(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(54)【発明の名称】COVID-19の治療に使用するためのメチルチオニニウム化合物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5415 20060101AFI20230601BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230601BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20230601BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230601BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20230601BHJP
A61K 31/427 20060101ALI20230601BHJP
A61K 31/4045 20060101ALI20230601BHJP
A61K 31/7052 20060101ALI20230601BHJP
A61K 31/664 20060101ALI20230601BHJP
A61K 31/4965 20060101ALI20230601BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230601BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
A61K31/5415
A61P31/14
A61K31/47
A61P43/00 121
A61K31/513
A61K31/427
A61K31/4045
A61K31/7052
A61K31/664
A61K31/4965
A61K39/395 N
A61K31/573
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567225
(86)(22)【出願日】2021-04-30
(85)【翻訳文提出日】2022-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2021061481
(87)【国際公開番号】W WO2021224145
(87)【国際公開日】2021-11-11
(32)【優先日】2020-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507092676
【氏名又は名称】ウィスタ ラボラトリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ウィスチク,クロード ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】アラスト,モハマド
(72)【発明者】
【氏名】マザネッツ,マイケル フィリップ
【テーマコード(参考)】
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC23
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC13
4C086BC28
4C086BC42
4C086BC48
4C086BC82
4C086BC89
4C086DA10
4C086DA38
4C086EA12
4C086GA13
4C086GA14
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、メチルチオニニウム化合物を使用して対象におけるCOVID-19を治療する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるCOVID-19の療法的治療の方法であって、
メチルチオニニウム(MT)含有化合物を前記対象に投与することを含み、
前記投与が、1日当たり10~30mgの間のMTの総経口1日用量を、任意に2回以上の用量に分割して、前記対象に提供し、
又は、前記投与が、1日当たり10~25mgの間のMTの総静脈内(IV)1日用量を前記対象に提供し、
前記MT含有化合物が、式、
【化1】
(式中、H
nA及びH
nB(存在する場合)のそれぞれは、同じであっても又は異なってもよいプロトン酸であり、
p=1又は2;q=0又は1;n=1又は2;(p+q)×n=2である)
のLMTX化合物、
又はその水和物又は溶媒和化合物である、方法。
【請求項2】
前記対象がCOVID-19と診断されたヒトであるか、又は前記方法が前記診断を行うこと含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象におけるCOVID-19の予防的治療の方法であって、
メチルチオニニウム(MT)含有化合物を前記対象に投与することを含み、
前記投与が、1日当たり10~30mgの間のMTの総経口1日用量を、任意に2回以上の用量に分割して、前記対象に提供し、
又は前記投与が、1日当たり10~25mgの間のMTの総静脈内(IV)1日用量を前記対象に提供し、
前記MT含有化合物が、式、
【化2】
(式中、H
nA及びH
nB(存在する場合)のそれぞれは、同じであっても又は異なってもよいプロトン酸であり、
p=1又は2;q=0又は1;n=1又は2;(p+q)×n=2である)
のLMTX化合物、
又はその水和物又は溶媒和化合物である、方法。
【請求項4】
前記対象が、COVID-19の疑いがある、又はその可能性があると評価されたヒトである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記対象が、1人又は複数人のCOVID-19症例と密接に接触した対象;少なくとも65歳である対象;老人ホーム、介護ホーム、又は長期介護施設に居住する対象;関連する基礎疾患を有する対象から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記総1日用量が、10~25mgの間のMT(IV)又は12~27mgの間のMT(経口)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記総1日用量が14~20mgの間のMTである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記総1日用量が15~18mgの間のMTである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記総1日用量が、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30mgのMTである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記総1日用量が約16mgのMTである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記MT含有化合物の総1日用量が、1日2回又は1日3回の分割経口用量として投与され、又は連続注入IV投与であるか、又は任意に1日2、4、又は6回の断続的IV投与である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記治療が、クロロキン又はヒドロキシクロロキンである第2の化合物と組み合わされる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記治療が、ロピナビル・リトナビル;アルビドール;アジスロマイシン、レムデシビル、ファビピラビル、アクテムラ;デキサメタゾン;回復期血漿から選択される第2の化合物又は作用剤と組み合わされる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記MT含有化合物及び前記第2の化合物又は作用剤が、互いに12時間以内に逐次投与される、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記対象が、前記MT含有化合物による前記治療の開始前に、前記第2の化合物又は作用剤で前治療される、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記MT含有化合物及び前記第2の化合物が同時投与され、任意に単一投薬単位内で投与される、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項17】
前記MT含有化合物が、式、
【化3】
を有し、HA及びHBが異なるモノプロトン酸である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記MT含有化合物が、式、
【化4】
(式中、各H
nXはプロトン酸である)
を有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記MT含有化合物が、式、
