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特表2023-524064ウイルス感染を治療又は予防するためのクロファジミン組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(54)【発明の名称】ウイルス感染を治療又は予防するためのクロファジミン組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/498 20060101AFI20230601BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230601BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20230601BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230601BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230601BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230601BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
A61K31/498
A61P31/12
A61P31/16
A61P31/14
A61K47/22
A61K47/26
A61K9/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566323
(86)(22)【出願日】2021-04-30
(85)【翻訳文提出日】2022-12-26
(86)【国際出願番号】 US2021030155
(87)【国際公開番号】W WO2021222740
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】63/018,677
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503208552
【氏名又は名称】マンカインド コーポレイション
【住所又は居所原語表記】30930 Russell Ranch Road, Suite 301, Westlake Village, California 91362, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ホフマン
(72)【発明者】
【氏名】ステファン ウーファ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ジェイ ジュニア フリーマン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076BB27
4C076CC35
4C076DD60A
4C076DD67A
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC51
4C086GA15
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA55
4C086NA10
4C086ZB33
(57)【要約】
本明細書においては、ウイルス感染の治療及び/又は予防方法を開示する。特にこの方法は、吸入に適した製剤で、溶液の形態、懸濁液の形態、又は乾燥粉末として提供される医薬的に有効な用量のクロファジミンを吸入により投与するためのものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロファジミン、クロファジミンの医薬的に許容される誘導体、クロファジミン塩、若しくはクロファジミンの多形、又はこれらの組合せから選択される抗ウイルス剤と、医薬的に許容される担体及び/又は医薬品添加物とを含む吸入可能な医薬組成物であって;前記組成物中の前記抗ウイルス剤の量は、1用量当たり1mg~20mg wt%である、吸入可能な組成物。
【請求項2】
前記抗ウイルス剤並びに前記医薬的に許容される担体及び/又は医薬品添加物は、経口吸入用に製剤化される、請求項1に記載の吸入可能な組成物。
【請求項3】
前記抗ウイルス剤並びに前記医薬的に許容される担体及び/又は医薬品添加物は、噴霧により肺に送達するための懸濁液として製剤化され、前記医薬的に許容される担体及び/又は医薬品添加物は、水、等張生理食塩水、緩衝生理食塩水、又は電解質水溶液から選択される水性液体担体である、請求項2に記載の吸入可能な組成物。
【請求項4】
前記抗ウイルス剤並びに前記医薬的に許容される担体及び/又は医薬品添加物は、経口吸入用乾燥粉末として製剤化される、請求項2に記載の吸入可能な組成物。
【請求項5】
前記抗ウイルス剤は、クロファジミンの直方晶系多形である、請求項に記載の吸入可能な組成物。
【請求項6】
前記医薬的に許容される担体及び/又は医薬品添加物は、ジケトピペラジンである、請求項4に記載の吸入可能な組成物。
【請求項7】
前記ジケトピペラジンは、式(E)-4-[4-[(2S,5S)-5-[4-[[(E)-3-カルボキシプロプ-2-エノイル]アミノ]ブチル]-3,6-ジオキソピペラジン-2-イル]ブチルアミノ]-4-オキソブト-2-エン酸のものである、請求項4に記載の吸入可能な組成物。
【請求項8】
前記組成物は、ウイルス感染を治療するための医薬の製造に使用されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の吸入可能な医薬組成物。
【請求項9】
SARS-CoV-2の肺ウイルス感染の治療に使用される、請求項1~7のいずれか一項に記載の吸入可能な医薬組成物。
【請求項10】
