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特表2023-524148充填層型バイオリアクターでのレンチウイルスベクター製造プロセス
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  • 特表-充填層型バイオリアクターでのレンチウイルスベクター製造プロセス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(54)【発明の名称】充填層型バイオリアクターでのレンチウイルスベクター製造プロセス
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/867 20060101AFI20230601BHJP
   C12N 15/88 20060101ALI20230601BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230601BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20230601BHJP
【FI】
C12N15/867 Z
C12N15/88 Z
C12N7/01
C12M3/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567348
(86)(22)【出願日】2021-05-04
(85)【翻訳文提出日】2022-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2021061673
(87)【国際公開番号】W WO2021224227
(87)【国際公開日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】20172806.0
(32)【優先日】2020-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522430682
【氏名又は名称】エージーシー バイオロジクス エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ネーリ,マルゲリータ
(72)【発明者】
【氏名】コタ,マヌエラ
(72)【発明者】
【氏名】アリーヴィ,ルカ
(72)【発明者】
【氏名】テスタセッカ,アンジェラ
(72)【発明者】
【氏名】ボンファンティ,フランチェスカ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァランティ,ジュリアーナ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA09
4B029AA23
4B029BB11
4B029CC01
4B029DA06
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、複数プラスミド一時的DNAトランスフェクションによる充填層型バイオリアクターでのLVVベクターの製造のための方法の開発に関する。より詳細には、本発明は、効果的なプロセスを得るために灌流またはバッチ様式で適用されるステップが組み合わせられるプロセスを開示および特許請求する。さらに、本発明は、レンチウイルスベクターの製造のために充填層型バイオリアクターでの一時的トランスフェクションのステップで成功裏に用いられる総DNAの効果的な範囲を特定する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填層型バイオリアクターでのレンチウイルスベクターの製造のための方法であって、以下のステップ:
(a) 細胞を接種するステップ
(b) 少なくとも1日間、増殖のために細胞を培養するステップ
(c) 充填層表面積について45ng/cm2~100ng/cm2の総量での複数プラスミドDNAおよびPEIトランスフェクション試薬を用いて細胞をトランスフェクションするステップ
(d) 組み換えレンチウイルスベクターを含有する細胞培養上清を回収するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
トランスフェクションの終了時での培地交換をさらに含み、該培地交換が、灌流様式またはバッチ様式で行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バッチ様式での培地交換が、DNAトランスフェクション性粒子を含有する細胞培養培地を前記バイオリアクターから排出するステップおよび細胞培養物へと新鮮培地を添加するステップにより行なわれる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞培養上清の回収ステップが灌流様式で行なわれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記新鮮培地の添加直後に、前記バイオリアクターから前記細胞培養培地を灌流様式で回収することにより、前記組み換えレンチウイルスベクターの収集を開始する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が、最大18時間にわたってトランスフェクションされる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
灌流様式での回収ステップが、トランスフェクション後培地交換後の少なくとも39時間にわたって行なわれる、請求項4または5に記載の方法。
【請求項8】
灌流様式での回収ステップが、トランスフェクション後培地交換後の39時間にわたって行なわれる、請求項4または5に記載の方法。
【請求項9】
増殖のための培養ステップ(b)とトランスフェクションステップ(c)との間の培地の完全交換をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が、充填層表面積について少なくとも0.1mL/cm2の総量での新鮮培地を、増殖相の終了時までに前記バイオリアクターに供給することにより、灌流様式で増殖のために培養される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、充填層について少なくとも0.1mL/cm2の総量での新鮮培地をリザーバーとして用いて、再循環様式で増殖のために培養される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記トランスフェクションステップ(c)が、新鮮培地の灌流または再循環の非存在下で行なわれる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記トランスフェクションが、1:1に対応する、DNA量とPEI量との比率を用いて行なわれる、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が、8時間にわたってステップ(c)でトランスフェクションされる、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、HEK293、HEK293T、HEK293E、HEK293FT、293Vec、TE671、HT1080またはHeLa細胞株から選択される、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記複数プラスミドDNAが、レンチウイルスgag/pol遺伝子を担持する1種類のプラスミド、レンチウイルスrev遺伝子を担持する1種類のプラスミド、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子を担持する1種類のプラスミド、およびレンチウイルスゲノムの必要とされる部分および目的の外来性遺伝子を含むトランスファーベクターを担持する1種類のプラスミドにより構成される、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填層型バイオリアクターシステムで行なわれるパッケージング細胞の複数プラスミドDNA一時的トランスフェクションによる、レンチウイルスベクターの大規模製造の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
レンチウイルスベクターまたはレンチウイルス(LVV)は、遺伝子療法用途で主に利用される遺伝子送達ビヒクルである。LVVは、(i) 分裂細胞および非分裂細胞を形質導入し、(ii) 宿主細胞ゲノムへと永続的にインテグレーションし、したがって宿主細胞および任意の子孫での持続的な遺伝子発現をもたらす能力をはじめとする、多数の利点を提供することが知られている(Naldini et. al. 2006)。さらに、LVVは、その低い免疫原性および毒性、ならびに腫瘍レトロウイルスベクターと比較して、その低い挿入性突然変異誘発率および腫瘍原性率に起因して、比較的安全であると考えられる。LVVは、他のウイルス由来のエンベロープタンパク質を用いて偽型化して、それにより、特定の標的細胞に対する広い向性または特異性を賦与することができる(Chronin et al 2005)。これらすべての理由のために、LVVは、例えば、異染性白質ジストロフィー(Biffi et al. 2013)、ウィスコット・アルドリッチ症候群(Wiskott-Adrich Syndrome)(Aiuti et al 2013)、サラセミア(bthalassemia)(Cavazzana-Calvo et al. 2010)またはX連鎖副腎白質ジストロフィー(Cartier et al 2009)をはじめとする数種類の遺伝性疾患の治療などの、様々な遺伝子療法用途で主に用いられる。これらすべての臨床的用途が、患者に点滴されるCD34+造血幹細胞へと目的の遺伝子を送達することにより、遺伝的欠損を正すという最終目的を有する。遺伝子送達ビヒクルとしてLVVが用いられる臨床的用途のさらなる例は、キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体を発現するように遺伝子操作されたT細胞を用いる養子細胞療法である。キメラ抗原受容体(CAR)は、標的細胞上で発現される特異的タンパク質または抗原を認識する組み換え受容体である。その後にCAR-T細胞と称されるTリンパ球、または免疫系の他の細胞で発現されると、CARは、それらが結合する抗原を発現するすべての細胞に対して、特異的免疫応答を方向転換することができる。CARの最も大規模に探索された臨床的用途は、癌免疫療法であり、これは、腫瘍抗原に対して標的化されたCARを担持するT細胞またはNK細胞な
どの免疫系の細胞の点滴からなる。そのような細胞は、CARにより標的化される抗原を発現する細胞に対する強力な抗腫瘍応答を生成することができる(Sadelain et al., Cancer Discovery. 2013. 3(4):388-98)。
【0003】
数種類のCAR-T細胞候補が現在臨床開発中であり、様々な成功事例が生じている。米国食品医薬品局(FDA)が、近年、チサゲンレクルユーセル(キムリア(登録商標))を承認し、これは、不応性であるかまたは2回目以降の再発であるB細胞前駆体急性リンパ芽球性白血病(ALL)に罹患している25歳までの患者の治療に対して適応される最初のCAR T細胞療法である。
【0004】
LVVの使用での興味の高まりは、前臨床、毒物学および臨床研究のために、ならびに最終的に市場に対して承認された薬物製品の製造のために、大量のベクターに対する強い要求をつくり出している。
【0005】
LVVの製造のための最も広く用いられる方法は、Tフラスコまたはセルファクトリー(cell factory)などのマルチトレイシステムを用いる単層培養でのパッケージング細胞(293細胞株およびその誘導体293T、293Eまたは293Vecなど)の複数プラスミド一時的トランスフェクション(trasfection)を必要とする。リン酸カルシウムをはじめとする様々なトランスフェクション試薬を利用する様々なプロセスが開示されている(Segura et al. 2007)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/007873号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Naldini et. al. 2006
【非特許文献2】Chronin et al 2005
【非特許文献3】Biffi et al. 2013
【非特許文献4】Aiuti et al 2013
【非特許文献5】Cavazzana-Calvo et al. 2010
【非特許文献6】Cartier et al 2009
【非特許文献7】Sadelain et al., Cancer Discovery. 2013. 3(4):388-98
【非特許文献8】Segura et al. 2007
【非特許文献9】Valkama et al. Optimization of lentiviral vector purification for scale-up in fix bed bioreactor Gene Therapy (2018) 25, 39-46
【非特許文献10】Mc Carron et al. Transient Lentiviral Vector Production Using a Packed Bed Bioreactor System (2019) Human Gene Therapy 30 (3) 93-101
【非特許文献11】Leinonen et al. Preclinical Proof of Concept, Analytical Development and Commercial Scale production of lentiviral vector in adherent cells (2019) Molecular Therapy 15, 63-71
【発明の概要】
【0008】
