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特表2023-524247アンジェルマン症候群の治療のための組成物及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-09
(54)【発明の名称】アンジェルマン症候群の治療のための組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230602BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20230602BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20230602BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230602BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230602BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230602BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20230602BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20230602BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230602BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230602BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230602BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20230602BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20230602BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230602BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/09 100
C12N15/55 ZNA
C12N15/11 Z
C12N15/113 Z
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
A61K48/00
A61K31/7088
A61K35/76
A61K35/761
A61P25/08
A61P25/00
A61P25/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566154
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(85)【翻訳文提出日】2022-12-13
(86)【国際出願番号】 US2021029378
(87)【国際公開番号】W WO2021222232
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】63/016,712
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/118,299
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
3.LABRASOL
(71)【出願人】
【識別番号】502409813
【氏名又は名称】ザ・トラステイーズ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン,ジェームス・エム
(72)【発明者】
【氏名】シュミッド,ラルフ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA05
4C084ZA02
4C084ZA06
4C084ZA22
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA05
4C086ZA02
4C086ZA06
4C086ZA22
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA05
4C087ZA02
4C087ZA06
4C087ZA22
(57)【要約】
アンジェルマン症候群を有する患者のニューロン中の父系対立遺伝子に対してUBE3A-ATSを標的化する遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする核酸配列を有する発現カセットを含む組成物が提供される。また、ニューロンにおいてUBE3A発現が欠損している患者においてアンジェルマン症候群(AS)の1つ以上の症状を治療するための方法であって、本方法が、UBE3A-ATSを標的化する遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする核酸配列を送達して、UBE3A-ATSコード配列を修飾し、かつ父系UBE3Aの発現を提供することを含む、方法が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発現カセットであって、アンジェルマン症候群を有する患者のニューロン中の父系対立遺伝子に対してUBE3A-ATS中の変異を標的化及び導入する遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする核酸配列と、標的細胞でその発現を指示する調節要素と、を含み、それによって、父系UBE3A対立遺伝子を脱サイレンシングし、UBE3A遺伝子産物の発現を可能にする、発現カセット。
【請求項2】
前記遺伝子編集系が、CRISPR/Cas、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、又はTALENである、請求項1に記載の発現カセット。
【請求項3】
前記核酸が、UBE3A-ATSに特異的な遺伝子編集ヌクレアーゼ及び/又は標的化配列をコードする、請求項1又は2に記載の発現カセット。
【請求項4】
前記遺伝子編集系が、CRISPR関連ヌクレアーゼと、UBE3A-ATS標的配列に特異的に結合する配列を有するsgRNAと、を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項5】
前記CRISPRエンドヌクレアーゼが、Cas9、任意選択的にSaCas9である、請求項1~4のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項6】
前記発現カセットが、配列番号1~32のいずれかをコードする配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項7】
前記UBE3A-ATS標的配列が、UBE3A 3’UTRの下流にある、請求項1~6のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項8】
前記標的配列が、chr15:25,278,409~25,333,728(hg38ゲノムアセンブリ)に、及び/又は15番染色体上のUBE3A 3’UTRとSNORD109B ORFとの間の領域に対して相補性のUBE3A-ATSの配列中に位置する、請求項1~7のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項9】
前記標的配列が、CNSの細胞である、請求項1~8のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項10】
前記調節要素が、ニューロン特異的プロモーターを含み、任意選択的に、前記プロモーターが、シナプシンプロモーターである、請求項1~9のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項11】
前記調節要素が、エンハンサーを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項12】
前記ベクターが、非ウイルスベクター又はウイルスベクターである、請求項1~11のいずれか一項に記載の発現カセットを含む、ベクター。
【請求項13】
前記非ウイルスベクターが、プラスミドである、請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ボカウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、又はレトロウイルスである、請求項12に記載のベクター。
【請求項15】
アンジェルマン症候群(AS)の治療のためのCNS指向性治療薬として有用な組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)であって、前記rAVVが、AAVカプシドと、その中にパッケージングされたベクターゲノムと、を含み、前記ベクターゲノムが、
(a)AAVの5’逆位末端反復(ITR)と、
(b)UBE3A-ATSを標的化する遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする核酸配列と、
(c)前記遺伝子編集系の前記1つ以上の要素の発現を指示する調節要素と、
(d)AAVの3’ITRと、を含む、rAAV。
【請求項16】
遺伝子標的化系が、CRISPRエンドヌクレアーゼと、UBE3A-ATS標的配列に特異的に結合するsgRNAと、を含む、請求項15に記載のrAAV。
【請求項17】
前記CRISPRエンドヌクレアーゼが、Cas9である、請求項15又は16に記載のrAAV。
【請求項18】
前記調節要素が、ニューロン特異的プロモーターを含み、任意選択的に、前記プロモーターが、シナプシンプロモーターである、請求項15~17のいずれか一項に記載のrAAV。
【請求項19】
前記調節要素が、エンハンサーを含む、請求項15~18のいずれか一項に記載のrAAV。
【請求項20】
前記カプシドが、AAV9カプシド、若しくはそのバリアント、又はAAVhu68カプシド、若しくはそのバリアントである、請求項15~19のいずれか一項に記載のrAAV。
【請求項21】
前記AAVカプシドが、配列番号54の核酸配列の発現から生成されたAAVhu68カプシドである、請求項15~20のいずれか一項に記載のrAAV。
【請求項22】
請求項1~11のいずれか一項に記載の発現カセット、請求項12~14のいずれか一項に記載のベクター、又は請求項15~21のいずれか一項に記載のrAAVと、生理学的に適合する担体、緩衝液、アジュバント、及び/又は希釈剤と、を少なくとも含む、薬学的組成物。
【請求項23】
ASの治療を必要とする対象に、請求項1~11のいずれか一項に記載の発現カセット、請求項12~14のいずれか一項に記載のベクター、請求項15~21のいずれか一項に記載のrAAV、又は請求項22に記載の組成物を投与することによって前記ASを治療する方法であって、UBE3A-ATSの編集が、ニューロン中の父系対立遺伝子からのUBE3Aの発現を増強させる、方法。
【請求項24】
ニューロンにおいてUBE3A発現が欠損している患者においてアンジェルマン症候群(AS)の1つ以上の症状を治療するための方法であって、前記方法が、UBE3A 3’UTRの下流のUBE3A-ATS中の配列を標的化する遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする核酸配列を送達して、UBE3A-ATSコード配列を修飾し、それによって、母系対立遺伝子からのUBE3A発現が欠損している患者の父系対立遺伝子上のUBE3Aを脱サイレンシングすることと、前記父系対立遺伝子からのUBE3A遺伝子産物の発現を提供することと、を含む、方法。
【請求項25】
前記修飾が、前記UBE3A-ATSコード配列におけるインデル、欠失、挿入、反転、又は他の破壊である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記修飾が、前記UBE3A 3’UTR及びSNORD109Bにわたる領域において、ヒトUBE3A-ATSに導入される、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記標的配列が、chr15:25,278,409~25,333,728(hg38ゲノムアセンブリ)に、及び/又は15番染色体上のUBE3A 3’UTRとSNORD109B ORFとの間の領域に対して相補性のUBE3A-ATSの配列中に位置する、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記症状が、発育遅延、知的障害、重度の言語障害、運動失調、及び/又はてんかんのうちの1つ以上から選択される、請求項21~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
アンジェルマン症候群(AS)を有する患者を治療する際に使用するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の発現カセット、請求項12~14のいずれか一項に記載のベクター、請求項15~21のいずれか一項に記載のrAAV、又は請求項22に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
アンジェルマン症候群(AS)は、稀な重度の神経発達障害である。特徴的な症状としては、発育遅延、知的障害、重度の言語障害、運動及びバランスに関する問題(運動失調)、並びに多くの場合に早期発症性の再発性発作(てんかん)が挙げられる。現時点で、ASには利用可能な根治療法は存在しない。
【0002】
ASの進行は、ニューロンにおけるUBE3A(E6APユビキチンタンパク質リガーゼとしても知られる、ユビキチンタンパク質リガーゼE3A)タンパク質発現の欠如から生じる。UBE3Aは、ニューロンにおいて、母系遺伝対立遺伝子から単対立遺伝子的に発現するのみであり、一方で、父系遺伝UBE3A対立遺伝子は、ニューロンにおいてサイレンシングされる。ASに罹患した個体は、母系遺伝対立遺伝子上に位置するUBE3A遺伝子内に大きな欠損、又は機能欠損変異を有し、その結果、ニューロンにおいてUBE3A発現が完全に消失する。
【0003】
当該技術分野では、ASのための新規かつ効果的な治療が、継続的に必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
一実施形態では、発現カセットであって、アンジェルマン症候群を有する患者のニューロン中の父系対立遺伝子に対してUBE3A-ATS(UBE3Aアンチセンス転写産物)を標的化する遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする核酸配列と、標的細胞でその発現を指示する調節要素と、を含む、発現カセットが本明細書で提供される。UBE3A-ATSの編集によって、父系UBE3A対立遺伝子を脱サイレンシングし、UBE3A遺伝子産物の発現を可能にする。遺伝子編集系は、CRISPR/Cas、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、又はTALENであり得る。特定の実施形態では、発現カセットは、CRISPR関連ヌクレアーゼ、任意選択的にCas9(例えば、SaCas9)、及びUBE3A-ATS標的配列に特異的に結合する配列を有するsgRNAをコードする。特定の実施形態では、gsRNAは、配列番号1~32のいずれかを含む。特定の実施形態では、UBE3A-ATS標的配列は、UBE3A 3’UTRの下流である。更なる実施形態では、標的配列は、chr15:25,278,409~25,333,728(hg38ゲノムアセンブリ)に、及び/又は15番染色体上のUBE3A 3’UTRとSNORD109B ORFとの間の領域に対して相補性のUBE3A-ATSの配列中に位置する。
【0005】
本明細書に提供される発現カセットは、非ウイルスベクター又はウイルスベクターに含まれ得る。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ボカウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、又はレトロウイルスである。
【0006】
一実施形態では、アンジェルマン症候群(AS)の治療のためのCNS指向性治療薬として有用な組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)が本明細書で提供される。rAAVは、AAVカプシドと、その中にパッケージングされたベクターゲノムと、を含み、ベクターゲノムは、(a)AAVの5’逆位末端反復(ITR)と、(b)UBE3A-ATSを標的化する遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする核酸配列と、(c)遺伝子編集系の1つ以上の要素の発現を指示する調節要素と、(d)AAVの3’ITRと、を含む。特定の実施形態では、遺伝子標的化系は、CRISPRエンドヌクレアーゼと、UBE3A-ATS標的配列に特異的に結合するsgRNAと、を含む。CRISPRエンドヌクレアーゼは、Cas9、任意選択的にSaCas9であり得る。特定の実施形態では、
カプシドは、AAV9カプシド、若しくはそのバリアント、又はAAVhu68カプシド、若しくはそのバリアントである。
【0007】
他の実施形態では、本明細書に記載の遺伝子編集系の送達のための発現カセット、ベクター、又はrAAVと、生理学的に適合する担体、緩衝液、アジュバント、及び/又は希釈剤と、を少なくとも含む、薬学的組成物が本明細書で提供される。
【0008】
特定の実施形態では、ASを治療する方法であって、それを必要とする対象に、発現カセット、ベクター、又はrAAVを投与して、遺伝子発現系を送達することによって、UBE3A-ATSの編集が、ニューロン中の父系対立遺伝子からのUBE3Aの発現を増強させる、方法が本明細書で提供される。また、ニューロンにおいてUBE3A発現が欠損している患者においてアンジェルマン症候群(AS)の1つ以上の症状を治療するための方法であって、本方法が、UBE3A 3’UTRの下流のUBE3A-ATS中の配列を標的化する遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする核酸配列を送達して、UBE3A-ATSコード配列を修飾することを含む、方法が提供される。UBE3A-ATSの編集によって、母系対立遺伝子からのUBE3A発現が欠損している患者の父系対立遺伝子上のUBE3A発現を脱サイレンシングし、父系対立遺伝子からのUBE3A遺伝子産物の発現を提供する。特定の実施形態では、発育遅延、知的障害、重度の言語障害、運動失調、及び/又はてんかんのうちの1つ以上を含む、アンジェルマン病の症状を改善するための方法を提供する。
【0009】
特定の実施形態では、アンジェルマン症候群(AS)を有する患者を治療する際に使用するための、発現カセット、ベクター、rAAV、医薬品が本明細書で提供される。
【0010】
これらの方法及び組成物の他の態様及び利点が、以下の詳細な説明において更に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】父系Ube3a対立遺伝子を脱サイレンシングするための戦略の概要を示す。Ube3aは、健常な細胞における二重対立遺伝子を示すが、健常なニューロンにおける単一対立遺伝子発現を示し、UBE3A-ATSは、父系UBE3A発現を阻害する。AS対象は、ニューロンにおけるUBE3A発現を妨げる母系Ube3a遺伝子座を欠いている。UBE3A-ATSとの干渉によって、父系UBE3A対立遺伝子発現が生じ、したがって、ニューロンにおけるUBE3Aタンパク質発現を回復させる。
図2A-2I】Ube3a-ATSのインビボ遺伝子編集が、インデル形成、及びUbe3a-YFP受容体の発現を引き起こすことを示す。(図2A)マウスUbe3aゲノム遺伝子座の概略図[Meng L et al.Nature.2015;518(7539):409-12から適合される]。この試験において、sgRNAによって標的とされた領域を示す。IC:インプリンティングセンター、3’UTR:3’非翻訳領域、snoRNA:核小体低分子RNA。(図2B)スクリーニングされたsgRNAについてのインビトロインデル頻度。(図2C)Ube3am+/pYFPマウスに、示された時点でATS-GEベクターを注射した。3週間後、皮質試料を用いたAmplicon-Seqは、新生児注射された仔において、インデルを有する細胞が平均14.7%であることを明らかにし、全ての他の時間点でインデル頻度が2.9%未満であった。非標的化CRISRP/Cas9又はCRISPR/dCas9は、0.2%未満のインデル形成をもたらした(テューキーのペアワイズ比較を伴う一元配置ANOVA、2~6匹のマウス/群)。(図2D)インデルは、1×1011gc ATS-GEベクターを新生児注射されたUbe3am+/pYFPマウスにおいて持続した(テューキーのペアワイズ比較を伴う一元配置ANOVA、3~6匹のマウス/群)。(図2E図2F)(図2C)からの皮質についての代表的なウエスタンブロットは、YFP抗体(図2E)又はUbe3a抗体(図2F)でプローブしたときに、父系Ube3a-YFPの強固な発現を示す。アクチンに対して正規化された相対的定量化は、各レーンの下に示されており、(図2F)の緑色の矢印は、定量化されたUbe3a-YFPバンドを区切っている。NT:非標的化。(図2G)(図2C)からの皮質についての代表的な免疫蛍光染色は、皮質全体のニューロンにおけるUbe3a-YFP発現を示す(スケールバー=100um)。(図2H)Ube3a-ATS転写産物に特異的なプライマーを用いたqPCR遺伝子発現分析。Ube3am+/pYFP遺伝子編集された皮質試料について、Ube3a-ATS発現が有意に28%低減することを検出した(3~15匹のマウス/群、テューキーのペアワイズ比較を伴う一元配置ANOVA)。(図2I)隣接する転写産物に特異的なプライマーを用いたqPCR遺伝子発現分析は、発現の差をなんら検出しなかった(3~4匹のマウス/群、テューキーのペアワイズ比較を伴う一元配置ANOVA、p>0.4)。平均は、標準誤差、*p<0.05、***p<0.001、****p<0.0001を用いて示される。
