IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シーメンス メディカル ソリューションズ ユーエスエー インコーポレイテッドの特許一覧

特表2023-524060一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング
<>
  • 特表-一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング 図1A
  • 特表-一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング 図1B
  • 特表-一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング 図1C
  • 特表-一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング 図2
  • 特表-一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング 図3
  • 特表-一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング 図4A
  • 特表-一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング 図4B
  • 特表-一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング 図5
  • 特表-一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング 図6
  • 特表-一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング 図7
  • 特表-一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング 図8
  • 特表-一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング 図9
  • 特表-一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(54)【発明の名称】一致検出による前方散乱ガンマ線に基づくPETスキャナにおける透過イメージング
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/161 20060101AFI20230601BHJP
【FI】
G01T1/161 A
G01T1/161 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566314
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(85)【翻訳文提出日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 US2021070429
(87)【国際公開番号】W WO2021222921
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】63/018,654
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】593063105
【氏名又は名称】シーメンス メディカル ソリューションズ ユーエスエー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Siemens Medical Solutions USA,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ハミル,ジェイムス
【テーマコード(参考)】
4C188
【Fターム(参考)】
4C188EE02
4C188FF04
4C188FF07
4C188JJ02
4C188JJ27
4C188KK28
4C188KK33
4C188LL08
4C188LL09
(57)【要約】
トランスミッションイメージング放射線として使用可能な前方散乱ガンマ光子を提供する1以上の固定ガンマ線源を組み込むことによって、PETスキャナにおいてトランスミッションスキャンデータを取得する新規な方法が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガントリ;
前記ガントリ内に設けられる複数のPET検出器リング組立体、ここで、各検出器リング組立体は、中央開口部の周りにリング形状に配置される複数のPET検出器を含み、前記複数のPET検出器リング組立体は、前記中央開口部を通るように規定される長手軸に沿って同軸に配列されている;
同軸に配置された前記PET検出器リング組立体の前記中央開口部を通って延在する患者トンネル、ここで、前記複数のPET検出器組立体は患者トンネルの長さ方向に沿って同軸に配列され、前記複数の検出器の各々は、検出器と当該検出器に関連する1以上のシンチレータ結晶とを備える;および
前記ガントリ内の前記PET検出器リング組立体の各々に設けられた1以上の固定ガンマ線源;
を備える、陽電子放出断層撮影(PET)スキャナシステム。
【請求項2】
前記PET検出器リング組立体の各々における前記1つ以上の固定ガンマ線源は、前記検出器リング組立体の後方に前記患者トンネルから離れて配置されている、請求項1に記載のPETスキャナシステム。
【請求項3】
前記固定ガンマ線源は、Cs-137、コバルト-60、またはナトリウム-22である、請求項2に記載のPETスキャナシステム。
【請求項4】
前記固定ガンマ線源は、Cs-137である、請求項2記載のPETスキャナシステム。
【請求項5】
前記ガンマ線源の各々は、放射線遮蔽をもたらす組立体内に設けられている、請求項2に記載のPETスキャナシステム。
【請求項6】
前記ガンマ線源の各々は、放射線遮蔽をもたらす組立体内に設けられている、請求項3に記載のPETスキャナシステム。
【請求項7】
前記放射線遮蔽をもたらす前記組立体は、ON構成とOFF構成とを備え、
前記ON構成にある場合、前記Cs-137からのガンマ光子のうち、前記検出器組立体に向かう方向に進行している前記Cs-137からのガンマ光子以外の残りの前記ガンマ光子は、前記放射線遮蔽をもたらす前記組立体によって実質的に吸収される、請求項5に記載のPETスキャナシステム。
【請求項8】
前記放射線遮蔽をもたらす前記組立体は、ON構成とOFF構成とを備え、
前記ON構成にある場合、前記Cs-137からのガンマ光子のうち、前記検出器組立体に向かう方向に進行している前記Cs-137からのガンマ光子以外の残りの前記ガンマ光子は、前記放射線遮蔽をもたらす前記組立体によって実質的に吸収される、請求項6に記載のPETスキャナシステム。
【請求項9】
放射線遮蔽をもたらす前記組立体は、少なくとも部分的にタングステンを含む、請求項7に記載のPETスキャナシステム。
【請求項10】
放射線遮蔽をもたらす前記組立体は、少なくとも部分的にタングステンを含む、請求項8に記載のPETスキャナシステム。
【請求項11】
前記PETスキャナは、PET/MRスキャナである、請求項1記載のPETスキャナシステム。
【請求項12】
前記PETスキャナは、PET/CTスキャナである、請求項1記載のPETスキャナシステム。
【請求項13】
減弱マップを作成するために使用することができるスキャンデータを生成するためのトランスミッションスキャン用放射線源として、PETスキャナに備えられた1以上の固定ガンマ線源を使用する方法であって、前記PETスキャナは複数のPET検出器リング組立体を備え、当該方法は、以下の行程:
(a)前記PET検出器リング組立体の各々に前記1以上の固定ガンマ線源を設けること、ここで前記固定ガンマ線源は、前記検出器リング組立体の外側に配置されている;
(b)前記固定ガンマ線源から放射された前方散乱ガンマ光子であって、PET検出器リング組立体内の第1の組の検出器ブロックにおけるシンチレータ結晶を通って前方に散乱し、前記PETスキャナの視野(FOV)を横断し、前記PET検出器リング組立体内の第2の組の検出器ブロックにおけるシンチレータ結晶によって検出された前方散乱ガンマ光子である前方散乱ガンマ光子を、前記PETスキャナの同時計数電子機器を介して同定すること;
(c)FOV内に放射能のないブランクのトランスミッションスキャンからのリストモードデータを取得すること;
(d)FOV内に標的体がある状態でのトランスミッションスキャンからのリストモードデータを取得すること;
