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特表2023-524214導波光学系に塗布するための反射防止被膜とその形成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-09
(54)【発明の名称】導波光学系に塗布するための反射防止被膜とその形成方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/11 20150101AFI20230602BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20230602BHJP
【FI】
G02B1/11
G02B1/115
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022565601
(86)(22)【出願日】2021-04-13
(85)【翻訳文提出日】2022-12-22
(86)【国際出願番号】 US2021026999
(87)【国際公開番号】W WO2021221898
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】63/016,406
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】カンジェミ,マイケル ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ビン
【テーマコード(参考)】
2K009
【Fターム(参考)】
2K009BB02
2K009BB14
2K009BB24
2K009CC03
2K009CC06
2K009DD01
2K009DD02
(57)【要約】
相対的に高い屈折率を有する第1の材料を各々が含む複数の第1の層と、相対的に低い屈折率を有する第2の材料を各々が含む複数の第2の層と、を有する反射防止被膜。第1の材料を含む第1の層の総厚さが約120nm以下である。さらに、本反射防止被膜は、光が全反射で伝播する際に、約425nm~約495nmの全波長において、光のs偏光とp偏光との平均の反射1回当たりの光の吸収が約0.25%以下となるように構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に高い屈折率を有する第1の材料を各々が含む複数の第1の層と、
相対的に低い屈折率を有する第2の材料を各々が含む複数の第2の層と、
を有する反射防止被膜であって、
前記第1の材料を含む前記第1の層の総厚さが約120nm以下であり、
光が全反射で伝播する際に、約425nm~約495nmの全波長において、前記光のs偏光とp偏光との平均の反射1回当たりの前記反射防止被膜による前記光の吸収が約0.25%以下となるように構成されている反射防止被膜。
【請求項2】
光が全反射で伝播する際に、約425nm~約495nmの全波長において、前記光のs偏光とp偏光との平均の反射1回当たりの前記反射防止被膜による前記光の吸収が約0.20%以下となるように構成されている、請求項1に記載の反射防止被膜。
【請求項3】
前記反射防止被膜が、前記第1の材料の層と前記第2の材料の層とを交互に積層して構成される、請求項1又は2に記載の反射防止被膜。
【請求項4】
前記第1の材料の850nmにおける屈折率が、約1.8以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止被膜。
【請求項5】
前記第1の材料が、Nb、TiO、Ta、HfO、Sc、SiN、SiOxN、及びAlOxNのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の反射防止被膜。
【請求項6】
前記第2の材料の850nmにおける屈折率が、約1.5以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の反射防止被膜。
【請求項7】
前記第2の材料が、SiO、MgF、及びAlFのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の反射防止被膜。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、2020年4月28日を出願日とする米国仮特許出願第63/016406号の優先権の利益を主張するものであり、この仮出願のすべての開示内容は、本明細書の依拠するところとし、参照することにより本明細書の一部をなすものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、反射防止被膜、反射防止被膜を含む物品、及びそれらの形成方法に関する。特に、本開示は、光学レンズや眼鏡の反射を低減するための反射防止被膜に関する。
【背景技術】
【0003】
ガラスカバー物品は、電子製品の多くにおいて、電子製品に内蔵される重要なデバイスの保護目的や、ユーザインタフェースやディスプレイの基盤として使用されている。そのような製品として、拡張現実・仮想現実デバイス、モバイル機器、暗視システム、医用画像デバイスが挙げられる。また、ガラスカバー物品の他の用途として、眼鏡や、カメラレンズ、レーザーガラスが挙げられる。これらの製品の性能は、ガラスカバー物品の設計に使用される光学部品に依存している。例えば、ガラスカバー物品は、十分な透過率を有しながら、不要な光の反射を最小限に抑える必要がある。さらに、用途によっては、ユーザの視野角が変化しても、ユーザがガラスカバー物品越しに知覚する色や明るさに、感知できるほどの変化が現れないことが必要とされる。視野角の変化に伴って色や明るさが変化することにユーザが気付いてしまうと、ユーザが体感するディスプレイ品質が低下してしまう恐れがある。
【0004】
従来、ガラスカバー物品は、基板と被膜とを備えるものであった。基板は通常、高い反射率を有する材料で形成され、被膜は通常、基板に塗布される1層以上の連続層である。拡張現実・仮想現実デバイスの場合、基板は光導波路となる。
【0005】