図3A-3G】Ube3a-KOマウスモデルにおけるUbe3a-ATSのインビボ遺伝子編集を示す。(図3A)1×1011のgc ATS-GEベクターを注射されたUbe3am-/p+マウスの脳を、4ヶ月後に回収した。Ube3a抗体を用いたウエスタンブロッティングによって、大脳皮質において持続的な父系Ube3a発現を検出した。アクチンに対して正規化されたそれぞれのUbe3aバンドの相対的定量化を、各レーンの下に示す。(図3B図3Aからの脳を、Ube3a抗体によって免疫組織染色(IHC)染色すると、脳全体にわたって父系Ubea3a発現を示す。代表的な皮質切片をここに示す(スケールバー:1mm)。Ube3am+/p+図3C)、Ube3am-/p+図3D)、及び遺伝子編集されたUbe3am-/p+図3E)皮質からの拡大皮質IHC画像(スケールバー:10μm)。(図3F図3Aに示したのと同じコホートからのAmplicon-Seq分析は、注射された仔において、インデルを有する細胞が平均19.4%であることを明らかにした。非標的化CRISRP/Cas9の注射は、0.2%(5匹のマウス/群)のインデル形成をもたらした。(図3G図3Aに示したのと同じコホートの皮質から抽出されたRNAを使用して、遺伝子編集(E)によって標的化される部位とインプリンティングセンター(IC)との間の異なる位置でUbe3a-ATS転写産物レベルを定量化した。Eからおよそ5kb離れて開始するUbe3a-ATSの有意な低減を観察した(テューキーのペアワイズ比較を伴う一元配置ANOVA、5匹のマウス/群)。平均は、標準誤差、*p<0.05、**p<0.01を用いて示される。
図4A-4E】遺伝子編集後のASマウスモデルにおける表現型改善を示す。Ube3am-/p+及びUbe3am+/p+同腹仔は、1x1011のgc ATS-GE又は対照ベクターの新生児注射を受けた。(図4A)マウス体重は、観察期間にわたって増加したが、群効果を示さなかった[F(1.311,64.25)=385.3、p>0.2、15匹のマウス/群]。(図4B)8週齢で、ロータロッド装置を用い、3日間連続で運動機能を試験した。2日目及び3日目に、遺伝子編集されたUbe3am-/p+マウスは、対照ベクターを受けたUbe3am-/p+マウスと比較すると、有意な運動改善を示した(テューキーのペアワイズ比較を伴う二元配置ANOVA、15~24匹のマウス/群)。(図4C)遺伝子編集されたUbe3am-/p+マウスは、対照ベクターを受けたUbe3am-/p+マウスと比較すると、覆い隠し活動の有意な改善を示した(テューキーのペアワイズ比較を伴う一元配置ANOVA、15~24匹のマウス/群)。(図4D)遺伝子編集されたUbe3am-/p+マウスは、対照ベクターを受けたUbe3am-/p+マウスと比較すると、営巣スキル及び活動の有意な改善を示した(テューキーのペアワイズ比較を伴う一元配置ANOVA、15~24匹のマウス/群)。(図4E)オープンフィールドアリーナにおいて同じマウスコホートを評価し、歩行活動を決定した。遺伝子編集されたUbe3am+/p-マウスの性能は、対照ベクターを受けたUbe3am+/p-マウスと比較すると、全ての時点で改善の傾向を示した(15~24匹のマウス/群、二元配置ANOVA、治療群効果[F(3,77)=13.48、p<0.001)、テューキーのペアワイズ比較、p>0.4))。平均は、標準誤差、*p<0.05、**p<0.01を用いて示される。
図5A-5D】Ube3a-ATSのインビボ遺伝子編集が、インデル形成及びUbe3a受容体の発現を引き起こすことを示す。(図5A)CRISPR/Cas9をコードするAAV-PHP.Bベクターで治療されたUbe3am+/pYFPマウスからの脳においてベクターゲノムを定量化し、出生児(0日目)に側脳室(ICV)に注射したか、又は14、21、又は28日齢にIV注射した。大脳皮質における二倍体ゲノム当たりのベクターゲノムコピーは、その後の時点でのIV注射と比較して、ICV注射について12~59倍高かった(群当たり3匹のマウス、テューキーのペアワイズ比較を伴う一元配置ANOVA、**p<0.001)。(図5B)Ube3am+/pYFP(父系Ube3a-YFP)マウスに、出生時(0日目)にCRISPR/Cas9をコードするAAVベクターを注射し、21日後に大脳皮質を採取した。AMP-seqによって分子分析を行い、塩基対の挿入、欠失、及びITR統合の割合を決定し、これらは合計で平均12.8%に達した。比較すると、非標的化CRISPR/Cas9構築物は、同じ実験において全体的な割合が0.4%であった。挿入、欠失及び統合は、各々、NT対照と比較して、有意に増加した(群当たり3匹のマウス、シダックのペアワイズ比較を伴う二元配置ANOVA、p>0.001)。(図5C)、(図5D)Ube3am+/pYFPマウスに、出生時(0日目)にCRISPR/dCas9(ヌクレアーゼ欠損Cas9)をコードするAAVベクターを注射し、21日後に大脳皮質を採取した。(図5C)UBE3A抗体を用いるウエスタンブロットによって、父系UBE3A-YFPタンパク質はなんら検出されなかった(Ube3a-YFPバンドは、緑色の矢印によって区切られており、各Ube3a-YFPバンドの相対量をアクチンに対して正規化し、各レーンの下にアノテーションが付けられている)。(図5D)GFP抗体を用いる免疫蛍光染色によって、父系Ube3a-YFPタンパク質はなんら検出されなかった(皮質からの代表的な画像、スケールバー:100μm)。
図6A-6C】Ube3a-ATSのインビボ遺伝子編集が、Ube3aの発現を引き起こすことを示す。ATS-GEベクターを新生児注射したUbe3a-koマウス、又は未治療の野生型同腹仔から4ヶ月齢で脳を採取し、固定し、Ube3a抗体を用いた免疫組織化学のために処理した。(図6A及び図6B)矢状方向切片の概要図。(図6C)アノテーション付き脳領域の図6Bの拡大図(スケールバー:(図6A)、図6B)-3mm、(図6C)-300um)。
図7A-7C】ASマウスモデルにおけるUbe3a-ATSのインビボ遺伝子編集を示す。Ube3am+/p-マウスに、出生時(0日目)にCRISPR/dCas9(ヌクレアーゼ欠損Cas9)をコードするAAVベクターを注射し、4ヶ月後に大脳皮質を採取した。(図7A)Ube3a抗体を用いるウエスタンブロットによって、有意な父系Ube3aタンパク質発現をなんら検出しなかった(相対量は、アクチンに対して正規化し、各レーンに対してアノテーションが付けられている)。(図7B)同様に、Ube3a抗体を用いる免疫組織化学染色は、Ube3a発現をなんら示さなかった(代表的な画像、スケールバー:500μm)。(図7C)Ube3am+/p-マウスに、出生時(0日目)に標的化又は非標的化(NT)sgRNAを有するCRISPR/Cas9をコードするAAVベクターを注射し、4ヶ月後に大脳皮質を採取した。AMP-seqを使用して、欠失、挿入又はITR統合の頻度を定量化し、編集された群について22%、対照(NT)群について0.5%に達した。挿入、欠失及び統合は、各々、有意に増加した(群当たり5匹のマウス、シダックのペアワイズ比較を伴う二元配置ANOVA、p>0.001)。
図8】AAVベクターゲノムを示し、インビトロでUbe3aの下流のUbe3a-ATSコード領域を標的化する際の効率についてのsgRNAのスクリーニングからの結果を示す。
図9】ヒトUBE3A-ATSの領域(上から下に配列番号1~32)におけるsgRNA配列及びその標的位置のリストを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に記載の方法及び組成物は、母系Ube3a対立遺伝子中の欠失又は変異、及びニューロン中のUBE3A発現の欠如から生じる状態であるアンジェルマン症候群(AS)の治療に有用である。
【0013】
AS患者におけるUBE3A発現の消失は、母系遺伝UBE3A対立遺伝子における変異、欠損と、父系遺伝UBE3A対立遺伝子のサイレンシングとの組み合わせの結果であり、ニューロンにおけるUBE3A発現が完全に消失する。ニューロンにおけるUBE3A発現を復元するための1つのアプローチは、完全に機能しているが、発現しない父系UBE3A遺伝子を脱サイレンシングすることである。
【0014】
父系UBE3Aサイレンシングは、転写開始部位を過ぎたUBE3A mRNAの伸長を抑制すると考えられるアンチセンス転写産物(ATS)の発現によって達成される。本明細書で示されるように、UBE3Aコード領域へのATSの伸長と干渉することにより、UBE3A mRNAの全長伸長及びタンパク質発現を可能にする。ASモデルマウスに、CRISPR/Cas9遺伝子編集系を提供するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを投与し、インビボでマウスニューロンの最大21%においてATS配列のインデル形成を達成した。インデル形成により、父系Ube3a対立遺伝子の脱サイレンシング、及びその後のタンパク質発現が生じた。母系対立遺伝子からのUbe3aの発現は影響を受けなかった。更に、マウスにおけるUbe3a-ATS遺伝子編集は、Ube3a-ATSによって調節される他の遺伝子(Snrpn、Snord115、Snord116を含む)を脱サイレンシングすることなく、全長Ube3a-ATS転写産物の存在量を選択的に減少させた。治療後、ASマウスにおけるUBE3Aタンパク質発現は、少なくとも3ヶ月間持続した。治療されたASモデルマウスは、神経行動学的試験のバッテリーにおける性能も改善した。この知見は、限られた数のニューロンにおける遺伝子編集によるUbe3aの再活性化が、ASマウスモデルにおける疾患症状を改善するのに十分であることを示す。ASに対する現在の治療は、疾患の発作及び行動的態様のための薬学的治療を含め、対症療法である。定期的な再投与を必要とする他のアプローチと比較して、ASの治療のための遺伝子編集アプローチは、長く続く療法である可能性を有する。
【0015】
一実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法は、ASの治療のための遺伝子編集系の送達のための発現カセット、ベクター、及び組換えウイルスを伴う。
【0016】
本明細書で使用される場合、「疾患」、「障害」、及び「状態」は、対象における異常な状態を示すために互換的に使用される。一実施形態では、疾患は、アンジェルマン症候群(AS)である。
【0017】
「患者」又は「対象」は、本明細書で互換的に使用される場合、ヒト、獣医学用動物又は農業用動物、家庭用動物又は愛玩動物、並びに通常臨床研究に使用される動物を含む、雄又は雌の哺乳動物を意味する。一実施形態では、これらの方法及び組成物の対象は、ヒト患者である。一実施形態では、これらの方法及び組成物の対象は、男性又は女性のヒトである。
【0018】
本明細書及び特許請求の範囲全体を通して使用される場合、「含む(comprising)」、「含有する(containing)」、「含む(including)」という用語、及びその変形語は、他の構成要素、要素、整数、ステップ等を含む。逆に、「構成する(consisting)」という用語及びその変形は、他の構成要素、要素、整数、ステップなどを除外する。
【0019】
「a」又は「an」という用語は、1つ以上を指し、例えば、「ニューロン(a neuron)」は、1つ以上のニューロンを表すと理解されることを留意されたい。したがって、「a」(又は「an」)、「1つ以上(one or more)」、及び「少なくとも1つ(at least one)」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0020】
本明細書で使用される場合、「約(about)」という用語は、別途指定されない限り、与えられた参照からプラス又はマイナス10%の可変性を意味する。
【0021】
本明細書で使用される場合、「UBE3A-ATS」は、UBE3Aアンチセンス転写産物を指す。ヒトでは、UBE3A-ATSは、核小体低分子RNA宿主遺伝子14(SNHG14)、NCBI遺伝子ID:104472715、NCBI参照配列:NR_146177.1)としても知られる(例えば、Runte M.,et al.Hum.Mol.Genet.2001; 10:2687-2700(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0022】
理論に束縛されることを意図するものではないが、UBE3A-ATSは、ニューロン細胞における父系染色体上のUBE3A遺伝子内に伸長し、UBE3Aの転写と干渉する。非ニューロン細胞では、UBE3A-ATSの転写は、UBE3Aに伸長せず、UBE3Aは、依然として二対立遺伝子として発現していた(図1を参照されたい)。マウス及びヒトUBE3A-ATSは、異なる染色体上に位置している(それぞれ7及び15)。しかしながら、転写産物は、マウスとヒトとの間で高度に保存される領域(プラダー・ウィリ症候群(PWS)/アンジェルマン症候群(AS)領域として知られている)に位置している。本明細書に記載される場合、特定の実施形態では、遺伝子編集のための標的配列は、UBE3A 3’UTRの下流の領域中のヒトUBE3A-ATSの中にある。特定の実施形態では、ヒトUBE3A-ATSにおける標的配列は、chr15:25,278,409~25,333,728(hg38ゲノムアセンブリ)に位置する。更に別の実施形態では、UBE3Aの3’UTRとSNORD109B(NCBI参照配列:NR_001289.1)との間の領域のヒトUBE3A-ATS中の標的配列。一態様では、Ube3a-ATSによって調節される他の遺伝子の発現を変化させることなく、父系対立遺伝子のUBE3A発現を増強する方法でUBE3A-ATSを編集するための組成物及び方法が本明細書で提供される。特定の実施形態では、ヒトUbe3a-ATSの編集は、SNORD109Bの発現を変更しない。
【0023】
本明細書に記載の核酸配列を、日常的な分子生物学技術を使用してクローニングすることができ、又はDNA合成によってデノボで生成することができ、これは、DNA合成及び/又は分子クローニングの分野での事業を有するサービス企業(例えば、GeneArt、GenScript、Life Technologies、Eurofins)による日常的な手順を使用して行うことができる。本明細書に記載のUBE3A-ATS編集系の態様をコードする核酸配列は、組み立てられ、例えば、非ウイルス送達系(例えば、RNAベースの系、裸のDNA等)を生成するために、又はパッケージング宿主細胞中でウイルスベクターを生成するために、及び/又は対象において宿主細胞に送達するために、任意の適切な遺伝要素、例えば、裸のDNA、ファージ、トランスポゾン、コスミド、エピソーム等に配置され、それらの上に保有される配列を宿主細胞に送達する。一実施形態では、遺伝要素は、ベクターである。一実施形態では、遺伝要素は、プラスミドである。かかる操作された構築物を作製するために使用される方法は、核酸操作における当業者に既知であり、遺伝子工学、組換え工学、及び合成技術を含む。例えば、Green and Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold
Spring Harbor,NY(2012)を参照されたい。
【0024】
発現カセット
本明細書で使用される場合、「発現カセット」は、遺伝子編集系の1つ以上の要素、例えば、エンドヌクレアーゼ及び標的化配列(例えば、CRISPR/Cas系発現カセットのcrRNA配列)をコードする核酸分子を指す。発現カセットは、プロモーターも含有し、宿主細胞における遺伝子編集系の発現を制御する追加の調節要素を含有し得る。一実施形態では、発現カセットは、ウイルスベクターのカプシド(例えば、ウイルス粒子)にパッケージングされ得る。一実施形態では、本明細書に記載のウイルスベクターを生成するためのこのような発現カセットは、本明細書に記載されるようなウイルスゲノムのパッケージングシグナル及び他の発現制御配列に隣接する。例えば、AAVウイルスベクターの場合、パッケージングシグナルは、5’逆位末端反復(ITR)及び3’AAV ITRである。
【0025】
本明細書で使用される場合、「作動可能に連結された」又は「操作可能に会合された」という用語は、目的の遺伝子に連続している発現制御配列又は調節要素、及びトランスで、又は離れて作用して目的の遺伝子を制御する発現制御配列の両方を指す。
【0026】
本明細書に記載される場合、調節要素は、限定されないが、プロモーター、エンハンサー、転写因子、転写終結因子、スプライシング及びポリアデニル化シグナル(ポリA)等の効率的なRNAプロセシングシグナル、細胞質mRNAを安定化させる配列、例えば、ウッドチャック肝炎ウイルス(WHP)転写後調節因子(WPRE)、翻訳効率を向上させる配列(すなわち、コザックコンセンサス配列)を含む。
【0027】
一実施形態では、発現カセットは、UBE3A-ATSを標的化するための、遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする配列の発現を指示する調節要素を含む。一実施形態では、調節要素は、1つ以上のプロモーターを含む。特定の実施形態では、発現カセットは、CMVプロモーターを含む。特定の実施形態では、プロモーターは、ニューロン特異的プロモーターである。特定の実施形態では、好適なプロモーターとしては、伸長因子1アルファ(EF1アルファ)プロモーター(例えば、Kim DW et al,Use of the human elongation factor 1 alpha promoter as a versatile and efficient expression system.Gene.1990 Jul 16;91(2):217-23を参照されたい)、シナプシン1プロモーター(例えば、Kugler S et al,Human synapsin 1 gene promoter confers highly neuron-specific long-term transgene expression from an adenoviral vector in the adult rat brain depending on the transduced area.Gene Ther.2003 Feb;10(4):337-47を参照されたい)、神経特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(例えば、Kim J et al,Involvement of cholesterol-rich lipid rafts in interleukin-6-induced neuroendocrine differentiation of
LNCaP prostate cancer cells.Endocrinology.2004 Feb;145(2):613-9.Epub 2003 Oct 16を参照されたい)、又はCB6プロモーター(例えば、Large-Scale Production of Adeno-Associated Viral Vector Serotype-9 Carrying the Human Survival
Motor Neuron Gene,Mol Biotechnol.2016 Jan;58(1):30-6.doi:10.1007/s12033-015-989
9-5を参照されたい)が挙げられるが、これらに限定されない。他の好適なプロモーターとしては、(C)サイトメガロウイルス(CMV)初期エンハンサー要素、(A)プロモーター、ニワトリベータアクチン遺伝子の第1のエクソン及び第1のイントロン、並びに(G)ウサギベータグロビン遺伝子のスプライスアクセプターを含む、CAGプロモーターが挙げられる。例えば、Alexopoulou,Annika N.,et al.BMC cell biology 9.1(2008):2を参照されたい。望ましさは低いが、ウイルスプロモーター、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、調節可能なプロモーター等の他のプロモーター(例えば、WO2011/126808及びWO2013/04943を参照されたい)、又は生理学的キューに応答するプロモーターを使用してもよく、本明細書に記載のベクターに利用してもよい。特定の実施形態では、発現カセットは、U6プロモーターを含む。別の実施形態では、調節要素は、エンハンサーを含む。更なる実施形態では、エンハンサーは、APBエンハンサー、ABPSエンハンサー、アルファmic/bikエンハンサー、TTRエンハンサー、en34エンハンサー、ApoEエンハンサー、CMVエンハンサー、又はRSVエンハンサーのうちの1つ以上から選択される。なお別の実施形態では、調節要素は、イントロンを含む。更なる実施形態では、イントロンは、CBA、ヒトベータグロビン、IVS2、SV40、bGH、アルファ-グロブリン、ベータ-グロブリン、コラーゲン、オボアルブミン、又はp53から選択される。一実施形態では、調節要素は、ポリAを含む。更なる実施形態では、ポリAは、合成ポリA、又はウシ成長ホルモン(bGH)、ヒト成長ホルモン(hGH)、SV40、ウサギβ-グロビン(RGB)、若しくは修飾RGB(mRGB)からのものである。別の実施形態では、調節要素は、WPRE配列を含み得る。更に別の実施形態では、調節要素は、コザック配列を含む。
【0028】
特定の実施形態では、sgRNAをコードする配列に作動可能に連結されたU6プロモーターを含む発現カセットが提供される。特定の実施形態では、発現カセットは、少なくとも、sgRNAコード配列に作動可能に連結されたU6プロモーターと、Cas9コード配列に作動可能に連結されたニューロン特異的プロモーター(例えば、ヒトシナプシンプロモーター)と、を含む。例示的なベクターゲノムを図9に示す。
【0029】
「発現」という用語は、本明細書で最も広い意味で使用され、RNAの産生、タンパク質の産生、又はRNA及びタンパク質の両方の産生を含む。RNAに関して、「発現」又は「翻訳」という用語は、特に、ペプチド又はタンパク質の産生に関する。発現は、一過性のものであってもよく、又は安定したものであってもよい。
【0030】
発現カセットは、任意の好適な送達システムを介して送達することができる。好適な非ウイルス送達系は、当該技術分野において既知であり(例えば、Ramamoorth and Narvekar.J Clin Diagn Res.2015 Jan;9(1):GE01-GE06、参照により本明細書に組み込まれる)、当業者によって容易に選択され得、例えば、裸のDNA、裸のRNA、デンドリマー、PLGA、ポリメタクリレート、無機粒子、脂質粒子(脂質ナノ粒子若しくはLNP)又はキトサンベースの製剤を含み得る。
【0031】
一実施形態では、ベクターは、非ウイルスプラスミドであり、その記載される発現カセット(例えば、「裸のDNA」、「裸のプラスミドDNA」、RNA、及びmRNA)を含み、様々な組成物及びナノ粒子(例えば、ミセル、リポソーム、カチオン性脂質-核酸組成物、ポリグリカン組成物、及び他のポリマー、脂質及び/又はコレステロール系-核酸コンジュゲート、並びに本明細書に記載されるような他の構築物を含む)と結合される。例えば、X.Su et al,Mol.Pharmaceutics,2011,8(3),pp774-787;ウェブ公開:2011年3月21日、WO2013/182683、WO2010/053572、及びWO2012/170930を参照された
く、これらは全て参照により本明細書に組み込まれる。
【0032】
遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする核酸配列を含む組成物、及びUBE3A-ATSを編集するためのその使用方法が本明細書で提供される。本明細書で使用される場合、「遺伝子編集系」は、典型的には特定の遺伝子又は核酸配列(例えば、標的配列又はモチーフを含む)に対して特異性を有する、遺伝物質を修飾するための技術又は分子機構を指す。かかる遺伝子編集系は、ゲノム中の標的部位を修飾するか、又は変異を導入するように設計される。本明細書で使用される場合、「変異」又は「修飾」は、別途記載されない限り、小さなヌクレオチド挿入若しくは欠失(インデル)、又はより大きな欠失、挿入、又は反転を含むがこれらに限定されないゲノム配列の任意の変化を指すことができる。特定の実施形態では、変異又は修飾の導入は、「編集」又は「遺伝子編集」と称される。
【0033】
「標的部位」及び「標的配列」等の用語は、別途指定されない限り、遺伝子編集系の1つ以上の要素によって認識される配列を指すために本明細書で使用される。例えば、sgRNAは、ゲノム中の標的部位又は標的配列に結合する(すなわち、それに対して相補的である)配列を含む。
【0034】
特定の実施形態では、遺伝子編集系は、UBE3A-ATSを修飾するためのクラスター化された規則的な間隔の短い回文反復(CRISPR)系である。一実施形態では、CRISPR/Casデュアルベクター系が本明細書で提供される(例えば、参照により本明細書に組み込まれるWO2016/176191を参照されたい)。代替的に、特定の実施形態では、好適な遺伝子編集系としては、DNA二本鎖切断を誘導するためのジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)が挙げられ、これは、外因性DNAドナー基質の送達を組み合わせてもよく、又は組み合わせなくてもよい(例えば、参照により本明細書に組み込まれるEllis et al,Gene Therapy(epub January 2012)20:35-42を参照されたい)。他の実施形態では、好適な遺伝子編集系としては、メガヌクレアーゼ(例えば、各々が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,445,251号、US9,340,777、US9,434,931、US9,683,257、及びWO2018/195449を参照されたい)、又は転写活性化因子様(TAL)エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)が挙げられる。
【0035】
特定の実施形態では、好適なCRISPR遺伝子編集系は、少なくとも、Cas9酵素、及びUbe3a-ATSコード配列中の標的部位に特異的なsgRNAを含む。したがって、一実施形態では、遺伝子編集ベクターは、編集酵素としてのCas9酵素と、少なくとも20ヌクレオチド長であり、かつCas9によって特異的に認識されるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に対して5’のUbe3a-ATS中の選択された部位に特異的に結合するsgRNAと、を含む。特定の実施形態では、発現カセット又はベクターゲノムは、sgRNA分子をコードする核酸配列と、Cas9酵素をコードする核酸配列と、を含む(例えば、図8を参照されたい)。特定の実施形態では、遺伝子編集系は、ドナー又は修復鋳型も含む。ドナー鋳型を提供する発現カセットは、sgRNA及びCas9をコードする発現カセットと同じであってもよく、又は異なる発現カセットであってもよい。したがって、特定の実施形態では、遺伝子編集系が、その発現を指示する調節配列の制御下でCas9遺伝子を含む発現カセットと、sgRNA及びドナー鋳型を含む第2の発現カセットと、を含む、デュアルベクター系(例えば、WO2016/176191に記載されるような)が提供される。
【0036】
「Cas9」(CRISPR関連タンパク質9)は、2つのシグネチャーヌクレアーゼドメインRuvC(非コード鎖を切断する)及びHNH(コード鎖)によって特徴付けられるRNAガイドDNAエンドヌクレアーゼのファミリーを指す。Cas9の好適な細菌
源としては、Staphylococcus aureus(SaCas9)、Stapylococcus pyogenes(SpCas9)、及びNeisseria meningitides(KM Estelt et al,Nat Meth,10:1116-21(2013))が挙げられる。野生型コード配列は、本明細書に記載の構築物に利用され得る。代替的に、細菌コドンは、例えば、様々な既知のヒトコドン最適化アルゴリズムのいずれかを使用して、ヒトにおける発現のために最適化される。同様の特性を有する他のエンドヌクレアーゼは、任意選択的に置換されてもよい。例えば、crispr.u-psud.fr/crisprでアクセス可能な公的なCRISPRデータベース(db)を参照されたい。CRISPR/Cas9遺伝子標的化は、標的化配列(crRNA配列)及びCas9ヌクレアーゼ動員配列(tracrRNA)を含有する単一ガイドRNA(sgRNA)が必要である。crRNA領域は、標的部位に相同であり、Cas9ヌクレアーゼ活性を指示する20ヌクレオチド配列である。オフターゲット効果も排除しつつ、ゲノム中の好適な標的部位を特定するための戦略は、当業者に既知である(例えば、ChopChop available online at chopchop.cbu.uib.no/を参照されたい)。本明細書に記載のヒトUBE3A-ATSを標的化するためのSaCas9/CRISPR遺伝子編集系で使用するのに好適なsgRNAの設計のための配列が、以下の表に提供される。特定の実施形態では、発現カセットは、配列番号1~32のいずれかを含むsgRNAをコードする配列を含む。
【表1】
【0037】
別の実施形態では、CRISPR遺伝子編集系は、Cpfl(Prevotella and FrancisellaからのCRISPR)であり得る。Cpflの好ましいPAMは、5’-TTNであり、これは、両方のゲノム位置及びGC含有量においてSpCas9(5’-NGG)及びSaCas9(5’-NNGRRT、N=任意のヌクレオチド、R=アデニン又はグアニン)のものと対照的である。少なくとも16種のCpfl
ヌクレアーゼが特定されているが、2種のヒト化ヌクレアーゼ(AsCpfl及びLbCpfl)が特に有用である。参照により本明細書に組み込まれる、www.addgene.Org/69982/sequences/#depositor-full(AsCpfl配列、及びwww.addgene.Org/69988/sequences/#depositor-full(LbCpfl配列)を参照されたい。更に、Cpflは、tracrRNAを必要とせず、Cas9と比較して、より短いガイドRNA(約42ヌクレオチド)の使用を可能にする。プラスミドは、公共のプラスミドデータベースであるAddgeneから得られてもよい。
【0038】
本明細書に記載される通り、遺伝子編集系を利用して、標的細胞において、父系Ube3a-ATS対立遺伝子中に変異を導入する。いくつかの実施形態では、標的ポリヌクレオチド配列(すなわち、Ube3a-ATS配列)は、二本鎖切断が生じるように切断される。いくつかの実施形態では、標的ポリヌクレオチド配列は、一本鎖切断が生じるように切断される。特定の実施形態では、変化は、非相同末端結合の結果として、接合部位にランダムな挿入/欠失変異を生じさせ得る、挿入又は欠失(インデル)である。遺伝子のコード領域内で生じるインデル変異は、フレームシフト及び早期終止コドンを生じさせ、転写を破壊し得る。代替的に、プラスミド又は一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)の形態の修復鋳型を供給して、高忠実度及び正確な編集を可能にする相同組換え修復(HDR)経路を活用することができる。
【0039】
特定の実施形態では、ウイルスベクターを使用して、遺伝子編集系の1つ以上の要素を送達する。以下の例は、AAVベクターの使用を説明し、以下の考察は、AAVベクターに焦点を当てているが、遺伝子編集ベクター及び/又はベクターを保有する鋳型の代わりに、異なる部分的又は完全に統合されたベクター又はウイルスが系で使用され得ることが理解されるだろう。例えば、Jinek,M.;Chilynksi,K.;Fonfara,I.,;Hauer,M.,;Doudna,J.,;Charpentier,E.,(August 17,2012)“A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity”.Science.337(6069):816-821.Bibcode:2012 Sci..337..816J.doi:10.1126/science.1225829.PMID 22745249、米国特許第8,697,359号、US 9,909,122、US 2017/0051312、US 2017/0137801、US 2017/0166893、US2017/0360048、US 2018/0002682(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0040】
特定の実施形態では、ベクターは、CRISPR/Cas9等のゲノム編集系の1つ以上の構成要素(例えば、ガイドRNA及びエンドヌクレアーゼ)を送達する。別の実施形態では、対象に同時投与されたときにCRISPR系の構成要素を送達するために、組み合わせ又は二重AAVベクター系が提供される(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるWO2016/176191を参照されたい)。ベクターは、一緒に、又は別個に製剤化されてもよく、本質的に同時に、好ましくは同じ経路によって送達されてもよい。
【0041】
特定の実施形態では、1つ以上の変異は、本明細書に記載の遺伝子編集系を使用して標的配列(例えば、UBE3A-ATS)に導入され得る。特定の実施形態では、ドナー又は修復鋳型を送達するためのものであり、標的配列に導入されたときに、例えば早期終止を含む、UBE3A-ATSの転写の破壊が存在するように設計された配列である、ベクターが提供される。
【0042】
様々な従来のベクター要素は、標的細胞における遺伝子編集活性を増強するために使用され得る。例えば、ASを治療するための治療用に設計された系は、CRISPR酵素が、ニューロン特異的プロモーター(例えば、ヒトシナプシン1)の制御下で発現されるように設計され得る。
【0043】
任意選択的に、発現カセットは、非翻訳領域にmiRNA標的配列を含み得る。miRNA標的配列は、導入遺伝子発現が望ましくない、及び/又は導入遺伝子発現のレベルの減少が望ましい細胞に存在するmiRNAによって特異的に認識されるように設計される。特定の実施形態では、発現カセットは、後根神経節(DRG)におけるヌクレアーゼの発現を特異的に減少させるmiRNA標的配列を含む。特定の実施形態では、miRNA標的配列は、3’UTR、5’UTR、並びに/又は3’UTR及び5’UTRの両方に位置する。いくつかの実施形態では、miRNA標的配列は、発現カセットにおいて、調節配列に作動可能に連結される。特定の実施形態では、発現カセットは、DRG特異的miRNA標的配列の少なくとも2つのタンデム反復を含み、少なくとも2つのタンデム反復は、少なくとも第1のmiRNA標的配列と、同じ又は異なり得る少なくとも第2のmiRNA標的配列とを含む。特定の実施形態では、タンデムmiRNA標的配列は、連続的であるか、又は1~10個の核酸のスペーサーによって分離されており、このスペーサーは、miRNA標的配列ではない。
【0044】
特定の実施形態では、ベクターゲノム又は発現カセットは、miR-183標的配列である少なくとも1つのmiRNA標的配列を含有する。特定の実施形態では、ベクターゲノム又は発現カセットは、
(配列番号33)を含むmiR-183標的配列を含有する(miR-183シード配列に相補的な配列には、下線が引かれている)。特定の実施形態では、ベクターゲノム又は発現カセットは、miR-183シード配列に100%相補的である配列を、1コピーより多く(例えば、2又は3コピー)含有する。特定の実施形態では、miR-183標的配列は、約7ヌクレオチド~約28ヌクレオチド長であり、miR-183シード配列に少なくとも100%相補性である領域を、少なくとも1つ含む。特定の実施形態では、miR-183標的配列は、配列番号33に部分的な相補性を有する配列を含有し、したがって、配列番号33にアラインメントさせた場合、1つ以上のミスマッチがある。特定の実施形態では、miR-183標的配列は、配列番号33とアラインメントさせた場合、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のミスマッチを有する配列を含み、ミスマッチは非連続であり得る。特定の実施形態では、miR-183標的配列は、100%相補性の領域を含み、また、miR-183標的配列の長さの少なくとも30%を含む。特定の実施形態では、100%相補性の領域は、miR-183シード配列と100%相補性を有する配列を含む。特定の実施形態では、miR-183標的配列の残部は、miR-183と少なくとも約80%~約99%相補性を有する。特定の実施形態では、発現カセット又はベクターゲノムは、切断された配列番号33を含むmiR-183標的配列(すなわち、配列番号33の5’末端若しくは3’末端のいずれか又は両方で、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10ヌクレオチドを欠く配列)を含む。特定の実施形態では、発現カセット又はベクターゲノムは、導入遺伝子と、1つのmiR-183標的配列とを含む。なお他の実施形態では、発現カセット又はベクターゲノムは、少なくとも2つ、3つ、又は4つのmiR-183標的配列を含む。
【0045】
特定の実施形態では、ベクターゲノム又は発現カセットは、miR-182標的配列である少なくとも1つのmiRNA標的配列を含有する。特定の実施形態では、ベクターゲノム又は発現カセットは、AGTGTGAGTTCTACCATTGCCAAA(配列番
号34)を含むmiR-182標的配列を含有する。特定の実施形態では、ベクターゲノム又は発現カセットは、miR-182シード配列に100%相補的である配列を、1コピーより多く(例えば、2又は3コピー)含有する。特定の実施形態では、miR-182標的配列は、約7ヌクレオチド~約28ヌクレオチド長であり、miR-182シード配列に少なくとも100%相補性である領域を、少なくとも1つ含む。特定の実施形態では、miR-182標的配列は、配列番号34に部分的な相補性を有する配列を含有し、したがって、配列番号34にアラインメントさせた場合、1つ以上のミスマッチがある。特定の実施形態では、miR-183標的配列は、配列番号34とアラインメントさせた場合、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のミスマッチを有する配列を含み、ミスマッチは非連続であり得る。特定の実施形態では、miR-182標的配列は、100%相補性の領域を含み、また、miR-182標的配列の長さの少なくとも30%を含む。特定の実施形態では、100%相補性の領域は、miR-182シード配列と100%相補性を有する配列を含む。特定の実施形態では、miR-182標的配列の残部は、miR-182と少なくとも約80%~約99%相補性を有する。特定の実施形態では、発現カセット又はベクターゲノムは、切断された配列番号34を含むmiR-182標的配列(すなわち、配列番号34の5’末端若しくは3’末端のいずれか又は両方で、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10ヌクレオチドを欠く配列)を含む。特定の実施形態では、発現カセット又はベクターゲノムは、導入遺伝子と、1つのmiR-182標的配列とを含む。なお他の実施形態では、発現カセット又はベクターゲノムは、少なくとも2つ、3つ、又は4つのmiR-182標的配列を含む。
【0046】
「タンデム反復」という用語は、2つ以上の連続するmiRNA標的配列の存在を指すように本明細書で使用される。これらのmiRNA標的配列は、連続的であってもよい。すなわち、ある配列の3’末端が、介在配列なしで、次の配列の5’末端の直ぐ上流にあるように、又はその逆でもよく、次々と直に位置している。別の実施形態では、miRNA標的配列のうちの2つ以上が、短いスペーサー配列によって分離されている。
【0047】
本明細書で使用される場合、「スペーサー」としては、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10ヌクレオチド長の任意の選択された核酸配列であり、2つ以上の連続するmiRNA標的配列の間に位置する。特定の実施形態では、スペーサーは、1~8ヌクレオチド長、2~7ヌクレオチド長、3~6ヌクレオチド長、4ヌクレオチド長、4~9ヌクレオチド、3~7ヌクレオチド、又はより長い値である。好適には、スペーサーは、非コード配列である。特定の実施形態では、スペーサーは、4つの(4)ヌクレオチドであり得る。特定の実施形態では、スペーサーは、GGATである。特定の実施形態では、スペーサーは、6つの(6)ヌクレオチドである。特定の実施形態では、スペーサーは、CACGTG又はGCATGCである。
【0048】
特定の実施形態では、タンデム反復は、2つ、3つ、4つ以上の同じmiRNA標的配列を含有する。特定の実施形態では、タンデム反復は、少なくとも2つの異なるmiRNA標的配列、少なくとも3つの異なるmiRNA標的配列、又は少なくとも4つの異なるmiRNA標的配列等を含有する。特定の実施形態では、タンデム反復は、2つ又は3つの同じmiRNA標的配列、及び異なる第4のmiRNA標的配列を含有し得る。
【0049】
特定の実施形態では、発現カセットには、少なくとも2つの異なるセットのタンデム反復が存在し得る。例えば、3’UTRは、導入遺伝子のすぐ下流のタンデム反復と、UTR配列と、UTRの3’末端に近接する2つ以上のタンデム反復と、を含有し得る。別の例では、5’UTRは、1つ、2つ以上のmiRNA標的配列を含有し得る。別の例では、3’は、タンデム反復を含有してもよく、5’UTRは、少なくとも1つのmiRNA標的配列を含有してもよい。
【0050】
特定の実施形態では、発現カセットは、導入遺伝子の終止コドンの約0~20ヌクレオチド以内で開始する、2つ、3つ、4つ以上のタンデム反復を含有する。他の実施形態では、発現カセットは、導入遺伝子の終止コドンから少なくとも100~約4000ヌクレオチドでmiRNAタンデム反復を含有する。
【0051】
2018年12月21日に出願された米国仮特許出願第62/783,956号(参照により本明細書に組み込まれる)に対する優先権を主張する、2019年12月20日に出願されたPCT/US19/67872号(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0052】
本明細書に記載の発現カセットにおける組成物が、本明細書にわたって記載される組成物及び方法に適用されるように意図されることを理解されたい。
【0053】
ベクター
特定の実施形態では、遺伝子編集系の1つ以上の要素は、ベクター又はウイルスベクターによってニューロンに送達される核酸配列によってコードされ、その多くは、当該技術分野で既知であり、利用可能である。一実施形態では、本明細書に記載されるUBE3A-ATS標的化遺伝子編集系を含むベクターが提供される。一実施形態では、本明細書に記載の発現カセットを含むベクターが提供される。一実施形態では、ベクターは、非ウイルスベクターである。更なる実施形態では、非ウイルスベクターは、プラスミドである。別の実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。ウイルスベクターとしては、ボカウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、又はパルボウイルスを含むが、これらに限定されない、遺伝子療法に好適な任意のウイルスが挙げられる。しかしながら、理解を容易にするために、アデノ随伴ウイルスが、例示的なウイルスベクターとして本明細書で言及される。したがって、一実施形態では、核酸配列と、そのための調節要素に作動可能に連結された遺伝子編集系の1つ以上の要素と、を含む、アデノ随伴ウイルスベクターが提供される。
【0054】
本明細書で使用される「ベクター」は、核酸配列の複製又は発現のために適切な標的細胞に導入することができる核酸配列を含む、生物学的部分又は化学的部分である。ベクターの例としては、組換えウイルス、プラスミド、リポプレックス、ポリマーソーム、ポリプレックス、デンドリマー、細胞透過性ペプチド(CPP)コンジュゲート、磁性粒子、又はナノ粒子が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、ベクターは、機能的な遺伝子産物をコードする外因性又は異種の操作された核酸を有する核酸分子であり、そのため、適切な標的細胞に導入することができる。かかるベクターは、好ましくは、1つ以上の複製起点、及び組換えDNAを挿入することができる1つ以上の部位を有する。ベクターは、しばしば、ベクターを有する細胞を、有さない細胞から選択することができる手段を有しており、例えば、それらは薬剤耐性遺伝子をコードしている。一般的なベクターには、プラスミド、ウイルスゲノム、及び「人工染色体」が含まれる。ベクターの生成、産生、特性評価、又は定量化の従来の方法は、当業者にとって利用可能である。
【0055】
本明細書で使用される場合、組換えウイルスベクターは、所望の細胞を標的化する任意の好適なウイルスベクターである。したがって、本明細書に記載の組換えウイルスベクターは、好ましくは、中枢神経系(例えば、脳)の細胞を含む、アンジェルマン症候群に罹患した細胞及び組織のうちの1つ以上を標的化する。実施例は、例示的な組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を提供する。しかしながら、他の好適なウイルスベクターとしては、例えば、組換えアデノウイルス、組換えボカウイルス等の組換えパルボウイルス、ハイブリッドAAV/ボカウイルス、組換え単純ヘルペスウイルス、組換えレトロウイルス、又は組換えレンチウイルスが挙げられ得る。好ましい実施形態では、これらの組換えウイルスは、複製欠陥である。
【0056】
「複製欠損」ウイルス又はウイルスベクターは、合成又は人工ウイルス粒子であって、目的の遺伝子を含有する発現カセットが、ウイルスカプシド又はエンベロープ中にパッケージングされ、ウイルスカプシド又はエンベロープ内にパッケージングされた任意のウイルスゲノム配列が、複製欠損でもある、すなわち、それらが、後代ビリオンを産生することができないが、標的細胞に感染する能力を保持することができるものを指す。一実施形態では、ウイルスベクターのゲノムは、複製に必要とされる酵素をコードする遺伝子を含まない(ゲノムは、人工ゲノムの増幅及びパッケージングに必要とされるシグナルに隣接して目的の遺伝子のみを含有する「ガットレス(gutless)」であり得る)が、これらの遺伝子は、産生中に供給され得る。したがって、後代ビリオンによる複製及び感染が、複製に必要とされるウイルス酵素の存在下以外で生じることができないために、遺伝子療法における使用のために安全であると考えられる。そのような複製欠損ウイルスは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス(組み込み若しくは非組み込み)、又は別の適切なウイルス源であってもよい。