【化5】
を有し、H
2Aがジプロトン酸である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記MT含有化合物が、式、
【化6】
を有し、ビス-モノプロトン酸である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記プロトン酸又は各プロトン酸が無機酸である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
各プロトン酸がハロゲン化水素酸である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記プロトン酸又は各プロトン酸が、HCl;HBr;HNO
3;H
2SO
4から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記プロトン酸又は各プロトン酸が有機酸である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記プロトン酸又は各プロトン酸が、H
2CO
3;CH
3COOH;メタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、エタンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記MT含有化合物が、LMTM:
【化7】
である、請求項1~20、又は請求項25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記LMTMの総1日用量が約17mg/日である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記LMTMの用量が約27mg/1日1回である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記MT含有化合物が、
【化8】
【化9】
からなるリストから選択される、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか一項に記載の治療方法で使用するための、請求項1~29のいずれか一項に記載のMT含有化合物。
【請求項31】
請求項1~29のいずれか一項に記載の治療方法で使用するための薬剤の製造における、請求項1~29のいずれか一項に記載のMT含有化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、COVID-19の治療に使用するための方法及び材料に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
2019年に新型SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)が出現したことにより、コロナウイルス病2019(COVID-19)と命名された重症肺炎様疾患の世界的流行が進行している。COVID-19は、世界的に医療と経済に大きな脅威をもたらしている。
【0003】
既知の薬剤の再配置は、COVID-19に対する治療法の開発と展開を大幅に加速し得るので、ウイルス複製を阻害する可能性がある既知の薬剤のプロファイリングに関心が持たれている。例えば、Riva et al.(“A Large-scale Drug Repositioning Survey for SARS-CoV-2 Antivirals.”bioRxiv (2020))は、およそ12,000の臨床段階又はFDA承認の低分子をプロファイリングして、試験条件下でウイルス複製を阻害する30の既知の薬物の同定を報告したが、そのうちの6つは、細胞の用量と活性の関係について特徴付けられており、患者における治療用量と釣り合っている可能性が高いと考えられる有効濃度を示した。これらとしては、PIKfyveキナーゼ阻害剤Apilimod、システインプロテアーゼ阻害剤MDL-28170、Z LVG CHN2、VBY-825、及びONO 5334、及びCCR1拮抗薬MLN-3897が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらこのタイプのスクリーニングは、SARS-CoV-2の単一属性(ここでは、Vero E6細胞におけるウイルス複製)のみに焦点を当てており、スクリーニングに使用された化合物の濃度(ここでは、5μM)は、全ての有望な候補を検出し、又は適切な生体内治療用量を予測するのに最適でない可能性がある。
【0005】
さらに、COVID-19は、高齢者などの脆弱な患者に特に有害であると報告されている。多くの潜在的な治療薬は、その患者グループでの使用に適していない可能性がある。
【0006】
したがって高齢者集団で安全に使用され得て、COVID-19の病因の複数の属性を標的化し得る、化合物又は化合物組み合わせを提供し、それに適用可能な用量情報を提供することは、当該技術分野に有用な貢献をもたらすことが分かる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の開示
本発明は、COVID-19の治療のための単剤療法又は(クロロキン/ヒドロキシクロロキンとの)併用療法としての、特定のヒドロメチルチオニン塩(以下「LMTX」と称される)の使用を提供する。本明細書の開示に照らして、このような治療は、いくつかの有益な又は相乗的な治療効果を提供し得ることが期待される。
【0008】
以下で説明するように、予備的な未確認の研究は、MTC(塩化メチルチオニニウム、メチレンブルー)が、COVID-19と一致する症状を報告する脆弱な患者の発生率を低下させる能力を有する可能性があることを示唆する(Henry et al., 2020)。
【0009】
【化1】
LMTXは同じMT(メチルチオニン)部分を全身に送達するが、吸収、赤血球浸透、及び深部区画分布が改善されているので、MTCよりも経口及び静脈内使用に適している(Baddeley et al., 2015)。LMTXはMTCよりも実質的に低い用量で使用され得るので、耐容性がより良くなる。
【0010】
MTCとは独立して、抗マラリア化合物であるクロロキンと関連するヒドロキシクロロキンは、現在、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス薬としての有効性を評価するために世界的に調査されている。
【0011】
しかしながら、クロロキンは治療比率が狭く、その結果、薬理学的活性に必要なマイクロモル範囲に近い血漿濃度で、顕著な電気生理学的効果が生じる。COVID-19症例に対する二リン酸クロロキンの2回投与のブラジルにおける治験(https://doi.org/10.1101/2020.04.07.20056424)は、心臓死のために中止されたと報告された。
【0012】
LMTXは、より無害な安全性プロファイルを有する。本発明者らは、LMTXが心毒性を示さないことを確立した。
【0013】
本明細書では、LMTXが、ウイルス負荷の減少を可能にするという利益を対象に提供し得るだけでなく、直接的又は間接的にCOVID-19における支援活性を提供する可能性があるヘムを複合体化し、さらに、肺への炎症性、過酸素性、及び機械的損傷に起因する肺内皮の損傷を軽減する可能性があることが開示されている。クロロキンによる治療の用量及び持続期間を制限する心毒性の欠如と合わせて、LMTXは、単独又は併用で、治療へのより安全なアプローチを提供し得る。
【0014】
LMTX塩は、ウイルス性疾患の治療について、一般論として以前に記載されているが(国際公開第2007/110627号及び国際公開第2012/107706号を参照されたい)、COVID-19又はその他のコロナウイルスの治療については記載されていない。
【0015】
したがって、一態様では、対象におけるCOVID-19の療法的治療の方法が開示され、
この方法は、メチルチオニニウム(MT)含有化合物を前記対象に投与することを含み、
MT含有化合物は、式、
【化2】
(式中、H
nA及びH
nB(存在する場合)のそれぞれは、同じであっても又は異なってもよいプロトン酸であり、
p=1又は2;q=0又は1;n=1又は2;(p+q)×n=2である)
のLMTX化合物、
又はその水和物又は溶媒和化合物である。
【0016】
好ましくは、前記投与は、1日当たり10~30mgの間のMTの総経口用量を、任意に2回以上に分割して、対象に提供するか、又は前記投与は、1日当たり10~25mgの間のMTの総静脈内(IV)用量を対象に提供する。
【0017】
一実施形態では、対象は、COVID-19を有すると診断されたヒトである。方法は、前記診断を行うことを含んでもよい。
【0018】
一態様では、対象におけるCOVID-19の予防的治療の方法が開示され、
この方法は、メチルチオニニウム(MT)含有化合物を前記対象に投与することを含み、
