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特表2023-524128電子回折パターン解析のために改善されたカメラ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(54)【発明の名称】電子回折パターン解析のために改善されたカメラ
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/24 20060101AFI20230601BHJP
   G01N 23/205 20180101ALI20230601BHJP
   G01N 23/20058 20180101ALI20230601BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20230601BHJP
   H01J 37/295 20060101ALI20230601BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20230601BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
G01T1/24
G01N23/205
G01N23/20058
H01J37/244
H01J37/295
H01J37/28 B
H01J37/22 502H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567272
(86)(22)【出願日】2021-05-05
(85)【翻訳文提出日】2022-12-13
(86)【国際出願番号】 GB2021051091
(87)【国際公開番号】W WO2021224622
(87)【国際公開日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】2006638.7
(32)【優先日】2020-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507329985
【氏名又は名称】オックスフォード インストルメンツ ナノテクノロジー ツールス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】マスターズ ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ビューウィック アンガス
(72)【発明者】
【氏名】ステイサム ピーター
【テーマコード(参考)】
2G001
2G188
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA15
2G001BA18
2G001CA03
2G001DA01
2G001DA09
2G001KA08
2G188AA27
2G188BB02
2G188CC28
2G188DD05
2G188DD09
2G188DD36
2G188EE05
2G188EE07
2G188EE12
2G188EE17
5C101AA03
5C101AA16
5C101AA23
5C101EE45
5C101GG05
5C101GG36
5C101GG37
5C101GG42
5C101GG49
5C101HH06
5C101HH27
(57)【要約】
キクチ回折パターンを検出するための装置を提供する。装置は、2keVから50keVの範囲のエネルギを有してサンプルに向けて誘導される電子ビームを使用時に提供するようになった電子柱と、サンプルとの電子ビームの相互作用に起因するサンプルから電子を感受して計数するためのものであり、ピクセルのアレイを備えて各ピクセルに対して毎秒少なくとも2,000個の電子の計数速度機能を有する撮像検出器とを備え、撮像検出器は、回折パターンを表す感受電子を計数するための感受電子の電子エネルギフィルタリングを提供するようになっており、粒子検出器は、電子が検出器の活性領域に向けて入る面上に不活性層を有し、不活性層は、3.2keVよりも低い半値全幅を有するエネルギの広がりで20keV入射電子の検出エネルギを分散させる。キクチ回折パターンを検出する方法も提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キクチ回折パターンを検出するための装置であって、
2keVから50keVまでの範囲のエネルギを有してサンプルに向けて誘導される電子ビームを使用時に提供するようになった電子柱と、
前記サンプルとの前記電子ビームの相互作用に起因する該サンプルからの電子を感受して計数するための撮像検出器であって、ピクセルのアレイを備え、かつ各ピクセルに対して毎秒少なくとも2,000個の電子の計数速度機能を有する前記撮像検出器と、
を備え、
前記撮像検出器は、前記回折パターンを表す感受した電子を計数するために該感受した電子の電子エネルギフィルタリングを提供するようになっており、
前記粒子検出器が、前記電子が該検出器の活性領域に向けて入る面上に不活性層を有し、該不活性層は、3.2keVよりも低い半値全幅を有するエネルギの広がりで20keV入射電子の検出エネルギを分散させる、ことを特徴とする装置。
【請求項2】
各ピクセルでの電子増幅器が、2keVよりも低い、好ましくは1keVよりも低い半値全幅を有するのと同等の電子ノイズエネルギを導入する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記粒子検出器は、単一入射粒子に関して発生し得るピクセル間の電荷共有を検出して補正する回路を含有する、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記回路は、
所与のピクセルに収集された電子信号を隣接ピクセルに収集された電子信号と加算すること、
前記回折パターンを表す感受した粒子を計数するために加算した前記電子信号に電子エネルギフィルタリングを適用すること、及び
計数した粒子を単一ピクセルに割り当てること、
を達成する、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記粒子検出器は、各ピクセルに取り込まれた信号の到着時間及びマグニチュードの両方を出力し、コンピュータアルゴリズムが、
単一入射粒子が複数のピクセルに同時の電子信号を発生させるインスタンスを識別し、
単一入射粒子によって発生されて前記複数のピクセルに収集された複数の前記電子信号を加算し、
前記回折パターンを表す感受した粒子を計数するために加算した前記電子信号にエネルギフィルタリングを適用し、かつ
計数した粒子を単一ピクセルに割り当てる、
ために使用される、請求項1~4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
(活性層センサ厚)/(ピクセル対ピクセル間隔)の比が5よりも小さい、請求項1~5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
パターン取得中にピクセル毎に計数された電子の個数が、6ビット又はそれ未満のデータ単位として読み出される、請求項1~6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
カメラセンサアレイが、異なるピクセル計数速度要件及びエネルギ分解能要件に適するように1よりも多いパルス長を達成させる設定可能ピクセル増幅器を有する、請求項1~7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記電子エネルギフィルタリングは、前記回折パターンをより表すエネルギを有する感受した粒子と背景をより表すエネルギを有する感受した粒子との間で区別するように構成されている、請求項1~8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
入射する前記電子ビームは、試料面平面に対して45-90°の範囲内の角度で入射する、請求項1~9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記不活性層は、1500nmの不活性シリコンを通る伝達によって誘起された前記エネルギの広がりよりも少なく20keV入射電子の前記検出エネルギを分散させる、請求項1~10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
キクチ回折パターンを検出する方法であって、
2keVから50keVまでの範囲のエネルギを有してサンプルに向けて誘導される電子ビームを電子柱を用いて提供する段階と、
ピクセルのアレイを備えて各ピクセルに対して毎秒少なくとも2,000個の電子の計数速度機能を有する撮像検出器を用いて、前記サンプルとの前記電子ビームの相互作用に起因する電子を該サンプルから感受して計数する段階と、
を備え、
前記検出器は、前記回折パターンを表す感受した電子を計数するために該感受した電子の電子エネルギフィルタリングを提供するようになっており、
粒子検出器が、前記電子が該検出器の活性領域に向けて入る面上に不活性層を有し、該不活性層は、3.2keVよりも低い半値全幅を有するエネルギの広がりで20keV入射電子の検出エネルギを分散させる、
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の前記装置を用いてキクチ回折パターンを検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キクチ回折パターンを検出するために試料に対してマイクロ回折解析、特に電子後方散乱回折(EBSD)解析を実施するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ回折解析では、電子ビームが、結晶試料に向けて誘導され、試料との電子ビーム内の電子の相互作用により、異なるタイプの粒子が生成される。ソース電子ビームから発せられ、試料から弾性的に後方散乱され、次に、結晶の格子面によって回折される電子は、材料の研究では特に興味深いものである。1次ビームのものに近いエネルギを有するこれらの電子は、電子後方散乱回折(EBSD)解析のための基礎を形成する。EBSD解析に関して、ピクセル化検出器により、回折コントラストが画像(回折パターン)として取り込まれ、このパターンは、試料の特質、例えば、結晶方位及び歪みを測定するのに使用される。走査型電子顕微鏡(SEM)は、1次電子ビームを発生し、かつ試料及び検出器をマウントするのに典型的に使用される。