【0057】
「プラスミド」又は「プラスミドベクター」は、一般に、本明細書では、ベクター名の前及び/又は後に小文字のpで示される。本発明に従って使用することができるプラスミド、他のクローニング及び発現ベクター、それらの特性、並びにそれらの構築/操作方法は、当業者には容易に明らかである。一実施形態では、本明細書に記載される遺伝子編集系の要素は、ウイルスベクターを生成するため、及び/又は宿主細胞、例えば、裸のDNA、ファージ、トランスポゾン、コスミド、エピソーム等への送達のために有用であり、その上に保有される配列を転写する好適な遺伝要素(ベクター)内で操作される。選択されるベクターは、トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポソーム送達、膜融合技術、高速DNAコーティングペレット、ウイルス感染、及びプロトプラスト融合を含む任意の好適な方法によって送達され得る。かかる構築物を作製するために使用される方法は、核酸操作における当業者に既知であり、遺伝子工学、組換え工学、及び合成技術を含む。例えば、Sambrook et al,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NYを参照されたい。
【0058】
本明細書で互換的に使用される「導入遺伝子」又は「目的の遺伝子」という用語は、本明細書に記載の発現カセット、rAAVゲノム、組換えプラスミド、又は産生プラスミド、ベクター、又は宿主細胞におけるプロモーター及び/又は他の調節要素の制御下にある、外因性及び/又は操作されたタンパク質をコードする核酸配列を意味する。
【0059】
核酸配列又はタンパク質を説明するために使用される場合、「異種」という用語は、核酸又はタンパク質が、それが発現される宿主細胞若しくは対象とは異なる生物又は同じ生物の異なる種に由来したことを意味する。「異種」という用語は、プラスミド、発現カセット、若しくはベクターにおけるタンパク質又は核酸と関連して使用される場合、タンパク質又は核酸が、問題となるタンパク質又は核酸が天然には互いに同じ関係で認められない別の配列若しくはサブ配列で存在することを示す。
【0060】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」という用語は、ベクター(例えば、組換えAAV)が産生プラスミドから産生されるパッケージング細胞株を指し得る。代替的に、「宿主細胞」という用語は、本明細書に記載の遺伝子編集系の発現が望まれる任意の標的細胞を指し得る。したがって、「宿主細胞」は、任意の手段、例えば、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、形質転換、ウイルス感染、トランスフェクション、リポソーム送達、膜融合技術、高速DNAコーティングペレット、ウイルス感染、及びプロトプラスト融合によって細胞に導入された外因性又は異種DNAを含有する原核細胞又は真核細胞を指す。本明細書の特定の実施形態では、「宿主細胞」
という用語は、本明細書に記載される組成物のインビトロ評価のための様々な哺乳動物種の細胞の培養物を指す。本明細書の他の実施形態では、「宿主細胞」という用語は、ウイルスベクター又は組換えウイルスを生成及びパッケージングするために使用される細胞を指す。更に他の実施形態では、「宿主細胞」という用語は、ASについてインビボで治療される対象の標的細胞を指すことが意図される。更なる実施形態では、「宿主細胞」という用語は、ニューロン、例えば、CNSのニューロンである。
【0061】
本明細書で使用される場合、「標的細胞」という用語は、異種核酸配列又はタンパク質の発現が所望される任意の標的細胞を指す。特定の実施形態では、標的細胞は、CNSのニューロン、特に、変異若しくは欠損母系UBE3A対立遺伝子を有するニューロン、又はUBE3A発現を欠くニューロンである。
【0062】
本明細書で使用される場合、「ベクターゲノム」は、ウイルスベクター内にパッケージングされる核酸配列を指す。一例では、「ベクターゲノム」は、最低限、5’から3’に向けて、ベクター特異的配列と、遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする核酸配列(例えば、標的配列における発現を指示する調節制御配列に作動可能に連結されたCRISPR/Cas酵素及びsgRNA)と、を含有し、ベクター特異的配列は、ベクターゲノムをウイルスベクターカプシド又はエンベロープタンパク質に特異的にパッケージングする末端反復配列であり得る。例えば、AAV逆位末端反復は、AAV及び特定の他のパルボウイルスカプシドにパッケージングするために利用される。レンチウイルスの長い末端反復は、レンチウイルスベクターへのパッキングが所望される場合に利用され得る。同様に、他の末端反復(例えば、レトロウイルス長末端反復)等が選択され得る。
【0063】
本明細書で使用される「AAV」という用語は、天然に存在するアデノ随伴ウイルス、当業者に、かつ/又は本明細書に記載の組成物及び方法の観点において利用可能であるアデノ随伴ウイルス、並びに人工AAVを指す。アデノ随伴ウイルス(AAV)ウイルスベクターは、AAVタンパク質カプシドを有するAAVヌクレアーゼ(例えば、DNase)耐性粒子であり、その中にパッケージングされる発現カセットは、標的細胞に送達するためのAAVの逆位末端反復配列(ITR)に隣接している。ヌクレアーゼ耐性組換えAAV(rAAV)は、AAVカプシドが完全に構築されていることを示し、これらのパッケージングされたベクターゲノム配列を、産生プロセスから存在し得る汚染核酸を除去するために設計される、ヌクレアーゼインキュベーション工程の際の分解(消化)から保護する。多くの場合、本明細書に記載のrAAVは、DNase耐性である。
【0064】
AAVカプシドの供給源は、数十種の天然に発生し、利用可能なアデノ随伴ウイルス、及び操作されたAAVのうちのいずれかの1つであり得る。AAVカプシドは、60カプシド(cap)タンパク質サブユニットであるVP1、VP2、及びVP3で構成され、選択されるAAVに応じて、およそ1:1:10~1:1:20の比で二十面体対称に配置される。上で特定されるAAVウイルスベクターのカプシドの供給源として、様々なAAVが選択されてもよい。例えば、米国特許出願公開第2007/0036760-A1号、米国特許出願公開第2009/0197338-A1号、EP1310571を参照されたい。また、WO2003/042397(AAV7及び他のサルAAV)、米国特許第7790449号及び米国特許第7282199号(AAV8)、WO2005/033321、及びUS7,906,111(AAV9)、及びWO2006/110689、並びにWO2003/042397(rh.10)も参照されたい。また、これらの文書には、他のAAVも記載されており、AAVを生成するために選択され得る(参照により組み込まれる)。ヒト又は非ヒト霊長類(NHP)から単離され、又は操作され、十分に特性評価されたAAVのうち、ヒトAAV2が、遺伝子導入ベクターとして開発された最初のAAVであり、それは、異なる標的組織及び動物モデルにおいて、効率的な遺伝子導入実験に広く使用されている。特に明記しない限り、本明細書に記載のAAVカプシ
ド、ITR、及び他の選択されるAAV成分は、限定されないが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV8bp、AAV7M8、及びAAVAnc80として一般に特定されているAAVを含む任意のAAVの中から容易に選択され得る。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、WO2005/033321を参照されたい。一実施形態では、AAVカプシドは、AAV9カプシド又はそのバリアントである。特定の実施形態では、カプシドタンパク質は、rAAVベクターの名称で「AAV」という用語の後の数値又は数値と文字の組み合わせによって指定される。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、各々「Novel Adeno-Associated Virus(AAV)Vectors,AAV Vectors Having Reduced Capsid Deamidation
And Uses Therefor」と題される、PCT/US19/169004及びPCT/US19/198961も参照されたい。
【0065】
本明細書で使用される場合、rAAVの「ストック」は、rAAVの集団を指す。脱アミド化に起因するカプシドタンパク質の不均一性にもかかわらず、ストック内のrAAVは、同一のベクターゲノムを共有することが予想される。ストックは、例えば、選択されたAAVカプシドタンパク質及び選択された産生系に特徴的な不均一な脱アミド化パターンを有するカプシドを有するrAAVを含み得る。ストックは、単一の産生系から産生されてもよく、又は産生系の複数の実行からプールされてもよい。本明細書に記載されるものを含むが、これらに限定されない様々な産生系が選択され得る。
【0066】
本明細書で使用される場合、AAVに関して「バリアント」という用語は、アミノ酸配列又は核酸配列にわたって、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%、又はそれ以上の配列同一性を共有する配列を含む、既知のAAV配列に由来する任意のAAV配列を意味する。別の実施形態では、AAVカプシドは、任意の記載又は既知のAAVカプシド配列から最大約10%の変化を含み得るバリアントを含む。すなわち、AAVカプシドは、本明細書に提供され、かつ/又は当該技術分野で既知のAAVカプシドに対して、約90%の同一性~約99.9%の同一性、約95%~約99%の同一性、又は約97%~約98%の同一性を共有する。一実施形態では、AAVカプシドは、AAVカプシドと少なくとも95%の同一性を共有する。AAVカプシドのパーセント同一性を決定する場合、比較は、可変タンパク質(例えば、vp1、vp2、又はvp3)のうちのいずれかにわたって行われ得る。一実施形態では、AAVカプシドは、AAV8
vp3と少なくとも95%の同一性を共有する。別の実施形態では、自己相補性AAVが使用される。
【0067】
ITR又は他のAAV成分は、当業者に利用可能な技術を使用して、AAVから容易に単離又は操作され得る。かかるAAVは、学術的、商業的、又は公的供給源(例えば、American Type Culture Collection,Manassas,VA)から単離され、操作されるか、又は入手することができる。代替的に、AAV配列は、文献又はデータベース(例えば、GenBank、PubMed等)で利用可能であるような公開された配列を参照することによって、合成又は他の好適な手段を通して操作され得る。AAVウイルスは、従来の分子生物学的な技術によって操作することができ、これらの粒子を、核酸配列の細胞特異的送達のため、免疫原性を最小限に抑えるため、安定性及び粒子寿命を調整するため、効率的な分解のため、核への正確な送達のため等に最適化することを可能にする。
【0068】
本明細書で使用される場合、「rAAV」及び「人工AAV」という用語は、互換的に使用され、限定されないが、カプシドタンパク質と、その中にパッケージングされるベクターゲノムとを含むAAVを意味し、ベクターゲノムは、AAVとは異種の核酸を含む。
一実施形態では、カプシドタンパク質は、天然に存在しないカプシドである。かかる人工カプシドは、選択されたAAV配列(例えば、vp1カプシドタンパク質の断片)を使用して、異種配列(異なる選択されたAAV、同じAAVの非連続部分、非AAVウイルス源、又は非ウイルス源から得ることができる)と組み合わせて、任意の好適な技術によって生成され得る。人工AAVは、限定されないが、疑似型AAVカプシド、キメラAAVカプシド、組換えAAVカプシド、又は「ヒト化」AAVカプシドであり得る。1つのAAVのカプシドが異種カプシドタンパク質に置き換えられている擬似型ベクターは、本発明に有用である。一実施形態では、AAV2/5及びAAV2/8は、例示的な擬似型ベクターである。選択される遺伝要素は、トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポソーム送達、膜融合技術、高速DNAコーティングペレット、ウイルス感染、及びプロトプラスト融合を含む任意の好適な方法によって送達され得る。かかる構築物を作製するために使用される方法は、核酸操作における当業者に既知であり、遺伝子工学、組換え工学、及び合成技術を含む。例えば、Green and Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY(2012)を参照されたい。
【0069】
特定の実施形態では、AAVカプシドは、天然及び操作されたクレードFアデノ随伴ウイルスの中から選択される。以下の実施例では、クレードFアデノ随伴ウイルスは、AAVhu68である。WO2018/160582を参照されたく、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。他の実施形態では、別のAAVカプシドは、異なるクレード、例えば、クレードA、B、C、D、若しくはEから、又はこれらのクレードのいずれかからも外れたAAV供給源から選択される。例えば、別の好適なカプシドは、AAVrh91である。2020年11月5日に出願されたWO2020/223231、2020年8月14日に出願された米国特許出願第63/065,616号、及び2020年11月4日に出願された米国特許出願第63/109,734号を参照されたい(これらは参照により本明細書に組み込まれる)。
【0070】
本明細書で使用される場合、「AAV9カプシド」は、(a)GenBank受入番号:AAS99264(参照により本明細書に組み込まれる)(AAV vp1カプシドタンパク質)のアミノ酸配列、及び/又は(b)GenBank受入番号:AY530579.1:(nt 1..2211)のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を有する、AAV9を指す。このコード配列からのいくつかの変化は、本発明に包含され、GenBank受入番号:AAS99264及びUS7906111(同様に、WO2005/033321)における参照アミノ酸配列に対して約99%同一性を有する配列を含み得る(すなわち、参照配列からの約1%未満の変化)。かかるAAVは、例えば、天然単離物(例えば、hu31若しくはhu32)、又はアミノ酸置換、欠失、若しくは付加を有するAAV9のバリアントを含み得、例えば、限定されないが、AAV9カプシドとアラインメントされた任意の他のAAVカプシドにおける対応する位置から「補充された」代替的な残基から選択されるアミノ酸置換を含み、例えば、US9,102,949、US8,927,514、US2015/349911、WO2016/049230A1、US9,623,120、及びUS9,585,971に記載されているもの等が挙げられる。しかし、他の実施形態では、AAV9の他のバリアント、又は上記の参照配列に対して少なくとも約95%同一性を有するAAV9カプシドが選択され得る。例えば、US2015/0079038を参照されたい。カプシド、したがってコード配列を生成する方法、及びrAAVウイルスベクターの産生のための方法が記載されている。例えば、Gao,et al,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.100(10),6081-6086(2003)及びUS 2013/0045186A1を参照されたい。
【0071】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、「Novel Adeno-associated virus(AAV)Clade F Vector and Uses Therefor」と題されるWO2018/160582に記載される通りであり、参照により本明細書に組み込まれる。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドタンパクは、配列番号55の1~736の予測されたアミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp1タンパク質、配列番号54から産生されたvp1タンパク質、若しくは配列番号55の1~736の予測されたアミノ酸配列をコードする、配列番号54に対して少なくとも70%同一の核酸配列から産生されるvp1タンパク質、配列番号55の少なくとも約アミノ酸138~736の予測されたアミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp2タンパク質、配列番号54の少なくともヌクレオチド412~2211を含む配列から産生されるvp2タンパク質、若しくは配列番号55の少なくとも約アミノ酸138~736の予測されたアミノ酸配列をコードする、配列番号54の少なくともヌクレオチド412~2211に対して少なくとも70%同一の核酸配列から産生されるvp2タンパク質、及び/又は配列番号55の少なくとも約アミノ酸203~736の予測されたアミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp3タンパク質、配列番号54の少なくともヌクレオチド607~2211を含む配列から産生されるvp3タンパク質、若しくは配列番号55の少なくとも約アミノ酸203~736の予測されたアミノ酸配列をコードする、配列番号54の少なくともヌクレオチド607~2211に対して少なくとも70%同一の核酸配列から産生されるvp3タンパク質、を含む。
【0072】
AAVhu68のvp1、vp2、及びvp3タンパク質は、典型的には、配列番号55の全長vp1アミノ酸配列(アミノ酸1~736)をコードする同じ核酸配列によってコードされる選択的スプライシングバリアントとして発現される。任意選択的に、vp1コード配列は単独で使用されて、vp1、vp2、及びvp3タンパク質を発現する。代替的に、この配列は、vp1固有領域(約aa1~約aa137)及び/又はvp2固有領域(約aa1~約aa202)を有しない配列番号55のAAVhu68 vp3アミノ酸配列(約aa203~736)をコードする核酸配列若しくはそれに相補的な鎖、対応するmRNA(配列番号54の約nt607~約nt2211)、又は配列番号55のaa203~736をコードする配列番号54に対して少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%)同一の配列、のうちの1つ以上と共発現され得る。追加的に、又は代替的に、vp1コード配列及び/又はvp2コード配列は、vp1固有領域(約aa1~約137)を有しない配列番号55のAAVhu68
vp2アミノ酸配列(約aa138~736)をコードする核酸配列若しくはそれに相補的な鎖、対応するmRNA(配列番号54のnt412~2211)、又は配列番号55の約aa138~736をコードする配列番号54のnt412~2211に対して少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%)同一の配列と、共発現され得る。
【0073】
本明細書に記載されるように、rAAVhu68は、配列番号55のvp1アミノ酸配列をコードするAAVhu68核酸配列、及び任意選択的に、追加の核酸配列(例えば、vp1及び/又はvp2固有領域を含まないvp3タンパク質をコードする配列)からカプシドを発現する産生系で産生されるrAAVhu68カプシドを有する。単一の核酸配列vp1を使用した産生から得られたrAAVhu68は、vp1タンパク質、vp2タンパク質、及びvp3タンパク質の異種集団を産生する。より具体的には、AAVhu68カプシドは、配列番号55の予測されたアミノ酸残基からの修飾を有する、vp1タンパク質内、vp2タンパク質内、及びvp3タンパク質内に亜集団を含有する。これらの
亜集団は、少なくとも脱アミド化アスパラギン(N又はAsn)残基を含む。例えば、アスパラギン-グリシン対中のアスパラギンは、高度に脱アミド化されている。
【0074】
一実施形態では、AAVhu68 vp1核酸配列は、配列番号54の配列、又はそれに相補的な鎖、例えば、対応するmRNAを有する。特定の実施形態では、vp2及び/又はvp3タンパク質は、追加的に、又は代替的に、例えば、選択された発現系においてvpタンパク質の比率を変化させるために、vp1とは異なる核酸配列から発現され得る。特定の実施形態では、vp1固有領域(約aa1~約aa137)及び/又はvp2固有領域(約aa1~約aa202)を有しない配列番号55のAAVhu68 vp3アミノ酸配列(約aa203~736)若しくはそれに相補的な鎖、対応するmRNA(配列番号54の約nt607~約nt2211)をコードする核酸配列も提供される。特定の実施形態では、vp1固有領域(約aa1~約137)を有しない配列番号55のAAVhu68 vp2アミノ酸配列(約aa138~736)又はそれに相補的な鎖、対応するmRNA(配列番号54のnt412~2211)をコードする核酸配列も提供される。
【0075】
しかしながら、配列番号55のアミノ酸配列をコードする他の核酸配列は、rAAVhu68カプシドの産生に使用するために選択され得る。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号54の核酸配列、又は配列番号54に対して少なくとも70%~99%同一、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有し、配列番号55をコードする。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号54の核酸配列、又は配列番号54の約nt412~約nt2211に対して少なくとも70%~99%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、若しくは少なくとも99%同一の配列を有し、配列番号55のvp2カプシドタンパク質(約aa138~736)をコードする。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号54の約nt607~約nt2211の核酸配列、又は配列番号54の約nt412~約nt2211に対して少なくとも70%~99%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、若しくは少なくとも99%同一の配列を有し、配列番号55のvp3カプシドタンパク質(約aa203~736)をコードする。
【0076】