本明細書に開示の反射防止被膜は、低い反射率を有し、グレアを低減するように設計されているため、上述の用途に非常に有益である。例えば、本明細書に開示の反射防止被膜は、拡張現実・仮想現実デバイスの光学レンズや眼鏡において特に有益である。これらのデバイスでは、仮想像(virtual image)の光路が光導波路の内部を全反射(total internal reflection:TIR)しながら複数回伝播する。仮想像の光路は、導波路の軸に沿って光導波路内を全反射で光伝播し、回折光学素子に到達すると、回折光学素子で当該光路が結合されて光導波路から出射する。仮想像の光路が全反射で光導波路内を伝播するのに対し、現実像の光路は光導波路を透過する。仮想像の光路と現実像(real image)の光路は、いずれも結合されて光導波路から一旦出射するか又は光導波路を透過するかして、ユーザの眼の中で重なり合い、ユーザの拡張現実感又は仮想現実感を作り出す。
【0006】
光導波路内を伝播する仮想像の光路は、光導波路の臨界角を上回る角度で曲がることにより、全反射を実現する。言い換えれば、仮想像の光路は、光導波路内で跳ね返される際に、光導波路の臨界角を上回る角度で光導波路の縁に衝突する。光路が全反射で伝播するためには、この光路の角度が臨界角を上回る必要がある。光導波路の臨界角は、スネルの法則により式(1)に示すように求められる:
θ=sin-1(n/n) (1)
式中、θは臨界角、nは仮想像が進む光媒体(例えば、光導波路)の屈折率、nは仮想像の光路が進む光媒体に隣接する媒体の屈折率である。
【0007】
そして、光導波路上に反射防止被膜を配置することにより、現実像の光路の光導波路透過効率を向上させることが行われている。透過率の向上により、光が系内を逆行して進む際に発生する不要な反射を抑えることができる。しかし、従来の反射防止被膜は、透過率に関しては有益であったが、光導波路内を伝播する光を一部吸収してしまうという問題を有していた。詳細には、光路が光導波路の縁で跳ね返るたびに、仮想像の光の一部が被膜に吸収されてしまっていた。そのため、光導波路内において、光路の終点に比べて光路の始点の方が光の量が多いという状態が生じていた。そして、このような吸収による光損失が、ユーザの視野角が変化する際に色や明るさが変化してしまう原因となっていた。
【0008】
光は光導波路を伝播する際に何度も光導波路の縁で跳ね返りを起こすため、僅かな吸収量でも積み重なってユーザの視認品質に大きく影響してしまう。1回の跳ね返りで生じる吸収が僅かな量であっても、光路は何度も跳ね返りを起こすため、吸収量は積み重なって大きくなる。
【0009】
本明細書に開示の反射防止被膜は、優れた透過特性を維持しつつ、上述のような光路の吸収を低減・防止するという利点を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本明細書に開示の反射防止被膜は、ユーザの視認品質の向上を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書に開示の実施形態は、相対的に高い屈折率を有する第1の材料を各々が含む複数の第1の層と、相対的に低い屈折率を有する第2の材料を各々が含む複数の第2の層と、を有する反射防止被膜を含む。第1の材料を含む第1の層の総厚さは約120nm以下である。さらに、反射防止被膜は、光が全反射で伝播する際に、約425nm~約495nmの全波長において、光のs偏光とp偏光との平均の反射1回当たりの光の吸収が約0.25%以下となるように構成されている。
【0012】
また、本明細書に開示の実施形態は、光路を全反射により伝播するように構成された光導波路と、反射防止被膜とを備える反射防止導波路をさらに含む。該反射防止導波路は、光導波路の表面に設けられる反射防止被膜であって、相対的に高い屈折率を有する第1の材料を各々が含む複数の第1の層と、相対的に低い屈折率を有する第2の材料を各々が含む複数の第2の層と、を有している。第1の材料を含む第1の層の総厚さは約120nm以下である。さらに、反射防止被膜は、光が全反射で伝播する際に、約425nm~約495nmの全波長において、光のs偏光とp偏光との平均の反射1回当たりの光の吸収が約0.25%以下となるように構成されている。
【0013】
また、本明細書に開示の実施形態は、光導波路と、該光導波路の表面に設けられる反射防止被膜とを備える反射防止導波路内に光路を伝播させる方法をさらに含む。本方法は、約425nm~約495nmの全波長において、光のs偏光とp偏光との平均の反射1回当たり約0.25%以下の吸収損失で、光導波路内に光路を全反射で伝播させるステップを含むものである。
【0014】
上述の概略的な説明及び以下の詳細な説明はいずれも、例示的なものに過ぎず、特許請求の範囲に記載の性質及び特徴を理解するための概観又は枠組みを提供することを意図するものであることを理解されたい。また、添付の図面は、さらなる理解のために添付するものであり、本明細書に組み込まれ、その一部をなすものとする。図面は、1つ以上の実施形態を例示的に示すものであり、以下の詳細な説明と併せて、種々の実施形態の原理及び作用を説明するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の実施形態に係る、反射防止被膜を有する物品の断面図
図2】本開示の実施形態に係る、多層反射防止被膜の詳細図を含む、物品の断面図
図3】光の跳ね返りの回数対青~紫色の波長光の反射率のグラフ
図4A】本開示の実施形態に係る、多層反射防止被膜の詳細図を含む、物品の他の断面図
図4B】本開示の実施形態に係る、多層反射防止被膜の詳細図を含む、物品の他の断面図
図4C】比較の多層反射防止被膜の詳細図を含む、物品の断面図
図5A】例示的被膜及び比較被膜についての角度対反射率(百分率)のグラフ
図5B】例示的被膜及び比較被膜についての角度対反射率(百分率)のグラフ
図5C】例示的被膜及び比較被膜についての角度対反射率(百分率)のグラフ
図6A】例示的被膜及び比較被膜についての角度対反射率(百分率)のグラフ
図6B】例示的被膜及び比較被膜についての角度対反射率(百分率)のグラフ
図6C】例示的被膜及び比較被膜についての角度対反射率(百分率)のグラフ
図7A】例示的被膜及び比較被膜についての角度対反射率(百分率)のグラフ
図7B】例示的被膜及び比較被膜についての角度対反射率(百分率)のグラフ
図7C】例示的被膜及び比較被膜についての角度対反射率(百分率)のグラフ
図8A】例示的被膜及び比較被膜についての角度対反射率(百分率)のグラフ
図8B】例示的被膜及び比較被膜についての角度対反射率(百分率)のグラフ
図8C】例示的被膜及び比較被膜についての角度対反射率(百分率)のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の詳細な説明において、本開示のさらなる特徴及び利点を記載する。下記のさらなる特徴及び利点は、当業者であれば、その説明から理解するであろうし、あるいは、特許請求の範囲及び添付の図面とともに以下の詳細な説明に記載される本開示を実施することによって理解するであろう。
