酸残基203(メチオニン)から始まる。
【0086】
いくつかの実施形態では、乏突起膠細胞に対する指向性を有するキメラAAVカプシドは、Olig002(BNP62としても知られている)又はOlig003(BNP63としても知られている)である(WO2014/052789を参照されたい)。いくつかの実施形態では、オリゴ002カプシドVP1は、配列番号15のアミノ酸配列を含むか又はそれからなる。いくつかの実施形態では、Olig002カプシドVP1アミノ酸配列は、配列番号15の配列と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一である。いくつかの実施形態では、核酸は、配列番号15のアミノ酸配列をコードする配列を含む。いくつかの実施形態では、オリゴ003カプシドは、配列番号16のアミノ酸配列を含むか又はそれからなる。いくつかの実施形態では、Olig003カプシドVP1アミノ酸配列は、配列番号16と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一である。いくつかの実施形態では、核酸は、配列番号16のアミノ酸配列をコードする配列を含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、キメラAAVカプシド(例えば、Olig001)及び治療用導入遺伝子を含むrAAVベクターを使用して、乏突起膠細胞機能障害に関連する疾患、障害又は状態を治療することができる。そのような疾患、障害又は状態では、乏突起膠細胞は、損傷している、喪失している、又は不適切に機能する。これは、乏突起膠細胞に対する直接的な効果の結果であり得るか、又は乏突起膠細胞が他の細胞に対する損傷に対して二次的に機能不全になる場合に生じ得る。いくつかの実施形態では、AAV/Olig001カプシド及び修飾ASPA核酸を含むrAAVベクターは、カナバン病を治療するために使用される。
【0088】
組換え核酸
本開示の組換え核酸には、修飾核酸、並びに修飾核酸を含むプラスミド及びベクターゲノムが含まれる。組換え核酸、プラスミド又はベクターゲノムは、(例えば、プラスミドの)増殖を調整する、及び/又は修飾核酸(例えば、導入遺伝子)の発現を制御するための調節配列を含み得る。組換え核酸はまた、ウイルスベクター(例えば、rAAVベクター)の構成要素として提供されてもよい。一般に、ウイルスベクターは、カプシドにパッケージングされた組換え核酸を含むベクターゲノムを含む。
【0089】
修飾核酸
遺伝子、核酸又はポリヌクレオチド(例えば、導入遺伝子)の修飾形態又は変異体形態は、参照配列から逸脱する核酸を指す。参照配列は、天然に存在する野生型配列(例えば、遺伝子)であってもよく、天然に存在する変異体(例えば、スプライス変異体、代替的な読み取りフレーム)を含んでもよい。当業者は、参照配列がGenBank(ncbi.nlm.nih.gov/genbank)等の公的に入手可能なデータベースに見出され得ることを認識するであろう。修飾/変異体核酸は、参照配列と比較して、実質的に同じ、より大きい、又はより小さい活性、機能又は発現を有し得る。好ましくは、本明細書において同義的に使用される修飾又は変異体核酸は、タンパク質発現の改善を示し、例えば、それによってコードされるタンパク質は、それ以外の場合は同一の細胞における内因性遺伝子(例えば、野生型遺伝子、変異遺伝子)によって提供されるタンパク質の発現レベルと比較して、細胞において検出可能に高いレベルで発現される。いくつかの実施形態では、本明細書において同義的に使用される修飾核酸又は変異体核酸(例えば、ASPAをコードする修飾核酸)は、改善されたタンパク質発現を示し、例えば、それによってコードされるタンパク質は、それ以外の場合は同一の細胞における変異を含む内因性遺伝子によって提供されるタンパク質の発現レベルと比較して、細胞において検出可能に高いレベルで発現される。
【0090】
核酸に対する修飾としては、参照配列の1つ以上のヌクレオチド置換(例えば、1~3、3~5、5~10、10~15、15~20、20~25、25~30、30~40、40~50、50~100又はそれ以上のヌクレオチドの置換)、付加(例えば、1~3、3~5、5~10、10~15、15~20、20~25、25~30、30~40、40~50、50~100又はそれ以上のヌクレオチドの挿入)、欠失(例えば、1~3、3~5、5~10、10~15、15~20、20~25、25~30、30~40、40~50、50~100又はそれ以上のヌクレオチドの欠失、モチーフ、ドメイン、断片等の欠失)が挙げられる。修飾核酸は、参照配列と約50%、約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、又は約99%同一であり得る。
【0091】
修飾核酸は、参照ポリペプチドに対する約50%、約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%、又は100%の同一性を有するポリペプチドをコードし得る。いくつかの実施形態では、ASPA(例えば、配列番号2)をコードする修飾核酸は、参照ポリペプチド(例えば、配列番号4)に対して100%の同一性を有するポリペプチドをコードする。
【0092】
いくつかの実施形態では、修飾核酸(例えば、導入遺伝子)は、野生型タンパク質をコードする。そのような修飾核酸はコドン最適化され得る。本明細書で同義的に言及される「最適化された」又は「コドン最適化された」は、例えば、希少なコドンの使用を最小限に抑えること、CpGジヌクレオチドの数を減少させること、潜在的スプライスドナー又はアクセプター部位を除去すること、Kozak配列を除去すること、リボソームエントリー部位を除去すること等によって、ポリペプチドの発現を増加させるために、野生型コード配列又は参照配列(例えば、ASPAポリペプチドのコード配列)に対して最適化されたコード配列を指す。いくつかの実施形態では、コドン最適化配列(例えば、ASPAをコードする修飾核酸)からのタンパク質の発現レベルは、それ以外の場合は同一の細胞における野生型遺伝子からのタンパク質の発現レベルと比較して増加する。いくつかの実施形態では、コドン最適化配列(例えば、ASPAをコードする修飾核酸)からのタンパク質の発現レベルは、それ以外の場合は同一の細胞における野生型遺伝子からのタンパク質の発現レベルと比較して増加しない(例えば、発現が実質的に類似している)。いくつかの実施形態では、コドン最適化配列(例えば、ASPAをコードする修飾核酸)からのタンパク質の発現レベルは、それ以外の場合は同一の細胞における変異遺伝子からのタンパク質の発現レベルと比較して増加する。
【0093】
修飾の例としては、1つ以上のcis作用モチーフの排除、及び1つ以上のKozak配列の導入が挙げられる。いくつかの実施形態では、1つ以上のcis作用モチーフが排除され、1つ以上のKozak配列が導入される。
【0094】
排除され得るcis作用モチーフの例としては、内部TATAボックス;カイ部位;リボソーム進入部位;ARE、INS、及び/若しくはCRS配列要素;反復配列及び/若しくはRNA二次構造;(潜在的)スプライスドナー及び/若しくはアクセプター部位、分岐点;並びに制限部位が挙げられる。
【0095】
いくつかの実施形態では、修飾核酸は、修飾又は変異体ポリペプチドをコードする。修飾核酸によってコードされる修飾ポリペプチドは、野生型コード配列又は参照配列によってコードされるポリペプチドの機能又は活性の全部又は一部を保持し得る。いくつかの実施形態では、修飾ポリペプチドは、1つ以上の非保存的又は保存的アミノ酸変化を有する。いくつかの実施形態では、ポリペプチドの機能において限定的な役割を果たす、又は全く役割を果たさないことが示されているある特定のドメインは、修飾ポリペプチドには存在しない(例えば、ある特定の結合ドメイン)(例えば、WO2016/097219)。rAAVベクターに存在する修飾核酸は、rAAVカプシド(例えば、短縮されたミニジストロフィン導入遺伝子、WO2001/83695を参照されたい;Bドメイン欠失ヒト第VIII因子導入遺伝子、WO2017/074526号を参照されたい)のパッケージング能力に起因して、野生型コード又は参照配列よりも少ないヌクレオチドを含んでもよく、また、切断されるとともにコドン最適化された短縮された導入遺伝子(例えば、WO2017/221145号に記載のコドン最適化されたミニジストロフィン導入遺伝子)を含んでもよい。いくつかの実施形態では、修飾核酸によってコードされるポリペプチドは、参照配列によってコードされるポリペプチドの機能又は活性より小さい、それと同じ、又はそれより大きいが、ただし少なくとも一部を有する。
【0096】
修飾核酸は、参照及び/又は野生型配列(例えば、野生型ASPAコード配列)に対する、修飾GC含有量(例えば、核酸配列に存在するG及びCヌクレオチドの数)、修飾(例えば、増加又は減少)CpGジヌクレオチド含有量、及び/又は修飾(例えば、増加又は減少)コドン適応指数(CAI)を有し得る。例えば、WO2017/077451を参照されたい(最適化のための核酸配列を分析するための公的に入手可能なソフトウェアを含む、関心のある核酸配列のコドン最適化のための当該技術分野で周知の様々な考慮事項を論じている)。本明細書で使用される場合、修飾は、特定の値、量又は効果の減少又は増加を指す。
【0097】
いくつかの実施形態では、本開示の修飾核酸配列のGC含有量は、参照及び/又は野生型遺伝子又はコード配列に比べて増加する。修飾核酸のGC含有量は、野生型コード配列(例えば、配列番号3)のGC含有量より少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも12%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも17%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%多い。いくつかの実施形態では、GC含有量は、配列中のG(グアニン)及びC(シトシン)ヌクレオチドのパーセンテージとして表される。
【0098】
いくつかの実施形態では、本開示の修飾核酸配列のコドン適応指数は、少なくとも0.74、少なくとも0.76、少なくとも0.77、少なくとも0.80、少なくとも0.85、少なくとも0.86、少なくとも0.87、少なくとも0.90、少なくとも0.95、又は少なくとも0.98である。
【0099】
いくつかの実施形態では、本開示の修飾核酸配列は、野生型又は参照核酸配列と比較して、約10%、20%、30%、50%又はそれ以上の低減であるCpGジヌクレオチドの低減レベルを有する。いくつかの実施形態では、修飾核酸は、参照配列(例えば、野生型配列)よりも1~5個少ない、5~10個少ない、10~15個少ない、15~20個少ない、20~25個少ない、25~30個少ない、30~40個少ない、40~45個少ない、又は45~50個少ない、又は更に少ないジヌクレオチドを有する。
【0100】
CpGジヌクレオチドのメチル化は、真核生物における遺伝子発現の調節において重要な役割を果たすことが知られている。具体的には、真核生物におけるCpGジヌクレオチドのメチル化は、本質的に、転写機構に干渉することによって遺伝子発現をサイレンシングする役割を果たす。したがって、CpGモチーフのメチル化によって誘発される遺伝子サイレンシングのために、CpGジヌクレオチドの数が低減した核酸及びベクターは、高く長く持続する導入遺伝子発現レベルをもたらすであろう。
【0101】
修飾核酸配列は、発現ベクターへのサブクローニングを容易にするための隣接制限部位を含んでもよい。多くのそのような制限部位は、当該技術分野において周知であり、限定するものではないが、
図13に示されるもの、例えば、AvaI、XmaI及びXmaIが含まれる。
【0102】
本開示は、配列番号1~3に記載の配列のうちのいずれか1つの断片であって、ASPAポリペプチドの機能的に活性な断片をコードする断片を含む。「機能的に活性な」又は「機能的なASPAポリペプチド」は、断片が完全長のASPAポリペプチドと同じ又は類似の生物学的機能及び/又は活性を提供することを示す。すなわち、断片は、NAAを酢酸塩及びアスパラギン酸塩に変換する能力を含むがこれらに限定されない、同じ活性を提供する。ASPA又はその機能的断片の生物学的活性は、本明細書の他の場所及びnur7マウスにおいて実証されるように、カナバン病に関連する神経変性表現型を逆転又は予防することも包含する。
【0103】
本開示は、ASPAポリペプチドをコードし、野生型核酸配列と比較して少なくとも1つの修飾を含む修飾ASPA核酸配列(例えば、配列番号3;代替の5’UTRを有するが、同じASPAタンパク質(配列番号4)をコードする、GenBank受託番号NM_000049.4又はNM_001128085.1)を提供する。
【0104】
いくつかの実施形態では、ASPAをコードする修飾核酸は、野生型ASPAポリペプチド(例えば、配列番号4)をコードするコドン最適化核酸であり、配列番号1又は配列番号2の配列を含む。いくつかの実施形態では、ASPAをコードする修飾核酸は、コドン最適化核酸であり、配列番号1又は配列番号2の配列からなる。いくつかの実施形態では、ASPAをコードする修飾核酸は、コドン最適化核酸であり、配列番号1又は配列番号2と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は100%同一の配列を含む。
【0105】
いくつかの実施形態では、ASPAをコードする修飾核酸を含む細胞は、増加したタンパク質発現を示し、例えば、それによってコードされるタンパク質は、野生型ASPA核酸を含むそれ以外の場合は同一の細胞、又はASPAをコードする変異核酸を含むそれ以外の場合は同一の細胞におけるタンパク質の発現レベルと比較して、細胞において検出可能に高いレベルで発現される。いくつかの実施形態では、ASPAをコードする修飾核酸(例えば、配列番号2の核酸配列を含む)を含む細胞におけるASPAタンパク質発現レベルは、野生型ASPA核酸を含むそれ以外の場合は同一の細胞におけるASPAタンパク質発現レベルと比較して、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約120%、約140%、約150%、約200%、約300%、約400%、又はそれ以上増加する。いくつかの実施形態では、ASPAをコードする修飾核酸(例えば、配列番号2の核酸配列を含む)を含む細胞におけるASPAタンパク質発現レベルは、ASPAをコードする変異核酸を含むそれ以外の場合は同一の細胞におけるASPAタンパク質発現レベルと比較して、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約120%、約140%、約150%、約200%、約300%、約400%、又はそれ以上増加する。
【0106】
いくつかの実施形態では、これは「発現最適化」若しくは「発現増強」核酸、又は単に「修飾核酸」と称され得る。
【0107】
当業者は、本開示の修飾核酸及びその変異体によってコードされるポリペプチド(例えば、配列番号1、配列番号2)が、ASPAをコードする野生型核酸によってコードされるASPAポリペプチド(例えば、配列番号3)と同じ又は類似の生物学的機能及び/又は活性を提供する「機能的ASPAポリペプチド」であることを理解するであろう。すなわち、ASPAをコードする修飾核酸によってコードされるASPAポリペプチドは、NAAをアセテート及びアスパルテートに変換する能力を含むがこれらに限定されない同じ活性を提供する。ASPAの生物学的活性は、nur7マウスにおいて本明細書の他の場所で実証されるような、カナバン病に関連する神経変性表現型の逆転又は予防を包含し、これには、ロータロッド落下潜時のパフォーマンスの改善、横断するオープンフィールド距離の改善、脳組織のNAAの減少、脳(例えば、視床、小脳白質/橋)内の空胞体積の減少、脳(例えば、視床、皮質)内のOlig2陽性細胞の増加、及び/又は皮質髄鞘形成の増加が含まれるが、これらに限定されない。
【0108】
調節エレメント
本開示は、ASPAをコードする修飾核酸と、様々な調節又は対照エレメントと、を含む組換え核酸を含む。典型的には、調節エレメントは、作動可能に連結されたポリヌクレオチドの発現に影響を与える核酸配列である。遺伝子発現に有用な調節エレメントの正確な性質は、適切な異種ポリヌクレオチド転写及び翻訳を容易にすることを意図して、生物によって、及び細胞型によって異なり、例えば、プロモーター、エンハンサー、イントロン等を含む細胞型によって異なる。調節制御は、転写、翻訳、スプライシング、メッセージ安定性等のレベルで影響を受ける可能性がある。典型的には、転写を調整する調節制御エレメントは、転写ポリヌクレオチドの5’末端付近(すなわち、上流)に並置される。調節制御エレメントはまた、転写配列の3’末端(すなわち、下流)に、又は転写物内(例えば、イントロン内)に位置してもよい。調節制御エレメントは、転写配列から離れた距離(例えば、1~100、100~500、500~1000、1000~5000、5000~10000、又はそれ以上のヌクレオチド)に位置することができる。しかしながら、AAVベクターゲノムの長さに起因して、調節制御エレメントは、典型的にはポリヌクレオチドから1~1000ヌクレオチド以内である。
【0109】
プロモーター
本明細書で使用される場合、「真核生物プロモーター」などの「プロモーター」という用語は、真核生物細胞(例えば、乏突起膠細胞)における特定の遺伝子、又は1つ以上のコード配列(例えば、ASPAコード配列)の転写を開始するヌクレオチド配列を指す。プロモーターは、他の調節エレメント又は領域と協働して、遺伝子又はコード配列の転写レベルを指示することができる。これらの調節エレメントとしては、例えば、転写結合部位、リプレッサー及び活性化タンパク質結合部位、並びに、例えばアテニュエーター、エンハンサー及びサイレンサーを含む、プロモーターからの転写の量を調節するために直接的又は間接的に作用することが知られている他のヌクレオチド配列が挙げられる。プロモーターは、多くの場合同じ鎖上に位置し、それが作動可能に連結した遺伝子又はコード配列の転写開始部位、5’の近くに位置する。プロモーターは、一般に、100~1000ヌクレオチド長である。プロモーターは、典型的には、プロモーターの非存在下での同じ遺伝子の発現と比べて遺伝子発現を増加させる。
【0110】
本明細書で使用される場合、「コアプロモーター」又は「最小限のプロモーター」は、転写を適切に開始するために必要なプロモーター配列の最小限の部分を指す。これは、転写開始部位、RNAポリメラーゼの結合部位、及び一般的な転写因子結合部位のいずれかを含んでもよい。プロモーターはまた、他の一次調節エレメント(例えば、エンハンサー、サイレンサー、境界エレメント、インシュレーター)及び遠位プロモーター配列(コアプロモーターの3’)を含有する近位プロモーター配列(コアプロモーターの5’)を含んでもよい。
【0111】