ここで、MT含有化合物は、上で定義されたLMTX化合物、又はその水和物若しくは溶媒和物である。
【0019】
好ましくは、前記投与は、1日当たり10~30mgの間のMTの総経口用量を、任意に2回以上に分割して、対象に提供するか、又は前記投与は、1日当たり10~25mgの間のMTの総静脈内(IV)用量を対象に提供する。
【0020】
一実施形態では、対象は、例えば、1人又は複数人のCOVID-19症例と密接に接触した対象;少なくとも65歳である対象;老人ホーム、介護ホーム、又は長期介護施設に居住する対象;関連する基礎疾患を有する対象などのCOVID-19の疑いがある、又は可能性があると評価されたヒトである。
【0021】
本明細書で説明するように、本発明の複合的な目的に適したMTの適切な経口用量は、1日当たり10~30mg程度のMTである。
【0022】
総1日用量は、12~27mgの間であってもよい。
【0023】
総1日用量は、14~20mgの間であってもよい。
【0024】
総1日用量は、15~18mgの間であってもよい。
【0025】
総1日用量は、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30mgであってもよい。
【0026】
一実施形態では、用量は16mgのMTであり、これは約27mgのLMTMに相当する。つまり、ADにおける最適な活性に必要なものと同じである。
【0027】
化合物の総1日用量は、分割用量として1日2回又は1日3回投与されてもよい。
【0028】
以下に説明するように、MT用量分割が1日当たりより多くの回数で投与される場合、1日1回の投与又は1日当たりより少ない投与回数と比較して、言及される範囲内でより少ない総量を使用することが望ましくあってもよい。
【0029】
呼吸補助を必要とする対象(又はそうでなければLMTXを経口で容易に摂取できない可能性がある対象)には、LMTXを静脈内投与することが好ましくあってもよい。
【0030】
1日1回のIV用量は、対象1日当たり10~25mgの間のMTである。
【0031】
1日の総IV用量は、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25mgであってもよい。
【0032】
好ましい1日の総IV用量は、対象1日当たり14~20mgの間のMTである。
【0033】
投薬は、連続注入又は断続的(例えば、1日2、4又は6回、毎回数分間)であってもよい。
【0034】
例えば、断続的投薬(6時間毎に5分間にわたる4.8mgの投与、又は約20mg/日)と比較して、連続注入ではより少ない用量(例えば、0.6mg/時間又は約14mg/日)が好ましい。
【0035】
中間タイプの投与のための中間用量は、当業者によって、本明細書の開示に照らしてこれらの値から導き出され得る。
【0036】
LMTX化合物
好ましくは、LMT化合物は、国際公開第2007/110627号又は国際公開第2012/107706号に記載されているタイプの「LMTX」化合物である。
【0037】
したがって、化合物は、式、
【化3】
の化合物、又はその水和物若しくは溶媒和化合物から選択されてもよい。H
nA及びH
nB(存在する場合)のそれぞれは、同じであっても又は異なってもよいプロトン酸である。
【0038】
「プロトン酸」とは、水溶液中のプロトン(H+)供与体を意味する。したがって、プロトン酸内では、A-又はB-は共役塩基である。したがって、プロトン酸は水中で7未満のpHを有する(つまり、ヒドロニウムイオンの濃度は、1リットル当たり10-7モルを超える)。
【0039】
一実施形態では、塩は、式、
【化4】
を有する混合塩であり、式中、HA及びHBは異なるモノプロトン酸である。
【0040】
しかしながら、好ましくは、塩は混合塩ではなく、式、
【化5】
(式中、各H
nXは、ジプロトン酸又はモノプロトン酸などのプロトン酸である)
を有する。
【0041】
一実施形態では、塩は、式、
【化6】
を有し、式中、H
2Aは二プロトン酸である。
【0042】
好ましくは、塩は、ビスモノプロトン酸である、式、
【化7】
を有する。
【0043】
本明細書で使用されるLMTX化合物中に存在してもよいプロトン酸の例としては、
無機酸:ハロゲン化水素酸(hydrohalide acid)(例えば、HCl、HBr)、硝酸(HNO3)、硫酸(H2SO4)
有機酸:炭酸(H2CO3)、酢酸(CH3COOH)、メタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、エタンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸
が挙げられる。
【0044】
好ましい酸はモノプロトン酸であり、塩はビス(モノプロトン酸)塩である。
【0045】
好ましいMT化合物は、LMTM:
【化8】
である。
【0046】
重量係数
無水塩は、約477.6の分子量を有する。LMTコアの分子量285.1に基づくと、本発明でこのMT化合物を使用するための重量係数は1.67である。「重量係数」とは、それが含有するMTの重量と対比した、純粋なMT含有化合物の相対重量を意味する。
【0047】
例えば、本明細書のMT化合物についてその他の重量係数が計算され得て、対応する用量範囲がそれから計算され得る。
【0048】
LMTX化合物のその他の例は、以下の通りである。それらの分子量(無水)と重量係数もまた示されている。
【化9】
【化10】
【0049】
したがって、MTに関して本明細書に記載の用量は、これらのMT含有化合物について、それらの分子量に合わせて調整され、変更すべきところは変更して適用される。
【0050】
累積係数
当業者によって理解されるであろうように、所与の1日用量について、より頻度の高い投薬は、薬物のより多くの蓄積につながり得る。
【0051】
したがって、請求された発明の実施形態では、MT化合物の総1日投薬量は、より頻繁に投薬される場合(例えば、1日2回[bid]又は1日3回[tid])は比較的より低くあってもよく、又は1日1回[qd]投与される場合はより高くてもよい。
【0052】
治療及び予防
本明細書で病状を治療する文脈で使用される「治療」という用語は、一般に、例えば、ヒト又は動物(例えば、獣医学的用途)を問わない、例えば、その中で病状の進行の抑制などの何らかの所望の治療効果が達成される治療及び治療に関連し、進行速度の低下、進行速度の停止、病状の後退、病状の改善、及び病状の治癒が含まれる。
【0053】
本明細書で使用される「治療有効量」という用語は、所望の治療レジメンに従って投与された場合、合理的な利益/リスク比に見合った、いくつかの望ましい治療効果を生じるのに有効である、本発明の化合物、又は前記化合物を含む材料、組成物又は投薬の量に関する。本発明者らは、本発明の疾患に関するMT化合物の治療有効量が、当該技術分野で今まで理解されていたよりもはるかに低くなり得ることを実証している。
【0054】
本発明はまた、予防措置としての治療も包含する。
【0055】
本明細書で使用される「予防有効量」という用語は、所望の治療レジメンに従って投与された場合、合理的な利益/リスク比に見合った、いくつかの望ましい予防効果を生じるのに有効である、本発明の化合物、又は前記化合物を含む材料、組成物又は投薬の量に関する。
【0056】
本明細書の文脈における「予防」は、完全な成功、すなわち完全な保護又は完全な予防に制限されるものと理解されるべきではない。むしろ、本文脈における予防とは、特定の病状を遅延させ、軽減し、又は回避するのを助けることによって、健康を維持することを目的として、症候性状態の検出に先立って投与される手段を指す。
【0057】
併用治療及び単剤療法
「治療」という用語には、COVID-19の2つ以上の治療又は療法が、例えば、逐次又は同時に組み合わされる「併用」治療及び療法が含まれる。これらは、対症療法又は疾患修飾療法であってもよい。
【0058】
特定の組み合わせは、医師の裁量に委ねられる。
【0059】
併用治療では、作用剤(agent)(すなわち、本明細書に記載のMT化合物に加えて、1つ又は複数のその他の作用剤)が同時又は逐次投与されてもよく、個々に異なる投与スケジュールで、異なる経路を介して投与されてもよい。例えば、逐次投与される場合、作用剤は、短い間隔で(例えば、5~10分間にわたって)、又はより長い間隔で(例えば、1、2、3、4時間又はそれ以上の間隔で、又は必要に応じてさらにより長くさえある間隔で)投与され得て、正確な投薬レジメンは治療薬の特性に見合ったものである。
【0060】
本発明の併用療法の一例は、その中でLMTX治療がクロロキン又はヒドロキシクロロキンと組み合わされる場合であろう。
【0061】