【0017】
本明細書において、「及び/又は(and/or)」という用語を2つ以上の項目の列記において使用する場合、列記された項目のうちいずれか1つを単独で使用してもよく、又は列記された項目のうち2つ以上を任意の組み合わせで使用してもよいことを意味している。例えば、組成物が成分A、B及び/又はCを含有すると記載している場合、この組成物は、A単独、B単独、C単独、AとBとの組み合わせ、AとCとの組み合わせ、BとCとの組み合わせ、又はAとBとCとの組み合わせを含有することができる。
【0018】
本明細書において、第1(first)と第2(second)、上(top)と下(bottom)などの関係用語は、ある実体又は動作を他の実体又は動作と区別するためにのみ用いるものであり、これらの実体又は動作間の何らかの実際の関係又は順序を必ずしも要求又は示唆するものではない。
【0019】
当業者であれば、本開示の構成および他の構成要素が、特定の材料に何ら限定されないことを理解するであろう。本明細書に記載の本開示について、本明細書において別段の記載がない限り、多種多様な材料で他の例示的な実施形態を構成することができる。
【0020】
また、例示的な実施形態に示す本開示の要素の構成および配置が、例示に過ぎないことに留意することも重要である。本開示においては、ごく限られた数の実施形態のみを詳細に説明しているが、当業者が本開示を検討すれば、本開示に記載の主題の新規性及び非自明性を有する教示及び利点から実質的に逸脱しない範囲で、多くの変形(例えば、種々の要素のサイズ、寸法、構造、形状及び比率の変更や、パラメータの値、取り付け配置、使用する材料、色、向きなどの変更など)が可能であることを直ちに理解するであろう。例えば、一体形成された要素として示す要素を複数の部品で構成することができ、あるいは、複数の部品として示す要素を一体形成することもできる。また、インタフェースの操作についても逆にするなどの変更が可能であるほか、本システムの構造、及び/又は部材又は接続部などの要素の長さや幅を変更することができ、要素間に設けられる調整位置の性質や数も変更することができる。本システムの要素及び/又はアセンブリは、十分な強度又は耐久性を実現する多種多様な材料のいずれかから、多種多様な色、質感、組み合わせで構成することができることに留意されたい。したがって、このような変形のすべてを本開示の範囲に含むことを意図している。その他の置換、変形、変更、及び省略についても、本開示の趣旨から逸脱しない範囲で、他の所望の例示的な実施形態の設計、動作条件、及び配置において行うことができる。
【0021】
次に、本開示の好ましい実施形態について詳細に説明する。添付の図面は、これら好ましい実施形態の例を示すものである。
【0022】
図1を参照すると、1つ以上の実施形態に係る物品1は、基板10と、基板上に配置される反射防止被膜20とを備えている。基板10は、互いに反対側の表面12、14を有しており、反射防止被膜20は表面12上に配置されている。ただし、反射防止被膜20を表面14のみに配置する場合や、表面12及び14の両方に配置する場合も企図されている。図1の実施形態において、表面14は、表面12よりもユーザの眼に近い位置に配置することができる。さらに、反射防止被膜20は、表面12及び/又は表面14に沿って、基板10の全体又は基板10の一部に配置することができる。反射防止被膜20は、基板10と直接又は間接的に接触することができる。例えば、(例えば、接着剤などの)1つ以上の材料を、反射防止被膜20と基板10との間に配置することができる。図1の実施形態では、表面14上の1つ以上の位置に、回折光学素子(図示せず)を配置している。
【0023】
基板10は、上述したように光導波路とすることができ、ガラス又はガラスセラミック、例えば、ケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、アルカリ土類アルミノケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルミノホウケイ酸塩ガラス、アルカリアルミノホウケイ酸塩ガラス、アルカリ土類アルミノホウケイ酸塩ガラス、ソーダライムガラス、石英ガラス(溶融シリカ)などの種類のガラスを含むことができる。例示的なガラス基板としては、コーニング社(Corning Incorporated,ニューヨーク州コーニング)からガラスコード7980、7979、及び8655で販売されているHPFS(登録商標)溶融シリカ、及び同じくコーニング社(ニューヨーク州コーニング)から販売されているEAGLE XG(登録商標)アルミノホウケイ酸塩ガラスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。その他のガラス基板としては、コーニング社(ニューヨーク州コーニング)から販売されているLotus(商標) NXTガラス、Iris(商標)ガラス、WILLOW(登録商標)ガラス、GORILLA(登録商標)ガラス、VALOR(登録商標)ガラス、又はPYREX(登録商標)ガラスも挙げられるが、これらに限定されるものではない。他の実施形態では、基板10は1つ以上の透明ポリマーを含んでいる。透明ポリマーの例としては、ポリスチレン(PS)(スチレンコポリマー及びブレンドを含む)、ポリカーボネート(PC)(コポリマー及びブレンドを含む)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートコポリマー及びポリエチレンテレフタレートコポリマーなどのコポリマー及びブレンドを含む)、ポリオレフィン(PO)及び環状ポリオレフィン(環状PO)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含むアクリルポリマー(コポリマー及びブレンドを含む)、熱可塑性ウレタン(TPU)、ポリエーテルイミド(PEI)及びこれらのポリマー同士のブレンドなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。他の例示的なポリマーとして、エポキシ樹脂、スチレン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂が挙げられる。反射防止被膜20の材料については、さらに詳しく後述する。