好適なプロモーターの例としては、アデノウイルス主要後期プロモーター等のアデノウイルスプロモーター;サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター等の異種プロモーター;呼吸器合胞体ウイルスプロモーター;ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター;アルブミンプロモーター;マウス乳がんウイルス(MMTV)プロモーター等の誘導性プロモーター;メタロチオネインプロモーター;熱ショックプロモーター;α-1抗トリプシンプロモーター;B型肝炎表面抗原プロモーター;トランスフェリンプロモーター;アポリポタンパク質A-1プロモーター;ニワトリβアクチン(CBA)プロモーター;伸長因子1aプロモーター(EF1a)、CBAプロモーターのハイブリッド形態(CBhプロモーター)、及びCAGプロモーター(サイトメガロウイルス早期エンハンサーエレメント及びプロモーター)、並びにトリベータアクチン遺伝子の第1のエクソン及び第1のイントロン、及びウサギベータグロビン遺伝子のスプライスアクセプター(Alexopoulou et al.(2008)BioMed.Central Cell Biol.9:2);並びにヒトASPA遺伝子プロモーターが挙げられる。いくつかの実施形態では、プロモーターは、CBhプロモーターの断片又は変異体であり、配列番号7の核酸配列を含むか又はそれからなる。
【0112】
本開示のいくつかの実施形態では、真核生物プロモーター配列(例えば、CBhプロモーター)は、ASPAをコードする修飾核酸に作動可能に連結されている。いくつかの実施形態では、配列番号7の核酸配列を含むプロモーター(例えば、CBhプロモーター)は、ASPAをコードする修飾核酸に作動可能に連結されている。いくつかの実施形態では、配列番号7の核酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一の核酸配列を含むか又はそれからなるプロモーターは、配列番号2の核酸配列を含む核酸に作動可能に連結されている。いくつかの実施形態では、配列番号7の核酸配列と少なくとも95%同一の核酸配列を含むプロモーターは、配列番号2の核酸配列と少なくとも95%同一の核酸配列に作動可能に連結され、乏突起膠細胞において配列番号2の核酸配列によってコードされるポリペプチドの発現を誘導する。いくつかの実施形態では、配列番号7を含む核酸を含むプロモーターに作動可能に連結された、配列番号2の核酸配列を含む核酸によってコードされるポリペプチドの発現は、それ以外の場合は同一の細胞において、配列番号7の核酸を含むプロモーターに作動可能に連結されていない、配列番号2の核酸配列を含む核酸によってコードされるポリペプチドの発現レベルと比較して、細胞において検出可能に高いレベルである。いくつかの実施形態では、組換え核酸は、配列番号2の核酸配列と少なくとも95%同一の核酸配列に作動可能に連結され、乏突起膠細胞において配列番号2の核酸配列によってコードされるポリペプチドの発現を誘導する、配列番号7の核酸配列と少なくとも95%同一の核酸配列を含むプロモーターを含む。
【0113】
プロモーターは、構成的であっても、組織特異的であっても、又は調節されていてもよい。構成的プロモーターは、作動可能に連結された遺伝子を本質的に常に発現させるものである。いくつかの実施形態では、構成的プロモーターは、ほとんどの生理学的及び発達的条件下でほとんどの真核生物組織で活性である。
【0114】
調節されたプロモーターは、活性化又は非活性化され得るものである。調節されたプロモーターには、通常「オフ」であるが、「オン」に誘導され得る誘導性プロモーター、及び通常「オン」であるが「オフ」にされ得る「抑制性」プロモーターが含まれる。温度、ホルモン、サイトカイン、重金属、及び調節タンパク質を含む多くの異なる調節因子が知られている。区別は絶対的なものではなく、構成的プロモーターはしばしばある程度調節され得る。いくつかの場合には、例えば、病理学的状態が改善するときに自然に下方調節されるプロモーターを用いて、内因性経路を利用して導入遺伝子発現の調節を提供することができる。
【0115】
組織特異的プロモーターは、特定の種類の組織、細胞、又は器官のみにおいて活性なプロモーターである。典型的には、組織特異的プロモーターは、特定の組織、細胞、及び/又は器官に特異的な転写活性化エレメントによって認識される。例えば、組織特異的プロモーターは、他の組織よりも1つ又は複数の特定の組織(例えば、2つ、3つ又は4つ)においてより活性であり得る。いくつかの実施形態では、組織特異的プロモーターによって調整される遺伝子の発現は、プロモーターが特異的である組織において、他の組織よりもはるかに高い。いくつかの実施形態では、プロモーターは、それが特異的である組織以外の任意の組織において、ほとんど、又は実質的に活性がなくてもよい。プロモーターは、肝細胞において活性であるマウスアルブミンプロモーター又はトランスサイレチンプロモーター(TTR)等の組織特異的プロモーターであってもよい。組織特異的プロモーターの他の例としては、骨格筋における発現を誘導する骨格αアクチン、ミオシン軽鎖2A、ジストロフィン、筋肉クレアチンキナーゼをコードする遺伝子からのプロモーターが挙げられる(Li et al.(1999)Nat.Biotech.17:241-245)。肝臓特異的発現は、アルブミン遺伝子由来のプロモーター(Miyatake et al.(1997)J.Virol.71:5124-5132)、B型肝炎ウイルスコアプロモーター(Sandig,et al.(1996)Gene Ther.3:1002-1009)及びアルファ-フェトプロテイン(Arbuthnot et al.,(1996)Hum.Gene.Ther.7:1503-1514)を使用して誘導され得る。
【0116】
エンハンサー
別の態様において、治療用ポリペプチドをコードする修飾核酸は、治療用ポリペプチド(例えば、ASPAタンパク質)の発現を増加させるためのエンハンサーを更に含む。典型的には、エンハンサーエレメントは、プロモーターエレメントの上流に位置するが、下流又は別の配列(例えば、導入遺伝子)内に位置してもよい。エンハンサーは、修飾核酸の上流又は下流に100ヌクレオチド、200ヌクレオチド、300ヌクレオチド、又はそれ以上に位置し得る。エンハンサーは、典型的には、プロモーターエレメントのみによって提供される増加した発現を超えて、修飾核酸の発現を増加させる(例えば、治療用ポリペプチドをコードする、例えば、ASPAをコードする)。
【0117】
多くのエンハンサーが当該技術分野で既知であり、これにはサイトメガロウイルス主要最初期エンハンサーが含まれるが、これらに限定されない。より具体的には、サイトメガロウイルス(CMV)MIEプロモーターは、3つの領域:モジュレーター、独自領域、及びエンハンサーを含む(Isomura and Stinski(2003)J.Virol.77(6):3602-3614)。CMVエンハンサー領域は、別のプロモーター、又はその一部と組み合わせて、ハイブリッドプロモーターを形成し、それに作動可能に結合した核酸の発現を更に増加させることができる。例えば、ニワトリβアクチン(CBA)プロモーター、又はその一部をCMVプロモーター/エンハンサー、又はその一部と組み合わせて、Gray et al.(2011,Human Gene Therapy 22:1143-1153)に記載されるように、ニワトリβアクチンハイブリッドプロモーターを表す「CBh」プロモーターと呼ばれるCBAのバージョンを作製することができる。プロモーターと同様に、エンハンサーは、構成的であっても、組織特異的であっても、又は調節されていてもよい。
【0118】
本開示のいくつかの実施形態では、エンハンサー配列(例えば、CMVエンハンサー)は、ASPAをコードする修飾核酸に作動可能に連結されている。いくつかの実施形態では、配列番号6又は配列番号17の核酸配列を含むか又はそれからなるエンハンサー(例えば、CMVエンハンサー)は、ASPAをコードする修飾核酸に作動可能に連結されている。いくつかの実施形態では、配列番号6又は配列番号17の核酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一の核酸配列を含むエンハンサーは、配列番号2の核酸配列を含む核酸に作動可能に連結され、任意選択で、配列番号7の核酸配列を含むプロモーターに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態では、配列番号6又は配列番号17の核酸配列と少なくとも95%同一の核酸配列を含むエンハンサーは、配列番号2の核酸配列と少なくとも95%同一の核酸配列に作動可能に連結され、乏突起膠細胞において配列番号2の核酸配列によってコードされるポリペプチドの発現を誘導する。いくつかの実施形態では、配列番号6又は配列番号17の核酸配列と少なくとも95%同一の核酸配列を含むエンハンサーは、配列番号7の核酸配列と少なくとも95%同一の核酸配列に作動可能に連結され、配列番号2の核酸配列と少なくとも95%同一の核酸配列に作動可能に連結され、配列番号6(又は配列番号17)及び配列番号7の核酸配列とともに、乏突起膠細胞における配列番号2の核酸配列によってコードされるポリペプチドの発現を誘導する。いくつかの実施形態では、配列番号6(又は配列番号17)の核酸配列を含むエンハンサーに作動可能に連結された、配列番号2の核酸配列によってコードされるポリペプチドの発現は、それ以外の場合は同一の細胞において、配列番号5の核酸を含むエンハンサーに作動可能に連結されていない、配列番号2によってコードされるポリペプチドの発現レベルと比較して、細胞において検出可能により高いレベルである。いくつかの実施形態では、組換え核酸は、配列番号6又は配列番号17の核酸配列と少なくとも95%同一の核酸配列を含み、配列番号7の核酸配列と少なくとも95%同一の核酸配列に作動可能に連結され、配列番号2の核酸配列と少なくとも95%同一の核酸配列に作動可能に連結され、配列番号6(又は配列番号17)及び配列番号7の核酸配列とともに、乏突起膠細胞における配列番号2の核酸配列によってコードされるポリペプチドの発現を誘導するエンハンサーを含む。
【0119】
フィラー、スペーサー及びスタッファー
本明細書に開示されるように、rAAVベクターでの使用を意図した組換え核酸は、核酸の長さを、rAAVベクターへのAAVパッケージングに許容されるウイルスゲノム配列の正常なサイズ(例えば、約4.7~4.9キロ塩基)又はそれに近いサイズに調節するための追加の核酸エレメントを含んでよい(Grieger and Samulski(2005)J.Virol.79(15):9933-9944)。そのような配列は、同義的に、フィラー、スペーサー又はスタッファーと称され得る。いくつかの実施形態では、フィラーDNAは、核酸の非翻訳(非タンパク質コード)セグメントである。いくつかの実施形態では、フィラー又はスタッファーポリヌクレオチド配列は、約1~10、10~20、20~30、30~40、40~50、50~60、60~70、70~80、80~90~90~100、100~150、150~200、200~250、250~300、300~400、400~500、500~750、750~1000、1000~1500、1500~2000、2000~3000、又はそれ以上の長さの配列である。
【0120】
AAVベクターは、典型的には、核酸のAAVカプシドへの最適包装のために、約4kb~約5.2kb又は約4.1~4.9kbの範囲のサイズを有するDNAの挿入物を受け入れる。いくつかの実施形態では、rAAVベクターは、約3.0kb~約3.5kb、約3.5kb~約4.0kb、約4.0kb~約4.5kb、約4.5kb~約5.0kb、又は約5.0kb~約5.2kbの間の全長を有するベクターゲノムを含む。いくつかの実施形態では、rAAVベクターは、約4.7kbの全長を有するベクターゲノムを含む。いくつかの実施形態では、rAAVベクターは、自己相補的なベクターゲノムを含む。rAAVベクターにおける自己相補的(sc)ベクターゲノムの全長は、一本鎖(ss)ベクターゲノムに等しい(すなわち、約4kb~約5.2kb)が、scベクターゲノムをコードする核酸配列(すなわち、導入遺伝子、調節エレメント及びITRを含む)は、scベクターがカプシド内にパッケージングされるためには、ssベクターゲノムをコードする核酸配列の半分の長さでなければならない。
【0121】
イントロン及びエクソン
いくつかの実施形態では、組換え核酸は、例えば、イントロン、エクソン及び/又はその一部を含む。イントロンは、rAAVベクターへのベクターゲノムパッケージングのための適切な長さを達成するために、フィラー又はスタッファーポリヌクレオチド配列として機能し得る。イントロン及び/又はエクソン配列は、イントロン及び/又はエクソンエレメントの非存在下での発現と比較して、ポリペプチド(例えば、導入遺伝子)の発現を増強することもできる(Kurachi et al.(1995)J.Biol.Chem.270(10):576-5281;WO2017/074526)。更に、フィラー/スタッファーポリヌクレオチド配列(「インシュレーター」とも称される)は、当該技術分野において周知であり、限定されないが、WO2014/144486及びWO2017/074526に記載されているものが含まれる。
【0122】
イントロンエレメントは、異種ポリヌクレオチドと同じ遺伝子に由来してもよく、又は全く異なる遺伝子若しくは他のDNA配列(例えば、ニワトリβアクチン遺伝子、マウスの微小ウイルス(MVM))に由来してもよい。いくつかの実施形態では、組換え核酸は、イントロンから選択される少なくとも1つのエレメントと、非同族遺伝子に由来するエクソンと、を含む(すなわち、修飾核酸、例えば、導入遺伝子に由来しない)。いくつかの実施形態では、イントロンは、例えば、配列番号9の核酸配列を含むか又はそれからなる、ニワトリβアクチン遺伝子に由来する。いくつかの実施形態では、イントロンは、配列番号9の核酸配列と約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、イントロンは、例えば、配列番号10の核酸配列を含むか又はそれからなるMVMに由来する。いくつかの実施形態では、イントロンは、配列番号10の核酸配列と約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、エクソンは、例えば、配列番号8の核酸配列を含むか又はそれからなる、ニワトリβアクチン遺伝子に由来する。いくつかの実施形態では、エクソンは、配列番号8の核酸配列と約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、組換え核酸は、エンハンサー配列(例えば、配列番号6又は配列番号17)、プロモーター配列(例えば、配列番号7)、エクソン(例えば、配列番号8又は配列番号18)、及びイントロン(例えば、配列番号9、配列番号10)のうちの少なくとも1つを含み、任意選択で配列番号2の核酸配列によってコードされる異種ポリペプチドの発現を調整する。いくつかの実施形態では、エンハンサー配列(例えば、配列番号6又は配列番号17)、プロモーター配列(例えば、配列番号7)、エクソン(例えば、配列番号8又は配列番号18)、及びイントロン(例えば、配列番号9、配列番号10)のうちの少なくとも1つを含む調節領域に作動可能に連結された、配列番号2の核酸配列によってコードされるポリペプチドの発現は、それ以外の場合は同一の細胞において、そのような調節エレメントに作動可能に連結されていない、配列番号2の核酸配列によりコードされるポリペプチドの発現レベルと比較して、細胞において検出可能により高いレベルである。
【0123】
いくつかの実施形態では、組換え核酸は、エンハンサー配列(例えば、配列番号6又は配列番号17)、プロモーター配列(例えば、配列番号7)、エクソン(例えば、配列番号8又は配列番号18)、及びイントロン(例えば、配列番号9、配列番号10)のうちの少なくとも1つを含む調節エレメントに作動可能に結合した、配列番号2の修飾核酸を含む。
【0124】
ポリアデニル化シグナル配列(polyA)
さらなる調節エレメントとしては、終止コドン、終結配列、及びポリアデニル化(polyA)シグナル配列、例えばウシ成長ホルモンpolyAシグナル配列(BHG polyA)が挙げられ得るが、これらに限定されない。polyAシグナル配列は、遺伝子転写の終結を誘導する、真核生物mRNAの3’末端におけるポリアデノシン「テール」の効率的な付加を駆動する(例えば、Goodwin and Rottman J.Biol.Chem.(1992)267(23):16330-16334を参照されたい)。polyAシグナルは、その3’末端での新たに形成された前駆体mRNAのエンドヌクレオチド分解切断、及びアデニン塩基のみからなるRNAストレッチのこの3’末端への付加のためのシグナルとして機能する。polyAテールは、mRNAの核外輸送、翻訳及び安定性に重要である。いくつかの実施形態では、polyAは、SV40初期ポリアデニル化シグナル、SV40後期ポリアデニル化シグナル、HSVチミジンキナーゼポリアデニル化シグナル、プロタミン遺伝子ポリアデニル化シグナル、アデノウイルス5E1bポリアデニル化シグナル、成長ホルモンポリアデニル化シグナル、PBGDポリアデニル化シグナル、又はコンピュータ内設計ポリアデニル化シグナルである。
【0125】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の1つ以上の他の調節エレメントと任意選択で組み合わせて、組換え核酸のpolyAシグナル配列は、ASPA(例えば、配列番号2)をコードする修飾核酸の転写から生じる前駆体mRNAの核内分解切断及びポリアデニル化を指示し、達成することができるpolyAシグナルである。いくつかの実施形態では、polyA配列は、配列番号11の核酸配列を含むか又はそれからなる。いくつかの実施形態では、polyA配列は、配列番号11の核酸配列と約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%又は100%同一の核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、組換え核酸は、エンハンサー配列(例えば、配列番号6又は配列番号17)、プロモーター配列(例えば、配列番号7)、エクソン(例えば、配列番号8又は配列番号18)、イントロン(例えば、配列番号9、配列番号10)、及びpolyA(配列番号11)のうちの少なくとも1つを含み、任意選択で配列番号2の核酸配列によってコードされる異種ポリペプチドの発現を調整する。
【0126】
いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)は、乏突起膠細胞に対する指向性を有し、AAV ITR(例えば、AAV2 ITR)並びにASPAをコードする修飾(すなわち、コドン最適化)核酸及び以下の調節エレメントのうちの少なくとも1つを含む組換え核酸を含む自己相補的ベクターゲノムを含有する:エンハンサー(例えば、CMVエンハンサー)、プロモーター(例えば、CBhプロモーター)、エクソン(例えば、CBAエクソン1)、イントロン(例えば、CBAイントロン、MVMイントロン)及びpolyA(例えば、BHG polyA)。
【0127】
いくつかの実施形態では、乏突起膠細胞に対する指向性を有するrAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)は、AAV ITR(例えば、配列番号5、配列番号12、及び/又は配列番号19)並びにASPAをコードする修飾(すなわち、コドン最適化)核酸(例えば、配列番号2)及び以下の調節エレメントのうちの少なくとも1つを含む組換え核酸を含む自己相補的ゲノムを含有する:エンハンサー(例えば、配列番号6又は配列番号17)、プロモーター(例えば、配列番号7)、エクソン(例えば、CBAエクソン配列番号8又は配列番号18)、イントロン(例えば、配列番号9及び配列番号10)、及びpolyA(例えば、配列番号11)。
