(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(54)【発明の名称】ヒアルロナンコンジュゲートの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/728 20060101AFI20230601BHJP
A61K 31/7016 20060101ALI20230601BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230601BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230601BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230601BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230601BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20230601BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230601BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20230601BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230601BHJP
A61P 33/02 20060101ALI20230601BHJP
A61P 33/06 20060101ALI20230601BHJP
A61P 33/12 20060101ALI20230601BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230601BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230601BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
A61K31/728
A61K31/7016
A61P11/00
A61P29/00
A61P31/04
A61P31/12
A61P33/00
A61P31/16
A61P31/22
A61P31/14
A61P33/02
A61P33/06
A61P33/12
A61P11/06
A61P43/00 105
A61P31/20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566400
(86)(22)【出願日】2021-06-08
(85)【翻訳文提出日】2022-10-31
(86)【国際出願番号】 US2021036438
(87)【国際公開番号】W WO2021252513
(87)【国際公開日】2021-12-16
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521497774
【氏名又は名称】アイホル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】AIHOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】6481 ORANGETHORPE AVENUE STE 2, BUENA PARK, CALIFORNIA 90620, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】リン,ファ‐ヤン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086EA25
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB11
4C086ZB21
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZB37
4C086ZB38
4C086ZB39
(57)【要約】
急性肺炎症および慢性肺炎症を含む肺炎症を治療するためのヒアルロナンコンジュゲートの使用が、本明細書で開示される。また、ウイルス感染を治療するためのヒアルロナンコンジュゲートの使用も、本明細書で開示される。前記ヒアルロナンコンジュゲートは、ヒアルロン酸(HA)ニメスリドコンジュゲートである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする対象の肺炎症の治療に使用するための医薬品の製造におけるヒアルロナンコンジュゲートの使用であって、
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化1】
または、その医薬的に許容される塩の構造を有する少なくとも1つの二糖単位を有する、使用。
【請求項2】
前記対象が、ヒトである、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項3】
前記肺炎症が、急性肺炎症または慢性肺炎症である、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項4】
前記急性肺炎症が、肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、または、急性肺損傷(ALI)により引き起こされるか、または、それらに関連する、請求項3に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項5】
前記肺炎が、細菌感染、ウイルス感染、または、寄生虫感染によって引き起こされる、請求項4に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項6】
前記細菌感染が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、または、マイコバクテリア(Mycobacteria)により引き起こされ、
前記ウイルス感染が、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、または、コロナウイルスによって引き起こされ、かつ、
前記寄生虫感染が、リーシュマニア(Leishmania)、マラリア原虫(Plasmodium)、または、住血吸虫(Schistosoma)によって引き起こされる、請求項5に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項7】
前記コロナウイルスが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である、請求項6に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項8】
前記慢性肺炎症が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、肺線維症、または、特発性肺線維症(IPF)によって引き起こされるか、または、それらに関連している、請求項3に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項9】
前記肺炎症が、過敏性肺炎である、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項10】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、10~2000キロダルトンの平均分子量(MW)を有する、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項11】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化2】
または、その医薬的に許容される塩の構造を有する、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項12】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化3】
若しくは、それらの医薬的に許容される塩の構造を有する、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項13】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、0.5%~35%の置換度を有する、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項14】
治療を必要とする対象の肺炎症の治療に使用するためのヒアルロナンコンジュゲートであって、
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化4】
または、その医薬的に許容される塩の構造を有する少なくとも1つの二糖単位を有する、ヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項15】