【0024】
図1に示すように、仮想像の光30は、基板10の軸Aに沿って基板10内を伝播する。光30の伝播時には、基板10の面によって角度θで跳ね返される。上述したように、光30が全反射によって伝播するためには、角度θが基板10の臨界角(スネルの法則から計算)よりも大きくなければならない。本明細書に開示の複数の実施形態において、角度θは、約35度超、又は約40度超、又は約35度~約80度、又は約40度~約80度、又は約35度~約70度、又は約40度~約70度、又は約50度~約60度である。
【0025】
上述したように、従来の被膜に関しては、何らかの吸収損失が生じることにより、軸Aに沿って伝播を続ける間に光30の量が減少する場合がある。例えば、基板10に従来の被膜を塗布している場合、当該被膜に一部の光35が吸収される場合がある。軸Aに沿って伝播する光30が跳ね返りを起こす度に、吸収光35の吸収が生じる恐れがある。したがって、従来の被膜を用いた場合、位置Cにおける光の量は位置Bにおける光の量よりも少なくなる。一方、本開示の反射防止被膜は、従来の被膜と比べて吸収光35の量を低減している。本開示のいくつかの実施形態では、以下に詳述するように、吸収光35の量は0.0%であり、よって、位置Cにおける光の量が位置Bにおける光の量と等しくなる。
【0026】
図2に示すように、反射防止被膜20は、複数の材料層を有する。例えば、反射防止被膜20は、複数の層21~24を有することができる。なお、図2には4層である実施形態を開示しているが、これより多い又は少ない数の層を用いることも企図されている。例えば、反射防止被膜20は、1層、2層、3層、5層、6層、7層、8層、9層、10層、11層、12層、又は12超の層を有することができる。いくつかの実施形態では、以下に詳述するように、反射防止被膜20を所望の厚さとするため、反射防止被膜20は7層以下の層を有する。
【0027】
「層(layer)」という用語は、単一の層を含むことができるほか、1つ以上のサブ層を含むこともできる。このようなサブ層は、サブ層同士が直接接触した状態とすることができる。複数のサブ層は、同一の材料から形成することができるほか、2つ以上の異なる材料から形成することもできる。1つ以上の代替的な実施形態において、サブ層の間に異なる材料の介在層を配置することもできる。1つ以上の実施形態において、1つの層が、1つ以上の切れ目のない連続層及び/又は1つ以上の切れ目のある不連続層を含む(すなわち、互いに隣接して形成された異なる材料を有する層とする)ことができる。さらに各層、例えば各層21~24は、隣接する層と直接又は間接的に接触することができる。
【0028】
層又はサブ層は、不連続蒸着処理または連続蒸着処理を含む、当技術分野において公知の任意の方法によって形成することができる。そして、1つ以上の実施形態では、連続蒸着処理のみ又は不連続蒸着処理のみによって、層を形成することができる。
【0029】
以下に詳述するように、層の数や、各層の厚さ、各層の材料は、被膜の光の吸収が最小限又はゼロに抑えられるように最適化される。したがって、本明細書に開示の被膜は、全反射による反射率が向上している。さらに、本明細書に開示の被膜は、現実像の透過率も向上している。
【0030】
反射防止被膜20の個々の層は、他の層と同一の材料又は異なる材料を含むことができ、他の層と同一の屈折率又は異なる屈折率を有することができる。例えば、各層は、相対的に高い屈折率を有する第1の材料、相対的に低い屈折率を有する第2の材料のいずれかを含むことができる。したがって、例えば、層21及び層23が、相対的に高い屈折率を有する第1の材料を含み、層22及び層24が、相対的に低い屈折率を有する第2の材料を含むことができる。本実施形態では、層21及び層23の両方が相対的に高い屈折率を有する材料を含んでいればよく、層21の材料が層23の材料と具体的には同一であっても異なっていてもよいことも企図されている。同様に、層22及び層24の両方が相対的に低い屈折率を有する材料を含んでいればよく、層22の材料が層24の材料と具体的には同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
第1の材料は、基板10の屈折率よりも高い屈折率を有することができる。いくつかの実施形態では、第1の材料は、850nmにおいて、約1.6以上、又は約1.7若しくは約1.8以上、又は約1.9以上、又は約2.0以上、又は約2.1以上、又は約2.2以上、又は約2.3以上、又は約2.4以上、又は約2.5以上、又は約2.6以上の屈折率を有する。例示的な材料としては、例えば、Nb、TiO、Ta、HfO、Sc、SiN、SiON、及びAlONが挙げられる。
【0032】
第2の材料は、基板10の屈折率よりも低い屈折率を有することができる。いくつかの実施形態では、第2の材料は、850nmにおいて、約1.6以下、又は約1.5以下、又は約1.4以下、又は約1.3以下、又は約1.2以下の屈折率を有する。例示的な材料としては、例えば、SiO、MgF、及びAlFが挙げられる。
【0033】
いくつかの実施形態では、基板10は、850nmで約1.5、又は約1.6、又は約1.7の屈折率を有するガラスを含み、第1の材料は、850nmで約1.5より高い、又は約1.6より高い、又は約1.7より高い屈折率を有し、第2の材料は、850nmで約1.5より低い、又は約1.6より低い、又は約1.7より低い屈折率を有している。
【0034】
第1の材料の屈折率の第2の材料の屈折率に対する比は、約1.3以上、又は約1.4以上、又は約1.5以上、又は約1.6以上、又は約1.7以上である。この比率が高いほど、全体の層数を低く抑えながら高い透過率が得られるという利点があり、よって、被膜の総厚さを薄くすることができるという利点がある。
【0035】
反射防止被膜20の層は、第1の材料の層と第2の材料の層とを交互に積層して構成することができる。基板10に直接隣接する反射防止被膜20の層(例えば、層21)は、第1の材料を含むことができる。さらに、基板10から最も遠い反射防止被膜20の層(例えば、層24)は、第2の材料を含むことができる。
【0036】
反射防止被膜20の総厚さは、約300nm以下、又は約250nm以下、又は約200nm以下とすることができる。また、これに加えて又は代えて、反射防止被膜20の総厚さを、約50nm以上、又は約75nm以上、又は約80nm以上、又は約90nm以上、又は約100nm以上、又は約125nm以上、又は約150nm以上とすることができる。いくつかの実施形態では、被膜は、約75nm~約300nm、又は約100nm~約250nm、又は約200nm~約250nm、又は約125nm~約225nmの範囲の総厚さを有する。