DNA(ゲノム若しくはcDNA)、又はRNA(例えば、mRNA)を含む、このAAVhu68カプシドをコードする核酸配列を設計することは、当該技術分野の範囲内である。特定の実施形態では、AAVhu68 vp1カプシドタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号55に提供される。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、配列番号54の核酸配列、又は本明細書に記載の修飾(例えば、脱アミド化アミノ酸)を含む配列番号55のvp1アミノ酸配列をコードする少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%の配列、又は少なくとも99%の配列、を使用して産生される。特定の実施形態では、vp1アミノ酸配列は、配列番号55に再現される。
【0077】
特定の実施形態では、カプシド脱アミド化が減少しているAAVカプシドが選択され得る。例えば、ともに2019年2月27日に出願され、それらの全体が参照により組み込まれる、PCT/US19/19804及びPCT/US18/19861を参照されたい。
【0078】
本明細書で使用される、vpカプシドタンパク質を参照するために使用される場合、「異種」という用語又はその任意の文法的変形は、例えば、異なる修飾アミノ酸配列を有するvp1、vp2、又はvp3モノマー(タンパク質)を有する、同じではない要素から
なる集団を指す。配列番号55は、AAVhu68 vp1タンパク質のコードされたアミノ酸配列を提供する。vp1、vp2、及びvp3タンパク質(代替的にアイソフォームと称される)に関連して使用される「異種」という用語は、カプシド内のvp1、vp2、及びvp3タンパク質のアミノ酸配列の違いを指す。AAVカプシドは、予測されたアミノ酸残基からの修飾を有する、vp1タンパク質内、vp2タンパク質内、及びvp3タンパク質内に亜集団を含有する。これらの亜集団は、少なくとも特定の脱アミド化アスパラギン(N又はAsn)残基を含む。例えば、特定の亜集団は、アスパラギン-グリシン対中の少なくとも1つ、2つ、3つ、又は4つの高度に脱アミド化されたアスパラギン(N)位置を含み、任意選択的に他の脱アミド化アミノ酸を更に含み、脱アミド化は、アミノ酸変化及び他の任意選択的な修飾をもたらす。
【0079】
本明細書で使用される場合、vpタンパク質の「亜集団」は、別途指定されない限り、少なくとも1つの定義された共通の特徴を有し、少なくとも1つの群メンバーから参照群の全てのメンバーよりも少ないメンバーまでからなるvpタンパク質の群を指す。例えば、vp1タンパク質の「亜集団」は、別途指定されない限り、組み立てられたAAVカプシド中の少なくとも1つの(1)vp1タンパク質であり、全てのvp1タンパク質未満である。vp3タンパク質の「亜集団」は、別途指定されない限り、1つの(1)vp3タンパク質から、組み立てられたAAVカプシド中の全てのvp3タンパク質よりも少ないものまでであり得る。例えば、vp1タンパク質は、vpタンパク質の亜集団であってもよく、vp2タンパク質は、vpタンパク質の別個の亜集団であってもよく、vp3は更に、組み立てられたAAVカプシド中のvpタンパク質の更なる亜集団であってもよい。別の例では、vp1、vp2、及びvp3タンパク質は、例えば、少なくとも1つ、2つ、3つ、又は4つの高度に脱アミド化されたアスパラギン、例えば、アスパラギン-グリシン対で異なる修飾を有する亜集団を含有し得る。
【0080】
別途指定されない限り、高度脱アミド化は、参照アミノ酸位置での予測されたアミノ酸配列と比較して、参照アミノ酸位置での少なくとも45%の脱アミド化、少なくとも50%の脱アミド化、少なくとも60%の脱アミド化、少なくとも65%の脱アミド化、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%、又は最大約100%の脱アミド化を指す(例えば、配列番号55[AAVhu68]の番号付けに基づくアミノ酸57のアスパラギンの少なくとも80%が、総vp1タンパク質に基づいて脱アミド化されてもよく、総vp1、vp2、及びvp3タンパク質に基づいて脱アミド化されてもよい)。かかる割合は、2Dゲル、質量分析技術、又は他の好適な技術を使用して決定され得る。
【0081】
したがって、rAAVは、少なくとも1つの高度に脱アミド化されたアスパラギンを含む少なくとも1つの亜集団を最低限含む、脱アミド化アミノ酸を有するvp1、vp2、及び/又はvp3タンパク質のrAAVカプシド内の亜集団を含む。更に、他の修飾は、特に、選択されたアスパラギン酸(D又はAsp)残基位置での異性化を含み得る。更なる他の実施形態では、修飾は、Asp位置でのアミド化を含み得る。
【0082】
特定の実施形態では、AAVカプシドは、少なくとも4個~少なくとも約25個の脱アミド化アミノ酸残基位置を有するvp1、vp2、及びvp3の亜集団を含有し、そのうちの少なくとも1~10%は、vpタンパク質のコードされたアミノ酸配列と比較して脱アミド化される。これらの大部分はN残基であり得る。しかしながら、Q残基は脱アミド化され得る。
【0083】
特定の実施形態では、rAAVは、2つ、3つ、4つ以上の脱アミド化残基の組み合わせを含む亜集団を有するvp1、vp2及びvp3タンパク質を有するAAVカプシドを
有する。rAAVの脱アミド化は、2Dゲル電気泳動、及び/又は質量分析、及び/又はタンパク質モデリング技術を使用して決定され得る。オンラインクロマトグラフィーは、NanoFlex source(Thermo Fisher Scientific)を備えたQ Exactive HFに結合されたAcclaim PepMapカラム及びThermo UltiMate 3000 RSLCシステム(Thermo Fisher Scientific)で実行され得る。Q Exactive HFにおけるデータ依存のtop-20法を用いてMSデータを取得し、調査スキャン(200~2000m/z)から最も豊富な未配列前駆体イオンを動的に選択する。配列決定は、予測自動ゲイン制御によって決定される1e5イオンの標的値を有する、より高エネルギーの衝突解離断片化によって行われ、前駆体の単離は、4m/zのウィンドウで行われた。m/z 200で120,000の解像度で、調査スキャンを取得した。HCDスペクトルの解像度は、最大イオン注射時間50ms及び正規化された衝突エネルギー30で、m/z200で30,000に設定されてもよい。S-レンズRFレベルを50に設定して、消化物からのペプチドが占めるm/z領域の透過率を最適化できる。断片化選択からの単一の割り当てられていない帯電状態、又は6以上の帯電状態を有する前駆イオンは、除外され得る。BioPharma Finder 1.0ソフトウェア(Thermo
Fischer Scientific)を、取得したデータの分析に使用してもよい。ペプチドマッピングのために、固定修飾としてカルバミドメチル化設定された単一エントリのタンパク質FASTAデータベース、可変修飾として酸化、脱アミド化、及びリン酸化の設定、10ppm質量精度、高プロテアーゼ特異性、並びにMS/MSスペクトルにおける信頼レベル0.8を使用して検索を実施する。好適なプロテアーゼの例としては、例えば、トリプシン又はキモトリプシンが含まれ得る。脱アミド化は、無傷分子の質量+0.984Da(-OH及び-NH基の質量差)を付加するので、脱アミド化ペプチドの質量分析的同定は比較的簡単である。特定のペプチドの脱アミド化率は、脱アミド化ペプチドの質量面積を、脱アミド化及びネイティブペプチドの面積の合計で除することによって決定される。脱アミド化の可能性がある部位の数を考慮すると、異なる部位で脱アミド化されている同重種は、単一のピークで共移動し得る。その結果、複数の脱アミド化の可能性がある部位を有するペプチドに由来する断片イオンを使用して、脱アミド化の複数の部位を位置決定又は区別することができる。これらの場合に、観測される同位体パターン内の相対強度を使用して、異なる脱アミド化ペプチド異性体の相対的な存在率を特異的に決定することができる。この方法は、全ての異性体種についての断片化効率が同じであり、脱アミド化部位に依存しないことを想定する。これらの例示的な方法のいくつかの変形が使用され得ることは、当業者によって理解されるであろう。例えば、好適な質量分析器は、例えば、Waters Xevo若しくはAgilent 6530等の四重飛行質量分析器(QTOF)、又はOrbitrap Fusion若しくはOrbitrap Velos(Thermo Fisher)等のオービトラップ装置を含み得る。好適な液体クロマトグラフィーとしては、例えば、Waters製のAcquity UPLCシステム、又はAgilentシステム(1100若しくは1200シリーズ)が挙げられる。好適なデータ分析ソフトウェアとしては、例えば、MassLynx(Waters)、Pinpoint and Pepfinder(Thermo Fischer Scientific)、Mascot(Matrix Science)、Peaks DB(Bioinformatics Solutions)が挙げられ得る。更に他の技術は、例えば、2017年6月16日にオンラインで公開されたX.Jin
et al,Hu Gene Therapy Methods,Vol.28,No.5,pp.255-267に記載され得る。
【0084】
脱アミド化に加えて、1つのアミノ酸が異なるアミノ酸残基に変換されることはない他の修飾が生じてもよい。かかる修飾は、アセチル化残基、異性化、リン酸化、又は酸化を含み得る。
【0085】
脱アミド化の調節:特定の実施形態では、AAVは、アスパラギン-グリシン対の中のグリシンを変更して、脱アミド化を低減するように修飾される。他の実施形態では、アスパラギンは、異なるアミノ酸、例えば、より遅い速度で脱アミド化するグルタミン、又はアミド基を欠くアミノ酸(例えば、グルタミン及びアスパラギンは、アミド基を含有する)、及び/又はアミン基を欠くアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、及びヒスチジンは、アミン基を含有する)に変更される。本明細書で使用される場合、アミド又はアミン側基を欠くアミノ酸は、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、シスチン、フェニルアラニン、チロシン、若しくはトリプトファン、及び/又はプロリンを指す。記載されるような修飾は、コードされたAAVアミノ酸配列中に見出されるアスパラギン-グリシン対のうちの1つ、2つ、又は3つにあり得る。特定の実施形態では、かかる修飾は、アスパラギン-グリシン対の4つ全てでは行われない。したがって、より低い脱アミド率を有する、AAV及び/又は操作されたAAVバリアントの脱アミドを低減するための方法。追加的に、又は代替え的に、1つ以上の他のアミドアミノ酸を非アミドアミノ酸に変更して、AAVの脱アミド化を低減し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載される変異体AAVカプシドは、グリシンがアラニン又はセリンに変化するように、アスパラギン-グリシン対の中に変異を含有する。変異体AAVカプシドは、参照AAVが天然に4つのNG対を含む位置に、1つ、2つ、又は3つの変異体を含有し得る。特定の実施形態では、AAVカプシドは、参照AAVが天然に5つのNG対を含む位置に、1つ、2つ、3つ、又は4つのかかる変異体を含有し得る。特定の実施形態では、変異体AAVカプシドは、NG対に単一の変異のみを含有する。特定の実施形態では、変異体AAVカプシドは、2つの異なるNG対に変異を含有する。特定の実施形態では、変異体AAVカプシドは、AAVカプシド中で構造的に離れた位置に位置する2つの異なるNG対に変異を含有する。特定の実施形態では、変異は、VP1固有領域にはない。特定の実施形態では、変異のうちの1つは、VP1固有領域にある。任意選択的に、変異体AAVカプシドは、NG対中に修飾を含まないが、NG対から外れて位置する1つ以上のアスパラギン若しくはグルタミン中の脱アミド化を最小限に抑えるか、又は排除するために変異を含有する。AAVhu68カプシドタンパク質において、4個の残基(N57、N329、N452、N512)は、様々なロットにわたって70%を超える脱アミド化レベルを日常的に示し、ほとんどの場合、90%を超える。更なるアスパラギン残基(N94、N253、N270、N304、N409、N477、及びQ599)も、様々なロットにわたって最大約20%の脱アミド化レベルを示す。脱アミド化レベルは、最初にトリプシン消化を使用して特定され、キモトリプシン消化で検証された。
【0086】
AAVhu68カプシドは、配列番号55の予測されたアミノ酸残基からの修飾を有する、vp1タンパク質内、vp2タンパク質内、及びvp3タンパク質内に亜集団を含有する。これらの亜集団は、少なくとも特定の脱アミド化アスパラギン(N又はAsn)残基を含む。例えば、特定の亜集団は、配列番号55のアスパラギン-グリシン対中に少なくとも1つ、2つ、3つ、又は4つの高度に脱アミド化されたアスパラギン(N)位置を含み、任意選択的に、他の脱アミド化アミノ酸を更に含み、脱アミド化は、アミノ酸の変化及び他の任意選択的な修飾をもたらす。これら及び他の修飾の様々な組み合わせは、本明細書に記載されている。
【0087】
一態様では、AAVベクターであって、AAVカプシドと、発現カセットと、を含み、発現カセットが、UBE3A-ATS遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする核酸配列と、宿主細胞におけるUBE3A-ATS遺伝子編集の要素の発現を指示する調節要素と、を含む、AAVベクターが本明細書で提供される。AAVベクターは、AAV ITR配列も含む。
【0088】
ITRは、ベクター産生の際のゲノムの複製及びパッケージングに関与する遺伝要素で
あり、rAAVを生成するために必要とされる唯一のウイルス性シス要素である。一実施形態では、ITRは、カプシドを供給するものとは異なるAAV由来である。好ましい実施形態では、AAV2由来のITR配列、又はその欠失態様(ΔITR)が、利便性のため、及び規制当局の承認を加速させるために使用され得る。しかしながら、他のAAV起源からのITRが選択されてもよい。ITRの供給源がAAV2由来であり、AAVカプシドが別のAAV供給源由来である場合、得られるベクターは、擬似型と称され得る。典型的には、AAVベクターゲノムは、AAVの5’ITRと、遺伝子産物をコードする核酸配列と、任意の調節配列と、AAVの3’ITRと、を含む。しかしながら、これらの要素の他の構成も好適であり得る。一実施形態では、自己相補性AAVが使用される。D配列及び末端分解部位(trs)が欠失している、ΔITRと称される5’ITRの短縮態様が記載されている。特定の実施形態では、ベクターゲノムは、130塩基対の短縮されたAAV2 ITRを含み、ここで、外部「a」要素は欠失している。短縮されたITRは、内部A要素を鋳型として使用して、ベクターDNA増幅中に145塩基対の野生型の長さに戻される。他の実施形態では、全長AAV 5’ITR及び3’ITRが使用される。
【0089】
一実施形態では、調節配列は、総rAAVベクターゲノムが、約2.0~約5.5キロ塩基のサイズであるように選択される。一実施形態では、調節配列は、総rAAVベクターゲノムが、約2.9~約5.5キロ塩基のサイズであるように選択される。一実施形態では、調節配列は、総rAAVベクターゲノムが約2.9kbのサイズであるように選択される。一実施形態では、rAAVベクターゲノムは、天然AAVゲノムのサイズに近似することが望ましい。したがって、一実施形態では、調節配列は、総rAAVベクターゲノムが約4.7kbのサイズであるように選択される。別の実施形態では、総rAAVベクターゲノムは、約5.2kb未満のサイズである。ベクターゲノムのサイズは、プロモーター、エンハンサー、イントロン、ポリA等を含む調節配列のサイズに基づいて操作され得る。参照により本明細書に組み込まれるWu et al.,Mol Ther,Jan 2010,18(1):80-6を参照されたい。
【0090】
特定の実施形態では、アンジェルマン症候群(AS)を有する対象の治療のためのCNS指向性療法として有用なrAAVであって、rAAVが、AAVカプシドと、その中にパッケージングされるベクターゲノムと、を含み、上述のベクターゲノムが、(a)AAVの5’逆位末端反復(ITR)と、(b)宿主細胞(host ell)における発現を指示する調節要素に作動可能に連結される遺伝子編集系の構成要素をコードする配列と、(c)発現を指示する調節要素と、(d)(d)AAVの3’ITRと、を含む、rAAVが本明細書で提供される。一実施形態では、rAAVは、CNSの細胞に対して向性を有し(例えば、AAVhu68カプシドを有するrAAV)、及び/又はニューロン特異的発現制御要素(例えば、シナプシンプロモーター)を含有する。一態様では、ウイルスベクターの生成に有用なベクター(例えば、プラスミド)である構築物が提供される。一実施形態では、AAV 5’ITRは、AAV2 ITRであり、AAV 3’ITRは、AAV2 ITRである。一実施形態では、rAAVは、本明細書に記載のAAVカプシドを含む。一実施形態では、rAAVは、AAVhu68カプシドを含む。他の実施形態では、rAAVは、AAVhu68ではないAAVカプシドを含む。
【0091】
本明細書に記載される組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)は、既知の技術を使用して生成されてもよい。例えば、WO2003/042397、WO2005/033321、WO2006/110689、US7588772B2を参照されたい。かかる方法は、AAVカプシドをコードする核酸配列と、機能的rep遺伝子と、AAV逆位末端配列(ITR)に隣接する本明細書に記載の発現カセットと、発現カセットをAAVカプシドタンパク質にパッケージングすることを可能にするのに十分なヘルパー機能と、を含有する宿主細胞を培養することを伴う。また、AAVカプシドをコードする核酸配列と、機能
的rep遺伝子と、記載のベクターゲノムと、ベクターゲノムをAAVカプシドタンパク質にパッケージングすることを可能にするのに十分なヘルパー機能と、を含有する宿主細胞も本明細書で提供される。一実施形態では、宿主細胞は、HEK293細胞である。これらの方法は、参照により本明細書に組み込まれるWO2017/160360A2に更に詳細に記載されている。
【0092】
当業者に利用可能なrAAVの他の産生方法も利用することができる。好適な方法としては、バキュロウイルス発現系又は酵母を介した生成が挙げられ得るが、これらに限定されない。例えば、Robert M.Kotin,Large-scale recombinant adeno-associated virus production.Hum Mol Genet.2011 Apr 15;20(R1):R2-R6.Published online 2011 Apr 29.doi:10.1093/hmg/ddr141、Aucoin MG et al.,Production of adeno-associated viral vectors in insect cells using triple infection:optimization of baculovirus concentration ratios.Biotechnol Bioeng.2006 Dec 20;95(6):1081-92;SAMI S.THAKUR,Production of Recombinant Adeno-associated viral vectors in yeast.Thesis presented to the Graduate School of the University of Florida,2012、Kondratov O et al.Direct Head-to-Head Evaluation of Recombinant Adeno-associated
Viral Vectors Manufactured in Human versus Insect Cells,Mol Ther.2017 Aug 10.pii:S1525-0016(17)30362-3.doi:10.1016/j.ymthe.2017.08.003.[Epub ahead of print]、Mietzsch M et al,OneBac 2.0:Sf9 Cell Lines
for Production of AAV1,AAV2,and AAV8 Vectors with Minimal Encapsidation of Foreign DNA.Hum Gene Ther Methods.2017 Feb;28(1):15-22.doi:10.1089/hgtb.2016.164.、Li
L et al.Production and characterization
of novel recombinant adeno-associated virus replicative-form genomes:a eukaryotic source of DNA for gene transfer.PLoS One.2013 Aug 1;8(8):e69879.doi:10.1371/journal.pone.0069879.Print 2013、Galibert L et al,Latest developments in the large-scale production of adeno-associated virus vectors in insect cells toward the treatment of neuromuscular diseases.J Invertebr Pathol.2011 Jul;107 Suppl:S80-93.doi:10.1016/j.jip.2011.05.008、及びKotin RM,Large-scale recombinant adeno-associated virus production.Hum Mol Genet.2011 Apr 15;20(R1):R2-6.doi:10.1093/hmg/ddr141.Epub 2011 Apr 29を参照されたい。
【0093】
2ステップの高塩濃度でのアフィニティクロマトグラフィー精製、続いて、アニオン交
換樹脂クロマトグラフィーを使用して、ベクター薬物製品を精製し、空のカプシドを除去する。これらの方法は、「Scalable Purification Method
for AAV9」と題するWO2017/160360に更に詳細に記載されている(参照により本明細書に組み込まれる)。簡単に説明すると、パッケージングされたゲノム配列を有するrAAV9粒子をゲノム欠損AAV9中間体から分離するための方法は、組換えAAV9ウイルス粒子及びAAV9カプシド中間体を含む懸濁液を高速液体クロマトグラフィーに供することを含み、このときAAV9ウイルス粒子及びAAV9中間体は、10.2のpHで平衡化された強アニオン交換樹脂に結合され、約260及び約280の紫外吸光度で溶離液をモニタリングしながら塩勾配に供される。rAAV9にとっては、最適には満たないが、pHは約10.0~10.4の範囲であり得る。この方法では、AAV9完全カプシドは、A260/A280の比が変曲点に到達した場合に溶出するフラクションから回収される。一例では、アフィニティクロマトグラフィーステップのために、ダイアフィルトレーションされた産物を、AAV2血清型を効率的に捕捉するCapture Select(商標)Poros-AAV2/9アフィニティ樹脂(Life