治療を必要とする対象における肺炎症を治療するための医薬組成物であって、
有効量のヒアルロナンコンジュゲート、および、医薬的に許容される賦形剤を含み、
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化5】
または、その医薬的に許容される塩の構造を有する少なくとも1つの二糖単位を有する、医薬組成物。
【請求項16】
治療を必要とする対象における肺炎症を治療するための方法であって、有効量の、以下の構造
【化6】
または、その医薬的に許容される塩の構造を有する少なくとも1つの二糖単位を有するヒアルロナンコンジュゲートを、前記対象に投与するステップ、を含む、方法。
【請求項17】
以下の構造
【化7】
または、その医薬的に許容される塩の構造を有する、ヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項18】
有効量の、請求項17に記載のヒアルロナンコンジュゲート、および、医薬的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項19】
以下の構造
【化8】
若しくは、それらの医薬的に許容される塩の構造を有する、ヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項20】
有効量の、請求項19に記載のヒアルロナンコンジュゲート、および、医薬的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒアルロン酸のコンジュゲート(hyaluronic conjugate)に関し、より詳細には、肺炎症を治療するためのヒアルロン酸のコンジュゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
炎症とは、とりわけ、病原体、刺激物、および傷害などの刺激に対して、我々の身体の免疫システムが応答するプロセスである。炎症には、急性炎症と慢性炎症の2種類がある。急性炎症の主な症状は、痛み、発赤、腫れ、熱感などで、数日続くことがしばしばある。一方、慢性炎症は、数ヶ月から数年にわたって生じる可能性がある。慢性炎症の症状としては、痛みおよび疲労が一般的であるが、それ以外の症状については、アレルギー、関節炎、乾癬、関節リウマチ、糖尿病、心疾患、および慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性炎症に関連する疾患によって異なることが多い。
【0003】
炎症反応は、刺激部位から生じる事象の非常に複雑なカスケードの結果である。この複雑な反応は、サイトカインによって媒介される。サイトカインは、適応免疫、炎症誘発シグナル伝達経路、および抗炎症シグナル伝達経路に関与する、炎症の重要な調節因子である。サイトカインの例としては、ケモカイン、インターロイキン(IL)、腫瘍壊死因子(TNF、例えば、TNF-αおよびTNF-β)、インターフェロン(IFN、例えば、IFN-α、IFN-β、およびIFN-γ)、コロニー刺激因子(CFS、例えば、顆粒球CSF(G-CSF)および顆粒球/マクロファージCSF(GM-CSF)、マクロファージCSF(M-CSF)およびエリスロポエチン)、およびトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)が挙げられるが、これらに限定されない。ケモカインは、小型サイトカイン(8-12kDa)の一種で、主に白血球を刺激部位に遊走させるために、細胞によって産生される。ケモカインは、その最初の2つのN末端システイン残基の間隔に応じて、4つのグループ(CCケモカイン、Cケモカイン、CXCケモカイン、CX3Cケモカイン)に分類され得る。
【0004】
IL-6は、急性期反応、免疫応答、および造血を活性化することにより、感染症および組織損傷などの急性環境刺激に対する宿主防御に関与する多目的サイトカインである。しかし、IL-6の調節不全の継続的な産生は、様々な自己免疫疾患および慢性炎症性疾患の発症および発現を引き起こす可能性がある。さらに、IL-6および他のサイトカイン(IFN-γおよびIL-10など)の高発現は、全身性の急性炎症性合併症であるサイトカイン放出症候群(CRS)すなわちサイトカインストームを、引き起こす可能性がある。現在、COVID-19のパンデミックは、多くの国の医療資源と社会経済を圧迫している。COVID-19は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)により引き起こされる感染症である。COVID-19の重症例では、程度の差こそあれCRSが認められ、これらの患者ではIL-6レベルの上昇がしばしば認められる。CRSは重篤な肺損傷を引き起こし、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)および死をもたらす可能性があるため、IL-6を介したカスケードを遮断することで疾患の重症度を軽減できる可能性がある。
【0005】
したがって、IL-6遮断は、自己免疫疾患、炎症性疾患、およびサイトカインストームの治療戦略として用いられてきた。しかし、免疫応答は非常に複雑かつ動的であるため、IL-6遮断薬は数種類しか承認されておらず、いくつかの薬剤候補が臨床試験中である。 それにもかかわらず、これらの薬剤は、すべて抗体ベースの生物製剤であり、特に上市当初は非常に高価であることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の観点から、当該技術分野では、効果的に治療できる低分子ベースの治療薬を提供する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(概要)
以下では、読み手に基本的な理解を提供するために、本開示の簡略化した概要が示される。この概要は、本開示の広範な概要ではなく、本発明の肝要な/重要な要素を特定するものでも、本発明の範囲を明確にするものでもない。その唯一の目的は、後述するより詳細な説明の前段階として、本明細書に開示されているいくつかの概念を簡略化して提示することである。
【0008】
1つの態様では、本開示は、治療を必要とする対象における肺炎症を治療する方法に関する。
【0009】
本開示のいくつかの実施形態によれば、前記方法は、有効量の、以下の構造
【化1】
または、その医薬的に許容される塩の構造を有する少なくとも1つの二糖単位を有するヒアルロナンコンジュゲート(hyaluronan conjugate)を、前記対象に投与するステップ、を含む。
【0010】
様々な実施形態において、前記対象は、ヒトを含む哺乳類である。
【0011】
本開示のいくつかの実施形態によれば、前記肺炎症は、急性肺炎症(例えば、肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、および急性肺損傷(ALI))、慢性肺炎症(例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、肺線維症、もしくは特発性肺線維症(IPF))、または過敏性肺炎(外因性アレルギー性肺胞炎)である。
【0012】
本開示の様々な実施形態によれば、肺炎は、細菌(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、およびマイコバクテリア(Mycobacteria))、ウイルス(例えば、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、およびコロナウイルス)、または寄生虫(例えば、リーシュマニア(Leishmania)、マラリア原虫(Plasmodium)、および住血吸虫(Schistosoma))により引き起こされる。ヒトに肺炎を引き起こす可能性のあるコロナウイルスの例としては、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス(SARS-CoV)、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、および中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、静脈内注射で投与される。
【0014】
本開示の特定の実施形態によれば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、10~2000キロダルトン(kDa)、好ましくは、50~250kDa、より好ましくは、100~200kDaの平均分子量(MW)を有している。
【0015】
本開示のいくつかの実施形態によれば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、約0.5%~35%の置換度(DS)を有する。すなわち、1000個の二糖単位ごとに、約5~100個の水素化ニメスリド分子がそこに結合している。いくつかの好ましい実施形態では、本ヒアルロナンコンジュゲートの置換度は、約0.75~9%、好ましくは約1%~8%、好ましくは約1.25%~7%、好ましくは1.5%~6%、好ましくは約1.75%~5.5%、好ましくは約2%~5%、好ましくは約2.25%~4.5%である。