クロロキン又はヒドロキシクロロキンの用量は、医師によって選択されてもよい。SARS-CoV-2感染に推奨されるプロトコルには、1日2回の400mgの硫酸ヒドロキシクロロキンの負荷用量と、それに続く1日2回の200mgの維持用量の4日間の投与が含まれる。500mgを1日2回、5日前に投与すると、リン酸クロロキンが代替となる。(例えば、Yao et al“In Vitro Antiviral Activity and Projection of Optimized Dosing Design of Hydroxychloroquine for the Treatment of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2)”Clinical Infectious Diseases, 2020, Mar 9を参照されたい。
【0062】
MT含有化合物とクロロキン又はヒドロキシクロロキンは、互いに12時間以内に逐次投与されてもよく、又は対象は、他方での治療前に長期的にもう一方で前治療(pre-treated)されてもよく、又は作用剤は、任意に単一投薬単位(single dosage unit)内で同時に投与されてもよい。
【0063】
本明細書に記載されるように、併用療法に関して、本発明は、COVID-19の治療のために、本明細書に記載される用量のMT化合物である第1の化合物の治療効果を増強する方法を提供し、方法は対象に第2の化合物を投与することを含み、この第2の化合物はクロロキン又はヒドロキシクロロキンである。
【0064】
本発明はさらに、クロロキン又はヒドロキシクロロキンである第2の化合物による治療をさらに含む治療レジメンにおける、対象におけるCOVID-19の治療方法において、本明細書に記載の用量のMT化合物である第1の化合物を提供する。
【0065】
本発明はさらに、対象におけるCOVID-19の治療において、本明細書に記載の用量でMT化合物の治療効果を増強するための、クロロキン又はヒドロキシクロロキンである化合物の使用を提供する。
【0066】
本発明はさらに、本発明の併用法で使用するための、本明細書に記載の用量のMT化合物及びクロロキン又はヒドロキシクロロキンを提供する。
【0067】
本発明はさらに、対象におけるCOVID-19の治療において、本明細書に記載の用量でMT化合物の治療効果を増強する方法で使用するための、クロロキン又はヒドロキシクロロキンである化合物を提供する。
【0068】
本発明はさらに、COVID-19の治療のための薬剤の製造における、クロロキン又はヒドロキシクロロキンである第2の化合物と組み合わされた、本明細書に記載の用量のMT化合物である第1の化合物の使用を提供する。
【0069】
本発明はさらに、COVID-19の治療に使用するための薬剤の製造における、本明細書に記載の用量でのMT化合物の使用を提供し、この治療はさらに、クロロキン又はヒドロキシクロロキンである第2の化合物の使用を含む。
【0070】
本発明はさらに、対象におけるCOVID-19の治療に使用するための薬剤の製造におけるクロロキン又はヒドロキシクロロキンの使用を提供し、この治療はさらに、本明細書に記載の用量でのMT化合物の使用及びCOVID-19を含む。
【0071】
その他の併用療法には、ロピナビル・リトナビル;アルビドール;アジスロマイシン、レムデシビル、ファビピラビル、アクテムラ(トシリズマブ)などの抗炎症治療薬、デキサメタゾンなどのコルチコステロイド、及び回復期血漿などのその他の治療薬の1つ又は複数を含む、MT化合物が含まれる(例えば、Thorlund, Kristian, et al.“A real-time dashboard of clinical trials for COVID-19.”The Lancet Digital Health (2020)を参照されたい。
【0072】
その他の実施形態では、治療は「単剤療法」であり、すなわち、MT含有化合物は、対象におけるCOVID-19を治療するための別の活性剤と組み合せて(上記の意味の範囲内で)使用されないことを意味する。
【0073】
治療持続期間
COVID-19の治療では、低用量のMT化合物に基づく治療レジメンは、好ましくは、疾患及び症状に適した持続期間にわたって延長される。特定の持続期間は、医師の裁量に委ねられる。
【0074】
例えば、治療持続期間は、以下であってもよい:
例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14日間などの1~14日間。
例えば、1、2、3又は4週間などの1~4週間。
【0075】
予防の場合は、治療が継続されてもよい。
【0076】
全ての場合において、治療期間は一般に、医師の助言と審査を受ける。
【0077】
医薬品の剤形
本発明のMT化合物、又はそれを含む薬学的組成物は、対象/患者の胃に経口(又は経鼻胃管を介して)又は静脈内投与されてもよい。
【0078】
典型的には、本発明の実施において、化合物は、化合物と、薬学的に許容可能な担体又は希釈剤とを含む、組成物として投与される。
【0079】
いくつかの実施形態では、組成物は、本明細書に記載の化合物と、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、又は賦形剤とを含む、医薬組成物(例えば、製剤、調製物、薬剤)である。
【0080】
「薬学的に許容可能」という用語は、本明細書の用法では、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー性応答、又はその他の問題又は合併症なしで、妥当な利点/リスク比に見合う、当該対象(例えば、ヒト)の組織と接触する使用に適した、化合物、成分、材料、組成物、剤形などに関する。それぞれの担体、希釈剤、賦形剤などもまた、製剤のその他の成分と適合性であるという意味で、「許容可能」でなければならない。
【0081】
いくつかの実施形態では、組成物は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、賦形剤、アジュバント、充填剤、緩衝剤、保存料、抗酸化物質、潤滑剤、安定剤、可溶化剤、界面活性剤(例えば、湿潤剤)、マスキング剤、着色剤、香味剤、及び甘味剤をはじめとするが、これらに限定されるものではない、当業者に良く知られた1つ又は複数のその他の薬学的に許容可能な成分と共に、本明細書に記載の少なくとも1つの化合物を含む、医薬組成物である。
【0082】
いくつかの実施形態では、組成物は、例えば、その他の治療薬又は予防薬などのその他の活性剤をさらに含む。
【0083】
適切な担体、希釈剤、賦形剤などは、標準的な医薬品の教科書に見いだされ得る。例えば、Handbook of Pharmaceutical Additives, 2nd Edition (eds. M. Ash and I. Ash), 2001 (Synapse Information Resources, Inc., Endicott, New York, USA), Remington’s Pharmaceutical Sciences, 20th edition, pub. Lippincott, Williams & Wilkins, 2000;及びHandbook of Pharmaceutical Excipients, 2nd edition, 1994を参照されたい。
【0084】
本発明の一態様は、本明細書に記載のMT化合物(例えば、本明細書に記載の方法によって入手されるか又は入手可能である;本明細書に記載の純度を有するなど)と、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、又は賦形剤とを含む、投薬単位(例えば、医薬錠剤又はカプセル剤)を利用する。
【0085】
「MT化合物」は、比較的少ない量で存在するものの、投薬単位の活性剤であり、すなわち、COVID-19に関して治療効果又は予防効果を有することが意図されるものである。むしろ、例えば、担体、希釈剤、又は賦形剤などの投薬単位中のその他の成分は、治療的に不活性である。
【0086】
したがって、好ましくは、投薬単位には、本明細書に記載される併用治療に関連する以外に、それに対して投与単位が使用されることが意図される障害に関して治療効果又は予防効果を有することが意図される、その他の作用剤は存在しないであろう。
【0087】
いくつかの実施形態では、投薬単位は錠剤である。
【0088】
いくつかの実施形態では、投薬単位はカプセルである。
【0089】
いくつかの実施形態では、前記カプセルは、ゼラチンカプセルである。
【0090】
いくつかの実施形態では、前記カプセルは、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)カプセルである。
【0091】
組成物中のMTの適切な量は、対象が1日当たり服用する頻度に依存する。
【0092】
例示的投薬単位は、10~30mgのMTを含有してもよい。
【0093】
いくつかの実施形態では、量は、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30mgのMTである。