【0037】
反射防止被膜20の総厚さは、層に選択された材料に応じて調整、最適化することができる。さらに、光30を適切に伝播させるためには、総厚さを十分に厚くする必要があり、一方、十分な可撓性を持たせ、製造コストを低減するためには、総厚さを十分に薄くすることが望ましい。いくつかの実施形態では、可撓性の維持と製造コストの低減を行いながら、所望の光伝播を実現するために、反射防止被膜20の総厚さを約250nm未満とする。
【0038】
吸収光35の量を低減するために、第1の材料を含むすべての層の総厚さを、第2の材料を含むすべての層の総厚さよりも小さくすることができる。相対的に高い屈折率を有する第1の材料による光30の吸収が、相対的に低い屈折率を有する第2の材料による光30の吸収より先に始まる。したがって、吸収を低減するために、第1の材料層の総厚さを低減することができる。
【0039】
第1の材料層の総厚さの第2の材料層の総厚さに対する比は、約0.2~約0.8、又は約0.3~約0.7、又は約0.4~約0.6の範囲にあるか、又は約0.5である。第1の材料層の総厚さは、約120nm以下、又は約110以下、又は約100nm以下、又は約90nm以下、又は約80nm以下、又は約70nm以下、又は約60nm以下、又は約50nm以下とすることができる。いくつかの実施形態では、第1の材料層の総厚さは、約20nm~約70nm、又は約30nm~約60nm、又は約40nm~約55nmの範囲にある。例えば、第1の材料層の総厚さは、約31nm、又は約35nm、又は約38nm、又は約50nm、又は約54nm、又は約55nmである。第2の材料層の総厚さは、約100nm以上、又は約120nm以上、又は約130nm以上、又は約140nm以上、又は約150nm以上、又は約160nm以上、又は約170nm以上とすることができる。いくつかの実施形態では、第2の材料層の総厚さは、約100nm~約180nm、又は約115nm~約165nm、又は約130nm~約150nmの範囲にある。例えば、第2の材料層の総厚さは、約130nm、又は約140nm、又は約149nm、又は約155nmである。
【0040】
また、本開示の範囲内において、1つ以上の第1の材料層が、1つ以上の他の第1の材料層と異なる厚さを有することができる。同様に、1つ以上の第2の材料層が、1つ以上の他の第2の材料層と異なる厚さを有することができる。例えば、図2を参照すると、層21及び層23はいずれも第1の材料を含むことができるが、層21は層23とは異なる厚さを有することができる。これに加えて又は代えて、層22及び層24はいずれも第2の材料を含むことができるが、層22は層24とは異なる厚さを有することができる。また、すべての層21~24が互いに異なる厚さを有することも企図されている。
【0041】
例えば、基板10に直接隣接する反射防止被膜20の層(図2の層21)は、約5nm~約60nm、又は約10nm~約50nm、又は約15nm~約45nm、又は約20nm~約40nm、又は約25nm~約35nmの範囲の厚さを有することができる。上述したように、吸収を低減するため、この基板10に直接隣接する反射防止被膜20の層の厚さを低減することができる。いくつかの実施形態では、反射防止被膜20の当該層は、約15nm、又は約17nm、又は約20nm、又は約23nm、又は約25nm、又は約27nmの厚さを有する。反射防止被膜20の当該層は、第1の材料を含むことができ、第1の材料を含む残りの各層よりも厚さを薄くすることができる。
【0042】
各第1の材料層の厚さは、基板10から離間するに従って(すなわち、図2の上方に向かうに従って)増大させることができる。したがって、層21及び層23が第1の材料を含むいくつかの実施形態では、層23が層21よりも大きな厚さを有することができる。各第2の材料層の厚さも、基板10から離間するに従って増大させることができる。したがって、層22及び層24が第2の材料を含むいくつかの実施形態では、層24が層22よりも大きな厚さを有することができる。
【0043】
上述のように、反射防止被膜の層の数や、各層の厚さ、各層の材料は、全反射時の光30の吸収が低減されるように最適化される。したがって、反射防止被膜20は、赤色波長域(例えば、625nm~740nm)内の全波長の光を、光の反射(すなわち、跳ね返り)1回当たり約0.0%の吸収損失で基板10内に伝播させる。これに加えて又は代えて、反射防止被膜20は、緑色波長域(例えば、500nm~565nm)内の全波長の光を、光の反射(すなわち、跳ね返り)1回当たり約0.0%の吸収損失で基板10内に伝播させる。これに加えて又は代えて、反射防止被膜20は、青~紫色波長域(例えば、425nm~495nm)内の全波長の光を、光の反射(すなわち、跳ね返り)1回当たり、約6.0%以下、又は約5.0%以下、又は約4.0%以下、又は約3.0%以下、又は約2.0%以下、又は約1.5%以下、又は約1.0%以下、又は約0.75%以下、又は約0.60%以下、又は約0.50%以下、又は約0.40%以下、又は約0.25%以下、又は約0.20%以下、又は約0.10%以下、又は約0.05%以下、又は約0.04%以下、又は約0.03%以下、又は約0.02%以下、又は約0.01%以下、又は約0.0%の吸収損失で基板10内に伝播させる。青~紫色波長域内の光は、赤色波長域や緑色波長域内の光よりも波長が短く、よってより大きいエネルギーを有していることに留意されたい。そのため、従来の反射防止被膜は、赤色や緑色の波長の光に比べて、青~紫色の波長の光の方の吸収量が大きかった。しかし、本開示の反射防止被膜は、赤色及び緑色の波長の光だけでなく、青~紫色の波長の光の吸収量も低減している。
【0044】
上述したように、光30は基板10内を何度も伝播するため、僅かな吸収量であっても、光の反射(すなわち、跳ね返り)を何度も繰り返すと、それが積み重なる。したがって、基板10内での光30の反射1回当たりの光の吸収が少量であったとしても、例えば、基板10内で反射を20回又は25回繰り返せば、少量の吸収光が積み重なり、吸収量が瞬く間に増大する。例えば、図3に示すように、光路Dは、光の跳ね返り1回当たりの反射率が99%(光の跳ね返り1回当たりの1%の吸収損失に相当)であり、光路Hは、光の跳ね返り1回当たりの反射率が99.9%(光の跳ね返り1回当たりの0.1%の吸収損失に相当)である。ここで、全反射においては、光は、被膜に吸収されるか、被膜に反射するかのいずれかのみであることに留意されたい。したがって、Aを吸収光量、Rを反射光量とすると、全反射においては、A+R=100%である。さらに、全反射において光が伝播する際に失われる光の量を低減するためには、反射率を高くする(これは吸収率を低くすることに相当する)ことが望ましいことについても重ねて留意されたい。