【0016】
本開示の特定の実施形態によれば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、1つの二糖単位のみを含み、以下の構造
【化2】
または、その医薬的に許容される塩の構造を有している。
【0017】
本開示の特定の実施形態によれば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、2つの二糖単位のみを含み、以下の構造
【化3】
若しくは、それらの医薬的に許容される塩の構造を有している。
【0018】
さらに別の態様において、本開示は、肺炎症を治療するための医薬組成物に関する。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、前記医薬組成物は、有効量の上記のヒアルロン酸のコンジュゲートと、医薬的に許容される賦形剤とを含む。
【0020】
本開示の他の態様にも含まれる主題には、肺炎症の治療に使用するための医薬品の製造におけるヒアルロン酸のコンジュゲートの使用、および肺炎症の治療に使用するためのヒアルロン酸のコンジュゲート、を含む。
【0021】
本開示の特徴および利点の多くは、添付の図面に関連して考慮される以下の詳細な説明を参照することにより、よりよく理解されるであろう。
【0022】
本明細書は、添付の図面に照らして示される以下の詳細な説明から、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示の1つの実施例による、様々な実験群におけるマウスのPGI2レベルを示すヒストグラムである。
【
図2】本開示の1つの実施例による、様々な実験群におけるマウスの平均サイトカイン濃度を示すヒストグラムである。
【
図3】本開示の1つの実施例による、LPS誘導A549細胞におけるIL-6レベルに対するNIM-HAの効果を示すヒストグラムである。
【
図4】本開示の1つの実施例による、LPS誘導A549細胞におけるIL-6レベルに対するNIM-HA二糖の効果を示すヒストグラムである。
【
図5】本開示の1つの実施例による、LPS誘導ALIマウスモデルにおける肺重量の湿潤/乾燥比に対するNIM-HAの効果を示すヒストグラムである。
【
図6A】本開示の1つの実施例による、LPS誘導ALIマウスモデルのBALFにおける総タンパク質、TNF-α、IL-1β、およびIL-6のレベルに対するNIM-HAの効果をそれぞれ示すヒストグラムである。
【
図6B】本開示の1つの実施例による、LPS誘導ALIマウスモデルのBALFにおける総タンパク質、TNF-α、IL-1β、およびIL-6のレベルに対するNIM-HAの効果をそれぞれ示すヒストグラムである。
【
図6C】本開示の1つの実施例による、LPS誘導ALIマウスモデルのBALFにおける総タンパク質、TNF-α、IL-1β、およびIL-6のレベルに対するNIM-HAの効果をそれぞれ示すヒストグラムである。
【
図6D】本開示の1つの実施例による、LPS誘導ALIマウスモデルのBALFにおける総タンパク質、TNF-α、IL-1β、およびIL-6のレベルに対するNIM-HAの効果をそれぞれ示すヒストグラムである。
【
図7A】SARS-CoV-2疑似ウイルス侵入に対するNIM-HAおよびNIM-HA4コンジュゲートの効果を示すヒストグラムおよび折れ線グラフを示す(侵入遮断:6時間)。
【
図7B】SARS-CoV-2疑似ウイルス侵入に対するNIM-HAおよびNIM-HA4コンジュゲートの効果を示すヒストグラムおよび折れ線グラフを示す(侵入遮断:6時間)。
【
図8A】SARS-CoV-2疑似ウイルス侵入に対するNIM-HAおよびNIM-HA4コンジュゲートの効果を示すヒストグラムおよび折れ線グラフを示す(侵入遮断:16時間)。
【
図8B】SARS-CoV-2疑似ウイルス侵入に対するNIM-HAおよびNIM-HA4コンジュゲートの効果を示すヒストグラムおよび折れ線グラフを示す(侵入遮断:16時間)。
【
図9A】細胞生存率に対するNIM-HA4コンジュゲートの効果を示すヒストグラムおよび折れ線グラフを示す。
【
図9B】細胞生存率に対するNIM-HA4コンジュゲートの効果を示すヒストグラムおよび折れ線グラフを示す。
【
図10A】SARS-CoV-2疑似ウイルスに感染したマウスに対するNIM-HAのin vivo効果を示す分布図である。
【
図10B】SARS-CoV-2疑似ウイルスに感染したマウスに対するNIM-HAのin vivo効果を示す分布図である。
【
図11】SARS-CoV-2ウイルスに対するNim-テトラ(NIM-HA4)コンジュゲートの阻害効果を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(説明)
添付の図面に関連して以下に提供される詳細な説明は、本実施例の説明を意図したものであり、本実施例が構築または利用され得る唯一の形態を表すことを意図したものではない。本説明では、本実施例の役割と、本実施例を構築して実行させるためのステップの順序とを示している。しかし、同じまたは同等の役割および順序が、異なる実施例によって達成され得る。
【0025】
便宜上、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で採用されている特定の用語がここに集められている。本明細書で特に定義されていない限り、本開示で採用されている科学的および技術的な用語は、当業者が一般的に理解し、使用する意味を有するものとする。
【0026】
文脈上特に要求されない限り、単数形には同じものの複数形が含まれ、複数形には単数形が含まれることが理解される。また、本明細書および特許請求の範囲で使用されている「少なくとも1つ」および「1つ以上」という用語は、同じ意味を有し、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上を含む。さらに、本明細書および添付の特許請求の範囲を通して使用される、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つ」、「A、B、またはCのうちの少なくとも1つ」、および「A、Bおよび/またはCのうちの少なくとも1つ」という表現は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBを一緒に、BとCを一緒に、AとCを一緒に、ならびにA、B、およびCを一緒にカバーすることを意図している。
【0027】
本発明の広範な範囲を示す数値範囲やパラメータは近似値であるにもかかわらず、具体的な実施例に記載された数値は、可能な限り正確に報告される。しかし、いずれかの数値にも、それぞれの試験測定で見出される標準偏差に起因する一定の誤差が含まれている。また、本明細書では、「約」という用語は、一般に、所定の値または範囲の10%、5%、1%、または0.5%以内を意味する。また、「約」という用語は、当業者が考える場合の平均値の許容可能な標準誤差の範囲内を意味する。実行/実施例以外では、または別途明示して示されない限り、本明細書で開示されている材料の量、時間の長さ、温度、作動条件、量の割合などのためのすべての数値範囲、量、値、およびパーセントは、すべての例で「約」という用語によって変更されていると理解されるものとする。したがって、特にそれとは反対の指示がない限り、本開示および添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメータは、所望に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、各数値パラメータは、少なくとも、報告される有効桁数の数を踏まえて、および通常の丸め技法を適用することによって、少なくとも解釈されるものとする。範囲は、1つの終点からもう1つの終点までまたは2つの終点間として本明細書で示され得る。本明細書で開示される全ての範囲は、別途指定しない限り終点を含む。
【0028】
本明細書で使用される「治療」および「治療する」という用語は、予防に寄与する(例えば、予防的)、治癒的または緩和的な措置を指してもよい。特に、本明細書で使用される「治療する」という用語は、本ヒアルロナンコンジュゲートまたはこれを含む医薬組成物を、病状、病状に関連する症状、病状に続発する疾患または障害、または、病状に対する素因、を有する対象に適用または投与することを指し、その目的は、前記特定の疾患、障害および/または状態の1つ以上の症状または特徴を部分的にまたは全体的に緩和する、改善する、軽減する、発症を遅延させる、進行を阻害する、重症度を低減する、および/または、発病率を低減することである。治療を、疾患、障害および/または状態の兆候を示さない対象、および/または、疾患、障害および/または状態の早期の兆候のみを示す対象に施してもよく、その目的は、疾患、障害および/または状態に関連する病変を発症するリスクを減少することである。
【0029】