【0003】
粒子計数型ピクセルアレイは、US8890065に説明されているように、マイクロ回折解析のための撮像検出器として使用される場合がある。そのようなシステムでは、検出器に受け入れられる個々の粒子によって発生される信号のマグニチュードは、個々の粒子を計数することができるように、信号をシステムノイズから区別するための閾値と比較される。更に、信号レベルは入射粒子のエネルギによって支配されるので、この閾値は、設定可能閾値よりも高いか又は2つの閾値間の帯域に収まるエネルギを有する粒子のみを計数することにより、異なるエネルギの粒子の間で区別するのに使用することができる。そのような粒子計数型ピクセルアレイは、高エネルギ物理実験に又はX線検出器として(それらは、時として混成光子計数検出器又はHPC検出器として公知である)使用するために元来開発されたものであるが、今日ではEBSDに使用するために採用されている。
【0004】
EBSDでは、当該の「信号」は、EBSDパターン内の回折コントラストであり、これは、SEMの1次ビームエネルギE0(E0は、典型的に20keVであると考えられる)と典型的にE0よりも1-2keV低いものとの間の狭いエネルギ帯域内に収まるエネルギを有する電子によって主として担持される。この帯域よりも低いエネルギを有する電子は、回折コントラストに寄与せず、むしろ回折コントラストを測定する際に精度を低減する測定に対する背景に単に寄与する。回折コントラストを担持する後方散乱電子の相対分量は、電子ビームがサンプル面平面に対して小さい角度で試料上に入射する場合に増加し、この理由から、従来のEBSD実験は、試料をこの入射幾何学形状を可能にする角度だけ傾斜させて実施される。
【0005】
特徴的なキクチ回折コントラストの原因である結晶のタイプ及び方位を識別するために、EBSDパターンは、画像内の線を検出してそれらを結晶内の平面に関連付けるように処理される。典型的に、これは、ハフ変換手法を用いて達成される。線及び角度関係が測定された状態で、その結果は、結晶のタイプへの密接適合を見出すのに使用される。十分な線が検出されないか又は結晶のタイプへの十分に密接な適合を見出すことができない場合に、パターンは、指数化することができない。パターンを指数化することができる場合に、結晶の方位を決定することができる。視野を網羅する格子点上でパターンが取得される場合に、視野内のあらゆる点での結晶方位を示すマップを取得することができる。指数化することができない有意な分量のパターンが存在する場合に、方位マップは有用ではない。この場合に、成功裏に指数化されたパターンの受容可能な分量を得るために、SEM電子ビーム電流又は個々のパターンに関する取得時間を増大しなければならない。どれだけ多くの量のビーム電流をSEM内に生成することができるかに関して限界があり、試料は、過度に高いビーム電流を使用すると損傷する場合がある。ピクセル毎の取得時間が増大された場合に、方位マップを取得するための時間は、より長くなることになる。従って、最小ビーム電流及び最短取得時間を用いて、成功裏に指数化されたパターンの高い百分率を達成することが望ましい。
【0006】
所与のビーム電流及び取得時間で成功裏に指数化されるパターンの百分率は、試料及び様々な実験条件に部分的に依存する。しかし、特定の試料及び固定の実験条件に対して、「感度」尺度は、短い取得時間及び低いビーム電流を用いて成功裏に指数化することができるパターンを取得する検出機器の機能を説明するものである。感度の1つ尺度は、成功裏に指数化されたパターンの受容可能な百分率(例えば、95%)を達成するのに必要である積(ビーム電流×パターン取得時間)の逆数である。
【0007】
US8890065に示すように、電子計数EBSD検出器を用いて回折信号を測定する際の感度は、ある一定のエネルギと同等の閾値レベルよりも高いパルスのみを受容する弁別器を用いることによって改善されることが予想される。信号/背景は、この閾値が引き上げられる時に改善するはずであり、最適な結果は、1次ビームエネルギに近い閾値を用いて達成されるはずである。実際に、Vespucci他(S.Vespucci他著「エネルギフィルタ式電子後方散乱回折パターンのデジタル直接電子撮像(Digital direct electron imaging of energy-filtered electron backscatter diffraction patterns)」、Phys.Rev.B-Condens.Matter Mater.Phys.第92巻、第20号、8~14ページ、2015年)は、帯域強度から測定される回折コントラスト、すなわち、((最大値-最小値)/(最大値+最小値))が、閾値をビームエネルギの近くまで引き上げることによって改善され、20keVの入射ビームエネルギでダイヤモンドからEBSPを収集する時に閾値を5.5keVから19.4keVまで引き上げることによって4倍のコントラスト改善を達成することができることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US8890065
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S.Vespucci他著「エネルギフィルタ式電子後方散乱回折パターンのデジタル直接電子撮像(Digital direct electron imaging of energy-filtered electron backscatter diffraction patterns)」、Phys.Rev.B-Condens.Matter Mater.Phys.第92巻、第20号、8~14ページ、2015年
【非特許文献2】J.D.Segal他著「LCLS-IIでの軟X線のための肉薄入射窓センサ(Thin-Entrance Window Sensors for Soft X-rays at LCLS-II)」、2018 IEEE Nuclear Science Symposium and Medical Imaging Conference会報(NSS/MIC)、2018年、1-2ページ、doi:10.1109/NSSMIC.2018.8824674.
【非特許文献3】Yudina,S.著「指定厚の材料膜を通って伝達した高速荷電粒子ビームに関するエネルギ損失スペクトル(Energy loss spectra for a fast charged particle beam transmitted through a material film of specified thickness)」、Journal of Surface Investigation-x ray Synchrotron and Neutron Techniques-J SURF INVESTIG-X-RAY SYNCHRO、3、218~222ページ、10.1134/S1027451009020086、2016年
【非特許文献4】Attarian Shandiz,M.、Salvat,F.、及びGauvin,R.著「電子伝達及び電子エネルギ損失のスペクトルの詳細なモンテカルロシュミレーション(Detailed Monte Carlo Simulation of electron transport and electron energy loss spectra)」、Scanning、38、475~491ページ、https://doi.org/10.1002/sca.21280、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、US8890065に示された機器の類似の実施形態を用いて回折パターンが処理された時に、より高い閾値レベルの使用が回折パターンのコントラストを改善し、かつより高次の回折特徴が観察されることを可能にするが、感度は、閾値の増大と共に低下すると考えられる。方位マッピング用途に使用される時に感度を増大するEBSDパターン検出のための改善されたシステムに対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様により、キクチ回折パターンを検出するための装置を提供し、装置は、2keVから50keVの範囲のエネルギを有してサンプルに向けて誘導される電子ビームを使用時に提供するようになった電子柱と、サンプルとの電子ビームの相互作用に起因するサンプルからの電子を感受して計数するための撮像検出器であって、ピクセルのアレイを備え、かつ各ピクセルに対して毎秒少なくとも2,000個の電子の計数速度機能を有する上記撮像検出器とを備え、撮像検出器は、回折パターンを表す感受電子を計数するために感受電子の電子エネルギフィルタリングを提供するようになっており、粒子検出器が、電子が検出器の活性領域に向けて入る面上に不活性層を有し、不活性層は、3.2keVよりも低い半値全幅を有するエネルギの広がりによって20keV入射電子の検出エネルギを分散する。
【0012】
この関連では、「粒子検出器」は、例えば燐光体スクリーンを用いて粒子エネルギを光に変換し、中間光学系を用いてこの光をセンサの上に集束させる「間接」検出器とは対照的に、各感受粒子のエネルギを電子信号に変換する検出器を指す。間接検出器のための光学要素に関わる非効率性は、検出感度の喪失に至る。更に、間接検出器は、典型的には、入射粒子のストリームに関してエネルギ×速度の積を表す信号電流を発生し、それに対して粒子検出器は、個々の粒子からの信号を測定することができる。
【0013】
本明細書での用語「ピクセル」は、一般的に、2つの異なるピクセル上に入射する粒子が検出器の2つの異なる領域に衝突したと見なされることになるように検出器の空間的に別々の感知領域を指す。従って、「ピクセル」は、当業技術で公知のように直接電子検出器又はCCD内の従来のピクセルのアレイ、並びにここでの各「ピクセル」が各接触ストリップに関連付けられた領域である例えばシリコンストリップ検出器の独立領域を指す場合がある。