本発明は、充填層型バイオリアクター(packed bed bioreactor)で行なわれる細胞の一時的複数プラスミドトランスフェクションを含む大規模でのLVVの製造のためのプロセスの開発に焦点を当てる。本発明者らは、LVVの高い生産性および品質、ならびに小規模および大規模での再現性、ならびにプロセスの合計期間および最も重要な材料の消費を考慮したコストの効果的な低減により特徴付けられる製造プロセスを行なうための条件を見出した。
【0009】
先行技術は、充填層型バイオリアクターで行なわれるパッケージング細胞の一時的トランスフェクションに基づくLVV製造プロセスを開示するが、本発明に従う必須の技術的特徴またはプロセスの実行の示唆はない。
【0010】
例えば、Valkama et al. Optimization of lentiviral vector purification for scale-up in fix bed bioreactor Gene Therapy (2018) 25, 39-46では、著者らは、充填層型バイオリアクターシステムiCellis Nanoでの293T細胞の一時的トランスフェクションにより行なわれるLVVの製造のためのプロセスを開示する。著者らは、4m2の表面積を有するiCellis Nano高圧縮での6回の実行(run)および2.67m2の表面積を有するiCellis Nano低圧縮での4回の実行の遂行を報告する。トランスフェクションで用いられるDNA量は、プロセスの収量に対する重要なパラメーターのうちの1つであると報告される。著者らは、トランスフェクション試薬としてPEIを用い、かつ1:1に等しいDNA:PEI比率を用いて、300~400ng/cm2の範囲の総量でDNAを用いることを推奨している。トランスフェクション効率は、100ng/cm2のDNAを用いることによりたった5%まで低減することが明白に記載されている。トランスフェクションの4時間または6時間を除く実行全体が、バイオリアクターへと、すなわち、トランスフェクション後、細胞培養、および回収の間に、新鮮培地の灌流を適用しながら行なわれる。組み換えLVV粒子の灌流での回収は、トランスフェクションの24時間後に開始され、その後の48時間継続する(すなわち、トランスフェクションおよび回収ステップが合計4日間を必要とする)。トランスフェクションから24~72時間の間の回収ウインドウの規定は、トランスフェクションから6時間でのLVV生産性が低いという知見から生じる。灌流は、固定された一定速度または可変速度で行なわれ、ある実行では、培地の完全交換は、トランスフェクション後1日間または2日間の灌流により行なわれる。
【0011】
国際公開第2018/007873号は、300ng/cm2~400ng/cm2のトランスフェクションでの最適化されたDNA量、およびトランスフェクション効率が100ng/cm2のDNAを用いることによりたった5%まで低減されるという知見を含み、Valkama et al. 2018に記載されるものと実質的に類似なプロセスを開示する。国際公開第2018/007873号はまた、トランスフェクションミックス(すなわち、DNAおよびPEIを併せることにより得られるミックス)中の最適なDNA濃度を達成するために、大量のトランスフェクションミックスが必要であり、これはバイオリアクター中の培地の完全交換を必要とするであろうことも開示する。発明者らは、大規模では、培地の完全交換(すなわち、バイオリアクター中に存在する細胞培養培地のほとんど総量の排出)は、現実的なプロセスステップではなく、なぜなら、これには時間がかかり、かつ排出中には撹拌が閉じられ、上側の担体中の細胞は培地と共にないという事実に起因して、細胞生存率に影響し得るからであることを記載する。この制限を克服するために、トランスフェクションミックスは、再循環によりバイオリアクターに添加される。
【0012】
Mc Carron et al. Transient Lentiviral Vector Production Using a Packed Bed Bioreactor System (2019) Human Gene Therapy 30 (3) 93-101では、著者らは、18m2の表面積および3Lの作業体積(すなわち、長時間を要しない、バイオリアクターを排出および充満させるために操られる培地の未だ限定された量)を有する、単回使用充填層型バイオリアクターBio-BLU(Eppendorf社)でのLVVの製造のための方法を開示する。LVV製造は、PEIトランスフェクション試薬と共に4.79mgの総DNA(DNA:PEI比率 1:3)を用いる293T細胞の一時的トランスフェクションにより行なわれる。生成実験の全体が、バッチ様式で行なわれる(細胞培養、細胞トランスフェクションおよび回収を含む)。トランスフェクション後、細胞培養培地がシステムから除去され、3Lの新鮮培地がバイオリアクターに添加される。組み換えLVV粒子を含有する細胞培養培地の回収は、トランスフェクションの48時間および72時間後に培地を収集することにより行なわれる(すなわち、トランスフェクションおよび回収ステップが、合計4日間を必要とする)。トランスフェクションの24時間、48時間および72時間後に行なわれるサンプル採取が、このプロセス中に、最高の生産性がトランスフェクションの72時間後に得られることを示し、著者らは、トランスフェクション後72時間の後にも生産性を評価することを示唆する。
【0013】
Leinonen et al. Preclinical Proof of Concept, Analytical Development and Commercial Scale production of lentiviral vector in adherent cells (2019) Molecular Therapy 15, 63-71では、著者らは、2.67m2の表面積を有するiCellis Nanoバイオリアクターでの、または大規模では100m2もしくは333m2の表面を有するiCellis500バイオリアクターを用いる、293T細胞の一時的トランスフェクションによるLVVの製造のための方法を開示する。トランスフェクションは、300ng/cm2または200ng/m2でのDNA量およびPEIトランスフェクション試薬を用いて行なわれる。トランスフェクションミックスは、バイオリアクターに添加され、灌流の非存在下で6時間インキュベートされる。トランスフェクションを除くプロセスのすべての相(phase)で細胞に新鮮培地を供給するために、すべての実行が、灌流または再循環様式を用いて行なわれる。灌流(または再循環)は、細胞培養中、トランスフェクションの6時間後およびLVVの収集中に適用される。LVV収集は、トランスフェクションの24時間後に開始され、トランスフェクションの72時間後まで行なわれる。LVV収集の開始前、すなわち、トランスフェクションの24時間後、培地の完全交換が、完全培地交換までトランスフェクション後の同じ培地の灌流を用いる灌流により行なわれる。このステップは、生産性を低下させることが報告されるが、既に生成相の最中にあるエンドヌクレアーゼのバイオリアクター中への添加と共に、LVVを含有する最終バルク中のDNA混入物に関して、最終生成物の純度に正の影響を有する結果となる。大規模で適用される場合、333m2の表面積を有する充填層型バイオリアクターでは、プロセスは、予期されるよりも高くさえある良好な物理的力価、および予期されるよりも低い感染性ウイルス力価を有する結果となる。特に、333m2の表面積を有するバイオリアクターで適用されるプロセスを用いて取得される総ウイルストランスフェクション単位(TU)は、比較的高い総DNA量を用いて、かつトランスフェクション後培地交換を伴わないトランスフェクションに基づくプロセスを用いて、100m2の表面積(3.3倍小さな床サイズ)を有するバイオリアクターで取得されるものと同様であるようである。さらに、著者らは、実行の終了時に行なわれる単回エンドヌクレアーゼ処理は、DNAクリアランスを提供するためには十分でないことを報告する。この理由のために、著者らは、DNA混入物を低減するために、バイオリアクターでの生成相の最中の1回目のエンドヌクレアーゼ処理および回収後の2回目の処理をプロセスに導入する。
【0014】
遺伝子改変された細胞療法製品の生成のためのこの種類の遺伝子送達ビヒクルの高まる需要を満たすために、多量かつ高品質でLVVを取得することを可能にする再現性の高い製造方法を開発する必要性がある。本発明はこの必要性に対処する。
【0015】
発明の概要
本発明は、複数プラスミドDNA一時的トランスフェクションによる、充填層型バイオリアクターでのLVVベクターの製造のための方法の開発に関する。特に、本発明者らは、生産性の改善(物理的力価、感染性ウイルス力価および感染性)、最終生成物の品質(低いDNAおよび宿主細胞タンパク質混入物)ならびに最終生成物の量および機能性に関して、重要な試薬(トランスフェクションで用いられるDNAなど)の比較的低い消費を引き起こす結果となったプロセスを行なうための、それらのパラメーターおよび技術的条件に焦点を当てた。さらに、本発明者らは、特許請求されるプロセスを適用することにより、先行技術で開示されるプロセスでは4日間であることが開示された、LVVのトランスフェクションおよび収集を行なうために必要な期間を、最大で合計3日間まで低減することが可能であったことを見出した。特に、先行技術は、全体がバッチ様式または灌流様式で稼働されるプロセスを開示するが、本発明は、効果的なプロセスを得るために、両方の技術的様式が適用されかつ組み合わせられるプロセスを開示および特許請求する。
【0016】
本発明に従えば、以下のステップ:
(i) 細胞を接種するステップ
(ii) 少なくとも1日間、増殖のために細胞を培養するステップ
(iii) 複数プラスミドDNAおよびPEIを混合することにより得られるDNAトランスフェクション性粒子を含有するトランスフェクションミックスをバイオリアクターに添加し、かつ新鮮培地の灌流または再循環の非存在下でDNAトランスフェクション性粒子と共に細胞をインキュベートすることにより、細胞をトランスフェクションするステップ
(iv) DNAトランスフェクション性粒子を含有する細胞培養培地をバイオリアクターから排出し、かつ細胞培養物へと新鮮培地を添加することにより、バッチ様式で培地を交換するステップ
(v) ivの時点での新鮮培地の添加直後に、バイオリアクターから細胞培養培地を灌流様式で回収することにより、組み換えレンチウイルスベクターの収集を開始するステップ
を含む、複数プラスミドDNA一時的トランスフェクションによる、充填層型バイオリアクターでのレンチウイルスベクターの製造のための方法が提供される。
【0017】
さらに、本発明のさらなる態様に従えば、本発明者らは、充填層型バイオリアクターで行なわれるLVVの製造のためのプロセス中で、複数プラスミド一時的トランスフェクションのために用いられる対象である総DNAの理想的な範囲を特定した。そのような範囲でのDNAの使用は、トランスフェクションでのより多量の総DNAを用いる先行技術で開示されるプロセスを用いて観察されるものと同等かまたはより高くさえある、良好な品質および生産性を有するLVVを取得することを可能にし、このことは、それに続くコストの重要な低減を伴う。
【0018】
したがって、本発明に従えば、充填層表面積について45ng/cm2~185ng/cm2の総量での複数プラスミドDNAおよびPEIトランスフェクション試薬を用いて細胞を一時的トランスフェクションするステップを含む、充填層型バイオリアクターでのレンチウイルスベクターの製造のための方法が提供される。
【0019】
実施形態
本発明に従えば、第1の態様では、以下のステップ:
(i) 細胞を接種するステップ
(ii) 少なくとも1日間、増殖のために細胞を培養するステップ
(iii) 複数プラスミドDNAおよびPEIを混合することにより得られるDNAトランスフェクション性粒子を含有するトランスフェクションミックスをバイオリアクターに添加し、かつ新鮮培地の灌流または再循環の非存在下でDNAトランスフェクション性粒子と共に細胞をインキュベートすることにより、細胞をトランスフェクションするステップ
(iv) DNAトランスフェクション性粒子を含有する細胞培養培地をバイオリアクターから排出し、かつ細胞培養物へと新鮮培地を添加することにより、バッチ様式で培地を交換するステップ
(v) ivの時点での新鮮培地の添加直後に、バイオリアクターから細胞培養培地を灌流様式で回収することにより、組み換えレンチウイルスベクターの収集を開始するステップ
を含む、複数プラスミドDNA一時的トランスフェクションによる、充填層型バイオリアクターでのレンチウイルスベクターの製造のための方法が提供される。
【0020】
一実施形態では、トランスフェクション(iii)、トランスフェクション後培地交換(iv)および灌流での回収(v)のステップは、3日間で行なわれる。
【0021】
別の実施形態では、方法は、ステップiiとステップiiiとの間での培地の完全交換をさらに含む。
【0022】
さらなる実施形態では、ステップii中の細胞は、灌流様式で増殖のために培養される。好ましくは、灌流様式での培養は、充填層表面積について少なくとも0.1mL/cm2の総量で新鮮培地を増殖相の終了時までにバイオリアクター中に供給することにより行なわれる。
【0023】
好ましい実施形態では、ステップii中の細胞は、再循環様式で増殖のために培養される。より好ましくは、再循環様式での培養は、充填層表面積について少なくとも0.1mL/cm2の総量で新鮮培地をリザーバーとして用いて行なわれる。
【0024】
本発明の方法の好ましい構成では、ステップiii中の細胞は、最大18時間にわたって、より好ましくは6~18時間にわたって、より好ましい実施形態では8時間にわたって、DNAトランスフェクション性粒子と共にインキュベートされる。
【0025】
好ましくは、一実施形態では、ステップiii中の細胞は、充填層表面積について45ng/cm2~185ng/cm2の総量で複数プラスミドDNAを用いてトランスフェクションされる。
【0026】
別の一実施形態では、ステップiii中の細胞は、充填層表面積について45ng/cm2~150ng/cm2の総量で複数プラスミドDNAを用いてトランスフェクションされる。
【0027】