【0094】
本明細書に記載され又は説明される重量係数を用いて、当業者は、経口製剤で使用されるMT含有化合物の適切な量を選択し得る。
【0095】
上で説明したように、LMTMのMT重量係数は1.67である。活性成分の単位量又は単純な分割量を使用するのが便利であることから、非限定的な例示的LMTM投薬単位は、17mgなどを含んでもよい。
【0096】
一実施形態では、約17、27、34mgなどのLMTMを含む投薬単位の医薬組成物が提供される。
【0097】
対象、患者、及び患者群
いくつかの実施形態では、対象は、COVID-19を有すると診断された(「確定例」)ヒトであってもよく、又は前記方法は、前記診断を行うことを含む。
【0098】
COVID-19の診断は、当該技術分野で公知の任意の方法を介してもよい。例としては、例えば、ウイルスそれ自体の存在に直接基づいて(例えば、RT-PCR及び等温核酸増幅、又は抗原性タンパク質の存在を使用して)、又は感染に応答して産生された抗体を介して間接的に、SARS-CoV-2ウイルスの存在に関する臨床検査が挙げられる。その他の診断方法としては、任意に以下に説明する特徴的な症状と組み合わせされた、胸部X線が挙げられる(例えば、Li, Xiaowei, et al.“Molecular immune pathogenesis and diagnosis of COVID-19.”Journal of Pharmaceutical Analysis (2020);Fang, Yicheng, et al.“Sensitivity of chest CT for COVID-19: comparison to RT-PCR.”Radiology (2020): 200432;Chan, Jasper Fuk-Woo, et al.“Improved Molecular Diagnosis of COVID-19 by the Novel, Highly Sensitive and Specific COVID-19-RdRp/Hel Real-Time Reverse Transcription-PCR Assay Validated In Vitro and with Clinical Specimens.”Journal of Clinical Microbiology 58.5 (2020);Tang, Yi-Wei, et al.“The laboratory diagnosis of COVID-19 infection: current issues and challenges.”Journal of Clinical Microbiology (2020)を参照されたい。
【0099】
いくつかの実施形態では、対象は、例えば、状況データ又はその他のデータに基づいて、COVID-19の「リスクがある」、又はCOVID-19の可能性があると評価されたヒトである。
【0100】
COVID-19の特定のリスクとしては、以下が挙げられる:
●1人又は複数人のCOVID-19症例と密接に接触した人々
●65歳以上の人々;
●老人ホーム、介護ホーム、又は長期介護施設に居住する人々;
●特に十分に管理されていない場合、以下をはじめとする、関連する基礎疾患を有する全ての年齢の人々:
○慢性肺疾患又は中等度から重度の喘息を有する人々
○重度の心臓疾患を有する人々
○免疫不全である人々
●当該技術分野で公知のように、がん治療、喫煙、骨髄又は臓器移植、免疫不全、制御不良のHIV又はAIDS、及びコルチコステロイドとその他の免疫弱化薬の長期使用をはじめとする多くの病状が、ヒトに免疫不全を引き起こし得る
○重度の肥満の人々(体型指数[BMI]40以上)
○糖尿病を有する人々
○透析を受けている慢性腎臓病を有する人々
○肝疾患を有する人々。
【0101】
COVID-19の可能性を示す(「可能性が高い」)症状又は状況としては、次が挙げられる:
1)急性気道感染症(咳嗽、発熱、息切れのうち少なくとも1つの突然発症)を有し、且つ臨床症状を完全に説明するその他の病因がなく、且つ発症前14日間に地域感染又は社会的感染が報告されている国/地域への旅行歴又は滞在歴がある患者;
又は
2)任意の急性呼吸器疾患を有しており、且つ症状の発症前の過去14日間に、COVID-19の確定例又は可能性例と密接に接触している患者;
又は
3)重度の急性呼吸器感染症(SARI)を有し(発熱と、少なくとも1つの呼吸器疾患の徴候/症状(咳嗽、発熱、息切れなど))、且つ入院が必要であり、且つ臨床症状を完全に説明できるその他の病因がない患者。
【0102】
本明細書で使用される「密接な接触」は、次のように定義される:
●COVID-19の症例と同じ世帯に住んでいる者;
●COVID-19の症例と直接物理的に接触した者(例えば、握手);
●COVID-19症例の感染性分泌物に無防備に直接接触した者(例えば、咳をかけられた、素手で使用済みのティッシュペーパーに触れた);
●COVID-19の症例と2メートル以内で15分を超えて対面で接触した者;
●COVID-19症例と2メートル未満の距離で15分以上閉鎖環境(例えば、教室、会議室、病院の待合室など)にいた者;
●COVID-19症例に直接ケアを提供する医療従事者(HCW)又はその他の者、或いは推奨される個人防護具(PPE)なしで、又はPPE違反の可能性があるCOVID-19症例の検体を取り扱う検査室勤務者;
●COVID-19症例の2席以内(あらゆる方向)に座っている航空機内の接触者、旅行同行者又はケアを提供する者、及び指標症例が着席していた航空機のセクションで働く乗務員(症状の重症度又は症例の動きがより広範な曝露を示す場合、セクション全体に着席していた乗客又は航空機の全ての乗客が密接な接触者とみなされることもある)。
【0103】
可能性例又は確定例との疫学的関連は、検討中の疑い例の発症前14日間以内に発生していることもある。
【0104】
ADのリスクとCOVID-19のリスクを有する集団(例えば、介護ホームの集団)との間の集団特性の重複、及びこのリスクがある集団におけるLMTXの安全性を考慮すると、本発明の治療は、原則としてADを目的とする治療と併用して実施されてもよい。
【0105】
患者は成人であってもよく、本明細書に記載の集団ベースの用量は、その基準を前提としている(典型的な体重は50~70kg)。必要であれば、それによって対象の体重を60kgで除して、その個々の対象に対する倍数因子を提供する対象体重係数を用いて、この範囲外の対象に対応する用量が利用されてもよい。
【0106】
ラベル、説明書、及び部品キット
本明細書に記載の単位用量組成物(例えば、低用量のMT含有化合物と任意にその他の成分、又はより一般的にはADの治療のためのMT組成物)は、それらの使用説明書と共にラベル付き小包装で提供されてもよい。
【0107】
一実施形態では、パックは、製薬技術分野で良く知られたボトルである。典型的なボトルは、薬局方等級HDPE(高密度ポリエチレン)からできていてもよく、対小児安全HDPEプッシュロック閉鎖を備え、サシェ又はキャニスターに入ったシリカゲル乾燥剤を含有する。ボトルそれ自体にラベルが含まれていてもよく、使用説明書と、任意にラベルの追加のコピーが入った、ボール紙容器内に梱包される。
【0108】
一実施形態では、パック又は小包装はブリスター包装(好ましくは、アルミニウムキャビティ及びアルミニウムホイルを有するもの)であり、したがって実質的に湿気不透過性である。この場合、パックは、使用説明書と、容器上のラベルと共に、ボール紙容器内に梱包されてもよい。
【0109】
前記ラベル又は説明書は、COVID-19又はSARS-CoV-2に関する情報を提供してもよい。
【0110】
治療方法
本発明の別の態様は、上で説明したように、治療を必要とする患者に、本明細書に記載の化合物の予防的又は治療的有効量を、好ましくは医薬組成物の形態で投与することを含む、COVID-19の治療方法に関する。
【0111】
治療方法における使用
本発明の別の態様は、ヒト又は動物の身体のCOVID-19を治療によって処置する方法において使用するための、本明細書に記載の化合物又は組成物に関する。
【0112】
薬剤の製造における使用
本発明の別の態様は、COVID-19の治療に使用するための薬剤の製造における、本明細書に記載のMT化合物又は組成物の使用に関する。
【0113】
いくつかの実施形態では、薬剤は、例えば、本明細書に記載の低用量単位用量組成物などの組成物である。
【0114】
酸化型及び還元型MT化合物の混合物
本発明で利用されるLMT含有化合物は、合成中に「不純物」として酸化型(MT+)化合物を含んでもよく、また合成後に酸化(例えば、自動酸化)して、対応する酸化形態を与えてもよい。したがって、本発明の化合物を含む組成物は、必然ではないにしても、対応する酸化型化合物の少なくとも一部を不純物として含有する可能性が高い。例えば、「LMT」塩は、例えば10~15%など、最大15%のMT+塩を含んでもよい。