【0014】
上述の回折パターンを表す感受電子を計数する又はより具体的には選択的に計数するために感受電子の電子エネルギフィルタリングを提供するようになった撮像検出器は、特に、この「閾値化」が、回折パターンを表さない拡散背景情報に対する関連の回折情報の比を改善することができる点で有利であることが見出されている。本発明者は、第1の態様による装置を用いてこの手法に対する有意な改善を達成することが可能であることを認めた。これは、通過する電子のエネルギを従来のデバイスを使用する場合よりも低い程度で分散させる検出器によって構成された不活性又は「不感」層を用いて達成される。言い換えれば、装置は、センサへの入口に従来的に使用されてきた比較的厚い不活性層の効果による記録信号の分散を低減することができる。
【0015】
「不感」層は、この用語が不活物質を指すという意味で本発明の開示では「不活性」として説明する。後で本方法の開示でより詳細に解説するように、典型的な検出器は、そのような材料の層を用いて活性センサ層への電気接続を形成する。この非活性、不活性、又は「不感」層は、検出器入射窓と考えることができる。
【0016】
不活性層を通した透過によって生成される電子エネルギの広がりを低減することにより、閾値化による非関連電子からの回折関連電子の区別又は分割はより実質的になる。すなわち、回折情報を確実に有する電子に寄与する記録信号の範囲は、既存デバイスと比較して縮小される。
【0017】
3.2keVよりも低い半値全幅を有するエネルギの広がりで20keV入射電子の検出エネルギを分散するように適応又は形成されたか、又は特にそのような厚み及び材料特質を有する不活性層は、この有利な効果をもたらす。すなわち、20keV入射電子に対して、この層を透過した電子のエネルギスペクトル曲線の幅がエネルギピーク又は曲線の最大値の半分であるエネルギ値間で測定されたものであるような透過電子エネルギの広がりをこの層が引き起こすことは理解されるであろう。
【0018】
好ましくは、不活性層は、2keVよりも低く、より好ましくは、1keVよりも低く、更に好ましくは、0.1keVよりも低い半値全幅を有するエネルギの広がりで20keV入射電子の検出エネルギを分散させる。
【0019】
好ましくは、電子柱は、通常作動時に2keVから50keVの範囲のビームエネルギを提供する走査型電子顕微鏡(SEM)の一部である。典型的には、この配置は、感受粒子がサンプルに対して電子ビーム軸に沿って戻る軌道成分を有するように、検出器がサンプルに関して電子源と同じ側に存在するようなものになる。しかし、回折パターンは、透過で検出することができ、この場合に、検出器は、サンプルに関して電子ビームと反対側に配置される。このアーキテクチャでは、感受粒子は、サンプルに対して電子ビーム軸に沿って戻る軌道成分を持たない。透過EBSDでは、感受「信号」は、サンプルから反射されたものではなく、サンプルを貫通して進んだ弾性散乱電子から構成される。電子ビームに対する2keVから50keVまでの上述のエネルギ範囲は、SEM技術としてのEBSDに対して有用なエネルギ範囲であることは理解されるであろう。
【0020】
最小検出器計数速度機能は、EBSD実験のデータ速度によって必要とされるものである。一部の実験では、データ速度は、10,000事象毎秒に容易に達する可能性があると考えられ、従って、検出器は、各ピクセルに関して2,000事象毎秒、好ましくは、5,000事象毎秒、より好ましくは、10,000事象毎秒、更に好ましくは、100,000事象毎秒の計数速度機能を有する。そのような計数速度は、粒子が検出器に当たる前にフィルタリングされるのではなく、各粒子が検出器によって区別されることなく感受され、その後にフィルタリングされて計数される時に本発明では特に重要である。
【0021】
検出器は、上述の回折パターンを表す感受粒子を計数するための少なくとも1つの粒子計数器を有する。少なくとも1つの粒子計数器は、少なくとも2,000事象毎秒、好ましくは、5,000、より好ましくは、10,000事象毎秒、更に好ましくは、100,000事象毎秒の計数速度を有する。最も好ましくは、計数器は、少なくとも1×106事象毎秒の計数速度機能を有する。この機能は、本発明の開示が意図する手法に対して特に有益である。一部の実施では、ピクセルのアレイと少なくとも1つの粒子計数器とは、特徴の全てが1つのチップ上に統合された単体構成要素であり、これらは、典型的には、モノリシック活性ピクセルセンサ(MAPS)と呼ばれる。しかし、他の実施では、ピクセルのアレイは、少なくとも1つの粒子計数器にバンプ-結合され、これらは、「混成」検出器又は混成活性ピクセルセンサ(HAPS)として公知である。
【0022】
好ましくは、各ピクセルは、対応する粒子計数器を有し、ピクセルと粒子計数器間の「1対1」マッピングを与える。異なる個数のピクセル及び粒子計数器が存在するアーキテクチャでは、「1対多」又は「多対1」関係が生成される。理想的には、粒子計数器は、ピクセルのアレイに対応し、それと同じピッチを有するアレイで配置されるが、他の配置も考えられている。HAPS検出器では、ピクセルのアレイは、粒子計数器アレイにバンプ-結合されるが、MAPSでのように両方のアレイを単体部材とすることができると考えられる。
【0023】
更に好ましくは、各粒子計数器は、各感受粒子のエネルギに従って個々の出力信号を生成する。各ピクセルが対応する粒子計数器を有する場合に、これは、入射事象を計数することができる速度を有利に増大する。EBSD実験でのデータ速度は、10,000事象毎秒毎ピクセル程度まで高いか又はそれよりも高い可能性があると考えられる。各ピクセルが対応する粒子計数器を有する場合に、各粒子計数器は、少なくとも2,000事象毎秒、好ましくは、10,000事象毎秒の計数速度機能を有する。100,000事象毎秒のようなより高い計数速度機能も考えられている。対応する粒子計数器を有する各ピクセルは、適度に高速な粒子測定をもたらす上でCCDのような順次読み出し検出器に優る明確に異なる利点を提供する。重要な点として、本発明に使用する検出器は、十分に速い速度での粒子計数の機能を持たなければならない。
【0024】
好ましくは、各ピクセルでの電子増幅器は、2keVよりも低い、好ましくは、1keVよりも低い半値全幅を有するのと同等の電子ノイズエネルギを導入する。
【0025】
一部の実施形態で達成される場合がある更に別の改善は、本発明の開示で後に詳細に説明する電荷共有に関するものである。好ましくは、粒子検出器は、単一入射粒子に関して発生する可能性があるピクセル間の電荷共有を検出して補正するための回路を含有する。ピクセル境界にわたる電荷共有の効果をこのように軽減することにより、記録信号内の有害な分散が更に低減する。典型的には、そのような実施形態では、回路は、所与のピクセルに収集された電子信号を隣接ピクセルに収集された電子信号と加算する段階と、回折パターンを表す感受粒子を計数するための電子エネルギフィルタリングを加算電子信号に適用する段階と、計数粒子を単一ピクセルに割り当てる段階とを実施する又は達成するように構成される。
【0026】
好ましくは、粒子検出器は、各ピクセルに取り込まれた信号の到着時間とマグニチュードとの両方を出力するように構成され、コンピュータアルゴリズムは、単一入射粒子が複数のピクセル内に同時電子信号を発生させるインスタンスを識別する段階と、単一入射粒子が発生されて複数のピクセルに収集された複数の電子信号を加算する段階と、回折パターンを表す感受粒子を計数するためのエネルギフィルタリングを加算電子信号に適用する段階と、計数粒子を単一ピクセルに割り当てる段階とに使用されるか又はこれらの段階を実施するように構成される。
【0027】
一部の好ましい実施形態では、比(活性層センサ厚)/(ピクセル対ピクセル間隔)は5よりも小さい。
【0028】
好ましくは、装置は、パターン取得中にピクセル毎に計数される電子の個数が6ビット又はそれ未満のデータ単位として読み出されるように構成される。
【0029】
好ましくは、カメラセンサアレイは、異なるピクセル計数速度要件及びエネルギ分解能要件に適合する1よりも多いパルス長を達成することを可能にするようになった設定可能ピクセル増幅器を有する。
【0030】
実際に、回折パターンを表す電子に関するエネルギ分布と表さない電子に関するエネルギ分布とは、典型的に別々ではないことは理解されるであろう。これらの分布の間の重ね合わせは、好ましくは、上述のフィルタリングによって対処される。従って、電子エネルギフィルタリングは、好ましくは、上述の回折パターンを表す又はより忠実に表すエネルギを有する感受粒子と、背景を表す又はより忠実に表すエネルギを有する感受粒子との間で区別するようになっている。
【0031】
典型的には、入射電子ビームは、試料面平面に対して45-90°の範囲の角度で入射する。しかし、試料面に対してこの範囲の外側にある入射角、例えば、本発明の開示で後に説明するように従来的にEBSDに使用されるような浅めの角度を使用することができることも考えられている。
【0032】
本発明の第2の態様により、キクチ回折パターンを検出するための装置を提供し、装置は、2keVから50keVの範囲のエネルギを有してサンプルに向けて誘導される電子ビームを使用時に提供するようになった電子柱と、サンプルとの電子ビームの相互作用に起因するサンプルから電子を感受して計数するためのものであり、ピクセルのアレイを備えて各ピクセルに対して毎秒少なくとも1,000個の電子の計数速度機能を有する撮像検出器とを備え、検出器は、上述の回折パターンを表す感受電子を計数するための感受電子の電子エネルギフィルタリングを提供するようになっており、粒子検出器は、20keV入射電子の検出エネルギを1,500nmの不活性シリコンの伝達によって誘起されるエネルギの広がりよりも小さく分散させる不活性層を電子が検出器の活性領域に向けて入る面上に有する。
【0033】
本発明の開示の以上及び以下の実施形態に関して説明する特質及び特徴のいずれも、第1の態様及び第2の態様のうちのいずれか又は両方の装置に関連する場合がある。
【0034】