さらなる実施形態では、ステップiii中の細胞は、充填層表面積について45ng/cm2~100ng/cm2の総量で複数プラスミドDNAを用いてトランスフェクションされる。
【0028】
より好ましい実施形態では、ステップiii中のトランスフェクションミックスは、1:1に対応する、DNA量とPEI量との間の比率を用いて調製される。
【0029】
本発明の好ましい構成では、ステップvでの組み換えレンチウイルスベクターの収集は、少なくとも39時間、灌流を適用することにより行なわれる。
【0030】
本発明の別の構成では、ステップvでの組み換えレンチウイルスベクターの収集は、48時間、灌流を適用することにより行なわれる。
【0031】
一実施形態では、ステップvでの組み換えレンチウイルスベクターの収集は、ステップvで用いられる同じ培地を用いる灌流を適用することにより行なわれる。
【0032】
別の実施形態では、ステップvでの組み換えレンチウイルスベクターの収集は、2.5%~10%FBSの量で胎児ウシ血清(FBS)を含む細胞培養培地を用いる灌流を適用することにより行なわれる。
【0033】
さらなる実施形態では、ステップvでの組み換えレンチウイルスベクターの収集は、FBSを含まない細胞培養培地を用いる灌流を適用することにより行なわれる。
【0034】
本発明の別の態様では、充填層表面積について45ng/cm2~185ng/cm2の総量での複数プラスミドDNAおよびPEIトランスフェクション試薬を用いて細胞を一時的トランスフェクションするステップを含む、充填層型バイオリアクターでのレンチウイルスベクターの製造のための方法が提供される。
【0035】
好ましくは、本発明は、以下のステップ:
(a) 細胞を接種するステップ
(b) 少なくとも1日間、増殖のために細胞を培養するステップ
(c) 充填層表面積について45ng/cm2~185ng/cm2の総量での複数プラスミドDNAおよびPEIトランスフェクション試薬を用いて細胞をトランスフェクションするステップ
(d) 組み換えレンチウイルスベクターを含有する細胞培養上清を回収するステップ
を含む、複数プラスミドDNA一時的トランスフェクションによる、充填層型バイオリアクターでのレンチウイルスベクターの製造のための方法を提供する。
【0036】
別の実施形態では、トランスフェクションは、充填層表面積について45ng/cm2~150ng/cm2の総量で複数プラスミドDNAを用いて行なわれる。
【0037】
さらなる実施形態では、トランスフェクションは、充填層表面積について45ng/cm2~100ng/cm2の総量で複数プラスミドDNAを用いて行なわれる。
【0038】
より好ましい実施形態では、トランスフェクションは、1:1に対応する、DNA量とPEI量との間の比率を用いて行なわれる。
【0039】
別の実施形態では、方法は、ステップbでの増殖のための培養とステップcでのトランスフェクションとの間での培地の完全交換をさらに含む。
【0040】
さらなる実施形態では、細胞は、灌流様式で、上記ステップbでの増殖のために培養される。好ましくは、灌流様式での培養は、充填層表面積について少なくとも0.1mL/cm2の総量で新鮮培地を増殖相の終了時までにバイオリアクター中に供給することにより行なわれる。
【0041】
好ましい実施形態では、細胞は、再循環様式で、上記ステップbでの増殖のために培養される。好ましくは、再循環様式での培養は、充填層表面積について少なくとも0.1mL/cm2の総量で新鮮培地をリザーバーとして用いて行なわれる。
【0042】
本発明の方法の好ましい構成では、細胞は、最大18時間にわたって、より好ましくは6~18時間にわたって、上記ステップcでトランスフェクションされる。最も好ましい構成では、細胞は、8時間にわたってトランスフェクションされる。
【0043】
一実施形態では、方法は、ステップcでのトランスフェクションと上記ステップdでの回収ステップとの間での培地の交換をさらに含み、そのような培地の交換は、灌流またはバッチ様式で、より好ましくはバッチ様式で行なうことができる。
【0044】
別の実施形態では、上記ステップdでの回収ステップは、バッチ様式または灌流様式で行なわれる。
【0045】
本発明の一構成では、上記ステップdでの回収ステップが、トランスフェクション後培地交換から24時間および48時間でバイオリアクターから細胞培養培地を収集することにより、バッチ様式で行なわれる方法が提供される。
【0046】
本発明の別の構成では、上記ステップdでの回収ステップが、トランスフェクション後培地交換後の少なくとも39時間適用される灌流様式で行なわれる方法が提供される。
【0047】
別の構成では、上記ステップdでの回収ステップが、トランスフェクション後培地交換後の48時間適用される灌流様式で行なわれる方法が提供される。
【0048】
本発明のより好ましい構成では、ステップdでの回収ステップが灌流様式で行なわれ、トランスフェクション(ステップc)から回収ステップ(ステップd)までのステップが3日間で行なわれる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】実施例1に開示される実験で行なわれたプロセスを表わすフローチャートを示す図である。
図2】実施例2に開示される実験で行なわれたプロセスを表わすフローチャートを示す図である。(*) 実行PDE_B18172に対しては1日目~3日目、実行PDE_B18187に対しては0日目~3日目に再循環を適用した;(**) 実行PDE_B18172に対してのみ適用された条件。(***) 実行PDE_B19087のbio2を除いて、実行PDE_B19013に対して適用された条件(トランスフェクション6時間後の培地交換)。
【発明を実施するための形態】
【0050】
発明の詳細な説明
本発明の様々な好ましい特徴および実施形態が、非限定的な例示的実施形態により、ここで説明される。
【0051】
本発明は、複数プラスミドDNA一時的トランスフェクションによる、充填層型バイオリアクターでのレンチウイルスベクター(LVV)の製造のための方法を提供する。本発明の方法は、多量、高品質での、大規模かつ自動化デバイスを用いるLVVの生成に特に焦点を合わせている。本発明者らは、高い物理的力価および感染性ウイルス力価ならびに最適な不純物プロフィールを有するLVVのバルク生成物を、高い再現性を伴って得るための、至適条件を見出した。
【0052】
本発明に従えば、以下のステップ:
(i) 細胞を接種するステップ
(ii) 少なくとも1日間、増殖のために細胞を培養するステップ
(iii) 複数プラスミドDNAおよびPEIを混合することにより得られるDNAトランスフェクション性粒子を含有するトランスフェクションミックスをバイオリアクターに添加し、かつ新鮮培地の灌流または再循環の非存在下でDNAトランスフェクション性粒子と共に細胞をインキュベートすることにより、細胞をトランスフェクションするステップ
(iv) DNAトランスフェクション性粒子を含有する細胞培養培地をバイオリアクターから排出し、かつ細胞培養物へと新鮮培地を添加することにより、バッチ様式で培地を交換するステップ
(vi) ivの時点での新鮮培地の添加直後に、バイオリアクターから細胞培養培地を灌流様式で回収することにより、組み換えレンチウイルスベクターの収集を開始するステップ
を含む、複数プラスミドDNA一時的トランスフェクションによる、充填層型バイオリアクターでのレンチウイルスベクターの製造のための方法が提供される。
【0053】
レンチウイルスベクター(LVV)
本発明は、LVVの製造に関する。LVVは、レンチウイルスから誘導される遺伝子送達ビヒクルである。レンチウイルスの詳細なリストは、Coffin et al(“Retroviruses” 1997 Cold Spring Harbour Laboratory Press Eds: JM Coffin, SM Hughes, HE Varmus pp 758-763)に見出すことができる。簡潔には、レンチウイルスは、霊長類群および非霊長類群に分けることができる。霊長類レンチウイルスの例としては、限定するものではないが:ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因因子であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。非霊長類レンチウイルス群としては、原型「スローウイルス」であるビスナ・マエディウイルス(VMV)、ならびに近縁のヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)ならびにより最近記載されたネコ免疫不全ウイルス(FIV)およびウシ免疫不全ウイルス(BIV)が挙げられる。
【0054】
好ましい実施形態では、レンチウイルスベクターはHIVレンチウイルスから誘導され、より好ましくは、レンチウイルスベクターはHIV-1レンチウイルスから誘導される。
【0055】
本発明の方法で用いられる対象である例示的レンチウイルスベクターは、レンチウイルスゲノムの少なくとも以下の部分を含む:(a) 5'長い末端反復(LTR);(b) パッケージング配列psi;(c) Rev応答エレメント(RRE);(d) 目的の遺伝子に機能的に連結されたプロモーター;(e) 3'長い末端反復(LTR)。好ましい実施形態では、5'LTRのU3領域が、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、またはシミアンウイルス40(SV40)からなる群より選択される異種プロモーターを用いて置き換えられ;したがって、レンチウイルス転写がtat非依存性となる。さらなる好ましい実施形態では、3'LTR配列は、U3領域の欠失を含む(すなわち、ベクターは自己不活性化ベクターまたはSINベクターである)。レンチウイルスベクターは、レンチウイルス中央部ポリプリントラクト(cPPT)およびウッドチャック肝炎ウイルス(WHP)転写後調節エレメント(WPRE)をさらに含むことができる。
【0056】
充填層型バイオリアクター
本発明に従うプロセスは、LVVの生成のために、充填層型バイオリアクターを用いる。充填層型バイオリアクターは、細胞の固相化のための支持体として用いられる担体材料を含むか、またはこれを用いて充満もしくは充填した容器からなるデバイスである。担体は、その上に細胞が捕捉され、それにより、非常に高密度まで接着しながら細胞が生育することを可能にする、有機および無機材料から構成される。適切な量のO2および必要とされるpH条件を用いて調整された培養培地が、栄養素およびO2を供給し、かつ細胞生育を可能にするために、固定床を通して循環される。2種類の考えられる構成で本質的に稼働する様々な充填層型バイオリアクターが利用可能である:(1) 培地が、調整容器から固定床へと循環し、調整容器に戻る(例えば、CellCubeシステム、Corning社);または(2) 固定床がバイオリアクターに一体化され、かつこのバイオリアクター内で調整された培地がこの床を通じて循環する(例えば、iCellis、Pall社)。好ましい実施形態では、本発明に従うプロセスは、実施例中に示される通り、iCELLis(登録商標)単回使用固定床バイオリアクターシステムで行なうことができる。iCELLisバイオリアクターシステムは、制御環境での接着細胞生育のための、自動化された単回使用固定床バイオリアクターである。バイオリアクターは、2種類の形式、すなわち、細胞生育のための様々な考えられる表面積を有する、開発研究のために用いられるiCELLis Nano(0.53m2~4m2の単位の培養面積)および66~500m2の培養面積単位を有する大規模生成のためのiCellis 500で利用可能である。細胞は、固定床中に格納されるポリエステルマクロ担体中で生育するが、細胞培養培地は、底部から頂部へと固定床を通して流れる。頂部では、培地は、外壁を下る薄いフィルムとして落ち、ここでO2を取り込み、リザーバーへと戻る。本明細書中で用いる場合、用語「培養面積」または「表面積」とは、その上に細胞が接着し、かつ培養される、バイオリアクターの充填層の合計表面を意味する。
【0057】
複数プラスミド一時的トランスフェクション
本発明に従えば、LVVは、細胞の複数プラスミドDNA一時的トランスフェクションにより、充填層型バイオリアクター中で生成され、すなわち、本発明の方法では、2種類の異なる遺伝子を担持する少なくとも2種類の発現プラスミドが、細胞株(いわゆるパッケージング細胞株)に一時的に同時トランスフェクションされる。本発明の好ましい態様に従えば、細胞は、少なくとも:レンチウイルスGag/Pol遺伝子を担持するパッケージングプラスミド、目的のエンベロープタンパク質をコードする遺伝子を担持するプラスミドならびに上記に開示される通りの必須レンチウイルスゲノムエレメントおよび目的の遺伝子を担持するトランスファープラスミドを用いて同時トランスフェクションされる。別の好ましい実施形態では、レンチウイルス調節タンパク質Revを、第4の別個のプラスミド上でトランスにさらに発現させることができる。本発明のさらなる態様では、レンチウイルスタンパク質tatを、第5の別個のプラスミド上でさらに発現させることができる。好適なenv遺伝子の例としては、限定するものではないが、VSV-G env、MLV 4070 env、RD114 env、RD114-TR、RD114pro、バキュロウイルス5 GP64 env、GALVまたは麻疹ウイルス(Measle virus)に由来するエンベロープタンパク質が挙げられる。
【0058】
好ましい実施形態では、本発明の方法では、複数プラスミドDNAトランスフェクションは、4種類のプラスミド、すなわち:レンチウイルスgag/pol遺伝子を担持する1種類のプラスミド、レンチウイルスrev遺伝子を担持する1種類のプラスミド、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子、好ましくはVSV-Gエンベロープタンパク質をコードする遺伝子を担持する1種類のプラスミド、ならびにレンチウイルスゲノムの必要とされる部分および目的の外来性遺伝子を含むトランスファーベクターを担持する1種類のプラスミドにより構成される第3世代LVVウイルスベクターシステムを用いて行なわれる。