肺のウイルス感染を治療するための方法であって、前記方法は、クロファジミン、クロファジミンの医薬的に許容される誘導体、クロファジミンの多形、又はクロファジミン塩と、医薬的に許容される担体及び/又は医薬品添加物とを含む経口吸入可能な治療有効用量の医薬組成物を、患者の肺に、ドライパウダー吸入器からのエアゾールで又は噴霧された懸濁液で送達することを含む、方法。
【請求項11】
前記経口吸入可能な治療有効用量は、クロファジミン、クロファジミンの医薬的に許容される誘導体、クロファジミンの多形、又はクロファジミン塩約1mg~20mg wt%である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルス感染は、コロナウイルス、インフルエンザ、エボラ出血熱、若しくは肺に影響を及ぼす他のウイルス感染、又はこれらの組合せであり、前記ウイルス感染は、更に1種又は複数種の抗ウイルス剤で治療される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
3~8mgのクロファジミンが前記肺に送達される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
クロファジミン、クロファジミンの医薬的に許容される誘導体、クロファジミン多形、又はクロファジミン塩を3mg~8mgの用量で1日1回7日間前記患者に投与することにより、前記肺内に薬物を長期間にわたり放出する薬物の貯留物を作り出し、治療期間は3週間未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記担体は、グルコース、アラビノース、マルトース、サッカロース、デキストロース、及びラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の結晶糖質からなる群から選択される、4に記載の吸入可能な乾燥粉末。
【請求項16】
前記担体は、質量中央径(MMD)が0.5~10μmの範囲にある微細な粒子の形態にある、請求項15に記載の吸入可能な乾燥粉末。
【請求項17】
治療有効量のクロファジミン、医薬的に許容される誘導体、クロファジミンの多形、又はクロファジミンの塩と、水、等張生理食塩水、緩衝生理食塩水、及び電解質水溶液から選択される水性液体担体とを含む、医薬組成物。
【請求項18】
更に、前記クロファジミン、医薬的に許容される誘導体、クロファジミンの多形、又はクロファジミンの塩の粒子は、懸濁液中に含まれ、前記クロファジミン粒子の質量中央径は<5μm、好ましくは<2μmである、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記クロファジミン、医薬的に許容される誘導体、クロファジミンの多形、又はクロファジミン塩は、マイクロエマルション又はナノエマルションの形態で可溶化されており、エマルション滴の質量中央径(MMD)は1μm未満である、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
肺のウイルス感染の治療又は予防に使用するための吸入システムであって、前記システムは、請求項17に記載の医薬組成物と、ジェット式ネブライザー、超音波式ネブライザー、振動メッシュ式ネブライザー、無振動メッシュ式ネブライザー、又は機械式ソフトミスト定量吸入器から選択されるネブライザーとを含み、生成するエアゾール粒子の空気力学的質量中央径(MMAD)は1~5μmである、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)項の下に2020年5月1日に出願された米国仮特許出願第63/018,677号に基づく優先権を主張するものであり、その全体を参照により援用する。
【0002】
本明細書においては、COVID-19などのコロナウイルス感染を含むウイルス感染を治療及び予防するための組成物及び方法を開示する。特に本組成物は、噴霧又は経口吸入により投与される吸入用懸濁液又は乾燥粉末中にクロファジミンを含む。
【背景技術】
【0003】
ウイルス性疾患(又はウイルス感染若しくは感染性疾患)は、生物の体内に病原性ウイルスが侵入し、感染性ウイルス粒子(ビリオン)が感受性細胞に付着して侵入したときに発生する。ウイルスは感染細胞内で細胞自体の機構を利用して複製し、この細胞から新たなウイルスを放出する。ウイルスはこの生物の他の細胞に感染し、免疫系がそのウイルス量/含有量を克服できなくなるか又はウイルス感染を抑制することができなくなり、病状が継続するまで複製を続ける。
【0004】
コロナウイルス感染症2019(COVID-19)は、SARSウイルスの近縁ウイルスであるSARS-CoV-2が原因となって起こる感染性疾患である。この疾患が2019~2020年のコロナウイルス大流行を引き起こした。これは主に感染者が呼吸や咳をすることで空気中に浮遊した細かい飛沫によって人から人へと広がる。曝露から症状を発症するまでの期間は通常2~14日間である。この疾患を予防するために、手洗い、咳をしている者との距離の確保、及び自身の顔を触らないことが推奨されており、ウイルス検査で陽性と判定された者と濃厚接触があった場合は10~14日間隔離される。また、咳をする際は肘を曲げて自身の鼻と口を覆うことも推奨されている。
【0005】
症状がほとんど現れない者もいれば、発熱、咳、及び息苦しさが現れる者もいる。肺炎や多臓器不全に進行する症例もある。現時点では、承認されているワクチンも特異的抗ウイルス薬による治療も存在せず、症状の治療、支持療法、及び実験的な手法を含む対応が行われている。致死率は1%~3%の間と推定されている。世界保健機関(The World Health Organization)(WHO)及びアメリカ疾病予防管理センター(U.S. Centers for Disease Control)(CDC)は、ウイルスを保有している疑いのある者は顔に医療用マスクを着用すること及び本人が直接診療所に来院せず、電話で医師に医学的助言を求めることを推奨している。感染が疑われる者の世話をする者もマスクを着用することが推奨されている。一般の者が屋内及び屋外で活動する際もマスクを着用することが推奨されている。