本発明の第3の態様により、キクチ回折パターンを検出する方法を提供し、本方法は、2keVから50keVの範囲のエネルギを有してサンプルに向けて誘導される電子ビームを電子柱を用いて与える段階と、ピクセルのアレイを備えて各ピクセルに対して毎秒少なくとも2,000個の電子の計数速度機能を有する撮像検出器を用いてサンプルとの電子ビームの相互作用に起因するサンプルから電子を感受して計数する段階とを備え、検出器は、上述の回折パターンを表す感受電子を計数するための感受電子の電子エネルギフィルタリングを提供するようになっており、粒子検出器は、電子が検出器の活性領域に向けて入る面上に不活性層を有し、不活性層は、3.2keVよりも低い半値全幅を有するエネルギの広がりで20keV入射電子の検出エネルギを分散させる。
【0035】
本発明の第4の態様により、第1又は第2の態様による装置を用いてキクチ回折パターンを検出する方法を提供する。
【0036】
ここで添付図面を参照して本発明の実施例を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】後方散乱電子に関するエネルギスペクトルを示すグラフである。
図2】設定閾値の関数として信号対ポアソンノイズ比を示すグラフである。
図3】入射信号及び検出信号に関する信号エネルギスペクトル及び背景エネルギスペクトルを示すグラフである。
図4】例示的粒子計数検出器の単一ピクセルの概略図である。
図5】1μmシリコンを通した単一エネルギ20keVビームに関するエネルギスペクトルを示すグラフである。
図6】1μmシリコン入射窓を用いた場合の入射信号と検出信号に関する信号エネルギスペクトルと背景エネルギスペクトルとを示すグラフである。
図7】1μm不感層を有する検出器を用いて検出されたパターンに関する信号対ポアソンノイズ比を示すグラフである。
図8】異なる厚みのシリコン層を通って伝達した20keV電子に関して計算した電子エネルギ分散を示すグラフである。
図9】異なる不感層厚及びエネルギ分散特質を有する検出器を用いて適用された時の信号対ポアソンノイズと閾値エネルギの間の関係を示すグラフである。
図10A】本発明による不感層を有する例示的撮像検出器を製造する工程の複数の段を概略的に示す図である。
図10B】本発明による不感層を有する例示的撮像検出器を製造する工程の複数の段を概略的に示す図である。
図11】電荷共有効果を用いて検出されたパターンに関する信号対ポアソンノイズ比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の開示では、図1に示すように、「信号」及び「背景」に対して特別な定義を使用する。キクチ帯域コントラストに寄与する回折効果を受ける電子は、1次ビームエネルギの直下にある幅ΔEdiffのエネルギ帯域内に収まる。電子の大部分は、キクチ帯域の中に回折されず、試料内で連続的なエネルギ損失をもたらす複数の散乱事象を受ける。これらの散乱電子は、ゼロエネルギに達するまで下方に延びるエネルギを有し、カメラ画像内の拡散背景の原因である。これらの散乱電子の一部は、回折効果を受ける電子を含むものと同じエネルギ帯域ΔEdiff内にあるエネルギを有することになる。検出器上に入射する散乱電子を表す上で、2つの明確に異なるエネルギ帯域、すなわち、実質的に全ての信号電子、並びに一部の背景電子を含むエネルギ範囲E>E0-ΔEdiffを有する「信号帯域」と、無視することができる個数の信号電子しか含まず、背景電子のみから構成されると見なすことができるエネルギ範囲E<E0-ΔEdiffを有する「背景帯域」とを定めるのが有用である。設定可能閾値THを使用する電子計数検出器を用いて、THよりも高いエネルギを有する電子のみを計数することができる。
【0039】
拡散背景は、画像にわたって徐々にしか変化せず、それに対して回折帯域の領域内の強度は急激に変化する。従って、回折帯域内で観察される(最大値-最小値)強度は、回折効果を受ける検出電子の個数Nsignalだけによって支配されることになり、それに対して(最大値+最小値)強度は、背景電子数Nbackgroundを含む検出電子の全個数Ntot、すなわち、Ntot=Nsignal+Nbackgroundによって支配されることになる。従って、回折コントラスト((最大値-最小値)/(最大値+最小値))は、Nsignal/(Nsignal+Nbackground)=1/(1+Nbackground/Nsignal)だけに依存することになり、信号対背景比SBR=Nsignal/Nbackgroundが増大し続ける限りTHが増大する時に改善し続けることになる。
【0040】
ここで説明した手法の目的は、電子計数EBSD検出器の「感度」を改善することである。EBSD検出器の「感度」は、定められた正確性及び精度で解析することができる回折パターンを収集するのに必要とされる電子線量に反比例するものと理解することができるであろう。上記で議論したように、正確性及び精度を定める1つの方式は、特定の試料及び固定の実験条件からパターンを指数化することに対する百分率成功率である。電子線量は、回折パターンの取得中に試料が露出されるSEM1次電子の全個数として定められ、SEM1次ビーム電流*露出時間という積に比例する。露出時間が長い場合に、パターン取得速度が低下する。電子線量が多い場合に、いずれかの試料が損傷を受ける場合がある。従って、EBSDパターンを最小の電子線量で可能な限り迅速に成功裏に指数化することができるように高い感度を有する検出器を使用するのが望ましい。
【0041】
試料からの後方散乱電子の放出はランダム過程であり、すなわち、個々の放出電子のエネルギ及び方向は、統計的な分布を受ける。従って、EBSDパターン測定中に検出器の単一ピクセル上に入射する電子の個数は、ポアソン確率分布に従って平均値の前後で変化する。各ピクセル内の信号マグニチュードの部分ランダム化は、キクチ回折コントラストを不明瞭にし、パターン指数化をより困難にするランダム「ポアソン」ノイズをEBSDパターン測定値に導入するという影響を有する。
【0042】
信号を検出することを可能にする容易性は、本明細書では信号対ポアソンノイズ比(SPNR)と呼ぶことにする統計的変化によって導入されるノイズのマグニチュードに対する信号のマグニチュードに依存するということになる。EBSD実験の感度は、固定の実験条件及び電子線量に対してSPNRが増大する時に増大する。
【0043】
EBSDパターンでは、ピクセル内の信号のマグニチュードは、回折コントラストを担持する検出電子の平均個数に比例し、それに対して統計的ノイズは、検出電子の全個数でのポアソン計数統計によって支配され、従って、次式が成り立つ。
SPNR及び感度は、SBRとNsignalの両方に明確に依存し、SPNRを最大に高めるために、システムは、SBRとNsignalの最適な組合せを達成するように構成しなければならない。
【0044】
電子計数EBSD検出器では、NsignalとSBRの両方がTHによる影響を受け、SPNRがTHの関数として変化するということになる。図2は、THを変更する段階がSPNRにどのように影響を及ぼすことになるかを例示している。非常に低いTH値では、全ての背景電子及び信号電子が検出される。THが引き上げられると、背景電子は除外され、SBRは増大するが、Nsignalは同じままに留まり、従って、SPNRはSBRと同じく増大する。理論上の「完全」な電子検出器(全ての入射電子を検出し、そのエネルギを誤差なく測定するという点で完全である)では、SPNRは、TH=E0-ΔEdiffになるまではTHを引き上げる時に増大し続け、この限界の理由は、それよりも高いいずれのTHの値も、回折コントラストを担持する一部の信号電子を除外し、従って、Nsignalを低減することになることにある。THがE0-ΔEdiffを上回って引き上げられると、更に一部の背景電子が除外されることになるが、最も有意な効果は、回折コントラストを担持するある分量の信号電子が検出されなくなることである。従って、SPNRは、主として少なめのNsignalの結果として低下する。従って、完全な電子検出器では、最適なSPNR及び感度は、THをTH=E0-ΔEdiffという値の近くに設定することによって取得されると考えられる。
【0045】
サンプルから放出される背景電子の分量が大きい試料及び実験条件下では、エネルギ閾値化から可能なSPNRの相対的な増大が大きい。これは、信号電子のみが選択的に検出される場合に可能なSBRのより大きい改善に起因する。一例として、いくつかの実際的な理由から、ビームが試料面平面に対してより大きい角度(45°~90°の範囲)で入射する状態(「大角度」条件)でEBSD解析を実施することが好ましい。しかし、この条件下では、ビームが試料面に対して小さい角度(~20°)で入射する状態を用いて実施される従来の実験と比較して有意に大きい分量の放出後方散乱電子が背景電子である。従って、EBSD実験は、法外に低いSPNR及び感度に起因して大角度条件下ではめったに実施されない。SPNRがエネルギ閾値化によって改善される場合に、大角度条件を使用する試料のEBSD解析は、より高い速度又はより低いビーム電流でもたらすことができる。
【0046】
電子ノイズ及びパルスパイルアップ
図2は、理想的ではあるが実際の検出器において、THとSPNRの間の関係が物理的効果の組合せによって複雑になる場合を例示している。1つの公知の問題は、単一入射電子に起因するパルス振幅が電子ノイズを受けることになることである。従って、電子ノイズがTHよりも小さいように振幅を縮小する場合に、THよりも大きい入射エネルギを有するいずれの回折電子も検出されない場合がある。同様に、電子ノイズの変化がTHよりも大きい振幅を取る場合に、THよりも小さい入射エネルギを有するいずれかの拡散背景電子が依然として検出される場合がある。E0-ΔEdiffの近くに設定されたTHでは、これらの効果は、取得されたEBSDパターン内でSBRとNsignalの両方を制限する。図3は、半値全幅(FWHM)で2keVを有する電子ノイズが、測定値を真のエネルギの上方と下方の両方に実効的に拡散させることによってどのように信号帯域と背景帯域の両方の測定値に影響を及ぼすかを例示している。THが、完全な検出器では最適に近いと考えられるE0-ΔEdiffに設定された時に、ノイズ変化に起因して一部の信号電子がTHを下周り、それによってNsignal及びSPNRが低減する。THが引き下げられる場合に、信号電子の個数が増加することになるが、同じくより多くの背景電子を検出することを許してしまうことにもなる。その結果、SPNRの最適値は、E0-ΔEdiffを若干下回るTHを用いて取得され、完全な検出器を用いて達成することができるSPNRよりも小さい。