【0128】
いくつかの実施形態では、乏突起膠細胞に対する指向性を有するrAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)は、配列番号20を含む自己相補的ゲノムを含有する。
【0129】
本開示のrAAVベクターの生物学的活性
いくつかの実施形態では、本開示のrAAVベクター(例えば、ASPA導入遺伝子を含む)は、標的細胞(例えば、乏突起膠細胞)を形質導入し、生物学的活性を媒介する。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)は、標的細胞(例えば、乏突起膠細胞)を形質導入し、以下からなる群から選択される少なくとも1つの検出可能な活性を媒介する。
(i)インビトロでの細胞内のNAAレベルを低下させる、
(ii)バランス、グリップ強度、及び/又は運動協調を改善、増加、及び/又は向上させる、
(iii)落下潜時(秒)を改善、増加、及び/又は増強する、
(iv)全身的運動機能を改善、増加及び/又は増強する、
(v)インビボでのNAAレベルの蓄積を低減、阻害、及び/又は中和する、
(vi)視床内の空胞体積割合を低減、阻害、及び/又は中和する、
(vii)小脳白質/橋の空胞体積割合を低減、阻害、及び/又は中和する、
(viii)視床内の乏突起膠細胞の数を改善、増加、及び/又は増強する、
(ix)皮質内の乏突起膠細胞の数を改善、増加、及び/又は増強する、
(x)視床内のニューロンの数を改善、増加、及び/又は増強する、
(xi)皮質内のニューロンの数を改善、増加、及び/又は増強する、並びに
(xii)皮質髄鞘形成を改善、増大、及び/又は増大する。
【0130】
いくつかの実施形態では、標的細胞(例えば、乏突起膠細胞)を形質導入し、(i)~(xii)の少なくとも1つの検出可能な活性を媒介するrAAVベクターは、AAV/Oligo001-ASPAである。
【0131】
いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)で形質導入された細胞は、ASPAをコードする野生型核酸配列(例えば、配列番号3)を含むrAAVで形質導入されたそれ以外の場合は同一の細胞におけるNAAのレベルと比較して、NAAのレベルが低下している。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)で形質導入された細胞は、ASPAをコードする代替のコドン最適化核酸(例えば、配列番号1)を含むrAAVで形質導入されたそれ以外の場合は同一の細胞におけるNAAのレベルと比較して、NAAのレベルが低下している。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)で形質導入された細胞は、形質導入されなかったASPAをコードする変異核酸を含む細胞におけるNAAのレベルと比較して、NAAのレベルが低下している。
【0132】
いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)でインビボで形質導入された細胞は、ASPAをコードする野生型核酸(例えば、配列番号3)を含むrAAVでインビボで形質導入されたそれ以外の場合は同一の細胞におけるNAAのレベルと比較して、NAAのレベルが低下している。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)でインビボ形質導入された細胞は、ASPAをコードする代替のコドン最適化核酸(例えば、配列番号1)を含むrAAVでインビボで形質導入されたそれ以外の場合は同一の細胞におけるNAAのレベルと比較して、NAAのレベルが低下している。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)でインビボで形質導入された細胞は、形質導入されなかった変異ASPA遺伝子を含むそれ以外の場合は同一の細胞におけるNAAのレベルと比較して、NAAのレベルが低下している。
【0133】
いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されたASPA遺伝子変異を有する対象におけるバランス、グリップ及び/又は運動協調は、例えばロータロッドパフォーマンスによって測定されるように、rAAVベクターが投与されていないASPA遺伝子変異を有するそれ以外の場合は同様の対象のバランス、グリップ強度及び/若しくは運動協調と比較して、又はrAAVベクターの投与前の同じ対象と比較して、有意に改善される。
【0134】
いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されたASPA遺伝子変異を有する対象におけるバランス、グリップ強度及び/又は運動協調は、例えばロータロッドパフォーマンスによって測定されるように、ASPA遺伝子変異を有さない、及びrAAVベクターが投与されていないそれ以外の場合は同様の対象におけるバランス、グリップ強度及び/又は運動協調と区別できない。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)は、脳室内(ICV)投与経路を介して投与される。いくつかの実施形態では、ロータロッドパフォーマンスは、秒単位での落下潜時として測定される。
【0135】
いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されているASPA遺伝子変異を有する対象の全身的運動機能は、例えばオープンフィールド活動性によって測定されるように、rAAVベクターが投与されていないASPA遺伝子変異を有するそれ以外の場合は同様の対象の全身的運動機能と比較して、又はrAAVベクターの投与前の対象における機能と比較して、有意に改善される。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)は、脳室内(ICV)投与経路を介して投与される。
【0136】
いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されるASPA遺伝子変異を有する対象における全身的運動機能は、例えばオープンフィールド活動性によって測定されるように、ASPA遺伝子変異を有さない、及びrAAVが投与されていないそれ以外の場合は同様の対象における全身的運動機能と区別できない。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)は、脳室内(ICV)投与経路を介して投与される。
【0137】
いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されるASPA遺伝子変異を有する対象の脳におけるNAAレベルは、rAAVベクターが投与されないASPA遺伝子変異を有するそれ以外の場合は同様の対象の脳におけるNAAレベルと比較して、又はrAAVベクターの投与前の対象におけるNAAレベルと比較して、有意に低減される。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されるASPA遺伝子変異を有する対象の脳におけるNAAレベルは、ASPA遺伝子変異を有さない、及びrAAVベクターが投与されていないそれ以外の場合は同様の対象の脳におけるNAAレベルと比較して低減されるか、又は区別されない。
【0138】
いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されるASPA遺伝子変異を有する対象の視床における空胞体積割合は、rAAVベクターが投与されないASPA遺伝子変異を有するそれ以外の場合は同様の対象の視床における空胞体積割合と比較して、又はrAAVベクターの投与前の対象と比較して有意に低減され、空胞体積割合は、例えば偏りのない立体的解析学によって測定される。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されるASPA遺伝子変異を有する対象の小脳白質/橋における空胞体積割合は、rAAVベクターが投与されないASPA遺伝子変異を有するそれ以外の場合は同様の対象の小脳白質/橋における空胞体積割合と比較して、又はrAAVベクターの投与前の対象と比較して有意に低減され、空胞体積割合は、例えば偏りのない立体的解析学によって測定される。
【0139】
いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されるASPA遺伝子変異を有する対象の視床における乏突起膠細胞の数は、ベクターが投与されないASPA遺伝子変異を有するそれ以外の場合は同様の対象の視床における乏突起膠細胞の数と比較して、又はベクターが投与される前の対象と比較して有意に増加し、視床における乏突起膠細胞の数は、例えばOlig2抗体を使用したIHC及び偏りのない立体的解析学によって測定される。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されるASPA遺伝子変異を有する対象の脳皮質における乏突起膠細胞の数は、rAAVベクターが投与されないASPA遺伝子変異を有するそれ以外の場合は同様の対象の脳皮質における乏突起膠細胞の数と比較して、又はベクターが投与される前の同じ対象と比較して有意に増加し、脳皮質における乏突起膠細胞の数は、例えばOlig2抗体を使用したIHC及び偏りのない立体的解析学によって測定される。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されるASPA遺伝子変異を有する対象の脳皮質における乏突起膠細胞の数は、ASPA遺伝子変異を有さない、及びrAAVベクターが投与されないそれ以外の場合は同様の対象の脳皮質における乏突起膠細胞の数と区別できず、脳皮質における乏突起膠細胞の数は、例えばOlig2抗体を使用したIHC及び偏りのない立体的解析学によって測定される。
【0140】
いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されるASPA遺伝子変異を有する対象の視床におけるニューロンの数は、rAAVベクターが投与されないASPA遺伝子変異を有する対象の視床におけるニューロンの数と比較して、又はベクターの投与前の対象の視床におけるニューロンの数と比較して有意に増加し、視床におけるニューロンの数は、例えばNeuN抗体を使用したIHC及び偏りのない立体的解析学によって測定される。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されるASPA遺伝子変異を有する対象の脳皮質におけるニューロンの数は、rAAVベクターが投与されないASPA遺伝子変異を有するそれ以外の場合は同様の対象の脳皮質におけるニューロンの数と比較して、又はベクターの投与前の対象の脳皮質におけるニューロンの数と比較して有意に増加し、脳皮質におけるニューロンの数は、例えばNeuN抗体を使用したIHC及び偏りのない立体的解析学によって測定される。いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001-ASPA)が投与されるASPA遺伝子変異を有する対象の脳皮質におけるニューロンの数は、ASPA遺伝子変異を有さない、及びrAAVベクターが投与されないそれ以外の場合は同様の対象の脳皮質におけるニューロンの数と区別できず、脳皮質におけるニューロンの数は、例えばNeuN抗体を使用したIHC及び偏りのない立体的解析学によって測定される。
【0141】
いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Oligo001-ASPA)が投与されるASPA遺伝子変異を有する対象の脳における皮質髄鞘形成は、rAAVベクターが投与されないASPA遺伝子変異を有するそれ以外の場合は同様の対象の脳における皮質髄鞘形成と比較して、又はベクターの投与前の対象の脳における皮質髄鞘形成と比較して有意に増加し、皮質髄鞘形成は、例えば皮質髄鞘塩基性タンパク質陽性線維長密度(MBP-LD)によって測定される。
【0142】
ウイルスベクターの組み立て
導入遺伝子(例えば、ASPA)を担持するウイルスベクター(例えば、rAAVベクター)は、導入遺伝子、好適な調節エレメント、及び細胞形質導入を媒介するウイルスタンパク質の産生に必要なエレメントをコードするポリヌクレオチドから組み立てられる。ウイルスベクターの例として、限定されないが、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、特にrAAVベクター(上記で論じたように)が挙げられる。
【0143】
本開示の方法に従って産生されるrAAVベクターのベクターゲノム構成要素は、少なくとも1つの導入遺伝子、例えば、ASPAをコードする修飾核酸、及びASPAをコードする修飾核酸の発現を制御するための関連する発現制御配列を含む。
【0144】
好ましい実施形態では、ベクターゲノムは、rep及びcapが欠失した、並びに/又は修飾核酸(例えば、導入遺伝子、例えば、ASPAをコードする修飾核酸)及びその関連発現制御配列によって置き換えられたAAVゲノム等のパルボウイルスゲノムの一部を含む。ASPAをコードする修飾核酸は、典型的には、1つ又は2つ(すなわち、によって隣接する)のAAV ITR又はウイルス複製に適切なITRエレメントに隣接して挿入される(Xiao et al.(1997)J.Virol.71(2):941-948)。ASPAをコードする修飾核酸の標的細胞(例えば、乏突起膠細胞)における組織特異的発現を促進するために使用するのに好適な他の調節配列もまた含まれ得る。
【0145】
パッケージング細胞
導入遺伝子を含み、ウイルス複製(例えば、cap及びrep)に必要なウイルスタンパク質を欠くrAAVベクターは、そのようなタンパク質がウイルス複製及びパッケージングに必要であるため、複製することができないことを当業者は理解するであろう。cap及びrep遺伝子は、ベクターゲノムに導入遺伝子を供給するプラスミドとは別個のプラスミドの一部として細胞(例えば、宿主細胞、例えば、パッケージング細胞)に供給されてもよい。
【0146】
「パッケージング細胞」又は「プロデューサー細胞」は、ベクター、プラスミド又はDNAコンストラクトでトランスフェクトされ得る細胞又は細胞株を意味し、ウイルスベクターの完全な複製及びパッケージングに必要な失われている機能をtransで提供する。rAAVベクターの組み立てに必要な遺伝子には、ベクターゲノム(例えば、ASPA、調節エレメント、及びITRをコードする修飾核酸)、AAV rep遺伝子、AAV cap遺伝子、及び他のウイルス(例えば、アデノウイルス)に由来する特定のヘルパー遺伝子が含まれる。当業者は、AAV産生に必要な遺伝子が、例えば、1つ以上のプラスミドのトランスフェクションを含む様々な手法でパッケージング細胞に導入され得ることを理解するであろう。しかしながら、いくつかの実施形態では、いくつかの遺伝子(例えば、rep、cap、ヘルパー)は、パッケージング細胞中に既に存在してもよく、ゲノム中に組み込まれても、又はエピソーム上に担持されてもよい。いくつかの実施形態では、パッケージング細胞は、構成的又は誘導的な様式で、1つ以上の失われているウイルス機能を発現する。
【0147】
当該技術分野で既知の任意の好適なパッケージング細胞が、パッケージングされたウイルスベクターの製造に用いられ得る。哺乳動物細胞又は昆虫細胞が好ましい。本開示の実践において、パッケージング細胞の産生に有用な細胞の例として、例えば、PER.C6、WI38、MRC5、A549、HEK293細胞(構成的プロモーターの制御下で機能的アデノウイルスE1を発現する)、B-50、又は任意の他のHeLa細胞、HepG2、Saos-2、HuH7、及びHT1080細胞株等のヒト細胞株が挙げられる。好適な非ヒト哺乳動物細胞株としては、例えば、VERO、COS-1、COS-7、MDCK、BHK21-F、HKCC又はCHO細胞が挙げられる。
【0148】
いくつかの実施形態では、パッケージング細胞は、浮遊培養中で成長することができる。いくつかの実施形態では、パッケージング細胞は、無血清培地で成長することができる。例えば、HEK293細胞は、無血清培地中で懸濁状態で成長する。別の実施形態では、パッケージング細胞は、米国特許第9,441,206号に記載されるようなHEK293細胞であり、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)番号PTA13274として寄託される。WO2002/46359に開示されているものを含むがこれらに限定されない多数のrAAVパッケージング細胞株が、当該技術分野で知られている。
【0149】
パッケージング細胞として使用するための細胞株としては、昆虫細胞株が挙げられる。AAVの複製を可能にし、培養物中で維持することができる任意の昆虫細胞を、本開示に従って使用することができる。例えば、Spodoptera frugiperda、例えばSf9又はSf21細胞株、ショウジョウバエ属細胞株、又はカ細胞株、例えばAedes albopictus由来細胞株が挙げられる。好ましい細胞株は、Spodoptera frugiperda Sf9細胞株である。以下の参考文献は、異種ポリペプチドの発現のための昆虫細胞の使用、そのような細胞に核酸を導入する方法、及びそのような細胞を培養物中で維持する方法に関するそれらの教示に関して、本明細書に組み込まれる:Methods in Molecular Biology,ed.Richard,Humana Press,NJ(1995);O’Reilly et al.,Baculovirus Expression Vectors:A Laboratory Manual,Oxford Univ.Press(1994);Samulski et al.(1989)J.Virol.63:3822-3828;Kajigaya et al.(1991)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 88:4646-4650;Ruffing et al.(1992)J.Virol.66:6922-6930;Kimbauer et al.(1996)Virol.219:37-44;Zhao et al.(2000)Virol.272:382-393;及び米国特許第6,204,059号。
【0150】
さらなる代替として、本開示のウイルスベクターは、例えば、Urabe et al.(2002)Human Gene Therapy 13:1935-1943によって記載されるように、rep/cap遺伝子及びrAAVテンプレートを送達するためにバキュロウイルスベクターを使用して、昆虫細胞内で産生され得る。AAVのためにバキュロウイルス産生を使用する場合、いくつかの実施形態では、ベクターゲノムは自己相補的である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、任意選択で、バキュロウイルスヘルパー機能をコードする追加の核酸を含み、それによってウイルスカプシドの産生を促進する、バキュロウイルス感染細胞(例えば、昆虫細胞)である。