【0059】
バイオリアクターへの細胞の接種
本発明に従う製造方法は、細胞の接種、すなわち、バイオリアクターへの細胞の導入を含む。
【0060】
細胞は、バイオリアクター培養面積について1000細胞/cm2~10000細胞/cm2の量で、バイオリアクターへと接種することができる。別の実施形態では、細胞は、2000細胞/cm2~8000細胞/cm2、好ましくは4000細胞/cm2~6000細胞/cm2の量で培養することができ、より好ましい実施形態では、5000細胞/cm2がバイオリアクターへと接種される。適切な量を取得するために、解凍後の細胞を、バイオリアクター外での細胞培養で最初に増殖させることができる。一実施形態では、細胞を解凍し、接着での細胞培養を通して適切な量まで増殖させ、続いて支持体から剥離し、かつ適切な量でバイオリアクターへと接種する。
【0061】
先行技術は、バイオリアクターでの細胞培養中に細胞接着を促進する因子の使用の結果、充填層型バイオリアクターへと懸濁適応型細胞株を用いる可能性を開示する(国際公開第2016/048556号)。したがって、本発明に従う別の実施形態では、懸濁適応型細胞株を解凍し、懸濁での細胞培養の実行を通じて適切な量まで増殖させ、続いて、細胞接着を促進する因子の存在下でバイオリアクターへと接種する。
【0062】
ウイルスベクターの製造のためのパッケージング細胞株として機能することが公知なすべての細胞株を、本発明で用いることができる。一実施形態では、本発明で用いられる対象であるパッケージング細胞株は、HEK293、HEK293T、HEK293E、HEK293FT、293Vec、TE671、HT1080またはHeLa細胞株から選択される。好ましい実施形態では、パッケージング細胞株は、HEK293Tである。
【0063】
細胞増殖
本発明の方法に従えば、接種に加えて、細胞は、少なくとも1日間、バイオリアクターへの増殖のために培養される。
【0064】
当業者は、このステップで、細胞へと栄養素を含有する細胞培養培地を供給するために、当技術分野で公知であり、かつ使用のために充填層型バイオリアクターに適用可能である細胞培養稼働条件のうちの任意のものを用いることができる。例えば、iCELLis(登録商標)単回使用固定床バイオリアクターシステムは、3種類の異なる様式で細胞培養を稼働させることを可能にする:(1)「バッチ様式」に従えば、培地消費まで(すなわち、細胞生育に必要な栄養素の消耗および細胞代謝産物の蓄積)までの必要な期間にわたって、バイオリアクター中の一定体積の細胞培養培地を用いて、細胞が培養され、培地消費に達した際に、バイオリアクターから消耗培地を完全に排出し、かつ新鮮培地を用いて満たすことが必要である、(2)「灌流様式」に従えば、細胞培養中に、新鮮培地が一定流速でバイオリアクターへと添加され、消耗培地が同じ流速で除去されて、廃棄または回収され、その間、バイオリアクターへの細胞培養培地中の一定の総体積が維持され、かつ細胞培養物への栄養素の一定供給および細胞代謝産物の一定除去が可能になる;(3)「再循環様式」に従えば、細胞が、バイオリアクター中の一定量の細胞培養培地中で培養され、バイオリアクターは、培地のリザーバーとして機能する外部容器に連結され、ここから追加の培養培地がバイオリアクターへと一定流速で添加され(灌流様式と同様)、かつ同じ流速で除去され、リザーバーへと移し戻される。再循環様式での培養は、細胞培養に対して用いられる培地の総体積の増加を可能にする。上記の稼働様式のうちのそれぞれまたはその組み合わせを、増殖のために細胞を培養するために、本発明の方法で利用することができる。
【0065】
一実施形態では、バッチ様式でバイオリアクターを稼働させることにより、少なくとも1日間、増殖のために細胞が培養される、本発明に従う方法が提供される。より好ましくは、増殖のための細胞培養がバッチ様式で行なわれる場合、増殖相の終了時、かつ形質導入前に、培地の完全交換が、バイオリアクターから消耗した細胞培養培地の総体積を排出し、続いて、新鮮培地を用いてバイオリアクターを満たすことにより行なわれる。あるいは、培養後培地交換を、バイオリアクター中に存在する細胞培養培地の2倍体積に対応する量の新鮮培地を固定速度で供給することにより、灌流様式で行なうことができる。別の実施形態では、増殖のための細胞培養がバッチ様式で行なわれる場合、増殖相の終了時、かつ形質導入前に、培養後培地交換を、バイオリアクター中に存在する細胞培養培地の同じ体積に対応する総量の新鮮培地を固定速度で供給することにより、灌流様式で行なうことができる。
【0066】
別の実施形態では、灌流様式でバイオリアクターを稼働させることにより、少なくとも1日間、増殖のために細胞が培養される、本発明に従う方法が提供される。本発明の方法の好ましい構成では、灌流様式での細胞培養が、充填層表面積について少なくとも0.1mL/cm2の総量の新鮮培地を増殖相の終了までに供給することにより、行なわれる。
【0067】
好ましい実施形態では、再循環様式でバイオリアクターを稼働させることにより、少なくとも1日間、増殖のために細胞が培養される、本発明に従う方法が提供される。本発明の方法の好ましい構成では、再循環様式での細胞培養が、充填層について少なくとも0.1mL/cm2の総量の追加の培地をリザーバーとして用いて行なわれる。
【0068】
細胞増殖相の目標は、トランスフェクションの日に最適な細胞濃度を達成することである。一実施形態では、バイオリアクター表面積について0.9×105細胞/cm2~2×105細胞/cm2の濃度を得るまで、細胞を増殖させる。充填層型バイオリアクターシステム中の細胞計数は、常に現実的かつ可能ではなく、したがって、接種後に、細胞増殖を、乳酸塩蓄積またはグルコース消費などの適切な代謝パラメーターを測定することにより、モニタリングすることができる。好ましい実施形態では、0.7g/L~1g/Lのバイオリアクターへの乳酸塩の蓄積を得るまで、増殖のために細胞が培養される。
【0069】
さらなる好ましい実施形態では、細胞は、バイオリアクターへと0日目に接種され、続いて、4日目まで、または最も好ましくは3日目まで培養される。
【0070】
一実施形態では、細胞は、バイオリアクターへと0日目に接種され、続いて、バッチ様式で細胞培養を稼働させることにより培養される。好ましい実施形態では、細胞は、バイオリアクターへと0日目に接種され、続いて、4日目まで、または最も好ましくは3日目まで、バッチ様式で培養される。好ましくは、バッチ様式での増殖のための培養の終了時に、消耗した細胞培養培地を、形質導入前に交換する。一実施形態では、消耗した細胞培養培地は、バイオリアクターから抜き取り、かつ新鮮培地を添加することにより、交換される。別の実施形態では、消耗した細胞培養培地は、バイオリアクター中に存在する細胞培養培地の少なくとも同じ体積に対応する量の新鮮培地を、固定速度で供給することにより、灌流様式で交換される。
【0071】
別の実施形態では、細胞は、バイオリアクターへと0日目に接種され、続いて、4日目まで、またはより好ましくは3日目まで、灌流様式で培養される。灌流は、細胞接種から少なくとも4時間後に、起動することができる。
【0072】
好ましい実施形態では、細胞は、バイオリアクターへと0日目に接種され、続いて、4日目まで、またはより好ましくは3日目まで、再循環様式で培養される。灌流は、細胞接種から少なくとも4時間後に、起動することができる。
【0073】
本発明の方法に対して好適であり得る多数の基礎培養培地が、当技術分野で公知である。培養培地としては、限定するものではないが、EMEM(イーグル最小必須培地)、BEM(イーグル基礎培地)、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、グラスゴー最小必須培地、M199基礎培地、HAMs F-10、HAMs F-12、イスコフDMEM、RPMI、ライボビッツL15、MCDB、RPMI-1640、IMDM、X-Vivo10TM、X-Vivo15TMおよびX-Vivo20TMが挙げられる。好ましくは、細胞培養培地に、グルタミンまたはglutamax、胎児ウシ血清(FBS)または当業者により容易に決定できる代替品などの、細胞増殖を促進することが公知の他の因子を補充することができる。
【0074】
トランスフェクションステップ
本発明の方法では、細胞を、レンチウイルスベクターの生成のために適応された2種類以上のプラスミドを用いてトランスフェクションする(すなわち、複数プラスミドDNAトランスフェクション)。
【0075】
当技術分野で公知の様々な技術を、細胞へと核酸分子を導入するために利用することができる。そのような技術としては、リン酸カルシウムなどの化合物を用いる化学物質促進トランスフェクション、カチオン性脂質、カチオン性ポリマー、リポソーム媒介トランスフェクションが挙げられる。しかしながら、本発明の好ましい態様に従えば、複数プラスミドDNA一時的トランスフェクションは、トランスフェクション試薬としてポリエチレンイミン(polyethylenemine)(PEI)を用いて行なわれる。
【0076】
本発明に従う製造方法は、トランスフェクションミックスをバイオリアクターへと添加することによりトランスフェクションが開始される、トランスフェクションステップを含む。
【0077】
本明細書中で用いる場合、用語トランスフェクションミックスとは、トランスフェクション剤とDNAの混合の結果として、形成されるDNAトランスフェクション性粒子を含有する溶液を意味する。
【0078】
好ましくは、トランスフェクションミックスの調製は、以下のステップを含む:
(a) DNAを含有する溶液(溶液a)を調製するステップ
(b) PEIを含有する溶液(溶液b)を調製するステップ
(c) 2種類の溶液aおよびbを混合し、かつそれらをさらにインキュベートして、DNAトランスフェクション性粒子を含有するトランスフェクションミックスを取得するステップ。
【0079】
好ましい実施形態では、トランスフェクションは、充填層表面積について45ng/cm2~185ng/cm2の複数プラスミドDNAの総量を用いて行なわれる。
【0080】
別の実施形態では、トランスフェクションは、充填層表面積について45ng/cm2~150ng/cm2の複数プラスミドDNAの総量を用いて行なわれる。
【0081】
さらなる実施形態では、トランスフェクションは、充填層表面積について45ng/cm2~100ng/cm2の複数プラスミドDNAの総量を用いて行なわれる。
【0082】
当業者は、製造業者により推奨される条件をはじめとする、当技術分野で公知のトランスフェクションプロトコール中に開示される様々なDNA:PEI比率のうちの任意のものを用いることができる。本発明の方法では、好ましい実施形態に従えば、トランスフェクションは、1:1に等しいDNA量とPEIとの比率を用いて行なわれる。
【0083】
本発明の方法に従えば、トランスフェクションは、DNAトランスフェクション性粒子を含有するトランスフェクションミックスをバイオリアクターへと添加し、かつ新鮮培地の灌流または再循環の非存在下でDNAトランスフェクション性粒子と共にバイオリアクター中で細胞をインキュベートすることにより行なわれる。
【0084】
一実施形態では、トランスフェクションミックスは、必要な場合、トランスフェクションミックスの体積に比例するかまたは等しい細胞培養培地の体積の除去後に、バイオリアクターの細胞培養培地へと添加される。
【0085】
本発明の方法では、トランスフェクション中に、DNAトランスフェクション性粒子との細胞のインキュベーションは、新鮮培地の灌流または再循環の非存在下で行なわれ、それにより、バイオリアクター中のDNAトランスフェクション性粒子の量が一定に維持される。撹拌の適用が、O2供給およびDNA粒子の循環を可能にするために維持される。
【0086】
実施例中に示される通り、DNAトランスフェクション性粒子とのインキュベーション時間は、最終的なベクター調製物の生産性および品質に対して影響を有し得る。実施例2.3および2.4は、DNAトランスフェクション性粒子との21時間のインキュベーションの結果として、取得されるLVVが、低減した感染性を有することを示す。したがって、本発明の好ましい態様に従えば、トランスフェクション中に、細胞を、最大18時間にわたって、DNAトランスフェクション粒子と共にインキュベートする。加えて、実施例1.3に示される通り、DNAトランスフェクション性粒子とのインキュベーション時間を6時間まで減少させることにより、生産性の低下を観察することができる。この条件での生産性はそれでも許容可能であるが、インキュベーション時間のさらなる減少は、さらに低くさえ有効となることが予期される。したがって、好ましい実施形態では、細胞を、6~18時間にわたって、より好ましくは8時間にわたって、DNAトランスフェクション性粒子と共にインキュベートする。
【0087】
トランスフェクションでの最適な総DNA量
上記で説明される通り、本発明の方法では、ベクターを生成するために必要な、必要とされる成分をコードする2種類以上のプラスミドを用いて、細胞をトランスフェクションする(複数プラスミドDNAトランスフェクション)。トランスフェクションのために用いられる対象である各プラスミドの様々な比率を開示する様々なプロトコールが、当技術分野で公知である。用いられるプラスミドシステム(例えば、用いられるパッケージングプラスミドの個数、トランスファーベクタープラスミドの性質および長さ)に応じて、当業者は、LVV生成に対して必要とされる異なるプラスミド同士の間の最適比率を最適化することができる。規定されたら、例えば、フラスコまたはウェル中で、そのような比率が、バイオリアクターシステム中で用いられる対象であるDNAの総量に対して適用されるはずである。
【0088】
本発明者らは、プロセスの高生産性および再現性を確実にするために、本発明の方法で用いられる対象である総複数プラスミドDNAの理想的な範囲を特定した。
【0089】
一実施形態では、トランスフェクションは、充填層表面積について45ng/cm2~185ng/cm2のDNAの総量で、複数プラスミドDNAを用いて行なわれる。
【0090】