【0045】
また、図3にさらに示すように、青~紫色波長域の光について、跳ね返りを5回繰り返した後の光路Dと光路Hとの間の反射光の差は、比較的小さく抑えられている(光路Dが約95%、光路Hが約99%)。しかし、青~紫色波長域の光について、跳ね返りを20回繰り返した後の光路Dと光路Hとの間の反射光の差は、より大きくなっている(光路Dが約81%、光路Hが約98%)。さらに、青~紫色波長域の光について、跳ね返りを30回繰り返した後の光路Dと光路Hとの間の反射光の差は、さらに大きくなっている(光路Dが約75%、光路Hが約97%)。光路Dと光路Hの間の光の跳ね返り1回当たりの吸収損失の差は、ごく僅かなものに過ぎない。しかし、この僅かな差が、全反射において光が何度も跳ね返りを繰り返すと、非常に大きな差となる。上述したように、本明細書に開示の反射防止被膜は、全反射において光が何度も跳ね返りを繰り返した後も、光の吸収が最小限又はゼロに抑えられるように最適化されている。
【0046】
また、本明細書に開示の反射防止被膜は、赤色、緑色、及び青~紫色の全波長に対して、約95.0%以上の透過率、又は約96.0%以上、又は約97.0%以上、又は約98.0%以上、又は約98.5%以上、又は約99.0%以上、又は約99.2%以上、又は約99.5%以上、又は約99.6%以上、又は約99.7%以上、又は約99.8%以上、又は約99.9%以上、又は100%の透過率を有している。上記の透過率は、反射防止導波路の長手に垂直な方向を基準にした透過率である。上述したように、仮想像の光路と現実像の光路は、結合されて光導波路から出射するか又は光導波路を透過するかして、ユーザの眼の中で重なり合い、ユーザの拡張現実感又は仮想現実感を作り出す。したがって、本開示の反射防止被膜は、高い透過率を有するという利点を有することで、ユーザに対して生成する像の品質を向上させている。
【0047】
図4Aは、反射防止被膜200の層210及び層230がいずれもNbを含み(第1の材料層)、反射防止被膜200の層220及び層240がいずれもMgFを含む(第2の材料層)例示的な実施形態の物品100を示す図である。本実施形態では、層210は、基板10に直接隣接し、層230の厚さよりも薄い厚さを有する。より具体的には、層210は17.50nmの厚さを有し、層230は21.20nmの厚さを有する。さらに、層220は38.23nmの厚さを有し、これは層240の111.70nmの厚さより小さい。第1の材料層(層210+層230)の総厚さは38.70nmであり、第2の材料層(層220+層240)の総厚さは149.93nmである。そして、本実施形態における反射防止被膜200の総厚さは、188.63nmである。
【0048】
図4Bは、反射防止被膜2000の層2100及び層2300がいずれもTaを含み(第1の材料層)、反射防止被膜2000の層2200及び層2400がいずれもMgFを含む(第2の材料層)第2の例示的な実施形態の物品1000を示す図である。本実施形態では、層2100は、基板10に直接隣接し、層2300の厚さよりも薄い厚さを有する。より具体的には、層2100は25.17nmの厚さを有し、層2300は28.85nmの厚さを有する。さらに、層2200は31.91nmの厚さを有し、これは層2400の108.94nmの厚さより小さい。第1の材料層(層2100+層2300)の総厚さは54.02nmであり、第2の材料層(層2200+層2400)の総厚さは140.85nmである。そして、本実施形態における反射防止被膜2000の総厚さは、194.87nmである。
【0049】
図4Cは、6層の材料層を有する反射防止被膜3000を有する比較例の物品を示す図である。図4Cに示すように、比較被膜3000は、図4A及び図4Bに示す例示的被膜よりも層の数が多く且つ総厚さも大きい。具体的には、比較被膜3000は、261.70nmの総厚さを有しており、これは、例示的被膜200の厚さである188.63nmよりも大きく、例示的被膜2000の厚さである194.87nmよりも大きい。さらに、図4Cの比較被膜3000の高屈折率材料(Ta)の総厚さは126.25nmであり、これは被膜200の高屈折率材料の厚さである38.70nmや被膜2000の高屈折率材料の厚さである54.02nmに比べてはるかに大きい。比較例は高屈折率材料の量が多いため、以下に示すように、吸収率が高く(よって反射率が低く)なっている。
【0050】
図5A図5Cは、425nmの光路に対する例示的被膜200及び2000と比較被膜3000の反射率(百分率)の比較を示す図である。なお、図5A図5Cでは、光導波路の臨界角を超える、約40度~約70度の角度で全反射により光を伝播させていることに留意されたい。上述したように、全反射で伝播させるためには、光路を臨界角を上回る角度で光導波路内に伝播させる必要がある。
【0051】
また、偏光には、直交する2つの直線偏光状態、すなわちs偏光(入射面に垂直な偏光)とp偏光(入射面に平行な偏光)とがあることに留意されたい。図5A図5Cには、s偏光の反射率(百分率)と、p偏光の反射率(百分率)と、s偏光とp偏光の平均反射率(百分率)とを示している。以下では、s偏光とp偏光との平均のグラフで比較して説明する。s偏光とp偏光との平均のグラフが、高い反射率(百分率)を示しているほど、ユーザから見える像は、色ずれや明度の不均一性が抑えられた像となる。また、像に縞や筋が入りにくくなり、ユーザの視認品質が向上する。
【0052】
s偏光とp偏光との平均のグラフは、比較被膜3000(図5C)を使用した場合に比べて、例示的被膜200(図5A)や例示的被膜2000(図5B)を使用した場合の方が、高い反射率(百分率)を示している。例えば、例示的被膜200(図5A)又は例示的被膜2000(図5B)を使用した場合のs偏光とp偏光との平均のグラフは、40度~70度の角度範囲にわたって99.75%を上回る反射率を示している。一方、比較被膜3000を使用した場合(図5C)のs偏光とp偏光との平均のグラフは、上記の角度範囲において99.75%の反射率を下回っている。したがって、比較被膜3000の方が、425nmの光を使用した場合の反射率(百分率)は低い(よって、吸収率(百分率)は高い)。