(e)前記ブランクのトランスミッションスキャンからの前記リストモードデータを、前記FOV内に前記標的体がある状態での前記トランスミッションスキャンからのリストモードデータと比較することによって、減弱マップを作成すること;および、
(f)前記減弱マップをステップ(e)の前記エミッションスキャンからの前記リストモードデータに適用し、前記エミッションスキャンからの前記リストモードデータに減弱補正を施すこと;
を含む、方法。
【請求項14】
ステップ(d)と同時に、前記FOVに前記標的体がある状態でPETスキャンからリストモードデータを取得すること、をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ステップ(b)は、要件EA+EB=EIを使用して前記前方散乱ガンマ光子を識別することを含み、
ここで、EAおよびEBはそれぞれ、同時計数イベントAおよびBの各ペアから検出された光子エネルギーであり、
前記イベントAは、前記第1の組の検出器ブロック内のシンチレータ結晶におけるコンプトン散乱であり、
前記イベントBは、前記第2の組の検出器ブロック内のシンチレータ結晶におけるコンプトン散乱であり、
Iは、前記ガンマ線源から放出されるガンマ光子の初期エネルギーである、
請求項13に記載の方法。
【請求項16】
固定ガンマ線源を使用するトランスミッションイメージングスキャンに対して飛行時間(TOF)考慮事項を適用することによって、前方散乱ガンマ光子からのトランスミッションスキャン信号の品質を改善するための方法であって:
(a)前記第1検出器ブロックの前記第1シンチレータ結晶でコンプトン散乱を起こした前記ガンマ線源からの光子である散乱光子の、前記第2検出器ブロックの第2シンチレータ結晶に到達するまでのTOFを、前記2つのシンチレータ結晶間の距離に基づいて計算すること;
(b)時間窓を定義すること、ここで、前記時間窓は、前記計算されたTOFを中心とする幅を有する;
(c)前記第1のシンチレータ結晶から発生する実際の散乱ガンマ光子のTOFを、前記PETスキャナの視野(FOV)にスキャン標的体がある状態で測定すること;
(d)(c)からの前記測定したTOFを前記算出したTOFと比較し、前記時間窓内にある前記測定したTOFを識別すること;
(e)前記時間窓内にある前記測定したTOFに対応する前記前方散乱ガンマ光子を、前記第1シンチレータ結晶におけるコンプトン散乱から発生するトランスミッション源イベントとして同定し、それによって、スキャン標的体内のガンマ放射消滅イベントおよび偶発イベントからトランスミッション型データを識別すること;
を含む、方法。
【請求項17】
前記工程(c)は、前記PETスキャナのFOVにおける前記スキャン標的体のトランスミッションスキャンデータを同時に取得すること、をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(c)と同時に前記PETスキャナのFOVにおける前記スキャン標的体の前記PETエミッションスキャンデータを取得すること;および、
前記トランスミッションスキャンデータから、前記PETエミッションスキャンデータを補正するための減弱マップを生成すること;
をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ステップ(e)は、前記要件EA+EB=EIを使用して、前方散乱ガンマ光子を識別することを含み、
ここで、EAおよびEBはそれぞれ、同時計数イベントAおよびBの各ペアから検出される光子線であり、
前記イベントAは、前記第1のシンチレータ結晶における前記コンプトン散乱であり、前記イベントBは、前記第2のシンチレータ結晶における前記コンプトン散乱であり、
前記EIは、前記ガンマ線源から放出される前記ガンマ光子の前記初期エネルギーである、
請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年5月1日に出願された米国仮出願No.63/018,654号の利益を主張し、当該出願の開示は参照によりその全体が本出願に組み込まれている。
【0002】
本開示は、核イメージングに関する。より詳細には、この開示は、陽電子放出断層撮影(positron emission tomography:PET)における減弱補正に関する。
【背景技術】
【0003】
PETは、体内の陽電子放出同位元素の分布を表す3次元画像を作成する核医学イメージング技術である。放射性同位元素が陽電子放出崩壊(正のβ崩壊としても知られる)するとき、電子の反物質相当物を放出する。陽電子はエネルギーを失うと、最終的には電子と出会って消滅し、通常、反対方向に動く一対の消滅(ガンマ)光子を生成する。PETシステムは、一対のガンマ光子を時間的に同時に検出することにより、消滅が起こった直線を決定する。
【0004】
PETイメージングにおける減弱補正は、アーチファクトのない定量的なデータの作成に重要な要素である。ほとんどの減弱補正は、エミッションスキャンの前、最中、または後、に取得されたトランスミッションスキャンに基づいて行われる。このため、高精度な減弱補正を実現するには、高品質なトランスミッションデータを取得できることが有効である。
【0005】
PETイメージングにおける減弱とは、体内での吸収や検出器の視野(field of view :FOV)外への散乱により、真の同時発生イベントの検出が損なわれることである。PETイメージングにおいて、真のイベントとして検出されるためには、2つの光子が同時に患者から抜け出る必要がある。PETイメージングにおいて、減弱による真の同時発生イベントの検出の損失は、50~95%の範囲となりうる。
【0006】
減弱によるカウントの損失は、画像ノイズ、画像アーチファクト、および画像歪みを増大させる。減弱補正を行わない場合に全身PETスキャンで生じる可能性のある重大なアーチファクトは、以下のとおりである:(1)深部構造と比較して体表面では相対的に減弱が失われるため、体表面端において放射能(activity;単位時間当たりの放射性壊変数に相当する意)が顕著になる、(2)放射能の強い部位(例えば、膀胱)において、当該部位から発生する放射能の方向によって減弱の程度が異なるため、外観が歪んで見える、および、(3)比較的減弱の少ない組織(例えば、肺)において放射能が拡散し、相対的に増加する。したがって、PETスキャンデータの正確な測定には、データの減弱補正が必要である。
【0007】
PET/CTシステムでは、CTスキャンからのX線を用いて、撮像対象領域の全体にわたる密度差の減弱マップを構築し、これを用いて、エミッションスキャンにおけるフルオロデオキシグルコースの崩壊によって放出される光子の吸収を補正することができる。しかしながら、このような統合型のPET/CTシステムでは、PET画像診断ハードウェアに追加のCTスキャンハードウェアを統合することが必要である。したがって、CTスキャナのような追加のトランスミッションスキャン用ハードウェアを用いることなく、PETスキャナを用いてトランスミッション型のスキャンデータを取得し、減弱マップを構築することができれば、有用となり得る。このような、減弱マップを作成するためにPETスキャナシステムにおいてトランスミッション型のスキャンデータを取得するという能力は、PET/MRシステムにおいても有用であり得る。なぜなら、MRシステムでは、PETスキャンにおいて放射線を減弱させる、システム内の全てのものを測定するわけではないからである。例えば、PET/MRシステムでは、消滅光子を減弱させるコイルと、これに付随する電子機器およびケーブルと、を使用するが、設計上、これらはMR画像に現れないように無視され、消滅光子減弱に対するこれらの影響は考慮することができない。
【0008】
検出器自体のルテチウムベースのシンチレーション結晶(例えば、LSOまたはLYSOシンチレーション結晶など)において放出されるバックグラウンド放射線から減弱補正を導出するPETスキャナの設計が、いくつか提案されている。しかしながら、LSOバックグラウンド放射線の強度は、一般に、通常の持続時間での患者スキャンにおいて使用するには低すぎる。したがって、CTハードウェアを使用せずにトランスミッションイメージング(撮像)データを生成でき、より速く減弱μ-マップを作成することができる、改良されたPETスキャナは有益であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