【0115】
混合MT化合物を使用する場合、MT用量は、存在する化合物の分子量係数を用いて容易に計算され得る。
【0116】
塩及び溶媒和化合物
本明細書に記載のMT含有化合物はそれ自体塩であるが、それらは混合塩(すなわち、本発明の化合物を別の塩と組み合わせたもの)の形態で提供されてもよい。このような混合塩は、「及びその薬学的に許容される塩」という用語に包含されることが意図される。特に明記されない限り、特定の化合物への言及は、その塩もまた含む。
【0117】
本発明の化合物はまた、溶媒和化合物又は水和物の形態で提供されてもよい。「溶媒和化合物」という用語は、本明細書では従来の意味で使用され、溶質(例えば、化合物、化合物の塩)と溶媒との複合体を指す。溶媒が水である場合、溶媒和化合物は便宜的に、例えば、一水和物、二水和物、三水和物、五水和物など、水和物と称されてもよい。特に明記されない限り、化合物へのあらゆる言及は、その溶媒和化合物及びあらゆる水和物形態もまた含む。
【0118】
必然的に、化合物の塩の溶媒和化合物又は水和物もまた、本発明に包含される。
【0119】
本発明及び本発明が関係する最新技術をより完全に説明し開示するために、いくつかの特許及び刊行物が本明細書で引用されている。これらの参考文献のそれぞれは、あたかも個々の参考文献が参照により援用されるように、具体的且つ個別に示されているのと同程度に、その内容全体が参照により本開示に援用される。
【0120】
続く特許請求の範囲を含めた本明細書全体を通じて、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という語、及び「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などのバリエーションは、記述される整数又はステップ又は整数群又はステップ群の包含を暗示するが、任意のその他の整数又はステップ又は整数群又はステップ群を排除しないものと理解される。
【0121】
本明細書及び添付の特許請求範囲の用法では、文脈上例外が明記されていない限り、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、複数指示対象を含むことに留意すべきである。したがって、例えば、「薬学的担体」への言及は、2つ以上のこのような担体の混合物などを含む。
【0122】
範囲は、本明細書において、「約」1つの特定の値から、及び/又は「約」別の特定の値までとして表現されることが多い。このような範囲が表現される場合、別の実施形態は、1つの特定の値から及び/又は別の特定の値までを含む。同様に、値が近似値として表現される場合、先行する「約」の使用によって、特定の値が別の実施形態を形成することが理解されるであろう。
【0123】
本明細書の副題は、便宜上のみ含まれており、開示を限定するものと解釈されるべきではない。
【0124】
ここで、以下の非限定的な図面及び実施例を参照して、本発明をさらに説明する。本発明のその他の実施形態は、これらに照らして当業者に想起されるであろう。
【0125】
本明細書で引用される全ての参考文献の開示は、それが当業者によって本発明を実行するために使用されてもよい限りにおいて、相互参照により本明細書に具体的に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0126】
図面
【
図1】高親和性LMT/MT
+-ヘム相互作用の計算機化学モデリングである。
【発明を実施するための形態】
【0127】
参考例1-抗ウイルス剤としての塩化メチルチオニニウム(MTC)
MTC(塩化メチルチオニニウム、メチレンブルー)は、1876年から医薬品として利用可能である。それは、医療システムで最も安全で効果的な医薬品の一覧である、世界保健機関の必須医薬品の一覧に掲載されている。
【0128】
いくつかの研究で、MTCの抗ウイルス活性が調査されている。このような1つの研究は、登録された36人のC型肝炎患者のうち23人が、50日間にわたる1日当たり130mgのMTC(すなわち、1日当たり98mgのMT相当)の投薬レジメン後、ウイルス数が70~100%減少したと結論付けた。12人の患者(52%)はウイルス負荷に0.7~1対数の間の減少を有し、6人(26%)はウイルス負荷に1~2対数の間の減少を有し、5人(22%)ではウイルスが除去された。これらの確証されていない結果は、MTCがC型肝炎の治療に有用な活性を有してもよいことを示唆する(Wood et al., 2006;Mehta et al., 2006)。
【0129】
生体内でMTCが抗ウイルス効果を発揮するか又は増強してもよいと提案されている1つの潜在的な機構は、核酸インターカレーションによるものである(Jamison, J. M., et al.“RNA-Intercalating Agent Interactions: in vitro Antiviral Activity Studies.”Antiviral Chemistry and Chemotherapy 1.6 (1990): 333-347を参照されたい)。
【0130】
さらなる裏付けは、血液製剤のウイルス滅菌のための光活性化MTCの日常的な使用に由来する。MTC治療に感受性のウイルスとしては、HIV-1及び2、ヘルペス、C型肝炎、トガウイルスなどが挙げられる(Muller-Breitkreutz 1998, Mohr, 1999)。
【0131】
ごく最近の報告では、がん化学療法レジメンの一環として、1日当たり315mgのMTC(1日当たり236mgのMT相当)の経口用量を投与された脆弱な患者2,500人のコホートにおいて、SARS-CoV-2の感染率が遡及的に調べられた。このコホートは、リポ酸/ヒドロキシクエン酸による代謝治療を受けている、3万人のデータベースから得られた。2020年3月27日の時点で、MTCを投与された者で、COVID-19と一致する臨床症状を有した者はいなかった(Henry et al., 2020)。しかしながら、この論文では、MTCを投与されていない患者の症例頻度は報告されていない。それにもかかわらず、この結果に基づいて、著者らは、COVID-19と臨床診断された患者を対象に、1日当たり150mgのMTC(1日当たり113mgのMT相当)の用量で、MTCの前向き単一施設研究(open positive single centre study)を開始したと報告されている(https://guerir-du-cancer.fr/essai-ouvert-testant-le-bleu-de-methylene-dans-le-covid-19/)。
【0132】
参考例2-抗ウイルス剤としてのクロロキン/ヒドロキシクロロキン
MTCとは独立して、抗マラリア化合物であるクロロキンと関連するヒドロキシクロロキンは、現在、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス薬としての有効性を評価するために世界的に調査されている。
【0133】
いくつかの研究は、生体外でのSARS-CoVに対するクロロキンの有効性を示している(Vincent 2005、Keyaerts 2004)。より最近では、これはSARS-CoV-2についても示されている(Liu et al., 2020)。フランスの研究者らは、20人のCOVID-19を有する患者をヒドロキシクロロキンで治療した研究を発表した。研究者らは、薬物が鼻拭き取り検体のウイルス負荷を大幅に減少させたと結論付けた(Gautret et al., 2020)。
【0134】
現在入手可能な証拠のレビューでは(Cortegiani et al., 2020)、著者らは、COVID-19を有する患者におけるクロロキンの臨床研究使用は正当化されると結論付けたが、これは倫理的に承認された試験又は未登録介入の監視緊急使用フレームワークの下に限定されるべきである。しかしながら、ニュース報道によると、最近の研究では、クロロキンで治療された患者と治療されていない患者の死亡率は同様であり、進行した症例では利益が見られなかったようである(https://www.scmp.com/news/china/science/article/3080055/anti-malarial-treatment-hailed-trump-has-no-benefit-coronavirus)。
【0135】
その他の研究者らは、抗炎症特性とリンパ球減少症の回復を通じて有益な効果が生じることもあると報告している(Tang, Wei, et al.“Hydroxychloroquine in patients with COVID-19: an open-label, randomized, controlled trial.”medRxiv (2020)。
【0136】
