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特表2023-524034エステル型エストリドを製造する方法及びエステル型エストリドの組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(54)【発明の名称】エステル型エストリドを製造する方法及びエステル型エストリドの組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/08 20060101AFI20230601BHJP
   C10M 105/42 20060101ALI20230601BHJP
   C07C 69/675 20060101ALI20230601BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230601BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230601BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20230601BHJP
   A61K 8/85 20060101ALI20230601BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20230601BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230601BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20230601BHJP
【FI】
C07C67/08
C10M105/42
C07C69/675
A61K47/14
A61K47/34
A61K8/37
A61K8/85
C10N40:04
C10N40:25
C10N40:20 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566052
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(85)【翻訳文提出日】2022-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2021061019
(87)【国際公開番号】W WO2021219663
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】2004219
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522178393
【氏名又は名称】トタルエナジーズ・ワンテック
【氏名又は名称原語表記】TOTALENERGIES ONETECH
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】クロゼ, デルフィーヌ
(72)【発明者】
【氏名】リモージュ, アリス
(72)【発明者】
【氏名】フェイ, ジブリル
(72)【発明者】
【氏名】トラベール, イブ
(72)【発明者】
【氏名】エルベ, グレゴワール
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4H006
4H104
【Fターム(参考)】
4C076BB31
4C076DD44
4C076EE24
4C083AC331
4C083AD091
4C083CC02
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB12
4H006AB60
4H006AC48
4H006KA06
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104BB36A
4H104BB41A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104LA03
4H104PA02
4H104PA03
4H104PA21
4H104PA41
(57)【要約】
本発明は、ヒドロキシル官能基への脂肪酸の付加反応及びアルコールによるカルボン酸官能基のエステル化反応によってヒドロキシカルボン酸からエステル型エストリドを調製する方法に関する。本発明はまた、潤滑組成物中の基油又は化粧料若しくは医薬組成物中のエモリエント剤としてのエステル型エストリドの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル型エストリドの組成物C5を調製する方法であって、上記方法は、
a)10~30個の炭素原子を有する少なくとも1つのヒドロキシカルボン酸を含む組成物C1を提供する工程と、
b)続いて、
b1)ヒドロキシカルボン酸/飽和脂肪酸のモル比を少なくとも1/2として、上記組成物C1に2~18個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和酸を含む組成物C2を導入して酸型エストリドの組成物C3を得て、続いて、上記組成物C3に1~16個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和アルコールを含む組成物C4を導入する工程、又は
b2)上記組成物C1に1~16個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和アルコールを含む組成物C4を導入してヒドロキシカルボン酸エステルの組成物C6を得て、続いて、ヒドロキシカルボン酸エステルと飽和脂肪酸とのモル比を少なくとも1/1.3として、上記組成物C6に2~18個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和酸を含む組成物C2を導入する工程と、
c)エステル型エストリドの組成物C5を得る工程と
を含む方法。
【請求項2】
上記方法が経路b1)に従って行われる場合、ヒドロキシカルボン酸と飽和脂肪酸とのモル比は1/2~1/8、好ましくは1/2~1/6であり、上記方法が経路b2)に従って行われる場合、ヒドロキシカルボン酸エステルと飽和脂肪酸とのモル比は1/1.4~1/6、好ましくは1/1.4~1/4である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記ヒドロキシカルボン酸が式(1)を有し、上記飽和脂肪酸が式(2)を有し、上記飽和アルコールが式(4)を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【化1】
(式中、
は、1~27個の炭素原子、好ましくは3~18個の炭素原子、より好ましくは5~12個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキルラジカルを表し、
は、1~27個の炭素原子、好ましくは4~22個の炭素原子、より好ましくは8~18個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の2価アルキレンラジカルを表し、
ここで、R及びRの炭素原子の総数は、8~28個、好ましくは6~24個の炭素原子、より好ましくは10~20個の炭素原子の範囲であるとして理解され、
は、1~16個の炭素原子、好ましくは1~12個の炭素原子、有利には1~10個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の1価アルキルラジカルを表し、
は、1~17個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の1価アルキルラジカル、好ましくは2~12個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキル、有利には4~12個の炭素原子を有する直鎖状のアルキルを表す。)
【請求項4】
上記エステル型エストリドの組成物C5が、式(7)
【化2】
(式中、R、R、R及びRは、請求項3と同じ定義を有する。)
を有するモノエストリドを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
脂肪酸付加反応用の触媒が、反応媒体の総重量に対して、0.01~0.1重量%、好ましくは0.02~0.08重量%の範囲の量で使用される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
b1)上記飽和酸と上記ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル官能基とを120~280℃の範囲の温度で反応させて酸型エストリドを得て、続いて、上記飽和アルコールと上記酸型エストリドの酸官能基とを120~280℃の範囲の温度で反応させてエステル型エストリドの組成物C5を得る工程、又は、
b2)上記飽和アルコールと上記ヒドロキシカルボン酸エステルの酸官能基とを120~280℃の範囲の温度で反応させて上記ヒドロキシカルボン酸と上記アルコールとのエステルを得て、続いて、上記飽和酸を上記ヒドロキシカルボン酸と上記アルコールとのエステルのヒドロキシル官能基に対して120~280℃の範囲の温度で反応させてエステル型エストリドの組成物C5を得る工程
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
経路b1)に従って行われる請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
エストリドの総重量に対して、
50重量%超~99.9重量%の式(7)を有するエステル型モノエストリド、及び
0.1重量%~50重量%未満の式(8)を有するエステル型ポリエストリド
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法によって得られるエステル型エストリドの組成物。
【化3】
(式中、
は、1~27個の炭素原子、好ましくは3~18個の炭素原子、より好ましくは5~12個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキルラジカルを表し、
は、1~27個の炭素原子、好ましくは4~22個の炭素原子、より好ましくは8~18個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の2価アルキレンラジカルを表し、
ここで、R及びRの炭素原子の総数は、8~28個、好ましくは6~24個の炭素原子、より好ましくは10~20個の炭素原子の範囲であるとして理解され、
は、1~16個の炭素原子、好ましくは1~12個の炭素原子、有利には1~10個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の1価アルキルラジカルを表し、