PETスキャナシステムが提供される。このPETスキャナシステムは、ガントリと;ガントリ内に備えられる複数のPET検出器リング組立体であって、各検出器リング組立体は、中央開口部の周りにリング形状で配置された複数のPET検出器を含み、当該複数のPET検出器リング組立体は、中央開口部を通るように定められる長手軸に沿って同軸に配置されている、複数のPET検出器リング組立体と;同軸に配置されたPET検出器リング組立体の中央開口部を通って延在する患者トンネルであって、ここで、複数のPET検出器組立体は当該患者トンネルの長さ方向に沿って同軸に配置されており、複数のPET検出器のそれぞれが、検出器と検出器に付随する1以上のシンチレータ結晶とを備えている、患者トンネルと;ガントリ内の各PET検出器リング組立体に設けられた1以上の固定ガンマ線源と;を備える。
【0010】
また、PETスキャナ内に設けられた1以上の固定ガンマ線源を、減弱マップを作成するために用いられるスキャンデータを生成するためのトランスミッションスキャン放射線源として使用する方法が提供される。ここで、PETスキャナは、複数のPET検出器リング組立体を備えている。この方法は、(a)PET検出器リング組立体中に1以上の固定ガンマ線源を用意すること、ここで固定ガンマ線源は、検出器リング組立体の外側に位置する;(b)固定ガンマ線源から発せられたガンマ光子である前方散乱ガンマ光子であって、PET検出器リング組立体における第1の検出器ブロックセット中のシンチレータ結晶を通過して前方に散乱し、前記PETスキャナの視野(FOV)を横切り、PETスキャナの同時計数電子機器(coincidence electronics、同時計数電子回路ともいう)を介して前記PET検出器リング組立体における第2の検出器ブロックセット中のシンチレータ結晶によって検出された前方散乱ガンマ光子、を識別すること;(c)FOV内に放射能の無いブランクでのトランスミッションスキャンからリストモードデータを取得すること;(d)FOV内に標的体があるトランスミッションスキャンからリストモードデータを取得すること;(e)ブランクのトランスミッションスキャン由来のリストモードデータを、FOV内に標的体があるトランスミッションスキャン由来のリストモードデータと比較することによって、減弱マップを生成すること;および、(f)エミッションスキャンに由来するリストモードデータにステップ(e)の減弱マップを適用して、エミッションスキャンに由来するリストモードデータに対して減弱補正を施すこと、を含む。
【0011】
また、固定ガンマ線源を用いた透過画像スキャンに対し、飛行時間(TOF)の考慮事項を適用することによって、前方散乱ガンマ光子からのトランスミッションスキャン信号の品質を改善する方法が提供される。この方法は、(a)ガンマ線源からの光子である散乱光子のうち、第1検出器ブロックの第1シンチレータ結晶においてコンプトン散乱を受けた散乱光子が、第2検出器ブロックの第2シンチレータ結晶に到達するまでのTOFを、2つのシンチレータ結晶間の距離に基づいて計算すること;(b)時間窓を定義すること、ここで時間窓は、計算されたTOFを中心とした幅を有する;(c)PETスキャナのFOVにおいて第1シンチレータ結晶から発生する実際の散乱ガンマ光子のTOFを、PETスキャナのFOV中のスキャン対象物で測定すること;(d)上記(c)に由来して測定されたTOFを算出されたTOFと比較し、時間窓内にある測定されたTOFを識別すること;(e)時間窓内にあるそれらの測定されたTOFに対応する散乱ガンマ光子を、第1のシンチレータ結晶におけるコンプトン散乱に由来して生じる透過源(透過スキャン用線源)イベントとして識別し、それによって、透過型データを、スキャン対象物内のガンマ放出消滅イベントおよびランダムイベントから識別すること;を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A図1Aは、PETシステムの概略図である。
図1B図1Bは、本開示の実施形態に係る、固定ガンマ線源を有するPET検出器リング組立体の概略図である。
図1C図1Cは、本開示の実施形態に係る、複数の固定ガンマ線源を有するPET検出器リング組立体の概略図である。
図2図2は、PET検出器の裏側の位置にあり、ガンマ線源からのガンマ線が検出器シンチレーション結晶を照射する「ON」形態のタングステン放射線シールド内に設けられている、ガンマ線源の概略図である。
図3図3は、PET検出器の裏側の位置にあり、タングステン放射線シールドがガンマ線源からのガンマ放射を吸収している「OFF」形態のガンマ線源の概略図である。
図4A図4Aは、本開示の一実施形態に係る方法のフローチャート図である。
図4B図4Bは、本開示の他の実施形態に係る方法のフローチャート図である。
図5】(a)および(b)はそれぞれ、実験検証で使用されたPETスキャナの正面および側面の概略図であり、測定に関して異なった放射能の位置を示す。
図6図6は、実験検証において実施されたスキャン1、2、3、および4に由来する2次元エネルギーヒストグラムである。
図7図7は、実験的検証で使用された6リング型Biograph VisionPET/CTスキャナにおける228個の検出器ブロックの、シングル率の分布を示すグレースケール表示である。
図8図8は、実験的検証において行われたスキャン1、4、および5に由来するネット-真サイノグラムを示す。
図9図9は、再ビニングされたサイノグラムのScs1-blank/Sbg-blankの比率を示すプロット図である。
図10図10は、推定された38線源のサイノグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
例示的な実施形態のこの説明は、添付の図面に関連して読まれることを意図しており、これらは書面による説明全体の一部とみなされるものである。
【0014】
従来のPETスキャンで収集されるPET放射データは、検出器で検出される前に放射光子が受ける物理的効果に関する全ての情報を含む。収集した放射データを再構成するために、真の測定された放射イベントを再構成するために、放射データに対する補正を行った。正規化、偶発同時計数補正、および不感時間補正のようなシステム補正は、FOV内における対象物には依存せず、主に、FOV内外のPET検出器を照射する放射能のシステムおよび計数率に依存する。その他の補正は、減弱補正や散乱推定などオブジェクト依存性であり、スキャナのFOVにおける対象の材料についての減弱情報が必要となる。
【0015】
[PETスキャナの一般的な動作]
図1Aは、ここに開示された本発明の概念を実装できるPETスキャナシステム200の一例を示している。PETスキャンの対象となるヒト被験体4が、PETスキャナシステム200のガントリ210の内部に配置されている様子が示されている。ガントリ210は、複数のPET検出器リング100を備える。各検出器リングは、複数のシンチレーション結晶216と関連する検出器213とを備える。検出器リング100の中央にある開放空間は、ガントリ210の患者トンネルTと、PETスキャナのFOVと、を規定する。PETスキャンを実施する場合、陽電子放出放射性同位元素6を、代謝活性分子に乗せてヒト被験体4に導入する。そして代謝活性分子は、ヒト被験体の血流によって目的の臓器に運ばれる。
【0016】
ヒト被検体の体内に現にある放射性同位元素から放出された陽電子が電子に遭遇すると、両者は消滅し、おおよそ反対方向に移動する2つのガンマ光子7が得られる。消滅イベントは、ガンマ光子が検出器のシンチレーション結晶216と相互作用することによって、対向配置された2つの検出器による2つのガンマ光子の検出の時間的同時性によって識別される。すなわち、ガンマ光子の放出は、各検出器213によって実質的に同時に検出される。反対方向に進行する2つのガンマ光子が、反対方向に配置された対応する検出器に衝突して同時発生イベントを生じさせると、光子は、これに沿って消滅イベントが発生する応答線(LOR)を識別する。
【0017】
ヒト被験体4における代謝活性の画像(核医学画像)をコンピュータ解析により再構成する。PETスキャナシステム200は、検出器リング100に接続され、検出器リング100と通信するシステム制御装置290を含む。PETスキャナシステム200は、一対のガンマ線によって発生する同時計数イベントを決定および評価し、この情報を画像処理ユニット(計算ユニット)230に転送するデータ処理ユニット(イベント検出ユニット)220をさらに備える。各LORに関連する検出器対は、測定セッション(すなわち、データ取得スキャン)の間に多くの同時計数イベントを生成する。PETスキャナシステム200は、さらに、コンピュータプログラムコードでコード化されている少なくとも1つの機械可読記憶媒体250を備える。このコンピュータプログラムコードをシステム制御装置290が実行すると、システム制御装置は、PETスキャナシステム200の様々な動作機能を実行する。
【0018】
[本開示による改良]