研究者らはまた、肺炎の増悪の低減、肺の画像所見の改善、ウイルス陰性状態への転換の促進、及び疾患経過の短縮に対する治療のポジティブな効果を報告しているが、データは得られていない(Gao et al., 2020)。中華人民共和国国家衛生健康委員会の専門家は、入手可能なデータを審査し、今後のガイドラインにクロロキンを含めることを推奨した。
【0137】
抗マラリア化合物のクロロキン/ヒドロキシクロロキンが、SARS-CoV-2ウイルスに対して潜在的な活性を有する機序は不明である。
【0138】
実施例3-COVID 19の単剤療法としてのヒドロメチルチオニン塩
メチルチオニニウム(MT)部分は、酸化MT
+形態及び還元LMT形態で存在し得る:
【化11】
MTCは、酸化MT
+形態の塩化物塩である。赤血球及び脳をはじめとする深部区画への吸収及び分布を可能にするために、それは、腸内のチアジン色素レダクターゼ活性によってLMT形態に変換される必要がある(Baddeley et al., 2015)。同様に、単離された赤血球調製物では、MT
+をLMTに変換して細胞の取り込みを可能にする必要がある(May et al., 2004)。
【0139】
国際公開第2007/110627号は、アルツハイマー病、及び前頭側頭型認知症(FTD)などのその他の疾患、並びにウイルス性疾患全般をはじめとする疾患の治療のための薬物又はプロドラッグとして有効な特定の3,7-ジアミノ-10H-フェノチアジニウム塩を開示した。これらの化合物もまた、MTCに関して考えると、「還元」又は「ロイコ」形態にある。これらのロイコメチルチオニニウム化合物は、本明細書で「LMTX」塩と称される。
【0140】
国際公開第2012/107706号は、ロイコメチルチオニニウムビス(ヒドロメタンスルホネート)(LMTM)(WHO INN名称:ヒドロメチルチオニン)をはじめとする、上に列挙されるLMTX塩よりも優れた特性を有する別のLMTX塩を記載している:
【化12】
LMTX及びLMTM化合物の合成は、これらの公報に記載される方法又はそれらと類似した方法に従って実施され得る。
【0141】
LMTMは、アルツハイマー病(AD)及び関連する神経変性疾患の治療薬として開発中である(Gauthier et al., 2016;Wilcock et al., 2018;Schelter et al., 2019;Shiells et al., 2020)。ADの臨床及び神経画像評価項目に最適な活性を示した用量(16mg/日)を用いて、現在、ADの国際的な臨床試験が進行中である(Schelter et al., 2019)。
【0142】
MTCは、神経原線維変化を形成してADの臨床的認知症の原因となる、微小管関連タンパク質タウの病理学的凝集をブロックするその能力のために、これまでにもADの潜在的な治療の焦点であった(Wischik et al., 1996;Harrington et al., 2015)。MTCの第2相用量設定試験では、最小有効用量として138mg/日が同定された(Wischik et al., 2015)。
【0143】
LMTMからのLMT吸収ははるかに効率的であるので、抗認知症効果に必要な最小有効用量は8mg/日であることが判明し、16mg/日が最適有効用量であることが判明した(Schelter et al., 2019)。これは、赤血球への急速な取り込みと深部区画組織織への分布により、LMTMの脳:血漿比が60倍以上向上したためである。遊離血漿LMTは、効率的な初回通過代謝を受けて不活性コンジュゲートに変換されるが、これは血漿中の優勢な化学種である。LMTMはまた、静脈内投与された場合、20倍優れた赤血球への取り込みを有する(Baddeley et al., 2015)。
【0144】
ひとたび細胞に吸収されると、LMTは、MT+と平衡状態で存在し、平衡は細胞内の還元当量の利用可能性に依存することに留意すべきである。
【0145】
LMT化合物が低用量で活性である可能性、及び用量反応の明らかな欠如については、国際公開第2018/019823号に記載されており、タウ凝集阻害剤の標的における活性には臨界閾値があってもよく、脳内濃度が1μMを超えると、より高用量の効果は平坦化してもよく、又は負になることさえあると仮定されている。国際公開第2020/020751号は、0.5~1.0ng/mLの血漿濃度がADの治療に望ましいことを示している。
【0146】
抗ウイルス活性を有すると思われるMTCの経口投与量は、1日当たり100~236mgのMTの範囲である。ADにおける活性データを比較の基準として用いて、本発明者らは、これが1日当たり12~27mgのMTの範囲のLMTMの用量に相当すると計算した。これは、ADにおける最適な活性に必要な用量範囲(1日当たり16mgのMT相当)である。これは、臨床的な抗ウイルス及び抗認知症の薬理学的活性には、作用部位における同程度のLMTの濃度が必要であることを示唆する。本発明者らは、より低いLMTM用量要件と一致して、Henry et al.が報告しているMTCの高用量(1日当たり236mgのMT相当)は、十分に吸収されないと予測する(Baddeley et al., 2015)。したがって、1日当たり16mgのMT相当の経口用量が、COVID-19患者の抗SARS-CoV-2活性に適した治療方法であろう。
【0147】
0.5~1.0ng/mLの所望のトラフ濃度を達成するために必要な静脈内LMTM用量は、以前の第3相試験で経口でLMTMを投与された、アルツハイマー病又は行動異常型前頭側頭型認知症のどちらかを有する1475人の患者からのPKパラメータを使用して予測されている(国際公開第2020/020751号もまた参照されたい)。
【0148】
経口投与後のこれらのPKパラメータは、個々の値に0.75を乗じて、仮定された75%の経口製剤の全身生物学的利用能を考慮することによって、IV投与量に換算された。次に、単純な2コンパートメントモデルを採用して、様々な投与レジメンの経時的な薬物濃度が予測された。
【0149】
連続注入を介して投与された場合、0.6mg/時間の注入速度では、対象の95.5%に0.5ng/mLを超える定常状態濃度をもたらし、8.8%では1.0ng/mLを超える定常状態濃度を達成すると予測される。
【0150】
したがって、5分間にわたって投与される断続的なボーラス用量として投与される場合、6時間毎に4.4mgの用量は、対象の95.4%に0.5ng/mLを超える定常状態トラフ濃度をもたらし、6.2%では1.0ng/mLを超える定常状態濃度を達成すると予測される。
【0151】
LMTMの3つの第3相二重盲検対照研究が完了している(軽度及び軽度から中等度のADを有する対象において各1つ、bvFTDを有する対象において1つ)。AD研究の結果は、公開されている(Gauthier et al., 2016;Wilcock et al., 2018;Shiells et al., 2020)。これらの研究は、16mg/日のLMTM用量で予想されるかもしれない、より一般的な有害事象の概要を提供する。これらの3つの研究では、1897人の対象が少なくとも1用量のLMTMを投与された。これらのうち、860人の対象は8mg/日のLMTMを投与され、1037人の対象は150~250mg/日のより高用量のLMTMを少なくとも1用量投与された。研究参加者の平均年齢は、ADを有する対象で71歳(最大89歳の範囲)、bvFTDを有する対象で63歳(最大79歳の範囲)であった。
【0152】
8mg/日のLMTMへの全体的な曝露人-年は995.2人-年であり、150~250mg/日のより高いLMTM用量への曝露は988.6人-年であった。対象の6パーセント(6%)では、有害事象のために8mg/日のLMTMが中止され;より高用量の群では、有害事象のために中止された対象の割合が高かった(14%)。
【0153】
8mg/日の用量で投与されたLMTMに少なくとも関連している可能性があると考えられる、最も一般的な治療中に発生した有害事象(TEAE)は、胃腸(主に下痢及び悪心)、泌尿生殖器(主に頻尿及び尿失禁)、血液学的(貧血、葉酸の減少、及び葉酸欠乏)、及び神経系関連(主に疲労、目眩、頭痛、動揺、及び不眠症)であった。研究されたより高いLMTM用量、150~250mg/日では、用量に関連して貧血関連TEAE(貧血、葉酸の減少、及び葉酸欠乏に加えてヘモグロビンの減少)、胃腸事象(嘔吐及び下痢を含めた)、及び泌尿生殖器事象(排尿障害、排尿切迫感、及び頻尿と尿失禁に加えて明らかな尿路感染症を含めた)の発生率が増加した。転倒及び神経系/精神医学的事象(動揺以外)における用量反応の欠如は、これらが治療ではなく対象の基礎疾患に関連していることを示唆する。
【0154】
血液学的パラメータは、最小の変化を示した8mg/日のLMTMと比較して、RBC数、ヘモグロビン、及びヘマトクリットの用量依存的な減少を示し、より高用量の群でより大きな減少を示した。生命徴候測定値、ECG、又はC-SSRSに基づいて、臨床的に意味のある傾向は観察されなかった。
【0155】