は、1~17個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の1価アルキルラジカル、好ましくは2~12個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキル、有利には4~12個の炭素原子を有する直鎖状のアルキルを表し、
mは、ゼロ以外の数値であり、典型的には1~4の範囲である。)
【請求項9】
請求項8に記載のエステル型エストリドの組成物の、潤滑組成物中の基油又は化粧料若しくは医薬組成物中のエモリエント剤としての使用。
【請求項10】
請求項8に記載のエステル型エストリドの組成物と、上記エステル型エストリドとは異なる少なくとも1つの基油及び/又は上記エステル型エストリドとは異なる少なくとも1つの添加剤とを含む潤滑組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
エステル型モノエストリドに対する改善された選択性及び良好な変換率を有するエステル型エストリドの組成物を調製する方法である。
【0002】
本発明はさらに、本発明に係る方法によって得られるエステル型エストリドの組成物及び潤滑組成物中の基油としてのその使用に関する。本発明に係るエステル型エストリドの組成物はまた、化粧料又は医薬組成物にも使用できる。
【背景技術】
【0003】
潤滑剤としても知られる潤滑組成物は、可動部品の表面間の摩擦を低減するために広く使用されており、これにより摩耗を低減し、上記部品の表面での劣化を防止する。潤滑剤は、典型的には基油及び1つ又は複数の機能性添加剤を含む。
【0004】
潤滑組成物がその使用中に高い応力(すなわち高圧)にさらされると、基油が炭化水素からなる潤滑組成物は劣化する傾向があり、そして部品が損傷する。
【0005】
潤滑剤製造業者は、エンジン清浄性を維持し排出を削減しながら、高まる燃費要件を満たすようにその配合物を絶えず改善しなければならない。このような要件のため、製造業者は、その配合物機能を調べたり、及び/又は性能要件を満たすことができる新たな基油を探索したりしなければならない。
【0006】
エンジンオイル、トランスミッション流体、ギアオイル、工業用潤滑油、金属加工用オイル等の潤滑剤を製造するためには、典型的には、精油所からの潤滑グレードのオイル、又は好適な石油化学流体重合物を出発物質とする。このような基油には、その特性及び性能(高められた潤滑性、耐摩耗性及び耐腐食性、並びに潤滑剤の熱及び/又は酸化への耐性等)を改善するために添加剤が混合されている。このように、酸化防止剤、腐食防止剤、分散剤、消泡剤、金属不活性化剤、及び潤滑剤配合物に使用できる他の添加剤等の様々な添加剤を従来の有効量で添加できる。
【0007】
環境への懸念及び制限から、製造業者は石油(化石)由来の供給源に代わるものを見つけなければならない。このため、植物又は動物由来の油は、基油の興味深い供給源となっている。特に、植物又は動物由来の油は、従来の方法によって酸又はエステルへと変換できる。
【0008】
基油のAPI分類では、エステルはグループV基油と呼ばれる。合成エステルは、潤滑剤中の基油としても添加剤としても使用できる。安価ではあるが環境への安全性が低い鉱油と比較して、粘度/温度挙動が厳しい要件を満たす必要がある場合には常に、合成エステルが主に基油として使用されていた。潤滑用途における原料として鉱油に代わるものを見つけることが望まれている背景には、ますます重要になっている環境への許容性及び生分解性の課題がある。
【0009】
化粧料、皮膚科及び薬局の市場では、その製品の配合に生物由来の成分がますます求められている。近年、生物起源の有効成分、乳化剤及び植物油が熱心に開発され、今では市場で広く入手可能であるが、100%有機物由来のエモリエント剤は未だ稀である。
【0010】
現在、化粧料に使用されているエモリエント剤は、石油化学由来のイソパラフィン(主にイソドデカン及びイソヘキサデカン)、ホワイトオイル、シリコーンオイル、又はエステルオイル(合成若しくは天然)のいずれかである。イソパラフィン、ホワイトオイル及びシリコーンオイルは、非常に安定であり無臭であるため広く流通しているが、再生可能な資源に由来しない。シクロメチコン等の揮発性シリコーンは、皮膚に無害なエモリエント剤及び溶剤であると長年考えられてきた(International Journal of Toxicology、10巻、1号、9~19ページ、1991)が、近年、環境、さらには人間の健康にも有害な影響を与える可能性について懸念が表明されている(特にオクタメチルシクロテトラシロキサンに関して)。
【0011】
環境への懸念及び制限から、製造業者は石油(化石)由来の供給源に代わるものを探している。このため、植物又は動物由来の油は、基油又はエモリエント剤の興味深い供給源となっている。特に、植物又は動物由来の油は、従来の方法によって酸又はエステルへと変換できる。その後、このような酸は、脂肪酸又はメチルエステルの1つ又は複数の水素化工程によって、トリグリセリド油等から不飽和アルコールへと変換できる。
【0012】
エストリド(estolide)は、潤滑剤に使用できる生物由来の生分解性基油である。
【0013】
米国特許第2015/0094246号の文献には、潤滑組成物に使用することを目的としたエストリドの組成物が記載されている。上記文献には、オレイン酸等の脂肪酸を触媒の存在下で反応させ、該反応工程に続いて、Myers 15の遠心蒸留工程を200又は300℃で12ミクロン(0.012torr)の絶対圧力下で行ってモノエストリドを除去する調製方法が記載されている。
【0014】
S.C.Cermakら、J.Am.Oil Chem.Soc.(2013)90:1895~1902には、90%のオレイン酸及び酪酸又は酢酸を含む不飽和脂肪酸の組成物からのエストリドの調製が記載されている。上記文献には、ポリエストリドからモノエストリドを真空蒸留によって分離する工程が開示されている。
【0015】
不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸エステルを触媒存在下で飽和酸と反応させると、複数の反応が競合する。このように、エストリドを形成するための目的の反応は、炭素炭素二重結合への酸官能基の付加反応である。しかしながら、エステル交換反応も生じ得る。不飽和酸又はそのエステルと不飽和脂肪酸との反応もまた、ポリエストリドを生じ得る。
【0016】
先行技術に記載される方法は、良好な変換率を保ちながらエステル型モノエストリドに対する十分な選択性を得るために使用することができない。
【0017】
出願人は、驚くべきことに、十分な変換率とともにモノエストリドに対して高い選択性を有するエストリドの組成物を得ることが可能であることを見出した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、エステル型エストリドの組成物C5の調製方法であって、上記方法は、
a)10~30個の炭素原子を有する少なくとも1つのヒドロキシカルボン酸を含む組成物C1を提供する工程と、
b)続いて、
b1)ヒドロキシカルボン酸/飽和脂肪酸のモル比を少なくとも1/2として、上記組成物C1に2~18個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和酸を含む組成物C2を導入して酸型エストリドの組成物C3を得て、続いて、上記組成物C3に1~16個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和アルコールを含む組成物C4を導入する工程、又は
b2)上記組成物C1に1~16個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和アルコールを含む組成物C4を導入してヒドロキシカルボン酸エステルの組成物C6を得て、続いて、ヒドロキシカルボン酸エステルと飽和脂肪酸とのモル比を少なくとも1/1.3として、上記組成物C6に2~18個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和酸を含む組成物C2を導入する工程と、
c)エステル型エストリドの組成物C5を得る工程と
を含む方法に関する。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、上記方法が経路b1)に従って行われる場合、ヒドロキシカルボン酸/飽和脂肪酸のモル比は1/2~1/8、好ましくは1/2~1/6の範囲であり、上記方法が経路b2)に従って行われる場合、ヒドロキシカルボン酸エステル/飽和脂肪酸のモル比は1/1.4~1/6、好ましくは1/1.4~1/4の範囲である。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、上記ヒドロキシカルボン酸が式(1)に対応し、上記飽和脂肪酸が式(2)に対応し、上記飽和アルコールが式(4)に対応する。
【化1】
(式中、
は、1~27個の炭素原子、好ましくは3~18個の炭素原子、より好ましくは5~12個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキルラジカルを表し、
は、1~27個の炭素原子、好ましくは4~22個の炭素原子、より好ましくは8~18個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の2価アルキレンラジカルを表し、
ここで、R及びRの炭素原子の総数は、8~28個、好ましくは6~24個、より好ましくは10~20個の炭素原子の範囲であるとして理解され、
は、1~16個の炭素原子、好ましくは1~12個の炭素原子、有利には1~10個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の1価アルキルラジカルを表し、
は、1~17個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の1価アルキルラジカル、好ましくは2~12個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキル、有利には4~12個の炭素原子を有する直鎖状のアルキルを表す。)
【0021】
本発明の一実施形態によれば、上記エステル型エストリドの組成物C5が、式(7)
【化2】
(式中、R、R、R及びRは、上記と同じ定義を有する。)
を有するモノエストリドを含む。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、脂肪酸付加反応用の触媒が、反応媒体の総重量に対して、0.01~0.1重量%、好ましくは0.02~0.08重量%の範囲の割合で使用される。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、上記方法は、
b1)上記飽和酸と上記ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル官能基とを120~280℃の範囲の温度で反応させて酸型エストリドを得て、続いて、上記飽和アルコールと上記酸型エストリドの酸官能基とを120~280℃の範囲の温度で反応させてエステル型エストリドの組成物C5を得る工程、又は、