図1Bを参照すると、PETスキャナシステムのための新規構成が提供され、この構成は、本開示によるPETスキャンのセッション中にトランスミッションスキャンデータの同時生成を可能にする。PETスキャンセッション中に同時トランスミッションスキャンデータを生成する設備をPETスキャナに提供するために、1つ以上の固定ガンマ線源130が、ガントリ210内のPET検出器リング組立体100の各々に組み込まれる。PET検出器リング組立体100の各々は、患者トンネルTの周りにリング形状に配置された複数の検出器用電子組立体110を含む。各検出器用電子組立体110は、とりわけ、検出器213(光検出器)、これに関連する1つ以上のシンチレータ結晶216を含む。図1Bは概略的であり、図示を簡略化するために、検出器213および関連する1以上のシンチレータ結晶216は、グループとして、PET検出器ブロック214と称される。この呼称は、本開示の残りの部分にわたって踏襲される。
【0019】
固定ガンマ線源130は、ガンマ線源からのガンマ光子の一部が、第1のPET検出器ブロック214aに付随する第1シンチレータ結晶を通って前方に散乱し、その後、PETスキャナのFOVを横切り、PETスキャナのFOVの反対側にある第2のPET検出器ブロック214bに付随する第2シンチレータ結晶に到達するように、PETガントリ210内に配置され、PET検出器ブロック214の近くでかつその背後に、患者トンネルTから離れて配置される。ガンマ線源130は、PETスキャナ内にガンマ線を遮蔽し封じ込めるという実用上の理由のため、PETガントリ210内に配置されることが好ましい。
【0020】
図1Bにおいて、矢印11は、第1の検出器ブロック214aの第1のシンチレータ結晶を通って前方に散乱する例示的なガンマ光子を表し、矢印12は、その後、散乱されたガンマ光子が、PETスキャナのFOVを横切って第2の検出器ブロック214bの第2のシンチレータ結晶に到達する経路を表している。散乱ガンマ光子は、12で表される。前方散乱ガンマ光子12はFOVを通過するので、十分な数のそのような前方散乱ガンマ光子をPETスキャナの同時計数電子機器を介して識別することによって、散乱ガンマ光子12をそのPETスキャナにおけるトランスミッションイメージングに使用することができる。
【0021】
いくつかの好ましい実施形態において、各検出器リング組立体100における1以上の固定ガンマ線源130は、検出器ブロック214の後方に配置される。この構成により、ガンマ線源130から放出されるガンマ光子のより多くが、近くの1または複数の検出器ブロック214内のシンチレータ結晶を通って前方散乱することが可能となり、その結果、透過イメージングのための放射線量が増加する。
【0022】
図1Cを参照すると、トランスミッションイメージングのために十分な数の前方散乱ガンマ線光子を提供して識別することは、PET検出器リング組立体100のそれぞれに複数の固定ガンマ線源130を設けることによって、より実用的に達成され得る。全てのガンマ線源130は、図1Bに例示されるように、PET検出器ブロック214の後方に配置される。PET検出器ブロック214の後方にある位置とは、PET検出器ブロック214の患者トンネルTから離れる方向に向いている側の任意の位置を意味する。ガンマ線源130は、PET検出器ブロック214の後方にある限り、ガントリ内の任意の場所に位置決めすることができる。しかしながら、いくつかの好ましい実施形態では、各固定ガンマ線源130は、検出器による前方散乱光子の検出を最大化するために、一対の検出器電子機器組立体100の間、すなわち、図1Bおよび1Cに示されるように、2組のPET検出器ブロック214の間に、並ぶように配置される。ガンマ線源が検出器の真後ろにある場合は、それはゼロ度の散乱に相当し、その場合の散乱プロセスでは散乱した検出器にほとんどエネルギーが残らないため、検出することができない。散乱で残されたエネルギーが検出器電子機器の閾値(特定の閾値は、PETスキャナのメーカーによって異なるが、一例として、約150keV)を上回るまで、散乱プロセスは検出できない。そのため、最も好ましい散乱角は約40度以上である。これは、固定ガンマ線源130をPET検出器ブロック214の後方で、一対の検出器用電子組立体110の間に配置することによって、達成することができる。ガンマ線源がPET検出器ブロック214の後方で、一対の検出器用電子組立体110の間に配置される場合、2つの検出器ブロック214は両側への散乱のために良好な配置とされる。
【0023】
すべての固定ガンマ線源130は、FOVを通って前方散乱するガンマ光子をいくつか放出し、したがって、トランスミッションイメージングに必要なより多くの放射線を提供し得る。図1Cは、あくまでも概略図であり、図示された検出器電子組立体、検出器ブロック214、およびガンマ線源130の数は、本開示の実施形態の採用する実際のPETスキャナシステムにあるであろう実際の数を表すものではない。
【0024】
この構成により、第1のPET検出器ブロック214a内の第1のシンチレータ結晶における散乱イベントは、同時計数電子回路に開始信号を提供し、第2のPET検出器ブロック214b内の第2のシンチレータ結晶による散乱ガンマ光子12の検出は、同時計数電子回路に停止信号を提供して同時計数を検出する。ガンマ線源からの光子は、第1のPET検出器ブロック214aのシンチレーション結晶内でコンプトン散乱を受ける。シンチレータ内において光子のエネルギーの一部は電子に移動し、この電子はシンチレータとの相互作用によって直ちに停止され、結果として、第1のPET検出器ブロック214aの1つのシンチレータ結晶において閃光が生じ、これにより、同時計数電子回路のための開始信号が得られる。エネルギーが減少した前方散乱ガンマ光子12は、FOVを横切って進み、第2の検出器ブロック214bによって検出されて、同時計数電子回路に対する停止信号を提供する。この同時計数検出は、PET検出器リング組立体100内の2つのシンチレーション結晶を識別し、空間内の2つの点が、空間を横切る散乱光子の直線経路を規定するため、FOVを通って進行するガンマ光子12を計数することによって、トランスミッションサイノグラムが提供される。
【0025】
したがって、FOV内に患者がいない状態で固定ガンマ線源130からの放射を使用してトランスミッションスキャンデータを生成すると、ブランクのトランスミッションスキャンのサイノグラムが生成される。ブランクのトランスミッションサイノグラムを、FOV内にスキャン標的体積を有するトランスミッションスキャンからのトランスミッションサイノグラムと比較することにより、標的体積に対するエミッションPETスキャンデータの減弱補正のための、標的体積のミューマップ(光子減弱係数の空間マップ)を構築することができる。
【0026】
ガンマ線源130としては、様々な放射性同位元素を用いることができる。いくつかの例は、セシウム-137、コバルト-60、およびナトリウム-22である。いくつかの好ましい実施形態では、ガンマ線源130材料として、Cs-137が使用される。Cs-137は、ガンマ線エネルギがPETで一般に使用される511keVより幾分高いものの、ガンマ線が多くのPET検出器で通常使用される範囲から外れるほど高くはないために好ましく、ガンマ線源130材料として好ましく選択することができる。また、Cs-137の半減期が30年であることは、PETスキャナの期待寿命において線源の交換を必要としないことから有利である。また、他の同位体はエネルギーの異なる複数のガンマ線を有するのに対し、Cs-137は1回の崩壊ごとに一つのガンマ線のみが存在する。さらに、Cs-137同位元素は、数年間保管された後の放射性廃棄物の主成分の1つであるため、広く入手可能である。
【0027】
本開示によれば、固定ガンマ線源および飛行時間(TOF)ベースの同時測定を組み込むことによって、PETエミッションスキャンおよびトランスミッションスキャンのデータを同時に取得する方法を実行するように構成されたPETシステムは、図1Bおよび1Cに例示されるPET検出器リング組立体100を含む。PET検出器リング組立体100は、中央開口部の周囲にリング形状で配置された複数のPET検出器を含み、ここで、複数のPET検出器リング組立体は、中央開口部を通るように規定される長手軸L(図1A参照)に沿って同軸に配置される。患者トンネルTは、同軸に配列されたPET検出器リング組立体100の中央開口部を通って延びている。複数のPET検出器組立体は、患者トンネルTの長さに沿って同軸に配列されている。
【0028】
各検出器用電子組立体110は、PET検出器ブロック214を含む。各検出器ブロックは、検出器213と、関連する1つ以上のシンチレータ結晶216と、を含む。複数のガンマ線源130は、図1Bに例示されるように、PET検出器ブロック214の後方に配置される。PET検出器ブロック214の後方に配置されるとは、検出器ブロック214の患者のトンネルTから離れる方向を向く側面の任意の位置を意味する。ガンマ線源130は、PETスキャナ内にガンマ線を遮蔽し封じ込めという現実的な理由から、PETガントリ210内に配置されることが好ましい。