本発明者らは、驚くべきことに、先行技術で開示されるよりも低い量の範囲でDNAを用いて、同等またはより高くさえある生産性を有するバルク生成物を得ることが可能であったことを見出した。
【0091】
先行技術(Valkama et al. 2018およびLeinonen et al 2019)は、トランスフェクション試薬としてのPEIと共に、200ng/cm2または300ng/cm2または400ng/cm2の量での総DNAをトランスフェクションで使用することを開示する(1:1に等しいDNA:PEI比率)。さらに、Valkama et al 2018および国際公開第2018/007873号は、100ng/cm2の量でのDNAをトランスフェクションで用いることにより、トランスフェクション効率が5%まで低減することを明白に記載する。本発明の実施例1.2は、様々なDNAの総量、すなわち、363ng/cm2、181ng/cm2、および91ng/cm2を用いて行なわれる複数プラスミドDNA一時的トランスフェクションにより、充填層型バイオリアクターでのLVVウイルスベクターの生成のための製造方法を行なうことにより取得される結果を示す。表4は、181ng/cm2および91ng/cm2の量での総DNAをトランスフェクションで用いて得られるバルク生成物が、363ng/cm2の総DNAを用いて得られる実行と比較して、高い生産性(高い物理的力価)を有する結果となることを明らかに示す。そのような驚くべき作用はまた、実施例2.3および関連する表23に示される通り、1.06m2の表面積を有するiCellis nanoでのプロセスを適用することによっても観察され、このとき、91ng/cm2の総DNAを用いて得られるバルク生成物が、181ng/cm2の総DNAを用いて細胞をトランスフェクションすることにより得られるものに対して同等な生産性を有することが見出された。合致するデータが、実施例3に示される通り、大規模で得られた。先行技術で報告されるものとは異なり、表面積について200ng/cm2未満にトランスフェクションで用いられる総DNAの量を減少させることにより、同等またはより高くさえある生産性を達成することが可能であった。その結果は、単一プラスミドトランスフェクションに対してPEI製造業者により推奨されるよりも低くさえあるDNA量(表面積について少なくとも100ng/cm2)を用いて観察された。本発明のプロセスでは、LVVの生成を得るために細胞中で異なるプラスミドを同時トランスフェクションすることが必要であることを考慮すると、このことは、特に重要である。
【0092】
Mc Carron et al. 2019は、5種類のプラスミドのレンチウイルスベクターシステムを用いる、充填層型バイオリアクターでの製造プロセスを開示する。この場合、同時トランスフェクションは、26.5ng/cm2の総DNAおよびPEIトランスフェクション試薬を用いて行なわれる(DNA:PEI比率 1:3、すなわち、実施例で用いられるものよりも3倍多いPEIの量を用いる)。得られるバルク生成物は、1ng/cm2の測定されるp24に対応する1×107vp/cm2の低収量、すなわち、本発明に従う範囲でDNAを用いることにより観察されるよりも最大で約70倍超低い力価を有することが記載された。
【0093】
したがって、本発明に従えば、充填層表面積について45ng/cm2~185ng/cm2の総量での複数プラスミドDNAおよびPEIトランスフェクション試薬を用いて細胞を一時的トランスフェクションすることを含む、充填層型バイオリアクターでのレンチウイルスベクターの製造のための方法が提供される。
【0094】
本発明のより好ましい態様では、以下のステップ:
(a) 細胞を接種するステップ
(b) 少なくとも1日間、増殖のために細胞を培養するステップ
(c) 充填層表面積について45ng/cm2~185ng/cm2の総量での複数プラスミドDNAおよびPEIトランスフェクション試薬を用いて細胞をトランスフェクションするステップ
(d) 組み換えレンチウイルスベクターを含有する細胞培養上清を回収するステップ
を含む、複数プラスミド一時的DNAトランスフェクションによる、充填層型バイオリアクターでのレンチウイルスベクターの製造のための方法が提供される。
【0095】
別の実施形態では、トランスフェクションは、充填層表面積について45ng/cm2~150ng/cm2の総量での複数プラスミドDNAを用いて行なわれる。
【0096】
さらなる実施形態では、トランスフェクションは、充填層表面積について45ng/cm2~100ng/cm2の総量での複数プラスミドDNAを用いて行なわれる。
【0097】
好ましい実施形態では、トランスフェクションは、1:1に等しいDNA:PEI比率を用いて行なわれる。
【0098】
好ましい実施形態では、複数プラスミドDNAは、レンチウイルスgag/pol遺伝子を担持する1種類のプラスミド、レンチウイルスrev遺伝子を担持する1種類のプラスミド、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子、好ましくは、VSV-Gエンベロープタンパク質をコードする遺伝子を担持する1種類のプラスミド、ならびに上記で開示される通りのレンチウイルスゲノムの必要とされる部分および目的の外来性遺伝子を含むトランスファーベクターを担持する1種類のプラスミドにより構成される。
【0099】
トランスフェクション後培地交換
上記で開示される通り、トランスフェクション時間、すなわち、細胞がトランスフェクション粒子と共にインキュベートされる時間をモニタリングおよび測定すること、ならびにインキュベーション時間の間、バイオリアクター中のトランスフェクション性DNA粒子の一定量を維持することが必要である。本発明に従う製造方法は、トランスフェクションの終了時(すなわち、トランスフェクション後)での培地の交換を含む。そのようなステップは、プロセスの生産性およびバルク生成物中に存在する混入物に関する品質に負の影響を及ぼし得る、DNAトランスフェクション性粒子の、インキュベーション時間の終了時での除去に対して効果的である。充填層型バイオリアクター中の培地の交換は、十分量の新鮮培地を固定速度で供給することにより、灌流様式で行なうことができる。例えば、トランスフェクションの間にバイオリアクター中で用いられる培地の同じかまたは2倍の総体積に対応する量の培地を固定速度で供給することが可能である。あるいは、トランスフェクション後培地交換は、バッチ様式で、すなわち、DNAトランスフェクション性粒子を含有する細胞培養培地をバイオリアクターから排出し、かつ細胞に新鮮培地を添加することにより、行なうことができる。トランスフェクション後培地交換のステップは、DNAトランスフェクション性粒子の除去の結果、トランスフェクションの停止を可能にし、したがって、トランスフェクションの時間、すなわち、細胞が、上記の通りにバルク生成物の感染性ウイルス力価にも影響を及ぼし得る、トランスフェクション粒子と共にインキュベートされる時間を制御することを可能にする。
【0100】
好ましい構成では、本発明の方法は、DNAトランスフェクション性粒子を含有する細胞培養培地をバイオリアクターから排出し、かつ細胞へと新鮮培地を添加することにより、バッチ様式で行なわれる培地の交換を含む。一実施形態では、DNAトランスフェクション性粒子を含有する細胞培養培地のうちの最大98%が、バイオリアクターから除去される。あるいは、DNAトランスフェクション性粒子を含有する細胞培養培地のうちの最大約95%または最大約90%または最大約85%または最大約80%または最大約75%または最大約70%を、バイオリアクターから除去することができる。
【0101】
先行技術は、灌流様式での、トランスフェクション後の培地の完全交換を行なうことを開示する。Valkama et al. 2018は、トランスフェクションの4時間または6時間後に充填層型バイオリアクターに灌流が適用され、その後、灌流での培地の完全交換が、灌流によるLVVの収集中に、トランスフェクションの1日間または2日間後に行なわれる方法を開示する。Leinonen et al 2019は、トランスフェクションの24時間後、灌流によるLVV粒子の収集の開始前に、培地の完全交換まで、トランスフェクション後に灌流を適用することにより行なわれる培地交換を開示する。Mc Carron et al. 2019は、バッチ様式での、トランスフェクション後培地交換、およびそれに続く、バッチ様式でのLVVの収集を開示する。先行技術は、灌流様式でのLVVの収集と組み合わせた、バッチ様式での、トランスフェクション後培地交換を開示していない。
【0102】
実施例に示される通り、驚くべきことに、トランスフェクション後培地交換を行なうための灌流の適用が、バルク生成物の生産性(物理的および感染性ウイルス力価)に対して有害であることが見出された。特に、実施例1.5および関連する表13は、本発明に従う方法(バイオリアクターからの細胞培養培地の排出および細胞への新鮮培地の添加およびそれに続く灌流での回収)を用いて生成されるLVVが、先行技術に開示される通りに、トランスフェクション後培地交換が培地の完全交換まで灌流を適用することにより行なわれるプロセスを用いて得られるものと比較して、より高い物理的力価およびより高い感染性ウイルス力価を有することを示す。さらに、表14に報告される通り、バッチ様式での、トランスフェクション後培地交換は、エンドヌクレアーゼを用いる処理を伴わずに、最終プールでの混入物(プラスミドDNA、総DNAおよびHCP)の低減で有効であるという結果となる。
【0103】
この技術的作用は、それ自体が驚くべきことであるだけでなく、大規模でのバイオリアクターの完全排出およびその後の充満が、細胞が細胞培養培地と共にないままである特定の時間(約50分間)を要することを考慮すれば、全く予期せぬことでもある。そのような技術的制限は、論理的検討として、かつ先行技術の教示に鑑みても、生成に対して問題を引き起こすことが予期された。例えば、国際公開第2018/007873号は、「…大規模では、培地の完全交換は現実的なプロセスステップではなく、なぜなら、これには時間がかかり、かつ排出中には撹拌が閉じられ、上側の担体中の細胞は培地と共にないという事実に起因して、細胞生存率に影響し得るからである」と述べている。
【0104】
対照的に、本出願中のデータは、大規模での細胞培養培地のバッチでの完全除去により引き起こされる生産性および感染性ウイルス力価に対する考えられる有害作用の示唆はないことを示す。実施例1.5では、行なわれる製造実験のうちの1つは、大規模の排出/充満タイミングを模倣するために、バッチ様式での、トランスフェクション後培地交換の間に、細胞培養培地の排出後の50分間の保持時間を含む。50分間の保持時間を含む実験を行なうことにより得られる結果は、灌流様式での、トランスフェクション後培地交換を含む生成実験と比較した、生産性および感染性ウイルス力価の増大を確認する。
【0105】
さらに、実施例3は、大規模で本発明に従う製造方法を行なうことにより得られる結果を示す。大規模でのプロセスの効率を評価するために、小規模(iCellisNano)での実験を、iCellis500での実験と並行して行ない、物理的力価および感染性ウイルス力価に関するデータを、直接的に比較した。大規模で得られる生産性(物理的および感染性ウイルス力価として)および最終生成物の品質(混入物の存在に関して)は、並行して行なわれた小規模実験で得られたものと合致するか、またはより良好でさえある(例えば、実施例3.2に示される物理的および感染性ウイルス力価および感染性ならびに混入物の存在に関して示される通り)。
【0106】
LVV組み換え粒子の収集
回収操作手順およびLVV組み換え粒子の収集のための時間の特定は、効果的な製造プロセスの開発に対する最も重要な目標のうちの1つである。本発明の方法に従えば、組み換えLVVの収集は、上記で開示される通り、バッチで行なわれるトランスフェクション後培地交換の直後に、灌流様式で組み換えLVVを含有する細胞培養培地(本明細書中で、細胞培養上清とも称される)の回収を開始することにより行なわれる。
【0107】
先行技術は、すべてのステップがバッチで行なわれる(Mc Carron et al. 2019など)またはすべてのステップが灌流で行なわれる(Valkama et al 2018またはLeinonen et al 2019でのものなど)、充填層型バイオリアクターを用いるLVVの生成のための方法を開示する。本発明に従う方法では、本発明者らは、トランスフェクション後に、バッチで行なわれるステップと灌流で行なわれるステップとの組み合わせが、効果的かつ再現性の高い製造プロセスの実行に成功をもたらすことを見出した。
【0108】
Mc Carron et al. 2019では、組み換えLVV粒子は、バッチで行なわれるトランスフェクション後培地交換後に、バッチで収集される。バイオリアクター中の細胞培養培地は、トランスフェクションの48時間後およびトランスフェクションの72時間後でのLVV収集のために取り出され、それにより、細胞培養培地中の組み換えLVV粒子の最大蓄積が可能になる。生産性の増大は、トランスフェクション72時間後に観察され、著者らは、トランスフェクション後72時間の後に生産性をさらに評価することを示唆する。トランスフェクションおよびその後の回収に要する合計時間は、4日間である。
【0109】
Valkama et al 2018またはLeinonen et al 2019では、収集は、トランスフェクションから24時間後に灌流で行なわれ、両方の論文中に、トランスフェクションの6時間後でのLVVの非常に低い生成の明らかな示唆がある。さらに、Leinonen et al 2019では、著者らは、トランスフェクション後培地交換(灌流で行なわれる)は生産性の低下を引き起こし、この理由のために、ある種の添加物が、回収のために用いられる培地中に添加されることを述べる。
【0110】
本発明に従う方法では、バッチでの、トランスフェクション後培地交換の実行およびそれに続く灌流での回収によるLVV収集の即時開始は、先行技術で観察される生産性の低下を回避することを可能にする。
【0111】
本発明の方法に従う一実施形態では、灌流での回収は、トランスフェクション後培地交換後の48時間にわたって行なわれる。