【0053】
図6A図6Cは、435nmの光路に対する例示的被膜200及び2000と比較被膜3000の反射率(百分率)の比較を示す図である。図5A図5Cと同様に、s偏光とp偏光との平均のグラフは、比較被膜3000(図6C)を使用した場合に比べて、例示的被膜200(図6A)や例示的被膜2000(図6B)を使用した場合の方が、高い反射率(百分率)を示している。例えば、例示的被膜200(図6A)又は例示的被膜2000(図6B)を使用した場合のs偏光とp偏光との平均のグラフは、40度~70度の角度範囲にわたって99.85%以上の反射率を示している。一方、比較被膜3000を使用した場合(図6C)のs偏光とp偏光との平均のグラフは、上記の角度範囲において99.85%の反射率を下回っている。したがって、比較被膜3000の方が、435nmの光を使用した場合の反射率(百分率)は低い(よって、吸収率(百分率)は高い)。
【0054】
図7A図7Cは、445nmの光路に対する例示的被膜200及び2000と比較被膜3000の反射率(百分率)の比較を示す図である。図5A図5Cと同様に、s偏光とp偏光との平均のグラフは、比較被膜3000(図7C)を使用した場合に比べて、例示的被膜200(図7A)や例示的被膜2000(図7B)を使用した場合の方が、高い反射率(百分率)を示している。例えば、例示的被膜200(図7A)又は例示的被膜2000(図7B)を使用した場合のs偏光とp偏光との平均のグラフは、40度~70度の角度範囲にわたって99.85%を上回る反射率を示している。一方、比較被膜3000を使用した場合(図7C)のs偏光とp偏光との平均のグラフは、上記の角度範囲において99.85%の反射率を下回っている。したがって、比較被膜3000の方が、445nmの光を使用した場合の反射率(百分率)は低い(よって、吸収率(百分率)は高い)。
【0055】
図8A図8Cは、448nmの光路に対する例示的被膜200及び2000と比較被膜3000の反射率(百分率)の比較を示す図である。図5A図5Cと同様に、s偏光とp偏光との平均のグラフは、比較被膜3000(図8C)を使用した場合に比べて、例示的被膜200(図8A)や例示的被膜2000(図8B)を使用した場合の方が、高い反射率(百分率)を示している。例えば、例示的被膜200(図8A)又は例示的被膜2000(図8B)を使用した場合のs偏光とp偏光との平均のグラフは、40度~70度の角度範囲にわたって99.85%を上回る反射率を示している。一方、比較被膜3000を使用した場合(図8C)のs偏光とp偏光との平均のグラフは、上記の角度範囲において99.85%の反射率を下回っている。したがって、比較被膜3000の方が、448nmの光を使用した場合の反射率(百分率)は低い(よって、吸収率(百分率)は高い)。
【0056】
本明細書に開示の例示的被膜では、反射率の低減、グレアの低減、透過率の向上、異なる角度から像を見た場合の色ずれの低減を実現するために、材料層の数や、各層の厚さ、及び各層の具体的な材料を最適化している。
【0057】
また、本開示は、光導波路と本開示の反射防止被膜とを備える反射防止導波路内に光路を伝播させる方法もさらに含んでいる。したがって、本方法は、上述のように、吸収損失の低減(反射率の向上)と透過率の向上を実現しながら、全反射で光路を伝播させるステップを含んでいる。
【0058】
以上、本開示の複数の実施形態を説明したが、上記の説明は、網羅的であることを意図したものでも、本開示を限定することを意図したものでもない。本開示の特定の実施形態及び具体例は、例示を目的として本明細書に記載したものであり、当業者であれば認識するように、本開示の範囲内で様々な均等な変形が可能である。このような変形として、開示した実施形態に示す寸法及び/又は材料の変更を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0060】
実施形態1
相対的に高い屈折率を有する第1の材料を各々が含む複数の第1の層と、
相対的に低い屈折率を有する第2の材料を各々が含む複数の第2の層と、
を有する反射防止被膜であって、
前記第1の材料を含む前記第1の層の総厚さが約120nm以下であり、
光が全反射で伝播する際に、約425nm~約495nmの全波長において、前記光のs偏光とp偏光との平均の反射1回当たりの前記反射防止被膜による前記光の吸収が約0.25%以下となるように構成されている反射防止被膜。
【0061】
実施形態2
光が全反射で伝播する際に、約425nm~約495nmの全波長において、前記光のs偏光とp偏光との平均の反射1回当たりの前記反射防止被膜による前記光の吸収が約0.20%以下となるように構成されている、実施形態1に記載の反射防止被膜。
【0062】
実施形態3
光が全反射で伝播する際に、約425nm~約495nmの全波長において、前記光のs偏光とp偏光との平均の反射1回当たりの前記反射防止被膜による前記光の吸収が約0.15%以下となるように構成されている、実施形態1に記載の反射防止被膜。
【0063】
実施形態4
前記反射防止被膜が、前記第1の材料の層と前記第2の材料の層とを交互に積層して構成される、実施形態1~3のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0064】
実施形態5
前記第1の材料の850nmにおける屈折率が、約1.8以上である、実施形態1~4のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0065】
実施形態6
前記第1の材料の850nmにおける屈折率が、約1.9以上である、実施形態5に記載の反射防止被膜。
【0066】
実施形態7
前記第1の材料の850nmにおける屈折率が、約2.0以上である、実施形態6に記載の反射防止被膜。
【0067】
実施形態8
前記第1の材料が、Nb、TiO、Ta、HfO、Sc、SiN、SiOxN、及びAlOxNのうちの少なくとも1つを含む、実施形態1~7のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0068】
実施形態9
前記第1の層の前記総厚さが約100nm以下である、実施形態1~8のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0069】
実施形態10