【0029】
さらに図1Cを参照すると、ガンマ線源130およびPET検出器ブロック214のこの配置では、ガンマ光子11は、第1の組の検出器ブロック214に裏側から入射する。ガンマ光子の一部は、第1の組のPET検出器ブロック214のシンチレータ結晶216内でコンプトン散乱を受け、PETスキャナのFOVを横切って、FOVの反対側の第2の組のPET検出器ブロック214に向かって前方散乱を受ける。そして、散乱されたガンマ光子が、第2の組のPET検出器ブロックに関連付けられたシンチレータ結晶216に遭遇すると停止され、各散乱光子は、同時計数電子回路のための停止信号として機能する光の閃光を生成する。散乱光子は、矢印12で示されている。これにより、標的被験体が患者トンネルT内に位置され、かつ、FOV内にある場合の、トランスミッションイメージングの基礎が提供される。
【0030】
開示されたシステムのいくつかの好ましい実施形態では、ガンマ線源130は、コリメート遮蔽体を備えることができ、PET検出器214の方に向けられたガンマ光子が完全な強度で輝くことができる一方で、他の方向へ向けられたガンマ光子は遮蔽体によって吸収されて、スキャナの近くの人々に起こり得る放射線被曝を低減することができる。コリメート遮蔽体のための特定の構成は、所定のシステムに対して選択された特定の放射線源を考慮し、実現されたトランスミッションイメージングを最適化するように設計することができる。
【0031】
図2および図3は、一つのガンマ線源組立体130Aおよび関連するPET検出器リング100の一例を示す概念図である。ガンマ線源組立体130Aは、ガンマ線源130が、PET検出器組立体100内の2つのPET検出器ブロック214の間の隙間の上方に位置するように配置される。ガンマ線源組立体130Aは、ガンマ線源130と、ガンマ線源130用の放射線遮蔽ハウジング136と、を備える。ガンマ線源組立体130Aは、ガンマ線源130を保持し、ON構成とOFF構成との間で切り替えられるように構成されている。ON構成では、PET検出器ブロック214に向かう方向に進むガンマ線源130からのガンマ光子以外の、残りのガンマ線源130からのガンマ光子は、ハウジング136によって実質的に吸収される。放射線吸収は、現実には決して100%ではない。したがって、「実質的に吸収される」とは、ガンマ光子が強く減弱されていることを意味する。放射線遮蔽ハウジング136は、タングステン等の放射線減弱材料で構成することができる。
【0032】
図示された例では、ガンマ線源130は、ハウジング136内のガンマ線源130の位置をON構成とOFF構成との間で操作することができる関節ロッド134の端部に取り付けられている。放射線遮蔽ハウジング136は、チャネル138を備えることができ、OFF構成では、図3に示すように、ガンマ線源130はチャネル138内に引っ込むことができるので、線源から放射されるガンマ光子はハウジング136によって吸収される。ON構成では、関節ロッド134は、ガンマ線源130をチャネル138の外に延在させる。ON構成では、ガンマ線源130は、検出器ブロック214に向かって開いている開口135内に配置することができる。
【0033】
図4Aは、減弱マップを作成するために使用することができるスキャンデータ(リストモードデータ)を生成するためのトランスミッションスキャン用放射線源として、PETスキャナ中の1以上の固定ガンマ線源130を使用する方法を示すフローチャート300である。この方法は、(a)各PET検出器リング組立体100内に1以上の固定ガンマ線源130を設けること、ここで固定ガンマ線源はPET検出器リング組立体100の外側に配置される(ボックス310);(b)固定ガンマ線源から発せられたガンマ光子であって、PET検出器リング組立体における第1の組の検出器ブロック214中のシンチレータ結晶を通って前方散乱し、PETスキャナのFOVを横断し、PETスキャナの同時計数電子機器を介してPET検出器リング組立体における第2の組の検出器ブロック中のシンチレータ結晶によって検出されたガンマ光子である前方散乱ガンマ光子12を識別すること(ボックス320);(c)ブランクのトランスミッションスキャン(すなわち、FOV中に放射能がない)からリストモードデータを取得すること(ボックス330);(d)FOV内に標的体があるトランスミッションスキャンからリストモードデータを取得すること(ボックス340);(e)ステップ(d)と同時に、FOV内に標的体がある状態でPETスキャンからリストモードデータを取得すること(ボックス350);(f)ブランクのトランスミッションスキャン由来のリストモードデータを、FOV内に標的体があるトランスミッションスキャン由来のリストモードデータと比較することによって、減弱マップ(ミューマップ)を作成すること(ボックス360);および、(g)減弱マップをステップ(e)のエミッションスキャン由来のリストモードデータに適用して、エミッションスキャン由来のリストモードデータに減弱補正を施すこと(ボックス370);を含む。
【0034】
別の態様では、PETスキャナシステム200は、フローチャート300に記載された方法を実行するように構成されていることが開示される。PETシステムは、複数のシンチレータ結晶を含む複数の検出器リング組立体100;機械可読記憶媒体250;および、検出器リング組立体に接続され、検出器リング組立体と通信するシステム制御装置;を備えている。ここで、機械可読記憶媒体は、コンピュータプログラムコードがシステム制御装置290によって実行される場合に、システム制御装置が以下を含む方法を実行するように、コンピュータプログラムコードで符号化されている。その方法は、(a)1つ以上の固定ガンマ線源を各PET検出器リング組立体中に設けること、ここで、固定ガンマ線源は、検出器リング組立体の外側に配置される;(b)固定ガンマ線源から発せられたガンマ光子であって、PET検出器リング組立体中の第1の組の検出器ブロックのシンチレータ結晶を通って前方散乱し、PETスキャナのFOVを横断し、PET検出器リング組立体中の第2の組の検出器ブロックのシンチレータ結晶によって検出された前方散乱ガンマ光子を、PETスキャナの同時計数電子機器を介して識別すること;(c)ブランクのトランスミッションスキャン(すなわち、FOVに放射能がない状態)からリストモードデータを取得すること;(d)FOVに標的体を有するトランスミッションスキャンからリストモードデータを取得すること;(e)ステップ(d)と同時に、標的体がFOVにある状態のPETスキャンからリストモードのデータを取得すること;(f)ブランクのトランスミッションスキャンからのリストモードのデータと、標的体がFOV内にあるトランスミッションスキャンからのリストモードのデータと、を比較することによって、減弱マップ(ミューマップ)を作成すること;および、(g)ステップ(e)のエミッションスキャンからのリストモードのデータに減弱マップを適用して、エミッションスキャンからのリストモードのデータに減弱補正を施すこと。
【0035】
いくつかの実施形態では、飛行時間(TOF)の考慮事項が、前方散乱ガンマ光子からのトランスミッションスキャン信号の品質を向上させるために適用される。図4Bのフローチャート400を参照すると、固定ガンマ線源130を使用するトランスミッションイメージングスキャンにTOF考慮を適用することは、(a)第1の検出器ブロック214a内の第1のシンチレータ結晶においてコンプトン散乱を受けたガンマ線源からの光子である散乱光子が、第2の検出器ブロック214b内の第2のシンチレータ結晶に到達するまでの飛行時間を、2つのシンチレータ結晶間の距離に基づいて計算すること(ブロック410参照)、を含む。このステップでは、所定のPETスキャナにおいて、ガンマ光子が第1のシンチレータ結晶からFOVを横切って反対側の第2のシンチレータ結晶まで進むために必要なTOFを計算する。換言すると、ここで注目する距離は、ガンマ光子のコンプトン散乱が発生する第1の検出器ブロック214a(具体的には第1の検出器に付随するシンチレータ結晶)から、同時に散乱されたガンマ光子が検出される第2の検出器ブロック214b(具体的には第2の検出器のシンチレータ結晶)までである。次に、(b)時間窓(時間幅)が定義され、ここで、時間窓は計算されたTOFを中心とする幅を有する(ブロック420参照)。次に、(c)第1のシンチレータ結晶から発生する実際の散乱ガンマ光子のTOFを、PETスキャナのFOVにスキャン標的がある状態で測定する(ブロック430参照)。次に、(d)測定された(c)からのTOFを算出されたTOFと比較し、時間窓内にある測定されたTOFが識別される(ブロック440参照)。次に、(e)時間窓内にある測定されたTOFに対応する散乱ガンマ光子を、第1のシンチレータ結晶におけるコンプトン散乱に由来する透過源イベントとして識別し、それによって、スキャン標的対象内でのガンマ発光消滅イベントと偶発イベントとから、トランスミッション型データが識別される(ブロック450参照)。このようにして得られたトランスミッションスキャンデータは、一次PETエミッションスキャンデータを補正するための減弱マップを作成するために使用することができる。