【0006】
WHOは、2019~20年のコロナウイルス大流行が、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern)(PHEIC)に該当すると宣言した。2020年2月19日時点でこの疾患の市中感染が進行していることが確認されている地域として名前が挙がっていたのは中国本土のみであった。現在は、欧州及び米国を含む世界中のほぼ全ての国が相当な影響を受けており、この疾患は世界規模の流行に分類された。現在はワクチンが開発され、世界中の何百万人もの人に接種されたが、規制当局はこのワクチンの使用を緊急時に限って承認している。ウイルス感染から回復までの期間を短縮するためのレムデシビルなどの治療薬が幾つか承認されているが、ウイルスを阻害してヒトのCOVID-19を治療するための明確に定義された療法として承認されたものはない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、ウイルス感染を治療するための新規な方法及び組成物と、特にコロナウイルス感染の治療及び阻害に使用するための改良された代替法及び組成物とが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書においては、経口吸入を介して肺に送達されるクロファジミンなどの抗生物質を含む、ウイルス感染を治療するための方法及び組成物を開示する。この方法は、ある用量の組成物を、ウイルス感染を有する患者に送達することを含み、この用量は、現在投与されている対応する経静脈又は経口用量よりも低く、したがって、クロファジミンを用いる標準的治療によって引き起こされる副作用の発生が低減される。この方法は、経口用錠剤よりも低い用量で患者の治療を促進し、且つその作用部位に迅速に到達することが可能でありながら、量がより少なく、毒性のある副作用がより少ない可能性があることから、有利である。
【0009】
一実施形態において、本方法は、治療を必要とする患者に、患者の肺に送達されるクロファジミン組成物を治療有効用量で投与することを含む。クロファジミン組成物は、薬物単体(neat drug)又は医薬的に許容される誘導体、クロファジミンの多形若しくはその塩の形態で患者に提供することができる。幾つかの実施形態において、クロファジミン組成物は、医薬的に許容される担体又は医薬品添加物を含む。特定の実施形態において、クロファジミン組成物は、吸入用の溶液、懸濁液、又は乾燥粉末を含むことができ、これはネブライザー、定量吸入器、又はドライパウダー吸入器と共に使用することができる。
【0010】
他の実施形態においては、肺のウイルス感染の予防方法であって、クロファジミンの肺内滞留時間を増加させ、肺をウイルス感染から保護する、肺内で徐放されるクロファジミンを含む組成物を対象に投与することを含む方法が提供される。
【0011】
一実施形態においては、肺のウイルス感染を治療するための改良方法であって、前記方法は、クロファジミン、医薬的に許容される誘導体、クロファジミンの多形、又はクロファジミンの塩を含む治療有効量の組成物を患者の肺にエアゾールで送達させることを含み、肺に送達されるクロファジミン、医薬的に許容される誘導体、クロファジミンの多形、又はクロファジミンの塩の有効量は、経口による治療有効用量よりも低い、方法が提供される。
【0012】
幾つかの実施形態においては、それを必要とする対象に、クロファジミンと医薬的に許容される担体及び/又は医薬品添加物とを含む治療量の組成物を投与することを含む治療方法であって、ウイルス感染は、コロナウイルス、インフルエンザ、エボラ出血熱、若しくは肺に影響を及ぼす他のウイルス感染、又はこれらの組合せである、方法が開示される。
【0013】
特定の実施形態において、本方法は、SARS-CoV-2感染陽性と診断された対象に、クロファジミン、医薬的に許容される誘導体、クロファジミンの多形、若しくはクロファジミンの塩酸塩、クロファジミン酢酸塩、クロファジミンクエン酸塩、クロファジミンリン酸塩、クロファジミンシュウ酸塩、クロファジミン硫酸塩などのクロファジミンの塩、又はこれらの組合せと、医薬的に許容される医薬品添加物及び/又は担体とを含む治療有効量のクロファジミン組成物を、ウイルスの複製を阻害するために投与することを含む。
【0014】
他の実施形態において、COVID-19疾患を治療するための方法は、それを必要とする患者に、クロファジミン、医薬的に許容される誘導体、若しくはこれらの塩、又はこれらの組合せと、医薬的に許容される医薬品添加物及び/又は担体とを含む治療有効量のクロファジミン組成物を、ウイルスの複製及びウイルス性疾患を阻害するために投与することを含む。
【0015】
一実施形態において、本治療方法は、対象に治療有効量のクロファジミン組成物を投与することを含み、クロファジミン、医薬的に許容される誘導体、又はその塩の量は、肺に送達される組成物1用量当たりのクロファジミン、誘導体、又はその塩が、約1mg~約30mg;約1mg~20mg;1mg~10mg;約3から8mg;又は約2mg~約6mgとなる量である。一実施形態において、医薬的に許容される医薬品添加物を含む吸入用粉末は、1投与量当たり(per dosage to be administered)の総量として50mg以下を含むことができ、これは、ドライパウダー吸入器を用いて1回若しくは1回を超える吸入により投与されるか、又はネブライザーで噴霧される懸濁液中で1回又は1回を超える呼吸により投与されて肺に送達される。この実施形態及び他の実施形態において、乾燥粉末状クロファジミン組成物は、定量吸入器又はドライパウダー吸入器を使用することによってカートリッジ又はカプセルから単位用量がエアゾール化された形態で送達され、毎日投与することができる。
【0016】