b2)上記飽和アルコールと上記ヒドロキシカルボン酸エステルの酸官能基とを120~280℃の範囲の温度で反応させて上記ヒドロキシカルボン酸と上記アルコールとのエステルを得て、続いて、上記飽和酸を上記ヒドロキシカルボン酸と上記アルコールとのエステルのヒドロキシル官能基に対して120~280℃の範囲の温度で反応させてエステル型エストリドの組成物C5を得る工程
を含む。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、上記方法は、経路b1)に従って行われる。
【0025】
本発明はさらに、エストリドの総重量に対して、
・50重量%超~99.9重量%の式(7)を有するエステル型モノエストリド、及び
・0.1重量%~50重量%未満の式(8)を有するエステル型ポリエストリド
を含む、本発明に係る方法によって得られるエステル型エストリドの組成物に関する。
【化3】
(式中、
は、1~27個の炭素原子、好ましくは3~18個の炭素原子、より好ましくは5~12個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキルラジカルを表し、
は、1~27個の炭素原子、好ましくは4~22個の炭素原子、より好ましくは8~18個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の2価アルキレンラジカルを表し、
ここで、R及びRの炭素原子の総数は、8~28個、好ましくは6~24個、より好ましくは10~20個の炭素原子の範囲であるとして理解され、
は、1~16個の炭素原子、好ましくは1~12個の炭素原子、有利には1~10個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の1価アルキルラジカルを表し、
は、1~17個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の1価アルキルラジカル、好ましくは2~12個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキル、有利には4~12個の炭素原子を有する直鎖状のアルキルを表し、
mは、ゼロ以外の数値であり、典型的には1~4の範囲である。)
【0026】
本発明はさらに、本発明に係るエステル型エストリドの組成物の、潤滑組成物中の基油又は化粧料若しくは医薬組成物中のエモリエント剤としての使用に関する。
【0027】
最後に、本発明は、本発明に係るエステル型エストリドの組成物と、上記エステル型エストリドとは異なる少なくとも1つの基油及び/又は上記エステル型エストリドとは異なる少なくとも1つの添加剤とを含む潤滑組成物に関する。
【0028】
本発明に係る方法は、モノエストリドの形成に対して良好な選択性を得ることを可能にする。本発明に係る方法を用いると、モノエストリドに対する良好な選択性に加えて、少ない数の付加反応でポリエストリドを得ることができる。換言すれば、本発明に係る方法で得られるポリエストリドの少なくとも50重量%、又はさらに少なくとも70重量%、又はさらに少なくとも90重量%が、EN(エストリド数)が2に等しいポリエストリドとなり、本発明で定義されるように、ENは、モノエストリドについては1に等しく、ENは、ポリエストリドについては厳密には1より大きいとして理解される。
【0029】
本発明に係る方法は、場合によっては実施が困難となり得る工程である、モノエストリドをポリエストリドから分離する工程を省くことを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、エステル型エストリドの組成物C5の調製方法であって、上記方法は、
a)10~30個の炭素原子を有する少なくとも1つのヒドロキシカルボン酸を含む組成物C1を提供する工程と、
b)続いて、
b1)ヒドロキシカルボン酸/飽和脂肪酸のモル比を少なくとも1/2として、上記組成物C1に2~18個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和酸を含む組成物C2を導入して酸型エストリドの組成物C3を得て、続いて、上記組成物C3に1~16個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和アルコールを含む組成物C4を導入する工程、又は
b2)上記組成物C1に1~16個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和アルコールを含む組成物C4を導入してヒドロキシカルボン酸エステルの組成物C6を得て、続いて、ヒドロキシカルボン酸エステルと飽和脂肪酸とのモル比を少なくとも1/1.3として、上記組成物C6に2~18個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和酸を含む組成物C2を導入する工程と、
c)エステル型エストリドの組成物C5を調製する工程と
を含む方法に関する。
【0031】
これにより、本発明に係る方法は、典型的には、
・2~18個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和酸の酸官能基と、10~30個の炭素原子を有する少なくとも1つのヒドロキシカルボン酸又は上記ヒドロキシカルボン酸のエステルのヒドロキシル官能基との反応と、
・1~16個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和アルコールのアルコール官能基と、少なくとも1つのヒドロキシカルボン酸又は上記ヒドロキシカルボン酸から得られる酸型エストリドの酸官能基との反応とを含み、
上記飽和脂肪酸の反応は、上記飽和アルコールと上記ヒドロキシカルボン酸との反応の前(b1に従う実施形態)又は後(b2に従う実施形態)に行うことができるとして理解される。
【0032】
本発明において定義される場合、「エストリド(estolide)」とは、飽和脂肪酸のカルボン酸官能基とヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル官能基との付加反応から得られる生成物を指す。本発明における用語「エストリド」は、「モノエストリド」及び「ポリエストリド」の両方を指す。
【0033】
本発明によって定義される場合、「モノエストリド」とは、ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル官能基と飽和脂肪酸の酸官能基との単一の付加反応から得られるエストリドを指す。モノエストリドは、酸形態又はエステル形態であり得る。次いで、酸形態のモノエストリドはエステル化されて、本発明の範囲内のモノエストリドエステルが得られる。
【0034】
本発明によって定義される場合、「ポリエストリド」とは、少なくとも2つのヒドロキシカルボン酸化合物間の反応、続いて、必要に応じて飽和脂肪酸との反応から得られる生成物を指す。ポリエストリドは、不飽和化合物の酸又はエステル形態に応じて、酸形態又はエステル形態であり得る。次いで、酸形態のポリエストリドはエステル化されて、本発明の範囲内のポリエストリドエステルが得られる。
【0035】
好ましくは、本発明に係る方法は、製造されたポリエストリドから製造されたモノエストリドを分離するための真空蒸留工程を含まない。特に、本発明に係る方法は、モノエストリドをポリエストリドから分離するためのMyersの真空蒸留を含まない。
【0036】
実際、本発明に係る方法は、モノエストリドに有利な高い選択性を有し、これにより、このような蒸留工程を省くことを可能にする。
【0037】
なお、本発明に係る方法は、該方法の完了時に得られるエステル型エストリドの組成物C5から、飽和酸及び/若しくは飽和アルコール及び/若しくはヒドロキシカルボン酸、本発明に係る方法の出発試薬、又は中間体ヒドロキシカルボン酸モノエステルを分離するための1つ又は複数の操作を含み得ることに留意すべきである。このような操作は、ストリッピング操作又は蒸留操作による蒸発の工程であり得るが、ここで、このような蒸留操作は、モノエストリドをポリエストリドから分離する蒸留工程とは異なるものとして理解される。
【0038】
本発明に係る方法はさらに、本発明に係る方法から得られる生成物から均一系触媒を分離するための1つ若しくは複数の洗浄操作、又は本発明に係る方法から得られる生成物から不均一系触媒を分離するための1つ若しくは複数の濾過工程を含み得る。
【0039】
予備的事項として、以下の説明及び特許請求の範囲において、「 ~ (間)に含まれる」とは、記載された限界値を含むものとして理解されなければならないことに留意すべきである。
【0040】
ヒドロキシカルボン酸の組成物C1
本発明に係る方法は、飽和脂肪酸又は飽和アルコールとの反応のための試薬として少なくとも1つのヒドロキシカルボン酸を使用する。
【0041】
本発明によって定義される場合、ヒドロキシカルボン酸は、少なくとも1つのカルボン酸官能基(-COOH)及び少なくとも1つのヒドロキシル官能基(-OH)を含む。好ましくは、ヒドロキシカルボン酸は、単一のカルボン酸官能基及び単一のヒドロキシル官能基を含む。より好ましくは、ヒドロキシカルボン酸は、典型的にはカルボン酸官能基及びヒドロキシル官能基以外の官能基を含まない飽和酸である。
【0042】
好ましい実施形態によれば、ヒドロキシカルボン酸は、直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状のアルキル鎖を含む。
【0043】
本発明で使用されるヒドロキシカルボン酸は、10~30個の炭素原子、好ましくは12~24個の炭素原子、より好ましくは14~20個の炭素原子を有する。
【0044】
好ましい実施形態によれば、本発明で使用されるヒドロキシカルボン酸は、第二級炭素原子に保持された少なくとも1つのヒドロキシル官能基(いわゆる第二級アルコール化合物)を含む。
【0045】
一実施形態によれば、本発明で使用されるヒドロキシカルボン酸は、第二級炭素原子に保持された少なくとも1つのカルボン酸官能基を含む。
【0046】
好ましくは、ヒドロキシカルボン酸は式(1):
【化4】
(式中、
は、1~27個の炭素原子、好ましくは3~18個の炭素原子、より好ましくは5~12個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキルラジカルを表し、
は、1~27個の炭素原子、好ましくは4~22個の炭素原子、より好ましくは8~18個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の2価アルキレンラジカルを表し、
ここで、R及びRの炭素原子の総数は、8~28個、好ましくは6~24個の炭素原子、より好ましくは10~20個の炭素原子の範囲であるとして理解される。)