Technologies)に適用してもよい。これらのイオン性条件下、有意な割合の残留細胞DNA及びタンパク質が、カラムを通って流れる一方で、AAV粒子は、効率的に捕捉される。
【0094】
rAAVの特性評価又は定量化のための従来の方法は、当業者に利用可能である。空及び充填粒子の含有量を算出するために、選択された試料(例えば、本明細書の実施例では、イオジキサノール勾配で精製された調製物、ここで、GCの数=粒子の数)についてのVP3バンド体積が、ロードされたGC粒子に対してプロットされる。得られた線形方程式(y=mx+c)を用いて、試験物品ピークのバンド体積中の粒子の数を算出する。次いで、ロードした20μL当たりの粒子の数(pt)に50を掛けて、粒子(pt)/mLを得る。Pt/mLをGC/mLで割り算し、ゲノムコピーに対する粒子の比率(pt/GC)を得る。Pt/mL-GC/mLは、空pt/mLを与える。空pt/mLをpt/mLで割り、100を掛け算することによって、空粒子の割合を得る。一般に、空のカプシド及びパッケージングされたゲノムを含むAAVベクター粒子をアッセイするための方法は、当該分野において既知である。例えば、Grimm et al.,Gene
Therapy(1999)6:1322-1330、Sommer et al.,Molec.Ther.(2003)7:122-128を参照されたい。変性カプシドについて試験するために、本方法は、処理されたAAVストックを、3つのカプシドタンパク質を分離することが可能な任意のゲルからなるSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(例えば、緩衝液中に3~8%のTris-アセテートを含有する勾配ゲル)に供することと、次いで、試料材料が分離されるまでゲルを試行することと、ナイロン又はニトロセルロース膜、好ましくはナイロンの上でゲルをブロッティングすることと、を含む。抗-AAVカプシド抗体は、次いで、変性したカプシドタンパク質、好ましくは、抗-AAVカプシドモノクローナル抗体、最も好ましくは、B1抗-AAV-2モノクローナル抗体に結合する主要な抗体として使用される(Wobus et al.,J.Viral.(2000)74:9281-9293)。次いで、一次抗体に結合し、一次抗体との結合を検出するための手段を含有する二次抗体、より好ましくは、抗体自体に共有結合した検出分子を含有する抗IgG抗体、最も好ましくは、西洋ワサビペルオキシダーゼに共有結合したヒツジ抗マウスIgG抗体を使用する。一次抗体と二次抗体との間の結合を半定量的に決定するために、結合を検出するための方法、好ましくは、放射性アイソトープ放射、電磁放射、又は比色変化を検出することができる検出方法、最も好ましくは、化学発光検出キットが使用される。例えば、SDS-PAGEでは、カラム画分からの試料を採取し、還元剤(例えば、DTT)を含有するSDS-PAGEローディング緩衝液中で加熱することができ、カプシドタンパク質は、プレキャスト勾配ポリアクリルアミドゲル(例えば、Novex)で分割された。SilverXpress(Invitrogen,CA)を製造業者の指示に従って銀染色を実施してもよく、又は他の好適な染色方
法、すなわち、SYPROルビー又はクマシー色素を用いてもよい。一実施形態では、カラム画分中のAAVベクターゲノム(vg)の濃度は、定量的リアルタイムPCR(Q-PCR)によって測定することができる。試料は希釈され、DNase I(又は別の好適なヌクレアーゼ)で消化されて、外因性DNAが除去される。ヌクレアーゼの不活性化後、試料は、更に希釈され、プライマー、及びプライマー間のDNA配列に特異的なTaqMan(商標)蛍光発生プローブを用いて増幅される。規定レベルの蛍光(閾値サイクル、Ct)に到達するのに必要とされるサイクル数は、Applied Biosystems Prism 7700配列検出システム上で各試料について測定される。AAVベクター中に含有されるものと同一の配列を含有するプラスミドDNAを利用して、Q-PCR反応における標準曲線を作成する。試料から得られたサイクル閾値(Ct)値を用いて、プラスミド標準曲線のCt値に対してそれを正規化することにより、ベクターゲノム力価を決定した。デジタルPCRに基づくエンドポイントアッセイも使用され得る。
【0095】
一態様では、広域スペクトルのセリンプロテアーゼ、例えば、プロテイナーゼK(例えば、Qiagenから商業的に入手可能なもの)を利用する最適化されたq-PCR方法が使用される。より特定的には、最適化されたqPCRゲノム力価アッセイは、標準アッセイと同様であるが、但し、DNase I消化の後に、試料をプロテイナーゼK緩衝液で希釈し、プロテイナーゼKで処理した後、熱不活性化させる。適切には、試料は、試料サイズと等しい量のプロテアーゼK緩衝液で希釈される。プロテアーゼK緩衝液は、2倍以上に濃縮され得る。典型的には、プロテアーゼK処理は、約0.2mg/mLであるが、0.1mg/mL~約1mg/mLで変動し得る。処理ステップは、一般に、約55℃で約15分間、実施されるが、より低い温度(例えば、約37℃~約50℃)でより長時間(例えば、約20分間~約30分間)、又はより高い温度(例えば、最高約60℃)でより短時間(例えば、約5~10分間)実施されてもよい。同様に、熱不活性化は、一般に、約95℃で約15分間であるが、温度を下げてもよく(例えば、約70~約90℃)、時間を延ばしてもよい(例えば、約20分間~約30分間)。次いで、試料は希釈され(例えば、1000倍)、標準アッセイで記載されるように、TaqMan分析に供される。
【0096】
追加的に、又は代替的に、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)が使用され得る。例えば、ddPCRによる一本鎖及び自己相補性AAVベクターゲノム力価を決定するための方法が記載されている。例えば、M.Lock et al,Hu Gene Therapy Methods,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14を参照されたい。
【0097】
カプシドタンパク質のvp1、vp2、及びvp3間の比率を決定する方法も利用可能である。例えば、Vamseedhar Rayaprolu et al,Comparative Analysis of Adeno-Associated Virus Capsid Stability and Dynamics,J Virol.2013 Dec;87(24):13150-13160、Buller RM,Rose JA.1978.Characterization of adenovirus-associated virus-induced polypeptides in KB cells.J.Virol.25:331-338、及びRose JA,Maizel JV,Inman JK,Shatkin AJ.1971.Structural proteins of adenovirus-associated
viruses.J.Virol.8:766-770を参照されたい。
【0098】
本明細書に記載のベクターにおける組成物が、本明細書にわたって記載される他の組成物及び方法に適用されるように意図されることを理解されたい。
【0099】
組成物
ASを治療することを必要とする対象においてASを治療するための投与に適した水性懸濁物であって、この懸濁物が、水性懸濁液と、本明細書に記載のそのための調節要素に作動可能に連結された遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする核酸配列を含むベクターと、を含む、水性懸濁液が提供される。一実施形態では、治療有効量の上述のベクターが、懸濁液に含まれる。
【0100】
核酸
特定の実施形態では、薬学的組成物は、遺伝子編集系の構成要素と、非ウイルス送達系と、を含む、発現カセットを含む。これには、例えば、裸のDNA、裸のRNA、無機粒子、脂質又は脂質様粒子、キトサンベースの製剤、及び当該技術分野で既知であり、例えば、上記で引用されるRamamoorth and Narvekarによって記載されている他のものが含まれ得る。他の実施形態では、薬学的組成物は、ウイルスベクター系に遺伝子編集系を含む発現カセットを含む懸濁液である。特定の実施形態では、薬学的組成物は、非複製ウイルスベクターを含む。好適なウイルスベクターには、例えば、組換えアデノウイルス、組換えレンチウイルス、組換えボカウイルス、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)、又は別の組換えパルボウイルス等の任意の好適な送達ベクターが含まれ得る。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、UBE3A-ATSを標的化するための遺伝子編集系を、それを必要とする患者に送達するための組換えAAVである。
【0101】
一実施形態では、組成物は、対象への送達に適した最終製剤を含み、例えば、生理学的に適合するpH及び塩濃度に緩衝される水性液体懸濁液である。任意選択的に、1つ以上の界面活性剤が製剤中に存在する。別の実施形態では、組成物は、対象への投与のために希釈される濃縮物として輸送され得る。他の実施形態では、組成物は、凍結乾燥され、投与時に再構築されてもよい。
【0102】
一実施形態では、懸濁液は、水性懸濁液中に溶解される界面活性剤、防腐剤、賦形剤、及び/又は緩衝剤を更に含む。一実施形態では、緩衝液は、PBSである。様々な好適な溶液が既知であり、緩衝化生理食塩水、界面活性剤、約100mMの塩化ナトリウム(NaCl)~約250mMの塩化ナトリウムに相当するイオン強度に調整された生理学的に適合する塩若しくは塩の混合物、又は同等のイオン濃度に調整された生理学的に適合する塩のうちの1つ以上を含むものが含まれる。好適な界面活性剤、又は界面活性剤の組み合わせは、ポロキサマーの中から、すなわち、ポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2つの親水性鎖に隣接するポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中心疎水性鎖で構成される非イオン性トリブロックコポリマー、SOLUTOL HS 15(マクロゴール-15ヒドロキシステアレート)、LABRASOL(ポリオキシカプリル酸グリセリド)、ポリオキシ10オレイルエーテル、TWEEN(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)、エタノール、及びポリエチレングリコールから選択され得る。一実施形態では、製剤は、ポロキサマーを含有する。pHは、6.5~8.5、又は7~8.5、又は7.5~8の範囲であり得る。脳脊髄液のpHは約7.28~約7.32であるので、髄腔内送達のためには、この範囲内のpHが望ましい可能性があるが、静脈内送達のためには、6.8~約7.2のpHが望ましい可能性がある。しかしながら、最も広い範囲にある他のpH、及びこれらの部分範囲が、他の送達経路のために選択され得る。
【0103】
更に、薬学的組成物であって、薬学的に許容される担体と、本明細書に記載のそのための調節要素に作動可能に連結された遺伝子編集系の1つ以上の構成要素をコードする核酸配列を含むベクターと、を含む、薬学的組成物が提供される。本明細書で使用される場合、「担体」は、任意の及び全ての溶媒、分散媒体、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗
菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤、緩衝液、担体溶液、懸濁液、コロイド等を含む。薬学的活性物質に対するかかる媒体及び薬剤の使用は、当該技術分野において周知である。補助活性成分を組成物中に組み込むこともできる。「薬学的に許容される」という語句は、宿主に投与されるときにアレルギー又は類似の有害反応を生じない分子実体及び組成物を指す。リポソーム、ナノカプセル、ミクロ粒子、ミクロスフェア、脂質粒子、小胞等の送達ビヒクルが、本発明の組成物を好適な宿主細胞に導入するために使用され得る。特に、CRISPR/Cas9又は他の遺伝子編集系の1つ以上の構成要素の送達のためのrAAVベクター送達導入遺伝子又はrAAVベクターは、脂質粒子、リポソーム、小胞、ナノスフェア、又はナノ粒子等のいずれかに封入された送達のために製剤化され得る。一実施形態では、治療有効量の上述のベクターが、薬学的組成物に含まれる。好適な担体は、ベクターが向けられる適応症を考慮して、当業者により容易に選択され得る。例えば、1つの好適な担体は、生理食塩水を含み、様々な緩衝溶液(例えば、リン酸緩衝食塩水)とともに製剤化され得る。他の例示的な担体としては、滅菌生理食塩水、ラクトース、スクロース、リン酸カルシウム、ゼラチン、デキストラン、寒天、ペクチン、ピーナッツ油、ゴマ油、及び水が挙げられる。担体の選択は、本発明を限定しない。防腐剤又は化学安定化剤等の他の従来の薬学的に許容される担体。好適な例示的な防腐剤としては、クロロブタノール、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、二酸化硫黄、没食子酸プロピル、パラベン、エチルバニリン、グリセリン、フェノール、及びパラクロロフェノールが含まれる。好適な化学安定化剤としては、ゼラチン及びアルブミンが含まれる。
【0104】
「薬学的に許容される」という語句は、宿主に投与されるときにアレルギー又は類似の有害反応を生じない分子実体及び組成物を指す。
【0105】
本明細書で使用される場合、「投薬量」又は「量」という用語は、対象に治療の過程で送達される総投薬量若しくは総量、あるいは単一単位(又は複数単位若しくは分割投薬量)投与で送達される投薬量若しくは量を指し得る。
【0106】
本明細書に記載の水性懸濁液又は薬学的組成物は、任意の好適な経路又は異なる経路の組み合わせによって、それを必要とする対象に送達されるように設計される。一実施形態では、薬学的組成物は、本明細書に記載の発現カセット又はベクターと、脳室内(ICV)、髄腔内(IT)、大槽内、又は静脈内(IV)の投与経路を介した送達に好適な製剤緩衝液とを含む。代替的に、他の投与経路(例えば、経口、吸入、鼻腔内、気管内、動脈内、眼内、筋肉内、及び他の非経口経路)を選択してもよい。
【0107】
本明細書で使用される場合、「髄腔内送達」又は「髄腔内投与」という用語は、脊柱管への注射を介する、より具体的には、脳脊髄液(CSF)へ到達するようにクモ膜下腔空間への注射による、薬物の投与経路を指す。髄腔内送達は、腰部穿刺、脳室内、後頭下/大槽内、及び/又はC1-2穿刺を含み得る。例えば、材料は、腰椎穿刺の手段によって、クモ膜下腔全体に拡散させるために導入され得る。別の例では、大槽内への注射であってもよい。大槽内送達は、ベクター拡散を増加させ、及び/又は投与によって引き起こされる毒性及び炎症を低減し得る。例えば、Christian Hinderer et
al,Widespread gene transfer in the central nervous system of cynomolgus macaques following delivery of AAV9 into the cisterna magna,Mol Ther Methods Clin Dev.2014;1:14051.Published online 2014 Dec 10.doi:10.1038/mtm.2014.51を参照されたい。
【0108】
本明細書で使用される場合、「大槽内送達(intracisternal delivery)」又は「大槽内投与(intracisternal administra
tion)」という用語は、脳室の脳脊髄液への、又は小脳延髄槽内への直接的な薬物の投与経路、より詳細には、後頭下穿刺による、又は大槽内への直接注射による、又は永続的に配置されたチューブによる、薬物の投与経路を指す。
【0109】
一態様では、本明細書に記載されるベクターを製剤緩衝液中に含む薬学的組成物が、本明細書で提供される。特定の実施形態では、複製欠損ウイルス組成物は、ヒト患者にとって、範囲内の全ての整数又は分数量を含む、約1.0×10GC~約1.0×1016GC(体重70kgの平均対象を治療するため)、好ましくは1.0×1012GC~1.0×1014GCの範囲にある一定量の複製欠損ウイルスを含有するように投薬量単位で製剤化され得る。一実施形態では、組成物は、範囲内の全ての整数又は分数を含む、用量当たり少なくとも1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、又は9×10GCを含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、範囲内の全ての整数又は分数量を含む、用量当たり少なくとも1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010、又は9×1010GCを含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、範囲内の全ての整数又は分数量を含む、用量当たり少なくとも1×1011、2×1011、3×1011、4×1011、5×1011、6×1011、7×1011、8×1011、又は9×1011GCを含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、範囲内の全ての整数又は分数量を含む、用量当たり少なくとも1×1012、2×1012、3×1012、4×1012、5×1012、6×1012、7×1012、8×1012、又は9×1012GCを含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、範囲内の全ての整数又は分数量を含む、用量当たり少なくとも1×1013、2×1013、3×1013、4×1013、5×1013、6×1013、7×1013、8×1013、又は9×1013GCを含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、範囲内の全ての整数又は分数量を含む、用量当たり少なくとも1×1014、2×1014、3×1014、4×1014、5×1014、6×1014、7×1014、8×1014、又は9×1014GCを含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、範囲内の全ての整数又は分数量を含む、用量当たり少なくとも1×1015、2×1015、3×1015、4×1015、5×1015、6×1015、7×1015、8×1015、又は9×1015GCを含有するように製剤化される。一実施形態では、ヒトへの適用のために、用量は、範囲内の全ての整数又は分数量を含む、用量当たり1×1010~約1×1012GCの範囲であり得る。
【0110】
一実施形態では、製剤緩衝液中に本明細書に記載されるrAAVを含む薬学的組成物が提供される。一実施形態では、rAAVは、約1×10ゲノムコピー(GC)/mL~約1×1014GC/mLで製剤化される。更なる実施形態では、rAAVは、約3×10GC/mL~約3×1013GC/mLで製剤化される。なお更なる実施形態では、rAAVは、約1×10GC/mL~約1×1013GC/mLで製剤化される。一実施形態では、rAAVは、少なくとも約1×1011GC/mLで製剤化される。
【0111】
これらの用量及び濃度の送達のために好適な体積は、当業者によって決定され得る。例えば、約1μL~150mLの体積が選択されてもよいが、より大きな体積が、成人用に選択されてもよい。典型的には、新生児のために、好適な体積は、約0.5mL~約10mL、より年長の乳児のために、約0.5mL~約15mLが選択され得る。幼児のために、約0.5mL~約20mLの体積が選択され得る。小児のために、最大約30mLの体積が選択され得る。プレティーン及び10代のために、最大約50mLの体積が選択され得る。更に他の実施形態では、患者は、約5mL~約15mLの体積での髄腔内投与を受けてもよく、これが選択されるか、又は約7.5mL~約10mLを受けてもよい。他の適切な体積及び投薬量が決定され得る。任意の副作用に対する治療的利益のバランスを
とるために、投薬量を調整してもよく、そのような投薬量は、組換えベクターが利用されるための治療用途に応じて変化し得る。
【0112】
AAVウイルスベクターの場合、ゲノムコピー(「GC」)の定量化は、水性懸濁液又は薬学的組成物中に含まれる用量の尺度として使用され得る。当該技術分野で既知の任意の方法を使用して、本発明の複製欠損ウイルス組成物のゲノムコピー(GC)数を決定することができる。AAVのGC数滴定を行うための1つの方法は、以下の通りである。精製されたAAVベクター試料は、まずDNaseで処理され、非カプシド化AAVゲノムDNA又は産生プロセスからの汚染プラスミドDNAを排除する。次いで、DNase耐性粒子を熱処理して、カプシドからゲノムを放出させる。次いで、ウイルスゲノムの特定の領域(通常はポリAシグナル)を標的化するプライマー/プローブセットを使用して、放出されたゲノムをリアルタイムPCR又は定量的PCRによって定量化する。複製欠損ウイルス組成物は、ヒト患者にとって、約1.0×10GC~約1.0×1015GCの範囲、好ましくは1.0×1012GC~1.0×1014GCの範囲にある量の複製欠損ウイルスを含有する投与量単位で製剤化することができる。好ましくは、製剤中の複製欠損ウイルス組成物の濃度は、約1.0×10GC、約5.0×10GC、約1.0×1010GC、約5.0×1010GC、約1.0×1011GC、約5.0×1011GC、約1.0×1012GC、約5.0×1012GC、約1.0×1013GC、約5.0×1013GC、約1.0×1014GC、約5.0×1014GC、又は約1.0×1015GCである。AAV GC数滴定を行うための代替的な方法又は追加の方法は、例えば、M.Lock et al,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるようなoqPCR又はデジタルドロップレットPCR(ddPCR)による方法である。
【0113】
本明細書に記載の薬学的組成物における組成物が、本明細書にわたって記載される他の組成物、レジメン、態様、実施形態、及び方法に適用されるよう意図されることを理解されたい
【0114】
方法
特定の実施形態では、発現カセット、核酸、又はウイルス若しくは非ウイルスベクターが、医薬品の調製に使用される。特定の実施形態では、アンジェルマン症候群の治療を必要とする対象において、アンジェルマン症候群を治療するためのその使用が提供される。
【0115】