【0151】
パッケージング細胞は、概して、ヘルパー機能及びウイルスベクターの複製及びパッケージングをもたらすのに十分なパッケージング機能とともに、1つ以上のウイルスベクター機能を含む。これらの様々な機能は、プラスミド又はアンプリコンなどの遺伝子コンストラクトを使用して一緒に、又は別々にパッケージング細胞に供給され得、それらは、細胞株内で染色体外に存在し得るか、又は宿主細胞の染色体に組み込まれ得る。いくつかの実施形態では、パッケージング細胞は、少なくともi)コドン最適化ヒトASPA導入遺伝子(例えば、配列番号2)及びAAV ITR(例えば、配列番号5及び配列番号12)を含むベクターゲノムを含むとともに、エンハンサー(例えば、配列番号6)、プロモーター(例えば、配列番号7)、エクソン(例えば、CBAエクソン配列番号8)、イントロン(例えば、配列番号9及び配列番号10)及びpolyA(例えば、配列番号11)のうちの少なくとも1つを更に含むプラスミド、並びにii)rep遺伝子(例えば、AAV2 rep)及びcap遺伝子(例えば、Olig001 cap)を含むプラスミドでトランスフェクションされる。
【0152】
いくつかの実施形態では、宿主細胞は、例えば、染色体外に組み込まれるか、又は細胞の染色体DNAに組み込まれる1つ以上のベクター機能を有する宿主細胞株内に組み込まれる包装機能又はヘルパー機能のうちの1つ以上を供給される。
【0153】
ヘルパー機能
AAVは、ヘルパーウイルスによる細胞の同時感染がなければ細胞内で複製することができないという点で、デペンドウイルスである。ヘルパー機能は、ウイルスベクターのパッケージングを開始するために必要な、パッケージング細胞の活性感染を確立するために必要なヘルパーウイルス要素を含む。ヘルパーウイルスは、典型的には、アデノウイルス又は単純ヘルペスウイルスを含む。アデノウイルスヘルパー機能は、典型的には、アデノウイルスコンポーネント、アデノウイルス初期領域1A(E1a)、E1b、E2a、E4、及びウイルス関連(VA)RNAを含む。ヘルパー機能(例えば、E1a、E1b、E2a、E4、及びVA RNA)は、様々なヘルパー要素をコードする1つ以上の核酸で細胞をトランスフェクトすることによって、パッケージング細胞に提供することができる。代替的に、宿主細胞(例えば、パッケージング細胞)は、ヘルパータンパク質をコードする核酸を含み得る。例えば、HEK293細胞は、ヒト細胞をアデノウイルス5DNAで形質転換することによって生成され、現在、E1及びE3を含むがこれらに限定されないいくつかのアデノウイルス遺伝子を発現する(例えば、Graham et al.(1977)J.Gen.Virol.36:59-72を参照されたい)。したがって、これらのヘルパー機能は、例えば、それらをコードするプラスミドによって細胞にそれらを供給する必要なしに、HEK293パッケージング細胞によって提供され得る。いくつかの実施形態では、パッケージング細胞は、少なくともi)コドン最適化ヒトASPA導入遺伝子(例えば、配列番号2)及びAAV ITR(例えば、配列番号5及び配列番号12)を含むベクターゲノムを含むとともに、エンハンサー(例えば、配列番号6)、プロモーター(例えば、配列番号7)、エクソン(例えば、CBAエクソン配列番号8)、イントロン(例えば、配列番号9及び配列番号10)及びpolyA(例えば、配列番号11)のうちの少なくとも1つを更に含むプラスミド、ii)rep遺伝子(例えば、AAV2 rep)及びcap遺伝子(例えば、Olig001 cap)を含むプラスミド、並びにiii)ヘルパー機能を含むプラスミドでトランスフェクションされる。
【0154】
複製及びパッケージングのためにヘルパー機能を有するヌクレオチド配列を細胞宿主に導入する任意の方法を用いることができ、これには、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、カチオン性又はアニオン性リポソーム、及び核局在化シグナルと組み合わせたリポソームが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、ヘルパー機能は、ウイルスベクターを使用するトランスフェクションによって、又はヘルパーウイルスを使用する感染によって提供され、ウイルス感染を産生するための標準的な方法が使用され得る。
【0155】
ベクターゲノムは、DNA又はRNAコンストラクトなどの任意の好適な組換え核酸であってもよく、一本鎖、二本鎖、又は二重鎖であってもよい(すなわち、WO2001/92551に記載されているように自己相補的であってもよい)。
【0156】
パッケージングされたウイルスベクターの生成
ウイルスベクターは、当業者に既知のいくつかの方法によって作製することができる(例えば、WO2013/063379を参照されたい)。好ましい方法は、Grieger, et al.(2015)Molecular Therapy 24(2):287-297に記載されており、その内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。簡潔に述べると、HEK293細胞の効率的なトランスフェクションを出発点として使用し、適格な臨床マスター細胞バンクからの接着HEK293細胞株を使用して、迅速かつ拡張可能なrAAV生成を可能にするシェーカーフラスコ及びWAVEバイオリアクター内での動物成分を含まない懸濁条件で増殖させる。三重トランスフェクション法(例えば、WO96/40240)を使用して、HEK293細胞株懸濁液は、トランスフェクションの48時間後に採取した場合、1×105超の粒子含有ベクターゲノム(vg)/細胞、又は1×1014超のvg/L(細胞培養物)を生成することができる。より具体的には、三重トランスフェクションは、パッケージング細胞を3つのプラスミドでトランスフェクトする方法を指し、1つのプラスミドは、AAV rep及びcap(例えば、Olig001 cap)遺伝子をコードし、別のプラスミドは、様々なヘルパー機能(例えば、E1a、E1b、E2a、E4、及びVA RNA等のアデノウイルス又はHSVタンパク質)をコードし、別のプラスミドは、導入遺伝子(例えば、ASPA)及び導入遺伝子の発現を制御する様々なエレメントをコードする。
【0157】
一本鎖ベクターゲノムは、プラス鎖又はマイナス鎖として、ほぼ等しい割合でカプシドにパッケージングされる。rAAVベクターのいくつかの実施形態では、ベクターゲノムは、プラス鎖極性(すなわち、DNA鎖のセンス又はコード配列)にある。rAAVベクターのいくつかの実施形態では、ベクターは、マイナス鎖極性(すなわち、アンチセンス又はテンプレートDNA鎖)にある。5’から3’方向のプラス鎖のヌクレオチド配列を考えると、5’から3’方向のマイナス鎖のヌクレオチド配列は、プラス鎖のヌクレオチド配列の逆相補鎖として決定することができる。
【0158】
所望の収率を達成するために、成長及びトランスフェクションの両方を支援する適合性のある無血清懸濁培地の選択、トランスフェクション試薬の選択、トランスフェクション条件及び細胞密度などのいくつかの変数が最適化される。
【0159】
rAAVベクターは、カラムクロマトグラフィー又は塩化セシウム勾配などの当該技術分野における標準的な方法によって精製され得る。rAAVベクターを精製する方法は当該技術分野で既知であり、Clark et al.(1999)Human Gene Therapy 10(6):1031-1039;Schenpp and Clark(2002)Methods Mol.Med.69:427-443;米国特許第6,566,118号及びWO98/09657に記載されている方法を含む。
【0160】
イオン交換クロマトグラフィー法に基づく普遍的精製戦略を使用して、AAV血清型1~6、8、9及び様々なキメラカプシド(例えば、Olig001)の高純度ベクター調製物を生成することができる。いくつかの実施形態では、このプロセスは、1週間以内に完了することができ、高い全カプシド対空カプシド比(>90%全カプシド)をもたらし、臨床用途に適した精製後収率(>1×1013vg/L)及び純度を提供する。いくつかの実施形態では、そのような方法は、全ての血清型及びキメラカプシドに関して普遍的である。拡張可能な製造技術を利用して、(例えば、カナバン病の治療のために)GMP臨床及び商業グレードのrAAVベクターを製造することができる。
【0161】
本開示のrAAVベクターが生成及び精製された後、それらは、カナバン病を有するヒト対象などの対象への投与用の組成物を調製するために力価測定することができる(例えば、試料中のrAAVベクターの量を定量することができる)。rAAVベクターの力価測定は、当該技術分野で既知の方法を使用して達成することができる。
【0162】
いくつかの実施形態では、ベクターゲノムを含有する粒子及びベクターゲノムを含有しない「空の」カプシドを含むウイルス粒子の数は、電子顕微鏡法、例えば透過型電子顕微鏡法(TEM)によって決定され得る。そのようなTEMベースの方法は、試料中のベクター粒子(又は野生型AAVの場合はウイルス粒子)の数を提供することができる。
【0163】
いくつかの実施形態では、rAAVベクターゲノムは、ベクターゲノム内の配列、例えばITR配列(例えば、配列番号5、配列番号12又は配列番号19)、及び/又は導入遺伝子内の配列(例えば、配列番号2)又は調節エレメントに対するプライマーを使用した定量的PCR(qPCR)を用いて力価測定することができる。ベクターゲノムの配列を含有するプラスミドなどの既知の濃度の標準物質の希釈物に対してqPCRを並行して行うことにより、マイクロリットル又はミリリットルなどの単位体積当たりのベクターゲノム(vg)の数としてrAAVベクターの濃度を計算することを可能にする標準曲線を生成することができる。例えば、電子顕微鏡法によって測定されるベクター粒子の数を、試料中のベクターゲノムの数と比較することによって、空のカプシドの数を決定することができる。ベクターゲノムは、治療用導入遺伝子を含有するため、ベクター試料のvg/kg又はvg/mlは、対象が受けるであろうベクター粒子の数よりも治療量を示すことができ、そのいくつかは空であってもよく、ベクターゲノムを含有しない。原液中のrAAVベクターゲノムの濃度が決定されたら、それは、対象(例えば、カナバン病を有する対象)への投与用の組成物を調製する際に使用するのに好適な緩衝液に希釈され得るか、又は透析され得る。
【0164】
治療方法
本明細書に開示されるような、ASPAをコードする修飾核酸などの修飾核酸は、ASPAポリペプチドの欠乏若しくは機能不全に関連する疾患、障害若しくは状態(例えば、カナバン病)、並びにASPA遺伝子の上方調節が、それ以外の場合は健常な個体におけるASPAポリペプチドのレベル若しくは機能と比較して、ASPAポリペプチドのレベル若しくは機能の低下によって媒介されるか、若しくはそれに関連する、治療上の利益若しくは改善をもたらし得る任意の他の状態及び/又は病気の遺伝子治療処置及び/又は予防のために使用され得る。
【0165】
本明細書に開示されるような、ASPAをコードする修飾核酸を含むベクターゲノム及び/又はrAAVベクターは、ASPA酵素の欠乏又は機能不全に関連する、又はそれによって引き起こされる疾患、障害又は状態(例えば、カナバン病)、並びにASPA酵素の上方調節が治療上の利益又は改善をもたらし得る任意の他の状態及び/又は疾患の遺伝子治療処置及び/又は予防のために使用され得る。いくつかの実施形態では、本開示の方法は、対象のカナバン病の治療におけるrAAVベクター又はその医薬組成物の使用を含む。いくつかの実施形態では、本開示の方法は、rAAVベクター(例えば、AAV/Oligo001-ASPA)、又はその医薬組成物を使用して、それを必要とする対象においてASPAのレベルを増加させることを含む。
【0166】
本開示のASPAをコードする修飾核酸、ASPAをコードする修飾核酸を含むベクターゲノム及び/又はASPAをコードする修飾核酸を含むrAAVベクター(例えば、AAV/Oligo001-ASPA)は、ASPAの欠乏又は機能不全(例えば、カナバン病などの機能的ASPA酵素のレベルの低下)に関連する、又はそれよって引き起こされる疾患、障害又は状態、及びASPAの上方調節が治療的利益又は改善をもたらし得る任意の他の状態又は疾患の治療及び/又は予防に使用するための医薬の調製に使用され得る。
【0167】
いくつかの実施形態では、ASPA酵素の欠乏若しくは機能不全に関連する疾患、障害又は状態(例えば、カナバン病)、並びにASPA遺伝子発現の上方調節、及び/又は機能的ASPA酵素の発現の増加が治療的利益又は改善をもたらし得る任意の他の状態及び/又は疾患の遺伝子治療処置及び/又は予防は、治療有効量のASPAをコードする修飾核酸、ASPAをコードする修飾核酸を含むベクターゲノム、及び/又はASPAをコードする修飾核酸を含むrAAVベクター(例えば、AAV/Oligo001-ASPA)の、治療を必要とする対象(例えば、患者)への投与を含む。
【0168】
治療有効量の本開示のASPAをコードする修飾核酸、ASPAをコードする修飾核酸を含むベクターゲノム、及び/又は修飾核酸ASPAを含むrAAVベクター(例えば、AAV/Oligo001-ASPA)による対象(例えば、患者)の治療は、本明細書に記載の治療の開始前の同じ個体における測定、又は本明細書に記載の治療の非存在下における対照個体(又はそれにより比較のためのレベルを確立する複数の対照個体)における測定などのベースライン測定と比較して、カナバン病の1つ以上の症状の重症度を軽減、寛解、治療、予防又は低減することができる。いくつかの実施形態では、「対照個体」は、治療されているが、現在治療されていないが、将来治療を受ける可能性がある個体と同じ形態の疾患又は傷害に罹患している個体である。
【0169】
例えば、治療有効量のASPAをコードする修飾核酸、ASPAをコードする修飾核酸を含むベクターゲノム、及び/又はrAAVベクター(例えば、AAV/Oligo001-ASPA)による対象の治療は、対照個体におけるNAA蓄積と比較して、又は治療前の同じ個体におけるNAA蓄積と比較して、NAA蓄積を低減し得る。いくつかの実施形態では、NAA蓄積は、対照個体と比較して、又は治療前の同じ個体と比較して、治療される対象において約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%又は約100%低減され得る。
【0170】
いくつかの実施形態では、治療有効量のASPAをコードする修飾核酸、ASPAをコードする修飾核酸を含むベクターゲノム、及び/又はrAAVベクター(例えば、AAV/Oligo001-ASPA)による対象の治療は、対照個体におけるアスパルテート及び/若しくはアセテートレベルと比較して、又は治療前の同じ個体におけるアスパルテート及び/若しくはアセテートレベルと比較して、アスパルテート及び/又はアセテートレベルを増加させ得る。いくつかの実施形態では、アスパルテート及び/又はアセテートレベルは、対照個体と比較して、又は治療前の同じ個体と比較して、治療される対象において約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、又は約100%増加する。
【0171】
いくつかの実施形態では、治療はまた、脳及び脊髄におけるミエリンの変性の重症度、知的障害、以前に獲得した運動能力の喪失、摂食困難、異常な筋肉の緊張、巨頭症、麻痺及び発作、並びに/又は、対照個体若しくは治療前の対象のものと比較した発話及び運動能力の発達の遅延を軽減、寛解、処置、予防、又は低減し得る。いくつかの実施形態では、治療有効量の本開示のASPAをコードする修飾核酸、ASPAをコードする修飾核酸を含むベクターゲノム、及び/又はASPAをコードする修飾核酸を含むrAAVベクターによる対象(例えば、患者)の治療は、対照個体における同じものと比較して、又は治療前の同じ対象と比較して、バランス、グリップ、強度、及び/又は運動協調、並びに全身的運動機能を増加、改善、そのさらなる喪失を予防、又は増強し得る。いくつかの実施形態では、治療有効量の本開示のASPAをコードする修飾核酸、ASPAをコードする修飾核酸を含むベクターゲノム、及び/又はASPAをコードする修飾核酸を含むrAAVによる対象(例えば、患者)の治療は、対照個体における同じものと比較して、又は治療前の同じ対象と比較して、脳(例えば、視床、小脳白質/橋)内の空胞体積割合を低減し、脳(例えば、視床、皮質)内の乏突起膠細胞の数を増加させ、脳(例えば、視床、皮質)内のニューロンの数を増加させ、及び/又は皮質髄鞘形成を増加させ得る。
【0172】
治療に適した対象としては、機能的遺伝子産物(タンパク質)の産生量が不十分である、若しくは不足するリスクがあるか、又は、疾患をもたらし得る、異常である、部分的に機能的である、若しくは非機能的である遺伝子産物(タンパク質、例えば、酵素)を産生する任意の対象が挙げられる。いくつかの実施形態では、患者は、疾患、障害又は状態(例えば、カナバン病)の任意の症状を呈する前に、本開示のベクター又は医薬組成物で治療される。いくつかの実施形態では、遺伝子解析によって疾患、障害又は状態(例えば、カナバン病)のリスクがあると診断された患者は、症状を呈する前に、本開示のrAAVベクター又は組成物で治療される。
【0173】
いくつかの実施形態では、治療される対象は、哺乳動物であってもよく、特に、対象は、ヒト患者、例えば、カナバン病の患者である。対象は、ASPA遺伝子のコード配列における1つ以上の変異の結果として、ASPAタンパク質が誤ったアミノ酸配列を有し、それによって機能が低下若しくは全く機能を有さない、間違った組織において発現される、間違った時間に発現される、又は全く発現されないため、治療を必要とし得る。本発明のASPAをコードする修飾核酸を投与して、機能的なASPA酵素の産生を増強、改善、又は提供してもよく、これは一方で、本明細書の他の場所で議論される他の生物学的機能のうち、NAAのアスパルテート及びアセテートへの分解を触媒し得る。
【0174】
本発明のrAAVベクターの標的細胞は、細胞、特に乏突起膠細胞であり、これは、通常、哺乳動物の脳内のものなどのASPA酵素を内因的に発現することが可能である。
【0175】
本明細書に記載の治療方法を参照する実施形態では、そのような実施形態はまた、その治療で使用するための、又は代替的に、その治療で使用するための医薬品の製造のためのさらなる実施形態でもある。
【0176】
医薬組成物
特定の実施形態では、本開示は、ASPAの発現及び/又は活性の低下によって媒介される、又はそれに関連する疾患、障害又は状態、例えばカナバン病を予防又は治療するための医薬組成物、又は医薬を提供する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、修飾核酸、組換え核酸、ウイルスベクターゲノム、発現ベクター、宿主細胞又はrAAVベクター、及び薬学的に許容される担体を含む。
【0177】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、細胞におけるASPAの発現レベル及び/又は活性レベルを増加させることができるASPAをコードする修飾核酸を含む、治療有効量のベクター(例えば、ウイルスベクターゲノム、発現ベクター、rAAVベクター)又は宿主細胞を含む。