を有する。
【0047】
好ましくは、式(1)中、
・Rは、3~18個の炭素原子、好ましくは5~12個の炭素原子を有する直鎖状のアルキルラジカルを表し、
・Rは、4~22個の炭素原子、好ましくは8~18個の炭素原子を有する直鎖状のアルキレン2価ラジカルを表し、
ここで、R及びRの炭素原子の総数は、6~24個の炭素原子、好ましくは10~20個の炭素原子の範囲であるとして理解される。
【0048】
好ましくは、本発明で使用されるヒドロキシカルボン酸は、12-ヒドロキシステアリン酸である。
【0049】
典型的には、本発明で使用される組成物C1は、組成物C1の総重量に対して、少なくとも50重量%のヒドロキシカルボン酸、好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも75重量%、又はさらには少なくとも80重量%のヒドロキシカルボン酸を含む。
【0050】
好ましくは、本発明で使用される組成物C1は、組成物C1の総重量に対して、少なくとも50重量%のヒドロキシカルボン酸、好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、又はさらには少なくとも95重量%の12-ヒドロキシステアリン酸を含む。
【0051】
組成物C1は市販のものであってもよい。
【0052】
飽和酸の組成物C2
本発明に係る方法は、
・(組成物C1の)ヒドロキシカルボン酸の、又は
・ヒドロキシカルボン酸と飽和アルコールとのエステル(組成物C6)の
アルコール官能基に対して反応させるために、
2~18個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和酸、好ましくは5~18個の炭素原子を有する飽和脂肪酸を試薬として使用する。
【0053】
好ましくは、飽和酸は飽和一塩基酸である。
【0054】
一実施形態によれば、飽和酸は式(2):
【化5】
(式中、Rは、1~17個の炭素原子を有する1価の直鎖状又は分枝状のアルキルラジカル、好ましくは4~12個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキル、有利には5~12個の炭素原子を有する直鎖状のアルキルを表す。)
に対応する。
【0055】
飽和酸は、直鎖状又は分枝状の、好ましくは直鎖状の酸であり得る。
【0056】
好ましくは、飽和酸は飽和脂肪酸であり、5~12個の炭素原子を有する。このような鎖長により、本方法から得られるエストリドの組成物の低温特性をさらに最適化することが可能になる。
【0057】
一実施形態によれば、本発明で使用される飽和脂肪酸は、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸及びそれらの混合物から選択される。
【0058】
本発明に係る方法は、単一の飽和脂肪酸又は複数の飽和脂肪酸の混合物を使用できる。好ましくは、本発明に係る方法は、単一の飽和脂肪酸を使用する。
【0059】
また、少なくとも2つの異なる飽和脂肪酸の混合物の使用も想定できる。その割合は、エストリドの組成物に望ましい特性に従って調整され得る。
【0060】
組成物C2は、典型的には、組成物C2の総重量に対して、少なくとも70重量%の飽和脂肪酸、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、又はさらには少なくとも98重量%の飽和脂肪酸を含む。
【0061】
好ましくは、本発明で使用される組成物C2は、組成物C2の総重量に対して、少なくとも70重量%の同じ飽和脂肪酸、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、又はさらには少なくとも98重量%の同じ飽和脂肪酸を含む。
【0062】
組成物C2は市販のものであってもよく、天然由来又は合成由来のいずれでもあってもよく、好ましくは天然由来である。
【0063】
酸型エストリドの組成物C3
ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル官能基と飽和脂肪酸の酸官能基との反応によって、酸型エストリドが生じる。
【0064】
好ましくは、反応は、ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル官能基と飽和脂肪酸の酸官能基との反応を行うために、モル過剰量の飽和脂肪酸を使用する。一実施形態によれば、ヒドロキシカルボン酸/飽和脂肪酸のモル比は、1/1.5~1/6、好ましくは1/2~1/4の範囲である。
【0065】
ヒドロキシカルボン酸が式(1)によって記載され、飽和脂肪酸が式(2)によって記載される場合、酸型エストリドは式(3):
【化6】
(式中、R、R及びRは、式(1)及び(2)と同じ意味を有する。)
によって記載されることになる。
【0066】
飽和アルコールの組成物C4
本発明に係る方法は、試薬として1~16個の炭素原子を有する少なくとも1つの飽和アルコールを使用して、
・(組成物C1の)ヒドロキシカルボン酸の、又は
・(組成物C3の)酸型エストリドの
酸官能基に対して反応させる。
【0067】
好ましくは、アルコールは式(4):
【化7】
(式中、Rは、1~16個の炭素原子、好ましくは1~12個の炭素原子、有利には1~10個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の1価アルキルラジカルを表す。)
に対応する。
【0068】
一実施形態によれば、アルコールは、1~16個の炭素原子、好ましくは1~12個の炭素原子、有利には1~10個の炭素原子を有する第一級又は第二級アルコールである。
【0069】
一実施形態によれば、本発明で使用される飽和アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、3-メチルブタノール及びヘキサノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチルヘキサノール、2-メチルヘキサノール、1-デカノール、2-メチルブタノール、1-ノナノール、1-ヘプタノール及びそれらの混合物から選択される。
【0070】
本発明に係る方法は、単一の飽和アルコール又はいくつかの飽和アルコールの混合物を使用できる。好ましくは、本発明に係る方法は、単一の飽和アルコールを使用する。
【0071】
少なくとも2つの異なる飽和アルコールの混合物を使用することも想定できる。その割合は、エステル型エストリドの組成物に望ましい特性に応じて調整され得る。
【0072】
組成物C4は、典型的には、組成物C4の総重量に対して、少なくとも70重量%の飽和アルコール、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、又はさらには少なくとも98重量%の飽和アルコールを含む。
【0073】
好ましくは、本発明で使用される組成物C4は、組成物C4の総重量に対して、少なくとも70重量%の同じ飽和アルコール、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、又はさらには少なくとも98重量%の同じ飽和アルコールを含む。
【0074】
組成物C4は市販のものであってもよく、天然由来又は合成由来のいずれでもあってもよく、好ましくは天然由来である。
【0075】
ヒドロキシカルボン酸とアルコールとのエステルの組成物C6
ヒドロキシカルボン酸の酸官能基と飽和アルコールのアルコール官能基との反応によって、ヒドロキシカルボン酸とアルコールとのエステルが生じる。
【0076】
一実施形態によれば、ヒドロキシカルボン酸/飽和アルコールのモル比は、1/6~1/1、好ましくは1/2~1/1.1の範囲である。
【0077】
ヒドロキシカルボン酸が式(1)によって記載され、飽和アルコールが式(3)によって記載される場合、ヒドロキシカルボン酸エステルは式(6):
【化8】
(式中、R、R及びRは、式(1)及び(3)と同じ意味を有する。)
によって記載されることになる。
【0078】
本発明に係る方法の実施
本発明に係る方法は、2つの化学反応:
飽和アルコールの反応、及び
飽和酸の反応
を伴う。
【0079】
本発明に係る方法に含まれる2つの化学反応は、典型的には触媒の存在下で行われる。触媒は、2つの反応の各々について同一又は異なっていてもよい。触媒は、好ましくはいずれの反応についても同一である。
【0080】
触媒は、ルイス酸、例えばスズ、チタネート又は三フッ化ホウ素を含む触媒から選択され得る。
【0081】
一例として、触媒は、パラトルエンスルホン酸(p-TSA)、メタンスルホン酸(MSA)、硫酸、三フッ化ホウ素エーテラート(BF・EtO)、四塩化スズ(FASCAT 4400)、二塩化スズ(FASCAT 2004)、二塩化ジブチルスズ(FASCAT 4210)、モノブチルスズオキシド(FASCAT 4100、TIB KAT 256)、ジブチルスズオキシド(FASCAT 4201、TIB KAT 248)、ジオクチルスズオキシド(FASCAT 8201、TIB KAT 232)、モノブチルスズトリス(2-エチルヘキサノエート(FASCAT 4102)シュウ酸スズ(FASCAT 2001、TIB KAT 160)、ジブチルスズジアセテート(FASCAT 4200、TIB KAT 233)、ジオクチルスズジアセテート(TIB KAT 223)及びジオクチルスズジカルボキシレート(TIB KAT 318)であり得る。
【0082】
一実施形態によれば、本発明に係る方法の工程b)は、
b1)少なくとも1つの飽和酸をヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル官能基に対して120~280℃の範囲の温度で反応させて酸型エストリドを得て、続いて、飽和アルコールを酸型エストリドの酸官能基に対して120~280℃の範囲の温度で反応させてエステル型エストリドの組成物C5を得る工程、又は、
b2)飽和アルコールとヒドロキシカルボン酸エステルの酸官能基とを120~280℃の範囲の温度で反応させてヒドロキシカルボン酸とアルコールとのエステルを得て、続いて、少なくとも1つの飽和酸をヒドロキシカルボン酸とアルコールとのエステルのヒドロキシル官能基に対して120~280℃の範囲の温度で反応させてエステル型エストリドの組成物C5を得る工程
を含む。
【0083】
好ましい実施形態によれば、工程b)は、経路b1)に従って行われる。実際、本発明者らは、経路b1)が、エステル交換反応を低減し、エステル型エストリドの組成物C5についてより低い酸価を得るために使用できることを発見した。
【0084】
本発明に係る方法は、特に、2つの反応の完了時に、エステル型モノエストリドを主として含むエステル型エストリドの組成物を得るために使用でき、特に、本発明に係る方法の完了時に得られるエステル型エストリドの組成物は、典型的には、本方法から得られる組成物の総重量に対して、少なくとも50重量%、有利には少なくとも60重量%のエステル型モノエストリドを含む。