【0047】
電子ノイズに起因するエネルギTHの実効的な不鮮明化は、典型的には、粒子計数カメラの「エネルギ分解能」として報告されるが、パターン解明に適するEBSD「感度」(上記で定めた)に対する関連の効果は認識されていない。Vespucci他は、2keVの電子ノイズFWHMを有するカメラを用いて実験を実施した。電子ノイズのマグニチュードが1keVのFWHMまで引き下げられる場合に、本出願人のシミュレーションは、最適なSPNRでは30%までの改善を達成することができると予想している。
【0048】
従って、EBSDに関するSPNRを最大に増大させるために、測定値への電子ノイズの寄与を最小にすることが望ましい。電子ノイズは、撮像センサの設計及び加工を通して改善することができるが、各ピクセルに対する読み取り増幅器に対する電子フィルタリングの選択による影響も受ける。各ピクセル増幅器に対するフィルタ時定数が引き上げられる場合に、電圧ノイズが低減し、EBSDパターン解明に対して最適なSPNR及び感度を改善するために閾値THを高めに設定することを可能にする。しかし、時定数が引き上げられる場合に、個々の電子の到着に起因するパルスが分解されないことになる確率が高まる。パルス到着時間はポアソン時間分布を取るので、ピクセル増幅器の分解時間以内に2つのパルスが到着する確率が計数速度と共に高まることになる。検出器に当たる殆どの電子は拡散背景電子であり、従って、2つの背景電子の間で分解されないいずれかの一致が発生する可能性がかなり高い。そのような「パイルアップ」が発生する時は、測定パルス高は、ほぼ個々の事象から見られると考えられるパルス高の和になり、個々のパルスが一緒に到着しなかった場合にこれらのパルスのいずれも閾値を超えなかったとしてもTHよりも大きい場合がある。従って、平均ピクセル計数速度が、パルスペア分解時間の逆数と同程度のものである時に、パイルアップは、より多くの背景事象を受容することを許してしまい、従って、SPNRを悪化させることになる。
【0049】
カメラによってEBSDパターンが取得される時に、ピクセル計数速度は、試料上に入射するビーム電流による影響を直接受ける。空間分解能又は試料損傷が関心事である時に、試料線量及びフォーカス電子ビームの横方向サイズを縮小するためにより低いビーム電流を使用することが好ましい。この関連では、ピクセル計数速度は低くなり、電子ノイズを低減し、閾値化によってより高いSPNR及びEBSD感度を達成することを可能にするために、ピクセル増幅器に対するフィルタリングされたパルス持続時間を延ばすことが有利である。試料が高線量に耐えることができ、空間分解能を損なうことなくSEMを高ビーム電流で作動させることができる状況では、高いピクセル計数速度に起因して各EBSDパターンを達成するための取得時間を短縮することができる。この場合に、ピクセル増幅器フィルタは、有意なパイルアップを回避するため十分に短いパルス長を与える必要がある。関連の電子ノイズの増加は、画像内の固定の計数値に対して到達可能なSPNRを低減することになるが、計数値を増大することにより、EBSDパターン解明をより低いビーム電流を使用する場合よりも高い速度で依然として実現することができるようにSPNRが改善することになる。様々な異なるタイプの試料及び空間分解能要件を可能にするために、カメラセンサアレイが、異なるピクセル計数速度及びエネルギ分解能の要件に適合するように1よりも多いパルス長を達成することを可能にする設定可能ピクセル増幅器を有することが有利である。
【0050】
センサ層の電子伝達特質を含むいずれかの実センサの特質には又は電子計数回路内には局所的な変化が存在する。これらの変化に起因して入射電子への応答は、ピクセル毎に異なることになる。従って、実際に、THが全てのピクセルで同じ基準レベルに設定される場合に、計数をもたらす入射電子エネルギの範囲は、全てのピクセルに対して均一ではない。全てのピクセルにわたって平均された時に、この効果は、電子ノイズによって導入される効果に加えてエネルギ閾値を不鮮明にする。
【0051】
一部の粒子計数検出器は、全てのピクセルにわたってエネルギフィルタリング特性の均一性を改善するために可変ピクセル閾値効果を補償する特徴を予め組み込んでいる。典型的には、これらの特徴は、全てのピクセルのエネルギフィルタリング特性を均等化するために各ピクセルでの局所電子閾値に「シフト」を適用する。これらの「閾値トリミング」特徴は、センサのエネルギフィルタリング分解能を改善する。
【0052】
更に、本発明者は、粒子計数カメラが入射窓及びピクセル間の電荷共有の発生に関する少なくとも2つの更に別の重要な特徴を含まない限り、EBSDに対する感度を改善するためのこのカメラを使用する利点をもたらすことができないことを見出した。
【0053】
センサ不感層及びエネルギ分散
粒子計数検出器は、電子正孔ペアを解放する一連の相互作用によって入射粒子のエネルギが吸収される活性センサ層を含む。図4は、単一ピクセルの周りの概略断面図を例示している。電荷雲が形成されて内部電界によって収集電極402に向けて掃引され、そこで解放電荷量が測定され、この信号電荷は、入射粒子のエネルギに正比例する。電荷が解放されるセンサの中までの深さは、入射粒子のタイプ(例えば、X線又は電子)と粒子のエネルギに依存する。入射電子では、エネルギが高いほど活性センサ層401内への貫入は深いが、電子は、活性センサ層への電気接続部を形成するのに使用される不活物質を通過しなければならない。この不活性層403は、センサに対する「入射窓」を実質的に形成する。入射電子がこの層内の非弾性相互作用によっていずれかのエネルギを失う場合に、このエネルギは信号電荷に寄与することにはならず、従って、この層を「不感層」と呼ぶ場合がある。更に、不感層の近くで解放される電荷の一部は、それらを収集電極に掃引することができる前に再結合することができ、それによって信号電荷の一部の更に別の損失を引き起こす可能性がある。その結果、エネルギは、入射電子が不感層を横断する時に失われる場合があり、解放された一部の信号電荷は、収集される前に失われる場合があり、従って、測定エネルギが入射電子エネルギよりも低い場合がある。
【0054】
Segal他(J.D.Segal他著「LCLS-IIでの軟X線のための肉薄入射窓センサ(Thin-Entrance Window Sensors for Soft X-rays at LCLS-II)」、2018 IEEE Nuclear Science Symposium and Medical Imaging Conference会報(NSS/MIC)、2018年、1-2ページ、doi:10.1109/NSSMIC.2018.8824674.)によって説明されているように、完全空乏型高抵抗率シリコンセンサは、ダイオードを終端するために入射窓でドーピングコンタクトを必要とする。従来、この領域は、ドーパント化学種のイオン注入にドーパントを活性化するための高温アニールを続けることによって達成される。このアニールは、更にドーパントプロファイルを深い方に押しやり、不活性層の深さを増す。更に、通常は表面金属層がドーピング表層の上面上に堆積されてバイアス電圧に接続される。従って、既存デバイスでは、X線ピクセルセンサに対してシリコン内への2ミクロン厚注入部の上面上で1ミクロンのアルミニウムの表面金属層が典型的に使用される。数keVよりも大きいX線を検出するためにピクセルセンサが使用される時に、不活性層内に吸収される僅かな分量のX線光子がいずれの信号も発せず、活性領域に達する任意の光子が、光子の全エネルギに比例する電荷信号を発生させることになる。従って、公知のピクセル検出器は、X線(又は高エネルギ(100keV)電子)に対して殆ど効果を持たない比較的厚い不感層を含むが、この不感層は、本発明の開示が意図する用途に対して有意な影響を有する。
【0055】
電子エネルギが典型的に100keVよりも大きい透過電子顕微鏡で電子を撮像するために閾値化機能を有する直接検出半導体センサが使用される時に、不感層の厚みは重要ではない。入射粒子の高いエネルギは、不感層に起因するいずれのエネルギ損失も比較的低いことを保証し、閾値を入射エネルギのほぼ半分に設定することにより、通常、全ての粒子が計数されること及び電子ノイズ偏位に起因して不正トリガを与えないように閾値が十分に高いことを保証する。しかし、ビームエネルギが20keV又はそれ未満しかない可能性があるSEMでは、不感層の効果は有意である可能性がある。
【0056】
図5は、入射する20keVの単色電子ビームのスペクトル(20keVエネルギでの鮮明なピーク)が1ミクロンのシリコン不感層の透過を受けてどのように修正されると考えられるかを例示している。電子は、この層での多くのランダム散乱相互作用結果として可変数のエネルギを失い、それによって透過電子に関する平均エネルギの低減がもたらされるだけではなく、エネルギが広い範囲にわたって分散される。ビームエネルギに近い小さい帯域ΔEdiff内のNsignalに寄与する回折電子は、類似のエネルギ損失及び分散を被ると考えられる。図6は、信号帯域及び背景帯域の測定エネルギ分布が、そのような不感層の透過に続いてどのように検出されると考えられるかを「完全」な電子検出器によって検出されると考えられる真の入射分布と比較して描く概略図を例示している。これらの低エネルギ電子に対する不感層の効果は、信号分布と背景分布とが有意に重なり、この重ね合わせは、閾値化によって寄与を分離する機能を低減するように信号分布と背景分布の両方を不鮮明にすることになる。
【0057】