幾つかの実施形態において、クロファジミンは、ネブライザーから噴霧することにより送達され、生理食塩水含む懸濁液又は懸濁液を含むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書に開示する実施形態において、コロナウイルス、特にCOVID-19疾患を引き起こすSARS-CoV-2に対する対策として、クロファジミン吸入用懸濁液(CIS)又は吸入可能な乾燥粉末を使用することを含む、ウイルス感染を治療するための方法が提供される。組成物中のクロファジミンは、ウイルス感染を阻害することになり、クロファジミン懸濁液で又は乾燥粉末形態で肺に直接投与される。CISは、現在、肺非結核性抗酸菌症及び結核の両方の治療用の前臨床開発段階にあり、現在、ファースト・イン・ヒューマンのGLP毒性試験が行われている。
【0018】
例示的な実施形態において、ウイルス感染を治療するための方法は、式:
【化1】

を有する抗生物質化合物と、医薬的に許容される担体及び/又は医薬品添加物とを含む組成物を投与することを含む。一実施形態において、この化合物の医薬的に許容される誘導体又は塩もまた、単独で又はこの化合物との組合せで、製剤中、特にウイルス性肺疾患の治療における肺吸入用組成物に使用される。一実施形態において、この化合物は、クロファジミン(clofazimine)、クロファジミン(chlofazimine)、N,5-ビス(4-クロロフェニル)-3-プロパン-2-イルイミノフェナジン-2-アミン、クロファジミン(clofazimine)、クロファジミニウム(clofaziminum)、3-(p-クロロアニリノ)-10-(p-クロロフェニル)-2,10-ジヒドロ-2-(イソプロピルイミノ)-フェナジン、又は三斜晶系(F I)多形、単斜晶系(F II)多形、直方晶系多形(F III)、及び高温多形(F IV)などのクロファジミン結晶多形形態(polymorphic form)若しくは多形(polymorph)である。クロファジミン塩としては、例えば、クロファジミン塩酸塩、クロファジミン酢酸塩、クロファジミンクエン酸塩、クロファジミンギ酸塩、クロファジミンリン酸塩、クロファジミンシュウ酸塩、クロファジミン硫酸塩などが挙げられる。これによる実施形態における、組成物中に単独で又は他と組合せて使用される場合のクロファジミンは、具体的に誘導体、塩、又は多形に言及されていない限り、クロファジミンの任意の形態を指し得る。
【0019】
他の例示的な実施形態においては、上述の抗生物質化合物を含む組成物をジケトピペラジンなどの医薬的に許容される担体又は医薬品添加物と組み合わせることによって経口吸入用乾燥粉末が形成され、このジケトピペラジンは、粒子形態で提供される。この実施形態において、ジケトピペラジンは、質量中央径が<10μmである結晶性複合体(crystalline composite)粒子を形成する。
【0020】
一実施形態において、組成物中のクロファジミン化合物は、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性を有しており、ウイルスの複製を阻害してウイルス性疾患を解消するか又はウイルス性疾患の症状を解消する可能性を有する。in vitro試験において、クロファジミンは、2.5μM(又はクロファジミン約1.2μg/ml)の濃度でウイルスの複製を40%減少させるか又は阻害(eliminate)することができる。クロファジミンは細菌感染の治療に使用されており、例えば、ハンセン病及び国際公開第2020/040818号パンフレットに開示されている肺の細菌感染の治療において経口カプセル剤として提供されている。この開示の関連部分を参照により援用する。
【0021】
例示的な実施形態において、CISや乾燥粉末製剤などのクロファジミン組成物は、概してウイルス感染、特に肺に影響を及ぼすものの治療に使用される。これらは、コロナウイルス、インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス、ジカ熱、デング熱などである。この実施形態において、SARS-CoV-2に対する治療的処置に用いるための、ウイルス感染を治療するためのクロファジミンを含む組成物が提供される。この組成物は、検査で陽性と判定された又はウイルスに感染していると診断された患者に投与するための、クロファジミン、クロファジミンの誘導体、若しくはその塩、又はこれらの組合せと、その医薬的に許容される担体及び/又は医薬品添加物とを含む。これによる一実施形態において、クロファジミン組成物は、単独で、又はリバビリン、アシクロビル、レムデシビル、インターフェロンβ1b、ロピナビル・リトナビルなどの他の抗ウイルス療法と組み合わせて投与される。このような組合せの実施形態において、クロファジミン組成物は吸入により単独で投与され、二次及び/又は三次療法では、吸入可能な懸濁液、溶液、若しくは乾燥粉末として投与するか、又は経口用錠剤、経口用カプセル剤、注射剤、経静脈などの他の投与経路により投与することができる。幾つかの実施形態において、クロファジミンを含むCISや乾燥粉末組成物は、ヒドロキシクロロキンやインベルメクチン(invermectin)などの他の薬物と組み合わせて、それらに指示された投与経路及び投与量で投与される。
【0022】
幾つかの実施形態において、CISや乾燥粉末などの吸入可能なクロファジミン組成物は、ハンセン病及び他の細菌感染などの他の疾患の治療、例えば非結核性抗酸菌症の治療に使用することができる。クロファジミンカプセル剤を使用する細菌感染の治療において、この薬物は比較的忍容性が良好であり、主な副作用としては、患者の少なくとも半数に見られる皮膚黄変及び消化管障害が挙げられる。
【0023】