【0085】
米国特許第2015/0094246号の文献に記載されるような不飽和化合物を伴うエストリドの製造方法とは異なり、本発明に係る方法は、不飽和化合物の炭素炭素二重結合に対する飽和脂肪酸の付加の位置に応じて、位置異性体の混合物を生じない。実際、先行技術では、飽和脂肪酸が不飽和化合物の炭素炭素二重結合の炭素原子の一方又は他方に対して反応する可能性があり、これにより、次いで2つのモノエストリド位置異性体が生じる。さらに、不飽和化合物の一部が異性化される可能性があり、これにより、炭素炭素二重結合が不飽和化合物の一部について位置を変える可能性がある。実際、先行技術では、飽和脂肪酸が不飽和化合物の炭素炭素二重結合の炭素原子の一方又は他方に対して反応する可能性があり、これにより、次いで2つの異性体が生じる。また、反応条件下では、上記二重結合はアルキル鎖に沿って移動する可能性があり、これにより、官能基化の位置が異なる多数の異性体が生じ、ラクトンが形成される可能性がある。
【0086】
先行技術のこのような方法とは対照的に、本発明に係る方法は、飽和脂肪酸の付加反応がヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル官能基によって固定される位置でのみ選択的に行われる限り、位置異性体を含まないエストリドの組成物を生じる。
【0087】
本方法の完了時に得ることができるエステル型モノエストリドは、式(7):
【化9】
(式中、
、R、R及びRは、式(1)、(2)及び(3)と同じ定義を有する。)
によって表され得る。
【0088】
好ましくは、本発明に係る方法は、本方法の完了時に得られるエストリドの組成物を水素化するその後の工程を含まない。
【0089】
「本方法から得られる組成物」とは、反応の反応物、生成物及び副産物を指すべきである。本方法から得られる組成物を命名するときに触媒は考慮されない。したがって、一般的に、触媒を反応媒体から分離して、本方法から得られるエストリドの組成物を得ることが適切である。
【0090】
本方法は、連続的に又は半連続的に又は数回に分けて行われ得る。
【0091】
一実施形態によれば、本発明に係る方法は、ヒドロキシカルボン酸及び飽和脂肪酸のバッチ添加(すべての試薬を同時添加)又は分割添加(分割して又は漸進的若しくは連続的に試薬を添加)を使用する。
【0092】
経路b1)に従う一実施形態によれば、触媒の存在下でのヒドロキシカルボン酸と飽和脂肪酸との反応は、以下の条件の1つ又は複数に従って行われる。
・ヒドロキシカルボン酸と飽和脂肪酸とのモル比が、1/2~1/8、好ましくは1/2~1/6の範囲である。
・脂肪酸付加反応用の触媒が、反応媒体の総重量に対して、0.01~0.1重量%、好ましくは0.02~0.08重量%の範囲の割合で使用される。
【0093】
経路b2)に従う一実施形態によれば、触媒の存在下でのヒドロキシカルボン酸エステルと飽和脂肪酸との反応は、以下の条件の1つ又は複数に従って行われる。
・ヒドロキシカルボン酸エステルと飽和脂肪酸とのモル比が、1/1.3~1/6、好ましくは1/1.4~1/4の範囲である。
・脂肪酸付加反応用の触媒が、反応媒体の総重量に対して、0.01~0.1重量%、好ましくは0.02~0.08重量%の範囲の割合で使用される。
【0094】
反応の進行は、当業者に知られた方法に従って、水素炎イオン化検出器に連結したガスクロマトグラフィー(GC-FID)によって監視できる。
【0095】
本発明によって定義される場合、変換率は、反応したヒドロキシカルボン酸の重量を指し、選択性は、形成された生成物の総重量に対する形成されたモノエストリドの重量を指す(したがって、選択性の計算は、反応物又は触媒を考慮に入れない)。
【0096】
本方法の完了時に得られるエストリドの組成物はさらに、副生成物(「二次生成物」とも呼ばれる)、例えば式(8)を有するポリエストリドを含み得る。
【0097】
一実施形態によれば、本発明に係る方法は、式(8)を有するポリエストリドを得るために使用できる。
【化10】
(式中、
、R、R及びRは、式(1)、(2)及び(4)と同じ定義を有し、
mは、ゼロ以外の数値であり、典型的には1~4の範囲であってもよい。)
【0098】
本発明に係る方法を用いると、モノエストリドに対する非常に良好な選択性に加えて、少ない数の付加反応でポリエストリドを得ることができる。換言すれば、本発明に係る方法で得ることができるポリエストリドの少なくとも50重量%、又はさらには少なくとも70重量%、又はさらには少なくとも90重量%が、mが1に等しいポリエストリドとなる。
【0099】
本方法の完了時に得られるエストリドの組成物は、有利には、ASTM D445規格に従って測定した場合、40℃における動粘度が5~100mm/s、好ましくは10~50mm/s、有利には15~40mm/sの範囲である。
【0100】
本方法の完了時に得られるエストリドの組成物は、有利には、15mgKOH/g以下、好ましくは5mgKOH/g以下、さらにより好ましくは3mgKOH/g以下の酸価を有する。酸価は、ASTM D974規格に従って求めることができる。
【0101】
エストリドの形成反応(ヒドロキシカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸エステルへの飽和脂肪酸の付加反応)の完了時に得られるエストリドの組成物は、典型的には、モノエストリド及びポリエストリドを含むエストリドの総重量に対して、
・50重量%超~99.9重量%のモノエストリド、及び
・0.1~50重量%未満のポリエストリド
を含む。
【0102】
なお、エストリドの組成物は、エストリドの組成物の総重量に対して、0.1~30重量%の未反応反応物又はインサイチューで形成され得るヒドロキシカルボン酸エステルを含む可能性があることに留意すべきである。
【0103】
特に、本方法が経路b2)に従って行われる場合、エステル交換反応が起こり得る。実際、飽和脂肪酸をヒドロキシカルボン酸エステルと反応させると(経路b2)、エステル交換反応が起こって、副生成物を形成する可能性がある。ヒドロキシカルボン酸が式(1)によって記載され、飽和脂肪酸が式(2)によって記載され、脂肪族アルコールが式(4)によって記載される場合、副生成物は式(5)及び(3):
【化11】
(式中、R、R、R及びRは、式(1)、(2)及び(4)と同じ定義を有する。)
によって記載され得る。
【0104】
なお、経路b2)に従うと、式(3)を有する副生成物が第2のエステル化反応中に形成され得るが、経路b1)に従うとこれは対象の中間生成物のことであることに留意すべきである。
【0105】
本発明に係る方法はさらに、エストリドの形成のための反応の後に、飽和脂肪酸、ヒドロキシカルボン酸及び/又はヒドロキシカルボン酸エステル等の反応しなかった試薬が、エストリドの組成物から除去される分離工程を含み得る可能性がある。本発明によって定義される場合、エストリドは試薬ではない。
【0106】
エストリドの組成物
本発明の主題はさらに、エステル型エストリドの組成物自体、及び本発明に係る方法によって得ることができるエストリドの組成物に関する。
【0107】
本発明に係るエステル型エストリドの組成物は、典型的には、モノエストリド及びポリエストリドを含むエストリドの総重量に対して、
・50重量%超~99.9重量%、好ましくは55~99重量%、より好ましくは60~98重量%のモノエストリド、及び
・0.1~50重量%未満、好ましくは1~45重量%、より好ましくは2~40重量%のポリエストリド
を含む。
【0108】
本発明に係るエストリドの組成物は、有利には、ASTM D445規格に従って測定した場合、40℃における動粘度が5~100mm/s、好ましくは10~50mm/s、有利には15~40mm/sの範囲である。
【0109】
本発明に係るエストリドの組成物は、有利には、13g/100g以下のヨウ素、好ましくは10g/100g以下のヨウ素、有利には8g/100g以下のヨウ素であるヨウ素価を有する。ヨウ素価は、ASTM D974規格に従って求めることができる。
【0110】
本発明に係るエストリドの組成物は、有利には、15mgKOH/g以下、好ましくは5mgKOH/g以下、さらに好ましくは3mgKOH/g以下の酸価を有する。酸価は、ASTM D974規格に従って求めることができる。
【0111】
一実施形態によれば、典型的には本方法が経路b2)に従って行われる場合、エステル型エストリドの組成物は、エストリドの組成物の総重量に対して、
・50~99.8重量%、好ましくは55~90重量%、より好ましくは55~80重量%のモノエストリドと、
・0.1~30重量%、好ましくは5~25重量%、より好ましくは10~25重量%のポリエストリドと、
・0.1~30重量%、好ましくは1~25重量%、より好ましくは5~25重量%の、ヒドロキシカルボン酸エステル、飽和脂肪酸と飽和脂肪族アルコールとのエステル及びそれらの混合物から選択されるエステルと
を含む。
【0112】
本発明の一実施形態によれば、典型的には本方法が経路b1)に従って行われる場合、エストリドの組成物は、エストリドの総重量に対して、
55~99.9重量%、好ましくは60~95重量%、より好ましくは65~90重量%の式(7)に対応するモノエストリド、及び
0.1~45重量%、好ましくは5~40重量%、より好ましくは10~35重量%の式(8)に対応するポリエストリド
を含む。
【0113】
本発明の一実施形態によれば、典型的には本方法が経路b2)に従って行われる場合、エストリドの組成物は、エストリドの組成物の総重量に対して、
50~99.8重量%、好ましくは55~90重量%、より好ましくは55~80重量%の式(7)に対応するモノエストリドと、
0.1~30重量%、好ましくは5~25重量%、より好ましくは10~25重量%の式(8)(好ましくは、式中、nが1に等しい)によって記載されるポリエストリドと、
0.1~30重量%、好ましくは1~25重量%、より好ましくは5~25重量%の、式(5)によって記載されるエステル及び式(3)によって記載されるエステルから選択されるエステルと
を含む。
【0114】
本発明の一実施形態によれば、典型的には本方法が経路b1)に従って行われる場合、エストリドの組成物は、エストリドの総重量に対して、
55~99.9重量%、好ましくは60~95重量%、より好ましくは65~90重量%の式(7)を有するモノエストリド、及び
0.1~45重量%、好ましくは5~40重量%、より好ましくは10~35重量%の式(8)を有するポリエストリド
を含む。
【0115】
用途
本発明に係る方法は、モノエストリドに有利な高い選択性を示すエストリドの組成物を得るために使用できる。したがって、本発明に係るエストリドの組成物は、潤滑組成物中の基油として使用できる。エストリドの組成物は、本発明に係る方法で定義される付加反応の後に、モノエストリドをポリエストリドから分離する事前の蒸留工程なしで、潤滑組成物中に使用できる。