【0036】
いくつかの実施形態において、フローチャート400のステップ(c)は、PETスキャナのFOVにおけるスキャン標的のPETエミッションスキャンデータを同時に取得することをさらに含むことができる。
【0037】
別の態様では、PETスキャナシステム200は、フローチャート400に記載された方法を実行するように構成されていることが開示される。PETシステムは、複数のシンチレータ結晶を含む複数の検出器リング組立体100;機械可読記憶媒体250;および検出器リング組立体に接続されかつ検出器リング組立体と通信するシステム制御装置を含む。ここで、機械可読記憶媒体は、コンピュータプログラムコードがシステム制御装置290によって実行される場合、システム制御装置が、(a)第1の検出器ブロック内の第1のシンチレータ結晶においてコンプトン散乱を受けたガンマ線源からの光子である散乱光子が、第2の検出器ブロック内の第2のシンチレータ結晶に到達するまでのTOFを、2つのシンチレータ結晶間の距離に基づいて計算すること、を含む方法を実行するように、コンピュータプログラムコードでコード化されている。このステップでは、所定のPETスキャナにおいて、ガンマ光子が第1のシンチレータ結晶からFOVを横切って反対側の第2のシンチレータ結晶に移動するために必要なTOFを計算する。換言すれば、ここで注目する距離は、ガンマ光子のコンプトン散乱が生じる第1の検出器ブロック(具体的には、第1の検出器に関連するシンチレータ結晶)から、同時に散乱されたガンマ光子が検出される第2の検出器ブロック(具体的には、第2の検出器におけるシンチレータ結晶)までの距離である。次に、(b)時間窓が定義され、ここで時間窓は、計算されたTOFを中心とした幅を有する。次に、(c)第1のシンチレータ結晶から発生した実際の散乱ガンマ光子のTOFを、PETスキャナのFOV内にスキャン標的体がある状態で測定する。次に、(d)(c)からの測定TOFを算出TOFと比較し、時間窓内にある測定TOFを特定する。そして、(e)それらの測定されたTOFに対応する散乱ガンマ光子のうち、時間窓内にある散乱ガンマ光子を、第1のシンチレータ結晶におけるコンプトン散乱(前方散乱)に由来する透過源イベントとして同定し、それにより、スキャン標的体内のガンマ放出消滅イベントおよび偶発イベントからトランスミッション型データを識別する。
【0038】
トランスミッションスキャンデータを獲得するための改良された固定ガンマ線源の使用は、PET/MRスキャナだけでなく、PET/CTスキャナにも適用することができる。
【0039】
ガンマ線源としてCs-137を用いて、本発明者らは、CTハードウェアなしで減弱μ-マップを生成するためにトランスミッションイメージングデータをより速く生成することにより、LSOバックグラウンド放射線を用いる場合と比較して、前方散乱Cs-137ガンマ線は、PETスキャナの改良されたトランスミッションイメージングを提供する、ことを実験的に確認した。以下に、その実験結果を示す。
【0040】
[実験データ]
開示された発明は、LSOシンチレータとSiPMベースの検出器を有する、6リングのBiograph Vision PET/CTスキャナを用いて実証された。スキャナの各リングは、64mm×32mmのサイズの38個の検出器ブロックを含み、各ブロックは、3.2×3.2×20mmのサイズの200個の結晶を含む。計測における減弱放射(511keV)は、23MBqの密封型68Ge線源(ゲルマニウム)を細い鋼管に入れて作製した。軽量ハウジング内に密封されたCs-137線源は、公称強度が115MBqであった。
【0041】
リストモードデータ(LM)は5回のスキャンで取得され、図5(a)および(b)を参照して説明することができる。スキャン1は、LSOのバックグラウンドを除けばスキャナ近傍に放射能はなく、FOV内に物体がなく、患者ベッドさえもない状態で、30分間の取得(撮影)とした。スキャン2は、スキャナの移動軸中心に近い位置であって、軸方向範囲の端部またはその直後の(ちょうど超えた)位置(A)にゲルマニウム源を備えた30分間の取得であった。スキャン3は、検出器のリングを約25cm越えた位置Bにセシウム線源を設置して、15分間のスキャンとした。スキャン5は、単純なファントムを提供するために患者ベッドをFOVに置いた以外は、スキャン4と同じとした。検出された放射線は、正常なPET同時計測(図5(a)のラインDE);Aからの511keVまたは662keVの光子による後方散乱(図5(a)のラインDF);位置BにおけるCs-137線源からの光子の前方散乱(図5(a)のラインGH);および、LSOシンチレーション結晶のバックグラウンド(図5(a)のラインCI);を含む、様々な物理現象に対応するものであった。LSOは、PET検出器リング100の周囲に分布しているが、ちょうど1つの例示的な位置が図5(a)において(C)として示されている。
【0042】
この測定は、通常とは異なるPETスキャナ設定で行った。エネルギー窓を広く開いて、160~730keVのエネルギーをもつイベントを受け入れるようにした。また、同時計数窓は、約1メートルの最大コード長に相当する6.64nsに設定した。正常なPETイメージングでは、両者とも制限される。
【0043】
LMデータには、各同時計数イベントについて、以下の情報:幅2.8keVのビンで離散化された、各光子のエネルギー信号;各光子の結晶同定;TOF;および、同時計数が迅速か遅延かを示すビット;が含まれていた。各スキャンのデータは、2通りの分析のために分別した。一つ目は、TOFを制限することなく、200×200ビンを用いて、迅速な同時計数に対して2次元(2D)のエネルギーヒストグラムを作成し、遅延の同時計数に対してマッチングヒストグラムを作成した。これらのヒストグラムでは、一方の検出器における光子のエネルギーEAが横軸に、もう一方の同時計数された光子のエネルギーEBが縦軸に、表される。二つ目は、エネルギーを制限することなく、正味-真の同時計数サイノグラムを作成した。このサイノグラムでは、TOFが、2つの結晶間の距離±215ps(ピコ秒)に対応するイベントのみを使用した。
【0044】
トランスミッションイメージングの場合、固定Cs-137線源130から放射された光子を効率的に使用し、PET検出器リング100内のほぼ全ての結晶から散乱させることにより、本質的に全ての応答線がサンプリングされ得る。Cs-137線源は、PET検出器214に近いが、許容可能なシングル率を維持するのに十分遠くにあるべきである。これを行う1つの方法は、図1Cに示すように、PET検出器リング100内に固定Cs-137線源130を分配することである。Biograph VisionPETスキャナは、19個の検出器用電子組立体110を使用するため、19の角度位置が図1Cに示されている。各角度において、2つの軸方向位置を使用することになるため、線源の総数を38とする必要がある。
【0045】
上記の実験では38個の線源構造を使用しなかったが、次の計算で得られるサイノグラムを推定することができる。スキャン1およびスキャン4から得られるサイノグラムをそれぞれ、Sbg-blankおよびScs1-blankとする。これらは3Dサイノグラムであるが、解析では、全てのスライスと全てのサイノグラムセグメントを合計し、半径方向と角度のサイノグラム座標の2次元関数として扱えば十分であると考えられる。新しい設計では、ここで述べた試験のように115MBqではなく、異なる線源強度Asを用いることができると推測される。この場合、LSOバックグラウンド放射線を含む38線源サイノグラム(Scs38-blank)は、次式(1)のように記述されるであろう。
【数1】
【0046】
2つの入力サイノグラムに異なったスキャン時間を使用したため、Sbg-blankを2で除算してから計算を行った。式中、Rは、サイノグラムを19の角度のうちの1つだけ回転させる演算子であり、係数2は、2軸の位置における線源配置を考慮したものである。回転は慎重に行わなければならない。サイノグラムを180度から360度に変換した後、(1)を適用し、その後、180度の表現に戻した。
【0047】
セシウム法を使用すると、LSOバックグラウンド法によるロングスキャンとほぼ同じ画質を与え、どれだけ速くトランスミッションスキャンを行えるかを決定することができる。ゲイン(gain:利得)は概ね、以下の通りである。