用語「対象」および「患者」は、本明細書では互いに互換可能に使用され、本明細書に記載されたヒアルロナンコンジュゲート、これを含有する医薬組成物、および/または本発明の方法により治療可能なヒト種を含む動物を意味することを意図する。用語「対象」または「患者」は、本開示から恩恵を受ける可能性のある任意の哺乳類を含む。本明細書で使用される「哺乳類」は、ヒト、霊長類、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシなどの家畜および農場動物、ならびに動物園動物、スポーツ動物、またはペット動物、ならびにマウス、およびラットなどのげっ歯類を含む哺乳綱の全てのメンバーを指す。用語「非ヒト動物」は、ヒトを除く哺乳綱の全てのメンバーを指す。1つの例示的な実施形態において、患者はヒトである。用語「対象」または「患者」は、1つの性別を具体的に示さない限り、男性および女性の両方を指すことを意図する。
【0030】
用語「適用」および「投与」は、本明細書では互いに互換可能に使用され、本発明のヒアルロナンコンジュゲートまたは医薬組成物を、治療を必要とする対象に適用することを意味する。
【0031】
本明細書で使用される用語「有効量」は、所望の治療効果を生じるのに十分な本発明のヒアルロナンコンジュゲートの量を指す。治療目的のために、有効量の薬物は、疾患または状態を治癒する(cure)のには要求されないが、疾患もしくは状態の発症を遅延させる、妨げる、もしくは予防する、または疾患もしくは状態の症状を改善するなど、疾患または状態のための治療を提供する。有効量を、指定された期間を通して1回、2回、またはそれ以上の回数で、投与するのに適した形態で1回量、2回量またはそれ以上の用量に分割してもよい。具体的な有効量または十分量は、治療する特定の状態、患者の身体状態(例えば、患者の体重、年齢もしくは性別)、治療する哺乳類または動物の種類、治療の期間、併用療法(もしあれば)の特性、ならびに、使用する特定の剤形および化合物またはその誘導体の構造などの要因によって異なる。有効量は、例えば、ヒアルロナンコンジュゲートの総質量またはヒアルロナンコンジュゲートにおける4-アミノニメスリド(aminonimesulide)の等価質量(例えば、グラム、ミリグラムもしくはマイクログラム単位)、またはヒアルロナンコンジュゲートの質量またはヒアルロナンコンジュゲートにおける4-アミノニメスリドの等価質量の、体重に対する比、例えば、ミリグラム/キログラム(mg/kg)として表示してもよい。
【0032】
例えば、本開示のいくつかの実施例によれば、IL-6、KC-GRO、およびMCP-1レベルを低下させることによりマウス(約20グラム)における炎症を治療するための前記ヒアルロナンコンジュゲートの有効量は、約25~150mg/kg体重/用量である。したがって、マウスを治療するためのヒアルロナンコンジュゲートの有効量は、約25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、または150mg/kg体重/投与である。体重約60kgの成人ヒトの場合、マウスに対する上記用量から得られるヒト等価用量(HED)は、約2~120mg/kg体重/用量である。
【0033】
理解され得るように、上記の用量の範囲は、提供された医薬組成物を成人に投与するための指針として提供される。例えば、子供または青年に投与する量は、医師または当業者によって決定され得、成人に投与する量よりも低いまたは同じであり得る。患者の年齢、体重、健康状態などを考慮すると、ヒトに対する有効量は、約1~200mg/kg体重/用量であってもよい。
【0034】
具体的には、ヒト対象に対するヒアルロナンコンジュゲートの有効量は、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199または200mg/kg体重/用量であってもよい。
【0035】
また、マウス(約20g)を治療するための有効量は、ヒアルロナンコンジュゲート中の4-アミノニメスリドの当量質量に換算して、約50ng/kg体重~6μg/kgであり、例えば、約50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、もしくは990ng/kgの体重/用量、または1、1.5、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、もしくは6μg/kg体重/用量である。
【0036】
同様に、体重約60kgの成人ヒトにおいて、マウスに対する上記の用量から得られるヒアルロナンコンジュゲート中の4-アミノニメスリドの等価質量のHED(換算係数:0.08)は、約4~480ng/kg体重/用量である。つまり、本発明のヒアルロナンコンジュゲートのHEDは、約80ng/kg体重~400μg/kg体重/用量である。患者の年齢、体重、健康状態を考慮すると、ヒト対象に対する有効量は、約20~840ng/kg体重/用量であり得る。
【0037】
具体的には、ヒト対象に対する有効量は、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830または840ng/kg体重/用量である。
【0038】
本開示のいくつかの例によれば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、週3回で2週間投与される。理解され得るように、有効量は、投与の間隔および期間に応じて適宜調整することができる。特定の実施形態では、複数回の投与が対象に行われる場合、対象への複数回の投与の頻度は、1日3回、1日2回、1日1回、2日ごとに1回、3日ごとに1回、4日ごとに1回、5日ごとに1回、6日ごとに1回、毎週1回、隔週1回、毎月1回または隔月で1回である。特定の実施形態では、対象に複数回の投与を行う頻度は、1日1用量である。特定の実施形態では、対象へ複数回の投与を行う頻度は、1日2用量である。特定の実施形態では、複数の用量が対象に投与される場合、複数回の投与の最初の投与と最後の投与との間の期間は、1日、2日、4日、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、1年間、2年間、3年間、4年間、5年間、7年間、10年間、15年間、20年間、または対象の生存期間である。特定の実施形態では、複数回投与のうちの最初の投与から最後の投与までの期間は、3ヶ月、6ヶ月、または1年である。特定の実施形態では、複数回の投与のうち最初の投与と最後の投与との間の期間は、対象の生存期間である。特定の実施形態では、複数回の投与を対象に行う頻度は、1週間に3用量である。
【0039】
また、以下に提供される実施例によれば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは静脈内注射によって投与されるが、これは本発明がどのように実施され得るかについての例示に過ぎず、本開示はこれに限定されない。
【0040】
例えば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、医薬的に許容される賦形剤と共に、所望の投与様式に適した医薬組成物に処方され得る。ここに開示され、特許請求されている発明の概念に従って調製された特定の医薬組成物は、患者への経口、粘膜(例えば、鼻腔内、舌下、膣内、口腔内、または直腸)、非経口(例えば、皮下、静脈内、ボーラス注射、筋肉内、または動脈内)、硝子体内、または経皮投与に適した単一単位剤形である。剤形の例としては、錠剤;カプレット;軟ゼラチンカプセルのようなカプセル;カシェ剤;トローチ;ロゼンジ;分散剤;坐剤;軟膏;パップ剤(湿布);ペースト;粉末;ドレッシング;クリーム;プラスター;溶液;パッチ;エアロゾル(例:鼻腔スプレーまたは吸入器);ゲル;懸濁液(例:水性または非水性液体懸濁液、水中油型エマルジョン、または油中水型液体エマルジョン)、溶液、エリキシル剤などの患者への経口投与または粘膜投与に適した液体剤形;および患者への非経口投与に適した液体剤形を提供するために再構成することができる無菌固体(例えば、結晶性または非晶質固体)が挙げられるが、これらに限定されない。理解され得るように、これらの医薬組成物も本開示の範囲内である。
【0041】
本明細書で使用される「医薬的に許容可能な賦形剤」という用語は、1つの臓器または身体の一部から別の臓器または身体の一部へなどの、対象薬剤の運搬または輸送に関与する、液体または固体の充填剤、希釈剤、担体、溶媒、カプセル化材料などの医薬的に許容される材料、組成物、またはビヒクルを意味する。各賦形剤は、製剤の他の成分と適合性があるという意味で「許容可能」でなければならない。医薬製剤は、本発明の化合物を、1つ以上の医薬的に許容される成分と組み合わせて含む。前記賦形剤は、固体、半固体または液体の希釈剤、クリームまたはカプセルの形態であり得る。これらの医薬製剤は、本発明のさらなる目的である。通常、活性化合物の量は、調製物の0.1~95重量%、非経口用調製物ではこのましくは0.2~20重量%、経口投与用調製物では好ましくは1~50重量%である。本発明の方法の臨床使用のために、本発明の医薬組成物は、意図された投与経路に適した製剤に処方される。