【0112】
本発明の方法に従う好ましい実施形態では、灌流での回収は、トランスフェクション後培地交換後の少なくとも39時間にわたって行なわれる。
【0113】
より好ましい実施形態では、トランスフェクション、トランスフェクション後培地交換および灌流での回収のステップが、3日間の合計期間を有する、本発明に従う方法が提供される。
【0114】
特に、実施例2.4は、本発明に従う製造方法の最適化バージョンを用いて得られる結果を示す。実施例は、トランスフェクションおよびその後の回収を3日間で行なう(8時間のトランスフェクションおよびそれに続くバッチでの培地交換および灌流での39時間の回収)ことにより得られる結果を、トランスフェクションおよびその後の回収を4日間で行なう(21時間のトランスフェクションおよびそれに続くバッチでの培地交換および48時間の回収)ことにより得られる結果と比較する。表27に示される通り、トランスフェクション後培地交換および最終的回収が1日間までに見込まれる場合、すなわち、トランスフェクションおよびその後の回収が3日間で行なわれる場合に、感染性ウイルス力価および感染性は、比較的高い。さらに、合計3日間でトランスフェクションおよび回収を行なって得られるプール回収物は、エンドヌクレアーゼ処理を用いずに、検出不可能または分析方法の限界未満である総DNAを含む、比較的低い混入物を有する結果となる。
【0115】
本発明の重要な利点
本発明は、最終的なバルク生成物が、物理的力価、感染性ウイルス力価および感染性に関する高い生産性ならびに低い量の混入物により特徴付けられる、充填層型バイオリアクターでのLVVの製造のための方法に関する。特に、本発明者らは、プロセスの生産性に正に影響する、プロセスの特定のステップを行なうための操作条件の組み合わせを選択した。驚くべきことに、バッチ様式で行なわれるトランスフェクション後培地交換は、灌流様式で行なわれるトランスフェクション後培地交換と直接的に比較した場合に、物理的力価および感染性ウイルス力価に関する生産性に対して正の影響を有する結果となる。上記で開示される通り、先行技術(国際公開第2018/007873号)は、特に大規模では、バイオリアクターからの細胞培養培地の排出を回避することを示唆する。対照的に、実施例3に示されるデータは、大規模で行なわれるプロセスの有効性およびバッチ様式で行なわれるトランスフェクション後培地交換の負の影響を伴わずに、小規模で得られた結果の再現性を証明する。実施例3.2は、一方はiCellis 500(大規模、表面積133m2)で、他方はiCellis nano(小規模、1.06m2)での2種類の製造実験を並行して行なうことにより、大規模での生産性が、小規模で得られるものの2倍の、大規模でのバルク生成物の感染性ウイルス力価および感染性を伴って、より高い結果となることを示す。さらに、トランスフェクション後培地交換と灌流での回収によるLVV収集との組み合わせは、小規模ならびに大規模での総DNA含有量および宿主細胞タンパク質含有量に関して、非常に良好な純度プロフィールにより特徴付けられる最終的なバルク生成物を得ることを可能にする。実施例2.4に示される通り、バルク調製物中の総DNAおよび宿主細胞タンパク質混入物は、エンドヌクレアーゼを用いるいかなる処理も伴わずに、最小限であるかまたは検出不可能でさえある。実施例3.2に示される通り、この結果は、大規模で確認される。先行技術が、純度に関して許容可能な結果を達成するための、プロセスの生成相の間の(すなわち、LVVの収集中の)バイオリアクター中での最初のエンドヌクレアーゼ処理、およびそれに続くバルク調製物のさらなるエンドヌクレアーゼ処理を行なう必要性を開示することを考慮すれば、このことは、さらに驚くべき効果である。
【0116】
さらに、本発明者らは、トランスフェクションでより多量の総DNAを用いて得られるものと比較して、同等またはより高くさえある生産性を得ることを可能にする、バイオリアクターでの、トランスフェクションのために用いられる対象である総DNA量の効果的な範囲を特定する。そのような作用は、バッチ様式で完全にプロセスを稼働させることにより既に観察され、上記で開示される通りの稼働方法のより効果的な組み合わせを適用することによるさらなる改善を伴う。高い生産性を維持しながらの、DNAの総量の低減は、プロセスの経済での重要な利点であり、なぜなら、薬剤調製物のためのLVVの大規模製造は、GMPグレード原材料の使用を必要とし、DNAプラスミドは、最も高価な材料のうちに入るからであり、したがって、コストに対する顕著な正の影響がある。例えば、実施例3.2に報告されるデータは、91ng/cm2の総量での複数プラスミドDNAをトランスフェクションで用いて、iCellis 500での大規模な生成実験を行なうことにより、60ng/cm2の物理的力価、小規模での同じプロセスを用いて得られるものと比較して2倍の感染性ウイルス力価および低い不純物プロフィールを有するバルク調製物を得ることが可能であったことを示す。データは、小規模ならびに大規模でのプロセスの再現性および有効性を示す。さらに、実施例4に報告されるデータは、トランスフェクションで用いられる複数プラスミドDNAの総量を60ng/cm2または45ng/cm2までさらに減少させることにより、物理的力価に関する生産性が実質的に維持され、かつ良好なレベルの感染性ウイルス粒子が観察されることを示す。
【実施例
【0117】
実施例1:iCELLis nano 0.53m2でのレンチウイルスベクター生成の説明
実施例1.1:材料および方法
パッケージング細胞および細胞培養培地
レンチウイルスベクターは、フェノールレッド不含IMDM、10%FBSおよび2%L-グルタミンまたは2%Glutamax中で培養されるHEK293Tにより生成される。
【0118】
バイオリアクター
実行可能性研究の間、本実施例1に記載されるすべての実験を、表1に報告される特性(characteristics)を用いてiCELLis nanoで行なった。
【0119】
【表1】
【0120】
プラスミド
用いられる複数プラスミドDNAシステムは、4種類の別個のプラスミドを含む第3世代LVVパッケージングシステムである:gag-pol遺伝子を担持する1種類のプラスミド(pGag/Pol)、revをコードする1種類のプラスミド(pREV)、VSV-g遺伝子を担持する1種類のプラスミド(pENV-VSV-G)、およびGFPタンパク質をコードする遺伝子を担持する1種類のトランスファーベクタープラスミド(pTransfer-GFP)。
【0121】
分析方法
以下の分析方法が、プロセス成績(preformance)を評価するために適用された:
・物理的ウイルス力価:この分析方法は、物理的粒子の濃度を評価するために用いることができる、p24 HIVタンパク質を定量化するためのELISAである。
・感染性ウイルス力価:この分析方法は、参照CEM A3.01細胞株の形質導入に基づく。GFPタンパク質の発現は、FACS分析により評価される。
・残留宿主細胞タンパク質:この分析方法は、LVVサンプル中のHEK-293Tパッケージング細胞株由来の残留タンパク質を定量化するためのELISAである。
・残留総DNA:この分析方法は、残留DNAを染色し、かつその定量化を可能にする蛍光色素に基づく。
【0122】
製造プロセスの概要
実施例1に開示される実験で適用されるプロセスのフローチャートを、図1に報告する。簡潔には、各実験に関して、細胞を、フェノールレッド不含かつ10%FBSおよび2%L-グルタミン(またはglutamax)を含むIMDM中、フラスコ中で増殖させた。分割後、細胞を、バイオリアクターiCELLis nano中に接種した(5000細胞/cm2)。pH、DO%、グルコースおよび乳酸塩濃度がモニタリングされる増殖相の後、培養培地を、新鮮な完全培地を用いて交換し、3日目または4日目にトランスフェクションステップを行なった。18時間後、プラスミドDNAおよびPEI Proのあらゆる残留物を除去するために、新規培地交換を行なった。2種類の回収物を、トランスフェクションステップの48時間後および72時間後に収集した。各回収物由来のレンチウイルスベクターを0.45μmでろ過し、試験のためのサンプル中で-65℃未満で保存した。本実施例1に示される実験での実行(run)PDE_B17054 Bからは、灌流様式で回収を行ない、かつLVベクターを48時間の灌流後に収集した。
【0123】
トランスフェクションステップ
本実施例1に開示されるすべての実験で、LVベクターの生成を、使用が容易であり、再現性および一貫性が高い水準であるポリエチレンイミン(PEI)媒介トランスフェクション法を用いて行なった。PEIトランスフェクションプロトコールで用いられる対象であるプラスミドDNAの適切な量を特定するために、他の細胞培養系(フラスコなど)で機能的であり、かつ先行技術に開示される量と合致する量(すなわち、Valkama et al 2018に開示される通りの、表面積について300ng/cm2~400ng/cm2またはLeinonen et al 2019に開示される通りの200~300ng/cm2)から開始して、実行可能性研究を行なった。用いられるPEIの量は、PEIとDNAとの間の1:1の比率を維持するために設定されている。
【0124】
トランスフェクションのプロトコール:
・トランスフェクションの1時間前に、予温した完全培地を用いて培地交換を行なう。
・不含IMDM(IMDM free)中で適正量のプラスミドDNAを希釈して、DNAミックスを調製する。
・不含IMDM中に適正量のPEIを希釈する。
・希釈したDNAを含有する試験管中に希釈したPEIを移し、混合する。
・製造業者の説明書に従って最終ミックス(1つのバイオリアクターに対して100mL)をインキュベートする。
・バイオリアクターへとミックスを移す。
【0125】
実施例1.2:総DNAの量
実験のこの第1の群では、0.53m2の表面積を有するiCellis Nanoバイオリアクターでの製造実験の実行(performance)のために、以下の条件を適用した:
・細胞播種密度5000c/cm2
・18時間でのバッチでの、トランスフェクション後培地交換;
・トランスフェクションの48時間後および72時間後に行なわれる2回の回収。
【0126】
トランスフェクションのためのDNAの最適量を調べた。各実験に対して、接種後の3日目にトランスフェクションを行なった。実行PDE_M16142、PDE_M16155 Bio1およびPDE_M16177では、181ng/cm2の総量でDNAを用いてトランスフェクションを行なった。異なる比率を調べるために、2倍量のDNA(2×)、すなわち、363ng/cm2(先行技術で開示されるDNA量に合致する)を実行PDE_M16121 Bio1で用い、半分量(1/2)、すなわち、91ng/cm2を実行PDE_M16155 Bio2で用いた。用いられた様々な条件を、表2にまとめる。
【0127】
【表2】
【0128】
簡潔には、すべての実験で、5000細胞/cm2をiCELLis nanoに接種した。細胞生育をモニタリングし、pH、乳酸塩およびグルコース濃度を測定するために、3日目~6日目にサンプル採取を行なった。すべての実験の間、トランスフェクション前の3日目に、3個のマイクロ担体を各バイオリアクターから取り出し、かつ溶解させ;1cm2に対する細胞密度を推定するために、核計数を行ない;消耗した培養培地を除去し、新鮮培地を用いて交換した。PEI媒介トランスフェクションを、以前に記載されたプロトコール(実施例1.1)に従って行なった。トランスフェクションの18時間後に、消耗した培養培地を除去し(バイオリアクターから排出し)、かつ生成のための新鮮培地を用いて交換した。バッチでの2回の回収を、培地交換の24時間後、48時間後に行なった。
【0129】
トランスフェクションの日での1cm2に対する細胞数および3日目~6日目に生成された乳酸塩(mg/mL)を、表3に報告する。
【0130】
【表3】
【0131】
結果を表4にまとめる。
【0132】
【表4】
【0133】
この結果が示す通り、181ng/cm2および91ng/cm2の量での総DNAをトランスフェクションで用いて得られるバルク生成物は、363ng/cm2の総DNAを用いて得られる実行と比較して高い生産性を有する結果となる。この理由のために、以下の実行では、962μgをトランスフェクションステップのために用いた。
【0134】
実施例1.3:トランスフェクションミックスのインキュベーション
以下の実験の群では、バイオリアクター当たり962μgの総量の複数プラスミドDNA(すなわち、181ng/cm2表面積)および962μgの総量のPEI PRO(1μg/μL)を用いて、0.53m2の表面積を有するiCellis Nanoバイオリアクターで、3日目にトランスフェクションを行なった。実行PDE_B17028 Aでは、比較的早い培地交換が強化されたLVV生産性に関連するかを調べるために、トランスフェクション相の開始の6時間後に、培地交換を行なった。プロセス中で用いられるFBSの量を減少させるために、実行PDE_M17028Bでは、生成相の間の血清のパーセンテージの低減(2.5%)を調べた。
【0135】
様々な試験された条件を、表5に示す。
【0136】
【表5】
【0137】
5000細胞/cm2を0日目にiCELLis nanoに接種した。細胞生育をモニタリングするために、3日目~6日目にサンプル採取を行ない;トランスフェクション前の3日目に、3個の担体を各バイオリアクターから取り出し、かつ溶解させ;1cm2に対する細胞密度を推定するために、核計数を行なった。消耗した培養培地を除去し、新規生育培地を用いて交換し、Pei媒介トランスフェクションを行なった。トランスフェクションステップの18時間後(実行PDE_M17028Aに対しては6時間)、バッチ様式での消耗培地交換を行なった。実行PDE_M17028 Bでは、消耗した培地を、IMDM 2.5%FBSおよび2%L-グルタミンを用いて置き換えた。以前の実行と同様に、バッチでの2回の回収を、培地交換の24時間後および48時間後に行なった。
【0138】
プール回収物の物理的および感染性ウイルス力価ならびに感染性の結果を、表6にまとめる。
【0139】