【0178】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、ASPAをコードする修飾核酸を含む、治療有効量のベクター(例えば、ウイルスベクターゲノム、発現ベクター、rAAVベクター)又は宿主細胞(例えば、エクスビボ遺伝子治療のための)を含み、この組成物は、薬学的に許容される担体、アジュバント、希釈剤、賦形剤、及び/又は他の薬剤を更に含む。薬学的に許容される担体、アジュバント、希釈剤、賦形剤又は他の薬剤は、生物学的に又は別様に望ましくないものではなく、例えば、材料は、材料の有利な生物学的効果を上回る望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく対象に投与され得る。
【0179】
任意の好適な薬学的に許容される担体又は賦形剤は、本発明による医薬組成物の調製に使用され得る(例えば、Remington The Science and Practice of Pharmacy,Alfonso R.Gennaro(Editor)Mack Publishing Company,April 1997を参照されたい)。
【0180】
医薬組成物は、典型的には、製造及び貯蔵条件下で無菌であり、発熱原を含まず、かつ安定である。医薬組成物は、溶液(例えば、水、食塩水、デキストロース溶液、緩衝溶液、又は他の薬学的に滅菌された流体)、マイクロエマルション、リポソーム、又は高い生成物(例えば、ウイルスベクター粒子、微粒子、又はナノ粒子)濃度に適合する他の秩序構造として製剤化され得る。いくつかの実施形態では、本開示の修飾核酸、修飾核酸を含むベクターゲノム、宿主細胞又はrAAVベクターを含む医薬組成物は、水又は緩衝生理食塩水中で製剤化される。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの好適な混合物を含有する溶媒又は分散媒であってもよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散の場合は必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。いくつかの実施形態では、等張化剤、例えば、糖、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトールなど、又は塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましい場合がある。注射用組成物の持続的吸着は、組成物中に吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸塩及びゼラチンを含めることによってもたらすことができる。いくつかの実施形態では、本開示の核酸、ベクター、及び/又は宿主細胞は、制御放出製剤、例えば、インプラント及びマイクロカプセル化送達系を含む、生成物を急速放出から保護する徐放性ポリマー又は他の担体を含む組成物中で投与され得る。
【0181】
いくつかの実施形態では、本開示の医薬組成物は、静脈内、動脈内、皮下、皮内、腹腔内、筋肉内、関節内、実質内(IP)、髄腔内(IT)、脳室内(ICV)及び/又は大槽内(ICM)投与に好適な組成物を含む非経口医薬組成物である。いくつかの実施形態では、ASPAをコードする修飾核酸を含むrAAVベクターを含む医薬組成物は、ICV注射による投与用に製剤化される。
【0182】
いくつかの実施形態では、rAAVベクター(例えば、AAV/Olig001 ASPA)は、PBS中350mMのNaCl及び5%D-ソルビトール中で製剤化される。
【0183】
投与方法
本開示の導入遺伝子(例えば、ASPA)をコードする修飾核酸、又は修飾核酸を含むベクター(例えば、ベクターゲノム、rAAVベクター)は、対象を治療するために対象(例えば、患者)に投与され得る。それを必要とするヒト対象又は動物へのベクターの投与は、ベクターを投与するための当該技術分野で既知の任意の手段によって行うことができる。本開示のベクターの標的細胞は、CNSの細胞、好ましくは乏突起膠細胞を含む。
【0184】
ベクターは、標準的なケア治療に加えて、及びその補助として投与することができる。すなわち、ベクターは、慣例的な方法を使用して当業者によって決定されるように、同時に、同時期に、又は所定の投薬間隔で、別の薬剤、化合物、薬物、治療又は治療レジメンと同時投与することができる。本明細書に開示される使用は、当該技術分野で知られるカナバン病の標準的治療に加えて、及び/又はそれと同時の投与スケジュールに基づいて、本開示のrAAVベクターを投与することを含む。
【0185】
いくつかの実施形態では、併用組成物は、1種以上の免疫抑制剤を含む。いくつかの実施形態では、併用組成物は、導入遺伝子を含むrAAVベクター(例えば、ASPAをコードする修飾核酸)と、1種以上の免疫抑制剤と、を含む。いくつかの実施形態では、方法は、導入遺伝子(例えば、ASPAをコードする修飾核酸)を含むrAAVベクターを対象に投与又は送達することと、ベクターの投与前に予防的に、又はベクターの投与後に(すなわち、ベクター及び/又はそれによって提供されるタンパク質に対する応答の症状が明らかになる前又は後に)、免疫抑制剤を対象に投与することと、を含む。
【0186】
いくつかの実施形態では、本発明のrAAVは、修飾核酸(例えば、ASPAをコードする)を含むrAAVベクターと同じ又は異なるカプシドタンパク質を含む空のカプシド(すなわち、核酸分子又はベクターゲノムを含まないウイルスカプシド)と同時投与され得る。当業者は、空のカプシドの同時投与が、本開示のrAAVに対する免疫応答、例えば中和応答を低下させ得ることを理解するであろう。任意の特定の理論に束縛されることを望むものではないが、空のカプシドは、例えばWO2015/013313に記載されるような中和抗体(Nab)免疫応答を回避するために、修飾核酸(例えば、ASPAをコードする)を含むrAAVベクターを可能にする免疫デコイとして機能し得る。
【0187】
一実施形態では、本開示のベクター(例えば、ASPAをコードする修飾核酸を含むrAAVベクター)は、全身投与される。全身投与の例示的な方法には、静脈内(例えば、門脈)、動脈内(例えば、大腿動脈、肝動脈)、血管内、皮下、皮内、腹腔内、経粘膜、肺内、リンパ内、及び筋肉内投与等、並びに直接的な組織又は器官への注射が含まれるが、これらに限定されない。当業者であれば、全身投与により、全ての組織に修飾核酸(例えば、ASPAをコードする修飾核酸)を送達することができることを理解するであろう。いくつかの実施形態では、直接的な組織又は器官への投与は、肝臓への投与を含む。いくつかの実施形態では、直接的な組織又は器官への投与は、ASPA欠乏症の直接的な影響を受けるエリア(例えば、脳及び/又は中枢神経系)への投与を含む。いくつかの実施形態では、本開示のベクター及びその医薬組成物は、脳実質に(すなわち、実質内投与によって)、脳脊髄液(CSF)に到達するように脊柱管若しくはくも膜下腔に(すなわち、髄腔内投与によって)、脳の脳室に(すなわち、脳室内投与によって)、及び/又は脳の大槽に(すなわち、大槽内投与によって)投与される。
【0188】
したがって、いくつかの実施形態では、ASPAをコードする修飾核酸を含む本開示のベクターは、カナバン病の神経変性の態様を治療するために、脳に(例えば、実質、脳室、大槽等に)及び/又はCSFに(例えば、脊柱管又はくも膜下腔に)直接注射することによって投与される。本開示のベクターの標的細胞には、皮質、脳梁の皮質下白質、線条体及び/又は小脳に位置する細胞が含まれる。いくつかの実施形態では、本開示のベクターの標的細胞は、乏突起膠細胞である。追加の投与経路はまた、直接可視化下でのベクターの局所適用、例えば、表面皮質適用、又は他の非定位適用を含み得る。
【0189】
いくつかの実施形態では、本開示のベクターは、少なくとも2つの経路によって投与される。例えば、ベクターは全身投与され、脳にも直接投与される。
少なくとも2つの経路を介して投与される場合、ベクターの投与は、同時又は同時期であることができるが、そうである必要はない。代わりに、異なる経路を介した投与は、各投与間にある時間間隔置いて別個に行うことができる。
【0190】
本開示のASPAをコードする修飾核酸、ASPAをコードする修飾核酸を含むベクターゲノム、及び/又はASPAをコードする修飾核酸を含むrAAVベクターは、細胞のエクスビボの形質導入のために、又は対象に直接(例えば、カナバン病患者のCNSに直接)投与するために使用され得る。いくつかの実施形態では、形質導入細胞(例えば、宿主細胞)は、疾患、障害、又は状態を治療又は予防するために対象に投与される(例えば、カナバン病の細胞療法)。修飾された治療用核酸(例えば、ASPAをコードする)を含むrAAVベクターは、好ましくは、生物学的に有効な量で細胞に投与される。いくつかの実施形態では、生物学的に有効な量のベクターは、標的細胞においてASPAをコードする修飾核酸(すなわち導入遺伝子)の形質導入及び発現をもたらすのに十分な量である。
【0191】
いくつかの実施形態では、本開示は、単独で、又はベクター(プラスミド、ウイルスベクター、ナノ粒子、リポソーム、又は細胞に核酸を提供するための任意の既知の方法を含む)中のいずれかにおいて、細胞(インビボ、インビトロ、又はエクスビボ)にASPAをコードする修飾核酸を投与することによって、細胞におけるASPAのレベル及び/又は活性を増加させる方法を含む。
【0192】
rAAVベクターの投薬量は、例えば、投与様式、治療される疾患若しくは状態、疾患の病期及び/若しくは侵襲性、個々の対象の状態(年齢、性別、体重等)、特定のウイルスベクター、発現されるタンパク質の安定性、ベクターに対する宿主免疫応答、並びに/又は送達される遺伝子に依存する。一般に、用量は、治療効果を達成するために、対象の体重(kg)当たり少なくとも1×108又はそれ以上、例えば、1×109、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015又はそれ以上のベクターゲノム(vg)の範囲である。
【0193】
いくつかの実施形態では、ASPAをコードする修飾核酸は、標的細胞(例えば、乏突起膠細胞)における発現に適切な調節エレメント(例えば、プロモーター)を有するDNA分子(例えば、組換え核酸)の構成要素として投与され得る。ASPAをコードする修飾核酸は、プラスミド又はウイルスベクター、例えばrAAVベクターの構成要素として投与され得る。rAAVベクターは、ベクターを直接(例えば、CNSに直接)送達することによって、治療を必要とする患者(例えば、カナバン患者)にインビボで投与され得る。rAAVベクターは、治療を必要とするドナー患者からの細胞へのベクターのインビトロ投与、続いて形質導入された細胞のドナーへの再導入(例えば、細胞治療)によってエクスビボで患者に投与されてもよい。
【0194】
本開示は、修飾核酸(例えば、ASPAをコードする修飾核酸)を投与されないそれ以外の場合は同一の細胞におけるASPA発現(mRNA及び/又はタンパク質)又はASPA活性のレベルよりも検出可能に高い、ASPAをコードするmRNAのレベル、ASPAタンパク質発現のレベル、及び/又はASPA活性のレベルをもたらす投与方法を含む。
【0195】
別の実施形態では、本開示は、修飾核酸(例えば、ASPAをコードする修飾核酸)を投与されないそれ以外の場合は同一の細胞に存在する機能的ASPA(mRNA及び/又はタンパク質)のレベルよりも検出可能に高い、機能的ASPAをコードするmRNAのレベル、及び/又は機能的(例えば、生物学的に活性な)ASPAタンパク質発現のレベルをもたらす投与方法を含む。すなわち、本発明は、細胞が正常レベルのASPAを産生するが、ASPAタンパク質が活性を欠くか、又は正常な野生型ASPAと比較して活性の低下を示す細胞における機能的ASPAのレベルを増加させる方法を含む。
【0196】
当業者は、細胞がインビトロで培養若しくは成長することができるか、又は生物内に存在することができる(すなわち、インビボ)ことを理解するであろう。更に、細胞は、細胞内のASPAのレベルが増加するように内因性ASPAを発現してもよく、及び/又は、細胞は、野生型ASPA、例えば、配列番号3の配列を有するASPAの変異若しくは変異体である内因性ASPAを発現し、特に、ヒトASPAには2つ以上の野生型対立遺伝子が存在してもよい。したがって、ASPAのレベルは、それ以外の場合は同一であるが、未処理の細胞で発現されるASPAのレベルと比較して増加する。
【0197】
キット
本開示は、包装材料及び1つ以上の構成要素を含むキットを提供する。キットは、典型的には、構成要素の説明、又はその中の構成要素のインビトロ、インビボ、若しくはエクスビボでの使用説明を含むラベル又は添付文書を含む。キットは、そのような構成要素、例えば、修飾核酸、組換え核酸、ベクターゲノム、rAAVベクター、rAAV、及び任意選択で第2の活性剤、例えば化合物、治療剤、薬物又は組成物の集合体を含有し得る。
【0198】
キットは、キットの1つ以上の構成要素を含有する物理的構造を指す。包装材料は、構成要素を無菌的に維持することができ、そのような目的に一般的に使用される材料(例えば、紙、ガラス、プラスチック、箔、アンプル、バイアル、チューブ等)で作製することができる。
【0199】
ラベル又は添付文書は、その中の1つ以上の構成要素の識別情報、用量、作用機序、薬物動態及び薬力学を含む活性成分の臨床薬理学を含み得る。ラベル又は添付文書は、製造、ロット番号、製造場所及び日付、有効期限を特定する情報を含み得る。ラベル又は添付文書は、キット構成要素が使用され得る疾患(例えば、カナバン病)に関する情報を含み得る。ラベル又は添付文書は、方法、使用、又は治療プロトコル若しくは治療レジメンにおけるキット構成要素のうちの1つ以上を使用するための臨床医又は対象に対する指示を含み得る。指示は、投薬量、持続時間の頻度、及び本明細書に記載される方法、使用、治療プロトコル、又は予防若しくは治療レジメンのいずれかを実践するための指示を含み得る。
【0200】
ラベル又は添付文書は、潜在的な副作用、合併症又は反応に関する情報、例えば、特定の組成物を使用することが適切でない状況に関する対象又は臨床医への警告を含み得る。
【0201】
均等物
前述の書面による明細書は、当業者が本開示を実践することを可能にするのに十分であると考えられる。前述の説明及び実施例は、本開示のある特定の例示的な実施形態を詳細に説明している。しかしながら、前述の事項が文章にどのように詳細に見えても、本開示は多くの手法で実践され得、本開示は添付の特許請求の範囲及びその任意の均等物に従って解釈されるべきであることを理解されたい。
【0202】
特許、特許出願、論文、テキストブックなどを含む本明細書に引用される全ての参考文献、及びそれらに引用される参考文献は、それらがまだ導入されていない範囲において、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0203】
例示的な実施形態
本発明は、以下の実験例を参照することにより更に詳細に説明される。これらの実施例は、例示の目的のみのために提供され、別段の定めのない限り限定することを意図するものではない。したがって、本発明は、決して以下の実施例に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書に提供される教示の結果として明らかになるあらゆる変形を包含すると解釈されるべきである。
【実施例】
【0204】
実施例1:ASPAをコードするコドン最適化核酸を含むrAAVベクターを使用したNAAにおける用量応答性低減
ヒト胚性腎臓(HEK)細胞を、NAAシンターゼ(Nat8L)を発現する1.0μgのプラスミドでトランスフェクトし、野生型ヒトASPA核酸配列(配列番号3)、ASPAをコードするコドン最適化核酸(配列番号1の核酸配列を含む。Francis et al.(2016)Neurobiol.Dis.96:323-334を参照されたい)又は配列番号2の核酸配列を含むASPAをコードするコドン最適化核酸のいずれかを含む0.1、0.2、0.5、又は1.0μgのプラスミドで共トランスフェクトした。NAA濃度をHPLC(n=4/群)により測定した。ASPAをコードする野生型核酸又は配列番号1のASPAをコードするコドン最適化核酸(
図1)のいずれかでトランスフェクトした培養物に比べて、配列番号2のASPAをコードするコドン最適化核酸を使用してトランスフェクトした培養物において、NAAにおける用量応答性低減が観察された。
【0205】
実施例2:オリゴ指向性AAV/Olig001の生体内分布
この研究は、遺伝性ヒト白血球ジストロフィー、カナバン病のマウスモデルにおける広範なCNS乏突起膠細胞形質導入を促進する上での、オリゴ指向性AAV(AAV/Olig001;(WO2014/052789;Powell et al.(2016)Gen.Ther.23:807-814))カプシド変異体の最も有効な用量及び投与経路(ROA)を定義するために行われた。4つの異なるROAを介して送達された3回用量のAAV/Olig001を、成体症候性カナバンマウス(nur7)で試験し、ベクターの拡散及び形質導入を、4つの解剖学的関心領域におけるレポーター緑色蛍光タンパク質(GFP)陽性細胞の立体学的推定を生成することによって、形質導入から2週間後に定量した。各ROAを介して送達されたAAV/Olig001の指向性を、これらの同じ領域におけるGFPでの系統特異的抗原同時標識の発生率をスコアリングしてオリゴ指向性を検証することによって評価した。使用されたROAは、実質内(IP)、髄腔内(IT)、脳室内(ICV)、及び大槽内(ICM)であった。各経路を介して、1×1010、1×1011、及び5×1011総ベクターゲノム(VG)の3つの用量のベクターを投与し、全ての処置されたコホートにわたって送達された材料の体積は一定であり、それぞれの直接的な対比較を行って、カナバン病へのAAV/Olig001適用のための用量及びROAの最適な組み合わせを定義した。カナバン病の急性症状期を示す6週齢のアスパルトアシラーゼ欠損nur7マウス(Traka et al.(2008)J.Neurosci 28:11537-11549)を使用した。この研究によって生成された結果は、カナバン病などの現在の難治性白質疾患に対するAAV/Olig001の臨床応用を支援するための、その後の前臨床有効性試験の基礎を形成した。
【0206】
材料
AAV/Olig001ベクター
GFPレポーター遺伝子の構成的発現カセットを含有する2つのロットのAAV/Olig001ベクターを生成した(ロット番号7660及びロット番号LAV38A)。生成された全てのベクターは、自己相補的AAV ITRに隣接するハイブリッドCMV/ニワトリβ-アクチンプロモーター(CBh)によって駆動されるGFPレポーター遺伝子を含有していた。HEK293細胞の一過性トランスフェクション、続いてイオジキサノール勾配遠心分離及びイオン交換クロマトグラフィーによってベクターを生成した(Gray et al.,(2013)Gene Ther.20:450-9)。ベクターの濃度を、原調製物中のDNAse耐性AAV逆方向末端反復(ITR)配列のqPCR定量によって決定されるウイルスベクターゲノム(vg)の総数として定義した。
【0207】
動物