【数2】
(1)は線形であるので、実際に回転を行わなくても、次のように、ゲインを単純に計算することもできる。
【数3】
(1,2,3)の使用に関する注意については、以下の考察の段落に示す。
【0048】
[結果]
図6に、スキャン1、2、3、および4からの2Dエネルギーヒストグラムを示す。これらにおいて、各光子のエネルギー範囲は、上述のように160~730keVである。下段には迅速な同時計数を、上段には正味-真の同時計数(迅速から遅延を引いたもの)を示す。中段は、LSOバックグラウンドを差し引いた正味-真のヒストグラムを示しており、異なるスキャン時間に対する補正が行われている。スキャン1を表す欄は、一方の検出器におけるベータ放射線とガンマ放射線の予想されるスペクトルと、もう一方の検出器における202または307keVの光ピークを含む予想されるエネルギースペクトルと、を示している。スキャン2の欄は、関心のあるいくつかの特徴を有する正常なPET同時計数を示す。右上隅付近には、各検出器の511keVの光ピークを表す小さな円形パターンが見られる。その下および左側には、線源またはいずれかの検出器で散乱された放射線の特徴が見られ、エネルギー範囲の下端には、180度付近の角度を通る511keVの後方散乱を表す別の顕著な特徴があることがわかる。また、2-B部分に斜線ボックスで示したのは、EA+EB=511keVとなる点の軌跡であり、EAおよびEBは、A、Bとして参照される一対の同時計数イベントのエネルギーを表す。これらは、図5のラインDFのように、511keVの光子の後方散乱を表す。後方散乱の大部分は、LSOバックグラウンドと重複している。スキャン3の欄では、光子がセシウム線源から1度に1個の放出されており、下段では偶発同時計数を示すが、これらは、遅延同時計数が差し引かれた上段では消失している。この例では、セシウム線源からの662keVの光子によって発生した同時計数イベントAとBの各対に対して、EA+EB=662keVとなる別の対角軌跡が示されている。これらはセシウム線源からの662keVの光子の後方散乱を表している。ここでも、この後方散乱の信号は、LSOバックグラウンドと強く重複している。スキャン4の欄は、図5のGHのような線上の前方散乱放射線を示す。EA+EB=662keVを表す点の軌跡が、再度表示されている。注目すべきは、これらの光子対の特徴が、LSOバックグラウンド放射線とそれほど強く重複していないことである。より好ましいエネルギー範囲は、患者にとって最良の予備空間であるFOV内に線源を配置する必要がないという事実に加えて、前方散乱アプローチの潜在的な利点である。
【0049】
スキャン4に関し、図7は、スキャナの228個の検出器ブロックにおけるシングル率の分布を、グレースケール表示で示したものである。横方向がスキャナの円周に対応し、縦方向がスキャナの軸方向の寸法に対応する。最大シングル率は、セシウム線源に近い領域では約1×105カウント/ブロックであったのに対し、LSOバックグラウンド放射からのシングルが主である領域では約1×104カウント/ブロックであった。分布の形状から、線源の位置が検出器を越えて約25cmであることが確認された。検出器に当たる実際の放射線量はこれ以上であったと予想される。なぜなら、シングル率には蓄積エネルギーが放射化閾値である約150keVを超えるイベントのみが含まれており、662keVのコンプトン散乱のおよそ半分がそれ以下のエネルギーで反跳電子を生じると予想されるからである。簡単なシミュレーションにより、入射放射線の約40%がシングルモードで検出されることが示唆された。他の関連する効果としては、検出器の結晶と線源との間の物質による吸収および散乱、例えば、電子機器や使用中に検出器を安定化させるための冷却剤を保持するための3~8mm厚のアルミニウムチャネルが挙げられる。
【0050】
図8は、スキャン1、4、および5からの正味-真のサイノグラム(図のA、B、C部分)と、スキャン5のサイノグラムのスキャン4のサイノグラムに対する比(D部分)を示している。サイノグラムは、半径方向に520のビン、角度方向に399のビンを有する。スキャン1からのLSO-バックグラウンドサイノグラムは、検出器ブロックの端部で値が高くなったり低くなったりする予想パターンと、位置により立体角が変動するため中央でカウント数がより低くなることを除いて、主に特徴なしであった。スキャン4からのセシウムスペクトルは、前方散乱放射線による顕著な対角線方向での配向特性がみられた。予想されたように、小角散乱に対応するサイノグラム領域は、散乱を生じる結晶に150keV未満しか付与されていない、すなわち、電子の反跳エネルギーが検出するには低すぎるため、輝度が減少していた。スキャン5からの透過サイノグラムと比サイノグラムは、患者ベッドのガンマ線陰影を示し、これらの測定値から、減弱係数のマップを推定できる可能性が示唆された。
【0051】
セシウムによる感度利得を説明し定量化するために、スキャン1および4からのサイノグラムを、半径方向520ビン×角度方向399ビンから、52x19に再ビニング(rebin)した。スキャン時間の違いを考慮し、粗いビンの各々で再ビニングしたサイノグラムの比率を計算した。比は、1.00から4.77の間で変化した(図9)。38線源サイノグラムを(1)から推定し、図10に図示した。これは、その均一性がスキャン1からのサイノグラムと類似していることを示す。推定された38線源サイノグラムは、スキャン1からのサイノグラムと比較して、半径方向範囲の中央で19.6倍、両端で23.2倍のカウント数であった。(3)を用いて、38線源配置に対する感度利得(sensitivity gain)を計算したところ、次のようになった。
【数4】
【0052】
これらの実験において、LSOバックグラウンドやセシウム線源からの放射線が検出された効率を定量化することは興味深い。表1に、スキャン1~4における線源の放射能とサイノグラム計数率を列挙する。対応する効率を見積もるために、176Luまたは137Cs原子核の、崩壊あたりの透過光子数をNΩ/4πとし、同時計数電子機器の出発信号を提供する放射線に対する幾何学的効率を乗じた。LSOの場合、開始信号はベータ放射線とガンマ放射線のカスケードから生じ、図6が示すように、202または307keVのいずれかの光子が同時計数において検出できるため、N=2となる。本件では、176Lu原子は全ての側面をシンチレータで囲まれていたため、Ωを4πsrに設定した。セシウムの場合、開始信号は散乱662keVガンマ線によると考えられる。この場合、散乱光子のみが同時計数で検出できるためN=1とし、Ωは、セシウム線源の位置から、背面が線源に対向するすべての検出器ブロックの立体角の和として計算した。表には、NΩ/4πと同時計数効率とよばれる量とが列挙される。同時計数効率(coincidence efficiency)は、以下のように定義される。
【数5】
【0053】
【表1】
【0054】
[実験データの考察]
ここに示した実験データは、LSOバックグラウンドからの同時計数のような同時計数に基づくトランスミッションイメージングにおけるスピードアップの実現可能性を実証した。この調査により、前方散乱セシウムガンマ線がこのようなスピードアップを提供できることが示された。本開示の前方散乱ガンマ光子アプローチの使用は、以下のような利点を提供する:ハードウェアである固定ガンマ線源をPETスキャナに直接組み込むことができる;ガンマ線源収容のための少数の簡単な可動部品のみが必要となり得る;潜在的にCTスキャナは不要である;および、PETのFOVをブロックしたりPETのFOVの直径を制限するものは何らない。
【0055】
注意深く設計された実施においては線源にコリメート遮蔽体が設けられ、検出器の方へ向けられたガンマ線は最大強度で照射されるのに対し、他の方向へ向けられたガンマ線は遮蔽体によって吸収され、スキャナ近傍の人々への放射線被曝が低減される。
【0056】
なお、式(4)によって予測されるスピードアップまたは感度利得が、前方散乱アプローチの利点を過小評価していると推測されることの理由がある。第一に、この解析で使用されたスキャン1サイノグラムは、176Luによって放出される202および307keVのガンマ線を組み合わせたものであるが、経験上、307keVのガンマ線のみを使用したほうがよいことがわかった。第二に、セシウムからの前方散乱ガンマ線は、ほとんどルテチウムのガンマ線よりも高いエネルギーを有している。このことは、図6の4B部分から確認することができる。より高いエネルギーは、放射線がファントムおよび患者の身体を貫通する際に減弱がより低いという利点をもたらす。また、散乱が少ないことで、患者からの511keVの放射線の後方散乱による合併症が少ないことが予想される。