【表6】
【0140】
実行PDE_M17028 Aの結果は、トランスフェクション(トランスフェクションミックスとの細胞の6時間のインキュベーション)後の比較的早い培地交換がベクターの生成を減少させたことを示し;回収相の間のFBSのパーセンテージの低減(PDE_M17028 B)は、生成に対して影響を有しなかったが、LVベクターのウイルス力価および感染性を低減させた。
【0141】
実施例1.4:灌流での回収によるLVVの収集
生成されるウイルスベクターの感染性を増大させ、かつiCELLis 500の回収の間の排出/充満時間を回避するために、実行PDE_B17133では、灌流での回収を評価し、かつバッチでの回収と比較した。詳細には、PDE_B17133 Aは、バッチでの2回の回収を用いて行ない、実行PDE_B17133Bでは、LVベクターを灌流様式で回収した。両方のバイオリアクターが、トランスフェクション相まで、同じプロセスに従った。簡潔には、2つのバイオリアクターに、0日目に5000細胞/cm2を接種した。3日間後、完全培地を用いるトランスフェクション前培地交換を行ない;それに、以前の実行で従った同じプロトコールを用いるトランスフェクションが続いた。18時間後、バッチでの、トランスフェクション後培地交換を、新規完全培地を用いて行なった。細胞生育をモニタリングするために、3日目~6日目にサンプル採取を行ない;トランスフェクション前に、3個の担体を各バイオリアクターから取り出し、かつ核計数を行なうために溶解させた。
【0142】
PDE_B17133 Aでは、上清を、固定速度(13.5mL/時間の速度)を用いる灌流で収集した:新鮮培地を、バイオリアクターに連結されたINボトルへと移し、48時間で灌流させた。灌流での回収の間、上清を、OUTボトル中に収集した。OUTボトルからのサンプルを、培地交換の24時間後および48時間後に収集し、0.45μmでろ過し、-65℃未満で保存した。48時間で、バイオリアクター内部およびOUTボトル中の上清をプールし、ろ過し、-65℃未満で保存した。プールからのサンプルを収集し、0.45μmでろ過し、-65℃未満で保存した。
【0143】
PDE_B17133 Bでは、2種類の回収物を、トランスフェクション後培地交換の24時間後および48時間後にバッチで収集した。各回収物からのサンプルを収集し、-65℃未満で保存した。プロセスの終了時に、2種類の回収物をプールし、ろ過し、-65℃未満で保存した。
【0144】
表7に、2つのバイオリアクターに対して用いた条件をまとめる。
【0145】
【表7】
【0146】
結果を表8に報告する。
【0147】
【表8】
【0148】
この結果は、2つのバイオリアクターから得られる物理的および感染性ウイルス力価ならびに感染性が同等であったことを実証した。導入された条件(バッチでの、トランスフェクション後培地交換後に開始される灌流で回収された上清)は、バッチでの回収物の生産性の同じレベルを維持することを可能にする。
【0149】
実施例1.5:トランスフェクション前の培養条件
iCellis 500での大規模化を最適化し、かつプロセスのすべての相での排出/充満時間を回避するために、バッチでの、トランスフェクション前培地交換に対する代替手段を評価した。特に、実行PDE_B18034およびPDE_B18068では、灌流および再循環での培地交換を導入した。表9は、各実行で調べた条件を示す。
【0150】
【表9】
【0151】
簡潔には、各バイオリアクターiCellis nanoに、5000細胞/cm2を用いて3日目に接種し、pH、乳酸塩およびグルコースをモニタリングするために、3日目~6日目にサンプル採取を行なった。
【0152】
3日目に、トランスフェクション前培地交換を、以下に説明される通りに行った:
・PDE_B18034 AおよびPDE_B18068 B:消耗した培地を、灌流様式で新規生育培地を用いて交換した。灌流体積は1300mLであった。
・PDE_B18034 B:バッチで培地交換を行ない;消耗した培地を除去し、650mLの新規生育培地を用いてバイオリアクターを満たした。
・PDE_B18068 C:消耗した培地を、灌流様式で新規生育培地を用いて交換した。灌流体積は650mLであった。
【0153】
PDE_B18068A:この実行では、培地交換は行なわなかったが、接種後1日目に、650mLの新鮮培地を用いて、3日目まで再循環を開始した。
【0154】
PEI媒介トランスフェクションを、実施例1.3に開示される通りに行なった。トランスフェクション相からプロセスの終了まで、48時間にわたる灌流での回収を、3つのバイオリアクターで行なった。灌流相の間、物理的および感染性ウイルス力価(viral title)を測定するために、OUTボトルから、培地交換の24時間後および48時間後でサンプルを収集した。
【0155】
PDE_B18034およびPDE_B18068からの合計プールを、物理的および感染性ウイルス力価(viral title)に関して試験した。
【0156】
実験の物理的および感染性ウイルス力価(viral title)ならびに感染性の結果を、表10に報告する。
【0157】
【表10】
【0158】
この結果は、LVベクターの生産性が、増殖のための細胞培養が灌流または再循環様式での培地交換を用いて行なわれる実行では、標準的な条件(実行PDE_B18034B、バッチで行なわれる培地交換)と比較した場合に、より高いことを実証した。
【0159】
実施例1.5:トランスフェクション後培地交換
この実験の群の目標は、トランスフェクション後培地交換を行なうための最良の技術的解決法の研究であった。
【0160】
詳細には、実行PDE_B18080 Aでは、容器の排出および充満を回避するために、トランスフェクション後培地交換を灌流で行なった(iCellis 500では労力を要しかつ困難であり、国際公開第2018/007873号などの先行技術では推奨されていない)。トランスフェクションの18時間後、1300mLの完全新鮮IMDMを、培地のうちの90%を交換するために、9mL/分の比率で灌流した。
【0161】
実行PDE_B18080 Bでは、iCELLis 500の排出/充満タイミングを模倣するために、50分間の保持時間を、バッチでの、トランスフェクション後培地交換中に導入した。トランスフェクション相の18時間後、消耗した培地を除去し、16mLのみを内部に残して、バイオリアクターを50分間、空のままにし;この培地の量は、システムの技術的制限に起因して、排出中にiCellis 500で回収することができない体積に対応する。50分間後、バイオリアクターを、新たな新鮮培地を用いて満たした。
【0162】
PDE_B18080Cでは、導入された新規条件と比較するために、トランスフェクション後培地交換を、標準的な条件(バッチ、保持時間なし)を用いて行なった。
【0163】
プラスミド残留DNAを評価するために、トランスフェクション後培地交換の前および後に、3つのバイオリアクターからサンプル採取を行なった。バイオリアクターAでは、半分の体積の灌流後に、容器からサンプル採取を行なった。
【0164】
様々な培地交換条件を、表11にまとめる。
【0165】
【表11】
【0166】
プロセスの他の相の間、3つすべてのバイオリアクターは、以前の実行で設定され、かつ表12に報告される標準的な条件に従った。
【0167】
【表12】
【0168】
3つのバイオリアクターの合計プールを、物理的および感染性ウイルス力価、HCP、プラスミドおよび総残留DNAに関して試験した。
【0169】
結果を表13および表14に報告する。
【0170】
【表13】
【0171】
【表14】
【0172】
この結果が示す通り、バッチで行なわれるトランスフェクション後培地交換を用いて行なわれた実行(PDE_B18080 C)よりも、灌流様式での、トランスフェクション後培地交換を用いて行なわれたバイオリアクターA(PDE_B18080 A)では、LVベクターの生産性は低かったことが、驚くべきことに見出された。保持時間を伴ってバッチ様式で行なわれたトランスフェクション後培地交換を用いる実行PDE_B18080Bの生産性もまた、灌流で行なわれるトランスフェクション後培地交換を用いて行なわれた実行(PDE_B18080 A)で得られたものよりも高く、かつ実行PDE_B18080 Cよりも高くさえあり、一方で、実行PDE_B18080 Bの感染性ウイルス力価は、実行PDE_B18080 Cと同じである。混入物、HCP、プラスミドおよび総DNAの量は、2種類の実行PDE_B18080 BおよびPDE_B18080 Cの間で同等である。iCellis 500での大規模へのスケールアップを考えると、iCellis nanoでの保持時間を伴うバッチでの培地交換は、大規模iCellis 500で行なわれる実行と、より合致する(50分間は、バイオリアクターの排出および充満に必要な時間であるため)。したがって、大規模での実行の性能をより忠実に代表する。
【0173】
実施例2:iCELLis nano 1.06m2でのレンチウイルスベクター生成
実施例2.1:材料および方法
パッケージング細胞および細胞培養培地
本実施例2.1に記載されるLVVベクターの生成は、HEK293T細胞株を用いて行なった。HEK293T細胞を解凍し、IMDM 10%FBS、2%Glutamax中で増殖させた。
【0174】
バイオリアクター
0.53m2の表面積を有するバイオリアクターiCellis Nanoで1回の実行が行なわれた実施例2.2の最初の実験を除いて、実施例2.2および2.3に記載される他のすべての実行は、1.06m2の表面積を有するバイオリアクターiCellis Nanoを用いて行なった。2種類の支持体の特性を、表15に報告する。
【0175】
【表15】
【0176】
プラスミド
本実施例2中のiCELLis nanoでのLVVベクターの生成で用いられる複数プラスミドDNAシステムは、4種類の別個のプラスミドを含む第3世代LVVパッケージングシステムである:gag-pol遺伝子を担持する1種類のプラスミド(pGag/Pol)、revをコードする1種類のプラスミド(pREV)、VSV-g遺伝子を担持する1種類のプラスミド(pENV-VSV-G)、およびGFPタンパク質をコードする遺伝子を担持する1種類のトランスファーベクタープラスミド(pTransfer-GFP)。
【0177】
分析方法
以下の分析方法が、プロセス実行を評価するために適用された:
・物理的ウイルス力価:この分析方法は、物理的粒子の濃度を評価するために用いることができる、p24 HIVタンパク質を定量化するためのELISAである。
・感染性ウイルス力価:この分析方法は、参照CEM A3.01細胞株の形質導入に基づく。GFPタンパク質の発現は、FACS分析により評価される。
・残留宿主細胞タンパク質:この分析方法は、LVVサンプル中のHEK-293Tパッケージング細胞株由来の残留タンパク質を定量化するためのELISAである。
・残留総DNA:この分析方法は、残留DNAを染色し、かつその定量化を可能にする蛍光色素に基づく。
【0178】
製造プロセスの概要
実施例2に開示される実験で適用されるプロセスのフローチャートを、図2に報告する。簡潔には、各実験に関して、細胞を、フェノールレッド不含かつ10%FBSおよび2%Glutamaxを含有するIMDM中、T-フラスコ中で増殖させた。分割後、細胞を、バイオリアクターiCELLis nano中に接種した(5000細胞/cm2)。pH、DO%、グルコースおよび乳酸塩濃度をモニタリングした増殖相後、培養培地を、新鮮な完全培地を用いて交換し(灌流で、または再循環を通して)、3日目にトランスフェクションステップを行なった。21時間後、プラスミドDNAおよびPEI Proのすべて残留物を除去するために、バッチでの培地交換を行なった。灌流様式で回収を行なった。レンチウイルスベクター上清を、トランスフェクション後培地交換の48時間後に収集した。実行PDE_B18030からは、より高い感染性を有するベクター上清を収集するために、トランスフェクション後培地交換および回収は、それぞれ3日目および5日目に見込まれた。灌流での回収中のレンチウイルスベクターサンプルを0.45μmでろ過し、試験のために-65℃未満で保存した。
【0179】
トランスフェクションステップ
本実施例2に報告されるすべての実験で、LVVベクターの生成を、ポリエチレンイミン(PEI)媒介トランスフェクション法を用いて行なった。実施例1で以前に試験されたμgのプラスミド/mLの量を用いて、最適化研究を行なった。実行PDE_B18187まで、DNA/細胞比を維持し、1.06m2バイオリアクターでは、トランスフェクションミックスの体積ならびにDNAおよびPEIの量を2倍にした(1924μg総DNA)。続いて、DNA/細胞の量を半分にし、0.53m2 iCELLis nanoの同じ体積のトランスフェクションミックスおよびDNA/mL比率を用いた(962μg総DNA)。用いられるPEIの量は、PEIとDNAとの間の1:1の比率を維持するために設定されている。
【0180】
3日目でのトランスフェクションのためのプロトコール:
1. トランスフェクションの1時間前に、予温した完全培地を用いて灌流で(提供される場合のみ)培地交換を行なう。
2. 不含IMDM中で適正量のDNAを希釈して、バイオリアクターに対して総DNAミックスを調製する。
3. 不含IMDM中に適正量のPEIを希釈する。
4. 希釈したDNAを含有する試験管中に希釈したPEIを移し、混合する。
5. 製造業者の説明書に従って最終ミックスをインキュベートする。
6. バイオリアクターから適正体積を除去し、バイオリアクターへとミックスを移す。
【0181】
実施例2.2:iCELLis nano 1.06m2およびiCELLis nano 0.53m2での製造
この最初の実験群の目標は、以下の点を試験することであった:
・1.06m2の面積を有するバイオリアクター;
・細胞培養の間の再循環;
・回収体積の低減。
【0182】