この研究で使用された全ての動物は、承認された施設プロトコルに従って、Rowan School of Osteopathic Medicineの動物施設で維持されたコロニーから得られた。創始動物は、商業的供給源(Jackson Laboratories)に由来した。nur7マウスは、グリア加水分解酵素アスパルトアシラーゼ(aspa)をコードする遺伝子に不活性化点変異を有し、タンパク質を非機能的にする、カナバン病の十分に特徴付けられたモデルである(Traka et.al.J.Neuroscience(2008)28(45)11537-11549)。ホモ接合nur7変異動物を、ヘテロ接合担体動物のペアリングから得、社内カスタマイズSNPアッセイ及びリアルタイムPCRを使用して遺伝子型決定した。
【0208】
0.9%生理食塩水中で適切な濃度に希釈したAAV/Olig001-GFPを、6週齢のnur7変異マウスに、吸入麻酔下で定位注射することによって送達した(4%誘導及び維持力価を効果的に測定)。それぞれ異なる投与経路(ROA)を提供することによって区別される4つの処置コホート、すなわち、髄腔内(IT)、実質内(IP)、脳室内(ICV)、及び大槽内(ICM)を生成した。各ROAコホート内で、各ROAにより投与されるベクター用量によって定義される動物のサブグループを確立した(1×1010、1×1011、及び5×1011総ベクターゲノム)。
【0209】
したがって、各ROAについて、用量によって定義される3つのサブグループが生成され、各ROAでの各用量についてn=5匹の動物により、研究のために合計60匹のnur7マウスが得られた。AAV/Olig001-GFPを麻酔したマウスに投与し、用量又はROAにかかわらず、全ての手術について、5μLの総送達体積は一定であった。IP ROAは、5つの定位座標で1μLのベクターを5回、それぞれの半球で前後の皮質下白質に2回(すなわち、帯に合計4回)、小脳白質に1回(合計5回)、デジタルポンプを使用して0.1μL/分の速度で追加注射する必要があった。IT ROA動物は、L5とL6との間の腰椎穿刺を介してアクセスされたくも膜下腔へのベクターの単回5μLの注射を受けた。ICV ROA動物は、2つの2.5μLのベクター注射を受け、各側脳室に0.1μL/分の速度で1本ずつ注射した。ICM ROA動物は、0.1μL/分の速度で大槽を介してCSFに直接送達される5μLのベクターを受けた。全ての動物は、手術の20分前に0.5mLの20%マンニトール(ip)を投与された。全ての動物を、AAV/Olig001-GFP送達後2週間群毎に飼育し、次いで死後分析のために屠殺した。
【0210】
2週間及び8週齢の野生型及びnur7マウスの群に、1日2回、2日連続で全身BrdU(50mg/kg、ip)を与え、3日目に屠殺した。BrdUを50mg/kgの濃度で動物に投与した。市販の抗体(Millipore-Sigma)を使用して、1MのHCL中でのDNA加水分解後に、脳組織切片をBrdU染色のために処理した。
【0211】
方法
偏りのない立体的解析学によるベクター生体分布の定量化
ベクター手術の2週間後、動物を深く麻酔し、0.9%生理食塩水、続いて調製したばかりの緩衝4%パラホルムアルデヒドによる経心臓灌流によって脳を調製した。灌流した脳を切除し、4℃で一晩4%PFAで固定した。固定脳を凍結保存し、ドライアイス/イソペンタン浴中でフラッシュ凍結し、免疫組織化学処理の前に-80℃で保管した。連続40μmの矢状切片を各脳に対して形成し(合計144切片)、市販の抗体(Sigma/Millipore)を使用してGFPのために4つの切片毎に染色した。皮質、皮質下白質、線条体、及び小脳におけるGFP陽性体細胞を、光学分割器法を使用して偏りのない立体的解析学によってスコアリングした(
図2)(West et al.Anat.Rec.(1991)231:482-97)。電動ステージを備えた直立した明視野顕微鏡に結合された立体的解析学ソフトウェア(Stereologer、Stereology Resource Center)を使用して、4つの異なる関心領域、すなわち大脳皮質、脳梁及び外嚢の皮質下白質、線条体、並びに小脳の内でGFP陽性のソーマのカウントを生成した。サンプリングファクションのGFP陽性細胞を、式ΣQ*(t/h)*(1/asf)*(1/ssf)を使用して各関心領域にわたる絶対推定値に再変換した。式中、ΣQ=粒子数、t=切片厚さ、h=カウンティングフレーム高さ、asf=面積サンプリング割合、及びssf=切片サンプリング割合である。このようにして生成された全てのデータセットについて、試料間の真の生物学的分散をマスキングする技術的ノイズを低減するために、総分散(CV)閾値に対する15%未満の寄与を満たす誤差係数(CE)の計算によって、試料内の変動を監視した。Nの平均群平均推定値の有意差は、閾値有意差<p0.05を有するスチューデントの対応のない両側t検定によって決定された。
【0212】
ベクター指向性の定量化
AAV/Olig001-GFP形質導入脳におけるベクター指向性を、GFP蛍光を用いた系統特異的抗原同時標識についてスコアリングすることによって定量化した。代替切片を、市販の抗体(Sigma/Millipore)を用いてNeuN(これは、脊椎動物のほとんどのCNS及びPNS神経細胞型に存在する)、GFAP(グリア原線維性酸性タンパク質)、又はOlig2(乏突起膠細胞系統転写因子2)免疫組織化学のために処理し、それぞれニューロン、星状細胞、及びオリゴデントロサイトを標識した。走査共焦点顕微鏡法を用いて、各関領域全体にわたって多点画像スタックを生成した。NIS-Elements Advanced Researchソフトウェア(Nikon)を使用して、各スタック内の総GFP陽性細胞及び各系統特異的抗原(Olig2及びNeuN)で同時標識するGFP陽性細胞の数をカウントした。個々の脳ごとに数値を照合した(試料間隔4で各脳から合計8つの連続断面をサンプリングした)。GFP免疫蛍光体細胞及びGFP/Olig2又はNeuN陽性細胞体の両方についてスコアリングするために、個々の切片におけるROIをソフトウェア及び200μm2毎に高倍率でサンプリングした個々のポイントによって概説した。Olig2又はNeuNのいずれかによるGFP陽性体細胞同時標識の総数は、GFP陽性体細胞の数を、各連続切片における系統特異的同時標識で割ることによって算出した。各ROAの平均を計算した(n=5匹の動物)。
【0213】
結果
実質内(IP)ROA用量応答
IP ROA動物に、半球及び小脳の両方において皮質下白質を標的とする5回の個別の注射を行った。処置された動物をベクター投与後2週間(8週齢)で屠殺し、脳をGFP免疫組織化学のために処理し、皮質、皮質下白質、線条体、及び小脳のGFP陽性体細胞を、光学分割器を使用して偏りのない立体的解析学を用いてスコアリングし、各関心領域における形質導入細胞の絶対推定値を得た。投与された3回の用量のAAV/Olig001-GFPは全て、脳全体にわたって細胞の有意なレベルの形質導入をもたらした。(
図3)皮質内では、形質導入細胞数の増加は、1×10
10vg用量と1×10
11vg用量との間で有意であった(+1.6倍、p=0.0096)が、最高の5×10
11用量でのさらなる増加は明らかではなく(p=0.659)、これは飽和を示唆する(
図3)。脳梁及び外嚢の皮質下白質では、高いレベルの形質導入が明らかあり、陽性細胞は4つの注射部位に直接隣接して濃縮された。皮質下白質GFP陽性細胞も用量依存的に増加し、1×10
10から1×10
11用量までの2.2倍の増加は統計的に有意であった(p=0.0144)が、1×10
11から5×10
11までの1.3倍の増加は統計的有意性に達しなかった(p=0.283)。適度な線条体形質導入が明らかであった。1×10
10から1×10
11への3.4倍の増加は非常に有意であった(p=4.38×10
-5)が、5×10
11用量では形質導入のさらなる増加は明らかではなかった(p=0.706)。小脳内の導入遺伝子発現は、1×10
11及び5×10
11用量の両方での単一の注射部位のすぐ周囲のエリアに限定され、前の用量からの有意な増加をもたらした(1×10
11:1.5倍の増加[p=0.0016]、5x10
11:1.4倍の増加[p=0.0019])。皮質は、形質導入細胞の数が最も多く(513,477)、続いて皮質下白質(178,362)、小脳(86,820)、最後に線条体(62,706)であった。GFAPの同時標識は2%未満であった。
【0214】
髄腔内(IT)ROA用量応答
AAV/Olig001-GFPのIT投与は、脳梁及び外嚢の皮質下白質を除いて、脳全体にわたって導入遺伝子発現の優れた分布をもたらした(
図4)。皮質形質導入の1×10
10から1×10
11vgへの極めて有意な増加が明らかであり(6.1倍の増加、p=0.000026)、5×10
11vg用量では有意な増加はなかった(p=0.273)。IT ROA皮質におけるGFP発現の分布は優れていたが、発現の強度はIP脳と比較してある程度低減した。驚くことではないが、認識され得るGFP発現が脊髄の腰部領域において観察されたが、これは、脳に向かう途中で脊髄組織によってベクターがいくらか希釈されることを示唆している。IT ROA脳における最も顕著な観察は、脳梁及び外嚢における導入遺伝子発現の乏しさであった。用量を1×10
10から1×10
11に増加させたときに、GFP発現白質路細胞の非常に有意な増加が見られたが(6.3倍の増加、p=0.00021)、IT ROA脳における形質導入白質細胞の絶対数は比較的穏やかであった。脳のこの白質路領域における陽性細胞の平均数は、1×10
11用量において、同じ用量でのIP脳の178,362と比較して64,970であり、であった。皮質ROAと同様に、IT ROA脳における用量を1×10
11から5×10
11に更に増加させても、形質導入白質炉細胞の数は有意に増加しなかった(p=0.203)。
【0215】
線条体は、連続した各用量での形質導入細胞における用量応答性増加を示した。用量を1×1010から1×1011に増加させると、線条体におけるGFP陽性細胞が2.7倍増加した(p=0.001)。その後の5×1011用量への増加により、陽性細胞が3.2倍増加し(p=0.000037)、これにより、IP ROA脳線条体形質導入に匹敵する数(5×1011のITで平均79,444、5×1011のIPで平均65,203)がもたらされた。
【0216】
IT ROAは、強力な小脳導入遺伝子発現をもたらし、1×1010から1×1011用量に移行した場合に有意に1.5倍の増加が観察された(p=0.0064)が、5×1011用量ではさらなる増加は見られなかった。小脳形質導入は、IP ROA脳と同等であり、1×1011及び5×1011用量ではわずかに高かったが、有意に高くはなかった。
【0217】
脳室内(ICV)ROA用量応答
AAV/Olig001-GFPを投与したICVは、全ての関心領域にわたって顕著な導入遺伝子発現をもたらし、特に皮質下白質の強固な形質導入が顕著であった(
図5)。全ての関心領域は、用量が1×10
10から1×10
11に増加した場合に形質導入細胞の数において用量応答性の増加を示したが、小脳を除いて、5×10
11用量では、1×10
11用量と比較して、ほとんどの領域においてわずかな有意でない増加があった。皮質導入遺伝子発現は、IP ROA脳と同等であり、用量が1×10
10から1×10
11に増加した場合に導入遺伝子陽性細胞が2倍増加し(p=0.00029)、5×10
11用量の投与後に更に1.2倍増加したが、統計的有意性に達しなかった(p=0.123)。
【0218】
ICV脳における皮質下白質形質導入は実質的であり、用量を1×1010から1×1011に増加させた場合、GFP陽性白質路細胞で2倍の増加が観察された(p=0.00052)。最も高い5×1011用量では、適度な有意でない増加が観察された(p=0.334)。1×1011用量でのICV脳における皮質下白質形質導入は、IP脳と比較して1.5倍有意に増加し(p=0.041)、IT ROA脳と比較して4.2倍有意に増加した(p=0.0001)。
【0219】
導入遺伝子発現の非常に類似したパターンがICV用量コホートの線条体で見られ、用量を1×1010から1×1011に増加させた場合にGFP陽性細胞の有意な2倍の増加が観察された(p=0.000043)が、5×1011用量では有意なさらなる増加は見られなかった(p=0.537)。強固な線条体導入遺伝子発現がICV脳において明らかであり、この領域におけるGFP陽性細胞の増加は、IP脳よりも2.5倍であった(p=0.00004)。
【0220】
小脳ICV形質導入は強固であり、GFP陽性細胞の用量依存的増加が両方の連続したより高い用量で観察された(1×1011で+2倍、p=9.56×106-6;5×1011で+1.5倍、p=0.00073)。IP脳と比較してGFP陽性細胞が1.7倍増加し(p=0.0001)、1x1011用量でIT数より1.4倍増加した(p=0.0013)。小脳は、ICV ROA脳におけるGFP陽性細胞のさらなる顕著な増加を示す唯一の領域であった。
【0221】
サンプリングプロセス全体を通して明らかであったIPとICV ROA脳との間の顕著な相違点は、ICV群におけるベクターのより大きな分布であった。注射部位での導入遺伝子発現は、IP脳ではより激しかったが、その部位からは急速に希釈されていた。対照的に、ICV導入遺伝子発現は、脳のはるかに大きなエリアにわたって比較的均等に分布していた。
【0222】
大槽内(ICM)ROA用量応答
AAV/Olig001-GFPのICM投与は、皮質、線条体及び小脳において、比較的広範囲にわたる導入遺伝子でありながら適度な導入遺伝子発現をもたらした。しかしながら、IT ROA脳と同様に、ICM脳の皮質下白質において有意な導入遺伝子発現は存在しなかった(
図6)。皮質導入遺伝子発現は、用量応答性であり、各連続的に高い用量が、GFP陽性細胞の有意な増加をもたらした(1×10
11、2.2倍の増加、p=0.018;5×10
11、1.3倍の増加、p=0.043)。線条体及び小脳の両方において、1×10
11用量ではGFP陽性細胞の有意な増加が見られ(線条体及び小脳ではそれぞれp=2.49×10
-6及びp=0.0062)、最も高い5×10
11用量は、小脳のみで陽性細胞のさらなる増加をもたらした(p=0.061)。ICM ROAによる皮質下白質路の形質導入は、決定的に控えめであった。投与用量を1×10
10から1×10
11に増加させた結果、GFP陽性細胞が有意に増加したが(p=0.00086)、存在する導入遺伝子陽性細胞の実際の数は比較的無視できるものであった。
【0223】
ICV脳に比べて、ICM皮質下白質GFP陽性細胞は14.2倍低減し(ICV平均271,274;ICM平均18,996、p=0.00002)、次の最低皮質下白質形質導入ROA群の動物に比べて、ITは3.4倍低減し(IT平均64,970)、ICMを白質形質導入における最小有効ROAとした。他の関心領域にわたる分布は、他のROA処置群と同等であり、他の3つ全てのROAと比較して、皮質形質導入において有意差は明らかでなかった。ICMを介した線条体形質導入は、ICV ROAと比較してわずかに低減した(p=0.043)。線条体ICM GFPの発現は、1×1011用量でのIP(+2.0倍、p=0.00005)及びIT(+5.1倍、p=0.0000005)の両方よりも有意に大きかった。ICM脳は、検査した4つのROAのいずれかの最も高い数の形質導入小脳細胞を示した。1×1011用量では、小脳ICMの形質導入は、ICVよりも1.5倍(ICM平均228,282;ICV平均157,203)、IPよりも2.6倍、及びITよりも2.2倍増加した。
【0224】
比較した投与経路(ROA)
本明細書で探求される全てのROAについて、対象となる全ての領域において、ベクター用量を1×10
10から1×10
11に増加させると、形質導入細胞数が2~3倍増加し、一方で、5×10
11へのさらなる用量漸増は、形質導入細胞全体の無視できる増加をもたらした。各関心領域における1×10
11用量における4つ全てのROAの直接比較は、4つ全てのROIにおける形質導入細胞の絶対数の明確な差異を明らかにした(
図7)。1×10
11ベクターゲノムで形質導入された脳皮質における形質導入細胞の数は、各ROAと有意差はなく、全てが平均44,000~50,000の陽性細胞体細胞をもたらした。対照的に、皮質下白質におけるICV ROAには明らかな利点があり、形質導入細胞数は、他のどの群よりもICV脳において有意に多かった。ICV及びIP形質導入脳は、それぞれ最も多い、及び2番目に多い形質導入白質路細胞の数を示した。ICV ROAを介して1×10
11AAV/Olig001-GFPベクターゲノムで形質導入された脳の白質路における平均2.7×10
5個の陽性細胞は、同じ用量にさらされたIP脳に存在する平均1.8×10
5個の陽性細胞よりも有意に多かった(p=0.041)。
【0225】
IT及びICM ROAはともに、皮質下白質細胞の形質導入において非効率であり、ICV群における平均2.7×105個の陽性細胞(p=0.000083)よりも、ICM群における平均1.9×104個の細胞は有意に14倍少なく、IT群は4倍少なかった(p=0.0001)。これは、ミエリンの欠乏を呈する疾患モデル系において懸念され得る。
【0226】
ICV経路はまた、他の全てのROAよりもICV脳内のGFP陽性細胞の数が多い線条体中の細胞の効率的な形質導入をもたらす(ICV対IP p=3.68×10-5;ICV対IT p=1.61×10-5;ICV対ICM p=0.043)。小脳の形質導入の効率は、IP、IT、及びICV ROAの全てにわたって同等であったが、ICM脳は、形質導入小脳細胞の数が最も多かった(ICM対ICV p=0.045)。
【0227】
IP及びICV ROA脳は、特定の領域においてAAV/Olig001-GFPによって形質導入された細胞の絶対数が同等であったが、IP脳の陽性細胞数の大部分は、注射部位に直接隣接する切片の産物であり、ICV脳の陽性細胞は比較的均一に分布していた。体系的非ランダム立体学的サンプリングは、個々の脳からサンプリングした切片間の分散(試料内分散)の識別を可能にし、データセット内の誤差係数(CE)として表され、繰り返し推定の平均値の標準誤差を平均値で割った値によって計算される。CEは、サンプリングされた集団における全分散の半分であり、真の生物学的分散(CV)、又は個々の脳間の平均の差が、他の半分を構成する。個々のIP脳の平均CEは全分散の約12%として計算され、一方、ICV脳の平均CEは約3%であり、これは、GFP陽性細胞が、ICV脳でサンプリングされた全ての切片にわたってより均等に分布していることを意味する。IP脳では、サンプリングされた個々の切片における陽性細胞の実際の数は、サンプリングされた切片が注射部位から更に横方向に減少するほど少なくなり、一方ICV脳における陽性細胞の数は、サンプリングされた全ての切片において一貫して試料内平均値に近かった。この差の正味の結果は、IP脳に比べてICV ROA脳において、特に皮質及び皮質下白質においてベクターの拡散が大きかった(
図7)。
【0228】
結論