【0042】
本明細書で使用されるHAコンジュゲートの「置換度(DS)」という用語は、前記HAの二糖単位あたりに結合した置換基(すなわち、水素化ニメスリド)の平均比率である。本開示の様々な実施形態によれば、ヒアルロナンコンジュゲートは、0.5~35%の置換度を有する。例えば、置換度は、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5. 7、5.8、5.9、6、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8. 8、8.9、9、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30または35%である。
【0043】
本開示の特定の実施形態によれば、ヒアルロナンコンジュゲートは10~300キロダルトン(kDa)の平均分子量(MW)を有する。例えば、MWは、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270、275、280、285、290、295、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1550、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、1950、2000kDaである。平均分子は粘度計を用いて得られ、本開示の様々な実施形態によれば、前記ヒアルロナンコンジュゲートの粘度は、約0.1~1m3/kg;例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、または1m3/kgである。本開示のいくつかの実施形態によれば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、2つの糖単位(すなわち、1つのヒアルロナンモノマー)または4つの糖単位(すなわち、2つのヒアルロナンモノマー)を含む。
【0044】
本明細書で使用する「ヒアルロン酸」(HA)(ヒアルロネートまたはヒアルロナンとも称される)という用語は、少なくとも1つの二糖単位、具体的にはD-グルクロン酸とN-アセチル-D-グルコサミンからなるアニオン性の非硫酸化グリコサミノグリカンである(-4GlcUAβ1-3GlcNAcβ1-)。本開示のいくつかの実施形態では、前記HAは、単一の二糖単位(すなわち、HA二糖)を含む。本開示のいくつかの実施形態では、前記HAは、2つの二糖単位(すなわち、HA四糖)を含む。前記HAの分子量は379ダルトン(Da)(単一の二糖単位)から数百万ダルトンの範囲に及ぶ可能性がある。HAは、細胞表面のヒアルロナン媒介運動性のための受容体(RHAMM)およびCD44との相互作用により、細胞の運動性や免疫細胞の接着に関与している。「HA誘導体」という用語は、HAの1つ以上の二糖単位のヒドロキシル基、カルボキシル基、アミド基、またはアセチルアミノ基に任意の修飾を有するHAを指す。本開示の特定の実施形態によれば、前記HAコンジュゲートは、金属塩、好ましくはアルカリ金属塩、より好ましくはナトリウム塩またはカリウム塩の形態である。
【0045】
本開示は、少なくとも部分的には、IL-6過剰発現マウスにおいて、前記ヒアルロナンコンジュゲートはIL-6の発現レベル、ならびに下流メディエーターCCL2(または単球走化性タンパク質-1(MCP-1))およびCXCL1/2(またはケラチノサイト走化性ケモカイン、ヒト成長制御癌遺伝子(GRO)のマウスホモログ)の発現を低下させることができるとの知見に基づくものである。したがって、本発明のヒアルロナンコンジュゲートはIL-6の下流のシグナル伝達カスケードを遮断するために使用され得る。IL-6の遮断は、実験動物モデルと炎症に関連したヒトの病気の両方で有益であることが示されているので、本発明のヒアルロナンコンジュゲートを用いたIL-6シグナリングの阻害は、通常は炎症に関連した合併症を予防または回復させることができる。
【0046】
本開示は、さらに、本発明のヒアルロナンコンジュゲートが、少なくともウイルス侵入を遮断することによって、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)感染を阻害するために使用され得るとの知見に基づく。本開示の様々な実施形態によれば、本発明のヒアルロナンコンジュゲートは、(1)IL-6依存性シグナル伝達カスケードを遮断することと(2)ウイルスの侵入を遮断することによって、SARS-CoV-2ウイルス感染(コロナウイルス感染症2019(COVID-19)を含む)の治療のために二重様式で作用し得る。
【0047】
上記に鑑みて、本開示は、本明細書に示されるヒアルロナンコンジュゲートを用いて炎症、特に肺炎症を治療するための方法を提案する。本開示のいくつかの実施形態は、前記ヒアルロナンコンジュゲートを用いて、肺炎症に関連する、または肺炎症に続発する症状もしくは状態を治療するための方法を対象とする。また、本明細書では、肺炎症の治療における前記ヒアルロナンコンジュゲートの使用、および前記治療目的のための医薬品の製造におけるその使用も提供される。医薬品(すなわち、前記ヒアルロナンコンジュゲートを含む医薬組成物)は、もちろん、本出願の範囲に含まれる主題である。
【0048】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を説明するため、および本発明を実施する当業者に役立つように提供される。これらの実施例は、いかなる方法であっても本発明の範囲を限定するとは決して見なされない。更なる詳細無しで、当業者は、本明細書の記載に基づき最大限に本発明を利用できるとされる。
【実施例】
【0049】
実施例1
【0050】
NIM-HAコンジュゲートの合成および特性評価
【0051】
(1)水素化ニメスリド(H-NIM)の調製
市販のニメスリド(N-(4-ニトロ-2-フェノキシフェニル)メタンスルホンアミド)から水素化ニメスリド(N-(4-アミノ-2-フェノキシフェニル)メタンスルホンアミド、または4-アミノニメスリド)を合成した。簡単に説明すると、ニメスリド500mgを酢酸エチル20mlに完全に溶解させ、その溶液に触媒として5%Pd/C(パラジウム炭素)を200mg添加した。攪拌を続けながら瓶から空気を抜き、1気圧までの水素ガスで空気を置換し、次いで24時間攪拌して水素化ニメスリド(H-NIM)を得た。
【0052】
H-NIMの純度は、シリカゲル60 F254でプレコートしたTLCプレート上で254nmの紫外線照射下、薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて測定した。移動相:ヘキサン:酢酸エチル=2:1であった。
【0053】
Pd/C触媒を濾過により除去し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、残留溶媒を除去した。次いで、この水素化生成物をヘキサン-酢酸エチル(1:1)溶液に溶解し、シリカゲルカラムでさらに精製した。このカラムを溶出液(ヘキサン-酢酸エチル=1:1)で溶出した。発色した画分を回収し、凍結乾燥した。 得られた生成物の濃度および構造は、それぞれUVおよびNMRを使用して確認された。
【0054】
(2)NIMおよびHAのコンジュゲーション
ヒアルロン酸(平均分子量(MW)約90~200kDa)50mgを、25mlのd.d.水に溶解させた。1-エチル-3-(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)25.1mgとN-ヒドロキシルスクシンイミド(NHS)15.1mgを、1mlのd.d.水に混合し室温で5分攪拌した。H-NIM3.65mgを、1mlのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液に溶解し、この溶液を、3分以内にシリンジを用いてHA/EDC/NHS溶液にゆっくり滴下した。反応混合物を暗所にて室温で12時間攪拌した後、ダイアライザーバッグ(dialyzer bag)を用いて過剰のd.d.水に対して2~3日間透析した(MWCO:3,500Da)。次いで、保持物(retentate)を凍結乾燥し、NIM-HA(CA102N)粉末を得た。
【0055】
(3)NIM-HAコンジュゲートの特性評価
コンジュゲートの固有粘度(約0.2~0.6m3/kg)は、欧州薬局方(HAモノグラフN°1472)に規定された手順に従って測定され、固有粘度から計算されるコンジュゲートのMWは、約53~231kDaであった。サイズ排除クロマトグラフィー多角度光散乱法(SEC-MALS)を用いて測定すると、分子量多分散指数は約2.5であった。
【0056】
コンジュゲート中のヒアルロン酸ナトリウムおよびニメスリドの含有量は、それぞれPharmpur法PPCA025およびPharmpur法PPCA017 SEC/UVのプロトコルを用いて分析し、その結果、乾燥NIM-HAコンジュゲート1gあたり少なくとも800mgのHA含有量および少なくとも15mgのNIM含有量が存在することが示された。次に、HAの二糖単位とH-NIMとの間のモル比に基づいて、コンジュゲートの置換度(DS)を測定した。DSは約2.5%から5%であり、これは1,000個の二糖単位に対して25から50個のH-NIM分子が結合していることを意味する。