【0116】
エストリドの組成物は、単独の基油として潤滑組成物中に使用できるが、有利には他の基油と組合せて使用できる。「他の基油」とは、エストリドとは異なる基油として理解されるべきである。
【0117】
本発明に係るエストリドの組成物を含む潤滑組成物は、車両の様々な部品、特にエンジン若しくは車両トランスミッションの様々な部品、又は船舶エンジン若しくは産業機械用(例えば公共事業用)エンジンの様々な部品を潤滑するために使用できる。
【0118】
得ることができるエストリドの組成物はさらに、単独で又は他の脂肪物質と組合せて、化粧料又は医薬組成物のエモリエント剤として使用できる。「他の脂肪物質」とは、本発明に係るエストリドとは異なる脂肪物質として理解されるべきである。
【0119】
本発明に係るエストリドの組成物を含む化粧料又は医薬組成物は、典型的には皮膚、爪、唇、髪及び頭皮への局所適用に使用できる。
【0120】
本発明の更なる主題は、スキンケア製品(美容液、クリーム、バーム等)として、衛生製品として、サンケア/アフターサン製品として、メイクアップ製品として、メイク落とし製品として、香料製品として、制汗剤製品としての本発明に係るエストリドの組成物の化粧的又は医薬的使用である。
【0121】
本発明はさらに、本発明に係るエストリドの組成物を皮膚、爪、唇、髪又は頭皮に適用する少なくとも1つの工程を含む、皮膚、爪、唇、髪又は頭皮を処置する化粧的又は医薬的方法に関する。
【0122】
最後に、本発明はさらに、本発明に係るエストリドの組成物を皮膚、爪、唇、髪又は頭皮に、好ましくは塗布することによって適用する少なくとも1つの工程を含む化粧的処置方法を包含する。
【0123】
潤滑組成物
本発明はさらに、本発明に係るエステル型エストリドの組成物と、少なくとも1つの添加剤及び/又は少なくとも1つの他の基油とを含む潤滑組成物に関する。
【0124】
そのような他の基油は、合成若しくは天然の鉱油、動物若しくは植物油、又はそれらの混合物等の潤滑油の分野で従来から使用されている基油から選択され得る。
【0125】
本発明に係る潤滑組成物中に使用される他の基油は、API分類によって定義されるクラスに従うグループI~V(又はATIEL分類に従うそれらと同等のもの)に属する以下に表1に示される鉱物由来若しくは合成由来の油又はそれらの混合物であり得る。
【0126】
【表1】
【0127】
他の鉱物基油としては、原油の常圧蒸留及び真空蒸留に続いて、溶媒抽出、脱アスファルト、溶媒脱ロウ、水素化処理、水素化分解、水素異性化及び水素化仕上げ等の精製操作によって得られる任意の種類の基油が挙げられる。
【0128】
さらに、生物起源であってもよい合成油及び鉱油の混合物も使用できる。
【0129】
本発明に係る潤滑組成物の他の基油はさらに、特定のカルボン酸エステル及びアルコールエステル、ポリアルファオレフィン(PAO)、並びに2~8個の炭素原子、特に2~4個の炭素原子を有するアルキレンオキシドの重合又は共重合によって得られるポリアルキレングリコール(PAG)等の合成油から選択され得る。
【0130】
他の基油として使用されるPAOは、例えば、4~32個の炭素原子を有するモノマー、例えばオクテン又はデセンから得られる。PAOの重量平均分子量はかなり著しく異なり得る。好ましくは、PAOの重量平均分子量は600Da未満である。PAOの重量平均分子量はさらに、100~600Da、150~600Da、又はさらには200~600Daの範囲であり得る。有利には、低粘度用途を対象とする場合、典型的にはPAO2及び/又はPAO4が選択される。
【0131】
有利には、本発明に係る潤滑組成物の他の基油又は油は、ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリアルキレングリコール(PAG)及びカルボン酸とアルコールとのエステルから選択される。
【0132】
別の実施形態によれば、本発明に係る潤滑組成物の他の基油又は油は、グループII又はIIIの基油から選択され得る。当業者は、潤滑組成物中に使用される基油の含有量を調整しなければならない。
【0133】
一実施形態によれば、本発明に係る潤滑組成物は、本発明に係る潤滑組成物の総重量に対して、
・5~95重量%、好ましくは10~70重量%、有利には15~50重量%の本発明に係るエステル型エストリドの組成物、及び
・5~95重量%、好ましくは30~90重量%、有利には50~85重量%の1つ又は複数の他の基油
を含む。
【0134】
一実施形態によれば、潤滑組成物の添加剤は、摩擦調整剤、清浄剤、摩耗防止添加剤、極圧添加剤、分散剤、酸化防止剤、流動点降下剤、消泡剤、金属不動態化剤及びそれらの混合物から選択される。このような添加剤は、機械部品の潤滑の分野の当業者に周知である。
【0135】
このような添加剤は、別々に導入でき、並びに/又は、当業者に周知の、ACEA(欧州自動車工業会)及び/若しくはAPI(米国石油協会)によって定義される性能レベルを有する、車両エンジン用の市販の潤滑剤配合物用に既に販売されている添加剤と同様の混合物として導入できる。
【0136】
本発明に係る潤滑組成物はさらに、少なくとも1つの摩擦調整添加剤を含み得る。摩擦調整添加剤は、金属元素を与える化合物及び無灰化合物から選択され得る。金属元素を与える化合物としては、Mo、Sb、Sn、Fe、Cu、Zn等の遷移金属の錯体が挙げられ、それらの配位子は酸素、窒素、硫黄又はリン原子を有する炭化水素化合物であり得る。無灰摩擦調整添加剤は一般的に有機物由来であり、脂肪酸とポリオールとのモノエステル、アルコキシル化アミン、アルコキシル化脂肪族アミン、脂肪族エポキシド、脂肪族エポキシドボレート;脂肪族アミン又は脂肪酸グリセロールエステルから選択され得る。本発明によれば、脂肪族化合物は、10~24個の炭素原子を有する少なくとも1つの炭化水素基を含む。
【0137】
本発明に係る潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量に対して、0.01~2重量%又は0.01~5重量%、好ましくは0.1~1.5重量%又は0.1~2重量%の摩擦調整添加剤を含み得る。
【0138】
本発明に係る潤滑組成物は、少なくとも1つの酸化防止添加剤を含み得る。
【0139】
酸化防止添加剤は、一般的に、使用中の組成物の劣化を遅延させることを可能にする。このような劣化は、スラッジの存在下又は組成物の粘度の上昇において、堆積物形成として現れることが最も多い。
【0140】
酸化防止添加剤は、特に、ヒドロペルオキシドのラジカル阻害剤又は破壊剤として作用する。慣用の酸化防止添加剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン酸化防止添加剤、リン硫黄酸化防止添加剤が挙げられる。このような酸化防止添加剤のいくつか、例えばリン硫黄酸化防止添加剤は、灰を発生させ得る。フェノール系酸化防止添加剤は、無灰であるか、又は中性若しくは塩基性金属塩の形態であり得る。酸化防止添加剤は、特に、立体障害フェノール、立体障害フェノールエステル、及びチオエーテル架橋を含む立体障害フェノール、ジフェニルアミン、少なくとも1つのC1~C12アルキル基で置換されたジフェニルアミン、N,N’-ジアルキル-アリール-ジアミン及びそれらの混合物から選択され得る。
【0141】
好ましくは、本発明によれば、立体障害フェノールは、アルコール官能基を持つ炭素原子に隣接する炭素の少なくとも1つが少なくとも1つのC1~C10アルキル基、好ましくはC1~C6アルキル基、好ましくはC4アルキル基、好ましくはtert-ブチル基によって置換されたフェノール基を含む化合物から選択される。
【0142】
アミン化合物は、必要に応じて、フェノール系酸化防止添加剤と組合せて使用できる別のクラスの酸化防止添加剤である。アミン化合物の例としては、芳香族アミン、例えば式NQ1Q2Q3[式中、Q1は脂肪族基又は置換されていてもよい芳香族基を表し、Q2は置換されていてもよい芳香族基を表し、Q3は水素原子、アルキル基、アリール基又は式Q4S(O)ZQ5Q4(式中、Q4はアルキレン又はアルケニレン基を表し、Q5はアルキル基、アルケニル基又はアリール基を表し、zは0、1又は2を表す。)の基を表す。]を有する芳香族アミンが挙げられる。
【0143】
硫黄アルキルフェノール又はそのアルカリ若しくはアルカリ土類金属塩が、酸化防止添加剤としてさらに使用できる。
【0144】
別のクラスの酸化防止添加剤は銅化合物のクラスであり、例えばチオ-又はジチオ-リン酸銅、銅塩及びカルボン酸塩、ジチオカルバミン酸銅、スルホン酸銅、銅フェネート、アセチルアセトン酸銅等が挙げられる。銅(I)及び(II)塩、コハク酸塩又は無水コハク酸塩も同様に使用できる。
【0145】
本発明に係る潤滑組成物はさらに、当業者に知られた任意の種類の酸化防止剤を含み得る。
【0146】
有利には、本発明に係る潤滑組成物は、少なくとも1つの無灰酸化防止添加剤を含む。
【0147】
本発明に係る潤滑組成物は、組成物の総重量に対して、0.5~2重量%の少なくとも1つの酸化防止添加剤を含み得る。
【0148】
本発明に係る潤滑組成物はさらに、少なくとも1つの清浄添加剤を含み得る。
【0149】
清浄添加剤は、一般的に、酸化及び燃焼副生成物を溶解することによって、金属部品の表面への堆積物の形成を低減する。
【0150】
本発明に係る潤滑組成物に使用できる清浄添加剤は、一般的に当業者に知られている。清浄添加剤は、長い親油性炭化水素鎖及び親水性頭部を含むアニオン性化合物であり得る。会合するカチオンは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属カチオンであり得る。
【0151】
清浄添加剤は、好ましくは、カルボン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、スルホネート、サリシレート、ナフテネート並びにフェネート塩から選択される。アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、好ましくはカルシウム、マグネシウム、ナトリウム又はバリウムである。
【0152】
このような金属塩は、一般的に、化学量論量、又は過剰量、すなわち化学量論量よりも高い濃度で金属を含む。したがって、これらは過塩基性清浄剤であり、清浄添加剤に過塩基性を付与する過剰量の金属は、一般的に、油不溶性金属塩、例えば炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩、好ましくは炭酸塩の形態である。
【0153】
本発明に係る潤滑組成物は、組成物の総重量に対して、2~4重量%の清浄添加剤を含み得る。
【0154】
同様に、本発明に係る潤滑組成物は、本発明に従って定義されるスクシンイミド系化合物とは異なる少なくとも1つの分散剤を含み得る。
【0155】
分散剤は、マンニッヒ塩基、スクシンイミド、例えばポリイソブチレンスクシンイミドから選択され得る。
【0156】