噴霧形態で吸入投与するためのクロファジミン吸入用懸濁液は、肺非結核性抗酸菌症(NTM-PD)及び結核(TB)のクロファジミン治療を最適化するものである。薬物を気道に直接送達することにより、CISが肺内で治療的濃度に達し、治療効果に影響を及ぼすことなく、主な副作用(上述)の発生が低減されることが期待される。前臨床試験では、CISがNTM-PD及びTBの治療に関し評価されており、一連の毒性試験を実施したところ、CISは約3.0mg/kg(肺内濃度がクロファジミン約10μg/gに達する)以下の用量で安全且つ忍容性が良好であることが示された。クロファジミン吸入用懸濁液の利用可能な薬物動態(PK)及び薬力学(PD)研究からは、吸入による負荷投与を1又は2日間行うことによって、COVID-19疾患を治療するための治療的肺内濃度に到達させることができ、最大2週間維持できることが示されている。
【0024】
吸入用クロファジミン組成物の利点及び優位性は多数あり、例えば、クロファジミンの全身濃度が高くなることによる副作用を回避するための肺への標的投与(経口用量よりもごくわずかな用量で);肺表面及び呼吸器の内側を成す細胞をウイルスによる肺感染から保護/予防する;感染症に対する医療環境(infectious hospital setting)から離れた自宅で吸入療法を行うことができる;クロファジミンの肺内での半減期が長いため、局所的な「肺への負荷(lung loading)」投与を数日間/数回行うと長期間活性を示す;などがある。
【0025】
懸濁液で製造されるクロファジミン組成物は、COVID-19疾患の臨床症状を有する患者に、自宅又は隔離環境のみならず集中治療下でも、吸入療法として投与される。クロファジミン組成物は、前臨床におけるVERO-6細胞などのin vitro感染モデルでSARS-CoV-2に対し有意な抗ウイルス活性を示すことが判明している。
【0026】
特定の実施形態において、肺ウイルス感染を治療するための方法は、肺に大量のクロファジミン、医薬的に許容される誘導体、又はその塩をエアゾールで送達し、肺内に薬物を長時間にわたり放出する貯留物(depot)を作り出すことを含み、それにより治療期間が3週間未満となる。この方法の一態様において、組成物は、ネブライザーで投与される懸濁液又は乾燥粉末を含む。乾燥粉末の実施形態において、粒子径は、直径を約1μm~約100μm、約1μm~約50μm、約2.5μm~約25μm、又は1μm~約10μmとすることができる。
【0027】
一実施形態において、治療方法は、対象にクロファジミン組成物を、クロファジミンの用量を1日約1mg~10mgとして1週間~14日間の期間にわたり投与することを含む。この実施形態において、治療方法は、クロファジミン、医薬的に許容される誘導体、又はその塩を、単回用量で組成物中の活性成分が約3mg~8mgとなるように送達する、クロファジミン組成物を含む。特定の実施形態において、クロファジミン組成物は、相乗的抗ウイルス活性が発揮されるように、リバビリン、アシクロビル、レムデシビル、ロピナビル・リトナビル、インターフェロンβ1bなどの1種又は複数種の抗ウイルス剤と併用投与される。一実施形態において、吸入可能なクロファジミン組成物は、1種又は複数種の他の薬物、例えば、連日経口投与用マクロライド系抗生物質、吸入用アミカシン、並びにアミカシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、チゲサイクリン、セフォキシチン(cefoxitine)、イミペネム、ピラジナミド、リファンピン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、及びパラ-アミノサリチル酸、ベダキリンなどの他の経口用抗生物質からなる群から選択される他の抗生物質と一緒に投与され、この中には、静脈内又は注射により投与されるものもある。1を超える抗生物質の組合せが使用される場合、これは、規定の用量及び経路で、同時に、後から(subsequently)、順次(sequentially)、又は、吸入可能な用量を投与した後に予め定められた期間を空けてから、投与することができる。幾つかの実施形態においては、1種又は複数種の薬物を同時投与するために、吸入可能なクロファジミン組成物と併用することができる。
【0028】
他の実施形態において、肺のウイルス感染を予防的に治療するための方法であって、前記方法は、有効量のクロファジミン又は医薬的に許容される誘導体若しくは塩を患者の肺にエアゾールで送達し、薬物を長時間にわたり放出する薬物の貯留物を肺内に作り出し、肺のウイルス感染を予防することを含む。患者に投与されるクロファジミンの治療量がより少ないため、本治療を用いることにより、経口クロファジミンによる療法で遭遇する複数の有害作用が回避又は軽減される。クロファジミンのカプセル剤を100mg~約300mgの用量で30日間~数年間にわたり得る期間毎日経口投与した場合の有害作用としては、消化管内壁(lining)の腫脹、腹部痛、下痢、掻痒、皮膚乾燥、皮膚変色、血糖値上昇、皮膚過敏化、及び肝毒性が挙げられる。
【0029】
他の実施形態においては、コロナウイルス、インフルエンザ、エボラ出血熱、又は肺疾患を引き起こす他のウイルス感染などのウイルス感染を有する対象を治療することを含む治療方法であって、クロファジミン、クロファジミン誘導体、又はクロファジミンの塩と、医薬的に許容される担体及び/又は医薬品添加物との粒子を含む乾燥粉末組成物を含む医薬組成物の用量を、ドライパウダー吸入器を使用して対象に吸入させる、方法が提供される。この実施形態及び他の実施形態において、医薬的に許容される担体及び/又は医薬品添加物は、式:
【化2】

の化合物若しくは(E)-4-[4-[(2S,5S)-5-[4-[[(E)-3-カルボキシプロプ-2-エノイル]アミノ]ブチル]-3,6-ジオキソピペラジン-2-イル]ブチルアミノ]-4-オキソブト-2-エン酸、3,6-ビス(N-フラニル-N(n-ブチル)アミノ)-2,5-ジケトピペラジン、又はこれらの医薬的に許容される塩である。エアゾール化される製剤は、結晶、結晶性複合体、若しくは非晶性乾燥粉末、又はこれらの組合せを含むことができる。
【0030】