4つの異なるROAを使用して、診断時にカナバン脳を密接にモデル化する、急性症候性動物における全体的なCNS乏突起膠細胞形質導入を促す用量及びROAの組み合わせを定義した。AAV/Olig001-GFPベクターの投与は、系統特異的発現エレメントを必要とせずに、小脳を除く全ての関心領域において、70%を超えるオリゴ指向性をもたらした。導入遺伝子陽性乏突起膠細胞の用量依存的増加は、全てのROAにおいて明らかであり、脳室内ROAは、この重要な関心領域において90%を超えるオリゴ指向性を維持しながら、より多くの数の形質導入白質路細胞を促進した。これらのデータは、オリゴ指向性の主要な決定因子としてのカプシド細胞表面相互作用を強調しており、これは、カナバン病等の乏突起膠細胞に特異的な異常への臨床応用に最も関連している。これらのデータはまた、Olig001カプシドが、カナバン病を含む乏突起膠細胞関連疾患、障害及び/又は状態の治療のための潜在的な治療用カプシドを有することを実証している。
【0229】
実施例3:投与経路(ROA)によるベクター指向性
AAV/Olig001の際立った特徴は、他のAAVカプシド変異体と比較したその明確なオリゴ指向性である(Powell et al.(2016)Gen.Ther.23:807-814;Francis et al.(2016)Neurobiol.Dis.96:323-334)。定義上の白色物質障害であるカナバン病への適用には、異なるROAによって適用された場合にAAV/Olig001ベクターがこの指向性を示すことができなければならない。オリゴ指向性は、介入の週齢などの変数に起因して変動し得(Gholizadeh et al.Hum.Gene Ther.Methods(2013)24:205-13;Foust et al.Nature Biotech.(2009)27:59-65)、以前の研究は、新生児nur7マウスにおけるAAV/Olig001の潜在的オリゴ指向性を文書化しているが(Francis et al.Neurobiol.Dis.(2016)96:323-334)、この潜在的指向性のより高齢の症候性動物への転換は、以前として試験されていない。これを受けて、実施例2で使用された1×1011用量の4つのROA全てを、6週齢の動物におけるベクター指向性への潜在的な影響について評価した。GFP陽性細胞の絶対数の生成に使用された皮質、皮質下白質、線条体、及び小脳を、GFP導入遺伝子と、系統特異的抗原Olig2(すなわち、乏突起膠細胞に対する標的特異的標識)及びNeuN(すなわち、ニューロンに対する標的特異的標識)との同時標識について分析した。
【0230】
結果
4つ全てのROAは同等の結果を生じ、オリゴ指向性は無傷であった。非乏突起膠細胞導入遺伝子発現はニューロンに起因するものであり、4つ全てのROAコホートにおいてGFPを発現するアストロサイトはほとんど観察されなかった(<5%)。
【0231】
GFPによるOlig2の皮質同時標識は、IT、ICV及びICM ROAの間で同等であり、Olig2と同時標識する全GFP陽性細胞の割合は一貫して約75%であった。IP形質導入脳では、GFP陽性細胞の約62.3%がOlig2で同時標識され、小さいが有意な低減であった(
図8)。NeuNと同時標識するこれらの同じ脳内のGFP陽性細胞は、残りの形質導入皮質集団(35.1%)を本質的に占めた。IT、ICV、及びICM ROAの3つは全て、約20%のNeuN同時標識を示した。IT ROA脳では、Olig2と同時標識された皮質GFP陽性細胞が75.5%及びNeuNと同時標識された皮質GFP陽性細胞が20.2%であった。ICV ROA脳は、皮質に70.8%のオリゴ指向性及び23.6%の神経指向性を呈し、ICM脳の皮質はOlig2と同時標識された76%のGFP、及びNeuNと同時標識された17.4%のGFPを発現した。4つの異なるROA間のオリゴ指向性の発現の差は小さいが、IP ROAは、NeuN同時標識の有意な増加(p=0.0043対IT;p=0.0119対ICV;p=0.00059対ICM)を示し、これは、他の3つのROAに比べて、Olig2同時標識のわずかではあるが有意な低減(p=0.026対IT;p=0.048対ICV;p=0.0085対ICM)と一致し、IP ROAが、オリゴ指向性を犠牲にして神経指向性のわずかな増加を促進したことを示唆している。ここでも、IP ROAは、NeuN同時標識の増加(+1.5倍、p=0.012)に関して顕著であり、これは、Olig2同時標識の低減が、このROAにおけるニューロン形質導入の増加によって説明されることを示唆している。IP ROA脳内のGFP-NeuN同時標識のほとんどは、注射部位のすぐ周囲にクラスター化されていたが、これは注射部位に隣接するAAV/Olig001-GFPの飽和した量を示している。
【0232】
Olig2のGFPとの皮質下白質同時標識は、4つ全てのROAにおいて90%超であった(
図9)。NeuNのGFPとの同時標識は、4つ全てのROAにおいて6%未満であった。ROA間でいずれかの抗原との同時標識の割合に有意差は観察されず、ROAに関係なく、白質が豊富な領域での乏突起膠細胞に対する強い好ましさを示した。ICV形質導入により、脳梁においてほぼ遍在的なOlig2同時標識が存在し、またNeuN同時標識は存在しなかった。
【0233】
Olig2のGFPとの線条体同時標識は、全てのROAの中で、Olig2と同時標識する全GFP陽性細胞のパーセンテージ(>80%)と同等であった(
図10)。線条体内の残りのGFP陽性細胞(<20%)は、NeuNと同時標識した。
【0234】
小脳の同時標識は、研究した脳の他の領域と比較して、4つ全てのROAにおいてOlig2及びNeuNの反対の比率を示した。Olig2同時標識のパーセンテージは、4つ全てのROAにおいて総GFP陽性細胞の10%であった(
図11)。導入遺伝子発現は、GFP発現細胞の80%超を占める小脳内のニューロンによって支配された。小脳内のROAコホート間で、いずれかの抗原との同時標識パーセントの有意差は観察されなかった。顆粒細胞層中の大きなプルキンエニューロンは、強力にGFP陽性であり、小脳白質路内で散発的なOlig2/GFP同時標識のみを有していた(
図29C)。これは、皮質下白質で観察されたほぼ100%のオリゴ指向性(
図29B)及び皮質及び線条体などの比較的ニューロン密度の高い領域で観察された70%~80%のオリゴ指向性(
図29D)とは対照的であった。1×10
11用量で各ROAについてスコアリングされた総GFP陽性細胞を、n=5で総GFP陽性細胞(+/-sd)の最高平均から最低平均の順にランク付けした:ICV 1104256.4(106816.96);IP 841365.6(121722.7);ICM 815486.9(106979.7);IT 742143.1(79496.5)。
【0235】
ICV ROAは、最も多数の総GFP陽性細胞(個々の脳における全てのROAカウントの合計)をもたらし、次のランクのROA、IP(p=0.0067)よりも1.3倍多かった。ICV脳の総数は、ICM(p=0.0027)及びIT(p=0.0003)を含む全てのROAにわたって有意に増加した。IP ROA脳内の細胞数は、ICM(p=0.730)又はIT数(p=0.165)のいずれよりも有意に増加せず、形質導入された全細胞においてICV ROAが明らかに優れていることをマークした。ICVコホートとIPコホートとの間の全体的なGFP陽性細胞数の差(約262,891)の約75%は、皮質下白質(35%)及び線条体(36%)のROIによって占められ、両方のROAコホートにおいて80%超のオリゴ指向性を呈した。これは、ICV脳がIP脳よりもその領域のどこかに少なくとも210,000個多い形質導入乏突起膠細胞を含んでいたことを意味する。この分析が皮質下白質内に限定される場合、全てのROAによる>90%のオリゴ指向性を示すROI、次いで、ICV ROAを介してAAV/Olig001を投与する場合、脳当たり少なくとも83,000個多い形質導入された乏突起膠細胞が予想される。最悪レベルのGFP導入遺伝子発現を示すROAコホートに対して評価した場合、ICMコホート、ICV投与は、脳当たり200,000個を超える細胞のAAV/Olig001形質導入乏突起膠細胞の増加をもたらした。
【0236】
成体哺乳動物CNSは、白質中に相当数の乏突起膠細胞前駆細胞を有することが知られており(Dawson et al.Mol.Cell Neurosci.(2003)24:476-488)、未成熟乏突起膠細胞のターンオーバーの増加の形態での若年性nur7における再ミエリン化の試みの証拠(Francis et al.J.Cerebral Blood Flow Metabolism(2012)32:1725-36)が以前に示されている。白質は、成体脳においてさえも、再髄鞘形成のための著しい能力を有することを考えると、成体nur7白質における未成熟乏突起膠細胞の常在集団の持続性は、乏突起遺伝子送達ベクターの理想的な標的と考えられなければならない。
【0237】
増殖性乏突起膠細胞前駆体/未成熟乏突起膠細胞の相対数を評価するために、nur7及び野生型マウスの両方に、2日間にわたって1日2回全身BrdUを与え、3日目にBrdU/Olig2共同標識のプロセスのために屠殺した(
図29E~G)。BrdU投与は、2週齢及び8週齢のコホートの両方で開始し、若年及び成体の脳における増殖性乏突起膠細胞の可能な持続性を定量化した。各週齢における遺伝子型コホートの脳梁及び外嚢におけるBrdU陽性細胞の数は、野生型と比較して2週齢nur7脳におけるBrdU陽性細胞の有意な1.8倍の増加(p=0.029)及び8週齢nur7脳における1.6倍の増加(p=0.034)を明らかにした(
図29F)。両方の週齢のnur7白質中のBrdU細胞の大部分がOlig2と同時標識され、成体症候性nur7マウスの白質中の増殖する前駆体/未成熟乏突起膠細胞の持続性を示す。3匹の6週齢nur7マウスのサブセットに、1×10
11vgのAAV/Olig001-GFPで形質導入する前に2日間全身BrdUを与え、これらの動物を、白質路内での増殖細胞の形質導入の証拠のために形質導入の2週間後に屠殺した。多数のBrdU/GFP同時標識細胞がこれらの動物の白質路内で観察されたが、これはレジデント前駆細胞/未成熟細胞の形質導入に成功したことを示す。
【0238】
nur7 ROAコホート(すなわち、6週齢)に適合させた健康な野生型動物群を、ICV ROAを介して1x10
11vgのAAV/Olig001-GFPで形質導入し、2週間後に皮質及び皮質下白質路内のGFP陽性細胞の立体学的推定の生成のために屠殺した(
図8)。GFP陽性細胞の推定値は、nur7脳と比較して、野生型脳の皮質及び皮質下白質の両方で有意に2倍の低減を明らかにした(それぞれのROIのp=0.00032及びp=0.0116)。野生型脳における皮質下白質GFP導入遺伝子発現は、野生型脳における側脳室のすぐ周囲の領域に非常に制限されていたが、皮質発現は、合理的に拡散しているものの、形質導入細胞の絶対数において非常に適度であった。
【0239】
結論
実施例2及び3は、AAV/Olig001GFPベクターの脳室内(ICV)投与経路が、ベクターの拡散及び乏突起膠細胞トロピシズムの最良の組み合わせを提供したことを示す。重要なことに、このROAは、カナバン病の病理に影響を受ける組織である皮質下白質の形質導入に十分適しているようである。したがって、数十万の細胞を形質導入し、乏突起膠細胞についてほぼ100%の指向性を維持する能力は、他のAAVカプシドよりもAAV/Olig001に有意な利点を付与する。4~6週齢のnur7脳梁/外嚢は、約1,500,000個のOlig2陽性細胞を有するため、ICV ROAを介した1×1011用量のAAV/Olig001ベクターの投与は、常在性乏突起膠細胞集団の約20%を形質導入する可能性がある。nur7マウスの白質路は、再ミエリン化の試みの証拠とともに存在し、相当数の増殖性乏突起膠細胞前駆体を含有することに留意すべきである。単一の乏突起膠細胞が複数の軸索を髄鞘化することができることを考えると、治療用AAV/Olig001ベクターで白質を形質導入した後の再髄鞘形成の可能性は有意である。
【0240】
他のCSF標的化ROA、すなわちIT及びICMは、比較的貧弱な白質路の形質導入を示し、治療的ROAとして考慮するための第1の選択肢ではないであろう。IP脳は、形質導入された細胞の数に関して同等の形質導入レベルに近づいたが、これらの細胞の大部分は注射部位の周りに集中した。これらの部位における細胞は、任意の他のROAのより大きなベクターゲノムコピー数/細胞を有していた可能性が高いが、これらの部位から離れたベクター拡散は、ICV ROAと比較して顕著に低かった。ICV投与によるGFP形質導入のより広範な分布は、形質導入細胞の数と、形質導入細胞当たりのベクターのコピーの数との間の適切なバランスが達成され得る点で有利である。
【0241】
実際に、実施例2及び3におけるIP脳における導入遺伝子発現の強い集中は、乏突起膠細胞指向性の小さいが有意な低減及び皮質内の神経指向性の平衡増加と関連していた。これは、AAV/Olig001で領域を飽和させると、乏突起膠細胞特異性の低下がもたらされ得ることを示す。なお、本研究で使用した動物群のnur7マウスの皮質乏突起膠細胞は野生型から数が低減し、ストレス及びアポトーシスの証拠を示す(Francis et al.(2012)J.Cereb.Blood Fl.Metab.32:1725-1736)が、これは形質導入効率に影響を及ぼすことが予期され得る。
【0242】
全ての関心領域におけるベクター指向性は、小脳を除いて75~90%オリゴ指向性であった。この領域は、全てのROA群において80%超の神経指向性を示した。特に強い導入遺伝子発現は、顆粒層プルキンエニューロンで見られた。この明らかな指向性の逆転の理由は容易には明らかではないが、小脳は明らかに、常在細胞型に関して明確な解剖学的実体である。小脳内のプルキンエ細胞は、低いが認識可能なレベルでOlig2を発現し、AAV/Olig001カプシドが、脳の他の領域における他のニューロンの表面とは著しく異なるプルキンエニューロンとの相互作用を有する可能性がある。
【0243】
現在の実施例は、AAV/Olig001が、小脳を重要な例外として、nur7カナバン疾患マウスの脳全体にわたって強固な乏突起膠細胞導入遺伝子発現を促進することを示す。脳の他の全ての領域において、系統特異的プロモーターを必要とせずに、70%超のオリゴ指向性が達成された。乏突起膠細胞表面に対するAAV/Olig001カプシドの固有の親和性は、送達されるベクターの総用量に可能な限り近い量が標的細胞において発現することを確実にするため、他の非オリゴ指向性血清型における選択的プロモーター使用よりも有意な利点である。これらのデータにより、脳内の白質を標的化するための別個のROAの利点が特定され、ICV ROAは、カナバン疾患の治療のためのモデルとしての、症候性成体nur7マウスにおける前臨床有効性研究への適用性を示している。
【0244】
実施例4:野生型とnur7脳との間のAAV/Olig001-GFP形質導入効率の差。
カナバン病のnur7マウスモデルは、2週齢で大動脈機能障害の症状を示す。生後6週間までに、nur7脳は著しい細胞喪失、白質の喪失を有し、広範囲に空胞化される。したがって、6週nur7脳は、健常脳とは著しく異なる微小環境であり、AAV/Olig001-GFPの拡散及び形質導入に影響を及ぼす可能性がある。実際、6週齢の野生型マウスのコホートにおいて、ICV ROAを介した1×10
11用量の投与は、nur7マウスの脳における形質導入レベルと比較して、皮質及び皮質下白質における形質導入レベルの有意な低減をもたらした(
図12)(各群についてn=5匹の動物、平均+/-標準誤差が示されており、*p≦0.05、**p≦0.01である)。
【0245】
皮質及び皮質下白質中のGFP陽性細胞の立体学的推定により、野生型脳における導入遺伝子発現の発生率が有意に低減した(少なくとも50%の低減)ことが示された。強力なGFP蛍光は、側脳室に直接隣接する領域に制限され、野生型脳において適度な皮質及び皮質下白質のGFP蛍光シグナルを有する。小脳における導入遺伝子発現は乏しかった。これらのデータは、AAV/Olig001の拡散及び形質導入効率に対する遺伝子型特異的効果を示す。また、nur7脳は、ヒトカナバン脳と同様に、空胞化が激しく、過度に大きな脳室を有し、NAAが著しく上昇するため、これらの兆候及び症状は、ヒトAAV/Olig001治療薬のベクターの拡散及び生体内分布に影響を及ぼす可能性がある。
【0246】
実施例5:nur7マウスへのAAV/Olig001-ASPAのインビボ投与は、ロータロッドパフォーマンスを改善する
方法
6週齢のnur7マウスに、配列番号2のコドン最適化ASPA配列を含むある用量のAAV/Olig001-ASPAを投与した。コドン最適化ASPA及び調節エレメントをコードする発現プラスミドを
図13に示す。2.5×10
11、7.5×10
10又は2.5×10
10vgの総用量を、脳室内(ICV)投与経路(ROA)を介して投与した。全ての用量コホートのベクターを、脳の各半球の側脳室に注射した2.5μlの合計体積5μlで送達した。週齢適合したnur7動物の対照コホートを、同じROAを介して等量の生理食塩水を注射することによって生成した。週齢適合したナイーブ野生型動物を、全ての運動機能試験の較正基準として使用した。ベクターの投与の2週間後、動物を加速するロータロッドから落下する潜時について、及びオープンフィールド活動性チャンバを使用した全般的な活動性について、4ヶ月間、月に1回試験した。全ての行動試験は、治療に対して盲検化された個体によって行われた。
【0247】
結果
ロータロッドパフォーマンス
AAV/Olig001-ASPAは、投与された最高用量(2.5x10
11vg)において、nur7マウスのロータロッドパフォーマンスによって測定されたように徐々に悪化するバランス、グリップ強度及び/又は運動協調を、週齢適合野生型動物と区別できないレベルまで奪回し、偽nur7対照よりも大幅に改善した。この用量では、AAV/Olig001-ASPA処置動物におけるロータロッドパフォーマンスの増加は、反復測定ANOVA(p=0.028)によって決定されるように、研究期間全体にわたって有意であり、対応のないスチューデントt検定によって決定されるように、それぞれの個々の時点で有意により高かった。中間範囲用量(7.5×10
10vg)では、AAV/Olig001-ASPAはまた、試験した各時点でnur7マウスにおけるロータロッドパフォーマンスの有意な改善を促進したが、この改善は、試験期間全体にわたって有意ではなかった(反復測定ANOVA p=0.19)。投与された最低用量(2.5×10
10vg)では、AAV/Olig001-ASPAは、試験された最後の2つの時点(18ヶ月及び22ヶ月)のみにおいて、ロータロッドパフォーマンスの向上を促進するのに有効であった。表1は、各処置群について秒単位で測定された平均落下潜時を示す(標準偏差を伴う)。各群について、12匹のマウス(雄6匹及び雌6匹)を試験した。表2は、各週齢におけるAAV/Olig001-ASPA処置マウスと偽nur7マウスとの間の対応のないt検定比較のp値を示す。2.5×10
10を投与したマウスを除く全ての群において、10週目及び14週目に偽処置マウスと比較して統計的に有意な改善が観察された。
【表1】
【表2】
【0248】
図14は、各AAV/Olig001-ASPA nur7用量コホート、偽nur7、及びナイーブ野生型対照について、生涯研究期間にわたるプロットされたロータロッド平均潜時を示す。落下潜時は、全ての3用量コホートにおいて増加し、最高用量は、反復測定ANOVAによって研究期間全体にわたり有意であった(