【0057】
(4)NIM-HA二糖コンジュゲートの合成
D-グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンとの二糖単位(HA二糖)を、4-アミノニメスリドと反応させ、以下の構造を有するNIM-HA二糖コンジュゲートを得た。
【0058】
【0059】
(5)NIM-HA四糖コンジュゲートの合成
D-グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンとの2つの二糖単位(HA四糖)を、4-アミノニメスリドと反応させて、NIM-HA4糖コンジュゲート(NIM-テトラ)を得た。まず、50mgのHA四糖(HA4)(0.06437mmol)を3mLのDDWに溶解させ、次いで、5mLのDMSOをHA4溶液に添加した。9.1mgのOxyma(0.06437mmol)を0.5mLのDMSOに溶解し、6分間攪拌しながらHA4溶液に添加した。次に17.9mgのニメスリド-BOC(0.07081mmol)を脱保護した後、0.5mLのDMSOに溶解させ、HA4溶液に添加した。14μLのDIC(0.09656mmol)を、0.5mLのDMSOに1分間攪拌下で溶解し、HA4溶液に添加した。最終反応混合物を室温で48時間撹拌し、得られた溶液を3日間凍結乾燥した後、RP-TLC(Merck,1.05559.0001)で精製した。こうして合成されたNIM-テトラは以下の構造を有している。
【0060】
【0061】
実施例2
【0062】
担癌マウスのPGI2発現に対するNIM-HAコンジュゲートの効果
【0063】
CT26腫瘍を担持するマウスを従来のプロトコルに従って作製し、腫瘍体積が25~50mm3に達した時点で、腫瘍を担持するマウスを無作為に4つの群:ビヒクル対照、50mg/kg(当量1.3mg/kg Nim)NIM-HAコンジュゲート、100mg/kg(当量2.6mg/kg Nim)NIM-HAコンジュゲートおよび200mg/kg(当量5.2mg/kg Nim)NIM-HAコンジュゲートに分けた。ビヒクルまたは試験試料を、週3回、2週間にわたって静脈内注射した。
【0064】
体重および腫瘍体積を、週3回測定した。2週間の処置後、マウスを屠殺した。心臓穿刺により血液を採取し、血清を分離して-80℃の冷蔵庫で保存した。腫瘍組織を、急速凍結によって収集した。血清組織を、その後の相関解析に利用した。
【0065】
マウス血清中のプロスタサイクリン(PGI2)レベルを、従来のプロトコルに従って測定した。
図1に要約するように、結果は、50、100、または200mg/kg(当量1.3、2.6および5.2mg/kg Nim)NIM-HAコンジュゲートの投与が、ビヒクル対照と比較して、統計的に有意にPGI2レベルを低下させることができることを示している。
【0066】
実施例3
【0067】
担癌マウスのIL-6およびIL-6下流ケモカイン発現に対するNIM-HAコンジュゲートの効果
【0068】
マウスは、上記実施例2に記載されたように取り扱った。腫瘍体積が25~50mm3に達したとき、腫瘍を担持するマウスを、6群:ビヒクル対照、50mg/kg(当量1.3mg/kg Nim)NIM-HAコンジュゲート、100mg/kg(当量2.6mg/kg Nim)NIM-HAコンジュゲート、200mg/kg(当量5.2mg/kg Nim)NIM-HAコンジュゲート、1.5mg/kgニメスリド、および5.3mg/kgニメスリドに、無作為に割り付けた。ビヒクルまたは試験サンプルを、週2回、2週間にわたって静脈内注射した。
【0069】
IL-6および2つのIL-6下流ケモカイン(KC/GROおよびMCP-1)の血清レベルを、従来のプロトコルに従って測定した。
図2に要約したように、結果は、50mg/kg(当量1.3mg/kg Nim)NIM-HAコンジュゲートの投与が、ビヒクル対照と比較して、IL-6、KC/GROおよびMCP-1の血清レベルを統計的に有意に低下させ得ることを示している。また、100mg/kg(当量2.6mg/kg Nim)NIM-HAコンジュゲートの投与は、ビヒクル対照と比較して、IL-6およびMCP-1の血清レベルを有意に低下させることが可能である。一方、高濃度のNIM-HAコンジュゲート(200mg/kg(当量5.2mg/kg Nim))の投与は、IL-6およびその下流のケモカインの血清レベルを低下させることができない。さらに、NIM-HAコンジュゲートの用量とIL-6遮断効果との間に、用量依存性が認められた。さらに、ニメスリド単独の投与では、IL-6遮断に対する効果を引き出すことはできない。
【0070】
実施例4
【0071】
LPS誘導A549細胞におけるIL-6レベルに対するNIM-HAコンジュゲートの効果
【0072】
本実施例では、A549細胞(ヒト肺胞底部上皮細胞)を用いて、IL-6レベルに対する本発明のNIM-HAコンジュゲート(CA102N)の効果を評価した。
【0073】
600μLのF-12K培地中のA549細胞を、24ウェルあたり5×10
4の密度で播種し、一晩インキュベートした。翌日、培地を廃棄し、1μg/mL LPSに0、0.1、0.2、0.4、および0.8mg/mL CA102N(当量0、5.9、11.8、23.6および 47.2μM)コンジュゲートまたは5μg/mL(12.7μM)デキサメタゾンを含む新しい培地に置き換え、これを48時間インキュベートした。その後、上清を300μL採取し、Human IL-6Uncoated ELISAkit(カタログ番号88-7066;Invitrogen)を用いてIL-6レベルを測定した。LPSで処置されていない細胞を陰性対照として使用し、LPSで処置されているがCA102Nで処置されていない細胞を陽性対照として使用した。結果を
図3に要約し、データを、平均値±標準偏差(SD)で表した。
【0074】
図3に要約されたデータは、LPS誘導が、LPS誘導のない陰性対照と比較して、IL-6レベルの有意な増加をもたらしたことを示す(#、p<0.05)。また、本発明のNIM-HAコンジュゲート(CA102N)による処置は、細胞がLPS単独で処置された陽性対照群と比較して、LPS処置された細胞におけるIL-6レベルを実質的に減少させることもできる(
*、p<0.05)。
【0075】
600μLのF-12K培地中のA549細胞を24ウェルあたり2×10
4の密度で播種し、一晩インキュベートした。翌日、培地を廃棄し、0.5μg/mL LPSに、0、4.94、14.81、44.4、133.3、400μM NIM-HA二糖コンジュゲートまたは10μMデキサメタゾンを含む新しい培地に交換し、48時間インキュベートさせた。その後、上清300μLを回収し、Human IL-6Uncoated ELISAkit(カタログ番号88-7066;Invitrogen)を用いてIL-6レベルを測定した。LPSで処置されていない細胞を陰性対照とし、LPSで処置されているがNIM-HA二糖コンジュゲートでは処置されていない細胞を陽性対照とした。結果を
図4に要約し、データを、平均値±標準偏差(SD)で表した。
【0076】
図4に要約したデータは、LPS誘導を行わない陰性対照と比較して、LPS誘導がIL-6レベルにおける有意な増加をもたらしたことを示している(#、p<0.05)。また、本発明のNIM-HA二糖コンジュゲートによる処置は、細胞をLPSのみで処置した陽性対照群と比較して、LPS処置細胞におけるIL-6レベルを用量依存的に大幅に減少させることができる(
*、p<0.05)
【0077】
実施例5
【0078】
LPS誘発急性肺損傷マウスに対するNIM-HAコンジュゲートの効果
【0079】
この実施例では、LPSを使用してBALB/cByJNarlマウスに急性肺損傷(ALI)を誘発した。ALIに対する本発明のヒアルロナンコンジュゲートの効果を調べるために、肺損傷に関する様々な指標を調べた。
【0080】
簡単に説明すると、5~6週齢の雄のBALB/cByJNarlマウスを、National Laboratory Animal Center(台湾、台北)から購入し、安定化のためにChung ShanMedical University(CSMU)Animal Center(台湾、台中)で1週間飼育した。マウスはLPS処置の12時間前に絶食させたが、水は自由に与えた。動物を、以下の5群:(1)WT群、ビヒクル対照(50μL水のみ);(2)LPS群、偽対照(50μL LPSのみ);(3)LPS+C群、陽性対照(2mg/kgメチルプレドニゾロン前処置/50μL LPS/2mg/kg メチルプレドニゾロン);(4)LPS+L群、低用量のNIM-HAコンジュゲート(CA102N)処置(50μL LPS/25mg/kg CA102N(当量0.58mg/kgニメスリド))、および(5)LPS+M群、中用量のNIM-HAコンジュゲート(CA102N)処置(50μL LPS/50mg/kg CA102N(当量1.16mg/kgニメスリド))に、無作為に割り当てた(各群n=7)。