例示的な実施形態において、吸入可能なクロファジミン組成物は、クロファジミン、クロファジミンの誘導体、若しくはこれらの医薬的に許容される塩、又はこれらの組合せとジケトピペラジンとを含む微粒子を含み、組成物中のクロファジミン、誘導体、又はその塩の量は、約1mg~約10mg wt.%である。
【0031】
一実施形態において、吸入可能な乾燥粉末組成物は、1種又は1種を超える担体及び/又は医薬品添加物を含むことができ、前記担体又は医薬品添加物は、グルコース、アラビノース、マルトース、サッカロース、デキストロース、及びラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の結晶糖質からなる群から選択される。特定の実施形態において、担体又は医薬品添加物は、ポリソルベート80などのポリソルベートを含む界面活性剤;1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンや1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンなどのリン脂質;ポリマー;並びにグリシン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジンなどの脂肪族アミノ酸から選択される1種又は複数種の剤を含むことができる。
【0032】
特定の実施形態において、吸入可能な乾燥粉末組成物は、担体又は医薬品添加物を含むことができ、前記担体又は医薬品添加物は、質量中央径(MMD)が0.5~10μm又は0.5~6μmの範囲にある微細粒子の形態にある。幾つかの実施形態において、吸入可能な乾燥粉末組成物は、質量径が50~500μmの粗大粒子の形態にある担体を含む。他の実施形態において、クロファジミンを含む吸入可能な乾燥粉末組成物は、空気力学的質量中央径が5μm未満である粒子を含む。
【0033】
例示的な実施形態において、治療有効量のクロファジミン、医薬的に許容される誘導体、又はクロファジミンの塩と、水、等張生理食塩水、緩衝生理食塩水、及び電解質水溶液から選択される水性液体担体とを含む、吸入用医薬組成物が提供される。この実施形態において、医薬組成物はクロファジミン懸濁液を含み、クロファジミン粒子の質量中央径は、<5μm、好ましくは<2μmである。一実施形態において、クロファジミンを含む医薬組成物は、マイクロエマルション又はナノエマルションの形態で可溶化されており、エマルション滴の質量中央径(MMD)は1μm未満である。この実施形態においては、肺のウイルス感染の治療又は予防に使用するための噴霧システム用の医薬組成物が提供され、このシステムは、医薬組成物及びネブライザーを含み、ネブライザーは、ジェット式ネブライザー(compressed air jet nebulizer)、超音波式ネブライザー、振動メッシュ式ネブライザー、無振動メッシュ式(static mesh)ネブライザー、又は機械式ソフトミスト定量吸入器(mechanical soft mist inhaler)からなる群から選択することができ、使用時に形成されるエアゾール粒子の空気力学的質量中央径(MMAD)は1~5μmである。一実施形態において、噴霧システムは、更に、電気的方法又は機械的方法のいずれかにより患者の吸気流量を制御し、患者の吸入時のみエアゾールが生成する。
【0034】
一実施形態において、ウイルス感染以外の肺細菌感染に罹患している患者に治療有効量のクロファジミンなどの抗ウイルス剤を含む局所用医薬組成物を投与することと、病原体が製剤中の各抗ウイルス剤に感受性であるウイルス感染に冒されている体表面に前記組成物を適用することと、を含む、治療方法が提供される。
【0035】
本抗ウイルス組成物は、多くのウイルス感染の治療にも使用することができ、例えば、クロファジミンを含む本組成物は、医薬的に許容される担体及び医薬品添加物と一緒に、経口用、経鼻用、眼内用、肺用、非経口用、局所用、又は粘膜用を含む様々な医薬の調製に使用することができる。
【0036】
以下に示す実施例は、開示した粒子及び組成物を方法に使用するための実施例を示すために含まれている。以下に示す実施例に開示する技法は、本発明者が本開示の実施において十分に機能することを見出した技法を代表するものであり、したがって、それを実施するための好ましい態様を構成すると見なすことができることを当業者は理解すべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らし、開示されている特定の実施形態に多くの変更を行うことが可能であり、本発明の範囲を逸脱することなく依然として等しい又は類似の結果が得られることを理解すべきである。
【実施例
【0037】
実施例1
ドライパウダー吸入器(DPI)用の吸入可能なクロファジミン組成物:ドライパウダー吸入器であるAerolizer DPIを、カプセル内に収容されたクロファジミン薬物と一緒に準備する。クロファジミンをジェットミルで微細化することにより、MMDが<2μmである粒子を製造し、次いでより大きな乳糖粒子(MMD>50μm)とブレンドすることにより、クロファジミン製剤が生成する。製剤中のクロファジミンは約10重量%である。製剤約250mg(クロファジミン25mg)をカプセルに充填する。Aerolizer DPIを介して吸入すると、用量の13%~28%が肺に沈着する(Meyer et al,J Aerosol Med,2004,17(1):43-49)。この吸入器システムを使用すると、カプセルから3.25mg~7mgのクロファジミンが肺に送達される。当業者は、説明が若干変わっても、依然として、1カプセル分の用量で一貫して3mg~8mgのクロファジミンを肺に送達する等しい治療効果を有する多くの実施形態を想定することができる。クロファジミン吸入粉末の代替形態を、医薬的に許容される誘導体又はクロファジミンの塩を用いて製造することができる。
【0038】