したがって、要約すると、LMTMの安全性は、第1相及び第3相試験で2400人を超える患者を対象に、450mg/日までの反復投与で研究されている。調べた最高用量であっても、LMTMの安全性プロファイルは良性のままであり、さらなる臨床開発と一致している。
【0156】
クロロキンとLMTは、どちらも抗マラリア剤と同様に作用するという証拠がある(Atamna et al., 1996;Blank et al., 2012)。寄生虫の成熟に必要なmetHbを形成するためのヘモグロビンの酸化は、鉄-ポルフィリン環を無毒にすることに依存する。寄生虫は、ヘマチン(ポルフィリン-Fe3+)からヘモゾインポリマーを形成することによってこれを行う。クロロキンとLMTは、どちらもヘマチンと複合体を形成してその重合を阻害し、それによってヘマチンは、寄生虫が食胞内でヘモグロビンを消化した後も有毒であり続ける。
【0157】
SARS-CoV-2タンパク質のヘム結合が、血中酸素運搬能力を損なうこともあるという提案に、最近関心が寄せられている。これは、(査読されていない)計算機モデリング報告で議論されており(Liu and Li, 2020)、その後、(査読されていない)批評で技術的に欠陥があることが示されている(Read, 2020)。
【0158】
それにもかかわらず、COVID-19における赤血球の役割を裏付ける証拠がいくつかある。マカクザルは、SARS-CoV-2の感染後に赤血球数の減少を示した(Munster et al., 2020)。SARS-CoV-2に対する感受性は、血液型によって決定されるようであると報告されている(Yang et al., 2020)。Chen et al. (2020)のWuhanにおけるCOVID-19患者に関する報告では、血清フェリチンの上昇と総ビリルビンの増加があった。フェリチンレベルの上昇は、ヘムからの鉄の解離の結果として起こり得て(Sassa, 2006)、増加したビリルビンは、無効な赤血球形成と関連している(Trier et al., 2013)。しかしながら、フェリチンレベルの上昇はマクロファージ活性化症候群の結果である可能性もあり、COVID-19患者ではインフルエンザ感染で見られるよりも溶血が少ないようである(Emmenegger et al. 2002;Huang et al., 1981)。Abrahams (2020)は、別の(査読されていない)意見記事で、SARS-CoV-2の血液学的特徴のいくつかは急性ポルフィリン症に似ていると主張している。これは、ポルフィリン症(Pischik and Kauppinen, 2015;Sassa, 2006)、及びCOVID-19患者の最大50%(Poggiali et al., 2020;Zhao et al., 2020;Mao et al. 2020)の双方で見られる神経内臓及び神経学的症状を説明し得る。
【0159】
MTCは1930年代からメトヘモグロビン血症及びシアン化物中毒の治療に使用されており、これらの疾患の標準的な治療薬として今も用いられている。メトヘモグロビン血症では、ヘム鉄が、正常な第一鉄の状態(Fe2+)とは対照的に、第二鉄(Fe3+)の状態にあるため、効率的に酸素と結合し得ない(Curry et al., 1982)。MTCは典型的には、1~2mg/kgの用量で静脈内投与され、メトヘモグロビン血症の急速な臨床的改善と消散に関連している。
【0160】
マラリアとメトヘモグロビン血症におけるLMTの作用機序は、非常に良く似ている。どちらにおいても、MTCとして投与された酸化MT
+形態のメチルチオニンは、赤血球への侵入の必要条件として、細胞表面で最初にLMTに還元される(May et al., 2004)。次に、ヘム部位の活性種であるLMTがポルフィリンに結合して電子の移動を可能にし、それはMT
+を生成し、Fe
3+をFe
2+に変換する(Yubisui et al., 1980;Blank et al., 2012)。次に、MT
+は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸及びその他の還元等価物によってLMTに変換され、それは赤血球内の解糖を介して連続的に再生される。
図1に示される計算機化学モデリングは、高親和性LMT/MT
+-ヘム相互作用の力学を説明する構造基盤を提供する。LMT窒素は、2.1Å以内で、ヘムポルフィリンのFe
3+に向かって配向する(
図1の点線)。この密接な相互作用は、次にLMTからFe
3+への電子の移動を促進して、それをFe
2+に還元し、結果としてMT
+が形成する。
【0161】
本発明者らは、ヘモグロビンのポルフィリンコアと相互作用する能力が、クロロキンとLMTの双方に共通していることに注目した。クロロキンは、組織結合型ポルフィリンの放出を誘導することが知られており、晩発性皮膚ポルフィリン症(PCT)患者へのクロロキン投与に続く最初の事象は、結合した肝臓ポルフィリンの放出と急速な排除であることが示されている(Scholnick et al., 1973)。
【0162】
これに関係なく、本発明者らは、LMTXとして送達されたLMTによるヘムとの複合体形成が、直接的な抗ウイルス作用に加えて、COVID19の病因への別の介入を提供し得ることを提案する。
【0163】
LMTは、ミトコンドリアの電子伝達系の複合体Iと複合体IVの電位の中間にある、ゼロに近い酸化還元電位を有する。したがって、それは電子シャトルとして作用することにより、ミトコンドリア機能を強化する能力を有する(Atamna & Kumar 2010)。これと一致して、LMTMは最近、タウ遺伝子組換えマウスモデルにおいて、脳の複合体IV活性を増強することが確認されている(Riedel et al., 2020)。この活性は、脳虚血の片側結紮ラット脳モデルにおける梗塞の範囲を制限する、抗虚血活性に変換される(Rodriguez et al., 2014)。
【0164】
本発明者らは、LMTXの投与後、LMTが深部区画に急速に分布することから、酸素送達が制限されている場合に、それを使用して、多くの組織でミトコンドリア機能を増強してもよいと提案する。したがって、これはCOVID19の病因へのさらなる介入を提供し得る。
【0165】
ミトコンドリア機能の強化に加えて、経口投与されたMTCは、ミトコンドリア生合成を増加させることが示されている(Stack et al., 2014)。ミトコンドリア生合成の増強は、Nrf2レベルを増加させる能力に関連している(Gureev et al., 2016)。Rojo de la Vegaらのグループは、研究文献の広範なレビューで、Nrf2が、急性肺傷害/急性呼吸窮迫症候群(ADI/ARDS)における酸化的及び炎症性肺損傷に対して、重要な保護的役割を果たしていると主張している(Rojo de al Vega et al., 2016)。彼らは、Nrf2の薬理学的活性化が、一次感染だけでなく、換気誘発肺損傷(VILI)による機械的及び過酸素性損傷にも起因する、肺胞損傷を改善することが期待できる証拠を提示している。30mg/kgのMTCを経口投与すると、脳内のNrf2レベルが上昇することが示されている(Stack et al., 2014)。赤血球中と同様に、肺内皮細胞への取り込みを可能にするために、酸化型MT+をLMTに還元する必要がある(Merker et al., 1997)。
【0166】
本発明者らは、LMTがADI/ARDSにおいてNrf2を誘導する可能性を有することから、LMTXを使用して肺胞損傷を改善してもよいと提案する。したがって、これはCOVID19の病因へのさらなる介入を提供し得る。
【0167】
実施例4-COVID-19の治療薬としてのヒドロメチルチオニン塩
前述の論理的根拠により、LMTXクラスの化合物は、COVID-19患者の治療(予防的治療を含めた)において、単独、及びクロロキン(又は例えば、ヒドロキシクロロキンなどのその類似体)との併用の双方で利益を提供してもよい。
【0168】
要約すると、LMTXは、(1)ウイルス負荷の減少を可能にすること、(2)直接的又は間接的に、COVID-19で支援活性を提供してもよいヘムとの複合体形成、(3)肺への炎症性、過酸素性、及び機械的損傷に起因する、肺内皮への損傷を軽減することにおいて、対象に利益を提供し得る。
【0169】
さらに、LMTMには、クロロキン/ヒドロキシクロロキンによる治療の用量と持続期間を制限する心毒性を有しておらず、したがって単独で、又はその作用剤と組み合せて、より安全な治療アプローチを提供してもよい。
【0170】
これらの目的の全てに適したMTの適切な投与量は、ADにおける最適な活性に必要な、例えば、1日当たり15又は16mgのMT相当など、1日当たり約10~30mgの経口MTである。
【0171】
静脈内投与の場合、対象に1日当たり約10~25mgのMT、より好ましくは約4~20mgのMTを投与することが好ましい。
【0172】
参考文献
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