【0081】
群(1)については、マウスに50μLの水を気管内注射した。群(2)については、マウスに50μLのLPS(1mg/mL)を気管内注射した。群(3)については、マウスに2mg/kgのメチルプレドニゾロンを摂取させ、1時間後に50μLのLPS(1mg/mL)をマウスに気管内注射して急性肺損傷を誘発し、LPS注射の1時間後に2mg/kgのメチルプレドニゾロンをマウスに経口摂取させた。(4)および(5)群については、50μLのLPS(1mg/mL)をマウスに気管内注射し;LPS注射の1時間後に、各群のマウスに25mg/kg CA102Nまたは50mg/kg CA102Nを尾静脈i.V.注射で与えた。
【0082】
LPS注射の18時間後に、マウスを頸椎脱臼により屠殺した。気管支肺胞洗浄液(BALF)を1.5mlのPBS洗浄液を用いて採取し、500×gで4℃、5分間遠心分離してBALF上清を採取した。上清を、その後の分析のために-70℃で保存した。
【0083】
屠殺後、肺を摘出し、直ちに湿重量を測定した。その後、肺を65℃で48時間乾燥させ、乾燥重量を測定した。肺浮腫の評価には、肺湿潤/乾燥比を算出した。サイトカイン分析には、ELISAキット(Invitrogen)を用いて、BALF中のTNF-α、IL-1β、およびIL-6などの複数のサイトカインレベルを測定した。タンパク質濃度を、Bradfordタンパク質アッセイを使用して測定した。
【0084】
図5に要約したデータは、LPS処置が肺水腫に関連していることを示している。一方、免疫系を抑制し、炎症を減少させるために一般的に使用される副腎皮質ホルモン剤であるメチルプレドニゾロン、および低用量および中用量のNIM-HAコンジュゲート(CA102N)の処置は、LPS群と比較して、肺水腫の範囲を効果的に減少させ(p<0.05)、後者の2つの群は、より大きい効果を示している。
【0085】
図6Aは、BALFにおける総タンパク質濃度を示し、一方、
図6B~
図6Dは、BALFにおけるTNF-α、IL-1β、およびIL-6のレベルをそれぞれ示している。
図6Aに見られるように、LPS処置マウスでは、WTビークル対照群と比較して、総タンパク質濃度が有意に増加する。メチルプレドニゾロン、低用量、または中用量のNIM-HAコンジュゲート(CA102N)の投与は、LPS群の結果と比較して、統計的に有意な程度に総タンパク質濃度を減少させた(p<0.05)。なお、LPS+M群(中用量のNIM-HAコンジュゲート(CA102N)で処置したマウス)の総タンパク質濃度は、LPC+C群(メチルプレドニゾロンで処置したマウス)の総タンパク質濃度よりもわずかに低い値であった。
【0086】
LPS誘導により、BALFにおけるTNF-α(
図6B)、IL-1β(
図6C)、IL-6(
図6D)のレベルが上昇するが、対照薬(メチルプレドニゾロン)および低用量または中用量のNIM-HAコンジュゲート(CA102N)の投与はLPS群と比較してBALFにおけるこれらのサイトカインの発現レベルを低下させ、いくつかの群は統計的有意性を示している(p<0.05)。低用量NIM-HAコンジュゲート(CA102N)での処置は、メチルプレドニゾロンの効果と比較して、TNF-αおよびIL-1β発現に対してより優れた阻害を示すことが注目される。
【0087】
要約すると、本開示の実施例1~5で提供される結果は、本発明のNIM-HAコンジュゲート(CA102N)が、IL-6依存性シグナル伝達カスケードを効果的に遮断し得ることを示す。さらに、本開示は、そのような効果を引き出すのに十分な用量を提案した。
【0088】
実施例6
【0089】
SARS-CoV-2疑似ウイルス侵入に対するNIM-HAコンジュゲートおよびNIM-テトラコンジュゲートの効果
【0090】
ヒトACE2遺伝子を安定に発現するHEK-293T細胞を、DMEM(10%FBS、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシンを補充)において様々な濃度の試験化合物(ニメスリド、NIM-テトラ、CA102N、HA、およびHA四糖(テトラ))で前処置し、37℃で1時間、SARS-CoV-2疑似型レンチウイルス(SARS-CoV-2疑似ウイルス)と共培養した。次いで、感染後6時間または16時間で培養液を新鮮なDMEM(10%FBS、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシンを補充)に交換した。その上、CA102N(プレインキュベーション)群では、まず1000TUのSARS-CoV-2偽型レンチウイルスをDMEM中で様々な濃度のCA102Nで37℃、1時間前処置し、その後、6時間または16時間、HEK-293T/ACE2細胞とコインキュベートした。擬似型レンチウイルスに感染しておらず、被験物質に曝されていないHEK-293T細胞を陰性対照(NC)とし、擬似型レンチウイルスに感染しているが被験物質に曝されていないHEK-293T細胞を、陽性対照(PC)として使用した。さらに48時間連続培養した後、ルシフェラーゼアッセイ(Promega Bright-GloTM Luciferase Assay System)を行い、化合物なしの対照に対する試験化合物存在下のルシフェラーゼリードアウト(RLU)の損失率として、以下の式で表すことができる阻害率を算出した。
阻害%=[(RLU対照-RLU血清)/RLU対照]×100%。
図7Aおよび7B(侵入遮断:6時間)および
図8Aおよび8B(侵入遮断:16時間)は、RLUおよび阻害%の両方の結果を示している。
【0091】
図7Aおよび7Bに要約された実験データは、ニメスリド単独では、ウイルスの侵入を阻止することによってSARS-CoV-2疑似ウイルス感染を阻害できないことを示している。対照的に、NIM-テトラ、CA102N、HA、およびHA四糖は、感染後最初の6時間において、いくつかの試験した濃度で、少なくとも50%の阻害を達成する。特に、NIM-テトラは、用量依存的に所望のウイルス抑制効果を示す。さらに、SARS-CoV-2疑似ウイルスをCA102Nと6時間プレインキュベートした場合、約40~60%のウイルス侵入を阻害することができる。
【0092】
図8Aおよび8Bに要約した実験データは、ニメスリド単独では、ウイルスの侵入を遮断することによってSARS-CoV-2疑似ウイルス感染を阻害できないことを示している。その上、HA四糖は、感染後最初の16時間において、全ての試験した濃度でわずかな阻害(50%未満の阻害)しか示さない。また、CA102NとHAは共に、最高試験用量で50%を超える阻害を達成した。一方、NIM-テトラは、用量依存的に所望のウイルス阻害を発現する。同様に、SARS-CoV-2疑似ウイルスを最高試験用量のCA102Nと16時間プレインキュベートした場合、50%の阻害が達成される。
【0093】
実施例7
【0094】
細胞生存率に対するNIM-テトラコンジュゲートの効果
【0095】
ヒトACE2遺伝子を安定に発現するHEK-293T細胞を、DMEM(10%FBS、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシンを補充)中で様々な濃度の試験化合物(NIM-テトラおよびHA四糖)で37℃にて前処置した。6時間または16時間後、培養液を新しいDMEM(10%FBS、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシンを補充)に交換し、さらに48時間連続培養した後に細胞生存率測定(Invitroge商標 alamarBlue商標試薬)を実施した。その後、alamarBlue試薬を添加し、560nmの励起光と590nmの発光でレゾルフィンの蛍光を測定した。データは、ビヒクル処置したウェルから得られたシグナルが100%の生細胞に相当すると仮定して正規化し、細胞生存率は、以下の式で表すことができる。
細胞生存率%=[(実験RFU-ブランクRFU)/(対照RFU-ブランクRFU)]×100%。
9Aおよび9Bは、NIM-テトラまたはHA四糖で6時間または16時間処置した後の細胞生存率を示している。
【0096】
図9Aおよび
図9Bのデータから、Nim-テトラが阻害の傾向を示し、長期処置(16時間)では用量依存的な効果が有意であることを示している。
【0097】
実施例8
【0098】
in vivoでのSARS-CoV-2疑似ウイルス感染に対するNIM-HAコンジュゲートの効果
【0099】
8週齢の雌性BALB/cマウス(BioLASCO TaiwanCo.,Ltdから購入)を1~2週間、実験室ハウジングに順応させた。順応後、マウスに200μlの試験試料(CA102N 2:2mg/kg相当のニメスリド、CA102N 4:4mg/kg相当のニメスリド、またはニメスリド4:4mg/kgのニメスリド)を1時間かけて静脈内注射し、続いてSARS-CoV-2疑似ウイルス(10^10PFU/マウス)を気管内注入した。感染24時間後にルシフェリン100μlをマウスに腹腔内投与により与え、肺でのルミネセンス・シグナルをIVIS登録商標 SpectrumIn VIVOImaging System(PerkinElmer Inc.)で検出および分析した。露光時間は1分であった。偽型レンチウイルスに感染しておらず、被験物質に曝されていないマウスを、陰性対照(HC群)とした。一方、陽性対照(ウイルス群)として、偽型レンチウイルスに感染しているが被験物質に曝されていないマウスを用いた。