吸入可能な製剤を送達するための代替的な吸入器の使用は、提供される製剤を、他のカプセル型デバイス、ブリスターストリップ型吸入器、リザーバー型吸入器(計量式)、単回使い切り型吸入器、再使用可能な吸入器などの任意のドライパウダー吸入器の使用に適合するように製造することによって達成される。米国特許第8,636,001号明細書及び米国特許第8,485,180号明細書に開示されているものを含むあらゆるドライパウダー吸入器を参照により包含し、当該開示の関連する内容全体を参照により援用する。
【0039】
代替粒子径:吸入器はそれぞれ気流に対する抵抗が異なり、吸入器の抵抗が大きいほど吸入流量は低くなる。より抵抗が大きい吸入器(吸入流量がより低い)を選択すると、より大きな粒子径(10μmまで)を使用して肺に有効に送達することが可能になる。代替製剤成分:吸入製剤に使用するための乳糖は、サイズ及び形状の異なる多くのグレードが利用可能である。分散を助けるために小さな乳糖粒子を予めブレンドしておくことも可能である。乳糖を生理学的に許容される不活性固体担体に置き換えることも可能である。エアゾールの分散を助けるために、リン脂質、塩、界面活性剤、ポリマーなどの追加の医薬品添加物を添加することもできる。代替剤形:別法として、クロファジミン及び医薬品添加物を溶媒に溶解し、噴霧乾燥させることも可能である。
【0040】
実施例2
PARI eFlow(登録商標)ネブライザー送達用懸濁液:クロファジミンの治療用量を肺に送達するための代替的な方策は、ネブライザーを使用するものである。クロファジミンは溶解性が低いため、クロファジミン粒子をジェットミル粉砕によって<2μmに微細化し、結果として得られる製剤がクロファジミンを9~20mg/ml含むように等張生理食塩水と混合する。懸濁液を安定化するためにPEG400又はポリソルベート80を添加してもよい。本実施例においては、約2mLの製剤をPARI eFlow(登録商標)ネブライザーに装入する。PARI eFlow(登録商標)からの肺到達量(lung dose)は約25%であるので、本実施形態により約4.5mgのクロファジミンが患者の肺に沈着する。
【0041】
ドライパウダー吸入器と同様に、当業者は、説明が若干変わっても、依然として、3mg~80mgのクロファジミンを肺に送達する等しい治療効果を有する多くの実施形態を想定することができる。異なるネブライザーを本組成物の送達に使用することができる。必要とされる治療有効用量を送達することができるネブライザーとしては、ジェット式ネブライザー、超音波式ネブライザー、振動メッシュ式ネブライザー、無振動メッシュ式ネブライザー、又は機械的ソフトミスト定量吸入器が挙げられる。ネブライザーと一緒に使用するためのクロファジミン組成物の代替形態は、クロファジミンの医薬的に許容される誘導体又は塩を用いて製造された粉末を含む。投与すべき用量に応じて、製剤中の濃度が異なるクロファジミンを使用することができ、例えば、患者の必要性に応じてクロファジミン濃度を増減させることができる。幾つかの実施形態において、PEG400の替わりに異なる医薬品添加物、例えば、界面活性剤を使用することもできるし、PEG400と組み合わせて使用することもできる。噴霧用組成物はまた、異なる重量オスモル濃度で調製することもでき、例えば、製剤を高浸透圧溶液又は低浸透圧溶液又は懸濁液とすることができる。
【0042】
吸入可能な組成物中の粒子の吸入流量を制御するために、組成物の用量当たりの粒子がより大きくなるように調製すると、その結果として、この用量を投与した後に肺内に約3mg~8mgのクロファジミンが等しい薬物総量で肺に沈着する。
【0043】
こうして述べてきたように、薬物を肺に送達することには多くの利点がある。しかしながら、薬物の体積及び重量が均一になるように薬物を天然の物理障壁を通り抜けさせることは難題であり、薬物の肺への送達は難しい。
【0044】
実施例3
結晶性複合体クロファジミン乾燥粉末の調製
クロファジミン(0.20g)を75%酢酸溶液(1.13g)(酢酸溶液の濃度は酢酸75%~100%の範囲とすることができる)に加えることにより、15%クロファジミン溶液(この溶液のクロファジミン濃度はクロファジミン1%~クロファジミン15%とすることができる)を調製した。このクロファジミン溶液を、フマリルジケトピペラジンの微結晶粒子(XC)懸濁液(固形分1.31%、175.57g)懸濁液(XC懸濁液の固形分含有量は0.5%~5%の範囲とすることができる)に加えた。このクロファジミンXC懸濁液を、Buchi B-290噴霧乾燥機を使用して、表1に示す条件で噴霧乾燥させることにより、8%クロファジミンXC粉末を製造した。
【0045】
結晶性クロファジミン乾燥粉末の調製
クロファジミン(0.20g)を75%酢酸溶液(1.13g)(酢酸溶液の濃度は酢酸75%~100%の範囲とすることができる)に加えることにより、15%クロファジミン溶液(この溶液のクロファジミン濃度はクロファジミン1%~クロファジミン15%とすることができる)を調製した。このクロファジミン溶液を、予め形成された3,6-ビス(N-フマリル-4-アミノブチル)-2,5-ジケトピペラジンの粒子の懸濁液(T懸濁液;固形分11.04%、20.83g)(T懸濁液の固形分は0.5%~20%の範囲とすることができる)に加えた。次いでクロファジミンT懸濁液を噴霧乾燥によって乾燥させることにより、8%クロファジミンT粉末を製造した。粉末の噴霧乾燥にはBuchi B-290噴霧乾燥機を使用し、表1に示す条件で行った。
【0046】
【表1】
【0047】
粉末試験
アンダーセン型カスケードインパクター(ACI)を使用して粉末の空気力学的粒子径分布を評価した。粉末をGen 2Cカートリッジ(カートリッジ充填量10mg)から4kPaでACI内に放出した。これまでに調製したクロファジミン粉末に関するデータを表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2から分かるように、噴霧乾燥された乾燥粉末のプロセス収率(process product yield)は両方共50%を超えており、カートリッジ放出率(cartridge emptying)(CE)測定により評価した、送達システムから送達された粉末は、平均して80%を超えていた。