THが、実質的に全ての信号電子を取り込んで測定EBSDパターン内でNsignalを最大に高めるほど十分に低いレベルに設定される(例えば、図6のTH1)場合に、高い比率の背景電子Nbackgroundが依然として検出され、完全な検出器での閾値化によって達成することができると考えられるものと比較してかなり低いSPNRを有するパターンをもたらすことになる。有意な不感層を有する検出器に関するSPNRを最適化するには、NsignalとSBRの間の妥協が必要とされ、従って、達成することができる最適なSPNR及び感度は、理論上の「完全」な検出器を用いて可能なものよりもかなり悪い。この効果を理論上の完全な検出器と1ミクロンのシリコンの不感層に対応する入射窓を有するものとに関してSPNRとTHの間の関係を示す図7に例証している。
【0058】
不感層は、デバイスの活性領域を形成する空乏ゾーンとの電気コンタクトを有する必要に起因してあらゆる半導体センサに必要な特徴である。低エネルギ光子が活性領域に達して検出されることを可能にするほど十分に有効不感層厚を縮小する特殊加工技術が存在する。しかし、低エネルギ電子が関わるEBSDでは、エネルギ閾値化の利点を利用するのに単純に不感層の透過だけではなく、単色電子がこの層を貫通した後にこれらの電子に対して発生するエネルギの実効的な拡散(分散)も重要である。このエネルギの広がりは、不感層での非弾性散乱と不完全な電荷収集との組合せ効果が固定エネルギの電子から取得される信号の変化をもたらすことに起因して発生する。直接検出の半導体検出器上の典型的な入射窓は、金属接触と、2ミクロンのシリコン層の透過によって引き起こされると考えられるエネルギ分散よりも大きく、20keV入射電子からの検出信号のエネルギ分散をもたらす注入層とで構成される。本発明者は、EBSDパターン解明に合うように感度を改善するために閾値化の利点を利用するために、任意の金属コンタクトを含む不感層は、20keV電子ビームの有効エネルギの広がりが1500nmの不活性シリコン層によって引き起こされるものよりも小さいように減幅しなければならないと決定した。
【0059】
電子が材料薄層を通過する時にエネルギの広がりが材料の厚みと共に増大することは十分に理解されるであろう。厚みとエネルギの広がりの間のこの関係は、数学表現により(Mikheev,N.及びStepovich、Mikhail及びYudina,S.著「指定厚の材料膜を通って伝達した高速荷電粒子ビームに関するエネルギ損失スペクトル(Energy loss spectra for a fast charged particle beam transmitted through a material film of specified thickness)」、Journal of Surface Investigation-x ray Synchrotron and Neutron Techniques-J SURF INVESTIG-X-RAY SYNCHRO、3、218~222ページ、10.1134/S1027451009020086、2016年に説明されているように)、又はより典型的には電子伝達シミュレーションにより(Attarian Shandiz,M.、Salvat,F.、及びGauvin,R.著「電子伝達及び電子エネルギ損失のスペクトルの詳細なモンテカルロシュミレーション(Detailed Monte Carlo Simulation of electron transport and electron energy loss spectra)」、Scanning、38、475~491ページ、https://doi.org/10.1002/sca.21280、2016年に説明されているように)近似することができる。一例として、異なる厚みのシリコン層の透過後の20keV電子の初期単色(単一エネルギ)ビームのエネルギの広がりを図8に示しており、このエネルギの広がりは、シリコン層の透過後のエネルギ分布の半値全幅(FWHM)として表している。これらの数学モデル及びシミュレーションソフトウエアのような手法を用いて、エネルギ分散と入射窓厚の間の関係を計算することができる。従って、これらの技術は、不感層によるエネルギ分散を計算するのに使用することができ、従って、本発明の開示による不活性層に対して適切な物理特質、数学的特質、及び幾何学的特質を識別するのに使用することができる。
【0060】
シリコン検出器では、導電性接触及び半導体p-n接合を製造するために入射部にある材料は、典型的にイオン注入によって修飾される。導電性領域は、いずれの信号も与えず、従って、検出器の活性領域への入射部に実効的に不感層が存在する。従って、電子は、検出器に入射する時に、電子エネルギ分布を活性領域に達する前に拡散又は分散させることになる薄い不活性シリコン層を通過しなければならない。不感層のエネルギ分散効果を低減することにより、検出器から利用可能なSPNRが増大することになり、このエネルギ分散効果の低減は、不感層の厚みを縮小する加工技術を使用することによって取得される。シリコンの電気特質はイオン注入によって修正されるが、電子散乱特質は影響を受けず、センサ上に入射する電子の測定エネルギに対する不感層の効果は、不感層と同じ厚みのシリコン層の電子透過の効果と同等である。イオン注入に加えて、他の処理法を使用することができ、酸化物及び窒化物のような追加の薄い表層を含めることができる。
【0061】
入射面上に他の材料が存在する場合に、これらの材料は、検出器の活性領域に達する電子に関するエネルギ分散を同じく増大させることになる。しかし、本発明では、入射窓の関連の態様は、層厚又は構成材料に関係なく、入射窓を透過する電子のエネルギを分散させる量である。EBSDでは、不感層のエネルギ分散効果は、不感層の透過後の20keV電子の初期単色(単一エネルギ)ビームのエネルギ分布の半値全幅(FWHM)を用いて表すのが有利である。この値を所与として異なる入射エネルギの電子に対する入射窓の効果が予想可能である(例えば、Shandiz他の場合のように電子伝達シミュレーションを使用することにより)。
【0062】
不感層が20keV単色電子ビームに対するFWHMで3.2keV又はそれよりも高いエネルギ分散(1500nmSi不活性層の効果に対応する)を誘導する場合に、図9に示す検出エネルギ閾値THを適用することに基づいて現実的な検出器によって取得されるパターンのSPNRに大きく影響を及ぼすことができないことが計算されている。このグラフは、異なる不感層厚の検出器に関するSPNRシミュレーション曲線(図7に記載と類似)を例示している。これらの例では、2keVのエネルギ分散が1,000nm厚の不感層に対応し、3.2keVの分散が1,500nm厚の不感層に対応し、4.8keVの分散が2,000nm厚の不感層に対応する。3.2keVの分散の場合に、エネルギフィルタリング概念がSPNRに無視することができる利点しかもたらさず、それに対して示すより大きな分散及びより小さい分散は、それぞれ、それよりも悪いSPNR及び有意なSPNRの改善を達成することを見ることができる。すなわち、3.2keVの分散では、THが増大する時にSPNRが増大するが、2keVの場合よりも小さい程度でしか増大しない。この理由から、本装置は、センサに直角に入射する電子の20keV単色ビームに対して3.2keVよりも低いエネルギ分散しか導かない不感層を有利に含む。
【0063】
図9に示す結果は、SPNRシミュレーションに含まれる検出器の他の態様に依存することは理解されるであろう。この例に関するシミュレーションは、第1に電荷共有効果(例えば、いずれかの形態の電荷加算アルゴリズムを使用する)を観察せず、第2に~2keVの半値全幅の電子ノイズ均等物を導入する電子増幅器を含む検出器に適用される。代わりに、電荷共有効果及び電子増幅器に対する高度のノイズのような追加の有害因子を有する検出器に関して機能をシミュレートしたものとすると、SPNR曲線は、装置が望ましいSPNRの改善を達成するためのかなりより低い不感層エネルギ分散に対する必要性を示すと考えられる。
【0064】
典型的な例示的装置では、粒子計数器はパルス処理電子機器を有し、計数される各「事象」は、ピクセルにエネルギを蓄積する入射粒子によって達成される電荷のパルスである。パルス処理電子機器は、増幅器と、弁別器と、計数器とを含む。装置の重要な態様は、検出器の計数速度である。EBSD実験では検出器に当たる入射粒子の速度は、10,000事象毎秒とすることができると考えられる。従って、異なるエネルギの粒子の間で区別するために、検出器の粒子計数器は、各々が2,000事象毎秒の計数速度で計数する機能を有するべきである。好ましくは、粒子計数器は、10,000事象毎秒、より好ましくは、100,000事象毎秒の速度で計数することができる。重要な点として、各ピクセルが独自の粒子計数器を有するか否かに関わらず、検出器のアーキテクチャは、検出器がピクセル毎に少なくとも2,000事象毎秒の計数速度機能を有するようなものである。
【0065】
典型的な実施形態で説明する検出器のタイプは、「直接検出器」である。そのような検出器は、エネルギ閾値を満足するいずれのタイプの粒子、例えば、電子、X線、及び光量子を検出する機能を有する。しかし、本発明は、直接検出器に限定されず、撮像とピクセル毎に適切な速度での粒子計数との機能を有する他のタイプの検出器を使用することができる。直接検出器は、応答時間が個々の粒子からの信号を分解することを可能にするほど十分に短いという前提でエネルギを光に変換するシンチレータのような面コーティングを有することができると考えられる。使用することができると考えられる別の直接検出器型の一例は、シリコンストリップ検出器である。CCDのような順次読み出しを使用する検出器は、典型的には十分に速い速度で計数することができないが、原理的にはそのような検出器を使用することができる。
【0066】
本発明の開示による検出器を形成するための例示的製作工程を図10A及び図10Bに示している。段1001から1020にデバイスをその製造の複数の段に描いている。取得されるデバイスは、透過電子に必要な低エネルギの分散のみをもたらす100nmよりも小さい厚みを有する不活性層を面上に有する撮像検出器である。本例では、センサは、Medipix3読み出しチップに接合される。US8890065に説明されている手法は、Medipix2読み出しチップを使用する段階を含む。このMedipix2読み出しチップは、各々が55μm2の面積の256×256個のピクセルのアレイを備え、~1×106計数毎秒までの計数機能を有する。ここでは追加のオンチップ電荷共有補正機能と設定可能計数器深さBと(両方共に下記で説明する)を有するMedipix3が好ましい。