【0057】
前方散乱線の使用にあたっては、エネルギー範囲の下端での物理的影響が重要である。これを図8の(B)部分に示される。662keVでのコンプトン散乱の角度分布は小角度に有利であるが、最小の角度での散乱はシンチレータ結晶中に僅かなエネルギーしか残さず、これはスキャナの低エネルギー閾値を下回っている可能性がある。その結果、散乱された放射線の多くを検出できなくなる。図1Cに示すように、複数のセシウム線源を使用すると、明確に定義されたエッジのないサイノグラムが得られる。これは、19の線源位置が計算で組み合わされた図10によって示されている。
【0058】
LSOバックグラウンドとセシウム前方散乱という2つの方法の相対効率を説明するために、同時計数効率と呼ばれる性能指数を導入した。式(5)および表1は、176Luベータ崩壊が全崩壊のほぼ100%で検出され、そして各々の崩壊で2つのガンマ線が放射されるので、LSOバックグラウンド放射線が効率的に使用できることがわかる。実験では、セシウム線源はPET検出器のリングの近くに配置させたため、立体角は4πステラジアンの6.3%であった。すべての要因を考慮すると、前方散乱法はLSOバックグラウンドのケースの3.72×10-3に比べてかなり効率的で、1.24×10-3であることが示された。検出されたかもしれないいくつかの同時計数が実際には見られなかった理由を説明するために、3つの効果に注意する。第一に、662keVのガンマ線の一部は、まったく相互作用せずに検出器を通過したか、または線源とシンチレータとの間の物質により散乱または吸収された可能性がある。これらの影響は、セシウム線源に最も近い検出器ブロックの場合、約40%の損失を占めると推定される。第二に、ガンマ線の一部が検出器に入り、40度未満の角度で散乱し、検出閾値以下に低下したエネルギー量を残した可能性がある。この影響は、散乱角の正弦による重み付けを伴うコンプトン散乱の公式の簡単な分析に基づく別の要因で、検出率を約40%減少させると推定される。これら2つの効果は、それだけで、見逃された同時計数の大部分を説明する。また、第三目の効果は、散乱後、光子の大部分がFOVの反対側となる検出器に対向しないところで生じたということである。この全体的な幾何学的効率係数は、LSOのバックグラウンド放射の場合にも同様であったであろうから、表1の2つの同時計数効率の比は、容易には予測されない。要約すると、この比率は、単純な計算に基づいて予測される量に近い。
【0059】
PETスキャナで前方散乱を実用的な方法で使用するためには、現実または認識されている放射線ハザードと、トランスミッション画像の品質との間には、トレードオフがある。したがって、ガンマ線源材料の最適量を決定することになる。Cs-137を使用する例では、1線源あたりAs=30MBqの38の線源を考慮することができ、合計1110MBqは、ECAT ART PETスキャナで使用される総Cs-137含量と正確に一致する。式(4)は、この場合の感度利得が6.5であることを示唆している。
【0060】
この実験により、一例としてCs-137からの662keVのガンマ線を用いたガンマ線の前方散乱を、PETスキャナにおけるトランスミッションイメージングに使用できることが検証された。本出願では、エネルギー窓と同時計数時間窓とを、大きく開く必要がある。得られたサイノグラムは、LSOバックグラウンド放射線のサイノグラムに加えることもできる。このようなPETスキャナが38個のセシウム線源に分配された合計1110MBqで製造された場合、典型的なPET取得の3分間におけるトランスミッション画像は、LSOバックグラウンドのみに基づく20分間スキャンとほぼ同じ品質となる可能性がある。
【0061】
前方散乱ガンマ光子からのそれぞれの同時計数イベントAおよびBから検出された光子エネルギーEAおよびEBが、ガンマ線源130から放出されるガンマ光子の初期エネルギーEIに加算される原理、すなわちEA+EB=EIを利用して、PETシステムが、虚偽の同時計数イベントなどのほとんどすべてのバックグラウンドノイズを拒絶するようにすることができる。任意のガンマ線源について、その線源からのガンマ線のEIは知られている。たとえば、Cs-137の場合、EIは662keVである。したがって、Cs-137がガンマ線源130として使用される場合、要件EA+EB=EI=662keVを使用して、前方散乱Cs-137ガンマ光子から生じる真の同時計数イベントを選別し、識別されたトランスミッションスキャン信号の質を改善することができる。
【0062】
例えば、図4Aのフローチャート300に要約された方法において、ステップ(b)は、前方散乱ガンマ光子を識別するために要件EA+EB=EIを使用することを含むことができる。ここで、EAおよびEBは、それぞれ、イベントAは、第1のセットの検出器ブロックにおけるシンチレータ結晶におけるコンプトン散乱であり、イベントBは、第2のセットの検出器ブロックにおけるシンチレータ結晶におけるコンプトン散乱であり、EIは、ガンマ線源から放出されるガンマ光子の初期エネルギーである。
【0063】
別の例では、図4Bのフローチャート400に要約された方法において、ステップ(e)は、前方散乱ガンマ光子を識別するために要件EA+EB=EIを使用することを含むことができる。ここで、EAおよびEBは、各対の同時計数イベントAおよびBからそれぞれ検出された光子エネルギーであり、イベントAは、第1のシンチレータ結晶におけるコンプトン散乱であり、イベントBは、第2のシンチレータ結晶におけるコンプトン散乱であり、EIは、ガンマ線源から放出されるガンマ光子の初期エネルギーである。
【0064】
PET検出器のシンチレータ結晶がLSO結晶であるいくつかの実施形態において、LSO結晶バックグラウンド放射線は、2014年2月5日に出願された米国特許出願第14/172,980号に先に開示された方法にしたがって、減弱マップを作成するためにエミッションスキャンとして使用することもできる。この出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
上述の開示によれば、陽電子放出断層撮影(PET)スキャナシステムであって、ガントリ;ガントリ内に設けられた複数の検出器リング組立体であって、各検出器リング組立体は中心開口部の周りにリング形状で配列された複数のPET検出器を備え、複数のPET検出器リング組立体は中心開口部を通るように規定された長手軸に沿って同軸に配列されている、複数の検出器リング組立体;同軸に配列されたPET検出器リング組立体の中央開口部を通るように延在する患者トンネルであって、複数のPET検出器組立体は患者トンネルの長さ方向に沿って同軸に配列されており、複数のPET検出器の各々が、検出器とこの検出器に付随する1以上のシンチレータ結晶とを含む、患者トンネル;および、ガントリ内のPET検出器リング組立体の各々に設けられた1以上の固定ガンマ線源;を含む、陽電子放出断層撮影スキャナシステムが提供される。
【0066】
上述の実施形態のいずれかによるPETスキャナシステムにおいて、PET検出器リング組立体の各々における1以上の固定ガンマ線源は、患者トンネルから離れた検出器リング組立体の後方に配置することができる。上述の実施形態のいずれかに係るPETスキャナシステムにおいて、固定ガンマ線源は、Cs-137、コバルト-60、またはナトリウム-22であり得る。PETスキャナシステムのいくつかの実施形態において、固定ガンマ線源は、Cs-137である。
【0067】
PETスキャナシステムの上記実施形態のいずれにおいても、ガンマ線源の各々は、放射線遮蔽をもたらす組立体内に設けることができる。
【0068】
PETスキャナシステムの上記実施形態のいずれにおいても、放射線遮蔽をもたらす組立体は、ON構成およびOFF構成を含むことができる。そしてON構成においては、検出器組立体に向かって進行するCs-137からのガンマ光子以外の、Cs-137からの残りのガンマ光子は、放射線遮蔽をもたらす組立体によって実質的に吸収される。PETスキャナシステムの上記実施形態のいずれかにおいて、放射線遮蔽を提供する組立体は、少なくとも一部がタングステンを含む材料で構成されている。
【0069】
PETスキャナシステムの上記実施形態のいずれかにおいて、PETスキャナは、PET/MRスキャナであり得る。PETスキャナシステムの上記実施形態のいずれかにおいて、PETスキャナは、PET/CTスキャナであり得る。主題は、例示的な実施形態の観点から説明されたが、これに限定されるものではない。むしろ、添付の特許請求の範囲は、当業者によってなされ得る他の変形例および実施形態を含むように広く解釈されるべきである。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】