本明細書で使用される場合、「治療」又は「治療すること」という用語は、UBE3A欠損又はアンジェルマン症候群(AS)の1つ以上の症状を軽減する目的で、本明細書に記載される1つ以上の化合物又は組成物を対象に投与することを包含すると定義される。したがって、「治療」は、所与の対象において、ASの発生若しくは進行を低減すること、疾患を予防すること、疾患の症状の重症度を低減すること、その進行を遅延させること、疾患の症状を除去すること、疾患の進行を遅らせること、又は療法の有効性を増加させること、のうちの1つ以上を含み得る。
【0116】
本明細書に記載される療法の目標は、所望の結果、すなわち、アンジェルマン症候群(AS)又はその1つ以上の症状の治療を達成するために、UBE3A発現を増強することである。そのような症状としては、限定されないが、知的障害、言語障害、運動失調、てんかん、発作障害、小頭症、精神運動遅延、及び反射亢進を伴う筋緊張低下が挙げられ得る(例えば、参照により本明細書に組み込まれるK.Buiting,et al.,Nature reviews.Neurology,(2016)を参照されたい)。本明細書に記載されるように、所望の結果は、発育遅延、知的障害、重度の言語障害、運動
及びバランスに関する問題を含む神経物理学的合併症を減少させるか、又は排除することを含み得る。
【0117】
本明細書に提供される組成物の「治療有効量」は、所望の結果を達成するか、又は治療目標に到達するために、対象に送達される。一実施形態では、ASを治療するための治療目標は、ニューロン中、又はニューロンの集団中のUBE3A発現を、正常範囲内であるか、又は非ASレベルである患者の機能レベルに復元することである。別の実施形態では、ASの治療のための治療目標は、UBE3A発現を、正常値若しくは非ASレベルに対して、又は治療前のUBE3A発現レベルと比較して、少なくとも約99%、約95%、約90%、約85%、約80%、約75%、約70%、約65%、約60%、約55%、約50%、約45%、約40%、約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%、約15%、約10%、約5%、約2%、約1%に増加させることである。UBE3A機能を100%未満の活性レベルに送達することによってレスキューされた患者は、任意選択的に、更なる治療を受けてもよい。別の実施形態では、ASの治療のための治療目標は、選択された集団におけるニューロンの約60%、約55%、約50%、約45%、約40%、約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%、約15%、約10%、約5%、約2%、又は約1%を含む、標的ニューロンの割合でUBE3A発現を増加させることである。
【0118】
特定の実施形態では、ASを治療する方法であって、それを必要とする対象に、遺伝子編集系の編集の1つ以上の要素を提供する発現カセット、ベクター、又はrAAVを投与することによって、UBE3A-ATSの編集が、ニューロン中の父系対立遺伝子からのUBE3Aの発現を増強させる、方法が本明細書で提供される。
【0119】
特定の実施形態では、本方法は、UBE3A 3’UTRの下流のUBE3A-ATS中の配列に結合するヌクレアーゼを発現する核酸配列を送達することを含む。理論に束縛されることを意図するものではないが、UBE3A-ATSコード配列の編集によって、母系対立遺伝子からのUBE3A発現が欠損している患者の父系対立遺伝子上のUBE3A発現を脱サイレンシングし、父系対立遺伝子からのUBE3A遺伝子産物の発現を提供した。特定の実施形態では、遺伝子編集系は、UBE3A-ATSコード配列の転写と干渉する、インデル、欠失、挿入、反転、又は他の破壊である変異又は修飾を導入する。特定の実施形態では、本方法は、UBE3A 3’UTR及びSNORD109Bにわたる領域において、ヒトUBE3A-ATS中に変異を導入することを含む。特定の実施形態では、変異は、chr15:25,278,409~25,333,728(hg38ゲノムアセンブリ)に、及び/又は15番染色体上のUBE3A 3’UTRとSNORD109B ORFとの間の領域に対して相補性のUBE3A-ATSの配列中に位置する標的配列中に導入される。
【0120】
本明細書に記載される遺伝子療法は、ウイルス性であるか、又は非ウイルス性であるかにかかわらず、他の治療(二次療法)、すなわち、対象の(患者の)診断及び状態のための標準的なケアと併せて使用され得る。本明細書で使用される場合、「二次療法」という用語は、ASの治療のために本明細書に記載される遺伝子療法と組み合わせることができる療法を指す。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子療法は、ASの治療のための1つ以上の二次療法、例えば、抗けいれん剤又は食事制限(例えば、ケトジェニック及び低血糖)の投与と組み合わせて投与される。二次療法は、ASのこれらの症状を予防し、停止し、又は緩和するのに役立つ任意の療法であり得る。二次療法は、上に記載の組成物の投与の前、投与と同時、又は投与の後に投与することができる。対象は、彼らの担当医の裁量によって、遺伝子療法治療の前に、及びそれと同時に、彼らの標準的なケア治療を継続することを許可されてもよい。代替として、医師は、遺伝子療法治療を投与する前に標準的なケア療法を停止し、任意選択的に、遺伝子療法の投与後に併用療法として
標準的なケア療法を再開することを選び得る。別の実施形態では、本明細書に記載される遺伝子療法を、当該技術分野で日常的である遺伝子型分析又は遺伝子スクリーニングと組み合わせることができ、UBE3A遺伝子の核酸配列における1つ以上の変異を特定するためのPCRの使用を含み得る。上述のように、人生の初期(例えば、1~3ヶ月)にASの症状を示す対象、及び人生の後期にASを有すると診断された対象は、本明細書に記載の組成物及び方法の意図されるレシピエントである。
【0121】
「投与すること」又は「投与経路」とは、薬学的担体又は賦形剤の有無にかかわらず、本明細書に記載の組成物を対象に送達することである。投与経路は、所望される場合、組み合わされてもよい。いくつかの実施形態では、投与は、周期的に繰り返される。連続的な投与は、数日間、数週間、数ヶ月間、又は数年の間隔からの複数の投与の時間ギャップを意味し得る。一実施形態では、本明細書に記載の組成物は、それを必要とする対象に1回以上投与される。一実施形態では、複数回の投与は、数日間、数週間、数ヶ月又は数年間離れている。一実施形態では、1回、2回、3回、又はそれ以上再投与することが許される。かかる再投与は、同じ種類のベクター、又は異なるベクターによるものであってもよい。更なる実施形態では、本明細書に記載のベクターは、単独で、又は患者の診断及び状態のための標準的なケアと組み合わせて使用され得る。本明細書に記載の核酸分子及び/又はベクターは、単一の組成物又は複数の組成物で送達されてもよい。任意選択的に、2つ以上の異なるAAV、又は複数のウイルスが送達され得る[例えば、WO2011/126808及びWO2013/049493を参照されたい]。
【0122】
一実施形態では、遺伝子療法のための本明細書に記載の発現カセット、ベクター、又は他の組成物は、患者当たり単回用量として送達される。一実施形態では、対象は、治療有効量の本明細書に記載の組成物を送達される。本明細書で使用される場合、「治療有効量」は、発現カセット若しくはベクター、又はそれらの組み合わせの量を指す。
【0123】
一実施形態では、発現カセットは、ベクターゲノム中、その範囲及びエンドポイント内の全ての整数又は分数量を含む、脳質量1グラム当たり約1×10GC~脳質量1グラム当たり約1×1013ゲノムコピー(GC)の量で送達される。別の実施形態では、投薬量は、脳質量1グラム当たり1×1010GC~脳質量1グラム当たり約1×1013GCである。特定の実施形態では、患者に投与されるベクターの用量は、少なくとも約1.0×10GC/g、約1.5×10GC/g、約2.0×10GC/g、約2.5×10GC/g、約3.0×10GC/g、約3.5×10GC/g、約4.0×10GC/g、約4.5×10GC/g、約5.0×10GC/g、約5.5×10GC/g、約6.0×10GC/g、約6.5×10GC/g、約7.0×10GC/g、約7.5×10GC/g、約8.0×10GC/g、約8.5×10GC/g、約9.0×10GC/g、約9.5×10GC/g、約1.0×1010GC/g、約1.5×1010GC/g、約2.0×1010GC/g、約2.5×1010GC/g、約3.0×1010GC/g、約3.5×1010GC/g、約4.0×1010GC/g、約4.5×1010GC/g、約5.0×1010GC/g、約5.5×1010GC/g、約6.0×1010GC/g、約6.5×1010GC/g、約7.0×1010GC/g、約7.5×1010GC/g、約8.0×1010GC/g、約8.5×1010GC/g、約9.0×1010GC/g、約9.5×1010GC/g、約1.0×1011GC/g、約1.5×1011GC/g、約2.0×1011GC/g、約2.5×1011GC/g、約3.0×1011GC/g、約3.5×1011GC/g、約4.0×1011GC/g、約4.5×1011GC/g、約5.0×1011GC/g、約5.5×1011GC/g、約6.0×1011GC/g、約6.5×1011GC/g、約7.0×1011GC/g、約7.5×1011GC/g、約8.0×1011GC/g、約8.5×1011GC/g、約9.0×1011GC/g、約9.5×1011GC/g、約1.0×1012GC/g、約1.5×1012
C/g、約2.0×1012GC/g、約2.5×1012GC/g、約3.0×1012GC/g、約3.5×1012GC/g、約4.0×1012GC/g、約4.5×1012GC/g、約5.0×1012GC/g、約5.5×1012GC/g、約6.0×1012GC/g、約6.5×1012GC/g、約7.0×1012GC/g、約7.5×1012GC/g、約8.0×1012GC/g、約8.5×1012GC/g、約9.0×1012GC/g、約9.5×1012GC/g、約1.0×1013GC/g、約1.5×1013GC/g、約2.0×1013GC/g、約2.5×1013GC/g、約3.0×1013GC/g、約3.5×1013GC/g、約4.0×1013GC/g、約4.5×1013GC/g、約5.0×1013GC/g、約5.5×1013GC/g、約6.0×1013GC/g、約6.5×1013GC/g、約7.0×1013GC/g、約7.5×1013GC/g、約8.0×1013GC/g、約8.5×1013GC/g、約9.0×1013GC/g、約9.5×1013GC/g、又は約1.0×1014GC/g脳質量である。
【0124】
特定の実施形態では、UBE3A-ATSに変異(例えば、インデル)を導入するための本明細書に記載の組成物によるASを有する対象の治療は、再投与を必要としない場合がある。代替的に、本明細書に提供される遺伝子編集系を含む組成物を含む第2の治療又はその後の追加の治療が追求され得る。そのような後の治療は、初期の治療に利用されたものとは異なるカプシドを有するベクターを利用してもよい。当業者によって、更に他のAAVカプシドの組み合わせが選択され得る。
【0125】
ウイルス又は他の送達ビヒクルの最低有効濃度を利用して、毒性等の望ましくない効果の危険性を低減することが望ましい。これらの範囲のなお他の投薬量は、治療される対象、好ましくはヒトの身体状態、対象の年齢、進行性である場合、障害が発症した程度を考慮して、主治医によって選択され得る。
【0126】
一般に、本方法は、それを必要とする哺乳動物対象に、調節配列の制御下にあるUBE3A-ATS遺伝子編集系の1つ以上の要素をコードする核酸配列を保有する組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)を含む薬学的に有効な量の組成物と、薬学的に許容される担体と、を投与することを含む。一実施形態では、かかる方法は、哺乳動物対象においてASを治療し、遅延させ、又はその進行を停止するために設計される。
【0127】
一実施形態では、本明細書に記載されるベクター、rAAV、水性懸濁液、又は薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与することによる、ASを治療する方法が提供される。一実施形態では、rAAVは、約1×1010~約1×1015ゲノムコピー(GC)/kg体重で送達される。特定の実施形態では、対象はヒトである。一実施形態では、rAAVは、1回より多く投与される。更なる実施形態では、rAAVは、数日間、数週間、数ヶ月又は数年間に分けて投与される。
【実施例
【0128】
ここで、以下の実施例を参照しながら、本発明が説明される。これらの実施例は例示のみを目的として提供され、本発明がこれらの実施例に限定されるものとして決して解釈されるべきではなく、本明細書に提供される教示の結果として明らかになるありとあらゆる変形例を包含すると解釈されるべきである。
【0129】
実施例1-材料及び方法
プラスミド構築
前述のpAAV.U6.sgRNA.TBG.SaCas9ベクター中のTBGプロモーター(Yang Y,et al.Nat Biotechnol.2016;34(3):334-8)を、ヒトシナプシンIプロモーター(Thiel G,et al.
Proc Natl Acad Sci U S A.1991;88(8):3431-5)と置き換え、pAAV.U6.sgRNA.hSyn.SaCas9ベクターを得た。Ube3a-ATS遺伝子編集のために、5’NNGRTT PAM配列の前に12種類の20bp標的配列を選択し、それらをsgRNAクローニング部位にサブクローニングした(詳細は表1を参照されたい)。標的配列は、Ube3a 3’UTRの下流の12kbp領域(chr7:59,341,000~59,353,000、GRCm38/mm10ゲノムアセンブリ)をサンプリングした。非標的化配列は、スクランブル20bp配列(5’-GAGACGGTCTTCGACGTCTC-3’、配列番号56)からなっていた。ヌクレアーゼ欠損dCas9変異体を、点変異誘発(D10A及びH840A)によって生成した。製造元の指示に従って、TransIT-LT1(MirusBio,Madison,WI)を用いたプラスミドトランスフェクションを使用して、Neuro2a細胞(ATCC、Manassas,VA)を用いてインビトロで標的配列をスクリーニングした。gDNA(QiaAmp DNA Miniキット、Qiagen、Waltham,MA)を単離した後、PCRによってそれぞれの標的配列を増幅させ、Amplicon-Seqによってインデル頻度を定量化した。インビボ試験のために、以下の標的配列を選択した(sgRNA #7):
5’-TTGCCCAACCTCTCAAACGT-3’(配列番号35)。
【0130】
配列決定分析
Amplicon-Seq:製造元の指示に従って、Q5 High-Fidelity DNA Polymerase(New England Biolabs、Ipswich,MA)を使用して、順方向プライマー及び逆方向プライマーの対(表1)を用い、目的の領域を増幅させた。NGSライブラリーを、191bp産物を用いて生成し、既に記載されているように(Wang L,et al.Nat Biotechnol.2018;36(8):717-25)、Illumina MiSeq Reagent V2キット(150bpペアエンド、Illumina、San Diego,CA)を使用して配列決定した。NovoAlign(Novocraft、Selangor,Malaysia)を使用して、マウス参照ゲノムに対してリードペアをマッピングした。更なる分析のために標的領域に対するリードマッピングを保持した。カスタムスクリプトを使用して、40bpの標的領域(chr7:59346110-59346150、マウスゲノムアセンブリGRCm38.p6)におけるインデルを含有するリードの数を決定し、標的領域に対するリードマッピングの合計数の割合(インデル%)として、その数を報告した。
【0131】
表1:高齢マウスについての選択されたsgRNAを用いた遺伝子編集についてのインビボオフターゲット分析。
Ube3am+/p-(母系Ube3a-ko)マウスに、出生時(0日目)にCRISPR/Cas9をコードするAAVベクターを注射し、4ヶ月後に大脳皮質を採取した。ITR-seqを行い、オフターゲット遺伝子編集を検出した(群当たり5匹のマウス)。オフターゲット位置での遺伝子又は予測遺伝子を、USCDゲノムブラウザ(mm10ゲノムアセンブリ)を使用して特定した。イントロン及びエクソンの両方をクエリした。
【表2】
【0132】
AMP-Seq:アンカーマルチプレックスPCR配列決定(AMP-Seq)分析を以下のように実施した。500ngのゲノムDNAの試料を、以前に報告されているように、Covaris ME220機器を使用して剪断し、DNAを末端修復し、A-テール化し、アダプターにライゲーションした(Wang L,et al.Nat Biotechnol.2018;36(8):717-25、Zheng Z,et al.Nat Med.2014;20(12):1479-84)。それぞれ、第1及び第2のネステッドPCR反応において、GSP1プライマー及びGSP2プライマーを使用して、目的の領域を増幅させた。95℃-5分、[95℃-30秒、70℃(-1℃/サイクル)-2分、72℃-30秒]の15サイクル、[95℃-30秒、55℃-1分、72℃-30秒]の10サイクル、72℃-5分。
【0133】
プライマー:
ANG3M_GSP1_P
5’-AGCTGCCCAAGCACTTATAGACATGAC-3’(配列番号38)、
ANG3M_GSP2_P
5’-CCTCTCTATGGGCAGTCGGTGAAAAATCTCCCTAGAATTCAGGGCCGAGG-3’
(配列番号39)、
ANG3M_GSP1_N
5’-ATTTTTACGTTTGTTCCCTCCATCTTCC-3’(配列番号40)、
ANG3M_GSP2_N
5’-CCTCTCTATGGGCAGTCGGTGAACCTACACATTTGGTTGAAACAGGGAAGGC-3’
(配列番号41)。
【0134】
ライブラリーを構築し、前述のようにMiSeq(Illumina)で配列決定した。本願発明者等の独自のカスタムスクリプトを使用して、AAVベクターに対応する挿入、欠失、転座、及び挿入を含有するリードを定量化した(Wang L,et al.Nat Biotechnol.2018;36(8):717-25)。
【0135】
ITR-Seq:sgRNA+SaCas9複合体によって媒介されるオフターゲット編集は、逆位末端反復配列決定(ITR-Seq)によって決定された(Breton C,et al.BMC Genomics.2020;21(1):239)。簡潔に述べると、DNAを剪断し、末端修復し、A-テール化し、固有の分子バーコードを含有するアダプターにライゲーションした。次いで、DNAを、AAV-ITR特異的プライマー及びアダプター特異的プライマーを使用した2ラウンドのPCRによって増幅させ、NGS適合性ライブラリーが得られ、その後に、MiSeq(Illumina)で配列決定した。二本鎖切断から得られたAAV統合部位のゲノム位置(イントロン及びエクソンの位置を含む)を特定するために、カスタムスクリプトを使用した(Breton C,et al.BMC Genomics.2020;21(1):239)。
【0136】
AAVベクター産生
全てのAAVhu68(Hinderer C,et al.Hum Gene Ther.2018;29(3):285-98)及びAAV9-PHP.B(Deverman BE,et al.Nat Biotechnol.2016;34(2):204-9)ベクターを、以前に記載されたように産生した(Lock M,et al.Hum Gene Ther.2010;21(10):1259-71)。簡単に説明すると、HEK293細胞を三重でトランスフェクトし、培養上清を回収し、濃縮し、イオジキサノール勾配で精製した。精製したベクターを、以前に記載されているように、ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列を標的化するプライマーを使用して、ドロップレットデジタルPCRを用いて滴定した(Lock M,et al.Hum Gene Ther Methods.2014;25(2):115-25)。
【0137】
動物
Jackson LaboratoryからC56BL/6J(ストック番号000664)、B6.129S7-Ube3atm1Alb/J(016590)、及びB6.129S7-Ube3atm2Alb/J(017765)マウスを購入し、動物をペンシルバニア大学で維持した。雌C56BL/6Jマウスを雄B6.129S7-Ube3atm2Alb/Jマウスと交配させることによって、又は雄C56BL/6Jマウスを雌B6.129S7-Ube3atm1Alb/Jマウスと交配させることによって、実験コホートを生成した。遺伝子編集実験のために、同腹仔を無作為に分け、麻酔された新生児マウスにおいて、各側脳室に、1μlのAAVhu68ベクターを合計1×1011gc注射した。麻酔した幼若マウス(出生後14、21、又は28日)に、右眼に、50μlのAAV9-PHP.Bベクターを合計1×1012gc、眼窩後の静脈内(IV)注射した。AAVベクターを、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)中で希釈して、適切な用量を達成した。動物を、1ケージ当たり2~5匹の動物で、標準的なケージに収容した。バリア施設のケージ、給水瓶、及び床敷は、オートクレーブ処理し、ケージは、週に1回交換した。自動制御された12時間の明/暗サイクルが維持され、各々の黒期間は、午後6時に開始された。オートクレーブ処理された実験用げっ歯類の餌及び塩素化された水は、自由摂食で提供された。離乳年齢では、固有の4桁の数字を有する耳タグを適用し、マウスを、ほぼ等しい群サイズのケージ内に無作為に分布させた。組織試料を、遺伝子型決定のために処理した。マウスの観察、試料の処理、及びデータの分析に関与する全ての研究者は、遺伝子型及び治療群に対して盲検であった。統計学的検査を適用するために、初期分析後にデータをグループ分けした。
【0138】
ベクター生体分布
QIAamp DNA Mini Kit(Qiagen、Germantown,MD)を用いて組織DNAを抽出し、TaqMan試薬(Thermo Fisher Scientific、Waltham,MA)、プライマー、及びベクターのウシ成長ホルモン配列を標的化するプローブを使用したリアルタイムPCRによって、ベクターゲノ
ムを定量化した。
【0139】
ウエスタンブロッティング
RIPA緩衝液中の凍結した大脳皮質を溶解させ、SDS-PAGEを使用して、総タンパク質45μgを分離した。導入の後、TPBS(PBS+0.1%Tween)中の1%BSAでPVDF膜をブロッキングし、以下の抗体の1つを用いて一晩インキュベートした。抗Ube3a mAb(611416、BD Biosciences、San