これらすべての実験では、5000細胞/cm2を0日目にiCELLis nanoに接種した。フラスコT225中での増殖相後、26.5×106細胞(0.53m2バイオリアクター中)および53×106細胞(1.06m2バイオリアクター中)を、バイオリアクターに接種した。対照ペトリ皿には、トランスフェクション相をモニタリングするために、5.50×105細胞/ペトリで並行して播種した。
【0183】
pH、乳酸塩およびグルコース濃度を測定するために、プロセスの間にバイオリアクターからサンプル採取を行なった。最初の2回の実行では、3日目に、3個の担体を各バイオリアクターから取り出し、かつ溶解させ;1cm2に対する細胞密度を推定するために、核計数を行なった。
【0184】
増殖のための細胞培養の間の再循環様式を評価した。すべての実験に関して、PEI媒介トランスフェクションを、実施例2.1に記載されるプロトコールに従って行なった。0.53m2 iCELLis nanoに対するトランスフェクションミックスを、総体積100mL中の962μgの総DNA(181ng/cm2の表面積に対応する)および962μg PEIを用いて調製した。1.06m2 iCELLis nanoでは、トランスフェクションミックスの体積ならびにDNAおよびPEIの量は2倍にした。トランスフェクションの21時間後、消耗した培養培地を除去し、50分間の保持時間後、生成のための新鮮培地を用いて置き換えた。灌流での回収を、トランスフェクション後培地交換の48時間後まで行なった。
【0185】
【表16】
【0186】
生育速度をモニタリングするために、細胞/cm2の数および生成された乳酸塩の量(mg/mL)を評価し、表17に報告する。
【0187】
【表17】
【0188】
P24およびTUに関するウイルス力価の結果を、表18にまとめる。
【0189】
【表18】
【0190】
プール回収物のHCPおよび総DNAの量を、表19に報告する。
【0191】
【表19】
【0192】
この結果は、1.06m2 iCELLisバイオリアクター中で生成されたベクターの感染性ウイルス力価が、0.53m2 iCELLis nano中で生成されたものよりも高いことを実証する。再循環様式は、LVVベクターの細胞生産性に対していかなる悪化も引き起こさず、かつ培地交換を置き換える。
【0193】
実施例2.3:iCELLis nano 1.06m2での製造
本実施例2.3では、前の実行(実施例2.2)で設定された条件を維持した:
・1.06m2 iCELLisバイオリアクター;
・トランスフェクション前培地交換なし;
・細胞培養の間の再循環;
・灌流での回収。
【0194】
1.06m2の表面積を有するバイオリアクターでのトランスフェクションステップおよびトランスフェクション後培地交換を調べた。実行PDE_B18197では、細胞のDNA/n°の様々な比率およびDNA/mLを試験した。Bio1では、実施例2.2で用いた同じトランスフェクション条件を適用した(すなわち、1924μg総DNA、すなわち、表面積について181ng/cm2、1924μg PEI、200mLのトランスフェクションミックス体積中)。Bio2では、1.06m2バイオリアクターを用いる前の実験と比較して、半分の体積のトランスフェクションミックス(100mL)を用いた。したがって、細胞比率のDNA/n°を維持したが、DNAおよびPEIの濃度は総体積に合わせて2倍とした。Bio3では、0.53m2 iCELLis nanoに対して用いられた同じ体積(100mL)およびDNA(962μg、すなわち、表面積について91ng/cm2)およびPEI(962μg)の量を試験した。このようにして、DNA/mL比率は維持したが、DNAおよびPEIの量は、細胞数と比較して半分とした。
【0195】
用いた様々な条件を、表20にまとめる。
【0196】
【表20】
【0197】
実行PDE_B19013では、PDE_B18197 Bio3の条件を再現したが、トランスフェクションステップおよびその後の培地交換に対する異なるタイミングを試験した。Bio1では、以前の条件を維持し(月曜日11:30でのトランスフェクションおよび火曜日午前中での、トランスフェクション後培地交換);Bio2では、トランスフェクションステップおよび培地交換の両方を、月曜日に、それぞれ9:30および17:30に行なった。Bio3は、Bio2と同様に行なったが、月曜日からの2時間の遅延を伴った。3つすべてのバイオリアクターで、灌流での回収を、トランスフェクション後培地交換後に開始した。
【0198】
簡潔には、5000細胞/cm2を0日目にiCELLis nanoへと接種した。トランスフェクションのための細胞培養の間に、培地再循環を行なった。続いて、トランスフェクションステップおよびバッチでの、トランスフェクション後培地交換を、以前に記載された通りに行なった。灌流での回収を、トランスフェクション後培地交換後に開始した。
【0199】
細胞生育をモニタリングするために、3日目~6日目(午前および午後)にサンプル採取を行なった。
【0200】
実験条件を、表21にまとめる。
【0201】
【表21】
【0202】
生育速度をモニタリングするために、細胞/cm2の数および生成された乳酸塩の量(mg/mL)を評価し、表22に報告する。
【0203】
【表22】
【0204】
プール回収物の物理的および感染性ウイルス力価ならびに感染性の結果を、表23にまとめる。
【0205】
【表23】
【0206】
プール回収物のHCPおよび総DNAの量を、表24に報告する。
【0207】
【表24】
【0208】
この結果は、実験PDE_B18197 Bio3でのP24に関するLVVベクターの生成が、Bio1と同じであり、かつBio2よりも高いことを示し、このことは、驚くべきことに、半分の総量のDNAを用いて同じかまたは高くさえある生産性を得ることが可能であったことを実証する。さらに、この条件は、感染性ウイルス力価を改善し、したがって感染性の増大をもたらす。
【0209】
実行PDE_B19013での21時間から8時間へのトランスフェクション時間の低減は、物理的ウイルス力価を大きくは減少させないが、感染性を増大させる。特に、この結果は、水曜日でのBio2およびBio3の感染性が、回収が木曜日までに行なわれた他の実行よりも高いことを示す。実行PDE_B19013 Bio2およびBio3のHCPおよび総DNAの結果は、以前の実行よりも低く、このことは、上清が比較的低い不純物の存在を有することを実証する。
【0210】
実施例2.4:3日間でのトランスフェクションおよび回収
得られた結果を確認するために、実施例2.3で以前に試験され、かつ最良として選択された条件を、表25に記載される実行で再度行なった。
【0211】
【表25】
【0212】
以前の実行と同様に、5000細胞/cm2を0日目にiCELLis nanoへと接種した。1300mLの新鮮培地を用いて、3日目まで、培地再循環を行なった。PEI媒介トランスフェクションを10:00amに行ない、バッチでの、トランスフェクション後培地交換を8時間後に行ない、両方とも3日目であった。灌流での回収を、トランスフェクション後培地交換後に開始した。細胞生育をモニタリングするために、3日目~6日目にサンプル採取を行なった。
【0213】
生育速度をモニタリングするために、生成された乳酸塩の量(mg/mL)を評価し、表26に報告する。
【0214】
【表26】
【0215】
最終的なプール回収物の物理的および感染性ウイルス力価ならびに感染性の結果を、表27に報告する。
【0216】
【表27】
【0217】
プール回収物のHCPおよび総DNAの量を、表28に報告する。
【0218】
【表28】
【0219】
この結果が示す通り、感染性ウイルス力価および感染性は、トランスフェクション後培地交換および最終的な回収が1日間までに見込まれる場合、すなわち、トランスフェクションおよび回収が3日間で行なわれる場合に、より高い。さらに、合計3日間でトランスフェクションおよび回収を行なって得られるプール回収物は、検出不可能であるかまたは分析方法の限界未満である総DNAを含む、比較的低い混入物を有する結果となる。
【0220】
実施例3:iCellis 500での製造
実施例3.1:66m2の表面積を有するiCellis 500での製造
66m2の表面積を有するiCellis500および0.53m2の表面積を有するiCellis nanoでの2種類の並行ベクター生成を、表29にまとめた通りに行なった。プロセスは、293-T細胞株ならびに実施例1および2で用いた第3世代複数プラスミドDNAシステムを用いて行なった。
【0221】
【表29】
【0222】
清澄化後ベンゾナーゼ前サンプルのiCellis500とiCellis nanoとの間の比較可能性を、表30に報告する。
【0223】
【表30】
【0224】
この結果は、iCellis 500へとプロセスを大規模化することにより、生産性が維持され、感染性ウイルス力価および感染性は、iCellis nanoを用いて得られたデータと比較して改善される結果となることを示す。2種類の実行の不純物プロフィールは、同等かつ許容可能である。
【0225】
実施例3.2:表面積133m2を有するiCellis 500での製造
133m2の表面積を有するiCellis500および1.06m2の表面積を有するiCellis nanoでの2種類の並行ベクター生成を、表31にまとめた通りに行なった。プロセスは、293-T細胞株ならびに実施例1および2で用いた第3世代複数プラスミドDNAシステムを用いて行なった。
【0226】
【表31】
【0227】
清澄化前サンプルのiCellis500とiCellis nanoとの間の比較可能性を、表32に報告する。
【0228】
【表32】
【0229】
この結果は、iCellis 500へとプロセスを大規模化することにより、生産性が維持され、感染性ウイルス力価および感染性は、iCellis nanoを用いて得られたデータと比較して改善される(2倍の感染性ウイルス力価および感染性)結果となることを示す。2種類の実行で得られたバルク生成物の不純物プロフィールは同等であり、かつ大規模ならびに小規模での生成物の総DNA含有量が、用いた分析方法の検出限界未満という結果となり、そのような結果が、エンドヌクレアーゼを用いる処理前に収集されたサンプルに対して得られる。
【0230】
実施例4:最小限の総DNA量
この実験の目標は、45ng/cm2および60ng/cm2の総量でDNAを用いてトランスフェクションを行なうことにより得られるプロセスの生産性の評価である。
【0231】
パッケージング細胞および細胞培養培地
本実施例4に記載されるLVVベクターの生成は、HEK293T細胞株を用いて行なった。HEK293T細胞を解凍し、IMDM 10%FBS、2%Glutamax中で増殖させた。
【0232】
バイオリアクター
1.06m2の表面積を有するバイオリアクターiCellis Nanoを用いて実験を行なった。
【0233】
【表33】
【0234】
プラスミド
本実施例4中のiCELLis nanoでのLVVベクターの生成のために、用いられる複数プラスミドDNAシステムは、4種類の別個のプラスミドを含む第3世代LVVパッケージングシステムである:gag-pol遺伝子を担持する1種類のプラスミド(pGag/Pol)、revをコードする1種類のプラスミド(pREV)、VSV-g遺伝子を担持する1種類のプラスミド(pENV-VSV-G)、およびGFPタンパク質をコードする遺伝子を担持する1種類のトランスファーベクタープラスミド(pTransfer-GFP)。
【0235】
分析方法
以下の分析方法が、プロセス実行を評価するために適用された:
・物理的ウイルス力価:この分析方法は、物理的粒子の濃度を評価するために用いることができる、p24 HIVタンパク質を定量化するためのELISAである。
・感染性ウイルス力価:この分析方法は、参照CEM A3.01細胞株の形質導入に基づく。GFPタンパク質の発現は、FACS分析により評価される。
【0236】
製造プロセスの概要
本実施例4で行なわれるプロセスを、表34にまとめる。
【0237】
【表34】
【0238】
トランスフェクションステップ
LVVベクターの生成を、ポリエチレンイミン(PEI)媒介トランスフェクション法を用いて行なった。Bio1では、表面積について45ng/cm2の総量で複数プラスミドDNAを用いてトランスフェクションを行ない、Bio2では、表面積について60ng/cm2の総量で複数プラスミドDNAを用いてトランスフェクションを行なった。Bio1およびBio2の両方で、用いられるPEIの量は、PEIとDNAとの間の1:1の比率を維持するために設定されている。
【0239】
3日目でのトランスフェクションのためのプロトコール:
1. 不含IMDM中で適正量のDNAを希釈して、バイオリアクターに対して総DNAミックスを調製する。
2. 不含IMDM中に適正量のPEIを希釈する。
3. 希釈したDNAを含有する試験管中に希釈したPEIを移し、混合する。
4. 製造業者の説明書に従って最終ミックスをインキュベートする。
5. バイオリアクターから適正体積を除去し、バイオリアクターへとミックスを移す。
【0240】
得られた結果を表35に示し、表35は、Bio1およびBio2で得られた物理的粒子およびウイルス力価、ならびに第3列では、表面積について90ng/cm2の総量で複数プラスミドDNAをトランスフェクションで用いることにより行なわれる実行の示された回数(「n」)で得られた同じパラメーターの値の中央値を示す。
【0241】
【表35】
【0242】
この結果は、60ng/cm2および45ng/cm2へとトランスフェクションでの複数プラスミドDNAの総量を低減させることにより、物理的粒子に関する生産性が実質的に維持されることを示す。ウイルス力価では、60ng/cm2または45ng/cm2の総複数プラスミドDNAを用いて若干の減少が観察されるが、得られたデータは、それでも、驚くべきことに、トランスフェクションが表面積について181ng/cm2を用いて行なわれ、かつ観察されたTU/cm2がそれぞれ2.2E+06および1.7E+06であった(表23に示される通り)、実行PDE_B18197 Bio1およびPDE_B18197 Bio2に関して実施例2.3で観察されるものと同等である、感染性ウイルス粒子の良好なレベルを明らかにする。
図1
図2
【国際調査報告】