【0067】
図示の構成要素を形成する例示的材料を図10A及び図10Bの各々に記載の記号表に示している。
【0068】
段1001では、100~300nmのSiO2層がN型シリコンウェーハ上に堆積される。1002では、フォトレジストのパターン化及びホウ素注入が実施される。標準のアニール処理によるフォトレジストの除去及び活性化を1003に示している。1004では、ウェーハの入射窓側にあるSiO2層が薄肉化され、読み出し側に保護フォトレジスト層が配置される。1005では5~15keVの範囲のイオンエネルギを使用するイオン注入によって入射窓側にヒ素が注入される。1006ではマイクロ波アニール処理によって活性化が実施される。従来、アニール処理は、700℃よりも大きい温度を用いて実施され、それによってシリコン内にヒ素ドーパントの有意な拡散がもたらされると考えられる。本例の1006での変調出力回路路波アニール処理は、バルクシリコンの温度を500℃を上回って増大させることなくドーパントの活性化を可能にし、それによって無視することができる拡散しかもたらされない。典型的には、フォトレジストは、アニール処理工程に耐えず、この段で除去される。1007では、注入領域への電気接触開口部がエッチングされる。1008では、スパッタ処理によって両側にアルミニウムが堆積される。1009では、ピクセル側のアルミニウムがエッチングによってパターン化され、1010ではレジストが除去される。次に、1011では、不活性化層が堆積される(例えば、400℃よりも低い低温でSiO2、SiNを用いたプラズマ強化化学気相蒸着(PECVD)により、又はAl23を用いた原子層堆積(ALD)により)。1012では、読み出し側の不活性化層が、リソグラフィ及びエッチングによってパターン化され、1013は、スパッタ処理によるフィールドメタル(Ti-W+Cu又はAu)の堆積を例示している。このフィールドメタルは、1014に示すようにアンダーバンプメタル(Ni)を堆積させるのに使用される電気メッキに必要とされる。次に、1015では、この堆積に使用されたフォトレジストが除去される。1016に示すように、入射窓から不活性化層及びアルミニウムが除去される。1017では、入射窓のアルミニウム接触への開口部がエッチングされ、その後に、1018では、このエッチング工程では使用されたフォトレジストが除去される。次に、ウェーハがダイスカットされて(図示せず)、センサチップ及び読み出しチップが生成される。1019では、センサチップに加えて示す読み出しチップに対してフィールドメタル及びアンダーバンプメタルが同じく生成されており、半田バンプが電気メッキされる。最後に、1020では、センサチップと読み出しチップとが互いにバンプ結合される。
【0069】
電荷共有
ピクセル検出器に関する更に別の問題は、単一入射粒子によって発生される拡散電荷雲の部分が隣接ピクセルに対する読み出し電極に達する場合があり、そのために単一入射粒子によって解放される電荷は、ピクセルとその隣接のピクセルとの間で実効的に共有される。この共有は、入射粒子がピクセル境界の近くにあるセンサに入射する時に発生する可能性がかなり高い。光子を検出するためにピクセル化検出器が使用される時に、この「電荷共有」効果は、中心ピクセルから離れる応答の拡散に起因して撮像分解能のある程度の劣化をもたらすことは公知である。しかし、閾値化を使用するピクセル検出器では、隣接ピクセルに収集される電荷が低い場合に、このピクセルに対するパルスはTHを超えない場合がある。中心ピクセルパルスのみがTHよりも大きい場合に、完全な撮像分解能が維持される。従って、単一光子計数器を単色ビームと共に使用する時に空間分解能を最適化し、複数のピクセルが同じ光子を計数することを回避するために、閾値は、典型的には、入射光子エネルギの50%に設定される。
【0070】
本発明者は、EBSDでは、電荷共有が、閾値化によってSPNRを改善することができる程度を大きく制限する可能性があることを見出した。EBSDでは、電子が典型的には20keV又はそれ未満のエネルギのみを有することに起因して、センサ上に入射する電子が入射面の近くで吸収され、従って、解放された電荷雲は、読み出し電極に達する前にセンサのほぼ全深さをドリフトするはずである。この電荷雲がドリフトする時に一部の電荷が2つのピクセルの間の境界を横断する可能性を横方向拡散が高める。電荷共有の程度は、入射電子がピクセル境界に対してどこに当たるかに依存して変化する。この変化は、パルス振幅の可変縮小をもたらし、これは、取得されるパルスがTHよりも小さいことに起因して通常は計数されると考えられる一部の信号電子がこの場合は除外される。この効果は、THが1次ビームエネルギE0の近くに設定される時に最も明らかである。
【0071】
図2の例は、理論上の完全な検出器に関してTHがほぼE0-ΔEdiffに設定される時にEBSDに対するSPNR及び感度を最適化することができることを例示している。典型的には、E0は20keVとすることができ、ΔEdiffは1keVとすることができ、それに従ってTHは19keVに設定される。従って、この例では、>1keV(5%)の蓄積エネルギが別のピクセルと共有される場合に、20keVのエネルギで入射する単一電子は計数されないと考えられる。深さが300μmで55μm×55μmのピクセルを有するピクセル検出器に関して、本発明者は、20keVの信号電子の60%超がピクセル境界の十分に近くに入射し、従って、>1keVの蓄積エネルギが、電子が入射したピクセルによって収集されないと概算した。これらの場合に、測定電子エネルギはTHよりも小さいことになり、信号電子の60%超は、THよりも大きい入射エネルギを有するにも関わらず検出されないことになる。
【0072】
光子検出器でのパルス振幅の縮小は、THを引き下げることによって軽減させることができるが、EBSDでは、THを引き下げるとSBRが低下することになり、パターン解明に適するSPNR及び感度の劣化が引き起こされる。電子が入射するピクセルからの可変電荷損失は、入射電子が不感層の非活物質内で散乱する時に発生するエネルギの損失及び拡散と類似の結果をもたらす。不感層内で失われるエネルギ(図6及び図7)の場合と同様に、電荷共有が存在する時は、最適なSPNRは、完全な検出器と比較して低下し、完全な検出器の場合よりも低い値では取得される。
【0073】
上述の電荷共有の機構の説明から、電荷共有は、センサ設計パラメータの適切な選択によってある程度低減することができることは理解されるであろう。センサのピクセルピッチは、より大きいピッチが別のピクセルとの境界の近くのピクセル面積の分量を低減することで重要な因子である。更に、活性センサ層の深さが電荷共有の程度を低減し、薄めの層は、ピクセル電極での収集の前に電荷雲がより短い距離しかドリフトしないことを可能にする。より短いドリフト時間は、電荷雲の横方向拡散の低減をもたらし、電荷雲が隣接ピクセル間の境界を横断する可能性を制限する。
【0074】
電荷雲の横方向半径は、電荷雲がセンサ層を横断して端から端までドリフトする時に深さと共に線形にスケーリングされ、これは、電荷雲の横方向サイズをセンサ層厚の関数として推定することを可能にする。SPNRに対する電荷共有の効果を計算するために、この推定は、ピクセルピッチに関連付けることができる。5よりも大きい比(活性センサ層厚/ピクセルピッチ)を用いて設計されたピクセル化センサが、高いTHで利用可能な最適なSPNRでは電荷共有効果に起因する有意な降下を受けることをEBSD実験でのSPNRのシミュレーション(Si試料、20keVビームエネルギ)が示唆した。従って、高いTHで作動するピクセル化電子計数センサは、エネルギ閾値化からのSPNRの有意な改善を観察するためには5よりも小さい(活性センサ層厚/ピクセルピッチ)比を有する必要がある。
【0075】
センサ厚を更に縮小することができず、ピクセルピッチ又はピクセルの寸法をそれ以上大きくすることができない時に、ピクセル及びその直近のピクセル内の信号を加算する「加算ノード」を全てのピクセルに対して実施するための補助回路を含めることによって電荷共有効果を低減することができる。全てのピクセルは、検出閾値THdetを有し、加算ノードは、背景電子と信号電子の間で区別するのに使用されるTHと同等の別々の閾値を有する。計数は、加算ノードがTHよりも大きい限り、THdetを超えた1又は2以上のピクセルにのみ割り当てられる。THdetは、電荷共有に起因して低減したが、隣接ピクセルがTHdetよりも大きいことになる可能性を低減するほど十分に高いパルスを検出するのに十分に低い値に設定される。代わりの手法は、いずれかの加算ノードがTHよりも大きい時に個々のピクセル内のパルスを全ての隣接ピクセルと比較する回路を含めることである。計数は、測定パルス振幅が全ての隣接ピクセルよりも大きく、隣接加算ノードのうちの少なくとも1つがTHよりも大きい時に当該ピクセルに割り当てられる。これらの「電荷加算」回路は、SPNRに対する電荷共有の影響を有意に低減するが、加算ノードでは電圧が加算される時に各寄与ピクセルからの電子ノイズが組み合わされることで実効的な電子ノイズの増加がある。しかし、EBSD用途での本出願人のSPNRシミュレーションは、低減した電荷共有効果からのSPNRの改善が、増加した実効電子ノイズからもたらされる低減を有意に凌駕することを示している。
【0076】
電荷加算アルゴリズムは、センサによって出力される情報が、複数のピクセルからの信号から単一粒子事象を識別して再現するのに十分である場合(例えば、Timepix3センサを使用する場合のようなセンサが全てのピクセルに取り込まれる信号の到着時間と強度の両方を提供する場合又は予想平均計数速度が≪1/ピクセル/フレームである場合)にオフチップに実施することができる。
【0077】