前記複数の第1の層のうちのある第1の層が、約10nm~約50nmの範囲の厚さを有している、実施形態1~9のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0070】
実施形態11
前記第2の材料の850nmにおける屈折率が、約1.5以下である、実施形態1~10のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0071】
実施形態12
前記第2の材料が、SiO、MgF、及びAlFのうちの少なくとも1つを含む、実施形態1~11のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0072】
実施形態13
前記第2の層の総厚さが約150nm以下である、実施形態1~12のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0073】
実施形態14
前記第1の層の前記総厚さが、前記第2の層の総厚さよりも小さい、実施形態1~13のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0074】
実施形態15
前記第1の層の前記総厚さの前記第2の層の総厚さに対する比が、約0.3~約0.7の範囲にある、実施形態1~14のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0075】
実施形態16
前記第1の層の前記総厚さと前記第2の層の総厚さとを合わせた合計が約250nm以下である、実施形態1~15のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0076】
実施形態17
前記第1の層の数と前記第2の層の数を合わせた総数が7層以下である、実施形態1~16のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0077】
実施形態18
前記第1の層の数と前記第2の層の数を合わせた前記総数が4層である、実施形態17に記載の反射防止被膜。
【0078】
実施形態19
前記反射防止被膜の透過率が約98.0%以上である、実施形態1~18のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0079】
実施形態20
前記反射防止被膜の前記透過率が約98.5%以上である、実施形態19に記載の反射防止被膜。
【0080】
実施形態21
前記反射防止被膜の前記透過率が約99.0%以上である、実施形態20に記載の反射防止被膜。
【0081】
実施形態22
前記反射防止被膜の前記透過率が約99.5%以上である、実施形態21に記載の反射防止被膜。
【0082】
実施形態23
前記光の光路は、約40度~約70度の範囲の曲がり角度で全反射により伝播する、実施形態1~22のいずれか1つに記載の反射防止被膜。
【0083】
実施形態24
光路を全反射により伝播するように構成された光導波路と、
前記光導波路の表面に設けられる反射防止被膜であって、相対的に高い屈折率を有する第1の材料を各々が含む複数の第1の層と、相対的に低い屈折率を有する第2の材料を各々が含む複数の第2の層と、を有する反射防止被膜と、
を備える反射防止導波路であって、
前記第1の材料を含む前記第1の層の総厚さが約120nm以下であり、
前記反射防止被膜が、光が全反射で伝播する際に、約425nm~約495nmの全波長において、前記光のs偏光とp偏光との平均の反射1回当たりの前記光の吸収が約0.25%以下となるように構成されている、反射防止導波路。
【0084】
実施形態25
前記第1の材料は、前記光導波路の屈折率よりも大きい屈折率を有し、前記第2の材料は、前記光導波路の前記屈折率よりも小さい屈折率を有する、実施形態24に記載の反射防止導波路。
【0085】
実施形態26
前記複数の第1の層のうち、前記光導波路に直接隣接する第1の層が、約5nm~約60nmの範囲の厚さを有している、実施形態24又は25に記載の反射防止導波路。
【0086】
実施形態27
前記複数の第1の層のうち、前記光導波路に直接隣接する前記第1の層が、約15nm~約45nmの範囲の厚さを有している、実施形態26に記載の反射防止導波路。
【0087】
実施形態28
光導波路と、該光導波路の表面に設けられる反射防止被膜とを備える反射防止導波路内に光路を伝播させる方法であって、前記方法が、
約425nm~約495nmの全波長において、光のs偏光とp偏光との平均の反射1回当たり約0.25%以下の吸収損失で、前記光導波路内に前記光路を全反射で伝播させるステップを含む方法。
【0088】
実施形態29
約425nm~約495nmの全波長において、光のs偏光とp偏光との平均の反射1回当たり約0.20%以下の吸収損失で、前記光路を全反射で伝播させるステップをさらに含む、実施形態28に記載の方法。
【0089】
実施形態30
約425nm~約495nmの全波長において、光のs偏光とp偏光との平均の反射1回当たり約0.15%以下の吸収損失で、前記光路を全反射で伝播させるステップをさらに含む、実施形態29に記載の方法。
【0090】
実施形態31
前記反射防止導波路の長手に垂直な方向の透過率が約98.0%以上で、前記反射防止被膜を通過させて前記光路を透過させるステップをさらに含む、実施形態28~30のいずれか1つに記載の方法。
【0091】
実施形態32
前記反射防止導波路の前記長手に垂直な方向の透過率が約98.5%以上で、前記反射防止被膜を通過させて前記光路を透過させるステップをさらに含む、実施形態31に記載の方法。
【0092】
実施形態33
前記反射防止導波路の前記長手に垂直な方向の透過率が約99.0%以上で、前記反射防止被膜を通過させて前記光路を透過させるステップをさらに含む、実施形態32に記載の方法。
【0093】
実施形態34
前記反射防止導波路の前記長手に垂直な方向の透過率が約99.5%以上で、前記反射防止被膜を通過させて前記光路を透過させるステップをさらに含む、実施形態33に記載の方法。
【符号の説明】
【0094】
1、100、1000 物品
10 基板
12、14 表面
20、200、2000 反射防止被膜
21、23、210、230、2100、2300 第1の材料層
22、24、220、240、2200、2400 第2の材料層
30 仮想像の光
35 吸収光
3000 反射防止被膜(比較例)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
【国際調査報告】