【0100】
図10Aおよび10Bに要約されたデータは、ニメスリド、CA102N 2およびCA102N 4群において、SARS-CoV-2疑似ウイルス感染が、陽性対照と比較して有意に阻害されることを示している(クラスカル・ウォリス検定およびポアソン回帰分析;p<0.05)。さらに分析したところ、CA102N 2またはCA102N 4とニメスリド4との間に統計的な差は見られなかった。一方、HA群と陽性対照との間には有意な差はない。
【0101】
実施例9
【0102】
SARS-CoV-2ウイルス減少に対するNIM-テトラコンジュゲートの効果
【0103】
Vero B6細胞を、ウェル当たり105細胞数の密度で、48ウェルプレートに播種した。薬剤(3.13μMおよび12.5μNim-テトラおよび2.5μMレムデシビル;n=4)を、100μlのSARS CoV-2ウイルス含有培地(MOI=0.03)と共に1時間プレインキュベートし、次いで、Vero E6細胞の培地を除去してから各ウェル中に添加した。対照群は、(1)バックグラウンド対照(細胞なし)、(2)正規化のための模擬(mock)感染対照(細胞は培地のみで処置)、(3)ウイルス対照(細胞はウイルスのみで処置)であった。細胞を1時間インキュベートした。次いで、培地(薬剤およびウイルスと共に)を除去し、各ウェルの細胞を、37℃に予熱したPBSで3回洗浄した。各ウェル(対照以外)を200μlの薬剤希釈液で24時間インキュベートし、各ウェルの上清を採取してウイルスqRT-PCRを行い、ウイルスCt値を測定した。ウイルスCt値は、Ct対ウイルスコピーの既知の標準曲線(stand curve)を用いて、1mlあたりのウイルスコピー数で表した。
【0104】
その結果、
図11に要約したように、Nim-テトラ(Nim-HA4)は3.13および12.5Mでウイルスコピーを減少させ、Vero E6細胞における12.5μM Nim-テトラの処置は、ウイルス対照群と比較して、統計的に有意なレベルまでウイルスコピーを有効に減少させることが示された。また、12.5μM Nim-テトラの処置が2.5Mレムデシビルと同等(やや良好)のSARS CoV-2ウイルス感染抑制効果を示すことが、わかった。
【0105】
要約すると、本開示の実施例6~9で提供される結果は、本発明のNIM-HAコンジュゲート(CA102NまたはNim-テトラのいずれか)が、少なくともウイルスの侵入を遮断することによって、ウイルス感染を有効に阻害し得ることを示している。さらに、本開示は、そのような効果を引き出すのに十分な用量を提案した。
【0106】
本開示は、本NIM-HAコンジュゲートが、(1)IL-6依存性シグナル伝達カスケードを遮断し、(2)ウイルス侵入を遮断することによって、SARS-CoV-2ウイルス感染(コロナウイルス感染症2019(COVID-19)を含む)を処置するための二重様式で機能し得ることを立証している。先行研究では、ニメスリドが肝毒性と有意に関連していることが示された。本明細書に示された実験データは、本発明のNIM-HAコンジュゲートが、実質的に同様のin vivo効果を達成しながら、ニメスリドの用量の半分の用量で与えられ得ることを示す。また、本発明のNIM-HAコンジュゲートは、従来のニメスリドと比較して、血清半減期が長く、治療効果をさらに高めることができるという利点もある。
【0107】
上記した実施形態の記載は例示としてのみ行われ、様々な改変が当業者により行われ得ることが理解されるであろう。上記した明細書、実施例およびデータは、本発明の例示的実施形態の構造および使用の完全な説明を提供する。本発明の様々な実施形態を、ある程度の特殊性によりまたは1つ以上の個別の実施形態に関して記載したが、本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、当業者は、開示された実施形態に対して多数の変更を行うことができる。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする対象の肺炎症
を治療
するための医薬組成物であって、
有効量のヒアルロナンコンジュゲート
、および、医薬的に許容される賦形剤を含み、
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化1】
または、その医薬的に許容される塩の構造を有する少なくとも1つの二糖単位を有する、
医薬組成物。
【請求項2】
前記対象が、ヒトである、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項3】
前記肺炎症が、急性肺炎症または慢性肺炎症である、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項4】
前記急性肺炎症が、肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、または、急性肺損傷(ALI)により引き起こされるか、または、それらに関連する、請求項3に記載の
医薬組成物。
【請求項5】
前記肺炎が、細菌感染、ウイルス感染、または、寄生虫感染によって引き起こされる、請求項4に記載の
医薬組成物。
【請求項6】
前記細菌感染が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、または、マイコバクテリア(Mycobacteria)により引き起こされ、
前記ウイルス感染が、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、または、コロナウイルスによって引き起こされ、かつ、
前記寄生虫感染が、リーシュマニア(Leishmania)、マラリア原虫(Plasmodium)、または、住血吸虫(Schistosoma)によって引き起こされる、請求項5に記載の
医薬組成物。
【請求項7】
前記コロナウイルスが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である、請求項6に記載の
医薬組成物。
【請求項8】
前記慢性肺炎症が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、肺線維症、または、特発性肺線維症(IPF)によって引き起こされるか、または、それらに関連している、請求項3に記載の
医薬組成物。
【請求項9】
前記肺炎症が、過敏性肺炎である、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項10】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、10~2000キロダルトンの平均分子量(MW)を有する、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項11】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化2】
または、その医薬的に許容される塩の構造を有する、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項12】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化3】
若しくは、それらの医薬的に許容される塩の構造を有する、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項13】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、0.5%~35%の置換度を有する、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項14】
以下の構造
【化4】
または、その医薬的に許容される塩の構造を有する、ヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項15】
有効量の、請求項
14に記載のヒアルロナンコンジュゲート、および医薬的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項16】
以下の構造
【化5】
若しくは、それらの医薬的に許容される塩の構造を有する、ヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項17】
有効量の、請求項
16に記載のヒアルロナンコンジュゲート、および医薬的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【国際調査報告】