オフチップ電荷加算アルゴリズムの一実施形態では、Timepix3のようなセンサを、検出器によって記録される全ての電子事象の到着時間とマグニチュードとを出力するように構成することができる。この場合に、コンピュータアルゴリズムを用いて、直近ピクセル間のクラスター内に実質的に同時に記録される電子事象を識別し、これらを電荷共有のインスタンス候補と見なすことができる。別の実施形態では、Timepix又はTimepix3のようなセンサは、1回の露出中に各ピクセルの中に蓄積される全エネルギを測定するように構成され、1回の露出内でピクセル毎の入射電子の平均個数が≪1であるようにビーム電流又は露出時間が低減される。この条件下では、1回の露出内で蓄積されるエネルギを測定する隣接ピクセル間のクラスターが複数の入射電子ではなく電荷共有を受ける単一入射電子からもたらされる高い確率が存在する。両方の実施形態では、これらの隣接ピクセル内で測定されるエネルギは加算され、全加算エネルギが1次電子ビームエネルギよりも小さい(すなわち、加算エネルギが、単一入射電子から発した可能性が高いと考えられる)場合に、隣接事象間のクラスターが単一電荷共有事象であると見なされる。この場合に、電子事象からの加算エネルギは、隣接ピクセル間のクラスターに存在してこの加算エネルギに最も大きい量のエネルギを与えた単一ピクセルに割り当てられ、この電子事象からもたらされる全ての他のピクセル内で測定されたエネルギがゼロに設定される。
【0078】
センサ外電荷共有補正方法に適用される処理段階は、センサ上「電荷加算」回路によって実施されるものとほぼ同一であるが、この処理は、読み出しチップ自体の上の集積回路ではなく読み出しチップとは別のコンピュータプログラム又は集積回路によって適用される。これらのアルゴリズムは、ビーム損傷を受け易い試料から電荷加算回路を持たないセンサを用いてEBSDパターンを取得する時に有用とすることができる。この場合に、可能な最も小さい電子ビーム線量を用いて取得されたEBSDパターンを成功裏に指数化しなければならない。従って、データを低い線量及びSPNRで取得し、次に、電荷共有効果を除去してパターンを成功裏に指数化することを可能にするレベルまでSPNRを改善するように取得後のデータを処理することが有用である。
【0079】
データ伝達速度
本発明の開示の装置及び方法の追加の目的は、EBSDパターンをセンサ外に伝達して処理することができる速度を改善することである。1回のEBSDパターン取得中に、各ピクセル内の電子計数は、事前定義されたものであるが、典型的にはプログラム可能なデジタルビット数Bを有するデータ単位としてセンサ上に格納される。電子計数実験で使用される典型的なBの値は、8、12、16、又は24である。1回の取得中に各ピクセルでは電子計数器によって記録することができる最大計数値は(2B-1)である。1回の取得中にいずれかのピクセル内でこの値を超えた場合に、当該ピクセルに記録された計数値は無効になり、取得パターンは、もはや試料回折パターンの正確な測定結果ではない。
【0080】
パターン取得が完了した時に、全てのピクセルでの電子計数器は、センサからビット深度Bread(典型的には、Bread=B)にかけてビット毎秒(bps)の固定読取速度Rbitで読み取られ、この速度は、センサ及びデータ伝達電子機器によって定められる。従って、完全EBSDパターンをセンサから毎秒で読み取ることができる速度は、Npixがセンサ上のピクセルの全個数である時にRframe=Rbit/(Bread・Npix)である。新しいパターン取得は、前回取得されたパターンからの電子計数器がセンサから完全に読み出されるまで開始することができないので、Rframeは、EBSD実験の最大パターン取得速度に対して制限を課す。所与の検出器では、Rbit及びNpixは固定され、従って、より高速のEBSD取得速度では、Breadを最小にすることが好ましい。
【0081】
EBSD実験で使用されるセンサに必要とされるBread値は、EBSDパターンを成功裏に指数化するためにこのパターンで必要とされるピクセル毎の電子計数値に依存する。信号電子と背景電子の間で区別を行わない検出器では、殆どの電子計数は、背景電子に対応することになり、それによって好結果の指数化に必要とされるピクセル毎の平均計数値が有意に増加する。信号電子を選択的に計数する検出器は、ピクセル毎に遥かに少ない電子計数によって成功裏に指数化されたパターンを取得することになる。これは、好結果のEBSD実験に対して有意に小さいBread値を選択することを可能にし、読み出し速度Rframeの改善を可能にする。
【0082】
電子の選択的検出を用いずに指数化可能パターンを取得するのにピクセル毎に必要とされる電子の個数は、典型的に少なくとも50である。適切な許容範囲を加味すると、この個数は、取得パターンが指数化に適切であることを保証するのにBreadが6よりも大きいことを必要とする。しかし、エネルギ選択的な計数に起因して高いSBRでパターンを取得する検出器では、成功裏に指数化されたパターンは、ピクセル毎に20個又は多くの場合にそれよりも少ない電子で取得される。その結果、Breadは、好結果のEBSD実験では6に又は多くの場合にそれよりも小さく設定することができる。小さいBread値は高速読み出しに対して望ましいが、他の目的では、12ビット(例えば)程度まで高いか又はそれよりも多いBreadを用いて検出器を含むことを有用とすることができる。しかし、全てのパターンが、好結果の解析に向けてこのビット数を必要とすることになるわけではない。従って、レジスタから読み取られるビット数は、Bread(時にBよりも小さい)を高速データ伝達に向けて読み取ることができるように設定可能な検出器パラメータであることが有利である。読み出しビット数Breadは、格納に使用されるビット数よりも小さいか又はそれに等しくなければならず、Breadが6ビット又はそれ未満、5ビット又はそれ未満、4ビット又はそれ未満、2ビット又はそれ未満であるように、又は更に1ビット又はそれ未満であるように設定可能である場合が有利である。
【0083】
原子番号コントラストの改善
材料から放出される後方散乱電子の全個数は、その平均原子番号と共に増加する。その結果、EBSD画像に対する後方散乱電子の総計数は、入射電子ビームが衝突する材料の平均原子番号のインジケータである。ビームが、試料面上の格子状の位置にわたって走査され、後方散乱電子の総計数が各位置で記録される場合に、異なる原子番号を有する材料の分布を示すマップを生成することができる。このマップは、回折パターンから取得される結晶学的な情報を補足する追加情報を提供する。更に、EBSD画像内の全ての計数を加算する代わりに、全体の画像の部分領域を網羅するピクセル集合からの計数のみが各ビーム位置で加算される場合に、マップは、加算に使用される部分領域の形状によって定められる放出電子の限られた角度範囲に関する特定のコントラスト機構をより忠実に表すものにすることができる。
【0084】
後方散乱電子のエネルギ分布も、試料の原子番号による影響を受ける。高原子番号の試料に関する分布は、低原子番号の試料に関する分布よりも高エネルギの場所に高い比率の電子数を含む。従って、低エネルギ後方散乱電子がエネルギフィルタリングによって除外される場合に、高原子番号及び低原子番号の試料に関する信号数の比は、エネルギフィルタリングを用いずに取得される全信号数の比よりも大きい。従って、EBSDパターンがエネルギ閾値化検出器を用いて測定され、電子後方散乱強度のマップを生成するのに使用される場合に、直前に説明したように、これらのマップは、低エネルギ電子が閾値化によって除外される時に、異なる原子番号を有する複数の試料区域の間でより高い強度コントラストを示すことになる。
【0085】
例示的装置
好ましい実施形態に対応する例示的装置では、検出器は、粒子計数電子回路のピクセル化アレイにバンプ-結合されたセンサ層を含む直接電子検出器である。検出器は、EBSD実験でサンプルから後方散乱されて検出器上に入射する電子の分量を最大に増すような試料に可能な限り近い位置に配置される。センサ層は、シリコンのようなモノリシック半導体であり、そのうちで試料に対面する表層は、センサ層への電気接続を可能にするようにドープされて不感表層がもたらされる。検出器上に入射する後方散乱電子は、不感層を通してセンサ層の活性部分内で電荷雲を解放し、この場合に、不感層は、1500nm不活性シリコン層によって誘起されるエネルギの広がりよりも小さい入射電子のエネルギを分散させる。好ましくは、不感層は、20keVの単色電子ビームに対して100eVよりも低いエネルギの広がりを導くように100nm又はそれ未満としなければならない。センサ層の全厚は、典型的に300μmとすることができる。
【0086】
粒子計数電子回路のピクセル化アレイは、典型的には、256×256個のピクセルのアレイを備えることができる。各ピクセルでの粒子計数回路は、感受電子のエネルギを測定するための増幅器を含む。この回路は、背景電子と信号電子との間で区別するために感受電子の測定エネルギが閾値よりも大きい場合に計数事象をもたらす。信号電子の効率的な選択に向けて、粒子計数回路は、2keV未満、好ましくは、1keV未満と同等のFWHMを有する電子ノイズ分布を有する感受電子エネルギを測定する。各パターン取得で各ピクセルに記録される計数値は格納され、この場合に、この格納は、ピクセル毎に12ビット計数器を設けるように構成することができ、又は検出器からの取得パターンの高速読み出しを容易にするために4ビット計数器として構成するか又は4ビット計数器として読み取ることができる。
【0087】
検出器の好ましい実施形態は、SPNRに対する電荷共有の効果を軽減するための追加の特徴を組み込んでいる。一実施形態では、粒子計数電子回路のピクセル化アレイのピッチは、比率(センサ層厚)/(ピクセルピッチ)が5又はそれ未満であるように十分に大きい。例えば、センサ層厚が300μmである場合に、ピッチは60μmよりも大きいが、100μmよりも大きいピッチも考えられている。別の実施形態では、粒子計数回路は、単一入射電子によって解放され、ピクセルとその直近ピクセルとによって収集される電荷を加算する各ピクセルに対する追加の加算ノードによって補足される。加算ノードは、その内部で組み合わされた信号が閾値を超えた場合に計数事象を生成し、この計数は、その隣接ピクセルと比較して最も大きい電荷量を測定した単一ピクセルに割り当てられる。
【符号の説明】
【0088】
401 活性センサ層
402 収集電極
403 不活性層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
【国際調査報告】