Jose,CA)、抗GFP pAb(GFP-1010、Aves Labs、Davis,CA)、又は抗ベータアクチンmAb(MA5-15739、Invitrogen,Thermo Fisher,Waltham,MA)。HRPにコンジュゲートされた二次抗体を用いてインキュベーションした後、Bio-Rad ChemiDocイメージングシステムで、Clarity Western ECL Substrateキット(170-5060、Bio-Rad、Hercules,CA)を用いて、ウエスタンブロットを可視化した。それぞれの個々のウエスタンブロッティング実験を、独立して少なくとも3回実施した。
【0140】
組織学
マウスを麻酔し、DPBSで末端灌流し、全脳を速やかに回収した。矢状方向に切開した脳の半分を、10%の中性緩衝化ホルマリンでおよそ24時間、浸漬固定し、PBSで短時間洗浄し、70%エタノールで平衡化した後、パラフィンに包埋し、10μm厚さの切片に切断した。生化学分析のために、脳のもう半分をドライアイスで急速凍結させた。ホルマリン固定パラフィン包埋脳試料に対して、YFPの免疫蛍光及びUBE3Aの免疫組織化学を行った。免疫蛍光染色のために、切片を脱パラフィン化し、抗原賦活化のために10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)中で6分間煮沸し、PBS+0.2%Triton中の1%ロバ血清で15分間ブロッキングし、次いで、抗GFP抗体(A-11122、Invitrogen、Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)及び抗NeuN抗体(ABN90、Sigma-Aldrich、St.Louis,MI)とともに1:500希釈で1時間インキュベートした。洗浄した後、試料を、蛍光標識した二次抗体(抗ウサギIgG-Alexa488及び抗モルモットIgG-Cy5コンジュゲート[Jackson ImmunoResearch、West Grove,PA])とともに1:200希釈で45分間インキュベートした。免疫組織化学的染色のために、切片を脱パラフィン化し、抗原賦活化のために10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)中で6分間煮沸し、2%H(10分間)、アビジン及びビオチンブロッキング試薬(各15分、Vector Laboratories、Burlingame,CA)、並びにブロッキング緩衝液(0.2%Tritonを含むPBS中の1%ロバ血清で10分間)で順次処理した。次いで、切片を、抗UBE3Aマウス抗体(611416、BD Biosciences、San Jose,CA)とともに1:500で1時間インキュベートし、次いでブロッキング緩衝液で希釈したビオチン化二次抗体(Jackson ImmunoResearch、West Grove,PA)とともに45分間インキュベートした。Vectastain Elite ABC Kit(Vector Laboratories)を製造元の指示に従って、3,3’-ジアミノベンジジンを基質として使用して、結合した抗体を褐色沈殿物として染色した。画像をNikon Eclipse Ti-E顕微鏡で取得し、Aperio
Versaスライドスキャナを用い、全脳切片をスキャンした。
【0141】
遺伝子発現分析
RNAを、RNAeasy及びDNAseIキット(Qiagen、Germantown,MD)、その後、cDNA合成(Maxima First Strand cDNA Synthesis Kit、Thermo Fisher,Waltham,MA)を用いて、急速凍結した大脳皮質から抽出した。SYBR緑色qPCR(Therm
o Fisher)を、以前に公開されたプライマー(Meng L,et al.Nature.2015;518(7539):409-12)、又は表1に列挙されているプライマーを用いて、ABI7500サーモサイクラー(Thermo Fisher)について製造元の指示に従って、各試料について3回ずつ実施した。
【0142】
行動評価
母系Ube3a-KOマウスの行動表現型は、十分に特性評価されており(12~16)、母系Ube3a発現を遺伝的に回復させることによって改善することができる(Sonzogni M,et al.Molecular autism.2018;9:47)。マウスは、離乳後に群ごとに収容され、遺伝子型及び治療によって混合された。行動分析を開始する数日前に、各動物の体重を決定した。各試験の前に、マウスを、そのホームケージ中の試験室に30分間適応させた。全ての行動実験は、明/暗サイクルの午後の明期間中に実施された。実験のために、8~10週齢の雄マウス及び雌マウスの両方を使用した。試験後、マウスは、速やかに保持室へ戻された。収容ケージは、透明なポリカーボネートプラスチック(7.75×12×5インチ)で構成されていた。提示されたデータは、3つの独立した実験コホートからの累積結果に基づく。同じセットのブリーダーを使用して、それらの実験コホートを生成した。
【0143】
加速ロータロッド:加速回転ロータロッドを使用して、運動機能を試験した(4~40rpmで5分間、モデル7650、Ugo Basile Biological Research Apparatus、Varese,Italy)。マウスに対し、連続した3日間にわたって(各日同じ時間)、15分間の試験間隔で、1日当たり3回の試行を行った。各日について、マウスがロータロッド上で落下するまでに費やした平均時間(秒単位での潜時)を計算した。マウスが、ロータロッド上で3回の連続したラッピング/受動回転を達成したときに、3回目の回転が終わった時間を潜時として記録し、マウスを除去した。
【0144】
オープンフィールド活動試験:ロコモ度活動(locomotor activity)を試験するために、最小限の量の床敷で底部を覆った新しい収容ケージに個々にマウスを入れた。このケージを、赤外線クロスビームのアレイ(Med Associates,Inc.,Fairfax,VT)に置いた。マウスを30分間自由に探索させ、ビームを遮った数を活動の尺度として自動的に記録した。ビームを遮った数を、分析のための持続時間5分で、瓶において合計した。
【0145】
ガラス玉覆い隠し試験:収容ケージに、5cmの床敷材料(Alpha-Dri,Lab Supply,Fort Worth,TX)を充填した。床敷材料の上に、等距離の3×4のグリッドに並べた12個の青色ガラス玉を並べた。動物に、30分間、ガラス玉へのアクセスを許可した。試験の後、マウスをケージから除去し、床敷によって50%より多く覆われていたガラス玉を、覆い隠されたものとしてスコア付けした。この試験で測定した結果は、覆い隠されたガラス玉の数であった。
【0146】
営巣試験:営巣能力を測定するために、マウスを新しいケージに単独で収容し、事前に計量された正方形のネストレット(2×2×0.25インチ)を提供した。24時間後、マウスは、元々のホームケージに戻され、巣の品質は、既に記載されているように、1~5のスケールでスコア付けされた(Deacon RM.Nature protocols.2006;1(3):1117-9)。残った引き裂かれていないネストレットを計量し、元の重量に対する残りのネストレットの分数を算出した。
【0147】
統計
Prism 8ソフトウェア(GraphPad、San Diego,CA)を統計
分析のために使用した。一元配置又は二元配置ANOVA F検定、その後、アルファ値0.05を用いた事後テューキー又はシダックのペアワイズ比較を適用することによって、複数の群を比較した。群平均は、平均+/-SEMとして提示される。群当たり10個未満のデータ点が存在する場合、個々のデータ点もグラフに示される。得られた全てのデータ点を、統計分析に使用した。
【0148】
実施例2-UBE3Aアンチセンス転写産物の編集後の父系UBE3Aの発現の回復。
遺伝子編集によるゲノム配列の操作は、遺伝子変異を修正するための強力なツールであるが、ニューロン等の有糸分裂後の細胞におけるインビボでの使用には、大部分が利用することができなかった。しかしながら、遺伝子編集は、インデル形成と呼ばれる、塩基対の欠失及び挿入によって遺伝子コードを破壊するための細胞型の独立したツールとして使用することもできる。ここでは、Ube3a遺伝子の遺伝子座の下流にあるUbe3a-ATS配列内のインデル形成が、Ube3遺伝子の遺伝子座にわたってマウスUbe3a-ATSの伸長を防止し、父系Ube3a発現を引き起こし、母系Ube3a欠損マウスにおけるアンジェルマン表現型を改善することができることを示す。
【0149】
Ube3a-ATSにインデルを導入するために、Ube3a-ATSコード配列の12kbセグメント内の異なる部位を標的化する12個の単一ガイドRNA(sgRNA)を最初にスクリーニングした(図2A、表2)。既知の発現された遺伝子の遺伝子座以外の標的を選択することを目的とした。それぞれの標的部位でのCas9によって誘導されるインデルを、Amplicon-seqによって評価した(図2B)。次いで、sgRNA #7(図2B)及びS.aureus Cas9コード配列を有するアデノ随伴ウイルス(AAV)プラスミドを構築した。ヒトシナプシンプロモーター(13、14)を使用して、マウス脳のニューロンにおいてCas9発現を選択的に駆動した。脳室内(ICV)注射によるAAV遺伝子編集ベクター(本願発明者らはATS-GEと称する)の新生物マウス脳への送達は、全ての脳細胞の14.7%(8.6~21.7%)においてゲノムインデルを形成した(図2C)。非標的化(NT)sgRNA又はヌクレアーゼ欠損Cas9(dCas9)のいずれかを発現したとき、インデル形成は、バックグラウンド頻度に留まっていた(それぞれ0.17%又は0.04%、図2C)。インデル形成は、新生物ICVベクター送達後に最も高かった。PHP.Bカプシドは、任意の年齢で静脈内(IV)送達によってマウス脳の非常に効率的な形質導入を促進する(15)。しかしながら、ATS-GEが14~28日齢で送達されたとき、はるかに低いインデル頻度が観察され(0.6~2.9%、図2C)、このことは、新生時マウス脳へのICV注射が、このプロジェクトのための効率的な遺伝子編集にとって最も適していることを示唆している。この考え方の裏付けとして、新生児脳へのICV注射後の脳組織に存在するベクターゲノムの量は、出生から14、21、又は28日後のIV注射後の形質導入(二倍体ゲノム当たり0.04~0.19GC、図5A)と比較して、はるかに多かった[二倍体ゲノム当たり平均2.3ゲノムコピー(GC)]。アンカーマルチプレックスPCR配列決定(AMP-Seq)を使用した標的部位の追加の分析は、新生児ICV送達後のほとんどの編集事象が、15bp未満の実際に短いインデルであり、編集部位でのみ、ベクター編集部分の統合が、2.8%の頻度で観察されたことを示した(図5B)。計算分析は、マウスゲノム全体にわたって、本願発明者等が選択したsgRNAについて追加の直接のマッチは予測されず、少なくとも4個のミスマッチを含む最も近い類似性を有していた。したがって、逆位末端反復配列決定(ITR-Seq)は、ATS-GEを有する標的化された編集のための小さなゲノム全体のオフターゲット率(1.3%)のみを明らかにした(表3)。新生児ATS-GEベクター送達から3、8、又は14週後の皮質細胞について分子分析を行うと、インデルが同様の頻度で存在することがわかった(図2D)。この結果は、編集されたUbe3a-ATS配列を有するニューロンが、成体マウス脳に存在することを示唆している。
【表3】
【0150】
表3:選択されたsgRNAを用いた遺伝子編集についてのインビボオフターゲット分析。
Ube3am+/pYFP(父系Ube3a-YFP)マウスに、出生時(0日目)にCRISPR/Cas9をコードするAAVベクターを注射し、21日後に大脳皮質を採取した。オフターゲット遺伝子編集を検出するためにITR-seqを行った(群当たり3匹のマウス)。
【表4】
【0151】
Ube3a-ATSは、父系対立遺伝子上のUbe3a転写産物の伸長と干渉し、父系対立遺伝子からのUbe3a発現をブロックする。ASのための有望な治療アプローチは、父系対立遺伝子上のUbe3a遺伝子の遺伝子座にわたるUbe3a-ATSの伸長を阻止し、全長Ube3a転写産物形成を可能にし、したがって、タンパク質発現を可能に
することに依存する。したがって、次に、本願発明者らの試験で観察されたインデル形成が、Ube3a父系対立遺伝子にわたるUbe3a-ATSの伸長を抑制することができるかどうかを評価した。父系対立遺伝子からのUbe3a発現を明確に検出するために、野生型雌マウスとsn融合遺伝子を有する雄マウスとを交配させた(16)。ATS-GEベクターをICV注射された新生仔は、21日後にUbe3a-YFP融合タンパク質の発現を示した(図2E図2F)。免疫蛍光染色は、ニューロンの48.1%において、遺伝子編集後の皮質全体にわたってUbe3a-YFPの発現を明らかにした(図2G、及び13,000個のNeuN細胞の定量化、SEM=8.6%)。ATS-GEベクター中の標的化sgRNAを、非標的化sgRNAと置き換えたとき、又はCas9をdCas9と置き換えたとき、Ube3a-YFP発現は観察されなかった(図5D及び図5D)。分子分析から、父系対立遺伝子からのUbe3a-ATS発現が、Ube3a遺伝子の遺伝子座内で減少したことが明らかになった(図2H)。対照的に、遺伝子編集位置とインプリンティングセンター(IC)との間に位置する遺伝子の発現は、影響を受けなかった(Snrpn、Snord115、又はSnord116、図2I)。したがって、Ube3a-ATS内の選択的かつ効率的な遺伝子編集は、以前にサイレンシングされた父系Ube3a対立遺伝子からのUbe3aタンパク質発現をもたらす。
【0152】
次に、Ube3a-ATS遺伝子編集が、父系対立遺伝子からのUbe3aの発現を駆動し、母系Ube3a-ノックアウト(KO)マウスのニューロンにおけるUbe3a発現を回復し、マウスAS表現型を改善するかどうかを調査した。ATS-GEベクターを新生児母系Ube3a-KO仔及び野生型同腹仔にICV注射によって投与した。次いで、4ヶ月のインキュベーションの後に、脳全体にわたってUbe3aタンパク質の発現を観察した(図3A)。脳全体のニューロンにおけるUbe3aの発現を検出した(図3B及び図6A)。脳全体にわたってUbe3a陽性ニューロンを観察し(図6B図6C)、基底前脳領域において、発現がより豊富であるように思われた。発現効率が、脳領域と機能的下位構造との間で変化するかどうかを調査するためには、より大きな、より包括的な試験が必要となるが、これは、現在の調査の範囲を超えていた。
【0153】
対照AAVベクター(非標的化Cas9又は標的化dCas9配列を有する)を受けたマウスは、父系対立遺伝子からのUbe3a発現を示さなかった(図7A及び図7B)。Amplicon-seqによる分子分析から、インデル頻度が平均19.4%で生じたことが明らかになり(図3F)、これは、以前の短期間試験からの観察結果に匹敵するものである(図2C)。遺伝子編集部位でのベクター統合は、以前に観察されたように(図5A)、低かった(AMP-seq、2.1%、図7C)。ITR-seqによるオフターゲット分析は、以前の短期間試験(表3)と比較して、オフターゲット効果の割合の増加を示さなかった(表1)。唯一の特定された2つのオフターゲット部位は、イントロン又はアノテーションされていないゲノム領域に位置していた。ATS-Ube3a転写産物レベルは、遺伝子編集後のUbe3a-KOマウス脳において有意に減少した(図3G)。転写産物レベルは、遺伝子編集部位からインプリンティングセンターに向かって約4kb正規化されていることがわかった。
【0154】
母系Ube3a-KOマウスの行動表現型は、十分に特性評価されており、母系Ube3a発現を遺伝的に回復させることによって改善することができる。ASOによる治療は、Ube3a遺伝子座にわたってUbe3a-ATSの伸長を一時的に抑制し、脳全体にわたってニューロンにおける父系Ube3a発現をもたらし、その後に行動表現型の改善をもたらす。このアプローチは、マウス脳全体にわたってはるかに多い数のニューロンにおいてUbe3a発現を回復するため、限られた数のニューロンにおいてUbe3a-ATSの遺伝子編集が母系Ube3a-KO表現型を改善することができるかどうかを考えた。新生児マウスにATS-GEベクターをICV注射し、4ヶ月齢までそれらをモニタリングした。Ube3a-ATS遺伝子編集は、治療関連の死亡事象を伴わずに、良好に
忍容性であった。予想されるように、体重増加は、ASマウスにおいて有意に高く、観察期間中のATS-GE治療後に減少する傾向を示した(図4A)。2ヶ月齢で、マウスに対し、このマウスモデルで広く使用されてきた一連の行動試験を行った(17)。母系Ube3a-KOマウスは、ロータロッドを用いて試験された場合、その野生型同腹仔と比較して、運動機能において予測された有意な欠損を示した(図4B)。遺伝子編集された母系Ube3a-KOマウスは、試験の2日目及び3日目に運動機能の有意な改善を示した(図4B)。同様に、母系Ube3a-KOマウスでは、ガラス玉覆い隠し及び営巣行動が低下したが、Ube3a-ATS遺伝子編集後に有意に改善した(図4C図4D)。オープンフィールド試験における歩行活動は、Ube3a-ATS遺伝子編集後の母系Ube3a-KOマウスにおいて、活動低下の改善に向けてあまり大きくないが一貫した傾向を示した(図4E)。要約すると、ニューロンのサブセットにおいてUbe3a-ATSを抑制することによってUbe3a発現を回復させることで、母系Ube3a-KO表現型の複数の行動的態様を有意に改善した。Ube3a-ATS遺伝子編集が、脳波変化等の他の母系Ube3a-KOマウス表現型を改善するかどうかは、まだ調査されていない。
【0155】
この試験は、以下の2つの重要な所見を示した。(i)効率的な遺伝子編集は、新生児脳室内AAV送達によって、マウス脳において達成することができ、(ii)ニューロンのサブセットにおけるUbe3aの発現は(配列決定データに基づいて最大20%)、ASマウスモデルにおける治療的利益を提供する。不活性Cas9(dCas9)の発現が、Ube3aタンパク質発現を引き起こさなかったため、Cas9のヌクレアーゼ活性は、Ube3aタンパク質発現を達成するために必要であった。
【0156】
特に病的な対立遺伝子の破壊が遺伝性障害の根治治療のための有望性を保持しているため、CNSは、治療的ゲノム編集のための有望な標的として認識されている(18~20)。治療的CNS遺伝子編集についての最近の試験は、例えば、ハンチントン病マウスモデルの線条体への(21)、筋萎縮性側索硬化症マウスモデルの脊髄への(22)、又は家族製アルツハイマー病のマウスモデルの海馬への(23)、CRISPR/Cas9複合体の局所送達を介して、有望な結果を達成している。しかしながら、異なる脳領域にわたって編集が達成される必要がある場合、CRISPR/Cas9が、ヒト患者において治療的利益を達成するのに十分な数のニューロンを首尾良く編集することができるかどうかは、示されないままである。本願発明者らの試験は、これがマウス脳において可能であり、疾患表現型の有意な改善をもたらすことができることを示す。ASについては、多くの他の遺伝性CNS障害と同様に、治療的利益を引き起こすための疾患遺伝子再発源の必要な効率についてはほとんど知られていない。本願発明者らの試験は、Ube3aの再発現が全てのニューロンにおいて必要ではないことを示唆している。Ube3a又はASO媒介性Ube3a発現の遺伝子復元を使用した以前の試験は、Ube3aを発現するニューロンの数がはるかに多いことに起因して、より大きな行動改善の効果サイズを示した(8、11、12)。本願発明者らの試験は、UBE3Aの非効率的な発現が、患者における治療効果に変換されるのに既に十分である可能性があるため、更なる翻訳及び臨床AS研究を奨励している。また、AAVベクター挿入を有するUbe3a-ATS内のCRISPR/Cas9媒介性の245kb切片の置き換えによる最近の試験は、ASマウスモデルにおける限られた神経行動の改善が報告された(24)。
【0157】
本願発明者らの試験は、インデル形成が、長く続く父系Ube3a発現を選択的に可能にする短縮されたUbe3a-ATSをもたらすかどうかについての可能性がある機構には直接的に対処していない。Ube3a遺伝子座の二次元又は三次元ゲノム構造が、Ube3a及びUbe3a-ATSの拮抗性遺伝子発現調節において役割を果たし得ると推測することしかできない。代替的に、又は追加的に、極めて長い父系Ube3a-ATS転写産物が、父系センスUbe3a転写産物の存在下で早期終止する傾向がある可能性があ
ると推測する。遺伝子編集は、Ube3a-ATS転写産物の初期の転写停止を引き起こす場合があり、Ube3aセンス転写産物の形成を可能にし、この状況は、二本鎖修復が完了した後でさえ持続する。別の可能な作用機序としては、S.aureus Cas9がRNA転写産物を切断する能力が挙げられ(25)、このことはUbe3a発現を維持するためにCas9の構成的発現を必要とする可能性が高いが、全てのUbe3aを発現するASマウス脳において、持続的なCas9発現を観察しなかった(データは示さず)。最後に、最近の試験(24)において観察されたように、AAVベクター配列の統合は、Ube3a-ATSの早期終止をもたらすことができる。全ての検出された統合が、4ヶ月にわたって依然として2~3%のままであったことを考慮すると、この機構は、検出されたUbe3a発現に寄与し得るが、全てが単独で寄与する可能性は低い。
【0158】
Ube3a-ATSのゲノム編成及び調節、並びにインプリンティング制御センターは、マウスとヒトとの間で高度に保存されているが(11)、DNA配列は、これら2つの種では非常に異なっている。ヒトにおける類似のゲノム位置を標的化するマウスsgRNAの再設計は、翻訳試験に必要な前提条件であろう。遺伝子編集によるUBE3A-ATSの干渉は、AS患者のニューロンにおいてUBE3A発現を同様に回復させることができると予想される。
【0159】
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【0160】
(配列表フリーテキスト)
以下の情報は、数値識別子<223>の下でフリーテキストを含む配列を提供する。
【表5】
【0161】
本明細書に引用される全ての文書は、参照により本明細書に組み込まれる。「20-9231PCT_ST25」という名前で本明細書とともに提出された配列表、並びにその中の配列及びテキストは、参照により組み込まれる。2020年4月28日に出願された米国仮出願第63/016,712号、及び2020年11月25日に出願された米国仮出願第63/118,299号は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明は、特定の実施形態を参照して記載されているが、本発明の趣旨から逸脱することなく修正を行うことができることが理解されよう。かかる修正は、添付の特許請求の範囲内であることが意図される。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4A
図4B
【図
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8
図9
【配列表】
2023524247000001.app
【国際調査報告】