【0050】
別段の指定がない限り、本明細書及び特許請求の範囲に用いる成分の量、分子量などの特性、反応条件などを表す数値は全て、全ての場合において「約」という語で修飾されていると理解すべきである。したがって、反対の指示がない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載する数値パラメータは、本発明により得ようとしている所望の特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、そして特許請求の範囲への均等論の適用を制限することなく、各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効桁数を考慮し、通常の丸め法を適用することによって解釈すべきである。本発明の広い範囲を説明する数値範囲及びパラメータは近似値であるが、特定の例を説明する数値は可能な限り正確に報告する。しかしながら、どの数値も本質的に、各試験の測定に見られる標準偏差に起因する不可避的な一定の誤差を含んでいる。
【0051】
「a」及び「an」及び「the」という用語並びに本発明を説明する文脈で(特に、以下の特許請求の範囲の文脈で)使用される類似の指示語は、別段の指定がない限り、又は文脈上明らかに矛盾しない限り、単数形及び複数形の両方を含むと解釈される。本明細書における値の範囲の記載は、単にその範囲に含まれる別個の値をそれぞれ個々に記載することを簡略化する方法の役割を果たすことを意図している。本明細書において別段の指定がない限り、個々の値がそれぞれ本明細書に個々に記載されているかの如く本明細書に組み込まれる。本明細書に記載する全ての方法は、本明細書において別段の指定がない限り、又は文脈上明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書において提供される全ての例又は例示的な言い回し(例えば「など」)の使用は、単に本発明をより十分に例示することを意図しているに過ぎず、他に主張がない限り、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書におけるいかなる文言も、特許請求されていない任意の構成要素が本発明の実施に必須であることを示唆していると解釈すべきではない。
【0052】
本開示は、択一のみ及び「及び/又は」を意味する定義を支持するが、特許請求の範囲において「又は(若しくは)」という語を使用する場合、択一のみを指すことが明示的に示されているか又はその選択肢が相互に排他的である場合を除いて、「及び/又は」を意味するために使用される。
【0053】
本明細書に開示する本発明の代替的な構成要素又は実施形態の群分けは限定と解釈すべきではない。各群の構成員は、個別に、又はその群の他の構成員と若しくは本明細書から見出される他の構成要素との任意の組合せとして言及することも特許請求することもできる。ある群の1つ又は複数の構成員は、便宜上及び/又は特許性の理由から、ある群に包含され得ることも除外され得ることも予想される。このような包含又は除外が行われた場合、その明細書はこのように修正された群を含み、したがって、添付の特許請求の範囲において用いられるあらゆるマーカッシュ群の記載要件を満たすものと見なされる。
【0054】
本明細書には、本発明者らが知る本発明を実施するための最良の形態を含む本発明の好ましい実施形態を記載する。当然のことながら、これらの好ましい実施形態の変形は、上述の説明を読むことにより当業者に明らかになるであろう。本発明者は、当業者が必要に応じてこのような変形を採用することを予期しており、また、本発明者らは、本発明が本明細書に具体的に記載されたものとは異なる形で実施されることを意図している。したがって本発明は、適用法により許される範囲において、本明細書に添付される特許請求の範囲に記載する主題のあらゆる修正及び均等物を包含する。更に、その可能なあらゆる変形における上に述べた構成要素の任意の組合せは、本明細書において別段の指定がない限り、又は文脈上明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。
【0055】
本明細書に開示する具体的な実施形態を、特許請求の範囲において、「からなる(consisting of)」又は「から基本的になる(consisting essentially of)」という文言を用いて更に限定することができる。出願時においても、補正による追加であっても、特許請求の範囲において移行句「からなる(consisting of)」が使用された場合、特許請求の範囲に規定されていない構成要素、ステップ、又は成分は除外される。移行句「から基本的になる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲を、規定した材料又はステップと、基本的及び新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないものとに限定する。このように特許請求された本発明の実施形態は、本明細書に内在的に又は明示的に記載されており、実施可能である。
【0056】
更に、本明細書全体を通して特許及び刊行物を多数参照した。上に引用した各参考文献及び刊行物全体を、本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0057】
更に、本明細書に開示する本発明の実施形態は本発明の原理を例示するものであると理解されたい。採用され得る他の修正は本発明の範囲内に包含される。したがって、これに限定するものではないが、例として、本発明の代替的な構成を本明細書の教示に従い利用することができる。したがって本発明は、ここに示したもの及び記載したものそのものに厳密に限定されるものではない。
【国際調査報告】