*)。
【0249】
オープンフィールド活動性
ロータロッドを行った各週齢に対して、オープンフィールド活動チャンバ内の全般的な運動機能についても動物を評価した(
図15)。毎回、動物に単一の20分間のセッションを与え、セッション毎の総移動距離を記録した。週齢適合野生型動物と比較して、偽nur7マウスは、全ての週齢、特に後の時点で有意に多動性を示した。22週齢では、偽nur7動物は、野生型よりも活動性(移動距離;p=0.0202)の有意な3倍の増加を示した。対照的に、2.5×10
11用量のAAV/Olig001-ASPAは、偽対照(p=0.0312)に比べて統計的に有意であり、週齢適合野生型と区別できないnur7マウスにおける正常化された活動性レベルをもたらした。AAV/Olig001-ASPAのより低い7.5×10
10用量は、偽nur7パターンよりも野生型に近い活動性パターンをもたらしたが、22週齢での偽に対する統計的有意性の閾値をわずかに下回った(p=0.1181)。AAV/Olig001-ASPAの最低(2.5×10
10)用量は、病理学的過剰活性を有意に正常化するものではなく、野生型参照よりも偽nur7対照によく似ていた。
【0250】
これらの同じ動物におけるオープンフィールド活動性の評価は、AAV/Olig001-ASPA処置nur7動物における多動性の用量依存的正常化を示した。データは、群当たりn=6匹の動物での平均+/-標準誤差として示される。
【0251】
NAA蓄積及びベクターゲノム(vg)コピー数
ロータロッド試験後22週間でマウスを屠殺し、脳組織を分離した。NAAのHPLC分析のために各脳の1つの半球を処理し、残りの半球を定量PCRによるベクターゲノム(vg)コピー数の分析のために処理した。
【0252】
偽生理食塩水処理nur7マウス脳は、ASPA機能の喪失から予想されるように、典型的にはNAA上昇を含有した(
図16)。AAV/Olig001-ASPA処置コホートでは、病理学的に上昇したNAAにおける用量応答性低減が観察され、最も高い2.5×10
11用量は、非常に有意な2.6倍の低減(p=5.06×10
-6)をもたらし、最も中間的な7.5×10
10用量は1.6倍の低減(p=5.17×10
-5)をもたらし、最も低い2.5×10
10用量は1.4倍の低減(p=0.001)をもたらした。最高用量のAAV/Olig001-ASPAで処置したnur7脳のNAAは、実際には週齢適合野生型脳のNAAよりも有意に低かった(p=0.0012)。
【0253】
NAAについて分析した脳から残った半球を使用して、組換えAAV/Olig001-ASPA発現カセットのウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化配列を標的とするカスタムTaqManプローブ/プライマーセットを用い、定量PCRによってベクターゲノム(vg)コピー数を定量化した。半球の総DNA内容物を、市販のDNA精製カラム及びキット(Qiagen)を使用して単離し、このようにして生成されたDNAの試料を、精製されたプラスミド標準曲線に対して試験し、各試料のvg/湿潤組織重量を生成した。生成された組織値のVG/mgは、ベクター用量に対するNAAの応答と一致して、投与されたAAV/Olig001-ASPAの用量を反映していた(
図17)。
【0254】
空胞形成分析
AAV/Olig001-ASPAで処置したnur7マウスの脳を偏りのない立体構造によって分析し、ベクター用量の関数として視床及び小脳白質/橋の空胞体積割合を定量化した(
図18)。空の空間によって占められた各関心領域内のエリアを空胞として定義し、関心領域全体の体積のパーセンテージとして示した。各用量において、AAV/Olig001-ASPA処置は、偽処置マウスと比較して、視床空胞体積割合(2.5×10
11、p=4.6×10
-8;7.5×10
10、p=6.4×10
-8;及び2.5×10
10、p=6.2×10
-8)の極めて有意な低減によって示されるように、視床空胞化の完全な奪回をもたらした(
図19)。小脳白質/橋における空胞形成も、偽処置マウスと比較して、全ての用量で有意に奪回された(2.5×10
11、p=1.3×10
-5、7.5×10
10、p=2.5×10
-5、及び2.5×10
10、p=0.0009)が、奪回の程度は、投与したベクターの用量に比例した。最低の2.5×10
10用量コホートは、最高の2.5x10
11用量(p=5.74×10
-6)のものよりも有意に増加したが、偽処置対照(p=0.0009)の空胞体積割合よりも依然として有意に減少した空胞体積割合を示した(
図19)。
【0255】
乏突起膠細胞の回復
空胞形成について分析した同じ脳を、Olig2免疫組織化学について処理して、乏突起膠細胞を同定した。視床及び皮質の両方を、Olig2陽性細胞について、偏りのない立体構造によりサンプリングし、それぞれ、空胞形成の影響を受けたエリアと影響を受けなかったエリアの両方で、常在白質産生細胞の有意な差を同定した(
図20)。偽nur7脳は、週齢適合野生型脳に比べて、Olig2陽性細胞の4.6倍の大きな損失を示し、通常の野生型含有量の21%に過ぎなかった(p=4.9×10
-7)。AAV/Olig001-ASPA処置nur7マウス及び偽処置nur7マウスの視床におけるOlig2カウント(
図21)は、偽対照(2.5×10
11vg、p=6.75×10
-8;7.7×10
10vg、p=0.026;2.3×10
10vg、p=3.18×10
-5)に比べて、3つ全てのAAV/Olig001-ASPA処置nur7コホートにおける乏突起膠細胞の有意な増加を明らかにした。皮質領域におけるOlig2損失は、劇的ではなかったが有意であった(野生型マウスに対して偽処置nur7マウスにおいて1.7倍の低減、p=0.0025)。2.5×10
11vgで処置したnur7脳の皮質のOlig2含有量(
図21)もまた、偽処置nur7対照マウスに比べて有意に増加した(p=0.0002)が、2つのより低い用量コホート脳では増加しなかった。
【0256】
ニューロン回復
Olig2染色に使用した同じ22週齢の脳内のNeuN陽性ニューロンについて、視床及び皮質をスコアリングした(
図22)。偽処置nur7動物は、週齢適合野生型動物値(p=2.8×10
-5)の約35%である視床ニューロンの数を示した(
図23)。2.5×10
11AAV/Olig001-ASPAで処置されたnur7マウスは、偽処置対照マウス(p=0.0009)よりも2.3倍増加した数の視床ニューロンと、野生型マウスで観察された視床ニューロンの約84%を含有した。7.5×10
10及び2.5×10
10という2つのより低い用量では、AAV/Olig001-ASPAは、偽処置対照マウスよりもそれぞれ1.8倍及び1.6倍増加した視床NeuN陽性細胞の増加を促進した(p=0.012、p=0.042)。皮質(運動及び体性感覚)では、週齢適合野生型マウス脳に比べて、偽処置nur7マウス脳における神経細胞の喪失は、それほど深刻ではなかったが、有意であった。偽処置マウス由来の皮質は、野生型マウスで観察された約80%のNeuN陽性細胞を含有し、1.2倍の低減を示した(p=0.005)。2.5×10
11AAV/Olig001-ASPAで処置されたnur7マウスは、野生型マウスで観察された皮質ニューロンの約98%である皮質ニューロンの数を含有し、偽処置されたnur7マウスで観察された皮質ニューロンの数を1.2倍増加させた(p=0.013)。AAV/Olig001-ASPAの連続用量は、偽処置に比べて皮質ニューロンの安定した1.2倍の増加をもたらした。7.5×10
10用量については、サンプリングデータの高い分散により、この増加は有意ではなかった(p=0.113)。最も低い2.5×10
10用量では、AAV/Olig001-ASPA処置マウスは、偽処置対照よりも、皮質ニューロンの有意な1.2倍の増加を維持した(p=0.05)。
【0257】
改善された髄鞘形成
偏りのない立体構造を使用して、偽処置及びAAV/Olig001-ASPA処置22週齢のnur7脳の皮質全体にわたる皮質髄鞘塩基性タンパク質陽性線維長密度(MBP-LD)を定量化し、AAV/Olig001-ASPAでの処置後の髄鞘形成の回復度の指標を提供した。運動及び体性感覚皮質を、コンピュータ生成プローブを使用してMBP陽性線維についてサンプリングして、3次元組織空間における等方性プローブ線維相互作用についてスコアリングし、皮質内のMBP陽性線維長の合計をサンプリングした組織の体積で除して、最終的なMBP長密度(mm
3当たりのμm線維)を得た(
図24)。週齢適合野生型脳と比較した場合、偽nur7脳は、皮質MBPLDにおいて非常に有意な2倍の低減を示した(p=0.0001)。AAV/Olig001-ASPAを3つ全ての用量で処置した場合、皮質MBP-LDは偽対照に比べて有意に増加し、改善の程度は用量に比例した(2.5×10
11 p=0.0014;7.5×10
10 p=0.003、2.5×10
10 p=0.016)。偽処置及びAAV/Olig001-ASPA処置nur7マウス脳を抗髄鞘塩基性タンパク質(MBP)で染色した(
図25)。
【0258】
これらのデータは、カナバン病のマウスモデルのAAV/Olig001-ASPA処置が、バランス、グリップ強度及び/又は運動協調、運動機能を改善し、脳内に存在するNAAの量を低減し、脳の空胞形成を低減し、Olig2及びNeuN陽性細胞の数を増加させ、髄鞘形成を回復することを実証している。
【0259】
実施例6:カナバン遺伝子療法のためのCLARITY補助成体分布
Nur7マウス脳を示すカナバン疾患表現型における緑色蛍光タンパク質(GFP)導入遺伝子を有する乏突起膠細胞指向性rAAVベクター(Olig001)の生体内分布を、3次元(3D)組織鮮明化及び画像化法を用いて評価した。これにより、代替投与経路(ROA)を介して投与されたNur7マウス半脳内のベクター生体分布の全体的な描写及び体積測定が可能になった。脳室内(ICV)及び実質内(IP)ROAを生体内分布有効性について比較し、この方法を使用して、従来の2次元(2D)組織学的評価から得られた従来の立体データを補足した。
【0260】
この実施例は、3D法の適用可能性、及びカナバン病マウスモデルの成体マウス半脳におけるAAV/Olig001-GFP生体内分布の評価におけるその意義を実証する。結果は、光シート顕微鏡データの3D鮮明化脳画像の視覚的定性的及び定量的描写及び生体分布推定の一覧化されたパラメータとして示される。
【0261】
試料調製及び画像化
ROA当たり4匹の成体マウス(合計8匹)に、6週齢で5×10
11ベクターゲノム(vg)/動物を与え、投薬の2週間後に屠殺した。PFA固定脳を受容し、3D組織鮮明化及び体積光シート顕微鏡画像化用に調製した。各脳を矢状に二分し、右半球をCLARITYを使用して組織鮮明化に供した(Chung et al.,Nature,2013)。各試料を、市販の試薬(Logos Biosystems)を利用し、市販のデバイス(X-Clarity、Logos Biosystems)を使用して、ヒドロゲル包埋及び重合、続いて電気泳動組織鮮明化により等しく調製した。試料の取り扱い中の主要なステップでの肉眼的顕微鏡写真を取得して、試料の状態を記録した(
図26)。
【0262】
Zeiss Z.1光シート顕微鏡を使用して、5倍の倍率の対物レンズ及び各半脳の全体をカバーするタイリングベースの取得を利用して、各鮮明化半脳の完全な3D顕微鏡画像化を行った。画像化パラメータを調整してGFP発現を検出し、全ての試料にわたって一定に維持して一貫性を確保し、試料にわたる相対的な比較を可能にした。全ての試料を処理し、組織鮮明化から画像取得及び分析まで、同一の条件下で画像化した。
【0263】
画像処理及び分析
生データセットを前処理し、各半脳の社内カスタム設計アルゴリズムを使用して、完全でシームレスな3D画像に再構築した。最終的な画像はそれぞれ1つの半脳を含み、全体的な定量的生体分布分析のために、商業的な3D画像処理及び分析プログラム(Imaris、Bitplane)にインポートした。まず、全半脳体積内の全体的な平均及び中央(GFP)シグナル値を算出した。更に、2つのGFP強度閾値を選択して、「低」又は「高」GFP発現を指定した(
図27)。次いで、これらの閾値を、一貫性のために全ての試料にわたって一定に維持した。次いで、これらの分類された強度領域の体積を決定し、全半脳体積と比較して、「体積%高/低発現」を生じさせた(表3)。
【0264】
結果
巨視的顕微鏡写真及び各半脳の完全な3D画像化は、2つのROAにわたるGFP発現の可変の生体分布パターンを明らかにした(IP対ICV、
図28及び
図30)。更に、細胞形態の視覚的評価及びそれらの空間的位置を決定することによって、細胞型指向性を評価した。これらの生体分布パターンは、ベクターの拡散の程度に応じて試料間で異なっていたが、小脳内のプルキンエ細胞における高発現などの試料間で、細分化された形質導入パターンにおける類似性は一貫したままであった。次いで、全体的な強度とともに「低」及び「高」GFP発現の定量化を計算し、各半脳について一覧化した(表3)。先の実施例の立体学的評価と一致して、鮮明化された半脳は、カナバン病の重要な領域であるICV注射後の皮質下白質内で優れたベクター拡散を示した。更に、IP注射は高GFP強度のサブ領域をもたらしたが、これらのサブ領域の大部分は注射部位の周囲に集中しており、立体学的評価から得られた結論を支持していた。
【表3】
【0265】
結論及び意義
無傷で組織が鮮明化されたマウス脳の体積画像化は、AAV/Olig001生体分布のより包括的かつ総合的な評価を提供する。分布の完全な取得及び定量化を可能にするカスタムアルゴリズムは、ステレオロジー法から得られるより高分解能の定量化を支援する。器官レベルの画像化の評価は、3D空間的な構造的及び地域的接続性を保持しながらこの生体分布の全体的な評価を提供する。最後に、様々なROAのデジタル編集を使用して、AAV/Olig001ROAに追加の評価を実行して、最適な形質導入効率及び細胞型特異的指向性を評価する場合に将来の参照に使用されるデジタル「ライブラリ」を生成することができる。
【0266】
実施例7:AAV生体内分布及び薬力学的効果のCLARITYベース体積評価
この実施例では、上記実施例6に記載されるCLARITY組織鮮明化技術を利用して、nur7マウス脳におけるAAV/Olig001-ASPAを注射した後の脱髄における逆転の全体的及び局所的な導入遺伝子媒介薬理学的効果を評価及び実証した。
【0267】
簡潔に述べると、nur7マウスを2つの群に分け、AAV/Olig001-ASPA(「Olig1」又は「Olig1-ASPA」)又は生理食塩水(「Nur7」)とともに、ICV又はIP経路を介して上述の様式で投与した。次いで、2つの群のマウスの脳を分析して、上述の様式で視床及び小脳白質/橋の空胞体積割合を定量化した。対照群として野生型マウス(「WT」)の脳も分析した。結果を
図31に示す。より具体的には、
図31Bの矢印は、nur7マウスの視床領域が、WTには存在せず、Olig1-ASPA処置組織においてほぼ完全に奪回された可視空胞形成を示したことを示す。更に、
図31Cに示すように、1日の受動的鮮明化後、nur7マウス組織は、WT及びOlig1-ASPA処置組織の両方よりも高い透明度に達した。これらの結果は、AAV/Olig001-ASPA処置が、nur7マウスにおける脳の空胞形成を低減し、髄鞘形成を回復させたことを実証している。
【0268】
同様の解剖学的配向を有する3つの群全てからの3D画像の抽出2D単一スライスにおいても、細胞計数分析を行った(
図32A)。
図32B及び32Cに示すように、平均核密度(セグメンテーション面積によって正規化されたカウント)は皮質領域内で細胞密度の全体的な差はほとんど示さなかったが、Nur7群のマウスは視床領域において全体的な核密度/核面積が有意に低かった。対照的に、Olig1-ASPA群及びWT群は、視床領域において類似した全体的な核密度又は核面積を有するようであった。これらの結果は、nur7マウスのAAV/Olig001-ASPA処置が、視床領域における細胞の数を、WT群に見られるレベルに近いレベルまで維持又は増加させたことを実証している。
【0269】
空胞形成について分析した脳を、上述の様式で乏突起膠細胞を識別するためにMBPの免疫蛍光染色用に処理した。そのために、3D体積分析を行い、薬力学的処置効果を検討した。2mm組織スライスの完全3D体積を決定し、平均蛍光強度を、SYTO(核マーカー)並びにMBPについて計算した。Nur7群のマウスからの組織は、より低い平均MBP蛍光値を示すことが見出された。対照的に、Olig1-ASPA処置群は、全体的にMBPシグナルの増加を有し、これはほぼWT群のレベルに匹敵した(
図33B)。
【0270】
追加の3D体積分析を実行し、MBP体積をシグナル閾値により計算した。閾値は、2000を超える蛍光値で設定した閾値でより制限的に(
図33C、左パネル)、又は1000の閾値でより包括的に(
図33C、右パネル)行われた。いずれの場合も、Nur7群のマウスにおいてMBP欠乏が観察された(
図33D)。対照的に、MBP体積の増加は、Olig1-ASPA群において、特より低い閾値を使用した場合に明確に見られ、全体的なMBP体積値がWT群のレベルに近づいた(
図33D)。
【0271】
領域ベースの分析を、視床領域において3Dで行った。領域の一部の手動セグメンテーションを
図33Eに示した。核(SYTO)及びミエリン(MBP)マーカーの両方についてのこの領域内の平均蛍光強度を
図33Fに示す。Olig1-ASPA群のSYTO及びMBPレベルは、WT群のレベルにほぼ到達したことが分かった。対照的に、Nur7試料は、両方のマーカーにおいてより低い平均蛍光値を示した。また、皮質の一部に対して領域ベースの解析を行った。核(SYTO)及びミエリン(MBP)マーカーの両方についてのこの皮質領域内の平均蛍光強度レベルを、
図33G及び33Hに示した。全体的な傾向は、
図33Fに示すものと同様であった。皮質及び視床領域における3D細胞濃度(100μm
2当たりの核)も得た。
図33Iに示すように、Nur7群のマウスの両方の領域における全体的核濃度はより低かった。対照的に、Olig1-ASPA群のマウスの視床領域における3D細胞濃度は、WT群のレベルに近いレベルを示した。
【0272】
これらの結果は、AAV/Olig001-ASPAの投与がnur7マウス脳における脱髄及び細胞損失を奪回又は逆転させたことを実証している。
【0273】
均等物
前述の書面による明細書は、当業者が本開示を実践することを可能にするのに十分であると考えられる。前述の説明及び実施例は、本開示のある特定の例示的な実施形態を詳細に説明している。しかしながら、前述の事項が文章にどのように詳細に見えても、本開示は多くの手法で実践され得、本開示は添付の特許請求の範囲及びその任意の均等物に従って解釈されるべきであることを理解されたい。
【0274】
特許、特許出願、論文、テキストブックなどを含む本明細書に引用される全ての参考文献、及びそれらに引用される参考文献は、それらがまだ導入されていない範囲において、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【表4】
【配列表】
【国際調査報告】