本発明に従って使用される潤滑組成物は、組成物の総重量に対して、例えば0.2~10重量%の、本発明に従って定義されるスクシンイミド系化合物とは異なる分散剤を含み得る。
【0157】
本発明に係る潤滑組成物はまた、少なくとも1つの摩耗防止及び/又は極圧剤を含み得る。
【0158】
多種多様な摩耗防止添加剤が存在する。好ましくは、本発明に係る潤滑組成物について、摩耗防止添加剤は有機リン酸エステルから選択される。これらは、灰を形成せず、熱的に安定しているという利点がある。例えば、金属アルキルチオホスフェート、特に亜鉛アルキルチオホスフェート、より具体的には亜鉛ジアルキルジチオホスフェート又はZnDTP等のリン-硫黄添加剤が挙げられる。好ましい化合物は、式Zn((SP(S)(OQ6)(OQ7))2(式中、Q6及びQ7は、同一又は異なって、独立して、アルキル基、好ましくは1~18個の炭素原子を有するアルキル基を表す。)を有する。
【0159】
アミンホスフェートもまた、本発明に係る潤滑組成物中に使用できる摩耗防止及び極圧添加剤である。しかしながら、このような添加剤によって与えられるリンは、灰を発生するため、自動車の触媒システム中で毒として作用する可能性がある。このような影響は、アミンホスフェートを、例えばポリスルフィド、特に硫黄含有オレフィン等のリンを送達しない添加剤で部分的に置換することによって最小限に抑えることができる。
【0160】
本発明に係る潤滑組成物は、組成物の総重量に対して、0.01~15重量%、好ましくは0.1~10重量%、好ましくは1~5重量%の摩耗防止剤を含み得る。
【0161】
本発明に係る潤滑組成物はさらに、少なくとも1つの消泡添加剤を含み得る。
【0162】
消泡添加剤は、ポリアクリレート、ポリシロキサン又はそれらのハイブリッドから選択され得る。
【0163】
本発明に係る潤滑組成物は、組成物の総重量に対して、0.01~2重量%又は0.01~5重量%、好ましくは0.1~1.5重量%又は0.1~2重量%の消泡添加剤を含み得る。
【0164】
本発明に好適な潤滑組成物はさらに、少なくとも1つの流動点降下添加剤(PPD剤としても知られる)を含み得る。
【0165】
流動点降下添加剤は、一般的に、パラフィン結晶の形成を遅らせることによって、低温条件下での組成物の挙動を改善する。流動点降下添加剤の例としては、アルキルポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ポリアルキルフェノール、ポリアルキルナフタレン、アルキルポリスチレンが挙げられる。
【0166】
本発明に係る潤滑組成物は、本発明に係る潤滑組成物の総重量に対して、
・5~94.9重量%、好ましくは10~70重量%、有利には15~50重量%の本発明に係るエステル型エストリドの組成物と、
・5~94.9重量%、好ましくは30~90重量%、有利には50~85重量%の1つ又は複数の他の基油と、
・0.1~15重量%、好ましくは0.5~10重量%、有利には1~5重量%の、摩擦調整剤、粘度指数調整剤、清浄剤、分散剤、摩耗防止及び/又は極圧添加剤、酸化防止剤、流動点降下剤、消泡添加剤並びにそれらの混合物から選択される1つ又は複数の添加剤と
を含み得る。
【0167】
本発明に係る潤滑組成物は、潤滑組成物の構成成分を混合することによって得ることができる。本発明はさらに、以下の工程:
・上記の方法に従ってエステル型エストリドの組成物を調製する工程、及び
・少なくとも1つの他の基油及び/又は少なくとも1つの添加剤をエストリドの組成物と混合する工程
を含む潤滑組成物の調製方法に関する。
【0168】
好ましくは、本発明に係る潤滑組成物を調製する方法は、混合工程の前に、エストリドの組成物を調製する工程中に形成された生成物を分離するための中間工程を含まない。好ましくは、本発明に係る潤滑組成物を調製する方法は、水素化工程、特に、エストリドの組成物を調製する工程の完了時に得られるエステル型エストリドの組成物の水素化の工程を含まない。
【0169】
潤滑組成物を調製する方法で使用される他の基油及び添加剤は、本発明に係る潤滑組成物の枠内で上述した特徴の1つ又は複数を有し得る。
【0170】
この調製方法によって得られる潤滑組成物は、本発明に係る潤滑組成物の文脈内で上述した特徴の1つ又は複数を有し得る。
【0171】
化粧料又は医薬組成物
本発明の更なる主題は、(I)本発明に係るエストリドの組成物と、(ii)少なくとも1つの脂肪物質及び/又は(iii)少なくとも1つの化粧料添加物とを含む化粧料又は医薬組成物である。
【0172】
好ましくは、化粧料又は医薬組成物に使用されるエストリドの組成物は、エストリドの組成物の枠内において上記で定義された特徴の1つ又は複数を有する。
【0173】
脂肪物質は、生物又は石油化学由来の炭化水素油、植物油、植物性バター、脂肪族エーテル及びアルコール、油性エステル(本発明に係るエストリドとは異なる)、アルカン並びにシリコーン油から選択され得る。
【0174】
炭化水素油は、石油化学法由来の脂肪物質である。鉱油、イソパラフィン、ワックス、パラフィン、ポリイソブテン又はポリデセンが例として挙げられる。
【0175】
植物油の例としては、小麦胚芽油、ヒマワリ種子油、ブドウ種子油、ゴマ油、トウモロコシ油、アプリコット油、ヒマシ油、シア及びアボカド油、オリーブ油、大豆油、スイートアーモンド油、パーム油、ナタネ油、綿実油、ヘーゼルナッツ油、マカダミア油、ホホバ油、アルファルファ油、ケシ油、カボチャ油、ゴマ油、スカッシュ油、ナタネ油、ブラックカラント油、月見草油、キビ油、オオムギ油、キノア油、ライ麦油、ベニバナ油、バナナ油、トケイ草油、マスカットローズ油又はツバキ油が挙げられる。植物性バターは、植物油と同じ特性を持つ脂肪物質である。両者の違いは、バターは室温で固体形態にあるという点にある。また、植物油とは異なり、バターが抽出される原料(パルプ、種子又はアーモンド)は、脂肪の抽出のために粉砕された後に加熱される。植物油と同様に、バターは、より良い保存性を確保し、臭気を中和し、色及びコンシステンシーを改善するために精製され得る。酸化防止物質が豊富で栄養価が高いため、植物性バターの美容特性は、皮膚の弾力性を改善し、表皮に保護膜を残して外部からの攻撃に対して保護し、それにより脱水を低減し、修復し、肌の天然のハイドロリピッドフィルム(hydrolipidic film)を再生させて鎮静させる。植物性バターの例としては、シアバター、ココアバター、マンゴーバター、サラソウジュバター及びオリーブバターが挙げられる。
【0176】
エーテル及び脂肪族アルコールは、膜形成性、エモリエント性、保湿性、柔軟性及び保護性等の優れた特性を有する長鎖ワックス状脂肪物質である。それらは保湿油及び乳化剤として作用する。脂肪族アルコール又はエーテルの例としては、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、アウリル(auryl)アルコール、ベヘニルアルコール、セテアリルアルコール、ジカプリリルエーテル、ステアリルエーテル又はオクチルドデカノール(INCI名によって識別される)が挙げられる。
【0177】
油性エステル又はエステル化油(本発明のエストリドとは異なるもの)は、脂肪酸(ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等のより長い鎖を有する酸)とアルコール(脂肪族アルコール又はポリオール、例えばグリセロール)との反応の生成物である。これらの油は、パルミチン酸イソプロピルの場合と同様に、石油化学製品に由来する物質を含み得る。油性エステルの例としては、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、(カプリル酸/カプリン酸)ヤシアルキル、オレイルエルケート、オレイルリノレアート、デシルオレアート又はPPG-3ベンジルエーテルミリステート(INCI名によって識別される)が挙げられる。
【0178】
シリコーン又はポリシロキサン油は、少なくとも1つのケイ素原子、特に少なくとも1つのSi-O基を含む油を意味するとして理解される。シリコーン油としては、特にフェニルプロピルジメチルシロキシケイ酸、ジメチコン又はシクロペンタシロキサン(INCI名によって識別される)が挙げられる。
【0179】
脂肪物質及びエストリドの組成物とは異なる添加剤は、考慮される分野、特に化粧料、皮膚科又は医薬の分野で通常使用される任意のアジュバント又は添加剤から選択され得る。当業者であれば、本発明に係るエモリエント剤組成物に本質的に関連する有利な特性が、想定される添加によって悪影響を受けない又は実質的に受けないように、注意して本発明に係る組成物の任意選択の添加剤を選択するであろう。(その水溶性又は脂溶性に応じて)含まれ得る従来のアジュバントのなかでも、特に、10を超えるHLBを有するアニオン性(ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルリン酸ナトリウム、トリデセス硫酸ナトリウム等)、両性(アルキルベタイン、ココアンホジ酢酸2ナトリウム等)又はノニオン性発泡性界面活性剤(POE/PPG/POE、アルキルポリグルコシド、ポリグリセリル-3-ヒドロキシラウリルエーテル等);保存剤;金属イオン封鎖剤(EDTA);酸化防止剤;香料;可溶性染料、顔料及び真珠層等の着色材;つや消し、引き締め、漂白又は角質除去用増量剤;皮膚の美容特性を改善する効果を有する親水性又は親油性の化粧料活性剤、電解質;親水性又は親油性のアニオン性、ノニオン性、カチオン性又は両性ポリマー、増粘剤、ゲル化剤又は分散剤;カフェイン等のスリミング剤;蛍光増白剤;抗脂漏性化合物;並びにそれらの混合物が挙げられる。これらの様々な化粧料アジュバントの量は、考慮中の分野で従来使用されている量であり、例えば、化粧料組成物は、組成物の総重量に対して全含有量が0.01~20重量%の範囲の添加剤を含む。
【0180】
本発明の化粧料、皮膚用又は医薬組成物が皮膚用又は医薬組成物である場合、上記組成物は、1つ又は複数の治療有効成分を含み得る。本発明の皮膚用又は医薬組成物に使用できる有効成分としては、例えば、日焼け止め剤;ビタミンA(レチノール)、ビタミンE(トコフェロール)、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンB5(パンテノール)、ビタミンB3(ナイアシンアミド)等の水溶性又は脂溶性ビタミン、これらのビタミンの誘導体(特にエステル)及びそれらの混合物;防腐剤;2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテル(又はトリクロサン)、3,4,4’-トリクロロカルバニリド(又はトリクロカルバン)等の抗菌活性剤;過酸化ベンゾイル、ナイアシン(ビタミンPP)等の抗菌剤;並びにそれらの混合物が挙げられる。
【0181】
このような化粧料又は医薬組成物は、生理学的に許容される媒体、すなわち、有害な副作用がなく、特に使用者に許容できない赤み、加温、引攣又は刺痛を生じない媒体を含む。
【0182】
一実施形態によれば、化粧料、皮膚用又は医薬組成物は、化粧料又は医薬組成物の総重量に対して、0.5~80重量%、好ましくは1~50重量%、有利には5~30重量%の範囲の本発明に係るエストリドの組成物の含有量を有する。
【0183】
本発明の一実施形態によれば、化粧料又は医薬組成物は、化粧料又は医薬組成物の総重量に対して、
・0.5~80重量%、好ましくは1~50重量%、有利には5~30重量%の本発明に係るエストリドの組成物と、
・0~90重量%、好ましくは5~80重量%、有利には10~70重量%、好ましくは20~60重量%、有利には30~50重量%の脂肪物質と、
・0~20重量%の添加剤と、
・0~20重量%の治療有効成分と
を含み、
組成物は、少なくとも1つの添加剤又は少なくとも1つの脂肪物質を含むとして理解されるべきである。
【0184】
本発明の一実施形態によれば、化粧料又は医薬組成物は、化粧料又は医薬組成物の総重量に対して、
・0.5~80重量%、好ましくは1~50重量%、有利には5~30重量%の本発明に係るエストリドの組成物と、
・0~90重量%、好ましくは5~80重量%、有利には10~70重量%、好ましくは20~60重量%、有利には30~50重量%の、生物又は石油化学由来の炭化水素油、植物油、植物性バター、脂肪族エーテル及びアルコール、油性エステル(エストリド以外)、アルカン並びにシリコーン油から選択される脂肪物質と、
・0~20重量%の、10を超えるHLBを有するアニオン性、両性又はノニオン性発泡性界面活性剤;保存剤;金属イオン封鎖剤;酸化防止剤;香料;着色材;つや消し、引き締め、漂白又は角質除去用増量剤;皮膚の美容特性を改善する効果を有する親水性又は親油性の化粧料有効成分、電解質;親水性又は親油性のアニオン性、ノニオン性、カチオン性又は両性ポリマー、増粘剤、ゲル化剤又は分散剤;スリミング剤;蛍光増白剤;抗脂漏性化合物;及びそれらの混合物から選択される添加剤と、
・任意選択で0~20重量%の治療有効成分と
を含み、
組成物は、少なくとも1つの添加剤又は少なくとも1つの脂肪物質を含むとして理解されるべきである。
【0185】
したがって、本発明に係る化粧料又は医薬組成物は、無水組成物、油中水型(W/O)エマルション、水中油型(O/W)エマルション又は多重エマルション(特にW/O/W若しくはO/W/O)、ナノエマルション等のエマルション、あるいは分散液であり得る。
【0186】
本発明に係る化粧料又は医薬組成物は、ある程度ソフトなクリーム又は気化性のエマルションの形態である。それは、例えば、メイクを落とすため、又は皮膚、唇を洗浄するための組成物、アフターサン組成物、皮膚をマッサージするための組成物、シャワーバーム組成物、制汗剤組成物、マスク組成物、修復バーム組成物、顔及び手の両方のためのスクラブ及び/若しくは角質除去組成物(角質除去粒子を含む場合)、メイクアップ組成物、シェービング組成物、アフターシェーブバーム組成物、香料組成物、拭き取り用組成物又は気化性組成物を含み得る。
【0187】
本発明に係る化粧料又は医薬組成物はまた、少なくとも1つの日焼け止め剤を含む場合、日焼け止め剤組成物を含み得る。
【0188】
本発明に係る化粧料又は医薬組成物は、美容効果のみを与える場合、化粧料組成物である。典型的には、本発明に係る化粧料組成物は、治療活性剤を含まない。
【0189】
一方、本発明に係る化粧料又は医薬組成物は、治療効果を与える場合、皮膚用又は医薬組成物である。典型的には、本発明に係る皮膚用又は医薬組成物は、例えば、日焼け止め剤;防腐剤;2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテル(又はトリクロサン)、3,4,4’-トリクロロカルバニリド(又はトリクロカルバン)等の抗菌活性剤;過酸化ベンゾイル、ナイアシン(ビタミンPP)等の抗菌剤;及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの治療活性剤を含む。
【実施例
【0190】
以降の本明細書において、実施例は本発明の例証として示されるものであり、いかなる状況でもその範囲を限定することを意図していない。
【0191】
変換率は、反応した出発物質ヒドロキシカルボン酸化合物の重量割合に相当する。
【0192】
モノエストリド選択性は、本方法から得られるエストリドの組成物中に得られるモノエストリドの重量割合に相当する。
【0193】
以降の実施例では、以下の製品を使用した:
・12-HSA=12-ヒドロキシステアリン酸、
・C9=ノナン酸、
・2EOH=2-エチルヘキサノール、
・シュウ酸スズ=触媒
・FASCAT(登録商標)4100=CAS番号2273-43-0のスズ触媒。
【実施例1】
【0194】
脂肪酸を添加した後にアルコールを添加する方法の実施
ヒドロキシカルボン酸の導入様式に応じて、本経路に従って2つのプロトコルを実施した。
【0195】
プロトコル1:飽和酸へのヒドロキシカルボン酸の連続的な添加
ノナン酸及び触媒を、磁気バーを備えた500mLの三つ口フラスコに導入する。上記フラスコは、冷却器、窒素バブラー及びディーン・スターク装置を備えている。反応媒体を窒素気流下で190℃に加熱し、次いで、粉体分配漏斗を使用して、12-ヒドロキシステアリン酸を3時間かけて少量ずつ導入する。
【0196】
反応の進行はGPCによって監視する。8時間反応させた後、過剰量のノナン酸を真空下(200℃で2.5mbar)で蒸留する。次いで、得られた酸型エストリドを、触媒の存在下で2-エチルヘキサノールにより(触媒を除去することなく)エステル化する。エステル化の進展は、赤外線によるエステルバンドの形成及び酸価を測定することによって監視する。
【0197】
過剰量の2-エチルヘキサノールを減圧蒸留(200℃、2.5mbar)によって除去する。蒸留の完了後、反応媒体を100℃まで放冷し、次いで多孔度0.7μmのろ紙でろ過する。得られたエストリドは、黄色がかった油の形態である。
【0198】
プロトコル2:ヒドロキシカルボン酸及び飽和酸の「ワンポット」添加
ノナン酸、12-ヒドロキシステアリン酸及び触媒を、磁気バーを備えた500mLの3つ口フラスコに導入する。上記フラスコは、冷却器、窒素バブラー及びディーン・スターク装置を備えている。反応媒体を窒素気流下で190℃に加熱する。
【0199】
反応の進行はGPCによって監視する。8時間反応させた後、過剰量のノナン酸を真空下(200℃で2.5mbar)で蒸留する。次いで、得られた酸型エストリドを、触媒の存在下で2-エチルヘキサノールにより(触媒を除去することなく)エステル化する。エステル化の進展は、赤外線によるエステルバンドの形成及び酸価を測定することによって監視する。
【0200】
過剰量の2-エチルヘキサノールを減圧蒸留(200℃、2.5mbar)によって除去する。蒸留の完了後、反応媒体を100℃まで放冷し、次いで多孔度0.7μmのろ紙でろ過する。得られたエストリドは、黄色がかった油の形態である。
【0201】
第1の反応の完了時に形成される酸型エストリドは式(10)に対応し、第2の反応の完了時に形成されるエステル型エストリドは式(11)に対応する。
【化12】
【0202】
第1の反応(本実施例では、ヒドロキシカルボン酸のアルコール官能基への脂肪酸の付加反応)の条件を以下の表2に示す。また、変換率及び選択性も示す。
【0203】
【表2】
【0204】
第2の反応(本実施例では、第1の反応から得られた酸型エストリドの酸官能基のエステル化のための反応)の条件を以下の表3に示す。また、変換率及び選択性も示す。
【0205】
【表3】
【0206】
この表の結果は、本発明に係る実施例(実施例1~4)について、非常に良好な変換率及びモノエストリドに対する良好な選択性を示している。
【0207】
ヒドロキシカルボン酸と脂肪酸とを比1/1で使用した比較例1について、選択性が著しく劣ることがわかった。
【0208】
実施例1~4のエストリドの組成物及び比較例1の組成物を動粘度、流動点及び酸価について評価した。
【0209】
以下の方法を使用した。
・ASTM D445規格に従って40℃(KV40)及び100℃(KV100)における動粘度を求めた。
・ASTM D7346又はASTM D97に従って流動点(PE)を求めた。
・ASTM D974規格に従って酸価を求めた。
【0210】
結果を以下の表4に示す。表4は、エストリドの組成物の総重量に対するモノエストリドの量及びポリエストリドの量も示す。
【0211】
【表4】
【0212】
表4の特徴は、本発明に係るエストリドの組成物が良好な特性を有することから、潤滑組成物中の基油として使用できることを示している。
【実施例2】
【0213】
アルコールを添加した後に脂肪酸を添加する方法の実施
以下のプロトコルを使用した。アルコールへのヒドロキシカルボン酸の連続的な添加
2-エチルヘキサノール及び触媒を、磁気バーを備えた500mlの三つ口フラスコに導入する。上記フラスコは、冷却器、窒素バブラー及びディーン・スターク装置を備えている。反応媒体を窒素気流下で190℃に加熱し、次いで、粉体分配漏斗を使用して、12-ヒドロキシステアリン酸を3時間かけて少量ずつ導入する。
【0214】
反応媒体中の酸価の変化を測定することによって反応の進行を監視する。12時間反応させた後、過剰量の2-エチルヘキサノールを真空下(200℃で2.5mbar)で蒸留する。次いで、得られたヒドロキシステアリン酸2-エチルヘキシルを(触媒を除去することなく)ノナン酸でキャップする。エステル化の進展は、GPC分析によって監視する。
【0215】
過剰量の酸を減圧蒸留(200℃、2.5mbar)によって除去する。蒸留の完了後、反応媒体を100℃まで放冷し、次いで多孔度0.7μmのろ紙でろ過する。得られたエストリドは、黄色がかった油の形態である。
【0216】
第1の反応(本実施例では、ヒドロキシカルボン酸の酸官能基に対するアルコールによるエステル化反応)の条件を以下の表5に示す。変換率及び選択性も示す。
【0217】
【表5】
【0218】
第2の反応(本実施例では、第1の反応から得られたヒドロキシカルボン酸エステルのヒドロキシル官能基に飽和脂肪酸を付加するための反応)の条件を以下の表6に示す。変換率及び選択性も示す。
【0219】
【表6】
【0220】
この表の結果は、非常に良好な変換率と、触媒量が減ると増加する選択性とを示している。
【0221】
実施例5及び6のエストリドの組成物を動粘度及び流動点について評価した。
【0222】
以下の方法を使用した。
・ASTM D445規格に従って40℃(KV40)及び100℃(KV100)における動粘度を求めた。
・ASTM D7346又はASTM D97に従って流動点(PE)を求めた。
【0223】
結果を以下の表7に示す。表7は、エストリドの組成物の総重量に対するモノエストリドの量及びポリエストリドの量も示す。
【0224】
【表7】
【0225】
表7の特徴は、本発明に係るエストリドの組成物が良好な特性を有することから、潤滑組成物中の基油として使用できることを示している。
【国際調査報告】